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前ページ次ページゼロの賢王 「決闘なんて今すぐ止めなさい。これは命令よ」 ルイズは目の前の使い魔にビシッと言い放つ。 食堂での一件から何故か決闘する流れとなってしまったが、平民であるポロンがメイジである貴族に勝てる筈が無い。 それに体つきこそ多少はがっちりとしているみたいだが、それでもポロンはお世辞にも強そうには見えなかった。 このまま負けると分かってる戦いに使い魔を向かわせるのは、その主としても望ましいことではない。 だが・・・ 「悪ぃなルイズ。その命令だけは聞けねえ」 ポロンはそう言ってヴェストリの広場へ向かおうとするのである。 ルイズは憤慨した。 「何よ!?ご主人様の命令が聞けないの!?それとも」 (それともあんなメイドの何処がいいの!?) 喉まで出掛かったその言葉を言わない様にするのに精一杯であった。 それを言ってしまうと、ポロンを引き止める理由が自分の中で変わってしまう気がしたからだ。 あのシエスタというメイドをポロンが抱き締めたのを見た時は胸の何処かにチクリと針が刺さった様な痛みを感じた。 そのことが頭の中に残っているから、こんなに必死になって決闘を止めようとしているのかも知れない。 「もう一度言うわ。決闘なんて止めて彼に謝りなさい!」 しかし、ポロンはそれでも目を閉じて、ただ首を振るだけだった。 ルイズはポロンの顔を睨み付けることしか出来ない。 ふとポロンは優しく微笑み、先程教室内でしたようにルイズの髪をわしゃわしゃと撫でた。 「キャッ!な、何するのよ!?」 「お前は優しいな」 「・・・お願いだから止めて。今なら謝れば許してくれるわ」 ルイズは何時の間にか涙声になっている自分に気が付いた。 ポロンは笑いながら、再び首を振った。 「何度でも言うが、いくらルイズの頼みでもそいつは出来ねえ」 「どうしてよ!?やっぱりあのメ・・・」 「アイツはルイズを虚仮にしやがった・・・。俺をダシにしてな」 「え?」 ルイズはポロンの言葉に思わず耳を奪われた。 頬がどんどん紅潮していくのが自分でも分かる。 「ポ、ポロンはあのメイドを守ろうとしたんじゃないの?それで・・・」 「勿論、それもある。だがよ・・・」 ポロンの目は途端に厳しいものになった。 「俺はそれ以上に俺自身が許せねえんだ!俺のせいでお前が必死こいて大事に守ってきたものが傷付けられそうになっちまってることが!!」 ルイズは気が付いた。 ポロンは怒っているのだ。 それも普段の様な不平不満による怒りではなく、純粋に大切なものを守る為の怒り。 あの少年はルイズの貴族としてのプライドを貶めようとしていた。 それもポロンという存在を使って。 自分のせいでルイズが悪く言われてしまう。 ポロンにはそれが何よりも許せなかった。 「だからよ・・・俺は証明しなきゃなんねえ。お前が『無能』でも『ゼロ』でも無いってな」 ルイズはこれ以上何も言えなかった。 ポロンは再び優しく微笑むと、そのまま背を向けてヴェストリの広場へと歩き出した。 「諸君、決闘だ!」 まるでオペラ劇の主人公の様に大袈裟な身振り手振りを交えて少年は声を上げた。 少年は酔っていた。 雰囲気に、そして自分に。 広場にはこの騒ぎを聞きつけ、既に多数の生徒たちが集まっていた。 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」 周りから歓声か上がり始めるとギーシュと呼ばれた少年は腕を振ってそれに応える。 ポロンがその場に現れると、すぐに彼の方へと向き直った。 「平民風情が・・・逃げずにここへ来たことは誉めてやろうじゃないか」 「てめえに誉められても嬉しくねえな。寧ろ虫唾が走るぜ」 「相変わらず口だけは達者だな・・・!!」 ポロンの言葉で不機嫌な顔になるが、すぐに気を取り直すと再び大仰な動きで、 「僕の名はギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』!! 」 と名乗り上げた。 観客たちはギーシュに歓声を送る。 「で、決闘のルールは?」 ポロンはその様子を興味無さそうに見つめながら言った。 ギーシュはフンと面白く無さそうに鼻を鳴らす。 「基本的には相手に“参った”と言わせたら勝ちだ。だが、君は平民だからね。普通にやれば君に勝ち目は無い。 それでは面白くないからハンデを付けてあげよう。僕のこの薔薇を取り上げるか地面へ落とすかすれば君の勝ちとしようじゃないか」 そう言うと、ギーシュは一輪の薔薇をポロンへと向けた。 ポロンはペッと唾を吐いた。 「そうか・・・。じゃあ追加ルールだ。敗者は勝者の言うことを何でも聞くってのはどうだ? そうでもしねえと盛り上がんねーだろ?」 「ほう・・・平民にしては気の利く提案だ。悪くない。それで行こう」 「言ったな?てめえも一応は男だし、二言はねえな?」 「くどい!君が勝ったら、僕は何でも君の言うことを聞いてやる!」 (まあ、勝てるわけがないのだけどね) ギーシュは内心ほくそ笑んでいた。 これは決闘ではない。 ただ一方的に平民をいたぶるだけのショーなのだ。 ある程度嬲った後に土下座でもさせて、二度と逆らえないようにしてやる。 ギーシュの目には最早その未来しか見えていなかった。 「最初に言っておくよ」 「何だよ?」 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。・・・よもや文句はあるまいね?」 「決闘だろ?いちいち相手にお伺い立ててんじゃねえよ」 「フン、減らず口が聞けるのもそれまでだ!!」 ギーシュは手に持った薔薇を振った。 「ワルキューレ!」 そう言うと、宙に舞った一枚の花弁がその姿を変えていく。 するとその場に女戦士を模った青銅のゴーレムが現れた。 「これが僕の魔法さ」 ギーシュはニヤリと笑う。 ポロンは何も言わずにじっとその様子を見ていた。 (・・・まるでジパングで見た神仙術みたいだな) ギーシュのワルキューレを見たポロンが抱いた印象はそれだった。 かつて、神の金属オリハルコンを求めて向かったジパングにてポロンは神仙術を目の当たりにした。 それは神社の狛犬をまるで本物の犬の様に動かしたり、巨大な岩をまるで小石の様に投げ飛ばしたりと、 人智を超えた正に神の術であった。 それらを見てきたポロンにとって、ギーシュのワルキューレは特に驚く様なものではなかった。 一方のギーシュも余裕の笑みを絶やさない。 (驚いて声も出ない。といったところかな?ククク) そんな風にポロンを見下していた。 「行け!ワルキューレ!」 ギーシュの号令と同時にワルキューレはポロンへ向かって突進していく。 ポロンは素早く右側へ飛んでそれを交わした。 ワルキューレは一旦停止すると、すぐに向きを変えて再びポロンへと突進する。 ポロンもまたそれを見て取ると、先程と同様に交わしていく。 (思ったより速くねえな。それに動きも単調だ。これなら・・・) 「へー、ルイズの使い魔もなかなかやるじゃない。ねえタバサ?」 その様子を遠くから見ていたキュルケが髪をいじりながら言った。 キュルケの隣には食堂でも一緒だった空色の髪をしたメガネの少女もいる。 タバサと呼ばれた少女は本を読みながらチラチラと決闘の様子を伺っていた。 「彼はただの平民じゃない」 「あら?タバサがそんなこと言うなんて珍しいじゃない?まあ、確かにただの平民なら貴族と決闘なんて起こす気も無いでしょうけどね」 「(こくっ)・・・でも、このままなら彼は負ける」 タバサはそう呟くと、興味なさそうに本のページをめくった。 タバサの言った通り、戦況はギーシュに傾きつつあった。 ワルキューレの単調な攻撃がポロンに当たることは無かったものの、それは確実にポロンの体力を削っていった。 持久戦になれば体力に限りのあるポロンの方が不利である。 (こいつぁ、あまり旗色が良くねえな) ポロンの当初の計画としてはワルキューレの攻撃を交わしつつギーシュの元へ向かい、隙を見て杖を奪うというものだった。 だが、そういった動きが出来る程ポロンの身体能力は高くなく、寧ろギーシュとの距離は遠ざかっていた。 (ヤオなら簡単に実行してアイツから杖を奪っただろうな。いや、ヤオならそもそも素手であの人形を壊せるか) ポロンは心の中でそう愚痴ると、再び目の前まで迫って来るワルキューレを紙一重で避けた。 「ポロン・・・」 ルイズも遠くからこの決闘を見守っていた。 ルイズはただ祈っていた。 自分の使い魔が・・・ポロンが無事に自分の元へ帰って来ることを。 (始祖ブリミルよ・・・ポロンをどうか、どうか守って!!) その時であった。 周りの観客からの歓声が大きくなる。 ルイズは慌てて確認すると、そこには倒れたポロンとそれに遅い掛かろうとするワルキューレの姿があった。 「ポロン!!」 「・・・失礼します」 「誰じゃ?」 オスマンが訊ねると、扉の向こう側から声が聞こえて来た。 「私です。ロングビルです。オールド・オスマン」 「入りなさい」 オスマンの言葉と同時に扉が開かれ、ロングビルの姿が現れた。 ロングビルの姿を見とめるとオスマンは吸っていた水キセルを置いた。 「どうしたんじゃ?」 「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がおられる様です。止めに入った教師も生徒たちに邪魔されて止められない様です」 「フム・・・しょうがないのう。で、誰と誰が決闘なんぞをしとるのかね?」 ロングビルは掛けていたメガネの位置を直す。 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「・・・ああ、あのグラモンとこのバカ息子か。で、相手は誰じゃ?」 「相手はミス・ヴァリエールの使い魔の男だそうです」 オスマンの顔色が変わる。 ロングビルはそれに気付きながらも淡々と報告を続けた。 「・・・教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが?」 「『眠りの鐘』・・・?わざわざ秘法を使う様なことでもない。放っておきなさい」 「分かりました」 ロングビルはオスマンに一礼すると、そのまま去ろうとする。 オスマンはロングビルを呼び止めた。 「ああ、そうだ。ミス・ロングビル。ついでと言っちゃなんじゃが、コルベール君をここへ呼んで来て貰ってもいいかね?」 「ミスタ・コルベールをですか?・・・はい、分かりました」 ロングビルは再び一礼をすると、今度こそ学院長室から出て行った。 オスマンはそれを確認すると杖を取り出して振った。 すると、壁に掛かっている大きな鏡の鏡面が変化し、ヴェストリの広場の様子が映し出される。 オスマンは水キセルを掴むと、それを咥えて鏡の中の映像を見つめた。 (やべえ!!) ポロンはしくじったと歯軋りする。 目の前に迫るワルキューレを避けようとして、足がもつれてそのままこけてしまったのだ。 倒れて無防備となったポロンへワルキューレが容赦なく襲い掛かってくる。 ポロンは自分の右手を見つめた。 (くそ、使えるかどうか分からねえものだから、使うつもりは無かったけどよ・・・。 この状況じゃ四の五の言ってられねえよな!!ぶっつけ本番だこの野郎!!) ポロンは覚悟を決め、素早く構える。 「バギマ!!」 しかし、何も起こらない。 それを見たギーシュが嘲笑う。 「ハーハッハッハ。それは何かのまじないかい?・・・貰ったぞ平民!」 ワルキューレはすぐ目の前まで来ている。 「チッ!ならば・・・」 ポロンは再び構える。 「バギ!!」 すると、ポロンの右手から真空の刃が放たれた。 次の瞬間、ポロンの目前にまで迫っていたワルキューレは真ん中から真っ二つに割れ、そのまま地面へ倒れた。 「な、何だって!?」 驚いたのはギーシュだけでは無かった。 観客席にいた他の生徒たちも色めき立ち、広場は騒然となった。 キュルケも感心した様に手を叩く。 「驚いたわ・・・平民が魔法を使うなんて。まさかあんな隠し玉があったなんてね。・・・あれはウインド・カッターかしら?」 「違う。あれはウインド・カッターじゃない」 タバサが即座に否定する。 「それに・・・」 (それに彼は杖を使用していない) タバサは風の魔法の使い手として、今のポロンの魔法が自分たちの使うそれとは性質が違うものだと感覚的に見抜いていた。 するとタバサは読んでいた本を閉じ、決闘を食い入る様に見つめ始める。 そんな今まで見たこと無い友人の様子にキュルケは面食らっていた。 (この子がこんなに興味津々に・・・?なるほど、彼は確実にただの平民ではないわね) キュルケは自分の胸の中に何か昂ぶるものを感じ始めていた。 ルイズもまた今の様子に面食らった者の1人であった。 「嘘・・・でしょ?」 今までただの平民とばかり思っていたポロンが魔法を使用した。 あまりの衝撃に頭が回らなかった。 (ポロン・・・どうして黙っていたの?私が『ゼロ』だから?) 突如湧き上がる感情にルイズはポロンの顔を見るのが辛くなっていた。 それでも、目を逸らそうとはしない。 (見届けなくっちゃ・・・。主として、この決闘を見届けなくちゃ!!) 「く、クソ!これは何かの間違いだ!」 そう言うと、ギーシュは再び花弁を宙に舞わせて、新たに1体のワルキューレを作り出す。 「行くんだ、ワルキューレ!」 再びワルキューレがポロンへ向かって直進する。 ポロンは今度はその場から動かずに右手を突き出した。 「ベキラマ!」 また何も起こらない。 「ならギラだ!」 ポロンの右手から熱を帯びた閃光が放たれた。 ワルキューレはそれに飲み込まれると、上半身を砕かれてその場へ崩れ落ちる。 「ぐ、ぐぬぬ・・・」 ギーシュは歯軋りする。 ただの平民だと思っていた男が魔法を使ったのだ。 これは明らかな想定外の出来事であった。 「・・・なるほどな、貴族崩れの平民だったというわけか」 貴族の中にはその地位を剥奪され平民にまで落ちぶれた者も少なくない。 彼らは平民でありながら、当然魔法を使うことが出来る。 ポロンもそういった連中と同じなのだろうとギーシュは当たりをつけた。 杖を使っていない様にも見えたが、それも気のせいだろうと決めつける。 「君も魔法を使うならば、遠慮はいらないな!」 そう言うとギーシュは7枚の花弁を宙に舞わせた。 すると、それらは全てワルキューレと化し、7体のワルキューレがポロンの目の前に立ちはだかった。 「このギーシュ・ド・グラモン、全力を以って貴様を潰す!」 「・・・なるほど、数で攻めやがるか」 ポロンは舌打ちする。 (こんなんじゃ、当然ヒャダルコもイオラも使えねえと見た方がいいな。 今の手持ちの呪文じゃ火力が足りなさ過ぎる・・・。1体ずつ破壊していくなんて チンタラしたことやってたら確実に他のにやられるぜ!) 「どうした?魔法が使えるからといっていい気になるなよ平民が!!」 ギーシュが薔薇を振ると、ワルキューレが一斉に襲い掛かってきた。 ポロンは必死に打開策を考える。 その時、この世界へ来る少し前に酒場で知人と交わした会話を思い出した。 「・・・師匠、覚えていますか?俺たちがガキだった時、アリアハンの森の中でゴールドオークに会ったこと」 「ああ、あったなあ、んなこと」 「あの時、師匠は俺とアスリーンを置いて真っ先に逃げたんですよね」 「んだよ、今更その時のこと責めんのか?」 「まさか!・・・あの時の師匠は本当にカッコ良かったなあって話ですよ」 「つまり、今はカッコ良くないってことだな?」 「アハハハ・・・勘弁して下さいよ師匠」 「ったくよお。・・・実は、あの時のこと俺あまりよく覚えてねえんだよなあ」 「本当ですか?何か凄い呪文使ったことも?」 「呪文?」 「そうですよ、こう右手から・・・」 (・・・そうか!!) ポロンは打開策を思いついた。 (ちっ、何時までも若いつもりだったけど俺も相当耄碌してやがったな。 たかだか3年呪文が使えなくなっただけでこんなことを失念してたなんてよ!!) 「おい、てめえ」 ポロンはギーシュに声を掛ける。 「何だい?命乞いかい?」 「・・・避けろよ」 「はあ?」 ギーシュはポロンが何を言っているのか理解出来なかった。 ポロンは目を閉じた。 次の瞬間、ポロンの両手に魔力が集中し始める。 「右手にバギ・・・」 「左手にギラ・・・」 ポロンは目を見開き、両の手を合わせた。 「合体呪文、バギラ!!」 前ページ次ページゼロの賢王
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ペルソナ3の望月綾時を召喚 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-01 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-02 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-03 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-04
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前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページゼロの写輪眼 イタチは自分の名を言うと共に全身に力をこめた。……弟のことを考えれば今すぐにでも自分の手で命を絶つべきなのかもしれないが、今は状況が見えなさ過ぎる。 自分の身に何が起きたのかを知るまでは、様子を見ることに腹を決めた。 しかし予想に反して、少女は何の反応も見せなかった。むしろ、 「なんで、なんで私が呼び出した使い魔がこんなのなのよ!」 と不満げに愚痴を漏らしている。だがその反応に、イタチは眉を上げた。 (……俺のことを知らない? それに使い魔だと?) 自分で言うのもなんだが、『うちはイタチ』の名は各国に名が知られすぎている。属している組織、『暁』のせいもあるのだろうが、何より自分がしてきたことがあ まりにも罪深すぎる。手配帳も人相書きも出回っているはずだし、この反応はどうもおかしい。しかも使い魔とはどういう意味だろうか? まさか、口寄せの術で呼び 出される者たちのことを言っているのだろうか? 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 「しかも妙な格好をしているし。さすが『ゼロ』のルイズだ!」 イタチがそこまで考えたとき、周囲の人垣から目の前の少女に向かってそんな声がかかってきた。少女、ルイズというらしい、は顔を真っ赤にして 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 と反論した。 「ミスタ・コルベール! もう一回召喚をやり直させてください!」 そして、人垣の中にいるローブを纏い、大きな杖を持っている禿頭の中年男に向かって叫ぶ。しかし男は首を振った。 「だめです。ミス・ヴァリエールも知っているでしょう? 春の使い魔の儀によって現れた『使い魔』で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進みます。一度 呼び出した『使い魔』は変更することができません。なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからです。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかないのです。 ……それより早く、『コントラクト・サーヴァント』を済ませてしまいなさい」 「? ミスタ・コルベール?」 突然変わった口調にルイズという少女は困惑した体だ。しかしコルベールはこの上なく真剣な顔をしており、視線はイタチに向けられたまま動かないでいた。 ルイズはその様子に首をかしげながら、同時に顔を真っ赤にしてイタチを見てくる。そしてあきらめたかのようにため息をついてからイタチに近づき、屈んで 顔と顔を合わせるようにしてきた。 「か、感謝しなさいよ。貴族が平民にこんなことするなんて、普通じゃ有り得ないんだから」 イタチには言っていることの意味が分からない。だがそんなイタチの困惑などお構いなしにルイズが顔を近づけてくる。そして「我が名はルイズ・フランソワ ーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」と言った。 その直後、イタチの姿がルイズの前から消える。 「え?」 そのことに呆然とするルイズだが、それだけでは終わらない。突然ルイズの首に腕が巻きつけられ、体が浮き上がる。そして、クナイが横から押し付けられた。 「!? な、何!? 何なの!!」 あまりのことに混乱するルイズ。しかし、それは周囲にいる人間も同じだった。 「な、なんだ今の!?」 「まったく見えなかったぞ! いつの間に移動したんだ!? いや、それよりもルイズが捕まってるぞ!」 ルイズと同じ様に混乱し、騒ぎ始める。 一方ルイズは自分に何が起こっているのか分からずに手足をじたばたさせていたが、後ろから声がかかってきた。 「さっき何をしようとした」 「! こ、この声、あんたまさか、使い魔!?」 首に腕が巻きつけられていたが、それを無理してまげて後ろを見る。果たして、そこにあったのは彼女が呼び出したイタチの顔であった。 「な、何よ、平民のくせに! こ、こんなことして許されると」 「質問に答えろ。さっき何をしようとした?」 ひ、とルイズは喉を鳴らした。先程までとはまるで違う、凄まじい殺気をイタチが発しているのに気付いたからだ。同様に周囲にいた人間も、水を打ったように 静まり返る。 イタチはルイズが言葉を発して顔を近づけてきたとき、イタチの眼、チャクラを見切る写輪眼は彼女に流れるチャクラ(どこか普通のチャクラとは違う様な感じは したが)から何らかの術をかけようとしていた事を見抜いていた。 そこでイタチは、ルイズが行おうとしていた使い魔の儀というのが口寄せの術のように何かを使役して戦わせるものではないかという考えを持ったのだ。 (ならば、俺がこの状態で蘇っているのも頷ける……) 死者を蘇らせて戦わせる口寄せ、『穢土転生』という術もあるくらいだ。自分が知らないだけで、他にそのような術があったとしてもおかしくない。自分を蘇らせ、 口寄せの術で呼び出されるものたちのように使役し、戦わせようとしているという可能性がイタチの頭をよぎったのである。そしてもし自分を蘇らせる目的が、弟や 木の葉を危機に、さらには世界を戦乱の時代に陥れようとするものであれば、 (子供とはいえ、容赦はしない) 先程までの考えを改め、イタチは必要であればこの場にいる全員を殺す覚悟を決めた。これほどの術を行使する者がいる組織である。それを行使する者が例え相手 がまだ年端も行かない少年少女であろうと、愛するもの、大事なものを守るためには、どんな非道なことであろうとやり遂げてみせる。そうイタチが思ったときだっ た。 写輪眼がチャクラの動きを伝えてくる。どうやら性質変化らしい。そちらの方向に視線を向けると、そこには杖を構えてこちらを睨みつけている先程コルベールと 呼ばれた男がいた。 「ミス・ヴァリエールから手を離しなさい! さもなければこの『炎蛇』のコルベールが相手になりますぞ!」 イタチの殺気にも怯まず、毅然とした様子で叫んでくる。 男は中々の性質変化、どうやら火属性らしい、の使い手のようだが、それでも自分との実力にはかなりの開きがあった。男の方でもそれは自覚しているらしく、手 の震えや首に流れている冷や汗からそうと分かる。無謀と知りつつも、この場にいる人間を身を挺して守るつもりなのだろう。 丁度いいとイタチは考えた。腕の中にいるルイズという少女は自分の放つ殺気に震えながらも睨みつけてきている。だがそれは明らかに強がりでまともな受け答えが できるとは思えない。そしてそれは他の少年少女、イタチの殺気に怯えて呆然と突っ立っている者が殆どだった、にも同じことが言えるだろう。ならば、この男に答 えてもらえばよい。いざとなれば、幻術を使ってでも問いただすが。 イタチはコルベールに向き直り、口を開いた。 「ならば、あなたに質問に答えて頂こう」 「質問……ですと?」 「そうです。この娘を守りたいのでしょう? 質問に答えていただき、俺が得心するような答えであれば、この娘には手出しはしません。ただ、もし得心の行かない ものであれば」 「……あれば?」 「……最悪、この場にいる者の皆殺しは覚悟して頂く」 その脅迫も混ぜた言葉に、ざわりと人垣が揺れた。 「舐めた口、た、叩きやがって……」「平民の、く、くせに、なんてこと……」などというイタチの実力も分かっていない者の戯言も聞こえてきたが、それもイタチ の圧倒的な殺気の前にすぐに消えうせる。 コルベールは口をかみ締め、悔しさを飲み込みながらゆっくりと頷いた。それを見たイタチは、一つ目の質問をする。 「ではまず、何の目的で俺をここに呼び出したのかを答えてもらいます」 「……我々の使い魔召喚の儀のためです。我々メイジの眼となり耳となり、手となり足となる。それが使い魔です。それを呼び出すために、この儀を我々は執り行い ました。」 「成程。……それは詰まり、あなた方の意のままに俺を使い尽くすつもりだったということですか?」 眼を細め、コルベールに問い返す。 びくりと身を震わせ、コルベールは慌てた口調で答えてきた。 「いやいや、そんなつもりはありませんぞ! た、確かに使い魔は主人の僕となり、尽くすものなのですが、しかし使い魔とはメイジのパートーナーでもあるのです。 決してそのような無体な真似などいたしませんし、人であれば尚更だ! そ、それに言いにくいのですが、この儀で人が呼び出されるというケース事態私は見たこと も聞いたこともありません。正直、どうすればいいのかは我々も迷っていまして……」 最後の方は言いよどみ、コルベールの口の中で消えていった。 イタチは考えを巡らせる。どうやらこの男の言葉に嘘は無いようだ。それに話の前半だけを聞いている分には到底承諾できないような内容だが、後半部分から察する にどうやら自分目当てではなく、無作為にその使い魔とやらになるものを呼び出す儀式らしい。周囲を見回してみれば、成程、確かに普段口寄せで呼び出されるよう な者達がいる。悪意あっての召喚ではないようだ。 (どうやら俺にとっても最悪のケースは避けられたらしい。……しかし、確かに死んだはずの俺をこの状態で呼び出すだと……?) 腕の中で震えつつも、こちらを睨んでくるルイズにイタチは眼を向ける。先程の説明では死んだ人間を蘇らせて召喚などということとはまったく関係していない。 一体どういうことなのだろうか? それとも、術を行使したこの少女が特別だったということか……? 疑問に思いつつも状況把握が先だと結論付け、質問を再開した。ルイズはもう放してもいいのかもしれないが、いざというときのためにこのままでいてもらうこ とにする。 「では次に、ここがどこの国の、何と言う場所なのかを答えていただく」 「……この国の名はトリステイン王国。そしてここはその魔法学院です」 そこでイタチは眉をひそめた。『トリステイン』などという国など聞いた事が無い。任務の都合上、国外の国の名も諳んじていた筈なのだが。 (俺の知らない海外にある国か? そう考えれば俺のことを知らないのも何とか納得できるが、魔法……? 学院ということは木の葉の忍者アカデミーのようなも のなのだろうが、忍術ではないのか? だがもし海外だというのなら、何故言葉が通じる?) 初めて聞く国名や通じる言葉を怪訝に思いつつも、イタチは再度質問する。しかしそこから本格的に会話がかみ合わなくなってきた。 「五大国外の国なのか」と聞けば「五大国?」と鸚鵡返しのように尋ねられ、魔法とは忍術の別称、もしくはそれに類するものなのかと聞けば「忍術? 魔法で はないのですか?」と聞き返される。ますます怪訝に思いならばせめて五大国の中でも最も栄華を誇った火の国、そして木の葉隠れは知っているだろうと聞いてみ るも、またしても「火の国? 木の葉隠れ?」と鸚鵡返しのように聞き返された。 ここに至って、明らかにお互いの認識に食い違いがあることにイタチは気付いた。 (いくら国外とはいえ、火の国の名すら知らないのはおかしい。国外とは言え情報ぐらいは伝わっているはずだ。それに忍術を知らないのもそれと合わせて考えて みれば……) コルベールの様子を見ると、彼も明らかに困惑しているようだった。彼からしてみれば自分が話していることの方が彼にとっての常識とかみ合わないのだろう。 イタチはしばしの間考えを巡らせた後、コルベールに声をかけた。 「……どうやら、俺たちは少し腰をすえて話さなければならないようです」 前ページゼロの写輪眼
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「ゼロのルイズ」(前編) ◆LXe12sNRSs 「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。 涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。 そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。 ……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。 恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。 その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。 異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。 「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」 「な、なんでアンタがここにいるのよ!」 「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」 「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」 晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。 少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。 そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。 召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。 「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」 「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」 場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。 その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。 「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」 「? 遠くないってなにが?」 「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」 「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」 「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」 「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」 茹蛸みたいに顔を火照らせて、ルイズは少年の耳を力いっぱい引っ張った。 ……何故だろう。この少年の前に立つといつもこうだ。 言いたいことが言えなくて、発言を失敗するたびに胸が締め付けられるように苦しくなる。 病のようで怪我のようで、そのどちらでもなくて。 ルイズは純真な瞳に笑う少年の素顔を映し、正体の掴めぬ感情に胸を焦がすのだった。 「……ったく、こんなガサツで乱暴な性格だから、みんなに『ゼロのルイズ』なんて呼ばれるんだよ。少しはシエスタとかを見習えよな」 「そ、それは昔の話じゃない! っていうかなんでそこでシエスタの名前が出てくるのよ!」 「え? い、いやぁ~なんでだろうなぁ……ハハハ」 冷めた笑いではぐらかす少年の胸ぐらを揺さぶりながら、ルイズはまた怒り出す。さっきから顔を真っ赤にさせっぱなしだった。 ……少しは素直にならないとね。 表の思考ではなく、本能でルイズはそう思った。 このまま意地を張ってばかりでは、いつかきっと後悔してしまう……そんな予感を本能が感じ取っていたから。 「……もう、ゼロのルイズなんかじゃない」 「分かってるよ。ルイズはもう立派な――」 「そうじゃない! そうじゃなくて……その……私には…………才人、がいるから」 「へ? オレ?」 おどけた表情で言葉の意味を探る少年に、ルイズは依然赤面したまま、思いの丈をぶつける。 「……私には、『才人』がいるから! だから……だからもう『ゼロ』じゃない。才人が、才人さえいれば私は……」 意を決した反動で涙まで流す健気な少女に、少年――平賀才人は優しく微笑み、その小さな頭にそっと手を置いた。 ◇ ◇ ◇ 今宵の城は、漆黒ではなく真紅に染め上がることだろう。 爆砕か、炎上か、血染か、それとも――真紅を超越した『虚無』か。 「我が名はルイズ! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 杖である戦鎚を振り、唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!」 サモンサーヴァントだけは自信があった。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 あの召喚の儀式の日が、全ての始まりだった。 「私は心より求め、訴えるわ!」 ルイズと、才人の。 「我が導きに、答えなさい!」 運命の出会い――。 『…………まずは悲しい知らせから――!』 バトルロワイアル会場の中心地に位置するホテルという名の巨城。 その最上階にて、ルイズはグラーフアイゼンを振るい、破壊の力を行使する。 爆音が木霊し、壁が、天井が、床が崩壊。ほぼ同時に始まったギガゾンビの定時放送すら、その轟音で掻き消した。 横に、縦に、斜めに自由自在に振り回し、まるでウサ晴らしをするようにありったけの魔力をぶち撒ける。 これまでの激戦で損傷が進んでいた巨城はすぐにその身を揺るがし、ボロボロと破片を零していく。 『――涼子、前原圭一、竜宮レナ、古手――』 放送は既に、ルイズの耳には入っていなかった。 ギガゾンビの声を掻き消すほどの音も原因の一つだが、ルイズにはもはや、誰が死のうがどこが禁止エリアになろうがどうでも良かったのだ。 ホテルを壊して、目に入った人間は殺して、グリフィスの下へ、才人と一緒に帰る。 それだけ。たったそれだけで、才人は帰ってくる。 誰にも邪魔はさせない。朝倉涼子も問題じゃない。 才人と一緒にいれば、なんだって出来る。 だって才人は、ルイズが召喚した世界でたった一人の平民の使い魔だから。 神聖で、美しく、そして強力なゼロの使い魔だから。 「私はもう――ゼロじゃない!」 懐に忍ばせておいた才人の眼球を取り出し、屋外へと飛翔する。 天高く舞い上がったルイズは手の平に才人を転がし、同じ視点で崩壊していくホテルを見下ろした。 未だ鳴り止まぬ轟音は、依然として破壊が続いている象徴でもある。 スプーンで半分だけ掬ったアイスのように、ホテルは中途半端な半壊状態を迎えたところで鳴動を止めた。 このコンクリートの巨城は、ルイズにとっては砂の城だ。 そう形容するくらいに脆く、崩れやすく、壊しやすい。 才人と再び出会うための、単なる糧に過ぎない。 「見て、才人。お城が崩れていくわ」 地上から舞い上がってくる突風を受けて、ルイズの桃色の髪が揺れた。 生気を宿さない眼球は何も言わず、ただ死んだ瞳に崩壊寸前の巨城を映す。 「召喚魔法は一生で一度きりのもの。使い魔は生涯添い遂げるべきパートナー。私にはもう、才人しかいない」 ルイズが召喚した使い魔は、人間だった。 ルイズが召喚した使い魔は、平民だった。 ルイズが召喚した使い魔は、才人だった。 「もう一度やり直そう、才人。あの召喚の儀式から、私たちの出会いから――」 グリフィスはそれを叶えてくれる。 壊して、殺して、ぶっ壊して、皆殺しにすれば、才人は戻ってくる。 ルイズはグリフィスの虚言に一欠けらの疑念も持たず、ただ単純に――すごい、と思った。 「帰ろう、才人」 ――そこにはいないはずの才人と交わす、二度目のファーストキス。 突き出した唇は空を捉え、ただ唯一といえる彼の象徴は、何も返してはくれなかった。 今は、まだ。 でも、これが終われば、きっと。 グラーフアイゼンを頭上高く振り上げ、彼女の内に眠る潜在魔力を解放させる。 生み出された特大の鉄球の数は、一発。その一発に、ルイズの魔法の特性である『虚無』の力を加える。 「これが、決まれば!」 鉄球を狙い、グラーフアイゼンを当てんと振り被る。 虚無により強化された、本来の使い手であるヴィータのものを越えるシュワルベフリーゲン。 命中すれば半壊状態のところで食い留まったホテルも爆発と共に弾け、辺り一帯は焦土と化すことだろう。 そこに、ルイズ以外の生存者はいない。 「――っぉわれろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 呂律の回らない口ぶりで叫び、ルイズはグラーフアイゼンを振り下ろした。 「やめなさあぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「――ッ!?」 鉄槌が鉄球を穿つ――その直前だった。 ルイズの横合いから飛び込んできた黒い斧が、振り下ろされたグラーフアイゼンを弾き、同時に鉄球を空高く打ち上げた。 ホテルを狙うはずだったシュワルベフリーゲンは空中で花火のように霧散し、黒味がかってきた空を茜色に染める。 バランスを崩したルイズはなんとか体勢を立て直し、謎の乱入者へと矢庭にハンマーを向けた。 その場にいたのは、ルイズと同様に魔法の杖を持った、飛翔する女の子。 白を基調としたロングスカートは、平凡な小学三年生の女子児童が思い描く、典型的な魔法少女の兵装。 胸元で結ばれた大き目のリボンが際立ち、またそのリボンのイメージとは対極に位置する厳格な瞳を、ルイズに向ける。 「なによ……なんなのよアンタ!」 歳相応とはいえない殺気の込めれらた睨みを利かせ、ルイズは少女を牽制する。 だが少女はそれをものともせず、怯むでもたじろぐでもなく真っ向から視線を合わせていった。 純白の清楚なバリアジャケットに、使役するは親友が愛用していたインテリジェントデバイス。 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――その名は、バルディッシュ・アサルト。 そして使い手は、『魔砲少女』、『管理局の白い悪魔』など、呼び名を悪名の如く周囲に認知させ、若輩を意識させないほどの実力を持った一流の魔導師。 「高町なのはとバルディッシュ・アサルト――これ以上の破壊は見過ごせない!」 杖とは形容しがたい戦斧を構え、飛翔する少女は高らかにその名を宣言した。 ――狂った。邪魔が入って、何もかもが狂ってしまった。 直感でなのはを外敵と捉えたルイズは、奥歯を噛み締め、憤怒の思いを逆巻く風に乗せた。 あと少し、あと少しで終わったのに。いつも、いいところでいつもいつもいつも、邪魔が入る。 「どうしてホテルを破壊しようとするの? それに、なんであなたがヴィータちゃんのグラーフアイゼンを……」 「……キュルケにシエスタに、アンリエッタにタバサ……こっちに来てからは朝倉涼子! みんな、みんな才人と私の邪魔をする!」 慟哭を鳴らし、ルイズが雄叫びを上げた。 子供とも女とも思えない、獣性を帯びた咆哮はなのはを唖然とさせ、身を引き締めさせた。 同時に、虚無の力を更に行使する。 グラーフアイゼンにこれでもかというくらい魔力を込め、その形状を変えていった。 ハンマーヘッドの片方に推進剤噴射口が現れ、もう片方にはスパイクが取り付けられる。 通常のハンマーフォルムに比べ、近接戦闘に特化した変形形態ラケーテンフォルム。 『鉄の伯爵』と呼ばしめる戦鎚型アームドデバイス、グラーフアイゼンのもう一つの姿である。 「殺して、壊すだけで終わるの! だから、だから……だから大人しく殺されなさいよぉぉぉぉぉ!!!」 『Raketenhammer』 貴族の優雅さなど欠片も見せず、ルイズは感情のままになのはへと突進した。 ロケット噴射による推進力がルイズの速度を加速させ、回転。遠心力も味方に付け、グルグルと円盤のように回りながら大気を巻き込む。 なのはは咄嗟に防壁を張るが、グラーフアイゼンのラケーテンハンマーは基礎的なプロテクションなどで防げるものではない。 (すごい勢い……! ひょっとしたら、ヴィータちゃん以上――!?) 絶大な威力を防ぐには敵わず、魔力防壁はガラスのように砕け、飛び散った。 破壊力は強大でもそのコントロールはまだ不完全なのか、空中でグルグル回り続けたままのルイズの隙をつき、なのはは距離を取る。 「バルディッシュ、お願い!」 『Haken Form』 なのはの声に答えた機械音声がスイッチとなり、バルディッシュ・アサルトの形状を変えていく。 変形前を斧と言い表すならば、この変形後のハーケンフォームはその名の通り鎌。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルム同様、近接戦闘に特化した直接攻撃タイプの形態である。 「うわぁあぁああああぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁぁ!!」 力任せに突っ込んでくるルイズはグラーフアイゼンを使いこなしているというより、武器として利用しているだけのように思えた。 デバイスと意思疎通を図り、共に戦略を組み立てるなのはとレイジングハートのような関係とは違う。 グラーフアイゼン本来の使い手であるヴィータ以上にムチャクチャな攻撃方法――それを見て、なのはは再度思う。 ヴィータは、いったいどうなってしまったのだろうか。 主である八神はやての死亡と同時に、彼女の守護騎士であるヴィータとシグナムの二人も消滅したものだと思っていた。 しかし先ほどのホテル倒壊と同時期に行われた放送――告げられた死亡者の中には、確かにヴィータの名前があった。 真相が分からない。シグナムはまだこの世界に存在しているのか、ヴィータは誰かに殺されてこの世から消えたのか。 ルイズの持つグラーフアイゼンに訊けば、何かが分かるかもしれない。が、今はまだ。 そもそも、悲しんだり考えたりする暇はないのだ。 (ホテルには、まだみさえさんやガッツさんがいる。これ以上壊させるわけにはいかない……全力で止めてみせる!) なのはは向かってくるルイズと真っ向から対峙し、加速するハンマースパイクをバルディッシュの刃で受け止めた。 圧し掛かってくる力は過去ヴィータと交戦した時と等しく、重い。 でも、挫けたり諦めたりすることはできない。普通の少女みたいな甘えは、なのはには許されない。 守りたいものがある。友達と、仲間の、大切な命。失うわけには、いかない! 「死ね! 死ね! 死になさいよォォォォォ!!」 「……ぜったい、ダメェー!」 何度も何度も打ち込まれる鉄槌を、バルディッシュの一薙ぎで全て振り払った。 どうにかしてルイズからグラーフアイゼンを奪取し、無力化しなくてはならない。 故になのはは不得手な近接格闘戦に挑むが、使い慣れない鎌は振るうだけで疲労が溜まる。 そのため、隙も生じやすい。 「!」 がむしゃらに振り回され続けてきたグラーフアイゼンが不意に軌道を変え、なのはの顎下を狙ってきた。 バルディッシュの間合いを縫うように潜り込まれた一撃は、バリアジャケットに包まれていない頭部を掠めようとしている。 反射的に身を引いてそれを回避するが、そこからさらなる隙が生まれてしまった。 横合いから、真っ直ぐな軌道で振るわれるグラーフアイゼン。 バルディッシュのか細い柄がそれを防ぐが、発生した衝撃はなのはの小柄な身体を容易く吹き飛ばした。 流星のように煌びやかに、暗闇を帯びてきた市街地へとなのはが落下する。 受身として即席の防御魔法を展開するが、それでも落下の勢いを減少させるほどの効果しかなく、音を立ててビルの壁へと衝突した。 「――っいたた……大丈夫、バルディッシュ?」 『Yes, it is safe』 「にゃはは……やっぱり、フェイトちゃんみたいにうまくはいかないね」 コンクリートでできた壁に激突――常人、しかも小学三年生の少女ともあれば、笑って済ませられるものではない。 だがなのはは、普通なら大怪我のところを掠り傷程度で抑え、バルディッシュも目立った損傷はなかった。 戦いは始まったばかり、これからが本番。泣き言を言う暇も、言うつもりも、なのはとバルディッシュにはない。 (接近戦で対応するのは不利……かといって遠距離攻撃を仕掛ければ、あの子はシュワルベフリーゲンで攻撃してくる。 もし流れ弾が一発でもホテルに命中すれば、中にいるみさえさんたちが危ない……なら!) なのは立ち上がり、再び飛翔した。 空中で待ち構えていたルイズは未だ牙を剥き出しにした状態。 戦意を治めず、むしろ高ぶらせて、まずは目の前の邪魔者を排除しようと躍起になっていた。 ホテルからの注意は逸れている――引き離すなら、今がチャンス。 「あとで絶対、お話は聞かせてもらうから。でも今は――」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 再び突進してきたルイズに対し、なのははバルディッシュで受けようとも範囲攻撃で反撃しようともせず――身を翻し、急加速で撤退した。 頭に血が上っているルイズは逃げる敵に意識を奪われ、闘争本能のままになのはを追跡していく。 高速で飛行する魔法少女が二人、戦地をホテルの外周へと移す。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-6・上空/一日目/夜】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:精神完全崩壊/グリフィスへの絶対的な忠誠/全身打撲(応急処置済み)/左手中指の爪剥離 [装備]:グラーフアイゼン(ラケーテンフォーム)(カートリッジ二つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:平賀才人の眼球 [思考・状況] 1.殺す(なのはを) 2.壊す(ホテルを) 3.生き返らせる(才人を) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に軽傷(掠り傷程度)、友を守るという強い決意、やや疲労 [装備]:バルディッシュ・アサルト(ハーケンフォーム)(カートリッジ一つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s、バリアジャケット [道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式 [思考・状況] 1:ルイズをホテルから引き離し、無力化する。 2:グラーフアイゼンを奪取し、ヴィータがどうなったかを訊く。 3:シグナムが存在しているかを確認する。 4:フェイトと合流。フェイトにバルディッシュを届けたい。 5:はやてが死んだ状況を知りたい。 6:カズマが心配。 ◇ ◇ ◇ 破壊神が通り過ぎた跡は、それはそれは無残なものだった。 八階建てという、高く堅牢な誇りを掲げていたホテルという名の巨城は面影もなく崩れ落ち、今や元の半分、四階フロアまでを残すのみとなっていた。 五階から上は既に残骸として地に落ち、周囲に散らばっている。 ガッツや野原みさえがホームとしていた三階フロアも、上の階層から雪崩れ落ちてくる天井やら何やらによって、凄惨な有様となっていた。 壁に穴が空いているのも別段珍しくはなく、中からでも日の落ちた世界が一望できる。 崩れゆく鳴動は止まった。だが、これで崩壊が終わったとはとても思えない。 三階フロアの天井は現在進行形でパラパラと崩れ落ち、なおも残骸の数を増していっている。 いつのことだったか――野原みさえは、家族の住まうマイホームがガス爆発により崩壊した時のことを思い出した。 あれは一瞬の内に弾け飛んだ分ジリジリと迫る恐怖は感じ取れなかったが、このホテルの状況は違う。 いつ来るかは分からないが、いつか必ず来るであろう完全倒壊の時。一秒後か、一分後か、一時間後か、考えるほどに怖くなってくる。 関東大震災などがこんな感じだったのだろう。日頃テレビのニュースで見る被災者の方々の気持ちになり、みさえはその身を震わせた。 「ガッツ……それに、ゲインさんやキャスカさんは……?」 身体が満足に機能するのを確認した後は、改めて周囲を見渡した。 確認できるのは、乱雑に散りばめられた瓦礫の山々のみ。ベッドやら電話やら冷蔵庫やら、室内にあったはずのものは全て埋もれ、その姿を隠している。 見当たらないのはホテルの備品ばかりではない。ガッツやベッドで寝ていたはずのゲインもまた、その影をどこかに潜めたままだった。 まさか、彼等も生き埋めになってしまったのだろうか……渦巻く嫌な予感に駆り立てられ、みさえは足場の整わない残骸の上を歩く。 「あっ……痛ッ!?」 そこでようやく、自分の足が負傷しているという事実に気づいた。 瓦礫の破片に足を躓かせ、転倒。原因となった左足は青く膨れ上がり、今頃になって痛みを訴えかけてくる。 どうやら軽い打撲のようだ。これしきの怪我、ホテルの負った被害状況を考えれば随分と程度が低い。 みさえは意識を奮い立たせ、立ち上がろうと力を込める。その背後から、 「フリーズ。動くなです人間」 土埃に塗れた人形が、銃を突きつけてきた。 「あなた……どうして!?」 「まったく、あんな大爆発が起こったっていうのにしぶとい人間ですぅ。まぁ、そのおかげで翠星石も自由になれたわけですけど」 その人形――翠星石は、取り上げたはずの銃を構え、今にもみさえの後頭部を撃ち抜かんと牽制している。 「爆発……? 爆発って……あ」 翠星石の言葉で、みさえはようやく思い出す。 あれはたしか六時丁度、ギガゾンビの声がしたと思った瞬間の出来事だった。 凄まじい怒号と地震のような波に襲われ、すぐに天井が崩壊してきたのだ。 おかげでみさえも翠星石も、放送での死者や禁止エリアの情報を聞き逃してしまった。 しんのすけは無事なのだろうか、蒼星石は無事なのだろうか、考える暇もなく、自分の命を拾うことに精力を注がなくてはならない状況に陥る。 結果として、二人はホテルの倒壊にあっても即死は免れた。その際翠星石は意識を回復させ、同時に強奪された銃も奪還することに成功したのだ。 みさえは微かに振り向き、翠星石のやや後方に目を向ける。 そこに転がっていたのは、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた誰かの四次元デイパック。 おそらく翠星石は、あのデイパックから零れた銃を回収したのだろう。だとすれば、あのデイパックは銃を取り上げていたガッツのものに他ならない。 彼のデイパックがあのような無残な姿を晒しているということは、つまり―― 「ガッツ……ねぇ、ガッツはどうしたのよ!」 「あんなデカ人間しらねーです。ま、大方この瓦礫の下のどこかで野垂れ死んでるんじゃないですか。翠星石には関わりのないことです。それよりも」 翠星石は突きつけた銃口をみさえの旋毛にグリッと押し付け、覇気を込めた声で言う。 「よくも! よくも翠星石をあんな目にあわせてくれやがりましたねぇ! 人間如きにあんな仕打ちを受けるなんて屈辱ですぅ!」 「仕打ちって……あなたがトンチンカンなことを言ってるからお仕置きしただけよ! それの何がいけないわけ!?」 「あーもう! これだから知能の低い人間の相手をするのは嫌なんですぅ! 今の状況が分かっていないですか!? お前は今から翠星石に殺される運命にあるのです!!」 癇癪を起こしたように顔を染め上がらせ、翠星石は力の限り銃の引き金を引いた。 銃声が鳴り、黒く開いた口から殺意の弾丸が飛ぶ――が、それは狙っていたみさえの後頭部を逸れ、天井へと放たれる。 何が起こったか理解できない翠星石は、同時に自分の身体がみさえの手によって乱暴に振り回されていることを知った。 隙を突き、小さな人形の身体を捕縛した――このまま投げ飛ばし、抵抗するつもりか。 翠星石は考えたが、答えはまるで見当違いであり、みさえの行動の真意も一瞬が過ぎる内に知ることとなる。 「――危ない!」 時間差で届いたみさえの危機を知らせる声は、翠星石に事態を把握させた。 振り回された体勢のまま、視覚でも確認する。 翠星石とみさえの後方に、剣を振るう褐色肌の女剣士がいた。 みさえに気を取られている間に、この女は翠星石の背後に忍び寄っていたのか――ようやく自分がとんでもない窮地にあったことを自覚した翠星石は、遅すぎる恐怖に身を震わせる。 あと数秒遅れていたら真っ二つという状況だった。げんこつの恨みは消えないが、この時ばかりはみさえの機転に感謝せざるを得ない。 というか、この女剣士はいったい誰だ。翠星石は一瞬考え、すぐにキャスカという名のミニ人間がいたことを思い出した。 「……スモールライトの効果が切れたのね。それにその剣も……最悪」 「うっ…………ぐぅぅぅ……」 キャスカが握っているのは、翠星石の銃と同じくガッツが預かっていたはずのエクスカリバーだった。 あれが彼女の手に渡っているということは、やはりあのズタズタに引き裂かれたデイパックはガッツのものなのだろう。 だとしたら、なおさら彼の安否が気に掛かる。みさえは未だ姿の見えぬ仲間を捜したい衝動に駆られるが、どうやら眼前の女騎士はそれを見逃してはくれないようだ。 獰猛な獣のように声を漏らし、現状が把握できていないのであろうキャスカは、混乱気味にみさえと翠星石を襲った。 グリフィス以外は敵。これはキャスカが定めたルールのようなものであり、目に付く人間、殺せるチャンスがあれば、深く考えずに襲えという本能からくるものだった。 女と人形のように小さな子供……戦力的に見てもなんら問題ない。左足は骨折により使い物にならなくなっていたが、腕さえ動けば十分に殺せる。 キャスカはエクスカリバーの柄を握る力を強め、片足で跳躍してみさえに飛びかかった。 巻き起こる剣風は、みさえのような平凡な主婦には到底回避し切れぬ代物だったが、キャスカが満身創痍なこともあってこれは難なく回避する。 「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ! おち……落ち着きなさいってば、ねえ!」 攻撃を回避しつつキャスカを宥めようとするみさえだったが、混乱の度合いが強いのか、彼女は剣を収めようとしない。 朝比奈みくるという少女を殺害し、ゲインやセラスに手傷を負わせた凄腕の女剣士――ガッツは保護対象として捉えていたが、やはりセラスの言うとおり彼女は殺し合いに乗ってしまったようだ。 相手が刃物を持っている以上、翠星石のようにげんこつやぐりぐり攻撃で鎮圧することは難しい。大人しく逃げるのが得策かと考えたが、みさえ自身も怪我人の身。 いつ崩壊するとも分からないホテル内を、キャスカの剣をかわしつつ負傷した足で脱出する自信はなかった。 何より、ここにはまだガッツやゲインがいるはずである。彼等の安否を確かめるまでは、安心して避難などできるはずがない。 「くあああああああああああああッッ!!」 「――ッ!?」 気合の咆哮と共に、キャスカはエクスカリバーを大きく振り上げた。 その奇声に一瞬怯んだみさえは瓦礫の足場につんのめり、転びそうになった身体を寸でのところで制御する。 その間、回避行動はままならず、停止したみさえの上空から真っ直ぐな一閃が振り下ろされた。 「――――」 目を瞑り、覚悟を決めた。 これはもう避けようがない。恐れから来る痺れが身体を固めさせるが、死にたくないという強い意識はまだ保っている。 たとえどうしようもない窮地だとしても、みさえは願った。 助けを。ピンチを救ってくれる、ヒーローみたいな誰かを待ち望んだ。 ――その脳裏に荒くれた大男の姿がよぎったのは、否定しない。 「お前はッ!」 (……え?) 突如、キャスカの驚きに満ちた声を耳にし、みさえはそっと瞼を開けた。 気づけば、両断されるはずだった我が身は五体満足のまま存在している。 いったいどうして――答えを求めた視界の先で、キャスカの剣を一心に防いでいる男の姿があった。 「ガ――」 その名を呼ぼうとして、みさえは異変に気づく。 目の前で自身を守る障壁のように君臨している男は、脳裏をよぎった彼ほど大柄な体躯ではない。 晒した上半身に包帯を巻きつけ、荒い息遣いでなんとか立っているその男は――ゲイン・ビジョウだった。 「ゲイン・ビジョウ!」 「よぉキャスカ。一度は撤退したかと思ったが出戻りか? そんな傷まで負って、そこまでして生き残りたいか?」 ――昼に起こった闘争を再びなぞるかのように、ゲイン・ビジョウとキャスカの二人は対峙する。 ゲインはみさえがベッドの傍に立てかけて置いたバットを得物とし、キャスカの剣を防いでいた。 調子が万全ならば両断することも容易かったであろう代物だったが、キャスカ自身もいっぱいいっぱいらしい。 エクスカリバーを握る手はどこか弱々しく、数多の兵士を率いていた頃の力強さは感じられない。 「驚かせてしまってすまない、ご婦人。少し尋ねたいんだが、君はシドウヒカル、もしくはセラス・ヴィクトリアの知り合いか?」 「両方よ! 二人は今外に出てていないけど、あなたの看病をしていたら突然ホテルが崩れ出して、っていうか今も崩れてる真っ最中で……」 「なるほど……なんとなくだが、状況は把握した。ここにキャスカがいる理由は後でゆっくり聞くとして、とりあえず彼女には眠ってもらわないと……な!」 降りかかる刃の切っ先をバットで流し、ゲインはキャスカを沈静化させようと腹部に蹴りを放つ。 だが負傷している身とはいえ、剣を持った傭兵に安易に隙が生まれるはずもなく、ゲインの一撃は空振りで終わった。 「相変わらず鋭いな。女性のものとは思えぬ剣捌きだ。……それだけの力を持ちながら、自分のことしか考えていないってのがマイナスだがな」 見た目にそぐわぬ豪快さもまた、女性のステータスの一部。ゲインはそう捉えていた。 だがその力を自分のため『のみ』に使うとあっては、とても褒められたものではない。 血気盛んなレディは嫌いではないが、少々痛い目を見てもらう必要がありそうだ……ゲインは疼く脇腹を押さえ、キャスカの剣とバットを交わした。 (自分の命に、興味などはない……。私は決めたんだ。グリフィスを優勝させ、鷹の団を再興する) 囁くように発した言葉は、ゲインの耳には届いていなかっただろう。 ゲインは思い違いをしている。キャスカは決して自分が生き残りたいがために戦っているのではなく、ただ一人、敬愛した男の無事を祈り剣を振るっているだけなのだ。 (グリフィス……ジュドー……ピピン……リッケルト……コルカス) 誰にも思いつかないような知略と、カリスマ性溢れる指揮でみんなを率いてくれたグリフィス。 投げナイフを得意とし、何事もそつなくこなす参謀役でもあったジュドー。 巨体を盾にして何度も敵兵の強襲を食い止め、白兵戦の要として活躍していたピピン。 幼いながらも常に皆のことを思い、鷹の団を支えていてくれたリッケルト。 身勝手ではあるが、いざという時には誰よりも果敢に敵に攻めていったコルカス。 何ものにも変えがたい、鷹の団の戦友たち。 (……ガッツ!) 一年前に鷹の団を去り、仲間を、グリフィスを裏切り我が道を進んだ――今はもういないガッツ。 (ガッツも、私も、いらない。グリフィスが、いれば……) ふと、自分でも驚くくらい仲間に対して献身的な思いを抱いていることに気づく。 その正体は、あの一年を無駄にしたくないという意地か、未だ潰えぬグリフィスへの思いか、傍を離れていったガッツへの怒りか――。 (深く……考えるなキャスカ。私はただ、敵を斬る。それ、だけでいい……!) エクスカリバーの握り手に再度、力を込める。 グリフィス以外の敵を消す。ガッツであろうと、誰であろうと。そのためにもまず、この場を生き延びてやるんだ。 「いくぞ……ゲイン・ビジョウ!」 「やれやれだな……」 鷹の団の千人長たる女戦士は、たった一人の男と残してきた仲間のために剣を振るう。 黒いサザンクロスの通り名を持つエクソダス請負人は、その肩書きの誇りに掛けて、脱出を願う者たちでのエクソダスを目指す。 観戦するしか道が残されていなかった主婦は、自分にでき得る最善の行動を模索し、そして速やかに取り掛かる。 他者を恨んでばかりの人形は、いつの間にか姿を消していた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】 【キャスカ@ベルセルク】 [状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night [道具]:なし [思考・状況] 1:目に付く者は殺す 2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。 3:グリフィスと合流する。 4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 1:キャスカを止め、ホテルからエクソダス。 2:市街地で信頼できる仲間を捜す。 3:ゲイナーとの合流。 4:ここからのエクソダス(脱出) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】 [状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲 [装備]:スペツナズナイフ×1 [道具]:なし [思考・状況] 1:ガッツ本人と、戦闘中のゲインの援護になるような物を掘り起こし、キャスカを止める。 2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。 3:セラスら捜索隊と合流。 4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。 5:しんのすけ、無事でいて! 6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する 基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:全身に軽度の打ち身(左肩は若干強い打ち身)、頭が痛い、全身各所に擦り傷 服の一部がジュンの血で汚れている、左肩の服の一部が破れている、人間不信 [装備]:FNブローニングM1910(弾:4/6+1)@ルパン三世 [道具]:無し [思考・状況] 1:あんなバカな人間共は放っておいて、さっさとここから逃げるです! 2:真紅や蒼星石と合流するです。 3:まずは魅音を殺してやるです。 4:水銀燈達が犯人っぽいから水銀燈の仲間は皆殺しです。 5:水銀燈とカレイドルビーを倒す協力者を探すです、協力できない人間は殺すです。 6:庭師の如雨露を探すです。 7:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。 基本:チビ人間の敵討ちをするため、水銀燈を殺してやるです。 [備考]:第三放送は聞き逃しました。 ※ゲインのデイパック: 【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】 みさえのデイパック: 【糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】 バトーのデイパック: 【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】 ロベルタのデイパック: 【支給品一式×6、マッチ一箱、ロウソク2本、9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの】 翠星石のデイパック: 【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】 パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、支給品一式、空のデイパック、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、首輪 がホテル内、もしくはホテル周囲の瓦礫の下に埋もれています。全て破損状況は不明。 ※ガッツの持っていたデイパックが崩落により損傷、中身が全て吐き出され、使い物にならなくなりました。 時系列順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 投下順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 高町なのは 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ キャスカ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ゲイン・ビジョウ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 野原みさえ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 翠星石 207 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 アーカード 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 園崎魅音 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 獅堂光 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on フェイト・T・ハラオウン 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on タチコマ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on ゲイナー・サンガ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 ストレイト・クーガー 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 セラス・ヴィクトリア 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ガッツ 207 「ゼロのルイズ」(後編)
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前ページゼロの雷帝 そして昼食時。 概ね問題なくルイズは午前の授業を消化し、食堂に着いていた。 ゼオンがいない事についてはケガを理由として話しておいた、さすがに子供のケガを揶揄するような生徒はおらず、女生徒に至っては気遣わしげな視線を向けられさえした。 (知らないって幸せなことよね) 今までのゼオンの行動を思い返しつつ席につき、ルイズは溜息をついた。 アレは子供などという可愛らしいモノでは断じてない、自己中と暴言が服を着て歩いているような存在だ。 更に子供らしからぬ知恵と変な能力まで持っているため、始末に負えなかった。 (…けど、そこまで救いようのない嫌な奴でもないのよね) ゼオンがわざわざ厨房まで行ってシチューを持ってきた事を思い出す。 アレも元はと言えばゼオンが悪いのだが、自らの不始末を自ら率先してフォローしていたのだ。 本当に嫌な奴なら、そんな事はしないだろう。 「…まあ、一緒に食べるくらいのことはしてあげるわ」 ルイズはいろいろ腹は立つものの、少しは許してあげるのが主の器量とゼオンが来るのを待った。 一人で食べさせるのはやはり可哀想だという想いもある、何しろ彼は子供だ、まだ親に甘えているべき時期に使い魔にしてしまったのだ。 子供などという可愛らしいモノではないと認識しながらも、ルイズは少々ながらゼオンに負い目を感じていた。 そして30分後。未だにゼオンは来なかった。 まあ『午後からはついていく』と言われただけで明確に待ち合わせをしていない以上、仕方ないと言えば仕方ないのだが今のルイズにそんな理屈は通用しなかった。 ギチギチ、と音を立ててルイズの手の中のフォークが磨り潰されていく。 これは奴の作戦なのか?自分を怒らせたら何か手に入るものでもあるんじゃないのか? あまりの怒りにそんな益体のない事さえ頭に浮かんでくる。 と、向こうのテーブルから大きな声が聞こえてきた。 今のささくれだった精神状態には酷く耳障りに思え、そちらを見てみると3人の生徒達が騒々しく話をしていた。 いや、どうやら騒がしくテンションが高いのは一人だけのようだが。 「あのジャイアントモール、お前の使い魔だったのか!」 「一応お前顔はいいのに使い魔は正反対だな、いろんな意味で」 「何を言うんだ!ヴェルダンデこそ僕の使い魔に相応しい!僕達が巡り合う事は始祖ブリミルの大いなる導きだったんだよ!嗚呼、ヴェルダンデ!可愛いよヴェルダンデ!!」 美形ではあるものの間抜けな雰囲気を持った生徒、ギーシュがクネクネと身体を捻らせて恍惚とした表情を浮かべている。 反対にその友人と思われる二人の男子生徒はギーシュの有様に完全にひいている。 一人は皮肉のつもりで『正反対』だと言ったのだが、全く通じていない。 「だめだこいつ…早く何とかしないと…」 「手遅れだ、こいつは完全にイカレちまってやがる。何をやってもあのモグラが可愛く見えるだろうさ」 「嗚呼ヴェルダンデ、どうして君はそんなに可憐なんだい?どばどばミミズは食べたかい?そうかそうか。ああ、口からミミズがはみ出ているよ、慌てん坊だなぁ」 「この食堂のどこにお前の使い魔がいるんだよ、いるのは外だろ外。視界共有してもモグラ自身は見えんだろうに。脳内使い魔と交信するのはやめろ」 「ヴェルダンデの素晴らしさを君達にも教えてあげよう!いいかい、ヴェルダンデは…」 「聞いちゃいねえ…」 呆れる友人二人を余所にギーシュの使い魔称賛独演会は続く。 そうやって使い魔を手放しに賞賛しているギーシュを観ているとルイズは余計に腹が立ってきた。 内容はどうあれ、ああまで気に入る使い魔にめぐり合えたのは素晴らしいことだろう。 それにひきかえ自分はどうか?自分と使い魔の関係は非常に険悪だ。 もし使い魔を召喚できたなら、心を通い合わせ、喜びも苦難も分かち合う関係を夢見ていたのに。 (ふんだ。何よ何よ、羨ましくなんかないんだから) 不貞腐れているとギーシュが話しながら席を立ち、こちらに近づいてきた。 その途中でルイズに気づき、何を思ったのか目を輝かせて勢いこんでやってくる。 何か話しかけられても無視しようとルイズは心に決めた、今は話をする気分ではない。 「ああ、ルイズ!ルイズ!君ならきっとわかってくれるよね!彼らときたら僕の使い魔の素晴らしさを理解しようとしないんだ!嗚呼、その可憐さには薔薇も霞むよ僕のヴェルダンデ…」 「何よ、うるさいわね!あんなのただの大きいモグラでしょ、可憐でもなんともないモグラ!」 しかし内容が使い魔の話だったために思わず反応してしまった。 やはりルイズはそこまで公言できるほど絆の強いギーシュと使い魔―――しかも平民の子供等ではなく普通の使い魔―――が羨ましかったのである。 「ほら、あのルイズもそう言ってるじゃないか!決まりだな。まあゼロだけど」 「彼女、審美眼は確かだぜ?家が家だからな、まあゼロだけど」 「あんた達ほめてんの!?けなしてんの!?いえ、けなしてるのよね!?」 ゼロ、ゼロと連呼する二人の男子生徒にプルプルと震えながらルイズはいきりたった。 公然と3人から一気に否定され、ギーシュは大仰にかぶりを振る。 「ああ、何ということだ!君たちには真の美を見極める目が欠けている!古き良き貴族は死んだ!僕の可愛い毛むくじゃらを美しいと思えないなんて!」 どこか変なところが決まってしまったのか、腐ったドブ川のような目で叫ぶギーシュ。 完全にあっちの世界に逝ってしまっている。 しかしたとえキチ○イ一歩手前にしか見えなくとも使い魔を褒めるその姿はどうしようもなく、ルイズの気分をささくれ立たせた。 「欠けてるのはあんたよ間違いなく!人生かけて断言してやるわ、あれはただのでっかいモグラ!大モグラ!駄モグラバカモグラ醜モグラ!」 「く…!そこまで何度も何度もヴェルダンデが美しくないと連呼するかね君は!」 半ば意地になって連呼するルイズに、トリップ気味のギーシュもさすがに現世に帰還し顔を顰めた。 だが頭が沸騰しているルイズにとってはそんな事知ったことではない。 「事実をあるがままに断言してるだけよ!」 「何かえらくヒートアップしてるなルイズ…」 「ああ、よほど腹に据えかねるものがあるらしいな。ほら、彼女の使い魔ってアレだろ?平民の…」 「なるほど、嫉妬ってわけか」 「うるさいわよ外野!」 ギロリ、と睨みつけるとルイズの眼光に恐れをなしたのか二人とも黙りこんだ。 しかし負けず劣らずヒートアップしているギーシュは意にも介さず芝居がかった仕草で両手を広げ、同時にマントをたなびかせる。 「いいだろう!ならばこの場で見せてあげよう、本当の美というものを―――って、あ」 ぽろ、とギーシュのポケットから小壜が落ちる。 昨日もこの小壜は落ちたが、その時はシエスタの機転もあって大事には至らなかった。 一度あった事ゆえにもう起こらないと思われたが、人には何か問題があっても次はもうないと考えてそのままにする人間と、もう二度と起こらないようにする人間の2種類がいる。 そして、ギーシュは前者だった。 小壜はコロコロ、と存外に勢いよく転がっていく。 一方、ゼオンは今の時間になってようやく食堂に現れていた。 彼が食堂に来るのが遅かったのは、厨房で料理を作っていたためだった。 かつおぶしが朝の分で全部だと聞いた時、彼は肩を落とし目に見えて落胆したが、それならばと彼はホットドッグを自作したのだ。 デュフォーが作っていたのをそこまで熱心に見ていたわけではなかったため手順がよくわからず、作るのに時間がかかってしまった。 故に彼の右手にはまだ食べられてもいない、出来立てホヤホヤのホットドッグがある。 食堂を見やり、ルイズのいる場所を探す。 (あの女は…あそこか。フン、また何か騒々しいことをやっているな) 視界の端にギーシュと言い合っているルイズが見え、ゼオンは彼女の方へゆっくりと歩を進め始めた。 ケガで休んでいるとルイズから聞いていたため、幾人かの生徒が明らかに健常体であるゼオンを見て怪訝な表情を浮かべる。 しかしそんな視線など何処吹く風と彼は歩きながらホットドッグを齧った。 (まあ初めて作ったにしてはこんなモノか) 出来の感想を胸中で洩らす。 素人の自作なのでデュフォーの作ったモノとは比べモノにもならないが、基本的に美味い物は誰が作っても大抵は美味くなるものだ。 むしろアレと比べるのが間違いだ、何しろデュフォーはアンサートーカーの力で最高に美味なホットドッグを作り出していたのだし。 つくづく反則な能力だとしみじみと実感したものである。 (…楽しかったな) 昔を懐かしみ、彼の口端に微笑が零れる。 と、彼が右足を地に下ろす直前で小壜が彼の足元に入っていき、 パリン! 踏み潰した。 「何だこれは?」 靴についた液体を眺め、ゼオンは疑問を零した。 何やら変な匂いがする液体だが、靴によくわからない液体がついているのは好ましくない。 紙などで拭うのも面倒なので、彼はそれを地に擦り付けて拭った。と、そこで。 「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」 悲惨な叫びを上げてギーシュがゼオンの元へ突撃してきた。 そのままヘッドスライディング並の勢いでゼオンの足元に頭から滑り込む。 「モ、モンモランシーから貰った香水の小壜が!?ぼ、僕の宝物があああああああ!」 粉々になった小壜の破片を一つ一つ見てギーシュは悲痛に満ちた表情で叫んだ。 いきなりのギーシュの奇行に事情を知らない周りがざわつく。 当事者のゼオンにしてもよく事情が呑み込めず、ただ怪訝な表情で見ているだけだった。 そのままおいおいとギーシュはしばらく涙を流していたが、ふとゼオンの足に目が留まる。 (…この子が踏んだ…その後で足を拭ってた…?何を?僕のモンモランシーの小壜を?割っただけでは飽き足らずにそれを拭ってた?) ゼオンが足を擦り付けて拭おうとしていた事を遠目にだが見ていたギーシュはゆっくりとその事実を認識していく。 認識が進む度にギーシュの表情が悲嘆から憤怒へと徐々に変化を遂げていった。 完全に認識が終わると、今まで見せたことのない憤怒の表情を浮かべてギーシュは立ち上がった。 「僕の、僕のモンモランシーの小壜をよくも!しかもそれだけならともかく、汚い物を踏んだかのように擦り付けて拭うだって!?いくら子供でも許せない…!!」 ギリギリ、と歯を鳴らして怒りの言葉をギーシュは告げる。 それを聞いて遠くの方で顔を赤く染める女生徒と、暗い顔をする女生徒の二人がいたが、頭に血が上っている彼は全く気づいていない。 「誠心誠意真心を込めて謝りたまえ!君の犯した罪はこのハルケギニアより重い!平民の子供といえど、悪い事をしたら謝らねばならないという事くらいわかるだろう!」 薔薇に模した杖をゼオンに突きつけ、ギーシュは叫んだ。 本気の怒りの色を滲ませての叫び声にまわりの生徒達は何があったのかと好奇心に満ちた視線を注ぐ。 「おい、やめとけって。確かに腹が立っただろうが、お前の言う通り相手は子供だぞ?そう目くじら立てるなよ」 「あのタイミングじゃ踏んじまうのも仕方ないって。んな謝れ謝れって叫んでムキになんのは大人げねーぞ」 憤怒の色を隠そうともしないギーシュをまあまあと友人二人がなだめに入った。 いくらなんでも子供にムキになるのはみっともなさすぎる、不可抗力に近い形でもあったのだし。 だがそこで更に油を注ぐかのような言動が降り注ぐ。 「あの程度であんなに怒ってんの?はっ、情けないわね!」 とてとてとゼオン達の方に向かいながら、ルイズは嘲笑を隠そうともせずに告げた。 普段の自分がまさにその程度以下の事で瞬間湯沸かし器の如く頭を沸騰させているという事実は思いきり棚に上げている。 「情けない?情けないと言ったのかね、君は!これは正当な要求だ、僕は間違ってなんかない!」 「子供にムキになる時点で十分情けないわよ!」 「おいコラ、ルイズ!挑発すんのやめろよ!収まるもんも収まらねーだろ!」 「本当の事じゃない。本っ当に情けないわ、おまけに男らしくない!」 「な、何だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」 いっそ清々しいまでに更に心に巨大な棚を作り、情けないとルイズはギーシュに向けて連呼した。 先ほどの論戦の名残故に非常に不機嫌なルイズは挑発を繰り返し、ギーシュは怒りで顔を真っ赤にし、生徒二人はそれを宥め、周囲は見せ物を見るかのように笑う。 ルイズを含めた4人の説得と挑発と憤怒が入り乱った論争は飽きる事なく続いていった。 しかし「いいぞやれー!」と無責任に煽り立てる周囲の中、その様子を完全に呆れ返った眼で捉える視線がただ一つ。 (…何だこのバカどもは) 当事者のはずの、視線の持ち主であるゼオンは完全に取り残されていた。 いきなり足元にヘッドスライディングをかましてきた男はこれまた突如謝れと叫びだすし、そして周囲は説明もせずに目の前の金髪を説得、または挑発している。 特にその馬鹿騒ぎに思い切り加わっているのが仮にとはいえ自分の主人であるという事実が呆れを倍増させた。 まあ別にギーシュが怒ろうが何をしようが、彼にとってはどうでもいいのでホットドッグを食べる方に専念する―――が。 「平民の子供だ、教育もそこまで行き届いてるわけじゃないんだろ」 「俺たち貴族が平民の子供なんかにムキになってちゃかっこ悪いって」 (……………………このバカどもめ…………) 漏れ聞こえてくる説得内容を聞いている内に段々彼は腹が立ってきた。 今に限った事ではないが、この世界に来てからというもの、「平民の子供」、「平民の子供」としつこいくらいにどいつもこいつもぬかすのだ。 そしてその時の周囲の反応からして、それがある種の蔑称である事もわかる。 鳴りやむ事なく連呼される「平民の子供」発言にゼオンのフラストレーションは着実に増加していった。 「あんな平民のチビにそう怒るなって」 ピキリ。 それが致命的だった。ゼオンのこめかみに青筋が浮かぶ。 ファウードを強奪した際に某バカにも『てめえみてえなチビに』と言われた事があったが、その際にも平静に見えて実は彼は結構内心キていたのだ。 (即座にザケルで黙らせてやったが) ホットドッグを食べるのを中断し、ギロリと目の前の二人を睨む。 「さっきから平民の子供平民の子供とうるさいぞ貴様ら…挙句にチビだと?」 怒りが押し殺された声にギーシュを説得に回っていた生徒二人が振り向く。 その二人の顔は揃って不満げに歪んでいた。 「何だよ、事実だろうがよ。せっかく庇ってやってんのに文句言うなよな」 「余計な御世話だ、大体子供はともかく誰が平民だ」 ゼオンの発言にルイズを含め、全員が疑問符を浮かべる。 その様子にゼオンは更に苛立たしげに眉をしかめ、全員に視線を向けた。 「オレは今は解体されたとはいえ、魔物の王族だ。そう何度もバカにされるほど安くはない」 「「「「…………へ?」」」」 あまりの予想外な発言にルイズ達の時間が停止した。 ゼオンは言いたい事を全部言い終えたからか、再びホットドッグを食べにかかる。 しかし、3…2…1… 「えぇぇええぇえええぇぇぇええ!?」 きっかり3秒後にルイズは天まで届こうかというほどの声を上げた。 同じく驚きの叫びを上げようとしていたギーシュ達だったが、あまりのルイズの声量に耳を押さえ、涙目で耳の痛みに耐えていた。 「キ、キーン、って、キーンってきた!ルイズ、君は、君は何てデカい声を耳元で…!」 涙まじりに泣き事を言うギーシュだったが、ルイズは全くそんな事を聞いてはいなかった。 ルイズはゼオンの方へ飛びつくような勢いで向かった。 邪魔な前の生徒二人を突き飛ばし、ゼオンの肩をつかんでガタガタと揺する。 「ちょ、ど、どどどうゆう事!?おお王族?王族って何よ!というか魔物!?あんた人間でしょ!?そんなの聞いてないわよ!」 「…うるさいぞ貴様」 ゼオンはかなりの勢いで揺すってくるルイズの手を無理矢理に、そして鬱陶しげに外した。 乱暴に外されたのでルイズはたたらを踏むが、その無礼も気にならなかった。質問の方がよっぽど重要だったのである。 体勢を崩していたが、すぐにゼオンに向き直る。 「ゼオン、とにかく答え―――」 「フン、そんなに知りたいか?…まあいい、こいつを食い終わったら教えてやる」 王族だと自分から言い出したのに、いっそ清々しいまでに傍若無人な答えをゼオンは口にした。 ゼオンは最後の一切れをゆっくり口へと運び、十分に味わって咀嚼する。 ガタガタと貴族らしくもない貧乏ゆすりをして今か今かと待っていたルイズは食べ物がゼオンの喉を通過するのを見るなり、叫んだ。 「さあ食べ終わったわね!きりきり答えなさい!黙秘は絶対許さないわよ!」 水くらいは飲みたかったゼオンだったが、ルイズの様子にそれを諦めた。 興味津々にギーシュとその友人たちもこちらを見ているのを視界の端にとられ、鬱陶しさにため息をつく。 しかし約束は約束である。ゼオンは鬱陶しげにではあるが説明を始めた。 「そのままの意味だ。オレは魔物の王族に生まれた者。王たる雷のベルの息子にして長兄だ」 「け、けど魔物ってあんた人間でしょ?おかしいじゃない!」 「オレは自分が人間だと言ってないぞ、貴様らが勝手に勘違いしただけだ。コレで満足か?」 す、とゼオンは自分の髪をかきあげた。 何がそこにあるのかとルイズ達は髪で隠れていた場所を見やり、目を丸くした。 髪に隠れてはいたが、そこには確かに人間にはないツノがあったのだ。 特にルイズの反応は大きかった、阿呆のように大口を開けて完全に固まっている。 3人の反応に「わかったか」と零し、ゼオンはかきあげた髪を下ろす。 「え~っと…じゃあ君は本当に魔物?それでどれくらいのランクか知らないけど王族?」 「お前頭が悪いな。王の息子だと言ったろう、お前の言うランクとやらとしてはオレは王子になる」 ギーシュの何気ない問いに、彼の家族の口癖がうつったのか辛辣な言葉と共に答えを口にする。 む、とゼオンの暴言にギーシュは眉根を寄せた。 それから指を振り、説明し始める。 「いいかね、君。確かに君は魔物の王子なんていう大層な身分だったかもしれない。しかし君、このトリステインの人間社会ではそれでイコール貴族と対等というわけではないんだよ―――はっ!」 その場でジャンプし、くるっと一回転してギーシュはテーブルの上に降り立った。 純粋な身体能力でそれを成したギーシュにちょっとした拍手が巻き起こる。 「フ、決まった…人呼んでギーシュ・スペシャル!」 実は彼はもやしっ子に見えて意外に結構凄いのだ、異なる時間軸ではあるが彼は大剣を投げて地面に突き刺す事すらやってみせたのである。 しかし。 (それに何の意味がある?) 派手ではあるものの、全く意図の見えない行動にゼオンは内心で突っ込んだ。 確かにその行動と、恐らく誰も呼んだことのない技名に一体何の意味があるのかは大いに疑問ではあった。 しかしそんな内心の呟きなど当然ギーシュには届かず、絶好調に右腕を振り上げる。 「礼儀に気をつけ―――」 薔薇を突きつけ、ギーシュは何かの演目のように叫んだ。 「僕にさっきの事を謝りたまえ!」 すてーん。 恥じる事など何もない、『僕は…まっすぐ立ってるぜ』と言わんばかりのあまりにも堂々としたギーシュの謝れ宣言に友人二人がすっ転ぶ。 「お前まだそれに拘ってたのかよ!?」 「当たり前じゃないか!まだ数分も経ってないんだから!」 「いや、時間的な問題でもねーんだが」 「我が家訓に賭けて!僕は!君が謝るまで!要求をやめない!」 「「いや家訓関係ない」」 綺麗にハモらせて、生徒二人は大きくため息をついた。 また説得せねばならんのかと彼らはうんざりした面持ちだったが、結論から言うと説得は行われなかった。 何故なら。 「うふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ!」 途中でとても不気味な、イイ笑い声が遮ったのである。 発信源を全員が見やると物凄く嬉しそうな顔でルイズが含み笑いをしていた。 周りの人間は不気味に感じてずざっ!と後ずさったが、そんな事は気にもとめない。 彼女は生涯最高と言ってもよい程の幸せの中にいた。 (わたしは、わたしは、とうとうやった…もうゼロなんかじゃないのよ!) そうだ、ゼオンが魔物という事は自分は召喚に成功していたのだ。 人の言葉がわかるという事はゼオンは韻獣であるという事である、数多いハルケギニアの魔物の中でも人語を操る魔物は非常に少ない。 それだけでも凄いというのに王族である、王族。しかも王子。 「うん、ちゃんとわたし出来てた。わたしすごい。魔物の頂点呼んだわけだからもうすごすぎるわね、使い魔を見ればそのメイジの実力わかるんだから王子呼んだわたし無敵ね、あらやだこれはもう罪だわ」 ルイズは先ほどのギーシュを思わせるようなトリップに浸った。 目が常人とは間違いなく違うところを見ている。 今までさんざんゼオンに煮え湯を飲まされ、召喚に大失敗したと思っていただけに成功していたと知った時の彼女の喜びは何十倍にも高まった。 と、何を思ったのかルイズはそのヤバげな目をギーシュに向ける。 「うん、認めてあげるわギーシュ。あんたの使い魔『少しは』いいんじゃない?わたしには敵わないけど?もう天地って感じ?」 「な、何だって!?ヴェルダンデが圧倒的に劣るっていうのか!?それ以上の侮辱は許さないぞ、ルイズ!」 この上なく絶好調なルイズは先の意趣返しか、使い魔を引き合いに出してギーシュを更に挑発し始めた。 主人バカであるギーシュは当然激しく反応し、今度は使い魔の事で論戦が起き始める。 「何だこのカオスは…」 「いやもうホントわけわかんねえ」 「同感だ」 ゼオン達3人は思いを一つにしてジト目でルイズ達を見やった。 しかしそんな3人の冷め切った瞳も全く彼女達には届かず、尚もヒートアップしていく。 「だってわたしの使い魔の方が凄いし?魔物の王子だし?」 「いいだろう!ならどっちの使い魔が優れてるか互いの使い魔同士の決闘といこうじゃないか!君の使い魔が負けたならば僕のヴェルダンデの素敵さを認め、そしてさっきの事をそこの使い魔に謝らせたまえ!」 「はん、望むところよ!反対にあんたが負けたら二度とわたしにゼロとか言わない事を約束してもらうわ!さあ行くわよゼオン!」 びしぃとギーシュに指を突きつけ、ルイズは獣か何かをけしかけるかのように叫ぶ。 しかし、そう命令を下されたゼオンの方はといえば。 「…バカバカしくて付き合ってられん…」 心底呆れたと言わんばかりの言葉を残し、踵を返して彼女たちに背を向けた。 テンションの高まったルイズにとっては予想外の、そしてゼオンの性格を考えれば当然の反応にルイズは思わずつんのめった。 「ちょ、ちょ、ゼオン!?」 あまりにも流れと空気を無視した言動に驚き、ルイズは振り向くがゼオンは本当に関わる気がないらしく足を止めもせず、出口へと向かっていく。 ―――そうだった。こいつが魔物の王子だって事が判明してもこいつの性格まで変わるわけじゃないんだった――― 当然と言えばあまりにも当然な事にルイズは今更ながらに思い至り、夢心地な気分から急転直下、彼女の気分は地獄まで叩き落とされた。 使い魔に見捨てられたルイズの様子に暫しギーシュは目を丸くしていたが、次第ににんまりと表情が変わっていく。 「あっはっはっはっは!さすがゼロのルイズ!全然使い魔を御せてないじゃないか!」 「う、うるさいわね!」 ギーシュの揶揄にルイズは叫ぶが、その声には力がこもっていなかった。 『使い魔を御せていない』、それは正しく真実であったからだ。 まあその責任のほとんどはルイズではなく、ゼオンにあるのだが。 「まあ仕方ないな!それにそこの子供は確かに魔物なんだろうけど、王族だっていうのは自己申告だ!本当かどうかわかったものじゃない!」 ハッとしてルイズは口元に手をやった。 確かにギーシュの言う通り、魔物である証拠は見せられたが王族だという事はあくまでゼオン自身が言っていた事である。 彼が王族である証拠については何もないのだ。 テンションの高まったギーシュの口上は尚も止まらない。 「たとえ王族だったにしてもだよ?それが強いかどうかは別問題じゃないか!」 「そ、そんな事ないわよ!こいつ記憶読んだりとか変な能力持ってるし!」 「そんなのは強さに全く直結しないな!その子がすごく弱い貧弱王子だったとしても不思議は」 「言うな、ゴミが。ならばお前の使い魔とやらにその証を刻んでやろう」 静かに、怒りに満ちた声が響く。 全員の背筋にぞくりと寒気が走り、一斉にその声の元へと視線を向けた。 その先には、ゼオンの後ろ姿があった。 バチリ、と右手の上で小さな雷を弾けさせ、冷たい視線を携えてゼオンは振り向く。 「ゼオン…?」 あのまま食堂を出て行ったと思っていたため、ルイズは呆然としてただ彼の名を呼んだ。 ゼオンはそちらをちらりと一瞥したが、すぐに視線を外してギーシュに射抜かんばかりの視線を向ける。 「どこでやる。まさかここでやるなどとバカな事はヌカさんだろうな」 言葉こそ何気ないモノではあったが、そこには恐ろしいまでに強い怒りが込められていた。 その気迫に気圧され、ゴミ呼ばわりされたにも関わらずギーシュは怒ることさえ忘れている。 「う、うん。そそそうだね、ここ、こっちだ。ヴェストリの広場でやろう」 「そ、そそうだな。うん、それがいい」 「あ、ああ。そそうしよう」 その怒りから逃げるように足早にギーシュ達は進んでいった。ゼオンもまた後を追い、彼らは食堂の出口へと歩いていく。 未だ呆然としているルイズを通り過ぎる。 しかし、その途中でゼオンだけはぴたりと足を止め、ルイズを見ようともせずに言った。 「言っておくが勘違いするな。オレは貴様の名誉なんかどうでもいい。オレはただオレのプライドのためにあのゴミの使い魔を処理するだけだ」 それだけ告げるとゼオンは今度こそ食堂を出て行った。 告げられた言葉にルイズは眉根を寄せ、不機嫌になる。 そんな事などわかっている。あの使い魔が自分の事を考えて決闘を受諾したなど万が一にも有り得ないのだと。 「わかってるわよ、そんな事!覚悟しときなさいよ、そこまで言って負けたりなんかしたら許さないから!」 肩を怒らせ、ルイズもまた食堂を出ていく。 だから―――気付かなかった。 ゼオンが何故まだ食堂を出て行っていなかったのかを。 ギーシュが口上を述べていた時に彼が足を止めていた事を。 そしてその足を止めたのはゼオンへの侮辱が聞こえた時ではなく、その前だった事を。 何故、あれほどまでにゼオンが怒っているのかを。 “さすがゼロのルイズ!” 誰も気づかない。彼自身も含め、その理由に誰も―――気付かない。 主役達のいなくなった舞台にはただ、観客の喧噪のみが残っていた。 前ページゼロの雷帝
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「ついに来たか!」 アルビオン国王、ジェームズ一世は、部下からの報告にしわがれた声で気勢を上げた。 「はっ! 『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルの名で、明日の正午に全面攻撃を開始するとの次第、伝えて参りました!」 片膝を付いた衛兵が、威勢良く報告の声をあげる。 「恥知らずの坊主風情めが。言いおるわい」 「その連中にここまで追い詰められているのは僕達さ、パリー」 「腹立たしい事この上も無きですな。しかし、こちらには殿下のもたらした硫黄がございます。せめて死に際の恥ぐらいは雪ぐ事が出来ましょうぞ」 「めでたい事だ。これは今夜の宴が楽しみだな!」 「ほほ、早速準備させませぬとな。ほれ! 祝宴の支度じゃ! ぼやっとしとらんと各部に通達せい!」 「は、はっ!」 パリーの一喝に衛兵が慌てて駆け出していくと、玉座の傍らに立つウェールズとパリーは朗らかに笑った。 時は朝。アルビオンの寝ぼすけな太陽は、いまだ地平線に姿を見せていなかった。 § 「そう、明日にはもう……」 「ああ。先ほど向こうから宣戦布告があったそうだ。それに応じ、明日の朝にイーグル号とマリー・ガラント号が出港する。僕達はそれに乗って帰るわけだ」 与えられた客室で、ルイズは何をするでもなく外を見たり、貰った手紙をいじくったりしていた。耕一はその横で、手紙を奪おうとするような刺客が窓の外あたりから来ないかどうか目を光らせながら、デルフリンガーと雑談をしたりしている。 ワルドが報告を持ってきたのは、そんな折であった。 「ついては、今日の夜に祝宴が開かれるそうだよ。是非大使殿一行にも参加してほしい、だそうだ」 「祝宴……」 出陣前の宴席。 他の所の適当な戦争ならそれはさぞ華々しいパーティになるのだろうが、玉砕が目に見えている今この状況では、それは物悲しさ以上のものをルイズの心にもたらす事は出来なかった。 いや―――他のそういうパーティだって、華々しさなんて表面だけで、実はこんなに悲しいのかもしれない。 ノブレス・オブリージュ。力ある者の義務と誇り。 少し前までルイズの存在の基盤であったそれは、昨夜の思索とも相まって、随分ともろい物のように感じられた。 「さて、その余興というわけでもないのだが、ミスタに一つお願いがあるんだ」 「俺にですか?」 「ああ。……一手、お手合わせ願えないか、とね」 「ワルドッ!?」 ルイズが目を見開いて立ち上がる。耕一は、一手? はて暇潰しの将棋―――じゃなくてチェスか何かか。と首を捻っていたが、その反応でふと、学院にいる時の事を思い出した。 「決闘……ですか?」 ワルドは答えず、ニヤリと口元だけに笑みを浮かべた。その通りであったらしい。 「なに、他意はないよ。純粋に、現在のルイズのナイトである君と技をぶつけ合いたいだけさ。これでも、杖一本で衛士隊隊長まで昇りつめたという自負があるものでね。武人としての心が疼くのだよ」 決闘というより、組手だね。そう言ってワルドはまた笑った。 「……俺、亜人なんで、使えるのは持って生まれた力だけですよ。そういう武を競うみたいな戦いを期待されても困っちゃうんですが」 「構わんさ。僕のけじめでもあるんだ。そう固く構えてくれなくてもいい」 婚約者として他の男には負けられん、という事だろうか。なるほど、同じ男としてわからなくもない。 熟した男性の雰囲気を漂わせているが、案外熱い奴なのかもしれなかった。 「……まあ、そういう事なら。怪我しないようお手柔らかにお願いしますよ」 「ふふ。武装した夜盗の集団を秒で蹴散らす男の言葉じゃないぞ? 本気でやらせてもらうから、怪我をしたくなければ気張りたまえ」 ふっふっふ、と含んで笑いながら腕を合わせる男二人に、ルイズは付き合ってられないわ、とばかりに視線を外した。 空に一筋の流れ星でも駆けてやしないだろうか。それとも、稲光が荒れ狂っているか。 「ルイズも立ち会ってもらえないか?」 「ええ? 私も?」 しかし、そんな男の世界に入りきれないルイズを知ってか知らずか、ワルドは引き込もうとしてくる。 「男と男の決闘だ。両者に縁のある女が見てくれていれば気も張るというものさ」 すかした事を言いながらもどこか子供っぽいワルドの口調に、ルイズはやれやれ、と肩を竦めた後、仕方なさげに立ち上がった。暇だったのは確かであるし、彼らの実力自体にも興味があったからだ。 「わかったわよ。二人とも、そんなお遊びで怪我なんてしたら承知しないんだからね」 ワルドが、誰にも気付かれないぐらいに小さく、ニヤリと口元を歪めた。 § ニューカッスル城は、岬の突端に位置する。 それは陸の要所を守る砦ではなく、空の要所を見張る港だ。規模は小さくとも、そこは贅を凝らした貴族の邸宅ではなく、実用一点張りの軍施設の一つだった。洞窟の隠し港などはその最たる仕掛けだろう。 よって、練兵場などの施設には事欠かない。今回の戦の準備には使われないその一つを借り、ワルドと耕一は静かに対峙していた。 「音に聞くトリステイン魔法衛士隊の隊長と、亜人の使い魔殿との立会いとは!」 「なかなか粋な見世物をなさる! さすがは大使殿よ!」 「おやグレッグ候、もう飲んでいらっしゃるのか? 宴は夜からというのに、気が早いですぞ」 「かっかっか! こんな最高の肴を前にして、酒がなくっちゃ始まらんじゃろうが!」 「違いない! わっはっは!」 その周囲には、アルビオン貴族達が緩やかな輪を作って笑いあい、宴の準備からくすねてきたのか酒を持ち込んでいる老貴族までいた。 ルイズは、向き合う二人の真ん中に立って頭を抱えながら……隣に立っている、王立空軍大将、本国艦隊司令長官に目を向けた。 「……もう、ウェールズ殿下までこんなところにいらっしゃって。しかも介添人だなんて」 「ははは。この死地までついてきてくれた皆、生粋の武人だ。技を競う決闘と聞いてじっとしていられる者などおらんよ。その介添人になれるとあらば、これ名誉の一言だ」 端整な顔に人好きのする笑みを浮かべて、ウェールズは笑った。 明日の昼にはその死地の真ん中に飛び込むというのに、どうしてこんなに笑っていられるのだろう。 ルイズは、アンリエッタにアルビオン行きを誓った時の自分の心を思い返しながら、そんな事を思っていた。 あの時は、何の迷いも無かった。いや、今だって、この任務は何より大事のはずだ。命に代えてもと思う気持ちは変わらない。 なのに……この、彼ら誇り高きアルビオン王党派の、真に貴族の誇りたるべき場面を前にしての、この寂寥感は……何なのだろう―――。 「両者、よろしいか」 杖を高く掲げたウェールズの声と静まり返る場に、ルイズは思索から引き戻された。 ざり、と、どちらかもわからない靴が砂を噛む音がする。 ゆっくりと、金属と金属が擦れあう音がして、ワルドがその細身の突剣に見立てた自らの杖を抜き放ち、フェンシングのように構えた。 耕一は、足を軽く開いた自然体のまま、じっとそれを見据えている。 「―――はじめッ!」 ウェールズが杖を振り下ろす合図とほぼ同時に、ワルドが翔けた。 その迅さはまさに風。スピードだけなら、エルクゥにも遜色のない突進だった。 「『閃光』のワルド、参る!」 「くっ!」 二つ名通りの閃光のような突きが走る。 剣に見立ててあるとはいえ、あくまでも杖であるそれの突端は丸く、青銅ゴーレムの全力パンチですら平然と受け止める耕一には牽制の効果すら見込めない。 「相棒! 避けろ!」 「っ!?」 デルフリンガーの一喝で、耕一はざっと飛び退り、ワルドから距離を取った。 「よく見破った」 びゅうん、とワルドの杖の周りに風が渦巻く。目には見えない空気の刃がそこにある。 「『エア・ブレイド』だ。いつの間に唱えたんだ」 『ブレイド』。杖の周りに、地水火風四属性の刃を纏わせ、己が剣と成す魔法。 風のスクウェア・メイジであるワルドの使うそれは、『エア・ブレイド』。目に見えぬ風の刃は、距離を狂わせ、回避を困難とする。 「僕の『閃光』の二つ名は、詠唱の速度から来ているのだよ。さあ、この切っ先、触れれば斬れるぞ!」 ワルドが構える。 「……どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ。とか言えばいいのかな、ここは」 右手の指を猛獣の爪のように見立ててパキパキと動かしながら、耕一は目を細めた。 じり、じり、とお互いに円を描き、目配せで牽制しあい……先に飛び出したのは、耕一の方だった。 神速で懐に飛び込み、腕を真横に一閃。 「速いな! だが、当たらぬ!」 「くっ!」 しかし、ヒラリと身軽にそれをかわしたワルドが『ブレイド』を袈裟懸けに振り下ろす。 耕一は真後ろに跳躍して回避し、二人は先程と同じ位置に戻った。 その一合で、周囲を囲むアルビオン貴族の喧騒はぱたりとやみ、皆顔を引き締めた。この試合、一瞬たりとも見逃しては恥だとその顔が心境を表していた。 「だああっ!」 「ふんっ!」 再び耕一が突撃し、ワルドがかわす。もう一度。しかし当たらない。 エルクゥの致命的なパワーもスピードも、当たらなければ意味は無かった。 「力だけでは風のメイジに当てる事は出来んよ。其は風に舞う木の葉の如く。落ちる木の葉を掴もうと力をこめればこめるほど、その力の起こす風に木の葉は飛ばされ、掴む事叶わぬ」 そんな事を言いながら、ヒラリヒラリと耕一の腕をかわして『ブレイド』を振るうワルド。反射神経で『ブレイド』をかわす耕一。 距離を離し、三度、遠目に対峙する。 「…………へへ」 知らず、耕一の顔に笑みが浮かんでいた。 魔法という反則が存在するとはいえ、エルクゥに比肩しうる技術と速度を持つヒト。 それは、耕一の心を躍らせた。 人なる身でエルクゥを打倒する。それが可能ならば―――呪われた一族は、ただの猛獣に過ぎなくなるのだから。 耕一は、笑みを隠さないまま、デルフリンガーをスラリと抜き放った。その左手のルーンが淡く輝き出すのを、ワルドが目を細めて見つめている。 「お、俺の出番かい? 相棒!」 「アレに武器なしじゃちょっと辛いもんでね。力を貸してくれ!」 「おう、任せな! へへ、やっとの出番だ。これはオイラ活躍フラグじゃね!?」 構えるは、八双の型。次郎衛門の記憶から、というより、体が勝手にこの構えを取っていた。 体が軽い。ワルドの微細な動きに合わせて自然に対応してくれる。まるで剣の達人にでもなったかのようだ。 「不思議な構えだな。だが隙は無い。君の故郷の技か……ふふ、興味深い。その力、見せてもらおうっ!」 ワルドが跳ぶ。 「相棒っ! 『ブレイド』に俺を当てろっ!」 「っ!」 「なにっ!?」 デルフリンガーの叫びに答える事が出来たのは、この不思議な体の軽さのおかげだっただろう。 長剣は杖の先に巻きつく風に当たり、そのまま鍔迫り合い―――をする事なく、何の衝撃も起こらずにその風の刃が掻き消えた。 「うおっ!?」 「くっ!」 てっきり剣同士のぶつかりあう衝撃があるものと思っていた耕一は、思いっきり剣を振り抜いてしまった。 ワルドも、なぜか消え失せてしまった『エア・ブレイド』を再び纏わせるのが精一杯だったのか、その隙の追撃はなく、二人はお互いに跳び退って距離を取る。 「へへっ、どーよ。チャチな魔法だったらいくらでも吸収してやるぜ!」 「先に言えっ!」 耕一の簡潔な抗議に、周囲を囲んでいたアルビオン貴族の中でまだ余裕のある者は、然りと頷いた。めんごめんご、と謝るデルフリンガーに、あまり謝意はなさそうだ。 「……魔法を吸収するとはね。城が一つ買える値段がつくぞ。ヴァリエール家の宝物か何かかい?」 ワルドが涼しげな笑みを浮かべながら、杖を構える。 「場末の武器屋で金貨100枚で買った、って言ったら信じる?」 「それは……掘り出し物もいいところだね。―――さて、やはり、まともに叩くのは無理か。二つで満足しておくしかあるまいな」 ワルドの笑みが、徐々に獰猛なそれに変わっていく。 「くるぞっ! 相棒っ!」 ワルドの『エア・ブレイド』が不意に解除されたかと思った瞬間、ぶおん! と大きな音が鳴った。 台風の中、暴風に煽られたかのような衝撃。『ウィンド・ブレイク』の魔法が耕一を襲う。足を踏ん張ってなんとか踏み止まり、本能的に剣を掲げた顔の正面だけに緩やかなそよ風が吹いた。 「横だっ!」 その隙に、ワルドは耕一の側面に回りこみ、『エア・ブレイド』を構えて突進してくる。 迎え撃つように耕一が跳ぶ。今度は振り切らないように、デルフリンガーを風の刃に当てて迎撃―――。 「フッ……」 「なにっ!?」 ぶぅん、と、ワルドの刃が振られるはずの場所を迎え撃とうとした耕一の剣が空を切った。ワルドは杖を微動だにさせないまま、耕一の横をそのままの勢いで通り過ぎていく。 その先には―――介添人である、ウェールズとルイズが立っていた。 § 二人の顔が驚愕に歪む前に、ガンダールヴが振り向く前に、周囲のボンクラどもが事態に気付く前に……自らの『ブレイド』はその使命を全うする。ワルドはそう確信して、疾駆する速度を上げた。 その使命とは―――彼の所属する『レコン・キスタ』の敵、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの命。そして、その傍らに立つルイズの持つ、アンリエッタの恋文。 その二つがあれば、『レコン・キスタ』は瞬く間にアルビオンとトリステインをその版図に含める事が出来るだろう。 もう一つの目的は、ルイズ自身であったが……手紙と一緒に気絶させて持ち帰り、もう一度話をすればいい。どうしても反抗するのであれば、その首を手折るまでだ。 そんなワルドの計算は、9割9分までが正解だった。 唯一の誤算は―――ルイズの心を、無力な子供と舐めすぎた事だった。 § コーイチの横をすり抜けて、ワルドが向かってくる。その顔には、見た事もないような獰猛な笑み。 心が真っ黄色に染まる。それは、エルクゥの警告信号。 『敵に、気をつけろ』 それまでのルイズであれば、きっと何も出来ずにいた。 事態を把握できず、事実を認識できず、状況の動く様子を眺めるだけであっただろう。 しかし、今のルイズは、違う。 事態を把握し、事実を認識し、状況を見据える。そうあろうと決めたルイズの心は、明確に判断を下した。あれは敵。狙っているのは、自らの傍らに立つ、おともだちの大事な人。 振り向きつつあるコーイチの足では間に合わない。周囲の貴族達もまだ事態に気付いていない。唯一間に合うのは―――自分だけだ。 ルイズは、とんっ、と軽く床を叩く靴音を残し、兇刃と、刃の狙う先との間に、その小さな体を滑り込ませた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロのエルクゥ まだ日の昇りきらぬ朝もやの中、トリステイン魔法学院の正門には、2つの人影があった。 一つは、学院の制服姿に乗馬用のブーツを履き、長い桃色の髪を朝の冷涼な風に揺らす女生徒。 一つは、かなり長めの長剣を腰に差し、見慣れぬ異国風の服―――Tシャツにジーンズ―――を身に着けた、背の高い男。 その二人、ルイズと耕一は、緊張を隠せない面持ちで、馬に馬具を取り付けていた。 「アルビオンまではどれくらいかかるんだ?」 「そうね……港町のラ・ロシェールまで馬で2日。そこから船で1日ってところね。目的地のニューカッスル城は、アルビオンの港ロサイスから……3日ぐらいかかるのかしら。慣れない道だから、少し余計に見ておいたほうがいいかも」 「一週間か……」 「ニューカッスル城への侵攻が始まってしまったらもう入れないから、急がなきゃいけないわ」 ぶるるるる、と、鞍を背負い、轡を噛んだ馬がいなないた。 「お姫さまの頼んだ応援ってのは来るのかな」 「駄目だったら使いをよこすと言っていらしたから……しばらく待ちましょう」 馬の首元を優しく撫でながら、ルイズはもやの向こうに浮かぶアルビオンを見やるように目を細めた。 ―――ばさぁっ 幾ばくも経たない間に、その背後から、大きく風が舞う音が響き渡った。 振り返ると、ちょうど、鷲の頭と翼に獅子の体躯を持った魔獣、グリフォンが翼を閉じ、地に降り立つところだった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……で、間違いないようだね?」 そのグリフォンに跨っていた男が、乗騎と同じグリフォンの紋様を縫い付けたマントと、その羽らしき飾りを結わえた羽帽子を翻しながら、軽やかに地に降り立った。 「あ、あなたは……わ、ワルドさま!?」 「ああ、覚えていてくれたのか! ルイズ! 僕の小さなルイズ!」 まるで演劇のように大仰な仕草で再会を喜ぶ男。 耕一はそんなトリステイン貴族の悪癖にはもう慣れてしまって、一つため息をついただけだった。 「あなたが、今回の応援の人ですか?」 「君は……ああ、ルイズの使い魔だね。王女陛下から話は伺っている。僕の小さなルイズは、亜人を使い魔にしたのだとね」 男は、マントを内に畳んで帽子を取り、優雅に一礼をしてみせた。 「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。トリステイン魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長を務めさせてもらっている。此度の任務に同行するよう、王女陛下より仰せつかった」 「どうも、コーイチ・カシワギです。ルイズちゃんの使い魔をやらしてもらってます」 「よろしく頼むよ、ミスタ・カシワギ」 「こちらこそ。ワルドさん」 耕一とワルドは、長身の男同士、がっしりとした握手を交わした。 「ワルドさんは、ルイズちゃんと知り合いなんですか?」 「ああ。恥ずかしながら、婚約者でね」 「へ」 ―――さすがに、慣れたはずだった耕一の思考も追いつかなかった。 「ルイズの実家、ヴァリエール公爵家と、僕の実家、ワルド子爵家は、その領地を接しているのさ。まだ僕が若造だった頃に両親が死んでしまって領地を相続する事になった時、彼女のお父上にはとてもお世話になったんだ。その縁でね」 「ワルドさま……」 「はは、久しぶりだね、僕のルイズ!」 ―――まあ、貴族なんだし、あのお姫さまの政略結婚じゃないけど、そういう事もあるんだろうなあ。 ワルドが、恋する乙女モードのルイズをさっと抱き上げたところで、ようやく思考が追いついた。 「相変わらず軽いね君は! まるで羽のようだよ!」 「……お恥ずかしいですわ」 なんというか、抱き合うワルドとルイズのシルエットが、そのまんま自分と楓の姿に重なって、なんとなくばつの悪い気持ちが湧いてきて冷静になってしまった、というのもあった。 つまりは、こういう事だ。 ―――俺、客観的に見るとあんな風なのかなあ。まるでロリコンだよなあ。 § 「……いやはや、亜人、というのは本当みたいだね」 休む事なく空を駆け続けるグリフォンの上から地上を見下ろしたワルドは、ここ十年は出した事のない、感嘆を通り越した呆れという感情を多分に含ませて呟いていた。 そこには、グリフォンの飛ぶ速度に付いていけそうもなかった馬を途中の駅に置き、自らの二本の足でグリフォンに付いてくる耕一の姿があった。 上半身は全くブレずに腕を組んだまま、下半身だけがものすごい高速で動いている。さらには、腰に差したインテリジェンスソードと何かを話してすらいるようだった。 「凄い使い魔を召喚したんだね、ルイズ。僕も鼻が高いよ……おっとソアラ、すまんすまん。君は僕の自慢の使い魔だよ。あんな亜人に負けはしないな。悪かった悪かった」 主人が他人の使い魔を誉めたので機嫌を悪くしたらしいグリフォンを、たてがみを撫でてなだめるワルド。 ルイズはしかし、それにも気を留めず、浮かない顔であった。 「凄い使い魔、か……」 「どうかしたのかい。なに、任務についてなら心配はいらない。僕がついてる」 思わず零した小さな呟きは、ワルドの耳には入らなかったようだった。 「ううん、なんでもない。任務については心配してないわよ。心強い応援が来てくれたから」 「はは。では、期待に応えられるよう奮闘しなければね」 最初とはずいぶんルイズの口調が違うが、婚約者に対して敬語なんてやめてくれ、というワルドの言葉に従った結果だった。 魔法が使えないとは言え、ルイズは公爵家の娘。肩肘ばった言葉ぐらいいくら続けても苦痛ではないが、特に反対する理由もなかった。 「この分なら、今日中にラ・ロシェールに着けそうだね。使い魔君がへばらなければいいが、そんな心配は無用かな?」 「そうね……」 チラリと目を向ける。相変わらず下半身だけで走っている耕一は、まだまだ余裕そうだった。事前に距離は教えておいたその上で馬を降りたのなら、きっと大丈夫という事なのだろう。 常識的な早馬なら二日かかるような道を一日で走破する自らの使い魔。金属のゴーレムをその腕一本で軽々と引き裂くその力。 確かに、それはすごい事だ。そう……『ゼロ』の自分とは大違いの。 「なんで、『ゼロ』の私にコーイチが呼ばれたのかしらね……」 それは、ここ最近、ずっとルイズの頭を悩ませている考えだった。 『実は私には隠れた才能が眠っているのかも』というポジティブな考えは、毎夜の練習の失敗によって、心の隅の隅に追いやられてしまっていた。希望を抱いてしまっただけ、失望も深かった。 スクウェア・メイジのワルドでさえ手放しで耕一を誉めているのを聞いて、またぞろそれが首をもたげてきたのであった。 「ルイズ?」 「なんでもないわ。急ぎましょう」 頭を振って、それを追い出した。今はそんな事を考えている場合ではない。任務に集中しなければ。 ワルドは、まっすぐ前を向いたルイズに、それまでの柔和な目とは違う、鋭く光る―――まさにその乗騎と同じ猛禽のような視線を向けると、無言でグリフォンの速度を上げた。 § 「やれやれ、そろそろみたいだな。疲れたァ」 「……それで済んじまう相棒は、やっぱとんでもねぇよなあ」 朝から一日走り続け、夕闇が世界に落ちる頃。 峡谷の向こうに街らしき建物群が現れ、上空を飛ぶグリフォンが少しずつ降下してきているのを見やりながら、耕一は一言ぼやいた。その足は止まる事なく大地を蹴り続けている。十傑集を彷彿とさせる走りっぷりだった。 「なんだよあのグリフォンとかいうの。人二人乗せてあの速度であの持久力って、無茶苦茶すぎだろう」 「今日の『お前が言うな』スレ一等だねそりゃ。VIPに建てれば祭りになるぜ。ちなみに竜はもっとすごいかんね」 「……ビップって何の事だかわからんけど、竜か。タバサちゃんのシルフィードとか、確かに凄かったからなあ」 デルフリンガーとくだらない雑談を交わしながら走り続けると、道は岩山を登るような山道に差し掛かる。 「……確か、浮遊大陸へ行く為の空飛ぶ船の港が、でかい枯れ木に作られてるんだっけか」 船といえば海を渡るもので、水平線と一体。 まだそんな常識のある耕一には、港と言われて山を登るのは、なんとも変な感じだった。 抜ければラ・ロシェールの街が目と鼻の先の、左右を崖で挟まれた一本道。 そこを走っている最中、耕一には耳慣れない―――しかし、聞き慣れた音が連続して起こった。 ひゅんひゅん、と風を切るそれは、弓から矢が放たれる音。 「なにっ!?」 崖の上から降らすような、狙いもつけない弾幕のそれをかわす事自体は難しくなかったが、驚きに足が止まってしまう。 続けて、ぼおっと前方で炎が燃え上がる音がした。見ると、道を塞ぐように松明が次々と投げ込まれ、炎の壁を形成していた。 「なんだよこれ!?」 耕一が叫ぶ。何者かの集団に襲われているのは確かだった。 まさか、敵勢力とかいうのの妨害か? いや、こんなに早くバレるなんておかしいだろ―――とそこまで考えたところで、矢の第二射が降り注いだ。 考えている時間はなかった。今は降りかかる火の粉を払わなければ。 崖の中腹辺りを飛んでいたグリフォンに目をやると、細身の剣を抜き放ったワルドが、魔法の杖の代わりなのであろうその剣を振るい、風を起こして矢を吹き飛ばしている。 向こうの心配はなさそうだった。ならば自分は―――元を叩く。 「ああああああああああっ!!!」 崖に向かって疾走。跳躍。 がごんっ、という鈍い音をたてて蹴り足の岩を蹴り砕きながら、そのまま逆方向へ跳躍。 その先には、反対側の崖がある。同じように岩壁を足場にして、さらにジャンプ。 それを繰り返し、崖から崖へジグザグに、まるで忍者映画のアクションのように、耕一は跳び昇っていく。 「あいつらかっ!」 崖の上まで跳び上がると、武装した男が十数人、呆然とした表情で耕一を見上げていた。 ぐぐぐ、と腕に力を込め、まっさかさまにそのど真ん中へと落下する。 着地と同時に、その鬼の腕を振るった。持っていた弓で受け止めた数人が折れた弓ごと吹き飛ばされ、ごろごろと転がった後に動かなくなる。 「抜刀! 散開ぃ!」 リーダーらしき重武装の男が指示を出すまでもなく、残った男達は剣や槍を構え、耕一に向ける。 しかし、そこには既に人の姿はなかった。 「遅い」 耕一を包囲しようと動いていた男達を、その端にいる者から順に張り倒していく。崖に落とすとちょっと死にそうな高さだったので、逆方向に。 数秒もすると、その場にいた全員が、気絶か、呻き声を上げながらうずくまるか、といった状態になっていた。 そのまま油断なく周囲に目を配っていると、 「相棒~、俺を使えよぉ~」 腰から、どこか情けない声が響いた。 「す、すまんデルフ。でも、お前を使ったら、峰打ちでもあいつら殺しちゃいそうだったからさ……」 「はぁ。ったく、甘いこったねえ相棒は」 呆れの言葉でありながら、その口調にはどこか弾むような響きが混じっていた。 「……もう終わっていたか。さすがだね、ミスタ」 「ワルドさん。大丈夫ですか?」 「ああ。こちらに怪我はないよ。ありがとう」 そうしていると崖からグリフォンが頭を出し、跨っていたワルドが硬い声を出した。 「こいつらは? 敵の襲撃でしょうか?」 「どうだろうね。ただの野盗であってほしいが……おい、起きろ」 耕一に拳を打ち込まれた腹を押さえて呻いていた男を蹴り上げるように起こすと、ワルドは尋問を始めた。 しばらくすると、男はばたりと倒れて気絶し、ワルドが苦い顔をして戻ってくる。 「……さて、ただの物盗りだ、とは言っているようだがね」 「本当に敵勢力の刺客だったとしたら、バカ正直に言うわけがないですね」 「そういう事だな。確実にメイジであろう密使への襲撃にメイジもいない刺客とは、いささか間抜けではあるが……このタイミングでの襲撃を偶然と捨て置くのは、ちと楽観が過ぎるだろうね」 シミュレーションゲームの聞きかじり知識だったが、まぁ正しいものであったらしい。ワルドは盗賊達を全員気絶させて縄に繋ぐと、緊張した面持ちでグリフォンに跨り直した。 「急ごう。あの賊どもはラ・ロシェールの官憲に任せる。ミスタも疲れただろう。今日は一晩宿を取り、明朝一番の船で出るとしよう」 「わかりました」 男二人が頷きあうのを、ルイズはやるかたなく見やっていた。 § 「船が明後日にしか出ないですって?」 ラ・ロシェールにある貴族用の一番高級な宿、『女神の杵』亭に部屋を取ったルイズ達は、一階部分にある酒場兼食堂で、船を調達しにいったワルドの報告を聞いて声を上げた。 「ああ。明日の夜は、月が重なるスヴェルの月夜。その翌朝が、アルビオンが一番ハルケギニア大陸に近付く日でね。風石を節約するために、どの船も出港をその日にするんだそうだ」 「そんな……急ぎの旅なのに」 「お忍びの任務だからな。無理矢理徴発するのもよろしくない。追加の料金を払ってチャーターする事ぐらいは出来そうだが……どうするね、大使殿?」 ワルドがおどけて言うが、ルイズは表情を崩さず、口をへの字に結んだまま言った。 「そうしましょう。お金なんて気にしてられない。時は一刻を争うわ」 「了解した。ではそのように手配してこよう」 ワルドがひらりと立ち上がり、外に出て行く。 「なあ、グリフォンじゃ行けないのか?」 「私も聞いたんだけど、人を三人乗せて浮遊大陸まで飛ぶのは無理らしいわ。風竜なら行けるらしいけど……」 「そっか」 食後の揚げ菓子を頬張りながらの耕一の問いに、ルイズはワインを傾けながら答える。 お忍びの旅の途中とは思えない充実した食事だったが、貴族なんだからこんなもんなんだろう、と耕一は既に適応を済ませていた。 しばらくして、ワルドが帰ってくる。 「一機チャーターする事が出来たよ。貨物船で客室は貧相だが、客船は他の乗客との都合がつかないからって断られてしまってね。それしか交渉に乗ってくれなかったんだ」 「構わないわ。物見遊山の旅じゃないもの」 「ははは、僕の小さなルイズは頼もしく成長したようだね。では明日に備えて、今日はもう休むとしようか」 ワルドは、懐から鍵を取り出した。 「少しグレードは下がるが、三人部屋を取った。僕はまだ少しやる事があるから、先に休んでいてくれたまえ」 「わかりました」 耕一が頷いて鍵を受け取ると、ルイズも立ち上がった。グリフォンに乗っていただけとは言え、一日飛び詰めは疲れたらしかった。 § 二人が部屋に戻り、酒場に一人だけになると、ワルドはちびり、とワイングラスを傾けた。 「ガンダールヴ……正直、やりあいたくはないな。味方に引き込むのが得策だが……さて」 ルイズに向けていた柔和な目とはうって変わった冷たい目を、虚空に彷徨わせる。 そこにいるのは、トリステイン魔法衛士隊の隊長ではなく―――真実を求めて全てを捨てた、狂える求道者だった。 「思ったよりヴァリエールがなびかぬからな。もう少し弱っているかと思ったが……あの公爵家の者、芯までは曲がらぬか」 物思いを振り切って前を見据えたあの姿勢。日程を急ぐように誘導したらすぐに乗ってきた事。 任務を翻して『レコン・キスタ』側につける事は難しそうだった。 「それとも、あの亜人を呼び出して自らを確立しつつあるか―――あれを打ちのめしてなびかせるのは骨が折れそうだな。……厄介な事よ。三つのうち一つは、諦めなければならぬかもな」 彼自身の目的にとっては一番重要な項目のはずであるのに、グラスを離したワルドの表情は、何も表してはいなかった。 「とりあえず、私達が行くまでニューカッスルへの総攻撃は待っていて貰わねば」 ワルドは暫しの間目を閉じ、何事か物思いに耽ると、グラスを置いて席を立った。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロのエルクゥ ルイズは、夢を見ていた。 今日の舞台は、数年前まで住んでいた生家、ラ・ヴァリエール家の本宅。 「はあ、はあ……」 十ほども幼い姿の自分が、当時の自分の背格好からは迷路のようにしか見えなかった庭木の植え込みの間を、息を切らせて走っていた。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? まだお話は終わっていませんよ! ルイズ!」 後ろから、厳しい母の声が響き渡る。 ルイズはぎゅっと目を瞑り、必死に足を動かした。彼女の安息の場所に向かって。 そこは、広すぎる公爵家の屋敷の中で、住人達に忘れ去られた場所。 訪れる者は世話をする庭師だけになった、舟遊びをする為の大きな池。 池のほとりに繋がれた小舟の中が、優秀な姉達と違って魔法の出来ない自分が父や母に睨まれる事のない、幼いルイズの数少ない安心できる場所だった。 「うう、ぐすっ……」 持ち込んである毛布にくるまると、ぎいぎいと小舟がきしむ音と、ちゃぷちゃぷと揺れる水音が、聞こえる音の全てになる。 水と土が織り成すその調べを聞いていると、次第に悲しみに暮れていた気持ちが慰められていくのだった。 「はあ……」 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。 この光景は、過去のものだった。この後、婚約者である憧れの子爵様が慰めに来てくれたはずだ。 しかし、これは夢。過去を回想しているわけではなく、霞に見ているただの夢だった。 「あれ……?」 水と土の演奏が、どこか遠くに聞こえる。代わりに響いているのは―――轟と燃え盛る炎と、全てを切り裂く風からなる鋭い旋律。 「え―――?」 毛布から顔を出し、舟の縁から周囲を見たルイズは、絶句するしかなかった。 そこは綺麗に剪定された実家の池ではなく、どこかの河原。砂利と泥水の流れる河原に浮かぶ舟の中だった。 「ど、どこ、ここ……?」 きょろきょろと周囲を見渡すと、瞬間、そこは舟の上ですらなくなった。 「おお、おお、エディフェル! しっかりしろエディフェル……!」 『えっ?』 自分の口から、野太い男の声が漏れ出る。 その視線の先には、見た事もないような服を身にまとい、河原に横たわり、炎に照らされ、太い腕に抱かれた女性の姿があった。 まるで、自分が抱きかかえているような視点だったが……私の腕はこんなに太くないわよ、とルイズは妙に冷静な事を考えた。 抱きかかえている女性の胸に大穴が空いていて、その白磁のような肌にべっとりと血糊が張り付いているのも、どこか朧に目に映る。 『な、何よこれ……!』 口を動かそうとしても、言葉にならない。胸を焼くような焦燥だけがそこに渦巻いていた。 「……わかっていたのです。こうなるであろう事は……」 ごぼ、とその女性の口から赤い飛沫が弾ける。 「貴方を助け、貴方と共にある事は、一族への裏切り……皇女である私には、それが最大限の報復でもって贖われる事を……」 「もういい、喋るな。すぐに治療を」 静かに、女性は首を横に振った。 「助かりません。それに……私が助かってしまったら、今度はリズエルが……」 「構わぬ。お前以外の誰がどうなろうと構わぬ。そう言ってわしを鬼としたのはお主であろうが……!!」 「ふふ、そうでしたね……」 血を吐きながら、女性は穏やかな……酷く穏やかな表情を浮かべる。 その儚い笑顔に、ルイズはどこか、優しい下の姉の面影を見出していた。 「ああ、愛しています、次郎衛門。願わくば、姉を……エルクゥを恨まないで」 『えっ?』 聞き覚えのある単語に、夢心地だったルイズの意識が急に鮮明となる。 「愛している。愛しているエディフェル。だから死ぬな。わしを鬼とした主が死ぬな。その貸し、一生を捧げなくば返せぬものと知れ……っ!」 『あ、あ、う……!』 激情。 溶けた鉄にも似た、真っ赤な色をした激烈な感情が、容赦なくルイズの意識に流しこまれる。 それは、耕一の『シグナル』を受け取る時と同じ感覚で―――そして、同じでは到底ありえなかった。 耕一のシグナルが後ろからそっと肩を叩かれる程度の驚きであるとすれば、これは"ファイヤーボール"の直撃。骨まで灰になるような、溶鉄の温度だ。 「ふふっ……相変わらず厳しい方。ご心配召さらず。この身、既に全て貴方に捧げております故に……」 「ならば、ならばっ……!」 女性の手がふらふらと伸び、自分の頬を撫でた。その指が、微かな水気に濡れる。 それでも、身体中を焼き尽くすような溶鉄の激情は、少したりとも衰えない。 「エルクゥの御魂は、ヨークによって滅する事叶いません。幾星霜かの時の後に、また」 「……違えたら、許さぬ。お前はわしのものだ。必ずまた、来世で」 「はい。次の世でも、必ず貴方の元に」 そうして、二人の顔が、紅に濡れた唇が近付き――― § 「はっ!?」 ルイズは、がばっ、と布団を跳ね上げて目を覚ました。 「はーっ……はーっ……」 どくん、どくん、と心臓ががなり立てている。 「な、なに、今の、夢……」 夢、であったのだろう。実家にいたはずなのにいきなり見も知らない場所にいたり、何者かもわからないような男女の死別に居合わせたりと。 「エル、クゥ……」 でも。 いつもなら、浮かび上がる意識の底に置いていかれてしまう夢の内容を、今はありありと思い出す事が出来た。 炎。風。血。微笑み。そして、溶けるような―――想い。 「ううっ」 思い出して、ぶるりと背筋が震えた。 「なんだったのかしら……エルクゥ、って言ってたし、コーイチに関係ある事なの?」 「さあなあ。俺にゃわかりよーもねえなあ」 「ひっ!?」 夜明けの暗がりの中、独り言に反応する声が上がって、ルイズは文字通り飛び上がった。 「なんでえなんでえ。そんなお化けでも見たような顔で驚くなってんだ」 「あ、あんたね……」 カタカタ、と金具が鳴る音がする。それは、まだ寝息を立てている使い魔の横に立てかけられている、喋る剣の声だった。 「もう、寝る時は鞘に入れときなさいって言ったのに……」 「そんな寂しい事言うなよ娘っ子。こちとら作られてから数千年、久々に気のいい使い手に出会って充実した時を過ごせてるんだからよ」 カタカタカタ、と大きく飾りを鳴らして笑うデルフリンガーに、ルイズはそれに負けない大きなため息をつき……続けて、大あくびをかました。 「うう、まだこんな時間じゃないの……はぁ」 まだ薄暗がりの外を見て、布団を被りなおす。 「なんだ、また寝るのか。たまには早起きもいいもんだぞ」 「それ以上喋ったら鞘に押し込むわよ」 「むぎゅ」 そう言ったら押し黙ったので、ふんと鼻を鳴らして目を閉じた。 けれど、あの溶鉄のような激情を思い出して心臓は落ち着きを見せず、眠ってしまったらあの続きを見てしまうような気がして……ルイズは寝直す事の出来ないまま、段々と日が昇っていくのを眺める羽目になったのだった。 § 「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」 黒ずくめの怪しい先生の授業もハゲ頭に乗っかった金髪ロールのカツラも、睡眠の足りない胡乱な頭で見聞きしていたルイズは、その一言にはっと目を覚ました。 「姫殿下が……」 脳裏に、懐かしい記憶が蘇る。 それは、ちょうど朝夢に見たような、幼き日々。魔法を使えないと言う事が、まだ母の説教で済んでいた頃。 「……ふぅ」 しかし、ルイズは首を振って、開きかけた記憶の扉を閉めた。 「覚えていらっしゃるはずがないものね」 物心はついていた頃だから、聞けば思い出すかもしれないが、それだけだろう。 しかも、今の自分は『ゼロ』のルイズ。何かの折に小耳に挟まれていたら、失望されているかもしれない。そんな者と幼少のみぎりに遊んでいたのか、と。 そう考えると、知らず、ぶるりとルイズの背が震えた。 「……もう慣れたと思ったんだけどな」 最近は、そんな事気にもしない奴等がずっとそばにいるものだから、忘れかけていたのかもしれない。『ゼロ』という二つ名に込められた意味を。 「―――生徒諸君は正装し、門に整列すること。諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかり杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」 皆が引き締まった顔でコルベールの激を聞いているのを、ルイズはどこか張りのない表情で見つめていた。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーッ!」 そして昼を過ぎ。 門に整列した生徒達の前、猛々しい声と共に、老人に手を取られた女性が、一角獣ユニコーンが綱を引く絢爛な馬車から姿を現した。 その横には、幻獣グリフォンに跨り、大きな羽帽子で顔を隠した護衛らしき衛士の姿。 そのどちらにも覚えのある面影を見つけ、ルイズは周囲の生徒と同じ杖を掲げた格好のまま、じっとそれを見つめている。 不安と憧れが半々に混じった視線が、ゆらゆらと二人の間をさまよっていた。 「……キュルケさんとタバサちゃんは杖を掲げなくていいのか?」 「あたしはゲルマニアの者だもの。興味がなきゃ義理もないわ。お姫様って言っても、あたしの方が美人だしね。ま、あの衛士隊の殿方は素敵そうだけれど」 「…………」 「はは……」 その横に控えている耕一が、同じくその横でつまらなそうにしている二人に聞くと、キュルケはいつものペースを崩さないまま、タバサなどは木陰に座って本を広げる事で、それぞれらしい返事をした。 § 「……なるほど。誰も気付かぬうちにと、そういうわけですか」 「その通りですじゃ、枢機卿殿。ディテクト・マジックにも反応はなく、今のところどう盗んだのかすら不明ですわい」 「さて、伝統あるトリステイン魔法学院の威信が問われますな。盗まれたのが宝物ではなく生徒であったとしたら、いかがするおつもりでしたか」 「……さて、返す言葉もないですな」 夕刻。学院長室では、昼間にアンリエッタ姫をエスコートしていた老人、このトリステインの政務を仕切る実質上の宰相であるマザリーニ枢機卿が、飄々としてはいるが、どこか弱った表情を隠せないオスマンの報告を聞いていた。 一週間前に起こった、『土くれ』のフーケによる盗難事件の報告である。その横では、アンリエッタ姫が苦い顔で二人の話を聞いていた。 「枢機卿。過ぎた事を責めても」 「然りです殿下。ですが、これからの話に入る為には必要な事でもあるのです。オールド・オスマン。これから警備体制に関しては、こちらからも口を出させていただきますぞ。このトリステイン魔法学院には、他国からの留学生も多く預かっておりますでな」 それが誘拐される事も有り得る。言外にそう言っていた。 もしそうなった場合、その相手国との関係がどうなるかは、語るまでもない。 「……仕方ありますまいな」 口だけじゃなく手も足も出す気じゃろうに、という内心を隠しながら、オスマンは弱った様子で重く頷くしかなかった。 学院の自治は重要ではあるが、生徒の安全には代えられないのだ。そして、目の前の老人には、その担う重責―――まだ齢四十だが、その重き荷が、彼をそこまでに枯れさせてしまったほど―――に相応の、それが出来るだけの力があった。 「さて、まずは―――?」 具体的な話を詰めようと開いたマザリーニの口はしかし―――びりびり、という大地の震えに閉じられた。 「地震ですかな。珍しい」 アンリエッタを庇うようにマントを広げ、マザリーニが周囲を見渡す。 「ああ、枢機卿殿、これは違いますぞ。お気になさらず」 「オールド・オスマン?」 妙に落ち着き払ったオスマンの態度に、マザリーニが怪訝な表情を浮かべた。 再び、大きく震えた。 「とある生徒の魔法の練習ですじゃ。最近張り切っておるようでしてな。毎夜の事なのです」 「……魔法の練習? これがかね?」 「珍しい事ですが、その者は魔法を失敗すると爆発してしまうのです。この通り」 オスマンが杖を一振りすると、横の姿見が、一人の少女の姿を映し出した。 それを見た瞬間、アンリエッタの目と口が驚きに見開く。 「……ふむ」 段々と夜が深くなっていく宵闇の中、桃色の長いブロンドを汗に濡らし、杖を振り続ける少女。その傍らでは、蒼い髪の小柄な少女が、その使い魔であろう大きな風竜に、爆発からの盾にするように背を預け、本を広げている。 桃髪の少女が必死の表情で杖を振ると、近くにあった握り拳ほどの石が盛大な爆発を起こし、濛々と煙を吐き出した。 「本来は爆発音もするのですが、ちと近所迷惑だと生徒からの苦情がありましてな。とはいえ生徒の自助努力を止めるというのも心苦しいです故、彼女の友人や教師が交代で、サイレントの魔法をかけておるのです」 振動と映像は、一致している。 しばらくの間、杖を振っては爆発して建物が響くのを見つめた後、マザリーニは大きくため息をついた。 「……話を進める雰囲気ではなくなりましたな。追って書状にてご連絡致しましょう」 「あいわかり申した」 マザリーニは部屋を出て行こうと踵を返す。 アンリエッタは同じくその少女が映る鏡を見つめていたが、その表情はマザリーニとは真逆の、どこか懐かしく嬉しいようなものを含んでいた。 「……ルイズ・フランソワーズ」 「殿下、参りますぞ」 彼女の唇から紡がれた小さな言葉は、扉を開けてアンリエッタを待つマザリーニの耳には届かなかったようだった。 § 「よう娘っ子、今日も絶好調だったみてぇだな」 「黙りなさい溶かすわよ」 ルイズは不機嫌そうに剣を蹴飛ばすと、湯上りで赤みの差した肌をごろんとベッドに横たえた。 「ちょっ、蹴るなってあぁん♪」 「へ、へへ、変な声を出すなぁぁぁっ!」 「ぐへ! 娘っ子それはさすがに痛えってちょっ! 相棒タンマ! ストップ! ストップ・ザ・スローイン!」 「すまんデルフ。さすがに俺もキモかった」 「ひでえよ相棒……ちょっとしたお茶目じゃねえかよ」 デルフリンガーの声はどう聞いても中年のおっさん声であるので、冗談でも『あぁん♪』などという可愛らしい文字列は似合わなかった。 思わずルイズがカカトで踏みつけ、耕一が窓から投げ捨てようとしてしまったのも無理ない事であったろう。 「やれやれ、ひでえ目にあったぜ」 「自業自得よ。まったく……」 ルイズはベッドに入り直すと、早々に布団を被る。魔法の練習が疲れるのか、最近はとても健康的な時間に就寝してはいるが、それにしても早かった。まだ月が昇ってそれほども経っていない。 「もう寝るのか?」 「……今日はちょっと張り切っちゃったのよ。おやすみ、コーイチ」 「ああ、おやすみ」 ルイズが背中を向け、さてさすがに俺も寝るには早すぎるけどどうしよう、と耕一が暇を潰す先を考え始めた時。 コン、コン と長めのストロークでドアがノックされた。 「はーい、どなたで―――」 コココン 耕一が応対の為に立ち上がろうとすると、再び短く三回。 「えっ!?」 「る、ルイズちゃん、どうした?」 何か閃くものがあったのか、ノックを聞いて飛び起きるルイズ。 数秒ほどそのドアの方を見つめると、眉を寄せながらブラウスを身に付け、おそるおそるといった感じでドアを開けた。 「……あ、あなたは」 そこにいたのは、長く黒いマントで体を隠し、黒いフードをすっぽりと被った人物だった。 見るからに怪しげだったが、ルイズの表情は、どこかそういう"怪しんでいる"というのとは違う驚きだった。 黒マントはそっと唇に指を当てると素早く部屋の中に潜りこみ、フードを取り去る。その素顔に、ルイズの目が今度こそ見開いた。 「……ルイズ・フランソワ―ズ」 「ひ、姫殿下……!」 「ああ! 覚えていてくれたのね。ルイズ、懐かしいルイズ!」 黒フードの少女―――アンリエッタ・ド・トリステインは、感極まった声でルイズに抱きつき、心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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303 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/11/27(月) 21 31 38 ID Fbj3A6iz アメリカンジョーク風ゼロの使い魔 ある朝、いつものように大好きな使い魔のサイトをつれて 授業を受けに行こうと部屋を出たルイズは、少し離れたところにある モンモランシーの部屋からギーシュとモンモランシーが出てくるのを目撃した。 見ると、ギーシュはなんとモンモランシーにお出かけのキスをしているではないか。 羨ましくなったルイズは傍らのサイトに真っ赤な顔を悟らせないよう言う。 「ね、ねぇ、ギーシュは出かける前にモンモランシーにチチチ、チュ−してるわよ・・・ あああ、あなたはなんで同じことしないの?」 「は?だって俺、出掛けにキスするほどモンモンと親しくないし」 その日一日、悲鳴が途切れることはなかった・・・・・・ 終わり