約 1,352,989 件
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/328.html
世界のあらゆる場所には、聖職者と呼ばれる者たちが存在する。 神父、神官、シスターなど、その呼称はさまざまだが、 自らが信ずる神に仕え、慎ましい生活を日々送っているという。 やがてその身を捧げた彼らは、いかなる者とも婚姻を結ぶことなく、 清い身のままで終生を全うする。 しかし、ここサントハイム王国では、聖職者が配偶者を有し、 その者との間に子をもうけることが、特例として認められている。 はるか昔、わが国は宗教大国としてかつてない栄華を誇っていた。 敬虔な聖職者たちは、さらなる高みを目指して日々精進に励んでいた。 当時の記録では、聖職者、またはそれに準ずる職に就く者の割合が 全国民の七割強を占めていたと記されている。 ところが、原因不明の流行り病が突如発生し、瞬く間に国の全土に広がった。 聖職者たちの治療も空しく、抵抗力の弱い老人や子供が次々と倒れ、 やがて病の魔の手は、働き盛りの男や子育てに勤しむ女にも、容赦なく襲いかかった。 翌年になって、ようやく病の勢いが沈静化の兆しを見せ始めたが、 サントハイムの人口は、発生前の十分の一にまで落ち込んでしまった。 他国から移民を募ろうにも、恐ろしい疫病が蔓延した国になどに 自ら望んで入る者など、皆無に等しかったのである。 そこで、当時の国王は、暗黙の不文律を打ち破る型破りな令を出した。 本来独身であるべき聖職者の婚姻を、承認するというものである。 無論、他に家督を継ぐ者がいないなど、特別な理由がある場合に限るとの 但書が付け加えられていたが、壊滅的な人的被害を受けた当時のわが国では、 聖職者たちのほとんどがこの条件を満たしていたそうだ。 恋愛とは程遠い生活にあった聖職者たちは、当初はかなり困惑したという。 だが、国家の存続のため、子孫を残さねばならないという使命感と、 国王の強い勧奨もあってか、彼らの大多数は王命に従って婚姻を結んだ。 そのため、翌年、翌々年と高い出生率を維持することができた。 「———かくして、わがサントハイムは滅亡の危機を免れたのである、と。 なるほど、やっと理由がわかりました。貴国で聖職者の結婚が認められて いるのには、こういう事情があったのですか。実に興味深い歴史ですね」 「ええ。しかし私の場合、家督を継ぐというよりは———」 「王族であるアリーナ姫様のご夫君となられたからですよね、クリフト様」 「は、はい。そういうことになります」 クリフトが席についた机の真向かいで、金髪の若者は読誦していた 分厚い書物をそっと閉じ、屈託のない笑みを浮かべた。 一方のクリフトは、若者の無邪気にすっかりたじたじといった様子だ。 この若者は、交換研修のため、隣国エンドールの教会から派遣された新米の神官。 かつてのクリフトと同様、首席で母国の神学校を卒業した優秀な逸材で、 まだ十九歳と若いが、彼の国での将来を嘱望されたエリートだ。 彼が読んでいた書物は、サントハイム王国の歴史を綴った古文書。 年月が経っているせいか、表紙は擦り切れ、文字の一部は消えかかっていた。 この日は夜遅くまで、若者が読み上げた文章をクリフトが写本するという、 気が遠くなるような長い作業を付き切りで続けていた。 「少し休みましょうか。今お茶を用意しましょう」 「はい。ありがとうございます、クリフト様」 クリフトは席を立ち、静かに部屋をあとにした。 彼の姿が消えた直後、若者は凝った首と肩をほぐし始める。 偉大な先輩の足は引っ張るまいと、彼なりに必死に頑張ったのだが、 やはり慣れない作業での疲れは隠せないようだ。 少し経って、クリフトが二つのカップを携えて戻ってきた。 渡されたカップに顔を近づけ、若者は上品な茶の香りと口当たりを楽しむ。 クリフトも紺青の瞳をゆっくりと閉じ、夜のしじまを満喫した。 はかなげな白い湯気も、真冬の寒い部屋を温かな癒しの空間へと変えていく。 カップに口をつけながら、クリフトは先に寝室で眠っているであろう、 愛しい新妻のことを考えていた。 この調子では、今日もまた帰りは遅くなるだろう。 後進の指導に当たるべき立場上、やむを得ないと自身を納得させるが、 結婚して間がないというのに、早くも寂しい思いをさせている現実。 クリフトの心は、すまないと思う気持ちで一杯になっていた。 だからといって、現在進めている作業を中断するわけにはいかない。 束の間の休息のあと、覚悟を決めたクリフトは、ペンを握る右手に力を入れた。 「あの……クリフト様」 「どうしましたか?疲れているのでしたら、もう少し休憩を…」 「いえ、そうではありません。もう夜も更けましたので、 ここからの写本の続きは、私が一人で行おうかと思いまして」 「それは無茶です。まだ半分も終わっていないというのに」 「ですが、クリフト様は、明日はお休みの日ではありませんか。 せっかくの休日なのですから、ご夫婦水入らずの日になさるべきですよ」 「しかし、赴任してきたばかりの君には、あまりに量が多すぎます」 ご心配なく。幸い私は、今日は泊まりがけの勤めです。夜は繁雑な業務が ほとんどないので、じっくりこれに専念できますから」 「し、しかし、新任の君を一人置いて帰るわけには…」 「アリーナ姫様もきっとお待ちかねですよ。さあ、遠慮なさらずに!」 後輩より先に帰るのをあくまで渋るクリフトに、 若者は会心の一言で、事態の収束に持ち込もうとかかった。 「本当に…よろしいのですか?」 「はい!自慢ではありませんが、私も母国エンドールでの厳しい試験を経て、 貴国に派遣されたという自負があります。どうか心置きなくお任せを」 嬉々とした表情で、若者はクリフトに早く勤めを上がるよう強く促す。 が、突如愛妻の名を出された彼の顔は、なぜか少し赤くなっていた。 もしかして、熱でもあるのだろうか。 若者はクリフトの体調を心配するも、善行を積んだという自画自賛の念で 頭が一杯になっていたため、それ以上の詮索はしなかった。 「わ、わかりました。では…お言葉に甘えて、私は先に失礼します」 「お疲れさまでした。翌日中を目標に必ず完成させますので、 ゆっくりお休みください!」 若者は胸を叩き、自信ありげな表情でクリフトを見送る。 くれぐれも無理をしないように、と何度も念を押しつつ、 クリフトは彼の厚意を謝し、ひっそりとした夜の大聖堂をあとにした。 浴場で一人身体を清め、クリフトは静かな足取りで自分の部屋へと戻った。 ほっとため息をついたと同時に、一週間分の疲れがどっと肩にのしかかる。 (よかった。ぐっすり眠っているみたいですね) 寝室に向かうと、アリーナがクリフトのベッドで小さな寝息を立てていた。 実はベッドは二つあるのだが、こちらの方が居心地がいいという理由で、 いつも彼のベッドで眠っているのだ。 そのため、隣にあるアリーナのベッドは、シーツにしわ一つない状態だ。 本来の目的を果たせてもらえないせいか、どことなく寂しそうにも見える。 (こうして寝姿だけ見れば、まこと見目麗しき貴婦人なのですが) クリフトは一人苦笑し、アリーナを起こさぬよう、そっとベッドに潜り込んだ。 もし、空いている隣の方でうっかり就寝でもしようものなら、 一人寝をするのは自分を愛していない証拠だ、といわんばかりに たちまち責め立てられてしまうのは明らかだからだ。 「お帰りなさい、クリフト。今日もお疲れさま」 「!」 耳元で突然声をかけられ、クリフトは思わず飛び起きてしまった。 止まりそうな心臓を抑えるべく、とっさに胸に手を当てる。 しまった。またも眠ったふりをしていたのか。 寝たふりはアリーナの常套手段だが、あまりにも心地よさそうな寝顔のため、 連日の勤めで疲れきっていたクリフトの判断力を鈍らせてしまった。 「ちゃんと起きて待ってたわよ。それに、今夜は…」 「今夜は……?」 半身を起こしたアリーナは、クリフトの寝具の裾を軽く引っ張り、 何かをねだるような視線で、目の前の夫君の顔をじっと見つめた。 潤んだ緋色の瞳と唇は月明かりに照らされ、妖艶さを醸し出している。 声もいつもの溌剌なそれとは一味違う、妙齢の女性特有の艶気があった。 しかし、アリーナがそれ以上言葉を発することはなかった。 クリフトが、彼女の唇を自分の唇で塞いでしまったからだ。 二人はそのままの状態で、ゆっくりベッドの上に倒れ込んだ。 これから紡ぐ二人だけの時間に、言葉の駆け引きなど必要ない。 言葉にならない声や互いの甘い吐息が、そのまま会話の続きとなるのだから。 ◇◇◇ 翌々日の夕方。 さらにもう一日休みを取り、心身ともに英気を養ったクリフトは、 勤めに出るべくいつものように大聖堂の門をくぐった。 今夜は泊りがけになるため、右手にはアリーナ手作りの夜食を携えている。 書庫の前では、写本を手伝ってもらった若者が書物の整頓に勤しんでいた。 彼はクリフトの姿を見るや否や、あわてて踏み台から降りてきた。 「はっ、クリフト様!…い、今からお勤めの時間ですか?」 「ええ。一昨日はご苦労でしたね。一人で大変だったでしょう」 「と、とんでもありません。とても…よい勉強になりました」 「それはよかったです。おや?顔が赤いですね。熱でもあるのでは…?」 「だ、大丈夫です!何でもありませんからっ!」 心配したクリフトが額に手を当てるが、顔の赤さほどの熱はないようだ。 慣れない地での初仕事ゆえ、気負いから疲れが出たのだろうか。 やはり新任の身では、膨大な量の写本は負担だったに違いない。 気の毒なことをさせたな、とクリフトは少し後悔した。 「おや?これは…」 ふと自分の机に視線を移すと、丁寧に揃えられた原稿の束と、 傷みが進まないよう布をかぶせた古文書の原本が置かれていた。 手間のかかる作業だっただろうに、大したものだ。 クリフトは驚きで目を丸くさせ、原稿と若者を交互に見続けた。 「何と。これを全部仕上げたのですか?」 「は、はい。何とか昨日中に終わらせることができました」 「ありがとう、本当に助かりました。さすがは隣国の精鋭ですね」 「いえ、クリフト様。お褒めに預かり、光栄です…」 「君は明日から二日間お休みでしたね。連日の夜勤、お疲れさまでした。 あとは私が代わりますので、そのままにしておいてください」 「は、はい!で、では…お先に失礼いたしますっ!」 若者は深々と礼をし、即座に部屋をあとにした。 身体をあちこちにぶつけ、何度も悲鳴を上げながら走り去っていく。 一昨日の夜とは打って変わり、若者の様子はどこかよそよそしい。 どこか自分を避けている風にも見えるが、クリフト自身には 思い当たる節はない。 不思議なこともあるものだ、とクリフトは首をかしげた。 それもそのはず。その要因は彼の側には全くなかったのだから。 若者の動揺の原因は、彼がクリフトに代わって行った写本の続きにある。 聖職者が配偶者との契りを許された日は、勤めが休みの日の前夜のみ。 いくら婚姻が認められるとはいえ、夫婦の契りを交わしたその日に、 大聖堂など神聖な場所に足を踏み入れるわけにはいかない。 それゆえ、契りの機会は必然と限られ、さらに、子をもうけるためには より綿密な計画性が要求される、というわけだ。 作業を終え、結末を知った純情な若者は、善意で行ったはずの 自分の行為に赤面し、クリフトの顔を直視できなかったのである。 やはり気の毒なことをさせた、とクリフトは改めて悔やんだ。 サントハイムには、現在クリフトを含め、一割ほど既婚の聖職者がいるが、 そういう事情から、彼らは休日を優先的に決める権利が与えられている。 長旅を終えて以後、重要な地位にあるクリフトにそんな余裕は ほとんどなかったが、最低でも週に一度の休みは取らされていた。 一つは、後進を育成する立場上、体調管理が必要不可欠なため。 クリフトは、妻であるアリーナに比べ、身体があまり丈夫な方ではない。 もし彼に倒れられれば、たちまち他の神官たちの負担が倍増してしまう。 それを熟知しているからか、彼の体調を親身に気遣ってくれるそうだ。 サントハイムの政治は、国王の力量により安定が続いているが、 同国の宗教界の勢力は、クリフトの尽力によって均衡が保たれている。 今や彼は、この国になくてはならない存在の一人なのだ。 そしてもう一つは、将来この世に生まれるであろう次の王位継承者の 父となり、サントハイムの繁栄にその身をもって貢献するため。 クリフト自身、アリーナが頭の上がらぬ数少ない人物であるがゆえに、 彼女の歯止め役も同時にこなさなくてはならない。 痩身の肩にのしかかった重圧は、まさに鋼鉄の鎧のごとくである。 自室に戻った若者は、ようやく心の平静を取り戻した。 瞬間的な心労でぐったりした身体をベッドに横たえ、ため息をつく。 「いててて。ああ、疲れたなあ……」 若者は独り言を呟いたあと、天井を見据えたまま考え事をしていた。 自分がまだ、天才と呼ばれた神学生の頃のことだ。 世界を救った八傑の一人であるクリフトは、他国でもその名声は高い。 もちろんそれは、当時エンドールの神学生だった若者にも耳に入っていた。 いつしかクリフトは、自分の目標かつ憧れの的となっていた。 合格確実といわれた交換研修の選抜試験にも、決して手は抜かなかった。 実際に会って、まさに評判どおりの人物だと確信した。 そして、端から見れば順風満帆そのものの人生に隠れた、 切実な現実も同時に知ってしまった。 夢と希望を胸にサントハイムに入国した時、若者は三年を目標と定めて クリフトに追いつこうと目論み、緻密な努力と精緻な分析を重ねてきた。 だが、偉大なる先達の底知れぬ苦悩に接し、彼の浅はかな考えは 意味を成しえなくなった。 賢明で思慮深いあの方の責務は、周囲の者が考えているより はるかに大きく、過酷なものなのだ。 それを数年で超えるなどとは、思いあがりもいいところだ。 神童と褒めちぎられ、挫折どころか他人に追い越されることすら 経験したことのない若者にとって、自戒を促す苦い薬となった。 学問も人生も、学びに王道なし。 既得の能力に奢ることなく、今自分が出来うることを確実に実行し、 着実に身につけてゆこう。 若者は自分の慢心を恥じ、更なる精進に励む決意を固めた。 (完)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/131.html
クリフトのアリーナへの想いはPart5 372 :【月のかけら】1/5 ◆cbox66Yxk6 :2006/05/29(月) 22 02 59 ID ING++uwj0 「あれ、これって」 とある町で行われた夜祭でのこと。 その露天で売られていた子供向けのおもちゃにアリーナの視線が釘付けになった。 「どうしたの?」 その背後からひょいと顔を覗かせたマーニャが、アリーナの視線の先にある少し濁った水晶のかけらを手にとり懐かしげに目を細めた。 「へぇ、月のかけら・・・まだ売っているのね」 マーニャの声にアリーナは、「やっぱり・・・」と呟く。 王族として生まれ育ったアリーナが、こういうおもちゃに触れる機会はそうそうなかった。 しかし、目の前にあるこの水晶のかけらには確かに見覚えがあった。 そうあれは確か・・・。 アリーナの脳裏にいまよりずっと幼い顔をしたクリフトが浮かび、月のかけらと重なった。 「そうだわ、あの時の」 クリフトがくれた『おつきさま』。 その言葉がきっかけとなったのか、アリーナの中の記憶が鮮明によみがえった。 「いやいや、おつきさまが欲しいの!」 こんなのイラナイ~。 外国製の人形を振り回して癇癪を起こすアリーナに、父王とブライが困り果てた顔をする。 そんな中、蒼い髪をした少年が遠慮がちに声をかけてきた。 「ひめさま、そんなにおつきさまがほしいのですか?」 アリーナの乳兄弟として、そして学友として城勤めをしていたクリフトが大人たちの視線を一身に浴びながら申し出る。アリーナが「ほしい!」と大きな声で答えると、年より大人びた印象をもつ少年はやんわりと笑いながら頷いた。 「わかりました。でも、おつきさまはみんなのものです。一日だけ、とおやくそくしてくれますか?」 そうしたら、ひめさまにおつきさまをとってさしあげます。 一日だけと聞いて、ちょっとだけ迷ったものの、月がどうしてもほしかったアリーナは何度も頷く。 「おつきさま、とって!」 夜空を指し示し、「いますぐとって」と言い募るアリーナに、クリフトはかぶりを振る。 「きょうはむりです。あと3日まってください」 かならずとってさしあげますから。 そう言い切ったクリフトにサントハイム王とブライが心配げな視線を送るが、クリフトは何も言わず、ただまっすぐに見返した。その瞳はとても穏やかで自信に満ち溢れていた。 「では、3日間、いい子にしていてくださいね」 いい子にしていないとおつきさまは会いにきてくれませんよ。 クリフトの言葉に、アリーナは「わかったわ」と元気よく答えると小指を突き出した。 「やくそくね」 3日後、クリフトに誘われて城の中庭に立ったアリーナは、クリフトの手に握られたものと空を見比べ、目を輝かせた。 見上げた空に月はなく、クリフトの手に小さな銀色のかけら。 「ほんとうに、おつきさま、とってくれたんだ」 満面の笑みを浮かべたアリーナの手にそっとかけらを握らせると、クリフトは庭の片隅に腰をおろす。 「よかったですね、ひめさま」 これも、ひめさまがいい子にしていたからですよ。 3つしか違わないのに、妙に大人びたことを言うクリフトにアリーナは少し不満を覚えたが、それ以上に『おつきさま』が嬉しくて、クリフトの横に座ると一緒にかけらを眺めた。 「きれい」 「きれいですね」 「でも、いちにちだけなのよね」 「えぇ、いちにちだけです」 「つまんないのー」 「ひめさま、わがままをおっしゃると、おつきさまはおそらにかえってしまいますよ」 思わず口元を押さえたアリーナにクリフトは小さく笑うと、星だけが瞬く夜空を見上げた。 月のない夜。それは新月と呼ばれる。 ふたりはその晩、いつまでも飽きることなく『おつきさま』を眺め続けた。 そして東の空が白み始める頃。 クリフトに促されたアリーナはそっと草陰に『おつきさま』を置いた。 「これで『おつきさま』は、おそらにかえれるの?」 「はい、でも、おつきさまは、はずかしがりやさんなのでみていちゃだめですよ」 いきましょう、と背中を押されアリーナは一度だけ『おつきさま』を振り返ると、小さく手を振った。 「ばいばい」 そしてクリフトの横に並ぶと、その手をぎゅっと握った。 あんなにほしかった『おつきさま』だったのに、お別れと聞いてもそれほど悲しくないのが不思議だった。 複雑な思いに、クリフトのぬくもりが重なる。 驚いたようにこちらを向いたクリフトだったが、やがてとても優しい微笑を浮かべると、アリーナの小さな手をそっと握り返した。 「いきましょうか」 クリフトの穏やかで透明な微笑み。アリーナの大好きなクリフトの笑顔。 それは『おつきさま』を思わせるやさしいもので。 「どうしました?」 心配げな顔をして、クリフトがぼんやりとしていたアリーナの顔をのぞきこむ。 「ねむくなっちゃいましたか?」 クリフトの言葉に我に返ると、アリーナは屈託のない笑みでこう言った。 「クリフトっておつきさまみたいね」 だからおわかれがさびしくないんだわ。 アリーナの言葉に目を丸くしたクリフトだったが、少し頬を赤らめると小さく「ありがとうございます」と呟いた。 記憶の海に沈みこんでいたアリーナを、マーニャの声が現実に引き戻した。 「おじさん、これいくら?」 「30G」 「あいかわらず高いわね~」 それじゃ、子供のお小遣いなくなっちゃうわよ! マーニャの呆れたような言葉に、露天商のおじさんが朗らかに笑った。 「だって、安売りしちゃったら、夢が壊れるだろ?」 だからこれくらいがちょうどいいのさ。 そう陽気に言い放ち、アリーナの方へウィンクする。 「お嬢ちゃんもそう思うだろ?」 アリーナは突然話を振られ、少し驚いたが、やがてとても優しい笑みを浮かべて頷いた。 「そうね」 その表情の美しさに、思わずマーニャが息を呑んだ。そしてアリーナに『おつきさま』の話を聞くと、さも納得したかのように頷いた。 「なるほど、ね」 素敵な思い出ね。 「ありがとう」 少しはにかんで答えるアリーナの視線の先には、あの頃と変わらずに自分を見守ってくれている 『おつきさま』 自分の方を見ていたアリーナに気づいた彼は、小首を傾げると柔らかな笑みを浮かべる。 今ならわかる。どうしてあんなに月がほしかったのか。 「わたし、あんなに小さい頃から」 クリフトのことが好きだったのね。 胸のうちで囁かれた言葉は、誰に聞こえることもなかったけれども、夜空から見守ってくれる月だけがその想いを温かく包み込んでくれた。 暗い闇の中でも、私は大丈夫。だって私には『おつきさま』が傍にいてくれるから。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/101.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 897 :【強がり】その1 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 12 34 41 ID 7pZgGDPt0 「おい、クリフト。さっきの戦闘で怪我しただろう?」 回復呪文かけてやるから。 ソロの言葉にクリフトはやんわりと笑った。 「大丈夫ですよ」 敵の爪が掠めたわき腹は、服が破れ血が滲んでいる。にも拘らず、クリフトは平気だという。 「おまえさ、強がるのも大概にしておかないと」 ため息混じりに呟くソロに、かなり頑固な一面を併せ持つ神官は笑いながらかぶりを振る。 「本当に、大丈夫ですから」 そんなやり取りを聞いていたアリーナが、無言でクリフトのわき腹を『小突いた』! その瞬間、辺りに意地っ張り神官の悲鳴が響き渡る。 「お、おい」 わき腹を押さえて蹲ったクリフトの肩に手をかけながら、ソロが慌てた。 青ざめた額に脂汗が滲んでいる。 思わず息を呑んだソロの横から、この場にそぐわないのんびりした声が発せられる。 「ほら~、やっぱり痛むんじゃない。強がってないでソロに治療してもらいなさいよ」 クリフトってホントは痛みに弱いのよね~。 けらけらと笑いながら、アリーナはその場を立ち去っていく。 その後ろ姿を眺めながら、ソロは思わず呻いた。 「アリーナ。おまえが止めを刺してどうする・・・」 自分の馬鹿力、そろそろ認識した方がいいぞ・・・。 ホイミで終わるはずだった怪我が、ベホマになってしまったことは、心優しい神官の希望もあって、ソロの胸のうちに収められた。 どうやらクリフトの「強がり」も、アリーナの前では形無しらしい。 (終) 898 :【強がり】その2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 12 36 19 ID 7pZgGDPt0 「だ、大丈夫です。まだ、いけます・・・」 額にびっしりと脂汗を浮かべたクリフトが、青い顔で笑う。 「お、おい」 もうやめておけ。 そういうソロにかぶりを振り、クリフトは果敢にも目の前の『物体』に手を伸ばす。 その腕を脇から、しわだらけの手が掴んだ。 「やめておけ、クリフト。無茶をするでない」 ミントスの二の舞になるぞ。 小さく囁かれた言葉に、ソロは恐れおののく。 (おいおい、ミントスでのクリフトの病気って・・・) 「ただの・・・食あたり?」 そう口にしてみてソロは目の前の物体に、改めて今までに感じたことのない恐怖と悪寒を感じた。 クリフトが挑もうとしているのは、アリーナの手作り料理。ただし、人が食べるものには見えない。しかし、本人曰く、愛情のこもった料理とのことなので、そう言われたクリフトが食べないわけにはいかない。ある意味、モンスターより性質が悪い。 ブライの制止を振り切り、震える手でアリーナの愛情を噛み締めるクリフトに、ソロは深々とため息をついた。 「おまえ、『強がり』も程々にしないと・・・」 命を落とすぞ。 この日、ミントスを震撼させた謎の病の正体がわかり、関係者は胸をなでおろすと同時に、得も言われぬ恐怖を覚えたという。 (終) 900 :【強がり】その3 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 13 18 28 ID 7pZgGDPt0 「なぁに、わしは姫様の御子を見るまでは、簡単にはくたばりませぬぞ」 心の底からそう言って笑ったのは、いつの日のことだったか・・・。 「いい加減にしてくれぬかのう・・・」 旅を終えて10年、未だに晩熟な神官と姫の仲は発展していなかった。 「はたして、いつまで強がれるものやら・・・」 頼むから、早くしてくれ。 ブライの『強がり』はまだまだ続く。 (終) 901 :【強がり】その4 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 13 19 26 ID 7pZgGDPt0 「いいわよ、別に」 クリフトなんかいなくたって、大丈夫よ。 そう言ったアリーナだったが、次の台詞を聞いて満面の笑みを浮かべた。 「わかりました。私も行きましょう」 「ホントに?」 「はい」 アリーナはクリフトの首に飛びついた。 「ありがとう!」 さっきの台詞は嘘。ホントはあそこから見える景色を、あなたとふたりで見たかったの。 ふたりの頭上に、青々とした葉を茂らせる世界樹がそびえたっていた。 (終) 905 :【強がり】その5-1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/13(木) 17 47 42 ID 7pZgGDPt0 「嫌って言ったら嫌なの!!」 扉越しにアリーナの声が響く。 やれ勉強しろだの、やれ礼儀作法がなっていないだの、小言ばかり並べ立てられたアリーナがついに切れて、自室に閉じこもること丸一日。 なだめすかす教育係の面々にも濃い疲労の影が見える。 「お願いですから、出てきてくださいよ~」 歴史学だかなんだかの先生が泣き崩れる。それでもアリーナの反応は「いや」の一言。 「姫様、いま料理長がおいしいお菓子を作っておりますぞ」 「・・・いや」 昨日からまともに食事を取っていないせいだろうか。ほんの僅かな間があった。 しかし返った答えは同じだった。 「姫様、以前欲しがっていた『サントハイム武闘家大全』が手に入ったのですけど」 なかなか手に入らない逸品ですよ。 「・・・・・・いやよ」 今度はさっきより若干沈黙が長かった。 「姫様、本日サランの町に旅の武闘家なるものがやってきておりますが」 「・・・・・・・・・出ないっていったら、出ないわよ!!」 いつもであったらとっくに扉を開けているだろうに、今回の癇癪は相当根が深いようである。 疲れ果てた人々が顔を見合わせてため息をついていると、ブライに呼ばれて青年神官がやってき た。 「姫様?いらっしゃるのですか?」 クリフトの呼び掛けに、イライラとした声が返る。 「クリフトまで・・・何しに来たのよ!!私はね、一切の勉強をしなくていいと約束してくれるまでここを出ないわ!!」 私の意志は固いんだから!! クリフトは大仰にため息をつくと、少し悲しげに呟いた。 「そうですか。聖地巡礼の旅に出ることになったので、最後に姫様にご挨拶を、と思ったのですが・・・」 残念です。 クリフトの言葉が終わるや否や、扉が荒々しく開き、アリーナが飛び出してきた。 「ちょっと待ってよ!そんな話聞いてないわよ!!」 クリフトの襟に手をかけたアリーナに、クリフトはクスクスと笑った。 「また引っかかりましたね」 「あっ」 すかさず周りを取り囲まれたアリーナは自分の失態に気づく。 「クリフト~」 ぎりぎりと悔しそうに歯噛みするアリーナの頭をぽんぽんと叩くと、クリフトはにっこりと笑った。 「さ、私も一緒にお小言を聞いて差し上げますから」 むっとした顔のままアリーナが耳元で囁いた。 「で、巡礼の話は本当に嘘なのね」 「はい」 クリフトが頷くと、アリーナは少しほっとしたように笑った。 アリーナの強がりはこれが限界のようである。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/181.html
クリフトとアリーナの想いはPart7 20 :【勝負】1/6 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/02/27(火) 12 39 03 ID LUTvY6IV0 旅の途中で魔物に遭遇した勇者一行は、勇者、ライアン、マーニャ、アリーナのパーティで応戦した。 しかし、魔物の中にデビルプラントがおり、マホトーンを唱えられてしまったためマーニャは後手に回り、ライアンとアリーナが中心、勇者がサブとなって連携を組むことになった。 そして、魔物を全滅させた後、アリーナが晴れ晴れとした表情で言った言葉が事の発端となった。 「うーん、やっぱり、最後に信じられるのは自分の腕よね!」 アリーナに悪気はなかったのであるが、魔法を封じられて充分に攻撃に参加できず、ストレスの溜まっていたらしいマーニャは、この言葉にムッとした顔をした。 これで済めばその場は適当に収まったのであろうが、これにライアンが余計な相槌を打ってしまった。 「うむ。やはり、鍛錬と汗によって身につけたものは、決して自分を裏切らないからの。」 ライアンとしては、「努力すれば報われる」程度の意味で言ったのであろうが、選んだ言葉とタイミングが悪かった。 その場にいた全員が、マーニャのこめかみあたりで、ブチっと音がするのを聞いた。 「ちょっと何よ、その言い方!魔法は、信じられない役に立たずってわけ!?」 「い、いや、マーニャ殿の鉄扇は、魔法がなくても充分脅威であるぞ!」 ライアンが慌ててフォローしようとするが遅かった。しかも、 「ライアンさん、今の場合はそれじゃフォローになってないよ…。」 勇者は呟いた。 マーニャはアリーナとライアンにびしっと指を突きつけた。 「こうなったら、勝負よ!ライアン!アリーナ!魔法とあんたたちの武術と、どっちが強いか試してみようじゃないの!!」 「マーニャさん!困ります!姫様にそんなことけしかけないでください…!」 慌ててクリフトが前に出る。 「そうそう、マーニャさん、そんな、仲間内で勝負だなんて、やめましょうよ。」 トルネコがとりなし顔に頷いた。 しかし、アリーナは目をきらきらと光らせて、ガッツポーズを作った。 「面白そうじゃない!やるわよね!ライアン!」 ライアンも、困ったように髭をなでていたが、何しろ、勝負事は大好きな王宮戦士、 「しかし、そうだとすると、拙者達2人対マーニャ殿1人では、ちと不公平…。」 頭の中では既に段取りに入っているようだった。 「何言ってるのよ。あんた達の腰抜け武術なんか、あたし1人で充分よ!」 「なんですって!あたしだって、1人で充分よ!」 マーニャの言葉にアリーナが色めき立つ。 闘いが日常である勇者一行の間では、戦闘能力の向上は最大の関心事の一つであり、互いの腕を競い合うこともないではない。 特に、負けず嫌いのアリーナとマーニャが角つき合わせることはしょっちゅうであった。 しかし、今回はいつもとは違い、何やら抜き差しならない雰囲気となってきている。 こういうときに頼りになるはずのブライは、腰痛で馬車の中で寝込んでいた。 既に、アリーナとマーニャはお互いの間合いを取り始めており、ミネアとトルネコは、もはや説得は無駄とみて、黙々と薬草と包帯を準備し始めた。 「ちょっと、2人とも…ソロさん、何とかしてください!」 クリフトは勇者の袖を引っ張ったが、勇者はあさっての方向を見ていた。 「無理無理。あの2人がああなったら、誰にも止められない。」 それに、2人とも、たまには痛い目に合った方がいいって、と苦々しげに言う勇者に、クリフトは唇を噛み締めた。 マーニャの魔法に、アリーナの武術。 本気でぶつかりあえば、互いに軽くはない傷を負うのは必定である。 クリフトは、意を決したようにアリーナ達の方へ歩み寄った。 「そういうことならば、強さ比べのルールは、第三者である私が決めさせていただきます。」 突然割り込んできたクリフトを、2人は胡乱な顔で見やる。 「強さを試す方法として、お互いに戦うのではなく、私を倒してみてください。 マーニャさん、姫様がそれぞれ交替に攻撃をして、私を先に倒した方の勝ちです。 傷を負えば、交替のときに自分に回復呪文をかけますから不公平にはなりません。」 アリーナは、驚いた顔で首を振った。 「そんな!クリフト、危なすぎるわ!」 「そうよ、あんた何考えてるのよ!」 マーニャもアリーナに同調する。 クリフトは、そんな2人を見てほがらかに笑って見せた。 「お2人とも、随分な自信がおありのようですね。私としては、太陽が地平線に沈むまでに どちらかが私を倒せることができたら、お慰みだと思いますけども。」 太陽は中天を過ぎたと言っても、入日には程遠いところにある。 らしくないクリフトの挑戦的な発言に、勇者は驚いた顔で振り向き、ミネアとトルネコも、薬草を持ったまま手を止めて目を見張った。 ライアンは、何か言いたげに眉を上げたが、口は閉じたままだった。 しかし、アリーナとマーニャは、クリフトの口調にカチンと来たらしい。 「言ったわね!クリフト!もう許さないんだから!」 「後悔するんじゃないわよ、その言葉!」 2人はクリフトに向かって構えを取った。 「はあ、はあ、なんで、クリフト1人ごときを倒せないのよ!」 既に太陽は地平線に沈もうとしていた。 ギャラリーは、ミネアが入れたお茶を飲みながら座って観戦している。 アリーナもマーニャも、肩で息をしていたが、クリフトはまだ、たいした傷もなく立っていた。 クリフトは、アリーナの攻撃にはスクルト、マーニャの攻撃にはマホトーンを唱え、あとは剣と体術で躱わすという非常にシンプルな方法で対応していたのみであったが、 なんといっても、クリフトの補助呪文のタイミングは、常日頃の実戦で鍛え抜かれている。 2人がそれぞれ、呪文の詠唱の隙を狙って攻撃しようとしても、うまく急所を外され、気づいたときにはすでに呪文は完成し、主な攻撃の手が封じられている、という状態であった。 加えて、クリフトは、攻撃をかわしながら絶えず2人を挑発し続けており、それが2人の冷静な判断力を失わせていた。 今も、悔しげにクリフトを睨む2人に対し、クリフトは馬鹿にしたような薄笑いを浮かべた。 「そろそろ日が沈みますよ。所詮、あなたの魔法なんて、そんなものですか、マーニャさん! 姫様も、武術大会で優勝された割には、攻撃がお粗末でしたね!」 2人の顔が赤く染まった。 「~~~!もう許せない!」 「く~~!むかつく~!!」 「マーニャ!」 「やっちゃいましょう、アリーナ!」 2人は同時にクリフトに向かって突進した。 「わ、ルール違反。」 お茶をすすりながら勇者が呟く。 ミネアは黙って用意した薬草を取り上げた。 クリフトとて、同時に複数の呪文を唱えられるわけではない。 とりあえずマホトーンを唱えることに成功し、黒焦げはまぬがれたものの、その間に間合いに入ったアリーナの突きが見事に決まり、遠く宙に舞った。 「アリーナ、よっしゃーー!」 「やったわ!マーニャ!」 手を取り合って喜ぶ2人の横を、ミネアと勇者が通り過ぎ、クリフトを覗き込む 「ザオラル、必要そう?」 「いえ、べホマで何とかなりそうですわ。」 あとで、薬草の包帯もしておきましょう、とミネアがクリフトに手をかざした。 「あっつ…、ありがとうございます、ミネアさん。姫様の突きは、相変わらずきついですね。」 クリフトが苦笑しながら体を起こした。 そんなクリフトにマーニャとアリーナが駆け寄って来た。 「どう!クリフト!」 「あんまり女をバカにするもんじゃないわよ!」 肩を組んでブイサインを決める2人を見て、勇者とミネアが静かに言葉を交わす。 「俺、こいつら殴ってもいいかな。」 「むしろ、クリフトさんにザラキしてもらって放置した方が静かですわよ。」 ライアンとトルネコも近寄ってきた。 「いや、クリフト殿、体を張ってのご仲裁、見事でしたな。」 「私にはとてもまねできません。クリフトさんならではの方法ですね。」 その言葉に、アリーナが我に返った。 「そういえば、私、マーニャと勝負してたのよね。」 「でも、全部クリフトによけられちゃった。クリフト、いつの間にそんなに強くなったの?」 「ホントよ~。相変わらず、隅に置けない男よね~。」 全く反省の色を見せずにあっけらかんとしている2人の言葉に、クリフトは首を振った。 「私が強くなったわけではありません。今回の攻撃は、マーニャさんは魔法、姫様は打撃と、あなた方がどんな攻撃をしかけてくるか、事前に分かっていましたから、防御する側としてはこんなに簡単な戦いはありませんでした。」 お2人が力を合わせない限り、私はいつまでもあなた方を防ぎ続けられましたよ、と続けると、クリフトは、2人を厳しい目で見据えた。 「そして、それは、魔物にとっても同じことが言えます。」 2人は、ハッとした顔をした。 「分かりましたか、お2人とも。魔法と武術のどちらが上か、なんて全く意味のないことです。 それぞれが、互いに足りないところを補い合ってこそ、本当の強さが生まれるんですよ。」 2人はバツが悪そうに目を見合わせる。 クリフトは、そんな2人を見て表情を緩めると、優しく声をかけた。 「…それが、仲間でいるってことじゃないですか。」 その言葉にマーニャは照れくさそうに頬をかき、アリーナは満面の笑みで顔を上げると、思い切りクリフトに抱きついた。 「クリフト!クリフトって、やっぱりすごい!」 「え?え?ひ、姫様!!??」 とたんに今までの威厳はどこへやら、真っ赤になってオロオロし始める神官を見て、周囲は明るい笑い声を上げた。 ―――それが、仲間でいるってことじゃないですか。 暮れなずむ空の下、クリフトの言葉は、仲間達の胸の中に暖かい炎をともしたのだった。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/104.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 917 :お題【強がり】1/4 ◆VmkRIFTnuM :2006/04/16(日) 02 12 42 ID 8B7WOMm00 「嫌よ嫌あー! ぜったい、いやあ!」 久しぶりにエンドールに集まった俺たちは、楽しいひとときを過ごすはずだった。 アリーナがこんなに取り乱すところ、初めて見た気がする。 サントハイムに巣食う魔物を倒しても、城の連中が戻って来なかった、 あのときでも気丈に振舞ってたっていうのになあ。 マーニャとミネアがアリーナをなだめる。それでも、アリーナは嫌だ嫌だと首を振って泣き叫ぶばかり。 アリーナから手紙が来たのは、5日ほど前のこと。 お父様……サントハイム王の言いつけで、クリフトとブライも一緒にエンドールに 行くから、みんなで久しぶりに集まろう! そんな可愛らしい手紙だった。 トルネコは喜んで是非うちに泊まってくれ、と言い出した。 ネネさんがアリーナにそっと声をかけて、二階へ上がる。 ずっと、息をすることすら気を使っていたライアンが、ふう、と大きなため息をついた。 こんな状況だっていうのに、ひとり無表情で微動だにしないのは、クリフト。 「ちょっとクリフト! あんたがなんとかしなくてどーすんのよ! 何ずっと黙ってんのよ!」 マーニャがクリフトを罵倒する。それでも、クリフトは無表情のままだ。 ま、そりゃそうか……。 俺はすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。 そもそも、王様の用事っていうのは、アリーナの縁談。 武術大会でエンドールのお偉いさんが、アリーナにひとめ惚れしたっていうことだ。 王様はそれはそれは喜んだけど、アリーナが素直に言うことを聞くとは思えない。 だから、クリフトとブライに、この話をうまくまとめるよう命じた。 つらい話だよな、クリフトには。 「アリーナが嫌だっていうなら、アタシなんか代わりにどうかなー。 結構いい男だったわよねー」 「いや、それ無理だから」 思わず俺は間髪入れず突っ込みを入れて、マーニャに殴られた。 じーさん、今ごろ、話をまとめてんのかなあ。こんなにアリーナが嫌がってるのに。 「いやあ、アリーナさんがあんなに取り乱すなんて驚きましたよ」 トルネコも少し安心したかのように、ようやく椅子に腰掛けた。ポポロがトルネコに 纏わり付いてくる。 「なあミネア。占ってやったらどうだ? アリーナのお相手」 俺はミネアが手にしているタロットに目をやった。旅の途中でも、ミネアの占いにはよく助けられた。 「ご本人が望まない占いは、できませんよ」 そういうもんなのかねえ。ミネアはタロットを紫の布に大切そうにくるんだ。 マーニャとミネアがクリフトにあれこれと意見を言ってる。 トルネコとライアンはポポロの相手。 ……はぁ。どうなることやら。俺は頭をボリボリ掻いた。 「クリフトさん、アリーナさんが呼んでますよ」 ネネさんが階段から下りてきた。アリーナが、クリフトを? ……まさか。 「……私、を……?」 クリフトは立ち上がろうともしない。マーニャがクリフトの頭をぺちーんと叩いて、椅子から強引に立たせた。 「あんたね、いつまでグダグダしてんの。しっかりしなさい。男でしょ」 いつにない、マーニャの真剣な表情。その迫力に思わずクリフトが唾を飲んだ。 「……わ、判りました……」 ひどくノロノロした動きで、クリフトが二階に向かう。 「ネネ。アリーナさんは大丈夫かい?」 「ええ、もう大丈夫でしょ」 ネネさんはクスクスと笑う。そういや、この中で奥さんってのは、ネネさんだけ なんだよな。 「私がこの人と結婚したときの話をしてあげたのよ」 「え、ちょっ……ネネ! 何を」 トルネコが顔を真っ赤にして大慌て。へえ、トルネコでもこんな顔するんだなあー。 「この人と結婚するって言ったとき、両親に猛反対されたのよ。そのときはこの人、 武器屋の日雇いでねえ。収入も安定してなくて、夢ばっかり追って……」 そんな思い出を語るネネさんは幸せそうだ。なんだか、いいな、こういう夫婦。 「私は言ってやったのよ。私が選んだ人なの、私を信じられないっていうの? って。私はこの人の夢を叶えるために一緒になるの、この人の夢を叶えることが 私の夢だ、ってね」 トルネコは落ち着き無く部屋をウロウロ。その後を、楽しそうにポポロが追いかける。 「すっごーい! ネネさん、かっこいー!」 キラキラした笑顔を見せたのは、マーニャ。好きそうな話だもんな。 ……でも、俺も、そう思うよ。ネネさん、かっこいいな。 俺は……もう、手遅れ、なんだよな……。 「だから、ね。それほど嫌なら、やめちゃいなさい。あなたにはあなたの想いが あるでしょ、障害は多いかもしれないけど、自分が信じた道を行きなさい、ってね」 ……自分が、信じた道か。あの旅を思い出して、小さなため息が出る。 しばらくすると、クリフトが二階から降りてきた。 マーニャが真っ先に駆け寄る。俺も椅子から立ち上がって、クリフトの顔を見た。 「……ブライ様のところへ、行ってきます」 さっきの無表情とは全く違う、強い意志を感じる表情。 ああ、アリーナの信じる道……その話を聞いたんだな。 茶化そうとして駆け寄ったマーニャが、思わずぐっと唇を噛んだ。 一瞬、目を閉じて、クリフトの肩に手を置く。 「いってらっしゃい。アリーナを、ちゃんと守ってやるのよ」 「はい」 クリフトは笑顔で、しっかりと答える。 もう、大丈夫だな。 なあ、クリフト。 失ってから大切だって気づくのは、もう、遅いんだ。 がんばれよ。アリーナに何を言われたのか知らねえけどさ。 夜の闇に消えていくクリフトの力強い後姿を、俺たちはみんなで見送った。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/430.html
クリフトのアリーナの想いはPart12.5 843 1 名前 1/3 Mail sage 投稿日 2013/03/13(水) 11 25 17.70 ID GxdP4qNG0 「アリーナ、お前は一生結婚しないつもりなのか?」 持ち込む見合い話を片端から蹴られ続けている大臣に泣きつかれ サントハイム王は、ある日、娘とのお茶の時間を利用して尋ねてみた。 「そんなことはないわ。良い人がいれば結婚したってかまわないのよ。」 にっこり笑う娘にサントハイム王は溜息をついた。 「そもそもお前の言う『良い人』の条件はなんなのだ。」 「そうねえ、当然、私よりも強くなくっちゃ!」 「…この地上でそんな生物は、ピサロか勇者殿くらいですじゃ。」 傍らに控えていた宮廷魔術師が、小さな声で突っ込んだ。 「あら、その2人にだっていつか勝って見せるわよ!…でも、そうね。ピサロは問題外だし ソロも伴侶って感じはしないわね。だいたいソロにはシンシアさんがいるし。」 「それでは結局、結婚する気はないというのと同じではないか?」 眉根を寄せた父親に、アリーナは肩をすくめた。 「まあ、私より強くなくても、少なくとも組手の相手くらいはしてくれないとね。」 「…その条件でも、当てはまるのはごく少数ですじゃ…。」 「ふむ。それ以外にはないのか?お前と同じくらい強ければ良いと?」 「うーん、あとは、お互いに助け合っていける人かな。夫婦なんだし。」 「お前の傍にあって、お前を常に支えてくれる存在、か。」 「それは立場上、私の方が支えられることは多くなっちゃうかもしれないけど でも私だって相手をサポートしたいわ。お互い様だもの。」 「例えば、無理してぶっ倒れた相手のために治療薬を探したり…とかもありますのう。」 「ん?何か言った、ブライ?」 「いえ、何でもありませぬわ。」 うそぶく宮廷魔術師を王は軽くにらむと、娘に向き直った。 「見た目の好みはないのか?顔とか背格好とか…。」 アリーナは考えるように頬に指をあてた。 「うーん、そうねえ…別に見た目は特に…あ、でも、だらしなくぶよぶよに 太ってるとかは嫌だわ。でもそれは見た目の問題じゃなくて鍛錬の問題よね。」 「細身で締まっている体つきがよいということですかな。」 「うーん、まあ、そんな感じかなあ。」 「顔は?不細工でも構わないと?」 「ええ、それは構わないわ。でも、笑顔が優しい人だとうれしいかな。」 「優しい、ねえ。お前をこれ以上甘やかすような夫でも困るが…。」 「『これ以上』って何よ、お父様。でも私だってそんな人嫌だわ。 悪いことは悪いって言ってくれる人じゃなきゃ、将来不安だもの。」 「姫様のご身分にかかわらず、くどくど叱ってくれる人、と。」 「…ブライ。」 「いやいや、王よ、老人の独り言ですじゃ、お気になさらず。」 お茶会も終わり、アリーナが出て行ったあと王は宮廷魔術師をじろりと見た。 「…何も言わんでよい。お前の言いたいことは分かっておるわ。」 宮廷魔術師は澄ました顔で答えた。 「あの条件にあてはまる人間は、世界広しといえどもあやつしかないでしょうな。」 王は大きく溜息をつくと 「まあ、こうなることは初めから分かってはいたが…。」 苦笑いしながら、城に住む神官を呼び寄せるため、卓上の鈴を取り上げた。 848 1 名前 1/3 Mail sage 投稿日 2013/03/13(水) 19 59 39.87 ID tkTgi/hJ0 845のクリフト視点を書いてみた。 「クリフト、陛下がお呼びですよ」 クリフトは呼ばれると、筆写をしている手を止め、顔を上げた。 「お伝えありがとうございます、司祭長様。では行って参ります」 羽ペンを置くと、クリフトは立ち上がり、王宮へ向かった。 (姫様の縁談の事ですか) 最初は心乱れたものだったが、最近では定期的な風物詩という受け止め方をしていた。 (どこから来る余裕なのでしょうね) 縁談を受けさせる為の説得という名の元であるが、アリーナと一緒に居られる時間が出来る事で、クリフトは湧き出る嬉しさを抑えられなかった。 「失礼致します。陛下お呼びでしょうか」 クリフトは重々しい扉を開け、深々とお辞儀をした。 「クリフト来たか。そう改まらんでよい。例によってアリーナの縁談の事だが」 「今度はいずれの方でしょうか」 繰り返されたやり取り。クリフトは穏やかな表情で王の次の言葉を待った。 「クリフト、そなただ」 一瞬、クリフトは王の言葉を理解出来なかった。 「陛下――」 「早速だが、アリーナの説得を頼む」 「は……い…」 クリフトは動揺を隠し切れない足取りで、アリーナの元へと向かっていった。 「ブライよ、これで問題ないな」 「陛下、後はあの二人に任せましょうぞ」 王とブライはクリフトの後ろ姿を見送った。 ノックをしようとしては手を止めを、何度繰り返したかは覚えていないが、やっと意を決して、扉を叩いた。 「姫様、クリフトです」 努めて平静な声を出せたのは、完全に動揺しきったクリフトには奇跡的な事だった。 「入って来て」 「失礼致します」 「縁談の話でしょう。今度はどこの人? 」 「はい、その……」 普段と違う様子のクリフトにアリーナは怪訝そうな表情を向けたが、消え入りそうなクリフトの声を聞いて、驚いた表情をした。 「本当? 」 顔を赤らめながらクリフトは、小さく頷いた。 「私の答えは一つしかないわ。クリフトはどうなの」 アリーナはクリフトの抱きつきながら言った。クリフトには決心したように、アリーナの耳元で囁いた。 「私めの身も心も姫様のものでございます。これから一生ついて行ってもよろしいでしょうか」 アリーナは笑顔で「うん」と頷いた。 .
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/298.html
クリフトとアリーナへの想いはPart.9 837 名前 737  Mail sage 投稿日 2009/03/27(金) 06 02 51 ID KMT3cko50 勇者一行はモンバーバラの町に辿り着いた。 自由解散し、各々が町で好きなことをやっている。 勇者(男)は町に入らず、ひたすら剣を振るっていた。 ミントスの町で仲間が一気に3人増え、勇者は7人もの仲間のリーダーになった。 “導かれし者たち”は全部で8人。あと一人で全員揃う。 “勇者”としてもっと、もっと強くならなければいけない。 無心に破邪の剣を振るう。剣を振るう度に勇者の汗が散った。 日没が近いのか景色が赤く染まり始めている。 そんな勇者の姿をアリーナはずっと見つめていた。 「勇者、私と勝負して!」 「はぁ?」 勇者は剣を振るう手を止める。 「私と勇者、どっちの方が強いのか確かめたいのよ。」 「これから一緒に戦っていく仲間なのに、どっちが強いとか関係ないだろ。」 「あるわよ!」 「何?言ってみろよ。」 アリーナが自分にライバル心を燃やしているのは気づいていたが、 あえて聞いてみた。正直、面倒なことは避けたい。 納得する理由がなければ勝負を断ろうと思った。 アリーナは言葉に詰まっている。どうやら断れそうだな。 踵を返して剣の練習に戻ろうとした時、アリーナが叫んだ。 「あなたが私に勝てたら、何でも一つ言うことをきくわ!」 「・・・何でも?」 アリーナは頷いた。 なんだかちょっと面白そうだ。 「・・・二言はないな?」 アリーナはもう一度頷く。 「いいよ。勝負しようぜ!」 勇者は剣を離し、ひのきの棒を持って身構えた。 「何よそれ?ハンディのつもり?」 「違うよ。実力の差を測るなら条件を同じにしないとダメだろ。 お互い装備は布の服のみ。オレは普段素手では戦わないからひのきの棒だけは使わせてもらう。」 「いいわね。望むところよ。」 アリーナも身構えた。 「じゃあ今から3つ数えたら戦闘開始だ!」 「1」 「2」 2人の姿は残像を残して消えた。 次の瞬間空中でひのきの棒と拳がぶつかるにぶい音が響く。 「ぐっ」 すごい力だ。まともに食らったら致命傷になる。 隙をついて一気に勝負を決めよう。 勇者はいったんアリーナから離れる。 アリーナは離れた分だけ即座に間合いを詰めてきた。 拳の猛攻。勇者は防ぐのに精一杯だった。 腕とひのきの棒を交互に使ってアリーナの拳をかわす。 その時、アリーナの拳を防いでいたひのきの棒が無残に折れてしまった。 (まずいっ!!当たる!) 勇者はアリーナの拳を無理に避けようと体を反らし、 バランスを崩して仰向けに倒れてしまった。 アリーナの拳の追撃がふりかかる。 (やられるっ!!) とっさに勇者は叫んだ。 「ギラ!!」 閃熱がアリーナを襲う。 「きゃぁぁああぁぁ」 アリーナはひるんだ。と同時にアリーナの喉元に折れたひのきの棒が突きつけられた。 「・・・・・私の負けね。」 「いや、魔法を使わなければオレが負けてた。魔法は使わないつもりだったんだ。」 「あら、魔法も実力の内よ。」 勇者はアリーナにホイミをかけた。みるみる傷が癒えてゆく。 「ありがとう。」 アリーナは薄く微笑んだ。 「私の完敗ね。勇者は回復魔法も使えるんだもんね。 約束どおり何でも言うことをきくわ。何がいい?」 その時のアリーナが普段より大人しく、上目遣いで妙に色っぽかったので、 「・・・じゃあオレとデートして。」 と、とっさに言ってしまった。 自分の発言に少し焦る。 「わかったわ。・・・今夜でいい?」 え、いいのかよ。 「あ、ああ・・・・。」 「それじゃあ、後で部屋に迎えにいくわね。」 夜。 宿の勇者の個室。 勇者は落ち着かない様子でベッドに寝そべっていた。 アリーナの奴、本当に来るのかな。 まぁアリーナは可愛いしそれならそれでいいんだけど。 ていうかオレ、変に意識し過ぎだよな・・・。 と、その時ドアがノックされた。 来たか!? 息を呑む。 「開いてるよ。」 ガチャっとドアが開いた。しかし入って来たのはクリフト一人だった。 「勇者さん、一晩語り合おうじゃありませんか!」 クリフトの手にはワインボトルが三本とグラスが2つ、 それに何種類かのつまみが握られている。 「はぁ!?」 出会ったばかりで特に親しくもないのに何なんだこの誘いは。 ・・・まさかクリフトの奴、夕方のやりとりをどこかで見てたのか? もしかしてクリフトはアリーナのことを・・・・・。 なるほどね、このままここで一晩陣取って オレとアリーナのデートを阻止しようってわけか。 クリフトの顔をじっと見てみると 今にも泣き出しそうな顔をしているように見えなくもない。 「・・・ぷっ」 勇者は吹きだした。 「いいよ。今夜はオレと飲み明かそうぜ。ただし、 オレ、クリフトの恋バナが聞きたい!」 その晩、結局アリーナは勇者の部屋には来なかった――――― 次の朝。 勇者のもとへアリーナがやって来た。 「ごめんなさい!昨日私、疲れてすぐ寝ちゃって 約束のこと、すっかり忘れてたわ!」 「あぁ・・・」 二人のやりとりをこわばった表情でクリフトが見ている。 「あの約束はもうナシでいいよ。 そのかわり、今度何か奢って。」 勇者はニヤリと笑う。 「クリフト!昨日は一緒に飲み明かして楽しかったよな!?」 アリーナが怪訝そうな顔をする。 「クリフト、あなたお酒飲めないんじゃなかったの?」 勇者はクリフトの顔を見る。 なんだって!こいつ、飲めないのに無理して飲んでたのか。 クリフトの顔は真っ赤になっていた。 ――――――ったく、大したヤツだな。 「ぷっ・・・あっはっはははは・・・!」 勇者は屈託なく笑った。 勇者一行は見事[天空の兜]を手に入れ、 スタンシアラ城下町で休息していた。 明日からは、天空の盾を求めてバトランドへ旅立つ。つかの間の休息だ。 町の外で勇者はブラシを使ってパトリシアの手入れをしている。 頭には天空の兜を装着していた。 少しずつ前へ進めていることが勇者の自信になる。 「よしよし、今日の毛並みも艶々だな!」 パトリシアの背をぽんぽん叩く。 その時、背後から強い語調で声をかけられた。 「勇者さんっ!!私と勝負してくださいっ!!」 「はぁ?」 声の主は全身を武装に身を固めたクリフトであった。 またか。 しかも今度はクリフトかよ。 クリフトがオレに突っかかってくるということは 絶対に・・・・・・・・アリーナ絡みだな。 勇者はため息をつく。 クリフトは以前勇者がアリーナと決闘した時の一部始終を見ている。 あの時の勇者はクリフトとアリーナの関係をよく知らなかったとはいえ、 “じゃあオレとデートして”あの発言は失言だった。 その晩クリフトと2人で飲んだ時も、クリフトの恋心はたっぷり聞いたが、 なんとなくその話題には触れられずに終わってしまった。 誤解されてもしょうがない。 (―――――自分で蒔いた種か。) 「なんでオレと勝負したいの?」 勇者は丁重に尋ねた。 「男の・・・・・意地ですっ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 今までも嫉妬の視線をチリチリと感じることは何度もあったが、 この切羽詰まった感じは尋常じゃない。 誰かに何か吹き込まれたのか? 誰に・・・・・・って考えるまでもないな。 マーニャが茂みの陰でニヤニヤしながらこちらを覗いている。 「クリフト、悪い。この話は保留な。ちょっと待ってて。」 勇者は茂みのほうへ歩み寄る。 「・・・・・マーニャ、ちょっと話があるんだけど。」 「あら、バレてた?」 「2人きりで話せる?」 勇者は睨みのきいた冷笑をうかべた。 勇者とマーニャは馬車から離れ、人気のない茂みへと移る。 「お前、クリフトに何吹き込んだんだよ!?」 「吹き込んだなんて、人聞き悪いわねっ。 私は何も言ってないわよ!ただ・・・・・。」 マーニャの話によると、ついさっきの昼食の最中に 好みの異性の話題になり、アリーナは「自分より強い男」と答えたらしい。 もちろんその場所にはクリフトも居合わせていたそうだ。 「・・・・・・言いそうだな。あいつなら。 でもだからって、なんでその相手がオレになるんだ?」 「知らないわよ。クリフトがそう判断したんでしょ。 でも実際、2人仲良くない?勇者もまんざらじゃなさそうだし。」 少し口ごもってしまった。 「確かにアリーナは強いし戦闘のメンバーとして気に入ってはいるけど、 それ以外で特別視してないし、それに、あいつが勝手に慕ってくるだけだ!」 マーニャがあきれた顔をする。 「あら、『勝手に』ですって!クリフトに言ったらそれ、火に油よ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 (めんどくせええええええええええぇぇぇぇ~) 勇者は頭をかきむしりたい気分になった。 「・・・大体さ、恋愛なんて当の本人達だけで 水面下で勝手にやっていくものだろ!? なんで関係ないオレが巻き込まれなきゃいけないんだよ!?」 「傍から見たら三角関係だから、無関係じゃないんじゃない?」 「アリーナは別にオレのこと、恋愛対象として見てないだろ!」 「予備軍てことなんじゃないの。」 「ハァ~~~~~~~~」 勇者は肩を落として深くため息をついた。 「マーニャ。オレどうしたらいいと思う?」 「あら、お姉さんに相談しちゃう?いい心がけね!」 勇者とマーニャは馬車に戻った。 馬車の傍にはクリフトと――――アリーナがいた。 「あ、勇者!聞いたわよ。クリフトと決闘するんですってね!」 アリーナは無邪気にはしゃいでいた。 人の気も知らないで。 「あぁ・・・・そのことなんだけど・・・。」 勇者は突然頭を下げた。 「クリフト!悪い!お前にはザキがあるから正直戦闘じゃ敵わない! だから別のことで・・・・・チェスで勝負しないか?」 「「チェス?」」 クリフトとアリーナが同時に口を開いた。 天気のいい穏やかな昼下がりに、 一人の女性をめぐってチェスの勝負が始まった。 ―――――当の本人は少し退屈そうだが。 なぜチェスなのかと言えば、 クリフトと何か互角に戦えるもので全力で勝負しろ、 というマーニャの提案からである。 これでどちらが勝っても、文句いいっこなしだ。 お互い一言も会話することなく暫く対局は続く。 戦局は、かなり勇者にとって不利なものになっていた。 (・・・クリフトの奴、チェスは本当に強いな。 オレも山奥の村でそこそこ強かったから、わりと自信あったんだけど。) 勇者は目を細め、あごに手を当てる。クリフトは微動だにしない。 じりじりと汗が出る。 「チェック!」 クリフトの声が響いた。 勇者は目を見張る。 ―――これ、絶対ビショップ(聖職者)でチェックメイトになるよう狙ったな。 ビショップがキングを倒してクイーンを護り抜くわけだ! ・・・大した演出じゃないか。 クリフトは盤面を見つめたまま、表情を変えない。 勇者は少しだけ悔しくなった。 「・・・・・・・参りました。」 「え、終わったの?」 アリーナは戦局を全く分かっていなかったようだ。 「クリフト勝ったの?すごいじゃない!」 ―――・・・クリフトのやることは解りづらいんだよ。 勇者は鼻でため息をついた。 「いやぁ、オレは弱いよ!まだまだだな。 “強さ”っていうのは、単純に武術だけじゃないんだな。」 我ながらフォローめいた白々しい発言だ。 「そうそう、頭の良さとか、陰で支える心の強さとか 一概に測れるものじゃないわね!」 マーニャがさらに白々しくまとめる。 「そうね。」アリーナはにっこり笑った。 クリフトはそんなアリーナを真剣な目で見つめている。 すると、アリーナが思いついたように口を開いた。 「あ、そうだマーニャ! さっきはいまいちピンとこなかったけど、 私、あなたが言ってた理想の男性像もいいなって思ったわ。」 「「え?」」勇者とクリフトの声が揃う。 「い、いいわよ、別にリピートしなくったって!!」 マーニャは動揺する。 「ど、どんな理想像なんですかっ!?」 ここはクリフトが食い下がった。クリフトも知らないようだ。 アリーナは空を眺めながら答えた。 「・・・『自分を一番愛してくれる人』がいいんじゃないか?って。 オンナは愛されてキレイになって幸せになる、のよね? お母様もすごくキレイな人だったし、きっと幸せだったのね・・・。」 「ひ、姫様・・・・!」 クリフトは手を組んで感動していた。 勇者はマーニャを見る。 少し照れくさそうに髪をいじっていた。 なんだかんだ言ってマーニャの奴フォロー入れてたのか。 いや、フォローじゃなくて本当にマーニャの理想なのかもしれないけど。 「マーニャ。」 「な、何よ?」 マーニャはたじろぐ。 勇者はニヤリと笑いながら言った。 「『ケツがかゆくならあっ』!」 マーニャの華麗な蹴りを一発、尻に食らう。 「あ、クリフト!」マーニャに絡まれながら叫んだ。 「オレの完敗だったよ。だからもっと直球で行こうぜ!」 勇者は笑った。 アリーナはきょとんとしている。 「?・・・なんの話?」 「・・・いえ、なんでもありません。」 クリフトも笑った。 《おわり》
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/125.html
クリフトのアリーナへの想いはPart5 247 :【すれ違う心】1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/05/17(水) 21 36 05 ID vaED+Lj40 「どうしたの?」 元気ないわね。 そう言いながらアリーナが横に腰を下ろすと、ぼんやりと月を眺めていたクリフトが少し慌てたように身動ぎをした。 「・・・何でもありませんよ」 僅かな躊躇いと心を見せないあいまいな微笑み。 クリフトの反応にアリーナの顔が曇る。 「昔は・・・」 クリフトの目を真っ直ぐに見つめながら、アリーナが訴える。 「昔は、何でも話してくれたのに・・・」 悲しげに揺れている緋色の瞳をしばし無言で見つめていたクリフトだったが、ふいに視線を逸らす。 「・・・自分自身の問題ですから」 苦しげに紡ぎだされた言葉。 アリーナはクリフトの端正な横顔を見つめながら、自分がひどく傷ついていることに気づいた。 ふたりの間に、隠し事が生まれたのはいつからだったか。 何でも話し合える仲だと、ふたりの絆は堅固なものだと思っていたのは、自分だけだったのだろうか。 すれ違う想いに、胸の奥がぎしりと軋む音を聞いた気がした。 アリーナはそれを悟られないように、小さく息をつくと努めて明るく言った。 「そっか」 立ち上がり服についた草を払うと、大きく伸びをする。 そして夜空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。 「でも、あきらめないからね」 いつか、貴方から聞き出してみせるわ。 大輪の花のようにあでやかに微笑む。 そう、あきらめない。諦めるわけにはいかない!! ふたりの間に隠し事は・・・許さない。 アリーナの心の声を聞いたのか、クリフトが息を詰める。 そんなクリフトを一瞬だけ見つめると、アリーナはそっと手を伸ばしクリフトの肩に軽く触れた。 「じゃ、おやすみ」 また明日。 僅かなぬくもりを残し、アリーナが去っていく。その後姿を見つめながら、クリフトはやりきれない思いに囚われる。 「言えません・・・」 貴女だから・・・貴女にだけは・・・知られるわけにはいかないのです。 アリーナのかすかなぬくもりを辿るように肩口をそっと撫でる。 「私は・・・貴女を」 囁かれた言葉は風に攫われ、夜の闇へと消えていった。 (終)
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/8523.html
秩序の聖霊ララ・クリフォン R 光文明 (5) クリーチャー:エンジェル・コマンド 5500 ■ブロッカー ■このクリーチャーが進化した時、このクリーチャーをその進化クリーチャーの下からバトルゾーンに出す。 ■このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃できない。 作者:テーメノン フレーバーテキスト 第二次大陸崩落後、世界には想像すらできないような悲劇ががあった。 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/107.html
クリフトのアリーナへの想いはPart5 51 :【日光浴】1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/24(月) 08 46 58 ID 5mLm5+hB0 「日光浴はお好きですか?」と訊かれれば、クリフトは「はい」と答えるだろう。また、 「海水浴はお好きですか?」と訊かれれば、クリフトは「はい」と答えたに違いない。 では、「日光浴と海水浴ではどちらがお好きですか?」と訊かれたら? クリフトは海辺の村の外れにある岩場でのんびりと日光浴を楽しんでいた。 海よりのさわやかな風が吹き抜け、彼の蒼い髪をふわりと撫でる。 「海水浴、か」 ふと漏れた一言に彼は自嘲気味に笑い、程近いところで泳ぎを楽しむたびのメンバーたちを見やった。 クリフトが『海水浴』をしなくなってどれくらいが経つのか。 サントハイムの城下町サランから、海はそれほど遠くない。ゆえに、夏ともなれば子供たちはこぞって海に出かけ泳ぎを楽しむ。クリフトとて、神学校の友人とよく遊びに行ったものだ。 取り立ててうまい方だったとは言わないが、クリフト自身それなりには泳ぐこともでき、海水浴が好きだった。しかし最近では海水浴より日光浴をするようになっていた。 なぜか? クリフトは「気持ちいい~」とはしゃぎまわっている赤毛の少女をちらりと見ると、うっすらと頬を紅潮させた。 ここ数年でますます女性らしくなったアリーナ。その美しさにクリフトは軽い眩暈を覚える。 そう、原因は彼女。 16の夏、彼は彼女といっしょに海に泳ぎに行った。そしてそれ以来一度も『彼女』とともに 泳いだことはない。 若かったあのとき、彼は判断を誤ってしまった。 彼は知らなかったのだ、日光浴よりも海水浴の方が『危険』だということを。 海の中にいれば『それ』を知られることはない。 しかし、いつまでも海の中にいればどうなるのか。 クリフトはそのときのことを思い出すと、胸が苦しくなる。 冷たい海水に長時間さらされているとどうなるのか。彼はそれを体験した。 足に激痛が走ったと思った矢先、海面が頭上に広がり・・・。 気がつくとクリフトの胸は海水で満たされていた。 息ができずにもがけばもがくほど、苦しみはひどくなり・・・あの時偶然居合わせた友人がいなければ自分は溺死していたのかもしれない。 一瞬だけよみがえった恐怖に身を震わせると、クリフトは己のある部分に一瞬だけ視線を送り、深々とため息をつく。 「いつになったら・・・」 姫様と一緒に『普通』に泳げるのでしょう・・・。 分厚い神官服はクリフトを辟易させていたけれども、いまはどんな鎧よりも頼もしい。 しばし遠い目をしていたクリフトだったが、邪念を追い払うかのごとくかぶりを振ると瞑目し、さわやかな光と風を体感することに神経を注いだ。 クリフトは海水浴が好きだ。しかし、「海水浴が好きか?日光浴が好きか?」と訊かれれば、彼は迷わずにこう答えることであろう。 「私は、海水浴より日光浴が好きです」 しかし、胸のうちではこう答えることであろう。 「いつか私が大人になりきった時は、海水浴と答えたいものですね」と。 ―――――少年はこうして大人の階段を昇る。 (終)