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【上田明也の探偵倶楽部】 キィ…… キィ……… ずいぶん古い安楽椅子が軋んで揺れて音を立てる。 黒いコートを着た男が暖炉の前でパイプをふかしている。 「どうも皆さんこんにちわ。 私立探偵の笛吹丁、元人間です。 人間であった頃の名前は上田明也。 今はもうその名前で呼ぶ人間など居ません。 てか中の人の事情で綺想曲シリーズのラストでやろうと思っていた私のトラウマ関係無しになりました。 まあずばっと言うと『都合悪いので無しでお願いします、先生』ってことです。 やはり悪人じゃない俺なんて需要ないんですよね。 そこら辺を作者は解ってないというかなんというか……。 あ、今俺探偵やっているんですよ。 安楽椅子探偵。 調査は都市伝説に全部任せています。 ほら、こういう仕事していれば殺人鬼の活動もしやすくなるでしょう? 失せ物探し、素行調査や浮気調査、家出人調査、ストーカー対策、所在調査なんかでも良いし…… とりあえず何でもできます。 さて、今日の依頼人が来る時間だ。それでは皆様ノチホド。」 【上田明也の探偵倶楽部1~笛吹探偵事務所、創設~】 上田明也は椅子から立ち上がりビルの一室、探偵事務所の窓の外の風景を眺める。 彼の眼下には学校町の繁華街が広がっていた。 正月が終わってからしばらく後のこと、上田明也は探偵事務所を開いていたのだ。 少し待っているとノックの音が響いた。 どうやらハーメルンの笛吹きが彼への依頼人を連れてきたらしい。 「マス……、所長。 お客様です。」 メルの声がドア越しに響く。 「通してくれ。」 ガチャリ 上田明也の座っている所長室に一人の男が入ってくる。 気弱そうな雰囲気で少々頭髪がうすら寂しくなっている。 「こんにちわ、桂様ですね? 笛吹探偵事務所所長の笛吹丁です。 法律相談から浮気調査まで何でもしていますけど、今回のご依頼を念のためもう一度お聞かせ下さい。」 立て板に水を流すように喋る。 しかし単に喋るだけでなく相手に喋る機会を与えながら話す。 人間という物は警戒心が強い。 見ず知らずの相手に積極的に話そうとは思わない物だ。 そこで上田明也、この探偵はまず自分から話す。 能弁に雄弁に語る。 自分から話して、その後相手に話をさせる。 相手が話さざるを得ない状況 相手が話すべき状況 相手が話したい状況 これらをゆっくりと作り上げるのだ。 ちなみに笛吹丁とは上田明也が探偵をやるときの偽名である。 これ名義の運転免許証とか銀行口座とかも彼は用意していた。 ちなみに名前の由来は笛吹ヒノト→笛吹きの人、という洒落である。 「あ、はい……。 今回は妻の浮気の証拠を見つけて欲しいんです。 私は妻の家に婿として入ったんですがその、まあ……。」 「解ります、色々とやりづらいことがおありになるんでしょうねえ?」 「そうなんですよ……。 私に自由なんて有りません、妻は若い男を連れ込んで知らない振りだし……。 女房の父がやっている会社に勤めている物ですから強くも言えなくて……。 だから証拠を集めてなんとか離婚できればと……。」 「苦労なさってますね、解りました。お引き受けしましょう! 任せて下さい、当探偵事務所は困っている方々の味方です!」 「ありがとうございます。それで料金の方なのですが……。」 「お電話の通り20万円でお願いします。 調査費用に前金として5万円頂きます。」 「はい、5万円ですね。解りました……。」 桂は鞄から財布を取り出す。 そこで上田明也はすかさず声をかけた。 「この事務所の経理が渋い奴でしてねえ、調査費は前金で出して貰っておけって五月蠅いのですよ。 自分で持ち出すと怒るんですよ、赤字になるって。 あいつは困った奴ですよね、ははは。 俺の私生活にまで口出して来ちゃったり。」 「ああ、解ります解ります! 私も大変なんですよ……。」 会話は人間関係の基本だ。 上田は人間関係において雑談をすることを大事にするタイプらしく、この手の話を引き出したがる。 「やはり月のお小遣いとかも……?」 「そうなんですよ!昼飯代しかくれませんよ! しかも幾ら使ったかも細かくチェックされて……。 これが今の所持金の全てですよ。 さっさとあいつとは離婚して、出来たお金で自分の商売をやりたいです……。」 「解りました、桂さんの為にも一肌脱がせて頂きます。」 上田は商売用の人の良い笑顔を作り上げる。 上田と桂は立ち上がるとお互いに固く握手した。 さて、それから数日後。 上田明也、探偵“笛吹丁”は対象の女性『桂冴子』の調査に勤しんでいた。 カメラ搭載の鼠や沢山の本体を持ったメルを使った尾行のおかげで上田明也本人はまったく顔を出さずに彼女の情報を集めることが出来ていた。 調査の概要はこうだ。 朝、旦那と子供を送り出すと家事をこなし、日によっては午後から愛人に会っている。 中学生の子供が帰って来るまでには家に戻っているようだ。 旦那には昼飯代をケチっているのに自分はホテルのレストランで友人と昼食を取ることが多いらしい。 「ハーメルンの笛吹きの能力の価値は戦闘以外に有るよなあ……。 あとはこれを渡すだけだぜ?」 完璧にまとめられた調査書を見ながら上田明也は驚いていた。 まさかここまで上手く行くとは彼自身思っていなかったようだ。 この結果が出るまで探偵らしいことを彼“自身”は何一つしていないのだ。 「なんていうか、私も殆ど働きませんでしたよ?」 「お前は尾行をしていただろうが。」 「尾行っていうか私の本体を大量に出していただけですから……。 尾行っていうか待ち伏せ×100みたいな……。」 「ひどいな、仕事しろよ俺。」 「探偵をしない探偵ですね。」 「まったくだよ。そういや今何時だったっけ? 仕事の成功祝いにどこか食べに行こうか?」 そう言って上田明也が時計を眺めると丁度十二時だった。 メルの目が輝く。 「私中華料理食べたいです!」 「よぉし、じゃあ行こうか。」 上田明也が車の鍵をポケットから取り出した時だった。 ピリリリリリ ピリリリリリリリリ 急に事務所の電話が鳴りだした。 すかさず上田がそれに応対する。 「はい、笛吹探偵事務所です。 はい、桂さんじゃないですかどうしたんです? ええ、解りました。 もう調査結果なら出てきていますよ。 ええ、証拠になります。写真に盗聴もしてましたから。 解りました。 場所は……、西区の廃工場群ですね? お金用意してきて下さいよ? それでは……。」 「どうしたんですかマスター?」 「え、桂さんが調査結果を届けてくれないかだって。 飯はその後にしようぜ。」 「えー、解りました……。」 不満そうなメルを車に乗せると上田は西区に車で向かったのであった。 西区の廃工場群に辿り着くとそこには桂が待っていた。 上田はとりあえず廃工場の中に入って写真の入った紙袋などを彼に渡した。 「女房が私のことを疑い始めた物ですから早く連絡したんですが……。 これでなんとかなりそうです。 本当にありがとうございます!」 ぺこぺことお辞儀をする桂。 「いえいえ、それで報酬の方は……。」 「はい、こちらです。」 桂は上田に封筒を差し出す。 彼が数えると前金を除いた報酬がきっちり入っていた。 「今後ともごひいきにして頂けるとありがたいです。」 上田は頭を下げる。 「こちらこそよろしくお願いします!」 それを見た桂も深く頭を下げる、腰の低い人物だ。 仕事の成功に満足して上田が帰ろうとしたその時だった。 ドスンドスンドスン! 上田の頭上に三連続で鉄骨が降り注いできた。 ハーメルンの笛吹きと契約していた為、感知能力に優れていた彼は間一髪の所でそれを回避する。 「なんだいきなり!?」 「畜生!外しちまったか!てめえが探偵だな?」 工場の上から声がする。 「な、なんだ!?妻の手の者か!?」 桂は脅えて腰を抜かしてしまった。 「所長、都市伝説です!」 メルが上田に警告をする。 「人を襲う廃工場の都市伝説ってか?やられたな……。 桂さん、俺から離れないで下さいよ?」 またも飛んでくる鉄骨。 ガキィン! それを蜻蛉切りで叩き切るとメルに指令を出す。 「さっさとさっきの男を叩きに行ってこい!」 「了解しました!」 メルが工場の外へ走り出す。 「え?え?」 桂は都市伝説というものを見たことがないらしくてかなり戸惑っている。 ガキィン! 「今日ここに来ることを誰かに言いましたか?」 鉄骨やブルドーザーを食い止めながらわざとよそ見して桂への攻撃を通してみる。 「うわぁあ!!」 彼がかすり傷を負ったところから考えるとどうやら彼が契約者ではないらしい。 「いや、言っては居ないが……。もしかしたらつけられていた? ていうか笛吹さん、あれはなんなんですか?」 腕のかすり傷をおさえながら桂は上田に問いかける。 「ざっくばらんに言うと超能力者ですね。」 「はぁ?超能力者なんて居るわけ無いじゃないですか! そのうえさっきの女の子、助手の方ですか?危ないんじゃないですか?」 ガキィン! ガキィン! 鉄骨の性質上、移動する際にはどうしても大きな音が出る。 また、巨大な物である為かあまり複雑には動かせないらしい。 ハーメルンの笛吹きの能力を得て聴力があがっている上田にはその軌道を簡単に見切ることができる。 桂の目の前で鉄骨を破壊しながら上田は解説を続ける。 「超能力があり得ないなんて言いますけどね、それを言ったら貴方の目の前で鉄骨をただの小刀で切り裂いている男だってあり得ないでしょうが。 都市伝説ってあるじゃないですか? まああれが現実に有るような物だと考えて下さい。 それとあの女の子も立派な超能力者、みたいな物ですから安心して下さい。」 「は、はぁ……。」 すこし強い調子で上田が言うと桂は大人しくなってしまった。 しばらく上田が待っているとドスン、という大きな音が鳴って鉄骨の襲撃もやんだ。 どうやらメルが廃工場の契約者を捕まえたらしい。 勢い余って殺していないことを上田は願っていた。 彼は彼で廃工場の契約者に聞きたいことがあるらしい。 「静かになったみたいですね、行きますよ桂さん。」 「は、はい……。」 上田は気絶した廃工場の契約者をしばりつけて車のトランクに放り込むと桂を家まで届けた。 探偵事務所に辿り着くとまだ気絶している廃工場の契約者をたたき起こす。 「う、うう………。ここはどこ!?」 キョロキョロと辺りを見回す廃工場の契約者。 「よう、起きたか。洗いざらい喋って貰うぞ。」 「げげ、探偵!私はお金であの男の妻に雇われただけなんだ!」 「ほうほう、そうか……。ところでさっき身体を調べさせて貰ったんだが……。 お前、女だろう?」 上田は廃工場の契約者の胸をつついてみる。 「ひぃっ!!や、やめろお!!」 「安心したまえ、俺の都市伝説はもう買い出しに行っている。 俺とお前の二人きりだ。」 「それが駄目なんだろうが!この前の電子レンジの契約者と言い今回と言い…… ちょっと暴れていただけなのにぃ~……。」 「安心しろ、俺はロリコンだ。 残念ながらお前は幼女とはちょっと違うからな。」 「うわぁ、寄るな変態!」 「ところでさっき電子レンジとか言っていたな? その話ゆっくり聞かせて貰おうか。 先に名乗っておくけど俺はハーメルンの笛吹き、巷を騒がす殺人鬼でもある。 さっさと話せば簡単に楽にしてやれるから安心しろよ☆ 昼は探偵、夜は殺人鬼、してまたその正体はロリコン野郎。 お前みたいな人を襲う都市伝説は容赦しないぜ?」 はっきりと名乗った、まあつまりはそういうことなのだろう。 「え、……誰か助けて~!!」 “そういうこと”に気付いて悲鳴をあげる廃工場の契約者。 「お前は廃工場が無いと只の人間だからなあ!ゆっくりお話ししようぜ!! ハァーッハッハッハッハッハ!」 いかにも悪そうな高笑いが事務所に響く。 とりあえず、上田明也の始めての探偵業務は思わぬ形でおまけを生み出しながら成功したのであった。 【上田明也の探偵倶楽部1~笛吹探偵事務所、創設~ fin】 場面は最初の暖炉の有る部屋に戻る。 「どうも、上田明也です。今回のお話は楽しんで頂けましたか? 廃工場の契約者の彼女ですが聞きたいだけ情報聞いた後さっさと始末させてもらいました。 もしかしたら生きているかもしれないので作者の方々は瀕死のところを保護するなりなんなり好きにして下さい。 あの電子レンジの二人組の消息も聞き出せましたしなかなか楽しい思いが出来ました。 それよりも楽しいッスね探偵業務。世の為人の為になるのはとても心地がよい。 もし学校町でお困りの際は親切丁寧秘密厳守がモットーの笛吹探偵事務所にご一報下さい。 相談次第では料金もリーズナブルにできると思いますよ? 働くのは鼠ですから、ははは。」 笑いながら立ち上がると上田はウイスキーの瓶をどこからともなく持って来る。 「それでは初仕事が終わったので一人で祝杯でも挙げたいと思います。 さようなら、さようなら。」 上田明也はそう言うと事務所の奥に消えていった。 【上田明也の探偵倶楽部 fin】
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【平唯の人間観察 第四話「呼」】 ――――――――――ねぇ 子供の頃、要らなくなった人形とか捨てたこと無いかな? 捨てていなくても良いんだ。 子供の頃は一緒に眠って、一緒に笑って、一緒に遊んでいた人形。 いつの間にか忘れちゃって何処に行ったかも解らなくなっていないかな? 私はある。 金色の髪に青い瞳。 メリーさんって名前を付けて可愛がっていた。 携帯電話は鳴り止まない。 何処に行っていても私を追いかける。 私を愛しているからどこまでも彼女は付いてきてくれる。 「――――――私、メリーさん――――」 ほら、電話ごしに声が聞こえる。 「今、貴方の家の前に居るの。」 「冗談みたいでしょう?」 「ええ。」 こんにちわ、皆様。 私の名前は平唯。 ※ただしイケメンに(ryと呼ばれる都市伝説と契約した人間だ。 今は友人とお茶していた。 「それは怪談なの?」 「いいえ、実話よ。家の中に入れないの、って言って最後に帰るのがいつものパターンなのよ。」 私にこんな信じられない話をしている目の前の女性は久瀬由美。 至ってまともな電波系一般人。 家は大変なお嬢様な為か無意識に上品な気配を漂わせている。 気品って言うのかしらね、こういうの。 「本当なの?」 「本当よぉ。なんだったら今日、家に確かめに来る?毎晩電話は来るから。」 「別にお泊まりなら良いけど……。」 実はあまり良くない。 彼女こそ私を男装に目覚めさせた張本人なのだ。 中学生の時に学園祭で私を女装させて、 その年の学園祭の出し物のランキングで一位を取った彼女は今でも隙あらば私を男装させようとする。 「あら、嬉しい。じゃあ家の皆様に用意させるわね。」 そう言うとそそくさと携帯電話を出して電話しようとする オーモーイーガーシュンヲーカケーヌーケテー 「あらあら、着信。」 丁度良く電話がかかってきたらしい。 なんだろうと思っていると彼女の顔がどんどん青くなっていく。 真っ青な顔のままこちらをみつめて携帯電話を私に渡す。 「私、メリーさん。今、貴方のお茶している喫茶店の前に居るの。」 コトン 足下で何かが転がる音がする。 「私、メリーさん。今、貴方のお茶している席の真下にいるの。」 「私、メ…………。」 プツッ 素早く電話を切った。 新手の都市伝説か……? 由美の手を引くと振り返らずにすぐに店を出る。 彼女の家までは人気のないトンネルを通ると近いのでその方向へ真っ直ぐ向かう。 「その電話ね、電話からかけられていないのよ。 何度電話を変えても携帯電話を持っていなくても どこからともなく私に告げてくるの。 嘘だと……思う?」 「何時からなの?」 「私のこの前の誕生日からだけど……。」 「解った、ちょっと待ってて。」 歩きながら電話をかける。 勿論、黒服Fの所にだ。 プルルルルルルル プルルルルルルルルルルル 「はい、こちらFだよ、どうしたの平さん。」 プツッ 「私、メリーさん。いま、久瀬さんはどこなの? 貴方が私の大事な久瀬さんを隠したの? 返してよ、返し………」 プツッ 唯一の専門家と連絡がつかない。 不味い。 そうしている間にも私達はトンネルに辿り着いていた。 一旦、由美の家に帰ればメリーさんは入れない。 『コマッテルミタイジャネーカ、契約者。多分そいつはメリーサンダゼェ?』 急に頭の中に声が響いてきた。 ケメの声だ。 『当たり前じゃない!どうにかしてよ!』 『おやすいご用ダ!※ただしイケメンに(ryのノウリョクの正しい使い方をオシエテヤルヨー』 『どうすれば良いの?』 『マズハ………。』 『うっそ……、それはずるくない?』 『イケメンだからユルサレルンだよぉ!!』 私はケメから聞いた嘘みたいな能力の使い方を試してみることにした。 「ねぇ、由美。男装セット持っている?」 「え?貴方に使う為に持っているけど……。」 すばやくそれを奪い取るとトンネルの中で男装を始める。 ぴしっ!バシッ!ピキーン! 「ちゃんとできてるかい?」 「完璧…………///」 鏡がないので由美に尋ねると何故か顔を赤くしている。 「ねぇ唯ちゃん、押し倒して良い?」 「え、ちょ、ちょっと待って?俺、女だから?ね?」 この娘は友人に向けて何を言い出しているのだろうか? そうだ、中学生の時もこうやって暴走していて……。 彼女は男装した女性と百合百合するのが好きな方なのだ。 「ああ、もう駄目!貴方の子供ならァ!!!愛の力でえええええええええ!!」 「いいいやあぁあぁぁああああああ!!」 やばい、奪われる。 そう思った瞬間だった。 プルルルルルルルルル 二人の動きが止まる。 また電話だ。 「ねぇ、由美。これから見ることは秘密だよ?」 「え……?」 電話を取る。 「私メリーさん。今、トンネルの前に居るの。」 「へぇ……。」 「私、メリーさん。今、貴方のずっと後ろにいるの。」 「早く来なよ。」 相手を誘う。 「私、メリーさん。今、貴方の後ろに居るの。久瀬さんを返して頂戴?」 背中を氷が這うような感触。 来た。 「※ただしイケメンに限る!」 都市伝説発動、イケメンならば何でも許される! 私の“目の前”に現れたのは人形ではなく、沢山の人間の顔を一つに合わせたような化け物だった。 ガシッ! そうだ、イケメンならば…… 「その恨みも、そして貴方の能力を無視することも許せ!」 ガッシリとつかみ取る。 ※ただしイケメンに限るのもう一つの能力。 それが都市伝説の能力に対する無効化能力。 発動すれば私の半径2mでは都市伝説の能力を無視しても許される。 手に残るのは柔らかい感触。 フワフワとした物が手の中にある。 綿の入った……、ぬいぐるみ? 「「え?」」 メリーさんと私はほぼ同時に素っ頓狂な声をあげた。 「なんで私をつかまえられるの?」 「もしかして只のぬいぐるみ?」 「あ、メリー!!!」 由美の声がトンネルに響く。 私が掴んでいるのは只のぬいぐるみだ。 「くーちゃん……。」 うわっ、喋った。 只のぬいぐるみじゃない。 「えっとね、唯ちゃん。そのぬいぐるみは私の小さい頃に持っていたぬいぐるみで……。 名前はメリー。 本当はもう捨てた筈だったの。」 目の前で起きている妙な状況に怖じ気づくこともなく彼女は私に説明をする。 メリーさんの方向に向き直ると彼女は問いかけた。 「ねぇ、貴方は本当にメリーなの?」 「そうよ、私はメリー。 くーちゃんにまた会いたくって……。」 「でも、それなら何でまたわざわざこんな由美が怖がる方法で現れたの? 嫌われちゃうじゃない。」 「う………。」 「それしかなかったんだよ。」 急に背後から声が響いた。 「その人形だって元を正せば只の人形だ。 自分を捨てた主の所まで戻る力なんて有るわけがない。 だから『なった』。そういうものに。 解るかな、二年生の……平さんと久瀬さん。」 後ろを振り返ると見上げるような長身の男性が経っていた。 整った顔立ち、私達と同じ学校の制服、胸に輝くバッジに書かれているのは……。 “生徒会会計”の文字。 「こんにちわ、二人とも。 俺は生徒会会計の田居中光だ。 ちょっとした都市伝説マニア。」 謎の闖入者に私はメリーさんを持ったまま身構える。 「……俺は敵じゃないぜ?あとそのメリーさん、離してやれよ。 そいつの目的はもう達成されている。 そいつはそこの久瀬さんに会いたがっていたからなあ……。」 「まだ信用でき無いじゃない。 メリーさんってそもそも危ない都市伝説だし……。」 「メリーさんはもう正気に戻っている。 あとはそこの久瀬さんに判断を任せるべきだと思うぜ?」 「え?私は………、」 由美はゆっくりと口を開く。 「私は一度この子を捨てました。 でも彼女は帰ってきて…… だから、もうしばらくは家に居させてあげたいかなあ?って思うんです。 狂ってしまうほどで、迷惑を掛けながらだったけど、私のことを思ってくれたから。 つまりその………、うーんと……。」 ………そうだな、そういうことなら仕方がないか。 ポン、と彼女にメリーさんを手渡して田井中の方向に向き直る。 「そうだね、それでメリーさんも幸せだ。 ところで契約はしないのかい?」 いきなり由美に対して問いかける田井中。 「え?」 「えっとね、都市伝説は人間と契約ができて、 契約すると人間が都市伝説の能力を使えたり、都市伝説がパワーアップするの。」 「へぇ……。 なら私は別に良いわ?」 「ほう、なんでだい?」 「え、なんで?」 「もう、この子には普通の人形として過ごして欲しいもの。 別にそう言うのも悪くないでしょう?」 久瀬由美は優しい笑顔でそう言った。 「ハッ……、敵わないね。 優しい人だよ、あんたは。 契約するっていうならまた別だったんだがそれじゃあ仕方ない。」 田井中はため息をつく。 「一体貴方は何の為に出てきたの?」 急な登場で驚いていたがこれだけは聞かねばなるまい。 「俺? いやぁ、会長のお使いでね。 平唯、あんたにメッセージだ。 【あまり組織と関わるな】 だってよ、俺としてはあいつら嫌いじゃないってか良い奴だと思うんだけどな。 あと今のあんたの能力?あれも黒服には絶対見せない方が良いぜ。 良いように使われるから。 そんじゃあ。」 田井中は面倒臭そうにあくびをしながらトンネルから出て行った。 それを確認すると私達、メリーさんと久世由美と私の三人は久瀬由美の家に向かったのであった。 【平唯の人間観察 第四話「呼」】
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正体不明 05 逃がした獲物を追う時は、つい力が入るものである 姿を忍ばせたり気配を消したり、そんな事には慣れていないせいもあるが 「あ、逃げた」 真夜中に笑顔で駆け寄ってくる少女というのは、絵面的には結構恐いので当然のリアクションかもしれない つい先週ぐらいに取り逃がしたはずの獲物、旗上詩卯の姿を見つけ嬉々として追いかけたのは良いのだが、その姿を見た途端に詩卯は駆け出していた 当の詩卯はというと、その状況よりも少女の笑顔の下に潜む得体の知れない何かを察して逃げ出したのだが 「やばいなぁ、あの子はこないだのアレと同じ気配でやんの」 前回は居合わせたZ-No.999の能力でギリギリ逃れる事が出来たが、今回彼は報告や仕事があるという事で早々に駅で別れてしまっている つまり、逃げ切るのは不可能だという事 「都合良くまた助けがくれば別だけど」 やや諦め気味に、ちらりと後ろを振り返る 立て板に水を流すような勢いで迫る『ブロブ』 そして、その向こう 遠くに立つ少女の呟きが、まるで目の前の不定形生物が囁いたように詩卯の耳に届いた 「いただきます」 喰われる そう感じた瞬間、圧倒的な恐怖と絶望が思考を塗り潰した 「諦めるな、走れ!」 いつかと同じような だが違う男の声 視線を前に戻すと、そこにはやはりZ-No.999ではない見知らぬ青年が立っていた 「鞘甲亜網!」 男が拳を地面に叩きつけると、そこから地面が白く染まる スナック菓子を磨り潰すような音と共に、白い物体が詩卯の足元を駆け抜けるように広がり、道路を塞ぐかのように白い壁となって『ブロブ』を受け止めた 「長くは持たない! 逃げるぞ!」 「え、あ、うん」 男に手を引かれて、何が起きているか判らないまま駆け出す詩卯 その背後では白い壁に食むように纏わりつく『ブロブ』が蠢く姿があった ――― 「んもー、目の前のものから食べる癖は直らないんだから」 少女は白い壁をぐずぐずと溶かし取り込もうとするブロブをぺたぺたと叩く 「ていうか、これ食べれるの? 美味しい?」 白い壁は近くで見るとごつごつとしており、小さな貝のようなものの集合体である事が判る 「なんだっけこれ……えーと、フジツボ?」 ――― 「追っては来ないようだな」 息一つ切らさずに辺りを警戒する青年 対して詩卯は、完全に息が上がってその場にへたり込んでいた 「大丈夫か?」 「あ……あんまり……」 汗だくになりぜいぜいと荒い息を吐く詩卯を、青年は軽々と抱き上げる 「人気の無いところに留まっているのはまずい。どこか落ち着ける場所まで送ろう」 「や、流石に、歩けないほどじゃ」 「歩けてないだろう? 気にするな、身体は鍛えてるから人間の一人や二人なら余裕で運べる」 「えっと、そういう意味じゃなくて」 流石に汗だくで異性に密着するのは女としては気まずいものなのだが、相手は全く気にした様子は無い 「しかし……あれはヤバいな。俺みたいなフリーランスじゃどうにもならない。『組織』の方で動いてくれると良いんだが」 「あ、それなら大丈夫だと思いますよ。その『組織』とかってのの人が報告するって言ってましたから」 「ん? 都市伝説の類については知識はあるのか」 「諸事情により一週間ばかりレクチャーされましたとも」 「そうか」 青年はやや顔を顰めて詩卯を見詰める 「人間と都市伝説の関係は、縁であり絆である。一度何かしらに遭遇すると、都市伝説を引き付けやすくなるんだ」 「うへ。危ないのにしょっちゅう遭遇するようになるのはヤダなぁ」 「多少なりとも都市伝説について知っているのなら、何かしら都市伝説との契約を考えた方がいい。身を守る手段にもなるし、強く引かれ合う都市伝説が居れば他の都市伝説をあまり引き付けなくなる場合もある」 「なるほどねぇ。ところでお兄さんは人間? 都市伝説?」 「悪いが俺は人間だ。契約できる都市伝説を探すなら、レクチャーしてくれた奴に相談したらどうだ?」 「んー、どっかなー? 一応連絡先は聞いてあるけど……あんまり深く関らない方が良いって言ってたし」 「まあ物騒な業界であるのは確かだ。強い奴は際限なく強いし、どれだけ強くても相性一つで倒される事もある」 青年は何か嫌な思い出でもあるかのように、溜息を一つ漏らす 「ともかくだ。しばらくは町を離れるか、やばい奴相手でも対応できる奴に匿ってもらうといい」 「んー、一週間ばかし学校無断で休んじゃったしなぁ」 「命とどっちが大事なんだ?」 「両方」 「おい」 「そりゃ命は大事だけどね。私が私として生きていく背骨っていうの? これが折れちゃったら、それはそれで命を失うのに等しいと思うのよ」 「とんだ我侭女だな……だったら早いところ護衛してくれる存在でも見つけろよ。また出会ったら今度は逃げきれるとは思えないぞ」 「守ってくんないの? フリーなんでしょ?」 「さっきは不意打ちで、しかも逃げに徹したからどうにかなっただけだ。アレは俺じゃどうにもならん」 「相性ってやつ?」 「ああ。俺は格闘、物理攻撃専門だがあいつにはそれが全く効かない」 「そっかー、残念」 人通りのめっきり少なくなった駅前通り お姫様抱っこという姿を衆人環視に晒さなくて済んだのは幸いかもしれない 青年は詩卯を下ろすと、そのままくるりと背を向ける 「後は好きにするといい。俺は町の見回りを続ける」 「どうにもできない相手がうろついてるのに?」 「それでも、襲われてる誰かを助けるぐらいならできるからな」 「そっか……気をつけてね。えーと、名前は」 「いいさ、契約者である俺と深く関ると都市伝説との関りも深くなる」 背を向けたまま手を振って、夜闇の中へと消えていった 「さってと、それじゃあ私はどうしようかな」 しばらく実家や友人を頼ってこの町から離れるのも良いのかもしれない だが、脳裏に浮かぶのは化物と共に現れた少女の顔 「……やっぱ、最後まで関った方がいいのかな」 そう一人呟くと、詩卯は夜を明かすべく漫画喫茶の入り口をくぐるのであった ――― 「元Z-No.1以下二名の協力を要請する」 「うるせぇ、帰れ」 音門金融の社長室で向かい合う、元Z-No.0のサロリアスと現Z-No.0の斬九郎が、びりびりと殺気じみたものを漂わせながら睨み合っていた 「俺んとこに来る前に、他の部署の連中に協力を仰げ。何のための『組織』だ」 「そのしがらみが嫌で逃げたお前なら良く判っているだろう? 部下の立場を守るためには他所の部署になど頼ってはいられん」 「π-Noの二人には頼ってたじゃねぇか」 「あいつらは完全な独立愚連隊だった上に、必要な時には居ない事の方が多かっただろう。『組織』内の力関係に影響はしない」 「……相変わらず面倒臭ぇままか、あの『組織』は」 「自我のある者が集まれば自然とそうなる」 ぎちりと椅子を軋ませ、斬九郎はサロリアスを睨む 「『組織』の体質の話は後だ。今も『ブロブ』とその契約者による被害がこれ以上広がる前に片を付ける」 「梨々は俺んとこに居るが、あと二人はとっくに引退して地元で暮らしてる。たまに近況報告をするぐらいで大した縁も残っちゃいねぇよ」 サロリアスがそう言った途端 ばたむと社長室のドアが豪快に開け放たれる 「やっほう、さっちゃん元気してたー? 京都くんだりから久々に遊びに来てやったよー」 「忙しいとは思ったんですが、ご無沙汰していたところを誘われたのでつい……すいません」 現れたのは、どこかのんびりとした雰囲気の二人の女性 「ん、どったのさっちゃん?」 「あら、そちらは斬九郎さん……という事は『組織』のお仕事?」 その間の悪さにサロリアスは思わず頭を抱える 「直接交渉する分には構わんだろう?」 「……勝手にしろ」 この二人の人の良さはサロリアスも良く知っている そして押しの強さも 二人が斬九郎の要請を引き受ければ、梨々も引っ張り出されるのはほぼ間違い無い 「相変わらず難しい顔してるねー。八つ橋食べる? お土産だよー」 「こちらのお土産で、お煎餅もありますよ。仕事中はダメですけど日本酒も」 「暢気なもんだな、お前ら」 溜息を吐きながら、サロリアスは二人をソファへと招く 「言っておくが、巻き込む以上は危険な目には遭わせるなよ」 「危険でないはずがない。だがやらなければいけないのが、『組織』の仕事だ」 「そうやって割り切れる辺りが、お前の嫌いなところだ」 「被害が拡大して身内に迫るまで、割り切れずにぐずぐずしているのが、お前の嫌いなところだ」 睨み合うサロリアスと斬九郎 その雰囲気を察してか、それとも空気を全く読まずにか 「はいはい、恐い顔してないでちゃっちゃと仕事を終わらせよー。折角遊びに来たんだしねー」 「そういう事だ。早急に片付けるためにも、もう一人呼び出してもらおう」 「お前が指図するな……ったく」 渋々といった様子で、梨々に呼び出しの電話をかけるサロリアス かくして駒は揃ったものの、それを動かす手腕が問われる事となる 借り物の駒で指す一手は、吉と出るか凶と出るか 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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合わせ鏡のアクマ 12 「ネックと」 「RBの」 「「「ラジオde都市伝説ー!!」」」 「司会はいつもどおりネックおばさんと」 「・・・おっと、睡魔と戦いを繰り広げているRBがお送りする」 「RBさん、寝ないんですか?」 「ネックこそまばたきの回数が多いぞ。今回はさっさと終わらせるぞ」 「えー、P.N.『アイス大好き!』さんからの要望。 『姫さん一家の情報がほしい!』・・・あー、そういえば主要キャラの1人と2体以外はまだだっけ?」 「うむ、さっさと説明して終わろうじゃないか」 「はーい、では今から読み上げますかね」 * 姫さん 高校1年生、女。学年1の美少女であだ名は『姫』。けっこう自尊心が高い。 家族と暮らしている。一人っ子。家族から愛されてるけど、最近はちょっとうとましい。 成績優秀で身体能力も男顔負け。おまけに美人ってどこの完璧超人ですか? 未確認情報だけど契約者のこと気にしてるらしい。友達以上恋人未満? 姫さんのお父さん 娘を愛するあまり変な方向に向かってしまったお父さん。部長職とかそんな感じ。 身長も低いし童顔だ。でもはっきり大人だって分かるオーラが出てる。 あと貧弱オーラも出てるけど実は足が速い。でもケンカとか格闘技がからっきし。 契約者のことを「こんな子が娘の彼氏なら・・・」って思ってる。つまり合格ラインです、親公認です。 都市伝説とか知らないけど、娘が気にしてるから調べ始めるんじゃないかな・・・。 姫さんのお母さん 本編未登場だけど設定はあるので紹介されているお母さん。 働く女性、しかも上司系の職ついてるので収入も多いです。この両親のおかげで家は裕福なんですね。 夫とは対照的に長身、あと美人。ケンカは・・・しないよ?娘の格闘技術は独学です。 両親共働きだけど、娘へ愛情はたっぷり注いできた。夫ほどじゃないけど娘には恋を経験してもらいたいと思っている。 ※この設定はまだ編集中です。後から改変される恐れがあります。 * 「・・・だ、そうよ」 「眠いな・・・ああ、では終わろうか」 「「「ラジオde都市伝説、また次回をお楽しみに~」」」 「さて、メッセージが届いてます。 『見てるだけじゃつまらないぞ、連載とか気にせずみんなもっとバンバン書くんだ!』 だ、そうです。つまり見てる人も書けと。まとめる量が増えるでしょうに・・・ それではラジオde都市伝説、また放送できる日まで・・・・」 前ページ次ページ連載 - 合わせ鏡のアクマ
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占い愛好会の日常 06 「…………ふむ」 既に使われていない空家の一つ。 その目の前の電柱に、一人の老人が腰かけていた。 工事の際に足場となる杭に尻を乗せ、眼下の空家を眺めている。 老人を追っていただろう黒服が中へと踏み込んでから十分。 建物の中からは何の音もしない。 「……つまらんの」 隙を見て女の黒服の乳でも揉んでやろうかと策を練っていた老人は、退屈そうに足をプラプラとさせる。 家屋の中で何が起こっているのか、外からでは分からない。 しかし何かが起こっているだろうことは、老人にも推察できた。 黒服が入る前には微弱ながらも空家から漏れていた気配が、今はほとんど消えている。 つまり、今まで張っていた結界を、侵入者が出た事により強化したのだろう。 そしてそれは、黒服が中でどうなったのかを容易に想像させた。 もし勝利したのなら、結界が強化されるはずもない。 恐らく黒服は捕縛されたか、殺されでもしたのだろう。 「今悪事を働こうとしておる者は悪魔の囁きだけじゃと思っていたが……」 面倒くさそうに、老人が呟く。 愛好会のメンバーに被害が出るような状況は出来るだけ避けたい。 不穏な因子は、取り除くに限るのだが、 「敵戦力は未知数じゃからの」 老人は、強い。 それは一つの事実だ。 しかし、彼より強い都市伝説など、それこそ星の数ほどいるだろう。 例えば、遥か昔から神話として語られるような存在。 例えば、実体そのものがない存在。 中国における最古の都市伝説であっても、それらに太刀打ちする事は難しい。 「…………さて」 まずはあの家屋に潜む都市伝説について調べなければならない。 逃げだしておいて今更帰り辛いが、愛好会のメンバーを動員すればある程度の情報は集まるだろう。 老人は静かに、その場を離れようとして 「…………む」 ふと、一人の女性が眼下の道、その100メートル程先を歩いているのを発見した。 タイトなスーツに身を包んだその女性は、老人好みのナイスバディである。 「…………ふむ」 老人の頭の中で、女と眼下の家屋内にいる都市伝説の存在が天秤にかけられる。 それは一瞬の拮抗もなく、女に大きく傾いた。 「……ほっほっほ」 黒服の一人が殺されているのだ。 その原因である眼下の家屋についても、組織が勝手に調査でもするだろう。 老人はそう己に納得させて、電柱から飛んだ。 彼にとっての生きがいは、エロス。 一度それを目の前にしてしまえば、老人の目からそれ以外の要因は簡単に消え去る。 「ほっほっほ」 暗い夜道に、老人の笑い声が響き渡った。 【終】 前ページ 表紙に戻る 次ページ
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「コーク・ロアに支配された人間が、なぁ」 適当に獲物を物色した帰り、マッドガッサーは似非関西弁の女性と合流し、並んで歩いていた 時刻は、そろそろ深夜を回る こんな時刻に、ガスマスクの男が若い女性と並んで歩いていても通報されなこの街は、本当にありがたい 「爆やんも、二回くらい襲われとるやん?相当数が増えとるんちゃう?」 「…支配型で、支配している対象を増やしてるんだよな?だとしたら、あいつが狙われたのは完全に能力目当てだろ。コーク・ロアの能力で支配された状態でも、契約している都市伝説の能力は使えるからな」 …やはり、この街は危険か? いや、だが、同時にここまで動きやすい街はない ここを逃さない手はないのだ ……それに、魔女の一撃の契約者は、この街に住んでいるとある対象に、異様に執着している そっちの目的が叶うまでは、この街にいたいところだが… 「………だとしても、やばいかね?」 「…ヤバイんちゃう?」 …気配が 二人に、ゆっくりと近づいてきていた ざわざわと、何かが近づいてくる感覚 「…走るぞっ!」 「りょーかいっ!」 言うが早いか、二人は駆け出す しゅるしゅると、背後から迫ってきていた気配が、途端に隠す事をやめた 漆黒の闇の中、黒いそれが迫ってくる 「げ、この髪は…………うぉわっ!?」 「んみゃっ!?」 しゅるり 髪は、何時の間にか、二人の真正面からも迫ってきていて あっと言う間に、二人の体を絡めとった 「-------っ!!」 ごがっ!! 「マッドはん!?」 マッドガッサーの体が、塀に叩きつけられる その衝撃で、からんっ、と……被っていたガスマスクが、落ちた 「おや、こりゃまた……随分と、可愛らしい顔してたんだな」 すたん、と 塀の上に降りる影…髪をわさわさと不気味に伸ばす、黒服 「ってめ……」 「よぉ、また会ったな」 ニヤリ、その黒服はマッドガッサーを見下ろして笑った 髪は、完全にマッドガッサーと似非関西弁の女性を束縛し、その動きを封じている 「あー、そんなに睨むなや。殺すんじゃなくて、お持ち帰りするよう言われてんだから……生け捕りとか、そう言う方針で行くならいくで、もっと早く決めとけってのな」 「生け捕りて……マッドはんに何する気や!?」 「さぁ?俺は聞かされてないし、っつか、具体的には聞きたくねぇや」 似非関西弁の女性の言葉に、その黒服は肩をすくめてみせた …生け捕りにしたマッドガッサーを、「組織」はどうするつもりなのか? 正直、考えたくもない 突然変異の個体、その特殊な研究対象を、「組織」がどうするか…考えなくとも、大体想像はつく 「…そう言や、マッドガッサーは生け捕りにしろって言われてっけど、その仲間に付いては指定受けてないな…どうすっかねぇ」 「!」 黒服が何気なく呟いたその言葉に、ぴくり、マッドガッサーが反応したように見えた …そうだ、マッドガッサーの仲間については、何も指示が出されていない つまりは、処分しろと言う事なのだろうな、と黒服は考えた 特に、「13階段」に対しては、そうなのだろう 「組織」の裏切り者で、しかも、あんまりよろしくない…今ではもうなかった事にされている計画の、生き証人のようなものだ 見つけ次第始末しろ、といわれてもおかしくない …個人的に、ちょっと可愛がった事もある対象だから、自分が「13階段」を追う事にはなりたくないものだ、黒服はそう考えていた ついでに……今、捕まえている似非関西弁の女性 そっちも、始末は勿体無いよなぁ さて、どうにかならないものか 考えていて……マッドガッサーが自分を睨みつけている事に、黒服は気づいた 「---っは、いいね、その目。人を殺した事がある奴の、殺意交じりの眼差し、ってか?」 はっきりとした、敵意、殺意 自分の大切なものを護ろうと言う、獣の目 今のマッドガッサーの眼差しは、そう言う目だった 「仲間が大切か?…………都市伝説の癖に、契約者でもない人間と仲良く、とは珍しいもんだ」 「お前だって、都市伝説だろうが」 「あぁ、そうだよ?」 そうだ、自分も、都市伝説だ くっく、と黒服は笑う 「元人間の…都市伝説に飲み込まれて、都市伝説と言う化け物になっちまった存在だよ?」 すたん、と塀から降りて、マッドガッサーに近づく 髪によって動きを束縛され、しかし、マッドガッサーは鋭く黒服を睨み続けていた …かつて、殺戮を行った経験がある者の、殺意の眼差し それを、黒服は真正面から受け止める 「どうせ、都市伝説なんざ、人間から見りゃあ化け物だ。そんな化け物と契約してくれる人間だって希少だってのに……その化け物と、契約もしてないのに、一緒に行動するような人間がいるなんてな。どんな手を使ったんだか」 「…ッマッドはんの事、悪く言わんといてや!」 あぁ、随分と慕われているじゃないか 都市伝説の癖に、化け物の癖に 俺はうまくいかなかったってのに、こいつはうまくいきそうだってかい? ……気に食わないねぇ? 「まぁ、そう言いなさんなや?……今、俺はあんたらの命を握ってる状態なんだぜ?」 「……彼女だけでも、放せ」 黒服を睨みつけたまま、マッドガッサーが低い声で告げてくる 完全に動きを束縛された何もできない状態だと言うのに、それでも護ろうとでも言うのか? 「嫌だ、って言ったら、お前さんはどうする?」 「…そう、だな」 …ぎりっ、と 束縛された腕を、マッドガッサーは無理矢理動かそうとする 無駄なことを 黒服は、マッドガッサーを束縛する力を強めていく 「無理に動かすと、腕が引きちぎれるぜ?」 「…マッドはん!」 ぎり、ぎり……と マッドガッサーが動かそうとするその腕を、束縛し続ける ……しかし 「-------っ、う、ぁ」 「っ!」 ぶちり 束縛していた黒服の髪を、半ば引きちぎるように…その腕に髪を食い込ませ、肉を、骨を切らせ出血しながら…マッドガッサーは、無理矢理に右腕をうごかした その指を、口元まで運んで ぴぃいいいいいいいい…………----------------- 高い、口笛の音が、周囲に響き渡った ひゅうっ、と 風の音が、辺りに響いて 直後、激風が黒服に襲い掛かった 「っく……!?」 立つ事すらままならない、激風 まるで、竜巻が自分の場所にピンポイントで直撃してきたかのようなその風に、黒服は体勢を崩した その拍子に、マッドガッサーと似非関西弁の女性を束縛していた髪の力が、緩む 叫び声のような、何かの鳴き声が、風の音に混じって響く 再び襲い掛かってきた激風に、黒服は体を飛ばされ、塀に体を叩きつけられた 直後、目の前を…何か、巨大な、巨大な 鳥のような生き物が、通り過ぎていったのを、確認する 「ぐ……くそ、何だってんだ…?」 …風が、やんで マッドガッサーの姿も、似非関西弁の女性の姿も、消えていた 残っているのは、引きちぎられた髪の毛と……マッドガッサーが流した血痕だけだ 「…まさか、さっきのが…例の、巨大都市伝説か…?くそ、マジでマッドガッサーの仲間かよ」 舌打ちする 事実を確認できたのはいいが…これは、やっかいだ 今回は逃走に使用したようだが、あれに暴れられては洒落にならない 流石に、報告するしかないだろう 黒服はため息をついて、懐から携帯を取り出した 「怪我はないか?」 「うちは平気や…それより、マッドはん、腕」 「都市伝説だから平気だよ。後でジャッカロープの乳でも分けてもらうさ」 ぶらり、半ば使い物にならなくなった腕をぶら下げつつ、マッドガッサーは似非関西弁の女性にそう答える 彼女に怪我がなかった事実に、酷くほっとしている自身に、マッドガッサーは気づいていた 「なぁ、アレが、ひょっとして前に話とった秘密兵器?」 「あぁ。あいつがいりゃあ、いざとなりゃどこにでも逃げれるぞ」 「って、逃げる専用かいっ!?」 「約束なんだよ、荒事には手を出させないっつぅ」 ばさり 二人を逃がしたその巨大な存在は、翼をはばたかせ、高く、高く飛び上がっていっている それは、軽く見積もっても軽飛行機くらいの、巨大な存在 これがヘタに暴れれば、何がおきるかわかったものではないし…それこそ、本格的にあちこちの組織に目をつけられる 「マッドはん?…考え込むのもええけど、まずは早よ教会に入って治療しよや?」 「ん……あぁ」 …自分は、「組織」には生け捕りにされようとしている だが、仲間は…どうなるか、わからない それこそ、始末でもされかねない それを、改めて自覚する …だからと言って、今更計画を諦めるつもりもなく ……いや、半ば、その計画など、どうでもよくなってきているはずなのだが しかし、それを手放す気にもなれず 「…しばらく、潜むぞ」 「うん?……おおっぴらに動かん、って事?」 「あぁ、多少は動くが……ちまちまやっても、目をつけられていくだけだ…………一気に、やってやる」 それだけの知識を、自分は思い出している …この学校町を全体を、一気にガスで包み込んでやる その準備が、必要だ 「…後で、他の連中にも言うつもりだが………身を引きたくなったら、いつでも引けよ?俺がこれからやろうとしている事は成功するかどうかわからないし、何より…他の都市伝説契約者たちにかぎつけられたら、本格的に戦いになるだろうしな」 「……今更、何言うとるん」 苦笑してくる、似非関西弁の女性 …あぁ、本当に今更だな、と 感覚がなくなってきた右腕の事など忘れながら…マッドガッサーもまた苦笑したのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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『もしもし!私、メリーさん!あなたの恋人になってあげるから、私と契約して、都市伝説契約者になってよ!』 「だが断る!!」 この一連の流れ、もう何度目だろうか 数えるのも馬鹿らしく、覚えてすらいない? 『どうして?こんな可愛いメリーさんが契約してあげるのに?』 「お前の姿見た事ねぇよ、声しかわかんねぇよ」 電話でしか接触してないから、姿がわからないと言うに 声的に幼女なのはわかるが……いや、声は幼女だが、実際は婆な可能性は否定できない その年齢でその声…だと、な声優さんがいらっしゃるのもまた事実 『この間、写メを送ってあげたじゃない』 「どアップすぎてどんな顔かすらわかんねぇよ」 改めて、確認してみる うん、やっぱりどアップでわからない 「っつか、メリーさんってのは、電話をかけた相手を殺すのと違うのか」 『メリーさんのお話で、メリーさんが人を殺すとは断定されてないの』 「まぁ、それはそうだが。そっからどうして俺の恋人になるとか俺が契約するとかそういう話になる」 『私は都市伝説だから、契約してくれる人が欲しいの!絆がほしいの、ぬくもりが欲しいの。存在を確立していきたいの!』 よくわからんと言うに それに、第一 「俺は女だから、幼女の恋人はいらん」 『大丈夫、メリーさんは幼女である以前に人形だから!』 「大丈夫じゃねぇよ」 『もしもし!私、メリーさん!あなたの恋人になってあげるから、私と契約して、都市伝説契約者になってよ!』 「だが断る!!」 この一連の流れ、もう何度目だろうか 数えるのも馬鹿らしく、覚えてすらいない? 『どうして?こんな可愛いメリーさんが契約してあげるのに?』 「お前の姿見た事ねぇよ、声しかわかんねぇよ」 電話でしか接触してないから、姿がわからないと言うに 声的に幼女なのはわかるが……いや、声は幼女だが、実際は婆な可能性は否定できない その年齢でその声…だと、な声優さんがいらっしゃるのもまた事実 『この間、写メを送ってあげたじゃない』 「どアップすぎてどんな顔かすらわかんねぇよ」 改めて、確認してみる うん、やっぱりどアップでわからない 「っつか、メリーさんってのは、電話をかけた相手を殺すのと違うのか」 『メリーさんのお話で、メリーさんが人を殺すとは断定されてないの』 「まぁ、それはそうだが。そっからどうして俺の恋人になるとか俺が契約するとかそういう話になる」 『私は都市伝説だから、契約してくれる人が欲しいの!絆がほしいの、ぬくもりが欲しいの。存在を確立していきたいの!』 よくわからんと言うに それに、第一 「俺は女だから、幼女の恋人はいらん」 『大丈夫、メリーさんは幼女である以前に人形だから!』 「大丈夫じゃねぇよ」 大丈夫じゃない どう考えても、大丈夫じゃない 恋人以前の問題だろうが 人形を愛する趣味はない 『えー、エロエロな事をしても問題ないのに』 「したくねぇよ。っつか、お前は女が恋人でもいいのか」 『私は男も女もどっちもいける口なの』 ぶつっ 通話を切った うん、変態だ どう考えても変態だ 都市伝説とか言っているが、もしかしたら幼女声の痴女からの電話なのかもしれない よし、非通知に……… ~♪~ 皆がいるから よっこらせっくす ~♪~ 『もしもし!私、メリーさん!突然通話を切ってくるなんて酷いわ』 どうして、勝手に通話がつながるんだよ畜生 どうなってんだ、この怪奇現象 幼女声の変態から電話がかかり始めて一週間 俺は、窓からこっちを覗いてきている人形に気付かぬふりをしながら、このやり取りを続けているのだった 終われ 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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バラバラにされたお人形 頭、胴体、手足 バラバラ、バラバラ、バラバラに? ボクの頭はどこにいったの? ボクのおててはどこにいったの? ボクの足はどこにいったの? ねぇ、見つからないの どうしても、どうしても ボクの足が一本だけ、見つからないの ……だから、ねぇ お兄ちゃんのその足を、一本 ボクに、ちょうだい? 「兄貴~?どこ~?」 …暗くて、不気味 誰もいない夜の校舎って言うのは、どうしてこんなに不気味なだろう? あたしはそんな事を考えながら一人、歩く …あの、馬鹿兄貴 夜に家を抜け出して、どうして学校になんか来てるんだろう ここは、妹として、何をしているのか監視せねばなるまい もし、いや、万が一でも有り得ないが、女と会ってるとかだったら …その女、ぶち殺す うっかり物騒な考えが思いついたが、気にしない事にして あたしは、兄貴の姿を探していた 「兄貴、どこにいるのさ~?」 兄貴が通っている高校 ここに入り込んだとこまでは見たのだが…見失ってしまった 先ほどから呼びかけ続けているのだが、返事はない かつん、かつん ただ、あたしの靴の足音だけが響いている …それにしても、本当に不気味だ こんな時、理科室の前だけは通りたくない うっかり中を覗いて、人体模型とかと目があったりしたら、泣ける 「夜、理科室で人体模型が動く」とかって、よくある都市伝説だし 「……「都市伝説」……」 …ぴたり あたしは、足を止めた 都市伝説 そう言えば、何年前だったろうか それを、耳にした事があった あれは、いつだったろうか? 兄貴に、背負われていた時 …あれ、そう言えば あの時…どうして、背負われていたんだっけ? 思い出そうとして…ずきり、頭が痛む 「……あれ?」 …何だっけ? 思い出せない 痛い、痛い、痛い、痛い 思わず、その場にうずくまりそうになって 「……?」 あたしは、それに気付いた 学校の廊下に、似つかわしくないものが…そこに、落ちている 「……う、腕?」 それは、小さな腕に見えた 多分、人形の腕 赤ん坊の腕くらいの大きさの、人形の腕だ そう、人形の腕 人形の腕じゃなくてナマだったら泣く、むしろ気絶する …どちらにせよ、なんであんな物が、ここに? あたしは、ゆっくりとそれに近づく キューピー人形か何かの腕だろうか 何の気なしに、あたしはそれを拾ってみようかと、近づいて… 「………ッ拾っちゃいかん!!」 「え?」 ぴたり 突然かけられた制止の声に、思わず止まる …誰? 辺りを見回すけど、誰もいない でも、はっきりと、聞こえた 歳をとった、お婆ちゃんみたいな女性の声 それが、あたしを止めた 「逃げなさい!それから離れなさい!!」 「……え?」 何?誰? そう、尋ねようとした時 かたんっ、と音がして ……あたしは、自分が見ているその光景が、現実には思えなかった ふわり 浮かんでいる 何がって? …落ちていた、人形の、腕が ふわり、ふわり 重力を無視して、それは浮かび上がり わきわきと、そのちっちゃな指先が、動いている ぞくり 背筋を走りぬける、悪寒 逃げなくちゃ 逃げなくちゃ、駄目だ ピーピーと、警告音のようなものが頭に響き渡る …なのに、足が動かない 目の前の、非現実の光景に、体が麻痺したように、動かない ふわり、ふわり 浮かぶ、それは ぎゅん!と、あたしに向かって飛んできて… 「………っきゃあ!?」 直後 あたしの体は、ぐい、と横から引っ張られて っちょ、そこ、壁!? ってか、鏡が… ……… 鏡? そう、その鏡から 細い、細い…白い腕が、突き出ていて それに捕まれたあたしは、そのまま、鏡の中に引きずり込まれた 「…ん?今、何か聞こえたか?」 「み?……わかんない」 かくん 花子さんが、首をかしげる 深夜の校舎内 …誰か、入り込んできたのか? 「不味いな、早く何とかしないと……って、来たぁ!?」 「け、けーやくしゃ!こっちこっち!」 ぎゅん! 迫り来るそれから、俺たちは逃げ出す …それは、頭 キューピー人形の頭部が、ケタケタと不気味に笑いながら、追いかけてくる 都市伝説「バラバラキューピー」 バラバラにされてしまったキューピー人形 足だけが、見つからない キューピー人形は探している 見つからないその片足を捜している キューピー人形、どうしてもその足が見つからない だから、ある日、閃いてしまった …足が見つからないなら、他人の足を奪えばいいじゃないか こうして、バラバラキューピーは人を襲うようになった 話にとって、足りないパーツは違うわけだが…こいつは、よく聞く話通り片足が無い その片足求めて、人を襲うのだ 自分にちょうどぴったりあう足が見付かる、その日まで 「…っつか、人形サイズの脚もってる人間なんているかよっ!?」 思わず、叫ぶ しかし、その叫びはバラバラキューピーには届かない けたけたけたけたけたけた 壊れたように、笑い続けている バラバラキューピーの能力…それは、改めて、自分の体をバラバラにして、相手を攻撃する事 両腕は怪力を備え、胴体はタックルを繰り出し、片脚は強烈なキックを飛ばし そして、頭は、本来キューピー人形に備わっていないはずの鋭い牙で、噛み付いてくる 今ごろ、不良教師も白骨標本と人体模型をつれて、他のパーツと戦っているだろう バラバラキューピーの厄介な所は、全てのパーツを倒しきらないと、そのうち復活してしまうという事 できれば一箇所に固まってくれていた方がありがたいのだが、相手はそれを許してくれない 一箇所に固めるべく、誘導しようとしているのだが… 「くそっ、どんどん引き離されてる気が…うぉわ!?」 「っけ、けーやくしゃ!」 っひゅん!!と 恐ろしいスピードで、キューピー人形の頭が、一瞬前まで俺の首があった場所を通り過ぎる …っあ、危ねぇ 首の頚動脈噛み切られるところだった!? 「けーやくしゃに何するの!」 ぷんすか怒った花子さん その意思に従うように、すぐ傍の女子トイレから、激流が流れ出してきた ごぽごぽごぽごぽごぽ!! 大量の水が、バラバラキューピーの頭を押し流す! その隙に、俺は携帯電話をポケットから取り出した 「先生!そっちはどうなった!?」 『今、理科室だ。片脚と片腕がいる。そっちも、片腕見付かったか?』 向こうは、自分たちのテリトリーに相手を誘いこめたのか! …と、なると、こちらの相手も、そっちに誘導した方がいいだろう 「いや、頭だけだ。片腕がまだ!」 『…わかった。こっちは片腕片脚を押さえ込んどく。死ぬ気でもう一方の腕探しとけ』 わかってるよ、と答えて、電話を切る ごぽぽぽぽ 水に飲み込まれ、頭部がもがいている …後は、片腕だけだ 「花子さん、探すぞ」 「うん!」 ごぽんっ! 頭部を飲み込んだ水を移動させながら、花子さんはこっくり、頷いてきた ……… えっと ここ、どこ? あたしは、この状況を何とか理解しようとした 白い、真っ白な世界 そこに、あたしはぺたりと座り込んでいて 「大丈夫だったかい?」 ちょこん、と 目の前に、知らないお婆さんが座っている 白い着物を着たお婆さん ……誰? 「お婆さん、誰?」 何とか、声を絞り出す ほっほっほ、とお婆さんは、穏かな笑みを浮かべてきた 「私かい?一応、「鏡の中の四次元ババア」なんて呼ばれてるけどねぇ。長いから、「鏡婆」とでも呼んでおくれ」 「…鏡、婆……「鏡の中の四次元ババア」……?」 …聞いた事がある 四時四十四分四十四秒 その時間に、ある場所の鏡を覗き込んではいけない 鏡の中に住んでいる四次元ババアに、鏡の中に引きずり込まれてしまうから え、あれ 今、そんな時間だったっけ? ってか、あたし、鏡の中に引っ張り込まれた? ほっほっほ、とお婆さんは、人懐こい笑みを浮かべ続けている 「しかし、危なかったねぇ。よりによって、都市伝説同士が戦ってる現場に巻き込まれるなんて」 「…都市伝説?戦う?」 「そうさね、ほら、見てご覧」 っぱ、と すぐ傍に、鏡が浮かび上がった そこに映し出されたのは、あたしたちの姿じゃなくて…さっきまで、あたしがいた場所だ そこを、あの人形の腕が、ふわふわ、ふわふわ、浮かんでいて …あたしを、探している? ふわふわ、ふわふわ 浮かんでいた、人形の手 やがて、ふわり、映っていた範囲から、消えてしまった 「バラバラキューピー…困った子さね。そう言う話として生まれてしまったからには、仕方ないのかもしれないけどねぇ…せめて、本当の脚が見付かれば、良い子になってくれるのかもしれないけど」 どこか、同情したように鏡婆は言う え~と どう言う事? 多分、あたしの頭の上に、「?」マークが一杯浮かんでいたんだと思う 鏡婆は、丁寧に説明してくれた …曰く、あたしたち人間が語る都市伝説は、ある一定以上まで広がり、それが「都市伝説」として認識された時、実体を持つ 曰く、都市伝説たちは、人間と契約する事により、本来活動できるテリトリーから移動する事が可能になったり、新たな能力を手に入れる 曰く、テリトリーから動けない都市伝説も、契約によってそこを離れることが可能 曰く…都市伝説は、人間と契約して、他の都市伝説と、戦う 「じゃあ、その…バラバラキューピーも、誰かと契約して?」 「いや、あの子は契約はしとらんよ。あの子にとって、人間は獲物だからねぇ…」 …曰く 都市伝説の中には、積極的に人間を襲うものが存在する だから、人間と契約する都市伝説は、それらの都市伝説と戦うのだ 人間が死んでしまったら…自分たちを生み出す源も、なくなってしまうから 「今、ね。契約者が二人、そのバラバラキューピーと戦っとるんじゃ。花子さんと契約した子と、白骨標本と人体模型と契約した人間じゃったか……おや、ちょうど、花子さんの契約者が、来たね」 廊下の光景を映していた鏡 そこに、人影が映りこむ その姿に…あたしは、目を疑った 「兄貴!?」 そうだ あたしが、わざわざ探してやっていた、兄貴 それが、小さなおかっぱ頭の女の子を連れて、走り去っていったのだ 背後に、水の球みたいなのが浮かんでいて…その水の球の中に、キューピー人形の頭部が見えた 「おや、お前さんのお兄さんかい?」 「う、うん…」 なんで? なんで、兄貴が? 混乱するあたしの脳裏に…一つの記憶が、蘇る 小学生の時 学校で流行っていた花子さんの噂 あたしは、好奇心から、それを確認しようとした 奥から三番目の扉、とんとんとん、と三回ノックして、「花子さん」と呼びかける たった、それだけの事 何も現れず、やっぱり噂は噂、と帰ろうとした… …その瞬間に、あたしは意識を失った 気がついた時には、兄貴の背中に背負われていて …兄貴の、横を あの、おかっぱ頭の女の子が、歩いていた …あぁ、そうか あの時、あたしは兄貴に助けられていたんだ 今更ながらに、自覚する 「あ、兄貴は、バラバラキューピーと戦ってるの?」 「そうさね…しかし、あれは厳しいねぇ。何とか、全部のパーツを一箇所に集めてやらないと。倒すのは難しいよ」 鏡婆は、同情したように、そう呟いている …ひやり 背筋を、冷たい物が通り抜けていく 「ねぇ…バラバラキューピーって…人の足を奪うん、だっけ?」 うろ覚えの、聞きかじりの知識を引っ張り出す 鏡婆は、そうだよ、と頷いてきた …それじゃあ もし、兄貴が負けたら 兄貴は、脚を持っていかれる? ……冗談じゃない!! あたしの兄貴の足を、あんなよくわかんない相手に持っていかれてたまるか! 「ねぇっ!鏡婆、あんたも都市伝説なんでしょ!それじゃあ、あたしと契約できる!?」 「できるけど…いいのかい?あんたも、本格的に、戦いに巻き込まれちまうよ?ここにいれば、この戦いが終わったら、出してやるから…」 嫌だ 冗談じゃない あの、根性なしの馬鹿兄貴でもできる事が、あたしにできない訳がない …それに あたしは、一度、あの馬鹿兄貴に助けられたのだと、知ってしまった 借りを作りっぱなしなんて、ますます冗談じゃない!! 「いいよ!それくらい、やってやるわ!兄貴にできる事が、あたしにできないはずがない!」 「…困った子だねぇ」 鏡婆は、あきれているような…しかし、同時に感心したような笑顔を浮かべた すくり、立ち上がってくる 「それじゃあ…私も、戦いに参加しようかねぇ」 まるで、これから散歩にでも出かける、という感じの口ぶりで、そう言って すぅ、と静かに、目を閉じてきた っぱ ぱっぱっぱっぱっぱ あたしたちの周りの、真っ白だった世界に…いくつも、鏡が浮かび上がる そして、その鏡全てに…校舎の中の、あちこちの光景が映し出された 「契約してもらったお陰でね。この校舎の鏡全て…私の、テリトリーだよ」 にこり、と、笑った鏡婆 なんだか釣られて、あたしも笑みを浮かべた …怖くない訳じゃない 本当は、すごく怖いのだと思う でも、それを認めてしまったら、兄貴に負けたようで悔しい だから、あたしは怖くないのだ これから、多分、色々巻き込まれるだろう戦いだって……怖くない!! 「さぁて…どうたら、理科室にパーツが二つ固まってるね。あなたのお兄さんが引っ張ってるのが頭部……と、なると、残りのパーツは」 「さっき、あたしを襲ってきた…腕」 「そう、それを探そうかねぇ」 無数に浮かぶ鏡の中 あたしは必死に目を凝らして、あの腕の姿を探した 「…胴体、捕まえたぁ!!」 ぎゅるんっ 花子さんが放ったトイレットペーパーが、こちらにタックルしてこようとしていた胴体を捕獲する 頭と、胴体 …あとは、腕だ!! 「け、けーやくしゃ。流石に二つ同時に押さえ込むのは辛いの~」 「わかった。とにかく、理科室に行くぞ。あっちなら、先生たちのテリトリーだからな」 そこでなら、こいつらを押さえ込む事も可能だろう ごぽごぽごぽごぽ じたばたじたばた 花子さんに取り押さえられている頭部と胴体が暴れている 急いで、理科室に向かわないと …この間に、腕に襲われたら、それこそ全速力で逃げるしかない 廊下を疾走し、俺たちは理科室に向かう 幸い、途中腕に襲われる事はなく、無事理科室にたどり着いた 「先生っ!」 「…追加、来たか」 教卓に腰を下ろしてタバコを吸っている不良教師 くそっ!余裕ぶっこきやがってこの野郎 人体模型と白骨標本が、片脚と片腕を、がっちりと押さえ込んでいた 『頭と胴体やな!後は腕がもう一本か!』 『すみません、私たち、押さえ込むので精一杯です!もう一本の腕も、探してきてくれますか?』 わかった、と俺は息を整えながら頷いた 花子さんの方は、と言うと、息切れひとつしておらず 胴体と頭部を、人体模型と白骨標本に手渡している …こう言う時、自分の体力の無さが本当に情けなくなってくる これでも、昔よりはマシになっているのだが 「息切れしてるぞ、青少年。大丈夫か?」 「大丈夫だよ畜生。多分、明日の体育の時間は死んだが」 だからと言って、休んでいる訳にもいくまい 今夜中に、決着をつけなければ そろそろ棒になりかけていた足を、叱咤しようとした…その時 『っきゃ!?』 「!?」 …ばしゃんっ!と 花子さんが制御していた水の球から…キューピー人形の頭部が、飛び出した …しまった!? やはり、テリトリー外では、完全に押さえ込めなかったか!? 白骨標本が取り出そうとしていたその頭部は、再び、高速で飛びまわりだし 「……っ!」 「けーやくしゃっ!」 俺に向かって ケタケタ無気味に笑いながら…牙を剥き出し、襲い掛かってきた …あ、やべ 今日こそ、死んだか? 走馬灯が、いそいそと準備をし始めた 「……っ兄貴!!」 あぁ、聞こえる妹の声は、幻聴か? 「諦めてんじゃないわよっ!この、馬鹿兄貴ーーーっ!!」 煩い妹だ 幻聴でくらい「お兄ちゃま」とか可愛い呼び方しやがれ… ……あれ 幻聴じゃ、ない? はっきりと聞こえてきた、妹の声 その、発信元は 「…え?」 鏡 理科室の、鏡から 妹が…体を半分、突き出していてきて え、お前 どうして、そんなところにいるんだよ なんで、ここにいるんだよ? 俺が、そんな疑問の声を発するよりも、先に 「っほら!!これがあればいいんでしょっ!?」 と、ぶんっ!!と 何かを、俺に襲い掛かろうとしていた頭部に向かって、投げつけた それは、腕 俺達が探していた…バラバラキューピーの、最後のパーツ 妹が全力で投げつけたそれは、バラバラキューピーの頭部に見事直撃し 頭部がバランスを崩して、床に落下する 頭部 胴体 右手左手 片脚 …全てのパーツが、今 理科室に集結した 「っ花子さん!」 「うん!」 っしゅん!と 持ってきていたトイレットペーパーが花子さんの意思どおりに動き、頭部と胴体を締め付ける 「…お前ら、やれ」 『っはい!』 『ほな、いきまっせー』 じゃきんっ! 刃物と化した白骨標本の腕が、片脚に突き刺さり 人体模型の内臓が、両腕を狙い打つ 深夜の理科室内、一箇所に集められたバラバラキューピーの体のパーツ その、全てが 一斉に、破壊された ……さて 何とか、バラバラキューピーに勝てた訳で 今、俺がすべき事は、一つ 「なんでお前がここにいるんだよ!?っつか、何深夜に家を出てんだ!?危ないだろ!!」 「兄貴に言われたくないし!!」 兄妹喧嘩 じゃない、妹への説教だ まったく、この物騒な時期に! いくら可愛くない凶暴極まりない妹とはいえ、何かあったらどうするか!! 「まぁまぁ、そう怒らないでやっておくれ」 鏡の中から、鏡婆が話し掛けてくる …あぁ、まったく 以前、妹が俺が契約しているのとは別の花子さんにとり憑かれた事件 あの時に危惧していた事が、とうとう現実になってしまった 妹まで、都市伝説と契約してしまうとは… 「この子のお陰で、あんたは助かっただろう?」 「そうよ!あたしに感謝しなさい!!」 ない胸を張ってくる妹 …そう言われても 確かに、今回は助かったが ……が 俺としては、妹にこんな危険な事に首を突っ込んで欲しくないのだ 都市伝説の危険度は、個体毎に差がありすぎる 今回のバラバラキューピーだって、危険性で言えば中の上と言った所 これより恐ろしい存在の戦いに、首を突っ込んでほしくない だと、言うのに 「これからは、あたしが兄貴を手伝うから!ッベ、別に、兄貴の為じゃないんだからね!ただ、兄貴に何かあったら、母さんたちが悲しむからだからねっ!!」 「おぉ、凄いな、生ツンデレ。はじめてみたぞ」 「つんでれってなーに?」 …何、見学しとるか不良教師!! そして、こら、そこの変態人体模型、花子さんにツンデレを解説しようとすんなぁあああ!! 頼む、白骨標本、そこの変態を止めてくれ!! 「お前こそ、何かあったらおふくろたちが悲しむだろうが!?お前は首を突っ込むな、家で大人しくしとれ!!」 「何よ!あたしの方が兄貴より運動神経いいんだから!」 ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい 煩い妹を、何とか説得しようとするのだが、暖簾に腕押し あぁ、もう、こいつは! どうして昔から、俺の言う事を聞かないのか!? 「ほっほっほ、仲がいい兄妹だねぇ」 鏡婆の、呑気な声が理科室に響いた …こうして とうとう、俺の妹までもが、都市伝説に首を突っ込んでしまい 俺の日常が、ますますヒートアップしてしまうであろう事は、容易に想像がついてしまい 俺は、おのれの運のなさを、ただ呪うしかないのだった fin 前ページ次ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
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……さて どう、答えたらいいものやら 「怪奇同盟」より、避難場所として使ってもいい、と言われていた墓場 そこに入り込み、休憩をしていたのはいいのだが… …まさか、こんな話を持ちかけられるとは 「…私と契約、ですか?」 「あぁ」 「そうよ」 青年と少女が、同時に頷いてきた …確かに、自分も都市伝説である 人との契約は、可能だ だが… 「…二人とも、多重契約になるのですよ?危険すぎます」 多重契約 しかも、二人とも、属性が違いすぎる そのリスクは高い 「だから、俺たち二人が、お前と契約するんだよ。それなら、リスクを分散できるしな」 「……まさか、その前に。この馬鹿が他の都市伝説と多重契約してリスクを高めるとは思わなかったけど」 じろり 少女に睨まれて、青年はそっぽを向いている …まぁ、あの場は、そうしなければ危なかったとは言え… ……確かに、多重契約のリスクは高まっている 「…大丈夫だよ。俺は都市伝説に飲み込まれたりしない」 く、と 青年は、黒服をじっと、見つめてきた 少女もまた、黒服を見つめてくる 「……私だって、そうよ。そう簡単に、飲み込まれるもんですか」 「…ですが」 …二人が、そう言ったとしても 黒服は、契約を躊躇してしまう ……自分にとっても、それは悪い話ではない だが、しかし それによって、この二人に、都市伝説に飲み込まれるリスクを背負わせるのが、嫌だった しかし 少女も、青年も、決して引き下がろうとしてくれない 強い強い意思を持って、黒服と契約しようとしているのだ 「あなたの力になりたいのよ……あなた、今のまま「組織」にいたんじゃ危ないわ。今回の件で嫌というほどわかったでしょ?」 「俺達と契約すれば、「組織」を離れても、お前は消滅しないかもしれない。あんな「組織」とっとと見限って、俺たちと契約した方がいい」 決して引かない、強い意志 …これを前に、自分はどうすればいいのだろうか 「………」 黒服は、静かに考える …自分は、明日、Tさんの手伝いをすることになっている …「夢の国」の大元へと、殴りこむ手伝いを 二人と契約すれば、自分も何かしら、能力が付属、もしくは強化される可能性がある そうすれば…「夢の国」の大元との戦いに、自分も、少しは助力できるだろうか…? 「…わかりました」 はたして 自分などが、未来あるこの二人に、そんなリスクを背負わせてもいいものかどうか… 悩みながらも…彼は、決断した サングラスを外し…直接、二人を見つめる 「…私などと、契約して、くださいますか?」 真っ直ぐに、真っ直ぐに、青年と少女を見詰める 黒服を見つめ返したまま…青年も、少女も、同時にはっきりと頷いて その瞬間に、黒服と二人との契約は、成立した 「----っ!?」 二人に、多重契約のリスクがのしかかった事を、黒服は理解する 特に……やはり、青年の方が、その重圧に押しつぶされかけている 一つが「厨2病」と言う多重契約が成功さえすればリスクが少ない都市伝説とは言え…やはり、三つ同時は、危険すぎたか しかし、もはや契約は始まっている 止める事は、できない …契約が、終了した 少女も……青年も 人間の、ままだ …都市伝説に、呑み込まれてはいない その事実に、黒服はほっとした そして 同時に理解する 自分が、何者だったのか 同時に、青年と少女も理解する この黒服が、何者なのか 「…お前」 「…「組織」の黒服なだけじゃ、なかったのね…」 「……そのようです」 苦笑する 何故、今まで気づかなかったのか? …いや、きっと、気付くべきではなかったのだろう もし、気付いていたら、自覚していたら…自分は、「夢の国」に飲み込まれていただろうから 三人は、理解した この黒服は、「組織」の黒服であると同時に…「夢の国」の黒服であるのだと かつて、人間であった頃 彼は「夢の国の地下トンネル」と「夢の国の地下カジノ」と契約していた そんな彼の前に、正気を失った「夢の国」が現れる 彼は、「夢の国」を正気に戻そうとした 元の「夢の国」に戻そうとした 「夢の国」に飲み込まれようとしていた少女を、助けようとして …そして、失敗してしまった 二つの「夢の国」関連の都市伝説と契約していた彼 そのまま死亡しては、「夢の国」に飲み込まれる危険性があった …「夢の国の黒服」になってしまうところだった しかし、「夢の国の地下カジノ」が彼との契約を解除した事により、「夢の国」とのつながりが一つ、なくなって …彼は、「夢の国の黒服」にはならずにすんだ 代わりに、彼は「組織」の黒服へと変わり果てたのだ だが、一度は「夢の国の黒服」になりかけた そのせいで、彼は完全な「組織」の黒服ではなかった 「夢の国の黒服」が、半分混じっている だから、「組織」の端末で行方を終えない 「組織」の完全な管理下におかれていなかったのだ だからこそ…今まで、裏切り行為に近い行為を行っても、消されずにすみ続けた もし 契約前に、その事実を自覚しては…彼は、「夢の国の黒服」へと、完全に変化してしまっただろう それほどまでに、かつての彼は、「夢の国」との関わりが深かったから しかし 彼は、契約してその事実に気付いた だから、「夢の国」に飲み込まれはしない 今の彼は、二つの都市伝説が混ざり合った、非常に奇妙で、稀有な存在 「組織」の黒服であると同時に、「夢の国の黒服」と言う…非常に特殊な存在になっていた 「二人とも、大丈夫ですか?」 「問題ないわよ」 「あぁ、俺もだ」 …若干、青年の方は顔色が悪いが… どうやら、大丈夫そうである 改めて、ほっとした 「すみません…私のせいで、あなたたちに、危険なリスクを背負わせてしまって」 「謝る必要なんてないわよ。私たちがしたくて、あなたと契約したんだから」 照れ隠しするようにそっぽを向きながら、少女はそう言う あぁ、と青年も頷く 「これで、お前を少しでも危険から遠ざけられるなら、問題ねぇよ」 にんまりと 嬉しそうに、青年は笑ってきた 「これで、俺たちは運命共同体だろ?」 「…そう、言うのでしょうかね?」 苦笑する これも、契約の効果なのだろうか 幾分か残っていた疲労が、少し消えている …これならば、明日、Tさんの力になれそうだ 「…ありがとうございます」 サングラスを外した状態のまま…黒服はやんわり笑って、二人に礼を述べたのだった 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
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ある噂があった。それはとてもありえないような噂。 例えば、某大型服屋の女経営者は、子供を誘拐しているとか。 例えば、某モデルは、カラスを操る音波を出しているとか。 例えば、某やくざの跡取り息子は、実は女の子だとか。 そんな馬鹿馬鹿しい噂の一つ。 誰かが語る。友達の友達が……。 誰かが聞く。ルーモアという店には……。 誰かが見る。有名な雪男が……。 誰かが体験する。気がつくと覚えのない場所に……。 誰かが吸う。そしたら女に……。 誰かが知る。 「学校町には都市伝説が実在する」 という都市伝説があることを。 「単発もの」に戻る ページ最上部へ