約 632,110 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/2172.html
※性的な表現が含まれます。そういった表現が苦手な方はブラウザの「戻る」をクリック ※ゆっくりの描写が少なめです ※特徴的な虐待お姉さんが出ます この娼館に来る胴付きのゆっくりふらんやゆっくりれみりゃは変態の慰み物になるのがオチだった。 「しね、しねぇえ!!」 そう叫ぶふらんが娼館の裏口から中に運ばれる。今朝、荘園の罠にかかっていたものだ。 この娼館に来る胴付きのゆっくりふらんやゆっくりれみりゃは変態の慰み物になるのがオチだった。 身包みを剥がされ、秘部に切れ目を入れられ女性器の代用品となる。 中には着衣のまま行為にいたる者や娘の洋服を持ち出し着せる者、 泣き叫ぶのが良いと毎回初めてのを買う者や情婦は淫乱でなければいけないと慣れたのを買う者、 秘部ではなく肛門と似た場所に穴を開け行為に至る者や性行為の際に酷く相手を痛めつける者、 ふらんに男装をさせベルトのついた張り型を股間に付け、自分の肛門に挿入させるといった者まで。 変態性欲の捌け口となっていた。 毎回、行為に使用する為の部屋を掃除する侍女は嫌悪と侮蔑を込め『精液の便所』と嘲笑った。 そこの侍女というのは領主のお屋敷に奉公に出されたが、 顔も田舎臭く屋敷の誰からも寵愛を受けず、何かこれと言う特技もない娘たちだ。 娼館の女主人は領主の娘の裏の顔、女主人はそういった娘たちばかり娼館に集める。 その方が男女の問題は起こりにくい。口説き落としてたくさんのお金を払いそんな侍女と宣教師の体位で及ぶぐらいなら、 娼館で形の良いれみりゃを買い。様々な体位を楽しむ方が得だと思わせる。 買う側としても女に比べ、れみりゃ、ふらんは都合が良い。 自分が身分を隠さなければ娼館に訪れる事のできない立場であっても、相手をするれみりゃはその人の位を知らない。 知っても忘れる。忘れなければ身請けすれば良い娼館に多めに金を払えば良いだけだ。 逆に1匹のふらんに入れ込む者もいる。2度3度交われば相性もわかる。良いと思ったのならば、これもまた身請けすれば良い。 身分の高い者からすればこれっぽっちの金、身分の低い者からしても届かない額ではない。 ふらんとれみりゃにしても別段、悪い話ではない。 ここにいれば食事も睡眠も子育ても楽ができる。昼、侍女たちが食事を用意する音で目覚める。 泣き叫ぶゆっくりの声、親子、恋人は引き離され、食堂に入ってきたれみりゃやふらんに手渡される。 おかわりは自由、領主が荘園で人間向けに作っている食用ゆっくりの中でどうしてもできる粗悪品だ。 それでも病気を防ぐため、腐ったものや原因不明で死んだものは除外される。 品質のレベルは貧民層の子ども達がおやつと食べるレベルのもので、市場では一山いくらで売られているような物だ。 最初は殺してからお皿に持って出していたが、どうもそれでは食欲をそそらないらしく。最近では生きたまま出される。 「う~う~、おしょくじだど~」 大きな口を開け、ゆっくりれいむにがぶりと噛み付くれみりゃ。 「ゆぎゃぁああ、どうじでぇー!!」 一口で食べられるのは丸々と育ったれいむの一部だけ、だかられいむもすぐには死ぬ事がない。 「あまあまおいしぃどぉ~、もっとたべるどぉ~、んあ~~」 また大きく口を開け、パクリと食べる。 「まりざぁ!!だずげぇ、ゆぎぃい!!まり、まりざぁあ!!」 助けを求めたまりさはどこにいるのか分からない、さっき籠に入れられていた時は確かに傍にいたが、 「れいぶぅ!!れ、ゆぎゃあぁあ!!!じにだぐない!もっどもっどゆっぐ、ゆっぐじじだぁあああ!!」 そのまりさがれみりゃに食べられているれいむの意中のものか、誰も分からない。 何故ならこんな悲鳴、食堂のどこからも上がっているからだ。それに人もれみりゃもふらんも食べ物が泣き叫んでも別段、何とも思わない。 食べれば、また食事をもらえる列に並ぶ。受け取ったら空いている席を探し、そこで食事をする。 配っているのはゆっくりに詳しい者だ。お代わり自由と言っても形が崩れれば商品価値が下がる。 太っているものには機嫌を損なわせないように自重させ、痩せているものには納得させ食事をとらせた。 食事が済めば身支度が始まる。夕方までに済ませなければ開館時間が来てしまう、 侍女達は忙しそうに準備をずる。まずはれみりゃやふらん達の服を脱がし、温かい濡れタオルで丁寧に身体を拭く。 その時に秘部の穴が無くなっていないか確認する。再生されていればその個体は今日の営業に出せない。 そして、いつもの服に着替えさせる。それまでは寝間着にようなものを着せられていたが、やっと自分たちの服を着せられれみりゃ達は大喜びである。 服には番号が書かれたバッヂが付けられている。緑の6番や赤の3番など、 色は娼婦としてのランク、番号は客が注文する際にわかりやすいように付けられている。 試しに緑の6番、緑はまだ生娘、一度も男性器を受け入れた事のない個体、その6番目のれみりゃだ。 もし、今夜、このれみりゃに機会があればこのバッヂの色はすぐに変わるだろう。 経験済みの個体は赤いバッヂになる。番号はそのまま引き継ぎなので赤の6番になっているだろう。 準備が終われば、れみりゃ達は大広間に通される。そこには玩具やクッキー、紅茶などが用意されており、 れみりゃ達はそこで客に買われるまでの時間を過ごす。 応接間の周りにはいくつも小さな個室があり、応接間の壁にあけられた覗き窓を通して、客は自分の夜の相手を選ぶ。 入館料さえ払えば、その個室にいくらいてもいい。酒は出していないが軽食と紅茶、珈琲程度なら用意されている。 中には一晩中、れみりゃ達の遊ぶ姿だけを見て帰る者もいる。飲み食いする代金と入館料を合わせれば、 何も頼まずにれみりゃをほんの短時間だけ買い、一度出してしまうとそそくさと帰ってしまう客に比べればよっぽど利益になる。 侍女たちは裏でれみりゃ達を抱かない彼らを『金づる紳士』なんて酷い呼び方をする。 たまに一晩買うが、抱かずにクッキーやケーキなどふらんにたんまり御馳走するだけで満足し帰る客もいる。 侍女に言わせれば、そういう客は金づる紳士の極みなのだろう。 客が注文すると係りが応接間に入り、指定された番号のれみりゃを部屋から連れ出す。 中にはぐずるのもいるが、言いくるめたり、玩具を持って行っていいと言うとすぐに笑顔になり部屋を後にする。 客に確認を終えると、れみりゃは部屋で客が風呂からあがるのを待つ。娼館の2階と3階が個室になっている。部屋はさほど広くない。 無論、多く金を払えば4階にある。都会のホテルのような個室も取れるが、そういうのを注文するのは個室から覗いている客ではなく、 2階から吹き抜けになっている大広間を見下ろすようにれみりゃやふらんを見定めている上等な客たちだ。 1階が風呂になっていて、れみりゃやふらんを買った客はそこで身体の垢を落とす。 前にふらんと一緒に風呂に入りたいと申し出た客がいたが、水気に弱いゆっくりを風呂に同伴させる事は出来ないと断る。 もし、殺してしまった場合、それ相応の額を要求され、娼館への出入りが禁じられてしまう。 野良のれみりゃやふらんを殺す分には誰からも咎められないが、商品を壊せば咎められるのは当たり前である。 風呂から上がると、バスローブに着替え、侍女から避妊具と部屋の鍵を渡される。 別にれみりゃやふらんが人間の精液で妊娠するわけではない。避妊具は疑似女性器の清掃を簡単にするためと他のお客への感染症予防だ。 男性器がれみりゃに挿入される。最初は身を裂くほどの痛みだ。だが、死に至るほどではない。 「いっ!だっ!いっ!」 胸に付いている緑の6番のバッヂを揺らし、れみりゃが泣きじゃくる。 自分の中に男性器が徐々に入ってくる。その度に痛みが弾ける。れみりゃは手で涙をぬぐい、必死に耐える。 れみりゃも自分がそういう事をされるのは分かっている。ここに来てその日に何をされるかは説明された。 目の前で男と交わるれみりゃやふらんを何匹も見てきた。この痛みも友人のれみりゃから聞いている。 男も優しく。痛いと言えば挿入を止め、我慢できるようになったら慣らすように入れていく。 部屋に入ってから30分、まだれみりゃは男性器の全てを挿入されていない。8割は行った所で休憩していた。 「お、おにいさん、れみりゃがんばるどぉ~、ぜんぶいれてほしぃどぉ~」 ニコリとれみりゃは笑顔を作る。男は支えていたれみりゃの身体をゆっくりと下げていく。 「う゛う゛う゛う゛ぅ!!」 れみりゃは男性器を全て身体に受け入れる。そこからゆっくりと性交が始まる。 翌日、6番のバッヂは赤い物になっていた。友人のれみりゃが6番のれみりゃに話しかける。 「きのうはどうだったどぉ~?」 「いだかったけど、れみりゃ、がまんできたどぉ~」 「れみりゃはえらいどぉ~。さすがしょうかんのおじょうさまだどぉ~」 自分と同じ赤いバッヂになったれみりゃを19番のれみりゃも嬉しく思う。 しばらくして、6番のれみりゃが痛みもなく男生気を受け入れられるようになった頃、 食事の前に娼館の女主人からお話があった。新入りの紹介だ。 女主人の喋り方は丁寧で「~かしら」「~だわ」なんてゆっくりありすみたいだとれみりゃは思いながら聞いている。 1匹のふらんがみんなに紹介される。顔の形がよく、少し小柄なゆっくりふらん。 もう、いつもの服に着替えていてバッヂは緑の31番をつけている。 ふらんはれみりゃに比べて口数が多い方ではない。「うー・・・よろしくしてね」なんて短い挨拶を済ませ、みんなの食事に混ざった。 6番のれみりゃが先輩風を吹かし、ふらんに食事のもらい方を教えてやる。 「あのおねーさんのところでもらうんだどぉ~、ちゃんとならべないこはゆっくりできないんだどぉ~」 「・・・しってるるよ。いちいち、いわなくてもわかるよ。しね」 「じゃあ、いっしょにならぶどぉ~」 6番のれみりゃは31番のふらんの手を取り食事を貰う列に並ぶ。 その4日後の夜にふらんのバッヂは赤くなるが、それを見ずに6番のれみりゃは娼館からいなくなってしまう。 さみしそうにするふらんを19番のれみりゃが慰める。 「あのこはべつのおうちでしあわせになってるんだどぉ~。ふらんがかなしんでちゃゆっくりできないどぉ~」 「・・・きゅうにいなくなるな。しねっ、しねっ!」 誰かに買われたのか?いや、客が無理をさせすぎたのだ。 たまにいるのだ。マナーのない客が、一晩買うだけの金しか払わずに一生を買った気分になるのが。 叩く程度なら問題ない。2日ほど休ませればまた元気に仕事が始められる。 しかし、腕を千切られ、足に折り目をいくつも付けられ、首を180度曲げられ、右目を潰されていてはもう使い物にならない。 客が、れみりゃは寝てしまったと受付に部屋の鍵だけ返しに来た時、女主人が呼び止めれみりゃが途中で寝てしまったお詫びに、 少しばかりお金を返金するため待って欲しいと言わなければ、その男は娼館を出てしまう所だった。 急いで侍女が部屋に行き、確認すると、れみりゃはかろうじて生きている状態だった。 女主人は侮蔑する所か感心した。商品を壊しておきながら金まで貰っていくなんて、 しかし、今回はその顔の皮の厚さに助けられた。男はすぐに衛兵に連行されていく。 初めての客だ。この娼館が領主の娘がやっているなんて知っていれば、こんな事をしなかったかもしれない。 何にしても終わったことだ。れみりゃやふらんを動揺させない為、6番のれみりゃは買われていった事になった。 そして、6番のバッヂが空く。また緑の6番をつけ、みんなの前で紹介されれるみりゃかふらんがいるだろう。 それまでバッヂは女主人の机の中にしまわれる。 女主人は自分の部屋で紅茶を楽しむ。客に出しているような安い物ではない。 少し冷まし、甘くした紅茶を皿に入れ、自分の膝に座っているれみりゃに少しずつ飲ませる。 まだ曲げられたが痛むのでコルセットは欠かせない。コルセットに綺麗な白いハンカチーフが差し込まれまるで前掛けのようになっている。 ハンカチーフを琥珀色に染めながらもれみりゃは紅茶を飲む。 腕には包帯が巻かれ千切れた先が見えないようになっている。足はもう随分回復し、歩けるようになったが、歩みはぎこちない。 紅茶を飲み終えると、必死に残った左手を伸ばし、クッキーを取ろうとするが、右目をなくしているため、 遠近感がつかめず、どうも空振りをする。女主人はその手を優しく握り、そっとクッキーの所まで持って行ってやる。 クッキーを掴めたれみりゃは満足そうに「うー」と笑い、クッキーをかじる。 もう恐怖でほとんどの言葉は飛んでしまった。今は赤ちゃんのように「うー」などと鳴くだけだ。 「おー、うあー」 クッキーが美味しいのか、ニッコリ笑う。 「うー、うー」 今度は紅茶が欲しいのか、左手で紅茶のカップを指差す。 「品のない男にやられた割に可愛くなったわ。あなたのような子なら男の相手なんてさせないのに。可愛いれみりゃ」 女主人はそう微笑むと、紅茶をお皿に移す。 娼館に運ばれてくるのは荘園で栽培しているゆっくりを食べようとやってきて罠にかかったふらんやれみりゃだ。 中には罠の中で暴れ、肢体のどこかが千切れたり、顔に酷い傷を負ったりするものが出てくる。 娼館の地下にはそういった傷ついた。いや、女主人の言葉を借りるなら「可愛い」れみりゃやふらんの楽園がある。 食事は上で働いているものと比べればよっぽど良い物を食べ、労働もない。 ただ欠損した身体を女主人の前に晒しているだけで生きていられる。腕が千切れれば優しくされ、目が見えなければ優しくされ、 楽園が終わる事はない。その楽園に悲しい事があるとすれば2つ、妊娠し女主人の手術や胎教、食事制限を受けても正常な赤ちゃんが生まれてしまった場合、 その赤ちゃんは少し痛い思いをして可愛くなってもらう事、あとは寿命が尽きて死ぬ事。その2つだけである。 この娼館に来る胴付きのゆっくりふらんやゆっくりれみりゃは変態の慰み物になるのがオチだった。 by118
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/148.html
ある里の近くで、ゆっくり霊夢の一家が住んでいました。 一家は皆キチンとしており、人間の畑も荒らさずにゆっくりと暮らしていました。 「おかーさん、おそびにいええくるよ!!!」 「ゆっくりあそんできてね!! くらくなるまえにもどってきてね!!!」 「おねーしゃんいってらっちゃい!!!!」 「いってきます!! ゆっくりしてくるね!!!」 勢いよくお家から飛び出すゆっくり霊夢。 今日は魔理沙たちと遊ぶ約束を強いています。 こちらの魔理沙一家もキチンとしていて、他の魔理沙のように他人の家に上がりこむことはしません。 二人でくたくたになるまで遊んだ後、霊夢は暗くなる前に魔理沙とさよならして、お家に向かいました。 ……。 「ゆゆ!! おにーさん!! それなぁに?」 俺が近くの永遠亭から一本の竹を貰って帰る途中、一匹のゆっくり霊夢が飛び出してきた。 「これかい? これは七夕に使う竹だよ」 「ゆ? たなばた? それってゆっくりできるの?」 「あぁ、この笹に願い事を書いて吊るすと願いが叶うって言われてるんだ」 「ゆゆ!! おにーさん!! れいむもおねがいしたい!! れいむもおねがいしたい」 「ちょうどいいな、……よし一緒においで!!」 「ゆ♪」 ゆっくり霊夢と連れ立って家路を急ぐ、なんたって今日は七夕だからな。 「ほら、ここが俺の家だ」 「はいっていいの?」 「ああ。遠慮するなよ!」 「ゆ! ゆっくりおじゃまするね!!!」 まぁ、普通のゆっくりよりは礼儀正しいみたいだ。 「おじさんありがとうね!! れいむはゆっくりおねがいしたよ!!」 そうだった、こいつは何かお願いしたいことがあってここまで来たんだっけ。 「それじゃあ、今から飾りつけするから手伝ってくれるかい?」 「ゆゆ!! おてつだいするよ!! だかられいむもおねがいさせてね!!!」 「ああ。いいとも」 何て純粋なゆっくりなんだろうか。 これが並大抵のゆっくりだったら、早く飾り付けしてね!!、って叫ぶ所だと言うのに。 「それじゃあ、これを引っ掛けてくれるかな?」 渡したのは七夕飾り、器用に口にくわえ、俺に抱っこされて笹にかけていく。 「ゆゆ!! おにーさんかけおわったよ!!」 「よし、こっちもお願いね」 「うん♪」 暫く一人と一匹で仲良く飾り付けをしていった、一人でするより大分賑やかだ。 ……うん、なかなか良い出来だ。 「それじゃあ、短冊を書こうか」 「ゆ~? たんざくってなぁに?」 短冊が分からない霊夢に一枚の短冊を見せて説明する。 「これの事さ。ここにお願いを書いて竹に飾るんだよ。さて、文字は分からないだろうから代わりに書いてあげようか?」 筆を持ち直しゆっくりの方へ向き直る。 が、霊夢はなんだか不満そうだ。 「ゆゆ!!! おにーさん!! れいむもじぶんでかきたいよ!!」 「自分で書けるか?」 「うん!! おにーさんそれかしてちょーだい!!」 意気揚々と俺から筆を受け取ったゆっくり霊夢は口にくわえてブッ格好な丸を沢山書きだした。 「何だこの丸? まんじゅうか?」 「ちがうよーー!! れいむのかぞくだよ!! この大きいのがお母さんだよ!!」 別にどっちでも変わらん気がするが、見れば確かに目や口のようなものと髪の毛にリボンが書かれている。 「ふーん。で、これはどういうお願いなんだ?」 「ゆ? !! れーむとおかあさんと、おねーちゃんといもうとたちがずっとゆっくりできますようにっておねがいしたんだよ!!」 ほー家族ね。コイツラらしい。 「あっ! そうだ!! おにーさん!! たんざくもういちまいもらっていい?」 遠慮がちに聞いてくる、別にこんなもん何枚でもくれてやるが。 「良いけど、今度は何をお願いするんだ?」 「おともだちのまりさのかぞくもゆっくりできますようにってだよ!!」 くーー!! 泣かせるじゃねーか! 「家族や友達思いの良いゆっくりだな!! よし、後でおにーさんが食べ物を持って言ってやろう。両方のお家の場所は分かるか?」 「うん、ここから…………」 ほうほう、結構近くだな。 「よし! 分かった。それと、きちんとお願いが叶うようにおにーさんが文字でそのお願いを書いてやるよ」 「ゆゆ!! おにーさんありがとーー!! これでれいむたちはゆっくりできるね!!」 「そうだな、良い子にしてたらきっと叶うぞ」 「ゆゆ!! れーみたちもまりさたちもかってににんげんのおうちにははいらないよ!! はたけのおやさいだって、かってにたべないよ!!!」 どうやら、自分たちがそういう事をしてると思われたと思ったんだろうな。 それにしても、なかなか真面目なゆっくりだな。 「分かってるよ! ……っと、よしかけた。それじゃあ、飾りにいこうか」 「ゆゆ!!」 無邪気に笑う霊夢を抱えて再び庭へ。 霊夢に自分の短冊を下げさせた後、俺も自分の短冊を上の方へ下げた。 「ゆゆ!! おにーさんはどんなおねがいしたの?」 下げる前に、霊夢がそんな事を聞いてきたので短冊を見せてやったら喜んでた。 文字は読めないのにな。 「これでよし。全部終わりだ」 「ゆ! おじさんのおねがいもれーむのおねがいもちゃんとかなうといいね!!」 「そうだな。お前はこれからどうする? なんなら夕飯でも食っていくか?」 「んーん。おかーさんがしんぱいするといけないから、おうちにかえってゆっくりするよ!!!」 そうか。 それじゃあ俺も夕飯の準備に取り掛かろう。 「ゆ!! おにーさんどうしたの!!」 ゆっくり霊夢を抱きかかえる。 既に帰ろうと背を向けていた霊夢は少し驚いたようだ。 「んー? これから夕飯にしようと思ってな」 「? れーむはおうちにかえるよ? おにーさんのごはんのじゃまはしないからゆっくりたべてね!!」 「そぉい!!」 「ゆぶっちゃら!!!!」 真横に図太い荒縄を通して竹へ吊るす。 「ゆゆ!!! れーむのおながにぃ!! おにーざん!! はやぐどってぇーー!!!!」 このために、わざわざ永遠亭まで言って綺麗なウサギさんと一緒に丁度良い竹を探し回ったんだ。 あぁ、今度は怪我をして行ってみようかな……。 「ゆ!! いだいよ!!! おにーさん!! ゆっくりおろしてね!!! ゆっくりおろじてねーー!!!」 痛みに苦しみながら、こっちを見つめる霊夢。 残念だけど、俺はこれから夕食の準備をしないといけないんだ。 「それじゃあ、そこでゆっくりしていってね!!!」 「ゆっぐりーーー!!!!!!」 さてと、ビールビール!! ……。 「うっう~♪ あうあう♪」 暫くビール片手に家の中で待っていると、漸くゆっくりれみりゃがやって来た。 「う~? ぷっでぃ~んどごぉ~? ぷっでぃ~ん!!!」 もちろん唯のれみりゃじゃない、紅魔館にすんでいる最高級れみりゃだ。 「ゆ!! おにーさん!!! れみりゃだよ!! ゆっくりできないよ!!!」 そんなに大きな声で呼ばなくたって分かってるよ、コイツをおびき出すためにお前を吊るしてたんだから。 「うっう~た~べちゃうぞ~♪」 「ゆ!! ゆーーっぐりたすげでね!!! れーむはおいしくないよ!!!」 馬鹿かお前? 大馬鹿な紅魔館れみりゃにそんなこと分かるはずないだろ? 「う~♪ がぶっ♪ !!!……うー!! ぷっでぃ~んじゃないー!!!」 やっぱコイツ馬鹿だ。 「うーーー!! ぽいっ、するのぽい!!!」 勢いに任せて、霊夢をズタズタに千切っていくれみりゃ。 そろそろ頃合か? 「おい肉まん! こっちにぷっでぃ~んがあるぞ!!」 「う!! ぷっでぃ~んだべどぅ~♪」 「そうか、食べるか。ぷっでぃーんはこっちだよ!!」 「うーー!! ぷっでぃーんじゃないの!! ぷっでぃ~んなの!!」 テコテコと座敷に上がってくるれみりゃ。 ニコニコしながら俺の前に近づいて両手を差し出してきた。 「う~♪ はやぐぷっでぃ~んくれないと、さぐやにいいつげるどぉ~♪」 はいはい、ぷっでぃ~んね。 「こぁ!!」 「うー? !!! いだい!! いだいどぉーーーーー!!!!!」 そりゃ、柱に磔にされたら痛いわな。 「うーーー!!! ざぁぐやーー!!! ぷっでぃーんはどごーー!!!!」 ……、おい! 「ぷっでぃーんじゃなくて、ぷっでぃ~んだろ?」 まずは、この羽からいってみよう。 「!!! いだいどぉーー!!!! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!!!」 うん、これはビールに合うな! 「そればれみりゃのーー!!! れみりゃはだべものじゃないどぉーーー!!!!!」 そういえば黒ビールも有ったな、今度はそれで食べてみるか。 「うあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」 ……。 ふー、食った食った。 そういえば、あの霊夢はまだ生きてるのかな? 「おーい霊夢! 生きてるか?」 「ゆー。 !! おにーさん!! れいむはゆっくりできるよ!! れみりゃをおいはらってくれてありがとうね!!!」 おお! 生きてた、すげーな!! 「でもこの縄を早く外してね!! そうしたら、こんなことしたのをゆるしてあげるよ!!!」 へいへい。 「ほら、外してやるよ。別に悪気があった訳じゃないんだ。ただ自分を吊るすと願いが叶い易くなるんだよ」 霊夢の縄を抜いて地面に降ろしてやる。 縄の抜けた体を満足そうに見た後、目を輝かせて俺に尋ねてきた。 「ゆゆ!! ほんとう!! だったられーむたちのかぞくとまりさのかぞくは、ぜったいにゆっくりできるね!!!」 「U☆SO☆DA☆YO☆ そぉい!!!」 「ふんじゃられったりーーー!!!!!!」 死なない程度に踏みつけて籠に入れておく、明日の朝には元気になってるだろう。 「じゃあな。明日は家族仲良く加工場に行こうな。願い通り、死ぬまでゆっくりできるぞ!!」 「!! かごうじょーーはやだーーー!! ゆっぐりできないよーーー!!!!」 ……。 「れいむ、きのかえってこなかったね」 「きっとまりさといっしょにゆっくりしてたんだよ!!」 「やぁ、君達が霊夢の家族かな?」 「!! おじさん!! れーむをしってるの?」 「れーむはどこにいるの!!」 「うん、霊夢は君の家族と魔理沙の家族がゆっくりできるようにってお祈りしてたんだよ。俺は、それに感動して君らもゆっくりさせてあげようと思ってね。魔理沙の家族は、今一緒にいるから君達もおにーさんのお家へおいでよ!!」 「れーむもおにーさんのおうちにおじゃましようよ!!!」 「!! うん、みんなでゆっくりできるね!! おにーさん!! どうもありがとーー!!」 「いいよいいよ! 俺も願いが叶って嬉しいから……」 翌日、親子共々籠に入れて、願いどおり加工場でゆっくりしてもらうことにした。 専用の安全な檻に入れられた両方の一家が、嬉しそうに涙を流して喜んでいたのが印象的だった。 俺の願い? 高級なゆっくりれみりゃを食べたい事と、纏まった金が欲しい事さ。 ……。 昨夜、紅魔館。 「れみりゃさまーー!! 食後のプディングをお持ちしましたよ!! ……またお出かけかしら?」 「あ、咲夜さん。れみりゃさんなら、さっきお散歩に行きましたよ♪」 「そう。 ……このプリン食べる?」 「良いんですか? 頂きます♪」 「涎垂らしながら見つめてたでしょ。それより、貴方も短冊に何か書いたの?」 「おいしーです♪ ……あっ、はい! 嫌いな食べ物を見なくて済みますようにって書きました♪」
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/53.html
私、博麗霊夢はゆっくりを飼っている。自分と似た姿をしているゆっくりれいむだ。 ゆっくりれいむと出会った当初は自分と似た饅頭が動いているとあって気味が悪く見えたものだが、 今となっては仲良くやっている。 例えば庭の掃除を終えて、一休みとして昼寝をしようと座布団を探していたとき、 私のそばまで飛び跳ねてくると 「おひるね♪おひるね♪れいむといっしょにゆっくりしようよ!!」 と、自らの身体を枕代わりにさせてくる。 頭を預けるとふんわりと柔らかく、餡子の甘くていいにおいがする。 そのことをゆっくりれいむに告げると、 「ここがれ~むのゆっくりプレイスだよ!!ゆっくりしていってね!!」 と、ふるふると喜んでいる。自分が飼い主の役に立つことがうれしいのだろう。まったく可愛いやつめ。 ちなみにゆっくりれいむは自分のことは【れいむ】、霊夢のことは【れ~む】と呼ぶ。ややこしい。 とても寝心地がよかったので、枕になってくれたお礼にとゆっくりれいむを抱っこして膝の上にのせてあげた。ふにりとした柔らかい感触を手と膝に感じた。 意外と重い。中身が詰まっているのだろう。 「ゆぅ~♪」 ゆっくりれいむはご機嫌だ。すりすりと顔を胸に摺り寄せてくる。女の子同士?とはいえ少し恥ずかしい。 「ここをれいむのゆっくりポイントにしてもいい?すっごくゆっくりできるよ!」 そうやって満面の笑みでせがんでくる。特に断る理由もないのでいいよと答えると、ゆっくりれいむは目をつぶって動かなくなった。 ゆっくりするためであろう。 「あったかくてやわらかい・・・。おかあさんみたい・・・。」 この年で母親呼ばわりされるとは思わなかったが、悪い気がしなかった。 ところでゆっくりプレイスとゆっくりポイントの違いって何だろう。 その後の事であるが、友人の霧雨魔理沙が自分の飼っているゆっくりアリスを連れてきた。アリス本人に似てか、 礼儀正しくておしゃまなところがあった。そういえば以前ゆっくりれいむを抱っこしてあげたら喜んだことを思い出す。 喜んでくれたらいいなと、ためしにとゆっくりアリスを抱っこしてあげた。 「はなして!ありすはもうこどもじゃないの!」 そうは言っておきながら顔は笑っている。素直じゃないところもアリスそっくりだ。 そのときゆっくりれいむが奥の部屋から飛び跳ねてきた。ゆっくりの名にあるまじきスピードだった。息まできらせている。 ゆっくりれいむは泣きそうな顔でゆっくりアリスをにらんだ後、 「ここはれいむのゆっくりポイントだよ!ゆっくりどいてね!」 と泣き叫んでしまった。まさかやきもちを焼かれるとは思ってもいなかった。このままでは埒が明かないので、 悪いけどゆっくりアリスにはどいてもらった。ゆっくりアリスは何も言わなかったが、目を伏せてとても残念そうな顔をしていた。 あとで魔理沙にゆっくりアリスを抱っこしてあげるように頼んだ。魔理沙はあっさりと了承してくれた。 このときゆっくりアリスが一瞬うれしそうな顔をしたことを私は見逃さなかった。 その日の夜、なんで他のゆっくりをどかそうとしたのかと叱ったら、 「れ~むのうわきもの!だっこしてくれるのはれいむだけじゃなかったの!れいむのゆっくりポイントにしてくれるっていったのに!」 ぷく~っと、ふくれつらですねている。あの時は軽く約束してしまったが、それほど重要な約束であるとは思わなかった。 たぶん私達とは常識が違うのであろう。それでも友達を追い出そうとすることは最低だときつく叱った。 今度あんなことをしたら二度と抱っこしてあげないというと、 「ゅっ・・・ゅ・・・ごめ゛んなざい!ごめんな゛ざい!もうにどとじまぜん・・・。だかられいむのこときらいにならないでぇ!! れ~むといっしょじゃないとゆっくりできないよ!ゆっぐりしたくないよ!」 泣き出しちゃったよ。どうしよう。まぁ、反省しているならいいか。 そう思いながら抱っこしてあげる。我ながら甘くなってしまったものだ。 ゆっくりれいむは頭をぐりぐりと強く擦り付けてくる。やはりゆっくりポイントを奪われるのはよっぽどのことだったのだろう。 それならばと、もう二度と友達を無理やりどかそうとしないならいくらでも抱っこしてあげるとゆっくりれいむに告げると、 「ゆっくり・・・・・・ごめんなさい・・・・・。ゆぅ・・・ゅ・・・・・・・・・。」 ゆっくりれいむは腕の中に納まり、あっという間に寝てしまった。普段あれほど取り乱すことはなかったから疲れたのであろう。 そう考えると、これほど大事に思われているのも悪くはない。 ゆっくりれいむを抱え、布団の中に連れて行く。今夜は一緒に寝てあげよう。 なんだか、子供の頃に何かあって泣いてしまった後、お母さんの布団の中にもぐりこんだときのことを思い出す。 あのときはどんなものからも守られている感じがした。怖いものが絶対に近づいてこない。安心できる場所。どこよりもゆっくりできた。 ゆっくり達にしてみれば、ゆっくりすることは存在意義なのかもしれない。それならばあれほどまでに守ろうとしたのも納得できる。 誰だって大事な人の隣を他の人に渡したくはないだろう。今度からは気をつけよう。そう思いながら、隣にいるゆっくりれいむをなでる。 とても安心した顔をしている。これを見ると、また抱っこしてあげたくなる。お母さんになった気分だ。 ふとゆっくりれいむの口元を見ると、寝言を言っているようだ。どんな夢を見ているのだろう。 「れ~むのおなかきもちいいょぉ・・・・・・・。ぷにぷにしてるぅ・・・・・おもちみたい・・・・」 やっぱやめだ。二度とだっこなんかしてやらん。 涙がとまらないよ!どうしてくれるの!! -- ゆっく (2009-03-27 02 44 17)
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/713.html
夕日の中を木枯らしが吹き抜け枯葉を巻き上げる。 晩秋から初冬への境 豊饒の季節はもうすぐ終わりを告げる。 この季節はゆっくりたちがもっともゆっくりできない、否ゆっくりしてはいけない季節である。 なぜなら冬篭りの準備をしなければならないから。 皆準備の為に跳ね回り食料と資材を集める。 今年生まれた子供たちも母親と同じ仕事が出来るほどに成長し 姉妹達を率いて下草を集めたり、木の実を埋めたりと忙しい。 食料を集め、下草を敷き、入り口を塞ぐ頃には冬が来る。 「まつんだど~」「みゃ~て~」 「ゆ!ゆ!ゆうぅぅぅぅぅ…」 日に日に三日月に近づく月の下 ご多分に漏れず冬篭りの準備に急ぐのは体つきのれみりゃの親子 ただし彼らの準備は食料集めではない。 食いだめである。 冬の間に外に出るゆっくりは少ない。 必然的にれみりゃの餌も少なくなる。いくら狩りに出ても十分な食料は得られない。 したがってれみりゃ種は冬眠するゆっくりとなった。 冬の訪れまでに出来るだけ沢山の栄養分を蓄え、後は眠るのだ。 春先と盛夏に生まれた二匹の子供たちも狩りの仕方を覚え、多くのゆっくりを狩った。 体は指先まで丸々と太り、パンパンに張った血色の良い肌は白桃色に輝いている。 「やったどぉ~ごはんだどぉ~」 捕まえたゆっくりを抱えて巣に戻るれみりゃ親子 少々飛行するのに支障が出ているらしく がさがさと木の枝に体を擦っているが、この程度でなければ冬は越せない。 今回の冬眠場所は大きな木の下に掘った穴の中 入り口は残雪の心配の少ないよう東向き しっかりと下草を敷いたので寝心地は抜群 春まで快適に過ごせるだろう。 「お~いし~どぉ~」「う~」「さいごのでなーだどぉ~」 れみりゃ親子は今年最後の食事となるゆっくりありすを食べていた。 このありすは少々ゆっくりしすぎたの。 この季節の夜に外を出歩いていたのだから。 寒さに強くないゆっくりは晩秋の夜にはけして出歩かない。 夜はれみりゃの時間だからだ。 おそらくこのゆっくりしすぎたありすは 皆が巣を塞ぎ始めるのを見てあわてて冬篭りの準備を始めたのだろう。 食料になるものは殆どとり尽くされた森の中を彷徨い 冷たい秋風に吹かれ動きが鈍ったところをれみりゃに襲われたのだ。 たっぷりと栄養を取った健康なれみりゃは少々の寒さにもへこたれない。 秋風の中を自在に飛び、獲物を狩って冬に備える。 知能は消して高くないれみりゃが今日まで生き延びている理由は このあたりにあるのかもしれない。 「うぅ~はぁっぱぁ~ぱぁっぱぁ~はぁっぱぁっぱぁ~」 ばさばさと落ち葉や枯れ草、小石や小枝を巣の入り口に撒くれみりゃ 遊んでいるのではない。巣穴を偽装して隠しているのだ。 捕食種といえど油断は出来ない。長い眠りに付く冬眠中は尚更だ。 「うぅ~いぃしをつぅんでぇ~すぅきぃまぁをつぅめぇてぇ~つぅちぃをぉぬぅってぇ~」 親子代々伝わる歌のようなものを呟きながられみりゃは内側から穴を塞いでゆく。 巣穴の入り口に石と土と小枝を積み上げ、草や苔を隙間に詰め込む。 さらにその上から土をぺたぺたと塗りつければ封鎖完了だ。 「かんせいだどぉ~」 「やったどぉ~」「これであんしんだどぉ~」 入り口を塞いだらあとは眠るだけだ。 下草の上に親子三匹、川の字で寝転ぶ。 「う~!ふゆどをこすどぉ~!!はるまでぐっすりだどぉ~」 「はるまで~」「ぐっしゅり~」 おそらくもう数日で初雪が舞う。 この一家はそれすらも知らずに眠り続けるのだろう。 暖かい春の日差しが雪を溶かすまで となるはずであったのだが。 「うぅ~」 …ックザッ… …ックザック… 「う~?」 ザック…ザッ… 「うううぅ~!?」 ザクッ 「よしやったぞ!!」 「うー!!」 突然巣の中に光と寒気が流れ込んでくる。 飛び起きたれみりゃの目に白銀の世界と黒い二つの影が飛び込んできた。 「おし、大当たり!れみりゃだ。」 「やりましたね兄貴!!」 男たちはれみりゃを縛り上げると次々と袋の中へ放り込んでゆく。 「みゃあみゃあ!!」 「あがぢゃあああぁぁぁぁん!!あがぢゃあああぁぁぁぁん!!」 泣き叫ぶれみりゃたちを無視して袋を荷車に放り込む。 「ゆっぐりじねぇぇぇ!!」「だぜえぇぇぇ」「う~う~う~!!」 荷台には既にいくつもの袋が並んでいる。中身はすべて体つきのれみりゃかふらんである。 「こいつらは高く売れるからな。これで首が繋がったぜ。」 「兄貴が闘ゆっくりで有り金全部スっちまった時はどうなるかと思いましたけどね。 こんな特技があったんですね。兄貴って。」 この二人は人里に住む与太者たち。金策の為に一稼ぎしに来たのだ。 「死んだ親父がゆっくり取りの名人でな。俺もよく一緒に取りに行ったもんさ。」 「しかし饅頭なんざいつでも一緒じゃないんですかね?なんで今だけ高くなるんです。」 「ばーか、ゆっくりだって旬ってのがあるんだよ。れみりゃやふらんは今ぐらいの奴一番だ。 冬を越すためにたらふく食って油が乗ってるからな。質が違うんだよ。 知ってるか?なんでこいつらに体がついてるのか。」 「いえ、知りませんね。人間みたいに動けるからですかい?」 「それが違うんだよ。こいつらは道具を使える頭がねえからな。 栄養を蓄えるためなんだよこいつらが体つきなのは。」 「へえ、じゃあ兄貴の下腹といっしょですかい。」 「おめぇあとで覚えてろよ。まあそんなもんさ、冬眠中に困らないようにそうなったんだろうな。 同じ肉まんでも頭と体じゃ味も値段も違うんだ。」 荷車をがらがらと引きながら歩く二人 荷台には二十匹ほどのれみりゃとふらん。 「じゃあこないだのれみりゃに自分の子供で肉まん作らせてた店。 だから高かったんですね。」 「そうさ、あの店のは本物の親子だからな。体は取っても死なないってわかってるから体で作るんだ。 赤の他人のれみりゃに作らせると頭も体も関係なしに…おっとまたあったぜあそこだ。」 「よくわかりますね。俺にはぜんぜんわからねえや。」 「年季がちがうさな。年季が」 男はそういいながらスコップでざくざくと雪を掘っていく。 数十センチ掘ればぼこりと土がへこみその向こうには体つきの 「むきゅうぅぅぅ…ごほん……」 紫色の奇妙な物体。そして大量のチラシや新聞紙 一瞬ゆっくりぱちゅりーのようにも見えたが微妙に違う。 もやしのように細いが体がついているのだ。 「ありゃ、違ったぜこいつは」 「なんですこの紙くずまみれのは」 「こりゃあぱちゅりぃだな。体つきのゆっくりぱちゅりーだよ。 穴の塞ぎ方が似てるから間違えたんだ。」 「案外兄貴もあてになりませんね。」 「うるせえな久々なんだから仕方ねえだろ」 男達の会話をよそに冬眠中の巣穴を暴かれたぱちゅりぃは 大量の紙屑に囲まれて眠ったままだ。 いや、反応が薄いだけで起きてはいるのかもしれない。 どちらにせよ頭に霞が掛かっていることに代わりはないが。 「で、こいつは売れるんでしかい?兄貴 こいつの体も油が乗ってるんでしょ?」 「こいつの体はなぁ…ちょっと違うんだよ。」 「と、いいますと?」 「こいつは食うモンがなあ…ああ、見ろよほれ。」 むきゅむきゅと寝言を呟きながら手を伸ばすぱちゅりぃ その手が掴んだのは干からびた野菜くず。 ではなくなんと紙屑の山の中のチラシだった。 「えっと兄貴、まさかこいつ。」 「そのまさかだ。見てろよ。」 チラシを掴んだぱちゅりぃは 「むきゅうぅん。むきゅうぅん。」 それをそのまま口に運んだ。 しばらくの間もしゃもしゃと咀嚼したあとゆっくりと飲み込む。 この間なんと35秒、驚異のゆっくりっぷりである。 よく見てみれば紙屑だらけのぱちゅりぃの巣に食料はほとんどない。 あるのは紙屑ばかりである。 防寒材としては優秀かもしれないが普通なら食料にはならない。 それを食料にしてしまうのが歩く紫もやしことぱちゅりぃである。 虚弱でありながら妙に頑丈な肉体を持つ彼女は 生き延びるために驚異の消化力を身につけたのだ。 「こいつってこんなもんばっかり食ってるんですかね?」 「らしいな。弱くてまともな餌は取れないからこんなもんを食うんだろうが。 栄養も殆どないだろうからな。だから弱いのかもな。」 「卵が先か鶏が先かみたいな話ですね。で、こいつは食えますかね?」 「筋だらけだろうさ。やめとこう。」 その時男たちは下から見上げる視線に気づいた。 いつのまにかぱちゅりぃが目を覚ましていたのだ。 独特のどろりと濁った目で男達を見つめるぱちゅりぃ 常にもぐもぐと動き続ける口をゆっくりと開くた。 「ごほんはどこ?」 「は?」 「むきゅぅ、もってかないでぇぇ…」 蚊の鳴くようなか細い声で喋るぱちゅりぃ 白い雪と黒い土、灰色の紙屑と紫色のぱちゅりぃ 前衛芸術家かなにかなら喜ぶかもしれないが男たちにはもう限界だった。 「はいはいごほんね、ごほんだよ」 そういってちり紙代わりの天狗の新聞をぱちゅりぃに押し付ける。 「むきゅぅぅぅごほん、ぱちゅりぃのごほん」 嬉しいのだろうか上体を陽炎のように揺らすぱちゅりぃ 「あーはいはいよかったねごほんだね。おやすみね。」 「春までねむってようなぁぱちゅりぃ」 「むぎゅうううぅぅぅぅ!!」 ぱちゅりぃの体を紙屑の山に押し込むと そのまま土をかけて埋めもどす。 少々手荒すぎる気もするがなに紙を食べて生き延びられるゆっくりだ。 これくらいはどうということもあるまい。 「しかしあんなゆっくりもいるんですね。兄貴」 「わからんもんだな。案外と」 荷車を引きながら人里を目指す男達 荷台のれみりゃ、ふらんの体力も尽きたらしく静かなものだ。 冬を生き延びようとゆっくりを食べたこのゆっくりたちは 冬を彩る肉まんアンまんとして人々に食べられる。 なんとも因果な事ではないか。 「おそくなっちまったな。しかし」 「晩飯にこいつらでも食いましょうか。」 「馬鹿言うんじゃねえよ。まったく」 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/687.html
野性のゆっくりを書いてみたいので書いてみました。 ゆっくりの出産シーンありです。描写がわかりにくかったらすいません。俺設定もありです ゆっくりれみりあ(れみりゃ)の捕食種設定ありです。 途中まではバッドエンドですが最終的にハッピーエンドにするつもりです それでもよければどうぞよんでください では駄文開始です。 冬も真っ盛りになりある町の近くの小さな林の木の下にウサギの巣にそっくりな巣穴があった。 だがその中にはウサギではなくまんじゅうの生き物であるゆっくり達がすんでいた。 バレーボールぐらいの大きさのゆっくりが2匹とソフトボールぐらいの大きさのゆっくりが2匹である 大人のゆっくりは紫の髪でピンクのお帽子に月の飾りをつけたゆっくり・・・ゆっくりぱちゅりーと 赤いロングヘアーに黒い小さな悪魔の羽が生えたゆっくり…ゆっくり子悪魔ことこぁ それと、二人の子供・・・ゆっくりぱちゅりーが2匹の巣だった場所である。 なぜ、過去形になっているのかというと現在の巣の主が違うからである。 そして、現在の巣の主はというと… 「うーうー!!ぷでぃん♪ぷっでぃん!!!」 と1匹のピンクのスカートと洋服を着た胴体付きゆっくりが巣の中央でうつ伏せで騒ぎながら干した木の実を食べている。 ゆっくりぱちゅりーは、それをみておおきな溜め息をついた 彼女が食べているのがこの巣に残った最後の甘い食料である干した木の実だったからだ。 今、残っている食料は虫や茸などがあるが、ゆっくり2匹がどうにかこの冬に生き残れる量だった。 あそこの騒いでる物体だけならば冬は越せるかもしれないとおもった。 彼女は、大変だが幸せだった日々を思い出していた 話は二ヶ月ほど前の12月にさかのぼる。 ぱちぇとこぁは、冬を越せずにゆっくりできなくなるゆっくりもいる中では幸せに暮らしていた。 冬を越すための食料をパートナのこぁとあるゆっくりのおかげで4人分以上のえさを用意していたので食料で困ることはなかった。 ぱちぇの好きなご本(チラシや新聞)は町のほうから飛ばされてきた物がたくさんあったので問題はなかった。 読み終わったご本は寝床にすると暖かく使えた。 それ以前にたくさんの枯葉も用意しておいたから寒さの心配もなかったのである そんなある日、ぱちぇがクリスマスという行事についてこぁに説明した。 その時、こぁは春になる前に二人の愛の結晶が欲しいとサンタさんに願うつもりだといった。 ぱちぇ自身も自分の子供とゆっくりしたいと思っていたが、エサの問題から冬篭りの間は我慢しなければと思っていたのである。 そのために自分からは冬が終わるまではいえなかった… そのことに気付いたこぁが自分の変わりに言いにくいこと言ってくれたのかもしれないと感じたのである ぱちぇは子供を胎生出産で生む事を条件に快諾した。 だが冬篭りも半分が終わり食料も子供が1人増えても問題がないほどあるから大丈夫だと思った だから、子供を生んでもいいと思ったのだ。 だが、念のために子供は人数の少なく利点の多い胎生出産にしたのである。 そして、ふたりはすっきりして妊娠したこぁと二人でゆっくりしながら暮らしていった。 そして、1月の中旬に苦しそうなこぁとその様子を心配そうに見ているぱちぇがいた 「むきゅ。がんばってね。こぁ!!」 「わたしゆっくりがんばりますから、ゆっくりしたあかちゃんがうまれますよ。ぜったいに」 「そうね。わたしたちのあかちゃんだものゆっくりしたこがうまれるにきまってるわ」 愛しい妻の身体からまもなく子供が生まれる。その喜びにぱちぇも感激していた。 「う、うまれますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅっぅ!!!」 「むきゅ、むきゅん!!ゆっくり、ゆっくり、うまれてねーーーーーーー!!!」 こぁが呻き、ぱちぇの興奮が頂点に達する。 「こぁああああーー!!!」 ぽん!! 大きな音と共に、肉まん2つを重ねたぐらいの多きさのゆっくりぱちゅりーが生まれたのである。 「むきゅ!!」 とぱちぇは驚きの声をあげてしまった。子供がこちらに向けて眠そうに声をかけてきた 「むきゅん・・・・・ゆっくりしていってね!!」 「むきゅ。ゆっくりしていってね!!」 「ゆ、ゆっくりしていってください!!」 最初にぱちぇが答えてつぎにこぁが疲れながらもどうにか答えたのだった だがそれだけでは今回の出産は終わらなかった 「こぁああああーー!!??」 「むきゅ!どうしたのこぁ!?」 「むきゅー?どーしたのおかーさん?」 生まれたばかりの子供が心配そうに母親に声をかけているのである 植物出産では見られない光景だった。そして、ぱちぇが胎生出産を選んだ理由の一つだ。 親が得た知識を植物出産とは違い生まれながらに親の知識…生きるための術などをもっているのである。 もう一つは、ある程度の大きさを持つ子ゆっくりとして、赤ゆっくりよりも頑強な状態で生まれるのだ。 体の弱いぱちゅりー種の赤ん坊に冬ごもりの寒さは難しいが子ゆっくりならば生き残れる可能性が高くなるのである。 ただ、一度に産める数が少なく母体にかかる負担が大きい上に長い時間がかかってしまう。 だが、寒い冬の間に生むには欠点を補うだけの利点があるとぱちぇは考えていた 「また、た、う、うう、うまれますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅ!!!」 「むきゅ!まだうまれるのね!!ゆっくりがんばって!!!」 「むきゅ!おかーさん!!ゆっくりがんばって!!!」 愛する夫と子供の声援にこたえなければと思いこぁは頑張り続けた。そして…、 「こぁああああーー!!!」 ぽん!! 大きな音と共に、肉まん1つ分の先ほどの半分ぐらいの10cmぐらいのぱちゅりーが生まれたのである。 「ゆっくりしていってね!!!」 子の生への喜びの第一声。 「むきゅ、むきゅ、むきゅ!ゆっくりしていってね!!!」 「むきゅん。みんないっしょにゆっくりしようね!!!」 と父親と姉が幸せそうに答えたのである。そしてつかれきった母親に近づいていきはなしかけた。 「むきゅ。とてもゆっくりしたわたしそっくりのこたちがわまれたわ。こぁ」 「ありがとうございます。皆でゆっくりしましょうね。ぱちゅりーさまとこぱちゅりーさま」 と顔を皆ですりすりしながら幸せそうな顔であの言葉をいうことにしたのだ。 「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」 冬は、まだ数ヶ月残っているがエサは大量にある。 自分達の知識を受け継いだ子供たちは、残った食料のこともわかるのだから幸せに暮らせるに決まっている そうおもいながらぱちゅりーは、今後に向けての4人分の計画を忘れて幸せの絶頂にいたのだった。 そのときは、自分の兄弟か子供同然だったある存在を忘れていた。 そうあの子が来るまでは・・・ 子供が生まれてから数日が経った気がするがお日様が見えないので詳しい日はわからない だが寒さがきつくなったことから夜になったのではないかと推測できる。 ぱちぇはご本を読みながら木の実を食べながらすごしていた。子供達とこぁは巣の奥のほうで寝ている 自分の考えは間違っていなかった皆こんなゆっくりできるのだからと幸せを感じた時である。 「うー、うー」 と扉の外から声が聞こえる気がしたが気のせいだと思いご本を読んでいた。 どかん!!という音がしたと思ったら扉がわりの木の板がなくなり一匹のゆっくりが倒れていた。 水色の髪にピンクの帽子…頭の後頭部から黒い悪魔の羽… そのゆっくりはれみりゃの愛称で呼ばれているゆっくりれみりあだ。 「むきゅ?れみぃ!! れみぃじゃない!! どうしたの!?」 「うー、うー、うー、うー!!まんまぁー!!」 「むきゅ。ままはここにいるわ!! どうしたのれみぃ!?」 正直、ゆっくりれみりあの言う事はぱちゅりーには全く理解できなかったが苦しそうなのがわかった。 れみりゃは、希少種だが紅魔館付近には多く生息するゆっくりである。 だが、このれみりゃは秋頃に紅魔館と反対の里に近い川のほとりのちいさなゆっくりの群れに紛れ込んだ赤れみりゃだった。 群れでは、親もおらず一人で寂びしそうにしていたが捕食種であることから追い出すべきだという意見が大半だった。 だがそれに反対したのがぱちぇとこぁだった。 彼女達は、れみりゃもゆっくりなのだからゆっくりさせるべきだという意見を言った。 結果は、2人とゆっくりれみりは群れをでることにしたのだ。 そのために三人は群れがあった川のほとりを離れてこの小さな林に移り住んだのである 寂びしんぼうのれみりゃは、ぱちぇとこぁを本当の親のように慕っていた そして、3匹は力を合わせてゆっくりと暮らしていたのである。 だが、冬近くに林に引っ越してきたゆっくり達が捕食種を怖がってしまった。 この子は、ゆっくりを襲わないゆっくりしたいい子だと説明したがわかってくれなかった。 ぱちぇは引っ越すかれみぃと別れるかの2択を選ぶのにすごく悩んだ この時期の引越しは難しいと感じたぱちぇはれみりゃと別れることにしたのである。 れみりゃも新しい巣に移動した時は心からうれしそうに喜んでいた。 その時のれみりゃの気持ちはわからなかったが、自分なりに親代わりの2匹のことを考えてくれたのだとぱちぇは思っている だから、別れの時に彼女は泣きながらも笑顔でいたのだと考えていた。 そのときのことを思い出しながらぱちぇは彼女の様子がおかしいのは寒さが原因だと考えた。 ぱちぇは、れみりゃを子供たちとは別の場所におくと読んでいたご本(チラシ)の上に乗せて枯葉をかけてあげた 入り口の板は、子供を生んだばかりのこぁにやらせるわけにはいけないと思い自分で直した。 作業をやり終えたあと、ぱちぇは持病の喘息のせいか体を動かして疲れたせいだろうか 「むきゅ…たいりょくのげんかいだわ。それじゃおやすみなさい。れみぃ」 というとれみりゃの部屋を出て子供と妻の部屋に行くと倒れるようになって寝てしまった。 次に彼女が目をさめた時にそのことを後悔することになるのである・・・ ・・・むしゃ・・・むしゃ・・・うーうー♪・・・ この音は、なんだろうか・・・ぱちぇはそう思いながら目を開けると妻と子供たちは幸せそうに寝ていた。 次に、表の入り口の近くに行くとどこかに向かって大きな芋虫が這ったような後があるのでそれをおってみた 「むっきゅっゆううううぅうう!!??」 その先…食料庫では胴体付きのれみりゃが器用そうに手を使いながら何かを食べていた。 それは彼女達が大切にしていた冬ごもりの食料だったその中でも甘いものを中心に食べているようだった。 「むきゅ、れみぃ、すぐにたべるのをやめなさい!!」 「いやなんだどぉーー、おじょうさまはパワーアップしたからごはんたべるんだどぉ!!」 「いいこだからゆっくりたべるのをやめてね!!れみぃ!!」 「わかるんだどぉーー、れみぃはかりすまおじょうさまだからたべるのやめるんだどぉーー!」 ぱちぇは昨日よりも半分近くに減っている食料に驚いたが、それよりもれみりゃの変化に驚いた。 ぱちぇが最後に見たときれみりゃは25cmぐらいの大きさのまんじゅうだったはずである だが、いまの彼女は身長が60cmぐらいの胴体にその頭がくっついたような状態だった。 ぱちぇは知らなかったが彼女がれみりゃを助けた日が満月だったのである れみりゃ種は、満月の日に胴体付きに進化することがあるというその体の変化の為にれみりゃは苦しがっていたのだ 苦しみの理由がわからないれみりゃは自分を育ててくれたぱちぇ達に助けを求めるためにきたのである だが、進化のことをぱちぇは知らなかったし食料の問題が重要だった。 騒ぎに気付いたのだろうか反対の入り口にこぁと2匹の子供たちもやってきた。 そして、次のれみりゃの言葉に彼女は驚いた。 「うーうー!!まんまぁーのうしろのおまんじゅうをだべたいんだどぉーー!!」 「こぁ、れみぃさま。このこたちはれみぃさまのいもうとたちということをゆっくりりかいしてください!」 「むきゅ、こぁのいううとおりよ。ゆっくりりかいしてちょうだい!!」 「むきゅ、れみりゃこわいよーー」 「あのれみりゃは、おかあさんたちのこどもらしいわ。だったら、わたしたちのおねーさんだわ」 「うーうー!!まんまぁーのうしろのおまんじゅうはれみぃのいもうとじゃないんだどぉーー!!」 「むきゅ、あまいきのみがあるかられみぃはそれをたべなさい」 そういうとぱちぇはれみりあが通れない狭い通路に子供を連れて行くようにこぁに指示を出した。 「うーうー!!あまあま♪あまあま!!!」 とれみりゃはおいしそうに木の実を口にほおばって食べるの再開し始めた。 れみぃは、冬ごもりの前に別れるまではゆっくりを食べないと約束を守っていたはずだ。 だが、先ほどの話の内容からするとれみぃはゆっくりを食べているのかもしれないとぱちぇは思った。 ぱちぇは甘いものがなくなったときのれみりゃの行動を考えて寒気がした。 「れみぃ、わたしはおくにいくからなにかあったらよんでね」 「うーうー、まんまぁー!!わかったんだどぉーー!!」」 ぱちぇは巣の中でも奥のほうのれみりゃが通れない通路を移動して奥の部屋に移動した そこでは強い決心をしたこぁの言葉が待っていた。 「ぱちゅりーさま、ここのすをすてましょう!!」 「むきゅ、そとはふゆよ。いまそとにいったらさむくてしんでしまうわ!」 「ゆっくりりかいしてください。れみりゃさまはこどもたちをまんじゅうといいました!!」 「むきゅ!?」 「それは、こどもたちがたべられてしまうということです!!」 「・・・むきゅ・・・でも、れみぃをみすてるなんて」 「こぁ!! れみりゃさまとこどもたちのどちらがだいじなんですか?」 「むきゅ、ゆっくりりかいしたわ!」 「こぁ…それにれみりゃさまはきっとだいじょうぶです」 「そうね、しょくりょうがゆっくり2ひきぶんのこっていたのだからもんだいないわ!!」 最後の言葉は自分に言い聞かせるようにぱちぇがいうとこぁと子供達を入り口のほうに向かわせた。 「むきゅ、わたしはれみぃとはなすからあなたたちはそとでまっていなさい」 「こぁ、ゆっくりきをつけてください!!」 「「おとしゃーん!! ゆっくり気をつけてね!!」」 そんな返事を聞きながらぱちゅりーはれみりゃのもとに戻っていった。 れみりゃは、ぱちぇを見るとうれしそうな顔でぱちぇの方に移動してきた 「うー、うー!! まんまぁー!! れみぃからだがうごかせないんだどぉー」 一気に食べ過ぎたためにおなかが大きくなってしまったれみりゃがそこにいた。 おなかが原因でトンネルに入れず食料庫から出れなくなったようだった。 その様子に苦笑しながらもぱちゅりーはれみりゃに悲しいことを宣告したのだ 「むきゅ。しかたないこね。いまからいうことをゆっくりりかいしなさい」 「まんまぁー!!それよりもれみぃはぷっでぃんかおまんじゅうがたべたいんだどぉーー!!」 「むきゅ。れみぃよくききなさい!ぷっでぃんはないわ!!それからおまんじゅうはたべちゃだめよ!!」 「うーうー!!ぷでぃん!! ぷっでぃん!!! あまあま、だべるんだどぉー!!!」 「れみぃ。ゆっくりりかいしてね!ここにあるむしさんときのこさんをたべながらはるさんまでくらしなさい!」 「うーうー!!ぷでぃん、ぷっでぃん!!!」 「むきゅ!そんなわるいこはままはしらないしにどとあいません!」 「うーうー!!ぷでぃん、ぷっでぃん!!! あまあま、たべたいんだどぉ!!」 「むきゅ。れみぃは、はるがくるまでここではんせいしなさい!!」 「うーうー!!・・・うーうー!?うーうー??」 「れみぃ。いいこにしてればはるにもどってくるからそれまでまっていなさい!!」 そういうとぱちぇは、れみりゃに背(後頭部)を見せると出口に向かう穴に入っていった 「うーうー!!・・・まんまぁー!!」 「まんまぁー!! まってほしいんだどぉー!!れみぃ、いいこにするからいっしょにいてほしんだどぉ!!」 「まんまぁー!! わかれてからずっどぉーーすごいさびしかったんだどぉ!!」 「まんまぁー!! わがままいわないんだどぉ!!」 「まんまぁー!! れみぃはいいこだからふゆごもりのまえにまんじゅうにごはんをわけたんだどぉ!!」 「まんまぁー!! ふゆごもりちゅうにまんじゅうたちがきてれみぃのごはんをたべちゃったんだどぉ!!」 「まんまぁー!! れみぃはいいこだからまんじゅうにいじめられてもがまんしたんだどぉ!!」 「まんまぁー!! まんじゅうたちがまんまぁーをおそおうとはなしていたんだどぉ!!」 「まんまぁー!! まんじゅうたちがまんまぁーのたからものをこわしたんだどぉ!!」 「まんまぁー!! だから、やくそくをやぶってまんじゅうたちをたべてしまったんだどぉ!!」 「ぞれで、ぞれで、からだがあつぐなっでまんまぁーにたすけてもらおうとおもったんだどぉーー!!」 「まんまぁー!! やくそくやぶってまんじゅうをたべたことあやまるんだどぉ!!ぼんどうにごぶぇんなざいーー」 「まんまぁー!! まんまぁーたちのごばんをだべだごどあやまるんだどぉ!!ぼんどうにごぶぇんなざいーー」 「まんまぁー!! ぜったいに、まんじゅうやあままあまたべたいなんていわないんだどぉーー!!」 「まんまぁー!! さっきのまんじゅうがれみぃのいもうとだってわかるからもどってきてほしいんだどぉーー」 「まんまぁー!! おねがいだからすりすりしてほしいんだどぉーーー!!」 「まんまぁー!! れみぃ、まんまぁーたちといっしょにいたいんだどぉ!!」 ……まんまぁー……まんまぁー……まんまぁー 「まんまぁー!! ぼんどーに!ぼんどーに! おねがいでずーー!!でびぃとばるになっだらあってぐだざいーー!!」 「まんまぁー!! おねがいでず。ぞれだけはやぐぞぐじでぐだざいーー!!」 ぱちぇには、最後の約束はできないと思いながら走った。 ぱちぇは、自分の子供だった存在に聞こえないように泣きそうになりながら別れを告げた 「さよなら、れみぃ」 彼女は、れみりゃと2度と会えないかもしれないと思っていた。 冬に巣から出る事は自殺に近いことだからである。 だが、れみりゃがいれば食料が足りなくなるのが明白だった。 どちらにしろ空腹で全滅ならば、子供が1匹だけでも助かればいいと彼女は考えたのだった …そう、実の娘のような存在だけでも… その後の事は、夢中だったためにうろ覚えだった れみりゃの巣に向かうと入り口には、ぱちぇの巣の近くに引っ越してきたゆっくり達の死体が散らばっていた事 少し前に、れみりゃの巣が荒らされていたことがわかったがこの場を離れることにした事 近くのゆっくりにエサを分けてもらいにいったが・・・やはり、誰もいなくなってた事 川の近くの群れで仲のよかったちぇんに助けを求めに言ったが誰もいなかった事 仲のよかったれいむとまりさにエサを分けてもらってそれをくれた人間の話を聞いてその家を奪おうと思った事 そのあとに、ちぇんの子供を見かけて後を追いかけてボロボロになっている時にそこの飼い主に拾われた事 今は、ゆっくりした生活に満足していて家を奪う気はなくなった事 れみぃの話しをしたのはちぇんの親を襲ったれみりゃがれみぃかもしれないと思ったからという事 などの出来事をぱちぇは私に話してくれた。 いろいろなことがあったわねぇとぱちぇが言って睡眠の為に部屋に戻っていった。 私は、ぱちぇの話した内容を書きながられみりゃという生き物についての考えを改めていた それまでは、ちぇんの家族を食べた存在だと思っていたが。ぱちぇと住んでいたれみりゃは・・・ とりあえず、今日はこのぐらいにして寝るとするかな… 次の日のぱちぇ家族 少し前から飼いだしたたゆっくりぱちゅりー達(以下ぱちぇ)が騒いでいる。 「きょうは、ひらがなをぱちぇたちにおしえるやくそくよ。はやくおきなさい」 「「はやくおきなしゃい!!」」 子ぱちぇ2匹と親ぱちぇが騒いでいるのは字を教えると約束したためだ。 昨日の夜に胴体つきのらんの字を誉めたのがいけなかったのだろうか・・・ だって親ぱちぇの字は、ひらがなにみえない(あがのだったり、いが縦線二本) たがらんの字は普通の幼稚園レベルの字だった。 ちぇんだけは、私のアグラの上で寝ているがそれは気にしないことにした。 ぱちぇ3匹とらんとこぁにノートと鉛筆をわたした。では、開始だ 「それじゃ、昨日の夜の復習からだ。あ・い・う・え・お」 「「「「「あ・い・う・え・お」」」」」 復唱をして5匹のゆっくりが自分のノ-トにひらがなを書き始めた。 1週間の結果、4匹とも自分の名前や仲間や身近なものだけは読めるよう書けるようにはなっている。 今は、ひらがなを全部教えようと考えている。 寺小屋の先生に頼んだほうがいいのか悩んだが、できるだけ自分でやることに決めたのだ。 やはり、家族の面倒を見るのも自分の仕事と思ったからだ。 思ったよりも彼女達が優秀なことに驚きながらか行を教え始めた。 そういえば、昨日の夜にぱちぇから聞いた話を考えていた。 ゆっくりれみりゃか気になるな…今日か明日にでもさがしにいってみるかな そうおもいながら、私はゆっくりたちにひらがなの授業を再開した。 最後に一言 「さすがゆっくりだぜ。小学3・4年制度の知識は伊達じゃないんだぜ。ひらがなくらい簡単に覚えれそうなんだぜ」 お耳汚しでした。 【あとがき】 作者名無しです。 ぱちぇたちの冬眠してた頃の話と3話との間の話です。 ゆっくりが胎生だとある程度の知識を継承する設定は、いろいろなSSから学びました。ありがとうございます あと、読んでくださった方とwikiにのせてくださった方に感謝です。 次もかわいいゆっくりゲットだぜ!! 書いたもの かわいいゆっくりゲットだぜ!! 1・2・3 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/275.html
「まりしゃ!これからもずっとゆっくりしようね!」 生まれたときから一緒だった。 「まりさ!これとってもおいしんだよ!」 一緒に行動して一緒の物を食べた。 「まりさの髪ってとってもきれいだね!うらやましいよ!」 私の金髪が綺麗だといつもほめてくれた。 「まりさ・・・!がんばってかわいい子供をつくろうね!」 家族になることを決めたときから大家族を目指していた。 「まりさは狩りが上手だね!いつもごちそうありがとう!」 子供が生まれてからは持ち前の運動神経でたくさんの虫や木の実を巣に持って帰った。 「まりさ!だいすきだよ!」 いつも言ってくれた愛の言葉。いっつもいっつも。 私だって好きだった。愛していた。嫌いだったわけが無い。 確かに喧嘩もしたしそっぽ向いたりもしたけど傷つけたいなんて思わなかった。ましてや殺したいなんて思うわけが無い。 思ってなかったのに・・・見捨てた。私は自分の子供を、れいむを見捨てた。見捨ててしまった・・・!!! それに嘘もついた。些細だったはずのその嘘はあの時、子供達にとって唯一の希望だった。 見られもした。顔を見られ、背中も見られた。 違うんだよ。違うんだって。別に嘘は・・・言ったけど・・・あの状況とは違ったから。 仕方ないじゃない・・!私がいてどうなったの?ただ一緒に食われるだけじゃない!助けられるわけが無かったんだよ!! そんな目で私を見ても無駄!呼びかけても無駄!助かろうとすることが無駄! じゃあ私が逃げたことは無駄じゃなかったの? え・・・?なんで?なんでそういうことぉおおおおおおお!!!! 「無駄なわけないよおおおおぉ!!!そんなこと言わないでよおぉおおおおお!!!」 私とれいむは赤ん坊の頃から仲がよくいつも一緒に遊んでいた。 他の子とも遊んではいたけどお互い二人きりで遊ぶのが一番楽しかった。 遊んでいる途中に食べ物を見つけたりすれば二人仲良くそれを分け合った。 れいむは私の周りのゆっくりの中で唯一私の髪をほめてくれた。人間らしい感情だなどと馬鹿にされるかもしれないが そのれいむの言葉は私の体にとても響いた。 ゆっくりという簡単な生き物にとってそういう縁は次第に愛へと変わっていく。 月日が流れるのは早く、私たちが成体へと育った頃にはお互いにそういう意識をし合っていた。 その後の展開は早かった。ご多分に漏れず、私とれいむも将来を誓い合う仲へと発展していた。 交尾、妊娠が終わりれいむの頭に子供が生り始めると私たちは将来の子供達とのゆっくりライフを語り合った。 子供は何匹欲しいだとか、巣はどこに作ろうかとか、人間達に対する意識の持ち方を教えてあげようとか。 突拍子も無い夢や目標を語る私にれいむはいつも微笑んでくれた。それは赤ん坊だった頃から変わること無い笑顔だった。 一ヶ月後、新しく新調した巣には元気な子供達が20匹程騒いでいた。 特別賢くもないが格段に馬鹿なわけでもない、ただ無邪気な子ゆっくり達を見て私は毎日癒された。 母親であるれいむは子供達の世話を必死にこなしていた。 好奇心に負けそうになり巣から出そうになる子供を止めたり、泣き止まない子供に歌を歌ってあげる等 その姿は正に母親の鏡だった。 一方の私はというとひたすら食料集め、狩りに力を注いでいた。 もともと運動は得意だったから普通のゆっくりよりも多くの珍しいごちそうを巣へと運んでいた。 私がそのごちそうの山を運ぶ度にれいむと子供達は目を輝かせて私とごちそうを交互に見比べたのだった。 おいしそうに虫や木の実をほおばる私の家族。 それを見るだけでもまた、私の狩りの疲れはスーッととれていった。 そう、私にとっては家族の幸せが何よりの食事だったのだ。そうだ。そのはずだ。 だからこそ私は体が泥だらけになってもおいしいごちそうを持ってきたのだ。ほらね。間違ってない。 そんな私をれいむはもちろんのこと、子供達も尊敬していた。当たり前だけどね。 「おとーさんはすごいなあ~。こんなにおいしい食べ物をいつもとってくるんだもん!」 「湖で遊んでた子達にまりさ達のお食事の話をしたらみんなだらだらよだれを垂らしてんだよ!」 「ねーどうしておとーさんはそんなにすごいの?」 子供達はいつも私に質問をしてきた。それは大きくなったら私のようになりたいという思いからきていたのだろう。 「ゆっ!それはね~」 軽い気持ちだった。別に信じてもそんな場面が実際にあるわけないとタカをくくっていたのだ。 「おとーさんはれみりゃ二匹をいっぺんに倒してゆっくりと食べことがあるからだよ~!」 「ほんとー!?」 「ゆぅぅ!!すごいよおとーさん!」 「れいむ今度友達に自慢するよ!」 「だめだよ!これを知られるとれみりゃが嫉妬してその子達を襲っちゃうかもしれないからね!この話は誰にも内緒だよ!」 「ゆぅ・・・わかったよ、おかーさんにもいわないよ!」 「誰にも内緒だよ!」 「ゆっ!みんな良い子だね!」 これでこの嘘は誰にもバレずに私は子供達からより多くの尊敬を集めることができる。 親ならば一度はやるであろうそんな行為。ただそれだけのちょっとした嘘だった。 あの日。 私はいつも通り巣からちょっと遠出し、子供達のためにごちそうを集めていた。子供達の為に。 夕方、捕食種も出てくるこの時間にまともなゆっくりは出歩いたりはしない。 だが、私は捕食種からも逃げ切れるだけの逃げ足を持っているのでこの時間ギリギリまで食事を集めていた。 それでももう日も暮れはじめている。ここが瀬戸際だ。 私は口の中いっぱいにごちそうを詰め込み家路につこうとした。そのときだった。あれは、私の5m程先を飛んでいた。 「「「う~う~かりかり~♪」」」 捕食種の代名詞ゆっくりれみりゃ。通称れみりゃ。我がままで団体行動がまともにとれないくせに他のゆっくり種よりも 攻撃性、腕力がある為に捕食種として幅をきかせている、正直腹立たしい生き物だ。 そんなれみりゃが・・三体?どうして? 野生のれみりゃなら一匹でも十分食事は確保できるはず。一匹で行動する方が手慣れているれみりゃが三匹とはいえ群れを作るなんて。 だがその時はそんなことは大して気にならなかった。 重要なのは彼らが私に気づかずにどこかに消えてくれることだった。 息をひそめてれみりゃが見えなくなるのを待った。 人でいう五分程だろうか。れみりゃ達は私の視界から完璧に消えた。 今日も生き残ることができた、緊張から解き放たれた私はふぅと一息吐いた。口の中から虫の足がひょっこりと出てくる。 ああそうだ、このごちそうを早く子供達とれいむに食べさせてあげないと。私も早く帰らないと。 木陰から這い出た私は再び家路につきはじめた。 ここで気づく。今私が進んでいる道。この道は・・・あああこの家路はああああ 今れみりゃ達が進んでいった道だああああああああああ!!!! 私は急ごうとした。れみりゃ達よりも速く家に着こうとした。だけど・・だけどお!!! 進んだられみりゃが前にいるぅ!!三匹もいるから回り込んでたら気配で気づかれるよぉ!!! 私はその場で立ちすくんだ。進めばれみりゃ、止まれば家族が・・・ どうしようどうしようどうすればどうすればどうすれば ああああああああああああああああああああああ 待とう。 今行ったられみりゃに食べられる。そしたら家族には何も伝えられない。そうだ、この判断は正しい。 普通のゆっくりには到底思いつかない冷静な判断だ。そうだそうに違いない。 れいむも子供達も同じことを言うだろう。よし待とう、そうしよう。 こうして私はその場所ですこーしだけゆっくりした。別に怖かったわけではない。これは作戦だ。 家に着いたばかりのれみりゃ達の虚をつく。私ならできる。そうだあれは作戦だったのだ。そうに違いない。 だから私が一眠りしてしまったのも作戦だったのだ。体力温存の為の作戦。そうに違いない。 目を覚ますと外はもう夜だった。綺麗な月が出ていたこと、それが三日月であったことは覚えている。 ただ、そこからどうやって家族のもとへ行ったのかは覚えていない。 気づいた時には体中傷だらけで自分の巣である木から10m程離れた所の木陰にうずくまっていた。 私は静かに巣の様子を覗いた。あのれみりゃ達がここをスルーしてくれていることを願って。 だがそこには奴ら三匹が当然であるかのように立っていた。 そして聞こえる笑い声、叫び声、泣き声。 あぁ、一体何匹が犠牲になったんだろうか。せめてその中にれいむは、れいむだけはいないことを願うしか無い。 暗い夜が三日月の光のおかげで幾らか明るんでいる。 いつもだったら子供達と一緒に軽くこの辺をお散歩しようと思う程のいい夜だった。 だが今日は違う。一緒にお散歩ができる子供達が今や1、2、3、・・・ あれ?全員確認できる。子供達どころかれいむもはっきりと生きている。 じゃあいったいれみりゃ達は何をしているんだ。まさか遊びにきているわけではないだろうに。 この瞬間、私はさっき聞こえていた叫び声と泣き声を完璧に忘れていた。 その二つの声が遊んでいる時に聞こえてくるわけが無いのに。 しかし、その甘い考えも次に聞こえてきた悲鳴で軽く吹き飛ぶことになった。 「いやあああああ!!!おくちがあああああああ!!!」 「う~!お口もっとかぱかぱしろ~!」 その悲鳴はれみりゃの一匹が私の子供の口を限界以上に開こうとした時に我が子から発せられたモノだった。 一体そんなことをして何になるのか。れみりゃは執拗に子供の口をカバの様にしようとしているらしい。 「いはあああああああ!!!おふひがはけふうううううう!!!」 「なれ~!かばさんになれ~!う~!!」 「ふ、ふりだよ~!ほれいほうひらはなひよぉ~!!」 「わっからな~い♪なにいってるのかわっからな~い♪う~!うぅぅぅぅ~!うっ!!」 あぁ!とうとう力任せにれみりゃが子供の口を引き裂いた!れみりゃの手にピピッと餡子が小さく飛び散る。 当然子供はその痛みに黙って耐えられるわけが無い・・ 「いはああああああんんんっっむごああはあああああんんっむごはあああああ!!!!」 「うっう~!ぱかぱかぱかぱか~♪」 叫び続ける子供におかまい無しに口をぱかぱかと閉じたり開いたりさせるれみりゃ。 止むことの無い子供の叫び声がれみりゃの手によって滑稽な声へと変わっていく。 「う~あきた~う~」 もう飽きたのか子供の口の開閉を止めるれみりゃ。そのままここから立ち去ってほしい。 そんな願いが届くわけが無いことは今日彼らを見たときから分かっていた。 「おめめぶちゅ!」 おもむろにれみりゃは口裂けの子供の眼に指二本を差し込んだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 まるでお化け提灯の様に口が開きっぱなしの子供にはそれ以外の叫び声ができなかった。 その痛みが私の耳を通して共感できる程に、その叫び声は痛ましい。 「ぱかぱかがこれでりゃくりゃく~!れみりゃてんさい!う~!!」 眼に指を引っかけることができるので握る手間が省けた、ただそれだけで私の子供の眼を奪ったというのか・・・ 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おがあああざあああんはあ゛あ゛あ゛あ゛!!!おどーざあああああんはあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 やめて。呼ばないで。今は助けにいけない。まだそのチャンスはきていない。それが来るまでここで待たなきゃいけない。 「おどおおおおざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んんはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 無理、助けにいけない。その場の空気がまだ適した物じゃない。 「どおおおおおおおおおおざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 無理だって・・・!気づいてよ・・!れみりゃ三匹が戦闘態勢にすぐにはいれるこの・・・並び・・布陣?そう、布陣。 それがしっかりしている今は助けにいけない。今は耐えて・・・! 「どお゛お゛お゛お゛お゛はあああああ・・・・」 声が止んだ。 「う~ねむっちゃった~」 「じゃあつっぎ~♪」 「いやああああ!!どおしでええええ!!!どおしてこんなことするのおおおおおお!!?」 れいむの叫び声が聞こえる!そうだ、何ですぐ食べないでこんなことをわざわざ三匹でするんだ! 「にんげんにきいた~♪」 「たっくさんいじめると~ゆっくりはとっってもおいしくなるって~♪」 「だかられみりゃたちでいじめるの~♪おいしいゆっくりあまあまするため~♪」 そんな・・・私たちにそんな恐ろしい呪いの様な特徴があったなんて・・・ ということはあそこにいる皆今の子供みたいに酷い目にあうことになるの・・? 改めて目を凝らす。 10匹しっかりといる子供の五匹はもう既に大地に寝そべっている。 皆どこかしらからか餡子を少し垂れ流している。 あれで生きてるなんて。余程このれみりゃ達は手慣れているのだろう。 じゃあ、私が今あそこに躍り出ていったら。 まだその時期じゃない。チャンスを待つんだ、チャンスを。 「おねがい!もうやめて!れいむがなんでもしますからぁ!!!」 え?何いってるのれいむ。そんなこと言ったら! 「なんでも?」 「なんでもぉ?」 「なんでも~♪」 あああほら調子乗ってきたじゃないかああああああ やめてれいむ。れいむがいなくなったらそれこそ耐えられない。それだけはだめなんだよ。それだけは。 他の子達は・・・いや、それは言ってはいけない。それも言ってはいけないんだ。 「おくちあ~んしておくち!」 「ゆっ・・!わかったよ!あ~ん!」 「よいしょ!」 あっ、一匹のれみりゃが手近にあった、いや、いた私の子供をぎゅっと掴んだ。 「ぐゆっ!?ななななに!?ゆっくりはなしてね!」 「ぽーい!!」 当然れみりゃは子供の声に耳も貸さない。そのまま思いっきりれいむの口の中に子供を放り投げた。 「うごぇ!!?むぐぅうう!!!」 口に入った途端他のれみりゃがれいむの口を強く抑えた。まさか共食いさせる気じゃあ・・・ 「うー!これかられみりゃ達がれいむをぼこぼこにするよ!お口の中の子を潰さなかったられいむのかち~」 「でも潰したられ見りゃたちの勝ち~!」 「お口から子供だしたら、そのときはすぐにあまあま~ね♪」 「!!!!!!」 れれれれいむをぼこぼこにする!? いや、やめてえ!!そんなことしてなんになるのお!! 「それじゃあすたーとぉ!!!」 「・・・!んぐぅ!んぐっ。んぎぃ!!?んごぉ!!」 「ぼっこぼこ~ぼっこぼこ~れいむのおかおをぼっこぼこ~♪」 「おいしくな~れ!おいしくな~れ!」 三匹がかりで前後左右に均等に拳をれいむに沈めていくれみりゃ達。 口の中の子供に多少の衝撃が伝わるのかうっすらと幼い悲鳴が聞こえてくる。 「ゆぎぃ!?おがーしゃんなにぃ!!?だして!暗いよ!ゆっくりできないし・・ひぃっ!?」 れみりゃの拳がどずんどずんと音を立てる。最初よりペースを上げているのだろう。 人間にとってはとるにたらないその幼い攻撃も、れいむやその子供にとってはまるで鉄球の様に響くのだろう。 「おがーさああん!!くらいよお!!うるさいよお!!だしてええええ!!」 くぐもった声は止まるのをやめない。その情けない声は助けを呼んでいるだけだ。 これだから子供はだめなんだ。私だったら隙をみてすかさずれみりゃ達に攻撃を仕掛けるだろうに。 そう、私だったらあの真正面のれみりゃが手を引いた瞬間に・・・ 「おどーざあああんん!!!おどーざあああああん!!!おどおおおおおおおざああああああああんん!!!!」 「おとーさん・・・そうだよ!おとーさんがきたらお前らなんかやっつけてもらうんだからね!」 「おとーさんは強いんだよ!れみりゃ達なんてぽんぽーんだよ!」 「お前らなんか明日の朝ご飯になっちゃえ!」 れいむが子供達に訴えかける様に睨みつけている。その顔は今まで私ですら見たことが無い程の緊張感と喪失感に満ちている。 れみりゃ達の手が止まった。 「れみりゃたちよりつよい~?」 「ぽんぽ~ん?」 「あしたのあさごは~ん?」 「「「それじゃ~あ!」」」 各々のれみりゃ達が一匹ずつ子供達を握り 「「「今日の夕御飯を~!!」」」 「いや!やめてえ!うんぐ!!?」 それを・・・あああ、れいむの口の中に放り込んでぇえ 「「「はやめにするう~!」」」 三匹でまた殴りはじめたぁ!!! 「うぐぅ!?おぶ!!うぎい!ぐんぐ!!ぐうううううううう!!!」 「いやあ!!暗い狭い!!なんで入ってきたのお!!?びゅ!?」 「いだいいい!ちゅぶれりゅううううう!!」 「おがーさんのおお!!!おがーざんの歯がささっだああああ!!!」 「れいむのりぼんがあ!!おかーさんの喉のんぎゅ!!?べへぇ!?れいむあんこがぁぁぁ!!!」 さっきの4倍の体積がれいむのお口の中に入り込んでる・・・! あれじゃあ子供達どころかれいむの餡子もでてきちゃうよおお!! 動くしか無い。作戦なんてどうでもいい。ただれいむを助けたい!ここで止まったらゆっくりがすたる。 いくぞまりさぁ!これがほんとのゆっくりだまし・・ 「あぁ!おとーさんだぁ!!!」 え 「ゆっ!?おとーさん?」 ばか 「本当だ、おとーさんだあ!!」 バカァ 「おとーさん!はやくれみりゃ達を明日のご飯にしちゃってね!!」 馬鹿馬鹿馬鹿ぁ・・・ 「うっう~♪おっとーさんを~みっけたみっけた~!」 バカアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! 倒す前にばれっちゃったじゃないかあああ!!こんなんで倒せるわけないよおおおお!!!! これだから馬鹿な子供はだいっきらいなんだよ!!しね!さっさと死んでね!!! でも、れいむ、れいむをたすけないと!! 「・・・んぐ・・!むぃさぁぁ・・・」 れいむ・・・口を開けられないのにそれでもまりさに助けを求めてるんだね。わかったよ、今すぐ 「おとーさん!おかーさんの口かられいむ達を助けてね!」 「はやく!はやくだしてぇ!」 「でてるぅ!まりさの体からあんこがぁ!!」 「れいむのぉお!れいむのリボンがぁああ!!!」 うるさいよ!!馬鹿な子供達は少し黙っててね! そもそもお前達が騒ぐからタイミングを失ったんだよ!そのままれいむに食べられちゃってね! 「がお~た~べちゃ~うぞ~♪」 うわあああああきたあああああああ!!! 作戦作戦作戦作戦さくせんさくせんさくせんさくせんサクセンサクセンサクセンサクセンskすかうsっkすあkすえかう 「「「がお~!!!」」」 むりいぃいぃぃぃぃ!!!!いやあああああああああああああああああ!!! 「おとーさん!?」 「どーじでにげるのおおおおおお!!!」 「まっておとーさん!まってええええ!!!!」 「・・・・・・!!!!むぃ、むぃさあ!?まりさあ!!」 「あ!おくちあけたあ!えいっ♪」 「ゆぎゅう!?おがあざ・・・」 「ああああああ!!!れいむのおおおおおおお!!!」 走りながら気持ちを落ち着けていくまりさの後ろで二つの悲鳴が聞こえた。 ああ、れいむの悲鳴も聞こえる。でも大丈夫。悲鳴が聞こえるって言うのは生きてるってこと。 今はまず自分の安全の確保だ。 「またみえた!えいっ!」 「いぎゃあ!!いやああああああ!!!」 「おがーざんおくちしべてえ!!!」 「はやくはやくぅう!!!」 「ああああああああああ・・・」 「うっう~あまあm・・・・」 声が次第に遠ざかっていく。待っててねれいむ。きっと助けるからきっと。 「まてぇ~オトーサーン♪」 「朝ご飯にしてみろ~♪」 だれかたすけてぇ!!!だれかぁ!!!! 二匹のれみりゃがまりさをおってくるよぉ!! こんなに頑張ってるのにあの二匹はまるで諦めない。羽で空を飛んでるのに森の木々をすいすい避けていく。 ずるいずるい!まりさもお空を飛んでにげたいよぉ!! 今まりさの願いが叶うなら翼をください!ゆっくりの神様ぁ!! ゆっ!これは・・・!目の前の景色は、神様が願いを叶えてくれたのだろうか。そうこれなら飛べる、とても高く素早く!でも・・・ 崖じゃあ生きられないよぉ!!がみざまぁ!!! 「うっう~おいつめたぞぉ~!」 「めいどのじかんだぞぉ~!」 追いつめられたぁ!! おねがいじまず!子供達はあげるからまりさはたべないでくだざい!おねがいじまず! 「子供達はたべちゃうよ~」 「でもおとーさんもたべちゃうよ~」 やめでえ!!まりさはおいしくないからあ!ウンコみたいな味がするからあ! 「じゃあおとーさんのいじめ方はぁ」 「馬乗りでぼっこぼこ!」 いやあ!だずげでえ!!うぎゅぅ!?なにもみえないよぉ!!? 「あごの方は短くて乗れないからお目めに乗っかってぼっこぼこ!」 いやああああああああああああああ!!!!いやだあああああああああああああああああああああ!!!!! あれ?なぐられない? どうしたんだろ。怖くて目をつぶっちゃったけど今は暗闇を作った元凶も消えてみるみたい。 何か聞こえる。ちょっと目を開けてみよう。フェイントだったらイヤだよぉ・・・ 「・・・・ぎゃ・・・・ああああ・・・・・」 ゆっ!?れみりゃがれいむの上で痛がってる!? 叫んでるみたいだけどれみりゃの両足がまりさの耳をちょうど押さえつけていた何を言ってるのか分からないよ。 あ、どいた。 「いっぎゃああああああ!!!おめめがあぁ!!」れみりゃのお目めがぁ!!!!!」 叫んでいるれみりゃが手で押さえている目を見るとそこはぶくっと大きく腫れている。 一体何が怒ったのか。私は今までに出したことが無い様な大声で叫んだだけだ。それがダメージにでもなったというのだろうか。 その謎は私の足下にある物が解決してくれた。 そこにはお口に入れてたごちそうの数々、山菜、木の実、ダンゴムシ、ムカデ。 「ささったぁ!!おめめに虫さんがささったぁ!!!」 そう、れみりゃの目には私が叫び声とともに勢いよく吐き出したムカデの顎がうまい具合に刺さったのだ。 「う・・うぅ~?う・・うー・・・!」 今までに無い程騒ぎわめく仲間に戸惑いを隠せないもう一匹のれみりゃ。 チャンスだ。これこそ私が求めていた絶好の機会だった。 静かにもう一匹のれみりゃの背後に回った私は絶好の機会の中の最高の機会をじっと待った。 声を出しては終わりだ。だが心配は無い。私はあの子供達の様に愚かでは無いのだから。 そして今、二匹のれみりゃが私と崖の直線上に揃った。よしっ! 「ゆっくりしねええええええええ!!!!」 スッ !?交わされた!馬鹿な!タイミングはばっちりだったのになんで!? 「うっう~ば~か!そんな大声だしたら・・・」 「いだいいいい!!!たずけでえええ!!!」 「う~!じゃま!どいてえ!!うー!!」 眼を押さえるれみりゃがもう一匹のれみりゃにまとわりつく。未だに痛みは引かないらしい。 むしろ激しくなっているのだろうか。その動きはこの場所の地形を全く忘れた動きだった。 「いやー!はなしてえ!!押さないでえ!いやー!!」 「いだいよお!!れみりゃのおめめだれかなおしてえ!!!ああ・・・ああああああ」 「「あああああああああああ!!!!!」」 抱き合ったまま奈落へと吸い込まれていく二匹。 片方が飛ぶことを忘れたままもう一匹に抱きついている為互いに空を飛ばずに仲良く落ちていった。 しかし・・・夢ではないだろうか。このゆっくりまりさである私が捕食種二匹相手に見事に勝ち星を奪ったのだ。 そうこれは、あの、子供達についた、些細な嘘が、現実になった瞬間なのだ・・・ ぃぃぃいやったあああ!!!勝ったよれいむ!みんな!まりさはとってもつよいつよいおとーさんだよ! ゆぅー!これでれいむにも嘘つきだなんて思われないよ!子供達もよりいっそう喜んでくれるだろうね! たのしみだなあ、ゆっゆっー!! 『すごいなあーおとーさん!』 『れいむ今度ぱちゅりーにじまんしちゃお!』 『まりさもおとーさんみたいになりたいよぉ!』 『さすがまりさだね、かっこいいよ!』 ゆっふっふ。皆の喜ぶ姿が目に浮かぶよぉ。 ただいまぁれいむぅ!ゆっ? 現実に戻された。 私の家はいつもより茶色な土壌、気にこびりついた子供達、こちら側に背中を向けて直立しているれいむと一緒に私を出迎えてくれた。 直立・・・いやまて、本当にれいむは生きているのだろうか。既に顔がないということもあり得る。 私は酷く冷静なままれいむの顔をゆっくりと直視しにいった。そこには あった。いつもとは違い歪にぼこぼこになったれいむの顔が私をしっかりと見つめていた。 た、ただいま。れいむ 私はなるべくれいむの体に差し障りの無い様に静かに帰宅の言葉をつぶやいた。 いつもの様にゆっくりしていってねと言っては本能のままに体を動かしてしまうかもしれないと思ったからだ。 今のれいむの状態ではそれだけでもダメージになりかねない。いやあ、賢い私。 「どうして」 ん? 「どうして帰ってきたの」 何を言っているのか。ここは私たちの家だから帰ってきたのだ。 「どうして帰ってこれたの」 また馬鹿なことを、いつも住んでいるんだから道ぐらい当然知っている。いったいどうしたっていうんだ。 「どうしてかえってこれたのおおおおお!!!!」 えっ!? 「あんなに子供達がまりさのことを信頼してたのになんであそこで逃げたのぉ!!! 皆おとーさんおとーさんって必死にさけんでたのにぃ!!!それなのにぃ・・・ぞれなのにぃ!!!!」 ま、まってれいむ。口から餡子が飛んでるよ。 あれ?れいむ、口の中は別に怪我してない。ってことは・・・ 「はじめてきいたよ!まりさ、れみりゃを二匹も倒したことがあるんだって!?」 ゆっ!どうしてしってるの!?そうだよ、さっきそこの崖で見事に私が、 「なんでそんな嘘をこどもたちについたのお!!」 ゆっ!? 「あんな嘘を聞いてなかったらまだ希望を持たずに楽になれたろうに・・・! あんな嘘のせいで子供達は余計な期待を抱いてしまったんだよ!! れみりゃ達に敵うはずのおとーさんがなんで私たちをおいて逃げたの? おとーさんは私たちのことが嫌いなの?って叫びながられいむに聞いてたよ!!!」 いや、嘘じゃないよ!まりさは本当に 「みんな!みんなぁ!!!みんなしんじゃっだああああ!!!れいむのこどもだぢいいいいい!!! まりさが助けにきてくれればどうにかなったかもしれないのにぃ!!!まりさながおとりになってくれればぁ!!!」 な、なんてことを言うの!!ひどいよれいむ!! 「まりさなんて食べられちゃえばよかったんだぁ!!!家族を守れないまりさなんて大嫌いだ!! しねぇ!!!ゆっくりしねえええええ!!!」 なんて言ったの今。 しね?れいむがまりさにむかってしね? 違う・・・そんなことれいむは言わない。そんなひどいことれいむは言わない。 そんな汚いことをれいむはいわない。絶対に言わない,れいむは言わない。 一緒に遊んだれいむは 一緒にごはんをたべたれいむは 髪をほめてくれたれいむは 家族になったれいむは 狩りをほめてくれたれいむは 大好きだと言ってくれたれいむは そんなこと・・・そんなことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 「おまえはれいむじゃない!!まりさのれいむなんかじゃない!!しねえ!!さっさとしねええ!!!!!」 ぼこぼこのれいむに体当たりをかましその上でストピングを始めるまりさ。 もうれいむ自身に抵抗する力は無かった。 「おまえは偽物だ!かえせ!!本物のれいむをかえせえ!!」 「そう思ってれば!まりさは一生そうやって自分の都合のいい様に生きていけば!!?」 「だまれえ!!れいむの偽物はだまってしねえええ!!!」 「ごめんね、皆・・・こんなおとーさんを選んだれいむが馬鹿だったよ・・・」 「だまれぇ・・・!だまれえええええ!!!!」 「次に生まれるときはぱちゅりーと結婚しようね。」 「だまってよおおおおおおおおおおお!!!!!!」 れいむが潰されているにもかかわらず、まりさとれいむとの会話はまるで電話での会話の様にスムーズに進んだ。 1時間後、まりさの足下には餡子一粒の隆起さえ見当たらなかった。 それでもストピングを続けるまりさは気づかない。気づけない。 「だまれ!だまれ!!だまれえええ!!!」 誰に言ってるのか。少なくとも後ろのモノに対してではなかった。 「だまってってばあああああああ!!!れいむうううううううう!!!!」 崖の下の惨状を見たそのモノはまりさを食料とすら思っていない。 ただ必死に叫び続けるまりさをどうやって苦しめるか考えていた。 そうだ、こいつがはねるのをやめたら・・・ 「だまってえええええええええ!!!おねがいいいいいいいいいいいい!!!!」 半日後、まりさは自分の嘘を完璧に立証することになる。 まりさが勝てたのはやはり二匹までだったのだ。 完 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/885.html
あるところに、ゆっくり霊夢の家族がいた。 親ゆっくり霊夢に赤れいむ3匹、そして赤まりさ3匹。 もう片方の親であるゆっくり魔理沙は、まりさ種らしくもなく家族が野犬に襲われた際に囮となった。 巣に逃げ帰った親れいむは親まりさの帰りを待ち続けたが、結局帰ってくることはなかった。 そして残された、パートナーとの愛の結晶である6匹の赤ゆっくり。 れいむは全ての愛情を注ぎ込んだ。忙しい毎日だったが、赤ゆっくりがいてくれて幸せだった。 そしてそのような幸せをぶち壊すのが大好きな男がいた。言うまでもない、虐待お兄さんである。 男は新しい虐待法を思いついており、生贄となる家族を探しに森へ来ていた。そこに、 「じゃあお母さんはご飯を探してくるよ!ゆっくりまっていてね!」 「「「「「「ゆっくちまっちぇるね!!」」」」」」 という声。格好のターゲットだとほくそ笑む。 そして巣から出てきた親れいむをすぐさま掴み、持ってきた加工場製透明ケースへ放り込んだ。 「ゆ!なんなのお兄さん!はやくここから出してね!」 必死に出ようとガタガタとケースを揺らすが、当然この程度ではビクともしない。 男はわめく親れいむを無視して、箱を持ったまま戻り、親れいむは一旦隣人に預けた。 もちろん、この隣人も虐待仲間である。 一時間後。 「ゆー…………おかあしゃんおちょいね…………」 「ゆっくちしすぎだよ…………」 食欲旺盛な赤ゆっくり達には早くも空腹が訪れていた。 再び巣の前まで戻ってきた男は、入り口に少量のお菓子をばらまく。 「ゆ!なにあれおいしそう!」 見つけたと思いきやすぐさまかけよる赤ゆっくり達。 あっという間に群がり、ガツガツと食いつき始める。 「「「「「「むーしゃ、むーしゃ!ちあわちぇ~!」」」」」」 投下したお菓子は少量だったため、一瞬にして無くなった。 当然赤ゆっくり達は満腹とはいかないが、これも男の計算である。 「やあ。お菓子はおいしかったかな?」 「ゆ!これおにいちゃんがくれたの!」 「ありがとう!すごくゆっくちできたよ!」 「でもちょっとたりないね!もっとちょうだいね!」 図々しくもさらなる食事を要求してきた。 男は叩き潰したい衝動を抑えながら、赤ゆっくり達を背に歩きながらこう言った。 「ああ、いいよ。ただし次は競争だ。一番早くここまでこれた子に、お菓子をいっぱいあげるよ。 早く来れば早いほど、たくさんのお菓子を食べられるよ」 しばらく歩いた後、これまた極少量のお菓子を足元の地面にばらまく。 「じゃあスタートだ!はやくしないと他の子に食べられちゃうよ!」 少しの間赤ゆっくり達はぽかんとしていたが、その後いっせいに跳ね出した。 全員空腹で何としても食べたいのだろう、皆必死な顔をして向かってきている。 男にとっては誰が一番になろうとどうでもいい。ここで大事なのは着順である。 どのゆっくりが何番目に到着するか、それが後の虐待で重要な意味を持つのだ。 数分後、全ての赤ゆっくりが男の元へ到着した。 やはりまりさ種の方がれいむ種より速いようで、上位3位は赤まりさが独占した。 しかし、ばらまいたお菓子は一番に到着した赤まりさに全て食べられていた。 しかもその赤まりさすら満足しきれない少量である。 「もっといっぱいちょうだいね!」 「かわいいれいむに、おかしをもってきちぇね!」 「おなかすいたよ!はやくちてね!」 清々しいくらい偉そうな態度である。 予想していたとはいえ、やはり腹は立つ。 「よし、じゃお兄さんの家へ来ないかい?たくさんお菓子が食べられるよ!」 「ゆ!おかしがたくさんあるの!」 「はやくつれていっちぇね!」 それを聞くと、男はあらかじめ容易しておいたケースに赤ゆっくり達を入れていった。 このケースは、着順が分からなくならないようにするため中を仕切りで分割されている。 この日のためにわざわざ作っておいたのだ。 「わ~い、おちょらをとんでりゅみたい!」 「たのちいね!」 赤ゆっくりはこれから身に起こることも知らず、無邪気にきゃっきゃと騒いでいた。 男は家に着くと、お菓子も与えず2階のベランダへ向かっていった。 そこには隣りの家のベランダへと繋がる木材があった。幅は赤ゆっくりよりわずかに大きい程度と極めて細い。 その上に赤ゆっくり達を、先ほどのレースで遅いものが前になるように並べていく。 即ち、前に赤れいむ3匹、後ろに赤まりさ3匹である。 ちなみにこの木材、最初は鉄骨のつもりだったが都合の良いものが手に入らなかったので却下された。 「こ、こわいよ!たかいよ!」 「ゆ、ゆっくちやめちぇね!」 ガタガタとふるえ出す赤ゆっくり達。 人間でもこの高さから落ちたら怪我は免れない。体の弱い赤ゆっくりが落ちれば確実に潰れるだろう。 「お菓子ほしいんでしょ。この橋を向こうの家まで渡ればお菓子をたくさんあげるよ」 「ゆ!いやだよ、こわいよ!」 「こんなのわたりたくないよ!ゆっくちたすけちぇね!」 さすがに命の危険を感じれば、お菓子よりも身の安全を優先するようだ。 しかし、この日のためにわざわざこの木材を苦労して作ったのだ。渡らせない気はない。 ここで母れいむを抱えた隣人お兄さんに出てきてもらう。 「お前ら、あの家をよく見てみろ」 「ゆ…………あ、あれは、おかーしゃん!?」 「れ、れいむの赤ちゃんたち!なんでこんなところに…………ふ゛へ゛っ゛」 隣人お兄さんには殴る蹴るの暴行を加えてもらう。もちろん死なない程度に。 さすがは虐待家、生き生きとした表情だ。 「やめちぇね!ゆっくちやめちぇね!」 「おかーしゃんをいぢめりゅなー!」 暴行の間、赤ゆっくり達は色々叫んでいるが、やはり怖いのだろう。橋を渡ろうとはしない。 そんな赤ゆっくり達に向かって、隣人お兄さんが言い放つ。 「ククク…………親を助けたいか……赤子共………… ならば渡れっ…………この地獄への橋をっ…………! ここまで一人でも来れれば助けてやろう…………カカカカッ…………!」 それにしてもこの隣人お兄さん、ノリノリである。 赤ゆっくり達はしばらくはまごまごしていたが、身の危険より親への愛情が高かったようだ。 ついに先頭の赤れいむが、ついに動き出した。 「ゆっくちおかーしゃんをたちゅけるよ!」 「ゆ…………そうだね!みんなでたちゅけようね!」 赤れいむに引き続き、後ろの赤ゆっくり達も少しずつ動き出した。 跳ねるのはやはり危険だと感じているのか、皆這いずるような動きである。 長さは10メートルほど、親ゆっくりならいざ知らず、赤ゆっくりにとってはかなりの距離である。 しかし愛する親を助けるため、恐怖を感じながらも少しずつ進んでいった。 スタートから何分経っただろうか。今のところ落下したゆっくりはいない。 元々幅は赤ゆっくりより少し大きめである。急がない限りはまず落ちることはない。 もう先頭の赤れいむは橋の半分を超えるところまで来ている。 「けっこうかんたんだね!」 「でもきをつけて、ゆっくちすすむんだよ!」 「れいふ゛のあか゛し゛ゃん…………ゆっく゛い゛か゛んは゛って゛…………」 「ほーう、さすがに簡単には落ちないものなんだな」 「ククク…素晴らしいっ……!歓迎するぞ……道開く者……勇者よ……!」 赤ゆっくり達は互いに励まし合いながら進んで行き、親れいむも満身創痍で応援している。 確かにこのまま進んでいけば誰一人落ちず、親れいむの元へ到着するだろう。 だがそれでは何一つ面白くない。いよいよこいつを出す時がきたか。 「はーい、では皆さん聞いてくださーい! この木材渡りにもう一人参加者を追加させまーす!」 「ゆ?もうひとりふえりゅの?」 「だれかな?まりさたちかぞくはみんないりゅよ」 振り返る赤ゆっくり達。そして男の部屋からベランダへ、一匹のゆっくりが飛び出した。 「魔を招き入れての狂宴の舞……パーティーの扉が開く……クククク……!」 「うー!うー!」 「「「「「「れ、れみりゃーーーー!!!!」」」」」」 「あ、あか゛し゛ゃんた゛ち゛!はやく゛にけ゛て゛ね゛!」 パタパタと飛んで現れたのは、隣人お兄さんのペットである体無しれみりゃ。 体付き共とは違って可愛く素直なので、男も気に入っている。 れみりゃは橋の後ろから、飼い主の事前の命で速度を落として飛んでいる。 とはいえ赤ゆっくりが細い橋の上で跳ねる速度よりは速く、少しずつ差は縮まっていく。 赤ゆっくり達も必死で逃げていくが、ここで遅い順に並べた効果が発揮される。 「ゆ!はやくすすんでね!」 「おちょいよ!ゆっくちちないでよ!」 「が、がんばってりゅよ!」 全力で逃げようにも、前にいるのは自分より遅い赤ゆっくり。当然前がつかえる。 どうやら1番手と2番手の赤れいむ、そして5番手と6番手の赤まりさの間がつかえたようだ。 さぞかし後ろにいる赤ゆっくりは焦っていることだろう。 「ぎゃおー!たーべちゃうぞー!」 れみりゃとの差は容赦なく縮まっていく。 実はこのれみりゃ、隣人お兄さんの合図があるまでは赤ゆっくりに喰いつかないように話してある。 単に喰らい尽くして終わるより、パニックになる赤ゆっくりを見ている方が楽しいからだ。 しかしそんなことゆっくり達には知る由も無く必死に逃げるが、空を飛べる捕食種れみりゃには適わない。 ついに6番手、つまり赤ゆっくり達の最後尾にいる赤まりさに追いついた。 赤ゆっくり達の中では最速とはいえ、こう前がつかえていては進めない。 「おち゛ょい゛よ゛お゛お゛おお!!!ゆっく゛ち゛ち゛ない゛て゛え゛え!!!」 「これいじょうはやくできないよ!ゆっくりがんばるね!」 「うー!うー!」 「た゛す゛け゛て゛え゛え゛え゛えええええ!!!」 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら喚く赤まりさ。 笑顔で追いかけるれみりゃと比べると、何と醜い顔だろう。 「さて、ああ言ってるがどうするよ?」 男はれみりゃをけしかけた後、すぐに隣人お兄さんのベランダまで来た。 もちろん白熱のレースを正面から見るためである。 「ククク……ずれた命乞いだ……」 スッと隣人お兄さんが右手を上げる。『食べてよし』の合図だ。 それを見たれみりゃは嬉しそうに噛り付いた。 「うー!」 「い゛き゛ゃあ゛あ゛あ゛あああああああ!!!!!!」 「れ゛いふ゛のあ゛か゛し゛ゃんか゛あ゛あ゛あ゛!!!」 どんどん食べられていく赤まりさ。 しかし赤ゆっくり達は他人に構っている暇はない、振り返ることもなく進んで行く。 食べられている間はれみりゃの動きは止まるが赤ゆっくりは小さい。食べるのに時間はかからないだろう。 「ゆっく゛ち゛……ちたか゛った゛よ……」 そう言い残し、赤まりさは息絶えた。 赤まりさ一匹では満足できないのか、すぐにれみりゃはうーうーうなりながら動き始める。 あっという間に5番手の赤まりさとの距離は縮まっていく。 「いやあ゛あ゛あああああ!!!!れみりゃこわい゛い゛いい!!!」 後ろからはすぐにれみりゃのうなり声が聞こえてきて、完全に恐怖で取り乱している赤まりさ。 そんな精神状態で、幅が自分よりわずかに広い程度の橋を渡ればどうなるか。 「ゆ!!!!!!!」 れみりゃが追いつく前に、自ら足を踏み外した。そうなると後は重力に従い落下していくのみ。 数秒後、地面にはわずかな餡子が広がっているのであった。二人目の犠牲者である。 そして先頭集団でも異変が起きていた。 「ゆー!!おそすぎりゅよ!!」 「これでもがんばってりゅよおおおおお!!」 先ほどから1番手の赤れいむと2番手の赤れいむが喧嘩している。 まぁ、こうなるように遅い者を前に置いたのだが。 「おそいゆっくりは、ゆっくりたべられちぇね!」 そう言って2番手の赤れいむは、1番手の赤れいむを飛び越えようと跳ねた。 確かに2匹分の幅がない以上、前の赤ゆっくりを抜くには跳ねるしかない。 しかし、橋の幅は自分よりわずかに大きい程度。しかも落ちたら死という恐怖心もある。 そのような肉体的にも精神的にも不安定な状態で、跳ねたりするとどうなるか。 「ゆ!!!!!!!」 当然のように赤れいむも足を踏み外した。 数秒後、この赤れいむは先ほどの赤まりさと同じ死の運命を辿ることとなった。 「ゆう゛う゛う゛うううううううう!!!」 あっという間に半分の子供を失った親れいむが騒いでいる。 「もう止めてほしいってこいつは言いたそうだな」 「ククク……限度いっぱいまで行くっ……!地獄の底が見えるまでっ……!」 さて、残っているのは最初の並び順で1番手の赤れいむ、3番手の赤れいむ、4番手の赤まりさ。 次にれみりゃのターゲットとなるのは赤まりさである。 「うー!うー!」 5番手の赤まりさは食べずに終わったため、4番手の赤まりさとの距離は近めである。 このままでは追いつかれると思ったのか、赤まりさは思わぬ……いや、予想通りの行動に出た。 レース当初から距離が近かった3番手の赤れいむとは今やほぼ同じ位置にいたのだが、 「ゆっくちちね!」 「ゆ!ゆっくちやめちぇね!」 何と後ろから体当たりを仕掛け始めた。 さすがまりさ種、姉妹を犠牲にしてでも自分が生き残ろうとは何という狡猾さであろうか。 「ゆっくちちね!ゆっくちちね!」 「やめちゃね!ゆっくちちてね!」 「なにやっでるの゛お゛お゛!!やべでえ゛え゛え゛!!」 親れいむの絶叫も意に介さず、体当たりを続ける赤まりさ。 そして何度目かの体当たりの時、ついにその時は来た。 「ゆ…………ゆぅぅぅぅぅ~~~~~!!!!!」 赤れいむは落下していき地面に激突、物言わぬ餡子となった。 空いた道をすいすいと進んで行く赤まりさ。 この赤まりさは、身を挺して家族を守った親まりさにはあまり似ていないようだ。 「きさまらっ……それでも……人間かっ…!?」 男はあえてツッコまなかった。 さて、いよいよレースも大詰め。先頭の赤れいむ、そして後ろの赤まりさもかなりゴールが近い。 しかしれみりゃもここに来て飛ばしており、赤まりさのすぐ後ろまで来ている。 「おちょいよれいむ!なにやっちぇるの!」 「ゆ!もうちゅぐだからね!」 れみりゃとの間に赤まりさを挟んでいる赤れいむはまだ余裕があるように見える。 一方れみりゃに迫られている赤まりさにはそんな余裕はない。かなりイライラしているようだ。 男は、これは再び赤まりさが赤れいむを突き落とすも、れみりゃに追いつかれて喰われるかと予想した。 赤まりさにとってもはや赤れいむはただの障害物でしかない。 しかし、親れいむはもちろん、男も、隣人お兄さんも予期せぬ行動に出たのだ。 「ゆひ゛い゛っ゛!」 なんと赤まりさは赤れいむの後ろ頭に噛み付いたのだった。 そして赤れいむを口にくわえながら、くるりとれみりゃの方へ振り向いて、 「それをあげるから、まりさはゆっくちにがしちぇね!」 ササッとゴール目がけて走り出した。赤れいむは「ゆ゛……ゆ゛……」と息も絶え絶えだ。 確かに突き落とすより手っ取り早いし、れみりゃが食べる時間も稼げる。 しかし、まさか自分が生き残るためにここまでやるとは。親れいむも衝撃的すぎたか唖然としている。 「全く、いつもながら何て奴だよ、まりさ種ってのは……」 「ククク……面白い……狂気の沙汰ほど面白い……!」 隣人お兄さんが右手を上げ、すぐさまれみりゃが噛み付いた。 「うー!うー!」 「ゆ゛う゛…………」 赤れいむはすぐに食べ終わったが、もう赤まりさは捕まらない。 れみりゃが追いつく前に、男達と親れいむの待つ隣人ハウスのベランダに飛び込むことができた。 「ついたよ!さすがまりさだね!ゆっくちおかしをもってきちぇね!」 姉妹を二人も殺しておきながら堂々とお菓子を要求するとはふてぶてしさ極まれりだ。 そんな赤まりさを睨みつける目があった。ボロボロになった親れいむである。 「おかーしゃん、まりさがたすけにきちゃよ!もうだいじょうぶだね!」 親れいむに擦り寄っていく赤まりさ。 しかし、親れいむはそんな赤まりさに体当たりをしかけ弾き飛ばした。 「いちゃいよ!おかーしゃん、なにするの!」 「と゛う゛し゛て゛…………」 「ゆ?」 「どうじであんなひどいごどじたのお゛お゛お゛!!!!!! れいぶのあか゛し゛ゃん、みんなしんし゛ゃった゛んた゛よお゛お゛お゛!!!!!」 「あんなおちょいやちゅら、ゆっくちできないよ!しんでとうぜんだよ!」 「ひと゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」 親れいむは何度も赤まりさに体当たりをしかける。 姉妹殺しの赤まりさには、もう親の愛情なんて残ってないのだろう。 「いちゃいよ!やめちゃね!」 「ゆっぐりじね!ゆっぐりじ……ぶびゃっ゛!!!」 あまりにうるさいので男は殴りつけた。 ぴくぴくと痙攣し、餡子も吐き出しているが死んではいないだろう。 「たちゅかったよ!おにーしゃんありがとう!かわいいまりさにてをあげるなんて、さいてーなおやだね! それよりはやくおかしをもってきちぇね!」 「ああ、そうだな。だがその前に…………」 「うー!うー!」 赤まりさの気付かぬ間に、飼い主の隣人お兄さんの元にれみりゃが戻っていた。 「ゆ!れみりゃはゆっくちできないよ!はやくおいはらっちぇね!」 「いや、こいつにお前を食べさせるのが先さ」 「な、なにちょれ!おかしはどうなったの!」 「お菓子は出す……出すが……今回まだその時と場所の指定まではしていない…… そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい……つまり我々がその気になれば お菓子の受け渡しは10年後、20年後ということも可能だろう……ということ……!」 「つまり、お前がれみりゃに襲われた後、もし生きてたらあげるかもってことさ」 「うー!うー!」 「な…………な゛に゛ちょれえ゛え゛え゛え゛ええええ!!!!!!」 そして隣人お兄さんが右手を上げ、れみりゃが赤まりさに飛びかかっていった。 ちなみに親れいむは男と隣人お兄さんがおいしくいただきました。 あとがき 気が付けば……鉄骨渡りっ…! クォータージャンプを作るつもりだったのに……やってしまったっ……! さすがのうp主も先に鉄骨渡りを作るとは猛省っ……! このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1250.html
「ゆっくりくりくりくりっくり♪」 この歌を歌っているのは、ゆっくり霊夢である。 「やっぱりれいむのおうたはせかいいちだね!!!」 本気で褒めているのは、ゆっくり魔理沙である。 「ゆへへ♪」 「にへへ♪」 ここは、ゆっくり達が暮らすとある森の一角。 勝手気ままなゆっくりらしく、一日をゆっくりと過ごし、ご飯を食べ一家で寝る。 それだけで嫉妬の炎で焼かれそうな生活だが、そんなことはお構いなしにのんびりと暮らしていたのである。 「ぺ~ろぺ~ろ♪ すっきり~~~しあわせ~♪」 奇しくも秋の長雨が一段落し、近くに大きな水溜りが出来ていたのを発見したゆっくり達は、我先に集まって水分の補給をしていた。 小さな赤ちゃんには、母親が口に含んだ道を口移しで与えている。 「ま、までぃさぁ♪」 「あ、あ☆り☆すぅ♪」 違うところでは、アリスと魔理沙のカップルがこれまた口移しで水を飲み合っている。 「むきゅ~~……こっきょうふーぞくがみだれるわ。ぷんぷん!!」 「わか~るわかるよぱちゅりぃ~のきもち~~♪」 「でも~~♪ ぱちぇぇもやりたいのよねぇ~~♪」 「むきゅきゅ♪」 まさに姦しいゆっくりの集団である。 「はーーるですよーー……ふぅ」 そんな折に、どこからか人の声が聞こえてきた。 それに気付いたゆっくり達は、なにやら話し始める。 「ゆ? にんげんさんだね!!」 「きっと、もみじがりにきたんだね!!」 「きれーなはっぱさんはおいしーもんね!! れいむもだいすき♪」 友好的なゆっくり達は、早速声の主を探そうと、キョロッキョロと言いながら辺りを探しているが、なかなか見つからない。 「む~~……みつからないね」 「にんげんさ~~ん!! こうさんだよ!! つぎはまりさがおにになるよ!!」 「れいむじゃいちにちかかってもみつけられないよ!!」 「そんなことないよ!! まりさっていう、さいこーのぱーとなーをしっかりみつけたもん!!」 「あっっみゃ~~~~いい!!!」 純粋な瞳であーだこーだ騒いでいるゆっくり達。 それを今まで見つめていた声の主は、一瞬口元を歪ませてゆっくり達に姿を現した。 「はーるですかー?」 真っ黒な服に真っ黒な帽子。 その姿は、幻想郷に春を運ぶ妖精である。 白いほうは春にしか殆ど姿を見せないが、こちらはここに姿を出している。 「ゆ!! かわいいにんげんさんだね!!」 「めごいめごいね!!」 「やっぱりこどもはかわいーね!!!」 その愛くるしい容姿に、またまた大騒ぎのゆっくりの群。 中には、集まって自分の子供の自慢を始めているものさえいる。 「はーるですか~~♪」 そんな反応を無視して、今一度同じ言葉を投げかけるリリー。 二度目にして、漸くゆっくり達もまともな返答を返してきた。 「ゆゆゆ♪ いまははるじゃないよ♪ あきさんだよ!!」 「にんげんのこどもちゃんは、はるさんがすきなんだね!!」 「わかる!! わかるよーーー!!!」 既に、そこには笑いだけが流れており、なんとも楽しそうな光景が広がっている。 子供達はリリーの足元までやってきて飛び跳ね、歌を歌う。 今度は、大人達がそれに加わり踊りだす。 酒が入っているかのような、そんなノリが辺りを包んでいる。 「ばぁ~かですね~~~♪」 と、今まで終始笑顔でいたリリーがそれだけ呟き、突然ゆっくり達の目の前から消えた。 それが上空に飛び立ったと気付くのに、ゆっくり達には一瞬の間が必要だったようだ。 「すごーい!! おそらをとんでるー!!」 「さっすがにんげんさんだね!!」 自分達に侮辱的な言葉を発した事が聞こえなかったのか、ただただ空中にいるリリーに黄色い声援を送るばかりである。 そんな声援を、興味なさそうに聞いていたリリーは、一度深呼吸すると、今までとは比べ物にならないような声を出した。 「あーきでーすよー!!!」 同時に放たれる強力な弾幕。 並みの妖精よりも強力なその弾幕は、ゆっくりを駆逐するのに十分な威力であった。 「きゃ♪ わ♪ いい~~♪ んべ!!!」 まず、最初に放たれた一発が魔理沙を直撃した。 「ゆ♪ まりさ♪ !!! だいじょーーぶ?!!」 「い……、いだいーー!!! でいぶーーだすけでーーー!!!」 霊夢が振り向くと、そこには苦悶の表情を浮かべながら、必死で助けを求める魔理沙の姿があった。 しかし、既に底部から大量の餡が飛び出しており、生存は絶望的な状況である。 だが、それが分かるほどゆっくりの知能は高くない。 「わかったよ!! れいむにまかせt……」 弾幕の海の真っ只中にいた霊夢に、漸く弾幕が命中した。 「いだいーー!! まっでぃざぁーーー!! ゆっぐりしでないでたすげでーーー!!!」 今まで当たらなかったことは幸運の賜物であったのだろう。 続けざまにもう二・三発弾幕を食らう。 「どうしでぞんなごというのーー!! れいむはそごまでおばかだったのぉーー!!!」 「たすげるよーー!! までぃさはやくたすげでーー!! れいむがたすけるよーー!!」 ソフトボール大の穴が数個開いた霊夢は痛みで通常の思考が出来なくなっていた。 目の前に写る光景と、自身の痛みのみで状況を理解し、スイッチのようにま逆の言葉を発するオブジェに成り下がってしまったようだ。 「むっきゅーーー!! じゅーーそーーよーー!!」 「とかいはのありすがきずものにーーーー!!!!」 「うあーー!! いだいーー!! いっっだいーーー!!!」 「わからないよ!! わからないよ!!!」 「てぃ~~~んっぽ!!!!!!!」 同じ様な光景は、あちらこちらで繰り広げられていた。 そのどれもが、酷い重症を負いながらもかろうじて生きているというものであった。 「おかーーしゃんたちのいいちゅけをゆっくりまもりゅよ!!」 「まもりゅよ!!!!!!!!」 隠れていた草むらで大声を上げた赤ちゃん達も、同様の状態に仕上げられた。 「ゆ……あうあう……」 「おう……かえ……って、ごはん……」 「としょかん……」 「しぶたに。あらたやど……はら……やど」 物の数分で、そこには餡子の海に成り代わっていた。 先ほどまで歌とも思えないような会話をして、飛び跳ねていたゆっくり達は今やうめき声を上げ、 かろうじて生きているだけとなった。 「あ~~きですよ~~♪ あたまが春なゆっくりはお門違いですよ」 くすくすと、笑いをかみ殺しながら、その様子をまじまじと見るリリー。 いまだまともな思考が出来るゆっくりは、これがただの人間では無いことに気付いているのだろう。 「ど、……じで」 やっとの事で、それだけを搾り出した霊夢だったが、リリーが答えないと分かると、そのまま息を引き取った。 「あきですよ!!」 どのくらい経っただろうか? 群に打撃を与えなお留まっていたリリー。 ただひたすら何かが来るのを待っていたようだが、それがきたと分かると、再び空に舞い上がっていった。 「う~~♪ た~~べものがいっぱ~~い♪」 「う~~♪ おなかぱ~~んぱ~~ん♪」 やってきたのは、多数のゆっくりれみりゃとフラン。 数体の成体の後ろを、ニコニコと赤ちゃん達が飛んでいる。 「う~~……いっご~~♪ にこ~~~♪ さんこ~~♪ ……いっこ~~~♪」 「さいしょはかぞくいっこづつ~~♪」 「ふらんのあかちゃん。ままがたべかたをおしえてあげるぅ~~♪」 その群は、家族ごとに分かれて、餡子の海の隅々に散らばっていく。 匂いに釣られて、近くの捕食種が集まってきたのだ。 中には、赤ちゃんを釣れ、餌の食べ方を教えようとするものまでいた。 「うっう~~♪ あうあう~~♪」 「う~~♪ なかがおいしーのぉ~~♪」 「まますご~~い~~!!!!」 「秋なのに春ですね~~♪」 そして、待ってましたとばかりに襲い掛かるリリー。 「う~~♪ う!!?」 「うっう~~♪ あかちゃん、どうしたんだz!!!!」 一匹の赤ちゃんれみりゃを捕まえると、振り向いた母親に弾幕を浴びせかける。 そして、他のゆっくり達にも、先ほどよりも濃密な弾幕を浴びせかける。 「うあーー!! さくやーー!! さくやーー!!」 「まんまぁーー!! れみりゃのあじがーー!!!」 「ゆっくりしね!! あかちゃんいてをだすやつは、ゆっくりs……」 以下に捕食者といえど、ゆっくり以外には無力なもので、先ほどと同じような光景が繰り広げられていた。 違う点といえば、確実に息の根を止めていることだろう。 泣き叫びながら、必死にさくやさくや叫び続けるだけのれみりゃと、闘志をむき出して突っ込んでこようとするフラン。 対照的だが、弾幕の前には平等にやられていく。 「はるはるはるですね~~~♪ あたまがはるですね~~♪」 リリーが一頻り満足すると、そこは既に餡子と肉まんの具が混じった不気味なモノで覆われていた。 「まぁまぁーー!!!!! どこにいったのぉーーー!!!!!!」 その光景を確認して、リリーはその場から去っていった。 「こんにちはー」 「はいは~い。あっ、リリーブラック、屋台ならもう開いてるよー」 「はい。これ」 「はいはい。れみりゃ一匹ねー。ちょっと待っててね~♪」 「はなすにょーー!! れみりゃのままはつよいんだじょーー!! おまえらなんてあちょいうまに!!!」 慣れた手つきでれみりゃの口に杭を打ち込み、片手をちぎって餃子型に加工した後、一杯のお酒と共にリリーの前に出される。 「はいお待ちど~♪ 今日もくつろいでいってね!!」 最近、海産物が多かった夜雀の屋台に、肉料理が並び始めたのだった。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/2058.html
お話しゆっくり 中編 57KB 虐待-普通 制裁 仲違い 誤解・妬み 自滅 同族殺し 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 現代 人間なし 独自設定 ゆっくり興亡史の最終話です(三部作・中編) ※独自設定が沢山あるんだぜ! ※人間さんは最後にちょろっと出て来るだけだぜ! ※虐待?それ何なんだぜ? ※『ちーと』なゆっくりが出てくるんだぜ!苦手な人はごめんだぜ! ※とんでもなく長いんだぜ!これで中編なんだぜ? ※『お尋ねゆっくり』の続きなんだぜ!……遅くなってご免なさぁああいい! 書いた奴:一言あき 雪に閉ざされた森に生える一本の老木、その根元に開いた空洞の中にそれは居た。 食糧を兼ねた干し草を厚く敷き詰めた上に鎮座するのはれいむとまりさの番である。 そしてれいむの額には、八人もの実ゆを鈴生りに生やした茎が伸びていた。 「れいむのあかちゃん、はやくうまれてきてね!いっしょにゆっくりしようね!」 「まりさのあかちゃん、はやくうまれてくるんだぜ!いっしょにゆっくりするんだぜ!」 この番は先程すっきりーっ!したばかりだった。当然、茎だって生えてきたばかりである。 茎で生まれる実ゆのにんっしんっ期間は大体三日程度。それくらいの時間を掛け、文字通りゆっくり生まれて来るものだ。 「……まだうまれないの?ゆっくりしすぎだよ……」 「ほんとなんだぜ!ゆっくりしないでいそいでほしいんだぜ!」 だというのに、この番は赤ゆの誕生を待ち切れないらしい。 次第に呼びかけの内容が変わっていく。否、それはもう口汚い罵声であった。 「はやくうまれてね!!れいむたちをゆっくりさせてね!!」 「これじゃまりさたちがゆっくりできないんだぜ!!さっさとうまれろぉおおっ!!」 最初のゆっくりした呼びかけとは程遠い罵声に急かされたのか、ゆっくりと大きくなっていく筈の実ゆがビデオの早回し映像のように急速に育ち始める。 青いプチトマトのような外見がみるみる大きくなり、皺が寄り始めたかと思うとあっという間に閉じた目と口に変化していく。 へたの部分が上下に分かれ、下の部分が細かく枝分かれしながら伸びていき、髪の毛に変わる。 残った上の部分が黒や赤に染まり、黒いものは円錐状に広がって帽子になり、赤いものは髪の毛に絡まってリボンになる。 そして苦悶の表情を浮かべた実ゆが一斉に身震いを始め、茎の一番先に生っていたまりさが干し草の上に着地した。 「……ゆ、ゆっくちちていっちぇにぇ!!」 怯えを含んだ初めてのご挨拶。 その舌足らずの拙い言葉を聞いた途端、殺伐とした気持ちが消えていくのをれいむとまりさは感じていた。 「「ゆっくりしていってね!!」」 先程まで罵声を浴びせていたとは思えない程の変わり身で、生まれ落ちた我が子を祝福する。 「ゆ~♪とってもゆっくりしたおちびちゃんだよ!」 「まりさににてとってもゆっくりしてるんだぜ!!」 そして次々に生まれ落ちてくる赤ゆ達。やはり怯えながらのご挨拶に、両親は心からゆっくりした笑顔で応える。 両親のゆっくりした姿に安心したのか、赤ゆ達もお互い「ゆっくち!ゆっくち!」と姉妹を祝福し始めた。 そして茎の根元で震えていた最後の一人がぽとりと落ちる。両親も姉妹も、末っ子を祝福しようとそちらに目を向けた途端、固まった。 「ゆっちちちちぇいっちぇちぇ!」 妙に甲高い声で舌足らずに過ぎるご挨拶をしてきたのは、恐らくまりさ種なのだろうと思われるゆっくりだった。 頭頂付近に集中した金髪の上にちょこんと載った明らかにサイズの足りていないお帽子。 寸胴の茄子を思わせる体躯を盛んに捻り、唾液を撒き散らしながら「ゆっちちぇ!ゆっちちぇ!」と締まりのない笑顔で舌足らずのご挨拶を繰り返している。 お帽子もある。金髪さんも生えている。愛らしい笑顔も浮かべている。 だが、そこに居たのは姉達とは似ても似つかない化け物だった。 「ゆぎゃぁああああ!!なんなのこれぇええええ!?」 「なんなんだぜ!?これはいったい、なにごとなんだぜ!?」 「「「「りぇいみゅのいもうちょぎゃぁああああ!?!?」」」」「「「まりしゃのいもうちょぎゃぁあああああ!?!?」」」 「……ゆっ?」 一斉に騒ぎ出す両親と姉達を、不自然に大きな目で不思議そうに見る末っ子まりさ。彼女は先天的に足りないゆっくり、『未熟ゆ』であった。 栄養が足りないため、餡子の継承が不十分だったため、単純にゆっくり出来なかったため。『未熟ゆ』が生まれて来る理由は諸説あるが、未だ特定はされていない。 はっきり言えるのは、そうして生まれた未熟ゆは例外無くゆっくり出来ないこと、それだけだ。 奇声を上げて奇行に走る末っ子まりさ、余りにゆっくりしていない姿に親まりさは『間引き』を決意した。 「ゆ、ゆっくりしていないげすなあかちゃんはせいっさいっするんだぜ!!」 「まって!まりさ!!」 だが、一気に踏み潰そうと力を溜める親まりさを親れいむが引き止めた。 「れいむ、どうしてとめるんだぜ!?このままじゃ、あかちゃんもまりさたちもゆっくりできなくなるんだぜ!?」 「……それでも、そのあかちゃんもれいむとまりさのおちびちゃんなんだよ。それに……」 れいむは視線を末っ子まりさに移す。相変わらず「ゆっちちぇ!ゆっちちぇ!」と奇声を上げて跳ね回る姿はゆっくり出来ていない。 「……ねぇ、まりさもれいむも、うまれるまえのあかちゃんになんていったか、おぼえてる?」 「ゆ?…………っ!!まさか、そのせい、なんだぜ?まりさとれいむが、あかちゃんをゆっくりさせなかったから……?」 れいむの言葉からまりさが恐る恐る出した推論に、沈痛な表情で首を縦に振るれいむ。 そう、この八人姉妹のうち、末っ子だけが未熟ゆだった理由は明らかだった。 即ち『早産』と『栄養不足』である。 通常三日かけるにんっしんっを僅か一時間程度に縮めたのだ。むしろ先に生まれた姉達に異常がないのが異常であろう。 本来均等に行き渡る筈だった餡子が姉達に優先された結果、そのツケを末っ子まりさが背負ったのだ。 「……まりさ。このおちびちゃんはすきでゆっくりできないわけじゃないよ。れいむたちと、おちびちゃんたちのせいでこうなっちゃんだよ。 ……だからゆっくりできるよう、りっぱにそだてるのが、れいむたちのばつなんだよ、きっと」 「……わかったんだぜ、れいむ。このおちびちゃんもゆっくりそだてよう。いまはむりでも、いつかいっしょにゆっくりしてくれるかもしれないんだぜ」 「そうだね、そうなるようにゆっくりがんばろうね!」 ゆっくり出来ない子供を育てることを決意したまりさとれいむが、改めて未熟ゆに向き直る。 奇行に走っていた未熟ゆがそれに気付いて、舌足らずな甲高い声で「ゆっちちぇ!」と呼び掛けてくる姿に両親はありったけのゆっくりを込めてご挨拶を返した。 「「まりさ、ゆっくりしていってね!!」」 『お話しゆっくり 中編』 先行する集団を追いかける後続集団の、その最後尾に陣取る化け物まりさは不審に思っていた。 (おかしいのぜ、どすがぜんぜんはんげきしてこないのぜ。 ……それに、なんでいつまでたってもどすにおいつかないのぜ?) ドスの鈍足に誰も追い付かない、そんなことは有り得ない。ならば、なぜ? そこまで考えが及んだ時、化け物まりさの脳裏にある可能性が浮上した。 (……もしかして、おいつかないんじゃなくて、おいつけない、ってことのぜ?) ドスの足が速いのではなく、群れの足が遅いのでもなく、ドスに追い付けない理由があるとするなら……? そんなもの、罠に決まっている! そう考えると、反撃もせずひたすら逃げるだけのドスの行動にも説明が付く。 ほら、畦道の両脇で生い茂る草むらなど、ゆっくりが身を隠すには絶好の場所ではないか! 「ゆげぇっ!?しまったのぜ、これはどすのわななのぜ!!ぜんぐん、とまるのぜぇええええ!!」 慌てて全軍停止を命じる化け物まりさ。しかし先行していた集団には命令が届かす、ドスを追いかけたままどんどん引き離されて行く。 と、不意にドスが振り向き、先頭集団に向けてドススパークを放った。畦道一杯に広がる光芒が、先頭集団を灼き尽くす。 「ゆっ!?あぶなかったのぜ!あれはきっと、にげながらきのこさんをむーしゃむーしゃしていたのぜ!!」 間一髪、ドスの企みを見抜いた化け物まりさの言葉に、周囲のゆっくり達が一斉に安堵の溜め息を吐く。 もしも化け物まりさが居なかったら、今頃自分達もあの光で消し飛ばされていただろう。そう考えると、化け物まりさの聡明さが頼もしく思える。 先頭集団を吹き飛ばしたドスは、逃げもせず同じ場所に突っ立ったままだ。策を見抜かれて呆然としているのだろうか? 今度は慎重にドスに近付いていく化け物まりさの軍勢。落とし穴とその後の混乱で全体の三分の一程を失ったが、まだまだ数の優位は崩れない。 動かないドスを無数のゆっくり達が取り囲む。そして化け物まりさが文字通り化け物じみた、壮絶な笑顔を浮かべてドスの正面に歩み出た。 「……よくもさんざんてこずらせてくれたのぜ。でも、それももうおわりのぜ」 「…………」 化け物まりさの勝利宣言に、ドスは無言を返す。化け物まりさの軍勢は、それを降伏宣言と受け取った。 「ゆあぁああん?なんなんだぜ?いまさらいのちごいなんてきくわけないんだぜ!?」 「よくもれいむをゆっくりさせなかったね!しゃざいとばいしょうをせいきゅうするよ!あまあまをたくさんよういしてからしんでね!!」 「どすったら、ほんとうにいなかものだわ!!こうなったらどすでいちにちじゅうすっきりーっ!をするしかないわね!!」 「…………」 口々に罵声を浴びせる群れにも、冷めた目を向けるだけで反論もしない。 やがて言いたい事を言い尽くしたのか、ある程度群れの狂乱が収まった頃合いを見計らって、化け物まりさが宣言する。 「よーくきくのぜ!!まりささまをゆっくりさせなかったつみ!!まりささまをだまそうとしたつみ!!けらいをころしたつみ!! ゆっくりぷれいすをひとりじめしたつみ!!どれいのくせにどれいをもったつみ!!ぜんぶあわせて、どすをしけいにするのぜ!! ……さいごになにかいいのこすことはあるのぜ?まりささまはやさしいから、まけおしみくらいはきいてやるのぜ」 それを聞いたドスが、始めて口を開く。 「……奴隷?まりさ達には奴隷なんて居ないよ?」 「とぼけるんじゃないのぜ!!にんげんをどれいにしていたのはわかっているのぜ!!」 化け物まりさの言葉に、軽く目を見開いたドスは直後、腹を抱えて笑い出した。 「あっはっは!!人間さんを、奴隷にする、だって!?出来る訳無いでしょう、そんな事!!!」 「なにをわらっているのぜ!?まりささまをばかにするのもいいかげんにするのぜ!?!? ……もういいのぜ!!どうせ、どすはここでしぬのぜ!!」 最初はドスも捕らえて死ぬまで扱き使うつもりだったが、気が変わった。こんな生意気で無礼なドスなんか、生かしておくだけ無駄だ。 死刑を執行するべく、全軍に命令を下そうとする化け物まりさ。 「みんな、しけいしっ…………!!な、なんなのぜこのおと!?」 だが、声を張り上げる寸前に聞こえてきた羽音に、餡子の隅がくすぐられる。餡子の奥底に封じた筈の、ゆっくり出来ない日々の記憶が甦る。 羽音は空から聞こえてきた。即座に空を見上げる化け物まりさと、つられて空を仰ぎ見る群れのゆっくり達の目に、『ソレ』は姿を現した。 「「「「「「「「「「れ、れ、れみりゃだぁああああああ!!!!!」」」」」」」」」」 そこに居たのはゆっくりれみりゃであった。 実はこの群れはれみりゃと戦った事が無い。森の奥に隠れ住んでるらしいれみりゃは数に勝る群れを恐れ、一度も姿を見せた事が無かった。 そう、『数の暴力』こそが化け物まりさの群れの強さ。捕食種にして天敵たるれみりゃすら寄せ付けない、あの森を化け物まりさの天下に染め上げた絶対強者の原理。 だから……、『百匹近いれみりゃの大群』という自分達以上の『数の暴力』に出会ったのは、これが初めてだったのだ。 胴付き、胴無し取り混ぜての混成軍、しかも胴付きはそれぞれ手に鋤や鍬、鎌や熊手、干し草用のフォークなどを持って構えている。 餡子の奥に刻まれた恐怖に怯え、群れの士気はあっさり砕け散った。 「どおしておひさまがでてるのにれみりゃがいるのぜぇ!?!?」 狂乱する群れの中にあって、化け物まりさだけは違う点に着目していた。 確かに、餡子をちりちりと焦がす恐怖はあるものの、れみりゃは一度やっつけた事があるのだ。なら今回だって勝てるに違いない。 しかし、太陽光に弱い筈のれみりゃが日中から活動している事だけは納得できない。 思わず口に出してしまった疑問、その答えは目の前に居るドスからもたらされた。 「……何言ってるの?お日様ならとっくに沈んでるよ?」 「なにいってるのぜ!?こんなにあか……る………い……………?」 ドスの言葉に激昂する化け物まりさが、ある事に気付く。 ここに到着した時、お日様は既に傾いていた。橙色に染まった夕日に照らされるお野菜を、確かに見た。 季節は晩秋、いや既に初冬に入っている。この季節の夕日ならとっくに沈んでいておかしくない。 (なのに……なのに!なんでこんなに、あかるいのぜぇ!?!?) そう、ドスを追いかけている間、畑は常に光に満たされていた。太陽が地平線に沈み、辺りが夕闇に覆われても、畑は煌煌と照らされていたのだ。 広大な畑の中心、収穫を終えて休耕している畑が作る空き地で、スポットライトを浴びるように照らし出される化け物まりさとドス。 そしてドスは、推理を明かす探偵のように、あるいは判決を下す裁判官のように語り始めた。 「人間さんはね、夜でも昼間みたいに明るくする事が出来るんだよ。ゆっくりには絶対に真似できないけどね」 ドスの語りに、化け物まりさは応じない。黙りこくったまま、ひたすらドスを睨み付けるだけだ。 周囲のゆっくり達も雰囲気に呑まれたのか、騒ぎ立てる事無くドスの言葉を聞いている。静まり返った畑に、ドスの声とれみりゃの羽音だけが響き渡る。 「貴女達が来る事はとっくに気付いていたんだよ。でも、まりさ達がお願いして全部任せてもらったんだよ。……その代わり、ちょっとしたお手伝いを頼んだんだ。」 そこで言葉を区切り、ドスは化け物まりさの軍勢を睥睨する。 「人数の多い貴女達を、まりさ達だけじゃ撃退出来ない……、だから援軍をおねがいしたんだよ。人間さんが捕まえていたれみりゃ達に、ね」 その言葉を聞いた途端、一斉にざわめき出す軍勢。化け物まりさも、驚愕を禁じ得なかった。 人間が捕まえていた?これだけの数のれみりゃを!?ならば、人間とはどれ程居るというのか!! 驚愕にざわめく一同を余所に、ドスの語りは続く。 「れみりゃは、お日様に当たると死んじゃうからね。だから、まりさが囮になって逃げ回ってたんだよ。 落とし穴で逃げ道を塞いで、吹き矢で狙撃して逃げられなくして、畑で待ち伏せして。そうやって、時間を稼いだんだよ。 ……お日様が沈んで、れみりゃ達が動けるようになるまで。それが、まりさ達の『作戦』だったんだよ」 そこまで言うと、ドスはまた口を噤む。 静まり返った畑に沈黙が下りる。耳が痛くなる程の静寂を破ったのは、化け物まりさの叫び声だった。 「……う、うるさいのぜぇえええええ!!へりくつこねてないで、さっさとしぬのぜぇええええ!!」 まりさは怒っていた。先程までの怒りが霞んでしまう程激怒していた。 ドスの言葉通りなら、最初から最後まで自分達はドスと人間に弄ばれていた事になる。 ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!たかがれみりゃ百匹程度で、優位に立ったつもりか!? 「れみりゃなんか、おうさまにかかればひとひねりなのぜ!!なんびきいようが、おうさまにかてるわけないのぜ!!」 その言葉につられたのか、話の内容に着いていけずに呆然としていた群れが再び騒ぎ出した。 「そーだそーだ!!れいむたちはれみりゃなんかより、ずっとずっとつよいんだよ!!わかったらさっさとしんでね!!」 「まりささまのおうごんのあしわざをくらって、いきているゆっくりなんかいないんだぜ!!あとでこうかいしても、おそいんだぜ!!!」 「たまにはれみりゃもいいわぁああああ!!ありすのとかいはなぺにぺにですっきりーっ!しましょうねぇええええええ!!」 姦しく騒ぎ立てるが、誰もそこから動かない。威勢が良いのは口先だけで、内心では皆れみりゃに怯えているのだ。 そんな情けない配下の姿に我慢が出来なくなったのか、ドスに向かって化け物まりさが猛然と襲い掛かる。 「ゆっくりしないでしねぇええええぅぶびゃっ!?!?!?」 だが、その渾身の一撃はドスに届く寸前、横殴りの衝撃に阻まれる。化け物まりさが勢い良く地面に叩き付けられ、餡子を吐きながら無様に転がって行く。 いつの間にか、ドスを守るように一匹のれみりゃが立ちはだかっていた。手に持った鋤を振り抜いた姿のまま、化け物まりさを睨みつけている。 「……ありがとう、れみりゃ。でも、まりさなら平気だったよ?」 化け物まりさの突撃はそれ程速くもなかったし、大きさだって標準的なゆっくりと大差ない。武器を銜えている訳でもないので、ドスの脅威にはならなかっただろう。 ドスの言葉に、れみりゃは頭を振って答える。 「……それはわかってるんだど。それでも、れみぃはあいつをゆるせないんだど」 そう言うれみりゃの視線を追い、ドスは「ああ、そうか」と納得した。 「……そう言う事なられみりゃに任せるよ。でも、とどめは刺さないでね。それで良い?」 「……あたりまえなんだど。まかせるんだどぅ」 ドスの提案に正面を向いたまま頷くれみりゃ。油断無く鋤を構える視線の先で、よろよろと化け物まりさが身を起こす。 「よくもやったのぜ!!もうてかげんはなしなのぜ!!ないてあやまるならいまのうちなのぜ!!!」 「むだぐちたたいてないで、さっさとかかってくればいいんだど。……それとも、くちさきだけなんだど?」 「むきぃいいいいいいっ!!いわせておけば、もうゆるさないのぜぇえええええっ!!」 「ゆるさなければ、どうするんだど?れみぃはいつでもあいてするんだど?」 お互いに挑発し合いながら、化け物まりさは焦っていた。 (なんでなのぜ!?なんで、すきがぜんぜんみえないのぜ!?) ドスならドススパークを撃つ為のキノコの咀嚼、まりさ種やちぇん種なら飛び掛かる寸前の溜め、レイパーありすならぺにぺにを突き入れる為に腰を引く一瞬。 何らかの行動を起こす前に挟まれる予備動作を見逃さず、その後の行動を予測して先手を打つ。人間の武術で言う『後の先』を取る戦い方こそが、化け物まりさの必勝法だ。 先程からの挑発もその為。れみりゃの出方を計り、先に行動させることで『後の先』を取ろうとしたのだが、挑発の最中でさえれみりゃに隙らしい隙が見出せない。 視線は常に化け物まりさに固定され、鋤を構える手はぴくりとも動かず、唯一口と羽根だけが休まず動いている。 (……このままじゃらちがあかないのぜ。ここはひとつ、せんてをうってみるのぜ!) それは今までの定石から外れた行為ではあるが、れみりゃとまりさの実力差は歴然としている。今更遅れをとる筈が無い。 じり、じり、と罵り合いを続けながら間合いを詰めていく。体半分程歩みを進めた辺りで、まりさは鋤を構えるれみりゃの右腕に力が篭るのを感じ取った。 (みぎかひだりか、どっちかからなぐりかかるきなのぜ!?だったらうしろににげるのぜ!!) 咄嗟の判断に従い、まりさは背後へ飛び退く。直後、紙一重でれみりゃの鋤が空振りする、筈だった。 「……ゆっぎゃぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?!?!?!?!?」 化け物まりさが悲鳴を上げてのたうち回る。転がる度に餡子がどくどくと流れ出るのが見えた。 横薙ぎに払われたれみりゃの鋤がかすり、顔の皮を切り裂いたのだ。傷痕だらけの顔に真新しい傷が刻まれ、そこから餡子が漏れ出ている。 幸い傷は浅く、流れ出る餡子も致命傷には程遠い。だが、餡子が流れるような大怪我から離れて久しかったまりさにとって、それは堪え難い激痛だった。 (み、みえなかったのぜ!?れみりゃにいつなぐられたのか、ぜんぜんわからなかったのぜ!?) しかしそれ以上に、れみりゃの攻撃が見えなかった事が化け物まりさを慄然とさせた。 ドススパークでさえ避けてみせたまりさが見切れない程の高速で振るわれた鋤、そしてそれを為したれみりゃ。 違う。このれみりゃは、何かが違う。まりさの餡子に、未知なる敵への警鐘が五月蝿い位に鳴り響く。 と、再びれみりゃの右腕に力が篭る。それに反応したまりさが飛び退くよりも速く、鋤が再び皮を切り裂いた。 「ゆびゃぁあああああっ!?!?どうしてかわせないのぜ!?つ、つぎはかわすのぜ!!」 餡子を撒き散らし、痛みに泣き叫びながら、化け物まりさはれみりゃに挑み続けた。 一方、れみりゃは何も特別な事はしていなかった。間合いに踏み込んできた化け物まりさを、鋤で小突いているだけである。 尤も、その鋤は人間から見ても驚愕する程の速さと鋭さをもって振るわれていたのだが。 この村では少々変わった研究が行われていた。『ゆっくりの農奴化』である。 ゆっくりは農家にとって害獣だ。とはいえ、ゆっくりには農耕の概念を持つゆうか種がいる。 ゆうか種の胴付きであるのうかりん種に至っては、人間とほぼ変わらない高度な園芸技術を持つものさえいるのだ。決して不可能な事ではない。 しかし、ゆうか種は希少種だ。のうかりんに至っては更に稀少で、通常七桁、個体によっては八桁で取引されている。そんなもの、必要な頭数を揃えるだけで破産が決定してしまう。 そこでこの村が目をつけたのがれみりゃ種であった。 れみりゃ種は捕食種の中で唯一、通常種に区別されるゆっくりだ。胴付きであろうとそれは変わらず、野生では良く見受けられる。 太陽の光に弱いので日中は行動できないが、捕食種に相応しい力と『すぴあ☆ざ☆ぐんぐにる』と称する道具を使う程度の小器用さを備えているので、農耕の概念さえ植え付ければ良い農奴になるだろう。 そう考えた村の有志達が、野山で採集してきたれみりゃの品種改良に着手したのが五年前。以降、細々と続けられてきた研究の成果こそ、このれみりゃ達であった。 このれみりゃはこの村で生まれた第五世代目のれみりゃである。この世代は寿命こそ三年前後と短いが、知性身体能力共に通常のれみりゃよりかなり高い。 なにより、ゆっくりの中でもれみりゃ種が特に鈍いと言われる反射神経の向上には目を見張るものがあった。 予備行動から行動に移るまで一切無駄無く最速で動く、人間で言う『無拍子』に近いれみりゃの動作が、まりさの『後の先』より速かった。 言葉にすればたったそれだけでしかない。それが、化け物まりさにとって最悪の相性だっただけの事。 何より、このれみりゃには『絶対敵わない理由』がある事を、化け物まりさは知らなかった。 れみりゃの右手に力がこもるのを見て、まりさは必死の勢いで飛び退く。 だが、飛び退く為にあんよに力を込めた時には、既にまりさの左側面にまで鋤が迫る。 さくりと軽い音を立て、鋤の刃が頬を撫でるように浅く斬りつけた。 「ゆびぇええ゛え゛え゛え゛っ゛!?みえないのぜぇっ!?ぜんぜんみえないのぜぇえええええっ!?」 新しく付けられた傷口から餡子が滲み出す。じくじくした痛みに苛まれながらも、化け物まりさは見えない攻撃を見切ろうと躍起になっていた。 自分は『ゆっくりのおうさま』なんだ!だかられみりゃなんかに負ける訳が無い! この根拠の無い自信がまりさの心を奮い立たせる。最早まりさの視界には目前のれみりゃしか映っていない。 だから、背後で配下の軍勢が囁き合う声は一切耳に入らなかった。 「……どういうことなんだぜ?なんで、おうさまがおされているんだぜ?」 「あっちのれみりゃよりよわいよね?おうさまって、あんなによわかったっけ……?」 「……なんだか、おうさまよりあっちのれみりゃのほうがとかいはにみえるわ。どうしてかしら?」 小さな疑問の声は、次第に大きくなっていく。 背後で広がるざわめきにも気付かずに、挑戦を続ける化け物まりさと迎撃するれみりゃ。 そして決定的な瞬間が訪れる。 「……しまったど!!」 鋤を振るうれみりゃの表情が焦りの色に染まる。 それを訝しみながらも必死に飛び退くまりさの横っ面に、鋤の腹がクリーンヒットした。 「ゆ゛ぎゃ゛びぃ゛い゛い゛い゛い゛っ゛!?」 目測を誤り、まりさを真っ二つにしてしまう軌道で振るわれた鋤を、れみりゃが咄嗟に腕を返して腹の部分で殴り飛ばしたのだ。 空気抵抗により勢いを殺された一撃はそれでも充分な威力を持ってまりさを弾き飛ばし、地面に叩き付ける。 その拍子に化け物まりさが被っていた帽子が脱げ、隠れていた頭頂部の禿頭が曝け出された。 「……ゆっ、ばでぃざのおがざりざんが………!!」 ひらひらと空中を舞い、帽子は化け物まりさ達の激闘を遠巻きに見ていた群れの方へ流れていく。 れみりゃとの勝負を一旦置き、まりさは帽子を追いかける。 ゆっくりと流される帽子に向かって大きく跳ね飛び、見事帽子を空中でキャッチしたまりさはそのまま群れの目前に着地した。 「…………ば、ばでぃざのおがざりざん………もうなぐずのばいやなのぜ………………ゆっ?」 ひらひらした帽子は、息を吹き込むなどして一度広げないと被りにくい。 そのセオリーに従って息を吹き込むべく深呼吸をしようとした処で、化け物まりさはようやくその視線に気付く。 まりさが、れいむが、ありすが、群れのゆっくり達全てが、化け物まりさのことを見つめている。 その表情には一律に『信じられないものを見た』という思いが浮かんでいた。 「……なんなのぜ、そのめは?まりささまにさからうつもりのぜ?」 生意気な視線を向けてくる配下のゆっくり達に凄む化け物まりさ。傷だらけの顔面も相まって、気の弱いものなら確実に泣き出す形相である。 にも拘らず、群れのゆっくり達は無言のまま。 いつもなら『ごべんなざい!』だの『ゆるぢでぇ!』だのと泣き叫んでしーしーを漏らしながら従うのに、微動だにしない。 「……な、なんなのぜ!?まりささまは『おうさま』なのぜ!?おうさまのいうことがきけないのぜ!?」 何か、致命的なことが起こりつつある。内心の焦燥を押さえつつ、化け物まりさは虚勢を張った。 ……そんなまりさの虚勢に沈黙を破って応えたのは、軍勢の先頭に立っていたれいむだった。 「……どうして……」 ふるふると震えながら俯いていたれいむが、呟くように漏らす。 その言葉に首を傾げる化け物まりさへ、顔を跳ね上げたれいむが叩き付けるように叫ぶ。 「どおしてまりさがそこにいるのぉおおおお゛お゛お゛お゛っ゛!?」 「ゆ゛ゆ゛っ゛!?!?」 突然叫び出したれいむの勢いに怯むまりさに、それまで黙っていた軍勢が一斉に騒ぎ出した。 「なんでだぜぇえええ!!なんでおうさまがまりさなんだぜぇええええ!?!?」 「ありすたちをだましてたのねぇええええ!?!?このいなかものぉおおお!!」 「おうさまのうそつきぃいいい!!でいぶのおちびちゃんをかえせぇえええ!!」 口々に非難の言葉を投げ掛ける軍勢の面々。だが、化け物まりさには避難される覚えは無い。 「な、なにをいってるのぜ!?まりささまはまりささまにきまってるのぜ!?まりささまがおうさまなのぜ!?」 狼狽えながらも、化け物まりさは軍勢に向かって弁明する。 お飾りが無いので一時的に認識出来なくなっただけだろうと当たりをつけての行動だったが、返って来た答えはまりさの想像を超えていた。 「ちがうんだぜ!!まりさたちのおうさまは『れみりゃ』なのぜぇええええ!!!」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ゛!?!?!?」 何だそれは!一体いつ、まりさが『れみりゃ』だなんて言ったんだ!? お帽子は確かにれみりゃのものだったが、一人称は『まりさ』だったし、自分の武勇伝も『まりさはれみりゃをたおしたのぜ!!このおぼうしがしょうこなのぜ!!』と語っていたのだ。 自分がれみりゃだ等と名乗った覚えも無いし、第一空を飛べないまりさをどうやってれみりゃだと思えたのだろうか。 化け物まりさの胸中はそんな疑問で溢れていた。 化け物まりさの群れは所謂ゲスで構成されている、群れというより犯罪ゆ集団と呼ぶべきものだ。 ゲスにもピンからキリまで色々あるが、ピンとキリの間には物凄い格差があった。 ピンのゲスは知能ではなく、力で押し切るタイプだ。当然餡子脳の中身も救い様のない馬鹿揃い、そんな奴らにお飾り以外での個体認識が出来る筈が無い。 キリの方は少し複雑だ。お飾りを使った詐欺等の常習犯である彼女達は、化け物まりさが『れみりゃ』では無い事を何となく察している。 だが彼女達はそれに気付きつつも敢えて『自分達の長はれみりゃである』と思い込んでいたのだ。 れみりゃに率いられた自分達はきっと特別なゆっくりに違いない、そう思う事で周囲を見下し、よりゆっくりする為に。 胴無しなのに会話が出来るのは特別なれみりゃだから、お空を飛べないのは他のれみりゃと喧嘩して羽根を無くしたから、自分達を食べないのは自分達が優秀だから。 明らかに無理があるこじつけで、無理矢理自分を騙していたのだ。『まりさ』という一人称を聞かなかったことにしてまで。 しかしそんな自己暗示も、どんな餡子脳であっても否定出来ない証拠を突付けられて尚、自分を騙し続けることなど出来なかった。 化け物まりさの失策は三つある。 れみりゃの帽子を被ったままれみりゃに挑んだこと、お飾りを失った状態で自分がまりさであることを暴露してしまったこと、そしてその状態で高圧的に接したこと。 まりさの『後の先』を成り立たせていたのは帽子のおかげであった。まりさの帽子をみたゆっくりは『れみりゃ』への根源的な恐怖に縛られ、動きが鈍る。 だから、本来の帽子の持ち主であるれみりゃには『後の先』は通用しなかった。それどころか、死臭漂うお帽子を見たれみりゃは、それが殺されたれみりゃのものである事に気付いて激怒した。 一撃では殺さない、じわりじわりと苦しみ抜いて死ね。それがれみりゃ達の総意であった。 帽子が脱げた後、自身を『まりさ』と呼んだのも致命的だった。 自分を『まりさ』と呼んだ瞬間、群れの認識は空の飛べない『れみりゃ』から帽子を失った『まりさ』へと書き換えられた。 そこへいつもの調子で居丈高に命令してしまったことで、群れ全員の餡子脳が『れみりゃ≠おうさま=まりさ』という事実を理解してしまったのだ。 全ては化け物まりさとゲスゆ達との認識のすれ違いが原因だった。 一斉に騒ぎ出したゲスゆ達に、れみりゃは五月蝿そうに顔を顰めてドスに問う。 「……もういいんだど?あいつら、ぜんぶたべちゃうんだど?」 「……もういいよ。でも、あのまりさだけは最後まで残してね」 ドスが頷くのを確認したれみりゃは手にした鋤を振りかざし、経過を空中で見守っていたれみりゃの群れに号令する。 「またせたんだど!!れみぃたちのすーぱー☆でなーたいむのはじまりなんだどぉ!!」 「「「「「「「「「「うっう~!!!!!」」」」」」」」」」 百匹近いれみりゃが鬨の声を挙げる。そして未だ騒ぎ続けるゲスゆ達に向かい、一斉に急降下を始めた。 「うそつきまりさはゆっくりしねぇ!!………ゆ゛わ゛っ゛!?!?」 化け物まりさをなじることに夢中だったゲスゆ達が気付いた時には、既にれみりゃの宴は始まっていた。 急降下してきたれみりゃに気付かずに罵倒していたれいむが、突然の浮遊感に戸惑う間もなく牙を突き立てられる痛みに襲われる。 その痛みに思わず上げた驚愕の叫びは、次の瞬間には餡子を啜られるおぞましい感触に対する絶叫に変わった。 「い゛や゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!でい゛ぶの゛あ゛ん゛ござん゛ずわ゛な゛い゛でぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」 「……う~☆あまあまだど~☆おぜうさまのでなーたいむだど~☆」 れいむがどんなに泣き叫ぼうが、れみりゃは餡子を啜るのを止めない。むしろ暴れるれいむを逃がさないように、掴んだ手に力を込める。 万力のような力で挟まれたれいむはどんどん楕円形に変形していく。押し潰されて内圧の高まった餡子が出口を求めてれみりゃの口内へ流れ込む。 「ぢゅ゛ぶれ゛り゛ゅ゛う゛う゛う゛っ゛!!ぼう゛や゛べでぇ゛え゛え゛え゛え゛!!でい゛びゅ゛じに゛ぢゃ゛ぐな゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛い゛ぃ゛い゛!!」 れいむの必死の懇願なぞ耳に入らずに餡子を啜り続けるれみりゃ。やがてれいむが『……ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛』と断末魔の痙攣を始めた頃、れみりゃはようやく牙を抜いた。 「……こいつはもうおわりなんだど~☆ぽーいするんだど~☆」 (……ゆっ?…………で、でいぶ、たすかったの………?) 餡子の殆どを失い、断末魔の痙攣を起こしながらもしぶとく生きていたれいむが一条の望みを見出す。 尤もそれは錯覚に過ぎなかったのだが。 「……でも、ぽーいするまえにとどめさすんだど~☆いかしておいちゃいけないんだど~☆」 (ゆ゛びっ゛!!!!!) 言うが早いか、れみりゃはその手に持った鎌をれいむの脳天に突き刺す。 わずかに残っていた中枢餡を貫き、あにゃるから先端を覗かせた鎌はれいむの命を縋った希望ごと奪い尽くした。 (ど……ぼぢで……でいぶが………ごんなべに…………もっど……………ゆっ………く……………ち……………) かつてとあるまりさを襲い、無理矢理すっきりーっ!させてにんっしんっし、子供を人質に扱き使った挙げ句、生まれてきたまりさ種を悉く潰してれいむ種の赤ゆだけを育てさせたゲスれいむは、 その罪に見合わぬ軽すぎる罰を受けながら、その幸運を最後まで理解しないまま、自分をゆっくりさせなかったこの世を逆恨みしながら果てた。 しかしそれは、他の百人余りのゆっくり達も同様であった。 「ばなぜぇえええええ!!ばでぃざばおうざばになるんだぁああああ!!おうざばに…………おう……………ざ……………ば…………」 化け物まりさを暗殺して次の『おうさま』になろうと目論んでいたまりさは、胴無しれみりゃに集られて餡子はおろか皮まで喰われてこの世から消滅した。 「いやぁあああああああ!!ありずのぺにぺにがぁああああああぁびゅっ!!!!」 赤ゆを専門にレイプしてまわり、その全てを殺してきたありすは鍬でぺにぺにを切り落とされた後、押し潰されて死んだ。 「ごべんなざぁああああいいい!!ぼうじまぜんがらゆるじでぇええええぎゅぼっ!!!」 何が悪いのかすら解らないまま、命乞いの為に謝り続けたれいむはフォークに串刺しになってくたばった。 その罪に反してあっさり訪れた死。尤も、それは決して慈悲などからもたらされたものでは無かった。 「……まだこんなにいるんだど~☆はやくしないとあさになっちゃうんだど~☆」 大きな熊手を振り回してゆっくり相手に無双していたれみりゃが大声で急かす。 そう、彼女達は単に時間を掛けたくなかっただけだった。今だ千人以上を残すゆっくりの大軍勢を始末する為に、最も効率の良い方法を選んだ結果に過ぎなかったのだ。 「い、いやじゃぁあああああっ!ばでぃざじにだぐないぃいいいいいい!!」 「でいぶだけでもだすかるよ!!まりざだぢはゆっくりじね!!」 「ごんなのどがいばじゃないぃいいいいいいっ!!!」 最前列に並ぶゆっくり達の凄惨な死に方を目撃した後続のゆっくり達が、先程の罵倒とは正反対の悲鳴を上げながら四方に逃げ出す。 だが、ゆっくり達の必死の逃避行は、それを先読みしたれみりゃの包囲網に阻まれた。 「どぼじでごごにでびりゃがいるのぉおおおおおっ!!……やじゃぁああ!!でいぶをだべないでごろじゃないでじにだくないじにだっ!!!」 「ま、まりさはおいしくないんだぜ!!だからみのがすんだぜ!!……ばなぜぇえええええ!!ばなじでぇええええぎゃっ!!!」 「ありずのがずだーどじゃんずわないでぇええええっ!!おねがいじまずぅううううう!!おねが………おね………お…………………」 あちらこちらで繰り返される醜い命乞いとそれを無視して振るわれる農具、そしてその度に飛び散る餡子。 休耕地となっていた畑は今、良質の肥料を啜る吸血鬼ならぬ吸餡地と化していた。 「ゆっへっへ、いまのうちなんだぜ!……そろーり……そろーり……」 とはいえ、千を越す大群を僅か百匹足らずのれみりゃで完全に包囲出来るものではない。 れみりゃ達の隙を突き、畑の茂みに身を潜めて生き延びたゆっくりも相当に存在していた。が…… 「こ、ここなられみりゃにみつからないよ!……そろーり……そろーり……ゆびゃっ!!」 ……折角隠れていても、動く度に大声で『そろーりそろーり』等と自分の居場所を教えていては意味が無い。 畑のあちこちで湧き上がる『そろーりそろーり』の大合唱に呆れながらも、れみりゃは駆除を続けていた。 「……まったく、おばかなやつらなんだぜ。『そろーりそろーり』なんて、あかちゃんのやることなんだぜ」 「そうね、しょせんいなかものだわ。とかいはなありすたちのむれにはやくぶそくだったのよ」 そんな間抜けな仲間達が駆除されるのを、畑に身を潜めながら冷たい目で眺めるもの達がいる。 このまりさとありすはどうにか畑に逃げ込むと、見つからないように周囲の葉や土で偽装して身を伏せていた。 「このままあさまでまつんだぜ。あかるくなったら、れみりゃたちもひっこむんだぜ」 「まぬけなどすだけなら、ありすのずのうぷれいでらくしょうだわ。とかいはなけいかくよね」 朝になれば、日光に弱いれみりゃ達は帰るだろう。厄介なれみりゃさえ居なければ、残ったドスなど問題ではない。 咄嗟に考えたにしてはそこそこ上手い策略である。れみりゃが手当り次第に畑を攻撃し始めたらどうするかとか、そもそも誰に翻弄されてこうなったのかを忘れてさえ居なければ。 そして、その程度の思惑はとっくにドス達が見抜いており、既に対策済みであることを除きさえすれば。 息を潜め、見つからないように縮こまっていたまりさとありすの頭上で羽音がする。 思わず声を上げそうになるのを必死に押さえて増々縮こまる二人の目に、空から下りてきた死神の姿がはっきりと映し出された。 「う~☆こんなところにいたんだど~☆」 「「どぼじででびりゃにみづがっでるのぉおおおっ!?!?!?」」 驚愕の叫びを上げる二人の目前で仁王立ちしていたのは、その手に角形ショベルを持った胴付きれみりゃだった。 まりさは混乱する。自分の偽装は完璧だった、バレる筈は無い。自分の所為で居場所がバレたのではない! 自分の所為でないのなら………ありすの所為に決まっている! およそ余人には理解出来ない思考回路に導き出された結論に従い、ありすを罵倒しようとしたまりさの体に鈍い衝撃が走る。 「ゆぎゃあああっ!?なにするんだぜぇ!ありすぅうう!!」 「だまりなさいいなかもの!まりさのせいでみつかったじゃないの!!」 まりさの体にぶつかってきたもの、それは同様の推理でまりさの所為だと結論付けたありすの体当たりだった。 自分の責任を認めないその発言に、まりさは激昂して反撃に出た。 「なにいってるんだぜぇえええ!!わるいのはぜんぶありすのせいなんだぜぇええ!!」 「ぷぎゃっ!?よくもやったわねぇええええ!!!!」 状況を忘れ、まりさとありすは睨み合う。 お互いがお互いを悪いと罵り合う喜劇のような喧嘩は、始まる前に幕を下ろした。 「……やかましいんだど~☆えいっ☆」 「じね『パァン!』え゛びゅ゛っ゛!?」「んほ『パァン!』お゛ぼっ゛!?」 まりさとありすが忘れていた観客、れみりゃが持っていた角形ショベルによって、ゆん生の終幕というおまけを付けて。 ショベルによって叩き潰され、餡子とカスタードを散らして爆ぜると言う派手な最期を遂げた二人に一瞥をくれ、れみりゃは右手の親指を立てたガッツポーズを明後日の方向に向ける。 いや、それはポーズではなく、戦友に向けた敬礼であった。 れみりゃが敬礼を向けた茂みの奥、そのまま飛び去っていく彼女を見送った『彼女』はようやく身を起こした。 「……おれいをいわれるのはすじちがいだよ。れいむは、これくらいしかできなかったんだから」 自嘲気味に呟くのは、先程のまりさ達など比較にならない程精巧な偽装を施されたれいむであった。 体が半分程収まる穴に潜み、迷彩が施された上に草や葉っぱを取り付けて草むらに見せかけた防水布を被る姿は、目を凝らしても周囲と見分けが付かない。 れいむが、否、れいむ『達』が請け負った役割、それは『見張り』である。 れいむ種には特に秀でたものがない。運動能力ではまりさに劣り、知性の面ではぱちゅりーに劣り、瞬発力ではちぇんに劣り、武力においてはみょんに劣る。 正直、戦いの役には立たない。だからといって、座して結果を待つなど考えられなかったれいむ達自身が発案し、『彼ら』の協力を得て完璧な偽装を施した上で作戦に投入されたのだった。 「……ゆっ!またみつけたよ、あんなところにかくれていたんだね」 防水布と塹壕の狭間から目を凝らしていたれいむが、数メートル先で帽子に葉っぱを刺して偽装したまりさを発見した。 即座に口に銜えた手鏡を器用に扱って、上空のれみりゃに合図を送る。合図に気付いたれみりゃを反射光で誘導し、まりさの目前に着地させた。 「ゆびぇえええええっ!?なんでばれたんだぜぇええええっ!?」 弾かれたように踵を返して逃げ出すまりさ。その後頭部に向け、れみりゃは手にした鉈を大きく振りかぶり、勢い良く投げ付けた。 「ゆ゛べっ゛!!!」 鉈は回転しながらまりさに吸い込まれるように命中する。お帽子ごと幹竹割りにされたまりさは左右別々に跳ねるような動きを見せた後、開きになって絶命した。 鉈を回収したれみりゃがれいむに向けて親指を立てる。そして再び空へ舞い上がった。 「……ありがとう、れみりゃ」 れみりゃ達がいちいち親指を立てて感謝を示すのは、れいむ達が『見張り役』に引け目を感じているのを知っているからだ。 れいむが出来る精一杯がこの程度だという現実が、『れいむは無能である』という事実の証明だとれいむ達は考えている。 だから『そんなことはない』、『れいむたちはじゅうぶんやくにたっている』と励ましを込めて、れみりゃ達は親指を立ててくれるのだ。 その心遣いが嬉しい反面、余計な気を使わせてしまう自分の無力が悔しかった。 「もっとつよくなりたいな……、れみりゃみたいにはむりでも、まりさみたいに……」 れいむの心に火が点る。小さく燻っているそれは、れいむが生涯を懸ける目標を得た証拠だった。 しかし今は将来の夢より目の前の現実である。再び見張りに戻ったれいむは、ふと先程潰されたまりさとありすの遺骸に目を向けた。 「……ありす、『やくぶそく』のいみ、まちがってるよ。……どのみちありすも『やくたたず』だったけど。れいむとおなじだね」 冷静にありすの言い間違いを指摘すると、れいむの意識はは未だ流餡の絶えない戦場に向かう。もう、ちらりともそちらを向くことは無かった。 「ゆぷぷっ!みんなばかだね!れいむはおりこうだから、こんなわなにだまされたりしないよ!」 空のれみりゃと畑に潜んだれいむ達による二重の監視網も完全ではない。絶対的な頭数が不足している以上、どうしても取りこぼしは出てきてしまう。 畑の茂みと畦道を縫うようにして上空のれみりゃから身を隠しつつ、畑のれいむ達にも見つからないように逃げるこのれいむも、そんな取りこぼしの一人だった。 「さっきからおかおがぴかぴかしたれみりゃがおりてくるよ!きっとくさむらのなかにみはりがいるんだよ! くさむらのなかにはいったやつらがころされたのもそのせいだよ!……だかられいむはくさむらにはいらないよ!」 驚くべきことに、このれいむは畑の監視網を読み切って対策まで立てていた。 草むらに隠れては上空を窺い、れみりゃの動向に注意しながら長時間同じ所に留まらず、草むらの中に居る見張りに見つからないよう畦道伝いに逃げる。 度胸と細心の注意が要求される高等なスニーキングミッションだったが、れいむは運良くどちらにも見つからずに逃げ延びることが出来た。 畑を照らす光も届かない薄暗がりに辿り着いたれいむはようやく胸を撫で下ろす。ここまでくれば占めたもの、後はあの森まで一目散に逃げるだけだ。 「ゆっくりしないでおうちかえるよ!れいむたちをだましていたおうさまはそこでくるしんでしんでね!」 背後で断末魔の悲鳴を上げる群れにそう言い残し、れいむは一寸先も見えない夜闇へ駆け出す。いや、駆け出そうとした。 「まって!そっちへいっちゃだめよ!!」 「ゆっ!?」 れいむのエクソダスを止めたのは、見覚えの無い一匹のありすだった。カチューシャにれいむ種の物とおぼしきリボンが付いている。 化け物まりさの群れでは獲物から奪ったお飾りを付けて見せびらかし、自分の力を誇示するのが流行っていた。このありすもその内の一人なのだろう。 敵ではないことを確認したれいむは安堵し、次いで怒り出す。 「ゆっ!ありす、おどかさないでね!」 「あら、それはごめんなさいね。……でも、そっちにいったらしんでたわよ、れいむ」 「ゆゆゆっ!?どういうこと!?」 ありすの爆弾発言に、れいむは度肝を抜かれる。目を丸くしたれいむに、ありすは言葉を重ねた。 「くわしいことはあとにしましょう。それより、すぃーをうばってにげましょう」 「ゆっ!?すぃーがあるの!?」 「ええ、それもこわれてないすぃーよ!」 あの森でスィーを持っているゆっくりは一人も居ない。化け物まりさが森の外れに捨てられていたスィーを見つけるまで、現物すら見たことが無かった。 そのスィーとて壊れて動かないので、化け物まりさは奴隷に引かせていたくらいだ。 「すぃーなられみりゃもおいつけないわ。それに、おうさまだってちゃんとしたすぃーはもってなかったんだもの。 すぃーをもってもりにかえれば、れいむとありすがつぎの『おうさま』よ!」 ありすの言葉がれいむの餡子に染み込んでいく。煽て上げに弱いのはゆっくり共通の弱点である。 「……なんで、れいむにそんなことはなすの……?ありすだけですぃーをうばえば、ありすがおうさまだよ……?」 だが、れいむとて地獄の戦場を生き延びたゆっくり。 元々れいむ種にしては聡明な頭脳の持ち主であったが故に、ありすの言葉を無条件で信用するような真似はしない。 スィーは全ゆっくり憧れの乗り物、野生でスィー持ちであることは王侯貴族並みのステータスだ。 れいむならそれを目の前にして、手柄を分けるような真似は間違ってもしないだろう。 「……ありすだけじゃ、ぬすめないのよ。すぃーのところに、みはりがいるの。だから……」 「……れいむをおとりにするつもり?いやだよ、そんなこと」 成る程、れいむを囮にしてその間にスィーを盗み出すつもりだった様だ。 しかしこの場における囮とは即ち捨て駒のこと。もちろんれいむにはそんなつもりは毛頭無い。 「……わかってるわよ。だからおとりはありすがやるわ。そのあいだにすぃーをぬすんでちょうだい。 すぃーにはかぎがついてて、あまりとおくにはいけなくなってるの。ありすならかぎをはずせるから、とちゅうでごうりゅうしましょう」 「ゆふん?……そういうことならひきうけるよ」 なかなか抜け目の無いありすだ。ありすの言う通りなら、森に帰るにはありすの助力が必要になる。 仮にそれが嘘だったとしても、それを証明出来ない限りれいむはありすを無視出来ない。無論この場で証明なんかできない以上、ありすを切り捨てる選択は有り得ない。 あまり見覚えは無いが、このありすは化け物まりさの群れの中でもかなりの切れ者のようだ。 わざわざれいむを指名したのも、ここまで逃げて来れた実力を見込んでのことだろう。ならばその言葉も信用に値する。 「そう、ありがとう。……こっちよ、ついてきて」 そう言うとありすは躊躇無く暗がりに足を向ける。その後をれいむが追う。 周囲を煌々と照らし出す照明が逆に作り出した影を伝い、未だ阿鼻叫喚が続く畑を迂回するようにそろそろと這って行く。 「……ここよ」 不意に、先行するありすの歩みが止まった。その言葉にれいむが覗いて見れば、二匹のゆっくりが大きな段ボ−ル箱を挟むようにして周囲を警戒していた。 二人は素早くお互いの役割を確認する。 「あのはこのなかにすぃーがあるの。ありすがしょうめんからちょうはつして、みはりをひきつけるわ。そうしたら……」 「……れいむがあのはこにしのびこんですぃーをうばうんだね。わかったよ」 「……かぎがかかっていてもあるていどまでならはしれるみたいだけど、どこまでうごけるのかはわからないの。 だから、すぃーをうばったらかのうなかぎりすばやくありすにおいついてちょうだい。かぎをはずしたら、そのままもりまでいっちょくせんよ」 ありすの言葉に頷くれいむ。尤も、彼女はありすを裏切るつもりだった。 とりあえず鍵を外す所までは共闘しているふりを続けよう。鍵を外したらこいつは用済み、もし鍵云々が作り話だったとしてもスィーの現物が手に入るなら幾らでもやりようはある。 (おうさまになるのは……れいむだけでいいんだよ………!!) 逸る内心を押さえ、見事なポーカーフェイスを浮かべるれいむに、緊張しているのか若干息の荒いありすが最後の指示を出す。 「……れいむはこのままあのはこのうしろにまわって。れいむがいちについたら、はじめましょう」 「わかったよ!おとり、がんばってね!」 口先だけの励ましを贈り、れいむは段ボールへ向かうため踵を返す。 ありすの目の前に、無防備なれいむの背中が向けられた。 裏切る気満々ではあっても、れいむはありすを信用していた。 持ち掛けられた話も説得力はあったし、何よりありすの手練手管は信用に値するものだったから。 ……それが、命取りだった事に気付かないまま。 突然、れいむの背中にのしかかってくるありす。れいむのもみあげに、荒い息が吹き掛かる。 「ゆっ!?なにするのありす!!……ありす?」 「ゆふ~っ……ゆふ~っ……」 れいむの背筋に悪寒が走る。化け物まりさの群れで散々見てきた場面、それに符合する行為だったから。 「ゆふ~っ……れぇえええいぶぅううううううっ!!」 「ゆわぁああああああっ!!!れいぱーだぁああああああああ!!」 あまりのおぞましさにここが敵地であることを忘れ、れいむは叫ぶ。 なんてことだ、囮という大仕事への緊張感でありすがレイパー化してしまったらしい。 確かにストレスに弱いゆっくりなら過度の緊張はレイパー発症の引き金に成り得るが、よりにもよってこのタイミングで起こるなんて!! 無我夢中でありすの拘束から逃げ出そうともがくれいむの目に、段ボールを離れてこちらに近付いてくる影が映った。 「ゆ゛っ゛!?ぎづがれぢゃっだよ!!ばやぐどいでねありず!!ごのままじゃでいぶだぢごろざれぢゃうよぉおおおおっ!!」 「こうかいぷれいねぇえええ!!もえるわぁあああああっ!!んほぉおおおおっ!!」 駄目だこいつ早くなんとかしないと。もう四の五の言っていられる状態ではない、この状況を打破出来るなら敵であろうと構わない! れいむは近付いてくるゆっくりに助けを求めた。 「だずげでぇえええええ!!れいばーにごろざれるぅうううううっ!!……ゆ゛びっ゛!?!?」 だが、近付いて来る影が露になるにつれ、れいむの目が驚愕と絶望に染まっていく。 遠目では解らなかった二匹のゆっくり、それは両方ともありすだった。 「ゆふ~っ……こんなところでおさかんねぇええ!!ありすもまぜてほしいわぁあああ!!」 「かわいいれいむねぇええええ!!とかいはにあいしてあげるわぁああああ!!!」 そして二匹とも、あのレイパー特有の嫌らしい目付きをして絡み合うれいむ達に迫って来る。 後門のありす、前門のレイパー。れいむの聡明な餡子脳は最早退路が無いことをはじき出す。 「ごっ゛ぢぐる゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!ゆ゛ん゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛づづづっ゛!!!!!!」 れいむに出来たのは、決して聞き入れられることの無い拒絶の絶叫を上げることだけであった。 三十分程経過した頃、ありす達はようやくれいむを解放した。頭から無数の茎を生やし、すっかり黒ずんだれいむには何の意味も無かったが。 一仕事終えたレイパー達に、また別のありすが近付いてくる。しかしこのありすは少々変わった姿をしていた。 何かが入ったネットを背負い、カチューシャに挟み込むように赤十字が描かれた紙切れを頭に乗せている。それは一昔前のナース帽のようだった。 ナース帽のありすは平然とレイパー達に歩み寄っていく。その姿からはレイパーに対する恐怖は微塵も感じられなかった。 「……おわったみたいね。おつかれさま、ありす」 レイパーに向かって親しげに話し掛けるナースありす。その言葉に対して、レイパーが至極冷静に言葉を返す。 「……ほんとうだわ。けがらわしいれいぱーのまねごとをしなきゃたたかえないなんて、ありすたちもしょせんありすってことかしら」 自嘲気味に零すレイパーに、他の二匹も同意する。その様子を、ナースありすは苦笑いと共に見ていた。 背中のネットを下ろし、中から三つの蜜柑を取り出す。それを差し出しつつ、ナースありすは三人を励ました。 「しかたないわね。ふだんとれいぱーじょうたいではぜんぜんつよさがちがうもの。つかえるなられいぱーでもつかう、それはわかっているでしょ?」 「……それくらい、わかっているわよ。……つぎ、いきましょう。てきはまだまだたくさんいるわ。……ぁむっ」 皮も剥かずに、蜜柑を口に放り込んで咀嚼するありす達。このありす達もまた、ドスが用意した戦力であった。 れいむ達の監視網でカバー出来る範囲はそう広くない。その為、予め畑の外周部に予備戦力を置き、取りこぼしたゆっくり達を迎撃する。 それがドス達の狙いだった。いくら主戦力をれみりゃに譲るとは言っても、ドスの群れは皆かなりの実力者だ。 武器を持ったみょんと吹き矢のまりさ達、そして監視網のれいむ達を除いても結構残る戦力を遊ばせておく理由は何処にも無い。 それぞれチーム分けされて配置された戦力の殆どはまりさとありす。まりさはともかく、まともにぶつかればひとたまりも無いことはありす自身が良く知っていた。 そこでこのチームでは『囮作戦』で釣り上げた獲物を『レイパー化』して倒す作戦を立案、実行していたのだ。 このれいむで三匹目、今の所『チーム・レイパー』の担当エリアから逃げ仰せた敵は居ない。それはありす達が完璧に役目を果たしていることの証明だった。 「それじゃ、ありすもいくわね。……どんなけがでも、しなないかぎりなんとかなるわ。だから、あきらめないでね」 そう激励して『チーム・レイパー』と分かれたナースありすも、ドス達の『作戦』の一環だった。 直接戦闘を可能な限り避け、ゲリラ戦法に徹しているとは言っても完全に無傷ではいられない。 その為、緊急時に備えて蜜柑とオレンジジュースを装備したありすが控えているのだ。 『彼ら』によってナース帽もどきを付けられた彼女達は、重傷者にはオレンジジュースを振り掛け、疲労困憊したゆっくりには蜜柑を振る舞って戦場に送り出す。 随分血腥いナイチンゲールだが、彼女達の存在が前線に立つゆっくり達の支えになっているのは事実だった。 「……まだまだたたかいはつづくわ。ほんとう、ありすたちもしょせんゆっくりなのよね」 溜め息を吐きつつ、巡回を続けるナースありす。その表情には深い諦観が表れていた。 畑のあちこちで谺する断末魔の絶叫は、化け物まりさの耳に入っていなかった。 いや、正しくは聞いてる余裕が無かっただけだが。 「こ……こんどこそ!こんどこそやっつけるのぜぇええええびゃぎゃあっ!!」 「……そろそろあきらめるんだど。なんどやっても、れみぃにかてるわけないんだど」 裏をかくつもりで入れたフェイントをあっさり見破られ、飛んできた鋤の腹に吹き飛ばされる。 地面に叩き付けられ、大きくバウンドしながら転がっていくまりさの姿に、れみりゃは呆れて肩をすくめた。 「う……うるさいのぜ………こんなの………なにかのまちがいなのぜ……………」 大きく息を吐きながら、化け物まりさは身を起こす。 致命傷を避け、薄皮一枚残して付けられた裂傷は、それを付けたれみりゃの技量を物語る。 体中から餡子を滲ませ、全身を満遍なく腫らしたまりさの姿は、彼女の技量がれみりゃのそれに及ばない事実を証明していた。 「ま……まりささまは……おうさまなのぜ………!……れみりゃをたおして………もういちど、しょうめいするのぜ…………!!」 それでも化け物まりさが挑み続ける理由、それは『プライド』の為だった。 家来達の反乱、まりさはその理由が目前のれみりゃにあると考えたのだ。 今まで手足のように従えていた群れが、実は自分ではなく帽子に忠誠を誓っていた。それは即ち、まりさ自身に価値が無いということ。 まりさの歪で根拠の無い自尊心はそれを認めることを拒絶した。 (れみりゃさえ……れみりゃさえたおせれば………!) れみりゃを倒し、まりさの方が強いことを示せばきっと家来達も帰ってくる。再び自分を王様と呼び、ゆっくりさせるなら奴隷に堕とす位で勘弁してやろう。 その為には、このれみりゃを倒さなければ…………! それが化け物まりさの出した結論であり、無謀な挑戦を続ける理由だった。 「いいかげんしつこいど!」 「ゆぎゃぁああああ゛あ゛あ゛っ゛!!」 しかしそんな自分勝手な結論なぞ、れみりゃにとっては文字通り知ったことではない。 無造作に振るわれた鋤の一薙ぎに弾かれて、化け物まりさは再び宙を舞う。 鋤の腹で引っ叩いて弾き飛ばす戦法に変えてから一時間弱、ずっとこの調子である。れみりゃの忍耐もそろそろ限界であった。 「はやくおわるんだど~……」 れみりゃとて最早付き合い切れない。 本音を言えばとっとと潰してしまいたいのだが、ドスから直々に『最後まで残しておいて欲しい』と頼まれた以上、殺してしまう訳にはいかない。 鋤を持つ手を返して刃を突き立ててやりたくなる衝動を必死に抑え、れみりゃはまりさを弾くことに専念する。 更に小一時間が経過し、れみりゃの我慢がいい加減尽きかけた頃、待ち望んでいたものはやって来た。 「おさーっ!ほうこくだよーっ!」 「……ゆ゛っ゛?」 れみりゃと化け物まりさの一方的な戦いを眺めていたドスに、その知らせを持ってきたゆっくりを見るや、化け物まりさの全てが止まった。 それを置き去りにして、ぴょんぴょんと跳ねてきたゆっくりはドスの元に着くと、背筋を伸ばして報告する。 「そこのまりさいがいのもりのむれ、にせんにひゃくじゅういちひき、せんめつかんりょうだよー!」 「……生き残りはいないの?あれだけの群れだし、もし生き残っていたら……」 「そのしんぱいはないんだよー!あかちゃんまでふくめて、ちゃんとちぇんたちがかぞえたとおりだったよー!」 「……こっちの被害は?」 「ししゃはいないんだよー!けがにんがじゅうよにんいるけど、すでにちりょうずみなんだよー!」 「解ったよ、有り難う。そうしたら皆に『集会所』で待機するように言っておいてね」 「わかったんだよー!」 ドスと親しげに言葉を交わしているのはちぇんだった。化け物まりさは、そのちぇんに見覚えがあった。 「……どぼぢで……」 フルフルと震えながら、化け物まりさはちぇんに向かう。近付いてくる化け物まりさに気付いたドスとちぇんが一瞬身構え、すぐに警戒を解いた。 「……なんで……なんで…………!!」 化け物まりさは既に満身創痍だった。 長時間殴られていた為に全身は腫れ上がり、あちこち黒ずんでいる。 古傷だらけの顔に新しく刻まれた傷からは餡子が滲みだしており、片目は完全に潰れていた。 最早跳ねる力さえ残っていないのだろう。力無く這いずる姿からは先程までの威勢の良さが微塵も感じられない。 ぼろぼろの体に覇気の無い隻眼。今の化け物まりさには脅威と呼べる部分が一切見受けられなかった。 「……どぼぢで……どぼぢで!!」 しかし、化け物まりさは自身の体などもうどうでも良かった。ドスとちぇんの会話に出てきた群れの末路さえ、まりさの耳には入らない。 まりさに残されたたった一つの目は、ドスの前に佇むちぇんの姿に釘付けになっていたのだから。 「どぼぢでぢぇんがぞごにいるのぜぇえええ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!!」 そう、ドスを長と呼んだちぇんは、群れに最近やってきたあの奴隷ちぇんだった。 特に聞き分けが良かった為に、まりさの覚えも愛でたかったのだ。見間違える筈も無い。 「ま……まさか……うらぎったのぜ!?まりさが……れみりゃじゃないから……?」 ちぇんが裏切る理由はそれしか考えられない。そこに気付いて一層震えだす化け物まりさに、ちぇんが残酷な一言を掛けた。 「ちぇんはうらぎってないよー?さいしょっからどすのなかまなんだよー!わかってねー!?」 「ゆ゛っ゛!?!?!?」 従順だったちぇんから聞かされた、余りに予想外の言葉にまりさの視界が真っ白に染まる。 言葉を無くした彼女に、追い討ちをかけるようにちぇんが畳み掛ける。 「ちょっとまえに、ちぇんたちのむれにしんいりさんがきたんだねー! そうしたら、さいきんもりのみんながまりさのむれにいじめられてるってきいたんだよー! もしかしたら、このむらにまでおしかけてくるかもしれないっておもったどすとにんげんさんが、ちぇんたちにちょうさをいらいしたんだねー!」 ちぇんの言葉が届いているのかいないのか、化け物まりさは沈黙を守ったままだ。 しかしそれに関係なく、ちぇんの独演会は容赦なく続けられた。 「まりさたちはわからなかったみたいだけど、ちぇんたちはこうたいであのもりをみはっていたんだよー! おかざりをこうかんしながらだったから、ばれなかったんだねー!……おみみのおかざりはそのままだったから、いつばれるかとひやひやだったけどねー!」 ちぇんの告白は終わらない。 外から調べるには限界もあったので、潜入調査に切り替えたこと。 群れにちぇんやみょんが殆どいなかった為に困難だったそれを、勝手に奴隷として引き込んでくれたので助かったこと。 なるべく従順な振りをしながら、群れの現状を把握する為に走り回ったこと。 そして主要な情報をあらかた調べ尽くした頃に、人間さんの村を襲撃する計画が立ち上がったこと。 ちぇん達がそのことをいち早く伝え、ドスと人間さんが迎撃態勢を整えていたこと。 群れのゆん口を把握していた為に、迎撃戦闘に参加せず撃墜数をカウントしていたこと。 そして、二千二百十一匹全ての死亡を確認してドスに報告しにきたこと。 全てを打ち明けたちぇんはやけにすっきりした表情で化け物まりさを見ている。 そこには罠にはめた優越感や、己が砂上の楼閣に君臨していた道化でしかないことを知らなかったまりさへの嘲弄も無い。 ただ、ちぇんの表情には一仕事終えた後の達成感だけが浮かんでいた。 ちぇんにとって、化け物まりさのことなどその程度でしかなかったのだ。 「……どぼぢで……」 長い沈黙の後、化け物まりさが絞り出すようにそれだけ言う。 まりさの栄光はお飾りによる幻想だった。れみりゃより強いと信じた武力は全く通じなかった。己の手足となる筈だった群れは一匹残らず消滅した。 その上、自分達の行動すら最初から最後まで人間とドスの掌の上で踊っていたに過ぎなかった。 自分が信じたものが全て幻だった事を突付けられたまりさの視線が、真直ぐドスを射抜く。 「どぼぢで……ばでぃざが……こんなべにあうのぜ……?にんげんって……なんなのぜ……?ばでぃざど……どずど……なにがぢがうのぜ……?」 まりさは知りたかった。 こんなに強い群れを率いるまりさが、何故人間と共にいるのか?何故あれほどのれみりゃが人間に捕われていたのか? そして自分とドスの、一体何が違うのか?何故まりさがこんな酷い目に遭わなければいけないのか? まりさは、どうしてもそれが知りたかった。 畦道を歩く足音が聞こえる。足音の方向に目を向けた化け物まりさは、そこで初めて『人間』を見た。 「おぉドス、ご苦労さん。悪いゆっくりの奴ら、全滅だって?」 「……うん、ここにいるまりさを除けばだけど」 ドスに話し掛けた人間は小さかった。お飾りも付けていないお顔からあんよに掛けて細く尖っている。 あれでは跳ねることさえ出来ないのではないか?正直、化け物まりさより小さいかも知れない。 ……お顔の下、あんよがある辺りから伸びている胴を無視すれば。 れみりゃ達、胴付きゆっくりのそれよりも細長い胴体はドスの身長より低い。だが、化け物まりさの群れの誰よりも大きかった。 成る程、こんなものが群れをなしているのなら、れみりゃが敵わないのも当然なのかも知れない。 「……ずるいのぜ。こんなやつらがものすごくいっぱいいたら、まりさたちがかなうわけないのぜ」 「はぁ?何言ってんだ、この村でゆっくりに関わってるのは俺たち三人だけだぞ?……この畑の持ち主は除くがな」 悔し紛れの台詞に返された返答に、まりさは一瞬言葉を失った。 「……ゆっ!?だ、だって、あれだけのれみりゃをつかまえてるって……」 「あー、そりゃそうだが……、そもそもあれって俺一人で集めてきたもんだしな」 「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛っ゛!?」 信じられない。たった一人であれだけのれみりゃを捕まえるなぞ、化け物まりさの想像を超えていた。 それを見ていたドスが口を開き、子供に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。 「人間さんはね、ずっとずっとずぅううっと昔から、ゆっくりプレイスを作る為に頑張ってきたんだ。それこそ、ゆっくりする事を忘れるくらいに。 何も無かった野原にお家を建てて、硬い地面さんを掘り返して柔らかくしてお野菜を植えて、大きなスィーで遠くまでいけるように広い道を造って。 ……ゆっくりみたいにゆっくりプレイスを使い捨てる事もしないで、少しずつ少しずつ悪い所を治しながら、理想のゆっくりプレイスに変えてきたんだよ」 化け物まりさは驚愕する。この素敵な楽園を作ったのが人間であるという事実に。 ……そして同時に、あることに思い至って戦慄した。 (そ……そんなゆっくりぷれいすなら……いままで、まりさたちが……ここを、しらなかったのって……まさか………!?) 餡の気が引き、蒼白となったまりさの表情を見て、ドスはまりさが正解に辿り着いた事を知った。 「そうだよ。人間さんは自分達のゆっくりプレイスを荒らす奴には容赦しないんだよ。 ゆっくりだけじゃなく、野犬さんや猪さん、熊さんも、人間さんには勝てなかったんだ」 一旦言葉を区切り、ドスは畑の外縁に広がる落とし穴を視線で示す。 「あそこの落とし穴も人間さんが作ったんだよ。人間さんのゆっくりプレイスを荒らす、悪いゆっくりを懲らしめる為に」 そう語るドスの目に一瞬苦いものが浮かび、すぐに消える。尤も、些細な変化に気付けたゆっくりは居なかったが。 「……まりさ達を撃った吹き矢やみょん達の剣、れみりゃ達の『すぴあ☆ざ☆ぐんぐにる』も、人間さんが作ったんだよ。威力は見ての通り、凄いよね。 ドスなら、素手の人間さんと一対一なら勝てるだろうね。でも、二人いたら絶対に勝てない。人間さんが武器を持っていたら、一人とだって戦えないよ。 ……だからドス達は人間さんと取引したんだ。『人間さんをゆっくりさせる代わりに、ゆっくりプレイスに入れてください』ってね」 まりさの顔色がどんどん髪のように白くなる。天辺禿の金髪すら色素を失っていく。 歯の根が合わない。カチカチと響く音を餡子に響かせながら、まりさは全身を振ってその言葉を聞くまいとした。 だが、ゆっくりの全身感覚はそれを許さない。塞ぐべき耳も手も持たぬまりさには、それを妨げる事は出来ないのだ。 「……まりさは最初から、戦う相手を間違えていたんだよ」 「ゆ゛ん゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!!」 化け物まりさは『ドスが人間を奴隷にしている』と思い込んでいた。しかし、現実は逆だった。 『人間がドス達を奴隷にしていた』のだ。しかも『ドス達の方からお願いして奴隷にしてもらった』と言うおまけ付きで。 そして、この恐るべきドス達を『たった三人』で屈服させた人間の力を、まりさは今初めて理解したのだ。 「……して……」 化け物まりさは目を伏せて呟く。その余りにもか細い声からは、かつての偉容など欠片も感じさせなかった。 「……ころして……まりさを、ころして…………!!」 最早まりさの心は完全に折れている。 信じていたものがまりさを裏切り、よってたかって彼女の心をへし折らんとする状況の全てに、完膚なきまで叩きのめされていたのだ。 そして今、初めて目の当たりにする人間の偉業に、まりさはようやく自身の敗北を受け入れる事が出来た。 完敗、言い訳出来ない程完全無欠の大敗北。 もうまりさには何も残っていない。全てを失い、恐らくはこれから命すら失おうというのに、彼女の心はいっそ穏やかでさえあった。 (もう、いいや……まりさ、つかれちゃったよ……) 自分にとどめを刺すのはドスだろうか?それとも人間さん? どちらでも構わない。死ぬのは痛いかも知れないけれど、きっとこのまま生きるよりはゆっくりできるだろう。 まりさはそっと目を閉じて断罪の時を待つ。悟りの境地にも似た静謐な精神が、瀕死の彼女にその名の通りの『ゆっくり』を与えていた。 「おいおい、何言ってるんだよ。ここまでしといて、そんなに簡単に死ねる訳無いだろうが」 しかし、まりさを捕らえた死神の手は、人間の口を借りてまりさの決心を打ち砕いた。 「…………ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ゛!?!?!?!?どぼぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?!?」 嫌だ、これでもうゆっくり出来ると思ったのに、これ以上まりさから何を奪おうというのだ!? 一筋の希望すら踏み潰され、先程の静謐が嘘のように彼女の精神を蹂躙する。そしてそれを為した人間はまりさを無造作に掴むと、持っていた籠に押し込んだ。 「まあ、これから長い付き合いになるんだ。よろしくな、まりさ?」 「ごろ゛ぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!ばでぃ゛ざを゛ごろ゛ぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」 決して受け入れられないと解っていながら、化け物まりさは己の死を懇願する。 絶望に満ちた絶叫が次第に遠ざかっていくのを見送りながら、ドスは一言だけ呟いた。 「……ごめんなさい」 ※過去作とかは後編にて 一言あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2966.html
今までに書いたもの 神をも恐れぬ 冬虫夏草 fuku4385(タイトル付け忘れた……) ※注意事項 人間は介在しません。 登場するゆっくりは全滅しません ぼくのかんがえたさいきょうゆっくりが登場します。 ……最強っていうか、ゆっくりしろよ的ゆっくりか。 ここは、人里から遠く離れた博麗大結界に間近い山の中。 妖怪の山からも遠い幻想郷の外れでは、人間どころか妖怪の姿さえほとんど目にする事はできない。 そんな幻と現の境界地帯の主は、大きく分けて二種類だった。 一つには、結界の内外いずれの側にも満ち溢れた自然の具象である妖精たち。 そしてもう一つには、生き物と食べ物の境界に位置するナマモノ――ゆっくりと呼ばれる生き饅頭たちだ。 山際に残る朱の色が、月が高くに上ると共に紫へと塗り替えられてゆく。 冬の太陽は早くに沈む。日のある内はまだ温みを残していた山の空気も、空に紺と紫の領域が増すに連れて 突き刺すような冷気で地上を満たし始めていた。 野山から生けるモノの気配が極端に少なくなる、死と静寂に満ちた季節。厳しいこの時期をやり過ごす為、 巣穴に閉じ篭るという習慣は捕食種のゆっくりにとっても例外ではない。 「うー! よるがきたどぉー!」 ここは、厚く堆積した柔らかい土壌を掘り進めて作られたれみりゃ一家の巣穴である。 もともとは、彼女らのモノではない。先住者は子連れのれいむとまりさのつがいだった。その先住者はこの秋、 老幼あわせて十匹残らずこの冬の入りにれみりゃ一家の保存食となっている。 晩秋、より中心部――紅魔館の近くに適当な住処を見つけられず、辺境を流れ流れてここまで来た家族だった。 「みゃんみゃ〜、にぇみゅいぢょぉ〜」 「うりゅさきゅちぇよくねむれなかったぢょぉー……」 親に続いてもそもそと起き出してくる、体のない子れみりゃや赤れみりゃ、その数五匹。 器用に羽根で眠い目を擦る。どうやらまるで寝たりないらしい。それは両親――体つきと体なしのつがいだった――も同じらしく、 二匹揃ってみっともない大あくびをすると疎ましげな眼差しを入り口へと送る。 「ふぁ〜。まんまたちもねむいんだどぉ〜……」 「らぶり〜なれみりゃをゆっくりさせないなんて、ひどいかぜさんなんだどぉ〜」 ぐるぐる頭の中をかき回す眠気のせいで、楽しい家族の会話もどこへやら。きちんと戸口の閉じられた巣穴は 地中の温もりもあって眠気を覚ますほどの寒さもない。家族揃って言葉もなく、じーっと扉の様子を見詰めてみる。 ばたん、もしくは、ごつん。 静かになった部屋の中は、木の皮を引っぺがして接着用餡子で固めた扉は、今もガタガタいってる物音だけに 支配されてしまった。 今日は日中ずっとこんな感じだった。夜もこんな感じのままなのかもしれない。うるさいのは扉が立てる音ばかり ではなく、外の枯れ葉が擦れあう音、モノが落ちたり転がったりするような物音なんかも同じこと。 きっと、今日はとても冷たい風さんがゆっくりしていない一日なのだ。 さすがに閉じた戸をわざわざ開けてまで外の『かぜさん』に抗議する気にもならず、れみりゃ家族は寒気の 差し込まないおうちの奥からせめても大声を張り上げて呼びかける。 「かぜさん、ゆっくりするんだどぉ〜♪」 「ゆっくりしなきゃ、あとでさくやにいいつけるどぉ〜♪」 「「「ちゃくやにいいしゅけるどぉ〜♪」」」 ……と。 まるで、間延びした二匹の呼びかけをまるで理解したかのように、戸を叩く音が一時に止まった。 もちろん、れみりゃたちが風をどうこうできる訳もないのだが、餡子脳は全てを都合よく解釈するものだ。 「う〜♪ かぜさん、れみりゃがこわくてだまったんだどぉ〜」 「おちびちゃんたち、これでまんまぁとゆっくりできるどぉ♪」 「「みゃんみゃ、しゅごいんだどぉ〜♪」」 勝ち誇る両親に、それを真に受けて褒め称える子供たち。 万が一にも風の妖精がれみりゃの言葉に従ったのだとしても、それは引き合いに出された『さくや』が怖かったんじゃ? なんて謙虚な発想はゆっくりにはないわけで。 「「おちびちゃん、すーりすーり♪だどぉ〜♪」」 「「「すーり、すーり♪しゃわしぇだどぉ〜♪」」」 勝利の余韻に浸った家族、一頻り体を寄せ合わせる。 既に変な空気になった餡子脳の中では『かぜさんもさからえないこうまかんのおぜうさま』は伝説にすらなっているらしい――が。 ―――どがあぁぁんっ!!――― 伝説、粉砕。文字通りに。 「うーっ!?」 「と、とびらさんがこわれたどぉぉ!?」 「みゃんみゃーっ!? さささっ、さむいんだっどぉ〜!!」 「ゆぐっ、ゆっぐぢぢだい゛どぉ〜……」 いったい、何事が起きたのか。 突然入り口から大きな破壊音が響いたと思うと、薄く立ち上った土煙の向こうに壊れた扉と真っ暗な空が見えた。 お外とおうちの間を遮るものはすでになく、びゅうびゅうと吹き込んでくるのは、冬の夜の容赦ない寒気。 両親れみりゃには一つ思い当たることがあった。こんな時期、 「う〜っ……もしかして、れてぃがきた!?」 「れてぃやだどおおぉぉっ!!?」 「「みゃんみゃぁ、きょわいどぉ〜!!」」 地中の巣に篭っていたのでは、長く伸びるれてぃの舌からは逃げられない。 かといって、出口が一つしかないこの巣では、外に出るのはわざわざ「おたべなさい!」するのと同じ事だ。 進むは地獄、引く事は出来ず。まさしく進退窮まった状態で、一家はお星様が綺麗に覗くおうちの入り口から 長く伸びる死への誘いがやってくるのを、ただ身を寄せ合い震えながら待ち受ける。 両親はせめて子供だけでもと、背中、巣の奥に子供たちを押し込めて守るが……蟷螂の斧、報われるまい。 「……う〜?」 「う〜、う〜?」 そう、親子揃って観念して、しばらく縮こまっていた。 扉が壊されてからすぐ。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからちょっと。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてから少し。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてから大分。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからしばらく。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからかなり。れてぃの舌は、入ってこなかった。 「……う〜? れてぃ、ちがったどぉ?」 「うっう〜♪ ちびちゃんたち、もうしんぱいないどぉ〜」 「「「……う〜?もうだいじょうぶだど?」」」 さすがにこれは、れてぃではないらしい。 恐怖がゆっくり溶け、疑念に変わり、安堵に移り変わるまでたっぷり十分ほどは待った。 最後まで、れてぃの舌が入ってくることはなかった――怖がる必要なんてなかったのだ。 「うっう〜♪ おぜうさまのれみりゃにこわいものなんかないどぉ♪」 「みゃんみゃはとてもつよいんだどぉ〜♪」 「つよいまんまぁはおうちのとびらもさくやがいなくてもなおせるんだどぉ〜♪」 「みゃんみゃはなんでもできるんだどぉ〜」 そうと知ると、一転して強気である。餡子脳には先ほど見せた自分の(親の)みっともない姿なんて欠片も残ってない。 扉が壊れた原因を、突き止めようという考えすらなかった。 ただ、そんな餡子脳でも流石に扉を直さなければというぐらいの思考はあるらしく、両親を先頭に寒気厳しい外界との 入り口に向かう。一応野生で生きてきたれみりゃである。扉の作り方、治し方ぐらいは知っている。 「……とっ、とびらさんがどこかいくんだどぉ〜」 ただ、一から作るとなるとさすがにこの時期、面倒だ。 壊れた扉に逃げられては困る。だから真っ二つに割れた扉の片割れが、急に巣穴の外の方へと動き出したことにれみりゃは 少し慌てて這う速度を上げる。 「う〜、おいかけっこだどぉ〜♪ とびらさん、ゆっくりまつんだどぉ〜♪」 「はやくつかまえるんだ……どぉ?」 どうして扉が動き出したのだろうか。 風の仕業だろうか? そんなはずはない。扉は中から外に動いているのに、風は外から中に吹き込んでいる。 巣穴が斜面になっているから? それなら滑り落ちる方角が逆だし、巣穴はそんなに急な角度で地面に潜っている訳ではない。 その答えを知らず、考えもせず、家族は無防備に入り口近くまで近づいた。 「どうした……う〜?」 「「「うゅ〜?」」」 そしてそこで目にした光景に、全員が思わずぽかんとした。 巣穴の入り口、そのすぐ側。覗き込む顔がいくつも、いくつも。見知ったものばかり並んでいたからだ。 「う〜!? あまあまがいっぱいいるどぅ〜♪」 「あまあまがいっぱ……い……」 やがてれみりゃたちの口から漏れたのは、喜び半分、驚き半分。 巣穴から見えるのは、れいむが三匹にまりさが四匹。 喜びはおいしいあまあまが向こうから巣の近くまで来てくれたからで、驚きはこんな冬場に外をうろつくゆっくりがいる なんて思っていなかったからだ。 「……う〜☆ たべきれないんだどぉ〜♪」 「「「うー! たーべちゃうぞー!!」」」 よく考えたら起き抜けで、ちょうどおなかがすいていたところだ。 親れみりゃと子れみりゃたちは、みんなそろってお決まりの台詞をごはんになってくれるあまあまたちに投げかけた。 もそり、もそもそ。 ……反応が、おかしい。まるで恐れる様子のない獲物たちの様子が、ちっぽけなれみりゃの肥大したプライドに小さな 棘となって突き立った。 「……? あまあまのくせに、さからうつもりなんだどぉ〜?」 のそり、のそのそ。 反応は、変わらない。 恐れるでなく、猛るでなく、のっぺりとした笑顔を浮かべたままで蠢くだけ。 まるでこちらの存在を軽視――むしろ無視するかのようなその態度。自分が軽んじられていることを自覚するに至って、 ようやく状況に思考が追いついた。 扉を壊したのは、こいつらではないか。 おひさまがある間から、おうちの周りでがたがた物音を立てていたのもこいつらではないか。 たかがあまあまが。 このこうまかんのおぜうさま相手に。 勝てるわけもないのに、一体なんのために? 「……う〜。どっちでもいいどぉ〜」 「はやくごはんにするどぉ〜♪」 「「「うっう〜♪ ごはんだどぉ〜♪」」」 その理由がなんであるにしても、食ってしまえば同じことだ。それ以上小難しいことを考えるのは、れみりゃの脳には 手に余ることだった。 もういい、めんどうだ。何匹いるか知らないが、こいつらをご飯にしよう。みんなおなか一杯になってもまだ残るなら、 この冬の保存食としてありがたく巣の奥に保管させてもらえばいいのだから。 早々に思考を打ち切って、両親れみりゃは子を引き連れて寒い巣穴の外へと這い出していく。 そして、外の空気にじかに触れたれみりゃ家族の体はたちまちのうちに凍りついた。 「……だれつかられみりゃたちのごはんになってくれる……んだ……ど……?」 いや、凍りついたのは体ではなく心だ。だぶついた顔からは、満面の笑みが凍って砕けて消し飛んでいる。 巣穴を、出た。 外の景色が見渡せるようになった。 見渡す限りに、あまあまがいた。 そう、見渡す限りに。 数十、といった数ではない。 成体のれいむとまりさを中心に、百を軽く超えるゆっくりがひしめいていた。 れみりゃが空を飛ぶことを思い出していれば、百や二百で利かない数と、ずらりと敷かれた陣列の後ろの方にみょん種や めーりん種の姿がある事にも気が付いたかもしれない。 だが、どうせ三つ以上の数を数えられない餡子脳だ。『とてもたくさん、いろんなあまあま』ぐらいにしか考えられなかった かもしれないが……。 それでも。同じ高さで目の前に見える数しか把握することができなくても、流石に今なにが起ころうとしているかぐらいはわかる。 襲うものと襲われるもの。 その逆転が、今まさに起ころうとしているのだ。 「……っ。あまあまは、たべられるものなんだるどぉーっ!!」 気付かなければいいのに、察してしまった。 知性などないに等しいれみりゃなのに、気付かされてしまった。 心の中に急激に広がる真っ暗な何かを、知ってしまった恐怖を振り払う為に親れみりゃは叫んだ。 叫ばなければ、子供の為に立ち向かう意志が挫けそうだった。必死の形相へと変じた顔色からは、狩猟者としての精神的 優位など疾うの昔に消え去っている。 まるで風のように、親れみりゃたちは奔った。 父れみりゃの正面すぐ近くにいたれいむの顔面が弾け、突き抜けた腕がその後ろのちぇんの眼球を抉り出した。死んだれいむの 両脇にいたまりさとれいむが振り向くより早く、二匹の側頭部を父れみりゃの左右の腕が貫いていた。 母れみりゃの側方、仲間のれいむやまりさを挟んでやや間合いを取っていたぱちゅりーは、跳躍して直上から襲い掛かる 母れみりゃに踏み潰され、あっさりと大量の生クリームを吐いて死んだ。その周囲を固めていた四匹のれいむとまりさも、力尽くの 強襲にろくに抵抗することもできないままただの動かぬ饅頭へと変えられた。 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むれいむやまりさ、ちぇんやぱちゅりーはただの中身を垂れ流す饅頭へと変えられてゆく。 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むゆっくりたちの陣列に穴が開く。 両親れみりゃが進んだ後には、たちまち孤島を取り巻く潮の満ち引きのごとく、取り囲むゆっくりに新たなゆっくりが補充される。 声もなく屠られ、声もなく足されてゆく。 それはれみりゃと同じゆっくりというナマモノではなく、ただのゆっくりという記号、数字として親れみりゃの前に分厚く、 冷たく立ち塞がった。 「う、ひぁっ……!」 一体、あまあまはどれほどの数がいるというのだ。 幾ら殺しても目の前の獲物がまったく減らないという事実にやっと気が付き、父れみりゃが乱れた息にやがて来るべき破局への 怯えの色を滲ませた。 夫婦それぞれ十を潰し、十を引き裂き、十を貫き、十を噛み破り、その全てを容赦なくばらばらの餡子の塊へと変えた。その間、 無言で襲い掛かる無言のゆっくり達を蹴散らし寄せ付けず、れみりゃは傷一つ受けていない。 でも、あまあまは逃げない。逃げずに、最初のゆっくりできない笑顔を浮かべたままで突出した二匹を取り巻いている。 にこにこではなく、にやにやと。一様に作ったような、相手を、獲物を。 れみりゃという、狩られるべき獲物を、明らかに作られた笑いを一様に浮かべて。 「ゆっくりしていってね!」 ただ、明るい呼び掛けが返ってきた。 散々仲間を殺されたというのに、何の心も篭らない、無駄に明るい呼びかけだった。 ああ、と両親れみりゃはようやく理解する。 こいつらには、怒りはない。恐怖も知らない。笑顔を浮かべているけど、楽しいことすら知らない。 役割以外の何も知らないから、何もかも失っても平気なのだ――命を失うことの恐怖すら、この連中は知らないのだ、と。 「うぎゃああぁぁっ、まんまぁああぁぁぁあっ!!」 「だずげでええええええぇぇぇっ!!」 愕然として棒立ちになるれみりゃ夫婦の後ろの方から、求める子供たちの悲痛な叫びが聞こえたように思う。 気が付けば、すでに巣穴から遠い。意図したものか、そうではないのか……いずれにしても、戦ううちに両親と巣穴は遠く離れ、 子供たちは敢え無く敵の手に落ちてしまったのだ。 悲鳴は長く、しかし元気に続いている。 どうやら子供たちはその身柄を抑えられただけで、すぐに危害に晒されているわけではないらしい。 でも、今の両親にとってもうそんなことはどうでもよかった。 「……うっ……うぅっ、うううううぅぅぅああぁぁぁっ!?」 「ぐるな゛っ、ぐるな゛っ! じゃぐや゛! じゃぐや゛あああぁぁぁっ!!!」 死が、あまりにも確実な死が、自分たちの目の前にも迫っていた。 例え今は捕まるだけでも、後で必ず殺されて食べられる。飛んで逃げるにしても、間合いがあまりに近すぎた。体がふわりと 浮かんだと思った瞬間には、無防備な足や腹に食いつかれ、力尽くで地上に引き降ろされるだろう。 そうなった時にはもう戦う力も残っていない。そこから先は、なぶり殺しだ。 その確実な未来を、目の前の『生きていない』笑顔の群れが担保している。 無機質な笑顔を連ね、瞬きのごとに縮まる彼女らとの距離。それはれみりゃたちが三途の川へたどり着くまでの道のりに等しい。 どれほどれいむを殺しても、どれほどまりさを壊しても、ただの黒ずんだ餌になったあまあまたちからすらその不気味な笑いを 消し去ることはできない。 それを、思い知ってしまった。何もかもが無駄だと、すでに二匹は知ってしまったから。 「ウサウサ☆ミ」 「ゲラゲラ☆ミ」 連中の作り出した分厚い壁、後ろの方から聞こえる二組の笑い声。その声にだけ、意志の存在がはっきりしていた。 そしてその二匹の意志が、ここにいる全てのあまあまの意志を支配している。そのことに、母れみりゃも気付いた。 それと気付いた所で、この分厚い壁がある以上どうなるということでもないのだが。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりさせてあげるね!」 「ひめさまをゆっくりさせてね!」 「ゆっくりしね!」 ――虐殺がはじまった。 一斉に、だがばらばらな内容の言葉を叫んで無数のゆっくりが全周囲で動いた。 不気味な笑顔は崩れない。まるで同じ笑いを浮かべた連中が、れみりゃたちを『ゆっくり』させるために襲い掛かる。 「でびりゃのおべぶぇぼびゅぁっ!?」 「ゆっくりしね!」 「ゆっくりしね!」 心がほとんど折れかけていた父れみりゃは、その動きに反応することができなかった。 前から飛びついたれいむに腹を噛み破られ、服を毟り取られてようやく我を取り戻すがもはや遅い。 後頭部にちぇんが、肩口にまりさが、左右の足にまた別のまりさが、次々と食いつくゆっくり達の中にたちまちれみりゃの 体が消えてゆく。 「でっ、でびりゃのでびりゃがあああぁぁぁ!!」 母性の役割を受け持ったれみりゃの性質だろうか、まだ生きる意志を強く失わなかった母れみりゃが、襲い来るゆっくりを 力任せに振り払いながら、目にした惨状に何度目かの絶叫を上げた。 連れ合いに食らい付いたゆっくりが歪な形に固まって、その姿はまるで葡萄の房のよう。 中の様子をうかがい知ることはできない、だがもはや生きてはいないだろうことは母れみりゃにも容易に知れた。れみりゃ種の 再生力といっても、限度はあるのだ。 「ゆっくりかむよ!」 「ぎや、いぎゃっ! ご、ごろじでやるううぅぅ!」 「ゆっくりひめさまにもってかえるよ!」 右の腕を噛み砕かれ、羽根を食い千切られ、あられもない悲鳴をあげて、なおいきり立つ。 捕食種のプライドではない。囚われた子を救う為でもない。殺された伴侶の仇だからでもない。 ただ単に、そうしないと、生きられないから。 早くも再生を始めた傷口から迸る肉汁。それが一張羅を汚すことを気にする暇もない。 残った左腕でなぎ払い、叩き落しためーりんを踏み潰し、咥えた枝を顔面に突き立てようと襲い掛かってきたみょんを 真っ向から噛み潰す。 「う゛あああぁっ!! ごろずっ、ごろじでやるううどおぉぉ!!」 「ゆっくびゅべっ」 口を餡子まみれにして、天に向かって吼え猛る様はまさに獅子奮迅――だが、悲しいかな。もはやれみりゃは単騎であった。 さらに不用意に近づいたみょんを蹴り飛ばす間に、今度は左腕が噛み千切られた。両腕がなくなると、腹と足が噛み千切られる まで一瞬だった。 「ううぅぅぅっ、う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!」 もはや立つ事もできなくなった体をパージして顔だけとなり、それでもなお前へ、前へと目指す。 そこに、さっき聞こえた笑声の主がいるはずだった。この群れの意志を支配する存在がいるはずだった。 そいつさえ殺せば、そいつを殺す事にしか、この場を切り抜ける可能性をれみりゃは感じとることができなかった。 そして、その可能性は結局の所、ほんの欠片ほども残ってはいなかった。 「うううぅっ……うびゅいいぃぃぃっ!!」 「うさっ♪」 「げーら♪」 頭をパージして、二度ジャンプした。 二度ジャンプしただけで、両脇から飛び掛ってきたゆっくりにプレスされ、地べたに落ちた。 「う゛ぅぅ……う゛ーっ! う゛っう゛う゛ぅ゛ぅ゛!!」 最初に感じたのは潰された痛みと、地面に打ち付けられた痛み。 それを圧倒したのは、助かる見込みが完全にゼロになったという恐怖。 「ぼうやべべええぇ、おでがいじまづうぅぅ!!」 聞き入れられることなんかない、そう知りつつれみりゃは命乞いを叫んだ。 自分が何匹殺したか、自分の家族がどれだけ殺されたか、そんなことは頭の中になかった。 「うさうさ☆ いいよやめてあげるよ♪」 「……うー?」 一瞬、痛みと恐怖が消し飛ぶかと思った。 次の一瞬に、それが錯覚だったと思い知った。 「……これいじょうばらばらにして、あんたまでおうちでひめさまのごはんになるまえにしなれちゃこまるからね♪」 「げーらげーら!!」 それくらいなら、まだしなないでしょ。 うさぎ耳のゆっくりたちは、そう冷たく囁いて笑っている――当たり前の事だが。母れみりゃの最初の予感が、正しかったのだ。 「ぃ……ィやだどおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」 「れいむのおくちのなかでゆっくりしていってね!」 「ばらばられみりゃをうんぱんするね!」 「ゆっくりひめさまのごちそうになってね!」 泣き喚くれみりゃの体に数多のゆっくりが群がり、その体を手際よく解体していく。 れみりゃの強力な生命力も見越して、生死のぎりぎり、中身が漏れぬよう、適度に塞がるよう。 周囲を削り取るように、抵抗力を完全に奪って運ぶのだ。 「ゆっくり!」 「ゆっくり!」 作業が進むにつれ、長く響いていた泣き声は徐々に擦れ、小さくなり、ゆっくりたちの声の中に消えてゆき。 やがて一際大きなれいむの口に収まる程度にまで縮小される頃には、限界ぎりぎりまで体を剥ぎ取られたもうれみりゃの声は 聞こえなくなっていた。 五体ばらばらにした母れみりゃ、肉片となった父れみりゃ、完全に怯えて抵抗の意志も見せない赤れみりゃ。 そして両親れみりゃに殺された、百に迫る仲間のゆっくりたちの死体。 その全てを『獲物』として、未だ数百を数えるゆっくりたちの隊列は『おうち』への帰路に着く。 「……んーっ。かなりへったかな」 「げらげら!」 「まあもんだいないよね」 「げらげら!」 わかっているのかいないのか。 同じように仲間――というより配下の隊列を後ろから眺めながら、ただげらげらと笑うだけのうどんげに構わず、てゐは体を 前に傾けて頷くような仕草を見せた。 「うーん、だよね。へったぶんは、ひめさまとおししょうさまがつくればいいんだし」 「げーらげらげら!」 少し、うどんげの笑い方が変わった。何か意味のある内容なのかもしれない。 それの証拠にゆっくりてゐのウサギ耳がぴょこんと動き、彼女はにんまりと皮肉っぽい笑顔を見せてうどんげの方に頷いた。 「うさうさ☆ じゃ、かえろっか」 * * * 「ゆっくりしないでね!」 「ゆっくりいそいでね!」 既に季節は冬の入り。本格的な降雪はまだだが、外界には既にろくな食べ物がない。 本来なら、ゆっくり達は既に餌を巣穴に溜め込んでゆっくり冬篭りに入っていなければならない季節のはず。 となると、今聞きなれた挨拶の声に送られて落ち葉に埋もれた巣穴から飛び出してきたみょんとちぇんの二匹は、十分な食べ物を 集め損ねた怠け者ということになる。 ここが普通の巣であるなら、という但し書きがつくのだけど。 「ちんぽー!」 「わかるよー、ゆっくりいそぐんだねー!」 凍月は既に山の上に上り、飛び出したみょんとちぇんはちっともゆっくりしてない忙しなさで一直線に走り去ってゆく。 周囲の様子には脇目も振らない二匹の表情には、どこかしら作り物めいた笑顔が張り付いていた。 愛で派と呼ばれる人々からは愛くるしいと、虐待派と呼ばれる人々からはふてぶてしいと称されることの多い大きな双眸には意志の 存在が見られない。 生き饅頭がゆっくりと呼ばれる所以、『こころ』の存在が、どこにも感じられず――しかしこの生き饅頭たちもまた、ゆっくりと 同じように喋り、飛び跳ね、駆けて行くのだ。 「ゆぅ……もんだいなくおわれば、いいのだけどね」 全速力で徐々に遠ざかっていく二匹の姿を見送って、入り口に佇むえーりん種がぽそりとかすれた呟きを洩らした。 このえーりん種は、ゆっくりであると確かにいえる。見詰める両の眼差しには、確かな意志と知性の力が宿っているからだ。むしろ ゆっくりにしては不相応なほどの強い光を宿した両眼を不安に揺らがせ、えーりんはその場を動かない。 「じゃお?」 まるでアストロンでも掛かったかのように身動きを止めたえーりんに、背後に控えるめーりんが気遣わしげな声を掛けた。 どうやらこの巣穴の門番らしい。その気遣いはえーりんの様子というよりはこの寒い中に開け放たれたままの入り口へと向けられて いるのだろう、自分と『扉』――枯れ枝と枯葉を組み合わせ、少量の餡子で固めたもの――を見交わすめーりんに冷ややかな一瞥を投げ、 えーりんはわざとらしい溜息を一つ吐く。 「……ゆっ。わかったわ、しめてちょうだい」 「じゃおっ!」 きびすを返すえーりんの後ろで、手馴れた様子で数匹のめーりんが手早く扉を閉ざしていく。 扉が覆う面積を増すに伴って巣穴の中を照らす光量は乏しくなり――だがしかし、ゼロにはならなかった。 ぼぉっと巣穴を包み込むのは、月のように淡く儚い金緑色の光。 その光が照らし出すのは、深く深く、冥府まで招き入れるような外界の光を拒む大きな洞穴。 「ひめさまにほうこくしないと」 その光――巣穴(それは既に洞穴に近い)一面にヒカリゴケが生み出すエメラルドの輝きに照らされて、えーりんはゆっくり二匹が 行き交えるほどの道を急いだ。 目指すはこのコロニーの長、何もしない支配者、『ひめさま』と称されるゆっくりかぐやの下である。 真社会性動物、という生き物の一群が、外の世界には存在している。 というよりも、幻想郷の中にもそれらはいる。スズメバチやアリの仲間がその代表で、哺乳類にもネズミの仲間が一種のみ存在する。 名前に社会性とあるように、その特徴は多数の同種で共同社会を作り上げて生活する点にあるが、真社会性動物は人間他の哺乳類の ような社会性動物とは幾つかの点において違っている。 一つには、繁殖活動を行う個体と行わない個体がカーストとしてはっきり分かれていること。 一つには、共同して子供の養育を行うこと。 一つには、複数の世代に渡って共同生活を営むこと。 少なくともこの三点、特に不妊の個体が存在する事が重要な要素となる。 繁殖個体は目的にあわせて数多くの子を生む。 生むだけで、育てない。子を育てるのは、ある程度育った他の子供。その中でも労働カーストに育った個体だ。 兵隊カーストも育児や餌集めには参加しない。その代わりに、巣穴の防衛という重要な任務がある。 この巣穴に暮らすゆっくりの群れも、まさにその真社会性に区分される成り立ちから形作られた群れだった。 辺境にしか住まない上、地中でその生活の大半を過ごす生態のために、一つの群が大きい割には人にはその存在を知られていない。 ゆっくり達も、辺境地域の群れ以外はあまり知ることはないだろう。 実際、不幸にして中央から流れてきたあのれみりゃの家族はこんな存在を知らないがために、安易に彼らが支配する領域に 住居を構えてしまったのだ(もちろんこの地にも彼らの巣の先住者のように、家族単位で暮らすゆっくりも多くいるのだが)。 全てのカーストに属するゆっくり達が、ほとんど例外なく目的別に産み分けられた親族だ。真社会性を持つゆっくり種は、女王が どの種であるかに関わりなく、作業目的によって子を産み分けられるらしい。 働きゆっくりはれいむやまりさ、ぱちぇりーやちぇんなどに。 兵ゆっくりはめーりんやみょん、より上位の個体としててゐやうどんげに。 昆虫や鼠に比べれば多少の知恵を持つゆっくり独自の特徴的な例として、知的労働階級としてえーりんが存在する。 そして繁殖階級即ち女王として――まあ、この巣では女王はおらず、ひたすらに怠惰な姫君が代わりに君臨しているのだけれど。 「ひめさま」 「ゆっ。えーりん、ゆっくりしなさい。おいしいれみりゃはてにはいった?」 報告に入るなり、奥の間から掛けられた言葉に側近のえーりんは脱力する思いだった。 もともと、この冬場に働きゆっくりと兵ゆっくりを大勢繰り出してれみりゃ狩りなんぞを試みたのは、完全にこの引き篭もりの姫君が 唐突に言い出したわがままのせいである。 最大で数千にもなるこの種のゆっくりの巣だが、通常種でも同種を捕食するようになる特性にあわせて、枯れ葉と排泄物を混ぜ合わせた 『畑』で巨大キノコを栽培するなどして食料状況に問題はないのだ。 ……支配者の気まぐれでこの手の贅沢を言い出さない限りは。 普段はほぼ先天的に自由意志を奪われた働きゆっくりの姉妹を馬鹿にしながらも、こういう理不尽に付き合わされる時ばかりは 自由意志があるばかりに直面させられる悩みに苦しむえーりんである。 「ゆっ、今はそれどころじゃないの。じゅんかいの『つきのししゃ』が、よそのむれにこうげきされたのはおぼえてる?」 目標を捕獲した、という情報は入っていたが、えーりんはとりあえずその問い合わせを一蹴した。 れみりゃを捕獲したうどんげとてゐの狩猟部隊が、同時にもたらした報告のほうが何倍も重要だったからだ。 つきのししゃ――かぐやの巣では、兵ゆっくりはそう呼ばれる。冬場であるにも関わらず、縄張りの巡回に借り出された『ししゃ』が 正体不明のゆっくりに襲撃されたのは、一週間ほど前のことだった。 正確には最初に次々と襲われたのは働きゆっくりで、兵ゆっくりは生き残りの連絡を受けて見回りに出かけたところを襲われたという 順番である。 ただ、地上に出かけた働きゆっくりが天敵に襲われて連絡を絶つなんて事はいつものことなので、生き残りの報告が出るまで誰も問題 だとも思っていなかっただけだ。 この群れのゆっくり達は、かぐや種とえーりん種以外の生命の維持に関心を払わないのである。 「ゆぅ? おぼえてるけど……もこうのしわざじゃなかったの?」 そのことは、かぐやもまだ覚えていた。しかし、同時にすでに解決したものだとも思っていた。 このかぐやの巣から森を一つ挟んだ向こうに、やはり真社会性を持ったゆっくりもこうを女王とする群れの巣穴があった。 かぐやの群れとは代々縄張りを巡って対立し、何度かお互いの巣の奥深くにまで攻め入るほどの激しい戦い――増えすぎたゆっくり 人口の調節という側面を強く持つ――を交えた宿敵と呼ぶべき相手だ。 お互いに同等の勢力を持つ群れである為に、屋外の戦いで勝利しても相手の巣穴を攻め切るまでには至らないまま泥沼の抗争が続いて いる両者が、そろそろ前の戦いから随分時間が経っている。 そろそろあちらの動きがあってもおかしくない頃合だから、どうせまた小競り合いでも起きたのだろうと思っていたのだが。 「それもかのうせいとしてはきえていないけれど……」 「ゆぅん。べつのよそものがみつかったのね」 言いよどむえーりんの様子に、かぐやはその先を察して面白そうに口の端に笑みを灯す。 かぐやもえーりん同様、ゆっくりにしては知性の高い種だ。普段は何事にも面倒くさがりな正確が災いして通常種ゆっくり以下の 鈍重さを見せるのだが、興味が沸いたことには積極的になることもある。 「どこからきたかしらないけど、ながれゆっくりをみつけたわ。ドス、とかいうまりさがじょおうらしいの」 ドス、という言葉を口にした時、えーりんはまるで知らない未知の何かについて話す人特有のあいまいな表情をした。 ゆっくりかぐやにしても、人間が首を傾げるように頭部しかない体をやや右に傾けて、聞きなれない言葉が意味する所を探りあぐねている。 二匹は『ドス』が何を意味するか知らなった。通常のゆっくりと異なる習性に生きる彼女たちに、ドスとなる個体は存在しない。 繁殖種はゆっくりを他のゆっくりさせる存在ではなく、他のゆっくりにゆっくりさせられる存在だからだ。 だが、群れの経験が培ってきた知識としては知らずとも、どこかざらついた感覚が『ドス』について思うたびに餡子脳を這い上がる。 なにか、ゆっくりとしての本能というべき部分が二匹に強く訴えかけていた。それと戦うべきではないと。 それはただ大きいだけではない。まともに正面から戦ってはいけない存在だ。 戦いを挑めばゆっくりできなくなってしまうかもしれない、と。 「……ゆぅ。どうせふゆなんだし、ゆっくりしすぎたやどなしなんてほっておいてもいいんじゃないの?」 「いいえ、ながたびでよわってるみたいだもの。いまたたかったほうがらくにかてるわ」 だがその本能から来る警告が二匹に齎した結論は、まるで正反対のものだった。 即ち、根が怠惰なかぐやが選んだのは、いずれ消え去るだろう存在をはじめから無視するという選択肢。 即ち、根が慎重なえーりんが選んだのは、或いは生き延びるかもしれない存在をあらかじめ除去するという選択肢。 どうして、とは聞かない。理由ならお互いわかっているから。 相反する結論を得た二匹はお互いにしばし無言で見詰めあい、沈黙の中に相手の反応を待ち続ける。 「……ゆゆ。わかったわ、えーりんにまかせる」 ……ほどなく、先に折れたのはかぐやだった。 この群れの『ひめさま』であるかぐやの役割は、考えることでも決断をくだすことでもない。それはえーりんの役割だ。 だから、かぐやはえーりんの判断にことを委ねた。 そうだ。群れでのかぐやの役割は、知的労働ではない。 「わかりました。ではひめさま……なにを?」 兵ゆっくりや働きゆっくりに新たな指示を出す為、ひめの間を辞去しようとしたえーりんが、当惑を隠さぬ声で問うた。 それもそのはず、いつの間にかえーりんのすぐ側に寄り添ったかぐやが彼女の頬を甘噛みしてきたからだ。 「ゆっくり、していきなさい」 「かぐや、いまはそんなこと」 「ちいさいけど、いくさなんでしょう?」 かぐやは、繁殖相手としてえーりんを求めているのだ。このゆっくりできそうにない忙しい時に。 えーりんもこの世代が一つ下の主君とは、もう長い付き合いである。呆れと共に姪の意図を理解して、とんっと軽く突き放す。 だが窘めようとするえーりんにさらに体を寄せて、ゆっくりの姫君は蕩けるような笑みを血縁でいえば叔母にあたる腹心へと向ける。 「ししゃのかずがへるぶん、かわりをつくっておかないと……ね?」 「……もう、かぐやったら」 かぐや種は同種に働く強力なフェロモンを持つという。 それでなくともかぐや種と強い相互依存性で結ばれたえーりん種が、その誘いを拒むことはゆっくり離れした知性をもってしても難しい。 それ以上えーりんは拒絶の言葉を口にすることなく、かぐやを受け入れた。 ヒカリゴケの燐光の中、二匹の影が一つに重なる。 明日には多くの働きゆっくりの実が、かぐやが長く延ばした茎に連なるだろう。 そして巣は何事もなかったように日常を続けるのだ。 一握りのゆっくりを、ひたすらに他のゆっくりがゆっくりさせ続けるだけの日常を。 続