約 490,265 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/372.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 心配そうに二人を見守るヴェルダンデ。 そこから正三角形を描くように対峙するギーシュと、ヴィオラート。 ルイズがヴェルダンデの鳴き声に気付いた時には、既に周りを生徒達が取り囲んでいた。 「ヴィオラート!」 ルイズの声に反応し、人垣が通路を作る。 「何で、あんた決闘なんか…ギーシュも、女の子と決闘なんて何考えてんの!?」 「ミス・ヴァリエール。男には絶対に引けない時ってものがあるのさ。」 「ルイズちゃん…ごめんね。あたし、努力しないで後悔するのは嫌だから。」 二人はそれだけ答えると、ルイズの到着を合図にしていたかのように動き始める。 「ああもう! 使い魔のくせに、ちっとも私の思うとおりに動かないんだから!」 ルイズは、諦めの言葉を吐いた。 ヴィオラートなら何とかするだろう、そう思ったから。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師7~ 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 創り出した『ワルキューレ』の後方で、自信満々に宣言するギーシュ。 だが、ヴィオラートの反応はギーシュの、いや集まったギャラリー全員にとって予想外のものだった。 「かわいいゴーレムだね。」 「なっ…!! このうえ、僕のワルキューレを愚弄するか!」 かわいいゴーレムと言い放ったヴィオラートの言葉に、周囲の空気が変わる。 数々の石人ゴーレムや、鉄人ゴーレム…金剛ゴーレムまで屠ってきたヴィオラートにしてみれば、実に自然な、むしろ好意的な評価であったのだが…ギーシュ達が、その事実を知るよしもない。 「かわいそうだが、痛い目にあわないと理解できない性分のようだね。」 ヴィオラートに向けてそう言い放つと、ギーシュはワルキューレを突進させる。 「あたしは、錬金術師だから。」 ヴィオラートはバッグからトゲだらけの何かを取り出し、ワルキューレに狙いを定める。 「錬金術師の戦いを、見せてあげるね。」 ヴィオラートの額のルーンが、輝きを放ち始めていた。 所変わって、ここは学院長室。コルベールの長い長い説明が、ようやく山場を迎えたようだ。 「つまり、あの使い魔は、始祖ブリミルの…何じゃったかな?」 「『ミョズニトニルン』です! このルーンはミョズニトニルンの証に他なりません!」 コルベールは、禿頭に光る汗を拭きながらまくし立てた。 「ふむ、確かにルーンは同じじゃ。しかし、それだけで決め付けるのも早計かもしれん。」 「それは…そうですが。」 コルベールもようやくオスマンとの温度差を感じたのか、学院長室に微妙な空気が流れる。 ちょうどその時、ドアがノックされた。 「誰じゃ?」 「私です。オールド・オスマン。」 扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。 「ヴェストリの広場で、決闘している生徒がいるようです。」 「全く、暇な貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。で、誰が暴れておるんだね。」 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン。」 「あのバカ息子か。親に似て女好きな奴じゃ、どうせ女の取り合いじゃろ。相手は誰じゃ?」 「それが、メイジではなく…ミス・ヴァリエールの使い魔だという話で…」 オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。 「教師達は、決闘を止める為に『眠りの鐘』の使用許可を求めています。」 オスマン氏の目が、鷹の様に鋭く光った。 「ふん、子供のけんかじゃ。放っておけと伝えよ。」 「わかりました」 ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。 「オールド・オスマン。」 「うむ。」 オスマン氏が杖を振ると、壁の鏡にヴェストリ広場の様子が映し出された。 ヴィオラートは驚いていた。ウニを持った瞬間、ウニの成分・能力・産地までもが手に取るように判った。 そしてまるで、ウニが体の一部、手の延長にでもなったかのような一体感。 「うにー!!」 ヴィオラートの叫びが、ヴェストリの広場に響き渡った。 (栗だ) (栗だよな) (くり。) (それは栗だ) (どう見ても栗だ) (どちらかといえば栗だな) その瞬間、ギャラリーの心が一つになる。 ウニと名づけられた何かが、迫るワルキューレに接触したその瞬間――― ウニは、ワルキューレを巻き込んで大爆発し、ワルキューレごと粉みじんになった。 (ウニって、こんなに強かったっけ…) ヴィオラートは、額のルーンに関係あるのかな? と、ほんの少し考えを巡らせた。 「ば、爆弾!? どこからそんなものを手に入れ…いや、決闘に爆弾を使うなど、卑怯…」 ギーシュの発言は、そこで止まった。ヴィオラートがほんの少し、真剣な顔に変わったから。 「言ったでしょ?あたしは錬金術師。これはあたしが自分のために、自分の力で用意したんだよ?」 ヴィオラートが一歩前に出る。ギーシュが一歩下がる。 「ギーシュくんも、冷静になって、ちゃんとお話できれば、誤解だってわかると思うんだけどなあ。」 ヴィオラートは歩を止め、あくまでも穏やかな笑顔でギーシュに語りかける。努力のあとは認められるが、意識して穏やかな笑顔を作っているというのがまるわかりな、威圧感たっぷりの笑顔で。 「ね? お話を聞いて?」 「く、来るな!」 ギーシュは慌てて薔薇を振る。花びらが舞い、新たなゴーレムが六体あらわれる。 「どうして、わかってくれないのかな…」 ヴィオラートは哀しげにそう呟き、バッグの中から渦巻状のハーモニカを取り出す。 「あんまりはりきりすぎると、こうなるんだよ…ギーシュくん。」 額のルーンが輝きを増し、渦巻状のハーモニカが不思議な旋律を奏でる。 「あ…れ…? こんな、ちかりゃが、はいらにゃ…」 まるで心そのものを削られたかのように、ギーシュは脱力し、地面に倒れ伏す。 広場に、歓声が轟いた。 オスマン氏とコルベールは、遠見の鏡で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。 「オールド・オスマン。」 「うむ」 「あの平民、勝ってしまいましたが。」 「うむ」 「見ましたよね!? 不思議な道具を使いこなす、これぞミョズニトニルンの証ではありませんか!」 「うむむ…」 「オールド・オスマン! 早速王室に報告して、指示を仰がないことには…」 「それには及ばん」 オスマン氏は、重々しく頷いた。白いひげが、厳しく揺れた。 「どうしてですか!? これは世紀の大発見ですよ? 現代に蘇ったミョズニトニルン!」 「ミスタ・コルベール。大発見だからこそ、慎重にならねばならん。」 「はあ」 「王室のボンクラどもに過分の力を与えて、どうしようというのだね? 戦争でもしようと言うのか?」 「そ、それは…」 「そしてまあ、間違いの可能性もまだ無いとはいえん。報告するにしても、拙速に過ぎる。」 「ははあ。学院長の深謀遠慮には恐れ入ります。」 「この件はわしが預かる。他言は無用じゃ。」 「は、はい! かしこまりました!」 オスマン氏は杖を握ると窓際へと向かった。歴史の彼方へと、思いを馳せる。 「伝説の使い魔『ミョズニトニルン』か。どんな姿をしておったのかのう…」 夢見るように、そう呟いた。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4230.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ トリステイン魔法学院、学院長室は、中央本塔の最上階にある。 学院長であるオスマンは、がっしりとした造りの執務机に腰掛け、白くはなっているが美髭と呼んで差し支えない見事な長髭をさすりながら、 『朝っぱらからそのハゲ頭に似合わぬ真面目くさった顔をしやがってからにわしの朝はミス・ロングビルの魅惑の三角地帯を拝まんと始まらんのじゃあ』 という内心を押し殺して自らの使い魔であるハツカネズミをそっと秘書机の下に送り込みつつ、目の前の一人の教師に相対していた。 「して、こんな朝早くから何用じゃ、ミスタ」 「昨日の、春の使い魔召喚の儀に関してなのですが」 机を挟んでオスマンの前に立っているのは、コルベールだった。 「一人、人間……いや、亜人の青年を召喚した者がおります」 「ふむ。確かに珍しい事ではあるが……それだけでこんな朝っぱらから押しかけてきたわけではあるまい?」 「これを」 コルベールは、手に持っていたスケッチブックと古ぼけた本を机に広げ、それぞれ栞を挟んであるページを開いた。 「これは……!」 オスマン老人の顔が引き締められる。 「青年の左手の甲にこのルーンが現れました。また、召喚された折、私ですら気圧されるほどの迫力を放ち、次いで学園までの道を召喚者を抱えたまま30秒ほどで走り抜け、その途中『フライ』で飛行する生徒達の高さまでジャンプで跳び上がる、といった行為を見せています」 「……なんじゃそれは。神の左手にしても無茶苦茶じゃな」 同じルーンを示した、スケッチと、古本―――『始祖ブリミルの使い魔たち』を見るその目が、鋭い光を湛える。 それは奇しくも、耕一達の世界に存在する『ルーン文字』と全く同じ形をしていた。アルファベットに直せば、それは―――gundalfr、と読める。 「神の左手ガンダールヴ。あらゆる武器を使いこなし、魔法を唱える始祖を護る神の盾」 本に書かれた説明書きを、無感情に朗読するオスマン。 「召喚者の名は」 「ミス・ヴァリエール。ルイズ・フランソワ―ズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」 名を聞いて、暫し目を瞑る。 「……公爵の娘か」 「実際に相対した者としましては、伝説の再来、と素直に喜ぶ事は出来かねますな。あの迫力を持ってなお、それを『子供のしつけ』と言っていました。本気の殺気を向けられたら対処する自信がありません」 「伝説なんぞ、会わずとも存在するだけで厄介じゃわい」 自身が三百年生きたとも言われる十分伝説級の人物である事を棚に上げて、オスマンは机の上に置いてあったキセルを口に含む。 ぽこぽこ、と水が気泡を湛える音が、暫しの間部屋に響いた。 「いかが致しますか。王室に連絡を?」 「ばかもん。結論を急ぐでないわ。よしんばその青年が本当にガンダールヴであったとしても、王室なんぞに報告する必要はないがの」 「な、なぜですか?」 「さっき言ったじゃろう。伝説なんちゅーもんは、存在するだけで厄介なんじゃよ」 「はあ……」 意図を測りかねてコルベールが気のない返事をした、その時。 ずがーん。 と、学園中に炸裂音が響き渡った。2年生の教室塔から発せられたその音と振動は、本塔の学院長室にも届き、それを揺らした。 「何事じゃ?」 「……おそらく、ミス・ヴァリエールです」 「なんじゃと?」 「彼女は、その……魔法があまり上手ではなく、魔法を使おうとすると爆発してしまうのです」 「ふぅむ。爆発とな?」 「はい。火、水、土、風、そしてコモンマジックに至るまで、使おうとすると全て爆発してしまうらしいのです。『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』は成功したのをこの目で見届けたのですが」 「……魔法の失敗が爆発とは、果て面妖じゃな。身の丈に合わぬ呪文を使おうとすれば精神力が足らずに気を失うかそもそも認識すらされずに何も起こらず、詠唱が不完全であればそれこそ何も起こらぬはずじゃが」 「言われてみれば、そうですね」 「ま、そういう奴もおるかもしれんの。それで、その魔法を使えぬ落ちこぼれの使い魔が、始祖の従えた伝説の使い魔であると、そういうわけじゃな?」 「そういう事になりますか……」 「さて、不可思議じゃな」 オスマンは再びキセルを口に含み、ぽう、と煙を吐き出した。 「とりあえず判断は保留としよう。事実は伏せ、ミスタは出来る限り彼らの観察を行い、気が付いた事は報告するように」 「わかりました」 「うむ」 コルベールが一礼して去っていくと、ビリビリと振動していた建物が、ようやく静けさを取り戻した。 「興味深いお話でしたわね」 秘書席でずっと我関せずと書き物をしていた女性が、穏やかに切り出した。 「うむ。わかっておるとは思うが、他言無用じゃぞ、ミス・ロングビル」 「はい。可愛い生徒をアカデミーに解剖されでもしたら、たまりませんものね」 ロングビルと呼ばれたその女性は、簡素に結わえてあるその草色の髪を揺らし、ころころと笑う。 「カッカッカ。しかねんの」 「ところでオールド・オスマン」 「なんじゃね、ミス・ロングビル」 「このネズミは、このまま窓から投げ捨ててしまってよろしいですね?」 ロングビルはそう言って、机の下から、簡素なバネ仕掛けのネズミ捕りの中で、チーズのかけらを咥えてバタバタともがいているハツカネズミを取り出した。 「おお、おお! モートソグニル、可愛い我が使い魔や、しくじったか! 可哀想に!」 「オラァ!」 「あーれーっ! モートソグニルやーっ! ゆーきゃんふらーいっ!」 学院長室は、今日も平和であった。 その日のルイズのクラスの授業は、空いている教室に移動して行う事となった。 ルイズは罰として教室の後片付けを命じられたが、授業中の事故として、それ以上のお咎めはなしとなった。 『土』属性のメイジであれば小一時間と掛からず終わる上に修繕までしてみせるであろうその作業も、メイジなら誰でも使える共通魔法とも言うべきコモンマジックの『浮遊』や『念力』すら使えないルイズが行うのでは、ほぼ手作業である。 一日作業は見ておくべき教室の惨状だったが、彼女の使い魔たる耕一は、エルクゥたる膂力を遺憾なく発揮した。 「……あんたの力って、改めてとんでもないわね」 「お褒めに与り光栄で」 教室の端まで吹き飛んでいた教卓を片手でひょいっと持ち上げて運んできた耕一に、ルイズは呆れたように呟いた。 単純に重い物を運ぶ、というだけなら、トン単位にでもならない限り、エルクゥの身体能力にとっては児戯に等しい。 人を狩る鬼の力を土木作業なんかに使うのはどうかとも思うが、そんな悩みはこの一年でとっくに割り切っていた。あるものなら使って人の役に立てばいいだろう、と。 今では、押しも押されぬアルバイト先でのエースだ。いや、しばらくバイトには出れないであろうから、だった、と言うのが正しいか。 「……はぁ」 力仕事は耕一に任せ、机などについた爆発のススを拭いていたルイズの手は、止まりがちであった。 「……あんまり気にするなって。先生も言ってただろ? 失敗は成功の母ってね」 「……ずっと失敗しかない私はどうなるのよ」 押し殺したように呟く様子に、だいぶ重症だなあ、と頭を掻く耕一。 「『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』には成功したから、今度こそ出来るかもって思ってたのに……」 「魔法成功確率ゼロ……あのあだ名は、そういう意味だったんだな」 「……そうよ」 「ま、その二つは確実に成功してるんだ。当事者である俺が言うんだから間違いない。他の魔法もだんだん出来るようになるさ」 キッ、とルイズが目を剥いて耕一を睨みつけた。 「簡単に言わないでよっ! 魔法の事を何にも知らないくせにっ!」 「……そう言われると、その通りだから何も言えないけどね。でもま、ゼロじゃないのは確実だと、このルーンが出てきた時の俺の痛みに免じて認めてやってくれよ。結構痛かったんだぞ、あれ」 「ふんっ……」 鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまったルイズに、落ち着くのを待つしかないか、と耕一は肩をすくめ、無言で作業に戻った。 ルイズはしばらく俯いたままだったが、やがて顔を上げ、 「……まぁ」 「ん?」 「……かばってくれたのは……ありがと」 蚊の鳴くような声でそれだけ言うと、雑巾を洗ってくると言って教室から走り去っていってしまった。 「はは。なんだか、野良猫が少しだけ撫でさせてくれたような感じだな。―――っし! 頑張りますかっ」 苦笑しつつも和んでやる気の出た耕一の奮戦により、なんとか昼休みの前には片付けを終わらせる事が出来たのであった。 「やれやれ、なんとか昼メシには間に合ったか」 「…………」 先生への報告を終え、食堂へ向かう最中、ルイズは口を開かなかった。 まだ機嫌が悪いんだろうか、と耕一もそれ以上は喋りかけないが、その実は……。 ―――ヴァリエール公爵家の三女ともあろう私が、ちょっとぐらいかばってもらえたからってこんな正体不明のヤツにお礼なんて、お礼なんてっ……! ……ただ恥ずかしがっているだけであった。 「それじゃ、また厨房で食ってくるな」 「…………」 無反応のルイズに苦笑しながら、耕一は食堂の裏手に回る。そこには、ちょうどゴミを捨てに出ていたシエスタがいた。 「あ、コーイチさん。お昼ですか?」 「うん、またご馳走になりにきたよ」 「はい、わかりました。どうぞ」 勝手知ったる3回目。端のテーブルに腰かけ、出てきた賄い料理をいただく。 「どうもマルトーさん、ごちそうさま。今日も美味しかったです」 「おう。いつでも来いよ!」 膨れた腹を一撫でして、ちょうど通りがかったマルトーに一礼して退出。 まだ2日目だが、人間関係は悪くない。一から人と触れ合うなんて、母さんが死んで大学に入ったばかりの頃以来だな、と、耕一は少し懐かしくなった。 「さて、昼からも授業に出なきゃいけないのかね。出来ればコルベールさんか校長先生と話したいんだけどな……」 食堂の入り口でルイズを待つ間、これからの方策を練る思索の時間があった。 「……もし、ルイズの言う通り、そんな方法はないとか言われたらどうしよ」 ぞっとしない想像だが、しておかなくてはならなかった。 諦めるという道はない。この身は、常に楓と共にあると誓ったのだ。何を置いても戻らなければならない。 ……とはいえ、いざ何かを置いていかなくてはならなくなった時、基本的にお人好しの耕一がそれに背を向けられるか、というと、耕一自身もあまり自信はなかったが。 これまでも、最優先で教師に話を聞くべきなのに、ルイズに付き合ったりしているし。 「あてもなく旅に出るのは最終手段として……」 なんとか、大人連中の協力を取り付けたいところだ。 しかし、例え善意溢れる人達だったとしても、異邦人で立場も弱い自分のあてもない頼みを熱心に探してくれるわけもない。 本気で探してもらうには、相応の代価を払わなくてはならないだろう。そして、一介の大学生でしかなかった耕一が持てる代価は、ただ一つ。 「……交渉の材料が、この力しかないってのがなぁ」 右手を見つめて、一人ごちる。 現在の事態を先に進めるには、何にせよエルクゥの力を振るうしかない。 割り切ってはいるし、それが都合のいい借り物でもなく、耕一自身の意志によって得た力だと言う事も理解しているし、実際アルバイトの肉体労働でも大活躍させているのだが、やはりこう、釈然としないものは残るのだった。 「祖父さんなら、もう少しスマートにやったんだろうか」 一代で鶴来屋を立ち上げた祖父、柏木耕平。 自分が生まれた頃には既に故人となっていたから話だけしか知らないが、彼も鬼を制御した雄のエルクゥの一人らしい。 おそらくその興業史には、召喚されたばかりの頃耕一がやったような、鬼氣によって人を威圧する、みたいな行動も織り交ぜていたんだろう、と推測していた。 まっすぐ脅しに使っては、『社会での影響力を持つ』というその目的に添わなくなってしまうから、あくまでもさりげなく、交渉を有利にする程度、だろうが。 「……ま、何とかするしかないよな」 何とか出来なければ楓ちゃんに会えなくなるかもしれないのだ。うまくやるしかなかった。 「…………」 思索が一段楽して、耕一の横を幾人もの生徒たちが通り過ぎていっても、ルイズは現れなかった。 「……ルイズちゃん、遅いな」 昨夜も朝も、こんなに時間は掛からなかったと思うんだけど。 昼食はメニューが違ってとりわけ時間が掛かる……とは、厨房を見る限り思えなかった。 入り口を覗き込んで、中の様子を窺ってみる。 「うーん、あのピンクの髪かな」 2年生の食卓である真ん中のテーブルには、それらしき桃色の髪が見える。 隣には背の高い、赤い髪の女性がいる。確か、キュルケと言ったか。彼女と何がしかを話しているらしかった。 「友達と話してるのか。うーん、どうしようかな」 まだ時間があるようだったら、一言断って、先生に話をしに行ってみようか。 「……そうだな、そうするか」 拙速は巧遅に如かず。まぁルイズに従っている時点で既に拙遅なのかもしれないが、大人の協力を取り付けるための処世術と言う事にしておく。 耕一は食堂に入り、ルイズに近寄っていく。 その途中。 「なあギーシュ! お前、今は誰と付きあっているんだよ!」 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「付きあう、か。僕にそのような特定の女性がいてはいけないのだ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね」 そんな会話が聞こえてきて、耕一は身体中が痒くなる感覚に襲われた。 プレイボーイをキザに気取ったナルシストなんて、現代日本じゃ芸能界でもまずお目にかかれない人格だ。さすがファンタジー世界。 輝くような金髪のクセっ毛、確かに整った目鼻立ち、ドレープが親の仇のごとく付いた飾りシャツに、手に持った薔薇―――と、そのシャツと薔薇には見覚えがあった。 さっきの授業で、ルイズをからかっていた一人だ。隣には、反論したらあわあわと泡を食っていた小太りの男子もいる。そう、確かにあの時も、彼はギーシュと呼ばれていた。 ああいう人種に関わるとロクな事がない、と現代で培った人を見る眼で察知し、そそくさとルイズの所に向かおうとする耕一だったが、運命は彼を見放さなかった。 耕一が視線を外そうとした時、ぽとり、と、ギーシュ少年の懐から、小さな小瓶が落ちるのを見つけてしまった。 本人も友人も、小瓶に気付かずお喋りに興じている。やれやれ、と肩をすくめながら、ころころと転がってきたそれを拾い上げた。 「はい、これ、落としたよ」 ギーシュに向かって差し出す。 しかし、ギーシュはそれをさっと視線で一瞥しただけで、すぐに視線を外してしまった。顔は向けてすらいない。 「どうしたんだ? 君のじゃないのか?」 「……ああ、そうだ。それは僕のじゃない」 どこか潜めた声で、視線をキョロキョロさせながら、ギーシュは言う。 その様子に、耕一は察知した。これを持っている事が、視線の先にいる誰かに知られたらまずいんだな、と。 「うーん、そうなのか。確かに君の懐から落ちたのを見たんだけどな」 本気で困らせるつもりもないが、クラスメートの女の子にあんな態度を取るような男には少し意趣返ししてもバチは当たらないよな、などと自分を正当化しつつ言って、それを目線の高さまで掲げ、光に透かしてみる。 背の高い耕一の目線の高さは、おそらく食堂中の全員に見える事だろう。中には紫色の液体が入っていて、ゆらゆらと揺れていた。 ギーシュは、それを下げろそれを! と必死に目で訴えかけてくるが、丁重に気付かないフリをした。 「それじゃあ、これは先生にでも届けておくよ。呼び止めてごめんな」 「あ、ちょ、ちょっと待ちたま」 ギーシュが慌てた様子で言う前に、バン! と甲高い音が食堂に響いた。 それは、豪奢な巻き髪の少女が、立ち上がりつつ両手でテーブルを思いっきりぶっ叩いた音だった。 そのまま無言で、つかつかと耕一達のところに歩いてくる少女の周囲には、青白いオーラのようなものが幻視出来たであろう。 「ふーん。そう。これ、あなたのものじゃないんだ?」 「ああ、モンモランシー。今日も美しいね。君の宝石のような髪が、陽に照らされて輝いているよ」 耕一の手から小瓶をひったくり、ギーシュの目の前に突きつける少女。その鬼気迫る声(となりに本物の鬼がいるのだから、まさに文字通りだ)に、隣の太っちょ男子などは震え上がっている。 ギーシュは芝居がかった仕草で少女を誉めそやすが、それを見た100人中100人は、それを言い逃れと断ずるであろう。事実、その額には冷や汗が一筋伝っていた。 「紫の香水をあげた意味、あなたならわかっているんでしょう? ギーシュ」 「ああ、そんな顔をしないでおくれ、我が宝石たる『香水』のモンモランシー。そんな怒りの表情で、薔薇のようなその顔を曇らせないでおくれよ」 「それを、自分のものじゃない、というのね? そう……あなたの気持ち、よーーーっくわかった、わっ!」 「ご、誤解だモンモランぴぎぃっ!?」 モンモランシー、と呼ばれた巻き髪の少女は、ギーシュの並べ立てるおべっかを丸無視して自らの言葉を紡ぐと、テーブルにあったワインの瓶を引っ掴み、バットのようにギーシュの側頭を一撃の元にしばき倒した。 ゴキーンという鈍い音と、ガシャーンという甲高い音が同時に響き渡り、ギーシュはひっくり返って昏倒し、ガラスの破片とワインの海に沈んだ。 「さようなら。残念だわ」 そして、足音を響かせ、肩をいからせて、モンモランシーは食堂を出ていってしまった。 呆然とする耕一とギーシュの友人達。 ギーシュ本人は、頭からワインの染み込んだ絨毯に突っ伏していてピクピクと数回引きつるような痙攣を起こした後、むくりと立ち上がり、 「……やれやれ。キレイな薔薇にはトゲがあるものだね」 そう大仰に頭を振って、ワインに濡れて真っ赤になった頭を、どこからか取り出したハンカチで拭き出した。 ……あのルイズといいこのギーシュといい、なんで吉本新喜劇みたいなオチをつけたがるんだ、と耕一は思わずズッコケたくなった。なんだ、この世界の貴族は、何かチョンボをやらかしたらオチをつけて周囲をズッコケさせなきゃいけない決まりでもあるのか。 だが、騒動はそれでは終わらなかった。 別のテーブルに座っていた、茶色のマントを羽織った少女が、弱々しくギーシュ達に近寄ってきて、 「ギーシュさま……」 その栗色の髪をふるふると震わせ、涙を流し始めてしまう。 「やはり、ミス・モンモランシと……」 「誤解だよケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、あの清浄なる森の中での君の笑顔だけなんぷべらっ!?」 ばちーん! といい音がした。 先程モンモランシーに対していたのと変わらぬ調子で美辞を並べるギーシュの頬を、ケティと呼ばれた少女は思いっきり振りかぶった平手でしばき倒した。 ぐちゃっ、と、濡れた音を立てて、再びワインの海に沈むギーシュ。 「その香水があなたの懐から落ちるところ、私も見ておりました! さようなら!」 涙を止めないまま、ケティは走り去っていった。 「だ、大丈夫かギーシュ?」 太っちょ男子が、崩れ落ちているギーシュを足の先で突っつきながら心配した声を上げる。 ギーシュは、まるで幽鬼のように、ゆらり、と立ち上がると、大仰に頭を振り、肩をすくませた。 「……どうやらあのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだね」 この期に及んでプレイボーイを気取るつもりらしい。 愛憎の修羅場を特等席で見させられてお腹いっぱいの耕一は、ため息と共に肩を落とし、ルイズの元に向かおうと踵を返した。 「待ちたまえ」 「……何か用かい?」 呼び止められて、仕方なく振り向く。 ギーシュは、モンモランシーに殴り飛ばされるまで座っていた椅子に優雅に座って回転し、すちゃっ! と器用に足を組んで、薔薇を構え、 「君が軽率に、香水の壜など拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたではないか。どうしてくれるんだね」 びしぃっ! と、耕一に薔薇の先を突きつけた。 「…………意味がよくわからないんだが」 本気で意味がわからず、眉をひそめてそう聞き返すしかなかった。 ギーシュは、これだから学のない平民は、とやはり大仰な仕草で頭を抱えるフリをした。 「まったく、僕が知らないフリをした時に事情を察し、話を合わせて壜を目に付かないところにしまうぐらいの機微を持ってから学院に奉公したまえ。レディたちの涙は、君の不甲斐なさのせいだぞ」 ものすごい言い草だった。周囲の友人連中も、ぽかんとしている。 ―――ああ、つまり、八つ当たりなのか。 耕一は、ギーシュの顔が(頬に出来た大きな紅葉は別として)赤くなっているのに気付いて、そう思った。 「……いや、どう考えても二股をかけてたお前のせいだろうが」 「な、なに?」 子供の八つ当たりぐらいは受け止めてやるが、さすがに二股男の八つ当たりを受ける気にはなれなかった。 「たまたまバレただけで、俺が香水を拾ったのはただのきっかけだろう。もっと言うなら、二股とは言え恋人に貰ったプレゼントを、気付かずに落とすようなところに仕舞っておいた上に、誠実に対処せず誤魔化して切り抜けようとするような奴のせいだな」 「な、な、き、貴様っ! 貴族を侮辱するかっ!?」 「阿呆。侮辱してるのはお前だ。お前。貴族扱いされたいなら貴族らしい事をしてからにしろ。それとも、ここでいう貴族ってのは、二股がバレたら必死に誤魔化そうとして女の子を泣かすような奴の事を言うのか?」 耕一が言い捨てると、ギーシュの顔が真っ赤になった。食堂内が騒ぎに気付いて騒然となってくる。 反論が浮かばないのか、耕一を睨み付けていたギーシュが、何かに気付いたように口を開く。 「……君、どこかで見た事があると思ったら、思い出したぞ。さっきの授業にいた、ゼロのルイズの使い魔だな」 「ま、そういう事になってるね」 「ふん。学院への奉公人ですらない平民に、貴族への礼儀を説いても無駄だったか」 「二股がバレたら必死に誤魔化そうとして女の子を泣かした後に他人に八つ当たりするような子供に対する礼儀ってのがあったら、是非教えてくれ。俺には、張り倒して躾るぐらいしか浮かばないんだ」 ギーシュの顔が、剣呑に歪んだ。 「……よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」 ギーシュは、右手を覆っていた白い手袋を外すと、持っていた薔薇と共に耕一に投げつけて、大きく宣言した。 「決闘だ!」 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1494.html
前ページ次ページゼロのイチコ 「ちょっとタバサを驚かそうと思っただけだったんだけどね、ごめんなさい」 と笑顔で謝るキュルケとその横に立っているタバサ。キュルケのその態度はあまり反省してるように見えなかった。 三者三様、それぞれに非のある事もあったため。部屋の穴の修理費は三等分になった。 私の部屋の香水やランプなども被害にあったが、あまりツェルプトーに金を出してもらうのも癪であったため断った。 タバサも自分の部屋の修理は自分で金をだすらしい。 「ごめんなさい」 とタバサが頭を下げる。 「いいのよ、あなたはどちらかというと被害者だし」 今回の元凶はキュルケで、実行犯がイチコになる。 イチコは部屋の隅で足を折りたたんで座る、彼女が言うには「正座」という座り方、をしている。 昨夜にみっちり叱りつけたので反省しているようだ。 今日は虚無の日、授業は休みなのでみんな思い思いに過ごす日だ。 私はと言うと普段は部屋で本を読んだり、郊外で魔法の練習をしたりするのだけれど。 部屋の修理のため今日は部屋にいるわけにもいかない。 それに香水とランプを買いに街までいかないといけない。 私はイチコを連れて街に出かけることにした。 トリステインの城下町は今日も大勢の人間でごった返していた。 ここは貴族も平民も入り乱れ生活している。さすがに位の高い貴族はこんなところには来ないが、家名の低い貴族は平民と変わらない生活をしている者たちもいる。 「あの、ご主人様……」 「あによ?」 「なんだか、周りから見られているように思うのですが」 「そりゃ、杖も持ってない変な格好の人間が浮いてたら不信に思うわよ」 ふと間違えればエルフが街に紛れたと思う――慌て者はさすがに居ないにしても、さすがに不審者には見えると思う。 だからと言って、使い魔を留守番させてては意味が無い。常に主人のそばを付き従うのが使い魔だ。 別にやましい事をしているわけじゃないのだから、堂々としてれば良いのだ。 仮に兵士がやってきたとしても説明すれば分かってくれる、と思う。たぶん。 「やっぱり、わたし歩きましょうか?」 「周りの目なんか気にしなくて良いわよ、浮いてたほうが楽なんでしょう?」 歩くことはできる、というよりは足を動かして歩いている振りが出来るのだ。 だけれども、そんな事をしたらせっかくゴーストを使い魔として従えてるのに普通の人間を呼び出したみたいで嫌だ。 ほとんど見得なのだけれど、初めて成功した魔法なのだ。このぐらいは誇示したいと思う。 「あら、おかしいわね。ランプ屋は確か……」 この通りにあると聞いたのだけれども見当たらない、見過ごしたのだろうか。 キョロキョロと見回す。イチコも少し浮き上がって周囲を見渡している。 そこでピンと思いついた。 せっかく召喚した使い魔を使わないでおく事は無い。 「イチコ、あなた飛べるのだからランプ屋と香水を売ってる店を探してきなさい」 「あ、はい。分かりました」 ふわふわと浮き上がるイチコ、まる見えになる純白のパンツ。 「待ちなさい!」 「はい? どうしました」 「やっぱり二人で探しましょう」 「は、はぁ?」 主人の恥は使い魔の恥、逆もまたしかり。 イチコに無闇に高く浮き上がらないように言いながら街の散策を続ける。 その後、ランプ屋は簡単に見つかったのだが香水がなかなか見つからない。 いや、香水自体は露天などにも売っているのだが。普段使っているモノが見つからない。 家に居た頃は買い物などは使用人の仕事であったし、学院にも定期的に必要な雑貨は送られてくる。 今回のような事故など起こらなければわざわざ買い物など来なかったのだが。 一瞬学院のメイドに頼もうかと思ったが、あれの雇い主は学院長のオスマン氏となっている。 学生としての領分を越えた頼みは出来ない。 たまに無茶を頼む学生もいるとは聞くが…… 「おい、そこの嬢ちゃん。どうだ、何か買っていかねぇか?」 歩き疲れた頃、そう声をかけられた。 振り返るとそこは武器店だった。姿は見えないが中から声はする。 「おいっ! デル公、勝手に喋るなっつってるだろ!」 と奥から店主らしき男が出てきた。 その男はこちらに気づくと 「これは貴族様、とんだ失礼を」 と似合いもしない笑顔をこちらに向けた。 それよりも最初にわたしたちに声をかけた人間の姿が見えない。 イチコを見ると、彼女もわたしのほうを向いた。よく状況が分からないといった顔だ。 「おう、ココだココ。どうだ、貴族っつっても剣が使えて損はねぇぞ」 よく聞くとその声は無造作に木桶につっこまれた剣の一つから発せられていた。 なるほど、インテリジェンスソードだったのか。 「こらっ、黙ってろっつっただろ。大体お前みたいな大剣を扱えるわけ無いだろ!」 確かに護身用よりは実戦用の大きな剣だった。 女性に扱えるようには見えない。 「商売ベタのオマエさんの変わりに客引きしてやってるんじゃねぇか。どうせヒマなんだろ」 確かに店内はガランとしてる。といっても戦争が無い時期は普通こういうものなんじゃないだろうか。 「ぇええ?! 剣が喋ってます、お化け?!」 「お化けはアンタでしょ!」 イチコが随分と反応遅れて驚いていた。 「へぇ、お化けに取り憑かれている貴族様とは珍しいな」 と、その剣は失礼なことを言った。 「この子はわたしの使い魔よ」 「あ、でも憑いてるというのもあながち間違ってない気がしますね。幽霊になって日も浅いですからうっかりご主人様を呪い殺してしまわないかと最近不安で不安で」 何か恐ろしいことを言っている。だがこの底抜けに明るい幽霊が呪いとか言ってもまるで緊張感が無かった。 「どうも、はじめまして。わたくし高島一子と申しまして。訳あって幽霊しながらご主人様の使い魔などをさせてもらっています」 「おぅ、俺の名前はデルフリンガー。デルフとでも呼んでくれや」 「はい、デルフさん」 幽霊と剣が目の前で交友を深めている。シュールだった。 ふと目を逸らすと店主と目が合った。 「それで貴族様、剣などのご入用はございませんでしょうか? いえ、もちろん魔法があれば剣など入用では無いかもしれませんが……」 魔法があれば、という所が引っかかる。だがわざわざ自分から魔法が使えないとも言えない。 店主は装飾として杖としての剣も取り揃えている、などとと熱心に説明をしている。 しかし私は剣を買う気など毛頭無かった。 「そうです、いかがですか使い魔の方にも剣を持たせると見栄えが上がりますよ」 「悪いけどあの子幽霊だからモノが持てな――」 「本当に重いですね、う、腕が……」 「ま、お嬢ちゃんの手には余るわなぁ……って嬢ちゃん使い手か?」 モノが持てないはずのイチコが剣を持ち上げていた。 あまりの出来事に言葉を失くす、武器屋の主人はそんな私を首をかしげて見ていた。 「……イチコ」 「は、はい。ななんで、しょう。ご、しゅじんさ、ま」 インテリジェンスソードが重いのか、プルプルと震えながら話す。 「取りあえずソレを置きなさい」 「は、はぃ」 元の木桶の中に剣を戻す。そして改めて向き直った。 「なんでしょう、ご主人様?」 「アンタ、なんで剣が持てるの?」 「いえいえ、あれは重くて重くて持てるものではありませんでした。やっぱり少しは鍛えないといけませんねぇ」 「そうじゃなくて、なんで生き物じゃないものが触れるのよ」 「……あれ?」 振り返って手じかにあった棚を触ろうとする、しかし手がすり抜ける。剣を取ろうと手を伸ばすが突き抜ける。 順々に触れるものは無いかと探って横移動、何をしてるのかと呆然としていた店主に行き当たって握手をする。何をしているのか。 そうして店を一周して再びインテリジェンスソードの所まで戻った。 柄に触れるが突き抜けない、そのままガシリと持つと不安定ながらも持ち上げた。 「えぇ?! なんで持てるんですか? はっ、もしや私ついに幽霊としてパワーアップを成し遂げたのでしょうか? しかし、そうなるといよいよご主人様を呪い殺してしまわないか心配になってきますね。でもでも、触れるようになったのは大変喜ばしいことですし。 なにより、ご主人様のお世話が出来るようになるかもしれませんし」 う~ん、と悩みはじめるイチコ。 幽霊としてパワーアップ? そうじゃないと思う、だったら他の剣にも触れるようになって無いとおかしい。 さっき私は「生き物ではない」と言った。 しかしインテリジェンスソードは無生物だろうか、それとも生き物だろうか。 もしかしてインテリジェンスソードは生き物だから触れたのではないだろうか。 「ねぇ、この店にあるインテリジェンスソードはあれ一本なの?」 「へ、へぇ。すいやせん。インテリジェンスソード自体が希少なもので」 それもそうだ、実際剣が喋っても得なことなどほとんど無いのだ。 実験的に作られはしたものの需要が少なくほとんど量産されなかったのだ。 この機会を逃せばインテリジェンスソードなんてほぼ見つからない。 「分かった。それじゃ、あの剣を買うわ」 使い魔は主人を守るもの。 せっかく使える武器を見つけたのだから買っておいて損は無い。 重さに問題がありそうだけど、練習次第でどうにかなるだろう。 「へぇ、まいどありがとうございます」 もともと腰が低かった店主の腰がさらに低くなった。 さっさと支払いをすませると私は背中に剣を背負って、まだ悩んでるイチコを伴って外に出た。 ちなみにやっぱり重かった。肩が痛い。 「す、すいませんご主人様。一子はご主人様を呪い殺してしまうかもしれません」 「アンタまだそこで思考が止まってたの」 馬を駈けて街を出てからやっと悩んでいたイチコが出した台詞がこれだった。 この暴走思考はきっと頭をすげかえでもしない限り治らないのだろうと思う。 「アンタ用の剣を買っておいたから、せめて振れるようにしておきなさいよ」 「はい? 剣ですか?」 まさかとは思ったけれど、剣を買った事すら気がついていなかった。 「おぅ、よろしくな相棒」 「デルフさん。なぜそのような所に?」 「いいかげん店の中飽きたんで適当な奴に買ってもらおうかと考えてたが、使い手に出会えるたぁ俺も運がいいねぇ」 とこの喋る剣はよく分からない事を口にした。 「あの、ご主人様」 「なによ?」 「香水は買ったんですか?」 「あ……」 馬の頭を反転させた。 前ページ次ページゼロのイチコ
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/176.html
前ページ次ページゼロの剣士 #1 ギ―シュ・ド・グラモンはその日、遊びに興じる仲間達を尻目に特訓に明け暮れていた。 汗の滲む手に青銅の剣を握りしめ、ひたすら同じ動きを繰り返す。 毎日セットを怠らない髪は今や汗に濡れ、前髪が額に張り付いていた。 彼お気に入りの造花の杖は脱いだマントの上に置かれ、今はただじっと主が剣を振るう姿を見つめている。 ヴェストリの広場での敗北は、彼のこれまでの思想を根底から覆すような重大事だった。 ギ―シュはこれまで魔法の力を絶対のものと考え、自らの肉体を以って戦うことを軽視していた。 剣を振り回し、汗を流して戦うことを野蛮なこととさえ考え、そんなものは杖の一振りで一蹴できるものと思いこんでいたのだ。 しかしそこで――あの『ゼロ』の使い魔。 一介の剣士であるヒュンケルが、ギ―シュの思いこみを粉々にぶち壊した。 流れるようなあの動き。 多方向からの攻撃も華麗にいなすあの技術。 そして何より超人的な運動神経。 鍛えたからといって、自分があのようになれるとは思わない。 自分がメイジであるという誇りだって失ってはいない。 しかしそれでも……最後に頼れるのは己の身一つであることをギ―シュは痛感したのだ。 自分を負かしたヒュンケルに対する悪感情はもはやない。 ギ―シュはあの後、ヒュンケルに剣を教えてくれと頼んだが、その願いは言下に断られた。 剣の技量以前に、基本的な筋力を鍛えてこいとヒュンケルは指摘したのだ。 そこでギ―シュはひとまず自分で青銅の剣を錬金し、ひたすら素振りを繰り返すことから訓練を始めた。 八体目のワルキューレ。 ギ―シュは、自分自身がそれになるべく歩み始めた。 「ふう、今日はここまでにしておこうかな。モンモランシ―も退屈して行っちゃったし……」 今日のノルマを達成すると、ギ―シュは濡れた前髪を掻き上げてひとりごちた。 恋人のモンモランシーは最初こそギ―シュの特訓を見ていたが、そのうち退屈して帰ってしまった。 基本的にずっと同じことを繰り返すばかりだったのだから仕方ないが、ちょっとばかりの寂しさは感じる。 どうせ三日坊主で終わるでしょなんて言ってたモンモランシ―の顔を思い返し、 ギ―シュは「彼女も僕が構ってくれなくて寂しがってるのだ」と思って――というか願って、自分を慰めた。 疲れで軋む腕をさすりながら、ギ―シュは後で彼女をお茶にでも誘おうと心に決める。 木陰に置いておいたマントを羽織り、杖を手に取った時、ギ―シュは見慣れない感覚を覚えた。 足元が安定しないこの感じ、地震だろうか? しかし遠くから聞こえる、奇妙は地響きは――。 不意にギ―シュは、辺りが急に薄暗くなったことに気がついた。 視線を上げた彼は、落ちかかった太陽を巨大な『何か』が隠しているのを目撃した。 #2 「それにしても随分買いこんじゃったわねえ」 王都からの帰りの道中、馬車に揺られながらキュルケが言った。 ルイズやキュルケの足元には、ぱんぱんに膨れ上がった袋がそれぞれ二つ。 主にヒュンケルの洋服が詰まったものが置かれていた。 ルイズの隣りに座ったヒュンケルは、珍しく疲れた顔で目を閉じている。 武器屋を出た後、あれこれ仕立て屋を連れ回され、これを着ろだのこっちがいいだの着せ替え人形のような目にあわされたのだ。 初めは使い魔を甘やかすのはどうとか言っていたルイズも次第に熱くなり、結局こんな大荷物になってしまった。 ちなみにデルフリンガ―、愛称デルフは結局ルイズが買ったが、 キュルケの魅惑の交渉術のおかげで、買い叩いたも同然の出費で抑えられていた。 我に帰ってヒュンケル達を見送る店主の顔を思い出し、ヒュンケルは一つ、同情の溜め息をついた。 「気にすることないぜ相棒。別に食いっぱぐれるでもないし、小ずるいあの親爺にはいい薬だぜ!」 ヒュンケルの心情を察したのか、デルフがそう言った。 この陽気な剣は今、鎧の魔剣と並んでケースの中に鎮座している。 今日一番の収穫と言えば、このワケありそうな剣に出会ったこと。 そしてこの剣を通じて、鎧の魔剣が完全復活することが分かったことだろう。 不死身の異名をとっていたヒュンケルだったが、まさか愛用の武器までそうだとは思わなかった。 魔剣に向かって何故か「俺の方が年上なんだぞ」と喚くデルフを見ながら、 そんなことをヒュンケルは思い、そして笑みを浮かべた。 しかしそこで―― 「あっ、学院が見えたわよ! でも……なにか変ね」 外を眺めていたルイズが振り返ってそう言い、少し眉根を寄せた。 気になったヒュンケル達がそれぞれ馬車の小窓から顔を出して覗いてみると、遠目に魔法学院の姿が映った。 ヒュンケルにとってはまだ見慣れない場所ではあったが、たしかにルイズの言うように様子がおかしい。 出発した時とは何かが――学院にそびえる塔の数が違っているように見えた。 「――あれはゴーレム。巨大なゴーレムが学院に侵入しようとしてる」 遠見の魔法を使ったタバサが、そう呟いた。 馬車が学院に近づくにつれ、ヒュンケル達の目にもそれが手足を持った巨大なゴーレムであることがはっきり分かる。 30メイルはあろうかというそれは学院の外壁をのっそりと跨いで、まさに今学院を襲おうとしていた。 「まさか、土くれのフーケ?」 キュルケが囁くようにその名を口にし、ヒュンケルはオスマンの言葉を思い出した。 土くれのフーケ。 それは巨大なゴーレムを使役する、凄腕の盗賊の名だったはずだ。 「急いで学院に向かって!」 ルイズが馬車の御者を急かし、一行は全速力で学院に向かった。 #3 馬車が学院に着いた時、ゴーレムは既に中央の本塔の前に達していた。 ゴーレムの目標を素早く察したタバサが一言、「宝物庫」とつぶやく。 どうやらあそこに学院の宝は眠っているらしい。 となると、やはりゴーレムを操っている犯人は土くれのフーケか。 よく見れば、ゴーレムの上にはフードをかぶった、見るからに怪しい人物が佇んでいる。 「あそこ! 誰かいるわよ!」 ルイズの指さす方を見ると、ゴーレムの陰に金髪の少年が立ち尽くしていた。 ヒュンケルとヴェストリの広場で戦ったメイジ、ギ―シュ・ド・グラモンだ。 妙にゴーレムがまごついていると思ったが、それは進路上にあのギ―シュがいたせいかもしれない。 ゴーレムが立ち止まったのは、ギ―シュに逃げる猶予を与えるためだとヒュンケルには思えたが、 恐怖したギ―シュは逆にそれを自分が標的にされたからだと受け取った。 ギ―シュは震える手で杖を振るうと、巨大なゴーレムに対抗して 大きなワルキューレを錬金してみせたが、それは如何にも無謀なことだった。 錬金されたワルキューレは大きく見積もってもせいぜい5メイル。 フーケのゴーレムとは子供と大人以上の差があるそれは、 剣を片手に果敢に斬りかかったものの、文字通り即座に蹴散らされた。 ギ―シュの背後の壁にぶち当たり、粉々に壊れる大きなワルキューレ。 もはやギ―シュは足が震えて逃げることも叶わず、へっぴり腰で青銅の剣を構えた。 ゴーレムの巨体を前にしては、ギ―シュの剣など針みたいなものだ。 やはり選択を間違えたかなと自信をなくすギ―シュに向かって、ゴーレムが虫を振り払うかの如く腕を動かした。 良くて骨折、悪ければ――。 「貸しだからねギ―シュ!!」 死を覚悟しかけたギ―シュに、ルイズが叫んだ。 キュルケ、タバサと共に、ルイズはゴーレムに向かって杖を振りかざす。 しかし三人の杖の先から魔法が発射された時、ゴーレムの巨大な腕はそこにはなかった。 ――アバン流刀殺法・海波斬。 アバン流最速の秘剣によって巻き起こった剣圧が、ゴーレムの腕を既に刎ね飛ばしていたからである。 「さっそく俺っちのお披露目かと思ったら、そいつを使うのかよ……!」 魔剣を構えたヒュンケルの後ろで、馬車に置いてけぼりにされたデルフリンガ―がぶうたれた。 そして哀れ、無傷で助かったはずのギ―シュは、 目標を見失って壁にぶつかった三種の魔法――特にルイズの爆発の余波を食らって吹っ飛ばされた。 紙きれのように中空に浮かんだギ―シュは、地面に激突しようかという寸前、ヒュンケルにキャッチされる。 「ヒュ、ヒュンケル……ぼ、僕がレディだったら、君にほ、惚れる……ところだね。 しかし君の主人の失敗魔法はし、しどい……」 ギ―シュはそこまで言うとグフッと呻いてそのまま気を失った。 ま、まあ死ぬよりかはマシよねと目顔で頷き合ったルイズとキュルケは、すぐにきょろきょろ辺りを見回し始める。 少し目を離した隙に、さっきまでゴーレムの肩口にいたフーケが姿を消していた。 「あれ、フーケは?」と困惑するルイズ達に、タバサが本塔の壁を指し示した。 強力な固定化の魔法をかけられていたはずの壁は、三人の魔法を受けて大穴を空けていた。 「……もしかしてあそこ、宝物庫の壁?」 顔を引きつらせるルイズとキュルケに、タバサがこくりと頷く。 やっちまったとばかりに天を仰いだ二人は慌てて宝物庫に駆け寄ろうとしたが、 ゴーレムが穴をふさぐようにしてその前に立ちはだかっていた。 もはやフーケはルイズ達のことを完璧に敵だと認識したのか、 ゴーレムは無防備に近づいたルイズとキュルケに向かって、大木のような腕を容赦なく振り下ろした。 ルイズ達の目前に大質量の塊が迫る――。 「くっ、ルイズ!!」 インパクトの瞬間、すんでのところでヒュンケルが二人の前に割り込んだ。 合わさった魔剣と拳の力は一瞬拮抗したが、不安定な体勢もあってさすがにかなわず、 ヒュンケルは背後の二人を巻き込んで吹っ飛ばされる。 平衡感覚を失ったルイズ達の前に地面だか壁だかが迫り、ルイズは自分の見目麗しい顔がハニワになるさまを想像した。 (わたしは胸のみならず、顔までぺったんこになるのね……) ルイズが想像だけで気を失いそうになった瞬間、タバサが咄嗟に魔法で風のクッションを作った。 衝撃を和らげられたルイズ達は、なんとか打ち見程度の怪我でことなきを得る。 しかしルイズ達が立ちあがったその時、既にフーケは用事を済ませ、学院の外壁をまたぐゴーレムの上にいた。 大きな歩幅でどんどん遠ざかるゴーレム。 もはや追いつけはしないだろう。 いや、追いつけたとしても、あんな巨大なものをどう壊せばいいのか――。 悠然と去っていくゴーレムを睨みつけるしかないルイズの横を、タバサとヒュンケルが駆け抜けた。 宝物庫に入った彼らはやがてそこから出てくると、一枚の紙を手にして戻ってくる。 ヒュンケルが手渡してくる紙を見てみると、そこにはこんな言葉が書かれてあった。 『悟りの書、たしかに領収致しました。 土くれのフーケ』 そのふざけた領収書をびりびりに破いてやりたい衝動を堪え、ルイズは沈んでいく太陽を見つめる。 楽あれば苦あり。 今日という一日を振り返り、ルイズはそんなことを思った。 前ページ次ページゼロの剣士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6039.html
前ページ/ゼロの使い/次ページ 瓦礫一つ、動くもの一つ無い、ニューカッスル城跡地に三体の鉄像が立ち尽くしていた。 しばらくすると、鉄像が徐々に元の姿に戻っていった。 「驚きましたね。」 「ああ、まさかワルドが自爆するとは・・・」 「そうじゃなくて、あれほどの大爆発の中で生き残った事に驚いたんですよ。」 あの時、マホカンタでは間に合わぬと判断したメディルが鋼鉄変化呪文・アストロンを唱えたお陰だった。 後、0.1秒判断が遅ければマホカンタを使用しているメディルはともかく、他の二人は城の者と運命を共にしたであろう。 「あれは自爆ではない・・・恐らく何者かに爆破させられたのだろう。」 「では、ワルドの他に文と私の命を狙う刺客がいたと?」 「そう考えるのが妥当だろう。傭兵や山賊の一件と言い、奴一人で全てをやったとは思えぬ。」 「とにかく、ここを離れましょう。その刺客が確認に来るかもしれません。」 「さっきも言ったが、僕はここで死ぬ。だから君たちは・・・」 ウェールズは台詞を言い終わることができなかった。 背後から突き出された槍に、心臓を貫かれ、断末魔すらあげる事の出来ぬまま即死したからだ。 「念の為来てみれば・・・道連れにすら出来ぬとは、つくづく役に立たぬ男だ・・・」 槍の主が、得物を死体から引き抜く。そいつは傭兵と山賊を雇ったあの髑髏の騎乗兵だった。 すかさず、メディルが五指爆炎弾を見舞うが、華麗な槍捌きによって、全て弾かれた。 「いきなり、メラゾーマ5発とは随分な挨拶じゃないか。」 「貴様が、もう一人の刺客か。」 「いかにも。呪いのかかった金貨で傭兵と山賊をけしかけたのはこの私だ。」 「よくも、皇太子を・・・!!」 ルイズが失敗魔法を放とうとするのを、メディルが制す。 「止せ。お前の適う相手ではない。」 メディルは無意識のうちに悟った。間違いなくこいつはワルドより格上。 1体1ならともかく、主を守りながら勝てるかどうかは五分五分だった。 「そうそう。私はたださっき吹っ飛んだ役立たずの尻拭いに来ただけなんだ。そしてそれはもう済んだ。 私が君たちと戦う理由は無い。」 「文はどうする?」 「さっき、上層部から連絡があってねぇ。もう文は要らぬと仰りだ。」 「ほう。」 「まあ、私自身が戦う理由は無い・・・だけだがね。」 言われて、メディルはようやく気づいた。いつの間にか周囲が紫色の霧に覆われ、そこから骸の兵士や 中身の無い血まみれの甲冑の群れが這い出してきていることに。 「我が名は死神君主・グレートライドン。冥土の土産に、覚えておいてくれたまえ・・・」 それだけ言い残して、グレートライドンの姿は消えた。 「どうするメディル?」 「この霧、恐らくこの近くで冥界の入り口が開いたのだろう。」 「それって・・・」 「恐らくこの亡者どもは無限に湧いて出るはず。相手にするだけ無駄だ。」 「じゃあ・・・」 「答えは一つ。ルーラ!」 しかし、不思議な力でかき消された。 「やはりそう甘くは無いか。・・・なんてな。」 メディルは手近な魔物にマホカンタをかけた。 「ルイズ、皇太子の死体と私の服の裾を掴め、早く!!」 「わ、わかった。」 言われるがままにするルイズ。 「生憎、着地がうまく行くかどうかは運次第だ。バシルーラ!!」 先程の魔物にかけたバシルーラが、跳ね返ってくる。 その結果、三人はニューカッスル城跡を脱出することに成功したのだが。 「この後はどうするの!!?」 「柔らかい場所か、海上か、その辺飛んでる船の上に落ちることを祈るしかない。ルーラはまだ発動できないんだ。」 「いやあああああああああああ!!!」ルイズの絶叫がアルビオン領空に木霊した。 ルイズ達が一生に一度しかしないであろう、スカイダイビングをしている頃、 アルビオン大陸軍港施設・ロサイスの一室に司祭姿の細い男が玉座に座っていた。 「閣下。」 馬に乗った死神君主が、その男の元へやってきた。 「君か。皇太子はどうした。」 「心臓を一突きに。他2名は取り逃がしましたが・・・」 「冥府の入り口まで開いておきながら・・・か?」 「あのメディルと言う男・・・かなりの切れ者のようで・・・」 「そうか。それにしても、子爵で作った花火は美しかったな。遠くからでも良く見えたよ。」 「皇太子一人吹き飛ばせない、完全な娯楽専用の花火でしたがね。」 「まあ、あれだけ綺麗ならあのお方も満足なさるだろう。それより・・・」 「分かっております。その準備を兼ねて、この世とあの世を繋げたのですから。」 「楽しみだな。トリステインが血と炎に染まる日が。」 「全く持ってその通りで。制圧の暁には閣下はまず何をなさるおつもりで?」 「・・・トリステインにはそれは美しい姫がいるという。ぜひ一度食したいと思っていたのだ。」 「相変わらずですね。百人もの美女を食べておきながら・・・」 ルイズ達は幸運にも、トリステイン国近海に不時着(落下直前、メディルが硬化呪文スクルトを連発し衝撃を和らげた)した。 彼曰く、岩場などの硬い場所ではアストロンを使う予定だったとの事。 事ここに至って、ようやくルーラが使用可能となり、ルイズ達は海水と海藻にまみれたまま、 死体を引っさげて姫に謁見と言う、トリステイン始まって以来の暴挙を成し遂げた。 死体を見せ、事の仔細を説明すると、姫は壊れたかのように号泣し、天もまた、惜しみない涙を流した。 1時間ほど泣いただろうか。ようやく涙の収まったアンリエッタが言った。 「ごめんなさい・・・つい取り乱してしまって・・・手紙奪還の件、有難うございます。 褒美にそなたが望むがままの地位を与えましょう。皇太子の遺体はわが国で手厚く葬ることに・・・」 「とんでもない。私はただ、友人の頼みを聞いたに過ぎません。」 「僭越ながら、姫様に申し上げたい義がございます。」 「何でしょう。」 「姫様はゲルマニアに嫁ぐべきではありません。」 「何故ですか?」 「最愛の男が目の前にいるのに、何故ですか?はないんじゃないか、アンリエッタ。」 ルイズとアンリエッタ、メディル以外は聞き覚えの無い声に、その場にいる者は皆振り向き、目を見開いた。 確かに死んだはずのウェールズ皇太子が立って喋れば誰でもそうしたであろう。 「どどど、どういう事!!?」 「どうもこうも無い。私の魔法で生き返らせたのだ。」 「だって、あれは・・・」 「一部を除き人は無理。確かに私はそう言った。しかし、幸運にもウェールズはその一部だったのだ。」 「一部の人間ってどういう定義で決まるの?」 「黄泉の国から舞い戻るほどの強い意志、または神や精霊などの何らかの助力。 どちらかを持ち合わせた者のみは蘇生が可能だ。」 「でも、いつの間に・・・もっと早く復活させたって・・・」 「愛しの姫の前に来れば、皇太子の死の淵から生還しようとする意志は強くなるだろうし、 敵には皇太子が死んだと思ってもらったほうが好都合だ。 そう判断し、王室へ戻り次第蘇生を行うはずだったのだが、姫が泣き出したお陰で、 タイミングを逃し、30分待っても泣き止む気配が無いので、復活させたが、 皆姫に気を取られていて気が付かなかった。で、今ここに至るわけだ。」 「ミスタ・メディル、その術で、我が王党派の者達の復活を依頼したいのだが・・・」 「残念だがそれは無理だ。あの爆発で全員、跡形も無く消滅してしまったし。時間も経ちすぎた。 灰や消し炭となった者、死後一時間以上経った人間はいかに私とて救えない。前述の助力を持つ者は時間に関係なく死体と意志さえあれば蘇生出来るが、 残念ながら、あの城の者達にそういう物は感じられなかった。 あの城の者達の毛髪でも肉片でもいいから、死体の一部があれば姫が泣き止む前に蘇生出来たかもしれぬのだが・・・」 「そうか・・・やはり叶わぬ願いだったか・・・」 「でも、良かったですね。姫様。」 「ええ・・・でも・・・」 「なりませぬぞ、姫!」 突如口を挟んだのは民から鳥の骨と呼ばれているマザリーニ枢機卿であった。 「一通の手紙でさえ、危うく国を危機に貶める所だったのに、事もあろうに・・・」 「この場の全員が口を閉ざし、皇太子は外部から見えぬ所で・・・ たとえば地下牢や隠し部屋で生活していただく。これならばどうと言うことはあるまい。」 「ききき、貴様。一国の姫に、不倫しろとでも言うつもりか!!?」 「敵から身を隠すためとはいえ、地下牢は勘弁してもらいたいな。」 「不倫しろといった覚えは無いし、さほど長い時間隠れていろという訳でもない。」 「どういう事?」 「間もなく、レコン・キスタが攻め込んでくるだろう。そもそも政略結婚の発端は奴らを倒すため、 同盟を結ぶしかなかったから。逆に言えば、奴らを倒せば晴れて堂々と結婚できると言うわけだ。」 「そんな簡単に倒せるわけが・・・」 「私なら倒せる。否、倒して見せる。」 「枢機卿殿、彼は緻密な策を用い、ワルド子爵を死闘の末、打ち負かしたのです。」 「他にも城一つ吹き飛ばす爆発から守る術を使ったり、凄まじい嵐を吹き飛ばしたり・・・ 正に彼の実力は桁外れです。国一つと戦わせても決して引けをとらぬはずです。」 「マザリーニ。私からも頼みます。私の友人とその使い魔を信じてやってはくれませぬか?」 使い魔、公爵の娘、皇太子、そして主君の眼差しに流石の枢機卿も折れた。 「では即刻、軍議に移るとしましょう。」とウェールズが切り出す。 「そうですな。敵の兵力は?」とマザリーニ。 「少なくとも5万。しかし、トリステイン侵攻の際はさらに多くの兵を率いてくるでしょう。」 「我が国の兵では太刀打ちできぬ。メディル殿に頼るしかないか・・・」 「ルイズ、ミスタ・メディル。ちょっと・・・」 二人は君主に言われるがままに、一冊の書の前に来た。 「これは始祖の祈祷書。指輪を嵌めた特定の者のみ、読めると言われています。メディル、あなたのルーンは始祖ブリミルの使い魔の物。 すなわちルイズ、あなたは始祖の使い魔の後継者を呼び出したと言えるのです。」 「なるほど。そのルイズならその書を読めるかも知れぬと。」 「はい。ミスタ・メディルの力を疑うわけではありませんが、保険は多いに越したことはありません。 あわよくば、この書にはこの戦を左右することが記されているかもしれないのです。」 「わかりました。」 返事と共に、書を手に取り、ゆっくりと読み上げるルイズ。その手には水のルビーが嵌められていた。 現段階で祈祷書から得られた情報はルイズが失われた虚無の使い手であり、彼女の爆発は失敗ではなく 虚無の初歩の術・爆発によるものであったこと。 そしてルイズは初歩の魔法『爆発』を覚えた。 「それはさておき、この度女王陛下のお耳に入れておきたいことが。」 「何ですか?」 「実は―」 「何と、そのような。」 「従わぬようなら国家反逆罪で処刑すればいいでしょう。」 「しかし、それは・・・」 「私も黙ってやるつもりでしたが、姫様の仰った通り、準備は多いに越したことはありません。」 「・・・分かりました。後ほど部隊を派遣します。」 「さて、これでお前と私はこの国の命運を左右する存在となったわけだ。」 「そんな・・・」事の重大さに、流石のルイズも腰が引けているようだ。 「人間とは死ぬ気になれば、誰かの為ならば、我ら魔族にも勝ることがある・・・認めたくは無いがな・・・」 その時ルイズは、使い魔の仮面の中に切なげな表情を見た気がした。 「ごめんなさい・・・」 「・・・謝る事は無い。お前が魔王様を殺したわけではないし、そもそも先に手を出したのは我らだ。 予想外の結果に終わったとは言え、戦と言うものの真理だと割り切っている。」 以前の自分では到底考えられぬ言葉に、彼は少しだけ自分の変化を自覚した。 ―ここへ来てまだ、数日しか経っていないと言うのに、随分といろんな目にあい、丸くなったものだ。我ながら。 前ページ/ゼロの使い/次ページ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/516.html
しばらくして、朝食を終えた生徒達が教室へ移動を始めた。 キレた目をしているルイズもディアボロを連れて教室へ向かった。無言なのが怖い。 教室には、生徒達が召喚した様々な使い魔が居た。 しかし、教室の椅子は貴族の席であり、ディアボロが座る席など存在しない。 仕方なしに、ディアボロは教室の一番後ろに行き、壁を背に立ち続ける。 その後シュルヴルーズという土系統のメイジの教師がやって来て、 生徒達が一年生の時、学んだ魔法の基礎をおさらいさせる。 魔法には四大系統というものがある。 『火』『水』『土』『風』 そして失われた伝説の『虚無』 等の話はディアボロの興味を心地よく刺激しており。 それに、教師が石ころを真鍮に変えた時はさすがに目を剥いた。 (そう言えば…使い魔が選ばれる理由は…) 召喚された直後にU字禿教師が言っていた事を思い出す。 『…現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進む・・・』 キュルケのサラマンダーはどう見ても『火』以外ありえない……ならばキュルケは『火』の系統なのだろう。 (どおりで嫌な感じがしたわけだ) とすると、あの教師の言う通りならば。 ここに召喚されている生物は、ほぼ全てが四系統の属性に分類されるはず。 (では……私は何系統なのだ?) 火・水・土・風・虚無。ディアボロの持ち物はほぼ全ての系統に当て嵌まっていて。どれか一つに分類する事が出来ない。 「ふむ」 ディアボロが考え込んでいる最中、教室が突然騒がしくなった。 その原因は、ルイズが前に出て錬金をやる事になったからである。 (……あれが何系統なのか判断できれば、私の系統も逆説的に分かるはずだ) ディアボロのちょっとした興味。 何系統として呼ばれたのか。ほんのちょっとした好奇心 だが、ルイズの一挙一動を見守るディアボロは、生徒達や使い魔達が机の下に入ったり、教室から飛び出たのを見えていなかった。 ルイズは石に向かって杖を振り―――― ドッゴオォン! 爆発が起きた。 反応が遅れたディアボロは、その爆発をまともに……くらわなかった。 起きた爆風は、ディアボロの体に到達する前に和らぎ。 散弾銃のような小石は体に接触する寸前、燃え尽きた。 ほんの掠り傷程度ですんだディアボロだが。 彼は呆然としていた。 「な、んだと?」 爆心地はルイズ。 それを見た彼は、記憶の中のトラウマの一つが浮かんできた 『何かのアイテムが爆弾になったかも…う~むどうだったかな……?自信がない…』 この後、ディアボロはルイズの二つ名を脳裏に刻み込む事となった。 ドット!ライン!トライアングル!スクウェア!そのランクの中で、 一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるが何時も爆発を起こすメイジ。 成功率ゼロ!だから『ゼロ』のルイズと呼ばれている事。 そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい事。 それを聞いたディアボロは、何故ルイズに召喚されたのか納得した (私も最初は無能だったからな) ディアボロは、奇妙なダンジョンに初めて潜った時の事を思い出した。 無装備状態で手探りしながら迷宮を進み、罠や敵の手、それに自分のちょっとしたミスで何回も何回も死んだ記憶。 …………それでも、遅々とした足取りの中で実力を着け、ダンジョンを制覇した誇らしい記憶。 (これからの成長に期待と言う事か) 授業終了後、ディアボロがキュルケからそのルイズの話を聞いていると、 噂をすれば影とばかりに、その本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 「ちょっと!私はキュルケに近付いちゃ駄目って言ったわよね!?」 「硬い事言わないでよルイズ、私はアンタの二つ名を懇切丁寧に説明して上げてただけだから」 「よ、余計な事しないで!こいつは私の使い魔!あんたは関係無いでしょ!」 自分の不名誉な二つ名が知られた事を知って、顔が赤くなるルイズ。 面白そうな顔でそれを見つめていたキュルケだが。 さすがに、飽きたのか颯爽とその場を離れて行った 「じゃあね、食事に遅れるから私はそろそろ行くわ」 そして残されたルイズは、いきなりディアボロの足に蹴りを入れた しかし、その一瞬、ディアボロの周囲に砂が集まって、ルイズの蹴りを明後日の方向に受け流した。 ズダン。 滑ったルイズは華麗に転倒した。 「…何をする?」 「うるさいッ!」 不思議そうに尋ねるディアボロに罵声を返すだけのルイズ。 頭に血が昇ったルイズは、さっきの砂が集まった異常な事には気付いていない。 何も無いところで滑って転んだと言う無様な記憶だけである。 そのまま、体の埃を払うと教室を出るルイズとディアボロ。 食堂への途中、ルイズはディアボロの表情の変化に気付いた。 含み笑いをしている。それがルイズの勘に更に障った。 「なに笑ってんのよ!」 「何も笑ってはいないが?」 「笑ってた!」 「ふん?……まあ、いい。話は変わるが… お前は昨日メイジの誇りを熱心に語ってくれていたな…… それでだが、自分が魔法を使えないのはどう思っているんだ?」 言葉に詰まるルイズ。 「魔法が使えない無能の癖に、お前が言う平民で変態の私から貴族として尊敬されると思っているのか?」 「私だって…私だって努力はしてるわよ!ディアボロ!あんた、ご飯抜きだからね!覚悟しときなさいよ!」 涙が滲む目を向けながらも、捨てゼリフを残すとそのまま目の前の食堂のドアに飛び込んで行った。 「さっきの言葉は流石に厳しかったか?」 ディアボロなりに発破をかけたつもりだが、ルイズは想像以上に痩せ我慢をしていたようだ。 そしてディアボロは、食堂に入らなくては昼食を食べられないという事に溜め息をついた。 このままだと餓死する。さりとて、DISCの無駄な消費は避けたいとディアボロが悩んでいる時。 「あの……どうかなさいました?」 声がかけられた。 振り向くと、そこには夜空に輝く無数の星と同じ数ある男のロマンの一つメイドさんの姿をした少女。 「何でもないが……」 「もしかして、貴方はミス・ヴァリエールの使い魔になったって噂の平民の変態の……」 平民の変態発言を軽くスルーするディアボロ。指摘してもどうにもならないって事もあるが。 「お前もメイジなのか?」 「いえいえ、私は違います。普通の平民です。 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 普通のと言う所を強調して発言するメイド。 そこまでして、ディアボロと同じだと思われたくないのだろうか。 「…………」 「私はシエスタっていいます。貴方は?」 「ディアボロだ」 「そうですか…それで、ディアボロさん。 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 シエスタの目を見るディアボロ 腹に一物を隠し持ってはいないようだ。純粋な親切心から彼に声をかけたのだろう。 (これは、昼食の代わりを用意してもらえるか?) 「昼食を抜かれてしまってな」 「まあ!それはお辛いでしょう、こちらにいらしてください」 ディアボロがこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間。 シエスタの対応を見て、何となく利用できそうだと外道チックな事を考え始めていた。 <<前話 目次 次話>>
https://w.atwiki.jp/blazingmars/pages/34.html
★今日のアクセス数★: - ★いままでのアクセス数★: - オリジナルでのPT しぷゼロ おにこんぼう ダークドレアム レオパルドorクイーンガルハート おにこんは疾風突きでダークドレアムは捨て身で行動早いがラウンドゼロ・・・こんな戦法 一番よくあるスキル おにこんぼう 攻撃力アップSP 攻撃力アップ3 ふうらいの剣技 多彩な技を使う用 攻撃力アップSP エスターク ふうらいの剣技orバウンティハンター ダークドレアム 攻撃力アップSP 攻撃力アップ3 侍 レオパルドorクイーンガルハート HPアップSP オムド・ロレス 竜神王orエース オリジナルの捨てゼロ グラブゾンジャック ダークドレアム レオパルドorクイーンガルハート
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/754.html
食堂に入るなり、私たちは一斉に奇異の目を向けられた。 他愛ない世間話や自慢話などに花を咲かせていた者たちが皆、 一瞬だけぴたりと言葉、そして動きを失った。 しかし、ルイズとその使い魔が食堂内を一歩一歩と歩く内に、 彼等の態度はじっくりと変わっていく。 横目でこちらを覗きつつ、隣の者とくすくす笑い話を始めるのだ。 それも、『わざと』ルイズに見えるように、聞こえるように。 もちろん。全員が、と言うわけではない。 中には呆けた馬鹿面で、口に食べかけたチキンを咥えたままルイズたちを 見送る間の抜けた小太りの少年などもいた。 「…………」 ルイズは当てられる視線の全てを無視するように目を閉じ、 先の見えない双眸で自分の席へと性格に歩を進めている。 ピコピコ変な歩き方で追いかける使い魔の騒音すら、耳に入ってない様子だ。 「…………ふぅ」 席に着き、眼前に広がる料理を見る。 料理は数十分前とほぼ同じ形で皿の上に並んでいた。 半分ほど注がれているワインも、並べられた多種多様なフルーツも全て出された状態でそこにあり、 唯一メインデッシュの大きな鶏肉に、一口ほど皮をかじった後が点のように張り付いているだけ。 当たり前だ。この使い魔を探すために、ルイズは食前の祈りも半ばにここを飛び出したのだから。 ぎしっと椅子を軋ませ、背もたれに圧し掛かる。 たまらず、息が漏れた。ため息に近かった。 「(……疲れた。なんだか、この歩きなれた短い距離が、何千メイルにも思えたわ……) やはり、というか、予想していたことだったが、 依然として注がれる他者の視線とは、こうも痛いものなのかとルイズは改めて思った。 若干頬が赤く染まっているのは紛れもなく恥ずかしさゆえなのだろう。 ちらっとテーブル上に一瞥をくれてやる。 料理はもう、とっくに冷めていた。 ~ゼロの平面5~ 「(さあ……アンタはそれを食べるの……?)」 冷めた料理は食欲を誘わなかった。幸い、おなかは減っていない。 それに、今ルイズの興味と関心を大いに誘うのは目の前の冷めた料理やその他大勢の視線でもなく、、 床に広げられた薄いスープと硬いパンの乗せられた皿を食い入るように見つめては 不思議そうに顔を傾ける真っ黒くて薄っぺらな使い魔だった。 ――――このぺらぺらの使い魔は、果たして何を食べるのだろう? 今朝方に浮かんだ疑問が、今一度ルイズの頭をよぎっていた。 コトッ…… 真っ黒の使い魔は興味無さ気に、それにしては音を立てないように、静かに皿を床に置いた。 続いて硬いパンに手を伸ばすと、全くパンを見もせずに大きく開いた口に躊躇無く投げ入れる。 一口だった。もむっと柔軟な音がしたかと思うと、使い魔は体をぶるっと震わせた(恐らく咀嚼だろう)が、それだけだった。 使い魔がルイズと、テーブルの上の料理を順番に見上げた。 だが、興味が無いのか? 直に視線を外すと風に飛ばされて机から落ちた紙のように、 ぺちゃりとその場に倒れこんだ。 『パンは食べた、でもスープは飲まなかった。』 こっちの料理を見ても興味が無い(無さ気?)と言うことは、現状で出される料理に不満は無いらしい。 ルイズは相変わらず自分の料理には手が進まなかったものの、 頭だけはこの使い魔のことを知ろうと彼女なりにフル回転させていた。 「え!?」 ルイズが皿を覗き込んだとき、一つの変化に気づいた。 使い魔が手を付けてなかったはずのスープが、いつの間にか飲み干されていたのだ。 空となったボロ皿を、使い魔は口に付けてすらいないのに。 一体いつ飲み干したのだろうか? 私に気づかれずに………… 疑問を孕んだ視線を投げ掛けるも、 使い魔は床にだらりと寝そべったまま、視線に気づくことさえない。 しばらくしても、当然答えが返ってくるわけは無かった。 朝食を終え――ルイズは殆ど食べていない――、ルイズは使い魔の足を掴んで引きずりながら教室に入った。 すぐさま視界に飛び込んできたのは他の生徒たちと、そのそれぞれが有するファンタジー溢れる使い魔たち。 ルイズのような変てこな使い魔はおらず、ちゃんと種族が確定しているものばかりだった。 当然のごとくここでも注目を集め、早速何人かのお調子者軍団にからかわれた。 悔しさに身を震わせながらも、いつか見返してやることを心に強く決め込む為に、 ルイズはあえて、甘んじて言葉を受けいれていた。 中には使い魔――ゲーム&ウオッチそのものに対する嘲笑やからかいもあったが、 当の本人は何食わぬ顔……もとい、何食わぬ動きでお気楽にビ――ッと鳴いて見せた。 ゲーム&ウオッチはきょろきょろと珍しいものを見るように、 やや興奮気味で、せわしなく顔を左右に動かしている。 誰かと目が合うたびにその誰かはクスクスと押し殺し気味に笑うのだが、 ゲーム&ウオッチはそんなこと全く気にせず(ただ解ってないだけだろう)、 ぶんぶんと大きく手を振って、そのたびにビ――ッと鳴いた。 そんなのんきな使い魔の様子を、ルイズは何も言わずに、頭を抱えて苦しそうに見ていた。 教員が教室に入ると、ざわざわしていた空気がピタリと止んだ。 やや癖のある歩き方で教壇の前に立つと、わざとらしい咳払いを一つする。 シュヴルーズの、恐らく悪気の無い嫌味の後、授業が始まった。 何時もなら真面目に受けるはずが、ルイズの視線は横目だったが相変わらず使い魔のほうに注がれていた。 自分でも理由は解らない、しいて言うなら、こいつは目を離した隙に何をするのかわからないから、 厳しく言うなら監視のために。 この使い魔は自分に懐いている様なのだが、好奇心が強いのか、 初めておもちゃ売り場につれてこられた子供みたいにやたらと自分勝手に動き回る。 事実、教室にくるまで何回逃げられたことか。掴んでいても、 持ち前の細さと平べったさで気づかないうちに脱出しているのだ、こいつは。 ……まぁ、動くたびにピコピコ鳴るので『気づかれない内に』ということは無かったのだが。 ルイズはさらに食い入るように使い魔を見た。 今のところ、おとなしく座っている……いや、正確に言うと、ぼーっとした顔でただじっと、 しかし、シュヴルーズの説明、一挙手一挙動を顔で追っている。 意外なことに、この使い魔は授業の内容にかなり興味を抱いているようだった。 真っ黒くて薄い、威圧感の欠片も無いはずの体から、見逃すまいとでも言出だしそうな無言の圧力をルイズは感じとる。 自分にとってはこんな今更で、コレまでのおさらい同然の授業など、 乗馬と同じくらいに得意分野だし、嘗てのおさらい等教科書に穴が開くほど勉強したのだ。 聞かなくてもたいした問題にはならないので、特に気負いすることは無かった。 が、しかし、それはあくまで個人の意見。 教師にとって、授業をまともに聞かず、余所見ばかりしている生徒など 罰を与えなければならない小憎たらしい存在でしかない。 「ミス・ヴァリエール! 私の授業はそんなに退屈ですか? それとも……いくら珍しいからと言って、そんなに自分の使い魔が気になりますの?」 ルイズはバッと顔を振り向かせ、頬を染めながら教壇上のシュヴルーズを睨む。 同時に、周りからざわざわとした空気が漂い始めた。 シュヴルーズは叱責のつもりで言ったのだろうが、 周りの生徒の忍び笑いを誘うには十分すぎるほど嫌味でねちっこかった。 お調子者どものつぼを刺激するのは、まぁ、あたりまえだろう。 「は、はい……すみません」 教師に逆らうわけにもいかず、目をきゅっと閉じ合わせたルイズは素直に謝った。 しかし、そこで許してやるほど、教師と言うのはそう甘くない。 「余所見をする……ということは、授業の内容など聞くにも値しないと言うことですね? よろしい! なら、この『錬金』をミス・ヴァリエール! あなたにやってもらいましょう」 目が見開かれ、呆然とした顔になる。 途端に周りの生徒たちが、先程以上に騒ぎ出し、 とうとう声を上げて一方的に異論を唱え始めた。 「無茶です! 絶対いヤ、……ムチャ」 「先生!? 気は確かですか!!?」 「む、無理だ。ヤムチャがフリーザに戦いを挑むくらい……無謀だ」 「『勇気』と『無謀』は違うぞ!! 先生!」 「『失敗』を恐れることは『進歩』への侮辱です! それ以上無粋な口を開くなら口に赤土を、 それも私が直々に突っ込みますよ? ……さ、ミス・ヴァリエール!」 しかし、シュヴルーズは意見を無視してルイズを手招きする。 ルイズはルイズで覚悟を決めたらしく、椅子から立ち上がるとゆっくり教壇に向かい、 その動きに対をなすように、生徒たちの大半は教室の出入り口に殺到した。 まるで、地震災害でも起きたみたいにパニック状態で逃げ惑っている生徒たちを見て、 流石のシュヴルーズも、ついでに言うならそれまで能天気に拍手していたゲーム&ウオッチも、 何かがやばいことに感づき始めて顔を青ざめさせたのだが………… ――――――――もう、遅かった。 石ころは見事に大爆発を巻き起こし、教室内にあった殆どのものを吹き飛ばした。 何とか廊下に逃れることが出来た生徒たちは爆発に頭をかがめ耳を塞ぎながらも、 自らの命がここにまだあったことに隣のものとだれかれかまわずに抱き合って喜んだ。 残念ながら逃げ遅れた生徒たちは、ほぼ全員が頭等を打ちつけ気絶。 ぶっちゃけ、それだけですんだのが奇跡だし、 さらに近くにいた、というか殆どゼロ距離にいたシュヴルーズが、 肌が少し焦げたのと、体のあちこちを打ちつけたことと、それによる気絶。 爆心地にいたにも拘らず、それだけですんだのはこの日最高の奇跡だろう。 別名を、不幸中の幸いという。 「あ、あはっ……失敗しちゃった……」 真っ黒こげ一歩寸前の状態のルイズがてへっと謙虚気味に口を開く、 たちまち口からもわっと黒い煙が出てきたが、一切気にはしなかった。 ――というより、なんで無事なのだろうか? ボム兵にも匹敵するかもしれない爆発によって、 縦のまま頭から壁に突き刺さったMrゲーム&ウオッチはきっとそう思ったに違いない。 彼の体が力なくペロンとうなだれた後、 壁の中からビィィィィィィッィヅ!! と濁った濁音が聞こえてきた。
https://w.atwiki.jp/pokemonsv/pages/2295.html
もくじを見る 商品情報 概要 追加ポケモン 追加わざ 追加とくせい 関連項目 商品情報 商品情報 タイトル 『ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤)『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤) 配信開始日 2023年12月14日(木) 公式サイト 後編・藍の円盤 概要 主人公はアカデミーの姉妹校であるブルーベリー学園へ交換留学をしに行く。ブルーベリー学園は海の中にある新しい学校で、特にポケモンバトルの教育に注力している。主人公は授業に参加したり学生たちと交流したりして、アカデミーとは異なる学園生活を体験することになる。 追加ポケモン いずれもパルデア図鑑に掲載されるようになる。 No. 名前 分類 タイプ 特性 タマゴグループ 性別 備考 通常特性 隠れ特性 ♂ ♀ 1018 ブリジュラス ポケモン はがね ドラゴン じきゅうりょく がんじょう すじがねいり 鉱物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1019 カミツオロチ ポケモン くさ ドラゴン かんろなミツ さいせいりょく ねんちゃく 植物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1020 ウガツホムラ ポケモン ほのお ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1021 タケルライコ ポケモン でんき ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1022 テツノイワオ ポケモン いわ エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1023 テツノカシラ ポケモン はがね エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1024 テラパゴス ポケモン ノーマル テラスチェンジ(ノーマルフォルム時)テラスシェル(テラスタルフォルム時)ゼロフォーミング(ステラフォルム時) - 未発見 50% 50% 【伝説のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1025 モモワロウ ポケモン どく ゴースト どくくぐつ - 未発見 50% 50% 【幻のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 追加わざ わざ名 タイプ 分類 効果・備考 エレクトロビーム でんき かえんのまもり ほのお きまぐレーザー ドラゴン サイコノイズ エスパー サンダーダイブ でんき じゃどくのくさり どく じんらい でんき タキオンカッター はがね テラクラスター ノーマル ドラゴンエール ドラゴン ハードプレス はがね はやてがえし かくとう パワフルエッジ いわ みわくのボイス フェアリー やけっぱち ほのお 追加とくせい とくせい名 所持ポケモン ゼロフォーミング テラスシェル テラスチェンジ どくくぐつ 関連項目 ゼロの秘宝 コンテンツ 碧の仮面 藍の円盤 番外編
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/432.html
「ゼロのルイズ」(前編) ◆LXe12sNRSs 「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。 涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。 そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。 ……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。 恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。 その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。 異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。 「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」 「な、なんでアンタがここにいるのよ!」 「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」 「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」 晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。 少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。 そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。 召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。 「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」 「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」 場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。 その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。 「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」 「? 遠くないってなにが?」 「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」 「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」 「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」 「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」 茹蛸みたいに顔を火照らせて、ルイズは少年の耳を力いっぱい引っ張った。 ……何故だろう。この少年の前に立つといつもこうだ。 言いたいことが言えなくて、発言を失敗するたびに胸が締め付けられるように苦しくなる。 病のようで怪我のようで、そのどちらでもなくて。 ルイズは純真な瞳に笑う少年の素顔を映し、正体の掴めぬ感情に胸を焦がすのだった。 「……ったく、こんなガサツで乱暴な性格だから、みんなに『ゼロのルイズ』なんて呼ばれるんだよ。少しはシエスタとかを見習えよな」 「そ、それは昔の話じゃない! っていうかなんでそこでシエスタの名前が出てくるのよ!」 「え? い、いやぁ~なんでだろうなぁ……ハハハ」 冷めた笑いではぐらかす少年の胸ぐらを揺さぶりながら、ルイズはまた怒り出す。さっきから顔を真っ赤にさせっぱなしだった。 ……少しは素直にならないとね。 表の思考ではなく、本能でルイズはそう思った。 このまま意地を張ってばかりでは、いつかきっと後悔してしまう……そんな予感を本能が感じ取っていたから。 「……もう、ゼロのルイズなんかじゃない」 「分かってるよ。ルイズはもう立派な――」 「そうじゃない! そうじゃなくて……その……私には…………才人、がいるから」 「へ? オレ?」 おどけた表情で言葉の意味を探る少年に、ルイズは依然赤面したまま、思いの丈をぶつける。 「……私には、『才人』がいるから! だから……だからもう『ゼロ』じゃない。才人が、才人さえいれば私は……」 意を決した反動で涙まで流す健気な少女に、少年――平賀才人は優しく微笑み、その小さな頭にそっと手を置いた。 ◇ ◇ ◇ 今宵の城は、漆黒ではなく真紅に染め上がることだろう。 爆砕か、炎上か、血染か、それとも――真紅を超越した『虚無』か。 「我が名はルイズ! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 杖である戦鎚を振り、唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!」 サモンサーヴァントだけは自信があった。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 あの召喚の儀式の日が、全ての始まりだった。 「私は心より求め、訴えるわ!」 ルイズと、才人の。 「我が導きに、答えなさい!」 運命の出会い――。 『…………まずは悲しい知らせから――!』 バトルロワイアル会場の中心地に位置するホテルという名の巨城。 その最上階にて、ルイズはグラーフアイゼンを振るい、破壊の力を行使する。 爆音が木霊し、壁が、天井が、床が崩壊。ほぼ同時に始まったギガゾンビの定時放送すら、その轟音で掻き消した。 横に、縦に、斜めに自由自在に振り回し、まるでウサ晴らしをするようにありったけの魔力をぶち撒ける。 これまでの激戦で損傷が進んでいた巨城はすぐにその身を揺るがし、ボロボロと破片を零していく。 『――涼子、前原圭一、竜宮レナ、古手――』 放送は既に、ルイズの耳には入っていなかった。 ギガゾンビの声を掻き消すほどの音も原因の一つだが、ルイズにはもはや、誰が死のうがどこが禁止エリアになろうがどうでも良かったのだ。 ホテルを壊して、目に入った人間は殺して、グリフィスの下へ、才人と一緒に帰る。 それだけ。たったそれだけで、才人は帰ってくる。 誰にも邪魔はさせない。朝倉涼子も問題じゃない。 才人と一緒にいれば、なんだって出来る。 だって才人は、ルイズが召喚した世界でたった一人の平民の使い魔だから。 神聖で、美しく、そして強力なゼロの使い魔だから。 「私はもう――ゼロじゃない!」 懐に忍ばせておいた才人の眼球を取り出し、屋外へと飛翔する。 天高く舞い上がったルイズは手の平に才人を転がし、同じ視点で崩壊していくホテルを見下ろした。 未だ鳴り止まぬ轟音は、依然として破壊が続いている象徴でもある。 スプーンで半分だけ掬ったアイスのように、ホテルは中途半端な半壊状態を迎えたところで鳴動を止めた。 このコンクリートの巨城は、ルイズにとっては砂の城だ。 そう形容するくらいに脆く、崩れやすく、壊しやすい。 才人と再び出会うための、単なる糧に過ぎない。 「見て、才人。お城が崩れていくわ」 地上から舞い上がってくる突風を受けて、ルイズの桃色の髪が揺れた。 生気を宿さない眼球は何も言わず、ただ死んだ瞳に崩壊寸前の巨城を映す。 「召喚魔法は一生で一度きりのもの。使い魔は生涯添い遂げるべきパートナー。私にはもう、才人しかいない」 ルイズが召喚した使い魔は、人間だった。 ルイズが召喚した使い魔は、平民だった。 ルイズが召喚した使い魔は、才人だった。 「もう一度やり直そう、才人。あの召喚の儀式から、私たちの出会いから――」 グリフィスはそれを叶えてくれる。 壊して、殺して、ぶっ壊して、皆殺しにすれば、才人は戻ってくる。 ルイズはグリフィスの虚言に一欠けらの疑念も持たず、ただ単純に――すごい、と思った。 「帰ろう、才人」 ――そこにはいないはずの才人と交わす、二度目のファーストキス。 突き出した唇は空を捉え、ただ唯一といえる彼の象徴は、何も返してはくれなかった。 今は、まだ。 でも、これが終われば、きっと。 グラーフアイゼンを頭上高く振り上げ、彼女の内に眠る潜在魔力を解放させる。 生み出された特大の鉄球の数は、一発。その一発に、ルイズの魔法の特性である『虚無』の力を加える。 「これが、決まれば!」 鉄球を狙い、グラーフアイゼンを当てんと振り被る。 虚無により強化された、本来の使い手であるヴィータのものを越えるシュワルベフリーゲン。 命中すれば半壊状態のところで食い留まったホテルも爆発と共に弾け、辺り一帯は焦土と化すことだろう。 そこに、ルイズ以外の生存者はいない。 「――っぉわれろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 呂律の回らない口ぶりで叫び、ルイズはグラーフアイゼンを振り下ろした。 「やめなさあぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「――ッ!?」 鉄槌が鉄球を穿つ――その直前だった。 ルイズの横合いから飛び込んできた黒い斧が、振り下ろされたグラーフアイゼンを弾き、同時に鉄球を空高く打ち上げた。 ホテルを狙うはずだったシュワルベフリーゲンは空中で花火のように霧散し、黒味がかってきた空を茜色に染める。 バランスを崩したルイズはなんとか体勢を立て直し、謎の乱入者へと矢庭にハンマーを向けた。 その場にいたのは、ルイズと同様に魔法の杖を持った、飛翔する女の子。 白を基調としたロングスカートは、平凡な小学三年生の女子児童が思い描く、典型的な魔法少女の兵装。 胸元で結ばれた大き目のリボンが際立ち、またそのリボンのイメージとは対極に位置する厳格な瞳を、ルイズに向ける。 「なによ……なんなのよアンタ!」 歳相応とはいえない殺気の込めれらた睨みを利かせ、ルイズは少女を牽制する。 だが少女はそれをものともせず、怯むでもたじろぐでもなく真っ向から視線を合わせていった。 純白の清楚なバリアジャケットに、使役するは親友が愛用していたインテリジェントデバイス。 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――その名は、バルディッシュ・アサルト。 そして使い手は、『魔砲少女』、『管理局の白い悪魔』など、呼び名を悪名の如く周囲に認知させ、若輩を意識させないほどの実力を持った一流の魔導師。 「高町なのはとバルディッシュ・アサルト――これ以上の破壊は見過ごせない!」 杖とは形容しがたい戦斧を構え、飛翔する少女は高らかにその名を宣言した。 ――狂った。邪魔が入って、何もかもが狂ってしまった。 直感でなのはを外敵と捉えたルイズは、奥歯を噛み締め、憤怒の思いを逆巻く風に乗せた。 あと少し、あと少しで終わったのに。いつも、いいところでいつもいつもいつも、邪魔が入る。 「どうしてホテルを破壊しようとするの? それに、なんであなたがヴィータちゃんのグラーフアイゼンを……」 「……キュルケにシエスタに、アンリエッタにタバサ……こっちに来てからは朝倉涼子! みんな、みんな才人と私の邪魔をする!」 慟哭を鳴らし、ルイズが雄叫びを上げた。 子供とも女とも思えない、獣性を帯びた咆哮はなのはを唖然とさせ、身を引き締めさせた。 同時に、虚無の力を更に行使する。 グラーフアイゼンにこれでもかというくらい魔力を込め、その形状を変えていった。 ハンマーヘッドの片方に推進剤噴射口が現れ、もう片方にはスパイクが取り付けられる。 通常のハンマーフォルムに比べ、近接戦闘に特化した変形形態ラケーテンフォルム。 『鉄の伯爵』と呼ばしめる戦鎚型アームドデバイス、グラーフアイゼンのもう一つの姿である。 「殺して、壊すだけで終わるの! だから、だから……だから大人しく殺されなさいよぉぉぉぉぉ!!!」 『Raketenhammer』 貴族の優雅さなど欠片も見せず、ルイズは感情のままになのはへと突進した。 ロケット噴射による推進力がルイズの速度を加速させ、回転。遠心力も味方に付け、グルグルと円盤のように回りながら大気を巻き込む。 なのはは咄嗟に防壁を張るが、グラーフアイゼンのラケーテンハンマーは基礎的なプロテクションなどで防げるものではない。 (すごい勢い……! ひょっとしたら、ヴィータちゃん以上――!?) 絶大な威力を防ぐには敵わず、魔力防壁はガラスのように砕け、飛び散った。 破壊力は強大でもそのコントロールはまだ不完全なのか、空中でグルグル回り続けたままのルイズの隙をつき、なのはは距離を取る。 「バルディッシュ、お願い!」 『Haken Form』 なのはの声に答えた機械音声がスイッチとなり、バルディッシュ・アサルトの形状を変えていく。 変形前を斧と言い表すならば、この変形後のハーケンフォームはその名の通り鎌。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルム同様、近接戦闘に特化した直接攻撃タイプの形態である。 「うわぁあぁああああぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁぁ!!」 力任せに突っ込んでくるルイズはグラーフアイゼンを使いこなしているというより、武器として利用しているだけのように思えた。 デバイスと意思疎通を図り、共に戦略を組み立てるなのはとレイジングハートのような関係とは違う。 グラーフアイゼン本来の使い手であるヴィータ以上にムチャクチャな攻撃方法――それを見て、なのはは再度思う。 ヴィータは、いったいどうなってしまったのだろうか。 主である八神はやての死亡と同時に、彼女の守護騎士であるヴィータとシグナムの二人も消滅したものだと思っていた。 しかし先ほどのホテル倒壊と同時期に行われた放送――告げられた死亡者の中には、確かにヴィータの名前があった。 真相が分からない。シグナムはまだこの世界に存在しているのか、ヴィータは誰かに殺されてこの世から消えたのか。 ルイズの持つグラーフアイゼンに訊けば、何かが分かるかもしれない。が、今はまだ。 そもそも、悲しんだり考えたりする暇はないのだ。 (ホテルには、まだみさえさんやガッツさんがいる。これ以上壊させるわけにはいかない……全力で止めてみせる!) なのはは向かってくるルイズと真っ向から対峙し、加速するハンマースパイクをバルディッシュの刃で受け止めた。 圧し掛かってくる力は過去ヴィータと交戦した時と等しく、重い。 でも、挫けたり諦めたりすることはできない。普通の少女みたいな甘えは、なのはには許されない。 守りたいものがある。友達と、仲間の、大切な命。失うわけには、いかない! 「死ね! 死ね! 死になさいよォォォォォ!!」 「……ぜったい、ダメェー!」 何度も何度も打ち込まれる鉄槌を、バルディッシュの一薙ぎで全て振り払った。 どうにかしてルイズからグラーフアイゼンを奪取し、無力化しなくてはならない。 故になのはは不得手な近接格闘戦に挑むが、使い慣れない鎌は振るうだけで疲労が溜まる。 そのため、隙も生じやすい。 「!」 がむしゃらに振り回され続けてきたグラーフアイゼンが不意に軌道を変え、なのはの顎下を狙ってきた。 バルディッシュの間合いを縫うように潜り込まれた一撃は、バリアジャケットに包まれていない頭部を掠めようとしている。 反射的に身を引いてそれを回避するが、そこからさらなる隙が生まれてしまった。 横合いから、真っ直ぐな軌道で振るわれるグラーフアイゼン。 バルディッシュのか細い柄がそれを防ぐが、発生した衝撃はなのはの小柄な身体を容易く吹き飛ばした。 流星のように煌びやかに、暗闇を帯びてきた市街地へとなのはが落下する。 受身として即席の防御魔法を展開するが、それでも落下の勢いを減少させるほどの効果しかなく、音を立ててビルの壁へと衝突した。 「――っいたた……大丈夫、バルディッシュ?」 『Yes, it is safe』 「にゃはは……やっぱり、フェイトちゃんみたいにうまくはいかないね」 コンクリートでできた壁に激突――常人、しかも小学三年生の少女ともあれば、笑って済ませられるものではない。 だがなのはは、普通なら大怪我のところを掠り傷程度で抑え、バルディッシュも目立った損傷はなかった。 戦いは始まったばかり、これからが本番。泣き言を言う暇も、言うつもりも、なのはとバルディッシュにはない。 (接近戦で対応するのは不利……かといって遠距離攻撃を仕掛ければ、あの子はシュワルベフリーゲンで攻撃してくる。 もし流れ弾が一発でもホテルに命中すれば、中にいるみさえさんたちが危ない……なら!) なのは立ち上がり、再び飛翔した。 空中で待ち構えていたルイズは未だ牙を剥き出しにした状態。 戦意を治めず、むしろ高ぶらせて、まずは目の前の邪魔者を排除しようと躍起になっていた。 ホテルからの注意は逸れている――引き離すなら、今がチャンス。 「あとで絶対、お話は聞かせてもらうから。でも今は――」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 再び突進してきたルイズに対し、なのははバルディッシュで受けようとも範囲攻撃で反撃しようともせず――身を翻し、急加速で撤退した。 頭に血が上っているルイズは逃げる敵に意識を奪われ、闘争本能のままになのはを追跡していく。 高速で飛行する魔法少女が二人、戦地をホテルの外周へと移す。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-6・上空/一日目/夜】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:精神完全崩壊/グリフィスへの絶対的な忠誠/全身打撲(応急処置済み)/左手中指の爪剥離 [装備]:グラーフアイゼン(ラケーテンフォーム)(カートリッジ二つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:平賀才人の眼球 [思考・状況] 1.殺す(なのはを) 2.壊す(ホテルを) 3.生き返らせる(才人を) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に軽傷(掠り傷程度)、友を守るという強い決意、やや疲労 [装備]:バルディッシュ・アサルト(ハーケンフォーム)(カートリッジ一つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s、バリアジャケット [道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式 [思考・状況] 1:ルイズをホテルから引き離し、無力化する。 2:グラーフアイゼンを奪取し、ヴィータがどうなったかを訊く。 3:シグナムが存在しているかを確認する。 4:フェイトと合流。フェイトにバルディッシュを届けたい。 5:はやてが死んだ状況を知りたい。 6:カズマが心配。 ◇ ◇ ◇ 破壊神が通り過ぎた跡は、それはそれは無残なものだった。 八階建てという、高く堅牢な誇りを掲げていたホテルという名の巨城は面影もなく崩れ落ち、今や元の半分、四階フロアまでを残すのみとなっていた。 五階から上は既に残骸として地に落ち、周囲に散らばっている。 ガッツや野原みさえがホームとしていた三階フロアも、上の階層から雪崩れ落ちてくる天井やら何やらによって、凄惨な有様となっていた。 壁に穴が空いているのも別段珍しくはなく、中からでも日の落ちた世界が一望できる。 崩れゆく鳴動は止まった。だが、これで崩壊が終わったとはとても思えない。 三階フロアの天井は現在進行形でパラパラと崩れ落ち、なおも残骸の数を増していっている。 いつのことだったか――野原みさえは、家族の住まうマイホームがガス爆発により崩壊した時のことを思い出した。 あれは一瞬の内に弾け飛んだ分ジリジリと迫る恐怖は感じ取れなかったが、このホテルの状況は違う。 いつ来るかは分からないが、いつか必ず来るであろう完全倒壊の時。一秒後か、一分後か、一時間後か、考えるほどに怖くなってくる。 関東大震災などがこんな感じだったのだろう。日頃テレビのニュースで見る被災者の方々の気持ちになり、みさえはその身を震わせた。 「ガッツ……それに、ゲインさんやキャスカさんは……?」 身体が満足に機能するのを確認した後は、改めて周囲を見渡した。 確認できるのは、乱雑に散りばめられた瓦礫の山々のみ。ベッドやら電話やら冷蔵庫やら、室内にあったはずのものは全て埋もれ、その姿を隠している。 見当たらないのはホテルの備品ばかりではない。ガッツやベッドで寝ていたはずのゲインもまた、その影をどこかに潜めたままだった。 まさか、彼等も生き埋めになってしまったのだろうか……渦巻く嫌な予感に駆り立てられ、みさえは足場の整わない残骸の上を歩く。 「あっ……痛ッ!?」 そこでようやく、自分の足が負傷しているという事実に気づいた。 瓦礫の破片に足を躓かせ、転倒。原因となった左足は青く膨れ上がり、今頃になって痛みを訴えかけてくる。 どうやら軽い打撲のようだ。これしきの怪我、ホテルの負った被害状況を考えれば随分と程度が低い。 みさえは意識を奮い立たせ、立ち上がろうと力を込める。その背後から、 「フリーズ。動くなです人間」 土埃に塗れた人形が、銃を突きつけてきた。 「あなた……どうして!?」 「まったく、あんな大爆発が起こったっていうのにしぶとい人間ですぅ。まぁ、そのおかげで翠星石も自由になれたわけですけど」 その人形――翠星石は、取り上げたはずの銃を構え、今にもみさえの後頭部を撃ち抜かんと牽制している。 「爆発……? 爆発って……あ」 翠星石の言葉で、みさえはようやく思い出す。 あれはたしか六時丁度、ギガゾンビの声がしたと思った瞬間の出来事だった。 凄まじい怒号と地震のような波に襲われ、すぐに天井が崩壊してきたのだ。 おかげでみさえも翠星石も、放送での死者や禁止エリアの情報を聞き逃してしまった。 しんのすけは無事なのだろうか、蒼星石は無事なのだろうか、考える暇もなく、自分の命を拾うことに精力を注がなくてはならない状況に陥る。 結果として、二人はホテルの倒壊にあっても即死は免れた。その際翠星石は意識を回復させ、同時に強奪された銃も奪還することに成功したのだ。 みさえは微かに振り向き、翠星石のやや後方に目を向ける。 そこに転がっていたのは、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた誰かの四次元デイパック。 おそらく翠星石は、あのデイパックから零れた銃を回収したのだろう。だとすれば、あのデイパックは銃を取り上げていたガッツのものに他ならない。 彼のデイパックがあのような無残な姿を晒しているということは、つまり―― 「ガッツ……ねぇ、ガッツはどうしたのよ!」 「あんなデカ人間しらねーです。ま、大方この瓦礫の下のどこかで野垂れ死んでるんじゃないですか。翠星石には関わりのないことです。それよりも」 翠星石は突きつけた銃口をみさえの旋毛にグリッと押し付け、覇気を込めた声で言う。 「よくも! よくも翠星石をあんな目にあわせてくれやがりましたねぇ! 人間如きにあんな仕打ちを受けるなんて屈辱ですぅ!」 「仕打ちって……あなたがトンチンカンなことを言ってるからお仕置きしただけよ! それの何がいけないわけ!?」 「あーもう! これだから知能の低い人間の相手をするのは嫌なんですぅ! 今の状況が分かっていないですか!? お前は今から翠星石に殺される運命にあるのです!!」 癇癪を起こしたように顔を染め上がらせ、翠星石は力の限り銃の引き金を引いた。 銃声が鳴り、黒く開いた口から殺意の弾丸が飛ぶ――が、それは狙っていたみさえの後頭部を逸れ、天井へと放たれる。 何が起こったか理解できない翠星石は、同時に自分の身体がみさえの手によって乱暴に振り回されていることを知った。 隙を突き、小さな人形の身体を捕縛した――このまま投げ飛ばし、抵抗するつもりか。 翠星石は考えたが、答えはまるで見当違いであり、みさえの行動の真意も一瞬が過ぎる内に知ることとなる。 「――危ない!」 時間差で届いたみさえの危機を知らせる声は、翠星石に事態を把握させた。 振り回された体勢のまま、視覚でも確認する。 翠星石とみさえの後方に、剣を振るう褐色肌の女剣士がいた。 みさえに気を取られている間に、この女は翠星石の背後に忍び寄っていたのか――ようやく自分がとんでもない窮地にあったことを自覚した翠星石は、遅すぎる恐怖に身を震わせる。 あと数秒遅れていたら真っ二つという状況だった。げんこつの恨みは消えないが、この時ばかりはみさえの機転に感謝せざるを得ない。 というか、この女剣士はいったい誰だ。翠星石は一瞬考え、すぐにキャスカという名のミニ人間がいたことを思い出した。 「……スモールライトの効果が切れたのね。それにその剣も……最悪」 「うっ…………ぐぅぅぅ……」 キャスカが握っているのは、翠星石の銃と同じくガッツが預かっていたはずのエクスカリバーだった。 あれが彼女の手に渡っているということは、やはりあのズタズタに引き裂かれたデイパックはガッツのものなのだろう。 だとしたら、なおさら彼の安否が気に掛かる。みさえは未だ姿の見えぬ仲間を捜したい衝動に駆られるが、どうやら眼前の女騎士はそれを見逃してはくれないようだ。 獰猛な獣のように声を漏らし、現状が把握できていないのであろうキャスカは、混乱気味にみさえと翠星石を襲った。 グリフィス以外は敵。これはキャスカが定めたルールのようなものであり、目に付く人間、殺せるチャンスがあれば、深く考えずに襲えという本能からくるものだった。 女と人形のように小さな子供……戦力的に見てもなんら問題ない。左足は骨折により使い物にならなくなっていたが、腕さえ動けば十分に殺せる。 キャスカはエクスカリバーの柄を握る力を強め、片足で跳躍してみさえに飛びかかった。 巻き起こる剣風は、みさえのような平凡な主婦には到底回避し切れぬ代物だったが、キャスカが満身創痍なこともあってこれは難なく回避する。 「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ! おち……落ち着きなさいってば、ねえ!」 攻撃を回避しつつキャスカを宥めようとするみさえだったが、混乱の度合いが強いのか、彼女は剣を収めようとしない。 朝比奈みくるという少女を殺害し、ゲインやセラスに手傷を負わせた凄腕の女剣士――ガッツは保護対象として捉えていたが、やはりセラスの言うとおり彼女は殺し合いに乗ってしまったようだ。 相手が刃物を持っている以上、翠星石のようにげんこつやぐりぐり攻撃で鎮圧することは難しい。大人しく逃げるのが得策かと考えたが、みさえ自身も怪我人の身。 いつ崩壊するとも分からないホテル内を、キャスカの剣をかわしつつ負傷した足で脱出する自信はなかった。 何より、ここにはまだガッツやゲインがいるはずである。彼等の安否を確かめるまでは、安心して避難などできるはずがない。 「くあああああああああああああッッ!!」 「――ッ!?」 気合の咆哮と共に、キャスカはエクスカリバーを大きく振り上げた。 その奇声に一瞬怯んだみさえは瓦礫の足場につんのめり、転びそうになった身体を寸でのところで制御する。 その間、回避行動はままならず、停止したみさえの上空から真っ直ぐな一閃が振り下ろされた。 「――――」 目を瞑り、覚悟を決めた。 これはもう避けようがない。恐れから来る痺れが身体を固めさせるが、死にたくないという強い意識はまだ保っている。 たとえどうしようもない窮地だとしても、みさえは願った。 助けを。ピンチを救ってくれる、ヒーローみたいな誰かを待ち望んだ。 ――その脳裏に荒くれた大男の姿がよぎったのは、否定しない。 「お前はッ!」 (……え?) 突如、キャスカの驚きに満ちた声を耳にし、みさえはそっと瞼を開けた。 気づけば、両断されるはずだった我が身は五体満足のまま存在している。 いったいどうして――答えを求めた視界の先で、キャスカの剣を一心に防いでいる男の姿があった。 「ガ――」 その名を呼ぼうとして、みさえは異変に気づく。 目の前で自身を守る障壁のように君臨している男は、脳裏をよぎった彼ほど大柄な体躯ではない。 晒した上半身に包帯を巻きつけ、荒い息遣いでなんとか立っているその男は――ゲイン・ビジョウだった。 「ゲイン・ビジョウ!」 「よぉキャスカ。一度は撤退したかと思ったが出戻りか? そんな傷まで負って、そこまでして生き残りたいか?」 ――昼に起こった闘争を再びなぞるかのように、ゲイン・ビジョウとキャスカの二人は対峙する。 ゲインはみさえがベッドの傍に立てかけて置いたバットを得物とし、キャスカの剣を防いでいた。 調子が万全ならば両断することも容易かったであろう代物だったが、キャスカ自身もいっぱいいっぱいらしい。 エクスカリバーを握る手はどこか弱々しく、数多の兵士を率いていた頃の力強さは感じられない。 「驚かせてしまってすまない、ご婦人。少し尋ねたいんだが、君はシドウヒカル、もしくはセラス・ヴィクトリアの知り合いか?」 「両方よ! 二人は今外に出てていないけど、あなたの看病をしていたら突然ホテルが崩れ出して、っていうか今も崩れてる真っ最中で……」 「なるほど……なんとなくだが、状況は把握した。ここにキャスカがいる理由は後でゆっくり聞くとして、とりあえず彼女には眠ってもらわないと……な!」 降りかかる刃の切っ先をバットで流し、ゲインはキャスカを沈静化させようと腹部に蹴りを放つ。 だが負傷している身とはいえ、剣を持った傭兵に安易に隙が生まれるはずもなく、ゲインの一撃は空振りで終わった。 「相変わらず鋭いな。女性のものとは思えぬ剣捌きだ。……それだけの力を持ちながら、自分のことしか考えていないってのがマイナスだがな」 見た目にそぐわぬ豪快さもまた、女性のステータスの一部。ゲインはそう捉えていた。 だがその力を自分のため『のみ』に使うとあっては、とても褒められたものではない。 血気盛んなレディは嫌いではないが、少々痛い目を見てもらう必要がありそうだ……ゲインは疼く脇腹を押さえ、キャスカの剣とバットを交わした。 (自分の命に、興味などはない……。私は決めたんだ。グリフィスを優勝させ、鷹の団を再興する) 囁くように発した言葉は、ゲインの耳には届いていなかっただろう。 ゲインは思い違いをしている。キャスカは決して自分が生き残りたいがために戦っているのではなく、ただ一人、敬愛した男の無事を祈り剣を振るっているだけなのだ。 (グリフィス……ジュドー……ピピン……リッケルト……コルカス) 誰にも思いつかないような知略と、カリスマ性溢れる指揮でみんなを率いてくれたグリフィス。 投げナイフを得意とし、何事もそつなくこなす参謀役でもあったジュドー。 巨体を盾にして何度も敵兵の強襲を食い止め、白兵戦の要として活躍していたピピン。 幼いながらも常に皆のことを思い、鷹の団を支えていてくれたリッケルト。 身勝手ではあるが、いざという時には誰よりも果敢に敵に攻めていったコルカス。 何ものにも変えがたい、鷹の団の戦友たち。 (……ガッツ!) 一年前に鷹の団を去り、仲間を、グリフィスを裏切り我が道を進んだ――今はもういないガッツ。 (ガッツも、私も、いらない。グリフィスが、いれば……) ふと、自分でも驚くくらい仲間に対して献身的な思いを抱いていることに気づく。 その正体は、あの一年を無駄にしたくないという意地か、未だ潰えぬグリフィスへの思いか、傍を離れていったガッツへの怒りか――。 (深く……考えるなキャスカ。私はただ、敵を斬る。それ、だけでいい……!) エクスカリバーの握り手に再度、力を込める。 グリフィス以外の敵を消す。ガッツであろうと、誰であろうと。そのためにもまず、この場を生き延びてやるんだ。 「いくぞ……ゲイン・ビジョウ!」 「やれやれだな……」 鷹の団の千人長たる女戦士は、たった一人の男と残してきた仲間のために剣を振るう。 黒いサザンクロスの通り名を持つエクソダス請負人は、その肩書きの誇りに掛けて、脱出を願う者たちでのエクソダスを目指す。 観戦するしか道が残されていなかった主婦は、自分にでき得る最善の行動を模索し、そして速やかに取り掛かる。 他者を恨んでばかりの人形は、いつの間にか姿を消していた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】 【キャスカ@ベルセルク】 [状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night [道具]:なし [思考・状況] 1:目に付く者は殺す 2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。 3:グリフィスと合流する。 4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 1:キャスカを止め、ホテルからエクソダス。 2:市街地で信頼できる仲間を捜す。 3:ゲイナーとの合流。 4:ここからのエクソダス(脱出) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】 [状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲 [装備]:スペツナズナイフ×1 [道具]:なし [思考・状況] 1:ガッツ本人と、戦闘中のゲインの援護になるような物を掘り起こし、キャスカを止める。 2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。 3:セラスら捜索隊と合流。 4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。 5:しんのすけ、無事でいて! 6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する 基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:全身に軽度の打ち身(左肩は若干強い打ち身)、頭が痛い、全身各所に擦り傷 服の一部がジュンの血で汚れている、左肩の服の一部が破れている、人間不信 [装備]:FNブローニングM1910(弾:4/6+1)@ルパン三世 [道具]:無し [思考・状況] 1:あんなバカな人間共は放っておいて、さっさとここから逃げるです! 2:真紅や蒼星石と合流するです。 3:まずは魅音を殺してやるです。 4:水銀燈達が犯人っぽいから水銀燈の仲間は皆殺しです。 5:水銀燈とカレイドルビーを倒す協力者を探すです、協力できない人間は殺すです。 6:庭師の如雨露を探すです。 7:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。 基本:チビ人間の敵討ちをするため、水銀燈を殺してやるです。 [備考]:第三放送は聞き逃しました。 ※ゲインのデイパック: 【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】 みさえのデイパック: 【糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】 バトーのデイパック: 【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】 ロベルタのデイパック: 【支給品一式×6、マッチ一箱、ロウソク2本、9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの】 翠星石のデイパック: 【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】 パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、支給品一式、空のデイパック、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、首輪 がホテル内、もしくはホテル周囲の瓦礫の下に埋もれています。全て破損状況は不明。 ※ガッツの持っていたデイパックが崩落により損傷、中身が全て吐き出され、使い物にならなくなりました。 時系列順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 投下順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 高町なのは 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ キャスカ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ゲイン・ビジョウ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 野原みさえ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 翠星石 207 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 アーカード 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 園崎魅音 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 獅堂光 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on フェイト・T・ハラオウン 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on タチコマ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on ゲイナー・サンガ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 ストレイト・クーガー 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 セラス・ヴィクトリア 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ガッツ 207 「ゼロのルイズ」(後編)