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「ねえ、姉さん」 「なによ? そんな声出して。まつりらしくないわね」 食事の片づけをしていたいのりにまつりが声をかける。 いつもの彼女の軽さからは思いつかないような甘ったるい、それでいて少し けだるさを含んだ声はいのりをくすりと笑わせるのに十分すぎた。 「茶化さないでよ。そ、相談があるのよ……」 「うふふ、ごめんなさい。で、なんなの?」 最後の食器を拭き終え、戸棚に戻す。そして、妹を見つめながら、テーブルを挟み 対面する席へと腰を下ろす。 「あ、あのさ。こ、この間ね、その、え~と……」 「何よ? 本当にらしく無いわよ?」 「ちょ、ちょっと待ってね」 まつりは深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。 「こ、これ……貰っちゃって……」 ポケットから取り出したのは小さな銀色のリング。石も意匠も何も無いが電灯の灯りを 受けてキラキラと輝く小さなリング。 「まあ! やったじゃないの! ちょっと悔しいなぁ~。今年のクリスマスは抜け駆けね!?」 姉はそのリングをひょいとつまみ上げ丹念に見つめる。 「それがさ……」 「それが? どうしたの?」 ごくりとつばを飲み込み、ゆっくりとまつりは言葉を吐き出した。 「つ、つつ……」 「つ?」 「つかさが……くれたの……」 左腕を大きく伸ばし、いのりの持っていたリングを取り返す。 いのりはぽかんと口を開けてまつりの言葉を頭の中で何度も何度も咀嚼してみる。 沈黙が続き、といってもたいした時間ではないのだが、いのりの目の焦点が赤面して 俯くまつりを映し出す。その瞬間、 「えーーーーーーーーーーーーーーーっ!」 「ちょ、ちょっと! いのり姉さん!!」 イスを後ろに転がすほどの勢いで立ち上がり、絶叫するいのり。突然の姉の行動を 必死で抑えようとするまつり。 その声に驚いて、今にいた両親が顔を出す。 「どうしたんだい?」 父ただおが珍しく焦りながら二人に問いかけた。 「あ、い、いや、なんでもないのよ? ね? 姉さん」 「あ、ああ、うん。なんでもない。なんでもない。いこ?」 必死で取り繕いながら、いのりはまつりの手を取り部屋を抜け出す。 目指すはいのりの自室。途中、やはり声に驚いて降りてきたかがみと出会ったが、 気づかないふりをしてやり過ごした。 「そ、それは何処の話? 何時からリングで、どんなつかさが何人くらい……」 「ちょっと、姉さん、落ち着いて! 何言ってるのかわかんないよ!」 動揺するいのりを諌めながらまつりは額に手を当てた。 「はあ、困ってるのは私の方だっての。相談する相手、まちがえたかしら?」 その言葉にぶんぶん首を振って否定するいのり。心なしかその表情がにやついてるように 見えたのは、まつりの錯覚ではあるまい。 「い、いつ、貰ったの?」 「おととい」 「どこで?」 「私の部屋」 「な、なんて言ってたの?」 「……」 小気味良く答えていたまつりが急に口をつぐむ。俯き、再び赤面する。 「ねぇ! なんて?」 いのりのニヤニヤが増していく。ベッドに腰掛けたまつりの横で、彼女の服の袖を引っ張りながら 身体を揺らす。さながら、子供がおもちゃをねだるかのように。 はあ、と溜息をつき、まつりは次の言葉を捜していた。そして、意を決したように話し出した。 「『お姉ちゃん』……」 「お姉ちゃん?」 「だ、『大好きだよ』って……」 「きゃーーーー!」 まつりが言い終わる間もなく両手を顔に当て、ベッドに倒れこむいのり。 「ちょっと、ふざけないでよ! これでも真剣に悩んでるんだから!」 まつりは少し怒ったように姉の服の袖を引っ張り、起き上がるように促した。 「ご、ごめん! で、でも……なんて言えばいいのか……」 いのりはニヤニヤに赤面をプラスした挙句、鼻息までも荒くしている。 本当に言うんじゃなかったとまつりは後悔したが、それこそ後の祭りだ。なんて冗談を考えてる場合じゃない。 「そ、そりゃあね、私だってつかさの事は好きよ? 優しい子だし、かわいいし、料理なんかも上手だし、 私やかがみなんかよりもずっと女の子らしいし……」 まつりがベッドの上の毛布をつねりながら、もじもじとして呟く。 その瞬間、いのりの部屋の扉がバタンと大きな音を立てて開かれた。 「うわ!」 二人はお互い抱き合い、ベッドに倒れこむ。扉の方に視線を向けるとそこにいたのは 「か、かがみ!」 きれいな高音のユニゾンが室内に響きそれに続いてじと目の三女が重い声を発する。 「女の子らしくなくて、悪かったわねぇー?」 柊家の釣り目チームのエースが本気を出した釣り目だ、いくら妹とはいえ、恐怖するには十分。 「ちょっと、かがみ。聞いてたの!?」 まつりも負けて入られないと立ち上がり、声に力を入れる。 「聞こえちゃったのよ! ったく、二人で何話してるかと思えば……」 「べ、別にあんたの悪口言ってたわけじゃないのよ!?」 「知ってるわよ。なんで私を引き合いに出すかなー? ってこと!」 扉を閉め、かがみは絨毯の上に腰を下ろす。手近なクッションを手に取ると、むすっとした表情で、まつりを見上げる。 「だいたい、私達四人で女の子らしさ競ったら、つかさにかなうわけ無いじゃん?」 「そ、それもそうね。あの子のああいうところは一番かもねぇ」 かがみの言葉にいのりが頬を人差し指で掻きながら答える。天井を見ながら、おそらくいろんなシチュエーションでも 想像してるのだろう。 「じゃ、じゃあ、その前の……」 まつりは力が抜けたように再びベッドに腰を下ろし、声を絞り出す。 しかし、それもかがみの声により遮られる。 「あらっ? これは……」 何気なく下を向いたかがみの視線の先にあったのは銀色のリング。 それをひょいとつまみ上げ、目の前に持ってくる。 「う、うわぁー! だめ! そ、それはだめ!」 ベッドから跳ね上がり、床の上にダイブするまつり。勢いで、のけぞり仰向けになるかがみ。ちょうど、まつりが かがみに覆いかぶさるような体制になった。 「なによ! び、びっくりするじゃない!」 ばんざいをした格好で倒れるかがみの身体をよじ登るように這い進むまつり。その目指す先は左手に握られたリング。 「ちょ、ちょっと、まつり姉さん!」 「二人とも、子供じゃないんだから、いい加減にしなさいよ!」 なんだかわけも分からず抵抗するかがみ。セーターがまくれ上がり下着が顔を出す。一緒にスカートも捲くれ上がったのだが、 これ以上の描写はここでは必要ないので、割愛する(作者)。すまん、皆。色なら水色のストライプだ! その横で、さすがに目の前で繰り広げられる光景に、姉としての自覚を思い出し、いのりは制止に入る。 だが、まつりの動きは止まらない。こうなったら、かがみの服を引き剥がしてでも取ってやろうと考えていた。 「じっとしてなさいよ! てか、さっさとそれ返して!」 「返して!? 何言ってるの? これ私のじゃない!?」 「え?」 「は?」 「ん? な、なによ。どうしたのよ、二人とも。私、変なこと言った?」 かがみの一言に同時に声を出して動きを止める二人の姉。硬直した空気が自分の発した言葉が原因だと気づき、 額に汗するかがみ。 「か、かがみ、なんて言った? 今?」 目が点というのはこういうことを言うのだろう。まつりはきょとんとしてかがみを見る。口はまるで操り人形のように パクパクと開いていた。 「だ、だから。これ私のでしょ? って言ったの。それがどうか……」 そう言いながら、かがみはリングをしまう為、スカートのポケットに手を突っ込む。すると、 「あ、あれ? あぁ、そういうことか! ははは、ごめん。まつり姉さん!」 かがみは顔全体を赤くして頭をかくと、立ち上がってリングをまつりに手渡した。 リングを手渡されたまつりはほっと一息、柔らかい表情が戻る。しかし、すぐにかがみを睨んで疑問を突きつけた。 「なによ!? 一人で納得しちゃって!?」 「え、あ~、う~んと……あははは」 かがみは乾いた笑いを響かせ、足の指だけで移動しようとする。それをまつりは見逃さず、襟元を掴んで更に 問い詰める。 「ちょっと、言いなさいよ!」 「あ~、あの~もうすぐつかさ、ここに来ると思うから、直接聞いたらいいんじゃないかな~?」 怖い! 我が姉ながらかがみはそう思ったと言う。そこへ、ようやく話題の四女が姿を現す。 「いのりお姉ちゃん、いるかなぁ?」 空気が変わる。緊迫(?)した姉妹喧嘩を、一転、花畑のようなほんわかムードに一瞬にして変えたつかさの柔らかな声。 扉が開き、黄色のリボンが顔を出す。 「あれぇ、お姉ちゃん達、皆で何してるの?」 両手を胸の前で重ねて、首を傾ける。大きな瞳は透き通っていて、三人の姉達には眩しすぎた。 ていうか、つかさかわぇぇぇぇぇぇ! 「ははは、なんでも、無いよ。ところで、私に何か用?」 ベッドから立ち上がり、つかさの側に向かういのり。だが、いのりは、不意にまつりとの会話を思い出し、私にその趣味は 無い、と胸の中でささやき、足を止める。だが、俺にはその趣味がある!と、呟く作者。 「あのね、これを渡そうと思って……」 そう言ってつかさが重ねた両手を開く。そこにあったのは封筒を小さくしたような、ピンク色の紙袋。 「何これ?」 いのりがそれを摘み上げる。同時に背後から聞こえる甲高い声。 「あーーーーーーーーーっ!」 声の主はまつり。ベッドから立ち上がり紙袋を指差す。かがみはその横で肩をぽんぽん叩く。「まあ、落ち着け」と。 「ん? あのね、いのりお姉ちゃん」 「へ?」 もじもじと下を向き、顔を赤らめるつかさ。ああ、なんてかわいいんだ! 室内の三人の姉達はそれぞれ思ったが、 口に出したら負けかな? と思った。じゃあ、こんなの書いてる俺は負けだな? うわぁん、柊姉妹にいじめられた。 「お姉ちゃん大好きだから、これ、ね?」 あけていい? と、確認して袋を逆さにする。中から出てきたのは…… 「リング……」 石も意匠も何も無いけど、キラキラと光る銀色のリング。 これを……私に……?」 「うん。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントだよ。私たち四人とも同じリングなの! ずっと仲良くしようね!」 ぽりぽりと頬をかき、ありがとうと、いのり。 頭に手を当て、先ほどの格闘でぶつけたらしい部分を撫でるかがみ。 そして……。 自分勝手に解釈をして、とんでもない妄想に流されつつも、いや、ちがう、でも、相手がつかさなら……別に良いんじゃないかなと 思いながらも、それをいのりにまで相談し、あまつさえ、そのリングを拾った妹と取っ組み合いの末、涙目になったり したんだけど、それでもそれでも、つかさの好意を結構、割と、だいぶ、かなり、期待してたりしてなかったり……。 まあ、その、なんだ、 「そうよ! 流されたわよ! 悪い!? 流されて悪いかーーーーーーーーーっ!?」 と、まつりは涙目のまま、誰もいない外に向かって吠えていましたとさ。 おしまい。 ――けれど、まつりの心の中はそれで、満足することは無かったのです―― ――――私たち四人とも同じリングなの! ずっと仲良くしてね! って、バカじゃないの? 私たち四人とも女の子なんだから、いつかは離ればなれになるに決まってるじゃない。どうせ つかさ辺りが一番に結婚……ううん、かがみも怪しいもんね? 姉さんは……まあ、お婿さん貰うのかな? そんなことを考えながら、一人、窓の外をぼーっと眺めていた。 先ほどまでのドタバタが嘘みたいに静かな夜。雲が出ていないのか、月がすっごくキラキラ光っていて、目が痛く なってくる。ほら、あんまり痛いから涙が……出てきたじゃない……。 私って、何でこうなのかな? 同じような性格のかがみとはいつもやりあっちゃうし、姉さんには甘えるだけ甘えてる。 それがそのまま外でも通用すると思ってる。バカな私。喧嘩して別れた相手、甘え続けていたら愛想尽かされた相手。 そんなの数えだしたら、きりが無い。 だから、だからさ……。 きっと、私はつかさに何かを求めてたのかもしれない……。 なんだかんだ言ってかがみはすっごいお姉さんなんだよね。つかさに対抗意識燃やしてるのかな? それも違うかな。 私とかがみ、そっくりだけど、どこか違う。それは、あの子はものすごく真っ直ぐで負けず嫌いなんだ。私は……。 私はただ、つっぱってるだけで、中身も何も無い。料理だって作れないし、頭もよくない。女らしいところも無くて……。 あれ? これじゃ、全然ダメじゃん。 窓の外の月がだんだんぼやけて来た。雲でも出てるのかと思ったけど、私泣いてるんだ。さっきよりもたくさんの涙が 溢れてきて、頬を伝ってる。それに気づいて、更に悲しくなってくる。自分がダメな人間なんだと思うと、悲しくなってくる。 自分の周りにこんなに比較対象が居るなんて、ダメ人間の私には苦痛でしかない。 そんな風に自己嫌悪に陥っていると、不意にノックの音が聞こえた。 「まつりお姉ちゃん。いる?」 つかさの声。私はベッドの枕元に手を伸ばし、ティッシュを一枚取り出す。化粧を落とした後でよかった、平気で涙を拭ける。 私はなに? と気のなさそうに返事をして、いつか、つかさから貰った誕生日プレゼントのぬいぐるみを抱く。うん、この時は そのぬいぐるみのこと忘れてた。たまたま、そこにあったのを掴んだだけだった。 かちゃりと音を立てて扉が開く。ひょっこり鼻から上だけで部屋を覗くつかさ。お風呂のあとなので、リボンは無い。 「入っても、いい?」 変な子、なに遠慮してるのかしら。私は頷き、手招きする。 部屋は間接照明にしてあるから、まず、涙はばれないはず。私はベッドに寄りかかって腰を下ろす。つかさは何故だか おずおずとした態度で目の前にあるテーブルの向こう側に座った。その上には彼女から貰ったリングがぽつんと置いてある。 「さっきの事だけど……」 「さっきの事?」 つかさは膝の上に手を置いたまま俯き、言葉を選んでるように見える。もじもじとして、ほわほわで、あー、もう! にくったらしいぐらいかわいいな、この子は! 「……ごめん、ね」 「へ、なんのこと?」 しらばっくれてみる。実際、つかさが自分で何をしたのかなんて気づくわけが無い。そんなに頭のいい子じゃないのは ウチの家族全員が知ってること。だとしたら……ううん、それもない。いのり姉さんも、かがみも、もちろん私もだけど、 そういった変な世界に純真なつかさを導いたり、教えたりすることはない。要するに、私が恋愛感情でつかさの言葉を 受け取ったなんて事、彼女が知る由も無いことだ。あれ? じゃあ、なんでつかさは謝った? もたれかけていたベッドから身体を起こし、テーブルに近づく。ぬいぐるみの上に顎を乗せて顔をごろんと横にすると、 俯いてるつかさの顔が見えた。目が合って、つかさがさらに俯く。 「どうしたの? つかさ?」 「うん。あのね、その……あ、おねえちゃん、それ使ってくれてるんだね!」 不意につかさの声が明るくなる。彼女は私の抱いているぬいぐるみを指差してにっこりと微笑む。 「うん? ああ、これね。こうやってだっこするのにちょうど良いんだ~」 ぬいぐるみをぎゅっと強く抱きしめ、頬ずりしてみせる。 「それ、肌触り良いんだよね~」 つかさはんしょと腰を上げ、私の隣に来た。膝の上のぬいぐるみを渡すとさっきまで私がしていたように、ぎゅっと抱きしめて 頬ずりしている。 「あのね、おねえちゃん。私ね……」 しばらくして、愛らしい妹が口を開く。顔はぬいぐるみにつけたまま、私のほうに視線はこない。 「みんな仲良く出来たらいいなって思うよ」 柔らかい、気持ちのいい声。心の中が暖かくなる感じ。私は、そうだね、それが一番だよね、と返して、膝を抱える。 「だけどね、いつかはみんなこのウチから出てっちゃうんだよね」 うん、そうだよ。よかった、あんたもそれくらいはわかってるんだね。 「私ね、まつりおねえちゃんと離れるの寂しい……」 そうだね、寂しいねって、ん? なんとなく違和感のある台詞。はっとしてつかさの方に顔を向ける。 やだ! 顔がすごく近いよ! 「ごめんね、勘違いしちゃったよね」 ああ、うん。勘違いした。恋愛感情じゃなかったんだよね? そう思ったのに声が出てこない。 じりじりと寄ってくるつかさ。じりじりと後ずさりする私。しばらくしてベッドにぶつかる。もう、逃げられない。 「私、まつりおねえちゃんみたいにかっこよくなりたいよ」 すると、ぬいぐるみを抱えたままつかさが私の胸に飛び込んできた。だが、ぬいぐるみは主を失い転がっていく。 つかさの頬が私の胸にうずまる。パジャマという薄い布越しに柔らかい感触が伝わってくる。 「おねえちゃんあったかいよ……」 ああ、だめ、だめだって私! いくらここの所ずっと、男に縁が無いからって! 目の前に居るのは血を分けた実の姉妹。 小さい頃から「目元がそっくりね」っていわれてきた妹なのよ。そうやって必死に頭が抵抗しているにも関わらず 左腕は私の意志を無視してつかさの頭を抱え、暴走した右腕が肩を抱く。 頭は抵抗していたが、心と体が……受け入れていた。 つかさの呼吸がパジャマの隙間から直接肌にかかる。あたたかい吐息。そして、まるで赤ん坊のように柔らかいほっぺた。 思わず摘んでみる。 「あん。おねえちゃん!」 ぷぅと頬を膨らまして顔を上げる。 だめだ、限界……。 私はそのままつかさを引き寄せる。力を抜いたまま、私に身を預けてくれる。彼女の吐息が唇に触れる。気づかれないように つばを飲み込んで、そっと肌を重ねる。 つかさの体重が私に乗ってきてその勢いのまま身体を横にする。彼女は離れない。むしろ背中に回された手の力が 徐々に強くなっていく。それに合わせて私も彼女をぎゅっと抱きしめる。 身体の中で何かが爆発して、体温が上昇していく。まだ、自由なままの両足が柔らかい相手の両足を求めてさまよう。 その時、ガタン! という音がしてつかさが身体を起こした。 私の足がテーブルを蹴ってしまったのだ。 「ふう。びっくりした」 つかさはそう言って姿勢を戻し、座り込んだ。良かった、正気に戻れた。 しかし、その直後私は後悔に陥った。 何度も繰り返してきたことだ、弱さを盾にして相手を求め続ける。ある相手は激昂し、ある相手は落胆していった。 それと同じことを愛すべき、家族にまでしてしまった。それも、私の中で最後の良心としていた、つかさにだ! 恥ずかしい、 この上も無く恥ずかしい。私はなんと情けないんだ。 倒れたまま両目を腕で隠し、零れてくる涙を見られないように身体を横にする。 「ごめん、つかさ……」 自らの嗚咽が耳に入る。それは私の心を刺激し、さらなる嗚咽を導き出す。自分の軽薄さを呪った。情にほだされやすく、 楽なものへと流されやすい性格を恨んだ。 だが、そんな自責の繰り返しを、つかさが救ってくれた。 「違うよ。おねえちゃん。勘違いって言うのは……」 つかさは立ち上がり、そしてすぐに私の側に来てささやいた。 「見て」 私は振り向く。笑顔でこちらを見る妹の手が差し出したのは、銀色のリング。そして、その裏には……。 ――forever Maturi Tsukasa 気がつかなかった、けど、そう彫られている。 「これはまつりおねえちゃん専用だよ?」 愛らしい、私に良く似た、けれど透き通った瞳が私の顔を覗き込んでくる。そして、その言葉を聴いて衝動的に、つかさを抱きしめた。 抱ききしめて、キスをして、また泣いた。 気がつくと、私の横でつかさが寝息を立てていた。部屋の明かりは点いたまま。そういえば、毛布だけ引っ張り出して 二人で昔話をしてたっけ。そのまま、寝ちゃったんだ。 部屋の明かりを消すため立ち上がる。スイッチの場所へと足を運ぶと何かを蹴飛ばした。あのぬいぐるみだ。 それを抱え上げ、いつもの場所に戻す。と、不意にそのぬいぐるみの首輪に目が引き寄せられる。そこにはアルファベットが 二つだけ「M.T」と書かれてあった。口に手を当て、声を押し殺して笑った。 部屋が暗くなり、私はベッドの脇に横たわる。つかさの肩に毛布をかけなおし、ほっぺにおやすみのキスをした。 おやすみ、つかさ。私はあなたそのものを求めていたのかな? 翌朝、起こしに来てくれたいのり姉さんにいろいろ質問をされるわけだけど、それはまた今度話すことにするね。 じゃあ、またね。 終
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ひより「うーん」 一言唸る。・・・ネタが出ない。気分転換でお風呂に入ったり、 運動もしてもみた。空しく時間ばかりが過ぎていく。今夜も徹夜かな・・・。 ゆたか「おなよう、田村さん・・・どうしたの、顔色悪いよ」 小早川さんにそう言われるとは・・・ ひより「いやー、徹夜でネタ考えたんだけど、全然浮かばなくて・・・」 ゆたか「大変だね、私で何か手伝えることあるかな」 手伝える事?・・・何かどこかで聞いたことがあるような・・・なんだろ ひより「これは自分との闘い・・・人からどうこうされても・・・」 ゆたか「そうだよね、余計なこと言っちゃったね」 ・・・っとは言っても小早川さんと岩崎さんにはいつもお世話になっちゃってる。 今回も二人のネタで行くしかないのかな・・・。 そんな話をしていると岩崎さんが教室に入ってきた。 みなみ「おはよう・・・田村さん、ゆたか」 ひより・ゆたか「おはよう」 みなみ「田村さん、顔色悪い、保健室へ・・・」 ひより「いや、大丈夫、昨夜徹夜しから」 ゆたか「漫画のネタを考えてだって」 みなみ「そう・・・私は力になれそうにない」 ひより「二人とも、もう気にしないで」 私は話題を変えようとした。 みなみ「ここ最近、何か物足りないさを感じる・・・何だろう」 突然岩崎さんが話し出した。自分から話し始めることは滅多にないのに。私は驚いて岩崎さんの顔を見た。 ゆたか「みなみちゃんもそう思うの?、私も最近何か物足りなさを感じて」 小早川さんまでもが同じ事を言い始めた。シンクロにしては出来すぎてる。 ひより「物足りない、って何が」 ゆたか「そう言われると・・・何だろう、みなみちゃん分かる」 みなみ「私も漠然としているだけで、分からない」 二人は見合ったまま首をかしげた。 ゆたか「田村さんは何も感じない」 ひより「何も感じないけどね」 ゆたか「そういえばこなたお姉ちゃんも昨日同じような事言ってた」 ひより「泉先輩も?、それはきっとそろそろ卒業が近いからじゃないの」 私の言葉に二人は納得しないような表情をした。そこにチャイムが鳴り、先生も入ってきた。 ここで話は途切れてしまった。この話は少し興味があったけどそれ以降放課後までこの話は話題にならなかった。 放課後、部室に着くと先輩が私を睨みつけて迎えた。 こ う「ひよりん、部誌の原稿はもうできた」 この言葉に私の身は凍りついた。 こ う「その表情だとまだみたいね」 ひより「昨夜徹夜したけど・・・だめだったっス」 先輩は呆れた顔をした。 こ う「もう締め切り近い、分かってるでしょうに・・・」 先輩のお小言が始まった。しばらく黙って落ち着くのを待つしかなった。しばらくすると言い疲れたのか、先輩は一息ついて席に座った。 こ う「いっその事、以前言ってたネタ帳使ったらどうなの」 ひより「ネタ帳?」 こ う「・・・以前言ってなかったっけ、先輩からネタ帳もらったって・・・」 ひより「先輩から・・ネタ帳?・・・泉先輩っスか?」 こ う「名前は聞いてないから知らないねぇ、あれ、気のせいだった?、みかんで手が黄色くなるのとか言ってたでしょ」 なんの事だかさっぱり分からない。先輩と言えば八坂先輩と泉先輩くらいしか思い当たらない。 こ う「まあいい、明日までに原案だけでも出しなさいよ」 結局、部活が終わっても原案すら提案できなかった。もう一晩徹夜するしかない。悪夢だ。 帰り道ふと思い出した。先輩のネタ帳の話。泉先輩からそんなノートをもらった覚えもない。それに、にそんなノートがあったらとっくに使っている。 先輩の勘違いだ。今の私にこんな事を考えている余裕はない。家路を急いだ。 家に着くなり自室の机に向かって原案を考える・・・思いつかない。夕食も食べずに考えた。だめだ。 こうゆう時は漫画を呼んでインスピレーションを膨らますしかない。本棚の漫画に手をかけた時だった。 一冊のノートが本棚からこぼれ落ちた。拾って表紙を見た。 『つかさのネタノート』 タイトルはそう書いてあった。つかさのネタ帳・・・つかさって誰だ、まったく覚えがない。ノートを広げてみた。いつこんなノートを誰から貰ったのだろうか。 先輩の言っていたノートってこの事を言っていたのだろうか。 つかさ・・・聞いたこと無いし会ったこともない・・・更にノートをめくっていった。 ・・・つかさ・・・何か引っかかる。今朝の岩崎さん達の会話を思い出す。そういえば何かが足りない。何だろう。 私は考えた。つかさ・・・つかさ・・・柊・・・つかさ・・・ん? 柊つかさ・・・つかさ先輩。確か泉先輩のクラスメイト。そして、お姉さんのかがみ先輩・・・高良先輩・・・ なんてことだ、今までの私の記憶につかさ先輩が居なかった。今までとは違う記憶が私の脳裏に浮かんだ。三年は泉先輩以外赤の他人。 その時私はとんでもない事になっていることに気が付いた。 人が一人完全に忘れ去られている。その存在すら忘れられている。まさか・・・最後につかさ先輩に会った時の事を思い出した。 数ヶ月前の事だった。小早川さんの家、つまり泉先輩の家に遊びに行った。その後につかさ先輩も遊びに来たんだた。遊びだったかな・・・よく覚えていない。 しかし、小早川さんも泉先輩も丁度買い物に行っていておじさんに居間で待つように言われたのだった。 そこで二人で何気なくした会話・・・ つかさ「最近は漫画の調子はいいの?」 ひより「・・・今回は順調に進んでます」 こう言う以外に選択肢はなかった。ネタ切れなんて言ってつかさ先輩のネタを使わされたら・・・。 つかさ「私のネタ、使ってもいいからね」 つかさ先輩は私の手に持っているノートを見た。 つかさ「嬉しい、私のノート使ってくれてたんだね」 あの時、持ってきたノートは自分のネタ帳のはずだった。暇対策でネタを考えていた時に丁度つかさ先輩がきたんだった。 ひより「これは・・・参考資料に・・・」 つかさ「ひとつネタ思いついたんだけど」 ひより「何ですか」 つかさ「もし、誰か突然居なくなったらどうなるだろうって」 ひより「えっ?」 つかさ「ネタにならないかな、例えば・・・私が突然居なくなるの、そしてそれを誰も気が付かない」 つかさ先輩はノートを取り、書き出した。 ひより「あまりに唐突で、何も思い浮かびません」 つかさ「そっか、唐突か・・・私ってお姉ちゃんの足ばっかり引っ張ってるし、居ても居なくてもあまり変わらないような気がして」 ひより「考えすぎのような気が、私も兄がいますけど、兄妹、姉妹ってそんなものかもしれない・・・」 つかさ先輩の手が止まった。 つかさ「そっか、考えすぎだよね」 つかさ先輩は私にノートを返した。 つかさ「でも一度試してみたい、私が居なくなった世界はどうなってるか、今とそんなに変わらないような気がする」 ひより「平行世界ですか、人一人居なくなると大きく世界は変わるって聞きますけど」 つかさ「ひよりちゃん、もし、居なくなっても、私の事、思い出してね」 ひより「つかさ先輩が居なくなったらすぐに分かりますよ、私的には存在感ありますよ、かなり」 つかさ「そう言ってもらえると嬉しいな」 この会話の後どのくらいしたかな泉先輩と小早川さんが帰ってきて・・・あれ? そういえばあの後のつかさ先輩を知らない。それどころかみんなつかさ先輩が居たこと自体を忘れている。 まさか、つかさ先輩の言った通りの事が起きてしまった。そう考えるしかない。このノートもしかして。 ノートを見回した・・・値札の跡が着いている。どこにでも売っている大学ノート。 ノートが原因かと思ったけど違うようだ。つかさ先輩が書いた『私が居なかったら』の字を消しゴムで消そうとした。 消えない。どう見ても鉛筆で書かれているのに。やっぱりこのノートが怪しい。 私の知る限りこういった呪いの類は本を燃やせば解ける。燃やしてしまおうか・・・いや、待て。 燃やしてしまってもし解き方が違ってたら、永遠につかさ先輩は戻って来れない。どうする。 そういえば・・・先輩はネタ帳の存在を覚えていた。そうかあのネタ帳がつかさ先輩の物って知らないから記憶が消えなかったのか・・・ 数ヶ月も忘れていたなんて。つかさ先輩との会話で言ってた事が恥ずかしい。とりあえずノートを燃やすのは止めよう。いつでも出来る。 でも何で私だけつかさ先輩の事を思い出せたんだろ?。 自分の中で想像がどんどん膨らんでいくのを感じた。部誌の締め切りの事を忘れつかさ先輩の呪いの解き方を永遠と考えていた。 とりあえず朝になったら小早川さんと岩崎さんにこの事を話そう。まずはそれからだ。気が付くと窓が明るい。朝が来てしまった。 学校に着くと早速小早川さんと岩崎さんにつかさ先輩の事を話した。 ゆたか「つかさ・・・先輩?」 みなみ「柊つかさ?」 ひより「そう、泉先輩と同じクラスの」 二人は見合って首をかしげた。 ひより「昨日、何か物足りないっていってたじゃん、きっとつかさ先輩のことだよ」 ゆたか「つかささん、聞いたこともないし、お姉ちゃんにそんな名前の友達居たなんて聞いてないよ」 ひより「ほら、双子で違うクラスにかがみ先輩も居るでしょ」 みなみ「かがみ・・・先輩?」 二人はまた見合って首をかしげた。かがみ先輩も知らない。何で?・・・そうか、今はつかさ先輩居ない事になってたんだ。 泉先輩とかがみ先輩は三年間同じクラスになったことがない。つかさ先輩が居ないから出会う接点がないんだ。 ゆたか「んー、いくら思い出しても柊つかささんって人思い浮かばない」 みなみ「私も」 二人はまったく思い出せない様、名前を出せば思い出せると思ったのに。これじゃつかさ先輩は私の想像だけの人物になってしまう。 つかさ先輩がリボンをつけていた事、料理が得意な事等、思い当たる特徴を言ってみたが効果はなかった。空しく授業の始まるチャイムが鳴った。 一時限目の授業が終わる頃だった。突然二人は立ち上がった。 ゆたか・みなみ「つかさ先輩!」 叫んだ。クラスメイトの視線が二人に集中する。二人は周りを見渡し顔を赤らめた。 先生が二人を注意しようとした時、授業終了のチャイムが鳴った。 チャイムが鳴り終わる前に二人は私の座る席に駆け寄ってきた。 ゆたか「つかさ先輩、思い出したよ、お姉ちゃんといつも一緒にいた」 みなみ「お姉さんのかがみ先輩といつも一緒に登校してた」 私は昨夜のノートの話をした。 ゆたか「そのノートの呪い?」 ひより「ノートの呪いか、つかさ先輩自身の想いがそうさせているのか、昨夜考えた限りだとこの二つしか思いつかない」 みなみ「これからどうする?」 ひより「ノートが原因なら燃やしちゃえばいいような気がするけど、つかさ先輩が原因なら・・・それに関係する人の記憶を蘇らせばいいような気がする」 ゆたか「つまり、お姉ちゃん、高良さん、かがみ先輩の記憶を?」 私は頷いた。 ひより「とりあえずお昼、泉先輩のクラスに行ってみようと思うけど・・・」 ゆたか「あっ!、お姉ちゃん今日お弁当忘れててお姉ちゃんに渡そうと思ってたんだ」 みなみ「私も行く、みゆきさんならきっと力になってくれる」 お昼休み、私達三人は泉先輩のクラス三年B組に向かった。 教室に着き、中を覗いてみて私達は顔を見合わせた。泉先輩と高良先輩はそれぞれ自分の机でお昼ご飯を食べていた。 ゆたか「あれ、お姉ちゃんと高良先輩・・・一緒にお昼食べてない、それにかがみ先輩は?」 ひより「つかさ先輩を思い出す前、どうだった?」 ゆたか「・・・お姉ちゃん高良先輩の話したことない・・・かがみ先輩も家に遊びに来たことない・・・」 泉先輩は小早川さんに気付いた。それとほぼ同じく高良先輩は岩崎さんに気付いて教室の入り口に来てくれた。 ゆたか「お姉ちゃん、ごめんなさいお弁当持ってきたんだけど・・・お昼前に渡せなくて」 こなた「忘れたの私だし、それより三人も来てどうかしたの」 みゆき「みなみさん、何か御用ですか」 みなみ「ここでは話せないので、お昼食べ終わったら屋上へ」 ゆたか「お姉ちゃんも、いい?」 二人は不思議そうな顔をして了解した。 屋上へ向かう途中隣のクラスの三年C組を通ったので何気に中を覗いた。かがみ先輩が居た。クラスの友達と楽しそうにお昼を食べていた。 かがみ先輩のトレードマーク、ツインテールをしていない。長い髪の毛をそのまま下ろしていた。 かがみ先輩と話している友達は・・・峰岸先輩と日下部先輩。この様子だと泉先輩と高良先輩はこの二人とも会っていない。 本当はかがみ先輩達も呼びたかったけど、私達の事はまったく知らない他人、呼び出方すら分からない。今は泉先輩と高良先輩の事に集中しよう。 屋上に着くと私達はそこでお昼ご飯を食べた。 ゆたか「私、屋上に来る途中かがみ先輩を見かけたけど、なんか感じが違ってた」 みなみ「私も見た」 ひより「もしかしたら、かがみ先輩が一番難しいかも、どうやってつかさ先輩の事を伝えるのか思い浮かばない・・・かがみ先輩実はあなたに双子の妹が居ます・・・なんて言えない」 突然会話が止まってしまった。沈黙がしばらく続いた。 ほどなくして泉先輩と高良先輩はほぼ同時に屋上に来てくれた。私は二人につかさ先輩の事を話した。二人はしばらく黙っていた。 こなた「私のクラス、席が一つ空いてたんだよね、私ずーと不思議に思ってた」 ゆたか「それだけ?」 こなた「それだけって?」 ゆたか「お姉ちゃん、つかさ先輩とは親友だよ、お姉ちゃんのことをこなちゃんって言ってた、高良先輩のことをゆきちゃんって言ってった」 泉先輩は顔を赤らめた。 こなた「こな・・・、恥ずかしいな、そんな風に言われるの・・・、柊つかさ・・・思い出せない、ってか記憶にないよ」 ひより「高良先輩はどうです?、何か感じますか」 高良先輩は目を閉じて瞑想でもするように考えていた。 みゆき「ゆきちゃん・・・何か懐かしい響きですね」 みなみ「思い出しそう?」 みゆき「いいえ、残念ながら全く」 岩崎さんが悲しい顔をした時だった。 みゆき「柊つかささん、私と泉さんととても親しい関係だったとすると、私と泉さんも今より親しい関係になっていたと思いますが」 ひより「お昼、一緒に食べていました」 こなた「私と高良さんが?」 みゆき「柊つかささんが居て私と泉さんが親しく成りえた、縁とはそんなものです、もしかしたら私達はその人の縁が消えた為に失った縁があるかもしれませんね」 さすが高良先輩。私は感心してしまった。 ひより「隣りのクラスからもお昼を食べに来た人が居たんだけど・・・」 みゆき「・・・もしかして柊かがみさんですか」 ひより「そ、その通りです、記憶蘇ったのですか」 こなた「うわ、成績学年トップの・・・信じられない」 みゆき「柊つかささんは相変わらず知りません、苗字が同じ人が居たので言ってみたのですが・・・双子の姉妹でよろしいのでしょうか」 ひより「そうです、そしてそのかがみ先輩のクラスの友達とも交流がありました」 みゆき「興味深いですね、貴方方の記憶にある柊つかささんは確かに実在していたようですね、しかし、私を含め全ての人がその存在を忘れてしまっている、 田村さん・・・でしたね?、どうして柊つかささんの存在を知ったのですか」 そっか、高良先輩は私と小早川さん初対面。泉先輩と高良先輩に交流がないから岩崎さん以外は知らないんだな。岩崎さんが来てくれて助かった。 私は数ヶ月前の出来事とノートの話をした。 みなみ「不思議な話・・・」 ゆたか「それ、覚えてる、つかさ先輩と田村さんが来るのが重なった日だよね、お姉ちゃんと一緒に買い物に行った時だ」 こなた「・・・そんなことあったっけ???」 泉先輩は腕を組んで考え込んだ。 みゆき「・・・柊つかささんの行為から察すると、柊かがみさんと何かあったのではないでしょうか」 ひより「何かあった?、何でしょう?」 みゆき「そこまでは分かりませんが、私は喧嘩だったと思います」 確かに、自分が居なくなったらなんて考えるのはそんな時くらい、ますます高良先輩に感心してしまった。 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 みなみ「時間・・・」 ひより「もう時間、高良先輩、泉先輩、来てくれてありがとうございました」 みゆき「いいえ、何も思い出せなくてすみませんでした」 こなた「んー、全く思い出せない」 私達は屋上を後にしようとした。 こなた「あ、ひよりん、その柊つかさってどんな人なの」 私、小早川さん、岩崎さん、三人で顔を見合わせた。 ひより「えーと、なんて言ったらいいのか、料理が得意で・・・」 私達はまごついてしまった。 みゆき「とても素敵な方だと思います、こんなに親身なっている人が三人もいらして・・・それに、柊さんが私のクラスにお昼を食べに来るなんて・・・」 ひより「かがみ先輩と何かあるのですか?」 みゆき「いいえ、気にしないで下さい」 みなみ「行こう、授業が始まる」 私達は屋上を後にした。 教室へ戻りながら私達は話した。 ひより「岩崎さんが来てくれたのは正解だったね、私じゃ高良先輩は呼べなかったかもしれない」 みなみ「いいえ、私は何も・・・つかさ先輩・・・戻ってこれるのだろうか」 ひより「分からない、でも、とりあえずつかさ先輩と親しい人の記憶を戻していけば何か分かるかもしれない」 ゆたか「それしかないね」 教室に戻ると授業の始まるチャイムが鳴った。 放課後、私は部室に入った、先輩と目が合ったとき、部誌の原案の事を思い出した・・・ こ う「ひより、原案はもう出来てるでしょうね」 昨日よりも口調が荒い。つかさ先輩の事でそんな事を考えてる余裕はなかった。 ひより「昨夜も徹夜した・・・っス」 こ う「どうする、今回は部誌諦めるかな・・・ん?、ひより、その手に持ってるノートは?」 ひより「これは・・・」 つかさ先輩のネタ帳、私はそれを持っていた。 こ う「なんだ、ネタ帳じゃない、見せなさい」 ひより「いや、こっ、これは・・・」 隠す暇もなく取られてしまった。先輩はノートをめくる。しばらくするとページをめくる手が止まった。 こ う「・・・いいネタだ、これいいじゃない」 ひより「へ?」 このノートでそんな事を言われるとは思わなかった。 こ う「この最後の項・・・忘れ去られた少女の物語」 最後の項、つかさ先輩の書いた『私が居なかったら』の後に私が今までの経過を書いてまとめておいた。それを読んで言っているのかな。 こ う「・・・なんだ途中じゃないか・・・でもなんかインスピレーションが湧いてきた」 ひより「それは、原案じゃなくて・・・」 いや、本当の事と言っても信じてくれない、ってか先輩は私の話を聞いてない。ノートを目を輝かせて見ている。 こ う「どうだろ、ひよりんのこのネタをお題に私がストーリ作る・・・合作という事で」 ひより「私は・・・構わないっス・・・」 こ う「んー、このストーリだったら漫画より小説が良さそうだ、・・・長編になりそう、ひよりの枠がなくなるかも」 お、これは都合がいいかもしれない。このノートがこんな所で役に立つとは。 こ う「挿絵をお願いするかも・・・ノートはもういいや、そこに置いておくよ」 この言葉を最後に先輩は机に向かって考え始めてしまった。私も机に向かった。挿絵か・・・どうせならつかさ先輩をモデルにするかな。 私はつかさ先輩の姿を思い出しながら何枚かの絵を描いた。写真でもあればもっといいのが描けたかもしれない。 下絵を描き終わった頃、終業時間を告げるチャイムが鳴った。 それから一週間が経った朝、教室に入ると岩崎さんと小早川さんが私の所に寄ってきた。 ゆたか「田村さん、高良先輩、つかさ先輩の事思い出したって」 あの時の様子だと思い出すのは時間の問題と思っていた。でも思い出すのに一週間もかかるなんて。 みなみ「お昼休み、図書室に来て欲しいって言っていた、もし持っていたらきていたらノートも一緒にと」 高良先輩になにかいい案でもあるのであろうか。なにか希望の光がさしてきたような気がした。 お昼休み、私達は図書室に向かった。図書室に入ると、高良先輩と泉先輩が親しそうに会話をしていた。 ひより「お待たせしました、泉先輩も・・・先輩も記憶が戻ったのですか」 こなた「いやー私は、さっぱり、でもみゆきさんが来て欲しいって言うから」 ん?、泉先輩、高良先輩の事をみゆきさんって呼んでいる。この短期間に二人の関係はつかさ先輩の居た時と同じになってる。 みなみ「どうして記憶が戻ったのですか」 みゆき「昨日、私、眼鏡を壊してしまいまして、授業の殆どノートが取れなかったのです、泉さんにノートを借りたのですが、 何故か同じ状況、もう一人誰かから借りた事があったような気がしていたら・・・思い出しました、ところで早速ですが ノートはお持ちですか?」 私は持ってきたノートを高良先輩に渡した。高良先輩は最初のページをめくって見た。 みゆき「やはり、この筆跡はつかささんのですね、丁寧で綺麗な字・・・」 懐かしそうにそう言うと高良先輩はノートを泉先輩に渡した。 みゆき「これがつかささんの字です、何か思い出しませんか」 こなた「確かに丁寧な字だね、私とは大違いだ・・・・」 泉先輩はノートを立てにしたり横にしたり見ていた。 こなた「・・・何も思い出せない・・・私は柊つかさに対してそんなに思い出がないのかな」 泉先輩は高良先輩にノートを渡した。 みゆき「そんなことありません、気長に思い出して下さい、所で皆さんをここに呼んだのは、かがみさんの事です」 ゆたか「かがみ先輩、この前・・・随分感じが違っていたけど」 みゆき「そうです、学級委員の会議で何度も会っていますけど・・・思い出のかがみさんとはまるで別人です」 こなた「その人、確か柊つかさの双子の姉妹って言ってたよね、姉なの妹なの?」 みゆき「かがみさんが姉ですね・・・」 こなた「ふーん」 泉先輩はあまり興味なさげに気のない声を出した。 みゆき「実は今朝、私はかがみさんに放課後、屋上に来るように言ってあるのです」 ひより「つかさ先輩の事を話すのですか」 みゆき「そうです」 私はかがみ先輩につかさ先輩の事を話す自信がない。なんて言い出していいのかも分からない。 ひより「私・・・話す自信が・・・」 みゆき「かがみさんには私から話します、今の状態で一番かがみさんの事を知っているのは私です、田村さんは私の隣に」 ゆたか「私達はどうすればいいですか」 みゆき「あまり大勢ですと不審に思われるかもしれません、屋上の給水タンクの陰に隠れて下さい、泉さんも」 こなた「私も行くの?」 泉先輩は驚いた顔をした。 こなた「あの人苦手・・・合同の体育の授業でもなにかとムキになってくるし・・・この前の百メートル走の時だって・・・」 みゆき「私とかがみさんの会話から記憶が蘇るかもしれません、今はあらゆる可能性を試すしかありません」 高良先輩・・・何か危機迫るような迫力を感じた。かがみ先輩と話すのはそんなに大変な事なのだろうか。 俗に言うツンデレ、メリハリがあったには確かだけど、いつもは笑顔が絶えない人だった。 このつかさ先輩の居ない世界でかがみ先輩がどんな別人になったのか、興味が湧いてきた。 放課後、約束に時間より早く屋上に向かうとみんなは既にスタンバイ状態だった。高良先輩が私に気付くと、 みゆき「田村さん、私、一人でかがみさんと話したいので、田村さんも隠れていただけますか」 ひより「別に私は、それでもいいですけど」 私は泉先輩達が居る給水タンクの陰に移動した。 かがみ先輩は時間通り現われた。この前見たのと同じ、ツインテールをしていない。高良先輩が言うより早くかがみ先輩が切り出した。 かがみ「高良さん、私を呼ぶなんて珍しいわね、しかもこんな所に、よほど周りに知られたくないことかしら」 かがみ先輩はすこし不機嫌そうだ。きつい言い方。 みゆき「すみません、ここにお連れしたのは、御察しの通りです」 高良先輩は深々と頭を下げた、かがみ先輩は少し口調を和らげて話す。 かがみ「何かしら、委員会の事、それとも他に何か?」 みゆき「・・・約三ヶ月前の事です、私達に重大な出来事が起きました」 かがみ「重大なこと?」 かがみ先輩は首を傾げた。高良先輩はさらに続ける。 みゆき「何かが抜けたような、喪失感、私はそんな気持ちに・・・」 抽象的な言い方・・・そうか、高良先輩は誘導尋問みたいにつかさ先輩の記憶を引き出そうとしている。直接言えば現実的なかがみ先輩のこと、 現実離れした話を否定するに違いない。すごい、高良先輩はそこまで考えているのか。 かがみ「喪失感・・・」 かがみ先輩は腕を組み、やや上を見上げ考え込んだ。 みゆき「三ヶ月前、私と柊さんの間に大きな溝が出来てしまいました・・・」 この言葉にかがみ先輩は反応した。 かがみ「・・・思い出したわ、三ヶ月前、確かに高良さんと大きな溝ができたわね」 みゆき「思い出しまたか?」 かがみ「三ヶ月前、成績順位が私と高良さんとが入れ替わった」 みゆき「えっ?」 かがみ「喪失感・・・確かに・・・高良さん、私に負けたのがよほど悔しかった、そういうことね」 みゆき「私はそんな事は・・・」 かがみ「こんな所に呼び出して、そんな事を言うために、大人しそうに見えて侮れないわね」 うわ、これは・・・話が違う方向へ、高良先輩はいきなりシドロモドロになってしまった。そこにかがみ先輩は追い討ちをかける。 かがみ「私もこの二年間、あなたに負けっぱなしで喪失感を味わったわ、次のテストだって負けない、宣戦布告として受け取るわよ」 かがみ先輩と高良先輩いつも成績は学年トップクラス、ライバル関係だったとしてもまったく違和感ない。むしろこれが自然なんだろう。 つかさ先輩はこの二人をライバルではなく親友にしてまったのか。この状況を見てそう確信した。 かがみ「果し状は受け取ったわ、お互い悔いのないようにしたいわね」 かがみ先輩は高良先輩に背を向け屋上を出ようとした。 みゆき「待ってください柊さん」 かがみ先輩は立ち止まり振り返った。 かがみ「まだ何か?、もう話すことはないわよ」 みゆき「私の言い方が抽象的で誤解を生んでしまいました、私は柊さんの記憶を取り戻そうと、その為に・・・」 かがみ「私の記憶・・・そっちの方が分からない、私の何を知ってるのよ」 高良先輩は目を閉じ、両手を胸元で組んで一度深呼吸した。祈っているように見えた。そして目を開けたと同時に・・・ みゆき「柊つかさ・・・この名前を聞いて何か感じませんか」 かがみ「柊・・・つかさ・・・苗字が私と同じ、そんな子聞いたことない」 みゆき「目を閉じて、深く、深く、思い出して下さい、柊さん、貴方の双子の妹です、三ヶ月前までこの学校に居ました、私のクラスメイトです」 かがみ「・・・っぷ・・・ふふふ、」 かがみ先輩は吹き出して笑った。そして腹をかかえて大笑いした。 かがみ「何を言い出すかと思えば、私には二人の姉がいるけど妹なんか居ないわよ」 みゆき「不思議な事が起きました、私の記憶には、柊つかさ、が居るのです、その方は私の親友でした・・・そして柊さん、貴方はその妹とお昼を食べに 度々私の教室に訪れています、そして、私たちと一緒に食事を・・・」 かがみ「・・・高良さん、大丈夫?、そこまでいくと妄想を通り越して幻覚でもみてるんじゃない、それに私はね例え妹が居ても 高良さんと一緒になんか食事はしないわよ、さっきの会話で分かるでしょうに」 みゆき「これはつかささんが書いたノートです、これが唯一残されたつかささんの居た証拠です」 高良さんがノートを差し出すと黙ってかがみ先輩は受け取った。そしてパラパラとめくって中をみた。 その間高良さんはつかさ先輩が居なくなった経緯を話した。 かがみ「取って付けたような話じゃないことだけは認めてあげる、高良さん、文芸部にでも入れば、きっと賞が取れるわよ」 かがみ先輩は話をまともに聞いてない。棒読み。感情が入っていない。 みゆき「かがみさん、一年の頃からつかささんといつも一緒でした、登校も、下校も、いつも二人とも笑顔で私達に・・・楽しい日々でした、 そして、かがみさん、泉さんと親友になられて・・・」 高良先輩は切々とつかさ先輩との思い出を語りだした。よく見ると目が潤んでいる。いや、目から涙が出ているのが分かった。 つかさ先輩を助けたい。高良先輩のこの気持ちが私にも伝わってくる。高良先輩に比べれば私はゲーム感覚であった。今になって事の重大性に気付いた。 私、泉さん、小早川さん、岩崎さん、ただ黙って二人を眺めていた。私も高良先輩と同じくつかさ先輩の事を知っているのでもどかしい気持ちになった。 かがみ「もうそんな作り話聞きたくない」 強い口調で高良先輩を止めた。 かがみ「宣戦布告したと思えば、今度は泣き落とし、高良さん、貴方が分からなくなったわ、それに、泉さん・・・ あの人も高良さんと同じく友達になれるとは思わない、 もういいでしょ、私はもう帰るわよ」 再びかがみ先輩は屋上を出ようとした。 みゆき「かがみさん」 かがみ「そんな呼び方止めて、高良さんらしくない、・・・・仮に、その話が本当だとして私にどうしろと言うの」 高良先輩は何も言わなかった。 かがみ「私のクラスには中学時代からの友人がいる、家族も父と母、姉が二人いる、もうそれで私は満足、・・・私の記憶をどうこうして何のつもりなの、 この世界に居ない人間をどうするつもりなのよ」 高良先輩は何も言わない。多分言えない。私にも言い返す言葉が見つからなかった。 かがみ「高良さん、私達にはそんな事を考えている時間はないはず、もうすぐ受験、現実は厳しいわよ」 高良先輩はひざを落としてしまった。かがみ先輩はそんな高良先輩を見て気の毒に思ったのか肩に手をかけて、ノートを返した。 そして・・・そのまま屋上を後にした。 かがみ先輩が視界から消えると私達は一斉に高良先輩に駆け寄った。 みゆき「私は何もできませんでした、私一人でだなんて、あまりにも無謀でした」 ひより「私が側にいても、ただ傍観していただけでした」 高良先輩は私にノートを渡した。 みなみ「そんな事は、きっとかがみ先輩の心に残ったと思います」 こなた「みゆきさん・・・」 ゆたか「高良先輩のつかささんへの思い、きっとかがみ先輩に届いたと思います」 みゆき「私は、つかささんだけでなく、かがみさんまで失ってしまうのですね」 高良先輩の涙は止まっていなかった。私達の言葉はなんの慰めになっていなかった。 膝をを落とした高良先輩を泉先輩が起こしてあげた。 ゆたか「かがみ先輩・・・確かに私の知っているかがみ先輩とは違う気がする」 みなみ「私にはそうは思わない」 ゆたか「そう?」 みなみ「つかさ先輩の話の反応は、かがみ先輩でなくても似たよなものになる、むしろ私達の反応の方が稀」 ゆたか「・・・でも、私は田村さんに言われたとき、自然に受け入れられた」 みなみ「それは、田村さんが私達と親しいから、高良先輩とかがみ先輩は委員会が同じだけで、それほど交流してない」 ゆたか「それじゃかがみ先輩と親しい人から言ってもらえれば少しは違うのかな」 みなみ「親しい人・・・峰岸先輩、日下部先輩、あとはかがみ先輩のお姉さん、ご両親・・・」 かがみ先輩の家族は論外、峰岸先輩、日下部先輩、つかさ先輩の居なくなったこの世界では私達に何の接点もない、おそらく泉先輩、高良先輩も、 ひより「さっきの岩崎さんの話を参考にすると、それだとかがみ先輩より話し辛いくない?」 行き詰ってしまった。何をしていいのか分からない。 こなた「柊さん・・・本当に私と親友だったの」 私達は泉先輩の方向を向いた。 こなた「みゆきさんとの会話で、私とは友達になれないって・・・」 ゆたか「それは・・・本当のお姉ちゃんを知らないからそう言ってる・・・と思う」 泉先輩が少し悲しそうに見える、ああ言われれば誰でもそうなるか。 こなた「柊さんじゃないけど、私も記憶が戻らなくてもいいと思ってきた・・・」 ゆたか「・・・え、どうして、つかさ先輩も、かがみ先輩も、いつもお姉ちゃんと一緒に居たんだよ」 こなた「それを知らない・・・でもそれを知ったらみゆきさんと同じ苦しみを受けることになるよ、記憶と違う現実なんて・・・」 高良先輩とかがみ先輩の会話は泉先輩にとっては逆効果だったみたい。このまま終わってしまいそう。 みゆき「私はそうは思いません」 高良先輩はもう涙は引いていた。 みゆき「泉さん、私と親しくなったのもつかささんが居たからです、泉と私を会わせてくれた、そう思いませんか」 泉さんは高良先輩の方を見ている。 みゆき「かがみさんも、仮に本当だとして・・・と言ってくれました、そう考えてくれたのです、全く否定していません、まだ望みはあります」 こなた「私にはそんな考えできないよ、聖人君子みたいに・・・」 秋も深まる季節、日が落ちるのが早い、外はすっかり夕焼けになっていた。高良先輩の提案で最低週に一回は会うことになった。 とりあえず来週会う日を決めると私達は屋上を後にして教室に戻った。そこで泉先輩と高良先輩とは別れた。 教室で帰り支度をする。 ゆたか「田村さん、今日は部活大丈夫だったの」 ひより「今日は大丈夫、だから高良先輩に同行できた」 ゆたか「それにしても、かがみ先輩・・・高良先輩をライバル・・・と言うより敵対視しているようにも見えたけど」 ひより「あそこまでとは・・・高良先輩も別人って言ったけど・・・お昼の高良先輩の危機迫るのを感じたけどこの事だったんだね」 ゆたか「でも、なんでそこまで変わっちゃったんだろ、高良先輩、お姉ちゃんはまったく同じなのに」 みなみ「かがみ先輩にとってつかさ先輩の存在が大きかった、かがみ先輩のライバルはつかさ先輩だったのかもしれない」 ゆたか「そうかな、あの二人、いつも一緒で仲良かったと思うけど」 みなみ「双子ならなおさら、周りの目もあるし、意識してしまう、でもつかさ先輩はあの性格だからかがみ先輩のライバル心を吸収してしまっていた」 ゆたか「岩崎さん、一人っ子なのによくそんな事が分かるね」 慕うように岩崎さんを見つめる小早川さん・・・この二人もまったく変わらない。そして、それを腐った目線で見ようとしている私も変わらない。 今はそんなことを考えている場合ではない。私は咳払いをした。 ひより「それより早く帰ろう、この時間になると部活が終わってバスが混むよ」 ⑪私達は教室を後にした、帰りながら私達は話した。 みなみ「私は泉先輩が心配、別れ際もなにか元気がなかった」 ゆたか「そうだった、記憶なんか戻らなくていいなんて言ってたね」 ひより「まぁ、あの高良先輩を見たら誰でもそう思うよ」 ゆたか「帰ったらお姉ちゃん元気付けにつかさ先輩の話でもするよ」 ひより「あ、それはかえって逆効果かも、その話題は当分しない方がいいと思うよ、どうせ週一回は会うんだし」 ゆたか「そっか、知らない人の事を話されてもね・・・わかった」 駅で私達は別れた。 知らない人か・・・自分の記憶とは違う現実、高良先輩とかがみ先輩との会話でそれを目の当たりにした。 帰路を歩いていくと見知らぬ人々とすれ違う。登校の時も同じ、今まで何人の人とすれ違っただろう。 一瞬で出会っては別れていく。この中で私を知っている人は、私が知っている人は何人居るだろうか。 知らない人から知ってる人になる切欠って何だろう、たまたま道を聞かれたりしたのが切欠になったり、 買い物に行くお店が偶然一緒だったりするけど・・・結局偶然か。岩崎さんや小早川さんと友達になれたのはたまたまクラスが一緒になっただけ・・・ いや、クラスが一緒になった人でも殆ど会話すらしない人だっている。 これが高良先輩が言ってた縁ってやつなのかな。例え同じ場所にいても知り合いになったりならなかったり、別に自分で選んでいるわけではないのに。 なにか不思議な気持ちになった。 それから数日が過ぎた放課後だった。私は部室の扉を開けようとした時だった。後ろから私を呼ぶ声がした。 「田村さん・・・だよね」 聞き覚えのある声だった。振り向くと。そこには峰岸さんが立っていた。 ひより「峰岸・・・先輩」 その呼ぶと峰岸先輩はほっとした様子で私に話しかけてきた。 あやの「やっぱり、私の事知ってるでしょ」 ひより「・・・知っていると言えば知っていますけど・・・」 返答に困った。そんな私を見て峰岸先輩は私に雑誌を見せた。 ひより「これは・・・私の部でつくった雑誌・・・」 あやの「これ、書いたの貴方よね」 雑誌を開き私に見せた。それはこの前先輩に頼まれた挿絵だった。 あやの「もしかして、この絵の子、妹ちゃん・・・柊つかさじゃない」 驚いた。この絵を見て峰岸先輩はつかさ先輩の事を思い出したみたいだ。これは嬉しい。もしかしたら私達の事も思い出したかもしれない。 ひより「ここで話もなんですので、中にどうぞ」 私は部室に案内した。部室には誰も居なかった。 ひより「つかさ先輩の事を思い出したって事は、私の事も分かりますよね」 あやの「・・・泉ちゃんの従姉妹と同じクラスの、田村さん」 これは思ったより確かな記憶、私どころか泉先輩、小早川さんまでしっている。 あやの「私、何がなんだか分からなくて・・・柊ちゃんに聞くのも恥ずかしくて、この絵を描いた本人に聞くしかないと思って・・・」 ひより「いつ、思い出されたのですか」 あやの「昨日・・・この雑誌の小説と挿絵を見てるうちに・・・」 峰岸先輩がうちの部誌を読んでくれていたのは嬉しい誤算だ。先輩の小説の元ネタは今現実に起きていること、それに挿絵はつかさ先輩。 これなら思い出す人も居るかもしれない。私は峰岸さんに今までの経緯を話した。 あやの「・・・それじゃもう既に、高良さんは・・・」 ひより「ええ、かがみ先輩にこの事は話しています、結果は散々たるものでした」 あやの「そういえば、ここ数日柊ちゃん元気なかったわね・・・」 そういえばこの人はかがみ先輩とは中学時代からの友達だった。聞いてみたいことがあった。 ひより「今のかがみ先輩って、峰岸先輩の記憶のかがみ先輩と違いますよね」 あやの「んー、私達には変わりなく接しているわね、確かに性格がきつくなった面もあったかもしれないわね」 意外な答えだった。もっとも誰でもあんな態度なら峰岸さんも友達にはなっていないか・・・。 ひより「峰岸先輩が居てくれると心強いです、かがみ先輩に話してくれると助かりますが」 あやの「高良さんでもダメだったのに・・・私じゃ力不足ね」 峰岸さんは俯いてしまった。私は話を変えた。 ひより「週一回、この事について話し合いをすることにしてるのですが、参加していただけますか、丁度明日の放課後がその日になります」 あやの「それなら是非、参加したい」 ひより「できればでいいのですが・・・もう一人のお友達・・・日下部先輩はどうでしょうか」 あやの「みさちゃん・・・みさちゃんは私から話しておくわ、来れるかどうか分からないけど、期待しないでね」 ひより「それじゃ、明日の放課後、自習室で」 あやの「分かったわ・・・妹ちゃん、助けられるといいわね」 そう言うと、部室を後にした。そこに入れ替わるように先輩が入ってきた。 こ う「ん、さっきの人誰だ」 ひより「三年C組の峰岸先輩っス」 こ う「ひよりん、意外と顔が広いね、てか、あの人うちの部誌持ってなかったか」 ひより「持っていました、それより部室を空けるなんて無用心っスよ、どこ行ってたんスか」 こ う「いやね、先日発行した部誌が意外と好評でね、再発行の手続きを先生としてたんだ」 私は机においてある部誌を手に取り開いて読んだ。 ひより「・・・この小説、途中でおわってるじゃないっスか、長編になるって息巻いていたじゃないですか」 こ う「・・・いやね、連載物にすればいいかなって・・・だから一緒に考えて」 ひより「私の時は助けてくれないのに・・・」 と言ってもこのおかげで峰岸先輩が力になってくれる。これはいい方向に向かっていくような、そんな気がした。 あくる日の放課後、すぐにでも自習室に向かいたかったが、先生に書類整理を頼まれたおかげで遅れて向かうことになった。 自習室に入ってみると、峰岸先輩は日下部先輩を連れてきてた。日下部先輩は私を見るなり懐かしそうに話してきた。 みさお「お、田村さんってこの人だったか、ちびっ子とよく話してるの見てたよ」 ひより「あの、もしかして日下部先輩の記憶・・・」 みさお「・・・柊の妹、あやのの持ってた雑誌の絵を見て思い出した、柊といつも一緒にいたっけな・・・その割りに私たちとはあまり話さなかったな」 みゆき「田村さん、あの挿絵の効果は絶大でした」 ひより「いや、別にこれを狙ったわけじゃなかったのですが・・・」 ゆたか「これであとはお姉ちゃんとかがみ先輩だけだよね」 みさお「しかし、なんだろ、一番最初に思い出してもよさそうな二人が残ったな」 ん、私は辺りを見回した、泉先輩の姿が見えない。 ひより「その泉先輩は・・・見当たらない」 ゆたか「お姉ちゃん・・・アルバイトがあるって・・・」 みゆき「私がいけなかったのです・・・」 みなみ「みゆきさんが悪いわけじゃない」 一気に雰囲気が暗くなった。 みさお「記憶が戻らないんじゃそんなもんだ、別に気にするこないんじゃない」 日下部先輩・・・軽く言っているけど的を得ている。確かに泉先輩、かがみ先輩・・つかさって名前を聞くだけで思い出しそうな気がする。 私達一年三人も思い出すのに一日かからなかった、峰岸先輩、日下部先輩もすぐに思い出した。そういえば、高良先輩は思い出すのに一週間掛かってる。なんでだろ? でもそんな事はどうでもいい、これからどうするかが重要。 ひより「これから・・・どうしよう」 みさお「どうするもこうするも、柊の妹を元に戻す方法考えるしかないよな、でも・・・柊の妹が居ないだけでこんなになっちまうもんなのか」 みゆき「それが、出会い、と言うものです」 みさお「そうなのか」 みゆき「極端な例ですが、お父さん、お母さんが出会わなかったらどうなると思います」 みさお「・・・それりゃ、私はこの世にいない・・・な」 みゆき「出会いは良くも悪くも大なり小なり、人に影響を与えます、時には人の一生を左右するほどに、時には歴史まで大きく変わるほどに・・・」 みさお「わかった、わかった、スケールが大きすぎて・・・分かったよ、要は柊の妹がB組とC組の仲を繋いでたんだよな」 あやの「一年からでしょ、妹ちゃん、泉ちゃん達と三年同じクラスだわ」 みさお「そうだった・・・柊の陰で目立たなかったけど、今思うと結構存在感あるんだな」 しばらく沈黙が続いた。なかなかいい考えはないもの。私も含め皆考え込んでしまった。 まてよ、泉先輩の家でつかさ先輩に最後に会った時の事を思い出した。確かつかさ先輩は試してみたい・・・そう言ってノートに『私が居なかったら』と書いた。 ひより「これはつかさ先輩が自分を試すために仕掛けた呪いじゃないかなって思うのだけど」 皆の視線が私に集まる。更に話し続けた。 ひより「みゆき先輩が言われたように、あの日、かがみ先輩とつかさ先輩は喧嘩した、多分かがみ先輩からつかさ先輩を否定するような事を言われて、それなら 自分自身が居なくなったらどうなるか見てみたいって願望がこの世界を生んだとしたら・・・」 みさお「姉妹喧嘩か・・・あの二人の仲の良さからすると想像できない」 あやの「仲が良いほど喧嘩する時は激しくなるね、考えられなくはない」 ゆたか「・・・それなら、もう充分つかさ先輩が必要な人って事は証明できてるんじゃないかな、高良先輩もそう思われるのでは?」 みゆき「そうですね、でもつかささんは私達にそれを求めているのではない」 みなみ「・・・かがみ先輩がそう思うのを望んでいる」 また沈黙が続いてしまった。 日下部先輩が痺れを切らせて話した。 みさお「これで方向性はきまったな、柊の記憶を戻す、そうすれば柊の妹の存在がどれほどのものかって分かる、呪いが解けて柊の妹が復活・・・ってことかな」 ゆたか「でも、お姉ちゃんの記憶は・・・放っておいていいのかな」 ひより「泉先輩・・・今私達と一緒に行動しても辛いだけじゃないかな、つかさ先輩の事知らないから私達の話についていけないし、三年C組の事だって知らないでしょ」 ゆたか「・・・そっか、お姉ちゃんここに来なかった理由、今分かった・・・記憶が戻ったらなら先頭になって協力してくれるよね」 外からチャイムの音が聞こえる。終業の時間だ。 みさお「もうこんな時間か」 みゆき「方向性が決まっただけでも成果はありました、今度はどうやって二人の記憶を戻すか、それについて話しましょう」 私達は解散した。 私は買い物があったので皆とは別行動する予定だったけど、高良先輩に呼び止められた。 ひより「何か?」 みゆき「あの雑誌の事で・・・」 ひより「雑誌・・・ああ、部誌のことっスか」 しまった。つい癖の『ス』を出してしまった。先輩以外では使わないようにしていたのだが・・・ みゆき「そうです、あの小説を載せたのは田村さんのご意思ですか」 ひより「い、いえ、あれは部長・・・八坂先輩にあのノートを見られてしまいまして・・・一応共同制作としているのですが・・・先輩がえらくこのネタを気に入りまして・・・」 まずい、高良先輩は相談無く載せた事を怒っているのだろうか。 みゆき「そうですか・・・」 高良先輩は目を閉じて何か考えている様子だった。 ひより「高良先輩、すみません、勝手に載せてしまって・・・止められませんでした」 みゆき「あっ、別に私はそれがいけないとは言っていません、むしろして頂いて結構です、私ではそこまで気が付きませんでした」 私はほっと胸をなでおろした。 みゆき「それで相談があるのです、その小説の結末についてなのですが」 ひより「結末・・・ですか」 みゆき「結末は、少女は結局助けることができなかった・・・と、して頂きたいのです」 私は驚いた、ハッピーエンドにした方がいいに決まっている。 ひより「悲話にしてしまうのですか・・・どうしてです」 即座に聞き返した。 みゆき「この小説、かがみさんにも読んで頂きたいからです、悲話にすればかがみさんの奥底にある記憶が蘇るかもしれない・・・」 ひより「逆療法ですか・・・私一人では決められないですけど・・・やってみます」 みゆき「ありがとうございます」 私は自習室を出ようとすると。 みゆき「あの雑誌の挿絵・・・つかささんの雰囲気が出ていてよかったです、絵でしかつかささんの存在を確かめられないのですね」 悲しげな表情だった。私の絵を褒めてくれた。嬉しかったけど素直に喜びを表せなかった。 ひより「このノートが在ります、これはつかさ先輩の書いたノート」 みゆき「そうでしたね」 微かに笑った・・・様に見えた。 高良先輩とも別れ、一人で帰宅することになった。腕時計を見た。まだ買い物をする時間はある。近道をした。 ふと高良先輩の言葉を思い出した・・・出会い。 つかさ先輩が居ると居ない。こんなに違う世界になるなんて。一つの出会いが歴史も変えるか・・・少なくとも私達の周りではそれが起きた。 つかさ先輩が居た世界の方が楽しい。それはみんなそう思っている。つかさ先輩と知り合いになれたのは泉先輩が友達だったから。いや、 小早川さんが泉先輩の従姉妹だったから。その繋がり。それじゃ私は・・・私が居なくなったら・・・つかさ先輩の様に誰かが思い出してくれるかな・・・ うわ、そんな事考えて私まで消えたらやだ、まだ私はこの世に未練がある。 「Excuse me」 突然後ろから誰かの声が聞こえる。周りを見渡したけど私しか居ない。私を呼んでいるだろうか。 「Excuse me」 同じ方向からもう一度聞こえた。間違えない私を呼んでいる。しかも外人だ。これも縁ってやつかな。英語で道案内くらいの事はできる。 私は声の方向を向いた。思わず見上げた・・・天を突くような大男、二メートルはあろうか。もう冬も近いというのに半袖・・・筋骨隆々・・・私の前に立ちはだかっている。 外人「〇#★ЭЩ@㊥$?」 私は硬直した。何を言っているのか分からない。少なくとも英語ではない。・・・身振り手振りで私に何かを聞こうとしている。道を聞いているのはなんとなく分かった。 外人「〇#★ЭЩ@㊥$?」 同じ事を言っているけど分からない。私は呆然と外人を見ていた。外人は急いでいるらしい、イライラしているのが伝わってくる。私は何かしようとするけど体がついてこない。 思わず私は身を竦めてしまった。それでも外人は執拗に同じ言葉を私に話してきた。 大男が揺らめいた。大男の後ろから誰かが押したみたいだった。大男はゆっくりと後ろを振り返る。大男はその人にも同じ言葉をかけた。するとまた大男が揺らめいた。 何をしているのだろうか。大男の陰で相手が見えない。 外人「$$$$””””!」 外人はなにやら喚いたかと思うと両腕を天に上げて拳を下ろした。大男の陰から稲妻のように誰かが飛び出し彼の拳を避けると振り下ろした腕を掴みそのままその力に逆らうことなく 大男の腕を捻った・・・大男はまるで木の葉が風に舞うように宙に浮いた。大男は背中から地面に叩きつけられた。 大男は喚きながらその場を立ち去った・・・・。一瞬の出来事だった。私はその場にしゃがみ込んでしまった。 「ゆい姉さん直伝・・・小手返し・・・その変形」 まるで戦隊物のヒーローのようにポーズをとりながら聞き覚えのある声で・・・って ひより「泉・・・先輩?」 こなた「ひよりん・・・どうしたのこんな所で」 そう言うと私の腕を掴み起こしてくれた。 ひより「泉先輩・・・何か格闘技でもやってたんスか」 こなた「まあね・・・それより間一髪だったね、大丈夫だった?、最近物騒だからね・・・」 ひより「・・・外人の後ろからなにかしたっスか」 こなた「うしろから蹴った」 ひより「・・・振り返ってから何かしったスよね」 こなた「蹴った」 ひより「・・・助けてもらって何ですが、あれは道を聞いてきただけだったような」 そう言うと泉先輩は何も言わず呆然と私を見ていた。 ひより「どうしたんスか?、泉先輩?」 聞き返しても私を見ているだけだった。私は泉先輩の顔の前で手を振った。 こなた「・・・これ、どこかで同じことがあったよ・・・」 ひより「同じこと??、どういうことっスか」 こなた「そう・・・あれは・・・一年生の時・・・」 泉先輩は腕を組み、首を傾けて考えている。私はそれを見守った。 こなた「・・・つかさ・・・つかさに初めて出会った時だ・・・つかさ!」 何度もつかさ先輩の名前を呼んでいる。 ひより「もしかして、思い出したんスか」 泉先輩は急に悲しい顔になった。 こなた「・・・かがみ・・・なんであんな事言うんだよ・・・」 あんなこと、高良先輩とかがみ先輩の会話の事を言っている。そう思った。泉先輩の記憶が戻ればこれほど心強いことはない。 ひより「ここに居てもなんなんで、近くの喫茶店にでも・・・」 近くの喫茶店でコーヒーを頼み、しばらく気を静めた。そして、泉先輩に放課後で行った会議の事を話した。 こなた「・・・記憶を取り戻す方法・・・」 ひより「そうっス、でも泉先輩はもう大丈夫っスよね、しかし凄かったっスよ、あの大男を投げ飛ばすなんて」 こなた「いいや、たいした事無いよ、私が小さいから油断しただけ」 ちょっと照れくさそうに手を頭に当てた。泉先輩はすぐつかさ先輩の話題に戻した。 こなた「かがみが最後に残った・・・って事だね」 ひより「・・・身内だけに、一番厄介なんっス」 こなた「かがみの性格もあるね、何かと現実主義だし、例え思い出しても、夢か幻かと思っちゃうかもね」 ひより「かがみ先輩とつかさ先輩が出会った時の事でも分かれば・・・」 こなた「・・・ひよりん、二人は双子だよ、生まれた時、いや生まれる前から出会ってるよ」 ひより「・・・なんか絶望的な事を聞いたような気がするっス」 会話がなんの抵抗も無く進んでいく。泉先輩は本当に記憶が戻った。そう思った。それと同時にかがみ先輩の記憶を戻すのがどれほど難しいかも分かってしまった。 こなた「絶望的、そうでもないよ」 ひより「何か秘策でもあるんスか」 泉先輩は笑みを浮かべた。自信があるようだ。 こなた「秘策って程の物じゃないけどね、これはみさきちと峰岸さんの記憶が戻っているのが条件なんだ」 ひより「それなら問題ないっス」 こなた「さっきの放課後の会議の話を聞いて思いついた」 ひより「その策は?」 こなた「それは・・・直接本人に話したいな、明日、全員集まれるかな、放課後、私も準備しないといけないし」 ひより「多分大丈夫・・・私、部活があるっス」 こなた「話は数分で終わるよ、私、明日もバイトだし」 ひより「それなら・・・」 こなた「よし、明日の放課後、自習室集合で、三年の方とゆーちゃんは私から話しておくから」 ひより「私は岩崎さんに話せばいいっスかね」 泉先輩は頷いた。そして何故か不思議そうに私を見ている。 ひより「どうしたんスか?」 こなた「そういえば、ひよりんの口調が戻ったね、これもつかさの影響なのかな」 しまった。大男のショックで癖がそのまま出てしまった。 ひより「いや、これは関係ないっス、いままでのは癖を直そうとしたけっス・・・あれ・・・」 こなた「・・・無理しなくていい、そっちの方がひよりんらしいよ」 ひより「いや、恥ずかしいっス・・・あ、また」 泉先輩は大笑いした。どうやらこの癖、直すのは無理みたい。 こなた「ところで何でこんな所に」 ひより「買い物に・・・」 こなた「買い物ってこれの事かな」 泉先輩は一冊の漫画を見せた。 ひより「それは・・・それを買いに来たっス」 こなた「残念、これはもう売り切れているよ、私が最後だったから」 ひより「えー、」 泉先輩は鞄から同じ漫画の本を取り出し私に手渡した。 ひより「これは・・・」 こなた「布教用・・・あげる、記憶を戻してもらったお礼に」 私はその本を受け取りお礼を言おうとした時だった、私と泉先輩の携帯電話が同時鳴った。私達は同時に着信を確認した。 こなた「誰から?」 ひより「お父さんから・・・早く帰って来いって」 こなた「私もだよ・・・親って考えることって同じだね、帰ろうか」 ひより「そうっスね」 私達は駅で別れた。 次の日の放課後、約束どおり皆自習室に集まった。しかし泉先輩はまだ来ていない。 みさお「ちびっ子本当に記憶もどったのか、言いだしっぺが遅刻かよ」 ひより「何か準備があるっていってたっス」 日下部先輩は腕を組んで少し怒り気味だった。丁度そこにドアを開けて泉先輩が入ってきた。 みさお「おい、ちびっ子、呼び出しておいて遅刻な・・・・」 日下部先輩の口が止まった。私も泉先輩の姿を見て驚いた。 こなた「ごめん、ごめん、準備にてまどっちゃって、ところで、どう、似合うかな」 泉先輩はその場でクルリと一回転してポーズを決めた。泉先輩の髪の毛は肩までスッパリ切ってしまっていた。 そして頭に黄色いリボンを・・・アホ毛を隠すように。つかさ先輩の髪型を真似ている。すぐに分かった。 ゆたか「お姉ちゃん、どうしたの、まさか・・・」 こなた「時間がないから・・・早速話すね、明日のお昼から、みさきちは私のクラスでご飯食べて、みゆきさんと私と一緒に、そして、一週間経ったら今度は峰岸さんも 私達と一緒にお昼を食べる・・・」 私達は黙って泉先輩のを眺めていた。 こなた「分かったかな、みんな」 この言葉に私達は我に返った。 みさお「みさきちって・・・、B組で飯を食べるだけでいいのか」 泉先輩は黙って頷いた。 みゆき「どうゆう事ですか、私にはさっぱり分かりません、それにその髪は・・・切ってしまったのですか」 こなた「かがみはいつも私のクラスでお昼を食べていた・・・それを再現するんだよ」 みゆき「再現・・・ですか」 こなた「みさきちと峰岸さんがこっちでお昼を食べれば、否応にもかがみはB組を意識するでしょ、そこにつかさに似た私を見れば・・・どう? この作戦」 高良先輩は黙ってしまった。 こなた「かがみはあれで寂しがりやだからね、みんな集まればきっとB組にくるよ」 みなみ「私達はどうすれば・・・」 こなた「昼休みなんだし、こっち来てお昼食べたら、一年が三年の所でお昼食べちゃいけない校則なんてないよ、それに半分以上は学食に行っちゃうから席は空いてるよ」 みさお「なんで、柊の妹の真似なんかするんだ、リボンだけもいいじゃん」 泉先輩は人差し指を立てて『チッチッチ』と舌打ちをした。 こなた「分かってないね、これはイメージが大事なんだよ、イメージが・・・他に質問は?、無ければ明日からみさきち、よろしく」 みさお「・・・分かったよ・・・」 その返事を聞くと泉先輩は足早に自習室を出て行った。どうやらアルバイトに向かったようだ。 みさお「いきなりみさきちって・・・あいつ、あんなんで柊が気が付くとでも思っているのか、それに髪型が似てるだけで、柊の妹と全然似てないぞ」 あやの「そうね、泉ちゃん、少し強引過ぎる気が・・・」 二人はやや呆れたようにそう言った。 みさお「記憶が戻って、まるでゲーム感覚だよな・・・」 その言葉は私の耳にも痛かった。高良先輩とかがみ先輩が話すまでは私もそうだった。 ゆたか「違います、お姉ちゃんのやろうとしている事は、少なくとも・・・本気だと思います」 みさお「本気?」 ゆたか「髪の毛を切るなんて・・・普通はやれない、女の子なら・・・解る・・・・それにお姉ちゃんの長髪は・・・おばさんの髪型を真似て・・・」 日下部先輩は黙ってしまった。そしてそのまま俯いてしまった。 みゆき「私も髪の毛を切るとしたら・・・かなりの覚悟が要ります、泉さんの並々ならぬ気持ちが解ります、どうでしょうか、泉さんの方法に賭けてみるのは」 日下部先輩と峰岸先輩は顔を見合わせた。 みゆき「かがみさんの性格は泉さんの言われた通りの一面があると私も思います、少なくとも、私がかがみさんにした事よりはるかに良いかもしれません」 みさお「そこまで言うなら・・・それに、ちびっ子を見直したぞ、熱い想い・・・私、そうゆうの嫌いじゃない」 あやの「そうね、私もそれでいい、でも何故、私は一週間後なのかな」 みゆき「それは、おそらく、いきなり二人とも私のクラスに来てしまったら怪しまれるからではないでしょうか、怪しまれると、記憶が戻る妨げとなりますし・・・」 みさお「あいつも色々考えてるんだな、それじゃ明日から」 そう言うと二人は自習室を後にした。 ゆたか「高良先輩、ありがとうございます、お姉ちゃんちゃんと説明しないから・・・」 みゆき「泉さんはあまり自分の事は言わない方ですからね、少し補足しただけです」 みなみ「この方法、どこかで聞いたことがある」 みゆき「そうですね、岩戸隠れですね」 ひより「岩戸隠れ?」 みゆき「アマテラスが岩戸に篭ってしまう神話です、アマテラスは太陽の化身、世界は闇に覆われてしまう」 みなみ「篭ったアマテラスを八百万の神が笛や太鼓で岩戸を開けさせる・・・」 ひより「・・・ああ、そういえば、その話知ってる・・・」 みゆき「泉さんがこの神話を意識しているかどうかは分かりませんが、今のかがみさんは記憶は岩戸に篭っているアマテラスと同じだと思います、こちからから開けようとしても 岩は開けることはできません、しかし、内側からなら、閉めてしまった本人なら開けることができます」 ひより「かがみ先輩自身が記憶の扉を開けるように私達が?」 みゆき「つかささんと私達での昼食はかがみさんにとってもきっと楽しかった思い出に違いありません、私達が楽しそうに食事をしているのを見れば・・・そんな気がします」 高良先輩と岩崎さん、敵わない、神話まで持ち出して泉先輩の作戦を解説してしまうなんて、この人達ほどの知識があれば私もネタには困らないのに。 それにも増して、かがみ先輩の性格をそこまで知り尽くしている泉先輩も凄いと思った。何より、髪の毛を切ってまでそれを演出しようとしている。泉先輩にとって長髪は特別な想いがあるようなのに。 私も髪の毛を伸ばしているけど、バッサリ切るのは抵抗はある。それを気付かれないように明るく振舞う・・・・ ひより「泉先輩・・・漢(おとこ)だね・・・」 みなみ・ゆたか「おとこ?」 ひより「いや、何でもない・・・」 次の日、私だけが三年B組にお昼を食べに行った。小早川さんが急に熱を出してしまったので保健室で休んでいるからだ。岩崎さんは付き添い。保健委員じゃしょうがない。 教室に着くと既に三人はお昼ご飯を食べていた。 こなた「こっちだよ、あれ、ゆーちゃん達は」 ひより「実は、熱を出してしまって」 こなた「・・・最近調子良かったのに・・・」 ひより「泉先輩、小早川さんから聞いたっス、先輩の長髪って特別な想いが・・・」 こなた「ゆーちゃん、言っちゃったな・・・」 ひより「何でそこまでして・・・」 こなた「髪の毛なんて時間が経てばまた伸びるよ、大げさだな、私から言わせればひよりん達がそこまでつかさを思ってくれるのは何故だいって聞きたいね、知り合ってそんなに経ってないでしょ」 ひより「そう改まって聞かれると・・・ネタ帳をつくってくれた・・・かな」 こなた「あのノートね、ひよりん、そのノートのネタ、まだ使ってないでしょ、それなのに?」 ひより「使えるネタだったら、そんなにつかさ先輩が好きになれなかったっスね」 こなた「ほぅ、その心は?」 ひより「自分の得意じゃない事なのに、ネタを考えてくれる人なんて・・・今まで居なかったっス、それだけで嬉しかった・・・」 みさお「おっと、柊がこっちみてるぞ、みんな楽しくしようぜ」 チラッと廊下の方を見た。かがみ先輩が確かにこっちを見ている。一日目にしてもう効果が出ているのだろうか。 ひより「先輩、これは思った以上の効果っスね」 こなた「まだまだ、あの目はただ見ているだけ、何も感じてないよ、しかし髪切ったせいで首元がスースするよ」 そう言いながらチョココロネを頬張る。 みさお「そういえばB組で昼飯食べるの初めてだ」 ひより「日下部先輩はかがみ先輩達と中学同じだったっスよね」 みさお「柊、あやのとはクラスも同じだったぞ」 ひより「つかさ先輩とはいつ知り合ったっスか」 みさお「そういえばいつだったかな・・・柊と知り合った時には既に居たけど・・・」 ひより「日下部先輩は今までこっちでお昼たべなかったっスか、つかさ先輩と気が合わないとか・・・」 みさお「いや、そんな事はなかったけど・・・何でだろう」 こなた「そういや三年になるまでC組の友達、正式に紹介してくれなかったな・・・かがみ・・・つかさをみさきちに会わせたくなかったとか」 みさお「何でだよ」 日下部先輩は少し怒り気味だった。 みゆき「つかささんが居なくなって、かがみさんの代わりに日下部さん来るようになった・・・これも何かの縁のような気がします」 こなた「つかさが居なくなっても、私達はつかさが居た世界の記憶があるからこうやって居られるんだよ、私とみゆきさんは二年とちょっとのだけの記憶」 みゆき「そうでしたね・・・」 高良先輩は少し悲しいそうな顔をしてた。 ひより「そうだ・・・つかさ先輩が消えた日の事覚えています?・・・確か泉先輩の家で・・・私が来たときには小早川さんも泉先輩も買い物で居なかったっス そこに丁度、つかさ先輩が来たっス」 泉先輩は両手を組んで上を見上げて考えた。 こなた「あの時は・・・丁度ゆーちゃんの友達が来るのと重なった時だったね・・・あれ、なんでつかさだけなんだ・・・確かかがみも来る様な話だったような」 ひより「かがみ先輩も来る予定だったっスか・・・かがみ先輩・・・何かあったんスかね」 こなた「何かって・・・かがみは約束を破ったことないし、何かあれば必ず連絡してた・・・」 みさお「ん・・・その日って私達も来る予定じゃなかったか、あやのと一緒だった気がするぞ」 みゆき「・・・私は確か・・・みなみさんと泉家に行く予定だった気がします・・・」 一同「・・・あれ???・・・」 その日はみんな集まる日だった?、何かのパーティ?、そんな事はない。よく思い出せない。少なくとも泉先輩とは別の用事だったような気がする。 こなた「そうだ、大勢集まるからゆーちゃんと買い物にいったんだ・・・確か・・・勉強会???」 みさお「そんな感じだったかな・・・少なくとも遊びじゃなかったと思う」 こなた「かがみどうしたんだろ、いつもつかさと一緒に来てたのに」 ひより「高良先輩が言ってた姉妹喧嘩説・・・かなり濃厚の気がするっス」 みゆき「かがみさんにとってそれは思い出したたくない事・・・もしかしたら、つかささんをイメージすることが」 こなた「それじゃ今やってることって・・・私、余計な事をしたかな・・・」 泉先輩は急に悲しい顔になった。 みさお「おいおい、楽しく食べるんじゃなかったのか、この話は皆が集まった時にしようぜ、ほら、柊居なくなっちまったぞ」 みゆき「すみませんでした、気を取り直しましょう」 こなた「そうだった・・・」 私達はつかさ先輩以外の話をした。日下部先輩の話は面白かった。泉先輩と日下部先輩はかがみ先輩とは違った雰囲気、まるで小学生同士でじゃれ合う様な、 こっちまで楽しくさせてしまう。そんな楽しい昼食をすごした。時間を忘れ私達は会話を楽しんだ。すると、高良先輩が時計を見た。 みゆき「そろそろ時間ですね」 みさお「おお、もうこんな時間か・・・楽しかったぞ」 ひより「お邪魔したっス」 こなた「ひよりん、ゆーちゃん達によろしく言っておいて」 私が席を立とうとすると。 みさお「・・・私達って、一年からこうやってみんなで食べることが出来たんだよな、今頃になって・・・もっと早く気付けばよかったよ、 明日からあやの連れてきていいか、一週間なんか待ってなくていいんじゃないか」 誰も反対を言う人はいなかった。 自分のクラスに戻ると小早川さんと岩崎さんが居た。もう戻ってきた。小早川さんの調子はどうなのだろうか。 ひより「小早川さん、もう調子いいの」 ゆたか「あ、田村さん、もう熱引いたから、それに午後の授業、私苦手科目だから、休んでられないよ」 みなみ「ゆたか、熱はまだ完全に引いていない・・・」 ゆたか「みなみちゃん、大丈夫だよ」 そう言って見つめあう二人・・・あれ、いつからこの二人名前で呼び合うようになったんだ。保健室で何かあったのか・・・まさかお昼の密室で・・・ 頭のなかに妄想がどんどん膨らんでいく。 ゆたか「ところで田村さん、お昼はどうだった?」 この一言で我に返った。自重しろ、私。 ひより「とても楽しかったよ、特に日下部先輩と泉先輩がね、それと泉先輩がよろしくだって、小早川さんのこと心配してたよ」 ゆたか「いいな、私も行きたかった・・・」 ひより「まだ始まったばかりだし・・・そうそう、明日から峰岸先輩もくるみたい、日下部先輩がB組気に入っちゃってさ、明日から呼んでいいって話になって」 ゆたか「何か良い方向になってきてるね」 その時、つかさ先輩の話を思い出した。 ひより「お昼、つかさ先輩が消えた時の話をしたんだけどね、私達ってなんで泉先輩の家に来ることになったんだっけ」 みなみ「その日は・・・勉強会だった気がする」 ゆたか「うん、夏休みが終わってすぐの土曜日だったよね」 そうか、泉先輩達も勉強会。別行動だけど目的は一緒だったのか。 みなみ「何故そんな話に・・・」 ひより「つかさ先輩が消えた日の事ってモヤモヤした感じで曖昧なんだよね」 みなみ「・・・そういえば」 ひより「あの時、私達全員集まったような気がしてきて・・・」 その時、午後のチャイムが鳴り出す。私達は慌てて席に着いた。 それから二週間が過ぎた・・・峰岸先輩も加わり、小早川さんが調子の良い時は小早川さん、岩崎さんも同席した。女六人、これだけ集まれば会話も 弾む、その笑い声は隣りのクラスへも聞こえるだろう。聞こえているはずだ。おかしい。一向にかがみ先輩は私達の元に来ない。 それどころか様子を見に来ることもなくなった。日下部先輩達に聞いても変わった様子はないと言う。神話のようにはいかないのだろうか。 こなた「いったいどうして・・・こんな筈じゃない、かがみ・・・どうしたんだよ」 焦りの色を隠せない。短くなった髪の毛を両手で押さえている。 みさお「そう焦ることもないいじゃないの」 こなた「もう、あれから一ヶ月、なにも進展がないよ・・・ごめん、皆、私の作戦・・・失敗だよ」 そう言うと泉先輩は頭に付いていたリボンを解き始めた。 みゆき「泉さんのせいではありません、私たちも賛同したのですから責任は同じです、でも進展がない以上他の方法を考えた方がよさそうです」 みさお「他の方法って、他に何かいい方法あるのか」 みんな何も言い出さない。私も何も思い浮かばない。 あやの「これはタイムリミットががるような、私達が卒業してしまえばこれほど頻繁に会うことはできない、それに柊ちゃんに会う機会もぐんと減る・・・」 ゆたか「卒業・・・もうそんなにありませんね・・・」 みゆき「そうですね、大学と高校では時間が違いますしね、それぞれの生活もありましょう」 こなた「それで終わっちゃうの・・・つかさは・・・もう戻らない・・・これじゃアニ研の小説とおなじじゃないか・・・」 みゆき「これは・・・すみません、この結末は私が田村さんに提案したもので・・・これもかがみさんに呼んで欲しいと思いまして・・・」 こなた「私・・・記憶なんて戻らなければよかった・・・」 ゆたか「お姉ちゃん・・・」 泉先輩はリボンを外すとそのまま机に埋まってしまった。すすりなく音が聞こえる。これは、高良先輩が屋上で見せた光景によく似ている。 私達はあれから全然状況が変わっていない事に気が付いた。 私は何も策はないけど、一つだけ方法を知っている。でもこの方法は成功、失敗するかどうかもわからないし、後戻りもできない危険な賭け。 ひより「あと一つだけ方法があるっス、でもこれはとても危険な方法・・・」 皆は一斉に私の方を向いた。 ゆたか「危険な方法って?」 ひより「もともとつかさ先輩が消えたのは、このネタ帳につかさ先輩が書き込みをした時からっス、だから、このノートを燃やしてしまえば・・・もしかしたら呪いが解けるかも」 みなみ「燃やす・・・確かに危険」 ひより「燃やすから後戻りできないっス、燃やすことで考えられる出来事は三つ、一つは、今までどおりなんの変化もない、二つは、呪いが解けてかがみ先輩の記憶が復活、 つかさ先輩も蘇る、そして三つは、全ての人からつかさ先輩の記憶が消えてしまう・・・」 みさお「確かに、後戻りできないな」 こなた「一つ目になるんだったら三つ目の方がいい・・・何も知らないほうがいい・・・」 みゆき「それは・・・確かに賭けですね、それにこの三つ以外の事が起きるかもしれません、例えば、かがみさん、いいえ柊家に何かが起きるかもしれません」 ひより「そうっス、だからこれは少なくともかがみ先輩の記憶が戻ってもつかさ先輩が復活しなから提案しようと・・・」 みさお「つまり最後の手段ってことだろ、まだ早い」 日下部先輩は泉先輩の外したリボンを取り泉先輩に突き出した。泉先輩は不思議そうに日下部先輩を見る。 こなた「何?」 みさお「何、じゃないだろ、もう諦めるのかよ、卒業までまだまだ日はあるぞ、この作戦はまだ終わってない」 こなた「でも・・・」 みさお「なんだ、柊の妹を助けたくないのか、髪を伸ばしていた想いってその程度だったのか」 泉先輩は俯きなにも言い返さなかった。 あやの「私は今までやってきて全く効果がないとは思わない、柊ちゃん少しだけど確かに変わってるの分かる」 みゆき「人の記憶は何が切欠で思い出すのか分かりません、私は他の方法とが良いといいましたが、継続するのもの一つの手段でしょう」 ゆたか「お姉ちゃん、諦めないで」 みなみ「継続は力なり・・・」 皆が泉先輩を励ます。すっかり日下部先輩のペースになってしまった。体育会系のノリ・・・こうゆう雰囲気は初めてだ。でも私も胸が熱くなった。 こなた「これが最良の方法じゃないかもしれないよ・・・」 みさお「それは最後にならいと分からないぞ」 泉先輩は日下部先輩からリボンを取りまた付けた。 みさお「これで卒業まで突っ走るぞ、それでダメなら後悔はないだろ」 こなた「まさかみさきちに説教くらうとは・・・」 みさお「まさかとは何だよ、まさかとは、それにいつも、みさきちってなんだよ」 こなた「だってみさきちじゃん」 この会合で泉先輩は初めて笑った。一気に和んだ。そして、泉さんの作戦、これを最後まで続ける事になった。っと言ってもこれ以外に選択肢はなかった。 月日は過ぎていく。かがみ先輩の様子は変わらない、そして、三年の皆の進路がほぼ決まっていく時期にさしかかった頃だった。アニ研部に一通の手紙が届けられた。 ひより「私宛?」 こ う「そう、なぜかひよりん宛なんだよね、ファンレターだな」 ひより「ファンレター・・・・私にッスか」 こ う「屋上に来て欲しいそうだ、サインはもう作ってあるのか」 ひより「もう考えてあるッス・・・差出人の名前がないッスね・・・って今日じゃないですか」 こ う「そうだった」 先輩は時計を見た。 こ う「時間は今行けばまだ間に合うぞ、別に行きたくなければそのまま無視すればいい」 ひより「そう言うわけにもいかないッス、ちょっと行って来ます」 この手紙は何日か前に届けられたみたいだ、ここ最近の部誌で載せた漫画なのだろうか、どんな人なんだろう。そんな期待を胸に屋上へと向かった。 屋上に着くと、一人の女生徒が立っていた。よく知っている人だった。かがみ先輩・・・・。どういう事だ。緊急事態だ。私は高良先輩みたいにかがみ先輩と 言い合うような度胸も知識もない。下手なことを言えば突っ込まれてしまいそうだ。ファンレター・・・何か違うような。緊張感が急に出てきた。冷や汗が手から出てくる。 屋上の入り口で止まっていると、かがみ先輩が私に気付いた。 かがみ「すまないわね、急に呼び出してしまって、田村さん」 口調はいたって穏やか、顔の表情も高良先輩と会った時のような威圧感はなかった。つかさ先輩が居ない世界、かがみ先輩は私の事はしらないはず。 初対面だ、敬語・・・癖が出ませんように・・・・。 ひより「あの、ファンレターありがとうございます、用件はなんでしょうか」 かがみ「田村さんをこんな所に呼んだのはね、ひとつだけ確かめたいことがあったから・・・ファンレターって偽ってごめんない それの方が部活動から抜け出し易いと思ったから・・・貴方、柊つかさ って知ってる」 もしかして、かがみ先輩は記憶を思い出した。思い出そうとしているのか。これはチャンスかもしれない。 ひより「柊つかさ先輩、私は知っています、かがみ先輩もご存知のはずです、双子の妹の名前ですから・・・」 そう言うとかがみ先輩は急に悲しい顔になった。 かがみ「やっぱり、本当だった・・・みゆき、こなた・・・」 私は嬉しかった、泉先輩の作戦が成功した。 ひより「かがみ先輩、記憶もどられたのですか」 かがみ「皆・・・やっぱり皆も記憶が戻っているみたいね、この雑誌の物語、途中から急に悲話になってるけど、みゆきあたりの提案じゃない、」 そう言うと、最新の部雑を私に見せた。 かがみ「峰岸に勧められて読んだわ・・・この主人公、つかさがモデルね、」 凄い、当たってる、それにかがみ先輩は記憶が戻っている。皆に教えないと。 ひより「その小説は偶然が重なって載ることに・・・みんな、かがみ先輩が来るのを心待ちにしていますよ、丁度明日が集まる日なんですよ」 かがみ「それは、できない」 ひより「えっ?、なんでですか」 かがみ先輩は、私に背を向けて屋上から校庭を見下ろした。 かがみ「出来ない、私につかさの話をしろ言うの、出来ないわ、だから田村さんを呼んだの、もう、つかさの事は諦めて・・・そう皆に言って欲しい」 ひより「そんな・・・高良先輩がここで話し事、覚えていますよね」 かがみ「・・・田村さん、あの時の会話どこかで見てたみたいね・・・みゆきから見たらさぞかし私は冷たい女に見られたでしょうね」 かがみ先輩の態度が許せなかった。私は本当の事を言う事にした。 ひより「泉先輩も見ていました、かがみ先輩を見て記憶が戻るのが遅れたと思ってます、その泉先輩だって今は・・・」 かがみ「日下部と峰岸がB組でお昼食べてるわね、それで私の気を引こうって作戦ね、あいつらしいわ」 ひより「そこまで知っていて・・・何故来れないのですか、そのために泉さんは髪の毛を・・・」 かがみ「だから、私はこなたを見れないのよ・・・」 突然私に振り返った。かがみ先輩の目には涙が溜まってた。 かがみ「こなたのお母さんの写真、二年の時に見た、こなたと同じ髪型だった、すぐに分かったわ、こなたが髪型を真似していることくらい・・・ それを切ってつかさと同じ髪型にして・・・バカだよ、そんな事したら私、こなたを見れない・・・・その姿を見たとき、私はここで泣いた・・・」 泉先輩が髪を切った時にはすでに記憶が戻っている。かがみ先輩は記憶が戻っていたことを黙っていた。 ひより「かがみ先輩・・・いつ記憶がもどったのですか・・・」 かがみ先輩はハンカチで涙を拭い話し始めた。 かがみ「みゆきがつかさの話をした日、みゆきのあまりに感情がこもった言葉が忘れられなくてね、その日の夜、何気なしに家族につかさの名前を出した、 そうすると、急にみんな改まってね、私が二十歳になるまで秘密にするはずだったってね、つかさはね、生まれて間もなく亡くなってしまった、 そう、お母さんが言ったわ・・・」 ひより「亡くなった・・・」 かがみ「早期胎盤剥離・・・が起きた、緊急だった、二人同時には出せなかったからどちらかが犠牲になる必要があった、先に出された私が助かった・・・ そう聞かされた・・・違う、先に出されたんじゃない、つかさが先に私を出してくれた・・・そんな気がした時、全てを思い出した・・・」 私は言葉を失った。泉先輩の記憶が戻るのが最後だった。だけどつかさ先輩は復活していない。この世界につかさ先輩が存在しなかったわけじゃなかった。 存在していた。死んだ人を生き返らすことは出来ない・・・。 かがみ「田村さん、つかさは貴方にノートを渡したわね、普段そんなことする子じゃないわ、だから私は田村さんを選んだ、今の話、皆に言って欲しい・・・」 私から皆に言えるような話ではなかった。 ひより「私は・・・そんな事話せません、それより、明日のお昼ご飯、放課後の自習室に来て下さい・・・私にはそれしかかがみ先輩に言えません」 思わず強い口調で答えた。一瞬かがみ先輩の反撃を恐れた。 かがみ「それが出来るようだったらこんな事しない・・・」 高良先輩との会話が嘘のような弱気なかがみ先輩。つかさ先輩が居た世界とも違う。こんなに変わってしまうものなのか。どっちが本当のかがみ先輩だろうか。 ひより「すみません、私もう戻らないと、部活動がありますので・・・」 何故かもう話をする気になれなかった。 かがみ「待って田村さん、貴方たち集まって何をしようとしてるの」 ひより「つかさ先輩を元に戻そうと・・・」 かがみ「そんな事出来るの、方法なんてあるの」 ひより「分かりません、だから集まっているんですよ」 かがみ先輩は黙り込んで俯いた。 ひより「高良先輩は言いました、考えられる事は何でもやろうって・・・と言っても泉先輩の作戦しか思いつかなかったんですがね・・・あれだけ集まって・・・たいしたことないっスね」 私は苦笑いをした。 かがみ「田村さん・・・」 私はそのまま屋上を後にした。かがみ先輩は動こうとせずそのまま私を見送った。一人屋上に残ったかがみ先輩、何を思い、何を考えるのだろうか。 こ う「おかえり、丁度いい、山さん、毒さんも集まった事だし来期の新人獲得の為の作品のことで会議を・・・ってひよりんどうした、ファンと会ったんじゃないの」 私を見て驚いたようだった。自分的には至って普通にしているつもりだった。鏡を見てみたい。 ひより「いや、なんでもないっス、いやあ、ファン持つと色々たいへんっスよね」 こ う「のろけかい、いいから会議始めるぞ・・・」 会議に集中できない、怒る先輩たち。結局私は今度発行する部誌の編集をやらされることになった。成り行きとは言え・・・また徹夜になりそうだ。 次の日、いつもの昼食風景、今日は小早川さんも調子がいい。何気ない会話に皆は夢中になっていた。お昼休みも中盤。私は何気なく辺りを見回した。 かがみ先輩が来てくれるような気がしたから。 ゆたか「どうしたの、田村さん」 ひより「何でもない・・・ところで、かがみ先輩の様子はどうです」 みさお「相変わらずなんにも変わってないな」 あやの「今朝も普段どおり・・・何か?」 ひより「何でもないっス」 こなた「さっきから落ち着きがないけど、どったの?」 かがみ先輩はもうとっくに記憶は戻ってる。そしてつかさ先輩の事。・・・言えない。確かに。かがみ先輩が言えない理由が今頃になって分かった。 そして、高良先輩にした言動を思い出すと会えない理由も理解できた。昨日、もっとかがみ先輩と話すべきだった。この雰囲気に耐えられない。 ひより「徹夜したせいかな・・・ちょっと調子が悪いっス、私、先に戻るっス」 みなみ「それなら、保健室で仮眠を・・・」 ひより「あ、そこまでしなくても大丈夫、それじゃ・・・」 逃げるように教室を出た。これじゃかがみ先輩と同じじゃないか。途中三年C組を通る。思ったとおり教室にかがみ先輩の姿がなかった。きっと屋上に居るに違いない。 でも屋上に行く気になれなかった。それにお昼休みもそんなに残っていない。これじゃ放課後もかがみ先輩はきっと来ない。私が言うしかないのかな・・・。 放課後の自習室、みんなが集まってもう一時間は経っている。なぜか今日は誰も発言しない。沈黙が続いていた。さすがにこれだけ進展がないと話すこともない。 私の知っていることを話せば何か反応があるかもしれない。逆にみんなもっと黙ってしまうかもしれない。もんもんとこんな事を考えている自分自身が嫌になってきた。 こうなったら話すしかない。私は覚悟を決めた。 「オッス、みんな」 突然ドアが開いた。元気な声が響いた。みんなドアの方を向いた。そのまま私達は口を開けていた。 「何辛気臭くなってるのよ、そんなんじゃつかさを元にもどすことなんかでかいないわよ」 いつも見慣れたツインテール。片手を腰に当てて少し口を尖らせている。かがみ先輩は周りを見回して一回おおきく深呼吸をした。そしてそのまま私の方に近寄ってきた。 かがみ「田村さん、昨日はありがとう、おかげで決心がついたわ、やっぱり私が言わないとだめだよね」 小早川さんと岩崎さんの方に向かった。 かがみ「つかさの事、そんなに思ってくれてありがとう、妹に代わってお礼を言わせて・・・ありがとう」 かがみ先輩は日下部先輩と峰岸先輩の元に向かった。 かがみ「こなたの作戦に付き合ってるみたいね、まさかあんた達がB組に行くとは思わなかった、もっと早くこなた、みゆきを紹介してれば良かったわね」 今度は高良先輩のに近寄る。 かがみ「屋上でとんでもない思い違いをしたわ、私がみゆきだったら殴っていたわよ、よく我慢したわね、知らなかったとはいえ悪かった、それに・・・あの涙、心に響いた」 みゆき「かがみさん・・・」 かがみ「その呼び方・・・屋上でも言ってくれたわね」 そして最後に泉先輩のに近寄った。 かがみ「こなた、その姿全然似合わないわよ、悪いけどこなたの作戦は効果ゼロだった、私はとっくに記憶は戻っていたのだから・・・だから間が抜けているのよ」 こなた「かがみ・・・」 かがみ「悔しいでしょ、どうしたのよ、さっさと殴りなさいよ、その髪の毛切らせたの私なんでしょ、伸ばしていた理由知らないとでも思ってるの」 こなた「かがみ・・・戻ったんだね・・・やっぱりかがみはツインテールじゃないとダメだよ」 かがみ「そっちかよ、私の話聞いてないのか、私はねあんたの好意をふみにじった・・・」 泉先輩はかがみ先輩に抱きつき泣いてしまった。 かがみ「放せよ、皆がみてるでしょ・・・そんな事したら・・・私まで涙が出るじゃないの・・・」 そのまま二人は抱き合って泣き崩れた。ツインテールのかがみ先輩。髪を短くしてリボンを付けた泉先輩。何故かかがみ先輩とつかさ先輩が再会を喜んで抱き合っている 姿が頭の中に浮かんだ。二人を囲むように他の皆も見ている。小早川さんは目を潤ませていた。皆も私と同じ事を考えていたと思った。 しばらく私達はその余韻に浸っていた。 こなた「そんな・・・つかさはもう既にいない」 かがみ「こなた、もうそのリボン要らないわよ・・・もう作戦終了」 かがみ先輩は話した。昨日私にしたように・・・皆はさすがに動揺した。雰囲気は一変した。 こなた「いや、外さないよ、つかさが戻ってくるまでは、かがみだってさっき私をつかさだと思ってたでしょ」 かがみ先輩は反論しなかった。 みゆき「すると、私達の記憶は別の世界、つまりつかささんが死ななかった世界の記憶だった・・・」 こなた「呪いの類じゃないね、平行世界、私達はつかさのいる世界に戻らなければならい、つかさも助かった世界に」 みなみ「その考えはまだ早い、まだ記憶が戻っていない人がいるのでは、例えばかがみ先輩のご家族・・・」 かがみ「それはない・・・私の記憶が戻った時家族に話したわ、つかさの事を、するとね次々にみんな思い出した・・・お父さん、お母さん、いのり姉さん、まつり姉さん、 それでね、倉庫になっている部屋がつかさの部屋だって事が分かってね、家族みんなで探したわ、つかさの痕跡を・・・何も見つからなかった・・・」 ゆたか「記憶って考えたらつかさ先輩を知っている人私達だけじゃないよ、いままでつかさ先輩と関わった人って数え切れないほどいるよ、 小中学校の友達、先生・・・通学ですれ違った人や買い物をした時の店員・・・高校だって先生や一、二年生でクラスが一緒だった人も・・・限がない・・・」 みゆき「そうですね、さすがにそこまでの人たちのつかささんの記憶を戻すことは不可能に近いですね、私達は近くの事しか考えていませんでした」 こなた「するとキーワードはやっぱりつかさのネタ帳・・・」 皆は一斉に私を方を向いた。 かがみ「田村さんノートはあるかしら」 ひより「持ってますよ」 机の上にノートを置いた。皆はノートに注目した。 みさお「これって、どう見ても普通の大学ノートだよな」 あやの「そうね、呪いの類ならもっと古風なイメージがあるね」 岩崎さんはノートを手に取りパラパラと開いて見た。 みなみ「中身もいったって普通」 岩崎さんはノートを元に戻した。 みゆき「かがみさん、一つお聞きしたい事があります」 かがみ「なによ改まって」 みゆき「つかささんが居なくなる前、つまり泉さんの家に行く前、かがみさんとつかささんで何かありませんでしたか・・・例えば喧嘩・・・」 するとかがみ先輩はどこか一点を見て考えているみたいだった。 かがみ「それが・・・分からない、それだけが思い出せない、あの日の事は全て思い出せない」 こなた「勉強会だってことも?」 かがみ「勉強会・・・その為につかさはこなたの家に?」 こなた「かがみも来るはずだった・・・私たちもこの日の記憶ははっきりしてない」 かがみ「それで何で私とつかさが喧嘩したって言うのよ」 ひより「それは、このノートにつかさ先輩が書いた事を見れば・・・」 かがみ先輩にノートを渡し、その項を広げて見せた。 かがみ「・・・『私が居なかったら』・・・何よこれ、まるで今の事じゃないの、この前みゆきに見せてもらった時は・・・バカにして見てなかった・・・」 みゆき「それを見て何か感じませんか、つかささんがそんな事を書く理由を考えると結論はかがみさんとの喧嘩・・・でした」 かがみ「なんで・・・そうなのよ」 こなた「かがみ、つかさに何か酷い事言ったんじゃないの、じゃなきゃつかさはそんなの書かないよ、それにね、私の家に来たのはつかさだけだった、でしょ、ひよりん」 私は頷いた。 かがみ「つかさだけ・・・喧嘩・・・どこで、何の喧嘩、そんな事した覚えない、他に何かないの」 ひより「そういえば・・・ノートに書く前、かがみ先輩の足を引っ張ってるからとか言ってました」 かがみ「なによそれ・・・足なんか引っ張っていないわよ、昔は・・・小さい頃はよくつかさの面倒をみたけど、でもつかさは可愛いってよく言われて・・・」 こなた「それでツインテールをするようになったんだよね」 かがみ「うるさい、余計なこと言うな」 かがみ先輩は拳を握った。泉先輩はしゃがんで頭を両手で押さえて防御の姿勢をした。 かがみ「と、とにかく、子供の頃はそうだったかもしれないけど、今じゃ私よりも優れてる所もあるし、そうゆう喧嘩は考えられない」 みさお「喧嘩じゃなくてもコンプレックスってことも、妹が姉に対して認めてもらいって思う事はよくあるんじゃないか」 こなた「みさきちが横文字使うとは」 かがみ・みさお「さっきから、足引っ張るな」 みゆき「それを言われるなら、揚げ足を取るではないでしょうか」 かがみ「なんだ、この緊張感のなさは・・・今まで何やってたのよ・・・」 かがみ先輩はため息をついた。 何か懐かしいノリだった。でも何か足りない。こんな時、つかさ先輩はいつも笑顔でいたっけな。 つかさ先輩がきえた日のかがみ先輩の記憶・・・。これを思い出せばつかさ先輩の居る世界に戻れる。これがこの日の結論になった。 そして、数日が過ぎた時だった。突然かがみ先輩からみんな集まるように連絡が入った。 三年生はもう自由登校になっていたので三年B組に集まることになった。教室には私達以外誰も居なかった。 かがみ「悪いわね、急に呼び出して」 みさお「急に呼び出したってことは何か分かったことでもあったんか」 かがみ「まずはこれを見て」 そう言うとかがみ先輩は一冊のノートを机の上に置いた。見ると大きなシミが付いている。飲み物でも溢したのだろうか。 こなた「ノートだね、見たところ普通のノートだけど・・・」 かがみ「みゆき、このノート、心当たりある?」 高良先輩はノートを取り、何枚か頁を捲った。 みゆき「・・・私の字ですが・・・覚えがありません、このノートの内容は授業で受けた記憶がありません」 かがみ「これはね、家族みんながつかさの記憶を思い出したとき、倉庫、つまりつかさの部屋だった所を探していのり姉さんが見つけたノートよ」 こなた「なんで倉庫にみゆきさんのノートがあるのさ」 かがみ「私も最初は訳が分からなかった・・・でもね、これは田村さんが持っているノートと同じ、つかさが残したものだって分かった」 言っている意味が分からない。なぜ高良先輩のノートがつかさ先輩のノートになっているのか・・・。周りを見ても皆首を傾げている。 かがみ「このノート、三年の夏休み前、私がみゆきから借りたノート、もちろんつかさが居た世界でね」 みゆき「思い出しました・・・任意参加の特別授業ですね、確かかがみさんは風邪で欠席されました」 かがみ「つかさが消える日の前日、勉強会の準備でこのノートを写していた、悔しかったけど内容が全く理解できなかった・・・」 みゆき「そうですね、あの授業は任意参加でしたし、私も講義を聞いて半分理解できたかどうか・・・ノートだけでは不十分だったと思います」 かがみ「勉強会でみゆきに教えてもらおうとノートの整理をしてたらつかさがコーヒーを持ってきてくれた、ところがそのコーヒーをみゆきの ノートに溢してしまった・・・私のノートになら怒らなかった、いや、みゆきのノートでも怒らなかったかもしれない、でもね、なぜかあの時、 私は激怒してしまった、今思えば自分が理解できなかったノートを汚されてただ怒っただけ、八つ当たりよね、感情むき出しでつかさにぶちまけた、 つかさは平謝りだったけど、私は許さなかった、そしてノートをつかさに渡して元に戻してみゆきに返せって言った」 こなた「酷い、そりゃないよ・・・」 かがみ「出来ないと分かって言った、それでもつかさはノートを受け取って自分の部屋に戻った、そこで何をしたのかは分からないけどつかさなりに復元 しようとしたんだろうね、私が寝ようとトイレに行った時もつかさの部屋から灯りがこぼれていた、次の日、今にも泣き出しそうにして、 直せなかったからみゆきに謝りに行くって言ってね、私は行かないから勝手にしろって言ってしまった」 みさお「喧嘩というよりは、いじめだぞ、柊らしくない」 かがみ「・・・私もそう思ってね、しばらくしてつかさの後を追った、結局追いつかなくてこなたの家の前まで来てしまった、一言、ごめん、って言いたかった、 どのくらい居たかは忘れたけど、諦めて家に帰ろうとした・・・そこから先は真っ白・・・覚えてない」 ひより「その先はつかさ先輩の居ない世界っスよ、多分」 かがみ「みんな、私、思い出したわよ・・・」 私達は黙ってかがみ先輩を見ていた。 かがみ「つかさは、どこよ、この教室の席にも居ない、私の家にも居ない、つかさの部屋にも居ない・・・帰ってくるんじゃなかったの」 みさお「この様子だと、柊の妹・・・復活してないな」 みゆき「そうなると、記憶はつかささんの復活とは何の関係もなかった・・・これが結論です」 かがみ「私ね、皆とは別に色々試していた、お父さんに呪術関係の事を聞いた、黒井先生につかさの事を聞いたりした、図書室や図書館でも関係しそうな本を 読んだ、だけど何も分からなかった・・・・もう万策尽きたわ」 あやの「そうね、もう私達に出来ることはないわね」 みなみ「私達はこの世界で一生過ごす以外に道はない」 みさお「まだあるぞ、最後に残った方法が」 ゆたか「ノートを燃やしちゃうって・・・田村さんのノートだよ、それに唯一残ったつかさ先輩の居た証拠なのに」 ひより「私は・・・別にそれでも、一番最初に思いついた方法なので・・・でもこれは満場一致でないとできないっス」 こなた「それじゃ多数決をとるよ、ノートを燃やしていいと思う人手を上げて」 一人、一人、と手を上げていく、すると、かがみ先輩と小早川さんだけが手を上げなかった。 こなた「二人反対だね、燃やすのは止めにして・・・どうする?、二人を説得するわけじゃないけど、このノート、残しても良いことないと思うよ」 ゆたか「私、入学前につかさ先輩に会った時の事が忘れられない、とても親切だった・・・」 かがみ「私は燃やすことは反対しない、でも、せめて卒業の日にして欲しい、それだけよ」 ゆたか「かがみ先輩がそんな事言うとは思いませんでした、つかさ先輩を消したのはかがみ先輩ですよ、私・・・」 目にいっぱいに涙を溜めて、教室を出てしまった。当然のごとく岩崎さんがその後を追った。 かがみ「言われてしまったわね、まさかゆたかちゃんに・・・そうよね、私がつかさを消したと言われても反論できない」 みさお「まあ、程度の違いはあるけど、このくらいの事なら普通の兄弟姉妹ならなくはないよな、その度に誰か消えてたら誰もいなくなっちまうぞ」 あやの「そうね、気にしないで・・・」 かがみ「私もここに居るのは場違いね、帰らせてもらうわ・・・つかさも言ってたっけ、ゆたかちゃん妹みたいだって・・・」 小早川さんに言われたことがこたえたのかうな垂れたまま教室を出て行った。 みさお「おい、まだ話終わってないぞ、どうするんだ、このノート・・・行っちまった、」 みゆき「小早川さん、入学前からつかささんとお会いになってたのですね」 こなた「かがみも会ってるよ、春休みの時、私の家に遊びに来たんだよ」 みさお「いいのかちびっ子、柊思いつめてたぞ」 こなた「ああゆう態度の時のかがみは何言っても無駄だよ、そっとしておこう」 みさお「これから、どうする」 こなた「どうだろ、卒業式後、もう一回ここで多数決取るのは」 みさお「異論なし、あやのは?」 あやの「私も、柊ちゃんには私から言っておく」 みゆき「賛成です」 ひより「同じく」 日下部先輩と峰岸先輩は教室を出て行った。 みゆき「かがみさん、ノート忘れてますね」 ひより「そのノート私が預かりますよ、あ、このノート高良先輩のでしたね」 みゆき「いいえ、そのノートは私が持っていても・・・私も失礼します」 高良先輩も教室を出て行った。私と泉先輩だけが残った。泉先輩は大きく一回ため息をついた。私は泉先輩を見た。泉先輩はまだリボンを付けてる。 ひより「泉先輩まだリボンつけてるっスね、もしかしてまだつかさ先輩の復活諦めてないっスか」 こなた「諦めてないよ、私は今すぐにでもノートを燃やしたいね」 ひより「ノートを燃やすと元の世界に戻れると?」 こなた「そうだよ、それに・・・もし、つかさの記憶が無くなってもこの髪型がつかさ居たって証拠になるからね・・・誰も知らない、私さえも知らない証拠になるけどね」 ひより「私の言った三つ目っスか・・・切ないっスね」 こなた「・・・ゆーちゃんには私から言っておくから、みなみちゃんはひよりんからお願い」 泉先輩は教室を走り去った。そして私だけが残った。 シミの付いたノートをしまうと教室を見渡した。三年生の教室か・・・。私達はあと二年この学校にいる。 この教室が私のクラスになったらきっとつかさ先輩の事を思い出すに違いない。そう思うと小早川さんのあの行動も大げさじゃないと思った。 つかさ先輩が復活してもしなくてもこの学校につかさ先輩が来ることはもうない。つかさ先輩、卒業の時は笑顔見れるかな・・・いや、泣いちゃってるかな・・・つかさ先輩のことだから。 おっと、長居しすぎた。私も帰るかな。 家に帰ってもまだやることがあった、部誌の編集。っと言ってももう殆ど出来上がっていた あとは提出するだけ。さっさと仕事を片付け、明日の準備をする。鞄を空けるとシミの付いたノートが出てきた。 よく見ると半分以上がシミだ。みごとにコップの中身を全て溢してしまったようだ。頁を開いてみると。うわー字がにじんで読めない。ただでさえ難しい内容なのに・・・ これはかがみ先輩じゃなくても怒るかな・・・。おや、最後の頁、字が違うな・・・ゆきちゃんへ・・・ゆきちゃん、そう呼ぶのはつかさ先輩だけ。 よく見るとこの字、つかさ先輩の字だ。ネタ帳と同じ字・・・ 『ごめんなさい、ゆきちゃん。私、飲み物をこぼしてノートをダメにしてしまいました。元に戻そうとしたけど、シミを取ろうとすればするほど 紙が傷んでしまうので手が付けられませんでした。せっかくお姉ちゃんに貸してくれたのに、お詫びのしようがありません。・・・つかさ』 これって、謝罪文じゃないのか・・・。短い文だけどこれを高良先輩にに渡すつもりだったのかな。下手な細工でごまかすよりよっぽどいいかな。 この項にだけ違うシミが付いている。飲み物・・・コーヒーのシミじゃない、丸く色の付いていないシミ・・・これは涙だ。 この謝罪文泣きながら書いたに違いない。思わず私も目が潤んだ。かがみ先輩はこれに気付いていたのだろうか。この話は一切していないから 気付いていないと思った。このネタ帳の他にまだつかさ先輩が残したものが在ったなんて。このシミのノートは最後に皆に見せるかな。 きっとネタ帳と一緒に燃やすことになる・・・。本当に燃やしていいのかな?。今考えてもしょうがない。全ては卒業式後だ。 卒業式が終わり、卒業生達は学校を後にする。すっかり静かになった校舎。もう誰も居るはずもない三年B組の教室に私達は居た。 始めは行かないと言っていた小早川さんも参加している。欠席すると反対票が無効になるからだと言っていた。多数決の結果は見えていた。 泉先輩が多数決を取ろうとするとかがみ先輩がその前に話があると言って止めた。すかさず私も話したい事があると言った。私は先輩に譲った。 かがみ「悪いわね、先に話させてもらうわ、私は今日の事を家族に話した。そうしたらお母さんがこれを渡してくれた」 そう言うと小さな箱を机の上に置いた。 みゆき「何ですか」 かがみ「つかさのへその緒よ・・・もしノートを燃やしてつかさが帰って来なかったら一緒に燃やしてって・・・これが私達家族の答え、家族もつかさを元に戻そうと いろいろ試したみたい、結果は見ての通りよ、父、母、姉に代わってお礼を言うわ、みんなありがとう」 みゆき「柊家はノートを燃やす事に異論はないと・・・」 かがみ「そうよ、どんな結論が出てもそれに従うわ」 この発言に小早川さんはかなり動揺している様子だった。 こなた「ひよりんは何の話かな」 ひより「私はこの前のシミノートを預かったのですが、家で中を見ていると、つかさ先輩が書いた頁が見つかったので皆に見てもらおうと持って来ました」 つかさ先輩の書いた頁を開いて机の上に置いた。皆は机に寄ってきた。 みゆき「これは・・・」 こなた「つかさの字だ・・・」 あやの「謝罪文・・・みたいね」 ゆたか「つかさ先輩、かがみ先輩に追い詰められてこんなことまで、かがみ先輩・・・・」 小早川さんが言うのを止めたので私はかがみ先輩の方を向くと、かがみ先輩はノートを見ていなかった。 かがみ「私はわざとこのノートを置いていった、やっぱり見つけてくれたわね、でも私の見てもらいたかったのは謝罪文じゃない、そのノート、頁が全部捲れるでしょ、 紙は濡れるとくっ付いちゃうよね、つかさはくっ付かないように一頁、一頁、丁寧に乾かしたのよ、それににじんだ字は分かる範囲で修正してある」 私はそこまで気が付かなかった、小早川さんは頁を捲って確認している。 かがみ「つかさはねああ見えて自分が納得しないと誰の言う事も聞かない子でね、私と同じ高校に行くと言った時もそうだった、だから私が怒らなくてもつかさはそうたわよ」 みさお「それじゃこのノートも家族は知ってるのか」 かがみ「私がつかさにした仕打ち、家族は知っている・・・だからそのノートも踏まえて焼く事を決意したのよ、焼いたらどうなるか分からない、 うまくいけばつかさは助かるかもしれない、今のままかもしれないし、もっと違う事が起きるかもしれない、ただ私達は選ぶ事ができない」 みさお「その話は前にした、もう私は決まってる、いつでも良いぜ、多数決」 こなた「それじゃ、ノートを焼くの賛成の人手を上げて」 全員の手が上がった。 ノートを燃やす場所は柊家の庭に決まった。日下部先輩が部活の関係でもう少し学校に残ると言うので燃やす時間は午後7時になった。 そして一度解散した。一年の私達は特に用事はないのでそのまま柊家に向かった。これも縁というのであろうか、駅でかがみ先輩とばったり会った。泉先輩、高良先輩も一緒だ。 こなた「奇遇だねひよりん達、どうせ行く所は同じだし一緒にいくか、かがみの家行くの初めてでしょ」 ひより「そうっスね、あれ、峰岸先輩は・・・」 こなた「峰岸さんはみさきちを待つって」 ひより「へーあのお二人仲がいいんっスね」 こなた「中学時代から仲がいいらしいよ、ね、かがみ」 かがみ「・・・そうね」 気のない返事、かがみ先輩はどうやら小早川さんを意識しているらしい、この前の発言がまだこたえているのだろうか。ふと小早川さんを見ると、彼女も急に話さなくなっている。 岩崎さんの陰に隠れているような、そんな感じに見えた。 こなた「ところでゆーちゃん、賛成したね、どうしたのさ、家でも反対するって言ってたのに」 ゆたか「えっと、・・・」 何か言い辛そうな感じだ。かがみ先輩が居ることを知っててあんな質問を。泉先輩はあえて聞いているのか、それともただの興味本位なのか、全く分からない。 かがみ「ゆたかちゃん、言いたいことがあるなら言った方がいいわよ・・・あの時みたいに・・・あの言葉、胸に響いたわよ」 にっこりと小早川さんに微笑みかけた。 ゆたか「私・・・ごめんなさい、かがみ先輩のご家族がそこまでの覚悟だったなんて・・・それにかがみ先輩・・・あの時何も隠さず話されましたね」 かがみ「嘘ついたって現実が変わるわけじゃないわよ・・・真実をありのまま・・・それだけよ」 いい雰囲気になった。まさか泉先輩これを狙ったのか。 こなた「胸に響いたねー・・・響くほどないくせに」 かがみ「なんだと、あんたに言われたくないわ」 軽く泉先輩の頭を小突いた。 こなた「殴られたーゆーちゃん、たすけてー」 かがみ「子供か、もう電車くるぞ」 小早川さんの陰に隠れて身をかがめる泉先輩。高良先輩はただ黙って見ている。なるほどね。全てこの三人は分かり合ってる。私達はまだこの三人、いや四人の域に達していないな。 みなみ「ゆたか、もう戻った・・・ゆたかが教室を出て追いかけた時、すぐにあんな事言ったのを後悔していた、タイミングが難しい、でも泉先輩のおかげで助かった」 ひより「そうだね、私達、泉先輩達みたいになれるかな」 みなみ「なろうとしてなれる訳じゃない、なってしまってしまうもの、難しい・・・」 私達はかなり早くかがみ先輩の家に着いた。 かがみ「こなた、そのリボン取りなさいよ」 こなた「この前言わなかった、取らないよ」 かがみ「知らないわよ・・・ただいまー」 かがみ先輩はドアを開いた。奥から何人かが出迎える。 「おかえり、かがみ、あら、皆さんおそろいで・・・泉さん、高良さん・・・覚えているわ、つかさが居たとき、遊びに来たことあった・・・その髪型・・・」 かがみ「ちょっとお母さん、やめてよこんな所で・・・」 この人がかがみ先輩のお母さん・・・かがみ先輩に似ている・・・おばさんは泉先輩の前に近寄り涙ぐんでいる。 また奥から二人来たが同じく泉先輩の前で涙ぐんでしまった。泉先輩も気付いたみたいだったけどもう遅かった。泉先輩は三人に囲まれてしまった。 この二人は姉なのだろう、かがみ先輩、つかさ先輩と似ている。。 おばさんは気を取り直た。私達はつかさ先輩の部屋になるはずだった部屋に案内された。 ひより「ここがつかさ先輩の部屋・・・倉庫じゃなかったっスか」 かがみ「とりあえず荷物は別の部屋に移した、さすがに全て元にもどせないから何もないけどね、とりあえずここで日下部達を待ちましょ、お茶もってくるわ」 かがみ先輩は部屋を出た。そこに入れ替わるように泉先輩が入ってきた。 こなた「やっと開放された・・・かがみの言った意味がわかったよ」 ゆたか「お姉ちゃん、記憶を戻す作戦でその髪型にしたんだよ、記憶が戻ったかがみ先輩の家族に会えばどうなるか・・・」 みゆき「そうですね、これで泉さんの作戦の有効性が証明されました」 こなた「なんだ、みんな知ってたのか・・・かがみもはっきり言わないから・・・」 ひより「所で、泉先輩の所にいたお二人は誰っスか、かがみ先輩のお姉さんなのは分かるけど・・・」 こなた「ああ、ひよりん達はまだ知らないか・・・私も直接話したことはなんだど・・・あれ、みゆきさん覚えてる」 みゆき「確か・・・釣り目の方が長女のいのりさん、そして垂れ目の方が次女のまつりさんだと・・・」 ゆたか「まつりさん・・・つかさ先輩に似てますね」 かがみ「性格はぜんぜん違うけどね・・・」 お茶とお菓子を持ってかがみ先輩が入ってきた。 「誰の性格がぜんぜん違うって、聞き捨てならないな」 かがみ「げっ、まつり姉さん、いつの間に・・・」 かがみ先輩のすぐ後ろにまつりさんが居た。そしてすぐにいのりさんもやってきて、私達は学校でのつかさ先輩の話を、がかみ先輩姉妹は家でのつかさ先輩の話を 交換するように話し合った。つかさ先輩の居ないこの世界で私達の記憶と思い出だけが楽しげに交差した。お互いの欠けた記憶を補填するように。 程なく日下部先輩、峰岸先輩が来ると話は一段と盛り上がった。もうここにつかさ先輩が居るようだった。 ゆたか「もう、時間すぎてますよ・・・」 この一声で皆の会話は止まった。予定の時間はとっくに過ぎていた。 まつり「楽しかった、私は立ち会えないけど・・・つかさもきっと喜んでるよ」 まつりさんが部屋を出た。 いのり「私は立ち会わせもらうわ、準備が出来たら呼んで、かがみ」 かがみ「準備なんてすぐよ、庭で待ってて」 いのりさんは手で返事すると部屋を出ていった。 こなた「さて、私た達も行こうか、ひよりん、ノートは持って来てるよね」 ひより「もちろん、ここに二冊あるっス・・・って両方ともっスか」 みさお「片方残す理由もないぞ、行こう」 私達は部屋をでて庭に向かった。 みんなを見渡すと暗く沈んでいる。燃やしてしまってどうなるか不安なのだろう。 泉先輩はいまだにリボンを外していない。その表情もなんとなく明るい。日下部先輩もそんな感じだ。 ノートを燃やすことにかなりの期待をしているのが伺える。確かに私も最初に考えた事だし今更ネガティブになってもしょうがないな。 庭に出ると既にいのりさんが待っていた。そしてその隣りにはおばさんとおじさんもいる。まつりさんは見当たらない、別れ際に言ったことは本当だったようだ。 み き「ここにマッチがあるわ、誰が火を点けるの」 そんなの決めてなかった。皆を顔を見合わせた。 みゆき「火を点ける方はかがみさんの他に居ないと思います」 即答だった。皆は一斉にかがみ先輩に注目する。かがみ先輩はそう予感していたのか、立候補するつもりだったのか、手に持っていた小箱、つかさ先輩のへそ緒を持って おばさんに向かってマッチと小箱を交換した。 かがみ「お父さん、お母さん、いのり姉さんその箱燃やすことにならないように祈って・・・皆も祈って・・・田村さん、ノートをここに・・・」 私は二冊のノートをかがみ先輩の足元に置いた。 かがみ先輩はしばらく目を瞑るとマッチに手をかけた。 何分経っただろうか、かがみ先輩はマッチに手をかけたまま動こうとしない。 かがみ「・・・出来ない、やっぱり私には出来ない」 かがみ先輩はマッチに手をかけるのを止めた。 いのり「私達、決めたじゃないの、今更そんな・・・友達だって納得しないわよ」 かがみ「まつり姉さんだって、最後まで反対してたじゃない、だから・・・居ないんでしょ、分かるわよそのくらい」 いきなり姉妹同士で言い合いが始まった。家族一致の決断じゃなかったのか。私達でさえ一致するのに時間かかった。まして家族ともなれば・・・。 おじさんとおばさんも止めには入らない。 私達はいのりさんとかがみ先輩の言い合いをただ見ていた。 こなた「マッチ貸して、私が燃やす」 痺れを切らしたようにかがみ先輩に近寄り手を伸ばした。 二人は言い合いを止めた。 かがみ「こなた、あんた分かってるの・・・もう二度とつかさに会えないかもしれないのよ・・・」 こなた「今でも充分会えないよ、いいから貸して」 さっきよりも口調がきつくなった。しかしかがみ先輩はマッチを渡そうとしなかった。 かがみ「今になって分かった、私はつかさが居ないとダメだって、小さい頃から世話したのはつかさが私から離れないようにしたかったら、 なんで消えたのよ、あれだけで、何も言わないで簡単に消えちゃって・・・コーヒー溢したのなんて・・・大したことないじゃない・・・」 そのままノートの前にしゃがみこんで泣き崩れた。 こなた「もういいよ、かがみ、もう、かがみがつかさを必要だってことはもう分かった、もう他に方法ないよ・・・私だってこんな賭け・・・」 泉先輩も涙を流し始めた。さすがの私も目が潤んできた。確かにつかさ先輩はノートに書いて簡単に消えた。簡単に消えた・・・。 かがみ先輩は全てを託すように泉先輩にマッチを渡した。泉先輩はマッチに手をかけるとすぐに火を点けた。 簡単に消えた。つかさ先輩は簡単に消えたんだ。シミの付いたノートに謝罪文を書いている時じゃない。ノートを補修している時でもない、 ネタ帳にったった一言書いただけ、それだけでまるで消しゴムで消したように消えた。 あれ、消しゴム。私は燃やそうと思う前に確か消しゴムでつかさ先輩の書いた文字を消そうとしたんだっけ。でも消えなかった。 つかさ先輩は言った。私がいなくなったらどうなるか試したいって。かがみ先輩の足をひっぱるから・・・。 かがみ先輩はさっき言った。つかさ先輩が居ないとだめだって・・・。もうこのノートのシミの件は解決している。つかさ先輩の目的はもう果たせた。 私では消せなかった文字・・・まだ一つやっていない事があった。 ひより「火を点けるの待った」 こなた「えっ?」 叫ぶと同時にノートを見るとメラメラと炎を上げて燃えて上がっていた。 ひより「まだあった、やっていない事、まだ燃やすの早いっス」 それを聞いた泉先輩はノートを手で煽り始めた。かなり慌てていた。 かがみ「ばか、煽ってどうする、砂をかけろ」 二人は足元の土を手で掴んでノートにかけた。途中から小早川さんも参加した。炎はみるみる小さくなった。 こなた「びっくりした」 かがみ「びっくりしたのはこっちだ、まったく」 皆は私に注目する。 こなた「なんだい、まだやっていない事って」 ひより「いや・・・もう遅いかも、ノートが燃えちゃたらダメっス」 小早川さんがノートを拾った。 ゆたか「シミの付いたノートは半分焼けてる、田村さんのは、表紙が少し焦げただけみたい」 ひより「よかった、小早川さん焼けてない方貸して」 ノートを受け取ると私はかがみ先輩に消しゴムを渡した。 かがみ「何・・・これをどうするの」 ひより「つかさ先輩は簡単に消えた、だからもっと簡単に考えて・・・」 ノートを開いてつかさ先輩が最後に書いた頁を開いてかがみ先輩に渡した。 ひより「つかさ先輩が書いた『私が居なかったら』をその消しゴムで消して下さい」 かがみ「何よ・・・そんな事したって、何も変わらないわよ」 ひより「その字、鉛筆で書いた字っス、私では消えませんでした、かがみ先輩はこの字を否定してるっス、今のかがみ先輩なら消せるかもしれません」 かがみ「無駄よ・・・消してどうなるのよ・・・」 みゆき「消しゴムで消すだけです、燃やしたら、それすらも分からなくなります、それでもいいのですか」 かがみ先輩は黙って消しゴムでこすり始めた。文字は消しゴムで鉛筆の字を消すように消えていく。 かがみ「普通に消えるじゃない・・・何も起きないわよ」 次のページへ
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村外れにある食糧倉庫。月明かりのみが照らす夜の闇の中、二つの影がそこに近づいていた。背丈は人間の大人の半分ほどだが、横幅は大人の倍くらいあり、かなりずんぐりとした体型をしている。地元の人間がゴブと名づけた、亜人型の砂獣だ。 二体のゴブは倉庫の扉に近づき錠前があることを確認すると、二体同時に手に持った斧を振り上げた。 「はーい、そこまでー」 しかし、斧が振り下ろされる前に後ろから声をかけられ、ゴブ達は斧を振り上げた格好のまま後ろを振り向いた。 「あんたらも懲りないっつーか、単純ね。盗みに入るパターンが決まってるから張り込みやすいわ」 ゴブを小馬鹿にしながら姿を現した声の主は、長い髪を頭の左右でくくった少女だった。 ゴブたちが警戒する中、少女は羽織っている黒いロングコートの中から、短めの剣を取り出した。刀のように反身であり、鞘には何故か銃のように引き金が付いていた。 少女は鞘から剣を抜き、そのまま鞘を持った右手を前に、剣を持った左手を後ろにして半身に構えた。 ゴブの一匹がその体型に似合わぬ跳躍力で、少女に飛びかかる。少女は上から振り下ろされる斧の一撃を冷静に鞘で受け流し、剣でゴブの胴を切りつけた。 ゴブが地面に落ち砂に戻っている間に、もう一匹のゴブはすでに逃走を始めていた。それを見た少女は、ため息を一つつくと剣を鞘に戻した。 「…逃がさないわよ」 そして、剣を腰溜めに…漫画やアニメでよく見るような居合い抜きの構えを取ると、左手で剣の持ち手をしっかりと握り、鞘を持つ右手の指を引き金にかける。少女はそのまま睨むように、逃げていくゴブに狙いを定めた。 「…飛燕!」 少女が引き金を引くと発砲音が鳴り、剣が抜き放たれる。その切っ先から衝撃波がまるで銃撃のように撃ち出され、逃げるゴブの背中を袈裟切りに斬り裂いた。 少女はしばらく剣を抜き放ったままのポーズで止まっていたが、ゴブが砂に戻るのを見た後、安堵のため息をついて剣を鞘に戻した。 「…お仕事終了っと」 そして、少し乱れた髪を整えると、ゴブだった砂の山からライブジェムを回収し始めた。 「最近、多くなったわね…向こうも追い詰められてるのかしら」 そう独り言を呟き、少女…柊かがみは大きく伸びをし、お守り代わりに左の二の腕に巻いてあるピンク色のスカーフを撫でた。 ― わいるど☆あーむずLS ― 第三話『真面目兎とパン屋さん』 夜が明けた後、昼ごろまで睡眠をとったかがみは、仕事の報酬を受け取りに村に一つだけある酒場に訪れていた。 「ほい、これが今回の報酬ね。ライブジェムの分も入ってるから」 そう言いながら、中年の男性がカウンターの上に貨幣の入った袋をおいた。 「ありがとう」 礼を言いながらかがみはその袋を手に取り、その重さに驚いた。 「あれ、これ多くないですか?」 かがみが男性を見ながらそう言うと、男性はニッコリと笑い返した。 「ボーナスだよ。かがみちゃんのおかげで、今年も無事に過ごせそうだからね。村の近くにゴブのアジトが出来たときは、ホントどうなるかと思ったけどねえ」 「いや、そんなわたしは大したこと…」 照れてうつむくかがみに、男性は大きく笑った。 「いや、実際こんなに長く滞在する渡り鳥なんていないからね…村人全員君には感謝してるよ」 「…それも特に行く当てが無いからだし…」 かがみは仕事の窓口になってるとは言え、何かにつけて褒めてくるこの男性が少し苦手だった。 「そ、それじゃ、わたしはこれで…」 だから早々に話を切り上げて、酒場を出ようとした。 「パン屋に行くんだろ?だったらアシュレーによろしくな!元渡り鳥なんだから、たまにはこっちの仕事もしろってな!」 そのかがみの背後から、男性が大きな声でそう言った。 「余計なこと言わないでよ…」 かがみは真っ赤になりながら、酒場を早足で出て行った。 村の中央辺りまで来たところで、かがみは一人の少年がこちらに向かって走ってくるのを見つけた。 「…トニーじゃない。またなにかやらかしたのかしら」 村でも屈指のいたずら小僧であるトニーには、かがみも少し手を焼いていた。 「あ、いた!兎のねーちゃん!大変だよ!」 トニーはかがみを見つけると、大声でそう言いながら駆け寄ってきた。 「…兎は止めてって言ってるのに…ってかわたしに用だったのか」 かがみはため息をつきながら足を止めた。 「探してたんだよねーちゃん!ついさっき、村の前で行き倒れを見つけたんだよ!」 自分の前に立ちそうまくし立てるトニーに、かがみが首をかしげた。 「行き倒れ?それは確かに大変だけど…なんでそれでわたしを探すの?」 「そいつの格好がさ、ねーちゃんが麦畑で倒れてた時と同じやつなんだよ!あのピンクの変な服!」 トニーがそういい終わるや否や、かがみはトニーの両肩をがっしりと掴んだ。 「どこ!?その行き倒れはどこにいるの!?」 「…ア、アシュレーにーちゃんの家…だけど…ねーちゃん痛い…ってか怖い…」 肩に指を食い込ませ、額がつきそうなくらいに間近にせまったかがみに、トニーは冷や汗を垂らしていた。 こなたは皿に残ったパンの最後の一切れを口に放り込むと、コップに入った水を一気に飲み干し、空になったそれをテーブルの上において大きく息をついた。 「…ふー…助かったー…」 「いや…よく食べたね…」 テーブルの向こう側にいた青年が、こなたを見ながら苦笑いを浮かべた。 「はあ…なんせ、遺跡を出てからすぐに砂獣に襲われて、食料も水も台無しにして、飲まず食わずで夜通し歩いてここまで来たものですから…いや、ほんと助かりました」 「あの荒野を飲まず食わずって凄いな…」 青年はこなたが食い散らかした皿を片付けながらそう呟いた。 「あ、そうだ。ちょっと聞いていいかな?」 そして、何か思い出したようにそう聞いた。 「はい、なんでしょ?」 「柊かがみって、もしかして君の知り合い?」 まさか急にその名前が出てくるとは思わず、こなたは驚きで固まってしまった。 「…え…かがみ?」 かろうじてそう呟くと、青年は満足そうに頷いた。 「やっぱり知り合いだったか。君の着てるそのセーラー服、かがみちゃんも着てたんだよね。まったく同じものだから、もしかしたらって思ったんだけど」 「かがみ…かがみがこっちの世界に…」 こなたがそう言いながらうつむくのと、部屋のドアが勢いよく開かれたのはほぼ同時だった。こなたがそちらを見ると、そこにはほぼ一日ぶりに会うかがみの姿があった。 「…あ…あぁ…ホント…ホントに…」 かがみは体を震わせて、目には涙を溜めていた。 「え、えっと…かがみ?」 様子のおかしいかがみにこなたは少し戸惑っていたが、とりあえず近況を聞こうと近づこうとした。 「こなたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 しかし、それより早く遺跡で戦ったボス狼もかくやといった速度で、かがみがこなたに抱きついた。 「あははははっ!こなただ、こなただっ!ホントにこなただぁっ!!」 そしてそのままもつれ合って床に倒れ、かがみはこなたを抱きしめたままゴロゴロと床を転がった。 「ちょ、ま、かが、み、おち、つ…頬ずりすなーっ!」 そんな二人の様子を見ていた青年は、一つ頷くと部屋のドアに手をかけた。 「じゃ、俺は邪魔みたいだから…」 「待ってーっ!助けて!かがみんなんとかしてーっ!」 その青年の背中に、こなたは必死で助けを求める。 「いや、なんとかしてって言われても…」 「ちょっと、アシュレー!埃が落ちるから暴れないでよ!」 青年がどうすべきか迷っていると、階下から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。 「…俺じゃないんだけど…ああ、もう…くそっ」 青年は悪態をつくと、とりあえず床を転げ回っている二人を取り押さえにかかった。 数分後。なんとか落ち着きを取り戻したかがみとふらふらしているこなた、憮然とした表情の青年がテーブルについていた。 「…すいませんでした…嬉しくてつい…」 しばらくの沈黙の後、顔も真っ赤にして身を縮ませているかがみがそう言った。 「うん、まあ落ち着いたのならいいけど…この子はかがみちゃんの知り合いでいいんだよね?」 青年がこなたの方を見てそう言うと、かがみは顔を上げて頷いた。 「はい。泉こなたっていって、わたしの友達です」 「君が元居た世界の?」 「はい」 別世界の住人だと理解されてるなら話は早いな…と、こなたは二人のやり取りを見ながら思った。 「で、こなた。この人はアシュレー・ウィンチェスターさん。この家の一階のパン屋を奥さんと二人で切り盛りしてるの」 かがみがそう言うと、こなたはアシュレーのほうを向いて軽く頭を下げた。 「改めてよろしく…で、アシュレーさん。早速悪いんですけど、席を外してもらえます?かがみとちょっと話がしたいんで…」 こなたがそう言うと、アシュレーは首をかしげた。 「それは、俺には聞かせられないことなのかい?」 「ええ、まあ…ちょっとプライベートなことなんで」 「そうか…じゃあ、俺は店の方に降りてるよ」 アシュレーはそう言いながら席を立ち、そのまま部屋を出て行った。こなたはアシュレーが階段を下りていく音を確認すると、かがみに向き直った。 「えーっと、色々聞きたいんだけど…とりあえず、さっきのはなに?」 こなたがジト目でそう聞くと、かがみは思わず視線を逸らしてしまった。 「い、いやだから嬉しくてつい…知ってる人に会うの二ヶ月ぶりだったし…」 かがみのその言葉に、こなたは目を丸くした。 「二ヶ月?ちょ、ちょっとまってかがみ。二ヶ月って何?」 「に、二ヶ月は二ヶ月よ。わたしがこの村の麦畑で目を覚ましてから、大体そのくらい経ってるのよ…」 こなたの狼狽振りに、かがみが戸惑いながらそう答えた。こなたはしばらく唖然とした後、顎に手を当ててうつむいた。 「…わたしがこの世界で目を覚ましたの、昨日なんだよ」 「…え」 ポツリと言ったこなたの言葉に、今度はかがみが唖然とした。 「かがみ。元の世界に居た最後の日が何日か覚えてる?」 顔を上げたこなたがそう聞くと、かがみはコートのポケットからボロボロになった生徒手帳を取り出した。 「…この日よ」 その中のカレンダー。そこに付けられた丸印を指す。それを見たこなたの眉間にしわがよった。 「わたしもその日が最後だよ…ってことは、全然別の時間に飛ばされたってことなのかな…」 二人してしばらく考え込んでいたが、こなたが急に何か思いついたように手を叩いた。 「そうだ、コレ聞いとかなきゃ…かがみ。元の世界でさ、授業中に居眠りしなかった?で、おきたらこっちの世界に居たって感じだと思うんだけど」 「…うん、その通りよ。前の晩はしっかり寝たはずなんだけど、なんでか急に眠くなって…そのときの事は、はっきり覚えてるわ…っていうか、元の世界のこと忘れないようにしてたから…」 そう言いながら項垂れるかがみに、こなたは困った顔をした。 「よく考えたら、浮かれてる場合じゃないのよね…こなたまでこっちに来ちゃったんだし」 「うん、まあそうなんだけど…最悪、つかさとみゆきさんもこっちに来てる可能性もあるし」 「え、それどういうこと?」 「わたしが寝る前にね、つかさとみゆきさんも眠そうにしてるの見えたから。つかさはともかく、みゆきさんが居眠りなんて普通じゃないし」 「そう…ね」 またしても二人して沈黙してしまう。問題やはっきりしないことが増えていくだけで、喜べそうな要素が何一つ見当たらないからだ。 『そろそろ喋っていいかな?』 そんな中で、アガートラームが我慢し切れないといった感じでそう言った。 「…あ、忘れてた」 『…ひどいなあ…人前では迂闊に喋るなって言うから、我慢してたのに』 「…え…ARMが喋った?」 ホルスターから抜いたアガートラームと会話し始めたこなたを見て、かがみは唖然とした。 「ああ、やっぱかがみも驚くんだ…ってか、かがみはこの世界で目を覚ましたときに、近くにこういうのなかったの?」 「あったけど…喋りはしないわよ」 そう言いながら、かがみはコートの内側から剣型のARMを取り出した。 「これだけど…」 『形式番号A-ARMS02。名称はナイトブレイザーだよ』 かがみのARMを見たこなたが何かを言う前に、アガートラームがそう言っていた。 「相変わらず、名前だけはわかるんだね」 『わかるというか、思い出した…あと機能が一つ回復したよ』 「なに?アクセラレイターみたいなの?」 『いや、他のA-ARMSを感知できるようになったみたいだ』 アガートラームの言葉に、こなたは嬉しそうに手を叩いた。 「そりゃラッキーだよ。わたしもかがみも持ってたって事は、つかさやみゆきさんも同じの持ってる可能性があるんだし、こっちの世界に来てるなら探しやすくなるよ…ね、かがみ」 こなたはそう言いながらかがみのほうを見たが、かがみは自分のARMをじっと眺めたままだった。 「…かがみ?」 「え?あ、そ、そうね…それは助かるわよね」 「…なにしてたの?」 「え…いや…わたしのも喋らないかなって…」 照れくさそうに頬をかくかがみに、こなたはため息をついた。 「で、近くに反応はあるの?」 そして、アガートラームにそう聞いた。 『あるね。ここよりもうちょい西かな』 それを聞いたこなたが、ロディにもらった地図をテーブルの上に広げた。 「えっと、今いるのは…」 「ここね」 その地図に描かれている一つの大陸。その南東の方に、かがみが持っていたペンで丸を付けた。 「で、ここから西ってことは…可能性の高いのはここ」 そして、そこから少し西にある、何かのマークに丸を付ける。 「ここには、アーデルハイド公国って結構大きな城下町があるらしいわ」 「へー…かがみは行ったことあるの?」 「ないわ。この村から出たこと無いから…なんかゴタゴタがあって、治安が悪いようなこと聞いてるしね」 「そっか…でも行かないとダメかな…かがみはどうするの?」 こなたの質問にかがみは不満気な顔をした。 「どうするって、なによ?」 「ここに二ヶ月いたんでしょ?離れがたいんじゃないかなって…」 「怒るわよ。ここに居ついてるのは他に行く当てが無かったからよ。つかさやみゆきがどっかにいるかも知れないってわかったんだから、行くわよ」 「…うん、わかったよ」 かがみの答えに、こなたはホッとした表情を浮かべた。 「でも…ちょっと問題があるわね」 「問題?」 「ゴブって砂獣よ。わたしがここに来た時くらいに、村の近くにアジトを構えたのよ。村をしょっちゅう襲ってくるから、わたしが用心棒みたいなことしてるのよ。今この村にいてる渡り鳥はわたししかいないから、どうにかしないとね…」 「そっか…ってか、かがみ渡り鳥やってるんだ」 こなたは遺跡で会った二人組みのことを思い出していた。 「やってるっていうかそうなってるっていうか…渡り鳥ってのは砂獣と渡り合えるような戦闘能力持ってる何でも屋の総称みたいね」 「ああ、そうなんだ」 「こなたはこっちの世界のこと、あんまり知らないみたいね。その銃が教えてくれなかったの?」 「残念ながら銃の癖に記憶喪失のポンコツなもんで」 『ポンコツいうな』 かがみはこなたとアガートラームのやりとりに苦笑すると、椅子から立ち上がった。 「あんまり長くいるとアシュレーさんに悪いから、あとはわたしの部屋で話しましょ」 「あ、そうだね…ってかそういうとこあるなら、最初からそっちの方がよかったのに」 こなたもアガートラームをホルスターに収めて、椅子から立ち上がった。 「言い出す暇なかったのよ…ああ、そうだ。先に仕立て屋さんに行こっか。アンタの服どうにかしないとね」 かがみにそう言われ、こなたは自分の着てる服を見下ろした。着ているセーラー服はあっちこっち砂と埃にまみれ、ところどころに穴が開いている。スカートにいたってはスリットのように縦に裂けている部分があった。 「…確かに、冷静に見てみるとわたしやばい格好してるね」 こなたの呟きに、かがみは思わず吹き出していた。 こなたとかがみが階段を下りると、店のカウンターに座っていたアシュレーが立ち上がって二人の方に近づいてきた。 「話は終わったのかい?」 「ええ、大体は…」 かがみがそう答えると、アシュレーはパンの入った紙袋をかがみに差し出した。 「これ、いつもの。今日はまだ何も食べてないんだろ?」 紙袋を受け取りながら、かがみはお腹が減ってることを思い出し、照れくさそうに頬をかいた。 「いつもすいません…じゃあ、わたし達はこれで…こなた、行くわよ」 アシュレーに代金を渡した後、かがみはこなたの方を見た。 「…なにしてるの?」 「え、いやちょっとね…」 こなたは店の奥の壁を眺めていたが、かがみに呼ばれて店の出入り口のほうに小走りに向かった。 「こっちの世界にもヤキソバパンってあるんだね…」 「あのパン屋さんの名物なのよ。美味しいからいつも注文してたら、もう店に行く前からアシュレーさんが用意してくれるようになっちゃって…」 こなたとかがみは、仕立て屋に向かう道をパンを食べながら歩いていた。 「荒野歩いてるときは、大変な世界来ちゃったって思ったけど、この村見てるとそうでもないのかな」 こなたが道端で談笑している村人を見ながらそう言うと、かがみは少し難しい顔をした。 「うーん、この村は立地がいいからね…森の近くだし、水源もあるし…小麦の名産地だから、他の町から行商人も結構来るのよね」 「…なるほど、それでパンが美味しいんだ」 こなたはヤキソバパンにかぶりつきながら、納得したように頷いた。 「そういや、こなた。お店でなに見てたの?」 「え…ああ、なんか壁に変わった銃が飾ってたからさ、気になって」 よく映画で見るようなボルトアクションのライフルに銃剣が付いている…というより、両手剣にライフルが取り付けられてると言った方が正しいくらいに巨大な刃の付いた銃をこなたは思い出していた。 「アレね…アシュレーさんが渡し鳥やってた時に使ってたARMらしいわ」 そう答えながら、かがみは眉間にしわを寄せた。 「アシュレーさん、もう戦えないって言ってたから、アレもただの飾りになってるのよね…」 「そうなんだ。渡り鳥やめたのって怪我とかなのかな」 「さあね…そう言う話になると、あの人黙っちゃうから」 かがみは食べ終わった紙袋を丸め、コートのポケットに突っ込んだ。 「…トニー」 そして、前方で一軒の民家のドアにへばりついているトニーを見つけて、ため息をついた。 「こらトニー、わたしの家の前でなにやってるの」 「うえっ!?」 背後からかがみに声をかけられて、トニーは飛び上がった。 「あ、兎のねーちゃん…はは、な、なんでもないよ…」 「無茶苦茶態度あやしいわよ…っていうか兎はやめなさい」 「あ、そっちのちびねーちゃん。やっぱ知り合いだったのか?」 かがみに詰め寄られたトニーは、かがみの後ろにいるこなたを見つけ、話をそらそうとそう言った。 「そうよ、わたしの友達よ」 「よかったじゃん、兎のねーちゃん」 「…兎はやめろって…ってかアンタわざとでしょ?」 「渡り鳥に二つ名はつきもんだって…それじゃーね!」 そう言いながら、トニーはかがみの隙を付いて逃げ出した。 「あ、こらトニー!…まったく、あいつは…」 逃げて行くトニーの背中を見ながら、かがみはため息をついた。 「ねえ、かがみ」 そのかがみの背中から、こなたが声をかける。 「ん、なにこなた?」 「わたしのちびねーちゃんは分かるんだけど、かがみの兎のねーちゃんってなに?」 「え…あーそれは…」 かがみは少しうつむいて顔を赤らめた。 「…この世界来てから、渡り鳥の仕事頑張ってたら、いつの間にかクニークルスって二つ名が付いちゃって…」 「クニークルス?なにそれ?」 「…真面目兎…って意味らしいの…」 かがみの答えに、こなたは腹のそこから爆笑した。 「ちょ、ちょっと笑わないでよ!」 「ぴったりじゃん、かがみ。今度からわたしもそう呼ぶよ」 「や、やめてよー。アンタに言われると余計恥ずかしいわよー」 かがみは笑い続けるこなたに文句をいいながらも、久しくなかった感覚に少しばかり喜びを感じていた。 ― 続く ― 次回予告 またかがみです。 つかさとみゆき。 この世界に来てるかもしれない二人を探しに出るために、わたしとこなたは村に残された問題を無くすために、ゴブのアジトへと向かいます。 次回わいるど☆あーむず第四話『誰のために』 渡り鳥だけに、立つ鳥跡を濁さずってことね。 コメント・感想フォーム 名前 コメント
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「う・・・んん・・・あれ?」 岩崎みなみはベッドの上で目を覚ました。しかし、そこは自分のベッドではなかった。むしろ、自分の部屋ですらなかった。そこは自分のよく知る場所、陵桜学園の保健室であった。 みなみとゆたかと『ゆーちゃん』と 「持久走ってやだよね、疲れるし汗だくになっちゃうし。」 「でも、冬だからまだいい方かな?夏だったら暑いから途中で倒れちゃうかもしれないし。」 「あぁ、なるほどね。」 田村ひよりと小早川ゆたか、岩崎みなみはグラウンドまで歩いている間、話しをしていた。といっても、話しているのはひよりとゆたかだけであるが。 「でも、もし倒れちゃっても、岩崎さんが保健室まで連れていってくれるから大丈夫だね。」 ここでひよりは自らが作り出した妄想世界へ飛び出した。 「あ・・・」バタンッ!! 「ゆたか、大丈夫!?」 「う、ん。大丈夫、だよ。心配しないで。」 「だめ、心配だから保健室まで連れて行く。」 「で、でも・・・わぁ!?」 「さあ、行こう。」 「ま、まって、みなみちゃん。自分で歩けるから・・・その・・・お姫様だっこはやめて。」 「この方がゆたかの体に負担が掛からない。大丈夫、私は保健委員だから。」 「・・・ありがとう、みなみちゃん。」 (ぐわぁ、自重、自重するっス、わ~た~し~!!) 「う~ん、今日は平気だと思うな。最近、体調良いし、それに、みなみちゃんに迷惑かけられないし。」 「・・・私は迷惑だなんて全然思ってない。」 そう答えたみなみにゆたかは少し怪訝そうな顔をした。 「みなみちゃん、大丈夫?なんだか気分悪そうだけど。」 「え?そうなんすか?」 ひよりはみなみの気分が悪そうなことに全く気が付かなかった。いや、ひよりでなくとも気が付かなかっただろう。そんなみなみの微妙な表情を読み取ることができるゆかたはさすが、と言うべきだろう。 「・・・問題、ない。」 「そう?無理しちゃだめだよ。調子悪かったらちゃんと言ってね。」 「・・・ありがとう、ゆたか。」 そんなゆたかとみなみのやり取りを見ながら、ひよりは再び自らが作り出した妄想世界へ飛び出した。 「う・・・」ドサッ 「みなみちゃん!?」 「大丈夫、ゆたか。心配、しないで。」 「大丈夫じゃないよ、みなみちゃん。すぐに保健室に行こ。」 「・・・うん、わかった。」 「さぁ、私の体に捕まって。」 「え?だ、だめ!ゆたかじゃ私の体を支えきれない。」 「でも、みなみちゃんのこと心配なの。みなみちゃんになにかあったらいやなの。」 「・・・それじゃ、失礼して。大丈夫?重くない?」 「ううん。みなみちゃん、そんなに重くないよ。それじゃ、行こうか。」 「・・・ありがとう、ゆたか。」 (ぐわぁ、だから自重しろ、自重しろっス、わ~た~し~) 体育の授業は時間を計りながらの持久走を行っていた。みなみはやはり具合が悪いようだった。みなみはゆたかと一緒に走っていた。ゆたかは決して足が遅いわけではないが、いつものみなみからしたらかなり遅いペースで走っていた。ゆたかの方も少しゆっくりと走っているようだった。 「本当に大丈夫、みなみちゃん?」 「大、丈夫。先に、行ってくれて、かまわ、ない。」 「わかった。でも、もう無理だって思ったら早めに先生に言わなきゃだめだよ?」 「・・・うん。」 ゆたかはみなみのことを心配しながらも少し走るペースを速めた。 少し経って本当に大丈夫だろうかと後ろを振り向いた時であった。 みなみの体が今まさに倒れようとしていたのであった。 「みなみちゃん!」 ゆたかは思わず叫び、走っていた道を逆走していた。 「みなみちゃぁぁん!!」 今までにないほどの大声で叫び、みなみに向かって走っていった。 その時であった。みなみのまわりが煙で包まれたのである。 正確にはみなみのまわりだけが煙に包まれたわけではなく、グラウンドの一部が煙に覆われている状態だった。 だが、みなみはその煙のほぼ中心地点にいた。 みなみは全くわけがわからない状況になっていたが、さらに状況が変わっていた。 誰かがみなみの体を抱くように支えていたのである。 (・・・誰?この胸のふくらみはみゆきさん?) みなみは自らの置かれた状況を理解しようとしていた。 「大丈夫、みなみちゃん?」 (みゆきさん・・・じゃない。みゆきさんは私のことをみなみ“ちゃん”とは言わない(陵桜学園入学案内書を除く)。) みなみは自分を抱き支えている人を見ようとした。しかし、煙と自らの意識が朦朧としているせいで見ることができなかった。 みなみの意識はここで途絶えていった。 (そっか、私あのまま気を失っちゃたんだ。それにしても、あの人はいったい・・・) 保健室で一眠りしたおかげで少し体調が良くなっていたみなみは、あの時自分を抱き支えてくれた人のことを考えていた。みなみには約1名心あたりがあった。 (私のことをみなみ“ちゃん”と呼ぶ人は多くない。それにあの声。でも、あんな大人っぽい声じゃなかったはず。) みなみがジッと考えていると、 「あれ?起きられたのですか?」 保健室の奥の方から先ほどまで何者なのか考えていた人の声が聞こえてきた。みなみは急に声を掛けられたことに驚いたが次の瞬間、さらに驚かされることになる。奥から現れた人物はピンクの髪を小さなツインテールにしたタレ目の女性。そこだけ見たら小早川ゆたかに見えるが、体格が全く違っていた。自分とほとんど変わらないであろう身長、スラリと伸びた腕、白衣を着ているのでよく見えないが同じスラリと伸びているであろう足、そしてみゆきほどではないが大きな胸。どれを取ってもいつも見ているゆたかとは似て非なるものばかりだった。 「あ、あの、い、いったい・・・」 「え?ああ、この白衣ですか?それが、『あの子』の服、やっぱり小さいものですから天原先生にお借りしたのですよ。あ、天原先生は会議があるそうなので今はいませんよ。」 みなみはいったいその人が何者なのか聞きたいのに全く話がかみ合っていなかった。 「い、いえ、そうではなく、あなたはいったい、なにも・・・」 何者かと聞こうとしたその時。 “ドタドタドタ”“ガラァァ” 「ゆーちゃん、また倒れちゃたんだっ・・・て?」 泉こなたが扉を開けてそのまま固まった。 “トットットッ” 「ちょっとこなた、廊下を走っちゃだめだっ・・・て?」 柊かがみがこなたの後からやってきて同じく固まってしまった。 “テトテトテト” 「みなみさん、いらしゃいます・・・か?」 さらに、高翌良みゆきがかがみの後からやってきて(以下略) “トタトタ ドテッ! ヒョコ トタトタ” 「みんな歩くの速い・・・よ?」 さらに、額にバツ印のバンソーコーを貼った柊つかさが(以下略) 見つめ合う保健室の中の2人と扉の4人。 「「「・・・誰よ?/ですか?/なの?」」」 先に口を開いたのはかがみ、みゆき、つかさの3人だった。まぁ、目の前に見たことあるようなないような人が立っていたら、こんな反応を示すのも当然かもしれない。しかし、こなたは違っていた。 「おお、久しぶりゆたか。てか、2年ぶりだね。元気してた?」 「はい、お久しぶりです。高校の入学祝いを言いにいった以来ですね。」 こなたはまるで久々に友達に会ったような感じに話していた。 「「ゆたかちゃん!?」」 「小早川さん・・・なのですか?」 かがみたちは全くわけがわからなかった。 「・・・やっぱり、ゆたかだったんだ。」 みなみはうすうすとこの人はゆたかなんじゃないか、と考えていたようだった。 「ちょっと、こなた、どういうこと!?この人、本当にゆたかちゃんなの?私たちにもわかるように説明しなさいよ。」 かがみはどうにか理解しようと、こなたに説明を求めた。こなたは少し考えて口を開いた。 「実はゆーちゃんはある魔術師が作り上げた存在の仮の姿で、今目の前にいるのが本来の姿なのだよ。」 「だれがN○K魔法少女アニメネタをやれと言った!」 「ゆーちゃんには8人の仙人の内の1人が取り付けていて、お酒を飲むとこの姿になっちゃうんだ。」 「N○Kアニメネタから離れろ!!」 「ゆーちゃんのツインテールリボンに宿った三千年前のファ○オの魂が蘇った。さぁ、かがみん、闇のゲームの始まりだ。」 「いいかげんにしろぉぉぉぉぉ!!!」 どこまでもネタを忘れないこなたとツッコミを忘れないかがみ。この2人がコンビを組めば、夫婦(めおと)漫才でMー○の頂点を目指せるんじゃなかろうか。 「そういうネタはもういいから、さっさと説明しなさいよ。」 「う~ん・・・」 こなたは再びなにか考え始めた。 「あんたまた、ネタかなんかしようと、」 「ち、違うよ。いや、私も実際の所よく知らなくて。」 「はぁ!?」 「私が知ってるのは体が弱かったから術を掛けられたってことぐらいしか。」 「なによ、それ。」 「詳しいことは私の方からご説明させていただきます。」 こなたのほとんど説明になっていない説明の補助をするために(ほとんど蚊帳の外だった)ゆたかが話しに加わった。 「概要はこなたお姉ちゃんが話された通りです。私は生まれた時から体が弱く、あまり長くは生きられないだろうと言われていたそうです。そこで、私に少しでも長く生きてほしいと願った両親がとったのが、“術”を掛けてもらうことだったのです。」 「術?」 「はい。術と言っても、ほとんど呪いのようなものですけど。肉体の成長を遅らせることで少しでも長く生きてほしいと願っていたそうです。術は成功しました。しかし、そこで問題が起きました。」 「問題・・・ですか?」 「はい、そうです、高翌良先輩。術の副作用・・・というところでしょうか、人格がもう一つできてしまったのです。」 「もしかして、そのもう一つの人格って。」 「そうです、つかさ先輩。そのもう一つの人格というのが、今まで“小早川ゆたか”としてあなた方と一緒にいた、『ゆーちゃん』なのです。両親はそのことに気が付いていませんでした。術を掛けてくれた人も気付いていなかったでしょう。両親が気が付いたのは、私が5歳のある日に表に出てきた時です。」 「表に出る・・・ってどういうことよ。」 「私は普段、『ゆーちゃん』の中にいます。ですが、『ゆーちゃん』の体の調子が良く、かつ、私が肉体を持ちたいと願った時、こうしてみなさんとお話ができる状態になるのです。私はこれを“表に出る”と呼んでいます。その時、体は私が普通に育った時のものになるようです。」 「ふ~ん。それじゃあ、なに?今回もその“表に出たい”って願ったわけ?」 そう聞くかがみにゆたかは首を横に振った。 「え?じゃ、」 どうして?と聞く前にゆたかはみなみに顔を向けた。(完全に蚊帳の外にいた)みなみは不意に顔を向けられて、少し戸惑った。 「私が表に出てきたのは、みなみちゃんのおかげ・・・かな?」 「え?私?」 みなみは特に何かした覚えがなかったので、なにを言っているのかよくわからなかった。 「私は『ゆーちゃん』の中にいたのでわかるのです。『ゆーちゃん』はあなたのことをとても心配していました。そして、あなたが倒れそうになった時、『ゆーちゃん』はみなみちゃんを助けたい、という思いがありました。その思いはとても強いものでした。その強い思いは何らかの形で体に影響を与え、一時的に術が解けてしまった・・・と私は考えています。」 ゆたかが言い終わるとみなみは少々驚いていた。 「・・・ゆたかがそこまで。」 「ええ。」 次の瞬間、みなみは少しだけ嬉しそうな顔をしていた。ゆたかもそれをやさしい顔で見るのだった。 「えっと・・・話し終わった?」 こなたは話しが終わったのを見計らって声をかけた。 「ええ、終わりましたよ。」 ゆたかはこなたの方に体を向けて言った。 「じゃあさ、3つほど質問していい?」 「かまいませんよ。」 「それじゃあ、質問。ゆたか、もしかして、その下何も着てないの?」 こなたはゆたかの着ている白衣を指差して言った。白衣はちゃんと前を閉じるように着ているが、パッと見、何も着ていないように見えた。 「な、ちゃ、ちゃんと着ていますよ、ほら。」 ゆたかは白衣の前を開けた。その白衣の下にはちゃんと体操着が穿かれていた。しかし、それは表に出る前のゆたかが着ていたものなので、かなり小さくなっていた。結果、体操着は下着のように穿かれていた。 “ブブッ” こなたは鼻血を出して倒れかけた。 「こなた!」 「こなちゃん!」 「泉さん!」 かがみとつかさは倒れそうになったこなたを支えた。みゆきはティッシュと出してそれをこなたの鼻に詰めた。 「た、体操着を下着代わり・・・GJ。」 こなたは親指を立てて言った。その顔はいい物見た、という笑顔であった。 「うぅ・・・恥ずかしいですから、あまり言わないでください。」 ゆたかは白衣を元に戻しながら本当に恥ずかしそうに言った。 「そ、それで、2つ目の質問はなんですか?」 ゆたかはとりあえず話題を変えようとした。 「え?ああ、そうそう。なんでひよりんがそこにいるの?」 こなたはどうにか体を起こして、今度はみなみが使っているベッドの向こう側のベッドを指差して言った。みなみがこなたの指差した方を見てみると、今まで気づいていなかったが、ひよりがベッドで寝ていた。なぜかひよりの鼻は今のこなたと同じ状態になっていた。 「田村さんですか?うん、よくわからないのですけど、私がみなみちゃんを保健室まで運ぼうとしていたら急に鼻血を出して倒れたらしいですよ。何かあったのでしょうか?うわ言で“逆パターン”がどうとか“お姫様だっこ”がどうとかって言っていましたけど。」 「・・・ああ。」 こなたはひよりが倒れた原因がなんとなくわかっていた。かがみもどことなくわかったようだ。しかし、つかさとみゆき、そしてみなみ、ついでにゆたかもよくわからない様子で首を傾げていた。 「えっと、最後の質問いいかな?」 首を傾げて考え込んでいるゆたかにこなたはそう言った。 「え?あ、だ、大丈夫ですよ。」 考え込んでいたゆたかは急に声をかけられ、現実に戻された。 「まぁ、別に大した質問じゃないんだけど。」 「はい。」 「ゆたかはいつまでその姿でいられるの?」 「こなた、それ結構、重要な質問じゃない?」 かがみは思わずツッコミをいれてしまった。 「私が表にいつまで出ていられるか、ですか?実の所、あまり長くは出ていることはできないのですよ。『ゆーちゃん』の体にも影響してしまいますから。」 「そうなんだ。」 「はい。で、」 ゆたかは再びみなみの方に体を向けた。みなみは今度はなんだろう、と考えながらゆたかを見ていた。 「そのあまり長くない時間を使ってあなたとお話したいのですけど、よろしいでしょうか?」 ゆたかは笑顔でみなみに聞いた。みなみは自分の記憶の中にあるゆたかの笑顔と今のゆたかの笑顔を比べていた。その差はほとんどなかった。やっぱりこの人はゆたかなのだな、と感じたみなみであった。 「・・・はい、いいですよ。」 「ありがとう。」 ゆたかはそう言うと近くにあった椅子をみなみのベッドの横に置き、座った。 「率直に聞きます。あなたにとって『ゆーちゃん』はどういう存在ですか?」 「はい?」 いきなりそのようなことを聞かれてみなみは少しキョトンとした。 「あの、それはいったい・・・」 「う~ん、ちょっとわかりにくい質問でしたでしょうか。」 「は、はい。」 「『ゆーちゃん』はあなたのことを本当に信頼できる友だちだと思っているようです。なので、私は聞きたいのです。『ゆーちゃん』のことをどう思っているのか、どういう存在として見ているのか。」 「・・・」 「あなたは『ゆーちゃん』を友だちだと思っていますか?」 少しの間、沈黙が流れた。みなみは目を閉じ、考えているようだった。こなたたちはその様子を固唾を飲んで見ていた。そして、みなみの目がゆっくりと開けられ、ゆたかの顔を見て、首を横に振った。 「え?」 ゆたかは思わずそう言ってしまった。こなたたちも驚きの表情を隠せなかった。 「『ゆーちゃん』は友だちではないと?」 ゆたかがそう聞くと、みなみは真剣な顔をしてこう言った。 「私は、ゆたかのことを親友だと思っています。」 「親・・・友?」 「はい。ですから、私はゆたかのことを親友以下に思うことはできません。」 みなみの顔は真剣そのものだった。その顔からは嘘偽りなどはいっさい感じられなかった。 「そう。」 ゆたかはどこか安心したような顔でそうつぶやいた。 「それが聞ければ十分です。ありがとうございます。」 ゆたかは笑顔でそう言った。みなみもそれに笑顔で答えた。と言っても微妙な顔の変化であったが。 「う~ん。」 「どうしたの、こなちゃん?」 「こういうの見てるとさ、なんかこう百合の花が咲いて」 「だまらないと殴るわよ?」 「・・・はい。」 かがみは変なことを言おうとしたこなたに拳を見せた。 「私は」 「?」 不意にみなみが口を開いた。 「ゆたかに出会うまで一人でした。元々社交的な性格ではありませんでしたし、友だちも必要だとは思っていませんでした。ゆたかに手をさしのべたのも何気なくでした。でも、ゆたかは理解して接してくれました。とてもうれしかったです。だから、私はゆたかのことを大切に思っていますし、親友だと思っています。」 みなみは全く詰まることなく言った。それはみなみの本心が語られていることを示していた。ゆたかはそれを聞いてフッと笑った。 「なるほど。似ているのですね、あなたと『ゆーちゃん』は。」 「え?」 「『ゆーちゃん』も一人でした。理由は体が弱くて学校を休みがちになっていたことです。そのせいで『ゆーちゃん』の心は荒んでしまいました。その時はゆいお姉ちゃんのおかげで明るい性格を取り戻すことができました。でも、そのおかげで『ゆーちゃん』は知っています。一人の寂しさを、一人の孤独さを。そして、それを知っている人は優しくなれることを。『ゆーちゃん』があなたのことを理解できるのも、自分と似ている、と感じているからかもしれません。」 「・・・そうかもしれませんね。」 みなみは笑顔で答えた。しかし、それは先ほどの微妙な変化ではなく、はっきりとわかるほどの変化であった。 「う~ん、やっぱり百合」 「黙れ。」 「・・・はい。」 かがみはもはや、こなたにしゃべらすことすら許さなかった。 「それか・・・ら?」 ゆたかは急に体が傾き始めた。 「ゆたか!」 「ゆたか!」 「「ゆたかちゃん!」」 「小早川さん!」 ゆたかはみなみに寄り掛かるように倒れた。みなみはそんなゆたかを抱くように支えている。 「どう・・・したの?」 「ごめんなさい。ちょっと、限界、近いみたいです。」 「え?」 「術を掛けてもらっても、わたしの体が弱いことは変わりありませんから、あまり長く表に出ていることはできないのです。命を削ることになってしまいますから。」 「ゆたか・・・」 みなみは心配そうな顔をしてゆたかを見ていた。ゆたかは少し体を起こし、みなみの顔を見てこう言った。 「みなみちゃん、『ゆーちゃん』に親友だと思っていること言ってあげてください。『ゆーちゃん』はみなみちゃんがそう思ってくれていることをとてもうれしく思いますから。」 「はい。」 「それから、『ゆーちゃん』のこと、頼ってあげてください。」 「え?」 みなみはゆたかの言っている意味がよくわからなかった。 「『ゆーちゃん』はみなみちゃんに助けてもらってばかりですが、みなみちゃんのことを助けてあげたいと思っています。力になれることは少ないかもしれませんが、『ゆーちゃん』に頼ってあげてください。喜びますから。」 「はい。」 ゆたかはみなみの返事を聞くと安心したような顔になるのであった。 「それでは、そろそろ変わりますね。あ、そうでした。」 ゆたかは急に何かを思い出し、こなたたちの方に顔を向けた。 「かがみ先輩、つかさ先輩。」 「ほよ?」 「何?」 「みきさんによろしくお伝え願いますでしょうか?」 「え?お母さん?」 つかさはなぜいきなり母の名が出てくるのかわからなかった。 「もしかして、ゆたかちゃんに術を掛けた人って。」 かがみはゆたかの言った言葉の意味を理解したようだった。ゆたかはニッコリと笑い、体をみなみに預けるように寄りかかった。そして、ゆたかが目を閉じるとゆたかの周りに煙が立ち込めた。その煙が晴れるとそこには、 “モクモク” 「・・・」 その煙が晴れるとそこには、 “モクモク” 「・・・」 その煙が晴れるとそこには、 “モクモク” 「・・・」 その 「誰か、窓開けて!!」 一向に晴れない煙を見て、こなたはそう叫んだ。その声を聞いて、つかさが保健室の奥の窓を開けようと煙の中に入っていった。 “トタトタ ドテッ! ヒョコ トタトタ ガラガラ!” つかさが(どうにか)窓を開けると煙は窓の外に出て行った。そして、煙が晴れるとそこには、窓のそばで額にバツ印のバンソーコーを2つ貼ったつかさと、椅子に座ってみなみに寄り掛かって寝ているいつものゆたかの姿だった。 「う・・・う~ん・・・」 「ゆたか、大丈夫?」 ゆたかが目を覚まし、みなみが優しく声を掛ける。ゆたかはよくわからない様子で体を起こした。 「あれ、みなみちゃん?ここ、保健室?なんで私、ここに?なんで白衣着てるの?確か体育の授業で持久走やってて、それでそれで・・・あ!そうだ!みなみちゃん、倒れそうになったんだ。大丈夫なの、みなみちゃん?」 「うん、大丈夫。」 「そっか、よかった。でも、私、どうしてここに・・・」 こんなゆたかとみなみの聞きながらかがみはこなたに囁いた。 「ゆたかちゃんって大きい時の記憶ってないの?」 「どうもそうらしいね。」 「ふ~ん。」 ゆたかは今の状況が全く理解できずにクエスチョンマークを大量に出していた。そんなゆたかにみなみは手をゆたかに両肩に乗せた。 「ゆたか。」 「な、なに?」 ゆたかはいきなりのことで少し驚いていたが、みなみの真剣な顔に目をしばたたせていた。 「私はゆたかと一緒にいたいと思ってる。だから、ゆたかに何かあったら助けてあげたいし、力になりたいと思ってる。」 「う、うん。」 「でも、もし、私に何かあったらゆたかに助けてほしいと思ってるし、ゆたかの力を貸してほしい。」 「え?」 「だめ?」 「ううん、そんなことない。でも、私でいいの?」 みなみは首を横に振った。 「ゆたか“が”いいの。ゆたかじゃないといやなの。だって私たち、親友だから。」 「親・・・友・・・」 「うん。」 「・・・そうだよね。うん、わかった。これからもよろしくね、みなみちゃん。」 ゆたかはみなみに抱きついた。みなみも軽く手を添えて抱き返すのであった。 「ゆ」 「は?」 「いえ、なんでもありません・・・」 かがみの少し怒ったような声に黙らざる負えないこなたであった。 「う・・・ん~ん・・・」 ここでみなみの隣のベッドで寝ていた、ひよりが目を覚ました。 「あれ、私・・・」 「あ、田村さんも保健室にいたんだ。」 ひよりは声のする方を向いた。するとそこには、抱き合っている2人の少女がいた。しかも、内1人はなぜか白衣を着ており、なかの体操着は少し伸びていた。ひよりは寝起きでそんな光景を目の当たりにしてしまった。その結果、 “ブブブブッ バタンッ!!” 「た、田村さん!!」 「田村さん?」 ひよりは鼻血を出して再び夢の中に行ってしまった。その時鼻に詰められたティッシュは弧を描き、みごとにゴミ箱に入っていた。ナイスシュート。 「は、白衣の天使が・・・百合の花が・・・」 ひよりはうわ言でそんなことを言いだすのであった。 「?」 「?」 ゆたかとみなみはいったい何があったのか分からず、首をかしげていた。 「?」 「?」 窓からこなたたちの所に戻ってきたつかさとみゆきも同じく首をかしげていた。 「ひよりん・・・」 「はぁ・・・」 原因のわかるこなたとかがみは苦笑いとため息を吐くしかなかった。 こうして、みなみとゆたかと『ゆーちゃん』との話はひよりの大量出血で幕を閉じたのであった。 「なんてお話どうっスかね?」 「あの、ひより?」 「もちろん、名前とかは変えるっス。でも、この話ならいけるっす!」 「ひよりん、あの・・・」 「この話なら壁際、いやシャッター前に行けるかもしれないっスよ、先輩!」 「いや、でも・・・」 「うおぉぉぉぉ、萌えて、いや、燃えてきたっス!!」 ここは泉家。ひよりはこなたの部屋を訪れていた。ネタに詰まっていたひよりは、先輩であるこなたに助けを求めに来たのである。しばらく二人でもんもんと考えていたが、ふとひよりは部屋に置かれていた漫画を手に取り、考えついたネタを話していた。ひよりの手にはオレンジ色の髪をした黒い衣装の主人公が身の丈ほどの大刀を振り回す漫画が握られていた。 「あのさ、ひより。」 「はい?なんすか?」 「それさ、元ネタあるわけでしょ?そういうのってさ、使ったらまずいんじゃない?私よくわかんないけど。」 「あ~・・・そうかもしれないっスね。考え直しっスね。」 ひよりは漫画を閉じ、元の場所に戻した。と、その時、 「お姉ちゃん、小包届いてるよ。」 小包を手にしたゆたかがこなたの部屋の扉を開けてきた。 「お、ありがとう、ゆーちゃん。」 「あれ、田村さん、来てたんだ。」 「おじゃましてます。」 「いらっしゃい。あ、はい、お姉ちゃん。」 ゆたかは小包を取りにきたこなたにそれを手渡した。 「ところで、二人で何話してたの?」 「え?いや・・・なんでもないっすよ、小早川さん。」 「ふ~ん。」 さすがにあなたをモデルに妄想してました、などと言えるはずもなく、ひよりは適当にごまかした。 「それじゃ、私部屋に行ってるね。」 「うん、ありがとう、ゆーちゃん。」 ゆたかはそのまま部屋を出ようとした。しかし、 「あ、そうだ、田村さん。」 「は、はい?」 不意にゆたかは立ち止まり、振り向きながらひよりの名を呼んだ。その顔はどこか、いつもと違っているように見えた。 「あんまり同人のネタにしてるようだったら、そのことみなみちゃんと『ゆーちゃん』にばらしちゃうからそのつもりでいてね。」 ゆたかはそう言うと不敵な笑みを浮かべながら扉を閉めた。 「「・・・へ?」」 その部屋の中には目を点にしたこなたとひよりが固まっていましたとさ。 ~おわり~
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まるでバケツをひっくり返したような夕立。 壊れたラジオのようなノイズみたいな雨音が響く。煩くてかなわない。 そして今私はつかさの宿題を教えているわけで。 「・・・うーん・・・雨の音で集中できなくなってきちゃった。」 まぁいつものことだ、大体寝るかTVの欲望に負けてしまうかのどちらかだし。 「まぁ確かにちょっとうるさいし、ここらで休憩しよっか。」 うん!とまるで水を得た魚の如く元気を取り戻して台所に掛けて行った。 ふと窓を見るとアジサイが花を咲かせていた。 私は基本的に梅雨は嫌いだけど、こういう風情を楽しめるのは中々いいと思う。 こんな爺臭いことを考えていると、つかさがカステラとジュースを持って戻ってきた。 「お姉ちゃんカステラ好きだもんね」と甲斐甲斐しく私の目の前で切り分けてくれる。 私の分が少し大きめなのは気を使ってくれているのか、それとも・・・ そんな気持ちを知ってか知らずかつかさはもふもふとカステラを食べ始めた。 他愛もない会話をし終わる頃にはつかさの集中力を削いでる夕立も止むかと思ったが、 相変わらず醜い音を響かせながら雨粒を地面に叩きつけていた。 ところでパンを食べたときなんかによく細かいクズがこぼれる事がないだろうか? もとい私とつかさが食べたテーブルの上にも同じ現象が広がっていた。 どの道一度こんな空気になってしまった以上、 おそらくつかさには宿題を終わらせるほどの集中力は残っていいないだろう。 このテーブルのカスを見て、私に一つの考えが浮かんでいた。それは・・・ 「つかさ、耳そうじしてあげようか?」 私の唐突な提案につかさは一瞬たじろいだが、「いいけど・・・」と了承してくれた。 「でもいきなりどうしたのお姉ちゃん?」 「どうせ宿題の続きをやったってつかさ寝そうだもん。しかも寝るなら心地よく寝たほうがいいじゃない?」 「えへへ、変なお姉ちゃん。」 我ながら変な理由付けだと思う。 ほらほらと言いながら、私はつかさの頭を自分の腿の上に乗せた。 「あ、あのお姉ちゃん?」 何?と聞き返すが言わんとしていることが大体予想はついている。 「わかってるって、ちゃんとするから力抜いて。」 全くこなたがいつも私をからかうからつかさにもへんな先入感を与えてしまったじゃないの。 そう思いながら私はテイッシュを広げて、つかさの耳の中を覗く。 見てみると結構きれいだった。B型とは言うけど私たちは結構几帳面なんだと自分で自分を再認識する。 「結構きれいだけど、自分でできないところもあるだろうし少しそうじしてみるね」 力を抜いて、そっとコスコスと耳壁をこする。 耳かきを耳から出してみると案外、さじの部分に細かい垢の塊が溜まっていた。 そのまま続けて反対の耳へ。 こちらもきれいなので、とりあえず痛くならないようにやさしくくるりと一周する感じで耳かきを走らせて終えた。 「お姉ちゃんありがとう」とつかさがお礼を言ってくれた。 そう言ってくれるとやった甲斐があるというものだ。 そういえば私はつかさが寝るものだと思っていたから意外だった。 もしかして下手だったんだろうか? 「つかさ、痛くなかった?」 心配になって聞いている私。この乙女のような気持ちを知る人間が聞くとひどく滑稽に思えてくるだろう。 「別に大丈夫だったよ。むしろ気持ちよかったぐらい。」 よかったとほっと胸を撫で下ろした。 「お姉ちゃんもしてあげようか?」とつかさが耳かきをヒラヒラさせていた。 意外や意外まさかこうくるとは思ってもみなかった。 しかしこの子にさせるのはかなり心許無い気がする。 ブスッとかガスッとか耳そうじに必要のない擬音が出てきそうだからだ。 「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私も上手なんだよこういうの。」 東南アジアのパチモンばかり並べている店の店主の「ダイジョブダイジョブ」と同じくらいの信用のないセリフに感じてくる。 そんな考えをしてしまう自分が嫌いだ。それにまぁ一応つかさの姉だ、妹を信じてあげることにしよう。 じゃあはい!とつかさが正座して自分の腿をポンポンと叩いている。 なんだか自分でするときは恥ずかしくなかったが、やられる側に回ると妙に恥ずかしくなってしまう。 思わず「失礼します」と言ってつかさの腿に頭を預けた私を誰が攻められよう。 うーん・・・と言いながらつかさの視線が感じる。 人はきっと自分で見えないところを他人に見られるのはものすごく恥ずかしいのかもしれない。 今の私はまさにその状況だった。 「お姉ちゃん力抜いて。」 そんなに自分では力んではなかったつもりなんだけど、深層心理ではやはりつかさにされる怯えがあるのかもしれない。 つかさに気付かれないように深呼吸する。 「じゃあ始めるね」と耳かきが挿入される。 カサカサと私と同じような感じでつかさも耳かきを動かす。 しかしその絶妙な力加減は私の耳そうじテクニックを上回るものだった。 そしてカサカサコソコソという規則的な音が催眠術のように私を眠りに誘う。 まるでミイラ取りがミイラになってしまう。そんな感じだろうか。 「はい、お姉ちゃん反対だよ。」 私は起き上がりもせずに頭をつかさの腿に乗せたまま体ごとぐるんと顔を外側に向かせた。 だらしないと思いつつも、半分眠りにつきそうな私の意識にはそんなことも響かない。 じゃあ・・・と反対の耳に取り掛かる。 そういえばと窓を見ると先ほどまでの雨の勢いは無く、夜中のTVの砂嵐みたいな不協和音はしなくなっていた。 しとしととさざなみのような静かな雨音。 どうやら私はこの睡魔に打ち勝つことは出来ないようだ。 本当はまだつかさの宿題が残っているのになあと思いつつも、 私の意識はその心地の良いまどろみの中に落ちていった・・・。
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スターとは何か? 改めて問われると難しい問題だけど、私はこう答える。 歳をとっても、死んだとしても、みんなの記憶に強く残る人間。 たとえそれが悪評でも、みんなの記憶に強く残る人間は、スターと呼ばれるにふさわしい。 私も、芸能界で生きる人間として、そういう意味でのスターになりたい。少なくても、使い捨てられ、忘れ去られるような三流の人間にはなりたくない。 「小神ちゃん、お疲れ」 「お疲れ様でした」 テレビ番組の収録が終わり、私はスタッフに挨拶して、楽屋に向かった。 今の私は、女子高生アイドルといったところ。 そこそこ売れてはいるが、この業界でははやり廃れはあっという間だ。 次のステップをどうするかそろそろ考えなければならない歳にはなった。子供という身分に甘えていられる時期はもう過ぎ去ろうとしている。 「お疲れ様です」 楽屋で私を出迎えたのは、白石みのる。いろいろあって、今は私のマネージャーってところ。 荷物をまとめて準備万端な白石を引き連れて、楽屋を出る。 さえない男だが、こんなやつでも可愛い奥さんと器量よしの娘さんが二人もいる。物好きはどこにでもいるもんらしい。 テレビ局を出ると、外には車が待っていた。 お子様は深夜は働けないというわけで、あとは家路につくだけだ。 帰りの車中で明日のスケジュールを確認する。 明日の最初の仕事は、テレビドラマの収録。 「セリフの方は大丈夫ですか?」 「おまえの頭と一緒にするな。そらでいえるぐらい暗記してるぜ」 「気合入ってますね」 「歳食ってもこの業界で生きてくには、役者で名を上げるのが一番だ。今のうちにアピールしとかんとな」 「ちゃんと先のことまで考えてるんですね」 白石がスケジュール帳をめくる。 次の仕事は、バラエティ番組の収録だった。 「ゲストは誰だ?」 白石がとある若手芸人の名を出した。 「最近ギャグがギャクになってなくてすべってばかりのヤツだな」 「彼なりに努力してるとは思いますが」 「結果の出せない努力なんて、この世界じゃ無意味なんだよ」 「相変わらず、手厳しいですね」 「うまく話ふってやらなきゃならねぇな。面倒くせぇ」 白石が苦笑を浮かべた。 「何がおかしいんだよ?」 「いや、そういうところが、あなたのお母様にそっくりだと思いましてね」 私は黙るしかなかった。 「そういう御配慮をさりげなくできるところは、ホントそっくりですよ」 沈黙が車中を支配した。 私の母も、芸能人だった。 天才子役として芸能界に入り、アイドルを経て、晩年は悪女を演じさせたら右に出る者はいないといわれるほどの名女優だった。 早死にしたから、晩年とはいってもまだまだ若い未婚の母だったけど。 ちなみに、父親は外面だけはいいが女癖の悪い俳優。母いわく「あのときの私は血迷ってたわ」とのこと。 母は、アイドル時代の芸風と晩年に演じた役柄、そして未婚の母だったことから悪く言われることも多いけど、死んでも多くの人の記憶に残る人間、つまりはスターだったことは間違いない。 私にとっては、乗り越えなければならない壁でもある。 「なぁ、白石」 「何ですか?」 「正直なところ、おまえ、私の母さんのことをどう思ってるんだ?」 「正直なところをいえば、それこそ罵詈雑言がノート一冊分ぐらいにはなるでしょうけどね」 白石はそういって苦笑した。 「でも、感謝してますよ。若いころはいびられどおしでしたけど、今から振り返ればこの業界で生きてけるようにきたえてくださったのでしょう。僕が曲りなりにもこの業界で生きてけるのは、あきら様のおかげです」 「私のマネージャーをしてるのは、その恩返しってわけか?」 「まさか。そんなこと言ったら、思い上がりもいい加減にしろってあきら様に殴られますよ」 こいつにとっては、母は、何があっても忘れえぬ人間の一人なんだろう。 小神あきらは、白石みのるにとって、間違いなくスターなのだ。今でも。 私は、母の威光なしで、この男の記憶に残れるような人間になれるだろうか。 それすらもできずに、みんなのスターになることなんて無理だろうから。 小神あきらという存在は、今の私にとっては見上げるほどの絶壁だった。 でも、いつか絶対に乗り越えてやる。 そんなことを考えてるうちに、車は家についた。
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とある日の昼下がり。こなたとその従姉妹のゆたかは、喫茶店でお茶を飲みながら雑談していた。 ゆたかが売れっ子の絵本作家になってからは二人で会うことは少なくなり、こうした時間はお互いにとって大切なものになっている。 「それでね、著者近影の写真がいるって言われて、送ったんだけどね」 ゆたかの言葉に、こなたがアイスティーをすすりながらうなずく。 「…間違って娘さんの写真が入ってますよって言われて…」 「ぶっ!…あははははっ!」 こなたはアイスティーを吹き出し、ハンカチで口の周りを拭きながら盛大に笑った。 「もう、お姉ちゃん遠慮なしに笑いすぎ」 「いやいや、ここは笑うところでしょ」 笑いすぎて出てきた涙を拭うこなたに、ゆたかは少し頬を膨らませた。二十台後半の女性とは思えないそういった仕草も、彼女を幼く見せている要因なんだろうと、こなたは笑いを抑えながら思った。 「お姉ちゃんはそういうこと言われたこと無いの?」 「んー。わたしは本に写真載せないからねー」 「え、なんで?」 「わたしの写真載せたら特定層に人気でそうだけど、そういうのじゃなくて、売れるなら内容で売れたいからね」 なぜか得意げにそう言うこなたに、ゆたかは首をかしげた。 「でも…売れてないよね」 「…う」 「っていうか…自分の容姿に対するすごい自意識過剰だよね、それ」 「…うぐ…それはさっき笑った事への仕返しなのかね、ゆーちゃん?」 「さーねー」 ゆたかは悪戯っぽく舌を出して笑うと、ストローに口をつけた。 ― 命の輪の華 ― 「あ、そうそうお姉ちゃん。この前言ってたわたしの絵本がアニメ映画になるってのだけど…」 雑談が途切れたところで、ゆたかはそう切り出した。 「ん?あー、あれ…いいねー売れてて。絵本が映画になるなんてそうそうないよねー。どこまで売れる気なんかねー。ちょっと客分けて欲しいよねー」 「…さっきのことは謝るから、そんなにいじけないでよ」 不貞腐れたこなたの物言いに、ゆたかは呆れたように溜息をついた。 「でね、その映画の主役の声優さんが、小神あきらなんだって」 「へー」 こなたは感心したようにため息をついた。 「バラエティとかドラマとか、色々やってるから忙しいみたいなんだけど、よく引き受けてくれたねー」 「うーん、その辺のことはわたしは良くわからないな…お姉ちゃん、ファンなんだよね?」 「今はもう、熱心なってほどじゃないけどね」 「そっかー…今度製作発表会っていうのかな?なんかそういうのがあって、小神さんが来るらしいんだけど、わたしも原作者だから呼ばれてて、お姉ちゃんもどうかなって思ったんだけど」 ゆたかがそう言うと、こなたはなんとも難しい顔をした。 「気持ちだけもらっておくよ…わたしも歳なのかねー、なんか情熱が薄れてきた気がするよー」 「…お姉ちゃん、まだ嘆くような年齢じゃないと思うんだけど…」 気だるそうにテーブルに突っ伏すこなたを見ながら、ゆたかは困ったような顔をした。 「ま、わたしの事は気にしないでゆーちゃん楽しんでおいでよ」 「う、うん…えっと、楽しめはしないかな…たぶん…」 突っ伏した姿勢のままひらひらと手を振るこなたに、ゆたかはなんとなく不安な気持ちになっていた。 ゆたかは部屋の中を落ち着き無く見渡していた。あてがわれた控え室。入るときに見た表札には、確かに自分の名前と小神あきらの名前が書いてあった。 「…主演声優と同室かあ」 ゆたかがそう呟くと同時に部屋のドアが勢いよく開けられ、その音にゆたかはビクッと体を震わせた。 「はーい!おまたせー!…遅れてない?遅れてないよね?」 腕時計を見ながら部屋に入ってきた長髪の女性。綺麗な顔立ちに、ゆたかの友人のみなみよりも高い身長。スーツの上からでも分かる良いスタイル。 「…ってー…あれ?マネージャーじゃない…誰?もしかして小早川センセ?」 「…え…あ…はい…」 椅子に座って呆然としているゆたかの顔を覗き込んだ女性は、ゆたかの返事を聞いて大きな声で笑い出した。 「あーなんだ。間に合ってるじゃん。急いで損したー」 そして、ゆたかの隣に座り持っていた鞄を床に投げ出すと、体をゆたかの方に向けた。 「ども、小神あきらです…って知ってますよね?」 「え、あ…その…」 あきらの名乗りに、ゆたかは言葉を濁した。違う。自分がこなたの持っていた雑誌とかで見たことあるあきらと、目の前の女性は全然違う。確か小神あきらという人は、自分と同じ小さい体格の人のはずだ。そう思って、どう返事をすればいいのか分からなくなっていた。 「…ホントに…小神さん?」 そして思わずそんなことを口走っていた。 「うおろ。なんか予想外の答え…」 「え、あ、その…すいません…」 「んー、なんかまったく知らないって感じじゃないような…あ、もしかして中学くらいのわたしを知ってるとか?」 あきらがそう言うと、ゆたかはうなずいて見せた。 「あー、なるほどねー。いやー、高校の時になんかグングン伸びちゃいましねてー…そりゃもう、新たなファン層が開拓できちゃったくらいに」 うらやましい。ゆたかは心の中でそう呟いた。自分は高校どころか大学通してもまったく伸びてないというのに。 「あら、あきらちゃんが私より早いなんて、珍しいわね」 控え室の扉が開き、今度はゆたか達よりもだいぶ年上っぽい女性が入ってきた。 「たまにはこういう事もありますよん…あ、こっちが小早川センセ」 その女性に、あきらがゆたかを紹介する。 「どうも、小神あきらのマネージャーです。今日はよろしくお願いしますね」 「あ、はい、こちらこそ…」 お互い頭を下げあった後、マネージャーは豊かの顔をじっと見つめてきた。 「あ、あの…なにか?」 ゆたかがそう聞くと、マネージャーはニッコリと微笑んだ。 「可愛らしいなあって…芸能界に興味ない?」 「へ?…え…そ、それは…」 「小早川センセ、マネジャーの冗談ですよ」 戸惑うゆたかに、あきらが冷静にそう言った。そしてマネージャーの方に顔を向ける。 「マネージャー、そう言う冗談は本番だけにしときましょうよー。小早川センセこういうの慣れてなさそうだし」 「うふふ、そうね」 「…え…本番だけって…」 あきらとマネジャーの会話に不穏なものを感じたゆたかは、不安そうな表情で二人の顔を交互に見た。 「まあまあ、任せてくださいって。センセの魅力をばっちり引き出してみせますから」 そのゆたかに、あきらがにこやかにそう言った。 「そうそう、小早川先生は大作家らしくどーんと構えておけばいいですから」 マネージャーも同じように、にこやかにゆたかに語りかける。 「お、お手柔らかにお願いします…」 ゆたかは冷や汗を垂らしながらそう答え、ふと思った疑問を口にした。 「あの…こういうのって台本とか無いんですか?…っていうか打ち合わせとか…」 「あー、無いです無いです。わたしは基本ぶっつけ本番のアドリブ重視ですから」 ひらひらと手を振りながら笑顔でそう言うあきらに、ゆたかはさらに冷や汗の量が増えていくのを感じた。 「え、えっと…小神さんはそれでいいかもですけど、わたしはこういうの初めてで…」 「初めて!慣れてないどころか初めて!…ふふふー…」 なにやら不穏気な笑みを浮かべるあきらに、ゆたかは逃げ出したい心境になってきた。 「まあ、あきらちゃんはプロなんだから、任せておけばいいですよ」 そのゆたかの肩に手を置きながら、マネージャーがにこやかにそう言った。 「では、ここで本日のゲストっつーか主役!原作者の小早川ゆたか先生の登場でーっす!」 高らかなあきらの宣言を受けて、ゆたかは恐る恐るステージの上に足を踏み出した。 「はい、拍手ー!」 あきらの声と同時に割れんばかりの歓声と拍手が開場に響き渡った。その音量に怖気づきながらもゆたかが観客の方を見ると、半分くらいは親子連れでもう半分はあきらのファンなのか、いわゆる『大きなお友達』で占められていた。 「おーい、おまえらー。あたしん時より盛り上がってんぞー」 あきらがやぶ睨みの表情をしながら抑揚のない声でそう言うと、歓声がピタリと止んで会場が静まり返った。 「…え…その…ご、ごめんなさい…」 ゆたかが思わず謝ると、あきらは満面の笑みを浮かべた。 「なんてうっそーっ!お前ら、存分に盛り上がれーっ!」 そして、あきらがそう言うと、会場はゆたかコールに包まれた。 「…あぅ…わたし、どうすれば…」 「大丈夫ですよ。小神のいつもの前振りですから、落ち着いてください」 混乱気味なゆたかの後ろから、共演者らしい男性がそう声をかけた。ゆたかは少し呼吸を整えて、改めて観客席の方を見た。 「える!おー!ぶい!いー!らぶりーゆーちゃん!」 「って、なんでいるのっ!?」 そして観客席の一番前でゆたかコールに参加しているこなたを見つけ、思わず声を上げてしまった。 「おや、お身内の方が来られてますかー?」 それを耳ざとくかぎ付けたあきらが、ゆたかに擦り寄りながらそう聞いた。 「え、えと…いや、その…」 「もしかして…これですか?」 あきらがニヤニヤしながら小指を立ててみせる。 「ち、違います!そんな人いませんっ!」 誤魔化そうとしながらも、ゆたかはこなたのほうに視線を向けていた。よく見るとこなたの隣には、帽子とサングラスで変装しているつもりらしい、友人の岩崎みなみの姿が見えた。 「…みなみちゃんまで…」 自分の事は気にしないでってこう言う事なの?どこか情熱が薄れているの?ってかなんでみなみちゃんまで引っ張ってきてるの? ステージの上にも関わらず、ゆたかはこなたに後で色々言いたいことを頭の中でまとめ始めていた。 「はーい、センセお疲れ様でーす」 楽屋に戻ってきたあきらは、同じく戻ってきたゆたかにそう声をかけたが、ゆたかは答えずに手近な椅子に座り込んだ。 「あや、ホントにお疲れさんですね」 「あ…ご、ごめんなさい。お疲れ様です」 話しかけられてることに気がついたゆたかが慌ててそう返すと、あきらは苦笑しながら頬をかいた。 「ちょっと弄り過ぎましたかねー…」 「あ、いえ、そんなことは…小神さんは大丈夫なんですか?」 ゆたかはそう聞きながら、先ほどのステージのあきらを思い出していた。 ほぼすべての出演者に絡んで喋りっぱなし。しかもステージの上を、端から端まで常に歩き回りながらだった。 「わたしはー…慣れてますから」 そう言いながら大きく伸びをし、あきらはゆたかの隣の椅子に腰掛けた。 「まあ、この後友人と飲み会ありますんで、八割くらいにセーブしてましたけどねー」 「…あれで八割…」 ゆたかは呆れると感心するともつかないため息をついた。そして、もう一度さっきのステージを思い出していた。 一番印象に残ったのは、あきらが何かアクションを起こす度に、観客の視線がそちらに集まると言うことだった。 生まれついての資質なのか、それとも長年のアイドル生活で身についたものなのか、とにかく人の視線を集めるのが上手なのだ。 「…こういうの、華があるっていうのかな」 「へ、わたしですか?」 ゆたかが思わず呟いてしまった言葉に反応し、あきらが自分を指差した。 「え、あ…はい…やっぱり芸能人って違うなって…」 「んー…まあ、わたしの持論なんですけどねー」 あきらはそう前置きしてから、左手の人差し指を立てて見せた。 「ずばり、華というのはあるなしじゃあないんですよ」 「そ、そうなんですか…?」 「そうなんです。女はみんな生まれついての華なんですよ…ようは、その咲かせ方ってわけです」 「…へー」 得意気に胸張ってそう言うあきらに、ゆたかは感心した声を上げた。 「やっぱり…違いますね。あきらさんは」 ゆたかがそう言うと、あきらは腕を組んで目をつぶった。 「誰と比べてって言うのはわかりませんが…まあ、誰とも違いますな。わたしは…っていうか同じ華なんてありませんよ」 「え、いや、そう言うことじゃ…」 「さっきも言ったとおり、咲かせ方咲き方一つってことで…みんなの前で大仰に咲くのも良いんですけど、どこかでひっそりと咲くのもまた良いんじゃないかと思っとりますよ」 「それは、ちょっと寂しいような…」 「誰も見てくれなかったらそうでしょうけど、一人でも見てくれて『綺麗だな』って気に入ってくれて、その人のためだけに咲き続けるってのも、なかなかロマンがあってアリなんじゃないかと」 ゆたかはなんとなくこなたの事を思い出していた。基本的に家から出ない生活をしている彼女もまた、あの人のためだけに咲くことを選んだという事なのだろうか。 「まあ、そういうことですから、詳しくは今夜一晩じっくりお話しましょう」 「…へ?一晩?」 何時の間に取り出したのか、携帯をいじりながらのあきらの声に、ゆたかは思わず間抜けな声を出してしまった。 「…あー、もしもしりんこ?今日さ、一人追加でよろしく…ふっふっふ、内緒。豪華ゲストよ…いやいや、今度はほんとだって…んじゃ、そういうことでー」 あきらは電話を切ると、いまいち事態を把握できていないゆたかの方を向いてニッコリと笑った。 「んじゃセンセ。行きましょうか?」 「え、え?ど、どこに?」 「飲み会。さっきははぐらかされましだけど、こっちの話も聞きたいですしねー」 「え、え、えぇーっ!?」 小指を立てながらニヤニヤするあきらに、ゆたかはただ混乱した表情を見せるだけだった。 ― おわり ― コメント・感想フォーム 名前 コメント 命の輪シリーズ最新作待ってました! 今回はゆーちゃんですね まさかのあきらとの競演も驚きました! 2011年も良作期待しています! -- 名無しさん (2010-12-31 11 45 34) 命の輪はどれも安定感がすごい。GJ。 -- 名無し (2010-12-27 21 58 38)
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あやの「うふふ・・・」 みさお「あ、あやの?」 あやの「うふふふ・・・」 みさお「ひぃらぎぃ~、あやのが~!」 かがみ「な、なによ?どうかしたのか!?」 あやの「うふふふふ・・・」 みさお「おかしくなっちゃったんだってヴぁ~」 かがみ「峰岸~! おい!峰岸~!!」 あやの「コンクールは11月4日から、そう!私の生まれた日! 愚劣なる民衆どもよ!私のためだけに私を讃える詩を書き続けるがいい! ふふふふ、ははは、ハァーッハッハッハッハー!」 かがみさ「「まじでやべぇー!!!」」 あやの「ハーッハッハッ!」 男(どうやらあやのの彼氏)「あっあや?」 あやの「ッハ!?…なっなんでここに?」 男「あや、実はキミのために詩を書いたんだよ聞いてくれるかい?」 あやの「え?ほんと?うれしい聞かせて」 男「…なっなんかあらたまって読もうとすると恥ずかしいなぁ」 あやな「聞くこっちも恥ずかしいんだぞ?☆ほら早く読んで読んで」 かがみさ「「あー痒い痒い…(ボリボリ」」 あやの「やだ!はずかし~」 男(声:立木)「おいおい、読んでるこっちの方が恥ずかしいんだぞ?」 あやの「もう!あ・い・し・て・る(はぁと」 男「俺もだよ!あ・いし・て・る(はぁと」 かがみ「いやぁー!」バタッ みさお「もう、耐えられないってヴぁー!」バタッ こなた「うおぉーっ!かがみんとみさきちがぁー!だ、だれか救急車をー!!」 ID nR74Vo2U0「やべぇ、ジンマシンが・・・(死」 こなた「あ、また一人犠牲に…」 男「あははは」 あやの「うふふふ」 こなた「こっこれはもしやあやのの新技!?…うっ」バタッ
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目の前には朝日を受けて鈍い光を放つ鉄製の靴箱。 時は始業15分前。急ぎ足でかけてく人もいない、平和な登校時間帯。まばらな人影の中で靴箱を開けたまま立ちつくす少女がいた。 その手には封筒。少し洒落た星などの模様が入った、よく女の子が使いそうな封筒だ。 だが封筒のイメージとは打って変わって、表面には明朝体のお手本の様な文字で「柊先輩へ。」とだけ記されている。 そう、明らかに男の字。 「これって・・・」 おもむろに中身を確認する。手紙だ。 二つ折りにして正しく入れられていたそれを広げる。 手紙には、こう書かれていた。 【柊先輩へ。 いきなり靴箱に手紙なんて入れてしまってすいません。 突然こんな手紙が入っていて驚かれているかもしれませんが、どうかお許しください。 僕、貴方のことが好きです。 まともに話したこともありませんが、貴方をずっと好きでした。 ちゃんと会って気持ちを伝えたいので、文化祭が終わったあと、夕方5時半頃に体育館の裏に来てください。 お待ちしています。】 愛。 口にするのもはばかられる、文にするのも幾分の‥‥むしろ十分な恥ずかしさを伴う文。 恋文。ラブレター。言い方は何通りかあるものの、その本質はただ一つ。 溢れる愛を、胸中の相手へと伝えること。 ・・・つまり、自分のことを好きだと言ってくれている男の子がいるということ。 朝の訪れを祝福するかのような、小鳥のさえずりが聞こえる。 沈黙。魂が抜けたみたいに呆然とする少女。 突然、目をぱっと見開いた。 この状況の意味を理解した途端、身体がいきなりポカポカと熱を帯びてゆく。 次に風邪を引いて熱でも出したかのように頬が朱に染まって。 急激に低下する思考回路をなんとか保ちながら、ひとまず状況を整理することにした。 文面から察するに、ある程度の常識は心得ている人物のように思える。 加えて最初の一文。『柊先輩へ』ということは、相手は年下の男子だろう。一年生か二年生かまでは予測できないものの、敬語で書かれていることからもそれは十分に読み取れる。 そして今日の日付。いつも的確な指摘をするしっかり者の彼女も、しばらくトリップしていた状態から正常に脳の機能を使いこなすことは難しいらしく、 「何日だったっけ?何日だったっけ??」と数十秒慌てふためきながら考え込んだ挙句、わざわざ携帯電話を開いて日付を確かめる始末。 淡い光が指し示す携帯電話のスケジュール帳。 今日は文化祭の二日前。そして、明後日が文化祭当日。 「ってゆーか、あ、ぁ、明後日っ?!ちょ、えぇえ・・・?」 先程の沈黙から一転、オーバーリアクションのオンパレードを繰り広げる少女。 おたおたと顔を左右するごとにツインテールの髪の毛がうねる。 赤面したり、冷や汗をかいたり、錯乱のあまりうっすらと涙を浮かべてみたり、カツカツカツカツと靴箱の前をぐるぐる歩き回っていたり。 傍から見れば間違いなく不審人物の部類に見られるだろう。 くすり、と小さく微笑む影が一つ、遠くからその場を見つめていたことになど気づくはずも無かった。 「‥‥かがみん、そんなに慌ててどったの?」 「うぁぅあぁこなたあぁッ?!」 前触れも無く、聞きなれた声がした。回れ右をすると、とっさに封筒を持った手を後ろへやる。 すぐ側で約一分ほど見つめていたにもかかわらず、何の反応もないかがみに痺れを切らせた親友、こなただった。 こんな彼女はそうそう見られない。いつもしっかり者で鋭い彼女が、側で見つめていても何かにとり憑かれたように無反応な姿など。 そう思ってしばらくずーっと見続けていたのだが、幾ら待とうとも気づいてくれず。 「ねぇ、何を隠したのかなーかっがみんやー?」 「ううぅ、うるさい!!何でもないわよ!人のプライバシーに手を出すなッ!!」 「‥‥『何でもない』って言っておきながら『プライバシーに手を出すな』って‥‥それ明らかに何かあるじゃん。言ってること矛盾しすぎだよかがみん」 「ぐっ・・・こなたに突っ込まれるとは末代までの恥っ・・・!!」 こなた、と呼ばれる小さな背丈、青髪に一つぴょこんと飛び出した髪の毛をもつ少女は、普段のかがみのお株を奪うようなツッコミを放つと、ふわあぁ、とあくびを一つ。 調子のいい時の彼女ならこのまま「えーぃ、隠さずに見せんかー!」などと吠えながら襲い掛かり、そのままかがみの手にある手紙を強引に奪い取っていたとこだろう。 しかし朝のこなたは基本的にローテンションだ。先ほどのしっかりとしたツッコミもその副産物だと言える。 手馴れた動作で靴を履き替えて踵を返すと、 「まぁいいや、んじゃねーかがみん」 と言ってそのまま立ち去ってしまった。 未だに赤面したままのかがみにとってはまさに“九死に一生を得た”というところ。 どす。 途端に安堵の気持ちが溢れてくる。そのままふらふらっ、と靴箱へと体重を預けた。 気が抜けたのか、思わず倒れてしまいそうになる。 ふうっ、とため息を付きながら、改めてこの事実を噛み締めて呟いた。 「私、男子にラブレターもらっちゃったんだ・・・」 うつろな目を低い天井に向ける。 文化祭を明後日に控えたというこのタイミングで。まさか自分が。 宙を漂うような感覚がかがみを襲う。歩みの一つ一つがとてつもなく重い。足が鉛になったかのようだった。 これから私は何をされるのか。 そもそも相手の男の子のことなんて何も知らない。 でも手紙の内容からして、明後日会った時に言われることなんて決まっている。 その時私はどうすればいいのか。 年上として‥‥違う。女として、きっちりと相手の男の子の気持ちに応えることが出来るのか。 もし付き合うことになったら、私はどうすればいいんだろう。 タダでさえパンク寸前な思考回路がますますぶっ壊れていく。それでも何とか倒れまいと足を踏み出して、やっとのことでかがみは教室の前までたどり着いた。 カバンの中を確かめる。自分の性格を現すような、きっちりと整理されたカバン。あの手紙は内ポケットの中に入っている。 これなら万が一カバンの中を探られるようなことがあっても、そうそう見つからないはず。大丈夫。 誰かに悟られてはいけない。いつも通り、いつも通り。 心の中で呟いてから、教室のドアを開けた。 HRの始まる直前。喧騒の漂う教室で、自分の名を呼ぶ声が二つ。 「お早う、柊ちゃん!」 「おっす!柊ぃ♪」 「ぁ・・・お、おはよ!」 相変わらず仲良しな二人、日下部みさおと峰岸あやの。 おぼろげな返事を返すと、途端に片方がかがみに近づいて肩を掴む。毎日運動を欠かさない彼女の力は強く、されるがままにぐいっと引き寄せられてしまった。 「柊ぃ、どうしたんだ?顔赤いぞ?熱でもあんのかぁ?」 「あら、本当‥‥大丈夫?柊ちゃん」 そう言って引っ付いたまま、かがみのおでこに手をやるみさお。 何というか‥‥強がりなのに顔に出やすい、というのは本人にしてみれば損以外の何者でもないわけで。 他人からすればそこがまた可愛らしいのだが、まだ高校三年生というかがみがそれを上手く利用しコントロールするのはもう少し時間を必要とするようだ。 「へっ、そ、そんなことないわひょ?ちょっと急いできたから疲れただけで‥‥」 「まだ授業始まるまで10分もあるのに急いできたのか?」 「ぐっ・・・」 言い訳失敗。 これではますます怪しまれるばかりだ。 「まさか柊‥‥朝っぱらから愛の告白でも受けたのかっ?」 「そそそそそっ!そんなわけないでしょっ!!!」 「───なーんて‥‥ぇ、もしかしてマジなのか?!」 あぁ、今の私は誰よりもKYなんだろうなぁ。 かがみの心の片隅でそんな言葉がよぎる。 まさかこいつの冗談すら見抜けず本気で慌ててしまうなんて、KYにも程がある、と。 ちなみにKYとは「空気を読めない奴」という意味だ。今のかがみにそれを要求するのは難しいのかもしれないが。 「柊ちゃん、誰から告白されたの?」 「ちょ、峰岸までこいつのくっだらない冗談を信じるなっ!!」 教室が静まり返る位大きな声で叫ぶ。 沈黙の刻(とき)。みさおとあやのはゆっくりと顔を見合わせた。 「‥‥でも、なぁ」 「今のは冗談、って感じの反応じゃなかったよね、みさちゃん‥‥」 「ちょ、ちょっとビックリしただけよ、うん」 二人の目線がかがみへと向けられる。 ちりちりと焼け付きそうな視線。やがて二人の口元がにやりと厭らしい笑みの形を作った。 「くっ・・・」 歯をくいしばる。 こんな時に限って鋭い勘を発揮するみさおは、未だにニヤニヤとした顔をこらえることが出来ないみたいだ。かがみが慌てすぎただけ、というのもあるのかもしれないが。 やがて始まる授業。ホームルームを告げる鐘がかがみを救う。 しかしニヤニヤとした、二人の痛い視線が止むことはなかった。 * 「‥‥ふう」 やっと終わった。 昼休み。約二名からの視線から唯一逃れられる時間帯だ。 「なぁ柊ぃ、一緒に飯食お」 「ごめん私先約があるからじゃあまた~」 何か聞こえが気がしたけれども最後まで聞いてやる気はしない。今のかがみにとってそれは、虫の鳴き声ほどに些細なことだ。 どうせ根掘り葉掘りほじくり返されて食われてしまうに違いない。 一方で誘った方のみさおはニヤニヤとしたままの顔だが、その瞳には憂いの色。 「(大体アイツ、最近元気なかったんじゃなかったのかよ・・・私の話聞いた途端に元気になりやがって、あぁムカつく!)」 他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので。 「おーっす!」 「ぁ、お姉ちゃん!」 「いらっしゃいかーがみ♪」 「かがみさん・・・こちらへどうぞ」 元から開いていたドアをくぐった。 自分の教室ではない、という違和感も、三人の声によってすぐに緩和される。 笑顔。来客を見計らってわざわざ椅子を借りてきてくれたみゆきが、これでもかという笑顔で出迎えてくれた。 「ありがと、みゆき」 「いえいえ」 ふと、向かいに座っているこなたがじっ、と見つめていることに気が付いた。 しまった、こいつも日下部と同類だった。そう思って視線をそらそうとした刹那。 「ねぇ、かがみ」 「な・・・何よこなた」 「かがみさ、何しに来たの?」 意味深な質問。 深緑のジト目がかがみの顔を捉えて離さない。今日の彼女は厄日なのだろうか。 朝のみさお達に引けを取らないほどの視線に警戒を強めていると、ふっと相手の顔が柔らかくほどけていくのが見えた。 「んじゃここでかがみに質問です。貴方は今から何をするつもりですか?」 「ぇ、もちろんお弁当を食べるつもりだけど‥‥」 「質問そのニ。そのお弁当はどこで食べるつもりですか?」 「そのためにここまで来たんでしょーが。アンタ、まさか私となんて食べたくないとか言い出すつもりじゃ‥‥」 昼までに必死に虚勢を張って、もはや疑心暗鬼の類に陥っている今のかがみはそう簡単に人を信じ込むことが出来ない。 未だに疑り深くこなたの顔を見つめる。 「んじゃ質問三。そのお弁当はどこにありますか?」 「‥‥あっ」 両手を開く。 その手には何も握られていなかった。では机の上はどうか。 つかさの可愛らしいナプキンに包まれたお弁当、みゆきの高価そうな弁当袋に入っているお弁当、そしてこなたのミニマムサイズな弁当箱と、チョココロネ。 教室に忘れてきた。 「ってゆーかアンタはいちいち回りくどいのよっ!!そうならそうと先に言えーっ!!」 「いやぁ、だってそれじゃつまんないじゃん。今日のかがみんは珍しくボケボケだしね」 「アンタね・・・ボケはつかさだけで十分だって」 「ゆきちゃんかよー!」 会話の流れが止まる。 呼ばれた名前の主は答えなかった。代わりに立ち上がって他の3人に告げる。 「‥‥私、少し用事を思い出したのでちょっと出かけてきますね」 「ぁ、うん」 「では」 軽い返事と同時にたったったっ、と軽快な音が聞こえる。 駆け足。どうやら小走りで行ってしまったらしい。 「怒っちゃったのかな・・・冗談だったのに」 「つかさの冗談は冗談と思えないんだよ‥‥アタシも少しびっくりしたもん」 「まぁ怒ってるとは思えないけど、今の会話で何か急用でも思い出したんじゃない?」 誰もいない教室の入り口を見つめて、かがみは思いを巡らせる。 文化祭まで、あと2日。それまで何とか心に整理をつけないと。 * 第十六回 桜陵学園 桜藤祭。 パティの企画したチアリーディングも滞りなく成功を収め、後の各行事も大盛況のうちに終了を迎えた。 「ふぅ、この位でいいかな」 かがみのクラスの出し物はお化け屋敷。他の出し物と比較してもセッティング等に人一倍気を使わなければいけない為、自然と作り物や飾り物が増えていく。 それに比例して、片付ける物や掃除の量なども増えていって。 周りを見渡す。既に人はもう数える位しか残っていなかった。 黒いカーテンを外して久々の日光を浴びる教室内。その光はオレンジで、もう日没までそう遠くないことを教えてくれる。 後は明日の作業だ。 クラスメイトに帰宅することを告げて、別れの手を振った。 相手を待たせる、ということはかがみにとってあまり気持ちのいいものではない。何故なら、自分も待たされるのは好きではないから。 増してやこんな風に、自分を愛しく思ってくれている男性を待たせるわけにはいかない。 駆け足のままでカバンを漁ると内ポケットに手を入れて例の手紙を取り出した。 時刻を確認。うん、ちゃんと書いてあるとおりだ。 いざ、決戦の舞台へと。 体育館。 長方形の形をもつそれは、それぞれ例外なく約90度の曲がり角をもつ。 かつて彼女の中に、一つ曲がり角を曲がるだけでこれほどにまで胸を高鳴らせる経験があっただろうか。 答えは否。 今、かがみはこれから生きていく上でも一生忘れられぬであろう経験をしようとしている。 この二日間の間に、どうにか心の整理を付けることは出来た。 とりあえず、相手が本気で自分のことを思ってくれているのか。それを見てみよう。 次に相手ときちんと話をして、付き合えそうならば付き合ってみるのもいいかもしれない、と思った。私だってもう十八。人生は長いのだから、と。 結論が己の中で出なければとりあえず友達として。折角自分を好いてくれているのだから、話していればやがては好きになることもあるかもしれない。 どちらにせよ、自分の気持ちに嘘はつかない。後悔しないように。 それだけを考えて気持ちを落ち着かせようとする。 曲がり角を目の前にして深呼吸を一つ。後一歩踏み出せば、体育館裏へとたどり着く。 いざ行かん。 かがみは足を踏み出した。 風。 角を曲がったため遮っていたものが無くなって、建物によって閉ざされていた夕日が、遮られていた風が一気に舞い踊る。 思わず決意に満ちた顔を伏せる。夕日が眩しい。 やがて目に写る、小さな一つの影。 それは待ち人に他ならない。 どきん。音が聞こえそうなくらいに大きく胸が鳴る。 律動。 一歩、また一歩。 歩を進めていくうちにずんずんと足が重くなる。 あぁ、この男の子が、私を。 胸の鼓動、震える指先。 やっと相手の顔が見えた。少し幼いものの、自分より高い背丈を持っている。 そうだ、最初にお礼を言わなきゃ。 「て、手紙、ありがとうっ‥‥」 「ぇ‥‥」 意識しなくてもわかってしまう自分の状態。 指だけじゃない。身体中が震えている。そして今出した声も。 「えっと、柊さん・・・?」 「はい、柊ですけど・・・」 向こうも緊張を隠せないようだ。初めて面と向かって喋ったためなのか、きょとんとした顔をしている。 さてどうしようか。かがみが何を話せばいいか考えている───と。 「ほ、本当、ですか?」 「だから、私が柊かが───!」 次の瞬間、 「あの、ごめんなさい‥‥あれ、でもあの人は柊さんの───ぇ?」 「ど、どうしたのよ?!大丈夫?」 彼は、 「貴方、じゃない、です。柊さん、ごめんなさい」 「‥‥は?どういう、意味‥‥?」 「つまり、その‥‥ひ、人違いなんです。すいません‥‥」 とんでもないことをのたまうのだった。 * 「どういう、こと‥‥」 「えっと、僕も、何が何だか‥‥ぇ、でもあの人は‥‥」 人違い。まさか。 思い返してみる。しょせん靴箱なんて誰のも一緒の形をしていて、そこに初めての人間がたった一人を探し出して手紙を入れるなんて難しいことに違いない。 「ぇ、でも」 夕日に染まってオレンジ色をしている封筒を見直す。 見間違いじゃない。「柊さんへ。」と銘打たれているのがはっきりと見えた。 柊。それは自分の固有名詞だ。 自分と同じ苗字の人間がいれば、例えクラスが違えど三年も同じ学校にいれば気付くだろうし、印象に残ってそう簡単に忘れはしないだろう。 とすれば、やっぱり自分以外の何者でもない、はず。 もう少し事情を詳しく尋ねてみようと思った、その時。 「お姉ちゃーん、私に何か用事?」 もう一人の『柊』が、ひょっこりと姿を見せた。 「つかさ?」 「柊さんっ・・・!!」 現れたつかさの姿を見た彼のボルテージが一気に上がる。 今まで向き合っていたにもかかわらず、やすやすと身をつかさの方へと翻した男の子を見てかがみも気付く。 「柊って、まさか‥‥!」 かがみはすっかり忘れてしまっていた。姓も誕生日も血液型も一緒な双子の妹、つかさの存在を。 おそらく、この男子は私じゃない、もう一人の『柊』・・・つまり、つかさの方を─── 「ってゆーか、アンタ何でここに・・・」 「え、えぇ?私はゆきちゃんに「お姉ちゃんが体育館裏で待ってる」って言われたから来たんだけど・・・」 ゆきちゃん。つまりみゆきのことだ。 その場の張り詰めた空気を感じたつかさはしどろもどろになりながらも、自分をここへと招いた存在の名を口にした。 おかしい。何もかもがおかしい。みゆきに用事を頼んだ覚えはないし、つかさをここに呼び出しといてくれ、と頼んだ覚えも無い。 とすれば。 夕日の見える方向‥‥男の子の後ろにつかさ、そしてその後ろには曲がり角がある。かがみが来た方と逆の曲がり角だ。 そこから、一つの影が現れた。 風にたなびくウェーブの長髪。眼鏡に手を当てたシャドウ。 「みゆきっ?!」 返答はなかった。しかし毎日会っていて判別できないわけが無い。 間違いなくみゆき本人だ。 影がどんどん近づいてくる。それに伴って、やっぱりみゆきだ、という確信が強くなる。 自分と男の子、そして突如現れたつかさに、意味ありげに登場してきたみゆき。 もう何が何だかわかんなくなってきた。ただでさえ『告白』という、それだけで一杯一杯のイベントなのに、そこから人違いが発覚し、さらに何故かこのタイミングで妹のつかさが登場。 そのつかさはみゆきに呼び出されたと話す。一体みゆきが何を知っているのか。 挙句の果てにはつかさを呼びつけた張本人であるみゆきまでが姿を見せる始末。 一体何がどうなっているのか。かがみは頭を抱える。 しかし事態はこれだけでは収まらなかった。 「峰岸さん、日下部さん、見ていらっしゃるんですよね?そろそろ出て来られてはいかがですか?」 珍しく大きな声で発言するみゆき。おもわずぎょっとする男の子、つかさ、そしてかがみ。 だが言葉の内容は、その驚きを覆い隠すほどの更なる驚愕だった。 「ふふ、やっぱり高良ちゃんにはかなわないなぁ」 声。 優しく耳に残るフルートのような、それでいて張り詰めた声だ。 その声には聞き覚えがある。そしてみゆきが叫んだ名前。 「峰岸‥‥?」 「ごめんね、柊ちゃん」 今度はかがみの背後から。 あやの、続いてみさおが姿を露にした。 「峰岸、さん‥‥」 男の子が名前を呼ぶ。単にあやのの知り合いだったのか、それとも─── 「峰岸、これはどういうことなの?説明してくれるわよね?」 追求しようとして、一旦食い止めた。 そこはこの際どうでもいい。話を聞けばあやのと男の子の関係も分かること。 どちらにせよ、真実を明らかにしなければ、と。 * 「たぶん、始まりはね‥‥私があの男の子に声を掛けたことからだと思うの」 一歩前へ。 目じりを下げた、切なげな表情が窺える。 「昼休みに食堂に行った帰り道、この男の子が影からじーっと何かを見つめてて、何を見てるのかな、って思ったら、柊ちゃんたち四人を見てて。 気になったから声を掛けてみたの。あと『あんまり他人をじーっと見るもんじゃないよ』って注意して。 そしたら色々話を聞いてる内に、あのショートカットのリボンをした子が好きなんだって話になってね」 「ショートカットでリボン・・・へ、わ・・・私?」 「やっぱりか・・・」 初めて知る事実に、つかさは驚きを隠せない。 かがみはというと、自分の中の憶測が確実なものだと分かったことで少し強気な自分を取り戻す。 でも問題はそこじゃない。 今の状況。明らかに自分と男の子を背後で操っている人物がいるということ。 そしてその人物の目的は何なのか。 「嘘や冗談、って目じゃなかったから、私も『手助けしてあげる』って。でも‥‥」 話を積極的に繰り出す人物がいることからしても、黒幕の存在はもはや明らかである。 峰岸あやの。普段大人しそうに笑ってる彼女が一体どこまでこの騒動に関わって、どこまで男の子に手を加えたのか。 「教室に帰って、まだ元気の無いみさちゃんを見てたら別の考えが浮かんできて・・・」 よく見れば、普段元気を振りまいているみさおが、まるで花がしおれたかのように俯いて申し訳なさそうな顔で沈黙を守っている。 あやのはそんな彼女を一瞥してから話を再会した。 「最近、みさちゃん元気なかったでしょ?だから、柊ちゃんにちょっと悪戯しちゃおうかな・・・って。みさちゃんそういう悪戯好きだし絶対乗ってくれると思ったから。それで元気が出るのならーって‥‥」 つまりはこういうことだ。 協力するという名目を利用して、とりあえず接点を作る意味も含め告白してみてはどうだろうかと提案。 了承した男の子はあやのの便箋を借りて手紙を書き、手紙を放り込む際にかがみの方の靴箱を指定。 「まさか柊‥‥朝っぱらから愛の告白でも受けたのかっ?」と発言したみさおだが、その時には既にかがみが受け取っている手紙のことも、それがあやのの差し金だということも知っていたのだ。 かがみはぎり、と歯を食いしばった。 あやのがみさおを大切にしたい気持ちは分かる。二人はいつも一緒で、それこそ一生の友達なんじゃないかって羨ましくなったことすらあるのだから。 でも。 「それは・・・それは身勝手なんじゃないの?!私を騙して、男の子を騙して、つかさまで‥‥!! そりゃ日下部が最近元気なかったのは知ってるわよ!私だって心配だったし!!でも、でもこんな風に、皆に迷惑かけてまで元気になってもらおうなんて絶対間違ってる!!!」 握られてる手紙がぐしゃっ、と潰れる音がした。 騙されたことが悔しいのか、それとも信頼している友達がこんなに沢山の人たちに迷惑をかけてしまったことが悲しいのか。 何故か溢れてきそうになる涙。重たい沈黙が支配を広げてゆく。 「‥‥ねぇ、柊ちゃん。なんでみさちゃんが元気なかったのか・・・分かる?」 「‥‥分かるわけないでしょ」 涙をこらえて呟く。 吹き続けていた風がピタリと凪いだ。 「柊ちゃん、最近ちっともみさちゃんや私と遊んでくれなかったでしょ。いっつも決まったみたいに隣のクラス、隣のクラス、って。 みさちゃんあんな性格だけど、一度思いつめたら本当にそれしか考えないまっすぐな子だから・・・私と何話しても「私、柊に嫌われてるのかな、やっぱりウザかったのかな」、って、本当にそればっかりで・・・」 話しているあやのの目は、哀愁に満ち満ちていた。 まさか。 みさおを見る。 その目はまるで穴があったら入りたい、逃げ出せるものなら逃げ出したいというように必死に目があわないよう、左下を向いていた。 「もちろんここでちゃんと種明かしをして、柊ちゃんに話をして、男の子にも謝ってから改めて協力してあげるつもりだったの。 妹ちゃんのお姉さんの柊ちゃんもいた方が、もっと手伝えることも増えるんじゃないかなって思ったし。でも‥‥」 俯きがちに話していたあやのの顔が上がった。 その目はまっすぐ、眼鏡をかけたピンクの髪の女性へと向く。 「まさか妹ちゃんと高良ちゃんが来るとは思わなかった」 「すいません」 動じずににこっと笑みを放ったのは、視線を向けられたみゆきだ。 「彼は、私の近所に住む幼なじみなんです」 男の子の肩をぽん、と叩く。 そして顔を見合わせて、にこ、とまたしても笑みを放った。 「たまに勉強を教えて差しあげたりしているのですが、その時にふと話を聞いたんです。『峰岸さんという方が協力してくれる』って。楽しそうに話してましたよね」 そう言って、変わらぬ微笑みを男の子へ向ける。 美人なお姉さんからの優しい微笑みに、当然彼の方は照れ臭さを隠しきれない。 「前々から彼がつかささんに好意を抱いているという話はしていましたし、味方になってくれる人がいてよかったと最初は思っていたんです。 でも話を聞いているうちにどうも食い違いのようなものが生じてきまして・・・例えば峰岸さんとつかささんは違うクラスなのに、『峰岸さんが「私も同じクラスだから」、って言ってた』などと言われたりとか・・・」 見方によっては完璧に騙された、という形であるにもかかわらず、男の子は未だにきょとんとした顔であまり動じていないように見える。この男の子も天然の類なのだろうか。 「手紙のことは事前に彼から聞いていました。靴箱に入れるという手段のことも。 二日前、かがみさんが靴箱で慌ててる姿をじっと見ておられた峰岸さんの姿を見て、やっぱり何か変だと思ったんです。されてることが矛盾だらけでこれは絶対に何かあると思いまして‥‥ その後の昼休み、教室に来られたかがみさんの様子がおかしかったのを見て、かがみさんが手紙を受け取られたのはもう間違いないと思いました。それで、その休み時間中に峰岸さんを呼び出して───」 ─── 話は二日前へと遡る。 昼休み。急に何かを思い出したように駆けていくみゆき。行き着いた教室の入り口には「3-C」と書かれた札上に飾られている。 呼び出した者と呼び出された者。二つの影が階段の方へと向かっていく。 二人きりになれる場所。辿り付いた先で、みゆきは話を繰り出した。 「どうしたの、高良ちゃん?話って・・・」 「峰岸さん、正直に答えてください。あの男の子はつかささんが好きなはずです。なのにわざとかがみさんの靴箱へと手紙を入れるように指示したり・・・一体何を考えておられるのですか?」 真摯なまなざし。 ふざけているわけでも冗談でもない。本気と書いてマジと読むその瞳があやのに襲い掛かっている。 「‥‥そうなんだ、何でかは知らないけど、知ってるんだね・・・」 「はい、あの男の子は私の幼なじみですから。この前、勉強を教えて差し上げている時にどうも話が食い違っていたので気にはなっていたのですが、 今朝‥‥靴箱の前のかがみさんを監視している峰岸さんを目撃して確信を持ちました。 今からでも遅くありません。そのタチの悪い悪戯を止めていただけませんか?」 しかしあやのの方も、冗談でこんなタチの悪いことをする人間じゃない。 大好きな人のため、コレをきっかけに何かが変わるのならと思って始めたことだ。 「そうだよね・・・。 でもごめん、高良ちゃん。私、みさちゃんが大好きだから、これで少しでもみさちゃんがスッキリして、皆が打ち解けられるきっかけになれば、って思うの。 勿論男の子のことはあとで謝って、今度こそ本当にちゃんと相談に乗ってあげるつもりだから‥‥」 本気に立ち向かうには自分も本気で話す他ない。 彼女は感が鋭そうだし、下手に隠し事をすれば自分の信念すら曲げてしまうことになりかねないのだから。 あやのの真剣な表情に、これは何かのおふざけでやっていることでは決して無いと感じるみゆき。何か深い理由があるのだ。 それならば。 敢えて深くは尋ねずに、一歩足を後ろへ引く。 「・・・分かりました。でも私にとって、あの男の子もつかささんも、勿論かがみさんも大切なお友達ですから・・・」 ─── 「‥‥最後の言葉が気になってはいたんだけど、まさかこんな形で行動に移されるとはちょっと思わなかったな」 「私も皆さんが大好きですから。では自分は何をすればいいかと考えた時・・・どうせなら皆さんで何もかも打ち明けて、一気に解決してしまう場を設けた方が早いと思ったもので」 またまたニコリと微笑むみゆき。 「まぁ、事情はなんとなくわかった。けど・・・」 「柊っ!!!」 ざりっ、と踏み出した音。 目に涙を浮かべたみさおがいた。 「正直に言ってくれよな!柊は、柊は私のこと嫌いなのかっ??!」 もし「嫌いだ」と返されればどんな顔になるのだろう。 切なさと、葛藤と、そして・・・寂しさ。 いつものみさおじゃない。真剣な思いが、かがみの胸を容赦なく打った。 「あのね!私は嫌いだなんてこれっぽっちも思ってないし、言ってもないわよ!そりゃ、最近付き合い悪かったのは‥‥悪かったと思うけどさ・・・」 普段あんなに元気な奴が、自分のことでここまで思いつめてたのに、気づいてやれなかったのか。 今までの自分を振り返る。そういえば最近のあいつの目が、何だか憂いを帯びていた気がする。 ・・・サインはあったんだ。なのに、なのに自分は傷ついていく友達に気づくことも出来ず・・・ 「柊ぃ~っ!!!」 駆ける音。みさおの影がどんどんかがみの影へと近づいてゆく。 「ちょっ、痛いわよコラっ!」 「柊ぃっ、ひいらぎぃいぃっ・・・!!」 「あーもぅ泣くなひっつくな離れろっ!!」 ばたん。 解き放たれたみさおの想いを、かがみは全身全霊で受け止めて‥‥ ‥‥コケた。受け止めきれなかった。 夕立くらいなら吹き飛ばしてしまいそうな笑顔に、かがみは押し倒されながらも嫌悪を覚えたりはしない。 そもそも自分がこいつの気持ちに気づいてあげられなかったのだから。そんな罪悪感すらも吹き飛ばす笑顔を見て、嫌な気持ちになる道理などあるわけが無い。 「‥‥そうだよね。元々、嫌いあってたわけじゃないものね」 何故か涙が出てきそうになる。 そのために自分は頑張って、男の子を騙すようなことも、迷惑をかけるようなこともした。 心がほころぶ。久々に、本当に久しぶりに見た、彼女の満面の笑顔。「やっぱりやってよかった」とあやのに思わせる極上の笑顔。 歩みを進める。彼の前で立ち止まると、深々とお礼を一つ。 「ごめんなさい。柊ちゃんが言ったように、結果的に私のやったことは皆に迷惑をかけたし、貴方の純粋な気持ちを利用しようとする行為でした。‥‥ホント、ごめんね?」 「い、いえ・・・でも、まだダメだって決まったわけじゃないですし・・・」 あやのだって悪意でやっていたわけじゃない。 彼女なりの考えがあってやったこと。それも親友の為とあれば、例え騙されてたとしてもそうそう追求出来はしない。 しかし彼の目には、まだ強い意志が残っていた。 今日の自分の目的は、そう─── 回れ右。 ちょうど真後ろに位置した彼女は、いきなり顔を向けられたことにあぅ、あぅと目を白黒させる。 何故ならこうやっていきさつを聞いている内に、彼の気持ちを知ることになってしまったのだから。 「こんな形になってしまってすいません。柊、つかささん。貴方のことが好きです。理由は、分かりません。でも貴方の笑顔をみてると落ち着くし、明日も頑張ろう、って思えるんです。 今はこんなことしか言えないですけど、とにかく好きだってことは確かなんです。付き合ってください!」 まるで、暗闇の中を手探りで進むような。 脈絡も相手の気持ちすらも眼中に無いんじゃないか。そんな告白の一文だった。 でもその言葉一つ一つが、彼の『好き』という純粋な想いのかたまりで。 「うんっと、でも・・・ごめんね。今まで知らなかった人にいきなり「好き」って言われても、私、どうしたらいいかわかんないから・・・」 あわあわと身振り手振りを忙しくさせながら、何とか言葉を搾り出す。 事実、顔も名前も知らない相手に突然「好きだ」などと言われても、そんなのにすぐOKを出すわけには行かない。 どういう人かもわからない、くじ引きのような感覚で恋人を決める程つかさは餓えているわけでもないし、解放的なわけでもない。それなりに自分のテリトリーを持っている。 だから。 「だから、今日からお友達、じゃダメ・・・?」 「はい、喜んで!」 どうしてもこういう返し方になってしまう。 でも男の子にとって、今はそれで十分だった。こうして顔見知りになって、話をする機会が増えればまた新たな彼女の魅力に気づくだろう。 そしてますます僕は、この人を好きになってしまうのだろう、と。 にこっ、と、まるでこの世の全てを融解出来てしまいそうな微笑を放つ。 影からずっとつかさのことを見てきた彼にとって、やっと自分にその笑顔を向けてくれた。それだけで天にも昇る気持ちだ。 幸せそうに微笑みあう二人。一方で、「今から文化祭の打ち上げいこっか柊!」「あーもぅいいから離れろっ!!」と押し合いへし合いのやりとりをする二人。 ハッピーエンド。危うい場面は何度もあったものの、今この場にあるのは自分が夢見たものとおなじ。やっぱりやってよかった。上手くいってよかった。 気が付けば、隣にもう一人の“黒幕”。 「‥‥でもよくこんな大胆なことする気になったね、高良ちゃん。あんな予想もしないことになって、私達が慌ててちゃんと柊ちゃんに説明できなかったら‥‥ヘタすれば私達、柊ちゃんに絶交されてたとこだよ?」 その言葉には少しの憤りが含まれていた。 いかに普段落ち着いている彼女でも、不測の事態に少なからず動揺したのだろう。 その怒気を少しでも感じたのか、みゆきは若干すまなそうにして。 「ふふ、でも何故か『何とかなる』っていう核心みたいなものが私の中にありまして・・・峰岸さんなら絶対大丈夫なんじゃないか、というような。漠然としたものなのですが。 それに人の恋路を邪魔するほどの悪戯をする度胸がおありなのですから、それ位の覚悟はあるんじゃないかと思いまして・・・今思えば結構分の悪い賭けでしたね」 苦笑いをしながら、自信・・・そして相手に対する信頼を告げた。 ゆるぎなく、事実彼女が信頼したとおりになっている。 あやのが土台を作って、みゆきが完成させたような今回の狂騒劇。 勝利の言葉であり、ある意味敗北を認める今日二回目の言葉を放つ。 「・・・やっぱり高良ちゃんには、かなわないなぁ・・・」 了
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-安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 こなた「あ、みゆきさん」 みゆき「どうしました? こなたさん」 こなた「ちょっと、頭が痛くて……」 みゆき「頭が悪い……ですか」 こなた「え?」 みゆき「バカにはつける薬が無いというほどですから、今の医学では治療は無理なんですよ」 こなた「い、いや、私は……」 みゆき「でも、世間を忘れて頭のことなどどうでもよくすることは出来るかもしれませんね」 こなた「たかが頭痛でそこまで……」 みゆき「白いお薬で治療するんですけど……」 こなた「鎮痛剤か何か?」 みゆき「うーん……鎮痛剤といえばそんな感じですね」 こなた「まあ、痛みが引くんなら……」 みゆき「じゃあ、隔離病……いや、集中治療室へ連行しますね」 こなた「ちょっ! えっ? どこ連れて行かれるの!?」 みゆき「この治療は保険きなかいですけど、いいですよね」 こなた「ええっ!! 何されるの!?」 みゆき「白いお薬を集中的に注射するだけですよ。うふふ」 こなた「た~す~け~て~!!」 みゆき「はい、次の方どうぞ~」 こなた「ファハハハハハハハハ!! この病院は地獄だぜ!!」 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 かがみ「あ、みゆき」 みゆき「どうしました? かがみさん」 かがみ「最近また太り気味でね……ちょっと体質的に問題があるのかなぁ~って」 みゆき「体質的に……ですか」 かがみ「やっぱり運動した方がいいのかな」 みゆき「そうですね、基本的に運動が一番ですね」 かがみ「医者から見てどんな運動がよさそう?」 みゆき「そうですね……運動できるところ紹介しましょうか?」 かがみ「フィットネスクラブか何か?」 みゆき「うーん……クラブといえばそんな感じですね」 かがみ「行く行く! 面白そうだし」 みゆき「じゃあ、この書類にサインしていただけますか」 かがみ「うん」 みゆき「はい、結構です。じゃあ、この黒服の人たちに連れて行ってもらってください」 かがみ「えっ!? なんか怪しいんだけど……」 みゆき「そんなことないですよ」 かがみ「ちなみに、行き先はどこ?」 みゆき「ア○ランです。中東の」 かがみ「ちょっ、ちょっと!! どういうことよ!!」 みゆき「さっきサインした書類は傭兵志願書なんですよ」 かがみ「嘘っ!? 聞いてないわよ!!」 みゆき「言いませんでしたから」 黒服の男「じゃ、行こうか」 かがみ「た~す~け~て~!!」 みゆき「はい、次の方どうぞ~」 かがみ「ファハハハハハハハハ!! 着いた先は地獄だぜ!!」 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 つかさ「あ、ゆきちゃん」 みゆき「どうしました? つかささん」 つかさ「あのね、どうも最近寝すぎちゃってなんか病気なのかなぁ……って」 みゆき「寝すぎ……ですか」 つかさ「ちょっと快適になっちゃうとつい、うとうとと……ね」 みゆき「快適な環境は眠りを誘いますよね」 つかさ「どうすればいいかな?」 みゆき「そうですねぇ……眠りをつかさどる中枢部分を手術で切除すれば眠らなくなりますよ」 つかさ「えっ!? それじゃ眠らなくて済むの?」 みゆき「はい」 つかさ「そんな良い手術があるんだぁ……受ける受ける!」 みゆき「その代わり、睡眠中に分泌される体内物質がなくなるので、体が地獄のように辛くなりますけどね」 つかさ「えっ……?」 みゆき「でも、人生を2倍生きられると思えばいいですよね」 つかさ「そ、そんなのやだぁ……」 みゆき「手術室は抑えましたから。さ、怖くないですよ~」 つかさ「えっ! なに? その注射!?」 みゆき「終わるまで眠っていてくださいね。あ、看護士さんつかささんを押さえていてくださいね」 つかさ「た~す~け~て~!!」 みゆき「はい、眠りに落ちましたね。じゃ、あとよろしく。次の方どうぞ~」 つかさ「ファハハハハハハハハ!! 今度は眠れなくなって地獄だぜ!!」 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 そうじろう「あ、こなたのお友達の……」 みゆき「どうされました? こなたさんのお父さん」 そうじろう「実は……ロリコンというのは性癖というより病気なんじゃないかという気がして……」 みゆき「病気ですね」 そうじろう「そう、きっぱりといわれると……」 みゆき「私の見たところではもう完治不可能だと思います」 そうじろう「え!?」 みゆき「社会的に野放しにしておくと大変なので、通報しますね」 そうじろう「ちょっ、ちょっと……!?」 みゆき「罪状は、病院に入院していた幼児10人くらいをレ○プしたということにしておきますね」 そうじろう「えーーーー!?」 みゆき「まあ、一生刑務所から出られないように手配しますから」 そうじろう「せ、せめて病院の隔離病棟とか……」 みゆき「もう一杯ですし、こなたさんのお父さんは一生社会に出ること無いですし」 そうじろう「そ、そんな……」 みゆき「あ、迎えの警察官の人が来たみたいですね」 そうじろう「た~す~け~て~!!」 みゆき「しっかり護送お願いしますね。次の方どうぞ~」 そうじろう「ファハハハハハハハハ!! 獄中はロリ要素が無くて地獄だぜ!!」 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/01(水) 21 17 31.66 ID IxLaJziw0 58 優柔不断の性格を改善するために 俺と一緒に今流行りの高良総合病院でカウンセリング受けに行こうぜww 60 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ID IxLaJziw0「よろしくお願いします」 みゆき「どうなされました?」 ID IxLaJziw0「優柔不断な性格を改善したいんです!!」 みゆき「なるほど……どんなに誘惑があっても、やみ★ゆき一筋でいたい……と」 ID IxLaJziw0「は?」 みゆき「ちょうど新しい洗脳器……いえ、治療器具が届いたので試してみましょうか」 ID IxLaJziw0「今、洗脳って……」 みゆき「気のせいですよ。この治療が終わればもう優柔不断なんかじゃないですよ」 ID IxLaJziw0「はあ……」 みゆき「とりあえず、やみ★ゆきとガチホモをセットして洗……治療しますね」 ID IxLaJziw0「「えっ!?」 みゆき「この治療は保険効かないけど、この病院に来たってことはOKってことですよね」 ID IxLaJziw0「そ、それは……」 みゆき「それじゃ、このごつい看護士さんに連れて行ってもらってください」 ID IxLaJziw0「た~す~け~て~!!」 みゆき「これで信者が1人増えましたね。次の方どうぞ~」 ID IxLaJziw0「ファハハハハハハハハ!! これで俺もやみ★ゆき一筋だぜ!!」 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/01(水) 21 43 15.25 ID 6mxbv1p9O 65 テトリスをうまくなりたいのですが……… この前母に負けました 68 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ID 6mxbv1p9O「よろしくお願いします」 みゆき「どうなされました?」 ID 6mxbv1p9O「テトリスをうまくなりたいのですが……」 みゆき「テトリス……ゲームですか」 ID 6mxbv1p9O「この前母に負けました」 みゆき「つまり、負けて悔しいのでうまくなりたい……と」 ID 6mxbv1p9O「はい」 みゆき「要するにお母さんをギャフンと言わせたいわけですね」 ID 6mxbv1p9O「まあ、そんな感じです」 みゆき「ゲームでギャフンといわせる……ロシアンルーレットなんかいいですね」 ID 6mxbv1p9O「え?」 みゆき「実弾入りの拳銃がここにありますので、これでお母さんと交互に引き金を引き合ってください」 ID 6mxbv1p9O「それじゃ、負けたほうは死んじゃうんじゃ……」 みゆき「お母さんが死んでもギャフンですし、あなたが死んでもお母さんは困ってしまってギャフンです」 ID 6mxbv1p9O「そ、それは……」 みゆき「幸い、この間入れた洗脳機……治療機器を使えば何も考えなくても行動できますので」 ID 6mxbv1p9O「ええっ!?」 みゆき「治療費はお宅の保険金でまかなってもらいますね」 ID 6mxbv1p9O「ええーー!!」 みゆき「じゃあ、いつもの看護士さん、治療室に案内してください」 ID 6mxbv1p9O「た~す~け~て~!!」 みゆき「ちょうど経費がかさんでいたのでちょうどいいですね。次の人どうぞ~」 ID 6mxbv1p9O「ファハハハハハハハハ!! 今から引き金引くぜ!!」(バンッ!!) 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/01(水) 21 59 42.94 ID IxLaJziw0 誰かあの病院止めろこれ以上犠牲者を出してはいけないwww みゆき「うふふ。この病院は大人気なので閉院できませんよ」 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 03 51.42 ID Cq/A2yl70 ひよりん!ひよりん! ああっ、かわいいよ、ひよりん! 早く本編に出てくれよ、ひよりん! 暑くて脳がいかれてきたみたいだ…(普段通りだが)。 黒酢 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 08 28.22 ID 7NF77oyMO ひよりんシンドロームですな。 紹介状書いておきますから診てもらってください つ【高良総g(ry】 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 09 57.77 ID Cq/A2yl70 54 あ、そこの病院は顔パスで入れるんで紹介状いらないっすw -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 変態紳士「作者なんですけど、よろしく」 みゆき「今日はどうなされましたか?」 変態紳士「ひよりん! ひよりん! かわいいよ、ひよりん!」 みゆき「既に手遅れっぽいですね。守衛さん、裏山に埋めてきてください」 変態紳士「ひよりん! ひよりん! ひよ(ry」 みゆき「うるさいですね。エアコン投げつけて静かにさせましょうか」 変態紳士「ひよ……ぐぼあっ!!」(ドキドキ) みゆき「それじゃ、守衛さんよろしく。次の人どうぞ~」 変態紳士「裏山に埋められようが、ひよりん! ひよりん! ひよ(ry」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 26 05.80 ID Cq/A2yl70 57 どうかな? いい病院があるから一度行ってみないか? 女医さんが結構かわいいんだ。 病院名は高良総……おっと、行くまで内緒だw 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 30 12.46 ID s/JFvpMm0 駄目だ!SS村の人達に聞いた話だが診察券を作ったら最・・・ ん?なにか落ちてるな?カード?高良総 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 21 31 30.27 ID Cq/A2yl70 そもそも、あそこの病院は初診で完治するから診察券が無いと聞いたがw みゆき「うちの病院は大変繁盛してますね。うふふ」 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/06(月) 01 28 36.30 ID OMEpdsr20 ああ…… ひよりん好きが次々と高良総合病院の餌食に…… -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ID ijK/SAsWO弟「よろしくお願いします」 みゆき「どうなされました?」 ID ijK/SAsWO弟「実は……兄が変態プレイ好きで困っているのです」 みゆき「変態プレイですか……」 ID ijK/SAsWO弟「具体的に言うと、羞恥プレイなんですが……」 みゆき「で、お兄さんについての悩みを解決したい……と」 ID ijK/SAsWO弟「はい」 みゆき「そうすると、弟さんも同じ趣味を持つのが一番ですね」 ID ijK/SAsWO弟「え?」 みゆき「心配要りませんよ、恥ずかしいのは最初だけ。すぐに快感になります」 ID ijK/SAsWO弟「ええっ!?」 みゆき「ちょうど病院玄関のオブジェを探していたんですよ。全裸男性の」 ID ijK/SAsWO弟「ちょっ、待って!?」 みゆき「ごつい看護士さ~ん、準備お願いします~」 ID ijK/SAsWO弟「えええー!!」(ドキドキ) みゆき「看護士さんはガチホモなんで裸になった瞬間何されるかわからないですけど、まあいいですよね」 ID ijK/SAsWO弟「た~す~け~て~!!」 みゆき「はい、次の方どうぞ~」 ID ijK/SAsWO弟「ああ……兄さん、羞恥プレイは最高だ……」 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 白石「よろしくお願いします」 みゆき「今日はどうなされました?」 白石「最近ストレスからか不眠っぽくて……」 みゆき「不眠……ですか」 白石「(ピー)様がいっつも無理難題ふっかけてくるので、精神的に疲れちゃって……」 みゆき「そういうときは何かで発散したほうがいいですね」 白石「はあ……」 みゆき「お薬でもいいんですけど……併用するとすぐよくなりますよ」 白石「是非、その方向でお願いします」 みゆき「えっと……LSDと片栗粉……っと」 白石「え!? なんか今凄いことが聞こえたような……」 みゆき「気のせいですよ」 白石「(大丈夫かな……)」 みゆき「スポーツメニューは……看護士さんに任せますか」 白石「(看護士さんかぁ~、女の人かな)」(ワクワク) みゆき「じゃあ、薬は看護士さんから打ってもらって下さい。ごつい看護士さ~ん」 白石「えっ!? ごつい!? 男性!?」 みゆき「そうですよ」 白石「どういうスポーツメニューで……」 みゆき「看護士さんはガチホモなんですよ。だから、裸で体操するリフレッシュメニューですね」 白石「危険な香りがするんですけどー!!」(ドキドキ) みゆき「一応肛門科も予約しておきますね。あと、看護士さんが毎日往診しますから。じゃあ、看護士さんよろしく~」 白石「た~す~け~て~!!」 みゆき「はい、次の方どうぞ~」 あきら「白石、最近何お尻ばっかり押さえてるけど、痔か何かになったの?」 白石「ちょっと、ハードな治療で不眠を解消しようと……でも、最近目覚めすっきり!!」 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 03 03.22 ID Tah+KmxOO というか今更ながら気付いたのは、普通そこで一番初めに思い付くのは「ゆ」酢ではないのかとww やっぱり空気なのかwwwww 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 05 07.57 ID JvmwgO0t0 48 そういうことを言うとあそこに搬送されるぞw 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 05 53.55 ID d2rtA6280 48 あーあ空気言っちゃった あんまりごつい看護士さんの仕事増やしちゃだめだろww 前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 15 41.94 ID JvmwgO0t0 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ID Tah+KmxOO「先生って空気ですよね」 みゆき「挨拶もなしに空気扱いですか。どうやら荒治療が必要なようですね」 ID Tah+KmxOO「えっ!? えっ!?」 みゆき「今日新しい看護士さんもう一人入ったんですよ。ちょうどいい初仕事になりそうですね」 ID Tah+KmxOO「もう一人!?」 みゆき「じゃあ、ごつい看護士お二人さん、この患者を集中治療室へ」 ID Tah+KmxOO「ちょっ、どんな治療されるんですか??」 みゆき「さあ……? この辺については田村さんのほうが詳しいんじゃないかと……」 ID Tah+KmxOO「ええーっ!!」(ドキドキ) みゆき「じゃあ、ごつい看護士さん方、フリーダム治療でよろしく」 ID Tah+KmxOO「た~す~け~て~!!」 みゆき「次の方どうぞ~」 ID Tah+KmxOO「ごつい看護士さん二人に囲まれて幸せです……ポッ」 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 38 12.34 ID oj2Sk48LO なあ、俺の弟が『完璧超人のみゆきってうざくね?』って言ってたんだけど。 まあ、俺はひよりん一筋だからどーでもいいけど。 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 40 22.04 ID JvmwgO0t0 62 みゆき「あなたの弟さんは治療済みのはずですが……もしかして、本人さんが診察されたいのでしょうか?」 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/08(水) 21 46 45.68 ID oj2Sk48LO 62 治療されればいいネタ浮かぶと思うから是非ともお願いします。 -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ID oj2Sk48LO「よろしくお願いします」 みゆき「今日はどうなされました?」 ID oj2Sk48LO「弟が先生のことをうざいっていうんですが……」 みゆき「はて……弟さんは病院の正面玄関で羞恥プレイ治療中のはずですよね?」 ID oj2Sk48LO「(ぎくっ!!)」 みゆき「ぺろっ……この汗の味は嘘をついている味ですね」 ID oj2Sk48LO「あ、いえ、その……」 みゆき「そういえば、今日はごつい看護士さん2人とも休みなんですよねぇ……」 ID oj2Sk48LO「(ほっ……)」 みゆき「でも、研修生のごついお爺さん5人いるからなんとかなるかな」 ID oj2Sk48LO「えええーーー!!」 みゆき「私にはわからないんですけど、秘伝の治療法方があるらしいですよ」 ID oj2Sk48LO「秘伝……」(ドキドキ) みゆき「まあ、それを受けると廃人になるかガチホモのになるかの2択らしいですけどね」 ID oj2Sk48LO「た~す~け~て~!!」 みゆき「次の方どうぞ~」 ID oj2Sk48LO「ファハハハハハハハ!! 嘘をつくとガチホモ一直線だぜ!!」 ごつい看護士さん達は考えていた。 高良総合病院は確かにすばらしい病院だ。 洗脳……げふんげふん、医療機器も揃い、違法……げふんげふん、有効性の高い薬も揃っている。 しかし、看護士というものはもっと患者に身近に接しなければならないものではないだろうか。 今はみゆき院長のすばらしい手腕であっという間に患者が全壊してしまう。 ごつい看護士さん達は更に腕を磨くべく、本場アメリカのホモ施設を訪れ修行することを決意した。 もっと、患者と肌と肌で触れ合うために…………。 293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 22 21 50.88 ID /aOQr7OL0 290 ケーなんとかただおもピンクワカメ言っとるwww 294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 22 22 50.89 ID YCen2Xf90 293 例の施設に搬送するか?w 295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 22 26 59.36 ID /aOQr7OL0 294 安心治療!?高良総合病院 番外編ただお~診察券のない医院~ よろしくww -安心治療!? 高良総合病院- みゆき「次の人どうぞ~」 ただお「この、ピンクワカメめ!! 娘を、娘を返せ!!」 みゆき「まあまあ、落ち着いてください。それは別人ですよ」 ただお「そんなはずは無い!! ピンクワカメは2人といないはずだ!!」 ゆかり「みゆきさん~、ちょっといいかしら?」 みゆき「あ、お母さん……じゃなくて、理事長なんですか?」 ゆかり「今月看護士さんいないけど、どうしましょ?」 みゆき「ああ、それなら……」 ただお「な、なに!? ピンクワカメが2人!?」 ゆかり「なんですか、この発狂した患者さんは?」 みゆき「どうも幻覚をみておられるようなんですが……」 ゆかり「じゃあ、この間仕入れたあれ試してみたら?」 みゆき「あ、そうですね。まだ人体実験終わってなかったですもんね」 ただお「な、何をする気だ!! 私は薔薇神主だぞ!! 手を出すと神通力出すぞ!!」 みゆき「ちょっと最新の治療を受けてもらうだけですよ。黒魔術と医学が融合した」 ただお「黒魔術だと!! この神道の敵め!!」 ゆかり「かなり興奮しているようだけど……治療室にはどうやって連れて行くの?」 みゆき「さっき言いかけたんですけど、看護士さんが研修中は全国のごついホモボランティアの方々が来てくださってるんですよ」 ゆかり「まあ、それなら大丈夫ね」 みゆき「それじゃ、ただおさん。治療しますからおとなしく連れて行ってもらってくださいね」 ただお「な、なんだ、この股間が隆起している連中は!! わ、私をこの程度で陥落できると思ったか!!」 ゆかり「それじゃ~よろしく~」 ただお「な、なんてたくましい人たちだ……」(ドッキンドッキン) みゆき「それじゃ、記憶操作コースでよろしくお願いしますね」 ただお「な、何!? じゃあ、まさか……」 みゆき「娘さんなんて最初からいなかったんですよ」(にっこり) ただお「うおー!! た、助けて……くれなくてもいいかもしれないが、助けてくれー!!」 みゆき「はい、次の方どうぞ~」 ゆかり「ねえ、みゆきさん?」 みゆき「何ですか?」 ゆかり「うちの病院って診察券発行してる?」 みゆき「ああ、それでしたら初診で患者さんは全壊するので発行していませんよ」 ゆかり「さすがね、みゆきさん。経費削減になるわぁ~」 ただお「うほ、いい診療。私には娘なんかいなかったからどうでもいいや~」 ※「全壊」は誤字ではありませんw -安心治療!? 高良総合病院- ゆかり「あら、みゆきさん。今日は休診?」 みゆき「ええ。ちょっと患者さんが増えて、収容……もとい、病室が手狭になってきたので増築中です」 ゆかり「そういえば、一杯一杯だったわね」 みゆき「あと、薬品の補充もと思いまして……」 ゆかり「薬品といえば、柊さんのお母さんに処方してあげたお薬、あれどうなのかしら?」 みゆき「あれは永遠の17歳のみきさん専用ですからね……他の人が飲むと副作用が出るんじゃないかと」 ゆかり「間違ってお父さんとかが飲んだら心配ね」 みゆき「まあ、お父さんは既にここに収監……もとい、入院中のはずですから心配ないかと」 ゆかり「あれ? みゆきさんまだ聞いてないの?」 みゆき「え? 何がですか?」 ゆかり「ただおさん、さっき脱走したらしいわよ」 みゆき「それは初耳ですね」 ゆかり「じゃあ、早速追っ手を差し向けないとね」 みゆき「そうですね。重症患者ですから何があるかわかりませんし……」 ゆかり「部隊はいつものでいいのかしら?」 みゆき「ええ、ネイビー・ガチホモ・シールズ特殊暗殺部隊でお願いします」 ゆかり「じゃあ、すぐに連絡しておくわね」 みゆき「よろしくお願いします」 ゆかり「変な噂が立っちゃうと患者さんが減っちゃうものね」 みゆき「そうですね。医療事故はなるべくもみ消さないと」 ゆかり「それじゃ、病院の改築はまかせたわね」 みゆき「はい、理事長」 ゆかり「病院経営は大変だわぁ~。さて、米○に電話っと。もしもし、高良ですけど……」