約 579,012 件
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/243.html
酒場の扉をバン!!と開く。 静まりかえった客達など気にもとめず、ゼシカはツカツカと歩いて空いているテーブルを陣取った。 その顔は、美人も台無しの憤怒の形相。遠慮がちに注文を尋ねてきた店員にかなりアルコール度数の 高い酒を言いつけると、あとは運ばれてきたそれをひたすらグイグイと煽り続ける。 (もう知らないわあんな男。女と見れば誰でも追っかけてヘラヘラして) ―――あそこの酒場は、雰囲気は明るいがあんまりよくない連中がいる だからお前は絶対一人で行くんじゃねぇぞ (偉そうに、何よ年上ぶっちゃって。酒場くらい一人で来れるし、自分の面倒くらい自分で見れるわ) ―――ほんっとおっかねぇなゼシカは。もうちょっと可愛げってもんはねぇの? オレが昨日街で出会ったアイリスちゃんみたいにさ… (悪かったわねっっ!!どうせ私は短気で不器用でお子様で…) ―――わ、わっ!!メラゾーマはやめろ!!せめてメラにしろっ!!!! (…そうよ。いつも素直になれないかわいげのない女よッッ!! ククールのバカ!!!!だいっっきらい!!!!!!) ××× 「…………おいおいお嬢ちゃん、こんなところで寝てたら風邪ひくぜぇ?」 たいした時間も経たないうちにゼシカはたちまち泥酔状態となり、まだ何かブツブツ文句を言いつつ、 グラスを握ったままテーブルに突っ伏してしまった。親切そうな言葉で近寄ってきたのは、 いかにもろくなこと考えていませんというような品のない笑みを浮かべた胡乱な男達だ。 はじめのうちはゼシカのただならぬ勢いに怖じ気づいていたが、遠巻きにずっと様子を窺っていたらしく、 このタイミングをここぞとばかりに見計らってきたのだろう。 男の一人が隣の席に座り、俯せのゼシカの耳元に話しかける。 「ちゃんとお部屋に帰ろうぜ?オレ達が連れてってやるからさぁ」 ゼシカはう~ん…と寝言のような声をもらすだけで、答える意識は残っていない様子だ。 男達はニヤニヤと笑い合い、まったく起きそうにない彼女の身体に手を伸ばした。 その時。 「―――ハイそこまで」 ゼシカの剥き出しの白い肩に手を回した男の鼻先に、突如スラリと突きつけられたレイピア。 世にも見目麗しい青年が、薄く笑いながらいつのまにか男達の後ろに立っている。 ギョッとして一瞬身を引くも、一見いかにも優男な風貌の彼をみとめると 男達はたちまち余裕を取り戻し、青年にからみ始めた。 「なんだぁ兄ちゃん?そんなおもちゃの剣持って本気かあ?王子様ごっこは顔だけにしろよ」 しかし青年は怯んだ風もなく鼻先でフッと笑う。そしてレイピアをかまえていた右手をすっと降ろし、 「あいにくオレは王子様じゃなくて、ただの騎士だけどな。 ………ただ、お姫様をお護りすると誓いを立てた身としては―――」 今度はレイピアを左手に持ち替えた。そしてほんの刹那レイピアがヒュッと空を切ったかと思った 次の瞬間には、未だにゼシカの身体を触っていた男の前髪が、真一文字にバッサリと切られていたのである。 それまでの柔和な態度をいきなり変貌させ、凄味を帯びたオーラを全身から放つ青年は 笑っていない目で笑いながら、低い声で言い放った。 「―――もう一度お前達が彼女に触れたら最後。 1秒でお前達全員を地獄送りにすることくらい、なんの躊躇もないんだぜ?」 その目は、はったりなどでは決してない。 男達は本能に従いすぐさまゼシカの身体から手をどけ、格好悪く店の壁にベタッと張り付くのだった。 「………へ、へッ!騎士サマだぁ?か、かっこつけやがって、結局てめぇの女なんだろうがよ!」 すっかり固まってしまった男達は、それでもまだ小さなプライドがこのまま引き下がるのを許さないのか、 青年と一定の距離を保ちつつ負け惜しみをわめき立てた。 「あぁ、だったらいいんだけどな」 青年はスラリとレイピアをしまうと、この騒ぎにもまったく目を覚まさない彼女に歩み寄り、 床に片膝をついてかがみ込むと、頭を撫でながら耳元に何ごとか囁きかける。 「………でもまぁ、当たらずとも遠からず、かな」 微笑みながら青年は呟く。 眠り込んでいたゼシカがむにゃむにゃと寝言を言いながら顔を上げ、ねぼけまなこで彼を見る。 ほら帰るぞ、と両腕を差し出す彼をぼーっと見てから、くくーる、とねぼけた声を出すと、 ゼシカはそのまま青年―――ククールの首に手を回して抱きついた。 小さくよいしょ、と言いながら、ごく自然な動作でそれを抱き上げる。 ククールは苦笑しつつ。 「こいつ、オレに惚れてるからさ」 美しいお姫様を抱き上げ連れ去る麗しい騎士。 その光景はあまりにもサマになりすぎていて、酒場の誰もが言葉もなく、去ってゆく後ろ姿を眺めていた。 ××× 宿のゼシカの部屋に戻り、眠っている彼女をそっとベッドに横たえて布団をかける。 この旅をはじめてから、何度このお役目をつとめてきただろうか。騎士稼業もラクじゃねぇな、と一人ごちる。 まぁ彼女が酒場で飲んだくれるのも、原因のほとんどは自分が作っているようなものなので 文句を言える立場ではないのだが。しかしゼシカはあまりにも無防備にすぎるのだ。 ゼシカが寝返りをうち、ククールの方に身体を向けた。幸せそうに眠る幼い寝顔と、 腕と脇の下でいかにも柔らかそうにはみ出している大きな胸、晒け出される白い肩のギャップ。 「………ホント ラクじゃねぇ…」 ククールは苦い心の呟きを思わず声に出し、わざと大きくため息をつくと、 平静のままさっさとこの場を退出しようと、改めて布団をかけ直すために手を伸ばした。 ―――ふと、酒場の下卑た男が、彼女の肩になれなれしく触れていたことを思い出す。 唐突に沸き上がった強烈な不快感に逆らえず、ククールは眠るゼシカに覆い被さり、その細い肩に口づけた。 それは明らかに丸出しの独占欲。その行為に、先ほど酒場で見せたモテる男の余裕はカケラもない。 一度口唇を離し、再度口付ける。今度は軽く歯を立てて。跡すらつけたい欲望にかられたところで ゼシカが小さく身じろぎしたため、ハッとして身体を離す。 小さな寝言がしばらく続き、最後にゼシカはポツリと呟いた。 「………………ククール……」 その半開きの口唇に、瞬間、色んなことが頭からふっ飛んだ。 ククールは引き寄せられるようにゼシカに口付けていた。夢うつつのゼシカをいいことに、 触れるだけでは足りなくて、舌を潜り込ませて、さらに深く味わおうとして…。 その時お互いの口唇の合間で、ゼシカの微かな声が聞こえた。 だいきらい、と。 ククールはギョッとして顔を離し、間近に彼女の顔を見つめる。 ゼシカは未だ夢の中だ。ククールは安堵の息をつくと、今度こそゆっくりと彼女の身体の上から身を引く。 (…………寝込みを襲うとか…) 顔を片手で覆って、はぁっと深いため息をつく。モテる男のする真似じゃない。 「…誰が誰に惚れてるって?」 素直じゃないのはどっちなのやら。 答えなどわかりきっているようにククールは苦笑すると、穏やかな寝息を立てる愛しい寝顔をのぞきこむ。 じゃあな、ゼシカと囁いて。 「………明日もヤキモチ、妬いてくれよな」 どんな夢を見ているのか。ゼシカは眠りの中で、小さく ばか と呟くのだった。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/66.html
「ねえ、まだついて来るよ。あのスライム」 「ちょっとウザいな。かわいい女の子ならまだしも…」 「あんたって、いつもそーゆーのばっかり」 髪をかきあげながら肩をすくめるククールに、ゼシカは少々冷たい視線を送っている。 「あっしがいくら脅しても駄目みたいでガス。兄貴、どうしやす?」 ヤンガスに聞かれた僕は、ちょっと振り返る。 さっきから、ずうっと一匹のスライムが、 僕達の後から少し離れてぷわぷわと、ついて来てしまっているのだ。 さっきの戦闘で、他のモンスター達に襲われていたこのスライムを、 たまたま助けるような形になってしまったんだけど… 別にそんなつもりはなかった。 そのモンスター達が、僕達の方に襲いかかってきたので返り討ちにしただけの事だ。 僕達がその場を離れると、物陰に隠れていたそのスライムが ぴょんと飛び出して、くるくると回り、うれしそうについて来た。 一撃で倒せる程すんごく弱いだろうし、なんだか殺してしまうのも気がひけて、 ヤンガスが何度も脅して追い払おうとするのだが、ぴゅっと逃げては、またついて来るのだ。 どうしたものか? 僕が考えていると、ゼシカが隣に並んできた。 「ね、もうちょっとあのままにしておこうよ。すごく可愛いもん」 そんな風な目、そんな風な声で彼女に言われると、うなずくしかなかった。 『モンスターは、モンスターを引き寄せる』 という記述を城の兵法書で読んだ事がある。少し気になるけど… 今の所無害だし、もうすぐ街に着く。 そうしたら、あのスライムもさすがに諦めるだろうし。 やがて街に到着した。 さすがに、大勢の人々の気配は怖いのだろう。 僕達が大門をくぐり抜けると、スライムはそれ以上はついて来られなかった。 ぴゅいぴゅいと、悲しげな声?をあげて迷っている。 『行きたいけど、ここは怖い。どうしよう。でもついて行きたい』 そんな様子が伝わってくる。 「もう帰りなさい。あなた、こんな所にいると殺されちゃうから」 言葉なんて通じないと思うけど、ゼシカが思わず説得している。 と、門の近くにいた2人のわんぱく坊主が、 まごまごしているスライムに気づいて『怪物退治だ!』と、小石を次々と投げつけた。 幾つかの石つぶてが当たった。 痛みに悲鳴を上げながら、スライムは逃げていく。 それを見た子供達は、一斉に歓声を上げて追い立てようとする。 「やめなさいっ、あんた達!」 ゼシカの表情が、みるみる怒りに染まってゆく。 その気配をいち早く感じ取ったククールが、すれ違い様に その2人の子供の襟首をつかんで引っ張り戻した。 「そこまでだ。もう十分だ。これ以上外に出ると危険だぞ、坊主ども」 「あんた達ね…弱い者いじめして何が楽しいの!」 つかつかと詰め寄ってくるゼシカの顔が、限りなく怖い。 「…まあ、別の意味でもあれ以上やるのは危険ってことだ。 片手でモンスター倒せる怖~いねーちゃんがここにいる。 しかも、おまえ達を怒ってるみたいだぞ。ほれ逃げろ」 小憎たらしく、べ~っとゼシカに舌を出して子供達は駆け去っていく。 ムカッときたゼシカの肩に、ヤンガスが手を置いて留めた。 「これでいいでヤスよ。ゼシカお嬢」 「だって」 納得がいかないゼシカが、不満のこもった視線をヤンガスに向ける。 年上のこの元盗賊は、静かに口を開いた。 「いつまでも俺達について来てちゃあ、あいつもこんな目に遭うばかりでガスよ。 あっしも、あいつと似たような思いをした事が何度もある。 あいつは、住む世界が違う場所には、これ以上近づかない方がいいんでヤス」 「そっか…そうだよね」 素直にゼシカはうなずいた。 正義感が強くて気丈な彼女も、納得したようだ。 年下の僕を『兄貴』と呼ぶこのヤンガスに、僕は時々驚かされる。 「まあ、もしゼシカが一撃入れたら、あのスライム あっと言う間におだぶつだしなあ。丁度良かったんじゃないの?」 ククールがにやにやしている。 「あんたね…ってか、 『片手でモンスター倒せる怖いねーちゃん』って、どーゆー事!」 「いや、片手で呪文だろ、怒るとメチャ怖いし…ウソは言ってないな、うん」 「こんのお……あ、待てっ!」 素早く街中へ駆け出したククールを、ゼシカがぷりぷりしながら追いかけてゆく。 残された僕達も肩をすくめて、街に入った。 ちょっと沈んだ雰囲気だったゼシカの様子も、ククールの軽口でたちまち消えてしまっていた。 それが、彼独特の優しさなんだろう。 彼女は全然、気づいていないみたいだけど。 まあ、とにもかくにも、結果的に追い払う事ができた。これで良しとしておこう。 僕達の考えは、甘かった。 翌日、街を出ると、どこからかすぐにあのスライムが飛び出してきたのだ。 うれしいのか、ゼシカの足元近くまで寄ってきて、 ぷわぷわと飛び跳ねている。 昨日の事もあって、わあっと反射的に思わず手を差し出したゼシカに、 スライムはぴょいと、彼女の胸に飛び込んできた。 「あははっ。あんた大丈夫だったの? 怪我しなかった?」 ぎゅっとスライムを胸に抱きしめている。 彼女の胸の中で、ぷるぷるとスライムが動いている。元気そうだ。 「かわいい~っ!」 ゼシカは、輝かんばかりの笑顔に溢れている。 そんな様子をしげしげと眺めながら、ククールがヤンガスに耳打ちしている。 「(おい、なんかエロいな。あそこにスライムが3匹いるみたいだな!)」 「(う~ん、どっちが柔らかいか、ってなモンでガスかねえ…揺れがすごいっす)」 「(くそ、あのスライムめ! 俺と替われ!)」 トロデ王も、何やらう~むとうなずいている。 僕は聞こえない振りをする。とても会話についていけない。 ミーティアが、すぐ後ろでなんかそっぽ向いて ひづめで地面叩いてるし…(確実に彼女には聞こえてる) そんなこんなで、このスライムとしばらく一緒に旅することになってしまった。 なんていうか、『ゼシカのペット』という感じだろうか? (それと彼女が抱き上げた時の、ククール達の目の保養という役割だろうか) ゼシカは、「スラちゃん」という、安直な名前をつけて可愛がっている。 一緒に寝ている。エサを作ってあげている。何かと話し掛けている。 ヤンガスと少し話したけど、 『あっしも、あんまりいいことだとは思ってないですがね。 でも、ゼシカお嬢も、きっと寂しいんでガスよ。 なんだかんだ強がってても、兄さんを殺されて、家族とも離れて、 一人の女の子が旅に出てる訳ですから。いつか別れは来るでしょうけど… 最近は、もうちょっと、ここままでもいいかもって感じてるんでヤスよ』 別れは、突然やってきた。 僕達が、森の中で手強い相手に苦戦していた時のことだった。 足を滑らせて転んだゼシカに魔物の手が伸びた瞬間、 スライムが飛び出して割って入ったのだ。 とてもかなう相手ではない。 うるさそうに振り払われた。 スライムなら、こんなに強い魔物から本能的に逃げ出すはずだ。 それなのに、再びスライムは相手に飛びかかっていった。 「スラちゃんっ!」 ゼシカが立ち上がって体勢を立て直した時、 その目の前で、スライムの体が魔物の一撃で砕け散った。 激しい戦闘は、それからしばらくして終わった。 逆上してキレたゼシカの怒りに、その魔物達がかなうはずがなかった。 スライムの体は粉々になって、溶け込むように地面に吸い込まれ、 生き返らせる事もできなくなっていた。 先程の戦闘の様子からは想像できないくらい、 力無く地面にへたり込んでいるゼシカがいる。 両手で、スライムが消えていった所を何度も何度も撫でている。 「ごめんね、ごめんね…」 ポロポロと彼女の頬をつたう涙が、地面に吸い込まれていく。 そんな彼女の隣にククールが膝をつき、小刻みに震えている肩にそっと手を置いた。 「ゼシカのせいじゃない。誰のせいでもないさ。 あいつは、自分がそうしたくて戦ったんだ。 誰に頼まれたのでも、命令されたのでもなく」 静かな沈黙が、森の中に訪れる。 聞こえるのは、ゼシカのすすり泣きだけだった。 と、突然大声が上がった。ヤンガスだ。 「生き様、しかと見届けやした!」 斧を高々と掲げ、天にも届けとばかりに、大音声が辺りに響き渡る。 少しあっけにとられた皆が注目する中、ヤンガスはゼシカににっこりと微笑んだ。 「俺達がこれからの戦いで生きて戻ってくる事。こいつを忘れないこと。 それが何より、こいつが体を張って生きた証になりやす」 「うん…そうだね。そうだよね」 「さ、みんなで、墓を作ってやりやしょうや」 「うん」 涙をぬぐって、ゼシカは素直にうなずいた。 土を盛って石を立て、墓を作った。 静かに皆で祈りを捧げ、僕達は立ち去った。 まだ、僕達の旅は続く。 これから先、幾度も魔物達と戦うことになるだろう。 「(できれば、もうスライムとは戦いたくないな)」 僕は、そう思った。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/61.html
「おい、待てよ。待てってば!」 「うるさいわね、ほっといてよ」 「何怒ってんだよ?」 「怒ってなんかいないわよ!あの女の子と仲良くしてれば?」 バタバタとトロデーン城の廊下をゼシカとククールが怒鳴り合いならが歩っている。城の者達が振り返り二人を見ていた。 ラプソーン討伐後の城での宴の席でククールの悪い癖が出た。こともあろうにゼシカの目の前で小間使いの少女を口説き始めたのだ。その夜のことだ。 「やっぱり怒ってんじゃねーか」 「怒ってなんかない、って言ってるでしょ!連いて来ないで!」 バタンと勢い良くククールの鼻先でドアが閉まった。今夜はトロデーン城に泊まる事になっていたので各自に部屋があてがわれていた。ゼシカの部屋はミーティアが選んでくれたとても女の子らしい部屋だった。至る所に花が飾られ、バスルームまで付いていた。 「・・・おーい、ゼシカ」「・・・」 「ったく、いい加減にしないと、こっちが怒るぞ?」応答はない。完全ムシを決め込むつもりだ。 フー、と息を吐きククールはこの場を離れる事にした。頭に血ののぼったゼシカを説得するのは困難だと思われたからだ。 落ち着いた頃にまた来よう。 自室のベッドに突っ伏したままゼシカは部屋を離れていくククールの足音を聞いていた。 ふん。何よ。ちょっと諦めが早いんじゃないの? またムカムカと腹が立ってきた。でも同時にたまらなく泣きたくなった。 「ばか・・・」 呟いて涙をこらえた。 どうせククールなんて、どの女でも一緒なのよね。そう考えるとまたククールがあの小間使いと仲良くしているのではと不安になってきた。 ククールはきっと忘れているのだ。聖地ゴルドでのあの夜のことを・・・。 イライラした。我慢できない。でもここで追い掛けたりなんかしたらククールの思うツボのような気がした。 じっとしていられなくて部屋の中を行ったり来たり。まるで動物園のクマである。 ゼシカだってククールの事は気になる。だからこそ、腹も立つのだ。 「あー、もう!何で私があんなヤツの事でイライラしなきゃなんないのよぉ!」落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせ深呼吸した。 無理!一度気になったら解決するまで落ち着くはずがない。部屋を飛び出した。 …………… 部屋の外にはククールが壁を背にして立っていた。 「あ・・・」 「おっ、思ったより早く出て来たな。お姫さま」 一気に顔が赤くなっていく。動揺が隠せない。 「あ・・・アンタ、どっかいったんじゃないの?」 「行ったよ。でも、戻ってきた。こんな状態のゼシカほっとけないし」 「ほ、ほっとけばいいじゃない。そうすればあの可愛い女の子と仲良くやれるのに。」 言っているうちにまた腹が立ってきた。 「どーせ、誰にでもアンタは私と同じ事言ってるのよね。君を守る騎士になるなんて言ってたけど、あのセリフも口説き文句のうちのひとつなんでしょ?私は騙されな・・・」 ククールの指がゼシカの唇を押さえた。 「ゼシカ、焼きもち焼いてるんだ?」ニヤリ。 あまりにもククールの顔が近くにあるので、また顔が赤くなってしまった。 「や・・・焼きもちなんて・・・」 やいてないもん。赤くなった顔を見られたくなくてゼシカは顔をそむけた。 こんなにも美人なのにゼシカは恋愛関係に結構縁がなかった。 そんなゼシカがとても可愛い。 ゼシカの唇にククールの唇が重なる。とても簡単なフレンチキス。 「!」 「ゴルドでの続き」 ラプソーンを倒したらキスをさせる、というゴルドでの言葉をククールは覚えていた。 忘れていると思ったのに。だから腹を立てていたのに。 「もう・・・ムカツク」 「あ?」 「ムカツクって言ったのよ!私一人でヤキモキしてアンタは涼しい顔してて、ばかみたいじゃない!」 ムカツクを連呼しながらククールの胸を叩き続ける。その両手を押さえ、もう一度キスをする。 「かわいいなぁ、ゼシカ」「ばか!何すんのよ!」 ばかばか。 埒があかないのでククールはゼシカを抱きあげると、ズンズン歩きだした。 「きゃあ!ちょと、何よ!?」 「廊下じゃムードがないからオレの部屋行って続き」しれっと言い切るククールに一瞬ア然としてしまった。 「やだ、おろしなさいよ」「ぃやだね」 ジタバタと腕の中で暴れるゼシカに構わずククールは自室へと入る。 ゼシカをベッドに押し倒し、覆いかぶさる。 ドキドキドキドキ。これは本当に自分の体なのだろうか。まるで体のあちこちに心臓があるかのように脈打っている。 ククールの真剣な顔から目が離せない。 「・・・ま、またいつもの冗談でしょ?」 「ゼシカ、オレは男だぜ?ここまで来たらもう止まんねぇよ」 「こ・・・心の準備も出来てないし!」 「怖いのか?・・・怖かったら目閉じてろ」 もうこうなったら覚悟を決めるしかないんだろうか?ククールは相変わらず真剣な顔をしているし、心臓はバクバク言ってるし、もうゼシカは頭の中がグチャグチャになっていた。 グッと目を閉じる。 「・・・・・・」 「・・・プ・・・ククク」ククールの声が聞こえる。目を開けるとククールが真っ赤な顔で笑いを堪えていた。 瞬時に理解した。騙された! 「ククール!アンタねぇ!」 起き上がりククールを殴り付ける。 「騙したわね!」 「ち、ちげーよ。だってさ・・・あははは」 まだ笑っているククールに更に腹が立つ。バシバシとパンチの応酬。 「信じらんない。ムカツク!」 「わ!ごめんごめん。だってさ、ゼシカがあんまり可愛いんだもん」 可愛いの単語に殴り付ける手が止まってしまった。 「・・・何よ、それ」 「それにさ、ゼシカが嫌がってるのに出来ねーだろ」ベッドの脇に移動して俯いてしまったゼシカを覗き込むが、プイとまた顔を背けられてしまった。 やっぱり可愛い。 「・・・こう見えてもオレ、ゼシカを大切に思ってんだぜ・・・」 え?またドキっとした。 上目遣いでチラッとククールを見るとこころなしか彼の顔が赤く見える。 ククールでも女に対して照れたりする事があるのだろうか?様子を伺っていると、それに気付いたククールにコツンと頭を小突かれた。 「・・・ったく、オレにこんな事言わせんのお前だけだよ」 まったく、と言いながら今度はククールが背を向けてしまった。ククールの耳は真っ赤になっていた。 ゼシカはそれに気付くと、何だか恥ずかしいのもおあいこのような気がしてエヘヘ、とこっそり笑った。 2-無題2
https://w.atwiki.jp/shfarts/pages/482.html
ゼシカ・ウォン 商品画像 情報 登場作品:アクエリオンEVOL 定価:4,200円 発売日:2012年08月25日(土) 再販日: 商品全高:約150mm フィギュアーツZERO カノジョたちがカワイイ理由 付属品 その他:台座 キャラクター概要 商品解説 良い点 悪い点 不具合情報 関連商品 ミコノ・スズシロ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/85.html
暗い天井。 ふと目を覚まし初めに目に入ったのはそれだった。部屋の外からは波の音が聞こえる。 古代船を手に入れドルマゲスを追いエイト達一行は西の大陸を目指す航海の途中だった。夜になってしまったので錨を降ろし海上に留まっていたのだ。 夜明けにはまだ時間がある。何度か寝返りを打つが目が冴えてしまって眠ることが出来ない。 仕方なく起き上がりゼシカは甲板に出る。 海は穏やかで心地よい風がゼシカの頬をなで、解かれた髪を揺らした。 「あれ?まだ交替の時間じゃ・・・」 ふいに声を掛けられ振り返るとランタンを片手に間抜け面のエイトが立っていた。 「ゼシカか・・・ヤンガスかと思ったよ」 「あ、ごめんね」 「どうした?眠れないのか?」 「・・・うん」 「船、落ち着かない?あ、それともオレが起こした?」 「うぅん。違うの」 「夜風は冷えるから良くないよ?」 「・・・うん」 「・・・・・・」 どうも会話が続かない。ゼシカは黙って海を見つめている。 「ゼシカ、どうした?・・・オレで良ければ話を聞くよ」 「え・・・」 エイトの申し出に少し驚いたゼシカだったが、一瞬考えエイトになら自分の素直な気持ちを言える気がして、コクリと頷いた。 「・・・みんなには内緒にしてくれる?トロデ王にもミーティア姫にも言っちゃダメよ」 「うん」 ゼシカは躊躇いながらも話し始めた。 「・・・あのね、最初に会った時は嫌いだったの。なんて軽薄なヤツ、って思ったの。女好きだし、イカサマポーカーはするし。でも本当は心に傷を抱えてて・・・その事で悩んでるみたいだし、本当は優しいヤツだし・・・」 ゼシカは名前は言わなかったが、ククールの事であるのはエイトにも容易に想像がついた。 両手の指先を合わせモジモジしながらゼシカは話し続ける。 「イライラするのよ。アイツが女口説いてんのも私が口説かれるのも。・・・こう、胸の辺りがキュッて痛くなるの」 ゼシカは胸の辺りを両の手で押さえ襟元をクシャと掴んだ。そんな彼女をエイトは黙って見つめている。 「ごめん・・・なんだか変な話よね」 話が上手くまとまらない。「そんな事無いよ。ゼシカね場合とは違うけど・・・オレもその気持ちわかるような気がする」 「・・・え?」 驚くゼシカにエイトは優しく微笑みかけた。 そんなエイトの笑顔がなんだか眩しい。彼はこの気持ちが何だか知っていて、その気持ちに素直に向き合っているように見える。 「なんて・・・」 俯きつぶやく。 「なんて言うの・・・?」この気持ち。 アイツの事を考えるとイライラする、苦しくなる。でも同時に胸が暖かくなる。この気持ちの答えが知りたくてエイトの顔を見ると相変わらずの人懐こい笑顔で優しく肩を叩かれた。 「ゼシカ、本当はわかってんだろ?」 「・・・・・・」 そう言うとエイトはヤンガスとの交替の時間なのだろう、オヤスミと一言残し言ってしまった。 ゼシカは暫らくその後ろ姿を見送っていた。エイトは死んだ兄とどこか似ている。 そしてゼシカは思い出す。彼女をこんな気持ちにさせた一件を。 サーベルトが笑っている。その前には自分がいて、頻りにこれまでの旅の話を聞かせている。 サーベルトは何も言わずに唯笑っているだけ。 ゼシカは構わずに話を続ける。 兄さん、あのね・・・。 そこで目が覚めた。 目の前には焚き火があり、辺りはまだ暗い。 まだ眠れる、ともう一度目を閉じた時突然背後から声を掛けられた。 「ゼシカ!」 急に呼ばれたことに驚きぼんやりした頭が次第にハッキリしてきた。 振り返り声の主を認める。開口一番。 「ククール・・・アンタ何してんのよ」 ククールの態勢に怪訝そうに眉をひそめる。 ククールは脚を開いて座りゼシカはその胸に背中を預けて眠っていたようだ。 「まさか、アンタどさくさに紛れて・・・!」 殴ろうと拳を振り上げるがククールに適うはずもなくアッサリ止められてしまった。 「ストップストップ!なんか勘違いしてんだろ、お前」 「なにがよ?」 「・・・ったく、覚えてねーねか。オレ達モグラの落し穴に落ちたんだよ」 「・・・・・・」 そういえば、月影のハープを取り戻しにモグラのボスと戦って、その帰り道だったはず。 あまり記憶がハッキリしない。考え込んでいるゼシカを見兼ねてククールが続けた。 「ヤンガスのおっさんの重みでひびが入った地面にオレ達乗っかっちまったんだよ。で、この通り」 両手を広げてみせるククール。それを見ていたら、ある事に気が付いた。 四つん這いになりククールに詰め寄る。 「ほかの二人は?」 「はぐれた」 「・・・うそ・・・痛っ!・・・」 さらりと言ってのけるククールに言葉を失い呆然と座り込むと足首に痛みが走った。どうやら穴に落ちたときに怪我をしていたようだ。見ると足首に血が滲んでいる。 苦痛に顔を歪めているとククールの手が延びてきてゼシカの足首に触れた。 「血よ肉よ傷を塞げ・・・ベホイミ」 ククールの掌が緑色に光り出したかと思うとチラチラと消えてしまった。 「ありゃ、MP切れだ」 「え?私の傷なんか大丈夫なのに!アンタも怪我してたらどーすんのよ!」 ゼシカは怪我の有無を確かめるためにククールの体を触り始めた。 「怪我はないみたいね。足の方は大丈夫なの?」 心配そうに聞くゼシカに対してククールはニヤニヤしている。 「なに?なに笑ってんのよ?」 「ゼシカってばエッチだなぁ」 ゼシカの手はククールの胸の上に置かれていた。かぁーと顔が熱くなった。 「もうっ!バカ!」 堪らず笑いだすククールに自分の軽率さを呪った。 「いい加減笑いすぎよ!」「悪い悪い。ところで、足大丈夫か?」 「ん・・・大分痛みが引いたみたい。ありがと」 「いや、オレのMPがもう少し残ってれば完全に治してやれたんだが」 「大丈夫よ。こんな傷。それよりも、どうするの?出口探す?」 「いや・・・。今はヘタに動かずエイト達が来てくれるのを待った方がいい」 確かに怪我をしてまともに動けないゼシカとMP切れのククールでは魔物に襲われたとき明らかに不利だ。二人はその場に留まる事にした。 ゼシカはククールと少し離れた所で焚き火にあたっていた。 ククールは相変わらず壁に保たれ掛かり目を閉じている。 エイト達を待ってからどのくらいの時間がたっただろうか。外はきっと夜になっているだろう。 「くしゅっ・・・!」 「寒いのか?そういえば少し冷えてきたか。」 「大丈夫」 そう言ってゼシカは消えかかった焚き火にくべる物を探しだした。しかし、こんなモグラの穴の中ククールが集めた木の枝や根以外あるわけもなく、諦めて座り込んだ。 もうすぐ焚き火もきえるだろう。心なしかゼシカは震えているように見える。 「ゼシカ、こっち来いよ」「大丈夫よ」 それだけ言うとゼシカはプイとそっぽを向いてしまった。彼と出会ってから二ヵ月ほどしか経っていないため少々警戒心が働く。 「ゼシカ、寒いんだろ?なにもしねーから、こっち来いよ」 「・・・本当に?本当になにもしない?」 「しねーよ。いくらオレでもこんな状態で何かする程バカじゃねーよ」 それでもまだ疑いの眼差しで見ているゼシカに胸の前で十字を切って見せた。 「神に誓って・・・」 そこまで言うならと立ち上がり、まだ少し痛む足を引きずりチョコンと彼の左側に座る。 ククールは自らのマントを外しゼシカの肩に掛けてやりながら、まだ少し距離のあるゼシカの肩を引き寄せた。 「ちょっ・・・なにもしないって言ったじゃない!」「ちげーよ、しねーよ。・・・こうした方が暖かいだろ?」 「・・・・・・」 確かに暖かい。基本的に男女の体温の違いの所為だろう。 ゼシカは少し安心した。暫らく経ってもククールは何もして来なかったからだ。「・・・本当に何もしないんだ?」 「・・・誘ってんのか、拒否されてんのか、どっちなんだよ?」 「フフ、感心してんのよ」呆れ顔のククールを見てゼシカはクスクスと笑った。「少し、眠れよ」 「うん・・・」 こういうところの女の扱いは流石だと思う。体力の違いを気遣ってくれているのだ。ゼシカはそれに甘えて目を閉じる。 目の前に緑色の光が広がる。その光にゼシカは目を覚ますとエイトがにっこり微笑んでいた。 「・・・エイト」 ククールに抱えられて眠っていたゼシカは慌てて身を起こす。足に痛みが走る。「痛っ・・・」 「遅くなってゴメン。出口に近い所に居たから、ここまで来るのに時間掛かって」 言いながらエイトはゼシカの足にベホイミをかけている。 どうやら落し穴はアジトの奥に続いていたようだ。 エイトのかけてくれているベホイミの光を見ながら、アレ?と思う。目を覚ます前に感じた光もホイミ系のものだった。自分の足の治療は今行なわれている。 と、言うことは。振り返り立ち上がっているククールを見上げる。 「ククール!怪我してたの?」 そこに空かさずヤンガスが割り込む。 「そうなんでがすよ。ククールのヤツ右肩に・・・ガフッ!」 間髪入れずにヤンガスにボディブローが決まる。 「つまんねー事言ってんじゃねーよ」 腹を抱えてうずくまるヤンガスを見下ろし冷たく言い捨てる。 治療の終わったゼシカはククールの右肩に手を添える。 「本当に大丈夫なの?ねぇ?」 心配そうに顔を覗き込むとポンポンと軽く頭を叩かれた。 「ゼシカの足の傷に比べれば大した事ないよ。さ、帰ろうぜ」 そう言いさっさと先に行ってしまった。 礼を言いそびれて立ち尽くすゼシカの背をエイトは優しく押し先を促した。 「帰ろうか。ヤンガスも大丈夫か?」 「ゲボゲボ・・・大丈夫でかす。ククールの野郎・・・」 ククールに続いて三人は歩き出した。 後日、エイトに教えてもらった話によると、落し穴に落ちたのはゼシカ一人でククールは自ら穴に飛び込んだというのだ。 肩はその時に怪我したのだろう。エイト達が来てくれるのを待とうと言ったのは『動かない方がいい』ではなく『動けなかった』からだ。 自分を心配して後を追ってきてくれたククール。彼は自分が思うよりも軽薄な男ではないのかも知れない。ゼシカは思い出していた。トロデーン城で祈りを捧げていた姿、モグラのアジトでの彼のさり気ない優しさ。 エイトに言われなくても、きっとわかっていた。自分のこの気持ちはきっと・・・。 ひとつ息を吐いて空を見上げる。夜が明けるにはもう少し時間が掛かるだろう。ゼシカは部屋に戻り、もう一度眠る事にした。 ベッドに潜り込み何もない天井を見つめ考える。 兄の夢を。 最後に自分は何を言おうとしていたのだろう。兄は唯笑っていただけだった。 あの時自分が何を言おうとしていたかはわからない。でも、次は― 次に兄に会った時はきっと伝えられる。 この胸の気持ちを。 終
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/88.html
「一体何があったんでゲスかねえ…」 不思議な泉の前に、放心したような表情のヤンガスが、 空を見上げてポツリと呟く。 その隣で所在なさげに立っていたトロデ王が声も無く頷いた。 突然何の前触れもなくいなくなったククールとエイトに、 理由も行き先も知る術もない他の四人は、 ただ泉の前で待ち続けるしかなかった。 ミーティアは馬の姿のまま、落ち込んだ様子も露に、 本日何度目かの泉の水を口にちびちびと飲む。 「これミーティア。あまり飲みすぎるのはいかんぞ」 その背を宥めるように撫でながらトロデ王が窘めるものの、 ミーティアは憂いをたたえた表情で、 横に首を振って聞こうともしない。 ゼシカは草むらの上に膝を抱えて座り込み、 心ここにあらずな様子で、ブチブチと身近にある草を、 手許も見ずに引き抜き続けている。 はあ…と誰のものとも付かない溜め息が零れたとき、 不意に泉の入口から草を踏みしめるようにして歩く足音が聞こえ、 咄嗟にヤンガスとトロデ王が振り返り、ミーティアが顔をあげた。 「「ククール!!」」 二人の声が驚きにハモりを響かせてから、 ようやくゼシカがハッと我に返った様子で、 立ち上がるのと同時に振り返った。 ふしぎな泉の入口の方から、 ククールが「悪い悪い」と言いながらバツの悪そうな顔で、 片手を挙げて歩いて来る姿がゼシカの視界に映る。 「ククール!」 二人とは一呼吸以上遅れて叫び、 ゼシカは逸早くククールの許に駆け寄った。 ぶつかりそうになる一歩手前で二人同時に立ち止まり、 涙に潤んだ目でゼシカがククールを見上げる。 「この、バカ!!一体どこに行ってたのよ、 何かわかんないけどエイトも一緒にどっか行っちゃうし、 本当、何かあったのかと思って心配し」 耐え切れずに薄らと涙を浮かべ、大きな声で捲くし立てるゼシカを、 ククールが何も言わずに、遠慮がちに抱き締めた。 突然全身に伝わる温もりに、驚いたゼシカの声が止まる。 「ゼシカ、…ごめん」 申し訳なさそうな声音で、ククールはゼシカの耳元に囁いて、 名残惜しそうに抱き締めていた腕を解いた。 そして何が起こったのか把握出来ずに呆然とした ゼシカの肩に両手を置き、僅かに屈むような体勢で見つめる。 何かを言いかねて躊躇うように、ククールの双眸が左右に揺れる。 「……ごめん……好きだ」 真摯でどことなく申し訳無さそうな表情を浮かべ、 ゼシカを見上げるようにしてククールが短く告げる。 その言葉の意味を、ゼシカは瞬間理解出来ずに眉を顰めた。 「…何が?」 あまりにも間の抜けた返答にガク、とククールの肩が落ちる。 困ったように顔を顰めながらも、 ククールは気を取り直してゼシカの目を見つめ直した。 「ゼシカが…好きなんだよ。誰よりも、何よりも…………愛してる」 囁きかけるような掠れた声音で再度想いを打ち明けながら、 ククールはゼシカの口許を見つめ、目を閉じて顔を寄せた。 徐々に寄せられるククールの顔と、その言葉に、 ようやくゼシカの止まっていた思考回路が元に戻るのと同時に、 首筋から額にかけて一気に赤く染まり始める。 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待っ」 突然のことに困惑の色を露に、 ゼシカが上擦った声をあげ制止をかけるも、 ククールの動きが止まる様子は無い。 あまりの至近距離が耐え切れずに、ゼシカは目を強く閉じた。 チュッと軽い音が聞こえてゼシカの額に柔らかい感触が伝わる。 「……オレにこういうことされるの、嫌か?ゼシカはエイトが…」 好きか、とククールが問い掛ける間も無く、 唇にキスされるかと思っていたゼシカは、 身を強張らせていた力が一瞬にして抜け、 ずるずるとその場に崩れ落ちて行く。 「お、おいゼシカ!」 慌ててククールがそれを抱きとめるも一瞬遅く、 ゼシカは赤くなった顔を両手で押さえ、 その場に座り込んで俯いてしまう。 「…ゼシカ…?」 ククールがその前に膝を付いて、心配そうに覗き込む。 「…私も…あんたのこと、悔しいけど、 すごく悔しいけど、…ずっと…好き、だったわよ…」 少しの間を置き、俯いたままのゼシカが 今にも消え入りそうな小さな声で呟くように零す。 その言葉にククールは僅かに驚いた表情を見せたあと、 目を薄めて心底安堵したような柔らかい笑みを零し、 「……ありがとう」 と短く耳元に囁きかけて、ゼシカの身体を柔らかく抱き締めた。 「…でも、いきなりこんなことされたら心臓に悪いわよ、 このバカ――――――――――――――!!!」 そんなククールの不意を突くように ゼシカは突然真っ赤に染まった顔をあげると同時に、 勢い良く振り被ってククールの右頬を張り飛ばした。 バチーン!と大きな音があたりに響く。 「ちょ、まっ…何もそんな怒ること」 「怒るに決まってるでしょ!こんなに心配させて、 挙句の果てに私の了解無く変なことまでしようとして!」 叩かれた頬を押さえ、逃げ腰になるククールを、 ゼシカが自分の腰に手を当てて、物凄い剣幕で言い返す。 そんな二人の一連の様子を、少し離れた位置で見守っていた ヤンガスとトロデ王はお互いに顔を見合わせたあと、 「自業自得ですげすな」 「喧嘩をする程仲が良いと言う奴じゃろうな」 と交互に安心半分、呆れ半分で呟きを零し、 やれやれと言った様子で肩を竦めると、再び旅に戻る仕度を始めた。 更にその二人よりも後方に少し離れた位置で、 ルーラでこっそり戻って来た エイトとミーティアが寄り添うように立って、二人の様子を眺めていた。 馬の姿のままのミーティアの長い鬣を優しく撫でたあと、 柔らかく細められたその目を見つめて、エイトは幸せそうに微笑んだ。 un titled1 un titled2 un titled3
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/103.html
真昼の空が真紅に染まったあの日の後も、ベルガラックの歓楽街は変わらずの賑わいを見せていた。 聖地ゴルドに降り掛かった災厄のことは風の便りにこの街へも伝わってきていたが、それが遠く離れた土地での出来事のせいか、あるいはこの街独特の雰囲気なのか、行き交う人々の表情は、他所で見られるそれとはどことなく違っていた。 そんなベルガラックを、一行は骨休めの地に選んだ。 煉獄島での過酷な日々の直後に繰り広げられたゴルドの激戦で、今までになく消耗してしまっていたからだ。 「腹が減っては戦はできぬ、と、昔から言われてるでげすからなぁ」 そう言いながら天井を仰ぎ、満足げに自らの腹を叩くヤンガスを見て、エイトとゼシカは噴き出した。 ひとしきり笑った後、ふとゼシカの表情が曇る。 「……ククール、やっぱりまだ辛そうだったわね」 ぽつりと呟いてゼシカは窓の外を見る。 その視線は、ククールが戻ったであろう宿の方角に向けられていた。 「仕方ないよ。色々あった後だからね。色々」 「少しでもメシは食ったんでげすから、今はそれで良しとしやしょう」 「無理矢理って感じもしたわよ?」 プッ、と、ゼシカは再び噴き出した。 食べる気分じゃないと言い張るククールにヤンガスが脚払いを仕掛けた後、樽を扱うが如くに担ぎ上げてレストランへと連れ込み、席に着かせた後もその眼光で無言の圧力をかけていたことを思い出したからだ。 一見して乱暴に映るが、それがヤンガス流の気遣いというやつだった。 「ヤンガスが飲みたいそうだから僕たちは酒場に行くけど、ゼシカはどうする?」 店主に勘定を頼みながらエイトが言った。 「どうするって?」 問い返してはみたものの、ゼシカにはエイトの言わんとしていることは分かっていた。 ククールの様子を伺いに行くか否か、ということだ。 気にはなっていたが、一人でククールの部屋を訪ねることに関しては、ゼシカには正直なところ未だ若干の躊躇があった。 そんなゼシカの心境を見て取ったエイトは後押しをする。 「気になるなら行ってみるといいよ。でないとゼシカが落ち着かないんじゃない?」 「うん……。でも一人で行くのって変じゃない?」 「別に変じゃないと思うけど?……あっ!でも何かあっても室内でメラはだめだよ。ラリホーあたりにしといて」 「それじゃククールを信用してるんだかしてないんだか分からんでげすよ、兄貴」 笑いながらそう言うヤンガスの隣でエイトはしゃがみ込み、小脇に置いてあった道具袋を漁り始める。 「ゼシカが反撃するような展開になるのは、僕たちにとってはむしろ歓迎すべきだと思うけど?」 探し物をしながら話すエイトはどうやら笑いを堪えきれないようで、小刻みにその肩を震わせていた。 そんなエイトを見下ろしながら、ゼシカは少々呆れた口調で返す。 「……荒療治ってわけ?」 「そうなるかどうかはゼシカの加減次第だけどね。はい、これ」 笑顔で返事をしながらエイトはゼシカに、道具袋から探し出した物を差し出した。 「念のため」 「やっぱり信用してないんじゃない」 ゼシカは苦笑すると、エイトからキメラの翼を受け取り腰のポーチにしまい込んだ。 (行くとは言ったものの、どうしよう……) 宿屋の自分の部屋に戻ったゼシカはベッドに腰掛けて悩んでいた。 ただ部屋を訪ねるだけでは、露骨に心配していると言っているようなものだ。 心配しているのはもちろん事実だが、ククールに対してそれを表面に出してはおそらく上手く事は運ばないだろう。 考えがまとまらないままにゼシカはベッドからドレッサーへと移動し、手持ち無沙汰に髪を結び直し始める。 しかしそれもすぐに終わり、鏡を見つめるだけになってしまった。 その後様々な角度に首を傾げながら百面相を始めたゼシカは、先程の食事で紅が薄くなっていたことに気付き、ドレッサーの上のコスメボックスを開ける。 「あ……!」 思わずゼシカは小さな声を漏らし、にんまりと鏡の中の自分に笑いかけた。 手早く紅をひき直すと、足早にククールの部屋へと向かう。 「お願いしたいことがあるんだけど、よかったら屋上に来てくれる?」 ゼシカは部屋の入り口から様子を伺い、ベッドに腰掛けていたククールにそう伝えると屋上へと向かった。 風に揺れる街路樹から漂う緑の香りが、屋上に出たゼシカを包み込む。 その香りに触発されて思わず深呼吸をした後、ゼシカは街の入り口と外の風景を望める側へと移動して満天の星空を眺める。 彼方から瞳に飛び込んでくる不規則に瞬く星の光と、視界の端で規則的に瞬く歓楽街の人工的な光。 それらは昔も今も変わらないのに、明日はあるいは……と考えると、嫌でも感傷的になってしまう。 時間は、あるようで無いのだ。 なのでククールには一刻も早く、いつもの調子に戻ってもらわなくてはならない。 仲間のために。旅の目的達成のために。ひいては、この世界のために。 (……おためごかしなのかな?これって) ふと脳裏にそんな言葉がよぎって、ゼシカは素直になれない自分に苦笑した。 「星に願いでも?」 乾いた靴音と共に、背後から待っていた声がした。 「ま、女神像も無くなっちまったし、教会もあのザマだし、それが一番いいのかもな」 「そうかもね。お金かからないし、願いも叶ったし」 ゼシカは振り返らずに相槌を打ちながら、歩み寄ってくるククールの気配を耳で追う。 「ふーん、叶ったのか。そいつは良かった」 頃合いを見計らってゼシカはククールの側に向き直ると、上目遣いでやや悪戯っぽい笑みを作りながら言った。 「ククールが来てくれますように、ってお願いしてたから」 「なんだ。そんなことか」 ククールは一瞬呆気に取られ、直後に軽く噴き出した。 その様子を見て、ゼシカは安堵の表情を浮かべる。 「良かった。思ったより元気そうね」 「さっきよりはマシになったかもな。……で?オレに頼みって何?」 単刀直入な物言いをするククールを見て、ゼシカは未だククールの気持ちに余裕がないことを感じ取っていた。 いつものククールならば、ここで茶々のひとつでも入れてくるだろうに……。 ゼシカは意を決して、先程思いついたプランを実行に移すことにした。 「えっとね。頼む人を教えて欲しいの。ククールしか知らない人だから」 「なんだそりゃ?」 首を傾げるククールの前でゼシカはスカートのポケットを探り始める。 「これ、無くなっちゃったから。決戦前に元気のもとが欲しくて」 そう言いながらゼシカがククールに見せたものは、空になった小さな瓶だった。 「まさかゼシカとここに来ることになるとは、思いもしなかったぜ」 ククールは苦笑しながらドニの酒場の扉を開き、手馴れた振る舞いでゼシカを店内へと導く。 「いらっしゃい!久し振りね、ククール。今日はそちらの彼女とデート?」 バニーが口にしたデートという言葉を耳にしたゼシカは、胸の鼓動が心なしか早くなり頬に熱を帯びてしまったことに焦っていた。 そう思っていない……いや、認めようとしないのはゼシカだけで、二人の有り様はどこから見ても立派なデートの光景である。 「まぁ、そんなようなもんなのかな?」 「なっ……!!」 条件反射でククールの言葉を否定しかかったゼシカは慌てて言葉を飲み込んだ。 ここで喧嘩を始めてしまっては、思い描いたプランが台無しになる。 「あら、恥ずかしがらせちゃった?ごめんなさいね、うふふ」 日々あらゆるタイプの客を捌く百戦錬磨のバニーは、すかさず妖艶な微笑みを見せながらゼシカの動揺を鎮めにかかってきた。 もっとも、ゼシカは客のタイプとしてはかなり特異なので、その効果の程は未知数ではあったのだが。 「ゼシカ、頼む相手は彼女だぜ。じゃ、オレは向うで待ってるから」 ポン、とククールはゼシカの肩を軽く叩き、その手をひらひらと振りながらカウンターへと向かう。 カウンター席に腰掛けマスターと言葉を交わし始めたククールの背を見ながら、ゼシカは胸を撫で下ろした。 ゼシカの真の目的……ここでククールにひと時を過ごしてもらおうというプランは、どうやら軌道に乗りそうだ。 「聡明そうな感じのお嬢さんだね」 カウンター席に斜めに腰掛けゼシカとバニーの様子を見守るククールに、マスターは水を差し出しながら話しかけた。 「そりゃ、ああ見えて実は稀代の大魔法使いだからな。賢者の末裔だし」 二人の視線の先のゼシカは、バニーに頬を触られたり、バニーの動作の真似をして指先をいじったりしていた。 話の内容は酒場の喧噪にかき消されて聞くことはできないが、おそらくは肌の手入れなどの手ほどきを受けているのだろう。 男所帯で過ごしている中ではまず見ることのできない、ゼシカの楽しげな姿を目の当たりにしたククールの目尻が思わず緩む。 「へえぇ、そりゃ凄いや。どうりで、今までぼっちゃんが連れてきた女の子とはどこか違う感じがしたわけだ」 「いい加減、ぼっちゃんは勘弁してくれよマスター」 ククールは苦笑しながらマスターの側に向き直った。 「あと、連れてきたんじゃなくて、オレが連れてこられたんだよ、今日は」 「こりゃまた珍しいこともあったもんだね。それも空が赤くなったせいかな?」 「それは関係ないような……。いや、違うとも言い切れないか」 そんなやりとりをしているうちに、ゼシカがカウンター席にやってきた。 「お待たせ。でももう少し時間がかかっちゃうんだって」 裏口方面の衝立の脇から手を振ってきたバニーにゼシカは軽く会釈をすると、ククールの隣の席に収まる。 「ああ、瓶の消毒とかがあるもんな。どうする?待ってる間、少し飲んでみるかい?」 「うん。何かお奨めってある?」 「あるぜ。マスター、いつものやつを」 ククールはにやりと笑い、呆れるほど気障な素振りで注文を出す。 その様子を見ながら、ゼシカは内心よしよし、と思うのだった。 「これ、ワイングラス?このマーク……?」 ゼシカはマスターがカウンターに置いたグラスを見て呟いた。 それはワイングラスとは似て非なるもので、脚の部分が太く短かい。 グラスの最上部には金色の縁取りがあり、側面には騎馬衛兵を象ったエンブレムが描かれていた。 しげしげとグラスを眺めながら首を傾げるゼシカの様子を見て、ククールは待ってましたとばかりに話し始める。 「これから出してくれるビール専用のグラスで、聖杯型ゴブレットっていうんだ」 「ビール?いつものやつって言うから、ワインだとばっかり思ってたわ」 ビールはジョッキで飲むもの、という固定観念を持っていたゼシカは目を丸くした。 そして、いつもワインを口にしているククールがビールを注文したということにも驚いていた。 「ここのビールは特別でね」 そのククールの言葉を待っていたかのようにマスターがグラスにビールを注ぐと、ゼシカの目が更に丸くなった。 「こんな色のビール、初めて見たわ」 ゼシカが驚くのも無理はない。 マスターが鮮やかな手つきで注いだそのビールは、チョコレートのような色をしていたからだ。 注ぎ終わったビールの上に乗っている泡はミルクティーのような色でまるでメレンゲのようにきめ細かく、緩やかな山を築いていたが不思議と崩れない。 「これは修道院で作られたビールなんですよ」 続いてククールの側に置かれたグラスにビールを注ぎながら、マスターが言った。 「えっ?修道院って、マイエラ?」 「そ。グラスのマークは、ほら、修道院の入り口にあるだろ?」 マスターの言葉を継いでククールが説明を続ける。 「どこかで見たことがあると思ったら、あのマークだったのね」 疑問の一つが氷解したゼシカの表情がパッと明るくなった。 喜怒哀楽いずれの感情にしても、ゼシカの表情はいつもそれを余すところなく表現する。 その清々しいまでの分かりやすさを、ククールは気に入っていた。 「さてと。何に乾杯しようか?」 ククールがグラスを持ちゼシカの側に差し出すと、ゼシカも真似をしてグラスを寄せる。 その動作はアルバート家で身に付けたテーブルマナーとは少々勝手が違うようで、どことなくぎこちがなかったが、それはそれでいいもんだな、と、ククールは考えていた。 「こういうのって初めてだから、よく分からないわ。うーん……」 グラスを掲げたままゼシカはしばらく考え込み、やがてこう言った。 「明日のために、っていうのは?」 「よし。それじゃ、明日のために、乾杯」 「乾杯」 カチンと二人は杯を合わせると、それぞれの口に運んだ。 ~ 続く ~ so sweet…後編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/68.html
「ね、ククール…?何考えてるの?」 声を掛けられて我に帰る。 裸のオレ。オレの腕の下に組敷かれている、これまた裸の女。しわくちゃのシーツ。その周りに脱ぎ散らかされた、服だの下着だの。 「考え事してた。ごめん。」 女性と二人きりで居るときにぼんやりを決め込むのはマナー違反だ。オレは素直に相手に謝る。 「いいのよ…。」 彼女は優しく微笑む。数時間前、そのつやのある紅い髪が気に入って誘ってみた女。年齢がよくわからない。見た目は若いけど、落ち着いた雰囲気が漂う。 名前は確か…シンディちゃんだったかな?ケイトちゃんだったかも?いかんいかん。オレとした事が女性の名前を全然覚えていないなんて。マナー違反、二つ目だ。仕方ないからここは便宜的にシンディ(仮)ちゃんということにしておこう。 オレは喉が乾いたので、ベッドの脇にあるサイドテーブルの上から、水差しとグラスを取る。横からシンディ(仮)がオレの腰に手を回す。もぞもぞと細い指が腹の上をはい回る。オレはほんの少し水を飲み、危ないのでグラスをテーブルに戻し、仰向けになる。 誘っておいて何だけど、正直少し面倒臭いと思う。ノリノリでベッドに連れ込んだのに、どうして急にこんなに気が重くなったのか。 でも、シンディ(仮)の指と舌があんまり素晴らしいので、オレの身体は直ぐに反応してしまう。オレはオレの単純な生理を憎む。先程、彼女の服を脱がせながらも頭を占めていた思いが、またモヤモヤと広がってくる。 オレは永遠にこんなことしてなきゃならないんだろうか。 エイトたちとの長い旅が終わってオレは一人きりになった。 エイトはめでたくトロデーン王家に婿入りを果たし、ヤンガスは女盗賊の所に腰を落ち着け、ゼシカはリーザス村に帰り家族と暮らしている。 オレはマイエラ修道院にもドニにも帰らなかった。適当に旅でもするつもりだった。 それが差し当たり『自由』でいられる方法だと思っていたからだ。 しかしその『自由』を手に入れた時からオレは身動きが取れなくなってしまった。世界に放り出されて混迷してしまった。 オレは自由であるという事=ひとりぼっちであるという事をすっかり失念していた。 オレにはある種の束縛が必要だったのだ。例えそれが酷い憎しみであれ、オレは意識される事でようやく生きていける類の人間だった。 オレはオレの業の深さを知り、どうしようもなく落ち込んだ。 シンディ(仮)は柔らかい唇と温かい舌と歯とを器用に使い、オレを快楽に導こうとしている。本当にスゴイよシンディ(仮)ちゃん。 オレはこうやって摩擦と消耗を繰り返して、自分と誰かをちょっとずつすり減らして、死ぬまで時間をなんとか潰していかなければならないんだろうか。 オレの落ち込みはどんどん酷くなる。 そもそもなんでオレがこんなこと考えなくちゃならないんだよ。クソ!あの旅さえなければ、こんな風に自分の弱さなんか自覚しないで済んだのに! ああ、畜生。オレにこんなことを考えさせる原因は、ひとつしか思い当たらない。 ---ゼシカ。ゼシカ。ゼシカ。ゼシカ。お前がいないからだ! オレはお前さえ此処に居て、この手をぎゅっと掴んでいてさえくれれば、それだけで安らかでいられるのに。 旅の間、オレを踏み出させていたのは他ならぬお前だったのに。 「どうしたの?」 不安そうなその声にオレは目を開ける。心配そうに見上げるシンディ(仮)。 なんて事だろう。オレは情けないことに、すっかり萎えきってしまっていた。 「あれ?」 オレはいささか驚く。 こんなにイイ女が滅多に体験できないテクニックを披露してくれているというのに、どうした事だろう。おい、しっかりしろよオレ!しかしどんなに叱咤激励しても、気合いを入れてもなだめすかしても、勃たないものは勃たない。 まずい。女性に恥をかかせるワケにはいかない。オレは彼女を見た。つやのある紅い髪。 ああ神様、と思わず心中で呟く。---ここでまたゼシカだ。いい加減、未練がましいよ。 「好きな子の事を考えていた?」 オレは正直に頷く。目の前の女に心から申し訳ない気持ちになる。本日最大のマナー違反を、シンディ(仮)は笑って許してくれた。優しい女だ。思ってた以上に年上なのかも知れない。 「バカね。あんたは早くその子の所に行かなくちゃいけないのよ。紅い髪の女の子。そうでしょ?」 そう言いながら彼女は立ち上がり、散らばった衣類を拾い集める。呆気にとられているオレを見て笑う。 「ああ―――、だって貴方、最初からずっと私の髪しか見てないんだもの。どうせ名前も覚えてないんでしょ?早く行きなさい。もう限界ですって顔してるよ?そんなに求めているのにこんな事しているあんたの気が知れないわ。」 オレの完敗だった。 オレは心底彼女に出会えた事に感謝した。オレに自覚を促し、きっかけを与えてくれたシンディ(仮)ちゃん。君の期待に応えられるといいんだけどね。 オレは着衣を整え、彼女の頬にキスをして、感謝と謝罪の言葉を伝えて宿屋を飛び出した。振り返ると二階の窓から手を振ってくれる彼女が見えた。君はやっぱり少しゼシカに似ている。 ルーラを唱えて、まずはトロデーン城に移動する。もう夕暮れが迫っている。 エイトはどこだ? 城内は使用人たちがせかせかと忙しそうに働いている。ならばあそこだと食事の間に走る。どかっと必要以上に大きな音をたてて、その扉を開く。 案の定、夕食時だったらしいが、今はそんな事に構ってはいられない。 エイト、ミーティア姫、トロデ王。なんだよヤンガスまでいやがるのか。 一同が呆然としている中、オレはつかつかとエイトの前まで歩み寄った。 「な、な、なんじゃお前。突然。」王様が焦っている。 「エイト、地図まだ持ってるよな?オレに寄越せ。」オレは言う。 「いきなり来て何を言っているんでげすか?」ヤンガスが首をかしげている。 「それと船!使えるようにしてくれよ。」オレは言う。 「音沙汰がないから、皆さんククールさんの事を心配していたんですよ?」ミ―ティア姫が困っている。 オレが言いたい事だけ言うので、全然誰とも会話が噛み合ない。 「ゼシカにも会いに行ってあげなよ。寂しいと思うよ?彼女。」 やっと口を開いたエイトとまでも話が噛み合ないので、苛ついたオレは簡潔にコンパクトにまとめて言った。 「だから、今から地図と船を持ってゼ・シ・カに会いに行くの!!オレは!!」 一瞬の間を置いて、その場に居た全員の顔がパッと明るくなった。一斉に動き出す面々。 やっとの事で地図を手にしてその部屋を出た時、後ろから拍手やら喝采が聞こえた。 オレは振り返らないで思う。本当にいつもごめん。ありがとう仲間たち。 リーザス村に着くと、ほとんど日は暮れかけていて、家々からは明かりが漏れていた。 ゼシカは教会の墓地に居た。その中でも一際豪華な墓の前で膝を抱えてしゃがんでいた。 オレはゆっくりとその背後に近付く。 「兄さんともう一度話ができないかなぁって、毎日ここに来ちゃうんだよね。」 ゼシカは振り返りもせずに言った。 「それで一度でも話はできたのか?」 オレが聞くと、ゼシカは立ち上がって振り向いた。 「ううん…。本当は解ってるんだ。サーベルト兄さんは、ここにも東の塔にももう居ないって。今は安心して遠い安らかな所に居るんだよね。」 ゼシカはそう言って穏やかに微笑んだ。久しぶりに見るゼシカの顔。 「今日はどうしたの?」 何から言えばいいんだろう。確固たる意志で此所まで来たのに上手く言葉が出て来ない。伝えなくては。オレがどんなにゼシカを必要としているかを。 ゼシカはオレの言葉を待って黙っている。オレは焦る。なんとか言葉を絞り出す。 「えっと…あー、その……迎えに来た。」 なんて間抜けな台詞だよ。そうじゃないだろう!前置きも無しにいきなり核心に迫ってんじゃねーよ。このオレがなんたるザマだ。 何か言わねば。必死に考えながらゼシカの顔色を伺う。 驚いた事にゼシカの目にみるみる涙が浮かんでくる。眉根を寄せて。口を引き絞って。 泣くほど嫌なんだろうか…。いや、ゼシカの事だからオレを哀れんでるんだろうか? オレはショックを受けて、ただぼんやりと突っ立っていた。 ハッキリ言って自信は無かったよ。確かに…うん。というか、ある程度は予想していたんだ。 でもいざとなるとこの衝撃はやり過ごすにはあまりにも大きくて、ゼシカから目をそらす事も出来ずにいた。 ゼシカはこちらに向かって歩き出した。涙を指で掬うように拭き、オレの胸に顔をうずめた。 そして言った。 「待ってた…。」 オレはとりあえずゼシカの身体を抱きしめたものの、しばらくの間ポカンとしていたと思う。カッコ悪い事この上ない。 腕の中の温かさにだんだん状況が掴めて来て、どうしようもない嬉しさが込み上げてくる。 ゼシカを身体から引き離して顔を見ると、もう泣いてはいなかった。恥ずかしそうに下を向き、ゆでたタコの様に耳まで赤くなっている。 可愛くて可愛くて仕方がなかった。 その顔を上向かせてキスをする。顔を離してゼシカを見ると更に照れているので愛しさが募ってもう一回キス。増々照れる様子に面白くなって来てもう一回キス。…調子に乗っていたらゼシカに殴られた。まあいいさ。これからはずっと一緒に居られる。 とりあえず今日はゼシカの家に行く事にした。ゼシカの母親にもお許し願わなければならないし、旅立ちは朝の方が縁起がいい。 ゼシカに手を引かれて歩き出そうとすると、オレの肩を後ろから誰かの温かい手が叩いた…気がした。振り返ると、そこにはゼシカの兄の墓。 ……まさか、ね。 オレはゼシカの手を強く握り、歩きはじめた。今の事、ゼシカには言わないでおこう。きっと物凄く悔しがるから。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/242.html
それはゼシカがいなくなってからしばらく経った日の夜のこと。 ククールは夜中にふと目を覚ました。 なぜ突然覚醒したのかと自分でも訝しむ。眠気はなく、頭はおかしなほどに冴えている。 呼ばれた気がして、ハッと窓の外を見た。薄暗い月明かりの中、闇夜にたたずんでいるのはーーー 「ゼシカ!!!!」 外に飛び出し叫んだククールの声に、背中を向けているゼシカの細い肩がビクリと揺れた。 なぜか触れることがためらわれ、ククールは息荒いまま、驚きと困惑に満ちた表情で彼女が振り向くのを待つ。 「……………………クク………」 ゼシカはひどくゆっくりと振り返り、今にも泣きそうな大きな瞳をククールに向けた。 その瞬間、ククールの中で張りつめていたものがはじけ飛んだ。 「ゼシカ………!!」 駆け寄り満身の力をこめてゼシカを抱きしめる。 他の多くの言葉は何一つ言葉にならず、ただその名だけを絞り出すように囁いた。 こんなに強くしたら痛いだろうと思うのに、抱きしめる腕の強さを弱めることができない。 ゼシカの手がククールの背中に回されかけ、何かをこらえるようにそっと下に降ろされた。 どうして来ちゃったの、とゼシカが呟く。 「………ククール………ごめん、なさい……わたし………」 「ゼシカ………!!この、バカ………!!!!」 ククールの声も、今にも泣き出しそうで。 「どれだけ…ッ。お前な、人がどれだけ心配したと……ッッ!!」 「ククール………」 「いなくなるんじゃねぇよ…!!二度と離れんなゼシカ……!!」 「……クク……」 ゼシカの身体が震える。少しだけ平静を取り戻したククールが両肩を掴んで身体を離すと、 彼女の目から大粒の涙がとめどなく流れていて、眉をひそめる。 「…泣くなよ。悪かった、怒ってんじゃねぇから…」 言いつつ親指で滴をぬぐって、手の平で頬を優しく上下してやる。 「………いいから。な?ほら、帰ろう。エイト達も心配して…」 「ごめんなさい、ククール…ちがうの、わたし…ッ」 ゼシカはあたたかく包まれた顔を振りほどくように地面を向いて、胸元で強く拳を握った。 「…わたし、わたし…ッ。もう、ダメなの…戻れないよ…」 「大丈夫だ」 「わたし、さよならを…言いにきたの…ッ」 「バカなこと言うな…お前はこうして戻ってきただろ」 「ダメなの、お願い、わたし…!!」 「大丈夫だオレがいるから」 「ククール…ッ」 ゼシカが嗚咽をあげて泣き始める。それでも自分の背中に回されない彼女の手に、 忌まわしき杖が握られていることにククールはその時はじめて気が付いた。 ギリ、と歯がみする。 「ゼシカ…大丈夫だ。お前は一人じゃないから。不安に思うことは何もない。だから」 色を無くすほどに強く杖を握りしめている、彼女の小さな手を取る。 「ーーー離すんだ。こんなもの、オレがぶっ壊してやる」 「だ…ッ、ダメよククール…!!」 ゼシカは突如、怯えを露わにして、泣きながらククールの手を振り払おうとした。 しかしククールは決してそれを許そうとせず、手を握ったままゼシカの瞳をのぞきこむ。 「ゼシカ、オレを信じろ。オレがお前を護るから」 「ククール、離して!」 「離さない」 「ククール!」 「ゼシカ、オレを見ろ」 「ククール!!」 「ゼシカ!!!!」 錯乱したようにククールを振り放そうと暴れる彼女を、ククールは再び腕の中に封じ込める。 そして、その勢いのままに、強引な口づけを。 あまりの驚きに目を見開き固まった身体をすぐには解放せず、 ククールはさらに長く深い口づけを彼女に仕掛け続けた。 次第に溶けていくゼシカの身体を支えながらようやくして顔を離すと、目の前には、目尻を赤く 染めながらもおそらく悲哀とは違う涙をためたゼシカの瞳が、艶をたたえてククールを見つめていた。 「………ッ、ククール………」 「…ゼシカ、………オレは」 お前が。 もはや溢れ出した胸の想いに、苦しげな表情でククールが口を開く。 その時 闇夜の雲が、月を隠してあたりを暗闇に染めた。 「ーーー………だからダメって言ったのに」 「………………………………え………?」 ゼシカの肩が震えている。クスクスクスと笑いながら…。 ククールは自分の腹を見た。 深々と突き刺さっているのは、愛しい人を苦しめている呪われし杖。 「…ッぐあ……ッッ!!!!」 「悲しいわ…本当に、弱い者は愚かで悲しい」 容赦なく杖を引き抜き、倒れるククールを悲しげに微笑みながら見つめている。 「愛することも信じることも、愚かで悲しいものでしかないのに」 「ゼ、ゼ…シカ…ッ」 ククールは倒れ伏した地面から顔をあげ、今や憎き者に意識を奪われたゼシカを見上げた。 ゼシカの姿をしたソレは、膝をつき、妖艶な笑みでククールの耳元に囁きかける。 「…アナタがね…邪魔だったの。口先だけの騎士、ククールさん?」 「この娘の心は悲しい復讐と執念にとらわれて、とても居心地がよかった…。でも、決して 支配させてはくれないの。甘美な闇に飲み込もうとすると、決まって助けを求めて名を呼ぶのよ… 一人は、サーベルト。そう…ふふ、この杖が殺してしまった大切な人の名前。 でも死んだ人間には何もできないわ。だから、厄介なのはねぇ、アナタなのよ、”ククール”。 この娘は私の支配に逆らい、何度も何度もアナタの名前を呼ぶの。 そしてそのたびにこの娘の心には光が灯る…希望と言う名の光がね。 アナタの存在は、この子の心に残された光…救い…願い…望み… 私が欲しいのは、絶望。そんなものはいらないわ。だからアナタもいらないの。 ………フ、フフ……。ウフフフフフ…アハハハハハハハ!!!! でも、もう、これでおしまい。心が求める最も愛しい者を、自らの手で殺したのだもの。 この娘の心に希望など、もう一欠片も残されてはいないわ。 ほら…私の中で泣き、叫んでいるこの子の声が聞こえる?悲しいわね…ウフフ…」 ゼシカの…いや、異形の者の美しい指が、血に濡れたククールの頬をなでた。 遠のく意識の中、去りゆく背中を必死で凝視しながら、 ククールは胸の内で彼女の名前だけを、何度も何度も、叫び続けていた。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/86.html
旅を続けるエイト達一行。まだ日も高くそれほど疲れてはいなかったが、目的の町に着いたので休憩をとる事にした。 宿屋を探して歩いていると町の人々がこちらを見ている。特に男達の視線が集まる。 「・・・?なんだろ。旅人が珍しいのかな?」 「なんでげすかねぇ?」 エイトとヤンガスは不思議そうに辺りを見ていた。 そんな二人の会話も気にせずゼシカは始めて来た町を見物していると、ある事に気が付いた。 隣を歩くククールの顔が怖い。しかも妙に自分にピッタリくっついている。 「?ククール、どうかしたの?怖い顔しちゃって」 「・・・・・・」 顔を覗き込むと更に怖い顔になって睨まれてしまった。 機嫌悪、と思い少し離れて歩くがククールは離れようとしない。 「なによ?」 「いいからオレから離れんなよ」 は?意味がわからない。怒ってるかと思い距離を置いたに離れるなとは。 こんなククールと一緒に居てはこっちまでムッとさせられる。そんな事を考えていたらエイトとヤンガスが立ち止まりキョロキョロし始めた。 「どうした?」 不機嫌そうにククールが声を掛けると、エヘヘと緊張感の欠片も感じられない笑顔でエイトが振り返った。「宿屋がわかんない」 それほど大きな町ではないが複雑に作られている所為で道に迷ったらしい。 道の真ん中に立ち止まり地図とにらめっこをしていると相変わらず町の男達がチラチラとこちらを見ていた。 「だぁーっ!!てめー、今ヤラシイ目でゼシカの事見てただろ!!」 大声を上げ絶叫するククール。次の瞬間には呪文を唱え始めた。 あの詠唱は・・・グランドクロス! 慌ててエイトとヤンガスが止めに入る。 大騒ぎしている三人を端で見ていたゼシカが盛大な溜息を吐き出した。 どうやらククールの不機嫌な原因はゼシカの装備している魔法のビキニにあったらしい。町の男達はそれを見ていたのだ。 二人がかりでやっとククールを落ち着かせたが、息も荒くゼシカに歩み寄ってきた。 「・・・くそ!これでも羽織れ!」 ククールはマントを外しゼシカの肩に掛けてやる。そして手を取りズンズンと歩き始めた。 「ちょっ!ククール?」 「おい!エイト、早く宿屋見つけろよ!」 エイトを怒鳴りつけゼシカを人目につかない路地裏に連れ込んだ。 「ったく!だから魔法のビキニ買うの反対だったんだ・・・」 「でもコレ結構守備力高いし、可愛いし」 「確かに可愛いけど・・・可愛いけど・・・」 オレ以外の男の目に触れさせたくないんだよ、と頭を抱え込みブツブツ言っているククールを見ていたらゼシカはなんだか急に嬉しくて自然と顔がにやけて来てしまった。 「?なに笑ってんだよ」 「フフ・・・バカね」 そう言うとゼシカはククールの頬を両手で包み込んだ。 「ヤキモチ妬く必要なんてないのに」 私はアンタのものなんだから。最後の言葉は声にせずククールを見つめる。 「ゼシカ・・・」 「ククール・・・」 お互いの顔が少しづつ近づいてゆく。ククールの唇がゼシカのそれに重なり合う瞬間。 「ククール!宿屋見つかったよ!」 嬉しそうな声のエイトの邪魔が入った。 「てんめぇ~エイト・・・」 がくりと頂垂れるククール。ゼシカは顔を真っ赤にして苦笑いを浮かべている。「あれ?二人ともどしたの?」 そしてキョトンとしているエイト。 「続きはまたね」 ゼシカは残念そうにしているククールにそっと耳打ちし、エイト達の所へ走って行ってしまった。 その後ろでは凄い形相でエイトを睨むククールがいた。 そんな三人を眺めていたヤンガスが一人呟く。 「兄貴・・・絶妙のタイミングでがす・・・」 終