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前ページ次ページゼロな提督 トリステイン魔法学院の朝は学生達の起床から始まる、と学院の人は言う。 実際には下男やらメイドやらが日の出前から起床している。 さて、当然のことなのだが、ヤンもルイズの執事として働くと言った以上、日の出前か ら起き出して主たるルイズを起床時間に起こさねばならない。 同盟・帝国を通じてヤンの異名は数多い。が、振り返ってみるに、その中に「寝たきり 青年」というものがあったような気がする、と考えていた。朝食の時間ギリギリになった 頃に、ルイズと二人で寝ぼけた顔をつきあわせながら。 のぼり始めた太陽を見て、慌てて飛び起きる二人。 第3話 執事? ルイズ曰く「貴族は下僕がいるときは自分で服を着たりしない」とのことで、ヤンは下 着姿のルイズの服を着せてあげねばならなかった。帝国の貴族は知らないが、ルイズはト リステインの貴族。その執事をする以上はやむを得ない、というわけでヤンは渋々ルイズ にブラウスを着せる。 自分を奴隷にしようと目論んだ魔法使い、歪んだ選民意識と鬱屈した劣等感を抱かざる をえなかった貴族の少女…と思ってはいたが、見た目はユリアンよりずっと年下の可愛い 小柄な女の子。最初にルイズが16歳と聞かされたとき、思わず本人に真顔で聞き返して 足を踏まれてしまった。 そんな彼女の着替えを手伝っていると、ふと、自分に娘がいたらこんな感じか…と想像 してしまう。ユリアンは親子というには年が近かったが、ルイズの外見は丁度自分の娘く らいの年齢に見える。 素直でしっかり者で家事の天才ユリアンが兄、我侭で意地っ張りで泣き虫な妹ルイズ、 気丈で気が利くけど料理はぜんぜんだった妻フレデリカ、そして粗大ゴミ扱いされるぐう たらな自分。一瞬、そんな妄想にふけってしまう。 でも自分の娘は遺伝学上、絶対にピンクの髪にはならないので、髪を染めるかも知れな いけどそんな色に染めないで欲しいと祈ってるので、とっても無理のある光景だなぁと、 苦笑いしてしまった。 「ちょっと、なにボサッとしてるのよ」 ルイズが、手を止めて遠くを見つめるヤンを見上げていた。 「…ん?あ、ああ、すまない。ちょっと家族のことを思い出してね」 「家族?あんた、家族がいたの?」 「そりゃいるよ。僕にはもったいないほど美人で優しい妻に、養子だったけどとても素直 で真面目で、家のことを任せっきりだった息子がね・・・」 いいながらも、視線はだんだんうつむいていく。 それを見上げているルイズの表情も、だんだんと陰が広がる。 「・・・会いたいの?」 「ああ・・・会いたいな。本当に、父としても夫としても大した事をしてやれなかった。 それでも、多分、僕が急にいなくなって悲しんでいるんじゃないか、と思って」 「…そう」 ルイズはプイとそっぽを向いて、それ以上何も言わなかった。 ヤンも、黙々と彼女に制服を着せた。 ルイズが部屋から出たと同時に目の前の扉が開き、出てきた生徒達が挨拶をする。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 「そしておはよう、使い魔さん♪」 キュルケはルイズの後に扉から出てきたヤンにウィンクした。 「おはようございます。ミス・ツェルプストー」 ヤンは、キュルケに礼儀正しく礼をする。 「あらあら、相変わらず他人行儀ねぇ。キュルケって呼んでいいわよぉ」 色っぽく大きな胸とお尻を揺らしながら、キュルケはヤンに歩み寄る。 そのしなやかな指は学者肌の頬に伸びていく。 ペチッ ルイズがキュルケの手を払いのけた。 「あんたねぇ、毎度毎度いい加減にしなさいよ!」 「あーら、いいじゃないの。ちょっと親交を深めようと思っただけよぉ」 キュルケのわびれない態度に、更にルイズはムキになって怒り出す。 「深めなくていいわよっ!ウチのご先祖様達みたく、今度はツェルプストーに使い魔盗ら れましたなんて、絶対許さないわっ!! 「やーねぇ、ウチのひい祖父さまがあなたの所のひい祖父さまから奥さんを奪ったり、ひ いひい祖父さまが婚約者を奪ったり、みたいな事はしないわよぉ。 で・も!その人はあなたの恋人でも何でもないもの。だからぁ、恋をするのは自由なの よねぇ~♪」 甘い響きの言葉と共にじわじわ近寄ってくるキュルケに、ヤンはじわじわと後退してし まう。 「行くわよ、ヤン」 ルイズはキュルケを無視してヤンを引っ張っていった。 ヤンがルイズの執事を始めて数日。 朝食に向かうヤンにキュルケが迫り、ルイズが割って入るのが始まったのも数日。 ヤンの新しい生活が今日も始まる。 ヤンはルイズの部屋の掃除を終え、かごを抱えて学院の水くみ場の隅に来た。 「おはようございます」 「あら、おはよー」 「なんだい、相変わらず馬鹿丁寧だネェ。ここにゃクソッタレの貴族どももいないんだ。 もうちと気楽にやりなよ!」 洗濯場には、主に貴族の衣服を持ち寄るメイドたちがいた。 ヤンもルイズと自分の衣服を入れたかごを洗濯場の隅に置く。 ヤンの仕事の一つにルイズの衣服、特に下着の洗濯がある。 養子であるユリアンが彼の家に来たとき、彼はゴミの中に埋もれて生活していた。彼の 部下たちは上官を指して「ユリアンがいなけりゃヤンは生きてけない」「生活無能力者」「冬 になったら春まで冬眠してるさ」等の、とても親愛に満ちた、そして正しい評価を下して いた。その上、ヤンの時代に機械を使わず洗濯する人などいるはずもない。だから最初、 彼には洗濯の仕方も分からなかった。 目の前の洗濯物と、10倍の敵艦隊。どっちが手強いだろうか そんな平和このうえない悩みについて、ヤンは真剣に悩んでしまう。そんなことを考え ながら洗濯板でシルクの下着をごしごし洗い、ぼろぼろにしてしまうのだった。 洗濯を終え、部屋の掃除が済んだら、すぐに学院長室へ向かう。 コンコンとノックすると、カチャッと鍵が外れる音がして、「どうぞ」という女性の声で 中へと促された。 学院長室には秘書のロングビルしかいなかった。 「オールド・オスマンはどちらへ?」 秘書は凛々しく立ち上がり、しなやかな足取りでヤンの前に来る。 「今はトリスタニアへ行かれていますわ。代わって私が講義をして欲しい、と依頼されて おります」 「そうですか。ですが、あなたの仕事はよろしいのですか?」 「ええ、そのための時間は頂いておりますから。とはいえ、私も教師ではないので大した 事はお教えできません。故郷のアルビオンの地理や歴史を簡単に、だけですが、よろしい ですか?」 「いえいえ!教えていただけることなら何でも結構です。何しろ僕はこの世界のことを何 も知りませんから」 「わかりましたわ。それではこちらへ」 ロングビルはヤンと机を挟み、ハルケギニアの地理と歴史と文化、特にアルビオンにつ いての授業を行った。 ルイズが授業を受けている間、ヤンはこうやってハルケギニアについて様々な知識を学 ぶことにした。彼はルイズが受けている授業についても興味はあったのだが、さすがに魔 法のことは専門外。それにこの世界の地理政治文化、何より歴史への興味の方が上回って いた。 そしてオスマンは、彼を召喚して無理矢理使い魔にしてしまった負い目から、教育者と しての立場からも、彼の学問を修めたいという要望を断れなかった。 「…で、どうしてその『白の国』アルビオンは、宙に浮きっぱなしなんですか?」 「え?いえ、さぁ・・・どうしてなんでしょうね?大陸の中に巨大な風石があるのでは? なんて言われてますが、土メイジがいくら探査しても見つからないので、それは違うと思 いますが。 やはり風の精霊の力かと思いますわ」 トリステインと同面積の浮遊大陸アルビオン、と聞かされたヤンが頭を捻ってしまうの と同じように、浮いている理由を尋ねられたロングビルも首を傾げてしまう。 ヤンの知的好奇心は、まるで外の世界を初めて見た子供のようにあちこちへ駆け回って いる。何の疑問もなく暮らしている普通の人々には、回答に困ってしまうものも多い。も う少し自然科学に興味を持ってくれれば、文明も発達するのになぁ、とヤンは残念に感じ てしまう。 もっともハルケギニアの人々からしてみればどうだろうか。ヤンの世界の人々を「精霊 を恐れぬ不心得者どもで、魔法の力を無視する盲目の蛮人」と嘆き軽蔑するのではないだ ろうか。 そんな事を考えるだけでもヤンは想像力が遙か遠くへ向けて羽ばたいてしまう。 お昼前になり、ルイズ達生徒と同じように、ヤンの授業も終わりとなった。 「あ、ミスタ・ヤン。こちらがオールド・オスマンから預かった図書館の使用許可証です。 学生が入れる場所なら入れますので。司書にも話を通してあります」 「ああ!やっとできましたか。助かります!ありがとうございます!」 受け取ったヤンは満面の笑みで頭を下げた。嬉しさのあまりダンスをしそうになった。 だが、相手がロングビルしかいなかったことと、以前嬉しさのあまりユリアンとダンスを したのを部下たちに見られて笑われたのを思い出し、なんとか思いとどまった。 お昼になり、アルヴィーズの食堂横にある厨房で、ヤンは食事をとることにした。 「よ~お。来たか」 「お邪魔します、マルトーさん。いつもすいません」 頭を下げて厨房に入ってきたヤンを迎えたのはコック長のマルトー。でっぷりしたお腹 を揺らしながらヤンの肩を叩く。 「まぁったく、そうかしこまんじゃねぇよ!同じ平民同士、困った時はお互い様さ!あん たの食事の事はヴァリエールのお嬢様からも頼まれてるからな!」 料理を厨房の隅の机に持ってきたのはシエスタ。 「はい、ご飯ですよー。でも、こんな簡単なモノで良いんですか?」 「ええ、ようやく図書館の使用許可が下りたので、急いで行こうと思うんです」 机の上に並べられたのはサンドイッチと水。それを大急ぎで口に放り込み、すぐに立ち 上がる。 「ふぅ、有難うございました。ところで何か手伝える事はありますか?」 手伝う、とヤンに言われたマルトーは、慌てて顔を横に振った! 「あー、いやいや、大丈夫だ!それよりあんたは早く本でも読んで、色々勉強した方がい いぜぇ」 「はぁ、そうですね。この前のような失敗をしないよう、この国の事を学んでくるとしま す」 ヤンは恥ずかしげに頭をかいて、そそくさと厨房を出て行った。マルトーは他のコック 達に肘で突かれ、ちょっと言い方が悪かったかと頬をポリポリ指でかく。 先日、ヤンは食事の礼にと思い、厨房の後片づけを申し出た。洗い物を頼んだ後、マル トーはかまどの火を消しといてくれ、と何気なく言ってみた。 次の瞬間、ヤンはかまどの火に水をかけて消そうとしたのを、シエスタに羽交い締めに されて止められた。 かまどの火は、くべてある薪を火バサミで壷に移し、壷に蓋をして消す。かまどに残っ た小さな火には灰をかける。もし、火がくべられたままのかまどに水をかけたら、爆発的 に吹き上がる水蒸気に灰が巻き上げられ、厨房が灰だらけになる。水浸しになった灰は、 ただの泥。火をつけるのに邪魔なので全部取り除かねばならない。 だが、ヤンが生活無能力者とかどうとか言う以前に、宇宙で商船や戦艦やイゼルローン 要塞の中でずっと生活してきたヤンに、かまどの使い方は分からない。彼にとって火を消 すとは、砲撃等で発生した火災を消火する、ということだ。その消火も大概は緊急消火ボ タンを押すだけ。 そして、一応士官学校でサバイバル技術を学んだはずなのだが、実技が赤点ラインを往 復していたヤンに、そんなモノを期待するのは無茶としか言いようがない。もっとも、た とえサバイバル技術を完全に身につけていたとしても、「薪を小さく割るには斧を振り上げ るより鉈(なた)がいい」なんて事は知らない。鉈なんていう、ナイフとも包丁とも斧と も異なる、軍用ではない日用品としての刃物なんて、彼には使う事も見る事も無いのだか ら。 科学の宇宙で生きてきたヤンにとって、この中世魔法世界ハルケギニアは毎日がサバイ バルだ。意地を張ってルイズの下を飛び出したらどうなっていたやら、想像しただけで寒 気がしてしまう。 彼は、自分はこの世界では赤ん坊並の知識しか持ち合わせていないのだと、思い知らさ れていた。 「これが立体TV辺りなら、こういう日常生活は全部カットされて、『科学知識を駆使して 大成功の連続!』という事になるんだけどなぁ…現実って厳しいんだな、ファンタジーな 魔法世界なのに」 図書館に向かいながら、魔法世界の厳しい現実に打ちひしがれつつも感心してしまうヤ ンだった。 図書館は本塔にある。門外不出の秘伝書、魔法薬のレシピ、教師のみ閲覧を許された区 画『フェニエのライブラリー』もある。始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以 来の歴史が詰め込まれている、と言われている。 当然、平民立ち入り禁止。入り口の若い女性の司書がメガネ越しに出入りする教師や生 徒をチェックしている。司書はヤンを見ると、不審な顔はしつつ、咎める事はなかった。 再び視線を読んでいた本へ戻す。 一週間くらい前にどこからか召喚された平民使い魔、食堂では主を擁護するため居並ぶ メイジ達を前に怖じ気づく事無く頭を下げた人物、そういう話しは彼女も知っている。だ が何故に突然、この正体不明の人物に図書館使用許可が下りたかまでは知らない。内心、 本が盗まれたらどうするのか、という不安を感じてはいたが。 そんな司書の不安は気にせず、ヤンは足取り軽く図書館に入った。 だが、入った瞬間に頭を抱えてしまった。 本塔の大部分を占める図書館は、高さ30メイルの本棚が壁際にずらりと並ぶ光景は壮観 である。壮観なのはいいのだが、ヤンには上の本が取れない。昼休みなので他の生徒も教 師もいるが、彼等は『フライ』で本棚の間を飛び、『レビテーション』で本を取っていく。 もちろんヤンにはどちらも出来ない。 つまり彼が読めるのは下から数メイルの間にある本だけ。彼は遙か上を飛ぶメイジ達へ、 おあずけを喰らった子供のように羨ましげな視線を送った。 「…と言っても、とりあえず下の方の本だけ読めれば、今はいいんだけどね」 なんて負け惜しみじみた独り言をいいつつ、本棚の下の方の本から目的のタイトルを探 した。下の方にある本、即ち魔法を使わず出せる本、ということは使用頻度が多いので取 り出すたびに毎回魔力を消費していられない、基本的かつ重要な本。 「ああ、あったあった、これだな…」 彼が取り出した本のタイトルは、『ハルケギニア全土図』。 つまり、地図。 放課後、ヤンは厩舎前にやって来た。 「遅いわよ!どこほっつき歩いていたの!?」 そんな愛情に満ち足りすぎて涙が出てきそうな言葉を投げかけるのは、乗馬用のムチを 手にしたルイズ。彼女は約束通り、放課後にヤンへ乗馬を指南していた。 「ごめんごめん、図書館で本を読んでいたら遅くなってしまって」 「ふん、まぁいいわ。さ、早くやるわよ!」 と言ってルイズは下男に厩舎から一番大人しい馬を連れてこさせる。 大人しい馬、のはずなのだが、ヤンはこの馬から落ちたり振り落とされた記憶しかない。 そんな乗馬初心者ヤンの不安は、ルイズには信じられないような基本的なものだ。 「あのねぇ、落馬は馬が何かに驚いて暴走した場合が多いんだけどね。乗っている人の不 安を感じて馬も不安になるから、なんでもない音とかで驚いてしまうのよ。 乗馬を習いたいって言ったのはあんたなんだからね!もっとビシッとしなさいよ!!」 「い、いや、そう言われても、なぁ…」 初日、近付くのも怖かった。 鞍を手でつかみ、鐙に左足をかけて登ろうとしたら、鐙がフラフラ安定せず、鞍のつか み所も悪くて、落ちた。 どうにか乗ったら、即座に振り落とされた。 周囲に集まってきたメイドやコックやら平民達や、通りすがりの貴族達がクスクス笑っ たり爆笑したり。その度に、教えてるルイズ自身も恥ずかしくて顔から火が出る思いだ。 「全く・・・また、あたしが先に乗るから、あんた後ろにのんなさいよ」 「う、うん。お願いするよ」 「早く、まずは馬に慣れてよね。でないといつまで経っても教える事自体が出来ないわ」 「…面目ない」 そんな感じで、前に乗るルイズに怒られながらヤンはおっかなびっくり乗馬を習い続け ていた。 夜、ルイズの部屋。 魔法のランプが照らす室内に、ティーカップを前にした浮かない顔の二人。 ルイズは鏡台の前に座り、財布の中身を広げてため息をついた。 背後では床に直接胡坐をかいていたヤンが、ひざの上に広げた本を見ながら、ルイズに 負けないくらいの大きなため息をついた。 じろりとルイズが振り返る。 「…何よ」 「そっちこそ、どうしたんだい?」 「あんたの入れたお茶が不味いのよ」 「…うん、僕もそう思う」 ヤンが入れたお茶。それは、二人揃って一言、不味い!と言い切れるものだった。 「修行しなさいよね」 「心得ました、ミス・ヴァリエール」 しばし視線を交じわせた二人は再び同時に、さらに大きなため息をついてしまった。 またも二人の視線が交わる。 先に口を開いたのはルイズ。 「予想はつくでしょ?」 「まあね…僕の治療費、そんなに高かったのかい?」 「オールド・オスマンが言ってたでしょ?大きな家が一軒買えるって」 ルイズは財布をひっくり返すが、手のひらの上に落ちてきたのは銀色の貨幣数枚のみ。 「これが骨折とか、ただの怪我だったら、もっと残ったでしょうけどね・・・」 「そうか…本当に、苦労をかけるね」 「いまさら、何よ。 それで、そっちは何なの?地図なんか眺めて」 ヤンの膝の上に乗せられていたのは、昼間に図書館で借りてきた本『ハルケギニア全土 図』だ。 「うん、まぁ、簡単に言うと、僕の国とトリステインの距離とかを知ることができないか、 と思ったんだけどね」 その言葉を聴いて、ルイズの顔は一瞬曇りが広がった後、すぐに晴れ渡った。 「ふーん、その様子だと、どうやらあなたの国は相当遠いみたいね」 「遠いなんてもんじゃないよ…自力で帰るのは、ほとんど不可能だ」 「そうなの?ところで、どのへんなのよ」 と言ってルイズは地図を手に取り床に広げてみる。そこにはハルケギニア5国と、その 東の聖地辺りまでが書かれている。 「その地図には載ってないんだ」 「へえ~、それじゃ、聖地の向こう側なのね。ロバ・アル・カリイエなんだ」 押し隠した嬉しさを含むルイズの言葉に、ヤンは残念そうに首を横に振る。 「なによ、それよりまだ遠いの?いったい何処なのよ、それ」 「何処といわれても、ハルケギニアでは知られていない場所だよ」 「ふーん。ちなみに、故郷はなんて名前?」 「故郷?故郷かぁ~・・・」 天井を見上げて、しばし思案してみる。さて、自分の故郷といえる場所はどこだろうか。 ふとルイズを見れば、ちょっと興味ありげなようで、ヤンに近寄ってくる。 彼は、なるべくハルケギニアの人でも分かるような言葉で語った。 「子供のころは、旅商人の父に連れられて船に乗っていたよ。いろんな場所を巡ってきた。 だから故郷と言える場所はないんじゃないかと思う」 ルイズは床にペタッと座って、ヤンの思い出話を聞き始める。 「16歳になる直前、事故で父が死んでね。たまたまハイネセン…ああ、ハイネセンは僕 がいた国の首都だよ。士官学校の戦史科に入学できたので、あとはずっとその士官学校に いたんだ。 でも、実際には最前線のイゼルローン要塞にいた頃が、一番思い出深いなぁ。もしかし たら、その要塞が僕の故郷かも知れないな」 「ふぅ~ん・・・でも、知らない名前ばっかりねぇ」 「そりゃそうさ。僕だってハルケギニアもトリステインも知らないよ。でも、もしかした ら…と思ったんだけどね。過去に僕らの世界と接触した跡でもないものかと」 そういってヤンは切ない視線で地図を見つめる。 「で、方向で言うとこの地図のどっち?」 ヤンの前に地図を置いて尋ねてくるルイズだが、ヤンは首を振った。 「方向は分からないよ。なにせ、このハルケギニアの地図を見て分かったんだ。ここは僕 らの国では、伝説とされる世界だって」 「伝説?」 ルイズはキョトンとして聞き返す。自分の住んでる世界って、伝説になるほど特別だっ たのかしら?という感じだ。 だがヤンは、途方に暮れたように天井を見上げてしまう。 「そう、伝説。存在自体は誰でも知ってるけど、決して行く事の叶わない世界。虚数の海 の彼方にある、別世界・・・パラレル・ワールドさ」 ヤンはジッと地図を見つめた。 同盟の公用語と多くの共通点を持つ言語で記された、地球のEU地域そっくりのハルケ ギニアを。 次の日の朝、やっぱり二人は寝坊して大慌て。 「全くもう!なんて役に立たない執事なの!?ほらブラウス取ってよ!」 ヤンは慌ててタンスからブラウスを引っ張り出す。いや、本人は慌ててるつもりらしい が、どうにもハタ目には慌ててるという雰囲気がない。実際、バタバタとブラウスを引っ 張り出し、ショーツ一枚で教科書を揃えるルイズに手渡しているにもかかわらず。 「いやぁ、人は僕を『ごくつぶしのヤン』『無駄飯食いのヤン』と呼んだものさ」 「自慢になるかー!!」 慌てている風にみえないのは、この減らず口のせいかもしれない。 悪運強く、どうにか朝食の時間には間に合った。二人とも早足で食堂へ向かう。 早足ながらも、ルイズはふと思い出したように口を開いた。 「ねぇ、昨夜言ってた話だけど、伝説っていうくらい遠いんじゃ、もう助けとかもこない わよね?」 「いや、う~ん、それが分からないんだ」 ヤンがウンウン唸りながら寮塔を出る。外には同じように寝坊したらしい学生達が早足 で食堂へ向かっている。 「でも、自分で言ったじゃない。行く事が出来ないって」 「ああ、いや、実際には『帰って来れない』という事だと思う。とは言っても、僕の勝手 な想像なんだけど」 「帰って来れない?」 「うん。実際、『虚数の海』は行くのは簡単なんだ。でも帰ってきた人がいないんだ」 「なんだか、すっごい難所なのねぇ…そのキョスウノ海って」 ルイズは面白い話を聞けて満足したようで、上機嫌で食堂へ入っていった。 ルイズの頭に浮かんでいたのは、難破船がゴロゴロする嵐の岩礁。 だが、ヤンの頭に浮かんでいるのは、アムリッツァ。核融合の超高熱の中、無数の原子 が互いに衝突し、分裂し、再生し、膨大なエネルギーを虚空に発散させる恒星の名だ。 このアムリッツァ星系において、かつてヤン率いる艦隊は敗残兵の一員となった。補給 路を寸断され、敵地に孤立し、全滅の危機にすらあった。実際、あと僅かの所で退路を断 たれそうにすらなっていた。 この時、敵艦隊に襲われた戦艦がパニックを起こし、大質量近くにも関わらずワープし た。進路算定も不可能なまま亞空間に跳躍した後どうなるのか?それは、死後の世界に定 説がないのと同じく、誰も知らなかった。 ちなみに、この時起きた時空震に退路を断とうとしていた敵艦隊が巻き込まれて混乱、 このスキを突き、ヤンの艦隊は撤退に成功した。 もちろんヤンは、大質量付近のワープが即ちパラレル・ワールドへの転移、と考えては いない。もしそうであるなら、帰還者も、別宇宙からヤンのいる世界へワープして来る者 もあるはずだから。帰還者も別宇宙から来る者もいないのは、本来はパラレル・ワールド へは飛べない、ということ。 だが、ヤンは来ている。それは即ち、来る方法はあるということ。要はそれに気付くか どうか、という点。 「期待は薄いなぁ・・・」 ルイズの背中を見送りながら、ヤンはそれでも帰る方法を考えていた。 「ハァ…それにしても、どうしたものかなぁ」 溜息混じりに学院長室に入ると、今日もロングビルしかいなかった。 「まだオールド・オスマンはトリスタニアですか?」 「いえ、今はミスタ・コルベールの所ですわ」 机の上に本を広げながら、ロングビルが事務的に答えた。 「そうですか。それじゃ今日もあなたが?」 「ええ、今日は、あなたの質問にも答えられるよう、ちゃんと予習もしてきましたわ」 見れば机の上の本には、沢山のしおりやタグが付いている。 「あはは、どうもすいません。秘書の方にこんなことをお願いして」 「構いませんわよ。私にとっても勉強になりますから。それでは今日は始祖ブリミルにつ いて・・・」 そんな話をしつつ、ヤンは今日もハルケギニアについて学ぶ。だが、その表情が冴えな い事に、秘書は彼の入室時から気付いていた。 「もしかして、ホームシックですか?」 問われたヤンは、ハッとして顔をあげた。 「あ、うん、まあ、それもあるんです。でも今目の前の問題としては…恥ずかしながら、 お金の事なんです」 「お金…ですか?」 ロングビルは、あまりにも意外な事を言われたかのような顔で、ヤンをみつめた。 「ええ、何しろミス・ヴァリエールは僕を蘇生するために全財産を払ってしまいましたか ら。ヴァリエール公爵からの次の仕送りまで、どうしたものかと・・・あの、どうしまし たか?」 今度はヤンが意外そうな顔でロングビルを見つめた。 彼女は、信じられないものを見るかのように、メガネを何度も直しながらヤンを見てい たから。 「あなたが、お金がないんですか?」 「ええ、ありませんよ。私は財布を持たずに召喚されましたら。もちろん私の財布には1 ドニエたりと入っていませんでしたが」 冗談を言ったつもりだったヤンだが、彼女は笑うどころか怪訝な顔でヤンを見つめ続け ている。 そして、驚きと怒りの顔へと瞬時に変化した。 「あんのエロオヤジどもぉ!!」 気品あるロングビルの下品な叫びに、今度はヤンが驚いた。 ジャン・コルベール。 二つ名は「炎蛇」。火系統の魔法を得意とするトライアングルメイジで、トリステイン魔 法学院の教師。魔法を特に火系統の更なる活用法を発見しようと日夜研究している。 そして彼は今日も火の塔横の掘っ立て小屋、もとい研究室で頑張っている。 まずは研究素材から試料を取ろうと、ヤスリで削った。 ヤスリ『が』削れた。 ならば切ってみようと、一番大きく頑丈なノコギリで切ってみた。 刃がボロボロになった。 では溶かしてみようと、二つ名「炎蛇」に相応しい高温の炎を杖から吹き出した。 研究室ごと熱くなっただけで、全然溶ける様子はない。 「ええい、らちがあかん。コルベール君、どくんじゃ!」 コルベールの背後から、オスマンが杖を振る。 鋼鉄の拳が練成され、学院長の最高の魔力をもって振り下ろされた。 ガッキイイイイインッッ!! 凄まじい金属音と火花が響き渡り、粉々に砕け散った。 鋼鉄の拳『だけ』が。 いや、それを置いていた台座もついでに砕け散った。 粉々になった鉄拳と台座の破片の中に埋もれたそれは、まったく何の変化もない。 「し・・・信じ、られん、わい・・・」 「な、なんなのですか!これは、ありえませんぞっ!!」 オスマンとコルベールは、疲労と驚愕で床に膝をついてしまった。 この研究素材に費やした体力と魔力に比して、得られたものは何か。 それは、研究する事すら出来ない、という事実だった。 「本当に…ありえませんわねぇ…」 二人の背後で、地獄の底から響くような声がした。 ビクッと肩をすくませた二人が振り向くと、鬼のような形相で仁王立ちするロングビル が立っていた。 「し、信じ・・・られない・・・」 ロングビルの後ろには、秘書に迫られる二人以上に驚愕しているヤンがあった。 ヤンの事など忘れたかのように、ツカツカとロングビルは二人に詰め寄っていく。 「一体、どういうことですか、これは!この方の所持品は、全部返却したのではなかった のですかっ!?」 「い、いや、そのですな…あの」「よすんじゃ、コルベール君…もう言い訳は無理じゃ」 二人は、諦めた様に肩を落とし手を地についた。 粉々の破片の中にあるもの。それはトマホーク。 柄の部分が切れヘッド部分しか無いが、炭素クリスタルの刃を持つヤンの世界で作られ たトマホークだ。 そして、これをヤンに返していないという事は… 「どういう事か分かりますか!?これは立派な窃盗です!あなた方は、彼が意識を取り戻 した時の騒ぎを忘れたとでも言うんですかっ!彼にとっては召喚と契約は、拉致監禁なの ですよ!? おまけに彼の所持品を隠匿し、あまつさえ破壊しようなどとっ!!」 「い、いや、別に盗むとか壊すとかじゃなくてじゃな」「そ、そうですぞ!これは研究のた めに」 「だまらっしゃいっ!!貴族の手本たるべき教員が、平民だからと彼の財をゆえ無く奪う など、恥知らずも甚だしい!だから貴族は平民に恨まれ、嫌われ、憎まれるのですっ!」 叱責される二人は、もう言い返す言葉もなく正座で説教され続けていた。 だが、ヤンの耳には彼女の怒号は届かないようだ。 震える足で、一歩また一歩とトマホークへ近寄っていく。 「こ…これは、まさか、そんな…」 彼の目は、これ以上ないくらいに見開かれている。 その姿にロングビルも気がついた。 「ええ、それはあなたと一緒に召喚された物ですわ。その斧の刃は、信じられませんが、 恐るべき巨大さのダイヤモンドですわね。先日、学院長室の机に置きっぱなしになってい たのを見て驚きましたわよ。 それを売れば、あなたの治療費を倍返ししてなお、お釣りが来ますわよ」 炭素クリスタルの刃、それは巨大な人工ダイヤモンド。といっても天然ダイヤモンドそ のものとは少し違う、衝撃にも強い物質だが。 ヤンの世界では、鏡面処理により光学兵器を弾き小火器程度ではダメージを受けない装 甲擲弾兵と近接戦闘を行うための武器。装甲を貫くための武器なのだから、刃がダイヤモ ンドというだけでなく、斧の本体も相応の硬度・重量を持つ。ビーム兵器の高熱にも耐え る。 ヤスリで削れたりノコギリで切れたり火で溶けたりトンカチで割られるようなシロモノ ではない。 売る、という言葉を聞いて、今度はコルベールが眼を見開いた。 「ま、待って下さい!そ、それは、いやダイヤの刃はともかく、その斧本体について、せ めて教えて下さいませんか!?」 「そう、そうなんじゃ!どうにかして調べたいのじゃが、恐るべき硬度と粘性で傷一つつ かんから、試料も取れず」 ギロッとロングビルに睨まれて、再び二人は黙った。 だが、ヤンも黙っていた。黙って斧を、特に柄の切断面を見ている。 「・・・間違いない・・・」 しばしの後、ヤンが呻くように呟いた。 その言葉に、背後の3人は顔を見合わせてしまう。 あの、と声をかけるロングビルの言葉も彼には届かない。 「間違いない、片刃式だ…同盟の、斧だ」 震える手でそれを手に取る。左手のルーンが輝くが、それすら気付かない。 「やった…やったぞ!来てたんだ、ローゼンリッターが!『レダⅡ』号にっ!!助けに来 てくれていたんだっ!!」 ヤンは、今度は本当に踊り出した。ヘッド部分しかない斧を持って、左手のルーンを光 らせながら、ヘタながらも軽やかに。 それを見ている3人は、果たしてヤンという人物は正気なのだろうか、と本気で考えて いた。 「ローゼンリッター?」 放課後になり、ルイズは再びヤンに乗馬を教えるべく厩舎前に来た そこにはヤンがいた。ただし、見た事もないほど上機嫌なヤンが。 「うん、薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊。我が軍最強の白兵戦部隊でね、その戦闘 能力は1個連隊で1個師団に匹敵すると言われる程だったよ」 二人は馬を並べながら、広場をポックリポックリまわっている。どうにかヤンも馬に嫌 われないようになったらしい。慣れない手つき腰つきながらも、ルイズの馬と並走出来て いる。 「その部隊が、あんたを助けに来ていたの?」 「その通りさ!そして恐らく、僕を召喚ゲートから引っ張り出そうとしていたんだ!」 と大声を出したとたんに、いなないて前足を振り上げた馬に振り落とされた。 ヤンの推理はこうだ。 ヤンが銃撃された瞬間、恐らくは失血死した直後に、ローゼンリッターの誰かが彼の傍 に来ていた。その人物はヤンの死体を見て、一時は絶望した事だろう。 だが、次の瞬間には驚愕した。何か光る鏡のようなものがいきなり現れ、ヤンの死体を 鏡面に吸い込もうとしたから。慌ててヤンの身体を押さえようとしたが、急な事で間に合 わなかった。もしくは吸い込む力に負けた。 斧で鏡らしき物をたたき割ろうとしたが、無駄だった。鏡ではなくゲートだったので素 通りしてしまう。 ならゲートの向こう側にいる人物を殺すか装置を破壊しようと銃を抜いた。だが慌てて いたため手が滑って銃もゲートの中へ落としてしう。それがヤンが持つ銃。 しょうがないのでさらに斧を突っ込み、ゲートを破壊するか開いたままで固定しようと した。だが、ゲートは閉じてしまった。同時に斧の柄は亞空間ごと切り裂かれた。 結果、ルイズが度重なる失敗の後に召喚したのは、ローゼンリッターの斧のヘッドと銃 と、瀕死のヤン。 尻の泥をはたき落として馬に乗り直そうとするヤンに、不安そうなルイズの声が届く。 「でも、召喚の瞬間に誰かが居たからって、ここまで助けが来るとは限らないわよ…ね」 「そうだね、その通りだよ」 よっこらせっ!というかけ声と共に馬に乗り直したヤンが、意外なほどあっさりと同意 した。ルイズも拍子抜けしてしまう。 「何しろ、僕が別の空間に行ってしまったのは分かるけど、どこに行ったかは分からない んだから。来るにしても、いつのことやら」 聞いているルイズは、喜びを隠そうともしない。馬の駆け足も早くなってる。 「そりゃそーだわ。ざーんねんだったわねぇ!とりあえず、あんたはお茶の入れ方でも学 んでくる事ね!」 「そうしようか。でも、その前に、君に追いつくとしようかな!」 そう言ってヤンは馬を早足で走らせて、ルイズを追いかけた。 だが、既に彼の頭の中では、さらに推理が進んでいた。 ヤンを救出に来たと言う事は、当然戦艦で来ていた。そして襲撃者の艦を破壊した。 『レダⅡ』号へ強行接舷した後も、襲撃者の援軍や帝国軍が来ないか、警戒していたはず だ。あらゆるレーダー・観測機器を最高度で稼働させていただろう。 ならば、召喚ゲートの開閉とヤンの亞空間転移もセンサーに捉えたのではないか? 召喚ゲート近くにいた隊員の証言。センサーの観測結果。何故か見事に切り裂かれたト マホークの柄。見つからない斧の頭。一つずつなら幻覚だ故障だ事故だと済ませたかも知 れない。 だが、4つが同時に存在すれば、それは信じるに足る重要な情報だ。 「問題は、やっぱりハルケギニアの場所が分からないって事なんだよなぁ。それに、そも そもあの戦乱の最中、私を捜しに来る余裕はイゼルローンのみんなには無いだろうし。第 一、魔法の扉がセンサーにひっかかるかなぁ?」 そんな不安がヤンの頭をかすめる。 とたんに、再び彼は馬に振り落とされた。 ルイズの笑い声が広場に響いた。 第3話 執事? END 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページゼロと波動 「へ・・・平民??」 爆発と共に現れた使い魔は、人間だった。 元は白かったであろう、上着と呼べるかどうか怪しい布を身体に巻きつけ、丈夫そうな黒い紐を使って腰の辺りで縛りとめている。 腕を通すために開けられた穴もズボンも、裾は破れてボロボロだ。 そして頭には赤いハチマキ。 「はは!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 「しかも物乞いのオッサンだよ!」 「流石はゼロ!」 周りから漏れる失笑、揶揄。 確かにボロ布を纏った姿は物乞いにしか見えない。 「ミスタ・コルベール!!やり直しを!召喚のやり直しをさせてください!!」 桃色がかったブロンドの髪の少女――ルイズ・フランソワーズは目に涙を浮かべながら頭が多少寂しい責任者らしき男に訴えた。 「ミス・ヴァリエール、残念ですがそれはできません。貴女も知っている通り、春の召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」 「でも!」 「確かに平民を召喚したというのは前代未聞ですが、規則は規則です。彼が死なない限り、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です」 にべもないコルベールの言葉にルイズはがっくりと肩を落として、自分が召喚してしまった男を改めて見てみた。 年齢は・・・ミスタ・コルベールよりいくらか若いぐらいだろうか。 身長は決して低くはないけど、それほど高いわけでもない。まあ、それでも自分と比べれば随分と高いが・・・ ただし、体格は並外れている。 オーク鬼のような横幅と厚み。 首は顔よりも太いし背中も盛り上がっている。筋肉の筋がはっきり浮き出た腕なんてまるで丸太だ。 いや、丸太なんて柔らかそうなものじゃない。石・・・そう、土のメイジが石や鋼で錬金した彫刻のよう。 はぁ、せめてコイツにツノでも生えてればなぁ・・・首から下だけなら亜人みたいなのに・・・ ルイズは不満全開な顔で男を睨みつける。 他の生徒が召喚した使い魔であるサラマンダーや風竜を見て目を白黒させていた男は、ルイズの視線に気づくと初めて口を開いた。 「そんなに睨み付けないでくれ、あと、教えて欲しいんだが、ここはどこだ?なぜ俺はここにいる?そして、キミ達は何者だ?」 桃色髪の少女は黙って睨み付けてくるだけで一向に口を開こうとしない。 「ここはトリステイン魔法学院です。彼らは学院の生徒、そして、私は教師をしているジャン・コルベールです。貴方はここにいるミス・ヴァリエールに召喚されたのですよ」 無言で睨みつけるルイズに代わり、コルベールが答えた。 「とりすていん?聞いたことがないな・・・それに召喚ってなんだ?俺はアマゾンのジャングルにいたはずなんだが・・・?」 「召喚は召喚よっ!私がアンタを召還したのっ!だいたいトリステインを知らないなんてどんだけ田舎者なのよ!」 割って入ってルイズが叫ぶ。 勝手に召喚しておいてそんな言い草もあったものではないが、そこは典型的な貴族であるルイズ、平民の事情なんて考えない。 そんな彼女も大声を出したことで多少は吹っ切れたのか ”平民を使い魔にしなければならない”ということに諦めがついたらしい。 「平民のアンタを使い魔にしてあげようってんだから感謝しなさいよね!!」 ルイズは意を決すると、コンストラクト・サーバント<契約>の呪文を唱えて男の顔に手を伸ばす。 届かない。 「しゃがみなさいよ!」 訳の解らないまま言われた通りしゃがむ男。 ルイズは改めて男の顔を両手で挟むと、唇を合わせた。 「な!?何をするんだ!!?」 突然キスされた男は慌てふためいてルイズから離れた。 突如、左手の甲に激痛が走る。 「な・・・!?」 手の甲と拳の部分のみを覆うグローブを外すと、手の甲に光と共に不思議な模様が浮かび上がりつつある。 「ルーンが刻み込まれているだけです。すぐに収まりますから少しの間だけ我慢してください」 しばしの間、光を放ちながら模様は刻み続けられたが、なるほどコルベールが言った通り、激痛はすぐに治まった。 自分の手の甲に浮かんだ不可解な模様を消そうとこすったり叩いたりしてみるものの、模様が落ちる気配はまったくない。 戸惑う男に告げるコルベール。 「これで貴方は正式にミス・ヴァリエールの使い魔となりました。それにしても・・・変わったルーンですね・・・ちょっと見せてもらっていいですか」 コルベールは取り出したスケッチブックに浮き出たルーンを模写しだす。 自分の描いたスケッチに間違いがないかを確認したコルベールは満足気にうなずいた。 「さて、全員召喚の儀式を済ますことができましたね。では皆さん、学院に戻りましょう」 その場にいた少年少女たちは返事をすると、何事かをつぶやいて棒切れを振る。 すると突然、自分にキスした少女を残して全員が宙に浮き始めたではないか。 そしてそのまま学院と思しき建物に向かって飛んで行ってしまった。 男は唖然とした。 自分も宙に浮いたり瞬間移動したりする魔人やヨガ行者には会ったことがある。 が、彼らは・・・特に前者は常識を超越した特殊な存在だった。 しかし、今目の前で起こった出来事は、どうみても普通の少年少女たちの所業だ。 「・・・何がどうなってるのか・・・まったく解らん・・・」 見たこともない生き物や少女からのいきなりのキス、空を飛ぶ生徒たち、自分の左手に突然現れた刺青・・・ もはや理解の範疇を超えていた。 本来ならもっと取り乱してしかるべきなのだが、長年の修行で身につけた精神力がなんとか理性を保たせていた。 いや、もしかしたら、余りに常軌を逸していたせいで返って冷静でいられたのかもしれない。 空飛ぶ少年たちを見送りながら思考を巡らし、とりあえず緊急的に自分の身に危険が及んでいる訳ではなさそうだと判断する。 だとすると、不可解極まりないこの場所で下手に動き回るのはあまり得策とはいえない。 しばらくはこの場所で様子を伺った方がいい。 それに元々、ジャングルに篭って修行するつもりでいたのだ、その修行が多少険しくなったにすぎない。 厳しい修行なら望むところだ。 コルベールと名乗った男の話によれば、今の自分はどうやらこの少女の使い魔ということらしい。 使い魔というものが何をするものなのかは解らないが、未知の経験もまた修行。 そう、万物全てが修行である。 しばらくはこの少女についてみるのもいいだろう。 「俺はリュウだ、よろしく頼む。ヴァリエール」 笑顔で右手を差し出す。 「私のファーストネームはルイズよ・・・っていうか!アンタは私の使い魔なのよ!?私のことはご主人様と呼びなさい!!」 文句を言いながらも、一応、出された右手に握手で応える。 無骨でゴツゴツしたリュウの分厚い手は、とても暖かく、優しくルイズの手を包んだ。 「そうか、わかった、よろしく頼む。ルイズ」 「だからご主人様だって言ってるでしょ・・・まぁ、いいわ・・・」 思わず顔を背けるルイズ。頬が熱い。 何故だろう、この男の手に包まれていると広い広い草原に寝転んでお日様の光を浴びている・・・そんな穏やかな感覚に陥る。雰囲気がちょっとちぃ姉さまに似てるかも・・・ いやいやいやいやそれはない! 平民が、それもこんな薄汚い男がちぃ姉さまに似てると思うなんて私は馬鹿ですか阿呆ですか。 ブンブンブンと首を振りつつも、すっかり怒気を抜かれてしまい、思わずルイズと呼ぶことを認めてしまったではないか。 まあいい、これからみっちり使い魔として教育してやるんだから!でも、ご飯はちゃんとあげようかな・・・などと思いつつ学院に向かって歩を進め始める。 「ルイズは彼らみたいに飛んでいかないのか?」 「うるさいわね!歩きたい気分なのよ!」 前言撤回。やっぱ、コイツむかつく。ご飯は床決定。 リュウはリュウで、それにしてもよく怒る娘だなと思いつつ桃色がかったブロンドの髪を持つ少女、ルイズに続くのだった。 前ページ次ページゼロと波動
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前ページ使い魔は漆黒の瞳 使い魔は漆黒の瞳 3 「うっわ~! 見なよ! 月が二つあるよ!?」 「ピヨピヨ!」 「ほ、ほんとだーにゃ! それも、両方見たこと無い色に模様だーにゃ!」 「つ、つき…? あ、あれ? 月って、ほ、ほんとは…い、幾つだっけか?」 「グルルルルルル」 「え、え、一つだってばさ~」 「おつきさま、ふたつ? どっち、みたらいい?」 「ガウガウ」 「これは面妖な。やはりここはワシらの知らぬ大地なのかのう?」 「かつてリュカ殿は妖精の住まう世界に行った事があると聞く。そこは海の色も空の色も普通とは全く違っていたとか…やはり、そうであるとしか思えないな」 トリステイン魔法学園の一角。 大型の使い魔たちのため用意された厩舎の傍で、リュカと共に呼び出されたその仲間たちは、上天に昇った月を見て、わいのわいのと騒ぎ立てていた。 リュカが禿頭の中年男性に連れられて行ってから暫らく経つ。馬車と共にこの場所でリュカの帰りを待つことにした仲間たち。 だが見知らぬこの地と人々の様子、判らぬことばかりに加え、長たるリュカの不在は一行に不安の影を落としていた。 そこへ蒼紅の双月が昇ったのだ。今まで北大陸をくまなく旅し、西大陸に渡っても変わりの無かった『空』の違いに、一行が騒ぐのも無理は無い。 その騒ぎは隣の厩舎で今日召喚されたばかりの他の使い魔達も驚くほど。 「うるさいのねー!きゅいきゅい!!」 そんな苦情の声も掻き消えてしまう騒ぎであった。もっともそこまで騒げば、注目も集める。 何事かと遠く学生の宿舎の窓から様子を伺う学生。 使い魔との感覚の同化に成功したばかりのところへ、この騒音をぶつけられ悶絶する者。 遠巻きに何事かと様子を伺う学園の使用人達。 そして、学長室を辞したリュカと、その後ろに隠れるように様子を伺うルイズ。 二人は、学長室を辞した後、此処へ足を運んでいた。お互いのことをより深く話し合うべきと判断したからだ。 「どうしたんだ? そんなに騒いで?」 「あ、リュカ! 見てよ! 月が二つなんだよ!……ん?リュカの後ろにいるのって、だれ?」 「あ、さ、さっき…あ、あった子だな…! す、すぐに、気絶したけど」 「ひっ! ミ、ミスタ・リュカ! やっぱり死んでるように見えるのですけど!!」 ルイズはどうやら、スミスの外見のインパクトに半ばトラウマに近いものを植え込まれてしまったらしい。 プライドの高さも大きな特徴なのだが、今は完全に畏怖の念で多い尽くされてしまっている。 「でも、スミスは良い奴だよ。心は誰よりも綺麗だとおもうし」 「くさってーけどにゃー」 「ドラきちも茶化すなよー」 「…まぁ、無理も無いのう…ワシもスミスの顔を心の準備無く目の前におかれたら、そのまま臨終するかもしれん」 「老師、洒落になっていませんぞ」 とはいえ、その他の仲間達はさほど恐ろしい姿をしている訳でもない為、ルイズも次第に打ち解ける。 そしてようやく、お互いの事、お互いの知る事を話し始めた。 トリステインの事、メイジの事、使い魔の事。 ラインハットの事、リュカの事、仲間の事。 お互い納得のいかぬ事象もあった。 特に、リュカが使い魔となった事を語られる段では、ピエールなどルイズに掴み掛からんほどに詰め寄ったほどだ。 曰く、偉大なマーサの息子たるリュカを、再び奴隷に貶める気か!と。 その場は他ならぬリュカの取り成しで事なきを得たが、ルイズにとってはスミスに続いて苦手な相手が出来た瞬間でもあった。 逆に、ルイズが眉根を顰めたのは、リュカが貴族ではないと言う点だった。 ルイズの知る常識では、魔法を扱える者はメイジであり、貴族である。 貴族から身を落して平民となるメイジも居るが、それは例外の範疇にあるものだ。 故にミスタ、と敬称を付けても居た。だが、この異郷のメイジは貴族ではないという。 いや、正確には『判らない』と言うべきか。 詳しい言及はリュカもその仲間も避けたためルイズには知る由も無いが、この異郷の青年の辿った数奇で過酷な運命は、 その出自を確かめるに困難な状況を作り出していた。 ただ、幼い頃に召使が居たとの話がされると、ルイズも何かに納得したようだった。 ちなみに、ルイズとリュカがほぼ同年齢という点は、スラリン等から盛大に驚きの声が上がったのは言うまでもない。 夜半過ぎ。長くお互いの事を語り合った一行は、馬車の中で何時も通りに眠りにつこうとしていた。 普段ならば、誰か一人は周囲の警戒の為起きているのだが、今夜は全員眠りの床に在った。 なんと普段はあまり眠りを必要としないスミスまで転寝をしている。 学園内にモンスターは出ないのだ。そしてリュカは一応学園内で保護を受けうる対象である。 ならば警戒する必要も無い。何より今日は全員疲れていた。 だが、その中で二つだけ、寝息を立てていない者が居た。 「本当に良かったのですか? リュカ? やはり私たちの誰かが代わりに…ルイズとかいう娘の使い魔になった方が良かったのでは?」 「元の世界に戻る方法を探してもらう条件だったから仕方が無いさ。これで少なくとも、手がかりも無しに見知らぬ土地をさ迷い歩かなくてすむ」 リュカと参謀役のピエールだ。 ちなみにルイズは自身の部屋に戻っている。 リュカもルイズの部屋で眠ると言う選択肢が無いでもなかったが、うら若い娘と同じ部屋で寝泊りするのは問題があると断っていた。 そもそもリュカたちの馬車は旅の間の寝所でもある。寝るのも慣れた場所のほうが良いと言うものだ。 「ですが、このような印が刻まれるとは…まるで焼印のようではないですか」 「確かにこれが浮かぶときは呪文で焼かれるような熱さだったさ。だけど…まぁ、あの教団のころに比べたら、大した事無い。 それに、使い魔の役目をみんな手伝ってくれるんだから」 「……確かにそうですが……」 リュカは、ルイズと契約を結ぶ前にオールド・オスマンと幾つか約定を交わしていた。 一つ目は、元の世界に帰る方法を学園が責任を持って探す事。 二つ目は、少なくともルイズが在学している間は、リュカとその仲間を学園が庇護の下に置くこと。 三つ目は、元の世界へ帰る方法が判り次第、ルイズに再度の使い魔召喚を認める事。 これらの要求が呑まれるのであれば、ルイズの使い魔となってもよい、と。 代償として、ルイズの使い魔になる事以外にリュカの扱う『魔法』の情報を求められたがこれは許容範囲だ。 もっとも使い魔になると言っても、教えられた使い魔の役目の中でリュカに出来るのは、主を守る事、くらいであろう。 同時にそれはリュカでなくとも…リュカの仲間達でも出来る事だ。 結果、その条件を聞いたピエール達は、リュカの代わりに交代でルイズの護衛につくことを申し出たのである。 そしてリュカには…この世界の知識を学んでもらうと同時、元の世界に帰る手段をさがしてほしい、と。 「…リュカには果たさなければならない使命があります。それをこのような異界で時を無為に過ごさなければならないのが、口惜しいのです」 ピエールは、リュカの仲間の中でも最も忠誠心が高い一人だ。それはリュカの母マーサをかつて深く敬愛して居た事から始まっている。 故に、闇の世界へ連れ去られたマーサを救わんとするリュカがこんな偶発的な原因で使命への遠回りを強いられる事に我慢できないのだろう。 だが…そんなピエールの様子に、リュカは首を振る。 「無為、かどうかは、わからない。ピエール、これを見てくれないか?」 「それは…その光は!?」 リュカが取り出した物を見て、ピエールの上下4つの目が丸く見開かれる。 とりだされた『それ』は、馬車の中を清涼な光で淡く照らし出している。 「この世界に来て、気がついたらこうなっていた。原因はわからないけれど、もしかすると、近くにあるのかもしれない」 そういうと、再び淡い光を放つそれをしまい込む。 再び夜の帳が落ちた馬車の中、ピエールは考え込むように言葉を漏らした。 「……もしや、我々は来るべくして来たと言う事でしょうか?」 「それを明日から調べたいと思ってる。…そろそろ寝よう。明日ルイズを起こしにいかないといけないんだ。ピエールもそろそろ寝たほうがいい」 そう言って、眠るプックルの傍で身を横たえるリュカ。ピエールも言葉に従い身を横たえる。 目を閉じるピエールの隣でコドランが、自身の零す甘い息につられるように深い眠りに落ちている。 ピエールもその香りに身を任せていった。 天空の装備の一品が放っている光の意味を思いながら。 前ページ使い魔は漆黒の瞳
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前ページ次ページ残り滓の使い魔 粗末な食事を終え、悠二はルイズとともに教室に来ていた。 大学の講義室のような教室には、既に何人もの生徒とそれぞれの使い魔がいた。 昨日召喚されたときに大半の使い魔は見ていたが、それでもゲームなどでしか見たことのない架空の生き物たちは、悠二を魅了した。 ルイズが席に着き、その隣に悠二も腰掛けようとしたが、ルイズが非難するような目で自分を見ていたのに気づき、床に座りなおした。 しばらくして、先生と思われる中年のふくよかな女性が教室に入ってきた。女性は教室中を見回しながら言った。 「春の使い魔召喚の儀式は大成功のようですね。このシュブルーズ、毎年さまざまな使い魔を見るのが楽しみなのです」 「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール」 シュブルーズの目が悠二で留まり、隣のルイズを見て言った。 そう言うと教室中が笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 そう誰かが言い出したのを発端に、しばらくの間、 「かぜっぴき!」 だの、 「ゼロのくせに!」 などといった、小太りのマリコルヌという生徒とルイズの小学生レベルの口げんかが続いた。 その後、シュブルーズがマリコルヌ他数名の生徒の口に赤土を押し付けることで教室に静寂が戻った。 授業が開始され、はじめに魔法について基本的な説明があった後に錬金の実演となった。 (魔法を自在法に応用できるのかな?) 多少の期待を胸に秘めつつ授業を聞いていたが、どう聞いても先生は自分の属性である『土』系統の魔法びいきであった。 しかし、シュブルーズが錬金の魔法を使ったときには“存在の力”の流れに微妙な変化があったので、授業を聞いたこと自体無意味ではなかった。 「ルイズ、スクウェアとかトライアングルって何なの?」 「簡単言うとメイジのレベルね。ドット、ライン、トライアングル、スクウェアがあって後者ほどレベルが高いってこと」 「ふーん。で、ルイズは何なの?」 こう聞くとルイズは下を向き黙ってしまったが、シュブルーズにこのやり取りを見咎められ、ルイズが錬金の実演をすることになった。 「先生、危険です」 なぜかキュルケがシュブルーズにやめさせることを提言していたが、先の錬金を見た悠二には、どこに危険な要素があるのか皆目見当がつかなかった。 教室の前にルイズが立ったとき、生徒たちは机の下に隠れていた。悠二は、なぜみんなが机の下に隠れているのかわからなかったが、とりあえず警戒だけはしておくことに決めた。 そして、ルイズが呪文を唱え、杖を振ると、大きな爆発が起こった。 現在、教室にはルイズと悠二しかいなかった。あの爆発の後、シュブルーズは気絶してしまい自習となった。 しかし、爆発を起こした罰として教室の掃除をすることになったのだ。もちろん魔法は使用せずに掃除することになる。 ルイズは不貞腐れているのか全く手が動いていなかった。それに反して、悠二はしっかりと掃除していた。ルイズがゼロといわれている理由も、爆発の後に生徒の誰かがルイズを馬鹿にしているのを聞いてわかった。しかし、悠二はルイズに何も声をかけず黙々と掃除をしていた。 ふと、ルイズが口を開いた。 「どうせあんたも心の中で私を馬鹿にしてるんでしょ! 魔法も使えないくせに威張ってるとか思って! そうなんでしょ! 何とか言いなさいよ!」 ルイズが怒鳴るように喚きたてると、悠二が静かに口を開いた。 「初めから全てができる人はいないよ。努力し続けて、ようやくできるようになるんだ」 悠二は自分の経験を元にルイズに言っていた。 悠二はここに来る前、身体能力向上のためにシャナと早朝鍛錬をしていた。 『振り回す枝を、目を開けて見続ける』 『前もって声を掛けた一撃を避ける』 『十九回の空振りの後に繰り出す、二十回目の本命の一撃を避ける』 『二十回の中に混ぜた本気の一撃をよけて、隙を見出したときは反撃に転じる』 このように段階を経て鍛錬を続けていた。はじめはシャナの振り回す枝を、目を開けて見ていることもできなかったが、努力し続けることでこの段階まで至っていた。 それに、他人がなんて言っても、自分で考えてどうするか決めないとダメだし」 そして、友人である佐藤啓作が悠二を羨望の眼差しで見ていたことを思う。 悠二が“徒”から“存在の力”を吸収し、フレイムヘイズと対等とまではいかないが、劣らぬ力を発揮して戦う姿を。 それを憧れとも嫉妬とも取れる目で見ていたが、彼は自分に出来ることをする、と外界宿に行くことを決断する。 ここに至るまでは、さまざまな葛藤があったようだが、彼なりの結論を出し、慕っているフレイムヘイズ、マージョリー・ドーを助けるという目的のために、羨望などを捨て前向きに進んでいた。 (それに、) 悠二は最初に会ったころのシャナを思う。 (最初は自在法が苦手だったシャナも、いきなり紅蓮の双翼を出せるようになったし) かつて、敵として『弔詞の詠み手』と戦ったときを思い出す。あの戦いを境に、シャナは突如として自在法を使えるようになっていた。 そう考えると、ルイズが魔法を使えない理由は、悠二には契機がまだだとしか思えなかった。 「ルイズも魔法を使えるようになるよ。僕はそう信じてるし、応援もする。使い魔でいる間は守るっても言ったしね」 「うるさいうるさいうるさい! いいから黙って掃除しなさい! それと、ご主人様に生意気な口を利いたからご飯抜き!」 他人にはバカにされてばかりであったが、悠二の邪気のない「信じている」という言葉にルイズは面食らった。 悠二は不意に怒鳴られ驚いたが、そっぽを向いたルイズの横顔が赤くなっているのに気づき、声は掛けず掃除に戻った。 このあと二人は一言も話すことなく掃除を続けた。 二人は掃除を終え食堂に行ったが、悠二は食事抜きだったことを思い出し、コルベールの所へ行こうとした。 (先生のいる場所の名前は聞いたけど、そこがどこにあるのかはわからないんだった) ルイズに聞こうにも聞きにくい雰囲気だしな、と食堂の前で途方にくれていた。肩を落としている悠二の前に、シエスタが現れた。 「あの、ユージさんどうしたんですか?」 「コルベール先生のところに行きたいんだけど、場所がわからなくて困ってたんだ」 「ミスタ・コルベールなら図書館にいると聞きましたよ。……ところで、図書館の場所はわかりますか?」 「……よければ教えてくれないかな?」 悠二はシエスタに図書館の位置を教えてもらいコルベールに会いに向かった。 図書館近くの廊下で偶然にも悠二とコルベールは鉢合わせた。 「コルベール先生、少しいいですか?」 「君は、昨日ミス・ヴァリエールの使い魔の……」 「坂井悠二です。あの、このルーンについて聞きたいことがあるんですが?」 悠二がそう言い左手に刻まれたルーンを見せると、コルベールはわずかに眉をしかめた。 「聞きたいことは何かね? 私にわかる範囲でなら説明できるが」 「ルイズに、ルーンは付与効果があるって聞いたんですけど、このルーンの効果って何ですか?」 「もう一度ルーンを見せてくれないかね? ふむ、しかし効果まではわかりかねますな」 そうコルベールは言って、無意識のうちに、持っている本を強く抱えなおした。その仕種を見た悠二は、違和感を覚えていた。 (見間違えかもしれないけど、なんで本を僕から隠すようにしたんだ? 本に、僕には知られたくないようなことが書いてあるのか? そうでもないと、隠すような行動をした意味がわからない) 悠二のルーンから手を離し、若干焦りを感じるような声色でコルベールは言った。 「力になれなくてすまないね。他にも何か困ったことがあったら相談してくれたまえ。私はこれから、学院長のところに行かなければならないので失礼するよ」 そういい残し、早足で去っていってしまった。 (コルベール先生の部屋は外にあるはず。それなのに、違う方向に向かった) 悠二は、戦闘時ばりに考えをめぐらせた。 (このまま学院長に会いに行くってことは、あの本も持っていくということだ。急いでいたということを考えると、早く伝えなければならないような重要な内容) 先ほどのコルベールの行動から推測を続ける。 (それに、さっきルーンの話で明らかにあの本を意識した。ということは、このルーンのことで学院長に急いで報告しなきゃいけないような大事な話か) 悠二は音を立てず、コルベールが行ってしまったほうへ走り出した。 悠二がコルベールを追って学院長室に向かっているころ、ルイズは自室のベッドの上でじたばたと暴れていた。 「わかわかわかわか! なんなのあいふは! そえい、ふふへはっへ! ん~~~~~!」 枕に顔を押し付けながら叫んでいたので、何を言っているのか全くわからないが、この場面を見れば、明らかに怒っているとわかる光景だった。 ルイズがこうなった原因は、昼食を食べている時にあった。 「あら、ルイズ。もう掃除は終わったの? 意外と早かったわね」 ルイズが食べようとすると、キュルケが不適に笑いながら話しかけてきた。 「ええ、おかげさまでもう終わったわ」 ルイズは、これでもうこの話はおしまい、とでも言うように言い放ったが、それに構わずキュルケは続けた。 「ところで、あなたの使い魔はどうしたの? ここにはいないみたいだけど」 「あいつなら、ご主人様に生意気なこと言ったから食事なし」 それを聞いたキュルケは、意地悪な笑みを浮かべた。 「あの使い魔が何を言ったか知らないけど、満足に食事もできないんなら、そのうち逃げちゃうんじゃないかしら? もしかして、こうしてる今にも逃げてるかもしれないけど」 「そんなわけないじゃない! まったく、失礼しちゃうわ!」 そう言って顔を赤くしながら食事をするルイズを見て、キュルケは満足げな笑みをたたえた。 「いじわる」 キュルケの隣に座る青髪の少女、タバサが呟いた。 「あの子をからかうのって、おもしろいのよね~」 そう言ってから食事に戻った。 (そうよね、あんまり厳しすぎてもダメよね。そうよ! 飴と鞭の要領よ!) キュルケにからかわれた後、ルイズはそう考え、食堂の前で待っているだろう使い魔のためにパンを持っていくことにした。 (お腹を空かしているだろう使い魔のためにパンを持っていく優しいご主人様、さらに従順になるでしょうね) 自分が食事を抜きにしたことを思考の脇に置き、ずる賢く笑い、食事を終え食堂を出たが、そこに使い魔の姿はなかった。 (どこ行ってんのよ、あいつったら) まあ、どうせ部屋に戻って空腹に悶えているのよね、と思い、またしても黒い笑みを浮かべ自室に戻った。 そして今である。意気揚々とした足取りで自室に戻ったが、空腹に泣いているであろう使い魔がいなかった。 (ごごご、ご主人様がせっかく食事を持ってきてあげたっていうのに、あのバカったらどうしていないのよ!) 声にならない怒声を上げ、ルイズはベッドにダイブしたのだった。 しばらく、うつ伏せで枕を抱きしめ、足をバタバタさせ、今いない悠二、パンを持ってくる原因とも言えるキュルケに対し、怒りをぶちまけていた。 ある程度冷静になると、急に不安に襲われた。 (本当に使い魔逃げちゃったのかしら? せっかく召喚したのに。初めて成功した魔法だったのに) 考え始めると、ネガティブな思考が頭の中を埋め尽くし、再度ルイズは枕を強く抱きしめた。 前ページ次ページ残り滓の使い魔
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召喚されたのは、煤汚れた2つの鉄くずだった。 何らかの魔法がかけられているようではあったが、少なくとも"生き物"ではない。 異例の事態であったため、判断は保留。本来は使い魔召喚の儀が完了しなければ足切りされるものなのだが、 学院長の判断を仰ぐ、という形でうやむやになった。 周囲の視線から避けるように自室へと戻ったルイズは、召喚されたガラクタを力任せに床に叩きつけると、 声にならない声をあげながら泣き叫び続けるのだった。 --- それは現実味のない"夢"だった。 ここでない場所、今でない時。 そこでくりひろげられる、戦い。 『お前は誰だ』 繰り返される問いかけ。 『俺か?俺は、通りすがりの――』 目が覚めると、朝だった。 どうやらそのままずっと眠ってしまっていたらしい。 襲ってくる空腹に気だるげに身を起こすと、床には昨日投げ捨てた"それ"が転がっているのが目に留まった。 煤汚れていたはずのそれは、窓からもれる朝日を、白い光沢の表面と中央の赤い輝石で反射させて輝いていた。 「君の軽率な行いのせいで、可憐なるレディを傷つけてしまった。それは理解できるかな?」 人だかりが出来ていた。 なんでも、二股がバレたギーシュがメイドに八つ当たりしているらしい。 人ごみを掻き分けて前に出たルイズは顔をしかめた。 「やめなさい。下品にもほどが有るわ」 ギーシュは悪趣味なフリル付きの服をしならせ、手にした薔薇の花を突きつける。 「物の道理というやつを、愚鈍な平民に諭していたところだ」、と。 ギーシュにとって不運だったのは、そのメイドがルイズの"お気に入り"だったということであろうか。 「あんたのそれは、ただの言いがかり。道理もなにもない、駄々こねてわめいてる赤ん坊と同じよ。 気分が悪いからいいかげんやめて。あなたは罪のない平民に嫌がらせをすることで、トリステイン全ての 貴族の誇りを汚しているのよ。今すぐモンモランシー達とシエスタと、ここにいるすべてのみんなに謝罪しなさい」 だが彼は、赤ん坊と同じ、ではなかった。不幸なことに彼は、正真正銘の赤ん坊だったのだ。 「決闘だ!!」 そういうことになった。 決着は一瞬だった。 『アタックライド!ブルァァァスト!!』(※若本ボイスでお楽しみ下さい) ガンモードへとその形状を変えたライドブッカーから射出される弾丸は、クラインの壷から生み出される 無尽蔵の50口径エナジー弾。 原型を留めぬほどに粉砕されたゴーレムを目の当たりにして茫然自失のギーシュに、空間を破砕して 唐突に出現したマシンディケイダーが突撃し、全く見せ場のないまま決闘は終わった。 その後ルイズは、学院長と交渉してシエスタをヴァリエール家専属とし、以後誰も彼女にちょっかいをかける者は いなくなった。 その日のうちにルイズの個室にはベッドとクローゼットが運び込まれた。シエスタは後にこのことを振り返り、 "クックベリーパイの奇跡"と家族に語ったという。 使い魔が得られなかったルイズはこの思わぬ同居人に顔を緩ませ、トリステインの城下町まで買い物にさそう。 2つ返事で了解したシエスタと虚無の休日を満喫し、途中乱入したキュルケ、タバサとともに風竜に乗って帰還した ルイズを待っていたのは、30メートルを超える巨体の土のゴーレムだった。 翌朝、4人に徴集がかけられた。 ルイズは目の下にくまを作ってフラフラと揺れて立っていた。昨日城下町のゴミ捨て場で拾った喋る剣のせいで 寝不足だったのだ。 目撃したゴーレムについて話をしていると、ミス・ロングビルがあわただしく駆け込んでくる。 「フーケの潜伏先を発見しました」 馬車に揺られながら眠りこけるルイズ。 鎖でぐるぐる巻きにされたデルフを抱えて寄り添うシエスタ。 黙々と本を読むタバサ。 無意味にハイテンションなキュルケ。 御者をしながら我関せずのロングビル。 やがて一行は森の前の小屋に到着した。 目を覚ましたルイズは、警戒もせずずかずかと小屋に歩み寄り、中へと入っていく。 あっけに取られて固まっていた4人は、あわててあとを追った。 「これが『破壊の杖』?」 ルイズは苦笑した。 「とても杖には見えないわねぇ」 「・・・・・・ユニーク」 「あれ?ミス・ロングビルは?」 シエスタのつぶやきと被るように、轟音とともに小屋が倒壊した。 ・ ・ ルイズはキレていた。 シエスタがぐったりとしたまま動かない。 必死に魔法を撃ちながら後退するキュルケとタバサ。 しかし、騒ぎで馬が逃げ出していた為、逃走手段がない。 風竜が助けに飛んできたのだが、ゴーレムの動きが激しく近づけないでいる。 ・ ・ ルイズはキレていた。 ・ ・ ルイズはぶちキレていた。 『破壊の杖』に『カード』をセットしてゆらりと立ち上がると、タバサに向けて引き金を引いた。 抗議の怒鳴り声をあげるキュルケにも、問答無用で引き金を引く。 風竜をあしらったゴーレムが、ルイズ達に向かって振り向いた。 フーケは口元を醜悪にゆがめて哂っていた。恐怖のあまり狂ったか、と。 『破壊の杖』の形状から、使い方には想像がついていた。 だが、いくら引き金を引いても何も起こらなかった。 その疑問もどうやら解消したようである。 フーケは哂っていた。自分のゴーレムが崩れ去るその瞬間まで。 そのゴーレムの左肩は高熱で溶け出し、足は地面と融解していた。右半身は無数の氷の槍にで砕かれて散った。 あっけない結末。 フーケのゴーレムは再生不可能なまでに破壊されていた。 『疾風のサヴァイヴ』と『烈火のサヴァイヴ』 それが、ルイズが二人に撃ち込んだものの正体だった。 ただ大きいだけのゴーレムは、短時間ながらスクウェアクラスの力を発揮した二人の敵ではなかった。 わめき散らして文句を並べ立てるキュルケを完全に無視して、ルイズはシエスタを介抱していた。 タバサが黙ってそれに従い、治療を施している。 キュルケが怒鳴り疲れる頃、ロングビルが戻ってきた。 どうやって倒したのか、不自然なまでに執拗に聞いてくる。 ルイズは顔を顰めながら『破壊の杖』にカードを1枚セットし、ロングビルに渡した。 後ずさり、飛びのいて杖を構えるロングビル、いや、土くれのフーケ。 銃口を自身に向けると、ためらいも無く引き金を引いた。 「ふんふんふんふふ~~ん。答えは聞いてない!」 パニックを起こし、そのまま続けて引き金を引いたフーケは、胸を真っ赤な血に染めて事切れた。 彼女の最後の言葉は、哀れにも多くの人の知るところとなる。 学院に戻り、報告を果たした4人。 ルイズとキュルケにはシュバリエの称号が、タバサには精霊勲章が授与されるよう、取り図らわれた。 また、『破壊の杖』は宝物庫に戻されることなく、ルイズに管理が委ねられた。 フーケ討伐の報は、翌日には王宮にまで届いていた。 これ幸いと学院を訪問し、こっそりとルイズに会いに来たアンリエッタは、アルビオンへの潜入任務を持ちかける。 ルイズは二つ返事で引き受けると、親書と指輪を預かった。 『ファイナルフォームライド!リュリュリュリュウキ!!』 ルイズは面倒ごと(ギーシュ)を避ける為に、アンリエッタが帰った直後にアルビオンへ出発した。 毛布にくるまり、ドラグレッダーの背でシエスタと交代で仮眠をとる。 明け方にはラ・ロシェールの町並みが見えていた。 三日後でないとアルビオンに渡る便が出ない。それは極めて深刻な問題だった。 ルイズは脱力していた。だが、何日も足止めをくらうつもりもなかった。 ウェールズ皇太子がニューカッスルに陣を構えているというのは既に小耳に挟んでいた。 ディエンドライバーに『ナイト』をセットしてシエスタを撃つ。自分はディケイドライバーで『リュウキ』に。 かくして二人はミラーワールドを通って堂々とアルビオンに渡り、襲撃も場内の警戒も無視して、 陽が傾く頃にはウェールズの部屋に忍び込むことに成功した。 「華々しく散る」 そう言ってウェールズは笑った。 ルイズはそこにかつての自分を見た。 もし自分がディケイドライバーを手にすることがなければ、それにまつわる戦いの記憶に触れること がなければ、どうなっていただろう。 きっと貴族の誇りの為にフーケに挑み、無様な屍を晒していたに違いない。 今すぐにでもこのバカを昏倒させて、アンリエッタのおみやげにするのは簡単だ。だが、ルイズもまた "貴族"であった。 自国を危険に晒してまで個人の感傷を通すわけにはいかない。悩むルイズの心をさらにかき乱したのは、 使者としてやってきたワルドであった。 彼は謁見を申し出ると、人払いを申し出た。自室にワルドを招くウェールズ。 表向きいないことになっているルイズとシエスタは、ずっと隠れたままだった。 思いがけない人物との再会に気を緩め、姿を見せようとするルイズ。だが、その好意は無残な形で 裏切られる。ワルドの風がウェールズを貫いたのだ。 ウェールズにすがるシエスタ。睨み付けるルイズ。 一瞬愕然としたワルドだったが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。ディエンドライバーの銃口を突きつけるルイズ を前に、4体の偏在を生み出して取り囲んだ。 ワルドは微塵も慌てていなかった。小娘二人、始末するのは造作もないと思っていた。 だから、ウェールズがワルドを伴って部屋に入って来たとき、念のために、とカードをセットした状態で隠れ ていたことも知らなかった。まあ、知っていてもそれが何なのか、彼は知らなかったのだが。 『カメンライド!ディケーィド!!』 腕を横なぎに振るい、サイドハンドルが押し込まれると、風の攻撃魔法を吹き飛ばし、 "仮面ライダー"がハルケギニアに降臨した。 『アタックライド!イリュージョン!!』 現れた4体の分身に、ワルドの偏在は驚愕する暇もなく切り捨てられた。 狭い室内である。確かに個室としては破格の広さではあるが、それでも回避できる空間の余裕がなかった。 残ったワルドの本体も、反撃も回避すら許されずひれ伏した。かませ犬退場の瞬間であった。 『アタックライド!タイムベント!!』 ウェールズを蘇生したルイズは、レコン・キスタ5万の軍勢の前に立っていた。 ゾルダを召喚し、エンドオブワールドで先制攻撃。その後も様々な仮面ライダーを召喚してたった一人で戦っていた。 交錯するドラグレッダーの火球と竜騎士の魔法。 ウェールズは奇襲にあわてて軍を編成していたが、まだ出撃には数分かかるだろう。 ルイズはその前に決めるつもりだった。 手にしたのは無銘のカード。 「覚えておきなさい!その目に焼き付けなさい!私が!この世界の!仮面ライダーよ!!」 ・ ・ 虹色の光とともに描かれたのは、自身が最もよく知る戦士 『カメンライド!ルイズ!!』 ・ ・ ・ それは変身前の姿と同じ。 ヒロイック・サーガ 『アタックライド!英雄の歌!』 ・ ・ それは自分自身のもうひとつの仮面 『カメンライド!サン!!ナノーハ!!コトノハ!!シタターレ!!ルフィ!!オーフェン!!アドバーグ!!』 ・ ・ 暴食する"可能性"の使い魔。得られなかった自分とは違う自分が共に在ったはずのものたち。そして―― 『――ゼットン!!』 ・ ・ ・ ・ 自分以外のこの世界の仮面ライダー。 「終わりにしましょうか。オリバー・クロムウェル」 『ファイナルアタックライド!!ルルルルイズゥ!!』 「エクスプロォォォォォオジョン!!!」 その日、ハルケギニアに"ゼロの破壊者"が降臨した。
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前ページ仕切るの?ルイズさん 数日後、生徒会結成の許可が下りて正式に認められたトリステイン魔法学院生徒会。 生徒会室は以前あった古い物置を改装した小さな部屋である。 「ここが私達の場所なのね……」 「部屋の手配も改装も全部学院長がやってくれたわ。学院長さまさまね。」 トリステインには桜の木というのはもちろん無いのだがいっそうと生い茂る若葉が春を感じさせた。 「春ね……」 ルイズが春の季節を感じていると、「ルイズ。あんた今日はスカートを履き忘れてないでしょうね? 昨日も一昨日も履き忘れてたわよ。大丈夫?」 「大丈夫よ! 私は日々(胸が)進化し続ける女なのよ!今日はスカートを忘れないようにしっかり確認して……」 そしてルイズはかばんの中から誇らしげに何かを取り出した。 「ちゃんとかばんの中に入れてきたんだもん!」 「ちゃんと履いてこいやボケェェェェェっ!!!」 すぱーん キュルケからハリセンの突っ込みが飛ぶ。 ちなみにハリセンは「お前にぴったりだから」という理由でモロヤマから貰った物らしい。 「はぁ……とりあえずこのことはさっぱり忘れてあげるから仕切りなおして次にいきましょう……」 「ねぇ、キュルケ見て見てー」 「ったく、何なのよそれは……」 「水戸黄門!」 「いいから、早く履きなさいよ! っていうか水戸黄門って何なのよ!わけわかんないわよ!」 「昨日モロヤマが見せてくれたジダイゲキって物らしいのよ。個人的には入浴シーンが一番好きだわ。」 「やあ、わしも入浴シーンは好きじゃぞ。それにしてもあのかげろうお銀は本当にうつくs…」 「ややこしくなるからお前は来るなーーー!!!」 「ひでぶっ」 ルイズの回し蹴りを食らったのは学院長のオールド・オスマンであった。 蹴り倒された表情が妙に嬉しそうだったので、生徒会メンバーはこの前の秘密が事実であると確信した。 「新入生お悩み相談所?」 「そう!右も左もわからない新一年生の不安を少しでも除いてあげようと思ってね。」 キュルケの質問にはきちんと答え 「でも魔法の事だったら一年生とどっこいどっこいっていうかむしろそれい…… あだだだだ!!!割れる割れる割れるぅぅぅ!!!!」 余計な事を言ったギーシュには制裁を加えた。 「というわけで明日から始めるわよ!新入生お悩み相談所!略して『新おじょう』!」 「ちょっとまって。『う』はどっからもってきたの?」 「……屋根裏から」 「タバサ!あんたも余計な事は言わないの!」 翌日― 「さぁて、記念すべき最初の悩めるバカ犬たちは?」 「ハァハァハァハァハァh」 「…オールド・オスマンです。」 「なんで学院長が来てるのよ! …まあ最初の相談だから軽い練習のつもりで。で、お悩みはなんでしょうか、オールド・オスマン?」 「実は君たち女生徒達の意見を聞きたくて……」 「うんうん。」 「おっぱいが大きいのってやっぱり女性にとってはうれしいものなのかな?かな?」 「………」 「…………」 「…………」 「……あれ? じゃあわしはこれd 「ちょっとマテや。まだ悩みの答えを言ってないでしょうが。」 「…イッペン、死ンデミル?」 蒼白とした彼女達の目からはかつてないほどの怒りが見て取れた。 「おっぱいなんてな、おっぱいなんてなぁ……」 「「ちっちゃくてよかった事なんて何一つないんだからああああああ!!!!!」」 ちゅどーん×3 「…この壊れた壁の修理は学院長持ちなのか?」 「あったりまえじゃないのよ。さ、次の相談に行きましょ。」 「……ところでさっきのタバサの台詞って何?」 「ああ、さっきタバサが見てたアニメで女の子がそんな台詞を言ってたらしいよ。」 当のタバサは嬉しそうに杖をくるくる回していた。 最初の相談者は風上のマリコルヌ(風邪っぴきと言ったら突っ込まれた)である。 普段はルイズの事を魔法が使えない「ゼロのルイズ」と言ってからかっているのだが 「クラスのみんながボクの事をデブって言っていじめるんです。なぜなのでしょうか?」 「……まあ、なんていうかその……とりあえずがんばれ!」 ルイズは生徒会長になって適当なことを言って励ますスキルを覚えた。 「多少は予想してたけど、全然まともな相談がないわよねえ……」 「『家族以外に女の子と話す機会がない』『上の部屋から水漏れがする』 『あなたの胸を大きくしてあげたい』……本当にろくな相談がねえな。」 「…類は友を呼ぶ」 「何それ?」 「…さっきモロヤマが教えてくれた。」 「ああ、そうなの。」 それがどんな意味なのかも聞く気になれずルイズは思わず溜息をついた。 「何かこう…甘酸っぱい感じの相談とかってないのかしらねえ……」 「いや、新学期始まって間もないこの時期にそんな相談あるわけないと思うんだけど……」 「あの……私、メイドをやっているシエスタと申します。 ここって恋愛相談にも乗っていただけるのでしょうか?」 「「「「それらしい娘キターーーーーーっ!!!」」」」 その娘はメイドだった。そして妙におっぱいがでかい。 「なんでも聞いて! おっぱいがでかいのは妙にムカつくけど。」 「そんな事でムカつくなよ。」 「実は……昨日の夜ある男の人にその……告白されたんです。」 シエスタは顔を赤らめながらもどこか嬉しそうに話す。 「それでその場でエッチしちゃったんですけど、あの人はその時危険日の私に何回も何回もなk」 「ストーップ! ストーップ! あんたの乳は18禁なのに心も18禁になっちゃだめなんだから!」 わけのわからないことを言っているルイズ。顔はシエスタに負けず劣らずまっかっかだ。 「そんな上級者の悩みなんて知らないわよ! あんたなんかビッチ王国のビッチ姫のビッチメイドになっちゃえばいいんだから!ヴァーカヴァーカ! 帰れ帰れ!!」 「きゃあああああ!」 ルイズはあっというまにシエスタを追い返した。 だが、これがきっかけで事態が急展開していくとは… 「……その時誰も思いもしなかったのです。」 「そこ!妙なナレーション入れないでよ!」 前ページ仕切るの?ルイズさん
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やりすぎたか?……いやいや、ああ言う世間知らずにはトラウマになる位の教育が必要だろうよ。煙草を吹かしながら学院をぶらつく。 どうやら俺はこの学院で知らない者が居ない状況になったようだ。興味本位で話し掛ける生徒が後を絶たない。 「トニー!トニーこんな所に居たの!!」 昼頃になると、ルイズが必死に俺を探していた。しかしおかしな話だよな、マフィアの俺をこんな風に呼ぶ少女と言う様はな。 「邪魔だと思っていたからな、そこらをぶらついていただけだ」 「一緒に居なさいよっ……早くこっちに来なさい!!」 やれやれ、子守りも楽じゃねぇなぁ……。 移動した先にはまぁ何と言うか、貴族らしいと言うか庭で昼食を催してやがる。随分と楽しそうな雰囲気だが、俺の姿が見えるとその 雰囲気は一変。先程の事態を知っている者は緊張の色が見え、嬲ったデブはトラウマでも植え付けられたのか逃げたす。本来はルイズの 話では召喚した使い魔の為にロクに授業がないと聞き及んでいたが、どう見てもこれは御茶会だな……。 「……」 しかしそれでも、この場が少々緊張に包まれているのが分かる。今までの流れを見てキュルケ辺りがルイズを馬鹿にしに来ると思うのだが、 キュルケとルイズが軽く一言・二言交わした後、火の付いたトカゲを連れてそのまま離れていく。だが、俺を見て一瞬ウィンクしたのを 見逃さない。 「あの姉ちゃんなら、お前を馬鹿にすると思ったんだけどなぁ」 「……アンタを恐れてるのよ」 mission:『平民の使い魔:ギーシェ午後の災難』 恐れてる?そんな馬鹿な。あの姉ちゃんの性格なら構わずからかってそうだがな。現に今ウィンクしたしな。 「お茶持ってきてよ、トニー」 「何?それ位……まぁいいか、持ってきてやるよ」 今日はルイズの顔を立てるんだったな、面倒だったが茶ぐらい持って来てやる事にした。 しかし無駄に広い中庭だよな……そんな事を考えて茶を取りに行こうとした時、エプロンドレスを着た姉ちゃんにぶつかり、姉ちゃんが 持っていたケーキを拍子で落としてしまった。 「すまない、余所見をしていた」 「いえ、大丈夫です」 落としたケーキを拾ってやると、姉ちゃんは俺の左手の甲を見てこう言う。 「貴方は……ミス・ヴァリエールの使い魔になったと言う……」 「俺の事を知ってるのか?」 「平民が使い魔に召喚され、大暴れしたって噂ですよ?ミス・ヴァリエールの髪を兎のように引っ張り上げたとか」 嫌な噂の流れ方だな……まぁ事実だから仕方がないがな。 「俺にしちゃあ貴族なり平民なりは知ったこっちゃないがな」 だが、この言葉でこの姉ちゃんはさも当然にこう言いきる。 「魔法が使えるのが貴族で、それ以外は平民でしょ?」 「なるほど、単純なものなのか……じゃあ姉ちゃんも魔法使いなのか?」 頭に浮かんだ事をそのまま聞いて見る。だが、彼女の答えはこうだった。 「とんでもない、私はここで御奉仕させて頂いているシエスタと言う者で貴方と同じ平民です。貴方はトニー・シプリアーニさんですよね?」 「ああ、合っている。トニーと呼んでくれて結構だ」 だが話の途中で、昨日後ろから不意打ちした優男がシエスタにこう声をかけた。 「おーい、ケーキはまだかい?」 「はい、ただいま」 だが、直前俺は止める。ん?まて、対面に座っているのは昨日と女が違う……あの姉ちゃんは世話になったモンモランシーではないか……野郎。 「いや待て、それは俺が持っていこう」 「しかし、それは今……」 『落ちた』もんだよ、あのマセガキにはこれで十分……鬼畜?とんでもない、当然の憂さ晴らしだろ……。 俺が憂さ晴らしを込めて落ちたケーキを持って優男の所に行くと、昨日世話になったモンモランシーとまるで恋人のように茶を飲み、昨日呼んだ であろう使い魔に頬擦りをしてモンモランシーに気味悪がられていた。 「お待たせいたしました」 モンモランシーは気が付いたがこの優男は俺には気が付かなかった。訳の分からない愛の語らいをやっている。 「ついでにお茶も頼むよ」 まぁ持ってきてやるよ、精々腹が下らない様気をつけるんだな……。
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前ページ次ページ魔法少女ゼロ☆ベル ズドーン! もう何度目になるかはわからない[失敗]を繰り返しルイズ・フランソワーズは歯ぎしりしていた。 今日は進級に必要な使い魔招喚の儀式の日である。 前日まで夜通し復習を繰り返しゼロの二つ名を返上しようと意気込んで来たもののやはり[成功]する事が出来ないルイズに対し同学年のクラスメイト達は無情にもヤジを飛ばす 「いい加減にあきらめろ!ゼロのルイズ!」 「私達にはこの後の予定がありのよ!諦めなさい」 本来これらの野次を収めるべき立場の教師コルベールもこの後の進行に支障がきたすと判断し、ルイズに最終通告を出すのであった。 「ミス・ヴァリエール、残念ですが次の招喚で最後とします!」 ルイズは反論しようとしたが自分が成功していないせいなので、分かりましたと杖を構え直した。 (今までの失敗はきっと集中力が足りなかったせいだわ。神さまはこんなにも努力している私を見捨てるはずが無い!) 確かに神は見捨てはしなかった。少しひねくれた形でだが… 「宇宙の果てのどこかにいる私の使い魔よ!私の導きに答えなさい」 勢いよく振った杖の先で今までの爆発を大きく凌駕する爆発が起きた。 「ケホ!ケホ!結果は!?」 爆発後には何かがいた。しかも動いていることから生物である事が確認された。 爆風を免れて遠巻きで見学していた生徒達は召還された者をみて感想を叫ぶ 「見ろ!ルイズがでかい怪物を召還した」 「いや、あの体つきはサイクロプスあたりだろ」 爆風が収まらないが、砂煙に写っている影で推測するにルイズの身長の2倍以上はあろうかというぐらいの身長、さらに体格もガッシリしているのがよく分かる。 ルイズはガッツポーズを心の中で決めた。なにしろ初めての成功なのである。 しかし影の発した言葉で一気にどん底に落ちてしまうのであった 「あのーここはどこですか?」 てっきりオークかサイクロプスあたりであろうと思っていたものが、いきなり喋りだしたものだからあたりはパニックになりかけた 「オークが喋った?!」 「まさか神官クラスか?」 一般にオークと言っても何種類も存在するのがハルケギニアである。兵卒クラスとそれら束ねる神官クラスがあり神官クラスになれば人語を話せるまでに頭はいいのである。 ハルケギニアではオークは人を襲う種族で神官クラスともなれば強い部類に入るので教師コルベールは緊張した。 「ミス・ヴァリエール!下がりなさい!」 すぐに生徒を守れるように杖に手をかける。 しかし砂煙が落ち着き召喚された者をよく見ればそれは(人)であった。 その(人)は確実にオークやサイクロプスと勘違いされそうな見事な筋肉の持ち主であった。 腕の太さだけでも人の頭以上の太さがあり腹筋背筋もどうやったらそこまで肉がつくんだ!といわれるぐらい筋肉の固まりである。 その当人はなぜ自分がここにいるのかわからないといった感じでキョトンとしていた 「あんた誰よ?」 ルイズは嫌な予感がしていた。目の前の人物は明らかに人である。しかし筋肉以外で目に付く者は特に無かった。もしかして私はよりによって平民を喚んでしまったのではないか? 「私は高田厚志という者だけどここはどこなのかな?お嬢さん?」 子供扱いされムッとしたが、とりあえずここはハルケギニアのトリステインであると教えると男はムーと考えこんでしまった 「ちょっと!トリステインを知らないの?どこの田舎者よ!それと私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールというれっきした名前があるんですからね!」 あろうことか平民を召喚してしまった事に対し彼女はどうしても認めたくなかったためコルベール教師にやり直しを求めた。 「コルベール先生!やり直しを要求します」 あろうことか平民を召喚してしまった事に対しルイズはどうしても認めたくなかったためコルベール教師にやり直しを求めた。 「ミス・ヴァリエール、先ほども言いましたが次で最後だと私はいいました。あなたが契約しないのならばあなたは進級できませんよ?」 ウッとルイズは呻いてため息を吐いた。 このまま契約するしか無い事を悟るとルイズは厚志の所に近づいた。 「本当は貴族が平民に対してする事じゃないんですからね!あんたデカいのよ。しゃがみなさい!」 とりあえず現状がわからない厚志は言うことを聞くことにした。 ルイズが呪文を唱えていきなりキスを行い左手に何か文字らしき物がきざまれていくのであった。 「これは?」 左手に刻まれた文字らしきものに対して尋ねる。 「それは使い魔のルーンですよ。どうやらコントラクト・サーヴァントは一回で成功したようですな」 コルベールは刻まれルーンのスケッチをとり、ついでに魔力の有無を確かめるため、ディティクト・マジックを密かにかけた。 「ン?ああ、全員召喚の儀式は終わりましたね?では一度解散します!」 コルベールが告げると他のクラスメイト達は、ルイズに野次を飛ばしつつ学園に帰っていった 「おい!ルイズ!お前はそこの平民と歩いて帰ってくるんだな!」 「ヤッパリ(ゼロ)だ。平民を召喚するなんてな!」 他の生徒達のフライを見て厚志は驚く。自分が元いた場所でも自力で飛べるものは少なかったのである。 それもほとんどが魔族か天使だったので人間が自力でごく当たり前に飛んで行くのには驚いているのであった。 「ホラ!ボーとしてないで、さっさと行くわよ!」 ルイズに促され後をついて行こうとした際にふと疑問を口にする。 「君は飛ばないのかい?」 ルイズの表情が一瞬暗くなったが「あんたに合わしてあげてるのよ!」と言い捨てていった。 ルイズの案内で到着したのはまさに城であった。ルイズ曰わく、ここが魔法学校であるらしい。 自分のいた世界ではこういった古風な城は珍しかったので厚志は興奮していた。 ルイズの部屋で使い魔の役割の説明を受けていた。 「まず使い魔と主人は感覚を共有できるらしいんだけどそれは全然感じないわね?」 「ああ、全くね。」 「2つ目は主人が欲しがっている物を取ってくるのが使い魔よ!」 「それは具体的には?」 「そうね~。秘薬の材料だから硫黄とかね。」 「まあ硫黄とかなら、ある場所さえ教えてくれれば取ってくるよ!」 「そ、そう?普段は危険な所にあるから取りにいかせるんだけど…」 「3つ目は主人を守らなければいけない、つまり盾だけれどあんた何なの?傭兵?」 「いや、私はボディビルダーだ!」 「ボディビルダー?何それ?」 「筋肉をいかに美しく人に見せつけるかを徹底的に追求した者達の事だ!」 筋肉を見せつけボディビルの説明をする厚志に対して、ルイズは完全に引いているのであった 「とりあえず今日はもう遅いし寝ましょう!私の下着は明日洗濯しておくように!これも使い魔の仕事なんですからね!おやすみ!」 「やっぱり違う所に来てしまったんだな」 2つの月を見ながら厚志は呟くのであった 前ページ次ページ魔法少女ゼロ☆ベル
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『ユーディーのアトリエ~グラムナートの錬金術師』 から二十歳の頃のヘルミーナを召喚 公式HP ヘルミーナとルイズ1 ヘルミーナとルイズ2-1 ヘルミーナとルイズ2-2 ヘルミーナとルイズ3
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前ページ次ページ虚無と賢女 使い魔となったエレアノールを連れて部屋に戻ったルイズは、改めて彼女の格好を見直す。 身に着けてるのは青い衣服に鈍く銀色に光る鎧、ただしどちらも何があったのか妙にボロボロになってる。 自分より頭一つ分くらいは高い身長、すらりと伸びる両足、鎧の上からも分かる豊かな両む―――は関係ないことにして、 世間知らずの平民にしては整った理知的な顔立ち。さらに、どことなく気品を感じさせる物腰。 (本当は幻獣が欲しかったけど……、従者としては及第点以上……ね) 心の中で勝手に評価する。評価されてるエレアノールも、ルイズの心の中を知ってか知らずか、 室内の家具を見回している。家具の質と細工に関心を持っているようにも見える。 「ヘタに触って欠けさせたりしないようにしなさいよね。どれも平民が一生働いても弁償できないくらいの価値なんだから」 注意を言いつけつつ、自分の座る椅子を引く。エレアノールにも座るように言い、二人はテーブルを挟んで腰掛けた。 「じゃあ繰り返すけど、ここはトリステイン魔法学院。さっきまで使い魔を召喚する魔法『サモン・サーヴァント』の 儀式をしていたの」 「そして、私が召喚されたのですね?」 そういうことね、とルイズは頷く。 「次は私から質問してもいいでしょうか? まず最初に……カルス・バスティードやアスロイトという言葉に 聞き覚えはないのでしょうか?」 「ああ、さっきも言ってたわね。そんな国、聞いたこともないわ」 「……そうですか……。では魔物のことは?」 魔物と聞いてルイズは眉をひそめる。 「魔物って……オーク鬼とかのこと? 昔っから、そこらにいるじゃない」 今度はエレアノールが眉をひそめる。ルイズの言葉を一つ一つ吟味して考え込む。 ルイズは小さくため息をついた。 (聞いたこともないような田舎から召喚されて、しかもオーク鬼も知らないのね) 先ほどの評価にややマイナス点を加味する。 「ちょっといいかしら? さっき、遺跡がどうとか言ってたみたいだけど、貴女って学者か何かなの? もっとも、その格好はせいぜい学者の護衛の冒険者ってところでしょ?」 「似たようなものですね……。友人に遺跡の事を勉強して―――」 エレアノールの表情が一瞬にして曇る。 「あの……私の他に誰か召喚されてませんでしたか? 私と同じような黒髪の青年と、茶色の髪のショートカットの 少女なのですが?」 「召喚されたのは貴女だけよ。それがどうかしたの?」 「そう……ですか」 目に見えて落ち込むエレアノールに、ルイズの良心に痛みが走る。恐らくは自分の行った『サモン・サーヴァント』で、 今言った二人と離れ離れになったのだろう、と。使い魔に迎合するわけには行かないが、主人として何かしなくてはと 考える。 しかし、エレアノールはルイズの想像とやや異なった見解を導き出しつつあった。 (話が全くかみ合わない……。『新しき世界』の結果? それとも大陸の辺境の果てで 交流もないほど離れてるからアスロイト王国も知られてなくて、魔物たちも出現しなかった? いえ、そもそも全く違う……『物語』の世界?) 混乱してる、と思う。だが、精神世界アスラ・ファエルは人々の思い、恐怖、欲望、信仰が現実化する世界。 ならば誰かが創作した物語の世界もまたアスラ・ファエルの中で現実化して、自身もそれに飲み込まれたのだろうか。 額に手を当てて考えをまとめようとするエレアノール。それを友人と離れ離れになって辛く思ってると 勘違いしたルイズは慌てる。 「わ、私も別に二度と会うななんて言わないわよ! 休暇くらいならたまにあげるし、遠くなら旅費だって出してあげるから、 会いに行ってもいいのだからね!」 突然の言葉にエレアノールはしばし呆気に取られて見つめなおすが、ルイズの心配と善意と罪悪感の入り混じった視線を受けて、 フっと微笑みを返す。 「ええ、ありがとうございます。その時はお世話になりますね」 「その代わり、使い魔としての役目はしっかりと果たしてもらうんだから!」 ホっと胸をなでおろしそうになるのを我慢して―――少なくともルイズは我慢できたと思って、 本題だったメイジと使い魔の関係と役目を説き始める。 曰く、使い魔の見聞きしたものは主人にも見聞きできる。 曰く、使い魔は秘薬など主人の望むものを見つけてくる。 曰く、使い魔は主人を守る存在である。 「でも、貴女の見聞きしたものは私には見えないし聞こえもしないから、人間だとダメみたいね」 「申し訳ありません……。それに秘薬も種類やある場所がハッキリと分からなければ、 見つけるのは難しいかもしれません」 ルイズの評価にマイナス点がさらに追加される。もっとも、見た目の良さと礼節を弁えてるあたりは評価できるし、 そもそも秘薬を本当に見つけてきてもらっても、今のルイズには大して必要でも何でもないのでマイナス点を相殺する。 「それじゃあ、貴女には3番目の護衛の役目を期待するわね。冒険者なんだし、それなりに腕は立つのでしょ?」 「レイピアなら多少は心得がありますが……使っていたのは無くしてしまったみたいです」 マイナス点をやっぱり追加。 「そう。じゃあ次の虚無の曜日に王都で手頃な武器を買ってあげるわ。 その代わり洗濯や部屋の掃除、それに私が命じた雑用をしてもらうわよ」 使い魔には最初の躾が肝心、以前聞いた心得を実践する。そして次の瞬間には少し後悔する。 (考えてみれば反抗的もでないし従順そうだし必要なかったかも。あまり変なことを言ったらダメだったかしら?) 「はい、分かりました……それで、何とお呼びすればよろしいですか?」 あっさりと承諾する。多少、拍子抜けするがルイズは少し考えて答える。 「そうね……ご主人様って呼びなさい、いいわね?」 「心得ました、ご主人様」 立ち上がって礼をするエレアノールに、ルイズは満足そうに頷いた。 話し込んでる間に日が暮れて、ルイズはエレアノールを引き連れて食堂へ入った。 豪華な飾りつけが施されてるテーブルが並び、豪勢な食事の数々とその間に明かりのローソクが立てられている。 「ここがトリステイン魔法学院の食堂、『アルヴィーズの食堂』よ。本当だったら貴女みたいな平民は一生入ることは ないのよ」 「……とても豪華ですね」 「この魔法学院で魔法だけでなく、貴族に相応しい教養も身につけるための場所でもあるの。 だからトリステインの貴族はこの食堂でもそれを学べるようになってるのよ」 「……」 エレアノールの声には感動ではなく、もっと暗い感情が混じっていたが、得意気に説明するルイズは それに気づかずに食堂を進む。 「―――あの壁際の並んでるのが小人のアルヴィーズ。夜中になると踊るのよ」 空いてる席の前に立ち止まると一度説明を区切り、振り返ってエレアノールをジっと見つめる。 「……? あ、失礼しました」 椅子を引くと、すぐにルイズは優雅さを備えた精練された動作で腰掛ける。 エレアノールは周囲を見回し、手近な席が空いてないことを確認する。 「ご主人様、私の食事はどうすればよろしいのでしょうか?」 「そうね……」 一瞬、床に用意させて食べさせようと考えたものの、さすがに見目麗しい年上の女性にそれは酷すぎる。 「ちょっとそこのメイド」 あっさりと考え直し、近くを通りがかった黒髪のメイドを呼び止める。 「はい、何かございましたか?」 「私の使い魔に何か食事を用意してくれないかしら? あと……、身の回りの世話をさせるのに動きやすい服があれば 都合つけてもらいたいわね」 エレアノールは鎧を脱いでおり今は下に着ていた服だけになっていたが、あちこちが解れたり破れ目が入ってたりして ボロボロになっていた。メイドはエレアノールに戸惑いと好奇心の入り混じった視線をに向ける。 「わ、分かりました。ではミス、こちらへ……」 「それではご主人様、行ってまいります」 メイドに連れられて食堂を後にするエレアノールを見送ると、食事の前の祈りを唱和するためにルイズは両手を組み目を閉じた。 「あの……ミス・ヴァリエールが平民を使い魔として召喚したって噂になってましたけど、本当だったのですね」 「ええ、私がその噂の平民の使い魔で間違いないです」 「そうですか……、私はシエスタ。この学院でご奉仕をしています」 「エレアノールと申します、今後何かとお世話になるかもしれませんがよろしくお願いします」 使用人たちが寝泊りする宿舎の衣装部屋で、あれこれ木箱や洋服掛けを探りながら自己紹介を交わす。 エレアノールの名前を聞いて、シエスタの手が一瞬止まる。 「エレア……ノールさんですね? はい、こちらこそよろしくお願いします」 「そんなにかしこまらなくてもよろしいですよ、私も皆さんと同じ立場みたいなものですから」 「そうですか? では、そうしますね。……えーと、このあたりに古着を片付けた箱が……あ、ありました」 ホコリのかぶった木箱をあけて、中からやや古いメイド服を取り出す。シエスタの着てるものと若干デザインが異なっていた。 「他のみんなと見分けがつきやすいように前の服になりますけど、大丈夫です?」 「無理をお願いしてますし、大丈夫ですよ。……しっかりとした生地を使っているのですね?」 手に取り、メイド服の状態を確かめる。古いが縫い目も服の縁もしっかりしていた。 「貴族に奉仕するもの身なりを整えるべし、と私たちにも相応の給金と身の回りの品を頂いていますし。 それでは外で待っているので、着替えが終わったら声をかけてくださいね」 ペコリと礼をしてシエスタは部屋から出て行く。扉が閉まったことを確認すると、エレアノールは深くため息をついた。 「……『貴族』、『平民』、『ご奉仕』。ここも同じような世界なのでしょうか……?」 自分たちの『世界』と同じように腐敗と退廃が蔓延し、享楽と欲望が渦巻く貴族社会。そのしわ寄せを受けて、 困窮と搾取に苦しむ農民と民衆。かつて自分が変えようとして果たせず、父殺しの大罪を犯すこととなった世界……。 先ほどルイズに案内されたアルヴィーズの食堂の光景がそれと重なる。豪勢な食事の数々は言い換えれば、 それだけの搾取によって成り立っているということを。 もう一度、深くため息をつくと、着ている服の裾に手をかけた。 着替えの終わったエレアノールは、そのままアルヴィーズの食堂の隣にある厨房へと通された。 中ではデザートの配膳も終えて、片付けまでのわずかな間を利用して料理人たちが賄い食を食べ始めていたことであった。 「おうシエスタじゃないか。ん? そっちの娘さんはどちらさんで?」 「マルトーさん、こちらはミス・ヴァリエールの……」 一際恰幅のいい四十過ぎの男性は、ああ、とすぐに察して頷いた。 「噂の平民の使い魔の娘さんか。か~、メイジってヤツはこんな綺麗な娘さんを使い魔にしやがって。 俺がこの厨房のコック長してるマルトーだ、何か困ったことがあったらいつでも相談しな」 「エレアノールと申します。厨房の皆さんも、これからもお世話になると思いますのでよろしくお願いします」 厨房のあちこちでコックや、ちょうど空いた食器を下げに来ていたメイドたちから好感を持った反応が返ってくる。 エレアノール本人はあまり意識してないものの、その整った美貌と上級貴族の令嬢として躾けられた気品は人目を引き、 丁寧な物腰は概ね好印象を与えやすい。よって、エレアノールがトリステイン魔法学院の使用人たちから 好感を得るのにさほど時間はかからなかった。 厨房の外でずっと待ちぼうけを喰らっていたルイズは、出てきたエレアノールを見るや否や駆け寄ってくる。 「遅かったじゃない! 主人を待たせるなんて使い魔失格よ!」 「あ……、申し訳ございません」 「ふ、ふん……今回は特別に許してあげるわ! でも、次に同じことしたらご飯抜きだからね!!」 あくまで主人であることを前面に出して威厳を演出している―――つもりのルイズに、エレアノールはもう一度 頭を下げて礼を言う。それに満足したのか、ルイズは部屋に戻るわよと歩きだした。その一歩後に続いて エレアノールも歩きだす。 ―――なお、厨房の中から聞こえてくる歓談に、不安と羨望交じりの表情でこっそりドアの影から覗き込んでいた ルイズの姿はたまたま外に出ていたメイドたちと、厨房の中の一部のコックたち、そしてシエスタに気づかれており、 普段と違う寂しそうで儚げなルイズの姿に、彼らの間での評価に好印象で修正が入ったのであった――― ベッドですやすやと眠るルイズの姿にエレアノールは、クスっと微笑みながらテーブルに並べた持ち物を並べなおす。 召喚されるときに武器を無くしてしまったが、鎧の内側に収まっていた道具袋とトラップカプセルは無事であった。 カーテンの隙間から差し込む月明かり―――二つの月の存在こそ、ここが遺跡の外の世界以外の『世界』の証拠と思う――― に照らされてキラキラと輝く。 道具袋の中身は、モンスターの核である緑色の水晶や古代太陽帝国の通過である金貨がそれぞれ数個ずつ、 そして身に着けた者の精神力を向上させる太陽の首飾り―――価値のあるものは以上。 あとは衝撃で砕けたポーションの瓶などで、大したものはほとんど残っていなかった。 (それでも換金すればそれなりの金額になるでしょうね) 一通り確認を終え結論付けると、続いて手のひらに収まる程度の青い球―――トラップカプセルを手に取る。 遺跡に潜る者にとって、剣や魔法と並ぶ三番目の『武器』。内部に人の背丈ほどの大きさのトラップも内臓できる、 現在技術と太陽帝国の魔法技術の結晶。 「え? ルーンが……?」 トラップカプセルを持つと同時に左手の甲のルーンが淡い光を放ち出した。同時に使い慣れたトラップカプセルの使用方法が、 脳裏に浮かび上がる。設置場所の選択と設置数によるタイムラグ、起動のためのアクション、それらを最も効率よく行う手順が 頭に流れ込んでくる。 「……トラップカプセルは遺跡―――精神世界から離れると効果が落ちるのでしたね」 大切な友人―――ノエルの説明を思い出し、手近な床にトラップを頭に流れ込んできた方法で込めて設置してみる。 それと同時に左手から何かが抜ける感覚を覚え、左手に目を向けるとルーンが一瞬明度を増したように見えた。 小さな閃光と共にトラップ―――起動させると周囲を氷付けにする『アイス』が、部屋の出入り口手前の床に設置された。 一度に設置できる最大数の八個をほぼ同時に。 「……!!」 続いてトラップを一つずつ起動させる。キィンというかん高い音と共に次々と氷塊と化して、周囲にあった家具を巻き込み 凍結させる。 「効果は変化なし、ですが……設置の方は一体?」 自分の足元へならともかく、離れた場所に同時に複数のトラップを設置するのは不可能に近い。せいぜい一個ずつ設置するのが 関の山である。同時に複数設置できるタイプのトラップもあるにはあるが、それも任意の場所に自在に設置することは出来ない。 「このルーンが輝いたことと関係あるのでしょうか?」 ルーンの謎とトラップの同時複数展開の可能性―――瞬時に離れたところに設置できることの戦闘アドバンテージ。 それらをしばらく考え込むが、彼女の推理はすぐに中断させられることとなった。 「……くちんッ!」 小さな可愛らしいクシャミが静かな室内に響き、そのクシャミの主のルイズは肌寒そうに布団に包まっていた。 エレアノールも室内の肌寒さに気づき、同時にその原因も瞬時に察した。 数分と経たずに雲散する文字通り足止め程度の氷塊だが、その際に周囲の熱を奪い去っていた。しかも八個のトラップを 同時に使用したため、室内の温度は凍えそうな寒さに冷え込んでいる。 「これは、軽率でしたね……」 その呟きは思量深い彼女のものとは思えないほどに、途方にくれた声色であった……。 カーテンの端から差し込む陽の光を感じエレアノールは目覚めた。最初に天上を、そして首を横に向けて まだ夢の中で安住してるルイズの姿を確認する。結局、昨夜は寒さをしのぐためと震えるルイズを暖めるため、 添い寝する形でベッドに潜り込むことにした。 (……こんなにグッスリと眠れたのは久しぶりですね) カルス・バスティードの居た頃―――『父殺し』の大罪により多額の賞金をかけられていたエレアノールは、 常に周囲を警戒する癖がついていたため誰かが近づいただけで目覚めてしまうこともあったし、 ベッドで横になって眠ることもほとんど無かった。 もっとも、魔物の徘徊する遺跡の中で仮眠するときには、魔物の接近を察知できるこの癖を 重宝することになったのだが……。 安眠できたもこのベッド―――国を出奔する前に自身が使ってたのと遜色ない高級品だ―――のおかげと考え、 スヤスヤと寝息を立てるルイズを起こさないように静かにベッドから抜け出る。 部屋の温度もすっかり元通りになっていることを確認し、椅子にかけていたメイド服を手に取る。 ついで、昨夜渡された洗濯物を思い出す。 (今のうちに洗っておきましょうか) 洗濯籠を手に取ると音を立てないように廊下へと出る。寮の外では既に使用人たちが働き始めているのか、 何人かの物音を立てぬように動く気配もある。どこで洗濯すればいいのか誰かに聞けばいいわね、と考えを決めて エレアノールも足音を立てぬように廊下を歩き出した。 洗濯は水汲み場、と薪を運んでいた使用人に教えられ、場所はすぐに分かったもののたどり着いてからしばし呆然とする。 「洗濯は……どうすればいいのでしょう」 上級貴族の令嬢として、蝶よ花よと育てられたエレアノールには洗濯の経験は全く無い。逃亡中も着の身着のまま、 カルス・バスティードにたどり着いてみれば、同時に入城した一人の少女が掃除や洗濯を気軽に請け負ってくれるので、 やはり自分で洗濯する機会は無かった。 「あれ? エレアノールさん、おはようございます」 途方にくれて困り果てていたエレアノールに救いの天使―――ならぬ、救いのメイド。 「おはようございます」 後ろから声をかけられて振り返ると、そこには十個近い洗濯籠を重ねて抱えているシエスタの姿があった。 器用にバランスを取りながら洗濯籠を地面に置いたシエスタは、エレアノールの手にある洗濯籠に気付く。 「エレアノールさんも洗濯ですか?」 「ええ、でも勝手が分からなくて少々……」 少々どころではなく完全無欠に分からないのだが、気恥ずかしいので言葉を濁す。 「じゃあ一緒に洗いましょうか? 貴族の着ている服って、慣れた人じゃないとうっかり破ったりしますよ」 洗濯籠の中身―――ルイズのキャミソールとパンティを覗き見て、多少苦笑混じりに微笑む。毎年、それで給金を減らされる 新人が居ますから、と。 「それではお言葉に甘えることにします」 「じゃあ、夕方に受け取りに来てくださいね。それと―――」 シエスタは受け取りながら、朝食の時間を伝える。 「ミス・ヴァリエールは……その、寝過ごされることもあるみたいですから」 あはは、と乾いた笑いに、エレアノールはルイズが朝に弱いと察する。かなりの頻度で朝食に遅れているのだと。 ペコリっと頭を下げて寮へ戻る。恐らく、まだ夢の世界の住人であるルイズを起こすために。 「―――ください、ご主人様」 「んん……」 ゆさゆさと身体を揺らされて、うっすらと目を開ける。ぼやけた視界に人影が飛び込む。 「ふぁ……ぁ~、ん~……」 背伸びをしながら上半身を起こし、目を擦ってぼやけた視界を直す。ベッドの脇には黒髪のメイドが立っていた。 見覚えの無い顔だったが、寝起きでボーとする頭が辛うじて誰であったかを思い出す。 「ああ、……昨日召喚したのよね。おはよう、エレアノール」 「おはようございます」 ベッドから降りると、クローゼットと衣装棚から服と下着を持ってくるように指示を出してネグリジェを脱ぎ始める。 「着せて」 「え? あ、はい」 エレアノールは少し慌てつつも、知識はあるけど経験がないような手付きで着替えを手伝う。 着替えが終わった後、ルイズは服の裾をつついたり点検をして満足そうに頷く。 「ちょっと要領悪かったけど、まぁまぁね」 冒険者にしては―――ルイズはそう思い込んでる―――、上手よねと考える。もし、召喚できたのが犬や猫だったら 着替えを手伝わせたりするのもできないだろう。 「そろそろ朝食の時間ね、食堂に行くわよ」 杖を手に取ると部屋を出て一歩踏み出し、途端に不機嫌そうに立ち止まる。エレアノールが廊下を覗くと、 そこには褐色の肌のスタイルの良い赤い髪の少女が立っていた。向こうもルイズに気付いたのか、 にやっとした笑顔を浮かべる。 「おはよう、ルイズ。珍しく今日は寝坊してないのね?」 「おはよう、キュルケ……って珍しくって何よ、珍しくって!?」 「何って……言葉どおりじゃない」 色気と挑発を混ぜた声の調子に、ルイズはあっという間に顔を怒りに染める。何か言い返そうと口を開くが―――、 「ところで、その後ろの方が噂の貴女の使い魔なのかしら?」 「―――ええ、そうよ」 タイミングを外されて言い返し損ねる。 「へぇ~……」 ジロジロと不躾な視線を向けられ、エレアノールは居心地の悪さを覚える。カルス・バスティードに 同じように気まぐれな色気を振りまく女性が居たが、まるで彼女みたいと感じる。 (キュルケさんでしたね。ルイズとは仲が悪そう……いえ、一方的にルイズが苦手としてるのでしょうね) 「なかなかの美人じゃない。良かったわねルイズ、貴女の魅力が引き立つ使い魔で」 「え? な、何よ?」 突然の褒め言葉に目に見えて混乱するルイズ。 「そうよね、貴女の身長とか貴女の胸とか貴女の感情的なところとか、並んで立ってるだけで効果倍増よ♪」 「ななななな、なんですってぇ~~~!!」 噛み付かんばかりの絶叫。しかし、キュルケは笑いながら軽く受け流す。 「ところで、そろそろお名前をお聞きしたいのだけど?」 「……エレアノールと申します」 「エレ『ア』ノール? ……いい名前ね」 ルイズと同じようにアクセントを『ア』に合わせて聞きなおしてくる。隣では教えなくてもいいじゃない、と呟くルイズ。 「あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケって呼んでもいいわよ。 それにしても、本当に人間なのね……。でもね、使い魔ならこういうのがいいわよね? フレイム!」 キュルケの呼びかけに、熱気とともに巨大な真紅のトカゲ―――サラマンダーが廊下に出てくる。エレアノールは 一瞬身構えるが、自然体のままのルイズを見て構えを解く。 「……そのサラマンダーがあんたの使い魔?」 「ええそうよ。特にほら、この尻尾! ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダー。 幻獣好きの好事家に見せたら値段なんかつかないほどのブランドものよ! まさに微熱のキュルケにぴったりよね」 ルイズの声に悔しさを感じたのか、ここぞとばかりに勝ち誇る。 「それに誰かさんと違って、フレイムは一発で召喚に応じてくれたのよ! 誰かさんとは違って、ね……、ねぇゼロのルイズ」 「……!!」 再び顔を怒りで真っ赤にする。言い返そうとするが、上手く言葉にならないのか口をパクパクとさせる。 「じゃあ、お先に失礼。また教室でね」 颯爽と立ち去るキュルケ。その後をサラマンダーがちょこちょこと付いていく。 その姿を見送り、ふとルイズに視線を向けると未だに怒りで震えていた、まるで噴火直前の火山。 「ご、ご主人様……?」 「く……」 「く?」 「くやし~~~! 何なのあの女! 自分がサラマンダーを召喚できたからって! ああもうッ!!」 地団駄を踏んで怒声を張り上げる。今のルイズは燃え上がる炎のようなものだが、エレアノールは意を決して 宥めようと火中に踏み入る。 「確かにすごい使い魔だとは思いますが、あまり気にされても……」 「気にするわよ!! メイジの実力を知りたければ使い魔を見よって言われてるくらいなのよ!! サラマンダーと 平民じゃいくらなんでも格が違いすぎるわよ!!」 一気に言い切り、ようやく怒気が落ち着く。それと同時に……言い過ぎた、失敗したと思う。 (でも……、そんなのエレアノールの責任じゃないわよね、どうしよう……) ルイズがおずおずと顔を見上げてみると、特に気にしてないような表情を向けていた。ホっと胸をなでおろす。 「落ち着かれましたか?」 「……うん」 「では、ご主人様も早く食堂へ参りましょう」 促されて歩き出すルイズ。その後ろについて歩きながら、エレアノールは先ほどのサラマンダーを思い返した。 (遺跡の中では見たことがありませんでしたね……、もっとも知らないだけなのかもしれませんが) 遺跡の中に広がる広大な灼熱の溶岩地帯、煉獄に存在する炎の魔物の話をいくつか思い返すが 先ほどのサラマンダーに該当する魔物は聞いたことがない。 もっとも皆が煉獄を探索してた頃、彼女は生死の境を彷徨っていたため、実際に訪れたこともなく知識も伝聞程度である。 本当は普通に生息しているのかもしれない。 ひょっとすると、他の使い魔というのも未知の魔物―――幻獣がこの『世界』にはたくさん居るのかもしれない。 (そういえば……『微熱』とか『ゼロ』とはどういう意味なのでしょう?) 目の前を歩くルイズに聞いてみようと思うが、先ほどの会話を聞く限り『ゼロ』はいい意味ではないらしいと考え直す。 (いずれ、知ることもあるでしょうね) すぐに知る必要もないし、知らなくても当面は問題はないと結論付ける。 皮肉なことに、エレアノールがゼロの意味を知る機会がすぐそこにまで迫ってたのであった。 前ページ次ページ虚無と賢女