約 24,299 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3680.html
高校に入ってから何度目だろう。結局長門との思い出の核はここにある気がする。 だが、どう見ても入り口に長門の姿は見えなかった。もう遅かったか…… ……いや。 いつぞやの閉鎖空間の壁のようにうねっている図書館の扉。だが、これは通り抜けられる。まるでゼラチンの中に入っていくようだ。 図書館の中は静寂に満ちていた。 電気もついてないし当然か。俺の闊歩する音がかん高く聞こえて不気味ですらある。俺は奧のソファーがある場所へ足を進めた。 そして、ため息をつく。大きいため息。 やはり眼鏡はないほうがいいな。 でも、正直よく見えない。号泣とはいかず、ちょっと頬をつたう程度なのだが。 「……長門」 「ありがとう」 第一声がそれか。 「頼みたいことって、なんだ?」 黒くて何とも言えぬ深さを持つ目が俺を見つめる。 「本」 本? これかこれがどうした? 「読んで。」 いや、もう読んだんだよ。俺の趣味にはちょっと合わなかったけどさ……はは。 お前はこういう小説が好きだったのか? 「よく分からない。」 そっか。他に何かはな 「読んで。」 え? 「本……読んで。」 なんと答えればいいんだ? 今からこれを……文字通り、音読しろってことなのか? それほど厚い本じゃないが、それじゃ明日になっちまうぜ。 「しおり」 「ん?」 「しおりのところからでいい。」 そういうことか。それなら…… ガタッ とっさだった。 長門は糸が切り崩された操り人形のように崩れ落ち、俺はそれを間一髪で抱える。 「大丈夫か! 長門!」 「……わたしが……今の現実世界のわたしが、対消滅への過剰反応を起こしている。」 過剰反応? 「あと30分でわたしは消滅するが、わたしとあの『わたし』は同じ時間軸にリンクしている。」 「私が消滅する際は、あの『わたし』にも負荷がかかる。その兆候。」 それは、さっき駅であった長門が顔を赤らめていた原因なのか? 「そうかもしれない。一時的な、いわゆる風邪のような症状。そして、わたしにも……」 ……なんでこいつは消える前にも苦しまなきゃいけないんだ。そして何の罪もないあの長門も……! 「情報統合思念体は私に忘却プログラムを植え付けた。わたしはわたしを消す。これはさけられないこと。」 「……いいのか? お前はそれで」 長門は首をかしげるような動作。瞳はこれ以上ないぐらい黒く黒く澄んでいる。 「…………そのような問題ではない。避けられな――」 「――お前はいいのかって聞いてんだ!!」 静寂の図書館に、感情にまかせて放っただけの俺の声が反響した。 物語は佳境に近づいている。 いや正確なページ数は分からんからどこまで続くのかは分からないが、『そちら』の宇宙人も三日目の夜を謳歌しているのだから、多分クライマックスが近づいてるんだろう。 「そして~は……」 そう言えばさっきから長門はずーっと俺の顔を見ているな。俺が字に夢中だからかは分からんが、瞬き一つしていないような気もする。 「なに」 俺の方がちょっと見つめすぎてたみたいだ 「ああ……なんでもないよ。続きいくぜ?」 「……そして、~は」 ……そう。ここで切れているのだ。事実上、ここでおしまい。 「……」 「……どうだった、俺の音読。俺、小学の時から国語はぜんっぜんできねぇからなぁ。つたない読み方かもしれないけれど、」 「まだ終わっていない。」 え? 「まだ続きがある。」 それはどういう…… 「あなたが、続きを作る。」 「主人公Kには、最後の選択がある。」 俺はさっきも言ったように、国語力は皆無だ。ましてや小説なんか…… 「いいなずけと仲間達とこれまで通りの幸せな生活を送るか――」 長門の目は、澄んでいる。肌は人形のように無機質だ。 「――宇宙人に解毒の秘薬を口移し、自分も宇宙人になって二人で銀河へ逃げるか。」 …… 第一、第一に、だ。 それは作中で示唆されている選択だぞ。それを決めることのできる権利があるのは、このカバーに書かれているよく分からん横文字の作者だけじゃないのか? それに、これと同じ本にはオリジナルなその結末は書いてあるんじゃないか? それを他人が……俺が決めるのは冒涜的すぎる。 「この本に筆者いない」 は? 「正確に言えば、これはわたしの……」 二秒の静寂の後、 「わたしのあなたへの問いが具現化されたもの。あなたは答える権利を持っている。」 昨日の本の話からのことがすべて合点がいったと同時に、俺は重すぎる選択をしょいこんだ。 どうすればいい? 原作中の誰が誰を表しているか、なんてことは、さすがの俺でも分かる。長門はもうすぐ消えてしまう。 ならばせめてそちらの選択を選んでやるべきなんじゃないのか? ……俺は …………俺は 「Kは……」 「……」 「そしてKは、宇宙人となってしまう解毒の秘薬を口に含み、」 「…………」 無意識かもしれない。俺は長門を抱きしめていた。 いや、ちょうどさっきまでも抱く体勢だったのだが、それとは根本的に違う、 強い、本当に強い抱擁。どこにもやりたくない、というような、そんな…… しかし、俺の唇は薄幸の肩口を抜け、空を切っている。 「そして……」 ちょうど、俺は長門の右肩に頭を寄せた体勢。ここでつぶやけば、まさに耳元へ届くように―― 「Kは秘薬を飲み込んだ。」 長門の口が、おれのつぶやきと同時にぽっかりと開いたような気がした。 「そしてKは宇宙人Yの唇を奪い、こう言うんだ」 俺は長門への腕を解き、直視する。 「自分を捨てることはできても、あいつらは捨てられない。ごめんな。本当にごめん」 俺は長門と唇を重ねた。 図書館は静寂に包まれていたはずだ。 しかし、なんだろう。再度長門の腕を解いた俺には、教会の鐘が何十にも鳴っているかのような……そんな騒音が聞こえてきた。 同時に、たちくらみのようなものが襲ってくる。なんだこれは。長門はどうしたんだ。 俺の目の前の長門は……いない? どういうことだ。景色がうねっているぞ。 まさか、またリアルな夢の出来事なのか? 待て、なら今までの流れた三日間の現実は…… 薄れゆく意識。ハッと気がつく。 俺は何をやってる? ここはどこだ? 歩けるか? 長門は? 閉鎖空間のような、でも一面は真冬の夜のような澄み切った空だ。まるでプラネタリウムの中を歩いている、そんな空間。 ふと、しんと白いものが降ってくる。 「……雪か。」 まさにパウダースノー。スキー場や北国に行かない限り、そうそう見られるものじゃないよな。こういう雪って。 しかし、何故か雪はあたたかかった。ぬくもりがあった。 ……なんだ? なんなんだ、この空間は。どうすれば…… 「……!」 俺は絶句した。 いつの間にか俺の前には数人の高校生が立っていた。そこにいたのは、何を隠そう、SOS団の面々である。 小綺麗なニヤケスマイル。花も恥じらう可憐な乙女。そして黄色のリボンが映える少女。 「お前らどうしてここに!?」 口ではそう言っていたが、目下の関心はそこにはない。 長門が、いない。 「お、おい! 長門はどうしたんだ?」 「ふふ、そう一度に複数の質問を投げかけないでくださいよ。」 そのニヤケを崩さず答えたのは古泉。 「わたしたちがここにいるのは、必然、ですよ?」 口を開いても、まぁぶっちゃけ何していてもかわいい朝比奈さん。 「有希はね。もう消えちゃったの!」 我らが団長、ハルヒが元気な声を出す。顔はあまり見せない満面の笑み。 「長門は、もう消えた?」 「そうですよ。長門さんはもういません」 「長門さんはお空に……」 「そう! 有希はこれよ!」 ハルヒが空を仰ぐ動作をする。 「このすっごく綺麗な雪になっちゃったの!!」 ………… 俺は混乱している。何がどうなってる? 何でこんなことになってる? こいつらが答えた答えから、また新たにつきない疑問が湧いてくるだけじゃねぇか。 「どうして?」 「なんで不思議そうな顔をしてるの? 有希をそういうふうにしたのは、キョンじゃない」 え? ……俺が? 俺が長門をこの空に変えた? 「どういうことだ?」 「どういうことって……有希はあんたの選択を聞いて、一番いい方向に自分を持っていったのよ」 選択。 「この雪はあったかいでしょ~? 有希は一生私たちに影から奉仕してくれる存在になることに決めたのよ!」 選択、か。 「あなたがそれを望んでたんでしょ? っさ、こんな話はおしまいにしてSOS団の今後の活動計画を話し合うわよ!」 長門は…… 「サッカーってのはもう決まってるわよね! あたしがFW、みくるちゃんはDF兼チームマスコット、古泉くんはGKね!」 俺の選択を受けてこういう世界を望んだのか? 「あんたは……そうねぇ、まぁ、FWやりたいなら、やらせてあげないこともないわよ!」 「長門はどうした」 「え? 有希はもう居ないわよ? 私たちを見守ってくれる存在になったの。」 いいや。 「長門のポジションが決まってねぇぞ」 「……え?」 「監督でもやらせるのか? 長門の運動神経はすげえんだぜ? 選手として使わないのはもったいない。」 「ですから、長門さんはもう……」 「キョンくん、ちょっと変です……」 「そうよ。今日のキョンちょっと変だわ。なんかトンチンカンなこと聞いてきたり……」 違う。お前らが変なんだ。俺からしてみればそうだ。 なんだ? 何が「見守ってくれる」だ。あほらしい。 長門は長門だ。古泉にも朝比奈さんにもハルヒにも、俺にも干渉できない一つの存在なんだ。 ふざけるな。 俺はこういう世界を望まない。 長門がいない世界なんざ、いらない! 俺はまたまた幻覚を見ているのか? さっきまで俺の目の前にいた三人集はすべて消え、かわりに―― 「長門……」 雪は止んだようだ。 「…………」 「…………」 長い、長い間。 形容では無く、本当に長い間。一分ぐらいだろうか。その間、俺はずっと長門を直視していた。 「……そう」 その一言が発せられた後、俺についさっきと同じような、立ちくらみと鐘の音が襲った。 ――さきほどまでの図書館。 まだ夜のようだが、時間は…… 2時、2時半? 「な、長門は!」 …… 俺は白痴にでもなったのか? 長門は今俺が抱えてるというのに。 「……」 「長門……。大丈夫だったのか? どうしたんだ? 何が」 表情の薄い宇宙人が口を開くのを見て、俺は次の言葉を飲み込んだ。 「わたしに数え切れないほどのエラーが発生した。」 「エラー?」 長門はコクリと頷く。この動作は、けっこうレアなものでも無くなってきたよな。 「……本来ならば、今ここにわたしはいない。わたしはあなたを含めた特定の人間の記憶を改竄したのちに自ら消滅するはずだったから。」 ああ。パソコンの説明通りだ。 「しかし、わたしになんらかのエラーが発生した。エラーの元となったバグ思念はわたしのプログラムと記憶を改竄し、正常な本来の動作……」 一瞬だが長門は口をつむぐ。俺は間髪を入れなかった。 「まぁ、どうでもいいことだよな」 疑問の表情。 「……どうして?」 「記憶を改竄、と言うことは、お前は昨日までのことを覚えているのか?」 「…………覚えていない。三日目からの記憶はすべて、おそらくそのときのわたしが生み出したバグ思念が消去してしまった。」 「なら、いいだろ! 別にさ、どうだって……」 長門はなおも納得がいっていないような表情だ。 「じゃあ。」 「……?」 「お前は、今のお前自身やSOS団、俺に、何か不満があるか?」 「……」 「無いなら、別にいいじゃないか。そうだろう?」 「……」 ホントに、全然レアな代物じゃなくなったよな。 エピローグへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5468.html
第三章 朝の光に照らしつけられる前に、わたしは起きあがった。時計は四時を差している。一般人の朝には早すぎる時間だ。普通ならもう一度布団をかぶるところだろう。 けれどわたしは、二度寝をしようと思ったり、ましてやおとといのように散歩に出かけようと思ったりすることはなかった。 それよりもやっておくべき作業が残っていた。 さっきの彼女との会話。そこで、わたしは自分が所詮『わたし』に似せてつくられた人形に過ぎないかもしれないという恐ろしい幻想を抱いてしまった。わたしの存在は彼女に頼らずしては成り立たないかもしれない。わたしは今からそれを証明しに行くのだ。怖い物見たさという感情なのかもしれない。 リビングは薄暗かった。曖昧な光がどこかから射している。わたしは部屋の電気をつけて窓を開け、灰色の街の様子を眺めた後パソコンに歩み寄った。もう古くなったノートパソコン。買ったのはいつだったか記憶がない。わたしにはあまりに昔のことの記憶がないのだ。両親のことや一人暮らしのこともそうだった。 なぜだろう。 ずっとそう考えていたけれど、『わたし』との会話から得た推測が確かなのだとしたら、その疑問はこのパソコンが解明してくれることになる。推測が正しかったら記憶についていくら考えても無駄なのだ。 長く続いていた起動音の後、パソコンが静かになるとわたしは文書データを呼び出した。あの物語、十八日の朝の不思議な感覚によって書くことができるようになった物語だ。わたしはその物語に思いつくまま数文を付け加えた。 何分かすると、文章はようやく意味を持った物語となった。ざっと読み直してみても、わたしにしてみたらこの物語はもう完成といってよかった。推敲の余地はなかった。 その文章。わたしはゆっくりと、ひとつひとつの単語の意味を確認するように文字を追い始めた。 自分は幽霊だ、と言う少女に出会ったのは××××ほど前のことだった。 私が彼女に名を問うと、彼女は「名前はありません」と答えた。「名前がないから、幽霊なのです。あなたも同じでしょう」そう言って彼女は笑った。 そうだった。私も幽霊だったのだ。幽霊と会話できる存在がいるとしたら、その存在も幽霊なのである。今の私のように。 「それでは行きましょう」 彼女が言うので、私もついていく。少女の足取りは軽く、まるで生きているように見えた。どこへ行くのかと尋ねた私に、少女は足を止めて振り向いた。 「どこへでも行くことはできます。あなたの行きたい場所はどこですか?」 私はしばらく考え込んだ。私はどこに行こうとしていたのだろう。ここはどこだろう。なぜ私はここにいるのだろう。 ただ立ちつくす私は、少女の暗い瞳を見つめるしかなかった。 「××××へ行こうと思っていたのではないですか?」 解答を出したのは少女だった。その言葉を聞いてようやく、わたしは自分の役割を知った。そうだ。私はそこに行こうとしていたのだ。どうして忘れていたのだろう。こんなに重要な事柄を、私が生きて存在するその意義を。 忘れてはいけないことだったはずなのに。 「では、もういいですね」 少女は嬉しそうに微笑んだ。私は頷いて、彼女に感謝の言葉を述べた。 「さようなら」 少女は消えて、私は残された。彼女は彼女の場所へと戻ったのだろう。私が私の場所へ戻ろうとしているように。 空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。それらは地表に落ちて消えゆく。 時空に溢れている奇蹟の一つだった。この世界には奇蹟がありふれている。私はずっと立ち止まっていた。時間の経過は意味をなさなくなっていた。 綿を連ねるような奇蹟は後から後から降り続く。 これを私の名前としよう。 そう思い、思ったことで私は幽霊でなくなった。 その時まで、私は一人ではなかった。多くの私がいる。集合の中に私もいた。 氷のように共にいた仲間たちは、そのうち水のように広がり、ついには蒸気のように拡散した。 その蒸気の一粒子が私だった。 私はどこにでも行くことが出来た。様々な場所に行き、様々なものを見た。しかし私は学ばない。見るだけの行為。それだけが私に許された機能だ。 長い間、私はそうしていた。時間は無意味。偽りの世界ではすべての現象は意味を持たない。 しかし、やがて私は見つけた。存在の証明。 物質と物質は引きつけ合う。それは正しいこと。私が引き寄せられたのも、それがカタチを持っていたからだ。 光と闇と矛盾と常識。私は出会い、それぞれと交わった。私にその機能はないが、そうしてもよいかもしれないことだった。 仮に許されるなら、私はそうするだろう。 待ち続ける私に、奇蹟は降りかかるだろうか。 ほんのちっぽけな奇蹟。 その部屋には黒い棺桶が置いてあった。他には何もない。 暗い部屋の真ん中にある棺桶の上に、一人の男が座っていた。 「こんにちは」 彼は私に言う。笑っていた。 こんにちは。 私も彼に言う。私の表情はわからない。 私が経ち続けていると、男の後ろに白い布が舞い降りた。闇の中、その布は淡い光に包まれていた。 「遅れてしまいました」 白い布が言った。それは、白く大きな布を被った人間だった。目に当たるところが丸く切り取られ、黒い瞳が私を見ている。 中にいるのは少女のようだった。声で解った。 男が低い声で笑った。 「発表会はまだ始まっていません」 男は棺桶の上から動かない。 「まだ、時間はあります」 発表会。 私は思い出そうとする。私はここで何を発表するのだろう。焦る。思い出せない。 「時間はあるのです」 男は言う。私に微笑んでいる。白い少女のオバケは楽しそうに舞っていた。 「待ちましょう。あなたが思い出すまで」 少女は言う。私は黒い棺桶を見つめた。 一つだけ、私は目的を覚えていた。 私の居場所は棺桶の中だった。 私はそこから出て、再びそこに戻るために帰ってきたのだ。棺桶には男が腰掛けている。彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 しかし私には発表することもない。発表会に参加する資格はないのだ。 男は低い声で歌い始めた。白い布の舞に合わせるように。 彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 読み終えたとき、わたしの身体は震えていた。発するべき言葉も、するべき動作もない。疑念と驚きと悲しさと寂しさがわたしの中に同居していた。激しい感情。その感情までも知らず知らず押さえつけてしまう自分を思うと、ますますみじめになった。 空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。 これを私の名前としよう。 雪。音もなく落ちて消えゆくもの。白くて神秘的な水のカタチ。 最初の部分を読み返して、わたしが今まで誰のどんな物語を綴っていたのかがようやく解った。部室で『私』は幽霊だ宇宙人だと想像を膨らませていた自分が馬鹿らしい。 確かにある意味ではわたしの予想は当たっていた。 彼女は宇宙人だった。しかも個体名まで解っている。長門雪、いや、長門有希。それが彼女の名前だった。 わたしの心が、精神が、手足が、頭までもがぽろぽろとこぼれ落ちていく。触れば壊れる砂の人形のように。やがてそれはわたしの存在までをも蝕んだ。わたしはわたしという唯一無二の個体としてこの世にいることすら許されなかったのだ。 彼女――つまり彼の世界の『わたし』なしには。 わたしが自らの存在を証明できるもの。それこそが文章を書くという作業そのものだった。わたしから生まれてくるオリジナルの文。内部から、心から、本能から湯水のようにふつふつと湧き出るアイデア。それは次第に集まりをつくって形をなし、精緻なつくりを持った物語となる。物語こそがわたし自身で、わたしの化身だった。 今度もそうだと思っていた。 おとといの朝に書き始めた物語。奇妙な感覚。本能から湧き出る文章。まるで最初から用意されていた物語だったかのように、わたしの執筆は早いペースで進んだ。 そうなのだ。この物語は、最初から用意されていたものだった。わたしがわたし自身だと信じ込んで書いた文章すらも、実はわたしなんかではないとんだ虚構で、しかも正体は『わたし』だった。雪と有希。最初から『私』というのは宇宙人ではないかと思っていたが、その部分を読んだときにようやく解った。『私』は『わたし』だったのだ。わたしは『わたし』の物語を自分のものだと思って書いていただけだった。 それはわたしの存在証明になるどころか、わたしは唯一のものではなく『わたし』に帰属する存在なのだと証明してしまった。とんだ皮肉だ。 ああ、わたしが崩れていく。腕が消え、胴体が吹き飛ばされ、最後に残った瞳も朽ち果てる。砂上の楼閣のように、風に吹かれて脆くも消え去ってしまう。 彼女に対する激しい憎悪と嫉妬は、いつしか姿を変えてわたしに向く刃となっていた。わたしはひとり追いつめられ、誰も知らないまま消滅していく。 冷たいものが頬を伝った。喉がひくひくと震えている。 手の甲でこすると、それはきらきらと輝いていた。こすってもこすっても止まらない。身体の機能までおかしくなってしまったのかもしれない。こんなものが出てくることは、かつて一度たりともなかったのに。 わたしはしばらく何の言葉も発することができなかった。嗚咽すらない。灰色の街を透かして、窓ガラスに映るわたしの顔は愕然としていた。 視界がぼやけた。パソコンに表示された文字も歪む。 流れているのが真っ赤な血ならよかったのに、と思う。真っ赤な血がとめどなく流れ出し、服を赤で汚し、手を朱色に染めていく。そして意識を失って倒れ、消えてなくなりたい。それができたらどんなにいいだろう。 しかし現実は非情だった。そう簡単には死なせてくれない。 透明な液体がこぼれる。 わたしは泣いていた。 * 意識が戻ってきた。今まで黒い海だった場所はマンションの一室に姿を変える。 午前四時十一分。 時間がない。わたしの意識はみるみる遠のいていく。 もはや、今の彼女との会話を思い返す余裕すらなかった。 わたしはあなたがうらやましい。わたしとあなたが同じ一個体だったらよかった。わたしは彼女にそれを言いたかったのだ。 もしわたしが人間だったら、わたしは彼女のようになれたのだろうか。本を読み、物語を綴る静かな文芸部員に。 どちらがいい、という問題ではない。それを比較することは意味のないことかもしれない。望んだところで、わたしにそれが与えられることはない。 でも、彼女のようになれたら。 彼女は言った。すべての自由が与えられたとき、あなたは誰と一緒にいることを選ぶのか。彼と一緒にいることを選ぶのか、と。わたしは答えた。そうするかもしれない。 実際はどうだろう。頭の中ではそうだと思っていても現実になると違うこともある。もし仮に、わたしに選ぶことが許されるのだったら、わたしは誰を選ぶのだろうか。それともひとりでいることを選ぶのか。 いや、その仮定も意味のないことだ。 意識が薄れていく。わたしの身体を異質なものが支配していくのが解る。白い絵の具に黒が侵入してきたように、白はみるみる黒へと姿を変えていく。 わたしは来るべき最後の時間に向けて彼に意識を集中させた。彼はまだ自宅で眠っている。世界が変わる際に、彼の記憶を最低限として、他にも栞やパソコンにこちらの世界の痕跡を残さなければならなかった。 たまり続けたエラーデータ。バグ。やはりわたしの力ではどうしようもなかった。今にもわたしは自意識を失いそうになっている。集中していなければ次の瞬間にもわたしはエラーデータに支配された世界改変者になってしまう。 三年前から決まっていたことだった。十二月十八日午前四時二十三分。その時間にわたしは世界を変えてしまうのだ。改変された世界の『わたし』は、ついさっきの空間で会ったようなまったく別の存在になってしまっている。 そもそもなぜこんなことになるのだろう。どうしてわたしの意識がなくなり世界を改変してしまうのか。 エラーデータ。 それが原因だ。ところが、三年間考え続けても、どこでそんな大量のエラーが発生しているのかは依然として不明だった。わたしは狂ってしまうと解りながらも、三年間、ただ時が過ぎるのに身を任せるしかなかった。 わたしが消える。 次の瞬間、わたしの視界がブラックアウトした。さっきまでいた空間のように途方もない黒が部屋を支配して、まともに立っている感覚すらなくなる。 頭に、わたしの部屋が、街が、眼鏡が、彼の顔が次々と去来してまぜこぜになった。もうこれ以上は持たない。抵抗の余地もない。世界は午前四時二十三分、予定通り改変される。 膨大な量の情報の波がきた。エラーデータ。だめだ。処理しきれない。 音が消え、光が消える。かすかに残っている意識も思考を受け付けない。その意識すらもろうそくの火が消えるように、静かに最後の時を迎えるのだ。 午前四時十二分――。 わたしの意識が消失した。 *
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/38.html
ガラガラ 古泉「うわ、長門だけかよ。帰ろ」 ガラガラ 朝比奈「なんか辛気臭い雰囲気ですねー気持ち悪いから帰ろっと」 ガラガラ ハルヒ「ちょっと有希だけなの?不愉快だから帰るわね」 ガラガラ キョン「あれ、長門だけか?」 長門「(コクッ)」 キョン「そっか。じゃあ帰ろうぜ?どっか寄ってこうぜ」 長門「(パタン)」 トテトテトテ 長門『先生…頭痛が痛いです…』 西山さん『しんでいいよ』 キョン「長門、試合当日だがな雨を降らせてくれないか?とびっきりでかい奴」 長門「できないことはない、だけど・・・・」 キョン「だけど?」 長門「タダじゃいや」 キョン「!!!!!!!!な、長門?」 長門「何?」 キョン「その・・・・・なにがいい?」 長門「・・・・・キス////」 キョン「じゃ、やめたほうがいいな」 長門「・・・・・・・」 古泉「長門さんをいぢめてみようのコーナー。」 キョン「わー…。(パチパチ)」 古泉「ではやり方は任せますので。」 キョン「は?」 ジュースを色々混ぜて飲ませてみる キョン「長門、これを飲んでみてくれ。」 長門「…。(ごく)」 キョン「…どう思う?」 長門「…。」 キョン「すまんっ!口を押さえる程不味かったか!?」 長門「…っ…くぅ…。」 キョン「…長門…?」 長門「…あははははははははははは!」 キョン「!?」 長門「あはははははははははははははは!!!」 キョン「う、うわぁぁぁっ!?」 ピンキーと肉を一緒に食べたら何故か爆笑した事がある。 ブラックジョークみくる みくる「今日はコーヒーを煎れてみたんです。長門さんはブラックでいいですよね? はい、どうぞ」 長門「砂糖入れて(苦いの嫌い)」 みくる「……じゃあお砂糖の変わりに清酸カリを入れますね。甘いですよ~」 長門「……やっぱりブラックでいい」 キョン「長門…お前文化祭の時の以外でなんか知ってる歌あんの?」 長門「………(コクリ)」 キョン「じゃあ歌って見てくれるか」 長門「…ズリリン リリン ガンコチャン!ズリリン リリン ガンコチャン♪」 キョン「…あ…俺教室にwawawa忘れ物すまんごゆっくり」 長門「……(クスン)」 ハルヒ「あ、有希、今日は活動なしだからもう帰っていいわよ」 有希「……帰ってもやることがない」 ハルヒ「そんな……今どきの子がそんなんじゃだめよ! 例えば……有希には……」 長門「……」 ハルヒ「え~っと……読書とか……えっと……えっと……ちょっと待って……え~っと……」 長門「……(クスン)」 長門「……スキヤキをするから、誰かお肉を……」 ハルヒ「いい!? キョンは常識観念が他の一般人よりも高すぎるのよ!! だからいつも……」 キョン「それはお前が考える常識だろ! みんながお前の常識の低さに合わせたらこの世は……」 古泉「あ、でも僕は涼宮さんのほうが解りやすいですし、理にかなっていると思いますよ、例えば……」 みくる「で、でも……キョンくんの言ってることもわかりますし、そ、それだけでキョンくんが悪いっていうのは……」 ザワザワ ギャーギャー 長門「……誰か……」 ハルヒ「だから私の柔軟な考え方についていけないのよ! だいたい今どき頭の堅い男なんて……」 古泉「そうそう、頭の堅い男がモテるのは、男にだけですよ。まあしかしそれについては僕は大賛成で……」 キョン「分かった、俺が頭の堅い男だってのは、認めるさ。しかし古泉、お前ちょっと頭貸せ。」 みくる「はわわわ……ぼ、暴力はダメですよぉ! 古泉君だって悪気があっていったんじゃないと……」 ギャーギャー ザワザワ 長門「…………」 ――パタン ――ガチャ キョン「痛てて……!! って……長門が……もう下校の時間か……」 古泉「まだ終わっていませんよ?」 ハルヒ「? アレ? ほんとね、でも有希帰っちゃったわよ?」 みくる「用事かなにかじゃ……」 長門「…………(クスン)」 ハルヒ「ねえキョン、この写真見たことある?」 キョン「ん……? って、うわっ! なんだこれ気持ち悪ぃ!」 ハルヒ「テキサス州に墜落したUFOの中にいたんだって、死んでるけど結構有名な写真らしいの、とある筋から手にいれたの」 キョン「UFO……ってことは、これ……宇宙人か……?」 ――ガチャ 長門「……遅れた……」 キョン「宇宙人って気持ち悪ぃなあ……こんなに顔グロいなんて……」 ハルヒ「でしょ? 私も初めて見た時からそう思ってたの。だからこの写真ホームページにのせようかどうか迷ってんの」 長門「…………」 キョン「載せるな気持ち悪い……げえぇ……吐き気してくる……宇宙人気持ち悪ぃ……宇宙j……あ」 長門「…………」 キョン「な、長門……その……な……?」 長門「……さようなら」 キョン「ちょ!! 待ったぁぁ!! 誤解だぁ!!」 ハルヒ「…………?」 長門「日本ので最も流通が多かった古銭が、波銭。波銭は一文銭を四枚合わせたものと同じ価値がある。江戸初期の日本では四枚を句切りとするものが多かった。 一文銭が四枚分で波銭、波銭が四枚分で一分銀、一分銀が四枚分で二分銀、二分銀が四枚分で二朱銀、二朱が四枚分で両、つまり小判、小判が四枚で大判。 当時はおおよそ一文銭一枚で今でいう50円にあたったという。つまり換算するとなると…… 一文銭は50円、波銭は200円、一分銀は800円、二分銀は3200円、二朱銀は12800円、小判が51200円、大判が204800円 当時ソバ一杯で十七文(850円)、和菓子一つで四文(200円)、銭湯は八文(400円)となる。江戸では立ち食いソバが流行ったとされているが、価格を考え……」 キョン「あ、もういいや、急に一両っていくらくらいか気になっただけだから……おーいハルヒそれでさ」 「なによ、まだ話ついてなかったの!? ホームページはキョンに任せたんだから………」 「いやでもさすがに一人じゃ無理があるぞあの量は、一緒にやってくれよ」 「……! ん、まあ仕方ないわね……か、勘違いしないでよ!? 別にあんたと一緒にしたいとか……」 「分かった分かった、なんでもいいから早くやろうぜ」 長門「…………」 長門「………(クスン)」 ハルヒ「部室掃除するけど誰かやりたい人いる?」 キョン「じゃあ俺がやろう」 古泉「僕がやります」 みくる「あ、わ、私も……」 ハルヒ「じゃあ、私も」 長門「……」 ハルヒ「……」 キョン「……」 古泉「……」 みくる「……」 長門「…………」 長門「……私も」 一同「「「「どーぞどーぞ」」」」 長門「……」 キョン「お前みたいな奴はこの星にどれくらいいるんだ?」 長門「けっこう」 キョン「おめーみたいな根暗がそんなにいるのか、まったくうざいったらありゃしねえな」 長門「・・・・・・・・・」 ハルヒ「やっほー」 シーン ハルヒ「なんだ誰もいないのね…」 長門「…………」ペラッ ハルヒ「わっ!なんだ有希いたの」 長門「…そんなに私って存在感ない?」 ハルヒ「え?……そんなことないわよ・・ちょっと有希?」 ガチャ バタン ガチャッ キョン「どうしたんだハルヒ?長門が哀しい顔して歩いてったぞ」 ━━━━━ 長門 グスッ ズッ グスン 長門「…」 キョン「zzz…」 長門「…」 キョン「zzz…」 長門「…」 キョン「zzz…」 長門「…大好き」 キョン「zzz…」 長門「…あなたの事が大好き」 キョン「zzz…」 長門「…」 キョン「zzz…」 長門「…」(ぱたん) てくてくてく… キョン「zz…あっつー…」 キョン「って、誰だ俺の背中にカーディガン置いた奴は!世の中夏真っ盛りだっての!」 長門「…ここがいたいの?」 スリスリ 長門「…大丈夫?」 ゴソゴソ…ぽいっ 長門「食べたら治る…」 ピンポーン 長門「…誰?」 キョン「俺だ!古泉が追いかけてくるんだ!ちょっと匿ってくれ!!」 長門「…」がちゃ キョン「す、すまん…ん?なんだその虫かご」 長門「…ヘアリーちゃん」 キョン「蝶か何かか?どれどれ…うおう!!?」 長門「…どうかした?」 キョン「かの有名なタランチュラ様じゃねぇか!古泉よりおっかねぇよ!じゃあな!!」 ばたん 長門「……」 ヘアリーちゃん「……」ピク…ピクピク…… ある日、長門がスリッパで歩いていた。 朝倉「どうしたの長門さん?うわばきは?」 長門「・・・なくなった」 朝倉「またアイツらのしわざね!今度という今度は許せないわ!」 朝倉は女子A~Hの顔を思い浮かべた。 長門「わからない・・・でも今から買いにいくから大丈夫」 朝倉「それじゃだめよ!・・・私がアイツらとっちめてやるわ」 長門「・・・証拠がない」 朝倉(はぁ・・・この子はおとなしすぎるから、アイツらが調子に乗ってくるのよね・・・) 朝倉「というわけで、死んで♪」 キョン「八つ当たりかよ 放課後、長門が校舎内を一人で歩いていた。 朝倉「こんな時間にどうしたの?」 長門「・・・うわばき探してる」 そういう長門の表情は暗かった。 朝倉「またあいつらね!許せない・・・!」 長門「・・・・・・(だまって歩いていく)」 朝倉「待ちなさい、私も一緒に探すわ」 長門「・・・いい。見つかるかどうかわからない」 朝倉「なにいってるの。友達でしょ」 長門「・・・・・(コクリ)」 1時間後 朝倉「長門さん!見つかったわ・・・あいつら、よりによって焼却炉の中に投げ込むなんて!」 長門「・・・ありがとう」 長門「私、嫌われてる・・・?」 朝倉「・・・バカね。あなたを嫌いになるヤツなんていないわよ」 長門「うわばき隠されるの、今月でもう5回目」 朝倉「あいつらはね。かわいいあなたに嫉妬してるの。それにおとなしいから、 面白がってからかっているつもりなのよ・・・やりすぎよね」 女子A「長門さんって本しかお友達いないの?」 女子B「ちょっとA~、そんな分かりきった事聞いてあげないの~w」 長門「……」 女子A「あ、でもキョンとかいうヒョロヒョロの男といつも喋ってるよね~。付き合ってるの?」 女子B「長門さんが男と付き合えるわけないじゃないw」 長門「……」 女子A「そういえば長門さんって亀飼ってるんだって?お似合いよねw喋らない者同士でw」 女子B「あれれ?長門さんのマンションってペット禁止じゃなかったっけ?管理人に連絡取ってみようかしらww」 長門「!」 女子A「管理人さん怒らせたらどうなるんだろ~」 女子B「亀さん鍋の具にならなきゃいいけどねww」 長門「…もう許さない」 女子AB「「は?」」 長門「…お前らァっ!もう許さん!許さんぞぉぉおおお!!!」 女子AB「「!?」」 長門「行け!古泉!灼熱のテドドン!!」 古泉「ふんもっふ!!」 女子AB「ア ァァナルだけは!ア ァァァナルだけはぁぁぁ!!」 朝倉「ふふっ、その傷じゃどうにもできないんじゃないの?長門さん。」 長門「うッ・・・く・・」 朝倉「アッハッハッ」 キョン「大丈夫か長門?!」 長門「心配・・・ない・・・」 キョン「いや、お前じゃなくて冷やしてたプリン。」 女子1「靴を隠そ…」 朝倉「バックアップバックアップ♪(サクッ)」 女子2「水をかけ…」 朝倉「バーックアップ♪(サクッ)」 長門「…。」 長門「…。」 長門「最近平和。」 女子A「長門さん、あんたの弁当箱廊下に落ちてたわよ」 長門「中身がこぼれてる・・・」 長門が黙って片付けていると、朝倉が通りかかった。 朝倉「長門さん、どうしたの?・・・またアイツらの仕業ね! 私がとっちめてやるわ!」 朝倉がそういうと長門は彼女の袖をつかみ、かすかに頭を振った。 長門「・・・証拠がない。それに・・・おなかすいてないから大丈夫」 朝倉「バカね、あなたがお昼ごはんをガマンできるわけないでしょ。 ・・・ついてきなさい」 中庭にて 長門「これは、あなたのお弁当」 朝倉「いいのよ、私小食だから。二人で分けましょ」 長門「・・・・・(コクリ)」 長門(消失)「……やめて、なんでこんなことするの?」 キョン「ちがう!ちがうんだ、俺の知ってる長門はこんなんじゃないんだ!!」 そう言いながら、おれはメガネを割り続けた・・・ 「長門? 誰よそれ?」 「おいおい、忘れてやるなよ、大事な団員だろ?」 「あ~、そういえばそんなコもいましたねぇ~」 「きっと彼女は椅子と物理的結合しているのでしょう」 「………バルスバルスバルス」 ブシブシブシッッッ!! 長門「!!」 場しばしべしベシバシデュゴグゴォンバシバシバシ!! デュゴベシバシバシバシベシベシバシブジュ!! でゅごーーーーーーーーーーーん!! KO がちゃり キョン「よう。」 古泉「やぁ。」 みくる「あ、今お茶入れますね。」 長門「トットロ♪トット~ロ♪」 古泉「今日は将棋持ってきましたよ。」 キョン「よし、いっちょやるか。」 長門「トットロ♪トット~ロ♪」 みくる「お待たせしました。」 キョン「あ。ありがとうございます朝比奈さん。」 長門「トットロ♪トット~ロ♪」 キョン「王手!」 古泉「・・・参りました。」 長門「トットロ♪トット~ロ♪」 キョン「ふぅ。やっぱり朝比奈さんのお茶は美味しい。」 みくる「うふ、ありがとう。」 長門「トットロ♪トット~ロ♪」 古泉「平和ですねぇ・・・。」 長門「・・・・・・。」 キョン「なあ長門……ってうわ……おまえ鼻毛出てるぞ……!……まじ引くし……」 長門「……“はなげ”……?」 ハルヒ「あら今日はまだキョンと有希だ……ちょっと有希鼻毛やば……!」 長門「……“はなげ”ってなに……?」 古泉「おや……今日はまだ、って鼻毛やばっwww」 長門「“はなげ”って何?」 みくる「あ、私が一番おそ、って鼻毛!」 長門「“はなげ”って何!?」 キョン「……」 ハルヒ「……」 古泉「……」 みくる「……」 鼻毛「……」 ハルヒ「久しぶりに有希をいじめるわよ!」 ハルヒ「有希~、その本貸してー」 長門「…(コク」 10分後 ハルヒ「ありがと、返すね」 長門「…(ペラ」 長門「…!」 ハルヒ(気付いたようね、前回のALLページ栞の反省点を踏まえて ハルヒ(ページ数を隠してのALL栞よ! 長門「…(ペラ」 ハルヒ「あ…あれ?」 長門「第3章から4ページ目」 ハルヒ「…」 キョン「長門聞いてほしいことがあるんだか‥‥」 長門「なに」 キョン「俺は‥‥長門おまえが好きだ!!」 長門「‥‥」 キョン「おまえがよかったらでいいんだが‥‥つきあってくれないか??」 長門「い ガチャ 朝比奈「こんにちは~、そういえば長門さん彼氏とはうまくいってるんですか??」 キョン「おまえ彼氏なんかいたのか??」 長門「いな 朝比奈「この前公園で見てびっくりしました~」 キョン「水臭いじゃないか長門!!いってくれればよかったのに‥‥ちょっと外の風浴びてくるよ」 ガチャ 「キョンくんをたぶらかそうなんて‥‥宇宙人のくせに」 長門「グス‥‥情報連結解除許可を‥‥」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/206.html
【07 12】 朝倉涼子の笑い声で起床。まだ眠い。 顔を洗う。 【07 22】 朝からカレーを食べる。 胃が重い。イヤになる。 「学校に行っておいで」 主流派の言葉だ。 うるさいんだよ。わたしは人間じゃないただのインターフェイスなんだよ。 「気を付けて!」 うるせぇんだよ、この穏健派が。 【07 35】 ダルい学校へ出発。 庭ではうるせぇ急進派がわめいている。殺すぞ。 【07 43】 「助けて~!」 朝比奈みくるが叫んでいる。 わたしにどうしろっていうんだよ。 【07 50】 みくる救出。 痴漢に襲われたらしい。 うだつの上がらない奴だ。 【08 03】 今日は曇りだ。 気分が盛り上がらない。 早くマンションへ帰りたい。 【08 14】 朝倉がニヤニヤしている。 【08 16】 学校到着。 【09 45】 お腹がすいた。 弁当のカレーを食べる。 また胃がもたれる。 【10 35】 みんなで談笑。 朝倉の笑い声にみんながいらつく。 【11 37】 0円スマイル男 登場。 【11 38】 「長門さん、少しお話が」 相変わらずのにやけ顔だ。 「そう」 本当はどうでもいい。 カレー食べたい。 【11 39】 ニヤケ男と涼宮ハルヒについて話す。 顔が近い。 気持ち悪い。 【11 40】 「何の話?」 朝倉だ。 タイミングが良すぎる。 どこから見ていたんだ? 【11 41】 「お邪魔しちゃったかしら?」 何か勘違いしている。 朝倉がニヤニヤしている。 【11 42】 「ではそのようにお願いします」 知らん。 「わかった」 3歩で忘れる。 【12 30】 文芸部室でカレーを食べる。 官能小説を読む。 朝倉がニヤニヤしてこっちを見ている。 いやがらせか? 殺すか? 【12 50】 仮眠。 【13 20】 起床。 キョンに襲われる。 「だ、誰か助け…!」 こんな姿見せれない。 【15 20】 授業終了。 【17 21】 部室で官能小説を読む。 涼宮ハルヒが遅すぎる。 【17 30】 朝倉がニヤニヤしている。 【18 00】 本を閉じる。 皆帰り仕度を始める。 わたしは鳩時計か。 【18 30】 朝倉がニヤニヤしてこっちを見ている。 殺すか?
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1209.html
Extra.4 喜緑江美里の報告 こん××は、皆さん。 ご存知の通り、長門さんが自分の分の報告で精一杯の状態なので、代わりに今回はわたし、喜緑江美里が報告します。 題するなら、そうですね……『朝比奈みくるの死闘』とでもしましょうか。なお、わたしは長門さんほど現地語の表記に慣れていないので、一般的な表記で報告します。 何分このような形での報告は慣れていないので、至らない点もあるかとは思いますが、よろしくお願いします(任務の一環として、議事録はよく取ってるんですけどね。)。 文芸部部室。地響きがしている――と思ってください。そして人の声。激しい物音。 ふむ。もうしばらく掛かりそうですね。 遮音領域を展開しているので周囲に音が漏れることはありませんが、このままではわたしもここを離れられません。この部屋に集う面々には、長門さんに足止めしてもらうようお願いしてあります。その他に人が来ることは、まずないでしょう。もし来ても、それはその時にわたしが対応すれば良いでしょうし。 それでは、こうなった発端から、順を追って説明していきましょう。 時間は、放課後直後。涼宮ハルヒが来ているこの部屋に、朝比奈みくるがやってきたところから始まります。 ………… ……… …… … (一度使ってみたかったんですよね、この三点リーダの連続。) 「あれ? 涼宮さん、今日は早いですね?」 「なあに、みくるちゃん? あたしが早く来てたら何か問題があんの?」 「ひっ!? い、いえっ、そんな訳じゃ……」(ひぇぇぇ……今日の涼宮さん、何かすっごく機嫌が悪い……) 彼女は恐る恐る鞄を置いた。 「あの、えっと、着替えますね……」 「みくるちゃん、今日は新しい衣装に挑戦してみましょうか。」 「え……新しい衣装、ですか?」 「そ。」 と言って、ハルヒはある物をみくるに示した。みくるの目が見開かれる。 「ちょ、ぇゑゑゑ!? それって!?」 「スクール水着。」 と簡潔に答えるハルヒ。 「これで男共を悩殺しなさい。」 「そそそそそそそそんなぁああああ!? い、いやですうう!!」 「うるさいっ! 良いから着替える!」 そう叫ぶとハルヒは、みくるの制服に手を掛けた。 「い、いやぁぁぁぁっ!! それだけは、それだけは!!」 その時、嫌がるみくるの肘が、ハルヒの鼻を捉えた。 「つっ……!!」 見る間に吹き出す鼻血。 「あっ……! ご、ごめんなさい、すぐ手当てを……」 「触るなっ!」 「ひっ!?」(うわー、どうしよう……涼宮さん、本気で怒ってる……) 床にいくつかの赤い斑点が作られる。部室をハルヒの不機嫌オーラが満たしていく。みくるは怯えている。 「みくるちゃん……あんた随分偉くなったもんね……」 「ひっ!? そ、そんなこと……」 「ちょっと可愛くて胸が大きいからって、調子乗ってんじゃないの? 図に乗るのも大概にしなさいよ?」 「ち、違いますぅ!!」 「何、そのぶりっ子。男に媚売ってんの?」 「そ、そんなんじゃ……! これは元から……」 「はぁ? 何だって!?」 「う……元からの……元からのものなんですっ!!」 「へぇ~、元から媚売るような口調なんだ? なんだ、生まれついての×××ってわけだ。」 「!! な、何てことを……!!」 「うるさい! あんたなんか、男に媚び売るしか能がない役立たずのくせにっ! 身の程を弁えなさいっ!」 「!?」 みくるが硬直する。 「……やく、たた……ず……?」 「そうよっ! 考えてもみなさいよ! あんた、これまでイベントやら何やらで、一体何してきた!? いつもいつもいつも、おろおろおどおど、キョンにフォローされてばっかりじゃないの! あんたの色香に迷って世話を焼くキョンもキョンだけど、そうやって女を武器に男を惑わすあんたを見てると、ムカムカすんのよ! 汚らわしい!! この×××っ!」 「あ……あたしは……」 「ふん! 泣けば許してくれるのは、すけべな男だけよ!」 「……じゃ、ない……」 「はぁ~ん? 聞こえんなぁ~!?」 「……あたしは……あたしは……っ!!」 みくるはハルヒを真っ直ぐに見据えて叫んだ。 「役立たずなんかじゃないっ!!」 ぱぁん。 みくるの右手が閃き、ハルヒの左頬を正確に捉えた。 「くうっ……今のは効いたわ……」 ハルヒはのけぞりながら呟いた。 「さて、みくるちゃん……団長であるこのあたしに、ここまでのことをしてくれたんだから、当然、覚悟はできてるんでしょうね?」 ハルヒは、仕事に着手した世界随一の狙撃手のような目でみくるを睨み付けた。 「ひくっ!? い、ううっ……」 「役立たずのくせに、生意気なのよあんたはぁぁぁぁ!!」 ハルヒの右正拳突きがみくるのみぞおちにめり込む。 「ぐっ……!」 「鼻血出したあんたの顔はぁぁ! さぞ間抜けでしょうねぇぇぇぇ!!」 今度はハルヒの左肘が、みくるの鼻を直撃する。見る間に鼻血を吹き出すみくる。 (何で……何でこんなことに……お願い……正気に戻って、涼宮さん……) 「何よ、その目はぁぁ!! 気に入らないっ!!」 ハルヒの右後回し蹴りがみくるのこめかみを撃ち抜いた。 「へぇ、まだ立ってられるとはねぇ……執念だけは、それなりにあるんだ。」 ハルヒは余裕の笑みを浮かべる。 「それも、いつまで持つかしら。」 ハルヒの右中段蹴りがみくるを襲う。 次の瞬間。 ハルヒの体が宙を舞った。 ハルヒは混乱していた。何が起こったのか分からない。みくるは、さっきまでハルヒが立っていた位置に、前傾して両手を前に突き出した姿勢で止まっていた。 「さっきから……黙って聞いてれば……人のこと散々好き放題言ってくれて……」 「へぇ、このあたしに楯突こうっての?」 ハルヒは起き上がりながら言った。 「ばかにしないで!!」 と叫ぶみくる。 「あたしだって、あたしだって……」 肩を震わせながらみくるは叫んだ。 「怒るときは怒りますっ!!」 みくるは……キレていた。 「役立たずかどうか、あなたの身体に教えてあげますっ!!」 「上等じゃない……」 部室は、二人から立ち上る闘気で満たされていた。 「今日という今日は、あんたの身体に役立たずの刻印を刻み込んだらあぁぁぁ!!」 二人が交錯する。 ………… ……… …… … という具合に二人の空前絶後の大喧嘩が始まって、今に至る、というわけです。 はっきり言ってこれは、一般的な地球人の女の子同士による喧嘩の範疇を超えています。 涼宮さんは、優れた身体能力の持ち主。女子格闘技大会に出たら、簡単に世界一になれるでしょうね。 そして朝比奈さん。意外に思われるかもしれませんが、彼女は強いんですよ? 何せ時間移動を行う身ですから、彼女達のいる時間平面で使われている便利な道具が、移動先でいつもいつも使えるとは限りません。故障でもしたら、大変です。 そこで彼女達は、特殊な訓練を受けています。主にサバイバル方面で。その中の一つに、武術があります。人間にとって、最後に頼れるのは己の肉体なんですね。男性も女性も、服を着ていれば分からない状態を維持したまま、鍛錬を重ね、『鋼の肉体』を作り上げます。もちろん、幼いとはいえ、彼女も時間移動を行って涼宮さんの監視を行うくらいですから、相当鍛えています。普段は彼女達の言う『禁則事項』に該当するので、身体能力は制限されているようですが、今回彼女は回し蹴りをもらって、生命の危機を感じ、制限が外れたようですね。 ……もっとも、どうやらそれだけでもないみたいですが。その辺りの人間の感情については、長門さんの方が詳しいと思うので解説は譲りますが、わたしにも分かる範囲で言うと、朝比奈さんも表には出しませんが、涼宮さんに含むところがあった。それが今回爆発した、ということでしょう。 それでは彼女達の闘いの流れをお伝えします。敬称略です。 最初は、まだまだ無駄な動きの多い、喧嘩の動きでした。二人でお互いの頬を張り合いながら、怒鳴り合っています。 「この××! ×××! ××が××のくせに××なんて、×××!!」 「(禁則事項)が(禁則事項)だからって、(禁則事項)よっ!!」 上手く言語化できません。ひどい悪口雑言だと思ってください。だんだん過熱した彼女達の動きが鋭くなっていきます。 張ろうとしたハルヒの手首を取って、みくるが逆向きに捻りました。すんでのところでハルヒが振りほどきます。 その隙を突いて、みくるのローキック。これは防ぎます。ハルヒは一歩踏み込んで……猫だまし。みくるの動きが一瞬止まりました。 そのままハルヒはみくるを掴んで豪快に背負い投げ。長机ごと吹き飛ばされるみくる。立ち上がろうとするみくる目掛けて、ハルヒのドロップキック。容赦ない攻撃ですね。 みくるは本棚に叩き付けられました。ハルヒの左正拳突きが追加されます。その瞬間、みくるが動きました。ハルヒの正拳を頭突きで迎撃します。苦悶の表情を浮かべるハルヒ。 解説すると、人間の頭にある骨、頭蓋骨は、最も重要な器官が集中する頭部を保護するため、とても硬く頑丈にできています。殴られ続けるのは危険ですが、防具を何も着けない拳に頭突きで対抗するのは、とても有効な技なんです。あの様子だと……ハルヒは手を骨折したでしょうね。 拳を押さえたために低くなったハルヒの脳天に、みくるの踵落としが突き刺さりました。たまらず倒れるハルヒに、馬乗りになったみくるの拳の雨が降り注ぎます。ハルヒは頭部の防御で精一杯です。上がりきったハルヒの脇を差したみくるは、ハルヒの腕を取ると、一気に極めに行きました。腕拉十字固め。きれいに決まりました。 しかしそこが闘いの非情な所。みくるはハルヒに降参させる機会を与えようとしたのでしょう。肘を一気に折ることはしませんでした。ハルヒには一瞬の余裕が生まれます。ハルヒは迷わず、みくるの脚に噛み付きました。これは『試合』ではありません。『死合い』です。非情になりきれなかったところが、みくるの弱点だったと言えるでしょう。とても彼女らしいですけどね。 一瞬、極める力が弱まりました。すぐにハルヒは脱出します。一気に立ち上がると、みくるにストンピング。本気です。わき腹にもトーキックを入れていますね。みくるに降り注ぐハルヒの足の裏。しかし顔を踏みつけようと、一瞬予備動作が大きくなったのが命取り。 みくるはハルヒの踏みおろす足を捕まえることに成功します。そのままヒールホールド。今度は一切の余裕を与えなかったみたいです。一瞬でハルヒの膝が破壊されました。 再びマウントポジションを取ろうとするみくるにハルヒの目潰し……はかわしましたが、その隙にハルヒはみくるを右腕一本で引き倒します。こんな豪腕にネクタイを掴まれて締め上げられる彼も大変ですね。 ハルヒが上になりますが、もはやほとんどまともに動けません。膝が破壊されていて踏ん張れないので、殴っても大した威力がありません。殴る方が疲れるだけです。 すると彼女は何を思ったか、みくるの豊かな胸を鷲掴みにしました。 「……羨ましい。ああ羨ましい。羨ましい。」 とブツブツ呟くハルヒ。 「痛っ! 離してっ!!」 「このでかい胸……!!」 ハルヒは掴む力を増します。 「あたしにも分けろ――――――――!!」 「それが本音かぁ―――――――――!!」 みくるの拳がハルヒの顎を捉えますが、ハルヒは破壊された膝でみくるを挟んで離れません。何という執念でしょう。再び掴みかかったハルヒは、突然みくるの唇を奪いました。 「んむっ!? んううぅぅ~~~~~!!」 混乱のあまり、みくるの動きが止まります。ハルヒは口付けをしながら、器用にみくるの頚動脈を圧迫しています。苦悶と恍惚が入り混じった表情になるみくる。 余談ですが、このように絞め落とされる瞬間、人間は快感を覚えるのだそうです。 やがて、みくるの身体が動かなくなりました。『落ちた』ようです。 「ぷはっ……やった……!?」 勝利の雄叫びを上げようとした瞬間、ハルヒの身体は崩れ落ちました。 何という執念でしょう。意識を失う瞬間、みくるは四本貫手をハルヒの右脇腹に突き立てていたのです。そこにあるのは、肝臓。人間の急所です。脳内物質の影響でダメージに気付かなかったハルヒですが、みくるを絞め落とし、勝利を確信した瞬間、脳内物質の影響が切れたのでしょう。一気にダメージが押し寄せたのでした。 1R5分19秒、ダブルK.O. タイミングとしてはハルヒの勝ちでしょうが、みくるの有効打撃は落ちる前に入っていた点、そして何より二人の死闘に敬意を表して、ドローということにしましょう。現に、闘いが終わって立っている者はいなかったのですから。 さて。物音が止んだので、わたしも中に入ることにします。 部屋の中は惨劇と言っても良い有様です。机は飛び、本は散らばり、あちこちに血痕があります。お掃除が大変ですね。本と壁に付いた血痕だけは消去することにしましょう。掃除しても取れませんからね。後はそのままにします。部屋の様子が彼女達の記憶と大幅に違ってしまうといけません。 さて、お二人さん。そろそろ目を覚ましてくださいな。 「ん、んううう……」 「あ、ふあああ……」 「どうしたんですか!? 一体何があったんですか!?」 わたしは、さもこの部屋の惨状を見て驚いたように装います。 「んあ、あれ? 確かあなたは……」 「生徒会書記の喜緑江美里ですっ! 一体これは何の騒ぎですか!?」 「ああ、えっと……」 涼宮さんは、朝比奈さんを見ながら言いました。 「ちょっと彼女と、友情を深め合ってたのよ……」 「どんな深め合い方ですか!?」 「あのぉー、それは。」 と朝比奈さん。 「ちょっと言葉だけでは伝え切れないことがあって、その。」 「拳で語り合ってたのよ。」 そう言うと二人は、血まみれの顔で見つめあいました。 「やっぱり涼宮さんには敵いませんね。」 「いやいや、みくるちゃん、あんためちゃくちゃ強かったわよ。」 涼宮さんは、そう言うと朝比奈さんを抱き起こしました。 「ごめんね、あたしの身勝手で酷いことして。」 「いいんですよ、涼宮さんの身勝手は今に始まったことじゃないですし。」 「お、みくるちゃん。言うようになったわね~」 「はい。言いたい事言って、思いっきり殴り合って、なんかすっきりしちゃいました。」 朝比奈さんは、片目を閉じながらぺろっと舌を出しました。 「あんまり言いたいことを溜め込むのは、良くないですね。」 そして朝比奈さんは、涼宮さんの頭を抱き締めて言いました。 「それにしても、涼宮さん。あたしの胸が羨ましかったんですかぁ~。涼宮さんもスタイル良いのにな。」 「それは……」 「キョンくんの視線ですか?」 「!? ば、ばか、ち、違うわよっ!!」 「うふ。ここまで語り合った仲ですよ? 今更隠し事はなしです。」 「むー。」 涼宮さんは、顔を真っ赤にして黙り込んでしまいました。朝比奈さんはそんな彼女を見て優しく微笑んでいます。 二人とも、顔も血まみれで、ボロボロなんですけどね。二人はとても仲が良さそうに見えます。人間の言葉で言うと、『雨降って地固まる』ということでしょうか。雨の降り方が半端じゃないですが、それも涼宮さんだからでしょうね。 「……とにかく、二人ともすごいことになってます。保健室に行きますよ?」 『はぁい。』 二人の声が見事に揃いました。本当に仲良しさんですね。 (了) 文責:喜緑江美里 (補注) 今回、なぜ涼宮ハルヒがここまで暴走したか、不思議に思われるかもしれない。そもそもの原因は、雪山の事件の時と同様、広域体宇宙存在によるコンタクト。今回彼らは、SOS団を仲違いさせ、その反応を観測しようとしたと思われる。しかし、そこに涼宮ハルヒの意識が加わり、ややこしいことになった。 彼女の意識は、仲違いをさせるという意思を感じ取り、とっさにあるものを連想した。それは、『少年まんが』。そこには、夕日を背に、拳で熱く語り合い、友情を深めるという定型が記されている。 それに巻き込まれたのが朝比奈みくるだった。 こう表現すると、彼女にとっては不運だったとしか言いようがない。しかし、実は彼女にもストレスが溜まっており、放置しておくのは良くない状態だった。今回の事件は過激だったが、結果的に朝比奈みくるのストレスをも解消し、正に少年まんがに記された通り、以前より強固な友情で、涼宮ハルヒと朝比奈みくるが結ばれることに役立った。 レアケースだが、このような場合もあるという貴重な例と言えよう。 なお、喜緑江美里は、致命的な損傷以外は彼女達の治療を行っていないが、これも彼女達の記憶との整合性を保つための処置である。 補注文責:長門有希 「報告しときましたよ。」 「ありがとう。協力に感謝する。」 ここは、長門さんのマンションの部屋。わたし、喜緑江美里は、長門さんの代わりに報告を行ったことを伝えるために来ています。わざわざ対面しなくても情報は伝えられるのですけど、長門さんの様子を見たかったこともあって、訪ねてみました。 「長門さんの方は、報告は順調?」 「…………」 首を横に振る長門さん。 「頭の中の情報を文字にするのは、難しい。」 「現地語で報告してるんでしたっけ? 大変ですね。」 「大変。それに……わたしに起きていることを報告するのは、何となく恥ずかしい。」 あらあら。『恥ずかしい』ですか。インターフェイスに、そのような概念が生まれるとは驚きです。わたしにもそのような概念を理解する日が来るのでしょうか。何だか、長門さんがちょっとだけわたし達より進んでいるような気がします。 さて、用も済んだし、お暇することにしましょう。 「待って。」 「何ですか?」 「お礼がしたい。食べていって。」 「あら、夕食をご馳走してくれるんですか? やっぱりカレーでしょうか。」 「そう、カレー。」 と長門さん。 「ただし今回は、香辛料の調合から行った本格派。自信作。」 何となく、長門さんの無表情が、得意気に見えます。 「一人より、二人で取る食事は、美味しい。」 そう言って長門さんは、台所へ向かいました。 「……あなたにも、それを知ってほしい。」 小声で長門さんは、そう呟きました。 【参考:Report.17 長門有希の憂鬱 その6】 |目次|Extra.5→|
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2315.html
Report.19 長門有希の憂鬱 その8 ~涼宮ハルヒの告白~ 部室の扉がノックされる音が響いた。わたし、涼宮ハルヒ、朝倉涼子の三人は、互いに顔を見合わせた。 「どうぞー。」 結局、ハルヒが返答した。扉が開き、四人の人物が入ってきた。 「ちょっと失礼しますよ。」 喜緑江美里、古泉一樹、朝比奈みくる、『彼』……通称キョン。 「あんたは、生徒会の……何でここに?」 「実は我々は、長門さんが北高に向かっていたという話を聞いて、戻ってきたところなのですが、そこでたまたま彼女に会いまして。彼女……生徒会の方でも、何やら長門さんに用があるとかで、御一緒した、というわけなんですよ。」 古泉一樹が答えた。……話し方が変わっている。 「そんなに睨まないでくださいな。活動状況を簡単に確認するだけですから。」 ハルヒが江美里を睨み付けているのは、先の文芸部会誌を作成した時のことを踏まえてのものだろう。 「文芸部の活動は 極 め て 順 調 やから、どうぞご心配なく!!」 【文芸部の活動は 極 め て 順 調 だから、どうぞご心配なく!!】 彼女は目を三角に怒らせて、江美里を威嚇している。江美里は全く意に介していないが。 「長門さん……お久しぶりです……」 みくるが声を掛けてきた。そういえば、既に会ってはいるものの、まだ彼らには言っていない。わたしは彼らに視線を向けて、言った。 「ただいま。」 「……おかえり、長門。」 『彼』が答えてくれた。わたしは、帰ってきたことの『実感』が湧いた、ような気がした。皆は一様に、わたしの帰還を喜んでいるようだった。 その中で、ハルヒからすれば部外者である江美里が、わたしに向けて口を開いた。 「今年度の文芸部の活動状況についてですが。」 『御承知のように、敵対勢力の排除は完了しました。』 「…………」 『協力に感謝する。』 かぎ括弧は声に出した会話。二重かぎは通信の内容。 「昨年度は会誌の発行が、例年に比べてかなり遅延していました。まあ、内容は充実していたようなので、その点は心配していませんが。」 『《全員で突入する》という要請でしたけど、期待には応えられたでしょうか。』 「…………」 『十分。予想以上。』 「ここだけの話ですけど、うちの会長も、口ではああ言ってますけど、次の刊行を心待ちにしてるんですよ。文芸部の会誌をこっそり読んで、お腹抱えて笑ってましたから。特に鶴屋さんが書いた小説には、腹筋を破壊されたみたいでしたね。」 『皆さん、とんでもない戦闘能力を持ってますね。さすがは涼宮さんに選ばれし兵(つわもの)達、といったところですか。』 「……善処する。」 『……同意する。』 江美里は、絵に描かれた貴婦人のような微笑を浮かべて、 『彼女の感情がそろそろ限界のようなので、会話相手は譲りましょうかね。ほら、あなたもボーっとしてないで。』 『んあ!? ちょっと! 急に話を振らないでくれる!?』 涼子が不意を突かれて慌てている。このような反応は、我々インターフェイスのものとは思えないほど人間的だった。 『どうしたのでしょうね。あなたらしくもない。』 『いや、ちょっと……涼宮さんと長門さんの表情に見とれちゃって……』 わたしの表情? わたしは何か表情を浮かべていたとでも言うのだろうか。 涼子はわたしをまじまじと見つめた。 『……本気で言ってるの?』 嘘をつく理由も利益もない。 『……無自覚、か。なるほどね……』 話が見えない。 『長門さん。あなたは、さっき涼宮さんに「ただいま」って言った後、目を細めて微笑したのよ。』 ……身に覚えがない。 『じゃあ、無意識のうちに、微笑してたのね。』 わたしに表情を作る機能がないわけではなく、また、誰にでも分かるほどはっきりと表情を変えることも、できなくはないことは知っている。実際に、『微笑』という表情をハルヒには見せたことがある。しかし、先ほどの会話では、特に表情を作った記憶はない。 『だからさ……それは「自然な表情」って言うのよ。「自然と笑みがこぼれる」っていうやつ。』 それは、本にも頻繁に登場する表現。しかし、実際にどのような状態なのかは、分からなかったもの。そのような理解不能だった状態に、わたしがなっていたと言うのか。信じられない。 『……変わったわね。』 『……変わりましたね。』 二人は、嬉しそうに顔を見合わせた。 わたしは、そこまで自由に、任意の表情を浮かべることはできないはず。それに、なぜ二人が『嬉しそう』なのかの理由も分からなかった。 「有希……有希……!」 ハルヒの声。見ると、人間の言葉で言う『感極まった』様子だった。 「有希ぃ――――!」 彼女は、わたしのそばに駆け寄るとわたしを強く抱き締めた。そして一気にまくし立てた。 「有希! ごめん! ごめんなさい! あんな、あんなことして……! あんたを突き飛ばして怪我さして! それで、怪我したあんたをほったらかしにして!」 【有希! ごめん! ごめんなさい! あんな、あんなことして……! あんたを突き飛ばして怪我させて! それで、怪我したあんたをほったらかしにして!】 彼女は、泣きながら詫びている。先日の、わたしが消失した日の出来事。わたしがうっかり、彼女の心にある、侵してはならない領域を侵してしまった、あの日の出来事。 「いい。気にしてない。」 「ほんま?」 【ほんと?】 彼女は潤んだ瞳でわたしを見つめる。わたしは、誰にでも分かるほど大きく、はっきりと頷いた。彼女はまたわたしを抱き締めた。そして、人間の言葉で言うと『堰を切ったように』、語り始めた。わたしがいなくなったことで、どれだけ自分が寂しかったかを。 「……他にも数え上げたらキリないけど、とにかく! それぐらい寂しかったんやから!」 【……他にも数え上げたらキリがないけど、とにかく! それぐらい寂しかったんだから!】 「事情はよく分かった。」 わたしは、素っ気なく答えた。本当は、とても嬉しい。彼女にここまで強く気に掛けてもらえて。 「でも、これだけは言わして?」 【でも、これだけは言わせて?】 と、彼女は涙目で言った。 「なに。」 彼女は、大きく深呼吸した。そして、意を決して言った。 「有希――――!! 愛してる――――!!」 ざわ……ざわ…… そんな擬音語を背景につけるのがふさわしいと思った。わたしと彼女以外のその場にいた者は皆、目を丸くして驚愕している。彼女は、わたしを強く抱き締めてきた。 「もう、絶対に、あんたを、失いたくない! 離したくない!!」 そして彼女は……わたしの唇を奪った。 『んっ、んっ、んっ……んむ……んむ……』 濃厚な接吻。それも、他人の目の前で。 『んっ……はっぁ……あむ……んっ……』 彼女の口付けは終わらない。彼女の、暖かい気持ちが伝わってくるような気がする。 ようやく彼女の濃厚な接吻が終わった。口を離すと、お互いの唇から唾液が糸を引いて繋がっていた。 彼女は滔々と語り始めた。それは紛れもなく、わたしへの『愛の告白』だった。 「最初は単なる好奇心やった。無口で無表情な娘やなーって。泣いたり笑ったりせえへんのかなーって。まるで部室の付属物みたいに、存在感のない娘、っていうのが最初の頃の印象やったわ。」 【最初は単なる好奇心だった。無口で無表情な娘だなーって。泣いたり笑ったりしないのかなーって。まるで部室の付属物みたいに、存在感のない娘、っていうのが最初の頃の印象だったわ。】 それが、共に過ごすうちに、だんだん見る目が変わっていった。 「毎日なんとなく眺めてるうちに、だんだん気になりだしてん。あんたは無口で無表情やったけど、万能やった。何でもそつなくこなせた。その時に思ってたんは、どうやったら有希と仲良くなれるかってことやった。」 【毎日なんとなく眺めてるうちに、だんだん気になりだしたの。あんたは無口で無表情だったけど、万能だった。何でもそつなくこなせた。その時に思ってたのは、どうやったら有希と仲良くなれるかってことだった。】 彼女は遠い目をして言った。 「決定的やったんは、一年の時の文化祭。気ぃ付いてた? あんたの情熱的なギターは、一緒に舞台に立ったあたし達も含めて、その場にいた誰もを魅了したんやで。あの時あたしは、最高に気持ち良く歌ってたけど、それはきっと、あんたがギターで支えてくれたからなんやと、今になって思うわ。急遽代役で立った舞台で、どうなるか分からへん一発勝負。いくらあたしでも、緊張せえへんかった、って言(ゆ)うたら嘘になるわ。それでも何とか乗り切れた。今なら理由が分かるわ。それは有希が、いつもあたし達の期待に応えてくれる有希が、そばにおってくれたから。一緒に舞台に立ってくれたから。体育祭では、文武両道さを存分に見せ付けてくれたし、バレンタインデーの時は料理も振舞ってくれた。あの時作ってくれたうどん、めっちゃ美味しかったで。今でも忘れられへんもん。阪中の家の犬を治した時は、正直感動したわ。いつもいっぱい本読んどぉけど、ただ読むんやなくて、ちゃんとその知識を役立たせてるんやから、改めてすごいと思ったわ。それで、ますます有希から目が離されへんようになった。」 【決定的だったのは、一年の時の文化祭。気付いてた? あんたの情熱的なギターは、一緒に舞台に立ったあたし達も含めて、その場にいた誰もを魅了したのよ。あの時あたしは、最高に気持ち良く歌ってたけど、それはきっと、あんたがギターで支えてくれたからなんだと、今になって思うわ。急遽代役で立った舞台で、どうなるか分からない一発勝負。いくらあたしでも、緊張しなかった、って言ったら嘘になるわ。それでも何とか乗り切れた。今なら理由が分かるわ。それは有希が、いつもあたし達の期待に応えてくれる有希が、そばにいてくれたから。一緒に舞台に立ってくれたから。体育祭では、文武両道さを存分に見せ付けてくれたし、バレンタインデーの時は料理も振舞ってくれた。あの時作ってくれたうどん、すっごく美味しかったわ。今でも忘れられないもん。阪中の家の犬を治した時は、正直感動したわ。いつもいっぱい本を読んでるけど、ただ読むんじゃなくて、ちゃんとその知識を役立たせてるんだから、改めてすごいと思ったわ。それで、ますます有希から目が離せないようになった。】 それに、と彼女は続けた。 「あれは夢やったみたいやけど、未だに忘れられへんことがあんねん。覚えとぉ? 一年の冬休み、鶴屋さん家の別荘に合宿に行った時の事。」 【あれは夢だったみたいだけど、未だに忘れられないことがあるの。覚えてる? 一年の冬休み、鶴屋さん家の別荘に合宿に行った時の事。】 周囲に緊張が走った。 「あの時、あたしはやけにあんたのことを心配しとったやろ? あれな、あたしの夢の中で、あんたが熱出して倒れてんけど、それはもう、心配したで。夢から覚めても、全然気が付かずにあんたのことを心配するくらい。それで、気ぃ付いてん。あたしは、夢にまで見るくらい、あんたのことを意識してるんやな、って。」 【あの時、あたしはやけにあんたのことを心配してたでしょ? あれはね、あたしの夢の中で、あんたが熱出して倒れたんだけど、それはもう、心配したわよ。夢から覚めても、全然気が付かずにあんたのことを心配するくらい。それで、気が付いたの。あたしは、夢にまで見るくらい、あんたのことを意識してるんだな、って。】 その時は『無口で頼れる万能選手』として。 「その時はそう思(おも)てたけど、今にして思うと、既に違(ちご)てたんかもしれへん。でも、自覚はしてへんかったな。思いが変わった、あるいは自覚したんは、この間のこと。あたしが変質者を捕まえて新聞に載って、それから、変な奴らに付きまとわれてた時のことやわ。」 【その時はそう思ってたけど、今にして思うと、既に違ってたのかもしれない。でも、自覚はしてなかったな。思いが変わった、あるいは自覚したのは、この間のこと。あたしが変質者を捕まえて新聞に載って、それから、変な奴らに付きまとわれてた時のことだわ。】 彼女はその時のことを思い出すように、 「あの時あたしは……ほんまはめっちゃ辛かった。団員達に……特に有希、あんたに会われへんことに。それから、変な奴らへの対応も。どうってことないつもりやったけど……やっぱりきつかった。あたしは、もう、一杯一杯やった。そんなあたしを救ってくれたんが、あんた。」 【あの時あたしは……ほんとはすっごく辛かった。団員達に……特に有希、あんたに会えないことに。それから、変な奴らへの対応も。どうってことないつもりだったけど……やっぱりきつかった。あたしは、もう、一杯一杯だった。そんなあたしを救ってくれたのが、あんた。】 ここで彼女は周囲を見渡した。 「みんなの前でこんなこと言(ゆ)うてるなんて、我ながら大胆やと思うけど、どういうわけか、有希の前やと素直になれるわ。こんな……恥ずかしいことを告白できるくらいに。」 【みんなの前でこんなこと言ってるなんて、我ながら大胆だと思うけど、どういうわけか、有希の前だと素直になれるわ。こんな……恥ずかしいことを告白できるくらいに。】 彼女は再びわたしに視線を戻した。 「あの時、あたしがあんたを呼び出した時、あんたは来てくれた。あたしの恥ずかしい話を黙って聞いてくれた。泣き出したあたしのそばにずっとおってくれた。色々とあたしに良くしてくれた。それから……あんたの意外な一面も見せてくれた。あの時のあんたの仕草、反則的なまでに可愛かったわ。」 【あの時、あたしがあんたを呼び出した時、あんたは来てくれた。あたしの恥ずかしい話を黙って聞いてくれた。泣き出したあたしのそばにずっといてくれた。色々とあたしに良くしてくれた。それから……あんたの意外な一面も見せてくれた。あの時のあんたの仕草、反則的なまでに可愛かったわ。】 そして気が付けば、ただの気になる人から、愛しい人に変わっていた。 「あたしは必死でその気持ちを否定した。だって、おかしいやん? 女同士でこんなこと思うなんて。相手が、宇宙人とかっていうならまだしも、有希は物静かな……可愛い人間の女の子やんか。でも、今日のことで実感したわ。あたしの中で、あんたの存在がどれだけ大きくなってたか。それで、あんたの顔を見て思った。もう、この気持ちは抑えられへんって。」 【あたしは必死でその気持ちを否定した。だって、おかしいじゃない? 女同士でこんなこと思うなんて。相手が、宇宙人とかっていうならまだしも、有希は物静かな……可愛い人間の女の子じゃないの。でも、今日のことで実感したわ。あたしの中で、あんたの存在がどれだけ大きくなってたか。それで、あんたの顔を見て思った。もう、この気持ちは抑えられないって。】 いつの間にか、恋に落ちていた……気が付いたときには、既に。 「さっきあったことを話すわ。また夢を見てたらしいんやけど。」 【さっきあったことを話すわ。また夢を見てたらしいんだけど。】 先ほどの情報統合思念体過激派による襲撃のことだろう。 「夢の中で、あたしと朝倉は、変態に襲われた。ストッキングで覆面した変態。朝倉がそいつと戦ってたんやけど、ピンチになってん。もう絶体絶命。そこに颯爽と現れたんが、有希、あんたや。朝倉にも言われてんけど、その時のあんたは、マジでヒーローやった。かっこよかった。そのあとそのまま今の場面に続いとぉから、正直、どこまでが夢で、どこからが現実か分からへん。もしかしたら、今この瞬間も夢かもしれへんし。でも、それでもあたしは確信した。」 【夢の中で、あたしと朝倉は、変態に襲われた。ストッキングで覆面した変態。朝倉がそいつと戦ってたんだけど、ピンチになったの。もう絶体絶命。そこに颯爽と現れたのが、有希、あんたよ。朝倉にも言われたんだけど、その時のあんたは、マジでヒーローだった。かっこよかった。そのあとそのまま今の場面に続いてるから、正直、どこまでが夢で、どこからが現実か分からない。もしかしたら、今この瞬間も夢かもしれないし。でも、それでもあたしは確信した。】 彼女はわたしの瞳を真っ直ぐに見据えて言った。 「やっぱりあたしは、あんたが好き。大好き。」 彼女の気持ちは伝わった。今度はわたしが答える番。わたしは彼女に言った。禁じられた言葉を。 「わたしは……わたしも、あなたを、愛している。」 観測とか、処分とか、そんなものはどうでも良いと思えた。 彼女は、わたしを愛している。 わたしも、彼女を愛している。 それで十分だと思えた。それでわたしは――幸せだと思った。 「有希、有希っ!」 また彼女が抱き締めてくる。わたしも彼女を抱き締め返す。とても幸せで、そして、だからこそ……『悲しい』。 これから、わたしが行うことを思うと、悲しくなった。 わたしがこれから行うこと。それは涼宮ハルヒへの情報操作。今まで決して許されることがなかった行為。 今回の過激派による襲撃の記憶を消すことだけではない。わたしは、彼女の『長門有希への思い』を操作する。 彼女のわたしへの感情には、明らかに『性愛』が含まれている。それは本来、『異性』に対して向けられるもの。一部に例外はあるものの、大多数の雌雄の別がある有機生命体はそのようにしている。それが、有機生命体の繁殖に必要不可欠だから。だから、今の彼女は……『異常動作』。そしてわたしも異常動作。 わたしの口から明確に、わたしの想いを彼女に伝えられた。それだけで十分。彼女の行動を修正しなければならない。 提案したのは、わたし。情報統合思念体の許可は下りている。いよいよ、これまで最大の禁則事項だった行為を行う。 わたしは操作を開始した。 「あれ……? なんか急に眠く……」 彼女の身体が崩れ落ちる。わたしは彼女の身体を抱きかかえるようにして支えた。彼女が完全に眠ったことを確認すると、彼女の精神に干渉する。そして、彼女のわたしへの想いから、性愛に関する部分を削除する。今後彼女は、わたしをこれまで通り『無口で頼れるSOS団随一の万能選手』として見るだろう。ただし、わたしへの想いは大きく発達していたため、元通りとはいかないかもしれない。それでも、『仲の良い女友達』程度には抑えられたはず。わたしに、あのような行為に及ぶことは、もうないだろう。 操作終了。 「…………」 わたしは無言で、彼女の身体を抱きかかえながら、静かに眠る彼女の寝顔を見ていた。 事態の推移を見守っていた『彼』が、やっとの思いで口を開いた。 「……長門。お前はハルヒに一体何をしたんや?」 【……長門。お前はハルヒに一体何をしたんだ?】 「行動の修正。」 わたしは平坦な声で答える。 「最近の涼宮ハルヒの行動は、明らかに異常動作。先ほどのわたしへの行為もそう。」 わたしは、ぼんやりと彼女の顔を眺めていた。名残惜しいのだろうか? わたしは彼女の顔から視線を外すことができないでいる。 「修正は完了した。問題ない。」 そう、これで問題ない。何も。 その時、何かがわたしの頬を伝った。 涙が一粒、頬を伝った。 ←Report.18|目次|Report.20→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5864.html
第三章 朝の光に照らしつけられる前に、わたしは起きあがった。時計は四時を差している。一般人の朝には早すぎる時間だ。普通ならもう一度布団をかぶるところだろう。 けれどわたしは、二度寝をしようと思ったり、ましてやおとといのように散歩に出かけようと思ったりすることはなかった。 それよりもやっておくべき作業が残っていた。 さっきの彼女との会話。そこで、わたしは自分が所詮『わたし』に似せてつくられた人形に過ぎないかもしれないという恐ろしい幻想を抱いてしまった。わたしの存在は彼女に頼らずしては成り立たないかもしれない。わたしは今からそれを証明しに行くのだ。怖い物見たさという感情なのかもしれない。 リビングは薄暗かった。曖昧な光がどこかから射している。わたしは部屋の電気をつけて窓を開け、灰色の街の様子を眺めた後パソコンに歩み寄った。もう古くなったノートパソコン。買ったのはいつだったか記憶がない。わたしにはあまりに昔のことの記憶がないのだ。両親のことや一人暮らしのこともそうだった。 なぜだろう。 ずっとそう考えていたけれど、『わたし』との会話から得た推測が確かなのだとしたら、その疑問はこのパソコンが解明してくれることになる。推測が正しかったら記憶についていくら考えても無駄なのだ。 長く続いていた起動音の後、パソコンが静かになるとわたしは文書データを呼び出した。あの物語、十八日の朝の不思議な感覚によって書くことができるようになった物語だ。わたしはその物語に思いつくまま数文を付け加えた。 何分かすると、文章はようやく意味を持った物語となった。ざっと読み直してみても、わたしにしてみたらこの物語はもう完成といってよかった。推敲の余地はなかった。 その文章。わたしはゆっくりと、ひとつひとつの単語の意味を確認するように文字を追い始めた。 自分は幽霊だ、と言う少女に出会ったのは××××ほど前のことだった。 私が彼女に名を問うと、彼女は「名前はありません」と答えた。「名前がないから、幽霊なのです。あなたも同じでしょう」そう言って彼女は笑った。 そうだった。私も幽霊だったのだ。幽霊と会話できる存在がいるとしたら、その存在も幽霊なのである。今の私のように。 「それでは行きましょう」 彼女が言うので、私もついていく。少女の足取りは軽く、まるで生きているように見えた。どこへ行くのかと尋ねた私に、少女は足を止めて振り向いた。 「どこへでも行くことはできます。あなたの行きたい場所はどこですか?」 私はしばらく考え込んだ。私はどこに行こうとしていたのだろう。ここはどこだろう。なぜ私はここにいるのだろう。 ただ立ちつくす私は、少女の暗い瞳を見つめるしかなかった。 「××××へ行こうと思っていたのではないですか?」 解答を出したのは少女だった。その言葉を聞いてようやく、わたしは自分の役割を知った。そうだ。私はそこに行こうとしていたのだ。どうして忘れていたのだろう。こんなに重要な事柄を、私が生きて存在するその意義を。 忘れてはいけないことだったはずなのに。 「では、もういいですね」 少女は嬉しそうに微笑んだ。私は頷いて、彼女に感謝の言葉を述べた。 「さようなら」 少女は消えて、私は残された。彼女は彼女の場所へと戻ったのだろう。私が私の場所へ戻ろうとしているように。 空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。それらは地表に落ちて消えゆく。 時空に溢れている奇蹟の一つだった。この世界には奇蹟がありふれている。私はずっと立ち止まっていた。時間の経過は意味をなさなくなっていた。 綿を連ねるような奇蹟は後から後から降り続く。 これを私の名前としよう。 そう思い、思ったことで私は幽霊でなくなった。 その時まで、私は一人ではなかった。多くの私がいる。集合の中に私もいた。 氷のように共にいた仲間たちは、そのうち水のように広がり、ついには蒸気のように拡散した。 その蒸気の一粒子が私だった。 私はどこにでも行くことが出来た。様々な場所に行き、様々なものを見た。しかし私は学ばない。見るだけの行為。それだけが私に許された機能だ。 長い間、私はそうしていた。時間は無意味。偽りの世界ではすべての現象は意味を持たない。 しかし、やがて私は見つけた。存在の証明。 物質と物質は引きつけ合う。それは正しいこと。私が引き寄せられたのも、それがカタチを持っていたからだ。 光と闇と矛盾と常識。私は出会い、それぞれと交わった。私にその機能はないが、そうしてもよいかもしれないことだった。 仮に許されるなら、私はそうするだろう。 待ち続ける私に、奇蹟は降りかかるだろうか。 ほんのちっぽけな奇蹟。 その部屋には黒い棺桶が置いてあった。他には何もない。 暗い部屋の真ん中にある棺桶の上に、一人の男が座っていた。 「こんにちは」 彼は私に言う。笑っていた。 こんにちは。 私も彼に言う。私の表情はわからない。 私が経ち続けていると、男の後ろに白い布が舞い降りた。闇の中、その布は淡い光に包まれていた。 「遅れてしまいました」 白い布が言った。それは、白く大きな布を被った人間だった。目に当たるところが丸く切り取られ、黒い瞳が私を見ている。 中にいるのは少女のようだった。声で解った。 男が低い声で笑った。 「発表会はまだ始まっていません」 男は棺桶の上から動かない。 「まだ、時間はあります」 発表会。 私は思い出そうとする。私はここで何を発表するのだろう。焦る。思い出せない。 「時間はあるのです」 男は言う。私に微笑んでいる。白い少女のオバケは楽しそうに舞っていた。 「待ちましょう。あなたが思い出すまで」 少女は言う。私は黒い棺桶を見つめた。 一つだけ、私は目的を覚えていた。 私の居場所は棺桶の中だった。 私はそこから出て、再びそこに戻るために帰ってきたのだ。棺桶には男が腰掛けている。彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 しかし私には発表することもない。発表会に参加する資格はないのだ。 男は低い声で歌い始めた。白い布の舞に合わせるように。 彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 読み終えたとき、わたしの身体は震えていた。発するべき言葉も、するべき動作もない。疑念と驚きと悲しさと寂しさがわたしの中に同居していた。激しい感情。その感情までも知らず知らず押さえつけてしまう自分を思うと、ますますみじめになった。 空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。 これを私の名前としよう。 雪。音もなく落ちて消えゆくもの。白くて神秘的な水のカタチ。 最初の部分を読み返して、わたしが今まで誰のどんな物語を綴っていたのかがようやく解った。部室で『私』は幽霊だ宇宙人だと想像を膨らませていた自分が馬鹿らしい。 確かにある意味ではわたしの予想は当たっていた。 彼女は宇宙人だった。しかも個体名まで解っている。長門雪、いや、長門有希。それが彼女の名前だった。 わたしの心が、精神が、手足が、頭までもがぽろぽろとこぼれ落ちていく。触れば壊れる砂の人形のように。やがてそれはわたしの存在までをも蝕んだ。わたしはわたしという唯一無二の個体としてこの世にいることすら許されなかったのだ。 彼女――つまり彼の世界の『わたし』なしには。 わたしが自らの存在を証明できるもの。それこそが文章を書くという作業そのものだった。わたしから生まれてくるオリジナルの文。内部から、心から、本能から湯水のようにふつふつと湧き出るアイデア。それは次第に集まりをつくって形をなし、精緻なつくりを持った物語となる。物語こそがわたし自身で、わたしの化身だった。 今度もそうだと思っていた。 おとといの朝に書き始めた物語。奇妙な感覚。本能から湧き出る文章。まるで最初から用意されていた物語だったかのように、わたしの執筆は早いペースで進んだ。 そうなのだ。この物語は、最初から用意されていたものだった。わたしがわたし自身だと信じ込んで書いた文章すらも、実はわたしなんかではないとんだ虚構で、しかも正体は『わたし』だった。雪と有希。最初から『私』というのは宇宙人ではないかと思っていたが、その部分を読んだときにようやく解った。『私』は『わたし』だったのだ。わたしは『わたし』の物語を自分のものだと思って書いていただけだった。 それはわたしの存在証明になるどころか、わたしは唯一のものではなく『わたし』に帰属する存在なのだと証明してしまった。とんだ皮肉だ。 ああ、わたしが崩れていく。腕が消え、胴体が吹き飛ばされ、最後に残った瞳も朽ち果てる。砂上の楼閣のように、風に吹かれて脆くも消え去ってしまう。 彼女に対する激しい憎悪と嫉妬は、いつしか姿を変えてわたしに向く刃となっていた。わたしはひとり追いつめられ、誰も知らないまま消滅していく。 冷たいものが頬を伝った。喉がひくひくと震えている。 手の甲でこすると、それはきらきらと輝いていた。こすってもこすっても止まらない。身体の機能までおかしくなってしまったのかもしれない。こんなものが出てくることは、かつて一度たりともなかったのに。 わたしはしばらく何の言葉も発することができなかった。嗚咽すらない。灰色の街を透かして、窓ガラスに映るわたしの顔は愕然としていた。 視界がぼやけた。パソコンに表示された文字も歪む。 流れているのが真っ赤な血ならよかったのに、と思う。真っ赤な血がとめどなく流れ出し、服を赤で汚し、手を朱色に染めていく。そして意識を失って倒れ、消えてなくなりたい。それができたらどんなにいいだろう。 しかし現実は非情だった。そう簡単には死なせてくれない。 透明な液体がこぼれる。 わたしは泣いていた。 * 意識が戻ってきた。今まで黒い海だった場所はマンションの一室に姿を変える。 午前四時十一分。 時間がない。わたしの意識はみるみる遠のいていく。 もはや、今の彼女との会話を思い返す余裕すらなかった。 わたしはあなたがうらやましい。わたしとあなたが同じ一個体だったらよかった。わたしは彼女にそれを言いたかったのだ。 もしわたしが人間だったら、わたしは彼女のようになれたのだろうか。本を読み、物語を綴る静かな文芸部員に。 どちらがいい、という問題ではない。それを比較することは意味のないことかもしれない。望んだところで、わたしにそれが与えられることはない。 でも、彼女のようになれたら。 彼女は言った。すべての自由が与えられたとき、あなたは誰と一緒にいることを選ぶのか。彼と一緒にいることを選ぶのか、と。わたしは答えた。そうするかもしれない。 実際はどうだろう。頭の中ではそうだと思っていても現実になると違うこともある。もし仮に、わたしに選ぶことが許されるのだったら、わたしは誰を選ぶのだろうか。それともひとりでいることを選ぶのか。 いや、その仮定も意味のないことだ。 意識が薄れていく。わたしの身体を異質なものが支配していくのが解る。白い絵の具に黒が侵入してきたように、白はみるみる黒へと姿を変えていく。 わたしは来るべき最後の時間に向けて彼に意識を集中させた。彼はまだ自宅で眠っている。世界が変わる際に、彼の記憶を最低限として、他にも栞やパソコンにこちらの世界の痕跡を残さなければならなかった。 たまり続けたエラーデータ。バグ。やはりわたしの力ではどうしようもなかった。今にもわたしは自意識を失いそうになっている。集中していなければ次の瞬間にもわたしはエラーデータに支配された世界改変者になってしまう。 三年前から決まっていたことだった。十二月十八日午前四時二十三分。その時間にわたしは世界を変えてしまうのだ。改変された世界の『わたし』は、ついさっきの空間で会ったようなまったく別の存在になってしまっている。 そもそもなぜこんなことになるのだろう。どうしてわたしの意識がなくなり世界を改変してしまうのか。 エラーデータ。 それが原因だ。ところが、三年間考え続けても、どこでそんな大量のエラーが発生しているのかは依然として不明だった。わたしは狂ってしまうと解りながらも、三年間、ただ時が過ぎるのに身を任せるしかなかった。 わたしが消える。 次の瞬間、わたしの視界がブラックアウトした。さっきまでいた空間のように途方もない黒が部屋を支配して、まともに立っている感覚すらなくなる。 頭に、わたしの部屋が、街が、眼鏡が、彼の顔が次々と去来してまぜこぜになった。もうこれ以上は持たない。抵抗の余地もない。世界は午前四時二十三分、予定通り改変される。 膨大な量の情報の波がきた。エラーデータ。だめだ。処理しきれない。 音が消え、光が消える。かすかに残っている意識も思考を受け付けない。その意識すらもろうそくの火が消えるように、静かに最後の時を迎えるのだ。 午前四時十二分――。 わたしの意識が消失した。 *
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4095.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_sm/pages/39.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5181.html