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「悟史くんが目を覚ましましたっ!」 監督の、そんな嬉しそうな報告を聞いてから約一週間が経った日。その日も、私は悟史くんの病室へ看病に来ていた。 「悪いね、詩音。毎日わざわざ来て貰って」 ベッドに寝ている悟史くんが言う。 「良いんです! 病人は余計な事を言わない!」 私はベッドの傍らの椅子に座り、リンゴの皮を剥いていた。 「でも、詩音も学校とかあるんだろ? そっちの方は大丈夫なのかい?」 「大丈夫です! 病人は余計な心配をしない!」 学校は、このところずっと休んでいる。しかし、今の私にとって、悟史くんの看病以外に重要な事など、この世界にありはしない。 朝自分の家で起きて、診療所へ看病に行き、そしてまた自分の家へ戻って休む。単調な生活だが、私はそれが出来る事をこれまでずっと待っていた。だから、今の生活に何の不満も持っていない。むしろ、幸福を感じているくらいだ。 「不良だなぁ、詩音は」 「ん~? 私が不良なら、何年も学校を無断欠席していた悟史くんはどうなるんです? さしずめ、番長ですかぁ?」 「む、むぅ」 彼は、困ったようにお決まりの台詞を呟いた。この可愛らしい彼に、番長なんて肩書きは似合わなすぎるな、と自分で言って思った。 「さ、リンゴが剥けましたよ。悟史くん、口を開けてください」 一欠片のリンゴをフォークに刺し、私はそれを悟史くんの前に差し出す。 「い、いいよ。それくらい、自分で食べられるから」 そう言って、彼はフォークを自分で掴もうとする。私はそれを避けるように持っているフォークを動かす。そして、二人で揉み合う形になった。 「強情ですね悟史くんは。昨日もそう言って夕食全部自分で食べちゃったじゃないですか」 「あ、当たり前だろ。手が使えない訳じゃないんだから」 「悟史くんの都合なんて関係ないです。私が悟史くんに食べさせてあげたいんですから」 「な、なんだよそれ」 このようなやり取りもまた、私にとって嬉しい事だった。いや、悟史くんと会話できている事、悟史くんとふれ合っている事自体が今の私にとって嬉しい事なのだ。 一週間前までは、そんなことすら出来なかった。私には、ただ悟史くんを見ている事しかできなかった。その悲しい過去が、今この瞬間の幸福を更に大きく私に感じさせるのだ。 「さぁ、そろそろ観念してください、悟史くん」 そう言って私は片手で悟史くんの両手を押さえつける。 「くっくっく。これでもう、無駄な抵抗は出来まい!」 「む、むぅ!」 尚も抵抗する悟史くんの口に向け、私はゆっくりとフォークを近づけた。 「あっ」 私と悟史くんは同時に声を上げる。悟史くんの抵抗が予想以上に大きかったため、フォークをベッドの上に落としてしまったのだ。フォークは、私が座っている場所の反対側へ転がる。 「あちゃ~。ごめんね、悟史くん。今取りますから」 そう言って、私は椅子から立ち上がり、フォークを取りに体を伸ばした。と、その時私の足に何かが引っかかった。そして、それによりバランスを崩し、私は悟史くんに向かって思いっきり倒れかかってしまった。 「ご、ごめん。大丈夫、悟史くん?」 「へ、平気だよ」 悟史くんはそう言ったが、何処か様子がおかしかった。目を明後日の方向へ向け、顔を少し紅潮させている。 「どうしました、悟史くん?」 私が聞くが、悟史くんは何も言おうとしない。ただ、何かに対して慌てた様子だった。 不思議に思い、私は周囲に目を回す。すると、その原因はすぐに見つかった。 胸だ。私の胸が、悟史くんの膝に当たり、つぶれているのだ。だから、悟史くんは恥ずかしそうに顔を赤らめているのだろう。 私は、悟史くんが急に愛おしくなった。彼が、私を女の子として見てくれている事が改めてわかり、嬉しかったからかもしれない。もしくは、女性の胸が触れたくらいで大慌てになる彼の可愛らしい様子に、私の中の何処かが引っか かったからかもしれない。 私は、悟史くんの目の前まで顔を近づけた。悟史くんが、驚いたような表情をする。 「詩音……?」 「ごめんなさい悟史くん。私もう……」 言って、私はベッドの上の彼に体全体を預けるように倒れかかる。そして彼の口元へ向かって、私の唇を徐々に近づけていった。 「ん……」 二つの唇がふれ合う。最初、悟史くんは驚いたように全身を強ばらせた。しかし時間が流れるにつれ、力が抜けてゆく。そして、最後には私の背中に手を回し、優しく抱いてくれた。 それはつまり、悟史くんが私を受け入れてくれたという事。それを理解し、私の心の中は幸せで満たされ、彼と唇で繋がっているこの一秒一秒を、私は深く噛みしめた。 しばらく経って、私たちの唇が一旦離れる。私も悟史くんも、顔を真っ赤にしていた。私の心臓がドキドキと鳴る。そして、悟史くんの心臓の鼓動も、抱き合っている私の体に激しく伝わってきた。 「私……悟史くんが好きです」 胸に詰まったこの思いを、私はそっと彼に向かって言った。 悟史くんはにっこりと笑う。 「僕も……君の事が好きだよ、詩音」 そう言って、いつかのように私の頭を優しく撫でてくれた。 ――思いが伝わった。ずっとずっと伝えたくて、ずっとずっとその瞬間を待っていたこの思いが、悟史くんに伝わった。 私の中に幸せが巡る。もう、絶対に悟史くんを手放さない。もう、絶対にあんな悲しい思いはしない。そう思いながら、私はその幸せを全身で感じていた。 いつの間にか、瞳から涙がこぼれた。でも、私はそれを拭おうとはしなかった。だって、これは幸福の涙だから。あの時流した悲しい涙とは違う、永遠に流す日は無いと思っていた涙だから。だから、それを拭うと目の前の幸せが壊れてしまうように感じて、私はただポロポロと大粒の涙をこぼし、悟史くんの胸を濡らした。 悟史くんが心配そうにこちらを見つめる。だけど、少ししてすぐにそれは優しい笑顔に変わった。そして、再び私の頭を、そっとあやすように撫でてくれた。伝わったのだ。この涙が、悲しみにあふれた涙でない事を。拭う必要の無 い涙である事を。 しばらくして、涙が止まる。そして、再び私は悟史くんが愛おしくなった。 もっと、悟史くんとふれ合いたい。もっと、悟史くんを感じたい――。そんな思いが、涙の代わりに私の中でいっぱいになった。 「ん……」 自然と私たちは再び唇を重ねていた。でも今度はさっきと少し違う。ちょっと大人な、深い口づけ。 「くちゅ……ん」 ベッドの上でお互いに強く体を抱きしめながら、獰猛な獣のように私たちは互いの唇を求めた。私と彼の口の間では二人の唾液が混ざり合い、そして小さく水音をたてる。私たちは、その音を欲しているかのように、執拗に互いの舌と唇を舐め合った。私は、その中で確かに悟史くんの味を感じたような気がした。 どれくらい時間が経ったのだろう。いつしか、私たちは塗れた唇を離し、恍惚とした表情で見つめ合っていた。長い長いキスだったからだろうか、私たちの呼吸は少し荒い。 と、その時、私の内股に何か硬いモノが当たった。何だろうと目を落とすと、ソレは悟史くんの股間部にあった。 「……悟史くん。雰囲気ぶちこわし過ぎですよ」 「ご、ごめん……」 本当に悪い事をしたかのように悟史くんは謝罪した。しかし、私は悪い気分ではなかった。悟史くんが、私の体で快感を得てくれた事が嬉しかったのだ。 そして同時に、もっと悟史くんに快感を与えてあげたいという感情が、私の中に芽生えてきた。 「悟史くんって、もうどれだけオナニーしてないんですか?」 私の直球的な質問に、悟史くんは狼狽える。 「……え? ……ぇと、ここに来てから、ずっとかな……」 耳を澄まさなければ聞き漏らしそうな声で、悟史くんは言った。 「へぇ、そうなんですか」 つまり、それだけの精子が悟史くんのここには溜まっているのか。まぁ、それも当然だろう。寝たきりで自慰行為をしていたなら、さすがに驚く。 「じゃあ、今日は私が出させてあげますっ☆」 「えっ!? で、でもこんな所で……」 「安心してください。今日は休日だから、この診療所には私と悟史くん以外誰もいません。監督も、悟史くんの事は全面的に私を信頼してくれていますしっ」 「でも、だからって……」 この期に及んで尚も渋る悟史くんに対して、私は実力行使を行った。 「うっ……!」 「言っておきますけど、悟史くんの本心はバレバレですよ? さっきキスしたとき、やけに強く私の体を抱きしめてきましたよねぇ?」 言いながら、私は彼の股間部をゆっくり、しかし激しくパジャマの上から手の平でなで回した。それに反応して、悟史くんのアレがビクビクと痙攣するのが、直に手に伝わってくる。撫でるだけでこんなにも反応するとは、やはり相当溜まっているらしい。 「出したいんですよねぇ?」 上目遣いで、悟史くんの目を見つめた。彼は苦悶の表情を見せている。だが、その更に奥にある、快感への悦びの表情を、私は見逃さなかった。 もう抵抗するのは無駄と思ったのか、悟史くんは目を背けながら小さく頷く。それを境に、私は手の動きを止め、彼のズボンとパンツを脱がしにかかった。 そうして、私の前に彼の陰部が露出される。少し小さめながらも硬く反り返っているソレは、皮に包まれた先端から粘り気のある液体が流れており、更に全体からむせ返るような男の子の臭いを出していた。さきほどの刺激がまだ残っているのか、時折ビクビクとその身を跳ね上がらせる。 「凄いですね、これ……」 実際に見るのは初めてというのもあるが、ソレの凄まじい様子に、私は少し驚いた。 「……は、はは」 悟史くんは苦笑いをする。恐らく、悟史くんもこういった形で他人に見られるのは初めてなのだろう。どう反応すれば良いのかといった感じだ。私も、これをどう処理すればいいのかわからないでいた。 「悟史くん、どうして欲しいですか?」 わからないので、聞いてみた。 「さ、さぁ……」 そして、沈黙が訪れる。どうしよう。このままでは埒があかない。 「ん~……、えぃっ☆」 なんとなく、指で先端を弾いてみた。 「痛っ! い、痛いよ詩音……!」 悟史くんが苦しそうに言う。どうやら、本気で痛いらしい。 「ご、ごめんなさい」 予想以上に痛そうだったので、私は慌てて謝った。そこまで敏感なのかコレは。どうも、扱いづらいなぁ……。さっき撫でたときは気持ち良さそうだったのに。 「じゃあ、これはどうですか?」 そう言って、私は悟史くんのソレを右手で包み込むように握った。硬い感触が手のひらに伝わった。 「あ、あぁ、うん、今度は大丈夫……」 悟史くんは、少し顔を赤らめながら言う。 しかし、まだ快感はほとんど得ていないようだ。このまま握っていても、射精に至る事は難しいだろう。……確か、こういう時は上下に動かせばいいはずだ。 私はいつか興味本位で見たビデオを頭の中で再生させながら、その通りに手を動かした。先端の辺りを包む皮が、上下にスライドする。 「うっ……」 悟史くんがうめき声を上げる。しかし、嫌がっている様子はない。多分、これで正解なのだろう。 「き、気持ちいいですか悟史くん?」 恐る恐る私は訊いた。 「……はぁ、……っ……ぁ、う、うん」 悟史くんは顔を真っ赤にし、更にかなり呼吸が乱れている。苦悶と悦びに満ちたその表情からは、これがかなり気持ちいいのだという事が、考えないでも伝わってくる。 その反応が面白かったので、私は上下する手に更なる力を加えた。グチャグチャと悟史くんのソレの先端から溢れる汁が音を鳴らし始めた。その汁の量に比例するかのように、悟史くんの呼吸が更に乱れてゆく。 「はぁっ……ぁあ、……ぅっ、……し、詩音……で、出ちゃう……」 しばらくして、悟史くんが必死の形相で何かを訴えてきた。 「へ、何です?」 私はそれがよく聞き取れず、悟史くんに聞き返す。が、悟史くんからの返事は、乱れた呼吸と喘ぐような声が混じったもの以外、何も無かった。私は不思議に思いつつも、右手を更に強く動かす。 「……うっ!!」 そんな声が聞こえ、悟史くんの体が大きく揺り動いたと思った瞬間、私の持っているソレがビクビクと痙攣し、そして先端から何かが吹き出した。 「ひゃっ!」 私は思わず悲鳴を上げる。吹き出した何かは、凄まじい勢いで辺りに散らばり、ベッドの上のシーツ、そして私の顔や服に降りかかった。 「こ、これが、精子ですか……?」 頬についたその液体を指で拭いながら、私は呆然と呟いた。指に、ヌルヌルとした感触が伝わる。それは白い色をしていて、指で弄んでいると、糸が引くほどの粘着性を持つ液体だった。 辺りを見回す。シーツや布団は悟史くんの出した精子に濡れ、グチャグチャになっていた。よく洗濯しないと、もう使えそうにない。私自身も、顔だけでなく髪にも大量にかかっており、また、服は胸の辺りを中心に濡れ、薄い生地だったため、液体の冷たい感触が地肌にまで伝わってきた。 そして、悟史くんの問題のソレは、射精を終えて満足したのか、先端から少しの液体を流しつつ、勃起していたさっきとは見違えるほど小さく萎み、腿の辺りに倒れ込んでいた。 「悟史くん、出し過ぎですよ……」 少なくとも、私が以前に見たビデオの男優より、二、三倍は出している。 「ご、ごめん、つい……」 心底申し訳なさそうに悟史くんが言った。かなり疲れた表情をしている。男性にとって、射精とは結構エネルギーを使う行為らしい。 周囲には、精子独特の生臭い空気が漂っていた。さっき悟史くんのアレから出ていたのと似たような濃い匂い。これが、男の子の匂いというもの何だろう。 トクン、と心臓が高鳴った。その臭いの発生源が自分の体にべったり付着している事を意識すると、体の奥底から燃えるような何かが込み上げてくるのを感じる。これは、いったい何なんだろう……? 「もぅ、服がべちゃべちゃじゃないですか」 そう言いながら、私は着ている服を脱いだ。精子で濡れてしまったからというのは勿論だが、脱がなければ体が火照って仕方が無いという理由もあった。 あの燃えるような何かが、私の体を熱くさせるのだ。それはまるで、あの何かに服を脱がされたような気分だった。 上半身に纏っている物はブラだけとなった。しかし、さきほどの暴発はよほど凄まじかったようで、悟史くんの精子はブラにも染みこんでおり、更に少し露出している私の乳房の谷間も濡らしていた。だというのに、まだ体は熱い。 本当に、何なんだろう……。 ふと、悟史くんの視線を感じた。不思議に思い、こちらから目を合わせようとすると、彼は目を明後日の方向へ動かす。 「どうしたんです、悟史くん?」 「い、いや……」 彼は気まずそうに何かを誤魔化した。しかし、彼のある部分の変化から、彼が何を見ていたのか見当は付いた。 「悟史くん、私の胸、気になりますか?」 悟史くんは顔を真っ赤にして、何も答えない。私にはその様子が滑稽で仕方がなかった。なぜなら、彼は必死に自分の本音を隠そうとしているが、彼の股間部は元気そうに堂々と勃起しているのだから。 「くすくす。悟史くん、おっぱい好きなんですね」 私は笑いを堪える事が出来なかった。 もう、隠すのは無理と観念したのか、悟史くんは頭から湯気が出そうな程顔を赤くしつつ、ゆっくりと頷く。そんな彼の様子を見て、私は自分の体が更に熱くなるのを感じた。 「じゃあ、良いことしてあげます」 そう言って、私はブラを取り去った。これでもう、私の上半身を隠す物は何もない。二つの乳房が――自分でも大きさと形に自身を持っている――、悟史くんの前にさらけ出された。 悟史くんが生唾を飲んだのが、私からもわかった。私は、その様子に笑みをこぼしながら、体を悟史くんの股間部の前、足の間に挟まれているような形に移動する。そして、ゆっくりと体を下げ、二つの乳房を悟史くんのアレの目の前まで持っていった。悟史くんは、何処か期待に満ちた表情でその様子を見つめていた。 「ぇっと、確かこうだったかな」 そう言って、私は二つの乳房を両手で持ち上げる。そして、悟史くんのアレをその中心で挟むように飲む込んだ。これも、ビデオから得た知識である。 「……う」 瞬間、悟史くんが声を上げる。射精したばかりで、まだ彼のソレはこの程度の刺激にも敏感なようだ。悶える彼の様子は、少し可愛らしかった。 「ふふふ、動かしますね?」 言って、私は悟史くんのソレを更に強く挟み込む。そして、上下に擦りつけるように動かした。私の胸の中心で、悟史くんの勃起したソレがビクビクと反応するのを感じた。 「うっ……ぁ」 悟史くんが、熱い吐息を漏らす。私は上目遣いでその様子を見ながら、手と乳房を動かした。 しかし、少し思うようにいかない。何というか、所々で引っかかってしまい、うまく悟史くんのソレを擦る事が出来ないのだ。どうやら、乳房にかかった精子と私の汗だけでは、潤滑油としてはまだ足りないらしい。 「……ん」 そこで、私は唾液をたっぷりと口の中に溜め、それを悟史くんのソレの先端部分にかけた。唾液は私の口から糸を引いて落ち、狙い通りに悟史くんの尿道口の辺りを濡らす。 「……し、詩音?」 ビクッと悟史くんの体が反応した。男性器の先端は、特に敏感だという事をどこかで聞いた事がある。大きな塊となって落ちた私の唾液は、悟史くんのソレに結構な刺激を与えたようだ。 私は、先端から竿の部分に垂れ落ちた唾液を、自分の乳房で全体に馴染むように伸ばした。ネチャっと音を立て、途端に私の乳房と悟史くんのソレの間の滑りが良くなる。これなら、もう少し強めに擦っても大丈夫そうだ。 グチャグチャと、卑猥な音が室内に響いた。私の乳房は、悟史くんの精子や先走り汁、そして吹き出た私の汗や、唾液に塗れ、艶やかな光を発した。その中で、悟史くんのソレは嬉しそうに溺れている。 ――悟史くんと私の出した体液が、混ざり合っている。そう考えると、自分の中の熱い何かが、更に熱を帯びた気がした。 「はぁ……、どうですか悟史くん。ん……気持ちいいですか?」 いつの間にか、私も息を乱していた。体が、熱く上気して仕方がないのだ。 「ん……あっ……ぁあ、……はぁあ、……う、うん……、良いよ、詩音……はぁ」 そして、私以上に悟史くんは荒い息を吐き乱す。それに呼応するかのように、私の胸の中で彼のソレは、狂ったようにビクビクとはね回る。 「……ん、はぁ……じゃあ、これはどうです?」 言って、私は既に硬くなっている自分の乳首で、彼のソレの先端部分を小突いた。 「うぁあっ……!」 それがあまりに新鮮な刺激だったのか、悲鳴のような声を上げながら悟史くんは急に体を反らす。私はそれを押さえつけるように、更に両手に力を込めた。 「……あぁっ! う、……し、詩音。もうだめ、……また、出る……よ……あぁっ!」 「はぁ……、良いですよ。……思いっきり、出してください……!」 私は、上下させる乳房に限界まで力を込める。いち早く、悟史くんを射精に導きたかった。それは、もはや悟史くんへの奉仕心からではない。悟史くんの出す精子を、彼の欲望が詰まった液体を、一秒も早く私の熱を帯びた体が欲し ていたのだ。 「ぁ……っ! 出る……っ!」 瞬間、これまでになく悟史くんのソレがビクビクと痙攣するのを感じた。そして、彼の体が私を跳ね飛ばしそうなくらい反り上がったかと思うと、ソレの先端部分から再び白い液体が、火山が噴火するときのように吹き出した。 その量は、さきほどの比ではなく、私の顔や髪や乳房、もはや全身に近い部分が彼の熱い精子によって汚された。 「はぁっ……! はぁっ……!」 悟史くんは、呼吸困難に陥ったかのように必死に酸素を求めて喘いでいた。 対称的に、彼のソレは、役目を終えたかのように静かに萎れ、動くとすればたまにビクリと痙攣して、先端からまだ残っている精子を吹き出すくらいだった。 指に付着した彼の精子を、舌で舐める。それは、全くの無意識的行動だった。自然に、私の体が彼の精液を得る事を欲したのだ。 味は、苦いような甘いような、よくわからない味だった。だけど、その奥底から確かに悟史くんの味を感じる。これは、私の好きな人の精子。私の好きな人が、快感の果てに出した体液――。 もっと欲しい。彼の体液を、もっと感じたい。こんな風に体にかけるだけじゃない。私の中に、直接入れて欲しい。そんな考えが、私の中をいつの間にか熱く支配していた。 「悟史くん、……まだいけますよね?」 私は訊いた。しかし、悟史くんは自分の呼吸を落ち着けるのに精一杯で、私が何を言っているのかも理解できていないようだった。 ……だけど、それでも構わない。例え悟史くんの返事がノーだったとしても、私の体に湧き上がる欲求は、既に抑えられそうにないほど膨れあがっていたからだ。 私は精液がべったりと付着した自分のスカートを脱ぎ、更にその下に履いていた下着も脱ぎ去った。つまり、全裸となった。悟史くんは、そんな私の姿をボーッと見つめている。思考も呼吸も、まだ落ち着かないらしい。 私は、そんな悟史くんの股間部に手を伸ばす。手に取ったソレは、さっきまで私の胸で溺れていたモノと同じモノだとは思えないほど小さく、そして柔らかい。 私は立ち上がって悟史くんに跨るような格好となり、だらしなく萎んでいるソレを無理矢理自分の股間部へとあてがった。私の股間部は、既に自らの出す液体でグチャグチャに濡れていた。 「え……、詩音……?」 そこでようやく目の前の状況が理解できたらしい。悟史くんは、慌てたように声を上げる。 「……ごめん悟史くん、私もう我慢できません」 言って、私はまだ柔らかい悟史くんのソレを、自らの中へ一気に挿入した。 その瞬間、鋭い痛みが私の体を貫く。 「し、詩音……大丈夫かいっ?」 結合部から流れる鮮血を見て驚いたのだろう。悟史くんは、心配そうに言ってくれた。 「だ、大丈夫です……」 破瓜の痛み。でも、私はそれに怯まなかった。そんな傷みより、悟史くんと繋がったという悦びの方が、遙かに大きかったからだ。 私は、ゆっくりと体を上下させ、いわゆる騎乗位の形で行為を開始した。 「……う」 悟史くんが呻く。行為を開始して数秒も経たないうちに、悟史くんのソレが私の中で硬さと大きさを取り戻しているのを感じた。それにつれて、膣を通じて私に伝わる快感も大きくなってゆく。 「はぁっ……さと……し、くん……ぁっ」 「し、……しおん……はぁっ……あぁ……」 息を乱しながら、私たちはお互いの名前を呼び合った。病室内には、私たちの声と、結合部の粘着音以外、何も聞こえない。そんな卑猥な空間が、私の体を大きく燃えたぎらせる。そして今頃に、その熱い何かの正体に気付く。そう、それは悟史くんの体を求める、私の興奮の炎だった。 「んあぁっ……はぁっ……」 膣内で、悟史くんのソレが激しく擦りつけられる。そして、擦りつけられるごとに大きな快感と悦びがせり上がってくる。私はそれらの刺激を病的に欲し、体を動かすスピードと力を更に強めた。 奥底から上り詰める興奮と快感、そして悟史くんと繋がっている事への悦び。それらが私の中で混じり合い、これまで体験した事のない高揚感を発生させた。 「……ぁあ、も、もう出る……!し、詩音……、もう、出ちゃう……よ!」 息を詰まらせながら悟史くんが叫ぶ。そして、中へ出す事への遠慮だろう、彼は両手で私の体を持ち上げ、繋がりを断とうとした。しかし、私は体に力を込め、それを拒否する。 「……はぁ、……ぁん……。さ、悟史くん……良いです、……中に出してください」 驚く悟史くんに私は言った。それは、悟史くんへの許可と言うより、私自身がそれを望んだ、悟史くんへの願望であった。最後の瞬間まで、悟史くんと繋がっていたかったのだ。 それで悟史くんは覚悟を決めたのか、両手を私の体から離した。そして、悟史くんのソレが私の中で一層反応したのがわかる。もうすぐ私の体に彼の精液が注がれる。そう思うと、私の体の高揚感は限界まで高ぶった。そして私の感じている性的快感もまた、あと少しで限界という状態だった。 「……悟史く、ん……はぁ、……一緒に、……イキましょう……ぁん」 「う……うん」 私の提案に、彼は息を乱しながら頷いてくれた。 ――そして、私たちの体が大きく震える。 「ぁあぁあああああ……っ!」 私の体を、電撃が通ったかのように快感の波が貫いた。股間部の辺りが、激しく痙攣を起こす。同時に、私の中へ熱いモノが注がれるのを感じた。 悟史くんの出した精液が、私の中に……。体は、自然とそれを理解し、それまでの高揚感の代わりに、満足感のような物が全身を支配した。それはまるで、海の上に浮かんでいるような、静かな感情だった。 行為が終わった後、私たちはベッドの上で余韻を楽しんでいた。私は悟史くんの胸に寄り添うようにし、悟史くんはそんな私の肩を抱いてくれている。さっきまでの激しい行為など無かったかのように、この場にはゆったりとした時間が流れていた。 「……詩音」 ふいに、悟史くんが呟いた。 「なんですか?」 私は、彼の胸の中で聞き返す。 「何というか……ありがとう」 「それは、さっきの事に対してですか?」 私は、いじわるに聞く。すると、悟史くんの頬が少し赤色に染まった。当たりのようだ。普通、ああいう事に対してお礼は言わないと思うのだが、その不器用さが私には逆に悟史くんらしく思えた。 「別に、構わないです。……私も、悟史くんと一緒になれて、嬉しかったですから」 言いながら、私も顔が熱くなるのを感じた。あれだけの行為をした後だというのに、こんな些細な事で恥ずかしく感じるというのは、妙に滑稽だ。 「……それだけじゃないよ」 「え?」 私は顔を上げる。 「さっきだけじゃない。僕は色々な事で君にお礼を言わなきゃいけない」 私は、黙ってそれを聞いていた。なぜなら、悟史くんの顔がいつの間にか真面目な物へと変わっていたからだ。 「僕が眠っている間、君は沙都子の面倒を見ていてくれた。そして僕が目覚めてからも、君はこうやって看病してくれている。それに対して、改めてお礼を言いたい。――ありがとう、詩音」 そう、悟史くんは笑顔で言った。ずっと言いたかった事なのだろう、悟史くんの笑顔からは、何か晴れ晴れしさのような物が感じられた。 「……別に、感謝の言葉なんていりません」 私がそう言うと、悟史くんの表情は、不思議そうなものへと変わった。 「どうしてだい?」 「それは……、悟史くんがこうして元気になってくれたからです」 そう、今日まで私は元気な彼の姿を見るために頑張ってきた。悟史くんと笑いながら会話する事。悟史くんと一緒に楽しく過ごす事。それらの日常を取り戻すために、私はずっと一生懸命でいた。 その、悟史くんが目覚めてくれたのだ。それは、私にとって感謝の言葉を言われるよりも、遙かに嬉しい幸福。 だから、私は悟史くんの目を見つめて言った。あの時からずっとずっと言いたかった事を。あの時からずっとずっと想い続けていた事を。 「――悟史くん、目を覚ましてくれて、本当にありがとう」 <了> -
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「圭ちゃん、レナ、沙都子に梨花ちゃん!ちょっと良い?」 ようやく退屈な授業が終わり、いざ部活を始めようという時に魅音が皆に号令をかけた。 なんだ、まさかまたこの前の我慢大会でもやるんじゃないだろうな。いくらなんでも真夏にストーブつけてコタツでなべやきうどんは死ぬぞ。 「ちーがーうー!あれは私も死にそうになったからね、もう当分はやらないよ!!」 魅音が顔を真っ赤にして反論する。…もう“当分” はやらない、という事はまたいつかやるのか。迷惑な話だな。 「…で、魅ぃちゃん。私たちに言いたい事って何かな、かな」 レナが小動物のように可愛らしく首を傾げる。 その言葉を聞いて、思い出したかのように魅音が言った。 「そうそう!実はね、詩音の事なんだけど…」 「詩音?詩音がどうかしたのかよ?」 何の前触れもなく出てきた詩音の名前に少し驚く。…そう言えばここのところあんま見かけてないな。 詩音にはからかわれてばかりだけど、それでもいくつもの困難を共に乗り越えてきた大切な仲間の1人だ。その詩音に何かあったとなると、もちろん心配するに決まってる。何かあったのだろうか。 「あ、そんな大したことじゃないよ?ただあの子、風邪ひいちゃったみたいでさ」 身を乗り出して聞く俺を軽く受け流し、魅音が説明した。 ……なんだ、風邪か。てっきり何かトラブルに巻き込まれたかと思ったぜ。 とはいえ、魅音によると結構な熱らしい。うんうん唸りながら苦しんでいるとかいないとか。 「んー、一応注射はしたんだよねえ。だから熱はもうじき下がるとは思うんだけど…」 そこでチロリと俺を見る魅音。それからレナを見て、申し訳なそうな顔をして言った。 「……今、園崎の方で結構大きい問題抱えててさあ。今日は私も母さんも父さんも葛西も席が外せないんだよ。良ければ会合が終わる夕方まで、詩音の看病してあげてくれない?」 無理ならうちの若いもんに行かせるけど、詩音もあんた達が来てくれた方が喜ぶと思うし。 そう言うと魅音はお願い、と頼む仕草をした。 …どうするかって?決まってるじゃないか。 1人は皆のために、皆は1人のために! 「もちろんOKだぜ!仲間の危機にはかけつけなくっちゃな!」 「レナもOKだよ、だよ。はぅ、詩ぃちゃんに何か栄養のつく物食べさせてあげたいな!」 俺とレナがにこりと微笑む。魅音もつられてありがとう、と微笑んだ。 「沙都子と梨花ちゃんは?」 2人に目線を配る。2人の様子からして、どうやら用事があるみたいだった。 「…詩音さんが風邪とあらば私たちも是非お見舞いに行ってさしあげたいですわ。ですけど、今日は…」 沙都子が俯いて押し黙る。それをフォローするように梨花ちゃんが言った。 「…今日は入江の所へ行かなければならないのですよ。お注射は痛くて怖くてガタガタぶるぶるにゃーにゃーなのです。」 ―――――注射。そうか、今日は診察の日か。 沙都子が暗い顔をして謝る。…いや、謝るとこなんて一つもないぞ。そういう意味を込めて頭をくしゃくしゃに撫で回してやると、沙都子は真っ赤になって俺の手を振り払った。 「……詩音の部屋はここだよ。ほら、これが鍵ね。勝手に入ってくれて構わないから」 魅音に案内されるがまま着いたのは、小綺麗でお洒落なマンションだった。 ちゃら、と音をたてて魅音が俺に鍵を渡す。 俺がそれを受け取ると、急いでいるのか魅音は腕時計をチラチラ見ながら言った。 「ほんじゃ、ちょっとばかし行ってくるよ!夕方にはたぶん戻れると思うから、それまで看病よろしく。じゃね、ありがと2人とも!」 そう言い残すと、魅音は猛スピードで階段を駆け降り、あっという間に姿を消してしまった。 マンションの廊下にぽつんと取り残された俺とレナ。俺たちはそのあまりのスピードの速さに顔を見合わせて笑う。 「…よっぽど急いでたんだね、魅ぃちゃん」 「みたいだな。なのにあいつ、良い姉ちゃんじゃねえか」 …なんだかんだ言って仲良いんだよな、詩音と魅音は。 さっき渡された鍵のキーホルダーを指に引っ掛けて、くるくると回しながら呟く。回しすぎて指からスポンと抜けて飛んでいってしまい、おうちの鍵で遊ぶなとレナに怒られてしまった。…情けない。 「それじゃあ、……お邪魔しまーす」 かちり、と鍵を差し込んでその扉を開けた。 返事がないが、そのまま勝手にあがりこむ。玄関は予想以上にきちんと片付けられていて、玄関だけでなく居間も充分に綺麗だった。 少し意外だ。…詩音のヤツ、1人暮らしなんじゃないのか?もし1人暮らししているのが俺なら、それはもう地獄絵図になると思うぞ。 「えーと、じゃあとりあえずレナはおかゆでも作ろうかな。圭一くんは奥の部屋に行って、詩ぃちゃんの様子見てきてくれる?」 「おう、任せろ!」 レナがエプロンをつけて、棚からお米を取り出す。………制服にエプロン、っていうのはなんかこう…ぐっとくるものがあるな。思わず後ろから抱きつきたくなるぜ。 そんな邪な考えを隅に追いやって、奥の部屋へと足を進める。 部屋のドアには「しおん」と書かれた可愛らしいプレート。どうやらここが詩音の部屋で間違いないみたいだな。 「詩音ー、入るぞー」 一応のためコンコンとノックをする。返事がないことからしてまだ寝てるのだろう。 そう思いガチャリとドアを開ける。…そういえば、女の子の部屋に入るのは初めてだった。 「……詩音、大丈夫か…?」 風邪なんだから大丈夫じゃないだろう。そう思いつつ、とりあえず声をかける。 詩音はベッドでおとなしく寝ていた。すぅすぅと寝息をたてて眠るその姿は、いつもより幼く見える。 圭一はその横に置いてあった椅子に腰掛け、まじまじとその寝顔を見つめていた。 ―――――いつもは分からないけど、こうして見るとやっぱり可愛いな―――――。 薄く閉じられた瞼をびっしりと縁取る長いまつげ。熱のせいかうっすらと赤い頬に、微かに開かれた唇。 ………魅音とそっくりだけど、何かが違うんだよなあ。 そう、言うなれば色気とでも言うのだろうか。サバサバして男の子らしい雰囲気を持つ魅音に対し、詩音はいかにも女の子という感じがする。 呼吸に合わせてゆっくりと上下する胸を見て、思わずごくりと息を呑んだ。 (ダメだ) 詩音の手に自分の手を重ね、ぐっと身を乗り出す。 (やめろ) 視線の先は、薄桃色の柔らかそうな唇。 (相手は病人だぞ) ゆっくりと、ゆっくりと。でも確実に近付いていく、2人の距離。 (寝込みを襲うような、こんな真似―――――) 残りわずか3センチ。 あとちょっと―――― そこで、詩音の目がうっすらと開かれた。 「…………ん……」 「う、うわッ!?」 思わずさっと後ずさる。 …まさかこのタイミングで起きようとは。 残念に思いながらも、少し安堵している自分がいた。 「……んんー……」 「おおおおはよう詩音ッ!風邪は大丈夫かっ?!あのだな、今のはデコで熱を計ろうとしてだなっ、決してやましい考えなんかこれっぽっちもないんだぜ?!現に未遂に終わっ、じゃなくて!!」 今更ながら恥ずかしさが込み上げ、あたふたしながら次々と言い訳を並べていく。 そんな俺をとろんとした瞳で見つめる詩音。…こりゃ聞いてねぇな。 「えーとえーと……おおお俺、レナの様子を見てくる!」 早くこの空間から立ち去りたくて、慌てて立ち上がる。 逃げ去ろうとしたその時、俺の制服の裾を詩音が掴んだ。 そして何かぼそりと呟く。 「………し……くん…」 「…え?…………って、むがっ?!」 突如、ものすごい力で引っ張られた。 俺はその引力に素直に従って、詩音の方へ倒れ込む。 ふにゅ、と顔に柔らかい感触。 (ち、窒息する!!) 詩音は俺の顔を胸に押し付けるようにして抱きしめていた。 離れようともがくけれど、病人だとは思えないほどの力で抱き締められてそれも出来ない。 …う、やーらかくてあったかくて、おまけに良いにおいが…。 「……やっと、やっと会えた。私が風邪をひいたから、お見舞いに来てくれたの…?…私、ずっと待ってたんだよ…。寂しかった…!」 「ぷはっ!!…し、詩音?」 やっと解放されたかと思うと、甘えるようにして頬ずりをしてくる詩音。その目はとろんと潤み、うっすらと涙を浮かべている。こんなしおらしい詩音は初めてだった。 「いや、そんな、お見舞いに来ただけ…」 思わず視線を反らす。なんなんだ、この詩音の様子は。なんか調子が狂うというか、でも………嫌じゃない。 そんな俺に対し、詩音は目尻の涙を拭い…こう言った。 「ううん、来てくれただけでも嬉しい。すごく嬉しいよ。 ………ありがとう、悟史君」 ―――――――どくん。 俺の心臓が一際大きく跳ねる。 北条悟史。…この名前は聞いたことがある。 確か、去年失踪した沙都子の兄……だよな? そいつの名前がなんで今出てくるんだ? 「私のために目を覚ましてくれたんだよね…?相変わらず悟史君は優しいです…。だから、大好きなんですよ」 ぎゅ、とまた抱き締められる。 目を覚ます?何を言ってるんだ詩音は。悟史は失踪したんじゃなかったのか? いや、そんな事は置いといて。 ………もしかして、詩音は。 俺のことを――――――――― 「…………」 「……悟史君、どうしたの?」 ――――俺のことを、悟史だと勘違いしている? 「はは、は………」 「…悟史君……?」 なんだ、やっぱり、道理でおかしいと思った。 そうだよな、最初から冷静に考えてみれば詩音が俺にあんな事するはず無かったじゃないか。 詩音は悟史が好き。 ―――――そういえば、そういった話を昔魅音から聞いた気がする。 バカだ、俺。 「………さっきから黙りっぱなしですけど、どうかしましたか…?」 改めて詩音を見る。…ほら、やっぱり俺を見ちゃいねえ。その濡れた瞳は、いるはずがない悟史を映し出していた。 「………俺は悟史じゃないよ。熱のせいで意識が朦朧としてるんだな。俺、レナに氷嚢もらってくる」 詩音の額に手を当てる。…やはり、異常に熱かった。監督は本当に注射したのだろうか。 「………熱なんてないです。ほら、こんなに元気なのに。 やっぱりおかしいですよ、悟史君…」 ―――――――また。 悟史君悟史君悟史君悟史君―――――――― いい加減にイラッときた。 だから、俺は悟史じゃないって言ってるだろ。 …………もう、うんざりだ。 「ねえ、悟史君ってば、悟史く……」 「………さい…」 「え?」 俺は悟史じゃない。 俺は、悟史じゃない…!! 「…うるさいって!!言ってるだろ!!??俺は悟史じゃない!!悟史じゃないんだよ!!」 し…ん。 静かな部屋に、俺の怒鳴り声が響いた。 言って……しまった。…思わず……。 詩音の方を見る。詩音は、ひどくショックを受けた顔をしていた。 「ご、ごめ、詩音、俺…」 慌てて謝罪の言葉を口にする。 だけど、その言葉は最後まで言い切れなかった。 詩音が顔をくしゃくしゃにして、泣きながら俺を押し倒したから。 「なんで、…なんでそんなひどい事言うんですか…っ!? 悟史君は悟史君です。悟史君はいます…!現にほら、こうして目の前に、う、ううう…っ!! いや、やだ、悟史君、行っちゃやだぁ…っ!!」 詩音はぽろぽろと涙を零し、俺の胸に顔を埋める。 制服のシャツにじんわりと広がっていく涙が切なくて、悲しくて、愛しくて。 こんなに取り乱して泣き喚く詩音は初めて見た。 いや、本当は、いつも心の奥で泣いていたのかもしれない。 悟史がいない寂しさを、苦しさを、どうやって押し込めてきたのだろう。…それは沙都子にも言えることだ。 そう思うと、何だか無性に切なくなった。 その寂しさが少しでも紛れるよう、俺はそっと詩音を抱きしめてやる。 詩音もそれに答えるように俺を抱きしめた。 お互いにしばらくの間身体を重ね、見つめ合う。 そして、…キスをした。 「…ん、…」 「…さ…としく……」 相変わらず詩音はうわ言のように悟史の名を繰り返し呟いているが、不思議と嫌じゃなかった。 …詩音の悲しみがそれで晴れるなら。俺が、喜んで悟史役になってやる。 「ん、ちゅ…ふぅ…っ!」 触れるだけのキスが、徐々に深いキスへと変わっていく。 お互いに舌を絡め合い、唇を貪る。 その間に俺は詩音のパジャマのボタンに手を掛けた。 ぷち、ぷち。一つボタンを外していくごとに、曲線的な体が露になっていく。 全部のボタンが外された時、その肢体の美しさに眩暈がした。 「あ、硬くなってる…。私ので反応してくれたんですか…?嬉しいな」 詩音が俺のモノに手を這わす。すでにカチコチになったそこは、刺激を求めて膨れ上がっていた。 その笑顔も。…俺に向けてじゃないんだよな。悟史に向けたものなんだよな? …俺、勘違いしないから。今だけは、俺は悟史だ。 「…詩音が可愛いから、な」 「んんッ!」 詩音の下着に手を突っ込んで、秘部をまさぐる。 そこはほんのりと湿っていて、数回指を擦っただけでじんわりとした蜜が溢れだした。 「なんだよ、これ?もうビチョビチョじゃねぇか」 その蜜を秘部に塗り付け、存在を主張する肉芽をつまむ。 指でこねくりまわしてやると、詩音は一層高い嬌声を上げた。 「あ、…んん…っ!それはぁ…っ!」 「それは?」 指でソコを開いたり閉じたりする。充分に潤った秘部は、すんなりと俺の指を受け入れた。 「それは、…いつも、悟史君の事考えて……ッ …や、拡げないでくださ…ッ」 「続き」 耳たぶに軽くキスをする。詩音の額からは玉のような汗が噴出し、小刻みに震えている。 「悟史君で…っ、あっ、ふああっ、オ、…ナニー… してた、から、ですっ、んあああっ!」 「…よく出来ました」 「ひ、あああああああっ!!」 もう我慢の限界だった俺は、ご褒美と称してそのいきり立ったモノを詩音の中へと挿入した。 ずん、と思い切り貫いてやると、それに比例して詩音の声も大きくなる。 「やっ、あっ、すごいいっ、んんんんっ!!!」 「くっ、…う、あ…」 獣のように腰を打ちつけ、お互いを貪りあう。 詩音の膣は吸い付くように俺のモノを締め付けて離さなかった。 そのまま俺は豊かな胸に手を這わせ、激しく揉みしだく。 その胸の頂を捻りあげると、詩音は悲鳴のような声をあげ、びくびくと震えた。 「あっ、イくッ、悟史くっ、私、もう…!」 「お、れも…! 詩音、詩音…っ!!」 「あ、ああああああああッ!!!………ちゃ、…けい…ちゃ……っ!」 どくっ、どくん、どくんっ…。 普段からは想像もつかないような卑猥な声をあげ、詩音がイった。 俺も自分の欲望を詩音の白いお腹へとぶちまける。 くたり、と倒れこむ詩音。どうやら気を失ったようだった。 「…服、着替えさせなきゃ。あと、汗もふいて、それで……」 風邪、悪化しちゃうかもな。それとも、俺に移るかも。 ぼんやりとした頭でそんな事を考えていた。 詩音が目覚めたら、どう思うだろうか。 良い夢だったと思うだろうか、それとも悪い夢だったと思うだろうか。ちゃっかり悟史の代役と称して自分の純潔を奪った俺を恨むだろうか。 そのどの反応をするかは分からない、けど。 ――――――詩音がイく、最後の最後。 「圭ちゃん」と聞こえたような気がした。 「…お…ねえ…?」 「あー、目ぇ覚めた?」 目が覚めると、お姉が私のおしぼりを取り替えているところだった。 視界がずいぶんとスッキリして、頭も幾分軽い。監督の注射が効いたんだろう。 「わたし、どれくらい寝てました…?」 寝ぼけ眼を擦り、お姉にたずねる。お姉は時計を見て、唸りながら問いに答えた。 「ん~………。何時間ぐらいだろ。夕方ごろまで圭ちゃんたちがお見舞いに来てくれてたんだよ。 そん時もあんたずーっと寝てて、せっかくレナがおかゆ作ってくれたのに食べずじまいでさあ! あー、あのおかゆ美味しかったなあ~?」 「なっ!お姉、あんた病人のご飯奪うなんてどれだけ食い意地張ってんですかっ!」 あれは病人でも3杯はイケるね!と豪語するお姉。私は今更ながらお腹が空いている事に気付き、ぐぅうとお腹の虫が鳴るのを必死で我慢していた。 「…なーんてね!嘘嘘!ちゃんと取ってあるよ。あっためて食べな。ほれ、今からチンしてきてあげる」 魅音がにやりと笑った。お姉のくせに私をからかうなんて…!一生の不覚だ。 ぱたぱたとお姉が台所に駆けていく。その後姿を見て、私はポツリと呟いた。 「…ごめんね、魅音」 ほんとは、途中から気付いてた。 …私は、ずるい女だ。 TIPS:もう一つの恋心 「…ね、圭一くん。ひとつ聞きたいことあるんだけど、良いかな?」 詩音のマンションからの帰り道、レナがポツリと呟いた。 さっきの行為の余韻でまだ頭がぼーっとしていた俺は、適当に「うん」と返事を返す。 …レナのおかゆ、うまかったな。病人向けで、薄味なのに、それでいて飽きなくて、さっぱりで… 「…どうだった?初めての感想は」 …………。 ん、な。 「レ、レナッ、おま、まさか、見て…っ!?」 「何のことかな?レナはおかゆの感想を聞いただけだよ? 圭一くん、レナのおかゆ食べたの初めてだもんね。ねえ、どうだったかな、かなあ?うふふふ!」 「ちょ、待っ、おいコラ、レナ―――ーっ!!」 「あははは、あははははは!また行こうね、詩ぃちゃん家!」 そう言って笑いながら走り出すレナ。 その笑顔がまぶしくて、俺はレナを必死で追いかけていった―――。 …あんな大声出してたら誰だって気付いちゃうよ。 圭一くんの、ばーか。 でも、諦めないからね?
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圭梨 クリスマス編① 十二月二十二日が終業式だった。その日は沙都子たち(クラスメート二人、あわせて四人)でパーティーを開いた。場所はエンジェルモート。その時はクリスマス当日に休めるようにアルバイトをしていた詩音が、随分サービスをしてくれた。悟史との惚気もお盆に載せて運んできた。頼んでもいなかったのに。 次の日はレナや魅音たち雛見沢のメンバーとのパーティーだった。前日は制服も着ていたし、そうそうはしゃぐことはできなかったけれどこの日は違った。お酒に一発芸、罰ゲームというスリルを楽しむ要素が加わって、とても盛り上がった。富田と岡村のピエロぶりは笑えた。二人には人を笑わせる才能があるようだ。くっつけばいいのに。 目一杯楽しんだつもりだ。 けれど、圧倒的に足りないものがあった。 みんなの言葉を思い出す。 『圭ちゃん?』 『圭一くん?』 『圭一さんですの?』 かぁ~っと顔が熱くなる。 「?マークはついていなかったのですよ。みんな圭一と断定していたのです。梨花は往生際が悪いのです」 空気の読めない神が思考に割り込んできたのでキムチをお供えしておいた。その辛さは声を奪ってしまいかねない程に強烈なものであり、あぅあぅ喘ぐこともできず標的は地に伏すのだ。 「さて。これで準備万端ね」 あと一時間ほどでイヴを迎える。念入りに持ち物をチェックしていたためここまで遅くなってしまった。いつもならとっくに布団を敷いている時間だけれど、全く眠くないのはどうしてだろう。不思議だわ。 「何が持ち物チェックですか。わくわくしながら何度も同じものを出し入れしていただけなのです。二時間もそうしているなんて、ボクは梨花の正気を疑うのですよ」 キムチおいしい。 「もう寝ようかしら」 電灯を消し、ふと思いついてまた点ける。財布に入れた乗車券を光にかざしてみた。自分でも頬が緩んでいくのがわかった。明日、圭一に会えるんだと思って。 「り、りかぁああ……」 「あんたいたの?」 羽入が、文字では表現できないうめき声で私を呼んでいた。その通り何を喋っているか全く不明だったのだけれど、私に向かって墓場から這い出たゾンビのように手を伸ばしていたから名前を発しているのだと判断することにした。 「……」 「え? なに?」 完全に分からない。とりあえず、テレビのコマーシャルのようにキムチの箱を掲げてみた。 頬の横だといかにも辛そうな匂いが鼻孔を漂ってくる。私は何とも思わないけれど。 羽入は白眼になっていた。 さすがに怖いので、今度はシュークリームを……と思ったところで、突然電話が鳴った。 もう寝ようかと思っていたときだけに少し驚く。いつもなら羽入を巻き込んで悪態をつくところだけれど、今日はいいか。それにしても、一体なんだろうこんな時間に。 「はい、古手です」 『あ、梨花ちゃんか……?』 胸が高鳴った。 「圭一っ? どうしたの?」 『起こしちまったかな、悪い』 「ううん、起きてたわよ」 圭一との電話はほとんど夜の九時を超えない。好きに電話をかけ合いたい。でも出てもらえないと辛いのでお互いに確実に居る時間を選んでいる。九時以降はその条件に高確率で当てはまるけれど、一種のけじめみたいなものだ。……まぁ、電話代もままならないものだしね……。 『起きてたのか? もう寝てる時間じゃないか?』 「……あ、明日の準備があって」 楽しみで寝付かれないと、言えるはずもない。 『あ、梨花ちゃんそのことなんだけどな……』 「なに」 圭一の声が、ぐっと低く小さくなった。はっきりしないものの喋りからは何かを言いにくそうにしているというのがすぐにわかった。その時点で、私に対する気遣いが感じられて不安になった。返事も短いものになってしまう。 『明日……その、来ないでくれないか……?』 「……」 声が出なかった。不意に動けなくなってしまい頭だけがふらふらとした。垂れ下がる受話器のコードが目の中で回っている。 『正月には帰れるんだ。それまで、悪いけど……』 「私が、行っちゃいけないの?」 『……り、梨花ちゃんっ、泣いてるのかっ?』 泣いているかどうかは分からない。けれど悲しいのは事実だった。 「……っく」 どうやら泣いているみたいだった。弱くなったものね、と自嘲する。こういう心のもち方は久しぶりな気がする。六月を抜け出せなかった頃、世界をどこまでも客観的に見ていつも考え、行動していた。それは自分の殻に閉じこもる逃げでしかないと教えられたわけだけれど。辛いことがあったとき寄りかかれる場所ができた。それが圭一で、もしもその存在が居なくなってしまえば私はどうなるのだろう。 ふと暗闇の中で一人座っている幼い私が浮かんで、震えた。 『ぐすっ』 これは私じゃない。 「……圭一?」 『あ、ああ。実は風邪ひいちまったんだボゴホッ!』 「……」 『だから、梨花ちゃんがこっちに来たらうつしかねないと思ってだな……。クリスマスの穴埋めも考えながら、こうして電話してる』 あぁ寒い、と少し遠くで聞こえた。圭一の話を理解するまできっかり五秒。 『梨花ちゃん?』 じゃあ、圭一は自分のせいで私が風邪をひくのが嫌だからと考えて明日の予定を取りやめようと電話してきたのね。どれだけ私のことを考えてくれているのだろう。優しいのだろう。なんてなことを私が思うはずもなかった。 「泣いてなんかないわよっ!」 『え、ええ? な、んだよ急に……』 「うるさいわね! なに、風邪ひいたの? 貧弱なことこの上ないわっ。それもイブ前日にだなんて、あんた少しは空気読みなさいよ! 魅音じゃないんだから! ったく……待ってなさいよ、すぐ行くからっ」 『いや、それは……』 「いいからっ。……圭一、寂しいんでしょ」 私が寝込んだときのことを思い出す。自分以外が普段どおりの生活サイクルを送り、ひとり取り残されていると感じたとき、ひどく寂しくなったのだ。圭一が「ひとりで家に居ると寂しいもんな」と笑ってお見舞いに来てくれたことが何より嬉しかった。 『……そう、だな。正直、寂しいな……ん、でも……』 「すぐ行くから」 『あ、いや』 乱暴に受話器を置く。面と向かい合っていれば別だったかもしれないけれど、電話越しでなら圭一に有無を言わさせないことは簡単だった。 「羽入。急用ができたわ。留守よろしく」 「どこに行くのですか?」 「圭一のところよ。朝に出るつもりだったけれど、もう行くわ」 羽入がきょとんとした顔をする。着替え始めていた私がそれを不思議がると、羽入はテーブルの上の切符をしげしげと眺め始めた。あ。 「明日の朝八時が発車時刻なのですよ。東京行きの切符は」 また電話が鳴った。どうでもいいけれど、深夜のコール音はびっくりする。ただでさえ部屋が狭いというのに。暴力的とさえいえる。私は受話器を僅かに持ち上げ、がちゃりと切った。圭一だろうと思ったからだ。すぐ行くと言っておいて、実は家を出るのは明日まで待たなくてはならないという早くも前言撤回が必要な状況に、私はきまりの悪いものを感じてしまったのだった。 「はぁ。明日まで待たなきゃだめなのね」 無駄な気を張った分、脱力も大きかった。テーブルに肘をついてテレビのリモコンに手を伸ばす。ちょうど明日の天気を伝えていた。とはいっても事前に確認してあるので今更見たところで新しく得られるものはない。明日は快晴。電車も通常通り運行できるだろうということを聞いて、私は数日前から安心していたものだ。 完全に目が冴えているので眠ることさえ容易ではなさそうだ。何しろ布団に入ろうという気も起こらない。羽入と、いや羽入で遊ぼうか。私の遠出するときはいつも駄々をこねる。 遊べ遊べと前日にはよく言ってくるのだ。今日もそうだった。 圭一とどちらが一番とは言えないけれど羽入のことも疎かにはできない。 そう思って声をかけようとしたら、当の本人は気持ちよさそうに寝ていた。 「これほど待ち望んだ朝はないわ」 白のコートに身を包み、旅行鞄を片手に玄関に立つ。 薄いピンクのマフラーが首を温めてくれるけれど、それでも冷気は入り込んでくる。からっと晴れたせいか今日の冷え込みは一段と強い。氷の匂いが鼻を冷やし、吐き出した息でそれを温めなおす。バス停に行かないと。 「避妊はちゃんとするのですよ~」 「うっさい」 見送る羽入に手を振ってイブの雛見沢を出た。 帰ってくるのは二十八日。そのときは圭一も一緒だ。 しょうがや梅干、ネギとにんにく。風邪を引いた身体に効きそうなものを。昨日新たに荷物に詰め込んだ。忘れ物はないか、と電車の中でチェックする。やがて発車の合図が鳴る。学祭のときはこのベルが恨めくてしょうがなかったけれど今は大歓迎だ。 早く鳴れ早く進めと念じていただけにいざ動き始めると「レッツゴー!」と言ってみたくなった。当然恥ずかしくてできない。けれどそのとき車両の前の方でタイミングよく、幼い女の子が言ってくれたので私は右手を突き上げることだけをした。 到着は昼過ぎ。 背もたれに深く寄り掛かり、私は去り行く景色を眺めた。 上下巻ある四百頁強の文庫本をあと少しで読み終えようというとき到着した。幾度かの乗換えと、数え切れないほどの発進と停車の感覚が体に刻まれ、少しだるい。雛見沢ほどではないけれど東京にも雪は積もっていた。今もぱらぱらと舞い落ちている。少し汚いような気がする。見上げても誰かがビルの窓から落としているのではないかと疑うほど。 「くっ……少し詰め込みすぎたわね……」 東京はやはり人が多く、荷物の想像以上の邪魔さ加減に苛々してしまう。すれ違うたび追い抜かれるたび、誰かに当たりそうで嫌だった。けれどもうこの駅から歩いて二十分ほどで圭一の家に着ける。……いえ、三十分くらいかしらね。 とりあえず着いたことを連絡しようと思い、公衆電話を目指した。十円玉が無かったので百円玉を使う。鳴ったコール音×十円分だけ圭一に請求しようと思った。果たして。 「百円ゲットー」 ではなくて。 「出ない」 寝ているのだろうか。だとすれば無闇に起こす必要もない、か。風邪なんかに罹ったら動くのも億劫だしね。圭一の部屋はそんなに広くはないけれど、なんでも座っていて手に届くというほどでもないし。……ただ、ノックをしても起きてくれなかったら少し悲惨なことになりそうね。受話器を置いて振り返る。 「よ、梨花ちゃん」 「……」 ポケットから出した片方の掌をこちらに向けている。私のあげたマフラーに顔を埋め、ややくぐもって聞こえたその声は掠れているのがすぐに分かった。鼻も啜っている。 「久しぶり」 「なんでいるのよ」 詰問するかのような口調。驚きよりも呆れ、嬉しさよりも怒り。そういう感情が先に立つ。 病人は動くな、そう言ったのは誰だったか。額に手を当て溜息、吐息の消えかけのところに視線を飛ばす。若干眉間に皺を寄せて。 「へへっ」 悪戯が成功した子どものように笑う。軽く無邪気な笑顔と振る舞いはどこか頭のねじがぶっ飛んでいるのでは、と思わされる。それとも風邪をひいたというのは嘘だったのだろうか。その想像は怖かったけれど、こうして迎えに来てくれた以上心配することはなさそうだ。目下、気にかけるべきは。 「久しぶりね、圭一。体は大丈夫なの?」 「ん? 梨花ちゃん、道分からないだろ?」 ええ、と。微妙にかみ合っていない。まずは圭一の言ったことだけに反応してみる。 確かに過去数度こうして訪れたときはいつも迎えにきてもらっていた。途中、喫茶店に寄ったり買い物をしたりということもあったけれど、東京のお店の豊富さはそうそう遠くに足をのばす必要性を感じさせないわけで。この駅から圭一の家までのルートを大きく外れたことは一度もない。歩いて二十分ほどの道ならばすぐに覚えられる。だとしても迎えにきたいといったのは圭一で、私も賛成だったのだけれど、さすがに体調が悪いときにまでそれを要求するほど私は冷血じゃない。よって道ぐらい知っているから家で大人しく寝ていなさい、とする私の主張は間違っていないわよね。うん、何か圭一のあっけらかんとし た様子にどちらが正しいのか分からなくなってしまったのよね。おまけに言う気もなくなるし。 「? 行こうぜ梨花ちゃん」 圭一がごく自然に私の手をとる。がらがら声でなければ全くいつもことなのだけれど。どうも体の調子に関しては私の主観で判断するしかないらしい。本人の申告は得られていないのだし。圭一は意地を張るタイプだから、答えなかったのは私に心配をかけまいと考えてのことだろう。とりあえずここは圭一を立てておくとして(うん、いい女)、家に着いたら即刻布団に放り込んでやろう。 「へへへっ」 「なによ」 「会えて嬉しいんだよっ」 「……」 じっ、と隣を歩く圭一に視線を移した。 寒さで赤らんだ笑顔が吐息に紛れている。また、額には汗も滲んでいた。歩き出してから圭一が何度かふらつくのを、私は繋いだ手に軽く力を込めて支えていたのだけれど、その瞬間だけつい忘れてしまった。 「お、おお……? へふぶッ!」 こけた。頭から盛大に。 「あ、ごめんなさい」 何の抵抗もなく雪に顔を埋めてしまっている。首を捻りこちらを見た。 「なぜ梨花ちゃんが謝る?」 自分が万全の体調でないことを、理解していないようだった。起き上がるのも辛そうなのに、相変わらず顔には笑みが張り付いている。風邪だと私に電話してきたくらいだから当然自覚症状はあったに違いないのだろうけれど、今ではさも健康であるかのように振舞っている。意識と身体のずれを今の圭一に見る。お酒に酔った状態に近いのかもと私は思った。であれば、早く休ませてあげたほうがいい。多分、これはうぬぼれではなく、圭一は私と再会したことで妙に気分が盛り上がっているのだろうから。 「早く行きましょ」 私も同じように嬉しく、気持ちが高ぶっていた。なのに学祭のときと違って幾分か平静でいられたのは、珍しく子どものような圭一の振る舞いをじっくり見ていたいと思ったからだった。可笑しさと愛おしさで心は穏やかだった。 たまには風邪もいいかもしれないわね。 ようやく到着、と。 「ってなによこれ……」 前に見た雰囲気とは随分違った。なかなか綺麗にしてある、と感想を持った当時が懐かしい。今でもそんな言葉が出てこようものなら私は女として失格に違いない。 入ってすぐが台所でその奥が六畳の和室になっている。半分開いた隙間から覗く、圭一の主な生活拠点である和室の惨状も目にはついたけれど、まずは食器のごった返す流しについて突っ込んだ。 「いったい何日洗ってないのよ」 「んー?」 玄関で私の後ろに立っていた圭一。振り返ると視線が上手いこと定まっていなかった。そうだった。風邪だったのだ。家に着いたことで安心したのか、自分の身体の感覚が舞い戻ってきたのかもしれない。先ほどまでは気持ちが頭の少し上をぐるぐる回っているようだったから。ランナーズハイが急に止まったような感じだろうか。 「ま、まぁいいわ。とりあえず着替えて寝なさい」 「おー……」 足元が頼りなかったけれどそんなに距離があるわけでもないので何事も起きず圭一は奥の部屋に消えていった。ごそごそと億劫そうに衣服を脱ぐ音が聞こえる。というか、襖閉めなさいよ……。 「さて……」 私は荷物を玄関脇に置くと、コートを脱いで袖をまくった。少し寒い。 まずは食器洗い。キッチンの構造自体はうちのものとよく似ている。左右に半歩歩けば料理の全てを賄える、といったところだ。 「スポンジと洗剤が見つからない……」 コンロに置いたままの鍋に箸やスプーンが入ってたり、空の牛乳パックが、胸まで積み重なる不安定な食器タワーの土台を作っていたりと、何かと恐ろしい。流しの底にかすかに見えた丼、それに付着している汚れは落ちにくそうだと一目で悟った。 きょろきょろと探すうちにスポンジはアメーバーのように広がった台拭きの下に発見。洗剤は見つけたと思ったら重みを感じなかったので新しいものを出した。それは一番に開けた棚の中に転がっていたので、助かった。 それから三十分ほど経ち、ようやく体裁が整ったので私はお粥を作ることにした。 出来上がるまで少し時間がかかる。 喉が渇いたので冷蔵庫を開けた。 「予想していたけど……」 ビールだけが入っていた。私はビールは好まなかったので手に取る気は起きなかった。たとえ飲むにしても時刻はまだ十五時過ぎだった。圭一の看病のことも考えると、今日はお酒を飲むことはしないほうがいい。そこでふと気づく。ああ、お酒は、圭一に止められていたのだっけ。気分がいいと、どうしても飲みたくなってしまうのだった。 静かな寝息が、隣の部屋から私の家事の途切れ途切れに聞こえていた。それが心地よく、家事が落ち着いたところで私は、ああ、二人でいるんだと今をかみ締めることができた。 「圭一ー……」 と控えめに和室を覗く。視線を走らせたベッドの上には圭一はおらず……。 「って、なんでこたつで寝てるのよっ」 「……んあ?」 「ちょっと圭一」 間の抜けた声に被せるようにして呼びかける。同時に肩も軽く叩いた。風邪をひいているのにこたつで寝るなんて頭が悪すぎる。体調が悪化の一途を辿るだけじゃない。 「んん~……? んー…梨花ちゃん……?」 「起こしてごめんなさい、でもこたつで寝るのはよくないわよ」 「あーあたま……くらくらする」 「だからちゃんとベッドで」 「ん」 圭一がベッドの方を指差す。気づかなかったけれど、そこはさながら物置のようだった。 主に新聞紙によって埋められており、所々では書籍や雑誌がひょっこりとに顔を出している。足元にはゴミ袋まで……。目線を挙げると、空っぽのペットボトルが窓枠から落ちそうでもあった。なるほど、これでは寝床として使えるはずもない。 「たはは……」 膝元で恥ずかしそうに笑っている。男の一人暮らしなんてこんなもんだよ、といわんばかりに。はぁ、と溜息をついた。こたつのテーブルにもごみが散らかっていた。カップラーメンの空き箱がまるで紙コップのように自然に鎮座している。あと缶詰。そして私は圭一の私服を踏んづけている。またまた溜息が出てしまった。 「圭一、いったいいつから風邪なのよ」 「ん。一週間前くらいかな……」 「それでこの散らかりようなわけね――一週間前?」 一週間も風邪なんて……悪いのは病原菌なのかしら、それとも圭一の身体? けれどこのだらしなさ漂う生活を目の当たりにすると、そんなこともさして気にならなかった。 「これもあって……梨花ちゃんに来てもらうのは気が引けたんだよな……」 「そうね……って勝手に膝を枕にしないで」 折った膝に圭一の頭が乗っていた。おそらくお風呂にも入っていないのだろう。ぼさぼさの髪を撫でようとするけれど、それをしてしまえばこのまま落ち着いてしまいそうなのでこらえた。 「こうして寝かせてくれたらすぐ治ると思う」 案の定そう言う。治るわけもないし。 ……。 「…け、い、い、ち?」 びくりと手の動きがとまる。声色を変えたことに気づいたのだろう。スケベな横顔を睨む。 「おいたはそこまでにしときなさいよ」 圭一はスカートの中に入れようとしていた手を苦笑いしながら引っ込める。同時に私は立ち上がった。頭の置き場を失った圭一が変に呻いたけれど気にしない。さらに邪魔な物を無造作に手にとって床にばら撒いていく。ベッドを空けるのに数分とかからなかった。空けるだけなら、ね。圭一をちゃんと寝かせた後の整理が大変そうだわ。今日はゆっくり休める暇もないみたい。 「ひー。つめてー。梨花ちゃん一緒に寝てくれー」 「すぐに温かくなるわよ。それより、この部屋寒いわね。ストーブはつけないの?」 「つけている間に眠っちまったら怖いじゃないか……」 「じゃあ私が起きていればいいのね」 にやり。 「あ」 「さっさと就寝」 「あーあ……」 布団の中で悔しそうに動き回るのを見て、これは当分寝そうにないわねと思った。ちょうどいい。部屋を綺麗にしている間にお粥も出来上がるだろうから。そのことを伝えると急に神妙になり礼を言った。 それから、散らばった物を一つ二つと手に取り、片付け始めた。 片付けの最中に発見した体温計には三十八度と表示されていた。渡してすぐに圭一は咳を二回。そんなに異常な咳ではない。その証拠に、何かと私の背に話しかけてくる。 「ごめんなーせっかくのクリスマスなのに」 「イブよ」 テレビは聖夜の街並みを映してている。インタビューを受ける人もその後ろを過ぎていく人たちもみんな幸せそうだった。浮き足立っている様子が伝わる。それに比べてこの部屋ときたら……。ちらりと圭一を見る。本当に申し訳なさそうな顔で息を吐いている。不思議と文句を言う気にはならなかった。 「明日までに治ればいいんだけどな」 「……これはこれでいいんじゃないかしら」 ゆっくりと時間が過ぎた。 続く
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「おうおうおうっ! やってくれんじゃないのっ! ブチ撒けられてぇかぁぁぁぁっ!!」 だんっ! と床に叩きつけられて、梨花は、こほ、と咳き込んだ。思いつく限りの罵声を口の中で吐きながらも、涙で滲んだ視界の向こうで狂った笑いを浮かべている、園崎魅音――いや、この場合は園崎詩音と言うべきか――を睨みつける。 右手の注射器の頼りない感触に身震いしながらも、梨花は詩音からじりじりと間合いをとった。 手詰まりだった。奇襲が通用しない今となっては、古手梨花と園崎詩音とではスピードもパワーも差がありすぎる。催涙スプレーは突き飛ばされた時にどこかに飛んでいってしまった。 (くそ、こうなったら……) 誰があんたなんかに殺されてやるもんか。 そう胸中で吐き捨てて、梨花は背中に隠した包丁を手に取り、自分の喉元に突きつける。 そうしている間に、すでに詩音は梨花の目の前まで来ていた。 そして詩音は哄笑しながらバチバチと放電するスタンガンを振りかぶり――。 「……あれ?」 そのまま床に転がっていた催涙スプレー缶を踏みつけて、ごっちーん、とひっくり返った。 「……………………」 包丁の切っ先を自らの喉に当てて硬直したまま、梨花は目の前で目を回している詩音を眺めていた。 やがてそろそろと包丁を下ろすと、包丁の背でつんつんと詩音の頬をつついてみる。 ……反応なし。どうやら完全に気絶しているらしい。 とりあえず、梨花は注射器の針を詩音の腕に刺すと、ちゅう、と中の薬剤を注入する。これで、とりあえず詩音の発症の危険は去った。 ほっと肩を脱力しかけて、梨花は慌てて首を振った。自分は園崎家の地下に監禁されている魅音と沙都子を助けなければならないのだ。 園崎魅音として雛見沢をあちこち駆け巡っていたことから、祭具殿の鍵はおそらく常に身に着けているはずだ。そう考えて、梨花は詩音の身を確認しようとした。 だがまだだ、と首を振る。雛見沢症候群の危険はないとはいえ、さっきの状況から考えると目を覚ました詩音が襲い掛かってくる可能性は十分に高い。 梨花は周囲をきょろきょろと見回すと、物干し用のロープで目を止めた。そのままいそいそとロープを持ち出すと、詩音の両手と両足をしっかりと縛る。ロープを結び終えると、梨花はうつ伏せに倒れた詩音の腹に跨ると、ぺたぺたと詩音の上半身を調べ始める。 上着のポケットを裏返し、ジーンズの尻ポケットにごそごそと手を突っ込んでみるが、 (……ないわね) 芳しくない結果に、ふむと梨花は腕組みした。後ろにないとなると、 (やっぱり、前にあるのね) 頷いて、梨花は詩音の身体を仰向けにひっくり返し、再び馬乗りになる。 ふと、梨花はきょろきょろと辺りを見回した。周囲には誰もいない。 無論、そんなことなどわかりきっているが、そこはそれ、儀礼的なものに理由などないのだ。 そのまま、モデルガンのホルスター、ジーンズなども確認してみるが、やはりそれらしきものは見当たらない。 (……おかしいわね) 苛立ちに、梨花は眉根を寄せる。何処だ、何処にある? まだ魅音と沙都子をいたぶる必要があった以上、飲み込んでいるなどということはないはずだ。ならば何処に――。 苛立ちは焦燥へと変わり、せわしなく視線が動き回った。 と。 そこで、梨花は二つの場所で視線を止めた。 即ち――詩音の、胸と、股間に。 たしか、尻の中に針金を隠して脱獄した脱獄犯というのを以前にTVでやっていた。ならば、詩音がそんな場所に隠しているということは十二分にあり得る。 なにせ穴は二つあるから可能性は単純計算で二倍だ。 梨花は詩音の奇抜な発想に驚愕し、そしてそれを見破った自分の閃きに感謝する。 (待っていて、沙都子、魅音。すぐにこの拷問狂の手から救い出してあげるから) 新たに決心しながら魅音の服に手をかける。上か下かどちらからやるか迷ったが、ライブ感を出すために上から剥いていくことにした。 ふと、梨花は自分の状況を確認してみる。両手両足を縛られて気絶した女に跨って、それにぺたぺた触れながらひん剥こうとしている幼女。 (どう見ても、身体に隠したものを探っているようにしか見えないわね) 力強く頷いて、梨花は、ぱん、と自分の頬を張って気合を入れた。 続いて、自分の目前で静かにいただきますと合掌すると――。 がばちょ、と詩音のTシャツをまくり上げた。 「おおっ」 始めに見えたのは黒い花。 鎖骨の辺りまでまくり上げると、黒いブラに半分包まれた詩音の豊かな乳房が顔を出した。 さて、と梨花は再び腕を組んで考えた。 やあスカリー。詩音ちゃんの胸に隠すとなると、どこら辺が一番怪しいと思うかな? やっぱり胸に隠すとなると基本は胸の谷間だと思うわ、モルダー。 脳内会議で出した結論に、完璧ね、と梨花は会心の笑みを浮かべる。なくても下を探せばいいだけだし。 そうと決まれば、と詩音の胸にシフトするために跨りながら体を前にずらす梨花。 しかし、そこではて、と首を傾げる。 (……これ、どうやって外すのかしら) ぼんやりと母がつけ外ししているのを見た記憶はあっても、具体的にどうやっていたのかまでは思い出せない。 がくり、と梨花は膝をついた。またもや自分は間に合わず、沙都子も魅音も救えず、そして再び六月は回り続けるというのか。 (ごめんなさい、沙都子。ごめんなさい、魅音。……そしてごめんなさい、お母さん) こんなことなら穴の開くほどじっくりきっちりむっちり確認しとくんだったよ畜生くそう、と続けて、梨花は意気消沈した視線を下に落とし――。 その目が、驚愕に見開かれた。 そこにあったのは、さっきの包丁。 梨花は包丁を掲げながら、この素晴らしき偶然を神に感謝した。 しかし、あぅあぅと威張るナマモノを連想したらなんだか腹が立ってきたので、懐にしまっているおしおき用銀紙をがむがむと噛んでおく。 ぎゃああ、という悲鳴が何処かから聞こえてきたが気にしない。 閑話休題。 包丁を構えると、梨花は詩音の胸の間にその切っ先を当てた。傷をつけてしまうといろいろと商品価値とか落ちるので、ブラを切るのには慎重の上に慎重を期することにする。 キコキコと包丁を前後にスライドさせるのに呼応して、ぷちぷちと繊維が切れる小気味よい音に、ふふふ、と梨花は思わず含み笑いを漏らした。 いやあくまで音にだってば。 そんなこんなの内に最後の一本までナイロンがぷつりと切れ、梨花はわきわきとした手つきで双丘のてっぺんの黒帽子をつまみ取る。 「おおー!」 ぽよぽよと重たげに揺れる乳房に梨花は思わず歓声をあげた。 ブラを外すという、たったそれだけのことでこんなにも揺れるものなのか、おっぱいは。 感心しながらも、梨花は当初の目的のである胸の谷間を確認しようと、がっちりと乳房を両手で握った。 掌からは、弾力と柔らかさがブレンドされた心地よい感覚を返ってくる。指の間からは、乳肉が窮屈そうにはみ出ていた。 そのまま指で先端をつまむと、ぐい、と左右に開く。 「……え?」 梨花は呆然と声を上げる。ない。鍵どころか、はさんだ痕さえ残っていなかった。 (くっ、ならばやはり下の方だというの?) まさかそんなところに隠すなんて。 戦々恐々としながらも、梨花はズボンの方に手をかけようとした。 だが、と思い留まる。そして一つの考えが浮かんだ。 (……この胸が、偽者である可能性) いえ、まさか。とその考えを切り捨てたくなる。つーかそろそろ詩音ファンに刺されそうだし。 しかし、可能性のある以上はそれを一笑に付して却下するわけにはいかない。コマンド総当りはAVGの基本なのだ。 梨花は上半身の方に重心を移し、再び乳房をぎゅむ、と握る。やわらかい感触。対して自分の胸を見下ろしてみる。 すとーん。 まさに断崖絶壁。マロリーも「そこに崖があったから」とか言って登頂をあきらめそうなくらいの絶壁ぶりだ。さすがに大石のような三段オリーブ園ほどではないにしても。 なんだか、無性に腹が立ってきた。 もみゅもみゅもみゅ。 一心不乱に詩音の胸を揉み倒す梨花。親の敵でも見るかのように目尻を吊り上げて、こやつめっ、こやつめっ、と強く握っては緩める。 くそう、こやつのおっぱいは何が入っているというのだ。やはり夢か? 夢が詰まってるのか? と、何かに気づいたように梨花はぴたりと手を止めた。 ぱ、と手を離すと、乳房の先端部がぴんと自己主張しているのが見える。それに梨花はニヤリと邪悪な笑みを漏らすと、ちゅうう、と乳首に吸い付いた。 「……くぅ、ふぁぁ……」 瞳を閉じたままの詩音が、梨花の愛撫に反応して悩ましげな吐息を漏らす。だが、梨花がちゅぽんと乳首を口内から引き抜くとまたすぐに鳴きやんでしまう。その反応が面白く、詩音の乳首がピンク色に上気するまで、くすくすと笑いながら梨花は詩音の胸をいじり回していた。 「よし、次ね! 下よ下、とにかく下!」 さすがに自ら隠語をべらべらと垂れる度胸はない。兎にも角にも、詩音が股の穴に以下略という無視できない可能性を検証するためだ。 梨花はずるずると詩音のジーンズをパンツごと膝まで下げると、うっすらと若葉色の茂みが生えている泉に指を這わせる。 「んぅっ!」 「ふふふ、やっぱり啼いたわね。となるとやはりここに隠していたわけね」 くっくっく、と悪の女幹部のような口調でつぶやくと、梨花はぴっちりと閉じている詩音の秘部を観察する。穴としては尿道、ヴァギナ、アナルの三つだが、さすがに尿道に鍵を隠すのは無理だろうということで外すことにした。 とまれ、穴の中に隠してあるなら直接手で確かめるべきだろう。何のかんのと回りくどく調べるより、そうした方が遥かに手っ取り早い。そういうことだ、じゃあ入れようか。 決断は早かった。 梨花は、右手の人差し指と中指をぴんと立たせると、ぺろり、と丹念に舐めあげて唾液で湿らせてから、 「……私は鬼を食う者だから(性的な意味で」 勢いよく、詩音の下の穴に二本の指を突っ込んだ。 「うぐぅぅ! んふ、はぅ……」 下半身への衝撃はやはり凄まじいものがあったのか、詩音は大きく声をあげる。 しかし、そんなことはお構いなしに梨花の指は詩音の秘所をぐにぐにと犯す。 指をグラインドさせるたびにぬちゃぬちゃと奏でられる卑猥な音が、詩音の声を余計に妖艶にしていた。 「んぅ、は、ふ、あっ、ああっ、あっ」 「むう、おかしいわね。ここかー? それともあそこなのかー?」 指を挿入し、さらに詩音の恥丘を揉みしだきながら、梨花はノリノリで詩音に言葉責めをする。聞いていないであろうことはわかってはいるが、これもまた気分の問題だ。 しかし、ここにもないとなると後はひとつしかない。 ぬちゃぬちゃと挿入した指を止めることはせず、梨花は詩音の足を前に倒す。すると、自然と詩音の股が全開で見えた。 ビバ消去法。 うふふふふふ、とアヤしい笑みを漏らしながら、もう一方の指をアナルに、そして口をぷっくりとした陰核に近づける。 「シンメトリカルドッキングー!」 下ネタ解禁。 じゅぷ、かりっ。 「くぅ――あぁぁッ……! いぃ、くぁ……!」 新たな方向から突如爆発した快感に、詩音は意識を真っ白にし、びくびくと身を仰け反らして絶頂に震えた。 つーか起きてんじゃねーのかこいつ、という指摘をする者は、幸か不幸か梨花を含めてこの場には存在しない。 そんな事は露知らず、梨花はしばらく詩音の膣にくちゅくちゅと指を出し入れして思う存分楽しんだ後、ふう、と身を起こした。 ごちそうさまでした、と詩音に向かって手を合わせると、ふむう、と腕を組む。 (しかし詩音が身に着けているわけじゃないとなると、どこなのかしら) 絞りこむにしても、精々園崎家の中ということくらいしかわからない。 これはちょっと探すのに時間がかかりそうね、と梨花はため息をつくと、とりあえず手近な居間から取り掛かろうと立ち上がった。 そしてずるべたーん!とすっ転ぶ。 受身すらとれずに顔面を強打し、痛そうに鼻を押さえながら、何なのよもう、と梨花は険のある目で足元を見やり…… そしてそのまま、さあっ、と顔色を蒼白にする―― 自分の足が、ぴんと伸ばしたまま投げ出されている。そこまではいいのだが、足先に、なにか、白い、ものが。 それは、こちらの足をがっちりとホールドしていた。 また、それは詩音の肩先から伸びていた。 とどのつまりは。 梨花の足を、詩音が握っていた。 「お、おおおおお起きていたのですか、詩ぃ」 「ええ。きっちりくっきりきっかりはっきり起きてましたよ、梨花ちゃま」 冷や汗を滝のように流しながらも、詩音に口を開く梨花。とりあえず敵意はなさそうなのでほっと息をつく。 が、それもすぐに打ち破られた。 「ねえ梨花ちゃま」 「みぃ?」 「さっき、いろいろと私の身体を弄繰り回してくれたみたいですねぇ」 ぎくり、と身を震わせる。加えて情欲に濡れた詩音の瞳が、梨花の不安を現在進行形で膨らませていた。 「え、えーと」 「ですから」 一息。 「私もお返しに弄繰り回しちゃっても、構いませんよね……?」 思わず呼吸が停止しそうな台詞に、梨花は硬直した。しかし、同時にずるずると引っ張られていく己の足に身も凍るほどの戦慄が走る。 「み、みぃぃぃぃーー!」 叫びながら、慌てて手近な柱につかまる。梨花と詩音の膂力差を考えると捕まることすらできなくてもおかしくはなかったが、未だ足のロープが解けていないのと絶頂の直後で身体に満足に力が入らないのとで、梨花と詩音の間に拮抗が生まれつつあった。 ぐいぐいと足から胴、胴から腕へと伝わる力に身震いしながらも、柱に絡めた両腕に力を込める。詩音の根が尽きるまで自分の力が持つともあまり思えなかったが、それでも抵抗はしなければならない。 しかし、それも長くは続かなかった。 「みぃっ!」 業を煮やしたのか、梨花の足の裏をちろりと舐めあげる詩音。 思わず手を離してしまい、あっと気づいたときにはすでに柱はこちらの腕の射程外にあった。 「みぃぃぃーー!!」 かりかりと床に爪を立てるが、その程度で何とかなるはずもなく。 程なくして、梨花はうつぶせのまま詩音にすっぽり抱きかかえられる格好となった。 「んん~、やっぱり可愛いですね梨花ちゃまは。髪はつやつやですし肌はすべすべですし、ああ素晴らしき哉幼女補正!」 きゃー、と黄色い声を上げながら、すりすりとこちらの髪やら顔やらを撫で回す詩音を、梨花はどこか諦めたように眺めていた。 とは言え、抵抗らしい抵抗もできないし、詩音の手つきはそれなりに優しくて心地よいのでとりあえず何もしないでおく。やはりなでなでされなれている者は違うということか。 恐るべしにーにー。 (さすがね、悟史) 頬に一筋の汗を垂らしながらも、不敵に笑って、梨花。 (んっ、やっぱり、沙都子ゲットの道程での最大の障害は、くンっ、あなただけか……って) 「……って、どこ触ってるのですか、詩ぃ!」 いつの間にかワンピースの隙間から腕を突っ込んでぴこぴことこちらの乳房を弾いていた(揉むとは言えないのが悲しい)詩音に、慌てて叫ぶ。 「んー? だって言ったじゃないですか、梨花ちゃま」 くすり、と笑みを吐息に変えて零すと、詩音は覆いかぶさったまま、こちらの首筋をぺろりと舐めあげた。 「ひゃう!?」 「――弄り回してあげる、って」 言葉と同時に、乳首をきゅうっ、とつねられ、梨花は仰け反って嬌声を上げる。 「ふふっ……可愛い」 仰け反った拍子にこちらに近づいてきた梨花の頭に首を巡らせ、はむ、と梨花の耳を甘噛みした。 梨花は首を振って逃れようとするが、その動きもどこか弱々しい。 「はむ……ん……ちゅ。ほら、こんなに濡れてます。私が押し倒さなかったら、どうせ後で自分でヤッていたんでしょう?」 ちっちゃくても思春期ですもんねぇ、と淫蕩な笑みを漏らす詩音に、 「あっ……ふ……んんっ。ち、ちが――」 「ふーん。じゃ、確かめてみます?」 「……へ?」 何を、と聞き返す間もなく、詩音はするりと体位を変えると、梨花の下着をするすると剥ぎ取った。足首を縛られているというのに、驚異的な動作のなめらかさである。FPSに直すと85は優に出ていそうなぐらいの快適さだ。 「さてさて、ご開帳~☆」 そのまま、かぱちょと梨花の膝を掴んで股をM字に開く。梨花はと言えば、抵抗を諦めたのかぐったりと脱力していた。 ふんふんと当たる詩音の吐息をもどかしげに感じつつ、スカート越しに詩音の頭をぎろりと睨む。 ええい、もうどうにでもなれだっ。 詩音はといえば、うわー、と感嘆の言葉を漏らすと、 「ふむふむ、梨花ちゃま"も"生えてないんですねー。沙都子とおんなじ」 さわさわとこちらの恥丘を撫でる詩音に、恥ずかしさのあまり梨花はぷい、とうつむき―― 「……って待ちなさい! あんた沙都子に何やったのよ!」 思わず猫かぶりも忘れて、がばと身を起こす。 「何したって言われましても……ナニに決まってるでしょ?」 「きぃぃぃぃっ、この泥棒猫っ! やっぱりでか乳にはロクなのがいないわねっ! もう怒ったわ、あんたみたいなサカッた雌猫なんかこの私にオとされてしまえー!」 「ふっふっふ、上等ですよ梨花ちゃま! 梨花ちゃまのブラックリストにお姉は入ってるのかとかいうツッコミは華麗にスルーしつつ、私は悟史くんと沙都子とお姉さえ手に入れば他は何も要らないんですがそれはそれとして梨花ちゃまも頂いておきましょう!」 ふーっ! と毛を逆立てて威嚇する梨花に、するり、とこれまたあっさりと足首のロープを外して笑みを浮かべる詩音。 ツッコミ禁止。 「百年かけて仕入れたエロ知識なめんなー! かかって来なさいグギャ女!」 「言ってくれるじゃないのっ! イき倒されてぇかぁぁぁぁっ! ぐげげげげげげげ!」 「ん……む。はぁ……ちゅ」 「く……んんっ。ぺろ……ちゅぷ」 ぴちゃぴちゃと淫猥な音を響かせて、二人の少女が絡み合う。お互いの髪が動く度に舞い踊り、まるでのたくる蛇の群れの様だ。 詩音の上半身に被さった梨花が、詩音の乳首を吸い上げる。むにむにと手の中で暴れる乳房をしっかりと握り締めて、すりすりと乳輪を擦りあげた。 梨花の胸の突起を、詩音がついばむ。そのまま唇と歯でコリコリと転がし、もう一方の乳頭をかりかりと爪で引っかいた。 (……んっ。さすがに、はんっ、ヤバいわね。手馴れてそうだとは思ったけど、まさか、んんっ。これほど、とは) (……くっ。こ、子供だと思って、甘く、はんっ、見ちゃいました、ね。ていうか、くンッ、お姉より数段巧いじゃないですか、この子っ) 内心で焦りを覚えながらも、互いを責める手は止まらない。 頭に靄がかかったままさらに肉欲に溺れていき、理性が磨り減っていく。回れば回るほどに堕ちていく、正に快楽地獄だ。 やがてお互いの胸だけでは満足できなくなったのか、二人は体位を変えると、お互いの股間に顔を埋めた。 詩音が、梨花の秘所を舌で撫でる。秘裂をちろちろとねぶり回し、奥まで舌を突き入れる。 梨花が、詩音の淫核を口に含む。赤子のように、一心にちゅうちゅうと吸いたてる。 (ええと……なんだっけ。私、何をしにここへ来たんだっけ) なんだろう。なにか大切なことを忘れてるような。 ぼーっと半ば放心したまま、梨花は詩音が自分のヴァギナを股間にあてがうのを、他人事のように見ていた。 ――くちゅっ。 「「は、あああああああああっ!!」」 お互いの接合部から爆発した快感に、一瞬ならず意識が飛んだ。 はあはあと肩で息をつきながらも、にちゅにちゅとお互いの動きに合わせて形を変える秘裂に、確信を込めて直感する。 (*1) お互いに、それが自らにどれだけの影響を及ぼすか、今の絶頂だけで容易に想像がつく。これ以上は、踏み込んではならない。 だが、しかし。 「はっ、あっあっあっあっ、ああっ!!」 「んんっ、んっんふ、んううううううっ!!」 腰が、身体が、止まらない。お互いに次なる快楽を求めて腰をくねらせ、新たに爆発する甘い感覚に身悶えする。 蜜に惹かれる虫のようだ。皮膚の下でぞわぞわと蠢き、ぞくりと寒気を伴った戦慄と、とろけるほど熱い恍惚とをもたらしてくる。 と、その時、二人の淫核がこりっ、とお互いを弾きあった。 「「あ、ああああああああああああっ!!!」」 落下感にも、浮遊感にも似た絶頂の余韻を味わいながら、梨花の意識はゆっくりと黒く塗りつぶされていった。 ……結局、梨花が当初の目的を思い出したのは、翌朝になってからだった。
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「ハ、ハックション!ハックションッ!」 私、園崎魅音は朝から盛大に女の子らしくないクシャミを連発していた。 うう…昨日お風呂上がりにタオルだけ巻いて髪も乾かさずTVに夢中になってそのまま寝ちゃったのが祟ったみたいだねぇ。 軽い頭痛に加え少しボーッとする…どうやら風邪をひいてしまったようだ。 体温を計ってみたら37.0°と表記された。微熱ではあるけどダルさも有るから今日は学校休もうかなと思っていたけどもうすぐ運動会が開催される関係で1時間目から昼まで体育というスケジュールで皆んな昨日から凄い楽しみにしていたんだっけ… それに私は委員長だから挨拶に号令、体育の前準備もしなければならないし私もこの日を楽しみにしていた1人でもあるのだ。 うん、少し大変だけどやっぱり学校に行こうと思ってふと時計を見たらいつもの出発時間を大幅に過ぎていた! いけないっ、委員長が遅刻なんてしたら体育の準備も遅れて迷惑かけちゃうし下級生に示しがつかないっ。急いで着替えて出発しようと思った時にふと閃いた! 1時間目から体育なら今ここで着替えてそのまま授業に向かえば時間短縮できるかもしれないと思いバスタオルを派手にベッド放り体操着に手を取った。 しかし私は風邪で判断力が鈍っていた事と時間的に焦っていた為にブラとパンツを着けずそのまま体操着とブルマを身につけてしまったのである! 急いでいたとはいえなんて失態を犯してしまったのであろうか、しかしもう着替え直す時間も惜しいのでこの格好の上に制服を着て家を飛び出した。 キーンコーンカーンコーン HRが始まる予鈴とほぼ同時に教室のドアを開けて皆んなに挨拶をした。どうやらギリギリセーフのようだ。 「どうした魅音?珍しく遅いじゃねーか」と圭ちゃんに揶揄われてしまい少し照れながら「いやぁおじさんとした事が寝坊しちゃってねぇ、マッハで飛んで来たんだよ。この勢いを体育でも見せてあげるから楽しみにしてな」と意気揚々に返した。 後ろで梨花ちゃんが「魅ぃは遅刻ギリギリになりそうな事を上手く流したのです。」とボソッと呟いていて少し図星をつかれたけどそのままスルーした。 そしてHRが終わり待ちに待った体育の授業が始まろうとした時皆んなが楽しく騒いでる中私は自分の体調が今朝より悪化していることを感じていた。 もともと風邪気味なのに遅刻を避ける為に全力疾走していたのがいけなかったんだろう。しかも汗を拭いていなかったのが追い討ちをかけたようだ。 だけど体育の授業が始まったばかりで自分の為に中断するのも皆んなに申し訳ないと思い不調を隠して授業に臨むべく委員長らしく号令をかけたのである。 玉転がしに、バトンリレー、障害物競走とそれぞれが元気にはしゃいで練習しており私も無理を通して楽しんでいたけどついに2時間目の途中でついに限界が来たようだった。 身体のダルさと頭痛が最大に達してその場で座り込んでしまったのである。ウゥ…もう最悪。 「はう!魅ぃちゃん大丈夫!?」「しっかりしろよ魅音!」「無理はいけませんわ」とレナ達が心配して駆け寄って来て私の身を案じてくれたけどほとんど頭に入ってこなかった。 知恵先生も授業を中断して私に駆け寄り「園崎さん大丈夫ですか!?まあ凄い熱っ、早く保健室に行きましょう!」と身体を支えてくれて2人で保健室に向かう事となった。 「皆さん園崎さんの事が心配と思いますがここは私に任せて授業を続けていて下さい!」 私は皆んなに弱々しく「ウゥ…ごめんねせっかくの体育なのにこんなになっちゃって…」と謝罪したけど、「気にするなよ」「そうですよ早く安静にして下さい。」「魅音さんがいないとつまらないですけどワタクシが盛り上げて見せますわッ」と励ましを受けてクスッと笑い知恵先生と保健室に向かう事になり、グラウンドに残った生徒達は直ぐに授業を再開せず心配そうに2人の後ろ姿を見守っていた。
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悟史くんが目を覚まして数週間。 2年近く寝たきりだった悟史くんはまだまだ思うように身体を動かすことが出来ずベッドの上での生活だけど、悟史くんに話しかけて返事が返ってくる、そのことがすごく幸せに感じられる。 毎日診療所に通い、悟史くんとお話したり身の回りの世話をしたり… 病床に漬け込んで付きまとう私をうっとうしく思ってるんじゃないかという心配もしたけど、悟史くんは“そんなことないよ、詩音には感謝してるよ”と優しく笑いかけてくれた。 今はまだ親しい友人という関係だけど、私が望むような関係になれるのも時間の問題なんじゃないかという希望的観測をしている。 ただ一つ気がかりなことは、もし仮にこのまま悟史くんと恋仲になれたとしても、どうもその先…身体の関係に結びつきそうもないということだ。 なぜそう思うのか、それは悟史くんの性の知識に問題がある。 歳の近い圭ちゃんなんかと比べて、明らかに悟史くんはそっち方面に疎い。 まぁ圭ちゃんを引き合いにするのは妥当とも言えないけど… 悟史くんは圭ちゃんのような変態ではないので女の子の前でそんな話題をしようとしないのは分かる。 でも違う、話題を避けているだけでなく明らかに知らないのだ。 みんなでふざけて品のない話題がでた時、悟史くんは沙都子とまるっきり同じを反応をする。分かっててとぼけてるレナさんなんかと違う、あれは完全に分かっていない反応だ。 何より決定的なのは診療所で洗濯する下着。毎日のようにこびり付いているのだ、夢精の跡が、それはもうべったりと。 断言できる、悟史くんはオナニーをしていない。いや、オナニーを知らない。 私ももう高校生だ。好きな人と一緒にいたいってだけじゃない、性的な欲求だってある。 でもオナニーも知らない悟史くんと性的な関係を築く図がどうしても想像できなくて、募る欲求をうまく抑えられなくて… 正直に白状すると私は最近、葛西に頼んで欲求不満の解消を手伝ってもらった。 今でもそれを過ちだとは思っていない。恋愛の情とは違うけど葛西と繋がれたことは嬉しく思うし。 それでもやっぱり好きな人と心も身体も繋がりたいというのは女の子として当然のこと。 そしてそれはこのままの悟史くんでは到底無理なのだ。 ならば私が、悟史くんに人並みの性の知識と欲求を持ってもらうように仕向けなければ。 とは言っても、まず何をすればいいものか… いきなり悟史くんの病室で正しいセックス講座なんて開くわけにはいかないしなぁ。 あぁそうだ、まずはオナニーのこと教えてあげなきゃ。 このままじゃ悟史くんはほぼ毎日のようにパンツを汚してしまうだろう。 悟史くんも汚れたパンツ出すのは恥ずかしそうにしている。 でも自分で洗いにいく体力はないし、どうして汚してしまうのかも分からないんだろう。 うん、そうだ。そのことをさりげなく教えてあげよう。 朝、診療所が開くのと同時に私は悟史くんの病室にやってきた。 ここ数日、悟史くんのパンツは汚れていなかった。おそらく今日辺りは溜まっていたものが噴出してしまっているだろう。 ちょっとかわいそうだけど悟史くんの為だ、今日はそれを指摘してあげようと思う。 コンコン、まだ寝ているかもしれないから控えめにノックする。 「悟史くん?起きてますか?」 「あぁ、どうぞ詩音。起きてるよ」 「お邪魔します、悟史くん。よく眠れましたか?」 「うん、昨日はちょっと暑かったけどね。ちゃんと眠れたよ」 「それは良かったです。朝早くから押しかけちゃってごめんなさいです」 「ううん、いいよ。ここにいると一日中退屈なんだ。詩音が来てくれて話し相手になってくれると嬉しいよ」 「あはは、お役に立てて光栄です。それで早速なんですけど洗濯をしちゃおうと思うんです。 申し訳ないんですけど今着てるやつも洗濯に出しちゃってください」 「えぇ?今着てるのもかい?」 「はい。昨日は暑かったから大分汗かいたんじゃないですか?」 「う、うん、確かにぐっしょりだ。わかったよ」 悟史くんは患者用の寝巻きを脱ぎ始めた。キメ細かく透き通るように白いきれいな肌が露になる。 そのまま見ていたいけど、悟史くんに悪いので作業をして目を逸らしておく。 下の寝巻きは布団の中で脱いだみたいだ。腰から下は布団を掛けたまま、脱いだ寝巻きを私に差し出す。 「じゃあ、よろしく頼むよ」 「あ、悟史くん下着もですよ」 「し、下着はいいよ。昨日替えたし」 やっぱり渋ったか。 「汗かいたままだとよくないですよ。新しい下着で一日気持ちよく過ごさないと。すぐ新しいの用意しますから」 「む、むぅ…」 かなりしぶしぶだけど悟史くんは下着も脱いで渡してくれた。 悟史くんから受け取った下着は…うん、重い。やっぱり私の予想通り昨夜は夢精をしてしまったようだ。 よし。ここからが勝負だ。さりげなく、うっかり気付いてしまった風を装って… 「あ、あれ?」 下着の股間部分を持って私は言う。 「なんか、随分湿ってますね…」 「あ、う…、むぅ」 悟史くんは、真っ赤になって俯いてしまった。湿った部分の中をひっくり返し中身を確認する。 白濁した液体が下着を汚していた。 「さ、悟史くん、あのコレって…」 「む、むぅ…その、精液だと思う」 「…ですよね」 多分、おねしょだと勘違いされるのがイヤだったんだろう。悟史くんは真っ赤になりながらも、ごまかさずに答えてくれた。 少なくとも、それが精液だと言うことは知っているようだ。 「ご、ごめん。汚くして。どうも寝てる間に出ちゃうみたいなんだ…」 「いえ、気にしてませんから。その、聞いたことあります。夢精って言うんですよね?」 「そうなんだ?」 「え、えぇ。男の人は溜まると夜中に勝手に出ちゃうって。…あの、悟史くんて、その…ぉ、オナニーとかしないんですか?」 「えっと、おなにーって何だい?」 「ぁ、ぅんと、その自分で精液を出すんです。ホントにやったことないんですか?」 「う、うん。おかしいのかな?」 「普通は中学生くらいから男の子はみんなやるみたいですよ?圭ちゃんなんかもしょっちゅうやってます。」 あ、見たわけじゃないですよ。と付け加えておく。 「圭一も…そっか、知らなかったよ。でもそれに何か意味があるのかな?」 「い、意味は…まぁ色々ありますけど。そうやって自分で出しておけば、寝てる間に勝手に出ることもなくなるみたいですよ?」 「そっか、オナニーをしてなかったからいけなかったんだね。分かった、じゃあ今度からちゃんとオナニーするようにするよ」 あぁ、なんて純粋なんだろう悟史くん。こんな純粋な悟史くんにオナニーする宣言させてしまったことに 若干罪悪感を覚えるけど、彼のためでもあるんだからしょうがない。 このまま知らずにいても困るんだろうし。 「で、どうしたら精液が出てくるんだろう?」 うん、そっか、そうだよね。やったことなきゃ分かるはずもないか。 でもどうしよう、女である私が男の子のオナニーの仕方知ってるなんてエッチな子だと思われてしまうだろうか。 そんなにカマトトぶる気もないけど、言葉にするのはやっぱり恥ずかしい…いや、いまさらか? 多分悟史くんは気にしない、というより基準が分かってないから気付かない…かな。 「あ、えっと、本で読んだんですけど、擦るんだそうです」 「こする?何をだい?」 「ぅ、ぉ、おちんちんを、です…」 「むぅ、…擦るだけでいいのかな?」 「えーと、いやだめかな。そのまま擦るんじゃなくて…」 あー、もうしょうがない。やっぱり悟史くんには性の知識は皆無だ。 このままじゃ到底私が悟史くんに抱いてもらえる日なんて訪れないだろう。 もう恥ずかしがってはいられない。私が悟史くんを導いてあげねば。 「悟史くん、悟史くんはおちんちんが大きくなってしまうこと、ないですか?」 「ん、あるよ。朝起きたときとかは大きくなってる。」 「朝以外では?例えばその、エッチなことを考えてしまったりとか、エッチな場面を目撃してしまったりとか…そうゆう時に大きくなりません?」 「え、エッチな?…む、むぅ」 そんなに予想外の単語だったのだろうか?悟史くんは真っ赤なまま狼狽し、考え込んでしまった。 しばしの沈黙の後、悟史くんは口を開いた。 「そ、そういえば昔、いつだか忘れたけど、学校で魅音のスカートがめくれてパンツが見えてしまったことがあったんだ。あの時は、うん、たしかにちんちんがむず痒いような変な感じがして、…おっきくなってたんだろうね。ズボンの上からでもちんちんが分かりそうですごく恥ずかしかったのを覚えてるよ」 「そうそう、そうゆうのです」 うーむ、昔の事とはいえ悟史くんがお姉のパンツに欲情してたなんて聞くとなんとなく癪に障るな…。 くそ、今度腹いせに圭ちゃんのをおっきくさせてやる。 「あ、あと野球の試合のとき…あの時の魅音は多分詩音だよね?ほら、詩音とハイタッチしようとして僕、間違えて詩音の胸を触っちゃったじゃないか?詩音の胸すごく大きくて柔らかくて、初めての感触でさ、すごいドキドキしたらちんちんも大きく堅くなっちゃって…。しばらく元に戻らなくて大変だったんだよ」 「ぁ、ぅ、そ、そうだったんですか…」 さ、悟史くん、私の胸でおっきくしてくれてたんだ。 さっきはお姉に悪態ついたけど、いざこう言われると、かなり恥ずかしい。まぁ、そりゃ嬉しい、けどさ。 「あ、ご、ごめん恥ずかしいこと思い出させちゃったかな?」 「ぃ、いえ、全然。…コホン、まぁそうゆう風にですね、エッチなことでおちんちんを大きくしてから擦るんだそうです。さらに擦りながらもエッチなことを考えた方がいいみたいですよ」 「えっちなことを考えて、大きくする…?」 「そうです、さっきみたいなエッチなシーンを思い出したり、女の子の裸を想像してみたりしながら擦ってればそのうち精液が飛び出してきますから」 「うん、そうか。でも、勝手に裸とか想像したりしたらその子に悪いんじゃないかな?」 「あ、うーん、まぁ、確かにそうゆうの嫌がる女の子もいますけど…でも普通そんなこと気にしないです。どうせ分からないんだし。悟史くんてホント律儀ですねぇ」 「む、むぅ、そんなことないけど。でもやっぱりそんなこと勝手に想像するのは申し訳ないよ」 悟史くんはいい案だったけど実現不可能だとでも言うような雰囲気で俯いてしまった。 勝手に想像できないって、許可でも取るものだと思っているのだろうか。 つまり許可があれば安心して想像できるのかな。 「…その、例えば、わ、私なら想像してもかまわない…ですよ。」 「…え?えと…し、詩音?」 あぁぁ、私何馬鹿な事口走ってんだ。引かれた。絶対引いたよね悟史くん。 どうぞ私の裸想像してくださいって言ったようなもんじゃないか。バカ詩音、どうする?なんとか誤魔化さないと。 「…な、なーんて私のなんて想像しても面白くないですよね。ははは。その、気にしないでください例えばってだけなんで。別に許可なんていらないんですから悟史くんの好きな子を勝手に想像すればいいんですよ。そうだほら、レナさんとかどうですか?レナさんも別に気にしないと思いますし。あとは梨花ちゃまとか。梨花ちゃまは巨乳に想像しないと怒るかもですけど…。あ、沙都子は駄目ですよ沙都子は。あは、あははは」 「あ、いや、あの詩音がそう言ってくれるんなら僕は詩音の裸を想像することにするよ」 「ぁう。さ、悟史くん。別に無理してくれなくていいんですよ?ホントに、悟史くんの好きなようにすれば」 「うん、だから僕の好きなようにするよ。僕は詩音の裸を想像したい。詩音、僕が想像してもいいかい?」 「あ…は、はい。どうぞです…」 悟史くん、私を想ってオナニーしてくれるんだ…。単なる社交辞令かも知れないけど。 いや、悟史くんのことだからホントに、許可を取ってない女の子のことなんて想像できないだろう。 きっと律儀に許可を得られた私のことだけをオカズにしてオナニーするはず。悟史くんはそういう人だ。 …見てみたい。悟史くんが私をオカズにしてオナニーするところ。 「あの、悟史くん。今、一度試してみますか?」 「い、今!?オナニーをかい?そ、それはさすがに恥ずかしいよ」 「布団の中ですれば見えないから大丈夫ですよ。ちゃんと正しく出来てるか教えてあげられますし」 「む、むぅ…むぅ。た、確かにみんな普通にやっていることならちゃんとできなきゃまずいのかな。一度ちゃんと教えてもらった方がいいって気もするけど…でも」 悟史くんは腕組みをしながらうんうん唸っている。 さすがにコレは無理だろう思って聞いてみたことだったけど、悟史くんは真剣に悩んでいるようだ。 「し、詩音が嫌じゃなければ、指導してもらおうかな…」 「私は嫌じゃないですよ。じゃあその、悟史くん頑張りましょうね」 「う、うん。よろしく頼むよ」 わ、わ。ホントにいいんだ。悟史くんここでオナニーしてくれるんだ。 好きな男の子がオナニーするところ目の前で見学できるなんてすごい出来事だ。 逸る気持ちを抑えて一つ咳払いをする。 「コホン、えと、まずは…」 まずは服を脱いでもらおうと思ったけど、気付けば悟史くんはさっきから布団の中で全裸のままだった。 結局グダグダ話してて私が替えを用意してあげなかったせいだ。まぁ脱ぐ手間が省けて結果オーライか。 「服は脱げてるんで、さっき言ったようにエッチなことを想像してみてください」 「うん、わかった」 悟史くんの視線が私の全身に注がれる。 頭のてっぺんからつま先まで下ると、悟史くんは深く呼吸をして視線を胸に釘付けた。 おそらく悟史くんの頭の中で私は上半身の服を脱がされブラジャーを取り払われているところだろう。 そう考えていると体がかぁっと熱くなるのを感じる。 私の胸はどんな風に想像されているんだろう。 今後実際に見せるようなことになったとして、想像と違くてがっかりされたりしないだろうか。 そんないらぬ心配をしている間に悟史くんの視線は私の下半身へと移ってゆく。 あぁ、分かる。今まさに私が一糸纏わぬ姿とさせられたのが。 だって薄い布団越しに股間の隆起がはっきりと見て取れるから。 恥ずかしさで金縛りにあったみたいに身体が動かない。 けど何とか気持ちを落ち着かせ私は次の指示の言葉を搾り出さねば。 「―――そしたら、ぉ、おちんちんをそっと擦ってみてください」 「ん…」 悟史くんは股間に手を伸ばし、ぎこちない手つきでそれを擦り始めた。 あぁ、でも違う。さすが悟史くんだ。 当然握って擦ると思っていたが、悟史くんは掌で上から撫でている。 「そうじゃなくて、その…」 勝手に見たり触ったりしては申し訳ないので、私は彼の布団の中に手をいれ、彼の手をソレを握るように誘導する。 「こうやって握って、上下にそっと…そう、そんな感じです」 ゆっくりと撫でるような擦り方だけど、初めての悟史くんにはそれだけで十分な刺激だったようだ。 「あ…なんだか、コレ不思議な感覚だね。んぅ…」 快感を感じているのだろう。ただ恥ずかしそうだった悟史くんの表情は恍惚としたものに変わってゆく。 「気持ちいいですか?」 「ん、うん。多分これは…気持ちいいんだと思う、んっ、はぁ」 「悟史くんが気持ちいいと感じるように徐々に強く擦っていってください」 そんなこと言わなくてもこの頃になると悟史くんは、自分で更なる快楽を求めて陰茎に強い刺激を与え続けている。 息は荒くなり、時折くぐもった声が漏れる。その間中、悟史くんの視線は私の身体に注がれたままだ。 初めは胸と股を行ったりきたりしていた視線も、今や股ぐらに集中して離れない。 悟史くんの視線を受け、その彼の大事なところが快楽に溺れている様子を目の当たりにすると私自身のソコが彼を悦ばせているような錯覚に陥り、いやらしくヒクつくのを感じた。 「ぅ、はぁっ、はぁっ…」 腕の動きが早くなり、悟史くんは快感に喘ぐ。 あぁ、彼と快感を共有できないのがもどかしい。 「はぁっ……あっ、あっ、あっ!」 悟史くんは突如前屈みになって大きく目を見開いた。 しまった!私が惚けている間に彼はもう絶頂間際だ。そのままでは布団を汚してしまう。 「悟史くん待って!」 「あっ…あぁぁぁぁぁっっ!!」 慌てて彼に駆け寄り、彼の股間から布団を引き剥がしたが手遅れだった。 勢い良く飛び出した白濁液は布団に飛び移り、さらに勢いの収まらないソレが辺りに撒き散らされる。 まずった、後処理のことをすっかり失念していた。正しく教えるとか豪語しといてなにやってるんだ私は。 おまけに悟史くんの大事なところ勝手にしっかり見ちゃったし。 それも射精する瞬間という、おそらくもっとも恥ずかしい場面をだ。 初めて見た悟史くんのソレはなんてゆうか、うん、結構小さい方だとおもう。 アダルトな雑誌に出てる人や、葛西のものみたいな太くて逞しい肉棒っていう感じではなく、小さい子が精一杯背伸びして胸を張ってるような。 男の子はペニスが小さいのを気にするのかもしれないけど、私は悟史くんのがコレでちょっと安心した。 別に太いのを入れられるのが怖いっていう意味じゃない。 こんな可愛い悟史くんに自己主張の激しいグロテスクな逸物が付いていたらなんか嫌だからだ。 彼同様にいとおしくなるような可愛らしいペニス、萎えていく様子が可愛くてついじっくりと見入ってしまった。 女の子に間近で股間を凝視されているという状況もかかわらず、彼はソレを隠そうとする様子もない。 初めての絶頂の余韻にすっかり惚けてしまっているようだ。 肩で息をしながら、ぼんやり天井を眺めている。 私はベッド際においてあったティッシュBOXに手を伸ばし、悟史くんの飛び散らした液を丁寧にふき取っていく。 「ごめんなさい、悟史くん。ちゃんと教えるって言ったのに、布団を汚させてしまって」 「ぅん…あ、ご、ゴメン詩音。僕また汚しちゃったね。あぁっ、詩音の顔にも付いちゃってる、ゴメン汚いのに」 え?あぁ、本当だ。私の顔と髪にもベットリしたものが付いている。 「い、いえ私がちゃんと教えなかったから悪いんです。えっと、今更になっちゃいましたけど、イキそうになったら…ってわかります?最高に気持ちよくなって、精液が出てきそうっていう感じになったらティッシュか何かで受け止めるんです」 「うん、わかったよ、ごめんね」 「今回のは悟史くんのせいじゃないですってば」 そう言いながら私は自分に付いたものもティッシュでふき取った。 コレが付き合ってて初Hの後とかだったら、顔に付いたのを舐めて汚くないですよアピールしてあげてもいいんだけど。 付き合ってもない女の子にそんなことされたら多分引くだろうから自重しておく。 「…それにしてもオナニーってすごく疲れるんだね。でも、なんていうか…すごく気持ちよかった、かな。あんな感覚初めてだったよ。」 相変わらず惚けた表情のまま悟史くんはつぶやく。 だいぶ疲れたようだ、病み上がりなのにちょっと無理させてしまったかもしれない。 「男の子はみんなオナニー大好きですからねぇ。いままでしてなかったのが悟史くんぐらいなものですよ。」 「む、むぅ…でもみんながしたがるのなんか分かったよ…これは、ちょっと病み付きになりそうだ。」 「悟史くんー、でもオナニーばっかりしてちゃ駄目ですよ。あ、あと間違っても人にオナニーしてるなんて言っちゃ駄目ですよ。」 「えぇ?やっぱりコレちょっといけないことだったんじゃないかい?」 「ぅと、まぁいけなくはないですけど、恥ずかしいことではありますねぇ。」 「むぅ…それを詩音の前でするなんて…僕は今日とんでもなく恥ずかしいことをしたんじゃ…ないかと…思ぅ……」 「悟史くん?」 目蓋が落ちている。口元からは小さな寝息が聞こえた。疲労と絶頂による虚脱感とで眠くなってしまったようだ。 全裸のままではすぐ風邪を引いてしまうだろう。私は急いで着替えを用意し、下着と寝巻きを着せてあげた。 布団も汚れたから別のに替えて洗濯しなくては。 洗濯ものをまとめて病室を出る前にもう一度悟史くんの顔を見る。 無垢な寝顔をみると、幼い子を騙していたずらしたような、そんな気になってちょっぴり良心が痛む。 「ごめんね、悟史くん。おやすみ」 額に軽くキスをして、私は病室を後にした。 さてと、今日は絶好の洗濯日和だ。 -
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…梨花ちゃんと口付けをして肌を触れ合った日から数日がすぎた。 あれから、みんなの前では梨花ちゃんは前と同じように俺に接してくれる。 魅音もレナもそれに安心したようで部活も大いに盛り上がっている。 時々、レナが梨花ちゃんに何かささやくたびに、真っ赤になる梨花ちゃんを見て 少々不穏なものは感じているのだが… 「おっしゃ!!これで今日は俺の勝ちだな!!」 大富豪で革命を起こし一気にトップに躍り出た俺はそのままトップを維持し、 勝利をもぎ取った!めずらしく今日の罰ゲームは魅音だ。 「さて、魅音。今日負けたらメイドさんの格好をして 校長先生の頭をなでにいくんだったよなぁ…」 「にぱー。 きっと魅ぃはエリアルコンボをくらって星になってしまうのですよ かぁいそかぁいそなのです」 「おーほっほ。 残念でしたわね、魅音さん。さて、覚悟を決めてくださいまし」 わいわいと罰ゲームに決定した魅音を攻め立てているうちに、 さりげなく梨花ちゃんが隣に立つ。 周りの皆にあまりばれないように、としているつもりみたいだけれど 梨花ちゃんは以前にもまして甘えてくるようになったと感じる。 俺は、こんなときはまず梨花ちゃんの頭に手を置いて髪をなでてやることにしている。 梨花ちゃんもそれを望んでいるようで特に抵抗されることもない。 ただ、今日はいつもとちょっと様子が違った。 何かを言おうとしてこっちをみたまま必死で口をぱくぱくとさせてくる。 俺はちょっと首を傾げつつ、梨花ちゃんの次の言葉を待った… 「あ…あの…圭一…、今日の放課後、時間はありますですか?」 私は何度か声にならない声を出しての予行演習の後、思い切って声を絞り出す。 今日は私の炊事当番だ。だから買出しは私の仕事。 それに事前のレナからの情報で今日圭一の両親は留守とのこと。 だから、きっと大丈夫。なんども心に言い聞かせる。 どうにも先が見えなくなってから私はひどく臆病になってしまったかもしれない。 とても楽しみで、どきどきして、でもとても不安なのだ。 断られたら…、と言う不安と。一緒に行けたら…という期待と。 両方の思いを込めて圭一を見つめる。 「いいぜ、どうせ今日は帰ったらすることもないしな。 学校から直行するのか?」 「は、はい…なのです。よ、良かったら圭一の分も作るから一緒に…」 「ん…夕飯までご馳走になるのは悪いけど…いいのか? ちょうど今日は俺一人だから好都合ではあるんだけどな」 圭一が何かを思い出したのかちょっと恥ずかしそうにぽりぽりとほほを掻く 「にぱー。 さ、沙都子と羽入も一緒の予定なのです。みんなで仲良く食べるのですよ」 本当は二人っきりの方が都合が良いのだがその場合は私の心臓が持ちそうにない。 二人っきりで食事を作ってなんてまるで夫婦…。 まてまてまて、何を考えてる古手梨花。羽入も沙都子も一緒。だからそんなことにはならない! だから静まれ、この頬の熱…!沙都子や魅音に気が付かれる! 真っ赤になったまましばらく圭一の手の感触に幸せを覚えるのだった… 梨花ちゃんからのお誘いに正直俺は驚いていた。 今日は両親がいないから買い置きの豚骨しょうが味のカップラーメンで 済ませようと思っていたところだった。 もしかしたら、レナあたりからの差し入れには期待していたが梨花ちゃんからの誘いは ちょっと意外だった。 部活メンバーと別れ、二人で買い物に行く。 そして梨花ちゃんがやっぱり村の人気者なのは代わらない。 俺は荷物持ちに専念。梨花ちゃんは村の中で買い物をおこなうとサービスが多い。 俺と言う荷物持ちいるからか、遠慮なくいろいろと持たせてくれる。 本来の買い物より多いんじゃないか…これ… 「梨花ちゃん、相変わらず人気者だな」 「…どうせ、みんな古手梨花としては見ていないのです」 「え…?」 「みぃ、なんでもないのですよ。 圭一早く次いくのです」 梨花ちゃんに促されて足を速めたのにあわせて歩いていく。 でも、さっきの言葉が心に引っかかった。 そしてすぐに思い当たることがある。 梨花ちゃんは村の人にもともと好かれる「オヤシロさまの生まれ変わり」だと。 「村の連中がみんなそんな目で見ているわけじゃないだろ。 少なくても俺やレナ、魅音や沙都子はオヤシロさまの生まれ変わりだ、 なんて特別扱いする気はないからな」 頭に手をのせてゆっくりと撫でて行く。 少々不満そうな目線で見上げられるが、抵抗する気はないらしい。 此処最近の梨花ちゃんをみていると女の子なんだといっそう意識する。 そういえばコレって梨花ちゃんと二人きりで買い物って… 「これってデートみたいだよな…」 言葉にして体がかっと熱くなる。二人っきりで村の中の店を回ったわけだから 宣伝しているのも一緒と言うことで…。いや、考えすぎだ前原圭一。 梨花ちゃんの面倒を見ている前原屋敷のせがれ…くらいのものだろう。 見れば梨花ちゃんも真っ赤になって抗議の視線を向けていた 「け、けけけ…圭一っ、な、ななんてことを言うのっ! で、でも、圭一となら…嬉しいのです…」 梨花ちゃんが体をぴったりと寄せてくる。 梨花ちゃんの感触にこの間のことを思い出しさらに真っ赤になる。 「さ、さあ、もう買うものはないのか…?」 「あ、ま、まだあるのです…」 さらに、二三件回ったところで買い物は終了となる…。 「おんやぁ…梨花ちゃま。今日は将来の婿殿といっしょかえ?」 そんなことを言われて二人して硬直したのだが。 …時々私は馬鹿じゃないかと思う。 せっかく圭一との仲はひっそりと深めていこうと計画していたのに、 こんなに目立つことをすれば村のうわさになるのは当然ではないか。 村の皆への不満はやや八つ当たりだった。 ただ、その後に圭一が頭をなでながら話をしてくれる。 言われなくても感じていることだったが、口にしてくれるとなお嬉しい。 「これってデートみたいだよな…」 この言葉はそんな嬉しさに心に隙が生まれた瞬間に届いた。 頭が真っ白になるのと同時に一気に混乱が押し寄せてくる。 「古手梨花」を演じられないほどに心がざわめく。 つまりつまり、デートを皆に見られている、というかむしろ宣伝していると言うか。 思わず時を止めて圭一とともに全力で逃げ出したいとさえ思う。 そんな思いをこらえるように思い切り圭一にすがりつく。 買わなければいけないものはまだあるのだ。 自分の体がにげないようにと、しっかり圭一の体を感じつつ その香りに幸せをかみ締めていた ……帰ってきて、私は完全にしてやられた、と思った。 仕掛けの犯人はレナだろう。 …実はレナにはすっかり私のことはばれているようだ。 レナほど鋭くて頭の回転が速ければ私の行動の意味などはばればれだろう。 そもそも、圭一を私の家に送り込んだのがそもそもレナだったこともある。 今日のこの状況からしてもレナはどうやら私を応援してくれているらしい。 「予定外で困るのです…」 帰ってきて返事がないのを不思議に思ったのが第一。 つづいてテーブルの上に置手紙。沙都子の筆跡で書かれていた内容は以下の通り。 「レナさんにお呼ばれしましたの。羽入と一緒にお食事して参りますわ。 梨花もよろしければいらっしゃいまし。 必要がなければ自分で作って食べてくださいな」 羽入も一枚噛んでいるとみて間違いはない。 …この恥ずかしさはどうしてくれようか。後で激辛キムチでも準備しよう。処刑用で。 圭一と二人きり。 考えれば考えるほど顔から火がでそうなシチュエーションだ。 今こうして食事を作る間にもこの心音が聞かれているのでは、とすら思ってしまう。 ちらり、と視線を送ると圭一も私の方を気にしてくれていたらしい。 目が合ってしまい、あわてて目をそらす。 圭一も二人きりの事を意識してくれているんだろうか…。それとも平気なんだろうか…。 緊張でいつもの倍くらいの気合と時間をかけて料理しながら、不安と期待を心に抱いて、 食事の準備を続けていく… …正直梨花ちゃんと二人きりになるとは思わなかった。 「落ち着け、クールになれ、前原圭一。 此処には食事をしに来たんだ。梨花ちゃんを襲うために来たんじゃないだろ」 梨花ちゃんと二人きり、というシチュエーションが否が応でも前回の記憶を引き出す。 あのときの感触を思い出すとどうもこちらから襲い掛かってしまいたくなる。 梨花ちゃんが制服のままエプロンを付けている姿はかわいい。 そう、幼な妻が夫のために健気に食事を作るときの魅力とでも言おうか。 お盛んな夫婦が朝食をつくっている奥さんを襲うきぶんというのはこんな感じだろうか。 そして今この場所は梨花ちゃんが寝泊りしているところだと改めて意識をする。 なにもしないでじっとしている、というのもどうにも性に合わない。 「なぁ、梨花ちゃん。俺にも手伝えることは何かないか?」 「みー、圭一に料理を任せるのは怖いので食器を準備してもらえますですか? そこの棚に入ってますですから」 「よっしゃ。任せとけ!」 来客用なのだろう。あまり使われている様子はないがきれいに拭かれている食器を準備する。 「そこにおいてくれると助かるのです。今煮物をそこにもりつけますから。 盛り付けたらもって行ってくれると助かるのですよ」 そんなやり取りを行いながらできたものから順番にテーブルに運ぶことにする。 体を動かしていたほうがいろいろ考えなくて良い。 そして、今日のメニューがそろっていく・・ 圭一に配膳だけを手伝ってもらい、今日の食事の準備が完了した。 「お待たせしましたですよ。いっぱい食べてください、なのです。にぱー」 「おう、それじゃ、遠慮なくいただくぜ」 私は圭一が食べ始めるのを座ってじっと見つめる。 失敗はしていないはずだ。だからきっとおいしいはず…。 期待と不安と交えつつ圭一が食べるのを待つ…。 味噌汁、煮物、ご飯…と一通り口にした圭一が笑顔を見せてくれる 「さすが梨花ちゃんだな。ちょうど良い味になってるぜ? 梨花ちゃんも食わないと俺が全部食っちまうぜ?」 「みー。ボクもちゃんと食べるのですよ。 圭一があまりにもおいしそうに食べてくれるので嬉しかったのです」 圭一の笑顔に鼓動の高鳴りを確認しながら、笑顔で返す。 「ボク」に比べてかわいげのない「私」は圭一の前ではできるだけ控えるようにしている。 普段圭一が見ているのは「ボク」だ。 だから「私」を全面にだすようになればきっと嫌われる。 部活のメンバーとの食事のときのようなにぎやかさはない。 いつもと比べて圭一も私も口数は少ないのだけれど、どこか暖かい。 圭一も緊張してくれているのだろう。顔が赤かったり、動きがぎこちなかったりしている。 その様子をみて、ちょっと安心している自分が居る。意識しているのは私だけではないんだと。 ちゃんと私を女としてみてくれているんだと。 そう思うと頬の熱の高まりと共に安心感が胸のなかに沸いてくる。 沙都子が帰ってくるまで、もう少し圭一に甘えたい、と思う…。 「ふぅ…ごちそうさま。美味かったぜ」 …食事の味は実際にはあまり覚えてなかった。 隣にいる梨花ちゃんの事を意識していることの方が大きかったからだ。 そんなことを言ったら悲しませるので言うことはないが。 「お粗末さまでした。なのです」 俺が空になった食器を運ぼうとすれば、梨花ちゃんはボクがやるのです、といってさせてくれなかった。 仕方がないので、てきぱきと梨花ちゃんが片付けていく様子を見ることにする。 どことなく動きが硬い気がするのは気のせいだろうか…。 しばらく台所の方で動き回っていた梨花ちゃんは食後のお茶を準備していたらしい。 二人分のお茶をテーブルに置いてくれたその後、無言でぴったりと俺に擦り寄って…。 「り、梨花ちゃん…?」 「け、圭一……あの……」 ごく、とつばを飲み込む。梨花ちゃんの香りが俺の鼻腔をくすぐる。 梨花ちゃんが真っ赤になりながらこちらを潤んだ瞳でじっと見つめてくる。 こういう目をするとき、梨花ちゃんが何を求めているか、察した俺は小さな体を抱きしめながら、 梨花ちゃんの唇へと口付けをする。 ……あれ以来、梨花ちゃんは二人きりになったとき、よくキスを強請って来る。 梨花ちゃんと触れていたい俺としては好都合なので断ることもない。 唇を絡ませるような深いキスの方が好きなことを知っている俺は、 唇を舌でつついてやり、梨花ちゃんの口内へと舌を差し入れていく。 互いの唾液を交換するような舌の動きをするほどに、 梨花ちゃんとつながっていくような気がする。 最初に肌を重ねたときのようにまた、梨花ちゃんの胸へと手を当てる。 前回と違うのは制服の上にエプロンがある、と言うことだ。 「梨花ちゃん…、触ってもいいだろ…?」 「きょ…今日は沙都子がいつ帰ってくるかわからないの…です。 本当は圭一の好きにされたいのですが…」 プルルルルル… プルルルルル… 抱き合ったまま沙都子が帰ってきたときのようにびくっと体を振るわせる。 突然の電話に狼狽したまま梨花ちゃんが慌てて離れ、 顔を赤くしたまま電話に出る。 「…は……え…、じゃ…ちょ…」 なにかいろいろと話しているようだが此処からはよく聞こえない。 口調からすれば部活メンバー、もっといえば沙都子のようだが… しばらくの時間が相手からゆっくりと梨花ちゃんが帰ってくる。 うつむいていてどこか元気がないように見える… 「どうかしたのか?梨花ちゃん…」 「け…圭一…あの…良かったら今日泊まって行きませんですか?」 どきん、と胸が高まる、いやいや、落ち着け前原圭一。 今日は沙都子が帰ってくるんだろ、だからそんなことにはならない。 深呼吸をしてから改めて問い返す。 「お、俺は嬉しいけど、いいのか?沙都子も帰ってくるだろうし」 「そ、それが…、沙都子は今日レナの所急遽泊まるって今電話が… なので…圭一さえよかったら今日泊まって行って欲しいのです… そして…」 ぺたん、と梨花ちゃんが俺の前に座る。 うつむいていた表情がここではっきりと見える。 真っ赤になっているが、上目遣いで瞳を潤ませて居る。 ゆっくり緊張しながら梨花ちゃんの体を引き寄せて抱きしめる。 「梨花ちゃん…良いんだよな…?」 「…圭一以外には許したくないのです…、 そ、それと…二人きりの時には……り、梨花…って呼び捨てにして欲しい。 みんなの中でわた…ボクだけ呼び捨てじゃない…ですから」 抵抗されることなく俺の腕の中にすっぽりと梨花ちゃんが納まる。 此処が自分の指定席だと主張するように服をしっかりとつかんで離さない。 「わかったよ。梨花…でいいか? なんかちょっと気恥ずかしいな」 俺は恥ずかしさをごまかすために梨花ちゃんに口付けをすることにした…。 ……レナはどこまで私に不意打ちをしてくれれば気が済むんだろう。 圭一の腕の中でその体温を感じる幸せに浸りながら、ぼんやりと考える。 今夜は二人きりで泊まっていって、なんて、どこかのドラマみたいな展開だ。 実際に言ってみて、やっぱり恥ずかしかった。 そして、圭一との距離をもっと縮めたくて、ぼんやりした頭で名前だけで呼んで欲しいと強請る。 あまりにもボーっとしていて思わず呼び方を間違えそうになってしまう。 でも、圭一のはずかしそうな表情を間近で見ることができた。 うれしい、と感じる間もなく唇を圭一に奪われる。拒む要素はない。 圭一との口付けの甘さに頭の中がさらに融けていく。 「ボク」の仮面はヒビだらけだ。嫌われるかもしれない、と思っても感覚に逆らうほうがつらい。 さっきの続きを体も心も求めている。 圭一の手が胸に触れた。一度経験はしていてもやっぱり不安はある。 沙都子にばれないようにと何度も自慰をして求めた手。 片手で圭一にしがみつきながらも、求めるように手を重ねる。 どきどきと心音だけで壊れてしまいそうな身体。 「…圭一、私を、圭一だけのものにして…。他の誰の物にもしないで…。 そして、圭一も私から離れないで…」 圭一のぬくもりを無くすのが怖い。 そんな私に圭一はぎゅっと抱きしめてくれた。 より体が熱を持つ。熱くて、とても心地良い… 「…離すわけないだろ。梨花ち…梨花はずっとつらかったんだろ。 だったら、俺が居てやる。俺だけじゃない、沙都子やレナや、羽入、 魅音や詩音だって梨花と一緒に居る。きっと、だ」 目を閉じれば圭一の雄姿が目に浮かんでくる。 この圭一は持っていないはずの記憶。大人たちやお魎にも一歩も引かなかった姿。 圭一に服を脱がされていく感触がする。 「いいんだよな…?」 圭一の声がちょっと震えている。顔をみればきっとまた、真っ赤になるだろう。 だから、目を閉じたまま、こくん。とうなずいた。 エプロンも取り外され。胸が空気にさらされる感触がする。 そして素肌に圭一の手が触れる。ぞくっと背中に何かが走る気がする。 自慰の時に思い出しても、再現はとてもできなかった、圭一の手がそこにあった。 梨花ちゃんを腕の中に抱える密着状態で白い肌を暴いていく。 梨花ちゃんとこんな関係になるのを想像していなかった数日前。 目の前の梨花ちゃんを愛しく思う気持ちはここ数日で何倍にも膨れ上がっていた。 「いいんだよな…?」 理性で抑えられるぎりぎりのところで最後の確認をする。 けれど梨花ちゃんは抗わない。 こくん。とうなずいたのを確認してその白い肌に手を這わせる。 こうして抱きしめていると緊張しているとかがちょっとだけ伝わってくる。 まだ未成熟だけれど、確実に存在するやわらかさを手で感じる。 俺はこの白い肌に俺だけの証を残したくなり、胸元に痕が付くくらいに強く吸い付いた 「つっ…」 梨花ちゃんの肌には刺激が強すぎたのかびくっと身体が震えたのがわかった。 それでも、抵抗が無い事を良い事に梨花ちゃんの肌への何箇所にも 口付けを落としていく… 「や…圭一…そんなに吸わないで、お風呂に入ってないから汗臭いでしょ…」 「そんなこと無いぜ…、梨花の匂いしかしないからな…」 梨花ちゃんの身体を持ち上げるようにしながら口づけする場所を増やしていく。 この体勢では梨花ちゃんの表情が丸見えだった。 俺の呼吸も梨花ちゃんの呼吸も、高まりあう。 夏で薄着をしているはずなのに身体が熱くて、服なんか着て居たくない なんども口付けを繰り返していくうちに、梨花ちゃんの胸の先の感触が変わってくる… 「梨花…胸の先、固くなってるぜ…。たしか、こういう時って気持ちよくなってるんだったか?」 どこかの本で読んだ無駄な知識に当てはめつつ、たずねる。 梨花ちゃんはいやいやをするように首を横にふる。 「やぁ…圭一…そんな風に言わないで…恥ずかしい…」 「こっちも確かめないとな…」 「ぁ…そこっ…んっ…!」 真っ白な下着の上から梨花ちゃんの一番恥ずかしいと思われる場所に触れる。 驚いた事にそこはしっとりとした湿り気を帯びていた。 直接の刺激は強すぎるかもしれないと思って、下着の上からなぞり始める。 「や、そこ、ぞくぞくしすぎるっ…あんまり触ったら、私が…んぷ…」 更に何か言おうとする梨花ちゃんの唇をふさぐ。 下着の生地を押し付けるようにしながらなぞっていくと湿った感触が指に伝わってくる。 舌を絡ませて。互いにむさぼるように求めあいながら、下着を更にぬらしてしまおうと 細かく指を振るわせていく…。 やがて、かすかにおくに入り込むような感触とともに何か突起のようなこりっとした感触を 指が感じた瞬間 「~~~~~~!!」 舌を絡めていた梨花ちゃんの身体が思いっきり突っ張る。 一瞬、何が起こったかわからずにびくんびくんと連続して振るえる梨花ちゃんの身体を抱き続ける 少しの間をおいて…ぼんやりとした表情で俺の事を見つめ… 「け、圭一…私…真っ白になったの…。圭一に触られてるところが熱くてぞくぞくして…」 「それって、達した…って奴なのか…?」 「わからない…初めて…だもの、こんな風になったのは…」 多少落ち着いたのか視線をそらして恥ずかしそうに縮こまる。 そんな姿をみて、俺の股間のテントはいっそうそそり立つのだった。 ……私の身体ってこんなに気持ちよくなりやすいものだったのだろうか 圭一に痕をつけてもらった場所が熱い。 圭一が触れる場所がぞくぞくとする。 圭一もこういうことをしたのは初めて…と思っているのだが妙に手馴れている気がする。 熱に融けた思考で、思わずたずねる… 「…ぅぁ…圭一…、妙に手馴れてない…?んっ…」 「俺はこうするのは初めて、だぜ…? そ、そりゃ、本とかには興味はあったけど…、それだけ、相性がいいって事じゃないか?」 気恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに、だけど目をそらさずに応えてくれた。 ああ、相性がいいのか…、それならいいかもしれない、と思考を放棄する。 もうひとつ気になるのは圭一のふくらみ、 半裸の姿のまま。圭一のズボンへと手をかける…。受けるだけじゃ…だめよね…。 「梨、梨花…?ちょ…」 「さっき、私はとても気持ちよくしてもらったし… 私だけされるのは嫌…、圭一にもしたい…」 「う…」 うるうるとした瞳で見つめるとしぶしぶながら身体を一度離してくれた。 すこし肌寒くなり寂しさを覚えたが、これは私が望んだ事。 圭一のズボンを下ろし、オットセイを… 「え…け…圭一の…こんな…?」 てっきり、オットセイと思っていた圭一のそこに居たのはかめさんだった。 知識と違う形のそれにまっかになって戸惑う。 「り、梨花ちゃ…そんなにまじまじと見られると恥ずかしいぜ…」 「さっき、私の事をじっと見ていたお返しよ。我慢して」 本当は私の方が恥ずかしくてどうにかなりそうだったけれど、何とか強気に返事をする。 恐る恐る、圭一のかめさんに手を触れる。 ぴくん、とそこが跳ねる。恥ずかしいけれど、ちょっとかわいい、と感じる。 だけど、ここから、どうすればいいのかがわからない…ちょっと戸惑いながら… 「け、圭一は…どうされるのが気持ちいいの?」 「そ、それはだな……梨花の舌で、舐めてもらっても良いか…?」 これを舐める…じっとかめさんを見つめる。 これも、圭一の一部…そう思うと匂いすらもあまり気にしなくなっていく。 舌をだして、ゆっくりと圭一のを舐める。 正直、おいしい物ではない。だけど、圭一に喜んで欲しい、と思ってさらに舐める。 半裸になって圭一のを舐めている自分、味も、匂いもちょっと我慢しているとすぐに慣れた。 それどころか、頭の芯がぼーっとしてくる。 「はぁ…圭一…こう…?」 「そ、そうだ…梨花…の舌…気持ち良い…、やばい、俺、長く持たないかもしれない…」 何が持たないのか…ぼんやりとした思考では思いつかないまま、圭一のをなめ続ける。 さきっぽから、更に味が悪い液体が出てきたけれど、きれいにしようと舐めていく… 「うぁ…、そこ舐められると…やばい…でるっ…」 あ…と思う間もなく鼻先に白い粘着質の液体が張り付いてくる。 すごい匂いに顔をしかめる…コレが…男の人の…精子なのだろうか…。 おしっことはぜんぜん違う匂い…。 「うわっ…梨花ちゃんごめん…。今吹いてやるからちょっとまってくれよ…」 圭一がティッシュを探して戻ってくるまでのちょっとの時間で顔にへばりついている液体を指で触れる。 そしてちょっとだけ口に含んでみる。とても不思議な味だった… 俺は慌ててティッシュの箱を探してきて梨花ちゃんの顔についている俺の出したものを ふき取っていく事にする。 どこかぼんやりした様子なのはきっとこんなのをかけられたショックからだろう。 これは、嫌われたか…?と思うと明日の部活メンバーの様子が恐ろしくなった。 特に沙都子のトラップが…。 人形のような顔立ちの梨花ちゃんの顔に俺のモノがべったりと張り付いている…という絵は 神聖なものを穢して自分だけのものにしたような、そんな屈折した支配欲を満たすが、 このまま、続けてもいいのかどうか、悩む…。 「梨花ちゃ…っと。梨花。大丈夫か…、ごめんな…」 なんどか身体をゆすって正気に返ってもらうようにとする 「あ…圭一…、謝らなくていいわ…でも、気持ちよかったの…?」 「ああ、とっても気持ちよかったぜ…。正直、あそこまで気持ちがいいとは思わなかった」 「よかった…、圭一は満足した…?それとも…」 さきほどまで白濁に汚れていた顔で笑う。その顔を見ているとまだまだ自分も満足はできていない 「つ、続けてもいいのか…?もっと、梨花にいろいろしちゃうかもしれないぜ?」 こくん、と梨花ちゃんがうなずいてくれる。 さっきの梨花ちゃんの自分を俺だけのものにして欲しい、という言葉が、 更に俺の欲望を加速させていく…。 梨花ちゃんの身体を引き寄せるとそのまま、床に寝かせる。 そして、先ほどすっかり湿らせた下着を脱がせてしまう…。 「此処も、きれい…だな…」 「いいえ、そんな事はない、そんな事はないからじっと見ないで…」 「さっき、梨花は俺のをじっとみてたろ、おあいこだぜ」 直に触れるのは初めて。だ。ゆっくりと秘所を開くように指で触れてみる。 「…け、圭一…そんな広げて見ないで。いや、汚いから」 顔を見られたくないのか真っ赤になって頭をぶんぶんと振る。 でも、俺の目には梨花ちゃんのあそこはとてもきれいに見えた。 さっき、俺のものを舐めてもらったお礼。といわんばかりにその場所を舐め始める。 「な、なめちゃ…そこは汚いから…駄目…はひゃっ…」 ぶんぶんと頭をふって嫌がってはいるけれど足の方の抵抗は無いので続ける事にした。 こうしてみると、さっきふれたと思われる小さなものが見えた。 慎重に舌でつついてみる。 「ひぁっ…圭一…そこ…しびれて…さっきみたいに…真っ白に…」 此処が俗に言うクリトリスなのだろうか…と考えながら、更に舐める。 ぴくびくと太ももが震えているのがとてもいやらしく見える… 「梨花…そろそろ…ひとつになろうぜ…」 この俺のものを、巫女の梨花ちゃんに突き入れて、ひとつになる。 魅力的な誘惑に呼吸もあらくなる。 梨花ちゃんも真っ赤になってぐったりとしながらこく、とうなずいたのを確認し、 ゆっくり俺のものを梨花ちゃんのモノにあてがう、 サイズが異なるので、ちょっと不安に思いつつ、少しずつ慎重に腰を… 「ひ、ぎっ…、いやっ、痛いっ…痛いッ!!いやっ…」 わずかに肉棒が中にこじ入れられようとしたところで梨花ちゃんがおもいっきり痛がり暴れる 俺も驚いて思わず挿入をやめる。 はっ、と我に返った様子の梨花ちゃんはひどくおびえた表情を浮かべた。 「け、圭一…ちょっと初めてなのでびっくりしただけよ… 大丈夫…だから…このまま…」 選択肢 このまま、抱く やっぱり抱けない -圭x梨花 2 俺自身もう、止まる事もできない欲望が渦巻いている。 梨花ちゃんの意思を確かめるように一度口付けを行ってから肉棒を梨花ちゃんのそこにあてがう。 「梨花…、次、悲鳴を上げたらここでやめるからな…」 「わ、わかったわ…、圭一…」 こく、とうなずいたのを確認してまた肉棒をゆっくりと進める。 ぐ…と眉を寄せて耐えてはいるけれども、声は出すことがなくなった。 つらそうな様子にやや腰が引けるが、やると決めたからには腹をくくる。 ゆっくりと腰を推し進めていく。 すこしずつ俺のを締め付けてくる梨花ちゃんの中に強く興奮しつつ できるだけ負担を減らせるようにとゆっくり奥へ進む事に意識をさく。 「~~~~~」 声を出さないようにとはを食いしばる梨花ちゃんが歯をいためてはまずいと 一度動きを止めて呼吸を整えるときに、エプロンの一部を咥えてもらい、 更に奥へと進む…。 どのくらいかかったかわからないが、とうとう梨花ちゃんの中に俺のものがすっかりと埋まる。 正直狭くて痛いくらいの中で動くに動けず。 ぎゅっと痛みに耐え、本当に声を出さなかった梨花ちゃんの頭をなでながら、口付けをする。 「これで、すっかりうまったぜ…。 大丈夫…なのか…?」 「はぁっ…はぁっ…大丈夫…このくらい…、本当に身体を引き裂かれる痛みより 何倍もましなんだから…。 圭一を受け入れてる…嬉しい痛みよ…。 それより…圭一…まだ…終わっていないんでしょ…?」 この状態で動け、というのは梨花ちゃんにもだいぶ負担を与えそうな気がする。 俺自身もうごくかどうかためらっていたときに中の動きが微妙に変わった気がした 俺も勢いでしてしまったが、正直長く持ちそうに無いのを感じていた。 ゆっくりと動いて梨花ちゃんの身体を十分に感じていく。 時間の感覚が途絶えたまま、梨花ちゃんの中をゆっくりと往復をし続ける。 「く…また…」 梨花ちゃんの声はやや苦しそうだが、さっきよりは落ち着いているように聞こえる。 自分のものに走る感覚にそのときが来たのを感じれば、 中に出すのはまずい…と思って引き抜こうとしたところで梨花ちゃんの腰が絡みついてきた 「り、梨花ちゃ…このままだと、中に…」 「はぁ…んく…いい…の…このまま…」 一度こみ上げてくるものをせき止めるすべを知らない俺は、そのまま、梨花ちゃんの中へと 精をはきだしていく… 「あ…、圭一…」 圭一の熱が身体の中に伝わってくる。 身体は痛いけれど、心にはようやく落ち着きが満ちていた。 圭一と一つになれた事がとても喜ばしくて。熱を受けた腹部をゆっくりとなぞる。 「わ、わるい、思いっきり中にだしちまったな…。 その…もし、できちまったら…責任、取らないといけないよな…」 「圭一は…私にこんな事をした時点で責任を取るつもりではなかったの…?」 「いや、それもそうなんだけどな。やっぱりきちんと定職に付くまでは子供は…」 妙に慌てふためいている圭一がかわいくなって私から口付けをする。 一緒に居る、という証をもらった気がして心にすこし余裕が出てきたみたいだ。 本当に現金だと自分でも思う。 「ん…ところで梨花ちゃ…と梨花…気になってたんだけど… そのしゃべり方、こっちが本来の梨花なのか」 「え…あ…に、にぱー。 そ、そ、そ、そそんな事ないのですよ」 すっかり幸せを感じていて忘れていた事を思い出して慌てて取り繕う。 そんな取り繕いも今の圭一には通用しないらしく、じーっと見つめてくる。 心の中まで見透かされているような気がしておとなしく白状する。 「ええ…、そうよ…。こっちが本当の私。 みんなの前ではかわいい子ぶってるって所ね…」 もしかしたら、声が震えていたかもしれない。ここまでして、もしかしたら嫌われて コレっきりになるんじゃ…って。そう考えたら世界が終わる気がした。 「なんだ、ちょっと大人びた口調だったからびっくりしたけど、 やっぱり梨花ちゃん何だな。じゃあ、梨花ちゃ…ってまた言ってるか。 梨花も俺と二人きりのときは演技はやめてくれよ?」 きょとん。とした私の頭に圭一の手が乗る。 「え…、でも、みんなの前に居るときよりかわいげが…」 そんな言葉も圭一の口先の前に轟沈する。 言葉を並ばせたら右に出る人は居ないその言葉にすっかり言いくるめられて。 「私」は圭一の前だけは「私」で居続ける事にした…。 その夜。ちょっと硬い畳の上で二人で抱き合いながら、 初めての二人きりの夜を過ごした…。 翌朝。朝帰りの圭一は両親にいろいろからかわれたとか。 おきた時に来ていた服がいろいろ大変な事になって予備の服を出したとか。 レナがいっそう意味ありげな視線を送るようになったとか、 いろいろ合ったけれど。今日も圭一の隣に私が居る。 一緒に居ればどんな逆風でも立ち向かっていけるから。 おまけ 「梨花も圭一も奥手ですからね、 ここまで強烈に意識させて挙げないといけないとは 二人とも手がかかるのです」 「は、羽入…、あの、私その…羽入にまた…」 「沙都子はいけない子なのですね。 それじゃ、また、二人でゆっくり過ごすのです」 ボクはボクでこの生を思い切りたのしむのです。
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私は冷静にならないといけなかった。 「沙都子~。お風呂沸きましたのですよ~」 貼ったお湯の熱さを手でちょいちょいと確認する。 夕食の準備を始めている沙都子に、先に入るよう言った。 「梨花が先に入るといいですわ。私、今は手が離せませんの」 「みぃ。まだ材料を並べているだけなのです」 じゃがいも、にんじん、たまねぎ、豚肉。 沙都子はむき出しの棚からまな板を手にとって、敷いた。 「一度始めたものを途中でやめるのは嫌ですわ。それに……」 頬をかすかに染めて、私の顔を見てくる。 「私が先に入ったら、梨花が何も言わないで入ってくるじゃありませんの」 「みぃ、沙都子。一緒に入ったほうが楽しいのですよ」 「それはそうでございますけど……恥ずかしくもありますわ」 「今までだって洗いっこしてきたのです。恥ずかしいことは何もないはずなのですよ、にぱー☆」 そう言ってもうぅん、と曖昧に唸るだけで、夕食の準備をやめようとしない。 「沙都子は、お胸が大きくて羨ましいのです」 じゃがいもを取りこぼしそうになって、私から見ればふくよかなその胸に抱きとめる。 「り、梨花がそう言って……、お風呂でぺたぺた触ってくるから恥ずかしいんじゃないですのー!」 「にぱー☆」 私は明るく意地悪く笑って、逃げた。 狭い室内で、ちゃぶ台を挟んだ攻防が終わってから、やれやれと最後の切り札を出す。 「二人で入ったほうが、お湯を節約できるのですよ」 「うっ……」 我が家計に関わる問題を突きつける。 「せ、先月は少し高かったですわ……」 がくり、と思い出したように項垂れた。 「にぱー☆」 「あーもうっ。わかりましたわよ! 梨花、早くお風呂に入りましょうですわっ」 「わーい、なのです♪」 やけになったかのように、顔を赤くして風呂場に向かう沙都子だった。 また、就寝時。 「沙都子、たまには同じお布団で寝ましょうなのです」 「もう。子どもじゃありませんのよ。私たち」 思いっきり子どもだけれど。 子ども同士だから、かしら。 「窓際は寒いのですー。沙都子がお布団に居てくれれば温かいのですー」 ごそごそと、タオルケットを擦る音をわざと鳴らして沙都子に近づいていく。 「なら場所を変えればいいだけではありませんの」 「みぃ。沙都子が冷たいのです。……もういいのです。冷たい沙都子とお布団に入ってもきっと温かくないのです」 転がってもとの位置に戻る。 沙都子に背を向けながらも、動きの気配を探る。 「り、梨花……。わ、分かりましたわよっ。一緒に寝ればいいのでございましょう?」 「にぱー☆」 沙都子が言い終わる前に、私は身を翻して沙都子の布団にもぐりこんだ。 おでこがくっつきそうな位置で、目を合わせる。 むすりとした瞳と頬で、私に相対した沙都子が何か言いたそうにしているのを言葉で遮った。 「優しい沙都子のお布団は温かくて気持ちいいのですよー、にぱー☆」 「梨花……もう」 諦めたような溜息をついて、薄く笑う。すでに眠気がきているのだろう。 「明日も、早いですわ。……おやすみなさいですわ」 「おやすみなのです」 一日が終わる。 そう、思い返してみても、これが普通だった。 普通のはずだった。うん、そうよね。沙都子は恥ずかしがりやで、強情で、でも優しくて……。 「梨花~。お風呂沸きましたわよ~」 「はーい、なのですよ」 味噌汁をお玉で掬い、味見をする。うん、と納得して鍋の蓋を閉めた。 エプロンを外して浴室に向かうと、裸の沙都子がいた。 「遅いですわよ、梨花」 「……みぃ。ごめんなさいなのです」 ここ最近こういうことが続いている。 沙都子が一緒にお風呂に入りたいといって、私を待っているのだ。 そこまでなら、何も気にすることなどないのだけれど。 「洗いっこしましょうですわ、梨花」 湯船に浸かった沙都子が浴槽の縁にふにふにのほっぺを乗せて、提案してくる。 「……では、ボクが先に洗ってあげますですよ」 沙都子が瞳を輝かせて、私の前に背を向けて座った。 傷つけないようにもちもち肌の背中を擦る。以前なら、洗いっこはお互いの背中を洗うことで終わっていたけれど。 「梨花ぁ、前も……」 と、なまめかしい声で沙都子が懇願する。 途切れ途切れに漏れる荒い息を耳で、上下に忙しなく動く胸部を掌で確認した。 やがて、沙都子は同じように下半身への洗いも要求してくる。 「梨花ぁ……」 その際、沙都子はぴたりと閉じている陰唇を指で開くのだ。 沙都子が望むように、私の指はその場所へと誘われた。 じきに入れ替わると、沙都子が耳元で悪戯っぽく囁いてくる。 「梨花。私も全てさらけ出したのですから、梨花も私と同じようにしてほしいですわ」 「……みぃ」 両手を使って中を空気にさらしていた沙都子とは違って、私は右手の人差し指と中指だけで開く。 控えめにそうすると沙都子が満足そうに私に擦り寄ってきて、たどたどしく小さな手が股に差し込まれてくる。 背中を洗うよりも先に、沙都子は私のあそこを弄ぶのだった。 そして、就寝時。 「……どうしてお布団が一つしか敷かれていないのですか?」 ちなみに枕は二つ。 「勿論、一緒に寝るためですわよ」 邪気なく私に笑いかけると、布団の皺を伸ばす作業に戻る。 「さ、明日に備えて寝ましょうですわ」 「……みぃ」 電灯を切り同じ布団に入る。 私は天井を見上げていたけれど、沙都子はずっと私の方を見ている。 「梨花、温かいですわ」 肩に顔を預けられて、薄い胸がさわさわと撫でられる。 ついでに、脚が絡みついてきていた。 しかし寝つきのよさは相変わらずのようで、おやすみなさいですわ、と言うと沙都子は眠りに落ちた。 朝になり目を覚ますと、私は何も着ていなかった。 パジャマの上に下着が折り重なって布団の外に追い出されていた。 追い出した覚えはないのだけれど。 ふと横を見てみるとやはり、沙都子も裸だった。 「んっ――」 裸のまま、差し込む朝日に向かって伸びをする。 今日の朝食の担当は私だった。 安らかに眠る沙都子を起こさないようにと布団から這い出し、服を着た。 そのうちに、沙都子も目を覚ます。 「ん~、梨花ぁ~?」 目を擦って隣に私がいないことを確認すると、恐らく匂いを辿ってだろう、台所へと顔を向ける。 「おはようなのですよ、沙都子。もう朝ごはんもできるのです」 「んにゃ、んむ、わかりましたわー」 大口を開けてあくびをした沙都子は、茶碗を並べる私のそばまでやってくる。 「おはようですわ。梨花」 打って変わって明朗快活に、朝の挨拶を言った。 同時に、私のほっぺにキスをする。裸のままだった。 「……沙都子、服は着ないといけませんですよ」 「わかってますわ」 着替えたあと、沙都子はトイレに行った。 私は、ちゃぶ台に置いた味噌汁から立ち上る湯気をぼーっと眺めていた。 その向こうに座る羽入に焦点を合わせる。 「羽入……これって……」 「……」 「百年の奇跡?」 「梨花、にやけすぎなのです」
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誕生日裸祭り事件・前編 誕生日裸祭り事件・後編 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! ついに俺の一人勝ち。 最初のターゲットは・・・パンツ一枚の沙都子! 「わかるなぁ、沙都子ぉ~?そのスジをさらすんだー!!!!!」 「ふ・・・ふ・・・・・・ふわあああああああああああん!!!!!!!!」 沙都子は号泣しつつ、俺にパンツを投げつけた。 一緒にバレーボールやバスケットボールまで飛んできたが、スジを垣間見ることに成功した俺は満足だった。 「最下位は沙都子に決まりだね!」 「わたくしの誕生日ですのにー!!!」 「沙都子ー、全部終わるまで着ちゃ駄目ですよー?」 「はぅー。涙目の沙都子ちゃんかぁいいよ~」 「かわいそかわいそなのです♪」 主賓といえども容赦はしない。 それがわが部活の恐ろしさだ。 次のターゲットは、沙都子と同じくパンツ姿の魅音。ただし上はセーラー服だ。 「パンツだ、魅音!それ以外は許さん!!!」 その言葉に魅音は何故かにやりと笑い、するりとパンツを脱いだ。その下から現れたのは・・・紐パン!? 「くっくっく。圭ちゃんが思いつくようなこと、おじさんが気づかないと思うー?」 「ふーん。これはこれでいいもんだな。じっくり見られるし」 至近距離から前後左右、舐めるように魅音の紐パン姿を鑑賞する俺。 紐に縛られた豊かな尻周りの肉付きは実に見ごたえがある。 「ちょ、圭ちゃん!?」 ガスッ!!!!! 「圭一くん。何してるのかな?かな?」 レナぱんによって紐パンから遠ざけられる俺・・・。 「わかったわかった。次はレナだな?」 「はうっ!?」 墓穴を掘ったことに気づき、うろたえるレナ。 スカートはあえて残し、タンクトップを脱いでもらう。 これで上半身はブラ一枚。 「はぅううう・・・」 これで形のいい乳が鑑賞できるぜうへへ。 シュミーズ姿の梨花ちゃんに指令。 「わかったのです」 梨花ちゃんがシュミーズを脱ぐと・・・その下はビキニだった。 肩紐のないタイプなので気づかなかったぜ・・・。 「まだいけるのですよ。みぃ?・・・あまり見ても面白くないのですよ・・・」 後ろを向いてしまう梨花ちゃん。 確かにレナや魅音と違って、あまり起伏というものがないが、それが大事なんだよ! 「俺は十分面白いけどなー」 「梨花ちゃんはかぁいいんだよ!だよ!」 「みー・・・」 本人が気にしている所がまたツボだ。 詩音はブラとパンスト姿。 もちろん、俺の選択は――――。 「( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!ブラを取るんだ( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!」 「仕方ありませんね・・・この自慢の乳をせいぜい目に焼き付けなさい!」 バッ!と思い切り良く外された下着が宙を舞う。 白日の下にさらけ出された二つの大きな塊には男の夢や希望がぎっしりと詰まっているに違いない。そして、中央には――。 あれ?あるべきものが見当たらなくて、俺は目を凝らす。 「どうしたんですか~?ニプレスなんて常識ですよー?」 夢の山頂は二つの小さな丸い物体で封印されていたのであった・・・。 と、がっかりするのはまだ早い。ほとんどモロだしには変わりないのだから、この機会にしっかり目に焼き付けておこう。 ボヨン。ん?腕に弾むような感触が。 「圭ちゃあ~ん、詩音ばっかり見てないでおじさんのも見てよぉ~」 「ボクの平らなお胸はどうなのです~☆」 ふに。うお。反対の腕にはまた青い果実の甘酸っぱい感触が・・・。 「レナも混ぜて~。はぅ~圭一くんだってかぁいいんだよ~?」 すりすり。 股間に違和感。 ど、どこに頬摺りしてるんだレナぁ~~~!!! 「――沙都子」 「これでも喰らえですわぁ~!!!」 詩音の合図で俺たちはタライの山に埋められた。 「ふぇえええええええええ!!?」 「終わりですね。お姉」 魅音は最後に残った紐パンを、半泣きでゆっくりと脱ぐと、その場にへたり込んだ。 「はぅ~!!!!!」 ばったり。 ブラを外して力尽きたレナ。 沙都子と魅音が部屋の隅へと引きずっていく。 勝負は、俺と梨花ちゃんと詩音の三人に絞られた。 「よい!!!!」 梨花ちゃんと詩音がチョキ、俺は・・・パー。 今は再びブルマ姿。靴下も上着ももはや無い。 「圭ちゃん~?」 「圭一~?」 みんなの期待に応えて俺は――。 「――やりますね」 「みぃ」 「いや~、日本人なら褌だよなー!身も心も引き締まるぜー!」 褌一枚で仁王立ちする俺。見た目だけならブルマよりも遥かにましだ。 「褌はやっぱりあの食い込みだよねぇ」 「はぅ~。圭一くんのお尻かぁいいよ~」 背後から身の危険も感じるが。 何度か際どい勝負が続いた後、再び俺にピンチが訪れた。 「さあ、圭ちゃん。度胸を見せて下さい」 「みぃ。決心がつかないなら、ボクが手伝ってあげるのです」 「それには及ばないぜ・・・。よくここまで来たもんだ・・・」 ゆっくり紐を解く。 「だが、まだ終わっちゃいねえ!!!」 みんなの目が点になる。 俺の股間には紐を通した葉っぱが一枚。 あらかじめ柏餅用の葉っぱをこっそり仕込んでおいたのだ。 「・・・くすくすくす。あっはっはっははははははははは!!!面白い、面白いわ、圭一!!!あなたはどこまで私を楽しませてくれるのかしら!?おいで、葉っぱ男。――遊んであげるわ!!!」 「みぃーーーーーーーー!!?」 激戦の末、とうとう梨花ちゃんが脱落した。 もはや上だけになったビキニを脱ぐ。けだるい仕草が妙に色っぽい。 「やっぱりあのセリフは負けフラグよね・・・」 その場に体育座りをして見物に回る梨花ちゃん。 残る敵は詩音のみ。 静寂が訪れる。 衆人環視の中、俺と詩音は最後の封印、葉っぱとニプレスの存亡をかけて、最終決戦に挑む!!! 「覚悟しろ、詩音!そのいまいましい代物は俺様がじきじきに剥ぎ取ってやるぜぇーーー!!!!!」 「ふっ!圭ちゃんこそかぁいいオットセイの虫干しの準備はいいですかぁ~!!!?」 「野球~す~るなら!こういう具合にしやしゃんせ~」 グーか?チョキか? 「アウト!」 それともパーか? 「セーフ!」 選択肢は三つだけ。 「よよいの・・・」 シンプルなルールだからこそ先が見えない。 「よいッ!!!!!」 勝負だ詩音ーーーーーーーー!!!!!」 光がまぶしい。 「ん・・・?」 もう朝か。 夕べは楽しかったな。 綿流しの日以来の大騒ぎ。 何だかスースーする。 ああそうか。 結局全裸のままで寝てしまったのか・・・って、え!? 目を開けた俺は異様な状況に気づいた。 魅音と詩音が両腕にぶら下がっている。 梨花ちゃんは横にくっついており、レナは・・・頭を下にして、こっちに尻を向けていた! いや、沙都子が股間に頭を乗せているのに比べれば大したことでは――。 「ふ、ふええええええええええ!!?」 「はうーーーーーーーーーーー!!?」 決定的な問題は、全員が全裸ということだ。 ほぼ同時に魅音とレナの悲鳴が上がる。 「うーん・・・。にーにー・・・」 「うるさいですねぇ・・・。夕べは遅かったんですから、もうちょっと寝かせて下さいよぉ・・・」 魅音とレナは飛び起きると、ほれぼれするようなスピードで服を着始めた。 「ぎゃあああああああああああッ!!!何するんですのこの変態ッ!!!!!」 沙都子に蹴りを入れられながら、梨花ちゃんを起こす。 「起きろ、梨花ちゃん!あれから何があったんだ!?」 「みー・・・。優勝は・・・」 ゆさゆさと揺さぶられ、目を閉じたまま梨花ちゃんは夕べの出来事と語った。 二つの拳はグーとパー。 勝ったのは・・・。 「もらったああああああああああああ!!!!!」 「ひぎぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!」 詩音が葉っぱをもぎ取った。 「圭ちゃんのオットセイは元気だったかなぁ~?くっくっく!!」 「お持ち帰りぃ~!!!」 「オットセイさん、こんにちわなのです」 「やめてー。つつかないでー。らめええええええええ!!!!!」 「商品は頂きましたよ!あははははは!!!」 「ふわああああああああああん!?」 ドタバタ。 こんな調子で大騒ぎの中、長かった戦いは終わりを告げた。 「ふう・・・。一人だけ仲間外れというのも寂しいもんですねぇ。ええい、こんな物取っちゃええええええええ!!!」 ついに詩音までが自らニプレスを剥がして騒ぎに加わった。 しばらくみんなで全裸のまま追いかけっこをしていた記憶はあるが・・・。 「詩ぃの勝ちなのです~・・・。沙都子は一週間詩ぃのペットなのです~・・・」 「いやあああああああああ!!!」 沙都子の悲鳴で、梨花ちゃんがぱっちりと目を開ける。 目の前の全裸の俺に目を見張り、自分の体を見直すと急激に蒼ざめ――台所に逃げ込んだ。 魅音も服を着ると、何も言わずに涙を振りまきながら外へ飛び出して行った。 「た、楽しかったね・・・。えへへへ」 レナも取り繕うように照れ笑いをしてそそくさと帰ってゆく。 げしげし。 沙都子に蹴られながら着替えをする。 着替え終わった詩音が沙都子に服を着せていた。 「変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!」 「はいはい沙都子ぉ~。変態の圭ちゃんは放っておいて、一緒にマンションに帰りますよぉ~」 「・・・みぃ~。誰か、ボクの服を取って欲しいのです・・・」 台所から梨花ちゃんの哀れな声がする。 「これかぁ?」 「みぃッ!?近寄らないでよッ!!!」 「え!?別に何も見てな」 「梨花に何する気ですのこのド変態めええええええええええええッ!!!!!」 ドラップの嵐が吹き荒れる中、俺の意識は再び闇に落ちていった・・・。 「レナ・・・私もう学校行けない・・・」 「魅ぃちゃん、忘れるんだよ・・・だよ・・・」 階上の騒ぎをよそに傷を舐めあう二人。 だが、この「誕生日裸祭り事件」は、その後も忘れられない思い出として長く語り継がれ、 ことあるごとにほじくり出されてはみんなの古傷をえぐるのであった・・・。 終わり
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まず最初に放たれたのは、龍の神威とも呼ぶべき空震だった。 蘆屋道満が取り込んだ龍の心臓。 大元である龍脈の龍は斯様な能力は有していなかった。 しかし今、その力・性質を担うのは天下にその悪名轟き渡る法師道満。 神は祀り、鎮めるもの。拝跪し、畏れ、敬うもの。 正しく祀り、収め、人にとって都合のいい福音を吐き出す存在に零落させるのは陰陽師の仕事の一つだ。 道満が今しているのもそれに似ていたが、しかし度合いで言えば数段は冒涜的だった。 何しろ彼は今、龍脈の龍という原典を単なる炉心としか見ていない。 龍の心臓を荒駆動させて余剰を濾過して力のみ引きずり出し、その上で自らが望む容(カタチ)に無理やり当て嵌め酷使している。 「なりませんな、神へ刃を向けるなぞ失敬千万。ゆえ罰を与えましょうぞ――このように」 その結果として生み出されるものは、付近一帯を更地に変えるほどのエネルギーの炸裂だった。 空震。いや、もはや魔震とすら呼ぶべきか。 地脈に眠る龍ならばこれくらいはして貰わねばという身勝手極まりない増長と願望が現実の悪夢と化して形を結ぶ。 直撃すればサーヴァントであろうと五体が拉げる一撃に、九頭竜討伐に名乗りを上げた三人は素早くそして利口に対応した。 「門よ」 アビゲイルの片手にいつの間にか握られていた巨大な鍵。 それが虚空へ、他者を主とする領域の内である事なぞ知らぬとばかりの我が物顔で潜り込む。 ガチャリと鍵穴の回る音がした。 次の瞬間、虚空が宇宙とも暗闇ともつかない無明の冒涜を記した口蓋を開ける。 龍神の生んだ震動はそこへ呑まれ、アビゲイル及び最も対抗手段に乏しい伏黒甚爾を魔震の脅威から遠ざけた。 一方で救済策から外された宮本武蔵は動ずるでもなく迷わず直進。 震動という形のない脅威の輪郭を捉えているかのように過たず、桜舞う剣閃でこれを切り裂く。 壮絶な破砕音は万象呑み込む龍の怒り――リンボが斯くあれかしと捏造した偽りの神威が粉砕された音に他ならない。 「とんだ悪食ね。ゲテモノ食いも大概にしなさいな」 「これはこれは…いや、素晴らしい。神明斬りとは。原初斬りの偉業は大層実になったようで」 第一陣は突破。 しかしリンボの顔に焦りはない。 人を小馬鹿にしたような微笑みを湛えながら拍手の音色を空ろに響かせている。 「まぁそれも詮なき事か。下総に始まり希臘に至るまで、随分と入れ込んでおりましたものなあ。 どうです。なかなかどうして心地良いモノでしょう? 誰かの心に消えない傷を残すという所業は」 悪意の言葉を吐きながらけしかけたのは、祭具殿の残骸から浮上した髑髏の怨霊だった。 武蔵の脳裏を過るのは下総の国にて、過去にこの陰陽師が呼び出し使役した名無しの大霊。 成程確かに土地も合っている。 此処は東京、古今東西あらゆる武士の魂が眠る場所。 界聖杯により再現された熱のない贋作だとしても、見る者が見れば因果因縁に溢れた絶好の畑だ。 峰津院大和が其処に着眼し霊地の獲得に舵を切ったように。 この厭らしい陰陽師も彼に学び、土地そのものを武器に変えた。 「勘違いしないで頂戴な。今此処にいる私は、あの子のサーヴァントではないの」 それに対して武蔵は驚きすらしない。 過去を、今はもう瞼を閉じて思い馳せるしか出来ない遠い記憶を。 あえてなぞる事で心を削りに来るなんていかにもこの生臭坊主がやりそうな事ではないか。 だから、かつて世界を救う旅路に力添えした人斬りの女は毅然と答えた。 「大業を遂げ、空にも至り。後は泡と消え去るだけの亡霊なんか引き寄せてしまった娘が居るのよ。 私が今こうして剣を握り、貴方に挑んでいる理由はあの子の為。他の誰の為でもないわ」 そういう意味では似ていると思う。 身の丈に合わない運命と宿命を背負わされて、それでも業に呑まれることなくもがき苦しむ女の子。 …だからかと少し納得した。 だからこんなにも彼女の下で振るう剣は手に馴染むのだ、きっと。 「それに…消えない傷を残されたのは何も私だけじゃないでしょう。 貴方がこんな辺境の戦に参戦しているなんて、つまりそういう事としか考えられないものね。異星の神の尖兵さん」 「ンン!」 迫る大霊の腕。 精神を冒し魂を穢し凶死させる呪詛はしかし、かつて相見えた真作に比べれば数段も劣る紛い物。 ――遅い。そして浅い。 ならば一体何を恐れろというのか。 新免武蔵、ただ前へ。 そして振るう、桜花の太刀。 怨念一閃。 宿業両断。 刹那にして辺獄の大霊を斬殺し、主であるリンボの首に向け白刃を迸らせた。 「…ええ、認めましょう。この拙僧……御身亡き後、あの小娘めに敗れ去った。 蜘蛛糸の如き奸計は水泡と帰し、正義を気取る若僧の黄金の前に確かに爆散しました」 下総の時とは比べ物にならない太刀の冴え。 神を斬り混沌を斬り桜花に触れて磨き上げた一刀はまさしく真打。 触れれば断つ。 触れずとも斬る。 今、新免武蔵は間違いなく剣豪として一つの極点に達している。 だが。 「です、がァ――」 粘つく悪意が清らかなものを阻む。 神の瘴気か龍の神気か。 リンボは今、武蔵の一刀をその右手一つで阻んでいた。 武蔵の眦が動く。 これほどか。 これほどまでに極まったか、悪党。 その絶句に応えるように肉食獣は牙を剥いた。 「悪党とは懲りぬもの。業とは決して癒えぬもの。 この拙僧、生憎と諦めの二文字を知りませぬ。卒業の二文字を知りませぬ。 ましてやそこにかくも芳しく香る災禍の予兆があるというのに、一体どうして伸ばす手を止められようか!」 「づ…!」 炸裂する神気が武蔵の体躯を軽々弾き飛ばす。 防御も迎撃も許さない一撃は最初の魔震が単なる小手調べに過ぎなかった事を物語っていた。 その隙を突くべく、音速にすら迫る速度で走るは天与。 無策の突撃ではない。 彼は確かにこの場に揃った三者の中では最も能力で劣っていたが、しかし己しか持ち得ない強みを自覚していた。 一つは言わずもがな呪力の不所持による透明化。 迎撃一つするにも視覚での認識と反応を要求する点。 そしてもう一つは、抜く事さえ許されれば天衣無縫と呼ばれるモノにさえ届く呪具の数々を有している事。 “釈魂刀の斬撃はあらゆる防御を参照しねえ。龍だろうが羅刹だろうが触れれば斬れる” リンボの冷眼が甚爾を捉える。 だが軌跡だけだ。 本気の甚爾はサーヴァントの視覚など容易に振り切る。 現にこの場には彼を対象にしたと思しき束縛の呪詛が溢れていたが、それら諸共に斬り伏せて進む武蔵、自前の術で対処できるアビゲイルとは違い、甚爾は単純に脚力に任せてそれを引きちぎり進んでいた。 残像を認識するだけで精一杯の高速移動を繰り返しながら、鎌鼬宜しくすれ違いざまリンボの首をなぞらんとする。 しかし禍津日神を僭称する悪神道満は――それさえ一笑。 「曲芸で神が獲れるものか」 速く動く蝿を箸で捕らえようとするから苦労する。 蝿を潰したければ、炎を焚いて燻り殺せばいいのだ。 「目障りな猿には、どれ、毒など馳走してみよう」 次の瞬間。 甚爾は自身の生命力が肌から霧散していくような得体の知れない感覚に襲われた。 黒き呪力が霧のように、それでいて花畑を舞う蝶のようにリンボを中心に溢れ出している。 “呪霊とは違うな。神霊の類…それも日本のものじゃない。吸い上げて弱らせる黒曜色の呪力と来れば――” 甚爾は呪力を持たない。 だからこそ体力を削られる程度で済んだが、これがアビゲイルや武蔵であったならそうは行かなかったろう。 これは純粋な生命力だけでなく魔力も呪力も…とにかく対象が内包しているありとあらゆる力を吸い上げる貪食の呪いだ。 ましてや高専の等級で換算すれば間違いなく特級相当だろう神の吸精だ、生易しい訳もない。 事実甚爾でさえ数秒と長居すれば致死域まで削られると、あの僅かな時間でそう確信した程だった。 「南米。アステカ辺りか?」 「ほう。知識と見る目はなかなかどうして」 「ゲテモノ食いの神が人間の成れの果てに喰われたか。皮肉なもんだな」 甚爾の推理は当たっている。 蘆屋道満がその霊基の内に取り込んだ神の一体。 暗黒神イツパパロトル。 太陽の楽園にて黒曜石の蝶を侍らせたアステカ神話の女神。 奪い、平らげる事をあり方の一つとして持つ神も今は悪僧の腹の中。 ハイ・サーヴァント…リンボの素性を一つ見抜けたのを収穫として甚爾は利確する。 纏わり付く蝶を撒いて後退しながら、追撃に放たれた黒炎の狐数匹を撫で切りにした。 「侍。オマエ、あの生臭坊主と知り合いみたいだな」 「ええ。知り合いというより宿敵ね。やり口は嫌という程知ってるけど、足しになるような情報はあんまり」 「アイツは神霊の核を取り込んでやがる。可笑しいと思ったぜ、只の坊主にしちゃ幾ら何でも出鱈目すぎるからな」 「…マジ? うぇえええ…悪食にも程があるでしょそれ……」 蘆屋道満は確かに優れた術師である。 生前の段階ですら、かの安倍晴明が認めた程の力量を持った法師であった。 しかしこの界聖杯で跳梁跋扈の限りを尽くすこの"リンボ"は、それにしたってあまりに節操がない。 単なる術師としての優秀さだけでは説明の付かない不可思議を幾つとなく引き起こしていた。 サーヴァントの領分を超えた生活続命法。 話に聞く窮極の地獄界云々とて、明らかに真っ当な英霊では不可能な無茶を通す事を前提とした野望だった。 不可思議とは思っていたが、蓋を開けてみれば何という事もない。 最初から真っ当な英霊などではなかったというだけの事。 「別人格(アルターエゴ)とはよく言ったもんだ。その時点で気付くべきだったな」 「情報提供感謝するわ。本当なら私の因縁、一対一で果たしたい気持ちはちょっとあるんだけども」 「其処は諦めてくれ。ウチのクライアントもアレには恨み骨髄でな、絶対ブチ殺して来いと仰せなんだわ」 それに、と甚爾。 言葉の続きを待たずして無数の羽虫が空を埋めた。 まるでそれは黒い暴風雨。 聖書に語られる蝗害の悪夢のように、狂乱した陰陽を喰らうべく異界の眷属が狂喜乱舞する。 「な、この通りだ。俺としては生臭坊主の処断なんざ誰がやっても構いやしねえんだが」 虚ろな顔に、仄かな笑みを浮かべて。 鍵を指揮棒(タクト)に捕食を主導する金毛の巫女。 羽虫の群れが払われた途端、次は触手が這い回る。 波濤の勢いで溢れて撓るそれは鞭のようにリンボを打擲する。 英霊一人原型残さず砕き散らす事など容易なその波が、ケダモノのシルエットを呑み込んだ。 「あは」 恍惚と法悦を虚無の中に織り交ぜて。 嗤う幼さは妖艶なる無垢。 其処には既に、透き通る手の女が生きていた頃の彼女の面影はない。 無垢に色を塗り。 清廉に別れを告げ。 信仰の形さえ、歪みと無念の中に溶かした降臨者(フォーリナー)。 「教えてあげるわ。色鮮やかな悪意のあなた。 私の祈りが、満たされることを知らないあなたの秘鑰になればいい」 異端なるセイレム。 この結界のベースになったある寒村に酷似した穏やかで残酷な村に生まれ落ちた魔女の卵。 最愛の主との離別と、彼女を思う人間への負い目。 そして渦巻く怒りと後悔を肯定された事が卵の殻に亀裂を入れた。 いざ此処に魔女は産声をあげる。 救うと豪語しながら痛みを振り撒く矛盾の魔性。 彼女の鍵が天高く掲げられ、次の瞬間駄目押しに触手が落ちてきた。 「イブトゥンク・ヘフイエ・ングルクドゥルゥ」 紡がれる冒涜の祝詞。 祝福と共に墜落した大質量はリンボの全身を余す所なく押し潰し圧殺するに十分な威力を秘めている。 質量による力押し。 神を潰すならば同じ神を用いればいいのだと、幼い故の直情的発想が此処に最上の形で具現化した。 だが―― 「急々如律令」 触手の真下から響く声がある。 刹那、彼を覆う触手の全てが爆散した。 姿を現すは禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満。 血の一滴も流す事なく悠然と佇む姿は、まさに神の如し。 「素晴らしきかな、そして美しきかな虚構の神よ。 それもまた拙僧が描く地獄の理想像の一端を体現しておりますが…」 アビゲイルが鍵を振るう。 リンボが爪を振るう。 火花を散らしながら削り合う異端と異形。 一見すると互角に見える。 だが、明らかに余裕が違った。 じゃれつく子供とそれをあやす大人のような。 そんな、努力と工夫では埋め難い絶対的な差が両者の間には垣間見えている。 「遅きに失したな外なる神。全にして一、一にして全なる貴殿。 人と神の混ざり物、成り立ての魔女如きではあまりに役者が足りぬよ」 空を引き裂く神の手足。 それは確かにリンボの腹に着弾した筈だった。 にも関わらず、極彩色の獣は揺らぎもしない。 たたらさえ踏む事なく、素面の耐久のみで受けてのけた。 もはや物理においてすらリンボに隙はない。 耐久無視の釈魂刀のような例外を除けば皇帝、混沌…その領域に入って初めて痛痒を与えられる次元。 まさに怪物。まさに悪神。 背後に背負った骸の九頭竜が、瘴気を撒き散らしながらその顎を大きく開ける。 「吠え立てよ、龍よ」 「――っ」 零距離での龍震の炸裂。 咄嗟に防御の為の触手を呼び出しはしたものの、それでも巫女の痩躯は無残に吹き飛んだ。 桃色の唇を、真紅の血が艶かしく濡らす。 「とはいえ一時は拙僧を魅了した全知の門。その神聖に敬意を示し――ンンンン! 大盤振る舞いにて見送りましょう!!」 リンボはすぐさま追撃の為、総数にして数百にも達する呪符を出現させる。 アビゲイルを取り囲む紙々の舞。 それは宛ら紙の監獄塔だ。 しかしその用途は戒めに非ず。 捕らえた罪人を、祓われるべき悪徳を消し飛ばす抹殺の法に他ならぬ。 …銀の鍵の巫女は空間を超える権能を持つ。 故に監獄ではアビゲイルを捕らえられない。 だがそれが彼女の為の処刑場であり火葬場であるならば―― 「破ッ!」 巫女が空間を脱けるよりも、妖術の極みのような火葬塔が焦熱地獄と化す方が早い。 強化された霊基でも耐える事はまず不可能だろう超高熱の檻の中に取り残されたアビゲイル。 そんな彼女を救い出したのは、既の所で塔そのものを一刀両断した宮本武蔵であった。 「ありがとう、お侍さん。危ない所だったわ」 「そういうのは後! 今はとにかく目の前のアレを何とかしましょう。 言っておくけれど、首を取るのは早いもの勝ちよ。私も私であの御坊には煮え湯飲まされてきたんだから」 「勿論。恨みっこなしで行きましょう」 邪魔をするなとばかりに武蔵へ迸った魔震。 それを今度は、アビゲイルが触手を数段に折り重ねた防御壁を形成する事でカバーする。 暴穹の飛蝗を思わす勢いと密度で敵を喰らう羽虫を召喚する巫女に、女侍は相乗りする事を選んだ。 羽虫の波に身を沈ませ、自身の気配や魔力を彼らをチャフ代わりにして隠蔽。 リンボの感覚の盲点に潜り込みながら天眼を廻し一斬必殺の斬撃を叩き込むべく颶風と化す。 「流石は音に伝え聞く二天一流。節操のない事よ」 嘲りはしかし侮りに繋がらない。 リンボは知っている、二天一流の強さと恐ろしさを。 手塩にかけて拵えた英霊剣豪を討ち倒し、己が陰謀を砕いた忌まわしき女。 結果的にリンボが彼女と再び相対する事はなかったが。 依然としてリンボは自身に引導を渡した黄金のヒーローよりも、この麗らかな人斬りの方をこそ真に厄介な敵だと認識していた。 「であればどれ、拙僧は大人げなく行きましょう」 だからこそ油断も慢心も捨て去る。 格下が相手なら隙も見せよう、驕りも覗かせよう。 だが天眼の光、死線を駆ける女武蔵の冴えが相手となれば話は別だ。 リンボの周囲に顕現する無数の光球。 臓物に似た悍ましいまでの赫色を宿したそれは、魔と呪をありったけ練り込んだ呪符を核に造られた即席の黒い太陽だ。 太陽だけで構成された闇の星空。 それが芽吹くように感光するや否や、数にして千を優に超える数の光条が全方位へと迸った。 「「「――!」」」 そう、全方位だ。 波を形作る羽虫を鏖殺しつつ其処に潜んだ武蔵を狙いつつ。 今まさに新たな触手を呼び出そうとしていたアビゲイルを撃ち抜かんとし。 背後から迫っていた甚爾に対してもその五体を蜂の巣に変えんと光を放つ。 さしずめ凶星の流星群。 掠めただけでも手足がちぎれ飛ぶ星の追尾光も、今のリンボにとっては単なる余技の一つに過ぎない。 その証拠に―― 「凶風よ、吹けい」 漲り煮え立つ呪の風が、災害そのものの形で吹き荒れる。 凶兆、凶象…その全てが今やリンボの思うまま。 そんな呼吸するだけでも死に直結する地獄絵図の中でも、しかし天与呪縛の男は流石だった。 呼吸を完全に断ちながら風圧を引き裂いて吶喊する。 間近まで迫った上で振るう刀身は、速度でなら武蔵の振るう刀にすら決して引けを取らない。 術師殺しはは技の冴えを重要視しない。 剛力を載せて超高速で振り抜く、効果的な斬撃を放つにはそれだけで充分なのだから。 だが…… 「ンン。まさに、馬鹿の一つ覚えよな」 リンボは当然のように刃の軌道を見切りながら、己に迫る死に対して笑みを浮かべた。 この男ならば来るだろうと思っていたからだ。 そしてその上で待ち受けていた。 煮え湯を飲まされたままでいる程癪に障る事もない。 “――カウンターか? いや…” 訝む甚爾だったが、その疑問に対する答えはすぐに出された。 リンボの背後。 九つの龍骸が並ぶ向こう側に、絶大な存在感を放つ黒い人形が立ち上がったのだ。 呪霊操術という術式がある。 読んで字の如く、呪霊を操り使役する術式だ。 極めれば呪霊の軍隊を率いての国家転覆すら不可能ではない、数ある術式の中でも容易に上位一握りに食い込むだろう規格外の力。 甚爾はかつてその使い手と相対し、その上で正面から打ち破っている。 だがその彼をしても――今リンボが出した"これ"は、呪霊だの祟り神だのとは全く格の違う存在であると断言出来た。 「黒き太陰の神。名をチェルノボーグと言いまする」 チェルノボーグ。 それはスラヴ神話に語られる、夜、闇、不幸、死、破壊…あらゆる暗黒を司る悪神。 呪霊等とは次元が違う。文字通り世界そのものが違って見える程の隔絶感があった。 「猪口才な猿の曲芸、存分に試してみるが宜しい」 次の瞬間、甚爾は強烈な衝撃の前に吹き飛ばされた。 ただ飛ばされたという訳ではなく、不可思議極まる力で以て殴り飛ばされたに等しい。 即座に跳ね起きようとする彼の頭上に影がかかる。 見上げればそこには既に巨腕を振り下ろすチェルノボーグの姿があり、甚爾は釈魂刀を盾に受け止めるしかない。 真上から押し寄せる衝撃と重量は如何に彼が超人と言えども涼しい顔で受け切れる次元ではなかった。 骨肉が軋む。皮下の血管がブチブチと千切れていくのが分かる。 游雲を抜いていなかった事を悔やむ甚爾は身動きが取れず、それを良い事にリンボが迫った。 「ンンンンン! 無様!」 「ッ……!」 繰り出す掌底。 掌に呪符を貼り付けて放つ一撃は甚爾の内臓を容易に破砕した。 腹を消し飛ばされなかったのは咄嗟に身を後ろに引き、どうにか直撃だけは避けた機転の成果だ。 それでも完全に威力を殺し切る事は出来ず、粘り気の強い血を吐いて地面を転がる。 「死ねェいッ!」 肝臓と脾臓が砕け散ったのを感じながらも甚爾の動きは迅速だった。 地を蹴り真上に逃れる。 地面を這う呪の濁流に呑まれるのを防ぐ為だ。 だがそれすら知っているぞと嗤いながら、リンボの呪符が付き纏う。 呪具を切り替えるには状況が悪い。 多少の被弾は承知の上で、刀一本で全て斬り伏せるしか甚爾の取れる選択肢はなかった。 呪符に描かれた目玉が赤く輝き…そして。 「…!」 伏黒甚爾の脇腹が弾けた。 飛び散る鮮血。 優越の笑みを浮かべるリンボ。 しかし追撃は成せなかった。 流星群を斬り伏せながら猛進してきた女武蔵が、呪符数百を鎧袖一触に薙ぎ払って剣閃を放ったからだ。 「おぉ、怖い怖い。流石は宿業狩り。七番勝負を踏破した恐るべき女武蔵と言う他ない」 既に武蔵の剣は鋼の銀色を超克している。 夜桜の血と繋がり、真打の桜に至った事を示す桜色の太刀筋。 剣呑さは美しさに幾らか食われたが、それは脅威度の低下を意味しない。 寧ろ真逆だ。 宿業両断はおろか、神と斬り結んだギリシャ異聞帯の時分よりも彼女の太刀は遥かに高め上げられている。 「神の分霊になぞ頼っていられぬ。貴様の相手は、この拙僧が手ずからしなくてはなァ」 この場において最大の脅威は間違いなく新免武蔵である。 リンボはそう信じていたし、だからこそ彼女に対しては一切驕らなかった。 イツパパロトルやチェルノボーグに頼るのではなく自らが出る。 それは裏を返すまでもなく、禍津日神たる自分自身こそが最大の戦力であるという自負ありきの行動に他ならず―― 「はああああああッ!」 「ンンンンンンン!!」 そして現にリンボは、一介の法師でありながら空の極みに達した剣豪と接近戦を演じる離れ業を実現させていた。 用いるのは自らの呪と、遥か異郷の地で会得した仙術。 無敵の自負を抱くに十分なそれらに加え龍脈の力で更に倍率をかけた肉体だ。 三位一体の自己強化はリンボを真の魔神に変える。 現に彼より遥かに技巧でも速さでも勝る筈の武蔵だが、その顔には三合ばかりしか打ち合っていないにも関わらず既に苦渋の色が滲んでいる。 “此処まで高めたか、蘆屋道満…!” 重い。 硬い。 先に斬り伏せた大霊はおろか、伏黒甚爾を吹き飛ばした神の分霊とすら格が違う。 オリュンポスで目の当たりにした機神達にも比肩、ないしは上を行くだろう重さと硬さは悪い冗談じみていた。 「硬いでしょう。それも当然。 鉄囲山の外鎧。そして僧怯の大風…これなるは法道仙人めより掠め取った仙術の粋。 ンン、感じますぞ。これまでの巡り合わせ、鍛錬、試行錯誤! そのすべてが拙僧を野望の高みへ押し上げてくれている!」 「らしくない台詞はやめて頂戴、槍が降るわ。どうせ最後はすべて踏み潰してしまうんでしょう?」 「当然。並ぶモノなき久遠の地獄絵図を描き上げ、万物万象へ阿鼻叫喚の限りを馳走する事。それこそが拙僧の伝える感謝の形なれば」 「でしょうね! 相変わらず、救えないヤツ…!」 迫り合いを長く続ければ腕が砕ける。 現に今のだけでも、武蔵の右腕は罅割れていた。 にも関わらず戦闘を続行出来ている理由は、古手梨花から流れてくる夜桜の力。 初代夜桜との同調を果たした梨花は武蔵にとって、劇的なまでの力の源泉と化していた。 片手の骨折程度の傷ならば忽ち癒せてしまうくらいには。 これでも武蔵に言わせれば十二分にズルの境地だというのに、初陣がこんな怪物となればそれも霞んでしまう。 リンボの徒手を桜花の刀で防ぎ。 隙を抉じ開けて刺突を七つ。 それを凌がれれば本命、左右同時の逆袈裟二刀撃。 神をも斬り裂く剣を呪符が阻み、役目を終えたこれが音を立てて爆裂する。 「づ…!」 熱波を直に浴びて顔が焦げる。 癒えていく最中の視界でリンボの背後に、剣を携えた黒い女神が立ち上がるのを武蔵は見た。 「そうれ、隙あり」 イツパパロトルの一閃を止めた瞬間、武蔵は悪手を悟る。 “そうか、こいつ…黒曜石の……!” 黒曜石の蝶を侍らす楽園の導き手。 その剣も当然、強力な吸精能力を宿しているのだ。 手足の力が拔ける。 分霊とはいえ神は神。 夜桜の力さえ上回る速度での吸精に、武蔵の手足から力がガクリと抜けた。 「――唵!!」 禹歩で呪の効力を高め真言一喝。 武蔵が瞠目した。 見えなかったからだ。 見切れなかったからだ、リンボの歩みを。 その代償として真紅の呪が武蔵の総身を丸呑みにする。 咄嗟に刀を構え、二天一流の手数を活かして切り裂き即死は逃れたが、しかしこれさえリンボにとっては予測の内。 当然。 相手は新免武蔵。 神に逢うては神を殺し、仏に逢うては仏を殺す悪逆無道の英霊剣豪を撫で切りにした人斬りの極み。 猿を殺し巫女を封殺できる程度の業で屠れるのならばあの時苦労はしなかった。厭離穢土は遂げられていたのだ。 「等活、黒縄、衆合、叫喚、大叫喚、焦熱、大焦熱、無間――」 怖気の走る詠唱は祝詞ですらない。 それは列挙だ。 人が悪業を抱えて死ねば堕ちるという死後の形、その形相の羅列。 武蔵としても聞き覚えがあるだろう名前も幾つかあり、だからこそ彼女は其処から特大の不吉を感じ取らずにはいられなかった。 「――デカいのが来るわ! 各々、死ぬ思いでなんとかして!!」 武蔵が叫んだ事にきっと意味はなかった。 甚爾もアビゲイルも、その時には既に彼女同様嫌な予感を覚えていたからだ。 呪いが渦を巻く。 冒涜が練り上げられる。 地獄が形を結ぶ。 衆生が住む閻浮提の下、四万由旬の果てへと堕ちる奈落の旅路が幕を開ける。 「堕ちよ――――遥かな奈落、八熱地獄へ!!」 名付けて八熱地獄巡り。 呪の限り、熱の限りがのどかな村の一角を吹き飛ばして三騎の英霊達を焼き払った。 これこそがアルターエゴ・リンボ。 否、禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満。 髑髏烏帽子ならぬ戴冠新皇。 九頭竜を従え。 黒き神を喰らい。 盟友を侍らせ。 そして呪の限りを尽くす、極彩色の肉食獣。 故にその理想の具現たる八熱地獄はすべての英霊にとって致死的なそれ。 逃れられる者など居ない――普通なら。 しかし忘れるな、リンボよ。 しかし侮るな、蘆屋道満よ。 この地に集い、熾烈な予選と数多くの激戦を潜り抜けて二度目の朝日を拝んだ者達はそう甘くない。 その証拠に。 八熱地獄の赫を引き裂きながら現れたのは、アビゲイルが行った再びの宝具解放により呼び出された触手の渦であった。 「ぬ……!?」 リンボが瞠目する。 今のは確かに渾身の呪を込めた一撃だった。 視界に入る全て、猿も巫女も人斬りも皆々焼き払う心算の大地獄だった。 だというのにこの小娘は。 よもや―― 「馬鹿な…有り得ぬ! アレを……あの熱量を内から食い破っただと!?」 「駄目よ、東洋のお坊さま。地獄(インフェルノ)だなんて僭称したら、神様もきっとお怒りになるわ」 「ほざけ小娘がッ! この拙僧に地獄の何たるかを語るか!!」 規格外の事態に唾を飛ばすリンボ。 その傲慢を窘めながら、アビゲイルは八熱地獄の火力を破って尚余力を残した触手で彼が展開した呪符を悉く押し流した。 殺到する触手は一本一本が外なる神の触腕。 格で言えばリンボの扱う黒き神々にすら勝る絶対と無限の象徴。 さしものリンボも冷や汗を流し、件の二神を顕現させて足止めに使う。 チェルノボーグ、イツパパロトル。 強さで言えば流石の一言。 アビゲイルの宝具解放をすら押し止める働きを果たしていたが、攻防の終わりを待たずして動く影がある。 「手酷く言われたわね、リンボ」 「ッ――新免、武蔵ィ!」 「百聞は一見に如かず。地獄の何たるか、自分の眼でしっかり見て来なさい」 花弁と共に駆けるは武蔵。 神速の太刀筋は今のリンボなら決して対応不能のそれではない。 だが、だが。 アビゲイル・ウィリアムズ、銀の鍵の巫女の無限に通ずる宝具を相手取りながらでは話も変わる。 「…急々如律令!!」 リンボが選んだのは武蔵に取り合う事の放棄。 今や此処ら一帯が己の陣地と化しているのを良い事に地へ埋め込んだ呪力を地雷宜しく爆発させた。 そうして武蔵の進撃を無理やり押し止めつつ、自分は宙へと逃げる。 二柱の黒き神は強力だ。 普通ならばサーヴァントの宝具解放が相手であろうと押し負けはすまいが、しかし今回の相手はアビゲイル・ウィリアムズ。 すべての叡智とすべての空間へ繋がる"門"の向こう側に坐す"全にして一、一にして全なる者"の巫女。 彼女に限っては万一の危険性が常に同居している。 だからこそ念入りに、抜かりなく。 最上の火力で以って相対さねば、禍津日神と化した今の己でさえ予期せぬ一噛みを食らいかねない。 そう考えて空へ逃れたリンボの更に上へと――躍り出た影が一つある。 「よう。そんな成りになっても猿の一匹上手く殺せねぇんだな」 「…ッ! 貴様――」 伏黒甚爾。 この場では間違いなく最も劣った、それでいて最も可能性を秘めた猿だ。 先の一合で力押しは不可能と理解した。 武蔵とリンボが打ち合う光景を見てその感情は更に強まった。 彼は天与呪縛の超人。 生身一つで百年の研鑽をもねじ伏せる規格外。 しかしあくまで超"人"、天変地異を拳一つで調伏出来る程の可能性は持たない。 甚爾はそれをよく理解している。 挫折と劣等感に満ちた幼少時代を経て術師殺しに成った彼が、それを知らない訳はないのだ。 だから潜んだ。 敵が繰り出した地獄の炎すら隠れ蓑に使った。 呪殺ないし主従契約を書き換えられる事を厭ってずっと表に出さずにいた武器庫呪霊。 それをあの死地の中でこれ幸いと引きずり出し、呪具の入れ替えを行った。 釈魂刀、龍をも断つ魔剣を納めて新たに取り出したのは――純粋な破壊力でならば最も伏黒甚爾を高め上げられるだろう三節棍の呪具。 即ち游雲。数時間前、この嗤う道化師にも一撃打ち込んだ暴力の塊。 「生臭坊主が羽化昇天なんざ片腹痛ぇわ。身の程弁えて五体投地でもしとけ」 リンボはその瞬間、確かに自身の視界が緩慢と化すのを感じた。 濃密の一言では済まされないあまりにも致死的な暴力の気配。 それを前に脳が走馬灯に酷似した活動をしているのだと気付き、屈辱で顔が赤黒く染まる。 ――侮るな、猿めが! そう叫ぼうとしたし術を行使しようともした。 だがそれよりも、甚爾の振り下ろす棍が彼の顔面を粉砕する方が遥かに速かった。 「ご、がッ――」 游雲は担い手の膂力に応じて威力を向上させる。 完成されたフィジカルギフテッドが、真に全力で振り下ろしたその一撃は当然絶大。 鉄囲山の外鎧も僧怯の大風も押し破って、宣言通り禍津日神を地まで落とした。 粉塵を巻き上げ、地に減り込む無様を晒せていたならまだリンボにとっては救いだったろう。 しかし現実は彼にとって更に非情。 地獄に堕ちたその先では、犇めく触手の海が待ち受けていた。 「――ぬ、あああああ"あ"あ"ッ!?」 二柱の神を相手取りながら。 彼らがリンボの許へ帰れぬよう、帰り道を堰き止めながら。 「つかまえた」 アビゲイル・ウィリアムズは漲る力に物を言わせてリンボ本体を叩きに掛かったのだ。 初撃に続く、二連続での宝具解放は言わずもがな相当の無茶。 空魚へ押し寄せる負担も相応だったが、しかし許可は出ている。 無茶をする旨をアビゲイルが念話した際。 それに対して紙越空魚は、愚問だとばかりに即答した。 ――私の事なんて考えなくていい。あんたがそうした方がいいと思うなら、迷わずそうして。 其処にあったのは果てしない程の怒り。 相棒を殺され、穢された事に空魚は今も怒り狂っている。 だからこそ掟破りの宝具二度撃ちは成り。 その結果としてリンボは想定を大きく狂わされ、武蔵と甚爾の連携も相俟ってまんまと触手の坩堝へ叩き落された。 「見ていてマスター。鳥子さんも、空魚さんも」 艶かしく粘液に塗れたそれはしかし断じて凌辱など働かない。 これはもっとずっと悍ましく、吐き気がする程冒涜的な何かの片鱗だ。 「いあ、いあ」 いあ、いあ。 光よ、光よ。 白き虚無が溢れる。 黒く果てなき闇が口を開ける。 その内側に、蘆屋道満は確かに地獄を見た。 境界線の青年の精神世界で目の当たりにしたのとは違う、しかしあれに何ら劣らぬ無尽の地獄を。 意識と精神が埋め尽くされていく。 あらゆる者の精神と肉体を蝕む異界の念。 それは、神さえ誑かす無道の陰陽師でさえも例外ではなく。 狂気と混沌が、愚かな偽神のすべてを呑み込み―― 「 ンン 」 下す、その寸前で。 触手の蠢動が止まった。 坩堝の中から嗤い声が響いた。 時が止まる。 誰もがアビゲイルの業の底知れなさを感じ取っていて、リンボの終焉を確信していたからこその静寂だった。 外なる神がもたらす虚無と無限のきざはし。 それは決して並大抵のものに非ず。 一人の殺人鬼が呑まれて消えたように。 跳梁跋扈する蝿声の如き魘魅、蘆屋道満でさえ無力のまま消え去るしかない。 その筈だった――これまでは。 しかし今の彼は道満にあって道満に非ず、リンボにあってリンボに非ず。 龍脈の力と百年の累積を一緒くたに喰らって高め上げたその力は今や、不可避の滅亡すら覆す闇の極星として機能するにまで至っていた。 「実に見事。実に甘美。しかし、しかァし――」 だからこそ此処に闇の不条理が具現する。 絶対不可避の敗亡の内側から浮上する禍津日神。 触手共を消し飛ばしながら。 虚無へと繋がる門を自らの力の大きさに飽かして閉じる離れ業を成しながら。 リンボはその掌に、一つの火球を生じさせた。 「忘れたか。儂こそは禍津日神、髑髏烏帽子を越えて戴冠の儀を終えた九頭竜新皇! 異界の神なぞ取るに足らず。猿の足掻きなぞ嗤うにも及ばず、仁王如きが断てる丈にも非ず!」 それは、一握の砂にも満たない極小の火。 煙草の先に火を灯すのが精々の種火でしかない。 少なくとも傍目にはそう見える。 しかし三者三様。 神殺しを成さんとする者達は其処に、あるべきでない威容を見た。 巫女は遥かフォーマルハウトにて脈打つ生ける炎の神核を。 猿は蠢き沸騰して止まない悍ましい呪力の塊を。 そして人斬りは、手を伸ばしたとて届く事のないお天道様の後光を。 各々確かに拝んだ。 その上で確信する。 あれを弾けさせてはならない――それを許せば自分達は此処で終わると。 巫女が鍵を回し。 猿と人斬りが地を蹴った。 だがすべて遅い。 嘲り笑うようにリンボは諸手を挙げ、歓喜のままに"それ"の生誕を言祝いだ。 「これなるは界聖杯が拙僧に授けた"縁"の結晶」 充填される魔力の桁は尋常ではない。 宝具の格に合わせて言うなら最低でも対城級。 直撃すれば英霊さえ軽々蒸発させる、正真の規格外に他ならない。 「屈辱と挫折の中、決して膝を屈する事なく歩み続けた甲斐もあるというもの。 つきましてはこの禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満の前へ立ち塞がった勇気ある貴殿らの葬送、この拙僧が承りましょう!」 蘆屋道満は斯様な力を持ってはいなかった。 力量の問題ではなく、性質そのものが彼の生まれ育った世界には存在しなかったからだ。 故にこれは彼の言う通り、界聖杯というイレギュラーが彼へと仲介した縁の結晶。 地を這い泥を啜り何とか手中に収めた龍の心臓。 受け継いだその脈動から伝わって来た力の最大出力…それこそがこの魔技の正体。 「刮目せよ。跪いて笑覧せよ。これなるは拙僧から貴殿らへと贈る最上の敬意にして至高の葬送」 その名を―― 「――メギドラオンでございます」 メギドラオンと、そう呼ぶ。 属性は万能。 あらゆる防御も相性も無に帰す究極の火力。 指で摘める程度の大きさだった火球が天に昇り、見る見る内にそのサイズを直径十メートルを超す巨体へと変じさせ。 それが弾ける瞬間を以ってして、最終最後の屍山血河舞台に万象滅却の爆熱が吹き荒れた。 「はは、ははははは、あはははははははは――!」 響き渡るのは禍津日神の哄笑ばかり。 光が晴れて熱が引き、そして…… →