約 579,019 件
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/501.html
夜桜を見上げながらククールは、たいしてうまくもない缶チューハイを少しずつあおっていた。少し肌寒い。綺麗な夜月。脱いだ上着とマントは、膝の上で寝こける恋人にかけられている。暗黒神など足もとにも及ばない凶悪な美女3人の攻撃はククールの心に著しいダメージを与えたが、こうして静かな月明かりに照らされ桜を愛でるうち、激減していた心のHPもようやく回復しつつあった。もっとも、かいしんのいちげきを叩きこんでくれたとうの本人は、幸せそうに膝の上で丸まっている。時々寝言を言いながら腰に腕を回し抱きついてきたりするのでたまらない。この、無邪気でカワイイ恋人。好きだと思えば思うほど から回る。愛でようとすればするほど逃げられる。泣かせないためにめいっぱい大事にしていたはずが、知らぬうちに傷つけている。『――たまに想いをこめて言われるからこそ伝わるものじゃない? アイツのあれはなんていうかもう、とりあえずそう言っとけばいい、みたいな…』「…………きっつー」ククールは自嘲気味に呟き、苦笑いを浮かべた。彼女がそう思っていたことがショックなのではない。ぶっちゃけると「イタイとこ突かれた」のだ。当然のことながら、彼女に対するほめ言葉や愛の言葉にウソ偽りは一切ないし、彼女の言うようにおざなりでもなければその場しのぎでもない。本当にそう思うから言葉に出るまでのこと。…ただ。真剣でないのは、事実。…だったりする。これだから「サイテー」とか言われるのだ。自覚があるところにそのツッコミは非常に痛かった。確かに本音ではあるのだが、真剣ではない。いや、真剣に「言えない」。それが正しい。…そもそも思い返したって、自分たちの出会いからしてそうだったのだ。―――オレはゼシカを褒め、口説き、好きだと何度も口にする。―――ゼシカはオレのそんな態度をケイベツし、褒め言葉を無視し、愛の言葉を否定する。彼女がオレに惚れる以前も、オレに惚れたあとも、常にそうだった。お互いがその態度を絶対に崩さないことで、自分たちの関係は保たれていたんだ。…なぜかって?そりゃあオレ達2人して、素直じゃないし照れ屋だからさ。今さら、真顔で、真剣に、誠実に、心をこめて、「好きだ」なんて、言えない。本当にカワイイって、今のオレが言ったって信憑性は薄い。愛しいから抱きしめたって、ただのスケベとしか思われない。―――……だったら、だ。だったら、冗談混じりを突き通せばいい。本音だと受け取ってもらえなくたって、言葉に出しておけば、少なくともこの関係は保たれる。そう、まさに、『とりあえずそう言っとけばいい』……というわけだ。ウザイと思われるのは、まぁかまわない。むしろ本望だ。だけど、ゼシカがオレの微妙な「逃げ」に敏感に気付き、不安を感じていたことが正直辛かった。「言わなくてもわかるだろ?」なんて、カッコつけてるだけで実際は臆病者のセリフだ。本当のことは言葉に、態度に表わさないと伝わらない。「……好きだよ」眠ってる彼女にロマンチックに囁いてみたって、やっぱりいい加減男の戯言にしか聞こえない。やっぱり日ごろの行いは大事ですねーと、桜を見上げ誰にともなく呟いてみる。ククールは はあっと肩を落として大きなため息をついた。ゼシカが膝の上で身動ぎ、むにゃむにゃと言いながら身体を起こした。まだ半分夢の中で、さらに酒はほとんど抜けていないのだろう、正直ひどい顔だ。この乙女らしからぬ間の抜けた表情さえ本気で愛しいと思ってしまう自分に呆れる。しばらくぼ~~っとククールの顔を見つめ、半目になって再び目を閉じ、後ろに倒れそうになる身体を慌てて受け止める。引きよせて自分の胸に寄りかからせると、気持よさそうに身体を預けてきた。寝ぼけた声で「ククのにおい…」と言われ、思わず赤面してから舌打ちする。「……んん……」「…起きたか?」「んー…」「起きたらそろそろ帰るぞ」「やだぁ」「風邪ひくぞ」「さむぃ…」「……ったく……」大仰に息を吐いて、自分のかけた上着ごと抱きしめてやると、嬉しそうに笑って腕を回してきた。「んふふ…」「おじょーさま。飲みすぎですよ」「そんなことないもん…。…あー、またククばっかりいいの飲んでるぅ」脇に置いておいた缶を目ざとく見つけ、ゼシカが口を尖らせた。手を伸ばそうとするのを阻止し、「ダメだって。ほら、いい子だから帰って寝よう。な?」優しくさとしてみても、その手のあやし方は酔っぱらいを強情にさせるだけだ。「やだ。めんどくさい」「めんどくさいって、どうせルーラで帰るんだからお前は一歩も歩かないだろーが」「やだー。まだ飲めるんだから。のむー。くくーるといっしょにのむのー」「あああもう…わかったわかった…」そう言いつつ一瞬だけゼシカの頭をぎゅっと胸に押し付け、その隙に違う場所に置いてあった水を口に含んで、素早く彼女と口唇を合わせた。「んぅ…」こくり、とゼシカののどが波打つ。「んはぁ……おいしぃ…」「だろ」酒で乾いたのどに、水が一番おいしいのは間違いない。満足そうにニコニコするゼシカに何度か同じように水を飲ませた。そのまま舌を絡めあわせ、柔らかい身体をまさぐろうとしてしまうのは、やっぱりオレが変態僧侶だからなんだろうか。「……自分で言って凹むわ」「ん?」いや、そのありがたい称号を授けてくださったのは目の前にいる、天使の顔した小悪魔なのだが。「ゼシカちゃん。オレは今、ちょっとブロークンハートなの。聞いてくれる?」「んん」「オレ、大好きなオンナノコに嫌われちゃたんだ」「なんで?」「なんでだと思う?」少し首をかたむけて考えてから、悪意のない笑顔で楽しそうにゼシカは答える。「ククが、ばかで、エッチだから?」「正解」あはははは、とツボに入る酔っぱらいと複雑な表情の傷心男。「…そ、オレはバカだから、その子のことが好きで好きで仕方ないの。可愛くて可愛くて たまんないの。そんでいつも、好きとかカワイイとか言いまくっちゃうの」「うんうん」「そんでオレはスケベだから、すぐぎゅーってしたくなるし、チューってしたくなるし、 もっとエッチなことも、いつだってその子としてたいんだ」「ククのエッチ」無論 誰の話なのかはわかっていて、ゼシカは終始楽しそうにしている。「――――……だから、さ」ククールは半ば上の空で、ポツリと。「…もう言うのやめようかなと思ってさ…」「………………すきって?」きょとんとゼシカが尋ねる。「うん」「なんで?」「ウザイから」どうやらそうらしいから。色男の口の軽さは、恋に真剣な乙女たちにはどうにも不評だ。「……。…………………やだぁ……」いきなりゼシカが泣きそうな声で言ったので、ククールはぎょっとした。見ると涙目になりながらも、怒った表情でこちらをじっと睨みあげている。「やだ…そんなの…言ってよ…」ククールは面食らった。深く考えず口にしたのだが、どうやらゼシカの稜線に触れてしまったらしい。「いままでいっぱい言ってたくせに、いきなり言わないなんて、ずるい…」「ずるいって…」「……うざいなんて、ひどいよ…」「いや、それは言うのがウザイって意味じゃなくて、お前が…」「やだぁ……」「……」ゼシカが力のない腕で抱きついてくる。ククールは唖然とした。なんだこのカワイイ生物…じゃなくて。彼女の頬に手を添えて視線を合わせながら、「……言ってほしいか?」静かに尋ねると、ゼシカは素直に頷く。「言って…」「…好きだよ」微笑んでそう告げると、ゼシカは駄々っ子のようにプルプルと首を振った。「ちがうの…。……ちゃんと、言って…ちゃんと」その言葉の意味を考えて、ククールは彼女の瞳をじっと見つめる。酔った勢い。そうかもしれない。でも、そうでもしないと吐露できない本音だってある。ククールはゼシカの瞳を真正面から見据えて、その愛しい頬を撫でた。ゼシカの瞳は潤み、少し恥ずかしげに、でもまっすぐに、ククールを見つめ返す。「――――好きだ」いつもと同じ言葉なのに、口を開くのにひどく時間がかかった。そして、こんな風に目を見て告白するのは彼女と出会ってからいつ以来だろう、と思った。『想いをこめて言われるからこそ伝わるもの』まさにその通りだ。言葉の重み。それを身に沁みて思い知る。ゼシカが少し背伸びをしてきたので、身をかがめて口付けした。最初は戯れるように何度も軽く交わしていたものが、いつしか深く情熱的なキスに変わる。背中にあるコルセットの紐をほどくが、夢中になっているゼシカは気がつかない。そっと下から手の平を忍ばせて素肌を撫でると、悩ましい表情がククールを見つめる。「…オレはスケベだけど、ちゃんと、真剣に、ゼシカのことが好きだよ」「……うん……」「だから、こういうこともしたくなる」「………………」ゼシカは頬を染めて目線を逸らした。「それとも、こういうことはもうやめてほしい?ゼシカがそう望むなら、もうしない」また、ゼシカが子供のように無言で首を振る。「どうしてほしい?」「…やめるのは、やだ…」「じゃあこれからも、こういうこと、ゼシカにいっぱいしてもいいか?」そう言って柔らかいふくらみを優しく掴むと、ゼシカは身をすくめた。「………………………………いいよ……」羞恥に消え入りそうな声が聞こえ、ククールは破顔する。でも、とゼシカが小さく付け足し。「…………“ちゃんと”、して」ククールは一瞬虚を突かれ、それからわかった、と言って優しく笑った。「ちゃんとゼシカを抱くよ」おざなりなんかじゃない。でも、そう思わせないように。彼女を不安にさせないように。いつだって。「真剣に、ゼシカを愛する」ゼシカの頬が桜色になり、花が咲いたようにほころんだ。桜は、愛でられてこそ美しい。 関連SS 最強乙女
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/192.html
172 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/19(木) 13 10 18 ID CuGjFctL0 ゼシカの方が直接攻撃が強いとククールの立場がなさそう いやいや、防御面では圧倒的にククールの方が優秀なんだから、攻撃力は ゼシカの方が上でも何の問題も無いでしょう。 (スカラ+マホトーン+マホカンタ+大防御+ベホマ+諸々の状態以上系の弱耐性) この鉄壁の守りを崩すには、ラリホーマで眠らせるか、マダンテ決めるしか無いけど、 スーパーリング装備したら、まず眠らせられないし、マダンテのターンに大防御されたら 双竜打ちするMPまで無くなっちゃう。 どちらかというと、ククール有利だね。 でも、夫婦喧嘩でククールに勝ち目が無いっていうのは、全く同意見。 きっとサーベルトと同じで、ゼシカが泣いたら、ククールが謝って終わりになると思う。 奥さんが強い方が夫婦は円満だしね。 あー、なんか、すごい長文になっちゃったよ。 173 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 00 42 38 ID wqW99KMk0 ゼシカが泣いたら そこらへんの女のようにしおらしく泣くんじゃなくて、 ククをさんざ罵倒して蹴って殴って雷落としながら、興奮してボロッと涙が出ちゃう感じが良いな ククール「…って、ちょ、オイ待てよ、泣くなっ!」大慌て 174 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 01 37 23 ID VSMrgAsR0 そうだな。これらのレス読んで改めて考えてみると、 この2人衝突が多くなりやしないかなーとちょっと心配だ。 ゼシカはたぶんに世間知らずで子供っぽいところが結構あるし ククールだって精神的に脆そうというか繊細というか かなり正確に心の機微を分かる人間でないと支えきれないんじゃないかと。 ゼシカはその辺大丈夫かな… 175 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 08 11 39 ID vNgve3MJ0 大丈夫じゃない? 確かにククールは繊細ではあるけど、あの兄貴の逆恨みイヤミを10年以上も 浴びせられてたのに歪んでしまわなかったんだから、芯の強さは折り紙つきでしょう。 兄貴に比べたらケンカした時のゼシカの罵倒なんて、きっとククールにとっては 「あー、もう、ストレートで可愛いな、チクショウ!」ぐらいのもんじゃないかと。 で、泣いてるゼシカにハグして、チューして、あんなことやこんなことして、 ますます二人は仲良くなってくんだよ。 ……何で、朝からこんなテンション高いんだろ……。 さ、仕事行ってこよ。 180 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/20(金) 21 24 02 ID hgASB9ys0 ククールは繊細なのに必要とされたいタイプだから全面的に支えられるとダメなように思う。 ゼシカは世間知らずだからククールがフォローしなきゃいけない部分もあるし、 逆に幸せに育った人間にしかない図太さみたいなものもあるからククを支えていけるんじゃないかな。 182 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 01 18 38 ID d7m0Ahyt0 幸せに育ったゼシカのいい部分がククを支えるだろうし、 苦労背負ってきたククのいい部分がゼシカを成長させるだろうし。 それなりに相互補完で納得してると思う。 「腹立つとこもめちゃめちゃあるけど、結局多分相性はいいんだな」って。 184 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 16 05 35 ID tmF5hWysO ○チェロがボロボロになって去っていく場面で、 ゼシカが、ゼシカだけがククールに口を挟んだことが何か良かった。 二人の仲が他人行儀のままでは、ああいう風には言えなかったろう。 それまでの間に深い仲になる何かがあったんだろうニヤニヤ 185 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/21(土) 22 11 34 ID r9xQh3NB0 その場面のゼシカ、本当にいい子だよな~、と思った。 それこそ最近このスレで言われてる、ゼシカがククールを支えられる部分で、 二人の相性の良さを象徴してる場面だよね。 もしゼシカが苦労して育ってたら、気を回しちゃって、そっとしておいてやろうとかして あんな風にククールに駆け寄ったり出来なかったような気がする。 きっとあの場面のククールは、あれだけのことをやらかしたマルチェロの命を助けたことを、 完全に正しいことだと思い切れてなかったろうから、ケガの手当てもしてやれって 詰め寄るゼシカの言葉に、内心すごく救われてたんじゃないかな。 だからこそ、暗黒魔城都市のククールは、それを引きずってた様子もなく 戦いに集中できたんだと、勝手に思ってる。 186 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/24(火) 13 05 18 ID KLHaPMxY0 主人公やヤンガスは苦労人だから逆に声をかけられないんだよね。 主人公はシステム的な問題でもあるけど。 でも暗黒魔城都市でのククールはガキの頃のことばっか思い出す、 みたいなこと言ってなかった?あれはどういう意味なんだろう。 ところで攻略本での暗黒魔城都市のセリフは笑ったよ。 ついにオレにホレたか?って… 187 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2007/04/26(木) 01 07 46 ID MVY760fm0 惚れたんじゃない?
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/27.html
「あいたたた…」 二日酔いの頭痛でククールは目を覚ました。 昨日の夜に酒場に飲みに行ったまでは覚えているが、どうやって帰ったのか覚えていないぐらい酔ってしまったようだ。 (酔ってヘマしてなきゃいいけどな…えっ!?) 俺の隣には誰か寝ていた。ツインテールはほどいているが見慣れた赤い髪は明らかに知ってる娘だった。 (誰だ、もしかして!?) その時、ククールは自分が服を着ていない事に気付いた。 (まさか、俺はこの娘と…?) 布団をめくってみると、寝ている娘もどうやら裸のようだった。 「おい、起きろよ、朝だぞ…」 ククールはとりあえず娘を起こす事にした。 「うーん、もう朝か…」 「ぐ…」 目を覚ましたゼシカを見て俺は愕然とした。なぜならゼシカはまだ14歳であり、いつもの口説き文句は軽い冗談だったからだ。 「ゼ、ゼシカちゃん?」 声が裏返ってる。 「あっ、おはよう。昨日はいろいろとありがとう…」 ここでククールは昨日の出来事を思い出した。 (そうだ、酒場で興に乗ってるときに適当に近くにいた女の子を抱き締めてキスしたんだった…じゃあゼシカあの時の!?) 「君、一緒に旅してるゼシカ…だよね?」 「ククールさっきから何か変よ。」 (俺はゼシカと…ヤッちゃったのか?) まさか本人に聞く事も出来ずにオロオロしていると、ゼシカが耳元に近づいてきて、 「Hしたの初めてだったんだから、責任とってね」 とささやいた。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/59.html
世界の中心、三大聖地の中でも巡礼の終着地と言われる聖地ゴルド。 エイトたちがこの聖なる町に辿り着いたのは、日が暮れてからだった。 調べたい事は沢山会ったが、旅の疲れもあり今夜は休む事になった。 さすがゴルドというべきか、参拝者が多い。世界中の信心深い巡礼者が、この聖地のシンボルである岩山に刻まれた巨大な女神像をひと目見ようと集まってくるのだ。 ゴルドの宿は既に満床で、床に敷物と毛布で寝ることになった。 夜も更け人々が寝静まった頃、ゼシカは目を覚ました。 浅い眠りの中で見た夢は、酷く恐ろしいものだった気がする。額が汗ばんでいる。気分が悪い。 ゼシカには解っていた。あの、女神像のせいだ。 荘厳な女神は恐ろしく大きく、岩肌の質感のせいか、眼下を見下ろすその目は厳しく、冷徹であるとさえ思える。 ゼシカは先刻のククールの申し出を断ったのを思い出した。 『そんなに怖いなら、今夜は添い寝してやろうか?寝つくまで子守歌を歌ってやるよ。』 衝立てで個別に間仕切られてはいるが、この部屋にはエイトたちばかりでなく他の一般客数人も床で寝かされていて、なかなかの大所帯になっている。 ゼシカは足を忍ばせククールのそばに近付いた。 「ン…?何だ?」 さすがに騎士だけあって、すぐにゼシカの気配を感じてククールは目を覚ました。 「ゼシカか?どした?」 「ゴメン。やっぱりどうしても女神像が怖くって…。」 ゼシカは気まずさで俯く。自分は何をやってるんだろう。顔が熱くなる。 「なんだ夜這いじゃねーのか…まぁいいか。添い寝だろ?」 ホラ、とスペースを開けてくれるククールの隣に、ゼシカは何が夜這いよ、とブツブツ言いながら横になった。 「何かしたら承知しないからね。」 ---それが人にものを頼む態度かよ。ククールは警戒もあらわに念を押すゼシカに苦笑した。 「しねぇよ。ゼシカとの初めての記念すべき夜は、パリッパリの白いシーツつきの、フッカフカのバカでかいベッドがある、月明かりが良く入る窓があるコギレイな部屋でって決めてんの。オレは。」 ククールは思い付きにしては具体的な事を真顔で言った。 「何よソレ…。」 ゼシカはアホらしさに脱力した。呆れて怒る気もしない。 「こんな状況じゃ何する気も起きねーよ。」 ククールは不快極まりないといった感じで衝立てを指差した。さっきから聞こえる一際大きいいびきはヤンガスのものだろうか。確かに聖地にあるまじきむさ苦しさだ。 「女神さまも、見てるしな…。ま、ゼシカは勘がいいよ。あれ、ただの石像じゃない。」 「ちょっと!恐いこと言わないでよ!ただの像じゃなかったら、なんだっていうのよ!」 「知らねぇよ。そんな事。あんまりイイ感じはしないって言ってんの。一応僧侶なんだぜ?オレは。」 何が僧侶よ---と言いたかったが、ゼシカは黙った。ククールが良い・悪いに関わらず、そこにいる何らかの気配を感じ取るような事はこれまでにもあって、それが外れない事も承知していたからだ。 それにしてもなんだろう、この宿屋は。宿屋の主人が『満床だから床で寝てくれ』と200ゴールドも取った上で当たり前のように言った事をゼシカは思い出した。 常に人が集まるこのゴルドでは当たり前の事なのかも知れないと一度は納得したのだが、女性である自分にくらいもう少し気を使ってもいいんじゃないだろうかと思う。 敷物があるとはいえ、伝わってくる床の固さにゼシカは顔をしかめた。 「ゼシカ、ちょっと一回起きな。」 不意にククールが言った。 ゼシカは言われるがままに半身を起こすと、ククールがその場所に腕を伸ばした。 「どうぞ。」 意図するところを理解できず、訝しげに見返す。 「はぁ?」 「枕ないから。どうぞ。」 腕枕。紳士的なのか、下心からなのか、ククールの平然とした表情からは全く読めない。 勘ぐる方が品がないような気がしたので、ゼシカは大人しくそこに頭を乗せ、ククールを見た。 ククールはというと、下心があったわけではなかったが、ゼシカからひと言ふた言はあると思っていたので、あまりの素直さに拍子抜けした。 「…………。」 「…………。」 黙って見つめあう形になってしまい、変な間が流れる。 ククールがなんとか話を切り出す。 「え~と、それでオレは子守歌を披露するべきなのか?」 ゼシカは吹き出した。ククールは照れているらしい。 「それはいいわよ。ククール音痴そうだもん。」 「色男が音痴だというセオリーは、オレの場合通用しないんだけどな。」 そう言いながら、ククールも笑った。 眠くなるまで二人は色々な話をした。子供の頃の事。それぞれが使える魔法の事。エイトやヤンガス、トロデ王、ミ―ティア姫の事。 ゼシカはいつの間にか、女神像の事を忘れた。 それからククールは本当に子守歌を歌った。教会の聖歌。 それは意外にも上手くて、小声ながらも通りのよいバリトンの声はゼシカを安心させた。 ---ああ、コイツ本当にとんでもないタラシだわ。気を付け無くっちゃ…。 そんな事を考えながら、ゼシカはゆっくりと眠りに落ちた。 ククールはゼシカが寝付いたのを確かめると、肩の上まで毛布を引き上げてやった。 腕が痺れたので肩のほうにゼシカの頭を乗せ直し、これ位許されるダロ、と前髪にキスして、自分も眠るために目を閉じた。 翌朝二人は、早起きしたエイトたちにくっついて眠っているところを見つかってしまい、散々冷やかされた。 ククールはあらぬ事まで認め、ゼシカは必死に釈明した事は言うまでもない。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/426.html
☆「久々だな、同じ部屋って」「そうね」2人旅をはじめて2か月弱といったところ。これまでも空き部屋が足りなくて、何度かこういうことはあった。…もちろん色っぽい展開になんかなったことはない。最初の一回くらいは、ゼシカ曰く「最悪の女たらし」という肩書の面目を保つため、お約束のようにその手の誘い文句を口にもしたが。軽くいなされて終わり。さらにわざとしつこくすれば、メラが飛んできて部屋を追い出される。追い出されたオレは酒場で一晩を過ごすか、適当な女のところで癒しとベッドを拝借し、一方ゼシカは不埒な狼に狙われる心配もなくぐっすりと眠ることができる。それがオレ達の基本的な「一人部屋」の夜の過ごし方だ。実際に2人同じ部屋で夜を過ごしたことはない。なんていうか…予防策、という感じだった。別に2人でそうしようと決めたわけでもないが、なんとなくそうするべきだろう、という暗黙の了解が最初から存在していた。お互い今さら隠すこともない慣れた間柄。親友や仲間といった枠を超えて、同志、とでもいうような絆がオレ達にはある。何も言わなくても伝わる。理解している。空気のようであり、しかし必要な存在。お互い便利な旅の相棒。ただひとつ形だけでも気にしておく必要があるのは性別だった。オレ達は決して恋人同士じゃない。互いの間に「恋愛感情」はあり得ない。そういうスタンスだからこそ年頃の男女が始められた2人旅だ。まさか、今さらあり得ない、とお互い笑って手を振りながらも、万が一何かの拍子でこの均衡が崩されてしまうことも皆無とは言えない。世の中に絶対は存在しないから。だからこその、「予防策」。2人して毎度、慣れたやり取りの演技をする。ゼシカは、別にオレのことを一人の男としては見てない。そして、もちろんオレも―――「…で?今夜はどうなさるのかしら?カリスマナンパ師さんは」荷物を床に置いて一つしかないベッドにポスンと腰掛けながら、ゼシカが含み笑う。すでにいつもの演技モードに入っている。そのベッドの所有権も最初から彼女のものだ。――そりゃあもう久々のチャンスなんだから、今夜こそ愛しのゼシカちゃんをこの腕に…――頭の中ではお決まりのセリフが一瞬にして並べられていく。だけど、なんだか口が重くて開かない。なんだろう。気まぐれか?…繰り返されたパターンに、飽きたんだ、きっと。「……今夜は疲れたしここで寝るよ。ゼシカはベッド使いな。オレは床で適当に寝るから」「え」思いもかけない応答にゼシカから間の抜けた声がもれた。演技でも、下心でもない、それ以外の意味に読み取れないオレの声音に、きょとんとする。オレは荷物を置いて、ソファでも借りられないか聞いてくる、と言い残して部屋を出た。……なんだろう。なんでこんなこと言いだしたのか、自分でもわからないが。変わらないオレ達の関係に、ちょっとした変化が欲しくなったのかも…な。運よく使ってないソファを借りられた。3,4人は座れる長さなので、ある程度足を伸ばして横になれそうだ。壁際に運んでもらったそれにどっかりと座り込む。一連の流れを目を丸くして見ていたゼシカは、一息ついたオレに心なしか遠慮がちに声をかけてきた。「…大丈夫?疲れてるって…何かあったの?」どうやらオレの意外な発言を、本当に疲れてて遊びに行く元気がないからだと思ったらしい。内心苦笑する。「いや、気分じゃないってだけ。酒もたいして飲みたくないし」「じゃ、今夜は、ここ…で、寝るのよね?」わざと明るい声音だが、押し隠したなんらかの不安と不審はにじみ出ている。それに気づかないフリして、オレも飄々と答える。「もちろん。ま、このソファならオレの長い足もなんとか伸ばせるし、それなりに快適だぜ」「ぅ、うん」彼女の不安に対してわざと言及しない。ゼシカは曖昧に笑ったあと、考え込むように黙りこんだ。オレが一言「大丈夫、変なことはしないよ」と言えば、彼女もそれに関して思ったことを言えるのだろうが。オレの方から言い出さない限り、ゼシカからは言い出せない微妙な雰囲気がある。今のところオレに変な気はなさそうなのに、自分が言及してしまったことで変な気を起こさせて、心変わりされたらどうしよう、という感じだろう。オレはそれをわかってるうえで、わざとその反応を楽しんでいる。オレに対してすでに遠慮も何もなくなっているゼシカの、初心な態度が久々に新鮮だ。どんなに強く世慣れて見えたって、ゼシカが男女関係において箱入りであることに今でも変わりはない。「仲間であり騎士」の栄誉を得ているオレは、(仲間なら)恋愛感情はない、(騎士なら)手を出したりしない、という点において、ゼシカに全幅の信頼を置かれていると言っても過言ではないだろう。それに若干の疑いが生じて、でもまさかそんな、と葛藤しているのが手に取るように伝わる。そんなゼシカが妙に可愛くて、オレは笑った。対等な関係であるべきゼシカをからかって翻弄してみる。たまにはこんなのもいい。静かに扉が閉まる音で目が覚めた。夜も更けて、いつの間にかソファで横になってうたたねしていたらしい。薄闇で目を開けると、風呂から帰ってきたゼシカが月明かりを頼りに部屋を横切り、ベッドに腰かけていた。オレが眠っていたから、明かりを消して部屋を出たのだろう。今もオレを気遣って暗闇のままでいてくれる。オレに背を向けて座っているゼシカの斜めからの後ろ姿を、月明かりにじっと盗み見た。こんなに暗くては見えづらいだろうに、鏡を掲げながら濡れた髪の毛にブラシを通している。薄いシルクの寝着は、ふくらんだ袖がかわいらしいが肩はむき出しで(ゼシカはやたら肩の出る服を好む)そのアンバランスさが妙に艶っぽい。なまめかしい体と胸のラインが月光にかすかに透けている。髪の毛を一つにまとめあげると、白いうなじと細い肩がさらに露わになった。…まったくの無意識で、この色香。というか色香とか通り越して単純にエロい。すがすがしいくらいたやすく、男の欲を煽るフェロモン。さすがおいろけスキルマスター…―――いい女、だよなぁ。ホント。ぼんやりと思った。こんな女と2人きりで旅してんだなぁ、オレ。………よく手ぇ出さないですんでるよなぁ。なんでだろう、と考える。正直こう見えてオレはそんなに性欲旺盛じゃない。セックスで大概の事が片付けられる汚れきった世界に身を置いて生きてきたおかげで、自由の身になれた今となってはやらないで済むのなら一生それでいいとさえ思っている。まぁ健康に生きてりゃそういうわけにもいかないんだが。…だからなのか?男なら無条件で抱きたくなるような魅力的な女を前にして、これだけの隙を見せつけられて、それでもたいした我慢もしないでいられるのは。未だに彼女の信頼を損ねないで共に旅を続けていられるのは、すでにセックスに大した興味がないからなのか。―――ちがう。そこまで枯れてない。たった今も心底から、抱きたいと…思ってる。今までだって、あの男を誘う顔と体を持ちながら性の何も知らないアイツに最初に手を出せるなら、一体何からどうしてやろうかと考えたことがないとは言わない。他の男に取られるくらいならオレのものにしてしまいたいという独占欲もないわけじゃない…でも。…ちがう。ゼシカに対して性欲はあるが、それが今この場でアイツを抱くという行為に直結しない。………オレ達はお互い、男と女である前に「仲間」でいすぎたんだと思う。「恋人」なんて、なんの冗談、何を今さら、というノリだ。オレ自身ゼシカに単純に欲情はするが、いわゆる恋心はというと…少なくともオレにとってのゼシカは、すでにどうあっても取り替えの利かない存在なのは間違いなく。いなくなったら相当のデカい穴が心にポッカリ開くだろうというのも間違いなく。しかしこれを「恋心」と呼んでいいものなのか、非常に微妙…多分ゼシカの方も大差はないと思う。惚れてるとか惚れてないとか好きだとか嫌いだとか、そういう段階はとっくの昔に気づかぬうちに飛びこえてしまっている。要するに都合よくタイミングを失ったので、放置してきたわけだ。…いや、今さら確認なんかするまでもないと言いつつ、ただ確認するのが怖いだけなんじゃないのか。そのへんをはっきりさせてしまうと、何かが取り返しのつかないことになる気がして。だから2人して何も言葉にせず、曖昧なままでつかず離れずここまできてしまった。無邪気に旅をしていたあの頃より、オレ達は少なからず大人になった。見ないフリをしていても、そういつまでも封じておけないモノがあることに、そろそろ気づいている…―――オレ達はこれからもずっとこのままの関係でいるんだろうか。この感情を飛び越えたら、今度はどんな関係がそこにあるんだろうか。本当はそれが知りたくて、オレはこの状況を作ったんじゃないのか?絶妙なバランスを保ってきたオレ達の均衡を破壊して、一体何が起こるのか知りたかったんじゃないのか。……今のところ特に変化はない。スイッチを入れる役目はオレ以外あり得ない。オレが、この夜に、何も動かなかったとしたら、何も変わらないはずだ。―――立ち上がって、後ろからいきなり抱きしめてみようか。耳元で、抱きたいと囁いてやろうか。……あぁ、ここまでツラツラ考えながら、ちっとも行動に移せねぇ自分のチキンっぷりがうざい。どうでもいい女なら即座に手ぇ出せるくせによ。そもそも当たって砕けるっての、実はオレの最も苦手とする分野なんだよな… ―――ふいにゼシカが静かに立ち上がってこちらの方に歩いてきたので、焦らずそっと両目を閉じ、眠っているフリを再開した。トイレにでも行くのかと思っていたが、静かな足音がオレの手前で止まる。サラリと衣擦れの音がして、いきなりゼシカの声が間近に聞こえてきたのでひそかに心臓が跳ねた。「クク……寝てるの?」可愛い声。本当に寝ていたら起こしてしまうから、囁くような控え目な声だ。しかし若干懐疑的にも聞こえる。嘘寝かもしれないと感づいてるらしい。オレは敢えて寝てるフリを続けた。シャンプーの香りが実に近い。吐息も近い。ゼシカはしゃがみこんで、オレの耳元に顔を近づけているのだろう。なかなか心地いい状況だ。「…ねぇ、ククール…わたし、もう寝ちゃうわよ…?」重ねて尋ねてくるあたり、やっぱりバレてんのか。気のせいか声音にも不満な響きが感じられる。でもゼシカなら何タヌキ寝入りしてんのよ!って問答無用でげんこつ入れそうなもんだけどな…殴られる前にそろそろ目を開けようかとタイミングを計りだした、その時。「……もぅ……なんでほんとに寝ちゃうのよ。………………バカ……」そんな呟きと同時に、額にそっと暖かいものが触れた。それがゼシカの口唇だとわかった瞬間、オレの中のあらゆる感情が一気に弾けた。「――――……じゃあ、2人で眠れなくなることしようか?」「ぇ…っ、――キャッ」すかさず下からゼシカの身体に腕を回して抱きしめると、バランスを崩したゼシカがオレの上にドサリとかぶさってきた。デカいおっぱいがオレの胸で押しつぶされ、オレ達の顔は触れ合うギリギリまで近づく。…参った。―――まさかゼシカの方からスイッチ入れてくるなんて。「お前と同じ部屋なのに、このオレが大人しく寝るわけないだろ」「……ッ、や、やっぱりそういうこと考えてたんでしょ…ッ」「お前追い出さねぇんだもん。そりゃ期待もするさ」「だ、だって疲れてるっていうから…!!勝手にやらしい期待してるんじゃないわよ!」「お前だってしてたくせに」やらしい期待、と言ってやると、ぎゅーんとメーターが上がるみたいに、一気にゼシカの顔が赤くなった。「~~~ッッ!!!~~~してないッッ!!!!!!!」「じゃあオレ、明日に備えてもう寝ちゃっていい?」最高に意地の悪い笑顔を向けるオレに、ゼシカは今度こそ絶句した。無理やり何か言い返そうとする口唇にオレは人差し指をピタリと当てる。「もっかい言ってくれたら寝ないでやるよ」「…………ッな、なにがよ…っ」ゼシカは半ばヤケになって、半泣きみたいな顔で悔しそうにオレを睨む。もはやオレは楽しすぎて笑い声が抑えきれなかった。「『私をおいて寝ちゃうなんてヒドイ。つまんない。一緒に朝まで楽しいことしようよ』って」「い、言ってないわよ!!言ってない!!バカバカ!!バカじゃないの!?バカッッ!!!」ついに羞恥心がパニックを起こしたゼシカがオレの上からガバリと身を起こしたが、オレが逃がすわけもなく、強い力で腕を掴むと困ったような顔で黙り込んだ。オレも静かに身体を起こす。目を合わせないようそむけられた頬に手を添えこちらを向かせると、潤んだ瞳がオレを戸惑いがちに見上げた。あぁ…これだよ。お前は本当に、男を煽るのが上手い…すでにスイッチが入ってしまっているオレには、タチの悪い媚薬のようだ。その視線は悪魔の囁きのごとく何かを訴えかけてくる。ゼシカ自身はまるで意識していない、確かな「期待」を。「……ゼシカ。……潮時、って言葉、知ってる?」「…知ってるけど…」「オレ達いい加減、そろそろいいと思わねぇ?」「………なんのことよ」「もうデキちゃおうぜ、オレら。オレやっぱお前のこと好きだわ。ただの仲間でなんていられない。この旅が終わっても手離したくねぇし。もうお子様でもないんだし。だから、そろそろしよう」「…ッ、なに、を」ゼシカはいきなりの告白に顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。「セックス。オレ、ゼシカとエッチなこといっぱいしたい」ビクンと跳ねた身体に手を回して、至近距離でにっこりと笑った。「ゼシカもだよな?」否定なんかできないことを知っているのだから、完全にオレの勝ちだ。スイッチを入れてきたのはゼシカであって、オレじゃない。それは今さら変えようのない事実。弱味、握っちゃったぜ?「……開き直ったわね………このバカリスマ…!」ゼシカは嵌められた、とでもいいたげに悔しげに呟いたが、口元にはほんの少し笑みが漂っている。「お前のおかげで、な。ゼシカも開き直っちゃおうぜ?なんかオレ今、すっげー清々しい」「バッカじゃないの!?」「いいじゃん、好きなんだから」ぐっと声を詰まらせて、ゼシカはオレから目を逸らした。…バカ、と小さく呟いたあと、しばらくしてからもう一度見上げてきた視線には、明らかに「誘惑スキル」が宿っていた…「―――いいわよ…。………私をおいて先に寝ないで…一緒に朝まで楽しいこと、しよ…?」潮時。っていうか、降参。やっぱりコイツ小悪魔だ。オレ、これから先ものすごく苦労しそう。……もちろん、幸せな苦労を。 続き→翌朝
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/433.html
ぬくもりの正体1 ☆「う…ん…きゃぁッ!クク!!また、アンタはっ!」ゼシカが目を覚ますと、ククはなぜかいつもパジャマの内側に居た。いつの間に入り込むのか、見事に胸の谷間にはまり込んで眠っていることが多い。「んも~!これでも嫁入り前なんだからね!気軽に触らないでちょうだい!きゃあぁっ!動かないで!」寝返りを打つククの毛並みがゼシカの肌をくすぐり、絶叫させる。「ちょっ、ちょっと!出なさい!もう、いつまで眠ってるのよ!」ククは気持ちよさそうに眠り続けている。本当は猫ではなくて狸なのではないかと疑いたくなる。ゼシカは仕方ないわね、とため息混じりに起き上がる。ククがパジャマの中で転がり落ちる。やがてククがもそもそと布団から這い出し、甘えた声でゼシカに擦り寄ってくる。毎朝これだ。時には寝呆けるのか、胸を舐められたり鼻先を擦り付けられたりする。「信じらんない、猫じゃなかったら黒コゲよ、クク」ゼシカに睨まれても、ククは平気で甘えてゼシカの顔を舐める。どうも唇や、首筋や、胸を好んで舐めているような気がする。「なんか、エッチなのよね…ククールが猫になったみたい」当のククは、まるで意に介さないかのようにゼシカに寄りかかり、丸くなった。826ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00 30 08 ID c4Vj4fbeOゼシカとククが暮らしだして、ひと月が経った。最初は可愛らしかったククも、最近ではすっかりオレ様ぶりを発揮して、我が物顔だ。ククは所構わず四六時中ゼシカにまとわりついてくる。ゼシカは、もー甘えんぼさんなんだから!と言いつつ、ついついククに付き合ってしまう。仕事場にも毎日連れて行っている。仕事の合間にもちょくちょく抱き上げる。ゼシカお嬢さんの恋人は銀髪に青い瞳、熱々でとても見ていられない、と笑い話になるほどだった。そんな冗談を言われると、どこかククは自慢気にニャン!とひと鳴きし、当然の定位置であるゼシカの膝で丸くなるのだった。「当然さ。オレ達の熱いところをもっと見せ付けてやろうぜ、ハニー?」とでも言いたげだ。そのくせククは女の子にはもれなく愛想が良く、男の人には素っ気ない所あり、まるで本家の様でゼシカはつい笑ってしまう。桶にぬるま湯を張って洗おうとすると逃げてしまうのに、ゼシカが風呂に入っていると必ずドアの前で入れろ入れろと鳴く。ドアを開けてやると飛び込んできて、あっさり洗わせてくれる。自分が済んだら、あれこれゼシカにちょっかいを出してくるので毎晩大騒ぎだ。ゼシカが湯船に浸かっていると、必ず狭いヘリに飛び乗ろうとする。「だーっ!だから危ないって言ってるのに!お湯に落ちたらどうするの!!何回同じことを言わせるのよ!」仕方なくゼシカはククを裸の胸に抱いて、ちょっとだけ足先をお湯に付けさせたりして遊ばせてやる。「ちょっ!やだ!登らないでっ!もーなにが楽しいのよ…」ゼシカの体に上ろうと足掻くククに手を焼くのも毎度の事だ。「ホントにいたずらっ子なんだから!」と怒るふりをしても、甘えた声と仕草についつい許してしまう。「猫可愛がりよね、まさに」自嘲気味に言うゼシカは、気付いていた。最近、ほとんど泣かなくなったことに。827ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00 35 12 ID c4Vj4fbeOククと目覚め、ククを抱いて眠りにつく。ククと一緒に食べ、クク相手に色々なことを話す。ククの居る毎日。居るはずだった人の居ないスキマに、スルリと入り込んできたクク。ある時、ワインに手を伸ばそうとするククがグラスを倒さないよう、取り上げたゼシカはふとイタズラ心を起こして赤ワインを少し舐めさてみた。すると気に入ってしまったらしく、ニャーニャーとねだりだした。それから時々、一緒に飲みながら話すようになってしまった。「飲み過ぎちゃダメよ、クク。顔色が分からないんだから」「ニャン」「お酒、強いの?私はあんまり飲めないの。少しなら美味しいんだけどね。おうちでしか飲まないの。」「ニャン」「前にね、ほら、話したでしょ?…旅をしていたころにね、酒場で飲み過ぎちゃって、ククールにすごく怒られたの。なんか、ナンパにしつこくされちゃって。ククールに助けて貰ったんだけど、そのあと、金輪際オレの居ないところで飲むな!って」「…ニャーン」「すんごい怒っちゃってさ。そもそもアイツが女の子たちの所にサッサと消えちゃうからじゃないの!」「…ナーン」「でね、約束するまであたしの部屋から帰らない、って言うの。何言ってんのよ!って思ったんだけど、私、酔ってたから…。じゃ、朝まで居れば?って言ったの」「…ニャン」「そしたらますます怒っちゃって。オレが居ない時は宿の部屋で飲め!分かったか!!って、ドアが壊れそうなくらい叩きつけて出て行ったの!ひどいと思わない?!」「…ニャ!」ククは突然コルクを見つけた様で、転がして遊びだした。「…ちょっと!聞いてよクク!…だからね、私はおうちでしか飲めないの。ククールが…居ないから」コルクサッカーに夢中になって居たはずのククがゼシカを見上げる。「…だから!クク、付き合ってね」ククはコルクにすっかり興味を失って、ゼシカの膝に静かに丸くなった。828ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00 38 34 ID c4Vj4fbeO夜も更けて、ベッドに落ち着いた一人と一匹は、毎晩、眠るまでの甘い時間を過ごす。「いい子ね、クク。ククが人間だったら、私がお嫁さんになってあげるのに。なーんてね」まるで腕枕で眠るように丸まりゼシカの鼻先を舐めるククの背中を撫でながら、ゼシカはククに言った。ククはぴくりと反応したが、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、またゼシカに顔を擦り付けた。秋も深まり、夜が肌寒くなってからはますます、ゼシカとククはまるで磁石のように寄り添って眠るようになった。「オレ、寒がりなんだよね。ゼシカ、ゼシカの肌でオレを暖めて?いいだろ、ゼシカはオレのなんだから」まるでそんなセリフでも言いそうな感じだ。まどろみが近づいてきたゼシカの瞳に、銀色の月の光がクク背中にキラキラと降り注ぐのが映る。首に結んだ黒いリボンが、なおさらククとククールの印象をダブらせる。なんだか…今夜はいつもよりもっと…。ククの温もりと波の音を子守歌に、ゼシカは柔らかな眠りに落ちていった。 ぬくもりの正体3
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/122.html
しょうがねぇ奴らだよな、まったく。 クソ寒いオークニス地方で、このおせっかいパーティーは今日も楽しく洞窟探検だ。 命の恩人のメディばあさんの頼みだから仕方ねえけどな。 それはいいんだが、ペース配分ての? 覚えろよ、いい加減。 エイトのヤツ、フィールドを歩いてる時は姫様気遣ってか、ちょこちょこ休憩入れるくせに、ダンジョンに潜った途端、道がある限り突き進む奴に変わっちまう。 好きなんだろうな、迷宮が。オレにはまったく理解できねえ。 すぐ前を歩いてるゼシカの足取りが重くなってる。体も前のめりになってきてるし、そろそろ体力が辛いか。 ゼシカはこういうことでは絶対に弱音吐かないからな。無理するといざという時キツくなるのに、しょうがないよな。 「おーい、エイト! どこまで歩くんだよ、もうかったるいぜ。足元滑るし、ツララは危ねえしで、肩凝っちまう、少し休もうぜ!」 先頭を歩くエイトに声をかけると、代わりにヤンガスが呆れた声を出す。 「またでがすか? ククールは少し根性ってやつが足りねえでがすよ」 「うるせぇよ、オレはおまえらみたいな体力バカと違って繊細なんだよ。知的な頭脳派なの。一緒にすんじゃねえよ」 エイトが苦笑しながら、休憩を承諾する。 ゼシカは小さく息を吐いて、手近な岩に腰をおろそうとする。 「ゼシカ、ストップ」 オレはマントを外して、その岩の上にかける。 「どうぞ」 ゼシカは少しいやそうな顔をしてる。 「いらないわよ、ちょっと休むだけなんだから」 「でも、そこ濡れてるぞ。後でスカート凍るかもしれないぜ?」 イメージしたんだろう。ゼシカは少し考えて、素直に腰をおろした。 「ありがとう……」 「どういたしまして」 お前は偉いよ、ゼシカ。 体力違う男の中に混じって、弱音も吐かずによくやってる。 欲をいうなら、もう少し頼って甘えてくれてもいいと思うけど、そうするとゼシカじゃなくなる気もするから、オレが気をつけるようにする。いつでも、お前を見てるから。 だから、あんまり無理すんなよ、ゼシカに倒れられるのは辛すぎる。 ヤロウ三人でライドンの塔に登った時はキツかった。 華がないのももちろんだけど、ゼシカの魔法がどれだけオレたちを助けてくれてたか、改めて思い知らされた。 ……ホント、いろんな意味でキツかったよ。 出発の時間になった。 ゼシカは立ち上がり、大きく伸びをする。 「マント、ありがとう。少し濡れちゃったみたい、ゴメンね」 「いいよ、オレ厚着だから」 マントを装備して、ゼシカを促す。 「お先にどうぞ」 「ねえ、どうしてククールは、いつも一番後ろを歩くの?」 どうしたんだよ、突然。オレの思ってることでもわかったのか? 妙にカンの鋭いところあるからな。 「ゼシカをずっと見ていられるようにだけど?」 試しに、真面目に答えてみる。 ゼシカはまっすぐな瞳でオレの顔を見つめたあと、小さく溜め息をついた。 「バカじゃないの? そういうことばっかり考えてるから、すぐ疲れたとか言うのよ」 ……キツいな。 お前のこと気遣ってるんだよ、なんて言ったらムキになって無茶するのは目に見えてるし、オレって報われないよな。ここまでくると笑い話だ。 まあいいさ。報われないのには慣れてる。 今は、ゼシカが元気でいてくれるだけでいい。 ゼシカは自分の信じた通りにやればいい。 いざという時には、オレがついてる。 だから、ゼシカ。……もう二度と、オレの目の届かないところに行ったりしないでくれよな。 <終>
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/175.html
いったい、何が起こってるんだ? マルチェロを捜す旅から戻ってみると、リーザス村はもぬけの空になっていた。 武器屋にも、防具屋にも、宿屋にも、教会にさえ人っ子一人いない。 いつも村を巡回してるポルクとマルクの姿もない。 旅に出てたのは、二カ月ちょっとだ。だけど一月前に様子を見にきた時には、何か起こるような気配は無かったのに・・・。 アルバート家に向けて足を速める。 ゼシカはどうなった? 仮に何かが襲ってきたんだとしても、あいつだったら必ず抵抗するはずだ。それなのに争ったような跡はどこにもない。静かすぎて、かえって不気味だ。 頼むから、どうか無事でいてくれ・・・! 「ゼシカ!! どこにいるんだ!? いたら返事してくれ! ゼシカ!」 アルバート家の屋敷中探しても、やっぱり誰もいない。 ゼシカも、アローザさんも、使用人たちも、影も形も見えない。 一体、何がどうなってやがるんだ。 この村を離れるべきじゃなかったのか? もしオレがそばにいたら、少しはマシなことになってたんだろうか。 ・・・落ち着け。 まだ何があったかもわかってないんだ。サザンビークの大臣の家の鏡みたいに、異世界に通じる何かがあって、村中全員がそこに迷い込んだのかもしれない。少なくとも一カ月前までは無事だったんだ。今からでも助けられる可能性は十分ある。 最悪の事態ばかり考えるのは、オレの悪いクセだ。 まずはもう一度村の中を見て回って、何か変わったことが無いかをチェックして、ポルトリンクの様子も確かめて、それでも何もわからないようだったら、トロデーン城に応援を頼もう。 動揺も後悔も、やれることを全部やってからだ。 まずはアルバート家の中を探索する。村中の人間が消えてしまうなんて現象の原因になりそうなのは、こういう名家に伝わる魔法のアイテムなんてもんに、ありがちだ。 ・・・そうだ、魔法の力といえば、リーザス像と何か関係してるのかもしれない。 一度そう思いつくと、もう他の可能性は考えられなくなり、オレはアルバートの屋敷を飛びだした。 それは不幸な事故だった。出合い頭の一発ってヤツだ。 リーザス像の塔に向かおうと勢いよく開けた扉が、向こう側から同じように扉を開こうとしていた、この屋敷の用心棒に直撃した。 「わ、悪い! 大丈夫か?」 とりあえずホイミをかける。運の悪いヤツ。いや、本当に悪いのはオレなんだけど。 ・・・人がいる。 用心棒だけじゃなく、メイドやコック、そしてアローザさんも。 「無事だったのか・・・」 思わず口にしてしまった言葉に、アローザさんが怪訝な顔をする。 「何の話をしてるんです?」 「いや、あの・・・ゼシカは?」 これじゃあ、返事になってねぇし。 「まだリーザス像の塔にいますよ。まったくあの娘ときたら、聖なる日に塔の中庭でお祭りなんて何を考えてるのかしら。先祖の加護に感謝して、厳かに過ごすべき日だというのに、困ったものだわ」 ・・・聖なる日・・・。 一気に身体の力が抜けた。 そういえば、この前会った時にゼシカが言ってたよな、聖なる日が近いって。年に一度だけ塔の中に魔物が出ないその日に、村の皆でリーザス像にお参りするんだって。 でも皆って、本当に村中全員、総出でなのかよ! 留守番くらい残してけよ、いつか盗賊団とかに狙われるぞ! さっきまでのオレの焦りは何なんだよ、恥ずかしくてやってらんねえよ! ・・・誰も見てなかったのが、せめてもの救いか・・・。 「どうかしました?」 アローザさんは、完全にオレをうさん臭いものとして見てる。そりゃあ、そうか。 「すいません、あの・・・よけいなことだけど、戸締まりくらいはした方がいいですよ?」 自分で自分のセリフのマヌケさに呆れる。まだ動揺さめやらぬといったところだから、どうにもならない。 だけどまた怒らせると思ったのに、アローザさんはちょっと大きく目を見開いて、それからクスクスと笑い出した。 「そうね、こんなふうに勝手に入り込む人もいることだしね。・・・忠告のお礼にお茶でもいかが? だいぶお疲れのようですわね」 オレ、何やってんだろう? オレを毛嫌いしてるはずのアローザさんに誘われるままに、二階の居間で差し向かいで茶を飲んでる。まさか毒を入れたりしてはこないとは思うけど、真意はつかめない。 でも不思議なもんだな。嫌われるってのは、やっぱり少し辛くて、アローザさんのことは正直少し苦手だった。だけど今は、そうは感じない。 この人がいなければ、ゼシカは生まれてきてなかった。もしゼシカに逢えてなかったら、オレは一体どうなっていただろう。そう思うと、感謝の気持ち以外を抱くことなんてできない。 「さっきあなたが言っていた戸締まりですけどね、したくても出来ないのよ。初めから扉には鍵がついていないの」 アローザさんの言葉で、衝撃の事実を初めて知った。 「私も他所から嫁いできた身ですからね、初めは驚いたものですよ。これだけの屋敷に鍵がついてないなんて、思いもしなかったわ。だけどこのアルバート家は、代々魔法剣士の力を受け継がれている家系ですから、悪意を持って侵入する者などいないのよ」 なるほど、侵入者の方が痛い思いをするだけだと。 「だからあなたが、無人になってしまった村を見て慌てふためくのも、わからなくはないわ。来年以降はポルトリンクからでも、留守番役を寄越してもらった方が良さそうね」 ・・・バレバレだし。あー、みっともねえ。 「いつも私が何を言おうと眉一つ動かさないあなたが、あれだけ顔色を変えるとは思わなかったわ。どうやら本当に、ゼシカのことを大事に想ってはくれてるようね」 言葉面だけ捕らえると認めてくれたように聞こえるけど、その声は今までの中でも一番冷たい響きだった。 「それなのにどうしてこんなに何度も、あの娘を放っておくことが出来るの? 残される者の気持ちを、少しでも考えてみたことがあるの? 勝手なのにも程があるわ」 今のはきいた。言葉に詰まる。 「兄のサーベルトの仇を討つという目的を果たして、気持ちの整理をつけて元気に戻ってきてくれると思いきや、毎日毎日物思いにふけって溜め息ばかり。ろくに外にも出ず、食事もまともに取らない有り様。 大事な娘にそんな思いをさせ続けた男を、どうして母親の私が認める気持ちになどなれると思うの? たとえあなたが悪い評判など何もない人だったとしても、そのことを許すつもりはないわ」 「・・・返す言葉もありません」 ゼシカはずっとアローザさんのオレに対する態度に怒ってたけど、オレはそのことを理不尽だと感じたことは一度も無かった。 死んだオレの親父の面影や、世間の評判で嫌ってた部分も確かにあったんだろうけど、言い訳しようのないオレ自身の行いが一番大きな怒りの理由だってことに、自分でも知らない間に気づいてたのかもしれない。 「だけどゼシカは私の言うことなど聞くつもりは無いようだし、このまま反対しつづけたら、また家出でもされかねないし・・・だからククールさん、もしどうしてもゼシカとの仲を認めてほしいというのなら、この先もう二度と剣をとらないと約束してちょうだい」 「・・・剣を?」 想像もつかなかった条件を出され、少しとまどった。 「ポルトリンクから出ている定期船のお客様の中には、マイエラ修道院への巡礼者も多いのよ。半年ほど前に、よく耳にする噂があったわ。 それまで修道院の周りにはいなかった凶悪な魔物が出るということと、その魔物から一人で巡礼者を守っている、真っ赤な服を着た銀髪の剣士さんの話をね」 さすがに定期船のオーナーは、耳が早い。 確かに、オレがあの頃ゼシカを放ったらかしにしてた理由の一つは、グダグダになってた聖堂騎士団の代わりに巡礼者たちを守るためだった。 でもそれを、ゼシカに寂しい思いさせ続けたことの言い訳には出来ない。 「息子のサーベルトが、リーザス像の様子を一人で見に行ったために殺されてしまったのは、ご存じよね? サーベルトとゼシカの父親も子供たちがまだ小さい頃、定期船を襲う凶悪な魔物を一人で退治しに行き、相打ちになって還らぬ人になりました」 父親が死んだ時にはゼシカはまだ小さすぎて、ほとんど何も覚えてないと言ってたから、魔物と戦って死んだという話は初めて聞いた。 「夫も息子も、いつもあなたのように剣を身体から離さない人でした。危険なことはやめてほしいと頼んでも、『自分には力があるから責任もある』と何でも自分でやろうとして、結局は二人とも還ってきてはくれなかった。私はただ残されるだけ・・・。 ゼシカには私と同じ思いはさせたくないの。だからあの娘の結婚相手には、武器なんて扱えない人がいい、そう思ったのよ。これ以上ゼシカを悲しませたくないのなら、危険なことはせずに、あの娘のそばにずっといてやってちょうだい」 ・・・何だよ、ゼシカ。お前、メチャメチャ愛されてんじゃねえかよ。 アルバート家がどうとかじゃなくて、ただゼシカに幸せになってほしいだけ。寂しい思い、悲しい思いをさせたくない。だからオレみたいにいつ死ぬかわからない生き方してた人間は、認めたくない。 大事な人間に先立たれる悲しみを、二度も味わってしまってるからこその想いだ。 でも・・・。 「すみませんけど、それはできません」 ゼシカはずっと、この村を懐かしいとは思えないと言っていた。贅沢言ってるとは思ったけど、ラプソーンが復活した後で寄ったこの村の様子を見ていて、何となく理由もわかるような気はした。 村の住人はほとんどが、ゼシカが家族と最期の時を迎えるために帰ってきたなんて言ってたよな。それは普通の反応で、空を赤く染めるようなヤツと戦おうなんて考える人間はほんの一握りだ。 だけどゼシカの父親や兄は、大切なものを守るために自分で武器を取って戦うっていう考え方で、そういう人間が一番身近な存在だったゼシカにとっては、自分の力で戦って大事なものを勝ち取ることが当たり前のことだった。 そんなゼシカにとって、何かあった時に一緒に戦ってくれる人間はいないってことは、結構寂しいことなのかもしれない。ポルクとマルクは違うけど、あいつらはまだガキだしな。 「何かあった時は、ゼシカは真っ先に飛び出して先頭に立って戦うはずです。その時に隣に並んで戦えない人間にはなりたくありません」 そんなオレがずっとそばにいたって、ゼシカにとってはやっぱり寂しいはずだ。 「あなたは、ゼシカを危ない目に遇わせても平気なの? あの娘を幸せにしたいとは思わないの?」 『幸せにしたい』か、もちろんそう思ってはいるけど、肝心のゼシカがそれを望んでない。いや、望んでないっていうより、あてにされてないってのが正しいか。 「ゼシカは本当に強くて、オレなんかが彼女の幸せをどうにかするのは無理です。それどころか『あんた頼りないから私が幸せにしてやる』なんて言われる次第で。あの逞しさの1/10でいいから分けてほしいと思ってるけど、足元にも及ばなくて・・・。 でも逆にオレなんかに、ゼシカを不幸にすることも絶対できないと思うから、そういう意味では安心してもらえると思います」 アローザさんは大きな溜め息を吐き、カップをソーサーに置いた。 「いいえ、あなたも立派に逞しくて図太いわ。付き合いを反対してる母親の前で、よくそんなしまりのない顔してノロケられるものね。普通の神経じゃないわよ」 ・・・今、ノロケてたっけ? それにしまりのない顔って、どんな顔してたんだ? 「もういいわ。サッサとゼシカの所にでも行ってくださいな。もうその顔を見ていたくありません。ゼシカの顔も見たくないから、今日は帰ってこなくて結構って伝えておいてちょうだい」 ・・・ゼシカ、アローザさん、頭固くねぇよ。話がわかりすぎ。外泊OKだってさ。 「これで認めたと思ったら大間違いよ。そうそう思い通りにはさせません。結局最後には私の方が折れるハメになるんだから、尚更です」 苦労してるんだな、この人も。オレとの仲を反対する本当の理由を言うわけにもいかなくて、憎まれ役をしなきゃいけないのは辛かっただろう。思わずアローザさんの方の味方したくなる。 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。ゼシカを家出させるようなことは絶対にしませんから、それだけは心配しないでください。それと彼女を残していくようなことも、もう無いと思います。・・・今日はお話できて良かった。ありがとうございました」 オレも知ってる、置いていかれることの痛み。自分が味わうことも、誰かに味あわせることも、確かにもうたくさんだよな。 「これからのあてはあるの? 住む所や仕事のことだけど」 唐突に現実的な質問をされてしまった。 確かに今のオレは、住所不定無職状態だ。ルーラが使えるおかげでどこに住んでもリーザス村との距離はゼロに等しい分、選択肢が多すぎる。 「ゼシカが、西の大陸に定期船を出したいと計画してるのよ。もっと安全な方法で世界を旅できる人が増えるようにしたいと言ってね。だけど安全な航路を探すのには、海の魔物に強い護衛がいないと現実には難しいわ。 腕に覚えがあるのなら、引き受けてくださらない? ポルトリンクで良ければ、お部屋の手配もさせてもらうわ。返事は明日で結構よ。夕食にご招待するから、その時までに考えておいてくださいな」 ・・・どうにも、まいったな。ありがたいような、怖いような。 アローザさんはオレより数段、役者が上らしい。これから先どうあっても、この親心を裏切ることは出来ないようだ。 リーザス像の塔から、音楽や村の人たちの楽しそうな声が聞こえてくる。ご先祖たちに楽しく生きてる姿を見てほしいと、ゼシカが計画したそうだ。定期船を西の大陸まで運行することといい、ゼシカもいろいろ考えて頑張ってたんだな。 ゼシカとオレだけが知っている目印、塔のてっぺんにある風車を魔法で回す。初めて試した時よりも、風の制御はうまくなったと思う。もっと訓練重ねていけば、空を飛ぶとこも出来るかもしれない。 ゼシカは気づいてくれただろうか? オレの方から塔に入っていってもいいんだけど、再会の抱擁やキスを村の人間に見せつけるのは、ゼシカが嫌がるだろうしな。 「ククール!」 背後からの声に振り返る。 ああ、そういえばこの塔は、リレミトで出ると随分離れたところに出るんだったっけ。 気品は漂うのに、おてんばぶりは相変わらずで、スカートのすそを跳ね上げて駆けてくる。 今日のゼシカは白いブラウスの普段着姿だ。やっぱり旅の間に着てた服より、こっちの格好の方が可愛いよな。目が赤くて、ツインテールが耳みたいで、ぴょんぴょん撥ねてくるウサギみたいだ。 態勢を整えて、飛びついてくるゼシカを抱きとめた。ゼシカのタックルは結構強力で、油断してると受け止めきれずに引っ繰り返るハメになる。 でも頬を上気させて、喜びを全面に表してくるその姿に、たまらない愛しさが込み上げてくる。 なのに・・・。 「お酒くさっ!!!」 おい! 再会の第一声は、これかよ!? いや待て。確かに酒臭くて当たり前な量を飲んだんだ。 「・・・そんなに?」 「すごいわよ。だいぶ前に二日酔いになってた時よりひどいかも」 よくアローザさん、そんな奴に文句も言わず、夕食に招待までしてくれたよな。 「ホントまいったんだよな。あいつ、そっちの方では堅物だったから、酒なんてほとんど飲んだことないはずなのに、つえーの何のって。親父が大酒飲みだったから、血筋なのかもな」 「・・・会えたの? マルチェロに?」 ゼシカが心配そうな顔で訊ねてきた。 「それがさ、聞いてくれよ。あのクソ兄貴、会うなりいきなり斬りつけてきやがって、反射神経のいいオレじゃなかったら死んでたぞ、絶対。 おまけに『貴様のようなヤツと素面で話など出来るか』なんて言いやがって『だから酒飲みながら話すぞ』ってことになって。しかも酒代は全部オレ持ち」 「それで出た結論は『しがらみとか血の繋がりとか因縁なんて一切関係なく、やっぱりお互いソリが合わない』だった。だけど仲の悪い兄弟なんて、世の中には溢れる程いるだろうし、オレとしてはもう充分スッキリしたんだけど・・・これって変か?」 ゼシカはさっきから、異世界の話でも聞いてるような顔をしてる。 まっとうな兄弟だったことが一度もないから、標準がどういうもんかわからねぇんだよな。だけどいい年した男同士の兄弟って、意外とそんなもんかとも思ってるんだけど、やっぱりちょっとは不安になる。 この期に及んで、実は気持ちの整理はついてませんってオチは目も当てられない。 ゼシカはちょっとだけ呆れたような顔をして、だけどすぐに柔らかく微笑みかけてくれた。 「ううん、変じゃない。・・・良かったね」 心の中にゆっくりと染みてくる言葉。 そうだな、良かったんだ。その証拠に、ゼシカの瞳を真っすぐに見つめ返せる。心の奥まで見透かされるのが怖くて、今まで何度も逃げ続けてきた瞳。でももう、心の中全部見られても、何一つ後ろめたいことはない。 「ああ、ありがとう。ずっと待たせてごめん。今度こそ、もうどこにも行かない」 そこまで言った後に、とりあえず付けたしといた。 「多分」 何となく、オレはそう簡単に平穏な暮らしは出来ないような予感がしたからだ。あと一回ぐらいは、揉め事に巻き込まれそうな気がする。 「何よ、その多分って! 普段嘘つきなくせに、どうしてこういう時だけバカ正直なの!?」 やっぱり怒られた。 「だけど、もうゼシカを残してはいかない。何かあった時は力を貸してほしい。・・・酒臭くて悪いけど、キスしていいか?」 「・・・そういうことは、いちいち訊かないでちょうだい」 ちょっとテレたように怒る顔が可愛くて、つい笑ってしまう。 「相変わらずイジワルなんだから。でも変わってないから、ホッとした。おかえりなさい」 「・・・ただいま」 ずいぶん遠回りして、ようやく辿り着くことが出来た。真っすぐにゼシカと向き合える自分に。 今度こそ本当に大丈夫だ。 これからは何があっても、ずっと二人で生きていける。 ずっと二人で-後編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/300.html
750 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/01(月) 23 23 31 ID J9L3zFWf0 このスレ完全に常連だけで成り立ってるからついに最下層下から3番目になってしまったw 大丈夫だとはクク先生も言ってるけど不安。ageていいかなぁ 別にageんくて大丈夫? 751 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/02(火) 00 29 17 ID pmAz5+dM0 同じようにちょっと不安w どうなんですか、ククッル先生… 755 名前が無い@ただの名無しのようだ[]2008/09/02(火) 22 50 13 ID pWXjuTib0 ,〃彡ミヽ . 〈(((/(~ヾ). / ヾ巛゚.ー゚ノ" / <よし、 /~'i':=:!゙)つ ここはこのククールさんがageとくぜ 756 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/03(水) 01 52 21 ID 41cXLUne0 惜しいな。 スレをageたのがゼシカだったら1のしきたりに従って ククからゼシカに対するお仕置き発動していたはずなのに。 でもククがゼシカにSHTバイキルトミラクルムーンを喰らわせるなんて無理だから 相手がゼシカのみ限定の特別なお仕置きが炸裂していたはずなのに。 757 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/03(水) 14 22 16 ID qeLWT23g0 惜しすぎて血涙出た ゼシカだったら「恥ずかしいからageないでよククールのバカーー!!!!///><///」 ってかわいいこと言いながらククを双竜でぶっ飛ばしてるんだろうな 758 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/03(水) 22 14 53 ID W5K8saZU0 756と 757ククのレスが脳内で混じって ククがゼシカに恥ずかしいお仕置きを…なんて言葉が浮かんだ 759 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/04(木) 01 55 16 ID 6m3j9Z6+0 どんなお仕置きなの…(wktk 760 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/04(木) 03 24 01 ID 9SZrA59x0 ククがageた事で恥ずかしがって怒るゼシカも 逆にゼシカがageた事で強烈なお仕置きをするククも どっちもそれぞれに萌えそうだw ククによる対ゼシカバージョン特別仕様なお仕置きが凄く気になるw 761 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/04(木) 17 56 50 ID 4KYYbAAV0 すっごい卑猥なお仕置き……………に見せかけて、 街中でククと手を繋いで歩くみたいなお仕置きでも ゼシカには物凄い効力を発揮しそうだ 762 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/04(木) 21 11 18 ID gJT4fzQNO 両方見たいハァハァ 763 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/04(木) 21 18 37 ID ERwObwpd0 761 街中で手を繋いだまま5分くらい歩いたところで 「ねえ、もう…いいでしょう…?」と恥ずかしそうに 上目使いで言うゼシカの手をさらに強く握り、 「だーめ♪あんま短くっちゃお仕置きにならないだろ?」って 楽しそうに言うククという電波を受信した。 764 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/05(金) 10 06 32 ID 1C5BYtDl0 すっごい卑猥なお仕置き……………を覚悟してたのに、 街中でククと手を繋いで歩く、で済んで、「そんなのでいいの? 良かったー!」と 何の抵抗もなく、ついでにウインドーショッピングを楽しむゼシカに対し、 恥ずかしがって嫌がるゼシカを想像していたククールの方が何故かドキドキしっぱなし という電波も受信した。 765 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/05(金) 22 03 55 ID 0Y2GhcDR0 相手に翻弄されドキドキするのがゼシカ側でもクク側でも萌えるw 恋人同士じゃなくて薄々気持ちには気づき始めているのに はっきり自覚していない旅序盤の2人とかがいいな 766 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/05(金) 23 04 35 ID XKGDjVbv0 764 「そんなのでいいの? 良かったー!」と喜んで サーベルトとよく手を繋いで歩くような感じの気持ちでいたら いざお仕置き実行の時に思いのほかドキドキしてしまうゼシカと、 そんなゼシカに良からぬ事を企むククという電波を(ry 769 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/06(土) 23 35 56 ID gbwNfxNz0 ククールにお仕置きされるゼシカ ククールのageに恥ずかしがっておこるゼシカ ククールにお仕置きするゼシ(ry 770 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/07(日) 21 39 16 ID 0WIWBZaa0 ゼシカからククールにお仕置きってどんなんだろう… 検討もつかないw とりあえずメラでもぶっ放しそうなイメージ 771 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/07(日) 23 19 32 ID WkD1tIWh0 いちゃいちゃカップル状態でなら 「もうククールとは口聞かないっ」とそっぽ向いたりとか。 でもククールに上手い事乗せられ丸め込まれて 結局普段通りの漫才喧嘩ップルっぽいやり取りを繰り広げる。 772 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/08(月) 00 57 37 ID ukW6Nvwl0 「今から私の半径3メートル以内に近づいちゃダメよ!」 「え~~!!オレそんなんヤだぜ耐えらんねぇ愛しいゼシカの傍にいられないなんて 寂しすぎて死んじまうーーー!!!!」(ガバーーッッ!! 「キャアア!!人前でなに抱きついてんのよ放しなさいこの甘えんぼーー!!」 ガス「半径3メートルどころの話じゃないでげすね」 エイト「ゼシカもそのことについて言及すらしてないしね^^」 所詮 ちわげんか。 773 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/08(月) 13 08 41 ID DB/eDpS80 772 萌えたw ククールへの押し置きどころかむしろご褒美w ゼシカさんどう見ても、人前でないのなら抱きついても良いと言っているようにしか… 774 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/08(月) 14 03 10 ID 9iKAr2x8O 772 三ツ矢サイダーのCM思い出して萌えた。 ククール「…半径3メートル以内に、大切なものは全てあるんだぜ(ギュッ)」 ゼシカ「ちょ、ちょっと…(ドキドキ)。いい加減、はなしなさいよ…」 ククール「…ポーニョポニョポニョ女の子♪まんまる♪おっぱ…うぁっ!(慌てて飛びのく)」 ゼシカ「(鞭を手に)バカバカバカ!ククールのバカ!エッチな替え歌なんかやめなさい~!」 775 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/08(月) 16 56 17 ID RHY1sXM90 772から774の流れという事かw 仲良く喧嘩しな♪という歌詞のフレーズが浮かんだ。 三ッ矢サイダーのCMをこの先ククゼシ変換して見てしまいそうだ。 というかそのタイミングで歌うククwしかもポニョ替え歌… 抱きついた時にククの手がちょうどゼシカのそこに 触れていたんだろうなあとアホな想像してしまったよ。 776 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/09(火) 01 25 28 ID H5FKbKhi0 バカバカバカ!ククールのバカ! なんと萌える台詞であることよ… この一言だけでククゼシエピソード10通りは妄想できるな 777 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/09/09(火) 02 18 08 ID g4cYgQax0 776 さあその10通りの妄想を全部このスレにぶちまけるんだ! …と、ククが申しておりました。 ゼシカが恥ずかしがってククを止めようと必死に 「バカバカ!」言っていますがお気になさらずにどうぞ。 722 痴話喧嘩というかもはやただいちゃついているだけ…w 自分たちのバカップルぶりに全く気づいていなかったりするのかな なんて萌える二人なんだ
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/520.html
潮時・翌朝の時系列のククゼシ はじめて身体を重ねてから数度目の夜。荷物の整理をし、そろそろシャワーでも浴びようかとゼシカが腰を上げた時だった。「…っ!」突如後ろからはがいじめにされ硬直する。もちろん犯人は、恋に狂った色ボケ僧侶、ククールしかいない。「ゼシカー」「っ、な、なによ、はなして」「ゼシカーしようぜー」「ッ!!」恥じらいもムードも何もない誘い文句と、うなじに這わされた口唇の感触に一気に体温が上がる。否定も肯定もできずわなないていると、返事も待たずさっそく胸を弄り始めた指にハッと我に返る。「あっ…アンタ…ッ…なんで、そんな、…毎日毎日…ッ」必死に胸をガードしようとするがあっさりと払いのけられ、「なんでかって言うとゼシカが可愛いから。以上」「ちょっ…ん!!」正面を向かされながら反論を封じるようにキスされる。それでもゼシカは反抗しない。嫌だやめてとは言えない。セックスがしたいからじゃなく、臆面もなく嬉しげに自分を抱きたいと言ってくる、このバカな男が好きだからだ。だから、衣服の上から優しく胸を揉まれても、拒めない。ニヤける彼の顔を睨みつけながらも、許容する。ゼシカは吹っ飛びそうな思考の中、徐々に襲い来るその慣れない感覚に目をつぶり、身体を固くした。この行為で、まず襲い来るのは羞恥。そしてゆるやかな快感。どちらにも、未だに慣れない。とにかく堪えてやり過ごすしか すべがない。そうしていればそのうちククールが勝手に好き放題しはじめ、気付けば自分も快楽の波に浚われていて、その時にはすでに羞恥という概念も吹き飛んでいる。だから、どうせなら一刻も早くそこまで行きつきたいのだ。そこに至るまでのいたたまれない恥ずかしさ。誰かに裸を見せるということ。身体に触れられるということ。自分ですら見たことのない場所まで晒し、触れさせて、あまつさえ口付けられて。はしたない声を出し、制御できず乱れる身体。その全てを見届けながら「かわいい」と慈しまれることまで…その全てがあまりにも恥ずかしく、言葉にできない。ゼシカにとって快楽は、「耐えること」だった。それはまるで苦行のよう。セックスはやはりどこか恥ずべきもの。密かにこっそりと行うこと。求めることははしたないこと。箱入りお嬢様であり根が純情なゼシカには、そんな考え方がどうしても拭えないのだ。身体が性感を快楽と感じても、それを素直に求めるなんて禁忌にすら思えた。だから、与えられる感覚を「気持ちいい」と感じ、それどころかさらなる快感を無意識に求めている自分がどうしようもなく罪深く思えて、その自責と羞恥にさらに身悶えるのだ。そんな姿がククールをこの上なく興奮させていることには、露ほども気づかずに。 ベッドのふちに2人で腰掛け、久方ぶりに離された口唇の合間に、ツ、と唾液の糸が光って消えた。ゼシカはククールによって無理やりに引きずり出された舌をしまうことも忘れ、はぁはぁ、と乱れる息のまま虚ろな目でククールを見上げる。行き場をなくし差し出されるかのような赤く小さな舌は、それだけで十分すぎるほどククールを煽った。ククールは自身も荒くなる息を抑えつつ、唾液に濡れたゼシカの口唇を親指でなぞり、「…、…ゼシカ…キスして」「…ぇ?」「ゼシカからキスして。ちゃんと、舌使って」そう言った途端、ゼシカの顔がカアッと染まる。ただ口唇を合わせるだけのキスしか知らなかったゼシカは、はじめて舌を忍ばせてキスをした時、凄まじい拒絶反応を見せた。異常な行為に思えたのだろう、しかしその時には当然2人ともかなり盛り上がってきていた段階だったので、そんなことで行為を中断されるのにイラッときたククールは、嫌がるゼシカに強引にディープキスをしかけた。しつこく時間をかけて懐柔し、ゼシカが体の力を失って動けなくなってから傲慢に言ったものだ。「舌入れんのなんか好き同士ならやって当たり前だ。オレのこと好きならこの程度で今さら嫌がるな」…と。それ以来、ゼシカはどことなく深い口付けを恥じる。当たり前だと言われたからこそ恥ずかしいのか。ククールの舌が誘っても、ゼシカの舌はなかなか応えない。委縮してしまって、動かない。可愛いと思いながらも、物足りなかったのも事実。いい機会なので、今夜それをブチ壊す。俯きかけたゼシカの顎をククールが持ち上げ、逸らすことすら許さないとでも言うように目線を合わせる。ゼシカは一瞬泣きそうな顔をしてから、ぎゅっと目をつぶると、勢いをつけてククールに口付けた。その勢いに押されるように、ククールは背中からゆっくりと自らベッドに倒れる。もちろん身長差を考えて、ゼシカがキスしやすいようにだ。ゼシカはククールの上に重なって、一生懸命に拙いキスをはじめた。口唇で口唇をはさんで、そっと噛んで、舐めて。ぎごちなく角度を変え、薄く開かれた唇の間におそるおそる舌を滑り込ませ、中に潜むククールの舌に重ねて、控えめに絡ませる。すべてククールが教えたやり方だ。いや、教えたつもりすらない。今ゼシカは、いつも自分がされているキスを懸命に思い出しながら、幼く未熟な口づけをククールの望むとおりに施しているのだろう。その羞恥に耐える必死な表情を、ククールは彼女を抱きしめながら薄目を開けてずっと見ていた。「…ッ、んふ、んぅ…ッは、はぁッ……………ん…」苦しそうに息を紡ぐその様子も、無駄に男を興奮させる。慣れていないため息継ぎがうまくできない。唾もうまく飲み込めない。ククールの胸元を握る手は小さく震えている。ククールは一切動かなかった。ゼシカはとにかく必死に、ククールの口腔を愛撫した。いつまでやればいいのかということすら、思いつかなかった。―――長い時間が過ぎたような気がしたころ、ふいにククールの方から顔の角度を変え、ゼシカの舌に自ら絡みつき攻勢に出ると同時に、体制を入れ替えてゼシカを押し倒した。「んっ!…ん、ふ、ん……ん…っ………ク、ク…?」「……よくできました」にっこり微笑むと、きょとんとしたあと、夢中になっていたことに気づいてゼシカは赤面する そんな彼女をからかうこともなく、ククールはコルセットを外し、貞淑なブラウスのボタンを一つずつ丁寧に片手で外しながら、もう片手は徐々にその中に忍ばせ、ブラジャーをかいくぐり綺麗に弧を描く大きな乳房をしっかりと掴んだ。それだけでビクンとゼシカの身体が跳ねる。「……ちょっとは慣れたか?」「……ッ、……」ゼシカはどちらとも言わず顔を背けて、ククールのからかうような視線から逃れた。まともに答えられるわけがない。慣れた、と言えば、そりゃあ一番はじめのあの時に比べれば多少は、だ。断じて「もう平気」と開き直れるほどの肝が据わったわけじゃない。誰にも触れさせることはおろか見せることも絶対にしてこなかった「嫁入り前の身体」をこんな風に無防備に曝け出して、躊躇なく触られて、恥ずかしいに決まっている。しかも、「…マジで、最高だな。ゼシカの胸は。見てるだけでヤバいくらい興奮、する」「ゃ、やめて…見ないでよ、バカ…!!」こんな風に揶揄されるほど、羞恥に爆発しそうになる。ゼシカが自分の胸を自慢してきたのは、とにかく「大きい胸は誇るべきこと」だからだ。間違っても、誰かにマジマジと卑猥な視線で見られながら、それが男の雄をどれほど刺激するものなのか、無理やり教え込まれたかったわけじゃない…「んぁっ、…ぅ」そして、ククールの指先が胸の先端を様々な角度でつねるたび、小さな声が漏れ身体が勝手に浮く。これが、本当に恥ずかしい。仕方ないのだと言い聞かせても、抗うように口唇を噛んでしまう。そしてククールはゼシカが快感を堪えることを許さない。だから、ゼシカが堪えれば堪えるほど、それを許すまいとさらに濃厚な愛撫を仕掛け翻弄する。「イヤッ」「嫌じゃない」「…ッア、あ、…ぅ、…んん…ッ!」ゼシカの指がククールの髪に絡みついた。その行為は、もっと、とでも言うようにククールの口唇を自らの胸に押し付けることにしかならない。ククールはゼシカの乳首を強く吸う。「――あっ、ん、んぅっ、ぅうう…ッッ!!!」ゼシカが首を左右に振る。舌でくすぐり湿った息を吹きかけながら指先でも弄り、それを交互に繰り返すと、しばらくしてゼシカがようやく陥落した。「あっ、あ、ん…ッ、…ッ、ァ、クク、や、やだぁ…っ」声を抑えることを諦め唇をだらしなく開け放しながら、それでもなんとかやめさせようと、足掻く。「やだ、もう、っあ、は…っ、…なんで…っ、なんで、なめ、るの…っ?それ、やだ…」「なんでって。好きな女のおっぱいがそこにあったら吸いつくのは男の本能。――それに、ゼシカにいっぱい感じてほしいから」「ヤッ!…やだ!」「ほんとに嫌?」もう一度乳首を甘噛みしてやると、くぅ、と身悶えて、ゼシカが泣きそうな顔で訴えてきた。「…わ、私ばっかり、こんな、変な…っ、変なの…やだよ…私ばっかり…」「ばっかりじゃねぇよ。ゼシカが感じれば感じるほど、オレも感じるんだから」「そ、そう、なの…?ど、…どうして、でも、…だって」ゼシカは眉をひそめ困惑した。自分が今感じている快感がそのままククールに伝わるなんて、いくら気持ちが繋がっていてもあり得ないだろうと。ククールはにっこりと、世にも優しく笑う。それに関する詳しい説明は、このあとじっくりさせてもらおう。 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・-※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※