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ゼロの使い魔~双月の騎士~ レビュー (ジャンル:ファンタジー、ラブコメ) 全12話 監督:紅優 アニメーション制作:J.C.STAFF 評価 ストーリー キャラクター 声優 映像・作画 2点 2点 16点 16点 合計36/100点 感想 ラブコメ作品なのに戦争をテーマにしています(笑) 才人は平和主義者でルイズは名誉の為なら死ねるという事で対立します。 突然の事だったから私も見ていて呆然としましたが、 冷静にならなくてもこの作品で描く内容ではないと思います。 人を殺し殺される戦争は愚かな行為であるのは誰もが認める事だと思います。 名誉の為なら死んでも良い、貴族の誇りだとか、そういうのも違うでしょう。 しかしその程度の説得力もこの作品にはありません。 ストーリーに都合の良いように無理矢理二人を対立させてもねぇ。 もしも真剣にこのテーマを描きたいなら、 アニエスとコルベールをメインキャラにすべきでしょう。 しかしそれでは全くの別作品でしかないわけです。 私だったら無理な事はせず、 前作のようなラブコメを作ればよかったと思います。 何故この作品でこのテーマを描こうとしたのか?さっぱり分かりません。 「ゼロの使い魔~双月の騎士~」アニメ公式サイト
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前ページ/ゼロの使い/次ページ その日の夜、メディルは主人の部屋で、ルイズから大目玉を食らった。あの決闘騒ぎの後、強制的に部屋に連行されたのだ。 「いい!?あんたの魔法はどれ一つとっても桁外れなんだから、矢鱈と他人に撃つんじゃないわよ!?」 「御意。」 そんな人物に決闘を任せたのは誰だと、彼は反論しなかった。 不本意とはいえ、彼女は今の自分の主。逆らうことは出来ない。 その時―メディルは微かな空気の震えを感じ取った。 「何か聞こえなかったか?」 「はぁ?何も聞こえないわよ。気のせいじゃないの?」 「そうか?中庭の方から巨人が壁を殴るような音が聞こえたのだが・・・」 「・・・もしかして・・・」ルイズが何かを思い出し、ベッドから立ち上がり、机の上に置いた杖を持って、使い魔を連れて部屋を出て行った。 中庭では、30メイルはあろうかと言うゴーレムが主を肩に乗せ、学院の壁にパンチを連続で繰り出していた。 このゴーレムの主は今トリステインを騒がせている貴族専門の盗賊・土くれのフーケである。 「全くとんでもない壁だねぇ。」 今破壊しようとしている壁は『禁忌の箱』と呼ばれるものに入った『秘術の書』と呼ばれる秘宝が眠る宝物庫の壁だった。 普段なら扉や壁を土くれに変えて、獲物をいただくフーケだが、流石に学院の宝物庫には通用せず、止む無くゴーレムによる破壊と言うフーケらしからぬ野蛮な手段をとったのだ。 しかし、何度殴りつけても壁は崩れるどころか、ヒビ一つ入らない。フーケは焦っていた。 「早くしないと・・・教師共ならまだしも、あのとんでもない使い魔に襲われたら一巻の終わりだ。」 無論、それはメディルの事である。あれは化け物だ。と彼女の経験が言っている。 そして、それは正しい考えであった。化け物という意味で。 その時、ゴーレムの右肩が爆発し、腕が轟音と共に地面に落ちた。 振り向くと、最も会いたくなかった者を引き連れた、桃色の髪の少女がいた。 「土くれ!大人しく縛につきなさい!」 しかし、この盗族が大人しくお縄になるはずも無く。 「チイッ!こうなりゃヤケだ!」 フーケはすぐさま錬金で落とされた右腕を修復し、そのままゴーレムの両腕をルイズ達に振り下ろす。 メディルは余裕で回避したが、ルイズは辛うじて避けたと言う程度だった。 その様子がフーケには不可解だった。 (おかしい・・・魔法で迎撃してこないなんて・・・) てっきり、あっさりと返り討ちにされると思っていただけに、この光景は意外だった。 が、すぐにチャンスだとばかりに攻撃態勢に入る。巨体ゆえ、動作は緩慢だったが。 「何で魔法を使わないのよ!」 ルイズが強力なメイジであるにも拘らず、目の前の敵に魔法を使わなかった使い魔に喚く。 「他人に魔法を撃つなと言うからそれに従っている。」メディルは事務的に返した。 「くっ・・・もういいわよ!!」 メディルは役に立たぬと判断したルイズが、再び杖をゴーレムに向ける。 ルイズは失敗魔法をぶつけ続けるが、いくら壊してもたちどころに修復してしまう。 ならば、フーケ自身をと思うが、狙いがうまく定まらず、ゴーレムに無意味な傷を付けるに終わった。 そして敵は動きは遅いが、拳や腕の攻撃範囲は広く、ルイズは繰り出される度、紙一重でかわしていた。 やがて、杖を持つ手も震え、足にも限界が来た。 「自慢の使い魔も、戦わなけりゃどうって事はないわね。」 フーケの嘲笑を合図に、再び両腕を振り下ろそうとするゴーレム。 ルイズは逃げようとしたが、足がもつれて転んでしまった。 殺られる・・・!!死を覚悟し、目を瞑った。 「イオナズン!!」 世界の果てまで届く様な爆音が響いた。 ルイズが恐る恐る目を開けると、ゴーレムは文字通り粉々に吹き飛んでいた。フーケが壊そうとしていた壁ごと。 呪文の主が淡々と告げた。 「私が受けた指令は『主人を守る』そして『他人を撃つな』。だから『人間』は撃たずに主を守った。何か問題は?」 ルイズは首を大きく横に振った。 空中のフーケが舌打ちしながら、つぶやいた。 「くっ・・・悔しいが、あいつは敵う相手じゃない、ここは引き上げ・・・」 「メディル!そいつは例外!!撃ちまくって!!」 「御意。だが撃ちまくる必要はない。」 メディルは空中のフーケに狙いをつけて、普段よりいっそう不気味な口調でつぶやいた。彼の世界で恐れられた恐怖の言葉を。 「ザキ。」 その瞬間、フーケの耳に訳の分からない言葉が響き、その言葉を聞いた瞬間、フーケの心臓が止まった。 何が起こったのかわからぬまま、彼女の体は地に、魂は地獄に落ちた。 その様子を見たルイズは喜びのあまり思わずメディルに抱きついたが、本人はノーリアクションであった。 「やったわね!でもあれはどういう呪文なの?」 「即死の魔法だ。より高位のものなら複数の生物の命を奪うことも可能だ。」 「・・・つくづくとんでもないメイジねあなたは。」 「それより、怪盗の顔を拝んだらどうだ。恐らくこの学院内部の人間の筈だ。」 そんな馬鹿なと疑いながらも、言われるまま死体のフードを剥ぐと、そこにはルイズの見知った、学院長秘書のロングビルの顔があった。 「フーケの正体が・・・彼女だったなんて・・・あれ?」 ルイズは辺りを見回したが、メディルの姿は無かった。 あるのは盗賊の死体と戦いで壊れた壁と、夜空に浮かぶ2つの月だけであった。 メディルは先程崩壊した壁から宝物庫に侵入していた。実はコルベールの研究所を訪れる前に、宝物庫(扉を開ける事は出来たが、無用なトラブルを避けるため入らなかった)に来ていたのだ。 彼にとって、馴染み深い気を内部から感じたが故に。ちなみに、フーケは彼の後に宝物庫に来ていた。 「起きろ、パンドラ。私だ。」 彼に命じられたそれは勢いよく口を開けた。 それは緑色の宝箱・・・に見えた魔物だったのだ。それもある意味魔王よりも恐ろしいと謳われた程の。 鋸歯の並んだ口の中には一本の巻物が入っていた。メディルにとって見間違える筈の無い巻物だ。 メディルが知る由も無いが、これがフーケの狙った『禁忌の箱』と『秘術の書』の正体だった。 「どうやらここの責任者に掛け合う必要がありそうだな。」と言い残し、彼は自分を呼ぶ主の元へ帰った。 翌日、フーケの一件で二人は学院長に呼び出されることになった。何故かコルベールも同席している。 「よくやってくれた。ミス・ヴァリエールにはシュヴァリエの称号が間もなく授与されるであろう。」 「光栄にございます。」と会釈するルイズ。辛うじて平静さを保っているものの、今の彼女は幸福の絶頂にいた。 「それにしてもミス・ロングビルがのう・・・盗人とはいえ、生け捕りにすることは出来んかったのかのう?」 「学院長殿、此度の立役者に対して、そのような物言いはどうかと。どの道極刑は免れなかったでしょうし。」 「コルベール、君も彼女には御執心じゃなかったのかね?」 「え・・・ええ。確かに。」と言いながら頬を染めるコルベール。 「そろそろこちらの用件も言わせてもらいたいのだが。」 「コラ!学院長に対してなんて口を・・・」ルイズが怒鳴る。 「学院長殿、宝物庫に眠っている箱と巻物。あれは私がかつて持っていたものに相違ありません。お返しいただきたい。」 「ほう・・・あの恐るべき生き物と巻物は君の世界のものじゃったか。」 「一体どういうことですか、学院長。」 「ふむ・・・あれは30年前・・・森を散策していたワシは3頭のワイバーンに襲われた。 じゃが、奴らの足が偶然、落ちていたあれにあたり、怒ったあれは『ザラキ』とか言う呪文で2頭を仕留め、 最後の一頭の頭を噛み砕いたのじゃ。あれの口の中に巻物が見えたのはほんの一瞬じゃった。」 「メディル・・・ひょっとしてあんたの使った呪文の・・・」 「うむ。強化版だ。しかし、私はその上を使うことが出来る。やってみるか?」 「遠慮しとく。」と青い顔で否定するルイズ。 「まあ、君の世界のものだとは君を見たときからうすうす感じていた。今日、君がそう申し出ることも予測していた。」 オスマンが目線を送ると、コルベールがあの禁忌の箱を取り出し、受け取ったメディルが中身の確認を行う。 「さて、ここからはミス・ヴァリエールには席を外してもらう。」 「え・・・あ、はい!」 相手が相手とあってか、ルイズは素早く退室した。 「さて・・・メディル君・・・君のそのルーンだが・・・」 「さしずめ、知識を与えるルーン・・・と言ったところでしょうか?」 その言葉に、オスマンもコルベールも腰を抜かした。 「な・・・何故その事を・・・」 当然の驚きだった。異世界の存在であるメディルが知り得る筈の無い、ルーンの効能を言い当てたのだから。 そのルーンに関する情報はこの学院内では生徒の閲覧を禁じている、魔法の罠が多数張り巡らされたフェニアのライブラリーにしか無く、 いかにメディルといえど、侵入すれば何らかの痕跡くらいは残す筈だったからだ。無論、そんな物は無かった。 少なくとも、フーケ襲撃と同じ頃、コルベールがルーンを調べに行った時には。 「何故・・・?それはそうだろう。・・・この巻物の文字が・・・読めるのだから!!」 「しかし、それは君の世界の文字で・・・」「この巻物は・・・」 コルベールの言葉を遮り、メディルがいつもとは違った声と口調で答え始めた。 「この巻物は私を含めた多くの魔術師が解読に挑み、挫折した古代魔法の書!! この私の英知と魔力・・・そして莫大な時間をもってしても只の一文字も解読できなかったものが、 今はすらすらと読める。考えられることは只一つ、この世界で身に付けたこのルーン。」 「な・・・なるほど・・・」と納得するコルベール。 「それはミョズニルトンという伝説の使い魔のもので、あらゆるマジックアイテムを使いこなす頭脳をもたらすと言うのじゃ。」 「そうか。クククク・・・ハハハハハッ!!」 普段は冷静沈着なメディルが異様なまでに興奮していた。 この巻物は魔王軍在籍時代、彼が暇を見つけては研究していたものだった。 無論、解読によって得た結果を魔王軍の利益にするつもりではいたし、魔王自身の許可も得ていた。 しかし、彼は魔王の配下である前に、一人の魔術師だった。 解読を始めた動機は、軍務よりも私的な好奇心だった。 前ページ/ゼロの使い/次ページ
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前ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 二十話 少女の瞳は、黒く濁っていた。 ……黒く、濁ってしまった。 一度濁ってしまえば、もう澄むことはない。 薄まることが、あったとしても。 白百合のような微笑は、黒い土に汚れた。 象牙細工のようだった指先も、黒い土にまみれた。 かつて領民のために振るわれた杖も、黒い土にうずもれた。 貴族としての名を失い、血のつながらない妹を守ると決めたときから。 全ての貴族に、復讐を誓ったときから。 彼女は暗い井戸の底で、黒い土と戯れている。 酷薄な笑みを、その口元にはり付かせながら。 故郷であるアルビオンからトリステインへ下りたことには、いくつかの理由があった。 アルビオンを取り巻く不穏な気配が一つ。 それは例えば酒場から傭兵たちの姿が減ったことや、武具を製作する工房に活気が出てきたことがあげられる。 また同じ場所で仕事を続ける危険性の回避も、理由の一つとして存在した。 だが何より、秘宝の噂を聞きつけたことが最大の理由だっただろう。 ハルケギニアに名だたるオールド・オスマンがもつという、一つのマジックアイテムの噂。 『業火』の名を冠されていた、形状も、能力も知られていないそれに、彼女はいたく興味を引かれた。 噂の根拠が、あまりにも荒唐無稽だったからだ。 曰く、オスマンを魔法学院の長たらしめる理由が、そのマジックアイテムを学院に封印しているからだと。 ……胡散臭い話しさ。 彼女に噂を聞かせた男は、そういって笑っていた。 オスマンの素行の悪さは広く知れ渡っており、それ故に閑職に回されたのだという噂がまことしやかに語られていたからだ。 しかし彼女は男と共に笑いながら、大きく心を動かされていた。 信憑性のない噂が、時として真実を語ることを知っていたからだ。 彼女は、力がほしかった。 アルビオンでスクウェアメイジに殺されかけたとき、そしてただの幸運で生き残ったとき、彼女は力への強い欲望を感じていた。 生き残るだけでは、彼女の望みは叶わない。 強い力が必要だった。 国を滅ぼすほどの、強い力が。 ところがどれだけ調べてみても、そのマジックアイテムの正体はわからない。 わかったことはただ一つ、業火という言葉の意味だけだった。 罪人を焼き尽くす炎だと聞いたとき、彼女は失笑しかけた。 盗賊が罪人を罰するのかと。 だが一方で、罪人と呼ぶに相応しい人間たちへの復讐も考えた。 噂が真実であれば、それを果たすことができる。 確かめるだけの価値が、その噂にはあった。 トリステインの酒場でオスマンを見かけたとき、彼女は歓喜する。 学院で私設秘書として雇おうと持ちかけられたときには、思わず歌い出しそうになった。 一方で素行の悪さが事実であり、しかも相当に質が悪いことを知り、いささか以上に辟易もしたが。 ともあれ、目的へと駒を進めることができた。 だから何の問題もない。 なんとか笑顔を作りながら、彼女は自分に言い聞かせた。 酔いつぶれたふりをしながら尻をなで回す目の前の老人に、どうやってむくいをくれてやろうかと考えながら。 その反面、自らの瞳を覗き見るオスマンの視線を、深く暗い井戸の底を見抜くようなそれを、さけようとしない自分に不可思議さを覚えてもいた。 学院での生活は、ことのほか充実していた。 それだけ面倒が多かった、ということにもなるが。 日々繰り返されるオスマンのいたずらに対してロングビルの拳が閃くまで、それほど時間はかからなかった。 端的に言えば、初日に閃く結果をもたらしている。 言葉遣いの丁寧さだけは変わらないものの、その日その瞬間からオスマンの扱いは極めておざなりになっていく。 また、それまで学院に妙齢の女性がいなかったためか、彼女の整った容姿のためか、一部教師や一部生徒からの求愛行動が開始される。 望んで身につけたわけではないが、男のあしらいは盗賊として生きていく中で慣れていた。 けして尻尾を掴ませないことに業を煮やし、徐々に減っていく男たちの中で最後に残ったのは二人。 生徒のマリコルヌ・ド・グランプレ、そして教師のジャン・コルベール。 前者は時折思い出したかのように手紙を部屋へ差し入れる程度だったが、後者はことあるごとに様々な誘いをかけてきた。 女性というものに全く慣れていないコルベールの行動は、時に彼女をいらだたせ、時に彼女を楽しませる。 ロングビルは、けしてコルベールを嫌ってはいなかった。 誘いに応じることは一度としてなかったが。 盗賊としての仕事は貴族に対する復讐のため、秘蔵の品ばかりが目的となる。 それは損害を与えられる一方で、流通させることの困難さも内包していた。 珍しい品であれば出所がわかりやすくなり、それは買い手が限られることにもなる。 つまり、マジックアイテムを盗み出せてもすぐには金銭と引き替えられない。 様々な事情から収入源が存在せず、さらに孤児を引き取っている妹への仕送りは、絶やすことができなかった。 おそらく妹が孤児を引き取っていなければ、ロングビルの苦労は大きく減るだろう。 だが彼女は妹のその優しさを貴重なものと思っており、その笑顔を守るためにどんな犠牲でも支払うつもりだった。 結果として、ロングビルの生活はとてもつましいものとなる。 トリステイン魔法学院の運営費用は、国名が冠されている以上、王家から支払われる。 予算を割り振る学院長オスマンの仕事ぶりは、ロングビルに衝撃を与えるに十分だった。 無論悪い意味で。 よく言えばおおらかだが、率直に言えば杜撰という言葉で片付けられる。 要するに、オスマンは真面目に仕事をしていない。 固定化で経年劣化が抑えられるとはいえ、様々な消耗品は必要不可欠だ。 贅を尽くした貴族としての食事は、素材の費用だけでも驚くような金額になる。 かしずかれることに慣れた貴族のため、雇われている使用人は数多い。 当然人件費はかさみ、必要な費用はふくれあがっていく。 にもかかわらず、平民相手に支払われる給与は王都に比べて幾分高い。 自分に支払われる金額も高いことは喜ばしく、妹への仕送りも安定するようにはなったが、喜んでばかりもいられない。 金槌どころか自分のゴーレムに殴られたかのような衝撃を受けながらも、ロングビルはオスマンの適当な仕事ぶりを引き締め始めた。 オスマンをせき立て、未処理だった書類の山を片付け始める。 隙あらば怠けようとするオスマンに矢のような視線を送り、水煙草を取り上げた。 それに並行し、鼠あしらいも上達していく。 拳が閃く回数も、うなぎ登りに増加する。 学院長の私設秘書、ロングビルの日々は酷く充実していた。 一体の竜が、一人の学生によって召喚されるまでは。 「ラスタ」 ルイズの意思と言葉に反応し、その魔力を使って金の女王が『魔力感知』を発動させる。 杖を振るわけでもなく、ルーンを唱えるわけでもなく発動した魔法を、ルイズは意識することができない。 不安そうな表情を浮かべた主人を横目に、使い魔が主の友人へ声をかける。 「キュルケ、頼む」 その言葉にうなずき、キュルケが杖を構える。 「ウル……」 ことさらゆっくりと唱えられたルーンに従い、キュルケの杖先に魔法の枠が発生する。 目の前の光景に、ルイズの口から思わずつぶやきが漏れた。 「これが、魔法の力……」 未だ魔法が発動していない段階で漏れたそのつぶやきを、この場で最も年若く、最も強さに執着したメイジは聞き逃すことはなかった。 「……カーノ」 ルーンを唱え終わると同時に、マナが魔法の枠へと完全に重なる。 魔法が発動し、杖先から放たれた炎が消えるまで、ルイズの視線はキュルケの杖から離れることはなかった。 その真剣な、ともすれば威圧するかのような眼光に、キュルケは少し気圧される。 ……ま、真剣なのも当然か…… 今までどれだけの努力を捧げても、目に見える成果は何一つ得られなかったのだ。 まるで人を殺しそうな眼光も、仕方のないことか。 この場で最も優しい少女は、少しあきらめたように心の中でつぶやいた。 そして新たなる力を授けられた、この場で最も誇り高い処女が杖を構える。 はたと気を取り直し、はやる気持ちを静めるため、ルイズは深く息を吸い、深く息を吐く。 その手助けをするように、使い魔から声がかかった。 「ルイズ、約束を覚えておるな?」 深呼吸を続けながら、主は使い魔に答える。 「杖は誰もいないところへ構える」 その言葉に、ルイズの友人たちが深くうなずいた。 「ルーンは最後まで唱えない」 ……まずは、自分が持つマナの存在を認識すること。 使い魔の言葉を、心に刻んだその言葉を、ルイズは思い起こす。 草原の中心に向けて杖を構え、ルイズは静かにルーンを唱え始めた。 使おうとする魔法は、水に属する最も初歩的な、水を生み出すコンデンセイション。 「イル……」 杖先に浮かぶ、小さな球状の枠。 そして己の体から枠へ向けて溢れ出るマナ。 かつてブラムドの言った、魔法が使える証を目の当たりにしたルイズは、それだけで泣き出しそうな喜びを感じていた。 しかし体から溢れるマナを制御しなければ、魔法を使うことなど海に消える泡に等しい。 キュルケが見せてくれた、魔法を使う行程を思い起こす。 マナが枠へと収まっていく過程を。 枠の中心に生まれた形あるマナは、まるで水を受けて育っていく木々のようにも思えた。 だが今、自らの杖先に漂う砂粒のようなマナは、形を成すこともない。 枠の中心に向かってはいても、先刻見たキュルケのマナのように動こうとしなかった。 とはいえ、今までと違って目に見える目標があるのだ。 この砂粒のようなマナを、枠に収めさえすれば魔法を使うことができる。 枠の周囲を漂っていたマナは、枠から大きくはみ出していた。 ルイズは体から放たれていたマナを制御し、枠へ収めようとする。 しかしその意に反し、マナは次から次へと溢れ出す。 意識を集中すればその分だけ、たがが外れたように体からマナが放たれていく。 ルイズの体から溢れたマナは、いつしか杖先の枠を確認できないほどになっていた。 焦れば焦るほど、集中すれば集中するほど、砂粒のようなマナは溢れ出していく。 あたかも、河川が氾濫していくかのように。 このままでは無理だと悟ったルイズは、杖を振って意識を切り替えた。 その意思から解き放たれたマナは、再びルイズの体へと戻っていく。 意に沿うことのないマナに少々怒りを覚えながらも、ルイズは深呼吸して再び杖を構え始めた……。 「イル……」 何度、そう唱えただろうか。 十は優に超している。 ところが、ルーンを最後まで唱えることはできていない。 少しいらだちながら、それでも精神の集中を途切れさせない精神力は賞賛に値するだろう。 眉間に刻まれる渓谷が徐々に深くなっていったとはいえ。 ルイズが集中すればするほど、そしていらだてばいらだつほど、その体から放たれるマナは増える。 マナの制御について、ブラムドは一切助言をしようとはしなかった。 正確に言えば、できなかったのだが。 元々マナを知覚する能力に長けたドラゴンであるためか、ブラムドはマナの制御を無意識に行っている。 ブラムドにとってマナの制御は、手を開き、閉じ、指を一つずつ動かす、それらの行為と大して変わらない。 故に、説明をすることもできなかった。 どうやってそれを行っているのかと問われたところで、なぜそれができないのかと問い返すことしかできないだろう。 またルイズとしても、これだけのお膳立てをされ、なおも助言を求めるような行為をしようとはしない。 結果として、ルイズが杖を構え、ルーンを途中まで唱えることが繰り返される。 ルイズと違い、駒に『魔力感知』を付与されていないキュルケにとって、何も起きないこの状態はつまらないことこの上ない。 無論、ルイズを応援する気持ちも強いため、茶化すような言動もできない。 心の中でため息をついたキュルケは、同じく退屈しているであろうタバサの元へと歩を進めた。 だが彼女が歩む先で、彼女の友人は退屈などしていない。 いつものように本を読んでいたからではなく、彼女の思考がめまぐるしく働いていたから。 とある事情で戦うことを強要されている彼女は、ルイズ、キュルケを含めた三人の中で、最も戦闘技術に対する執着が強い。 それは戦うことだけではなく、生き残ることも望んでいるからではあるが。 ともかく戦うことにおいて、情報や知識は何よりも重要といえる。 相手がどういった技術や能力を持っているのか。 所作や詠唱、足の運びや目線の動きがなにを物語っているのか。 それらを知ることは、勝敗の結果を左右する大きな要素といえる。 相手が獣や亜人、魔物であれば生態や特性、能力を知ることはそれほど難しくはない。 先人たちが蓄えた知識は、書物という形を以て後世に伝えられていることが多いからだ。 学院の図書館にも、そういった書物は多い。 しかし相手が人間であった場合、しかも心得のある者なら、それらの情報を得ることは難しくなる。 軍に所属するような人間であれば、所作の中に詠唱を隠すことも多い。 詠唱を餌に、鉄拵えの杖や隠していた凶器で命を狙うこともある。 仮に勝敗を左右することがなかったとしても、生死を分ける一筋の光明にはなりうるのだ。 キュルケが見本のために唱えた詠唱の最中、ルイズはこうつぶやいた。 ……これが、魔法の力…… メイジとして十数年生きてきた中で、魔法の力を見ることなどは想像したこともない。 無論それはタバサだけではなく、ハルケギニアにいる全てのメイジに言えることだが。 だからこそ、それを見ることはメイジ相手の闘いにおいて大きな利点となるだろう。 ただし、その力はブラムドの助けを必要とする。 どうやって切り出したものかと思案するタバサの目が、近付くキュルケの姿をとらえた。 歩み寄る自分を気付いたタバサが、懐から本を取り出して読み始める。 キュルケは、その事を少しさみしげに見つめた。 タバサが自分を共と認めてくれているのは確かだとしても、秘密を打ち明けられない相手だと見られていることが、キュルケは少しさみしかった。 それだけ重苦しい秘密かも知れない。 ……でも…… 心の中でつぶやきながら、首を振って考えをかき消す。 自分がタバサの友としてあれば、彼女はいずれ話してくれるだろう。 そう思いながら、キュルケはタバサの隣に、触れることもたやすい位置に寄り添った。 ざらりとした感触。 手のひらを削るような感覚を覚え、ロングビルはそっと手を止める。 「このまま……」 つぶやきかけた言葉が、宝物庫の壁に跳ね返された。 ……このまま、どうするというのか。 自問に対する答えは、すでに出ている。 このまま学院で、オスマンの秘書として暮らしていく。 支払われている給金は申し分なく、滞りもない。 休みについても、わりあい自由に確保できる。 誰かに頼むことのできない仕送りを、定期的にすることができた。 この状況に、どんな不満があるというのか。 些細な不満ならば、腐るほどに存在する。 だが、今の立場を投げ捨てるだけの不満は存在しない。 ……存在しない、はずだ。 自身を納得させるような言葉に、内なる声が応えた。 ……本当にそうか? ……あの連中を許していいのか? もぞりと鎌首をもたげたような、フーケの声。 ……誇りもなく、おごるだけの貴族どもを 隠しきれない怒りに身を震わせるような、フーケの声。 ……お前の、父と母を殺した連中を ……そして妹の、父と母を殺した連中を 怒りと悲しみを織り交ぜたような、フーケの声。 我知らず握られた手のひらに、優美なはずの爪が食い込む。 傷口をなぞるような屈辱が、溶岩のような怒りを沸き立たせる。 「……力さえ……!」 スクウェアメイジに追い立てられ、なぶるように弄ばれた。 あの残忍な笑みを、記憶から消すことができない。 力を求めるその心が、宝物庫に眠る炎を呼び起こそうとしていた。 だが、その熱がロングビルに触れようとした瞬間、彼女の耳が足音を捕らえる。 近付く音は重い。 女子供のそれではないだろう。 何か事件でもあれば別だが、警備を担当する平民はそうして急ぐことはない。 面倒くさがり屋のオスマンは、走るぐらいであれば魔法で飛んでくるだろう。 可能性があるとすれば、一人。 しばらくあとに現れた人物は、果たしてロングビルの予想通りの姿をしていた。 「……ぐっ」 広すぎる額を汗で光らせ、乱れた呼吸で無理に声を出そうとしたコルベールは、むせた。 気管に入ってしまった唾液を激しい咳でなんとか押し出し、顔を上げた彼に向けられていた視線は、なんとも形容しがたい光を帯びていた。 「ぐっ、偶然ですね、ミス・ロングビル」 見た目では予想できないが、コルベールが割に運動を得意としていることは、ロングビルは見抜いている。 今コルベールの額から滲んでいる汗は、女性を前にした緊張感だけが理由ではないだろう。 ……何か簡単な言い訳でも用意しておけばいいものを…… そう思いながら、ロングビルは懐からハンカチを取り出し、コルベールの額に手を伸ばす。 「やっ! やっ!! よ、汚れますぞ!?」 首元まで赤く染めるコルベールの態度に、ロングビルは微笑みながら応じる。 「洗えばよろしいでしょう? あまりお動きにならないで……」 「あ、やっ、はっ……」 声にならない声を上げ、わずかに気を落ち着けたコルベールが、不動のままに問う。 「ど、どうしてこんなところに?」 「……少し、考え事をしておりまして……」 「さ、さようですか……」 話しを止めてしまった自身に、コルベールは強い怒りを覚えた。 そんなコルベールの様子を見かね、ロングビルはつい一つの問いを口にする。 「ミスタ・コルベールは、オールド・オスマンの持っておられるというマジックアイテムのことをご存じですか? 『業火』と呼ばれる……」 ちょっとした遊び心、そんなつもりで発した問いは、思いもかけない結果をもたらした。 前ページゼロの氷竜
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前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 十一話 郷愁に染まるロングビルの横顔へ、ブラムドが問いを口にした。 「妹を、ここへ呼ぶわけにはいかぬのか?」 「……体が、弱いものですから。……つきましたわ」 ブラムドの疑問にロングビルはわずかなためらいを見せたが、話はそこで途切れてしまう。 本や紙束を抱えたロングビルが器用にノックをし、名乗る。 「ロングビルです。戻りました」 「うむ、入りたまえ」 重苦しい声で許可が下り、ロングビルは扉を開き、左足で一歩を踏み出し、右足を蹴り上げた。 足の先から飛んだ何かはきれいな放物線を描き、扉の先にいたオスマンの右手へ収まる。 「お見事です」 ロングビルの冷たい声が部屋に響き、部屋の主であるはずのオスマンはどこかおびえたよう視線をそらす。 「ご、ご苦労じゃった。資料は見つかったかね?」 オスマンは右手に収まる使い魔をねぎらいつつ、目的が達せられなかったことを残念がる。 ……本を抱えていれば足下は見えぬと思ったのじゃがのぅ……。 無論蹴り上げた拍子に持ち上げられた服の裾からも、その奥を見通すことは出来なかった。 その様子を目の端にとらえながら、ロングビルは自らの机へ資料を置く。 「ええ、滞りなく。あとお客様をお連れしました」 その言葉に、オスマンの視線は扉へと注がれる。 「おお、これはブラムド殿。ようこそいらっしゃいました」 恭しく礼をするオスマンに、ロングビルは目を見張る。 今までトリステインの使者などがきても、自分から礼をすることなどはなかったからだ。 それでも学院長という立場にい続けられるオスマンが、これほど敬意を表すとは……。 昨晩観察したところではどういった立場の人間か、どういった力を持つ人間かわからなかったが、ロングビルはブラムドへ強い興味を抱き始めていた。 「邪魔をする」 そういいながら部屋へ踏み入れたブラムドだったが、ロングビルの行動とオスマンの態度の意味がわからず、釈然としない表情を浮かべる。 色欲に縁のない身では、理解のしようもなかったが。 ひとまずロングビルへ歩み寄り、預かっていた本や紙束をロングビルが置いたそれらの隣へと下ろす。 「ありがとうございました」 「なに、案内の礼だ。気にすることはない」 そのやりとりに、今度はオスマンが興味を引かれる。 「ブラムド殿、いつミス・ロングビルと?」 「つい先刻だ。当人はどこかへ行ってしまったが、コルベールに紹介されてな」 「左様でしたか。いや、近いうちに紹介しようと思っていたのです。何しろ今ブラムド殿が着ていらっしゃる服はミス・ロングビルのものですので」 その言葉に、ロングビルは改めてブラムドの服を確かめる。 「似ている、とは思っていたのですが」 「ブラムド殿に合う服の持ち主はミス・ロングビルしか思い当たらなかったのでな」 「そうですか。詳しい説明がなかったので、何に使うのかと思っていたのですが」 そういったロングビルの凍るような視線は、オスマンへと向けられていた。 「変なことに使うわけではないといったじゃろう?」 「ええ、一応真実だったようで安心しました」 「この服の礼は改めてしよう」 そうロングビルへ言うと、ブラムドはオスマンへと向き直る。 「訪ねたいことがあるのだが」 ブラムドの表情に引きずられるように、オスマンもまた表情を真剣なものへと変える。 ブラムドはロングビルへ視線を送り、それに気付いたロングビルはオスマンを見る。 うなずくオスマンに、ロングビルは頭を下げながら静かに扉の外へと出て行った。 わずかな時間の後で口を開こうとするオスマンを、ブラムドが手で制する。 一歩二歩と近づく胸元に視線を集中させていたオスマンだったが、ブラムドの一言でゆるんでいた表情を引き締めた。 「杖を貸してもらおう」 『透視(シースルー)』 魔法の効果で物体を透視する視線の先に、ブラムドは気配を殺して聞き耳を立てる、一人の女の姿を確認していた。 『転移』 魔法の発動と共に、ブラムドの体は視線の先、扉の向こうへと移動していた。 部屋を後にして遠ざかる足音を演出し、わずかな静寂の後、ロングビルは自らを包み込む違和感に気付いた。 部屋を出たとき、付近に人の気配や、この場へ近づく足音がないことは確認している。 だが今、自らの背後には気配を消した何者かが確かに存在する。 心臓が跳ね上がるような衝撃を受けながら尚、ロングビルは気配を消したままだ。 背後の気配は、肉食獣が獲物の隙をうかがうように観察している。 その予感が、その不安が、ロングビルを微動だにさせず、その背に冷たい汗を流させる。 ブラムドもまた気配を殺し、その手に掴んだロングビルの命をどうするか考えていた。 殺すことは簡単だが、ルイズへ危害が及ばないのであれば、その理由はない。 首筋に何かが触れた瞬間、ロングビルは大きく一度体を震わせる。 『虚言感知』を唱えながら、ブラムドがささやく。 「我が問いに答えよ。どこかの手のものか?」 ついさっき聞いた声を忘れるわけもない。 ロングビルは背後の何者かがブラムドであると知った。 問いの答えに頭を働かせる。 ……即座に殺さなかったのはまだ理由がないからか? ……であれば間諜の類としての利用価値を認識させていた方が生き残る可能性は高いか? その発想がブラムドに誘導されたものだと、ロングビルは気付かない。 「確かに、私はガリアのものです」 明らかな虚偽を認識し、ブラムドはほくそ笑む。 ロングビルの首筋に当てられた手に、力がこもる。 「二度は見逃さぬ。お前は盗人だな?」 嘘を即座に見抜かれ、ロングビルの心と体が緊張に震える。 恐怖がロングビルの心を縛り、虚偽を口にすることができなくなる。 それこそがブラムドの目論見だった。 「はい」 手のひらから伝わる恐怖と、口から放たれる真実に、ブラムドは矢継ぎ早に問う。 「狙いは?」 「まだ明確には決めていません」 決めていないという言葉で、ブラムドは自らの予想通り、ロングビルが組織に属した盗賊ではないことを知る。 「盗みの際に人を傷つけるつもりは?」 「……ありません」 ……嘘ではないが……。 「……邪魔をすれば容赦はせぬということだな」 「……はい」 わずかな沈黙が、恐怖で引き延ばされる。 死の不安に体を震わせるロングビルの背中に、ブラムドの声が降り注ぐ。 「二つ、約束してもらおう」 ブラムドはロングビルを振り向かせ、視線を合わせる。 「学院に住まうものに傷をつけぬこと」 青い瞳に浮かぶのは静謐。 だがそれは底なしの青さだ。 計り知れない深さを持つ海に、ロングビルは飲み込まれそうな恐怖を覚える。 「二本足の鼠、という言葉を聞いたとき、すぐに秘書としての仕事に戻ってもらおう」 「ぬ、盗みは?」 「我には関わりのないことだ」 ロングビルが気を緩めかけた瞬間、ブラムドの瞳が爛々と輝く。 「なれど、もし約束を違えたなら……」 それは逆らえば殺されるという、単純で、生物としての恐怖をもっとも喚起する光だ。 「お前という存在は、塵のようにこの世界から消えることになる」 人ではなく、獣でもなく、正体の計り知れない、途轍もなく恐ろしい何か。 息を飲んだロングビルは声も出せず、壊れた人形のようにただうなずくだけだ。 ブラムドの手から解き放たれたロングビルは、震える足に苦労しながら歩き去る。 「見逃して、いただけたのですな」 微笑むオスマンのその言葉に、杖を返したブラムドもまた、微笑みながら返事をする。 「やはりお前もあれが盗人であるとわかっておったのだな?」 その予感が、ブラムドがロングビルを見逃した一助となっていた。 鏡に映したかのように人の悪い笑みを浮かべる二人は、日が昇る前にそうしたように、傍らの長椅子へ腰掛けた。 「おそらく、今この国を騒がせている土くれのフーケ、その正体が彼女でしょう」 「あえて懐にその土くれを招いた理由は?」 オスマンの瞳が、わずかに彼方を見やる。 「町の酒場で会った折り、彼女は笑顔を浮かべておりましたが、その瞳の奥が恐ろしく荒んでいるように見えましたのでな」 だがその気遣うような言葉と裏腹に、ロングビルがオスマンを見る目は冷え切っていた。 疑問に眉根をしかめるブラムドに、オスマンが声をかける。 「いかがなさいましたか?」 「お前の考えの割に、ロングビルがお前を見る目は随分鋭かったが?」 「いや、わしはつい調子に乗ってしまうところがありましてな……」 色欲というものがない竜には、そんなものかと漠然と理解する以上のことはできない。 つい考え込みそうになる様子のブラムドを見かね、オスマンは本題をうながす。 「して、訪ねたいこととは?」 その言葉に、ブラムドははたと気付く。 「おお、そうであった。ルイズのことなのだが、先刻練金とやらで石を爆発させてな」 「なるほど。それはまだ続いておりましたか……」 ……まだ、か。 「コルベールもいったが、我を召喚したことで爆発がなくなると考えておったのか?」 「左様です。何しろミス・ヴァリエールの爆発は、全く前例のないことですので」 どこか真剣さを欠くような教師たちの言葉に、ブラムドは違和感を覚える。 「原因を探ることはせなんだのか?」 「杖にもルーンにも問題はありませんし、どの系統魔法やコモンでさえも結果が変わりませぬ」 ルイズ自身の言葉や、教室でキュルケをのぞく全ての生徒が机を盾にしたことから、爆発が一度や二度でないことはわかっていた。 だがコルベールであればともかく、このオスマンにも原因がわからないというのは尋常なことではないだろう。 「オスマン、練金を見せてもらえるか?」 「構いませんが……」 不思議そうな顔をしながら、オスマンは机から紙をとって丸め、それに練金をかける。 『魔力感知』でそのマナの流れをつぶさに観察したブラムドは、先ほど確認したルイズの練金との違いを知る。 オスマンのマナが小石だとすれば、ルイズのそれは砂のようだ。 さらに、注ぎ込まれるマナの量が全く違う。 どこか得心したようなブラムドの様子に、オスマンは強い興味を引かれていた。 それに気付いたブラムドは、笑みを浮かべて口を開く。 「手がかりでもつかめれば、と思っていたのだがな」 「ということは、原因がつかめたと?」 先走るオスマンに、ブラムドは首を横に振る。 「そう易々とはいかぬ。何しろ我は東方のメイジだからな」 うそぶくブラムドに、オスマンは性急さを恥じる。 「わしらでは彼女の力にはなれませなんだ。どうか、助けてやってください」 「承知した」 頭を下げたオスマンに、笑顔で答えたブラムドは、ルーンの存在を思い出す。 左手を差し出し、オスマンへと問いかける 「このルーンを、知っておるか?」 その言葉にオスマンはルーンを確かめながら、眉間にしわを寄せる。 「見覚えは……、ありませぬな。調べておきましょう」 「頼む。いわれのわからぬものが身に刻まれておるというのは、あまり気持ちの良いものではないからな」 ところと時が変わり、とある教室の中を奇妙な沈黙が満たしていた。 感情を紛らわせるためか、二人の少女は精力的に掃除をこなしていた。 だが、しばらくすればその熱も冷める。 そうなれば教室内に響くのは、ほうきが床を掃く音だけ。 ルイズの立場としては自分の失敗の尻ぬぐいを頼んでいる状態で、礼の言葉を口にするなり話しかけるなりし、この妙に重い空気を払拭する役目があった。 その気持ちはあったが、気恥ずかしさが先に立って口火を切ることができない。 そんなルイズの様子を尻目に、きっかけを作ったのはキュルケだった。 「それにしても」 つぶやく、というには大きな声に、二人の少女の視線が差し向けられる。 「ルイズはすごい使い魔を呼び出したものね」 それは婉曲な賞賛の声。 しかしそれに続く言葉は、それ以上ないほどに直截的な言葉だった。 「おめでとう、ミス・ヴァリエール」 挑発的だったこれまでと違う率直な言葉、そして今までと違う呼び方は、それまでの行動が励ましであったと露見してしまった開き直りとも取れる。 一方で、二人の関係に変化をもたらすための糸口でもあっただろう。 「あ、ありがとう」 顔も首も、湯気が出そうなほどに赤く染めたルイズが答えたとき、意地っ張りな二人の少女は共に友誼を感じていたのかもしれない。 けれどもその友情はまだ、ルイズがちいねえさまと呼ぶ優しい姉との関係や、学院での唯一の友であるシエスタとの関係のようにはならなかった。 「でも、使い魔に頼るだけでは貴族とはいえないわね」 刹那のうちに、空気が張り詰める。 キュルケは自らの言葉に賭けた。 それはルイズの誇りを信じていたからだ。 だから絶対に強大な使い魔に頼るだけのつもりなどない、と確信を持っている。 ただ同時に確かめておかなければならない。 目の前の少女が、高貴さを泥にまみれさせるのかを。 タバサもまた同じことを考えていた。 だからルイズへ視線を投げ、あえて何も口にしない。 ルイズの肌が朱色から白皙へと冷めていく。 その瞳に火が入る。 だがそれは怒気に支配されたものではない。 その瞳を見た瞬間、二人の少女は自身の心配が杞憂に過ぎなかったことを知った。 「確かに、その通りだわ」 彼女の誇りは宝石のような輝きを保ち続けている。 「私はブラムドに見合うだけのメイジにならなければならない」 挫折の末の諦観など、燃え盛る鳶色の瞳は見ることもないだろう。 「ブラムドの主として、そしてラ・ヴァリエール公爵家の娘として、相応しいメイジに」 その言葉と決意に、二人の少女は安堵し、同時に感嘆を禁じえない。 水は容易に低きへ流れさる。 ブラムドの力は、その主を堕落させるだけの強い魅力を秘めている。 誰が好き好んで果ての見えない苦難を望むだろう。 さらにそれは、半年以上繰り返してきた悪戦苦闘に他ならない。 しかしルイズは一瞬の迷いもなく、艱難辛苦を選んだ。 「ならなければならない、ではないわね。絶対に、なってみせるわ」 キュルケはそれでこそ、と思う。 それで終わってさえいれば、彼女は幸せだったかもしれない。 ところが微熱の気性はそれを許さなかった。 「でも今までみたいに、山を登るのに穴を掘るような真似をしては駄目よ?」 タバサの心のある部分が、もぞりとうごめいた。 普段であれば口を出すことはなかっただろう。 だがつい昨晩、ブラムドに見事なほどやり込められたタバサには、沈黙を続けることなど出来ようはずもない。 ルイズの顔が紅潮し、その口から怒声が響くよりも前に、タバサの声が放たれていた。 「キュルケはルイズを心配していた」 機先を制されたルイズは、声の主に目をやる。 ブラムドが教室を離れて以降初めて冷静さを取り戻したルイズは、彼女の名前を思い出す。 ……隣国ガリアからの留学生。 ……使い魔召喚の儀式で、ブラムドをのぞけば一番の当たり、風竜を召喚した少女。 ……風のトライアングルメイジ、確か二つ名は雪風。 「タバサ!?」 ……そう、名前はタバサ。 振り向いたキュルケの驚愕の表情は、タバサの頬を緩めさせるためにはわずかに足りなかった。 表情を浮かべないままにタバサが続ける。 「時々、あんなに睡眠時間を削って倒れたりしないかしら、と私に言っていた」 普段口を開くことがめったにないタバサの言葉、そしてその内容に、キュルケは声も出せないほどの衝撃を受けていた。 ルイズもまた、キュルケがそれほど自分を心配していたことを知り、怒声を放つどころか紅潮の質を変えて口をつぐむ。 「ついこの間も、スティックスがルイズをさらし者にしたのを見て、火の実技でこっそり彼の魔法を暴走させていた」 キュルケはルイズに勝るとも劣らず顔を紅潮させるが、片意地を張っているのかタバサの口を封じようとはしない。 ルイズはスティックスの行動を思い出して立腹したが、彼の額についた火傷の理由を知って少し溜飲を下げた。 タバサの暴露する内容は、キュルケが今までルイズにしてきた挑発を取り返すように、頑なな二人の心を閉ざす大きな氷を少しずつ溶かしていく。 ただし、その結果は副次的なものに過ぎない。 言い方を変えれば、今タバサがキュルケの行動言動を暴露し、二人の表情を楽しんでいるのはそのわだかまりを解消する為ではなく、憂さ晴らしとない交ぜになった娯楽である。 常日頃表情や感情を押し殺しているタバサが、嗜虐的な一面を生まれて始めてあらわにした瞬間だった。 何よりの証左として、後日キュルケとルイズからこの件に関して礼を言われたとき、タバサは表情を変えないながらも非常に恐縮することになる。 しかしタバサは今この瞬間、キュルケの弱みをつく矛を収めるつもりはない。 「あと……」 タバサがさらに言葉を継ごうとしたそのとき、キュルケの忍耐が限界を迎えた。 「そのぐらいにしないとあとでひどいわよ?」 キュルケの右手がタバサの口元を塞ぐ。 声音は確かに強いものではあったが、褐色の肌の上からもわかるほど顔や首を紅潮させていては、その説得力は弱くなる。 口元を塞ぐその手を取り去ろうとするタバサの瞳に、キュルケは強い共感を覚えていた。 目元に表情はないし、押さえている口元も特に緩んでいるようには感じられない。 だがキュルケはタバサの瞳の奥に、嗜虐的な光が浮かんでいるのを見た。 それは、同属ゆえに共有する感覚であったかもしれない。 だからこそ、キュルケの心に不安が鎌首をもたげる。 力ずくでなければ止めようがないのではないか、という不安が。 その不安を敏感に捉えたのか、とうとうタバサの目元口元がわずかに緩んだ。 愉悦混じりの笑みを浮かべたタバサに、キュルケが戦慄を覚えた瞬間、いつの間にか近付いていたルイズがうつむきながら二人を抱く。 二人の視線がうつむいたルイズの頭に集中し、わずかな静寂が訪れる。 「……ありがとう、キュルケ。ありがとう、タバサ……」 ミス・ツェルプストーではなくキュルケと、そしてタバサと呼んだその声には、感謝と歓喜が溢れていた。 タバサの笑みから毒気が抜け、それに気付いたキュルケが手を離す。 二本の手が、ルイズの背中にそっと置かれる。 ルイズがブラムドを召喚した翌日、一人の少女に、二人の友人が増えた。 確かな変化の兆しが、見え始めていた。 前ページ次ページゼロの氷竜
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「ゼロのルイズ」(後編) ◆LXe12sNRSs ◇ ◇ ◇ 園崎魅音と接触し、情報交換を進めながらホテルに帰る道中のこと。 ちょうど第三放送で死者の名が読み上げられたあたりで、目指していたホテルの上層部分が音を立てて崩れ始めた。 何事か、と外界から様子を窺う光、なのは、魅音の三名だったが、別段外部から攻撃を受けたようには見えなかった。 と、視線を注いでいたホテル最上階から、杖か何からしい長物を持った少女が飛び出した。 あの少女がホテル破壊を行ったのだろうか。 突然の出来事に混乱する面々だったが、少女が持っているものがどうやら小振りなハンマーらしいと悟ったなのはは、即座にバルディッシュを起動。 万人が思い描くイメージ通り『変身』して見せた彼女は、ホテルの状況確認を他の二人に託し、一人謎の少女の下へと飛び去っていった。 そこから、二人の魔法少女による壮絶なバトルが始まる。 地上からその光景を目にしていた光は、援護できない歯がゆさから奥歯を噛み締めた。 残念だが、この中で空中戦を行えるのはなのはしかいない。光は任されたとおり、魅音と共にホテルの被害状況を確認するしかなかった。 「よし。いこう、魅音ちゃん!」 「……」 光は意気揚々とホテルへ歩を向けるが、仏頂面を掲げたままの魅音はその場から動こうとしない。 巨大な建物が崩れる様を見て衝撃を受けているのかとも思ったが、どうやら違うようである。 無言を貫く佇まいは貫禄に溢れ、思わず声を掛けるのを躊躇ってしまうほどだった。 「その前に、もう一度約束して。翠星石を殺すのに協力するって」 ――出会ってすぐに、魅音が光たちに求めたのは友達の仇を討つ『力』だった。 古手梨花を、部活の仲間を、あんな幼い女の子を銃殺した非道な極悪人形、翠星石。 あの人形を討つためならば、魅音はどんな試練だって乗り越えてみせる。そう言わんばかりの覚悟の色が、瞳に満ちていた。 園崎本家次期当主が持つ独特の迫力とでも言おうか、魅音が漂わせるオーラに光は気圧され、若干後ずさる。 「……たとえ相手がどんな悪人だからって、命を奪う気にはなれないよ」 「なんで!」 魅音が怒鳴るが、光は今回一歩も引かない。 「あいつは……翠星石は! 梨花ちゃんを殺したんだ! 私が仇を討ってやらなきゃいけない……そうしなきゃ、梨花ちゃんの無念は晴れないんだよっ!」 「けど!」 怒鳴る魅音に反発するように、光は声を張り上げた。 「もしその子が仲間を傷つけるような奴なら……私も容赦しない」 静かだが、力漲る声。 無用な殺人などしたくはない、だからといって、仲間を傷つけるような輩に慈悲を与えるつもりはない。 敵と定めた者は、絶対に倒す。それが魔法騎士の勤めであり、これ以上海のような犠牲を出さないための方法だから。 「……それでいいよ。あんたも翠星石に会えば、あいつがどんなに非道で救えない奴か分かるからさ」 光の言葉に一応は納得の意を示し、覇気を治める魅音。 同時にエスクードも譲り渡し、二人は晴れて本当の仲間と認識し合うことできた。 翠星石は梨花を殺した、憎むべき『敵』だ。彼女に会いさえすれば、光もその危険性に気づくことだろう。 今はまだ決断を求めなくていい。そもそも、光が言う『仲間』の中に翠星石の関係者がいないとも限らないのだ。 いざ頼れるのは自分だけ……ここは殺し合いの現場、裏切りなんてものは付いていて当然なエッセンスなのだから。 「よし、じゃあいこう魅音ちゃん! 早くゲインたちの無事を確かめないと」 「あーその魅音ちゃんってのはちょっと……オジさん照れちゃうかなぁ」 「えぇ? じゃあなんて呼べばいい? 園崎さん? 魅音?」 「んーとねぇ」 先ほどとは打って変わって、魅音は歳相応の少女らしい仕草を表に出し始める。 魅音から圧倒されるような威圧感がなくなったことに安堵した光は、それに合わせて少女らしい会話を求めた。 数秒考えて、魅音はこう口にする。 「……みぃちゃん、なら可。」 そう発言した時の表情がどこか寂しげな風だったことに、光は気づけず――。 「うん、分かった。じゃあこれからはみぃちゃんって呼ぶことにするよ!」 「なはは……あーこれはこれでちょっと恥ずかしかったかな? まぁいいや、さっさと行こうか」 両者共に曇りのない笑みを見せ、ホテルへ向かう足を加速させた。 ――道中で、魅音は思う。かつて自分のことを『みぃちゃん』と呼んでいた、可愛いもの好きの少女のことを。 ホテル崩壊を目の当たりにしたせいで頭から飛びそうになってしまったが、同タイミングに聞き届いた第三放送では、確かに仲間の名前が呼ばれた。 前原圭一、竜宮レナ。翠星星に殺された梨花の他に、雛見沢出身の部活メンバーたちが一遍に二人も死んでしまった。 そして、呼ばれた名はそれだけではない。真紅に蒼星石……あの翠星石が姉妹と言っていた、ローゼンメイデンたちの名前も呼ばれていた。 (ざまぁみろ。早くも天罰が当たったんだよ) 心の中で毒づき、魅音は死んでしまった仲間のことを思う。 圭一とレナはどこで、誰にどんな風に殺されてしまったのだろうか。 (考えるまでもないさ。どうせあの水銀燈とかいう性悪人形と、カレイドルビーとかって奴がやったに決まってる) 圭一やレナは人を信用しやすい。圭一などは日頃経験してきたカードゲームの戦略パターンから見ても、相手の裏を読むのが苦手なタイプだ。 大方、翠星石みたいな潜伏型の殺人者に騙されてしまったのだろう。 部活仲間を卑下するわけではないが、なんて馬鹿な死に方をしたんだ、とさえ思った。 相次ぐ友達の死。それに関わるローゼンメイデンという名の人形たち。 圭一とレナの死を悲しまなかったわけではない。翠星石という宿敵がいるからこそ、悲しめなかったのだ。 今は悲しむより怒る時……怒って、怒って、これでもかというくらい怒って、怒りに身を任せる。 良心に従ってなどいたら、翠星石を殺すことはできない。薄情かもしれないが、圭一とレナを弔うのはそれからだ。 (あんたはもうしばらく、身内が死んだ不幸を味わうがいいさ。たっぷり悲しんだ後に、私が殺してやる。翠星石、あんたを殺してやる!) 復讐心は潰えることなく、ただ一時だけその身の内に潜めるのだった。 ――程なくして、光と魅音の二人はホテルの正面玄関まで辿り着いた。 豪華絢爛を絵に描いたような高級感漂う入り口は見る影もなく崩れ、倒産企業が残した廃ビルのごとく廃れている。 辺り一帯も凄惨という二文字がピッタリ当てはまるような有様で、ゴミ山と言い表してもいいほどだった。 「酷いねこりゃ……」 宙には崩落の際に巻き上がった砂埃が依然として漂い、空気を悪くさせている。 魅音は口元を押さえながら入り口付近の状況を詳しく調べるが、その足取りは重い。 光も同様で、予想を遥かに超える被害状況に唖然としているようだった。 これはいよいよ、中にいるであろうゲインたちの安否が怪しまれてきた。 「とにかく、早く中に入ろう」 「うん……いや光、ちょっと待って。この下に何か……」 急かす光を制し、魅音は玄関脇に転がっていた瓦礫に目を着けた。 ちょうど人の大きさくらいをカバーできるコンクリート片。その下には、何やら黒い液体のようなものが滲んでいる。 ペンキや雨露の類ではない。魅音はその正体を本能で感じつつも、確証を得るために瓦礫の撤去作業に入る。 比重のバランスが傾いていたせいか、瓦礫は前方に押し出すと簡単に転がってくれた。 そして、魅音は瓦礫の下に埋もれていた一人の人間の姿を確認する。 滲んだ液体の正体はやはり血で、時間経過と暗がりのせいもあって黒く見えていたらしい。 見る限り全身の骨は砕け、内臓も外に飛び出ているようだった。 出血の規模も盛大なもので、頭部からも脳漿と一緒に悪臭が蔓延している。 一気に顔が青ざめ、気分が悪くなる。 無理もない。その光景はホテル倒壊の映像などよりも凄惨で、目まぐるしい勢いで胃液を逆流させるには十分な威力だった。 なにしろ、魅音が見つけたそれは――既に*んでいたのだから。 「う……おげぇえええぇええぇっ」 溜まっていた内容物を一斉に吐き出し、魅音はその場に崩れ落ちた。 建物が崩れる様なんかよりよっぽど酷い、壊れた人間を見てしまったのだ。 視覚から受け取るショックは脳を激しく揺さぶり、途絶えることのない嘔吐感を生み出す。 光もグシャグシャになった人間の死体を確認し、意気消沈しながら魅音の背中を摩ってやった。 「これ、光の知り合い?」 「ううん。この人は私たちがホテルに到着する前から、ここで死んでたんだ。その時はこんなに酷くはなかったけど……振ってきた瓦礫に潰されちゃったんだね」 大量の血液のせいで判別が難しくなっているが、死体はどうやらメイド服を着ているようだ。 エンジェルモートの制服のような派手のものではなく、もっとシックな西洋風侍女のスタイルを取っているのが分かる。 圭ちゃんの趣味とはちょっと違うかな……などと思いつつ、魅音は一度は振り払ったはずの友人の姿を再度思い浮かべてしまう。 刺殺、射殺、毒殺、斬殺、絞殺――圭一やレナは、いったいどんな殺され方をしたのだろう。 血はどれくらい流したのか、肉体の損傷はどの程度だったのか、苦しかったのか、安らかだったのか。 (駄目だな私……悲しんでる暇なんてないって、さっき言い聞かせたばっかりなのにさぁ……) 悲しみは全部、復讐心へと転化させる。それが一番楽で、みんなの仇を討つには効果的だったから。 でも駄目だ。死んだ二人は――特に圭一は――魅音にとって大事な、とても大事な存在だった。 そんな二人の死を、イメージしてしまったのだ。 ひょっとしたらこのメイドのような、いやそれ以上に無残な目にあって死んだのではないだろうか、と。 涙が止まらない。俯いてる暇があれば、その時間を使って仇敵である翠星石を捜せるのに。 クーガーだって言っていた。迅速に行動すれば、後の予定に余裕が持てると。だから人は速さを求めるのだと。 さっさと見つけて、さっさと仇を討ってしまえば、その分早く二人を弔えるのに。なのに。 「う……」 涙の洪水に耐え切れず、魅音はその場に崩れ落ちた。 翠星石は憎い。水銀燈やカレイドルビーも憎い。憎しみからくる復讐心も強い。 だがそれ以上に、悲しみが勝ってしまった。二人の死を無視して狂気に身を寄せるような真似が、できなかった。 仇敵と対面すれば気持ちは変わるかもしれない。でも、今この時だけは。せめて―― 「――危ない! みぃちゃん!」 泣き崩れる魅音の身を、光の不意な警告が届いた。同時に、光が魅音に飛びかかってその身を庇う。 覆い被さった光の背中に、ホテル玄関口から高速で撃ち出されてきた謎の物体が飛来した。 「がぁぅっ!?」 「光っ!?」 魅音を狙ったそれは光の背中を穿ち、悲鳴を上げさせる。 落ちたそれを確認したところ、どうやら飛んできたのは何の変哲もない五百円玉くらいの小石のようだった。 たかが小石と侮ってはならない。その速度は銃弾の勢いに迫るものがあり、命中した箇所から血を滲ませるには十分な威力だった。 「くっ……炎の――」 痛みを訴える背中に活を入れ、光は即座に反撃の意を示した。 両の手の平に炎の力を宿し、投石を放ってきた敵へとその矛先を定め、撃つ。 「――矢ァァーーーーー!!」 燃え盛る炎の弾丸が、投石への洗礼とも言わんばかりに逆襲の火の粉を巻き上げた。 既に機能しなくなった自動ドアを突き抜け、内部にいる標的を猛火で襲う。 悲鳴が返ってくるような反応は得られなかったが、手応えはあった。 反撃の恐れがないかと外から身を構える光と魅音は、やがて、 「フフフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」 奇怪な笑い声を耳にするのと同時に、入り口から出てくる赤い怪物の姿を目にした。 「――ただの人間ではない。この私を楽しませるに十分な素質を持った者……いや、先の洗礼を見るに魔女の同類と言ったところか」 赤いコートに長身の体躯を包み、男はただ、二人の少女を前に笑っていた。 全身に漂う異質な波動、見る者に恐怖を与える邪の風格。 太陽を制し、夕闇を越え、吸血鬼は今、深淵の世界を迎えようとしている。 それ即ち、戦の本領。何者にも遮ることは出来ない、戦闘本能が活性化を迎える時。 「今宵も満月。魔女と夜宴を迎えるには絶好の空だ。もう一人の方の魔女も捨て置くには惜しいが、ククク……まずは」 銃弾切れしたジャッカルの銃口を向け、至高の吸血鬼――アーカードは楽しそうに微笑む。 少なからずホテルの倒壊に巻き込まれていたであろうその身は何故か無傷のまま健在し、高すぎる障壁としてその場に君臨する。 仲間の下に向かうには、この高く険しい壁を越えていかねばならない。 光は窮地を理解し、それでも退くことはなかった。魅音もまた、同様に。 背筋が感じる恐怖に屈することなく、未知の存在に立ち向かう。それが勇敢な行為なのか愚かな所業なのかは、答え出ず。 戦いが、始まろうとしていた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル正面玄関付近/1日目/夜】 【アーカード@HELLSING】 [状態]:全身に裂傷/中程度の火傷(※回復中) [装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:0/0発)@HELLSING [道具]:無し [思考]: 1.目の前にいる魔女と闘争を繰り広げる。 2.ホテルを崩壊させた方の魔女にも興味。 3.カズマ、劉鳳とはぜひ再戦したい。 【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】 [状態] 疲労(大)、圭一・レナ・梨花の死に精神的ショック、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り) [装備] スペツナズナイフ×1 [道具] 支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている) [思考・状況] 1:目の前の怪人(アーカード)を倒し、ホテルに入る。 2:どんな手段を使ってでも翠星石(と剛田武)を殺す。 3:圭一とレナの仇を取る(水銀燈とカレイドルビーが関係していると思いこんでいる)。 4:沙都子と合流する。 5:2、3に協力してくれる人がいたら仲間にする。 基本:バトルロワイアルの打倒。 [備考]:光からスぺツナズナイフ×1、支給品一式×1を譲り受けました。 【獅堂光@魔法騎士レイアース】 [状態]:全身打撲(歩くことは可能)軽度の疲労、背中に軽傷 ※服が少し湿っている [装備]:龍咲海の剣@魔法騎士レイアース、エスクード(炎)@魔法騎士レイアース [道具]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、エスクード(風)@魔法騎士レイアース、、支給品一式、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、オモチャのオペラグラス [思考・状況] 1:目の前の怪人(アーカード)を倒し、ホテルに入る。 2:風と合流。 3:キャスカを警戒。 4:ゲインとみさえが心配。 5:状況が落ち着いたら、面倒だがクーガーの挑戦に応じてやる。 6:翠星石と剛田武を悪人かどうか見極め、危険なようなら対処する(なるべく命は奪いたくない)。 基本:ギガゾンビ打倒。 ◇ ◇ ◇ 「うわうわぁ~、なになに地震災害? それとも爆破テロ?」 「ビルが崩壊していく!? まさか、本当にシルエットマシンかオーバーマンでも支給されているっていうのか?」 放送により禁止エリア指定されたF-6の路上。 会場内でも屈指の全長を誇る巨大ビルが倒壊していく様を、タチコマとゲイナー・サンガは遠目から確認していた。 「距離から推測するに、あれはD-5エリアに位置する大型ホテルのようだね。倒壊の原因はここからじゃ確認不能っと……」 「何を悠長な! ひょっとしたら中に人がいるかもしれない、僕たちもあそこへ向かおうフェイトちゃん」 ゲイナーはタチコマの中から傍らを飛ぶ少女――フェイト・T・ハラオウンに呼びかける。 タケコプターといった特殊な道具を用いることなく、自身が持つ魔法の力のみで浮遊する彼女もまた、巨大な建造物が崩れる様を目の当たりにして呆然としていた。 その視線の先に、二つの小さな光を捉える。 「!」 双眼鏡を構え、改めて確認する。 それは蛍のように淡く空中に点在し、倒壊していくホテルの周囲を飛び回っていた。 遠すぎてそれが何なのかはハッキリ掴めなかったが、高速で動き回る飛行物体ときてフェイトが真っ先に思い浮かべるものは一つしかない。 (まさか……なのは!?) フェイトの知る限りでは、空中をあれだけのスピードで飛行できる存在など他になかった。 ほんの数秒前、第三放送で知ったヴィータの死……衝撃を覚えたのは確かだが、それでも悲しみを押し込めて、懸命に考える。 ヴィータが死んでしまった今、このゲーム内で高速飛翔などができるのは、フェイトの他にはなのはとシグナムの二人しかいない。 もちろんフェイトの知らぬ飛行手段を持つ者がいるかもしれないが、なのはが市街地へ向かったというのなら、あれが親友である可能性は大いにある。 「ごめんタチコマ……先に行く!」 予感がしたら、居ても立ってもいられなくなった。 フェイトは仲間の二人に先行する旨を伝えると、抑えていたスピードを全開にし、なのはらしき飛行物体を追跡していった。 「フェイトちゃん、はっやー……。くっそー、ボクにおーばーすきるが使えればー」 「何を言ってるんだタチコマ。それより、僕たちも早くホテルへ向かおう!」 「うん。でもフェイトちゃんの飛んで行った先、ホテルとはちょっと方向がズレてるね。彼女を追うべきか、被災地へ向かって要救助者がいないか確認すべきか……むむむ」 「悩んでいる暇はない! ここも禁止エリアに指定されてしまったし、考えるよりも先にまず動くんだ!」 「おお~、なるほどー。ようし、分かったよゲイナー君。それでは、『タチコマイナー』ホテル方面へ向け急行しまーす!」 急旋回フルドライブ。進路をとにかく北へ。 超高速で飛んでいったフェイトにやや遅れ、タチコマとゲイナーもまた、ホテルを中心に巻き起こった闘争の渦へと飲み込まれる。 ……ちなみにタチコマイナーの名称は、ゲイナーが元の世界で乗り回していたオーバーマン、キングゲイナーの名に肖ったものである。 ――そしてこれも、序章のほんの一部。 【E-6/上空/夜】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に軽傷、背中に打撲、決意 [装備]:S2U(デバイス形態)@魔法少女リリカルなのは、バリアジャケット、双眼鏡 [道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド [思考・状況] 1:ホテル外周を飛んでいた存在(なのは?)の確認。 2:市街地に向かい、なのはの捜索を行う。 3:カルラの仲間に謝る。 4:なのは以外の友人、タチコマの仲間の捜索も並行して行う。 5:眼鏡の少女と遭遇したら自分が見たことの真相を問いただす。 基本:シグナム、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。 【F-6/幹線道路上/夜】 【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料を若干消費、飛行中 [装備]:タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C タケコプター@ドラえもん(故障中、残り使用時間6:25) [道具]:支給品一式×2、燃料タンクから2/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜46個@スクライド 龍咲海の生徒手帳、庭師の如雨露@ローゼンメイデンシリーズ [思考・状況] 1:とにかく北上! フェイトを追うか、ホテルへ向かって救助を優先するかは移動しながら考える。 2:フェイトを彼女の仲間の下か安全な場所に送る。 3:トグサと合流。 4:少佐とバトーの遺体を探し、電脳を回収する。 5:自分を修理できる施設・人間を探す。 6:薬箱を落とした場所がそこはかとなく気になる。 [備考] ※光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。 効果を回復するには、適切な修理が必要です。 ※タケコプターは最大時速80km、最大稼動電力8時間、故障はドラえもんにしか直せません。 ※レヴィの荷物検査の際にエルルゥの薬箱を落とした事に気付きました。 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い [装備]:なし [道具]:支給品一式、ロープ、さるぐつわ [思考・状況] 1:とにかく北上! フェイトを追うか、ホテルへ向かって救助を優先するかは移動しながら考える。 2:フェイトのなのは捜索に同行させてもらう。 3:タチコマの後部ポッドで暖を取る。 4:二人の信頼を得て、首輪解除手段の取っかかりを掴む。 5:さっさと帰りたい。 [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。 ※タチコマの後部ポットの中にいます。 ※タチコマの操縦機構、また義体や電脳化などのタチコマに関連する事項を理解しました。 ◇ ◇ ◇ 「みなえさんからの連絡が途絶えて既に五分……糸無し糸電話は未だにウンともスンとも言わない」 すっかり暗み掛かってきた森の中。ストレイト・クーガーはログハウスのドアを開け、一人外の夜空を見上げていた。 「五分ですよ五分。五分もあれば何ができると思います? 炊事、洗濯、出勤、掃除、洗車、買い物、睡眠。たかが五分と侮ってはいけない。 そもそも人間は何故速さを求めるのか? それは時間を無駄にしないためです。 時間を有効的に活用するには、たとえ五分といえど決して無駄にすることはできないのです。 そう思いませんかセナスさん?」 「……ぅあー、そうですねぇ。そうかもしれませんねー」 病人のような呻きを上げ――実際本当に体調不良なわけだが――セラス・ヴィクトリアもまた、ログハウスの中から外に顔を出した。 クーガーの背中で体感した超スピードの悪夢がまだ蔓延しているのか、視点は覚束ず、立っていながらもフラフラと身体を揺らす有様。 とてもではないが長距離移動、それも高速によるものは無理だろう。本人が絶対に拒否する。 「思えば、俺はどうにもこの世界に来てから時間を無駄にしすぎている。 イオンさんのお仲間もなのかちゃんやひばるちゃんの友達もみなえさんの御子息もどれもこれも未だに発見できていない。 知人との合流を素早く果たせばその分あとの脱出作戦に掛けられる時間が倍増するというのに俺の速さはまだその助力すらできていない! 何故か! それは俺が遅かったから? 俺がスロウリィだったから? いやいやそれは違うぞ結果論だ! 速さとは唯一無二絶対信憑揺ぎ無く世界を縮めるための最適手段に他ならない! その速さが功を成していないということは そこに速さを越えた運命的な何かが介入し俺の進行を邪魔したとしか考えられないよってみなえさんとの通信妨害もまた等しく! 速さとは文化だ! 人間は常に速く速く行動することでより多くの時間を獲得しより多くの文化を体験することができる! 速さイコール文化! 実に分かりやすい世界のシステム! 故に俺は立ち止まることができなぁいッ! ラディカルグッドスピィィィィィィィィィィィド脚部限定ッッ!! 音信不通だというのなら俺がすぐさま現地に赴きその原因を究明! トラブルが起きていようものなら俺のラディカルグッドスピードを駆使して迅速かつスピーディーにそれを解決! 立ちはだかる者は何人たりとて容赦はしない! そして俺は極めてみせる――文化の真髄を!」 ログハウスの壁が所々抉り取られ、クーガーのアルター能力『ラディカルグッドスピード(脚部限定)』を形成するための糧となる。 上げていたサングラスをスチャッと装着し、クラウチングポーズ。鉄砲でも鳴らせば、すぐにでも飛び出していきそうな体勢だった。 「と、いうことでセナスさん。俺は先にホテルへ帰還し状況を確認してきます。 なーに心配はいらない。この俺にかかれば4000m程度の距離などたかが知れています。 すぐにセナスさんの下までお戻りし俺がラディカルグッドスピードでスピードの絶頂臨界点までご案内いたしま――」 「結構ですッ!」 セラスは力強く拒否を示し、クーガーはやれやれと首を振った。 無駄話はこの辺にしておこう。今は一刻も早く、連絡の取れなくなったホテル待機組の安否を確認しなくては。 「それではストレイト・クーガー…………行って参りむぁぁぁぁぁぁっすッッ!!!」 怒涛のスタートダッシュを見せたクーガーの背中はあっという間に遠ざかっていき、その速度を見たらセラスはまた気分が悪くなった。 「ぅぷ……みさえさんたち大丈夫かなぁ……てか私も大丈夫かなぁ……おぅっ」 仲間の窮地は心配だ。だがそれ以上に、あのスピードに対する拒否信号が強すぎた。 セラスは未だ回復の目処が立たぬ吐き気を治めるため、いそいそとログハウス内のベッドになだれ込んだ。 ――これもまた、序章のほんの一部。 【F-7/1日目/夜】 【ストレイト・クーガー@スクライド】 [状態] 健康 [装備] ラディカルグッドスピード(脚部限定) [道具] 支給品一式 [思考・状況] 1:ホテルへ急行。状況を確認する。 2:1が終わったらセラスを迎えに戻る。 3:そのあと宇宙最速を証明する為に光と勝負さしてくださいおねがいします。 4:なのはを友の下へ連れてゆく。 5:証明が終わったら魅音の下へ行く。 【F-7/ログハウス/1日目/夜】 【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】 [状態]:腹部に裂傷(傷は塞がりましたが、痛みはまだ少し残っています)、激しい嘔吐感 [装備]:AK-47カラシニコフ(29/30)、スペツナズナイフ×1、食事用ナイフ×10本、フォーク×10本、中華包丁 [道具]:支給品一式(×2)(バヨネットを包むのにメモ半分消費)、糸無し糸電話@ドラえもん、バヨネット@HELLSING、AK-47用マガジン(30発×3)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ) [思考・状況] 1:うぷっ……思い出しただけで気持ち悪っ……しばらく休もっ……。 2:ホテルへは『徒歩』で帰還する。 3:キャスカとガッツを警戒。 4:ゲインが心配。 5:アーカードと合流。 6:Q、もう一度ラディカルグッドスピードの速さを体感したいと思いますか? A、いいえ。 [備考]:※セラスの吸血について。 大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。 原作のような大幅なパワーアップは制限しました。また、主であるアーカードの血を飲んだ場合はこの限りではありません。 ◇ ◇ ◇ 押し寄せてきたのは数多の瓦礫。 攻め立ててきたのは巨大な重圧。 (俺は……) 自分の身がどうなったのか、それすらも分からない。 誰かを庇って必要以上に傷を負ったような気もするし、運悪く足元の崩落に巻き込まれたような気もする。 (俺は……終わったのか?) 居場所も、傷の度合いも、意識の途絶える直前の状況も分からない。 そんな気弱にならざる得ない状態で男が思ったのは、大柄な体躯に似合わぬ絶望的な結果だった。 (……いや、違うな。終わってなんかいねぇ。これはまだ始まったばかりだ) そんな絶望は、すぐに頭で掻き消した。 今こうやって思考をしているということは、脳が終わっていない――つまり、生きていることに相違ない。 (始まったばかり、か。……それも違うな。まだ始まってすらいねぇんだ。俺にとっちゃな) そう、これはまだ序章とも言えぬ書きかけのページの一部に過ぎない。 誰が主役となるか、どんな結末を迎えるか、誰にスポットライトが当たるのか――それはまだ未知数なのだ。 (俺は、俺がやるべきことをやるだけさ…………グリフィス!) 闇の中に宿敵の幻影を捉え、男は奮い立った。 ――序章が終わり、第二幕が始まる。 【D-5/詳細位置不明(瓦礫の下?)/夜】 【ガッツ@ベルセルク】 [状態]:詳細不明【元の状態:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)、精神的疲労(中)】 [装備]:カルラの剣@うたわれるもの、ハンティングナイフ、ボロボロになった黒い鎧 [道具]:なし [思考] 0:??? 1:ホテルでセラスらの帰りを待つ。 2:契約により、出来る範囲でみさえに協力する。他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。 3:まだ本物かどうかの確証が得られてないが、キャスカを一応保護するつもり。キャスカに対して警戒、恐怖心あり。 4:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。ただし相手がしんのすけかグリフィスなら一考する。 5:ドラゴン殺しを探す。 6:首輪の強度を検証する。 7:ドラえもんかのび太を探して、情報を得る。 8:翠星石の証言どおり、沙都子達ひぐらしメンバーが殺人者か疑っている。 9:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。 基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集。 最終行動方針:ギガゾンビを脅迫してゴッド・ハンドを召喚させる。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、愛する男の子のことで頭がいっぱいだった。 高町なのはは、ホテルを壊そうとする女の子を宥めるのに必死だった。 キャスカは、戻るべき場所と帰すべき男のことだけを思い、剣を振るった。 ゲイン・ビジョウは、自分の犯した失態にケリをつけようと躍起になっていた。 野原みさえは、崩落の恐怖に怯えながら自分にできることを模索していた。 翠星石は、姉妹たちの死を知ることなく過ちを犯し続けていた。 アーカードは、迫り来る強者たちとの戦いにただその身を焦がすのみだった。 園崎魅音は、悲しみに抗いながら一心不乱に復讐を果たそうとしていた。 獅堂光は、大切な仲間を守るために友が残してくれた剣を構えた。 フェイト・T・ハラオウンは、今は亡き女傑のためにも親友との再会を強く望んだ。 タチコマは、新たな相方と共にただひたすら北へと爆走を続けていた。 ゲイナー・サンガは、チャンプとしての腕を有効に使おうと再度マニュアルを眺め始めた。 ストレイト・クーガーは、速さ=文化を証明するため走り続けた。 セラス・ヴィクトリアは、押し寄せてくる嘔吐の波と壮絶な戦いを繰り広げていた。 ガッツは、いずれ訪れるであろう宿敵に戦意を沸き立てていた。 【ホテル現状】 ※現在五階から上の階層が完全に倒壊状態。 四階以下のフロアも現在進行形で倒壊が進んでおり、予断を許さぬ状態です。 外壁にも無数に穴が空いており、そこからの侵入、脱出も可能です。 長く見積もっても夜中(20時~22時)に突入する頃には完全に崩壊します。 時系列順で読む Back 「ゼロのルイズ」(前編) Next 最悪の/最高の脚本 投下順で読む Back 「ゼロのルイズ」(前編) Next 最悪の/最高の脚本 207 「ゼロのルイズ」(前編) ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) 高町なのは 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) キャスカ 221 鷹の団(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) ゲイン・ビジョウ 221 鷹の団(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) 野原みさえ 221 鷹の団(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) 翠星石 221 鷹の団(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) アーカード 213 FOOLY COOLY 207 「ゼロのルイズ」(前編) 園崎魅音 213 FOOLY COOLY 207 「ゼロのルイズ」(前編) 獅堂光 213 FOOLY COOLY 207 「ゼロのルイズ」(前編) フェイト・T・ハラオウン 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) タチコマ 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) ゲイナー・サンガ 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編) 207 「ゼロのルイズ」(前編) ストレイト・クーガー 213 FOOLY COOLY 207 「ゼロのルイズ」(前編) セラス・ヴィクトリア 214 「ゴイスーな――」 207 「ゼロのルイズ」(前編) ガッツ 221 鷹の団(前編)
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前ページ次ページゼロのエルクゥ ニューカッスル城の港は、大陸の真下に存在した。 雲と大陸そのものに覆われて真っ暗な中を空飛ぶ船が進むのは、さすがの耕一もいささか肝を冷やした。 「なに、我が王立空軍の航海士には造作もないことさ。真に空を知る者は、奴らのような恥知らずどもに与したりはせぬよ」 ウェールズは耕一の正直な感想を、そう笑い飛ばした。 二隻の船は、大陸の真下にぽっかりと開いた鍾乳洞のような洞窟に、するすると滑り込んでいく。 ヒカリゴケで十分に明るいそこには多くの兵士達が待機していて、イーグル号に続いてマリー・ガラント号が港に入ってくると、割れるような歓声を叫び出した。 網の目のようなたくさんのロープに繋がれ、並んだ丸太の上にどすんと腰を下ろした船に、まるで飛行機から偉い人が降りてくる時のような木製のタラップが取り付けられ、ウェールズがそれを降っていく。 「ほほ、これはまた、大した戦果ですな、殿下」 「喜べパリー。積荷は硫黄だ! 硫黄!」 「ほほう、硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も守られると言うものですな!」 近寄ってきた老人と、手を叩いて喜び合うウェールズ。 老人は戦果であるマリー・ガラント号を見て、おいおいと泣き始めてしまった。 「先の陛下よりお仕えして六十年……こんなに嬉しい日はありませんぞ、殿下。反乱が起こってからというもの、苦汁を舐めっぱなしでございましたが……なに、これだけの硫黄があれば」 泣くのをやめた老人とウェールズが、朗らかに笑った。 「王家の誇りと名誉を、余すところなく叛徒どもに示す事が出来るだろう。始祖にも胸を張って拝謁賜る事が出来るというものだ」 「くく、この老骨、武者震いが致しますぞ」 洞窟を歩きながらひとしきり笑いあう。 始祖に会う―――つまりは、死後の世界へ行くというハルケギニアの言い回しに、ルイズと、なぜかそれを理解できてしまった耕一の顔が強張った。 「状況は?」 「きゃつらは数に任せて包囲を敷きながら、未だに沈黙を保っておりまする。総攻撃は近いと思われますが……」 「布告もなく仕掛けてくるほど恥知らずではないと思いたいものだな」 「全くです。ところで、後ろの方々は?」 皮肉げに一つ笑みを浮かべた後、老人がウェールズの後ろについていたルイズ達を、興味深げな視線で見つめた。 「トリステインからの大使殿一行だ。重要な用件で、我が王国に参られたのだ」 老人は、一瞬だけ、ぱちくりとまばたきをすると、次の瞬間には柔らかい仕草で敬礼をしていた。 「これはこれは大使殿。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。わたくし、殿下の侍従を務めさせてもらっております、パリー・ベアと申しまする。大したもてなしは出来ませぬが、どうぞゆるりとなさっていかれませ」 「パリー・ベア? その名、どこかで聞いた事が……」 侍従だと言うその老メイジに、ワルドの瞳がキラリと光った。 「防衛戦を特に得意とし、『鉄壁』のパリーと呼ばれた名将軍だ。じいやがいなければ、とっくの昔に王党派は蹴散らされていただろうな!」 「ほう! 『鉄壁』と言えば、アルビオンのイージスとまで謳われた、あのベア元帥ですか! ご高名はかねがね」 「かっかっかっ。誉めすぎですぞ殿下に大使殿。昔取った杵柄というやつですわい」 「敵の策にはまって本陣が奇襲を受けた際、前王ジェラール一世の盾となり、襲いくる剣戟や魔法を全て剣一本で捌ききったという逸話は、士官学校では必ず話題に昇りますからな。いや光栄です」 ワルドも混ざった軍人連中が話に花を咲かせながら連れ立っていくのに、ルイズと耕一は所在なげに付いていくのだった。 § ウェールズの居室は、まがりなりにも城の天守に存在する部屋にしては、質素そのものと言っていい部屋だった。 粗末なベッドに椅子とテーブルが一組。飾りらしきものは、壁にかけられた戦の様子を描いたタペストリーのみ。よっぽど、魔法学院の寮の方が豪奢と言える。 ウェールズは椅子に腰を下ろし、引出しを開いた。中には、宝石をあしらった、小さな小箱が一つ。 それを、またあの―――清冽な諦めの目で見据えると、身につけていたネックレスについていた小さな鍵で、その箱を開けた。 中には、端々が擦り切れた手紙が一通入っていた。蓋の裏には、この前見た本人よりは少し幼い面影を持つアンリエッタの肖像が描かれている。 「……宝箱でね」 3人の視線が箱に集まっている事に気付いたウェールズは、はにかむように言った。 手紙を取り出し、愛おしそうな、それでいて―――やはり、届かぬものを見やるような目でそれに口付け、手紙を開いて読み始めた。 端がぼろぼろなのは、何度もそうやって読み返されたからなのだろう。 何度目かもわからない、まるで一つの儀式のようでもあったそれを終えると、ウェールズは丁寧に手紙をたたみ、封筒に戻した。 「これが件の手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 「……ありがとうございます」 ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取った。 「貴族派からの攻撃予告があり次第、例の隠し港から、非戦闘員である女子供を乗せてイーグル号とマリー・ガラント号が出港する手はずになっている。おそらくは今日明日中になるだろう。それに乗って帰るといい」 「はい……」 「部屋を用意させよう。大使の任、ご苦労だった。今日はゆっくり休んでくれ」 「…………」 「どうか、したのかね?」 ルイズは、しばらくの間、手紙を見つめるようにじっと俯いていたが、やがて顔を上げ、潤んだ目をウェールズに向けた。 「殿下。失礼ですが、少し聞かせていただいてもよろしいですか? 「なんなりと答えよう。明日にも滅ぶ王国に、何も隠し事などないからね」 ルイズの顔が歪む。そのウェールズの言葉が、ルイズの聞きたい答えであるらしかった。 「……やはり、勝ち目はないのですか」 「ないよ。我が軍は三百。対して反乱軍は五万を下らぬ。どれほどの奇跡が起これば勝てるのか、見当もつかないな」 「死ぬ、おつもりなのですか」 「ははは。負け戦こそ武人の華。死ぬつもりも負けるつもりも毛頭無いが、いつでも覚悟はしているさ」 「……殿下」 先程の侍従の老人とのやりとりといい、この戦いで真っ先に散るつもりなのだ、というのは、ルイズにもわかった。 「……恋人を置いて、ですか?」 「こ、コーイチ?」 何も言えなかったルイズの次を、耕一が続けた。 「…………アンリエッタから聞いたのかい?」 「いいえ。……同じような境遇の人を、見知っているので。お姫さまも、あなたも……その人達に、よく似た表情をしていました」 「そうか。まあ、珍しくもない話だからね」 ウェールズは、特に感情もなく微笑んだ。 「姫さまの、お手紙をしたためる時の切なげな表情と……殿下の、お手紙を読まれる時の物憂げな表情は、そういう事だったのですね」 ルイズは、どこか納得したように頷いている。 「では、この姫さまから贈られた手紙というのは……」 「……想像の通り、恋文だよ。始祖の名の元に愛を誓っている、ね」 「始祖ブリミルへの誓いは、婚姻の際に行われる永遠のもの……なるほど、確かに、政略結婚とはいえこれから結婚する相手が別の男にそんなものを贈っていたとなれば、ご破談になる可能性は少なくないでしょうな」 ワルドが捕捉すると、ウェールズは重く頷いた。 「殿下と姫さまが恋仲であったというのなら……なぜ、なぜ死のうとなさるのですか?」 「もう昔の話さ」 「嘘です! 姫さまも殿下も、昔の事だなんていう表情ではありませんでした!」 ルイズは、熱っぽく声を荒げた。 「殿下! トリステインに亡命なされませ! 殿下さえご健在なら、きっとアルビオンを再興する事も……!」 「ルイズ」 ワルドがその肩を掴む。しかし、ルイズは止まらない。 「お願いです。姫さまは、愛する人が死ぬとわかっていて見捨てるような方ではありませぬ。きっと、先程の封書にも、亡命を勧める一文があるはずでございます……あの時の、あの時の姫さまが、お苦しそうに最後に書き付けたのは、それのはずでございます!」 搾り出すようなルイズの言葉は、正鵠を射ていた。密書の最後に、付け足されたように掛かれた一文は、彼に生き延びて欲しいと言う嘆願であった。 「私の知っているアンリエッタは……自分の情のために、民を危険に晒すような人ではないよ。ミス・ヴァリエール」 「で、殿下?」 「反乱軍……『レコン・キスタ』の大義は三つ。我らテューダー王家は統治者として相応しくないという事。ハルケギニアは一つに統一されるべきであるという事。そして……『聖地』を奪還するという事だ」 ウェールズの真剣な顔に、ルイズは言葉を呑む。 「王家に対する反乱である以上……その一員である私が亡命するという事は、亡命先の国は、統治者に相応しくない王家をかくまった国であるという事になる。戦争を仕掛ける口実としては、十分だ」 「そんな……あんな恥知らずどもの言う事なんて……っ!」 ウェールズがトリステインに亡命すれば、間断無くトリステインまでもが戦渦に巻き込まれる。言葉では反論するが、ルイズの目はウェールズの言葉の正しさを悟っていた。 「ハルケギニア統一を謳っている以上、時間の問題ではあるかもしれんが……少なくとも私の亡命は、その何よりも大切な時間を限りなくゼロにする効果しかない。私も、アンリエッタも、王家に産まれた者として、守るべきものがある。わかるかい、大使殿?」 「…………殿、下」 そこまで言われて、ようやくルイズにも気が付いた。彼は、アンリエッタを庇っているのだと。ここで果てるつもりなのは、アンリエッタを想う故でもあるのだと。 「我ら王家は、内憂を払う事叶わなかった。今ここでこうしている事そのものが、我らが統治者として相応しくないという貴族派の主張が正しい事の裏付けなのだよ。ならば、王が守るべきもの―――国の民達の為、戦いなど一刻も早く終わらせるべきなのだ」 「殿下……」 ウェールズの語る覚悟の深さに、ルイズとワルドが神妙に頭を下げる。 どうしようもなく正しい言葉だった。ハルケギニアの人間ならば、誰にも二の句が告げないような。 ―――しかし。彼は、柏木耕一は、ハルケギニアの人間ではなく。 その正しい選択がもたらす悲劇を、知り抜いていた。 「少し、昔話をしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」 目を閉じ、酷く静かな―――どこか、怒っているような、それとも泣いているような―――平坦な口調で、耕一はそう切り出した。 「……コーイチ?」 ルイズは、これまでどこかのんびりとした態度を崩さなかった自らの使い魔が初めて見せる雰囲気に、目をパチパチと瞬かせた。 「ふむ。そう長くならないのなら、聞かせてもらおう。どんな話なのかね?」 ウェールズは、微笑みで答えた。 「そうですね。題は―――『雨月山物語』」 耕一は目を閉じたまま……何かを思い出すように、口を動かし始めた。 「"それは、遠い遠い昔の事。遥か東の地にある雨月という山に、何処ともなく現れた悪い鬼の一族が住み着きました―――"」 § 鬼は、人を狩る事が生き甲斐の化け物でした。 人が死ぬ間際に、蝋燭の炎のように一瞬燃え上がる生命の炎を何よりも好み、その為だけに人々を殺して回りました。 大木を次々と薙ぎ倒して山中を進み、妖しき数多の術を用いて村々を焼き放ち、強靭なる体躯を以って人々を引き裂き、その地に住んでいた人々を震え上がらせました。 時の領主は討伐隊を派遣しますが、二度組織された討伐隊は、二度とも散々に討ち滅ぼされてしまいました。 それは、二度目の戦いの事でした。 次郎衛門は、第二次討伐隊に参加していた剣士でした。 戦いの前夜。彼は近くの河原で、一人の少女と出会います。 言葉が通じない、異国の出で立ちをした少女。不器用な身振り手振りだけの、しかし心温まるやりとりは、これから戦に向かう次郎衛門の心を明るくさせてくれました。 しかし、鬼達の妖術によって炎を浴びせかけられ、炎の中を押し寄せた鬼の群れに襲われ、討伐隊は全滅を喫します。辛くも生き延びた次郎衛門も、辿り着いた河原に倒れ、生死の境を彷徨います。 その時、炎の中から現れたのが、その少女でした。 少女は、鬼達のお姫さまであったのです。 鬼の姫は、河原で倒れている次郎衛門に、自らの血を飲ませました。 すると、今にも死ぬ寸前であった次郎衛門の体が、みるみると回復していきました。 鬼の血を飲んだ次郎衛門の身は鬼と化し、鬼の強靭な肉体を手に入れたのです。 鬼の姫の名前は、エディフェル。鬼と変えられた事で、言葉が通じるようになっていました。 近くの小屋で目を覚ました次郎衛門は、しかし、呪わしい鬼へと体を変えられてしまった怒りを、ずっとそばで看病してくれていたエディフェルにぶつけました。 怒りと恨みにむせび泣く次郎衛門を、エディフェルは優しく抱きしめ続けました。 エディフェルは、次郎衛門との触れ合いで、彼を愛してしまっていました。 次郎衛門も、自分の怒りを優しく抱きとめ続けられるうちに、一時会っただけのこの少女に一目惚れしていた事に気付きました。 二人は愛し合い、夫婦となります。 人里離れたところでひっそりと暮らすしかありませんでしたが、二人は互いさえ居ればそれだけで幸せでした。 しかし、幸せは長くは続きませんでした。 人間を助け、人間と夫婦になったエディフェルは、人を狩る事が生き甲斐の鬼からすれば、許されない裏切り者だったのです。 彼女の姉である一番上の鬼の姫、リズエルの手によって、エディフェルは殺されてしまいます。鬼の掟では、裏切り者は身内の手によって罰せられなくてはなりませんでした。 今際の際、エディフェルは、姉を恨まないでと言い残しました。全てわかっていた事だからと。 次郎衛門は、いつまでも泣き続けました。そして涙が枯れ果てた頃、その心にあったのは、愛する者を奪った鬼に対する、激しい怒りでした。 そんな次郎衛門の元に、一人の少女が訪れます。 彼女の名前はリネット。エディフェルの妹でした。 末娘である彼女と、妹であるエディフェルをその手にかけた長女のリズエル、次郎衛門達とは別に、一人の人間の少女と交流を持った次女、アズエル。 三女であるエディフェルを亡くした鬼の皇女の四姉妹達は、それぞれの理由で、人を狩るだけという鬼の在り方に疑問を持ち、復讐に燃える次郎衛門に力を貸しました。 彼女達の助力もあり、次郎衛門がリーダーとなって組織された3回目の討伐隊によって、鬼達は見事退治されました。 しかしその中で、リズエルは敵の大将に殺され、アズエルはその人間の少女を庇って死んでしまいました。 リネットは生き残り、次郎衛門の妻となりました。彼女が力を貸したのは、次郎衛門を愛しているからだったのです。 しかし、共に暮らす次郎衛門の心からエディフェルの事が忘れられる事は、生涯なかったのでした……。 § 「―――めでたし、めでたし」 「…………」 「…………」 「…………」 3人は、耕一の話をじっと聞いていた。それぞれに思うところがあるのか、退屈そうな顔は誰もしていなかった。 ふうっ、と、緊張をほぐすように、ウェールズが小さく息を吐く。 「……なかなか興味深いお話だったよ。でも、それをなぜ私に?」 「いえ。ただ、参考になればと思っただけです……残される者の想いと物言わぬ優しさが、さらなる悲劇に繋がる事もあると」 「……そうか」 ウェールズはさっと目を伏せ、すぐに顔を上げた。窓から、とっぷりと日が暮れた外を見やる。 「少し話が長くなったようだね。今日はもう休みたまえ」 § 「…………」 窓から覗くアルビオンの空は、どことなくトリステインのそれよりも高い気がした。実際高いのだから当たり前だが、目に見えて違うわけでもないなあ、とかそんなどうでもいい事を考えながら、ワイングラスを少しだけ傾けた。 以前に家族と旅行で来た時は、そんな事を思った記憶もない。空なんて気にもならなかった。 「窓辺で物思いに耽る姿もなかなか様になっているね、ルイズ」 「からかわないで、ワルド」 「……本気のつもりなんだがね」 向かいの椅子に座るワルドが、同じくグラスを傾けながら苦笑している。 「…………ジローエモン、エディフェル」 聞き覚えのあるその名前を、小さく呟く。 確かに覚えている。その名前を。燃え盛る炎の中、再会を誓って死出の口付けを交わした男女の夢を。 ―――あの夢は……一体、何? コーイチ自身の過去なのだろうか? ……いや、あの時の男の声は、コーイチのものとは違っていた。夢の中では男そのものになっていたのだから、間違えるはずはない。 自分の声は、自分で聞くものと他人に聞こえたものとでは違う、という話は知っていたが、それでも違いは明らかだ。夢の中のそれは、野太く逞しく、熟しきった男の声だった。コーイチの声も太い方ではあるが、どこか清潔感というか、少年っぽいところが残っている。 では、本当に、ただのおとぎ話? いや、そんなはずはない。だって―――。 ぞくり、と背筋が震えた。あの、真っ赤に溶けるような激情を思い出す。 話をしていたコーイチからは……だいぶ穏やかになってはいたものの、同じ色のシグナルが感じられたからだ。 それは、ルイズと意識を通じあわせようとしていたわけではなく……溢れる感情を自分でも抑えきれずに周りに放出していたとか、そんな感じのものだった。 でも、じゃあ、何なのだろう。 あの夢は。あの昔話は。コーイチ自身は。エルクゥとは。そしてあの……想いは。 「……考えてわかる事じゃないわよね」 ルイズは頭を振り、そこで考えを打ち切った。夢は夢だ。あの光景が、耕一の語った昔話の実話だという証拠は何にもないのだし。 それでも……知りたいと思った。事実を知りたいと。 「考え事は済んだのかい?」 「ひゃっ!」 「おっ?」 ワルドがタイミングを見計らったかのように声をかけると、ルイズはびくっと椅子を引きつらせて驚いた。 「ず、ずっと見てたの? 趣味が悪いわ」 「はは。なに、話があったのだがね。物思いに沈む君も、存外に魅力的だったよ。驚く顔もね」 「……もう」 ルイズは唇を尖らせた。 ワルド子爵。この旅が始まってから、常に好意的に接してくれている貴族の青年。 本人は婚約者だからというけれど……その態度にはどこか違和感が付きまとい、素直に受け止められないでいた。 まだ子供扱いされているのだ、とルイズは考えている。事実、彼の振る舞いは、恋人にというより、甥や姪、友人の子供に対する親愛の態度のように思えた。自分自身より、自分に付随する親への親愛が先にあって、自分へのそれは二次的なもの。そんな感じだ。 それが不満か、と言われると、曖昧だ。 恋人に半人前扱いされたら普通は悔しくなるものだと思うが、特にそんな事は感じなかった。 歳と実力の差が開き過ぎていて、悔しいと感じるのも通り過ぎているのかもしれない。 物心ついた頃には憧れていた子爵様。長らく会う事もなかった彼がいきなり積極的になるなんて、まるで夢のようで、実感がないのかもしれない。 「ルイズ」 「なあに?」 「トリステインに帰ったら、僕と結婚しよう」 「ー――へっ?」 思わずワイングラスを取り落としそうになり、慌てて受け止めた。幸い、中身が零れる事はなかった。 「い、いきなり何を言い出すのよっ!?」 「いきなりじゃないさ。僕達は婚約者だろう?」 「そ、そうだけど……」 それでも、いきなりだ。ルイズはそう口を開きかけたが、なぜか言えなかった。 全て言葉の先を越されて言おうとした事を封じられる。そんな気がした。 「僕の事は嫌いかい?」 「そんな……嫌いなわけないじゃない」 「好きでは、ないのかい?」 「それは……」 ワルドの問いに、ルイズは答えられなかった。 嫌いではない。それは間違いない。 けれど、好きかと聞かれると、わからない。恋人として、夫として愛する、という事に、全く現実感が湧かなかった。 ルイズの成長は、いつも魔法の事と隣り合わせだった。『ゼロ』の二つ名を払拭する為の不断の努力。それが、ルイズを育んできた原動力だ。 周囲の女のように恋とか愛とかに現を抜かしている暇はなかったし、周囲の男なんて自分を侮蔑して罵倒するか侮り混じりに同情するかの二択だ。恋心なんて経験出来るはずもなかった。 「……恋とか、したことないの。だから、ごめんなさい。わからないわ」 「そうか……婚約者として、喜べばいいのか悲しめばいいのか、微妙なところだね」 言いながらも、ワルドの表情は、まるで貼り付けたかのように、優しい貴族のもののままだった。 「いや、これまで放っておいたのは僕だから、どちらもその資格はないかな。でも、僕は本気だ。僕には君が必要なんだ。それだけはわかってほしい」 「……『ゼロ』の私が、必要なの?」 なぜワルドはこんなに自分に固執するのだろう、と浮かんでいた疑問を、そのまま言葉にした。 わざわざゼロでちんちくりんで可愛げのない自分じゃなくても、魔法衛士隊の隊長のスクウェア・メイジともなれば、女の子には苦労しないだろうに。 「君は『ゼロ』なんかじゃない。僕にはわかっていた。あの、魔法を失敗ばかりして池の小舟の中で泣いていた君の姿に、僕は確かな才能を見つけていたんだ」 「才能……?」 自分からは一番遠い言葉だ。そんなもの、あるわけがない。 「そうさ。君はいつか偉大なメイジになる。始祖にも肩を並べるほどのね」 「……冗談はよして」 お世辞にしてもあまりにあまりだ。逆に気分が悪くなりそうだった。 「冗談なんかじゃない。普通のメイジには、亜人なんて使い魔に出来ないだろう。それも、あんな強力な亜人を、だ」 「それは……」 「彼はガンダールヴさ」 「ガンダールヴって……始祖ブリミルの」 聞き覚えのある単語だった。デルフリンガーが口走ったそれは……。 「そう。始祖が率いたという伝説の使い魔だ。彼に刻まれているルーンは、ガンダールヴのルーンなんだよ」 「そ、そんなの……」 聞くなり、荒唐無稽と斬り捨てた話。 あのボロ剣の言っていたそれが、本当だったとでもいうのだろうか? 「私は……」 ワルドの事。耕一の事。自分の事。世界の事。 何が嘘で何が本当か、お世辞なのか冗談なのか本気なのか事実なのか。ルイズはまるっきりわからなくなってしまった。 情報が足りない。推測する経験が足りない。あれだけ勉強したのに、頭の中に渦巻く言葉をまとめることも出来ない。どこに歩いていけばいいのか、わからない。 しかし、その混乱の中で……ただ一つ、わかった事があった。 「……時間をちょうだい、ワルド」 「時間?」 「帰ったらなんて、やっぱり急過ぎるわ。せめて、学院を卒業するぐらいまで……考えさせてほしいの」 答えを知りたい、とルイズは思った。 私は本当に『ゼロ』なのか。それとも、ワルドの言う通り、コーイチを真に使役できるような才能が眠っているのか。 これまで、『ゼロ』なんて嫌だと、目を閉じ耳を塞いでひたすらに走り続けてきた。『ゼロ』なんて認めない。ヴァリエール公爵家の娘がそんな事なんてありえない。必ず使えるようになってやると。使えるはずだと。 今、がむしゃらにでも進んでいた方向が、全くわからなくなった事で……ルイズは初めて、真実を知りたいと、強くそう思った。『ゼロ』である事が確定してしまうかもしれない恐怖より、事実ありのまま、本当の事を知りたいという欲求が勝ったのだ。 そうしてこそ、初めて前に歩き出せると。 それは奇しくも―――目の前の狂える求道者と、同じ結論であった。 「……そうだね。すまない、僕が急ぎ過ぎていたようだ。待っているよルイズ。君が君の答えに辿り着くのをね」 神妙な声でルイズから窓の外へと向けられたワルドの瞳は、しかし何者をも映していなかった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリスティン-2 ルイズがコルベールに死刑宣告された時、三人の会話はいったん途切れかけていた。 「ところで君、さっきから、気になったのだが契約や使い魔とは一体何の事だい?」 先ほどの会話の中で疑問に思ったことをニューがルイズに問いかける。 「聞いてなかったの!?アンタは私の使い魔になるのよ!」 「なんでだい?」「私があなたを召喚したからよ!」 二人の会話は落とし所の見つからない堂々めぐりになりかけていた。 (――気絶している間に契約しとけばよかった。) 二人の判断が正しかったことを悔やむ、ルイズにコルベールが助け船を出す。 「ミス・ヴァリエールいきなり説明もなしに契約というのは……私はこのトリスティン魔法学園の教師をしているジャン…コルベールと申します。あなた方三人のお名前をよろしいですか?」 「私はアルガス騎士団法術隊隊長法術士ニューと申します」 「自分はアルガス騎士団騎馬隊隊長騎士ゼータ」 「俺の名はアルガス騎士団 戦士隊隊長ダブルゼータだ」 三人がそれぞれ答える。 「コルベール殿、あなたは先ほど魔法学院と申されましたが、ここは騎士の養成所か何かですか?」 三人を代表しニューがコルベールに尋ねる。 「騎士の養成所ではないのですが……ここは貴族の子供たちを集めてメイジとしての教育を行う学校で、私たちはこの時期になると『サモン・サーヴァント』によって生物を召喚しそれを使い魔とするのです。本来『サモン・サーヴァント』で呼ばれるのは動物等がポピュラーなのですが……たまたま、気絶していたあなたたちが召喚されてしまったという訳です。」コルベールがそう告げる。 「コルベール殿、申し訳ないのですが我々三人はそれぞれアルガス騎士団の隊長です。我々には部下がおり、我々の帰還を望む人々がいます。我々はアルガスに帰らなくてはなりません。アルガス王国にはどちらに向かえばよいのでしょうか?」 ニューの言葉にコルベールは疑問符を浮かべている。 「その、一つよろしいですか?」「なにか?」 「先程から出てくるアルガスという国は何処にあるのでしょうか?」 「え?アルガス王国はスダ・ドアカワールドのノア地方にある国で、我々ガンダム族発祥の地と言われて小国ながら有名なのですが……」 二人の会話には些かのずれが生じ始めていた。 「スダ・ドアカワールド?あなたたちの地方ではハルケギニアのことをそう呼ぶのですか?」 コルベールは先程から出てくる聞きなれない単語に不安を覚える。 「私もハルケギニアという呼び名は初めて聞いたのですが……二人とも何か知っているか?」 ニューが後ろにいる二人に対して振り返る。 「あっ!あ!あぁ!」ダブルゼータが声にならない叫びをあげている。 「……どういうことだ?」落ち着きを払いながらもゼータも完全に混乱している。 振り返ると二人は何かに驚いている。 (ん?何かおかしなことでもあったのか?今の会話に変なところは多少あるが、そこまで驚く様な事もないだろうし……) 二人の様子と先ほどの会話を照らし合わせるがそれ程、誤答があるとは思っていない。 「どうした?お前たち、何を驚いているのだ?」「あぁあ、あれっ!あれっ!」 ダブルゼータが震えた指で日が暮れ始めた空を指差す。 ニューは指された指になぞり空を見る。そこで、ニューの思考は大打撃を受ける。 「おや、どうかしました?」「コルベール殿!!」「はっ!はい!」 いきなり声を荒げたニューにつられて、コルベールの声のトーンもつられて高くなる。 「あっ!あれは何ですか!?」二人と同じくニューの指した指に視線を向ける。 「月ですが、何か?」 「イエ!そーではなくて!!」 ゴルベールにはニューの驚きの理由が見つけられなかった。 「あぁ、まだこの時期だと夕方でも見えるもので「何で月が二つあるのですか!?」」 それが3人の驚きの理由の答えだった。 「はぁ?アンタ何言っているの、月は二つしかないでしょうが?」 コルベールに変わりルイズが至極当然のように告げる。 「月は一つに決まっているだろうが!」 正気に戻ったダブルゼータが声を荒げる。 「何言ってるのよ!月は一年中二つよ、それともあんたたちのところでは月が一つになる日があるの?」 「そんなわけあるかい!」 ダブルゼータが声を荒げる。 「ニュー……」 ゼータが何か憶測を持った顔で名前を呼ぶ。 「ゼータ……多分同じだろう……」 (――あの顔は私と考えは変わらないだろうな。) ニューはコルベールに声をかける 「――コルベール殿、我々は少し混乱しており、また、ある憶測があるのですが。それを確認するために、私たちの話を聞いていただけないでしょうか?」 (いいことではないだろうな……) その言葉を聞きコルベールはさらに顔を渋くした。 「わかりました、どうせなら、歩きながら話しましょう。どの道、我々は学院に帰らねばなりませんし……それに、もうすぐ夜ですので。」 コルベールの提案にニューは黙ってうなずいた。 「では、我々はさっき話した……」 ニューが話をはじめ皆が歩き出していた。トリスティン魔法学院の入り口に向かって。 ニューが自分の憶測を話し終えた時、目的地のトリスティン魔法学園入口に到着していた。 「では、あなた方はそのスダ…ドアカワールドという世界の騎士でジーク・ジオンなるものを倒した後に、ここに召喚されたというわけですか?」 ニューの話を聞いたコルベールは肯定でも絶対的な否定でもない曖昧さを含んだ声であった。 「はい、いろいろと違いがありますが、やはり最大の違いはあの月です。我々の世界にも月がありますが、月は巨大な物であり、いきなり二つになるわけではありません」 ニューは自分の憶測の最大の要因を挙げてコルベールに説明を続ける。 ハルケギニアもスダ・ドアカワールドも天文学がそれほど発達しているわけではない。 しかし、ガンダム族はノア地方のアルガス王国発祥といわれるが、それは月の民がアルガスにきた等、という俗説から来る事もあるくらいガンダム族と月の関係は深い。実際ニューの実家には、その昔ガンダム族が書いたとされる月や星についての本もいくつか見られる。しかし、ほとんどが解読できないためそれが事実であるかは分かる者はない。 「それに、数の差こそあれモビルスーツ族が全くいないというのは、おかしいと感じています。自分達も他の地方を見てきましたが、少なくとも人間だけの地方というものは見たことありません」 ニューに変わりゼータが話を引き継ぐ。 三人は自分たちが住んでいるノア地方だけではなく、アムロ達のいるラクロア地方に遠征している。そこでラクロアの城下町を思い出す限り自分達の住んでいる町とはそれ程のレベルの違いはなかった。何よりモビルスーツ族は珍しくはなかった。 「それに、気になったのですが、先ほどトリスティン魔法学校が貴族の子供を集めメイジを養成する施設と聞きました。この2点が私に引っ掛かりました。まず、学校なのですが、アルガスでは学校は幼少子供達に学問を教える施設であって彼女達くらいの年の生徒はいません」 スダ・ドアカワールドにも学校はある。だが、それは初歩の文字や計算を子供たちに教えるものであり、ましてや魔法を教えるものではない。 ニューやゼータの実家は騎士の家である。二人の教育は家庭教師の役目であり、それぞれ違う専門の教師達が彼らに教えたのだ。もちろんルイズたちにも幼少の頃から家庭教師がおり、彼女達の教育をしている。だがアルガスにはルイズくらいの年齢に学問を教える高等学問所は存在せず、彼女くらいの年齢で学問をするにはトリスティンのアカデミーの様な専門の施設になる。なお、騎士の二人はそういうのには無縁で、ルイズくらいの頃には騎士の従者として騎士の修業を積んでいた時である。 「また、我々の世界にも魔法があるのですが、使える物は限られており、このように巨大な学校という施設で教育することはできません」 ニューは魔法が使える自分の観点からも意見を述べる。ニューもまた、師匠である僧侶ガンタンクⅡから個別に指導を受けた。 アルガス騎士団では法術隊は二つの隊と比べて格が低かった。それは、能力の差ではなく数によるものであった。騎馬隊や戦士隊は馬の扱いが有る者や力の強い者がなれるが、魔法が使えるものとなると、前者に比べ絶対数が違うのだ。 ゆえに法術隊は訓練を完全に終えていない修行僧のジムキャノンを法術隊に組み込んだのだ。 団長のアレックスは法術隊の重要性を理解しており、冷遇する事はなかったが、代々騎士の出身が多い騎馬隊、そして騎馬隊のOBからは、それが不満とする声があったのだ。 「私も魔法が使えるものなのですがや「ええっ!アンタってメイジなの!?」」 ニューの話をかき消すようにルイズが大声を上げる。 「やってみせて!」 「何をだい?」 「魔法よ、アンタ魔法が使えるんでしょ!?」 ルイズがはじめてニューに対して好意的な表情を見せる。 「それはとても興味深い、魔法が使えるゴーレムなど私は見た事も聞いた事もありません。 ミスタ…ニュー、私からもお願いしますぜひ見せてください」 「確かに面白そうね、私も見たいわゴーレムさん」 「見てみたい……」 4人がニューに詰め寄られ、ニューは慌ててバランスを崩しそうになる。 (私が魔法を使えるのはそんなに珍しいのだろうか?) ニューは魔法を見せるのが、見世物芸を見せるような心境であった。 とりあえず、標的となりそうな物を探し近くの木にする事を決めた。 「では……ムービーガン。」 そう言って手より光弾を放つ、音の無い光弾は一瞬で木に着弾し、鈍い衝撃音を立て折れた木が倒れこむ。 ムービーガン それはニューの中では比較的弱いほうの部類にはいるが、魔法を苦手とすつ技のバーサム等は、ほぼ一撃で仕留める魔法であった。 「今のが私の魔法なのですが……おや?どうかしましたか?」 振り返ると4人とも程度の差はあれ驚いている。 (――あまり大したことないのかなぁ?) もっと強い魔法を使えばよかったのだろうか?そう思っていると―― 「すごいじゃない!!ねぇ!あんた何のメイジなの?火!風!クラスは?ライン?トライアングル?何今の!?詠唱も無しにバッと飛んだと思ったらバキッ!て木が折れちゃうし!もしかして先住魔法なの!?解った!!ブリミルが残した対エルフ用汎用人型最終決戦ゴーレムね!?」 ルイズが興奮と驚きの様子でニューに質問の雨を浴びせる。 ニューはルイズを抑えるべき教師のほうに向くと、その教師の方もそう変わらなかった。 「ミスタ・ニュー何ですか今のはっ!?私も始めてみましたよ!驚きましたよ、確かに我々とは全く違う!これは大発見です!これは他の魔法も見せていただいてもよろしいでしょうか?」 止めるどころか興味と好奇心と他の何かを持った、コルベールの瞳はニューに恐怖すら与える。 「ねぇタバサ今の見た?ゴーレムって魔法が使えるのね!?」 「びっくり……先住魔法かも……」驚いているがタバサの表情は変わらない。 前の二人と比べ驚きの中に喜びがない分、二人はまだ落ち着いていた。 「……ゼータ……俺達、蚊帳の外だな……」 「あぁ……そうだな……」 会話の中に入らなかった二人はニューに詰め寄る二人を見ながら少しの寂しさと蚊帳の外にいる安堵を感じていた。 「3教えてあげる、私の二つ名は『微熱』よ」 微熱のキュルケ トライアングルのメイジ MP 380 「4その程度で俺を止められるかぁっ!」 闘士ダブルゼータ キュルケと契約する。 HP 1130 前ページ次ページゼロの騎士団
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前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 5 「夢芝居と落ちこぼれ」 ルイズはその時、乾いた金属音を聞いた。 その音の方向を見ると、そこには彼女の知っている人物が片膝をついていた。 (ニュー!) ルイズの声は届かずに、ニューは片膝を着きながら、衝撃で痺れた手を押さえていた。 その様子を見ていた、一人が声をあげる。 「勝負あり、そこまで!」 審判を務めていたであろう者は、ニューと同じような人物だった。 少なくとも人間には見えない。 ルイズにはいきなりの状況に、訳が分からなかったが、近くにもう一人見知った顔が居た。 (ん、何をやっているのかしら?あ、あれはゼータじゃない) 気付かなかったが、対戦相手は彼女の友人の使い魔のゼータであった。 おそらく、練習試合なのだろう――訓練場の様な場所を見てルイズはそう考える。 剣の技量は知らないが、ニューがゼータ相手に勝てるとはルイズも思わなかった。 「ありがとうございます」 ゼータがニューに試合後の礼をする。だが、そこには充実感や爽快感はなく、一種の含んだ空気が漂っていた。 その原因は外野の空気に思えた。 (またかよ、5戦全敗) (ゼータが強いと言う事を差し引いても、これは異常だよな……) ルイズの耳に、誰ともわからない声が聞こえる。複数の男達の声が聞こえる。 (え!何?何の声?) 誰とも知れない声に、周りにいる人物たちを見渡す。その顔には、蔑むような視線がルイズにも見てとれた。 ルイズにはその声が解らなかったが、周りの空気から何となく事情を読みこめた。 彼は馬鹿にされている――自分の様に クラス内でルイズに対する視線と、今のニューに対する視線は同じ物を感じる。 だが、これは何なのだろう。思い当たる事は、つい最近の出来事。 (これは、夢、ニューの昔って事かしら) 数日前に見た夢に似ていると何となくルイズは感じ取った。 (そう言えばアイツ、騎士になりたいって、言ってたわね……) 以前、教室の掃除の際の話をルイズは思い出していた。 (しかし、アイツって魔法は使える割に、剣は本当に駄目だったのね) ゼータの技はルイズも知っているが、それでも差があると思った。 あの時は謙遜とは感じなかったが、こうまで酷いとは。 (いつも偉そうな割に、こんな所もあったのね) 彼女の知っているニューは、どちらかと言えば自信家で毒舌な人物である。 自身を馬鹿にしてはいないが、少なくとも尊敬しているとは到底思えない。 だから、今の落ち込んだ顔を見て、少し微笑む。 それから、誰も居なくなった訓練場に、ニューとルイズが残される。 (慰めてあげようかしら) 優越感からそんな事を考える。 しかし、これは夢の為ルイズに気づかないのだった、ニューは近くに落ちた剣をじっと見つめている。 「はぁ、僕には才能がないのかな……」 肩を落として溜息をつく。 ゼータだけでは無い、昨日は弟弟子のリ…ガズィにも敗れた。 ある程度わかっていたことであったが、それでも、この現実は辛い物がある。 その様子を、最初はいい様と思っていたが、段々といたたまれないものを、ルイズは感じ始める。 才能がないのかな…… 自分もよく口にする言葉、人の居ない所で練習して失敗する。 そして、いつもその言葉に落ち着く。 聞こえないとはいえ、何か声をかけたい。 その思いもむなしく、ルイズに声が響く。 (……いつもの所に行くか) 数秒考え込んだ後、深呼吸してから立ち上がり、ニューは歩き出した。 ニューの後を付いて行くと、そこは図書館の様であった。ニューが部屋に入ると、また人間とは違った者が出迎える。 緑色の体にローブをまとい、ニュー達と違い青いゴーグルで覆われている。 ルイズは知らないが、彼は法術隊の中で、もっとも古株の僧侶 ガンタンクⅡであった。 「ガンタンク殿、お邪魔します」 「こんにちは、ニュー殿」 やってきたニューに対して、ガンタンクは丁寧に挨拶をしてから、二人は手近な椅子に座る。 「また、ご教授して貰いたいのですがよろしいですか?」 「ええ、良いですよ」 ニューの申し出に、ガンタンクは喜んで応じる。 ルイズが何をするのか見ていると、ガンタンクは何やら話し始めたようだ。 (講義なのかしら) 詳しい内容は分から無いが、それは魔法学院で聞く講義の内容に似ている気がした。ニューはその話を聞きながら、何度も頷いている。 向かい合う様は生徒と教師の一言に尽きる。 タンクの言葉が途絶える。どうやら、終わりらしい。 次に、杖を取り出してガンタンクが魔法を唱える。 「では、今度は実践してみましょう。ミディ」 手から柔らかい暖かい光があふれる。 ミディ――ガンタンクの魔法は、ニューが使う魔法の中でも簡単なものである事をルイズは知っていた。 ニューも続いて、魔法を唱え手から暖かい光が溢れ出す。 どうやら、剣とは違い魔法の方は本当に才能があるようだ。 少なくとも未だに、魔法が正確に使えないルイズにはそう思えた。 タンクは休憩を促し、お茶を持って来る。 「しかし、貴方は勉強熱心ですな」 一息ついた所で感心したように、タンクはニューを見る。 タンクがニューに魔法を教え始めたのはここ一か月ほどの事であるが、少なくとも簡単な魔法でもこれほど早く習得するとは思いもしなかった。 「僕は剣が下手ですので、せめて簡単な魔法が使えたらと」 ニューがお茶を飲みながら、それに答える。 騎馬隊の中にはごく少数ながら、簡単な回復魔法が使える物が居る。ジムスナイパーⅡやジムコマンド等はリ…ガズィやゼータには剣で劣るが、そう言った面で貢献している。 ニューが自身に魔法が使える事に気がついたのは最近であり、今ではタンクの下で暇な時に教えを請う事が日課であった。 そして、この時間が弟弟子達への劣等感と訓練で負け続けるニューにとっても心の支えとなっていた。 (剣では貢献できないかも知れない。けど、こう言った事でみんなに貢献できるかもしれないから) ニューの心の声はルイズにも聞こえていた。 タンクはそんなニューの葛藤には気付いているか分からない曖昧な表情を浮かべる。 あるいは、それに気付いているのかもしれない。 「しかし、貴方はもっと修業を積めば法術士になれるかもしれないのに、本当に勿体ないですな」 タンクが残念な感情を含んだ声で呟く。 今ではほとんど見る事がなくなった職業 法術士――回復だけでは無く、数多の攻撃魔法を使いこなす法術士は今では幻と呼ばれていた。 興味深く耳を傾けるニューに、タンクは思う所があるのか話を続ける。 「貴方なら伝説の魔法ギガ・ソーラも使えるかも知れません」 「ギガ・ソーラとは?」 ニューもその様な魔法は聞いた事無かった。 ここにきて、いろいろな魔法を聞いたがその魔法は初めて聞くものがあった。 「ギガ・ソーラは伝説の魔法と言われています。その力は絶大で戦局にも影響を与えると言われました。 しかし、絶大故に術者にも多大な負担を与える為に使える者がほとんど居なくなってしまいました」 「そんなにすごい魔法なのですか」 昔話を聞いた子供の様に、ニューは顔を輝かせる。 (僕も修行すれば、そのような凄い魔法が使えるのだろうか) ニューはなんとなくそんな事を思った。 反対にルイズは疑問の表情を浮かべる。 (そんなすごい魔法、ニューは使えるのかしら?) ニューの魔法を見てきているが、ギガ…ソーラだけはルイズも見た事がなかった。 「……話しはそれくらいにしましょう、ところで、どうですか、本当に法術隊に入りませんか?うちは人手不足なんです、貴方が来てくれたら歓迎しますよ」 先程までとは違い、声に戯れは感じない。 それを感じ取り、ニューも表情を硬くする。 「申し訳ありません、僕は騎士になりたいのです」 タンクの声を聞いて、ニューも申し訳なさそうに答える。 (私は、お爺様や父様みたいに立派な騎士になりたかったんだ) ニューの言葉がルイズの心の中によぎる。 何となく何かを理解したのか、タンクはニューの顔を見て顔を崩す。 「そうですね、人には生き方があります。貴方はまだ若い、後悔しないはずがありません。だから、貴方の出来る事を、貴方にとっての答えを見つけなさい」 (え!……今の言葉、私に言った言葉じゃない) ルイズの意識は、その言葉を最後に遠くなった。 夢から覚めたのかと思ったら、どうやら違う様であった。はっきりとは分からないが屋内に居るのだろう。 外は暗く、感覚はないが、何となく音で雨の気配を感じた。 そして、その室内にはうす暗い明かりの中十数人の人の気配を感じる。 「この雨が、我々の命を繋ぎ止めているのであろうな」 アレックスが窓から外を見ながら、緊張した面持ちで呟く。 丘の様になった地形から、アレックスに習い窓から外を見ると、少し離れた所には無数の明かりが森の中から見えていた。 「国境にまで偵察に来てみれば、これ程までの敵と遭遇するとは……」 この間までの均衡状態とは違い、近頃のアルガス王国は世代交代もあり、ムンゾ帝国に後れをとっていた。 アレックスはそれを感じ取り、今回国境まで威力偵察にきた。 しかし、ムンゾ帝国も同じ事を考えてたらしく、遭遇戦となる。 敵は九百近い数でありアレックスは退却を決断する。 幸い、歩兵を中心としたムンゾ帝国に対して、数十騎とはいえ馬に乗っていたから、降り出した雨の助けもあり、ここまで退却する事が出来た。 しかし、予想外の豪雨で川が氾濫し、結果的にムンゾ帝国の侵攻部隊と共に、ここに取り残される。 「ムンゾ帝国が近頃力をつけて来たのは本当の様ですな……」 アレックスに、タンクが言葉を入れる。 「そうだな、奴らの力は以前よりも増している、なんとかしないとな……夜明け頃には雨がやむ、向こうはそれと共に攻撃を仕掛けてくるだろう」 自身も語りたくないが、迫る危機に話題を変える。 その言葉に、声は出ないが空気は重くなる。 雨で敵が攻撃できないように、援軍もまた思うように進軍出来ないでいた。 このままでは……周りの顔は深刻であった。 戦争――とは言えないまでも相手と命をかけて殺し合う。 ルイズは、無言でその様子を見ていた。 一対一の決闘とは違う、自分の力が及ばない領域。 剣が使える、力が強い、魔法が使える。 それらの意味を嘲笑う物。 戦争とは常に有利な状況とは限らない。そして、今まさにその状況であった。 「アレックス団長、試したい事があるのですがよろしいですか?」 (……アレを試してみるしかない) 最後の言葉から数分の沈黙の後、不意に、ガンタンクはアレックスに提案を出す。 (……アレって、何かしら?) 「タンク殿、なにか考えでも?」 タンクは古株でこの中では相談兼知恵袋と考えている。 アレックスの返事には何か期待の意味がルイズは感じる。 タンクは自身の考えに絶対の自信はないのか、言葉はゆっくりとしたものであった。 「はい、私とメタス、そしてニュー殿でギガ・ソーラを試してみたいのです」 その言葉に、真っ先に二人がが反応した。 「無茶です、僧侶ガンタンク、我々二人の力でも無理だと言うのに」 オレンジ色の体に緑のゴーグルの僧侶メタスが反論する。 彼からしてみれば、それは干ばつの際に行う雨乞い程度の認識しかなかった。 ましてや、その中心人物に自分が来るとなれば猶更であった。 そして、もう一人も同じ考えであった。 「え!無茶ですよ、タンク殿、僕は簡単な魔法しか使えないんですよ」 (無理だよ、私に出来る訳ないよ) タンクが自分の名を出した事に、ニューは狼狽する。 この中で、一番期待されていない存在の自分が、急に出て来た事に戸惑う。 (なんで僕なんだよ、僕の名前なんか出したら) 懸念は当たる。自分の名前を聞いて、周りの空気も再び重くなる。 しかし、タンクはニューが望むような冗談を言った訳では無い。 「もちろん解っています。しかし、貴方はものすごい力をお持ちだ、私達だけでは無理でも貴方の力を借りれば、出来るかも知れません」 (何を言ってるんだ、この爺さんは) (無理だぜ、あぁ、ここで全滅かな) タンクの言葉を聞いても、他の者達は呆れていた。 彼らの認識ではニューは頭数にすら入っていない。 せいぜい回復を頼むくらいの薬箱の様な存在である。 それを、周りの騎士達の言葉を聞いて、ルイズは憤りを感じる。 (何もしない癖に、何言ってるのよ!) 何もしないのに、ただ僻んだり、愚痴る。 そうなりたくないと考えるルイズにとって、彼らの考えや行いは最低と言えた。 アレックスはそれを聞いて、無言で考え事をしている。 もちろん、兵たちの空気も感じている。 (このままでは全滅は必至、ならば賭けるしかあるまい) 自分の決断を部下は無能と罵るだろう。 しかし、自身に案がなく、このままでは、遠からず全滅するのであれば、それに頼るしかアレックスには無かった。 (無能だな、私は) ルイズ以外、その顔は見えなかった。 自嘲を含んだその顔は、皮肉にも最も人間らしいとも言えた。 「僧侶ガンタンクⅡの策を受け入れる、夜明けと同時に、ギガ・ソーラを唱え、それと同時に、奇襲を掛ける。全員、時間まで休んでおくように!」 アレックスの言葉を聞いて、ざわめきが聞こえ始めるが、アレックスが一喝するとそれは音を下げた。 しかし、騎士達の空気はいよいよ重くなっていった。 場面が暗転し多様な感覚で、ほぼ一瞬と言う間に、時間は夜明け前になっていた。 突撃のカモフラージュの為、騎士達は、小屋から出て事態を見守っている。 その中心には、アレックスと三人の術者達が居た。 (これで最後かな) (母ちゃん、ゴメンよ) 騎士達の声にない悲痛な叫びがルイズにも聞こえた。 若い兵士の一人は、よく見ると槍を持つ手が震えている。 「では、頼む」 アレックスが開始の合図を出す。 先程までとは違い、危機が目の前にある今、すがるような視線が中心に集まる。 「ニュー殿、メタス、では行きますよ」 タンクが二人に呼びかける。 「はい」 (嫌だな……みんな期待している) 恐らく一睡もしていないであろう腫れた眼で、ニューはタンクの杖を握る。 三人は無言で集中し始め、晴れていた空は、心なしか、晴れかけた空が、また曇り始めていた。 その様子に、騎士達に期待の混じった声が少し上がる。 余裕があるのか、まだ、ムンゾ帝国の兵士たちは動く気配を見せない。 (まだ、これでは……) 周囲の期待に反して、タンクは焦りの表情を浮かべる。 「ニュー殿、メタス、もっとです!」 自分に向ける意味を含めて、若い二人に檄を飛ばす。 重なった杖により強い重さを感じる。 「はい」 (これ以上は無理だよ) タンクの叱咤にニューとメタスが返事をするが、内心はルイズに聞こえていた。 自分の中で、二つ名と共に最も忌み嫌う言葉――無理 (アイツには無理だよ、だってゼロのルイズなんだぜ) (また失敗したのか、だから無理だって言ったのに、ゼロのルイズ!) ルイズにはその時、自身への言葉が思い出された。 拳を握る。覚えたくなかったが、いつの間にか覚えている感覚。 (ニュー……) それだけを言った後、ルイズは黙っていた。 そして……… (馬鹿ゴーレム!アンタ何弱気になっているのよ!アンタが出来なかった皆が全滅するのよ!) 目を見開き走りだしたルイズが、触れる事が出来ないニューを叩きはじめる。 (アンタ何時も偉そうな癖に、口が悪い癖に………教室で私に偉そうなこと言ったのは嘘だって言うの!馬鹿ゴーレム、出来なかったら一生ご飯抜きよ!) ……どうでもよかった。 夢である事も忘れ、ルイズは必死にニューを激励する。 その声は届かない。しかし、ルイズは声を上げずには居られなかった。 使い魔は自身の鏡――思えば似ているかもしれない。 家の名前を背負っている所、自信家な所 ……そして、本当は弱気な所も。 (アンタは騎士としては駄目かも知れない、けど、アンタにはアンタの出来る事があるのよ!) 自信家で口が悪く、性格も良いとは言えない。しかし、魔法が使える使い魔として自慢できる存在。 (アンタがそんなのだと、私まで……を諦める事になるじゃな(……けど)え!) ルイズの言葉をニューの心の声が遮る。 (期待――今まで無意味だと思っていた。だけど、それは誰も本当は望んではいないからなんだ!) 立派な騎士になれ――本当に望んでいるのか? その言葉に込められる意味、思いやり?社交辞令?騎士の家に生まれたから? (期待……今までで一番嫌いな言葉。でも、今は違う!生き残る事を皆が望んでいる。……やらなきゃ、そうしなくちゃみんな全滅する!) その言葉と共に、杖に輝きが増していく。 (僕にだって出来る事があるんだ!) 曇った空に一筋の光が見え始める。 (いける!) 「いきますよ!」 「はい!」 タンクが合図を送り、ニュー達が返事を返す。 そして、その声は同時であった。 「ギガ・ソーラ!」 それは、ルイズが見てきた中で、一番強い光であった。 遠くから見ると、暗い雲の中から、一つの光が降り注いだ様だった。 光は大地に突き刺さり、そして…… 目を突き刺すような光の強さの割には、何一つ音がしなかった。 (何が起こったって言うの!) ルイズも目がやられており、視界が開けるには十数秒を要した。 そして、光が終わり、自身の眼で何が起こったのかを確認する。 (何……これ……) ルイズは目の前の森を見た。いや、見ている筈であった。 数秒前まで、森とその中には無数の殺気があった。しかし、それはすべて消えていた。 森があった所には、何一つなく、茶色い土の色のみであった。 ぬかるんだ土もなく、ただ、抉られたようなクレーターが広がるのみであった。 「おお、やったぞ!」 確認した誰かが、歓喜の声をあげる。 異常な事態よりも、自分達の生存が確認できて、彼らは素直に喜んでいた。 騎士達の歓声で、正気を取り戻し、ルイズはニューを探す。 そして、自身の使い魔を見つける。 彼はそこに居た。 (ニュー!) 本来、祝福されるであろう彼は、力なく倒れていた。 ニューに近寄ろうとするが、視界に暗幕が下りる。 そこから先は良く解らなかった。 時間、その他の感覚もほとんど感じ無い。 「ルイズ、何をやっているんだ?」 心配して、近寄った筈の男の声が聞こえた。 真っ先に回復しつつある聴覚で情報を求める。 声の方向を向くと、そこには倒れた筈のニューが居た。 「ニュー、アンタ倒れた筈じゃ………」 「寝ぼけているのか、ベッドから倒れたのはお前だ、ウォータ」 「うひゃ、あひゃ、なっ!何すんのよ、この馬鹿ゴーレム!」 水を顔にかけられて、ルイズは触覚と視覚を完全に覚醒させる。 そこには、いつも通りの憎たらしい顔があった。 ルイズが暖かい空気と、冷たい感覚に挟まれている事に気づく。彼女はベットから落ちたようであった。 「起きたようだな、全く、これから、姫様の命令を果たさなくちゃならん時に……」 腰に手をあてて、呆れた様子でルイズを見下ろす。 それが気に入らないので、ルイズは起き上がる。 「……てっ、解っているわよ!着替え持ってきなさい!」 ルイズはニューの後ろにあるクローゼットを指差す。 「はい、はい」 ルイズの不機嫌に慣れているのか、背を向けて、ニューがルイズのクローゼットを開ける。 ルイズは、さっきまでの頼りなさげな青年と、目の前の皮肉屋な青年と姿を合わせながら、ため息をついた。 「33 ニュー!アンタ、何弱気になっているのよ!」 ニューの過去 彼はその後…… MEMORY 前ページ次ページゼロの騎士団
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フーケ連行後、ようやくひと心地ついた四人だったが、休む間もなく学院長室へと出頭した。 そこで待っていたオールド・オスマンが、事情を把握したように告げた。 「破壊の杖について、話は聞かせて貰った! 人類は滅亡する!」 『ええっ!?』 「嘘じゃ。破壊の杖に関しては心配いらん。あれは偽者での。 実はただの剣じゃ。本物は、既にこの世には無い。 ……だから、その殺意を持った目はやめてくれんか、年寄りのかわいい冗談じゃ」 コホン、と咳払いし、若者には辛い、老人の長い思い出話が始まった。 要約すると、こうだ。 オスマンが昔、森を散策していた時に、突然見た事がない魔獣の群れに襲われた。 多数に無勢となった時に、『杖』を持った少年が現れ、人ならぬ素早さと力で切り伏せていった。 少年の持っていた杖は、剣の形をしていたが、あるときはガントレット、また槍や斧などに姿を一瞬で変えた。 その武器は、何十メイルもある巨人ですらも一撃で粉砕するほどの破壊力を持っていた。 その少年はオスマンを助けた後、『この世界』に手出しし始めた『神』とか言うものを追い出しに行くと言い、去って行ったという。 オスマンは、いつか『神』なるモノ、もしくはそれに類する脅威が現れたときの為に、いまだかつて見たことのない不思議な剣を覚えておく目的で『破壊の杖』(杖は剣が魔法のように変わったところから名づけた)のレプリカを作り、この学院で生徒育成をする事にしたという。 「それで、その『神』はどうなったんですか?」 「幸いな事に、姿も形も見えん。その未知の魔物も、それっきり報告も聞かん。 まあ、平和であるにこした事はないのう」 話を一区切りして、もう一度咳払いする。 「さて、よくフーケを捕まえてくれた。後日、二人にはシュヴァリエの爵位、ならびにミス・タバサに精霊勲章授与の沙汰が宮廷からあるじゃろう」 「ええと……レンには何も無いんでしょうか」 「残念ながら、彼女は貴族ではないからの」 ルイズは憐の様子を横目で覗いたが、彼女は何も分かっていないのか、特に気にした様子も無さそうだった。 「あ、あの……オスマンおじいさん?」 「何かね? ヴァリエールの使い魔」 孫娘のような可愛らしい声に、オスマンは思わず相貌を崩して答えた。 「後で、お話があるんですけど、いいですか?」 「うむ。だが、今日は舞踏会じゃ。色々トラブルがあったが、予定通り執り行えるじゃろう。 今日の主役は君たちじゃ。楽しんできたまえ。ヴァリエールの使い魔よ、話はその後にしよう」 今回の活躍者たちが部屋を去った後、オールド・オスマンとコルベールは再び怪しい悪の幹部の雰囲気で秘密を話し合った。 「あの白いゴーレムについて、分かった事は本当に『それ』なんじゃな?」 「はい、残骸の皮膚らしき金属に、『BS-OSA』との文字がありました」 勿論、『この文字』はコルベールには読めないので、そのままをスケッチしたメモをオスマンに渡す。 うむぅ、と唸るオスマン。 「まさか……伝説が本当にあったとは」 「伝説とは?」 「かつて我々人間が魔法が使えない頃、そしてエルフや使い魔が存在しなかった頃、人に代わって人を統治する『神のほこら』が五つあったそうじゃ。 そして、その頃の人はトライアングルクラスの大きさのゴーレムを何匹も使役し、ゴーレムもスクエアクラスの攻撃が可能だったそうじゃ。 しかし、人が争い過ぎるようになって、やがて文明や人は滅びたが、神のほこら自体は残っていると言うが……」 「もしや……」 「うむ。かねてより予測されていた、神との戦いが始まってしまうかもしれん。 ミスタ・コルベール、これは未だ推測。無闇な不安を煽る訳にはいかん。他言無用に願うぞ」 *************** 舞踏会はつつがなく終了し、ルイズは少し飲みすぎで火照る身体を、ベッドで寝転がる事で冷やしていた。 服をだらしなく着崩し、うつらうつらと眠りの世界に呼ばれていた。それを引き戻したのは、扉を遠慮がちに叩くノックの音だった。 「お姉ちゃん、いる?」 「う、ん……」 「入るね」 足音も控えめに気配がベッドに忍び寄ってくる。その頃にはルイズも客の存在を正しく認識し、起き上がる。 「ん……レン、何?」 「あのね……お別れを言いに来たの」 言われる事が重要な事だとは、何となく予想されていた事だった。フーケ戦の後辺りから憐の様子が何となくおかしいのは感じていたが、まさかの別れ話に、起き上がらざるを得なかった。 こんなときに、眠りかけでぼおっとしている自分の頭が恨めしい。とぼけた質問しか出来ない。 「お別れって……?」 「思い出したから。私の、やらなきゃいけない事を」 その瞳に映るのは、わたしより幼くて、だけど今までの能天気で天然で無垢な物じゃなくて、何かやるべき事を見つけた真っ直ぐな目。 本当なら主は使い魔を従えるものとして、許すべきではなく、断固引き止める、いや拘束するべきなのだろう。だが、わたしはそんな事をする気にはならなかった。 多分、わたしは実は甘すぎるのだろう。案外、子供なんか生まれたらだだ甘になるのかな? ちいねえさまに似ているのかなと思うと、安心するけど。 そんな長ったらしい言い訳ごとを考えている間に、やっと頭がすっきりしてきた。すっきりしたはずなのに、今度は何を言えばいいのか考えすぎて言葉にうまく出来ない。 だから、短くまとめた。 「……うん、頑張ってきなさい。ちゃんと、決着つけてきなさいよね」 「ありがとう、お姉ちゃん。 あ、おひげのおじいさんに許可貰ったよ」 「オールド・オスマンの事?」 「帰る前に挨拶しに行ったら、進級は認めるから次の使い魔を召喚していい、って伝えてくれって」 確認のために手を取る。確かに、ルーンは跡形も無く消えていた。 「ツェルプストーやタバサにも挨拶したの?」 「うん、ちゃんとしました」 「いいわ。いつ、行くの?」 「この挨拶が終わったら、すぐに行くつもり」 「そう。 ……さよならは、言わないわ。元気でね。また、会いましょ」 「またね……お姉ちゃん」 レンの姿が、窓の外から差し込む月の光に溶けるように、ゆっくりと消えて行った。余りにもあっさりしすぎていて、夢を見ているようだった。 誰も、何もいない。思わず手を差し伸べても、何も触る事ができない。 頬が冷たかった。泣いている? そんな事にも、気づかなかったなんて。 どこか心の一部を持っていかれたように寂しい事に気づいた。心の働きが遅い。未だに現実かどうか、理解できなかった。どうして、泣くならもっと早く、引き止めて泣く事ができなかったのだろう? 自分が甘いだの何だのと理由をつけていた癖に、結局は一緒にいて欲しかったのだ。 『ゼロのルイズ』と呼ばれていた私に、素直に付き合っていてくれたから。 レンがいたから、私は私でいられたのに。 当たり障りの無い事を言って別れたのを後悔したままベッドに潜り込む。 自分の感情が何なのか、どうすればいいかよく解らないまま、心のつかえを流しつくすように泣き、そして眠りについた。 ********************** 数日が経った。 ルイズの二人目の使い魔召喚は一回で成功したが、出てきたのは平民の少年だった。 サイト、と言う少年をルイズが事あるごとに、 「この犬!」 と大声で追い回す様子は、その数日で名物になった。 キュルケと話をする→この犬!→爆破、シエスタを見てデレデレしている→この犬!→爆破、誤ってタバサを押し倒す→この犬!→爆破、と追い回すその様子に、「あれって焼餅じゃね?」と噂する生徒もいるが、表には出さない。 ゼロのルイズ相手といえど、あの結構痛い爆破を食らいたくは無いのであった。 キュルケは堂々と正面から言う剛の者であったが。 中庭で柔らかな風に吹かれながら、ルイズは寝転んでいた。少々追い掛け回しすぎで疲れたのだ。 あの犬、女の子見れば右に左にふらふらふらふらと。次に見つけたらもっと厳しく躾けてやるわ。 決して焼餅じゃないの。ご主人様として、ちゃんと下僕が周りに迷惑をかけないようにしてるだけなんだから。そんな思考こそが焼餅と言われている理由だという事に気づいていない。 「さて……行きましょうか」 服についた草を払い、立ち上がる。 そういえば、いつかあの子とこうして寝転んだ事もあったっけ。ほんの少し前のはずなのに、ずっと過去の想い出のような気がした。 少しだけ強い風が吹いた。誰かに呼ばれたような、声が聞こえる風。 (お姉ちゃん……) 「レン?」 ふと、中庭の向こうに影を見た気がした。 小さくて、スカートが風になびいていて、大きなリボンが揺れていて…… 「あれ……?」 夢か、現か。 どちらでもいい。未だ寂しさを忘れられない私を心配して、幻を見せに来てくれたのかも。 だから、私は何も言わず背を向ける。そして、歩き出した。 *************** 「どうして無視するの!?」 「って、ええええええっ!?」 幻は質量を持って、私の背中に張り付いてきた。幽霊なのに触れる事に慣れてるのは最早どうかと思うが。 「え、ちょっと、戻ってきたの?」 「……ダメ?」 「ダメじゃないけど……それで、決着はつけてきたの?」 うん、と憐は大きく頷いた。 「『向こうで』死んじゃったけど……何故かこっちに来れたから。 ちゃんと死ぬ前にお別れを言って、こっちには今日来ました」 「そう……」 ダメだ、戻ってきたって聞いて、言葉にならない。泣きたいけれど、泣かない。やっぱり、大事な存在なんだと気づく。 もう、嫌だって言っても離さないから! 「これからは、ずっと一緒よ!」 「うん! お姉ちゃん!」
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前ページ次ページゼロの軌跡 第九話 公爵令嬢のクエスト 「ひどい目にあったわ…」 「それはレンの台詞のはずよ、ルイズ」 「レンは楽しんでたじゃないの…」 ルイズの実家、ヴァリエール公爵家に二人が到着したのは朝方のこと。 愛娘が帰ってきたと喜んだのも束の間、まだ学院の休暇に入っていないことを思い出した一家は何があったかと慌ててルイズを出迎える。そこで彼らが見たものは、末娘と謎の少女と鉄のゴーレムだった。 「ただ今帰りました、お父様、お母様、お姉様。彼女は…私の親友のレン。このゴーレムは<パテル=マテル>」 一体何から聞けばいいのだろうと思い悩んだが、客人に礼を失することがあってはいけない。とりあえず朝食の席に同伴し事情を聞くことにしたのだが、開口一番ルイズの一言に食卓の一家は凍りついた。 「魔法学院を退学して領地経営の勉強をすることにしました」 順を追って話すことにしたルイズだったが、わずかに三十秒後、サモンサーヴァントのくだりで父ヴァリエール公爵が顔を真っ赤にしてレンに杖を向けた。姉カトレアが必死になだめて事なきを得たものの、 ルイズが全てを話し終えた後、今度は母カリンも幽鬼のように立ち上がりレンに決闘を申し込んだ。冷静に見えてその実、十二分に頭に血が上っていたらしい。レンは勿論その申し入れを快諾。 これにはカトレアも処置無しと天を仰ぎ、三人が庭で思う様戦っている間にルイズに詳しく話を聞くことにした。 戦いが終わり、疲れ果てた両親に姉妹は必死の説得を試みる。 それが功を奏したのか、はたまたあまりの事態に考えることをやめたのか定かではないが、どうにか両親はルイズの退学とレンを迎え入れることを認めたのだった。 「終わったことを気にしてはいけないわ、ルイズ。明日からはどうするの?」 「お父様に許可を貰えたから、とりあえずは町や村、色々な場所を視て周ろうと思うの。自分の家の領地だというのに、私はまだ何も知らないから。レンは一緒に来る?」 「そうね…気が向いたらついて行くわ」 それからルイズは毎日のように領内を飛び周った。 多くの場合はレンが一緒だったが、<パテル=マテル>はしばしばその姿を見せなかった。 <パテル=マテル>を一体何のために自律行動させているのかと不思議に思いレンに尋ねてみれば、元の世界に帰る手がかりを探させているという答えが返ってきた。 遠く離れてもスタンドアロンでそこまで高度な行動出来ることに驚きながらも、ルイズはレンに協力を申し入れる。 レンがリベールへの帰還を望んでいるのなら、召喚主であるルイズがそれを手伝うべきだろう。必要ならヴァリエール家の力を借りることになっても構わない。 そう思ったがルイズの助力はやんわりと拒絶された。 「トリステインの人はもし手がかりを見つけてもそれとわからないと思うわ」 それを聞いて自分の力が及ばないことに歯噛みする。 一緒に旅をすればレンについて何か分かるかも知れない。彼女を救うために出来ることはまだあるかもしれない。ルイズはそんな祈りにも似た思いを抱いて、馬を走らせた。 「徴税官が不当な税を取り立てているかもしれないっていうこと?」 「はい。アンリエッタ様の天領よりも税は一割重うございます。隣の街、あそこはうちと同じくヴァリエール領ですが、そこと比べても五分多く税を支払っております」 「妙ね…すぐにお父様に言って綿密な調査を行うわ」 「ヴァリエール家のご令嬢の口添えがあるとは…本当に有難うございます」 領内を回っているうちに、二人は多くの出来事に遭遇した。 「山に凶暴なオウガが棲みついたらしいわね」 「このままではおちおち山に入ることが出来ません。軍や騎士団も頼りになりませんし、猟兵に頼むようなお金もうちの村にはないのです」 「うふふ、ここはレンの出番ね」 「一体何を…あなたのような可愛らしいお嬢さんが立ち向かえる相手ではありませんぞ」 「まあ見てなさい。来て!<パテル=マテル>」 地に足をつけて暮らしている平民と直に話し、悩みを訴えを聞く。 「農作業に必要な風車が壊れてしまいました。ルイズ様はメイジでいらっしゃいます。どうか風車を直していただけませんか?」 「え、いや、その…私は土メイジじゃないから…。ギーシュでも連れて来れればよかったんだけど」 「ああ、これでは畑に水をやることも出来ません。私らはどうすれば」 「少し風車を見せてもらうわよ… なによ、全然簡単な機構じゃない。今レンが設計図を書いてあげるから、その通りに作り直しなさい」 それはルイズにとってもレンにとっても初めての経験で。 「マスター、何か冷たい飲み物を…って、一体この騒ぎはなんなのよ」 「真昼間から大の男二人が酔っ払って大喧嘩さ。全くいい迷惑だよ」 「ワインを飲み過ぎたこの前のルイズにそっくりね」 「レンだって顔真っ赤にして介抱されてたじゃないの…。私が説得してくるわ」 「頼んだよ、お嬢ちゃん」 「ちょっと、そろそろ落ち着きなさいよ」 「「黙ってろ、小僧!」」 「こぞっ…アンロック!!」 「更に滅茶苦茶にしてどうするのよ、ルイズ」 奇しくもそれは、エステルがヨシュアと遊撃士としての旅をしたのに似ていた。 「エステルもこうやって旅をしていたのかしら」 「どうしたの、レン?」 問題を解決したあとはそのまま祝宴にもつれこむことがしばしばだった。無論、功労者であるルイズとレンがそれに参加しないということを周りの人間が認めるはずもなく、毎回村や町をあげての狂乱に巻き込まれるのだった。 お世辞にも上品とはいえない宴だったが、二人には物珍しく楽しいものであった。 とはいうものの、毎回夜遅くまで酔っ払いに絡まれるのもひどく疲れることだったから、酔いを醒まそうと二人で外を散歩していた。 「リベールには遊撃士っていう仕事があってね、今の私達みたいに民間人の問題、遊撃士はクエストってよぶらしいんだけど、それを解決するの。 国家や軍に対しては中立で、民間人のために活動するんだって」 「そのエステルっていう人も遊撃士だったのね」 「そうね、新米でまだまだ弱かったけど」 今までレンは自分とその周りの人間のことを殆ど語らなかった。リベールの文化やちょっとした機械工学などあたりさわりのないことしか話そうとしなかったのだ。 これはレンのことを知るいいチャンスかも知れないとルイズは意気込んだ。もしかしたらレンを救うためのその手がかりが掴めるかも知れない。 「ルイズみたいに思い立ったらすぐ行動する人だったわ。本当にお人よしで自分の事は顧みないで、困った人を見ると助けないではいられなかった。<身喰らう蛇>にいた犯罪者の私を引き取ろうとするくらいのお馬鹿さん。 エステルがそんなことを言うものだから、結局レンは組織には戻らないであちこちを旅していたの。意思もなく意味もなく」 空に白く輝く月を眺めながら、レンは独り言のように話し続けた。 「エステルの恋人のヨシュアはね、今はエステルと遊撃士をしているけどヨシュアは昔、レンと同じで組織の執行者だったの。私を拾ってくれるように組織に頼んだのがヨシュアだったらしいわ」 だからエステルとヨシュアがいなければ、私はここにいなかったかもしれない。 そうレンは、少しだけ、淋しそうにつぶやいた。 頭を振って、視線をルイズに戻す。 「お酒はダメね。あてられて、しゃべりすぎてしまったわ。忘れてちょうだい」 「そんなことないわ、もっと話して欲しい。私はレンのことをもっと知りたいの」 「あらあら、エステルと同じことを言うのね」 レンはルイズに笑いかけて踵を返した。 それは、これ以上は話さないという明確な意思表示だった。 「そろそろ寒くなってきたわ。部屋に戻りましょう、ルイズ」 その夜、ルイズはベッドの中で延々とその思考を巡らせていた。 数週間もの間寝食を同じにして、それでもルイズはまだレンを包む闇の、その断片すらも手にしてはいなかった。 レンはいつでも余裕たっぷりにその類稀なる頭脳と力を振るっていた。<身喰らう蛇>で身につけたその異才は、常にレンを覆い隠していた。 ルイズがいくらレンを見つめても、圧倒的なまでの力量の差で、その内実はようとして窺い知れなかった。 ルイズがレンの心の深奥の一端にかけたのはただの一度きり。サモンサーヴァントの際にレンに絞め殺されそうになった時のその、人がお互いの心に触れるにはあまりにもわずかな瞬き。 それ以来レンは片時も、執行者『レン』としての仮面を外してはいない。 これはレンに対する侮辱なのだろう、と思いながらもルイズは願わずにはいられなかった。 小さい子供は暖かく大きな手に守られて、何も思い悩むことなくただただ笑っていられれば、それでいいはずなのだ。その心を引き裂くような痛みを強要し、彼女の世界を閉ざす権利など神だって持っていない。 いや、あってはいけないのだ。 それでも、この世界は冷たいばかりではない。姉様やキュルケやギーシュや、この旅で出会った多くの人達のように、レンにも優しく接してくれる世界がある。 ならば、いつか『レン』が本当の自分を取り戻して、ただの稚く優しい少女として、一人のレンとして生きられる日が来ますように。 「そして、出来れば私が、その力になれますように」 その言葉が隣で寝ているレンに届いたかどうか。 そのままルイズは眠りに落ちていった。 「ルイズに手紙が来ていますよ。シエスタって方から」 「シエスタから?一体何かしら」 久しぶりにヴァリエール家に戻ったルイズとレンはシエスタからの手紙を受け取った。 「ルイズもたまには学院に紅茶でも飲みに来ませんかって、お茶会のお誘いかしら」 「…半分は当たりよ」 半分?と首をかしげたレンに、ルイズは便箋を差し出す。 「シエスタの実家、タルブ村っていうらしいんだけど。休暇が取れたから遊びに来てくださいだって」 「それは素敵ね、行きたいわ。いいでしょう、ルイズ」 「勿論よ、早速準備しなきゃ。ちいねえさま、というわけですので少し出かけてきます」 一時間後、カトレアに見送られてルイズとレンはタルブ村へと飛び立っていった。 前ページ次ページゼロの軌跡