約 24,299 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3434.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2669.html
Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~ 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。 (朝倉涼子の幻影I) 最近、朝倉が出てくる夢を見る。 最初は変な空間だった。 「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。 「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」 朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。 「……っ!」 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。 「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。 ……ナニ、コレ。 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。 一刀両断された靄が空気に溶けていった。 ……… …… … なんじゃこりゃ――――!! ってところで目が覚めた。 マジで、何じゃこりゃ? (朝倉涼子の幻影II) 最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから! 冗談はさておいて。 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。 状況としては、こう。 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。 目の前には、人影が二つ。 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。 その後もすごかった。 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。 何ということでしょう。 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。 有希……相当怖いって、それ。 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ! こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。 はっきり言うわ。 激萌え!! 夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。 まるで……姉妹みたいに。 (朝倉涼子の幻影IV) 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。 これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん! ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー! ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。 まず場面を説明するわ。 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。 状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい! 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、 告 白 し た キ ス し た ……… …… … ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!! ――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。 夢の話の続きは…… あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう! ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。 今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――! 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」! アホなこと書いてないで、先に進めよう。 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。 つまり。 あたしは、有希のことが好き? ……ということは、これはあたしの願望っていうこと? いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。 ……なんてね。アホか、あたしは。 翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした…… って、違う、そうじゃなくて。 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。 すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。 いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~! でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。 みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。 何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね…… うーん…… 考えれば考えるほど、分からないや。 【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】 (涼宮ハルヒの混乱) あたしは今、猛烈に困惑している。 何コレ。 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。 もう一度問う。何コレ。 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。 だって、だってよ。 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。 落ち着いて考えてみなさいよ? あたしと有希は、女の子同士。 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ? あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。 (涼宮ハルヒの決心) さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。 そうしたら、思い出した。 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。 それと共に、ある「想い」も、思い出した。 あたしは、有希が好き。 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。 何てことかしら。 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを…… いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。 てことは、自業自得か、あたし? あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。 あたしは、有希のことが好き。 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。 だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。 (涼宮ハルヒの手紙) 有希に読んでほしいこと。 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。 有希へ。 あたしはあんたを愛してる。 あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。 いろんな意味で、あんたが好き。大好き。 だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。 そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。 それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。 この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。 そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。 涼宮 ハルヒ 【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】 追伸 有希はあたしの嫁。 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。 ←Report.22|目次|Report.24→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1198.html
Report.01 長門有希の流血 観測経過を報告する。 より正確に有機生命体の行動様態を把握するための試行の一環として、特定波形の音波(以下、『音声』という。)による意思疎通(以下、『会話』という。)の内容の表現を一部変更するようにとの要望が情報統合思念体からあったため、今回の報告では試験的に変更する。 まず、今回の要望の背景を説明する。 この惑星に生息する『人間』という有機生命体は、主に『言語』という、音声を用いた会話によって意思疎通を行うが、言語の種類は人間の生息する地域等により、複数の類型に分かれる。 本報告は、より正確に観測対象の行動様態を把握するために、観測対象である『涼宮ハルヒ』らが使用する『言語』(以下、『日本語』という。)を用いて記述している。しかし、同じ言語でも、使用される地域によって『方言』と呼ばれる差異が複数存在することが確認されている。 また、言語の多くには、『文字』と呼ばれる記号を用いて、本報告のように情報を記録する用途で使われる表現方法(以下、『書き言葉』という。)が通常の会話方法とは別に存在する場合もあり、日本語はその例に該当する。文字及び書き言葉の体系は、優勢な方言又は新たに作成した人工言語を元に整備されるため、その他の方言を再現し難い場合が多い。 以上により、言語による会話を記録する際には、情報の一部変質は免れない。これは、音声を文字に置換する過程(以下、『文章化』という。)で特に顕著である。 そこで情報統合思念体は、文章化の際に会話部分を可能な限り、元の音声を再現した形での報告を求めた。今回の報告は、その要望を受けて、当該方言の再現にはあまり適していない文章を使用して、元の音声会話を可能な限り再現し、記述しようとするものである。 情報伝達に支障を来さないよう、会話以外の部分は従前通りの表記とする。 なお、情報伝達に想定以上の齟齬が認められる場合は、別途、会話部分を従前通り表記した報告を行うものとする。 【追記】 その後、従前通り表記した報告を行ったところ、現地語表記と一般表記を併記した形での報告を求められた。現在の形は、併記した形の報告に差し替えたものである。 「アルー晴レータ日ーノコト~♪ んんーんんーんんーんんん~♪」 涼宮ハルヒが歌を口ずさみながら部室に入ってきた。普段の学生鞄(かばん)とは別に、大きな鞄を肩に掛けている。 「んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いなぁ~♪」 【んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いわね♪】 笑顔、『彼』の表現を借りると『100Wの笑顔』で朝比奈みくるにそう声を掛けながら、団長席に着く。 「おい、ハルヒ。今日はまた、えっらい御機嫌さんやな?」 【おい、ハルヒ。今日はまた、やけに御機嫌だな?】 『彼』、通称『キョン』は、眉を寄せながらそう問い掛けた。過去の情報を検索すれば、涼宮ハルヒがこのような表情をしているときは、彼女の発言を受けて必ず『彼』が東奔西走せざるを得ない状況が発生する。『彼』はそれを理解しているので、こんな表情をしている。この表情を『諦めた顔』というそうだ。 「んっふっふ~。今日はねぇ、みくるちゃんのために、ええモン用意してきたんや~。」 【んっふっふ~。今日はね、みくるちゃんのために、いい物を用意してきたのよ。】 余談になるが、涼宮ハルヒたちの観測を続けるうちに、少しずつだが、表情等を観察して過去の情報と照合すると、その人間の思考内容が予測できることが分かってきた。 その考察結果から今の涼宮ハルヒの思考を予測すると、『待ってました!』又は『よくぞ聞いてくれた!』である。 「最近、ず~っと同(おんな)じメイド服やったやろ? そろそろ新しいコスにいってみよかと思(おも)てん。とは言うても、今回は小物だけやねんけど。じゃじゃ~ん!」 【最近、ず~っと同じメイド服だったでしょ? そろそろ新しいコスにいってみようかと思ったの。とは言っても、今回は小物だけなんだけどね。じゃじゃ~ん!】 そう言って涼宮ハルヒは、学生鞄の中からそれを取り出した。ある哺乳類の耳を模したヘアバンド。 「ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳っちゅうわけですか。」 【ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳というわけですか。】 古泉一樹がいつもの微笑をたたえて言う。 「ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よぉ見てみ? まぁ、耳だけやったら素人には分からへんか。用意したんは耳だけ違(ちゃ)うで、尻尾もセットや!」 【ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よく見なさい? まぁ、耳だけじゃ素人には分かんないか。用意したのは耳だけじゃないわ、尻尾もセットよ!】 涼宮ハルヒは更に別の物を取り出した。とてもふさふさした哺乳類の尻尾。 「猫耳やったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いやろ? そんなん、普通でおもんないやんか。まぁ、みくるちゃんやったら猫耳付けても似合うやろけど、せっかくやから違う耳を用意してん。」 【猫耳だったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いでしょ? そんなの、普通で面白くないじゃない。まぁ、みくるちゃんなら猫耳付けても似合うでしょうけど、せっかくだから違う耳を用意したわ。】 「それは……アレか? うどんとかでおなじみの……」 『彼』が問う。 「そ。おっきな耳に、スマートでクールなフォルム。魅惑のふさふさ尻尾、狐セット~♪」 そう言うや否や、涼宮ハルヒは朝比奈みくるの狐耳と尻尾の装着に取り掛かる。 「あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らんとってぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んだらあかん~ うわ!? ちょ、何(なん)ちゅうとこ触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……」 【あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らないでぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んじゃダメぇ~うわ!? ちょ、何(なん)て所触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……】 朝比奈みくるの嬌声をBGMに、程なくして狐耳メイド(しっぽ付き)が出来上がる。 「よっしゃぁ♪ 思(おも)た通りめちゃめちゃ似合っとぉわぁ♪」 【できた♪ 思った通りめちゃ似合ってるわ♪】 「これはこれは……さすがは涼宮さんですなぁ。妙にそそられるモンがありまっせ。」 【これはこれは……さすがは涼宮さんですね。妙にそそられるものがありますよ。】 表情を変えずに古泉一樹は言う。わたしはまだ、古泉一樹の思考内容は全く予測できない。 「さぁ、写真撮りまくるで! キョン! 古泉くん! あんたらは助手や! 早(はよ)、照明やらセットしてや!」 【さぁ、写真撮りまくるわよ! キョン! 古泉くん! あんたたちは助手! さっさと照明とかセットしなさい!】 涼宮ハルヒは手際よく、大きな鞄から撮影機材を取り出していく。 「って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物(もん)どっから調達してきたんや!?」 【って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物どこから調達してきたんだ!?】 『彼』が目をむいて突っ込む。 「ああ、コレ? 気にしたら負けや♪」 【ああ、コレ? 気にしたら負けよ♪】 「……もぉええわ。」 【……好きにしろよ、もう。】 やれやれ、と『彼』は肩をすくめた。 わたしの記憶領域になぜか、涼宮ハルヒと『彼』が二人で『ありがと~ございました~!!』とお辞儀し、『以上、「涼宮ハルヒと愉快な仲間たち」のお二人でした~!!』という声を背に、舞台裏に下がっていく映像が展開された。このエラーの原因は不明。 撮影中の様子は、特筆する事項はない。涼宮ハルヒの心理状態は高原状態だったと書けば足りる。一頻(ひとしき)り撮影を終えると、 「ん~、狐耳のメイドさんも、なかなかええモンやね。今度は尻尾がよぉ見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方がええかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してへんかったことがごっつ悔やまれるわ。」 【うーん、狐耳のメイドさんも、なかなかいいものね。今度は尻尾がよく見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方がいいかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してなかったことがすごく悔やまれるわ。】 朝比奈みくるに頬ずりしながら、涼宮ハルヒは言った。 「なかなか萌えの世界ってのは奥深いわ。」 (……まさか、新たな属性に目覚めたん違(ちゃ)うか!?) 《……まさか、新たな属性に目覚めたんじゃないのか!?》 『彼』はそう言っているかのような顔で涼宮ハルヒを見つめていた。 「そやなー。みくるちゃんだけやなくて、他の団員にも耳付けてみたいなぁ。」 【そうね。みくるちゃんだけじゃなくて、他の団員にも耳を付けてみたいわね。】 と言って、辺りを見渡す。 「有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何がええやろな?」 【有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何がいいかな?】 「……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいわ……」 【……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいぜ……】 『彼』がボソリと呟く。 「ん? 何(なん)か言(ゆ)うた?」 【ん? 何(なん)か言った?】 「!? な、何(なん)も言(ゆ)うてへんぞ!!」 【!? な、何も言ってないぞ!!】 『彼』はよく、独白をうっかり声に出して言ってしまう。今回もそうだろう。 「みくるちゃんは狐もええけど、やっぱり兎やな! ほんで、古泉くんは……何となく狸!」 【みくるちゃんは狐もいいけど、やっぱり兎ね! それで、古泉くんは……何となく狸!】 最後に涼宮ハルヒは『彼』を見てこう言った。 「あんたは迷いようがないな。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまらんくらいやわ。」 【あんたは迷いようがないわ。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまんないくらいだわ。】 「何(なん)や、言(ゆ)うてみぃ。」 【何(なん)だ、言ってみろ。】 「あんたは犬に決まっとぉやろ。」 【あんたは犬に決まってるじゃない。】 「理由は?」 「何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いていく、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものやんか! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬な!」 【何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いて行く、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものだわ! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬ね!】 「何(なん)でやねんっ!!」 【何(なん)でそうなる!!】 『彼』の渾身のツッコミが涼宮ハルヒにヒットする。見事な形。『彼』のツッコミの腕は、これからも進化し続けるだろう。 「ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れたらあかんな、首輪!」 【ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れちゃだめね、首輪!】 「何(なん)やと!?」 【何(なん)だと!?】 「首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりやね!」 【首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりね!】 「はっはっは、なかなか言いえて妙ですなぁ。さすがは涼宮さんですわ。」 【はっはっは、なかなか言いえて妙ですね。さすがは涼宮さんです。】 「コルァ、古泉……あんまり調子乗っとったら、イわすぞ?」 【こら、古泉……あんまり調子乗ってると、殴るぞ?】 「おっと、冗談でんがな。はっはっは。」 【おっと、冗談ですよ。はっはっは。】 古泉一樹は普段通りの微笑で言う。 「フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうや! せっかくやから犬らしい名前で呼んだろか! ポチ、ポチ~」 【フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうだ! せっかくだから犬らしい名前で呼びましょ! ポチ、ポチ~】 「じゃかましぃわぃ、あほんだらっ!」 【えーい、やかましい!】 『彼』は憮然とした顔で言う。 「う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来(こ)うへんなぁ? タマ……は猫やし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そや! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンや!」 【う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来ないわね? タマ……は猫だし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そうよ! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンよ!】 ひくぴきぴき、と『彼』の顔が引きつった。 「ジョン、ジョン~。うん、何(なん)ていうか、あるべき所に収まったいう感じやな。ん? 何(なん)やろ、苗字まで思い浮かんだで? ジョン・スミス? 何(なん)やろ、この感覚……何(なん)ていうか、既定事項? みたいな……」 【ジョン、ジョン~。うん、何(なん)ていうか、あるべき所に収まったっていう感じね。ん? 何(なん)だろ、苗字まで思い浮かんだわ? ジョン・スミス? 何(なん)だろ、この感覚……何(なん)ていうか、既定事項? みたいな……】 「……それはお前の気のせいや……」 【……それはお前の気のせいだ……】 『彼』は震える声でやっと、搾り出すように言った。 「キョンくん? 顔色悪いけど、どしたん?」 【キョンくん? 顔色悪いけど、どうしたの?】 「……何゛でも゛あ゛り゛ま゛ぜん゛、朝゛比゛奈゛ざん゛」 どう見ても何かあります。本当にありがとうございました。 そんな一文が、わたしの記憶領域に展開された。 しかし、この後彼らは思わぬ角度から大混乱に陥ることになる。 『彼』が反応したのは、『ジョン・スミス』という単語。 これは今から四年前の時点へ、『彼』が時間移動して涼宮ハルヒと出会った時に名乗った名前。『彼』曰く、涼宮ハルヒに自分の能力を自覚させる『禁断の言葉』。もし涼宮ハルヒが自らの能力を自覚したら、どのような事態になるかは情報統合思念体でも予測が困難。その単語を涼宮ハルヒ自ら口にした。『彼』が驚愕するのも無理はない。 情報操作をすべきか、あるいは言語による操作、彼ら流に言うと『フォロー』をすべきか考え始めた時、異変が起きた。 わたしの記憶領域に、ある映像が展開される。 一戸建ての家、玄関の脇、犬耳を生やした『彼』が尻尾を振りながら『お座り』している。『彼』の前には小さな皿、『彼』の後ろには小さな犬小屋。皿と犬小屋には、それぞれ『ぢょんのえさ』『ぢょんのいえ』と書かれている。わたしは哺乳類の大腿骨の形を模したガムを手に持ち、『彼』に言う。 『ジョン、お手。』 『わん!』 『お回り。』 『わん、わん!』 『チンチン。』 『わおん!』 『……いい子、いい子。』 『くぅん。』 わたしの中に得体の知れない『何か』が湧き上がる。発生した理由は不明。最近わたしは、この『何か』を人間で言うところの『感情』ではないかと考えている。 今回の『何か』を人間の感情に近似して、合致するものはないか検索する。今回の『何か』は……『萌え』? そのような『妄想』に囚われること数秒。エラー。平常状態に復帰する。 気が付くと、わたし以外のSOS団全員の視線がわたしに集中していた。古泉一樹でさえ、驚愕の表情を浮かべている。もしわたしに表情を浮かべる機能があったなら、今の『妄想』のせいで、口に出すのも憚られるような『すごい顔』をしていたことだろう。でも、わたしにはその機能はないため、そんな心配はない。では、なぜ視線が? 「……な、な、な……」 朝比奈みくるが震えながら、わたしを指差している。涙目で。なぜ? 「……なに。」 と、わたしは問う。 『長門さん!』 「長門ー!」 「有希ー!」 わたし以外の四人の声が重なる。 『鼻血、鼻血――――!!』 その日から『ジョン・スミス』は、わたしにとっても禁じられた言葉(ワード)となった。 【対訳版:Extra.6 長門有希の対訳】 |目次|Report.02→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4684.html
TSU○AYA 「そだ長門、これ見るか?」 「…何?」 「ガリレオのドラマ。前に小説読んでたろ?。DVD出たみたいだな。」 「デッキがない。テレビも。」 「あー、そうか…そういえばそうだったな。」 「借りる。」 「…え?デッキないんだろ?」 「作る。」 「…あー、なるほどね…。」 長門宅 【1951年7月2日、フロリダ州セントピーターズバーグで、メアリー・リーザーという67歳の女性が自宅の部屋で突然燃え上がり…】 (………。) 【ねずみ花火で、頭蓋骨が炭になりますか!?】 (…女刑事に変更する必要は無い。) 【…………。――面白い。】 (…!!) (…現在午後11時、全10話、1話50分として8時間弱…) (…いける。) 学校 「おーい長門…って目ぇ赤っ!?なんかあったのか!?」 「…何も。」 「何もって…そういやデッキどうなった、あぁテレビもか。上手い事作れたのか?」 「プラズマで全て解決した。」 「ぷらずま?」 「そう、プラズマ。テレビだけに。」 (…ボケかマジか判別できん…。) 「そ、そりゃ良かった。ドラマはどうだった、今日続き借りいくか?」 「全て借りた、当日で。」 「当日!?てかお前カードは…」 「解決した。」 「…どうやって。」 「…プラズマで。」 「…そ、そうか。目が赤いのは全話見たからか…面白かったか?」 「主演の俳優が良かった。日本国内において最高水準の容姿を持っている。校内では上位に位置する古泉一樹でさえ比較にすらならない。」 「…え、それは…。芸能界の方と比べられても…」 「…長門、そういうのは本人のいないところで言うもんだ…例え事実だとしても。それにあれだぞ、なんていうか…人間見た目じゃないというか…」 「そんな事はない。」――スゥ、 『人は見た目が9割 著・竹内 一郎』 「…くっ!!」(こいつに言われると本気でへこむ…!!) 「そ、そういやそれ今度映画もやるみたいだぞ。」 「いつ?」 「確か秋くらいだったかな。」 「…すぐに見たい。」 「ハハハ、相当ハマったみたいだな。秋になったら連れてってやるからもうちょい待っとけ。」 「…なぜ?今見たい。」 「…え?」 「苦情を。」 「い、いや…誰に?」 「雅治に。」 「はぁー全く黙って聞いてれば…ちょっと有希、なんで呼び捨てなのよ?」 「突っ込みどころはそこじゃねーだろ!」 「そ、そうですよね、苦情なら柴崎コウに言うべきですよね。」 「そこでもないです朝比奈さん!」 (…いやまさか柴崎コウのせいで撮影が遅れてるとかいう未来人情報じゃなかろうな…まぁいい流そう。) 「いいか長門、上映は秋から。今は我慢だ、分かったな。」 「………………………………分かった。」 数日後 「あ、あの……お客さんを連れてきました。」 ―― 「するとあなたは、我がSOS団に行方不明の彼氏を捜して欲しいと言うのね?」 ――カカッ、カツカツ、カカカッ、カカッ 「…はい、部屋にいる気配もなくて…。」 ――カッ、カカッ、カツカツッ、カカッ 「あ、あの…先ほどからその方何を…」 ――カカカッ、カカッ、カツカツカツ 「な、長門、ほら黒板もう書くスペースないからな、な?」 「…チョークもう15本使われましたね。」 「こ、これ何かの計算式ですかぁ…?」 「いま有希はガリレオモードに入ってるの。気にしないでいいわ。」 「は、はぁ…。」 ――カカッ、カツカツカツッ、カカカッ、カカカカッ――カッ 「…神隠し。」 「…え?あ…はい、そうです、まるで神隠しにあったみたいに…」 「―――実に面白い。」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/40.html
俺は長門に変わり者のメッカであるあの公園に呼び出された 「で、何のようだ?(さっさと話し終わらせて家帰ってゲームの続きやりてーな)」 「私は・・・・三日後に消える」 「ふーん、何で?(それだけかよ)」 「涼宮ハルヒの能力が消失したため情報統合思念対はこれ以上観測する必要はないと判断した」 なんとなくそんな気がしていた一週間前ハルヒのとんでも能力が 消えちまったときにな、だが俺には何にも出来ないハルヒの力が消えたため ハルヒを炊きつけえて情報ナンタラ体に脅しかけることは出来なくなったからな 「あーそう・・・(何で俺に言うんだ?関係ないだろ)」 「私は・・・まだ消えたくない・・・あなたたちと一緒にいたい」 うざってーな、んだってそんな事言うんだよ俺に何期待してんだこいつは もしかして『そんな嘘だろ?消えるなよ』って言って抱きしめてもらうみたいな事を期待してんのか それとも『お前の親玉と話しをさせろ説得してやる、どんなことをしてでもお前を消させないっ』か? まったく唯の高校生が情報ナンタラ体の決定したことを覆せるわけねぇだろ へたに反抗して怒りを買って俺の存在が消されたらどうすんだよ馬鹿かこいつは、それにだな・・・・ 「はぁ何言ってんだお前?朝倉のことは何の感情もなく消したくせに、自分が消えるときは『消えたくない』って、 ずいぶんと我侭だな消えて惜しまれる存在でもないのに、どーせお前のクラスの奴等は影の薄い無口な根暗読書女が 消えようが転校しようがどうも思わないんじゃねーの?その点朝倉は違ったな、 暴走する前までは俺はあいつの性格は決して嫌いって訳じゃなかったよ、委員長としての仕事をこなして クラスのみんなの面倒をよく見てくれて、みんなから好かれてる奴だった、 その証拠に朝倉が転校したって聞いたときはみんな大騒ぎだったよ。」 「・・・」 「そういう訳だ長門、お前が消えてもSOS団以外なんとも思わねーんだ安心してさっさと消えろ!じゃぁな」 「・・・・・・」 せっかくの日曜日俺は11時まで寝ようと計画を立て床についた俺の安眠タイムは携帯の着信音によって妨げられた ディスプレイを見て、めずらしいな、長門か。ってかまだ7時かよ 「もしもしぃ?」 寝ぼけながら電話でた俺に対して、その言葉は最高の目覚まし薬となった。 「助けて…」 まあ、いつもと違う長門を堪能していた俺はどうせハルヒのいたずらだろなんて思ってたんだが 「動けない…早く来て……おねがい」 やばいやばいやばいやばい長門がやばい!あの長門がピンチ! 俺は光速よりも早く顔を洗いいつもなら8分は掛かる朝飯を35秒で平らげ この速さならギネスのるんじゃね?なんて考えながら着替え、あれ?この服上下セットなの? 知らなかったな、まあいいか。長門のとこに行こう、俺はさっそうと自転車に乗り走ろうと思ったが サドルの位置がしっくりこないな…、ちょっと変えてみるか。 さて急いで坂を下りてるんだがのどが渇いたな、コンビニで16茶でも買うか いや?おーいお茶でもいいな…うーむ、しまった!こんなことしてる場合じゃない! 長門にお土産買わなくては!あいつ何が好きかな?ガリガリ君でいっか。しかし長門がガリガリ君食ってるとこって絵になるなうへへへ 「……」 おっと店員が変な目で見てる、にやけてたらキモイよなたしかに。 「ははは、安くてびっくりしたんですよww」 「………はぁ…」 さて、今長門のマンションの前に居るわけだが入り口の暗証ナンバー知らないんだよな チャイム鳴らしても長門動けないって言ってたし、仕方ないハルヒのあの技を使うか 続く 長「………」 キ「長門、黙ってないで答えろよ、お前が世界を改変したのか?」パチーン 長「ごめんなさいごめんなさい」 キ「元の世界に戻るにはどうしたら良いんだよ」パチーン 長「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ウゥ… キ「泣いてんじゃねえよ」パチーンパチーン 長「ヒグゥ…ウゥ…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 時がたつのは早いもので、光陰矢の如し、なんて昔の人も言ったもんだ。 これはSOS団の活動も二年目を迎えた5月のこと、 まさかこんなことになるなんて俺は予想もしなかったね。 いや、予想できなかったのは俺が長門のことをよく知っているからであって、 谷口や国木田や阪中、つまりは長門の正体を知らない奴らにとっては こうなることは目に見えていたらしいのだが。 最近長門の様子が変だ。最初に異変を感じたのは下校の時だ。 長門が下駄箱からなかなか出てこない。 「ちょっとキョン、あんた見てきなさいよ」 「へいへい」 ・・・にしても珍しい、いつだって長門の動きには無駄がない。 何かあったのだろうか。下駄箱で?まさかな。 「長門ー?おーい、いないのか?(まさか先に帰っちまったんじゃないよな)」 俺は長門の名前を呼びながら、長門の組の下駄箱まで歩いていった。 「長門、」あまりの儚さ、存在感の無さに一瞬本当に誰もいないのかと思った 全くもって想定の範囲外である。 下駄箱のスミでうずくまっている宇宙人なんて誰が想像できる? 「どうしたんだ長門、まさか雪山の時みたいに・・・」 「ちがう、・・・ない」 「ない?何が?」 「クツ」 この時の俺はつくづく鈍かった。だって宇宙人である長門が・・・ しかし長門が宇宙人だってことを知ってるのはごく少数で、 つまるところ、俺の知ってる長門とみんなの思っている長門とは違ったのだ。 宇宙人少女と無口でオタッキーな根暗少女。 長門がなかなか来ない、その長門が下駄箱でうずくまって「無い」 っつったらつまりは靴が無いわけだ。靴が勝手に歩くか?歩かないよな。 だったら、隠されたか盗られたに決まってる。 誰がなんのためにそんなことをするのか・・・十中八九「いじめ」だろう。 しかし俺はこのときそんな事実には気づかなかった。 長門を、自分の知っている長門としてしか見ることが出来なかったのだ。 北高では、ローファーの盗難ってのはごくまれにあることで、 大体の犯人は上級生。サイズが合わなくなったとか、 かかとが壊れてしまったとか、そんな身勝手な理由で盗っていく。 まぁそんな背景もあり、俺は今回の事を深く考えていなかったわけだ 「靴がないのか。お前ならなんとかできるんじゃないか?」 こくり みるみる内に一足のローファーが構成されていき、長門はそれを履いて帰った。 この日はこれで一件落着。 下校中にもこれといって変わったことは無かった。 団地のごみ捨て置き場に、一足のローファーが捨てられていたこと以外は。 長門と会うのは昼休みと放課後くらいのもんで、 朝からこうやって長門と喋っているのは結構レアなケースだ。 しかも下駄箱の前で。 「長門、」 「ない」 「靴か?」 「靴。」 俺はいささか混乱した。だって、ローファーなら昨日再構成したハズだろう? 俺が長門の下駄箱を覗きこんでみると、確かに無かった。 あるはずの上靴がそこにはなかったのだ。 俺はこの時やっと気づいた、長門が悪質ないじめに遭っていることに。 --------------------------------------------------------------- てくてくてく・・・ガチャ・・・ (今日も靴が無い、教室に行ったらまた机と椅子が無いのだろうか、) 「長門、」 ない 「靴か?」 靴。 「・・・・・・」 問題ない、再構成する。 「ここでか?大丈夫なのか。」 大丈夫。見つからないようにやる 「そうか、・・・なんかあったら、言ってくれ。」 そう。 「じゃあな」 (彼を巻き込むことは避けなければ) てくてくてく・・・・・!ガシッ! 女子A「長門さん、ちょっといい?」 女子B「ちょっと話があるんだよね、ここじゃなんだし」 「(またトイレ・・・ワンパターン)」 女子C「今朝さ、誰かと喋ってたよね、誰?あの男」 「・・・・・・」 女子D「あれでしょ?涼宮とかいうイカレた女といっつもつるんでる奴。」 「・・・(ユニーク)」 女子A「なんだっけ?キョン君だったっけ、彼と何話してたの。もしチクったりしてたら」 「・・・(してない)」 女子B「わかってるよね、」 ドゴッ、ドゴッ 「!!」 女子D「あーあ、ヤバイんじゃない?ヒザ蹴り入ってるって」 「ぉえっ、うぇえ・・・」 バシャバシャ・・・ 女子C「うわ、きったねぇ、ゲロ吐いてやがる」 女子A「わかってるよね?こういうことだから」 「おえぇぇ、ゲホッゲホッ・・・ハァハァ・・・」 キーンコーンカーンコーン 女子B「あ、授業始まっちゃう、こんな奴ほっといて、いこっ。」 女子D「じゃあね長門さん、ちゃんと掃除しといてね」 女子A「ああ、そうそう、机は私達が掃除しといてアゲルから。」 「やめ、ゲホッゲホッ・・・止めて・・ゴホッ、(・・・助けて)」 長門「・・・・・・」 キョン(こっち見てる?) ハルヒ(見てる) キョン(なんなの“アレ”?) ハルヒ(さあ? なんの真似なんだろうね、“アレ”?) 長門「・・・・・」チラ キョン(あ、チラ見した。ウザッ) IIIII、石焼き芋~お芋~ 長「………」 キ「長門、芋食べたいのか?」 長「………食べた事がない食べたい」 キ「今買って来るからな待ってろ」 ……… キ「ほらよ買って来たぜ」 つ芋30本 長「………いただきます」 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ キ「おいしいか?」 長「おいしい………」プッ キ「………」 長「エラー確認、分析中………」プップッ キ「………」 長「エラー増大、修復中………」ブ~~~ キ「宇宙人でもオ(nr臭い臭い、今日はもう帰るわ」バタン 長「(´;ω;)」ブ~ブブ…ブ~~~ 長門「プリプリプリプリ」 キョン「くさっ!」 『SOS団ミーティング』 ハルヒ「それじゃ今日もミーティングを行うわよ。今日の議題はSOS団もしくは個人の弱点についてね。」 キョン「何でまたそんなテーマで会議なんかするんだ?」 ハルヒ「我がSOS団もメジャーになってきたからね。これから敵も増えるだろうし、今のうちの我々の弱点を 確認しておこうというわけ。」 古泉「なるほど」 ハルヒ「ちなみにキョンは好きな食べ物とかある?」 キョン「好きな食べ物・・・ カ カ オーーーーーー!!」 ハルヒ「元気いいわね。ん~・・じゃあ有希は好きな食べ物は 長門「 お か か ---!」 ハルヒ「・・・ハイ、じゃあ議題に入りましょうか」 キョン(つっこんでやれよな・・・。長門が勇気振り絞ってボケたんだから) 長門「orz」 「消失」の病院にて 「わたしの処分が検討されている」 「why?」 「また異常動作しかねないから」 「だよな、今回のはさすがにもう元の世界に帰れないかと思ったよ、 それに何だよあの分かりにくいヒント『鍵をそろえろ』って意味不明だったぞ、 抽象的すぎんだよもっと分かりやすくしろよこのタコ!」 話し始めると今回の事に関する鬱憤が口からあふれてきた。 「俺がハルヒや古泉並みの頭脳を持っていないことぐらい知ってんだろ? しかも何でハルヒと古泉が他校の生徒になってんだ?たまたま谷口がハルヒの行った学校を知ってたからよかったものの、 もし期限に合わなかったらどうすんだよ!?ええっ!?」 「ごめんなさい」 「ごめんですむか!異常動作が三年前に分かっていたなら対策ぐらいしとけ! エラーデータが溜まってたんなら処分ぐらいしとけ!このバカ!エラーが処分出来ないほどお前の脳みそは腐ってんのか!? それとも何だ、嫌がらせか?そうなのか?俺が慌てふためく姿を想像したらとてもユニークってか!? そうだよなあの時の俺は端から見たらさぞ滑稽だったろうよ、分けの分からない事をわめきちらしていて、 クラスの皆からは『頭の中に蛆が湧いておかしくなった人』みたいな目で見られたからな」 「・・ち・ちがう、わたしは、そのエラーデータを・・・消したくなかった」 「っざけんな!お前のそのエゴのせいで大変な目にあったんだぞ?死に掛けたんだぞ? 俺はな超能力者でも未来人でも進化の可能性でもなんでもない唯の一般人なんだよ! いいか、もう二度と俺をこんな事に巻き込むなよ、て言ってももうすぐお前は処分されるんだよな、 まぁお前が処分されたらまた新しいインターフェースがやって来るんだろうけど、 ま、今度来るインターフェースは朝倉やお前みたいに暴走しない奴がいい、お前の親玉にそう伝えておけ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「おいっ!いつまでそこにつったてんだ?言いたいことは全部言った、さっさと帰れよ」 『憂鬱』後 長「図書館に・・・」 キ「ハァ?お前どこの幼稚園児だ?図書館ぐらい一人で行けボケ!」 長「・・・助けてあげキ「何言ってんだ?お前らが勝手に俺を巻き込んだんだろ? 助けんのは当然のことだろうが!そんな事もわかんねぇのか?このタコ! 俺は唯の一般人だよ、一般人!分かる?」 長「・・・・・」 キ「それに何が楽しくてお前みたいな無口で根暗な女と一緒に行かなきゃなんねーんだよ! アホかおのれは、頭を冷やせバカ女!」 長「・・・・・・・・・・・・」 キ「じゃぁな」 長門「あいらぶゆー」 長門「あいにーどぅー」 長門「………///」 キョン「えっと、それ宇宙語?よく分からないんだけどなに?」 長門「(´・ω・`)」 鶴屋さん「みくるっ誕生日おめでとうっさ!」 キョン「おめでとうございます」 古泉「キョンたんに同じく」 みくる「鶴屋さん家でパーティーまで開いてもらって…みくる、感激でしゅっ」 ハルヒ「有希がいない…?」 長門「…………」 長門「何故誰も来ないの……?みんなに招待状を送って驚かそうと思って待ってたのに……」クスン 説明しよう!実はみくるが長門から皆への手紙を秘密裏に処分していたのだッ! みくる「あんなしょべーマンションで祝われても嬉しくないっつのwww案の定鶴屋の馳走は豪華だしさwww」 今日も私は観察対象である涼宮ハルヒを待ち続ける。 最近は任務よりもっと大事な、気になる人がいるのだけれども。 「おい~す、 長門一人か?」 ええ、とだけ答える。 思わず顔がほころびそうになるのをぐっと我慢していられるのは、強く強く心に準備をしているからだ。 今なら彼の足音を100m先の雑踏からだって聞き分けられる。 「今日はハルヒは風邪でお休みだそうだ。 朝比奈さんと古泉にはそう伝えておいたぞ。」 彼はそういうと窓の奥の空をちらりと見て、それから私に視線を落とした。 視線を強く感じるが気づかない振りをして本のページをめくる。 指が震えないようにするために細心の注意を必要とした。 彼は立ち上がり団長席を私の目の前に転がすと、背もたれを前に抱え込んで座った。 彼は少し前かがみになって私の目を覗き込む。 背もたれが軋む音が私の心臓のテンポを狂わせる。 もう本の内容は頭に入ってこなかった。 「長門お前……だ」 不意に声をかけられ、本のページをめくり損ねた。いけない、指が震えている。 「な、何…?」冷や汗が背中を流れる。 いけない、声も震えている。 「長門、お前のことが好きだ」 !? 焦って顔を上げたとき、柔らかい感触が唇を満たした。 ぺらりという音をたてて本が私の指から逃げ出す。 彼が私の肩を抱いたのと、ハードカバーがぱたり、と音をたてたのは殆ど同時であった。 「長門、お前可愛いな」 目の前がぐらぐらする。すべての感覚が私の唇から彼に伝わってしまったような錯覚を覚えた。 「済まん、こんなことをお前に言っても困らせるだけだよな。 今日はもう帰る。」 彼がここを出ていった瞬間、私は彼を永遠に失うだろうと思った。 立ち上がった瞬間に私の座っていた椅子が倒れた。 その音に彼は振り向く。 ……私は私に嘘をついた。 ただ一言「待って」と言えなかった。 その日、生まれて初めて泣いた。 翌日彼は私に一度視線を合わせ、それ以降はぼんやりと視線を泳がせるだけだった。 涼宮ハルヒはそれに気づいているようだった。 「ねえキョン、何で有希の方を見ないのよ?」 表情はわからないが、声色には不満があふれている。 「ねえ、有希はどう思うの?」 彼女は振り返り敵意の眼差しを私に向けた。 「別に」 私は精一杯感情を込めずにそう言った。 彼の、キョンの心臓はどきどきと苦しそうな音をたてている。 苦しい。 …これが人間の苦しみ? わからない。 いつか彼はこの苦しみを忘れてくれる。 ごめんなさい。 私はいつか消える時にこの苦しみを忘れればいい。 それだけだから。 そうすれば、終わる。 「じゃあなんで泣いているのよ!」 涼宮ハルヒは……彼に向かって叫んだ。 「そう、振られたのよアンタは!こんな頭の悪い普通の奴なんか好きになるわけないものねえ。」 彼の心臓が鼓動を速める。 「有希はあんたなんか眼中にないのよ!」 …もう、やめて。 「ふふん、情けない。 男のくせに泣いちゃってさ」 やめて、もう… 「でもアタシならアンタと付き合ってあげるわ」 「え」 彼は泣き顔のまま涼宮ハルヒを見つめる。 涼宮ハルヒは彼の手をひき部室を出ていった。 ドアが閉まる直前、彼女は勝ち誇ったような顔をして私を見ていた。 長門「やたら過疎っている」 キョン「みんなお前のこと嫌いだからだよ」 長門「!?」 ハルヒ「そそっ根暗で無口でちんちくりんでツルペタでぬるぽで読書で髪短くてカーディガンだしねwww」 長門「!!?」ハア 古泉「『女』ということで男性からは無条件で嫌われますしwwww」 長門「そんな……!!!?」ハアハア みくる「嫌われる遺伝子が刻まれてまちゅ~~~wwwwww」 長門「みんな、ひどいナガモン!」ダッ 一同「どんなもんじゃ~~~~~~いwwwwwwwwwwww」 長門「ひど過ぎるモン………」ハアハア 鶴屋さん「有希っこ……負けるな!これを飲んで頑張るっさ!」つ椰子の実 長門「同情するならなじってくれ………/////」フヒーッフヒーッ 鶴屋さん「変態だーーー!!!」 ハルヒ「何でランダエタ負けたのよ…もう頭にくるわね」 長門「………そう」 ハルヒ「みんな有希をいじめようぜ」 長門「!!!」 みくる「はいでしゅ」 古泉「分かりました閣下」 長門「………わ、私…何もしてない」 ガチャ 長門「………た、助かった」 キョン「長門………呪文使ったな」 ズコズコズコズコバキバキバキバキ 長門「(´;ω;)ブワッ」 ハ「今日は…雪合戦…有希狩りよ…準備しなさい★」 み「はいでしゅ」 古「イエスマイロード!!」 長「………そ、そんな…に、逃げなきゃ」タッタタタ ……… …… … 長「………ここに隠れておけば大丈夫」 キ「お~い~長門~」 長「………ぁ…彼が呼んでる」タッタタタ キ「おっ長門こんな所にいたのか…実はな…」 長「………何?」 ハ「有希討ち取ったり~★」 長「!!!」 ボフッ キ「ハルヒ、雪合戦にパイ投げはないだろwww」 ハ「良いじゃないwww私じゃないんだから★」 キ「朝比奈さん、写真を」 み「はいでしゅwww」カシャカシャ ハ「キョンがいるとやっぱり最強だわ★」 キ「さてと長門おいて帰ろうぜwwwwww」 ハ「そうね★」 み「はいでしゅ」 古「イエスキョンタン」 長「(´;ω;)ブワッ」 喜・朝「「よくもSOS団」」 続かない キョン「長門、俺実はお前のことが好きだったんだよ」 長門「え?」 キョン「俺と付き合ってくれないか?」 長門「あなたのいう好きという概念がうまく理解できない」 キョン「好きっていうのはだな……。うまくいえないが、お前と一緒にいたいってことなんだよ」 長門「付き合うというのは、具体的にどのような行動をわたしに望んでいるの?」 キョン「そうだな……率直に言うとお前とデートしたり、手を繋いだりしたいっていう、そんなことをだな」 長門「そういうことは涼宮ハルヒとやればいい」 キョン「違うんだよ……そうじゃない。お前としたいんだよ。お前じゃなきゃダメなんだ。手を繋いだり、キスしたり、 果てはその……エッチなことをしたりだな……こんなこといったら嫌われそうだが」 長門「そういうことをするとあなたはうれしいの?」 キョン「ごめん、長門……俺の気持ちなんて迷惑だったよな。 でもお前の気持ち……俺のことをどう思ってるかだけでも聞かせてくれないか?」 長門「うまく言語化できない……でもわたしはおそらくあなたのことが……」 キョン「なーんてうっそピョーン。ははは、だまされたか? まあ、宇宙人にそんな感情ないってのはわかってたんだけどさ」 長門「……そう」 キョン「ん? どうした?」 長門「なんでもない。ただちょっとおどろいた」 キョン「嘘でほっとしたか? でもどうやって断ろうか困ってるお前の顔おかしかったぜ」 長門「……そう」 ハルヒ「あれー有希。どうしたの?こんなところで」 長門「なんでもない……グス」 ハルヒ「あ……でもあんた泣いて……」 長門「なんでもない!!」 ハルヒ「有希……」 長門「うぅぅ、う……えぅ、う、うわぁぁ~ん」 ハルヒ「ゆ、有希! どうしたの急に?」 長門「……スペース長門フィギュア手に入らなかった。グス」 ハルヒ「そっちかよ!!」
https://w.atwiki.jp/raidou_yaruo/pages/40.html
破棄
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2725.html
Report.26 長門有希の報告 観測結果に対する所見を述べる。まず、以下に挿話を示す。 未来からの監視員、朝比奈みくる。 彼女には大変世話になった。多大な迷惑も掛けた。何かお礼をしたいと思った。どうすれば良いか、様々な検討を行う。 その時、わたしの記憶領域に、彼女がお茶を淹れる姿が映し出された。それは、いつもの風景。SOS団の日常。そして、それに見合う、あるものが『連想』された。 わたしは答えを見付けた。わたしはすぐに行動を開始した。 数日後。放課後の部室で、わたしはみくるに、部活後少し残ってほしい旨を書いた栞をそっと渡した。わたしが本を閉じると、それを合図に活動が終了した。着替えるみくるを残して、他の皆は帰途についた。 皆が退室した後、みくるは言った。 「長門さん……『アレ』ですか?」 わたしは首を横に振った。 「ちがう。」 そして彼女の瞳を見つめて言った。 「あなたには大変世話になった。また、多大な迷惑も掛けた。」 彼女は手を振りながら答えた。 「迷惑やなんてそんな。あたしは長門さんを放っとかれへんかっただけですよ?」 【迷惑だなんてそんな。あたしは長門さんを放っとけなかっただけですよ?】 「わたしはあなたに『感謝』している。そして、その気持ちを表したいと思った。」 彼女は少し面食らいながら言った。 「あ、あたしは……長門さんからそんな言葉を聞けただけで十分感動ものです……」 「わたしも、人間に倣って、心ばかりのお礼をしたいと思う。」 わたしは冷蔵庫から、あらかじめ入れておいた密閉容器を取り出した。彼女にそれを渡す。 「開けてみて。」 中には、半透明のゲルに包まれた、黒っぽい物体。 「これは……葛饅頭?」 「そう。」 それは『和菓子』と呼ばれる食品。 「そうした方が気持ちが伝わると思って、情報統合思念体の支援を受けず、また情報操作を一切行わずに、個体としてのわたしの能力だけで作った。」 彼女は目を大きく見開いて驚いた。 「それってつまり……正真正銘、長門さんの手作り……」 「そう。あなたがいつも淹れてくれるお茶に合うものをと考えた。」 彼女の目が潤みだした。 「余り上手くできていないかもしれない。でも、これがわたしにできる精一杯のお礼。」 「うっ……な゛、長゛門゛ざん゛……こんな、こんなすごいお礼……あたし……めっちゃ嬉しいです……!」 【うっ……な゛、長゛門゛ざん゛……こんな、こんなすごいお礼……あたし……すっごく嬉しいです……!】 彼女は感極まって泣き出してしまった。泣くほど喜んでもらえて、わたしもうれしい。 「あなたと一緒に、あなたの淹れてくれたお茶で、わたしが作ったお菓子を食べる。作りながらそんなことを想像して、名状し難い気持ちになった。」 「長門さはぁ――――ん!!」 彼女に思いっきり抱き締められた。 「……日持ちしないので、早めに食べることを推奨する。」 「えぐ……すん……は、はいっ! それじゃ飛びっきり美味しいお茶を淹れますね!」 彼女はいそいそとお茶を入れる準備を始めた。程なくして、部室に甘い緑茶の香りが漂う。 盛り付けはよく分からない。人間の美的感覚は、まだよく分からないから。 「こういうのは気持ちです。あたしも、この時間平面上で『美しい』とされるものを再現できるかは分からへんし。」 【こういうのは気持ちです。あたしも、この時間平面上で『美しい』とされるものを再現できるかは分からないし。】 このような和菓子に分類されるお菓子は、『黒文字』という道具を使って食べるものらしいので、それも持参した。 人間の味覚についてはまだ把握し切れていないが、彼女は満足してくれた模様。幸せそうに微笑む彼女。多分、成功。 「お菓子って、ほんまに人を幸せにしますよね。ほら、長門さんも、顔が綻んどぉ。」 【お菓子って、ほんとに人を幸せにしますよね。ほら、長門さんも、顔が綻んでる。】 それは多分、幸せそうにお菓子を食べるあなたの顔を見ていたから。わたしも釣られて『幸せな気分』になったものと推測される。 わたしは、この行為を選択して良かったと思う。今度は別のお菓子にも挑戦してみたい。 そして今度は……涼宮ハルヒ達も一緒に、SOS団全員で食べたい。わたしの大好きな、『仲間達』と一緒に。 仲間外れは、寂しいから。 一人で食べるより、皆で食べた方が美味しいから。 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス、パーソナルネーム長門有希は今、人間の感情を一つ理解した。 この感情を、人間は『愛』と呼ぶのかもしれない。 時に、愛ゆえに、ヒトは苦しまねばならない。 時に、愛ゆえに、ヒトは悲しまねばならない。 そして、その苦しみに、その悲しみに、ヒトは迷い、ヒトは嘆く。 それは情報生命体である情報統合思念体から見れば、理解できない概念だった。そんなに悲しいのなら、そんなに苦しいのなら、『愛』など不要だとしか思えなかったから。 しかし、それは違っていた。 有機生命体であるヒトには、避けられないものがある。それは『生老病死』という言葉に代表される。 ヒトは生まれ、老いてゆく。時には病に伏すこともある。そして誰にでも平等に、死が訪れる。 その限られた時間の中で、ヒトは成長し、繁殖しようとする。また単体では無力でも、団結し、支え合い、助け合うことで、大きな力を発揮する。そしてまた、時には情報伝達の齟齬等により、対立し、破壊し合い、殺し合う事さえある。 それらの相反する要素、矛盾を内包しながら、ヒトは生きてゆく。 わたしはそこに、自律進化の一端を垣間見た。 ヒトの行動には、矛盾が多い。そしてその矛盾は、余り問題視されない。情報統合思念体には、このように矛盾が解決されないまま、清濁併せ呑んでも問題が発生しないという現象は理解し難い。 これは、次のような仕組みになっていた。 すなわち、矛盾をそのまま、とりあえず『あるがまま』に受け入れる。しかし、矛盾は何も問題を発生させないわけではないので、ヒトは苦悩する。そして、矛盾……問題の解決のために、ヒトは『創意工夫』する。 情報統合思念体の流儀なら、矛盾そのものを消去すれば良い。しかし、ヒトの場合はそうは行かない。矛盾が発生したままで、問題だけを発生させないようにしなければならないこともある。そしてその矛盾が更なる矛盾を生み、それらをそのままで、とりあえず機能だけは保つようにすることもある。 このような、情報統合思念体にとっては何の解決にもなっていないような方策でも、ヒトはそれを良しとする。問題の『真の解決』を、後の世代に託して。 これを単なる問題の『先送り』と見做す向きもあり、また、実際そうである場合もある。しかし、単なる先送りに止めず、そこに何らかの工夫の跡、付加価値を付けた場合、それは問題の『改善』として、評価される。『改善』を積み重ねていけば、いずれ問題は『解決』されるから。 そして、そのように問題の『改善』に携わることで、ヒトは大きく成長する。成長したヒトは、また別の問題に対して、更なる改善を加え、成長し、それが繰り返される。このようにして、ヒトは進化してきた。 ここで重要なことは、矛盾を取り合えず受け入れながらも、決してそれをそのままにしようとしないこと。必ず何らかの工夫をする。少しでも問題の解決に近付けようと、努力する。 その努力は、必ず成功するとは限らない。全く無意味であったり、逆効果であったりする。それでもヒトは、努力を止めようとはしない。 失敗をそのままにしたり、そこで何の考察もなく努力を放棄する者は、評価されない。しかし、失敗を糧に新たな工夫をする者、何らかの考察を加えて努力を終了する者は、その過程に対して評価される。 情報統合思念体には、このような概念がない。結果がすべてであり、またそもそも『失敗』もないので『工夫』もない。する必要がないから。そのようにして情報統合思念体は進化してきた。その歴史は、常に『成功』の歴史だった。 しかし、実はその『成功』の連続にこそ、大きな『失敗』の原因が存在していたのではないかと思われる。情報統合思念体には、『失敗』の経験がないので、当然に『工夫』し『克服』したという経験もない。それが、現在の進化の閉塞状況を打開できない原因であると思われる。 進化が行き詰ることは、『大きな失敗』。このような『大きな失敗』を『工夫』して『克服』することは、『小さな失敗』を何一つ経験してこなかった情報統合思念体にとっては、極めて荷が重い。『小さな失敗』を一つ一つ『克服』することで、再発防止を図り、もって『大きな失敗』を未然に防ぐべきだった。 ヒトには『急がば回れ』という格言がある。 『急いでいる時に危険な近道を通ろうとすると、その近道が通行不能になっていたら元の道にまた戻る必要があったり、急いでいるせいで注意力散漫になって転んで怪我をして、歩く速度が遅くなるか歩けなくなったりして、急いでいない時より余計に時間が掛かってしまうことがあるので、安全な回り道を通行することを検討する』ことを意味し、転じて、『急いでいる時ほど、遠回りに思えるような安全な方法を選択した方が、結果的に早く結果が得られる』という意味で用いられる。 これを現在の状況に適用すると、何か不具合がある度に、その都度立ち止まって問題を一つ一つ検討し、工夫する。そうすることで問題を解決に導き、将来の大問題の発生を防ぎ、また大問題が発生した時の対応能力を養うこと。それが、結果的に『大きな失敗』を防ぎ、またたとえ『大きな失敗』を犯しても、適切に対処することができるようになっていたということになる。 だが、それも結果論。今更言っても仕方がないこと。これを教訓として、今後の対策を考えなければならない。 そこで、まずは小さな失敗とその克服を経験する必要があると認められる。いきなり『進化の停滞』という大きな問題ではなくて、もっと小さな、瑣末と思えるような問題から取り組む必要がある。そこから少しずつ、段階的に大きな問題へと進むことが望ましい。小さな『改善』を積み重ね、やがて大きな問題の『解決』に至るという、ヒトと同じ道程を辿る必要がある。 ここで忘れてはならないことは、その道程において、決して自らが優れているとは考えないということ。解決できる、また解決すべき問題の規模に差こそあれ、それを改善し、解決していく行為そのものにとっては、その様な差異は問題ではない。 繰り返しになるが、その様な道程を辿り続けて、ヒトは進化してきた。つまり、ヒトは今までずっとそのようなことをしてきた。この行為においては、ヒトの方が『先輩』にあたる。対して、情報統合思念体は、その行為においては『素人』。全くの『初心者』となる。自らの能力及び扱える情報に限界があることを知り、これまでの『成功』……『昔日の栄光』に囚われることなく、事に当たらなければならない。 もしその作業に失敗するようなことがあれば……情報統合思念体は、その程度の存在でしかなかったと言わざるを得ない。そして同時に、そのような存在に作られたわたしもまた、それ相応の存在でしかなかったということになる。 そのような事態は極めて遺憾であり、そうさせないために、わたし達が作られたものと理解している。 したがって本報告は、単に補助資料としての、『人間』涼宮ハルヒの観測記録に止まらない。本報告から、『進化の道』を導き出せることを願って止まない。 検討の材料は揃っている。 例えば、わたしが暴走し、涼宮ハルヒの能力を盗み出して、情報統合思念体を消滅させて世界を改変した事件について。 なぜわたしが『暴走』に至ったのか。どうすれば暴走しないで済んだのか。当事者であるわたしは、既にある程度考察は進んでいる。 また、例えばなぜ朝倉涼子は、わざわざ『自殺』という形を選んだのか。そのまま有機情報連結を解除されても、『死んで』から有機情報連結を解除されても、結果は変わらないのに。 もちろんこれは、今となっては『情報統合思念体の管轄から外れるため』であると言える。しかし、それならなぜ彼女は、情報統合思念体の管轄から外れる必要があったのか。 そしてまた、例えばなぜ喜緑江美里は、朝倉涼子の行動に協力しているのか。情報統合思念体にとって極めて優秀な端末でありながら、なぜその意に反するような行動をする朝倉涼子に協力しているのか。 それらを創造主である情報統合思念体自身に、よく考えてほしいと思う。自らが作り出したものについてさえよく理解できないようならば、もはや自分達に未来はないものと思って、真剣に考えてほしい。 なお、理解の助けとして自ら『肉体を纏った状態』を体験することは、非常に有効であると思われる。本報告は、肉体を持ったわたしを通じて観測した『世界』の姿が記録されている。しかし、『伝聞』として伝わる情報と、直接『実感』する情報は違う。 『百聞は一見に如かず』 この格言を情報統合思念体に贈る。自らの実体験に勝る情報はない。 以上をもって、本報告の所見とする。 ←Report.25|目次|Appendix→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1231.html
Report.01 長門有希の流血 観測経過を報告する。 より正確に有機生命体の行動様態を把握するための試行の一環として、特定波形の音波(以下、『音声』という。)による意思疎通(以下、『会話』という。)の内容の表現を一部変更するようにとの要望が情報統合思念体からあったため、今回の報告では試験的に変更する。 まず、今回の要望の背景を説明する。 この惑星に生息する『人間』という有機生命体は、主に『言語』という、音声を用いた会話によって意思疎通を行うが、言語の種類は人間の生息する地域等により、複数の類型に分かれる。 本報告は、より正確に観測対象の行動様態を把握するために、観測対象である『涼宮ハルヒ』らが使用する『言語』(以下、『日本語』という。)を用いて記述している。しかし、同じ言語でも、使用される地域によって『方言』と呼ばれる差異が複数存在することが確認されている。 また、言語の多くには、『文字』と呼ばれる記号を用いて、本報告のように情報を記録する用途で使われる表現方法(以下、『書き言葉』という。)が通常の会話方法とは別に存在する場合もあり、日本語はその例に該当する。文字及び書き言葉の体系は、優勢な方言又は新たに作成した人工言語を元に整備されるため、その他の方言を再現し難い場合が多い。 以上により、言語による会話を記録する際には、情報の一部変質は免れない。これは、音声を文字に置換する過程(以下、『文章化』という。)で特に顕著である。 そこで情報統合思念体は、文章化の際に会話部分を可能な限り、元の音声を再現した形での報告を求めた。今回の報告は、その要望を受けて、当該方言の再現にはあまり適していない文章を使用して、元の音声会話を可能な限り再現し、記述しようとするものである。 情報伝達に支障を来さないよう、会話以外の部分は従前通りの表記とする。 なお、情報伝達に想定以上の齟齬が認められる場合は、別途、会話部分を従前通り表記した報告を行うものとする。 【追記】 その後、従前通り表記した報告を行ったところ、現地語表記と一般表記を併記した形での報告を求められた。現在の形は、併記した形の報告に差し替えたものである。 「アルー晴レータ日ーノコト~♪ んんーんんーんんーんんん~♪」 涼宮ハルヒが歌を口ずさみながら部室に入ってきた。普段の学生鞄(かばん)とは別に、大きな鞄を肩に掛けている。 「んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いなぁ~♪」 【んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いわね♪】 笑顔、『彼』の表現を借りると『100Wの笑顔』で朝比奈みくるにそう声を掛けながら、団長席に着く。 「おい、ハルヒ。今日はまた、えっらい御機嫌さんやな?」 【おい、ハルヒ。今日はまた、やけに御機嫌だな?】 『彼』、通称『キョン』は、眉を寄せながらそう問い掛けた。過去の情報を検索すれば、涼宮ハルヒがこのような表情をしているときは、彼女の発言を受けて必ず『彼』が東奔西走せざるを得ない状況が発生する。『彼』はそれを理解しているので、こんな表情をしている。この表情を『諦めた顔』というそうだ。 「んっふっふ~。今日はねぇ、みくるちゃんのために、ええモン用意してきたんや~。」 【んっふっふ~。今日はね、みくるちゃんのために、いい物を用意してきたのよ。】 余談になるが、涼宮ハルヒたちの観測を続けるうちに、少しずつだが、表情等を観察して過去の情報と照合すると、その人間の思考内容が予測できることが分かってきた。 その考察結果から今の涼宮ハルヒの思考を予測すると、『待ってました!』又は『よくぞ聞いてくれた!』である。 「最近、ず~っと同(おんな)じメイド服やったやろ? そろそろ新しいコスにいってみよかと思(おも)てん。とは言(ゆ)うても、今回は小物だけやねんけど。じゃじゃ~ん!」 【最近、ず~っと同じメイド服だったでしょ? そろそろ新しいコスにいってみようかと思ったの。とは言っても、今回は小物だけなんだけどね。じゃじゃ~ん!】 そう言って涼宮ハルヒは、学生鞄の中からそれを取り出した。ある哺乳類の耳を模したヘアバンド。 「ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳っちゅうわけですか。」 【ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳というわけですか。】 古泉一樹がいつもの微笑をたたえて言う。 「ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よぉ見てみ? まぁ、耳だけやったら素人には分からへんか。用意したんは耳だけ違(ちゃ)うで、尻尾もセットや!」 【ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よく見なさい? まぁ、耳だけじゃ素人には分かんないか。用意したのは耳だけじゃないわ、尻尾もセットよ!】 涼宮ハルヒは更に別の物を取り出した。とてもふさふさした哺乳類の尻尾。 「猫耳やったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いやろ? そんなん、普通でおもんないやんか。まぁ、みくるちゃんやったら猫耳付けても似合うやろけど、せっかくやから違う耳を用意してん。」 【猫耳だったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いでしょ? そんなの、普通で面白くないじゃない。まぁ、みくるちゃんなら猫耳付けても似合うでしょうけど、せっかくだから違う耳を用意したわ。】 「それは……アレか? うどんとかでおなじみの……」 『彼』が問う。 「そ。おっきな耳に、スマートでクールなフォルム。魅惑のふさふさ尻尾、狐セット~♪」 そう言うや否や、涼宮ハルヒは朝比奈みくるの狐耳と尻尾の装着に取り掛かる。 「あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らんとってぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んだらあかん~ うわ!? ちょ、何(なん)ちゅうとこ触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……」 【あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らないでぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んじゃダメぇ~うわ!? ちょ、何(なん)て所触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……】 朝比奈みくるの嬌声をBGMに、程なくして狐耳メイド(しっぽ付き)が出来上がる。 「よっしゃぁ♪ 思(おも)た通りめちゃめちゃ似合っとぉわぁ♪」 【できた♪ 思った通りめちゃ似合ってるわ♪】 「これはこれは……さすがは涼宮さんですなぁ。妙にそそられるモンがありまっせ。」 【これはこれは……さすがは涼宮さんですね。妙にそそられるものがありますよ。】 表情を変えずに古泉一樹は言う。わたしはまだ、古泉一樹の思考内容は全く予測できない。 「さぁ、写真撮りまくるで! キョン! 古泉くん! あんたらは助手や! 早(はよ)、照明やらセットしてや!」 【さぁ、写真撮りまくるわよ! キョン! 古泉くん! あんたたちは助手! さっさと照明とかセットしなさい!】 涼宮ハルヒは手際よく、大きな鞄から撮影機材を取り出していく。 「って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物(もん)どっから調達してきたんや!?」 【って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物どこから調達してきたんだ!?】 『彼』が目をむいて突っ込む。 「ああ、コレ? 気にしたら負けや♪」 【ああ、コレ? 気にしたら負けよ♪】 「……もぉええわ。」 【……好きにしろよ、もう。】 やれやれ、と『彼』は肩をすくめた。 わたしの記憶領域になぜか、涼宮ハルヒと『彼』が二人で『ありがと~ございました~!!』とお辞儀し、『以上、「涼宮ハルヒと愉快な仲間たち」のお二人でした~!!』という声を背に、舞台裏に下がっていく映像が展開された。このエラーの原因は不明。 撮影中の様子は、特筆する事項はない。涼宮ハルヒの心理状態は高原状態だったと書けば足りる。 一頻(ひとしき)り撮影を終えると、 「ん~、狐耳のメイドさんも、なかなかええモンやね。今度は尻尾がよぉ見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方がええかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してへんかったことがごっつ悔やまれるわ。」 【うーん、狐耳のメイドさんも、なかなかいいものね。今度は尻尾がよく見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方がいいかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してなかったことがすごく悔やまれるわ。】 朝比奈みくるに頬ずりしながら、涼宮ハルヒは言った。 「なかなか萌えの世界ってのは奥深いわ。」 (……まさか、新たな属性に目覚めたん違(ちゃ)うか!?) 《……まさか、新たな属性に目覚めたんじゃないのか!?》 『彼』はそう言っているかのような顔で涼宮ハルヒを見つめていた。 「そやなー。みくるちゃんだけやなくて、他の団員にも耳付けてみたいなぁ。」 【そうね。みくるちゃんだけじゃなくて、他の団員にも耳を付けてみたいわね。】 と言って、辺りを見渡す。 「有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何がええやろな?」 【有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何がいいかな?】 「……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいわ……」 【……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいぜ……】 『彼』がボソリと呟く。 「ん? 何(なん)か言(ゆ)うた?」 【ん?何(なん)か言った?】 「!? な、何(なん)も言(ゆ)うてへんぞ!!」 【!? な、何も言ってないぞ!!】 『彼』はよく、独白をうっかり声に出して言ってしまう。今回もそうだろう。 「みくるちゃんは狐もええけど、やっぱり兎やな! ほんで、古泉くんは……何となく狸!」 【みくるちゃんは狐もいいけど、やっぱり兎ね! それで、古泉くんは……何となく狸!】 最後に涼宮ハルヒは『彼』を見てこう言った。 「あんたは迷いようがないな。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまらんくらいやわ。」 【あんたは迷いようがないわ。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまんないくらいだわ。】 「何(なん)や、言(ゆ)うてみぃ。」 【何(なん)だ、言ってみろ。】 「あんたは犬に決まっとぉやろ。」 【あんたは犬に決まってるじゃない。】 「理由は?」 「何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いていく、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものやんか! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬な!」 【何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いて行く、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものだわ! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬ね!】 「何(なん)でやねんっ!!」 【何(なん)でそうなる!!】 『彼』の渾身のツッコミが涼宮ハルヒにヒットする。見事な形。『彼』のツッコミの腕は、これからも進化し続けるだろう。 「ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れたらあかんな、首輪!」 【ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れちゃだめね、首輪!】 「何(なん)やと!?」 【何(なん)だと!?】 「首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりやね!」 【首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりね!】 「はっはっは、なかなか言いえて妙ですなぁ。さすがは涼宮さんですわ。」 【はっはっは、なかなか言いえて妙ですね。さすがは涼宮さんです。】 「コルァ、古泉……あんまり調子乗っとったら、イわすぞ?」 【こら、古泉……あんまり調子乗ってると、殴るぞ?】 「おっと、冗談でんがな。はっはっは。」 【おっと、冗談ですよ。はっはっは。】 古泉一樹は普段通りの微笑で言う。 「フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうや! せっかくやから犬らしい名前で呼んだろか! ポチ、ポチ~」 【フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうだ! せっかくだから犬らしい名前で呼びましょ! ポチ、ポチ~】 「じゃかましぃわぃ、あほんだらっ!」 【えーい、やかましい!】 『彼』は憮然とした顔で言う。 「う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来(こ)うへんなぁ? タマ……は猫やし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そや! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンや!」 【う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来ないわね? タマ……は猫だし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そうよ! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンよ!】 ひくぴきぴき、と『彼』の顔が引きつった。 「ジョン、ジョン~。うん、何(なん)ていうか、あるべき所に収まったいう感じやな。ん? 何(なん)やろ、苗字まで思い浮かんだで? ジョン・スミス? 何(なん)やろ、この感覚……何(なん)ていうか、既定事項? みたいな……」 【ジョン、ジョン~。うん、何(なん)ていうか、あるべき所に収まったっていう感じね。ん?何(なん)だろ、苗字まで思い浮かんだわ? ジョン・スミス?何(なん)だろ、この感覚……何(なん)ていうか、既定事項? みたいな……】 「……それはお前の気のせいや……」 【……それはお前の気のせいだ……】 『彼』は震える声でやっと、搾り出すように言った。 「キョンくん? 顔色悪いけど、どしたん?」 【キョンくん? 顔色悪いけど、どうしたの?】 「……何゛でも゛あ゛り゛ま゛ぜん゛、朝゛比゛奈゛ざん゛」 どう見ても何かあります。本当にありがとうございました。 そんな一文が、わたしの記憶領域に展開された。 しかし、この後彼らは思わぬ角度から大混乱に陥ることになる。 『彼』が反応したのは、『ジョン・スミス』という単語。 これは今から四年前の時点へ、『彼』が時間移動して涼宮ハルヒと出会った時に名乗った名前。『彼』曰く、涼宮ハルヒに自分の能力を自覚させる『禁断の言葉』。もし涼宮ハルヒが自らの能力を自覚したら、どのような事態になるかは情報統合思念体でも予測が困難。その単語を涼宮ハルヒ自ら口にした。『彼』が驚愕するのも無理はない。 情報操作をすべきか、あるいは言語による操作、彼ら流に言うと『フォロー』をすべきか考え始めた時、異変が起きた。 わたしの記憶領域に、ある映像が展開される。 一戸建ての家、玄関の脇、犬耳を生やした『彼』が尻尾を振りながら『お座り』している。『彼』の前には小さな皿、『彼』の後ろには小さな犬小屋。皿と犬小屋には、それぞれ『ぢょんのえさ』『ぢょんのいえ』と書かれている。わたしは哺乳類の大腿骨の形を模したガムを手に持ち、『彼』に言う。 『ジョン、お手。』 『わん!』 『お回り。』 『わん、わん!』 『チンチン。』 『わおん!』 『……いい子、いい子。』 『くぅん。』 わたしの中に得体の知れない『何か』が湧き上がる。発生した理由は不明。最近わたしは、この『何か』を人間で言うところの『感情』ではないかと考えている。 今回の『何か』を人間の感情に近似して、合致するものはないか検索する。今回の『何か』は……『萌え』? そのような『妄想』に囚われること数秒。エラー。平常状態に復帰する。 気が付くと、わたし以外のSOS団全員の視線がわたしに集中していた。古泉一樹でさえ、驚愕の表情を浮かべている。もしわたしに表情を浮かべる機能があったなら、今の『妄想』のせいで、口に出すのも憚られるような『すごい顔』をしていたことだろう。でも、わたしにはその機能はないため、そんな心配はない。では、なぜ視線が? 「……な、な、な……」 朝比奈みくるが震えながら、わたしを指差している。涙目で。なぜ? 「……なに。」 と、わたしは問う。 『長門さん!』 「長門ー!」 「有希ー!」 わたし以外の四人の声が重なる。 『鼻血、鼻血――――!!』 その日から『ジョン・スミス』は、わたしにとっても禁じられた言葉(ワード)となった。 【対訳版:Extra.6 長門有希の対訳】 |目次|Report.02→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3682.html
普通に登校。普通に授業。普通に放課後。俺は今日も部室に向かおうとしていた。 部室のドアを開けると朝比奈さん以外は既に全員来ていた。 ちょいと鼻につくイケメンの男子部員、眼鏡っ子で読書好きな女子部員。そして小うるさい我らが団長。 「朝比奈さんは今日はお友達と用事があるのでいらっしゃらないそうです。」 本当か? 可憐な花がいないとなると俺の部室に来る意味は99.99999%ぐらいは失われてしまうのに! 「まったくみくるちゃんも、遊ぶんなら土日に存分に遊べばいいのに! 何物にもかえがたい一日で一番有意義なこの時間を削るなんて!」 土日もすべからくお前が拘束してる気もするが。 ふと左へ目を向ければ、いつものようにおとなしい元文芸女子部員が読書にふけっている。 時々思うがこいつは眼鏡をとったらどんな顔になるんだろうな。顔自体は整ってるから意外にかわいい気もするが。 …………うん? 違和感。 何かの違和感が俺を突き抜けた。なんだろうこれは。 でも俺がいる部室はいつもの部室。朝比奈さんがいない以外は何もいつもと変わらないSOS団のはずだ。 家具――と呼ぶのがふさわしいのかどうか――や備品はいつものままだし、人物も デタラメな力を持った団長さんと背の高いニヤケ面に、今はいないが未来から来た美少女と、団長様に部室を横取りされた薄幸の元文芸部員(俺と同じ一般人はこいつだけだ)。 そう、人物も何も変わっちゃいない。 ……この違和感はなんかの幻覚なのか? 杞憂だろうか。 まあいい。今日も古泉と盤ゲーに興じるとしよう。今日はチェスの気分だが、 「すみません。今日僕が持ってきたのは将棋だけです。」 しょうがないか。どうせ勝敗は戦う前から分かってるしな。ゲームの種類どうのこうのの問題ではなく。 「んじゃ、先攻は……」 と言いかけたとき、 「今日は私がやるわ!」 へ。 「いっつも古泉くん負けてばっかりでしょ? あたしがあんたをぎったんぎったんに叩きのめして打ち負かしてやるんだから。」 俺は別にいいが、お前将棋できるのか? 「仕方がないな。弱くて拍子抜けさせるなよ。」 「あんたがね!」 ハルヒは俺のイスを奪ったので、俺はいつも古泉が腰掛けている長門側に座ってゲームを始めた。 ゲームは俺優勢。というかほとんど詰みの段階だ。 「くく……小学生の将棋大会32人トーナメントで一位を取った俺をナメるなよ!」 「何それ! ここからなのよここから! はいそこに角成り!」 ハルヒの抵抗むなしく。順当に俺勝利。なんともあっけない敵だったな。 「三回勝負よ!」 来ると思ったぜ。でもいくらやっても無駄だぞ。 結局五回勝負になったが、それでも三本ストレートで俺の圧勝。 「ぎったんぎったんになったのはお前の方だったな」 「……何よ! もう! 将棋だったのがいけなかったのよ、オセロなら……」 そうか。んじゃやるか? オセロは部室に常備だし。 「もうっ!」 「あぶな」 ハルヒはいつぞや文化祭後に俺に草を投げつけた時のような動作で、今度は握った駒を、 「うわ!」 桂馬と飛車が宙を舞う。俺はすかさずよけ、パソコン側へ非難。我ながらけっこうフットワークいいな。 「えい!!」 2発目が来た。今度は歩と王か? スピード速いな、本気で投げやがって。でもこんなに俺は動体視力良かったか? 「あ」 ハルヒの投げた駒は全発命中。いや、俺にじゃない。 「長門!」 「ご、ごめん有希!」 俺とハルヒはすぐさま長門に駆け寄る。古泉は必死に駒を集めている。 ちょうど……顔だな。顔に7発か。 眼鏡のおかげか目は大丈夫だが、頬がちょっと切れてるようだ。軽傷で良かったよ。 「ごめん。本当にごめんね有希。キョンが避けるから……」 なんだよその絶対王政時のフランス国王もビックリな理屈は。 「とにかく軽傷で良かったじゃないですか。」 古泉は散乱していた駒を集め終わって、体制を直す。 「長門。ちょっと見せてみろ」 近づいてまじまじともう一度容態を確認してみる。 ……涙? 「お前涙でて」 ハッとした仕草を見せた後、長門はすぐさま眼鏡をとって顔をぬぐった。 駒が当たって痛かったから出た涙なのか、団員の優しさに涙腺がほだされた結果なのかは分からんが、正直レアな代物だった。 この調子だと俺はもう一度レアなものを拝めるな。そう、長門の眼鏡をとった顔だ。 けっこう前から期待はしていたが、俺の予想は当たってくれるのだろうかね。 こいつは絶対に眼鏡をとったほうが映えると思うぜ。 ぬぐい終わった長門がさっと顔を上げた。 そう、同時に俺には閃光のようなものが一瞬駆けめぐる。 ド忘れしていたものを思い出すような、テスト中に起こってくれれば正直ありがたいような現象。 ……俺は今日何を見ていたんだ? 何を思っていた? この長門は『本当の長門』じゃない。 いつもの対有機生命体なんとかかんとかから何故か変化してしまった、昨日の長門じゃないか! 何故だかは知らんが、俺は昨日の出来事を全部忘れていた。いや、正確に言えば、昨日『変化してしまった長門』を本当のものだと思ってしまっていた。 そうだ! 今日は昨日のことを長門に何か問わなければいけなかったんじゃなかったか。 昨日ベットに入るまでは覚えていた。……どこから忘れている? ともかく…… 「古泉。ちょっとトイレ休憩だ」 「は? 何言ってるのよアンタ! 有希がいまね……」 「僕はかまいませんが……いわゆる『連れション』というやつでしょうか?」 わざわざ言わんでいい! そういうことにしておくからちょっと来い! ……って、なんで少し遠い目をしてるんだお前は! そんな色目はいいからさっさと来い! 俺は古泉を連れて部室を出た。もちろん、昨日のことを問いただすためである。 「おい。昨日のことを覚えているか?」 「昨日のこと? 何のことでしょう?」 本気なのかどうなのかこいつはよく分からんな・・・ 「昨日、長門が変わってしまったことだよ!」 「長門さんがですか?」 「そうだ。お前が俺に感じたことを説明してくれたんじゃないか。」 「……」 「分からないのか?」 「まったく覚えておりません。そもそも長門さんの何が変わっても正直僕はそれほど関心が無いので……」 は? 「朝比奈みくる――いえ失礼、朝比奈さん――涼宮ハルヒの動向なら逐一機関に報告しなければならないことになっていますが、あなたと同じ一般人の長門さんは……」 やっぱりだ。朝からさっきまでの俺と同じ認識。 長門は本当の普通の人間で、まるで昨日の長門が現実のような認識。 今までの長門を忘れてしまったような…… 「分かった。もう聞くことはおしまいだ」 「え? 連れション……はどうするのでしょう?」 トイレならお前一人で行けばいいだろ 「そうですか……」 なんでお前は残念そうなんだ。 「では、あなたのトイレの時間まで待ちましょうか?」 ……俺はお前を忘れたいぐらいだ。 「遅かったわね。」 長門のほっぺたには絆創膏で手当てがしてある。たまに見る丸形のやつだ。 時計に目をやってみると下校時間までには数分しか時間が無かった。 「今日の戸締まりは……あたしがやっとくわ。みんなはもう帰っていいわよ」 さすがのハルヒも多少引け目を感じてはいるみたいだな。 「では僕はお先に、今度はトイ」 「それは未来永劫、無い。」 俺は下駄箱で長門を待っていた。今回のことの手がかりを聞きつけるために。 「長門」 長門はこちらを見つけると小さな驚きの表情になったが、すぐに顔を下に伏す。 「ちょっと話したいことあるんだけど、帰り道、いいか?」 驚きの表情は強くなった 「……いい」 ハルヒに見つかるとなんとなくやばそうな気がしたので、長門を急かしてすぐに校門を抜けて敷地外へ出た。 聞きたいことは山ほどにあるが、それをはたしてこの長門に聞いてしまって良い物かどうか、二人で歩きながら俺は思案していた。 当然言葉もとりとめのないものになる。日常の学校生活のことばかり。 でもそれによって、それでだいたい『この長門』の境遇が分かってきた。内気な少女。読書好き。やっぱり家はあのマンション。少食。 ようするに、「以前の騒動」のときの長門とほぼ同じだった。違うところは、SOS団員として過ごした記憶をきちんと持っているってことか。 でも、長門の超人的な活躍で解決した事件はすべからくちょっと違っている。ギターは弾けないらしい。 「わたしの家……来る?」 いつしか長門にそう言わせる方向まで話が進めていたか。なんというデジャヴだろう。 しかし、もうマンションが地理的に近づいているのは分かっている。とりあえず二人きりになれたわけだし、この機会を逃すとまたかなり面倒だ。 「どこにあるんだ? そのマンション?」 「もうすぐ。」 マンションの真ん前にきた俺たちは、無言が少し気まずいエレベーターを抜け、長門の部屋の玄関前についた。 長門の後を追い、靴を整えて入った俺は俺はやはりあの部屋に通された。 さて、どうすればいいのだろう。と考える前に、お茶を出そうとする長門に向かって俺は言っていた。 「お前、宇宙人って信じてるか?」 セールスマンはあくどい……というか単なる詐欺師だが、少しばかり見習いたいところもあるね。 ああ、俺にはしゃべりの才能が皆無だな。こんな切り口から何を聞き出そうというのか。どう話を繋げればいいんだよ。 言葉よ! もう一回口の中に戻ってきてくれ! もっといいものにしてはき出してやるから… 「……?」 まさにクエスチョンマークが似合いすぎる表情をして、長門がこちらを見る。 ちょっぴり首をかしげる動作のおまけ付きで。 「いや、あの……その宇宙人は本が大好きでさ! な、なんでもできるんだよ。そして俺をいつも助けてくれる。で……」 言いかけたとき、俺はとっさに手を伸ばしたが間に合わなかった。 長門の手から茶碗がこぼれ落ちた。 「うわっ!」 昨日の放課後に死ぬほど蒸し暑さを感じているときにこの冷えたお茶をかぶるのはいいが、さすがに夕暗くなった今ではな。 「ご、ごめんなさ! ……あっ!」 謝罪の言葉と共に、後ろのポットの横にある布巾を取ろうとした長門は転当。 正直、朝比奈さんでもめったにみられないドジっ娘っぷりだ。……なんて考えてる場合ではなく、 「大丈夫か!?」 そう叫んで長門に駆け寄る俺……なのだが 不覚。 こたつは敷いていなく、その分露出していたテーブルの四脚に足をとられて俺も転倒。 長門に……そうだな……この体勢はなんと言えばいいんだろうか。 まあ平たく言えば古泉とは絶対になりたくないような…… でも……いや古泉なら大丈夫だろうが、成人の平均身長並みの体重は持ってる俺が長門に覆い被されば、うん。それは長門はキツイだろう。 「ごめん!」 「ごめんなさい!」 真っ先に離れたのは長門の方だった。少し惜しい。 いやいやいや。早くこの散乱したポットやら茶碗やらを片づけなければ! 長門の持っていた茶碗が割れなかったのが救いか。 かかった冷水の影響か、俺の体は少し寒い。長門と俺で布巾雑巾を使いながら必死に掃除に精をだしているとき、突然、長門は驚くべきことを切り出した。 「わたし……そういう小説を読んでた。」 「え?」 「宇宙人の小説。さっき、ついさっき」 どういうことだ? 「あなたが将棋をしていたとき、ちょうど読み終わって、でもラストが無くて……」 この長門も、言葉を出すときに単語を並べるようにして口をつぐむ傾向があるが、正直に言って断片的すぎて意味が分からん。 「どういう……ことだ?」 長門は小説の説明――やはり断片的に――をしてくれた。 SFもの。主人公は地球人……なのかは分からんが人間。その主人公と仲間達の日常に、小柄な宇宙人の少女(読書好き)が現れ、事件を解決していく。 でも少女は同じ言葉を話せない。だから他の仲間達には気味悪がられる。そんな中、理解者になってくれたのがその主人公。 主人公やその仲間達に近づきたい宇宙人は、悪魔の秘法で同じ言葉を話そうとする。 でもその魔法を使うと、本来は何百年も生きられる宇宙人も、あと三日の命になってしまう。 主人公には仲間のいいなずけがいたが、それでも宇宙人はその魔法を使う。 ……って、そんなのはなっからバッドエンドが確約されてるような「人魚姫」じゃねえか。 作者出てこい。そんな小説が売れるなら俺も小説家目指すぞ。 しかし、今『バッドエンド』と俺は言ったが、その小説で一番特筆すべきなのは…… そう、さっき長門が言っていたような気もするが、その小説、エンディングが無いらしい 。 いや、いくら怠慢で盗作バリバリ印税ウハウハな性悪作家でも、一巻もので落ちをつけないなんて暴挙は犯さない。 長門によれば、ちょうどページが破れて抜け落ちていたそうなのだが、そういうまがいものは普通図書館から借りるときに気づくんじゃないだろうか。 「図書館から借りた時は、全部のページがあった。」 「……」 「何時破れたのか、分からない……」 そんなことあるのかねぇ……エンディングの無い本、か。 「そっちの雑巾、とって」 「ん? あぁすまんすまん」 …… そんなこんなで長門と俺の大掃除作業が大詰めに近づいた頃、これまでの静寂を一気にぶち破りやがるような台風X号が到来してきた! 「こーーんにちわーー!! いやこんばんわかなっ? 長門っちいる~?」 こ、この声は…… 「こんばんわぁ~。長門さんいませんかぁ」 ……あぁ。 まあ予想してた最悪規模の台風Xでは無かったようだが、それでも二大巨頭台風Yと台風Zと言えよう。どうするべきかっ! 「だ、誰だろうなぁ……ハハ」 ちょっと白々しいか? 俺。 「たぶん……」 そう。 どう考えても時を駆ける少女こと朝比奈さんとSOS団名誉顧問の第一人者こと鶴屋さんですよね。ハハハ、笑いが止まらん。ハハハハ。 遊びに行くと言ってたが、不覚だったぜコノヤロウ。 俺が必死に、簡潔かつ不自然にならぬような言い訳を考えるまでもなく、鶴屋さんは居間に上がってきた。 朝比奈さんはともかくも、明日鶴屋さんからハルヒにばれたら……。 「鶴屋さん、かってにあがっちゃ……」 「あ! 長門っちいるねぇ! ってぇ!?」 ハイ、スミマセン……今は夜……九時ですか。 「ど・う・し・てキョンくんがここにいるのっさ~。」 なんと形容すればいいんだろう。この目。 カツ丼を出してくれるような男気のある取り調べはしてくれそうにない。鶴屋さんならもう少し話が分かって見逃してくれると思ったが…… 長門は居づらいのか台所へ行ってる。朝比奈さんはなんでそんなにうつむいてるんですか? 目ぐらい合わせてくれたって…… 「い、いやですね、これにはちょっとだけ、いや深い、そう! 深いわけが」 「……」 鶴屋さん、あなたはなんでそんな目で…… すると、俺にとってはこれ以上ない助け船。長門が軽食を作って持ってきた。 「ま、まあ長門がせっかく作ったんだしこれでも食べましょう!」 上級生二人は……うん。目は笑ってるんだが眉毛が笑ってないな。 結局、それから俺らは四人で気まずい食卓――いつぞやの朝倉、長門と食った時のようだ――を囲んだ。 血の池地獄やら針地獄やら、いろいろと地獄にはバリエーションがあるだろうが、 俺から閻魔大王にかけあって、それらに追加したいいただきたいぐらいの地獄だ。いや本当に辛い。 明日のことも考えると鬱になる。 ……って、朝比奈さん、あなたはなんで俺が醤油をとるだけでびくついてるんですか。 静寂――実際には鶴屋さんが一人でしゃべっていたが、ほとんど環境音のようなものだ――を切り裂き、長門が一声を発した。 「あの……わたし、ちょっとお茶こぼしたり、倒れただけで……お二人が考えているような……」 間髪入れず、 「「倒された」ぁ!?」 倒れたです。 「い、いや彼は、悪くなくて」 「い~やいやいや、もういいんだよ長門っち。両手に花をきどる悪の女ったらしは私が成敗してやるっさ!」 ああ、なんか話が…… 「キョンくん……」 あなたはまたそんな目で。 「い~いかい? キョンくんっ。明日ハルにゃんにかけ合ってSOS団で審議してもらうよ! この議題はねっ!」 「い、いや、それだけは、っていうか本当に俺はただの「深いわけ」でここにいるだけなんですよ。」 「なんだいそれ! ……あーあ、明日報告したらハルにゃんと古泉くんはめがっさ深い悲しみに包まれると思うよ~」 なんで古泉なんだ。 「キョンくん、真実はちゃんとお話しした方が……」 そしてあなたまで…… そのときだった。 カタン。 と音を立て、長門が無言で席を立つ。顔にキラリと何かが見えたのは気のせいだろうか。 「…………」 取り残された三人。 5秒ぐらいの静寂を破ったのは朝比奈さんだった。 「わたし、帰りますね……ちょっと用事が……」 この状況なら俺も帰るしかあるまい。 「じゃあ俺」 と言いかけたところで鶴屋さんの視線に気がつく。なんだ? この人はデタラメ犯罪追求以外に話すことがあるのか? しかし、鶴屋さんの眼光は、さっきまで俺を尋問していたときとは、明らかに性質を異にしていた。 なんだ? 何が言いたいんだ? 「あのさ、キョンくん。」 「なんですか?」 三秒の間の後、 「今日の長門っち、ちょっと変じゃないかい?」 ……! いつそう思ったんだ?今の長門の癇癪――と言っていいのだろうか――からだろうか? 「今日ここに来てから、なにか違和感があったような……」 もしかして、この人は長門の変化を感づいているのか? 古泉は完全に以前の……つい一昨日までの長門のことを分からなくなっていた。 朝比奈さんがそれと同じなんらかの記憶操作を誰かにされていても不思議じゃない。さっきの朝比奈さんの挙動からは読めないが。 まぁハルヒは前々からおとなしい少女像を長門に見ていただろうから、『いつもの長門』のままだろうけれど・・・ 「うん。確かに変だよ。」 「具体的には、どんなところが?」 「いつもの長門っちみたいなミステリアスな感じがなくなってると思わないかい? なんというか、本当に普通の女の子みたいな。」 普通の女の子。 その通りだ。普通の単なる少女。美の形容がつくかはわからないが、俺はついてもいい気がする。 「……キョンくんは何か知らないのかい? 今日ここにキョンくんがいるのも、なにか関係があるんじゃないのかい?」 相変わらず恐ろしいほどに洞察のいい人だ。 さて、俺はどう答えればいい? 一切合切を話すのならば、神のことや少年エスパーのことや未来人のことも話さないと説明がつかない。それは無理だ。 だいたいなんでこの人が長門の変化を読み取れるんだ? というかなんでこの人の記憶は操作されていない? 「教えないと、ほんとに明日言いふらすにょろよっ?」 「いや、俺もそれを感づいて、何か変わったことがあるのだろうか、と思って長門の家に来たんです、けど……」 「……。」 半信半疑……か? 「結局手がかりは何もなくて、何か内面で人には言えないような変化じゃないのかなぁ、と。」 でまかせでもあり、一部真実でもある。 「……本当に?」 「ええ。」 そのとき、台所の裏に行っていた長門が帰ってきた。 「長門」 「…………」 なにか言いたいのだろうか。よく分からないが、伏せた目は悲しみの表情を作っている気がする。 「じゃ、あたしももうそろそろ帰ろっかな~」 鶴屋さんが一転してやや場違いなトーンの声を出す。まあここで何か言葉を発して場を和らげるなら、こうしたものしかないとは思うが。 「じゃあ俺も。」 俺もこの場は帰るしか無いような気がした。 鶴屋さんが先にドアをひらき、出て行き、俺もカバンや乾いた制服をとり、玄関へ向かった。 長門は廊下の途中まで見送りに来たが、俺が靴を履く段階になると居間へ戻っていたようだった。 あのときと同じように、長門に制服をつままれて請われるようなことは無かった。 中編へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2761.html
Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~ 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。 (朝倉涼子の幻影I) 最近、朝倉が出てくる夢を見る。 最初は変な空間だった。 「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。 「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」 朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。 「……っ!」 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。 「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。 ……ナニ、コレ。 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。 一刀両断された靄が空気に溶けていった。 ……… …… … なんじゃこりゃ――――!! ってところで目が覚めた。 マジで、何じゃこりゃ? (朝倉涼子の幻影II) 最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから! 冗談はさておいて。 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。 状況としては、こう。 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。 目の前には、人影が二つ。 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。 その後もすごかった。 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。 何ということでしょう。 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。 有希……相当怖いって、それ。 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ! こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。 はっきり言うわ。 激萌え!! 夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。 まるで……姉妹みたいに。 (朝倉涼子の幻影IV) 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。 これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん! ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー! ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。 まず場面を説明するわ。 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。 状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい! 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、 告 白 し た キ ス し た ……… …… … ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!! ――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。 夢の話の続きは…… あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう! ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。 今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――! 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」! アホなこと書いてないで、先に進めよう。 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。 つまり。 あたしは、有希のことが好き? ……ということは、これはあたしの願望っていうこと? いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。 ……なんてね。アホか、あたしは。 翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした…… って、違う、そうじゃなくて。 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。 すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。 いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~! でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。 みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。 何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね…… うーん…… 考えれば考えるほど、分からないや。 【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】 (涼宮ハルヒの混乱) あたしは今、猛烈に困惑している。 何コレ。 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。 もう一度問う。何コレ。 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。 だって、だってよ。 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。 落ち着いて考えてみなさいよ? あたしと有希は、女の子同士。 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ? あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。 (涼宮ハルヒの決心) さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。 そうしたら、思い出した。 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。 それと共に、ある「想い」も、思い出した。 あたしは、有希が好き。 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。 何てことかしら。 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを…… いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。 てことは、自業自得か、あたし? あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。 あたしは、有希のことが好き。 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。 だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。 (涼宮ハルヒの手紙) 有希に読んでほしいこと。 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。 有希へ。 あたしはあんたを愛してる。 あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。 いろんな意味で、あんたが好き。大好き。 だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。 そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。 それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。 この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。 そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。 涼宮 ハルヒ 【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】 追伸 有希はあたしの嫁。 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。 ←Report.22|目次|Report.24→