約 490,553 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/696.html
「あんた誰よ?」 『サモン・サーヴァント』によって現れた一人の青年を前に、不機嫌そうにルイズは尋ねた。何やら呆けた様子を見せている、みすぼらしいナリの男は、不思議そうに辺りを見回し始める。 「……何だここ?」 「先に聞いてるのはこっちなのだけれど?」 要領を得ないやり取りに、徐々に不機嫌さを増していくルイズの顔に目を向けると、男は盛大にその腹の虫を鳴らせた。 「ああ、俺は……雷(アズマ)って言うんだけど……そんな事より、何か食わせてくれないか? 腹、減っちまった」 尋ねた答えは得られたが、おまけで付いて来た言葉に、その周りで様子を眺めていた生徒達が爆笑でもってルイズとその使い魔に言葉を投げかけた。 「呼び出した使い魔が平民な上に、いきなり食事を要求されてるぜ?」 「あさましい使い魔もいたものね。ある意味ゼロのルイズには相応しいんじゃない?」 あからさまな嘲笑を浴びせかけられ、羞恥に身を震わせるルイズは、その怒りを目の前の使い魔にぶつけた。 「あんた! 状況理解してる!? 呼び出された第一声がそれって、何よ、馬鹿にしてるの!?」 「呼び出されたって……わけわかんねぇよ。こっちは船に乗ってた筈なのに、気付いたらこんな所にいたんだから。理解してるのは、今俺の腹が減ってるって事くらいだな」 そう言って力無く倒れたアズマと名乗った青年は、差し掛かる日の光を浴び、あくびを一つ、そのままくぅくぅと寝息を立て始めた。 「……召喚のやり直しは……」 「無論、不可だ。さぁ、早く『コントラクト・サーヴァント』を執り行いたまえ」 おずおずと言うルイズに対し、コルベールの対応は迅速な物だった。 「はい……」 不本意ながらも、こうしてルイズのファーストキスは、空きっ腹を抱えて眠る平民に捧げられる事と相成ったのだった。 目を覚ましたアズマは、そこがまるで見ず知らずの場所である事を知り、あからさまにうろたえを見せた。そして、眠る前のひと時を思い出し、あー、と頭を抱える。どうやら夢の類ではなかったらしい。不可思議な現象にアズマは混乱する。 少なくとも、日本では見たことの無い意匠の部屋は、アズマの好奇心を刺激した物の、下手に動くのはどうか、と思い至り、自身が横たわっていた藁の床に再び身を預けた。 「腹減ったなぁ……」 この部屋の窓からは、日の光とは違う控えめなそれが差し込んでいる。 恐らくは夜なのだろうが、月の光にしては明るすぎる。そう思い、アズマはその身を起こして窓の外に目をやった。 「嘘だろ?」 その目に映ったのは、夜空に煌々と輝く二つの月。あり得ない光景に息を呑んだアズマの無防備な背に、がちゃりと戸を開けて部屋に入ってきた者の声がかけられた。 「やっとお目覚め? 怠惰にも程があるわ……これ、夜食。お腹空いてるんでしょ?」 アズマが振り返ると、そこにはパンを手にしたルイズの姿があった。 何がどうなってるのか分からない状況だが、空きっ腹を抱えたアズマにとっては、目の前にある食べ物が全てだった。慌ててルイズの差し出したパンを掴み取ると、ほぼ一息でそれを嚥下した。 「おかわり」 「はぁ? ちょっと、あんた殆どそれ一気食い……」 「足りない」 問答無用とばかりに言うアズマに、ルイズは自身のペースが掴めずに戸惑いっぱなしである。少なくとも、ある程度は空腹が満たされたのか、笑顔の彼に目を向けた。 「ちょっとは我慢しようって考えにならないの? せっかくご主人様がご主人様が施しを上げたって言うのに」 「ご主人様? おまえ何言ってるんだ? よく分からないけど、これっぽっちじゃ全然足りないよ」 あの後眠っていたせいか、契約について理解していないのだろうか? ルイズはそんな不安を抱えながらも、ずい、と手を差し出して食べ物を要求する使い魔の勢いに押され、 「……ちょっと待ってなさいよ。ちゃんと食べ物は用意してあげるから。その後、わたしの話を聞きなさいよ?」 「ああ。何か食わせてくれたら何でも聞くさ」 肩を怒らせ、ルイズは渋々と部屋から出る。使い魔に甘い顔を見せるのはこれっきり、そう心に誓いながら。 アズマはと言うと、再び窓の外に目をやり、ほう、と溜息を吐いた。 「望んでた通りに、別の国に来れたんだろうけど……これはあり得ないよなぁ……」 外国の空には月が二つあるものかと一瞬思ったアズマだが、少なくとも自分が生きる世界には月が二つあるという現実は存在しないだろう、そう考えた。 だが、そんな詮無き考えも、今の彼には無用だった。全てを捨て、ただ流浪の身となったアズマには、意味のある事など殆どありはしないのだから。 「これはこれで、いいのかもな」 自身に受け継がれなかった『陸奥』の名を思い、彼は目を閉じる。 それが忘れられるなら、どうなったっていい。少なくとも、今のアズマにとって、流れに身を任せて生きる事が全てだった。 ふと視線を落とすと、妙な紋が自身の左手の甲にある事にアズマは気付く。 「なんだこりゃ?」 刺青など彫った覚えはないのだが……アズマは部屋を見回し、布らしき物でそれを拭ったが、消える気配が無い。いつの間にこんな物が、と考えるも、今の不明瞭な状況では答えなど出るはずもなかった。 とりあえず、必死になって左手の甲を布らしき物で拭っていると、再び開かれた扉の前で、仁王立ちしているルイズがいた。その手には先ほどよりも多いパンが握られている。 「おおっ、食い物!」 「あ、あああああ、あんた……」 「?」 早速その中から一つを奪い取り、もぐもぐと食べ始めるアズマに、震えた声でルイズは言う。 「ご主人様のパンツを持って、何してんのよーーーーーーー!!」 いきなり怒声を浴びせかけられ、驚くアズマ。左手を拭っていた布らしき物は、よくよく見ると、女性用の下履きに似た物であることに気付いた。 「へ、へへへへ、変態! あんた変態だわ!」 「…………何だかなぁ」 部屋に置かれていた鞭を手にしたルイズに追い回されながら、アズマはパンを咥えて呟く。相変わらず状況は分からないが、とりあえず退屈だけはしないで済みそうだ、そう思って彼は飄々と、自身に振るわれる鞭を避け続けるのだった。
https://w.atwiki.jp/animeoped/pages/51.html
ゼロの使い魔~双月の騎士~ ぜろのつかいま~ふたつきのきし~ 監督:紅優 シリーズ構成・脚本:河原ゆうじ キャラクター原案:兎塚エイジ キャラクターデザイン・総作画監督:藤井昌宏 音楽:光宗信吉 アニメーション制作:J.C.STAFF オープニング テーマ曲:「I SAY YES」作詞:森由里子 作曲:坂部剛 編曲:新井理生 歌:ICHIKO エンディング テーマ曲:「スキ? キライ!? スキ!!!」作詞:森由里子 作曲・編曲:新井理生 歌:ルイズ(声:釘宮理恵) TVアニメ「ゼロの使い魔~双月の騎士~」サウンドトラック I SAY YES [Maxi] スキ?キライ!?スキ!!! [Maxi] 2007年 作品名:せ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8230.html
前ページ次ページゼロの賢王 ポロンの両の手から放たれた閃光の炎刃は一瞬にして7体のワルキューレを粉砕した。 それでもなお、勢いは衰えずにギーシュの方へと向かう。 「う、うわああああ」 ギーシュが叫びながら蹲ると、炎刃は頭上スレスレを通過した。 背後で観戦していた生徒たちも慌てて道を開けると、炎刃はそのまま地面へ直撃して爆発炎上を起こす。 ギーシュは恐る恐る後ろを見た。 すると、そこには大きく抉れ、まるで草刈りでもしたかの様に刈り込まれた地面があった。 (ハァ・・・ハァ・・・。何だあれは?あんなものが直撃していたら僕は・・・) ギーシュは戦慄する。 そして、今まで見下していた目の前の存在に恐怖を覚えた。 (べ、別々の系統魔法を合体させた・・・?だ、だがそれにしては何だこの破壊力は!?) ハルケギニアの世界の魔法にも異なる系統魔法を組み合わせる方法は存在する。 例えば『風』と『氷』を組み合わせることで氷の矢を放ったりすることが出来る。 しかし、それはあくまで組み合わせに過ぎず、本来の威力の底上げとはならない。 仮にトライアングルのメイジが最大で100の力を出せたとして、異なる系統魔法をどう組み合わせてもこの100を超えることは出来ないのだ。 これは、メイジが基本的に1つの系統魔法を専門的に学ぶという慣例が原因の一つでもある。 メインで使用する系統以外の魔法がどうしても低くなってしまう為、他の系統の魔法を組み合わせても能力の底上げにはなりにくい。 その為、4つの系統を組み合わせることが可能であるスクウェアクラスのメイジでも、同じ系統を足すことで自身の魔法を強化させる道を選択することが多い。 だが、ポロンが今放った魔法は違っていた。 ワルキューレを破壊した2つの魔法。 それは、威力としてはそれぞれドットレベルの攻撃力に過ぎないかも知れない。 しかし、この2つを組み合わせることでトライアングルレベルの攻撃力にまで増幅していた。 「凄い・・・わね」 キュルケは目の前の光景に思わず唸った。 ポロンが先に使用した2つの魔法については、平民が魔法を使ったこと以外に驚く様なことではなかった。 杖を使用していない様に見えたが、彼女もまたギーシュと同じ様にそれは気のせいか隠し持っていたのだと推測していた。 しかし、今ポロンが放った魔法は別である。 「彼はラインのメイジなのかしら・・・?それにしては・・・」 「威力が強過ぎる・・・」 タバサが呟く。 その目は完全にポロンに釘付けであった。 「あ、ああ、あああああ・・・」 ギーシュは戦意を失っていた。 先程出したワルキューレ7体。 あれが今のギーシュの全力であった。 そう、ギーシュは全力でポロンを叩き潰そうとしたのだ。 それが一瞬で破壊されてしまった。 それを目の前で見てしまえば、心が折れてしまうのも無理は無い。 だが心で負けた者は、どう足掻いても相手に勝つことは出来ない。 (あ、あんなものがまた来たら・・・僕は・・・死ぬっ!?) その時、初めてギーシュは『死』というものを意識した。 これが決闘でなければ、ただの喧嘩やふざけ合いならば感じなかったであろうもの。 ポロンがギーシュへと歩み寄って来る。 その姿を見たギーシュは情けなく後ずさりながら「く、来るな!!」と薔薇を振った。 花弁が地面にはらはらと舞い落ちるが、それをワルキューレにしようという気持ちさえ湧き上がっていなかった。 ポロンの足がその花弁を踏み付ける。 ギーシュはポロンの顔を見た。 その顔は静かに、そして穏やかにギーシュを見つめていた。 「・・・おい」 「た、助け・・・」 「・・・・・・・・」 ポロンは無言でギーシュの手から薔薇を奪い取った。 「これで、俺の勝ち・・・だな?」 「・・・へっ?」 何かされるのだろうと身構えていたギーシュは少し肩透かしを食らったかの様にポロンの顔を見た。 「あ!・・・ああ。ぼ、僕の負け・・・だ」 やや間を空けてから、ギーシュは力無く言った。 その瞬間、周りの観客から次々と声が上がる。 それは、平民が貴族に勝ったことに対する不平不満、もしくは興奮。 まさに様々な声であった。 ギーシュはホッとして立ち上がろうとした。 すると、ポロンがそれを制する。 「へっ・・・?」 「敗者は勝者に何でもするって言ったよな?」 ポロンはそう言いながらギーシュを睨み付けた。 「あ・・・、え・・・?あ・・・」 「男に二言はねえって言ったよな?」 しどろもどろになるギーシュに更に言葉を浴びせ掛ける。 ギーシュの体に再び震えが起きる。 「な・・・何を・・・すれば・・・いいんだ?」 「・・・・・・・・・」 ポロンは無言であった。 ギーシュにはその沈黙すら恐怖に思えた。 溜まりかねて、ギーシュは恐る恐る訊ねた。 「あ・・・あの・・・?」 「謝れ」 「へっ?あ、あやまる?」 「そうだ、土下座して謝れ」 「あ・・・ああ・・・」 ギーシュは正座し、ポロンに頭を下げた。 「す、すまなかった・・・」 だが、ポロンは首を振った。 「俺じゃねえ。シエスタ・・・お前がさっき八つ当たりしたメイドにだ。それと・・・」 「それと・・・?」 「あそこにいるルイズにだ」 そう言ってポロンはルイズの方を指差した。 突如名前を呼ばれたルイズは吃驚して、ポロンの顔を見る。 「ぽ、ポロン?」 ギーシュはポロンに言われるがまま、ルイズの元へ向かい跪く。 そして両の手を地面につけ、頭を下げた。 それを見て、ルイズは更に驚いた様な顔をする。 「え?ええ!?」 「ミス・ヴァリエール・・・この度の無礼の数々、本当にすまなかった。 許してくれ・・・。この通りだ!!」 ギーシュが地面スレスレまで頭を下げるのを見ると、ルイズもどうしていいか分からず、 「も、もういいわよ!」 と言ってその場から去ってしまった。 ギーシュはルイズが去った後もその姿勢を崩さずにじっとしていた。 それを見て、ポロンはギーシュの元へと向かう。 そして、ギーシュの頭をポンと叩いた。 「やれば出来るじゃねえか・・・」 「・・・・・・・・・」 「いいか?自分が間違ってる時に謝るのは恥じゃねえ。ケジメって奴だ。 それを意固地になって認めようとしねえのは、それこそお前らの言う『貴族』っていう精神に反するんじゃねえのか?」 「・・・そう、だな」 「・・・今はここにはいねえから仕方ねえが、後でちゃんとシエスタにも謝れよ」 「・・・分かった」 「あと、お前が二股かけた相手にもな。なあに、女ってのは大抵何度も土下座して謝れば最後には許してくれるさ! 本当に自分に惚れてくれた女なら、な」 ポロンは2、3度ギーシュの頭を叩くと、ルイズの後を追ってこの場から立ち去って行った。 ギーシュはボロボロと涙を零していた。 それは、決して敗北故の屈辱の涙では無く、まるで親に叱られた子供が零す様な何となく居心地の悪い、 だが、決して嫌な気持ちだけではない涙であった。 (あの男の名・・・確かポロン・・・とか言ったな) その名前はギーシュの心の中に深く刻まれた。 遠見の鏡で決闘の様子を見ていた、オスマンとコルベールは互いに顔を見合わせていた。 「オールド・オスマン」 「うぅむ・・・」 「あの男が、勝ちましたね」 「・・・じゃな」 「ギーシュ・ド・グラモンは一番レベルの低いドットのメイジですが、それでも実力はラインのメイジにも劣りません。 仮に魔法を使えたとしても、平民にあそこまで遅れを取るなんて・・・」 コルベールは今見た光景を信じられないといった面持ちで見ていた。 「それに彼の魔法・・・。杖も無しに使用するなんて、最後のを除けば威力こそ低いものの、まるで先住魔法です」 「・・・いや、あれは先住魔法ではないな」 「と、言いますと?」 「ふぅむ、あの男の使用する精神力といったものか?それが根本的に我々と異なる様にわしは感じたよ」 「・・・やはり先住魔法では?」 「わしは本物の先住魔法を見たことがある。じゃからこそ、彼の魔法が違うと断言出来るよ。 それに、彼は見た通りエルフでは無く、れっきとした人間じゃ」 「・・・では『例の力』?」 「アレか・・・。じゃが、アレは言い伝えによれば武器に反応する。魔力を武器と解釈したらどうなるかは流石に分からんが、 そもそも『あの力』と彼の行ったものは全くの別物じゃ」 「確かに。ふうむ・・・」 コルベールが思案する中、オスマンは別の可能性を考えていた。 だが、そのあまりに突拍子のない考えには流石に否定しか出来ない自分がいる。 「オールド・オスマン。取り敢えず彼のことは要観察ということでよろしいでしょうか?」 「・・・ああ、そうじゃな。今のところ、彼もミス・ヴァリエールに害する行動は取っていない。 完全に安全な人物と断定することは出来んが、今すぐどうこうすることでもあるまいて」 「それに『例の力』の方も・・・」 「うむ、じゃがそれは慎重にな。もし彼が『例の使い魔』じゃということが分かれば、 彼を呼び出したもの・・・つまり、ミス・ヴァリエールが虚無の使い手ということになる。 そんなことが王宮にでも知られれば、あの子はもう普通の生活は出来なくなる。 それは学院長として・・・いや1人のジジイとしても忍びないからのう」 「・・・肝に銘じておきます」 そう言うと、コルベールはオスマンに一礼してから部屋を出た。 オスマンは水キセルを吹かし始める。 (・・・伝説の使い魔『ガンダールヴ』、のう) オスマンのその表情を隠す様に水キセルの煙が立ちこめ始めた。 ルイズの中には複雑な感情が渦巻いていた。 それは勿論、自身の使い魔ポロンのことである。 (アイツ・・・!!あんな大事なことを私に隠してたなんて!!) 先程の決闘でポロンが使用した魔法。 それがルイズの心に深く突き刺さっていた。 使い魔に隠し事をされていたこともそうだが、それが魔法なのだ。 魔法をまともに使用出来ないルイズにとっては何処か裏切られた様な気分になっていた。 「ルイズ!」 ポロンの声が聞こえる。 ルイズはこの溜まりに溜まった感情をぶつけようと振り返った。 「この馬鹿い・・・!!」 「す、すまねえ!!!!!」 「へ?」 振り返ると、そこにはポロンが頭を地面に擦り付けている姿が見えた。 あまりに唐突なので、呆気に取られる。 ポロンが悲痛な声を上げた。 「あの魔法のこと、別に隠してたわけじゃねえんだ!!ただ言う機会が無かったのと、 それと、あの教室でのお前を見てたらさ、何か言い出せなくってよ!!」 「・・・・・・・・・」 「俺が魔法使えるって分かったらさあ、教室でお前に言ったことが何か嘘になるっつーか、 馬鹿にされた様に思わすのもアレかなー?ってんで、その・・・言えなかったんだ!!」 「・・・・・・・・・」 「この通りだ!!許してくれ、ルイズ!!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・ルイズ?」 ポロンが恐る恐る顔を上げると、ルイズは何だか泣いている様な怒っている様な顔をしていた。 「ルイ・・・」 「この馬鹿!!!!」 「ひぃっ!?」 「馬鹿馬鹿馬鹿!!!!勝手に決闘なんかして!!勝手に魔法なんか使って!!この馬鹿!!」 「す、すま・・・」 「いい!?今度からこんな勝手、絶対に許さないんだからね!?またこんなことしたら、その時は鞭打ちの刑よ!?」 ルイズの顔はまるでトマトの様に真っ赤であった。 「る、ルイズ?」 「・・・今日のところは寛大に1週間食事抜きで許してあげるわ。だ、だから早く部屋に戻って来なさい!! せ、洗濯物だってあるし、掃除だってやってもらうんだからね!!」 「・・・ああ、是非やらせてもらうぜ」 「フン!!」 そう言うと、ルイズは顔を真っ赤にさせたままツカツカと歩いて行ってしまった。 ポロンはよっこらせと立ち上がると、その様子を苦笑いで見守った。 前ページ次ページゼロの賢王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3336.html
前ページ次ページゼロの英雄 ルイズの手記-3 △月○日 結局アタラクシアって赤竜を追ってアルビオンに行くことになった。 行くついでに姫様に用事を頼まれる、密命を帯びてアルビオンに向かったワルド様がいつまで経っても帰ってこないらしい。 ラ・ロシェーヌで一旦休んでとか思ったけど甘かった、スピノザが全力を出せばアルビオンまでひとっ飛びじゃないの。 キュルケとギーシュも何故か付いてきた、スピノザが頼まれると断れなかったらしい。 アルビオンは戦争の真っ直中、最近押され気味だった貴族派が勢力を盛り返しつつあるらしい。 途中あわやレコン・キスタ間諜かと疑われたけれど、姫様から預かった水のルビーが証を立ててくれた。 ウェールズ様は素晴らしい方だ、戦況は苦しいが最後まで戦い抜くと仰られた毅然とした態度に思わず感動。 ただもし自分たちが戦死した場合姫様がに迷惑が掛かるだろうと一通の手紙を預かった。 その時輝く水のルビー、って私の属性って虚無だったの!? 試しに一発撃ってみたらすっごい爆発が起きて貴族派の主力が吹き飛んだ、これ幸いと年甲斐もなく特攻するジェームズ陛下。 一気に王党派に傾いた戦場の様子を見て、ウェールズ様に預かった手紙を返す。 ところで先行……もとい閃光のワルド様は一体何処に? 元レコン・キスタ総指揮官オリヴァー・クロムウェルは走っていた。 森を掻き分け、川を渡り、崖から転げ落ちながら、がむしゃらに追撃の魔の手を逃れようと走っていた。 わざわざ特注で作らせた僧服は木々に引っかけぼろぼろで、かつての神聖な面影など欠片もない。 酷使を繰り返したせいか右手の中指に付けたアンドバリの指輪は効力を失って久しい。 「ふ、ふふふ……」 つまりは自分は見捨てられたのだ。 あの人を人とも思わぬガリアの狂王に。 「ふひ、ふひひひひ……」 惨めだ、途方もなく惨めだ。いっそこのまま…… その時がさりと蠢くものがあった。 「ひっ」 森の木々の奥に覗く真紅の巨体、それを見た瞬間体が凍る。 「ひへぇぇぇぇええええ」 鋼すら通さぬ皮膚、人など塵程度にしか思ってないだろう二つの紅玉、金属製のゴーレムすらやすやすと引き裂く爪と、雷を呼ぶ二本の角。 あまりにも圧倒的なその存在に出会ったとき、人は考えることをやめただ恐怖する。 己の存在の矮小さ自覚するが故に…… 「ひへぇぇぇぇぇえ!」 そのドラゴンはクロムウェルの左腕を囓り取った、そのままさも不味そうに咀嚼し、ゆっくりと飲み下す。 ――ああ、自分はこのままこの竜の昼飯になる運命なのだ。 クロムウェルがそう思い、瞳を閉じた瞬間。奇跡が起こった。 聞き覚えのない詠唱が耳を叩く。 その詠唱が終わると同時に、真紅のドラゴンはまるで夢を見たように呆然と周囲を見回した。 「おうちに帰りましょうか」 ドラゴンは一声なくと、ゆっくりとその場を飛び去っていく。 「大丈夫ですか?」 クロムウェルはほっと一息吐いて、自分を助けてくれた相手のことを見た。 金髪の髪、ぴっちりとした衣服を押し上げる二つのたわわな果実、そして美しい顔から覗く尖った耳。 ――エルフ!? 一難去ってまた一難、今度こそ完璧に硬直したクロムウェルに向かってそのエルフはゆっくりと近づいて来る。 「来るな……」 クロムウェルは残った右手を掲げる、それは死を前にしたクロムウェルの精神が生き残りたい一心で体を動かした結果だった。 「来るなぁぁぁぁあああああ!」 「きゃっ!?」 血で汚れ、光を無くした筈の指輪が蠱惑的な光を放った。 △月×日 ウェールズ様に聞いたところによると、赤いドラゴンは王都ロンディニウムから西へ飛んでいったらしい。 ウェールズ様にお礼を言い、スピノザの背に乗って西へ飛んでいくと、意外な人物と出会った。 「タバサじゃない」 『雪風』の二つ名を持つトライアングルメイジ、それに奇妙な服装の黒髪の平民と高飛車そうな微妙にタバサ似の青髪の女の子。 ものっそいおでこが眩しかった。 「きゅいきゅい、スピノザさま奇遇なのねーるーるるー」 シルフィはシルフィで色々と吹っ切ったのか、スピノザに甘える用に顔を擦りつける。 韻竜だからって隠すことを止めたらしい、まぁこれだけ韻竜が出てくればね…… アタラクシアを探していると言ったら、おでこが突っかかってきた。 なんでよ? 聞いた話によると元々デコが召喚したらしい、じゃあなんでこんなとこにいるのよ?って聞いたら 「うるさいうるさいうるさーい!」 ――取られた、私の十八番取られた…… スピノザはスピノザで平民の持った剣を呆けた用に見つめていた、破竜剣 ダンテ ? なにそれ? 魔王竜を殺す為だけの武器? 二丁拳銃ぶっ放せるようになったり変身出来るように――いや、なんでもない。 「きゅいきゅいきゅいー、そんな物騒なものだと気づかなかったのねー!?」 シルフィはもうこれ以上背に乗せたくないと騒いで、怒り狂ったおでこに鞭を入れられている、哀れ。 スピノザに聞いたら竜の臭いがするから、アタラクシアはこの付近に暫く留まっていたらしい。 けれどちょっと前にこの場から離れた様子だとか、一体何処に行ったのだろう? ある時は大盗賊『土くれ』のフーケ。 ある時は魔法学院の秘書ミスロングビル。 しかしてその実体は、アルビオンの元公爵家の一人娘、マチルダ・オブ・サウスゴーダ。 マチルダは上機嫌だった、学院から盗み出した使い方の分からない『どらごん殺し』が信じられない値段で売れたのである。 盗品の販売を任せている知人から連絡が来た時はからかわれているのかと思ったが、どこぞの王族が見た目を気に入って買っていったらしい。 故にマチルダの懐は随分と温かかった、これで暫くは孤児院の子供達を飢えさせずに済む。 「ん?」 その時マチルダは異変を感じ取った、普段は外で元気いっぱい遊んでいるか畑の世話をしている筈の子供達が一人も見当たらない。 いつもなら誰か一人が「あ、マチルダ姉ちゃんだ!」と言う叫びが上がると共に一斉に揉みくちゃにされるのだが…… 「何か、あったのかね?」 異変を感じ取ったマチルダはフーケの顔になる、杖を取りだしゴーレム作成の呪文を唱えた。 作りだしたのは五メイルほどの土のゴーレム、戦力としては頼りないが様子見には十分。 マチルダはゴーレムを使って孤児院の扉を開け…… 転がるようにしてその場から飛び退いた。 マチルダ立っていた場所を閃光のように細腕が薙ぐ、そのあまりの鋭さに回避したと言うのにマチルダの頬に血の玉が浮かんだ。 刺客は奇妙なことにどこかで見たようなメイド服を着込み、その左手に身の丈もある大剣を持っている。 ――こいつが、テファ達を! ぎりりと血が出るほどに唇を噛みしめる、そのまま渾身の精神力を込めて杖を振るった。 「此処に居た子達の仇だよ!」 地面から巨大な腕が生えた。 その腕は小柄なメイド服の人影を一薙ぎすると、そのまま地面から生えるに全長三十メイル以上の巨大なゴーレムへと成長した。 これで仕留めた、暗い感動に身を震わせたマチルダは薄れる土煙の奥に信じられないものを見た。 「なんて、奴だい……」 メイド服の人影は傷一つないまま、ゴーレムの腕の上に立っていた。 格が違う、そう理解したマチルダはゆっくりと杖を棄てる。 「参った、殺したいなら好きにしな」 目の前のメイドはとんでもない化け物だった、正攻法では絶対に敵わない。 ――だから自分の首を刎ねようと近づいて来た隙に、差し違えてでも仕留める。 太もものガーターベルトの仕込んだ予備の杖に手を当てながら、マチルダは今生最後と決めた呪文を唱え…… 「ミスロングビル?」 「おでれーた、このおっかねぇ姉ちゃんはシエスタの知り合いかい」 あまりにも予想外の名前を呼ばれたことに、今度こそ本当に杖を取り落とした。 ジョゼフの手記-3 △月×日 パソコンが動かなくなった、ガッデム! 理由は分からないのでマキシマムスピィィィンとばかりに頑張ってみたらEscが取れた。 修理を配下に任せ――パソコンのエロ画像が見れなくなって皆半狂乱だが……に託し、何故か青筋を浮かべたビダーシャルにイザベラ達が行ったらしきアルビオンの情勢を尋ねた。 「レコン・キスタがまた勢力を盛り返している」 待て、今なんと言った? もう一度聞きなおしてみても結果は変わらない、あの状況からどうやって…… 尋ねてみるとクロムウェルはエルフと真紅の魔竜と言う手札を手に入れて狂ったように暴れまわっているらしい、しかも死人の兵まで動員していると言う――どう考えても私がくれてやったアンドバリの指輪の効果じゃねぇか! しかもビダーシャルは人間がエルフを操っていることに激怒している、超恐い。 これ以上我が同胞を穢すつもりなら我等エルフ全てを敵に回すことを覚悟せよとか恐い、超々恐い、なんかキャラまで変わってるしよぉ…… いくらなんでも頃合いだろう、アルビオン内乱に介入することを決定し準備を進める。 だが準備と言う段階になって困ったことがあるのことにを気づく、最近ろくすっぽ暗躍していなかったので船が足りないのだ。 浮遊大陸でアルビオンに侵攻するには大規模な航空戦力が必要になる、我がガリアもある程度の航空戦力は有してはいるものの準備不足故いまいち決め手に欠ける。 まったく予想外の事態ばかり起こって楽しくて仕方がない、そんなことを考えていたら困惑した様子の部下が報告にやってきた。 ――コルベールが一週間でやってくれました! 魔法学院から客室研究員として招聘したハゲにパソコンで見た飛空艇と言う船のことを話したら、本当に作ってしまったらしい。 蒸気機関と言う燃料を燃やして動くカラクリを使い、風石さえあればメイジがいなくても空を飛ぶ船。 もしくは風石がなくても僅かな疲労で済むレビテーションだけで大空を駆けることが出来る船。 それなんてチート? 本人はしきりに後悔していたが知ったことではない、配下に命じて既存の船を全て飛空艇に改造させる。 いよっしゃー待ってろアルビオン、狂王ジョゼフが今いくぜー! 「そう言うことだったのかい、悪かったね……」 「いえいえ、見なかったことにして放っておくことは出来なかったので」 シエスタはその黒い髪を揺らし、ニコリと笑った。 子供達はティファニアが連れ去られた後、マチルダの言いつけを破って街へと探しに出たらしい。 その折り夜盗化した傭兵達に襲われたところをシエスタが助けに入り、とりあえず元の孤児院でマチルダの帰りを待つことにしたのだ。 いきなり手刀を叩き込もうとしたのは、マチルダがどう見ても夜盗にしか見えなかったからだとシエスタは言った。 「まぁ、確かに夜盗には違いないけどさ……」 マチルダはそう言って愚痴を零す。 「しかしあんた、一体何者だい?」 「いえ、学院で奉公させていただいている”ただ”のメイドですけど」 「ただのメイドがあんな動き出来るはずないじゃないのさ、それに何それ」 「俺っちのことかい?」 カタカタと音を立てながらデルフリンガーは言った。 「魔法を吸い取るインテリジェンス・ソードなんて伝説級の剣じゃないのさ」 たしかにただのメイドが持っていていい武器ではない。 「これはおばあちゃんの遺品でして」 「――何者だい、あんたのおばあちゃん」 「ただのメイドですよ、わたしは護身術からメイドの仕事の仕方まで全部おばあちゃんから教えて貰ったんです」 思わずマチルダの顔が引きつる、シエスタが護身術と言っているものは暗殺者の用いる体術そのものだったからだ。 「そう言えば、一度だけ変なことを言ってました」 ぽんとシエスタは手を叩いた。 「どんなだい?」 「遠い異国の言葉だったので意味は分からなかったんですけどね」 「駄目じゃねぇか!」 デルフリンガーが笑う。 「でもあの時のおばあちゃんの顔、凄く寂しそうで……」 「そうかい……」 しんみりした気持ちのままマチルダはシエスタを見た、誰にだって大切な過去の一つや二つくらいはある。 「ところであたしはこれからテファを連れ戻しに行く……」 子供達を頼む、そう言おうとしたマチルダの唇をシエスタの細い指が押さえ込んだ。 「水臭いですよ、辛い時は助けてくださいって言えばいいんです」 シエスタは笑った。 太陽のようなその笑みに、マチルダは思わず泣きそうになってしまった。 ???の手記 ――恐らく、神はこの私を許すまい。 それでも構わない、たとえこの身が悪魔と呼ばれようともけして私は躊躇うまい。 「本当にいいんだな?」 友の声に、娘は「お願いします」と答えた。 友が、左手に構えた大剣を振りかぶる。 音を立てて振り下ろされた剣が祈るように目を閉じたエルフの胸に突き立った。 流れる血潮、命の結晶。 それを前にして私は呪文を唱える。 コントラクト・サーヴァント。 対象を己が使い魔とする呪われた呪文を。 「エルフ達は私たちを許しますまい」 そのようなことは分かっている。 それでも、この人とエルフの血が混じった娘は願ったのだ。 人と人、人とエルフが憎しみあわずに暮らすことが出来る世界が来ることを。 確かにこの儀式が成功すれば長きに渡って続いてきたエルフとの戦いは終わるに違いない。 果たしてそれが、正しいことなのかどうかはともかくとして…… 「だが、それが娘っこの願いだろ?」 相変わらずひねた口調で、友は言った。 随分と長い付き合いだがこれほどやりきれない口調は初めてだった。 「なぁ、一つだけ頼みがあるんだが……」 それを皆まで聞かず、私は詠唱を終える。 そして今生の別れを惜しむようにその娘の唇へ口付けた。 五つの力を司るペンタゴン この者に呪いを与え、我の使い魔となせ 血が光へと変わり、娘の胸に使い魔のルーンが刻まれる。 私はただ憐れな娘のことを見ていた。 後の世のために生贄となることを望んだ、憐れなハーフエルフの娘のことを見ていた。 後世に伝えることすら憚られる、おぞましくも悲しい使い魔のことを私は見ていたのだ。 前ページ次ページゼロの英雄
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2391.html
「ここはどこなのねん?」 「そういうあんたこそ誰よ?」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが 周囲の心無い怒声と嘲笑の中でようやく召喚に成功したもの、 それはフンドシ一丁の肥満体で小汚いパーマのおっさんであった。 「平民、いや貧民だ…ゼロのルイズが貧民を呼んだぞ!」 「しかも変態かよ…いっそ失敗した方が良かったんじゃねえか?」 どう贔屓目に見ても貧民にしか見えず、僅かな望みをかけて 出自や身分を聞いてみれば貧乏神と名乗ったこの男にルイズは 失望を通り越して絶望を感じたのは言うまでも無いであろう。 しかも出てきた以上はコントラクト・サーヴァントを行わねばならず、 使い魔となればこれと生活をある程度共にしなければならない事を 考えるとますます頭が痛くなってくる。 当然ルイズは涙ながらもコルベールに再召喚をさせてもらえるように頼んだが 物凄く申し訳無さそうな顔をされつつも拒否されてしまったので 半ばヤケクソでオロオロしている自称貧乏神の頭をガシッと掴み、 コントラクト・サーヴァントを行う。ルーンが刻み込まれる熱で左手を押さえながら 見苦しく喚き、のたうつ貧乏神を見てルイズは盛大にため息をつく。 それから数日後…… ルイズの思ったとおり、いや思った以上にこの使い魔は役に立たない事が判明した。 それも役に立たないだけならまだしも気力と実力が反比例な働き者だからより困る。 勝手に何処かに出かけていっては仕事を見つけてそれに失敗して借金こさえてくるわ、 あからさまなインチキ商品を高額で購入する契約を結ばされるわ… 頼みもしないのに秘薬の材料を探しに行って「これはきっと良い物に違いないのねん」 とベニテングダケを渡された日には衝動的に蹴りを入れてしまい 股間を押さえて死に損ないのゴキブリの如く痙攣する彼を見ながら 「こいつが貧乏神っていうのは本当かもしれない…」 などとその日一日鬱だったのも無理は無い。 こうなったら使い道は唯一つ、その弛みきった心身を鍛えに鍛えて 屈強な護衛と生まれ変わらせる他は無い! そう考えたルイズはいつのも如く使い魔に虐待もとい特訓を行うようになった。 「ゼェゼェ…ハァハァ…ルイズ様、穴を掘り終わりましたねん」 「じゃあ、今度はそれを埋めなさい」 「ええっ~!じゃあボクは何の為に穴を掘ってたのねん!?」 「少しは鍛えて贅肉じゃなくて筋肉付けてもらわなきゃイザというとき私が困るの!」 「最近痩せてきたのねん。ルイズ様、お慈悲を…」 「どこが痩せてるのよっ!あんたの体格だともっと痩せないと早死にするわよ」 と、こんな非日常が日常茶飯事となり、もはや軍隊以上の悪夢のシゴキと ルイズの怒声が半分自業自得とはいえ哀れな貧乏神に容赦なく降り注ぐ。 しかし捨てる神あれば拾う神ありとはいったもので メイドのシエスタやコックのマルトーは不憫に思ってこっそり食料を渡してくれたり、 何気に訓練風景を見てしまったコルベールも最近は同情的になってきているので 完全に孤独という訳では無いのがせめてもの救いであろう。 だがそんな自分を含めた誰しも認める弱者である彼に大いなる転機が訪れる事となる。 その発端は二股のばれたギーシュの八つ当たりを受けていたシエスタを 貧乏神が庇い、それに腹を立てたギーシュが彼に決闘を申し込み、 貧乏神も貧乏神でルイズが止めるのも聞かずに受けてたった。 その結果、ヴェストリの広場にて十数分でワルキューレにボコボコに袋叩きにされる貧乏神… と、ここまではギーシュとギャラリーの予想を裏切らなかったが 「どんなに…貧しくても……魂までは売り渡したくないのねん!」 うつ伏せで痣と瘤だらけの貧乏神がそう呟くと左手のルーンが輝き始め、 やがてそれはギーシュと無慈悲にして無責任なギャラリー達の目にも映り始め、さらに 爆発的に溢れ出した光の奔流が居合わせた者全ての視界を一瞬で白一色に染め上げる。 そして…… 「キーーング!ボンビーーー!!」 大気を揺るがすような雄叫びと共に憤怒の化身が降臨した。 そこに立っていたのは文字通り雲をつくような巨漢、いや巨人であり 今までの貧乏神の弱弱しい雰囲気はみじんも無く、 体格も太ってこそいるが肥満体ではないガッチリとした固太りで ある為に前のような鈍重さは感じられない。 そして鋭い眼光と狼を思わせる犬歯はまさに大悪魔である。 貧乏神、いや、キングボンビーは慌てたギーシュが さらに六体追加して七体となったワルキューレを拳で 次々と虫の如く叩き潰し、王者の視線でギーシュを睥睨して 鋭い犬歯をむき出しに獰悪そのものの表情で笑う。 この時になってギーシュは思い知らされた… もはや狩る者と狩られる者の立場が完全に逆転したのだと。 「グェヘッヘ!ギーシュよ。 オレ様を躾けてくれた礼に我が故郷のボンビラス星にご招待しよう!」 「なんだか名前からして恐ろしそうな所なんだけど…さ、さっきの愚行は謝るから…」 「何、遠慮などするな、存分に楽しんでこい!」 キングボンビーはギーシュを小脇に抱えると 凄まじい速度で群集の目の前から姿を消し、 数分ほどで戻ってきたがそこにギーシュは居なかった。 「さて、次は…ルイズよ」 「な、な、何…」 ついさっきまで流石に哀れになってきて止めようとした矢先に あまりの急展開についていけずに放心状態になった主人の方を見遣り、 笑いながら、だが吼えるように言う。 「お前にも今まで鍛えてくれた礼をせねばな…」 「ヒッ……!」 「お前にはサイコロを十個振らせてやろう。 そして出たサイコロの目一つにつきエキュー金貨を 100枚、お前のサイフとお前の家の金庫から捨ててやろう!」 「いくらなんでも横暴よ!もっと安くして!…くれませんか?」 「じゃあ、オレ様がサイコロを十個振って出たサイの目の数だけ お前とお前の家族や友人を殴って回るというのはどうだ?」 「……自分で振ります」 どこからともなく現れた十個のサイコロを振った直後に ルイズは頭を抱えて地面にひれ伏す。 とんでもない金額が出てしまったらしい… さらに這いつくばってその場から逃亡しようとしていた 別に何もしていないにもかかわらずたまたま気になったという理由で マリコルヌをもキングボンビーは見逃さない。 「じゃあ次は…神風のマリコルヌ!」 「風上だってば…」 「ところでマリコルヌよ。人間の髪の毛は約十万本だと言われている。 そこでお前の毛髪力をほんの九万本分くらい ミスタ・コルベールに分けてやろうと思うのだ。良いアイデアだろう?」 「どこがだ!っていうか俺があんたに何したよ!?」 「なんとなくだ。男なら細かい事は気にするな!」 キングボンビーが言い終わるか言い終わらないかのうちに マリコルヌの髪がハラハラと抜け落ち始めた。 「グェヘッヘッヘッ!……ん?もうこの姿を維持するのも限界のようだな。 だが覚えておく良い!思い上がる者、欲に駆られる者、 妬むだけの者を叩き落す為にボンビラスの王者であるオレ様は何度でも降臨する事を!!」 そしてヴェストリの広場は再び光に包まれ、 そしてそこにはいつもの貧乏神がキョトンとした顔で立っていた。 「あれ?ボクは一体何をしていたのねん?」 「あ、あんた、あれだけの事して本当に覚えていないの?」 「悪いけどな~んにも覚えていないのねん…」 こうして決闘から始まった周囲の予想を超えた 恐怖の断罪劇はあまりにもあっけなく幕を閉じたのである。 そして貧乏神自身も何故か自分が勝った事になっている事を始め、 マルトーを始め厨房の人々から讃えられた事。 ギーシュが長期欠席をし、再登校した時には遭難したかのようにげっそりしていた事。 ルイズが人並みの対応を自分にしてくれるようになった事。 マリコルヌが禿げて落ち込んでいるのと対照的に コルベールに毛が生え始めて陽気になっている事など 分からない事だらけで戸惑っていたがやがてそれすらも 貧乏神にとって穏やかになりつつある日常生活と 周囲の「触らぬ神に祟り無し」の共通認識の中に埋没していった…… かのように思えたが後に土くれのフーケやレコン・キスタの回し者となったワルド子爵を ボンビラス星なる地獄のような(ギーシュ曰く、地獄そのものだった) 場所に流刑にしたり、さらにはレコン・キスタ軍を壊滅させ、 その後に数週間程して戻ってきた時には何故かアルビオンの経済が崩壊寸前に なっていたりと武勇伝に事欠く事は無く、後に邪神、魔王、 果ては始祖ブリミルの暗黒面の体現とさえ呼ばれ、 恐怖、または崇拝の対象としてボンビラス伝説が未来永劫語り継がれる事となる。 おしまいなのねん!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1708.html
前ページ次ページゼロのイチコ 「学院長!」 学院長室のドアを開き、部屋の中央で立ち止まる。 引っ張ってきたイチコを床付近に置くと、自らも頭を下げる。 「申し訳ありません、昨日の宝物庫盗難に私の使い魔が関わっていました!」 顔を下げているので学院長の顔は窺い知れない。 けれどもこれだけの事態を引き起こしたのは事実。 どんな処罰も受けるつもりだ。 朝の食堂は昨日の盗難事件の話で持ちきりだった。 あの頑丈な宝物庫から宝を盗み出されたのだ。金銭以前に学院の誇りに関わる事だ。 しかも犯人は学院長の書記のミス・ロングビル。 間違いなく学院の歴史に残る大事件である。 そんな事件も生徒にとって直接に実害のある話ではない、噂話の格好のタネになっていた。 特に女生徒の間では根も葉もない噂が飛び交っている。 ロングビルは脅されてやったのでは? というモノから 学院長が色仕掛けで宝物庫の鍵を取られたんじゃないか、などという酷いものまであった。 私自身は大変な事態だとは思った。けれど、噂話に花を咲かせる気も無かったし。事件に首をつっこむ気も無かった。 「ご主人様、もしかして私が共犯者かもしれません」 なんてイチコが青い顔で言うまでは。 どういう事かと食堂から連れ出して問い詰めると、昨日の夕方ミス・ロングビルに頼まれて宝物庫の解呪作業を手伝ったらしい。 宝物庫は基本的に外からの侵入を防ぐための魔法をかけてあったらしく。 中から見る事が出来ればただの小難しいパズルだったのだろう。 そうか、イチコにそんな便利な使い方が。 じゃなくて大問題だ。 使い魔がしでかした事は主人である自分の責任。 ロングビルがなんのつもりで盗み出したか知らないけれど、悪党に貴重な魔法道具を盗まれたのである。 悪くいけば絞首刑も免れない。 私はイチコの首根っこを掴むと学院長室へと向かった。 「昨日の夕刻、私の使い魔が宝物庫を開けるさいに内側の魔方陣の内容をロングビルに伝えた事が分かりました」 反応の無い学院長に、さらに詳細な報告をする。 「覚悟は出来ております、なにとぞ処罰を。もし許されるのであればロングビルから宝物を取り返してきます!」 「え、えと。あの、ごめんなさい」 隣で同じようにイチコが謝る。 それに対して学院長は 「まあ顔をあげなさい、ミス・ヴァリエール」 顔を上げる、髭をなぞり、眉根をひそめた学院長が目に入った。 「今回の件で問題があるとすれば、ろくに調べもせずにロングビルを雇ったワシの責任じゃ」 そう言って大きな椅子から立ち上がる。 「だから、そんなに気に病むことは無い。もうすぐ授業の時間であろう。もう行きなさい」 「しかし!」 「すでに数名の教師たちが捕獲に向かっておる。じきに犯人は捕まるだろう」 そう私の肩を優しく叩くと元の席に戻る。 そしてタバコを吹かしはじめた。 「それでも、何の処罰も無いのは納得が……」 「何度も言うように、今回はワシの失態じゃ。そう老人をいじめんでおくれ」 「――っ、分かりました失礼いたします」 隣で正座していたイチコの髪を掴むと、早足で学院長室を出た。 早足で自室に戻るとイチコを宙に放り投げる。 そして、床に転がってたデルフリンガーを拾うと背中に括りつける。 何も無いよりはいくらかマシだろう。 「痛いですよご主人様~」 「なに? 今あなたは何か反論できる立場にあるのかしら?」 そもそもの原因を睨みつけると、へなへなと小さくなった。 「い、いえ。ごめんなさい」 「なんだぁ、随分と機嫌がわりぃじゃねぇか。なんかあったのか?」 喋る剣に関しては無視する事にした。 イチコとはよく喋っているようだが、私は剣と親交を深める気は毛頭ない。 「じゃあ行くわよ」 扉を開けて廊下に出る。 「あの、デルフさんは私が持ちますよ?」 「アンタに任せてたら日が暮れるわ」 階段を降りる。 「何処に行くんですか?」 「ロングビルを追うのよ」 「ぇええ?!!」 「声が大きい!」 頭を軽く叩いた。空中を前回転した。 そして頭を抑え、また早口で喋りだした。 「ど、どど、どうしてそうなるんですか?! 教師の方が追ってるのでは? いえいえ、それ以前にいくらご主人様が学校の成績が良いと言う事は存じています。 しかし相手は元教師。私たちだけでは捕まえられるとも…… あぁ、ご主人さま死なないでください~」 まだ戦うどころか建物すら出てないのに涙ぐむイチコ。 相変わらず忙しい子である。 「イチコ、なんでオールド・オスマンが私を処罰しなかったか分かる?」 足を止め、イチコの顔を正面から見る。 「ぇ、ぇえと。私が原因でご主人様のせいじゃないから……ですか?」 それはない、過去の例をみても使い魔が起こした事件はすべて主人の責任となっている。 「違うわ、私が公爵家の娘だからよ」 しかもトリステイン王国でもトップに位置する。自治領がある大公爵家の娘。うかつに処罰できないのも分かる。 だからと言ってそれが逆に権力を傘にしているようで我慢ならない。 正当な処罰なら受ける覚悟はあるし、それを権力で回避するなどプライドが許さない。 プライドは誇りだ。貴族が真っ先に守るべきものである。 「だから、私は自分で自分を罰する。宝を取り返してくれば多少なりとも罪の清算はできるから」 「で、でも危ないですよ。死んじゃうかもしれないんですよ。死んだら私みたいになっちゃいますよ」 「誇りが汚されるぐらいなら死んだほうがマシよ」 「ぇ、でも……」 「いいから、行くわよ!」 再び階段を降りはじめた。 けど、イチコが付いてこない。 「どうしたの?」 「い、いえ。すいません」 ふわふわと、私の後ろ斜め。いつもの位置へと付いた。 馬を出し、裏門からこっそり学園を抜け出る。 食堂でいくらでも噂話は耳に飛び込んできていた。 話によればロングビルは学園を出て東へと馬を飛ばしたらしい。私も同じ方向へと馬頭を向ける。 天気はこれでもかというぐらいの快晴だった。 イチコは私の腰に捕まり、馬の振動に合わせてふわふわと揺れている。 珍しく何も喋ろうとはしなかった。 先ほどの会話を最後に一言も喋らない。それにあの時イチコは悲しそうな顔をした。 何故だろう。 貴族である限り死と隣り合わせであるのは当たり前。 ゆえに誇りを保つことは死を回避するよりも優先されることだ。 学院に通っていたというイチコだ、あなたも生前に貴族だったなら分かるはずだ…… しばらく進むと小さな集落があった。 そこで話を聞こうと思ったのだけど。 「あれは……」 馬を茂みに隠す。集落の一番大きな家に運び込まれている怪我人。よく見ると見覚えのある顔がいくつか見える。学院の先生だった。 今は授業中、どうやらロングビルを捕まえに来た先生のようだ。 みんな酷い怪我を負っていた。 よく見ると片腕を失ってる人も居る。その事実に少し背中が寒くなった。自分も一歩間違えれば、ああなると言う事だ。 先ほどのイチコの声が頭の中を流れる「死んじゃうかもしれない」と、確かにそうだ。 そんなに甘い相手だとは思っていない。 それでも私は引くわけにはいかない。 命を懸けてでも守らなければならない。イチコが原因だとかそういう事はもはや関係なかった。 私が貴族であり続けるために、たとえ魔法が使えなくても。たとえ片手を無くしても、命を落とすことがあっても。 「私は……」 絶対に背を向けたりはしない。 ちょうどこちらへと歩いてくる女性が居た。 「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど……」 女性の話によると森の奥、昔きこりが住んでいた小屋に盗賊が住み着いたらしい。 それを退治しようとやってきた先生たちが返り討ちにあったと。 つまりロングビルはそれだけ手練の魔法使いという事だ。スクウェアか最低でもトライアングルクラスの魔法使いだと予想できる。 ともかく馬をそのきこり小屋に向けた。 再度出発してもイチコは何も話さなかった。 「何か言いたい事があるなら言いなさい」 「え?」 急に話し掛けられて、何のことか分かってないようだ。 馬にのった辺りからまったく喋っていない。 いつも騒がしいから静かだとなんか不気味だ。 「ずっと黙りこくって、何か言いたい事があるんでしょ?」 「そ、その……」 「宝物庫の事だったら今は忘れなさい。罪が無いとは言わないけど、騙されてもしょうがない状況ではあったわ」 ロングビルは他の先生や生徒たちにも信頼がある人だった。騙されてもおかしくはない。 「は、はぃ……」 と肯定したものの、まだ何か言いたそうにしているようだ。顔が全然戻っていない。 そこにデルフリンガーが口を挟んだ。 「相棒は優しいからねぇ、さっき死ぬだの言った事を気にしてるんだろ?」 「そうなの?」 誇りを汚すぐらいなら死んだほうがマシ、とは確かに言ったけれど。 「はい。わたし……」 伏し目がちだった視線がまっすぐ私に向いた。 「ご主人様に死んでほしくないんです!」 手を握りこぶしにするぐらいに主張した。 その言葉にキョトンとした顔になった、と思う。 「えと、貴族が誇りが大事ってのはなんとなく分かるんです。でも死んじゃったら何も出来ないじゃないですか。 死んじゃったらご主人様と話せなくなっちゃいますし、こんなにご迷惑をかけていますのにご恩返しが出来ていません。 いえ、私みたいに幽霊になるかもしれないんでしょうけど私のほうがきっと奇特な方だと思いますし。 普通は死んだらそのまま天国へぱーっと行っちゃうと思うんです。 もうそう考えたら一子は悲しくて悲しくて、うぅ」 と涙目になってこちらを見てくる。 もっと深刻なことで落ち込んでいると思ったのに、そんな勘違いでうじうじしていたのか。そう思うと少しおかしくなった 「バカ、私だって死にたくは無いわよ」 少し肩の力が抜けた。 やはりイチコはのんきに笑っているのが良いと思う。 「絶対生きて帰るわよ」 その言葉に呼応するように、イチコは想いっきり首を縦に振った。 「はい!」 前ページ次ページゼロのイチコ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6106.html
「ドスペラード」のエイジを召喚 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-01 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-02 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-03 ゼロの使い魔は魔法使い(童貞)-04
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/587.html
前ページ次ページゼロのアトリエ その夜。ヴィオラートは一人、部屋のベランダで月を眺めていた。 ギーシュたちは一階の酒場で大いに盛り上がっているらしい。 キュルケが誘いに来たが、断った。どうにも飲む気分じゃなかった。 「ヴィオラート」 振り向くと、ルイズが立っていた。 「今日の、手抜きの理由について聞きたいの。」 ルイズは真剣な眼差しでヴィオラートを見つめる。 「そうだね。」 ヴィオラートはいつもどおりの微笑で答える。 「あの人に、あんまりはっきりと手の内を見られたくないんだ。」 その答えを聞いたルイズは、哀愁を帯びた顔でヴィオラートに問う。 「ワルドを疑ってるの?」 ヴィオラートは少し迷った後、小さく、しかしはっきりとした声で答えた。 「…うん。」 その答えに、ルイズは何を思うのか。 「ワルドと結婚するわ。」 ヴィオラートをしっかりと見据えたまま、そう言い放った。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師18~ 思わず口を突いて出た言葉を、ルイズは後悔していた。 後を押して欲しかった。考えすぎだよって言って欲しかった。 あの夢。そして思い出とは違う、ワルドの不自然に積極的な態度。 自分でも、何となく不安に思っていたのだ。 ヴィオラートの言う事はいつも正しい。 正しいヴィオラートに、この不安を打ち消して欲しかったのに。 「あたしは…結婚したこともないし、あの人のことを知ってるわけでもないけど。」 やめてほしい。その後に続く言葉は決まりきっている。言われなくてもわかっている。 「最後に会ったのは何年前かな?その間のワルドさんのこと、何か知ってる?」 正しくて優しいヴィオラートの言葉が、ルイズの逃げ道を塞いでいく。 「あの人は…ルイズちゃんを見てないよ。」 哀しげな目で告げるヴィオラートの言葉に、ルイズは何も反論できない。その通りだから。 重苦しい沈黙がベランダに流れる。 「ヴィオラート…」 とにかく何か言わなければ。そう考え顔を上げたルイズの眼に、 月を背負い、腕を振り上げる巨大な影の輪郭が飛び込んでくる。 それは、岩で作られたゴーレムだった。こんなものを作るのは… 「フーケ!」 ルイズが叫び、ヴィオラートが振り返ると、 ゴーレムの肩に乗った人物が、嬉しそうな声で言った。 「感激だわ。覚えててくれたのね。」 「あなた、牢屋に入ってたんじゃあ…」 「親切な人がいてね。出してくれたのよ。世の中の為になることをしなさい、ってね!」 フーケが叫び、巨大ゴーレムが拳を振り上げて、 「危ない!」 ベランダが粉砕される直前、ヴィオラートはルイズの手をつかんで部屋の中へと転がり込む。 「合流しよう!」 ルイズの返事を待たずヴィオラートはそのまま駆け出し、空いた手でデルフリンガーをつかむと、 部屋を抜け、一階への階段を駆け下りた。 降りた先の一階も、修羅場だった。 いきなり現れた傭兵の一隊が、一回の酒場で飲んでいたワルドたちを襲ったらしい。 魔法で応戦しているが、多勢に無勢。 どうやらラ・ロシェール中の傭兵が束になってかかってきているらしく、手に負えないようだ。 キュルケたちはテーブルを盾に傭兵達に応戦していた。 メイジとの戦いに慣れた歴戦の傭兵達は、まず、魔法の届かない遠くから矢を射掛けてきた。 闇にまぎれた傭兵達に地の利があり、屋内の一行は分が悪い。 魔法を唱えようと立ち上がると、矢が雨のように飛んでくる。 ようやく合流したヴィオラートがフーケの存在を伝えようとするが… 吹きさらしからゴーレムの足が見えていたので、やめた。 「参ったね」 ワルドの言葉に、キュルケが頷く。 「精神力が切れるまで魔法を使わせて、安全になったところで突撃…ってとこかしら。」 「そ、そうなったらぼくのワルキューレが何とかする!」 ギーシュがちょっと青ざめながら言った。しかし、タバサがあくまでも淡々と宣告する。 「無理」 「やってみなくちゃわからない!」 「そんなことは無理」 重ねて宣告する。 その知ったような顔にか、あるいは小さな女の子に軽く見られたという事実に対してか。 「僕はグラモン元帥の息子だぞ!卑しき傭兵ごときに遅れは取らない!」 ギーシュが激昂し、立ち上がって呪文を唱えようとした。 それをワルドが、シャツのすそを引っ張って倒し、押さえつける。 「いいか諸君」 ワルドは低い声で話し始める。一行は黙ってワルドの話を聞いた。 「このような任務は、半数が目的地にたどりつければ成功とされる。」 ワルドがそう言うと、こんなときも優雅に本を広げていたタバサが本を閉じて、ワルドの方を向く。 自分と、ギーシュと、キュルケを杖で指して「囮」とだけ言う。 それからタバサは、ワルドとルイズとヴィオラートを指して「桟橋へ」と呟いた。 「時間は?」ワルドがタバサに尋ねた。 「今すぐ」とタバサが答える。 「聞いての通りだ。裏口に回るぞ。」 「え?え?」 ルイズは驚いた声を上げた。 「彼女達が敵を引きつける。囮だ。その隙に僕らは桟橋に向かう。以上だ。」 「で、でも…」 ルイズはキュルケたちを見た。 キュルケが魅力的な赤髪をかきあげ、つまらなそうに言った。 「ま、仕方ないわね。あたし達は何も知らないんだし、あんたが行くしかないのよ。」 ギーシュは薔薇の造花、のように見える杖を確かめ始めた。 「うむむ、ここで死ぬのかな。死なないのかな。死ぬ、死なない、死ぬ、死なない…」 タバサはルイズに向かって頷いた。 「行って」 「でも…」 ワルドとヴィオラートの双方がこっちにいるのは、バランスに欠けているのではないか? ルイズはそう考え、自分の言葉で意見を表明しようとするが… 「それじゃ、あたしの道具をいくつか渡しておくね。」 ヴィオラートは先手を打ったかのように、何かの道具を用意していた。 「キュルケさんにはこれ。一見効果なさそうに見えても叩き続けてね。」 そう言って、キュルケに太鼓のようなものを手渡す。 「タバサちゃんにはこれ。」 タバサに手渡したのは三叉音叉。その威力は折り紙つきである。 「ギーシュくんは…魔法のパン。怪我した人に食べさせてあげてね。」 日持ちしそうなデニッシュをむっつ、籠ごと受け取るギーシュ。 ルイズの考えは、宙に浮いた。ヴィオラートはちゃんと考えていたのだ。 「さあ、早く行こう。遅くなればこちらが不利だ。」 ワルドがルイズを促す。全くその通りだった。 ルイズは、何もしなくて良かった。 酒場から厨房に出て、ワルドたちが勝手口にたどりつくと、 酒場の方から規則正しい太鼓の音が聞こえてきた。 「始まったようだな。」 ワルドはぴたりとドアに身を寄せ、向こうの様子を探る。 「誰もいないようだ。」 ドアを開け、三人は夜のラ・ロシェールの街へと躍り出た。 「桟橋はこっちだ。」 ワルドが先頭を行く。ルイズが続く。ヴィオラートがしんがりを受け持った。 月が照らす中、三人の影法師が遠く、低く伸びた。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5715.html
前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 九話 ルイズに召喚された日の晩にタバサたちと別れた後、ブラムドは確信と共に一つの魔法を使う。 それは自らを探知する魔法を打ち消し、魔法の種類と術者の居場所を探る魔法。 『感知対抗(カウンターセンス)』 確信通りその身を探る術者の存在を知り、ブラムドは再び『飛翔』を唱えて術者のもとへと飛ぶ。 突然、鏡が本来の姿を取り戻す。 そこに映るのは年老いた男、学院の長であるオスマンの姿だ。 「はて?」 とつぶやき、オスマンは再び鏡を働かせて先刻の場所を映させる。 しかしそこにはすでに人影はない。 「むぅ……」 眉根に皺を寄せながら、オスマンは辺りを映して目標を探す。 『解錠(アンロック)』 窓の鍵が外から開かれ、そこから輝くような銀髪を持つ一人の女が姿を現した。 「どこの世界にも、似たような品物があるのだな」 窓の開く音、そしてかけられた声に、オスマンは頭をかきながら顔を向ける。 それはまるで、いたずらを見つかった子供のように見えた。 銀髪の女は笑みを浮かべながら室内を見渡し、視線の先にあった応接用の座席へと座る。 オスマンもまた、銀髪の女の向かいに腰掛ける。 「似たようなもの、というと鏡ではないのですかな?」 「魔術師たちが持っていたのは、遠見の水晶球という品だ。鏡を見た後であれば、その方が広く見渡せそうだがな」 銀髪の女は自らの身長ほどある鏡を指差しながら、不意に顔をしかめる。 「いかがなさいました?」 「いや、思い出したくないものを思い出してな」 オスマンはこの偉大な竜をして不快にさせるほどの何かに、強い興味を引かれたようだった。 「差し支えなければ、お聞かせ願えまいか」 銀髪の女の姿をした竜、ブラムドは大きなため息をつき、訥々と語り始める。 自らが、かつて一つの魔法の品に囚われていたこと。 その身を縛る魔法によって、ことあるごとに激痛にさいなまれていたこと。 いくつもの命を、激痛のため意に沿わず奪ったこと。 そしてその縛り付けていた魔法の品が、真実の鏡ということ。 「真実の鏡?」 「うむ。どのような場所でも映し出し、人を映せばその心までもあらわにするといわれておった」 「なんともはや、恐ろしい代物ですな」 オスマンは、額ににじむ汗を袖口でふき取る。 「我のような竜と違い、お前たち人間にとっては喉から手が出るような品ではないのか?」 微笑みながらいうブラムドに、オスマンは苦笑を返す。 「否定することは出来ませぬがな。人の心を暴くような品は、あってはならぬものです」 苦笑を浮かべながらも、オスマンの言葉も目も、真意を語っている。 それは『虚言感知』を使うまでもない。 その様子に、ブラムドは改めてこの老人を信頼することに決めた。 「オスマン、我はルイズに感謝しておる。故に、ルイズの生ある限りは忠誠を誓おう」 その言葉を聞くまでもなく、オスマンもまたブラムドを信頼している。 この強大な竜が、何の利があってルイズに従うだろう。 たとえどんな利があったとしても、人が地を這う蟻に従うようなことはないだろう。 ブラムドにとっては地を這う蟻の一種でしかないオスマンに、こうまで礼を尽くす意味はない。 その行動は、ブラムドのオスマンへの信頼をあらわしている。 何よりもこの竜は、人を殺したと口にしたとき、はっきりと苦悶の表情を浮かべていた。 それをわかっていながら、オスマンはブラムドを監視せざるを得ない。 オスマンの力では、どうやったところでブラムドをとめることが出来ないからだ。 そしてこの学院に通う生徒たち、いや教師も含め、選民意識に凝り固まった人間たちは、ブラムドの逆鱗に触れかねない。 たとえどれほど強くオスマンが言ったところで、可能性をなくすことなどできないだろう。 いっそのこと、一度ブラムドに力を振るってもらうか。 しかしそれをしてしまえば、ミス・ヴァリエールはさらに孤立することになりかねない。 であれば。 「頼みが、あるのではないか?」 口を開こうとした瞬間、オスマンはブラムドに先手を打たれた。 それは、あたかもブラムド自身が真実の鏡を使ったかのように、オスマンの心を見抜いていた。 「かないませぬな」 オスマンはどこか諦めたような、それでいてどこか晴れやかな表情を浮かべる。 「はっきりいいまして、この学院にいるメイジたちは幼い。それは実際の年齢ではなく、精神のありようとしてです」 カストゥールの時代を生きたブラムドにとって、オスマンのいいたいことの予想はついていた。 「確かに、メイジと平民との間には決して越えられぬ壁があります。だがそれは絶対に、人間として上等か下等かということではありません」 魔術師たちが、それ以外の存在を奴隷として扱った歴史を見ていれば、力を持った人間の醜さを知らぬはずもない。 「しかし、そうとは思わないメイジがこの世界の大半を占めています」 それでもブラムドは、その醜い面が人間の一面に過ぎないことを確信している。 「無論、ミス・ヴァリエールをはじめとして、メイジも平民も等しく人間だと知っているものもおります」 カストゥールの時代に生まれながら、自らに魔法を教えたアルナカーラがいた。 オスマンのいうように、平民を人と思わぬ人間が大半を占める世界で、シエスタという平民を大切な友と呼んだルイズがいる。 「もしブラムド殿の機嫌を損ねる人間がいたときには、たしなめる程度にとどめていただきたい、というのがわしの望みです」 オスマンは、私闘を禁じないと明言した。 ただし、その言葉には別の意図も含まれている。 増上慢をたしなめられるのも、一つの勉強だと。 ブラムドはオスマンの言葉を正確に理解し、どこか人の悪い笑みを浮かべながら首肯する。 「尻を叩く程度に我慢すると、約束しよう」 その言葉に、オスマンは自身の言葉がことのほか正しく伝わったことを理解した。 つまり、決して殺すような真似はしないと。 二人の年経た存在が、鏡に映したかのようにどこか人の悪い笑みを浮かべていた。 ルイズが石を爆発させた後、教室をでたブラムドはオスマンの部屋を目指していた。 しかし、その歩みは確信を持ってはいない。 さらにいえば、最短の道を進んでもいない。 端的に言えば、迷っていた。 昨晩一度いっているため場所の見当はついていたが、基本的に洞窟や洞穴で生活する竜ににとって、人間の住む建物の構造はどこか理解しがたい。 かつて魔術師に囚われていたときも、移動の際には案内役がついていた。 ……まぁいざとなれば飛べばよいか。 そんなことを考えるブラムドの行く先に、見覚えのある薄い頭の男が現れる。 「やや、ブラムド殿。ミス・ヴァリエールは一緒ではないのですか?」 「ルイズと授業に出ておったが、中止になった。ルイズは教室を片付けておる」 授業の中止、そして教室の片付けという言葉に、薄い頭の男は表情を曇らせる。 「もしやミス・ヴァリエールが……?」 「うむ。石を爆発させた」 「そうですか……、もう爆発することはないかと思っていたのですが……」 その言葉に、ブラムドは目の前の男がルイズに気をかけていたことを知る。 「そのことでオスマンに話がある。おぬし、名はなんと言う?」 「私はジャン・コルベールと申します。コルベールとお呼びください」 コルベールは朝食の際、オスマンに言われたからか、それとも元々そうなのか、どこか緊張したような動きでブラムドへ挨拶する。 「ではコルベール、オスマンのところへ案内を頼む」 「は、や、あの……」 「どうかしたか?」 言いよどむコルベールに、ブラムドは怪訝な表情を浮かべる。 「ミス・ヴァリエールの片付けの手伝いなどは?」 その言葉に、ブラムドはコルベールに笑顔を向ける。 コルベールはブラムドの正体を知っているとはいえ、現在の姿は妙齢の女性であり、自分が見た中でも一、二を争うほどの美女である。 それゆえ、異性とあまり交流のないコルベールは二の句を飲み込んでしまう。 「それは我が従者がしておる」 「は?」 とっさに言葉を返すことの出来ないコルベールを尻目に、ブラムドは自ら言葉を継ぎ、オスマンの部屋へと歩みを進める。 「それにな、ルイズを手伝う人間もいる」 教室内で孤立していたルイズを思い返し、コルベールは頭に疑問符を浮かべて立ち尽くしてしまう。 「案内はどうした?」 ブラムドの言葉に、コルベールはあわてて先導する。 ……従者? 昨日はそんなものはいなかったはずだが。使い魔に従者か…… 「おぉ!!」 先導しながらも、どこか考え事をしている風情だったコルベールが突然立ち止まった。 不意に声を上げて立ち止まるコルベールに、ブラムドは不審な顔をする。 「ブラムド殿、使い魔のルーンを見せていただけないでしょうか?」 「使い魔のルーン?」 「ミス・ヴァリエールとの契約の際、体に刻まれているはずなのですが」 契約といわれたブラムドは、そういえば、と左手をあげる。 そこには刻まれたルーンが、鈍い光を放っていた。 「これか?」 「おお、珍しいルーンですな」 いいながらブラムドの手を取ったコルベールは、手のひらの感触に違和感を覚える。 そしてその違和感の通り、ブラムドの手のひらには傷がついていた。 「これは!?」 「先刻の事故の折であろう。大したことはない」 「いや、そういうわけにもいきません」 とはいうものの、火のメイジであるコルベールに怪我の治療は出来ない。 手近な布を破ろうにも、メイジの服には固定化がかかっている。 困り果てて辺りを見回すコルベールは、窓の外に二人のメイジがいるのを発見した。 一人はギーシュ・ド・グラモン、シュヴルーズと同じく土を司るメイジ。 人間関係、特に男女関係に課題を持つが、土のメイジとしての能力は低いものではない。 だが彼はコルベールの助けにはならない。 少なくとも今は。 しかしもう一人、その向かいで笑顔を浮かべる長い金髪を縦に巻いた少女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、コルベールにとってまさに天の助けといえた。 「ミス・モンモランシ!!」 窓から呼ばれる声に、二人の年若いメイジはどこか不機嫌そうな表情を浮かべて振り向く。 もちろん、呼んだ人間が教師であるコルベールだとわかり、不機嫌そうな表情だけは押し隠していたが。 かすかに笑顔を浮かべながらコルベールに近づいたモンモランシーは、その傍らにいた人間がブラムドであることを見て取り、ほんの一瞬その身を固めた。 咆哮による恐怖が、払拭されていなかったのだろう。 その後ろから歩み寄るギーシュもまた、表情や態度に表すことはないものの、瞳ににじむ畏れを隠しきれてはいない。 二人のおかしな態度に、気付いていながら気付かぬ風を装うブラムドと違い、コルベールはまったく気付いていない様子だった。 その観察力のなさに、ブラムドはコルベールの教師としての能力に疑念を抱く。 教師というものは、ただ生徒のことを心配していれば良いというものではない。 そしてその疑念は、直後に形となって現れる。 「彼女はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ、彼はギーシュ・ド・グラモン、二人ともミス・ヴァリエールと同じクラスです」 モンモランシーはスカートの裾を摘んで少し広げ、小首をかしげるように挨拶をする。 「モンモランシとおよびください」 ギーシュは右手を前に、左手を後ろにし、軽く腰を曲げる。 「グラモンとおよびください」 貴族らしい優雅な挨拶に、コルベールは満足げに微笑む。 「ミス・モンモランシ、ブラムド殿が左手に怪我をしているようなので、みてやってもらえるかな?」 コルベールはモンモランシーに事情を説明し、ブラムドへ歩み寄るその背中越しにブラムドへと説明する。 「水のメイジは怪我の治療などを得意としまして、彼女はその使い手としてなかなか優秀な生徒なのです」 「ほぉ、水はそういった力を持つか」 ブラムドがかつていたフォーセリアでは、神に仕える司祭がその役目を果たし、魔術師は回復や治癒に属する力、他者を癒すような力を持つことはない。 対象の精神力を奪うような魔法もあるが、それは相手に精神的な打撃を加えるのが主な目的であって、自身の精神力を回復させるのはあくまで副次的なものだ 四大属性の内で水に関する魔法も、氷雪によって敵を凍らせる『氷嵐(ブリザード)』くらいしかない。 ハルケギニアで常識的な水の力も、ブラムドにとっては興味深いものにうつる。 傷の状態を確認したモンモランシーは驚かされる。 裂けているのは手の平の中心だが、少しずれれば骨に食い込むような深さだったからだ。 しかもその傷の深さに比さず、異様に出血が少ない。 したたり落ちるではなく、あふれるように流れ出ていてもおかしくないはずだ。 だが、その出血は手の平ににじむ程度に過ぎない。 おそらくルイズの爆発で傷付けられたのだろうが、モンモランシーは頭に疑問符を浮かべた。 四人が今いるこの場所と教室、そして医務室は延長線上にはない。 それをこの深い傷を放置したまま、何故こんなところに? 「どうかしたか?」 傷を見た瞬間に動きを止めてしまったモンモランシーに、ブラムドが声をかける。 「い、いえ。傷が随分と深いので」 「大したことはあるまい。骨にも筋にも問題はない」 こともなげに手を握ってみせるブラムドに、モンモランシーは目を見張る。 「と、とりあえず治します」 マントの内側に入れてある緊急用の水の秘薬と杖を取り出し、モンモランシーはルーンを唱え始める。 不思議そうな表情を浮かべるブラムドに、説明好きのコルベールが言葉をかけた。 「小さな傷であれば無用ですが、大きなものになると水の精霊の力を秘めた水の秘薬が必要になるのです」 水の精霊、という言葉に反応し、ブラムドもまた魔法を使う。 『力場感知(センスオーラ)』 それは魔法の源であるマナだけではなく、精霊力をも感知する魔法。 傷口に垂らされた水の秘薬には、確かに水の精霊力が感知できた。 しかしその力は異常なほど強い。 身近な周囲に満ちる下位の精霊ではなく、自然界の法則を司る上位精霊の力だ。 あまりにも無造作に巨大な力を振るう水メイジの姿に驚くブラムドの表情を、コルベールは怪我の治癒に対しての驚きと勘違いする。 「東方にはこのような魔法はないのですか?」 問われた言葉で勘違いに気付くブラムドだったが、勘違いを正すのも面倒と思って話を合わせる。 「うむ。我のいた場所では、破壊の魔法ばかりだった」 破壊の魔法ばかり、という言葉に、コルベールの表情にわずかな影が差す。 ブラムドだけがその影に気付いたが、生徒たちに聞かせたい話でもないだろうとあえて問うことはなかった。 やがて、モンモランシーの治療が終わる。 「終わりました」 「ほぉ、跡形もないのう。礼を言おう、モンモランシ」 傷の様子を確かめ、ブラムドは微笑みながらモンモランシーの頭をなぜる。 「その水の秘薬とやらも、安いものではあるまい? いずれこの借りは返そう」 「や、私が頼んだことですので」 コルベールは慌ててその言葉に応えたが、ブラムドは笑みを消して反論する。 「コルベール、我はオスマンのいうように客分ではあるが、出された食事をただはむような真似をしているつもりはない」 そしてブラムドはモンモランシーに向き直り、笑みを浮かべて言葉を重ねる。 「今すぐに、というわけにはいかぬが、この借りは我の力で返させてもらおう」 その言葉には高い誇りがうかがえ、コルベールは反駁することができない。 一方でブラムドは、一つの疑問を抱えている。 コルベールの言葉からすれば、自身の傷は浅いものではなかったといえる。 しかしそれほど強い痛みは感じていなかったし、出血も激しいものではなかった。 人の体はそれほど痛みに強く、強靱なものだっただろうか。 答えを見出せないブラムドを笑うように、左手のルーンが鈍く輝き続けていた。 前ページ次ページゼロの氷竜
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/566.html
前ページ次ページゼロのアトリエ ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭に止まることにした一行は、 一階の酒場でくつろいでいた。 生のにんじんをかじりつつニンジン酒を注文するヴィオラートに、呆れ返るキュルケ。 何かの草のサラダをもくもくと咀嚼するタバサ。 精根使い果たした顔で、テーブルに突っ伏しているのはギーシュ。 そこに、桟橋へ乗船の交渉に言っていたワルドとルイズが帰って来る。 ワルドは席に着くと、困ったように言った。 「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ。」 「急ぎの任務なのに…」 ルイズは口を尖らせる。 「どうして明後日にならないと船が出ないの?」 問うたキュルケのほうを向き、ワルドが答えた。 「月が重なる『スヴェル』の翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくんだ。」 ヴィオラートはほろ酔い気分の頭で、潮の満ち引きでも関係してるんだろうか、と思った。 潮の満ち引きは月の動きで決まるからなあ。 「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った。」 ワルドは鍵束をテーブルの上に置いた。 「キュルケとタバサ、ミス・プラターネが相部屋だ。そしてギーシュが一人部屋。」 「僕とルイズは相部屋だ。婚約者だからな、当然だろう。」 ルイズがはっとして、ワルドの方を向く。 「そんな、ダメよ!私達まだ結婚してるわけじゃないじゃない!」 しかし、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。 「大事な話があるんだ。二人きりで話したい。」 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師17~ 貴族相手の宿『女神の杵』亭で一番豪華な部屋だけあって、ワルドとルイズの部屋は、 かなり立派なつくりであった。 誰の趣味なのか、ベッドは天蓋つきの立派なものだったし、高そうなレースの飾りがついていた。 テーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて杯についだ。それを飲み干す。 「君も一杯、やらないか?ルイズ。」 ルイズは言われたままにテーブルに着いた。 「二人に。」 ルイズはちょっと俯いて、杯を合わせる。 「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」 「…ええ。」 ルイズはポケットの上から、アンリエッタから預かった封筒を抑えた。 「心配かい?無事に皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるかどうか。」 「…そうね、心配だわ。」 ルイズは可愛らしい眉を、への字に曲げて言った。 「大丈夫だよ、きっと上手く行く。なにせ、僕がついてるんだから。」 「そうね、あなたがいればきっと大丈夫よね。あなたは昔からとても頼もしかったものね。」 「それで、大事な話って何?」 ワルドは遠くを見る目になって、話し始める。 「君はいつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてたね。」 ルイズは恥ずかしそうに俯く。 「でも僕は…それは、間違いだと思う。」 「君は、他人にはない特別な力を持っている。僕には、それが判るだけの力がある。」 「まさか」 「まさかじゃない。例えば、そう、君の使い魔…」 「ヴィオラートのこと?」 「そうだ。彼女が杖を振った時に浮かび上がったルーン、あれはただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ。」 「伝説の使い魔の印?」 「そうさ、あれは『ミョズニトニルン』の印だ。始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔さ。」 ワルドの眼が光った。 「ミョズニトニルン?」 ルイズは怪訝そうに尋ねた。 「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ。」 「信じられないわ。」 ルイズは首を振った。ワルドは冗談を言っているのだと思った。 確かにヴィオラートは道具を持つとやたらと強くなったり、速くなったりするし、 先住魔法が使えて、桁外れの知識と実行力があって、その上信じられないくらい私に優しいけど。 伝説の使い魔だなんて信じられない。何かの間違いだろう。自分はゼロのルイズ、落ちこぼれなのだ。 どう考えても、ワルドが言うような力が自分にあるなんて思えない。 「君は偉大なメイジになるだろう。」 「そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう確信している。」 ワルドは熱っぽい口調で、ルイズを見つめた。 「この任務が終わったら結婚しよう、ルイズ。」 「え…」 いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。 「僕はこのまま終わるつもりはない。いずれはこの国、いやハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている。」 「で、でも…」 「でも、何だい?」 「わ、わたし、まだ…」 「もう子供じゃない。君は十六だ、自分の事は自分で決められるし、父上のお許しもある。確かに…」 ワルドはそこで言葉を切った。それから、再び顔を上げて、ルイズに顔を近づける。 「たしかに、ずっとほったらかしだった事は謝るよ。婚約者なんていえた義理じゃない。」 「でもルイズ、僕には君が必要なんだ。」 「ワルド…」 ルイズは考えた。憧れの人。幼い頃は本気で、ああ、私はこの人のお嫁さんになるんだと、そう思っていた。 でも今は。今はどうなのだろう? なぜか、それはできないような気がした。 ヴィオラートの、ワルドに向ける繕った笑顔が頭に浮かぶ。 「でも、でも…」 「でも?」 「わたしまだ、あなたに釣りあう立派なメイジじゃないし…もっと修行して…」 ルイズは俯いた。俯いたルイズを、ワルドがじっと見つめる。 「…今すぐに返事をくれとは言わないさ。とりあえずはこの旅の間に、僕を見ていてくれればいい。」 ルイズはただ、頷く。 「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう。」 ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。 ルイズの体が一瞬こわばり、すっとワルドを押し戻す。 「ルイズ?」 「ごめん、でもなんか、その。」 ルイズはもじもじしてワルドを見つめた。 ワルドは苦笑いして首を振る。 「急がないよ、僕は。」 ルイズは再び、頷いた。 どうしてだろう。ワルドは凛々しくて、こんなにも優しいのに。ずっと憧れていたのに。 結婚してくれと言われて嬉しくないわけじゃない、それなのに。 何かが心に引っかかる。引っかかったそれが、ルイズの心を前に歩かせないのだ。 翌日。ヴィオラートがいち早く起きてコメート原石を磨いていると、扉がノックされた。 「おはようございます。ミス・プラターネ。」 ドアを開けると、羽帽子をかぶったワルドがヴィオラートを見下ろしている。 「おはようございます。こんな朝早くから、どうしたんですか?」 ヴィオラートがそう言うと、ワルドはにっこり笑った。 「貴女は伝説の使い魔『ミョズニトニルン』なのでしょう?」 「え?」 ヴィオラートはきょとんとして、ワルドを見た。 ワルドは何故か誤魔化すように、首を傾げる。 「その、あれだ。フーケの一軒で、僕は貴女に興味を抱いたのだ。」 身振りがいつもよりも、大げさになっている。 「ルイズに聞きましたが、貴女は異世界からやってきたというではないですか。」 わざとらしく指を立てて、同意を求める。 「フーケを尋問した際にあなたに興味を持ち、王立図書館で『ミョズニトニルン』にたどりついたのです。」 なるほど、勉強熱心ですねと思った。 「あの土くれを捕まえた腕がどれくらいのものか、知りたいのです。少々お手合わせ願いたい。」 「お手合わせ、ですか?」 「そのとおり。」 「どこでやるんですか?」 「中庭に、練兵場があるはずです。」 ヴィオラートとワルドは中庭の練兵場で、二十歩ほど離れて向かい合う。 少しすると、物陰からルイズが姿を現した。 「ワルド。来いっていうから来てみれば、何をする気なの?」 「なに。貴族というのは厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ。」 ルイズはヴィオラートを見た。 「やめなさい。ワルドとやりあうなんて…」 ヴィオラートは答えない。ただ、ワルドを見つめている。 「なんなのよ!もう!」 「では、介添え人も来た事だし、始めるか。」 ワルドは腰の杖を引き抜いて、それを前に突き出す。 「えーっと、手加減とか…」 ヴィオラートがそう言うと、ワルドは薄く笑った。 「かまいません。全力で来て下さい。」 ヴィオラートは頷いて、杖を振った。帯状の火球が、ワルドに向かって飛ぶ。 しかしワルドは火球を避けようともせずに、構えた杖をまるで剣のようになぎ払う。 烈風が生まれ、炎をかき消し、残った火の粉がヴィオラートに向かい、服に着火した。 「あちち!あちゃあっ!」 ヴィオラートは情けない声をあげ、そばにあったたるの中に突っ込んだ。 水しぶきが上がり、あたりが静寂に包まれた後… ヴィオラートは、たるの縁に手をかけ、顔を半分だけ覗かせながら、 「水もしたたるいい女~…なーんてっ!」 と、高らかに宣言した。 ワルドは、肩を震わせて含み笑いを漏らした。 「くっくっ、いや失敬。少々力が入りすぎていたようです。」 少し肩の力が抜けた様子のワルドは、ため息を一つついた。 「着替えが終わったら、朝食にしましょう。僕が頼んでおきます。」 そういうと、踵を返した。 ヴィオラートとルイズは微動だにせず、ワルドの後姿をたっぷり見送る。 またしばらくの静寂の後、ようやくルイズが口を開いた。 「ヴィオラート。あなた、手を抜いたでしょう。」 ヴィオラートはたるに入ったまま、答える。 「うん。」 これでもかというくらい、水をしたたらせたままに。 前ページ次ページゼロのアトリエ