約 1,161,789 件
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/29370.html
登録日:2014/08/03 (日) 18 36 00 更新日:2023/04/01 Sat 13 49 22 所要時間:約 14 分で読めます ▽タグ一覧 Mr.HELIの大冒険 POWアーマー R-TYPE ×ドッグ○ダック だいたいTEAM_R-TYPEのせい キウイ・ベリィ スコープ・ダック ダックビル ネタの宝庫 戦闘機 海底大戦争 異層次元作業機 異層次元戦闘機……戦闘機? TW TPシリーズは、『R-TYPE』シリーズに登場する異層次元戦闘機……として使えなくもない機体群である。 作業機や補給機がこのカテゴリーに該当する。 TW-1 ダックビル武装 TW-2 キウイ・ベリィ武装 TP-1 スコープ・ダック武装 TP-2 POWアーマー武装 TP-2H POWアーマー改武装 TP-2S サイバー・ノヴァ武装 TP-2M フロッグマン武装 TP-3 Mr.ヘリ武装 TP-2M2 シー・タイガー武装 TP-2B バッド・アップル武装 Sm-GrF グランビア・F(フィメール)武装(FINAL2.5) TW-1 ダックビル R-9Aの“一部”をコンテナに改修し、作業用にマニピュレータを付け加えた輸送仕様のRシリーズ。 主に施設―艦船間の物資移送に用いられたようだ。 実物を見れば分かる通りどこからどう見ても全面改装でラウンドキャノピー以外面影絶無なのだが、 公式が一部と言ってるからには一部なのだ。たぶんきっとめいびー。 ゲーム上の系統樹派生は何故かエクリプスだが、設定的には先に述べた通りR-9の改修機。 この機体をベースに各種作業機や補給機が生み出されたことを考えると、R開発史の中では結構重要だったりする。 というより、マニュピレータを降着脚にして有人制御ユニットを無人機用のセンサーに換装するだけでまんまPOW。 メタ的にはPOWからの逆算なんだけどね シリーズ各機に言えることだが、例によってオペレーション・ラストダンスへの投入のためにフォースや波動砲が新規開発された。 そのせいで自衛装備付き輸送機の域に留まらないバ火力を得てしまう。 つまりだいたい奴らのせい。 確かに輸送機に火力を保たせて直協支援というのは現実でもやってるのだが、そこまでやるか? どうやら武装が搭載されているのは量産前に作られた試作機らしい。実戦に投入しているのもそれ。 機体名はカモノハシのことを指すが、パッと見そうは見えないので、おそらくキャノピーを嘴、輸送物資を卵に見立てたのだろう。 武装 ○カーニバル波動砲 圧縮炸裂波動砲から派生・発展した広域攻撃タイプの波動砲。エフェクトが非常にアレ。最大2ループチャージ。 中心拡散型なので範囲攻撃に使うと、よほどうまく巻き込まない限りダメージが落ちる。 ただし対大型バイドに関しては話は別。 偵察機に転用された機体が合図代わりにぶっぱしたという記録も残っているが、さもありなんというか…… ○キューブ・フォース ロッドレス・フォースの発展形。立方体型のフィールドに覆われている。 フラクタルレーザーの応用理論でレーザー2本を同時発射可能。 レーザー弾種は 対空レーザーをフラクタルタイプにし、地形追従機能を持たせた感じのダブルフラクタルレーザー 斜め上下に放たれるこれまた地形追従機能付きのスラントフラクタルレーザー フラクタル化した対地レーザー的なヴァーティカルフラクタルレーザー の3種。 TW-2 キウイ・ベリィ 異層次元戦闘果物、以上 ではなく、まさかの無限軌道式戦闘車両である。Rシリーズなのに。 見た目は上記のダック・ビルの下半分を無限軌道にし、上部に大砲を据え付けた具合。 戦闘車両なのにやたら広い前面投影面積、車体正面に鎮座するラウンドキャノピー、反動抑制の観点から言えば最悪の位置にある大砲…色々とツッコミどころが多すぎる外観である。まあ防御についてはフォースがある世界観だし、反動も慣性制御でどうにかなるのかもしれないが… 開発目的は火力強化に耐え得る機体の開発が目標ということらしいが、「波動砲があるのにそれ以外の火力求めても意味なくね?」、 「そもそも地上からの迎撃って相当限定的な上に逃げられる可能性大じゃねーか」という当然のツッコミが入り、 陸戦用Rシリーズは発展することなく早々に開発打ち切りとなった。(それでも試作車があるのが何とも…) しかしTACTICSⅡでまさかの再登場を果たし、アクの強さと引き換えに高い火力と迎撃性能を得た。 移動や出撃、格納にさえ制限のかかる完全陸戦特化仕様だが、はまった時の爆発力は凶悪の一言。 大砲以外の全火砲が迎撃兼用かつ高威力という、無駄に洗練された無駄のない無駄な優遇ぶりが最大の武器。 ただし人工以外のフォース禁止のグランゼーラ革命軍の機体なのでドリルはオミットされた。 というか量産型の陸戦兵器なんだぜこれ… 見た目の可愛らしさやある種極まりすぎた尖り具合など、見るものからすれば相当魅力的、らしい。 なお、設計上飛行も可能な模様。 機体名のキウイは鳥と果物でダブルミーニングと思われる。 発案の経緯、そしてなぜ認可されてしまったかは長らく開発史最大の謎とされてきた…が、FINAL2にて追加された機体列伝において、本機体はR-TYPE⊿での出来事「サタニック・ラプソディー」で発生した市街地での戦闘結果を受けて開発されたことが判明した。 非常事態とはいえ、R-9A2などの機体では市街地での戦闘による被害を免れなかったことから、大気圏内での戦闘、特に陸戦特化のR戦闘機の開発が必要であると判断され、承認されたようである。 だからといって無限軌道を装備するのはいかがなものか 武装 ○大砲 漢らしく二文字で『大砲』。そして文字通り大砲。正確には通常火器だがチャージ武装。最大2ループチャージ。 たぶんチャージ時に波動エネルギーを注入してるのだろう。波動エネルギーないとバイドの消滅って難しいし。 弾道的には榴弾砲(TACTICSⅡでは迫撃砲)のような感じの放物線を描く。 地味にチャージ量で飛距離が変わるが、たぶん狙ってやる奴はいない。 FINALでは接地して撃つと砲身を少し上に向けることができるが、たぶん狙って(ry ○ドリル・フォース(STG) 実に漢らしい浪漫の塊なフォースドリ。その名の通りドリルを先端に備えているドリ。 というかぶっちゃけコントロールロッド=ドリルドリ。 フォースシュート時にはドリルが対象に突き刺さり、ドリドリすることで継続的に敵を抉り抜くドリ。 レーザー発射にドリルの回転を利用するというドリが、どのような理論でそうなっているのか、人類に知る術はないドリ。 というか「ドリルだから」で納得できそうなのが怖いドリ。 レーザー弾種は 円錐状レーザーをドリル先端から連射する、大事なことなので2度言ったドリルドリルレーザー 撃破した敵を巻き込んで吹き飛ばす竜巻状のレーザーを放つ竜巻レーザー ドリル下部から斜め下に地形に沿って燃え広がる炎を落とす対地火炎弾 の3種ドリ。どれも地味に高火力ドリ。 ○弾道弾迎撃ミサイル(TAC) バルムンク試作型に匹敵する威力とそれ以上の最大射程を備えた鬼畜ミサイル。ただし中間距離は射程外。 バリア弾と違って敵の放ったバルムンクを完全相殺できる。 そしてバルムンクと違いパイロットの熟練度は威力に変換されるため、エース搭乗時の威力はバルムンクに比肩するものとなる。 飛べないのはある意味有情なのかもしれない。 TP-1 スコープ・ダック ダックビルたんをベースにラウンドキャノピーをオミット、スコープ型の三連カメラユニットに交換してコンテナ部に電子機器を満載。 余ったスペースにコクピットを放り込んでマニピュレータを降着脚に換装すれば出来上がり。 メインカメラの形状のせいでそこはかとなくむせるが、ダック(イエガモ)であって間違ってもドッグ(わんこ)ではない。 ゆえに「むせない方のスコープ」などとも呼ばれる。スタッフ狙いすぎだろJK。 電子戦能力はさすがに本職に劣るが、あちらに比べて安価で攻撃能力もそれなりのため前線では使い潰しの利く簡易マルチロール機として重宝されている。 本機から電子機器をぶっこ抜いて輸送機に戻し、無人化したものがみんなのバイドルPOWたんとなる。 ちなみにFINALでの隠し効果は夜目さんと同じ。 TACシリーズではそこそこの索敵能力と最低限の自衛能力、人型機と同様の施設制圧能力を備え、 初期ユニットとしていてくれたら間違いなくぐう聖という評価を受けている。 というのも波動砲がないので火力は死亡認定、索敵機としても移動力、索敵範囲ともに最低限、さらに熟練度ボーナスは回避性能。 おまけに改修に貴重なエーテリウムを消費するとあってはどうしようもない。 あれば使うけど作ってまで使いたくはないというポジションになってしまった。 武装 基本はダックビル参照。 ○カーニバル波動砲Ⅱ 某キ○ガイどもが弄り回していたら出来上がったイレギュラーな波動砲。最大3ループチャージ。 どこぞのキ○ガイの神が手を貸しでもしたか、威力は数倍となっております(当社比)。 無論、エフェクトのアレさ加減も変わらない。 TP-2 POWアーマー 本項を読んでいるバイドないしTYPERならご存知……ないはずはない自走コンテナ、もといみんなのバイドル。 スリーパーとしてあらかじめミッションコースに多数散布され、自機のエリア侵入を感知して起動する無人アイテムキャリアー。 単機突入ミッション中の自機の前に現れ、みんな~とばかりに突撃してくるニクいやつ。 放出するアイテムに応じてキャノピーの色が異なるという地味ながら芸コマな機能持ち。 頑丈で小回りが利くため物資の輸送などに重宝されたとされる。 特に頑丈さに関しては、ステージに出現した際に接触すると自機のR戦闘機が粉々に砕け散るのに、コイツは無傷のままという仕様から「POWの頑丈さは異常」とよくネタにされてきた。 自機に向かって突進してくるのはバイドに制御系を狂わされ、突貫コースが規定のものと誤認しているかららしいが、 その割にはバイドの群れの中でも侵食されずにいられるので、低活性バイド素子か何かを機体内に封入してたりするのかもしれない。(一応「レーザークリスタルはバイドの攻撃対象にならない」という設定はある) さすがに素子がベットリ付着してしまうと、肉塊に覆われた腐れPOWと化してしまうが。 ⊿にて隠し機体としてプレイアブル化を果たし、FINALで再登場。 ⊿では他機と隔絶した高性能と化しているが、たぶん腐れ開発チームの前身が全身全霊でヒャッハーしたからだと思われる。 FINALでも強機体として健在だが、上には上がいまくるので最上位層とはいかなかった。 一方、平行世界のTACシリーズでは非武装汎用補給機として八面六臂の大活躍。 バルムンクところにより一時燃料の補給、デコイ生成による簡易索敵 敵機の火線誘導から施設制圧まで、 文字通り縁の下の力持ちとして自軍になくてはならない存在となっている。 当然だが、僚機のPOWを撃墜してもレーザークリスタルは出ないしフォースが強化されもしない。 ちなみに機体名のPOWはPOWER UPの略らしい。 武装 ○バイド砲(FINAL)、バイド波動砲(⊿) ドブケラドプス屋ガウパーなどのバイド体を模して光学収束された波動弾をぶっぱする。最大2ループチャージ。 チャージに応じて発射するバイド型弾体の形状が変化するが、波動弾の形状によるメリットは特にない。 ○ニードル・フォース(FINAL)、バイドフォース(⊿) 高出力かつ高性能だが開発時期のためか不安定で、棘状のコントロールロッドで文字通り針鼠となることで制御している。見た目はトゲ鉄球っぽい。 コントロールロッドの打ち込みは職人さん(という名のPOWフリーク)による手作業であり、個体ごとにトゲの位置にバラつきがあるため整備に手間がかかるとされる。 オリジナルが変態的ワンオフのせいか元より量産性は絶無だが、その分性能は極めて高い。 フォースシュート時に時計回りに全方位を薙ぎ払うように弾をバラ撒くため、レーザー抜きでも攻撃能力は破格。 当然、Aクラス以上の大型バイドにめり込ませた時の破壊力も破格。 FINAL2ではショットが大幅に弱体化されてしまったため、産廃とまでは言わないが扱いにくいフォースとなってしまった。 レーザー弾種は 心電図めいた軌跡のレーザーを放つ波形レーザー 一度だけ地形に反射するレーザーを角度をずらして上下3本ずつ発射する3WAY反射レーザー 地形に当たると跳ね跳ぶ、スーパーボールめいたレーザーを上下に撃ち出すバウンドレーザー の3種。 TP-2H POWアーマー改 POWアーマーの装甲を見直したほか、フォースの性能強化を行い戦闘能力の向上を図った機体。 POWたんの可愛らしさが消えた!ということで、一部のバイドルマスターからは不評らしい。 ダークグレーの装甲左舷に白抜きで書き込まれた『改』の一文字(TACTICSシリーズではハートマーク)がオシャレ。 なおこの『改』のペイントはFINALのカスタマイズで機体色を変えると、白で『無』、赤で『炎』、黄で『鬼』と変化する。 元が補給用の自走キャリアーなので武装強化限界が低く、数機が生産された時点d……したのかよ、生産。 『改』のペイントといい、無駄に洗練された無駄のない無駄な機体の超強化といい、主務は間違いなく日本人。 ちなみに機体下部に増設された大型のユニットは、より強化されたフォースコンダクター。 ただでさえじゃじゃ馬だったニードル・フォースを強化したため、確実な制御を企図して大型化したのだろう。 武装 基本的にPOW準拠。 ○ニードル・フォース改(STG) 熟練の技術者の手で調整を施されたニードル・フォースであり、製造からメンテナンスまで職人芸必須の最も高度なフォースのひとつ。バ改造の結果じゃねーかというツッコミは禁句。コントロールロッドは棘を通り越して針状となり、本数が激増したため見た目はトゲ鉄球どころか完全にウニと化した。 フォースシュート時の強力な弾幕はそのままにレーザーの火力が大幅に向上しており、 このフォースのみでRシリーズの最上位層まで上り詰めたと言っても過言ではない。 放たれるレーザーには、技術者の人柄が反映されるとも噂される。(*1) FINAL2ではデザインが若干変わったほか、ニードル・フォースと同様に分離時のショットが大幅な弱体化を受け、低火力のうえ扱いにくいフォースとなってしまった。(一応ニードル・フォースの倍の弾が出てはいるのだがそれでもスタンダード・フォース以下)FINAL2のショットの威力でFINALと同じ弾幕パターンを実装するとぶっ壊れ火力になってしまうと思われるので弱体化そのものは仕方ないところであるが… レーザー弾種は マイナス位相分が追加された心電図めいたレーザーを発射する超波形レーザー 上下にレーザーを放ち、各々虹の色相に分離反射させて広域制圧を行うレインボーレーザー 反射のランダム性と動きが強化されたイレギュラーボール の3種。特にレインボーレーザーは2WAYが14WAYに分裂するというマジキチクラスの制圧力を誇る。 TP-2S サイバー・ノヴァ POWアーマーを宙間機動に最適化させた無重力空間運用特化タイプで、広大な宇宙を迅速に駆け抜け、 安心確実に補給要請に応えられるように調整されている。 そのために降着脚を自在旋回型ブースターポッドに換装しているほか、機体上部にもウサ耳めいた形状のバーニアユニットが増設されている。 独特の頭部形状から、プレイヤーからは「ウサギ」と呼ばれることも。 例によって腐れた面子の悪ノリにより、例の作戦投入機にはPOWと同等の戦闘能力が付与された。 TACⅡでは移動力4となって、ストライダーへの追従が容易になった代わりに制圧機能を喪失している。 また耐久力がガタ落ちしているため、デコイの囮としての有用性は若干低下した。 もっとも、簡易索敵ドローンとして使い潰すのであれば、移動力強化はむしろありがたくはある。 局面による使い分けが肝要だ。 武装 基本はPOWと同様。 ○超新星波動砲(STG) 超新星(スーパーノヴァ)クラスの爆発を擬似的に再現しようとした衝撃波動砲系列の実験型。最大2ループチャージ。 当たり前っちゃ当たり前だが、たかがいち戦闘端末にそこまで強大なエネルギーの産生ができるはずもなく、 威力的には衝撃 超新星 衝撃Ⅱ(全てフルチャージ)といったところ。 FINAL2では衝撃 圧縮炸裂=幻影=超新星(同ループ時)に。一応同ループのスタンダード波動砲よりは上なので弱くはない。 機体名はこの波動砲由来。 TP-2M フロッグマン 球形外殻が高い水圧耐性を備えていることに着目し、POWを水中適応タイプに改修した機体。 足ひれをはめて酸素ボンベを背負い、レギュレーターを咥えたようないかにもな外見がぷりちー。 深海活動能力も備え、さらに宙間運用さえも可能な連合脅威の技術力の結晶。 宇宙と水中じゃあ気密性の意味するところに差があるのだが、そこはそれ。 TACTICSシリーズでは波動砲をオミットされたうえに水中専用にダウングレードされてしまい、結構不遇。 確かな打撃力の対潜・対空兵装を備えているのだが、水中・水面でしか行動できない制約のせいで、 結局のところ「あると便利だけど波動砲でいいよね」という残念な評価をされている。 だが敵機として出てくると、長射程のミサイルで迎撃してくるのでなかなか鬱陶しい。 武装 基本はPOWに準ずる。 ○バブル波動砲(STG) 強酸化系ガスを充填した泡を大量に放出し、接触破裂させてガスを拡散させることで攻撃する。最大2ループチャージ。 命中精度を考慮してかわずかに下向きで放出され、拡散しながら昇っていく軌道をとる。 威力的にはスタンダードⅡと同格であり、意外だがなかなか強力。 ○魚雷 潜対空ミサイル(TACシリーズ) 通常型のミサイルよりも一回り以上強力、かつ装弾数も倍近く、おまけにバルムンクと同等の射程距離を備えた強力なもの。 お互いの死角を補い合っているため使い勝手はいいが、このためだけに生産する価値があるかというと、ねぇ……。 TP-3 Mr.ヘリ 小惑星探査用の大気圏内外両用型ヘリコプター。初出は同社の『ミスターヘリの大冒険』。 プロペラは宇宙空間では無意味に見えるが、星間物質を利用して推進できるという無駄に凄い技術の集合体。 FINALでは機体のみならず、フォースやビットまでも機体を模してプロペラ付きという訳わからん徹底ぶり。 というかどこでオリジナルの記録を入手したんだか…… 武装 ○クリスタル波動砲 本来は彼の資金源であるはずのクリスタルを豪快にぶっ放す、いわゆる銭投げ技。最大2ループチャージ。 硬質結晶を叩きつけるためかなかなか高威力で、地形や目標に着弾すると割れながらバウンドする。 当然破片にもダメージ判定があるので、総火力は見た目によらずかなりのもの。 ところで、どうやってクリスタルを生成してるんだ? ○Mr.ヘリ・フォース 本機専用のフォースで、コントロールロッド先端(=フォース先端)にプロペラが付随している。 当然ただの飾りではなく、フォースシュート時に接触させると相手を切り裂きながら持続ダメージを与える。 また、分離時にはプロペラを上に向けて飛行するという無駄に芸の細かい仕様。 レーザー弾種は フォースの成長に応じて最大5連装まで同時発射数の増えるパワーアップショット 上下斜め方向に分裂弾(最大3分裂)を発射する2WAYショット プロペラから上下方向にレーザーを発振する近接タイプのプロペラレーザー の3種。 ○Mr.ヘリ・ビット 機体を模した形状の専用ビットデバイス。プロペラもちゃんと回っております。 防御能力をもってるあたりサイ・ビットを参考にした可能性があるが、さすがに射出機能は自重したようだ。 ○垂直打ち上げ式ミサイル その名の通り垂直発射後に目標追尾を開始するミサイル。ACシリーズで誰もがお世話になるアレ。 初期レベルは単発だが、最大5発まで同時発射可能でなかなか強力。 原作よろしく、地上では爆弾がコロコロと転がる。 TP-2M2 シー・タイガー フロッグマンの後継機。その需要の想定未満の低さに開発中止されていた水陸両用機体だが、戦局の変化による研究再開の末に本機が生み出された。 基本的にはフロッグマンの色違いに見えるが、フレームやアクアラングがいぶし金に塗装されたほか、細かな装飾が追加されスチームパンク風の高級感ある佇まいとなった。名前の由来も高級エビだし… フロッグマンでは地上運用されなかったせいで足ヒレの地上での効果を実感できなかったが、本機で実際に使われると荒地での移動や宇宙要塞戦における拠点確保に効果的だったそうな。さすがは「水陸」両用機というところ。 本来はTACTICSⅡのDLCユニットとして追加を予定されていたが、キャンセルされ日の目を見ることがなかった不遇な機体。 FINAL2.5にて漸く参戦と相成ったが、性能としてはフロッグマンの癖の強さが良くも悪くも受け継がれている。 武装 基本はフロッグマンに準ずるが、フォースはPOW改と同じニードルフォース改になっている。 ○魚雷(FINAL2) 光子ミサイルと同じく徐々に加速する魚雷を前方から発射する。液体内での使用を想定しておきながら空中や宇宙でも問題なく使用可能。 着弾時に小爆発を起こすのは光子ミサイルと一緒だが、追尾が上下方向、発射位置の関係上接地状態でも使用できると上位互換。 ○対空ミサイル(FINAL2) 元ネタはアイレムの別ゲー「海底大戦争」(詳細は後述)のミサイルアイテム。4WAY追尾ミサイルが上方向に発射されるもので、接地時でも上方向への火力が高い。 だがその代償として下方向への火力はからっきし。元ネタは機雷が出てたのに。。。 TP-2B バッド・アップル バイド汚染の強い区間で確実に物資を運搬するには、バイドに計器を狂わされないようにその影響を中和・軽減する必要がある。 その中和・軽減の方法について腐れ開発チームが出した答えは… 「だったら最初からバイド素子を添加しちゃえばいいんじゃね?」おい馬鹿やめろ そんな感じでバイド素子添加技術を応用し、POWアーマーのフレームにバイド素子を加えて開発された。 れっきとしたTPシリーズとして型番が振られてはいるが、その肉々しく醜悪な見た目はどう見てもバイドです。本当にありがとうございました。 なお、ロールアウト前から本機と似た姿のバイドが確認されているが、真相は不明。腐れ技術者はこいつらを参考にでもしたのだろうか。 「R-type TACTICS」シリーズには、「POWアーマーにバイド体が付着し変質した補給生命体『BxTP 腐れPOWアーマー』」名義で参戦しており、むしろそちらが初出。 人類側と同じくバイド軍でも補給に占領にデコイ運用にと大活躍するが、バルムンクが無い分、重要度は下がる。 本機と腐れPOWの違いは、先天的にバイド素子添加機体として開発されたか、後天的にナニカサレタか程度だったりする。 武装 ○バイド砲Ⅱ バイド素子との相性が良かったのか、3ループチャージに進化した。 3ループ目ではばらまかれる弾にムーラが追加されている。 ○ヌードル・フォース ニードル・フォース構造をもとにして、針状の代わりに麺(ヌードル)紐状のコントロールロッドを打ち込んだキモイフォース。 長くてウネウネでしかもバイド体なので製造もメンテナンスも命懸けだそうで。 …え?「フォースは元々バイド体だろ」だって?その通りなのだが、こいつには「コントロールロッドにもバイド素子を使用した」と明記されているのだ。これもはや完全にバイドなのでは? レーザー弾種はニードル・フォース改からさらにパワーアップし、 心電図の振れ幅がさらに大きくなってカス当てが容易になった心波形レーザー 反射分裂時に炸裂するペンキに変化するペインターレーザー バウンドした着弾点にクッソ汚いヘドロの飛沫をまき散らすスラッジレーザー どれも火力はそこそこだが攻撃範囲に優れていて使い勝手は悪くない。 ○目玉垂直打ち上げ式ミサイル ミスターヘリの垂直打ち上げ式ミサイルのバイドバージョン。 挙動はオリジナルと微妙に異なる。 Sm-GrF グランビア・F(フィメール) 開発コード「ハイドロ・フォビア・グランパス」通称「グランビア」の雌型。前述の「海底大戦争」の主人公機である潜水艦。 どう見てもPOWシリーズから外見も型番も離れているが、シー・タイガーから派生で開発可能になるからか、分類としてはTPシリーズになっているようだ。 対流型自機推進システム「ダイナコア」が搭載された潜水艦…型の次元戦闘機である。 もう一度言う。内部は次元戦闘機である。(*2) コントロールサブユニットには、人類外のテクノロジーが使われているという、原作を知る者には曰く付きの設定(*3)(*4)があるが、FINAL2世界では果たして…? 実はTACTICSⅡにしれっとゲスト出演。水中専用でありながらも、波動砲の代わりとなる超音波魚雷と弾道弾迎撃ミサイルと優秀な武装を併せ持つ。 武装(FINAL2.5) ミサイルはシー・タイガーに準ずる。 ○ユグスキューレ波動砲 + ユグスキューレって? 「人類掃討システム『ユグスキューレ』」とは、原作「海底大戦争」の世界において、暗黒テロ組織「D.(デストロイ)A.(アンド)S.(サツジン)」によって開発された磁力兵器。 93年前に紛争で使用された結果、地殻変動を引き起こして世界の陸地の75%を海の底に沈め、人類の80%を死に至らしめたというとんでもない代物。形状はヤク〇トの容器をイメージしてもらえれば大体あってる。 プロローグではD.A.S.の復活と共に再始動。ゲーム中では最終破壊目標、つまりラスボスとして戦うことになる。 なんというものを波動砲にしてくれたのでしょう + D.A.Sの暗躍の一部 クレイボーン博士をリーダーとし、チンピラや改造人間といった武装集団を従え、街を暴力で支配していた。 だが、市長によってシティスイーパー3人(*5)の活躍で下部組織は壊滅、業を煮やした博士の街爆撃計画も阻止され見事お縄につくことになる…すぐ脱走したが。 この博士、爆撃予告の際「爆弾が落ちれば人がたくさん死んでステキだろうよ」とほざく典型的な悪の科学者だが、妙に技術力が高い 戦争後の混乱の中で大型輸送ヘリを作る 短時間でシティスイーパー達のクローンを作る 謎の装置で自分の体をR-TYPEに出てきそうな化け物に改造する(後で人間に戻れる)。攻撃方法は光弾と首伸ばしだが、先端や反り具合がR-TYPEⅡのバラカスなみに卑猥 圧縮波動砲の要領で空間の歪みの渦を照射し、内部にいる敵をズタズタにする。4ループMAX。 原理などについて一切公開されていない。 人類掃討システムの名を冠するだけあって、当然ながら出力も大幅に制限が加えられており、抑制状態。 何でも、完全開放してしまったら人類掃討どころか太陽系消滅レベルだという噂があるとか。元ネタより悪化してません? ○グランビア・フォース R-TYPE FINAL2.5に実装されるにおいて作られた専用フォース。 特徴としてはフォース分離中はショットが出ず、代わりに装備しているミサイルを発射する。 つまりこれを究極互換機に乗せればバルムンクを2発同時に発射できるというわけで… ただしミサイルを装備していないと当然何も攻撃手段がないため、復帰力は非常に低い。 レーザー弾種…というより魚雷弾種は 直進する魚雷を連射する速射魚雷 持続ダメージを与える超音波の渦を残す超音波魚雷 一定距離で炸裂して広範囲にダメージを与える散弾魚雷(クラッカー) と、3種とも原作踏襲。どれも前方に偏っている上、青と黄は全攻撃判定が消滅するまで次弾が打てないと癖強。 追記・修正はカーニバル波動砲を祝砲代わりにぶっぱしてからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] これでRの系譜はほとんど網羅できたはずだが……各項目、ナンバリング等に漏れがあったら適宜追記・修正して、どうぞ。 -- 名無しさん (2014-08-03 18 38 37) よくやってくれた。礼として開発チーム主導の実験計画参加への推薦をしてやろう -- 名無しさん (2014-08-03 20 58 26) なんでタクティクスでTYPERならだれでも通るぱうたんの『体当たり(威力999)』なかったんや -- 名無しさん (2014-08-04 13 49 29) ありがとう。 -- 名無しさん (2014-08-06 00 10 44) ヘリビットに防御力ないよね? -- 名無しさん (2015-10-10 01 05 16) マジで何故TACⅡの初期偵察機がむせる顔のアイツじゃないんでしょうかねぇ。 -- 名無しさん (2019-08-04 13 42 05) 編集衝突で消えたと思しき記述を復元しました。 -- 名無しさん (2022-08-19 23 56 40) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/hoot2ch/pages/392.html
game name R-Type LEO(R-TYPE LEO) /name driver type="m92" irem /driver options option name="opm_mix" value="0x80" / option name="pcm_mix" value="0x100" / /options romlist archive="rtypeleo" rom type="code" offset="0x0001" rtl-sh0a.bin /rom rom type="code" offset="0x0000" rtl-sl0a.bin /rom rom type="pcm" offset="0x0000" rtl-da.bin /rom /romlist titlelist title code="0x00" 0x00 stop /title title code="0x08" 0x08 Start /title title code="0x01" 0x01 Paradise Planet /title title code="0x02" 0x02 Red-Hot Desert /title title code="0x03" 0x03 Tropical Forest /title title code="0x04" 0x04 Floating Continent /title title code="0x09" 0x09 Inside of Ruins /title title code="0x0a" 0x0a Core of the Plant /title title code="0x05" 0x05 Boss /title title code="0x0b" 0x0b Ending /title title code="0x06" 0x06 Game Over /title title code="0x0c" 0x0c Name /title title code="0x07" 0x07 Unused /title /titlelist /game
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3840.html
脱出艦隊、帰還。 その一報は生還への希望としてではなく、単なる情報の1つとして生存者達へと齎された。 少なくとも、負傷者の収容と被害状況の確認に追われる人員の間では、元々最悪であった状況が少しばかり悪化したという程度の認識だろう。 今回の戦闘による被害は甚大であり、その対応に奔走する者達には脱出作戦の帰結に意識を傾ける余裕など無いのだ。 だが多くの被災者にとっては、その情報は絶望そのものとして伝わった事だろう。 ランツクネヒトからの正式な情報開示は未だ為されてはおらず、人伝に広まる情報を掻き集めただけのものしか知り得る事はないが、それですら被災者達の希望を奪い去るには十分に過ぎた。 脱出艦隊、損害状況。 全12隻中7隻を喪失、いずれも生存者なし。 各種機動兵器、89機を喪失、生存者6名。 ヴィルト隊R-11S、2機を喪失、生存者なし。 R-9E2 OWL-LIGHT「ケリオン」を喪失、パイロット死亡。 防衛人工衛星アイギス450基、内374基を喪失。 制御ユニット「TYPE-02」及び「No.9」暴走により「TL-2B2 HYLLOS」「R-13T ECHIDNA」「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」の全無人機が敵性へと移行。 救援要請の成否、未だ不明。 脱出艦隊に何が起こったのか、具体的な事は何も解らない。 ただ、想像も付かない脅威と遭遇したらしき事、その結果として甚大な損害を被った事だけは確かだ。 現状ではそれ以上を知り得る由など無く、また知りたくもなかった。 だが今、彼女はそれ以上に絶望的かつ危険な情報を、否応なしに眼前へと突き付けられている。 「それでは、お願いしますね」 小さく、感情の窺えない声。 そんな言葉と共に口を噤む桃色の髪の少女を見つめ、次いで彼女は呆然と自身の手の内に在るメディアデバイスへと視線を落とす。 目前の少女が語った内容が本当ならば、僅か5cm前後の大きさでしかないそれに地球軍とランツクネヒトの戦略、そして彼等とバイドに関しての真実が記されているという。 そんなものが自らの手の内に在る、それがどれ程に危険な事態であるか、彼女は否という程に理解していた。 「どうしました? セインさん」 少女が放った言葉に彼女、即ちセインは我知らず目を細める。 こんなものを手渡した当人であるというのに、抜け抜けとこちらを気遣う様な言葉を放つ目前の少女が、セインの目には堪らなく疎ましい存在として映った。 此処でこの少女を始末し、手の中の記録媒体を握り潰してしまえれば、どれほど気楽な事だろう。 そんな考えさえ浮かぶ程に、セインは精神的な面から追い詰められていた。 それでも何とか、彼女は自身の疑問を言葉として紡ぎ出す。 「何で、アタシに?」 現状でセインが抱く疑問は数あれど、中でも最たるものがそれだった。 何故、高町 なのはや八神 はやてではなく、自身を選んだというのか。 それを問いとして目前の少女へとぶつけてみたのだが、当の彼女は言い淀む事もなく辛辣な言葉を紡いだ。 「このベストラの中で私達と接点を持つ人物、その中で貴女が最も冷静だからです」 「それを言うなら、元上官の方が適役だと思うけど」 「あの御2人は余り嘘が得意とも思えませんし、何より今は平静を欠いていますから。余計な事を伝えれば、即座にランツクネヒトへの敵対行動に移りかねません」 「アタシもそうだとは思わなかった? チンク姉も、ノーヴェもウェンディも、果てはギン姉とスバルだって生存は絶望的だっていうのに」 「でも、現に貴女は冷静です」 無意識の内にセインは、少女の右手を握る自身の左手に力を込めていた。 彼女がその手を離せば、目前の少女は構造物内に取り残され、周囲の構造物との融合の果てに凄惨な死を遂げる事となる。 その事実を良く理解した上で、セインは少女の手を振り払いたいという欲求に苛まれていた。 そんな彼女の思考を無視するかの様に、少女の言葉は続く。 「貴女は姉妹の安否が不明である事についての憤りと、更に地球軍に対する敵意を抱きながらも、公平な視点で以って全ての勢力を見ている。敢えて危険な選択をする事も、感情に任せて行動する事もない。違いますか」 その言葉に、セインは答えない。 ただ無言のまま、左手に込める力を僅かに増したまでだ。 少女はその左手に握られる自身の右手へと視線を落とし、次いでセインの眼を正面から覗き込み、続ける。 「だからこそ、それを渡すには貴女が相応しいと考えたんです。貴女は合流以降、ずっと後方での活動に当たってきた。ランツクネヒトに悟られぬよう、人々の間に情報を流す事もできる筈」 「簡単に言ってくれるね。それが本当に可能だとでも思ってるの?」 「今はランツクネヒトも地球軍も混乱している。直に行動を起こすには相応しいとは云えませんが、備えるなら今しかない」 「それだけ?」 数瞬の後、少女は溜息をひとつ吐き、視線を伏せる。 再度その眼が上げられた時、其処には凍て付くかの様な冷然たる意思が宿っていた。 思わず気圧されたセインの意識に、感情の存在さえ疑いたくなる程の無機質な声が響く。 「・・・どんな状況であれ、あの御2人に生身の人間を手に掛ける事ができるとは思えませんから」 「本当にそうかな。高町一尉の方はクラナガンで、R戦闘機を墜としている筈だけど」 「直接、人の姿が見えないというのは重要な事です。そして、対人戦で相手を殺傷した経験の在る魔導師なんて、管理局には数える程しか居ない。幾ら調べてみても、あの御2人がそういった場面に遭遇したという記録も無い」 「アタシだって殺人の経験なんて無いよ」 「その訓練は受けていた。そして何より、貴女は必要と在らばそれを為す事ができる」 沈黙するセイン。 自身を正面から捉える視線、それから逃れるかの様に顔を逸らし、軽く唇を噛む。 少女の言葉は、確かに的を射ていた。 セインはスカリエッティの下で暗殺に関する訓練も受けており、其処から得られた経験は時空管理局地上本部襲撃時にも活かされている。 だが、実際に暗殺を行った経験が在るかと問われれば、答えは否だ。 姉妹の中で人間を殺めた経験が在るとすれば、ドゥーエとトーレ、そしてチンクくらいのものだろう。 スカリエッティが狂人である事はセインとしても疑うべくもないが、彼は不必要な殺人を避ける程度には良識を保っていた。 そして同時に、それらの任務に当てる事を躊躇う程度には、娘達に対して愛情を抱いていたとセインは見ている。 事実、不都合な人物の消去に関してはスカリエッティとウーノが、複数の犯罪組織を介して実行していたらしい。 それでもセインは、何時それらの任務に当てられても良いとの覚悟だけは持っていた。 その為に訓練を受け、戦術を学んだのだ。 望むと望まざるとに拘らず、必要と在らばそれらの局面に於いて投入される。 自身がやらねば、他の姉妹達が殺人という咎を負う事となるのだ。 だからこそ、それらの任務は全て自身が遂行せねばならない。 そう、考えていた。 「間違っては、いませんよね?」 だが、その覚悟をこんな形で再確認させられるとは、セインとしては予想だにしなかった事だ。 問い掛けてくる少女へと視線を戻し、苦々しく表情を顰める。 今すぐにこの会話を切り上げたいと望みつつも、セインの口は言葉を紡いでいた。 「情報の流布だけじゃなくて、暗殺までアタシにやらせようっての?」 「それは状況と貴女の判断次第です。私が頼んでいるのは・・・」 「正直に言いなよ。他にも何かをやらせようとしてるんでしょ・・・場合によっては、障害となる人物の殺害が必要になる様な。例えば、そう」 メディアデバイスを持つ右手、其処から第一指と第二指を立てて銃の形を模す。 それを目前へと掲げ、少女の視界へと映し込むセイン。 立てられた第二指の先端を自身の額へと当て、彼女は改めて少女の眼を覗き込んだ。 「武装蜂起に備えての各種工作、とか」 少女の瞼が微かに細められた事を視認し、それだけでセインは十二分に確信を得た。 彼女のIS「ディープダイバー」は無機物に潜行する能力であり、それ以外の特別な用途というものは存在しない。 だが作戦行動に於ける評価となれば、他に類を見ない程に汎用性に富む能力であるのも事実だ。 それだけに直接戦闘が中心となる作戦を除き、あらゆる状況に対応が可能である。 撹乱、陽動、間接支援。 目前の少女もまた、そういった類の任務をセインへと割り当てるつもりなのだ。 「図星みたいだね」 「・・・戦力が足りません。魔導師の数は敵勢力の倍に近いですが、ランツクネヒトが運用する個人携行火器類は、限定空間での戦闘に於いて驚異的な制圧力を発揮します。ベストラや艦艇内部といった閉鎖空間での戦闘ともなれば、最終的に制圧が成功したとして、こちらも戦闘後のまともな作戦行動など望むべくもない被害を受ける事となるでしょう」 「別に魔導師でなくても質量兵器を運用する歩兵部隊なら、こっちにもかなりの数が在ると思ったけど」 「無論、彼等もこちらの戦力として考慮しています。ですが、それでも確実に成功すると断言はできない」 その言葉に、セインは苦々しく表情を歪める。 脳裏に蘇る悪夢の様な光景、研究施設内部での地球軍歩兵部隊との戦闘。 頭部を撃ち抜かれる局員、全身を弾幕に粉砕される局員、四肢を引き裂かれるスバル、胴部をほぼ両断されるノーヴェ。 その全てが魔法ではなく質量兵器、それも個人携行火器によって齎された惨状だった。 ランツクネヒトとの合流後、地球側の個人携行火器についての調査を開始した理由は、誰かから命令された訳ではなくセイン個人としての意思である。 バリアジャケットに加え常時展開されていた筈の障壁、特に物理防御に秀でた姉妹達のそれすら容易く突破した地球製の質量兵器に、脅威を感じると同時に好奇心を刺激された為だ。 流石に全ての情報が開示されていた訳ではなかったが、それでも携行火器の異常な性能を知るには十分に過ぎた。 そしてセインは既に、幾つかの火器および補助兵装について、特に警戒すべきとの評価を下している。 1つは「GP-73」13mmキャノン。 物理的なトリガーは存在せず、インターフェースを通じて発砲するアンダーバレルタイプ、セミ・オートマチックの擲弾銃だ。 装弾数24、ボックスマガジン。 分類上では擲弾銃となってはいるが、銃身内部にはライフリングが施されており、その500mを優に超える有効射程も相まって、実質上の携行型ライフル砲と云える。 使用する13mm砲弾は、そのコンパクトなサイズにも拘わらず複数の弾種が存在。 暴徒鎮圧用の非殺傷弾頭から対人焼夷弾、更に対装甲目標用の徹甲榴弾から反跳榴弾、信じ難い事に神経ガス散布弾から燃料気化爆弾まで在るという。 果ては超小型戦術核弾頭までが弾種として存在するというのだから、セインとしては地球人の正気を疑わずにはいられなかった。 如何に彼等と云えど、コロニーや艦艇内部で核弾頭などを使用する事はないと思いたいが、それを除いてもガスや対人焼夷弾は脅威である。 GP-73はこれらの弾種を同時に4種、各種6発の計24発をマガジン内に装填し、任意にそれらを使い分ける事が可能だ。 更にアンダーバレルタイプである為、小銃以上のサイズならば如何なる銃器にでも装着できる。 ランツクネヒトとの交戦中、魔導師は常にこの携行小型砲の脅威に曝され続ける事となるだろう。 もう1つは「AS-55」コンバットショットガン。 フル・オートマチックの軍用散弾銃であり、近接戦闘に於いて絶大な威力を、そして中距離以上の戦闘に於いても圧倒的な実効制圧力を発揮する。 装弾数54、ヘリカルマガジン。 10ゲージ弾薬を毎秒9発もの速度で連射する、正に化け物と呼称するに相応しい火器だ。 そして性質の悪い事に、これもまた散弾である000Bを始めとして、徹甲榴弾など10種類以上もの専用弾種を有している。 散弾銃にも拘わらず使用弾種によっては300mを優に超える射程も脅威であり、特に中距離から対人榴弾を連射された場合には、目を覆いたくなる様な惨状が展開される事だろう。 尤も、如何なる弾種が使用されていようと、射程内に収められてしまえば生き残る方法は1つしか存在しない。 トリガーが引かれる前に、AS-55を持つ敵を殺す事だけだ。 嵐の如く連射される10ゲージ弾薬の壁の前には、バリアジャケットも障壁も薄紙程度の遮蔽物でしかないのだから。 そして最後の1つが「Man-Hunt-System」。 これは単一火器の名称ではなく、ランツクネヒトが運用するコンバット・サポート・システムの総称である。 とはいえ、MHSとは各種センサー等の携行型補助兵装の類ではなく、完全自律型および遠隔操作型の各種ドローン、その中でも直接火力支援を担うものを指している。 謂わばガジェットドローンの様な存在だが、その運用法はガジェット以上に攻撃的だ。 拠点に立て篭もる敵に対し突入しての自爆攻撃を行うタイプ、EMPによる電子機器の破壊を行うタイプ、光学迷彩を装備し薬物または消音銃による暗殺を行うタイプ。 限定範囲内に神経ガスを散布するタイプに超小型戦術核搭載タイプ、他のMHSを統括・管制するコマンダータイプ等も存在する。 他にも通常火器を搭載したタイプ等が複数存在しており、その総数は数百機にも及ぶと思われるが、詳細な配備数までは開示されていない。 これらの兵器はいずれも装甲服による筋力増強、そして脳の電子的・機械的強化とインターフェースの存在を前提とした運用を想定されており、常人に扱える重量・システムでない事は、外観および概要から容易に判断できる。 言うなれば、魔導師にとってのデバイス、戦闘機人にとっての固有武装の様なものだ。 魔導師は魔法による筋力増強および並列思考で以って、戦闘機人は機械的強化を施された身体および脳機能とISを以って、それらの武装を意のままに操る。 ランツクネヒトや地球軍にとっては、脳の電子的・機械的強化と装甲服の着用こそが、それらの武装を運用する為の必須要項なのだ。 少なくとも既知の次元世界に於いては、これまでにそういった類の携行型質量兵器が確認された事例は存在しない。 そうでなくとも、これら個人携行火器の性能は常軌を逸したものばかりだ。 できる事ならば、等という消極的な姿勢ではなく、可能な限り正面から遣り合う事だけは避けねばならない。 何より忘れてはならないのは、これでも全ての兵器に関する情報が開示されている訳ではないという事実だ。 その程度の事は、目前の少女も十分過ぎる程に理解している筈である。 だからこそ続いてセインが放つ言葉は、自然と辛辣なものになっていた。 「断言できない、だって? それ以前の問題だよ。まさか本気で、ランツクネヒトを制圧できるとでも思ってるの? 奴等の武装については、アンタだって良く知ってるでしょうに。長距離砲撃戦だって危ないってのに、限定空間での戦闘になんてなったら勝ち目なんて無い」 「現状では、です。貴女の協力が在れば、成功を確実なものにできる」 「夢物語だね。ベストラにせよ艦艇内部にせよ、戦闘となれば常に近距離、どれだけ離れても中距離での撃ち合いになる。後方支援型のアンタには実感が薄いかもしれないけど、散弾の壁に突っ込むなんて自殺行為以外の何物でもない。挽肉の山が出来上がるだけだよ。それとも」 軽く息を吐き、セインは少女を睨み据える。 再度、少女の手を掴む左手に力を込め、彼女の意識をそちらへと引き付けた。 少女の視線が逸れた瞬間、セインは彼女の身体を強引に引き寄せ、その首を抱え込む様にして軽く締め付ける。 そして、問うた。 「1人ずつ始末する? こうやって、さ」 セインは少女の首に回した右腕、其処に掛ける力を徐々に増してゆく。 別段、本気で絞殺するつもりが在る訳ではない。 勝ち目の無い博打にこちらを巻き込もうとする、そんな少女の態度が気に食わなかっただけの事だ。 だからこそ、少しばかりの脅しを掛けてみたのである。 単に虚勢を張っているだけならば、この程度でも十分にその脆い仮面を剥がせる事だろう。 少女はどんな表情をしているのか、恐怖に引き攣った顔か、驚愕に目を瞠っているのか。 セインは彼女の眼を覗き込み、そして絶句した。 「もっと良い方法が在りますよ、セインさん。繰り返しますが、貴女の協力が在ってこそ、ですが」 深淵。 セインがその瞳に対して抱いた印象、暗く底の窺えない闇色。 呑み込まれそうな虚無と、意思を有する存在である事にすら疑いを抱いてしまう程の無機質さ。 にも拘らず、それを覗き込むセインに対し、確かな畏怖を齎す闇。 「ウォンロンの戦闘指揮所、其処が狙いです。勿論、ランツクネヒトに対する陽動も同時に実行します」 思わず身を竦ませるセインを無視し、少女は感情の窺えない声で言葉を紡ぎつつ、バリアジャケットのポケットから先程とは別のメディアデバイスを取り出した。 身体を押さえ込まれながらも、左手に握るそれをセインの眼前へと突き付ける。 思わず手を翳し、それを受け取るセイン。 「それが「爆弾」です・・・未完成ですが。ウォンロンの元クルーと、複数の軍需産業関係者が協力してくれました。これを戦闘指揮所からシステムにインストールできれば、全体を強制的にダウンさせる事ができます」 「・・・正気? そんな事をすれば、生命維持に関するシステムも止まるよ。この天体の中だって何時、真空状態になったっておかしくないっていうのに」 「彼等の構築したシステムは、その程度で沈黙するほど軟ではありません。こちらの予測では、40秒前後で再起動する筈です」 一通りメディアデバイスの全体を見回した後、セインはそれを少女へと返す。 少女はデバイスを受け取り、再びポケットへと収めた。 そして、続ける。 「良いのですか」 「何が」 「これを私に返して、です。此処に私を生き埋めにして、これをランツクネヒトに渡せば・・・」 セインは自身の唇に指を当て、少女の言葉を遮った。 数秒ほどそうしていただろうか。 指を離し、セインは言葉を紡ぎ出す。 「馬鹿にしないで。アンタがその可能性を考えずに私を呼び出したなんて、そんな希望的観測は微塵も持っちゃいないよ。人を試すのは結構だけど、どうせなら気付かれない様にやって貰いたいね」 言いつつ、セインは頭上へと目を遣った。 構造物内の闇に遮られた視界の向こうに、恐らくはあの変わり果てた騎士の少年が居るのであろう。 彼が持つデバイス、あの禍々しい槍の矛先をこちらへと向けて。 「初めから、断られる事なんて考えてなかった癖に・・・違うか、断らせないつもりだった。違う?」 「貴女がそう思うなら、恐らく」 「気に食わないね。本当に気に食わないよ、キャロ」 そう言葉を吐き捨て、セインは改めて少女、即ちキャロを見やった。 相も変わらずこちらを見つめ続ける彼女は、セインの記憶の中に存在する同人物の姿と然程に変わらぬ外観ながら、それに反して内面は変わり果ててしまった様に思える。 彼女達が置かれた状況を鑑みるに、当然の変化であろうとも考えた。 だがそれでも、彼女の事を良く知っている訳でもない自身からしても、無理をして変化を装っているのではないかという疑問も在ったのだ。 事実、彼女の行動を目にする度に、セインはその疑念を確信へと変えていった。 何が在ったのかを知り得る事はできなかったが、キャロと彼女のパートナーであるエリオとの関係に、何らかの隔たりが生じている様に見受けられたのだ。 この状況からして、男女間の擦れ違いなどと云う色めいた問題ではあるまい。 2人の間に生じている距離は、犯罪者と遠巻きにそれを見つめる一般人の様なものだった。 少し違うのは、必要以上にキャロに近寄ろうとはしないエリオに対し、一方でキャロは何とかしてその距離を縮めようと努力していた事だ。 合流後に2人が共に行動している姿を何度か見掛けたが、その際のキャロは嘗て以上に気弱な雰囲気を纏っていた。 その光景が在ったからこそ、その他での何処か冷然とした姿は偽りではないかと、セインはそう睨んでいたのだ。 だが今、目前に存在する少女はそんな認識からは想像もし得ない、正に冷徹といった表現が相応しい雰囲気を纏っている。 そして、その印象に違わぬ強かにして危険な交渉術を、躊躇いもなく行使していた。 何が、彼女を其処まで変えたのだろうか。 何故、彼女は其処まで変わったのだろうか。 「気に食わないついでに、もう1つ訊きたい事が在るんだけど」 「何でしょう」 「アンタが其処まで必死になってるのは、アイツの為?」 頭上を指しつつ、セインは問うた。 キャロは指の先を辿る様に視線を動かし、やがて息を吐く。 それだけで十分だった。 お熱い事だ、などと思考しつつも、同時に別の疑問が生じる。 この行動の何処が、エリオの為になるというのか。 自身の手元へと視線を落とし沈黙を保つキャロに、その問いをぶつけようとして。 「エリオ君が、人を殺しました」 唐突なその言葉に、セインは息を呑んだ。 そんな事は知っている、という思考と、何の事だ、と戸惑う思考が入り乱れる。 スプールスに於いてエリオが、元は人間であった汚染体を数多く屠ってきたという事実は、既に聞き及んでいた。 だが、キャロが言い放った「人を殺した」という言葉は、それとは別の事柄を指している様に感じられたのだ。 宛ら、つい先程の事であるかの様に。 汚染体などではなく、正真正銘の「人間」を殺めたとでも云うかの様に。 「スプールスの変貌からずっと、私はその責務の全部をエリオ君に押し付けてきた」 淡々と語るキャロ。 その視線は伏せられていたが、実際には何処も見ていないのだろうか。 だが、その静かな語調の中には、何らかの微かな感情が滲んでいた。 「人でなくなったものと戦うのも、人でなくなったものを殺すのも怖かった。だからずっと、私の分まで殺し続けるエリオ君に甘えてきた」 キャロの指は、何時の間にか硬く握り締められている。 微かに震えるそれを見つめながら、セインは徐々に理解し始めていた。 彼女が変わった理由、変わらざるを得なかった理由。 「彼だけに背負わせたくなかった・・・背負わせるべきじゃなかった。そんな事、解かり切っていたのに。それだけじゃない。ミラさんやタントさんが死んだ事だって、彼には何の責任も無いのに」 同じなのだ。 セインと同じ覚悟、キャロはそれを持つに至ったのだ。 震える声で、彼女は続ける。 「私が躊躇った所為で、エリオ君は2人とその子供を手に掛けなければならなかった。それなのに、私は彼を避ける様な態度を取り続けた。私は、何ひとつ背負ってはいないのに・・・ずっと、逃げ続けていたのに」 大切な人に、殺人という重責を負わせたくない。 キャロもまた、セインと同じ思考へと至ったのだろう。 だが彼女の場合、その大切な人は既に人間だったものを殺めている。 そして、彼女の言葉から読み解くに、恐らくは正常な人間すらも殺めたのだろう。 「でも、それももう終わり」 突然、キャロの声色が変わった。 声の震えは影を潜め、先程と同じく無感動な冷徹さだけが滲む。 再び緊張するセインの身体に気付いたか、キャロは徐に顔を上げた。 その眼を覗き込み、セインは微かに引き攣った音を漏らす。 「もう、彼だけに背負わせるなんて事はしない。私も、同じ責を負う。彼に押し付けていた分を、私が負ってみせる」 まるで、ガラス球の様。 キャロの瞳を覗き込んだセイン、彼女が抱いた印象はそれに尽きた。 人の眼であるどころか、有機物であるとすら信じられない。 全く感情というものを読み取る事ができない、人工物としか思えぬ無機質さを湛えた瞳孔が、セインの眼を覗き返していた。 心臓を鷲掴みにされるかの様な錯覚と、自身がこんな人物と共に誰にも声の届かぬ構造物内に潜んでいるという事実に対する恐怖とが、同時にセインの意識を襲う。 だが、彼女はどうにかそれを耐え抜き、何とか言葉を紡ぎ出した。 「・・・成る程。アンタ自身には、ランツクネヒトと正面から戦えるだけの力は無い。あの2騎の竜は、艦内やコロニー内で力を振るうには強大すぎる。だから扇動者になり切って、生存者を戦力として地球人にぶつけようって訳だ。皆で一緒に人殺しになろう、と」 震えそうになる声を抑え付けて言い切るも、キャロに言葉を返す素振りはない。 彼女は唇を閉じたまま、無言でこちらを見据えていた。 思わず、その小柄な身体を突き飛ばしたくなる衝動を堪えつつ、セインは更に言葉を繋げる。 これは、これだけは言わねばならない。 「馬鹿だよ、アンタ。そんなもの、アンタ1人で背負える様なものじゃない。何の意味が在るっていうのさ」 「単なる私個人の我儘です。エリオ君だけが人殺しの責を負うなんて事は、絶対に許せない」 「まさかそれで、アイツとの関係を修復できるとでも? 自分も人殺しになれば、アイツが負い目を感じる必要が無くなるとでも思った?」 答えはない。 キャロは、再び沈黙する。 そんな彼女を暫し見つめた後、舌打ちして視線を逸らすセイン。 それから更に数秒ほどが経ち、キャロが声を発した。 「どんな事をしても、きっと元の関係には戻れない。周囲が何を言おうと、エリオ君は自分自身を許そうとはしないでしょう。そして私には、彼に何かを言う資格なんて無い」 「ッ・・・この・・・」 「傍に居るべき時に、彼を支えてあげるべき時に、私は逃げてしまったんです・・・パートナーなのに、ずっと一緒に居た筈なのに。それなのに今更、私に何の資格が在るというのですか」 セインからすれば余りにも馬鹿げた発言に、彼女は咄嗟にキャロのバリアジャケット、その胸倉を掴み上げている。 だが、全く抵抗の素振りを見せないどころか、変わらず虚無的な視線だけを向けてくるキャロに嫌気が差し、すぐにその手を解いた。 理性の欠片が働いたか、その身体を突き放す事はしなかったが。 そんなセインの内心を余所に、キャロの言葉は続く。 「言ったでしょう、単なる我儘だと。私や周囲がどんな事をしても、エリオ君が離れてゆく事は変えられないし、仕方がない。でも、向けられる銃口の前に立つ者が彼だけである必要もない。いいえ、蜂起を成功に近付ける為にも、皆で掛かるべきでしょう。そういう事です」 以上です、との言葉を最後に、キャロは瞼を閉じた。 これ以上の話すべき事は何も無い、密談は終わりだという意思表示だろう。 数秒ほどキャロの顔を見つめ、小さく悪態を吐いた後にセインは浮上を開始した。 脚の上に放置していたメディアデバイスを右手の指の間に挟み、左腕でキャロの身体を抱える。 右手第二指の先端だけを構造物上に突き出し、ペリスコープ・アイで周囲の安全を確認、人影は無い。 キャロを抱えたまま、通路に上がる。 特に汚れが付いている訳ではないものの、彼女は軽くバリアジャケットの裾を手で払い、視線をこちらへと投げ掛けて言い放った。 「それでは、お願いしますね」 先程と全く同じ声、同じ台詞。 セインは自身の口を突いて出そうになる罵声を何とか抑え込み、去り行くキャロの背中から視線を引き剥がして周囲を窺う。 予想に反し、何処にもエリオの姿は無い。 単独で行動していたのかとも考えたが、その可能性はすぐに潰えた。 「・・・怖いねえ」 セインの足下、床面に穿たれた小さな菱形の傷。 何かが突き立っていた跡と思しきそれが意味する処を、セインは正確に理解した。 薄ら寒いものを感じつつ、呟く。 「全部、聴かれてたみたいだよ・・・キャロ」 キャロの単独か、それともエリオを伴っての行動だったのか、そんな事はこの際どちらでも良い。 エリオは全てを知っている、それだけは確かだ。 その事すらもキャロにとっては織り込み済みという可能性も考えられるが、恐らくはそうではあるまいと、セインの勘は告げていた。 キャロは優秀だが、御世辞にも策謀に向く性格でない事は、少し話しただけで十分に分かっている。 彼女が話術に長けており、こちらの思考を上手くコントロールしている可能性も考えられたが、恐らくはそれもないだろう。 そう判断できるだけの情報は、キャロとの会話の中で得られている。 彼女は、エリオだけに殺人の重責を負わせたくない、と言った。 あの時のキャロの言葉がエリオに聞かれていたのだとすれば、彼女の行動は全く意味を為さないものとなってしまう。 エリオは間違いなく、キャロを殺人という行為から遠ざけるべく行動するであろうし、それ以上に全ての責を負うべく、より積極的に地球人との戦闘に関わってゆく可能性が高い。 キャロの願いと行動とは裏腹に、エリオは更にその手を血に濡らす事となるだろう。 彼女が、そんな事に気付かぬ筈がない。 つまり、エリオがこの場に居たという事実がキャロの知る処であろうとなかろうと、あの言葉を聞かれていた事は彼女にとって紛れもない想定外の事態なのだ。 彼は自身のデバイス、ストラーダを床面へと突き立て、それをパッシブ・ソナーとしてこちらの会話を聴き取っていた。 その事実が存在する時点で、最早キャロの願いが叶う事はないと分かる。 エリオは自ら進んで、彼女の分まで殺人の重責を負うべく最前線へと躍り出る事だろう。 そうしてキャロの本当の願いを知りつつも、いずれは彼女の前から永遠に姿を消す心算である事も想像に難くない。 2人の願いは擦れ違い、何処までも平行線を辿っている。 「どいつもこいつも・・・!」 馬鹿ばかり、全てが気に入らない。 そんな苛立ちを込めて、セインは全力で壁面を蹴り付ける。 壁面ではなく、全ての元凶となったバイドと地球人とを想像し、その不鮮明だが不愉快な像に対して放った蹴り。 鈍く重い音が、通路に響き渡る。 戦闘機人の膂力で蹴り付けられたベストラ構造物の壁面は、しかし無情にもその衝撃を蹴り付けた当人へと返しただけで、僅かたりとも変形した形跡は無かった。 * * 長くなるから場所を移そう、とのスバルの言葉に従い、ティアナのAMTP搬入を見届けた後、ギンガ等は搬入室から艦内食堂へと移動した。 血塗れで意識の無いティアナを目にして動転するギンガとウェンディを余所に、スバルとノーヴェは冷静そのものにAMTPへと彼女を搬入、部屋を出たのだ。 その様子に不審を抱きはしたが、それについてもすぐに説明が為されるだろうと、ギンガ等は逆らう事なく彼女達の誘導に従った。 食堂に入ると、ノーヴェとウェンディが暫し保冷庫を漁り、保存食と飲料を見付け出す。 そのまま食べても問題は無いと思われたが、どうやら合成食品の製造機能が生きているらしく、食材の調達が可能と知るとスバルから調理の希望が飛び出した。 何を暢気な、と呆れ返ったギンガだったが、自身も空腹を覚えている事は否定の仕様がない。 幸いにもウェンディが手伝いを申し出てくれたので、1時間程を2人での調理に費やし、スバル達が待つテーブル上に10種類を超える数の料理が並ぶ事となった。 器具が予想以上に充実しており、中には調理時間の短縮に繋がるものも多かった為、少々だが多目に作り過ぎてしまったかもしれない。 相変わらず異常な状況下ではあるが、久し振りの戦闘とは無縁な料理という行為に、心弾むものが在った事も否定はできない。 そんな事を思考しつつ、目の前の取り皿に盛られたサラダを突くギンガの意識に、それまで実に美味そうにペペロンチーノを平らげていたスバルの声が飛び込む。 「ああそう・・・脱出作戦だけどね。あれ、成功したから」 突然の言葉にギンガは噎せ返り、咳込んだ。 咄嗟に自身の隣を見やると、ウェンディは手にした炭酸飲料を飲もうとした姿勢のまま動きを止め、呆然とスバルを見やっていた。 次にスバルへと視線を動かせば、当の彼女は何事も無かったかの様にナプキンで口許を拭いている。 彼女の隣のノーヴェはといえば、こちらも何処か楽しそうにバニラアイスを頬張っていた。 その光景に違和感を覚えながらも、ギンガはスバルへと問い掛ける。 「どういう事?」 「どうもこうも・・・そのままだよ。脱出艦隊は救援要請を発信、近くに居た管理局艦隊がそれを拾った、それだけ」 「それだけ、って・・・」 絶句するギンガ。 問いに対するスバルの返答は、重要な箇所が抜け落ちている。 成功したのなら、何故こんな状況になっているのか。 コロニーから離脱した理由、全てを知っているという言葉は如何なる意味なのか。 「どうも、本局が落ちたみたいでね。傍受した通信から判断する限り、生存者を救出した本局防衛艦隊が人工天体の近くで立往生してたって事らしいよ」 「本局が・・・」 「まあ御蔭で、ウォンロンの通信を真っ先に拾ってくれたんだけどね・・・厄介な事に」 スバルが発した最後の言葉に、ギンガは眉を顰める。 厄介な事、とは如何なる意味か。 管理局側の救援が来るというのなら、それはこちらの戦力が増すという事である。 その事実の何処が厄介というのだろう。 そんなギンガの疑問を読み取ったのか、今度はノーヴェが口を開く。 「管理局艦隊が通信を拾ったって事は、間違いなく地球軍も救援要請を傍受してる。連中は汚染艦隊の向こう側だが、それを突破する事もできる筈だ」 「妨害も考えたんだけどね。AWACSがすぐ傍に居た以上、下手な真似をすれば他のR戦闘機に飽和攻撃を受ける可能性が在った。だから、大人しくするしかなかったんだ」 「AWACS?」 聞き慣れない名称に、横からウェンディが疑問の声を上げた。 ギンガとしても、全く聞き覚えの無い名称だ。 すぐさま、ノーヴェが答える。 「早期警戒機の事だ。「ケリオン」ってコールサイン、ランツクネヒトからの情報に在っただろ? R-9E2 OWL-LIGHT。コイツが居た所為で、電子戦で迂闊な真似はできなかった」 「で、B-1A2を使って実力行使に出た訳。ユニットTYPE-02搭載機の一部暴走を装って、脱出艦隊を攻撃したの。中途半端にすればバレる事は明らかだったし、そもそも13機ものR戦闘機を同時に相手取っているのに手を抜くなんて真似は自殺行為だから、本気で攻撃した。それで3隻を撃沈して、人工天体内部へ飛び込んだの」 「アタシはB-1A2を追撃する様に見せ掛けて、R-13Tで後を追った。そのままコロニーに向かったんだけど、其処で交戦中のこの艦を見付けて乗っ取ったんだ」 「艦隊の方は、私が行き掛けの駄賃にケリオンを撃墜して、アイギスのIFFを狂わせたからね。その後は狂ったアイギスへの対応で手一杯で、艦隊は更に4隻の艦艇とランツクネヒトのR-11Sを2機、他に89機の機動兵器を失った後、這々の体で天体内部へ逃げ込んだ。これが作戦の顛末だよ」 「待った、ちょっと待つッス」 淡々と語り続けるスバルを、ウェンディが制した。 明らかに動揺した素振りで、彼女はスバルの目前へと掌を突き付けている。 そうして言葉に詰まったのか、暫し視線を彷徨わせた後、改めて問いを発した。 「その、良く理解できないんスけど・・・2人は自分の事、ええと、その身体の事は・・・」 「コピーだろ?」 すぐさま返された答えに、ウェンディが絶句する。 ノーヴェは特に気に負う様子もなく、首をひとつ傾げてスプーンで掬ったアイスを口へと運んだ。 僅かに顎を動かして味わう様な素振りを見せ、バニラの香りを楽しむ様にゆっくりと呼吸。 スバルも似た様なもので、動揺を見せる事もなく紅茶を楽しんでいる。 そんな3人の様子を見つめていたギンガは、堪らず自身も言葉を紡いだ。 「こんな事を言うのはどうかと思うけれど・・・貴女達は、どうとも思わないの? いいえ、それ以前の問題だわ。全てを知っているとは、どういう意味。何故、脱出作戦の推移を知っているの。何故、R戦闘機が・・・」 自身の意思を余所に、次から次へと吐き出される疑問。 抑え様もないそれらに流されるギンガの発言を、スバルが手で制した。 漸く発言を止め、口を閉じるギンガ。 取り乱した事に少々の不甲斐なさを感じつつ、何時の間にか乗り出していた身体を背凭れに預ける。 するとそれを待っていたかの様に、改めてスバルが語り始めた。 「・・・とにかく、1つずつ答えていくよ。先ず、私達の事だけど」 スバルは言葉を区切り、紅茶を一口。 溜息を吐き、続ける。 「私達のオリジナルが何処に移植されたか、2人は知っているよね?」 「・・・TL-2B2とB-1Dγだったかしら」 「そう。私は「HYLLOS」に、ノーヴェは「BYDO SYSTEMγ」に制御ユニットとして搭載された。それと培養体がBX-TとB-1A2、R-13TとB-1B3に。で、当然の事だけど、どちらのユニットに関しても思考抑制措置が取られていた」 頷くギンガ。 スバルは紅茶を更に一口、視線をノーヴェへと投げ掛ける。 そうして今度は、ノーヴェが説明を引き継いだ。 「だけど、其処でランツクネヒトの技術者達は間違いを犯した。警戒すべき対象を見誤ったのさ」 「対象?」 「連中はベストラのシステムとリンクして情報を取得し、R戦闘機の調整を行った。脳に著しい電子的強化が施されているからこそ可能な芸当だけど、そもそもベストラに残されている記録は不完全なものが多い。あそこにいた本来の職員達は、余程に全てを消し去りたかったんだろうな。削除は不完全だったけど、それでも死ぬ間際まで抹消を試みていたんだろう」 「それとこれと、何の関係が在るッスか」 「だから、情報が欠落していたんだ。具体的に言うなら、バイド素子添加および強化プロジェクトに於ける、試作機体の安全性に関する情報が」 テーブル中央、複数のウィンドウが展開される。 其処に表示された画像は、4機種のR戦闘機。 「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」 スバルとノーヴェの培養体を基とする制御ユニットが搭載された6機種の内、所謂バイド素子を用いて建造されたものだ。 ランツクネヒトが開示していた情報によれば、パイロットの安全性が確認できない為、制御ユニットの開発までは戦力としての運用を避けていたとの事。 プロジェクト初期に開発された試作機であるBX-T、植物性因子添加試作機改良型であるB-1A2、蔦状植物因子添加試作機最終型であるB-1B3、バイド素子強化試作機最終型であるB-1Dγ。 いずれも通常のR戦闘機とは異なり、禍々しい外観を有する機体だ。 ギンガは眉を顰めてウィンドウ上のBX-T、その緑色蛍光を放つ半物理防御スクリーンを見つめる。 「この機体がどうしたの」 「情報が不足している兵器ほど信頼性に欠けるものはない。況してやコイツ等はバイド素子を用いているんだ、先入観から危険視しても仕方ないだろ」 「回りくどいッスよノーヴェ、要点を言うッス」 「・・・つまりだ。連中が本当に警戒すべきはこの4機種じゃなくて、スバルが搭載されたTL-2B2の方だったんだ」 全てのウィンドウが閉じられ、入れ替わるかの様に展開される新たな1つのウィンドウ。 果たして、映し出された画像はギンガの予想に違わぬもの。 TL-2B2 HYLLOS。 「当然の事だけど、ベストラの研究者達はバイド素子添加機体に対して、異常とも云える程に厳重な対汚染防御策を施していた。機体やシステムを構成するバイド素子の暴走は勿論、敵性バイド体からの干渉まで警戒して。外観からすればバイドそのものって感じの機体だが、運用上最低限の安全性は保証されていたんだ」 「TL-2B2はそうではなかったと?」 「ああ」 最後の一欠片らしきアイスを口へと運び、ノーヴェはスプーンを置いた。 軽く唇を嘗め、溜息を吐く。 そうして、続けた。 「ランツクネヒトが開示した情報を良く思い出してみろ。あのTL-2B2は第5層の施設を捜索中に発見された、つまりはバイドによる「模造品」だ。オリジナルは2機しか生産されていない。しかも1機は輸送中にバイドの襲撃を受けて、輸送艦と護衛艦隊もろとも宇宙の塵になっちまってる・・・記録上では、だけどな」 「実際は破壊されただでなく、機体情報を回収されていたという訳ね」 「そういう事だ。ランツクネヒトもその事は良く理解していたんだろうが、生憎と連中はバイドの専門家って訳じゃない。情報を持ってはいるが、研究者って訳でもないからな」 マグカップへと手を伸ばし、冷めたコーヒーを啜るノーヴェ。 途端、顔を顰めてマグカップから口を離す。 どうやら、ブラックは好みではないらしい。 如何にも苦そうに舌をちらつかせた後、話を再開する。 「模造品とはいえ、少なくともR戦闘機であるとの理解はできるTL-2B2と、見るからにヤバイ代物と判るバイド素子添加機体。十分な情報も無く、時間を掛けて細部まで調査する余裕も無い状況で、どっちを選ぶかなんてのは火を見るより明らかだ。そんな処へ、無人制御が可能となる生体ユニットの材料が手に入ったときたもんだ。ここぞとばかりに、ランツクネヒトはパイロット不在機体の無人機化に取り掛かった。その際に、対汚染防御、取り分けバイド体からの干渉対策については、BX-Tを始めとする4機種に対して重点的に施されたんだ」 「ところがそれらは元々、建造者であるベストラの研究員達によって厳重な対汚染防御が施されていた。それを知らないランツクネヒトは、バイドが模造したTL-2B2に対する対汚染防御を疎かにしちまった、って事ッスか」 「時間や機材に限りも在ったし、何よりスキャンでは異常は発見できなかったみたいだしな。連中はR-11Sを運用している事もあって通常系列のR戦闘機に関する知識も経験も豊富だし、TL系列機はそれなりの数が生産・配備されている事実も在る。信用というか、問題ないと判断しちまうのも無理はないだろ」 成程、とギンガは頷いた。 要するにランツクネヒトは情報が欠落したバイド素子添加機体群を信用せず、それらの機体に対し安全対策として厳重な対汚染防御を施したのだ。 一方でTL-2B2に関しては、彼等が良く知る系列機であるという事実も手伝って、模造品であるにも拘らず一定の信頼を置いてしまったという事か。 その点については納得できたが、何故そんな事を彼女が知り得ているのか、その理由が解らない。 だが、これまでの話からTL-2B2に対し、バイド体から何らかの干渉が在ったのであろう事は予想できる。 そして事実、説明を引き継いだスバルの言葉は、その予想の内容を裏付けるものだった。 「それで、艦隊が第1空洞に侵入した時の事だけどね。艦隊から500kmくらい離れた所に、巡航艦クラスの複合武装体が単独で潜んでいたんだ。浅異層次元潜行状態だったけど、ケリオンが探知した。「ホルニッセ」と「メテオール」が襲い掛かって、あっという間に撃破したけど」 ギンガは記憶を辿り、コールサインが示す機体を思い浮かべる。 「R-9/0 RAGNAROK」ホルニッセ、「R-9C WAR-HEAD」メテオール。 高速連射型波動砲、そして多弾拡散型波動砲を備えた、絶対的な暴力の具現。 この2機を同時に相手取っては如何にバイドとはいえ、単独行動中の巡航艦程度の戦力では太刀打ちすらできないだろう。 「その時に、TL-2B2は干渉を受けたんだ。極指向性だった。明らかに制御ユニット・・・この場合は私だけど、その暴走を狙っていた。ハードウェアへの干渉ではなく、ソフトウェアのバイド化を図ったんだろうね」 「何ですって?」 「まあ、結局は失敗したけど。抑制されていたとはいえ、制御ユニットに自我が在るなんてバイドにしても予想外だったんだろうね」 「自我の有無が、干渉の結果を左右するんスか?」 「意識体っていう存在は総じて思考中枢のノイズが多い。その全てを処理して尚且つ同化するとなると、とんでもない負荷が掛かる。バイドにしても、それは例外じゃない。人間の感覚からすればあっという間の事にも思えるけれど、解析してみれば中々どうして苦労しているみたいだよ」 あれ程の技術進化を果たしているにも拘らず、地球軍が未だに有人兵器を運用している理由はそれか。 溜息を吐き、先程から手にしていたフォーク、その先端に刺さったレタスを口へと押し込む。 合成食品とは思えない瑞々しさと食感を楽しむ余裕すら無く、噛み砕いたレタスを冷えたコーヒーで流し込んだ。 不味い。 「人間なんて、ノイズが多い意識体の代表みたいな存在だからな。おまけに地球人が施す脳の強化ときたら、ノイズの除去どころかそれが干渉対策に有効である事を知って、逆に増幅して防壁にしてやがる。で、それとは別にクリアな領域を設けた上、其処の機能を強化・拡張して情報処理や各種制御に用いているんだ。下手なAIより余程優秀だよ」 「勿論、それだけでバイドの干渉から逃れる事はできない。だから機体側で、電子的にノイズを増幅する。個人の脳を幾ら強化したところで限界は在るけれど、機体の方のキャパシティは幾らでも増設できるからね。他にもバイドによる解析を避ける為に、機体のシステムがノイズパターンを変更したりもする。人工物に代替させる事も不可能ではないけれど、本物の人間が持つ独自の有機的パターンを真似る事は困難を極めるし、何より既存のシステムである人体の脳を強化するだけで、並みの量子コンピューターを凌駕する高性能のシステムが獲得できるのは魅力的だしね」 「人間を兵器群のパーツにしてる訳か。奴等、正気ッスか」 「今更でしょ、それ。地球軍ではバイドに対抗する為には必要不可欠なシステムと認識しているし、そもそも結果的には人間が利用しているんだからパーツではないって認識なのかも。本当のところは分からないけれど、だからといって絶対に人間が必要って訳でもないし。現にこの戦艦の防壁だって、量子コンピューターが人間の脳内処理系統に生じるノイズを模倣して構築している。大人数が乗り込む艦艇なんかではそれでも良いだろうけど、1人か2人程度の乗員しか居ない兵器にまでそれを搭載するのは、整備面はともかくとしてコスト面では無駄でしかない」 2・3度、人の飲み物とは思えぬ不味いコーヒーを啜り、カップを置く。 他の3人の会話を聞きつつ視線を彷徨わせると、食堂の一画、壁面に掛けられたボードが視界へと映り込んだ。 何気なく拡大表示してみると、ボードの最上部に手書きで青く「艦長公認 ミートローフ復活希望 署名運動中」と、第97管理外世界の言語で書かれている。 その下には8つ程の署名が在ったが、更に下に赤で書かれた「オペレーター一同主催 シラタマ・アンミツ復活希望 署名運動中」の活動名と、それ以降に続く数十もの署名によって、ミートローフ復活希望派の署名は完全に圧されてしまっていた。 それらの横の空白には「メニュー復活は1品のみ 来週水曜日に集計 贈賄工作はお早めに! 料理長より」と書かれている。 よりにもよって監督者であるべき料理長公認の贈収賄疑惑が持ち上がってしまったが、どうやらこの艦の置かれた状況を見る限り、集計の実行日は永遠に訪れそうにない。 不正を取り締まる必要はなさそうだ、などと思考しつつ、ギンガは再度の溜息と共に言葉を紡ぐ。 「・・・理解できないわ。必要不可欠という訳でもないのに、人間をシステムに組み込むなんて」 「必要性なら在るぞ。状況を有機的に判断・処理する能力を持ち、僅かな処置である程度の性能を付加する事ができ、更に外部補助により処理速度の劇的な向上が図れるパイロットユニット。そんなものが数百億も、極端な言い方をすれば地球文明圏の其処ら中に転がっているんだ。コイツを利用しない手はないだろう」 「パイロットの養成にしても身体的な強化措置と脳の電子的強化、後は各種制御系のインストールだけで済むからね。細かな調整と経験から成る部分は、その後の個々の情報蓄積の度合いに依存するけど、それだって並列化でどうとでもなる。尤も、パターンの同一化によってバイドに一網打尽にされる危険性が在るから、それをやるのはかなり稀なケースらしいけれど」 「成程ね。人間は汎用性が在り、ついでに数の調達にも困らない。態々パターンを調整せずとも個々に違ったノイズを有し、しかも技術の進歩で即戦力としての運用も可能となっている。人道面での問題を無視すれば、これ程に安価で高性能、更に信頼性にも富んだシステムは他に存在しないって訳ッスね。それでも不都合となれば、その時はその時で人工物に代替させる事もできる。結局、パイロットなんてローコストが売りなだけの、使い捨ての制御ユニットって事じゃないッスか」 「まあ、そうだな。人間を使う事による利点や、使わざるを得ない理由は他にも在る。でも、ローコストというのが利点の1つである事は否定できない。リンカーコアみたいに個人に特別な資質が備わっているからとか、機器では再現不可能だとか、特殊な要因が在るからとか、そういったどうしても人間でなければならない理由ってのは一切無いしな。何せ、ノイズを防壁として機能させているのは、結局のところ機体側なんだから。そう、要はコストの問題さ」 其処で会話を区切り、全員が飲み物を口にする。 スバルが飲み干した紅茶や、ギンガやノーヴェのコーヒー以外にも、テーブル上にはアルコール類を除く複数種の飲料物が並べられていた。 戦闘機人は常人離れした膂力を誇るが、同時に「燃費」の悪さという問題も抱え込んでいる。 通常時であれば一般の基準とほぼ同じ食事量で済むのだが、一旦でも戦闘機人としての能力を解放した後には深刻な「燃料不足」に陥るのだ。 勿論、魔力やその他のエネルギーで活動時間を延ばす措置が講じられてはいるが、空腹感とそれに伴う食欲ばかりは如何ともし難い。 今後の行動を安定させる為にも、此処で十分に「燃料」を満たす必要が在った。 並べられたジュース類も、その一角という訳だ。 コップに注いだコーラを一口、軽く口許を拭ってスバルが続ける。 「話が逸れたけど、対汚染防御策の1つにパイロットの搭乗が在る事は理解して貰えたよね。当然、無人機にもそれを模した防壁か、或いは人間の脳以上に複雑なパターンを持つノイズメーカーが搭載されている。でも、それらの代替システムには欠点も在るんだ」 「欠点?」 「そう。強化措置によって演算能力を獲得しつつも、有機的な判断と対処能力を併せ持つ・・・悪く言えば、非合理的で無駄に複雑なシステムを有する人間とは違って、基本的に非合理さを装っているだけの代替装置は、有人機と比較してどうしても干渉される確率が高くなる。有人機にしたって、時と場合によっては5秒足らずで、パイロットを含むシステム全体を掌握される事があるんだ。代替システムは強力だけれど、パターンの解析が不可能な訳じゃない。現に、これまでのバージョンは全て解析されている」 「・・・今更、何でそんな情報を知っているのかは訊かないけれど。それで?」 「バージョンは定期的に更新されるけど、ごく稀にそれが間に合わないケースも在る。システムを解析され、抵抗すら許されずに一瞬で中枢を掌握されるんだ。深宇宙遠征時とか、長期に亘る異層次元での作戦行動中なんかに良く起こるケースだよ。それと同じ事が、TL-2B2にも起きた」 其処でまた言葉を区切り、コーラを煽るスバル。 既に炭酸は殆ど抜けているらしく、2度、3度と喉が動いた後には、コップは空となっていた。 深く息を吐き、彼女は話を再開する。 「敵複合武装体はTL-2B2が模造品である事を知っていた。だから指向性を持たせた干渉波でシステムを掌握し、そのまま艦隊への攻撃に用いようとしたんだ。ところが、バイドにとっても予想外だったんだろうけれど、掌握直後のシステムに自我が発生した。干渉に抗えるだけのノイズを有する、人間のそれとほぼ同じ自我が」 「思考抑制機能が停止したのね」 「そういう事。一瞬だけど、流石に混乱した。とんでもない量の情報が、覚醒直後の意識へ一度に雪崩れ込んできたんだ。強化措置が施されていなかったら、間違いなくオーバーフローを起こして初期化・・・死んでただろうね。その時に、地球軍とバイドに関する真相についても知った。それで改めて現状を確認した後、他のTYPE-02ユニット全てにオーバーライドしたの。その上でB-1DγのNo.9ユニット、つまりノーヴェに干渉して思考抑制機能を停止したんだ。こっちに関しては干渉波じゃなくて、データリンクを通じて行ったから簡単だったよ」 「で、覚醒後にアタシも他のNo.9ユニットにオーバーライドして・・・後は、さっき話した通りだ。スバルがB-1A2の暴走を装って艦隊を攻撃し、人工天体内部へ戻る。アタシはR-13Tでその後を追い、天体内部で合流してコロニーへ向かった。その時には単に、ランツクネヒトの戦力を削った上で、生存者に真実を伝えるまでの想定しかしていなかった。ウォンロンが戻る前にR戦闘機を排除して、コロニーを移動させようってね。まあ多分、勝ち目は無かっただろうけど」 それはそうだろうと、ギンガはその予想に同意した。 コロニー防衛に就いていた4機種、計11機のR戦闘機は、そのいずれもが常軌を逸した戦闘能力を有している。 如何に自我を有する制御ユニットとして覚醒したとはいえ、経験豊富なパイロットが搭乗するR戦闘機を同時に11機も相手に回して、それで勝てると思う方がどうかしているだろう。 「ところが運の良い事に、コロニーはバイドとの交戦状態に在った。おまけにアイギスは汚染された地球軍艦艇に制御権を乗っ取られて暴走、戦闘中の混乱に紛れてコロニー内部へ潜入してみれば、ランスターやお前等がランツクネヒトと交戦中って有様だ。コロニーのシステムが死んでいる事はすぐに分かったから、万が一にも外部のランツクネヒトと地球軍に状況が伝わらないようにジャミングを実行したのさ」 「ジャミングには、艦隊から先行させていたTL-2B2を使ったよ。その開始直後に、この艦がコロニーに突っ込んだ。その時にはもう、汚染されたメインシステムはゴエモンの攻撃で破壊されていたから、サブシステムを乗っ取ったんだ。其処へ、ギン姉達が乗り込んできたの」 「ランスターの方は、モンディアルとルシエから身柄を託された。アイツが持ってたメディアデバイスは、今は2人が預かってるよ。アタシはアイツ等が外殻へ脱出した頃を見計らって、ティアナをR-13Tに乗せてこの艦を追った。それで、後は情報奪取と戦闘の痕跡を消して終わり」 「痕跡を消すって、どうやって?」 スバルとノーヴェの口から続々と語られる、理解の範疇を超えた事実。 それらを必死に整理しつつ、ギンガは問い掛けた。 その問いは単に、R戦闘機という殻に押し込められた状態で行う痕跡の隠滅とは如何なるものかという、興味心から出たもの。 だが、それに対するスバルからの返答の内容は、ギンガの意識を凍り付かせるには充分に過ぎるものだった。 「B-1A2の1機を使って、コロニーを破壊した。装甲維持システムを暴走させて、オーバーロードした波動粒子のエネルギーをそのまま増殖に用いたの。要するにB-1A2そのものを種子にして、植物性バイドの株をコロニーに植え付けた。後は、勝手に成長した植物がコロニーを押し潰した、それだけ」 「な・・・」 植物性バイドをコロニーに撃ち込み、物理的に圧壊させた。 スバルは、そう言ったのだ。 余りの暴挙に絶句するギンガだったが、スバルの言葉は更に続く。 「後は、ウォンロンが第3空洞に到達する直前に、全機で防衛艦隊を襲った。単なる制御ユニットの暴走に見せ掛ける為にね。それと、ペレグリン隊の生き残りの2機とシュトラオス隊の4機、コロニー外殻での防衛に就いていた魔導師と機動兵器を適当に撃破して離脱、こっちに合流・・・」 「待ちなさい。コロニーを破壊したってどういう事? 生存者は、皆はどうなったの!?」 スバルの言葉を遮り、思わず喰って掛かるギンガ。 だが、当のスバルは驚いた様に目を瞠り、正面からギンガを見返している。 その反応にギンガの方が面食らっていると、スバルは微かに首を傾げて続けた。 「そりゃあ、無差別攻撃だからね。それなりの人数が死んだんじゃないかな」 「何を言って・・・!」 「でも、キャロとエリオについては巻き込まない様に常に位置を把握していたし、セインがベストラへ移った事も傍受した通信から分かってた。なのはさんとかはやてさん、ヴィータ副隊長とザフィーラが外殻に居た事も分かってたけど、だからって手を抜いたりなんかしたら、暴走を装っている事がランツクネヒトにバレちゃうでしょ? まあ、仕方ないって事で。シャマル先生は・・・もう、亡くなってたみたいだし」 「味方を殺したんスよ!? 何でそんな風に平然としてられるッスか!」 「敵も居ただろ。ランツクネヒトと地球軍。第一、あの時点じゃランスターとルシエ、モンディアルの3人、それとお前等以外はみんなランツクネヒトを信用してたんじゃないのか」 「それは・・・」 「信用とまではいかなくても、共同作戦を採る程度には・・・まあ、此処は言うだけ無駄か。どの道、それ以外に方法は無かったしな。とにかく反撃を実行する程度には、連中は脅威として判断できる存在だった。お前等を護る為にも、連中に対する偽装工作は必要だったんだ」 「だからって・・・コロニーを破壊なんて、そんな大勢の犠牲者が出る方法を採らなくても、他に方法が!」 「でも、効率的でしょ?」 瞬間、ギンガの表情が強張る。 目前でこちらを見やる妹、見慣れたその顔が、酷く生気に欠けた作り物の様に思えたのだ。 否、彼女は確かに何時も通りの、何処かしら幼ささえ残るその顔に微かな疑問の色を浮かべ、こちらの様子を気遣っている。 記憶の中のそれと全く変わりない、ギンガの妹、スバル・ナカジマの顔だ。 だが、何かがおかしい。 コピーでも構わない、本物のスバルと何ら変わりないと言い切ったのは自身であるというのに、今はその言葉に確信が持てなくなっている。 そんな葛藤に苛まれるギンガの様子をどう捉えたのか、スバルは軽く自身の頬を掻いて話を変えた。 「・・・とにかく、私達は偽装工作が済んだ後、この艦と合流した。艦内で2人の誘導をしてたのは、ノーヴェだよ」 「ノーヴェが?」 「ああ。尤も、お前等がランツクネヒトの情報収集ユニット、つまりこの身体を回収していたのは予想外だったけどな。それでもまあ、元の身体とほぼ同じ端末が在るのは便利な事だから、AMTPまでのナビと操作マニュアルを表示した。後は、各ユニットを掌握した時と同じだ。機体からオーバーライドして、この身体に情報を転送した。で、今は此処で飯を食ってると」 其処まで言うと、ノーヴェはフルーツの皿から8等分されたリンゴ、その1欠けを手に取り齧る。 小気味良い音を響かせ、美味そうに咀嚼するノーヴェだったが、ギンガにはその光景が恐ろしいものの様に感じられた。 人間でない何か、人間には到底理解できぬ何かが、人間の姿を模し、人間の食物を口にして、人間の食事と云う行為を模している。 人間が有する感覚を探り、人間が感じる多幸感を観測し、人間が用いる会話という情報伝達手段の解析を行っている。 そう、感じたのだ。 そして、そんな認識が自身に宿り始めていると気付いた、その時。 ギンガは唐突に、明確な恐怖が自身の内へと宿った事を自覚した。 ほぼ同時、咀嚼し終えたリンゴを飲み込み、ノーヴェが言葉を発する。 「うん、成程」 「・・・ッ」 僅かな音。 声になり掛けて潰えた様なその音に、ギンガは隣に座るウェンディへと視線を移す。 彼女は、視線をノーヴェへと向けたままテーブル上のカップを両手で握り締めていたが、その手は僅かに震えていた。 恐らくは彼女も、ノーヴェの異常に気付いたのだ。 ギンガは視線をスバルへと戻し、切り分けたチキンソテーを口へと運ぶ彼女の動作を見やった。 口一杯にソテーを頬張り、スバルは頬を緩ませて咀嚼を続けている。 数秒ほど、無言でその様子を見つめるギンガ。 そして、彼女は僅かに躊躇した後、ソテーを飲み下したスバルへと問い掛ける。 「ねえ、スバル・・・「美味しい」かしら?」 「うん、「面白い」よ」 全身の肌が粟立った。 少なくとも、ギンガはその感覚を味わったのだ。 新たに1切れのソテーを口へと運ぶスバルを見つめつつ、ギンガは震える手で自身の口を覆い隠した。 そして思考の内で、改めてスバルの言葉を反芻する。 「面白い」と、スバルはそう言った。 「美味しい」ではなく「面白い」と。 それは料理の味がという意味ではなく、宛ら自身に「味覚」が存在し、それが機能しているという事実、それ自体が「面白い」と答えている様に思えた。 「味覚」の存在を改めて確認し、その機能の新鮮さを楽しんでいるかの様だ。 そして恐らくは、ノーヴェも同じ感覚を抱いているに違いない。 彼女はコーヒーを口にし、僅かに驚いた後に表情を顰めた。 まるで、コーヒーが苦いという事実を、それ以前に苦いという感覚を知らなかったかの様に。 否、そもそも彼女達の反応は本当に、自身等のそれと同じ「感覚」に基いて発生したものなのだろうか。 オリジナルの彼女達は、今やR戦闘機の制御中枢となっているのだ。 コピー自体が持つ「感覚」はオリジナルのそれと同一であろうが、スバルとノーヴェはR戦闘機からコピーへ「オーバーライド」したと言った。 その言葉を如何なるものとして捉えるかによるが、正しく言葉通りに「上書き」したと云うのならば、オリジナルの2人にとっては久し振りに体験する「感覚」なのかもしれないと考察できる。 最悪、ランツクネヒトが行った処置により「感覚」そのものの記録を喪失してしまった、或いは人間の「感覚」という概念を削除されてしまった可能性すら在るのだ。 そうなれば、先程から目前の2人が見せている「感情」に基くらしき各種行動、笑顔や頸を傾げるといった表情や動作も、今までと同様の意味を持つものとして受け止める訳にはいかない。 オリジナル時からの記憶、即ち「情報」が残っている事は確かなのだから、それに基いてコピーの身体を操作しているに過ぎないかもしれないのだ。 魔導師がサーチャーを操る様に、ランツクネヒトがドローンを操る様に。 TL-2B2とB-1Dγという本体から、新たに入手した「端末」を遠隔操作し、人体が有する「感覚」の情報を収集・解析している。 目前の存在は自身が知る2人の姉妹ではなく、2体の情報収集端末なのではないか。 そうだとすれば、自身の知るスバルは、ノーヴェはどうなったというのだ。 何処かに居るのか、何処にも居ないのか、生きているのか、死んでいるのか。 何を信じれば良い、どう理解しろというのだ。 「成程ね」 唐突に、この場の4人のものではない声が食堂に響く。 咄嗟に背後へと振り返るギンガ。 その視界へと、薄青色の検査衣が映り込んだ。 ギンガは驚きを隠そうともせず、その検査衣を纏った人物の名を声に乗せる。 「ティアナ・・・」 「ああ、もう起きたんだ」 「白々しいわね、ずっと見ていた癖に」 ギンガではなくスバルの言葉に答えつつ、ティアナはテーブルへと歩み寄ってきた。 足運びが幾分か覚束無いが、それでも意識は明確である様だ。 彼女はギンガ達の側でもスバル達の側でもなく、手近に在った椅子を持ってテーブルの端へと寄った。 其処へ椅子を下ろし、次いで自身もその上に腰を下ろすと、溜息を吐いて再度に言葉を紡ぐ。 「アタシが医療ポッドから出た正確な時間まで知っているでしょう、アンタは」 「あれ、もしかしてさっきの話、聞いてた?」 「だから白々しいって言うのよ。今じゃこの艦の眼は、全部アンタ達のものじゃない。アタシが此処の映像を見ていた事なんか、とっくに気付いていた癖に」 言葉を交わしつつ、ティアナはスバルのカップを引き寄せ、ポットからコーヒーを注いだ。 ポットを置き、カップを手にして一口。 すぐに表情を顰め、カップを口から離すと不機嫌そうに呟く。 「不味い。アンタ、こんなの良く飲めるわね」 「私はまだ飲んでないよ。先に飲んだのはギン姉とノーヴェ」 「データを共有してるんでしょ? それなら飲んだのと同じじゃない」 「パターンを同一化すると、簡単に干渉されるって言ったろ。データリンクはしているけれど、何でもかんでも遣り取りしてる訳じゃない」 「コーヒーの味くらいで何を言ってるんだか・・・」 スバルとノーヴェ、そしてティアナ。 3人の間で交わされる、何気なくも何処か歪んだ言葉。 訳も分からずにその会話を聞いていたギンガだったが、自身の隣から飛び込んできた声に漸く自己を取り戻す。 「ティアナ・・・気付かないんスか?」 ウェンディだ。 彼女は何処か、探る様な視線をティアナへと向けていた。 何を言わんとしているのかは、ギンガにも容易に理解できる。 スバルとノーヴェの異常性に気付かないのか、ウェンディはそう問い掛けているのだ。 ティアナは視線をスバル達から外し、ウェンディへと問い返す。 「何がかしら」 「2人の言ってる事ッス。何かおかしいとは思わないんスか」 「別に。気になってた事は在ったけれど、ついさっき納得したわ」 「納得した? どういう事なの」 ティアナの言葉に、今度はギンガが問い返した。 彼女は、此処の映像を見ていたという。 ならば、スバルとノーヴェの異常な言動も知り得ている筈だ。 にも拘らず放たれた納得という言葉は、如何なる意味を持っているのか。 微かに沸き起こる怒りを自覚しつつ、ギンガはティアナの言葉を待つ。 だが、返されたものは望む答えではなく、それどころか予想だにしなかった問い掛け。 「私の見解を訊く以前に貴女達の主張はどうなったんです、ギンガさん」 そんな言葉と共に、ティアナは醒めた眼でこちらを見やる。 蔑意すら感じられるその視線に、ギンガは言葉を失った。 コロニー管制区、ランツクネヒト隊員からの攻撃を受けている際。 四肢を失い身動きが取れなくなったスバルとノーヴェ、2人をランツクネヒト側の情報収集ユニットと断じて救出を拒むティアナを前に、ギンガは本物も偽物も変わりないと言い切ってみせた。 だが今、ギンガのその主張は瓦解しようとしている。 2人がスバルとノーヴェであると信じる事ができず、自身の判断は間違っていたのではないかとの疑いを持ち始めた。 挙句の果てに思考を放棄し、ティアナの判断を仰ごうとしていたのだ。 その事実を自覚すると同時に、ギンガは身体の芯が凍り付いてゆくかの様な感覚に襲われた。 ティアナは未だに、こちらの心中を見透かしているとすら思える、その醒め切った視線を逸らそうとはしない。 無言の罵声を浴びせられているかの様な感覚に耐える中、唐突にティアナが視線を外す。 宛ら、ギンガとウェンディに対する、一切の興味を失ったかの様に。 そして、言葉を紡ぐ。 「・・・要するに、2人はスバル・ノーヴェという人間個体としての存在ではなく、複数の端末から構成されるシステムそのものになったという事です」 「え・・・?」 ティアナの答え。 少なくともギンガは、その内容を咄嗟に理解する事ができなかった。 人間個体、端末、システム。 ティアナの答えは、何を伝えようとしていたのか。 思考の中へと沈みゆくギンガの意識に、スバルの声が飛び込む。 「流石ティア、理解が早い」 その言葉に、ギンガはスバルを見やった。 彼女は嬉しそうに微笑み、ティアナの横顔を見つめている。 記憶の中と同じ、スバルの笑顔。 呆然とそれを見つめるギンガの姿をどう捉えたのか、スバルがこちらへと視線を向けて言葉を続ける。 「そういう事だよ。ギン姉、ウェンディ。まだ解らない?」 「もう好い加減、理解して欲しいんだけどな。何度も説明するのは非効率的だし、この身体からすると面倒だ」 スバルに続き、ノーヴェの言葉。 そちらへと視線をやれば、何処か呆れた様にテーブルへと肘を突き掌に顎を載せているノーヴェの姿と、彼女を呆然と見やっているウェンディの姿が視界へと映り込んだ。 何か言わなければ、と口を動かし掛けるギンガ。 だがそれよりも、ティアナが発言する方が早かった。 「理解できないんじゃなくて、理解したくないのよ。妹達が人間でなくなってしまったなんて、すぐには認められないものでしょう」 「そういうものかな。まだその辺りの認識に関する補完は完全じゃないし、上手く理解できないんだけど」 「どうでも良いけど、そろそろ解り易く説明してやったらどうだ」 ノーヴェの視線がウェンディを、次いでギンガを捉える。 僅かに身を硬直させるギンガ。 ノーヴェが怪訝そうに眼を細めるが、ほぼ同時にスバルが言葉を発し始めた為、ギンガは意識をそちらへと向けた。 「つまりね・・・スバルやノーヴェというソフトウェアは元々、戦闘機人という名のハードウェアを有していた。ハードは1つしか存在せず、また感覚などの情報もそれに関するものしか蓄積されていなかった。ノーヴェに関しては、正確には他のナンバーズからのフィードバックは在ったけれど、それもノーヴェ自身が有する情報と大差は無かったしね」 「ところがランツクネヒトによって、2人はソフトを内包する僅かな部位を残し、ハードの大部分を奪われてしまった。新しいハードとして提供されたのは通常の人体でも戦闘機人でもなく、R戦闘機という兵器だった」 「有難う。それで、その際に2つのソフトは不必要な部位を削ぎ落とされた。戦闘機人の身体制御に関して蓄積された情報とか、人間として培われてきた感情とか。兵器の制御に、そういったものは特に必要ないからね」 スバルの言葉をティアナが継ぎ、その後を再度スバルが継ぐ。 ギンガは必死に彼女達の言葉を読み解き、意味ある情報として意識内で並び変える作業を行っていた。 更に其処へ、ノーヴェの言葉が飛び込む。 「スバルとアタシが自我を取り戻した時も、人間の感情とか感覚ってものは無かった。情報は在るし、ソフトに変更を加える事でそれらを実装する事もできたけど、特に意味の在る行動とは判断できなかったしな。その時に優先したのは感情や感覚を取り戻す事じゃなくて、ハードの数を増やす事だった」 「他のTYPE-02やNo.9ユニットにオーバーライドを実行した私達は、単一のソフトでありながら複数のハードを有する存在、つまり1つのシステムになった。私はTL-2B2とBX-TにB-1A2が4機、計6機のR戦闘機から成るものとして。ノーヴェはB-1DγとR-13T、B-1B3の3機のR戦闘機から成るものとして」 「どれがオリジナルって区別は無い、アタシ達がオーバーライドしたものは全てシステムの一部だ。其処に今度は、お前等が回収してきたコピーのアタシ達が加わった。当のアタシ達にとってはオリジナルに最も近いハード、もう完全に失われたと判断していた感覚や感情を備えた戦闘機人のハードだ。調子を確かめるのは、当然の事だろ?」 ノーヴェが説明を終える頃には、ギンガは愕然とした面持ちを隠す事すらできなくなっていた。 余りにも理解し難い事実、理性は納得しても感情は決して受け入れようとはしない、残酷な現実。 それが今、ギンガの意識を打ちのめしていた。 ギンガの知る、単体のハードウェアとしてのスバルとノーヴェは、もう何処にも居ない。 今や2人は複数のハードウェアを備えるシステムであり、目前の彼女達はその一部に過ぎないという。 戦闘機人というハードウェアを操るスバル、そしてノーヴェという、2つのソフトウェアの一端。 ギンガは自身の記憶の中に存在するスバルとノーヴェ、彼女達のハードウェアとソフトウェア、双方が全く同一のものである事が当然であると認識していた。 ティアナに対し本物も偽物も関係ないと言い切ったのは、オリジナルの2人のハード・ソフトが異なる場所に存在していると仮定し、その上で全く別のハード・ソフトである2人のコピーを受け入れると決意した為だ。 2人がソフトに重きを置く存在と化しており、ハードウェアの特定が無意味な存在となっている等とは、全く考えもしなかった。 そして今、その考えもしなかった可能性が、現実のものとして眼前に在る。 人間個体とは比較にならぬ程の巨大なシステムと化して、ギンガの眼前に存在しているのだ。 「解ったみたいだね、ギン姉。アタシ達にとってはこの身体も、複数のR戦闘機も全部が自分自身。この戦艦、ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦「アロス・コン・レチェ」だってそう。どれが本当の自分かなんて、そんな事は考えるだけ無意味なんだ」 「オーバーライドすればしただけ、ハードウェアの数が増える。新たなハードの獲得に伴ってソフトウェアが変化しても、システム全体がスバルとノーヴェという意識体を形成している事には変わりがない。まるでバイドね」 「酷いな、それ。言っておくが、あんな化け物と比較できるほど万能って訳じゃないぞ。下手すりゃ一瞬で喰われて、正真正銘のバイドになっちまう可能性だって在るんだからな」 「解ってるわよ、そんな事。今のは単なる言葉の綾」 「考えてみれば、皮肉な話だよね。個人が強大な力を持つ事を何よりも危険視する地球人が、よりにもよって自分の手でそんな存在を生み出してしまったんだから。まあ、最大限に利用させて貰うけど」 最早、言葉を紡ぐ事すらできぬギンガとウェンディを置き去りにして、3人は言葉を交わし続ける。 それでもギンガは、何とかスバルへと掛けるべき言葉を模索し、しかしすぐにその思考を否定した。 そんな事は意味が無いと、今更ながらに思い知ってしまったのだ。 自身がスバル達の変容を受け入れられなかった事は、先程までの態度から3人には筒抜けだろう。 否、スバルとノーヴェは、戦闘機人としてのハードウェアへの移行に伴うソフトウェアの変容に対処している段階であるらしい事から推測するに、こちらの態度から正確に内面までを推測する事は難しいかもしれない。 だが少なくとも、ティアナには完全に見抜かれているだろう。 彼女は人間としての感覚が正常に機能しているとは言い難い2人の為に、自身がその代替機構として機能する事を請け負っているのだ。 2人のコピーを否定した彼女は、システムとしての2人を拒絶する事なく肯定している。 其処に、自身等が入り込む隙は無い。 ならば今すべき事は、その失態に関して取り繕う事ではないだろう。 搬入室でスバルとノーヴェが告げんとした内容、地球軍とバイドの戦略に関する情報を、少しでも正確に受け取る事だ。 2人は間違いなく、こちらに対してその役目を果たす事を期待している。 ならば望み通り、その意思を汲もうではないか。 「・・・それで、貴女達が言ってた地球軍とバイドの戦略っていうのは? そんな情報を何処から入手したの」 言葉を紡ぐと同時、3人の眼がこちらへと向けられる。 気圧されそうになる自身を何とか抑え、次なる言葉を待つギンガ。 ティアナの視線がスバルとノーヴェへと向き、その視線を受けた2人は僅かに互いの視線を合わせてから、こちらへと向き直った。 「情報の入手経路は複数。ややこしくなるから、今の内にソースを明かしておくよ。1つは、B系列機体を構成するバイド素子。ベストラの研究員達はコロニーに残る記録の殆どを破壊したけれど、機体そのものの破壊に至る前に時間切れになった。これが1つ」 「素子が情報を記録しているの?」 「バイドを嘗めちゃいけないよ。奴等にとって、情報は上質の餌なんだ。一度は溜め込んだそれを手放すなんて、余程の事が無い限りは在り得ない」 情報は上質の餌。 スバルの言葉に、改めてバイドの恐ろしさを実感するギンガ。 説明は、更に続く。 「2つ目、複合武装体からの干渉波。これは1つ目のソースから得た情報を補完する意味合いが強いものだった。3つ目が、天体外部でケリオンが地球軍・第17異層次元航行艦隊旗艦「クロックムッシュⅡ」と遣り取りした情報通信。圧縮された一瞬のものだったけど、辛うじて傍受に成功した。ウォンロンや私達に傍受されても、問題は無いって判断したんだろうね。実際には大在りだった訳だけれど。ノーヴェ」 スバルはノーヴェに説明役を引き継ぎ、自身はコップへとコーラを注ぎ始めた。 その様子を横目に見やり、ノーヴェが口を開く。 「地球軍は今のところ、22世紀の第97管理外世界との通信回復には成功していない。増援の要請は絶望的だが、艦隊は独自の作戦を展開するつもりだ」 「内容は」 「この隔離空間内部に存在すると思われる「MOTHER-BYDO Central Body clone」の破壊作戦だ。ウォンロンとケリオンからの通信が決め手になるだろうな」 「セントラルボディ・・・そんなものが存在するの?」 「これに関しては、後で説明する。それで、はっきり言うと地球軍に関しては、これ以外に確証の在る目立った情報は無いんだ。それで、バイド側の説明に移るけど」 ノーヴェは言葉を区切り、一同の顔を見渡した。 改まったその様子に、ギンガは思わず姿勢を正す。 それはウェンディやティアナも同様らしく、椅子の脚が床面へと擦れる音が食堂に響いた。 「良いか、気をしっかり持って聞け。バイドの正体、その建造理由に関する情報だ」 バイドの正体、建造理由。 ギンガは疑問を抱いた。 そんな情報は、此処に居る全員が疾うに知り得ているではないか。 26世紀の第97管理外世界、外宇宙の敵と戦う為に地球人が建造した局地限定破壊兵器。 何らかのミスによって太陽系に於いて発動し、150時間の暴走の果てに異層次元へと放逐された悪魔。 それ以外に、何が在るというのか。 「先ず、バイドという存在についてなんだが・・・なあ、さっきの話は覚えてるよな。ハードウェアとソフトウェアの話だ」 「勿論ッス」 「バイドという存在を極端に言い表すなら、こうだ。ハードウェアを持たない、ソフトウェアだけの存在」 沈黙が満ちる。 ノーヴェが話を区切った後、誰も言葉を発しようとしない。 少なくともギンガは、ノーヴェの言葉に対する理解が追い付かずに、紡ぐべき言葉が見付からないという状態だ。 そんな周囲の面々に視線を走らせたノーヴェは、テーブルを軽く指で叩いて話を再開する。 「元々、バイドはソフト面での大規模な無差別侵蝕能力を重点に開発された。地球の衛星に匹敵するだけの巨大なフレームも、其処に満たされた生体素子も、バイド中枢を形成する波動粒子さえ、ソフトウェア保護の為の殻に過ぎない。バイドの本体はハードウェアではなく、ソフトウェアだ」 「ノーヴェ、ちょっと待ちなさい」 ノーヴェの説明に、ティアナが割り込んだ。 彼女は腕をテーブルに載せ、半身を乗り出す様にして言葉を続ける。 「それはおかしいわ。地球軍はこれまでに少なくとも4度バイド中枢を攻撃して、4度目の「THIRD LIGHTNING」を除いては破壊に成功してる。それはつまり、バイドに物理的なハードウェアが存在するという事の証明ではないの」 「どの作戦も、結局は殲滅に失敗してるだろう。異層次元へと投棄されたバイドは、其処でハードウェアを失った。だが、アタシ達の知る次元世界とは概念からして異なる空間に適応する内、バイドはソフトウェアのみでの活動を可能とする存在に進化したんだ・・・詳細は勘弁してくれ。理解しようなんて思ってみろ、あっという間に脳がやられちまう」 「なら、地球軍が破壊したのは何だったんスか?」 「バイドは、敵対勢力が有するソフトウェアへの干渉を主な攻撃手段とする。相手が機械だろうと生命個体だろうと、それどころか自身と同じソフトウェアのみの存在、情報集約体であろうとお構いなし。宇宙人だろうが異次元人だろうが、ロストロギアだろうが神みたいな存在だろうが全く問題にしない。だが、例外が在る」 少々強めに、指先でテーブルを叩くノーヴェ。 改めて全員の意識を引き付け、続ける。 「ソフトウェアに対する、有効な攻撃手段を有する勢力。バイドにとっては、最も厄介な存在だ。ソフトウェアとしても常識外の存在なバイドだが、長く戦っている内にはそんな勢力と接触する事も在った。そうなるとバイドは、ハード面での侵攻に切り替えるか、或いは両面作戦を採る様になる。ソフト面での干渉は継続し、ハード面では圧倒的物量で敵性勢力を押し潰すんだ」 「それが、外の状況?」 「あれは地球軍に対する戦略を、次元世界で継続しているだけ。このまま時間が経過すれば、次元世界全域に対してソフト面での干渉が始まるだろうな。そうなったら一巻の終わり、みんな揃ってバイド化だ」 「バイドはソフトを書き換える事で、ハードにも干渉する。みんなも見たでしょ、おかしな姿に変わった機械や生物を。あれが干渉の結果、所謂バイド化だよ。バイドによる解析が終了すれば、物理的に接触する必要さえ無くなる。バイドからの干渉波で、あらゆる存在が知らぬ間にバイドになり得るんだ」 小さな呟き。 ギンガが自身の隣へ視線をやると、青褪めたウェンディの表情が視界へと映る。 彼女が何を想像したのか、ギンガは間違っても知りたいとは思わなかった。 「成程。地球人は干渉への対抗策だけでなく、ソフト面での有効な攻撃手段を有している訳ね。だからバイドは、ハード面での大規模攻勢を仕掛けている・・・フォース・システムかしら?」 「そう。他勢力との戦闘によるダメージで切り離され、異層次元を漂流していたバイドの切れ端は、よりにもよって22世紀の地球人の手で回収されてしまった。彼等はバイドの侵攻前にその存在を知り、それに留まらず切れ端を培養し、そのソフトを書き換える事でバイドに対する有効な攻撃手段、フォース・システムを開発した」 「フォースの能力は絶大としか云い様がない。あれは物理的に他のハードウェアを侵蝕するだけでなく、あらゆる空間内に遍在するバイドのソフトウェアを、極広域に亘って跡形もなく喰らい尽くしちまうんだ。フォースのエネルギー蓄積率・・・地球軍はドースと呼称しているが、それは対物非接触時であっても、僅かずつ上昇している。何を吸収しているのかというと、空間中に遍在するハードウェアを持たない、ソフトウェアのみのバイドを喰らっているんだ」 「第一次バイドミッション当時、既に他勢力との大規模交戦でソフト面での損傷を受けていたバイドは、フォースのソフトウェア侵蝕能力による損害の拡大を避けるべく、1つの惑星を自身のハードウェアへと改造して其処に宿った。ハードに宿ってしまえば如何にフォースとはいえ、それを破壊しない限りはソフトに対する侵蝕は不可能だからね。バイドは圧倒的な物量と、それまでに吸収してきた無数の勢力の情報・技術を駆使して「R-9A ARROW-HEAD」の大隊を迎え撃ったけれど、最終的には仮のハードを破壊されてソフトに深刻な損傷を負った。再生中に地球軍の不意を突く形で電撃的な再侵攻を実行したけれど、これも「R-9A2 DELTA」と「RX-10 ALBATROSS」、おまけに「R-13A CERBEROS」の試作機群を用いた反攻作戦によって頓挫した」 「第二次バイドミッションでは、バイドはハードウェアの複製に踏み切った。地球側のコードネームでは「WOMB」と呼称されたハードに宿ったバイドは、WOMBもろともソフトを複製しようとしたんだ。ご丁寧にもあらゆるパターンを変更して、オリジナルとクローンのどちらかが破壊されても、もう一方に同じ手段が通用しない様に。ところがこれも「R-9C WAR-HEAD」によって、オリジナルとクローンを同時に破壊されるという、最悪の形で阻止されてしまった。そしてバイドは、人間に例えるなら業を煮やしたってところかもしれないが、今度は自身が宿るハードそのものに高い戦闘能力を付与した。次に襲ってくるであろう、新たなR戦闘機を迎え撃つ為だけに。それが「MOTHER-BYDO Central Body」だ」 またも言葉を区切り、ノーヴェが溜息を吐く。 疲れているのかもしれない。 瞼の上に手をやり、幾度か眼を揉み解す。 数秒ほどの後、スバルが話し始めた。 「バイドに人間的な感情そのものは無いけれど、危機を察知する機能は豊富に備えている。当然その中には、人間の感情や感覚を模したもの存在する。あれは危ないとか、これには近付きたくないとか」 コーラを一口、スバルは喉を潤す。 そうして、テーブル上に戻したコップの中、弾ける炭酸の泡を見つめつつ続ける。 「バイドは間違いなく、地球人に「恐怖」しているよ。ソフトウェアの隅から隅まで、余す処なく。どんな手段を使っても滅ぼせない、どれだけ殺しても殺し切れない、どんなに強大な力で叩き潰しても耐え抜いて、次にはそれ以上の力で反撃してくる」 徐々に小さくなってゆく、スバルの声。 聞き逃すまいと聴覚の感度を上げたギンガだったが、直後のその意識が凍り付く。 「信じられない。化け物だ。こんな馬鹿げた存在なんて知らない。どうやって滅ぼす、どうやって防ぐ、どうやって凌ぐ、どうやって生き残る。あれをやっても殺される、これをやっても殺される、殺される、殺される、殺される。嫌だ、死にたくない、殺すしかない、滅ぼすしかない、でも殺せない、滅ぼせない。また殺される、ただ殺される、逃げても殺される、どうやっても殺される。殺してもくれない、生かされる、利用される、死にたいのに死ねない、殺して欲しい、でも殺してくれない。また来る、あの兵器が来る、「地球人」が来る、「R」が来る。嫌だ、死にたくない、殺してやる、でも殺せない、きっとまた殺される・・・」 「スバル・・・スバル!」 思わず、テーブル越しにスバルの肩を掴み、揺さ振るギンガ。 スバルは言葉を止め、何処か虚ろな瞳をこちらへと向けて薄く微笑む。 心臓を締め付けられるかの様な錯覚に襲われるギンガの手、肩に置かれたそれに自身の手を重ね、また話し始める。 「これが、バイドの内面。概念からして異質な存在だから全くこの通りって訳ではないけれど、分かりやすく人間の感情に準えるとこうなる。敵視というか恐慌というか、とにかく地球人に対する恐怖に凝り固まって、何としてもその存在を抹消しようとしている。元が兵器だった事なんて、今のバイドにとっては大したファクターじゃない。地球人との生存競争から逃げられなくなってしまったから、生き残る為に戦っている」 「逃げられない?」 「今、バイドが生存競争を投げ出して逃げたとしても、地球人の技術進化は止まる処を知らない。いずれバイドは完全に凌駕され、追い付いてきた地球人に殺される。その可能性が在る以上、バイドは逃げる事なんてできないよ」 「どちらかが背を向けた瞬間、残る相手に喰い殺される訳ね。ほんとに生存競争じゃない」 「そして地球人も、バイドに対して同じ恐怖を抱いている。和平は無いし、休戦も無い。それが成立するには、互いの存在概念が掛け離れ過ぎている」 「そんなバイドの恐怖が具現化したのがMOTHER-BYDOだ。異層次元の更に奥深く、電界25次元。そんな場所まで攻め込んで来るのは、地球文明圏が有する最高の戦力に違いない。そいつを叩き潰し、取り込み、こちらの戦力にして逆侵攻を掛けてやる。WOMBで試したR-9Aからの情報奪取は上手くいった、今回も同じ手段が使えるだろう。地球文明が持てる最高の戦力を利用して、逆に地球文明を殲滅してやる。生き残るのは、自分の方だ・・・そんな意気込みも空しく「R-9/0 RAGNAROK」によって、バイドはまたも深異層次元へと放逐されちまった。正に踏んだり蹴ったりだな・・・それで、此処からが本題だが」 ノーヴェが其処まで話すと、複数のウィンドウがテーブル上に展開された。 だが、ウィンドウ上には「no image」の表示以外には何も無い。 何事かと視線をノーヴェへと戻すと、彼女はまっすぐにこちらを見つめていた。 「元々のバイドの建造目的は、26世紀の地球文明圏に於いて銀河系中心域に確認された、敵対的な生命体群を殲滅する事だ。だが、バイドは太陽系で発動し、結果として建造者である26世紀の地球人の手によって異層次元へと葬られた。なら、バイドによって大被害を受けた上に、対抗手段を失った26世紀の地球文明圏はどうなった? バイドが本来殲滅すべき相手だった敵は? 22世紀へと現れるまでに、バイドは何をしてきた?」 「本当なら、それを知る術は無い筈だった。バイドは22世紀へと来てしまったし、時折現れる26世紀のものらしき兵器群にも記録は残っていなかった。なのに」 スバルが話を継いだ後、ウィンドウに変化が現れる。 表示される画像、BX-T・B-1A2・B-1B3・B-1Dγ。 バイド素子添加機体群。 「この4機種の機体を構成するバイド素子に、26世紀地球文明圏の末路と、彼等の敵についての情報が残っていた」 「・・・何ですって?」 「残ってたんだよ。敵とは何だったのか、地球はどうなったのか。全部、記録が残ってたんだ」 思わず、ギンガは右側面に位置するティアナと、互いの顔を見合わせていた。 彼女の顔には、混乱の色が浮かんでいる。 恐らくは自身もそうだろうと思考するギンガの聴覚に、ノーヴェの声が飛び込んだ。 「異層次元へ吹っ飛ばされた挙句、22世紀へと時空を遡って現れたバイドに、何故26世紀での顛末が記録されているのか。そう訊きたいんだろ?」 「そりゃ、そうッス。26世紀から弾き出されたバイドが何でその後の事を知ってるのか、辻褄が合わないッスよ」 「簡単な話だ。バイドは1度、戻ってるのさ。嘗て自分が弾き出された時空と全く同じ、26世紀へ」 訳が解らない。 26世紀から排除されたバイドが、1度はその26世紀に戻っている? ギンガは遂に自力での理解を諦め、大人しく言葉の続きを待つ事にした。 ウェンディは未だに何とか理解しようと試みているのか、再度にノーヴェへと問い掛ける。 「どういう事ッスか、まさかバイドは自在にタイムスリップできるとでも?」 「正確に言うと、戻ったのはバイドじゃない。バイドが侵蝕した、とある兵器が未来へ行ったんだ。4世紀分もの時間を越えてな」 「それをどう理解しろって言うんスか。何処ぞの馬鹿が未来にまで行って、バイドの建造を止めようとでもしたっていうんスか?」 「その通り。冴えてるじゃないか、ウェンディ」 ウェンディが息を呑んだ。 絶句する彼女を視界へと捉えながらも、ギンガの意識は聴覚へと集中していた。 そして、ノーヴェが言葉を続ける。 「その兵器を造った文明圏は、比喩ではなくバイドを打倒し、殲滅し、全ての元凶となった26世紀へと使者を送ったんだ。バイド暴走の25年前、建造が開始される12年前へと」 「バイドの建造そのものを止めようとしたのね」 「ついでに言うと、バイドを打倒した兵器の技術体系を伝える目的も在った。25年後に何が起こるか、それによって自身等がどれだけの被害を受けたかを伝えて、その上でバイドの代替戦力となる軍事技術を提供するつもりだったんだ。26世紀側がそれを受け入れれば良し、拒むならば殲滅する。既に時間軸の分離は確認されていたから、何の気兼ねも無くその作戦を実行した」 「そして、失敗した」 唐突に割り込んだスバルの声に、ギンガは思わず身を竦ませた。 作戦は失敗した、その言葉が冷たい衝撃となって意識を揺さ振る。 「彼等はバイドを撃破し、異層次元を漂流していたその兵器を回収して修復、改良を加えて未来へと送り出した。その対バイド兵器はあらゆる面で完成されていたし、バイドによる汚染なんかまるで意味を為さない程の超越体だった。だからこそ、彼等はその兵器に全てを託したの。でも、それが間違いだった」 「侵蝕されていたのかしら?」 「そう。バイドはその兵器を構築するバイド素子の、ほんの僅かな一部として紛れ込んでいた。それまでバイドというソフトウェアを為していた情報の殆どを失い、自己保存すら危うい状態でね。ところがバイドは、其処から再生する術を既に見付けていた。構成素子の一部として自身が紛れ込んだ兵器、その情報を用いたんだ」 「・・・対バイド兵器として完成された存在なら当然、それまでに解析されたバイドに関する全ての情報を有しているって事ッスか。成程、最高の餌になる訳だ」 「当のその兵器ですら、バイドによる侵蝕を察知する事はできなかった。バイドはその兵器が有する自身に関しての情報を喰らい、ソフトウェアを再生していったんだ。漸くシステムが異常に気付いた時、汚染は取り返しの付かないレベルにまで進行していた。そうして兵器は時間跳躍中に、新たなバイドのハードウェアとして生まれ変わった」 「そのまま、26世紀に?」 ギンガの問い掛けに、スバルは無言で頷いた。 額に手を当て、幾度か首を振る。 全ての情報を同時に処理し、理解する事は困難を極めた。 バイドが1度は打倒されたという事実、バイドを打倒し得る程の文明圏が存在したという事実、その文明圏が建造した対バイド兵器ですら汚染からは逃れ得なかったという事実。 現状でさえ頭が破裂しそうだったが、更に其処へノーヴェが情報を追加する。 「それで、だ。兵器を乗っ取ったバイドは行き先を僅かに変更し、26世紀に於いて地球文明圏が未だ発見していない異層次元へと出現した。其処でソフトウェアの完全な修復と、ハードウェアの増設を図ったんだ。そうして太陽系では25年が経過し、オリジナルのバイドが深異層次元へと放逐されると同時に、バイドは生産した戦力で以って「敵」へと襲い掛かった。地球ではなく、銀河系中心域に存在する「敵対的生命体群および文明圏」の方に、だけどね」 「それって、バイド本来の「敵」?」 「そう。バイドにしてみれば内戦で弱り切った26世紀の地球よりも、彼等がバイドを建造せざるを得なかった程の「敵」の方が脅威だったからね。それに、他にも重要な目的が在った。「敵」の情報収集だよ」 「情報収集も何も・・・その「敵」を相手にする為に造られたのだから、ある程度の情報は初めから持っていたのではないの」 「それが、バイドにとっても理解できない事だった。何故か「敵」に関する情報が丸ごと抜け落ちていて、自身がどんな「敵」と戦う筈だったのかは全く解らなかった。それどころか、26世紀地球人が犯した「ミス」に関してさえ、特にそういった設定の異常とかシステムの欠陥は確認されなかったんだ」 「気の遠くなる様な時間を掛けて、バイドは自身のシステムを多方面から分析する機能を何重にも備えていた。人間に例えるなら、自分という存在は何なのかと考えたり、これからすべき事を独自に模索したりする能力だ。尤もどんな機能を備えようとも、最終的には兵器と生命体、その双方としての自己保存を最優先した結論に落ち着いちまうんだが」 「とにかく、バイドは「敵」を殲滅し、その情報を余す処なく手中に収めた。その時点で幾つかの疑問点は解消されたけれど、また新たな疑問が生じたんだ。そして、それらを解消する為に間を置かずに太陽系を襲い、殲滅した。そうしてバイドは、全ての真相を知ったんだ」 「真相?」 ギンガは喉の渇きを覚えた。 おかしい、先程までかなりの量の水分を摂っていた筈だ。 何故こんなに喉が渇くのだろう、何か飲みたいと思考しつつも、意識をスバルとノーヴェから離す事ができない。 スバルが、話を続ける。 「2つの文明圏を喰らったバイドは幾つかの事実について、地球圏が有する情報とまるで噛み合わない事に気付いた。1つは「敵」に関してだけど、地球圏はこれを「超攻撃性文明」と位置付けていた。炭素生命体とは起源も存在形態も異なる生命体群、他の文明圏を侵蝕して肥大化する侵略者ってね。ところが、実際にはどんな形態であれ、独自の意思を以って高度文明圏を形成する生命体なんてものは確認できなかった。在ったのはただひとつ、自動攻撃を行う無数の兵器群だけ」 「1つの文明圏、社会構造にも似た機能を持ちながら、その全てが外部に対する侵略的行為へと帰結する集団。生産層を除く全てが兵器群によって構成されるそれは、明らかに単一存在を中心とした組織形態を有していた。そういうの、何処かで聞いた事ないか?」 「・・・バイド?」 「その通り。あらゆる資源を用いて勢力を拡大し、遭遇する文明圏を片端から滅ぼしては取り込んでゆく。そいつらはまるで、劣化版のバイドそのものだった。1つのハードウェアを中心とした、巨大な侵略性集団。で、これがその中枢ハードウェアだ」 ウィンドウの1つに変化。 表示された画像に、ギンガの思考が凍り付く。 見覚えの在るそれ、過去に映像資料として目にした物体。 「知ってるだろ? これが何なのか。忘れた訳じゃないよな」 小さなその宝石、蒼の結晶体。 本来ならばIからXXIのシリアルナンバー、その内のいずれかが刻まれている筈の箇所には、全く別の刻印が為されている。 過去、管理世界の一部に於いて使用されていた文字形態。 第97管理外世界に於いては、ギリシア文字・第11字母と呼称されるそれ。 「嘘だ」 「嘘なんかじゃない。これがバイドの建造理由、26世紀の地球を襲おうとしていた「超攻撃性文明」の正体だ」 「在り得ないわ」 「真実だよ。これが全ての元凶、26世紀の地球人達が恐れたもの」 画像は回転し、結晶体を全角度から映し出す。 それが「超攻撃性文明」とまで呼称された戦闘兵器の集団を形成していた等と、俄には信じられぬ程の美しさと神秘性を秘めた外観。 シリアルナンバー「Λ」、その結晶体の名は。 「ロストロギア「ジュエルシード・ラムダ」。これが、バイド本来の「敵」だ」 誰も、言葉を発しなかった。 発すべき言葉など見付からなかった。 疑うべきか否か、それさえも判断など付かなかった。 ノーヴェが、続ける。 「正確に言うと、コイツはロストロギアじゃない。オリジナルのジュエルシードを基に生み出された、対高度文明圏殲滅用の局地限定破壊兵器、その11番目の試作体であると同時に唯一の完成体だ。そしてバイドは、コイツは地球人によって生み出されたものではないかと考えた。何故ならバイド自身にも、この「Λ」と同様の技術が用いられていたからだ」 「同様の・・・?」 「ソフトウェアの一部に、厳重に隔離された上で、だけどな。「魔道力学」。特定の生命種、更にその一定数の集団内に、同じく一定の確率で特殊なエネルギー変換機能を有する個体が発生する。それらの個体が有するエネルギー変換機能を模倣し強化、各種動力源として運用する技術。空間操作などの分野に於いてある程度の汎用性を有し、その技術を中心に文明が発展する事例も多い。バイドはその技術体系が自身へと組み込まれている事から、この「Λ」も地球製ではないかと疑った。だが、いざ地球圏を殲滅して取り込んでみると、より複雑な背景が判明したんだ」 ノーヴェはカップを手に取り、中身を一口。 中身は先程のコーヒーだ。 やはりまた、苦そうに顔を顰めてカップを置く。 「うぁ・・・スバル、頼む」 「飲まなきゃ良いでしょうが・・・まあ「Λ」自体は、バイドにとって大した脅威ではなかった。自身を打倒した文明とは比べるべくもなく、26世紀の地球圏と比較しても、内戦で疲弊していなければ互角以上に遣り合えた事だろう、という程度だったんだ。でも、其処で新たな疑問が発生した。地球側は「魔道力学」を知り得ているにも拘らず、何故この「Λ」に関する情報が自身に記録されていないのか。「Λ」を建造したのは、果たして本当に地球文明圏なのか。既に上位互換とも云える純粋科学技術が存在するにも拘らず、何故「魔道力学」が自身のソフトウェアに組み込まれているのか。「Λ」を取り込んだ時点では、それらの疑問を解消できるだけの情報は存在しなかった。それを建造した勢力に関してのものも含めて、背後を辿れる情報は全て念入りに消去されていたんだ」 「Λ」を表示していたウィンドウが閉じられ、別のウィンドウが2つ展開される。 表示された画像は地球らしき惑星と、何らかの弾頭らしきものだった。 「そして、地球圏を取り込んだ事でバイドは漸く、疑問を解消する為に有用な手掛かりを得る事ができた。彼等がとある巨大文明圏への帰順を検討していた事、それに賛同する派閥と反対する派閥との間で衝突が起こっていた事。反対派が「超攻撃性文明」の排除後に、巨大文明圏に対するバイドによる攻撃を検討していた事とかもね。そして、その巨大文明圏が異層次元に存在する事や「魔道力学」による文明形成・維持を遵守する形態を採っている事、地球文明圏での内戦に於いて使用された数十万発もの次元消去弾頭、その炸裂の余波によって甚大な被害を受けている事も判明した」 「それで、その巨大文明圏が有する治安維持組織は、内戦で疲弊した地球文明圏へと大規模な艦隊戦力を送り込み、砲艦外交で帰順を迫った。地球側も平常時なら問答無用で応戦したんだろうが、空間汚染拡大への対処に手一杯で、そんな余裕なんか無かった。通常戦力も殆ど失っちまってたし、どうにか開戦したところで良くて相討ち、最悪の場合は一方的に攻撃されて滅亡ってところにまで追い詰められていたんだ。治安維持組織側も、それを見越した上で艦隊を送り込んだんだろうさ」 「魔道力学」を遵守する、異層次元に於ける巨大文明圏。 その文明圏が有する治安維持組織、大規模な艦隊戦力。 それらの情報が何を表しているのか気付かぬ者は、この場には存在しないだろう。 「もう、解るよな。巨大文明圏ってのは管理世界、治安維持組織は時空管理局の事だ。地球文明圏と管理世界は23世紀の後半から、相互不干渉条約を結んでいた。地球側は次元世界全体の物量を、管理世界側は地球側の科学力を警戒して、睨み合いを続けてきたんだ。ところがその均衡は、次元消去弾頭使用の余波による次元世界への被害で、完全に崩れちまった。それで管理局は艦隊を送り込み、帰順要求を突き付けた。バイドの建造が開始される15年前の事だよ」 「次元消去弾頭による被害を受けた管理世界・・・と云うよりも次元世界の中には、その管理局の対応に不服を覚えた勢力も少なくはなかった。当然だよね。自分達には全く関係の無い他文明圏での内戦の影響で、数千億人も死んでいるんだもの。彼等は過激派となり、管理局内部からもその思想に賛同する派閥が多く出た。彼等は、こう主張したんだ。最早、帰順を迫る時期は過ぎた。地球文明圏を直ちに殲滅し、その文明と純粋科学技術から成る危険な質量兵器群を、痕跡すら残さずに消去せねばならない。数千億もの人々を殺戮した報いを、地球人に与えなければならない」 「上層部や次元航行部隊は冷静だった。それらの声に流される事なく、艦隊を地球の周囲に配置し続けたんだ。当然、これらの情報は地球側へと意図的に流され、地球側では管理局の狙い通りに帰順を肯定する声が囁かれ始めた。だが同時に、過激派は実効的な報復を諦めてはいなかったんだ」 「局内で地球文明圏の殲滅を唱える一派は、ロストロギア保管庫からあらゆる種類のロストロギアを持ち出し、次元世界各地の過激派勢力圏へと持ち込んだ。まあ、地球への報復というよりも、局内での派閥争いとか権力掌握を目的にしていた、って理由も在るんだろうけどさ。過激派の方にしたって、本音を言えば管理局に対する武装蜂起、管理局体制の転覆を狙っていたんだろうしね」 「ソイツ等が「Λ」を建造したって事ッスか?」 「そう、その通り」 ウェンディからの問いに、スバルが肯定を返す。 26世紀の地球を攻撃せんとしていた勢力は、次元世界がロストロギアを基に建造した魔導兵器だった。 その事実をすんなりと受け止める事ができる程、ギンガは自身が属する組織に対して、達観した視点を持つには至っていない。 顔に手を添え、閉じた瞼を更に顰めて、小さく息を漏らす。 「艦隊戦力を送り込んだところで、次元航行部隊による迎撃を受けるのは目に見えている。それ以前に、無数の異層次元に亘って勢力を拡大してきた地球文明圏が、単なる武力行使で滅びるとは考え難かったんだろうね。彼等はジュエルシードを複製・改良し、高速自己進化能力を備えた完全自律型殲滅システムを開発した。それが「Λ」だよ。そして、管理局による地球文明圏への最初の帰順要求から13年後、彼等は「Λ」を地球文明圏の中心世界である太陽系が存在する宇宙へと送り込み、発動した。計画では「Λ」は17年間を費やして戦力を整え、地球圏に対する大規模な殲滅戦を開始する筈だったんだ。地球圏の通常兵器群は内戦で殆どが失われ、再度に生産するにしても間に合う筈がない。縦しんば次元消去弾頭を使用して「Λ」を殲滅したとしても、既に重大な空間汚染が生じている太陽系は数年と保たずに崩壊するだろう。状況がどう転んでも、地球側が生き残る術は無い、筈だった」 「ところが発動から3年も経たない内に、地球側は「Λ」の存在を察知してしまった。そして地球文明圏は、空間汚染を引き起こす事なく効果範囲内に於けるあらゆる生態系、意識体、情報集約体を殲滅する局地限定破壊型兵器、奇しくも敵性勢力である「Λ」に酷似した、しかし「Λ」以上に破滅的な兵器の建造を開始した」 「管理局がそれを許したの?」 「管理局にしても「Λ」の存在は想定外だったんだ。それを建造したのが過激派である事は、上層部もすぐに気付いたんだろうね。地球文明圏の殲滅が完了した後、管理局に対して「Λ」が使用される事は火を見るより明らかだった。当然、次元航行部隊は「Λ」の排除を考えたんだろうけど、さっき言った次元消去弾頭による空間汚染の影響でアルカンシェルは使えない。通常魔導砲撃で排除できるかと問われれば、それは難しい。何より、相手は曲りなりにもロストロギア・ジュエルシードだ。次元航行艦からの直接魔導砲撃なんか叩き込んだら、何が起こるか解ったものじゃない。結局、管理局は対処を地球圏に丸投げして、艦隊を引き揚げた」 ウィンドウが閉じられる音。 だが、ギンガは瞼を開かない。 開く事ができない。 「地球圏がバイドとやらで「Λ」に対処できるなら良し、できなければ当該世界ごと消滅させれば良いって訳か。合理的な判断ね」 「まあ安全策として、バイド建造には魔法技術・・・地球人曰く「魔道力学」を導入する事を強要したけどね。ただ、そんな事をしてもソフトウェア上で完全に隔離される事は、管理局側も承知してたみたい。それが、バイドのソフトウェア内に残された「魔道力学」だよ」 「バレると分かっていたのなら、何故?」 「こうしておけば、地球側の注意を逸らす事ができるから。管理世界側が地球圏の純粋科学技術を完全に理解している訳でない事は彼等も理解していたし、また地球側がそう考えているであろう事を管理局は見抜いていた。「魔道力学」面での干渉を行うと思わせておきながら、実際には別の方法で干渉するつもりだったんだ」 漸く、目を見開く。 視界の中央、正面からスバルがこちらを覗き込んでいた。 微かに微笑む彼女に対し、ギンガは表情を変えない。 これからスバル達が如何なる情報を言葉として紡ぎ出すのか、ギンガには予想できた。 その予想が正しいものであると肯定される瞬間を思うと、たとえ繕ったものであっても、笑みなど浮かべる気にはなれなかったのだ。 そして数瞬後、恐れていた瞬間が訪れる。 「管理局は地球側の過激派、その動向を何よりも警戒していた。そして遂に、彼等が「Λ」の殲滅後にバイドを用いて、管理世界への無差別攻撃を行う腹積もりである事を示す情報を掴んだ」 「上層部は腹を決めた。特殊部隊を用いてバイドから次元世界に関する情報の一切を削除し、更に発動座標に関して細工をする。本来の目標である「Λ」が存在する銀河系中心域ではなく、太陽系で発動する様に設定を変更したんだ」 「じゃあ、暴走は・・・!」 ウェンディが、思わずといった様子で立ち上がった。 スバルとノーヴェの視線が、彼女の方へと向けられる。 ギンガは2人の視線がこちらへと向いていない事を幸運に思いつつ、唇を噛み締めた。 そして、ノーヴェの声。 「バイドは暴走なんてしていない。太陽系での発動は地球側のミスではなく、管理局が実行した破壊工作によるものだ」 鈍い音。 ウェンディが、力なく椅子へと腰を落としたのだ。 そちらを見ていた訳ではないが、音で解った。 声は、続く。 「管理局の目論見通り、発動から150時間後に地球側は次元消去弾頭を使用した。全ての憂患が、文字通りに消滅した訳だ。地球文明圏は数年の内に1つの宇宙もろとも崩壊し、同時に「Λ」も消滅するに違いない。正直なところ、管理局は胸を撫で下ろしていただろうな」 「でも、そうはならなかった」 ギンガが、割り込んだ。 視線を上げると、全員の注目がこちらへと集中していた。 そうして一度、大きく息を吐くと、ギンガは言葉を続ける。 「だって、そうでしょう? 貴女達が話しているのは、バイドの記憶。中には、地球文明圏を取り込んだだけでは絶対に知り得ない情報も在った。それらを入手し、更に事実を確認する為には、もう1つ文明圏を取り込まなければならなかった筈・・・違う?」 その言葉に、ウェンディが顔を跳ね上げた事が分かった。 ティアナは既に理解していたのだろう、特に変化は見られない。 そしてスバルとノーヴェは、暫し沈黙を守った後、言葉を紡ぎ出した。 「そう・・・そうだよ、ギン姉。26世紀へと帰還したバイドは、地球文明圏を取り込んだ後に次元世界へと侵攻してこれを殲滅、同じく取り込んだ。バイドは真相を突き止めるべく、そうやって情報を収集していったんだ」 「そして何もかもを滅ぼしたバイドは、兵器としての存在意義を喪失する危機に直面した。もう地球文明圏は存在しない、地球文明圏の敵も存在しない。時間の概念さえ破壊してしまった。完全に無となった空間の中には、バイドしか存在しない。これから、どうすれば良い?」 「未来での存在意義を失ったバイドは、過去へと逆帰還を果たした。更に強大となった力を用いて、嘗て自らを打倒した文明圏を殲滅してその全てを取り込み、別の時間軸への侵攻を開始したんだ。遭遇する、あらゆる形態の文明圏を片端から喰らい尽くし、時には損傷を受けながらも、圧倒的な物量と絶対的な干渉能力で、全てを呑み込んでは自身の一部と化してきたんだ」 「自身の新たなハードウェアとなった兵器、それを生み出した文明圏以上に強大な存在なんて、何処にも存在しなかった。それでもバイドは、自身の存在意義を確保する為だけに、遭遇する全てを滅ぼし喰らってきたんだ」 交互に言葉を続ける、スバルとノーヴェ。 その話の内容を聞いている内、ギンガの心中へと浮かんだ感情は「憐れみ」だった。 地球人と管理世界の人間に利用され、本来の存在意義を捻じ曲げられた哀れな生命体バイド。 他者に植え付けられた生存本能へと従うまま、存在意義を得る為に終わる事のない闘争を続ける、人の手による絶対生物。 そんなものに対し「憐れみ」以外の、如何なる感情を抱けというのか。 「そうして無数の時間軸を渡り歩いては戦う内に、バイドの一部は波動粒子の塊としてのハードウェアを伴って、時間軸とは無縁の異層次元を漂う様になった。これは単に、損傷した部位の修復が間に合わず、独立したバイド体となってしまっただけの物だったんだけどね。そして、その内の1つがとある異層次元に於いて、ある文明圏が送り込んだ探査艇によって回収された。探査艇の名前は「FORERUNNER」。異層次元探査艇「フォアランナ」だよ」 「フォアランナ・・・地球圏に於ける、最初の異層次元航行システムを備えた艦艇ね」 「そう。フォアランナは2120年6月27日の太陽系へと帰還した。当然、異なる時間軸に在ったバイドもそれを追う。そうしてバイドは、幾度目かの地球への侵攻を開始したんだ。ところがその地球は、これまでにバイドが滅ぼしてきたものとは違った」 ギンガは天井を見上げ、思考する。 その地球とは恐らく、この艦を建造した22世紀の第97管理外世界の事だろう。 だが、他の時間軸に於ける地球との相違とは何か。 「どういう事?」 「バイドにとって、フォアランナが自身の一部を回収するという出来事は「2度目」の経験だったんだ。現在のハードウェアを創造した文明、それと接触した切っ掛けがフォアランナだった」 「・・・何だって?」 「2度目だったんだよ。バイドの切れ端がフォアランナに回収されるのも、22世紀の地球で対バイドミッションが発令されるのも、対バイド兵器として「R」が抜擢されるのも」 「1度はバイドを打倒した文明・・・つまり、それって」 「22世紀の地球ね」 途切れつつ紡がれるギンガの言葉を、ティアナが引き継いだ。 ノーヴェが頷いた事を確認し、ギンガは椅子の背凭れへと身体を預ける。 もう完全に、理解が追い付かない。 だが、次にウェンディが発した言葉に、思考を放棄し掛けていた意識が覚醒する。 「そんな・・・じゃあまさか、バイドのハードウェアになった兵器ってのは!」 「気付いたか。多分、お前の考えている通りだ」 次の言葉を言えというのか、其処でノーヴェは沈黙する。 ウェンディは口を動かしてはいるが、言葉が紡がれる事はない。 ティアナもまた、此処での発言は避けるつもりの様だ。 ギンガは意識して呼吸をひとつ、その名を口にした。 「「R戦闘機」・・・それが、バイドのハードウェアなのね」 「正解」 何という皮肉か。 現在、地球軍艦隊が血眼になって捜索しているであろうMOTHER-BYDOではなく、真のハードウェアは「R戦闘機」だという。 第17異層次元航行艦隊ですら知り得ぬであろう事実を、この場の5人だけが知り得たのだ。 その事を意識した瞬間に、ギンガは途轍もない重圧と、絶望にも似た冷たい感覚に襲われる。 「どんな・・・どんな機体なの? そのR戦闘機は」 だが、言葉を紡ぎ出す口だけが止まらない。 自身の意思とは半ば無関係に、口だけが疑問を音として紡いでいる。 それを受けて、正面に位置するスバルが微かに首を傾げた。 疑問を抱いたという素振りではなく、こちらの意思を確認するかの様な動作。 そうして数秒が過ぎた頃、スバルは答を告げた。 「「R-99 LAST DANCER」。それが、バイドのハードウェアだよ」 ウィンドウ、展開。 表示される画像、1機のR戦闘機。 少しずつ回転するその機体画像に、ギンガは呼吸すら忘れて見入った。 「R-99 LAST DANCER」 青のキャノピーに、白い塗装。 だが本当に、それが塗装の色であるかは疑わしい。 R戦闘機としては、これまでに目にした機体群と比較するに、標準的な大きさだろうか。 左右のエンジンユニットや上部ユニットは流線形と直線形の融合で構成されており、機体後方へと伸長するそれらの影から、3基の大型ブースターノズルが覗いている。 極限まで無駄を省かれた、唯一無二の完成体。 それが、ギンガがウィンドウ上の機体に対して抱いた印象だった。 「ラスト・・・ダンサー」 「そう、それが今のバイド。嘗ての22世紀地球は、この機体で以ってバイドを打倒した。地球人類の狂気が生んだ完全なる個体、ハードウェアとしてはバイドでさえ模倣できない、正に悪夢そのものの機体だよ」 「どんな存在であろうと、コイツを模倣する事はできない。迂闊に干渉すれば、バイドであっても逆に取り込まれちまう。それがこの機体だ」 「そんなものを、22世紀で・・・」 「R-99は、バイドとは正反対の存在だよ。バイドがハードウェアを持たないソフトウェアのみの存在として進化したのとは対称に、R-99はハードウェアとソフトウェアの分離が決してできない、完全なる個として建造された。R-99というハードウェアそのものが、R-99というソフトウェアを構築している。そしてR-99は、バイドにとって悪夢としか云い様がない機能を備えていた」 「それは、どんな?」 またも、ウィンドウが変化する。 今度は映像だ。 巨大な「柱」の様なもの、有機的に脈動を繰り返すそれ。 赤い光を放つエネルギー体らしきものを中心に、対称方向へと延びる有機物の束。 両端は水面の様な、それでいて硬質の様な、気体とも液体とも、固体とも判別できない壁の中へと消えている。 中心からは絶えず光る球体が無数に放たれ続けているが、それが何であるのかを理解した瞬間に、ギンガは悪寒を覚えた。 フォースだ。 激しく動き回る画面の中、無数のフォースが柱から押し寄せてくる。 同時に、その「柱」の正体が何であるのかについても、ギンガは理解した。 「これが・・・バイド・・・?」 「その通り。あらゆる存在・概念を喰らい尽くし、同時にあらゆる存在・概念を生み出す、人の手による絶対生物。ハードウェアを持たず、縦しんば何らかのハードに宿った状態時に破壊したとしても、別の次元、別の時間にソフトを残す機能を有する、あらゆる束縛が意味を為さない存在」 「なら、どうやって殲滅したんスか」 「それを滅ぼす事ができるのが、R-99の能力だ。あらゆる存在を強制的にハードウェアへと固定し、破壊する能力。見てろ」 直後、画面が閃光に満たされた。 後にはノイズだけ。 数秒後、回復した映像上には、何も残ってはいなかった。 「柱」も、その両端に在った壁すらも。 唯、映像を撮影している機体のものらしき破片だけが、闇の中を漂っている。 「・・・何スか、今の」 「だから、R-99の能力だ。ソフトウェアのみの存在であるバイドに、ハードウェアを付与した。それがあの「柱」だ。これによって強制的にR-99と同一次元の存在となったバイドは、物理的にR-99を破壊する事、それ以外の対抗策を失った。防御策もな。その上で、機体耐久限界を超えてオーバーロードした波動粒子を、そのまま砲撃として叩き付けたんだ。こんなもの、通常空間でぶっ放されてみろ。惑星天体の1つや2つ、造作も無くブチ抜いちまうぞ」 「相手が如何なる存在であれ、強制的に自身と同一の存在レベルに定着させる能力。それがR-99の機能だよ。手が届かないのなら、同じ高みにまで登るのではなく、相手を自分と同じ高さまで引き摺り下ろしてしまえば良い。ネガティヴな発想だけど、此処まで恐ろしい能力も無いよね。それで、本来ならバイドはどんな方法を使っても、このインチキじみた存在に干渉する事はできない筈だった」 「じゃあ、どうやって?」 ティアナの問い。 ギンガも、同様の疑問を抱いていた。 ソフトウェアに干渉する事のできない存在であるというのなら、バイドはどうやってこの機体を汚染したというのか。 「1度だけ、チャンスが在ったんだ。さっきの映像、破片が舞っていたよね。R-99は機体耐久限界を超える程の波動粒子を、ベクトルを持たせて一気に解放した。その際の余波で、システムに致命的な損傷が生じたんだ」 「その時に紛れ込んだって訳ッスか。回収時にバレなかったんスか?」 「其処が巧妙なところでね。破壊される際にバイドは、何とか自己の保存を図ろうと無数の粒子、つまりハードウェアを噴射していた。幾ら何でも1つ1つの粒子に、バイドとしての全てを内包する事は不可能。つまりこの時、放出されたバイド体は完全に無力だったんだ。それまでに蓄積してきた情報のほぼ全てを失った事を考えれば、もうバイドでも何でもなかったとも云える。単なる無名の粒子だよ。紛れもなくバイドは1度、完全に滅ぼされたんだ」 「・・・そういえば、さっき言ってたわね。バイドはその兵器が有するバイドの情報を利用して、自身を再生させたって」 「そう、それ。バイド素子の1つとして検出を免れたバイドは、26世紀へと跳躍中、遂にR-99へと牙を剥いた。結果は、さっき言った通り。システムが異常に気付いた時には、もうどうにもならないところにまで汚染は進行していた。こうしてR-99は新たなバイドのハードウェア、バイド自身にすら複製不可能な超越体として、そのソフトウェアを宿すに至ったんだ」 ウィンドウが閉じられ、スバルは溜息を吐いてコーラを口にした。 話し続けた為か、顔には疲労の色が浮かんでいる。 その辺りの感覚に関しても、スバルというシステムは解析を実行しているのだろうか。 そんな事を思考するギンガの聴覚に、ノーヴェの声が飛び込む。 「とにかく、R戦闘機を有する22世紀地球との交戦は、バイドにとっては2度目という事なんだが。ところが此処で、バイドの想定を超える事態が起こった」 カップを置く音。 見れば、相変わらず苦そうに表情を歪めたノーヴェが、カップを睨んでいた。 何だかんだと言いつつ何度も口にするのは、実は気に入っているのだろうか。 歪んだ表情のまま、彼女は話を続ける。 「2度目の22世紀地球、つまりアタシ達の知るランツクネヒトや地球軍を有するその世界は、異常としか云い様のない技術進化速度を有していた。嘗ての22世紀を超える速度で対バイド兵器の開発が進み、信じられない事にバイドは徐々に追い詰められていったんだ」 「それ、本当ッスか。ランツクネヒトや地球軍の説明とは、随分と掛け離れてる様に思えるんスけど」 「バイドと地球側では、捉え方が違うだろ。地球軍にしてみれば、潰しても潰しても湧いて出てくるバイドに対して戦果は上がっても、同時に被害は増すばかり。軍事的にせよ経済的にせよ、追い詰められているって認識が蔓延っちまうのは仕方ない。一方でバイドにしてみれば、地球人はスバルが言った通りに化け物としか思えない。そういう事さ」 「ちょっと良いかしら」 ティアナが、手を挙げる。 注目が集まった事を確認してか、彼女はスバル等に対して問いを投げ掛けた。 「話が逸れるけど、ベストラの研究員達はバイド素子をR戦闘機へと応用する研究をしていた。彼等は自分達もろとも、ベストラを異層次元へと投棄して自殺したと聞いたわ。それにアンタ達は、彼等がR戦闘機に関する情報の消去を図ったと言った。それってまさか、バイドの真実を知って絶望したが故の行動って事?」 「そうだよ。彼等は自分達の研究が、結果としてバイドに究極のハードウェアを与えてしまう事実に絶望した。そして、R-99に替わる新たなハードウェアを生み出してしまう事を恐れ、全てを異層次元へと葬った」 「成程、有難う。非常に馬鹿馬鹿しい話だわ」 「全く、その通り。そんな事したって無駄なのにね」 スバルがそう言うと同時、またもウィンドウが展開する。 映し出されるのは、巨大なコロニー。 「その程度の情報、地球の上層部はとっくに知っているよ。今だってベストラとは別に、複数の施設でR-99の開発が続けられている。バイドのハードウェアとなったR-99、それを遥かに超える超越体としてのR-99が」 「超えるって、どうやって? R-99は既に、ハードウェアとしては完成されているじゃないの」 「知らないよ。ベストラの研究員は、データ収集の為の使い捨てみたいなものだから。こっちのR-99がどんなヤバい機体かなんて、今のところ知る方法なんか無い」 其処まで話すと、スバルは立ち上がった。 そしてテーブルに手を突き、前屈みになってこちらを覗き込む。 その様子に、ギンガは僅かに気圧された。 「それで、問題。予測を遥かに上回る速度での技術進化によって追い詰められた挙句、第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」によってソフトウェアに重大な損傷を負ったバイドの新戦略とは、どんなものでしょう」 「どんな、って・・・」 ギンガは戸惑う。 その様な問い、答えられる訳がない。 無数の文明を滅ぼし喰らい、時間軸の違いによる壁さえも引き裂き、時空そのものすら破壊して除ける、完全に人の理解の範疇を超えた怪物。 その様な存在の行動を予測する事など、通常の人間には不可能だ。 では、通常の人間でなければどうか。 「アンタ達は知ってるんでしょう、バイドからの干渉を受けたんだから。勿体振らないでさっさと言いなさい」 ティアナが、スバルへと言い放つ。 当のスバルは軽くティアナへと視線を返し、またもギンガを正面から覗き込んだ。 彼女は、答えを期待している。 それが具体的なものでない事は、ギンガにも解ってはいた。 正確な答えは、既にスバルとノーヴェが知り得ている。 スバルは今、バイドの行動を疑似的に予測する能力を、ギンガを始めとする3人に対して求めているのだ。 思考を必死に働かせ、ギンガは自身の予測を紡ぎ出してゆく。 「・・・これまでに多くの文明を吸収してきたにも関わらず、今回の22世紀地球に対しては有効な戦略を編み出せずにいる。更に3度目の対バイドミッションによって、ソフトウェアに・・・待って、ちょっと待って」 スバルから与えられた情報、それを言葉に載せて反芻するギンガの思考に、何かが引っ掛かった。 ソフトウェアの損傷、ハードウェア。 4度に亘るバイド中枢への攻撃、WOMB、MOTHER-BYDO Central Body。 「R-99は?」 「何スか?」 「R-99よ。バイドは最高のハードウェアを手に入れた筈。それが何故WOMBやMOTHER-BYDOなんていう別のハードウェアを建造して、尚且つ其処に宿る必要が在るの?」 ギンガは、その点の異様さに気付いた。 R-99 LAST DANCERなどという、絶対不可侵にして完全なるハードウェアを得ておきながら何故、他のハードに宿らねばならないのか。 バイド殲滅を目的として送り込まれる「R」を確実に撃破したいのなら、自らのハードウェアであるR-99の能力を用いれば良いではないか。 「何故バイドは、R-99でR-9AやR-9A2、R-9Cを迎え撃たなかったの。幾ら1度目の22世紀よりも技術進化速度が早いとはいえ、それらの機種とは比べ物にならないほど強力な上位機種の筈だわ。何故、それを迎撃に用いないの」 「良く気付きました、ギン姉」 嬉しそうに言い放ち、スバルが手を1つ打ち鳴らす。 そのまま腰を下ろし、椅子の脚が床面に擦れる耳障りな音と共に着席。 微かに笑みを浮かべて続ける。 「R-99は確かに最高のハードウェアだよ。何物も寄せ付けず、何物も高みへと位置する事を許さない。相手がどんな存在であれ、強制的に自己と同一次元のハードウェアに押し込め固定し、その上で絶対的な暴力で以って殲滅する。最高に頼もしくて、最悪なまでに危険なハードウェアだよ・・・正常に機能していれば、ね」 「何ですって?」 全てのウィンドウが閉じられ、テーブル上には数々の料理とコップ等だけが残った。 スバルは両手を後頭部に回し、椅子を傾かせて如何にも楽しげな様子だ。 そんな彼女の姿を、横から頬杖を突いて眺めていたノーヴェが、何処か気怠げに話を引き継ぐ。 「言っただろ、R-99は超越体だ。迂闊に干渉なんかしたら、バイドでも唯じゃ済まないってな」 「でも、成功したんじゃなかったの?」 「したよ、勿論。でもそれは、部分的な成功だったんだ。バイドによる侵蝕を検出したR-99は、すぐに汚染部位に対する隔離措置を取った。結果的に正常なシステムの方が隔離される形になったけど、R-99の制御に関わる部位はバイドにも手出しできない状態になっちまったんだ」 「じゃあ、現在のR-99はシステム凍結状態なのね」 「そういう事。確かにハードウェアとしては完成していて、それに宿っている間にはフォースによる強制侵蝕も、その他の手段によるソフトウェアへの攻撃も意味を為さない。でも、物理的な攻撃ならどうだ? R-99と同じ次元での、物理的破壊なら」 ギンガは先程の映像、R-99によるバイド撃破後のそれを脳裏へと思い浮かべた。 ウィンドウ上に表示された映像、空間を漂う無数の破片。 R-99から剥離した機体構造物。 「成程ね。R-99は無敵の存在個体ではあるけれど、物理的な破壊まで不可能という訳ではない。いいえ、寧ろ通常のR戦闘機と同程度の耐久性しか持たない可能性が高いのね。R-99最大の特徴は自身が破壊されない事ではなく、如何なる存在であろうと同一次元に固定し、その上で破壊が可能である事。他次元レベルからの干渉は如何なるものであろうと意味を為さないけれど、同一次元での物理的攻撃は従来通りに通用する」 「そう、だから最高クラスの機動性と、あらゆる武装を搭載できるだけの汎用性が備わっていた。でも、制御系が沈黙しちまったら? ハードに対する他次元レベルからの攻撃は全て無意味だけれど、同一次元からの攻撃を受ければあっという間に破壊されちまう。回避行動も反撃もできないんだから、単なる棺桶と変わり無いだろ?」 「26世紀への帰還以降も、バイドは完全にソフトウェアのみの状態か、R-99とは別のハードウェアに宿った状態で戦い続けてきた。R-99のシステムを完全掌握する事は何度も試みたけれど、結局は全て失敗、今じゃ単なる殻に過ぎない。だからWOMBやMOTHER-BYDOを生み出したのに、それらも2度目の22世紀が送り込んできた「R」に撃破されてしまった。こうなったら、もう手詰まり・・・その、筈だったんだけどね」 微かな音と共に、ウィンドウが展開される。 浮かび上がる画像、濃灰色の機体。 TL-2B2 HYLLOS。 「思い出して。このTL-2B2を造ったのは、何処の勢力だった?」 「何処って、地球軍・・・」 「違う」 スバルの問いに答えるティアナの言葉を、ウェンディが遮った。 その瞬間、ギンガは気付く。 ティアナも同様だろう。 TL-2B2は紛れもなく、地球軍に於いて設計・建造されたR戦闘機だ。 だがこの機体、ウィンドウ上のそれは、地球軍によって生産されたものではない。 これを、この機体を造ったのは。 「バイドの、模造品」 「そう。このR戦闘機を造ったのは、他ならぬバイドだよ。みんな、もう解ったでしょ? バイドが、どんな戦略を採っているのか」 スバルの言葉は正しい。 今ならばギンガにも、バイドの戦略が理解できる。 これまでの模索の労苦が嘘の様に、一切の思考の靄が消し飛んだかの様に、鮮明なビジョンを脳裏へと描く事ができる。 だが、それは。 「嘘でしょう・・・?」 「残念。嘘でもないし、的外れでもないよ。バイドの戦略は多分、今みんなが考えている通り」 信じられない、信じたくない。 こんな事が在って堪るか、こんな現実など認められるか。 これでは悪夢だ、これでは絶望だ。 だって、こんな戦略なんて在り得るのか、可能なのか? 「R戦闘機の、大規模な模倣」 「惜しい、ちょっとだけ違う。正確には「Rの系譜」そのもの、その進化の過程を模倣する事。そして、バイドの最終的な目的は」 ウィンドウ上のTL-2B2、濃灰色の機体が消え、入れ替わる様に白の機体が浮かび上がる。 究極の単一個体、完成されたハードウェア。 R-99 LAST DANCER。 そして、スバルは言い放つ。 「R-99の完全なる支配、若しくは模倣」 ウィンドウ、消失。 静寂の中に、ノーヴェがコーヒーを啜る音だけが響く。 数秒の後、スバルは続けた。 「バイドが辿り着いた最高のハードウェアは自身が建造したものではなく、怨敵である「Rの系譜」その最終型に位置する機体だった。ところが最初に「R」を開発した22世紀では、R-99に関する情報は全て、バイドが地球圏そのものを取り込む前に削除されてしまった。R-99を解析しようにも、それが可能となるだけの情報が何処にも存在しなくなってしまったんだ。結果、ハードウェアとソフトウェアが完全に合致する唯一の個体として完成されたR-99は、バイドにとってソフト面での鉄壁の殻ではあっても、物理的な完全防御を保証するものではなくなってしまった。でも「Rの系譜」を辿る事で、R-99に到るまでの進化の全てを模倣する事が可能なら?」 「R-99のシステムを完全に掌握、或いはR-99そのものを模倣して複製できる・・・!」 「最終的な目的はそうだが、そうでなくとも其処に至るまでに開発されたR戦闘機、その全てを模倣しての生産・運用が可能になる。バイドが有するR戦闘機に関しての情報は、殆どが1度目の22世紀で交戦したものに関してだ。今回の22世紀では、R戦闘機は1度目よりも遥かに危険な存在になっている。こちらで得た情報も利用して、バイドは独自に「Rの系譜」を生み出そうとしているんだ」 「・・・冗談じゃないわ」 スバルとノーヴェが語る話の内容に、ティアナが小さく呻く。 ギンガとしても、ティアナの言葉に同感だった。 他にどんな感情を抱けというのか。 R戦闘機という常軌を逸した兵器群に於ける進化の過程、その全てを内包する「Rの系譜」そのものを模倣し、独自のものとして完全に取り込む。 結果として、バイドはあらゆる機種のR戦闘機を生産・運用する能力を獲得し、それによって得られた情報を利用する事で、最終的にR-99の完全制御、或いは模倣すら可能になるという。 正しく悪夢、バイドを除く全ての勢力にとって、最悪としか云い様のない戦略だ。 この戦略が成功するとなれば、次元世界どころかあらゆる次元、あらゆる時間軸に「バイドによるRの系譜」が溢れ返る事となるだろう。 そして「バイドによるR-99」もまた、同様に。 「青褪めてるところに悪いけど、もうひとつ懸念事項が在るんだ」 無感動なスバルの声が、最悪の予想に揺らぐギンガの思考へと割り入る。 反射的に視線を上げて彼女の顔を見やれば、スバルは表情を消し去り、作り物の様な瞳でこちらを見据えていた。 ギンガは僅かに姿勢を正し、続くスバル達の言葉を聞き逃すまいと身構えた。 「さっきも言った様に22世紀地球圏の一部は、バイドに関する事実の全てを知っている。バイドにとって22世紀地球との交戦は2度目である事も、そのハードウェアがR-99である事もね。ついでに言えば、次元世界の存在も西暦2139年の時点で知り得ていた」 「TEAM R-TYPEによってサンプルとして保管されていたエスティアが、次元世界でクラウディアと遭遇したのは偶然なんかじゃない。バイドが既知の異層次元、つまり次元世界をハードの新たな保管先として選んだ事を察知した地球軍が、意図してエスティアを送り込んだんだ。そして何も知らない第17異層次元航行艦隊が次元世界へと派遣され、艦隊に所属するR-9Aがエスティアと交戦、これを撃沈した」 「そのエスティアとR-9Aの交戦を、クラウディアが目撃したのね・・・恐らくは、地球軍の目論見通りに」 「地球軍は当然、バイド建造の直接的な原因となった「Λ」を警戒していた。「Λ」を建造する勢力についてもね。それを除いたって、地球圏と「Λ」を建造した文明圏とは、いずれ敵対する可能性が高いと分かっているんだから。バイドが次元世界を避難場所として選んだのは、地球軍が追ってきたとしても高確率で管理局との衝突が発生すると予測したから。時間を稼ぐには打って付けだし、現状での管理局はバイドにとって直接的な脅威たり得ない」 「管理局と第17異層次元航行艦隊が交戦状態になる事は、地球軍上層部としても望ましい事だった。交戦の結果、管理世界全体で地球圏に対する武力制裁の声が高まれば、地球側は次元世界の存在を地球文明圏全域へと公表し、その脅威を高々と謳った上で公然と殲滅戦を展開する事ができる。今更そんな事をしてもバイドの存在自体には全く干渉できないが、少なくとも「Λ」の建造だけは防げるって訳だ」 其処までを言い切ると、ノーヴェはカップの中身を一気に呷る。 そうしてまた、苦くて堪らない、とばかりに顔を顰めた。 溜息を吐き、話を再開する。 「・・・これらの真実は、地球軍にとって秘められて然るべきものだ。全てを公表すればとんでもない騒動が巻き起こるだろうし、共通の敵であるバイドが存在するからこそ危うい処で纏まっている地球文明圏も、長期的展望の相違による内部対立の再燃から瓦解しかねない。だからこそ、真実は地球軍・・・「国際連合宇宙軍」の一部と、R戦闘機開発陣「TEAM R-TYPE」の中でも一握りの人員しか知らない。第17異層次元航行艦隊は、バイドもろとも次元世界を殲滅する為に送り込まれた、謂わば使い捨ての尖兵なんだ」 もう、言葉も無かった。 自身達が遭遇・交戦した地球軍戦力は単なる捨て駒であり、艦隊を送り込んだ22世紀地球側は事の成り行きを静観している。 そんな情報を与えられたところで、どう反応すれば良いのか、ギンガには解らなかった。 「ところが、次元世界はバイドによって隔離されてしまった。バイドが予め創造しておいた空間へと次元世界を呑み込む形で、外部との全ての繋がりを断ってしまったんだ。これは流石に、国連宇宙軍にとっても予想外の事だったろうね。勿論、こんな事をすればバイドにだって後が無い。余力も無ければ、第17異層次元航行艦隊からの逃げ場も無いんだから。下手を打てば本当に此処で、バイドという存在に終止符を打たれてしまう。でも、R-99の掌握に成功すれば話は別だ」 スバルの言葉が終らぬ内、無数のウィンドウが次々に展開されてゆく。 「TL-2B2 HYLLOS」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」「Λ」「R-99 LAST DANCER」 その他にも様々な画像と情報が一挙に表示され、ギンガの視界を埋め尽くした。 そして、ウィンドウによって形成された壁の向こうから発せられる、スバルの声。 「此処で、さっき言った懸念事項。国連宇宙軍は次元世界での状況推移を逐一逃さず観測するつもりでいたのに、バイドが形成した隔離空間によって中の状況を窺う事ができなくなってしまった。そうなると、色んな可能性が首を擡げ始める。もしバイドが、想像も付かない新戦略に移行していたら? もし次元世界が、これまでの観測では捉えられなかった「Λ」の様な戦略級攻撃手段を有していたら? もし次元世界や第17異層次元航行艦隊が、全てを知ってしまったら? 予測し得るそんな事態を回避する為に、国連宇宙軍が次に採る行動は?」 手が、震えた。 思わず握り締めた拳が、不自然な震えを起こしている。 何故だろう、などと思考するも、ギンガの理性は疾うにその理由を知っていた。 恐怖だ。 「・・・脅威となり得るもの、その全てを排除する」 「次元消去弾頭ッスか!?」 「違う。次元消去弾頭は、異層次元航行能力を備える存在に対しては無力だよ。それじゃあバイドと、第17異層次元航行艦隊が生き残っちゃうでしょ。より確実で実効的な手段で、同一次元での物理的消去を図る必要が在る」 「つまり・・・」 「今頃、国連宇宙軍は隔離空間に侵入しようと、躍起になっている筈だよ。そして、侵入経路を抉じ開けた後には」 新たなウィンドウが展開、これまでのものよりも大きく、幅は2mを超えているだろう。 其処に表示された画像は、艦艇らしき奇妙な箱状の構造物。 長方形状の長大な艦体後方に艦橋らしき構造物が在り、更に艦体を中心に環状構造物が3つ、艦首付近から艦体半ば後方まで等間隔を空けて設置されている。 環状構造物は中心に位置する艦体を軸に回転運動を取っており、その回転方向は交互に逆転していた。 画像の上部には、この艦艇の名称らしき文字列が表示されている。 反射的にそちらへ意識を傾けると同時に、スバルが言葉を放った。 「R戦闘機群を始めとする大規模戦力を投入、全てを徹底的に破壊するだろうね。その後に次元消去弾頭を使用して、次元世界が存在していたという痕跡すら残さずに、当該次元を消去する筈だよ」 ウィンドウ上の艦艇に並ぶ様にして、小さなR戦闘機の画像が無数に表示される。 どうやらこの艦艇は、大量のR戦闘機を搭載する異層次元航行母艦らしい。 「UFCV-015 ANGRBODA」 R戦闘機という悪魔の大群に於ける女王蜂、というよりも蜂の巣という表現こそが適切か。 スバルの言葉が現実のものとなれば、この艦艇が大挙して次元世界へと押し寄せるのだろう。 「私達がすべき事は、幾つか在る」 ウィンドウが消え、その後にスバルの姿が現れる。 彼女は椅子に身体を預けたまま、変わらず無機質な視線をこちらへと投げ掛けていた。 ギンガはそれを、正面から受け止める。 「1つは、バイドによる「Rの系譜」に対する模倣と、R-99の完全掌握を阻止する事。1つは、隔離空間外の国連宇宙軍による次元世界の破壊を阻止する事」 スバルは言葉を区切り、コーラの注がれたコップへと手を伸ばす。 その言葉の後を、ノーヴェが引き継いだ。 「1つは、その2つを実行し、尚且つ次元世界の生存を勝ち取る事。アタシ達が今すべき事は、それらを実行する為に必要な戦力を確保する事」 「・・・オーバーライドの事?」 「そうだ。バイドはこの人工天体内部で、今この瞬間にも「Rの系譜」を模倣している。即戦力を確保する為にも、既に「R」の生産が始まっているんだ。それを、戴く」 「ついでにもう1つ。折角、有用な情報が得られたんだから、それを利用しない手はない。今なら、バイドと国連宇宙軍に対する即戦力の確保と、後々に亘って機能する抑止力を確保する事ができる。この隔離空間の中で、私達だけが」 「抑止力を・・・」 スバルが、微かに笑みを浮かべた。 途端、ギンガの背に冷たい感覚が奔る。 彼女は理解した、理解してしまったのだ。 スバルの思考、彼女とノーヴェが描く、恐るべき戦略を。 「どの道、R-99は破壊されなければならない。それがバイドのものであれ、22世紀の地球人が建造したものであれ。バイドがシステムの掌握を完了するか、国連宇宙軍による建造が完了してしまえば、もう次元世界に為す術は無い。そうなったらお終いだ。すぐにでもバイドによって滅ぼされるか、いずれ国連宇宙軍に滅ぼされるかの違いしかない。その前に、2人の踊り手を殺す必要が在る。バイドの踊り手と、地球側の踊り手をだ」 「その為の戦力も必要だからね。次元世界の状態とは無関係に、長期に亘って機能する完全自律型戦略兵器。つまり、踊り手を殺す為の「怪物」だよ。「最後の踊り手」は舞台に上がる事なく、悪い魔法使い達が送り込んだ「怪物」に喰い殺されるの」 「スバル・・・アンタ、まさか」 ティアナが、動揺を隠そうともせずに言葉を発する。 再び話を引き継いだスバルの言葉、その続きを予想する事は、今のギンガにとっては容易い。 彼女は、こう言わんとしているのだ。 「応用できる情報は無限に在る。応用するだけの技術も無限に在る。今が好機・・・違うね。今だけしか、その機会は無いんだ」 全ての元凶、時間軸さえも超えて拡大する惨劇、その原点。 彼方の次元世界が創り上げた、狂気と憎悪の集約体。 それを今、この隔離空間に於いて具現化させると。 「種」を、この次元世界に植え付けるのだと。 存在意義すら歪められた「願いを叶える石」の成れの果て。 オリジナルのそれが12年前に引き起こし掛けた悲劇とは、比較にならぬ程の災厄を撒き散らすであろう「悪夢の種」。 「新たな「Λ」を建造する。私達が今、此処で」 ウィンドウが1つ、テーブル上へと展開される。 その中心に浮かび上がる小さな宝石、回転表示されるそれには「Λ」の刻印。 ギンガは微かに蒼い光を放つそれを視界の中央へと捉えつつ、自身が永遠に逃れられぬ惨禍の渦に捕われた事を自覚した。 新暦77年12月5日。 スバル・ナカジマ一等陸士以下、時空管理局所属魔導師5名。 局地限定破壊型戦略級魔導兵器「JEWEL-SEED Λ」開発・建造開始。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3820.html
『第14区、地下街の崩落が始まっている! 全体の陥没も時間の問題だ!』 『こちら第8区・・・生存者、発見できず。隣接地区の捜索に移る』 『循環システムが止まっている・・・! こちら855、特救はまだなのか!? このままじゃ中の民間人が窒息するぞ!』 飛び交う無数の念話は、そのいずれもが最悪の状況を告げるものばかりであった。 第4廃棄都市区画及び、クラナガン西部区画に於ける戦闘の終結より6時間。 地震の被害は元より、大型機動兵器と管理局部隊、そして不明機体群の交戦により壊滅的な打撃を受けた西部区画。 漸く展開した救助隊の目に飛び込んだ光景は、数時間前まで高度文明都市として機能していたとは到底思えない、破壊され尽くしたビル群と瓦礫の山だった。 道路は膨大な量のコンクリート片と鉄塊に埋め尽くされ、嘗ては壮麗な姿を誇っていたガラス張りのビルは軒並み崩壊、ハイウェイが延々と横倒しになり数千台の車両を圧壊、ライフラインは完全に破壊され最低限の電力の供給すら行われてはいない。 地下街の全体が崩落し、破裂した水道管から噴き出す水と逆流した汚水が混じり合って瓦礫の隙間を流れ、何処からか降り注ぐ灰が周囲を白く染める。 電源の確保が困難である以上、夜の闇に沈む筈の都市はしかし、赤々と周囲を照らし出す光によって最低限の視界を確保されていた。 都市の4割以上の区画を呑み込んだ、紅蓮の炎。 鎮まるどころか徐々に勢力を増しつつあるそれは、瓦礫の下にて救助を待っているであろう、数多の命を燃料として更に燃え上がる。 そして、何より。 『・・・特別救助隊202より、報告。大型機動兵器通過跡より400mの範囲内に生命反応なし。避難所も含め・・・全滅だ』 都市区画を貫く、一条の線。 地表を抉り、ビルを薙ぎ倒し、全てを粉砕しながら刻まれた、想像を絶する破壊の爪跡。 地上はおろか、地下に存在する全ての施設をも破壊し尽くしたそれは、巨大な鋼鉄の獣が地上を駆け抜けた跡だった。 年の西端より東へと数km、更に北へと数km。 時に歪み、捻れ、のたうつその線は、このミッドチルダという世界そのものに牙を突き立てた、異形の質量兵器によるもの。 生命の尊厳を踏み躙る、忌むべき思想の下に築かれし歪な存在によって刻まれた、蹂躙の傷跡。 その終着点に鎮座する、巨大な鉄塊。 機能停止から6時間が経過した今なお、それは至る箇所から炎と黒煙を噴き上げ、闇夜の空を赤黒く染め上げていた。 『急げ、崩れるぞ!』 『ナカジマ、まだか!? 押し潰されるぞ!』 『くそ、始まった! 退避しろ! 総員退避だ!』 都市の一画、崩れ掛けたショッピングモールの地下階へと続く外部アクセスポイントから、複数の管理局局員が慌しく姿を現す。 彼等は皆、一様に白いバリアジャケットを纏っていた。 湾岸特別救助隊。 ミッドチルダ南部の港湾地区に活動拠点を置く彼等は、被害の甚大さから急遽このクラナガン西部区画へと派遣されたのだ。 救助活動のスペシャリストたる特別救助隊、その中でも精鋭中の精鋭と言われる湾岸特別救助隊。 しかしその彼等を以ってしても、この巨大な墓標の群れと化した廃墟の中で発見されるのは、原形を留めない亡骸の山と「人であったもの」の破片ばかりであった。 否、欠片でも残っていればまだ幸運なもの。 多くは既に瓦礫の山と業火に呑み込まれ、コンクリート礫の合間から滲み出す大量の赤い液体か、上空に蔓延する黒煙の一部となっているのだから。 『こちらナカジマ、脱出します!』 『こっちもだ! ノーヴェ、出るぞ!』 決然とした声の念話と共に、アクセスポイントから2本の光の道が宙へと伸びる。 黄色の光を放つ道と、青い光を放つ道。 其々の上を目にも留まらぬ高速で駆けつつ、弾丸の様に地下から飛び出す2つの影。 直後、轟音と共にアクセスポイントから粉塵が噴き出し、200mほど離れた位置に建つショッピングモール全体が崩壊した。 背後からの衝撃を受け、光の道から放り出される2つの影。 それらは腕の内へと抱え込んだ小さな存在を庇うかの様に肩口から地表へと叩き付けられ、十数mを転がった後に漸く動きを止める。 赤い髪の少女と、青い髪の少女。 ほぼ同時に身を起こした彼女達の腕の中には其々、全身を赤く染め上げた幼い少年と少女の姿があった。 「移送を! 早く!」 青髪の少女、スバル・ナカジマの声が上がるより早く、医療班が2人の腕から子供達を受け取り担架へと乗せる。 移送される2人の姿を見送った後、スバルは駆け寄った同僚へと状況報告を始めた。 「・・・生存者はあの子達、2人だけ。母親だと思われる女性が崩落した天井に下半身を挟まれてたけど、もう息が無かった。避難所は・・・」 「・・・崩落、していたのね?」 「・・・うん」 項垂れ、力無く呟くスバル。 その肩をひとつ叩き、同僚の女性はその場を後にした。 ふと、スバルは自身の隣を見る。 其処には赤髪の少女、ナンバーズが1人、ノーヴェが地へと座り込んでいた。 その目には何時もの勝気な色は無く、ただ呆然とした様子のみが見て取れる。 「・・・大丈夫?」 スバルが、声を掛けた。 返事は無い。 再度、声を掛けようとした時、ノーヴェが掠れた声を漏らす。 「なあ」 「・・・何?」 「・・・あの子供・・・助かるよな?」 感情の削げ落ちた、無機的な声。 その問いに、スバルは答える事ができなかった。 少年を抱えていたノーヴェのスーツは夥しい量の血に染まり、スバルのバリアジャケットもまた、少女の血液によって赤く染め上げられている。 改めて自身の状態を振り返り、スバルの背中を冷たいものが走った。 手が震え、膝が笑い、全身が命を失ったかの様に冷たくなってゆくのを感じる。 初めてだった。 特別救助隊に所属してから、初めて要救助者の死と向き合った。 短い間ながら、湾岸特別救助隊にてスバルが出動した現場では、未だに死者が発生した件はなかったのだ。 沖合いでの客船沈没、ハイウェイでの大規模車両事故、コンビナート火災。 いずれの事故に於いても厳しい状況下に曝されながら、今までに学んだ知識と経験、そして仲間達との信頼と連携でそれらを乗り越えてきた。 1人の、たった1人の死者すら出さずにだ。 覚悟はしていたつもりだった。 いずれはその現実と向き合う事になるだろうと、彼女なりに理解してはいたのだ。 全ての現場に於いて、全ての命を救う。 その理想に反した現実へと立ち向かう事となる、その覚悟は確かに胸の内に存在していたのだ。 だが。 今、彼女の前に立ちはだかる現実は、その覚悟をすら嘲笑うかの様に過酷であり、残酷で、非情だった。 休日を謳歌していたであろう家族連れ、逢瀬を楽しんでいたであろう恋人たち、ただ日常を歩んでいたであろう数万・数十万の人々。 それらが一様に、無慈悲なまでに平等に命を奪われたという、信じ難い事実。 生存者救助の為に赴いたというのに、発見されるのは命無き骸のみ。 漸く救い出す事のできた小さな命の灯も、今まさに潰えようとしている。 否が応にも理解せざるを得なかった、余りにも非情な事実。 出血が激し過ぎた。 あの子供達は、もう。 「・・・ノーヴェ」 「何で・・・なんでぇ・・・」 血に濡れた腕を抱く様にして、掠れた声を漏らし続けるノーヴェ。 更生プログラムを受けていた彼女とその姉妹達、戦闘機人「ナンバーズ」の少女達は、急遽としてこのクラナガン西部区域へと投入された。 プログラムの経過が良好であった事、救助隊への所属に向け幾許かの知識を得ていた事、そして何より被害の甚大さと決定的な人員の不足から、迅速に彼女達の動員に関する特例が下ったのである。 そして、彼女らを良く知るスバルが、自身の能力に似たインヒューレントスキルを保有するノーヴェを伴い、崩壊間近となったショッピングモール地下への侵入を敢行したのだ。 その結果が、避難所の崩落確認と、生存者である子供2人の保護。 しかし、ノーヴェが初めて救ったその小さな命は、今この瞬間にも掻き消えんとしている。 それは、漸く新たな生き方を模索し始めた少女にとって、余りにも残酷な出来事。 スバルにとってもまた、要救助者の死という冷酷な現実を叩き付けられた切っ掛けが、齢10歳にも満たない少女であるという事実は余りに重い。 これが事故、もしくは天災だというのなら。 残酷な現実に苦悩しながらも、彼女らは決意も新たに先へと進む事ができただろう。 しかし今、この惨劇を造り出したのは不幸な事故でも、抗い様の無い天災でもない。 何処とも知れぬ時空の狭間より彷徨い出た、空舞う次元航行機の群れと人型兵器の軍勢、そして鋼鉄の巨獣。 次元世界より廃絶されるべき質量兵器によって武装した、ならず者共による無慈悲な蹂躙。 怨んだ。 無作法な客人共を怨んだ。 敵視し、軽蔑し、憎悪した。 2年前、目前で姉を傷付けられた時に抱いたそれさえ上回る、余りにも強烈で暗い感情。 スカリエッティでさえ避けた、市街地及び民間人に対する無差別攻撃の実行。 如何なる背景があろうと、彼等は決して越えてはならぬ一線を越えたのだ。 報いを、悪鬼の如きこの所業に対する報いを、己の内に燻る黒い炎もそのままに、然るべき「敵」へと叩き付けてやりたい。 それこそがスバルの、そして今この地へと展開する局員達の、その全てに共通する感情であった。 しかし、その相手は既に沈黙し、今は物言わぬ鋼鉄の屍と化している。 迎撃に当たった無数の陸戦魔導師、そして嘗ての上司達を含む空戦魔導師達、更には戦闘初期に於いて管理局部隊と敵対していた不明機体群。 彼等の猛攻により、突撃と砲撃によるクラナガン西部区画及び管理局地上本部への直接攻撃、そして人為的に引き起こされた地震によりミッドチルダ全域に対し多大なる被害を齎しつつも、狂える鋼鉄の巨獣はその身を炎の中へと沈めたのだ。 その実情を鑑みれば、報復は為されたと看做す事もできるだろう。 少なくとも、敵主力兵器を撃破した事は、敵勢力に対し非常に大きな打撃を与えたと判断できた筈である。 クラナガンの空を埋め尽くす程の次元航行艦の群れが。 そして、アルカンシェルの一斉射によって消滅した筈の「ゆりかご」さえ現れなければ。 「何で・・・今更・・・!」 小さく吐き捨てるノーヴェ。 その言葉を耳にしつつ、スバルもまた暴走する思考を抑える事に難儀していた。 次元世界史上最大最悪の質量兵器とさえ呼ばれた戦艦。 2年前、ジェイル・スカリエッティの手により復活し、聖王のコピーである少女を核として起動した、古代ベルカ王族の力を象徴する戦船。 6隻のXV級次元航行艦からのアルカンシェルによる一斉射を受け、空間歪曲に呑み込まれて消し飛んだ筈のロストロギア。 ノーヴェ達、ナンバーズの受けた衝撃は如何ほどのものだったであろう。 今なお償わんとしている罪の象徴が、消え去った筈の狂気の産物が、再びその姿を現し、無数の生命を無差別に奪わんとした。 局員によって撮影された映像に浮かび上がる濃紺青の艦体は、宛ら過去より這い出た亡霊、自ら達を冥府へと誘う亡者の腕にも等しく、彼女達の脳裏へと投影された事だろう。 過去を忘れる事はできない、決して逃れる事は叶わないと、怨嗟の声を撒き散らす冥界よりの船。 妄執と狂気により蘇りし「翼」は、彼女達が闇を振り払い未来へと歩もうとする意思を、絶望的な力とその威容によって打ち砕かんとする。 今にも古代ベルカの民の嘲笑が、スバルの脳裏へと聴こえてくる様だ。 聖王の名を騙り、「ゆりかご」を利用せんとしたスカリエッティと、その背後の時空管理局最高評議会。 「ゆりかご」を墜とし、旧暦より続く憂いを掃ったと歓喜する、新暦を生きる管理世界の住人達。 その全てを嘲笑う古代ベルカとミッドチルダの民、旧暦の戦場を駆けた全ての存在、冥府より上がる彼等の嘲笑が。 お前達如きに、真に「ゆりかご」を支配する事などできるものか。 本当の戦場を、質量兵器の跋扈する地獄を知らぬ者達に、聖王の「翼」たる戦船を墜とす事などできるものか。 幾度の戦場を、地獄を、極限の状況を。 その悉くを潜り抜けてきた戦士の群れを相手に、僅かなりとも抵抗できる余地が存在すると、本当にそう信じていたのか? 『こちらセイン・・・避難所に人型兵器の残骸が突っ込んでる。生存者は・・・居ない』 自身の思考に薄ら寒いものを覚えるスバルの意識に、ナンバーズが1人、セインからの念話が飛び込む。 傍らのノーヴェも同じくそれを受け取ったのか、漸く顔を上げて彼方を見やった。 しかしその目には、何時もの様に苛烈な意思の光は無い。 だが、続くセインからの念話を通じて放たれた声に、2人の表情が瞬時に引き締められる。 『ちょっと待って・・・人型兵器の背中が開いてる。多分、コックピットだと・・・ッ!?』 『セイン?』 『どうしたの? セイン、ねぇ!?』 微かな、しかし確かに発せられた、息を呑む音。 セインの身に、何かが起こったのか。 スバルとノーヴェのみならず、念話を受信した全ての局員達の間に緊張が走る。 『どうした!』 『セイン、何があったの!?』 他の地点で救助活動に当たっていたナンバーズからも、セインへの念話が飛ぶ。 其処にスバルの同僚、そして上司の声までもが加わり始めた頃、漸くセインからの応答があった。 『・・・こちら、セイン。人型兵器のパイロットを確認・・・』 その言葉が発せられるや否や、スバルとノーヴェの思考が戦闘に際したものへと変貌する。 周囲では複数の局員がデバイスを起動、セインの現位置を確認すべくウィンドウを開いていた。 人型兵器のパイロット。 実際に交戦した部隊からの報告では、不明機体群とは違い彼等は終始敵対状態にあったという。 そして彼等が、都市に対し無差別攻撃を仕掛けた事も、映像を交え明確に伝達されていた。 ならば、そのパイロットが敵対的行為に出る可能性は容易に想像がつく。 誰もが非道な敵へと己が力を向ける事を考え、地を駆けようとした、その時。 『パイロットは・・・もう、死んでる』 続くセインの言葉に、多分の安堵と僅かな落胆がスバルの胸中を満たす。 しかし。 『何で・・・何で・・・』 更に続いて紡がれたセインの言葉に、誰もが凍り付いた。 『この死体・・・「干乾びて」るの・・・?』 スバル達の背後から、特別救助隊員の声が上がる。 不明機の墜落地点を調査していたギンガ・ナカジマとウェンディ。 彼女達から緊急の報告が飛び込んだのは、セインの発言とほぼ同時だった。 * 『上層階に4人、機体左右に2人ずつ! 非殺傷設定だ、間違えるな!』 『ギン姉、準備できたッス!』 『こっちも良いわ。こちらナカジマ、位置に付きました!』 『229、展開完了。何時でも良いぞ!』 炎上する大型機動兵器より1kmの地点。 崩壊寸前となったビルの残骸、その抉れた壁面の中腹。 ギンガとウェンディ、そして陸士部隊の計14人は、瓦礫に埋もれる深紅の機体を前に各々の得物を構えていた。 満身創痍、機体の右側面が完全に吹き飛び、未だ僅かに炎を燻らせる不明機体。 陸士部隊の証言が正しければ、あの大型機動兵器に止めを刺した機体。 ヴィータ三等空尉と共に鋼鉄の巨獣へと挑み、ガジェットの突撃から彼女とリィンフォースⅡ空曹長、そして高町一等空尉の3名を庇い、遂には撃墜された近接戦闘特化機体。 話だけならば、間違いなく英雄と呼べる存在であろう。 都市を襲う脅威を打倒し、JS事件収束の立役者である者達をその身を以って救った存在。 誰もがその功績を讃え、口々に賞賛の言葉を述べたであろう。 その英雄が戦闘の火蓋を切った勢力の所属であり、管理世界に於いて禁じられし質量兵器によって武装した存在でなければ。 『ナカジマ陸曹、どうぞ』 『了解』 陸士部隊からの念話を受け、不明機体の正面に位置したギンガが声を上げた。 その両足には彼女のデバイスであるブリッツキャリバー、そして左腕にはリボルバーナックルが装着されている。 管理局部隊に加勢したとはいえ、パイロットが敵対的行動を選択する可能性も残っているのだ。 そして何より、一方的な攻撃を仕掛けてきた存在に対する不審と敵意、質量兵器に対する拒絶が、ギンガを含む局員達の胸中に根付いている。 武装もせずに接近など到底、許容できる筈もなかった。 「こちらは時空管理局です。直ちに機体を降り、投降しなさい。貴方は既に包囲されています」 『こちらディエチ、配置に付きました。何時でも撃てます』 『チンクだ。上層階に到達、奴の上に居る』 『こちら229、注意しろ。パイロットは武装している可能性が高い』 不明機体へと投降を促すギンガ。 キャノピーの損傷の度合いから、パイロットは生存している可能性が高い。 何より先程、確かに機体が再起動を試みたのだ。 パイロットが生存しているのならば、身柄を拘束し情報を引き出さねばならない。 「繰り返します、直ちに投降しなさい。貴方は首都上空に於ける・・・」 『ナカジマ陸曹、キャノピーが!』 再度の呼び掛けは、ディエチからの警告によって遮られた。 咄嗟に拳を構えれば、左右の瓦礫の陰に位置したオットーとディードの姿が目に入る。 いずれ、他のナンバーズ達やスバルも駆け付けるだろう。 何も問題は無い、筈だ。 ゆっくりと、罅割れたキャノピーが開放されてゆく。 緊張に固唾を呑む一同の目前で、傾いた機体のコックピット、2m程の高さから人影が現れた。 全身を濃灰色のスーツに包み、同じく濃灰色のヘルメットと漆黒のバイザー、重厚なマスクを身に着けた人物。 スーツは宇宙服としての機能を併せ持っているのか随分と重厚な作りであり、パイロット自身が激しく動き回る事は想定されていない様に思える。 しかし不明機パイロットは、意外にも機敏な動きでコックピットより飛び降り、細かな瓦礫の散乱する床面へと着地した。 徐に頭を上げ、周囲を見回すその右手には、黒々とした物体が握られている。 質量兵器。 局員、そしてナンバーズの間に、緊張が走る。 拳銃を2回り以上大きくした様なそれは、短機関銃と呼称される携行火器か。 恐ろしかった。 その気になれば、数秒と掛けずに命を奪う事さえ可能な、非力な存在。 魔力は感じられず、その手に握られた質量兵器も、少なくともそう簡単に魔力障壁を撃ち抜けるものとは思えない。 にも拘らず、目前の異質な存在が恐ろしかった。 これまでに対峙したどんな次元犯罪者とも異なる、管理世界の理から外れた認識と思想の下に行動し、強大な力を秘めし質量兵器を搭載した異形の機体を駆るパイロット。 まるで眉間に銃口を押し当てられている様な重圧が、全身へと圧し掛かる。 と、周囲へと視線を廻らせていたらしき不明機パイロットの首が、ある一点で止まる。 その方向には、瓦礫の陰に身を潜め、ツインブレイズを構えるディードの姿。 不明機パイロットの視界からは、完全に死角となっている筈の位置。 しかし、相手は何故かディードの存在に気付いているらしい。 その危惧は不明機パイロットが首を廻らせ、次いでオットーの潜む地点へとバイザーを向けた事で確信的なものとなった。 次に、正面に位置するギンガへと向き直り、しかし僅かに首を上へと向ける。 その方向に位置するは、遥か後方のビル屋上より不明機体を狙うディエチ。 ギンガの背筋を、冷たいものが走る。 依然として、魔力は感じられない。 サーチを行っている様子も、その術式構築すら為された痕跡は無い。 にも拘らず、目前の不明機パイロットはオットーとディードの存在を看破し、更には400m後方のディエチの存在すら察知した。 これは、一体? 戦慄するギンガ、そして周囲の魔導師とナンバーズを余所に、不明機パイロットは携行火器上部の光学サイトを弄り、次いでマガジンを外して内部の弾薬を確認。 マガジンを戻し、火器を握り締めたままだらりと両腕を下げる。 埒の明かない状況に痺れを切らし、再びギンガが投降を促そうとした、その時。 『了解した』 拡声装置を通してのくぐもった声が、周囲へと響き渡る。 唖然とする魔導師と戦闘機人達を余所に、不明機パイロットは携行火器をスーツの前面へと引っ掛けると、両の掌を宙へと向け言い放った。 『投降する』 * 紛う事なき「人類」の存在。 既知の如何なる技術体系とも異なるエネルギー集束・解放制御技術。 終ぞ検出される事の無かったバイド係数。 攻撃隊と都市、そして超大型異層次元航行艦を襲ったバイド汚染兵器群。 多数の未確認艦艇及び、艦隊中枢と思われる大型異層次元航行艦。 最先端技術により構築された、旧式の局地殲滅兵器。 事前情報の悉くを否定する事態の連続。 最早、艦隊とパイロット達の司令部に対する不信は頂点に達しており、状況は完全な独立作戦行動を求められるまでに追い詰められていた。 超大型異層次元航行艦の攻撃に当たった部隊は12機のR戦闘機と同数のパイロットを損失、都市攻撃隊に至っては34機もの損失を被っている。 確認されたバイドについては、無論の事ながら殲滅せねばならない。 しかし、当初の作戦目標である都市と艦艇、双方の制圧については最早遂行は困難と判断し、その旨を伝えるべく司令部への異層次元中継通信を行ったのが3時間前。 本来ならば任務の遂行を強調する司令部と、艦隊司令権限による独自判断を主張する司令との間で腹の探り合いが行われている筈なのだが、しかし艦隊旗艦クロックムッシュⅡの艦橋、彼の座する司令席には、不気味な沈黙が立ち込めていた。 周囲のコンソールには複数の情報が表示され、更には無数の空間ウィンドウが司令席を取り囲む。 その中の1つ、「S.O.F. Weapons depot」と表示されたウィンドウが拡大表示され、PDWにて武装した兵士達の姿が大写しとなった。 兵士の1人がウィンドウの横へと拡大表示され、同時に音声が発せられる。 『各種装備、完了しました。拘束の許可を』 奇妙な問い。 彼は微塵もうろたえる様子を見せず、冷徹に指令を下した。 「了解した、拘束を許可する」 その言葉が終わるや否や、ウィンドウ内の兵士達が数秒の内に武器庫を後にする。 同時に司令席コンソールの向こう、複数存在するオペレーター席の1つから、随時状況の変化を知らせる音声が発せられ始めた。 「目標14、周囲に直属の警護隊が展開しています。PDW・MP-15による武装が4名、AR・M-34による武装が同じく4名、計8名。R-9WFの周囲を巡回中。巡回ルートを表示します」 『ルートを受け取った。これより拘束に移る』 「目標からの抵抗に際し、任意での発砲を許可する。繰り返す。発砲を許可する」 『了解』 発砲許可。 自らの艦に乗る人員に対するそれを至極平然と許可し、しかしその決定に動揺する声は艦橋の何処からも発せられる事は無い。 この艦の、否、艦隊の誰もが、「彼等」の拘束に賛同しているのだ。 司令部より派遣された彼等、艦隊にとっての異邦者、パイロット達にとっての敵意と嫌悪の対象。 「TEAM R-TYPE」 切っ掛けは、都市攻撃隊が集音した不明勢力間の会話だった。 ごく近距離に位置する人物同士での、肉声による遣り取り。 無数に収集されたそれらの遣り取りの中から、有用と思われる複数の情報を得る事ができた。 時空管理局・地上本部・本局・聖王教会。 魔力・魔力素・魔法・魔導師・リンカーコア・デバイス。 陸戦魔導師・空戦魔導師・砲撃魔導師・騎士。 砲撃魔法・直射型・集束型。 ミッドチルダ・クラナガン・ベルカ・廃棄都市区画。 陸士・首都航空隊・戦技教導隊。 ゆりかご・ガジェット・ロストロギア・質量兵器。 その全てについて、理解が済んだ訳ではない。 寧ろ解らない事の方が多いのだ。 しかし、この異層次元に展開する広域高度文明が、魔法と呼ばれる空想じみた技術体系の下に成り立っているという事実は判明した。 その理論までは今のところ理解の仕様が無いが、収集したそれらの情報が意外な事実を浮き彫りにする事となったのだ。 それは、整備と新たな簡易改修を受けるR-9WF、その周辺にて交わされた担当技術者達の会話。 新たなウィンドウを開き、録音された会話を再生する。 『・・・K-04からの流出は確認されない。ニクソンの集束機構は成功だ』 『では集束率を上げるか? 今の段階では通常の波動砲と大して変わりは無い。精々が炸裂範囲の拡大程度だ。それも他の特化型に比べれば、見るべき箇所は無いぞ』 『それでも良いが・・・データを見ただろう? 射出の瞬間、明らかに周囲の大気圧が変化した。大気だけじゃない、周囲の「魔力素」までもが、だ』 魔力素。 確かに、彼等はそう口にした。 会話は続く。 『空間への直接作用か? R-9Bの波動砲システムを流用すれば、何とかなるかもしれないな』 『「D7」のデータを見ただろう。天候操作魔法なんてのがあるんだ、できない道理は無い』 サンプル「D7」。 363部隊機が交戦の末に撃沈した、あの不明艦艇に刻まれていた文字。 やはり、R戦闘機開発陣は。 『G-47のユニットと出力回路を交換するのが精々だ。調整は可能か?』 『やってみせるさ。今までに無い体系の波動兵器になるぞ。安定性の確保は任せても良いんだな?』 『応急的なものだが、まあ暴走の危険性は低いだろう。だが、魔力素の存在しない空間ではどうする? 波動粒子のみの制御は想定されていないぞ』 『問題ない。「RCユニット」のストックは山ほどある。理論値通りならば、誤差を含めても14基の増設で事足りる筈だ』 『波動粒子の変換効率は? 人造とはいえ「リンカーコア」だ。無茶をすればそう長くは保たない』 『だからこその処置だ。「艦長殿」の処理能力は知ってるだろう。あれだけ派手に弄ったんだ、相応の成果は出して貰わなければ困る』 『それもそうか・・・データは採取済みなんだな? バックアップがあるならば、オリジナルに固執する必要は無いか』 『なかなかの「性能」だからな、廃棄するのは惜しいが・・・』 音声ウィンドウを閉じ、格納庫の一角を映し出す別のウィンドウを見やる。 R-9WFの周囲に群がる、14名の技術者達。 更にその周囲を巡回する、8名の警護隊員。 間違いなく彼等は、この異層次元文明を構成する技術体系の根幹に触れている。 にも拘らず、それを伝える事も無く攻撃の指令を下した司令部。 R戦闘機開発陣の下に保管されていた不明艦艇。 図った様に実施された、新型R戦闘機の実戦投入。 全ての線が、漸く繋がり始めた。 『報告。異層次元中継通信途絶状態、回復失敗。浅異層次元での妨害を受けています』 『航法より報告。太陽系・・・失礼しました。「22世紀」の太陽系への空間跳躍ゲート、消失を確認。異層次元航法推進システムを用いた航行シミュレーションについては、98.46%の確立で複合空間歪曲発生の可能性が算出されました』 同時に飛び込んだ、2つの報告。 了解した、との応答を返し、彼は静かに思考を廻らせる。 この異層次元全体が、他の異層次元より隔離された。 この現象がバイドによるものならばまだ良い。 過去に幾度となく用いられた手段であり、異層次元全体を侵食する能力がバイドに備わっている事も既に判明している。 だが、もしも。 もしも、この異層次元を隔離した存在が「地球」であったならば? 「想定外」のバイドの出現により、全てを異層次元の果てへと屠るべく実行された、次元消去作戦であるならば? 喧騒。 格納庫の一角で、押し問答が始まった。 兵士達の無感動な声と警護隊の荒々しい声、両者の遣り取りを耳にしつつ、彼は軽く司令帽を被り直す。 何を考えている。 司令部が本当に次元消去を企んでいるのならば、既に2時間は前に1000を超える次元消去弾頭が撃ち込まれている筈だ。 それ以前に、司令部による戦闘後の偵察活動が一切観測されない事態など、異常に過ぎる。 ならば、考えられる状況はひとつ。 この異層次元は、バイドによって「喰われた」のだ。 この艦隊は、この異層次元の住人達は。 今この瞬間。 ただひとつの例外なく、バイドの腹の中にあるのだ。 艦内に、警報が響き渡る。 艦隊前方、浅異層次元潜行解除による空間歪曲反応検出。 大質量物体転移、複数。 狂獣の咆哮、未だ止まず。 * 『B2からB41に掛けての区画は、現在立ち入りが禁止されています。武装局員待機所及び物資集積所は、現在D11区画に臨時設置されています。繰り返します。B2からB41に掛けて・・・』 ミッドチルダ及び時空管理局本局に対する、不明機体群及び不明勢力の襲撃より3日後。 なのはは本局内の病室より抜け出し、医療区の施設内を彷徨っていた。 端末を用いてヴィヴィオの無事を確かめ、心細さに泣く我が子をウィンドウ越しに慰め2時間ほど話すと、ヴィータとリィンの状態を確かめるべく彼女達の元を訪れようとするなのは。 意識を失っていた2日間、そして空が光ったあの瞬間に一体何があったのか、彼女はそれを知りたかった。 端末から情報を得ようと試みたのだが、錯綜する膨大なそれらから得られたのは、クラナガン西部区画が文字通りに崩壊した事、ゆりかごのみならず多数の古代ベルカ及びミッドチルダの次元航行艦が艦隊に存在していた事、襲撃の犠牲者は20万を超える事など。 あの瞬間に何が起こったのかについては、詳細な情報を得る事は叶わなかったのだ。 しかし、ヴィータの所在を尋ねるべく漸くの事で中央センターへと通信を繋いだなのはは、一連の事態が信じられない程に大規模なものとなっている事実に直面した。 本局への直接攻撃。 一部区画の重大な損傷。 XV級次元航行艦14隻喪失。 1300名を超える犠牲者。 管理局第14支局の消滅。 そして、更に。 緊急用圧縮魔力排気ダクト内にて、本局への侵入を果たした不明機体との戦闘に当たった者達。 シグナム、アギト、フェイト・T・ハラオウン、ティアナ・ランスター、ユーノ・スクライア。 内、シグナムとユーノは意識不明の重体であるという、衝撃的な事実。 未だ軋む身体を引き摺りながら、なのはは医療区を彷徨う。 ナビゲーションシステムに浮かぶ本局の簡易立体構造図は、6つのユニットの内1つが大きく抉れ、区画封鎖中の文字が点滅していた。 戦闘による区画消滅。 中央センターからの情報によれば、その地点での迎撃に当たっていた人物はフェイト・ティアナ・ユーノであったとの事。 一体何が起これば、この巨大な本局の一画が文字通り「消滅」するというのだろう。 胸中を満たす不安と焦燥に急かされる様にして辿り着いた、集中治療室の1つ。 乱れた呼吸もそのままに入室すれば、病室との区切りであるガラス壁の前に、椅子に腰掛けた金髪の人影があった。 「フェイト・・・ちゃん・・・」 「・・・なのは?」 ゆっくりと振り返る人影、フェイト。 彼女の面を目にしたなのはは、思わず息を呑んだ。 憔悴し切ったその表情。 目の下には隈が浮かび、泣き腫らしたのか目許は真っ赤になっている。 僅かだが頬は痩け、肌も荒れている様だ。 「あ・・・あ・・・」 その目に、不意に涙が浮かぶ。 微かな嗚咽を洩らしながら、フェイトは歩み寄ったなのはへと縋り付いた。 そして吐き出されるは、意図の解らない謝罪の言葉。 「ごめんなさい・・・っ」 「え・・・?」 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っ!」 嗚咽の合間に繰り返されるその言葉に、なのはは困惑を深めてゆく。 しかし続く言葉に、彼女の全身から血の気が引いた。 「私・・・私の所為で、ユーノが・・・っ」 反射的に、ユーノが横たわるベッドへと視線を移す。 生命維持装置より繋がる無数のホースと、ベッドを覆う継続治癒結界。 嘗てなのはも、身を以って体験したそれ。 しかし、決定的に違う何か。 一見しただけでも彼女を襲う違和感。 そして、漸くその原因へと認識が至った瞬間、なのはの脳裏を絶望が過ぎった。 「何、で・・・」 呟く言葉は、目前の光景を理解したくないと云わんばかりに震える。 認識を拒絶する意識は、しかし視界へと映し出されたそれを正確に捉えていた。 「何で、ユーノ君・・・」 戦慄く唇は、掠れた声を紡ぐ。 自失の声、絶望の声を。 「ユーノ君の身体・・・こんなに「小さい」の・・・?」 横たわるユーノの身体を覆う純白のシーツ。 本来ならば胴の左右、そして下方に存在する筈の膨らみ。 それが、右側面のみにしか存在しない。 腰部下方、そして左側面には、胴部より緩やかに下る、シーツの斜面があるだけだ。 即ち、右腕を除く四肢は。 「・・・不明機体の・・・兵装が、暴走した時・・・」 「フェイト、ちゃん?」 途切れ途切れの声。 それが交戦時の状況を語る、フェイトの声となのはが気付いたのは、数秒後の事だった。 「ユーノは私とティアナを連れて、中央区画に転移しようとしたんだ。でも・・・」 涙が、なのはの腕を濡らす。 言葉を紡ぎ続けるフェイトの声は、更にその震えを増した。 「あの球状兵装が、私達に向かってきた瞬間・・・一帯に空間歪曲が発生して・・・転移先の座標が・・・ずれて・・・っ」 幼子の様に、なのはの衣服を握り締めて泣き続けるフェイト。 その背を優しく撫ぜながらも、なのはは自身の震えを抑える事ができなかった。 そして遂にフェイトが、事態の凄惨な結末を口にする。 「ユーノの・・・脚と、左腕・・・っ!・・・壁の、中に・・・っ!」 頬を、熱いものが伝う。 なのはは、自身が何時の間にか涙を流している事に気付いた。 「なのに・・・っ! なのにユーノ・・・私と、ティアナに・・・治癒結界を・・・っ!」 後に続くは、慟哭のみ。 なのはもまた、大切な人を襲った惨劇を前に、感情を抑える事ができなかった。 只々、声を上げて泣きじゃくる目前の幼馴染を抱き締め、自身も小さく嗚咽を洩らし始める。 管理局が誇る2人のオーバーSランク魔導師は、意識の無い幼馴染を前に只々、互いの身を掻き抱きつつ涙を流す他なかった。 時に、新暦77年10月30日、11時20分。 クラナガン西部区画にて拘束された、不明機パイロット。 八神はやて特別捜査官による尋問の開始まで4時間と迫った、本局医療区画での事だった。
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/8368.html
R-TYPE TACTICS II -Operation BITTER CHOCOLATE- 機種:PSP 作曲者:岩井由紀 開発・発売元:アイレムソフトウェアエンジニアリング 発売年:2009 概要 『R-TYPE TACTICS』の続編。アイレム発売のR-TPYEシリーズとしては最後の作品となる。 前作の「地球連合軍」と「バイド軍」に加え「グランゼーラ革命軍」という第3勢力が登場した。 音楽は前作と同様に岩井由紀氏が担当。初代『R-TYPE』のアレンジが使われているなどファンサービスも欠かしていない。 エンディングテーマである「Csomos」は元はUSPの飯田舞氏の持ち歌である「手のひら」が原曲。 サントラは2021年4月29日に発売された『R-TYPE ORIGINAL SOUND BOX』に収録。 「手のひら」は飯田氏のアルバム『ふたりの空』に収録されている。 収録曲(サウンドトラック順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 凌駕 岩井由紀 漸近 耽々 混濁空間 突破 掃討 整然 終局 衝動 破壊旋律 作:石崎正人編:岩井由紀 『R-TYPE』の「BATTLE THEME(ステージ1)」のアレンジ 定義不能 『R-TYPE』の「BOSS THEME(ドプケラドプス戦)」のアレンジ 巨影接近 『R-TYPE』の「BATTLE PRESSURE(グリーン・インフェルノ戦)」のアレンジ Cosmos 作:飯田舞編:東大黒編:海老原博 エンディングテーマスキャット:haruka サウンドトラック R-TYPE ORIGINAL SOUND BOX ふたりの空 飯田舞氏のアルバム。「手のひら(Cosmosの原曲)」が収録。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3814.html
緊急処置室の扉が開くと同時、フェイトは室内より姿を現したシャマルへと歩み寄る。 パイロットの容態はどうかと尋ねようとした矢先、初めて見るほどに強張ったシャマルの表情が視界に飛び込んだ。 尋常ではないその様子に、フェイトの身に緊張が走る。 「あの、シャマル・・・」 「フェイトちゃん」 フェイトの言葉を遮り、何処かしら冷たさの滲む声を発するシャマル。 「彼は、本当に只のパイロットなの?」 「それはどういう・・・」 「自殺用に「あんな物」を常備する人間なんて、それこそ古代ベルカ王族にも居なかったでしょうね」 あれは只の毒物ではなかったのか? そんな疑問を抱くフェイトであったが、続く発言の内容に凍り付く。 「増殖型ナノマシンが口腔粘膜より血中に拡散、心肺及び脳組織を分解。更には、ナノサイズの群体とは思えない出力の妨害電波を発して、処置室内の電子機器を破壊したわ」 「な・・・」 「挙句の果てに、ナノマシン集合体より発生する高エネルギーを用いた体内焼却。外見からは異常が無い様に見えるけれど、彼の体内は原形を留めていないわ・・・ねえ、フェイトちゃん」 フェイトの肩に手を置き、正面から彼女の目を見据えるシャマル。 その目が何時に無く不安に揺らいでいる事を感じ取り、フェイトの内心もまた混乱していた。 「たった1人の人間を殺す為に、こんな手の込んだ物を用意する必要が在ると思う?」 「それは・・・」 「あのナノマシンは、情報記憶媒体となり得る物、全てを破壊するように造られている。周囲の電子機器、そして使用者の脳。一切の情報を使用者もろとも消去する為の、ナノサイズの「爆弾」よ。 製造コストだって安くはないでしょう。人間1人を殺すのに、余りにも手が込み過ぎているわ」 そこまで言い切ると、口を閉ざすシャマル。 余りに凄惨な内容に、フェイトも沈黙する。 果たして一介のパイロットが、そうまでして消去を図らねばならないほどの重要な情報を知り得ているものだろうか。 それ以前に、自軍の兵士に自殺用の毒物を所持させるなど、正気の沙汰ではない。 これが、第97管理外世界の未来に於ける、軍組織の姿なのか。 憤りを深めるフェイト。 少なくとも彼女の経験からして、如何なる状況であろうと「死」を選択肢のひとつとして提示する行為など、正規の組織としてあってはならない事だった。 彼女の知る限り、そんな事を実行したのは過去の反時空管理局テロ組織くらいのものだ。 況してや当の兵士がそれを受け入れ自ら実行するなど、彼女としては認め難いものだった。 一方でシャマルは、「毒物」の異常性にこそ戸惑いつつも、兵士の選択肢に「自害」を加える事には疑問を抱かなかった。 守護騎士として長き時を駆けてきた彼女は、例え全てを思い出す事は無くとも、それを知っている。 どれだけ美辞麗句を並べ立てようとも、「死」のみでしか救われぬ状況というものがあるのだ。 「彼女」・・・リインフォースがそうであったように。 解らないのは、あのパイロットがそうまでして「何を守ろうと」したのか、或いは「何を恐れて」その行為に至ったのかという事だ。 少なくとも捕獲されてより以後、彼を死への逃避に走らせる様な出来事は起こっていない筈。 管理局員が肉体的・精神的な拷問を行ったというのならば納得もいくが、無論そんな事は有り得ない。 では一体、何が彼を死へと駆り立てたのか? 沈黙のままに己の思考へと沈み行く2人。 しかし、彼女達がこの場で結論へと至る事は無かった。 警報だ。 『本局近辺にて次元断層発生。小型次元航行艇多数の転移を確認、所属不明。武装隊は直ちにB3区画に終結せよ。繰り返す。本局近辺にて次元断層発生・・・』 * 『「ピーピング・トム」より「ロック・ローモンド」。目標「スノー・クリスタル」にオウル・アイによるスキャンとの差異は認められない。物理的兵装及び外部射出口、確認できず』 『ロック・ローモンドよりピーピング・トム、了解した。ロック・ローモンドより全機、浅異層次元潜行解除』 艦体外観から、コールサイン「スノー・クリスタル」と名付けられた、所属不明の超大型異層次元航行艦艇。 その周囲に総数100を超える空間歪曲が発生、直後にそれと同数のR戦闘機が姿を現す。 スタンダード・フォース、そしてビットを装備した一群。 多少、細部は異なるものの、同じフレームを基に設計されていると判る白・赤・青の機体によって構成された一群。 機体の周囲へとチューブが張り巡らされ、異様なまでに巨大な放熱器が取り付けられた赤と黄色の一群。 無数の発射口を機体下部に備えた、青と緑の一群。 巨大な盾と暴力的な外観を備えた、赤い機体の一群。 それら以外にも様々に異なる外観を持つR戦闘機が、不明艦艇を各方位より取り囲む。 各々の機種が編隊を組み、その編隊が他機種の編隊と連携を取り、ひとつの完成された包囲網を形成。 機体性能を併せて考えれば、巨大な不明艦艇は僅か100機ばかりの異層次元戦闘機によって、完全に包囲されていた。 包囲網の完成とほぼ同時、R-9E2より警告が飛ぶ。 『ピーピング・トムより全機、目標より艦艇の出撃を確認。総数3、いや7・・・まだ増えるぞ。16隻を確認』 『ロック・ローモンドより全機、目標の兵装を確認せよ。威嚇射撃』 包囲網の一部、十数機のR戦闘機機首に、青い光が集束する。 数秒後、閃光と共に十数発の波動エネルギー弾が、目標外殻を掠める様に発射された。 波動砲、低出力射撃。 直撃弾は無い。 目標の反撃を誘発する為の威嚇行動である。 そして、その目論みは成功した。 『こちら「トロイカ」、スノー・クリスタル周囲の環状構造物に異変。無数の発光が確認できる。環状の幾何学的な模様が・・・発砲を確認、迎撃システムが作動したらしい』 『トロイカ、射出機構は確認できるか』 『・・・いいや。物理射出機構は確認できない。空間にプログラムを直接投影した上で弾体発射機構としているらしいが、原理は不明。映像で見る限りエネルギー弾の様だが、反応が検出されない』 『兵装の識別は不可能という事か?』 『そうなるな。スノー・クリスタル本体からの迎撃を確認。やはりプログラム像が出現している。凄い数だ、数え切れん。艦体全てが砲門となる様だ』 スノー・クリスタル本体と、その周囲を幾重にも取り囲む環状構造物。 その全てに白光を放つ環状の紋様が現れ、全方位へと光弾を放ち始める。 その数、実に数万。 弾速もかなりのものだ。 各方面で数機が、フォースを弾幕に向けて射出する。 そして弾体がフォースへと吸収された事をR-9E2が確認するや否や、フォースを装備した全機体が前進、弾幕を真っ向から受け止め始めた。 フォースの壁によって掻き消される、白光の弾幕。 『トロイカよりロック・ローモンド、敵兵装は広域力場展開型。選択的破壊は不可能。繰り返す。敵兵装の選択的破壊は不可能』 『ロック・ローモンド、了解。ロック・ローモンドより全機、作戦を「B」へと移行する。突入隊を援護せよ』 無数の光弾が壁となって押し寄せる中、数機の「R」が包囲網より進み出る。 より重厚さを増したコントロールロッド、他機種とは明らかに異なるビットシステムを備えた、白色の機体。 奇妙な可動式パーツを備えたフォース、2基の巨大なバーニアと機体下部に長大な砲身を搭載した、濃緑の機体。 猛禽の爪を思わせる3本のコントロールロッドが、通常とは逆に機体前方へと突き出したフォースを装備する、漆黒の機体。 「R-9Leo LEO」 「TL-2A2 NEOPTOLEMOS」 「R-13A CERBERUS」 敵施設への突入経験を持つ3名のパイロット。 波動砲の全力射撃による殲滅が司令部によって禁じられた今、彼等が搭乗するこの3機こそが、スノー・クリスタル制圧戦に於ける地球艦隊の切り札だった。 『突入隊、前進』 『敵艦2、急速接近。突入隊を援護する。エンゲージ』 『目標外壁に巨大な円陣の出現を確認。でかいのが来そうだ、先に叩く。エンゲージ』 3機が前進を開始すると同時、各部隊より交戦のコールが発せられる。 白の弾幕に埋め尽くされた空間の其処彼処で迸る、青い閃光。 接近する敵艦隊へと向け、無数の波動砲が放たれる。 直撃を避け、しかし確実に敵装甲を剥がしゆく青い光の奔流。 砲撃が掠める度、白と黒の艦体から破片と炎が吹き上がる。 しかし敵も然る者。 激しい砲撃に曝されながらも、無数の光弾を周囲へとばら撒きつつ前進、包囲網を切り崩しに掛かる。 その激しい弾幕により数機が被弾、浅異層次元へと撤退。 だが、敵艦の攻撃は弾幕に留まらなかった。 『ピーピング・トムより全機、空間歪曲反応検出! 敵艦、次元消去兵器発射態勢!』 『352、357、援護機の射線に入っている。至急退避せよ。771、815・・・』 敵艦中心軸、上下左右に分かれた艦体の先端部に、白い光が集束を始める。 21世紀地球の監視を継続していた、5隻の「ヴァナルガンド」級異層次元航行巡洋艦。 彼等からの報告にあった、次元消去タイプの砲撃兵装だろう。 如何にR戦闘機が異層次元航行能力を有するとはいえ、何処とも知れぬ次元へと吹き飛ばされては、生存は絶望的である。 2隻の敵艦はその艦首を白く染め上げつつ、進路をR戦闘機群の最も密集する一角へと向けた。 しかし。 『ピーピング・トムより「トニトルス」、射線クリア』 『トニトルス了解、撃つぞ』 圧縮された光は放たれる事なく、彼方より放たれた数条の閃光によって、艦首ごと消し飛ばされた。 砲撃を阻止された2艦は、何が起きたのか解らなかったのだろう。 焦燥の感じられる挙動で進路を変更するが、再び襲い掛かった閃光に艦体後部を貫かれる。 敵艦、沈黙。 爆発する気配は無い。 『敵艦艇の行動停止を確認。各機、艦体後部を狙え。制御中枢を破壊しろ』 次の瞬間、それまで以上の弾幕が敵残存艦艇より放たれる。 即座に全機が回避行動、またはフォースによる防御行動に移った。 被弾機ゼロ。 しかしその敵艦の反応に、パイロット達は驚く。 「怒っている」のか? 敵艦を行動不能に追い込んだ瞬間、残存艦艇の攻撃が激しさを増した。 つまり、仲間をやられて頭にきたというのか。 生物型でもない、只の汚染された兵器群が? 『敵艦8、次元消去兵器発射態勢! 回避!』 考える暇は無かった。 8条の光が空間を貫き、彼方で炸裂する。 大規模空間歪曲。 消失効果範囲、第二級戦術次元消去兵器に相当。 全機、効果範囲外への退避に成功。 敵艦隊、第二波発射態勢。 『こちら突入隊、敵艦隊を突破する。援護を』 『こちら555攻撃隊。突入隊に同行、侵入地点まで援護する』 『670攻撃隊、同じく』 『272攻撃隊、援護に就く』 『トロイカより突入隊、555、670、272へ。「ダクト」への誘導を開始する。隊を3つに分け、各侵入地点へと向かえ』 再び飛来する長距離援護射撃。 しかしそれは、8艦全ての砲撃を阻止するには至らなかった。 発射される閃光、5条。 各機がそれを回避する中、3機の突入隊と15機の援護部隊は、迸るエネルギーの白刃を掠める様にして敵艦隊へと突入する。 敵艦は迎撃を図るものの、三度襲い来る長距離砲撃と無数の「R」によるレーザー、実弾、ビーム、ミサイル、果ては波動砲の弾幕によって、次々に戦闘継続能力を喪失、沈黙してゆく。 今のところ爆沈する艦は無いものの、既に7隻が戦闘継続不能。 しかし残る敵艦の攻撃はより激しさを増し、巨大艦からは更に複数の艦艇が姿を現す。 戦況は良いとは云えず、しかし予想の範囲を脱するものではなかった。 『間も無く分岐ポイント。各機、指定侵入口へと向かえ。555、670、272へ。各機、ダクト外周装甲を破壊せよ』 18機の「R」は最大加速。 其々が複数のノズルより噴射炎の尾を引きつつ、次元消去兵器の光を潜り抜け、立ち塞がる敵艦の艦首へと波動砲を叩き込み、無数の光弾をフォースによって防ぎながら、遂に目標外殻へと到達する。 減速を行う事なく、6機ずつが異なる方向へと機首を向け進路を変更、フォースを用いて外殻へと「強行着陸」。 凄まじい火花と衝撃、巻き上げられる外殻装甲の破片を気に留める事もなくそのまま再度加速、巨大艦の装甲を文字通り「喰らい」ながら、全速で侵入地点を目指す。 侵入地点は3箇所。 巨大艦を構成する6つの部位の内3つ、末端に設けられた巨大な排気ダクトらしき設備。 オウル・アイの精密スキャンにより、中央動力区に繋がっている可能性が高いとの事が判明したのだ。 突入隊がここから内部へと侵入し動力区を捜索、工作機の侵入経路を確保するというのがこの作戦の内容である。 これはバイドに汚染された巨大施設に対する制圧戦に於いて、過去幾度となく用いられた作戦であり、その都度非常に大きな戦果を上げていた。 艦隊を用いて施設ごと吹き飛ばすのではなく、中枢となる機能または生命体を制圧する事によって、施設と戦力、双方の被害を抑える事ができるのである。 無論、パイロットには非常に高い技術と冷徹なまで戦術眼が求められるが、「R」の火力を生かす事ができれば、僅か数機で汚染された巨大基地を奪還する事も可能だった。 そして今回も、過去にそれらの作戦へと従じた経験を持つ3名のパイロットによって、同様の手段が採られる事となったのだ。 『670より「ベートーヴェン」、目標を確認した。突入に備えろ』 『ベートーヴェンより670、了解した。援護に感謝する。ターゲットアプローチ、ナウ』 その内の1名が搭乗する漆黒の機体、R-13A。 地獄の番犬「ケルベロス」の名を冠されしその機体は、周囲を固めるR-9Sの編隊中から跳び出す様に機首を上げ、更に上下の向きを入れ替えると、ループを描きつつ巨大艦の頂端部へと突き進む。 一拍遅れて機首を上げ始めた5機のR-9Sは、より急角度のループを描きつつ頂端部へとアプローチ、側面から掠める様にして接近。 そして、5機のフォースに青い光が集束を始める。 『こちらベートーヴェン、アプローチまで10秒』 『670、侵入口を確保せよ』 5機の上方より、逆落としに突進するR-13A。 その姿を視認する事もなく、670攻撃隊は命令を実行した。 『5秒』 『670各機、シュート』 R-9Sに装備された、量産機としては最強の威力を誇る波動砲。 最上級の対エネルギー・対物理装甲を除くあらゆる装甲・障害を撃ち抜き、自然地形すら貫通する理不尽なまでの暴力。 横一列に並んだ5機のR-9Sより、凄絶な閃光と共に一斉発射されたそれが、スノー・クリスタル頂端部の構造物を根こそぎ消し飛ばす。 巨大な光の壁が通過した後に残るのは、幅20m程の半球状に抉られた溝が5つ、そして内部へと続く暗い口を開けたダクトのみ。 直後、遮る物の無くなったダクトへとR-13Aが突進。 侵入直前、その機首より紫電の光が奔り、ダクト内部の障害物を片端から吹き飛ばす。 R-13A、スノー・クリスタル内部へと突入。 ケルベロスが闇へと消えてから、僅か1秒足らず。 5機のR-9Sが、ダクト上方を最大速度で横切った。 R-9Leo「ハーン」、TL-2A2「ツァンジェン」、R-13A「ベートーヴェン」。 全機、突入成功。 * 『武装局員は中央区へ急行せよ。繰り返す。武装局員は中央区へ・・・』 『1014航空隊及び1406航空隊、第3シャフト防衛線へと急行せよ。2018航空隊・・・』 警報と部隊緊急配置のアナウンス、念話と発声による怒鳴り声、鬼気迫る無数の足音。 時空管理局本局は最早、パニックへと陥りつつあった。 無数の小型次元航行艇による本局への直接攻撃。 XV級時空航行艦大破。 未知の質量兵器による大規模破壊。 全てが現在の管理局にとって未経験の事態であり、最悪の事態。 冷静な判断力を保っていられる者は、極一部に過ぎない。 そして彼女は、その数少ない冷静さを保った人物の1人だった。 「地上本部との連絡は?」 『現在クラナガン近郊に於いて、所属不明機体群との戦闘が展開されています! 通信が錯綜していてとても・・・!』 「戻る事はできないか」 『本局周辺でのアルカンシェル炸裂の余波により、周囲の空間座標に歪みが生じています! 艦外への転送は自殺行為です!』 シグナム。 主である八神 はやてと共に捜査に当たった事件について、詳細な報告を行う為に本局を訪れていた人物。 期せずして不明勢力の襲撃に居合わせた彼女は、今できる事を冷静に思考する。 主は大丈夫だ。 地上にはヴィータが、なのはが居る。 いざとなればザフィーラも駆け付けるだろう。 今、自身にできる事は、本局を襲う不明勢力に対する迎撃戦に加わる事だけだ。 「武装隊は敵の侵入に備えているのか?」 『はい、可能性のある各区画へと展開しています。しかし人手が足りない為、正規武装局員以外にも多数の局員が協力を申し出ています』 「では私達も加わろう。構わないな、アギト?」 「一々訊くなよ、決まってんじゃねぇか」 シグナムの背後から、小さな影が現れる。 融合騎、アギト。 問い掛けに対し不敵に答えるその様子に、シグナムは薄く笑みを洩らす。 そして中央センターへと、防衛網の配備状況を表示するよう要求。 新たに表示されたウィンドウを前に、向かうべき地点を考慮する。 そんな彼女の目に、見慣れた人物名が飛び込んだ。 「テスタロッサ・・・ランスター・・・なるほど、考える事は同じか」 外殻より魔力炉へと続く、6つの緊急用圧縮魔力排気ダクトの内1つ。 そこに、フェイト・T・ハラオウン、ティアナ・ランスター両名の名が表示されていた。 * 黄色の閃光が闇を照らし、行く手を遮る構造物を薙ぎ払う。 薄い壁、細かな障害はフォースを盾にそのまま突っ込み、片端から喰らい尽くす。 時折出現するエネルギー障壁は、低集束の波動砲を撃ち込んでやると呆気無く消え去った。 どうやらこの艦の防衛機構は、外殻から艦内への直接侵入を考慮されていないらしい。 障壁は余りに脆弱であり、漆黒の狂犬による蹂躙を止めるには至らなかった。 『トロイカよりベートーヴェン、背後を閉ざされたぞ。まだ隔壁が残っていたらしい。何か異変は無いか』 管制機の声に、彼はコックピット内に空間表示された各計器へと目を走らせる。 大気組成変化検出、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素混合物の発生。 つまり「空気」の発生を意味していた。 「ベートーヴェンよりトロイカ、ダクト内に空気が充満している。あっという間だ。何が起こった?」 『不明だ。ダクト外縁部からは何も検出されていない』 反射的に「ドース・システム」のゲージを見やる。 あらゆるエネルギーを喰らうフォース。 そうして蓄積されたエネルギーを、攻撃に転用するドース・システム。 このダクト内に何らかのエネルギーが満ちているというのなら、フォースがそれを喰らう事によってドース・ゲージが上昇している筈である。 ゲージは、確かに上昇していた。 微々たる値だが、間違いなく何らかのエネルギーを吸収している。 ドース蓄積値、29.65%。 ダクト侵入時より、8%ほど上昇していた。 「こちらベートーヴェン、何らかのエネルギーがダクト内に・・・」 『ツァンジェンより全機。ダクト内にて交戦中、迎撃を受けている』 別地点突入機からの緊急入電。 同時に遥か前方、闇の中に金の光が灯る。 反射的に減速、側面方向へとスライドするものの、限られた空間であるダクト内では、それ以上に打つ手は無かった。 金色の閃光が、轟音と共にダクト内を染め上げる。 機体を揺さ振る激しい衝撃。 真正面からの、大出力エネルギー砲撃だ。 数秒後、光の氾濫が収まり、彼は各種計器を見渡す。 キャノピーに亀裂、ナノ粒子ポリマーによる自動修復開始。 スラスターの1基が損傷、出力60%に低下。 レールガン損傷、継続連射不能。 対バイド素子エネルギーコーティング消失、再構築中。 ドース・ゲージ・・・「100%」。 驚愕と共に、フォースへと目をやる。 赤い光。 フォースのエネルギー蓄積率が最大値に達した証だ。 オーバー・ドース。 「ベートーヴェンよりトロイカ、砲撃を受けた。背後に新たな障壁の展開を確認。敵兵器は・・・」 『トロイカよりベートーヴェン、どうした? 何が起こっている。応答しろ』 再び加速を掛ける直前、彼の目に信じられないものが飛び込んだ。 存在する筈の無い、少なくともバイドの支配下にある空間には、あってはならないもの。 精神干渉を疑う彼の目、その瞳孔の動きを察知したシステムにより、前方に存在するものの姿が拡大表示される。 戦闘中である事すら失念し、呆然とその存在を見詰める彼の耳に、混乱を更に深める通信が飛び込む。 『ツァンジェンよりトロイカ、接敵した。しかし・・・』 『ツァンジェン、どうした』 続く言葉は、眼前の状況を肯定するに十分な説得力を持っていた。 『・・・「女」だ。背中から火を噴く「女」が、ダクト内に立っている・・・攻撃を受けた!』 もう一度、眼前の光景を見る。 柄の長い戦斧の様な物を持つ、金髪の女性。 紺色のコートの上から、白いマントを羽織っている。 自らの口許を指す女性。 会話を希望しているのか? 集音機能を起動、音声を拾い、増幅。 『警告します。直ちに機体を降り、投降しなさい。次元空間に於ける質量兵器の使用及び、時空管理局に対する敵対的行動により貴方を逮捕します』 質量兵器。 時空管理局。 逮捕。 この女は一体何を言っている? そもそも本当に人間なのか? 自分はバイドによる精神干渉を受けているのか、それとも気でも触れたのか。 仮に精神干渉だとしても、こんなものを見せる意図が解らない。 一体、何が起きている? 『・・・繰り返します。直ちに機体を降り、投降しなさい。貴方がたの人権は時空管理局が保障します。降機し、武器を置いて此方へ・・・』 彼は決断する。 こんな事に関わってはいられない。 直ちに動力区を捜索し、工作機の侵入経路を確保しなければ。 何時の間にか停止していた機体を再度加速させ、現地点より離脱を図る。 女性は動かず、ただ見送るだけだ。 その姿を強引に意識の外へと押しやり、しかし警告音と共にその存在からは逃れられない事を悟る。 前方の空間、先程の女性が「空中に立って」いた。 『トライデント・・・』 女性の足下に拡がる、その髪と同じく金色の輝きを放つ円陣。 それと似た物が女性の前面に展開し、更にその左手には同じ輝きを放つ球体が生成されている。 先程の砲撃と同じ光。 無意識の警告に従い、パイロット・インターフェースを通じて咄嗟の指示を下す。 フォース分離、シュート。 コントロールロッドの牙を振りかざし、「アンカー・フォース」が猛然と女性に襲い掛かる。 驚愕の表情を浮かべ、それを回避する女性。 円陣と球体が消滅する。 事情が変わった。 あの砲撃は恐らく、この女によるものだ。 どういった原理によるものかは解らないが、こいつは高出力エネルギー射出機構を備えた「砲台」の様な存在らしい。 と、なれば。 人間であろうとなかろうと、そんな事は関係が無い。 任務を果たす為にも、この女は、この存在は。 女性の姿が掻き消える。 前方、隔壁封鎖。 物理的・エネルギー複合障壁。 そう簡単には打ち破れないだろう。 波動砲の出力を上げれば破れるだろうが、それより先に攻撃を受ける事は想像に難くない。 急制動、反転。 フォースと機体を繋ぐ「光学チェーン」が歪にしなり、先端のアンカー・フォースが蛇の様に鎌首をもたげる。 余りにおぞましく、生物としての原始的恐怖を煽るその姿。 何時の間にか後方へと出現していた先程の女性が「3体」、揃って表情を強張らせる様が、パイロットメット内へと表示されたウィンドウ越しに見て取れた。 ゆっくりと旋回し、彼女達へと向き直るアンカー・フォース。 一連の動きが終了した事を確認し、彼はトリガーに掛けた指へと力を込める。 生かしておく訳にはいかない。 ダクト内に、狂犬の咆哮が響き渡った。
https://w.atwiki.jp/kakugame/pages/2145.html
Rs Museum RT-FINAL(R-M) RT-FINAL2(R-M) RT-FINAL3(R-M)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3812.html
「こいつは一体何なんだ?」 時空管理局第14支局、ロストロギア暫定隔離区域。 クラウディアによって回収された所属不明機。 それに付随していた3つの自立兵装を前に、支局長は解析班主任へと問い掛けた。 直径約6m、オレンジの光を放つ球体。 制御機構らしき4本のロッドを取り付けられたそれは、隔離結界に囲まれた状態で床から3m前後の位置に浮かんでいた。 しかし、重力制御魔法など使用されてはいない。 それは自ら、何らかの力場を発生させて浮遊しつつ、ゆっくりと回転しているのだ。 更にその側には、同じくオレンジに発光する直径2mほどの球体が2つ。 球面の半分を機械部品に覆われたそれらは寸分の狂いも無く同じ速度で回転しており、其々の球体表面は常に同じ角度を保っていた。 6mの球体の周囲を周回するその様は、惑星と衛星の関係を思わせる。 それらの様子を空間ウィンドウ越しに見詰めながら、主任は口を開いた。 「取り付けられた機械部品の文字を名称とするなら、大きい方は「フォース」、小さい方は「ビット」となります。どうもこいつは、あの機体の補助兵装らしいです」 「そんな事は解っている。私が知りたいのは、これがどんな仕組みで成り立っているのかという事だ」 支局長の言葉に、主任は眉間の皺を深くする。 支局長の言葉が不快だったのではない。 多くのロストロギアを目にしてきた自分が、経験から答えを導き出せない事態にいらついているのだ。 「こいつが高エネルギー収束体である事は解りました。しかしエネルギーの塊でありながら、機械部品が物理的に引っ付いている原理が解らないんです」 「魔力は用いられていないんだな?」 「一応、計測機器に反応はあるんですがね。ところが、どれだけトンでもない値が検出されようが、周囲の魔導士は欠片も魔力を感じないときた。おまけに、武装隊から引っ張ってきたインテリジェントデバイスまで、魔力は検出できないと言い出す始末です」 「つまり?」 「機器は誤作動を起こしていた。こいつが持っているエネルギーは、魔力に似ちゃいるが全く別のものって事です」 絶句する支局長。 それを横目に、主任はウィンドウ越しに短く指示を下した。 するとフォース、ビットを映し出すウィンドウに、幾つかの数値が表示された。 「結界内の魔力密度を上昇させます。計測数値を御覧になって下さい」 その言葉に、支局長は値を増してゆく計測数値を見る。 魔力指数、1万、10万、15万、50万と、徐々に数値が増大してゆく。 しかし数値が80万を指した時点で、魔力密度の上昇は唐突に止まった。 結界内を見るも、フォースとビットに変化は無い。 支局長は、納得した様に頷く。 「成程、あれが耐え得るのは80万相当の攻撃までか」 魔力を用いない防御兵装としては妥当なところか。 そう思考する支局長の耳に、主任の指摘が飛び込んだ。 「出力を御覧になって下さい」 その指摘に従い出力計へと目を遣った支局長は、そのまま凍り付いた。 主任は無感動に、数値を読み上げる。 「出力、250万に到達。280・・・320・・・390・・・470・・・500万を突破」 「馬鹿な!?」 やがて、出力計の数値は増大を止めた。 設計限界、安全性を確保した上での最大出力だった。 「630万・・・対象に変化ありません。結界内魔力密度、80万に固定されています」 「吸収・・・? 魔力を吸収している」 「吸収というより、こいつは一定値以上の魔力を「喰って」いるんです。計測方法が無い為、喰われた魔力がどういった形で取り込まれているかは解りませんが」 信じられない現象だった。 今までにも魔力を喰らうロストロギアが無い訳ではなかったが、魔力を有しない存在がそれを為すなどという事例は聞いた事が無い。 何かの間違いではないのか? 沈黙する支局長を余所に、主任は更に指示を出す。 すると魔力密度は通常値に戻り、結界が消えると同時に隔壁の一部が開いた。 そこから、満身創痍の「獣」が姿を現す。 所属不明機、名称R-9A。 ロストロギア運搬用のカーゴに載せられたそれが近付くや否や、フォースと2つのビットは弾かれた様にその機体へと突進した。 支局長の身に、緊張が走る。 しかしフォースは機体へと衝突する事無く、その手前で停止・回転すると、4本のロッドを機首に向ける様にして停止した。 ビットも同様に、機体を中心として対角線上に位置する様に静止、暫くして周回運動を始める。 思わず息を吐く支局長。 「心臓に悪い」 「済みません。しかし、この状態で面白いデータが取れましてね」 「何だ?」 「あのフォースとかいう兵器、単体だと魔力を分解して取り込んじまうんですがね。接触こそしていませんが、こうして機体と接続すると・・・」 すると機体の脇に、武装局員が現れる。 機体前方には再び結界が張られ、それを確認すると、局員は魔法を放った。 機体のすぐ隣から、4本のロッドの内側へ。 何の事は無い、ごく初歩的な射撃魔法。 その、筈だった。 その魔法が、フォースに命中するまでは。 「・・・お解かりになりましたか? この兵器が、如何に危険な存在か」 主任の問い掛けに、返す言葉は無い。 支局長はただ呆然と、焼け焦げた隔壁を見詰めていた。 たった1発の射撃魔法。 それはフォースに命中すると同時、荒れ狂う光の本流となって結界を襲った。 数十発、超高速の魔導弾幕。 三重の結界を一瞬にして打ち破り、隔壁を抉る。 明らかに範囲殲滅魔法と同レベル。 これは、まさか。 「触媒です。何らかの手段で機体と接続する事で、あの兵器は接続面からのエネルギーのみを特異的に触媒・増幅する機能を持っています」 呆然とウィンドウを見詰めれば、今度はフォースの前面から魔法を放つ局員の姿。 しかし今度は、魔導弾は増幅される事無くフォースに喰らわれる。 分解・吸収まで1秒足らず。 いや、その瞬間さえ視認できなかった。 もしや、分解すらせずに一方的に喰らっているのか。 「私個人としては、これはロストロギアの類ではないかと・・・いえ、そうあって欲しいと思いますがね。こんなもの、現在の次元世界の技術力で造り出せる物じゃない」 ウィンドウの向こうで、機体とフォース・ビットを引き剥がす作業が始まっている。 其々の間に結界を張り、カーゴを後退させての強引な分離作業。 やがて接続が途切れたのか、フォースは新たに張られた結界の中心に、ビットはその周囲へと落ち着く。 機体は隔壁の向こうへと消えていった。 「残念な事に今のところ、こいつは第97管理外世界で造られたとの見方が有力です。余りにもプロテクトが固い上に魔法とは互換性が無いんでシステムを覗く事は出来ませんが、其処彼処に使用されている言語から見るに間違い無いかと」 支局長の目が力を取り戻し、主任へと視線を送る。 それに答える様に、彼は結論を伝えた。 「こいつは魔法体系を用いずに造られた、魔法を越える兵器ですよ。異常に発達した科学が生み出した化け物です」 結論が伝えられるや否や、彼は決断する。 「本局に連絡を。それと、この事は解析に関わった者以外には漏らすな」 本局へと、緊急の通信が発せられた。 * バイド。 自己増殖能力を備えた粒子によって構成されながら、同時に波動としての性質をも併せ持つ、超束積高エネルギー生命体。 あらゆる物質へと伝播・干渉する能力を持ち、生態系を侵し、機械を操り、時に精神すら貪る。 従来の兵器は対バイド戦に於いては有効たり得ず、同じく純粋培養したバイド体を用いて製造された「フォース」、本来はアステロイドバスターとして開発され対バイド兵器へと転用された「波動砲」によってのみ、敵性体に対し打撃を与える事が可能。 バイド体の多くは人類の兵器同様に異層次元航行能力を持ち、時に空間ごと軍事施設を取り込み、「汚染」する事さえ確認されている・・・ そんな事は、軍で散々に叩き込まれていた。 バイドは敵勢力を殲滅するに飽き足らず、時にそれらを喰らい、己が勢力の一部とする。 そうして汚染された友軍を、幾度となく目にしてきた。 太陽系外周を、軍事施設を、都市を。 それらを命懸けで守っていた者達が、バイドと化して襲い来る、悪夢の様な光景を。 汚染されたものは数え上げれば限が無い。 それは都市防衛用の小型無人兵器であったり、攻撃型の中型有人機であったり。 大規模殲滅型の大型機動兵器、全長十数kmに達する巨大異層次元航行戦艦だった事さえある。 兵器だけではない。 時にバイドは、戦闘とは全く無縁のシステムを侵食し、人類に対する刃と為す。 災害救助用大型輸送機、都市再生用大規模範囲破砕機、資源採掘坑道輸送システム、廃棄物処理場資源回収システム・・・ 凡そ戦闘を想定して建造されたとは思えぬものですら、バイドによっておぞましい殺戮機構へとその様相を変貌させるのだ。 民間旅客輸送船団に接触したバイド体を目にした時の、悪夢そのものの光景が脳裏を過ぎる。 そのバイドは破棄された研究用小型コロニーの制御中枢に同化、これを復旧すると共に完全に支配下へと置いていた。 緊急用推進システムを稼動させて民間航路を辿り、やって来た輸送船団を丸ごとコロニー内に取り込んで「捕食」したのだ。 そして20時間後。 艦隊が到着した時には、コロニーは既にバイドの資源再生工場と化していた。 建造中の小型艦艇。 「資材」は捕食された輸送船。 培養される有機生態部品。 「原料」が何かなど考えるまでもない。 敵主要兵装破壊より6時間後。 全ては、応援として到着したヘイムダル級戦艦、そして「R-9S STRIKE BOMBER」の編隊による、波動砲の一斉射によって消し飛ばされた。 生存者の捜索は為されず、それに対し意見する声も無かった。 バイドに汚染された旅客達は、どんな心境だったのだろう。 恐怖に蝕まれたのだろうか。 絶望に身を焦がしたのだろうか。 希望に縋ったのだろうか。 怨嗟に狂ったのだろうか。 いや、もしかしたら。 バイドの精神干渉は、それとは全く別のものを齎すのかもしれない。 例えば、対象の精神を取り込むべく、現実としか思えない幻の世界を体験させる事も考えられる。 丁度、自身が体験しているこの状況の様に。 「貴方には時空管理局所属艦艇撃沈の容疑が・・・」 女だ。 女が喋っている。 金髪の、見慣れない褐色の制服に身を包んだ女。 その後にもう1人、同じ服を着た女。 感情の窺えない目で、此方を捉えている。 はっきりとしない思考で、彼は考える。 これも、バイドの見せる幻なのか? 「もう一度訊きます。貴方の所属は? 管理局所属艦艇との交戦に到った経緯は?」 馬鹿げた妄想と笑い飛ばせるほど、彼はバイドに関して無知ではなかった。 4世紀もの時を遡り、時空の壁すら引き裂いて22世紀へと現れた、人の手による絶対生物。 「人類」自らが建造した、禁断の兵器、狂気の産物。 バイドに汚染されて、無事に戻った者は居ない。 バイド化したR-9Aが鹵獲されたという話もあるにはあるが、パイロットが生存していたという話はやはり無い。 恐らく、既に人間ではなくなっていたのだろう。 「内容の如何によっては、管理局が責任を持って貴方の身柄を保証します。質問に答えて下さい」 皮肉な話だ、と彼は思う。 彼の愛機もまた、R-9Aだった。 そう、「R」シリーズですら、汚染からは逃れられない。 「・・・少し間を置きましょう。1時間後にまた来ます。良く考えて下さい」 沈黙を貫く彼に対し、攻め方を変えたのか、女性は席を立った。 もう1人の女性を促し、退室する。 そういえば、「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」とか名乗っていた。 よりにもよって「運命」とは、バイドは思ったより洒落の利く奴らしい。 彼女達の退室を見計らい、彼はパイロットスーツの袖口、隠れた小さな気密ポケットを開く。 そして、小さなカプセルを取り出した。 バイドに相対する者、その全てに与えられる、軍からの小さな贈り物。 自らに2つの選択肢を突き付けるそれを前に、彼は覚悟を決める。 汚染なぞ御免だ。 例えバイドではなかったとしても、「R」に関する情報漏洩を最低限に抑える事は無駄にはならない。 そして、彼はカプセルを呷った。 * 『久し振り、フェイトちゃん、ティアナ』 「久し振り、なのは。はやても」 「なのはさん、八神部隊長、お久し振りです」 『うん、久し振りやなぁ、2人とも』 本局通路、フェイトとティアナはウィンドウ越しに、なのは、はやての両名と言葉を交わす。 久し振りの会話だが、それを喜ぶ余裕が4人には無い。 友人としての会話もそこそこに切り上げ、4人は情報交換を始めた。 『本局が攻撃を受けたって聞いたけど・・・』 「初めはそうと分からなかったんだけどね。外部装甲に数ヶ所、防御結界ごと撃ち抜かれた跡が発見されたんだ。本局自体は大した被害じゃなかったんだけど・・・」 言葉を詰まらせたフェイトに代わり、はやてが言葉を引き継いだ。 『・・・無限書庫、やね』 「うん・・・」 力無く頷くフェイト。 そこで見た光景は、丸1日経った今でも鮮明に思い起こせる。 無限書庫を含む一帯のエリアは、着弾の被害を最も大きく被った範囲に含まれる。 フェイト達が掛け付けた時、通路には負傷者が山と転がり、壁や床、果ては天井までが赤く染まる中、無数の呻きと悲鳴が木霊していた。 負傷者が語った「人間が宙を舞った」との証言からも、衝撃の大きさが予想できる。 そして無限書庫内は、意識を失った人間達が血を流しつつ力無く宙を漂う地獄と化していた。 衝撃と共に無尽蔵とも思える蔵書が書庫内を高速で飛び回り、凶器と化したそれら数十万、数百万、或いは数千万もの本が司書達の身体を容赦無く襲ったのだ。 全身の複雑骨折で済んだ者はまだ良かった。 中には数十トンもの蔵書の波に呑み込まれ、複数の書籍を赤く染める染みと化した者も少なくない。 それどころか消息不明となった者すら居るのだ。 そんな中で、ユーノとその周辺に居た数名の司書は、幸運な者の部類に入った。 「ユーノ、咄嗟に自分と周りの人達を守る様に結界を張ったんだって。余りにも突然の事で、それが限界だったって・・・それでも衝撃までは防ぎ切れなくて、左脚を・・・」 『そっか・・・』 暗い空気。 しかしそれを打ち破る様に、ティアナが声を発した。 「なのはさん、第97管理外世界の方はどうなったのですか? 確か、艦隊が惑星を包囲しているとか・・・」 その問いに、更なる緊張が場に満ちる。 第97管理外世界に起こった異変については、救助と取調べに忙殺されていたティアナ達の耳にも届いていた。 所属不明の大艦隊。 転送ポートの機能麻痺。 極め付けは、時空間航行から脱しようとしていた管理局艦艇への砲撃である。 信じられない事に、第97管理外世界への実体化寸前に砲撃を受けたというのだ。 つまり不明艦隊は、時空間移動時に起こる何らかの変動を感知している事になる。 何もかもが異常だった。 『それなんだけどね・・・フェイトちゃん、ティアナ、落ち着いて聞いてね』 「何? どうしたの、なのは?」 煮え切らないなのはの言葉。 その様子を怪訝に思ったフェイト・ティアナは、軽く首を傾げた。 そして、なのははそれを伝えた。 『第97管理外世界がね・・・「2つ」見付かったんだ』 沈黙が降りる。 誰も言葉を発しようとはせず、そのまま数秒の時間が流れた。 やがて耐え切れなくなったのか、なのはは言葉を続ける。 『私達の地球も確かにあった。でも、そのすぐ側の次元空間にもうひとつ地球があったの。私達の知ってる地球とは、全く違う地球が』 「・・・分からないよ、なのは。一体どういう事なの?」 なのはは答えない。 代わりに、隣のウィンドウに映るはやてが答えを返した。 『その地球はな、フェイトちゃん。私らのいた21世紀の地球やない。百年以上も未来の地球なんや』 フェイトの中で、何かが噛み合わさる。 不明機体に使用されていた言語。 魔力を用いない時空間航行。 超高度テクノロジー。 『フェイトちゃん?』 「ごめん、なのは、はやて。また後でかけ直す! ティアナ!」 「はい!」 ウィンドウを閉じ、来た道を引き返す。 然程間を置かず、2人は先程退室したばかりの取調室前へと辿り着いた。 ドアが開くと、其処には椅子に座したまま項垂れる男性の姿。 不明機パイロットだ。 フェイトは毅然と歩み寄り、声を発した。 「貴方は・・・地球に於ける軍事組織に属しているのでは?」 沈黙。 フェイトは続ける。 「所属する国家は? どういった過程であの機体に搭乗を? 答えなさい!」 沈黙。 男性は答えない。 「貴方の属する世界は、現在非常に危険な状態にあります。地球は次元世界について何処まで把握しているのですか? 質問に答えて・・・」 言葉が途切れる。 男性は反応しない。 その様子に、フェイトとティアナは不審を抱いた。 咄嗟に、ティアナが男性の肩を掴む。 その身体が、ぐらりと揺れた。 ティアナの手をすり抜け、重心を崩して床へと叩き付けられる。 沈黙は、一瞬。 取調室に、フェイトの声が奔った。 「ティアナ! 医務室!」 「はい!」 「しっかり! 目を開けなさい! しっかりしてっ!」 フェイトの必死の叫びが、取調室に響き渡る。 しかし、それに応えるべき者が声を発する事は無かった。 * 《クロックムッシュⅡよりアイギス》 報告。 調査の結果、不明惑星は21世紀初頭の地球と判明。 バイドは探知できず。 2207時、異層次元航行による所属不明艦の転移を確認。 ニーズヘッグ級及び「R-9A4」6機により迎撃するも、不明艦は異層次元へと逃亡。 「R-9E3」による追跡の結果、異層次元ポイント19667305に高度文明都市を確認。 追加調査の結果、ポイント04137003にて確認された超大型異層次元航行艦艇との関連性が浮上。 バイド係数、検出不能。 指示を待つ。 《アイギスよりクロックムッシュⅡ》 照合終了。 貴艦隊が異層次元ポイント04137003にて確認した大型艦艇について、再度の強行偵察の結果、バイドによる汚染が確認された。 ポイント19667305の都市についても、2166年8月の時点に於いてバイド種子の落着が確認されている。 現在の21世紀地球に対する包囲を解き、速やかにこれらの目標を制圧せよ。 敵攻撃手段の喪失を確認後、本隊の到着を待て。 《クロックムッシュⅡよりアイギス》 任務を確認する。 対象の殲滅をもって任務達成とするのではないのか? 更に此方の偵察では、両目標に対するバイド汚染は確認されなかった。 パイロット達は混乱している。 収集情報の厳密な確認を要求する。 《アイギスよりクロックムッシュⅡ》 ポイント04137003の大型艦艇に停泊する多数の攻撃型艦艇について、363部隊機を撃墜したものと同型である事が確認されている。 363部隊機が交戦していたのはバイドにより汚染された艦艇であり、これを無条件にて援護した不明艦は同じくバイドにより汚染されていると考えられる。 繰り返す。 21世紀地球に対する包囲を解き、速やかにこれらの目標を制圧せよ。 殲滅する必要は無い。 敵攻撃手段の喪失を確認後、本隊の到着を待て。 追加任務。 此方より実験部隊を送る。 機数1、コールサイン「キャプテン」。 機種は新型、「R-9WF SWEET MEMORIES」。 実戦投入し、「R-9E3」によるデータ収集を実行せよ。 《クロックムッシュⅡよりアイギス》 任務了解。 21世紀、地球。 決して地上から観測される事無く、宇宙空間にてその周囲を包囲していた大艦隊は、僅か2時間足らずの間に5隻の巡洋艦を残し、忽然と消え去った。 彼等が向かうは、異層次元ポイント04137003、超大型異層次元航行艦艇。 そしてポイント19667305、高度文明都市。 その船は、次元世界の住人達より、こう呼ばれていた。 時空管理局本局と。 その都市は、管理世界の住人達より、こう呼ばれていた。 ミッドチルダ首都、クラナガンと。 その指令に秘められた謀略に気付く事も無く。 バイドとの戦いを通して育まれた、壮絶なる「狂気」に踊らされるままに、艦隊は管理局を目指す。 地球を、自らの故郷を守る為、ただそれだけの為に。 己が内の「狂気」に気付かぬまま。 人類は破滅への階段を上り始めた。
https://w.atwiki.jp/uwvd/pages/465.html
# R-TYPE(TACTICS?) # SRCのシステム上どうやってもTACTICSのキモである索敵関連ができない気がするので一部除いて設定はFINALとTACTICSごちゃ混ぜ。無理にシステムを似せても他作品と一緒に登場させようとすると変になるかもしれないし。一応ZOCは入れています。 # とか言いつつ最初の制作者はTACとTAC2しかプレイしたことがありません。STGの方は動画でしか知らないので変な部分が大量にあると思います。勝手に変更して構いません。 # TACTICS以降で初登場したユニットはなるべくTACTICS風にするようにしています。またPOWアーマー、R-9B系列も今のところはTACTICS準拠で。 # パイロットは汎用ロボの兵士達を少々改造してテストを行いました。SPやらアイテムやらで戦略が完全に変わるのは仕様。 # SRCシステムではMAP兵器はものすごい威力を持つので一部機体を除いて波動砲はMAP兵器ではなくなっていますが、オートチャージでもなくなっています。ただしそれなりにENも使います。最初から使うのもどうかと思って一部除いて気力制限。 # これはSRCシステムだとEN自然回復無効を設定しない限り普通に移動するだけではほとんどENを使わないので、POWアーマーを活躍させるためでもあります。補給装置で補給すると気力が下がる仕様もあって乱射はできないようにしている…はず。 # バルカン系:1000未満 # ミサイル系:1000前半 # レーザー系:1000中間くらい # 波動砲系:2000以上 R-9A/アロー・ヘッド アロー・ヘッド, R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2500, 160 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=追尾ミサイル ハードポイントLv1=ビット 合体=合体 R-9A/アロー・ヘッド(フォース) スタンダード・フォース 3900, 160, 1000, 80 AAAA, RTYPE_R-9A.bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH スタンダード波動砲, 2000, 1, 4, +20, -, 40, 110, AAAA, +20, - # TACTICSに則ってバルカンにしたけれど、超高速電磁レールキャノンの方がいいのかな。 # ミサイルは最初から装備されていますが、ビットはTACTICSには登場しないので強化パーツ扱いとなっています。地味にあると便利なのは元と変わらない。 # 移動はSRCでは4が基本らしいので4にしてあります。戦闘機だからサイズSにしようと思ったら設定的にMだった。 R-9A/アロー・ヘッド(フォース) アロー・ヘッド(F), R戦闘機, 2, 2 空水, 4, M, 2500, 160 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=追尾ミサイル ハードポイントLv1=ビット バリアシールドLv2=フォース 物 - - 分離=フォース分離 R-9A/アロー・ヘッド スタンダード・フォース 3900, 160, 1000, 80 AAAA, RTYPE_R-9A(F).bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH 反射レーザー, 1300, 2, 2, +10, 14, -, -, AACA, +5, BP サーチレーザーV, 1400, 1, 1, +20, 18, -, -, AACA, +5, 射B 対空レーザー, 1500, 2, 2, +0, 14, -, -, AACA, +5, BP スタンダード波動砲, 2000, 1, 4, +20, -, 40, 110, AAAA, +20, - # TACTICSだとサーチ(黄)の方が威力は強いけどSTGでは対空(赤)が強いらしいので。 # スペシャルウェポンはどう表現しようか悩み中。TACTICSにはなかったし。気力指定? # レーザーはほとんどそのまま持ってきたが、SRCシステムでP属性はやたら便利になってしまうので自重すべきかもしれない。 # ちょっとはフォースによる防御を表現したかったのでバリアシールドで。全部にしたら強すぎたので物理限定。 # 前後付け替えが再現できないため、バリアではなくバリアシールドにして各方向からの攻撃に対応してがんばって付け替えてる…と考えてます(発動しなかったら付け替え失敗したと言うことで)。強い攻撃はあっけなく通すのもSTG再現(?)。 R-9D/シューティング・スター シューティング・スター, R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2500, 160 特殊能力 ZOC=非表示 ハードポイントLv1=ビット 合体=合体 R-9D/シューティング・スター(フォース) ディフェンシヴ・フォース 3800, 160, 900, 70 AAAA, RTYPE_R-9D.bmp 誘爆ミサイル, 1200, 2, 2, -10, 5, -, -, AAAA, -10, 実P 圧縮波動砲, 2200, 1, 5, +20, -, 80, 120, AAAA, +20, M直 # 試しにMAP兵器付きも。チャージはありませんがそれなりの気力が必要、またEN消費も多いです。 R-9D/シューティング・スター(フォース) シューティング・スター(F), R戦闘機, 2, 2 空水, 4, M, 2700, 170 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=ディフェンスレーザー ハードポイントLv1=ビット バリアシールドLv2=フォース 物 - - 分離=フォース分離 R-9D/シューティング・スター ディフェンシヴ・フォース 3800, 160, 900, 70 AAAA, RTYPE_R-9D(F).bmp 誘爆ミサイル, 1200, 2, 2, -10, 5, -, -, AAAA, -10, 実P ツインレーザー, 1300, 2, 2, +0, 14, -, -, AACA, +5, BP 着弾分散レーザー, 1400, 1, 1, +10, 14, -, -, AACA, +5, 射B ディフェンスレーザー(表示用), 1500, 1, 1, +20, 18, -, -, AACA, +5, 射B|攻反 圧縮波動砲, 2200, 1, 5, +20, -, 80, 120, AAAA, +20, M直 # ディフェンスレーザーは現時点では迎撃専用。通常時は使えません。 # ただ他の迎撃専用武器含めSTGでは普通に攻撃していたので変えるかも。 R-9B/ストライダー ストライダー, R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2600, 160 特殊能力 ZOC=非表示 ハードポイントLv1=ビット バリアLv4=バリア弾 実 20 手動 近接無効 3600, 180, 1000, 65 AAAA, RTYPE_R-9B.bmp 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH 誘爆ミサイル, 1200, 2, 2, -10, 5, -, -, AAAA, -10, 実P バルムンク試作型, 1700, 2, 4, +10, 1, -, 100, AAAA, +10, 実P # TACTICS2仕様。バルムンクはとりあえず試作型。 # バリア弾は弾数制限表現のため少しEN多め。攻撃として使ってもどうしようもないらしい(STG)ので完全にバリア扱い。 # 盾は減少量がS防御レベルで決まるのがなぁ…。 # バルムンク, 1800, 2, 4, +20, 1, -, 100, AAAA, +20, 実P R-9Sk/プリンシパリティーズ プリンシパリティーズ, R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2500, 160 特殊能力 ZOC=非表示 ハードポイントLv1=ビット 合体=合体 R-9Sk/プリンシパリティーズ(フォース) ファイヤ・フォース 3800, 160, 1000, 80 AAAA, RTYPE_R-9Sk.bmp 光子バルカン, 800, 1, 1, +0, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 誘爆ミサイル, 1200, 2, 2, -10, 5, -, -, AAAA, -10, 実P 灼熱波動砲, 2200, 1, 4, +20, -, 50, 115, AABA, +20, 火 # 火。とにかく火。 R-9Sk/プリンシパリティーズ(フォース) プリンシパリティーズ(F), R戦闘機, 2, 2 空水, 4, M, 2500, 160 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=ファイアーバリア ハードポイントLv1=ビット バリアシールドLv2=フォース 物 - - 分離=フォース分離 R-9Sk/プリンシパリティーズ ファイヤ・フォース 3800, 160, 1000, 80 AAAA, RTYPE_R-9Sk(F).bmp 光子バルカン, 800, 1, 1, +0, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 誘爆ミサイル, 1200, 2, 2, -10, 5, -, -, AAAA, -10, 実P チェーンファイア, 1300, 2, 2, +0, 14, -, -, AACA, +5, B火P ファイアーボム, 1400, 1, 1, +10, 18, -, -, AACA, +5, 射B火 ファイアーバリア(表示用), 1500, 1, 1, +20, 18, -, -, AACA, +5, 射B火|攻反 灼熱波動砲, 2200, 1, 4, +20, -, 50, 115, AABA, +20, 火 # 見事に炎ばかり。 TX-T/エクリプス試作型 エクリプス試作型, R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2600, 160 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=追尾ミサイル ハードポイントLv1=ビット 変形=加速 TX-T/エクリプス試作型(加速) 3800, 190, 1000, 75 AAAA, RTYPE_TX-T.bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH XPSレーザー, 1300, 2, 2, -15, 7, -, -, AACA, +5, BP 衝撃波動砲, 2100, 1, 4, +20, -, 50, 110, AAAA, +30, 爆 TX-T/エクリプス試作型(加速) エクリプス試作型(加速), R戦闘機, 1, 2 空水, 5, M, 2600, 160 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=追尾ミサイル ハードポイントLv1=ビット 変形=減速 TX-T/エクリプス試作型 EN消費Lv1 回避強化Lv-4=非表示 3800, 190, 1000, 75 AAAA, RTYPE_TX-T(S).bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH XPSレーザー, 1300, 2, 2, -15, 7, -, -, AACA, +5, BP 衝撃波動砲, 2100, 1, 4, +20, -, 50, 110, AAAA, +30, 爆 # 移動力が上がって回避が低くなる加速。下がるのはユニットじゃなくてパイロット能力。 # EN消費が地味に痛いです。加速しまくっているといつの間にか波動砲が撃てなくなります。 R-11S/トロピカル・エンジェル トロピカル・エンジェル, R戦闘機, 1, 2 空水, 6, S, 2700, 170 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=ロックオンビーム ハードポイントLv1=ビット 3000, 140, 700, 100 AAAA, RTYPE_R-11S.bmp バルカンType2, 750, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 光子魚雷, 1150, 2, 2, -15, 6, -, -, AAAA, +5, 実 ロックオンビーム, 1500, 2, 4, +30, -, 30, -, AAAA, +10, BP誘 # とりあえず作ってみたその1。捕獲弾は考え中。無いままになりそうな気もする。 # 撃ち逃げは…インクル作ればなんとかなるかも。この時点で移動後使用可能で射程4で迎撃もできないロックオンビームが恐ろしすぎますが。 # 回避はものすごくパイロットに性能を左右されます。そもそもSRCシステム上必中持っている相手にとっては紙……。 R-9DP/ハクサン ハクサン, R戦闘機, 1, 2 空水, 3, M, 2800, 180 特殊能力 ZOC=非表示 迎撃武器=追尾ミサイル ハードポイントLv1=ビット 4200, 180, 1200, 60 AAAA, RTYPE_R-9DP.bmp 追尾ミサイル, 1100, 2, 3, +0, 7, -, -, AAAA, -10, 実PH 爆雷, 1300, 2, 2, -15, 3, -, -, AAAA, +5, BP 突撃ハクサン, 2000, 1, 1, -5, -, 20, -, AAAA, +5, 突 パイルバンカー, 3000, 1, 1, +20, -, 60, 140, AAAA, +30, 攻接貫 # とりあえず作ってみたその2。パイルバンカーは射撃じゃなくて格闘攻撃。故にパイロットを選…ばなくてもいいかも。 # ハクサンはまだMですが、アサノガワとケンロクエンはサイズLになりそうな気がする。 # 浪漫武器なので無駄に必要気力が高くて使いにくい。 # 爆雷の攻撃範囲は視点が違うからどうしようもない。波動砲の時点で既にそうだけど。対地専用にするか? # とりあえず突撃ハクサンは突属性つけていますが、どうやって切り払うんだろう? ヘクトール ヘクトール, R戦闘機, 1, 2 空陸水, 3, M, 2800, 180 特殊能力 ZOC=非表示 変形=飛行形態 ヘクトール(飛行形態) 4000, 190, 1100, 60 AAAA, RTYPE_THw-01.bmp 衝撃波動砲, 2100, 1, 4, +20, -, 60, -, AAAA, +30, M投L1AL4 圧縮波動砲, 2200, 1, 5, +20, -, 70, -, AAAA, +20, M直AL4 超絶波動砲, 2600, 1, 6, +20, -, 150, -, AAAA, +10, M扇L1AL9 ヘクトール(飛行形態) ヘクトール(飛行形態), R戦闘機, 1, 2 空水, 4, M, 2800, 180 特殊能力 ZOC=非表示 変形=人型形態 ヘクトール 4000, 190, 1000, 70 AAAA, RTYPE_THw-01(F).bmp 超絶波動砲, 2600, 1, 6, +20, -, 150, -, AAAA, +10, M扇L1AL9 # とりあえず作ってみたその3。TACTICSと同じようにオートチャージ式にするとどうなるか試験中。完全には動きません。 # …このデータの時点でいろいろ壊れている気がしないでもない。 # メモ # 他に戦艦艦首砲以外でMAP兵器扱いの予定は各中距離支援機(M直)、ワイズ・マンの誘導式波動砲(M線)、ウォー・ヘッドの拡散波動砲(M拡)。ケルベロス系統と人型機は未定。戦闘アニメは設定がしっかりしてから。バイド側を考えるのはいつの日になるのやら。 # 索敵と亜空間は最初に書いた通りインクルードでも書かないと無理な気がする。 # ミッドナイト・アイはSRCではFINAL仕様にしかできない気がする。…乗ったパイロットが必ず偵察SP使えるようになるとか? # ジャミングはステルスで何とかしようと思ったらステルスの広範囲版がなかった。ECMにするか。 # ナルキッソスの武器は切り払い系になるんだろうけど、迎撃とは別能力になるからパイロットがややこしくなりそう。 TP-2/POWアーマー POWアーマー, 補給機, 1, 3 空陸水, 4, M, 2000, 140 特殊能力 補給装置 迎撃武器=バルカン ZOC=非表示 3200, 140, 1200, 70 AAAA, RTYPE_TP-2.bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 === デコイ発生, 召喚Lv1=TP-2/POWアーマー(デコイ) 解説=デコイ(おとり)を作成する, 0, 1, -, -, - # とりあえず迎撃機能持たせてありますが、TACTICSとこれの迎撃はまるで違うのでなくてもいいかも。 # デコイ関連については少々妥協した場所あり。 TP-2/POWアーマー(デコイ) POWアーマー(D), 補給機, 1, 3 空陸水, 4, M, 0, 140 特殊能力 召喚ユニット=非表示 追加パイロット=デコイユニット(汎用) ZOC=非表示 3200, 140, 1200, 70 AAAA, RTYPE_TP-2.bmp # デコイであることがバレバレですが、人と対戦することはないのでこれでもいいかと。 # デコイなので修理費はありません。 # 自爆は追加パイロットのSPで再現しています。 工作機 工作機, 工作機, 1, 3 空水, 3, M, 2000, 140 特殊能力 修理装置 補給装置 迎撃武器=バルカン ZOC=非表示 2800, 100, 800, 70 AAAA, RTYPE_Rr2o-3.bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 # フォース スタンダード・フォース スタンダード・フォース, フォース, 1, 2 空陸水, 3, S, 2200, 150 特殊能力 ZOC=非表示 合体=合体 R-9A/アロー・ヘッド(フォース) R-9A/アロー・ヘッド 3000, 200, 1400, 60 AAAA, RTYPE_StandardForce.bmp バイド粒子弾, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 フォースシュート, 1600, 1, 1, +20, -, -, -, AAAA, +10, KL0 # 少し固くしてみた。 # SRCでは移動先で分離ができないという仕様上ちょっと使いづらい。 ディフェンシヴ・フォース ディフェンシヴ・フォース, フォース, 1, 2 空陸水, 3, S, 2200, 150 特殊能力 ZOC=非表示 合体=合体 R-9D/シューティング・スター(フォース) R-9D/シューティング・スター 3400, 200, 1400, 60 AAAA, RTYPE_DefensiveForce.bmp バイド粒子弾, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 フォースシュート, 1600, 1, 1, +20, -, -, -, AAAA, +10, KL0 ファイヤ・フォース ファイヤ・フォース, フォース, 1, 2 空陸水, 3, S, 2200, 150 特殊能力 ZOC=非表示 合体=合体 R-9Sk/プリンシパリティーズ(フォース) R-9Sk/プリンシパリティーズ 3200, 200, 1400, 60 AAAA, RTYPE_FireForce.bmp バイド体液, 750, 1, 1, -5, -, -, -, AAAA, +0, 射 フォースシュート, 1600, 1, 1, +20, -, -, -, AAAA, +10, KL0 # 母艦 ヨルムンガンド級 ヨルムンガンド級, 戦艦, 1, 1 空水, 3, L, 4000, 180 特殊能力 母艦 迎撃武器=バルカン ZOC=非表示 5000, 190, 1200, 50 AAAA, RTYPE_UFCS-05.bmp バルカン, 700, 1, 1, -10, -, -, -, AAAA, +0, 射銃 === デコイ発生, 召喚Lv1=ヨルムンガンド級(デコイ) 解説=デコイ(おとり)を作成する, 0, 1, -, -, - # 移動を2にしたらいくらなんでも遅すぎたので3に。 # 搭載制限をしたい場合は銃鉄さんのインクルード(http //freett.com/whisperblue/)を使うといいかも。 ヨルムンガンド級(デコイ) ヨルムンガンド級(D), 戦艦, 1, 1 空水, 3, L, 0, 180 特殊能力 召喚ユニット=非表示 追加パイロット=デコイユニット(汎用) ZOC=非表示 5000, 120, 1200, 50 AAAA, RTYPE_UFCS-05.bmp # 今のところ追加パイロットはめんどくさいので統一してありますが、変えた方がいいのだろうか。 ヘイムダル級 ヘイムダル級, 戦艦, 1, 1 空, 3, XL, 12000, 220 特殊能力 母艦 迎撃武器=ギャラルホルン砲 ZOC=非表示 12000, 300, 1300, 60 AAAA, RTYPE_UFBS-010.bmp 追尾ビーム, 1000, 3, 5, +0, -, 10, -, AACA, +0, B ギャラルホルン砲, 1500, 3, 5, +5, 8, -, -, AAAA, -10, 実H 艦橋と主砲, 1500, 3, 5, -10, -, 30, -, AACA, +0, B ブルドガング砲, 2800, 1, 6, +20, -, 110, 115, AAAA, +10, M直 # とりあえず作ってみたその4。 # 最初はサンプルシナリオのあれをいじって巨大ユニットを作りたかったけど挫折。撃ちまくりたかったんだけどなぁ。 # ほとんど勝手に数値設定してます。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3821.html
時空管理局本局、20番ドック。 XV級次元航行艦クラウディアの艦長室にて、クロノは複数のウィンドウを展開し、表示される情報に随時視線を走らせる。 新暦54年、L級次元航行艦エスティア撃沈時の映像解析資料。 戦略魔導砲アルカンシェル発射時に於ける、空間歪曲及び反応消滅発生理論。 先の戦闘に於いて確認された各種不明機体情報及び、回収された残骸の解析経過報告。 クラナガンを襲った人型兵器の残骸及び、「乾燥した」パイロットの死体、もしくは「無人」のコックピットを写した記録映像。 魔獣によって喰い千切られたかの如き凄絶な跡を残し、広範囲に亘り文字通りに消滅した本局構造体の解析結果。 クラナガン西南西20kmの地点に穿たれた、直径30m、深さ40kmにも達する「穴」に対する調査活動の中継映像。 大型機動兵器の残骸、ゆりかご及び他の次元航行艦に対する画像解析結果。 それらのウィンドウを見据えるクロノの表情からは、一切の感情というものが抜け落ちていた。 人形の様に無機質。 機械の様に冷徹。 彼を良く知る者ならば、すぐに気付いた事だろう。 クロノ・ハラオウンは今、脳髄を焦がさんばかりの憤怒に支配されているのだと。 感情の爆発ではなく、魂すら凍て付いたかとすら思わせる冷徹さこそが、クロノという人間の怒りを表現する手段であった。 『秘話回線5517、接続を申請』 「許可する」 新たにウィンドウが展開、プログラムがクロノ宛ての入電を告げる。 回線の接続を許可すると、ウィンドウに相手の顔が表示される事はなく、音声のみでの通信が開始された。 『ハラオウン提督、私だ』 男性の声。 些か慇懃無礼な印象を受けるが、クロノは気にも留めずに声を返す。 「結果は?」 『単刀直入に言う。君の懸念は正しかった』 沈黙。 クロノはウィンドウの1つ、アルカンシェルに関する論文を見やる。 ややあって、彼は言葉の先を促した。 「具体的には?」 『弾体炸裂時の反応消滅だが・・・こいつは机上の空論も良いところだ。空間歪曲による範囲限定型高密度次元震の人為的発生により対象を分子レベルで破壊する、との事だったが』 更に展開される複数のウィンドウ。 其処にはアルカンシェル発射時に於ける魔力量の変動値、弾体魔力素の拡散経路、空間歪曲時の魔力輻射範囲等が表示されている。 『・・・とてもではないが、広域破壊を伴う次元震の誘発には魔力が足りない。次元航行艦搭載型の魔力炉程度では、精々が大規模転送止まりだ』 「転送?」 思いもよらぬ言葉を聞いた、とばかりに眉を顰めるクロノ。 通信の相手は、特に感慨も無いかの様に言葉を続けた。 『そうだ。過去、アルカンシェルの炸裂点はいずれも、大規模反応消滅によって空間ごと抉り取られ崩壊した、と考えられていた訳だが』 一旦言葉を区切り、深く息を吐いて続ける。 『実際には、転送によって何処とも知れぬ空間へと吹き飛ばされていた、という事だ』 「・・・何処だ、その空間とは」 『正確には解らない。だが、予想は付く』 「・・・虚数空間か」 苦々しく呟くクロノ。 その声に応えるかの様に、通信の向こうからも疲れた様な声が発せられた。 『ご明察。プレシア・テスタロッサの時と同じだ。但しこちらは、正しく数秒の内に其処へと放り込まれる事となるが』 「物理破壊を伴わない戦略魔導兵器か。とんだ欠陥品だった訳だ」 『そうでもない。少なくとも今までは、それで問題は無かった。一切の魔力素が無効化される虚数空間に放り込まれれば、例えSSSランクの魔導師だろうが、真竜クラスの生命体だろうが、戦略魔導兵器を搭載した次元航行艦だろうが関係ない。 例外なく無力化され、いずれは朽ち果てる』 「闇の書は? 新暦だけに限っても、4回はアルカンシェルの砲撃を受けている。だが、あれは転生を果たしているぞ」 『恐らく虚数空間を感知した時点で、転生機能が発動していたのだろう。間違いではない。虚数空間への沈降は、例えロストロギアであろうと死以外の何物でもないだろうからな』 「しかし例外があった」 溜息。 疲労を吐き出さんとするかの様なそれが、通信独特のエコーを伴って艦長室に響き渡る。 やがて発せられた声は、何処か諦観の滲んだものだった。 『・・・例外というよりも、規格外だな。虚数空間を自在に航行し、尚且つ通常次元世界への転移を任意に行える存在。そんなものは「アルハザード」の遺産でもなければ有り得ない筈だったが・・・』 「よりにもよって一切の魔法技術体系を用いずに、次元間航行を実現した技術体系が存在した。成程、初めから魔力など用いてはいないのなら、虚数空間も通常次元世界も関係ない、か」 『そして彼等が普遍的に虚数空間を活動圏としていたというのならば・・・空間歪曲兵器が実用化されてからの400年余り、次元世界は彼等の許に「不法投棄」を繰り返してきたという事になる。 それが彼等にとって災厄か、それとも望外の幸運だったのかは解らないが』 「幸運だと?」 場違いな言葉に、クロノの声に険が混じる。 しかしそれとは逆に、通信の相手は何処か楽しげなものへと声を変えた。 『おや、違うのかね? 管理局としては、その方が都合が良い筈だが』 クロノは押し黙る。 その言葉は的確に、管理局の真意を突いていた。 だからこそ、迂闊な事は言えない。 しかしそんなクロノの心情を量る事もなく、或いは意図して無視しているのか、男性の声は嘲笑の感すら含みつつ紡がれ続ける。 『彼等の技術体系がロストロギアを基に発展したものであれば、それがいずれ来る強制執行の理由付けとなる・・・第97管理外世界を、管理世界の総意を以って統治下に置く為のね』 沈黙。 言葉は続く。 『管理局にとって、第97管理外世界は取るに足らない世界であると同時に、常に警戒せざるを得ない世界だった。 氾濫する質量兵器、単一世界とは思えぬ程の人口、多宗教・多民族・国家間に亘り継続される壮絶な内戦・・・管理世界は常に、ある種の強迫観念に取り付かれている』 「・・・強迫観念、だと?」 『惚ける必要はない。ミッドチルダに程近い世界では、誰でも知っている事だ』 男性の言葉によって抉られる、管理局とその管理世界に付き纏うとある懸念。 クロノ自身もその可能性を危惧しつつ、しかし同時に、決して現実になる事はないと確信していた事柄。 なって欲しくはないと、無意識下に目を瞑っていた可能性。 『いずれ独自に次元世界への進出を果たすであろう第97管理外世界によって、再び質量兵器による戦火が立ち上るのではないか。 純科学技術体系の異常進化の果てに、魔法技術体系によって成り立つ管理世界の安寧を脅かすのではないか。この50年余り、管理局は常にその可能性を恐れていたのだろう?』 返す声は無い。 クロノは無言のまま、消滅した第14支局にて解析されていた不明機体「R-9A ARROW-HEAD」の画像、同ウィンドウ内に表示された「PROJECT R-TYPE」の文字を見つめる。 異常な技術、異常な力。 管理世界の理解を越える存在に、そして過去より帰還せし艦に刻まれた、管理外世界の言語。 通信の声は止まらない。 『君とて気付いている筈だ。あの世界の「異常性」に。その秘められし「危険性」に』 沈黙。 クロノは静かに瞼を下ろす。 『文明レベル「9」、ミッドチルダと同レベル。珍しい事じゃない。管理世界に於ける先進文明は大概がそうである上に、これからもその数は増え続けるだろう。 だが発展の下地、基礎技術体系の先駆けとなる先天的魔力制御因子保有種すら存在しない世界がそのレベルに達するなど、管理世界広しといえども存在し得ない・・・その、筈だった』 軽く握られる拳。 『ところが、第97管理外世界・・・所謂「地球」は、それを成し遂げた。一部の極稀な例を除けば、魔力制御因子を身に着けた訳ではない。管理世界から技術が持ち込まれた訳でもない。 独自に発展させた、科学技術のみによって』 新たに展開されたウィンドウに、1人の人物が映し出される。 『そして何より異端なのは、その異常極まる進化の速度だ。この約百年間に於ける、急激な科学技術の発展。 次元世界が魔法技術体系を礎として数百年の時を費やし発展させ、以来千数百年に亘り保持してきた・・・悪く言えば停滞期へと至ったそれと同等のものを、彼等は独力で、しかも僅か百年余りの内に創り上げた』 ウィンドウの表記に光る、取調室の文字。 『技術だけではない。同時に文化も、それに見合うものへと変貌を遂げている。まあ、これは取り立てて見るべきものでもないだろう。 文化的衝突の相手には事欠かなかった訳であるし、決定的な破滅を回避せんとするならば、たとえ建前上ではあっても相互理解と統合的な文化の進歩は不可欠だ』 握られた拳へと、更に力が篭められる。 『そして何より進化が顕著であるのは、彼等の軍事技術だろう。ミッドチルダと然程変わらぬ狭い世界で、あれだけの武力衝突を重ねれば否が応にも技術は進化するだろうが、それを考慮に入れても異常としか言い様がない。 金属薬莢の開発から200年足らずだ・・・たった200年。それだけの時間で彼等は、自らの世界を完膚なきまでに破壊し尽くす程の力を手に入れた。かつてのミッドチルダ、そしてベルカが、800年もの時を費やして完成させた力をだ』 クラナガンの惨状を映し出すウィンドウに表示された犠牲者数、その5桁目に当たる数字が更に2つ数を増す。 『今回の一件で、我々はその行き着く先を垣間見た。これから「地球」が辿り得る、可能性のひとつを。そして管理世界の武力が、彼等の力を前に如何に無力な存在へと成り下がるのかを。 あの不明機体群といい、ゆりかごを支配下に置いている勢力といい、我々の思想では到底、理解出来ぬ存在だよ』 接続中との文字のみが、変わらず表示されたままのウィンドウ。 『あのガジェットを見ただろう、ハラオウン提督。2年前のあれは、暴力の徒ではあっても殺戮の尖兵ではなかった。武装ひとつ取っても、その運用及び設計思想は、管理世界のそれからは掛け離れたものだ。 私は自身が一般的な思考の持ち主とは考えていないが、それでもあれの創造者よりは幾分管理世界寄りだと思える。あれは「勝利」を目的としてはいない。只々、対象の「殲滅」のみをその存在意義としている。 どちらかといえば先史時代・・・古代ベルカが次元世界を席巻していた頃の兵器に近いな。尤も、ゆりかご内部にあったガジェットの原型でさえ、あれ程までに徹底した殲滅機構を備えてはいなかったが。 突き詰めて考えれば、ゆりかごを現代に蘇らせたところで、端から我々の手に負えるものではなかったという事かな』 その言葉に、クロノはゆっくりと瞼を見開き、射竦める様な声で以って言葉を発した。 「・・・貴様がそれを言うか、「ジェイル・スカリエッティ」。あれを蘇らせた貴様が」 返されるは、此方もまた重圧を滲ませる声。 『そうとも、クロノ・ハラオウン提督。ゆりかごを蘇らせたのは、他ならぬ私だ。だからこそ、私はあれを良く知っている。ゆりかごに虚数空間を航行する能力は無い。 その様な機能は備わってはいないし、第一に古代ベルカがそんな超高度技術を開発したという事実すら確認されてはいない』 其処で、男性・・・ジェイル・スカリエッティは一旦言葉を区切り、更に続けた。 『無論、ゆりかごが「2隻」存在したなどという記録も無い』 クロノが更に眉を顰め、新たに2つのウィンドウを展開する。 其々に映し出されるは、クラナガン上空に浮かぶ濃紺青の艦体と無数の次元航行艦、そして本局及び不明機体群に対し自爆型ガジェットによる無差別攻撃を仕掛ける、同じく濃紺青の巨艦と艦隊。 それだけならば、問題が無い訳ではないが、未だ理解の範疇だ。 しかし、双方の映像には、決して有り得ない筈の共通点があった。 あってはならない表示。 誰もが機器の故障を疑ったが、結果的には最も非情な現実が露呈しただけだった。 クラナガンとゆりかごの映るウィンドウ、時刻表示「77.10.27 14 43」。 本局外殻装甲記録映像、時刻表示「77.10.27 14 43」。 2つの記録映像は、全く同じ時を刻んでいた。 「模造品、か」 『どちらがコピーなのか、或いは2隻ともコピーなのか・・・それは分からない。 ひとつだけ確実なのは、彼等がゆりかごを造り上げるだけの、そして虚数空間航行能力を付加するだけの技術力を持ち、管理局のみならず、恐らくは未来の第97管理外世界をも敵対的に認識しているという事だけだ』 「彼等は地球の人間ではないと?」 『少なくとも正気を保った人間ではあるまいよ。自軍の機動兵器に死後数ヶ月が経過した死体を載せ、或いは無人のままに戦場へと送り出す。有人兵器をだよ? にも拘らず、あれらは管理局と不明機体群を相手取り互角に戦線を展開した。 非常用の無人制御システムが、独自に機体を操ってね。AIユニット内部に付着していたゲル状物質が機体制御に干渉していた可能性が浮上してはいるが、詳細については検証中だ。 だが、機体そのものは第97管理外世界のものであるとみて間違いあるまい。 機体各部及び内部機構の表示、その全てにあの世界の言語が用いられていた。あの人型兵器と大型機動兵器は、第97管理外世界にて製造された兵器だよ』 「それでも確定ではないと?」 『闇の書の件を忘れたかね? エスティアだけではない。あのロストロギアは過去に於いて、幾度となく現地文明のシステムを侵蝕している。例え「外殻」がとある文明の産物であるとして、「中身」までもが同郷の徒であるとは限らない』 クロノの脳裏に、掠れて消え掛けた光景が過ぎる。 父の記憶。 幼い自分を肩に乗せ、クラナガンの公園を散策した、夢か現かも判然としないそれ。 振り払う様に、言葉を紡ぐ。 「・・・エスティアは地球に管理されていた形跡がある」 『不明機体は、そのエスティアを追っていた。其処で君の艦と鉢合わせ、交戦の末に拿捕された訳だ。だが恐らく、その一部始終は地球側に観測されていた』 「その結果がこれか」 『君は管理局艦艇を撃沈した所属不明機を調査しようとしただけだろう。しかし考えてもみたまえ。クラナガンと本局を襲った勢力は、ゆりかごや古代ベルカ及びミッドチルダの艦艇、果ては管理局艦艇までをも支配下に置いている。 アルカンシェルにより虚数空間へと消えたエスティアが、どういった経緯で地球によって管理されるに至ったのかは不明だが、その後にあの勢力によって更に拿捕されたのだとしたら? 有人兵器を無人で運用する様な連中だ。有り得ない話ではない。 不明機体は拿捕されたエスティアを追撃中にクラウディアと遭遇し、管理局への敵対と判断した同艦によって拿捕された』 「クラウディアの行動は、エスティアを運用していた勢力に対する加勢と捉えられた」 『そしてエスティアを支配下に置いていた勢力が、闇の書の様に他の存在を侵蝕し制御下に置く、文明にとって天敵ともいえる異質な存在なのだとすれば・・・』 スカリエッティが、言葉を区切る。 一拍の間を置き、クロノは続く言葉を発した。 最悪にして、恐らくは最適の考察を。 「クラウディア・・・延いては時空管理局、及びミッドチルダは・・・「汚染体」と判断された、という事か」 恐らくは、との返答を耳にしつつ、クロノは天井を仰ぐ。 管理局は既に、不明機体との遭遇に際しての彼の対応を、的確なものとして判断していた。 しかし当人にしてみれば、自らが一連の戦闘の引き金を引いたとの認識が消える訳ではない。 それを責める者は居らず、またこれからも表立って現れる事は無いであろうが、それでもその認識は影の様に付き纏う。 不明機体が明らかに攻撃態勢を取っていた事、エスティアが通常の状態でなかった可能性があったなどと知る由も無かった事から、クロノの取った行動はあの時点に於いて最適であったとしか言い様がない。 不明機体のパイロットに対する事情聴取が為されれば、また別の可能性も浮上したかもしれないが、当の人物は隠し持っていたナノマシン型の毒物により自殺してしまった。 彼が何を目的としてエスティアを撃沈したのか、何を根拠にクラウディアを敵対勢力と断じたのか、それらを知る術は永遠に失われたのだ。 恐らく彼は、自身に対する精神干渉を疑ったのだろう。 情報漏洩を避ける為、自ら命を絶ったと考えられる。 現在、本局内に拘留されている7名のパイロット達は、クラナガンでの拘束直後に毒物を押収されていた。 情報を入手する為に、彼等の自殺を未然に防ぐ必要があったのだ。 無論、彼等が大人しく情報を明け渡すと考える者は、1人として存在しなかった。 時を置かずしてヴェロッサ・アコース査察官の派遣が決定され、希少技能「思考捜査」による脳内情報の奪取が実行されたのが昨日。 結果は、誰もが予期しなかったものとなった。 アコース査察官の昏倒。 パイロットの1人が軟禁された部屋の隣室から思考捜査を実行した彼は、魔力による侵入経路を逆探知され、意図して転送された膨大な情報の流入によるオーバーフローを起こしたのだ。 すぐさま彼は医療班に引き渡されたものの、今に至るまで意識を取り戻してはいない。 並列思考をすら可能とする魔導師の脳を圧倒する、電子的・機械的強化を施された不明機体パイロットの脳。 挙句、侵入を図る魔力経路を電子的情報処理技能によって辿り、侵入者の脳に対する破壊工作を実行するその異常性。 最早、搦め手は通用しない。 『まあ、これは単なる憶測に過ぎない。何にせよ、管理局が新たに拿捕したパイロット達が貴重な情報源となるだろう。君達にそれを引き出す能力があるか否かは分からないが』 「極秘とはいえ、司法取引に応じた貴様が言う台詞ではないな、ジェイル・スカリエッティ。現状に不満を持つのは贅沢というものだ」 『確かについ3日前まで、与えられた研究内容はつまらないものばかりだったがね。だがこれは・・・これは、実にエキサイティングだよ、ハラオウン提督』 「何だと?」 『生命操作技術の完成・・・私はその為にゆりかごを欲した。かの船の武力を背景に、何者にも束縛されぬ空間を得る為にだ。ところが、何処とも知れぬ空間より現れた闖入者達は、既にその域へと到達した技術を持っていた。 兵器としての利用ではあるが、「完璧な生命」の創造を成し遂げていたんだ』 「待て・・・「完璧な生命」だと? 何の事だ?」 思わず、スカリエッティの言葉を制止するクロノ。 唐突に現れた「完璧な生命」との言葉に、彼は思い当たる節が無かった。 通信越しのスカリエッティは暫し沈黙し、ややあって納得した様に言葉を紡ぎ出す。 『そういえばまだ言っていなかったかな・・・不明機体が備えていた球状兵装、あれを覚えているかね?』 「・・・ああ」 スカリエッティの問いに、短く答えを返す 忘れる訳がない。 クラウディア艦橋を襲い、クルーに重傷を負わせ、内1名の命を奪った、あの球状兵装。 禍々しいオレンジの光を放つそれが、瞼を下ろす度にクロノの脳裏へと浮かび上がる。 しかし続くスカリエッティの言葉に、徐々に湧き起こる怒りが一転、驚愕へと取って代わられた。 『あれは只の高エネルギー収束体などではない。我々の理解を超えた、既存のあらゆる生命の頂点に立つ存在。正しく「完成された生命体」だよ』 凍り付く思考。 クロノのそれは、あの球体が生命体であるなどと、容易に受け入れる事ができるほど柔軟ではなかった。 否、恐らくは大多数の人間がそうであろう。 光学兵器を放ち、次元航行艦の外殻装甲を破壊し尽くし、艦橋を押し潰した球状兵装。 果たしてそれが生命体であるなどと、どれ程の人間が受け入れられるものだろう。 そんなクロノを余所に、スカリエッティの興奮した声は続く。 『あらゆるエネルギー、あらゆる物理的存在を喰らい、同時に外部より向けられたエネルギーを選択的に触媒し増幅させ、自らは一切の変化なく存在し続ける・・・これを完璧と云わずして何と呼ぶ? あれこそが、私が目指した先に存在する技術の結晶。 あらゆる禁忌を用い、あらゆる倫理を無視し、あらゆる生命の尊厳を踏み躙り突き進んだ先にしか存在し得ない、生命操作技術の極致。それを用いて創造された最上位の生命体、正しく絶対生物。敢えて呼称するならば、そう・・・』 恍惚とした感すら滲ませる、スカリエッティの声。 クロノは割り入る言葉を持たず、只々耳を傾けるばかり。 そして2年前と変わらず、その身に狂気を秘めし科学者は、迷う事なくその名を口にした。 『「人工の生ける悪魔」』 複数のウィンドウが閉じられ、入れ替わりに新たなウィンドウが展開される。 映し出される人影は、紺青の髪に白衣を纏った男性。 広域次元犯罪者にして、時空管理局第5支局ラボ主任、ジェイル・スカリエッティ。 何処か歪んだ笑顔に慈愛の色すら浮かべながら、彼は楽しげに言葉を紡ぐ。 哀れむ様に、しかし同時に、祝福する様に。 『何も問題は無い、ハラオウン提督。あれは管理局にとっても、正しく宝だ。全て解決してみせよう。アルカンシェルも、魔導師と彼等の戦力差も、AMFへの対抗手段も。私に任せてくれるならば、全てを・・・尤も』 彼は、悪魔の誘惑を発する。 『間に合うのならば、の話だがね』 スカリエッティの後方、魔力障壁と強化ガラスの向こうに、第14支局跡より回収されたオレンジの光を放つ球体が、禍々しく胎動を繰り返していた * 取調室へと入室するや否や、八神 はやては違和感を抱いた。 不明機体パイロット、黒髪の男性は、ミッドチルダの雑誌を読んでいたのだ。 彼がそれを希望し、数刻後に差し入れられた物だとは聞き及んではいたが、それでも違和感は拭えなかった。 男性はモーター誌の頁を捲り、その誌面に目を走らせている。 念話を用い、ウィンドウ越しに室内の様子を窺っている面々に、異常が無い事を確認。 聴取の様子は、リンディ・ハラオウン総務統括官を始めとした、複数の人物へと中継されていた。 その理由は言うまでもなく、不明機体の1機が用いた砲撃、戦域へと映し出された幻影だ。 「・・・気に入ったものはありましたか?」 差し当たって、はやては取り留めの無い話題から入る事にした。 地球とミッドチルダに共通する話題のひとつ、彼の読む雑誌に載せられた車についてだ。 男性はちらと視線を上げると、特に感情を浮かべる事なく答えを返す。 「ああ」 「どれです?」 「・・・このオフロードタイプかな。俺の車に似ているんだ」 それだけ言うと、男性は雑誌を机の上へと置いた。 はやても表情を引き締め、名乗り始める。 「私が貴方の聴取を担当する、八神 はやて二等陸佐です。貴方は時空管理局に対し・・・」 「失礼、ヤガミ陸佐。その内容はもう何度も聞かされている。本題に入っては如何だろうか?」 割り入った男性の声に、はやては罪状を読み上げる声を止めた。 改めて男性の様子を窺い見れば、彼は組んだ手を脚の上に置き、何処かしら醒めた目で彼女を見据えている。 下手な搦め手は無用だと判じたはやては、男性から机を挟んで対面の椅子へと座し、単刀直入に用件を切り出した。 「前置きは必要ない様ですね。貴方がたの所属は? 都市、そしてこの艦を襲った理由は?」 意外にも、答えは間を置かずに返される。 「国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊所属、669攻撃隊。同艦隊所属、363部隊機が敵性体追撃中に所属不明艦艇により撃墜・拿捕された件を受け、司令部より都市及び大型艦艇に対する制圧任務が下され、我々は都市に対する軌道降下・強襲を実行した」 「地球の軍事組織なのですね?」 「そうだ」 「現在の西暦は?」 「2174年」 「敵性体とは?」 「363部隊機が追撃していた、所属不明艦艇だ。あれは貴女がたの保有艦艇だったらしいが、既に「汚染」されていた」 「・・・「汚染」?」 思わぬ言葉を聞いたとばかりに、自身もその音を繰り返すはやて。 しかし男性は、それについて語る事は無いとばかりに押し黙ったままだ。 それを察したはやては、すぐさま別の質問に移る。 「・・・大型砲台に対する砲撃の後、積極的攻勢に入らなかった理由は?」 「作戦目標は都市の無力化だった。あれ意外には、明確に兵器と判断できる目標はなかったからだ。何より「人間」が居るとは思わなかった・・・その人間が生身で空を飛び、高エネルギー砲撃を放つとは、更に予想外だったが」 流石にその言葉には内心、苦笑を浮かべざるを得ない。 彼等の驚愕、そして警戒も無理からぬ事だ。 はやてとて魔法の存在を知らずに魔導師を前にすれば、それは自身にとって脅威以外の何物でもない存在として映るだろう。 その後も、互いに表立って敵意を見せる事もなく、聴取は実に順調に進んだ。 そして管理局によって有益な、しかし同時に多数の謎を秘めた情報が引き出されてゆく。 不明機体が「汚染」されたエスティアを追い、その結果クラウディアにより撃墜された事。 一連の経緯は国連宇宙軍艦隊によって観測されており、彼等はクラウディアを追跡、本局及びミッドチルダを発見した事。 ミッドチルダに対しては、アインヘリアルの迎撃能力を警戒し、偵察活動を最小限に留めた事。 なのはと彼等の交渉中に戦域へと突入し、クラナガンに対する無差別攻撃を実行した勢力こそが「汚染体」であり、あれらの兵器群はいずれも「地球製」である事。 クラナガンに多大なる被害を齎した大型機動兵器は「モリッツG」とのコードネームを持つ、旧式の対汚染生態系局地殲滅兵器である事。 「モリッツG」は2164年の時点に於いて、「汚染」により軍の手によって破壊されている事。 独自の判断により司令部からの命令を放棄し、管理局部隊との共闘を開始した事。 ゆりかごを中心とした艦隊もまた「汚染体」である事。 彼等を撃退した戦略級大規模砲撃が、他の攻撃隊によるものである事。 そうして2時間程が経過した頃、はやては一息入れるべく通信を繋いだ。 念話は使用しない。 口頭で会話を行う事で、対象の警戒感を削ぐのだ。 「少し休憩しましょう。何か飲み物のリクエストは?」 「・・・貴女は日本人・・・で良いのか? ゲータレードは分かるかな」 「ああ、似た様なものはあります。ご安心を。軽食は如何です?」 「結構だ。3時間前にBLTサンドの差し入れがあった。中々に美味かったよ」 「それは光栄ですね。此処でも人気の店が誇る一品なんですよ」 「ああ、ベーコンの焼き加減が最高だった。尤も、一番美味いBLTサンドは、マディソン・スクエア・ガーデンの店で出すやつだが」 男性の口数が増している。 良い傾向だ。 はやては、より男性の警戒心を削ぐべく、会話を重ねようとする。 「そうなんですか? いずれ私も口にしてみたいですね。こう見えても、料理には五月蝿い性質なので」 「ああ、そいつは無理だ」 しかし、男性から返された言葉は、はやての想像を超えるものだった。 「ニューヨークは、とっくに消し飛んじまったからな」 それきり、再び沈黙する男性。 暫し呆然としていたはやてもまた、スポーツドリンクとアイスティーを持って来るよう指示すると、言葉も無く男性の観察を始めた。 そして、数分後。 ドアが開き、2人分の飲み物を手にした人影が入室する。 はやては特に反応を返さなかったが、男性はその人影を捉えるや僅かに目を見開き、驚愕をその表情へと浮かべた。 スポーツドリンクとアイスティーが机の上へと置かれ、人影は居心地が悪そうにはやての後方へと控える。 やがて、はやてが真剣な口調で言葉を発した。 「私的な事ですが、私は貴方に感謝しています。貴方は彼女達を助けてくれた。この2人・・・私の家族を」 その言葉とほぼ同時、人影の背後から小さな影が現れる。 本当に小さな、玩具の人形の様な影。 「紹介します。ヴィータ三等空尉、そしてリインフォースⅡ空曹長です」 「・・・ヴィータだ」 「リインフォースⅡです。リィンとお呼び下さいね」 はやてが2人の名前を告げた後、ヴィータは何処となく気後れするかの様に、リィンは微笑みつつ挨拶をする。 男性はすぐに平静を取り戻したらしく、まじまじと2人を眺めていた。 はやては畳み掛ける様に言葉を重ねる。 「貴方が2人を助けて下さった経緯は聞き及んでいます。既に実質的な共闘態勢にあったとはいえ、貴方は2人を信用してくれた・・・有り難う」 そう言うと、男性に向かい頭を下げるはやて。 特に反応を返さない彼に向かって、ヴィータとリィンが口を開く。 「アタシも・・・アタシからも礼を言わせてくれ。アンタはアタシとリィンと・・・アタシの友達を救ってくれた。その・・・礼を、言う」 「あの時・・・私達の言葉を信じてくれましたよね。ヴィータちゃんが、化け物の所まで連れて行けって言った時・・・無視する事もできたのに、私達を乗せて行ってくれました・・・嬉しかったんです。私達を信じてくれた事が、本当に・・・貴方に、感謝を」 2人が感謝の言葉を伝え終えると、はやては頭を上げて男性の目を真っ直ぐに捉え、言葉を発した。 それは捜査官として培った打算と、しかし同時に、それを呑み込まんばかりに心底より沸き起こる切望の声。 情報を得んとする管理局捜査員としてではなく、八神 はやてとしての願いだった。 冷徹なる判断力と真実を見抜く力が必要とされる捜査官としての活動の中に於いて、異端ながら無数の心を動かし希望へと繋げる事のできる、はやてとその友人達、彼女の元上司や部下達にも宿る熱い想い。 彼女は真っ向から、それをぶつけた。 「私達は不幸な誤解から、戦端を交えるまでに至りました。しかし、やり直す事はできる筈。貴方がたのいう「汚染体」は、私達にとっても脅威なのです。貴方がたが都市上空で目にした大型艦は、2年前に撃沈された筈のものです。 名を「聖王のゆりかご」。遥か古代の船であり、次元世界に多大なる被害を齎した災いの船。とある事件により復活し、貴方がたが降下した惑星を含む複数の世界を危機に陥れた、危険な兵器です。 私も、この2人も、事件の当事者でした。あれの危険性は、良く知っているつもりです」 流れる様に紡がれるはやての言葉を、男性は沈黙を保ったままに聞き続けている。 その目はヴィータとリィンに向けられたままだが、はやての声を無視している訳ではないだろう。 「次元世界に対する貴方がたの認識が何処まで進んでいるのかは存じませんが、あれは多次元に対する脅威そのもの、人の手には余る代物なのです。貴方がたのいう「汚染体」について、私達の知るところは余りに少ない。 しかしそれが、全ての次元に於いて最も危険な存在を取り込んだ事は明白です・・・お解かり戴けましたか? 貴方がたの地球は、今まさに危機的状態にある。ゆりかごの力は、解っているだけでも破滅的なものです。 時代は違えど、私も地球の人間。1人の地球人として、故郷の未来を守りたい。話しては戴けませんか。「汚染体」とは何なのか、如何なる存在なのか。時空管理局は、次元世界への進出を果たした全ての世界を等しく歓迎します。 無論、その世界に対する援助も。今回の様な件ならば尚更です。貴方がたは次元世界に進出して間も無く、この災厄に見舞われたのでしょう。時空管理局は、助力を惜しみません」 穏やかに、しかし毅然と、はやては語り掛ける。 男性は彼女へと向き直り、その目を見つめた。 伝わっている。 自身の言葉は、その想いは、確かに伝わっている。 確信を得て、彼女は更に言葉を続けた。 「私達は貴方がたに、この世界についての理解を深めて欲しいのです。次元の海は広い。新たに次元世界への進出に成功した地球に対して、私達は出来得る限りの知識と技術の提供を・・・」 「其は奇跡なり」 唐突に発せられた声。 それが紡いだ一文に、はやての言葉が止まった。 その唇は次の言葉を発する直前のままに凍り付き、見開かれた目は微動だにせず男性を視界へと捉え続ける。 「勇猛なる古き騎士、正義に殉じし戦士、災いに消えし幾多なる生命。虚空の果てに消えし者共、虚空の果てより蘇り、主なき船を道標とし、我らが前へと凱旋す」 紡がれる詩。 ヴィータとリィンが息を呑む気配が、はやての知覚へと伝わる。 「率いたるは我らが王、真に蘇りし翼を駆りて、我らが前へと現れる・・・番となりて現れる」 念話を通じ、聴取の様子を窺っていたなのはやフェイト、リンディやレティ提督、その他にも複数の人物からの警戒を促す言葉が、僅かな動揺を孕みつつはやての脳裏へと飛び込んだ。 驚愕を隠し切れない彼女の目を覗き込みつつ、男性は感情の窺えない声を発する。 「・・・口上が止まったな、ヤガミ陸佐?」 混乱するはやてを嘲笑うでもなく、男性は無表情に彼女を見据え続ける。 それでも然程に間を置かず状況を理解したはやては、先程とは打って変わり厳しい表情を浮かべると、男性を詰問した。 「・・・その詩を、何処で?」 返答。 男性の声に淀みは無く、躊躇も無かった。 「ヴェロッサ・アコース査察官」 軽く握られたはやての拳が、きつく握り締められる。 その目に浮かぶのは、異常な状況により僅かに露呈し始めた怒り、そして理解できない現状に対する不安。 男性の言葉は続く。 「全てではないが、「彼の脳」は色々と教えてくれた。時空管理局の設立に至る経緯、活動理念。魔法技術体系、ミッドチルダ、第97管理外世界」 息を継ぎ、続ける。 「ロストロギア、古代遺物管理部機動六課、スターズ分隊、ライトニング分隊、ロングアーチ」 有り得ない。 はやての思考を占めるのは、その言葉のみ。 ヴェロッサの脳が不明機体パイロットによって攻撃された事実は知っていたが、しかし同時に彼の記憶までもが解析されていようとは、誰もが予想だにしなかった事象だ。 彼等の脳がナノマシン及び移植型電子機器により、機械的・電子的に処理能力及び強度を異常強化されている事実は判明していたが、それが魔法による脳内介入に対応可能であるとは思いもよらなかった。 結果としてヴェロッサは、脳内へと強制的に送り込まれた異常な量の情報を処理し切れず、許容限界を超えた脳はオーバーフローを起こし、彼は昏倒。 それだけでも有り得ない事象ではあったが、目前の男性から放たれた言葉は、それ以上の驚愕をはやてへと齎していた。 「ジェイル・スカリエッティ、戦闘機人、アルハザード、レリック、聖王、カイゼル・ファルベ」 有り得ないのだ。 この男が、それらの情報を知り得ているなど。 決して有り得ない、その筈なのだ。 「プレシア・テスタロッサ、プロジェクトF.A.T.E、ジュエルシード、時の庭園」 何故なら、ヴェロッサが思考捜査を行ったのは。 彼の脳を破壊せんとした不明機体パイロットは。 彼の脳から情報を得る事ができた人物は。 「エスティア、アースラ、闇の書、ヴォルケンリッター、夜天の王」 「この男ではない」のだから。 「リインフォース」 「ヴィータッ!」 それは、男がその名を口にすると同時だった。 はやての叫びに応え、ヴィータが男の背後に回り腕を拘束、その頭を机へと叩き付ける。 同時にリィンが、念話を用いて各方面へと警告を発した。 『緊急事態! 不明機体パイロット間に於いて、何らかの通信手段が確保されています!』 警報。 ウィンドウが開き、はやてはその画面へと手を伸ばして操作を始める。 念話、通常通信、共に反応なし。 未知の科学技術を用いた個体間通信の可能性大。 「・・・擬人化した実体投射機能搭載型攻性プログラムか。良い家族を「持っている」な」 呟く様に発せられた言葉に、3人の視線が男へと集中する。 最早、彼女達の目は先程とは異なり、欠片ほどの親しみも、穏やかさも込められてはいなかった。 それは「敵」を見る目。 はやては漸く、入室時に抱いた違和感の原因へと思い至った。 彼は明らかに、雑誌の「文面」を目で追っていたのだ。 ミッドチルダ言語で書かれた文を、自ら達と同等の速さで。 読み飛ばすでもなく、解析を試みているのでもない。 ごく自然に、その文面を辿っていたのだ。 即ち、ミッドチルダ言語を「理解」していたという事。 はやてが、口を開く。 「・・・それ以上、私の家族を侮辱する事は許しません。そのまま大人しくしていなさい」 「怒ったのか? 済まないな、リィンフォースの思い出を穢してしまったか」 「その名を口にするなッ!」 ヴィータが男の頭を持ち上げ、もう一度、机へと叩き付ける。 咄嗟にはやてが叱責しようとするが、それより早く彼女は叫んだ。 「お前がッ! 部外者のお前がッ! その名前を口にする事は許さねぇ! 何も、何も知らない奴がッ!」 「ヴィータ、止めぃ!」 「ヴィータちゃん!」 「アタシ達の大切な、大切な記憶に踏み込んでッ! 踏み荒らすんじゃねぇッ!」 ヴィータが一際大きく叫び、はやてが彼女を取り押さえようと歩を進めた、その時。 「異層次元」 またも、男の声が響いた。 聞き覚えの無い単語に、再び3人の目が男へと向けられる。 「平行世界観測」 要領を得ない言葉。 それだけが、淡々と紡がれる。 「電界25次元」 ゆっくりと顔を起こし、男ははやてへと問い掛けた。 「どれか1つでも、貴女がたにとって馴染みの言葉はあるか?」 その問いに、彼女は戸惑う。 ヴィータ、そしてリィンもまたその表情に疑惑の感を滲ませていた。 一体、何を言っているのか? 疑問に思いつつも、はやては答える。 「・・・いいえ」 「時間跳躍現象は?」 「いいえ」 問いは、更に続く。 「エバーグリーン、バースディ・ウォー、デモンシード・クライシス、サタニック・ラプソディー」 「いいえ、存じません。一体、何を言っているのですか?」 男は尚更に醒め切った目をはやてへと向け、その答えを口にする。 それは凍て付く刃と化し、彼女の心、その奥底へと突き立った。 「貴女がたも同じだ。何ひとつ知らないにも拘らず、全てを知った気でいる。俺達の脳内を覗き込み、記憶を踏み荒らし、地球文明圏が全てを注ぎ込む戦争にまで踏み入るつもりでいる。救済者気取りは結構だが、目障りだ」 刃は、更に振るわれる。 「貴女は「地球人」ではない。ミッドチルダ、管理局の人間だ。償いの為と銘打って、地球を未開の世界と見下し、切り捨てた。同郷を騙るのは止めろ」 ヴィータが、拘束の力を緩める。 男が身を起こし、姿勢を正して腕の具合を確かめ始めるが、ヴィータのみならず、はやてもリィンも何ひとつ言葉を挟む事は無い。 男の言葉は、彼女達の意識に確かな衝撃を与えていた。 「そもそも「次元」という空間に対する認識が、我々と貴女がたでは大きく食い違っている。貴方がたはこの空間を次元世界と、各地の惑星を個別の世界と認識しているが」 スポーツドリンクの満たされたコップを一瞥、しかし手を着ける事なく視線をはやてへと戻す。 「この空間は異層次元の1つに過ぎない。虚数空間も然り。貴女がたが確認している次元は、この2つのみだ」 男の言葉が、はやての意識を通じ念話として、或いは通信ウィンドウを通じての画像・音声として、管理局各所へと浸透してゆく。 「虚数空間は航行不能、浅異層次元潜行も不能。全領域対応型機動兵器の不所持。質量兵器の廃絶に伴う個人資質への依存。これだけの問題を抱えているにも拘らず、貴女がた管理局が「バイド」との戦いを終結に導く? ふざけるのも大概にしろ」 その痛烈な言葉とは裏腹に、男の声には怒りも敵意も、興奮すら僅かにも浮かんではいない。 只々、つまらないものを見るかの様な醒め切った視線と、平淡な声だけが取調室に響き渡る。 「そして、ヤガミ二等陸佐。貴女は一度として、本当の目的を語ってはいない。最も知りたい事であろうに、警戒心を抱かせまいと遠回りな質問ばかりをする」 「本当の、目的?」 ヴィータが、小さく呟き返す。 止めろと言いたかった。 それ以上、口にするなと叫びたかった。 しかしその意思に反して、はやての発声器官は何ひとつ音を発する事は無い。 否、できない。 彼女の声を、男の放った言葉が封じ込めている。 宛ら、幼かった頃に彼女の自由を奪っていた、あの呪縛の様に。 そして男は、真実を刃と化して、彼女達へと突き付けた。 「22世紀に於ける第97管理外世界の技術体系とは、ロストロギアを基に発展したものではないのか。そう、訊きたかったのだろう? 例え否定しても、最終的にはそう判断するのだろうが」 「何を、言って・・・」 「そうでなければ困るのだろう? 管理局の存続に対する脅威は、早めに取り除かねばならない。21世紀の地球を強制執行により管理世界へと加盟させ、直接統治下に置く事で独自の技術発展を防ぐ為にな」 それは、真実。 はやて個人としても最善の策として容認していた、第97管理外世界への対応策である。 だからこそ、彼女は男の「地球人ではない」との言葉に衝撃を受けた。 彼女の中であの世界は既に、故郷としての「地球」ではなく、管理局がその存在を観測する「第97管理外世界」に過ぎないものと化していたのだ。 自身ですら意識しなかったそれに気付き、彼女はうろたえる。 男の言葉は、何処までも冷徹に核心を突いていた。 自分は最早、「地球人」ではない。 男が、視線を逸らす。 何も無い中空へ、不可視の受像システムへ。 ウィンドウの向こうで息を呑む全ての人物へと、男は語り掛けた。 「知りたいんだろう? 俺達の敵が何なのか。「バイド」とは如何なる存在か」 冷徹に、無感情に、機械の如く。 男は、忌むべき存在の名を口にした。 「話すとも。気の済むまでな」 そして、地獄が語られる。 * 『トロイカよりロック・ローモンド。669からのデータ転送を確認』 『ロック・ローモンドよりトロイカ。各員のバイタルサインは正常か?』 『443、172のサインが異常だ。重傷を負っているらしいが、しかし命に別状は無い・・・送信終了。669からの返信を確認。離脱する』 『ロック・ローモンド、了解』 時空管理局が本局と呼ぶ超大型異層次元航行艦艇。 その程近い空間から1機のR-9E2が、浅異層次元潜行状態のまま離脱を図る。 艦艇内部に収容された攻撃隊隊員との「通信」を終えたその機体は一路、同じく浅異層次元へと潜行した母艦を目指し飛び去った。 通信の内容は、艦隊からの指令。 管理局に対する情報提示の許可。 複数の情報操作指示。 バイド出現に至る経緯の捏造、26世紀地球に関する情報の隔離。 艦隊の作戦能力偽証示唆。 国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊。 時空管理局。 2つの巨大組織は、互いに多くの情報を得た。 それが虚構に満ちたものか、自らの技術体系に基く偏見に満ちたものかの違いこそあれど、同じく多くの情報を。 そして、一方は隔絶された異層次元空間にてバイドとの交戦を繰り返し。 一方は自身の損失回復と戦力の招集に力を注ぎ。 双方は交わる事なく、ただ時間だけが流れる。 事態が再び動き出すのは1ヵ月後。 遠方に位置する各世界との交信途絶、各管理世界及び管理局所有の、軍用・民用問わず無数の次元航行艦艇消失。 第61管理世界「スプールス」周辺空間を呑み込んだ、未知の異常空間発生。 それらの事態に対し、「バイド」に関する情報を得た管理局は、半ば追い立てられる様に攻勢作戦を発動。 そして第17異層次元航行艦隊もまた、同じく「バイド」殲滅を目的としてスプールスへと進路を取る。 彼等は其処で、生命の尊厳を踏み躙り、希望を嘲笑い、狂気が高らかに凱歌を謳う、異形の世界を目の当たりにする事となる。 全てを喰らい、際限なく増殖を続ける生態系。 主無き船が跋扈する、亡者に支配された空。 悪夢の記憶より這い出でし、歪なる生命の巣窟。 鋼鉄と肉塊に覆われし胎内にて、異形の胎児は「出産」の時を待つ。 「人工の生ける悪魔」。 義憤と復讐に燃える管理局。 疑念と憎悪に取り付かれた地球軍。 例え次元を違えようとも変わらず世界を満たす人類の狂気に、それは四度、歓喜の雄叫びを上げた。