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第一話 第二話『みゆき委員長とねこなた』 イメージ画像→絵師ID cr4r1NMo氏 ねこなた
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俺、平治は今とある街中を背の低……小柄な女の子、泉こなたと一緒にいます。 兄妹に見えるかも知れないけど、これは巷でいうデートと言っても過言ではない。 俺の考えすぎかも知れんが告ってOKを貰った。泉こなたは俺の彼女になった。 俺は早速次の日曜に少し遠い街へ行った。 「しっかし暑いなぁ。」 梅雨も通り過ぎ蒸し暑いということはなくなったが直射日光が暑い。 さっきアイスを2人で食べたがその分も汗になったんじゃないか。 「へーちゃんって暑がりだよねー」 ニマニマしながら俺をへーちゃんと呼びながらこなたは歩く。 へーちゃんってあだ名は前々からお遊び程度に呼ばれてはいたが何かこう付き合うと気持ちが良いというかなんというか。 「そういうこなたは暑そうじゃないな。服とか何かそういうモンがあるのか?」 「しんとーめっきゃくすれば火も涼しーってネー」 「そんなもんなのか」「そうそうv」 そんな他愛もない小話ばっかしてた俺達。 目の前にはこなたが好む看板。 「あ、やっと見つけたー。」 「へぇ、流石に都心のはデカいんだな。」 都会のビルの中にそびえ立つ――同人誌店。 実は今日はデート兼荷物持ちだ。断じて利用されてる訳ではないぞ。そこは解っててくれ。 「でもなんでいつものトコじゃないんだ?」 「あそこ夏だと流石に暑いんだよねー…、冬は温いんだけど。」 ――ああ、成程。あの店長さんか。あの人はアツいな。うん。 「っと言うコトでっ!」 俺の方へ向かって、さっきまでニマニマしていた顔が元気になって開眼する。 「荷物持ちよろっしくー!」 はい。かしこまりました、、 あれから何分経ったのだろうか。否、これは相対性理論で実は2時間程は経っていた。 まさにこなたのターン!と言わざるを得ない。 俺は金魚のフンみたく付いて行くことしか出来なかった。 しばしばこなたが俺にオススメ本を紹介してきたり「今度貸してあげるネー」と言って俺に持たせたりしてた。 …前々から話聞いてて思ったんだが本当に金持ちだな。コイツ。 まさか裏で働いt…「…殴るよ?」…すいませんでした。 支払いが終えてビルを出た時には既に5時を回っていた。 陽はまだ少し傾いたくらいだった。 俺の両手には袋で包まれたたくさんの本がある。正直重い、がそれはメンツの問題で音をあげてられない。 「よぉし、帰ろうかー。」 こなたが右手をグーにして帰路にある陽に向けて高らかに言う。 「なっ、これだけで帰るのか?」 「ん、私はそのつもりだったんだけどねぇ。」 こなたは満足かも知れないが、荷物持ちと解っていても本気でこれだけじゃ物足りないというものはある。 軽く涙目の俺の歩く道の横にある店があった。 「…なぁ、こなた。まだ金ってある?」 「ん、あるよー。ちょっと出費少なかったから。」 まだ買いたいものあったのか。まぁいい。 「ちょっとここのゲーセンで遊ばないか?」 「ん~……いいよっ」 こなたは俺の望みを受け入れてくれた。 と言っても何も友好的なコトをしてなかったからしたかっただけなのだが。 ――あれから30分後。 俺の財布は既に小銭のみ。 一方こなたはチートのように1コインで格ゲーを楽しんでいる。 こなたは俺を秒殺し続けた後、まさにやり込んでそうな大人相手に連戦連勝。 次元が違うのか?戦った相手も相当仕掛けてたぞ。 「セオリー通りの仕掛けなら私には傷1つ付けられないのにねー。」 体で覚えてるのか;よくやる。 「おっと、もーこんな時間。」 「え?…うわっ、すまんこなた!」 「いや、いーよいーよ。楽しめたしー」 さぁ帰ろー!とまた勇んで歩いて行く。俺は荷物持ちながら。 帰宅電車。 それまでの帰路でこなたの親父さんから心配のメールが頻繁に届きうんざりしてたこなたはうつらうつら寝た。 俺は理性を抑えながら無心になっていた。 が、 ポテ、っとこなたの頭が俺の腕に寄り掛かったところで限界がきた。 俺はへたれながらも内側の手でカップル繋ぎを…した。 それだけで幸せだった。 いつかは互いに意識しながらやりたいと願った。 『AFTER EPISODE』 ぶくぶくと息をお湯の中で吹くこなたは左手を凝視する。 「………///」 何も言わずに。
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~一部 こなた~ 11月17日 今日はかがみが学校を欠席した。 昨日からメールをいくら送っても返事がない。ちょっと心配だと思う。 それで私はかがみのお見舞いに行くことにしたわけだよ。 かがみが私の家でよく読んでいた漫画。その新刊が昨日発売されていた。 せっかくなのでこれをかがみのお見舞いの品にしようと思う。 文句無いよね。 もう暦の上では冬なわけで、すっかり暗くなっちゃったよ。 私はいつもかがみと 二人 で帰ってた。 学校でのお昼ごはんには、私はいつも C組に行っては、みさきちや峰岸さん それからかがみと一緒にお弁当を食べている。 かがみとはそんな仲なんだよ。 神社の鳥居が見えてくる。ここがかがみんの住む家。 かがみは 三人姉妹の末っ子 だった。 そしてお母さんはとても若い……。ムフフ。 玄関の引き戸を開けて、こんにちはと大きな声で挨拶をする。 すると、案の定とても若いお母さんが駆けつけてくれた。 「あら、こなたちゃんいらっしゃい。ごめんね、かがみ風邪引いちゃったみたいで……。」 「ああ、いえいえ。ちょっとお見舞いに来たんですけど、かがみ大丈夫ですか?」 「あら、わるいわね。かがみー!こなたちゃんがお見舞いに来てくれたわよ!寝てるのかしら?」 「ああ、おばさん。そんな起こさなくてもいいですよっ。」 「ごめんね。部屋に上がってね。」 「あ、はい。お邪魔しまーす……。」 私は二階のかがみの部屋に入ったんだけど、中には誰もいなかった。 照明だけがこうこうと部屋を照らしている。 おかしいな。 ひょっとしてトイレかも知れない。ちょっとここで待ってみようかな? ベッドの下に隠れて五分たった……。かがみはまだ来ない。あれぇ?遅いなぁ。 まったく、どうしたんだろう。 不安になりながらベッドから這い出ると、なんとなく窓から外を覗いてみた。 そこからはちょうど本堂の正面が見える位置だった。 本堂へと上る石段の二段目、何かキラリと光るものが見えた。 かがみはそこに座っていた。 「かがみっ!」 私はそこへ速攻で駆け出した。 かがみも私に気付いたみたいだ。 「こ、こなた?どうしてこんなところに!?」 「どうしてってひどいなぁ。今日はちょっと宿題が多くて……。」 「今すぐ、帰れ!」 「まぁまぁ。風邪なんだって?こんな寒いところにいて大丈夫なの?」 「……心配してくれてありがとう。」 かがみは無表情にそう言うと、視線を手に持つ物に落とした。 暗くてよく見えなかったけど、次第に目が暗さに慣れてくると、それが何なのかが見えてきた。 かがみが持っているものは、かがみの部屋から見えた光の正体。円形の鏡。 しかも額縁も取っ手もない、本当に鏡の部分のみだ。 多分これはご神体なんじゃないかな? それをかがみに聞いてみようとするより早く、かがみが喋りだした。 「私にはね、つかさって言う双子の妹がいたの。」 私の全く知らない名前。妹? かがみは末っ子だって思ってた。別の高校にでも通ってるんだろうか? 「え?つかさ?」 「そう。双子って言っても二卵性双生児でね、そんなに私には似てないわ。」 「へぇ、双子がいたなんて知らなかったよ、会ってみたいな!。」 「ごめん。それは無理なの。ガンになっちゃってね、今日がつかさの命日なの。」 「あ……。私こそ、ごめん……。」 「いいの。つかさの事を話したのは今日が始めてだし。」 ずっと鏡を見つめていたかがみが、やっと私を見て微笑んでくれた。 でも、なんとなく寂しそうな目。これがかがみにとって重要な告白であることは、痛いほどによくわかった。 「つかさはね、ここの世界には存在しなかったから。」 ~二部 かがみ~ こなたがかわいらしく、ぽかんと口を開けている。 これから、こなたがどんな反応をするのかわからないけれど、私の話せる限りの全て話してしまおう。 そしてこれで全てをおしまいにしようと思う。 「ねぇかがみ。どういうことなの?」 「なにから話せばいいんだろう……。」 ――私にとって、つかさは掛け替えのない、とても大事な妹だった。 私と違ってね、つかさはとっても素直なの。だからかな?私がつかさを守っていかないと、つかさ、ドジばっかりしちゃうのよ。 だから、私が守るの。 それでね、つかさが言うの「ありがとう、お姉ちゃん」って。 そんなことを続けていると、私にとってもつかさが必要になってきていた。 あの、晴れやかなつかさの笑顔を、私は今でも心から望んでいる。 ……それなのに、あの笑顔を二度と見ることができなくなってしまった。守れなかった。 つかさがガンだとわかったのが、今年の春だった―― 「ちょっと待って、かがみ。つかさちゃんは今年まで生きてたの?じゃあ命日って……。」 「ちゃんは付けなくていいの。つかさって呼んであげて?あんたはいつもそう呼んでいたから。」 「え?う、うん。もう訳がわかんないよ……。」 「ちゃんと話すわ。今日がつかさの命日。そう、今日この日、つかさが死んじゃったのよ。」 「え?そんな、でも……。かがみのお母さんにとって家族が、その、つかさが今日死んじゃったって言うのに、おばさんケロっとしてたよ?」 「そうよ。お母さんはつかさの事を知らないの。……続きを話してもいい?きっと分かってもらえるから。」 「わかったよかがみ。だまって聞くことにするよ。」 「ありがとう、こなた。」 ――ガンは肺で見つかった。激しくせきをするつかさを、私が医者につれて行ったのだ。 その時すでにガンは全身に転移していた。もう、手遅れだった。 余命は、半年。 私はほとんど毎日、つかさに会いに行っていた。 毎日、毎日つかさの姿を見ていると、毎日、毎日抗ガン剤の影響で痩せていくのがわかる。 こんな様子をうかがっていた私もまた、徐々に痩せていった。 家にいても落ち着く事はない。 私は何もできない。それが無性に悔しかった。 だから、私は神様に祈った。 何という偶然か、私の家は神社なのだ。 本堂に祭られているこの鏡に、私は手を叩き続けた。 そして。 11月17日。 今日。 つかさは死んでしまった……。 つかさの入院する病院から私は走り去った。いや、逃げた。 私は街頭が照らす夜道を逃げていた。 そしていつの間やら私は本堂の前で立っていた。 私がにらんだのは、奉られているこの鏡。 本堂は夜で暗くなっていて、その中で鏡は不気味に光を反射してキラリと輝いた。 「どうしてつかさを救わなかったのよ!あれだけ祈ったのにっ!あんなに心を込めたのに!」 私は鏡を無造作に持ち上げた。 「神様なんて嫌いよ!」 そして床に叩き付けた。 砕けていく鏡が、ゆっくりと散っていく……。 ここから、私の旅が始まる。 ~三部 かがみ~ 鏡は木っ端微塵に砕け散り、そして、世界が歪んだような気がした……。 18年前の7月7日、私が誕生する。 そして幼稚園、小学校、中学校へと時間と共に成長してゆく。 様々な経験をして、様々な人たちに出会った。 高校三年生の11月17日。 この日、私は全てを思い出したのだった。 なんと、私は人生をまた一からやり直していた。それをこの日、気が付いた。 なんと、私は二度も成長をしていた。それをこの日、気が付いた。 混乱する頭を押さえ込み、よれよれとその日も学校へ向かった。 こなたがいる。日下部がいる。ゆたかちゃんがいる。 しかし……。 みゆきがいない。峰岸がいない。みなみちゃんがいない。 そして、つかさがいなかった。 昨日まで、私はそのことを全く気にしていなかった。 いや、今いない人たちの存在を忘れていた。いや、それとも知らなかった? 今日も いつも通り日下部とこなたと一緒 に昼食をとる。 今の私は料理が得意だ。 お母さんの手伝いをしていたから。 多分、つかさがいないから……。 だから自前の弁当とは思えないほどおいしいこの弁当を食べる。 この弁当を食べるのはいつものことだが、今日に限っては不思議な味がした。 「ねえ、こなた。高良みゆきって知ってる?」 「高良みゆきさん?むぅ、知らないな……。」 「そう……。ねえ、日下部。峰岸って知ってる?」 「峰岸?ああ、うちの近所にそんな苗字の人がいたなあ。」 「本当!?」 「ああ、今、高校二年の坊主がいるぜ。それがどうかしたのか?」 「ん……、なんでもないの。」 「変なやつだな。なあ、それよりちびっ子さあ……」 やっぱり誰も知らない……。きっと存在していないから。 私だって昨日までつかさの存在を忘れていたのだから。 そして、家に帰ると、再び本堂へと向かう。 鏡を持ち上げると、叩き割った。 世界が歪んだ気がした……。 また私は何もかもを忘れて、成長してゆき11月17日になると、また全てを思い出す。 みゆきがいる。こなたがいる。日下部も、峰岸もいる。 でもゆたかちゃんも、みなみちゃんもいない。 そしてまたも、つかさがいなかった。 いつものようにこなたと合流して 二人で 登校する。 こなたはおじさんと喧嘩していた。 「あんた、まだ仲直りしてなかったの?」 「仲直りなんて、お父さんの方からしてこない限り、絶対しないつもりだから!」 「こなた……。おじさん、絶対に悲しんでると思うわよ?」 「む。だったらお父さんの方から謝ればいいんだよ。」 「はあ、全く……。」 学校で私はみゆきに質問してみた。 前回はいなかったがここにはいる。 「ねえみゆき。タイムスリップって知ってる?ちょっと小説を読んでて思ったんだけど……。」 「タイムスリップですか?そうですね。いろいろと説があるようですけど……。ちょっと、一言では説明できませんね。」 「そうねぇ。例えば、全く同じスタートの仕方をした二つの世界があっても、時間がたつと二つの世界は違う結果に変わっちゃうのかな?」 「と、言いますと……。」 少し説明が悪かったかもしれない。 言い方を変えてもう一度質問をしてみた。 「小説の中ではね?ある少女がある日突然、生まれた時からもう一度人生をやり直すの。だけどそのことを本人は何も知らないの。 それで一度目の人生と、二度目の人生。その二つは似てるんだけど、少しだけ違う。どうして違うのかな?」 みゆきはしばらく考えた後、こう答えた。 「量子論の概念の中に、不確定性原理というものがあります。」 「え?量子論?」 「不確定性原理というのは、誰かが観測しない限り、あらゆる可能性の重ね合わせの状態にある、というものです。」 話が大きくなってきた……。 「ちょっと怖い話なんですけれど、シュレーディンガーの猫というものがあります。 例えば箱の中に猫がいます。一緒に箱の中には毒薬と、毒薬を散布する機械が入っています。 その機械がいつ動いて、毒薬を散布するかは誰にもわかりません。 ですから、箱を開けて猫を確認しなければ、猫が生きているのか死んでいるのかを確認することができないんです。 さて、一時間後に箱を開いた時、猫は生きているでしょうか?死んでしまっているでしょうか?」 「そんなのわかる訳ないじゃない……。」 「そうですね。観測するまではわかりません。 箱を開けた瞬間に、どちらかの可能性は消えてしまい、どちらかの可能性が実在化する……。 考え方を変えると、箱を開かない限り、猫は生きている可能性と死んでいる可能性の二つを持っている。 そして箱を開いた瞬間に、どちらかの可能性だけを観測者が観測する。 量子論では、観測をしない限り可能性しかわからず、観測した瞬間ひとつの可能性だけが実在化し、他の全ての可能性は消えてしまう。 かがみさんの言う少女の場合、少女が生まれたというだけで、自分を生んだお母さんがいるという観測結果になります。 何故ならお母さんがいない限り少女は生まれませんから。 それと同様に、少女が生まれるという事実は、お父さんもまた存在するという観測結果です。 きっと少女が生まれるより前の世界は、二つの人生とも同じはずです。」 確かにそうだ。お母さんもお父さんも、お姉ちゃんたちも今のところ確実に存在する。 そして私よりも誕生日の早いこなたも、みゆきの言うように確実に存在している。 日下部は私が生まれる直後に誕生する。 みゆきの言うように、私の生まれるより前の世界が確定しているのならば、そのままの勢いで日下部も生まれてもおかしくはなさそうだ。 みゆきは更に話を続けた。 「しかし、少女が生まれた後の世界は不確定で、あらゆる可能性は観測しない限り確定しません。 ですから、少女の生まれた後の世界は予測不可能なんです。 たとえ、少女が過去に同じ世界に生まれてきて、その世界の時代の流れを観測してきたとしても、 それと同じ時代の流れが別の世界で繰り返されるとは限りません。」 そうか、だから私の生まれるより後に生まれてくるはずの、みゆき、峰岸、ゆたかちゃん、みなみちゃん。 そしてつかさたちが存在するかどうかは、観測するまで確定していないらしい。 そして私はみんなが存在しない可能性を観測したのだ。 今夜もまた、鏡を叩き付けた。 今度はつかさが存在する世界を観測できる事を願って……。 しかし、つかさにはいつまでたっても会えなかった……。 その度に私はこの鏡を叩き割る。それを幾度となく繰り返した。 そして11月17日になる度に、つかさの事を、旅の始まりのあの夜の事を思い出すのだ。 私はたくさんの世界の可能性を観測した。 こなたが稜桜学園に入学しないという場合もあったし、ゆたかちゃんが病弱ではないという場合もあった。 その全ての世界では、人々はそれぞれの人生を歩んでいた。 私もまた、そういった人生を歩む人間の一人だった。 ある時は、スポーツに明け暮れる毎日を送ったり、ある時はこなたと一緒にネトゲーを楽しむ毎日を送った。 新しい友達を作り、今までに経験したことのないような人生を歩むこともある。 時々は苦しい時もあったけど、確かにそれぞれの人生を、私はしっかりと楽しんでいた。 それでも11月17日に鏡を割った。 人生は鏡のように砕けた。 それを何度繰り返したのだろう……? タイムスリップできることはチャンスだと思っていた。 でもひょっとするとこれは、鏡を割ったことの祟りなのかもしれない。 つかさには未だに会うことが出来ない。 双子の妹が存在できる可能性は、実は非常に少ないのかも知れない……。 気がつくと、私の人生は11月17日の一日間に限って、何百年の年月をあゆんでいた。 すでに私の記憶に残るつかさのイメージは、本当のつかさとは食い違っているのかもしれない。 最早、つかさのかわいい顔や、やさしいあの声を、ほとんど思い出すことがすでに出来ないのだ。 それなのにこの旅を続けなくてはいけないのは、何故なのだろう? 今まで築いてきた人生を、ゼロに戻してまでも、この旅をしなくてはいけないのだろうか―― そして今に至る。 ~四部 こなた~ みゆき、みなみ、そしてつかさ……。私の知らない名前ばかりだ。 正直、かがみのは話は信じられなかった。 まさか、漫画やアニメみたいな出来事が、私の目の前で起こっているなんて……。 んー、でも、かがみの目を見る限り、嘘をついてるようには思えん。 ここにいるかがみは、確かに今までのかがみとは少し違う気がする。 本人の言っていた様に、たくさんの時間を経験したかのような、落ち着きというか貫禄があった。 こなた、びっくりだ! でも、かがみも18歳以上を経験したことがない。 やっぱり、大人とは少し違う、独特な雰囲気。これが、かがみらしさなのかも知れないね。 「それでかがみは、今度もこの鏡を割るの?」 「わからない……。」 「もし、この鏡を割らなかったら、かがみはどうなるの?」 「それもわからない……。でもきっと11月17日を越えれば、全部忘れるんじゃないかと思うの。」 「もし、この鏡を割ると、私から見たかがみはどうなるの?」 「それも……、わからない……。きっと、あんたから見れば、私は元に戻るんじゃないかな?」 「そっか……。」 「どちらにしても、あんたから見て私は変わらないのかもしれないわね。」 かがみがどっちの行動をとっても、私にとっては関係ない……。 関係ないなんて事はないはずだ。 つかさの亡霊を選ぶか、私と過ごしたこの世界を選ぶか……。 もし、この世界を選ばなかったとしたならば、私は裏切られたと言うことになってしまう! いや違う、この考えは自分よがりな考え方だよ。 本当にかがみの事を考えるなら、どっちがいいんだろう? そう考え事をしていると、かがみが口を開いた。 「私、やっぱりこの鏡は割らない!」 「え、本当!?」 しまった。笑顔で答えちゃったよ。 これじゃあ、かがみは後ろめたくて鏡を割れない。 かがみが私の顔を見て笑った。しまった、私の反応の様子を確かめたのか? 「こなたの顔を見てたら、割る気なんてなくなったわ。」 「いや、そんなかがみ。もっとよく考えた方がいいんじゃない?」 「いいのよ。私はをう決めたの。たとえここじゃなくても、いつか別の世界で決めてただろうから。」 「……わかったよ、かがみ様っ。……なんていうか、この世界を選んでくれてうれしいよ。」 「こなた……。」 それから日付が変わるまで、私はかがみの思い出話を聞いていた。 この思い出話の内容は、もうすぐかがみの記憶から永遠に消えてしまう。 だから、私はかがみの話の一字一句の全てを、忘れないようにずっと覚えておこうと思った。 ただ、こんな話をしていても陰気になっていってしまう。 それで時々冗談を言ったり、かがみをからかったり、突っ込みを入れられたりしながら、楽しい時間をすごした。 そして、午前0時が近づいくる。 「こなた、絶対に忘れないでよ!」 「はいはい、わかったからかがみん。ちゃんと覚えておくってば……。」 「頼むわよ。……。」 「もうすぐだね。」 「こなた。最後に言いたい事があるの。」 「おお、いい感じにフラグが立ったみたいだ!」 「ちょっと、まじめに聞きなさいよ。……。私、こなたの事、好きだった。どんな世界でもこなたとならうまくやれた。」 「うん、私も好きだよ。」 午前0時が過ぎ、携帯の電子音がそれを伝えた。 同時にかがみがきょろきょろとしだす。 「あら?こなた?あ、あれ?なんで私がここにいるんだっけ?」 「なんでもないよ。」 「え?あれ?この鏡ってご神体じゃいの。」 暴れるかがみをなんとか家に帰し、持ってきた新刊を渡すと、私も家に帰ることにした。 帰る途中、星が出ているのが見えた。 オリオンの足元のあたりに青白く輝くシリウス。そこまでは光の速さで8.6年かかる。 私は8.6年前の星を観測している。 今、シリウスがどのような状態になっているのか、それは観測するまでは不確定だ。 8.6年後にシリウスを見た時、私はどのようなシリウスの姿を見ることが出来るだろう。 人生は無限に広がる可能性の中にあり、観測するまで確立でしか予測はできない。 まるで人生は旅だ。 「かがみ、つかさの事は忘れないよ。」 私は夜道を帰っていった。 ~五部 つかさ~ 11月17日 いつもの様な朝を迎えると思っていた。 「つかさ?つかさ?ねえつかさなの?」 「ふぇ?お姉ちゃん?おはよ~~。」 「ああ、つかさ。会えた。やっと会えた。うあ~~ん……」 「あれ?お姉ちゃんどうしたの?泣かないで……」 突然泣いてしまったお姉ちゃん。 何も答えないまま私に抱きついてきて。 「お姉ちゃん、苦しいよ。変なお姉ちゃん。これじゃあ、私の立場とあべこべだよぉ。」 「う、う……。会いたかったよ……。祟りが解けたの?もう、なんでもいいや、う、ぐすん。」 私はそっと、お姉ちゃんをなでてあげた。 なんだか私まで泣けてきちゃう。どうしてだろう?すごく懐かしい感じがする。 涙が止まらないよ……。 ~六部 みゆき~ 私はこなたさんと一緒に、つかささんのお見舞いに来ていました。 つかささんは 三人姉妹の末っ子 で、いつもこなたさんと一緒に 三人で食事をする 仲です。 つかささんは、つかささんの家の神社の本堂の前に座っています。 なぜでしょう?つかささんは鏡を抱くように持っています。 つかささんはゆっくりと話し出しました。 「私にはね、かがみっていう双子のお姉ちゃんがいたの……。」 ・・・
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こなた「ただいまー。あー、暑いね、今日は……」 そうじろう「おぅ、おかえりこなた。もうすぐアニメが始まるぞお!」 こなた「OK!わかってるって。まあ、その前にお茶だね」 グビグビ…… ――――― こなた「予告である程度予測できてたけど、やっぱり原作とストーリーが違って来たね~」 そうじろう「う~ん、そうだな。やっぱりオリジナルに沿ったストーリーの方が、違和感なく視られるよなぁ」 こなた「そう?未知のストーリーだから、逆にわくわくするけど~?」 そうじろう「そうか……、ところでゆーちゃんがまだ帰って来てないよな?」 こなた「そだね。どうしたんだろう……。まあとにかく夕食作っちゃお~」 ――――― こなた「お父さん、夕食出来たよ~」 そうじろう「今日も美味そうなチキンカレーだ!」 こなた「ゆーちゃんの分はとって置くからね~」 こなた/そうじろう「さて、いっただっきまーす!」 ――――― こなた「お風呂空いたよ~」 そうじろう「ん~、じゃあ入るかな……」 こなた「もう8時か……、どうしたんだだろうゆーちゃん……」 プ、プルルルルルル、プルルルルルル…… ガチャ こなた「はい泉ですけど~」 こなた「あ、岩崎さんの……。……はい、……はい、……いえ、みなみちゃんはうちには来ていませんけれど……」 こなた「……はい、……え?みなみちゃんがまだ帰らない?……はい、……実はゆー、いえ、小早川もまだ帰っていないんです」 こなた「…………わかりました、心当たりのある友人に電話してみます。……はい、……いえ、こちらこそ、では失礼します……」 ガチャ こなた「………………」 こなた「え!?これって二人が行方不明って言うこと!?」 こなた「みんなに電話してみたけど、いないのはゆーちゃんとみなみちゃんだけ……?それに、みんな二人がどこにいったか知らないし……」 そうじろう「とにかく、捜しに行くぞ!」 こなた「うん!」 ――――― そうじろう「こなた!」 こなた「お父さん、いた!?」 そうじろう「いや、いなかった。そっちは?」 こなた「こっちもダメ……」 かがみ「こなた!」 つかさ「こなちゃん!」 こなた「かがみ!?つかさ!?」 みゆき「私もいますよ!二人がいないって聞いて、黙ってなんかいられません!」 ひより「私もっスよ!」 パティ「トーゼン、私もデース!」 こなた「みんな……ありがとう!」 かがみ「ところでこなた、ゆたかちゃんのケータイに連絡したの?」 こなた「は!忘れてた!」 つかさ「こなちゃん!」 みゆき「みなみさんには掛かりませんでした……」 こなた「じゃあ、ゆーちゃんだけが頼りか……」 プルルルル…… こなた「ゆーちゃん……お願いだから出て……!!」 プルルルルルルル ガチャ こなた「繋がった! もしもし、ゆーちゃん!?」 ???「――――」 こなた「ゆーちゃん? おーい! 聞こえてるー!?」 ???「――――」 かがみ「どうしたの?」 こなた「それが……繋がってるんだけど応答が――」 ???「――けて」 こなた「――っ! ゆーちゃん!?」 ゆたか「――タス――ケテ」 ブツッ こなた「ゆーちゃん!? ゆーちゃん!!」 つかさ「こなちゃん、ゆたかちゃんは……」 こなた「……ダメだ、電話が切れた」 ひより「えぇ!?それじゃあ……!」 かがみ「誘拐の可能性も捨てきれないわね……」 パティ「ハンニンが気付いテ切ったってことデスネ?」 こなた「上手く聞き取れなかったけど……ゆーちゃんは間違いなく『助けて』って言ってた」 みゆき「これは……私達が想像していた以上に、事態は深刻かもしれませんね」 そうじろう「そ、そういえばこなた。GPSを使えばゆーちゃんのケータイがある場所がわかるんじゃないか?」 こなた「お父さん、ナイス!えっと……」 ピ、ピ こなた「……よし、出た。場所は……学校?」 かがみ「え!?」 つかさ「お姉ちゃん、どうしたの?」 かがみ「……そうよ……帰ってきてないじゃない……。どうして、早く気が付かなかったのよ……?」 みゆき「か、かがみさん?」 かがみ「学校に日下部と峰岸を向かわせたの!もしかしたら、二人も危ない目にあってるかも!!」 ななこは焼却炉の蓋を開け、足下の黒いゴミ袋をその中に放り込んだ。 「くはっ!さすがに2人分は堪えるわ」 2人分、2つのゴミ袋はいつも各クラスから運ばれる様な紙屑等ではなかった。 もっと重々しく、もっと生々しく、もっと禍々しく、そして最も狂々しいモノ。 ななこはポケットからライターと紙屑を取り出し、火を付ける。 「うわっち!」 すかさず炉に投げ込むと、火は袋に触れ、溶かし、次第に中の姿をあらわにした。 溶けて支えをなくした中身の一部がゴロリと炉を転がると、2つの赤い球が、ななこの視界に 飛び込み、ソレの頂点に携わるオレンジの束がまるで炎の川の様に炉の底を彩らせていた。 しかし、本物の炎がそれを払うのに時間はいらなかった。阿鼻叫喚の地獄絵図。 そう思えた現状に、今、声を出せるのはななこだけ。 焼け爛れる生徒を眺め、ななこは呟いた。 「骨の処理もせなあかんねんな…しんど。それにしてもうち、物まねの天才かも知れへんな こなたお姉ちゃん…助けて…そっくりやんw…くひひひひ…」 みさお「な、なあ……あやの……。聞いたか?あやの……、あやの……?」 あやの「……」 みさおがあやのの様子をそっと伺うと、まるで魂が抜けたように、瞬きもせず目の前の様子を眺める幼なじみがいた。 二人は裏庭に生える植木に隠れていた。 世界史の先生が口にするものは、漫画やアニメでは耳にしてもなんとも思わないだろうとは思えるものなのだが、 呟きの様な独り言の様な、或いは呪いの言葉の様なそれは、真の意味で使うその言葉は、二人を恐怖に突き落とし、足をすくませ震え上がらせるほど、恐ろしいものだった。 みさお「あやのぉ……、頼むよ。なんか言ってくれよぉおぉ……。黒井先生がさっきから焼却炉に入れてるもん。ありゃあ何なんだよ~」 あやのは表情も目線も動かさず、ただ口だけを動かして、低くうなる様に言った。 あやの「逃げよう……。それですぐに交番へ行くの……」 みさお「ほ、本当に、黒井先生が……」 あやの「だって、さっき黒井先生が使ってた携帯、きっと泉ちゃんの妹ちゃんのだよ。妹ちゃんの真似してたじゃない」 みさお「……」 黒井先生は燃え盛る炎を見つめ、驚喜の笑顔が淡く照らされている。 今がチャンスかも知れない。 あやの「さ、逃げよう。気付かれないように……」 あやのはみさおの手を握り、引いた。 しかし足がすくんでいたみさおは、足をうまく動かす事が叶わず、足がもつれて転んでしまった。 みさおの体が植木の細い枝に触れ、ガサリと大きな音をたてた。 ななこ「だれや!?」 みさおは地面にへばりつき、直ぐには起き上がれない。 その間にも、黒井先生は二人との距離をじわりじわりと縮めていた。 かがみ「急ぐわよ!みんなが危ないわ!」 こなた「どうか無事でいて。ゆーちゃん……っ」 ななこ「そこにいるのは誰や!?おとなしく出てくるなら悪いことはせぇへん!」 たった今、黒井先生の行為を見たのだ。こんな言葉、だれが信じられるだろう? だが、答えても答えなくても、絶望がすぐ目の前にまでやって来ていた。 ななこ「……だんまりか?まあええわ。それならここごと燃やしてまうから」 万事休すか……! そう思った瞬間だった。 カサッ ななこ「!」 ネコ「……ニャー」 みさお達のいた植木の間から、ネコが現れた。 そのネコはひとしきり黒井先生を見つめたあと、とことことどこかへ歩いていった。 ななこ「……なんやねん、ネコに怒鳴っとったなんて、ベタベタやん」 そのベタベタな出来事に二人は助けられたわけで。 黒井先生は、二人の方とは反対方向に歩いていった。 みさお(今だ、あやの。今のうち……) あやの(え、ええ……って、みさちゃん?) みさお(……た、立てねぇ……) どうやらみさおは腰が抜けてしまったようで、あやのがみさおをおぶって、学校から脱出した。 とにかく、交番へ言って今見たことを話さなければ…… / かがみ「日下部!峰岸!」 みさお「柊、それにお前ら……」 学校から出てすぐ、二人はみんなに合流した。 / ななこ「さてと……」 ガタン! ななこ「な、なんや? 焼却炉から音? まさかな――」 ???「ヴぅぅぅぅぅぅぅ……」 ななこ「な、なんや……冗談やろ?」 その時だった、焼却炉が爆発して中から炎の塊が出てきたのだ。 ななこ「うわっ!?」 ???「キィアァァァァァァァアァァッ!!!!!」 ななこ「ぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」 / こなた「それって、本当なの……?」 みさお「あぁ……、あれは間違いないぜ……」 みさお達はこなた達に先ほどの出来事を話した。 こなた「そんな……ゆーちゃん……みなみちゃん……」 こなたは力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。 かがみ「こなた!?しっかりして!!」 崩れ落ちたこなたの身体を支える。 何度も身体を揺さ振るが、反応はない。ショックで気を失ってしまったようだ。 周りを見ると、そうじろうも同じく気を失っている。 そんな中、みゆきはポロポロと涙を流しながらも、しっかりと意識を保っていた。さすがは委員長だ。 みゆき「……学校へ、行きましょう……黒井先生から、話を聞かなければ……」 かがみ「ええ。つかさ、田村さん、パトリシアさん。アナタたちはこなたとそうじろうさんをお願い。峰岸は日下部をね」 かがみの言葉を聞いた四人は一斉に頷いた。 全員、今の自分が行っても足手まといになるとわかっていたからだ。 その場は四人に任せ、かがみとみゆきは学校へ駆け出した! / かがみ「校舎裏って言ってたわよね!」 みゆき「はい!」 二人はお互いに確認した後、校舎裏へ走っていく。 そこで二人が見たものは…… みゆきとかがみの目の前では、ななこがこの世とものとは思えない絶叫を上げていた。 高い校舎とグラウンドを挟んだ向こう側にで待っている他のメンバーには、多分この叫びは聞こえはしないだろう。 ななこの両手両足には、真っ赤に燃える四つの赤い炎がまとわりつき、その前には一メートルほどの黒い何かが宙に浮いていた。 ななこ「アァァァァァァァァァァァァァッ!アツイッ!もうやめてくれェェェエ!」 関西弁を忘れ、狂ったように叫ぶななこの様子を、二人には理解できない。 ななこの靴が全て焼け落ちると、その中からはもはや足とは呼ぶことの出来ないものが、炎の中から覗いた。 手も同じ様な有り様で、どちらが手でどちらが足なのかが、区別出来ないものになっていた。 「頼むからヤメテクレッ、ウッ……、岩崎ィ!」 岩崎。 その言葉でみゆきはハッとした。 ななこの目の前に浮かぶ黒い物が、人影の様に見えるではないか。 丁度、手足が無ければあのくらいの大きさなのではないか? そしてななこの手足に絡む炎、よく見ればあれは、主を無くした腕と足ではないか! そう、焼けただれ両手両足のないみなみの胴体は宙に浮きながら、燃え盛るみなみの腕と足をななこの手足に絡みつけているのだ。 みゆきはそれを理解すると、その場に崩れた。 かがみ「どうしたのよ!?みゆき?」 みゆき「ふふふ……、フハハハ……」 みゆき「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」 みゆきは突然走りだし、何を思ったのか、かつて実の妹の様に可愛がっていたみなみだった物体に突進した。 みなみ「グゥウアゥオォエアァァッ!?」 かがみ「ちょ! みゆき!!」 みゆきはそのまま抱き着き、みなみを地面に押さえ付けると、笑顔でかがみに振り向き言った。 みゆき「かがみさん、後の事は任せます……」 その言葉にかがみは確信した。 かがみ「まさか……自爆する気!? ダメ……嫌よそんな――」 みゆき「誰かが終わらせなければいけません! これ以上、犠牲が出る前に……そしてそれは私にしか出来ないんです」 かがみ「ダメよ……みゆき!!」 みなみ「ウアォォアァァァッ!!」 みゆき「みなみさん……突然の死に、無念だったでしょうけど……もう大丈夫ですから……。あっちで三人仲良く過ごしましょう……」 かがみ「みゆきぃぃぃぃぃーっ!!」 みゆき「さようならかがみさん、短い間でしたが楽しかったですよ。皆さんにもよろしく伝えてくださいね♪」 みゆきは最後まで笑顔を崩さなかった……そして……。 カッ!! みゆきとみなみは小さな爆発音と共に、この世から消えてしまった……。 かがみ「いや……いやぁぁぁぁぁっ!!」 ななこ「あ……ぁ……」 かがみ「ひっく……」 どれだけの時間、涙を流していただろう。 親友の、突然の死。かがみは、それを簡単に受け容れられるような人間ではない。 ななこ「うぐ……ひ、柊……」 名前を呼ばれ、かがみは気が付いた。今はまだ、泣いている場合ではない。 こんな事態になってしまったのは、『この女』がゆたかとみなみを殺したことがそもそもの原因だ。 かがみ「ねえ……なんでゆたかちゃんと岩崎さんを殺したの……?」 『この女』はもう『先生』と呼ばれる資格などない。 そう思ったかがみは、あえて名前で呼ばないようにした。 その声は、それこそ悪霊と呼ぶにふさわしいほど、底冷えするような声だった。 / こなた「ゆーちゃん!!」 目を覚ましたこなたは、ものすごい勢いで上半身を起こした。 つかさ「あ、やっと起きたよ~」 あやの「大丈夫?泉ちゃん」 こなた「……夢じゃ……なかったのか……」 周りにいる面々を見回して、こなたはガックリと肩を落とした。 ゆたかとみなみが、死んだ。その事実を、どうやって家族に伝えてあげればいいのだろう? こなた「……あれ、かがみとみゆきさんは……?」 嫌な予感がした。 まさか、二人に加えて、かがみ達にもなにか…… かがみ「ここよ」 こなた「かがみ!」 こなた「かがみ、みゆきさんは?」 かがみ「……」 かがみはこなたから目をそらした。 こなた「どうしたの?かがみ……?」 かがみ「みんな……燃えてるわ……」 みさお「どういう事だよ?」 かがみ「だから、全部……燃えてるの……」 みさお「だからどういう事だよ!柊、こっちを向けよ!」 パリン どこからか、ガラスが割れるような音がした。 そこにいるかがみ以外の全員が、その音が聞こえた方向を見た。 校舎からだ。 校舎の窓の中から淡く赤い光が、ぼうっと灯っている。 パティ「It s conflagration!(火事だ!)」 校舎の一階の炎はすぐに火力を増していき、次々と窓を割ってはその度にパリンと音を発していく。 それはまるで鎮魂歌(レクイエム)の様な、悲しげな旋律を作っていた。 こなた「ねえ、かがみ!みゆきさんは!?みゆきさんはどうなったの!?」 かがみ「……黒井ななこが校舎に火を放った」 かがみの発する一言一言が、まるで人事の様で、台本に書かれたセリフをそのまま読んでいるかの様だ。 かがみ「みゆきはそれを止めようとして、死んでしまったのよ」 こなた「アッ……、アッ……、そんな!みゆきさんまでそんな!」 感情のたかぶったこなた以外の誰もが、明らかなかがみの演技を不審に思っていた。 またも気絶してしまったこなたを家に送り届けた帰り道。 つかさ「ねえ、お姉ちゃん。本当のコト、教えて」 かがみ「……やっぱり、普通は気付くわよね。こなた、そこに頭が回らないくらい混乱してたのね……」 空にぽっかり浮かぶ月を見上げ、消防車のサイレンをバックに、かがみは語り始めた。 かがみ「みゆきは……悪霊になった岩崎さんを救うために、自爆する道を選んだのよ」 つかさ「え……!?」 かがみ「私は二人を……いえ、三人を奪った『黒井ななこ』という人物を、ゆたかちゃん達と同じ目にあわせてきた。後悔はしてないわ」 抑揚のない、操り人形のような言葉。つかさは、見たこともない姉の姿に戦慄した。 つかさ「そ、それじゃあ……く、黒井先生はどうして……」 かがみは小さく息をはくと、ついにその質問に答えることはなかった。 そして自分たちの家に着き、扉に手を掛けた時―― かがみはようやく喋り始めた。 かがみ「つかさ。さっき私が言ったことは内緒よ」 つかさ「わ、わかってるよ……」 もとより、そんな恐ろしい出来事を話せるわけがなかった。 数日後、陵桜学園の火事による死者は四人と報道されていた。 火事は放火と見られており、犯人を特定中とのこと。 しかしそれ以降、放火の犯人である柊かがみが捕まることはなかった。 あの事件から数日後、柊かがみはそのまま行方をくらませてしまった。 …彼女が警察に発見されたのは数ヵ月後のことであり、焼け爛れた遺体として見つかったのだという。 あのあと…柊つかさは精神に異常をきたしてしまい病院で治療を受けることとなった。 日下部みさお、峰岸あやのは友人の死を知って数日間泣きはらしたという。 私の従姉である成実ゆいは自らの妹と飲み友達を喪い…暫く食事もまともに出来なかったようだ。 そして私の父…泉そうじろうは体調を崩し…そのまま還らぬ人となった。 そしていつしか時は流れ、この一連の事件のことも忘れ去られようとしている。 それは狂気に満ちていて、どこか哀しくもあって、私たちの心に今も深い傷を残しているのだ。 …柊つかさは姉の遺志を継いで弁護士となる道を選び、日下部みさおと峰岸あやのは大学へ進学した今でも柊かがみの墓参りだけは決して欠かしていないようだ。 …そして私は…埼玉県警に就職が決まった。 だが、同僚にこのことを話しても信じてくれるものはいない。 冗談はよせとか、アニメの見すぎとか言って誰も耳を傾けてくれない。 しかし、私が語るこの事件は全て、紛れもない真実なのだということを改めて認めていただきたい。 それが、失われた私の大切な人たちのためでもあるのだから。 最後に、この本を手にとってくれた読者に、この場を借りて感謝の意を表したいと思う。 『或る一日の惨事』 ―泉こなた 著
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☆ご注意☆ 先にID MiYUGto0氏 「悪霊退散☆柊姉妹」およびID ljL1Yvo0氏 「サイバー☆ゆーちゃん」を読んでおくとわかりやすいかもしれません。(作者) こなた「今日の夜食は鶏の唐揚げ~、ラノベ作家は体力が命~♪唐揚げ食べて元気をつけよ~」 ガチャ こなた「……唐揚げが……減っとる……orz」 (ゆたかの部屋) ゆたか「う~、握力の調整が上手く行かないよぅ…」 こなた「ゆーちゃん、唐揚げ知らない?」 ゆたか「唐揚げ?食べてないけど…どうしたの?」 こなた「いや、冷蔵庫の中の唐揚げが減ってるから変だなと思って聞いただけなんだけど…」 (そうじろうの部屋) そうじろう「あ~か~い~あか~ぁい~♪赤い仮面の…」 こなた「ねえお父さん、唐揚げ知らない?」 そうじろう「唐揚げ?食ってないけど…」 こなた「むぅぅぅ…」 そうじろう「な、何だその目は!まさか疑ってるというのか!?お父さんは悲しいぞ~」 こなた「…わかった、わかったからとりあえず泣かないでよ」 (こなたの部屋) こなた「でも、今この家にはお父さんとゆーちゃんしかいないはず…」 カッチ コッチ カッチ コッチ こなた「…あれ?でも待てよ……だとしたらまさか……」 カッチ コッチ カッチ コッチ こなた「…って、唐揚げだけ盗んで帰る物好きもいないか…」 (台所) こなた「待てよ?ここに張り込んでいれば、きっと犯人が見つかる筈…」 ギィィィ こなた「って、冷蔵庫が勝手に開いて…あれ?うっすらとリザー…もとい人影が!」 かなた「あら、こなたじゃない」 こなた「…お母さん、何やってんの?」 かなた「ちょっと美味しそうな唐揚げがあるからつまみ食いしちゃった」 こなた(幽霊でも小腹空くんだ…) ガチャッ こなた「か、かがみ!?…何そのヘンな仮面は…」 かがみ「あんた、やっぱ悪霊じゃん。成仏が妥当だな」 かなた「やめてー!祓わないでー!」 こなた「アクメツ!?…誰かー!侵入者だよぅー!誰かー!」 ゆたか「こなたお姉ちゃんが危ない!」 そうじろう「かなたが危ない!」 つかさ「バル酢ー」 そうじろう「目がぁぁ~!」 こなた「なんかもうgdgdだよぅ、誰かー!!」 訳わからないままオワリ
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ほのか「夕方には雨が降りそうだからチェリーのお散歩はお昼に済ませたほうがいいわね」 みなみ「そうするよ」 短く答えた。チェリーの散歩で雨が降るのはそう珍しい事ではない。雨の日で散歩に行ってもチェリーは嫌がらないし私も苦ではない。とは言っても降らないにこしたことはない。 居間の窓越しから空を見上げた。雲はまだ薄く雨が降るのはもう少し時間がかかりそうだ。お昼を食べて少し休んでから行くことに決めた。 その間本でも読んでいよう。部屋に向かった。 自分の部屋に戻ると何かを忘れているような気分になった。何だろう。そうだった。今日はゆたかが来る日だった。何をのん気にしていたのだろうか。急いで居間に戻った。 みなみ「今日はゆたかが家に来る約束をしていたのを忘れていた、午後のチェリーの散歩は……」 ほのか「ああ、そういえばそんな事言っていたわね、チェリーの散歩は私がするからいいわよ」 みなみ「ありがとう」 私は部屋に戻ろうとした。 ほのか「その代わりにお願いがあるの」 みなみ「なに?」 ほのか「晩御飯のお買い物に行って来て欲しいの、ゆたかちゃんも食べるでしょ」 私は時計を見た。もうお店は開いている時間だった。 みなみ「それなら今行くよ、何を買えばいい?」 お母さんはメモ紙に書きとめお金と一緒に私に渡した。 ほのか「今日は休日の割引キャンペーンの日、いつものスーパーでお願いね」 みなみ「うん、わかった」 玄関で靴を履いて外に出ようとした時だった。電話が鳴った。お母さんが受話器を取った。電話の相手が気になったのでその場に止まった。 ほのか「みなみ、泉さんから」 靴を脱いで電話に向かった。 みなみ「もしもし……」 こなた『みなみちゃん、買い物に行くところだったんだって丁度よかったよ、今日午後からゆーちゃんがそっちに遊びに行くって言ってるんだけどね、ちょっとそんな状態 じゃないんだ、熱が出ちゃってね、それでも行くって言うから困っちゃってさ』 最近は保健室に行く事も無かったのに。 みなみ「授業で分からない所があったのでみゆきさんに教えてもらおうと」 こなた『そうなんだ、みゆきさんの講師ならゆーちゃんも行きたがるのは分かるよねー』 みなみ「ゆたかに代われますか」 こなた『今薬飲んで眠っている所、さっきまで薬を飲むのも嫌がってね、だから代わりに私が電話してるって訳』 確かにこれでは家に来られない。今日は諦めよう。 みなみ「私がみゆきさんに教えてもらって明日学校でゆたかに教えるから……そう伝えて下さい」 こなた『うん、分かった伝えておくよ、ごめんね、みなみちゃん』 みなみ「いいえ、お大事に」 こなた『ありがとう』 電話を切るとお母さんが心配そうな顔をして私を見ていた。 ほのか「来られそうにないの?」 私は頷いた。 ほのか「それじゃ買い物は行かなくていいわよ」 みなみ「いや、行ってくるよ、みゆきさんにお礼もしないといけないし」 ほのか「そうだったわね、夕食はこっちで食べてもらいましょう」 再外へ出た。 玄関を出ると冷たい風が顔を撫ぜた。昨日までの暖かな日とは違って季節が戻ったような北風だった。体を竦めていた。この気温差でゆたかは体調を崩したに違いない。 ゆたか月に何日も休むこともあった。それなのに学校の成績は悪いほうでない。私が数日学校休んでいたら授業に追いついていけるだろうか。少なくとも今よりは悪いはず。 ゆたかのどこにそんな力があるのだろうか。知り合って一年余り、まだ友達のそんな所までは理解できていない。しようとしていないのか。 マーケットで買い物を済まし家の扉を開けたときだった。廊下にチェリーが寝そべっていた。 みなみ「ただいま」 ほのか「おかえり、外は寒いし雨が降りそうだからチェリーを入れておいた、ちょっと早いけどお昼の用意をするわね」 みなみ「ありがとう」 チェリーは寝そべったまま動かない。チェリーを飛び越えるように廊下を渡った。 私は買ってきた袋とお釣りをお母さんに渡した。お母さんは袋の中身を確認した。 みなみ「みゆきさんの家に行く準備をしてくる」 ほのか「すぐご飯だから」 みなみ「うん」 部屋に戻り準備をして昼食をとってみゆきさんの家に向かった。向かったと言っても道路を挟んだ隣の家。玄関を出て数十秒で着いてしまう。 みゆき「いらっしゃい……小早川さんの姿が見えませんが」 しまった。欠席するのを連絡していなかった。 みなみ「今朝連絡があって、急な発熱したそうです」 みゆき「そうでしたか、どうぞ入ってください」 勉強会を始めてみゆきさんの部屋で質問をいくつかした時だった。みゆきさんの様子が違うのに気が付いた。顔色も優れない。 みなみ「どうしました、気分でも悪いのですか」 みゆき「い、いいえ」 みゆきさんは暫くボーとしてから答えた。これは間違いなく熱がある。 みなみ「やはり気分が優れないのですね、もうこの問題の要領は分かりましたので」 私はノートをしまった。 みゆき「まだ三十分も経っていません、大丈夫です」 私が立ち上がると止めようとしたのかみゆきさんも立ち上がったがふらついていた。 みなみ「帰ります、明日の大学に差し支えますよ」 みゆき「……そうですね、すみません……今朝の急に冷え込んだのが原因かもしれません」 みなみ「お大事に……」 みなみ「ただいま」 お母さんは少し驚いた顔をして私を見た。 ほのか「あら、早いわね、もう勉強会は終わったの?」 みなみ「みゆきさんも体調が良くなかったから」 ほのか「最近風邪が流行っているみたいだから気をつけないとね」 お母さんはチェリーの散歩用の綱を持っていた。散歩に行くつもりだったみたい。 みなみ「お母さん、私時間が空いたからチェリーの散歩行って来るよ」 ほのか「それじゃお願いしちゃおうかしら」 私に綱を渡すと居間の方に向かって行った。私はチェリーの居る所を向いた。さっきと同じ廊下で寝そべっている。 みなみ「チェリー、お散歩行こうか」 チェリーは耳だけを私の方向に向けた。動く気配がない。今度は散歩用の綱をチェリーに見せる。 みなみ「散歩に行く気ないの?」 今度はゆっくりと起き上がり自ら私に近づいてきた。綱をチェリーに付けると尻尾を振り出した。 ドアを開けると外はポツポツと雨が降り出していた。天気予報よりも早い雨降り。 雨降りの午後の散歩。傘を差しながらチェリーと歩く。買い物に行った時よりも幾分寒く感じる。何か今日はモヤモヤとした気分、気分が晴れない。 お天気のせいばかりではないみたい。思い通りにならない日なんて今までいくらでもあったのに、今日は特に気が重い。 いつもの散歩道を歩いているとチェリーの歩みが急に止まった。チェリーは公園の方向をじっと見たまま動こうとはしなかった。 みなみ「行こう……」 晴れの日なら子供たちが居るから遊んでもらえる。しかしこの雨では誰一人公園には居ない。綱を少し強めに引いて諦めさせようとした。チェリーは四足に力を込めて抵抗した。 こんな時のチェリーは何をしても動かない。好きにさせてあげるしかなさそう。綱を緩めてチェリーを自由にした。チェリーは公園の中に入り公園中央で歩みを止め、命令を しているわけでもないのにお座りをした。チェリーは誰かを待っているのか。公園の周りを見回したがいくら休日とはいえ雨で公園に遊びにくる子供はいない。 お母さんの躾なのか、それならば散歩前に何か言うはず。 『ふぅ』 溜め息を一回、もう数分を過ぎた。チェリーはまだ動く気配はない。このまま強引に連れて行くことも考えたが帰っても特に急ぎの用もあるわけではない。 公園を見回した。静か……。静かだけど音が聞こえる。 傘に雨が当たる音、地面に当たる音、水溜りに当たる音、それらが混ざって耳に入る。音がするのに静かに感じるのは何故。 昼下がりの公園、晴れていれば子供たちが遊び、大人たちは集う賑やかな場所。砂場で山を作ったり、ブランコを漕いだり、滑り台で滑ったり、ジャングルジムで…… そう、この公園で私は幼い頃遊んだ。ここに居るだけで楽しかった。おそらく数時間だっただろう。だけど凄く永い時間を遊んだような記憶。 みゆきさんも居たような……みゆきさんは覚えているだろうか。 そんな楽しかった公園だった。だけど小学校の中学年になる頃には公園で遊ばなくなった。高学年にはチェリーと散歩に行く時に寄る程度になってしまった。そして今…… もう私は高校二年生。あの頃に比べると時間の流れは目まぐるしく早い、そう感じているだけなのか。この公園はあの時と少しも変わっていない。公園で遊ぶなんて…… もうあの時には戻れない。幼い頃には戻れない。 『クゥン~』 甘えた声でチェリーが鳴いた。チェリーは綱を咥えて引っ張っている。もうここには用はないのか。違う。綱を外してと言っている。 その時気が付いた。チェリー……この公園で私と遊びたかった。昔のように。 幼い頃チェリーと一緒にここで遊んだ。一緒に走ったり、ボールを投げたり……。 でもそれはチェリーが子犬だったから出来た事、成犬となった今、この公園で綱を外す行為は許されない。 チェリーの目の前でしゃがんだ。 みなみ「ここは綱を外してはいけない所、今度外しても良い広場に行こう」 チェリーはまだ綱を引いている。他の所ではなくここで遊びたい。そんな風に言っているようだ。 私はチェリーを抱きしめた。差していた傘が落ちて私にも雨が当たった。 みなみ「ごめん、チェリー……」 チェリーの動きが止まった。そして噛んでいた綱を離し私の顔を舐めてきた。分かってくれたのだろうか。チェリーを離し落ちていた傘を拾った。 雨とチェリーの濡れた体のせいで私の服も濡れてしまった。 気付くと雨足が強くなってきた。雨の音も強くなる。こうなっては静かには感じない。地面に当たった雨が私の靴を濡らす。 みなみ「帰ろう」 私が歩き出すとチェリーも付いてくるように歩き出した。 みなみ「ただいま」 私の姿を見てお母さんは驚いた。 ほのか「びしょびしょじゃない、傘は持っていったはずよね」 みなみ「帰り転んでしまった……」 お母さんは二つのタオルを私に渡した。一つは自分の首に掛け、もう一つのタオルでチェリーの体を拭いた。 ほのか「着替えなさいね……そうそう、散歩に行っている間にお友達がきたわよ、居間に通しておいたから」 みなみ「うん……」 友達、誰だろう。今日の会う約束はゆたかとみゆきさんだけだったはず。着替えを終えると居間に向かった。 みなみ「ひより……こんにちは」 ひより「こんにちは、悪かったかな……アポ無しで来ちゃって」 片手を前に出して謝っているように見える。アポなしでも構わない、嬉しさがこみ上げてきた。 みなみ「そんな事はない、今日はどうして……」 ひより「いやぁ~ね……雨で予定が中止になっちゃって、勉強会やるって言ってたでしょ、便乗しようと思って来たんだけど……二人ともダウンなんてね」 みなみ「みゆきさんに少し教えてもらったから、それをヒントに解けそうな問題が幾つかある」 ひより「そうなの、それじゃ二人だけでやってみる?」 私は頷いた。私達は自分の部屋に移って勉強会をすることになった。 ひより「さすが高良先輩、こんな解き方があるなんて」 ひと段落した。ひよりの持っているノート。勉強には使っていないものがある。そういえば居間に居るときも持っていた。ひよりはノートを鞄にしまうのを私は見ていた。 それにひよりは気が付いた。 ひより「ん、これ?」 ひよりはノートを鞄から取り出し私に見せた。私は頷いた。 みなみ「そのノートは、一回も使っていなかった」 ひより「ネタ帳、最近なにも浮かばなくってね、部活でテーマを決めたんだけど……困ったもんだ」 みなみ「テーマ?」 ひより「『お題』って言えば分かるかな、ただ漫画を描くとダラダラになるから同じテーマで描く」 みなみ「学校でよくやった作文みたいな物?」 ひより「そんな格式ばったものじゃないよ」 みなみ「そのお題って何?」 ひより「子供時代……なーんて、言われてもね、もう少しアウトロー的な……なのが良い」 みなみ「アウトロー?」 ひより「い、いや、何でもない……」 ひよりは何を慌てているのか分からなかった。 みなみ「子供時代……私達は未成年、子供みたいなもの」 ひより「中学・高校は子供でも大人でもない中途半端な年代なんだよね、もっと小さい頃イメージが欲しいんだけど、そんな頃なんてもっとネタがない」 子供の頃のイメージ、チェリーとの散歩を思い出した。あの情景……。楽しい思い出なのに切ない感じ…… ひより「あっ、ごめんね、みなみちゃんには関係ない部活の話だったね、勉強も一段落したし、帰ろうかな」 ひよりは帰り支度を始めた。関係ない話でも良いから今日はもう少し居て欲しい。 みなみ「その子供の頃のイメージ、出来るかもしれない」 ひより「出来る……出来るって?」 私はピアノの前に座った。あの公園に居た時のイメージに合う曲を弾いた。言葉では表現できない。 子供の情景からトロイメライ……。そんなに難しい曲ではない。名前の通り夢のようなこの曲。だけど大人になるとただ夢の世界でしかなくなる、あの時に戻れない切ない曲。 公園での出来事を思い出しながらゆっくりとその曲を弾いた。 弾き終わった。ひよりは何も言わない。ダメだったか……はずしてしまった。ピアノから目をひよりに向けられない。 所詮あの感情は私だけの特別なものだった。他人に伝えることも話すこともできない。自分のした行動が恥ずかしくなった。 ひより「う~ん、何だかね……」 やはりそうだった。 みなみ「付き合わせて悪かった、何かの役に立つと思っただけ……」 ひより「うんん、そうじゃなくて、聴いたことのある曲だけどなんて言ったっけ?」 みなみ「トロイメライ」 ひより「そんな名前だったね……」 ひよりはまた何も言わなくなってしまった。 ひより「もう一回いいかな?」 私はひよりの方を向いた。彼女はにっこりと微笑んだ。 ひより「なんとなくイメージが湧いてきた、もう一回いいかな」 みなみ「もう一回?」 ひより「うん、それに今度はちゃんと聞きたいしね、みなみちゃんの演奏」 この曲を聴いて涙する人がいると言う。幼い日の思い出がそうさせるのか。戻れない過去を憂いでいるのか。私たちがこの曲を聴いてそう思うのなら大人になったと 言う事なのだろうか。そんな自覚も感覚も無い。 夕方近くになったのでひよりは帰ると言い出した。夕食をと誘ったが家族で食べる約束があるとの事だったので無理は言えなかった。そこで私は駅まで送ることにした。 外に出ると小雨になっていた。傘を差すほどではない。 ひより「ごめんね、せっかくのお誘い断っちゃって」 みなみ「いや、約束があるのなら仕方が無い」 ひより「それに何度も演奏させだし」 みなみ「それも問題ない……」 私はひよりを見た。いったいあの演奏で何をイメージしたのだろうか。少し興味が湧いた。 ひより「ん、何?」 私の目線に気が付いた。 みなみ「い、いや、演奏でなにがイメージ出来たのか聞きたかった」 ひよりは空を見ながら言った。 ひより「ごめん、言葉に出来ないんだよね、なんて言ったらいいのか……やっぱり私腐ってるからも……」 そう、私も言葉にできなかったから音楽にした。それなら私の体験を話した方がいいのかもしれない。 みなみ「ひよりが来る前、私はチェリーと一緒に……」 私はトロイメライを弾くに至った体験を話そうとした。 ひより「ストップ!! それより先は言わないで」 ひよりは突然手を私の前に出して話すのを止めさせた。 みなみ「なぜ」 ひより「言葉にできないから良い場合もあるし、みなみちゃんが演奏した曲のイメージを大事にしたい」 以前泉先輩の家でひよりの描いた漫画を読んだことがある。その中には私とゆたかがモデルと思われるエピソードが幾つかあった。ひよりは実際に起きた事も題材にしている。 それなのにさっきひよりは私の話を聞こうとはしなかった。 みなみ「ひよりは見聞きしたものでも漫画にするのでは?」 ひより「見聞きと言うよりは実体験をネタによくするね、でもそれはあくまで自分の体験がネタなんだ、人の体験はあまり使いたくないんだよね… …だから、つかさ先輩のネタノートはあまり見たくない……」 そんなこだわりがあったとは知らなかった。 そういえばひよりはいつから友達になったのだろうか。一年生のごく早い時期だったような、気が付いたらひよりが居た。自然に私とゆたかの会話に入ってきた記憶がある。 今思えばそれは私とゆたかを漫画の題材にしたかったのかもしれない。 みなみ「ひより……もう駅を過ぎている」 ひより「え?」 ひよりと私は駅の改札口から十メートル程はなれていた。ひよりはそのまま通過してしまった。私が言わなかったらどこまで行くつもりだったのだろうか。 ひより「ははは、私ったら、今日はどうかしてるね……」 苦笑いしながら慌てて改札口に戻り切符を購入した。切符を購入すると私近づいてきた。 ひより「それじゃ、また明日学校で」 振り返って駅に入ろうとした。 みなみ「待って……」 ひより「なに?」 みなみ「……完成したら、見てみたい、ひよりの漫画……」 ひより「最初からそのつもり、ゆーちゃんにも見せたいしね」 みなみ「それじゃ、明日……」 ひよりは駅の奥へと進んで行った。 ひより、私と何故友達になった。 別れ際そう聞きたかった。だけど実際は全く違った事を言っていた。帰り際のひよりの笑顔。その質問をしたら同じ質問を返されそうだ。質問されても私は答えられない。 理由なんか無いのかもしれない。成っていた事実があるだけ。だけど、それが心地いい。きっと公園居た時の感情を理解してもらえたから。ひよりに聞いた訳ではないに、 そんな気になっているだけかも。なんだろうこの複雑な気持ちは…… 気付くと雨はもう止んでいた。道行く人たちは皆傘を畳んでいる。私も傘を畳んだ。雲の切れ目から夕日が顔をのぞく。帰るか…… 帰るとお母さんは夕食の準備をしていたが一段落したのか手を休めて私の居る居間に来た。 ほのか「田村さんと部屋に居る時、ピアノを弾いていたわね、何度も何度も……同じ曲」 みなみ「うん」 ほのか「みなみの小さい頃を思い出すわ」 微笑み優しい目で私を見ている。私が小さかった頃の様に。 みなみ「お母さんが小さかった頃はどんな子だった?」 お母さんは更に目を細め私の目線より高い方を向いた。遠い目と言うものなのか。 ほのか「小さい頃ね……私はみなみほどピアノは上手くなかった、だけど……楽しかった」 お母さ……、夢でも見ているかのような顔。母は座ると子供の頃の話をし始めた。同じだった。私と…… きっとどんなに歳をとっても変わらないものなのかもしれない。 みなみ「おはよう」 ゆたかは本を読んでいた。私の声に気付かない。私が席に着いた頃にようやく気付いた。 ゆたか「あ、みなみちゃんおはよう」 ゆたかの持っている本を見た。表紙は真っ白だった。私がゆたかの持っている本を見ているのに気が付いた。 ゆたか「あ、これ、これは田村さんが描いた漫画」 あれから一週間経つ。もう完成したのか ゆたか「まだ下描きだって言ってたけど、ちょっと漫画の世界に浸っちゃってみなみちゃんの来たのが分からなかった」 教室を見回したがひよりの姿がない。 みなみ「ひよりは……」 ゆたか「私がこの漫画見るのが恥ずかしいって言って部室へ行っちゃった」 確かに人に見られるのは小恥ずかしいのは理解できる。 ゆたか「みなみちゃんも見てみる、タイトルは『雨降りの午後』だって、田村さんのいままでの漫画とちょっと感じが違うんだよ」 このタイトルを聞いて何か体に電気が走るような感覚が過ぎった。 みなみ「少女は雨の中、犬の散歩をしていた、そして……誰もいない公園を通りかかる」 ゆたか「え、どうして……分かるの?」 もう見なくても内容は分かった。ひよりのイメージは私の見た出来事そのまま。なにか嬉しい。私の感じたものは特別なものではなかった。 みなみ「なんとなく……」 ゆたかは私に漫画を差し出した。 みなみ「完成したら見る」 そう約束したから。 ゆたか「見た感想が欲しいって、なんて言えばいいかな、言葉に出来ないよ」 みなみ「言葉に出来ないでいいと思う」 ゆたかは納得できないような顔をしながら漫画をひよりの席にしまった。 ゆたか「ん?」 ひよりの机の中から別の本が落ちた。ゆたかは拾いその本を開いた。 ひより「わー!!!」 突然後ろからひよりがその本を覆い隠すように奪い取った。ゆたかは硬直していた。 ひより「はぁ、はぁ、これは見てはならない物だから……」 息が荒い、走ってきたみたいだ。 ゆたか「見ては……ならない……もの」 ゆたかの顔がみるみる赤くなっていく。 ひより「みちゃった……かな……」 ゆたかは小さく頷いた。 みなみ「いったい何の本?」 ひよりも少し顔を赤らめた。 ひより「い、いやね、未完成だし、見たって面白くないよ」 みなみ「面白いかどうかは見なければ分からない、私も見てみたい」 ゆたかの表情とひよりの慌てぶりでどんな本なのかは想像つく。この前言っていたアウトローとはこの事なのか。それでも一度見てみたい。ひよりの作ったものなら。 ひより「えっと、さっき言わなかったかな……見てはならないものって……」 みなみ「見てはならない物なら何故そんな見つかり易い所に、それに私達に見てはならない本は年齢的にない」 ゆたか「……私も続き……見てみたい」 ゆたかも見方になった。ひよりは暫く黙ってしまった。 ひより「……分かった……完成したら……でいい?」 みなみ・ゆたか「うん」 始業のチャイムが鳴った。黒井先生が来る。周りの生徒は一斉に自分の席に戻った。 また今日も普段通りの生活。あと何回あの曲、トロイメライを弾きたくなるだろうか。これから先、幼い頃の思い出なんか必要無くなるのか。 それとも思い出している時間もないほと忙しくなるのか。どちらもも悲しい。あの時のチェリーとの散歩での体験、お母さんの表情。『雨降りの午後』を見たゆたかの反応。 どれも悪い感じはしなかった。 またあの曲を弾きたくなった。放課後、音楽室のピアノを借りて弾こう。何人が立ち止まって聞いてくれるか。それは気にしない。忘れない様に、遠い将来の為に。 終 コメント・感想フォーム 名前 コメント
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──開始。 「ただいま~」 「お帰りなさい。遅かったわね」 「ちょっとゲマズに寄ってきたからね」 こなたの手には、マンガを詰め込んだ袋が握られていた。 「こなた。また、そんなに買ってきて。無駄遣いしちゃ駄目っていってるでしょ」 「お父さんに頼まれてたのもあったからね」 食卓には、夕食が並べられていた。 ごはんに味噌汁におかず。典型的な和食だ。 「そう君。ごはんよ~」 「ほーい」 そうじろうがやってきて、みんなで夕食。 そうじろうが、味噌汁に口をつけて、一瞬固まった。 「そう君、どうしたの?」 「いや、かなたの味噌汁はいつもうまいなぁ、ってな」 こなたは、そうじろうの目に涙が浮かびそうになっているのに気づいたが、あえて何もいわなかった。 「変なそう君」 夕餉は続く。 「そこで、かがみんがさ……」 こなたが高校であったことを話したり、そうじろうと一緒にアニメの話でもりあがったり。 その様子をかなたはにこにこしながら見ている。 ──残り1時間。 夕食が終わり、かなたは食器洗いに取りかかった。 一方、こなたたちは、 「お父さん、格ゲーやろう」 「おう」 二人そろって、仲良くゲームに興じる。 食器洗いを終えたかなたが、ゲームに興じる二人の後ろに立った。 「こなた。勉強しなくてもいいの? もうすぐテストでしょ」 「一夜漬けでなんとかなるから、いいんだよ。お母さんもゲームしようよ」 「9時までよ。9時になったら、ちゃんと勉強しなさい」 「え~、やだよぉ」 「こなた。お母さんのいうこともちゃんと聞いた方がいいぞ」 「うう~、お父さんまで……」 こなたは、しぶしぶかなたの言葉に従った。 ──残り30分。 「えい、えい」 両手で握ったコントローラーを振り回してるいるかなたの姿は、実年齢よりも幼く見えた。 そんなかなたを、そうじろうは目を細めて眺めている。 ゲームの方は、プロゲーマー並のこなたにかなうはずもなく、かなたの連戦連敗だ。 こなたは、部屋の時計をちらっと見た。 8時55分。 ──残り5分。 こなたは、ゲームの手を休めた。 「ねぇ、お母さん」 「なぁに?」 「前から聞きたかったんだけど、お母さんはなんでお父さんと結婚したの? どっから見ても、ダメ親父じゃん」 「こなた、お父さんは悲しいぞ」 「そうね。そう君はこんなだけど、でも……でも、私のことを世界で一番愛してくれるから」 「かなたぁー!」 そうじろうが感激のあまりかなたに抱きついた。 「もう、そう君ったら」 ──残り1分。 まもなくシンデラの魔法が解ける。 こなたは、目をつぶった。 そうじろうが、かなたにありったけの愛の言葉を叫んでいた。まるで、まもなく今生の別れだとでもいうように。 ──10、9、8、7、6、5、4……。 かなたは、そうじろうの尋常ではない様子に戸惑っていた。 ──3、2、1、終了。 暗転── こなたは、ゆっくりと目を開いた。 電極コードがたくさんつながっているヘルメットのようなものを外して、リクライニングチェアのような椅子から上半身を起こす。 現状を再認識する。 自分は、まもなく三十路を終えようとしている独身女。断じて、高校生ではない。 そして、隣を見れば、いくつになってもオタクな父親が、こなたと同じくヘルメットを外していた。 スーパーリアルシミュレーションシステム、略称SRSS。 人間の脳に五感を完全再現するシミュレーション装置だ。 主な需要は、政府や自治体である。 自衛隊が実戦と同等の状況を再現して隊員の訓練に用いていたし、政府高官も危機管理演習に用いていた。市町村の消防隊では、火災状況などを再現して、消火やレスキューの訓練に用いている。 使い方によっては精神病の治療にも有効で、精神病専門の病院にも設置されていた。 ただし、危険な側面もある。 死ぬほどの激痛を脳に再現してやれば、実際にショック死してしまう可能性はきわめて高い。また、仮想世界で飽食してても現実世界では何も食べてないわけで、満腹感で満たしつつ餓死させるといったことも可能だ。 実際、かなり慎重に運用しているはずの自衛隊でも、2、3年に一人ぐらい訓練中の殉職者を出していた。 また、あまりにも多用しすぎると中毒症状を起こすこともある。仮想世界にひたりきって、現実世界に適応できなくなってしまうのだ。 そのため、SRSSの製造、販売、所有、使用には、法的規制がある。特に、民間で用いる場合には、再現する内容には多くの禁止事項が定められおり、使用者は必ず事前に適性検査を受けることになっていた。 とはいえ、規制されればそれをかいくぐろうとする者も当然出てくる。暴力団によるSRSSの違法な製造・所有がはびこっており、警察とのいたちごっこが続いていた。暴力団がSRSSで提供する主なコンテンツは、性風俗だ。生身の人間を用意する必要もなく荒稼ぎできるのだから、暴力団としては笑いが止まらないだろう。 しかし、この手のコンテンツは中毒性が高いため、法律で全面的に禁止されている。 こなたたちが体験したのは、秋葉原のゲームセンターにあるSRSSだった。 1回、2、3時間のゲームで、100万円。大人の遊びというレベルを超えている高級ゲームだった。 「どうだった、お父さん?」 「うーん、やっぱ、違和感あったかな」 「あのお母さんは、お父さんの記憶をもとに再現したはずなんだけどね」 「俺の中のかなたは、あのときのまま止まってるからな。あれから歳をとったかなたというのは、想像もできないよ」 「そんなもんかね」 二人ともさばさばしたものだった。 二人は、SRSSへの適性は極めて高かった。仮想と現実の区別がきっちりつくということだ。 そうでなければ、ディープなオタクを長年続けることなど不可能だ。仮想と現実の区別がつかなくなったオタクがどのような末路をたどっていったかという実例を、二人はあまりにも多く知っていた。 電車で帰路につく。 あの仮想世界とは時差があって、自宅についたときには、まだ夕方だった。 今日の夕食当番は、こなただ。 ごはんと味噌汁。おかずは少なめだった。 仮想世界で食事をしたせいで、あまり空腹を感じてなかったから。 そうじろうが、味噌汁に口をつけて、一瞬固まった。 こなたがニヤリと笑う。 「どう?」 「ああ、完璧だ。完璧にかなたの味だよ、これは」 「よかった。再現度でコンピューターに負けるわけにはいかないからね」 少ない夕食はすぐに終わった。 「お父さん、格ゲーやろう」 「おう」 二人そろって、仲良くゲームに興じる。 それをとがめる者は誰もいない。 二人にとって、それこそが揺るがない現実であった。
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………… いつの間にか雨は止み、ゆるやかに昼が夕方に呑み込まれていく、 そんな時間帯のやわらかな陽射しが店内を照らしていた。 さきほど苦い顔をしていた男性が、緩慢な動作でメニュー表を差し換えている。 私は少しぬるくなった紅茶を飲み干して、話に一息をつけた。 「……で!で!それからどーしたの!?」 こなたがさらに身を乗り出して、話の続きを私に求める。 すっかり人のいなくなった店内に、その大声を咎める人はいない。 「それから、えっと……どうしたんだったっけ?」 「なんじゃそら!」 大げさな身振りでこなたは落胆を示す。 「いや、ホントに……どうだったかな……」 私は、記憶から抜け落ちた物語の続きを探していた。 あの夜の後、私はどうして、どうやってつかさと仲直りしたんだろう。 思い出せない。 「ちょっとお花を摘みに行ってくるから、しっかり思い出しといてね!」 そう言ってこなたは席を立つ。 私も席を立って、コーヒーを淹れるためにドリンクバーへ向かった。 …なんで、思い出せないんだろう。 カップを水ですすいで、機械にセットする。 ボタンを押すと、静かにコーヒーがカップに注がれていく。 こぽこぽ、と響くその音は、私に今朝のことを思い出させた。 ―――お姉ちゃん、ついでにコーヒー淹れとくね――― ―――えへへ、ちょっともーらい……にがーーい!――― ―――やっぱり、私にはまだ早いのかなあ――― ―――えっとね、お姉ちゃん。大事なお話があるの――― 「そんなこと……勝手にすればいいじゃない!」 いつからか握りしめていた掌には、くっきりと爪跡が残っていた。 ……なんか、私もたいがい変わってないなあ。 一方的に癇癪起こして、子供の頃とまるで同じじゃない。 つかさはしっかり成長して、もう一人立ちしようとしてるのに。 ………… ……ああ、もしかして。 そっか。 つかさのほうが先に大人になっちゃったのかな。 「あのー…かがみんや、んなとこで突っ立ってどしたの?」 気がつけば隣にはこなたが立っていて、怪訝そうに私を見ていた。 置かれたままのカップから湯気が立ち昇っている。 「……ごめんこなた。私、行かなきゃ」 「へ!?話の続きは?」 「ごめん、また今度話すから」 こなたの目の色が変化していく。 「…わかったの?」 「うん。全部わかった。だから早くつかさに会いたいの。会って謝らなきゃいけないから」 私はこなたをまっすぐに見据える。 不意にこなたがやわらかくほほえみ、その表情は私を少しだけ安堵させた。 「わかった!じゃーちょっとだけ座って待っててよ!」 そう言ってこなたは私をテーブルに押しやると、携帯を持ってどこかへ行ってしまった。 勢いに呑まれた私は、大人しく座ったまま時計とにらめっこを続ける。 熱いコーヒーをどうにか飲み干した頃に、こなたが席へ戻ってきた。 「お待たせー、じゃあ行こっか」 「……行こう、って…?」 私はその言葉の意味を測りかねていた こなたは悪戯っぽい笑顔を浮かべると、伝票を私に突き出した。 「かがみんちだよ!」 電車を降りるともう、辺りはすっかり夕焼けに染められていた。 雨上がりの夕陽はあまりに眩しく、私の視界は極端に狭められる。 手で小さな傘を作ってみれば世界が燃えているようにさえ感じられて、 私たちは足早にホームを横切った。 こなたは道中、何も教えてはくれなかった。 だから私も深くまで追求はしなかった。 なにとなく感づいてはいたが、あえて言葉にしようとは思わなかった。 改札を出ると横目に雨で少しだけ増水した川が目に入る。 この川は、あの日の私に続いている。 立ち止まると、不意に一陣の風が吹き抜けて私を弄んだ。 私は目を閉じて、スカートを強く押さえた。 風が止んで顔を上げると、道の先にはつかさの姿があった。 ほんの短い距離をおいて立っている。 あかねの色に染まったつかさは、まるで別人のようだった。 つかさの後ろには、みゆきが控えていた。 適当な距離をおいて、相変わらずの柔和な笑顔をたたえている。 私が後ろを向くと、そーゆーこと、とでも言うようにこなたがニヤニヤと笑っている。 どこか釈然としない気持ちを抱えつつ、私は再び前を向いた。 人々が皆それぞれの家路を辿ると、雑沓は夕暮れの外に散っていく。 そして、私達は二人きりになった。 私は一歩一歩を踏み締めるように歩いた。 つかさも小さな歩幅で歩いている。 その瞳は宝石のように輝いていた。 すぐに私たちは互いが触れられる位置まで辿り着き、そして、二人の深呼吸が重なった。 「ごめんなさい!」 ユニゾンが夕暮れの空いっぱいに広がっていく。 それだけで、私の心を覆っていたモヤモヤは消えていった。 顔を上げれば、つかさが泣きながら笑っていた。 私はつかさを抱きしめて、その感触をたしかめる。 なんだかつかさはやけに温かくて、私もどうにも涙が止まらなくなってしまう。 いつしかつかさがわんわんと泣いていたので、私も人目をはばからず泣き声をあげた。 そうして夕陽は沈んでいき、宵の闇が辺りを覆っていく。 長い長い一日が終わろうとしていた。 『……とにかくありがとう。今度あらためて奢るから、飲みに行きましょ。 でも、アンタがちょっと楽しんでたのは忘れないから』 一日の感謝と小言をこなたに送信する。 つかさはまだみゆきにメールを打っているようだ。 どこかぎこちないその指先は、私を懐かしい気持ちにさせた。 お風呂上りでまだ少し湿った髪を気にしながら、私は疲れた体を布団に沈ませる。 洗いたての毛布からはほのかにつかさのにおいがして、 そのしっとりとした甘さは私を安心させた。 すぐにつかさがメールを打ち終えて、私のマネをするように勢いよくベッドに突っ伏した。 さんざん泣きはらしたその後に、深夜まで色々なことを語り合っていた 私達はすっかり疲れ果て、一日の余韻に包まれていた。 つかさがベッドサイドの紐を引いて、照明が落とされる。 薄暗闇に目が慣れた頃、 つかさがベッドから身を乗り出して、床で毛布にくるまれている私に声をかけた。 「なんか、二人で寝るのって久しぶりだね。昔はいっつも一緒だったのに」 顔は見えなくても、つかさが笑っているのがわかった。 寝そべったままで両手に頭を乗せて、返事を待っている。 私は体を起こすと、目線をつかさと合わせるようにして応える。 「そうね、ホントに久しぶり……ねえ、つかさ。覚えてる?」 そうして私は、あのお祭りの日のことを話し始める。 今はもう、あのケンカの結末も思い出していた。 「……それで、あの時はつかさが謝ってくれたのよね」 「うんうん、私、初めてあんなにお姉ちゃんに怒られて、 どうしようってすっごく落ち込んだんだー」 「あの時はごめんね……今日のことでさ、私あの頃と変わってないんだなーって思って」 「そんなことないよ……私だって全然だもん……」 「ううん、つかさはもう大人よ……あ、結局あの金魚、すぐに野良猫に食べられちゃってさ……」 ささやき合うように会話は流れてゆき、やがて不意にぷつりと言葉が途切れた。 ―――私、お姉ちゃんに頼ってばっかりの自分から卒業したかったの――― そう、つかさは私に言った。 私も、つかさに伝えたいことがある。 「……ねえ、つかさ」 呼びかけに応える吐息のような声を聞いて、私はゆっくりと言葉を紡いでいく。 「私ね、自分が怒ったのはつかさが相談してくれなかったからだと思ってた。 でも本当はね、つかさが一人で歩こうとしてるのが寂しかったみたい。 ずっとずっと当たり前だった、一緒の時間が終わっちゃうみたいで、怖かったの……」 窓の外、遠くに連なる提灯が見える。 「勝手だよね、昔は嫌だって怒ってたのに。今は私、つかさが一緒だとすごく安心するの。 だから、離れるのが怖くて。 それでつかさのこと叱って、謝るのもイヤだって思ってた……本当に、ごめんなさい……」 あのお祭りの日が、間近に迫っていた。 「あのね、つかさ…」 呼びかけに、返事はない。 私はもう一度つかさに声をかけて、その顔を覗き込んだ。 すぅ……すぅ……。 穏やかな寝息が室内に響いて、幸せそうな寝顔がほのかな光に照らされている。 いつの間にか、つかさは眠ってしまっていた。 呆れて一息に全身の力が抜け、思わず私は声を出して笑っていた。 すぐにつかさをきちんと寝かせて、ずり落ちた毛布を肩までかけ直すと、 その顔をもう一度まっすぐに見つめた。 「……私、つかさのこと応援する。つかさが一人で歩くなら、ずっと応援する。 だから、その日までたくさん一緒にいてね。それからだって私たち、きっと大丈夫よね。 だから……とりあえずは、その日までよろしく、ね」 私はそっとつかさの髪を撫でた。 つかさが小さくほほえんだ気がしたのは、星の明かりのいたずらだろうか。 つかさが家を出るまで……あと一ヶ月とちょっと。 それまで、どんなことをしよう。 こなたやみゆきを連れ出して、休みの日には家族で出かけて、もちろん二人でだって遊びたい。 やりたいことも行きたい場所も、数え切れないくらい。 でもまずは、二人でお祭りに行こう。 あの日と同じ、この街のお祭りに。 今度はつかさと、一緒にまわりたいな。 (了) コメント・感想フォーム 名前 コメント 泣いた! GJ! -- 名無しさん (2017-06-06 00 10 46) かがみ&つかさサイコーーーー -- 名無しさん (2011-02-28 20 37 39) もうここまで仲のいい姉妹なんてこの世にいないよ・・・ 本当にかがみ&つかさ姉妹の素晴らしさは最高です! 当たり前だった事が変わるっていうのはやっぱり誰もが通らなきゃいけない道ですよね -- 名無しさん (2010-10-14 22 44 33)
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未完結の作品 感動系統 鬱・悲劇系統 お笑い・ネタ・ほのぼの・その他系統 その他系統
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「ねえねえ、みゆきさん。最近かがみの行動が目に余ると思わない?」 「かがみさんの行動、ですか?」 「そう。昨日の勉強会の時なんかみゆきさんの胸を揉みしだいてたじゃん?変態まるだしってカンジで」 「あれはかがみさん流の挨拶というか、軽い冗談ではないのですか?」 「いや、絶対違うヨ。あの時のかがみの目はケダモノの目だったからネ」 「そうだったのですか。だとしたら、少々困りものですね」 「つかさはどう思う?」 「う~ん……たしかに家では私にべったりだけど、小さい頃からそうだったから……よくわかんないや」 「そうなんだ」 「こなちゃんはどう思ってるの?」 「むー……仲良くしてくれるのは嬉しいんだけどサ、スキンシップがちょっと過剰だよね」 「カジョー?どういうこと?」 「ほら、いつもキスさせろとかなんとか言いながらいろんなところ触ってきたりするじゃん?ね、みゆきさん」 「はい。とてもかがみさんらしい行動だと思いますが」 「そうなんだけどさ、やっぱり人前でってのはやめてほしいんだよね」 「そういえば、最近はところかまわずってカンジだよね」 「でしょ?だからさ、これ以上調子に乗る前に懲らしめておいた方がいいと思うんだ」 「懲らしめる?お姉ちゃんを?」 「うん。ちょっとここらで反省してもらわなきゃダメだと思うんだ」 「しかし、どうやって懲らしめるつもりなんですか?」 「う~ん……問題はそれなんだけど……つかさ、かがみが怖がるような何かって知らない?」 「急にそんなこと言われても、思いつかないよ~」 「そっか。困ったなぁ……どうしたらいいと思う、みゆきさん?」 「悩んでも仕方ありませんし、いっそのこと本人に聞いてみてはどうですか?」 ☆ 「かがみ、ちょっといいかな?」 「んー?どうしたの、こなた?情熱的なキスでもしにきてくれたの?」 「いや、そうじゃなくって、聞きたいことがあるんだけど」 「今日の晩なら空いてるわよ?遠慮せずにいつでも私のベッドにくるといいわ」 「いや、そうでもなくて……かがみってさ、なんか怖いものってある?」 「私の怖いもの?それを聞いてどうするつもりなのよ」 「べ、別になにもしないよ」 「ふーん……ま、いいわ。そうねぇ、私の怖いものっていったら、小さい女の子かしらね。小さい上に可愛いかったりしたら、なお怖いわ」 「へ?そうなの?」 「ええ。そんな子が隣にいるって想像するだけで気分が悪くなって倒れてしまいそうになるわね」 「でも、私だってちっちゃいじゃん」 「それはつまり、怖くないギリギリのラインがあんたなのよ。あんたより小さい子だなんて……ああ、怖い怖い。ちょっと保健室にでも行こうかしら」 「へぇー。ふーん。そーなんだー」 「教えてあげたんだから舌ぐらい入れさせなさいよね」 「嫌だよ。なんでキスすることが前提になってるのさ」 ☆ 「おーっす、こなた。遊びに来たわよー」 「こなちゃん、おはよー」 「泉さん、おはようございます」 「やふー。みんなよく来たね、さ、あがってあがって」 「おじゃましまーす」 「さあさあ、私の部屋へどうぞ。ほら、かがみ、早く早く」 「わかったからそう急かすなって」 「あ、そうだ。飲み物とお菓子を持ってこなきゃ。悪いけど、つかさにみゆきさん、手伝ってくれるかな?」 「うん。いいよー」 「はい。わかりました」 「私も手伝おうか?」 「あー、大丈夫。かがみは座ってくつろいでてくれてたらいいから」 「そう?じゃあ、お言葉に甘えようかしら」 「これで泉さんの計画どおり、かがみさんを部屋に独りにすることができましたね」 「こなちゃん、これからどうするの?」 「ふっふっふ。かがみが怖がるあるモノを投入するのだよ」 ☆ 「ひ、柊先輩、おはようございますっ!失礼しますっ!」 「うわっ!?……ゆ、ゆたかちゃん?急に抱きついてきたりしてどうしたの?」 「す、すみません。でも、こうしろってこなたお姉ちゃんに言われたものですから」 「ふーん……なるほどね」 「ほ、本当にすみません」 「……ああ、困ったわね、どうしようかしら。小さくて可愛い女の子がこんなに近くにいるわ。こんな怖いことがあっていいのかしら」 「ひ、柊先輩?」 「ああ、怖い怖い。もしゆたかちゃんを自由にしてしまったらどうなるかわかったもんじゃないわ。だから強く抱きしめておかないと」 「く、苦しいです、先輩」 「ああ、怖い怖い。そんな可愛い声、聞いているだけで気が狂ってしまいそうだわ。だから唇を封じておかないと」 「せ、せんぱ……んむっ……ぷはっ……」 「ああ、怖い怖い。この胸の膨らみの無さが私の不安を加速させ、怖くてたまらなくなるわ。だから目に映らないように手で隠さないと」 「あっ……先輩、そこはっ……んっ……」 「ああ、怖い怖い。――(さすがに自主規制)――だわ。――(やっぱり自主規制)――しないといけないわね」 「ちょおっと待ったぁー!!そこまでっ!さすがにそこまででストップだよ、かがみっ!」 「ちっ、いいところで……何しにきたのよ、こなた?」 「ゆーちゃんを助けに来たんだよ。あの時、小さくて可愛らしい女の子が怖いだなんて言ってたけど……私を騙したんだね、かがみ」 「あ、バレちゃった」 「そりゃ、バレるよ。すごく嬉しそうだったもん……ねえ、かがみ、せめて最後に本当に怖い物がなんなのか教えてほしいんだけど?」 「そうね……やっぱり私はこなたが怖いわ」 「ふぇ?……アッー!!」