約 490,853 件
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4587.html
ゼロの使い魔 サイト ルイズ タバサ-シャルロット シエスタ アンリエッタ モンモランシー ティファニア アニエス キュルケ シルフィード ミョズニトニルン(シェフィールド) エレオノール カトレア ケティ イザベラ フーケ ジェシカ マリアンヌ コルベール ギーシュ ジュリオ マリコルヌ ジョゼフ デルフリンガー ビダーシャル ワルド ストライクウィッチーズ 穴拭智子 迫水ハルカ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3901.html
前ページ次ページゼロの魔獣 「ゲッタアアァァァ トマホオオォォォクゥッ!!」 ルイズの絶叫が轟き渡る。 右手に灼熱の闘志を込め、握り締めたレバーを力いっぱい押し倒す。 主の激情を受け止めるが如く、ロボの両眼が力強く輝く。 直後、ドシュウゥッ、という重低音を響かせ 巨大ロボの右肩のハッチから、何物かが高速で射出される。 飛び出したのは特殊合金のカタマリ。 放射線の影響を受け、音速の世界を突き抜けながら、鉄隗が分裂、増殖、変形を繰り返す。 ボコボコと膨らむ棍棒の側面から、ジャキリと肉厚の刃が生え、巨大な斧へと変化を遂げる。 重心の変化が高速回転を呼び、直線的だった軌道が大きく捻じ曲がる。 破壊の権化と化した大車輪が、箱舟の甲板を砕き散らしながら二人に迫る。 「うおおッ!?」 かろうじて我に返り、横っ飛びで難を逃れた慎一の脇を、ギロチンの烈風が通過する。 膨らみ続ける巨大な的に、避ける余裕はない。 「「「ウボえあアアアアぁアアァァああああ!!!!」」」 巨体の半ば以上を切断する鉄隗の一撃に、肉ダンゴの中の獣たちが多重奏を奏でる。 トマホークの勢いは止まらず、箱舟の内部まで突き刺さって、シャフトを甲板へと縫い付ける。 「まだまだああああああ!!!」 「や ヤヴェろオオおおおおおォォオオオ!!!!」 ルイズが特攻する。 磔となった獲物目掛け、赤い機体が稲妻の如く加速する。 ド ワ オ ―と 二本の角が身動きの取れないデカッ腹をブチ破り、 巨大ミートボールを摩り下ろしながら、箱舟の下層へと巻き込んでいく・・・。 慎一の耳には、ボゴンボゴンと箱舟の床を突き抜ける音だけが聞こえていた。 ― 箱舟 中心部 頭上の大穴から降り立った慎一が見たのは、巨大なメイン・コンピュータに、対手を磔にしているイーグル号だった。 直ちに頭部のハッチをこじ開け、中からルイズを引きずり出す。 バイザーが大きく割れて気を失ってはいるが、特に外傷は見当たらない。 コルベールの暴走に感謝しつつ、デルフを担ぎ、ルイズを脇に抱える。 ―シャフトはまだ息があった。 串刺しとなった肉隗の頂点、痙攣する血みどろの頭がちょこんと乗っている。 「無様なもんだな シャフト・・・」 船内のあちこちで、ドウオズワオと爆発音がこだまする。 ズズズ・・・と地響きがして、一科学者の野望を乗せた要塞が、緩やかな落下を始める・・・。 「俺にしてみりゃあ テメエなんざ所詮十三分の一だ こうなっちまったら もう手を下すまでもねえ・・・ ゆっくりじっくり時間をかけて ミジメにくたばるがいいぜ」 シャフトは答えない。 震える唇で不気味な笑顔を作り、ふるふると頭を振るう。 ひしゃげたサングラスがずり落ち、カツン、と金属音をたてる。 ―シャフトは眼球が無かった・・・。 窪んだ眼窩の奥にあるのは、ぬらぬらと蠢く液体のような虚穴。 キィキィという耳障りな泣き声が聞こえ、甲虫のようなグロテスクな生物がカサリと動く。 肉隗のあちこちから紙魚のように虚穴が広がり、両目の穴からシュルリと触手が伸びる。 「ッ!? シャフト!! テメエ・・・!」 慎一が叫ぶと同時に、シャフトの穴という穴から虚空が噴出した。 「・・・ン・・・」 激しい揺さぶりを感じ、ルイズが目を開ける。 目の前に現れたのは、慎一の横顔・・・。 「シンイチ! 見た! 見た!? あたし 敵の親玉をやっつけたわ!!」 「よくやった! しゃべるな!! 舌噛むぞ!!」 慎一の間抜けな叫びに辺りを見回す 崩れ落ちる箱舟の中、慎一に抱えられて飛んでいる。 ―そして・・・。 「・・・シンイチ!? 何!? 何なのアレは!?」 「しゃべんなッて言ってんだろうがッ!!」 だが、この場合うろたえない方が無理というものである。 足元に広がる暗黒のプール。遠くから近くから聞こえる断末魔の嵐・・・。 そして・・・ その中を悠然と泳ぐ異界の生物達。 甲板に飛び出した慎一が、落下速度を増す箱舟を駆け抜ける。 「・・・! アレって ウェールズさま!?」 傾く甲板を滑り落ちる亡骸を拾い上げ、慎一が飛ぶ。 その目の前に、見覚えのある風竜が現れる。 乗っているのは、赤髪と青髪の少女。 「乗って! ダーリン!!」 「泣かせる登場するじゃあねえか!? どこで出待ちしてやがった!」 軽口を吐きながら慎一が飛び乗る。 タバサがシルフィードを急旋回させる。 直後、箱舟の甲板を突き破り、暗黒が間欠泉の如く吹き上がった・・・。 ズズン・・・と音を立て、猛烈な砂煙を上げながら箱舟が不時着する。 大破した船の残骸、その表面をぬらぬらとした異形が塗りつぶしていくのが遠目にも分かる。 「ダーリン・・・ アレは 何なの?」 「ドグラだ!」 キュルケの問いかけに、シンイチが憎憎しげに答える。 ― かつて、虚空での戦いの中、神の尖兵の持ち出した『兵器』のひとつ・・・ 生物の体に取り付き、虚穴を広げ、自らの宇宙を作り出す化け物。 空間を奪い合うため創られた、虚空のような生物兵器。 自分なら制御できるという驕りから、シャフトが体内で飼っていたものなのか? あるいは、全てが『神』の掌の上だったのか・・・? いずれにしろハルケギニアは、空間侵略という、有史以来の危機に曝されていた・・・。 箱舟が見下ろせる小高い丘へと降り立ち、慎一は対策を考える。 ドグラに対抗しうる手段は、大きく分けて三つ・・・ ドグラが成長する前に、焼き払うなどして破壊する。 空間跳躍を使い、敵を彼方へと『追放』する。 相手よりも巨大な空間を支配して、その力を完全に掌握する。 現時点で、ドグラの破壊は不可能となっていた。 シャフトの巨体全てがドグラ化し、既に箱舟は彼奴等の巣窟となっている。 未だ真理阿の力が目覚めぬ今、『追放』も『掌握』も慎一には不可能だった。 箱舟サイズまで成長してしまったドグラが、タルブの大地を飲み込むのは時間の問題である。 そして・・・ ドグラ宇宙を通じ、『神』の尖兵がハルケギニアの地に光臨するであろう・・・。 「・・・キュルケ、タバサ お前らは姫さんの所へ行って 全軍を引き上げさせろ ああなっちまったら もう 焼こうが凍らせようが手遅れだ」 言いながら、慎一がキュルケへとデルフリンガーを手渡す。 タバサは頷きながら、ウェールズの遺体に自らのマントを被せる。 「待って シンイチ・・・ あなたはどうするの?」 「・・・・・・」 「何か 打つ手があるの?」 「・・・ある!」 慎一の断言に、キュルケもまた覚悟を決める。 「分かったわ ・・・無理だけはしないでよ ダーリン」 「シンイチ 死んでは駄目」 二人は慎一を激励すると、トリステイン本陣へと飛び去っていった。 丘の上には、慎一とルイズの二人だけとなった・・・。 「でも・・・ どうするの シンイチ? どうやってアイツを止めるの・・・?」 慎一は、無言で箱舟を指差す。 異形がひしめくドグラの海を、イーグル号が浮島のように漂っている。 「イーグル号はまだ死んじゃいねえ・・・ 今から俺がもう一度飛び込んで アイツの炉心に火を付ける」 「そんな!」 「黙って聞け! ここからが大事だ。 エンジンがフル回転して 炉心が臨界状態に達したその時に・・・ お前の『魔法』で、イーグル号を誘爆させるんだ」 「・・・ッ!! バ バカな事言ってんじゃないわよッ!? そんな事したら アンタは・・・ それに この大地だって無事ではすまない・・・」 「問題ない」 慎一が言い放つ 「お前が魔法を発動した瞬間に 俺が真里阿の力を解放する 真里阿は生じた爆発をエネルギーに変えて 虚空へとつながる『門』を開く うまく行けば あの粗大ゴミを宇宙に投げ捨て 俺は地球にオサラバって寸法さ!」 「そんな事・・・」 慎一はコンビニにでも行くかのような気楽さで語るが、それは、あまりにも儚い可能性。 もし、イーグル号が故障していたら もし、ルイズの魔法が失敗したら もし、真里阿の力が目覚めなかったら 全ての条件をクリアした上で、慎一が元の世界に戻れる確立は・・・ 「無理 無理 無理よ・・・ シンイチ あなたは私を買いかぶってる 私には あなたが思っているような・・・」 「出来るさ さっき お前が助けに来てくれた時な 正直 俺ァ 震えたぜ・・・ 前にお前のこと 『恐るべきメイジ』と言ったが 訂正するぜ お前は 『恐るべき女』だ!」 「・・・なによ それ・・・」 「それによ・・・ 今の俺は 始祖ブリミルの加護とやらを信じてみたい気分なんだ この絶体絶命の状態で 1パーセントの可能性を残しやがるなんざ お前らの神様も ずいぶんと粋な計らいをするじゃねえか?」 「・・・・・・・・・」 「ちょっとばかし『伝説』ってやつを作ってやろうか? 『ご主人様』よお・・・」 「・・・分かったわ やる・・・ やってみせる・・・! せいぜい足引っ張るんじゃないわよ 『使い魔』!!」 ヘッ、 慎一が笑う。 ルイズも不敵に笑う。奥歯がカチカチと鳴る。 慎一が、バサリと翼を広げる。 「あばよ! ダチ公!! 楽しいバカンスだったぜ!」 拍子抜けするほどの陽気さで、慎一がドグラの海へと飛び立った。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7920.html
前ページゼロの女帝 キィン!ガキィン! 刃と刃が打ち鳴らされる。 「はぁっ!」 黒髪の少年が小柄な体に合わぬ大きな剣を一閃させると、また一人ガリア正規兵の鎧を纏った男が倒れ付す。 「悪ィな」 少年はそう一言声をかけると、もう後ろも見ずに次の相手へと挑みかかる。 「とゆーか」 金髪のキザっちぃ少年がゴーレムを兵に挑ませながら少年に語りかける。 「メイジが殆どいないんで助かってるといえば助かってるんだが、この兵の数は一体何なんだ」 「しかたないでしょ」 赤髪の扇情的な雰囲気の少女が炎を放ちつつそれに答える。 「王の勅命で処罰されようってんだから警備も相応でしょ。 ましてかのオルレアン公の娘さんよ? 話漏れたら反逆罪覚悟で救い出そうとする貴族がいくら出てくることや らっと」 「そ、それにしてもルイズ!セトに一緒に来てもらえばよかったんじゃないの?」 ギーシュに庇われながらのモンモランシーの言葉にかぶりをふるルイズ。 「その意見は魅力的だけどね。 いつまでも全てセトにおんぶにだっこ、ってワケにはいかないのよ。ヴァリエール家の娘としては。 できればあたしとサイトだけでなんとかしたかったんだけどね、って食らりゃ!」 彼女の爆裂魔法で、その部屋にいた最後の兵士が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。 「よし、次いくぞ」 真っ先に駆け込んだサイトの後を追ったルイズは、彼の背中に顔をぶつける。 「ちょっと、立ち止まら・・・な・・・・・・」 ルイズは見た。 続いてやってきたキュルケ、ギーシュ、モンモランシーにッシルフィ(人型)も見た。 階段に腰掛け、本を読む一人の美青年を。 「来たか、蛮人よ」 「エ・・・・・・エルフ・・・・・・」 それは誰の声だったろうか 自分の声なのか ルイズはそんな風に考える 誰かがゴクリを喉を鳴らした音すら聞こえる静寂の中、場の雰囲気を読もうとしない馬鹿が剣を突きつけ声を上げる。 「なんだよおっさん」 「お・・・おっさん・・・このわたしを・・・・これだから蛮人は」ちとダメージうけたみたいだ 「自己紹介もされてないし名前知らないんだからそう呼ぶしかないだろ」 「・・・・・・・ふむ、道理だ。わが名はビダーシャル。ネフテスの一員だ」 「そっか、わりぃんだけど先急ぐんでな、また後で」 「先を急いでるのなら仕方あるまい、とでもいうと思ったか?」 ぱたり、と本を閉じ、立ち上がるビダーシャル。 「気は進まぬがジョゼフとの契約でな。行かせる訳にはいかん」 「ぐ・・・ぐうううう」 床にへたり込むギーシュ。 作り出したワルキューレは軒並み解除されてしまい、もう殆ど精神力は残っていない。 キュルケも同じ状態で、戦闘力の無いモンモランシーに支えられてかろうじて立っているのがやっとだ。 シルフィード(人型)が生み出す風の刃もはじき返され、彼女自身を傷付けていた。 しかし、それでもサイトは全力を振り絞ってエルフに、いやその前に張られた障壁に切りかかる。 「もうやめるがよい蛮族の少年よ。お前たちの力ではこの壁は決して破れぬ」 「悔しいがその通りだぜ相棒。こいつぁ『反射』っつーえげつない魔法だ」 「へっ 『蛮族』かよ!するってぇっとアンタらエルフってなぁずいぶん高貴なお方らしいな」 「当然だ。お前たちと違って精霊の声を聞き世界の理を知っている」 「たいしたモンだ!必死で母親を守り続けた女の子の心を消し去るのに手ェ貸すくらい高貴なんだな エルフって輩は!」 「私が望んで手を貸しているとでも思っているのか」 「どんな言い訳したところで手ェ貸してるのは事実だよ!精霊だか聖地だか知ったこっちゃねーが 俺の中ではエルフってなぁ好もうが好むまいがンな非道に手を染めるくそったれって決まったよ!」 「でもサイト、アンタがどんなに強くてもエルフよ!一流のメイジが何人集まっても勝てない相手よ!」 「エルフだろーがメイジだか関係ねぇ!いまあいつの後ろでタバサが助けを求めてるんだ! なら俺が引いていい理由は無いね!」 「その通りよ」 キュルケが彼女に生み出せる最大の火球を掲げた掌の上に浮かばせていた。 「やめておくがよい、蛮族の娘よ。その炎はお前自身を焼く事となろう」 「アンタはタバサの、あたしの友達の敵。それで十分よ」 「まて嬢ちゃん!おい相棒、おめぇのご主人様の・・・・・」 デルフリンガーの言葉を待たず放たれた巨大な炎は、鏡に跳ね返されるように正確にキュルケにむかって突き進む。 疲労からサイトも彼女をカバー出来ない。恐怖に立ち尽くすキュルケ。 「「キュルケ!」」 サイトの、そしてルイズの絶叫が響く中、その炎はキュルケを包み込む 事は無かった。 「だめよ、もう少し状況を把握して攻撃しなきゃ」 「セ・・・・・セトぉ」 ぺたりと床に座り込むルイズ。 火球をその扇で受け止めていたのは、神木・瀬戸・樹雷その人だった 「ふむ」 周囲を見回すと、すたすたと歩きとある一点で立ち止まる。 懐から出したのは・・・・ 「カッターナイフだ」 「カッターナイフ?」 「わかり易く言うと耐久度と製作コストを下げた使い捨てナイフだよ。俺の世界じゃ文房具だ」 カッターナイフの刃を床の一点に当てると、そのまままっすぐ上に引いていく。 ある程度の高さまで言ったところでくるりと曲げると、再び床にまで線を伸ばす。 「何やってんの?」 「俺にわかるわけ無いだろ。ただ、おそらくあのくそったれエルフの術を破ってるんだろうな」 やがて刃が床にまで届くと、空中を「押す」そぶりをする瀬戸。 「もういいわよ」 「「「「「「ほへ?」」」」」」 ビダーシャルも含めた皆がボケた声を出す中、サイトが彼女が「線」を引いたところに歩いていく。 「ホントだ。ホントにここだけ通路みたいに穴あいてるぞ」 「ウソ・・・・」 「ど、どうやったのね?」 「ンなことどうでもいいよ。はやくタバサ助けに行くぞ」 「待て!行かす訳にはいか ぐわしっ! 奥に向かおうとするサイトたちを止めようとしたビダーシャルは、背後から伸びた腕によって頭部を鷲掴みにされる。 「・・・・・・・・?・・・・・・・」 恐る恐る振り向いてみると、そこには先ほど自分の『反射』を破った蛮族の女がにっこりと笑っていた。 「ビダーシャルちゃん、っていったわね」 「貴様ごときに、数百の齢を重ねた私がそのような呼び方をされるいわれは無い」 「ふーん、数百歳・・・・・たったその程度? いけないわね・・・・・・・・・ ちょっと・・・・・・・・・・・お話しましょうか」 タバサは、いやシャルロットは双月を見つめていた。 娘である自分におびえ、恐れ疲れて人形を抱きしめて寝入ってしまった母の頭を撫でながら。 自分もこんな風に心を壊されてしまうのか。 自分を友達と呼んでくれたキュルケや見返りを望む事無く慕ってくれたシルフィードを見て恐れ怯えてしまうのか。 そして・・・・・・・・・・ともに幾多の死線を超え、自分に笑いかけてくれた黒髪の少年を見ても罵ってしまうのか。 せめて、せめてもう一度彼の笑顔が見たい。 そう思っていたら、階下で騒ぎが起きる。 風メイジとして鍛えた耳が、剣戟の響きを捉える。 野盗? 正規兵が守るこの城を襲うとは思えない。 亡き父の味方が自分の窮状を知って助けに来てくれた? それにしては情報も行動も早すぎる。 正解であろう答えは既に見出しているが、その回答を否定する。 この城にはエルフが居る。 叔父に協力するエルフが待ち構えている。 いかに彼でも、先住魔法の使い手に勝てるとは思えない。 だから来ないで欲しい、お願いだから。 ぎゅっと、「イーヴァルディの勇者」の絵本を抱きしめる。 もし来たら もし「彼」が自分を助けてしまったら もし自分が「彼」に助けられてしまったら 足音が近づいてくる。 木靴が・・・・・・ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ 裸足が・・・・・・ひとつ そして奇妙な、ハルケギニアではありえない妙に柔らかい足音がひとつ 聞きなれた音だ。 ああ、「彼」が来てしまった。 もし「彼」に助けられてしまったら もう彼から離れる事が出来なくなってしまうではないか ドカン! 部屋の扉が大きく揺れる。 おい、ほんとにここかよ まちがいないのね、ここからおねえさまのにおいがするのね ああ、あのこが彼を連れてきてくれたのか 学園に戻ったらお肉をたくさんあげるとしよう キュルケとあと三人にも礼を言わなければいけない そして・・・・・・そして バタン!「大丈夫かタバサ!」 打ち破られた扉から飛び込んできた黒髪が、もう涙で見えない・・・・・・ 前ページゼロの女帝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4353.html
前ページ次ページゼロの武侠 未だに燻り続ける塔の先端を睨みながら梁師範は荒い息を吐き出した。 否。彼が睨んでいるのは、そこから舞い降りる一人の男の姿。 風に煽られる羽帽子を押さえつけながらワルドは彼の前に降り立った。 「……嘘だろ」 百歩神拳を放ったのは絶好の間だった。 アレを回避できる者など彼の知る限りでも数えるほどしかいない。 ましてや無傷でなど彼の常識からは考えられない。 いや、そんな筈はない。俺の放った一撃は確実に命中した。 ……なのに奴は火傷一つ負っちゃいねえ。 だとすれば日本の忍者が使うという“変わり身”の術か何かか。 気を取り直して再び梁師範は構え直した。 しかしワルドは杖も構えずに彼と向かい合う。 「ここまでにしよう。もうすぐ騒ぎを聞きつけて人がやってくる」 「なに言ってやがる? 勝負はこれからだろうが」 息も絶え絶えとはいえ、その言葉は決して虚勢ではない。 かつて西派最強と謳われた黒龍拳士を全身に傷を負いながらも倒したように、 白華拳士・梁の本領は逆境において発揮される。 だが無防備な相手を殴り倒して勝ち誇れる筈も無い。 ましてやルイズに掛ける迷惑を考えれば退くのが正解だろう。 しかし一度始まってしまった闘いを止める事など誰に出来よう。 「虫が良すぎるぜ。手の内を隠したまま終えようっていうのか?」 「それは君も同じだろう? これ以上やれば殺し合いになる」 ワルドの言葉は正鵠だった。 梁師範はメイジに対する切り札を残していた。 杖を振るうのを封じつつ一撃を見舞う白華拳の奥義。 だが、それはワルドの秘密を暴かぬ限り、必勝の手とはいえない。 しかしワルドとてどのような技が来るのか分からぬ以上、恐れは消えない。 確実に相手の技を封殺するには、その前に倒すしかない。 その結果、相手を死なす事になるかもしれない。 魔法も剄も人の命を奪うには十分すぎる威力があるのだ。 「ちっ。しゃあねえな」 レイピアにも似た杖を腰に戻したワルドに、梁が舌打ちする。 完全に矛を収めたなら、いくら自分が喚いても仕方ない。 だが立ち去ろうとしたワルドを彼は呼び止めた。 「ただし一つだけ条件を呑んでもらうぜ」 「再戦の約束かな?」 「ああ、それもあったな。じゃあ二つだ」 ぺろと舌を出して、立てた人差し指に中指を加える。 無理難題ならば断れば良いだけの事。 何かな?と問いかけるワルドに彼は答えた。 「俺の力を認めてもらいたい」 「認めるも何も……」 「例の品評会でだ。俺は空を飛べないし火も吐けねえからな」 その一言でワルドは得心がいった。 平民の使い魔というのが存在するかどうかは疑問だが、 そんな物を呼び出せばメイジの実力は疑われるだろう。 しかし、それがスクエアメイジに匹敵する力を秘めていたならば話は別。 評価は逆転し、品評会の主役ともなれるだろう。 厳つい顔に似合わず随分と主思いな男だとワルドは笑った。 「しかし、それならば君の力を衆目に晒せば済む話だろう」 「あいにくと俺の拳法は見世物じゃねえ」 メイジにとって魔法がそうであるように、武術はただの武器ではない。 ましてや完全に外界と遮断し秘匿されてきた西派の奥義なのだ。 幾度も世界中継されてしまったが、それでも可能な限り教えは守るべきだ。 「……いいだろう。もし此処で断れば倒れた僕を引き摺っていくようだし」 「察しが良いじゃねえか」 冗談めかしたワルドの口調に平然と梁は答えた。 若干、額に血管を浮かばせながらワルドは背を向けて立ち去ろうとした。 しかし不意に足を止めて彼へと振り返る。 「ところで君の主人の名前はなんと言うんだ?」 「ルイズ。後の長ったらしいのは忘れた」 梁の言葉を聞いたワルドの肩が驚愕に打ち震える。 主を主と思わぬ梁の言葉にではない、 彼を呼び出したというメイジの名がワルドを困惑させたのだ。 人を使い魔にした前例は無いと言ったが唯一例外が存在する。 それは偉大なる始祖ブリミルの従えた4人の使い魔。 ………まさか彼女は本当にそうだと言うのか。 ワルドの思考を中断させるように高らかに警笛が鳴り響く。 それはアンリエッタ姫殿下を警護する兵を招集する合図。 この場にいつまでも留まっていられない事を知りワルドはフライで飛び去った。 それを見届けて立ち去ろうとした梁の足が縺れる。 やはり百歩神拳の消耗は想像以上に大きかった。 今の体力では壁を駆け上がる事も塔に飛び移るのも叶わない。 兵隊に捕まれば最悪、王女の命を狙った刺客と見なされてもおかしくない。 梁の額を冷たい汗が頬を伝う。 ワルドに一緒に連れて行ってもらえばよかったと今更後悔しても遅い。 向かってくる兵隊を叩きのめしても状況は悪化するだけ。 どうしようか?と本気で困っていた梁師範の身体が宙に浮き上がった。 見れば、巨大な青い竜が自分の襟を咥えていた。 「テメエ! 俺は食い物じゃねえぞ!」 「きゅいきゅい!」 必死に手足を振り回すが、それは空を切るばかりで届かない。 しかし噛み付いてくる気配は感じられず、 どことなく滑稽な自分の姿を見て笑っているかのように感じ取れる。 その直後、寮塔の傍まで持ち上げられた彼の眼前で窓が開いた。 「……中に入って」 そこから姿を現したのは青い髪の少女。 それに従うように竜が窓から顔を差込み、ようやく俺を解放した。 床に尻餅を突く形で落とされ、痛む尻を擦りながら立ち上がる。 少女、恐らくはさっきの竜の主人は無表情で自分を見上げる。 しかし、つくづく魔法といい使い魔といい、 猛獣が野放しなアフリカより物騒な国だと心から思う。 「貴方は何?」 単刀直入にタバサは切り出した。 彼女は一部始終、ワルドと梁師範の戦いを目撃した。 魔法ではない力を振りかざしスクエアメイジでさえも追い詰めた。 ワルドが寸前で偏在と入れ替わらなければ命を落としていたかもしれない。 ルーンとは違う詠唱は先住魔法に近い。 だけど自然の力を行使するそれと彼が駆使した技は明らかに別物。 そこに彼女は興味を抱いた、あるいはそれこそが自分が求めていた物かもしれない。 そんな淡い期待を胸に抱いて問い質す。 「邪魔したな」 上目遣いに自分に視線を向けるタバサを無視して扉に手を掛ける。 梁師範とて善意だけで自分を助けてくれたと思うほど世間知らずではない。 だが西派の秘密をそう易々と他人に明かせる筈など無い。 扉を開けようと伸ばした梁師範の腕が止まる。 鍵は開いている筈なのに一向に開く気配はない。 振り返れば、少女は杖を手にして仁王立ちしていた。 魔法で閉ざしたのだと理解し、再び梁師範は彼女の前に立つ。 「私と勝負して。私が勝ったら……」 「悪いが女子供に向ける拳はねえ」 きっぱりと切り捨てて梁師範は壁にもたれ掛かった。 タバサが並の生徒と違う事は分かっていた。 だが、それでも実力・経験共にワルドの数段下だ。 稽古ならともかくそんな手合わせをした所で、どちらの得にもならない。 それでもタバサは食い下がった。 真っ直ぐに視線を外す事なく梁師範へと向き合う。 ……彼女は本気だった。 このままどちらかが完全に参るまで睨み合いは続くだろう。 闘い以外なら……例えば麻雀なら受けてやってもいいが、 こんな国の、ましてや学生寮の中に雀牌がある筈もない。 ふと視線を逸らした梁師範の目に面白い物が飛び込んだ。 それは見慣れた六面ダイス。 こっちにもあるのかと興味深げに眺めながら彼は口を開いた。 「そうだな。じゃあアレで勝負するってのはどうだ?」 ダイスを指差す彼にタバサも静かに頷く。 彼女の承諾を得た梁師範が賽を指先で摘まむ。 方法を変え、相手を代え、梁師範の戦いは続く。 同時刻、集結した衛兵達に動揺が広がっていた。 事は学院の塔の爆発騒ぎどころではない。 アンリエッタ姫殿下の寝所に報告に行った兵が慌てた口調で叫んでいた。 “姫殿下の姿がどこにも見当たらない”と狂ったように喚き散らす。 駆けつけたワルドも事態の急変に困惑を示す。 (……まさか連中の仕業か) 極秘裏に接触した『レコンキスタ』の存在を思い出し、彼は首を振った。 あまりにもやり方が杜撰すぎる。こんな騒ぎになっては逃げ出しようがない。 何が起きているのか理解するよりも早く大地が鳴り響く。 彼らが見上げた先にいたのは巨大な土のゴーレムだった。 その拳が梁師範によって刻まれた塔の傷跡へと打ち込まれる。 降り注ぐ破片を凌ぎながらワルドは敵意を込めた視線で巨人を見据えた。 多くの者達の思惑を呑み込んで、長い長い夜は未だ明ける気配さえ見せなかった…。 前ページ次ページゼロの武侠
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3772.html
前ページ次ページゼロの魔獣 それは、決闘後と言うよりも、何らかの事故現場のようだった。 中庭には濛々と砂煙が立ち込め、衝撃波で抉り取られた地面が一直線に伸びている。 その線上、頑丈そうな石壁に大穴が開き、間を置いて崩れ落ちた瓦礫の乾いた音がする。 「ひどすぎるわッ!? ワルド 何で! なんでこんな・・・」 「・・・君は アルビオンに行っても敵を選ぶつもりかい? 私たちは弱いです だから 剣を収めてくださいって・・・」 そう言いながら、ワルドは計画の崩壊を自覚していた。 咄嗟の自衛の為とはいえ、全力で放たれた魔法が至近距離で直撃したのだ。 使い魔は死んだであろう。 少なくとも、今回の任務からはリタイアだ。 惨劇を目の当たりにした彼の主人は、ワルドの事を許さないであろう。 だが今は、そんな修正の利く計画よりも、傷つけられた彼の自尊心の方が問題だった。 最後の瞬間、慎一は拳を止めた。 剣術の試合で言うならば、後から動いたワルドの方が、木刀を当てる形となった。 今の決闘、見る者が見ていたならば、勝者は・・・。 「旦那の言う通りだぜ ルイズ! 戦場じゃあ 弱いヤツは死ぬしかねえ 虎の尾を踏んじまった間抜けもなァ!」 彼方からの声に、2人は大穴のほうを振り向く。 瓦礫を押し分け、体を大きく揺らめかせながら、慎一が這い出てきた。 口元からは血がこぼれ、両手はぶらりと垂れ下がった幽鬼のような格好だが 両目はむしろ爛々と燃え上がり、試合が死闘へと変化した事を喜んでいる。 「インターバルは終わりだ! 第2ラウンドと行こうぜ ワルド」 慎一が大股を開き、肩を入れてストレッチしながら挑発する。 だが、ワルドにとって、この試合は計画の一環に過ぎない。 計画に変更を迫られている今 ここで慎一と殺し合いをする意味など無かった。 「・・・決闘と 無秩序な殺戮は違う 決着は既についた 2人の姿を見れば どちらが勝者であるか 女子供にだって分かる」 「決着?」 慎一はおどけたように両目を大きく開き、次いでクックッと、心底意地の悪い忍び笑いを漏らした。 「違いねえ 確かにどちらが勝ったか一目瞭然だな この勝負 てめえの負けだぜ! ワルド・・・」 慎一がゆっくりと左手を上げる。 その手の平には、ワルドの杖 - 彼にとって唯一の得物が、深々と突き刺さっていた。 ワルドが瞠目する、その表情を確認した後、慎一は一息に剣を抜き取り、 無造作にワルドの足元に転がした。 ワルドがぎりり、と歯噛みする。 慎一は穴の開いた左手を突き出し、指先でくい、くい、と挑発した。 「・・・行こう ルイズ・・・」 かろうじてワルドはそう言い、羽帽子を目深に被り直して中庭を後にする。 背後から慎一の、狂ったような高笑いが響く。 ルイズはワルドの背中と、慎一の笑顔を困ったように見回し、やがてワルドの後をついていった。 ―夜 慎一は再び月を見ていた。 「シンイチよお・・・ お前さん もっとうまい事やれねえのかい?」 「言うな」 「へん! またしても俺を連れてかねえからそういうことになるんだぜ」 デルフリンガーが拗ねていた。 だが、彼のいうことにも一理あった。 慎一は、一度戦場に立てば無敵の狂戦士であったが、その力は、誰かを救うためのものではなかった。 昼間の決闘にしても、事前にワルドの罠を察知し、他の仲間を同行させていたなら また違った決着があったかもしれなかった。 「・・・あっきれた 怪我人なんだから寝てなさいよ」 言いながら、ルイズが入ってくる。 「へっ こんな程度の傷はな ツバ付けときゃ直る」 「・・・打ち身に唾液が効くの?」 -実際のところは、キュルケが持ってきた薬の効果が、元々頑健な慎一の治癒力を高めているようだった。 (「勝ったのは俺なんだよ!!」と傷だらけで喚く慎一の姿は、彼女にはとても『可愛らしく』見えたであろう) ルイズが慎一の真横に並ぶ。それっきり、2人は押し黙る。 「・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 沈黙が続く。 慎一が傍らのデルフをちらりと見る。 饒舌なインテリジェンスソードは背景の一部のようにピクリともしない。 役立たずめ。 慎一が心の中で悪態をつく。 「・・・何か 用事があって来たんじゃないのか?」 ようやく慎一が、重い口を開く。 やや沈黙があって、ルイズが答える。 「・・・シンイチ 私・・・ ワルドに求婚されたの・・・」 「・・・・・・・・・・」 「・・・それで 私 その」 「ルイズ アイツはやめとけ」 馬鹿野郎!! 今度はデルフが心の中で罵倒する。 いくらなんでもストレート過ぎる。 何故こんな時に真理阿がいないのか。 「何で・・・ 何でそんな事をいうの?」 「アイツは ヤツは危険だ」 「― 昨日今日会ったばかりのアンタが ワルドの何を分かるって言うのよ」 「分かるさ ヤツは獣だ 獣のことは獣が一番良く分かる」 ―慎一は、最悪の一言をいくつ知っていると言うのだろうか。 暫く小刻みに震えていたルイズが、キッ、と両目を尖らせ、慎一に畳み掛ける。 「違うッ!! 違うッ!! 違うッ!! ワルドはアンタなんかとは全然違うッ!! ケモノは・・・ ケダモノなのはアンタ一人よッ!! 何でもかんでも一人で決めて 周りの迷惑も考えずに好き勝手に暴れてッ!! あたしの! あたしの大切な人を傷つけて!!」 「傷つけられたのは俺だ」 「うるさいッ!! ケダモノの・・・ 使い魔の命令なんて聞かないわよ!! あたしはワルドと結婚する!!!! それが気に入らないなら アンタも好きなところに出て行きなさいよッ!!」 「―チッ! おい待てッ!! ルイ・・・」 慎一が追いかけようとした時、1階から喧騒が響いてくる。 悲鳴、絶叫、金属音・・・ 慎一の大好きな音ばかりだ。 「おっ始めやがったかぁ!!!」 叫びながら慎一が走る。 すれ違いざまにデルフリンガーを掴み、ルイズに放る。 「シンイチ!」 「持っとけッ!! どうせケダモノにゃあ要らん!」 そういった慎一は、既に部屋を飛び出していた。 ―1階は戦場と化していた。 重装備の一団が、次々と店内に矢を射掛けてくる。 ワルドたちは石造りのテーブルを盾とし、それを防いでいた。 そこに、一匹の魔獣が割り込んでくる。 一息に階段から飛び跳ね、壁を蹴って、あらぬ方向から賊達の中央へと飛び込む。 直ちにその場のパワーバランスが入れ替わる。 慎一の手が届く範囲にいるのは全て獲物であり、賊達の周囲にいる人間の大半は味方であった。 極端すぎる戦力比が災いし、前線が恐慌を来たし、一方的な虐殺が始まる。 だが、両腕を振るいながらも慎一は、ある種の違和感を感じていた。 今回の任務は、始めから敵の知るところだったハズだ。 ヤツらが綿密に練ったであろう襲撃計画が、こんなにも手ごたえの無いものなのか? (陽動・・・?) 慎一がその考えに至ったとき、後方からずうううぅぅぅん、と大きな音が響き、 小刻みな振動が店内に伝わる。 賊どもが蜂の巣を突いたかのように騒ぎ出し、店内から飛び出す。 まるで、慎一とは別の脅威に怯えるように・・・。 「みんな! 大丈夫!?」 ルイズが階段を駆け下りてくる。 「来るな!ルイズッ!! お前らッ!! 伏せろォ!?」 振り向きながら慎一が叫ぶ、その言葉に呼応し、全員が店の隅に飛び退く。 ―直後、凄まじい轟音とともに後方のブ厚い石壁が破裂し、巨大な瓦礫が周囲に飛び散る。 巨大な鋼鉄の塊が破滅的な破壊音を生じさせながら、猛スピードで店内を通過する。 衝撃波が小型の竜巻を作って荒れ狂い、椅子を、テーブルを、戸棚を天井へと巻き上げていく。 「うおおおおおおぉぉぉぉォォォッ!!!!!!」 慎一が吠える、彼は見た。 螺旋を描きながら突っ込んで来る、巨大な円錐状の鉄の塊 ― それはドリル! ドリルと言って差し支えあるまい!! 空想科学の世界でしか存在しないハズの究極の兵器が、うなりを上げて彼の眼前に迫っていた―。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4554.html
*自分が書く際にイメージソングとして聞いている曲です。素直にキャラソン聞けや、って突っ込みは却下で(ぁ ルイズ メインテーマ 「Resolution」(機動新世紀ガンダムXop by ROMANTIC MODE) 「First Kiss」(ゼロの使い魔op by ICHIKO) シエスタ メインテーマ 「乙女はDo my BESTでしょ?」(舞-乙HiMEed by 菊池美香&小清水亜美) 「just be with you」(angel breath op by佐倉紗織) タバサ メインテーマ 「Crystal Energy」(舞-乙HiMEop by 栗林みな実) 「true my heart」(NurseryRhyme op by 佐倉紗織) ティファニア メインテーマ 「HONEY」(こいいろChu!Lips op by佐倉紗織) アンリエッタ メインテーマ 「スクランブル」(スクールランブルop by 堀江由衣withUNSCANDAL) アニエス メインテーマ 「夢想歌」(うたわれるもの op by Suara) 暴走用 「がちゃがちゃきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト」(byMOSAIC.WAV) せんたいさんに相談も無く勝手に更新!! 需要有るかなっ?て…… ルイズ メインテーマ 「Resolution」(機動新世紀ガンダムXop by ROMANTIC MODE) 「First Kiss」(ゼロの使い魔op by ICHIKO) シエスタ メインテーマ 「乙女はDo my BESTでしょ?」(舞-乙HiMEed by 菊池美香&小清水亜美) 「just be with you」(angel breath op by佐倉紗織) タバサ メインテーマ 「Crystal Energy」(舞-乙HiMEop by 栗林みな実) 「true my heart」(NurseryRhyme op by 佐倉紗織) ティファニア メインテーマ 「HONEY」(こいいろChu!Lips op by佐倉紗織) アンリエッタ メインテーマ 「スクランブル」(スクールランブルop by 堀江由衣withUNSCANDAL) アニエス メインテーマ 「夢想歌」(うたわれるもの op by Suara) 暴走用 「がちゃがちゃきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト」(byMOSAIC.WAV) http //www.nicovideo.jp/watch/sm350550 -- 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8271.html
前ページゼロの怪盗 翌日、ルイズが目覚めると、眠気眼の視界に見慣れぬ人影が入った。 「ひゃあ!?だ、誰!?」 思わず悲鳴混じりの声を上げる。 この部屋には今、ルイズしかいない筈である。 ルイズが何とも情けない顔で見ていると、人影がこちらに向かって軽く手を振ってきた。 「やあ」 その声を聞いて、ルイズの寝ぼけ気味だった頭が一気に覚醒する。 この空気よりも軽い返事は昨日必死の思いで呼び出した使い魔・海東大樹の声である。 散々自分を虚仮にした上に三度自分の前から姿を消したあの使い魔である。 思い出しただけでルイズに怒りが込み上げて来る。 そんなルイズを尻目に、海東は扉の方を指差した。 「いいのかい?授業、始まってるみたいだけど?」 「!?」 海東の言葉でルイズは自分の今の状況を把握し、急いで着替えを始めた。 この時のルイズは目の前の使い魔に自分の着替えをさせる。という発想すら浮かばないほど焦っていた。 自分でも驚く程のスピードで服を着替え終えると、そのまま部屋を飛び出して教室へと向かう。 「行ってらっしゃい」 海東の言葉を背に部屋から飛び出すと、猛ダッシュで教室へと駆け込む。 息を切らしながら教室へ入ると、既に授業は始まっていて、不名誉な注目を浴びる羽目になった。 「す、すみません……。遅刻しました。」 自分の席へと向かう最中、ルイズはあの使い魔にこの苛立ちをどう伝えてやろうかと算段していた。 「へー、これがこの世界の授業風景って奴かー」 「えっ?」 何処か馬鹿にした様な声を聞いてルイズが後ろを振り返ると、海東が壁にもたれ掛かりながらこちらを見ていた。 何時の間に……。とルイズが不思議がっていると、シュヴルーズがコホンと咳払いをした。 「ミス・ヴァリエール。授業中に余所見とは関心しませんねえ」 「!!も、申し訳ありません、ミス・シュヴルーズ」 「正直に謝るのは大変よろしいですが、それはそれ、これはこれです。罰として、ミス・ヴァリエールには皆の前で錬金の魔法を行ってもらいます」 シュヴルーズの言葉に教室中がざわめく。 「き、危険です。ミス・シュヴルーズ!」 キュルケが立ち上がって訴えるが、シュヴルーズはその進言を聞き入れずにルイズを教壇へと呼んだ。 ルイズもキュルケの横槍に思うところがあったのか、周りが止める声も聞かずに錬金を強行する。 その結果、教室内は未曽有の大爆発に巻き込まれた。 高みの見物で一部始終を見ていた海東はルイズの起こした爆発に興味をひかれる。 「楽しいねえ。どうやら退屈しないで済みそうだ」 海東は笑顔でそう言うと指鉄砲のポーズを決めてから教室を後にした。 1人、教室の片付けを言いつけられたルイズは黙々と机を運んでいる。 魔法を使ってはいけないと言われたが、使えないのだから意味がない。 使い魔にやらせようとしたが、爆発の前までこちらを見ていた使い魔は既にいなくなっていた。 自分以外誰もいない教室。 先の爆発でよりガランとなった室内はまるで世界の終わりにさえ見えた。 「ううっ、うう……!」 ルイズは怒りと悔しさと情けなさと寂しさでポタポタと涙を零していた。 何故自分ばかりこんな目に遭うのだろうか? せめて使い魔くらいもっとマシな使い魔は呼べなかったのだろうか? ドラゴンやグリフォンとは言わない。 犬や猫だっていい。 せめてこんな時に側にいてくれるような使い魔がルイズは欲しかった。 しかし、ルイズの使い魔はあの常に飄々とした自分を馬鹿にしているとしか思えない様な男なのだ。 「うぇえ~ん」 誰もいない教室で1人、ルイズは声を上げて泣いていた。 一方その頃、海東は図書室へ来ていた。 ここトリステイン魔法学院の図書室は本来なら海東のような何処の出かも分からないような平民が易々と入れるような場所では無いが、海東はそんなの何処吹く風といった様子で本を読み漁っていた。 「ダメか。全く読めない」 手当たり次第に本を取っては、パラッと閲覧してすぐにポイッと投げ捨てる。 海東の後ろには何時の間にか本が堆く積まれていた。 この様子に周りの生徒たちは怒ったり、注意したりというよりもただ唖然としていたが、唯1人怒りの青い炎を燃やしている生徒がいた。 それは通称、図書室の主・タバサであった。 彼女はとても本が好きで、いつも本を持ち歩き、暇さえあれば読書を嗜んでいた。 そんな彼女にとって、海東の行為は死罪に値した。 タバサは図書室に入り海東の行為を目撃するなりエアハンマーで吹き飛ばしてやろうと考え海東に杖を向けた。 その瞬間、海東はタバサの方を見向きもせずにディエンドライバーを取り出して銃口を彼女へと向けた。 「物騒だなあ。図書室では静かにするのは常識だよ?」 そう言うと、海東は目をタバサに向けた。 タバサは戦慄する。 彼女はとある事情により、同年代の少年少女よりも実戦経験を積んでいる。 その百戦錬磨の勘が目の前の男は危険だと告げた。 「……本を投げ捨てないで」 冷や汗の中、辛うじて絞り出した言葉がそれであった。 最も何も知らない者から見れば、タバサは相変わらず無表情に見えたのだが。 「本は大事に扱わないとすぐに傷む……」 タバサは唾をごくりと飲み込む。 本が大好きなタバサにとって図書室で戦闘するのは避けたいことであったし、仮に目の前の男と戦闘になったとしても勝てる自信が無い。 図書室内に緊張が走る。 先に動いたのは海東だった。 「そうか。それは悪かったね。今後は気を付けるよ」 海東はタバサに向けたディエンドライバーを下ろすと、ニコリと笑った。そして、今手に取って開いていた本を閉じると元の場所に戻した。 タバサはホッと胸を撫で下ろす。 先程まで投げ捨てていた本を片付けないのはしゃくに障るが、やり合うよりはマシと判断した。 海東は海東で再びランダムに本を手に取りパラパラとめくっては元に戻すといった作業を繰り返す。 その中で1冊の本に目が止まった。 (……これは) それは様々な印が載っている本であった。 今度は1ページ1ページ丁寧にめくっていくと、自分の左手に刻まれた印に良く似た印を見つけた。 解説文みたいなのも載っているが、やはり海東には読めない。 海東はタバサへ向き直った。 「……私はタバサ」 「そこのメガネ君。ちょっといいかい?」 いきなり身に付けたものの名前で呼ばれたことにタバサはムッとして、自分の名前を主張する。 「そうか。じゃあメガネ君。この本に何が書いてあるか僕に教えたまえ」 「……………………」 タバサの言葉を完全に無視して海東は本をタバサに突き付ける。 心情的には海東に協力したくは無かったが、だからといって協力しなければ何をされるか分からない。 タバサは仕方無くそのページに書かれた文字を声に出して読んだ。 「ガンダールヴ……伝説の使い魔……全ての武器を使いこなし……人間離れした動きで敵を倒したという」 「ふーん。他には何か書いていないのかい?」 「それだけ」 タバサは無表情で答える。 何故、この男は伝説の使い魔など調べているのだろうと疑問も浮かんだが、今はこれ以上海東に関わり合いたく無かった。 「そうか……伝説……か」 (全ての武器を使いこなし、人間離れした動きをする、か。これはとんだお宝だったみたいだね) 海東は左手に刻まれた印を改めて見直す。 (取り敢えずこの印については分かった。後は本命のお宝だね) この学院に眠る破壊の杖。 海東はそれを盗み出すことに本腰を入れることを決める。 破壊。 その言葉に海東はいたく惹かれていた。 それは彼が唯一仲間と認めたある男の代名詞でもあった。 「士……」 海東は誰に言うのでもなく呟くと、図書室を出て宝物庫のある場所へと足を向けるのであった。 前ページゼロの怪盗
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/775.html
「あんた誰?」 「……?」 彼女は突然の状況変化に、ぽかんとしていた。 ついさっきまで、いつものようにお散歩→草原でお昼寝→お兄ちゃんを影に日向にストーカーの三連コンボを決めようとしていた矢先に、変な穴から落ち、気がつけば桃色の髪をした少女から冒頭の言葉をかけられる。 知らない人に突然そんな事を言われてもどうしようもなく、ビクンと小さく震えてから、彼女は水色の髪と分不相応に大きなリボンを勢いよく振って、辺りを見回し始めた。 桃色髪の少女、ルイズがもう一度名を問おうとした時、 「ルイズが平民を呼び出したぜ!」 と誰かが言ったのを初めとして、周りの生徒がはやし立てる。その騒ぎの中心にいる彼女は更に震えるが、誰も気付かない。 「ちょっと失敗しただけじゃない!」 「流石ゼロのルイズ!失敗は御家芸だな!」 「ミスタ・コルベール!もう一度召喚させて下さい!」 「それは駄目だ。一度呼び出したものは何であれ、契約する事が伝統だ」 飛び交う罵声、嘲笑、絶叫。それがとてもやかましくて、なんだかどうしようもなくて、大好きなお兄ちゃんの気配を感じられなくて。 「ふぇ…えぅ…ええええええん!!」 彼女は、ただ泣くしかなかった。 ルイズは困惑していた。何回もサモン・サーヴァントに失敗し、やっと成功したと思えば平民の、しかも年下っぽい少女。おまけに突然泣き出したが、幸いコントラクト・サーヴァントで使い魔として契約成功し、泣きやんでくれたが。 (そう、ノーカンよ。相手はただの平民で、しかも年下の女の子) 部屋のベッドの上で煩悶するルイズ。これが年頃の男なら傘で殴って蹴って錬成して刀で斬るぐらい調教し、勘違いしないように上下関係を叩き込む所だが、相手が相手だけにそうも行かない。 何も知らず無邪気に部屋の物を珍しげに眺め回す使い魔の様子を見ながら、ふと契約直後の光景を思い出した。 解散と相成り、他の生徒が空を飛んで帰って行く。後に残されたルイズと彼女は、やがて歩き出した。涙の跡が生々しいが、落ち着きはしたらしい。 (よくみると…可愛いわね) 何というか、庇護欲を沸き上がらせるタイプだった。振り向いて見ると「?」と首を傾げる様子は、小動物を思い浮かべる。 背はルイズより少し小さいぐらい、体型も同じぐらい。 否、訂正。胸のサイズが僅かに負けていた。 「くっ……」 「どうか、したの?」 「何でもないわよ。そういえば、名前を聞いて無かったわね」 「憐は、憐っていうの」 「レン?解ったわ。わたしはルイズよ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日から貴方のご主人様!」 「ご主人様?ルイズお姉ちゃん?」 「―――ぐはっ!?」 それは反則だとルイズは思った。そんな脳がとろけそうな声で、仕草で、お姉ちゃんは犯罪ではないかと思わざるを得ない。 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「な、何でもないわよ…それより、召喚した時に突然泣いたけど、どうしたのよ」 質問した直後に失敗だと悟った。憐は、再び泣きそうな顔に変わった。正直泣き顔も可愛らしいな畜生と考え、続いてわたしは正常よ、正常なのよと心中で連呼しつつ、手のかかる妹を世話している気分に駆られた。 つまりは、この時に力関係が決まったのだろう。貴族や平民というのを超越した何かで。 「お兄ちゃんが…お兄ちゃんがどこにもいないの…ひっく」 「ああもう、泣かないでよ!ええと…どうして解るの?」 「よく分かんない…けど、お兄ちゃんがいる時は分かるの。それがなくなって…」 「わ、分かったわ。レン、あんたの兄さん、探してあげるわ」 言ってからまた失敗と思った。大体居場所も特徴も何も解らないのにどうやって探せと言うのだ。 だが、憐が返して来た太陽の様に暖かい笑顔を見て、ああやっぱいいかも、とハァハァしていた。ダメな人に一歩近付いていた。 が、そこからが問題だった。使い魔のルーンがあったから使い魔だとは解ったのだが、やり取りの一部抜粋を見れば分かるだろう。 「つかいまってなあに?」から始まり、 「何をすればいいの?」 「主人の目となり耳となる力、つまりレンが見たものをわたしも見る事が出来るんだけど…」 「?」 「無理みたいね。次はわたしの望むもの、例えば秘薬とかを見つけてくるとか―――」 「ひやく?」 「―――も無理かしら。最後に、わたしの身の回りの世話と護衛……なんてさせられるかぁ!」 「ひゃうっ?!」 「こんな可愛い子に……ハァハァ」 (ガクガクブルブル) つまりは、使い魔として悪い意味で規格外だった。何もできない。けどマスコットとして置いておけばいいかしら、可愛いしと行き着く辺り、更に毒されていた。 むしろ末期じゃねーか、という意見は貴族の誇りにかけて黙殺する。 意識を現実に戻す。 憐という名の使い魔はいかにも眠そうに、ふわあと脳をダメにしそうな声であくびをし、目をこすっていた。 案の定ダメになった人間がここにいた。 「眠いの?」 「うん……」 「じゃあ、一緒に寝ましょう」 (抱き枕として) 「う、うん……ありがとう、お姉ちゃん」 ざんねん! るいずのぼうけんは ここでおわってしまった! 寝床で聞きたい事、話したいことは山ほどあったのだが、舌ったらずの声に意識を刈り取られ、あえなく死亡確認となってしまった。 (使い魔とか全然知らないって事は、何なのかしら……ガクリ) 「あれ?お姉ちゃん、もう眠ったの?」 「それじゃあ、失礼します……お兄ちゃん、お姉ちゃん、おやすみなさい」 空にはただ、二つの光り輝く月と、黒い月が星々とともに浮かんでいた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7182.html
前ページゼロの仲魔 使い魔召喚の儀式が終わり、すぐに二年生の授業というものは始まっていた。 このとき、使い魔が同伴するというのが慣習である。つまり、規則ではない。だから、咎められる事はなかったのだが、馬鹿にされてしまった。 召喚に失敗した。家柄で進級した。魔法が使えない。 ゼロ、ゼロ、ゼロ。 授業が始まってから毎日、朝食を終えてから授業の準備をするのであるが、気が重たかった。染みが広がるように、鬱屈したものが溜まっていく。動けない。 しかし、ここで引きこもってしまったら隣のキュルケを始めとする同級生にとことん馬鹿にされてしまう。うんうんとベッドの上で唸っていたが持ち前の意地で準備を始めた。 最近のルイズはこの試練を越えるのが日課になっていた。 鏡の前で身なりをチェックし、おかしいところがないのを確認する。これからのこと、雨のように降ってくる罵倒に気構えもする。自分で自分に応援をし、がちがちに鎧を着込む。 そうして、心が平静になってからルイズは部屋の扉を開け、目の前にある真っ黒なものに困惑した。 妙なことである。昨日までも、食堂から帰ってくるまでもこんなものはなかった。というか廊下にあったら邪魔だ。 『なにを呆けているのだ?』 聞き覚えのある声。ルイズが視線を上げると、少年が見下ろしてきていた。 その彼の肩に、声の主、猫のゴウトが座っていた。 「……え、あんた誰?」 『うぬが呼んだんのろうが! 忘れるな!』 合点が言った。あまりに急な事で即座に記憶から引き出されなかったのだ。 目の前の男は彼女が召喚した使い魔である。 「あなた、大丈夫なの? 先生の話じゃあ数日で目覚めるとは聞いてたけど、動けるようになるとかは言ってなかったわよ」 『そこらのものたちと一緒にするな。治療されればどうということはない』 「そういうものなんだ」 じろじろと、値踏みするかのようにルイズは少年を見つめた。 「まあいいわ。いいこと、あんた、えっと……」 「――ライドウ、葛葉ライドウ」 「そう。ライドウ、あんたは私の――」 『説明はとうにしている』 出鼻を挫かれた。 ルイズはゴウトを睨むが、とりあえずこの場が廊下なので、とっとと話をすませることにした。 「とりあえず、いいこと。今日からしっかり働きなさいよね。あんたはこの私の、使い魔なんだから」 ライドウは少々考え込んでいたが、すぐに口を開いた。 「……今後ともヨロシク」 彼は素直だった。もしここで誰がやるかこのゼロとでも罵倒されれば蹴りの一つや二つはしてやろうかと思ったが、まったくそんなことはなかった。ルイズはほんの少しだけ気をよくし、食堂へ向かうためにと歩き出した。 と、すぐにその足が止まり、上昇傾向だった気分は暴落する。彼女の目の前に、今度は隣室のキュルケが立ちふさがっていたからだ。 「おはよう。いい朝ね、ヴァリエール」 「あんたに会わなかったら最高の朝だったでしょうね。ツェルプストー」 その返答にくすくすとキュルケは笑った。 「ご機嫌斜めね。ようやくそちらの男性、あなたの使い魔が目覚めたって言うのに。そうだわ、折角だから使い魔同士、親交を深めてもらいましょう。フレイムー」 キュルケが名前を呼ぶと、のっしのっしと彼女の背後から大きなトカゲがやってきた。むしろ大人の鰐に近い体格である。 ちろちろと舌のように口から火を出している。体表は燃えるように赤い。 「サラマンダー、相変わらず立派ね」 ルイズが悔しそうに頬を引きつらせながらその種族の名前を呟くと、キュルケは人差し指を振って訂正した。 「正確には、火流山脈に生息する亜種よ。見なさいこの立派な姿を。普通のサラマンダーよりももっとレアなんだから。やっぱり使い魔っていえばこういうのじゃないとねえ」 おほほほと、実に楽しそうに笑っていた。 ルイズのコメカミがひくついている。 「そりゃよかったわね。ええ。で、話はそれだけなのかしら」 「それだけよ。じゃあお先に失礼……」 キュルケの言葉が止まり、視線がサラマンダーに向けられた。ルイズもそちらに目をやると、自身の使い魔であるライドウとそのサラマンダー、使い魔同士が目を合わせていた。 敵対心があるわけではなく、どちらかといえば、飼い主とペットという具合であった。 『なにをしているのだ? ライドウ』 「――いや、なんでもない」 ゴウトに言われ、ライドウは視線を外す。サラマンダーもすぐに自身の主であるキュルケのところに戻った。 「えと、ともかく先に行くわね」 ばあいと手を振ってキュルケは離れていった。 ルイズはその背を見送ってからライドウに目を向けた。 「あんたね、ツェルプストーなんかの使い魔と仲良くしてんじゃないわよ!」 『えらい理不尽だな』 「ゴウトは黙ってなさい! いいこと、あの女の家系は敵! 敵なんだからね!」 『なにかあったのか?』 「なにかどころじゃないわよ!」 床を踏み抜くほどの勢いで地団駄をふみ、ヴァリエールとツェルプストーの因縁を口にした。 国境を境にして隣接しあう領地なために戦争になれば真っ先にぶつかりあい、平時であれば男は女を奪い合い、女は男を奪い合う。いや、男女関係においてはヴァリエールは常に奪われる側だった。 そうなればその恨みもわかるようなものであるが、少々行き過ぎているきらいもあった。誰もそのことを指摘しないが。 ひとしきり文句を口にしたらすっきりしたのか、ルイズはずんずんと廊下を歩いていった。ライドウとゴウトもその後ろをついていく。 教室にルイズたちが入ると、一斉に視線を向けられる。ネチネチとした、厭らしいものがこめられていた。それを無視し、誰も周囲にいない一角に座った。ライドウは無言で彼女のそばに立っている。 やはり、というか、当たり前であるが、彼女以外には人の使い魔など呼んではいなかった。鳥や蛙、モグラに蛇、窓を見やると鮮やかな青色の巨大な竜が部屋を覗いていた。 『ライドウが眠ってる間に散策していたのでもう驚かないが、一堂に会すとなかなか壮観だな』 「――悪魔は、いないか」 ゴウトとライドウがなにやら話をしているが、気にも留めなかった。 すぐに教師、シュヴルーズというふくよかな女性もやってくる。騒いでいたものたちも静まり、それぞれの席についた。 彼女は教壇に立ち、笑みを浮かべて生徒たちを見回した。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功だったようですね。このシュヴルーズ、毎年この季節を楽しみにしているのですよ」 彼女にとってはこのクラスはまだ授業を行っていなかった。 そうして、ルイズたちに目を向ける。 「あらあら、ミス・ヴァリエールは珍しい使い魔を召喚しましたのね」 にっこりと微笑みながら彼女は言う。皮肉でもなんでもない。 ルイズも入学してもう一年、教員の性格は大体わかっている。シュヴルーズが生徒を気遣ってくれていて、親身になって相談に乗ってくれる事もあるというのも知っている。 ただ、教師として、彼女は自分の言葉にもう少し気を回す必要があった。 「ゼロのルイズ、いくら召喚できなかったからってどこぞの平民を連れてくるなよ!」 「召喚したわよ! そしたらこいつが来たのよ!」 一人の生徒がほとんど条件反射的に侮蔑の言葉を吐いた。 売り言葉に買い言葉で、ルイズは立ち上がって言い返した。 「ゼロが成功するものか!」 「お静かに」 シュヴルーズがそう言って魔法を唱えると、その生徒の口に粘土が貼り付けられた。 「あなたはそのままで授業を受けなさい。それではみなさん、始めますよ」 授業は静かに進んでいく。二年になったばかりというのもあって基本的な講義に始まり、それから徐々にシュヴルーズの得意な土属性の話になっていく。 そのうちに実践だといい、小石を取り出して錬金という魔法をかける。すると、ただの石ころが金色に輝くものへと変化した。 『――ほう! すごいものだな!』 ゴウトが感嘆の声を上げる。 生徒達もその技術に驚き、どよめいていた。 「先生、それってまさか黄金ですの?」 キュルケが質問をすると、シュヴルーズは否定した。 「これは真鍮です。私ではとても黄金などは作れません。作れたとしても、それからしばらくはなんの魔法もできないほど精神力を消失してしまうでしょう。黄金とはそういうものなのです」 『ふむふむ』 授業が始まってからずっとであったが、ゴウトは生徒でもないのに真剣にシュヴルーズの話に耳を傾けていた。ぼそぼそと声が気になっていたのでちらりとルイズが一瞥すると、なんと彼は猫の手で小さな手帳に文字を書いていた。 知能があるというのはわかっていたが、とんでもなく器用な猫であった。なにを書いているのかはまったく理解できなかったが、恐らくは授業の内容であろうという推測はできる。 「あんた、なんでそんなことしてんの?」 『ん? いやなに、いざというときにこういう知識が必要になるかもしれんのでな。勉強せねばいかん』 「……あんたって猫なのよね」 『見かけはな』 そうして話し込んでいると、とんとんとルイズは肩をつつかれた。ライドウだ。 なんのようだと思えば、シュヴルーズがこちらを見ていた。 「戯れは終わりましたか? ミス・ヴァリエール」 「す、すいません!」 「かまいませんよ。ただ、折角ですし、あなたに錬金の実践をやってもらいましょうか」 しんと、シュヴルーズが言い終わった途端、教室内に静寂が満ちた。 この不穏な空気にゴウトは毛を逆立たせ、ライドウも顔を強張らせた。 キュルケがさっと手を挙げて発言する。 「先生、それはやめておいたほうがよろしいかと」 「何故です? 彼女は大変熱心な生徒であると聞いておりますが」 シュヴルーズの答えにキュルケは顔を渋めて、今度はルイズに顔を向けてきた。 「お願い、やめて」 仇敵に対してとは思えない懇願。目に涙を浮かべるほどの徹底ぶり。彼女の態度はからかっているものでなかった。 とはいえ、それがルイズの心を穏やかにさせて、拒否の方向へ導くわけもなかった。むしろ、やってやろうじゃないのという気にさせてしまったのだった。 彼女は席を立ち、しっかりとした歩みで教壇へ向かった。 他の生徒達は絶望を浮かべ、机の下にもぐりこんでいく。奇妙な光景だ。 ルイズは小石の前に立ち、深呼吸をしてから魔法の詠唱に入り、錬金を唱えた。 そして、爆発した。 ルイズの魔法は成功しないばかりか爆発を引き起こした。 その衝撃は机や椅子、教壇を吹き飛ばし、さらにはそばで見守っていたシュヴルーズを負傷させてしまったのだ。ただ、そもそも爆発での死因というのは吹き飛ばされた物体が人体に刺さるなどなので、彼女はいたって軽傷であった。気絶はしたが。 ついでに、室内には多くの使い魔、獣達がいたので閃光と轟音により過度の興奮状態に陥って阿鼻叫喚の地獄絵図になった。 生徒達から非難されて、罵られ、文句を言われながらもルイズはこう言った。 「ちょっと失敗したわね」 「ちょっとじゃないでしょーが!」 もちろんこんなことになれば罰が待っている。 今回は、教室の掃除を魔法を使わないでやるということだった。ルイズはそれを甘んじて受けた。どうせ魔法を使ったら失敗するのだ。だからどうしたと。 だが、そんなものは虚勢以外のなにものでもない。 使い魔であるライドウに指示をし、破壊された机や椅子などを外へと運び出させて、自分は力のいらない拭き掃除などをしていたら、不意に、とてつもない圧迫感を持つなにかに喉を絞められてしまった。 呼吸ができなくなり、鼻の奥が熱くなる。目の奥に痛みが生まれ、何度もまばたきをしてしまう。 こみあげてくるものを奥歯をかみ締める事で腹の底に追いやる。 出てくるな、出てくるな、出てくるんじゃない。 そう頭の中で念じて、必死になって堪えようとする。 『別に我慢する事はなかろうに』 背後に振り返るとゴウトがいた。黒猫は尻尾をゆらしている。 「なに、よ……なにか、言いたいの……」 『いや、うぬの魔法の腕も、周囲の反応とゼロという名から予想できていた。驚きはしない』 「だったらなによ。なにしにそこにいるの」 『――お前にはまぎれもなく、魔法を使うという素地はある』 慰めに聴こえたが、次の言葉は彼女の心をえぐった。 『だが、扱えなければ無意味であり、無価値だ。正直に言わせてもらうが、お前には普通の魔法を使う才能がない』 「わかってるわよそんなこと。あんたに言われなくても……わかってんのよ!」 ルイズは怒りのままに雑巾を投げつけた。 ゴウトは華麗に避ける。 「避けるな!」 『子供のかんしゃくにわざわざ付き合うほどお人よしではない。それに、まだ我の話は終わっておらんぞ』 「なによ! さっさと言いたいこと言って出て行きなさいよ!」 『だったら言わせてもらうが――』 ゴウトはじっと、強い力が篭った瞳でルイズを見つめ、言った。 『うぬは頑張っている』 初め、ルイズは彼がなにを言っているのかわからなかった。 『たぶん、魔法をやって爆発以外起こったことがないのであろう。それこそ、何度やっても、どんな魔法でも結果は同じ。それでもなお、諦める事はなく、開き直る事はなく、ひたすらに努力をしている。そうであろう。他の生徒と比べても、熱心に講義を聴いていたではないか』 「それは……」 『よくやっている。本当に、心からそう思うぞ。教諭もそう思っていて、うぬを好いておる』 「そんな、そんなわけないじゃない。何度失敗したと思ってるのよ。十や二十じゃないのよ」 『それだけ失敗していながらどうしてこの学院に留まる事ができる?』 「家柄よ。誇張でもなんでもなく、ヴァリエール家は名門中の名門なのよ。先生たちも、私じゃなく、ヴァリエールという家が気に入っているのよ」 やれやれとゴウトはため息をついた。 『節穴だな。自分のことだからか、それとも子供だからか。仮にそうであったらもっと硬い態度をとるものだ。コルベールというものはどうだった? シュヴルーズとやらはどうだった? あのものたちからは取り立てて悪意は感じなかったぞ?』 言い返すことができない。否定する事ができない。 けども、認めることもできない。 ルイズは魔法こそ絶対のものだという価値観を持っている。それは当然の事だ。貴族というのは、始祖ブリミルから与えられた系統魔法を扱うもの。伝説を受け継ぐものなのだ。魔法を扱えない貴族など、なんの価値もない。 そんなクズを気に入る貴族などいるはずがない。そう彼女は思い込んでいる。 『まあ、使えんということには変わりないのだがな』 「……持ち上げて落すんじゃないわよ!」 ルイズは杖で叩こうとしたが、またも華麗に避けられる。 「この、すばしっこい!」 『これでも戦場にいながらにして一度たりとも巻き添えを食ったことがない。回避には自信があるのだ』 ゴウトはカカッと笑った。からかうようなその笑顔に苛立ちで目の前が真っ赤になり、ルイズはなおも追いかけようとするが、ひょいとその小さな身体を抱き上げられた。 ライドウが帰ってきていた。軽々と両脇に手を入れられて、持ち上げられていた。 ルイズは両手両足を振り回しながらライドウを睨む。 「離しなさいよ! あの馬鹿猫、懲らしめてやるんだから!」 『我はそやつのお目付け役だぞ。我に何がしかの危害を加えるはずがなかろう』 歯噛みするルイズ。仇敵のキュルケに胸や魔法で馬鹿にされたときのように顔をゆがめていた。 しかし、そっとライドウが差し出したある道具を見て、きょとんと目を丸くした。 「……え、なに、これ、まさか効果あるの?」 彼は頷いた。 ルイズはそれを持って、ゴウトに向き直る。ちらちらと左右に振ってみると、彼はピクピクと身体を震わせていた。 動揺している。その双眸は見開かれており、その道具を追ってしまっていた。 『こ、この、裏切り者が……うぬは鬼か、悪魔か!?』 「――ただの猫でないあなたに効果はないのでは?」 ライドウは微笑を浮かべていた。 ルイズはそれを振りながらじりじりと近づいていく。ゴウトはその場を動けないでいた。 そして、至近距離にまで近寄る。ゴウトは明らかに左右に揺らされるそれを目で追っている。 『わ、我は、我は猫ではないのだ。よ、よせ、うううぬぬぬぬ……』 「へえ、そう、猫じゃないの」 『――ふうおおぉ!? く、くびはいかん! くびは、くびはあぁぁ!』 ゴウトはその道具、猫じゃらしに悲鳴を上げていた。 『く、くやしい!』 「おもしろいわね、これ」 前ページゼロの仲魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5487.html
前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 五話 太陽が、地平線と別れを告げていた。 涼やかだった空気も、いつの間にか暖かさを身にまとっている。 小鳥のさえずり、小さくも力強いその羽音。 水をくみ上げているのであろう、井戸の滑車の音。 使用人同士の挨拶の声。 窓の外で繰り広げられるその全てを、ブラムドの耳はとらえていた。 また、窓の外の小さな喧騒とは裏腹に、寮の内側ではまだ何の音も聞こえてこない。 ……起こすにはまだ早かろう。 そう考えたブラムドは何とはなしにルイズの顔を見つめ、そのままそっと目を閉じた。 昨日から今朝にかけ、いくつか魔法を使ったものの、体内のマナは十分な力を保っている。 ふと、ブラムドは違和感に気付く。 マナの消耗が少なすぎる。 フォーセリア世界では万物の根源とされるマナ。 地水火風の精霊を操る精霊使いの初歩は、精霊の存在を知覚することである。 同じようにマナを操る魔術師の初歩は、己が内に秘められたマナの存在を知覚することだ。 竜であるブラムドは魔術師が操る古代語魔術と違う、竜に連なるものが使う竜語魔法を元より身に着けている。 竜語魔法を使う際にもマナを使う為、魔術師としての初歩を必要とはしていなかったが、今ブラムドが古代語魔法が使える理由は、一人の魔術師に手ほどきを受けたからだった。 フォーセリア世界の魔法王国、カストゥールと呼ばれた王国の末期、当時の貴族階級である魔術師は魔法を使えない人間を蛮族と蔑み、奴隷階級として虫けらのように扱った。 ブラムドをはじめ、魔術師に捕まった竜はことあるごとにその蛮族たちと戦わされるが、蛮族たちの死は数多ある娯楽の一つに過ぎない。 人間の死が、酒や歌、本や劇と同列にされていた時代。 ブラムドが友と呼ぶ魔術師、かつてのロードス島太守の娘として生まれたアルナカーラは、当時の魔術師としては最たる異端、貴族も蛮族も、動物も魔獣も問わず、生命そのものを最も貴重とする大地母神マーファの信徒であった。 蛮族が人ではなかったころ、人の命そのものが軽視されていた時代では、数え切れない人間たちが実験として殺されていた。 そんな中で、囚われていた自らの境遇に同情したアルナカーラと、ブラムドはやがて交流を持つにいたる。 ロードス島の五色の竜、その中で最も凶暴といわれた火竜シューティングスターは、魔術師に囚われていた憎悪と憤怒を蛮族に向け、その凶暴さから後に魔竜の称号を与えられた。 最も狡猾といわれた黒竜ナースも同じように、残虐さから邪竜の称号を冠される。 二体の竜は当然それで喜ぶわけもないが、蛮族に情けをかけるかのように、すぐとどめを刺してしまう他の三体に比べ、闘技場へ引き出される回数は日に日に増えていった。 やがてブラムドの檻の前は、世話係の他にはアルナカーラの姿ばかりがあるようになり、持て余した時間を魔術の学習などに使うこととなる。 ハルケギニアへ召喚されたブラムドが知る由もないが、フォーセリア世界の魔法王国時代末期に開発された魔法、そしてその滅亡に際して失われたとされている魔法の全てを、ブラムドは扱うことが出来る。 元より感覚の鋭い竜族であり、魔法の研究では最盛期を迎えていた時期の魔術師に魔法を習ったことから、ブラムドの魔術師としての能力は異常ともいえた。 おそらく、ブラムドの持つ全てのマナを注ぎ込めば、太守サルバーンのかけた『制約(ギアス)』の魔法も解くことが出来ただろう。しかしブラムドはその優しさゆえ、アルナカーラの立場を慮ってそれをすることはなかった。 結果として世話係に密告され、太守サルバーンに『制約』の解除をすることも禁じられてしまう。だがブラムドは、今でもアルナカーラを友だと思っている。 魔術師の中の、唯一の友と。 魔術師としての能力を考えれば、ブラムドは魔法王国でも上回るもののない存在だ。 魔法王国が滅びた現在では、比肩しうるものは同じ竜族で古代語魔法を操ることが出来るエイブラだけだろう。 その卓越した魔術師としての能力が、明確な違いを感じていた。 ブラムドが初めから持っていた資質なのか、それとも研究者としての魔術師、アルナカーラに触発された結果なのかは不明だが、ブラムドもまた研究者としての側面を持っていた。 つまり、理論を実験で確認するということを。 無論、実験を今この場で行うわけにはいかない。 単にマナの消費が少ないだけなのか、魔法の効果そのものに何か変化が生じるのか、それを確かめるためにはブラムドが扱うことのできる魔法を、一通り使ってみる必要があるからだ。 昨日から今朝にかけて使ったいくつかの魔法に関していえば、効果に代わりはなかった。 だが主を守護するという目的のためにはきわめて重要な、攻撃に属する魔法は一切使っていない。 威力の予想がつかない魔法を、室内で使うわけにはいかない。 さて、とブラムドは考える。 ルイズやオスマン、そしてシエスタは信頼を置ける。 タバサの嘘は魔法を使うまでもなく見抜くことができる。 だがロングビルのような人間がいるのならば、易々と手の内をさらすのは得策ではない。 ……どこか適当な場所がないか、ルイズかオスマンに尋ねてみようか。 ブラムドのそんな考えは、ベッドからのうめき声で中断される。 ベッドを見やると、ルイズの眉間には深い皺が刻まれ、口からは言葉にならない苦悶の響きが漏れている。 「……ルイズ? ルイズ?」 ひとまず頭や顔を撫でさすると、ルイズのまぶたが開きかける。 すぐに目覚めたことで、魔法による干渉でないと安心したブラムドの不意を突くように、ルイズが抱きついてきた。 「ちいねえさま!!」 と、声を上げながら。 「使い魔が出てきてくれないの!! 竜や魔獣なんて贅沢いわないわ!! 犬でも猫でも、カラスだっていい!! トカゲでもカエルでも構わない!! でも爆発するだけなの!!」 ブラムドが慰めの言葉を差し挟むまもなく、ルイズの嘆きは続く。 「お父様は大丈夫って仰ってくださった。お母様も時が来れば魔法を使うことができると仰った。あの姉さまだって、ちびルイズ、あんたはこの私の妹なんだから魔法を使えないわけがないのよっていったわ!! でも、駄目だったの!!」 「ルイズ」 言葉をかけようとブラムドが名を呼んだ瞬間、ルイズの両手がブラムドの胸へと伸びた。 右手と左手で握り、揉んだ。 一回、二回、三回、反応に困って二の句が継げないブラムドに、至極冷静な声音でルイズがいった。 「ちいねえさま胸しぼんだ?」 ブラムドの両手がルイズの顔を挟み込み、胸元から引きはがす。 「ルイズ、目を覚ませ」 引きはがされた瞬間には半ば閉じていたその目が、一度、二度、三度とまばたきをし、その瞳に光が宿る。 「……ブラムド?」 「目は覚めたようだな」 その言葉に、ルイズの頭が急速に活動を開始する。 ……寮の私の部屋。 ……目の前の人はブラムド。 ……すごい竜で、すごい魔法を使う。 ……オールド・オスマンがそのままだとまずいって言って、 ……ブラムドは人間になった。 ……寮に帰ってきてからシエスタと話をして、 ……それから胸。 ……胸。 …………胸? 両の手が、ブラムドの胸に伸びていた。 両の手を軽く握った。 柔らかい。 この瞬間、ルイズの意識は完全に覚醒した。 そして自分のしていることに気付き、顔や耳どころか首もとまで真っ赤に染め上げる。 さらに降伏でもするかのように両手を頭上にのばしながら、後退して、ベッドから落ちた。 「ルイズ?」 主を追ってベッドから降りたブラムドは、昨晩のようにルイズを抱き上げ、再びベッドへと横たえた。 ベッドから落ちたときに打ったのであろう、後頭部をさするルイズの手をどけさせる。 「大したことはない」 髪をかき分けて患部を確かめたブラムドがそういうと、ルイズは染め上げた顔のまま謝罪を口にした。 「ごめんなさい!!」 「何を謝る?」 人間の、それも特定の性別の感覚で謝られたが、ブラムドにはなぜ謝られたのかが理解できない。 ルイズは自分のしたことが謝罪に値することだと思っていたが、ブラムドの言葉で思考に混乱をきたした。 口を開いたり閉じたりするルイズに、ブラムドは微笑みながら言った。 「ルイズ、お前は幼な子のようなことをするのだな」 その一言で、ルイズの混乱は急速に収まる。 まだ頬や耳を赤く染めながらも、普段通りに話せるようになった。 「こ、このことは誰にも内緒よ?」 「シエスタにもか?」 ブラムドの言葉に再び顔を赤くしながら、ルイズは断言した。 「シエスタにも!!」 準備にはいささか早い時間だったが、ルイズはいつものように制服に着替え始める。 すでに顔色は戻っていたが、ボタンを留める手は少し震えていた。 「ルイズ」 「なっ、何!?」 「この近くに、人気のなく、見晴らしの良い場所はあるか?」 疑問を浮かべつつも、ルイズはひとまず答えを返した。 「この近くでなら、昨日の儀式に使っていた草原が一番見晴らしがいいわ。特に秘薬の材料が生えている訳じゃないから、使い魔召喚の儀式以外だとあまり使わないし」 「そうか、では夜にでもゆくとしよう」 身だしなみを整えたルイズが、改めて疑問を口にする。 「なぜそんなことを聞くの?」 「色々な魔法を試したいのだ」 「試す?」 ブラムドはかたわらに歩み寄ったルイズの頭をなぜ、微笑む。 「お前を守るためには、戦うための魔法も使うことがあろう。何しろ今の我は氷竜ではなく、東方より来たるメイジだからな」 使い魔が、自分を守ってくれる。 使い魔が主の望みを叶える、おそらくメイジとしては当たり前のことで、そのこと自体にこうまで強い喜びを感じることはないだろう。 だが、ルイズは魔法を使うことができなかった。 魔法を使うと言うことに対する達成感も充足感も、およそ味わったことがない。 味わったことがあるとすれば、苦渋と挫折だけだった。 それゆえ、ルイズは今まで味わったこともない多幸感に包まれていた。 油断してしまえば、草原でしたように嬉し涙をこぼしかねないほどの。 「ルイズ、頼みがあるのだが」 そしてたたみかけるように、頼み事をされる。 これも学院に来てからはされたことがない。 仕方がないといえば仕方のないことだ。 練金で物を作り出すことを得意とする土メイジは、とかく何か頼み事をされることが多い。 水の秘薬なしでも、小さな傷程度なら治すことのできる水メイジも同じだ。 いずれの系統にも目覚めていないルイズは、頼み事をする対象としてはもっとも適さない人物だった。 それが昨日会ったばかりとはいえ、この上もなく頼りにしている存在からの申し出であれば、喜びはひとしおだろう。 端的に言えば、ルイズは舞い上がった。 「何? 何かほしい物でもあるの? なんでも買ってあげるわ!!」 その主と同じように、ブラムドの心境も同じように端的に言おう。 「武器? 食べ物? 服? アクセサリー?」 正直、ルイズの勢いと奇妙な目の色に少々気圧されていた。 「い、いや、服も必要といえば必要だが、とりあえずはアクセサリーのような物が欲しいのだ。似たような形の物をいくつかの種類で」 「指輪とかネックレスとか?」 「そういった物でも構わないし、そういった物でなくても構わない。例えば何か金属の塊や石、何かの駒や宝石でもいい」 曲がりなりにも公爵家の令嬢であるルイズは、当然装飾品の類も数多く所有している。しかし、それらを寮へと全て持ち込むようなことはしていない。 何よりも学びに来ているのだ。 基本的に真面目なルイズはその原則に基づき、家族との思い出の品など、肌身離さず持っていたい物だけを持ち込んでいた。 ブラムドへ渡すことが嫌だというわけではないが、石でも良いと言われる程度のものとして与えるのには流石にためらわれた。 悩んだ末にルイズが取り出したのは、父であるヴァリエール公爵から与えられたチェスの駒であった。 金と銀でできた駒。 駒の底にはなめし革が張られ、ガラスの盤を傷つけないようになっている。 無論細工も見事な物で、馬をかたどる騎士の駒は息づかいが聞こえてきそうですらあった。 わざわざこのような物を送られる程度には、ルイズもチェスをたしなんでいたが、残念なことにチェスは一人ではできない。 少なくとも、今のルイズには無用の長物と言えた。 以前シエスタに手ほどきをしようと言ったこともあったが、使用人であるシエスタにはそれほど自由な時間はない。 簡単にルイズから駒の説明を受けたブラムドは、満足げにうなずく。 「申し分ない。少なくとも今はな」 「何に使うの?」 六種の金の駒、六種の銀の駒、併せて十二種の駒へ、ブラムドは魔力を込めていく。 『呪物創造(クリエイト・デバイス)』 「魔法を使うには目標が必要だ。自らを対象とするようなもの、敵を対象にするようなものであれば簡単だが、見えないものを対象にするのは難しい」 魔法を使えないルイズは、ブラムドの言葉を想像するしかない。 それでも、見えない物を目標にするという困難さは容易に想像がついた、 「この駒に込めている魔力は、それぞれ少しずつ違う。例えて言えば、それぞれに違う文字のようなものだ」 ブラムドが事実を知ることはないが、本来『呪物創造』は魔法を行使するための発動体を作るための魔法である。 魔法王国カストゥールの魔法も、元々はハルケギニアと同じように発動体を必要としていた。 その形状は杖だけではなく指輪なども含まれていたが、ロードス島での研究が進んだ結果、後に発動体を必要としなくなった。 魔法を物に込める付与魔術の術者であったアルナカーラは、この発動体に別の使い道がないかと研究を進める。 やがてその研究は成果を上げ、隔てた場所を行き来する『転移(テレポート)』や、 『心話(マインドスピーチ)』の目標とすることを可能にした。 数多あるアルナカーラの功績の一つだ。 ブラムドが、魔力を込めた金の女王をルイズに渡す。 不思議そうな顔をし、ブラムドへ話しかけようとしたルイズだったが、ブラムドが口元に当てた人差し指に口を閉じる。 『心話』 ……それを持っていれば、こうやって心の声が聞こえるようにもなる。 ブラムドの声、それも心を通わせているからか、竜の姿をしていた時の声をルイズの心は聞く。 ……すごい!! こんなこと、ハルケギニアの魔法では絶対にできないわ!! ルイズの驚きを表す心の声に、ブラムドは愉快そうな笑みを浮かべた。 「ついでに込めた魔力も隠してしまおう」 「そんなこともできるの!?」 「問題はない」 草原で、竜から人へと姿を変えるときにも口にした、こともなげな台詞。 『魔力隠蔽(シール・エンチャントメント)』 自らの使い魔へ畏敬の念を送ると共に、使い魔にふさわしい主になることを、ルイズは改めて誓った。 前ページ次ページゼロの氷竜