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次の日・・・ ピンポーン 上条「はーーい。今出まーーーす」 美琴「へぇー・・・ここがアンタの部屋かー・・・」 上条はずっこけた 上条「はやっ!昨日分かれたばかりだろ!連絡ぐらいよこせよ!」 美琴「ム、いいじゃない別に。もう付き合ってるんだから」 上条「それでも部屋が分かるのはおかしくないか?」 美琴「あんたが言ったんじゃない。舞花の隣だって」 上条(無理やり聞き出したんじゃないだろうな?) 内心心配しながら 上条「まぁ入れよ。少し散らかってるけどさ」 美琴「おじゃましまーす」 結局美琴は上条の家に入った。 _________________________________ そのころ隣の部屋では・・・ 元春「にゃー。ついに入っちまったぜー」 冥土帰しのおかげで1日で退院できた。土御門と 舞花「いいムードになればいいねー」 実はわざと美琴に自分の部屋を教えた舞花が隣の部屋から聞き耳を立てていた。 元春「まぁキスはもうしちゃってるからにゃー。案外変わらないかもしれないにゃー」 舞花「いいや。オンナノコが男の部屋に入るって事は自分のことを好きにしてもいいって事の表れだとおもうよ」 元春「いずれにしてもこうしてることがばれないことに尽きるにゃー」 2人は一応上条×美琴を応援していた その頃、向かいの棟では 「くぅーっ!!お姉さまったらあんなに頬を染めてぇーっ!!!!ぐやじーっ!!!!!!!!!」「白井はん、落ち着きなはれ。」 「この状況で落ち着いていられますか!!」「……まあお茶でも…。」 「……では、いただきますわ。………(一杯飲んで)ふぅー。」「ところで御坂はんも白井はんも何で今日は私服なん?常盤台っていつでもかつでも制服着てるんやーおもてましてんけど。」 「校則で『外出時は制服を着用』となっていますのよ。」「ほな、なおさらなんで?」 「殿方の寮に行くのに制服だとまずいと思われたのでしょう。それで私もお姉さまを付けるために私服にいたしましたの。」「……で、何でうちの部屋に??」 「っ!!!いや、あの、その最初は常盤台に来ている土御門の御嬢さんの部屋に行こうとしたのですけれど……。」「土御門はんの部屋でんな。カミやんの隣でっせ。」 「そ、そうなのですか?…ところがあの舞夏という小娘の奴・・・・・」「兄貴がいるから言うたんやろ。」 「だったらまだ良かったのです!!あの小娘、『二人の仲を邪魔する輩はたとえご主人様であろうと舞夏はゆるさないのだー』とかほざきよったのです!!!!……って何にやけてますの?」「『ご主人様』かぁー。ええ響きやわぁ…」 「このドアホ!!!!!」「ぐはっ!やめて白井はん人をいたぶるのがお好きなお嬢様はうちのキャパシティーにも入らへんでぇー!!!」 「誰があなたのキャパシティーに入るものですか!!!」「ぎゃぁあああああああ!!!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「あの二人なんだかんだ言ってデレデレじゃん。」「美琴に言われるのは心外だろうなぁー。って痛たたた!!」 「一言多いわよー。」「御免!!前言撤回するからそんなにつねらないでー!!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「だぁー青ピの奴―」「隣の二人でも十分暑いのになぁー」 「にゃー。さて舞夏、隣と向かいどっちがおもしろそうかにゃー??」「デレデレならお隣、ツンデレなら向かいってとこだなー」 「さすが我が義妹だぜい。よーく分かってるにゃー。」「女心のわからぬ兄貴に言われたくないなー」 「ひゃい??」「おっとそろそろ研修に行かねば。……そういえば白雪さんが今日ここに来るかも知れないぞー」 「にゃ、にゃ、何でにゃー!?」「んー?うちが住所教えといたからなのだー。せいぜい年頃の女の子を味わうがいいー!!」 「にゃんて事を言ってんだにゃー!!!!」「じゃあなー!」 舞夏を追って出ようとした土御門だったが、開こうとしたドアが勝手に開かれた。 「や、やあ白雪。」「う、うん」 「二人ともみずくさいなあー………白雪、うちの兄貴に倒れかかっちゃいな!!」 「きゃっ!!」「うわっ、舞夏、何してんにゃー……あ」 玄関先で土御門が白雪の下敷きという状態が完成。作り上げた張本人は… 「おおー、暑い暑い。さーて研修に戻るとすっかなー。」 バタン 玄関が閉められた。折り重なって真っ赤の二人を残して。 その頃上琴は……。 「今度のデートなんだけどさあ…」「ん、何?」今日は土曜日、つまりデートは1週間後である。 「当麻ってまともな私服もってない様な気がするんだけど…」「ギクッ!!……まあ、確かに…。」 「でさ、あたしがコーディネートしてあげるから買い行かない?」「へっ?んーと……」 上条さんの心配はただ一つ。(そんなことしたら!デートのときとか金がない!!!)上条さんは男であるから、デートの時くらいおごらねばならないのである。 するとそんな上条さんの心配を見透かしたように美琴が言う。 「大丈夫大丈夫。ちょーっと早めの誕生日プレゼントということでうちが買ってあげっから。」「お、おう。ありがとな。…ん?何でおれの誕生日知ってんだ?」 「舞夏が教えてくれたの。お兄さんから聞いたんじゃないかしら。」「あー、そうなのか。って事はあいつ去年俺の誕生日祝ってくれたってことなんだろうなあ………。」 「……そう言えばアンタ記憶喪失だったわよね…」「…あ、ああ」 「変なこと思い出させちゃったわね・・」「問題ねーよ。」「う、うん」 「記憶がないってどんな感じ?悲しくなったりとかしない?」「いや、しないな。」「ホントに??」悲しそうな顔の美琴。 「ところでいつ頃からの記憶があんの?」「んーと、……二千円事件。」 「…あっ!……クク、ククク」「思い出し笑いすんじゃねー」 「ゴメンゴメン、嫌あの時ホント面白かったから……御免、我慢できない。」思い出して大笑いする美琴。「お前なあ……」 「ようはあたしの事とかはほとんど覚えてるんだ。良かった良かった。」「そーなのか?てか俺らいつ頃からの知合いなんだ?」 「6月くらいだったわねー。チンピラに絡まれてる私をお節介にも助けようとしたのよ,アンタ。」「へぇー。」 「恋人同士でこんな話って普通しないよね。」「しないな、間違いなく。まあとりあえず記憶がなくても俺は全然幸せだし。」 「ホントにー??」笑いながら聞く美琴。「おう、美琴みたいな美人の彼女がいて不幸なわけねーだろ。」 「・・・・・・・・め、面と向かって言わないでよ。・・・・・・・・・んじゃ、行こっか。」「ん?ああ、買い物か、良し行こう。美琴のおごりだしな。」 「でもデートの時はあんたのおごりよー。」立ち上りながら言う。「それにその分あたしの誕生日プレゼントとか…クリスマスプレゼントはしっかり買ってもらうんだからねー。」 「うぎゃー!忘れてたー。」 二人して笑いながら玄関へ向かう。楽しそうに。 「むっ、あの二人がでてきました!」「どれ、うむ。そのようなのよな。プリエステスによればあのお嬢さんは御坂美琴というのよ。」 「五和を差し置いて上条当麻のハートを射止めたる美少女とはいかほどなのか」「見せてもらわねばならんのよな」 「・・・建宮さんうちらこんな事してていいのか?」「いーのよな。何か問題でもあったかな?」 「うぉい!!ロンドンで色々あってインデックスが召喚されたって言うのに『問題ない』みたいに言っていいんですか!!??」「んー?あっちは我らがプリエステス率いる新生天草式で十分なのよ。わしと浦上はあのレディの正体を探らねばならん。」 「そ、そういうもんなんですか!?」「おうよ、聞くところによれば来週土曜日にデートをするそうなのよ。それもしっかり見ねばの。」 「ってどんだけじっくり観察するつもりなんですか!!??」「必要な分だけよ!!」 ひえぇええええええっと言う浦上彼らが建っているところの数メートル下では… 「白井はん、冗談や言うてんのに……」「す、すみません。ですがあなたが変なことを仰るものですからつい…」 「まあええわ。おっ、カミやんたちどっか行くで。追いかけまひょ。」「はい!」 2組のカップルと1組の魔術師が去ったとある学生寮では…… 「…さっきはごめんね。」「いや、良いけど……お茶でも飲むか?」 「う、うん」「んじゃ、ついでくるにゃー。」 残りの2カップルと違ってぎこちない白雪&土御門。 「……ところで何で今日はうちに来たの?」「舞夏さんに…その…」 「なに?」「おいしいかき氷の作り方教えてあげるって言われて…」 「はいぃぃぃぃいいいいいいい!!!!?????」「……やっぱりそういうリアクションかー。」 「いや、済まないにゃー。でも今秋だぜい。」「そーなんだけどねー。」 ようやっといつもの口調に戻ってきた二人。 「うちのあだ名が雪女っていうの知ってるでしょー」「にゃ、にゃー。」 「今ではいろんな理由が付いてんだけど、最初は年中かき氷を食べてるってのが理由なんだー。」「マジで??」 「マジで。」「冬でもか?」「元日とかに食べたこともあったなー……って!!」 大笑いする土御門。 「……そんなに大笑いする事かなー??」「ゴメン、いやでも驚いたにゃー。」 「で?」「で、とは?」 「この後どうすんのにゃー…」「んーと……とりあえずこの部屋にいよっかなー」 「うちは構わんけど……」「じゃ、まずはこの部屋片付けよっか♪」 「ひゃい??」「散らかりすぎー、どおりで舞夏さん言ってたわけだ『私が3日いかないとあの部屋にはキノコが生える』って」 「舞夏の野郎……」「まあいいじゃん、これでも整理は得意な方だから手伝ったげるー。」 「あ、ありがと」「どういたしまして」 白雪流接近術なのかなぜか土御門の部屋片付けを始める二人、これが白土流桃色空間なのかもしれない。がその桃色空間はものの10秒で崩壊した。 白雪が雑誌を拾い上げた時、一緒になっていたとある本が下に落ちた。 「……」「……。」 「…これってさー」「い、いや白雪、読んでるからってその人がいかがわしい性癖を持ってるとは限らんのだぞ!!だから吹雪を起こすな!!や、やめてえぇぇえええ!!!!」 「このエロ親父がぁあああああ!!!凍えちまえぇええええ!!!!!」「ぎゃぁああああ!!!!」 さすがに凍らすのはまずいと思ったか、白雪は吹雪を少し起こすだけでやめ、そして……。 「土御門君、どーゆー事か説明してもらおーかー?」「いやー、あのー、そのー……………。」 当然答えられない土御門。 「ハァ。土御門君ってふざけてるけど根は善人だと思ってたんだけどなー」「失望しないで白雪!!と、とりあえず片づけ再開するにゃー」 そのころ第七学区にある『Seventh mist』 では…… 「ねえ、これなんかどう?」「ちょっと派手すぎじゃねーか??」 「当麻ちょっと地味すぎー。これ絶対にあうって。とりあえず試着してみてー。」「はーい。」 1分後。 「やっぱりちょっと派手すぎじゃね?」「んー、派手すぎたかー、ハハハ。んじゃこっちはどう?」「おっ、それならいいんじゃね?」 上条の服をコーディネートしたりして楽しんでいる美琴と振り回されながらもかなり楽しんでいる当麻。どうみても完全なるバカップルである。 「お、お姉さまったら!私が何度お誘いしてもしてくださらなかったショッピングをあの類人猿とはあんなに楽しそうになさるなんてっ!!」「ええやん白井はん、もうあの二人ラブラブやし。邪魔するのは野暮ってもんでっせー。」 「くっ!では私はどうなりますの?」「はい?」 「この一年間、お姉さまに捧げてまいりました私の純情はどうなりますの?」「いや、それって百合とちゃうん?」 「百合だろうがなんだろうが関係ありませんの!!あぁ、私はこれからどうすれば?」「新しい恋でも見つけたらええんちゃう??ハハハハ。」 他人事のように笑う青ピ。 白井がビクッとして(な、なぜこの殿方にこう言われてドキドキしてるんですの?私。)と真っ赤になっている事には全く気が付いてなかった。 「まあとりあえず作戦finalだけは止めとこな」「は、はい…ですの。」 「あんちゃんがカミやんとくっついたら悲しむ男がおるんやでー」「は、はい???」 青ピの言う男とは「世間一般の男ども」だが白井は真っ赤っ赤。もう沸点到達、絶賛大混乱、頭真っ白状態。 「あれ、白井はん?どないしたん?」「ハッ、い、いえ何でもありませんの。」(私ったら何でこんな殿方の発言で振り回されてるんですの???) 自分の感情に気が付けていない?白井であった。 「フーム、どうも上条&御坂のみならずもう一つカップルができてるみたいですねー。」「そうなのよな。ただそのもう一つはカップルかどうか微妙なのよ。上条らを付けてるだけみたいなのよな。」 「でもしっかりくっついてますよ。おしゃべりに夢中で何度か上条たちを見失ってますし。」「それにしても上条はなぜあの女子を?なのよな。」 「間違いなく五和より小さいですよね。」「よな。」「対馬にも負けてます。」「それなのよな。」 「もしかしてプリエステスと同じで上条も年下をリードするのがお好みとか!?」「ヌッ!!その可能性を考えてなかったのよな!!通りでプリエステスのエロメイドを見ても陥落しなかったのかもしれんのよ!!」 勝手に想像し、ストーリーを作っている2人 「「「ハックション!!」」」 ロンドンでは戦闘中にもかかわらず3人の女性がくしゃみをしていた事も追記しておく。
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11時00分 ここはある高級住宅街にあるアパートの一室。カーテンの隙間から差す強い日差しから目をそらした。 「…もうこんな時間かァ」 覚醒した白髪の少年はベッドから上半身を起こす。無造作にかけ布団を跳ね除けると、フラフラとした歩みで洗面所へと向かった。顔を洗い、歯を磨く。そのために洗面所へと向かった。 あ? 鏡を見て、違和感を覚えた。有るべきところに、有るものが無い。 (……チョーカーが無ぇだと?) 驚愕を覚えた白髪の少年、『一方通行(アクセラレータ)』は思案した。 いや、思案していること自体に驚愕を覚えたのだ。 なぜ彼は思案することが可能なのか。これ自体すでに奇妙なことだった。 「一方通行(アクセラレータ)」はある事件以来、自己の思考能力を失っている。そのため 情報処理や能力発動時に必要な演算能力は、チョーカー型電極を通して「打ち止め(ラストオーダー)」を介するミサカネットワークに任せてある。それが、無いのだ。 一気に睡魔が吹き飛んだ。 「っ!ラストオーダーァ!」 声を出しても返事は無く、部屋中を見回しても「打ち止め(ラストオーダー)」の姿は無い。黄泉川愛穂は現在入院中であり、この一室には彼以外誰もいない。 いや、彼以外誰かが居たという形跡が何も無かった。 「どうなってんだァッ!?」 部屋にあった携帯電話を取ると、とある人物へ電話を入れた。しかし、 「この番号は現在使われておりません――――」 「んだとォ!?」 (何が起こった?『上』は出られなくてもメッセージは受け取れるはずだ。まさか、アイツラ消されたんじゃ無ェだろうな。闇が闇に葬られたってワケか?にしちゃあ処理が早すぎる) 「…しかも何で俺は歩けるんだ?」 杖を使わずとも歩行に何ら違和感が無い。その上―――― シュッ、と黒い物体が彼の眼前を通り過ぎた。 「―――能力まで元に戻っていやがる」 手元にはM93R-βカスタムと呼ばれるハンドガン型の自動小銃があった。棚に閉まってある拳銃を彼の「ベクトル」の能力で引き寄せたのだ。自身の演算に寸分の狂いもない。 昨夜、彼が眠りについたのは午前4時前後。いくら7時間の空白があるとはいえ、彼に気づかれぬままここまで大がかりなことが出来る筈がない。となるとこれは超能力か魔術の類となるだろう。様々な観点から思考を重ねていた時――― (どわぁー!?って、起きていきなり能力を使うとは何事だー!とミサカはミサカは貴方の乱暴さに避難の声を叫んでみたりー!) と、元気な「打ち止め(ラストオーダー)」の大声が―――― 「聞こえた」。 12時09分 (――――――――ということなの。信じてもらえたかな?とミサカはミ…) ガッシャーン!とテーブルにあった一枚の皿が、触れられること無く天井に叩きつけられた。 「っるせぇなあ……」 (…でも、本当のこと。ミサカはミサカは真剣に告げてみる) 「ッ!!…だからァ、うるせぇって言ってんだよおおおおォ!!」 白髪の少年は、感情のままにガラス窓に思いきり頭をぶつけた。 鈍い衝撃音と共に頭に激痛が走る。 このアパートの窓は防弾用に作られている。一人の少年が頭突きした程度では傷一つつかない。しかし、タンパク質でできた彼の額の皮膚は衝撃に耐えられず、赤い血が滲み出してきた。 だが、そんなことは瑣末な傷など痛くも痒くもない。 彼の心を貫いた大きな傷跡に比べれば――― 一時間前に遡る。 「……おい、かくれんぼはナシにしようぜェ。俺は色々聞きたいことあンだよ」 『一方通行(アクセラレータ)』は状況に混乱していた上に、近くからは間抜けなラストオーダーの声が聞こえた。今回はどれほど手の込んだイタズラを仕掛けてくれたのか。大脳の感覚器にダイレクトに電気の疑似伝達を促し、今のビジョンと感覚を見せているのだろうと考え、こんな素敵なお遊びのお返しに、このアパートの最上階からパラシュート無しのスカイダイビングをさせてあげようと思案し―――― 要するに『一方通行(アクレラレータ)』は今にもブチ切れそうだった。 しかし、待っても一向に「打ち止め(ラストオーダー)」が姿を見せる気配は無い。 「お嬢ちゃァん。隠れないで出ておいでェー。さもねぇと、辺り一面ハチの巣になるぜェ?」 聞かれただけで通報されそうなセリフを吐いたが、 返事は無い。 「…ほォ。こりゃお仕置きが必要みてェだなァ」 何の躊躇もなくM93R-βカスタムのセーフティを外し、スライドを引いた。ガチャリとパラベラム弾を装填する金属音が鳴る。 「十数える間に出てこォい。ラストオーダー」 と言いつつ、先ほど声がしたドアの方面に銃を向けた。 (…降参する気は、無ぇみてえだな。朝っぱらからとはイイ度胸してやがる) 「じゅう、きゅう、…いっちぃ、ぜーろぉ」 十全部数えるのも面倒なので、トリガーに力を込めようとした時―――――― (朝っぱらから笑えないセルフジョークをかましてるのは貴方だよー!!!ってミサカはミサカは現在の前頭葉に配信される定期型電気信号の正常機能にリサーチをかけてみたりー!?) 大声で叫ぶラストオーダーの声が「聞こえた」。 「ァッア!?どっから叫んでんだぁ!?」 脳に響くほどの大声。声は銃口を向けている方向の逆。つまり居間のほうから聞こえた。『打ち止め(ラストオーダー)』はすぐ近くにいる。それは間違いない。しかし、辺りを見回しても誰もいない。 (ミサカはいないに決まってるじゃん!って当り前のことを言わせないでってミサカはミサカは朝から緊急時の演算アプリケーションを起動させられたことにプンプン怒ってみる!) 「うおおぉオッ!?」 『一方通行(アクレラレータ)』の体がフワリと宙に舞った。 さらには右手にあった拳銃は、ユラユラと元にあった下から二番目の戸棚へ飛んでいきながら、空中でカチャリカチャリと安全装置などがかかっていく。まるで透明人間がそこにいるが如く。 「お、おいっ!これはお前の仕業かッ?とっと下ろしやがれこのクソガキがァ!」 (俺の能力が『打ち止め(ラストオーダー)』に操作されてるだと?しかも、拳銃みてェな小さい物体にあんな細かい動作も同時に演算できンのか!?) 大気の流れを組む大規模な高速演算も困難な部類に入るが、実は微小な『ベクトル』演算の方が難しい。 重い物質を動かす時にはその物体が動くほどの『ベクトル』を加えればいいし、人を吹き飛ばすほどの風圧を生み出すためには人間が吹き飛ばされ、かつ人間が死なない範囲の『ベクトル』量を加えればいいだけのことだ。しかし、空中で携帯電話のボタンを的確に押すような精密な演算は困難を極める。拳銃の場合なら些細な演算誤差で安全装置をかけるどころか引き金に『ベクトル』が向き、誤って発砲してしまうかもしれない。 地面から一メートル程の高さで何のなす術もなく浮上している彼だが、現在の状況を冷静に分析していた。 (…………ッ!!) いきなり、大きな音をたてながら彼は地面に叩きつけられた。 「がっ!…あっ」 たかだか100センチ程の高さとはいえ、受け身もとれずに仰向けに倒れると痛い。 (クソガキって言った言ったぁ!!絶対言わないって約束したのにぃー!『貴方のこと、信じてたのに!』とミサカはミサカは人気ドラマの手塚かなめの名ゼリフを真似してみりぃー!?) 頭が割れそうなくらいの大声が『一方通行(アクレラレータ)』に「聞こえた」。 (何なんだァ?こいつの声は直接脳に響くみてぇに…) ちょっと待て。直接、脳に響くだと?――――――――― 「……ラストオーダー。お前、俺のアタマに何埋め込みやがった」 腑に落ちた。姿を見せない少女の声が「聞こえた」ワケが。 しかし、疑問は募るばかりだ。 「一体何処からこのメッセージを流してンだ?…『上』にやられたのか?」 ドス黒い怒りが彼の心に湧きあがってくる。 だが、彼の心の闇をさらに濃く染め上げたのは他ならぬ彼女本人の言葉だった。 (何を言ってるのかなー?ミサカの肉体はとうの昔に無くなってるよー、ってミサカはミサカは呆れながら貴方に呟いてみる♪) 12時04分 「ふ、ふふふ、ふふふふ、不幸、か?俺は…」 ここは長点上機学園内の中央に噴水がある大広場。長椅子にもたれつつ上条当麻は呟いた。現在は正午を過ぎた頃であり、昼休みになるまであと30分ほどはある。右手には先ほど学園内にある喫茶店の少女からタダでもらったカプチーノを持っている。 チュルルー、とストローからカプチーノを飲み干して一言。 「…どうなってんだ、本当に」 携帯に表示されていた日時は、普通の世界から丸一年たった「未来」だった。 長点上機学園二年特別クラス。兼『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長。 これが現在の上条当麻の肩書だった。はぁー、と大きなため息をついた。 長点上機学園に編入するだけでも異例中の異例なのに、『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長まで務めていると来た。これはもう頭を抱えるしかないだろう。『風紀委員(ジャッジメント)』となるにも試験を含めて最低6か月程度はかかるというのに、この一年余りで生徒数が一番多いこの第七学区担当の長になるというと、正攻法では到底たどり着ける筈もない。 つまり、この一年の間に、それだけの地位につける「何か」を俺がやらかしたのだろう。 と、未来に起こりうる自分が巻き込まれる「事件」に少しブルーになった。 それに御坂美琴。一年であれだけの成長を遂げた美琴の成長ぶりにも驚きだが、それ以上に驚愕したのは彼女との関係。この一年で御坂美琴と上条当麻は、情事を軽く言い合えるほど深い関係にまで至っていた。現在の上条当麻はそんな記憶は無いので、ただ驚くばかりだ。 しかし、一つだけ分かることがある。これは単なる罰ゲームの延長線上では無く、二人の相思相愛の下で至った結果なのだと。 携帯電話の裏側を見る。 そこには顔を寄せ合い、無邪気な笑顔で写っている一枚のプリクラが貼られていた。御坂美琴と上条当麻のツーショット。そこにある二人の表情からも読み取れる。本心から互いに惹かれ合っているのだと。 「…あいつ、こんな顔で笑うんだな」 今朝に会った美琴の笑顔、仕草、言葉。上条当麻が抱いている彼女のイメージとはずいぶんと異なる。上条は彼女の知られざる一面を垣間見ているような気がした。周囲をビリビリと帯電させているような攻撃的な御坂美琴では無く、愛らしい一人の少女としての御坂美琴。そんな彼女の姿に心奪われ―――――― 「って、何考えてるんだ俺はああああああああああああああああああぁぁ!!!」 バサバサァッ!と噴水の周囲にいた鳩の群れが上条の突然の叫びに驚き、四方八方に飛び散っていく。頭を抱えながら立ち上がった上条当麻は、数回、深呼吸を繰り返し徐々に落ち着きを取り戻していった。 (冷静になれ、クールになれ。これは現実じゃない。リアルじゃないんだヨ!) 可愛らしい御坂美琴や家事を手伝ってくれるインデックスにちょっぴり心にひっかかりを覚えた上条だったが、今はそれどころでは無いと自分に言い聞かせていた。 そして――― 「カーミやーんっ。お届けもの、持ってきたぜ―い」 救世主の声が、聞こえた。 「つ、土御門っ!!」 声が聞こえた背後に振り替えると、長点上機学園の制服姿の土御門元春の姿があった。 「なっ!?そんなに大声出して、これがそんなに待ち遠しかったのかにゃー!?カミやん、今回はマ、マジでご堪能する気かー?常盤台のエース様にあんなことやこんなことをっ?この果報者がぁぁ!!」 「土御門、聞いてくれ!実はブゴハァあああっ!?」 訳も分らぬまま、上条当麻は金髪グラサンに思いっきり殴られた。 「………ほう、カミやんは俺に殴られたせいで記憶がぶっ飛んだと、そう言いたいのかにゃー?」 「だから違うって言ってんだろ!マジだ、大マジだよ!」 「わかってるって、分かってるってー。カミやんが嘘を言ってないことくらい顔見ただけでわかってるにゃー?」 「…何で最後が疑問形なんだよ」 土御門にはすべてを話した。自分が置かれている状況、記憶の全て、空白の一年があること、そして、現在は自分がいる場所では無いことを。 広場には長点上機学園の生徒がチラホラ見えてきた。時間は昼休みに入ったようだ。 「それで、土御門もこの学園の生徒なのか?」 「……マジみたいだな。いや、違うぜい。長点上機に編入したのは後にも先にもカミやんだけだ。今年の春からだったな。小萌センセーなんて、ショックで丸一週間酒とタバコを忘れていたらしいからにゃー」 「じゃあ、なんでココの制服着てんだよ」 「そりゃあ、親友の頼みの為にワザワザ危険を冒してまで来たんだぜい?」 「?その紙袋はなんだ?」 「ふっふっふっ…、それは開けてのお楽しみだにゃー。カミやんがソレを俺に頼んだんだぜい?これで前の借りは返したってことにゃー」 「???」 「まぁ、今は分からなくっていいぜい。時が経てば教えてくれるからなー」 あばよ、という感じで手を振りながら去っていく土御門。 「ちょ、ちょっと待ってくれよ。土御門!俺一人じゃあ何も出来ない。協力してくれ。この通りだ!」 上条は土御門に大きく頭を下げた。 「当たり前だろ、カミやん。今からツテに連絡を入れるところだ。残念だが俺はカミやんと同じ状態では無い。むしろカミやんのほうが異常に見える。しかし、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を持っているカミやんが魔術の類にかかるとは思えない。早急に手を打つぜい」 「…土御門」 いつもフニャフニャしていて義理の妹にゾッコンなアブナイ野郎だが、いざという時には頼りになる。いい友達を持ったもんだと上条は思った。 「超能力って線もあるかもな」 そう言った時、土御門の顔から笑顔が消えた。 「土御門?どうしたんだ。一体…」 「カミやん。この世に『超能力』なんて、何処にも存在しないぜ」
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「本日も快晴ですよーっと」 右手に学生鞄を持ったまま、空に向け両手を伸ばしながら上条当麻は歩いていた。 本日は平日。学生である彼が向かう先は当然、自らが通う高校ということになる。 ここ一週間は実に平和な日々を送っていた上条だったが、そんな平穏な生活の中には少なからず違和感を感じていた。 その要因としては、ビリビリ中学生もとい御坂美琴に一度も遭遇しなかった事と、彼の学友が数人連続して学校を休んでいるという事があった。 上条の通う高校は偏差値やレベルが高い生徒が多くないとはいえ、 そこに通う人間たちは学校が大好きなので長期に渡って学校を休む、なんてことはあり得ないと言っていい。 インフルエンザや、上条のように怪我をして入院、というなら分からないでもないが、 担任の月詠小萌に尋ねてみたら「連絡がないのですー」という寂しい表情で寂しい返事が返ってきたため、その線は消える。 生徒に絶対的な信頼を置かれている小萌に連絡がない。これははっきり言って非常事態だった。 当然のごとく上条から欠席者達へ電話をしてみたところで繋がる訳もなく、 それならばと思い欠席者の一人で隣人でもある土御門元春の自室を訪ねてみても不在だった為、事の真相は分からずじまいだ。 だからと言って上条も学校を休んでいい訳でもないので、こうして級友が休んで若干面白みの欠ける高校へと登校を続けている。 だいたいこれ以上の欠席をしてしまったら冗談抜きで留年が確定してしまう。 土御門の抱える事情を少なからず知っている上条はきっと今も世界中を飛び回っているのではないだろうかと推測するが、 他の生徒の欠席する理由が解らない。 何か事件に巻き込まれたのではないかと思い、意図的に路地裏などを通ってみてもスキルアウトに絡まれるだけで情報は手に入らない。 御坂についても同じことが言える。 確かに今までも連絡を取り合って会っていた訳ではないが、一週間も遭遇しないとなぜか先程の件と無関係ではないように感じてしまう。 またなにぞろ事件に首を突っ込んでいるのではないか、それとも妹達になにかあったのではないか。 そんな考えが浮かんでは消えていく。 こんな時に限って御坂妹をはじめとする妹達の一人にすら会う事が出来ない。 彼女たちが居る病院へ顔を出したところ、 上条の担当医でもある冥土帰しに「調整中だから」や「外出中だよ」とはぐらかされてしまい、面会は叶わずじまい。 上条はそんな冥土帰しの様子にも不信感を覚えたが、普段から御世話になっているため食い下がることはできなかった。 「あー、こんな晴天なのに上条さんの心は曇り模様ですよ」 そんな訳で、上条当麻は絶賛モヤモヤ中だった。 せっかく前回蓄えた食糧も健在で、居候の機嫌も良く噛みつかれることが少なくなってるというのに、その事が彼の足取りを重くしてしまう。 (というか姫神は小萌先生の家に居るんじゃないのか?) 欠席中の友人の一人を思い浮かべる上条だったが、小萌先生が知らないというのであれば知らないのだろう。 そこに何かしらの事情があったとしても、それを詮索するのは無粋というものだ。 (アイツは……まぁ死んではないだろうけど、一番学校を休む奴じゃないよな……) 思い浮かべるアイツは心配はいらないだろうが、それにしても小萌先生ラブのアイツが無断欠席というのは最早天変地異の前触れとしか思えない。 そして、色々と考えている内に学校に到着していたが、見えてきた、見慣れた校舎の様子がおかしい事に気がつき、 走って敷地内へ入ろうとし校舎全体が目に入ったところで、上条の足が止まる。 校舎が崩壊していた。 窓が割れ、壁が崩れ、鉄骨がむき出しになっている校舎は、まるで地震に見舞われたかのような有様だった。 「っく!!」 一瞬目の前の状況が理解できず固まってしまった上条だったが、クラスメイトの身を案じて全速力で校舎内へと走っていく。 上履きなどに履き替える暇もない。階段を一段一段昇る余裕もない。 そして息を切らしつつも自らの所属するクラスの教室に辿り着いた上条は恐る恐る扉を開ける。 教室内に居たのはただ一人。 数いる欠席者の内の一人で、上条の隣人。土御門元春が、背中に裂傷を負い倒れ伏せていた。 「土御門!!」 上条はそう叫び、土御門の元へ駆け寄る。 彼が所有する能力、肉体再生のおかげで出血は止まっているものの、痛みのせいなのか気を失っていて。 「くそ!待ってろ今病院に連れてってやるから……」 そう言って救急車の手配をするために携帯電話を取りだし、ボタンを押そうとした瞬間、何かが上条の前を通り過ぎた。 「え……?」 目の前の光景に思わず声が漏れる。 上条が今の今まで手に持っていた携帯電話が、宙に浮いているのである。 そして、何かが通った筈なのだが、その物体を確認することが出来ない。 「能力者か!」 能力者による攻撃。そう解釈した上条は拳を握りしめ臨戦態勢をとる。 (念動力の能力者か……) 何もない空間に自分の携帯電話が浮いている現状から、 携帯を奪った犯人の能力は念動力(サイコキネシス)の能力を保持していると推測し、 能力者を探すが、死角の無い教室内に、それらしき影は見当たらなかった。 「違う。能力者じゃない」 辺りを見渡す上条に、突然投げかけられる女の声。 この独特な区切りで話す女性など、上条の知るところ一人しかいなかった。 「姫神……?」 彼女の名前を呼ぶ。 すると、宙に浮いた携帯電話の真後ろにノイズのようなものが走り、徐々に人の形を浮かび上がらせていく。 「よかった。私のこと忘れてない」 そう呟いて現れた少女の右手には携帯電話が握られていた。 少女の名前は姫神秋沙。長期欠席者の内の一人である。 「……冗談はやめようぜ」 驚かせるなよ、と言いたげな上条の表情はどこか安心しているように見えた。いや、実際安心しているのだろう。 犯人が見知らぬ能力者でも、魔術師でもないことが上条に安心感を抱かせた。 しかし、その安心感はこの場合油断ともいえるものだった。 携帯電話を返してもらうよう差し出した右手をじっと見つめた姫神は、少し不機嫌な表情を浮かべた後、そのまま携帯電話を床に落とす。 そしてそのまま足元に転がった携帯電話を思い切り踏みつけた。 ガシャっという破壊音と共に幾つかの破片に砕けた携帯電話はもはや使い物にならないと一目で分かった。 「姫神!何を……ッツ!!」 上条は自分の携帯電話を破壊されたことと、傷を負った土御門の為に病院への連絡が取れなくなったことに対して怒りを露わにする。 だが、再び姫神の姿がブレると、完全に消えてしまった。 「知らない。私を忘れた人の事なんて」 彼女の声だけが聞こえる。そしてその言葉の後に金属が擦り合う音が鳴り響いた。 正確にいえば刃物と刃物を擦り合わせた音。 その音に危機感を覚えた上条は土御門を引きずりながら、教壇まで移動し黒板に背中を合わせる。 動機は不明だが、どうやらあのクラスメイトは自分を傷つけるつもりだと上条は思い、まずは無防備な背中をカバーするためにこのような行動をとったのだ。 静まり返る教室に緊張感が走る。 嫌な汗が上条の頬を伝い、床に滴った瞬間、教室に陽気な声が木霊した。 「よぉーカミやん。どないしたん?そんな死にそうな顔して?ひょっとして便秘ちゃうん?」 そう言って現れたのはまたもや欠席者の内の一人。一週間前に球磨川の元を訪ねようと上条を誘った友人、青髪ピアスだった。 なんて良いタイミングで現れたのだろうと、再度安堵の息を着く上条だったが、ある事に気が付き顔を強張らせる。 いくらお調子者の青髪だろうと崩壊した校舎の中で重傷を負った友人と、 死にそうな表情を浮かべている友人を目撃して、普段通りの振る舞いが出来る筈がない。 特に、傷ついた土御門を発見したら彼は背負ってでも病院に向かうだろう。 だから。あくまでいつも通りの青髪に違和感を感じたのである。 「なんやぁカミやん。ボクの顔になんかついとる?」 笑顔を浮かべたまま首を傾げる仕草もいつも通り変わりのない青髪に、警戒は解かず上条は話しかける。 「おい、土御門が怪我をしてるんだ。急いで病院に連絡してくれ」 そして、数秒の沈黙が流れた。 「はぁ……何をやっとるんやあの子は。つっちーは相手にするな、相手取るなら即死させろっちゅうたのになぁ……」 友人のその言葉の意味が、上条には理解できなかった。 (即死させろ?土御門を?) 混乱している上条を余所に青髪は教室内に呼び掛ける。 「おーい、居るんやろ?ちょっと出てきてやー」 その呼び掛けに応えるように、青髪の右横にノイズが走り再び姫神が姿を現す。 さっきまでとは違う姫神のその両手には出刃包丁が握られていたのだ。 上条が目の前の二人を睨み付けると、青髪がその視線に気が付き頭をガシガシと掻いてから右の掌を土御門へ向け言った。 「ん?あぁ心配せんでもつっちーの傷は治したるで。ちょっと待ってや」 その言葉の通り、土御門の傷は一瞬で塞がった。 「塞がったってより、消えた……?」 まるで傷が初めから無かったかのように、体を入れ替えたかのように傷が塞がり、破れていた上着も元へと戻っていた。 「ま、気は失ってた方が都合ええからそのまんまで。えっとカミやん何か質問ある?」 相変わらずのおどけた口調で言う青髪に上条は怒号のような声を上げる。 「質問!?全部だよ!土御門が怪我してたこと!姫神が携帯を壊したこと!お前ら二人の妙な能力のこと!」 「せっかちやなぁ。それがフラグ建築のコツですかい?」 「うるせぇよ!質問に答えろ!」 「ちょっとくらいふざけただけやん……んじゃその三つの質問に答えましょうか」 そう言って右手の小指と親指を畳んだ状態で上条へ向ける。 「まず一つ目」と言って立てていた残りの指の内、薬指を畳む。 「つっちーが怪我してた理由。ボク達の事を調べてたから姫神ちゃんがやってもうたんや。ごめんなぁ」 少し申し訳なさそうに目を伏せてから、今度は中指を折る。 「では二つ目。携帯壊した理由なんて外部に情報を漏らさんために決まってるやん」 二つ目の答えはそんなことも解らないのか、とでも言いたげなニュアンスでさっさと言ってしまった。 そして、最後の人差し指を畳む。 「そんで最後の質問。これがまぁ結局全ての答えになってるも同然なんやけど……」 「ボク等の能力はカミやんが知ってる能力じゃなくて負能力ゆうてな、なぁーんも利点がない能力のことや」 両手を広げ、万歳をした青髪はまるで道化のようだった。 そして、その言葉の続きを姫神が紡ぐ。 「私の負能力。【存在証明(アイデンティティ)】。レベルはマイナス3。効果はさっき見せたとおり。でも。それだけじゃない」 「マイナスレベル3って言っても姫神ちゃんのはえげつない能力やで。あぁマイナスってのはボク等みたいなのの区分な」 姫神の説明に少ないが補足を入れる青髪。 「自分の存在を消せるってことか……」 「正確には違う。存在感を消す。それだけ」 上条の言葉に訂正をする姫神。 そして、まってましたと言わんばかりに青髪が大声を張り上げる。 「ボクの負能力名は【平衡戦場(アナザーシャフト)】!!なんとなんとレベルは球磨川さんと同じマイナスレベル5や!!」 「まぁゆうても普通のレベル5第一位と第三位位の差はあるんやけどねー」 カラカラと笑う青髪に上条から声が投げかけられる。 「ちょ、ちょっと待てよ!球磨川ってあの球磨川だろ?アイツはレベル5の第八位じゃないのかよ!?」 「それはただの嘘やでー。まぁ久しぶりにあの人に会うまでは気が付かんかったけどな」 「久しぶりって……お前球磨川と知り合いなのか?」 「昔ちょっとだけなぁ。さて!そんなことよりボクの能力や!気になるやろ!?知りたいやろ!?」 かなり重要な事をそんなことで済まされてしまい、青髪が自身の能力説明を始めた。 「かといってすぐに教えるのも興が削がれてまうなぁ……よし!」 「なぁなぁカミやん。ギャルゲーとかやったことある?」 「……ねぇよ」 突如ギャルげー等とこの場の雰囲気に似つかわしくない単語を発せられ、戸惑う上条。 そんな上条などお構いなしに青髪はまくしたてる。 「簡単に言うといろんなヒロインから一人を決めて、どんどん選択肢を選んでいって攻略するゲームなんよ」 「普段カミやんがやってることと同じやね!」 「なんだそりゃ……」 どうもこの男と話していると調子が狂ってしまうようである。決してシリアスにはならず、真意は伝わらない。 「ボクの平衡戦場はね、全てのエンド、全ての選択肢を選んだ結果が分かった状態でプレイする事が出来る」 「さらに言えば、途中から強制的にルートを変えることもできるんや、例えばこんな風に」 青髪が言い切ると同時に砕け散った筈の上条の携帯電話が、床に落ちたままであるが元の状態に戻った。 「これは“携帯電話が壊れなかった世界”の結果をこちらに反映しただけや」 「…………」 目の前で起きた出来事に、上条は言葉を失っていた。 青髪の負能力とはつまり“平行世界の結果を反映する”というあまりにも傍若無人なものだと気が付いてしまったからだった。 「まぁこれだけじゃなく、色々裏技もあるんやけどな、これは後からのお楽しみってことで。カミやんどうせボク等と戦うんやろ?」 「……でだよ」 一通り説明を終えた青髪に、上条は何やら呟いていた。 「なんでだよ!お前は……お前たちはなんで友達を傷つけるような感情を受け入れちまったんだよ!!」 「違ぇだろ!?何の役に立たない能力なら、役に立つように考えりゃいい!!なんでそんな不幸を受け入れちまってるんだよ!!」 「楽しい事も悲しい事も含めての人生だろうが!!勝手にテメェだけが不幸だけだと思うんじゃねぇよ!それを他人に振りかざすんじゃねぇよ!」 上条は、思っただけの気持を叫ぶ。そして少しの沈黙が流れてから青髪が口を開いた。 「不幸を受け入れる、ねぇ……ええか、カミやんちょっと聞いてや」 そう言った青髪からは先程までのおどけた雰囲気などは微塵もなく、真面目な表情だった。 「ボクぁ不幸のみならず不条理、不合理、不安、不信、理不尽、堕落、混雑、嘘泣き、言い訳、偽善、偽悪、いかがわしさ、インチキ、 不都合、冤罪、流れ弾、見苦しさ、みっともなさ、嫉妬、風評、密告、格差、底辺、裏切り、虐待、巻き添え、二次被害、災害、天災、 事故、古傷、腐敗、不平等、失敗、痛み、虚構、いじめ、毒舌、批評、批判、不安定、洗脳、暴利、脱法、隠蔽、違反、負完全さまで、 あらゆる負(マイナス)を受け入れる包容力をもってるんよ?」 「だから、分かったような口を聞かんどいてくれへん」 青髪に上条の想いは伝わらないばかりか、その胸の内に抱える膨大な負(マイナス)の前に、再び言葉を失ってしまう。 「なぁカミやん。本当なら君もこっち側の人間なんやで?だから大人しく今日見たことは忘れて家に帰ってくれへんか」 「壊したもんは取り換える、傷つけた人も取り換える。だから手ぇ引いてや」 そう言った青髪の表情は変わらないものの、どこか寂しげに見える。 普通の人間ならここで心が折れてしまうだろう。だが上条当麻は違った。 この負(マイナス)を抱える二人を助けてやる。そんな決意の炎が胸の中で燃え上がっていた。 「ふざけんな!誰がここでお前らを見捨てるんだよ!!」 「間違った友達を導いてあげるのが親友としての俺の役目だ!!」 そして、上条が拳を握った瞬間、三度教室へ来訪者が訪れる。 その人物は幼く、小学生にも見える姿に白衣を着用し、両手には無数のまち針が持たれていた。 入ってきた扉から大きく跳躍し、上条の隣へと飛び移る。 「よく言ったわ上条君!オバサンも貴方に協力するわ!!」 にやりと不敵な笑みを浮かべる少女、いや自らをオバサン呼ばわりしているところをみると実年齢は上条達よりかなり高いのだろう。 「“久しぶりね”青髪クン。そっちの女の子は知らないけど、どうやら彼によって目覚めちゃってみたいね」 「なんや、小萌先生かと思ったら人吉先生やないですか。これはこれはテンション上がるなぁ」 「相変わらずねぇ……小萌ちゃんも嘆いてたわよ、青髪ちゃんが真面目に授業受けてくれないですーって」 「そりゃあ小萌先生の困った顔はボクの大好物ですから……あ、もちろん人吉先生も大好物やでー」 「残念だけど、人妻子持ちの41歳よ?幾らなんでも貴方のストライクゾーンからは大きく離れてワイルドピッチじゃない?」 「いやいや、ボクぁ落下型ヒロインのみならずってな心情を持ってるんや。属性が増えたら増えただけ、どストライクですわ」 「そっか、じゃぁ全力で身を守らないとね」 「いやーそんな姿もそそるわー。ほな、カミやん、人吉先生?いくで?」 その言葉と共に姫神は姿を消し、青髪は目の前の椅子に手をかけた。 戦いが始まる。
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東方秋狼記 第二十二話:私を生かすための力だ 兎の狂気にあてられて赤く染まった静流の瞳に映ったのは、切り飛ばされて宙を舞う、自分の右腕だった。 あまりにも強すぎる痛みのせいなのか、それとも命の危機にさらされたからか、時間がいっこうに進まない。腕はなかなか落ちていかないし、血も噴き出そうとしない。ただ、どうしようもない喪失感と濃密な死の気配が、抗う間もなく心を支配していく。 ——いやだ。 すぐ側で誰かが叫んでいる。 死にたくない。 聞き覚えのある声が二つ。 まだ死ぬわけにはいかないのに。 時が少しずつ進んでいく。時計の針の牛歩戦術にも限度があった。 足下で薄氷が割れる感覚。 体が傾ぐ。失った腕が遠ざかる。断面から、真っ赤な命が流れ出ていく。 いやだ、嫌だ、いやだいやだイヤだ! ガクンと膝が砕け、影に引かれるように、後ろへと落ちていく。 意識が闇へと落ちていく中で、心臓が、ドクンと強く拍を打つ。 いや——違う。 『そういうのは、そういう弱気は、ちょっと違うだろ』 背後に迫った闇が囁く。紛れもない、自分の声で。 『違うだろ、そうだ違う、違うだろ、こんなのは』 急速に冷めていく頭の中で、自分の声が反響する。 「…………ああ、違う」 ぽつりと口から漏れ出た言葉。重力に従って落ちていく、そんな運命を拒絶するような小さな声が、錆び付いていた最後の撃鉄を起こした。 自然と左脚が後ろに伸び、何もない、存在しない足場を力強く踏みしめた。 明確な意志が、失われた右手に代わって、血濡れた心のトリッガーを引く。 「こんな終わりは、必要ない……!」 バチンと火花が散る。意識が浮上し、視界に光が戻った。宙に繋ぎ止められたかのように落下が止まり、出血も唐突に完全に一滴残らず静止した。鈴仙が止まる。瑞穂が止まる。音も聞こえない。何もかもが静止し、まるで時間が止まってしまったかのような錯覚すら覚える。 身体がひどく重く、鉛の風呂に浸かっているみたいだ。思うように動かせない。 そう、まるで本の中の一ページ、その一行に入ったみたいに、『流れ』というものが感じられないのだ。 静流は不意に直感した。 死に直面したことによる極度の興奮状態で、周りを置き去りにするほどに加速した静流の精神は今、時系列というものから一時的に弾き出されている。止まったままに見えているのは、自分の精神が須臾の中に留まっているに過ぎない。 『くそ、こんな時間を、どう使えって言うのさ』 口は動かず、精神が代わりに独りごちる。 この体が動き始めた瞬間に、おびただしい出血は手際よく静流の命を刈り取っていくだろう。だから静流に残された時間は少ない。できることなら、そのわずかな時間の中で、全てを完了させたい。いや、させる以外に道はない。 鈴仙は自分を指して『運命』という言葉を使った。それは必然的に障害を押しのける力だという。だとしたら、今この状況にも意味はあるはずだ。走馬灯にしても、何も思い浮かばず、何もかも完全に静止して動かないなどあり得ない。目的達成への前段階として、自分は須臾の世界に入門したという可能性、それだけを考慮するべきだ。 及第点。まだ一歩足りない。悔しいが、土御門の言うとおりだ。自身の事を理解しない限り、自分は足手まといでしかない。 『考えろ、考えろ、理解しろ。私にあるのはおそらく、物を止める力。私が十六夜咲夜のように時間を止めたという可能性もあるけど、長続きはしないはず。それに今まで起きた事と食い違う』 ——あなたの力なら蓬莱人も滅ぼし得ると言いましたわ。 永琳の、輝夜の言葉が蘇る。 『ただ止めるだけで、そんなことできるはずがない。チルノのスペルだって、一瞬止めたところで、あのまま続行するはずなんだ』 ——能力をヴィジョンで捉えるタイプなのかもしれませんよ。 射命丸の言葉が脳裏をよぎる。 『あの時、私は何を見た?』 静流は思い返す。湖の畔でチルノと戦ったとき、自分は何を見たのか。 そう、あれは凍り付いた完全な冬の世界。しかし見たのはそれだけではなかった。真冬の雪原を炎が荒れ狂い、全てを溶かし、再び冬が来る。ほんの一瞬の間に世界は何度も冬を迎えて終わりへと近付いていく。 回顧はそこで止まった。今、自分は何を想起した? そうだ。答えはすでに出ていたのだ。 『終わり……それが私の力、なのか? どうやって使えばいい。どうしていつもみたいな直感が浮かばないのさ? これは、私の力じゃないって事なのか?』 【いんや違う。おまえの力だからこそだ】 不意に——耳障りに軋む金属のような声が、どこからか語り掛けてきた。 時系列から解放された精神世界で、静流は弾かれたように振り向いた。だが、誰もいない。当然だ。ここはどこでもない。単に静流の精神だけが活動する、ただそれだけの仮想空間なのだから。 『誰だい! 私の中に入るなんて、いい度胸じゃないか』 精一杯の怒声——いや、この場合は怒念だろうが——を上げる静流を嘲笑うかのように、何者かはくつくつと軋んだ笑い声を上げる。 馬鹿にされている。腹立たしさとむなしさに、出来もしないが歯を鳴らした。 【そう怒るない、助言をしてやろうというのだ】 『助言? 助言だって?』 【おまえの天命はもうじき尽きる。それはおまえの持つ天賦の才と引き替えに、前々から定められていたことだ。おまえの才と宿命は目前の死に向かっている】 『また、運命か』 うめく静流に、声はくつくつと喜悦を滲ませ笑いかける。 【なぁに拗ねることはない。おまえの出会った、そう、夏目とかいう奴は実に素晴らしいことをした。彼奴の一踏みが、おまえを縛る運命の鎖を打ち砕いた。ここのところ何かと思い通りにいかなくなってたろう】 『……自然と見えない方法こそが活路になる、そういうことかい』 【ほぉう、飲み込みが早いようで。だがそればかりでもない。運命は重力のようなもんだ。手放した石が地に落ちるまでは加速するように、運命は時に力にもなる。助言は以上だ。考えろ、考えて使ってみろ。その結果は、おまえ自身の力だ】 金属が擦れ合うような軋んだ声は次第に遠ざかり、やがてぱったりと途絶えた。 今度こそ一人きりになった静流は、聞いた言葉を胸に、じっと考えを巡らせる。 まず、『声』が言いたかったのは、『運命』とやらに従って動くほど、自分の進む力は増す。しかし同時に才に頼るほど死へと近付く、ということだろうと結論付けた。 それならば納得がいくのだ。ちょっとした護身用でしなかった霊能力を積極的に使おうとしたのは夏目と出会ってから。まして、学ぼうなんて思いもしなかったのに、今さらになって一気に上達している。これは、運命とやらの力ではないか。その結果に死が待っているから、今まで無意識のうちに自分の力から目を背け続けていたのではないか。 『思い返せば……力を得るたびに危険な状況へと巻き込まれている……気がする。確実を良しとする、私の生き方を逸れたときから、全てががらりと変わった。外れていたはずの歯車が噛み合って、カラクリが動き始めたような感じだ』 そして、その運命に従ってつい先程は膨大な霊力を得た。その代償、運命への前払いとして、右腕を『持っていかれた』と、そう考える。これはいわば、『地面』に接触しかけている証左だ。そういう一と〇の危うい境界に今、静流は立たされている。 対照的に、自分の奇妙な能力はすぐに理解できない。閃きというものを感じない。全くスマートさの欠片もなく、ただ、ただ、静流の感情というか、『死ぬのはごめんだ』という意地のような、悲鳴じみたものに呼応しているようにさえ感じられる。事実、この力が発動するのは決まって、自分の命が脅かされたときだ。 『これはおそらく、私を生かすための力だ。たぶん、私を殺す方向に働く運命の才からはズレた力……!』 自分が生き残り、なおかつ瑞穂を取り戻すには、この奇妙な能力を使うより他にない。 ならば結局、この力は何か、何を起こしているのか。 それを静流は、終わりに関する力だと推測した。止めるにしても一瞬だけの効果だし、効果が切れても一度止まったものは止まった状態のまま、というのは不自然だ。蜘蛛の脚も、単に止めただけならば効果が切れた途端に最高速で静流を貫いていた。 蜘蛛のときは金縛りの術を無意識に使ったという可能性も否めないが、少なくともチルノのスペルは狼の幻視と共に『終わった』のだ。 終わり……どうも受け身の力に感じられる。 ちょっとした応用で運動を止めることもできるのかもしれないが、出血を止めるために自分に使えば、動くこともできないのではないか? 周りを止めても、長続きはしない。その間も自分が加速するわけでもないのだ。ただでさえ命の残り時間は少ない。わずかな時間の中で全てを完了させるには、『加速』か『延長』のどちらかが確実に必要だ。 『普通なら、いつもの私なら、そう考える』 だが、それは違う。そちらが正しいと訴える直感の強さが、何よりも雄弁にそちらは違うと示している。本当に必要なのは加速と延長なのか。そんな使い方でいいのか。違う。あの『声』も最初に否定はしなかった。何者かは知らないが、終わりに関する力だと半ば認めていたようだ。 『あのときは何を終わらせたんだ。どう使えば、静止という結果に……いや、そうか』 独りごち、静流はそこで一つの仮説を思い立った。 『どんな運動でも、最後には止まる。その過程がどうであれ、最後の一瞬、速度はゼロだ。私は、運動そのものを終わらせた……!』 まるでこの時を待っていたかのように、ピシリ、と世界に亀裂が入った。 今、はっきりと自覚した。 自分は運命の川から外れようとしている。ここからは、自力で歩いていくべきだと。そのために必要な力は、すでに得ている。 静止はこれで『終わり』だ。そう、心で告げた。 ——途端、世界が割れた。 空気に流れが戻った。 鈴仙が、瑞穂が、こちらを向いて叫んでいる。 斬られた腕が宙を舞い、落ちていく。 土御門は目前でこちらを睨め付けている。明白な殺意の籠もった視線だ。 「次は首をもらうぞ」 「次なんて無いって言ったのはおまえだよ」 須臾の殻から脱した静流は、断面から噴き出す血には目も向けず、そればかりか土御門すら見ていなかった。耳飾りが強く輝く。残った左手を掲げ、叫ぶ。 「舞え、已蒼!」 左腕から射出された已蒼は、その瞬間にはすでに巨大な魔法陣を描き上げていた。過程が全く見えないほど高速で飛んでいるのではない。蒼い鳥が飛んでいく過程は静流のイメージの中にしか存在しない。 瞬きすら許さず、已蒼の描いた線に沿って膨大な霊力が一手に集う。 すでに蒼。そう名付けられた式神こそ、静流の能力を雄弁に物語っていたのだ。 「その速度や良し、だが……単なる霊力量など無意味だッ」 土御門が神速の二之太刀を振るう。 だが、それは一寸進んだだけで全ての加速を失った。 ここに来てようやく土御門の顔色が大きく変じた。焦燥感と満足が入り交じった貌へと。 ほんの一瞬できた隙間で静流の視界がジャンプする。 目前にいたはずの土御門は下方へと移り、まだ少し距離のあった瑞穂を、残った左腕で抱き寄せた。その距離に、瞬き一つで静流は到達していた。まさに全てを『一瞬のうちに完了』させたかのように。 あまりに不可解な現象を目の当たりにして、鈴仙がぎょっと振り向くが、すでに静流はいない。 「霊力量が、なんだって?」 土御門の背後で、静流は血の気の失せた顔で凄絶な笑みを浮かべた。滔々と流れる血は、落ちる途中で宙に縫いつけられたかのように留まって、徐々に膨れ上がっていく。 土御門は振り向くことなく、刀を持つ手に力を込めた。 「……さては今、『力』を使ったな……限界まで、『時を殺した』な……!」 「へぇ、『これ』はそういうものなのか」 呟くと同時、突如出現した大量の呪符が、土御門を包囲する。たとえ幽体であってもタダではすまない破魔の霊撃だ。 だというに土御門は厳めしい顔を笑みに歪め、哄笑した。 「フフハハハァ、ああそうだッ。それはな、静流ッ! 戦国の世より秋家の娘に代々取り憑く、秋津島を滅ぼす呪いだ!」 「……知ってるよ、ヤバイものが私の中にいることくらいね……!」 呪符が炸裂し、閃光が静流の目を焼いた。 集められた膨大な霊力は、閉じ込めた全てを押し潰し、粉微塵に打ち砕いていく。 だが—— 「いいや、おまえは理解しとらん!」 渾身の霊撃は、それでもあと一歩で彼を滅するには至らなかった。 光を破って飛び出してきた刀が、よりにもよって瑞穂を貫かんと牙を剥く! 「なッ!?」 「きゃあああああ!?」 絹を裂くような悲鳴を聞きながら、水飴のように引き伸ばされた時間の中で必死に命じるが、念じれど念じれど能力は発動しない。止まる様子も見せない。 その時点で静流は悟っていた。これは、人のために使ってやれる力ではないのだと。 あくまで自分本位な願いで発動するのなら、そうとわかったなら、迷いなんてものは無かった。瑞穂の盾になるように体を差し込み、あえて白刃の前に身を晒す。そして睨む。殺されてたまるかという強い意地を眼に込めて。 ピシッ……! 白く輝く刀身がほんの刹那だけ静止した。立て続けに自らの退避を念じたが、発動する気配さえない。 なにか、致命的なミスを犯したという予感が背筋を稲妻のように走り抜けていく。 「万策尽きたな、静流ッ」 無情にもすぐさま刀は再加速し、静流の胸、肺腑を穿った。 「ぁ……ガ……ッ」 ごぽ、と小さな口からぞっとするほど多量の血が溢れ出る。 赤くぬめる刃に体を串刺しにされ。 血の気などすでになく。 死神の足音が耳元に迫った状態で。 それでもなお瑞穂を手放そうとしない静流を、土御門は満足げな目で見下ろし、 「おまえは強大な呪いを封じる楔のようなものだ……その呪いの力を使ったというのはな、おまえの消滅を意味するのだよ」 そう告げると、もう目的は果たしたとばかりに、霊撃に晒されて崩れ掛けた手を柄から放した。 「あれだけ派手に使えば、周囲の霊力も早々に底を尽こう。なに、悲嘆することはない。おまえはよくやった。おかげでおおむね予定通りに事が運ぶ」 「く……そ…………」 目が霞む。血がつまって息が苦しい。もう力が入らない。 ふらつき、膝が崩れ、再び落下する体を、横から鈴仙が掻っ攫った。 「師匠なら、今から私の脚で運べば、この怪我でもなんとかできる……あんた、それでも勝ったつもりなの?」 冷めた目で睨め付けながら永琳の位置を探る鈴仙を、土御門はつまらなそうに一瞥する。 「なんだ、まだ残っていたのかね。脱兎の如くという言葉に従えばよいというに」 「あいにく、今からそうさせてもらうわよッ!」 不敵な笑みを浮かべ、鈴仙が虚空を蹴って跳躍する。二人分の重みと、よくわからない重力と、その二つを振り切るように、強く強く。 幽体といえど、やはり人間。玉兎の本気には追いつけまい。 景色が瞬く間に後ろに流れ、輝かしい弾幕の嵐が目前へと迫る。拡張された鈴仙の視界は、人間が変化した怪物をまさに殲滅した永琳達の姿を克明に捉えていた。 「急患です師匠ぉーーーーーーッ!」 全力で呼び声を上げて、流星の如く突貫する。 まさに人間砲弾ならぬ玉兎砲弾と化した鈴仙は、静流と瑞穂にできるだけ負担を与えないように慎重にルートを決めて、不時着を狙っていた。考えた挙げ句に鈴仙は、 「受け取ってッ、くださぁぁぁぁああい!」 喉が張り裂けんばかりに叫び、少しだけ急上昇した後、抱えていた双子を手放した。 永琳が何事かと振り向く。同じく、いつの間にか合流していた輝夜も。 二人とも反応は極めて早かった。 永琳はすぐさま巨大な網を張って瑞穂を受け止める一方で、輝夜が普段からは考えられないほどの速度で飛翔し、落ちてきた静流を抱き留める。刺さったままの刀が着物を切り裂くが、輝夜は気にも留めない。美しすぎるかんばせに焦燥感を張り付かせ、永琳に縋った。 「静流っ、しっかりなさい、大丈夫だから! そうよねっ、永琳!?」 「トウゼンです。それが貴女の頼みならば、なんとかするのが私の役目。そうでしょう?」 自信ありげに胸をぽんと叩きながらも、永琳の表情は険しかった。 そう、脅威はすぐそこまで来ていた。 「——残念だが。それは叶わぬよ、月人」 老人の姿をした、しかし明らかに人間離れした力を持つ怪人。 土御門実篤。 その『本体』が、最初からそこにいたかのように、実に五間の間合いで立っていた。 あとがき ただ長々と静流の思考が続く今回。ほとんど時間が経ってません。 ここまで来ると緩い空気を挟む余裕がないので困ります。 開花した能力は本当に彼女を生かすのか。静流の運命やいかに。 ≪前へ 【戻る】 次へ≫? 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とある2人の春休み 2 春休み3日目。 上条はここ2日間役目を果たさなかった目覚ましの健闘ぶりに目を覚まし、体を起こす。 と言っても左半身の機能が骨折により動かないので、右足からベットの下に下ろし、そこから右腕を使って起き上がる。 昨日は美琴が起きる前に既にいて起きるのを手伝ってくれたので、骨折翌日同様につらい目覚めとまった。「…はぁ、美琴様様じゃねぇかよ」 上条はトイレを済ませ、冷蔵庫を開く。そこには綺麗にラップしてある昨日の夕食の残りがあった。 確か美琴が朝の為にって残ってるのをラップしていたような。 ガス台を見ると鍋があり、その中には白菜の味噌汁が入っていた。 これも美琴が昨日のうちに用意してくれたものだろう。 上条はこんな美琴が天使に思えた。もう色々感謝感激で言葉にならなかった。『こいつは彼氏じゃなくて、私の旦那様なの♪』 昨日美琴が言っていた言葉を思い出す。昨夜も色々と美琴に迷惑をかけてしまったが、美琴は小言一つ言わず『旦那の世話をするのは妻として当たり前なの。だから気にしないで』 とか言ってたのも思い出す。 上条は深く溜息をした。美琴の抑えの効かない行動になどではなく、自分に向けて。「俺あいつになにもしてやれてねぇじゃん…。この辺で何かお礼しないとな、でも何したらいいのか分からない…」 上条はうーんと唸りながら味噌汁やおかずを温め、朝食を取った。 そしてその時上条は閃いた。今日も夕方には美琴がここに来る。ならば今日だけでも美琴の好きなようにさせてあげようと。 もちろんベット+ティシュ+シャワー的な事は出来ないが(理性があるうちは)それ以外なら望む事をしてあげたい。 こんなにも自分を想ってくれているのだ。ならばこちらもそれ相応の事を返してあげなければいけない。 そんな事を考えて、上条は車椅子を組み立て部屋を後にした。 この時上条は気付いていなかったが、この2日間で上条にとって美琴はいなくてはならない存在になりつつあった。 怪我をしているから助けてほしいとか、そんな考えでは無く。女性として美琴を心から愛し始めたのだと。「すみませんね、土御門さん。上条さんの為に車椅子押していただいて」「うんにゃ気にするな、カミやん。困った時はお互い様なんだぜい」 学校の補習が終わると、上条はデルタフォースと共に帰り、青ピと別れると寮まで土御門が車椅子を押してくれていた。 小萌先生にやらた心配され、家事が大変ならインデックスを帰そうかと言われたが、上条は断固拒否した。 この状態で飯を強請られると色々ダメになりそうだ。 それに部屋には美琴がいるしと思って小萌の申し出を断った。「それにしてもカミやん。そんな状態でよく今まで生活できたにゃ。一人で大変だったろ? あのシスターがいないんじゃにゃー」「そ、そうか? べ、べべべ別に普通に生きて来れましたよ?」 上条は土御門の当たり前の言葉に動揺を隠せなかった。 もちろん美琴が毎日来てくれてるので全然生活には困らなかったが、それを知られたらもう数箇所骨折する可能性がある。 土御門はそんな上条の挙動不審に疑問を持ち、車椅子を押す手を止めた。「…? つち、みかど……?」「まさかとは思うがカミやん。いるのか? お前の部屋に?」「な、なななななんのことでせう」「とぼけるな! 舞夏がカミやんの世話してるのかと聞いてるんだぜぃ!」「―――――――――は、い? ………舞、夏…さん?」「なんだ違うのか。だったら何でもいいぜい。舞夏に手を出してなけりゃにゃー」「し、親友の土御門さんが愛する舞夏様に手を出すなど…お、おお恐れ多くてとてもとても!」「そうだぜカミやん。もし手を出そうものなら」「……ものなら?」「御使堕としで使った風水魔力を使いカミやんの部屋もろともカミやんを消すぜぃ。幻想殺しだけを残して」「…」「実は既に四方に配置されて…」「…」「俺の魔法名はFallere825。その意味は背中刺す刃で…」「わかった! もういいから! 冗談でも冗談に聞こえないから!」「はは。カミやんは面白いな。冗談なんかじゃないぜぃ」「……」「それにしてもカミやん。そんなんじゃ色々と不便だろ? 彼女の一人でも作ってそいつに色々やって貰った方がいいんじゃねぇのかにゃ?」「……ま、まぁ…そうだな。で、でも彼女なんか…いない、し」「カミやんが頼めば誰でもお世話してくれると思うぜよ。でもそんなカミやんみたら、ぶん殴ってクラス中に言いふらし、集団リンチかけるけどにゃ」「…」「そういうわけでカミやん。これから抜き打ちお部屋チェックぜよ」「は、はいぃぃぃぃぃ!? な、なななななんで!?」「もちろん女を部屋に連れ込んでないか検査するのにゃ」「ぶぅぅ!! そ、そんな事しなくても誰もいないですって! (…多分)」「じゃあいいじゃないかにゃ。今日は舞夏が遅くなるっていうから暇だったんだぜぃ。久しぶりに笑いのトークでもしようぜぃ」「そ、そう…ですネ」 そう言って上条は速攻で美琴にメールを送った。 自分の生活を守る為に。自分の命を永らえる為に。Time 10/03/25 16 22To 御坂美琴Sub―――――――――――――――――突然ですが、今どちらにいらっしゃいます? メールはすぐに帰ってきた。Time 10/03/25 16 24From 御坂美琴Sub Re ―――――――――――――――――今はまだ初春さん達と一緒よ。なーに?会いたくなっちゃったの?もうしょうがないなー。ちゃっちゃと買い物して帰るからもう少し我慢しててね♪ そんな美琴に上条もすぐ返す。Time 10/03/25 16 27To 御坂美琴Sub Re2 ―――――――――――――――――いやいやいや!そんな悪いですよ!久しぶりに友達と遊んでるんだから、もう少しゆっくりしてろって。俺も少し遅くなるからさ。 上条はそれだけ送ると「完璧だ…」と小声で言う。土御門には聞こえていない。 その後寮に着くまでに携帯がメールを受信したが上条は見なかった。 上条は部屋まで行くと土御門に支えられ部屋に入る。 上条は気付いていないが、皆さんなら既にお分かりだろう。 まず上条当麻が不幸だと言う事。 そして先程のメールの内容からして今美琴はどこにいるのかと言う事。 さらにはピンクのフリルエプロンの事。 その現実を目の前に上条当麻と土御門元春は言葉を失った。 そこには、上条当麻の部屋には、ピンクの可愛らしいエプロンだけを着ている御坂美琴が玄関に立っており上条を(正確には2人を、だが)迎えていた。「おかえり! ご飯にする? お風呂にする? そ、それとも…わ・た・し?」「……………」「……………」「あ」「……………カミジョウトウマクン?」「……………ナ、ナンデセウカ。ツチミカドモトハルクン」「キミハイッタヨネ? カノジョナンカヘヤニイナイ。フツウニイキテイケテルッテ」「イ、イイマシタ…ガ、コ、コココレニハフカイワケガゴザイマシテ」「ちょっと! そこの金髪! 人を勝手に彼女にすんな!」「―――へ? 何だ違うのかにゃ。そんな格好してるからてっきりカミやんの彼女かと思ったぜぃ。いやぁ、久しぶりにビビったにゃー」 上条も安堵の息を漏らす。…が、その後思い出した。昨日の事。昨日美琴が同じような事を聞かれた反応を。「ま、待て! み―――」「私は彼女じゃなくて、そいつの妻なの! だからこれから先は私がお世話するわ! ここまで旦那を連れてきてくれてありがとう」「―――こと」「つ…ま? カミやん? 嘘だろ? お前はフラグを立てるのが仕事で回収なんかしない奴だよな? そうだよな?」「…」「嘘なんかじゃないわよ! ほら。いいから渡して! これから愛を育むんだから!」「か、カミ…やん――――」「つ、土御門…」「土御門? あぁ。ひょっとして舞夏のお兄さん? はじめまして、御坂美琴です」「御坂…美琴だと? 常盤台の超電磁砲か。カミやん…おまえ……」「ま、待ってくれ土御門! お、俺を! 今俺を1人にしないでくれ!!」「はぁ!? なに言ってくれちゃってるのよアンタは! 2人きりじゃないと恥ずかしいじゃない!」「そ、そんな格好のおまえがそんな台詞吐くか!!」「もう……エプロンの下を見せるのは、アンタだけがいいって言ってるの。気付いてよ、バカ…」「ぶっはぁぁぁ!! みみみみみ美琴ぉぉぉぉっ、そ、そそそそそそんな事ををををををを」「…離せや、カミやん」「え?」「だ、大丈夫だぜぃ? こ、この事は絶対誰にも言わないからにゃぁ…」「う、嘘つけ! おまえがどもる時はロクな事を考えてねぇ! な? お、俺達は…デルタフォースは固い結束で結ばれているんだよな?」「……今日限りでデルタフォースは解散だぜぇ、カミや…上条くん」「な、なにを? 君が何を言ってるのか分からないよ…元春くん」「自分の胸に聞くんだにゃーーーーーっ!!」「ぶっはぁぁ!?」「ちょっ! あ、アンタねぇ! 人の旦那なんだと思ってるの! 怪我人なんだから優しく扱って!! 私を愛してくれないじゃない!」「……うぅ…うわあああああああああん!!! ま、舞夏ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」「つ、土御門ッ! 待ってくれ!!」「うるせぇにゃーーっ! 精々残り少ない余生をいちゃつく事にゃーーーっ!!!」「ふ、不幸だ…」 上条はその後改めて美琴を見た。マジでエプロン以外何もつけてねぇ…と思ったが、短パンだけは穿いているらしい。 上条は安堵する。まだ彼女が恥じらいを持っていてくれた事に。 そして美琴に支えらながらベットに腰かける。 もうそれだけで美琴の柔らかさを感じ、口から心臓がこんちにはしそうになった。 美琴は上条の隣に座ろうとしたが、上条はそれを許さない。精一杯の理性を駆使し、美琴を目の前に正座させた。 美琴は頬を膨らませながらも上条の言う通りに目の前に正座した。 上条当麻の理性説教vs御坂美琴の愛の9裸エプロンの戦いの火蓋はこのようにして切って落とされたのだ。 ちなみに上条当麻の理性の壁は、現在94%崩壊している。「おい、御坂美琴」「なによ」「君は何故そんな格好をしてこの部屋にいるのかな? お友達と遊んでたはずだよね?」「アンタが帰ってきて欲しそうだったから…急いで帰ってきたんじゃない」「まぁ、そっちの話はいいんだよ? 問題はその格好」「これがどうかしたの?」「なんで裸エプロンという格好なんでせう? 仮にも嫁入り前ですよね? 土御門にもその格好を見られましたよ?」「だって舞夏が男を落とすならコレ! って言うから…それにエプロン大きいの買ったから前からじゃ全然見えないし」「舞夏…だと?」 そんな話をしていると隣の部屋から「ま、舞夏ぁぁぁぁぁぁ! そ、その格好は何だにゃあああああああ!!!」と聞こえてきた。 土御門にとってその出来事は、記憶を上書きする程の事であり、後日も土御門は上条に対して普通だった。「…」「あ、舞夏もお兄さんにやってるみたいね」「…あのですね。美琴さん」「ん?」「おまえはまだ中学生じゃないか。そんな格好しなくてもおまえはおまえのいい部分があるんだから、そんなに急ぐこ――」「………う、うぅ…」「え? お、おい…みこ――」「せ、せっかく…折角アンタが喜ぶと思って買ってきたのに…恥を忍んで着たっていうのにぃ…う、うぅ……」「あ、あぁ…あ、す、すまん美琴。お、おまえがそこまで考えてるとは思ってなくて…てっきりまたふざけてるんだと…」「ふざけてこんな格好するわけないでしょぉ…うぅ、こんな格好見てもアンタは文句ばっかりで何にも言ってくれないし…」「あ…」 上条は朝の事を思い出す。自分の決めた事を。 今日だけでも美琴の好きなようにさせてあげようと。 だって美琴はやり方はぶっ飛んでいるが、中身は可愛い恋する乙女なのだ。好きな人に喜んでもらいたいと思うのは当たり前だろう。 上条も朝それで悩んでいたのだから。「ご、ごめんな。俺…ちょっとキツくいい過ぎたよ。お、お詫びに今日は美琴の好きなようにしていいから」「………なんでも?」「まぁ…一線越えないくらいなら」「…知ってるよ。前夜まで取っておくんでしょ?」「ま、まぁ…そ、それ以外なら何でもいいからさ!」「じゃ、じゃあ私が何を言ってもその通りにしてくれる…?」「そ、そんな風に言われるとイエスと言いづらくなるんですが…」「…う、うぅ…やっぱりダメだよね…こんなぺったんこな体で迫られてもアンタは全然うれしくないもんね…」「い、いや…美琴さんの体は十分魅力だと思いますよ? た、ただ恥ずかしすぎて……」「うぅ…」「だああああ! もう分かったよ! 何でも聞いてやるから何でも言えや、もう!」「…本当に? 後でやっぱ無しとか言わない?」「男上条舐めんな! どんな事を要求されようと即座に実施してやっけんのぉぉおおおお!!!」「あ、そう? はー、やっとその台詞聞けたわ。つっかれたー泣きまねすんの。アンタ早く折れなさいよね、全く…」「―――――――なん、…だと?」「さてと。じゃあまずは何をして貰おうかしらねぇ…あ、もちろん今日は泊まるからね? これ絶対。拒否不可」「み、みこ…と?」 さっきまでの泣き顔はどこへやら。美琴はゲコ太の台詞の様にケロッと表情を変え、上条へ何をしてもらうか考える乙女の顔になった。 上条は本気で泣いてるんだと思ったから、無理な要求でも呑んで美琴を泣き止ませようとしたのだが、美琴はその上条を狙い打った。 ここは美琴の勝ちだろう。彼女は上条の事を詳しくしっていたし、上条は彼女の事を知らなすぎた。「じゃあまず抱っこ。抱っこして?」「えっと…美琴さん? 上条さんは見ての通り骨折してるんですが、その痛みに耐えて抱っこしろと?」「アンタはそのままベットに腰掛けてればいいわ。私が勝手に乗っかるから」「なんですと? って、うぉ――」「えへへー」 美琴は上条の上に跨ってきた。2人の顔は急接近し、唇が時々当たるくらい近かった。 そんな状態の上条は顔を真っ赤にし、少し背を仰け反った。しかし美琴はそれを許さない。 上条の首に腕を絡めて、顔をまた自分の目の前に持ってきてホールドする。 美琴は上半身はエプロンだけだったので肌を直接触る事になる上条の右手は、行き場を無くしバタバタしていた。「手は肩に」「は、はいぃぃぃ!? そ、それはさすがに…」「即実施」「そ、そうでしたネ」「…んっ」「へ、変な声出すなよ…」「だっ、だって…そんな優しく触るからぁ…」「……ぁ、は」 上条は、上条は、上条は、もうどうしたのか? どうしたものか? ちなみに言っておくと理性の壁はとっくの大昔に全壊され、本能と書かれた覆面部隊が脳内の操縦室に攻め込んできている。 壁をなくした理性部隊は迎撃するが、数が圧倒的で間違いなく占拠されるのは時間の問題だった。 上条はそんな自分から湧き出る欲望に耐えてるのか、上を向いてぷるぷると震えていた。 しかし――「…ん。…っちゅ、れろ…」「…!? お、おまえ…なにをっ……んっ」 美琴は上条の首筋にキスをすると優しく舐めた。 上条はその行為に大変驚き美琴に目を向ける。しかしそこには唇が待ち構えており、上条はそれを奪われた。 その瞬間、本能の覆面兵士が、冠を被った理性覆面の偉そうな奴をぶっ飛ばして、 「上条」と表札が掛けられていた脳のドアを蹴破り、上条当麻コントロールルームに入っていった。「…はぁ、えへ……ん?」「コォォォォォォォォォォォォ……」「ど、どう…したの?」「み、みことォォォ……」「な、なに…?」「責任は、取らせていただきます」「はぇ?――――」 上条当麻の理性の壁、3日目の夜に完全崩壊。 夕方に部屋に戻った上条だが、その日の夕食を取る事は無かった。 あ。いや、まぁその…夕食は取った。 春休み5日目。 上条当麻は目を覚ました。目覚まし時計の音で。 何故なら今日は補習がある。とても面倒臭いが春休みに2日だけの補習で済んだ上条だったので、今日行けばもう終わりだ。 上条は頑張って体を起こし朝食を取って部屋を後にした。 ちなみに朝美琴は部屋にいない。 今日は3日目の夜無断外泊したので、ルームメイトの白井黒子のご機嫌取りをしないといけないらしく、夕方にならないと来れないらしい。 学校では土御門、青ピと共に補習を受けたが、いつもと変わらない光景に上条は安堵した。 そんなこんなで上条は土御門に連れられ部屋に帰ってきた。まだ美琴は来ていないようだ。 上条は玄関まででいいと土御門を帰すと松葉杖を使ってベットまで行くとそのまま倒れ込んだ。 学校で補習があったからか、または普段の疲れが溜まっていたのか、上条はそのまま寝入ってしまった。 そして暫くすると玄関のドアが開く音が聞こえて上条は目を覚ます。 部屋に入ってきたのはスーパーの袋を持った御坂美琴だった。「たっだいまー」「……ん? おぉ、美琴…おかえり……」「あれ、寝てたの? そのまま寝ててよかったのに。寝顔拝見したかったし」「あー、うん。でも悪いし…米くらい洗うよ」「だめよ。立ってるのもつらいんだから。そのまま寝てて」「……お世話かけます。美琴さん」 上条のその言葉を聞くと、美琴は上条の前に歩み寄って来て、顔をまじまじと見た。 突然の事で上条は少し驚いたが、何か言う前に美琴が笑って上条の頬に手を置いた。「うん、もう大丈夫みたいね」「なにが…」「なにって…昨日アンタやばかったわよ? さすがにあの状態のアンタは手を焼いたわ」「う…そ、それはもう忘れてください……マジで黒歴史なので」「あはは。まぁそれだけ私と離れたく無かったって事だしね」「うぅ…」 昨日というのは4日目。つまりは上条当麻の理性が崩壊した翌日にあたる日なのだが。 4日目の朝、上条はいい匂いで目を覚ます。 隣を見ると誰もいないが、台所で美琴が料理をしているようだ。 可愛いエプロンをつけて鼻歌を奏でて。「ん…おはよう、美琴ぉ…今日は早いんだな」 上条の声に美琴はビクッとして上条を見る。 その顔は瞬く間に真っ赤になり、小さくおはようと言うと俯いてしまう。 上条はそんな美琴を見て首を傾げたが、特に気にする事もなくベットから出ようとした。 右足、右手を駆使し起き上がる…が、そこで何やら違和感を覚える。「…あれ? 俺何も着てない……?」 上条は裸だった。何やらおかしい。足にはギブスを包帯で巻かれているので、簡単には脱げないはずだ。 では何故裸か? 答えは簡単で、自分が気付かないうちに自分が脱いだのだろう。 この部屋には帰って来たら鍵を掛けたし、中には自分と美琴しかいないはずだ。 さすがに美琴が自分に気付かれずに全てを脱がすのは不可能だろう。 では何故脱いだか? 着替える途中で力尽きたとか? うーん… そんな事を考えていると、上条は部屋の異変に気付く。 やたらと丸めてあるティッシュが散乱している。上条や美琴だけでこんなに鼻をかんだのか? 上条はちゃんとゴミ箱に捨てろよと思っていると、ベランダに何かが干されているのでそれに目をやった。「短…パン? こんなの俺持ってない…し、誰の……短パン…短、パン?」 上条は床に置いてあったトランクスを穿くと、シャツも拾って着た。 そこに美琴がご飯を持ってきてくれて、上条はテーブルにつく。 美琴の格好は昨日と同じエプロン姿だが、他に着ているようには見えなかった。 上条はまだその格好してるのかよと溜息を吐いたが、美琴が台所に戻る後ろ姿を見ると昨日とは何かが違った。「………ない」 美琴は正に純正裸エプロン姿だった。ベランダのアレは美琴ののようだ。 上条はその後ろ姿に呆気に取られていると、昨日の事を思い出すように頭に手を置いた。 そして、全てをフラッシュバックさせる。 フラッシュバックと言っても記憶が無いので、昨日の最後の記憶なのだが。 その記憶とは、確か自分の手で…美琴の着ていたエプロンを、引き剥がし―――「だああああああああああああああああああああっ!!!!!」 上条は吼えた。もう大声で。近所の迷惑など考えずに。 その咆哮に美琴は驚愕し、上条の前に走って来た。「ちょ、ちょっと! ど、どうしたのよアンタ!? 何があったの!?」「み、美琴…」「ど、どうしたの…?」「み…美琴、正直に答えてくれ。嘘なんかいらない。回りくどい言い方もいらない」「う、うん…」 上条は美琴の両肩に手を置き、真剣に向き合った。左腕の痛みなど忘れて。 そして上条は深呼吸を一回大きくすると美琴に言い放った。「俺、美琴に手を出したのか?」 その言葉に美琴は頭から湯気を出すほど赤くなって俯いてしまったが、小さく「うん…」と言って頷いた。「そ、その…どこまで手を出した? 俺の記憶が正しければ、おまえのその可愛いエプロンを引ん剥いたところまでなんですが…」「……どこまでって…、その、さ……最後、まで…」「……………最後、だと」 上条は美琴の肩に置いてあった手を下ろした。 美琴は真っ赤になって俯きながらも、上条の方を上目使いでチラチラと見ながら更なる事を言い出した。「わ、私はちゃんと止めたんだよ? 前夜まで取っておくんじゃないの、って。で、でもアンタは『もう我慢できません』だとか」「…」「『美琴ちゃんは俺の事嫌いなの?』とか」「…」「『おまえの全てが欲しい』…と、とか言うから……」「…あは、」 上条はもう笑うしかなかった。そしてとりあえず美琴に服を着せると彼女の前で土下座した。 足なんか、骨折なんか痛くなかった。「本当に申し訳ありませんでした」「い、いいわよ。…そ、その…嬉しかったし……えへへ」「こうなった以上は、この上条当麻、一生を掛けて御坂美琴さんを守り抜いて行くと誓―――」「そんなんじゃ、嫌」「は、はい? い、嫌…とは?」「そ、その……し、しちゃったから一緒にいるとか、そんなのじゃ嫌」「そ、そんな軽い気持ちではないです! 上条さんは美琴さんをこれ以上ないくらいに!」「じゃあ…ちゃんとプロポーズしてよ」「わ、わかった…」 そして上条は今自分が考えられる精一杯の好意を持って、美琴にプロポーズした。 美琴は上条のプロポーズに満面の笑みを浮かべ、泣きながら誓いのキスをした。 その後美琴は上条に泣き止むまで胸を借りていたが、やがて笑いながら言った。「恋人の告白の前に結婚のプロポーズだなんて、アンタほんとにバカなんだから」 そんな事があって取った朝食。 美琴はいつものように上条の右手を取って自分で食べさせているが、今日は上条の方が違った。 今朝は上条から美琴の手を握り、食べさせてほしいを言い出したので。 美琴は上条の変わり様に少し戸惑ったが、嬉しい事だったので否定しなかった。 しかし、今日この後の上条を考えると、ここで少し間を取った方がよかったのかもしれない。 それは何故か。つまり上条は完全なる美琴の虜になり一生を誓ったために、離れたくない精神が特化されすぎたのだ。「み、美琴? ど、どこ行くんだ?」「どこって…醤油切れたから新しいの入れてくるだけよ」「ま、待って! お、俺も一緒に…」「はぁ!? あ、アンタね! すぐそこの台所だっつの! そんなんでいちいち動かなくていいわよ!」「そ、そんな…俺を…俺を置いて醤油の所に行くってのか! 俺より醤油が大切なのか!」「な、なななななに言ってるのよ!? あ、アンタ大丈夫? ホントにすぐ帰ってくるからここにいなさいよ」「ほ、ほんとすぐだぞ! 待ってるからな!」「はいはい、ったく…」 というやり取りを事あるごとに繰り返し、美琴の春休み4日目は相当に疲れた。 だから夜、今日は帰らなくちゃと言った途端に上条が泣いて引き止めた時には溜息まで吐いた。 でもさすがに2日連続無断外泊はまずいと言ったが上条は引き下がらない。 そんな上条に明日から来れなくなっちゃうかもと言ったら、上条は泣きやんで帰してくれたのだ。 そんな4日目の出来事を美琴は上条に話していた。「も、もうその辺りで勘弁してください。昨日は周りが見えてなかったというか、何というか…」「離したくないっていうのは嬉しいけど、正直アレは勘弁してほしいわね。もっと普通にお願い」「か、かしこまりました」「じゃあ責任取るって言ったんだから、ちゃんと言えるわよね? …はい」「…? カエルの携帯、これ…おまえのじゃないか。どうするんだよ、これ」「画面見てみて」「?」 そう言われて上条は美琴の携帯の待ち受けを見る。 …とそこには「Phone Call」と書かれており、その下に「父」と名前が出ていた。「ぶぅぅぅぅ!! み、美琴さんんんんん!!???? こ、これはいきなりハードル高すぎやしませんかね!? ま、まずは美鈴さん辺りが妥当と言うか!」「いつかは言うんだからいいじゃない♪ ちゃんと言ってよね♪」「は、初めて会話する上に娘さんを下さいなんて…と、とても上条さんのガラスの心では言え――」『―――ブッ、…もしもし? 美琴か? 珍しいな、何かあったのか?』「あ…」 上条当麻と御坂美琴の春休み。5日目終了。上条はこの日だけで一生分の大半を占める冷や汗をかいたそうだ。
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帰ってきた生活 戦争が終わってしばらくたった。この日、上条当麻と土御門元春は久しぶりの学校への登校になる。上条は戦争の怪我が原因でお馴染みの病院に入院し、本当はもう少し早く退院できたのだがカエル顔の医者が「君ってやっぱりナース属性?」と意味のわからない事を発して特別(?)に一週間入院生活の延長を余儀なくされた。一方の土御門は戦争の処理などが縦続きにあったので学園都市に戻ってきたのが上条が退院した日。クラスメートに何も言わず二人揃って学校に来なくなったのでみんなに何を言われるか恐ろしかった。土御門はそんなことは心配してないが。二人揃って教室のドアを開けると見慣れた連中がいた。クラスの何人かは一斉にドアのほうを振り向き、上条と土御門だとわかった途端、「なあんだ、上条と土御門かよ・・・」と別にどうでもいいような声が四方から聞こえた。「くそ、久しぶりのご対面だってのにこのリアクションかよ。冷たいにも程があるぞ」「俺はどうでもいいんだがほれカミやん、そんなことはないみたいぜよ」教室の隅を見ると上条の机の周りには女子が何人かいて、一人が座り、その後にまた一人が座るのを繰り返していた。その中には姫神の姿もあった。「あいつら何やってんだ?」「気付かないカミやんには絶対教えてあげないぜよ。とにかく寂しかったヤツもいたって事だぜい」上条と土御門の存在に気付いた女子達は慌てて自分の席に戻り、「上条くん、久しぶり」と懸命なアピールをしてきたが鈍感大王の上条なのでわかるわけがない。「げっ・・・なんだこれ・・・」自分の席に着くと同時に上条は呟いた。自分の机に花が飾ってあった。小さな花瓶に菊が一本入れられた物がぽつんと置いてあった。死人扱いされていたと察し、先程の薄い反応は何だったのかと上条はふつふつと怒りがこみ上げて来た。「お前ら!!勝手に俺を死人扱いするんじゃねえ!!上条さんが可哀相すぎるだろ!!」「カミやん、何日も休んでたからご愛敬ってヤツやで。それくらいわかってくれ」「青髪!さてはお前の仕業だな!」「んなことありまへん。ワシはデルタフォースの二人が急に学校来なくなってしもうてからずっと一人で寂しかったんやで~。クラスのみんなからは無視されるし、小さいお友達も全く相手にしてくれへんかったんや!」「最後のほう凄く気になるんですが・・・」「とは言っても久しぶりの学校は落ち着くにゃ~。小萌先生の補習があるのは覚悟しとかないといけないぜよカミやん」「カミやん、土御門クン!ワシは二人だけで小萌先生の補習を受けられるのが気にくわなかったから三人で受ける事になったで」「学校に来ていた人間がどうして補習を受けるハメになってんだ?」「決まっているやないか!小萌先生に怒られて、絶対一日で終わらせる事ができないくらいの宿題の山、もちろん宿題なんかには手をつけず翌日再び小萌先生から怒られる。それをずっと繰り返しを続けていたんや」「青髪の将来より今が不安だよ・・・」「はーいみなさん、朝のホームルーム始めますよー!」チャイムが鳴って入ってきたのは担任のどこからどう見ても小学生の月詠小萌先生。小萌は上条と土御門を見るや否や、「補習は覚悟していてくださいよバカ野郎共」と吐き捨て淡々と連絡事項を話し始めた。どうやら何日も無断欠席して相当お怒りのようだ。眠くなるような朝のホームルーム。上条はここでやっと学園都市に戻って来れたんだと思い感動に浸っていた。「以上でホームルームは終わりますがみなさん何かありますかー?」小萌の呼びかけに普段は誰も手を挙げずこれから一限目の準備をする所だ。だがここで一人の生徒が動いた。「はいは~い!俺からみんなに伝えたい事があるぜよ」挙手して声をあげたのは上条の隣の席の土御門。「どうしましたか土御門ちゃん」「みんな、スパっと言うから驚くタイミングを失うなぜよ」「もったいぶらないでさっさと言え。授業が始まるだろ!」吹寄が声を荒げてこちらを睨みつけてきた。これ以上溜めると土御門に「おでこDX」が炸裂すると誰もが思っていた。上条は土御門の事だからみんなでどこか遊びに行こうとでも言うんだろと考えていたが上条ですら予想できなかった事を土御門は言い放った。「カミやんに彼女ができたにゃ~」「はっ?????」教室は一瞬にして暴徒と化した。 ☆御坂美琴は上条を追うため無断でロシアに渡り、学園都市に戻った後には厳しいお仕置きが待っていた。帰国後すぐに寮監に呼び出され、「御坂、お前は重大な過ちを犯した事がわかるか?」「・・・・・・・・・・・・はい」「何日も無断外泊するとは常盤台のお手本になるお前がそんな事をしよって。白井に問い詰めても知らないの一点張りだった。本当に知らなかったみたいだがな。規則を破った人間には厳しい罰が待っているのはお前も知っているだろう?」「・・・・・・・・・・・・はい」どうやら表では美琴がロシアに行っていた事は知られておらず、ただ無断外泊したという事として済まされていた。そうじゃなかったら今頃どこに拘束されているのかわからないだろうと美琴自信も思ったのでここは上手く話を合わせる事にした。寮の罰は美琴からすればなんてことない、一ヶ月間土日にあすなろ園にボランティアに行くとの事だった。平日は時間が作れるので好きな事ができる。なので美琴は「あの馬鹿」を探しに行こうとしていたのだが白井のストーキングによってそれはできなかった。そんな日々が続きある日のこと、上条が久しぶりに学校へ行った日の放課後、久しぶりに白井と初春と佐天と遊ぶことができた。誘って来たのは初春と佐天。二人といつものファミレスで待ち合わせして合流した。「御坂さん、急にいなくなるなんてひどいですよ~。御坂さんが見つからない間白井さんの様子なんかもうひどかったんですからね!」「ごめんなさい・・・どうりで黒子はあんな行動をとる訳だ」「ところで御坂さん、一体どこに行ってたんです?」「えっ?別にどこにも・・・黒子が寝込みを襲って来るからそれが鬱陶しくてしばらくぶら~っと」「お姉様・・・・」「いや!違いますね!!」珍しく初春がはきはきとした口調で美琴に口撃した。「先日の戦争はロシアが中心になりましたね。みなさんもテレビで知っているハズです。風紀委員として色々調べたのですが一つみなさんが食いつくネタが・・・」ノートパソコンを取り出してカタカタとキーボードを打ち込み、しばらくしてディスプレイをみんなが見えるように移動させた。初春が見せたのは荒れ果てた地が写された一枚の写真だった。恐らく上空から撮られたものだ。「初春、これがどうしたの?」「待ってくださいね。ここをズームしてっと」画面をクリックして拡大すると一人の少女が立っていた。カエルのデザインが施された携帯電話を耳に当てて不機嫌な顔をしているのがはっきりしていた。「ええ!!これ御坂さん!?」「お姉様ですわよね・・・・」「・・・・・・・・・・・・」やばい。美琴は即座に感づいた。初春が知っているということは学園都市にいる人全員が知っているかもしれない。自分が戦争の中にいたことが。美琴の顔が急に青ざめ汗をかいているのがわかった。「御坂さん、どうして御坂さんがロシアにいたかは聞きませんよ。恐らく戦争が終わったのも御坂さんの力があったんだと思ってます。警備員に協力して尋問している訳ではないですから安心してください」初春はいつもの口調で優しく美琴に返した。「初春さん・・・・」「御坂さんが写っている画像は色々大変な事になりそうかと思って全て削除しました。多分御坂さんがロシアにいたという証拠は私が消しきれたハズです。大丈夫、御坂さんに何か起こる事なんかありません!」「・・・・・・・・ありがとう」「いえいえ、でのこれは私達だけの秘密ですよ?佐天さんも白井さんもわかりましたか?」「「・・・・・・・了解(ですの)」」「さてさて、この話はここまでにして・・・」珍しく初春が会話を支配している事に3人は驚きだったが美琴の暗い空気を払拭するには充分な気の使いようだった。だが「実はもう一枚写真あるんです。ちなみに御坂さんが写っていた写真は消しましたが私のパソコンにはまだ残してあるんです。こっちがメインですけどね~」初春は違う写真を見せて来た。全身ボロボロになったツンツン頭の少年に大泣きしながら抱きついている美琴が写されていた。「御坂さん、この男性はどなたですか?」この瞬間美琴の反応より白井の反応を見たほうがよくわかった。「あんの類人猿めがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」 ☆「どういう事か教えてもらおう上条当麻!!」「カミやん!彼女ができたなんて嘘だよな?せやろ?そうと言って~!」「え~と、教えるし嘘でもありません。土御門の言うとおりでございます・・・」上条の言葉を聞いた瞬間、クラスの女子(吹寄以外)は顔を塞いで泣いてしまい、男子は土御門以外ワナワナと顔を怒りの表情に変えていた。「やっぱりどこまで行ってもカミやんは不幸だにゃー」クラス全員に怒りの目で睨みつけられている上条を見てケタケタと土御門は笑った。「何でここで言うんだよ!!そもそも何故お前が知っている!?」「前に言わなかったかにゃ?俺はカミやんの事なら何でも知っているぜよ」「まあ、お前も戦争に関与していたからな・・・」顔を近づけて周りに聞こえないように話していたが、「ここまで言ったのなら聞こう。相手は誰だ!」クラスで唯一冷静でいる吹寄が一番のポイントを聞いてきた。「カミやん、もう全て吐いてしまえにゃ~」「相手は・・・・・・・・御坂美琴です。常盤台の・・・・」「御坂美琴?まさか上条・・・レベル5の?」「・・・・・・・・・・・・はい」「超電磁砲?」「・・・・・・・・・・・・はい」「ブチ殺し確定!!!!!!!!!!!!!!!!」クラスメイト全員が上条に飛びかかった。「ちょっと!少しでも祝福する気持ちはないのかお前ら!!」「貴様に祝福する気持ちなど一切ない!!今まで色んな女を弄びやがって、許せん上条当麻!!」「そうよ!色んな女の子をその気にさせといて自分はスルー!?そして結局はお嬢様と付き合うなんて神経がどうにかしてるわよ!!」「ちょっと待て!君は誰だ!」「クラスメートよ!!ふん!私なんて所詮その程度の人間だったのね!全世界の女性に謝れ!!」「カミやん!ワシはカミやんのフラグ体質が羨ましいと思っていたがそれは間違いやった!女を敵に回すと怖いという事がカミやんでよくわかったで!!」「とか言いながらその凶器は何ですか!!それで殴ったら上条さんひとたまりもありませんよ!?」「上条くん」「姫神!?頼む助けてくれ!!」「この魔法のステッキでお仕置きを・・・」「・・・・ふ」「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」「不幸だ――――――!!!!!!!!」 ☆抱きついた写真を初春に見せられた美琴はあうあうと言葉を返す余裕が全くない状態になっていた。初春と佐天はニヤニヤしながら美琴の反応を楽しんでいたが白井だけは「類人猿、類人猿めぇぇぇぇ」と唸っていた。この状況が数分続き痺れを切らした初春が淡々と憶測を話し出した。「これはあくまでも推測ですが最初の写真、御坂さんは電話をかけていますね。でも相手が電話に出ないからこんなイライラした顔をしています。ロシアで電話をかけるとしたら現地にいる人としか思えません。そして泣きながらこの男性に抱きついている写真、きっと連絡がつかなくてやっと会えた方でしょう。恐らく電話をかけた相手はこの方ですね。わざわざロシアまで探しに行ってこの男性がボロボロになっていて、どこか感情の抑えが効かなくなりついこんな行動をしてしまった。恐らく御坂さんの意中の人・・・・どうですか御坂さん?私の推理は!」「・・・・・・・・・うぅ」全くもってその通りだった。しかしこんな恥ずかしい写真を誰が撮ったのか検討もつかなかったし美琴がロシアにいた事もバレバレだった。でも学園都市の上層部は妹達の事を知っている。もしかして風紀委員の初春と白井は戦争に関わっていた妹達を知っているかもしれない。何故か美琴の脳はこのように解釈してシラを切ろうとした。「知らないなぁ・・・私はそんなヤツとロシアで会ってないし」「ふふふ、御坂さん。もうネタは全部上がっているんです。上条当麻さんでしたっけ?この人の名前」「ふにゃ!!何故アイツの名前を!」「白井さん、今日の初春凄い黒いですが・・・」「あの状態の初春は誰にも止められませんの。お姉様も腹を割って全て白状するべきですわ」「さて、写真の他にもこんな物まであったんです。ちょっと待ってくださいね」初春は再びパソコンを操作し、今度は先程よりも早く作業が終わった。「これでよし。再生です!!」「「「再生!?」」」初春が次に出したのは何かの音声。しかしこれで全員絶句することになった。『やっっっっっと見つけた!!』『御坂!?何でお前がここに!?』『・・・・ぐす、ひぐ・・・』『おい、御坂?どうしたんだ?』『うわあぁん!!!もうアンタが死んでるかと思った。ホントによかった・・・』『え?御坂さん何故ここで抱きつくんですか?』『好きな男の命を心配して目の前で確認できて安心したから。これが理由じゃダメ?』『んな!好きだと!?』『好きになるなんて人の勝手じゃん。先に言っておくけど、絶対離さないから』『この腕は離してもらいたいんですが・・・周りのみんな見てるし上条さんは恥ずかしいです』『今まで私はずっと我慢していたのよ。離す訳ないじゃない』『・・・無理だ』『無理って何よ!!私の事嫌いなの?いつも電撃飛ばすから?お願い嫌いにはならないで!!』『違う、自分の感情をセーブするのは無理って意味だ。こんな抱きつかれちゃ、セーブなんてできねえよ』『それって・・・私の事・・・』『ああ、御坂が嫌じゃないなら俺は御坂と一緒にいるよ。言っておくけど俺は離さないぞ?』『学園都市に戻ったら真っ先に私と会うんだからね?』『そうか・・・御坂よりも・・・カエル医者に・・先に会いそうだ・・・・』『ちょっと!アンタ!!しっかりして!!起きなさい!』「・・・・・何これ!!!!最後の何?どうなったの?音だけじゃわかんないよ初春!」「多分上条さんは怪我がひどくて倒れたと思います。御坂さんと抱き合った状態で・・・」「きいいいいいい!!!!お姉様が自らあの類人猿と抱擁を!!」「あうあう・・・」「また推理するとやっと思い人に会えてしかもその時相手は怪我でボロボロ。御坂さんはそれを見てどこか緊張の糸が切れてしまい泣きながら抱きついた。この会話を聞く限りどうみてもお互い告白してます。どうですか御坂さん?」「う~・・・」「御坂さん!隠す必要ないじゃないですか!彼も無事だったしそれで二人は結ばれてハッピーエンドなのに!!白井さんはともかく私と初春にだけは教えてくれても!」「それはどういう事ですの佐天さん?」「それは自分の胸に聞いてみてください。いや~学園都市最強のカップル誕生ですか~」佐天のカップルという単語に美琴はビクっと反応してしばし俯いた。逃げようにも座っている場所が奥で隣に白井がいるのでなおさらだった。隣にだれがいようとも変わらないのだが。「御坂さん、学園都市に戻ってから上条さんに会いましたか?」「・・・・知らない」「じゃあ今連絡しましょうよ!電話でもメールでもどっちでもいいですから」珍しく美琴は素直に話を聞いて携帯を開き、電話をかけたが20コールしても出ないので諦めて呼び出しを切った。悲しそうな顔をしていたので誰もが理解した。「出ないですか・・・ならメール送りましょう!」「え!無理無理!それに何て送ればいいかわかんないし」「大丈夫!何なら私がメール送ってやりますから。携帯貸してください!」「あっ!ちょっと!!」佐天は奪うように美琴の携帯を手に取った。佐天の隣に座っていた初春は佐天が操作している画面を見るとニヤっとした。その不適な笑みを見て不安になった美琴は慌てて携帯を奪い返そうとしたが初春がそれを防いだ。「ちょっと!やっぱり返して!」「心配しないでください。変な内容じゃないですから」佐天から携帯を守った初春は美琴の思考を停止させる事を思いついた。「御坂さんは上条さんのどこが好きなんですか?」「・・・・・」「あはは、御坂さん顔赤~い」「な、何よ!からかわないで!」「いやいや御坂さん上条さんの事考えるだけでこんなになっちゃうなんて・・・これは上条さんもメロメロになるでしょうね~」「アイツが・・・・私に・・・メロメロ・・・」「そうです!その子猫みたいなウルウルした瞳で見つめられたら一発KOです!正直私もやばいですよ」「初春、何下品な事を・・・」「嘘だと思うなら白井さんも今の御坂さんを見てください」「いくらお姉様でも・・・ぬぐぉ!!おねえだばあああああ!!!」「よし!このくらいでOKだよ初春」突然美琴の携帯を持っていた佐天が声を出し、美琴には全くわからなかった。一体何がOKなんだろうと。「これで送信・・・と。送信完了!」「なんて送ったの!?」「今悶えていた御坂さんをムービーに撮ってそれを上条さんに送ったんです」「もう・・・・・・ひどい・・・・ふにゃ」 ☆その頃クラスメイトからの尋問と拷問を受けきった上条はとぼとぼと寮に帰っていた。今日学校で起きた事といえば御坂美琴と付き合い始めたとクラスメイトにバラされ散々追い回された授業中窓側の一番後ろの席なのにあちこちから消しゴムのカスが飛ばされてきた体育では巨乳教師から「今まで学校サボってたからその分グラウンド走れじゃん」とみんながサッカーをしている間ずっと走らされた。何故か土御門はいなかった昼休みは購買部に走り込んだが既におにぎりすら完売していて食事にありつけなかった自習時間には授業そっちのけでクラスメイトから尋問を受けた気持ちが落ち込んでいるのは言うまでもない。この気持ちをどうにかして何かにぶつけたい、忘れたいと考え、即座に思いついたのが美琴と会うこと。付き合い始めたなら気にせずに会えるから連絡してみようと思い、携帯を開いた。着信1件、メール1件と表示されており、相手は美琴だった。それを見て上条は嬉しくなった。そしてメールを見たのだが「何だこれ・・・」ムービーが貼り付けられており動画の中は周りが美琴にギャーギャー話しかけており、美琴は終始顔を真っ赤にして困ったような様子だった。「まあ電話くれてたしかけ直すか・・・」得に気にしない。何故なら上条当麻だから。上条はリダイヤルでカーソルを美琴に合わせ、美琴に発信した。「わっ!御坂さん今になって上条さんから電話が来ましたよ」まだ美琴の携帯を手に持っていた佐天はバイブレータに驚きたまらず声をあげた。普通ならそのまま美琴に渡すのだが何を考えたのか、慌てていた事もあって勝手に出てしまった。「も、もしもし!!」「ちょっ!佐天さん返してよ!」当然美琴は携帯を奪おうと行動するが佐天は逃げて携帯の難を逃れた。佐天もこんな事するつもりではなかったのだが本能で動いたと言った方がいいのかもしれない。『え~っと、御坂じゃないですよね?』電話越しから上条が質問した。当然のことだろう。「は、はい!私御坂さんの友人やらせてもらってます!佐天涙子といいます!みみ御坂さんは目の前で顔を真っ赤にしてあうあう何か呟いてます!!」『あうあう?どうかしたのか?』「はい。一連の上条さんとの事を追求していたらこんなになっちゃって」『あう・・・・』「同じ反応しないでくださいよ!んで、上条さんはどんな用事で御坂さんに電話を?」『話聞いてわかっているクセに変な事聞かないでください・・・これから会えるかと思いまして・・・』「あら、気が利かない質問してすみません。御坂さ~ん、これから上条さんがデートしたいって言ってますよ~」『あの、佐天さん。奥からバチバチ聞こえるのは気のせいでせうか?』「気のせいではないです。御坂さんが凄い鳴らしてます」『それ以上ひどく鳴らさないようにしてくれ。君たちの他の人までもが被害に会いかねないから』「・・・・・・・・気をつけます」『じゃあ御坂に公園で待ってると伝えてくれないか?』「え~!上条さんがこっちに来てくれればいいのに~」佐天の言葉に美琴は「私が行く~!!!!!」と大きい声で吠え、猛ダッシュでファミレスを出た。どうやら美琴にはしっかり会話の内容が聞こえていたらしい。「御坂さん飛び出して行きましたよ。どうやらよっぽど会いたかったみたいですね」『それは嬉しい事なんですが、佐天さんが使っている携帯、御坂のだろ?』「あっ・・・・・・・・・・・」『はぁ、悪いが御坂を追いかけてくれないか?』「すみません!!すぐ追いかけます!」慌てて通話を切った佐天はニヤっと不適な笑みを浮かべて初春と白井に告げた。「二人とも!さっきの写真や音声より面白い物が見れるわよ!」上条の立場は相変わらずで、美琴には上条性質が加わったようだ。
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「ははっ…これは流石に驚いたよ、 レベル5決定だな…」 「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」」」」」 全員文句無しッ!!今夜は宴が決定付けられた。 「…えー、本当ですか…?」 「にゃーに言ってんだにゃー!!レベル5だぜい?八人目だぜい?すっごいにゃー!!」 「そうだよ白雪さん!!私なんか自分がレベル5になった時と同じ気持ちだよ!?」 「そうですわよ!!お姉様と同等の能力を持っているんですよ!?」 「…実感無いよー…面白かったけど」 「にゃー月夜が放心状態だにゃー。」 「当麻に知らせよっと」 そう言って美琴は当麻に連絡した。 『美琴、いきなり何でせうか?』 「白雪さんのレベルが判明したから連絡したの」 『そうなのか。結果はどうだったんでせうか?』 「8人目のレベル5になったんだよ」 『まじですか! スゲー!』 「あ、あとこれみんなに教えといてね」 『分かった……と言いたいけど今はムリです』 「どうして?」 『美琴は分かっていると思うけど、今アクセラと一緒にクラスのみんなを制裁している所なんで』 「そうだったね。じゃあアクセラだけにも言っといて」 『分かった。じゃあな美琴』 そう言って美琴は電話を切った。 「さてと、ってあれ?」 美琴は電話が終わって周りを見ると土御門と黒子も電話していた。 少し経つと、土御門と黒子は電話をするのを止めた。 「みんな、誰に電話してたの?」 「オレは浜面に電話してたにゃー」 「わたくしは○○様に電話していましたの」 どうやら2人とも白雪がレベル5になったことを知らせていたのだ。 そのころ、電話を切った後の上条は… 「アクセラ、白雪がレベル5になったらしいぞ」 「まじかよォ!!あの雪女がかァ、で何位なンだァ?」 「そこまで分からない。多分4位から5位の間じゃねーか」 「その辺りだよなァ。だって瞬時に凍らせるンだろォ?下手するとオメーの彼女より強いかもしれねェぞォ!!」 「そうかもしれないな。そんなことよりアクセラ、こんなアホなことは止めて白雪の為に宴を開かないか?」 「賛成だなァ。じゃあクソガキ達にも連絡しておくかァ」 上条とアクセラは制裁を止め、白雪の宴をすることになった。 またアクセラは、打ち止め達に連絡するのだった。 プル 「もしもし?てミサカはミサカは電話に出てみる」 「はェーなオイ。ンで、元気にしてるかァ?」 「もちろんだよ。遊んでもらってたしってミサカはミサカは報告してみる」 「そーか。ところで、あの白雪っているだろォ?そいつが無事Level5に昇格したんだとよォ」 「おお!てミサカはミサカは素で驚いてみる」 「ンで、そのお祝いをやるそうなのだが・・・」 「いくいくー!てミサカはミサカは大声出してみる!」 「バカッ耳が痛ェだろォーがァ!」 「それじゃ、後で行くねーってミサカはミサカは電話を切ろうとしてみたり」 「場所とかは分かンのかァ?」 「忘れたの?あなたと私は電波(赤い糸)でつながってるんだよ?場所くらい分かるよ」 「それじゃァあとでなァ」 プチ 切り終わったと同時に土御門からメールが・・・ 『みなしゃん!マイハニー月夜の順位がだいたい決まったにゃー 先生方の予想では6位だって言ってるにゃー でも実際、垣根と麦野の分が繰り上がって 実質的な4位だそうだにゃー』 「だとよォ」 「考えてみればすげぇな 俺らの周りだけで・・・ level5・・・3人 level4・・・滝壺も含めて2人 level2~level3一万人を動かせるガキ・・・1人 幻想殺し・・・オレ level5を倒したlevel0・・・1人 大陰陽師・・・1人 守備範囲の広いただの男・・・1人 もいるんだぜ?」 「そうだなァ。このメンバーなら小せェ国ひとつ壊せるぞォ?」 「だな」 冗談半分の世間話?をしながら歩いていると前から・・・ 「ハァ、ハァ、こ、ここまで来れば……ゲッ、上条に一方通行!」 そこに現れたのは当麻と一方通行から逃げていた情報屋こと紫木友で実は彼、当麻をシメる会の最後の生き残りなのだ。 (ま、まずい! ここで下手な動きをしたら確実に死ぬ! どうする? どうやってこの危機的状況を……) 「な、なあ情報屋。別に俺達もう怒ってねえからさ、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ」 「(俺は別に怒ってもいねェンだけどなァ)オラ、もう行けよ。俺はともかく上条の気が変わらねェうちによォ」 当麻と一方通行の二人に見逃してもらえることになった情報屋は自分の幸運っぷりを神に感謝した。 しかし当麻達の後ろから歩いてくる二人を見るや否や、謝罪の言葉を並べまくりながら猛ダッシュで逃げて行ってしまう。 「……アクセラ、お前何かしたのか?」 「いや、何もしてねェぞ」 「当麻お兄ちゃーん、一方通行さーん。こんにちはー♪」 (*1) 情報屋が逃げた理由、それは前日に彼の心に恐怖を刻み付けた初春と神裂の姿を確認したからだ。 当麻と一方通行はその事情を当然知らないが、最近の初春を知っているので何となく納得してしまった。 「こうして会うのはクリスマス以来ですね。お久しぶりです二人とも。それにしても今日は災難でしたね」 「災難って……もしかして二人とも、俺のピンチを知ってたのか?」 「はい。滝壺さんから連絡をもらって力になって欲しいと。今頃は最愛さんも頑張ってると思います。こっちも火織お姉ちゃんがお仕置きしてくれました」 「安心して下さい上条当麻。七閃は使いましたが、加減はしておいたので斬ってはいません。飾利にもきつく言われましたから」 当麻は神裂の七閃の脅威を身を以って味わってるだけに、彼女の言葉にやや不安を感じているがそれ以上に二人のお互いの呼び名が気になっていた。 それは一方通行も同じなのだが、初春がすっかり苦手になった彼にはそれを指摘する勇気など無かった。 「ああ、そういやあ白雪のやつがさシステムスキャンの結果、8人目のレベル5になったんだ」 「本当ですか? それって凄いことじゃないですか!」 「土御門の恋人ですね。なるほど、それは心強いです。これで土御門も少しは大人しくなってくれるでしょう」 「それでさ、今日の夕方から白雪レベル5記念パーティーを開こうって思うんだけど二人もどうだ? 最愛や涙子、それに他の天草式メンバーも一緒に」 月夜のレベル5到達に初春は純粋に喜び、神裂は土御門の抑止力がさらに強くなったことを喜んだ。 当麻はこの二人もパーティーに誘ったのだが、返って来たのは意外な返答だった。 「ごめんなさい。今日、こっちも大事な約束があってその時間に行けそうにないんです。私と火織お姉ちゃん、それに天草式学園都市支部の皆さんは」 「約束があるんならしょうがないな。じゃあさ、そっちの用件が終わってからでも来てくれよ。白雪も喜ぶからさ」 「分かりました。こちらの用件はすぐに片付くでしょうから必ず伺います。魔術の存在を探り当てた者との会談ですが、話が分かる方のようですから揉め事も無く終わるでしょう」 「なァ、そいつってもしかして木山って女じゃねェだろうな?」 初春達の約束の相手を学校でのシステムスキャンで接触してきた時のことを思い返し、予想を立てた一方通行。 それにわずかに驚いて見せた初春の反応は一方通行の予想が正しいことを示していた。 「さすが一方通行さん、その通りです。木山先生、凄いんですよ。自分の力だけで魔術の存在を嗅ぎつけたんですから。今日は木山先生とこれからのことを話し合うんです」 「おいアクセラ。木山先生ってあの脱ぎ癖のある木山先生か? あの人ってそんなに凄いのか?」 「観察眼に関しちゃかなりのモンだ。雪女の能力の強さの振り幅の原因も土御門だって見抜いてたしな。俺達の事情にも何となくだが察しがついてたみてェだぞ」 当麻と一方通行、それに神裂は知らないが木山は過去に『幻想御手』を使って一万人を昏睡状態に陥らせ、アンチスキルと美琴相手に戦闘を仕掛けた過去の持ち主。 魔術のことも学園都市の暗部のことも手段を選ばないモットーのもと、木山が独自のルートで探り当てた賜物に他ならないのだ。 時計を見た初春は名残惜しそうに当麻と一方通行に別れの挨拶をする。 「ではお二人とも、私達はこれからジャッジメントのお仕事がありますからこれで。涙子さんと最愛さんが第一七七支部で待ってますから」 「いや、飾利は分かるんだが神裂もか?」 「私は飾利のお姉ちゃんとしてこの子の仕事ぶりを見学しようと思っているだけです。ついでにジャッジメントの仕事も体験するつもりですが」 (オイオイこの女がジャッジメントになっちまったらとンでもねェことになるぞ……) 一方通行の予想通り、神裂という最強のジャッジメントが誕生するのは先の話だが実はある男がアンチスキルの研修を受けることだけは決定済みだ。 最後に初春は月夜の為のパーティーについて気になったことを当麻ではなく、一方通行に尋ねる。 「そういえば一方通行さん、パーティーのことってアホ毛ちゃんにも教えましたか?」 「ああ、まあな。でもそれがどうかしたってのか?」 「じゃあ食事に関しての準備は万端にした方がいいですよ。だってアホ毛ちゃん、今日はインデックスさん、それにステイルさんと行動してますから」 初春に言われた一方通行は打ち止めの安全を考え、目の前の少女の提案を受け入れステイルとインデックスのいる教会に打ち止めを預けていたことを思い出す。 それを横で聞いていた当麻も顔を青くして、パーティーの食糧危機を予感せざるを得なかった。 「……滝壺さんとステイルさんがいるから大丈夫だと思いますよ? じゃあ私達はこれで。行きましょうか火織お姉ちゃん」 「ええ飾利。迷子にならないように手を繋ぎましょう♪」 別れ際に爆弾発言を投下した初春は神裂と手を繋ぐのを恥ずかしがりながらもギュッと手を握ると、本当の姉妹のような雰囲気を出したまま去って行った。 残された当麻はインデックスのことを考え、憂鬱になったがそれを一方通行がフォローした。 「大丈夫だろ、多分。初春のやつも言ってただろうが。あの暴食シスターを抑えられる滝壺と赤髪も来るンなら、大ピンチにはならねェだろ」 「た、確かにステイルはまだ日が浅いけど、滝壺のインデックスマイスターの力は信頼出来る……けど、対策は立てようぜ」 「ああ、そうだな……。念には念を入れねェとなァ。土御門辺りに連絡入れるとすっか」 実は滝壺、正月の上琴新居での一件以来、インデックスマイスターの名誉ある(?)称号を仲間達から与えられていた(本人は知らない)。 しかしインデックスの食に対する脅威を考え、当麻と一方通行は念の為に土御門に相談することにした。 話は少し遡り、一方通行との電話のやり取りを終えた打ち止めは一緒に行動していたインデックスとステイルにパーティーのことを伝えていた。 「へえ、土御門の彼女がレベル5になったのかい。」 「それってそんなにすごいことなの?」 「そこで疑問形になるあなたにミサカはミサカは驚愕してみたり!!だって学園都市に今のところ8人生存確実なのは6人しかいないんだよ!!ってミサカはミサカはあの人の事を思い出してみたり。」 「生存確実って…ネセサリウスなみに不穏な言葉が出たな。」 「そういえばみことは3番目だよね?」 「そうそう、ただし生存確実な人だけで行くと2番目だよってミサカはミサカは教えてみたり。」 「ところでパーティーと言っていたけどどこでするんだい?この子の食慾は半端じゃないよ。」 「ステイル忘れたの?この街には『喰わせ殺し』があるんだよ。」 「おおっ!!それは良いアイディアかもってミサカはミサカはあの人に電話してみたり!!!」 プルル 『なンだ打ち止め?』 「ふふふっあなたに勝ったってミサカはミサカは電話を取る早さを自負してみたり。」 『切るぞ。』 「ちょっと待って!!インデックスが来るからパーティーを『喰わせ殺し』でやったらどう?ってミサカはミサカはあわてて用件を伝えたりする!!!」 『おっ、それいいなあ。ンじゃ他のやつと相談するわ。決まったらまた電話する。』 「それじゃーねーってミサ」 ブチッ 「最後のあいさつも聞かずに切りやがったってミサカはミサカは膨れてみたり。」 打ち止めとの会話を一方的に終えた一方通行は、当麻に打ち止めの考えを伝える。 しかし当麻は浮かない顔である一つの可能性を示唆する。 「なあアクセラ、『喰わせ殺し』があったのは神奈川でしかも学園都市にオープンするって店長が宣言したのって正月だぞ。いくら何でも間に合わないだろ……」 「……そういやァそうだよな。たかだか一週間程度でオープンなんて出来るわけねェか」 当麻の考えに納得した一方通行は、かねてより考えていた土御門への相談をする為に電話をかける。 『おおアクセラ。実は禁書目録対策のすっげー耳寄りニュースをゲットしたぜよ♪』 「それってまさか『喰わせ殺し』が学園都市にオープンしたとかって話じゃねェよな?」 『ありゃりゃ、知ってたのか。その通りぜよ。しかも今日オープンで場所は第七学区のオレ達の寮からそんなに離れてないというオマケ付きですたい!』 「……普通なら第四学区に店を出すだろ、学園都市の常識からいってよォ」 土御門がゲットした情報は実は木山が昨日街をウロウロした時に、むやみに豪快な男(店長)から貰ったチラシを彼に見せたから。 これには土御門も驚くしかなかったが、インデックスの存在を危惧していただけにこの展開はまさに天の助けとも呼ぶべきものだった。 そのことはその場にいた美琴、黒子、月夜にも伝え、さらには他のパーティー参加者にもその旨を伝え終えていた所なのだ。 『てなわけでアクセラは打ち止め達に『喰わせ殺し』の場所を伝えてくれ。パーティー開始までは自由時間で夕方の5時になったら禁書目録たちの教会に集合も忘れずにな』 「ああ、了解だ」 そう言って、アクセラは電話を切ると当麻に土御門からの情報を伝える。 それを聞いた当麻は一旦寮に戻ることを一方通行に伝え、その場を後にした。 「今は……げっ、もう午後1時か。昼飯まだだったな、仕方ねェがクソガキ達と合流してメシにすっか」 一方通行は打ち止め達と合流し、昼ご飯を食べるついでにパーティーのことを伝えようと考え、打ち止めと落ち合う為に連絡を入れる。 その頃、美琴と黒子も時間が余ったので一度寮に戻ることにする(黒子はこの後でジャッジメントの仕事有り)。 しかし彼女達は知らない、天草式学園都市支部の対馬と浦上が出迎えようなどとは。 初春と神裂が一七七支部に行く途中に白井に会った。 「あら?初春と神裂さんじゃありませんの?」 「あっ、白井さん!!」 「こんにちは」 「そうそう、聞きましたか!?白雪さんがレベル5になったって話!!」 「ええ、知っていますわよ。なんせ、直接この目で見たんですのよ?」 「さ、さすが白井さん!!で、どんな事を白雪さんはしていたんですか!?」 「さすがレベル5と言ったところでしょうか?雪の竜巻なんて作っておりましたわ、しかも3つも!!あれはとても幻想てきでしたわ…」 「見たいです!!すごく見たいです!!」 「まあパーティーをやるようですし、その時に色々見せて貰えるんじゃありませんの?」 「わー!!それは感激です!!」 いつの間にか上下関係が元に戻っていた。 第一七七支部のジャッジメント、固法美偉は頭を悩ませていた。 理由は目の前でお喋りしてる佐天と絹旗にある。 「本来なら私はジャッジメントに超しょっぴかれる側なのにここにいることが不思議です。これも超飾利効果というやつでしょうか」 「そういえば最愛って学校にも行ってないんだよね? 普段は何してるの?」 「フッフッフッ、知ってますか涙子。女は秘密を持てば持つほど超いい女なんですよ。いくら義理とはいえ姉妹にもそれは超秘密です!」 佐天は「おー♪」とはしゃぎ、絹旗も得意気にしているが問題はそこではない。 彼女達二人は固法のムサシノ牛乳を遠慮を知らずにガンガン飲んでいるのだ。 「佐天さんとそこのあなた! 勝手に私の牛乳を飲まないで! 飲むとしてももうちょっと遠慮しなさい!」 「涙子、この人は超何者です? 眼鏡に委員長属性に巨乳、いかにも超あざといこの人は?」 「最愛、否定はしないけど本人の前で言うのはダメだよ。こちらが飾利や白井さんの先輩ジャッジメントの固法美偉さん。固法先輩、この子は親友兼義理の姉妹の絹旗最愛です」 「そうでしたか。飾利の先輩ということは私の超先輩でもありますね。はじめまして固法先輩、飾利と涙子の超親友にして義理の姉妹の絹旗最愛です。職業は超秘密です」 丁寧に挨拶された固法だが、二人の所々の遠慮ない発言に切れそうになりながらも何とか怒りを抑えて冷静に対処した。 「はじめまして絹旗さん。……ところで、あなたはもう少し礼儀を覚えた方がいいわよ。そんなんじゃ将来困るでしょ?」 「それは超心配無用です。私なら超大丈夫ですから、色々と。それよりもその超けしからん巨乳の秘密はこの牛乳ですか?」 「け、けしからんって……! す、好きで大きくなったんじゃないわよ! 佐天さんからもこの子にもう少し言葉を選ぶように注意しなさいよ!」 「まあまあ固法先輩。最愛は基本こんな感じですから。そんなに怒ってると身が持ちませんよ」 佐天がまったく当てにならないことに肩を落とした固法は、早く黒子と初春が来ることを心から祈った。 その祈りが通じたのか初春と黒子、そして神裂が第一七七支部に到着した。 「あら、佐天さんに絹旗さんじゃありませんの」 「こんにちは白井さん」 「久しぶりですね超変態ジャッジメントの白井さん」 「だ、誰に向かって言ってますの? このチンチクリンが……っ」 出会って早々、火花を散らせる黒子と絹旗に胃が開きそうな思いを抱く固法。 初春と佐天が止める気が無いので仕方ないとばかりに神裂が止めに入る。 「二人とも喧嘩は止めなさい。ここでは人の迷惑になりますし、何より飾利が怒ってしまいます」 「う、初春が……そ、それでは仕方ありませんわね。命拾いしましたね、怪力チンチクリン」 「神裂さんがそう言うなら超従うしかありません。飾利に迷惑は超かけたく無いですし」 「あの、喧嘩を止めてくれてありがとうございま……初春さんのお母さんですか?」 黒子と絹旗の喧嘩を止めてくれた神裂に固法はお礼を言うが、その後の不用意な発言に神裂がショックを受けて拗ねてしまう。 「ちょっと固法先輩! 神裂さんに何てこと言うんですか! 確かに教師してますけどれっきとした18歳なんですよ!」 「そうなんですの! わたくしもてっきり20代前半くらいとばかり……」 「まったく超ひどい人ですね。いくら老けて見えるっていっても飾利のお母さんというのは超あんまりです」 フォローに回る3人だが、その発言でさらに拗ねてしまう神裂を初春が宥めていた。 「飾利、みんなが私のことを、私のことを……」 「大丈夫ですよ火織お姉ちゃん。火織お姉ちゃんは立派な18歳ですし、ちゃんと可愛い所もありますから」 「分かってくれるのは飾利だけです!!」 「よーしよーし」 「(初春さんの方がお姉さんに見えるのは私だけかしら…?)」 「「(そんな事(超)ありません…)」」 二人は素直に同意した。 そしてその近くの食堂では… 「おーい、建宮!!今日は帰っていいぞ!!」 「分かりました!!お先に失礼しますのよね!!」 パパッと着替えて巡回。怪しい術式や魔術師のチェックの為だ。そして… (うわっ!!思いっきりいたのよね!!あれは黒曜石のナイフ…?神の右席候補ではなさそうだが一応天草式、他の魔術師に連絡!!あとは人払いなのよね!!) そしてこんな声が聞こえた。 「上条当麻…殺す…!!御坂さんは自分が守る…!!」 「(うわー思いっきりイッちまってるのよね。あっ対馬?怪しい魔術師を見つけたのよね!!天草式、また他の魔術師に連絡なのよね!!)」
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【とある魔術の禁書目録】 上条当麻(1) 002 コネクト 五和 [[]] 一方通行 [[]] 打ち止め [[]] 番外個体 [[]] 土御門元春(1) 008 ≪策≫ ≪策≫(後編)
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2046.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある10人のハロウィンパーティ Let s_go_shopping! 10月になって2度目の土曜日。 佐天からメールを受け取った美琴は、セブンスミストへと向かっていた。 「あ、御坂さん! こっちですよー」 約束の時間よりは15分ほど前なのだが、セブンスミストの前ではすでに佐天が待っていた。 「ごめん待った?」 大きく手を振る佐天に、美琴は小走りで駆け寄る。 「いえいえ。私も今着いたところですよ」 「そう。黒子も初春さんもまだみたいね。黒子ってば起きたらもう居なかったから、てっきり先に来てると思ったんだけど……」 キョロキョロと辺りを見回す美琴。 しかし、佐天は首を傾げて言った。 「白井さんなら今日は来ませんよ?」 「へ?」 「初春も白井さんも、今日は来ません」 「でも確かメールには4人って……」 ポケットから携帯電話を取り出し、受信BOXを開く。 佐天からのメールを選択して開けば、 『今度の土曜日、パーティ用の仮装コスチュームを4人で買いに行きましょう!』 「……、」 表示した画面を佐天に見せる。 「ほら。やっぱり4人って書いてあるわよ」 美琴は佐天からメールが届いた時のことを思い出す。 補習中だという佐天から突然このメールが届いたのは一昨日。白井と初春と一緒にファミレスでお茶していた時のことだった。 「あ、佐天さんからメール」 「佐天さんは何と?」 「うーん。明後日一緒にパーティ用の衣装を買いに行こうってさ。4人って書いてるし、2人にも届いてない?」 「ちょっと待って下さい。今確認してみます」 白井と初春が携帯電話を取り出して確認する。 2人は顔を見合わせて頷くと、美琴へと向き直った。 「買い物、楽しそうですね」 「申し訳ありませんがお姉様、佐天さんにお返事して下さいな」 にっこり微笑む2人。白井の方は何故か笑顔が固い気もするが、おそらく気のせいだろう。 「いいわよ」 (私たちの分もまとめて)佐天さんに返事して欲しいと言う白井に、美琴は快く頷いてその場で返信した。 と、そこまで思い返した美琴は、改めて佐天に問いかける。 「少なくともあの時は、黒子と初春さんも一緒に行く予定だったでしょ?」 「んー御坂さん。そもそも私、一度も白井さんや初春と一緒に行くなんて書いてないと思うんですけど」 「え? でも4人って言えば……」 「そうかもしれませんが、『誰』とは書いてないでしょう?」 「そりゃそうだけど。じゃあこの4人って一体……」 言われてみれば確かに、白井と初春の口からはっきりと聞いたわけではない。美琴が勝手にそう思い込んで解釈していただけだ。 小難しい顔になって考え込む美琴に、佐天はにっこり微笑む。 「まぁまぁ、そう難しく考えないで下さい。さっき連絡ありましたし、2人ももうすぐ来るはずですから」 難題に挑むかの如くメールの文面に釘付けになっている美琴の横で、佐天はキョロキョロと辺りを見回す。 それから1分も経たない内に、待ち人を見つけた佐天はパァっと顔を輝かせた。 「こっちですよー!」 美琴を迎えた時同様に、大きく手を振って相手を呼ぶ佐天。 その声に反応して振り向いた美琴の目に映ったのは、 「待たせちゃったかにゃー? カミやんの不幸体質のせいで結局ギリギリになっちまったぜい」 「いえいえ大丈夫ですよ。私たちもさっき来たばかりです」 チャラそうな金髪サングラスの少年と、その後ろで疲れた顔をしているウニ頭の少年であった。 「ちょ、ちょっと佐天さん!! 何これどういうことか説明して欲しいんだけど!?」 「へ? だから、今日は4人で買い物だってメールに書いたじゃないですか」 「なっ!? まさか最初からそのつもりで!?」 「どのつもりかは知りませんが、最初からこの4人のつもりでしたよ?」 悪びれる様子もなく、飄々と答える佐天。そのニヤニヤとした顔は、悪戯の成功を喜ぶ子供のようだ。 「じゃ、じゃあ何でこの4人なのよ?」 叫びだしたい衝動を堪え、あくまでも冷静を装って問い掛ける美琴。 そんな美琴の疑問に答えたのは、意外にも上条であった。 「あれ、お前聞いてないのか? まだ衣装用意してないのがもう俺たちだけらしいぞ」 「は?」 「青ピは元から衣装持ってるらしいし、婚后たちは特注したって俺はコイツから聞いたけど?」 「そうなんだにゃー。白井さんと初春さんは風紀委員の活動が早く終わった日に2人で買っちゃったらしいぜい」 「そういうことです。だからこの4人なんですよ、御坂さん」 上条と土御門の言葉を受けて、にっこりと微笑む佐天。 しかし、美琴は顔を引き攣らせ、心の中で思い切り叫んだ。 (絶対嘘だーっッッ!!!!! っつかこの馬鹿! 何でこんないかにも嘘ですって感じの設定で納得しちゃってんの!?) とは言えど、もしも上条がこの佐天たちの企みを見抜くような少年なら、もともと美琴の気持ちをスルーすることもないだろうから、 こればかりは仕方がない。 「まぁまぁ、そんな理由どうだっていいじゃないですか。4人全員揃ったことですし、買い物始めましょう♪」 真っ赤な顔で口をパクパクさせる美琴を面白いと思いながら、佐天は集まった面々に向かってにっこりと笑った。 4人がやって来たのは、例のハロウィンフェアの会場である。 新しく入荷したようで、先週よりも多種多様なコスチュームが揃っていた。 「じゃあ早速、それぞれ気になる服を選んで試着してみましょう」 「それがいいと思うぜい。見てるだけと着た時では印象も変わるからにゃー」 「お? よくお分かりじゃないですか土御門さん」 「なーに、こんなのは常識だぜい?」 ざっと見ても50着以上あるサンプル衣装がズラリと並ぶ試着エリアで、佐天と土御門が意気投合する。 試着エリア自体は、夏にデパートなどでよく見かける水着売り場や浴衣売り場の特設コーナーみたいな感じだ。 ごくごくシンプルな魔女コスチュームから、誰が着るのだろうと好奇心が掻き立てられるようなトンデモ衣装まで、 本当に多種多様なコスチュームがそこに揃っていた。 「私はこれにします」 佐天が手にしたのは紫を基調とした魔女っ子衣装だ。 「俺はこれにするかにゃー」 土御門が選んだのは新○組モチーフと思われる和風コスチュームだ。ハロウィンとは関係なさそうな衣装だが、確かに面白そうではある。 「カミやんは何かいいの見つかったかにゃー?」 「んー。よく分からないってのが本音だな」 頭をポリポリ掻きながら答える上条は、目の前に並ぶ色とりどりな衣装に困惑しているようだ。 そんな上条の様子を目にした佐天は、自分の隣に立つ美琴と上条を交互に見て、あることを閃いた。 「だったら!」 佐天が美琴の背中をポンと上条の方に押す。 「だったら御坂さんの意見を参考にしてみてはいかがです?」 「へ!? ちょ、ちょっと佐天さんいきなり何言って!?」 「お、佐天さんナイスアイディアなんだにゃー。第三者の意見は貴重だぜい」 佐天の提案を土御門が後押しする。 さすがは御坂さん応援隊、完璧なチームワークだ。 一方の美琴は、佐天のせいで上条の目の前まで押し出されてしまったため、急な展開に再び顔を赤くしていた。 しかし、そんな様子に全く疑問を抱かない上条は、目の前の美琴に向かって話し掛ける。 「あーそれもありだな。御坂、お前はどう思う?」 「ふぇ!? ど、どう思うって?」 「だから、上条さんに似合いそうな衣装はどれだと思いますかってことですよ。美琴センセー的にはどれがいいんだ?」 上条は手近にあった衣装を適当に選んで、美琴がよく見えるように掲げた。 右手には狼男、左手にはミイラ男の衣装を持っている。 「え、えっと、そうねー美琴さん的には……」 まず、美琴は狼男の衣装に注目した。そして、その衣装に身を包んだ上条を想像する。 (狼男って満月の夜に男の人が変身しちゃうのよねー。もしもこの馬鹿がいきなり狼男になっちゃったら……え、いきなりここで!? そんなの無理よ無理っ! で、でもアンタになら襲われても……ってストップ! やっぱり初めてが公園だなんて危な過ぎるわっ!!) 訂正。想像ではなく、妄想である。 一体何が危ないのか知らないが、今の美琴が危ない人なのは確かだろう。 「えーっと、御坂さん? いきなり固まってどうされたんでせうか?」 「……ハッ!? あ、いや何でもないわよ!? 何でもっ!! まぁ、狼男はちょっと危険じゃないかしら?(私には刺激が強すぎるものっ!)」 「危険な衣装ってあるのか?」 「け、結構あるもんよ?」 「ふーん。俺には違いとかわからないけどな。じゃあ、こっちは?」 「ミイラ男ね。どれどれ……」 上条に促されるまま、美琴はもう一つの衣装に注目する。そして、先程と同じような妄想を繰り返して、 (み、見えないからってそんな……私は他の人からも見えちゃうんだからね? ……え、そ、そりゃダメじゃないけど……) 「こっちもダメでせうか?」 「ふぇ!?」 不安げな上条の問い掛けで、美琴は我に返った。 「あ、そ、そうねっ! 危険過ぎるわっ!!」 顔を真っ赤にして、鼻息荒く答える美琴。今の美琴に白井の変態さについてとやかく言う資格はないだろう。 「じゃあ一体、美琴センセーは上条さんに何が似合うとお思いで?」 「そ、そうね……アンタに似合いそうなのは……」 これ以上の妄想は身を滅ぼすと気付いた美琴。 気合を入れ直して、上条の衣装選びに取り掛かる。 「んーこれは色が違うし、これはデザインがイマイチね。このコンセプトはなかなかだけど何かが足りない気もするし……」 10種類以上の衣装を次々とチェックしていた美琴は、ある一着で手を止めた。 「ねぇ。これなんてどうかしら?」 「おっ? やっと良さそうなのが見つかったか?」 「うん。王道だけど、アンタにはこれが一番しっくりくるんじゃないかと思うの。どう?」 それはヴァンパイアの衣装だった。小道具の牙もセットらしい。 「ああ、いいと思うぞ。お値段も手頃で上条さんにはピッタリだと思われます。ありがとな、御坂」 にかっと笑う上条。美琴が大好きな上条の表情の一つだ。 「こ、これくらいどうってことないわよ。それに、本当に買うか決めるのは試着してからでしょ?」 素直になれない美琴は、頬を染めながらもツンとした答えを返した。 美琴と上条がそんなやり取りをしていたすぐ側で。 そんな2人の様子を見守っている者たちがいたことを忘れてはいけない。 言わずもがな、『御坂さん応援隊』の佐天と土御門である。 「いいですねいいですね」 目をキラキラと輝かせて興奮しているのは、応援隊の隊長でもある佐天だ。 「御坂さんのあのリンゴ具合! 耳の先まで真っ赤ですよ! いやー思わず食べちゃいたくなる可愛さですっ」 「あれでもまだ気付かないカミやんは、鈍感さギネスで断トツ1位間違いなしなんだにゃー」 やれやれといった様子で、土御門が肩をすくめる。 「間違いないですね。しかしまぁ、御坂さんがあそこまでいい反応をしてくれるとは…… あれ、間違いなくコスプレ上条さんを妄想してますよねー♪ 何かイケナイコトを考えている時の白井さんに通じるモノがあるような……」 「俺も青ピを思い出すぜい……。まぁとにかく、御坂さんの方がカミやんを意識しまくりなのは確かなんだにゃー」 遠い目をする2人。類は友を呼ぶらしいが、お互いに随分と奇妙な友を持っているものだ。 「おーっ、結局あの衣装に決まったみたいですね」 「みたいだにゃー」 応援隊が見守る中、ようやく美琴が一着のコスチュームを選び出した。 「んーヴァンパイアかぁ。確かに似合いそうですけど、面白みはないですね」 どんなトンデモ衣装を期待していたのか、佐天はつまらなさそうだ。 しかし、そんな佐天を怪しい笑みを浮かべた土御門が嗜める。 「いや、そう判定するのはまだ早いと思うぜい? 髪型をオールバックにすれば雰囲気も変わって化けるに違いないにゃー」 「オールバックですか!? ……なるほど確かに! ホスト系ヴァンパイアの出来上がりですね!! 土御門さん、ナイスアイディアですよっ」 先程までとは一転して、表情を輝かせる佐天。 上条当麻、パーティ当日の彼はオールバックに決定である。 「ところで土御門さん。今日の作戦はあくまでも『コスプレ御坂さんで上条さんを意識させちゃおうZE☆』ですよね? その点における本日の成果はまだ0ですが……どうします?」 「だにゃー。そろそろ仕掛けるべきだぜい」 ニヤリと顔を見合わせる応援隊。 2人して目的に利用出来そうな衣装を探し始める。 「あ、これなんかどうです?」 「いいと思うぜい。でもこっちもなかなかだと思うんだにゃー」 「確かに! どうしましょうか……」 候補に上がった2つの衣装を前に唸る佐天。どちらも捨てがたい。 しかし、その解決策はまたしても土御門によって打ち出された。 「だったら選ばせればいいんだにゃー」 「え? でも御坂さんの性格を考えれば素直に着てくれるとは考えにくいんですけど……」 「選ぶのは御坂さんじゃないぜい? もう一人、適任者がいるんだにゃー」 土御門が視線だけで、その『適任者』を示す。 それを見た佐天は、 「あーなるほど……そうですよね。選んでもらっちゃえばいいんですよね」 その意図を理解し、意味ありげな笑みを浮かべた。 2つの衣装を抱え、悪戯を企む子供のような佐天は言う。 「佐天涙子、出ますっ!」 巨大ロボで戦場に赴くような勢いで、佐天はターゲット2人の元へ向かった。 「上条さん、衣装決まったみたいですね」 2人の元に駆け寄った佐天は、明るい声で話し掛けた。 「ああ、御坂のおかげでな。上条さんはヴァンパイアを試着しようと思います」 「王道だけど似合うと思うのよね。佐天さんはどう思う?」 まだ頬が染まっているものの、美琴の様子は先程までに比べてかなり落ち着いていた。 時間の経過とともに、上条の側にいることにも慣れてきたようだ。 だが、しかし。 「いいと思いますよ。でも、御坂さん」 そんな美琴を、佐天は再び追い詰める。 「次は御坂さんが衣装を選ぶ番です。 どうぞお好きな方を選んで下さいっ!」 ジャジャーン! と佐天によって提示された2つの選択肢。それは、 「「なっッッ!?!?!?!?」」 思わず絶句する美琴と上条。 それもそのはずで、佐天が持ち出したその衣装とは、 「こちらの可愛らしいメイド服が『黒猫ロリメイド』で、こちらのファンシーな服が『キャンディープリンセス』っていうそうです♪」 「そそそそんなの恥ずかしくて着れるわけないじゃない!?」 「なんか堕天使降臨の記憶が呼び起こされそうなんですけどっ!?」 上条の脳裏に思い浮かぶ第三の天使の姿。 それもそのはずで、佐天が持ってきた2つの衣装にはこんな札が付いていた。 『大好評シリーズに待望のロリシリーズ登場☆ 黒猫ロリメイド』 『お菓子が欲しいならここにあるよ♪ キャンディープリンセス』 前者は間違いなく、あのゲテモノメイド服シリーズの新作だ。 後者はシリーズものではないようだが、『私を食べて』がコンセプトらしく、これまたゲテモノには違いない。 「まぁまぁ、御坂さん。一度試着してみて下さいよ。気に入るかもしれませんよ? このファンシーな衣装とか、御坂さん好みじゃないですか?」 ニヤニヤ顔で勧める佐天。 確かに彼女の言う通り、『キャンディープリンセス』は少女趣味満載な衣装で、美琴の好みに合致するものがあった。 ただ、フリルやキャンディーなどの可愛らしい装飾が多い一方で、露出度も半端なく高い。 「むむ無理っ! だってこれ布面積少なすぎるわよ!?」 「うーん。そうですか?」 笑顔ですっとぼける佐天は、そのまま上条へと視線を移す。 「上条さんはどう思います? どちらを着た御坂さんが見たいですか?」 「へ!?」 突然自分へと向けられた矛先に、上条は慌てて答える。 「い、いやーそういうのはやっぱり本人の意思を尊重した方がいいと思うぞ?」 「上条さんだってさっき御坂さんに衣装選んでもらったじゃないですか。 迷ってる御坂さんに、今度は上条さんがアドバイスしてあげる番だと思いますけど?」 「いやでも俺は御坂みたいに衣装見ただけで似合うとか判断出来ないし……」 上条がそう口にした瞬間、獲物を見つけた猛獣の如く、佐天の瞳に鋭い光が宿った。 「そうですか」 残念そうな佐天の声音。 諦めてくれたと思い、上条と美琴の両方は心底ホッとした。……のも束の間。 「じゃあ仕方がないですね」 先程とは打って変わって明るい佐天の声音。加えて不自然なほどに微笑むその様子。 ナニカマズイ、そう美琴が感じ取った瞬間。 「やっぱり御坂さんには2着とも試着していただきましょう♪」 「ふにゃあ!?」 佐天から放たれたトンデモ宣告に、美琴は素っ頓狂な声を上げた。 あの後、土御門が加わり2人がかりで説得されていた美琴。 言うまでもなく、2人の矛先は対美琴の最終兵器となる上条にも向いていた。 「カミやんも本当は見たいはずだぜい? 男なら誰だって拝みたいはずだからにゃー」 「ですよねっ! 御坂さんのコスプレ姿ですよ? 白井さんなら卒倒モノですよ? そりゃ見たいですよね? だって男のコだもんですよね!?」 「そ、そりゃ、上条さんだって興味津々ではありますよ? し、しかしこれはちょっと……(なんか刺激が強すぎるような気が……)」 「ならば、はっきりと言うべきです! 見たいの一言を! 男らしく、さあ!」 「そうだぜい。……ハッ!! まさかカミやん。実は女のコに興味がないのか……? だからあれだけフラグを立てても全く回収しないのか? そうなのか? そうなんだな? カミやんはオネエだったんだにゃー!?」 まさかの上条オネエ疑惑浮上。 これには当然、上条も真っ向から否定する必要があったわけで、 「んなわけねーだろ! わかりましたよわかりましたわかりましたから素直に言ってやろーじゃねーか!!」 プッツンと上条の中で何かが切れた。 拳を固く握り、美琴の目を見据え、上条は腹に力を込めて言う。 「御坂!」 「ふぁい!?」 「私、上条当麻は、美琴たんが黒猫やお姫様になるところが見たくて見たくて仕方がありませんっッッ!! 是非2つとも試着して下さいっッッ!!」 「ふぇええええっッッ!?」 最終的にはこの上条の「見たい」発言に、美琴が押し切られる形となった。 そして、4人がそれぞれの衣装を持って試着室に入って、今に至る。 「意外と似合ってるじゃねーか」 「カミやんもなかなかだぜい? さすがは御坂さんだにゃー」 女子の着替えが遅いのは世の常。 少年2人はすでに着替え終わり、試着室の外に出てきていた。 髪色やサングラスのせいで見た目チャラそうな土御門だが、意外にも和服が似合っていた。 まぁ、土御門が陰陽師の一族であることを考えれば、本来はこういった和服の方が常なのかもしれない。 上条の方も、土御門の言うように、美琴が見立てた通りに似合っている。 少年たちに2分程遅れて、魔女っ子になった佐天が現れた。 「あ、お2人とも素敵じゃないですか!」 「佐天さんも素敵だぜい」 「ありがとうございます」 「佐天も出て来たし、後は御坂だけか……」 「あれ? 上条さん、随分と楽しみにしてるんですねぇ。きっと御坂さんもすぐに出て来ますよ。まずはどちらの服を選んだのか楽しみですよねーっ♪」 しかし、この佐天の予想は外れることとなる。 それから2分が過ぎても、美琴が試着室の中から出てくることは無かった。 3分が過ぎようとした時。 「あーもうっ! 我慢の限界です!」 待ちきれなくなった佐天は、美琴が使っている試着室の前で仁王立ちした。 「御坂さん、もう着替え終わってますよね? カーテン開けますよ!」 すると、中から慌てふためく美琴の声が返ってきた。 「ま、待って佐天さん! まだ着替え終わってないの……」 「そんな嘘は通用しませんよ。今から10秒数えますから、その間に出てきて下さい。 でないと、たとえ本当に御坂さんが素っ裸でもカーテン開けちゃいますからね!」 「ええっ!? そ、そんなっ!!」 「はーい、10、9、8、……」 「ちょ、ちょっと佐天さん数えるの早くないっ!?」 「7、6、……」 美琴の抵抗も虚しく、はっきりとカウントを続ける佐天。 残り約5秒で、間違いなくカーテンは開け放たれる運命にある。 「5、4、3、2、1、」 まだ美琴は出て来ない。 けれど、上条や土御門も注目する中、ついにカウントは終わる。 「0!」 声と同時に、佐天はカーテンを開け放った。 開け放たれたカーテンの向こうに立っていたのは、素っ裸の美琴 「っ!?」 「……これはこれは」 「ほほう」 なわけがなく。 そこに立っていたのは、ロリメイドとなった美琴であった。 余程恥ずかしいのか、熟したリンゴ以上に真っ赤な顔は俯きで、両手は短いスカートの裾を掴み、足は内股になっている。 「ね、ねぇ、もう脱いでいいわよね?」 「まだに決まってるじゃないですか。ていうか御坂さん、耳と尻尾もしっかり装着してくれなきゃ困ります」 「え、試着なんだしこれで十分だと……」 「十分じゃありません。この服は『黒猫ロリメイド』なんですから。ほら、これをこうして……」 美琴が足元に放置していたセットの猫耳カチューシャと尻尾を、佐天が無理矢理取り付ける。 こうして真の『黒猫ロリメイド』が誕生した。 メイド服自体は極めてありがちなデザインだが、鈴付きのチョーカーとヒョコっと可愛らしく生えているような猫耳や尻尾が、 普通のメイド服とは一味違うことを示している。 「やっぱりロリは偉大だぜい」 舞夏一筋なはずの土御門でさえ、何かぐっとくるものがあったらしい。 何がロリなのかはよくわからないが、あのゲテモノシリーズにしては珍しく普通のメイド服と言えるだろう。 「カミやんも、何か感想はないのかにゃー?」 ニヤニヤと笑う土御門が問い掛けたが、上条は答えなかった。 というより、答えられなかった、の方が正しいかもしれない。 「……、」 そう、上条は目の前に突然現れた『黒猫ロリメイド』に魅了されていた。それはもう言葉を失う程に。 応援隊の『コスプレ御坂さんで上条さんを意識させちゃおうZE☆』は、見事に成功していたのだ。 「ちょ、ちょっと……アンタが見たいって言ったんでしょ? 何か言ったらどうなのよ……」 消え入るような声ではあったが、美琴が上条に向かって口を開いた。 何とか上条の顔を見ようとしてはいるようだが、恥ずかしさのせいで完全に顔が上がっていない。 いわゆる上目遣いになっている。 「っ!? お、おま、それは反則……っ!」 思わず上半身を反らして、上条が美琴から逃げる。そうでもしなければどうにかなりそうな破壊力を、今の美琴は秘めていた。 潤んだ瞳での上目遣い。加えて、スカートの裾をギュッと握っているせいで、面積が広がった絶対領域。 美琴の無意識攻撃、上条への効果は抜群なようだ。 「ど、どうして後退るわけ!?」 「どうしてってお前それはっ!」 まさか「可愛過ぎて理性が飛びそうだから」なんて、口が裂けても言えない上条。 ヒクヒクと頬を不自然に動かしながら、美琴の視線に耐える。 「上条さーん? 見とれちゃうのはわかりますけど、ちゃんと言葉にしないとダメですよー?」 ニヤニヤと上条の顔をのぞき込む佐天。 「綺麗だーとか可愛いーとか撫で回したーいとか、何か感想あるでしょう? てか言葉がダメならいっそ行動に出てもいいんですよ?」 「行動!? そんなデンジャラスなこと上条さんは致しませんよっ!?」 しかし、佐天の言うことも間違いではない。 上条の一言で試着を決めてくれた美琴に、上条が一言感想を言うのは礼儀であろう。 言葉で言えないのならせめて態度で示せという佐天の言い分にも一理ある。 「……、」 拳を固く固く握り、何やら覚悟を決めた上条。 一歩一歩、カクカクとした動きではあるが、美琴の目の前へと歩を進める。 「ななな何よ? まさか文句でもあんの? しょ、勝負なら受けて立つわよ?」 美琴本人はキッと睨んでいるつもりなのだが、潤んだ上目遣いでは怖くない。 そんな美琴の顔をじっと見据え、上条は口を開く。 「文句なんてない」 「……え?」 「文句なんてない全くないあるわけがない」 「え、えっと……アンタ何言って……?」 じっと美琴を見据えて言葉を紡いでいた上条だが、さすがに耐え切れなくなったようで、視線を横に外した。 そして困ったように上条の顔を見詰めてくる美琴に対して、一言。 「御坂にすごく似合ってるから」 頬を赤らめて告げた。 「っ!!」 これには美琴も言葉を失う。嬉しさのあまり昇天しそうだ。 上条の顔をまともに見ることが出来ず、再び俯いてしまった美琴。 しかし、やられてばかりではない。勇気を振り絞って、自ら話し掛ける。 「じゃあどうして?」 「へ?」 「どうしてその…視線を反らすの?」 「っ!? それは……」 再び繰り出される上目遣い攻撃に、上条は汗をかき始める。 「やっぱり似合わないからじゃないの? 見に耐えないとか?」 自分で言ったことに表情を曇らせる美琴。 言葉にしてしまったことで、それが真実であるかもしれないという不安が生まれたのだ。 「そっか…そうなんだ……」 上条の返事がないことから、美琴のテンションは目に見えて落ちてゆく。 悲しそうなその表情に、上条がギクリと反応する。このままでは泣かせてしまうかもしれない。 だから、 「あーもう不幸だー!」 突然、頭を抱えて叫んだ上条。 そして、ガシっと美琴の両肩を掴んで言う。 「似合ってるっていうのは嘘じゃねえ! 不覚だけど可愛いとも思う! だけど」 予想外の上条の言葉に、驚いて目を丸く見開く美琴。 そんな美琴に対して一瞬の躊躇いを見せてから、上条は最後まで言い切る。 「だけど目のやり場に困るから……頼むから今すぐ脱いで下さいっ!」 その後、『脱いで』の部分に過剰反応した初心な少女が盛大に漏電したので、この日のショッピングは2つ目の試着をすることなくお開きとなった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある10人のハロウィンパーティ
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─── ドンドンドン! けたたましい音がおんぼろ寮を揺らす。 一撃毎にこれまた五月蝿く、壁が、柱が、大きな抗議の声をあげる。 上条「うぉあ!?」 寝床が揺れ動く、という全く未知の災難に当麻は飛び起きた。 いや、起こされた、というべきか。 ぱらぱらと落ちる木屑と舞う埃が 破れ窓から差し込む朝日の筋を現している。 上条(…………は?) まだ開かない目の間をぎゅぅと押さえながら、 微かな痛みを伴い始めた寝惚け頭に血を送ろうとする、が 上条(……………………) 上条(…………は?) 此の様な目覚しに合う心当りは無い。 未だにやかましい打楽を刻んでいるのは入口の引き戸らしかった。 上条(……夢、か……) 納得いったらしい当麻が、微かに頷いて布団に潜ろうとした矢先、 青ピ「かーみーやーん!! いつまで寝とるんや!遅刻するで!」 今度は聞き覚えのある低い声が部屋を揺らした。 上条「…………」 きりきり、と頭に一つの単語が鍵の様に捩じ込まれる。 朝日にしては少し黄色掛かった様な光をぼんやりと眺めていて 段々と、鳥肌が立つ様な、腹の底に鉛でも溜まっていく様な、 言い知れぬ感覚が忍び寄って来る。 上条「……遅刻?」 今度は、全身で飛び起きた。 自己最速、いや世界新記録も狙えるかという神技的早さで諸準備を終えた当麻が 建付けの悪い引き戸を力を込めて勢い良く開けると、 頭一つ分当麻より大きな青ピが拳を振り上げて立っていた。 上条「ひっ」 その拳の意味を早とちりした当麻が慌てて顔を引っ込めると、 青ピ「なんや、起きてたんか」 とりあえず当麻が出て来たことに安心したのか、笑顔を向ける青ピ。 そして、またも戸板を叩こうとしていたゲンコツを引っ込めると、 青ピ「ほら、早く行かんと入學式、遅れてまうで」 何時の間にやら取り出した懐中時計を当麻に差し出した。 洋暦に疎い当麻でも、その時刻がかなり差し迫ったものであることは理解できた。 上条「っとと……わざわざ起こしてくれて、ありがとな」 學園生活を説教から始めるという悲劇から救ってくれた青ピに心から礼を言う。 そもそも寮生ですら無いのにわざわざ迎えに来てくれる辺りに 青ピの甲斐々々しい性格が表れている。 当麻は温かみのある友人に巡り会えた運命に、そして珍しく良い仕事をした天の神に感謝した。 それはそれとして早速寮の出口へ向かおうと焦る当麻だが、 青ピは元々細い目を更に細めてにやけるばかりで、動こうとしない。 その目は“まだ寝惚けてんのかい”とでも言いたげだが、 気もそぞろな当麻にはその理由が分からない。 どうしたのだろうか、と足を止める当麻。 相変わらずにやにやとした青ピの姿を訝しげに見遣り…… 上条「ん?」 ようやく他者に目を向ける余裕が出たのだろうか。 この時初めて青ピの“衣更え”に気付く。ついでに、青ピの含み笑いの理由にも。 青ピ「まさか、その格好で行くん? 入學式」 そう言って青ピは懐から新品の學生帽を取り出すと、勿体ぶった様な動きで頭に載せた。 その青ピの姿は昨日の着崩れた着物とはうってかわって、 全身黒地の詰襟に身を包み、すらりと伸びたズボンの裾からは新調したらしい朴歯の下駄が覗いている。 一方自分は、と目を落とすと 何時もの絣、袴に使い古した手拭いを提げて…… 青ピ「初めが肝心やでぇ、女の子に自分を売り込むんは」 そう言って青ピは格好付けるように帽子の鍔を手で詰まんで軽く揺すった。 しかし当麻はそんなことなど眼に入らない、といった様子で部屋に飛び込んでいた。 隅に放っていた荷に飛び付くと、もつれる指で結び目を解く。 背中に青ピの笑い声を浴びながら、この日の為の晴れ着を必死に捜す。 ようやく制服を引っ張り出し、慌てて袴と絣を脱ぎ散らす。 ふんどし一丁になりながら「不幸だ、不幸だ」と繰り返し、慣れないズボンと格闘する当麻は気付かない。 先程の自己新を塗り替える勢いであることに。 ─── ─── 校長「えー、で、あるからして」 体育館に集められた若人達 ── 新入生の面々は この入學式という、身は締まり心は躍る、そんな響きを持った催事の中にあって 皆一斉に、唯一つの思いを胸に抱いていた。 上条(早く終われぇぇ!) 青ピ(話なっがいわアホ校長!) 土御門(もう帰りたいにゃー!) おうちにかえりたい、そんな純朴な願いと呪いを一身に受けている壇上の中年親父は 眼下にひしめくげんなりとした面々などお構い無しに、 我が校の伝統ウンヌン、諸君らの勉励カンヌン、と時々絡まりがちな舌を得意げに振るっている。 吹寄(……足が疲れてきたわね……) 姫神(………。) 老若男女問わず襲い掛かる、残虐非道な無差別大量 口 撃が止む気配は無い。 一方病む気配のある当麻達は、 煩く飛んでくる二次熟語の連射を右耳から左へと何の引っ掛かりも無く流れ落としながら、 若々しい己達の貴重な青春期をかくの拷問に費やしている現状に嘆息するしか出来なかった。 校長「でー、おほん、わたくしがぁー、改善いたしましたこの學校の便所、これを説明しますとぉー」 青ピ「な、なあ、カミやん」 当麻の前に立っている青ピがふいに声を掛けて来た。 上条「なんだ、青ピ」 青ピ「僕、もう限界かもしれん」 見れば青ピは肩をわなわなと震わせて、今にも學生解放運動を起こしそうな気迫が背中から立ち昇っている。 その立派な体躯とは裏腹に、青ピの堪忍袋の緒は割と脆かったらしい。 上条「!? お、落ち着けって!」 入學式から早速問題を起こそうとする親友を必死で止める当麻だが、 民衆のくすぶりなどに頓着しない暴君は、相変わらず己の便所改革について熱を込めて弁を振るっている。 青ピのみならず各地で革命の火種がふつふつと沸き始め、歴史が不穏な動きを見せ始めた その時。 上条「ん?」 見れば、壇上には校長とは別にもう一人の人物が現れていた。 可憐な少女、というにはやや幼過ぎる姿の女児がトコトコと校長に歩み寄っている。 その不思議な光景に生徒達はざわつき、一方教師陣は何やら安堵したような、一部は尊敬の眼差しを向けている者もいる。 上条「あ、あれ……」 土御門「あの子はなんなんだにゃー?」 青ピ「……どう見ても小学校低学年の幼女やな……ひひっ」 何やら引っ掛かるものを感じるが、青ピが言っていることは事実である。 童女の見た目からして十に満ちるか満たないかの背丈と姿であり、 この場にそぐわないちぐはぐな雰囲気を出していた。 当麻達が呆気に取られて見ていると、校長はそばに来た女児にやっと気付き、演説を一旦止めた。 女児が二、三言、何かを言う。 と、校長は頭をかきながら少し照れ笑いを浮かべ、 そして学生らの方へ首を戻すと 校長「えー、時間が押しているということなので、この辺で。」 と告げた。 その突然の福音に一瞬、場は水を打ったように静まりかえり…… 一拍遅れて、体育館は無言の歓喜に包まれた。 一気に緊張が解け、桃色の空気が生徒達の間に広がる。 安堵と解放感に満ちて行き、次第に歓声となってざわつきを増していく。 涙を流して喜ぶ者まで現れる始末だ。 「助かった」と言った者までいたか分からないが、正に彼らは救われたのだ。 そしてまた、彼らの心は一つになった。 少女への心からの感謝。 ありがとう、と。 青ピ「菩薩や!あの子はボクらの前に現れた菩薩様やで!」 土御門「嗚呼、生き仏だにゃー!我らを救い給うたんだにゃー!」 感涙にむせぶ二人の友に挟まれ、両側から肩を組まれ揺さぶられる。 しかし当麻はどうしても、感謝と同時に浮かぶある疑問をつぶやかない訳にいかなかった、 上条「で……何者なんだよ、あの子」 しかし当麻の独り言は 周りの湧き立つ歓喜と興奮の渦の中に埋もれていつの間にか消えて行った。 しかし、割とすぐに彼女の正体を知ることになる。 そして 長い付き合いになることも。 ─── ─── 土御門「はぁ、やっと終わったにゃー」 青ピ「ほんとあの幼女は天使や、一発で惚れてもーたわ」 上条「いや、流石に幼過ぎねーか……」 例の女の子のお陰で始業式も無事切り上がり、 当麻達は自分達の教室で待機していた。 三人は当麻の机に頭を突き合わせてぺちゃくちゃと喋っている。 他の生徒も早速、新たな友を捕まえてはお喋りを始め、 教室はがやがやと騒がしかった。 上条「いやしかし」 そう言って当麻はきょろきょろと辺りを見渡すと、 少し決まりが悪そうに声をひそめた。 上条「女と一緒の教室かぁ……」 当麻には男女共に机を並べて、というのは初めての経験であった。 自然と制服姿の女子にちらりと視線を注いでしまう。 と、一人の少女を当麻の目が捕らえた。 少し波の掛かった髪が柔らかな艶をこぼしている。 そのふわりとした雰囲気とは対照的な切れ長の目は ややきつそうな印象だが、不思議と威圧感は無い。 周囲のざわめきの中で、彼女は誰と話すでも無くきちんと着席し、 しかし少し退屈そうに机に肘を付けて、ぼんやりと前を眺めていた。 と、こちらの視線に気付いたのか、爽やかに澄んだ瞳を当麻の方へ向けた。 肩よりも伸びた髪の先が揺れる。 光と力の入った眼が、当麻の目とかち合った。 そのきりりと尖った視線に射抜かれて、当麻は慌てて目を逸らした。 動機は違えどあちらこちらの女子達へ熱の籠った視線を送りまくる青ピと元春は 当麻が微かに顔を赤らめていることには気付かず、呑気に会話を続ける。 青ピ「そっかー、カミやん女の子とおべんきょーするのは初めてなんや」 土御門「そりゃあ今までの人生損しまくりだぜい!」 そう熱っぽく語る元春に若干たじろぎながら、 当麻は照れ隠しにふと零した。 上条「別に女と一緒に勉強なんかしてもな」 まあ嬉しいけど、という言葉を飲み込んで精一杯気障(キザ)な表情を作る。 青ピ「おお~、硬派や~」 土御門「カミやん、無理はよくないで?」 そう言ってからかう二人の背後から 「なんですって……?」 思わず三人の背筋が凍った。 抑えた唸り声、とでも言うべき静かな怒声。 吹寄「女が勉學しちゃいけないっていうの?」 よく通る凛とした声が当麻の耳に飛び込んで来た。 が、現状が上手く把握出来ない。 声のした方に首を捻ると、先ほど目を合わせた少女が 切れ長の目を更に釣り上げて、こちらを見据えて 腕組みをして立っている。 当麻は口をポカンと開けてその少女──結構背が高い──を見上げる。 青ピと元春も同様に呆気に取られた顔だ。 学級の連中も事態に気付いたのか、ざわめきが次第に静まり 皆が少女と当麻に注目した。 吹寄「貴様、名前は何?」 当麻達と同年齢にしては少々主張の激しい胸を更に張って、堂々と仁王立ちしている、 その少女に睨まれ、光る額の輝きに照らされ、当麻は蛙のように動けなくなった。 吹寄「私は吹寄制理」 きっぱりと、彼女、制理が名乗る。 当麻が自分も自己紹介をしたものかどうかを決めかねていると、 それを遮って制理が弁を連ねる。 吹寄「好きな物は牛鍋、漢方、そして」 吹寄「平塚先生の御本」 言い切った制理の言葉に、元春が眉をひそめながらふと零した。 土御門「平塚……?」 どうやらその人物に心当たりがあるらしい元春に、当麻が声をひそめて尋ねる。 上条「おい、誰だよそれ」 土御門「多分、平塚=サンダーバードっていう、帰国子女の女性學者のことだにゃー」 上条「學者?」 土御門「ああ、女性権利の何とかって本をいーっぱい出してるらしいぜい」 ひそひそと話す二人に痺れを切らしたのか、吹寄が少し苛立った声を出す。 吹寄「貴様さっき、『女なんか』と勉強しても、って言ったわよね」 制理が何を言わんとしているか、当麻にも薄々分かってきた。 要は昨今取り沙汰されている微妙な問題に触れてしまったらしいのだ。 当麻は女性は家庭に入ってどーたらすべし、といった古臭い思想など毛頭持っていない。 むしろ女學校だの大學予科だのに通って學問を修める女性を尊敬しているぐらいだ。 もっとも、「勉強なんて面白くない物を進んで出来るなんて、何と凄まじい精神力だ」、という理由からだが。 上条「い、いや誤解だ……!」 口を真一文字に結んでこちらを見据える制理におののき、慌てて弁解する。 上条「俺は、女と『勉強なんか』しても、って言ったんだよ」 言い訳としては少し苦しいが、これは事実だ。 上条「お、俺はその、もっと女子と『勉強なんか』よりもっとこう、遊びだったり行楽だったり」 しどろもどろになりながらも制理の顔を真剣な眼差しで見つめ、 誠心誠意の陳弁に努める。 青ピ「せやー!ボクらも女の子と遊びたーい!」 土御門「勉強なんか詰まらないにゃー! 女の子とどっか行きたいにゃー!」 そうだそうだ、と各所から同意の声が上がって来た。 女子と遊びたいという部分には一部の、特に男性陣からの支持を集めたようだ。 しかしそんな事は当麻にとってはどうでも良かった。 今目の前で眼と額から鋭い光を射している少女の険しい表情を解かなければならない。 それだけだった。 吹寄制理、吹寄制理の機嫌を直さなければ。 制理の名と申し開きの文句がぐるぐると頭を駆け廻る。 上条「だから俺は、勉強なんかじゃなくて、その、」 自分が何を言ってるかも分からず必死で言葉を紡ぐ。 上条「吹寄と一緒にお茶飲んだり、劇場へ行ったりしたいんだ」 そう言い切った瞬間、 騒がしかった教室は静まり返った。 先程から一番うるさかった青ピと元春まで、口をあんぐりと開けたまま硬直している。 辺りの急激な温度変化、生暖かいような、凍り付いたような、不可思議な空間。 上条「え?」 その雰囲気に当てられたのか、ようやく我に返る当麻。 俺、何か言ったっけ。 ふと、目の前に不穏な気配を感じ、そっと目を向けると 吹寄「………」 何やらうつむいて顔色こそ見えないが、腕を、肩を、いや全身を震わせている制理がいた。 上条「ひっ……」 思わず慄き一歩下がる。 当麻は直感した。 『何かとんでもない事を言って怒らせてしまったらしい』 すぐに後ろを振り向き青ピと元春へ助けを求める、が。 二人とも何とも言えない表情で固まったまま 目を逸らした。 上条「!!」 友達甲斐の無い二人の裏切りに狼狽し あたふたと制理の方を向き直ると 震えたまま押し黙っていた制理が口を開いた。 吹寄「き、き、貴様……っ」 そこで当麻は「あれ、」と思った。 上条(あれ、耳が真っk) 次の瞬間、鈍い音が教室に響き渡った。 膝から崩れ落ちる当麻の意識の残り滓には 例によって、例による、例の言葉が浮かんでいた。 ─── ─── 青ピ「カミやーん!」 土御門「しっかりするにゃー!」 ド低い声と間延びした声。 二つの声が情けないステレヲとなって空しく響いた。 何とか当麻を助け起こそうと奮闘する二人だが 彼女の一撃は相当重かったらしく、呻くばかりでなかなか起きる様子は無い。 何がどうしてこんなことになったのか。 当の本人(男)は床でノビているし、 当の本人(女)は顔色を隠すように顔をぷいと背けて何やらぶつくさと零している。 一方、教室の中はしいんと静まり返っていた。 まあ仮に、この有様に割って入れる生徒がいたら、そいつは相当な大物だろう。 誰も声を漏らさず、ただおどおどと視線を交わすだけ。 吹寄「なんだって、私が……まったく、何なのよ……」 要領を得ない独り言が、沈々とした教室に浸みる。 學園生活の幕開け、それが修羅場から始まるとは。 当麻で無くとも不幸を呪う生徒がそこかしこに現れ始める。 今後の学級の行く末に暗雲が広がり始めた その時。 上条「う……」 青ピ「お!」 土御門「目ぇ覚めたかにゃー」 ようやく当麻が目を覚まし、一瞬二人から喜色の声が上がる。 黒雲に一筋の光が差すような、唯一の明るい報せ。 体を揺すられ、当麻は薄っすらと目を開ける。 しばし虚空をぼんやりと見遣った後、ぽつりと一言零した。 上条「……ふこ……うだ……」 しかし、その口から零れた第一声は余りに悲しく、 余計に場を落ち込ませることになった。 青ピ「………」 土御門「………」 そろそろ皆が空気に耐えきれなくなったその時、 突然やかましい音を立てながら引き戸が開いた。 にわかに響いた大きな音にびくりとして教室の入り口を見ると 小萌「はい皆さ~ん、席に着いてくださいなのですよ」 !? !! あのときの天使がまたも救済に現れたか。 再び皆の意思が一つになった。 ─── ─── 青ピ「あっ、あの子や!また御降臨なされたんや!」 土御門「ありがたや……ありがたや……」 吹寄「あの人……まさか……」 俄然、活気の戻った教室は和やかなざわつきを見せ始める。 その様子に内心微笑みつつも、 月詠小萌はわざと眉間にしわを寄せて強い声でたしなめる。 小萌「もー!席に着いてくださいっ!」 その声にばたばたと席に戻る生徒達だが、その中で一人腑に落ちない顔をしている者がいる。 上条「……だから、何者なんだよアレ」 他の者々は特に感ずる所もないといった様子で着々と席についている。 だが目の前で、教卓の裏の台──おそらく彼女専用なのだろう── に立ち、 腰に手を当ててふんふんと怒っっている姿はどう見ても機嫌を損ねた小學生だ。 小萌「まったく、いいですかー? 初日からこんなんじゃあ先が思いやられちゃうのですよー?」 言っている内容から察するに彼女は……いやまさか、そんなはずは。 当麻の脳内で小萌の姿と或る言葉がぐるぐると回る。 小萌「はい皆さん、席に着きましたねーえらいのですよー」 黒板の前に立つ少女のがにこりと微笑む。 すると「ほう……」という溜め息と感嘆の声が各所から湧き上がった。 幼子の可憐な笑顔がその場の全員の心を奪った瞬間であった。 青ピ「ほうぉあぁーっ!!」 がたん!という大きな音に驚いて当麻が振り返ると 後ろの席の青ピが立ち上がり歓喜の叫びを発していた。 ここまで来ると病気なんじゃねぇか、と心でツッコミを入れながら、 その実、当麻の胸中はそれどころではない疑念が渦巻いていた。 上条(まさか……な) そうだ、そんなことは幻想に違いない。 これまで数々の幻想が打ち砕かれて来たが、まさかあんな小童が…… 小萌「これから皆さんの担任せんせーになる、月詠小萌です。よろしくなのですよー」 うおおお、という地を揺るがすような歓声の中で、一人の少年が頭を抱えている。 上条(ああそうですよね そうなりますよね) 學園都市というものが 世間 とズレた世界であることは(経験から)重々承知していた。 しかしまさか子供が教師って、 文化の違い というには余りにも…… 己の先行きへの不安がふつふつと心中に沸いて来る。 嗚呼、俺の學園生活はどうなっちゃうんでしょうね。 ああ全く、ふこ 青ピ「至福やーっ!!」 ─── ─── 教室はお祭り騒ぎの様相を見せて来た。 中には小萌の名で声援を送る輩まで現れる始末だ。 最も、その中には我らが三馬鹿も含まれる訳で……。 青ピ「小萌っ!センセッ!」 土御門「小萌っ!センセッ!」 上条「………」 失礼。二馬鹿であった。 先述の通り、当麻が胸中落ち込ませているのは己の學園生活の将来についてだ。 年端も行かぬお子様が担当教諭というのは冗談にしたって質が悪い。 当麻が頭を抱えるのも無理からぬ話だった。 上条「大丈夫かよ……子供が先生なんて」 思わず独りごちる。 その呟きは周りの歓喜の渦に?き消えると思われたが、 どうやら近場の人間は聞き逃さなかったらしい。 青ピ「あれ?カミやん知らんの?あのセンセのこと」 先程まで万歳三唱に参加していた青ピが、これは意外といった風に話して来た。 土御門「あの先生、割と有名なんだぜい!……まあ、最初は俺らも気付かなかったけどにゃー」 同じく土御門まで、先程までうるさく鳴らしていた手拍子を止めて、当麻へ向き直る。 そう言われて彼女の顔容を思い起してみるが、 当麻の頭の中に ちびっこ教師 の情報に引っ掛かる節は無いようだ。 上条「そんな有名人なのか?」 当麻は彼ら言う『有名』を完全には信用していなかった。 何せ青ピと土御門なのだ、多少の色眼鏡は掛けた方が良いだろう。 が、質問の答えは意外なところから返ってきた。 吹寄「貴様……月詠先生を知らないのか?」 声の主は、先程当麻に『鉄拳制裁』を下した少女、吹寄制理であった。 眉をひそめて怪訝な顔を当麻に向けている。 上条「あ、ああ……」 その鋭い眼光に射抜かれた少年は思わずびくりと体を縮こませた。 手は無意識に腹部をかばっているようだが。 やれやれと大袈裟に首を振りながら、制理は軽く溜め息をついて見せた。 吹寄「全く、月詠小萌先生だ。 聞いたことぐらいはあるだろう?」 つくよみこもえ、姓名で言われると何処となく聞き覚えがあるような気がする。 しかし当麻の記憶力では其処までが限界であり、制理が満足する応えは出来そうになかった。 上条「すまん……」 素直にぺこりと頭を下げながら、ふと思う。 何で俺謝ってんだろうね、と。 その様子を呆れ顔で見ながら、制理はもう一度嘆息してから口を開いた。 吹寄「月詠先生っていったら、日本で初の女性教諭だろう」 上条「へ? そうなのか?」 なるほど、国學や史學というものに……否、學問全般に疎い当麻に分かる訳は無かった。 吹寄「そう、今でこそ女性教諭は当たり前! でもそれまでの男性主義の歴史を覆し、教師という聖職に就くことは」 いつの間にか鼻息を荒くしている制理の口上は熱を帯び始めている。 吹寄「そもそも男尊女卑の悪習が蔓延った旧来の各制度に於いて女性の権利は著しく」 制理の口から零れる土砂降りのような説教を浴びながら、当麻はぺこぺこと頭を下げるしか無い。 もっとも、降った雨は振り落とすのが世の常というもので 制理の熱烈な説法は当麻の頭には一割も残らないのだが。 吹寄「つまり月詠先生のお陰で日本國は数十年前からようやく女権回復の黎明期を迎え」 しばらく終わりそうにない制理の弁論をはいはいと華麗に聞き流す当麻。 その周囲は相変わらずの小萌小萌の声援の渦で溢れている。 良く言えば、にぎやかな仲間達。 上条(全く、こんな奴らと一緒の学級で、俺の學園生活はどうなっちまうんだ?) やれやれと頭を振りながら、そんなことを考える。 上条「はぁ……」 盛大に、息を吐いてみる。 いつもの、お決まりの、台詞。 でも何だか、今日は言う気になれなかった。 むしろ口元に微かに浮かんでしまう笑みを、何となく手で覆い隠した。 肌で感じる暖かさは、なんだろう。 何で心が躍るのだろう。 俺は、ここに来て、 上条(……良かった、な……) 漏れた笑いを手の下に感じながら、思わず当麻は目を細めた。 が、次の瞬間、和やかに笑んでいた口元がひきつった。 上条「数十年……?」 ─── ─── 小萌「さて、先生の話は以上なのです。 皆さんで仲良しな学級にしましょお」 そう言って、壇上でにこりと微笑むのは言わずと知れた学級担任、月詠小萌先生である。 後ろの席の青ピと、前の席にいる元春が先程から熱く我らが小萌先生の如何に素晴らしきかを語るものだから、 間に挟まれた当麻の耳には嫌でもその崇拝にも似た称賛賞辞が飛び込んでくる。 そんな賛美合戦を払いのけるように、当麻はわざとらしく少し大きな声を出した。 上条「さーて、ようやく始業も終わりか」 伸びなんかをしてみせながら、当麻はやれやれと言った調子で帰宅を促す。 もう早く帰って休みたいと言わんばかりに、手早く鞄を手に取って立ち上がろうとする。 しかしそんな当麻をきょとんとした顔で見上げる四つの瞳。 青ピ「何帰ろうとしてんのん?」 相変わらず妙な関西訛りが目立つ青ピだが、そう聞かれてはてと訝しんだのは当麻だ。 上条「いや、だって……もう担任先生の話も済んだし、な」 これまでの自身の経験から言えば、それが済めばもう學校の始業日は上がりのはずである。 この後にもまだ何か控えているのだろうか。 土御門「カミやん、日程表見てないのかにゃー?」 そう間延びした声を掛けて来る元春はどこか楽しそうだ。 いよいよをもって次に何が待っているのか、不安が募る。 上条「えと、この後何が……」 そう言い掛けて、当麻はある影が近付いていることに気付いた。 はたと目を遣ると、いつの間にやら小萌がそばまで寄っていた。 小萌「もー、先生の話をちゃんと聞いてくださいね?」 口を尖らせながらそう零す小萌はどう見ても拗ねた童女である。 すみません、ともごもごと謝る当麻だが、ふと小萌の服装に目が止まった。 先程まで教卓に隠れて首から下は(一応 台 に乗っていたはずなのだが)隠れてしまっていたため、 小萌の衣装は目に入らなかったのだ。 見れば、可愛らしい桃色の着物が目を引くものの、仙台平の袴を履いている辺りは流石教師というべきか。 ただし足袋の色まで薄っすら桃に染まっているのは、やはり彼女の趣味なのだろうか。 小萌「次は体育館で念術測定なのですよ 早めに移動して、そして」 指を立ててはきはきと説明する小萌だが、当麻はやはりその格好に気を取られてしまう。 和装は見慣れているはずなのだが、ある単語が当麻の頭を駆け廻り他の思考を邪魔するのだ。 じいと見つめる当麻に気付いたのか、小萌がはっとした様子で着物の前を手で押さえる。 小萌「な、何なのですか、そんなに見つめて……」 少し上気したように見える顔。 罪作りな少年の背後から響くぎりぎりという音は、青ピか、元春か、恐らく両者であろう。 当の本人は迷いあぐねていた。言いたい、しかし、言って良いものか。 とはいえ、これ程見事な「それ」もあるまい。 むしろ言って欲しいのでは。 いや、そうに違いない? 前からは熱っぽい目線を送られ、背後からは恨みの籠った念を浴びることにも全く気付かず、ふむと頷く当麻。 そして、口を開いて放った言葉が。 上条「七五三みたいですね」 その空気にぴしり、と亀裂が入ったように見えた。 和やかな場を冷え切らせる呪詛を言い放った本人は無垢な顔で微笑みすら浮かべている。 「上手い事言った」とも言わんばかりの仕事終えの表情である。 小萌が涙を浮かべるより先に、背後から愛の鬼神と化した二人の男に襲われるより先に、 憤怒を込めた叫び声を上げて突進してきた者がいた。 吹寄「貴様ぁぁ!! 月詠先生にッ、何て失礼なことヲッッ!!」 あらぬ方から突如鼓膜を震わせた怒声に、当麻が驚愕の表情で振り向いた時 既にその腹に深く深く、制理の正拳突きが埋め込まれていた。 本日二度目の薄れゆく意識の中で、念術測定、という小萌の言葉を反芻し 堕ちた。 ───