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※東方原作キャラのルーミアが登場します。 ※設定につきましては俺設定が含まれておりますので、イメージと違う場合もございます。 「食べないお饅頭」 ある暑い夏の日の昼下がり──。 人肉大好き妖怪として一部で有名なルーミアは、この日も幻想郷の空を一人ふよふよあ てもなく飛んでいた。 日差しは強いが暗闇を展開すれば、炎天下の元でも快適に飛行できる。 彼女が単独で飛んでいるのには理由があった。 最も仲の良い友達である氷精、夜雀、蛍の妖怪の三人が、今日はそれぞれ別の用事があ るそうで、一緒に遊んでくれなかったのである。 氷精は同じ妖精仲間と大蝦蟇退治の約束、夜雀は屋台の食材調達、蛍は時期だから眷族 たちの世話と、それぞれ忙しい。 次に仲の良い、紅魔館門番の元へ遊びに行ったら、どうやら居眠りを見咎められたらし く、メイド長に説教&体罰をされている真っ最中だった。 門番とは仲良しでも、メイド長とはあんまり仲良しではないため、ルーミアは素早くそ の場を立ち去った。 「今日はみんな遊べないのかー」 暗闇の中でルーミアは残念そうに呟いた。 遊ぶこと、食べること、寝ること、気が向いたら弾幕ることが、ルーミアにとって楽し いことである。 遊べない日は、それだけ楽しさが減ってしまったような気がして、なんとなくて寂しく 悲しい気分になる。 一人で居ることには慣れているし、誰にも配慮せず気ままに過ごすのも好きだが、人恋 しい時もある。 ルーミアは空を飛びながら、他に心当たりが居ないか考える。 「んー……巫女、魔法使い、人形遣いは遊んでくれるかな?」 考えてみたが、巫女は機嫌が悪いと物凄く邪険に扱うし、魔法使いは普通に遊ぶのでは なく弾幕ごっこをやりたがるだろうし、人形遣いはそもそもあまり親しくない。 「……幽香は、ちょっと怖いしなー……うーん」 遊びに行ったら、たぶん相手はしてくれるだろうが、二人っきりだとなんとなく気が休 まりそうにない。 と言うか、大陽の畑でうっかり暗闇を展開すると「あなた、向日葵に恨みでもあるの?」 と思い切り怒られるから、ちょっと怖い。 「うぅ~、橙は修行があるって昨日言ってたし……困ったなぁ、今日は本当に一人だ……」 片っ端から知り合いの顔を思い浮かべてみたが、今すぐ無条件で気兼ねなく楽しく遊べ そうな相手が思い浮かばない。 今が昼間ではなく、夜だったならば──紅魔館の主のところに行くという手もある。 メイド長はルーミアが来るのをあまり歓迎してくれないが、何故か主は「闇の妖怪なら ば私の眷族に相応しいわね」と言って、暇なときは遊んでくれるし、美味しいものをご馳 走してくれる事も多い。 あまり会うことはないが、紅魔館主の妹も「あなたの闇は落ち着くわ」と、何故かルー ミアをやたらと気に入ってくれている。 「んー……夜まで寝ようかなー」 やや暗闇を薄めて地上を確認する。 ちょうど、どこかの森の上空に差し掛かったようだ。 「寝るのに良さそうな場所、あるかな?」 どこの森なのかはわからないが、普通の森ならば寝場所には困らないだろう。 適当にあたりをつけてルーミアは降下を開始した。 「ゆっ! ま、まりさっ! なんかくろいのがおりてくるよっ!」 空から降りてくる黒い塊を見て、ゆっくりれいむは友達のゆっくりまりさに声を掛けた。 「お、おちつくんだぜ! あれはきっと……に、にっしょくなんだぜ!」 昼なのにお日様が隠れる現象があり、それは日食と言うものだと、前にゆっくりぱちゅ りーに聞いたのを思い出しながら、まりさはれいむにそう言った。 「そ、そうなの? すごいね、まりさ! さすがだね!」 まりさの発言をれいむは信じた。 間違った知識を植え付けられてしまったのであるが、別にそれは些細な事であろう。 「それほどでもないぜ! そうだ、れいむ! にっしょくをつかまえようぜ!」 日食を捕まえればいつでも厳しい日差しを防げる、そうまりさは考えた。 ゆっちゅりーの話をちゃんと聞いていれば、そんな発想には至らないはずなのだが、ま りさは日食を勘違いして覚えている。 「ゆゆゆっ!? にっしょくって……つ、つかまえられるの?」 れいむはそもそも日食という言葉自体、今初めて聞いたばかりである。 「ゆっ! た、たぶんつかまえられるぜ……とにかく、いってみようぜ!」 目に見えて存在していて、それが降りてくるのなら、捕まえられると思ったのである。 とりあえず行ってみればわかるとばかりに、まりさは降りてくる暗闇の方へと向かって 行った。 「わ、わかった! ゆっくりついてくね!」 なんとなく怖い気がしたが、まりさがどんどん先に行くので、慌ててれいむはその後を 追った。 ゆっくりついてゆく、と言いながらも全速力で。 「ちょっと高く飛びすぎたわ……んー、降りれそうな場所は……」 闇を展開して飛んでいるときは、ルーミアは地面へ降りるようにしている。 以前に大丈夫と思って木の上へ降りたら、暗くてよく見えなかったため、枝が刺さり怪 我をした経験があるのだ。 暗闇を消せば良さそうなものだが、着陸する程度のことで闇を収めるのを、ルーミアは よしとしない。 それは光がないと不都合だと認める事なのだから、闇の妖怪としてのプライドが許さな いのである。 「あ、良い具合の広場があるわ! あそこに……あら?」 降下目標地点に、何か妙な物が見えた。 一見すると人の生首のような物が、ぴょんぴょん跳ねながら何か喋っている。 「なんだろ? 新種の妖怪? ま、いいか」 おそらく害はないだろうと判断し、ルーミアは降下を続けた。 「ゆっ! こ、こっちにむかって、おりてきたぜ! れいむ!」 「そ、そうだね、まりさ! ゆっくりこっちにきてるよ!」 ふよふよと降りてくる暗闇を、二匹仲良く並んで見上げる。 薄められた闇とは言え、明るいところから暗いところを中まで見通すのは難しい。 ルーミアから二匹の姿は見えても、まりさとれいむからルーミアの姿は見えない。 「ん? 巫女と魔法使いに、似てる……そーか! あれがゆっくりなのかー!」 だいたい地上10メートルほどの位置まで高度を下げたあたりで、ルーミアは生首の正体 に気付いた。 話に聞いたことはあるが、実物を見るのは初めての珍生物である。 「本当に似てるなー……あはっ、なんか喋ってる」 なにを言っているんだろう、と耳を澄ませる。 「ね、ねぇ、まりさ! にっしょくって……ど、どうやってつかまえるの?」 「ゆぐっ! れいむ……そ、それは、これからかんがえるんだぜ!」 「かんがえるって……ど、どうするの! むかってきてるよ!」 「ゆっ……そ、そうだぜ! と、とびかかってみるんだぜ!」 二匹の会話を聞き、ルーミアはちょっとからかってみようと思った。 「……愚か者めー、この私を捕まえる気なのかー!」 なるべく荘厳な感じの声を作って、二匹に向かい語りかける。 「ゆゆゆゆっ! しゃ、しゃべったぜ!」 「ににに、にっしょくって、しゃしゃしゃべるの?」 暗闇に突然話しかけられ、二匹は驚いた。 「わーたしはー……えっと、やぁみのーかぁーみぃーなーるぞー! ひかえーい!」 どうしてもあまり荘厳な声にはならないが、とりあえずそれっぽく、神様らしく聞こえ るようにルーミアは努力した。 闇の神と言うのは、もちろん単なる思いつきである。 「ゆっ! かみさまだって、まりさ! にっしょくじゃないよ!」 「や、やみのかみさま? そんなのきいたことないぜ……ど、どうしよう、れいむ?」 疑いもせず、あっさりと二匹は暗闇からの声を信じた。 「こぉらー、ひぃかえーいというのがー、きぃこえーんのかぁー!」 ──やばい……この子ら面白い……! 吹き出しそうになるのを、必死でルーミアは堪えている。 「ゆっ? ひかえろって? どうしよう、まりさぁ?」 「んっと、そ、そうだぜ! お、おじぎするんだぜ、れいむ! かみさまにはおじぎだぜ!」 こうするんだと手本を示すように、まりさは暗闇に向かって身体を傾けた。 四肢が無い以上、頭を下げるにはこうするしかない。 下げすぎてバランスを崩し、地面と顔面をキスさせないよう懸命にふんばる。 「ゆっ! わかったよ、れいむもゆっくりおじぎするねっ!」 「きっ、きをつけるんだぜ、れいむ……ころんだら、しつれいなんだぜ!」 日頃からちょっと鈍くさいれいむが、まりさは心配でならない。 神様に失礼なことをしてしまったら、罰が当たるとゆっちゅりーから聞いている。 どうか、れいむが転ばないようにと、まりさは祈った。 「うむー、そーなぁたたーちはー、れーぎをぉわかーっているぅなー、よはーまんぞぉー くじゃー」 ──これじゃ神様じゃなく殿様かな? そう思いながらも神様のふりを続ける。 「とーきぃにー、そぉなーたーたちーは、ちぃんをーとらーえーようぅとーしてたーなー」 ──朕なら天子様の一人称だから神様だよね? 氷精と同レベルの頭と思われがちなルーミアだが、実は意外と博識である。 ルーミアの「そーなのかー」と言う相槌が広く好まれており、トリビアや豆知識などを 語り聞かせる人が多いため、耳学問で結構知識を蓄えているのであった。 「ゆははー! ご、ごめんなさいだぜ……にっしょくとまちがえたんだぜ!」 誤魔化したところで、神様相手じゃ誤魔化しきれないと思い、まりさは素直に謝った。 「ち、ちんってなに? え……えっちなことば? えっちなかみさまなの?」 まりさとは対照的に、れいむは物凄く頓珍漢なことを言った。 「ばっ、ばかっ! れいむ、かみさまになんてこというんだぜ!」 とんでもない発言に、まりさは血相を変え、厳しい声でれいむを叱った。 「えぇっ!? れ、れいむ……なんかへんなこといったの? って、れいむばかじゃないよ! ゆっくりあやまってね!」 馬鹿と言われて、れいむは腹を立て怒鳴った。 「ゆっ! れいむ! えっちなかみさまだなんていったら、ふつうおこるぜ! だから、 れいむはばかなんだぜ!」 「ゆぅぅぅっ! ひどいよ、まりさ! だって、ちんっていやらしいことばだよ! れい むしってるもんっ!」 「……ぷっ、ぷぷぷっ! あはははははっ! もう、だめ、おっかしーい!」 目の前でいきなり口げんかを始めた二匹が、面白くてたまらない。 笑いを堪える努力は限界に達した。 「ゆっ? わ、わらってるんだぜ……?」 不思議そうな顔で、まりさは暗闇を見つめる。 「もうっ! なんでわらうのよっ! かみさまだからって、れいむをばかにしてるの? まりさもかみさまも、れいむにゆっくりあやまってよ!」 怖いもの知らずと言うよりも、口げんかでヒートアップしたれいむは、笑われたことが 大変不満であった。 「ばっ、ばかれいむっ! かみさまに、なんてこというんだぜ! か、かみさまっ! こ のれいむは、れいむはばかなんだぜ! みのがしてやってほしいんだぜ!」 れいむの無礼な発言を取りなそうと、まりさは必死に暗闇へ向かって懇願する。 「あははははっ、ご、ごめ……も、もう……それぐらいに、してよ……あははははっ!」 ルーミアの腹筋は崩壊寸前である。 元から彼女の精神年齢は、箸が転がってもおかしいような年頃なのだから、この二匹の 反応は面白すぎた。 「もうっ! またれいむのことばかっていった! ひどいよ、まりさ! かみさまもわら ってばかりでしつれいだよっ!」 慌てるまりさ、笑うルーミア、そして怒るれいむと、傍から見れば非常に混沌とした状 況である。 「あー、もうっ……あはははっ……うん、私が悪かったよ」 もうこれ以上はお腹が痛すぎるので、闇を消して姿を現す。 「ゆっ! く、くらやみがきえた? お、おねえさんがかみさま?」 姿を現したルーミアと、未だ激高しているれいむを交互に見ながら、まりさは言った。 「おねえさんひどいよっ! かみさまのくせに、れいむをばかにしないでよっ!」 ぷりぷりと怒り、れいむは頬を膨らませる。 すでにもう自分が何を言っているのか、れいむ自身も今ひとつわかっていない。 「うんうん、からかってごめんね。私は神様じゃないよー」 にっこりとルーミアは微笑んだ。 「ゆっ! おねえさん! まりさたちをだましたの? ひどいんだぜ! ゆっくりあやま ってほしいんだぜ!」 「そうだよっ! かみさまじゃないのに、れいむをわらうなんてひどいよっ!」 まりさの発言はもっともだが、れいむの言葉は相変わらず何かずれていた。 「あははっ、だからごめんってば。面白そうだからちょっとからかったのよ。あなたたち 私を捕まえようとしたんだから、おあいこでしょ?」 笑顔を崩さず、ルーミアはしゃがんで二匹に目の高さを近づけた。 「ゆぐっ、そ、それはそうなんだぜ……まりさもわるかったぜ、ごめんなさいだぜ」 捕まえようとしたのは事実なのだから、まりさは素直に謝った。 すでにさっき謝ったことは忘れている。 「ほんとだよっ! おねえさんも、まりさもひどいよ! ゆっくりはんせいしてね!」 れいむの怒りはまだおさまらない。 なんとなく、自分が蚊帳の外に置かれているような気がして、ちょっと腹立たしかった。 「あはは、本物の魔理沙よりも素直だね、あなた」 怒っているれいむはさっくりと無視して、まりさにルーミアは話しかけた。 「ゆゆっ? まりさはまりさだぜ。ほんものってなんだぜ?」 「ああ、ごめんごめん。あなたに似てる人間の知り合いがいるのよ」 ルーミアは怪訝そうな顔するまりさに説明した。 確かに似ているが、性格や話しやすさとかは、魔法使いの霧雨魔理沙よりも、こちらの ゆっくりまりさの方が自分と合いそうな気がする。 「む~っ、れいむをむししないでよ~……ねぇってばぁ!」 無視されていることに、れいむは不満の声を上げた。 「別に無視してないわよ。落ち着いた?」 まりさかられいむへ視線を移し、ルーミアは微笑みかける。 こっちのれいむは、ちょっとわがままそうだが、やたらと殺伐としている巫女の博麗霊 夢よりも、話がしやすそうだと思った。 「ゆ? う、うん、もうおこってないよ! おねえさんはゆっくりできるひと?」 「ゆっくりできるひとなら、まりさたちとゆっくりしようぜ!」 二匹は最重要事項を、遅ればせながら確認する。 このお姉さんはゆっくりできる人に見えるが、確認しないと気が済まない──人間は怖 い生き物なのだから。 「ひと? ううん、違うよ。私は妖怪だよ」 さらりとルーミアは自分の正体を明かした。 まだ知り合って間もないが、ルーミアはこの二匹に好意を持っている。 しかし、妖怪であることを隠して、人間だと偽ってまで仲良くなろうとは思わない。 これで怖がって逃げるようなら、少し寂しいけどそれまでだと考えていた。 「ゆゆっ! よ、ようかいなの、おねえさん? こんなかわいいのに?」 「ゆっ! おねえさん、またからかうきなの? まりさはだまされないぜ!」 全く信用していない。 妖怪は怖い──人間よりもっと怖い存在だと信じ込んでいるため、目の前のお姉さんが、 またからかおうとしているんだと決めつけている。 「むー……可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと傷つくなぁ」 まるで妖怪が可愛くないみたいじゃないか、と少し不満である。 「……そうだ! ねぇ、あなたたちは、食べてもいいお饅頭?」 ちょっと脅かしてやろうと思った。 怖がって逃げられるのは寂しいが、妖怪だと信じて貰えないのも微妙なのである。 「た、たべるって……やだっ! れいむはたべちゃだめだよ! たべれるけど……」 「ゆっ! おねえさん、たべないでほしいぜ! ゆっくりしようぜ!」 食べる、と言う言葉に二匹は敏感に反応した。 自分たちが甘味品である事を、ちゃんと自覚はしているが、食べられるのは痛くて怖い から嫌なのである。 「んー、食べちゃいけないなら食べないよー。それに私、甘い物好きだけど、もっとおい しくて好きな食べ物あるもん」 怯えた二匹を安心させるように、ルーミアは言った。 「そ、そうなの? も、もっとおいしいたべものってなに?」 「ゆっ!? お、おねえさん、おいしいものにくわしそうだぜ。おしえてほしいんだぜ」 食べないと言ってくれたので二匹は少し安心した。 安心すると、その「もっとおいしいもの」が気になる。 「あはっ、人間だよー。人肉ってすっごーくおいしいんだよ」 思った通り乗ってきた二匹に向かって、自分が人食いであることをアピールする。 「ゆゆゆっ! ににに、にんげん……お、おねえさん……にんげん、たべちゃうの?」 「ゆげげげっ! じょ、じょうだん、や、ややめてほしいんだぜ……」 人間は怖くて強い生き物だ。 そんな人間をこのお姉さんが食べるなんて信じられない。 「食べるよー。だって、私は妖怪だもん。頭からばりばり食べるよー」 脳みそとモツがおいしーんだよ、と付け加え、ニヤッと不気味に笑ってみせる。 「ゆぅぅぅぅっ! こ、こわいよっ、おねえさんっ! ゆっくりしようよっ!」 「ゆひぃぃぃっ! お、おねえさん、ほんとにようかい!? ゆっくりしようぜ!」 そんなに生々しく話されたわけでもないのに、人間を食べるお姉さんの姿を想像して、 二匹は怯えた。 口々に、ゆっくりして欲しいと懇願する。 「あなたたちは食べないよー。だから怖がらないでよ」 ちょっと怖がらせすぎたかな、と少しだけルーミアは反省した。 「そ、そうなの? なら、おねえさんはゆっくりできるようかいだね! ゆっくりしてい ってね!」 「ゆっ! ゆっくりしてくれるんなら、ようかいでもまりさはだいすきだぜ! ゆっくり していってねだぜ!」 ほんの少し前まで、失禁しそうなぐらい怯えていたのがウソのような笑顔を、二匹は浮 かべた。 「んー、何かわかんないけど……ゆっくりするね」 ずっと二匹が言う、ゆっくりと言うのが何を指すかわからないが、ともかく怖がらない ならいいやと思った。 「ゆっ! おねえさん、ありがとう!」 「ありがとうだぜ! おねえさん!」 ゆっくりする、とルーミアが言ったのがとても嬉しい。 妖怪でも、ゆっくりしてくれるのなら、ゆっくりたちにとっては仲間なのである。 「う、うんっ! ゆっくりするね!」 二匹が喜んでくれたので、ルーミアは安心した。 具体的にどうゆっくりすればいいのかは、良くわからないが。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 異口同音に、ゆっくりがゆっくりと呼ばれる由縁な言葉を口にする。 「あ、うん。ゆっくりするね!」 どうするべきなのかわからないので、とりあえず返事をした。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 ゆっくりすると言われたならば、このように返すのが種の本能であった。 「え、あ……う、うん。ありがとう」 無限ループとなる危険に気付き、ルーミアは返事を変えた。 今度は、二匹は無言でにっこりと微笑んだ。 無邪気な可愛らしい笑顔である。 自分たち以外の誰かが一緒にゆっくりしてくれるのが、何よりも嬉しいのであろう。 なんだかわからないが、ルーミアも嬉しい気分になった。 だから、優しく微笑み二匹の頭を撫でた。 「ゆふふっ、ゆぅっ~……」 撫でられるのが好きなのか、れいむは気持ちよさそうに目を細めた。 「ゆへへへっ……おねえさん、くすぐったいんだぜ、ゆへへっ」 口ではこう言いながらも、まりさも嬉しそうな声を出している。 「あはっ、あなたたちって可愛いね……そうだ、私と遊ばない?」 ずっとこうやってのんびり過ごすのも良さそうだが、遊んでもっと仲良くなりたいと思 った。 「ゆっ、いいよ! いっしょにゆっくりあそぼうね!」 「いいぜ! ゆっくりかくれんぼしようぜ!」 ルーミアの提案に二匹は賛成した。 どちらも、一緒に遊びたがっていたのかも知れない。 「かくれんぼかー、うん! いいよ」 遊ぼうと提案したものの、どんな遊びかまでは考えていなかったので、まりさの希望に 賛同した。 「れいむも、かくれんぼでいいよ!」 「ゆっ、きまりだぜ! さいしょのおにはまりさがやるぜ!」 れいむの賛成とほぼ同時に、まりさが宣言した。 「ゆっへっへっ……それじゃ、ゆっくりじゅうかぞえるから、はやくかくれるんだぜ!」 ぴょんぴょんと跳ねて近くの木まで移動し、顔を木の幹にくっつけてカウントを始める。 「ゆっ! は、はやいよ、まりさぁ~っ! ゆっくりかぞえてねっ!」 口を尖らせて文句を言うと、れいむは茂みの中へと跳ねてゆく。 「ゆっくりきゅぅぅぅぅぅぅぅぅうっ……ゆっへっへっ、まりさはゆっくりかぞえてるん だぜ。れいむがどんくさいんだぜ! ゆっくりはぁぁぁぁぁちぃぃぃぃぃぃっ……」 本当にゆっくりとまりさはカウントしている。 「……わ、私も隠れるねー」 本気で隠れていいものかと悩みながら、ルーミアもその場を離れた。 「あはっ、ゆっくりってどんな生き物かと思ってたけど……楽しくて可愛いじゃない」 隠れ場所を物色しながら呟いた。 さすがに本気で隠れたら、絶対に見つけられないだろうから、まりさの声が聞こえる範 囲内で隠れることにした。 手頃な大きさの倒木の陰に、ルーミアは身をかがめた。 ここなら、すぐ見つかることはなさそうだが、見つからないような意地悪な隠れ方でも ないだろう。 「…………ゆっくり……さぁぁぁぁんっ……」 「ゆっくりの数える十って長いのね……ま、ゆっくりだからゆっくりなのかな」 そんなに急いで隠れたわけではないのだが、まだリミットまで充分な余裕があった。 「ふふふっ、友達になれたらいいなー」 そうすれば、今日みたいに寂しい気分で、空を飛ぶ日も少なくなるだろう。 ルーミアは、まだこの時点では気付いていない。 ゆっくりたちに「ゆっくりするね」と答え、その言葉通りゆっくりして一緒に遊んでい る以上、もう彼女は友達なのである。 「さぁて、今日はいっぱい遊ぶぞー」 もういいかだぜ、と叫ぶ、まりさの声が聞こえてきた。 十数えると言った割りには、実質的にだいたい百数えるのと同じぐらいの時間である。 「もういいよー! ゆっくり探してね!」 ルーミアは大声で叫び返した。 見上げると、木々の間から覗く大陽は充分に高い。 暗くなる夕方までたっぷりと、ゆっくり遊べるだろう。 ■END■ 読んでいただき、ありがとうございます。 ルーミアって、ゆっくりと仲良く遊べそうなイメージがあるので、書いてみました。 ほのぼのとしててよかったです。平和でいいなー -- 名無しさん (2008-08-13 22 16 36) そーなのかー -- 名無しさん (2008-08-18 02 22 44) ルーミアだと!?と一瞬身構えたが、そんなことはない、仲良しになるお話。和みました。 -- 通りすがりのゆっくり好き (2008-09-13 23 53 40) なんというナイス設定…。ルーミアを上手く使った良同人誌は確かに有る。 -- 名無しさん (2008-11-28 17 25 32) ミスったorz 作者GJ!!!おつかれいむw いい気分に・・ゆっくりできたのぜ♪ -- 名無しさん (2008-11-28 17 26 50) ゆっくりなのかー -- 名無しさん (2009-01-03 20 24 22) 確かにお友達になれそうなイメージですね -- 名無しさん (2009-09-06 20 00 33) いいね -- 名無しさん (2010-07-09 20 01 42) 人間は嫌い。ゆっくりと友達になりたい。 -- 名無しさん (2010-11-27 14 43 58) ↑そーなのかー -- 名無しさん (2011-04-14 06 08 11) ルーミアよく朕なんて言葉知ってるなw -- 名無しさん (2011-05-19 14 49 43) ゆっくり欲しい.。o○ -- 名無しさん (2012-07-17 16 29 39) 食べるかと思った!れいむ飼いてー -- 名無しさん (2013-01-22 20 02 32) 名前 コメント
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何枚目かのデザイン案を書き終えると、いつの間にか「ゆっくりしていってね!」がいた。 「おじさんなにしているの?」 と聞かれたので、とりあえずそこらに転がっている原稿を見せた。 で り け い と 新開発商品のロゴ案で、明日までに100パターンがノルマだ。 俺はデザイナーだった。 「でりけいとってどういういみ?」 繊細だったり敏感だったりで取り扱いに注意が必要なものだと答えてやった。 「れいむもでりけいとだよ! とりあつかいにはきをつけてね!」 そうか。 何だかちょっと汚れている風なのが気にかかって、スス払いしてやる事にした。 「ヘヴン状態!!!」 そんなにダルマ筆が良かったか。 便所から戻ると「ゆっくりしていってね!!」が増えていた。 「まりさもやさしくしてね!」 メシを食わせてやると「ゆっくりしていってね!!!」が増えていた。 「ぱちゅりーにもやさしくしてね!」 風呂から戻ると「ゆっくりしていってね!!!!」が増えていた。 「ありすにもやさしくしてね!」 こうして迂闊にかかわってしまったばかりにどんどん増えていった。 なるほど、デリケートなゆっくりを扱うと筆が進まなくて困る―― 名前 コメント
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「ここはどこかしら……」 気づくと私は妙な空間にいた。様々な淡色が紅茶に入れたミルクのように漂う空間。いるだけで頭が柔らかくなりそうだ。 「アリス」 「誰……? ま、魔理沙?」 私が気づくや否や、魔理沙の華奢な手が私の身体を包み込む。 「ど、どうしたの魔理沙……」 「アリス……愛してるぜ」 「ま、魔理沙、今な、な、なんて?」 緊張のあまりどもってしまう。 「愛してる……ぜ……」 「ま、魔理沙……やっと……」 体中が歓喜と興奮で燃え上がる。目頭も熱くなってきた。 「ここでずっと一緒にいよう」 「そんなこと言って、またどこかにふらっと行ってしまうんでしょ?」 「行かない。ここでゆっくりしよう」 「本当に?」 「ああ。ゆっくりしていこう」 「私……」 堪え切れずに、私は魔理沙を強く抱きしめた。魔理沙の柔肌の体温を感じる。ああ魔理沙、こんなに柔らかかったのね。もちもちして、食べ物みたい…… 「ゆっゆっ」 ……? 心なしか押し返されているような…… 「ゆっくゆっく」 ま、魔理沙……? 大きくなってる……? 「ゆっくりしていってね!!!」 「魔理沙! やめて! 潰れる! 潰れグホッ!!」 ―― 「……っくり、ゆっくり」 「ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!!」 「お、重い魔理沙……やめて……息出来な……ぶはっ!」 「ゆっ!」 私が激しく起き上った瞬間、丸っこい物質が放物線を描いて宙を舞うのが見えた。 「……」 状況整理: ①私はベッドの上にいる ②私は寝具を着ている ③私の眼前約5メートルの地点にゆっくりまりさが飛んで行った 「おねえさんおはよう! まりさが起こしてあげたよ! 今日もゆっくりしようね!!!」 結論:折檻 「おねえさんどうしておこってるの! まりさ起こしてあげたのに! おなかすいたよ! 出してよ!」 「魔理沙……柔肌……饅頭……まりさ……」 私の朝の食卓はいつのように騒がしい。 ゆっくりはいい。とてもいい。 -- 名無しさん (2010-11-27 13 42 15) 名前 コメント
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ゆっくりと地球最後の日だね!!! いつもとなんら変わらない日常に、そいつらは現れた。 高層ビル群で狭められた空。 そこに微動だにせず浮かぶ、二つの巨大な生首。 一方は黒髪に赤いリボンを付け、もう一方は金色の長髪に、魔女のような円錐帽。 まさに「2頭」であるそいつらは、いつの間にかある街に現れ、そして 「ゆっくりしていってね!!!」 という言葉だけ、時折発している。 その声は「うるさい」と感じさせながらも、あの巨体から発声されたものとは思えない、 絶妙なボリュームだった。 そして、そう言った後、2頭は風に吹かれてゆっくりと流れていった。 突如として現れ、風に乗り全国を行脚するこの謎の物体に対して、国民からは、 「得体のしれないこいつらはすぐに排除すべき。」 「何をするわけでもなく、ただそこでゆっくりしてるだけなら放置した方が安全。」 「あなた達が……神か……?」 「うーうー☆ってやつ可愛い!」 など、様々な意見が寄せられた。 が、政府は最終的にこれに対するミサイルによる攻撃作戦を決定する。 作戦決行日。 あの2頭は日本海上空でゆっくりしていた。 1200、2頭に対するミサイル発射が行われた。 「おお、こわいこわい。」 馬鹿にしたような顔で2頭が言った直後、2発のミサイルがそれぞれに着弾、爆発する――筈だった。 ぷにゅ。 そんな音を立てて、ミサイルは、それぞれの巨大な頭に飲み込まれた(ようだ)。 そして、2頭は 「ゆっくりした結果がこれだよ!!!」 と言って―― 「ぱんっ!」と、まるで手品の様に、空中で、無数の小さくなったそれに分かれ、ぼちゃぼちゃと海に落ちていった。 後日。 日本海側の沿岸に、ちっこくなったあの頭が大量に漂着していた。 あの2頭だけではなく、髪型や帽子などが大きく異なる種類のものも多数発見されている。 そして、 「ゆっくりしていってね!!!」 第一声には例外なくそう言うそいつらは、 「ゆっくり」と呼ばれ、人々の生活に馴染んでいったのだった。 地球最後の日まで、あと50億年。 ちなみに、琵琶湖や太平洋沿岸から見つかったゆっくりも居たが、皆一様に 「やっべ!!!間違えた!!!」 とか言っていたそうな。 まさに細胞分裂!? -- 名無しさん (2008-12-28 13 06 04) 50億年……ゆっくりしていればきっとすぐです(笑 ゆっくりが沢山降ってくるのは、なにやら「はれときどきぶた」を思い出しました♪ -- ゆっけの人 (2009-01-01 10 07 26) やべえ、かっけえ -- 名無しさん (2010-06-12 15 56 17) 50億年じゃその前に地球が滅ぶ(笑) -- 名無しさん (2010-06-14 02 11 34) うー☆うー☆ていうやつ可愛い←共感 -- れみりゃ好き (2023-11-09 15 30 57) 名前 コメント
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出産や傷ついている表現があります また俺設定とかオリジナル人物が使われているので気になる方はスルーしちゃってください ゆっくりのお医者さん 今日もまた朝日が上り、一日の始まりを告げる。 此処は幻想郷の隅っこ。人里から大分離れた位置にある高山地帯。 木々は生い茂り、川はやさしく流れあらゆる存在がゆっくりと在る。 そんな厳しくもやさしい自然に抱かれた山々が連なる普通なら人も入り込まないような場所の原っぱに なぜか一軒だけ円筒形が重なった形のレンガ造りの小さな家があった。 斜陽が窓の隙間から入り込み未だに布団の中で愚図る小さな家主の眼を刺激する。 部屋の中は殆ど整理されておらず、書きかけの文章が机の上で散乱し 床には衣類が放置されおよそ其処が女性の部屋とは思えないほどに荒れ果てていた。 更に数刻後。日は高く上り行き眩しい日差しに観念したかもそもそと手を卓上へと伸ばし眼鏡を取る。 そしてむくりと起き上がったものは、どう見ても幼子にしか見えない 小さく見た目は可憐ではあるがぼさぼさな長髪などから不精な印象を与える少女であった。 ゆるゆると起き出して髪を整えた後、引き出しから何時もの衣装を揃えはじめる。 ゆったりとした着物の上にまるで木の棒に蛇がのたくった様な模様の付いた いわゆるローブと呼ばれる外套を着、最後に十字があしらわれた不思議な形の帽子を被る。 身支度を整え同じようにゆるゆると階段を降りて左手に在る一室へ向かうと其処には 「「「「「ゆっくりしていってね!!! せんせい!!!」」」」」 「うん、おはよう皆の衆」 木で作られた、それなりに大きい家畜小屋くらいの大きさのケージに入れられた 人の顔をした饅頭のような生き物達…ゆっくりが上りかけた太陽に照らされテカテカと笑顔を浮かべていた。 せんせいと呼ばれた少女にゆっくり達はすぐさまケージから飛び出し、 様々な大きさ、色とりどりのゆっくり達がぴょんぴょんと駆け寄ってくる。 このケージはとある里の大工が作っていた、ゆっくりハウスというものの改良品だ。 ケージの中には藁が敷き詰められ未だ寝息を立てているものや外に出る事無くそのままの状態で居るものもいた。 此処はゆっくり達にとって、とてもゆっくりできる快適な場所であるようだ。 「せんせい! ごはんをちょうだいね!! あとおかあさんにおみずをわけてあげてね!!」 「ゆっ、おかあさんにおみずをあげるほうがさきだよ!! わたしたちはあとなんだよ!!」 「せんせいせんせい! ここにきてからまりさとってもゆっくりできてるみたいだよ!!」 「むきゅ! みんなしずかにしてね!! せんせいがこまってるわよ!!」 「あーうー! せんせい!! さなえのところにはいつもどっていいのかな!!」 大小様々、形も正確も全く違うゆっくり達が少女の行く先を追いかけては口々に喋りかける。 しかし共通して彼女を指す言葉は常に『せんせい』という言葉だった。 「あー諸君、まだ眠っている子も居るのでもうすこしゆっくりしていてくれ」 唐突に少女は振り向き足元に群がる小さなゆっくり達に向かい、 口元に指先を立て、しい、と語りかけるとちいさなゆっくり達はハッとして徐々に声のボリュームが下がる。 「「「ゆっくりごめんなさい! せんせい!!」」」 若干ボリュームを抑えられた何時もの言葉と共に小さいゆっくりたちはそそくさと一箇所に集まっていった。 少女はそれを見、嘆息と共に微笑を浮かべ残りのケージを開けてゆく。 ケージそのものは隙間が大きく開いており、天井も開いているため中の様子が直ぐに見えるようになっている。 其処ではとてもちいさなゆっくりが大きなゆっくりの傍らで寝息を立てていたり あるいは頭の頂点に小さな茎を付け、実をつけているゆっくり はたまた底面が大きく膨らんでいるゆっくり、包帯でぐるぐる巻きにされ形が歪なゆっくりまで様々居た。 そう、此処はゆっくり達の病院だったのだ。 「それでは皆、いただきます」 「「「「「ゆっくりいただきます!!!!」」」」」 ケージから小さなゆっくり達が全て出られた後 全員分の食料を調理した少女は一同そろった所で食事を取ることにしている。 こうする事でゆっくりたちを身近にとらえることが出来る…かもしれないと少女は思っていた。 「ハフハフッ! これむっちゃうめ!!」 「とかいはのわたしはそんながっつかないわ!! じょうひんなたべかたはこうよ!! むーしゃむーしゃ♪」 「じゃおぉぉぉんっ」 「みょ~~~ん!!」 「わかる、わかるよー!!」 とはいえ食事となると夢中になりがちなのもゆっくり達でもあるため その目論見は半ば薄れ、単純に一緒に食事を取るという単なる習慣になりつつあった。 各々の食事が終わり、食器を片付けた後、少女は未だケージの中で動かない・動けないゆっくり達へ食事を持って行く。 ケージに入っている殆どのゆっくりには頭の上に茎のようなものを生えていたり、底面の下半分が膨れている。 このゆっくり達はこれから母親になるもの達だった。 母体となっているゆっくり達はほぼ動くことが出来ない。 身体的な変化もさる事ながら意識がどうしても子供の方へ向いてしまい 注意力が散漫となり非常に危険であるためなるべく動かないよう勤めてゆっくりしているのだ。 しかしながら体内の栄養を子供達に分け与えていることもあり体力の消耗は通常よりも早く食料を倍近く必要とする。 「とりあえず経過は良好…と、栄養状態は大丈夫か?」 「ゆっくりできてるよ! ごはんがたりなくなったられいむがとってきてくれるからあんしんできるよ!!」 「ふむ、良き哉良き哉。次の子はー…っと」 このまりさのように、家の中にはほぼフリーで出入りすることも可能な為 一度の食事で賄えない分は野生のゆっくりと同じように追加してとって行く事も出来るようになっている。 むしろ食事を受け取ることを必要とせず、外に直通できるスペースのみを借りて 八割がた野生での生活習慣のままのゆっくりすらこの場所には存在していた。 「…ふむ、生育状態は全体的に順調…と。では次、傷口の様子はどうかね?」 「ゆ…ゆっ…だいじょうぶだよ」 中ほどからやや外れた位置にあるケージの中には包帯が巻かれ痛々しい格好のゆっくり達が居た。 思いがけず他の野生動物に襲われたり山や木など高所から落下してしまい皮がやぶけてしまったゆっくりだ。 元来ゆっくりという生き物は半妖に近い生態を持っている為、可也頑丈に出来ているものでは在るのだがそれでも限度がある。 表面的な擦り傷などは物の数分で完治するが中身が出てしまう程の大怪我となると勝手が違うようで、 そのまま放置されてしまえば中身が全て抜け出てしまいほぼ確実に死に至ってしまう。 此処に居る大怪我を負ったゆっくり達は運よく通りがかった他のゆっくりに救助され 一命を取り留め運ばれてきたゆっくり達なのだ。 少女は手馴れた手つきでゆっくりにかけられた包帯を取り 傷口に薬草を溶かし込んだ溶き粉を練り込んでゆきまた同じように包帯を取り付けてゆく。 こうすることにより徐々に表面積を再最適化し再びもとの形状へ戻ることが出来るのだ。 「傷も大分ふさがってきたみたいだしそろそろ動けるようになると思う。養生しなさい」 「ゆ、ありがとう、せんせい」 少女はゆっくりの前で手をひらひらとした後、次の怪我ゆっくりの様子を見る。 少ないながらもこういった患者は現れるものなのだ。 「ふう…これで入院中のゆっくり達は完了と。さて次は往診だな…」 怪我をしたゆっくり達を診察し終えた少女は新たに外套を羽織りカルテを纏めて外へ向かう。 最近では人里近くにも時折ゆっくりが出没し、更には人間と共に暮らすゆっくりも存在している。 野生のゆっくり達から薬草や木の実等の謝礼を貰う事は在っても基本的にお金が貰える訳ではない為 ほぼゆっくり専門医になりかけている彼女はそういった類のゆっくりを診察する事や 本来の人間の外科医としての治療費等でこの病院は生計を立てているのだ。 「お前達ー、昼は何時もの通り自分達で取ってくるんだぞー。」 「「「「わかったよ!!! ゆっくりいってらっしゃい!!!!」」」」 表のドアから少女とともにゆっくり達が飛び出し伸び縮みするように遥か彼方へ飛んでゆく少女を見送っていった。 少女の姿が雲の向こうに見えなくなった後ゆっくり達は各々の家族で 怪我をしたゆっくり含め自分達の食料を取りに森の中へと駆け込んでゆく。 今は少女と一緒に住んでいてもいずれは森の中に帰ってゆく定め。 ゆっくり達は自分達の力で立たねばならないことをゆっくりなりに理解していた。 所変わってここは人里。外れの方では藁葺きや瓦の屋根の家ががそこかしこに存在し 町の中央に行くにつれ人の活気に満ち溢れて行くが、残念ながら彼女が向かう先はそういった市街地ではない。 若干外れの方、広い野原にたわわに育った果実や野菜が軒を連ねたいわゆる農耕地帯と呼ばれる場所だった。 「こんにちは皆さん、お体は大丈夫ですか?」 「ゆっきゅりー!」 「せんせいだー!」 「ゆっくりしていってね!!」 少女が農家の玄関口で挨拶するとこれまた大小さまざまなゆっくりが飛び出してくる。 其処での彼女の仕事といえばやはり基本はゆっくりの往診。 それと時折現れる野生のゆっくりとの付き合い方を教える事だ。 ともあれこうして彼女の一日はゆっくりと過ぎてゆく。 日が徐々に傾きかけてきた所で少女は帰宅する。 だが、彼女にはまだ仕事が残っていた。 「はい次のゆっくりー」 「ゆっ、ゆっ、ゆっくりしていってね!!」 居間を囲んでのゆっくり診療。それが大体日が落ちる辺りまで続く。 ただし山林の奥深くに住み着き多少の怪我では動じないゆっくり達が相手な為 それほど多くの来客…もとい来ゆっくりは訪れないが時折大きな怪我を負ったゆっくりや病気のゆっくりが訪れる事もある。 「せんせえ! ちぇんをたすけてね!!」 「わがらない、わがらないよぉー!!」 「あー分かった分かった、兎に角ジタバタするな。チョチョイと治してやるからちょっと押さえつけていてくれ」 時にはもげてしまったちぇんのしっぽを繋げ直したり 「ゆ゛ゆ゛っ…せ゛んせ゛い、なんだかからだがあついよ…」 「分かったわかった。はいゆっくりアーンしてね」 (…扁桃腺のようなものが腫れている…風邪なのか? 妖精みたいな生態のくせに難儀なやっちゃ) 時には風邪引きゆっくりを診てあげたり 「ゆっくししちぇいってね!!」 「うむ、ゆっくりしたいな。だがゆっくりとして外の世界を生きる為には色々あってだな…」 時に親からはぐれ、孤児となってしまったちびっ子ゆっくりの面倒を見る事もあった。 忙しいながらも充実した時間をすごす内、やがて日は傾き山間に全てを照らす灯火が降り 小さな家以外から光が漏れ出す事が無くなった頃。 「フゥー…う…っと」 小さな体の柳のような細い首をコキコキと鳴らし、本日の診察を終え少女はゆっくりと肩の荷を降ろす。 が、唐突にその余韻は阻止される。 「せんせい! まりさのあかちゃんがうまれそうだよ!!」 扉に取り付けられたゆっくり専用の小さなドアから顔を出したゆっくりれいむに告げられ 少女はハッとして奥のゆっくり達の部屋へ向かう。 部屋の中では数匹のゆっくり達が件の生まれそうなゆっくりを心配そうな表情で見つめている。 ゆっくり達の目線を見やればそこには胎生出産のゆっくりがいつも以上に苦しそうな表情で しきりに体を動かし体勢を変え、まるでのた打ち回るかのように激しく動き回っていた。 ゆっくり達の繁殖方法は様々あり、一概にコレと決まったものも無い。 ある日唐突に分裂して増えたというものもあるらしい。だがこの行動はあまりにもおかし過ぎた。 このまま続けていてはお腹の中の子を痛めてしまう可能性がある。 「これは一体どういう事だ? ゆっくりと説明できる奴、してくれ」 少女はしゃがみ込み、ケージの外でオロオロとする小さなゆっくりたちに話しかける。 その言葉に紫色のゆっくり…ゆっくりぱちゅりーが反応し、他のゆっくりは道を譲る。 「むきゅ、せんせいがしんさつしおわったころ、きゅうにあのまりさがくるしみだしたの。 さいしょはうまれるちょうこうだとおもってみていたんだけど、どんどんくるしみだして…」 他のゆっくりよりも頭の良いゆっくりぱちゅりーの説明に少女先生は 脳みそをフル回転させ思い当たる事柄を探り出しながら、とりあえずケージの中で動き回るゆっくりまりさを引っ張り出す。 だが取り出したゆっくりまりさは気が動転しているのか腕の中でもプルプルと暴れたままだ。 「まりさ、私の声が聞こえるか? このまま暴れているとお前の子供がお前の中で潰れてしまう。 だから少し落ち着いてゆっくりしているんだ、いいな?」 下膨れになったゆっくりまりさを正面に見据え、丁寧に語りかけると 若干落ち着いたようでその振動を徐々に緩めて過呼吸気味だった息は徐々に落ち着いてゆく。 しかしいくら少しばかり元に戻ったところで恐らくこのまま流産してしまう可能性は高いと少女は見た。 先ほどまでの衝撃で下膨れの中央に位置する穴…人間で言う産道が開きかけてしまっていたのだ。 少女は急いでまりさの全身を見やる。 外傷によるものならどこか異常な箇所があれば見てすぐに分かるはずなのだ。 しかし外的要因は見当たらず、何が原因なのかは全く特定出来なかった。 少女は考えながらも触診を続ける。外面には全く裂傷など危険なサインは出ていなかった為 内部に特定し検査方法を切り替えたのだ。 入念に手で探ってゆく。母体の方は体力こそは落ちているが 完全に健康なゆっくりそのものであり特にこれと言って反応は無かった。 だが下膨れの子供の元が在る場所を触った途端 「ゆ゛ゆ゛ーーーーーっ!!?」 ゆっくりとは信じられないほどの力で私の手から逃れようとし 吃驚してしまった少女はつい手を離してしまう。 「しまっ…!?」 無常にも重力に導かれるまま落下してゆく母体まりさ。 このまま落ちてしまえば流石のゆっくりのプニプニボディでも耐える事が出来ずに全て自壊してしまうだろう。 「じゃおおおおっ!!」 「ゆゆーーーーーっ!」 「ゆゆゆっーーーーっ!」 瞬間、飛び出したつがいのれいむ含む数匹のゆっくり。 各々底面のもっとも柔らかい箇所を巧みに使い、空中で受け渡しあう格好となり 最後に数匹のゆっくり達が自身の体で受け止め事無きを得たのだった。 「…ふぅー…、すまない、助かった」 少女はそう言って助けたゆっくり達を撫で、冷や汗に塗れながら再び母体となったまりさを 机の上にやわらかいものを敷き、其処に置いて調べだした。 患部は特定された。しかし一体なぜ苦しんでいるのか どうして生むことが出来ないのか非常に大きな疑問が残されていた。 産道が開きかけているので多少マッサージをすることで一匹ずつ出すことも可能な筈だった。 しかし現状では下膨れに触ること自体が危険なようで、下手をすれば先ほどの二の舞である。 かといってこのまま放置すれば母体まりさそのものの生命を危ぶめてしまう。 「まりさぁ…がんばってぇ…」 「う゛…う゛…」 つがいになっていたれいむが母体のまりさに寄り添い不安な声をあげる。 だがせっかく一度は助け出したのにどうすればいいのか分からないまま時は過ぎ、 その場にいる一人+全ゆっくりがうんうんと唸っている最中 ふとボーン、ボーンと時計の鳴る音が辺りに響き渡る。 「…もうこんな時間か」 彼女は時計の見かたを知らない。ただ知り合いの河童がこれを取り付けに来た時 大体日付が変わる数刻前に一度大きく二度鳴ると説明していった。 生活習慣として一応はその音が鳴る頃に風呂を沸かしゆっくりと共に入る事にしていたが… 「…まてよ…風呂…?」 流石の先生でも無理なのではないか、と立ち上がった少女を不安げな目線で見るゆっくり達。 しかし少女の目線の先には明確な意思が存在していた。 「…分かったぞ! みんな、急いで風呂の支度だ!」 「「「「ゆゆっ!?」」」」 先生の一言にゆっくり達は驚き目を白黒させた。 「出口が詰まっているなら緩くさせてあげればいいんだ」 少女とゆっくり達はこのときばかりはいそいそと風呂の支度をし始めた。 室内に湯気が充満する。ゆっくり診療所の奥に存在するのがこの給湯室ならびにお風呂だ。 水気の多い事を苦手とするゆっくり達にとってはあまり近寄りたがらない場所であったが 何故かお風呂などの温水にはそれなりに長時間浸かっている事も出来る為、少女とゆっくり達全員のゆっくりプレイスであった。 「ゆゆっ、それじゃああかちゃんがおぼれちゃうよ!?」 「だいじょうぶだよ! せんせいだからきっとかんがえがあるんだよ!!」 各々真っ二つな意見が飛び交い合いながらもゆっくり達が見守る中、 少女は湯船にぬるま湯を作り母体まりさを浸して頃合を計る。 「これで上手く行く筈なんだ…お客さん、ゆっくりできてますか~?」 「ゆ…ゆ~っく~り~…」 湯に浸かるまで下腹部(?)の痛みに耐えて強張っていた母体まりさの表情が徐々に和らいでいく。 その表情の変化に少女は内心ガッツポーズを取り、そのまま母体まりさの下膨れをゆっくりと刺激する。 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ…」 「はい、ヒ、ヒ、フー、ヒ、ヒ、フー、真似して」 「ゆ、ゆ、ゆぅ~、ゆ、ゆ、ゆぅ~…」 少女は医者として里の娘から赤ん坊を取り出すいわゆる産婆さんもやっている。 そして今回の場合、人間と同じような出産方法なら同じ方法が取れるのではないか? と考え ゆっくり達に適したぬるま湯を作り、同じように取り出す方法を試してみたのだ。 「ゆう゛う゛う゛う゛っ!! う゛、ま゛り゛さ゛の゛あ゛か゛ち゛ゃん゛でちゃう、でちゃう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」 「頑張って! はい、ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふー!」 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、う゛ー! ゆ゛っ、ゆ゛っ、う゛ー! う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」 母体まりさの動悸が激しくなると同時に下膨れが揺れ、もぞりと中が動く感触が少女の手に伝わる。 やがて其処に浮き出てきた顔がゆっくりと剥き出で すぽーん! 蔦から生まれるゆっくりよりも若干大きめな赤ちゃんゆっくりが母体まりさの下腹部(?)から勢いよく飛び出しぬるま湯に落ちる。 だがゆっくり達はお湯に浮く習性を持っているため、湯船の中にに着水させれば衝撃で潰れてしまう可能性はほぼゼロにできる。 続けて2匹目…3匹目…4匹目… 「え…ちょ…まっ…」 少女は目を見開いた。 普通なら3~4匹が目安というゆっくりの胎生出産であったが、今回は未だに産道が開いたままで新しいゆっくりの顔がのぞきかけている。 そのまま続いて5匹目…6匹目…7匹目…8匹目…9匹目…を出したところでようやく産道が閉じた。 そしてぷるぷるとぬるま湯のなかで震える小さな赤ちゃんゆっくり達が一斉に目を開き、産んだ母まりさに向かって 「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!」」」」」」」」」 少女は合計9匹の赤ちゃんゆっくりの大合唱を風呂場特有のエコー付きで聞くことになった。 「…くあー…まだ耳がキンキンするわぁ…」 風呂から上がった少女は肌着のまま自室の居間で一人牛乳を煽っている。 今回生まれた子供を含む他のゆっくり達は沢山生まれた事から喜び疲れたのか 風呂場で全員ひとしきり洗われた後、一斉にぐっすりと寝てしまったのだった。 少女は一人自室で今日の診察のレポートや出産の方法等を記して纏めている。 一人で賄う量としては大分大目ではあるが彼女は信じられないほどの速度でそれを書き上げてゆく。 未だに未知の部分の多いゆっくり達の為、日々彼女はゆっくり達の生態研究に余念が無い。 そうして夜が更け、川のせせらぎしか聞こえなくなった頃少女は就寝する。 翌日、新たに生まれた九匹の子供と共にまりさとれいむの親子が森へ帰って行く。 「「「「「「「「「「「せんせい! どうもありがとうございました!!」」」」」」」」」」」 「うん、達者で暮らせよ。ゆっくりとな」 「「「「「「「ゆっくりいきていくよ!!」」」」」」」 そう言ってゆっくり達は森の中へと消えていった。 これから後にこのゆっくり達がどうなるのかは分からない。 しかしゆっくり達の手に負えない異変が起こることがあれば彼女を頼って来るだろう。 ゆっくり達は彼女のことをゆっくりのお医者さんと呼んだ。 終わり ゆっくり達のブラックジャック的な存在を描いて見たくなった。 動物病院というか野生動物との付き合い方という感じで ☆楽園の素敵なお医者様☆ゆっくり医 GJです♪ -- ゆっけの人 (2008-10-31 20 08 35) いい話ですな -- 名無し (2009-09-20 00 14 02) とてもいい話でした!GJ!! -- 名無し (2011-02-20 18 52 38) 最初と最後は良かった。特に最後の締めの部分は素晴らしい。 -- 名無しさん (2011-10-12 01 40 09) やっぱかわいいな ゆっくr「おにーちゃん なんでにやけてんの?」 i・・・ -- おにーたまと呼べ! (2012-08-13 21 06 55) なんで9匹も産まれたんだろう? -- 名無しさん (2014-04-05 12 22 58) 名前 コメント
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野山に住み人の言葉を操る神秘の饅頭生物。 今回はそんな野生のゆっくりの生活を追ってみたいと思います。 このゆっくりれいむの頭の上には蔦が伸びています。 ゆっくりの子どもはこのように蔦から子生まれてくるのです。 「ゆっくり生まれていってね!!!」 そうゆっくりが言うと、次々と蔦から子どもたちが落ちてきます。 「ゆっくりー!!!」 「ゆっくりちていってね!!!」 「これでゆっくりできゅるね!!!」 ちびれいむ、ちびまりさが口々に産声を上げ、合わせて12匹が生まれ落ちました。 「ゆっくりしていってね!!!」 親れいむが子どもたちに呼びかけ、寄り添ってくる。 ここに広がるのは仲睦まじい家族の風景である。 これがゆっくりの家族の誕生の瞬間ですね。 ゆっくりは主に母親?が1人で育てることが多いのです。 そしてここがゆっくりの巣ですね。親ゆっくりは子ゆっくりをおいて食料を探しに行っています。 子ゆっくりは言う事を聞かないことが多く、連れて行っても捕食されてしまうことが多いからでしょう。 「たっぷり見つけてきたよ!!!」 どこから見つけてきたのか、きのこやつくしなどを口に一杯含んで 子どもたちの前に出す。 そうするとすぐに親ゆっくりは外へ出て行ってしまった。 ゆっくりは雑食性でなんでも食べますが、グルメな一面もあり できるだけおいしいものを食べたがるんですね。 この時期の親ゆっくりは食べ物捜しに一日中奔走することもあるのです。 「むーしゃ!!!」 「むーしゃ!!!」 「しあわせー!!!」 子ゆっくり達が次々にご飯を食べていく。 「ゆっくりまんぷくになっ… スピー」 ご飯を食べ終わるとすぐに寝てしまう子ゆっくりたち。 それを観ている親ゆっくりは 「ゆっくり寝ていってね!!!」 と言うと自分の食料を確保しにまた出かけに行きます。 こうしてゆっくりたちが生まれて一週間ほどたった頃 「「「ゆっくりあそびにいこうね!!!」」」 そういって子ゆっくりが巣から飛び出していきました。 その後ろには親ゆっくりがついていっている。 これは子どもたちにとっては初めての外での遊びです。 始めて見る花、草木、川、湖。その一つ一つを見つけは喜びの声を上げる子ゆっくりたち。 すると… 「そっちはゆっくり危ないよ、こっちでゆっくりしようね!!!」 親ゆっくり湖に近づく子ゆっくりたちを呼び寄せます。 子どもたちはまだ水の怖さを知らない。そういうことはこれから雨の日を体験して覚えていくのでしょう。 こうして子ゆっくりたちは自然の楽しさ、怖さを覚えていくのですね。 さてそれではその一部を見てみましょう。 あれから更に数日たったゆっくり家族の風景。 今日もゆっくりは家族で外へ出かけていく。どうやら家族全員で食料を探しているようだ。 「ゆっくりみちけたよ!!!」 「ゆゆ、それはまずそうだよ!まりさのほうがおいしそうだよ!!!」 子ゆっくりたちが騒ぎながら食料を探していく。 基本的に一般的な動物が食べれるものであればゆっくりに食べられないものはない。 なので、集めてくるまでは親ゆっくりも傍観しているだけである そのとき、一匹の子ゆっくりが突然浮きあがった。 「「「ゆっくり?」」」 周りの子ゆっくりが見上げます。 「れいむたのしそう!!!」「まりさもとびたい!!!」 そうすると他のゆっくりも宙に浮きたいのか次々に近づいていきます。 「ゆっくり離れてね!!!」 突然親ゆっくりが叫ぶ。 「ゆ゛ーーーー!!!」 その後、ちびれいむが忽然と消え叫び声だけが聞こえた。 それに呆然としている子ゆっくりたち。 「ゆっくりはやくついてきてね!!!」 親ゆっくりは今度はこう叫ぶとできるだけの子ゆっくりをくわえこの場から逃げ去ります。 この突然の事態の正体… それは野犬でした。子れいむは犬にくわえられ 「ゆっくりちた結果がこれだよ!!!」 そして食べられてしまったのだ。 親ゆっくりについて逃げる子ゆっくりもいればこの事態に混乱しその場で泣いているだけのゆっくりもいた。 後者のゆっくりはなすすべもなく野犬に食べられてしまうだけである。 しかし後者のゆっくりがいるからこそ、親ゆっくりたちは確実に逃げることができた。 皮肉なものだが、これもまた自然の一部なのであろう。 中には「ゆっくりたすけるよ!!!」と言って犬に突っ込んでいったり 「な゛ん゛でみ゛ずでる゛の゛!?」と言って親ゆっくりに泣きつく子ゆっくりもいますが 親ゆっくりは涙を堪えただその場から逃げるのみであった。 ゆっくりは動きも遅くこれといった武器も持っていないため捕食されやすく 幼少期に半分近くが捕食されたり、水で溶けたり、何らかの拍子につぶれたり死んでしまいます。 大人ゆっくりから親ゆっくりになるまで生き残るものは更に少なくなります。 言わば、この厳しい環境を生き延びたものが親ゆっくりになるわけです。 ですから、生き延びるすべを知っており、この場合はもう逃げるしかないことを知っているわけですね。 恐らくこの親ゆっくりも子どもの頃から姉妹が食べられてしまったり、友達がつぶれてしまうような ことを経験してきているのでしょう。その時の親ゆっくりも同じようにしたからこそこのゆっくりも生きているのです。 こうして家族を守る手段は伝えられていくのです。 さてさらに時がすぎ、子ゆっくりたちも大分大きくなり親ゆっくりを伴わず、子どもたちだけで出かけることも増えてきます。 「今日はゆっくり草原に行こうね!!!」 「草原楽しみ!はやくゆっくりしたいね!!!」 こうしてまりさ3匹れいむ2匹が草原に向かって出発していきます。 草原を目指して飛び跳ねていく子ゆっくりたち。 しかしゆっくりの巣から草原までは1日で帰ってこれる距離ではありません。 このような遠出により自分たちで食料を調達すると同時に新たな巣を見つけることを覚えていくのです。 「ゆっくりお腹すいたね!!!」「ごはん探そうね!!!」 時間はそろそろ正午を迎えようとしており、ゆっくりたちはお腹がすいてきた様子。 草原にはまだ着いていませんが、ここで食料を探すようです。 「ゆっくりお菓子が落ちてるよ!!!」 一匹のれいむがパンくずを見つけ食べています。おそらく人間が食事を取った際にこぼしたものでしょう。 「ゆっくり分けてね!!!」 そこに他のゆっくりも群がってきて一気にパンくずがなくなってしまいました。 「全然足りないよ!もっといっぱい探そうね!!!」 ゆっくりたちは再び食料を探しに散らばっていく。 蝶を捕まえて食べるもの、草花を食べるものなど様々な様子が見られます。 「ゆっくり飛んでってね!!!」 このようにある程度高い位置にあるものを二人で協力して飛び上がって採ったりもします。 おっと、そこへ人がやってきました。 先ほどのパンくずをこぼしていった人でしょうか。 「ゆっくりしていってね!!!」 そういってゆっくりたちはその場を離れていきます。人間は危険ということを知っているのでしょう。 ゆっくりたちは何故か人間に通じる言葉を話せます。それもあってか人間に対する接し方は親が一番に教えることのようです。 親たちは人間に捕まったり殺された仲間を多く見ています。そこからどのように対応すべきかを学んでいくのでしょう。 捕食される側であるゆっくりにとって人間とどれだけ付き合っていけるかは死活問題なのです。 「ゆっくり草原についたね!!!」 ゆっくりたちの言うようにもう日は傾きだしておりゆっくりとした到着です。 「「「ゆっくり遊ぼうね!!!」」」 実際はそんなに長く遊べません。 しかしそんなことは全く気にせず遊びだすゆっくりたち。 かくれんぼ、鬼ごっこ、虫を追いかけたり、日向ぼっこをしてゆっくりと過ごしていきます。 こうしてゆっくりが草原についてからしばらくたったころ日が赤く染まりだしました。 「ゆっくりした結果が夕方だよ!!!」 「ゆっくりおうち探しに行こうね!!!」 ゆっくりたちは今度は寝床を探しに出発します。かなり遅い出発ですがゆっくりらしいと言えるでしょう。 「ゆゆ、ここはゆっくりできそうだよ!!!」 れいむが木の洞を見つけました。 しかしどうやら先客が居たようです。 「ここはまりさのおうちだよ!ゆっくり出て行ってね!!!」 「ゆっくり泊めてね!ゆっくりしたいよ!!!」 「そんな大人数は入らないよ!とっとと出て行ってね!!!」 相手はまりさ一家でした。交渉は決裂してしまい ゆっくりたちはここを諦めて次の場所を探しに行きました。 実はゆっくり同士で家を巡っての争いはあまり起こらないのです。 お互いが饅頭であるがゆえ、ちびゆっくりでも食べることで攻撃できてしまうことと それとは反対にちびゆっくりは一口で食べられてしまうことが原因です。 この場合、家族側は子どもたちを失いたくないですし、ゆっくりたちもこども相手とはいえ 数を相手にすれば無事で済まない上に親ゆっくりも相手にしなくてはならない。 双方にメリットがないわけですね。 その後も寝床を求めて彷徨うゆっくりたち。しかし先客がいたり、思ったより小さかったりで中々見つかりません。 日もほとんど落ちてきたころ、ようやく本日の寝床が決まりました。 「ここなら誰もいないし、ゆっくりできるね!!!」 ゆっくりが寝床に決めたここは小さな洞。 入り口こそゆっくり一匹分しか通れませんが、中は五匹でもゆっくりできるスペースがあるおあつらえ向きな場所です。 「「「ゆっくり寝ていってね!!!」」」 そんな声がした後に寝息が聞こえます。こうしてゆっくりたちの一日が終わっていきました。 夜が明けを迎えゆっくりの寝床は一体どうなっているのでしょうか? 「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりごはん探すよ!!!」 なんと朝早くからゆっくりたちが洞から出てきます。 自分たちの巣とは違い食料の蓄えがないため、朝ごはんも自分たちで探さなくてはいけず 虫や草木を食べて空腹を満たします。おいしいものを探すゆっくりもいますが 自然界ではそうそう見つかるものではありません。 ゆっくりはおいしいものが大好きでそれを求めて人里に下りてくるゆっくりもいます。 ここに私が捕まえたゆっくりがいます。家にあったクッキーの匂いに誘われて入ってきたようです。 親ゆっくりは下りないよう注意するので我慢するゆっくりがほとんどですが中には 食欲に勝てず下りてきてしまうゆっくりもいるのです。 それほどまでにゆっくりのおいしいものに対する欲求は強いのです。 腹を満たしたゆっくりたちは自分たちの巣へ帰っていきます。 こういう経験を繰り返していくうちに巣へ帰らない時間が増えていき いつしかゆっくりは巣立っていくのです。 「ゆっくり遊びに来たよ!!!」「今日もゆっくりしようね!!!」「むきゅ~ん!!!」 これは巣立ったゆっくりれいむです。 巣立ちを終えたゆっくりは一匹で食料を集めに出かけたり、他のゆっくりたちと遊んだりして 自由気ままにゆっくりします。 今日は仲良しのゆっくりまりさ、ゆっくりパチュリーと遊ぶようです。 「あ、トンボさんだ!!!」「ゆっくり捕まえるよ!!!」 トンボを追いかけるゆっくりまりさとゆっくりれいむ。 ゆっくりパチュリーも追いかけますが、パチュリー種は生まれつき体が弱いためどんどん引き離されてしまいます。 「ぜぇぜぇ、はぁはぁ、むきゅ~ん…」 ついに疲れ果てへたれこむゆっくりパチュリー。 しばらく経った後、ゆっくりまりさとれいむが帰ってきました。 「ゆっくり捕まえてきたよ!!!」「ゆっくり食べてね!!!」 さっきのトンボを捕まえてゆっくりパチュリーに与える二匹。 「いいの?」「れいむたちの分はまたゆっくり捕まえてくるよ!!!」 このようにゆっくりたちはお互いに助けながら暮らしていきます。 これも個として弱いゆっくりたちが生きていくための手段なのでしょう。 このようにゆっくりしていく中でつがいを見つけ新たなゆっくり家族が生まれていきます。 皆さん、野生ゆっくりの生態いかがでしたでしょうか? 思っていたよりもタフで賢いゆっくりに驚いたことでしょう。 野生のゆっくりは生き抜くために様々な知恵をつけてきました。 この不思議な饅頭生命体はまだまだ多くの謎が秘められています。 今日もまた種々様々なゆっくりが野を駆けていることでしょう。 これ投棄場じゃなくてもいい気がする -- 名無しさん (2009-02-18 22 17 53) どうしてか弱っちく書かれるよな -- 名無しさん (2012-06-28 02 24 32) どうしてか弱っちく書かれるよな。ゆっくりが狼より弱い自明性なんてないのに・・・ -- 名無しさん (2012-06-28 02 28 01) 名前 コメント
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『人間はゆっくりできるのか?』 森の中の広場、そこに数種のゆっくり達が集まる。なにやら輪になって皆で 「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」」 挨拶を同時に交わす。 どうやらぱちゅりーを中心にして話し合いが行われるようだ。 「むきゅー・・・きょうのおだいはにんげんとゆっくりできる?それではゆっくりはなしあってね!!」 「ゆ!!」 身体を若干縦に伸ばしれいむが声を上げる。 「むきゅー。ゆっくりしゃべってねれいむ!」 とぱちゅりーが発言を認めると周りがれいむを注目する。 「ゆっくりできるよ!!!まちのおにーさんが“たいやき”をくれたし、いっしょにひなたぼっこしたよ!!!」 その時のことを思い出して、元気良く飛び跳ね、嬉しそうにするれいむ 「わかる!!わかるよー!!!にんげんはゆっくりでき「ちぇえええええええええええん!!!」 らんしゃまに擦り寄られながらも、人間との思い出を思い出したのかはしゃぐちぇん。そこに 「ゆ!!!」 すかさずまりさがれいむと同じように伸びながら声をだす 「むきゅー・・・まりさどうぞ」 「ゆっくりできないよ!!!いっしょにゆっくりしたかっただけなのに、おもいきりけられたよ!!!」 うみょ、とようむが頷き 「にんげんとはゆっくりできないみょん。このまえ、にんげんにおおくのゆっくりがゆっくりできなくされたみょん」 ゆっかりんが冷めた感じで反論する。 「あれはしかたないわ!!はたけにはいってむだんでたべたのですもの!!しらなかったとはいえ のうかりんがあそこにいたら、のうかりんもおこるにきまってるわ!!」 ようむが言い返す。 「みょーん。たしかにあれはゆっくりたちがわるかったとはおもうみょん。だがにんげんもやりすぎだとおもうみょん。 ようむたちのように“はたけ”をしっていれば、あのこたちもけっして、あらしたりはしなかったみょん」 れいむが言う 「そうだよ!!みんなおなかがすいてただけだよ!!!しっていればきっとゆっくりできたよ!!!」 白熱していく皆を、まりさは冷めた目で見つめていた。そして嘲り笑いながら、ひときわ大きな声で 「にんげんとなんてゆっくりむりだね!!!けられただけじゃない、そのあとむりやりまりさたちのいえにはいってきて・・・。」 皆、ただならぬ様子に黙ってまりさを見つめている。 「にんげんはまりさのだいじなありすをゆっくりしねしたんだよ!!!」 皆が驚いた表情でざわめき始める 「にんげんとゆっくりしょうとしたけっかがこれだよ!!!ぞればもうひどがったね゛!!! だっで、ま゛り゛ざの゛こども゛も゛!!!・・・・・・」 大声で泣き出すまりさ、皆俯いて黙ってしまう・・・。 静寂の中、静かにぱちゅりーが喋りだす。 「むきゅー・・・。みんなのおはなしをきいて、わたしはゆっくりおもうよ。 わたしたちゆっくりにゆっくりできるゆっくりと、できないゆっくりがいるように。 にんげんたちにも、ゆっくりできるにんげんと、できないにんげんがいるんだ。」 まりさは涙を流しながら、ぷいっと後ろを向いていたが、他の皆は各々頷いていた。 「だからこそ。わたしはなんどもゆっくりはなしあいたいよ。いつかにんげんをゆっくりりかいして、にんげんたちと こころからゆっくりできれば、それはとってもすてきなことだね!」 ぱちゅりーの言葉に、その場にいた皆が皆、各々違う表情をしながら人間とのゆっくりしている時間を思い浮かべる れいむとちぇんは人間の側で楽しく歌いながら飛び跳ね、らんしゃまは歓喜しながらちぇんにすり寄る。 ゆっかりんは人間とお話をし、ようむはお手伝いをする。ぱちゅりーは木陰で静かに人間と本を読む・・・。 まりさは・・・まりさも止まらぬ涙を流しながら、昔人間とゆっくり出来ることを夢見た日に思い浮かべた光景を思い出していた・・・。 後にも続いた話し合いが終り、日が落ち始めて皆が家路につき始めると 「いつか、ゆっくりたちとゆっくりしていってね!!!」 そこに居るゆっくりの誰かが、誰に言うでもなくそう言った。 即興の人 ちょっとだけ言い訳。実はこの話、当初はもっと排他的でした。 -- 即興の人 (2008-08-31 04 45 26) ああ、間違って途中投稿してしまったスイマセンorz。まずはタイトル変えるの忘れてたので変更していただき感謝です。あと排他的といっても何かを否定するのではなく、ゆっくりたちから見た人間の脅威を話し合わせるつもりではありました。ですが色々思うところがあって変更、この形になりました。 -- 即興の人 (2008-08-31 04 50 06) まりさの自分の家ってどこまで自分の家なんだろ -- 名無しさん (2008-08-31 05 02 12) 一応作者見解として、父まりさ餌探しで洞窟の外へ。偶然人間と出会う。一緒にゆっくりしようと言う。痛めつけられ近くの洞窟(住家)に無理矢理人間が入ってくる。あとは・・・。と言った感じですかね。詳しくは想像にお任せします。 -- 即興の人 (2008-08-31 05 15 50) あー、勝手に『自分の家』宣言して潰されて逆恨みしてんだと思ってた。ありがとう -- 名無しさん (2008-08-31 05 33 48) ゆ! ぎゃくたいのほうこうしかかんがえられないばかなおにいさんたちはかえってね!!!ここは(ry -- 名無しさん (2008-09-04 16 35 41) うー♪れみりゃはさくやとゆっくりするどー♪ -- 名無しさん (2008-12-06 20 06 22) まあ捉え方は色々 -- あねきィ (2009-10-17 18 24 34) 名前 コメント
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※これは拙作『詰め替えゆっくり』の設定を使っています。独立していますが、先にそちらを見ていただいた方が良いかも知れません。 ※東方キャラ登場注意 人間の里唯一の喫茶店では、今日も忙しく人が動き回っている。 その中に、ひときわ目立つ客がいた。 男女の二人連れ。 それ自体は珍しいものではない。この店は人間どころか妖怪も来るし、カップルで来る者もいれば、夫婦で来る者もいる。 だが、この二人連れ……特に女性は、ただそこにいるだけで店内の視線を集めていた。 美しい銀髪と同色の輝く瞳、絶世の美女という言葉だけでは表せないほどの、その場が輝いている様に錯覚するほどの美しさ。 更に赤と青の交差した服とお揃いの十字のマークが入った帽子を被るという奇妙な服装となれば、目立たない方がおかしい。 店にいる男性達は、皆がそんな女性を横目で、あるいはじっくりと眺めてしまい、相手のいる者は睨み付けられたり腕や手をつねられたりしている。 また、男性も幾らかの男性から視線を受けている……いや、睨まれている。相手のいない男性が嫉妬しているという所だろうか。 だが、様々な意味で店の注目を一身に受けている当の二人は、そんな事を気にも留めず、のんびりと注文の品を待っていた。 「……で、話はなんだ?」 注文の品が来たと同時に、男は独り言の様に話を切り出した。 直前まで別の話をしていた女は、当然だが突然の男の言葉に目を白黒させる。 美しい灰色の瞳をしばたたかせるその様子は、女を知る者ならば目を疑う光景だろう。 だが、男はそんな珍しい物を見たという事実を気にもせず、更に言葉を重ねた。 「何か用があって呼び出したんだろう。何の用なんだ?」 若干の苛立ちを含んだその声色に、女はふっと微笑んでコーヒーを一口飲んだ。 『ゆっくりのんでいってね!』 「変更?」 「そう」 顔をしかめて聞き返す男に、女……八意永琳は、まだ熱いコーヒーをちびちびと飲みながら一言で答えた。 「どういう事だ」 「言葉通り。別の実験をして欲しいのよ」 お願いね、と付け足して、永琳は満面に笑みを浮かべる。 それを見た周りの者は、客も店員も男女も関係なく、自分が向けられている訳でもないのに顔を赤くした。 ただ一人反応しなかった男は、楽しそうに自分の顔を眺めている永琳に渋面を返しながらも、二つ返事で答える。 その後も様々に話しかけてくる永琳を適当にあしらいつつ、男はこれまでの事を思い出していた。 幻想郷一のひ弱な生物と噂される、ゆっくりの中身を別のものに入れ替える実験。 男が請け負った依頼はそれである。 永琳の依頼を受けて以来、男は毎日実験を繰り返した。 れいむに酒を入れた。まりさにペースト状の唐辛子を入れた。ちぇんに廃油を入れた。みょんには生ごみを入れた。 あらゆるゆっくりの中身を、時には食物、時には金属と入れ替え続けた。 半分以上は即死し、更に半分は精神崩壊し、残りはその後何らかの障害を負った。 実験材料となった全てのゆっくりが、今もなおゆっくりできない状況にある。 男は、それがたまらなく楽しかったし、このまま一生続けても良いと思うほどに生きがいすら感じていた。 それが、急に呼び出されたと思ったら別の実験をしろとのお達しである。腹が立つのも当たり前だ。 ――せめてここの払いは割り勘にしてやろう。 そう考えて、男はニヤリと笑った。 「……話、聞いてる?」 ふと気づくと、目の前には白い目で睨む雇用主がいた。 ぼうっとしていたと正直に答えて、男は正面から永琳を見つめる。 「で、具体的な内容は?」 男が別の実験をする様に永琳から依頼を受けて数日後。 彼の目の前には、ゆっくりの中で最もポピュラーなれいむ種・まりさ種が合わせて5匹いた。 どうやら、家族でゆっくりしていた所を捕らえられたらしく、皆上向きに鎖に縛られて居心地悪そうに震えている。 男は、そんな不運なゆっくり家族を、感情のない目でただ見つめていた。 「ゆ……ゆっくりしていってね!」 無言のまま自分達の方を眺めている男にしびれを切らしたのか、中くらいのゆっくりまりさが声をかけた。 だが、男は何か言うどころか、その場に立ち尽くしたまま身動きもしない。 「おにいさん! これじゃゆっくりできないよ! ゆっくりおうちかえしてね!」 子まりさは、沈黙をただ聞こえてないだけだと思っているらしく、縛られている鎖をじゃらじゃらと鳴らして訴える。 同時に、他の家族も口々に帰りたいと騒ぎ始めた。 だが、男はそれら全てを聞こえてないかの様に無視して、別の部屋へと移動する。 「ゆっ、どこいくの……まって! まっでよぉぉぉ! おうぢがえじでぇぇぇ!!!」 ゆっくり家族の嘆きを背に、男は実験の準備を始める。 「おにいさん! まりさたちすごくゆっくりしてるんだよ! だからおうちに……」 帰らせて、と言いかけて、子まりさは言葉を失った。家族も騒いでいたが、子まりさと同じ様に呆然としている。 当然の事だ。戻ってきた男は、明らかに異常な物を持っているのだから。 何かの容器に入った、灰褐色の液体。 ゴミを数日放置したらこうなるだろうと思われる異様な臭いを、辺りに撒き散らしている。 あまりの悪臭に小さいゆっくり達はけほけほと咳き込み、親ゆっくりと思われる大きめの二匹すら顔色を青くした。 小さいゆっくりの中には、あまりの事に耐えられず、アンコを吐こうとしているものもいるが、上向きのため吐き出せないでいる。 「おにいさん……なに、それ……」 饅頭としては食べたくないと思わせる顔色のまま、震える声で問いかける親れいむ。 男はそれを無視し、無言のまま液体を親れいむの口に流し込んだ。 「やべっでっえぇぇぇぎゃっぴぃぃぃ!!! ……ぴゃっ、びきぃ、ぴぇぇぇぇ……」 液体を口に流し込まれる度、親れいむは珍妙な声をあげた。 痛い。苦い。すっぱい。気持ち悪い。 すぐにこんな物は吐き出したかったが、上向きに縛り付けられているため吐き出したくても吐き出せない。 やめて欲しい。いっそ殺して欲しい。ゆっくりしたい。楽になりたい。おうちにかえりたい。 意識にノイズがかかった様な世界の中、親れいむはただ流し込まれる何かに耐え続けた。 「ごぶぼぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!! げぶっ、ごぶっ……」 親れいむの口に液体を流し込んでいた男が、不意に手を止めた。 容器の液体は、もう半分程度しか残っていない。逆に言うと、親れいむはゆっくりと時間をかけて容器半分に値する毒液を流し込まれた事になる。 その間、子供達どころか、つがいと思われる大きめのゆっくりまりささえ、あまりの恐怖に涙を流して眺めているだけだった。 もし、親れいむが何か言える状態なら、液体を流し込まれている間の苦しみを家族に訴えていただろう。 だが、今は寒天の目がぐるんと裏返っている。自己防衛なのか、親れいむはとっくの昔に意識を失っていたのだ。 「げぼっ……げぼっ、がぶばぁぁぁ……げぼっ……」 既に気絶しているはずの親れいむの口の中から、壊れた水道管の様にごぼごぼとにごった音が聞こえてきた。 体が、吐き出さなくてはならないと判断しているのだろう。 音と同時に、灰褐色のしぶきが辺りに飛び散っていく。黒いものが混じっているのは、アンコも一緒に吐き出しているからだろうか。 いずれにせよ、この親れいむはもう長くないだろう。 男がそう考えながら親れいむを見ると、顔全体ににきびの様な何かが浮き出ていた。 「れいむ……れいむぅぅぅ!!! じなないでぇぇぇ!!! じんだらゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」 やっと気を取り直したのか、つがいのまりさはがしゃがしゃと鎖を鳴らし始めた。 寒天の目には涙があふれ、鎖に接している皮は動く度にぼろぼろになっていく。 それでも、まりさはどうにかしてここから抜け出そうと、必死にもがき続けた。それもこれも、全てはれいむのためである。 あんな毒液を飲まされたのだ。このままでは、もう二度とれいむと一緒にゆっくりする事はできないだろう。 だからこそ、少しでもれいむのそばに行ってやりたかった。ほほをすり寄せて、一緒にゆっくりしたかった。 「おにーざん、ゆっぐりだずげでぇぇぇ! れいむといっじょにゆっぐりざぜでぇぇぇ!!!」 もはやれいむと一緒にゆっくりする事しか頭にない親まりさは、こんな状況に追い込んだ男に声をかけた。 「おでがいでずぅぅぅ! なんでもやるがら、まりざをはなじでぇぇぇ!!!」 がしゃがしゃと鎖を鳴らしながら、親まりさは男に向かって悲痛な声をあげた。 自分を解放できるのは男だけだと判断して声をかけたのは、間違ってはいない。男なら鎖を外す事は簡単に出来るからだ。 だが、まだ容器に半分の毒液がある事を、まりさは忘れていた。 「なんでもすると言ったな」 呟いた男の手にある毒液が、微かに波立った。 「ゆっぐりやべでね! ゆっぐりやべでね! ……いやぁぁぁぁぁ!!!」 縛られている鎖をがしゃがしゃと鳴らすまりさ。その目には、涙があふれている。 あれから、親まりさに残り半分、子供達には同じ液体を一割ずつ流し込み、残りは中くらいの子まりさだけになっていた。 「やべでぇぇぇ!!! ゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」 子まりさは悲鳴を上げつつ、少しでも液体を飲まない様に暴れ続ける。 液体が顔にかかっておぞましい感触が伝わってくるが、それでも飲むよりはましだ。子まりさは、そう考えていた。 先ほど毒液を飲まされた親れいむも親まりさも子ゆっくり達も、まだ意識を回復せず、皆白目をむいて小刻みに震えている。 顔全体ににきびの様なものが浮き出ている有様は、最初からゆっくりはこういう物体だったと錯覚してしまうほどに不気味なものだった。 そんな家族の末路をゆっくりと見ていた子まりさは、これは絶対に飲んではいけないものだと分かっていた。 だから、流し込まれないため、生きるために、今は必死に避け続けているのである。 「ゆっぐりざぜでぇぇぇ! おでがいだがらやべでよぉぉぉ!!!」 泣き叫びつつも、子まりさの目は冷静に容器を見つめていた。 六割程度あった毒液が、もう三割程度まで減っている。 このまま避け続けていれば毒はなくなる。後で体を洗わなければならないだろうが、飲んで家族の様になるよりはずっとマシだ。 更にこぼれていく毒液を見て、内心ほくそ笑む子まりさ。 だが、そこで安心してしまったのか、僅かに反応が遅れた。 その隙を見逃す男ではない。 素早く子まりさの左右に余った鎖を詰め込み、上向きのまま全く動けなくさせてしまった。 「ゆっ! ……ゆっぐりじでいっでねぇぇぇ!!!」 混乱しているのか、なぜかいつもの鳴き声を上げる子まりさの口に、毒液が流し込まれた。 「やべべべべぇぇぇ!!! げげぼぼぼぼぉぉぉ!!!」 灰褐色のよだれをたらしながら、おぞましい感触に身を震わせる子まりさ。 なぜ自分達がこんな目に遭うのか。そんな無意味な事を考えながら、子まりさは意識を失った。 ●ケース5 生ゴミ 親ゆっくりれいむ 1 親ゆっくりまりさ 1 子ゆっくりまりさ 1 小ゆっくりれいむ 1 小ゆっくりまりさ 1 合計 5 数日放置して醗酵させた生ゴミから漏れ出した汁を摂取させる。 摂取直後、全体にアレルギー反応と思われる湿疹が浮き出る。 親ゆっくり・子ゆっくりは摂取後3日で死亡。小ゆっくりは4時間後に死亡。 なお―― 報告書を書いている最中、ふと何かを思い出した様に顔を上げる男。 その表情には、若干の不快感がにじみ出ている。 彼は、数日前の出来事を思い出していたのだ。 「で、具体的な内容は?」 「簡単な事よ。生ごみでも油でも硫酸でも、これまでアンコを取り去って詰め替えていた物を、今度は食べさせるの」 さらりと恐ろしい事を言う永琳に、男は首を傾げた。 ゆっくりが哀れに思った訳ではない。単純に理解できなかっただけである。 「食べさせる……とは?」 「ゆっくりのエサを、詰め替えていた物に変えて欲しいって事よ。基本的にはそれだけ」 分かった、と頷いた男を見て、永琳は物分りが良くて助かると微笑んだ。 「液体・固体の区別なく食わせるが、それは良いのか?」 「良いわよ。その辺りは任せるわ」 笑顔を崩さずに軽く答える永琳に、ああ、などと気の抜けた返事をしつつ、男はこれからの事について思いをめぐらせていた。 生きがいとも思っていた詰め替えはもう出来ないが、今度は食べさせる事が出来る。 要は、口から入れるか、体に直接入れるかの違いなのだ。 やる事はほとんど変わらない。ならば、楽しんだ方が良い。 問題は、どう楽しむかだ。 考えはじめた男に、よろしくと言い残し、伝票を渡して去っていく永琳。 「あれを使って……いや、いきなり殺すのはよろしくないな。時間はあるんだから、もっと……」 ぶつぶつと呟く男が残された伝票に気づいたのは、永琳が去ってから一時間後の事だった。 しばらくぼうっとしていた男は、ふと顔を下に向けた。 そのまま、硬筆のカリカリという音だけが響いた。 なお――この報告書を受け取った日は、そちらにおごって頂くのでそのつもりで。 ニヤリと凶悪な笑顔を見せる男。 食い物の恨みは、恐ろしいのだ。 37スレ670台の薬関連の話題を見て思いついたのでつらつらと。 ところでこの男、虐待お兄さんなんでしょうかね? by319 このSSに感想を付ける
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【注意】 * 俺設定多数含みます。 * 虐待成分薄め * ネタかぶりはご容赦を。 「お邪魔するよ、室長」 「どうした、鬼意」 室長と呼ばれた私は、とある加工所で研究室長をしている。 日々、ゆっくりについて研究をする研究室の管理職で、私自身が研究をすることは無い。 その私の居室の扉を開けて入ってきたのは、研究員の鬼意だ。 立場は上司と部下になっているが、この加工所では同期だ。 たまたま私が管理職に、鬼意が研究職に向いていた結果に過ぎない。 「ちょっと、抱えてるレポートの内容で相談があってね」 「…今度は何をやったんだ?」 趣味の虐待が高じて研究の道に踏み込んだ鬼意は、時折変なテンションのスイッチが入ってしまい、与えられたテーマから研究内容が逸脱することがある。 もちろん、それを無かったことにして、正しい方向に軌道修正するくらいの常識を、鬼意は持ち合わせている。 が、まれに、闇に葬るのが惜しい成果が出ることがある。 そういう時、鬼意はこうやって私の部屋にやってくるのだ。 今度はどんな面白い結果が出たんだ? これまでの経験から、どうしても期待が湧き上がってしまう。 厳しい口調とは裏腹に、私の目は笑っていた。 「ゆっくり繁殖していってね!」 「今抱えてるテーマは『ゆっくりの効率的な繁殖方法について』なんだがね」 「ああ、れいぱーをけしかけても、母体と同種のゆっくりを回収したいっていうあれか」 ゆっくりの繁殖には、主に植物型と動物型の2種類があるが、これらに共通した、大量生産にかかるある問題がある。 生まれてくる子ゆっくりの種類を選べないことだ。 例えば、れいむ種とまりさ種を番にして繁殖させれば、子は当然、れいむ種かまりさ種が生まれてくる。 だが、その比率は調整することが出来ない。 統計的に見ればおおむね半々なのだが、時に緊急生産として、特定の種だけを繁殖させたい場合がある。 現在は、増やしたい種に特殊な調教を施してれいぱー化させ、必要に応じて同種の母体にけしかけるという方法をとっている。 れいぱー化調教とは、長期間発情状態を維持させつつすっきりさせないというもので、完全なれいぱーになるにはおよそ2ヶ月はかかる。 そうしてれいぱーになったゆっくりは、その後1ヶ月ほどで衰弱して死んでしまう。 れいぱーになる前も、なった後も、自由にすっきり出来ることなく欲求だけが高ぶっていくストレスが原因だ。 緊急生産は念に2,3回程度しかない。そのために、手間のかかる人工れいぱーを常時50匹ほど用意している。 何故50匹も? 加工所で扱うれいむ・まりさ・ありす・ぱちゅりー・ちぇんの5種すべてについて、10匹ずつ用意しているからだ。 何故5種も? 問題はそこだ。 れいぱーに襲われて出来た子は、れいぱーと同じ種になることが非常に多い。 10匹以上も生った子全てがれいぱーと同じ種ということも珍しくは無い。 今のやり方では、生産したい種のれいぱーが必要なのだ。 「それについては、仕組みだけは大体わかったよ」 手にした紙束を丸めて肩を叩きつつ、鬼意が言う。 資料を広げるそぶりを見せないところを見ると、ここはそれほど面白い部分ではないようだ。 「結局のところ、ゆっくり同士のやる気の問題さ」 「簡単にまとめすぎだ」 鬼意は肩をすくめて見せると、癖のついた資料の中から数枚を取り出した。 それは、ありす種との交尾直後に解体されたれいむ種の記録だった。 植物型と動物型と、交尾の終了からの経過時間を1秒おきに。割られたれいむ種の写真は100枚を超えていた。 どちらの繁殖型にも共通しているのは、時間の経過に沿って体内のカスタード部分が増加していることだ。 植物型の場合は、カスタード部分が母体の皮に沿って額に移動し、そこから押し出されて茎となり、子を生らせた。 動物型の場合は、母体の皮が体内に伸びてカスタード部分を包み、その後に一部を残して二重になるように剥離して、子宮に相当する部分と子を形成した。 子の中身は最初こし餡とカスタードが混じってマーブル模様になっていたが、徐々にどちらか一方だけに変わっていった。 なるほど、ゆっくりの繁殖について研究したものは過去にもいたが、ここまで実証的に、徹底して解体記録したものは無かった。 無かっただけに、何故今まで誰もやらなかったのかが不思議に思える。 ゆっくりの不思議能力のひとつに、食べたものを餡子にしてしまう、餡子変換能力というものがある。 曰く、ゆっくりの生殖とは、生殖相手の体内に自身と同じ種の餡を生成することらしい。 生殖行為で生殖子が体内に侵入することにより、例えばありす種の生殖子がれいむ種の餡に触れれば、こし餡をカスタードに変換してしまうという。 鬼意のレポートによれば、この変換された餡を母体が異物として認識することで、にんっしんのプロセスが始まるという。 ゆっくりの体内に異物を埋め込むと、餡子に変換されることが知られている。 他の個体の生殖子が侵入した場合、相互に変換しあうことで餡が交じり合う。 これを仮に混合餡と呼ぶ。 植物型の場合は母体の皮を材料にして額に茎を形成し、そこに混合餡を追いやる。 動物型の場合は母体の皮で混合餡を丸ごと体内で包んでしまう。 隔離された先で双方の餡の変換合戦が行われ、いずれかの餡が他方をすべて変換しつくすと、それが子の中枢餡となる。 勝利した餡と同種のゆっくりが生まれるという寸法だ。 どちらが勝るかは、親となる個体の状態次第。 健康状態のいい方の、子供を望む気持ちの強い方の餡が活発になる傾向にあり、その分優勢になるという。 「母体の健康状態を良くして、子供がほしいと思わせればいいということになるのか」 「そう。つまり、事実上無理ということだよ」 鬼意の言うとおりだ。いかにゆっくりといえども、自分がレイプされている最中に、子供がほしいと思えるものではないだろう。 対してれいぱーは生殖行為にすさまじいまでの情熱を注いでいる。 変換合戦でどちらが優位に立つかは自明と言うものだろう。 「かつて本物のほうの魔理沙が、幻覚剤を使ってゆっくりに無性生殖をさせたことがあるらしい。今はそっちの方向からやり直しているよ」 そう言って、鬼意は来客用のソファに、疲れたようにもたれかかる。 他人の真似をするということが気に入らないようだ。 「それで、相談はどうした?」 繁殖に関するレポートはなかなか興味深かった。 誰もがおよそそうだろうとは思っていても、誰も調べなかったことだからだ。 だが、鬼意はレポート内容の相談があると言った。 つまり、一通りの体裁を整えたこのレポートに書かれていない、別の面白いことがあるということだ。 「ああ。繁殖の研究をしていたら、前から気になっていたことを思い出してね」 そういって鬼意はベータのビデオテープを取り出し、横手にあるビデオデッキに入れて再生ボタンを押した。 これらは外界から流れ着いたものを、河童の技術で修復したものだ。 録画再生機械はそこそこの数があるものの、テープは消耗品の上、流れ着く数が少ない。 何度も重ね録りされたテープの画像は、正直汚い。 だが、それだけ貴重なものを使って記録された研究に、私の胸は高鳴った。 画面には植物型にんっしんをしたれいむ種が映されていた。 そのれいむ種は、顔にあたる部分がすべて潰されており、さながらのっぺらぼうとなっていた。 動けないように、足は焼かれているようだ。 画面内にほかにめぼしいものは無い。 薄汚れた壁は鬼意の研究室なのだろう。 中に誰も入れたがらないのだから、掃除くらい自分でしろと何度言えば。 というか、明らかにゆっくりを投げつけて潰した跡は何なんだ。 そうこうしているうちに、生っていた赤ゆっくりたちがプルプルと震えだす。 出産が始まったのだ。 徐々に赤ゆっくりの動きが大きくなり、やがて1匹が茎から落ちる。 ぺたり、と床の上に潰れた赤ゆっくりは、ゆっくりと体を起こすと母親に向き直ると、満面の笑顔で口を開いた。 『ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!』 生まれて初めての挨拶を母親にする。 だが、いくら待っても期待した返事が母親から返ってくることは無い。 『ゆ? おきゃーしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!』 当然だろう、母親には口どころか顔さえない、返事が出来るはずも無い。 それでも我が子に何か伝えたいのだろう、動けない体を必死に揺すっている。 『ゆーん! おきゃーしゃん! ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!』 『ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!! ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!』 『ゆえーん! ゆえーん!!』 次々と赤ゆっくりが生まれては挨拶をするが、誰も母親からの返事をもらえない。 終いには赤ゆっくりたちは母親に体を擦り付けて泣き始めた。 『やあみんな! ゆっくりしていってね!』 そこに鬼意の声が入る。 やけに生き生きしているが、そこはスルーすべきだろう。 『ゆ? おじしゃんだれ?』 『れいみゅたちはおかーしゃんとゆっくちしゅりゅんだよ!』 『じゃまだかりゃあっちいっちぇにぇ!』 画面に映らない鬼意はカメラを構えているのだろう。 鬼意の声に反応した赤ゆっくりたちは、こちらを向いている。 『そんなこと言わないでよみんな! おじさんと一緒に加工所でゆっくりしていってね!』 『『『ゆ゛!?』』』 鬼意の台詞に赤ゆっくりが硬直する。 『あれー? どうしたのかなみんな! ここは加工所だよ! 好きなだけゆっくりしていってね!』 『…ゆ…ゆわ……』 『ゆわーーーん! かこうじょいやああああああああ!!!』 『かこうじょはゆっくちれきにゃいいいいいいい!!!』 そこで画面は止まった。 見れば鬼意が一時停止をしたらしい。 「ま、野生の子供はこんな感じだね」 「あいつら、どこで加工所なんて覚えてくるんだろうな」 生まれたての赤ゆっくりでさえ、加工所と言えば泣き叫ぶ。 ゆっくり発生当初、ゆっくり達は換金目当ての人間達に乱獲され、加工所に売られていた。 その頃のトラウマが本能に根ざしてしまった、ということなのだろうか。 鬼意がビデオデッキを操作している。 画面に映る映像は目まぐるしく変化していき、ある場面で唐突に止まる。 映っているのは、先ほどと同じ、顔を潰され植物型にんっしんをしたれいむ種だ。 だが、最初のれいむ種とは別の個体らしい。 「これは、さっきの場面で生まれた子供の1匹でね」 言いながら、鬼意はビデオの一時停止を解く。 「加工所はゆっくり出来ると思うように散々甘やかせて育てたんだ。 近年の加工所ゆっくりで、これほどゆっくり出来たやつはいないんじゃないかと思うほどにね」 「随分な手間をかけるんだな」 「それに見合った結果は出たよ」 鬼意に促されて画面を見ると、ちょうど1匹が生まれたところだった。 『ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!! …ゆぅ、おきゃーしゃん?』 『やあ、ゆっくりしていってね!』 『ゆ! おじしゃんだりぇ?』 『おじさんは加工所の人だよ! 君も加工所でゆっくりしていってね!』 赤ゆっくりの反応は、また泣き叫ぶのだろうなと思いこんでいた私には、予想外だった。 『ゆわーい! かこうじょはゆっくちれきりゅよ!!』 なんと、加工所と聞いて喜び始めたのだ。 『ゆっくちー! かこうじょかこうじょ!!』 『とってもゆっくちしちぇりゅよ!!』 次々に生まれる赤ゆっくり達も喜ぶばかりだ。 親が生まれたときのように泣き叫ぶものは、1匹もいない。 「ちなみに、この赤ゆっくりに『加工所は恐ろしい場所だ』と教え込んで同じことをすると、生まれた子供は加工所と聞くと泣き喚いたよ」 「つまり、親の知識が子に継承されると?」 鬼意は私の回答に、満足したようにうなづいた。 「記憶の継承には諸説ある。 継承を肯定する論文もあるが、大半は継承が行われなかった実例をもって反駁されている。 反駁の根拠は、ゆっくりは誕生のある程度前には知性が発現し、外部刺激によって教育が可能だという事実だね」 画面を一時停止させ、鬼意は映っている母体を指差す。 「親による教育の可能性を排除するため、母体からは口を取り除いた。 生まれる前の赤ゆっくりに傷をつけないよう、母体の足は焼いてある。 加工所に対する認識に影響を与えないよう、目を取り除いた。 同じ理由で、これらの処置は母体が睡眠薬で眠っている間に実施している」 興が乗ってきたのか、鬼意は立ち上がり、身振りを交えて話し始めている。 「ゆっくりさせた次代には恐怖、恐怖させた時代にはゆっくりと。 世代毎に逆のことを繰り返しても、子は正確に親の知識を基準にして判断している。 間違いないんだ、子は親の記憶を継承する。 問題は!」 ビッ!と音が立つような勢いで、鬼意は右手の人差し指を私の鼻先に突きつけた。 人を指差すとは失礼なヤツだ、お返しにその指先で鼻の脂を擦り付けてやったら、鬼意はしかめ面をして手を引っ込めた。 「問題は、それがどのような仕組みで為されているかだ」 ビデオテープが入れ替えられ、画面にはありす種が映っている。 『どがいばっ!!』 再生されるや否や、あっという間にありす種は縦に真っ二つにされた。 びくびくと痙攣する2つの塊の一方の断面が上に向けられ、そこに褐色の液体がかけられていく。 すると、カスタードの断面が青く変色していく。 色の濃い部分は頭頂部に集中し、足に向かうにつれ色は薄まっている。 「今かけたのはヨードチンキでね、デンプンに触れると青く変色するんだ」 「ヨードチンキって、擦り傷に塗るアレのことか?」 「そうさ。きっかけは外界から流れてきた本でね、外界の寺子屋で使われている教本らしい」 「寺子屋? 外界の子供はこんな高度なことを勉強しているのか?」 「なんとも恐ろしいところだよ、外界は。読み書きそろばんだけでは生きていけないらしいよ。ともあれ」 鬼意から資料を何枚か手渡される。 そこには、今画面で見たばかりのものと同じ有様のありす種の写真がたくさん並んでいる。 それぞれの写真の横には数字が添えてあるが、どうやら数字が大きいほど青色が濃くなっているようだ。 「横の数字は、それぞれの個体の記憶力テストの成績だよ。見てのとおり、出来が良いほどデンプンの反応が強い」 「頭が良い個体ほどデンプンを多く含むと?」 「その発想は逆だよ」 鬼意はソファに深々と座り直し、顔の前で指先をいじりながら、勿体つけるようにこちらを見た。 「学習したからデンプンが出来た、とは考えられないかい?」 そこから続いた鬼意の説明はこうだ。 ゆっくりの皮の成分を調べる研究で廃棄された個体を、たまたま見つけた。 皮に大きな青い染みを作って泣きじゃくるありす種を二つに割ってみたのも、ただの思い付きだった。 そこで目にしたのは、変色した皮の内側で、同様にわずかに変色したカスタードだった。 外界から流れ着いた教本で、青い染みに心当たりのあった鬼意は、ありす種を廃棄した研究者に確認を取り、ますます興味を深めた。 当初は餡の成分を調べているはずだった。 一体どこからデンプンのような不純物が紛れ込んできたのかと。 このときは、基礎データの収集のつもりで数多く実験をこなすことに重点を置いていたため、その結果の分析までは手が回っていなかった。 そして今回、効率的な繁殖方法について研究することとなり、れいむ種とありす種を大量に掛け合わせた。 中にはありす種が母体となるケースもあったが、最終的にはれいむ種が母体となるケースが大半を占めた。 同条件の大量の比較が必要な今回の実験では、少数のケースは最初から除外される。 今回の研究では不要になった真っ二つのありす種だが、自身の研究には役立つかもしれないと、ヨードチンキをかけてみた。 何かの役に立てば、その程度の軽い気持ちだったが、データの量が増えてきたときに、あることに気付いた。 ひとつは、種が確定する前の赤ゆっくりには、デンプンの反応がまったくないこと。 ひとつは、種が確定した赤ゆっくりは、時間の経過とともにデンプン反応が強くなること。 ひとつは、親よりも強いデンプン反応を示す赤ゆっくりはいないこと。 これらの意味を調べるために過去のデータを分析した鬼意は、ある仮説を立てた。 ゆっくりはデンプンを、あるいはデンプンを含む多糖類を記憶に用いているのではないか、と。 「また随分と面白い話だな」 額面通りの意味と、突拍子のなさを揶揄する意図を込めて私は言った。 デンプンとは、つまりは片栗粉だ。 その程度のものが記憶を司るなどと、どうして考えられる? 「試薬の関係でデンプンでしか検証を行えなかったが、他の多糖類も記憶に関連している可能性はある。 そうなれば、組み合わせで複雑な記憶を形成することも不可能ではない。 それと、この仮説に組み合わせるべき仮説がもうひとつあるんだ。これを見てくれ」 早送りされた画面には、ぱちゅりー種が映っている。 『むぎゅっ! ぱちぇのけんじゃなおつむになにするの!!』 いきなり脳天に突き立てられた大きな注射…いや、あれは浣腸器だな…それに不平を言うぱちゅりーだが、そんなことはお構い無しに生クリームを吸い上げる。 『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ぱちぇのなかみをすわないでえええええええええ!!!』 元が大きな個体である上に、吸われた生クリームは大さじ2~3倍程度だから、傷は大したものではない。 それからぱちゅりーは、 『むきゅっ! ぱちぇは! ひとあじ! ちがう! けんじゃ! だから! うんどう! だって! できる! のよ!』 研究室内に作られた坂路を上り下りする運動をしばらくさせられ、 『い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! すわないでえええええええええ!!』 中身を吸われ、 『ゆべっ! ゆびっ!! や、やべでっ!! ゆぶぇっ!! ゆびゅううう!!!』 ハエ叩きで何度も弄られ、 『む゛ぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?』 中身を吸われた。 「左から順に、ゆっくりさせた後に採取したもの、運動後に採取したもの、虐待後に採取したものだよ」 そういって鬼意はテーブルに3つの器を並べた。 画面のぱちゅりー種から吸い出したのだろう生クリームには、ヨードチンキとはまた別な試薬がかけられている。 鬼意の言うとおりの順に、赤色が濃くなっていく。 左と真ん中の差はわずかだが、右の赤みは際立っている。 「赤みが強いほど、ブドウ糖が多く含まれるということさ」 「つまり?」 「つまり、単糖類もしくは二糖類が、神経伝達物質として働いているのではないか?ということだよ。 やはりこれも試薬の関係でブドウ糖でしか検証できていないがね」 鬼意はソファから立ち上がると、その場をうろうろと歩きながら話し始めた。 「ゆっくりは長く生きた個体ほど、餡がパサパサしてまずくなる。 これは、多くの記憶を蓄積した結果、餡に含まれる多糖類が過剰になり、味に影響したと考えられる。 ゆっくりは通常、記憶力に乏しい。 これは、神経伝達物質に用いるため、体内の多糖類が単糖類あるいは二糖類に分解されてしまうからだ。 ゆっくりは苦痛を味わうと、甘みを増す。 これは、生命の危機にあたり生存本能が刺激され、体内活動が活発になるに当たり、単糖類あるいは二糖類が大量に生産されるからだ。 ゆっくりに学習をさせるには虐待を加えることが最も効率が良い。 これは、苦痛により多糖類が分解されるに際し、生存に必要な記憶を優先して残すため、他を忘れてしまうからだ。」 仮説を元に推論を進める鬼意の話は、なるほど、筋が通っているように聞こえる。 だが、今日最初の話題の記憶とあいまって、私はふと思いついたことを口にした。 「それでは、母体の記憶が子に引き継がれる仕組みは?」 単に多糖類を摂取して記憶を引き継いでいるというのなら、何故共食いをした個体は記憶の混濁を起こさないのか? 自分で思い浮かべた疑問にもかかわらず、この時点で私は鬼意の回答に予想がついていた。 鬼意ならば、それを実験しないはずが無い。 「重要なのは消化というプロセスだよ」 ああ、やはり。 「ゆっくりにとって口というのは実に重要な器官だ。 手足の無い彼らにとって、移動以外に起こせる行動の大部分が口に依存する。 そして、食事という行為。 これはゆっくりの餡子変換能力を活性化する意味がある。 口を通して体内に入ったものは、ゆっくりが食物と認識した時点で餡子変換能力にさらされる。 すなわち、記憶を含んだ多糖類さえも餡子にされてしまうのだよ」 再び鬼意がビデオテープを入れ替える。 『やべでええええええ!! ゆるじでえええええええ!! いやあああああああああ!!!』 映ったのは虐待されるありす種である。 『あでぃずのどがいばなおかざりがあああああああ!!!』 カチューシャをへし折られ、 『ああああああああ!! がみざんぬがないでえええええええええ!!!』 髪を引きちぎられ、 『い゛ぢゃっ!! い゛ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ざざな゛い゛でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!』 次々と竹串を突き刺されていく。 『お次はどこに刺そうかなっ♪ ここかなっ? こっちかなっ?』 『い゛っ! い゛だい゛っ! や゛べでっ!! や゛べえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!』 『嫌がって見せるなんて、ありすはツンデレだね!』 『い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』 それにしてもこの鬼意、ノリノリである。 『ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ…』 もはや痙攣するタワシにしか見えなくなった頃、画面の中の鬼意はありすを二つに割り、中のカスタードを掻き出した。 一瞬画面が乱れたあと場面が切り替わり、画面の中央にはまりさ種が映っている。 期待に目を輝かせたまりさ種の前に鬼意の手が伸び、カスタードが山と盛られた皿が置かれた。 『おじさん! これ、ほんとうにたべていいのぜ?』 『ああ、遠慮しないで好きなだけ食べるといい』 『ゆゆっ! ありがたくいただくのぜ! うっめ! これめっちゃうっめ!! がーつがーつ!!』 返事をするや否や、まりさは顔をカスタードに埋めて貪っている。 『なあ、まりさ。ちょっといいか?』 瞬く間にカスタードを切り崩し、半分ほどに減ったところで鬼意の声がまりさの食事をとめた。 『なんなんだぜおじさん! しょくじのじゃまなんだぜ!!』 『あまあまはおいしいか?』 『あまあまさん! すっごくうまいんだぜ!!』 『何か変なところは無いか?』 『ゆ? あまあまさんはあまあまさんなんだぜ! へんなわけないんだぜ!!』 『というように、経口摂取した場合はただのカスタードであり、被検体には何の影響も無い』 突然、鬼意の声がゆっくりから、視聴者であるこちらに向けられる。 『?? おじさんがわけのわからないことをいってるんだぜ! ばかなんだぜ!!』 『ご想像のとおり、このカスタードは、先刻虐待を施したありす種の内容物だ。 私の仮説どおりならば、これには苦痛を伝える単糖類もしくは二糖類と、苦痛の記憶を蓄えた多糖類が含まれている』 『おじさん! まりさはあまあまをたべたいんだぜ!! じゃまだからあっちにいくんだぜ!』 『それらが経口摂取の場合、本来の役割を為さず、ただの餡子に変換される。 では、こうしたらどうだろう?』 『ゆぎぎぎぎ… じじい! むししないではなしをきくんだじぇっ?!』 無造作に鬼意の左手がまりさに伸び、顔面を鷲づかみにして引き寄せる。 『ゆがああああ!! はなせじじい!! はなすんべぶぅっ!!』 そのまままりさを床に叩きつけると、顔が下になるように足で踏みつける。 『ふぁなふぇええええ!! ふふぉふぃふぃいいいいい!!!』 空いた手で取り出した大きな浣腸器を使い、皿の上のカスタードを残らず吸い上げると、 『ゆぴぃっ!?』 まりさ種の後頭部に突き刺し、 『ゆががががががががががが……』 そのままカスタードを全てまりさの中に注ぎ込む。 浣腸器が空になったところでまりさは解放される。 が、まりさはうつぶせのまま震えており、起き上がる気配を見せない。 『……ゆ………ゆ…ゆ……』 変化の少ない画面を見つめていると、突然、 『ゆぎゃあああああああああああああああ!!!』 絶叫を上げてまりさが飛び起きった。 『ゆぎゃっ!! やべっ! やべでっ!!! ばりざをざざな゛い゛でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!』 あらん限りに血走った目を見開き、涙とよだれを撒き散らしながら、苦悶の表情ででたらめに跳ね回っている。 『いぢゃっ!! いぢゃいっ!! やぢゃっ!!! ざざないで!!! もうざざないでっ!! いぢゃああああああああ!!!』 念のために言うが、まりさについた外傷は、浣腸器を刺された穴以外にない。 それでもまりさは四方八方から突き飛ばされているかのように、身をよじって跳ね、転がり、のたうつのをやめない。 『今、まりさの中では虐待されたありすの記憶が再生されている。 いや、再生などと生易しいものではない。 まさに今、まりさの体は苦痛を体験しているはずだ』 『ゆひっ!! ゆひぃっ!! だぢゅげっ!! だぢゅぶっ!! ぶるぁあぁぁぁぁぁぁ!!!』 そのとき、まりさの体に変化が現れた。 鬼意はまったく手を出していない、なのにまりさの体に、ひとりでに無数の穴が開き始めた。 穴、穴、穴…まりさの体を隙間無く埋め尽くした穴は、それぞれは小さなものだ。 そう、ちょうど竹串を刺したら開く程度の。 『…ぼっ……ぼっど…ゆっぐり……じだがっ……』 全身から餡をにじませ、まりさが力尽きた。 ゆっくりは本来、中枢餡を破壊されるか大量に餡を失うかしないと死なない。 このまりさは再現されるありすの記憶の、死の瞬間までを体験して精神が死んだのだろう。 見れば、顔面を縦に貫くようにうっすらと亀裂が走っている。 ありすが最期に真っ二つにされたのを、ここまで再現したのだ。 鬼意の手がまりさの死体に伸び、亀裂に沿って二つに割る。 断面を見る限り、カスタードが残っているようには見えない。 バットにまりさの餡を掻き出し、細かく見ていくが、やはり出てくるのはつぶ餡だけだ。 『ご覧のように、体内に注入されたカスタードは全てつぶ餡に変換された。 ゆっくりは体内に侵入した異物を、餡に変換する能力を持っているからだ。 だが、他の個体の体験と記憶を移植できたことから、糖類が餡に変換されなかったことは明らかだ。 推論は簡単だ。 糖類は通常ゆっくりの体内に存在するものであるから、外部から混入されても異物と認識されなかったのだ』 「ここで疑問がいくつかある」 画面の言葉を引き継ぐように、鬼意が同じ声を上げる。 画面から鬼意に向き直り先を待つ私に、鬼意は言葉の代わりに箱を取り出した。 「疑問があるなら実験すればいい。 これがその結果だよ」 「はじめまして、室長! ゆっくりしていってくださいね!」 箱の中から出てきたのはありす種だ。 お辞儀のつもりなのか、顔を軽く伏せながら、大きすぎない声で挨拶をし、その後は笑顔でこちらを見たまま、特に何かをする様子も見せない。 礼儀正しい言葉遣い、落ち着いた所作、金バッジの個体かと思い髪飾りを見るが、金どころかバッジ自体が見当たらない。 「それは先週拾ってきた野生の個体でね」 「なんだと!?」 鬼意の言葉にはさすがに驚いた。 野生にもごくまれに知能の高い個体がいるが、それは知能の話であって、躾がなっているかとは別の話である。 金バッジ級の躾ともなると、餡統の良い個体でも数週間から数ヶ月を要するのが普通であり、野生の個体では時間を掛けるだけ無駄であることのほうが圧倒的に多い。 それが、たかだか1週間とは、にわかには信じがたい。 だが、鬼意が言う以上は真実に違いない。 「こいつは餡に片栗粉を混ぜたヤツでね。 最初の1日は痙攣しているだけだったが、それが治まると知能が急上昇していたんだ」 「簡単に言うが、これはすごいぞ…」 「ゆゆっ♪ 都会派のありすには当然のことよ♪」 言うまでも無く、金バッジ取得は飼いゆっくりのとって最高の栄誉であり、最大の難関だ。 金に物を言わせて調教を施したところで素質の無い個体には到達できず、素質に恵まれた固体であっても厳しい調教を乗り切らなければ辿り着けない。 それが、その辺で拾ってきた個体に片栗粉を混ぜただけでたったの1週間とは、裏技にしても法外すぎる。 「でも、すごいだけで何の意味も無いよね」 「ゆべしっ!?」 言うなり鬼意は拳を振り下ろし、ありすを叩き潰した。 「…ど……どぼちて……」 「こんな方法が知れ渡ったら、金バッジの価値が大暴落だからな」 「餡統商法は出来なくなるし、加工所的には損をするだけだよ」 「ゆがーん……」 「そろそろ時間だから、もうひとつも見てくれ」 「時間?」 いぶかしむ私の前にもうひとつ箱が置かれる。 今度の箱は、先ほどの箱より倍くらい大きい。 中にいるのは四つ目のゆっくり…いや、2匹のゆっくりだ。 左側3分の1を切り落とされたまりさ種と、右側3分の1を切り落とされたれいむ種が、その断面でつなぎあわされている。 防音の箱だったのだろう、ふたを外すと一気に部屋が騒がしくなった。 「いやぢゃあああああああああ!!! じにだぐないいいいいいいいいいい!!!」 「だぢゅげで!! おでがいじばず!! でいぶをだぢゅげでくだざい!!!」 「でいぶはどうなっでもいいがらばりざをだずげでね!!!」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおおおおお!?」 軽く阿鼻叫喚だ。 「2匹の境目には仕切りが作ってあってね、今頃どんどん餡子に変換されていってるはずだよ。 それが無くなって2匹の餡子が混じるのが、もうすぐのはずなんだが」 淡々とした鬼意の声と、汁という汁を撒き散らして箱の壁にすがりつく2匹の温度差がすさまじい。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! ばでぃざをだずげろ゛ぐぞじじい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「い゛や゛っ!! い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! じぬ゛の゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「「ゆぎっ?!!」」 突然、2匹同時に声を上げて動きが止まる。 2匹ともひびが入るほどに歯を食いしばり、自身の体内から来る破滅の呼び声に身を震わせている。 そして、 「「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」 致命的な変化が始まった。 「ゆげろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 まりさの頭からは茎が束になり、すさまじい勢いで伸びていく。 ご自慢の帽子を幹に吹き飛ばされても、嘆く余裕はまりさには無い。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………」 くすんだ金髪の全てが化けたかのように、次から次へと隙間無く茎が生えていくが、どれひとつとして実は生っていない。 そして、増える茎とは反対に、まりさはどんどんと縮んでいく。 「……ぉ…………ぉ………………」 やがて茎の勢いが収まった頃には、そこにはまりさを思わせる痕跡は何も残されていなかった。 「ゆぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!」 方やれいむは、必死に口を閉じていた。 れいむのあごの下、腹にあたる部分が恐ろしい勢いで膨らんでいく。 その一方で、頭頂にあたる部分は逆にしぼんでいく。 パースが狂ったような形になっていくれいむの皮は、目でわかるほどに薄くなっていく。 透けるほどに薄くなった皮の下には、小さな黒い玉が無数に見え、なお数を増やしている。 「………………!!!」 そうしているうちに限界を迎えた皮は静かに破れ、黒い玉が箱の中にこぼれ広がった。 これだけの変化に、おそらく1分もかかっていない。 今この目の前の光景だけを見せられたら、ここに2匹のゆっくりがいたなどとは、にわかには信じられないだろう。 「どうだった?」 「どうというか……何だったんだ、これは?」 意識の混濁でも起こして、狂うか互いの区別がつかなくなるかだと思っていた私は、あまりに予想外の展開に言葉が無い。 そして、私の問いに答えた鬼意の言葉はなお予想外だった。 「生殖だよ、ゆっくりの」 「これがか!? ちょっとまて、ゆっくりの生殖は、精子餡を相手に突っ込んで起こるものじゃないのか? それともこいつらは精子餡だらけの絶倫饅頭だったとでも言うのか?」 「俺は精子餡なんて言葉を使って説明した覚えは無いが?」 唖然とする私に鬼意が続ける。 「通常の生殖では、体内の餡を生殖子として用いるんだ。 生殖子なんて言葉を使っているが、これは餡餡いってたら区別がつきにくくなるからで、実質はただのゆっくりの中身だ」 つまり、精子餡という概念から間違っていたと? 本当に、言葉が無い。 餡子変換能力は死んだ餡には無く、逆に生きた餡にはある。 だから、生きたままのゆっくりの中身同士が混ざれば、そこでは生殖反応が始まる。 通常ならば体内に送り込まれる他の個体の餡など、量は高が知れている。 だが、つなぎ合わされた2匹のゆっくりは、ひとつの体で2匹の餡が混ざったのと同じ状態になったのだろう。 結果、体内の全ての餡を生殖に使い尽くし、ご覧の有様となった。 2つの繁殖型が同時に起きたのは、2匹の中枢餡が別々の方法を選択したというだけのことだろう。 常識外のナマモノについての、常識を叩き壊されて呆然とする私の口元に、鬼意が何か差し出した。 見れば、まりさから生えた茎の一本だ。 「……食べられるのか、これ?」 「食べられないはずが無いだろう?」 味の良し悪しはあれど、ゆっくりの体で食べられない部分は無い。 だから、異常な生殖を行った結果の、この通常に比べて随分と太い茎も、食べられるはずだ。 とはいえ先の光景を簡単にはぬぐえず、恐る恐ると茎の端をかじる。 「…うまい」 「だろ?」 驚いたことに、実にうまい。 赤ゆっくりの最初の餌となる茎は、野生で生きるための味の基準となるべく、苦味も酸味もある。 有り体に言えば、人間には大してうまいものではない。 が、今食べたこれには、中に餡がぎっしり詰まっている。 餡の甘さに、それに合う苦味と酸味が組み合わされて、まるで果物のような味わいになっているのだ。 歯ごたえさえも、饅頭よりは果物のそれに近い。 「こっちも食べてみろ」 そう言って、今度はれいむの腹からあふれ出した黒い小玉を、片手にはこぼれそうなほど渡してきた。 一見すると餡子玉にしか見えないが、これがまた違う味わいになっている。 まずその触り心地なのだが、ふわふわと柔らかい。 押し返すような弾力が無いため、触っていることを忘れそうにすらなる。 それを口に含むと、はらりと解けていく。 表面を包む極薄の皮は、唾液に触れるとさっと無くなってしまう。 中からは赤ゆっくりに比べてもさらにゆるい、半ば液状の餡があふれてくる。 この餡の甘さ加減が上品で、甘さを感じたと思った次の瞬間には消え失せている。 「おお……」 舌触りも味も霞のように消えていく、初めて味わう感覚に、知らずにため息が漏れる。 もうひとつ、もうひとつと口に運んでいるうちに、鬼意から渡されたものはあっという間に食べつくしてしまった。 「これは…売れる」 「そう思うだろう?」 これほど売れると確信できる商品にめぐり合えることは数少ない。 それが今、2つも目の前にある。 しかも2つとも同じ生産方法とは願ったり叶ったりだ。 なのに、鬼意の顔はいまひとつ浮かない。 「何だ、問題でもあるのか?」 「レポートとしてどうまとめたものかと」 「そんなものはいい!!」 鬼意の両肩をがっしと掴む。 「さっきの資料とビデオと合体ゆっくりをもって営業部に行くぞ!」 「お、おい?」 「所長と社長も呼んだほうがいいな、この商材なら勝てる!」 「まてまてちょっとまて。さっきの結合ゆっくりなら作らないと無いぞ?」 「だったら今すぐ作れ! 5分で支度しろ!」 「ちょ、ま、5分っておい!?」 「見てろよ商品開発室め、いつもいつもうちの研究をナメた目で見やがって! 今日という今日は思い知らせてやる! ヒャア! プレゼンだー!!」 2ヵ月後、幻想郷では新商品のゆっくり菓子がブームを巻き起こしていた。 加工所直営の店舗には今日も長蛇の列が並び、運よく買えた者は袋を大事そうに抱え、笑顔で帰っていく。 甘味が幻想郷にもたらす幸せ、それは研究者達の日夜やまない情熱が支えているのである。 (完) ちょっと長かったかもしれませんね?
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注意 これは、美味しく食べていってね! の続編です。 単体で見るとあまり虐待にはなっていないので、虐待が良い方はまず前編をご覧になって下さい。 ――どうしてこんな事になったんだろう。 大好きなお友達のれいむと、れいむとの間に生まれた赤ちゃん。 「おとうさん」に育てられて、良い子になれたのに……ゆっくりできると思ったのに。 ――どうしてこんな事になったんだろう。 赤ちゃんは全員お汁粉にされてしまい、れいむは頭を切られてアンコを全て出されてしまった。 それをニヤニヤと笑いながら楽しそうにやったニンゲンは、れいむをどこかに連れて行った。 ――どうしてこんな事になったんだろう。 ニンゲンが戻ってきた。まりさに串を刺して、火に近づける。 物凄く熱い。やめて欲しいと思うが、こんな奴に許して欲しいとは言わない。言いたくない。 ゆっくりまりさは、意識のなくなる瞬間まで、全てを奪い取ったニンゲンをただ睨みつけていた。 何分も、何時間も、何日も、何ヶ月も、何年も経った気がする。 自分の体が少しずつ、じりじりと焼け焦げる苦しみ。 悲鳴は上げない。命乞いもしない。でも、あまりに熱いから少しだけ眠くなってしまった。 他の事はガマンできても、眠気だけはどうしようもない。 だから、ほんの少し目を閉じた。 ――あ、おとうさんだ。まりさのだいすきなおとうさんだ。 まぶたの裏に、大好きな「おとうさん」の姿が見えた気がした。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 いつも通りのゆっくりの鳴き声。 大抵の人はこの鳴き声を聞いただけで苛立ち、状況によってはいきなり叩き潰す。 ゆっくりは、勝手に人の家に入り込んだり食事を片っ端から食い漁る幻想郷一の嫌われ者である。 だが、ゆっくりの目の前に立つ男は、そんな苛立ちを微塵も感じさせない態度で2匹のゆっくり、れいむとまりさに対し、穏やかに語りかけた。 「違う違う、おじゃまします、ゆっくりさせてね、だよ。はいやり直し」 「「ゆゆぅ~……」」 腕など無いのに、頭を抱える様な仕草をする2匹を微笑ましく眺める男。 その後も「ゆっくりしててっててね!」とか「ゆっくりさせしさ……」等、舌を噛みつつも何度もやり直す2匹。 休憩を挟みつつ、驚異的な根気強さで何度もやり直させていた男は、もう疲れ果てたと言わんばかりに潰れ饅頭になる2匹を見て、軽く手を叩いた。 「今日はもう終わりにしておこうか。ゆっくり覚えていけば良いからね。今日はもうやめよう」 「おじさん! もういっかいだけやってみるよ!」 「ゆっくりちょうせんさせてね!」 飛び跳ねながら、まだ出来る、まだ頑張れると主張するゆっくり。 基本的にものぐさで自分勝手なゆっくりが自分から頑張ると言い出すという、異常とも思える光景を当然のものとして受け入れつつ、男は優しく諭した。 「これからゆっくり覚えていけば良いんだよ。2人とも頑張っているんだから、続きは明日にしようね」 2匹の頭をひとなでして、男は部屋から出て行った。 「ゆぅ~……むずかしいね」 「あしたはできるよ! ゆっくりがんばろうね!」 2匹は励ましあい、明日の成功を夢見て眠りに付いた。 最近、幻想郷に「ゆっくりブリーダー」を自称する変人達が現れた。 彼らは、ゆっくりに教育を行う事で害獣から益獣へと変え、彼らと共生していこうという考えの下、大量のゆっくり達を捕まえ、教育をしていった。 幻想郷の人間、妖怪の共通認識は、ゆっくりにまともな知能はないのだから不可能だというものである。 ――飢えに陥れば、自らの子供も仲間も、自分さえ食べてしまうゆっくりには教育などできっこない。 「ゆっくりブリーダー」達は、そんな冷ややかな目の中で活発に活動をしていった。 かく言う私も、そんな変人たちの一人である。 ゆっくりに物を教えるには、想像を絶するほどの忍耐力と揺ぎ無い信念が必要になる。 「ここに入ってはダメ」とか「これは食べちゃダメ」といった、簡単なものですら数日で忘れてしまうからだ。 大抵の人は暴力など、命の危険に何度も晒せば覚えると考えている様だが、そういう方法で覚えさせても、1日暴力を怠った時点で忘れてしまう。 更に、少しでも優しくすれば付け上がるし、本能が全てに勝る。 人語を解するだけで、知能程度は赤子以下と言ってしまえるだろう。 だが、そんなゆっくりを躾ける方法はない訳ではない。一つ一つの事を、徹底的に教え込むのだ。 先ほど挙げた「ここに入ってはダメ」という言葉を例にあげてみよう。 一度や二度では絶対に聞かないし、覚えない。その為、根気良く、何度も、何時間もかけて教え込む。 そして、2日後に覚えているかどうかテストを行う。入ってはダメな場所のドアを開けておくのだ。 入った形跡があれば失格、形跡がなければ合格。撮影が出来ればなお良い。 合格したら、他のゆっくりが見ている前で思い切りほめる。言葉を選び、付け上がらない様に慎重、かつ徹底的にほめる。 失格しても怒鳴り付けない。すぐにふて腐れて、話を聞かなくなるからだ。 今度は他のゆっくりとは隔離して、言葉を選び、ふて腐れない様に慎重かつ徹底的に教え込む。 決して言葉を荒げず、何が悪かったのか、何をすれば良いのかを自分で考える方向に持って行く。 そして、また2日後に同じテストを行い、合格・失格で同じ対応を取る。 何度もそれを繰り返すと、自然と覚えていく。目安は2~3週間といったところか。 現在私は、ゆっくりにとってのアイデンティティとも言える「ゆっくりしていってね」を「おじゃまします、ゆっくりさせてもらうね」に変える教育をしている。 何百匹も失敗し、何十匹かは怪我や病気等で教育が不可能になりといった失敗を重ねた末の成果である。 ――今回だけは絶対に成功させたい。 揺ぎ無い信念の元、私はゆっくりれいむとまりさを教育する。 何日かが過ぎた。 「おじゃましまぶっぺ!」 「おじゃまじばず!」 「今日はもうやめておこうか」 何日かが過ぎた。 「「おじゃまします!」」 「凄いね! 良く出来ました。それで、続きはなんだったかな?」 「「ゆっくりしていってね!!!」」 「……おしい、やり直し」 何日かが過ぎた。 「「おじゃまします! ゆっくりしていくね!」」 「……はい、やり直し」 「お邪魔します」は問題なく言える様になったが「させてもらうね」がどうしても言えない。 ここに来て、完全に行き詰ってしまった。 ――やはり、ゆっくりには無理なのだろうか……そんなはずはない、出来るはずだ。だがこれでは…… 頭を抱えてしまった私を、不思議そうに見つめるれいむとまりさ。 「おじさんどうしたの?」 「れいむたちのいえで、ゆっくりしていく?」 何やら心配をさせている様だ。ここでゆっくりしていくか、などと言われるとは…… 「それだ!」 「「ゆっ!?」」 「「おじゃまします! おじさんの家でゆっくりしていくね!」」 「はい、良く出来ました! 凄いなれいむもまりさも!」 2人の頭をなでてやると「ゆゆゆぅ~♪」などと、とても気持ち良さそうにしている。 ――要は、所有者が誰かという事がはっきりしていれば良いのだ。 あくまでゆっくりは部外者で、他人の家に入れさせてもらうという意思表示が出来ていれば良い。 「明日も頑張ろうね」 「「ゆっくり頑張ろうね!!!」」 それからも変わらずに、様々な事を教え続けた。 ゆっくり達の呼び名が「おじさん」から「おとうさん」に変わったのは、最終試験とも言える「人の家での振舞い方」を教えている最中の事だった。 「おとうさん」と呼ぶ声を聞いた瞬間、不覚にも涙がこぼれてしまった。 れいむもまりさも困惑し、私にしがみついてわんわん泣いてしまったのは、これから外の世界に出て行く2人にも、残る私にも良い思い出になると思う。 ゆっくりブリーダーは、人とゆっくりとの共生のために存在する。 野生のゆっくりと育てたゆっくりを共存させる事で、害獣であるゆっくりの数を減らし、最終的には全てを益獣にする事が目的である。 そのため、教育が終ったら野生へと離さなければならない。 これを覚えたらお別れというある日、私は2人とゆっくり話した。 これまでの事、これからの事、2人に会う前の事。 色々と話した後で、これを覚えたらお別れだと告げると、2人とも驚くほど素直に受け入れてくれた。 その日は一日、何もせずに3人でゆっくりしていた。 「この時は何て言うのかな?」 「「ありがとう!」」 「凄いね! 良く出来ました!」 2人を抱き上げると「ゆっ、ゆっ♪」と楽しげに歌いながら、体を揺らした。 ――本当に良い子に育ってくれたな。 「お前達は、私の自慢の子供だよ」 頭をなでつつ言ってやると、2人はこちらを見上げて嬉しそうに、少しだけ寂しそうに微笑んだ。 そして、別れの日がやってきた。 「「おどうざん、ざようなら!」」 ぴょんぴょん跳ねて別れを惜しむれいむとまりさ。 顔だけなのに、手を振っている様に見えてちょっとだけ滑稽に思えた。 ――まりさもれいむも、これから幸せに育ってくれるだろうか。 小さくなる2人を、何度も振り向いて別れを惜しみつつ、ゆっくり家に戻っていった。 fuku0599にて、親ゆっくりがなぜあそこまで礼儀正しく子供を思う優しいゆっくりだったかについて書いてみました。 おっさんいじめじゃないですよ。人を信じた結果がこれだよ! という事で、一つどうかお許しを。