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同意しないを選択した方 これからどうしますか?あなたに選択肢をあげよう。 ちびちゃと・もなちゃとチャット総合情報 Google Yahoo!JAPAN かわいいチャット ちびちゃと もなちゃと 入り口 もなちゃと 大部屋 それともそれ以外ですか? あとはあなたにお任せします。
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―1― 木の根本に開いた穴は、元々は野ウサギの巣であった。 それを多少の拡張と補強を施して利用しているのは、最近つがいになったばかりの二匹のゆっくり だった。 野ウサギの巣には、ゆっくり自身が掘ったものとは比較にならないほどの奥行きがある。そのため、 奥の方で大声で騒いだところで出入り口から聞こえるのは、ほんの僅かな不明瞭な声。 そんな微かな声でも会話の雰囲気を掴むことが出来る。 大きな怒声と小さな悲鳴。 それはどう聞いても険悪な雰囲気であった。 「むきゅ……。上手くいってないのかしらね、あのふたり……」 おうちの奥から聞こえてきた声に何の気無しに耳を澄ませていた通りすがりのぱちゅりーは、溜息 を一つ吐いてその場を後にした。 一方その頃、おうちの奥ではぱちゅりーが懸念した通りの夫婦喧嘩が展開されていた。 もっとも、それはかなり一方的な展開であった。 「これはいったい何なの、まりさっ!」 「ゆひぃっ!? そ、そんなこわいおかおでどならないでね……」 「まりさがれいむをおこらせるようなことするからでしょっ!! これは! いったい! 何なのっ て! 聞いてるんだよぉっ!!」 「ゆ、ゆわぁっ!?」 野生動物が作り上げた頑丈な巣穴が、れいむがあんよを踏み鳴らす度にパラパラと砂埃を落とす。 れいむの体躯は、一般サイズのゆっくりであるまりさより一回りか二回りほど大きい。さらにまり さは気迫負けして縮こまっているので殊更大きく見える。当のまりさの視点ともなると、れいむの姿 はドスをも超える巨体に映っていた。 そんなれいむが物凄い形相で見下ろしている。 荒い呼気が頬を撫でた時点でまりさの恐怖は臨界を超えて、チョロチョロと水音と共に下から溢れ 出した。れいむの地団駄が続いていなければ、その音と振動が絶えずまりさを揺さぶっていなければ とっくに気を失っていた事だろう。 気絶できれば少しはゆっくり出来たかも知れない。 しかし現実に逃避が出来ない以上、まりさは大人しく応えるしかなかった。 「それ……それは、ごはんさん……だよ?」 まりさとれいむの丁度中間にこんもりと草が積んである。まりさが集めて持って帰ったお帽子一杯 に詰め込んできたそれが、れいむの火種となっていた。 狩りと称する野草の採取から帰り、笑顔で収穫をひけらかしたところで何故だかれいむの怒りが爆 発してしまったのである。折角ごはんをあつめてきたというのに何故れいむが怒っているのか、まり さには解らない。 解らないから鍔広の帽子の陰からこそこそとれいむの顔色を伺いながら、なるべく刺激しないよう に小さな声で返答する。 そんなまりさの顔に、れいむの蹴り飛ばした草が浴びせられた。 更に罵声まで飛んできた。 「ごはんさんは柔らかくって、にがにがの少ない草さんを集めてきてねって言ったでしょうがぁっ! どぉしてこんなに堅い草さんばっかり集めてくるのっ!」 「ゆひっ!? しらないよっ!? まりさそんなことしらないよっ!?」 「まりさがれいむのお話を聞いてないだけでしょぉっ!!」 「ゆぎゃんっ!」 聞き覚えのないことは知らないとしか言いようがない。涙を流しての訴えは、しかし軽い体当たり によって却下された。 れいむとまりさの体格差からすれば相当加減された体当たりだったが、痛みに弱く挫け易いゆっく りからすれば耐え難い激痛に感じられた。まりさは瞬く間に目に涙を溜めて大泣きの準備に入った。 「ゆびぇ……え?」 「――まりさ、ゆっくり泣いてるひまがあるなら」 そんなまりさの目前――それこそ目と目が触れ合いそうなくらい近くに、無表情に目を見開いたれ いむの貌があった。 ゆっくりにあるまじき迫力に涙も声も引っ込んでしまったまりさにできたのは、かみ合わない歯を ガチガチと鳴らしながら静かにれいむの言葉を聞くことだけだった。 そんなまりさの様子に満足したのか、れいむの黒目がついっと動いて出入り口を見やった。 「ゆっくりしないでごはんさんを集めてきてね? 柔らかくって、にがにがさんじゃない草さんで良 いんだよ? たくさんでいいよ? 今度こそ、わかった?」 「ゆ、ゆっ、ゆひぃっ!? わかりましたぁっ! まりさはかりにいくよぉおおおおお……っ!!」 無言で語られた『さっさと行け!』のアイコンタクトに従い、まりさはゆっくりらしからぬ勢いで 巣穴を飛び出していった。 外の風に当たったまりさは不意に思う。 どうしてこうなったのだろうか、と。 だが何はさておき、れいむの機嫌を治すために美味しい食べ物をかき集めなければならない。 あまあまな空気に満ちたから恋人時代から、まったく以てゆっくりできないものへと激変した新婚 生活に涙しながら、まりさは跳ねた。 ―2― 一週間前までは、まりさは幸せの絶頂期にあった。 両親によって何不自由なく育てられたまりさは、狩りの練習に出かけた先でれいむと出会った。お うちの奥で大事に大事に育てられてきた一人っ仔のまりさにとって、それは同世代のゆっくりとの初 めての出会い。 れいむはとてもゆっくりした、美しいゆっくりだった。髪の艶、肌の張り、飾りの鮮やかさ、どれ をとってもその後出会ったどのゆっくりより抜きんでいた。 一目で惚れ込んだまりさは即座にれいむにプロポーズをするのだが、その時は一言で断られた。『れ いむはまりさのことを知らないから』というのがその理由。 それでもまりさは諦めず、懸命に自分をアピールし続けた。 甘やかされてきただけに狩りの要領こそ悪いまりさだったが、頻繁に出会い、話し、そして運良く 見つけたこのおうちと、がんばって集めた食料の備蓄を見せたことで、漸くれいむはまりさを受け入 れてくれた。この時、まりさの両親の尽力があったことは、れいむには秘密である。 おうちを構えて伴侶を得、順風満帆に滑り出したまりさの新生活。これからおちびちゃんを沢山作 り、れいむと一緒に賑やかで幸せな家庭を築く。そんなまりさの薔薇色の将来設計は、一晩明けたと きには崩れ去っていた。 とても優しかったれいむの豹変。 まりさが一生懸命集めてきたごはんに、「堅い」「苦い」とケチを付ける。何とかして柔らかくて 口当たりの良いご馳走をかき集めてもまりさの口には入らない。 肌をすり合わせて一緒に眠ろうとしても、おうちの一番奥にある一番広い部屋からつまみ出される。 寄り添って眠った記憶は、正式につがいとなる前のひなたぼっこにまで戻らないと見あたらなかった。 抗議の声を上げたこともある。しかし、かつての優しかったれいむからは想像もつかないほどの迫 力で以て打ちのめされた。それ以降、まりさはただ従順にれいむに従っている。 日が昇ってから青空に朱色が混じる頃まで、ただひたすらにごはんを集めることで過ぎていく。そ して独りっきりで眠る夜。 まりさの一日にはゆっくりできる時がなかった。 こんなにゆっくりできない生活がしたいわけではなかった。 群一番のゆっくりしたお嫁さんをもらい、たくさんの子供をつくり、幸せな家庭を自らの手で築き 上げることで親の庇護の下で暮らしていた日々よりも、たくさんたくさんゆっくりする。 そんな夢を見てれいむにプロポーズしたはずなのに、現実には夢の欠片さえ視ることができないで いた。 「……ゆっくりしたいよ……」 美味しそうに見える草をむしり採りながらまりさは溜息をもらす。 そこはおうちから少し離れた所にある、背の高い草が生い茂る小さな広場。群の居住地からは少し 離れたところに住み着いているだけに、ここはまりさの狩り場として独り占めできていた。 だから狩り自体に大した労力は必要ない。 ぶちぶち草をむしりながら悩むだけの余裕が持てる。ぶちぶちと草を抜きながらぶつぶつと愚痴を 漏らす。 「なんでれいむはまりさをゆっくりさせてくれないんだろ……? いっしょにゆっくりしようねっ! て、いっしょにいったのになぁ……」 引き抜いた草がある程度の山と成ったところで帽子を下ろし、収穫を詰め込んでゆく。 詰めてみると容量に少し余裕があったので、もう少し草むしりに勤しむことにした。自然と愚痴も 続く。 まりさの中で「何故」と「どうして」が空回りしていた。 しかしながら、ぼんやりとしたまりさの疑問を、ぼんやりとしたまりさの頭で解決することなどで きはしない。 「ゆっ、まりさじゃない! おひさしぶり、ゆっくりしていってね!」 「ゆ……? ありす……?」 底なし沼に踏み込んだ者を助けるには、他者の助けが必要なのだから。 ―3― ごはんを求めてこの草むらまで遠出してきたありすは、幸いまりさの幼なじみだった。 既知の仲と言うこともあって、暗い顔をしていたまりさから遠慮なく悩みを聞き出したありすは、 その話の内容に怒りの余り憤然とここには居ないれいむをなじる。 「なんてひどいのれいむ……っ! いいえ、そんなれいむなんて、もうでいぶよ、でいぶっ! せっ かくありすがまりさからみをひいたっていうのに……っ。ゆっ、いえそれはともかく、ふたりでいっ しょにゆっくりすることもできないだなんて、とんだいなかものだったようねっ!!」 「あ、ありす、おちついてね……?」 その剣幕には暗い顔で相談したまりさも若干引き気味である。怯えて引きつった表情のまりさを見 たことで冷静さを取り戻したありすは、しばらく深呼吸をして冷静さを取り戻した。 「まりさ、おさにそうだんしましょう!」 「……ゆ?」 「ざんねんだけど、ありすがいくらかんがえてもまりさをゆっくしさせてあげられるほうほうはおも いつかないわ。だけど、おさならきっととってもゆっくりできるほうほうをかんがえてくれるはずよ っ!」 他人任せとは言え、ありすは目と目を合わせて力強く断言する。それほどまでに憔悴したまりさの 姿は見ていられなかったのだ。 ありすの記憶の中にあるまりさの姿は、何時だって見ている方も釣られて元気になってしまいそう な程に、明るく活発だった。 こんなお帽子の陰に隠れるようにして相手を窺うような、おどおどとした暗いゆっくりなどありす の知っているまりさではない。 「れいむからとりもどしましょう、まりさのゆっくりを!」 「まりさの……ゆっくり……っ!」 ありすの力強い言葉に、地面ばかりを見ていたまりさの顔が上向く。 ゆっくりしたい、という願望はゆっくりの根幹を為す命題とも言える。だが今のまりさはまるでゆ っくりできていない。 それは何故か。 考えるまでもない。まりさのゆっくりが理不尽にもれいむに踏みにじられているからだ。 そこまで思い至ったことで、れいむへの恐れから思考停止に陥っていたまりさの餡が、熱を持って 巡り始めた。 「……ゆっくりしたい。まりさだってゆっくりしたいんだよぉおおおおおっっ!!」 これまでれいむによって押さえつけられてきたまりさの思いが、叫びとなって一気に爆発する。大 声を張り上げたのは一体何時振りだろうか。 そしてありすとまりさは群の長の下へと赴き、まりさの窮状を訴えた。 まりさの涙混じりの嘆願を静かに聞き終えた群の長ぱちゅりーは、しばし瞑目した。 「……むきゅぅ。最近あなた達のおうちの近くを通ると喧嘩しているようなおこえが聞こえるから気 にしてはいたのだけど……そんなことになっていたなんて気付かなかったわ」 友達から恋人として仲良くやっていた二匹が、つがいになった途端に激しい喧嘩をするようになる ということは、ぱちゅりーが群の長を引き受けてからも数回あった。 夫婦喧嘩をすること自体は珍しいことではない。 ただ、新婚一週間で――否、話を聞くに新婚初日から不協和音を響かせたつがいは初めてのことだ った。 しかしながら、驚きはしたもののやることに変わりはない。 ぱちゅりーはありすを少し離れさせると、まりさと向き合って訊ねた。 「ね、まりさ。まりさはどうすればゆっくりできるのかしら?」 「ゆ? どうすればって……どういうこと?」 「れいむと仲直りすればゆっくりできる? それともれいむと別れたらゆっくりできる?」 「ゆ……? ゆぅぅ……」 「ちょ、ちょっとおさっ!」 「ありすはちょっと黙っていてちょうだい。ぱちぇはまりさに聞いているのよ」 目を白黒させて悩みだしたまりさをありすが庇おうとするが、ぱちゅりーは一言の下にありすを黙 らせた。 仲直りしたいと言うのであれば、れいむとまりさ、双方の話を聞きながらじっくりと解決策を練る 必要がある。時間と手間は掛かるだろうが、れいむが豹変した理由さえはっきりすれば元の鞘に納め ることも不可能ではないとぱちゅりーは考えていた。 別れたいというのであれば、話はより簡単になる。 「まりさは……まりさは、あんなれいむとはもう、おわかれしたいよ」 「むきゅ……わかったわ」 一つ一つの言葉を噛み締めるようにして告げるまりさの姿に、その覚悟は堅いと見て取れた。 一つ頷き、ぱちゅりーはおうちの外へとあんよを向ける。 突然移動を始めたぱちゅりーを慌てて追いかけてきたまりさとありすに、顔は正面を向いたままで ぱちゅりーは告げた。 「まりさ、ありす。群のみんなをまりさのおうちの前まで集めてきてちょうだい。最後にぱちぇがれ いむと話をしてみて、それから決定を下すわ」 ―4― そして日の傾いた夕暮れ時。 まりさとれいむのおうちの前には群のゆっくりたちの姿があった。幼い赤子とそれを見守る母親以 外が勢揃いしたその数は、五十に近い。 それはまりさとれいむの絶縁の立ち会いゆっくりであり、ぱちゅりーの用意した、いざというとき の用心だった。 その先頭に立つ長、ぱちゅりーがしんと静まり返った群を代表して大声で呼びかけた。 「れいむ! ご用があるから出ていらっしゃい!」 「……ぱちゅりー? こんな時間に何のご用なの?」 暫くしておうちの奥からのっそりとれいむが現れた。 おうちの出入り口に頭を軽くこする程の巨体に群れのゆっくりたちは目を剥いて驚く。一週間ほど 前までは群でも小柄な部類に入っていたれいむが、自分たちを大きく上回る巨体になっていては驚く のも無理はない。 れいむもまた、おうちを出た途端に群のみんなが大挙して取り囲んでいる状況に目を丸くした。 双方が膠着した中、ただ一匹平然としていたぱちゅりーが口を開いた。 「むきゅ、ゆっくりしていってね。お久しぶり、れいむ」 「ゆっ!? ゆっくりしていってね! ゆん、久しぶりだね、ぱちゅりー」 声をかけられたことで我に返ったれいむも、にこやかに挨拶を返す。 しかし周りの異様な状況に、にこやかな表情は瞬く間に訝しげなものに取って代わる。次いでぱち ゅりーの陰に隠れるようにしてまりさが小さくなっているのに気付くと、表情は苛立たし気なものへ 変化した。その隣で怯えるまりさを支えているありすの姿があったが、それもれいむの気分を害した。 「みんなして何のご用なの? そこでまりさは何をしてるの? 今日はお帰りが遅いから何処まで狩 りに行ったのかって思っていたけど、ごはんさんはどうしたの? ありすとなにをしていたの?」 「ゆ……ゆひッ!?」 「むっきゅん! まりさに質問する前に、ぱちゅがれいむに聞きたいことがあるの。いいかしら?」 まりさに向かいかけたれいむだったが、ぱちゅりーの咳払いで機先を制された。先刻の気勢もれい むの前に来ただけで吹き飛んでいたまりさは、それ幸いとぱちゅりーの後ろで縮こまる。 ぱちゅりーの話を聞く前に、まりさを詰問して今日の分の食料を取り立てたかったが、相手は長ら くお世話になっている群の長であるし、周囲には馴染みの顔も多い。苛立ちは収まらないが、れいむ はとりあえずまりさから視線を引き剥がした。 そうして改めてぱちゅりーと向かい合う。 「……ゆふぅ。ゆっくりわかったよ。ぱちゅりーは何が聞きたいの?」 「ありがとう、れいむ。まりさに聞いたのだけれど、まりさをゆっくりさせないで一日中狩りに行か せてるって本当?」 「本当だよ。けど、柔らかくて美味しいごはんさんを採ってこれないまりさが悪いんだよ!」 「けっこんしてからは、すーりすーりもしないし、一緒にすーやすーやする事もないって本当?」 「本当だよ。まりさとはもう二度とすーりすーりも、すーやすーやも、してあげるつもりはないよ!」 「それじゃあ最後に、そんなれいむの態度に文句を言ったまりさに暴力を振るったって、本当?」 「それがどうかしたの? れいむの言うことを聞いてくれないまりさが悪いんだよ! 何もかも、ぜ ーんぶまりさが悪いんだよっ!」 「むきゅ、解ったわ……」 ぱちゅりーは嘆息と共に目を閉じる。 そして再び目を開いたとき、その瞳には確固たる決意が宿っていた。 「れいむのゆっくりの為に、あんなにゆっくりしていたまりさをまったくゆっくりさせなかった。大 切にしなきゃいけないつがいを、こんなにボロボロになるまで扱き使うようなゆっくりは『でいぶ』 よ。でいぶはいずれ群のゆっくりにも害となるわ」 「……ゆ? なにいってるの……?」 「ぱちぇの群にでいぶはいらない。今ここに、ぱちぇはれいむを群から追放することを宣言するわ!」 突然何を言い出したのか即座に理解できずにキョトンとしているれいむを余所に、ぱちゅりーの台 詞は続く。 「まりさもれいむとお別れしたいってぱちぇに伝えているわ。だかられいむは独りで、ゆっくりしな いでぱちぇの群からでていきなさい!」 「なにを……なに言ってるのぉっ!!」 「大人しく出ていかないのなら……」 理解が追いついたれいむが激昂するのと、ぱちゅりーとれいむの間に群でも屈強なゆっくりたちが 割り込んでくるのはほぼ同時だった。れいむが暴れ出したときに巻き込まれないくらいの距離を取り ながらも、ぱちゅりーはれいむを真っ直ぐに見据えていた。 「手荒な手段を執ってでも出て行ってもらうことになるわ。例え、れいむがゆっくりできない怪我を 負うことになっても、ね。幼い頃から貴女を知っているぱちぇは、できればそんな乱暴な手段は執り たくないの。大人しく群から出て行ってちょうだい」 「……けるな、ふざけるな! ふざけるなぁあああああっ!!」 取り囲む尖った木の枝や棒をくわえたゆっくりたちの姿は、怒り狂ったれいむの目にはもはや映っ ていなかった。 視線だけでゆっくりが殺せそうな形相で、ぱちゅりーを――否、その後ろでしーしーを漏らして震 えているまりさだけを睨みつける。 「れいむの言うことをぜんっぜんッ聞きやしないまりさも、そんなまりさの言うことなんかを真に受 けるぱちゅりーも! そんなぱちゅりーに考え無しに従ってるだけのみんなもっ! みんなみんな永 遠にゆっくりしてしまえぇえええええっ!!」 「むぎゃっ!?」 間に入ったゆっくりたちを事もなく蹴散らして、れいむはまりさに向かって猛進する。 屈強なゆっくりとは言っても、それは戦い慣れしているのではなく、単に体力やあんよの早さが他 のゆっくりに比べれば優れていると言うだけの話。憤怒の形相で迫るれいむの正面に居たゆっくりた ちは、その余りの怖ろしさにぱちゅりーの命令を無視して逃げ出していた。動かないゆっくりも居た が、それらは完全に気を呑まれて竦んでおり、鎧袖一触で吹き飛ばされた。 ぱちゅりーの顔色がここに来て初めて変わる。 ぱちゅりーとれいむの間を阻むゆっくりが総て居なくなった瞬間、ぱちゅりーの餡は突進を喰らっ て容易く弾け飛ぶ自分の姿を幻視した。 だが、そうはならなかった。 れいむ正面のゆっくりたちこそ逃げ出していたが、左右と背後に陣取っていたゆっくりたちが懸命 に追いすがっていた。 体当たりをしかけて髪に噛み付き、棒を振りかざしてれいむの動きを封じようと殺到するゆっくり の群。目の前に尖った枝を突きつけたり、頬を軽く切り裂いたりしてれいむの気勢を挫こうと試みる が、激怒のれいむは歯牙にもかけない。 突き出された枝に躊躇無く飛び込み、突き刺さった枝をへし折りながらもただ前へ。瞬きを忘れた れいむの双眸は、ただひたすらにまりさだけを捉えていた。 それでも進む速度は遅くなっていた。お陰でれいむから距離を置くことができたぱちゅりーは呼吸 を整えながら、ゆっくりを蹴散らして徐々に近付いてくるれいむの姿を見据えた。 「むきゅぅ……むきゅぅ………むきゅ。できればお話で済ませたかったわ、れいむ……」 距離を置いたと言っても、愚直に突き進むれいむが肉薄するのに大して時間は掛からないだろう。 だから、ぱちゅりーは穏便な手段を諦めた。 「このままじゃ、みんなれいむに永遠にゆっくりさせられてしまうわ! その前に、れいむを倒すの よ! 手加減はもう考えなくていいわっ!!」 れいむの怒声を上回る咆哮がゆっくりたちから上がる。 途端に牽制で頬を引っかけていた程度の枝が、れいむに深々と突き立てられた。れいむの前にかざ された枝も、どれだけれいむが近付こうとも引く気配がない。 れいむには何の変化もない。痛みなど何処かに忘れ去ったかのように、髪など引き抜かれるに任せ、 頬に穴を開けた枝を噛み砕き、瞳に突き刺さった枝をくわえていたゆっくりを跳ね飛ばして突き進む。 双方、死に物狂いとなったこの戦いは、それから少しして終結した。 ―5― 「ありがとう、ありがとう! みんな、まりさのためにありがとうねっ!!」 激戦の跡から立ち去る群のゆっくりたちに、まりさが涙を流して感謝を捧げてから暫くして、まり さのおうちの周りはいつもの静寂を取り戻しつつあった。 いつもと違うのは、時折呻き声や泣き声が遠くから聞こえてくること。 たった一匹のれいむが相手だったとはいえ、激戦を終えた時、群のゆっくりたちの殆どが大小様々 な傷を負っていた。永遠のゆっくりへと旅立ったゆっくりも少なくはない。 怪我に呻くゆっくり。死者を嘆くゆっくり。その声は各自が自らのおうちへ帰った今もなお聞こえ てくるほどだった。群で被害にあっていないゆっくりは居ないから群のある森全体が悲しみに包まれ ていると言っても過言ではない。この声は数日は聞こえてくるのだろう。 そんな沈痛な空気が流れる中、数少ない無傷のゆっくりであるまりさは満面の笑顔でおうちの周囲 を飛び跳ねていた。 そして入り口でピタリと止まると、ピョンと飛び跳ね、大声で叫んだ。 「ここはっ、まりさのおうちだよっ! まりさだけのおうちだよーっ!!」 ここは元々まりさのおうちではあったが、実質はれいむに占有されていただけに自分のおうちとい う実感がまりさには乏しかった。だからこその再おうち宣言であった。 空中で全力のおうち宣言を行ったまりさは、着地して暫く静かに耳を澄ませた。 聞こえてくるのは群のゆっくりの暗い声ばかりで、おうち宣言への異議は聞こえてこない。 その結果に満足したまりさは帽子の鍔を跳ね上げて笑う。 「ゆん! それじゃ、まりさはしんっきょのおそうじをするよ!」 足取りも軽く、まりさはおうちの中へと消えてゆく。 まりさは自覚しているだろうか。 おうちの周りを跳ね回っている時も、おうち宣言をした後に周囲を見回しながら耳を澄ませていた ときも、ある一角だけは努めて見ようとしなかったことに。 そこに、れいむの姿がある。 両のもみあげは千切れ、片目は潰れ、総身どこから見ても深々と突き刺さった木の枝や大きく開い た傷が見て取れる。大口を開けた口内にすら木の枝は突き刺さっていた。 だがそんな傷を負いながらも、れいむは静かにそこに在った。 泣くことも喚くこともしない。残された片目は瞬きもせずに中空をぼうっと眺め、開いた口からボ ロボロになった舌が零れだしている。 どう見たって死んでいる。 そんなれいむの姿を、まりさは努めて意識から排除していた。 ―6― 果実や木の実を大きめの葉に包む。 中身別に分けた数個の包みを長めのツタで縛って纏め上げると、まとめて頭の上にひょいと乗せた。 ちょっと重いけれど、ありすは気にすることなく外へと飛び出した。 「さて、いままでゆっくりできなかったぶんまで、まりさをうんとゆっくりさせてあげなくっちゃ!」 あんよも軽く、頭上の荷物の重さも感じないほどに軽やかに飛び跳ねてありすは進む。ツタの端を しっかりくわえているので、うっかり落として無くす心配もない。 ありすにとって、まりさもれいむも友達であることに違いはなかった。 だから、れいむの豹変には驚いたし結局殺されてしまったことが悲しくもある。しかしそれでも、 まりさをあれほどボロボロになるまで扱き使っていたれいむの非道を思えば、罪悪感はさほど感じな かった。 今はとにかく、ゆっくりできない状況から解放されたまりさと一緒にご馳走でも食べて、あんなれ いむの事などゆっくりらしい忘却力で餡子の片隅に追いやってしまおうと考えていた。 そのための大荷物である。重いと感じるはずもない。 それなりに離れたところにあるまりさのおうちも、不思議と長い道程とは感じなかった。 同じ頃、同じようにまりさのおうちを目指しているゆっくりが居た。 長のぱちゅりーと、成体のゆっくりが数匹。 ありすが元気一杯に飛び跳ねているのに比べて、此方は雰囲気からして暗く、いかにもゆっくりし ていない様子が見て取れた。 「むきゅぅ……困ったわね。まりさはぱちぇのお願いを聞いてくれるかしら?」 「きいてくれないとこまるんだねー、わかるよー」 「そもそもまりさをたすけるために、みんなゆっくりできなくなっちゃったんだみょん。まりさがむ れをたすけるのはとうぜんみょん」 悩みの種は、群の働き手である体力に優れたゆっくりたちが軒並み傷付くか、最悪、永遠にゆっく りしてしまったことにあった。 今回の激戦で最前線に投入された精強なゆっくりたちは、みんな食料調達に優れていた。それだけ に、自分以外のゆっくりを養っているゆっくりが多かった。 つがいを永遠に失ったものや、怪我を負った大黒柱を抱え込むことになった一家など、これから先 の生活を悲観する家庭は少なくない。 ぱちゅりーは長として、彼らのこれからを考えないわけにはいかなかった。 そこで考えついたのが次の春が来るまで、群全体が集まって暮らすという案だった。 そうすれば、狩りに行けるゆっくりは憂い無く出かけられるし、重傷の怪我ゆっくりや孤児ゆっく りの面倒だって、子守で残っているゆっくりたちなどで見ることもできる。 その案を実現させるためにも、狩りのできる元気のあるゆっくりは一匹でも多く参加してもらいた かった。 特に、今回の発端でもあるまりさには是が非でも先頭に立って欲しい。 みんなが傷付いている時にぱちゅりーの陰に隠れていただけのまりさに対して、群のゆっくりたち の視線が厳しくなっている。それを鋭敏に感じ取ったぱちゅりーは、まりさがこれからも群の一員と してゆっくりしていくためにも、まりさの協力を期待していた。 しかし、一抹の不安がある。 ぱちゅりーはまりさの言動の何処かに、朧気ながらゆっくりできないものを感じていた。 それがぱちゅりーの表情に影を落とし、一行の雰囲気を暗くしていた。 「……それも確認してみないと解らないわね。むきゅ……」 自らに言い聞かせるように呟き、ぱちゅりーはあんよを進めた。 だが、何も持っていない身軽な身体は、不思議なほどに重く感じられた。 ―7― その頃、まりさのおうちの前には雑多な物が積み上げられていた。 それはれいむが寝ていた干し草であり、ありすかられいむに送られた蔦草のばっぐであり、れいむ が集めていた綺麗な小石などの宝物であった。 まりさはあれから、巣穴の奥深くかられいむが愛用していた品々を引っぱり出しては捨てていた。 まだ十分に使えそうな物ばかりなのに捨てているのは、それだけれいむが憎かったからだろうか。 そんなまりさの心情をおもんばかり、ありすはますます自分がまりさを元気付けねばと気合いを入 れ直した。 「……けど、ちょっともったいないわね。つかえるものはつかうのがとかいはなんだけど……」 などと、少なからず後ろ髪を引かれながらありすはおうちの出入り口に近付いた。 そして大きく息を吸い込むと、おうちの奥へ大声を放った。まりさのおうちは元は野生動物が作っ た巣穴だけに奥が深く少し入り組んでいるので、考え無しに踏み込むよりは出入り口で声をかけた方 が効率が良かった。 「ゆっくりしていってねーっ! まりさっ! いるかしらー!?」 「……ゅ……ゅ…………」 「ゆっくりしていってねーっ! ゆ、あんなところにかくれてたんだねっ!! ありす、ゆっくりま っててねー!」 「……ゆ?」 目を点にしたありすの頭が傾く。 聞き間違いでなければ、今ありすの挨拶に応えた声は二つあった。一つは間違いなく聞き慣れたま りさの声。しかし、もう一つの声に聞き覚えはない。 社交的な生活を送っているありすは群の殆どのゆっくりと話した覚えがある。それ故に一度会話し た相手であれば、それが誰かは解らなくても、少なくとも聞き覚えくらいはあるはずだった。 どこかから流れてきたゆっくりがまりさのおうちに迷い込んだのか? しかし、聞こえてきたのは幼い感じの声。 「まいご……かしらね?」 頭を傾げるありすだったが、答えはおうちから出てきたまりさが口にくわえていた。 黒いとんがり帽子。三つ編みは二つあるけど髪型と、ハシバミ色の瞳はまりさと良く似ている。 帽子に巻いているのと、三つ編みを束ねているリボン。そして艶やかな黒髪にはれいむの面影があ った。 れいむとまりさの面影を併せ持つその幼いゆっくりを、まりさは無造作におうちの外に投げ捨てた。 顔面から地面に叩きつけられた幼いゆっくりは痛みを堪えるかのようにしばらく平ぺったくなって 震えていたが、ぐずつきながらも身体を起こし、ぎこちなくても笑顔を作るとまりさに向けた。 「ゆぅっ!? ゆっ……ゆっく……ゆ、ゆーゆぅー?」 「うるさいよっ! おまえなんかがいるとまりさはゆっくりできないんだよ! ゆっくりりかいして ね。りかいしたらゆっくりつぶされてねっ!」 「ゆ……? ゆっ!? ま、まちなさいまりさっ!!」 躊躇無く幼いゆっくりの真上に跳躍したまりさに、我に返ったありすが大慌てで横から飛びつく。 辛うじて幼いゆっくりの横にまりさを押しのくことができたありすに、柳眉を逆立てたまりさの顔 が迫った。 「ちょっとありす! なんでまりさのじゃまをするのっ!?」 「ゆっ!? ごめんなさ……じゃないわよっ!! なんなの、このこはっ!」 「ゆ……っ!?」 一端引いたものの、まりさ以上の剣幕で詰め寄るありすにまりさの意気は一瞬で消し飛んだ。そこ にいるのはありすが良く見知った、明るく元気で、でもとっても臆病なゆっくりまりさの姿だった。 瞬く間に涙目になったまりさに少し躊躇しながらも、ありすは強い口調で問いつめた。 「このこがなにをしたかはしらないけれど、いきなりえいえんにゆっくりさせようとするだなんて、 ぜんっぜんとかいはじゃないわっ! それにこのこ、まりさやれいむににているけど、ひょっとして ……」 「ゆっ!? ちがうよ、ちがうよっ! そんなのまりさのちびちゃんなんかじゃないよ! そんなゆ っくりしてないのなんか、まりさはしらないよっ!」 「……あいかわらず、うそがへたね。まりさ……」 「しらないしらない、しらないったらしらないよぉーっ!!」 何時しか静かな口調となったありすの言葉を、まりさは顔を激しく振って否定する。 あまりにゆっくりできない勢いで顔を振るのでありすは一歩引いた。振り回されたお下げが当たり かけて、更に一歩。 下がった刹那にまりさは飛び出していた。 「あ……っ!」 「おまえなんかしらない、しらないゆっくりはつぶれちゃえぇえええええっ!!」 愕然とするありすの横をすり抜けたまりさは、再び幼いゆっくりの頭上へと舞い上がる。 着地した直後のありすは動けない。 成体のゆっくりに踏みつぶされる幼い仔の姿を想像して、ありすはギュッと堅く目を閉じた。 だから見逃した。 「そこまでよっ!!」 「ゆぎゅっ!?」 突如響き渡るぱちゅりーの声。同時に飛び出した二匹のゆっくりが正面から飛びかかり、まりさを 迎撃した。 恐る恐る目を開いたありすの視界に飛び込んできたのは、ゆーゆー泣き始めた幼いゆっくりと、頭 から墜落してじたばたと足掻くまりさの姿だった。 そこへゆっくりと、ぱちゅりーがまりさの元へと歩み寄る。 「本当はまりさにお願いがあって来たのだけど……。まりさ、ぱちぇはあの仔の事は何も聞いてない わ。改めてまりさのお話が聞きたいの。ゆっくりと詳しく、今度は正直に全部、話してくれるわね?」 「ゆ……ゆぅ……ゆっくりりかいしたよ……」 滅多に見られない群の長としての威厳を前にして、まりさはがっくりと項垂れたのだった。 ―続く―
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『絶対に渡さない』 25KB 家出 飼いゆ ゲス 愛護人間 ゲスといえばゲスだけど 「ゆぴ……ゅ……」 「おちびちゃん! しっかりして!」 れいむは、一目で衰弱しているとわかる子まりさに必死に呼びかける。 この子だけは……この子だけは……。 番のまりさ、この子の姉妹だった二匹の子れいむ。 みんな、死んでしまった。 この子だけが、ただ一人残された家族なのだ。死なせるわけにはいかない。 そのことが、れいむに、今まで躊躇わせた行動をとらせた。れいむだけが野垂れ死にす るなら、それには及ばなかったであろうが、子まりさのためとあらば。 「おにいざん、おにいざん……」 子まりさを頭に乗せたれいむは、子まりさを落とさぬようにずーりずーりと這って行っ た。 れいむは、そこそこ優秀で銀バッヂを取得した飼いゆっくりだった。 無論のこと、飼いゆっくりの等級を示すバッヂで最高なのは黄金に輝く金バッヂだ。し かし、よほどゆっくりに高望みをしなければ銀バッヂで十分だ。 飼い主のお兄さんもそれで満足していて、れいむはとてもゆっくりと過ごすことができ た。 お兄さんは一人暮らしの寂しさかられいむを飼い始めたのだが、自分が仕事に行ってい る間にれいむは一匹なのを気にして、壁にゆっくりが出入りできる扉をつけて庭に出るの を許していた。 庭といっても、家と壁の間にある僅かな地面であり狭かったが、れいむにとっては十分 であった。 天気のいいある日、草の上に寝転んで日向ぼっこを楽しんでいた。 そこで、運命の出会いをしたのである。 「ゆ? れいむ、ゆっくりしていってね!」 一匹の精悍なまりさが庭に入ってきたのだ。 「ゆ、ゆっくりしていってね!」 「ゆゆ、バッヂさんなのぜ。れいむはここのにんげんさんの子なのぜ?」 「ゆん、そうだよ」 「ゆぅ、ここの草を少し持って行っていいのぜ?」 「ゆっ、いいよ」 庭に生えている草は、お兄さんが時々むしって捨てている。それならあげてもいいだろ うと思い、れいむは快諾した。 それから、まりさは時々草を取りに来るようになった。 いつも忙しそうだったが、短い時間、まりさはれいむと話していった。 そして、れいむはいつしか草をむしっておくようになった。そうすれば、まりさが草を むしる必要がなくなり、その時間だけまりさとたくさんお話ができるからだ。 れいむは自分でも気付かずに、まりさに惹かれていたのだろう。 やがて、まりさも優しいれいむに草をくれる飼いゆっくりという以上の感情を抱き始め た。 「れいむ、まりさといっしょにずっとゆっくりしてほしいのぜ!」 それを切り出したのはまりさであった。 先に惚れたのはれいむなのだから、れいむが言い出してもおかしくないはずだが……そ こはれいむは飼いゆっくりである。 お兄さんには、野良と話したりする程度はいいが、番になったりあまつさえ子供を作っ たりすることは許されていなかった。 それをするなら捨てる、と言われている。お兄さんとしては、そう言っておけば、そん な馬鹿なことをするまいと考えてのことだったが――。 「お兄さん! れいむ、このまりさとゆっくりしたいよ」 「ゆっ、まりさだぜ」 「……」 お兄さんは、呆然としていた。 しかし、やがて己を取り戻すと、れいむが銀バッヂをとって粗相をしなくなってからは しなかったような厳しい顔と声で、約束をちゃんと覚えていてそういうことをしたのか、 捨てられて野良になってもそのまりさと一緒になって子供を産みたいのか、と言った。 れいむは、それに頷いた。 お兄さんは見るからにガックリとしたようだったが、少し辛そうな顔をしてから腰を落 とし、れいむのリボンについていた銀バッヂを取り外した。 「もう、二度とここには来るなよ」 「……ゆぅ……ゆっくり、りかいしたよ」 そして、テーブルの上に、れいむが大好きだったキャンディーが幾つか乗っているのを 見つけると、それを手に取りビニール袋に入れてれいむの前に置いた。 「持っていけ……ただし、すぐに食べるんじゃないぞ。野良ゆっくりは栄養不足になりが ちで飴玉一個で助かるような状態で死んでしまうことがあると聞いた。いざという時か、 産まれた子供が病気になったりした時のためにとっておくんだぞ」 親身になった言葉に、れいむは号泣した。まりさも、一緒になって泣いていた。 「ゆっ、おにいざん、いままでおぜわになじまじた!」 「れいむは、まりさがゆっくりさせるんだぜ。あんしんしてほしいんだぜ」 二匹はぺこぺこと頭を下げて、去っていった。 しばらくは、しあわせーなゆっくりした日々が続いた。 とりあえず公園にダンボールハウスをかまえた二匹は、ある程度の食料を備蓄すると、 すっきりーして子供を作った。 「ゆゆーん」 れいむは、額から生えた茎の先に、自分に似た二つの命、そしてまりさに似た一つのそ れ、合わせて三つの命がゆぅゆぅと生まれる時を待っているのを見てとてもゆっくりした 気分であった。 「ただいまなんだぜ、おちびは? おちびは?」 まりさは、ますます励んで帽子を獲物で満載にして帰ってきては、まずまっさきに子供 たちを見に来るのだった。 「「「ゆっきゅちちていっちぇね!」」」 「「ゆっくりしていってね!」」 子供たちがとてもゆっくりと生まれた時の感動を、れいむは生涯最高のゆっくりだと思 った。 あれだけよくしてくれたお兄さんの元を離れてしまったことを後悔する気持ちは、やは りどうしてもあった。 それでも、このときの感動を思えば、お兄さんには悪いが、やっぱりまりさと一緒にな ってよかったと思うのだ。 子供たちは元気に育っていったが、ある時、子まりさが何か悪いものを食べたのか下痢 を起こしてしまった。 急激に餡子を失わせる下痢は、子供ならばあっさりと死に至ってしまうため、野良の子 ゆっくりの死因としては極めて多い。 だが、れいむたちにはお兄さんがくれた飴玉があった。 野良ゆっくりにとって下痢が死に繋がってしまうのは、野良では栄養価の高い食べ物を 得ることが困難なためだ。 逆に言えば、それさえ与えれば十分に助かるのである。 子まりさも、水をごーくごーくして水分を補給し、飴玉を舐めて栄養を得て、下痢がお さまるまでなんとか耐え切った。 「ゆゆーん、よかったよぉ、よかったよぉぉぉ」 「ゆひぃぃぃぃ、おちび、よくがんばったのぜえ!」 「まりしゃ、これでまたゆっきゅちできりゅね!」 「ゆわーい、ゆわーい」 家族の喜びは言うまでも無い。 「ゆぅ、これもお兄さんが飴さんをくれたおかげだよ」 「ゆん、お兄さんにありがとうなんだぜ」 れいむとまりさは、飴をくれたお兄さんに感謝した。あれがなければ、子まりさは確実 に死んでいたであろう。 まだまだお兄さんがくれた飴は残っていた。これさえあれば、多少の病気等に子供たち が犯されてしまっても大丈夫だろう。 だが、そのしあわせーの元が災いをもたらすことがある。 誰でも、しあわせーは欲しいのだ。 どうしても欲しいそれを手に入れるために、他者のそれを奪う必要があった場合、それ を実行するものは、人間にもゆっくりにも存在する。 人間の多くは国家に属しており、その国家が安定していれば警察という治安組織の恩恵 を受けられる。 警察は抑止力を持ち、他者のものを暴力や詐術で我が物にせんとする行為へ歯止めをか ける。 これが飼いゆっくりとなると、飼い主の所有物という形で、人間社会のそういった仕組 みに組み込まれている。 しかし、野良ゆっくりには、そういったものは及ばない。 野良ゆっくりの群れはそういった要求を満たすために作られる。数が集まり、それらが 群れの一員への攻撃は自分へのそれと見なして反撃を加える姿勢を示すことによりゲスに 対する抑止力を得るのだ。 とは言っても、野良同士だとどうしても食料調達の際の競争相手になることも多く、頭 がよくリーダーシップを持ったリーダーがいないと群れは長続きしない。 れいむとまりさが住んでいる公園には、数家族の野良ゆっくりが住んでそれぞれ仲良く やってはいたが、群れと呼べるような組織立ったものではない。 れいむたちは、自分たちの身を守るために極めて慎重に振舞うべきであった。 決して、自分たちが人間さんに貰った飴玉を持っていることなど、他のものに知られて はいけないのだ。 だが、れいむは所詮は飼いゆっくりになるために産まれペットショップでお兄さんに買 われた生粋の飼いゆっくりである。野良になってそれほど時間が経っていないのと、この 公園に住んでいる御近所さんが善良なものたちばかりなため、少々おっとりとし過ぎてい た。 まりさも、優しくてゆっくりしてはいるが、こちらは生粋の野良ゆっくりで、いわば持 たざる者であり続けていた。 そのため、持っている者としての保身に鈍感なところがあった。 れいむたちが、れいむの元飼い主に貰ったとってもあまあまな飴さんを持っているとい う話は、子供たちから他の家族の子供たちに、そしてその親へと広がっていった。 それでも公園に住んでいたゆっくりたちは、それを大変羨んだものの、それだけであっ た。 だが、ぶらりと公園にやってきた一匹の眼光鋭いまりさがその話にじっと聞き入ってい た。 まりさは大急ぎで跳ねて行った。 そして、戻ってきた時には仲間を引き連れていた。 公園に入ってきたまりさ一行は、まっすぐにれいむたちのおうちへと向かう。 目的は言うまでもあるまい。 まりさの帰りを待ちながら、おうたをうたっていたれいむと子供たちはニヤニヤと笑い ながら押し入ってきた一団になす術も無かった。 連中は狡猾であった。 子供がいるのを見るや、すぐにそれをゆん質に取ってれいむに人間に貰った飴を出すよ うにと迫ったのだ。 れいむは気丈に拒んだが、相手はゲスである。子供を殺すことなどなんとも思っていな いのだ。 「ゆ゛ぴゃ!」 子れいむがあっさりと、本当にあっさりと潰された。 「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!」 「だ、だちゅけ……ちぇ……」 もう一匹の子れいむも上にのしかかられている。 「やべでええええ、飴さんをあげるがら、やべでえええ!」 「ゆへっ、さいしょからそうすれば、その汚いちびは死なないで済んだんだぜ」 夫のまりさと本当に同種かと思うような嫌らしい笑みを浮かべて言ったゲスまりさに、 れいむは歯軋りしながらも飴の入ったビニール袋を渡した。 「ゆへへっ、ひきあげなのぜ!」 ゲスまりさが言うと、連中はぞろぞろと未練なくおうちから出て行った。 子れいむを失った悲しみに打ちひしがれながら、それでもれいむは残りの二匹が助かっ たことに安堵した。 「ゆへっ、これはこれは、だんなさんのおかえりなのぜ」 そんな声が表から聞こえてきた。 れいむははっとして子れいむの亡骸から目を上げる。 自分のおうちで何をしていたのかと詰問するまりさの声もした。 それに得意そうにゲスまりさが答える。 「おとなしく出さないから、ちびを一匹潰してやったのぜ、ゆひゃひゃ」 ゲスまりさがそう言った瞬間――。 「ゆっぐりじねえええええ!」 まりさの怒号が響いた。 「まりざっ!」 れいむはおうちを出た。 「ゆっひゃあ!」 「ちぃーんぽ。勝てると思ってるかみょん」 「けんかはあいてを見てから売ってねー」 「ゲラゲラゲラ、死ぬのはお前だよ!」 まりさの必死の攻撃も、それが来るのを予想していたゲスどもによって阻まれていた。 「やべでええええええ!」 「ゲラゲラゲラ、馬鹿がもう一匹来たのぜ!」 止めに入ったれいむもゲスまりさに体当たりを喰らってしまう。 それからのリンチで、れいむが生き残れたのは、早々に戦意を喪失して全く抵抗をしな くなったのと、まりさが最後まで闘志を失わずに抵抗し、ゲスどもの攻撃を多く引き付け たせいであったろう。 まりさは、それから数時間ほど苦しんだ後に死んだ。 こんな時に頼りになる飴は当然ながら一個も残っていない。 今更ながら、れいむは飴を二つに分けておくなどの処置をしていなかったことを悔やん だ。 れいむも無傷ではない。 必死にその体を引き摺って狩りをした。 子れいむも子まりさも、れいむが頑張っているのを知っているので不満一つ口にしない が、まりさが生きていた頃よりも明らかにむーしゃむーしゃできず、ゆっくりもできてい ないためどことなく暗く沈んでいた。 以前は誰にも誇れる明るい仲良し家族だったのに……。 れいむは、その日も必死に狩りをしていた。 幸いなことに、人間が食べきれずに捨てようとしていたお菓子を貰うことができた。 こんないいものを食べきれないから捨てようとするなんて、とれいむは思った。 そして、その帰り道――。 「ゆびぃぃぃ、やべでぐださい」 「ごべんなざい、ごべんなざい!」 「いぃぃぃんぽ、ゆ、ゆるじでほじいびょん!」 「わ、わがったよー、にんげんざんだちが強いのわがったがら、もうゆるじでえええ!」 ゆっくりの悲鳴を聞いた。 聞き覚えのある声だ。 「ゆ!」 そこではあのゲスまりさたち、れいむのしあわせーをぶち壊したゲス一味が、二人の人 間に暴行されて涙を流しながら許しを乞うていた。 いや、実際は一人は笑って見ているだけで、やっているのは一人だけだ。 「勝てると思ってたのかよ!」 「喧嘩は相手見て売れよなー」 「なぁーにがゆっくりしね! だよ。死ぬのはお前らだよ!」 れいむとまりさがなす術も無かったゲスたちが、何もできずにやられていく。 れいむはゲスまりさたちの悲鳴を背に、跳ね出した。 まりさと子れいむを殺したゲスどもが人間にやられているのをざまあみろと思うよりも、 れいむの中には、先ほどのことと合わせて、やはり人間というのは自分たちゆっくり如き よりもはるかに凄い存在なのだと思う気持ちの方が大きかった。 その日持ち帰ったお菓子を食べて衰弱気味だった子供たちが元気になって、れいむは久 しぶりにゆっくりすることができた。 そして、それが最後のゆっくりとなった。 翌日からはお菓子をもらえるような僥倖には出会えず、子供たちはまた衰弱していった。 先に子れいむが逝った。 子まりさも後を追おうとしていた。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 頭に子まりさを乗せたれいむが這いずる。 食べ物を子供たちに優先的に回していたれいむとて辛い。 しかし、行かねばならぬ。 この子だけは……この子だけは……。 二度と来るなと言われたあそこへ……。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 「ゆぅぅぅ」 懐かしい庭が見えた。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 この子だけでも……。 れいむは、このまま死んでもいい。この子だけは……。 きっと、優しいお兄さんのことだから、自分のことは許してくれなくとも、子まりさの ことは助けてくれるはず。 その淡い希望を原動力に、這いずる。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 「ゆ? ゆっくりしてないれいむなのぜ」 庭には先客がいた。 一匹のゆっくりまりさである。お帽子に銀バッヂをつけている。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆ……ゆっぐ……いっで、ね……」 「ゆぅ、どうしたんだぜ。ここはにんげんさんのおうちだから入ってきちゃ駄目なんだぜ」 「ゆ……れ、れいぶは、おにい、ざんに……」 「ゆぅ……まつのぜ」 まりさはぴょんと跳ねて壁に沿って置かれた小さな階段を上ると、小さな扉を開いて家 の中に入っていった。 しばらく経って戻ってきたまりさは、帽子の中から飴玉を取り出した。 それは懐かしい、あのれいむが大好きだった飴玉だった。 「まあ、こいつを食べるのぜ。でも、言っておくけど、あまりにもれいむがかわいそうだ から恵んでやるのぜ。勘違いしてまた貰いに来たりしたらお兄さんに言ってせいっさいっ してもらうのぜ」 「ぺーろぺーろ、し、し、し、しあわせぇぇぇぇ!」 れいむは飴玉を舐めて歓喜の声を上げた。 「ほら、おちびちゃん!」 舌の先に乗せた飴玉を、子まりさの口元へ持っていってやると、子まりさは舌を伸ばし た。 「ぺーりょ、ぺーりょ……」 ちあわちぇー、という声こそ出さなかったものの、明らかに子まりさの顔がゆっくりし ているのを見て、れいむは喜んだ。 「ゆぅ、まりさ」 「もうやらないんだぜ。さっさと帰るんだぜ」 「まりさは、お兄さんに飼われているんだね」 銀バッヂをつけているのを見てもしやと思ったが、手馴れた様子でおうちに入って飴玉 を持ってきたことにより、確信することができた。 このまりさは、お兄さんがれいむを捨てた後に飼っている飼いゆっくりなのだ。 そもそも、一人暮らしの寂しさを紛らわすためにお兄さんはれいむを飼っていたのだ。 そのれいむがいなくなれば、その穴を他のもので埋めようとするのは当然だ。 「ゆ?」 れいむの口ぶりに妙なものを感じたらしいまりさに、れいむは自分は以前ここのお兄さ んの飼いゆっくりだったことを告げた。 「ゆゆ!? は、話は聞いてるのぜ。れいむが、れいむなのぜ?」 「ゆん」 まりさは、驚いたようだ。 「……いっしょになったまりさは、どうしたのぜ」 「ゆぅ」 それかられいむはここを出てからの一連のことをまりさに語った。 「ゆゆゆぅ……」 「だからこの子だけでも助けて欲しいんだよ。れいむはどうなってもいいよ。……お兄さ んは、いないの?」 「ゆ、お兄さんはまだまだお仕事なんだぜ」 「ゆっ、そうか……」 れいむは野良になってからそういった感覚がなくなっていたが、そういえばお兄さんは 何日か仕事に行って一日二日休む日があり、仕事に行く日は朝から晩までおうちにいない のだった。 「れいむ……もうここには来ない方がいいんだぜ」 「ゆ?」 「お兄さん、自分を裏切ったれいむのこと、すごい怒ってるのぜ。捨てたりしないで、あ の汚い野良まりさといっしょに殺しておけばよかった、っていつも言ってるのぜ」 「ゆ? ゆゆ!? そ、そんなわけないよ! お兄さんがそんなこと言うわけないよ!」 れいむは、確信に満ちて断言した。 「ゆぅ……」 それを見て、まりさは気圧されたように後ろにずりずりと下がる。 「とにかく、ここでお兄さんの帰りをまつよ。まりさがくれた飴さんのおかげで、おちび ちゃんも少しげんきになったし」 「そ、そうなのかぜ。で、でもでも、まりさの言ったことはほんとーなのぜ。すぐに帰っ てもう来ない方がいいのぜ?」 「ゆん、どうせ、帰っても、れいむもおちびちゃんも生きていけないよ。それなら、お兄 さんにれいむはどうなってもいいからおちびちゃんだけでも助けてください、ってお願い してみるよ」 れいむは、もう完全に開き直ったというか、覚悟を決めた。 「……ち」 それを見て、まりさは小さく舌打ちすると、 「それじゃ、そこで待ってるといいのぜ。まりさはおうちですーやすーやするのぜ」 そう言って、家の中に入ってしまった。 おうちですーやすーやするという言葉に、たまらない羨望を感じつつ、れいむはお兄さ んの帰りを待った。 「ゆぴぃ、ゆぴぃ」 「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」 やがて、まりさがくれた飴玉で少し栄養補給ができたのと疲労のせいもあり、れいむと 子まりさは寝息を立て始めた。 「ゆん、れいむれいむ」 まりさが出てきた。 「れいむ、ねてるのぜ?」 言いつつ、れいむの様子を射るような視線でうかがう。 「さっき帰っていればよかったのぜ……」 「ゆ!?」 れいむは、衝撃で、目が覚めた。 「ゆ゛……な、な゛に……どぼじで……」 わけがわからなかった。 わからぬままに、次々に衝撃がれいむを苛む。 「い、いだ、やべ……やべで……ま、まりざ!」 自分へ殺意のこもった体当たりをするまりさに、れいむは止めるよう懇願した。 「ゆっくりしね、ゆっくりしね、ゆっくりしね」 まりさは全く聞く耳持たずに攻撃を繰り返す。 「ど、どぼ、じで、ごんあ……ごと、ずる……の……」 「お兄さんの飼いゆっくりはまりさなのぜ。お前なんかに、邪魔させないのぜ」 さっき飴玉を食べたとはいえ、根本的に衰弱しきっていたれいむである。抵抗らしい抵 抗もできず、衝撃を受けるたびに餡子を吐き出すようになってからは意識すら朦朧として いった。 「……ゆん」 れいむが死んだのを確認すると、まりさは、しあわせそうに寝息を立てている子まりさ を見た。 跳躍した。 「ただいまー」 「おかえりなんだぜ!」 お兄さんが帰って来た。 「おかばんおもちしますだぜ」 「持てないだろーが」 いつものやり取りをして、お兄さんがカバンを置き、上着を脱ぎ、大きく息を吐いて伸 びをする。 「お兄さん、お兄さん」 お兄さんが落ち着いたのを見て、まりさが声をかけた。 「んー、なんだ」 「実は……」 まりさが言うには、すーやすーやとお昼寝をしてから目覚めると、なんと庭でゆっくり が死んでいたというのだ。 「んん、野良の行き倒れかな」 「ゆぅ、どーも喧嘩してやられたみたいなんだぜ」 「どれどれ」 お兄さんが庭に出ると、まりさが言った通り、一匹の成体サイズのれいむと子まりさの 死体があった。 「ひどいな、子供なんかぺしゃんこじゃないか」 「ゆぅ……ゲスは子供でも容赦しないのぜ……」 「そっか、お前、元野良だもんな」 「ゆん、野良ゲスの怖さはまりさようく知ってるのぜ」 「ん?」 お兄さんは屈んで、れいむの死体を凝視する。 「ど、ど、どうしたのぜ? そのれいむが、どうかしたのぜ?」 「んー、いやー、ほら、何度か話しただろ。前に飼ってたれいむ」 「ゆん」 「そいつなんじゃねえか、と思ったんだけど、うーん、わからんな。野良暮らしで見た目 変わってるだろうし」 「ゆぅ……違うのぜ。れいむは、まりさと一緒におちびを産んでゆっくり暮らしてるんだ ぜ、こんなところで死んでるわけないんだぜ」 「うん……そうだよな。……こいつらは、明日の朝に穴掘って埋めてやろう」 「ゆん、それがいいんだぜ」 「うし、じゃ、おれは風呂はいってくるかな」 まりさは、野良だった。 産まれた時こそ両親と姉妹と一緒にゆっくりできたが、過酷な野良の生活はそれらを次 々に奪っていった。 とうとう、母親のれいむとまだ子供だったまりさだけが生き残った。 「おちびちゃん、みんなの分までゆっくりしようね!」 「ゆっきゅち!」 そう言葉を交わした次の瞬間、母れいむは死んだ。 「シュートッ!」 いきなり人間がやってきて、思い切り母れいむを蹴ったのだ。 母れいむはふっ飛んで壁に激突し、大量の餡子を吐いて死んだ。 「おいおい、いきなりなにすんだよ」 母れいむを蹴飛ばした男の連れらしい別の男が言った。 「ああ、なんかゆっくりいたから、シュート!」 「おいおい、止めたれよ! かわいそうじゃんか!」 かわいそうと言いつつ、大笑いしながら男は言った。 「そういやシュートっていえばさ、今度の代表の試合」 「ああ、監督変わって初めての試合だよな。あの監督ってどうなの?」 そして、もう次の瞬間には、全く違う話に夢中になりながら、去って行ってしまった。 まりさは、もう理不尽にも程がある仕打ちで最後の家族を失い、呆けていた。悲しいは ずなのに、涙すら流さなかった。 それからも相も変わらず過酷な野良生活をまりさは生き抜いた。その中で、まりさの心 をかき乱したのは飼いゆっくりの存在だ。 ゆっくり全てが同じ生活をしているのならばよいが、同じゆっくりがあからさまに自分 たちよりもいい生活をしているのがまりさには納得できなかった。 もう、なんか世の中そういうもんらしい、と納得した頃には、世の中がそういうもんな らば自分もなんとか飼いゆっくりになりたいものだと思っていた。 飼いゆっくりになるには、そのための厳しい躾を受けていなければいけない、という話 を聞き、所詮自分のような野良が飼いゆっくりになるなど夢物語かと諦めた。 そして、諦めた時に、その夢がまりさに下りて来たのだ。 食べられる草を見つけて侵入した人家の庭。 「ん、ゆっくり……まりさか」 自分を見下ろす人間。 はじめは、まりさはこれで終わった、死んだ、と思った。 「ゆゆゆ! ご、ごべんなさい! く、草さんは返すから許して欲しいのぜ!」 駄目で元々と必死に謝ると、その人間はそんな草むしって持ってってくれるならありが たいぐらいだと言って、まりさを許した。 それから、何度かその庭に通って草を貰っていたが、その内に、その人間――お兄さん とよく話すようになった。 そこで、以前れいむを飼っていたこと、そのれいむが野良まりさと一緒になると言って 出て行ってしまったことを聞いた。 なんて愚かなれいむだと思いつつ、まりさはこのお兄さんがゆっくりを飼っていたこと があるということを強烈に頭に刻み付けた。 お兄さんは約束を破ったのだからとれいむを追い出したことを後悔していた。 約束を破ったのに、これをなぁなぁで許してまりさともども迎え入れたりすれば増長し てゲスになると思ってのことだったが、今から思えば番のまりさは決してゲスではなかっ たようだし、もう少し様子を見てみてもよかったかもしれない。 それらの話を聞いて、このお兄さんはゆっくりに優しいゆっくりした人間さんだとまり さは確信した。 「お兄さん、まりさを――」 飼いゆっくりにしてください、とはまりさは言わなかった。 「お兄さん、まりさを飼いゆっくりになれるよう鍛えて欲しいんだぜ。まりさ、飼いゆっ くりになりたいんだぜ」 「んん?」 まりさは計算して言ったわけではないが、この物言いは、お兄さんの興味をまりさに向 けるのに効果があった。 まりさは家族を失って以来、野良生活がほとほと嫌になって飼いゆっくりになりたいと 思っていたが、どうも飼いゆっくりになるにはそのための「躾」が必要らしい。 それで諦めていたのだが、お兄さんと知り合うことができた。お兄さんは以前れいむを 飼っていたのなら、飼いゆっくりの「躾」を知っているのだろう。それを教えて欲しいと まりさは懇願したのだ。 お兄さんは快諾し、それからまりさが日曜毎に通ってきた。 やがて、ダンボールで作ったおうちを庭に置いてそこに住んでいいと言われ、艱難辛苦 なんとか銀バッヂ試験に合格できるかというところまで教育が進んだ時、遂にお兄さんは まりさをおうちの中に招き入れた。 お兄さんも、れいむを失った穴を埋めるための何かを欲してはいたものの、ゆっくりを 飼うことに抵抗があった。またれいむのように去られたら……そう思うと踏み切れなかっ た。 そこへ、まりさが現れた。 飼いゆっくりにするわけではなく、あくまでもそのための教育をしてやるだけだ、とい うのはお兄さんの抵抗を和らげた。 そして、自分の教育により、野良として生まれたまりさが銀バッヂ合格も夢ではないと いうところまで来る間に、十分以上に情もわいたし、まりさの頑張りはよくわかっていた。 ここまで来れば、お兄さんの口から、 「まりさ、うちの飼いゆっくりにならないか?」 という言葉が出るのは時間の問題であったろう。 まりさはその後、一度は落ちたものの、その悔しさをバネに猛勉強し、とうとう銀バッ ヂ試験に合格することができた。 まりさは夢をかなえた。 まりさは、飼いゆっくりになったのだ。 「ゆぅ……絶対、ぜーったいに、優しいお兄さんの飼いゆっくりの座は、誰にも、誰にも 渡さないのぜ」 お兄さんが風呂に行った後、窓かられいむと子まりさの死体をじっと見つつ、まりさは 呟いた。 お兄さんは自分を信頼してくれている。 それはまりさも感じていたが、時々お兄さんが前に飼っていたれいむのことを話す時に 見せる寂しげな顔が、まりさの心に引っかかっていた。 ――まりさとそのれいむと、どっちが好きなのぜ? 答えを聞きたくないゆえに投げかけられぬ疑問が、まりさの中にわだかまっていた。 優しいお兄さんのことだから、どっちが、とかは決められないよと言うであろうが。 心配そうなお兄さんに気を遣って、きっとれいむはまりさと一緒に家族を作ってしあわ せーにゆっくり暮らしているはずだと言いつつ、内心では厳しい野良ゆっくりの生活に耐 えられずにとっくに死んでいるであろうと思って安心していた。 それが、今日、そのれいむが現れたのだ。 幸いなことに、本当に、本当に幸いなことに、お兄さんがいない時に。 追い出したことを後悔していたお兄さんである。 れいむが、こうなってしまったわけを涙ながらに語り、自分はいいから子供だけでも助 けて欲しいと頼めば、れいむも子供も助け、もう一度飼ってやる可能性は十分にある。 だからといってまりさを捨てたりはしないだろう。 それはわかっている。 わかっているつもりだ。 まりさは、お兄さんのことをもちろん信頼していた。 しかし、多難なゆん生を歩んできたまりさである。 お兄さんに限らず、他者を完全に信頼しきれないところがあり、ようやく掴んだ今の幸 せを破壊しかねぬ要素には過剰に恐怖を抱き、これを排除しようとするところがあった。 そして、排除した。 文字通りの、排除だ。 「ゆぅ……ゆぅ……ゆひぃぃぃぃ」 まりさは、思い出していた。 れいむを殺し、子まりさを潰した時に、母れいむと子供だった頃の自分を思い出してい た。 今も思い出していた。 窓から見える、れいむと子まりさの死体。 それがまるで、母と自分の死体に見えて――。 「ゆっひぃぃぃぃ」 まりさは母が死んだ時のように、涙を流さずに、泣いていた。 終わり 書いたのは、スレに自己紹介とか書いたらスルーされたのるまあき。 本人証明? トリップ? わからんわ、そんなもん。 そんなわけで、この場を借りてAVあきさんの漫画が好きなことを表明しておくのぜ。 こないだの街ふらんのもよかったです。ふらんは少し凶暴なぐらいが可愛い。 過去作品 anko429 ゆっくりほいくえん anko490 つむりとおねえさん anko545 ドスハンター anko580 やさしいまち anko614 恐怖! ゆっくり怪人 anko810 おちびちゃん用のドア anko1266 のるま anko1328 しょうりしゃなのじぇ anko1347 外の世界でデビュー anko1370 飼いドス anko1415 えーき裁き anko1478 身の程知らず anko1512 やけぶとりっ anko1634 かわいそうかわいそう anko1673 いきているから anko1921 理想郷 anko2087.2088 とんでもないゲス anko2165 面の皮があつい anko2200 けんっりょく
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大丈夫、私は一人じゃないし、いざとなったら店員さんだって動いてくれるはず。 愛理の手を引っ張って、ぐんぐん奥へ進んでいく。 「このっ・・・・・」 変態め!2人を解放しなさい!! ウサギ人間をにらみつけてそう叫ぼうとしたのだけれど、どうも様子がおかしい。 みぃたんとえりかちゃんのまん前に陣取るその人は、腕組み足組みふんぞりかえって、威圧感と貫禄はかなりのものだった。 でも、超華奢。 どう考えても大人の体つきじゃない。っていうか、 「舞ちゃんじゃん!」 「ぶははははははははは」」 もう耐え切れんとばかりに、みぃたんとえりかちゃんがテーブルを叩いて笑い出した。 「なっきぃ反応よすぎ!ねえねえ何で“このっ”って言ったの?何で何で?」 「“このウサギ野郎!”って言おうとしたの?あっはっはっは!」 くっ・・・! 年長者2人がかりの言葉責めに、顔が真っ赤になる。 いったん顔を上げた二人は、私のみかん星人Tシャツを見てさらに吹き出した。 「みかんー!」 背後で愛理が耐え切れずに「ケッケッケ」と笑い出す声が聞こえた。 うさぎ舞ちゃんの細い肩もカタカタ震えている。 ヒドいケロ!とんだドSグループだ! 「もーなっきぃはやっぱり最高だね。おいで。」 涙を流しながら、みぃたんは私の腰を抱いて横に座らせてくれた。 「本当なっきぃはかわいいなあ。」 「ちょ、ちょっとそんなことより、何でうさぎ?」 私の質問に答えるように、舞ちゃんがおもむろにうさぎの首を取った。 たっぷり笑ったから、機嫌はかなりいいみたいだ。はにかんだ顔が可愛い。 「・・・なんか、目立つかなと思って。」 「いや、目立つけど誰だかわかんないよ。」 好きな歴史上の人物は徳川家康。モノマネもできます。 好きな言葉は一石二鳥。でも使い方はちょっと変。 舞ちゃんはしっかりものだけど、やっぱりどこか天然で変わった子だった。 「・・・じゃあ、全員揃ったところで。」 えりかちゃんはお誕生日席に移動して、私のみかん星人と目が合わないように若干上を見ながら、話を始めた。 「多分みんな気づいてると思うけど、今日は栞菜と千聖の件で集まってもらいました。」 わかっていたこととはいえ、みんな昨日のあの光景を思い出したのか、一気に緊張が走った。 「ウチはあの後栞菜を送っていったんだけど、かなり落ち込んでたのね。本当にひどい状態だった。だから、すぐ助けてあげなきゃって思って。」 「、ちっさーも同じ。泣けなくなっちゃうぐらいすごいショック受けてた。それで、えりと相談して、今日この場を設けたの。」 「・・・・なんで、2人はあんな風になったの?」 えりかちゃんたちの報告を聞いて、舞ちゃんが静かに問いかけた。 「それは・・・ごめん、私が勝手に言っていいことじゃないから。ちゃんと仲直りできたら、舞にも直接話がいくと思う。もうちょっと待ってて。 でも、これだけは言っておくけど、どっちか一人が悪くてああなったんじゃないの。 多分気持ちのすれ違いと誤解がたくさん積もっちゃっただけなんだ。 あとね、できるだけ舞と愛理となっきぃには中立でいてほしい。 正直、私はちっさーからいっぱい話を聞いたから、きっとこの件に関してはちっさー寄りの考えになっちゃうと思うのね。」 「そうそう。ウチは逆に栞菜とずっといたから、今は特に栞菜の気持ちが心配でたまらない。」 「・・・・要は、ニュートラルでいてってことだね。」 愛理がつぶやくと、2人は5秒遅れて「ニュー・・そ、そ、そうそう。・・・多分。」と言った。 舞ちゃんもしばらく考え込んでから、小さなうなずきとともに「わかった。」と短く返事をした。 「なっきぃも了解。」 本当は詳しい話が聞きたくてたまらなかった。 あんなにも当事者2人が傷つき果てた事件を、このままうわべだけ知って素通りなんてできるはずがない。 でも、みぃたんたちがそう言うなら待ってみようと思った。 今は先入観なしで、2人の手助けをしてあげるべきなんだ。 「で、具体的に何を?」 「うーん、まあ何をするってわけでもないんだけどさ、ここで2人を見守ってあげて。」 見守る? 「今からウチは栞菜の家に行って、栞菜をつれてここに戻ってくるから。千聖にはもう連絡してあって、もう一時間もしないでここに来ると思う。 ウチらが変に口出しするんじゃなくて、2人でとことん話し合ってほしいから、みんなは本当に緊急の時だけ手を差し伸べて。」 「わかった。」 「お店の人には、サプライズを仕掛けたい子がいるから、私たちの姿が見えづらい席に案内してって頼んであるから。」 さすがお姉さんコンビ。ぬかりないな。 「じゃあ千聖が来るまで、何か適当にオーダー・・・・・おっと」 テーブルの上に出しっぱなしになっていた、えりかちゃんのケータイが光った。 「やっばい、千聖だ。・・・もしもし?」 えりかちゃんは声をひそめて電話に出た。 いつもならマナー違反!とたしなめるところだけれど、正直、会話の内容が気になる。 「えっあと1駅?ウチまだなんだよ。・・・・うん、ごめん。待ってて。」 どうやらもうすぐ着いてしまうらしい。 ちょっとあわてているえりかちゃんを観察しながら、お冷に入っていた氷をごりごりとかじった。 二言三言交わした後、えりかちゃんはおもむろに口元を手で覆って、ニヤニヤしながら電話を切った。 ぶはっ 私の口から飛び出た氷が、愛理のおでこにゴチンとぶつかった。 「なっきぃ何やってんの!?」 「え、え、え、えりかちゃん・・・・・!」 幸か不幸か、私はかなり耳が良い。口を隠したって、斜め横の人の声ぐらいなら拾えてしまう。 えりかちゃんはエロカの顔になりながら、こんなことを言っていた。 「待たせちゃうけどごめんね、お詫びに今度すごいのしてあげるからね、千聖。トロントロンにしてあげる。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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はじめて知ったぜ!☆ -- (ぶりちゃん) 2011-01-04 12 57 23
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『逃げこんできたゆっくり親子』 28KB 虐待 制裁 観察 誤解 飾り お家宣言 家族崩壊 同族殺し 番い 赤ゆ 現代 虐待人間 比較的普通な虐待をと思って書きました 初投稿です。 逃げこんできたゆっくり親子 薄くなっていたはずの意識が、引き戻されてくる。 目が冴えてきてしまっている。 今の時間は深夜。 今日はいまいち寝つきが悪く、それでも今やっと眠れそうになったところだった。 だがそこに何やら不審な音が聞こえ、驚きとわずかな恐怖で目が覚めてしまったのだ。 窓を叩くような音。 隣の居間だ。最も、この狭いアパートでは、部屋という部屋はこの寝室とその居間くらいなのだが。 俺の安眠を妨げるのは一体何者だと、わずかに夢心地に入って朦朧とした意識により、怒りだけ駆られて跳ね起きる。 戸を引いて居間に入り掃き出し窓の外を見てみると、外のわずかな光に照らされたそこには、ゆっくりれいむの親子の姿があった。 どちらもれいむ種の、親一匹子一匹。 やたら切羽詰まった表情で思いっきり窓への体当たりを繰り返しているので、とっとと開けることにする。 いくらゆっくりでも、壊されるのではと少し怖くなったのだ。 俺が窓を開けると二匹は素早く部屋に滑り込んで来て、親れいむが叫ぶ。 「ほら、はやくしめてね! れみりゃがきちゃうよ!」 ふむ。なるほど、こいつらは追われて焦っていたということか。 外を見てみると我らアパート住民の庭に、街灯に背を照らされた胴つきれみりゃらしき影が、やたらよたよたしながら入ってくるのが見えた。 ただのゆっくりに逃げられる要領の悪さが、シルエットだけでも窺える。 ちなみにその庭部分は、手を伸ばせば隣の塀に届きそうなほど狭い。 我が家が惨劇の舞台になっても困るので、一応窓を閉めてやることにする。 振り返ると薄汚れたれいむ親子がこちらを見ていた。 「ありがとうございますう! たすかりましたあ!」 「ゆ、ゆ、ゆーぅ」 赤ゆの方は既に疲れきっているのか、ふらふらだ。 こちらは無理に起こされたところだというのにな。 「あのれみりゃから逃げてきたのか?」 「そうですぅぅ、まりさともはぐれちゃって……」 「大変だな。そいつはもう食べられちゃったのかね」 「ゆぐ……と、とにかく、れみりゃがいるおそとにはでられないです! どうかここにとめてください!」 「えー……?」 小汚いこんなやつらを泊めてやるのなんて、正直ごめんだ。 明かりが少ない状況だが、こいつらが例にもれず汚いことはよく分かる。 が、これ以上面倒なことを起こしたくもなかった。 追い出そうとすればうるさいだろうし、れみりゃとて決して静かなやつでもないだろう。 なんといっても今は早く寝たいのだ。 親子にそこまでゲスな雰囲気は見てとれないし、一晩できちんと追い出せばいいだろう。 そう思って俺は親子を泊めることを許した。 「ゆん! よかったあ、ありがとう!」 親れいむの一応の感謝が、右耳から左耳に抜けていく。 飲み物を箱買いしたときの段ボールに新聞を敷いてスペースを作ってやり、そこにのせる。 一応そこから出ないよう言って聞かせ、俺は寝室に戻った。 せめて今からでも安眠を迎えたい。 翌朝、俺はまたも音によって意識を覚醒させられることとなった。 目覚まし時計をセットしていたわけではない。 全く夜も朝も無理に起こされるなんてついてないなー、なんて思っている場合では無かった。 俺の耳に飛び込んできたのは昨日とは比べ物にならないとんでもなく大きな音だったのだから。 昨晩以上に体に力を込めて跳ね起き、居間への戸を叩きつけるように開いた。 そこに広がっていたのは昨日とは違う居間の光景だった。 見事に荒らされ散乱とした部屋。 どシンプルな三段の小さいキャビネットは引き出しを引かれ、中のものを掘り返されている。 なにに使う訳でも無い折り畳みナイフに、昨日駅前でもらったゆっくり保護団体のチラシ等々。確かにきちんとしまっていたはずのものは今は無造作に放り出されている。 そして、あまり物を置いていなかったスチールラックが引き倒されている。先程の音の主はこれらしい。物をのせ無さ過ぎて不安定だったのかもしれない。 そばには、それに乗せていたはずのゆっくりみょんをかたどった、陶器の小物入れが落ちて割れていた。 なかなか気にいっていたのだが、置くところが高すぎたか。 俺にとってこれは惨劇だ。結局この部屋で、起こってしまったわけだ。 基本的に大したものは置いていないので被害はそれなり。だが、これを片づけることを思わされると気が重い。 そして何より、ここまで触れてきていないがこれらを引き起こしたその原因。 いや、それはもはや考えるまでもない。 やはり昨日無理をしてでも追い出してれみりゃに捧げてやればよかったのだ。 まさか、一晩で評価をひっくり返すことになろうとは。 そうその原因は、やはりと言うべきか。……ゆっくり親子だった。 「あ、にんげんさん」 こちらを見つけ浮かべる笑みに嘲りを感じた。 そんなつもりはないだろうなとも思う。 「にんげんしゃん! あみゃあみゃちょーだいにぇ!」 足元から赤ゆの声がする。 こんなことをして、なぜ平気な顔でいられるのだろう。 そこまでこいつらはどうしようもない生物か。 「にんげんさん、ここはれいむのものだよ! さっきにんげんさんがくるまえにせんげんしたからね!」 「しょうなんぢゃよ! ゆっくちりかいしちぇね!」 なんだそりゃ。 ここは俺の家だって、流石のこいつらにも分かっているはずなのに。 「ゆゆ~ん、にんげんさんはじぶんのおうちにもどってね! こっちにくるならあまあまちょうだいね! たくさんでいいよ!」 ちら、と俺が出てきた寝室を見ながら言うれいむ。 どうやらこの部屋をもらったと、そう言いたいらしい。 「これ、お前らがやったのか?」 「ゆ? そうだよ! あまあまさがしだよ! なかったけどね! どこにかくしたのか、おしえてくれてもいいよ!」 眠りに落ちるのを邪魔され、れみりゃから助けてやって、更に一晩泊めてまでやった。 その見返りがこれとは。今まで冷静を保っていたはずの俺の心に、怒りが沸き起こるのをここにきて感じた。 後押ししてくれるこの感情。 これに任せよう。平気で恩を仇で返すこんなやつらに、遠慮してやる道理がどこにある。 気付くと俺は親れいむを蹴りあげていた。 白い壁にぶつかるれいむ。 「ゆ……! び……! ゆうっ、ゆうんやあああぁぁぁ!! いだいいいいぃぃぃ!! いだいよおおおぉぉ!」 「お、お、おかーしゃ……! くしょにんげん! おかーしゃになにしゅる……ゆぴ!」 飛びついてきた赤ゆを、傷つけない程度に軽く蹴り上げる。 脆い方は扱いづらいな。 「おしょらをとん……ゆぺ」 定型句を唱えかけてから地面に落ちる赤れいむ。 「そんなに強く蹴ってないって……お前のかーさん根性ないな」 そう言ってやってから親れいむに近づく。 「ゆぴぃ……! あやばり! あやばりばず! あやばりばずからぼうげらだいで!」 早くも白旗を上げるとは、やりがいのない奴だ。 だがこんな程度で腹の虫がおさまるわけがない。 れいむを両手で挟みこむようにもちあげ、一言投げかける。 「そんなの聞けないなー。なんでこんなことしたのかねぇ……」 「ゆあ……、と、とってもゆっくりしてるばしょだとおもってぇ……。 それにおきたらだれもいなかったから……ゆぎ! ゆぐ!」 挟んだ手で、れいむをねじり上げる。 ルービックキューブを捻るようにだ。 これで理由になると思っているのだろうか。おめでたいな。 これが人間だったら、別に真意でもあったのだろうか。 等と思ってから人間ならこんなことはしないな、と自分で突っ込みを入れる。 結局、昨晩の判断は間違っていたのだ。善良だと思ったのは何かの間違い。 疲れていてゲスな部分を出す余裕がなかったのかもしれない。 もしかすると寝ぼけた俺がそういう部分を見逃しただけなのかもしれない。 結局は見抜けなかった俺も悪いのだろうか。 そう思うとどこか少し冷静になった。 だがそんなことで許せるのか。許せるはずがない。 こいつらは俺に恩義を感じこそすれ、こんな目にあわせる理由はないはずなのだ。 そしてあまつさえこんな風に責任を感じさせてまでいるのだ。 そう思うと、強い苛立ちが沸き起こるのを感じた。 「ゆぎ! ゆぎ! いだいいいぃぃ……!」 「おかーしゃぁ……」 れいむを持つ手に力が入りかける。だがこんなことで潰してしまっては仕方ない。部屋も余計に汚れてしまう。 なんとか、最低限の痛みを感じてくれる程度におさめる。 そしてすぐに軽い捻りの限界に達したらしく、これ以上は動かなくなる。 まあ、いい。とりあえずこれはやめよう。正直ただ蹴る方がすかっとする。 手を離し、れいむが落ちる。成体なら人間の手元から落ちても案外平気だ。 「ゆっ! うぇっ……! ちょっと! きゅうにおとさないでね!」 次は赤ゆだ。 親れいむを足で押しのけて赤ゆに手を伸ばす。 一度逃げられるも、赤ゆの速度では大したことはない。きちんと捕まえ手のひらの上に載せる。 「ゆゆーん、れいみゅはとりしゃんー!」 すると母性に訴えかけられたか、怯えて固まっていた親れいむが声を上げる。 「ゆ! おちびちゃんはやめてあげてね! れいむのおちびちゃんなんだよ!」 だからなんだっていうんだ。 逐一イライラさせられる。こいつらはいらつかせる精神攻撃が得意技なのだろうか。 「それで? だからなんだって?」 「ゆ!? おちびちゃんはとってもゆっくりしてるんだよ! ほらよくみてね! ゆっくりしてるでしょ! ね!」 たしかにとってもゆっくりだ。 今見るとどうしようもなくいらつく、それはそれはとってもゆっくりな顔をしている小さな饅頭。 「ゆ?」と呟く赤ゆの顔に、もはや無意識でデコピンをお見舞いする。 「いぢゃいいいぃぃぃぃ!! なにじゅるのおおぉ! ゆうううぅぅぅ!」 「おちびちゃあぁん! ゆぐぅ! くそじじい! おちびちゃんをかえしてね!」 足元にぶつかってくる親れいむ。 ゆっくりってやつは柔らかい。正直痛くも痒くもなかった。 「れいみゅぷきゅーしゅるよ! ぷっきゅうううぅぅぅ!!」 「せいっさい!するよ! くそじじいはしんでね! すぐでいいよ!」 無駄な反抗を見せる二匹 それではと、親れいむに赤ゆをとり返すチャンスをやることにする。 散らかった部屋に転がっていた折り畳みナイフを拾い、ひろげる。 親れいむに見せて言ってやる。 「おいれいむ……、これみえるか?」 「ゆ! なんだくそじじい! みえるよ! ばかにしないでね! で、なにそれ! あまあま!?」 「これはナイフって言ってな。物に当てるとよく切れるんだ」 「ぷきゅううううぅぅぅ!」 ぎらつくナイフを親れいむによく見せてやる。 「ないふ? きれるのはゆっくりできないよ!」 さっきまで怒っていたのに、なかなか素直だ。 馬鹿なのは、使いやすいという利点をもっているというわけか。 「お前の体で試してやろうか?」 「ゆ!? い、いいよ! ないふさんはすーぱすーぱさんだね! れいむわかったからきるひつようないよ!」 「ぷぅー、きゅううううぅぅ!」 「じゃあおちびで試そう」 話題に出されて、手のひらの上で必死に膨らんでいた赤ゆが反応した。 「ゆぴ!?」 その顔には恐怖が浮かんでいる。 うむ、気分が良いってことはないがこの顔ならイライラはしないで済むな。 「ゆああああぁぁぁ!? どぼじでそんなごというのおおおぉぉぉ!!」 「嫌か?」 「ゆ! いや! いやじゃよ! れいみゅすーぱすーぱさんいやじゃよおおぉ!!」 「おちびちゃんいやがってるでしょおおぉ!! だめだよおおぉぉぉ!!」 否定の色を強く表わし訴える二匹。 そんなことを言える立場じゃないと分からせてやることすら、難しいようだ。 「じゃあお前がかわるか?」 「どぼじでぞうなるのぉ!」 「お前がやったらおちびを切ったりはしないし、ちゃんと降ろしてやろうかなって思ってるんだけどなー」 「ゆ!?」 「ほ、ほんとうに……?」 「うん、約束は破らないさ」 そんなんじゃ、恩も返せないこいつらと一緒になってしまうからな。 「ゆぐぅ……」 「おかーしゃ……」 俯いて考え始めるれいむ。 自分の体が裂かれるのとおちびちゃんのどっちが大事か、もはや逆に及びもつかないほどの単純思考っぷりでじっくりと考えているんだろう。 「ゆ……わかったよ。れいむはどうなってもいいからおちびちゃんをはなしてね!」 手のひらのおちびが安堵の息を洩らすが、すぐに気付いて親に心配そうなまなざしを向ける。自分の安易さに気付き、親の運命を憂いているといったところか。 さて、よく選んだ。 そうでなくちゃ困る。おちびを見捨てられたりしたら、あとはもう単純に痛めつけるしか手段が無くなってしまうのだから。 「よし、じゃあ……持っておいてやるからお前が自分で体当てて切れ」 「ゆ」 「ゆぴ!? お、おかーしゃ……!」 少し屈んで、ナイフを床に立てるようにして抑えてやる。もちろんおちびを持った手は、高く掲げて降りられないようにしておく。 ナイフには角度を付けておいてやろう。自ら飛び込みやすいように。 「さ、どうした?」 れいむはどうやら予想外だったらしく、その場で硬直する。 俺は切れ味を試すと言っただけで、直々に刻んでやるなんて言った覚えはないのだが。 なんといっても両手がふさがっているのだ。是非協力して貰わなくては。 「……りです……。」 親れいむがぼそりと呟く。 「ん? なに?」 聞き返すと、俺の顔を見上げ口を開いた。 「むりです……!」 「なにがー?」 「むりいいぃ! むりですう! じぶんからいたいいたいはむりですうぅぅ!」 「ゆ!?」 「そっか……。じゃあ仕方ない、おちびだな」 「やべでえぇえ!」 おちびが手のひらの上でびくりとする。 そして俺の方へとゆっくり振り返ってきた。 俺はそんな可哀想なおちびに笑顔を向けてやる。 お前の親が不甲斐ないばっかりにな。 「お、おかーしゃ……」 「やべで! やべでえぇぇぇ! おちびちゃんはまだちっちゃいんですうう!」 立ち上がりナイフを持ち直す。おちびのデコに突きつけ、言う。 「まー、いいや」 「ゆ……?」 「ゆ!!」 「やっぱやめとくか。刃物なんて俺もちょっと危ないしな」 「ゆ、ゆあああぁぁぁ! やっちゃ! たしゅかっちゃよぉぉ!」 「にんげんさんありがとおおぉ! ゆ、ゆ! はやくおちびちゃんをおろしてねぇぇ!!」 なんと勝手な。 それにまさか、自分で言った感謝の言葉まで台無しにするようなことまで言うとは。 「解放してやるとまでは言ってないぞ」 「どぼじでぞんなごというのお!」 「ゆん! もうおかーしゃをいじめないでにぇ! れいみゅもおろしちぇにぇ! しゅぐでいいよ!」 本当に、どうしてこいつらはこうも瞬時に調子に乗れるのだろう。 一度ゆっくりの思考を覗いてみたいものだ。 ナイフをたたんで床に置き、おちびを先程の親れいむと同じ刑に処す。 顔を挟んで持っての雑巾絞りだ。 このサイズでは持つよりつまむという感じだが。 「ゆ……ゆぎ! いぢゃいいいぃぃ! やべでねぇぇ!」 声を上げるが、もちろん続ける。 おちびは柔らかいが小さいので加減が難しい。 こいつならもっと面白い状態になってくれるかと思ったのだが、結局親と同じ程度にしか捻れないようだ。残念ながら。 「ゆぎ、ゆぎぎぎぎぎぎ!」 仕方ないのでひとまず終えてやって離すことにする。 もちろん手のひらの上から降ろすわけではない。 「ゆ……ゆふぅー! みょうおわり? おわり? れいみゅたえちゃよ! ゆっへん!」 「すごいよぉ! おちびちゃあぁん!」 「なんだきゃれいみゅ、みゃえよりふにゃふにゃしゃんになったきがしゅりゅよ! れいみゅは、なめくじしゃん!」 「おちびちゃんよくがんばったねえぇ!」 まったく、俺が加減してやったからだというのに。 こんなことでぎゃあぎゃあと、いちいち面倒な奴らだ。 おちびを褒め尽くしたれいむが今度はこちらをキッと睨みつける。 「いいかげんにしてね! そろそろおちびちゃんをはなしてね!」 まだ言うか。 おちびを軽く痛めつける程度では、堂々巡りにしかならないらしい。 同じことばかりうるさく言われ続けるのは、もう勘弁してほしいところだ。 またしてもイラッとしてしまったので親れいむの顔にもう一度蹴りを入れてやる。 ただし今度はさらに弱め、小突く程度だ。 「ゆちー、なんだきゃやわやわしゃんしゅぎちぇ、れいみゅゆるゆるしゃんだよぉ」 おちびがもはや訳のわからないことを言っている。もうこいつは無視だ。 「ゆぎっ! いだい! ゆんやああぁぁあ!!」 「ゆぅー、うんうんでりゅよ!」 本当に軽くなのに大袈裟にわめく親れいむ。 さっきの一撃を思い出したってだけで叫んでいるのではなかろうか。 ……なに、うんうん? 「うんうんしゅっきりー! ぎゅいぃーでゆるゆるしゃんになっちゃからいっぴゃいでちゃよ!」 ……見ると、おちびが手のひらの上でうんうんをかましてくれていた。 それもきれいに手のひらに収まるように。 黒い餡子の塊が何やら仄かにあったかい。 ああ……なんだか、もういいや。 「……ゆっ! なにしゅるの! れいみゅのおかざりしゃんかえしちぇね!」 おちびを指でおさえ、もう片方の手でリボンを抜きとる。 それをポケットにしまってから、もう一度おちびをしっかりおさえる。 そして、手のひらの上の排泄物をおちびの髪に塗りたくった。 「おかざ……ゆぴぃ! うんうんちゅけないでにぇ!」 それはこっちの台詞だ。 うるさく言ってくるが、もちろんやめてなどやらない。 大方塗り終えると、だいぶ手のひらにも広がってしまっていた。 「おちびちゃんになにじでるのおおおぉぉ!」 「ゆんやああぁ! くちゃいいぃ! ゆぴいいいぃぃぃ!! れいみゅのさらさらかがやくごくじょうっ!のかみしゃんがくちゃいぃぃ!」 うるさく泣きわめくおちびを掃き出し窓から狭い庭部分に放り出し、窓を閉める。 「ゆ!? お、おちびちゃん!」 まず手を洗おう。そしたらもう、いいかげん終わらせてしまうとしよう。 俺ももはや限界だ。しかし何とも屈辱的な方法で本気にさせられてしまったものだ。 おちびの贈り物を洗い落した後、未だ散乱した居間に戻ると親れいむが窓に向かって体当たりしていた。 外から中から、窓がそんなに好きか。と言う冗談は置いといて。 さっきから親れいむの声は部屋に響いていた。 もちろんその目的はただ一つ。おちびの元に行こうと奮闘している、というわけだ。 「おちびちゃん! いまあけてあげるからね! まっててねええぇぇ!」 だが窓は大きな音を立てるばかりで、割れてまではくれない。 俺は足に体当たりされた感触を思い出して、あの力じゃ無理だろうな、と思った。 昨夜のれみりゃは既にいなくなっていて、外には脅威が存在するわけでもなんでもない。 それでも親れいむが必死なのは、さっきのことでおちびちゃんが泣きっぱなしだからだろう。くちゃいくちゃいと。 親れいむを後ろから捕まえ、体当たりを止める。 「なにするくそじじい! おちびちゃんをはやくもどせ!」 「戻す?」 「ここはれいむのゆっくりぷれいすだっていってるだろおおぉ! はやくもどせ!」 しつこい奴だ。と思って、そういえばまだきちっと否定してやってなかったことを思い出す。 「戻すね……、まあ賛成してもいいな」 ただし言葉尻をとって、の話だが。 「じゃあはやくもどせ! おちびちゃんをもどせ! それからあまあまもってこおおぉい!」 「お前が戻れよ。元の外にさ」 「ゆが!? そんなのおかしいでしょおお!? ここがれいむのゆっくりぷれいすなんだよお!!」 「ここは俺の家なんだよ。この部屋もあっちの部屋も。お前が来るずっと前に人間流のおうち宣言をしてるんだよ」 「ぞんなのじるがああ! いいがらおぢびぢゃんをもどぜ! ばやぐじろおおぉぉ!」 やはり言っても無駄か。 なにも聞かず傲岸不遜を貫き続けるしかない。ある意味一貫しているわけだ。 そんなお前たちを気にいってくれる人の所に飛び込めば、よかったのにな。いればだが。 親れいむのリボンも抜き取り、窓の外に出してやる。 ただしこいつは、おちびより強くだ。真っ直ぐ投げてやると、目の前のコンクリートブロックの塀に潰れるようにぶつかるれいむ。 それでも平気でぼてっと地面に落ち、泣き声を上げてみせるのは流石の丈夫さだ。柔軟性のなせる技だろうか。 俺は先ほどのナイフを持ち、サンダルをつっかけて庭におりる。 素早くおちびに飛びつこうとする親れいむに先んじて手を伸ばし、おちびを持ち上げた。 「さーて、さっきの約束やっぱ守ってもらおうかな」 そう言ってナイフをおちびにあてる。 怯えるおちび。 親れいむは愕然とした表情で固まっていた。 「こいつで切れ味試すって約束だったよな」 親れいむが表情に絶望を交え、悲痛な声をあげる。 「さっきはやめるっでいったでしょ! やべで! やべで! おぢびちゃんをだずげて! ごんどごぞがんばりばすがら!」 「あのな……二度も同じチャンスは訪れないものだよ」 そう言って、ぷるぷる震えるおちびの口にナイフを突っ込む。 深くまで差し込んだナイフで、頬の皮を切り裂く。後頭部近くまで広がる口。 「いぢゅあい! いぢゅぁいゆお……おかーしゃ……ゆぴいいいいぃぃ!」 泣き叫ぶおちびを押さえ込んで反対側も同じようにする。口裂けゆっくりが完成した。 さらに騒ぎ始めるおちびを強く抑え込む。 自分の体なのに騒ぎ過ぎれば餡子が漏れて危ないと分かっていないのか。 餡子が漏れ出さない内に地面に置き、親れいむと再会させてやる。思えば俺に捕まって以来の再会だ。 だが親れいむはそれどころではないのをきちんと弁えているようだ。流石に慎重な姿勢を見せる。 「おちびちゃん! しずかにしてね、あんこさんがもれちゃうよ」 「ゆ……おかしゃ、ゆうぅ……しゃべりにきゅぅいぃぃー!」 「おちびちゃん! しずかにしないとだめだよ!」 おちびを叱り必死にその動きを止めようとする親れいむ。 だがすでに切り口からは餡子が漏れかけている。このままではもっと漏れていくだろう。 だがそれよりもまず、おちびの体はぱかぱかと開いてみせていた。 おちびが喋るのに乗って上顎が持ち上がるのだ。 バランスを崩せば、あの体はすぐ開いてしまうだろう。 おちびはそんな自分の体の状態に困惑しながらも、叫ぶのをやめられない。 親れいむもそんなおちびを見て焦りを募らせ始めたようだ。 「おい、れいむ。おちびちゃんを後ろから支えてやった方がいいぞ」 親れいむに声をかけてやる。 親れいむははっと気づいたようにして、こちらに一瞥をくれることもなくおちびの背後に回る。 「おちびちゃん、おかあさんがささえてあげるからしずかに……ゆ! く、くさっ」 最後にれいむは反射で呟く。 そう、髪にはさっきうんうんを塗りつけたばかり。 つい出てしまった親れいむの小さな声を、おちびは聞き逃さなかった。 大口を開け、とうとう―― 「なにいっちぇるの……! おかーしゃがいけにゃいんでちょ……! おかーしゃがぜん! びゅっ! ……べ……べ」 叫ぶ勢いで上あごがあがりきり、頭が地面に落ちる。 まさにと言うべきか、首の皮一枚で繋がっておちびはゆっくりの開きになってしまった。 「お、おちびちゃああぁん!」 下あごに多くのあんこが残されているのがわかる。 上あごにもいくらか持っていかれているが、下あご部分では餡子がこんもりと山になっていた。 もしかするとあれが中枢餡というやつなのかもしれない。変わった様子はないのでよく分からないが。 下あごの先でずらりと半円状にならんだ歯の真ん中、舌がぴくぴくと痙攣していた。 先っちょは丸められていて、おちびが痛みに耐えているのがうかがえる。おそらく風前の灯だろうが、おちびはまだ生きているようだ。 そしてその身を二つに裂かれた苦しみを味わっているのだろう。 親れいむがもはやどうしていいか分からずに――いや、あれは既におちびを亡くした悲しみを感じているのかもしれない――顔を絶望に固め立ちすくんでいた。 だが、おちびは確かにまだ生きている。 この声が届くかは分からないが、こんな半端で終わらせても仕方ない。仕上げてやらねば。 「おちび、ジャンプしたら戻れるんじゃないか?」 俺の声にピクリと反応する二匹。 親れいむの顔が、本格的に絶望から悲しみへと変わった。 「おちびちゃん! うごいちゃだめ!」 だがおちびは、その台詞とほぼ同時に飛んでしまっていた。 苦しみに支配されたその思考は、きっと究極的に単純だったのだろう。 ジャンプの頂点からの落ち際に、確かに元の体を取り戻すおちび。 疲弊しきって濁った瞳にわずかの希望が浮き上がった。 だがその体はバランスを崩し、顔を地面へと向けてしまう。後ろを気遣いすぎて前に重心が乗っていなかったのだろう。 そしておちびは落ちた。 地面にあんこをはきだし潰れるおちび。今度こそピクリとも動かなくなる。 親れいむはそれをもはや生気のない目で見つめていた。 「あーあ、潰れちゃったな」 俺が言うと、ゆっくりこちらを見上げる親れいむ。 「さて、次はお前かな」 継いだ言葉に震え上がって、恐怖を浮かべた顔をする。 その表情のまま、ずいと前に出て叫び出す。 「ゆるじで! おぢびぢゃんぼばりざぼなぐじで、れいぶかばいぞうなんでずぅ!」 「ふーん、可哀想とは思わないけど……許されたいのか」 「ゆるじでぐだざい!」 「でもねぇ、俺もこのまま許すわけにはな」 「なんでぼじばず! なんべぼじばずがらゆるじで!」 「ん? そうか、なんでもするか。ならひとつ方法があるよ」 「ゆ! なに! なんでずが! ばやぐいっで!」 わずかに顔に喜びを浮かべ、食いついてくる。 俺の言ったことはろくに実現できていないこいつだが、次こそやってくれるだろうか。 「そのおちび、食べてくれ」 「ゆ……!」 れいむが表情を固め、たじろぐ。やはり無理だろうか。 「嫌か?」 「ゆ! ばっで! ばっで……」 戸惑い、怯えた表情を浮かべるれいむ。 なんだかんだで、色んな表情を見る羽目になったな。 「そうだよな、助かりたいよな」 「ゆ……」 俯く。 「でもおちびは食べたくないか? でもさあ、考えてみろ。」 顔を上げ、こちらを見る。 怯えを残したままの、救いを求める表情だ。そんなものを与えようとは思わないが。 「お前だけが許されたらおちびはここであのままだぞ」 「ゆ……!?」 「親に見捨てられ、野ざらしのまま段々朽ちていく……。可哀想じゃないか?」 「……」 「おちびはもう動けないんだ。れいむが自分の体に取り込んでさあ、ここから連れて行ってやれよ。そしたら、ずっと一緒にいられるじゃないか」 「ゆ……ずっと……ゆっくり……」 「そうそう、ずっと一緒にゆっくりできる。それに、俺もおちびを片づけてやらなくてすむから、助かるんだよ」 「ゆ……」 「俺とおちびを助けると思って、頼むよれいむ」 「ゆ……あ……」 ゆっくりとおちびに近づくれいむ。 うんうんの臭いもまだ残るであろうその体に、れいむは今度こそ躊躇わずに食いついた。 ゆっくりと咀嚼する。 すすり泣く声が聞こえたのは、最初だけ。 食べ終えて動かなくなったれいむの前に回る。 おちびは餡子のひとかたまりも残さずに、消えている。土をなめてでも、れいむが食べ尽くしたからだ。 口がだらしなく開かれ、その目はまたも生気をなくし焦点があっていなかった。 そんなれいむに告げてやることとする。 「よしれいむ、今度こそできたな」 わずかに見上げるれいむ。 だが未だにその目は遠くを見ている。 最後だけだが、やっと俺の指図を行動に移せたか。 「これで許してやれるぞ、れいむ。俺はこれ以上お前に危害をくわえない。後は好きに逃げな」 「ゆ!」 れいむの顔に一気に驚きと喜びが灯った。 「ほんとうにゆるしてくれるの!?」 信じられていなかったのだろうか。 「ああもちろん、約束は守らなくちゃな。あ、その前に」 「ゆ?」 「お飾り返してやるからな」 家から出すときに奪い取ったリボンを取り出し、れいむに見せる。 「つけてやるよ。……もう何もしないから、来な」 そう言ってやると、おずおずと近づいてくるれいむ。 さっきの約束は本当だ。だから俺はもう本当に危害を加える気はない。 後はこの親子を逃がしてやるだけだ。 れいむの後頭部の辺りに元通りにしっかりリボンを結んでやった。 「もうちょっとだからな」 そう言ってれいむを少し引き寄せ軽く押さえる。 そして頭にリボンを結ぶ。 れいむは静かに任せている。顔を見ると喜んでいるようだ。お飾りが戻ってきて嬉しいのだろう。 「さ、出来た。もういっていいぞ」 「ゆん……ありがとう! それじゃあ、さよなら」 ゆっくり去っていくれいむを見送る。 れいむは昨晩れみりゃが現れた辺りから逃げていった。 さて、やっといなくなったな。 下手に潰して掃除の手間を増やすのに比べれば、ましなやり方だったろう。 鬱憤もそれなりに晴らせたのだし。 俺は正直おちびがつぶれた時点で充分だった。既に飽きていたのだ。 だがそのおちびもれいむに片づけさせられたし、結果だけ見ればゆっくりの被害にあった割には上々な対処ができた方なのではないだろうか。 そして残ったれいむも、これから自らゆっくりできない所へ飛び込んでいくことになるのだ。 さ、部屋の掃除に取り掛かろう。 れいむは必死に走っていた。 あの人間が見えなくなった時点で、追ってくるのではと俄かに恐くなったのだ。 持てる力の全てで、全力疾走する。 まあ人間の子供の歩行よりと同じ程度の速度だったが。 気付くとれいむは、やたら草の生い茂った土地の前に立っていた。 周りは人間の家が立ち並んでいるばかりなのに、この場所だけに背の高い草が並んでいる。 何のことはない、ただの空き地だった。 だがそんなことれいむは知らず、とりあえず仲間でもいないかと、近づかないで覗き込むようにして見る。 もちろん逃げてきた方への警戒も怠らない。 と、その時ガサッと草をかき分ける音がした。空き地の方で何かが動き、そして近づいてくる。 れいむは一歩二歩と下がり警戒しながらその何かが現れるのを待った。 そして、あらわれたその姿は……ゆっくり。ゆっくりまりさだった。 れいむはそのまりさに見覚えがあった。昨日はぐれた番のまりさだ。 食われたかと思っていたが、生きていたのだ。 「ゆ! まりさぁ!」 「ゆ! れいむ! いきてたんだ……ぜ……」 言葉を尻すぼみにするまりさ。もしかして傷ついているのだろうかと、れいむは思った。 「まりさ! だいじょうぶだったんだね!」 「……ゆ、れいむこそだぜ」 「しんぱいしたんだよ、まりさ」 「ゆ、そうかぜ」 わずかに俯くまりさ。帽子に隠れて表情が窺いづらい。 「まりさ、どうしたの? ようすがおかしいよ?」 「……れいむ、おちびはどうしたのぜ」 「ゆ……おちびちゃんは……にんげんさんに……。 いっしょにつかまっちゃって、たいへんだったんだよ」 「そうかぜ」 後ろを向くまりさ。 れいむは思った。おちびの死を悲しんでいるのだろうと。 あんなにゆっくりとしていたおちびちゃんだったのだ。仕方ない。 まりさが振り向く。 「なら、その……ちいさいおかざりはなんなのぜ!?」 「ゆ!?」 まりさはれいむの頭を見上げ、怒りの表情を浮かべていた。 れいむは戸惑う。まりさが何を言っているのか、分からない。 「お、おかざりってなんのこと?」 「そのあたまについたちいさなおかざりのことなのぜ! ふたつもつけて、おかしいのぜ! それはおちびのじゃないのかぜ!?」 まりさの言う通り、れいむの頭の上はいつもと様子が違っていた。 自前のお飾りは問題なく付いている。 だが、一まとまりの黒い髪が、真っ直ぐ上にのびアホ毛のように突っ立っていた。 その根元を小さいお飾りに支えられて。 「そんなつけかたして! おちびをばかにしてるのかぜ!!」 「ゆ! ゆぴ!?」 混乱しだすれいむ。 緩む思考から何とか絞り出して、れいむは自分とおちびのお飾りのことを思い返す。 自分のお飾りは一度取られたものの、きちんと人間に返してもらったはず。そして、おちびのお飾りは……。 「ゆ! まりさ! にんげんさんのしわざだよ! きっとあのにんげんがれいむに」 れいむの餡子に皮が裂ける音が響いた。 「ゆゆ、ああ、あぁぁぁ!」 まりさが口に石をくわえ、ぶつかってきたのだ。 わずかな裂け目かられいむに痛みが伝わる。 「おかざりをうばったのぜ……!! おちびちゃんから!」 「ま、まりさ! ちがうよ! これはにんげんが」 「うるさいのぜ! ふざけるなだぜ! そんなのうそなのぜ! うそなんかききたくないのぜ!」 「まりざ!」 「おちび! かたきはとるのぜ!」 「やめで! やべでばりざあ!」 まりさのくわえた石が襲いかかる。れいむの体を裂き、ひっこめられてまた襲い、裂く。 れいむの体はぼろぼろになっていった。 まりさの体当たりの衝撃で、増えゆく穴から餡子がさらに漏れ出す。 まりさは石を捨て、れいむの上に乗っかった。 れいむの上で体重を乗せて何度も跳ね、れいむの体から餡子を追い出しながら潰していく。 やがてれいむがピクリとも動かなくなると、まりさは吠えた。 「ゆっゆおおぉぉー!! おちび! かたきはとったのぜえ!」 ゆおーゆおーと、高らかに叫ぶまりさは気付かない。 草陰から自分を見つめる存在に。 昨夜逃した獲物を、再度見つけた捕食者の視線に。 おわり 挿絵:
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追われるれいむ 30KB 虐待 自業自得 野良ゆ 虐待人間 十二作目です。 麦茶あき 逃げていた。 ただ逃げていた― れいむは逃げていた。自分の子供たちと一緒に。 逃げなければこちらが殺されることを理解しているから。 すでに番のまりさは死んでしまった。 今れいむに残されているのはまりさとの間にできた子ゆっくりたちのみ。 子れいむ、子まりさ、末っ子れいむである。 カラカラカラッッ・・・・・・・・ あの音だ。 あの音が近づいてくる。 自分たちをゆっくりできなくする恐ろしい音。 後ろを向くといた。 その音を出している元凶、人間だ。 あの人間から逃げなければ。 ゆっくり、ゆっくりするために。 れいむたちは必死で逃げた。 追われるれいむ 「おちびちゃんたちいいいいいいい!!はやくにげるよおおおおおおおおお!!!」 「「「ゆわああん!!きょわいよおおおお!!!こっちきょないでえええええええええええええ!!!!」」」 追ってくる人間から必死に逃げていたれいむ。 逃げても逃げてもその距離は変わらず追いかけられていた。 人間の方は歩いているだけ。 わざと距離を保ち続けている。 その手には何故か玄翁。 それを地面に擦れ引きづられていく。 この玄翁のせいで番のまりさは潰された。 何故このれいむたちが追いかけられているかと言うと、 この人間の家にお家宣言したからである。 窓を割り侵入し、部屋を荒らしてこの人間を奴隷扱いにした。 もちろんそんなことをすればどうなるかはお決まりだ。 番のまりさは死んで、今そんな状況になっているのだから。 れいむたちをすぐ殺さなかったのはそれではつまらないから人間はわざと逃がし、恐怖を与えながら追いかけているのである。 れいむたちはこの人間の家から逃げ出し住宅街を走っていた。 狭い場所を通っても先回りした人間がいる。 隠れようにも隠れそうな場所はなかった。 「なんできゃくれしょうなばしょがないにょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 「ゆっくちしないでぇれーみゅたちをたしゅけちぇよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 そんな言葉が届いたのか目の前にゴミ捨て場が見えた。 そこにはれいむたちと仲がいいまりさとありす一家がいた。 どうやら家族で狩りの最中のようである。 「おちびちゃんたち、こうやってこのふくろさんをやぶるんだぜ」 「「「ゆっくちりきゃいしちゃよ!!!」」」 「ゆふふ、ものおぼえがいいおちびちゃんたちね」 「「「「たすけてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!!!!」 「「「「ゆ???!!」」」」 まりさ一家が振り向いた先にはれいむ一家がいた。 ずっと走っていたせいか歯茎がむき出しで迫ってきた。 「ちょ、ちょっとれいむなんてかおしてるのよ!とかいはじゃないわ!!」 「なにがあったんだぜ??!」 「にんげんに・・ゆっくりできないにんげんからにげているんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 「にんげんさん?」 「ゆ?もしかしてあれなんだぜ??」 まりさがおさげを指した先にはあの人間がいた。 れいむを見つけ玄翁を振り回している。 「ゆひいいいいいいいいいい!!!!もうきてるうううううううううううううう!!!!」 「「「きょわいよおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」 「なんだかゆっくりできないいなかものね」 「ゆふん、れいむまかせるんだぜ。まりさがあのにんげんをやっつけてやるんだぜ」 まりさは咥えていた木の枝を再び咥え直し、人間と対峙した。 「おいくそにんげん!!よくもともだちのれいむをいじめたんだぜ?!まりさがせいっさいしてやるからかくごするんだぜ!!!」 「「「おちょーしゃんかっこいいー!!」」」 「おちびちゃんたち、おとーさんのゆうしを・・・」 ドガッ!!・・・・バンッ!! 「「「ゆ??」」」 ありすたちは何が起こったか理解できなかった。 まりさが目の前で一瞬で消えたのだ。 どこに行ったか周りを見たらまりさが塀の壁にぶつかっていた。 「ま、まりさ・・・?」 「ゆべえ!!・・いだいいいい!!!!」 玄翁で殴られた痛みと塀の壁にぶつかった痛みで動けなかった。 人間はそんなまりさを玄翁で殴り続ける。 「ゆべ!!いだい!!やべ!!やめ!!ぎゃばっ!!!」 ガンッ!!ガンッ!!!ガンッ!!! 「やめてえええええええ!!!まりさが!!まりさがしんじゃううううううう!!!」 「おちょーしゃんをいじめりゅなぁぁ!!!」 「こにょくしょにんげん!!」 「ゆっくちちね!!!」 ぽふっぽふっ 子ゆっくりたちは自分の父親を救おうと人間の足に体当たりをするが、 そんな攻撃は人間の前では無意味だ。 子ゆっくりたちの体当たりを無視し、まりさを殴り続ける。 ガンッ!!!ガンッ!!!! 「あばぁ・・・・・・・・・・・やがべぇえ・・・」 殴られ続かれてまりさの体はもう潰れかかっていた。 眼球は飛び出し、餡子は飛び出て死に掛かっている。 最早助からない。 ガンッ!!! 最後の一撃でまりさの中枢餡が潰れてしまった。 まりさは「もっとゆっくりしたかった」とも言えずに殺された。 「まじざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 「「「おぢょうじゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んん!!!!」」」 「まじざがあああ・・・!!れいむぅうう!!!どうして・・・・・・・・?・・・れいむ??」 ありすがれいむの方を振り向いたらいつの間にかいなくなっていた。 実はまりさが人間と対峙したときすでにれいむたちはいなくなっていた。 まりさたちにまかせ自分たちだけ逃げてしまったのだ。 「れいむおねーしゃんいにゃいよぉー??」 「ともだちのまりしゃもだわ!?」 「れいむううううううううううううう!!!!どこいって・・(ガンッ!!!)ゆぶぇ!!?」 「「「おきゃあああああああああしゃん??!!」」」 ニヤリと笑いながらありすを潰していく人間。 ありすはやめてと叫ぶがまりさと同じ結果になった。 子ゆっくりたちもである。 れいむは再び逃げ続ける。 このまま逃げても埒は明かない。 れいむは元々住んでいた公園に行くことにした。 そこには野良ゆっくりたちの群れがあり、きっとみんなならなんとかしてくれると思っていた。 ただれいいむたちは疲れていた。 走り続けていたせいで体に疲労が溜まってしまったのだ。 成体であるれいむならともかく子ゆっくりたちはいつ走れなくなってもおかしくはない。 やがて疲れたと言い止ってしまい、あの人間に殺されるだろう。 「おきゃー・・・しゃん・・・・・まりしゃ・・・」 「ゆっくち・・・・ゆっくち・・・」 「ちゅかれたああああ!!!!」 「ゆう・・・!!」 ―まずい、子供たちが駄々こねだした。 れいむはおちびちゃんたちをお口の中にいれ再び走ったが、思うように走れない。 中にいる子ゆっくりたちが外へ出ないよう口をしっかり閉じながら走るというのは予想以上に体力を使うからだ。 れいむは何か役くに立てそうなもの探した。 すると目の目にまりさがいた。 番を持っていない独身のまりさである。 「ゆ~ん♪きょうはいいゆっくりびよ「ばりざああああああああああああああああああ!!!!」ゆっ??!」 「そのおぼうしよこせえええええええええええええええええええええええええ!!!!」 「なんでそんなこと・・・ゆべあ!!!」 まりさはれいむの体当たりを喰らい帽子を外してしまった。 れいむはすかさずそれを捕り、中に子ゆっくりたちを入れた。 「ゆわーい♪ゆっくちできるじぇ!!」 「ふかふかだね!!」 「やっちょゆっくちできりゅよ!!」 れいむはおぼうしを被り再び走り出した。 「れいむううううううううう!!!まじざのおぼうじがえじゆばげ!!??」 まりさはあの人間に玄翁で潰された。 人間は逃げているれいむを見つめ追いかけた。 走るのに苦労しなくなったれいむだがまた問題が起こった。 子ゆっくりたちが腹を空かし始めたのである。 体力を消耗し、休憩中の子ゆっくりはゆっくりするために何か食べてゆっくりしたかった。 「おきゃーしゃん、おにゃかしちゃよ・・・」 「む~しゃむ~しゃしたいじぇ・・」 「くじゅおやああああああ!!!はやきゅれいみゅにごきゃんしゃんもっっちぇきょいいいいいいいいいい!!!!」 特に末っ子れいむが酷かった。 れいむはそんな子供たちのために何か食べさせてやろうと周りを見渡した。 母性(笑)というやつだろう。 すると目の前に都合よく狩りから帰る途中のちぇんを見つけた。 おぼうしの中には生ゴミが詰まっている。 「にゃ~ん♪きょうはいっぱいとれ「それよこせええええええええええええええええええええ!!!!」にゃ??!!」 ちぇんは突如現れたれいむにびっくりしてしまった。 しかもその顔はまりさ一家に見せたときよりも酷かった。 「こ、これはちぇんのなんだよー・・わかってねー・・」 「うるさいよ!!かわいそうなれいむにごはんさんをわたすのはだいゆちゅうのしんりなんだよおおおおおおお!!!?」 「わ、わからないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお???!!」 れいむはちぇんに体当たりし、おぼうしの中から食料を出した。 それを食べてまりさから奪ったおぼうしの中にいた子ゆっくりたちにも分けてやった。 「「「む~しゃむ~しゃ、しあわせええええええええええええ!!!!」」」 「ゆふん、おなかいっぱいだよ~」 「ちぇんのごはんさんがああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 「うんうんちてあげりゅよ!!しゅっきりー!!!」モリンッ! 「にゃあああああああああああああああ!!!!にゃんでちぇんのおぼうしさんでうんうんしちゃうのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 末っ子れいむがちぇんのおぼうしの中にうんうんをしてしまった。 れいむたちもそれを見てちぇんのおぼうしにうんうんした。 「ゆふー、きれいにうんうんできたよ!ありがたくおもってね!!!」 「「「おもっちぇね!!!」」」 「おもわないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 腹がいっぱいになり体力が回復したれいむは公園を目指し走り出した。 ちぇんはおぼうしに付いたうんうんを必死に取ろうとがんばっている。 「にゃあああん!!ちぇんのおぼうしさああああん!!うんうんくさいのはにゃがっ??!」 ちぇんは潰された。 またあの人間である。 人間は再びれいむを追った。 やっとのことで公園に着いたれいむは群れがあるところにすぐさま駆け込んだ。 群れのゆっくりは見知らぬゆっくりが来てざわめいていたが、 れいむがおぼうしを取るとすぐにれいむだとわかった。 「れいむ、まりさはどうしたんだぜ??」 「それにこのおぼうしはまりさのじゃないまりさのよ?なにがったの??」 「うしろふぁっく??」 「くわしいはなしはあとでするよ!!れいむはゆっくりできないにんげんからにげてきたんだよ!!!」 「ゆ??にんげんさん??」 「にんげんさんからにげてきたんだね、わかるよー」 「なんでにんげんさんからにげてるのよ」 「れいむたちをころそうとしてるからだよ!!あのじじいはれいむのまりさをころしたんだよ!!」 群れのゆっくりたちがざわめく。 「ま、まりさがやられたの??!」 「ゆ、ゆるせないんだぜ!!せいっさいしてやるんだぜ!!!」 「しかもれいむたちのおうちをかってにはいってきたんだよ!!!ゆるせないよ!!」 「ごくあくなんだぜ!!!」 「とってもいなかものだわ!!!」 「ごうかん!!」 「むきゅう!!みんなそこまでよ!!!!」 奥からぱちゅりーが現れた。 群れのゆっくりたちは「おさ!!」といいれいむのところに道を開けた。 「れいむ、きいていいかしら」 「なに??!」 「まりさはころされたのよね」 「そうだよ!!」 「なんでかしら」 「わかんないよ!!いきなりころされたんだよ!!!」 「むきゅ・・・・」 ぱちゅりーは少し考えて・・・・ 「れいむ、おうちにはいってきたといったわね」 「いったよ!!」 「れいむたちのおうちはここにあるはずよ」 「れいむたちがみつけたおうちなんだよ!!あのじじいはあとからやってきたのにれいむたちをむししてまりさをころしたんだよ!!!」 「むきゅう、すべてがってんがいったわ」 「れいむ、あなたにんげんさんのいえにおうちせんげんしたのよ」 「ゆっ??!」 「かってにしんにゅうしてきたあなたたちをしまつしたんでしょね」 「なにいってるのおおおおおおお!!!??あれはれいむたちがみつけたおうちなんだよおおおおおおおおおおおおおおおお???!!!」 「しょーだしょーだ!!!」 「れいみゅたちがみちゅけたにょに!!!」 「おちょーしゃんはやられちゃったんだじぇ!!!!」 れいむはぱちゅりーの言った事に激怒した。 子ゆっくりもれいむと同じく怒り出したが。 「だまりなさい!!!」 「「「「ゆっ???!!」」」」 「あなたたちがばかなまねをしたせいでまりさがしんだのよ、にんげんのいえにおうちせんげんしちゃいけないってあれほどいったのに・・・」 「はあああああああああああああああああ????!!れいむがみつけたんだかられいむのものにきまっているでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!??」 「おばか!!・・・・もういいわ、あなたたちはいますぐこのむれからでていってちょうだい」 「ゆえええええええええええええ????!!どぼじでえええええええええええええええええええええ???!!」 いきなり追放宣言されたれいむはわけがわからなかった。 「にんげんさんにおわれているんでしょ?だったらここにくるかのうせいだってあるわ。そのせいでむれがほろんだらどうするのよ!!!」 「そんなのむれのみんなでやっつければいいでしょおおおおおおおおおおおおおおおお???!!」 「ばかすぎるわ!!!そんなことしてみなさい!!すぐにかこうじょのにんげんさんがあらわれてむれはぜんめつよ!!!!」 「かこうじょはゆっくりできないいいいいいいいいいい!!!!」 「れいむうううううう!!!いますぐでていきなさい!!!」 「ちぇんたちをまきこまないでねええええええええええ!!!わかれよおおおおおおおおおおお!!!!」 「どぼじでぞんなごというのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 群れのゆっくりたちにまで見捨てられてはもうれいむに行くあてはなかった。 れいむはそんな群れに嫌気を指しおぼうしに子ゆっくりたちをいれ群れを出て行った。 「そんなにいうならでていくよ!!このゆっくりなしいいいいいいいいい!!!!」 れいむはこうえんの広場に出て公園の外に行こうとした。 その時群れの方から悲鳴が聞こえたのである。 「ゆ??なに??」 れいむが振り返るとあの人間がいた。 玄翁をゆっくりたちに殴りつけ潰し、ダンボールを踏み潰し群れを蹂躙した。 潰すたびに人間は笑った。 その表情は三日月の笑みをし、楽しそうに殺している。 群れのゆっくりたちはなんとかやめさせようと止めようとしているが抵抗する間もなく殺されていった。 「やべでえええええええええええええええええええええええ!!!!れいむたちをころさないでえええええええええええええええええええ!!!!」 「まりざばだじにだぐないいいいいいいいいいいいいいいいいゆがばあああああああ!!!!」 「おちびちゃんはつぶさないでええええええええええええええ!!!!」 「むきゅううううううううううううううううううううう!!!!!」 「おうちがああああ!!!おうちがああああああああああああああ!!!!!」 「いやじゃああああああああああああ!!!はにゃちてえええええええええゆび!?」 「ありしゅのいもうちょがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 「やめるんだぜえええええええええええええ!!!いだい!!やべ!!ごめ!!ゆぶ!!」 「わがらな!!?」 「れいぷううううううううううう!!!!」 人間は次々とゆっくりを潰していった。 ぱちゅりーは逃げようとしたが掴まれて後ろから殴られようとしていた。 その時ぱちゅりーはその様子を見ていたれいむに気が付いた。 恨みの篭った目で睨み付け・・・・ 「このくそばかぐずでいぶうううううううううううううううう!!!!おばえのせいでむれがあああああああああ!!!もりのげんじゃのぱちゅがあああああああ!!!! (ガンッ!!!)ゆばっ!!?(ガンッ!!!)やべで??!(ガンッ!!!)ごべ??!(ガンッ!!!)むぎょ!!!(ガンッ!!!)ぶばあ??!!(ガンッ!!!)」 ぱちゅりーは中枢餡を潰され死んだ。 人間は向こうにいたれいむを見つめニヤリと笑い・・・こう言った。 イマカラソッチニイクヨ・・・・・・・・・ 「ゆひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 れいむは必死で逃げる。 公園を出て道という道を走り、逃げ続けた。 途中何匹かのゆっくりとすれ違ったが、後から来た人間にみな潰されていった。 「いだいいいいいいいいいいいいいい!!!!れいむなにもしでべ??!」 「きょわいいいいいいいいいい!!!!だれがだじゅ??!」 「なにもしてないのにいいいいいいいいいい!!!?まりさなにもしてないのにいいいいいいいいいいいいいいいい????!!」 「んぼおおあああああああああ!!!!もっどずっきり・・・・・」 道に歩いていた野良ゆっくりたちはわけもわからず死んでいった。 「ちがうううううううううう!!!でいぶのでいぶのせいじゃないいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 逃げながら潰されていくゆっくりたちを見る。 どれもこちらを睨んでいる様にしかれいむには見えなかった。 その時おぼうしが少し浮き、中から末っ子れいむが落ちてしまった。 「ゆ?おしょらちょんで・・・・・(ペチャっ!)ゆぴいい!!いちゃいいいい!!」 地面に落ちた衝撃で泣き出す末っ子れいむ。 痛みに耐え切れないのか必死で母親を呼ぶ。 「いじゃいいよおおおおおおおおおおお!!!おきゃああああしゃあああああああああああああああん!!!」 が、当のれいむには聞こえておらずそのまま行ってしまった。 「どぼしてええええええええ???!はやきゅきゃわいいいれいみゅをたしゅけろおおおおおこのくじゅおやああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 すでに時は遅し。 末っ子れいむが叫んだ後目の前が暗くなった。 恐る恐る振り返るとあの人間がいた。 玄翁片手で楽しそうだ。 末っ子れいむはあまりの恐怖でしーしーを漏らし、必死に助けを呼んだ。 「だれきゃあああああああああああああああああああああああ!!!!れいみゅをたしゅけろおおおおおおおおおおおおお!!! きゃわいいれいみゅがピンチにゃんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお???!! おきゃああしゃああああああああああああああん!!!はやきゅたしゅけてええええええええええええええ!!! もうくじゅにゃんていわにゃいからあああああああああああああああああ!!!! はやきゅ、はやきゅうううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!! はやきゅたしゅけろくずおやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 (ブチッ!!!) れいむには末っ子れいむが潰されたことは知らずに逃げていた。 だがたどり着いた場所は川である。 行き止まりになってしまい絶体絶命だった。 「かわさんがあってさきにすすめないよおお・・・」 その時おぼうしの中から子まりさと子れいむが出てきた。 「おきゃーしゃん、もうだいじょうびゅ??」 「それどころじゃないよ、かわさんがあってさきにすすめないんだよ」 「どぼじてきゃわさんがありゅのおおおおおお???!」 子れいむは目の前にある川に罵倒し始めた。 しかし、そんなことしても川は道を開けてくれたり干上がったりはしない。 ただ子まりさだけは何故か冷静でいた。 するとお飾りのおぼうしを脱ぎだし、川に置き子まりさは川に浮かんだ。 「ゆっくち~♪」 それを見たれいむたちは子まりさに自分たちも乗せてくれと言ったが、断られた。 そもそも子まりさのおぼうしでは乗っても沈んでしまうだけである。 だがれいむはあることに気づいた。 自分にはこれがあると。 それは奪い取ったまりさのおぼうしである。 れいむは近くにあった木の枝を拾い、以前番のまりさが子まりさに水上まりさのやり方を教えていたときを思い出し見よう見まねでやってみた。 見事おぼうしは浮き木の枝を使い子まりさの後に続いた。 「ゆふん、やっぱりれいむはてんっさいだよ」 「しゅごーい!!おきゃーしゃんういてりゅー!!」 子まりさと合流し、親子で楽しく笑いあう。 しかし何か大切なことを忘れている。 「れいみゅはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ????!!」 れいむは子れいむの叫びに気づき岸の方を見た。 そこには置いてきぼりにされた子れいむが必死にこちらを呼んでいる。 「ゆわあああああああああああああ!!!?おちびちゃんをわすれてたよ!!!」 れいむは木の枝を使い岸に戻ろうとした。 後もう少し、後もう少しで岸にたどり着こうとしていた。 だが、れいむは何かに気づき急に反転し、子まりさの方へ引き返してしまった。 「お、おきゃあああしゃあああん???!!どぼじてええええええええええええええ!!!?? 「おちびちゃん!!にげるよ!!!」 子まりさもそのことに気づいた。 気づいていないのは子れいむだけである。 遠ざかっていくれいむと子まりさを必死に呼び戻そうと呼んだが二匹はそのまま向こうに行ってしまった。 「どぼじでええ・・・??!にゃんでれいみゅだけ・・・・???!!」 その時子れいむは気づいた。 後ろから来る圧倒的存在感に。 そこにはあの人間がおり、子れいむを見つめていた。 子れいむはようやく気づいた。 自分は見捨てられたんだと。 あの時れいむが引き返したのはこの人間がやってくることに気づいたからだ。 仮に子れいむを助けようとしてもすぐにやってきて川に沈められる危険性があったためれいむは子れいむを見捨てたのだ。 「あ・・・・・あ・・・・・・・・」 子れいむは自分が殺されることを理解していた。 人間は玄翁を振り上げ、子れいむを潰した。 潰されるまで子れいむは「助けて」と言ったがそんな言葉に耳を貸すわけでもなく潰された。 人間は川を航海中のれいむと子まりさを見つめニヤリと笑った。 れいむと子まりさはもう少しで川を渡るところだった。 二匹ともすでに子れいむは殺されたことは理解していた。 それでも子れいむのことは口にせず向こう岸に渡ろうとしていた。 「もうすこしだよ・・・・」 「ゆっ・・・・ゆっ・・・・・・・・ゆ??」 子まりさが何かに気づいた。 なんだかあんよが冷たい気がする。 何かと思い確かめてみたらお帽子に水が溜まっていた。 「おぼうしにおみじゅしゃんがあああああああああああああああああああああああ!!!!」 何故??!!と子まりさは思った。 確かに子まりさは水上まりさではないにしろまだおぼうしが溶けるには早かった。 子まりさの体が水に浸かり溺れていく。 体は水を吸って沈んでしまい、水の中に落ちた。 その時水の中に何かいるのが見えた。 にとりだ。 一匹のにとりが子まりさのおぼうしを破き、浸水させたのだ。 体を突かれ食われていく子まりさ。 必死にもがくが無駄だった。 その時にはすでに体は四散し、水に溶けていった。 何か言いたかったらしいが水の中なのでわからなかった。 「いやーうまかったねー」 「もういっぴきもたべようよ」 「みてきたけどあれ、れいむだったよ」 「えー??!まりさじゃないの??!」 「なんでまりさのおぼうしにのってるのさー??」 「まあいいや、きょうみあるのはまりさだけだし。むししよ」 「「「そーだねー」」」 ある意味れいむは命拾いしたのである。 れいむはやっとの思いで向こう岸に着いた。 途中、子まりさが沈んでしまったことに気づいたが自分にはどうすることもできなかった。 「まりさ・・・・おちびちゃん・・・・・・・・」 れいむは失った家族のことを思い浮かべていた。 まりさ、子まりさ、子れいむ、末っ子れいむ。 全て失ってしまった。 しかしまだ自分がいる。 なんとしてでも生き残り、あの人間に復讐するのだ。 「まっててねみんな・・・・・」 (ケタケタケタ・・・・・・・・・・・・・・・・・) 「いつかかならず・・・・・・・・」 (ケタケタケタ・・・・・・・・・・・・・・・) 「かたきをとるよ!!!」 (ケタケタケタ・・・・・・・・・・・・・・・) 眉毛をキリッとさせれいむは空を見上げた。 空にはまりさたちが微笑んでいるように見えたようだ。 「みんな・・・・・・・・・・」 (ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ・・・・・・・・・・・・・・・・・) 誰かが笑っている気がする。 れいむは後ろを振り向きその者に文句を言おうとした。 「さっきからうるさいよ!!だれがわらって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!!」 だが言葉が止まってしまった。 れいむはその正体が信じれなかった。 こんな顔→(◎Д◎)し、汗としーしーを垂らしながら固まっていた。 目の前にいるものが信じられずに。 無理もない、何故ならそこにいるのは・・・・・・・ あの人間だったから。 「ゆわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!??」 れいむはわけがわからなかった。 何故ここにあの人間がいる?! 川を渡ったのにいつの間にかこちらにいた人間。 別になんら不思議ではない。 単にこの人間は橋を渡り、ここに着ただけに過ぎない。 なにせゆっくりが川を渡るスピードなぞ、ゆっくりが普通に這っているのとあまり変わらなかったのだ。 そのせいでこの人間は余裕で向こう岸に着いてしまっていた。 れいむはそれに気づかずにいつの間にか追いつかれていた。 「ゆっくりにげ・・・・・・!!」 れいむはこんな状況になっても逃げようとしたが、 人間に蹴られ10m先に飛ばされてしまった。 「おそらとんでゆばしっ??!」 コンクリの地面に顔から叩きつけられたれいむは余りの痛さに動けなかった。 その衝撃のせいで歯が何本か欠けている。 れいむは逃げようと這いつくばってでもこの場から逃げようとした。 しかし、人間はそれを許してはくれなかった。 玄翁を振り上げれいむを殴った。 ガンッ!! 「ゆがっ??!」 ガンッ!!ガンッ!!! 「ゆべ!!!ゆぎゃで!!」 ガンッ!!!ガンッ!!! (ケケケケケケケケケケケケケケケ・・・・・・・・!!!) 「ゆぎぃ!?ゆ、ゆがあああああああああああああああああああああああああ!!!!」 れいむは玄翁を叩きつけられる前にジャンプして逃げた。 力を振り絞り逃げようとする。 「ゆぎぃ・・・・!!ゆっくぎ・・・!!れいむは・・・・・ゆっくりするんだ・・・・・・!」 大した生命力である。 こんな状況になってでもゆっくりすることだけは考える餡子脳の性なのか。 その光景を見て人間はあることを思いついた。 れいむに近づき叩きつけるのではなく先ほどれいむを蹴飛ばしたようにれいむを殴った。 「ゆばっ??!おぞらどんでる???!!」 殴られた衝撃で飛んだれいむはまたもや地面とキスをした。 人間はまたれいむに近づき同じ様に殴る。 その衝撃でれいむの口から餡子が出てきた。 死の兆候である。 「ゆべばっ!!!いだいい!!いだいいいいいいいいいいいいい!!!!やだやだやだ!!!でいぶはゆぐびじだい!!!」 (ガンッ!!)「ゆがじば!!?・・・ゆぎぃ・・!!!ゆぐじ、ゆっくじぃぃいいいいいするううううううううう!!!してやるうううううううううううううう!!!」 (ガンッ!!!)「ゆぎゃら??!・・で、でいぶはおじびぢゃんとばじざといっじょに・・・・・ゆっぐりずるんだ・・・!!いぎで、いぎでゆゆっぐりいいいず・・」 (ガンッ!!!)「あぎゃあ??!・・くぞにんべんはじねええ!!・・・・ゆっぐぢできないにんげんはいばずぐじねええええええええ!!!!」 殴られ飛ばされてれいむの皮から餡子が出ている。 眼球は飛び出し、もみ上げの一本はいつの間にか取れてしまった。 人間は最後の一振りをれいむに叩きつけようとした。 その時。 「おばえにごろざれだみんばのぶんまでじねえええええええええええええええええええええええ!!!!」 そこで人間の動きが止まった。 れいむを見つめ何か考えている。 「・・・・??」 れいむは何故殴られなかったのかわからなかった。 すると人間は持っていた袋を開け、その中身をれいむの上に落とした。 ボトッ・・・ボトッ・・・ボトッ 中から出てきたのは餡子、カスタード、生クリーム、チョコだった。 れいむは落ちて来た物を必死に食べた。 「む~し゛ゃ!!む~し゛ゃ!!じあわぜえええええええええええええ!!!!」 れいむはきっとこの人間が自分のことを許してくれたのだと思っていた。 このあまあまはそのお詫びだろうと。 しかし、それは大きな間違いである。 れいむが餡子を食べているうちに中から赤い布が出てきた。 「ゆ??」 れいむは最初それが何なのかわからなかった。 だが見覚えがある。 餡子からかき出し姿を見せた赤い布の正体は真っ赤なリボンだった。 れいむはこのリボンのことをよく知っていた。 「おちびちゃんのおかざり・・・・??」 よく見ると周りにも見たことがあるお飾りが埋まっていた。 番のまりさのおぼうし、末っ子れいむのリボン、ゴミ捨て場にいたまりさとありす一家のお飾り、 うんうんをされたちぇんのおぼうし、おさぱちゅりーのおぼうしに群れのみんなのお飾り。 何故みんなのお飾りがここにあるのか一瞬理解できなかった。 だが気づいたしまった。 ここにある大量のあまあま、死んでいったみんなのお飾り。 れいむは顔を青ざめ答えにたどり着いてしまった。 これはみんなの中身だ。 「ゆべぇぇ!!?」 れいむは同族の中身を食べてしまったショックで自分の中身を吐き出してしまった。 この人間は潰していったゆっくりたちを律儀に袋に詰め込んでいたのだ。 逃げてばかりいたれいむはそんなことは知らなかった。 しかし今れいむはそんなことを考えている余裕はなかった。 死臭の匂いがするあまあまに埋もれているれいむはゆっくりできない匂いに苦しんでいた。 「ゆがあああああああああああ???!!ここはゆっくりできないいいいいい!!!だしてえええええええ!!!ここからだしてええええええええええ!!!」 人間はその様子を見て笑い出した。 もう思い残すことはないのか最後の一振りを掲げた。 逃げようとするれいむだがあまあまに足を捕られて動けなかった。 「ゆひいいいいいいいいいいい!!!いやだあああああああああああああああ!!!!ゆっくりしだいいいいい!!!ゆっくりずるんだあああああああああああああああああ!!!!!」 (ちね・・・・・・・・・・・) 「??!!」 人間の声ではない。 別の誰かだ。 れいむはこの声に聞き覚えがある。 その声の主はあまあまから聞こえてきた。 (れいみゅをゆっくちさせないくずはちね・・・・・・) 「おちびちゃん??!」 れいむは気づいた。そうだこれはおちびちゃんの声だ。 だが何故自分の子供が死ねと言ってくるかがわからなかった。 「おちびちゃん??!おかあさんにそんなひどいこといわないでね!!?」 (だまれ・・・・・・・このくず・・・) 「??!・・ぱ、ぱちゅりー・・・・??!」 ぱちゅりーの声まで聞こえた。 それに呼応して次々と声が聞こえてくる。 (しねえええ・・・・・・・・いますぐしねえええええええええ・・・・・・・・) (こっちにこい・・・・・・・ゆっくりできなくさせてやる・・・・・・・) (このいなかもの・・・・・・・よくも・・・・よくも・・・・・・・) (おまえのせいなんだよー・・・・・・・・・・・わかれよー・・・・・・・・・・・・・・) (くじゅちね・・・・・・くじゅはちねぇ・・・・・・・・) (もっとゆっくちしちゃかっちゃのに・・・・・・・・・) (すっきりしたかったのに・・・・・・・) (おまえのせいでむれが・・・・・・・・・・・・・・・・) (れいむたちかんけいなかったのに・・・・・・・・・・・・・) (ふざけるな・・・・・・・なにがゆっくりしたいだ・・・・・・・・・・・・・・・・・) (*1))))))) 「ゆええええええええええええええええええええええええええ????!!どぼじでそんなこというのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!??」 死んだ後もゆっくりの残留思念のようなものがれいむを死に追いやろうとする。 家族、群れのゆっくり、巻き込まれたゆっくりたちはれいむを許したりはしなかった。 人間はそれに答えてやろうかという思いで玄翁を叩き付けた。 が、さっきあまあまを食べたせいか、一撃では死ななかった。 「ゆべあ!!!いだいいい!!!ゆべでぜ!!!」 (*2))))))) 「いやだああ!!あっぢに!!いきたぐない!!!ゆばば!!!ゆべべ!!!」 最後の一振り。 高く、高く上げ振り下ろそうとした。 「やべで・・・・・・・・・・ゆっくり!!!ゆっくりしだいいい!!!ゆっくりじでただけなのにいいいいいいいいいい!!!でいぶはわるぐないいいい!!!わるいのはこのにんげんだああああああああああ!!!」 (おまえがにんげんをおこらせたんだ!!!) (くじゅおやはちね!!!!) (れいみゅをみしゅてたくじゅが!!!) (いましゅぐちね!!!) 「うるざいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!ゲスはいますぐきえろおおおおおおおおおおお!!!! だれがああああああああああああ!!!!でいぶをたすけろおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ばりざああああああああああああああああああああああ!!!!くそちびいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! ぱちゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! なんでたすけにこないんだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?? でいぶがかわぞうなでいぶがピンチなんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」 「ケケケケケケケケケケケケ・・・・・・・・・!!」 「??!」 「ユックリデキナクナッテシネ♪」 「いやだ!!れいむはゆ・・(ブシュウッ・・・!!!) れいむはまだ生きていた。 中枢餡が壊れていていつ死んでもおかしくはない状態だがそれでも生きていた。 「ゆ゛っ・・・ゆ゛っ・・・・ゆ゛っ・・・」 人間は地面に落ちているゆっくりの中身とれいむを袋に入れ詰め直し、 笑いながら自分の家へ帰っていった。 れいむは死ぬ最後まで苦しみ死臭の中で怨念たちの声を聞きながら死んでいった。 (な゛・・・・・ん・・で・・・?・・・・・・・・・・でい・・・・・・・ばるく・・・・・・・・・・・・・な・・・・・・・・) 最後までれいむは自分が犯した罪を理解しようとはしなかったようである。 あとがき 追われるって怖いよね 予想以上に容量が大きくなりすぎてしまったorz 法然しゃんが折れた「ぐんぐにる」の挿絵を描いてくれていたようです。ありがとうございます(喜) 餡庫には保管されてませんが画像だけはすでにわが手に 大切に保管しまーす 今まで書いたやつ 加工所本部 前編・後編 れいむその後 まりさその後 14番れいむのその後 れみぃと野良豆ゆっくり 前編・後編 あいつらの違い れいむはいい飼いゆっくりさ 折れた「ぐんぐにる」 ドスれいむ 挿絵:○○あき
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『愚かなれいむ』 6KB 自業自得 日常模様 越冬 野良ゆ 赤ゆ 都会 現代 もしかしたらネタがかぶっているかもしれません もう11月だ。 最近だんだん寒くなってきて、コートを引っ張り出してきたり、ストーブを出したり、冬が近づいてるな、と感じる。 世の受験生も頑張り時だろう。 今は堪える時期だ、頑張れよ、とエールを送りたい。 冬に向けて頑張り時なのは受験生だけではない。 この時期、野生のゆっくりたちは冬ごもりの準備に奔走する。 街に住む野良ゆっくりたちは冬ごもりはしないが、それでも冬はあまり外を駆け回りたくないのか、本能的なものなのか、餌を集めておいておうちに籠もる。 食糧問題以前に冬の寒さはゆっくりに厳しい。 赤ゆっくりなどは暖かくしていなければ簡単に永遠にゆっくりしてしまう。 タオルなどのゴミ、所謂ふわふわさんをゆっくりたちは冬前、奪い合う。 生身ではとても寒さに耐えられないのだ。 野生のゆっくりは冬ごもりに失敗して数を大きく減らすが、野良ゆっくりも寒さに耐え切れず冬に数を減らす。 冬の寒さの中で凍えながら死んでいく。 「にんげんさん………!おねがいします……!かいゆっくりにしてください……!」 生粋の野良や、完全に野良に順応した捨てゆっくりたちはふわふわさんやおうちを確保出来る。 だが、野良に順応できない捨てゆっくりたちは冬への対策をなにもできない。 だから、捨てゆっくりたちは冬前に人間に嘆願する。 飼いゆっくりにしてください。 自分が間違っていました。 おちびちゃんだけでいいです。 このままじゃゆっくりできなくなっちゃうんです。 勿論、その嘆願を聞き入れる人間なんて、まず全くと言っていいほどいない。 「しゃぶいよぉ……ゆっくちしちゃいよぉ………」 「ゆ………しゅーりしゅーりしちぇあっちゃかくしゅりゅよ……」 「ゆぅぅ……おにゃかしゅいちゃよ……」 「おちびちゃん………ごめんね……ごめんね…だめなおかあさんでごめんね……」 俺だって別に飼ったりする気はない。 これからするのはただの暇潰しだ。 「おちびちゃんたち、おかあさんがすーりすーりしてあげるからこっちにきてね……」 「ゆ……」 「なぁ、おまえら」 「ゆ……?おにいさん…?もしかしてれいむたちをかってくれるの……?」 親れいむがなにか言ってるが、無視する。 「おまえら、元飼いゆっくりだな?」 「ゆ……そうだよ……、れいむがおちびちゃんをつくって……それで……」 「ちびたち、おまえら、あまあま食べたことあるか?」 「ゆ……あみゃあみゃしゃん……?」 「ゆぅ……ありゅよ……!おきゃあしゃんがとっちぇきちぇくりぇちゃよ!」 「ぴゃんにょみみしゃんはとっちぇみょゆっくちできちゃにぇ!くさしゃんよりじゅっとゆっくちできちゃにぇ!」 「ゆっ……おもいだしちゃよ!くきしゃんはしょれよりとっっっっちぇもゆっくちじぇきりゅあみゃあみゃしゃんだっちゃよ!」 赤ゆたちに向けて話しかける。 赤ゆたちはあまあまの話になったら急に元気になってきた。 普段は草を食べているのだろう。 パンの耳なんかでもさぞ美味しかったんだろうな。 最初に食べた茎とパンの耳がこいつらの知ってるあまあまだ。 だがそんなのは本当のあまあまじゃない。 本当のあまあまはもっと甘くて美味しいんだ。 野良ゆっくりは自力ではあまあまを食べられない。 「これ食ってみな」 俺はポケットから個別包装のクッキーを取り出して、袋を破り赤ゆたちの前に置いた。 「ゆっ!!あみゃあみゃしゃんにょにおいがしゅるよ!」 「むーちゃむーちゃ……ちちちちちちちちあわちぇー!!!」 「ゆうううぅん!!おいちーちーでりゅよ!!」 「ゆ……!おにいさん、ありがとうございます……!」 赤ゆたちはあまあまを食べて元気になったのか、さっきあまあまの話をしていた時よりもましてはしゃいでいる。 「そのあまあま、うまいか?」 「ゆっ!とっちぇもゆっくちできりゅよ!おにいしゃんゆっくちありがちょー!」 「「ゆっくちありがちょー!」」 「そのあまあまな、本当ならおまえら毎日食べられるんだぞ」 「「「ゆゆ!?」」」 そう、こいつらは本当なら毎日あまあまを食べることが出来たはずだ。 それだけではなく、寒さに震えることもなく、命も危険もなく、存分にゆっくり出来たはずだ。 そのゆっくりを奪ったのは 「おまえらのおかあさんだよ」 「「「ゆ?」」」 「本当ならおまえらは、あまあま食べ放題で、命の危険もなく、暑さに喘ぐことも寒さに震えることもないゆっくりプレイスで好きなだけゆっくりできたはずなんだ」 「「「ゆぅ?」」」 「ゆぐ……ごめんね……ごめんね……だめなおがあざんでごべんね……」 「おきゃあしゃんどうちたにょ?」 「なかにゃいでにぇ!ぺーりょぺーりょ!」 「れいみゅたちにゃんにみょおこっちぇにゃいよ?あやまりゃにゃいでにぇ」 親れいむは俺がなにを言ってるか気付いた様だ。 赤ゆたちに謝りながら泣いている。 当の赤ゆたちは俺の言葉の意味がわかっていない。 泣いている親れいむを慰めようと頑張っている。 善良な家族なんだろう。 仲良く助け合って来たんだろう。 今度は親れいむに話しかける。 「親思いでいいおちびちゃんだな、れいむ。こんなにお前のことを心配してくれてる。親であるお前のことを本当に大好きなんだろうなあ?どうだ、ちびたち、そうだろ?」 「ゆっ!しょうだよ!れいみゅ、おきゃあしゃんにょこちょだーいしゅきだよ!」 「ゆぐっ………」 「おきゃあしゃんはれいみゅちゃちを"とっちぇもゆっくち"させちぇくれりゅんだよ!」 「ッ!……ごべ…ゆぐっ……」 「おきゃあしゃん、いちゅもありがちょう!!」 「ごべっ……ゆぐ……ごべんでっ……でいむがっ………おがあざんでっ…ゆぐ………ごべんでっ………ばかなおかあざんで………ごべんでっ……ぐうううぅぅうう!!」 赤ゆたちの愛情も親れいむにとっては、心を突き刺す針だ。 謝罪の言葉を呟きながら、泣いている。 この家族は多分この冬で死ぬだろう。 人間に何かを要求するのは捨てられてすぐの元飼いゆっくりか、切羽詰まった野良ゆっくりだけだ。 こいつらの見た目は捨てられてすぐの元飼いゆっくりって感じじゃない。 多分、おうちもふわふわさんも用意できてない。 まず、寒さで死ぬだろう。 「れいむ、こんなにいいおちびちゃんたちだ、沢山沢山ゆっくりさせてあげて、立派に育ててあげるんだぞ」 「れいみゅ、りっぱにゃゆっくちににゃるよ!!」 「れいみゅも!!れいみゅ!!しょれでおきゃあしゃんみちゃいにおちびちゃんをゆっくちさせちぇあげりゅよ!!」 「まりしゃはりっぱにゃかりうどになっちぇ、おきゃあしゃんをゆっくちさせちぇあげりゅよ!!」 「ぐうううぅぅうう!!!ぐうううぅぅううううい!!!ゆぐっ…!!ゆぅぅぅ…!ゆうううぅうう!!!」 親れいむはもはや唸る様に泣いている。 親れいむは理解しているんだろう。 このままでは自分たちは死ぬ。 おちびちゃんたちは野良の辛い生活でのほんの小さなゆっくりしか味わえず死ぬ。 大きくはなれない。 立派なゆっくりにはなれない。 なぜなら、寒さの中でゆっくりできなくなって死ぬから。 どうして。 親れいむは理解しているんだろう。 すべて自分が飼い主との約束を破ったからだと。 自分が約束を守っていれば、いずれ飼い主が子作りを許してくれたかもしれない。 そうしたらおちびちゃんたちは、ゆっくり生まれ、ゆっくり暮らし、ゆっくり育ち、好きなだけゆっくりできたはずだ。 すべては愚かな親れいむの所為だ。 「ごべんだざい……ごべんだざい……ごべんだざい……ごべんで……ごべんで……ほんどうにごべんで……ごべんだざい……ごべんで……ごべんだざい……ほんどうにごべんだざい………」 親れいむは謝ることしかできない。 挿絵:○○あき
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『絶対に渡さない』 25KB 家出 飼いゆ ゲス 愛護人間 ゲスといえばゲスだけど 「ゆぴ……ゅ……」 「おちびちゃん! しっかりして!」 れいむは、一目で衰弱しているとわかる子まりさに必死に呼びかける。 この子だけは……この子だけは……。 番のまりさ、この子の姉妹だった二匹の子れいむ。 みんな、死んでしまった。 この子だけが、ただ一人残された家族なのだ。死なせるわけにはいかない。 そのことが、れいむに、今まで躊躇わせた行動をとらせた。れいむだけが野垂れ死にす るなら、それには及ばなかったであろうが、子まりさのためとあらば。 「おにいざん、おにいざん……」 子まりさを頭に乗せたれいむは、子まりさを落とさぬようにずーりずーりと這って行っ た。 れいむは、そこそこ優秀で銀バッヂを取得した飼いゆっくりだった。 無論のこと、飼いゆっくりの等級を示すバッヂで最高なのは黄金に輝く金バッヂだ。し かし、よほどゆっくりに高望みをしなければ銀バッヂで十分だ。 飼い主のお兄さんもそれで満足していて、れいむはとてもゆっくりと過ごすことができ た。 お兄さんは一人暮らしの寂しさかられいむを飼い始めたのだが、自分が仕事に行ってい る間にれいむは一匹なのを気にして、壁にゆっくりが出入りできる扉をつけて庭に出るの を許していた。 庭といっても、家と壁の間にある僅かな地面であり狭かったが、れいむにとっては十分 であった。 天気のいいある日、草の上に寝転んで日向ぼっこを楽しんでいた。 そこで、運命の出会いをしたのである。 「ゆ? れいむ、ゆっくりしていってね!」 一匹の精悍なまりさが庭に入ってきたのだ。 「ゆ、ゆっくりしていってね!」 「ゆゆ、バッヂさんなのぜ。れいむはここのにんげんさんの子なのぜ?」 「ゆん、そうだよ」 「ゆぅ、ここの草を少し持って行っていいのぜ?」 「ゆっ、いいよ」 庭に生えている草は、お兄さんが時々むしって捨てている。それならあげてもいいだろ うと思い、れいむは快諾した。 それから、まりさは時々草を取りに来るようになった。 いつも忙しそうだったが、短い時間、まりさはれいむと話していった。 そして、れいむはいつしか草をむしっておくようになった。そうすれば、まりさが草を むしる必要がなくなり、その時間だけまりさとたくさんお話ができるからだ。 れいむは自分でも気付かずに、まりさに惹かれていたのだろう。 やがて、まりさも優しいれいむに草をくれる飼いゆっくりという以上の感情を抱き始め た。 「れいむ、まりさといっしょにずっとゆっくりしてほしいのぜ!」 それを切り出したのはまりさであった。 先に惚れたのはれいむなのだから、れいむが言い出してもおかしくないはずだが……そ こはれいむは飼いゆっくりである。 お兄さんには、野良と話したりする程度はいいが、番になったりあまつさえ子供を作っ たりすることは許されていなかった。 それをするなら捨てる、と言われている。お兄さんとしては、そう言っておけば、そん な馬鹿なことをするまいと考えてのことだったが――。 「お兄さん! れいむ、このまりさとゆっくりしたいよ」 「ゆっ、まりさだぜ」 「……」 お兄さんは、呆然としていた。 しかし、やがて己を取り戻すと、れいむが銀バッヂをとって粗相をしなくなってからは しなかったような厳しい顔と声で、約束をちゃんと覚えていてそういうことをしたのか、 捨てられて野良になってもそのまりさと一緒になって子供を産みたいのか、と言った。 れいむは、それに頷いた。 お兄さんは見るからにガックリとしたようだったが、少し辛そうな顔をしてから腰を落 とし、れいむのリボンについていた銀バッヂを取り外した。 「もう、二度とここには来るなよ」 「……ゆぅ……ゆっくり、りかいしたよ」 そして、テーブルの上に、れいむが大好きだったキャンディーが幾つか乗っているのを 見つけると、それを手に取りビニール袋に入れてれいむの前に置いた。 「持っていけ……ただし、すぐに食べるんじゃないぞ。野良ゆっくりは栄養不足になりが ちで飴玉一個で助かるような状態で死んでしまうことがあると聞いた。いざという時か、 産まれた子供が病気になったりした時のためにとっておくんだぞ」 親身になった言葉に、れいむは号泣した。まりさも、一緒になって泣いていた。 「ゆっ、おにいざん、いままでおぜわになじまじた!」 「れいむは、まりさがゆっくりさせるんだぜ。あんしんしてほしいんだぜ」 二匹はぺこぺこと頭を下げて、去っていった。 しばらくは、しあわせーなゆっくりした日々が続いた。 とりあえず公園にダンボールハウスをかまえた二匹は、ある程度の食料を備蓄すると、 すっきりーして子供を作った。 「ゆゆーん」 れいむは、額から生えた茎の先に、自分に似た二つの命、そしてまりさに似た一つのそ れ、合わせて三つの命がゆぅゆぅと生まれる時を待っているのを見てとてもゆっくりした 気分であった。 「ただいまなんだぜ、おちびは? おちびは?」 まりさは、ますます励んで帽子を獲物で満載にして帰ってきては、まずまっさきに子供 たちを見に来るのだった。 「「「ゆっきゅちちていっちぇね!」」」 「「ゆっくりしていってね!」」 子供たちがとてもゆっくりと生まれた時の感動を、れいむは生涯最高のゆっくりだと思 った。 あれだけよくしてくれたお兄さんの元を離れてしまったことを後悔する気持ちは、やは りどうしてもあった。 それでも、このときの感動を思えば、お兄さんには悪いが、やっぱりまりさと一緒にな ってよかったと思うのだ。 子供たちは元気に育っていったが、ある時、子まりさが何か悪いものを食べたのか下痢 を起こしてしまった。 急激に餡子を失わせる下痢は、子供ならばあっさりと死に至ってしまうため、野良の子 ゆっくりの死因としては極めて多い。 だが、れいむたちにはお兄さんがくれた飴玉があった。 野良ゆっくりにとって下痢が死に繋がってしまうのは、野良では栄養価の高い食べ物を 得ることが困難なためだ。 逆に言えば、それさえ与えれば十分に助かるのである。 子まりさも、水をごーくごーくして水分を補給し、飴玉を舐めて栄養を得て、下痢がお さまるまでなんとか耐え切った。 「ゆゆーん、よかったよぉ、よかったよぉぉぉ」 「ゆひぃぃぃぃ、おちび、よくがんばったのぜえ!」 「まりしゃ、これでまたゆっきゅちできりゅね!」 「ゆわーい、ゆわーい」 家族の喜びは言うまでも無い。 「ゆぅ、これもお兄さんが飴さんをくれたおかげだよ」 「ゆん、お兄さんにありがとうなんだぜ」 れいむとまりさは、飴をくれたお兄さんに感謝した。あれがなければ、子まりさは確実 に死んでいたであろう。 まだまだお兄さんがくれた飴は残っていた。これさえあれば、多少の病気等に子供たち が犯されてしまっても大丈夫だろう。 だが、そのしあわせーの元が災いをもたらすことがある。 誰でも、しあわせーは欲しいのだ。 どうしても欲しいそれを手に入れるために、他者のそれを奪う必要があった場合、それ を実行するものは、人間にもゆっくりにも存在する。 人間の多くは国家に属しており、その国家が安定していれば警察という治安組織の恩恵 を受けられる。 警察は抑止力を持ち、他者のものを暴力や詐術で我が物にせんとする行為へ歯止めをか ける。 これが飼いゆっくりとなると、飼い主の所有物という形で、人間社会のそういった仕組 みに組み込まれている。 しかし、野良ゆっくりには、そういったものは及ばない。 野良ゆっくりの群れはそういった要求を満たすために作られる。数が集まり、それらが 群れの一員への攻撃は自分へのそれと見なして反撃を加える姿勢を示すことによりゲスに 対する抑止力を得るのだ。 とは言っても、野良同士だとどうしても食料調達の際の競争相手になることも多く、頭 がよくリーダーシップを持ったリーダーがいないと群れは長続きしない。 れいむとまりさが住んでいる公園には、数家族の野良ゆっくりが住んでそれぞれ仲良く やってはいたが、群れと呼べるような組織立ったものではない。 れいむたちは、自分たちの身を守るために極めて慎重に振舞うべきであった。 決して、自分たちが人間さんに貰った飴玉を持っていることなど、他のものに知られて はいけないのだ。 だが、れいむは所詮は飼いゆっくりになるために産まれペットショップでお兄さんに買 われた生粋の飼いゆっくりである。野良になってそれほど時間が経っていないのと、この 公園に住んでいる御近所さんが善良なものたちばかりなため、少々おっとりとし過ぎてい た。 まりさも、優しくてゆっくりしてはいるが、こちらは生粋の野良ゆっくりで、いわば持 たざる者であり続けていた。 そのため、持っている者としての保身に鈍感なところがあった。 れいむたちが、れいむの元飼い主に貰ったとってもあまあまな飴さんを持っているとい う話は、子供たちから他の家族の子供たちに、そしてその親へと広がっていった。 それでも公園に住んでいたゆっくりたちは、それを大変羨んだものの、それだけであっ た。 だが、ぶらりと公園にやってきた一匹の眼光鋭いまりさがその話にじっと聞き入ってい た。 まりさは大急ぎで跳ねて行った。 そして、戻ってきた時には仲間を引き連れていた。 公園に入ってきたまりさ一行は、まっすぐにれいむたちのおうちへと向かう。 目的は言うまでもあるまい。 まりさの帰りを待ちながら、おうたをうたっていたれいむと子供たちはニヤニヤと笑い ながら押し入ってきた一団になす術も無かった。 連中は狡猾であった。 子供がいるのを見るや、すぐにそれをゆん質に取ってれいむに人間に貰った飴を出すよ うにと迫ったのだ。 れいむは気丈に拒んだが、相手はゲスである。子供を殺すことなどなんとも思っていな いのだ。 「ゆ゛ぴゃ!」 子れいむがあっさりと、本当にあっさりと潰された。 「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!」 「だ、だちゅけ……ちぇ……」 もう一匹の子れいむも上にのしかかられている。 「やべでええええ、飴さんをあげるがら、やべでえええ!」 「ゆへっ、さいしょからそうすれば、その汚いちびは死なないで済んだんだぜ」 夫のまりさと本当に同種かと思うような嫌らしい笑みを浮かべて言ったゲスまりさに、 れいむは歯軋りしながらも飴の入ったビニール袋を渡した。 「ゆへへっ、ひきあげなのぜ!」 ゲスまりさが言うと、連中はぞろぞろと未練なくおうちから出て行った。 子れいむを失った悲しみに打ちひしがれながら、それでもれいむは残りの二匹が助かっ たことに安堵した。 「ゆへっ、これはこれは、だんなさんのおかえりなのぜ」 そんな声が表から聞こえてきた。 れいむははっとして子れいむの亡骸から目を上げる。 自分のおうちで何をしていたのかと詰問するまりさの声もした。 それに得意そうにゲスまりさが答える。 「おとなしく出さないから、ちびを一匹潰してやったのぜ、ゆひゃひゃ」 ゲスまりさがそう言った瞬間――。 「ゆっぐりじねえええええ!」 まりさの怒号が響いた。 「まりざっ!」 れいむはおうちを出た。 「ゆっひゃあ!」 「ちぃーんぽ。勝てると思ってるかみょん」 「けんかはあいてを見てから売ってねー」 「ゲラゲラゲラ、死ぬのはお前だよ!」 まりさの必死の攻撃も、それが来るのを予想していたゲスどもによって阻まれていた。 「やべでええええええ!」 「ゲラゲラゲラ、馬鹿がもう一匹来たのぜ!」 止めに入ったれいむもゲスまりさに体当たりを喰らってしまう。 それからのリンチで、れいむが生き残れたのは、早々に戦意を喪失して全く抵抗をしな くなったのと、まりさが最後まで闘志を失わずに抵抗し、ゲスどもの攻撃を多く引き付け たせいであったろう。 まりさは、それから数時間ほど苦しんだ後に死んだ。 こんな時に頼りになる飴は当然ながら一個も残っていない。 今更ながら、れいむは飴を二つに分けておくなどの処置をしていなかったことを悔やん だ。 れいむも無傷ではない。 必死にその体を引き摺って狩りをした。 子れいむも子まりさも、れいむが頑張っているのを知っているので不満一つ口にしない が、まりさが生きていた頃よりも明らかにむーしゃむーしゃできず、ゆっくりもできてい ないためどことなく暗く沈んでいた。 以前は誰にも誇れる明るい仲良し家族だったのに……。 れいむは、その日も必死に狩りをしていた。 幸いなことに、人間が食べきれずに捨てようとしていたお菓子を貰うことができた。 こんないいものを食べきれないから捨てようとするなんて、とれいむは思った。 そして、その帰り道――。 「ゆびぃぃぃ、やべでぐださい」 「ごべんなざい、ごべんなざい!」 「いぃぃぃんぽ、ゆ、ゆるじでほじいびょん!」 「わ、わがったよー、にんげんざんだちが強いのわがったがら、もうゆるじでえええ!」 ゆっくりの悲鳴を聞いた。 聞き覚えのある声だ。 「ゆ!」 そこではあのゲスまりさたち、れいむのしあわせーをぶち壊したゲス一味が、二人の人 間に暴行されて涙を流しながら許しを乞うていた。 いや、実際は一人は笑って見ているだけで、やっているのは一人だけだ。 「勝てると思ってたのかよ!」 「喧嘩は相手見て売れよなー」 「なぁーにがゆっくりしね! だよ。死ぬのはお前らだよ!」 れいむとまりさがなす術も無かったゲスたちが、何もできずにやられていく。 れいむはゲスまりさたちの悲鳴を背に、跳ね出した。 まりさと子れいむを殺したゲスどもが人間にやられているのをざまあみろと思うよりも、 れいむの中には、先ほどのことと合わせて、やはり人間というのは自分たちゆっくり如き よりもはるかに凄い存在なのだと思う気持ちの方が大きかった。 その日持ち帰ったお菓子を食べて衰弱気味だった子供たちが元気になって、れいむは久 しぶりにゆっくりすることができた。 そして、それが最後のゆっくりとなった。 翌日からはお菓子をもらえるような僥倖には出会えず、子供たちはまた衰弱していった。 先に子れいむが逝った。 子まりさも後を追おうとしていた。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 頭に子まりさを乗せたれいむが這いずる。 食べ物を子供たちに優先的に回していたれいむとて辛い。 しかし、行かねばならぬ。 この子だけは……この子だけは……。 二度と来るなと言われたあそこへ……。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 「ゆぅぅぅ」 懐かしい庭が見えた。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 この子だけでも……。 れいむは、このまま死んでもいい。この子だけは……。 きっと、優しいお兄さんのことだから、自分のことは許してくれなくとも、子まりさの ことは助けてくれるはず。 その淡い希望を原動力に、這いずる。 ずーりずーり。 ずーりずーり。 「ゆ? ゆっくりしてないれいむなのぜ」 庭には先客がいた。 一匹のゆっくりまりさである。お帽子に銀バッヂをつけている。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆ……ゆっぐ……いっで、ね……」 「ゆぅ、どうしたんだぜ。ここはにんげんさんのおうちだから入ってきちゃ駄目なんだぜ」 「ゆ……れ、れいぶは、おにい、ざんに……」 「ゆぅ……まつのぜ」 まりさはぴょんと跳ねて壁に沿って置かれた小さな階段を上ると、小さな扉を開いて家 の中に入っていった。 しばらく経って戻ってきたまりさは、帽子の中から飴玉を取り出した。 それは懐かしい、あのれいむが大好きだった飴玉だった。 「まあ、こいつを食べるのぜ。でも、言っておくけど、あまりにもれいむがかわいそうだ から恵んでやるのぜ。勘違いしてまた貰いに来たりしたらお兄さんに言ってせいっさいっ してもらうのぜ」 「ぺーろぺーろ、し、し、し、しあわせぇぇぇぇ!」 れいむは飴玉を舐めて歓喜の声を上げた。 「ほら、おちびちゃん!」 舌の先に乗せた飴玉を、子まりさの口元へ持っていってやると、子まりさは舌を伸ばし た。 「ぺーりょ、ぺーりょ……」 ちあわちぇー、という声こそ出さなかったものの、明らかに子まりさの顔がゆっくりし ているのを見て、れいむは喜んだ。 「ゆぅ、まりさ」 「もうやらないんだぜ。さっさと帰るんだぜ」 「まりさは、お兄さんに飼われているんだね」 銀バッヂをつけているのを見てもしやと思ったが、手馴れた様子でおうちに入って飴玉 を持ってきたことにより、確信することができた。 このまりさは、お兄さんがれいむを捨てた後に飼っている飼いゆっくりなのだ。 そもそも、一人暮らしの寂しさを紛らわすためにお兄さんはれいむを飼っていたのだ。 そのれいむがいなくなれば、その穴を他のもので埋めようとするのは当然だ。 「ゆ?」 れいむの口ぶりに妙なものを感じたらしいまりさに、れいむは自分は以前ここのお兄さ んの飼いゆっくりだったことを告げた。 「ゆゆ!? は、話は聞いてるのぜ。れいむが、れいむなのぜ?」 「ゆん」 まりさは、驚いたようだ。 「……いっしょになったまりさは、どうしたのぜ」 「ゆぅ」 それかられいむはここを出てからの一連のことをまりさに語った。 「ゆゆゆぅ……」 「だからこの子だけでも助けて欲しいんだよ。れいむはどうなってもいいよ。……お兄さ んは、いないの?」 「ゆ、お兄さんはまだまだお仕事なんだぜ」 「ゆっ、そうか……」 れいむは野良になってからそういった感覚がなくなっていたが、そういえばお兄さんは 何日か仕事に行って一日二日休む日があり、仕事に行く日は朝から晩までおうちにいない のだった。 「れいむ……もうここには来ない方がいいんだぜ」 「ゆ?」 「お兄さん、自分を裏切ったれいむのこと、すごい怒ってるのぜ。捨てたりしないで、あ の汚い野良まりさといっしょに殺しておけばよかった、っていつも言ってるのぜ」 「ゆ? ゆゆ!? そ、そんなわけないよ! お兄さんがそんなこと言うわけないよ!」 れいむは、確信に満ちて断言した。 「ゆぅ……」 それを見て、まりさは気圧されたように後ろにずりずりと下がる。 「とにかく、ここでお兄さんの帰りをまつよ。まりさがくれた飴さんのおかげで、おちび ちゃんも少しげんきになったし」 「そ、そうなのかぜ。で、でもでも、まりさの言ったことはほんとーなのぜ。すぐに帰っ てもう来ない方がいいのぜ?」 「ゆん、どうせ、帰っても、れいむもおちびちゃんも生きていけないよ。それなら、お兄 さんにれいむはどうなってもいいからおちびちゃんだけでも助けてください、ってお願い してみるよ」 れいむは、もう完全に開き直ったというか、覚悟を決めた。 「……ち」 それを見て、まりさは小さく舌打ちすると、 「それじゃ、そこで待ってるといいのぜ。まりさはおうちですーやすーやするのぜ」 そう言って、家の中に入ってしまった。 おうちですーやすーやするという言葉に、たまらない羨望を感じつつ、れいむはお兄さ んの帰りを待った。 「ゆぴぃ、ゆぴぃ」 「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」 やがて、まりさがくれた飴玉で少し栄養補給ができたのと疲労のせいもあり、れいむと 子まりさは寝息を立て始めた。 「ゆん、れいむれいむ」 まりさが出てきた。 「れいむ、ねてるのぜ?」 言いつつ、れいむの様子を射るような視線でうかがう。 「さっき帰っていればよかったのぜ……」 「ゆ!?」 れいむは、衝撃で、目が覚めた。 「ゆ゛……な、な゛に……どぼじで……」 わけがわからなかった。 わからぬままに、次々に衝撃がれいむを苛む。 「い、いだ、やべ……やべで……ま、まりざ!」 自分へ殺意のこもった体当たりをするまりさに、れいむは止めるよう懇願した。 「ゆっくりしね、ゆっくりしね、ゆっくりしね」 まりさは全く聞く耳持たずに攻撃を繰り返す。 「ど、どぼ、じで、ごんあ……ごと、ずる……の……」 「お兄さんの飼いゆっくりはまりさなのぜ。お前なんかに、邪魔させないのぜ」 さっき飴玉を食べたとはいえ、根本的に衰弱しきっていたれいむである。抵抗らしい抵 抗もできず、衝撃を受けるたびに餡子を吐き出すようになってからは意識すら朦朧として いった。 「……ゆん」 れいむが死んだのを確認すると、まりさは、しあわせそうに寝息を立てている子まりさ を見た。 跳躍した。 「ただいまー」 「おかえりなんだぜ!」 お兄さんが帰って来た。 「おかばんおもちしますだぜ」 「持てないだろーが」 いつものやり取りをして、お兄さんがカバンを置き、上着を脱ぎ、大きく息を吐いて伸 びをする。 「お兄さん、お兄さん」 お兄さんが落ち着いたのを見て、まりさが声をかけた。 「んー、なんだ」 「実は……」 まりさが言うには、すーやすーやとお昼寝をしてから目覚めると、なんと庭でゆっくり が死んでいたというのだ。 「んん、野良の行き倒れかな」 「ゆぅ、どーも喧嘩してやられたみたいなんだぜ」 「どれどれ」 お兄さんが庭に出ると、まりさが言った通り、一匹の成体サイズのれいむと子まりさの 死体があった。 「ひどいな、子供なんかぺしゃんこじゃないか」 「ゆぅ……ゲスは子供でも容赦しないのぜ……」 「そっか、お前、元野良だもんな」 「ゆん、野良ゲスの怖さはまりさようく知ってるのぜ」 「ん?」 お兄さんは屈んで、れいむの死体を凝視する。 「ど、ど、どうしたのぜ? そのれいむが、どうかしたのぜ?」 「んー、いやー、ほら、何度か話しただろ。前に飼ってたれいむ」 「ゆん」 「そいつなんじゃねえか、と思ったんだけど、うーん、わからんな。野良暮らしで見た目 変わってるだろうし」 「ゆぅ……違うのぜ。れいむは、まりさと一緒におちびを産んでゆっくり暮らしてるんだ ぜ、こんなところで死んでるわけないんだぜ」 「うん……そうだよな。……こいつらは、明日の朝に穴掘って埋めてやろう」 「ゆん、それがいいんだぜ」 「うし、じゃ、おれは風呂はいってくるかな」 まりさは、野良だった。 産まれた時こそ両親と姉妹と一緒にゆっくりできたが、過酷な野良の生活はそれらを次 々に奪っていった。 とうとう、母親のれいむとまだ子供だったまりさだけが生き残った。 「おちびちゃん、みんなの分までゆっくりしようね!」 「ゆっきゅち!」 そう言葉を交わした次の瞬間、母れいむは死んだ。 「シュートッ!」 いきなり人間がやってきて、思い切り母れいむを蹴ったのだ。 母れいむはふっ飛んで壁に激突し、大量の餡子を吐いて死んだ。 「おいおい、いきなりなにすんだよ」 母れいむを蹴飛ばした男の連れらしい別の男が言った。 「ああ、なんかゆっくりいたから、シュート!」 「おいおい、止めたれよ! かわいそうじゃんか!」 かわいそうと言いつつ、大笑いしながら男は言った。 「そういやシュートっていえばさ、今度の代表の試合」 「ああ、監督変わって初めての試合だよな。あの監督ってどうなの?」 そして、もう次の瞬間には、全く違う話に夢中になりながら、去って行ってしまった。 まりさは、もう理不尽にも程がある仕打ちで最後の家族を失い、呆けていた。悲しいは ずなのに、涙すら流さなかった。 それからも相も変わらず過酷な野良生活をまりさは生き抜いた。その中で、まりさの心 をかき乱したのは飼いゆっくりの存在だ。 ゆっくり全てが同じ生活をしているのならばよいが、同じゆっくりがあからさまに自分 たちよりもいい生活をしているのがまりさには納得できなかった。 もう、なんか世の中そういうもんらしい、と納得した頃には、世の中がそういうもんな らば自分もなんとか飼いゆっくりになりたいものだと思っていた。 飼いゆっくりになるには、そのための厳しい躾を受けていなければいけない、という話 を聞き、所詮自分のような野良が飼いゆっくりになるなど夢物語かと諦めた。 そして、諦めた時に、その夢がまりさに下りて来たのだ。 食べられる草を見つけて侵入した人家の庭。 「ん、ゆっくり……まりさか」 自分を見下ろす人間。 はじめは、まりさはこれで終わった、死んだ、と思った。 「ゆゆゆ! ご、ごべんなさい! く、草さんは返すから許して欲しいのぜ!」 駄目で元々と必死に謝ると、その人間はそんな草むしって持ってってくれるならありが たいぐらいだと言って、まりさを許した。 それから、何度かその庭に通って草を貰っていたが、その内に、その人間――お兄さん とよく話すようになった。 そこで、以前れいむを飼っていたこと、そのれいむが野良まりさと一緒になると言って 出て行ってしまったことを聞いた。 なんて愚かなれいむだと思いつつ、まりさはこのお兄さんがゆっくりを飼っていたこと があるということを強烈に頭に刻み付けた。 お兄さんは約束を破ったのだからとれいむを追い出したことを後悔していた。 約束を破ったのに、これをなぁなぁで許してまりさともども迎え入れたりすれば増長し てゲスになると思ってのことだったが、今から思えば番のまりさは決してゲスではなかっ たようだし、もう少し様子を見てみてもよかったかもしれない。 それらの話を聞いて、このお兄さんはゆっくりに優しいゆっくりした人間さんだとまり さは確信した。 「お兄さん、まりさを――」 飼いゆっくりにしてください、とはまりさは言わなかった。 「お兄さん、まりさを飼いゆっくりになれるよう鍛えて欲しいんだぜ。まりさ、飼いゆっ くりになりたいんだぜ」 「んん?」 まりさは計算して言ったわけではないが、この物言いは、お兄さんの興味をまりさに向 けるのに効果があった。 まりさは家族を失って以来、野良生活がほとほと嫌になって飼いゆっくりになりたいと 思っていたが、どうも飼いゆっくりになるにはそのための「躾」が必要らしい。 それで諦めていたのだが、お兄さんと知り合うことができた。お兄さんは以前れいむを 飼っていたのなら、飼いゆっくりの「躾」を知っているのだろう。それを教えて欲しいと まりさは懇願したのだ。 お兄さんは快諾し、それからまりさが日曜毎に通ってきた。 やがて、ダンボールで作ったおうちを庭に置いてそこに住んでいいと言われ、艱難辛苦 なんとか銀バッヂ試験に合格できるかというところまで教育が進んだ時、遂にお兄さんは まりさをおうちの中に招き入れた。 お兄さんも、れいむを失った穴を埋めるための何かを欲してはいたものの、ゆっくりを 飼うことに抵抗があった。またれいむのように去られたら……そう思うと踏み切れなかっ た。 そこへ、まりさが現れた。 飼いゆっくりにするわけではなく、あくまでもそのための教育をしてやるだけだ、とい うのはお兄さんの抵抗を和らげた。 そして、自分の教育により、野良として生まれたまりさが銀バッヂ合格も夢ではないと いうところまで来る間に、十分以上に情もわいたし、まりさの頑張りはよくわかっていた。 ここまで来れば、お兄さんの口から、 「まりさ、うちの飼いゆっくりにならないか?」 という言葉が出るのは時間の問題であったろう。 まりさはその後、一度は落ちたものの、その悔しさをバネに猛勉強し、とうとう銀バッ ヂ試験に合格することができた。 まりさは夢をかなえた。 まりさは、飼いゆっくりになったのだ。 「ゆぅ……絶対、ぜーったいに、優しいお兄さんの飼いゆっくりの座は、誰にも、誰にも 渡さないのぜ」 お兄さんが風呂に行った後、窓かられいむと子まりさの死体をじっと見つつ、まりさは 呟いた。 お兄さんは自分を信頼してくれている。 それはまりさも感じていたが、時々お兄さんが前に飼っていたれいむのことを話す時に 見せる寂しげな顔が、まりさの心に引っかかっていた。 ――まりさとそのれいむと、どっちが好きなのぜ? 答えを聞きたくないゆえに投げかけられぬ疑問が、まりさの中にわだかまっていた。 優しいお兄さんのことだから、どっちが、とかは決められないよと言うであろうが。 心配そうなお兄さんに気を遣って、きっとれいむはまりさと一緒に家族を作ってしあわ せーにゆっくり暮らしているはずだと言いつつ、内心では厳しい野良ゆっくりの生活に耐 えられずにとっくに死んでいるであろうと思って安心していた。 それが、今日、そのれいむが現れたのだ。 幸いなことに、本当に、本当に幸いなことに、お兄さんがいない時に。 追い出したことを後悔していたお兄さんである。 れいむが、こうなってしまったわけを涙ながらに語り、自分はいいから子供だけでも助 けて欲しいと頼めば、れいむも子供も助け、もう一度飼ってやる可能性は十分にある。 だからといってまりさを捨てたりはしないだろう。 それはわかっている。 わかっているつもりだ。 まりさは、お兄さんのことをもちろん信頼していた。 しかし、多難なゆん生を歩んできたまりさである。 お兄さんに限らず、他者を完全に信頼しきれないところがあり、ようやく掴んだ今の幸 せを破壊しかねぬ要素には過剰に恐怖を抱き、これを排除しようとするところがあった。 そして、排除した。 文字通りの、排除だ。 「ゆぅ……ゆぅ……ゆひぃぃぃぃ」 まりさは、思い出していた。 れいむを殺し、子まりさを潰した時に、母れいむと子供だった頃の自分を思い出してい た。 今も思い出していた。 窓から見える、れいむと子まりさの死体。 それがまるで、母と自分の死体に見えて――。 「ゆっひぃぃぃぃ」 まりさは母が死んだ時のように、涙を流さずに、泣いていた。 終わり 書いたのは、スレに自己紹介とか書いたらスルーされたのるまあき。 本人証明? トリップ? わからんわ、そんなもん。 そんなわけで、この場を借りてAVあきさんの漫画が好きなことを表明しておくのぜ。 こないだの街ふらんのもよかったです。ふらんは少し凶暴なぐらいが可愛い。 過去作品 anko429 ゆっくりほいくえん anko490 つむりとおねえさん anko545 ドスハンター anko580 やさしいまち anko614 恐怖! ゆっくり怪人 anko810 おちびちゃん用のドア anko1266 のるま anko1328 しょうりしゃなのじぇ anko1347 外の世界でデビュー anko1370 飼いドス anko1415 えーき裁き anko1478 身の程知らず anko1512 やけぶとりっ anko1634 かわいそうかわいそう anko1673 いきているから anko1921 理想郷 anko2087.2088 とんでもないゲス anko2165 面の皮があつい anko2200 けんっりょく
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