約 24,299 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4906.html
一 章 Illustration どこここ 我が社の社員旅行、じゃなくてSOS団夏の強化合宿から帰ってきてからやっと仕事のペースが戻った八月。ゲームと業務支援ソフトの開発とメンテで寝る間もない開発部の連中に気を使ってのことか、俺たち取締役も夏休み返上で出社していた。お盆はどこも営業してないんだからせめて三日くらいは休みをくれと上訴してみたのだが、「社員旅行楽しかったわよねぇ」ニヤリ笑いをしながらのたまう社長にむなしく却下された。俺は合宿でCEOの権利を得たはずなのだが、ハルヒの言う次期ってのが四半期のことを言っているのか営業年度を言っているのか分からず、結局はまだまだ先の話だ。 そういやこの会社に入ってまともな休みはなかった気がするが、それはハルヒが土日にやる突発的イベントのためで、そのほとんどは市内不思議探索パトロールなのだが、疲れ果てた体に鞭打ってまで駅前広場に集合させられるのは確実に俺の寿命を縮めてる気がする。なんでそんなに必死になって不思議を探しているのか、俺たちもう若くはないんだしスタッフの福祉も考えてくれよ。いや、まだ二十四歳の盛りだが。 俺は定時になると長門と退社し、途中でスーパーに寄って買い物などをしつつ長門の部屋でメシを食って帰るという習慣めいたものが定着していた。長門のレパートリーはかなり増えたが、たまに俺の手料理もお粗末ながら披露したりもしている。 食器を片付けて長門は本を開き、俺は静かにお茶をすすっているともう十一時を過ぎていて、いつものように時計を見ながら腰を上げた。 「そろそろ帰るわ。ごちそうさん、うまかった」 「……そう」 暖かく電球が灯る玄関で靴を履いていると長門が俺の携帯を持ってきてくれていた。分かってはいても、いつも忘れる。 俺は少しだけ長門の肩を抱いて髪の匂いをかいだ。サラサラした感触が鼻の先をかすめた。 「……泊まって。……」 長門がぼそりと言った。もっとなにか言いたげな、でも躊躇しているような、そんな表情だった。今日は泊まってと言った。いつもは泊まる?とか、ここで休む?なのだが、今日だけはなぜか違う。今日はなにか特別なことがあったろうか。 「いや、今日は帰るよ。また今度な」 「……」 そのときの長門の表情は、はるか昔のなにかを思い出させた。朝比奈さんと七夕の日にここへ押しかけてきたその帰り、高校一年の五月にここへ呼ばれてハルヒと情報統合思念体のことを教えられたその帰り、それから文芸部の入部届を白紙で突き返したとき。 実に、寂しそうだった。 「な、なあ。よかったらそこまで送ってくれないか」 「……分かった」 俺は確かに長門の部屋に泊まったことがない。夜中の十二時をまわっても、長門の部屋で二人きりで一夜を明かしたことはない。付き合ってそろそろ六年になるが、それくらい共有した時間のあるカップルなら互いの家に泊まったりはふつうよくあることだろう。エレベータの中でそれがなぜか考えたのだが言葉にならない。前にも似たようなシチュエーションはあった気がするのだが、いつだったか思い出せないでいる。 公園が見えてきたので俺は街灯の下の、いつものベンチに向かった。 「ちょっと、座らないか」 「……」 「あのさ長門。泊まりたいのはやまやまなんだが、」 本当は泊まりたいと言いたいのではなく泊まれない言い訳をしようとしていたのだが、長門はそれを遮った。 「……あなたがわたしの部屋に泊まらない理由は、知っている」 「そうなのか。そういう話をしたことあったかな」 「……あなたは覚えていない」 ああ、俺の記憶にはない俺たちの歴史があるんだな。 「そのとき俺はなんて言ってたんだ?」 「……母親にもらった装飾品の話をしていた」 「装飾品?ネックレスとか?」 「……例え話」 よく分からんが、以前にも同じ話題があったらしい。 「なあ、最近エラーはよくあるのか」 「……ここ数年安定している。でも許容範囲を超えてピークに達することもある」 「ピークってどんなときにだ?」 「……あなたの背中を見ているとき」 帰ろうとする俺を玄関で見送るとき、光陽園駅で別れるときのことだ。俺が帰った後の長門はどんなことを考えてなにをしているんだろう。独りぽつねんと食器を洗い、部屋をかたづけているのだろうか。青白い蛍光灯の下で茶をすすり、ごそごそと冷たい寝室に入る。眠るときはいつも猫を呼んで抱いて寝ているのを俺は知っている。 こいつは寂しいという言葉を使ったことがない。そのエラーはたぶん、そういう感情から生まれているんだと思う。俺は長門の肩を抱き寄せて手を握った。 「なあ、せっかく携帯があるんだからもっと会話に使おうぜ。同じ電話会社だからタダなんだし」 「……」 「別に用事がなくてもいい、声を聞きたいだけでもいいんだ」 「……分かった」 長門はポケットから携帯を取り出した。こいつとのメールのやりとりも待ち合わせやら仕事上の連絡事項がほとんどだ。もっとバカ話をしてもいいし、意味不明な宇宙論を話してくれてもいい。喧嘩はしたくないが、そういうのもあって悪いもんじゃない。離れていても会話を重ねていけば近くにいるような気になれるというか、物理的な距離をそうやって精神的な距離で縮めていく、というか。 「……もしもし、長門有希」 「もしもし。俺だ」 「……」 目の前にいる相手になにを話せばいいの、と、首をかしげて俺を見ている。 「じゃあ、俺そろそろ行くわ。また明日お前の顔を見たい」 「……分かった。おやすみ」 「待て待て、まだ切るな。こうやって話しながら少しずつ離れていけば、」 俺は街灯の光で柔らかく影を作っている長門の顔を見ながらあとずさった。 「まだそこにいるような気分になるだろ」 「……」 長門には分からないか、この名残という感覚。 『……体温が残っているのは分かる』 「ま、まあそれに近いもんだ」 俺は夜道を歩きながら、どうでもいいような話を続けた。バカップルがよく「今コンビニの前歩いてる~」とか「階段あがる~」などとやっているのを見かけるが、まさか自分が同じまねをするとは思いもしなかった。 「俺が帰った後はなにしてんだ?」 『……食器を片付けている』 「ほかには?」 『……ミミのエサを補充』 「それから?」 『……布団を敷いて寝る』 やっぱりそれだけか。 「じゃあ寝る前に電話をくれ。少し話をしてから二人で眠ろう」 『……分かった』 俺が飽きたり忘れたりしなければ続けられるはず。 『……着信が入った』 「電話か、じゃあ終わったらかけなおしてくれるか」 こんな夜中に電話なんて誰だろう。大学院の知り合いか、いやいやハルヒ以外には考えられない。 五分くらいして長門からかかってきた。 「おう、済んだか」 『……終わった』 「当ててやろうか、今のハルヒだろ」 『……そう』 「こんな夜中に何だって?」 『……とりとめもない、女同士の与太話』 長門が女同士の与太話って言ったか今。 「それ、ハルヒにそう言えって言われたのか」 『……そう』 「で、なんの話だったんだ?」 『……それは、内緒』 なんだか陰謀くさいものを感じるのは気のせいか。 「じゃあ、ハルヒには内緒でその内緒話を教えてくれ」 『……それは、契約に違反する』 哀しいことに最近の長門は簡単には騙されてくれない。 「すごく気になるんだよなあ。眠れなくなる」 『……あなたのこと』 「俺の噂してたのか」まあ女同士ってのはそういうもんだろう。 『……あなたをわたしの部屋に引き止められたかどうか』 な、なに。今日のあのなんともいえない寂しそうな表情はもしかしてハルヒの仕込みだったのか。 『……涼宮ハルヒとはたまにそういう話をする。あなたには言えないような、話』 「で、なんて答えたんだ」 『……玉砕した、と』 こりゃハルヒに一度、俺と長門の恋愛について釘をさしておく必要があるな。俺たちはふつうの男と女がやるような付き合い方はしないんだと言って聞かせないといかん。また長門にヘンなことを吹き込まれてはかなわんからな。 しかし俺のことがハルヒに筒抜けだったとは、弱みを握られてるも同然じゃないか。まあ長門もほかに相談する相手もいないだろうし、しょうがないといえばしょうがないことなんだが。 「いいか、あんまりハルヒの言うことを真に受けるなよ。あいつは俺たちをラブロマンス映画のキャストかなんかだと思ってんだからな」 『……それはそれで、楽しい』 いかん、完全に毒されてるな。 「それで、ほかにはなんて?」 『……涼宮ハルヒと古泉一樹の状況について』 キター!!ハルヒと古泉の生々しいスキャンダル。あいつらあれからどうなってるのか俺も知りたかったのだが、古泉が貝のように口を閉ざしてひと言も言わないんで気になっていたところだ。 「それは面白そうだ。俺にもぜひ聞かせてくれ」 『……だめ』 「教えてくれよ。きっと赤裸々な話が展開されているに違いない。あいつらいきなりやっ、ゲフンゲブンしちまうくらいだからな」 『……泊まったら、話す』 むぅ、巧妙な根回しに出やがったな。俺がうーむと唸っていると、 『……今のは、冗談』 長門、お前の冗談はいつもきわどいんだから、せめて予告くらいしてくれよ。 それからなんとかハルヒと古泉の私生活を聞き出そうとしたのだが、頑として教えてくれなかった。ということは俺たちのこともそれなりに秘密は守られているってことだよな。秘密ってのがあるのかどうか分からんが。 「家に着いた」 『……おつかれ』 「シャミが足にまとわりついてる。運動不足で丸々太った」 『……そう。耳の後ろをなでて』 俺は歳をとってそろそろ毛並みのツヤがなくなってきたシャミセンの、耳の後ろをかいてやった。 「おいシャミ、この電話の向こうにいるのは長門だ、分かるか」 猫相手になにやってんだろうね俺、と恥じ入っているとスピーカーから猫の鳴き声がしてきた。それって江戸屋猫八バリの声帯模写ですか。しかもサカってる猫の声だし。 「風呂に入るから、一旦切るわ」 『……分かった』 にしてもハルヒのやつ、味なまねをする。俺がこういう恋愛に慣れていなくて、たぶん長門も戸惑うことが多くて、誰に相談するともいかないようなボタンの掛け違いを、見かねたハルヒが間に入って俺たちを和ませているのだ。 俺と長門の付き合い方についてあいつが正面から意見することはない。俺が反発するのが分かっているからな。長門を焚きつけて妙な行動をとらせることはたまにあるが、あれがハルヒ流の恋愛なのだ。ジョンスミスをみすみす逃してしまい(シャレじゃないぞ)、十年も探した挙句がすぐそばにいたという灯台下暗し的運命の出会いが、ハルヒをそうさせているのかもしれない。あいつの奇矯ぶりは恋愛観にまで達してしまっている。中学生の頃は男をとっかえひっかえだったらしいしな。まあその要因を作ったのは俺なのだが。 俺が中学生のハルヒの恋愛観を作り、ひたすらジョンスミスだけを待ちつづける人生を過ごさせてしまったのだが、当の本人である俺が長門と付き合うきっかけを作ったのは、何の因果であろうハルヒ自身なのだ。 ぬるい湯船に浸かってまったりとそんなことを考えていると深夜零時を過ぎていた。俺は慌てて長門に電話をかけた。 『……ジュル。もしもし、こちら情報統合思念体主流派』 長門、寝ぼけてるんだよな。 みんなが寝静まった頃、足音を忍ばせてキッチンに入ると冷蔵庫に俺宛の手紙が貼り付けてあった。往復ハガキだった。高校のときのクラス会をやるので出席と欠席のどっちかに丸をつけて返信を出せということだった。 「同窓会って、今頃やんのか?」 まあ世間的には夏休みで、みんな働いていて忙しい身の上なら時間を作って会うには今時分が適当か。中央やらよその地方やらに出ていったやつも帰ってくることだし。 差出人を見ると阪中になっていた。あいつももういい歳だよなあ。って俺もだろ、などと独り突っ込み的感慨にふけっているとおかしなことに気がついた。阪中が俺にハガキをよこすはずがない。俺が改変した歴史だと五組にいたのは古泉で、俺は隣の六組にいたはずなのだ。もしかして学年合同でやるのかと裏書を読み返してみたが、ちゃんとクラス会と書いてあり頭の周りでクエスチョンマークが渦巻いた。 不思議に思って古泉の携帯にかけた。 「古泉、遅くにスマン。今いいか」 『少々お待ちを』 数秒して『どうぞ』と返ってきたのだが、後ろでハルヒの甘えた声らしきものが聞こえていたのは気のせいってことにしとこう。 「阪中から俺宛に同窓会の案内状が来てたんだが、」 『ええ、高校のときのクラス会ですね。僕のところにも来てますよ』 「改変した歴史の俺って一年六組の生徒だったよな。なんで俺に来てるんだろう」 『はて、なぜでしょう。あの後、朝比奈さんの組織がフォローにまわったと言ってましたよね』 ちょっと困ったことになった。つまり俺の改変した歴史と、改変前の俺自身の記憶と、それから朝比奈さん達がフォローした歴史が存在することになる。いったいどれが正しい歴史なのか、ちょっとどころか俺とクラスメイトの記憶が一致しなくて会話が成立しない事態になりかねん。 『僕も自分の歴史がどうなっているか気になるので、機関のデータベースを調べてから折り返しお電話します』 「すまんが頼む」 つまり当事者の俺も三パターンの歴史を覚えてないといけないってことだな。ややこしくて頭痛に襲われそうだ。あのとき朝比奈さんが怒髪天を突く勢いで怒った理由が今さらながらに身に染みて分かった。 五分後、携帯が鳴った。 『どうも古泉です。お待たせしました』 「どうだった」 『あなたの周辺はかなりカオスな状態になっていますね』 「カオスって具体的にどうなってるんだ」 『改変前は涼宮さんの周辺で起こった出来事のうち、大部分はあなた自身がトリガになっていまして、それを修復するために朝比奈さんたちが無理やりあなたを動かしているようです』 「お前が肩代わりできなかったのか」 『もちろん僕自身も駆り出されているようです。ですが、フォローするにもやはり限界があったのでしょう。たとえば涼宮さんと口論するイベントなどは、僕というキャラクタには無理ですからね』 ハルヒを怒らせる役回りは俺にしかできないってことか、なんだかこの問題はこの先もずっとついてまわりそうな悪い予感がするぞ。 『日誌には修復の痕跡が見え隠れしていまして、かなり苦労したようです。ある部分はどうしようもなくてツギハギ状態のようなありさまで』 「つまり俺の周りだけ歴史が茹ですぎたスパゲティ状態なのか」 『簡単に言えばそういうことです』 電話の向こうで古泉のニヤニヤが見えるようだ。 「それは今後朝比奈さんと相談しつつなんとかしよう。話は戻るが、俺は長門と同じ六組のはずだよな」 『記録によると、四人とも二年になってから五組になっていますね。涼宮さんとあなたが別のクラスだと発生しないイベントがあったのでしょうか』 イベントイベントってギャルゲのフラグっぽいんだが、全員が同じ部屋に押し込められたのか。なんだかもう、未来人もデタラメだなあ。 「俺に関する当時の資料をもらえないか。自分の記憶と一致させねばならん」 『あいにくとすべて機密扱いなので簡単には持ち出せないのですが』 「お前の力でなんとかならないか。歴史改変の事情は幹部も知ってるだろう」 『なんとか取り計らってみましょう。改変のおかげで機関内での僕の地位も上がってますし』 「昇進したのか」 『戻ってきたらシニアチーフになっていました』 チーフにシニアがついたのがどれくらいの待遇向上なのかは分からんが、きっとボーナスがいいんだろうね。 『それはいいとして、あの頃に収集された情報は相当な量になりますが』 「できれば概要だけ頼みたいんだが」 つまり俺が改変した歴史がどうなったかかいつまんで教えろ、と俺は言っているのだ。自分で言っててなんて勝手なやつだとは思うのだが。 『かしこまりました。明日の朝一までにそろえておきます』 いつもながら、古泉のこういう手配力には頭が下がる。また借りができたな。 「すまんな」 『いえいえ、これくらいお安い御用です』 次の日、職場で受け取った書類の量はまじにハンパではなかった。古泉は三百ページはありそうなA4用紙の束をドンと机の上に置いた。 「十一年前の七月七日から、あなたに関する情報を抜粋したものです。これでも全体の十パーセント程度に減らしてあります」 古泉はこれ見よがしに前髪をさらりと跳ね上げ、オレっちはこれが仕事じゃけんのうと鼻を鳴らしそうな勢いだった。まあ俺が頼んだことなんで、突っ込むわけにもいかん。腹立たしいことだ。 全ページにCONFIDENCIALと赤くスタンプが押してある。ページをめくると、まずこの資料をまとめた人間の俺に対する所感が書かれていた。モラトリアム、自主性に欠ける、行き当たりばったりで人生の目的が不明瞭などとかなり辛口だったが、俺が古泉に電話したのが昨日の零時くらいだから、きっと徹夜仕事でイライラだったんだろうなあと同情しそうなくらいに気持ちが文面に漏れていた。それから目次、続いて十一年前からの月次レポートと年次レポートで俺の行動が事細かに書かれていた。といっても概要だけらしいのだが、自叙伝でもここまで詳しくは書けないぞ。 「いかがですか、自分の観察記録を読んだご感想は」 「まだ読んでる途中だ。なんというか、俺が一冊の本になってるな」 機関の設立はあの七夕の日から数週間後らしい。まあハルヒに超能力を与えられて即日組織化されるってのも急すぎて人間技じゃないからな。七夕事件のことは機関の運営が軌道に乗ってから遡って調査したことらしい。つまり人づてに聞いたことをまとめたのか。 あんなこともあったこんなこともあったと、第三者視点の我が人生の記録をしみじみと読んでいる俺だった。他人の目にはこんなふうに映ってたんだななどと相槌を打ったり、かたや、あのときは違うんだよ俺のせいじゃないんだってばというようないい訳じみた独り言をブツブツと吐いていた。 俺の記憶とは部分的に違う二年五組の様子を読んでいるところで携帯がブルブルと震えた。知らない番号からだった。 「はい、もしもし」 『阪中だけど、キョンくん?』 かなりドキリとした。同級生に会うのにこれから丁寧にアリバイを用意しようと考えていた矢先に突然電話がかかってきちまったんだもんな。 「お、おう。阪中か。久しぶりだな」 『ほんとにお久しぶりなのね。ハガキ届いたかしら?』 「来た来た。たぶん出席できそうだ」 『そう、よかった。折り入ってお願いがあるのね』 「いいけど、なんだ?」まさか俺に司会をやれとか言うんじゃあるまいな。 『涼宮さんと同じ職場にいるって聞いたんだけど』 「そうだが。同じというかあいつが社長でな」 『そうそう、聞いてるわ。涼宮さんを同窓会に連れてきて欲しいのね』 「自分で頼めばいいだろう」 『それがね、毎年誘ってるんだけどいつも断られるのよ。同窓会が嫌いみたいなのね』 まあ、前進あるのみで過去にはこだわりたくないっていうハルヒの考え方は分からんでもないが。 「阪中が頼んでだめなら、俺が頼んでも無理だと思うが」 『そこをなんとかお願い。あなたなら涼宮さんを動かせるんじゃないかって』 またそれか。ハルヒのお守り役は古泉に譲ったはずなんだが、そのへんは修復で元に戻っちまったんだろうか。 「そういう話は古泉のほうがいいと思うぞ。なんせカレシだしな」 『頼んではみたんだけど、自分じゃ無理みたいだからキョンくんに頼んでくれって』 なんだあいつ、自分が説得できないからって俺に鉢をよこしたのかよ。 「しかしなあ、ハルヒが嫌がってるんだったらテコでもクレーンでも動かんと思うが」 『みんな涼宮さんの話を聞きたいのよ。あたし達の間で社長にまでなったのは涼宮さんだけなのね。出世頭っていうのかしら』 出世頭か、その言葉は俺にもグッと来た。高校大学と奇矯なまねばかりしていたハルヒだが、見るやつが見ればなにかでかいことをやるやつだという予感めいたものがあったに違いない。そこで二十四歳にしてこの社長椅子に座ってるとなりゃ、堅物の岡部でさえグッジョブを出すに決まってるさ。 「分かった。俺がなんとかする」 『ほんとう?ありがとう。じゃあ四人とも参加にしとくわね』 四人って?と問い返そうとしたのだが、じゃあよろしくね!と勢いよく切られてしまった。俺達全員が同じクラスってことは古泉と長門のことも頼んだってことなのか。やれやれ。 「なんであたしが高校のクラス会なんかに出なくちゃいけないのよ」 「無理に行けとは言わんが、お前の代わりに出席の返事をしちまったからなあ。お前が行かないと古泉も行かないだろうから、俺が会費を払わされることになる」 「あんたが勝手に返事をするのが悪いんでしょ。あたしの知ったこっちゃないわよ」 「毎年やってんだからたまには顔を出せよ。お前がいないとメンツが締まらない」 「あたしは同窓会と名のつく集まりは嫌いなの」 「なんでだ?昔遊んだよしみじゃないか」 「イヤよ。年取って小じわが現れたのをお互いに数えあうなんて。昔の顔と比べて使用前使用後みたいな集まりは」 同窓会は別に化粧品の実演販売じゃないんだが、うまいこと言うな。 「メンツの中で社長やってるのはお前だけなんだよな。なんつーか、みんな聞きたいわけだよ。お前のサクセスストーリーを」 「社長なんてその気になりゃ誰でもなれるわよ。とにかくあたしをネタにして酒を飲もうなんてお断りよ」 やっぱりというか思ったとおりの反応というか、幹事をやっている阪中に拝み倒されて事後承諾みたいにしてOKを出した俺がバカだった。今は反省している。 「まあそこまでイヤだっていうんならしょうがない。俺が自腹でお前達二人分の会費を払うしかないな。せっかく古泉をお披露目できるチャンスだったんだが……」 最後のはボソボソともったいつけて言った。 「お披露目ってなによ」 「知らないのか、八年も付き合いのある同級生を彼氏に持ってるってのは希少なんだよ。あいつらはそういう話をうらやましがるのさ。幼馴染みの彼氏に近いかもな」 「そ、そうかしら」 ハルヒがポッと顔を染めた。ふっ、釣れたな。だがまだ引き上げないぞ。 「いやいいんだ、気にするな。俺もあんまり同窓会って集まりは行きたくないしな。気持ちは分かる」 「あんたが払えないんだったら行ってあげてもいいわ」 「忙しいんだろ、無理すんな。会費くらいなんとか払える」 「いいの、あんたの寒い懐具合を凍らせたら有希がかわいそうだから」 「今月は余裕あるから大丈夫だ」 「あたしも行くつってんでしょうが!」 くっくっく。とうとう切れやがった。 とは言うものの、古泉はあまり乗り気ではないようで、仕事にかこつけて後から顔を出しますとごまかしていた。この古泉の記憶にはないクラスメイトの、しかも彼氏を見せびらかすだけの同窓会になんて喜んでついていくわけがない。 飽きもせず毎年やっているだけあって集まるメンバーにそんなに違いはないんだが、来るやつは毎年来るし来ないやつは招待のはがきを出そうが電話をかけようが絶対に来ない。よっぽど学生時代にいやな思い出でもあったんだろうか。かつての担任岡部は呼ばれればまめに顔を出しているようだが、今年は来ていないようだった。 「やあキョン、来てたんだね」 「キョンよお、お前あいかわらず涼宮とつるんでるんだって?」 国木田と谷口がコップを握ってにじり寄ってきた。なんで知ってるんだこいつ。こいつらの記憶と俺の記憶がどこまで一致しているか果たして疑問だが、適当に話を合わせておこう。 「あの頃のクラスメイトが集まって昔話に花が咲くといや、必ず一度は涼宮の話になるもんさ」 「あいつとは腐れ縁だしな。俺もそういう星の下に生まれたんだとそろそろ諦めの境地だ。俺だけじゃない、四人ともだ」 「キョン、涼宮さんと会社作ったんだって?」 「ああ。なにがしたいのかよく分からん会社だがな」 「いいよなあお前ら。俺も雇ってくんねえかな」 お前が宇宙人未来人超能力者のどれかに属するなら考えてやらんこともないが、それよりお前にハルヒのお守りが勤まるとは思えんので却下だ。 「長門有希とはまだ付き合ってるのか?」 谷口は、別れたならぜひ自分がカレシ候補にとでもいいたげな目をして、ヒシと俺に問いかける。 「ああ。ハルヒと一緒にいるはずだが」 俺は遠目に、いい歳になった女どもに囲まれているハルヒのほうを指差した。歳をとってハルヒも多少なり角が取れ、あの頃話もしなかったクラスメイトともちゃんと会話しているようだ。 谷口は目を細めて長門を探していた。 「おーおー、長門だ。ほかの女どもがすでに下り坂ってえのに、あいつはぜんぜん変わらんな」 なんだその黄色い道路標識みたいな下り坂ってのは。女子連に聞かれたら締め上げられるぞ。 「長門さん、きれいになったねえ」 「ほう、国木田には分かるのか」 「そりゃ分かるよ。女の人は恋をするときれいになるんだ」 意外に見る目あるんだなこいつは。国木田の左手薬指にはもう指輪がはまっていた。こいつは結婚が早かったと聞く。 「お前らあんまりジロジロ見るな。女は長門だけじゃないだろ」 「見たって減るもんじゃねえだろ。男なら誰だって六年経ったアレがどんな姿になってるか、気になるだろうがよ」 気持ちは分からんでもないがアレ呼ばわりはないだろ。 「にしても、まさかお前がトリプルAの長門有希と」 「Aマイナーじゃなかったのかよ」 「俺のランキングは市場連動型なんだよ」 「なんだそりゃ」 「朝倉みたいな清純派はあの時代にはハイクラスだったが、今は萌えだ、萌えの時代なんだ」 こいつもまたハルヒみたいなことを言い始めたぞ。 「なるほどな。お前あの頃は朝倉が好きだったもんな」 谷口がポッと顔を赤らめた。 ── 俺の記憶によればだが、高校三年のとき俺と長門が付き合いはじめたことが谷口の耳に入るのは朝のラッシュアワーをすっ飛ばして行く原付よりも早かった。こいつには一度長門と抱き合っているところを見られた経緯もあって、二人の仲はずっと疑われていたらしい。あのとき谷口は俺のネクタイをハルヒ張りにひっつかんで締め上げた。 「キョン、お前長門と付き合い始めたってほんとか!」 「く、苦しい離せ。ハルヒに告げ口したのはお前だろ。おかげでとんでもない目にあったぞ」 「キョンが人気のない教室で抱き合ったりするから噂が立つんじゃねえか」 「いやあれは抱き合ってたんじゃなくて長門が具合悪そうだったから支えてやってたわけでだな」 「この期に及んでそんな言い訳が通用するか、よっ」 ふざけているのかまじめなのか分からん谷口に腕卍固めを決められてマイッタを何度も叩いている俺だった。 「で、長門有希のどこに惚れたんだ?」 どこと申されましても、俺と長門の関係が曖昧すぎてハルヒが付き合うのか付き合わないのかはっきりしろと怒ってそれで強制的に団公認みたいな流れになっちまったんだが、なんてことを言ったら谷口は切れるだろうな。俺はただひと言、 「萌えた」 このセリフが予想以上に谷口にショックを与えたようで、やおら涙目になって、 「末永くお幸せにっ」 ごゆっくり、のときと同じシチュエーションでダダダッと駆け出して教室のドアをガラガラピシャっと閉めて出て行った。いったい何があったんだとシーンと静まり返った教室内に谷口の賭けていく足音だけが遠く遠く国境を越えてカナダにまで行ってしまいそうな勢いで聞こえていた。 今じゃなつかしい、恥ずかしい話だ。こいつの歴史と一致するのかどうかは知らんが。 「谷口は長門にも惚れてたのか」 「おうよ、キョンが長門と付き合いだしたって聞いてそりゃもう逆上もんだったしな」 どうやら一致してるらしい。 「お前らは知らないだろうけどな、俺あのときマジ泣きしたんだぜ」 いや、知ってたから。みんなの前で十分涙流してたから。ついでに言うと翌日から下級生を手当たり次第ナンパしてたのも知ってる。欲をかいて新卒の研修生にまで声をかけてひっぱたかれたのも知ってる。さらに近所の中学生に、 「分かった、分かったからもういいって」 「あははは、あのとき谷口が生徒指導室に呼ばれたのはそれでだったんだね」 「頼むから思い出させないでくれ。酔いが覚めちまう」 「お前は女のことになると見境がないからな」 「あれは俺なりの治療薬なんだよ。女で受けた傷は女で癒せ、って昔からいうだろ」 それは寝取られたときとかに使うセリフだ。お前が勝手に空回りして傷ついてるだけじゃないのか。 谷口がぼそりと言った。 「あーあ、朝倉に会いてえぜ。今ごろどうしてんだろな」 今からでもカナダに行っちまえよ、などというと本当に行ってしまいかねんやつなので言わなかったが。 二次会が終って三次会のカラオケに付き合い、ほろ酔いの頭でそろそろハルヒと長門を連れて帰らなきゃなと見回してみたがすでに姿はなかった。そういえば一次会の終わりごろ古泉がちょこっとだけ顔を出して一緒に帰っちまったな。やっぱりあの三人がクラスにふつうに溶け込むにはキャラが立ちすぎてたか。 その後の記憶は曖昧なのだが、ただ谷口が俺に向かって言ったことだけはかすかに覚えていた。 「キョン、ちゃんと呼べよ?」 谷口がなんのことを言っているのか、酔った頭で数秒考え、 「おい、何のことだ?」 もう一度谷口を見たがタクシーはすでに走り去っていた。 それからどうやって家に帰ったのか、一切記憶がない。 目が覚めたのはたぶん夜中だったと思う。俺のベットで隣に誰かが寝ていた。部屋は暗く、物音はなく静かだ。顔を横に向けてみると、見慣れた顔がそこにあった。長門がうつ伏せで眠っていた。肘を曲げ、口元に軽く握った手を置いていた。耳を澄ますとスゥスゥという寝息が小さく聞こえる。 ああ、俺は夢を見ているんだなと思った。昨日は飲みすぎたからな。こういう夢なら大歓迎だ。ハルヒと夜の校庭を走り回ったりするんでなければな。 俺は長門の顔をじっと見ていた。すやすやと、吐息に合わせて髪が揺れる。いい夢だ。 …………。おかしい。この夢、いっこうに覚める気配がない。不思議に思って右のほっぺたをつねってみたが現実に近い痛さだ。左のほっぺたをつねってやっと理解した。ベットだと思っていたのは実は敷き布団で、自分の部屋にしちゃ三十センチくらい天井が高いなと感じていたのは、実は長門の部屋の天井だったのだ。俺はガバと飛び起きた。 「な、なんで俺がここにいるんだ!?」 声は出さなかったが、心の中で叫んだ。 ええっと、昨日なにがあったんだっけ。確か同窓会でだいぶ飲みすぎて、あ、誰かに抱えられて歩いたな。記憶の中で、ふらふらと歩いている自分の映像のあちこちに長門の顔があった。自宅に戻るつもりがここに押しかけちまったのか。しかも酔っ払ったまま。しまった、長門に嫌なところを見せちまったな。まさか長門を襲ったりしてないだろうな俺。……記憶がぜんぜんない、冷や汗もんだ。 俺は布団から抜け出た。そこは和室だった。朝になって長門になんて説明しよう。音を立てないようにそっとトイレに行ってシンクで顔を洗った。顔がやたらベタついていた。ザブザブと洗ってふと顔を上げると、鏡の中の俺はひどい顔をしていた。髪はぼさぼさ、顔色は悪く目の下にクマができていた。 あれ、俺、長門のパジャマを着てる。と思ったがボタン穴が左で男用だった。そういや長門は同じのを着てたな、ということはおそろいのパジャマか。俺は想像した。酔ってヘロヘロになった俺が長門の部屋のドアをガンガンと叩いて起こす。長門はしょうがなく俺を中に引き入れて水を飲ませる。俺はそのまま倒れこんで眠ってしまい、長門がパジャマに着替えさせる。頭を抱えたくなるようなシーンだった。 それにしても……前にも見た気がするがいつ買ったんだこのパジャマ。俺はハッとした。長門がこれと同じ緑色のパジャマを着ているのを最初に見たのはいつだっただろうか。昔、あいつが熱かなんかで寝込んだときだったような気がする。ありゃまだ俺たちが高校二年くらいのときだ。あのときすでにこのパジャマがここにあったんだとすれば、長門は俺が泊まることを予測していたわけだ。 俺は鏡の前に立ててあった新品の歯ブラシを取った。硬めのブラシしか使わない俺用だった。コップとその横に二日酔いの薬が置いてある。 「長門……」 はみがき粉も俺が自宅で使っているのと同じやつだった。 歯ブラシをくわえ、口を泡だらけにしてこっちを見ている男が鏡に映っていた。そいつが言った。 ── ここが、お前の帰る場所なんだよ。 その意味はなんだ?俺はがしがしと歯を磨きながら複雑な表情をした。男がまた言った。 ── もう、自分の居場所を決めてもいい頃だろ? 「黙ってろ」俺はタオルで鏡をはたいた。電気を消すと鏡の中の男がニヤリと笑った、ような気がした。 暗いリビングに戻ると、俺のスーツとシャツがきちんとハンガーにかけてあった。テーブルの上に乗っていた携帯を開くと午前二時半だった。メールも着信もない。ふと、発信履歴を見てみると夜中の一時ごろに長門にかけている。うわ、まったく覚えてないぞ。なに話したんだ俺。長門を怒らせるようなことを言ったんじゃあるまいな。情報連結解除されたらどうしよう、このまま逃げ出して自宅に帰ろうかなどと古泉と同じ穴の二の舞をやっているような気分になった。 和室をのぞくと俺が抜け出したままの布団に長門が眠っていた。俺は足音を立てないようにそろそろと布団に近づいた。 カーテンのない窓から、月の光が差し込んで長門の顔を柔らかく照らしていた。シンと静まり返った部屋の中で、長門の吐息だけが小さく波を打っていた。 俺は長門の隣で横になってその寝顔を見ていた。布団の上に青白く冷たい光が長門の顔の形に影を作っている。寝顔を間近で見るのはあまりなかったと思うが、覚えている限りではたぶん二度目くらいだろう。じっと見つめていると、スヤスヤと寝息を立てる長門の半開きになった柔らかそうな唇に引き寄せられそうになったが、起こしてはまずいと思い自分を抑えた。 こいつに会ってそろそろ八年だな。もっとも、長門からすると十一年くらいか。いや、終わらない夏休みとかタイムトラベルとか歴史のループを合わせるといったいどれくらいになるのか見当もつかん。なんて感慨にふけっている俺だが、この数年間は実にあっという間だった気がする。会ってからずっと、俺も長門もハルヒという台風の目に振り回されっぱなしだった。困ったときはいつでもこいつを頼った俺だった。こいつのために俺がなにかしてやったことがあったっけ。思い出せない。せめてそばにいてやることくらいはしてやりたい。そう、ここ、長門の隣。ここがたぶん俺の……。鏡のあいつ、なんて言ったっけ。 そんなことを考えているうちにまた眠りに落ちた。長門のかわいい寝顔がいつまでも目蓋の裏に焼きついていた。今度はいい夢を見れそうだった。 二章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4498.html
今部室にいるのは俺と長門だけである。 ハルヒは機嫌が悪く、無言で俺を睨んでから先ほど帰宅、 朝比奈さんは課外授業、古泉はバイトだ。 ハルヒの不機嫌オーラで息が詰まりそうだった部室は束の間の平和を取り戻した。 ハルヒが不機嫌なのは俺が諸事情から二人きりの不思議探索をすっぽかしたせいだ。 俺はその言い訳をするために部室にやってきたものの取りつく島はなし、 教室では言わずもがなだ。昨日の晩、電話口でさんざん怒鳴ったうえに、 妹を使っていやと言うほど嫌がらせをしてもまだ不満らしい。 素直に悪いとは思うが、せめて話くらい聞いてくれ。 俺は意味もなく大きなため息をついた。 「今回の件はあなたが悪い」 突然、長門が口を開いた。 「涼宮ハルヒがわたしとあなたとの関係を疑っていることは理解していたはず」 ハルヒは、とある出来事から俺と長門の関係を疑っている。 俺も長門もそんな事実はないと否定したのだが、未だに疑っているようだ。 まぁ、俺が冗談で 『本当に長門と付き合ってるとしたらどうするんだ』 なんて言ったのが原因なんだろうけどな。 「にも関わらず、あなたは涼宮ハルヒとの約束を守らなかった」 それには理由があるんだ長門よ。 ハルヒとの約束と言うのは先ほど出てきた二人きりの不思議探索のことだ。 ハルヒは遠出できるのがよほど嬉しかったのか、いつも以上に期待していたらしいし、 俺もなんだかんだで楽しみにしていた。 ハルヒは『デートじゃない』と主張していたが、はたから見れば完全にソレだろう。 思春期真っ只中の俺は少しばかりそれに惹かれていた。 それを何故すっぽかしたかと言えば突然朝比奈さん(大)から意味深な警告があったからだ。 何でもハルヒとの不思議探索の中に世界の運命を変えてしまう程の出来事があるとかないとか。 しかもそれが俺にかかっているらしい。 詳しい内容は禁則事項らしく聞くことはできなかったが、俺は早速、あることを決断をした。 何かが起きるのだったらその出来事そのものをなくしちまえばいい そう考えてハルヒとのデート・・・もとい不思議探索をドタキャンしたのだ。 一応ハルヒには連絡したが、その晩ハルヒから怒りの電話をうけることになる。 事情を知った妹の俺を見る目は今でも忘れられんな。 「理由は知っている。しかし、あのまま出かけていても、その後の選択で回避は可能だった」 それはそうだろうが、あんな話を聞かされたあとじゃ身が持たないだろ? 「なら、あなたは彼女にきちんと謝るべき」 やっぱりそれしかないか 俺はもう一度大きくため息をついた。やれやれ、今度は俺から誘ってみるかな。 おそらく、おごりにおごらされていつも以上に振り回された挙げ句に、体力も貯金も使い果たしそうだ。 「もう一つ、聞きたいことがある」 何だ? 「あなたが私のことを、どう思っているのか」 長門はハルヒに誤解されてすぐに聞いてきたことと同じことを聞いた。 途中で微妙な間があいたのは同じ質問をしたことを思い出したからか? 「前にも言ったが、お前と同じだ」 「もっと具体的に」 「あぁ、だからな、お前は俺にとって普通の友達だと思ってる。 ・・・まぁ、命を助けられたり、いろんな場面で世話にはなってるから ”普通の”とは言えんのかもしれんがな」 「・・・そう」 長門は短くそう言って、再びハードカバーに集中した。 俺に質問する間も本から目を離すことはなかったが、 それを読んでいないのは、ページがめくられていないのを見て分かった。 それからしばらくは、しばらく静かな時間が続いた。 聞こえるのは、ページをめくるかすかな音と、不規則に響くキーボードを叩く音だけだ。 俺がお気に入りのサイトの掲示板を開くのとほぼ同時に、再び長門が声を出した。 「涼宮ハルヒのことは?」 聞いてすぐには長門の言いたいことが理解できず、ようやく分かったところで 「あなたが涼宮ハルヒのことをどう思っているのか知りたい」 と、具体的な説明があった。 「ハルヒは・・・」 普通の、とは言えず、その上ハルヒのことを形容する言葉が見つからない。 迷惑で、自分勝手ではあるが不思議とそれが許せてしまう。 理不尽だ、わがままだ、と思うこともあるが、 それに振り回されているのが楽しい時もある。 まぁ、命を狙われたり、死にかけたりなんてこともあったが。 とにかく、ハルヒに関しては何とも言えなかった。 代わりに朝比奈さんについてならすらすら言えるぞ、 このSOS団唯一の癒しだよ。朝比奈さんの入れるお茶でご飯三杯は食えるな。 古泉?あぁ、あいつはどうでもいいだろ 「・・・つまり、涼宮ハルヒはあなたにとって特別な存在」 いや、それは大げさすぎる。もっと単純なもんだと思うがね 「そう」 結局、長門が何が聞きたかったのか分からないまま、再び沈黙が訪れた。 やがてとっぷりと日が暮れると長門が本を閉じた。帰宅の合図だ。 結局、朝比奈さんは来なかったな。 そんなことを思いながら立ち上がる。 「あなたに言いたいことがある」 長門が俺の方をじっと見ている。 その顔は無表情なのに、何かを決心した思いつめたものが見え隠れしていた。 「何だ?」 俺はわざといつも通り、気楽に構えているようにふるまった。 「わたしは・・・わたしと今度また図書館に」 何か他に言いたいことがあるのは、一度言葉に詰まったことからも明らかだった。 「あぁ、いつでも連れてってやるよ」 それでも俺はそれに気づかない振りをしてそう返事をした。 長門が言い淀むほど大切な事なんだろう。きっとそれは今聞くべきことではない。 「それじゃ、また明日な」 俺は長門にそう告げて、部室を後にした。 彼が部室を出たあと、私は再び椅子に座って窓の外を見た。 夕日はすでに見えなくなっていたけれど、代わりに小さな星と月が小さく光っている。 「私が言いたかったこと」 私は誰にも聞こえないようにつぶやいた。 「私はあなたと同じようにあなたのことを考えていない」 私はしばらく秋の風を見つめて、 いつか失くした眼鏡を再びかけるようになるのかな。 と、自分らしくないことを想った。 想い編 end まぁ、その翌々日の放課後。俺は全面的に悪かったと思ったことを後悔した。 未だに怒りの収まらないハルヒは、三日ぶりに部室に現れたかと思うと、 突然俺の胸倉を掴んで移動を始め、少し離れた別の部屋へと移動した。 待て、ハルヒ。息ができん。お前の文句を聞く前にしんじまう。 「そのまま死になさい!」 ハルヒはそう叫んで俺を放り投げる。何つーバカ力だ。 「言いたいことは、わかるわね」 あぁ、分かりすぎるくらいにな。古泉あたりにおすそわけしてやりたいよ もっとも、今あいつはハルヒの不機嫌パワーと命がけで戦ってるところだろうけどな。 「まずは、理由を聞いておこうかしら」 ハルヒ、まずは理由を聞くという常識的なことができるようになったんだな。 「話を逸らさない!あたしとのデー・・・不思議探索をすっぽかした理由は何?!」 ハルヒ、今とんでもないことを言おうとしてなかったか? 「うるさいっ!さっさと答えないと本当に殺すわよ」 ハルヒはさらに怒りを増幅させた目つきで俺を睨みつける。 ここで俺は後悔をする。いい訳なんぞ全く考えていなかったからだ。 いや、サボった理由に関しては古泉がサポートしてくれていた。 「実はな、古泉から突然電話がかかってきて、バイトを手伝ってくれと」 「古泉君が?」 そうだ、間違いなく古泉だ。 俺はハルヒとのデートをドタキャンした時に、とりあえず断る理由を作らなくては、と考えた。 始めに思い当たったのが長門だったのだが、 いかんせん俺と長門の関係が疑われているまっ最中に頼るわけにもいくまい、自殺行為だ。 ならば朝比奈さんに、と思ったが、疑惑の対象が長門から朝比奈さんに変わるだけのような気がし、 不本意ながら古泉に助けを求めた。 朝比奈さんの警告も含めて事情を説明すると 『分かりました。少々お待ちください』 と言う返事があり、いつかの黒塗りタクシーが現れた。中に古泉を乗せてな。 車内で古泉に礼を言い、 「多少忙しくはなるでしょうが、世界が崩壊するよりはマシです」 と、笑顔で言われた。古泉の笑顔に腹が立たなかった上にありがたく思えたのは今回が初めてだな。 その後、俺は古泉の提案通りに、助っ人アルバイターとして、たこ焼きの屋台で雑用をこなした。 バイト代も出たし、得した気分だな、などと考えていたが、今回の件でチャラだ。 ここまで命の危機を感じたのは朝倉に襲われて以来だな。 その後、ハルヒにバイトの時間、内容、出来事などをかなり詳しく追及され、 「・・・どうやら古泉君のバイトを手伝ってたってのは本当みたいね」 と、疑いを持った目で俺を睨んだままそう言った。 「今回は古泉君もかなり困ってたみたいだし、許してあげるわ」 ハルヒの『許す』という発言に俺は少し安堵した。 「ただし」 が、当然ただでは済まなかった。 「次回の不思議探索で、あんたはあたしの・・・いえ、団員全員の命令に何があっても従うこと。 それから、一ヶ月間部員全員に喫茶店代を奢ること」 ハルヒは俺の胸倉を再び掴むと 「いいわね」 と、鬼も裸足で逃げ出すほどの形相で念を押してきた。 俺は何も答えられず、冷や汗を流していると、ハルヒは「ふんっ」と、鼻を鳴らして部屋を出た。 とりあえず、ため息をついてから、ハルヒの怒りがこれで収まることを願いつつ立ち上がり、 今日は帰った方がいいかもしれないなと思いつつ、部室入口の札を見た。 『天文部』 今日偶然誰もいなかったのか、ハルヒに厄介払いされたのかは知らんが、気にせずに星でも眺めてくれ。 ついでに俺の今後の無事を祈ってもらえると非常に助かる。 俺の戦略的撤退は見事に失敗し、結局一日中ハルヒにこき使われる羽目になった。 俺は何の文句も言えず、ただただ従順にそれに従うのみだった。 朝比奈さんが俺を気遣い、手伝ってくれようとしたこともあったが 「みくるちゃんは余計なことしなくていいの」 と、ハルヒからの威嚇を受け、心配そうに俺のことを見ながらおどおどしていた。 いいんです朝比奈さん。あなたが気遣ってくれるというだけで、俺は何だってできます。 そんなことが一週間も続くと、ようやくハルヒの機嫌も直ったようで、 今週日曜日に不思議探索を行う旨を、久々に顔をそろえたSOS 団一同に、笑顔で伝えていた。 「遅刻したら罰金よ!罰金!」 と、口うるさく言われたが、遅刻しようがしまいがどうせ喫茶店の会計を済ませるのは俺なのだから 集合時間ギリギリにのんびり集合してやるよ。まぁ、本当にそんなたいそれたことが出来たらな。 俺は今、絶対に涼宮ハルヒ恐怖症にかかっているね。 パソコンのハードディスクで息をひそめているMIKURUフォルダをかけたっていい。 不思議探索当日、俺は普段の生活では絶対に目を覚まさない時間に起床した。 こんな時間に起きようなんて考えたのは中学の時の集合時間以来だな。 今回の不思議探索は学校生活一番の醍醐味とほぼ同等の扱いだ。これで文句はあるまい。 俺はそんなことを頭の中で今は自宅で夢の中であろうハルヒに言った。 直接言え?そんな事が出来たらこんな時間に起きちゃいないさ。 支度を終えた俺は集合時間よりもはるかに早く到着するであろう時間に家を出た。 この時間なら最初の一人が来るまでかなり待たなけりゃならんだろうが、まぁ、ハルヒを怒らせるよりはマシだな。 誰もいないはずの集合場所でやれやれ、とため息をつく予定だったのだが、そこには先客がいた。 長門だ。 「ずいぶんと早いな、まさか昨日からいたのか?」 あいさつ代わりに長門に言った。長門は黒曜石の瞳を俺の方に向け、 「あなたも同じ。今来たところ」 と、無表情な返答を返した。 「そうか」 俺はそれだけを長門に言って他のメンバーを待つことにした。 暇になれば長門に話しかけるなりなんなりすればいい。反応はあってないようなもんだろうが、一人でいるよりはいいだろう。 かくして、無口な宇宙人と共におっちょこちょいな美少女未来人、訳知り顔の苦労人超能力者の到着を待つ。 正直ハルヒは来ない方が嬉しいが、あいつが来ないとなればそもそも今回の集まりそのものが無意味になるな。 ハルヒの登場を期待するような、期待しないような微妙な心境で寒空の下待っていると、 思いのほか早く問題の人物が登場した。何故かポニーテイルで。 ハルヒは何かを企むかのような邪悪の笑みを浮かべこちらに向かってくる。 俺をどういじめるか考えてるのか。俺はそれを甘んじて受け入れるほどのマゾっ気はないぞ。 ハルヒは俺のいる場所から大体三十メートルほどの場所でようやく俺がいることに気づいたようで、 驚きを顔いっぱいに表現し、慌てて髪をまとめていたゴムを外した。 ハルヒがたなびくと同時に俺は思う。勿体ないなと。 そんな俺の心境を知ってか知らずか 「た、ただ走ってたら途中で髪がうっとおしくなったから結んでただけなんだから」 と、聞いてもいない言い訳を始めた。 「それにしても、キョンがこんなに早くに来ているなんて・・・計算外だわ」 それはお前の恐ろしい表情から良く分かったよ。本当に早起きしてよかった。 俺はハルヒのよく意味の分からない説教を聞きながら、他のメンバーの到着を待つ。 長門は隣の喧騒などお構いなしにどこから取り出したのか、少し分厚い文庫本を読んでいた。 ハードカバー以外の本を読んでいるのは珍しいなと思ったが、 あんな大きくて重たそうなものを持ったまま移動するのは不便だからだろうと、勝手に解釈した。 古泉、朝比奈さんの順に集合場所に到着し、ハルヒの 「ようやく全員そろったわね」 の一言が発せられたのは集合時間30分前だった。 俺が五分前行動を心がけても「遅い」と言われるのはこれが原因か。 ハルヒに限らずみんな寝坊なりなんなりして遅刻してくればいいのにな。 その時は「遅い」なんて言わずに「気にするな」と、慰めてやるさ。 いつもの喫茶店で作戦会議を練る。もちろん、俺のおごりだ。 ハルヒはいつも以上に高価なメニューを嫌がらせのように注文していた。 あぁ、間違いなく嫌がらせだな。頼んだメニューの半分を残していたからな。 しかも、今回はいつものような探索のメンバー分けはなく、五人一組で行動することが決定し、 最後にハルヒが 「今日一日キョンはみんなの奴隷だから。好きに扱いなさい。 これはキョンが自分の罪を償いたいと自分から言い出した事なんだから遠慮しなくていいわ」 と、死刑宣告のように宣言した。朝比奈さん、そんな目で俺の方を見ないでください。俺はそんなことを言った覚えはありません。 このとき俺は、長門がかすかに表情を変化させたことに全く気付かなかった。 いや、長門の表情の変化はないはずなのだが、とにかくそういう雰囲気だ。 喫茶店を出てからしばらくの間の愉快な集団の足取りはすべてハルヒが決定していた。 突然立ち止まったり、走りだしたりと、動きやルートを頻繁に変化させるハルヒについて行くのにかなり体力を使い、 朝比奈さんと俺は息を切らしていた。長門はともかく古泉が疲れを見せないのは癪だな。 へとへとになりながら一体どんなルートを辿ったのか疑問に思いつつ喫茶店へと戻ってきた。 ハルヒが移動する間に町の構造が変わったんじゃないか? 「大丈夫です、そのような現象はまだ起こっていません」 ・・・まだ、か。相変わらず恐ろしいな。 喫茶店で飯を食いつつ、午後からの作戦を、相談するというか押し付けるように話すハルヒは、 午前中よりは節度ある量の注文をしていた。それでも普段の倍か。このままじゃ破産するな。 古泉をちらりと見ると、苦笑をしながら肩をすくめた。とばっちりを受けた直後で悪いがもう一度助けてくれ。 「ちょっと聞いてるの!キョン」 あぁ、聞いてるよ。だからそんなに大声で怒鳴るな。しかも口にものを入れたまま。 「午前中はみんな遠慮してたみたいだけど、キョンはSOS団の奴隷なんだから何でも命令していいのよ。 とりあえず、今ここで一人一つずつ何か命令しなさい。まずあたしからね。キョン、これとこれ追加」 そう言ってハルヒはメニューを指差す。メニュー追加だけで喜ぶべきか、悲しむべきか。 先ほど考えた破産の二文字が静かに忍び寄ってきた。さらば俺の貯金よ。 それを加速させるかのように、朝比奈さん、古泉もメニューを追加。古泉の分だけは後で機関の経費から出させよう。 しかし、長門だけが全く異なる命令を出した。 「食べさせて」 長門はそう言って食べかけのカレー皿とスプーンを俺の方へ近づけた。長門?今なんて言った? 「私にカレーを食べさせて」 長門はいつもの無表情ボイスで俺にそう命じると口を大きく開けた。無表情で。 「あーん」 俺は、いや、朝比奈さんもハルヒも、さらには古泉までもが笑顔を忘れて驚きの表情を見せた。 古泉のこんな表情初めて見たぞ。貴重な体験だ。うん 「あーーん」 無表情で、抑揚なく発せられるその言葉は滑稽に思えたが、長門自身がかなりマジのような気がして、笑えなかった。 あの、長門さん?一体それはどういうことで? 「命令、私にカレーを食べさせて」 相変わらずの口調で長門がそう言う。その眼もいつも通り何も語らない。長門よ、お前は何がしたいんだ。 俺は混乱する頭を必死に回転させ、とりあえず、長門の口にカレーを運ぶべくスプーンを手に取った。 「だ、だめよ!」 ハルヒは立ち上がってそれを大声で制止する。 「何故?これは彼に対する罰ゲーム。彼はこれを拒否できない」 「だ、だからって有希、そんなこと」 ハルヒは明らかに動揺している。朝比奈さんは未だに何が起こっているのか分からないといった様子であたふたし、 古泉に至っては普段なら絶対に見ることができない顔パート2で何かを必死に考えていた。 「と・に・か・く、それは駄目!キョン!さっさとカレーを有希に返して出ていきなさい!これは団長命令よ!」 喚き散らすハルヒの剣幕に押され、逃げるように喫茶店を飛び出した俺は、はたしてどのタイミングで喫茶店に戻ったものかと考え、 とりあえず、近くにあったコンビニで雑誌の立ち読みをして時間をつぶすことを決めた。 少年誌のマンガを半分ほど読んだところで古泉から呼び出しの電話があった。 ハルヒからではなかったことが自体が収まっていないことを示していたが、 ここで逃げ帰ってしまえば、前回の二の舞なのは明白だった。古泉、お前の力をもってしても無理だったか。 長門の突然のおかしな行動の原因をいろいろと考えてはみたものの、答えの出ないまま喫茶店前に戻ってしまった。 もともと近くにあるからあのコンビニを選んだんだ。もっと離れた場所に行けばよかったな。 不機嫌そうに俺を睨むハルヒの横で何を考えているのかさっぱりの長門が俺を待ち、その隣で怯える朝比奈さんが俺に助けを求めていた。 まずは、憤るハルヒを先頭に朝比奈さん・長門ペア、俺・古泉ペアが街を歩く。 はたから見ればいつも以上におかしな団体だろう。美少女三人の後ろで野郎二人が深刻に議論してるんだからな。 「涼宮さんが掴みかかったときはどうなるかと思いましたよ」 古泉が俺が去った後の状況を簡単に説明してくれた。 あの後ハルヒは長門と大声で、長門はいつも通りの大きさ、で喧嘩し、ハルヒが 「あんた達、本当は付き合ってるんでしょ!隠れてこそこそと」 と、大声で怒鳴れば 「そのような事実はない。あれは罰ゲーム」 と、冷静に長門が返答し、 「だったら何であんな命令なのよ!あんなの罰ゲームでも何でもないわ!」 と、ハルヒが怒りをぶつければ 「彼は戸惑っていた。十分に罰ゲーム」 と、何の感情もなく返答。 「あーもう!この際はっきりさせなさい!あんたとキョンの関係は何なの?!」 と、ハルヒが問い詰めれば 「・・・」 おい、何で無言なんだ長門。 とまぁ、こんな感じだったわけらしい。 一通り説明を終えると、何故か古泉が俺から離れて行った。いや、正確には話されていった。 先ほどまで古泉がいた場所に長門が現れたのだ。 「命令。手をつないでほしい」 この言葉が聞こえたのか、ハルヒの方がぴくりと動く。それを見た朝比奈さんは小さな悲鳴を上げた。 おい、長門。今は頼むから勘弁してくれ。 そんな俺の願いを無視して長門は俺の手を握った。 あぁ、神様、この際情報統合思念体だろうが、古泉の機関だろうが何でもいい。長門を止めてくれ。 「命令。よりかからせて」 そう言って長門は俺に体を預けてきた。これがこんな状況でなければ俺は大喜びするだろう。 代わってやるからとっとと出て来い、別の状況の俺。未来からでも過去からでもいい。 ことごとくハルヒを刺激するように長門は俺にさも恋人同士のような振る舞いを要求した。 それにハルヒが反応するたびに目の前を歩く小さな天使が悲鳴を上げる。 あぁ、今彼女の無垢な胃には大きな穴があいていることだろう。 後ろを振り返れば古泉が何やら深刻そうに電話で会話をしていた。そうか、とうとう閉鎖空間まで現れたか。 「命令。次は」 「いーかげんにしなさい!」 命令を下そうとした長門にとうとう、痺れを切らしたハルヒが叫んだ。 ハルヒは長門の目の前に立ち、その隣の俺を思いっきり睨むと、再び長門へと顔を向けた。 「さっき喫茶店で聞いたわよね!あんた達付き合ってるのって?」 ハルヒの怒り方は、先週の比ではない。その倍か、もしくは10倍だろう。長門は表情を変えない。 「どうなの?ここまでしておいてまだそんな関係じゃないなんて言うつもりじゃないでしょうね?」 これはマズイ。誰が見たってわかる。 「ハルヒ、落ち着け」 俺はハルヒを制止すべく二人の間に割って入ろうとした。 「あんたは黙ってなさい!」 ハルヒは見たこともないほど恐ろしい形相で俺を睨んだ。先週殺されそうなほど怒られた俺が見たこともないというんだ。本当に恐ろしいぞ。 「どうなの?!」 ハルヒはこれ以上ないほど長門を揺さぶる。朝比奈さんはすでに泣き出し、周囲の通行人も何事かと目を見開いている。 遠くの方で微笑ましい痴話げんかだと思っていたらしいおばさんも事態の異常さに気づいたのか、どうしたものかとおたおたしていた。 「私たちは・・・」 長門が静かに口を開いた。 「私たちは、今、交際関係にある」 長門?今なんて言った? 「だからあなたには関係のないこと。邪魔しないでほしい」 長門から衝撃的な発言が発せられた。ハルヒはさらに怒りを爆発させるかと思いきや、顔を真っ青にし、ありったけ力を込めていた手を離した。 「おい、長門、ふざけるのもいい加減に・・・」 「ふざけているのは、あなた」 俺は長門の大嘘を撤回させようとしたものの、長門にそう言われ言葉を失う。どういう意味だ、そりゃ 「そのままの意味」 長門はそう言うと俯いてしまった。 「また、図書館に」 その一言を、俺だけがかろうじで聞き取れるほど小さな声で残し、どこかへと走り去ってしまった。 残されたのはしゃくりあげる朝比奈さんと、呆然自失のハルヒ、そして俺だけだった。 古泉は、おそらく閉鎖空間の処理だろう。 俺はまず朝比奈さんをなだめ、ハルヒに適当な飲み物を買って渡した。 あれだけ顔を真っ赤に怒っていたやつが、突然顔を真っ青にすれば誰だって驚く。 それがハルヒならなおさらだ。 「ハルヒ、だいじょう・・・」 ハルヒを気遣うセリフが最後まで続くことはなかった。俺は顔面を思い切りひっぱたかれる。もちろんハルヒにだ。 「何なのよ・・・そんなにあたしのことからかって面白い?」 言葉には怒りがあふれていたが、声が震えている。水滴が、一粒、二粒とハルヒの顔から落ちる。俯いているので表情は見えなかった。 「悪い、ハルヒ。俺にも何がなんだかさっぱりなんだ」 古泉のように気の利いた言葉がポンポン浮かんで来ればと考えたが、それはそれでもう二、三発殴られそうだ。 「何よそれ・・・」 コン、と、力なく殴られた。ハルヒは俺の胸元にしがみつき、声を殺して泣き始めた。 「何にもない、何にもないって言いながら、あるじゃない。有希が言ったじゃない、あんた達、付き合ってるって」 それは最大の謎だった。嘘八百もいいところで、そんな嘘には何の意味もない。 その上あの長門が一体何を思ってそんなことを言ったのか見当もつかないのだ。 「俺と長門は本当に付き合って無いし、長門が何であんなことを言ったのかが分からないんだ」 紛れもない真実ではある。が、問題はハルヒがそれを信じるかどうかだ。 「だったら、あんたはどうなのよ」 ハルヒの返答は信じるでも信じないでもない質問だった。 「あんたは、有希のこと、どう思ってるの」 涙を眼に浮かべたまま、今にも崩れそうな表情にしっかりとした意思のある目で俺を見据える。 「俺は、長門はいい奴だと思うし、今回どうしてこんなことをしたかがさっぱりわからん」 「そうじゃない。そうじゃなくて・・・有希のことが好きか嫌いか」 ハルヒは俺から離れ、涙を拭った。 「長門のことは、好きだ」 あぁ、好きだとも 「でもそれは、恋愛感情とかじゃなく、友達として・・・いや、SOS団の仲間としてだ。 それは朝比奈さんも古泉も、そしてお前も同じ。友達としての好きだ」 何も知らんやつがこの場面だけを見て今のセリフを聞けば、ただの逃げ口上だろうが、これが俺の本心だ。 谷口や国木田や、鶴屋さんとの友情より一つ上の『好き』だ。 「だったら」 もう一度ハルヒは涙をぬぐい俺に人差し指を向けて命令する。 「その気持ちをそのままそっくり有希に伝えてきなさい!」 目は腫れているが、いつもの団長様の表情だ。 「意味はわかるわね!これで分からないなんて言ったら許さないわよ!わかったらさっさと行きなさい!」 俺は、ハルヒからの喝を受け取ると、おそらく長門が待つであろう図書館へと向かった。 いなけりゃマンションに直接行ってもいい。俺は全力で走った。 「あたしね、振られちゃった」 キョンが立ち去るのを見届けてあたしはみくるちゃんに抱きつく。 「涼宮さん・・・」 みくるちゃんはそんなあたしをやさしく抱きしめてくれた。 「キョンは、あたしのこと好きなんだって。みくるちゃん達と同じように。仲間として」 小さいけどあたしより年上のお姉さんなんだな。 「団員としては、合格ね」 「涼宮さん」 みくるちゃんはさっきよりも強くあたしのことを抱いてくれた。 「まだ、チャンスはありますよ」 あたしは、優しくそう言ってくれたみくるちゃんの胸の中で大声で泣いた。 長門が立ち去ってからすでにかなり時間が経っていた。冬の寒空は容赦なくあたりを暗くしている。 夏の糞暑い中必死に頑張らず、こう言うときにこそしっかり仕事をして欲しいもんだ、とお天道様に悪態をついた。 その代りに、太陽の温かさを失った夜の空気が俺の頭を冷やし、あぁ、ああいうのを修羅場と言うんだろうな、 と言うのんきな考え方をさせるほどまでに冷静になっていた。 それでも、顔はシリアスなまま、考えることもさっきの修羅場の事をのぞけばいたって大真面目だ。 この時間ならば確実に図書館は閉まっているだろうが、長門のことだから律儀に待っているはずだ。 前にもこんなことがあった。前回はしおりの伝言、今回は小さいながらも口頭だ。意味は大きく違う。 案の定、固く閉ざされた図書館の入口の街頭にうっすらと照らされている長門の姿があった。 「おい、長門」 俺は長門に呼びかけた。 「いくらなんでもやりすぎだ。朝比奈さんどころかあのハルヒが泣いちまったぞ」 「・・・そう」 いつもの単調な返事だったが、どこか寂しそうだった。 「長門、こんなこと自分で言うのも恥ずかしいんだがな」 俺は少し顔を赤く染めて、頭をかきながら次の言葉を探した。 「わたしは、あなたが好き。愛しているという意味で。交際を申し込みたい」 俺が言うまでもなく、長門の気持ちを長門自身から聞くことができた。 「スマンが、それは無理だ」 俺は、あらかじめ用意していた言葉を長門に告げた。 「俺も、お前のことが好きだ。でもそれは仲間としてだ。恋愛感情じゃない」 「・・・そう」 長門は小さく、そう返事をした。おそらく予想していたのだろう。 「悪い」 俺は最後にそう付け加えた。 「いい。わたしが悪かった」 もし、長門が普通の少女だったとしたら、それも、長門が望んだ改変後の長門であれば、今頃泣き出しているに違いない。 俺は今日一日で三人も女の子を泣かせたんだなと思うと、かなり恥ずかしかった。 「ただ、一つだけお願いがある」 長門の今回のわがままの最後の一つだろう。 「来週の日曜日。わたしと二人だけで図書館に」 「あぁ、分かった」 実質デートのお誘いなんだろうが、長門の気持ちを考えればそれくらいは聞いてやってもいいだろう。 ハルヒとの約束をすっぽかした手前、長門とだけとは言えまい。その次の週はハルヒとのデートだな。 俺は長門の頭にそっと手を乗せて頭を撫でてやった。 ~エピローグ~ さて、長門とのデートのことをハルヒに話すと案の定 「だったら次はあたしの番よ!」 と、改めて前回叶わなかった二人だけの不思議探索をすることとなった。 ハルヒのことだからてっきり長門より先にあたしと、なんてことを言うかと思ったが、 以外にもあっさりと先を長門に譲り、その挙げ句、部室でハードカバーを読む長門に 「正真正銘、あんたとあたしはライバルよ!分かったわね、有希」 と、啖呵を切って見せた。俺の目の前でそんなことを言った以上、デートを不思議探索の名のもとに行うのは無意味じゃないかね。 俺はやれやれ、と顔とポーズで表現して見せた。 「とりあえずは、一件落着ですね」 と、今回の縁の下の力持ちが締めくくった。 いつも通りの、とは少し違う部室から今日もハルヒの大号令が発せられるのだった。 fin
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/16.html
長門有希の暴走 朝倉編: わたしは自分の部屋にいた。わたしがなぜここにいるのか、理解するのにしばらく時間が必要だった。 わたしは任務を終えて情報統合思念体に戻ったはず。 確かわたしがキョン君を襲って、それを守ったのが長門さん。 そしてわたしの物理的な体は消滅した。あの時間から記憶が途絶えている。 さらに不可解なことに気が付いた。情報統合思念体とコンタクトできない。つまり、存在しない。 わたしのメモリエラーか通信機能の障害か、あるいは情報統合思念体に何かが起こったのか。 わたしは自分の機能をチェックした。エラーはひとつもない。 部屋を見回すと、ちゃんとその風景を覚えている。本棚にミニカーコレクションもある。 喜緑さんによってスクラップにされたミニカーの鉄の塊もそこにあった。 だが何かが違う。わたしは説明し難い違和感を感じて部屋のドアを出た。 長門さんの部屋は覚えている。ドアをノックした。 こちらの様子をうかがうように、ゆっくりとドアが開いた。 そこにはわたしの知らない長門さんがいた。今にも泣き出しそうな彼女がそこにいた。 「朝倉さん・・・」 長門さんはいきなりわたしの首に抱きついた。 「ちょっと・・・どうしたの」突然のことでわたしは戸惑った。 「なぜだか分からないの・・・ずっと会ってなかった気がする」 言葉遣いも違う。わたしの知っている長門さんは言いたいことを一文で短くまとめるクセがある。 感情に任せた曖昧な表現はしない。 「そう・・・わたしも妙な感じがするのよね」 わたしは長門さんの髪をなでた。前にも何度かそうしていた気がする。 わたしは長門さんと情報生命体プロトコルで話そうとした。 ところが彼女はヒューマノイドインターフェイスではない。アミノ酸のタンパク質から構成される、純粋な人間だった。 いったい何が起こったの? わたしは人間にするように、彼女の記憶を読んだ。 そこにあった彼女の人生は、本だけが友達の内気な女子高生だった。 でもなにかひっかかる。まずSOS団が出てこない。涼宮ハルヒを知らない。それからキョン君に関する記憶がおかしい。 彼のことを好きなのは分かっていたけど、彼と話したことすらないという。 人間にしては周辺の繋がりがない。 わたしは気が付いた。この人生は作り物だわ。 彼女の深層心理の奥深く、本人が気が付いてない領域に、隠された手紙を見つけた。 ── 朝倉涼子へ: ── この手紙を読んだ時点で、あなたの知る長門有希はもう存在していない。 ここにいるのは、わたしが作った人間のわたし。 わたしの知る長門さんからの手紙だった。 それからコンピ研部長氏と別れたこと、膨大なエラーの蓄積がはじまったこと、 世界を改変する願望が生まれたこと、そして、わたしに会いたいという願いが切々と綴られていた。 ── こんな大規模な宇宙改変を起こして、何の責めも負わずに済むとは思っていない。 改変による結果を10年先まで計算し、わたしは良心が咎めた。 ひとつだけ、元の世界に戻る道を作っておいた。彼の記憶は消していない。 それが暴走する自分への最後の抵抗だった。 もし彼が鍵を集め、トリガを引いたなら、この世界は元に戻る。 そしてわたしは情報統合思念体から厳罰を受けるだろう。 それでもかまわない。わたしは彼の未来まで奪いたくはなかった。 12月18日未明 長門有希記す ここまで読んで、わたしの目は潤んでいた。 そうなのね。あなたのそばにいてあげたかったわ。 つまり、ここにいるわたしは長門さんに作られた。 自分が完全な人間として生きていけるかどうか分からない不安から、長門さんは保険をかけた。 その保険がわたし。 「いいわ。気が済むまであなたのそばにいてあげる。わたしがあなたを守るわ」 「・・・」 それを知ってか知らずか、人間になった長門さんはコクリとうなずいた。 翌朝。 「長門さん!おはよう!起きてる!?」わたしは長門さんの部屋のドアをドンドンと叩いた。 「・・・おはよう」 「学校行くわよ」 「うん・・・」 まだ眠そうな顔が出てきた。この長門さんはどうも低血圧らしい。 駅前まで来て、わたしは長門さんを見てニヤリと笑った。 「長門さん、今日、学校休みなさい」 「ええっ・・・どうして」 「これからカラオケ行くわよ!着いてきなさい!」 「そんな・・・困る」 「あなたはまじめすぎるのよ。たまにははっちゃけなさい」 「・・・でも先生に怒られる」 「しょうがないわね・・・」 わたしは携帯で学校にかけた。咳をひとつしてかすれ声を作った。 「あの・・・岡部先生いますか。ええ朝倉です・・・ケホ」 「岡部先生・・・すいませんゲホッ。風邪、うつっちゃったみたいなんです。ええ・・・病院寄ってそれから行きます」 「はい・・・あ、それから隣のクラスの長門さんも風邪具合ひどいみたいで。はいお願いしま・・・ゲホゲホ・・・オエ」 「せ、先生っ、ありがとうございます・・・グスッ」 電話を切るなり、わたしたちは噴き出して笑った。 「キャハハハハ、岡部ったらマジで心配してんのアハハハハ」 「・・・クスッ」 長門さん、あなたは笑っていたほうがずっといいわ。 「さあっ今日は遊ぶわよ!」 「あの・・・朝倉さん、制服着てちゃまずいんじゃ」 「じゃあ服も買いに行きましょう」 「ええ・・・そんな」 「お金だったら心配しないの。今日はすべてわたしのおごりよ」 「そういうことじゃなくて・・・」 「四の五の言わず今を楽しみなさい」 まだ戸惑っている長門さんの手を引いて、わたしは改札をくぐった。とりあえずは朝飯よね。 それから北口駅前のデパートで派手な服でも見繕って、それからカラオケかな。 わたしが言うのもなんだけど、長門さん、あたなは人間になったんだからもっと楽しむべきよ。 っとその前に、情報操作して風邪を流行らせておかないとね。 クラスの半分くらいには風邪をひいてもらわないと。 長門さんが、この制服ままじゃ補導されるかもしれない、というので洋服を買うことにした。 二人でハイティーンの洋服売り場に行った。 あれこれ見て回ったが、いまいち子供っぽい気がしたのでワンランク上のコーナーに移る。 長門さんは地味な緑のワンピースを手にしていた。 「あなたには、もっと派手な色のほうがいいわ」だいいち、若いんだからね。 長門さんは似たような色のブラウスを手に試着室に入った。 わたしは椅子に腰掛けて長門さんが選ぶ服をあれこれ指摘した。 「青はやめなさいって。不健康そうに見えるから」ただでさえ色白なのに。 「もうちょっと胸元が開いたほうがいいわね」胸がないのは知ってるわ・・・胸パッドしてみたら?。 「なんとなく腰のあたりが頼りないわ。細いベルト締めてウエスト見せてみたら?」 何度かとっかえひっかえした挙句、まあ見れるスタイルになってきた。 「どう・・・?」 「GOOD JOB!」わたしは親指を突き立てた。 「じゃ、次は化粧品よ。メイクにいくわ」 「ええっ」あなた、少なくとも女なんだから化粧くらい知ってなさい。 わたしは長門さんに服を着せたままレジを済ませ、化粧品売り場に連れて行った。 お姉さんに耳打ちして、この子はじめてなんだけど、5歳くらい年上に見えるようにしてくれと頼んだ。 「がってん、任せなさい!」このお姉さん、好きだわ。 長門さんははにかみながらメガネを外した。 ガラス越しには分からなかったけど、この子、いい目をしてるのね。 化粧水で肌を整え、ベースを軽く塗る。薄めにファンデーション。 眉毛をやや強く出して・・・長門さんの顔がみるみる変わっていく。 「こんな感じでどうかしら。肌がきめ細かいからノリがいいわ」 そうして出来上がった長門さんはとても元の長門さんとは思えなかった。 「長門さん・・・あなた、輝いてるわ」女のわたしでもホレボレした。 「そ・・そう。ありがとう」頬にさらに赤みがさしてなかなかいい。口紅が映えている。 わたしも軽くメイクしてもらった。まあ、わたしは下地がいいから2歳くらい上でいいわ。 「眉毛どうします?」眉毛がなんですってええ?わたしはお姉さんを睨んだ。彼女は黙った。 「・・・朝倉さん、きれい」 「み、見つめないで・・・はずかしいわ」わたしは口元をおさえてシナを作ってみせた。似合わない。 長門さんと並んで鏡の前に立った。二人とも、とても高校生とは思えない仕上がりだ。 長門さんのために口紅とマニキュアを買って、それから店を出た。 「気分変わっていいでしょう?」 「・・・うん」 外見からでもいいの、もっと自分を変えるのよ。そう言いたかった。 「じゃあ、次はカラオケよ。腹に溜まってるモヤモヤをありったけの声で出すの」 「わたし・・・行ったことない」 「じゃ、今日が記念すべき日ね!」 「長門さん!もっとおなかから声を出しなさい。ほら、こう!」わたしは長門さんのおなかを押さえた。 「は、はいっ」 ナゾナゾ~みたいに~地球儀を解き明かしたら~♪ 実はいい声をしているのね。 細く通る声で歌う長門さんを見て、わたしはこの世界に来てよかったと思った。 今、わたしは本当に自由よ。情報生命体はわたしひとり。誰にも支配されない。誰にも干渉されない。 あなたがせっかく作ってくれたんだもの、この世界を楽しみましょう。 二人でデパートの上階で昼ご飯を食べているとき、長門さんがぼそりと言った。 「・・・ちょっと疲れた」 「そうね。ふだんし慣れないことをいきなりやっちゃったからね」 「でも、楽しい」 あなたの口から楽しいなんて言葉が出てくるなんて。 「じゃあ、今日はこの辺で学校に出ようかしら?。重役出勤だけど」 「・・・そうする」 「その前に化粧を落とさないとね」 こんな顔で教室に入ったら頭にウィルスが回ったのかと岡部がひっくり返るわ。 わたしたちは化粧室で顔を洗った。 化粧水も洗顔石鹸もなかったけど、なに、情報操作でお安い御用よ。一瞬で口紅まできれいに落とせるわ。 メガネをかけ、セーラー服に身を包んだ長門さんは、今朝会った元の長門さんだった。 この変わりようときたら。 「そのうちメイク教えてあげるわね」 「・・・うん」嬉しそうな長門さんを見て、わたしは作戦成功を確信した。 わたしたちはそのまま学校へ行った。わたしの操作どおり、風邪を引いてる生徒が多かった。 「長門さん、風邪引きが多いみたいだから気をつけてね」 「・・・うん」 「じゃ、またね。部活が終わったら落ち合いましょう」 わたしは教室の前で手を振った。 「あの・・・朝倉さん」 「なにかしら?」 「・・・今日はありがとう。楽しかった」 「またいつか行こうね」 この子がもう少し笑えるようになったら、また連れて行こう。 わたしは1年5組の教室に入った。 皆が歓声で迎えてくれた。わたし、こんなに人気者だったかしら。ああ、ここは向こうとは違うのね。 この世界ではわたしはクラスメイトに頼られる存在。 「朝倉さん、具合どう?」 「うん、もう大丈夫よ。午前中に病院で点滴打ってもらったらすぐによくなったわ」 実は心配してもらえるのはすごく嬉しいこと。 「朝倉、なんかお前香水臭いな」男子生徒が言った。ギクリとした。 わたしは制服の匂いをかいだ。かすかに残っている。風邪ひいてるわりには鼻が利くのねこいつ。 「きっと病院に行ったせいだわ。患者に化粧の濃いおばちゃんが多かったから」 わたしは自分の席につこうとした。国木田君が弁当を広げている。 「あ、どかないと」 国木田クン、前から思ってたけど、あなたかわいいわよ。素直だし、その気なら付き合ってあげたのに。 わたしの机の前の席にいる男子生徒、そこには笑っていない顔があった。 「待て、どうしてお前がここにいる」この人も風邪かしら。声が枯れてるわ。 「どういうこと?わたしがいたらおかしいかしら」 こいつには、わたしの正体を絶対に知られてはいけない。 キョン君は涼宮ハルヒのことを聞いて回っている。バカね、こんなところにいるわけないじゃないの。 プッ、国木田君にほっぺたをつねってもらってるわ。そうよ、あなたはずっと夢を見ていたの。 ここが現実なのよ。 わたしはこいつの記憶を読んだ。 そう・・・向こうの世界ではそんなことがあったんだ。 ついでにあなたの記憶も消して二度と向こうに戻れなくしてあげたいんだけど、 それは長門さんの頼みだからやめとくわね。 「朝倉涼子は転校したはずだ」 こいつはまだ訳のわからないことを言っている。だいぶ混乱してるみたいね。 「保健室に行ったほうがいいみたい。具合のよくないときって、そういうこともあるわ」 わたしの手を振り払って、とうとう教室から出て行った。 でもね、おあいにくさま。この学校には涼宮ハルヒはいないし、SOS団も存在しないの。 古泉一樹を探しに行ったのかしら。今ごろ1年8組の教室の前で唖然としてるでしょうね。 これは長門さんのジョークなのかしら。クラスを丸ごと消してしまうなんて、いいセンスしてるわ。 わたしはしばらく彼の監視を続けた。 まかり間違って元の世界を再構築などされてはたまらない。 翌朝、キョン君が話し掛けてきた。 「朝倉。本当に覚えがないのか、お前は俺を殺そうと思ったことはないか?」 「・・・まだ目が覚めてないみたいね」 あるわよ、何度もね。それというのも、あなたが涼宮ハルヒしか見ていないから。 言っておくけど、あなたがここにいるのは長門さんの希望だからね。 ヘンな真似したら容赦しないんだから。 夕方、わたしは晩御飯を作って長門さんの部屋に持っていった。 部屋に長門さん以外にも誰かがいる。いつもならドアをどんどん叩くところだけど、インターホンを押す。 「長門さん、いる?」 「・・・朝倉さん?」 「夕飯持ってきたんだけど、一緒に食べない?」 「でも・・・」 「鍋が熱いの。開けてもらえないかしら」 「今は来客中で・・・」 「その人も一緒に食べればいいじゃない」 「・・・そう、待ってて」 部屋に入ると、案の定、キョン君がいた。 「なぜ、あなたがここにいるの?不思議ね」 分かってはいたけれど、まさか部屋にまで押しかけてくるとはね。 「朝倉が作ったのか?」 「そうよ。こうして時々長門さんにも差し入れるの」 だって長門さん、コンビニの弁当しか食べないんだものね。体壊すわ。 「それで?あなたがここにいる理由を教えてくれない?気になるものね」 「あー、ええとだ。そう、俺はいま文芸部に入ろうかどうか悩んでいる」 またまた出任せを。あなたはひとりぼっちで長門さんしか頼れない。だからここにいる。 どう?ひとりになった気分は。少しはわたしたちの孤独感が分かったかしら。 「あなたが文芸部?悪いけど、全然ガラじゃないわね」つい、鼻で笑ってしまった。 キョン君はカバンを持って帰ろうとした。ちょっといじめすぎちゃったかしら。 「あら、食べていかないの?」 「帰るよ。やっぱ邪魔だろうしな」 長門さん、ごめん、ちょっと言い方きつかったみたい。彼を引き止めて。 玄関でボソボソと話し声が聞こえ、キョン君は再び戻ってきた。 ごめんね、ついいじめたくなっちゃうの。わたし、嫉妬してるのね。 キョン君とご飯を食べるのは、はじめてだった。 この人、谷口と違って女の子の前ではあまりしゃべらないのね。 教室では愛想悪い男子生徒ナンバーワンだし。 「ねえねえキョン君、今度3人でどこか行かない?」 「どこかって・・・どこにだ」 「どこでもいいわ。賑やかなところ」 「そうだな・・・考えとく」 まったく愛想悪いわね。ネタ振りしてるのに全然乗ってこない。 それもそうよね。わたしに一度殺されかけたものね。あなたほんとに長門さんに感謝してるのかしら。 二人とも黙々とおでんを食べた。キョン君って存外人見知りするのね。 素朴で純粋で、これといった自己主張もない。 あんたたち、付き合えばお似合いなのに。 素直に気持ちを表現できない二人を見て、わたしはちょっと寂しくなった。 「あ・・・グスッ」 「ど、どうしたの長門さん」 「・・・カラシが鼻に効いたの」 「大丈夫か長門」 部屋に小さく笑い声が起こった。 「じゃあ、そろそろ帰るわね。鍋は明日取りに来るから」 キョン君も安心したのか、ほっとした表情をした。 「明日も部室に行っていいか?」玄関でコソコソ話しているようだけど、わたしには聞こえている。 長門さんが小さく微笑んだ。キョン君も驚いていた。 そりゃそうよ。この長門さんはあなたの知ってる長門さんじゃないもの。 「あなた、長門さんが好きなの?」 エレベータで彼と二人きりになったとき、わたしはカマをかけてみた。 彼の反応を見ていると、まんざらでもないらしい。 そうよね、この世界にたったひとりで放り込まれたあなたなら、長門さんを慕うわ。 わたしが誰かは気が付いてないみたいだけど。 「また明日ね」 わたしは5階でエレベータを降りた。 お望みなら、長門さんと一緒にしてあげるわよ。あなたの中の、涼宮ハルヒの記憶を抹消してね。 懸念していたことが起こったようだわ。谷口の口から涼宮ハルヒの名前が漏れた。 あいつ、言わなくてもいいことをペラペラと。今度会ったらおしおきだから。 キョン君が駅前の高校に通う涼宮ハルヒと接触したらしい。そこには古泉一樹もいるはず。 これだけ物理的に近いんだもの、そりゃ簡単に遭遇するわよ長門さん。 彼と一緒になりたいのか、涼宮ハルヒに取られてもいいのか、あなたの本望が分からないわ。 朝比奈みくるも含めた元SOS団のメンバーが文芸部部室に集まっている。 わたしは気が付いた。これが長門さんの言っていた鍵ね。 彼はこの世界を消そうとしている。 そうなれば長門さんの希望で作られたこの世界が潰えてしまう。 長門さんがまたつらい日々に戻ってしまう。そんなことはさせない。 わたしは2日前の自分に同期した。彼をいますぐ殺せ、と。 午前4時19分。わたしは突然そこにいた。今は12月18日、か。 わたしは自分の部屋にいた。わたしがなぜここにいるのかしばらく考えた。 わたしは情報統合思念体に戻ったはずだった。 長門さんと一芝居打って、キョン君を襲い、それを守ったのが長門さんだった。 そしてヒューマノイドインターフェイスとしてのわたしは消滅した。あの時間から記憶がない。 情報統合思念体を検知できない。わたしは自分の機能をチェックしたが、エラーではなかった。 いったい何が起こったの。 未来のわたしから同期要請があった。答えはたぶんそこにある。 「何があったの?」 ── わたしはあなたから数えて2日後のわたし。時間がないの。今すぐ彼を殺して。 わたしはすべてを理解した。長門さんがこの世界を作った。それを今、壊そうとしているやつがいる。 じゃあどこに行けば? 彼が長門さんを襲うとしたら、世界を改変した直後のはず。 それより前でも、後でもない。そうでなくては鍵が存在する時空が発生しない。 そしてそれは、今この時間。 わたしはアーミーナイフを持って立ち上がった。北高正門前に走る。 正門前には長門さん、キョン君、朝比奈みくるがいた。 躊躇はしなかった。わたしは腰にナイフを溜めて彼に体当たりした。 「長門さんを傷つけることは許さない」わたしは冷静だった。 わたしは彼のわき腹に刺さったナイフをグリグリと回転させて引き抜いた。 ごめんね。あなたは嫌いじゃないの。でも、心から頼ってくれる長門さんのほうが大事なの。 街灯の下で長門さんが小さく浮かび上がっていた。恐怖におびえている。あなた、人間なのね。 「朝倉・・・さん」 「そうよ長門さん。あなたを脅かす物はわたしが排除する」 彼は地面に倒れこみ、すでに動けなかった。有機物ベースの生命体なんて、もろいものね。 「トドメをさすわ。あんたは長門さんを苦しめる」わたしは思いきりドスを効かせて喋った。 彼は震え上がったようだ。 次の瞬間、背後に別の気配を感じた。 「な、長門さん」 わたしのナイフの刃を握り締める、そこにはもうひとりの長門さんがいた。 まさかそんな・・・これはまるであのときと同じじゃない。 ナイフの情報結合が解除されていく。わたしは逃げようとした。でも足が張り付いて動けない。 「そんな、なぜ?あなたが望んだんじゃないの・・・今も・・・どうして・・・」 予想はしていなかった。長門さん自身が望んだことなのに。なぜ邪魔をするの。 二度もあなたに消滅させられようとは。これもなにかの因果かもしれないわね。 長門さんが詠唱をはじめた。わたしの体が足元から少しずつ消えてゆく。 そのときわたしは見た。長門さんの目にうっすらと光る透明な、冷たい水の淀みを。 コンマ2秒、わたしと長門さんは見つめあった。一瞬よりは長い永遠。 ── 朝倉涼子・・・ごめんね。ほんとにごめんね。 「いいのよ。あなたのエラー因子はわたしだったのね」 ── つらいとき、あなたにそばにいて欲しかった。それが止まらなかった・・・ 「今度はキョン君を手放しちゃだめよ」 その言葉が彼女に届いたかどうかは分からない。 これから起こる時空震のあと、今のわたしは向こうの世界には戻らない。 つまり、わたしは今ここで死ぬ。 さようなら、長門さん。楽しかった。ずっと、妹みたいに思っていたわ。 向こうのわたしによろしくね。 最後に見たのは、長門さんの頬にきらりと光るなにか。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1120.html
~ある日の放課後~ 今日は団長自らコスプレ衣装を買いに行ってしまったため部活はない 一人いつものように部室で読書を終えてから帰ろうとする長門の前に 女子A「やぁ長門さん♪」 長門にとってはよく知る顔が三つならんでいた 女子B「ちょっとプレゼントがあるんだけどぉ」 女子C「長門さんってすごい臭いからね~はい石鹸、食べて」 長門「・・・」 彼女たちはどうやら極端に表情に乏しいこのインターフェイスが気に入らないようだった (実を言うとそのインターフェイスの整った顔に不満があるらしいが) ちょくちょくこういう陰湿なイジメをしてくる たまにハルヒが助けてくれるのだが今日は期待できないだろう 長門「・・・」 女子A「オラなんとか言えよ」 女子B「いただきます、でしょ♪」 何故わたしは朝倉涼子のようにできないのだろう わざわざ敵を作ってまで 異様な存在にしてまで何故わたしの対話能力のレベルは低く設定されているのだろう だが長門にとってそんなイジメはさしたる苦痛でもなかった 彼女たちを満足させるため渡された石鹸を口に近付ける とそのとき 教師「おいおまえらっ!何をしてるっ!」 女子A「チッ・・・なんでもありませーん」 女子C「長門さんと話してるだけでーす」 いきなり現れた体格の良い教師に威圧され散っていく女子ABC 彼はたしか長門のクラスの副担任 教師「おい、大丈夫か長門?」 長門「・・・はい」 教師「・・・あいつらに虐められてるのか?」 長門「・・・」 教師「・・・先生がいつでも相談にのってやるからな?」 ふと何かを思いついた表情をつくる教師 教師「そうだ、あいつらが待ち伏せてるかもしれないな、車で家まで送ってやろう」 長門「・・・いえ」 教師[「遠慮するな、なんだか雨も降ってきそうだしな」 長門「・・・」 下駄箱まで付いてきながらしつこく言い寄る教師 空模様をみるかぎり雨が降る様子なんて無い 長門「・・・いいです」 教師「いいって、長門のマンションけっこう遠いだろ?」 強引に、まるで連れ込まれるかのように助手席に座らされる長門 長門「・・・」 ~車内~ 教師「なあ、他の女子とうまくいってないのか?」 長門「・・・」 教師「何か困ったことがあったらいつでも先生に相談してもいいんだぞ?」 長門「・・・」 教師「ほら、俺も教師として生徒には信頼してほしいんだよ」 長門「・・・」 教師「俺もけっこうたくさんの生徒をみてきたが有希のことは少し心配なんだよ、なあ?」 長門「・・・」 運転中だというのに気を遣うような仕草で長門の肩に手を置く教師 だが端から見ればとても気を遣ってるようには見えない 教師「おまえの担任の○○先生なんてそーいうゴタゴタに無関心だし・・・」 長門「・・・」 一方的に話し続ける教師 しかしその異常さに本人はまるで気が付いていない どんどん語調が早くなっていく 目に焦燥の色がうかぶ 長門「(この人・・・様子がおかしい・・・それに)」 もうマンションについてもいい頃だというのに 一向に雨が降りそうもない車の外に広がるのは見なれない風景 教師が乾いた笑いとともに言う 教師「ハハハ・・・いやすまん、大事な書類を学校に届けなくてはいけないんだ」 長門「・・・」 教師「いったん俺の家に寄るぞ?ハハハ・・・悪いなァ」 普通なら長門を送ってからでいいだろう 普通なら事前にそう言うだろう 普通なら・・・ 長門「(・・・彼は異常)」 長門の思考に判断がくだる、教師に見えないように携帯電話を取り出す 最近、「彼」が連絡を取るためにと長門に持たせたものだ 以前二人で選びに行った記憶が脳裏に浮かぶ 「どうせ金は自由にできるんだろ?最新機種でもいいんじゃないか?」 「・・・そう」 「おお・・・最近のはすごいんだな・・・でもキャッチホンっつーのは使わないよな」 「・・・」 「どーする?どれがいい?」 「・・・あなたの好きにして」 「・・・(いや長門さん?その台詞はまずいんじゃあ)」 記憶を閉じる 情報統合思念体にとっては驚くほど「アナログ」なその端末を操作する 電話帳を開くまでもなく・・・完璧に記憶している「彼」の番号を押す 一度だけ呼び出し音を鳴らし、切る 非通知にはしていなかったはずだ 車が着いたのは男の一人暮らしにしてはやや大きめの家だった 教師「ほんとーにすまん。ちょっと探し物してくるからさ」 長門「・・・」 教師「・・・中で少し待っててくれ」 長門「だが断る!」 教師「!?」 長門「なんでもありません・・・遠慮します」 一瞬ふざけた台詞がでたのは俺が空気嫁てないと感じたからだろうか 日曜日の朝、一人真面目に文章を打ち込んでいる俺は滑稽だろうか ちなみに自宅にジョジョは全巻持っている、一番好きなのは4部 最近ではリンゴォ戦を読むたびテンションを上げている あそこで真に格好いいのはむしろジャイロの方だよな 閑話休題 教師「ん?どうしてだ?大丈夫だ、変なことはしないぞ」 長門「・・・」 笑いながら早口で言う、しかし、目は決して笑っていない 長門「・・・あなたは信用するに足らない、帰る」 教師「・・・なあ、有希をいつも助けてくれる、涼宮ハルヒ」 長門「・・・」 教師「 い つ で も 退 学 に で き る ん だ ぞ ? 」 長門「・・・!」 長門の目が一瞬驚愕と、わずかな恐怖に見開かれる 教師「どうする?守ってくれる人間がいなくなるなぁ?」 教師はどうやら勘違いをしているようだ 自分のいじめはどうでもいい、別に殺されたってバックアップがいる だが涼宮ハルヒの退学?それだけは絶対に阻止しなければならない 教師「注意してもバニーガールの格好で校内をうろついていたな・・・」 長門「・・・」 教師「学校側が認めていないのにゲリラのように部活を作っている」 長門「・・・」 教師「映画の撮影だとかで屋上で花火で遊んでいたり」 長門「・・・」 教師「それに噂じゃあパソコン研究部のパソコンを恐喝し、奪ったらしいじゃあないか?」 長門「・・・」 教師「いままでは成績の良さでうやむやになっていたが、これらはすべて校則違反だ」 長門「・・・」 教師「俺が問題にすれば、退学だ」 目の前の男は世界の危機だと解っているのだろうか? 涼宮ハルヒの退学、SOS団の解散。 それが何を生むか解っているのだろうか? いや解っているはずがない 長門「・・・愚か」 瞬時に長門の口が校則で動く 目標の情報連結の解除の準備をする だが・・・ 教師「なあ有希、もういいだろ。中に入れ」 長門「・・・」 強引に腕を取られ、部屋のなかへ連れ込まれる長門 情報連結の解除は・・・しない ただ・・・電話を待つ ~室内~ 長門は乱暴にベッドに押し倒される 汗臭くて汚い、男のベッド 華奢なその体に教師がのしかかってくる 教師「ハァハァ・・・いい子だからな?抵抗するなよ・・・」 長門「・・・」 血走った目で長門を睨む 興奮してか涎が長門の頬に垂れる 教師「有希は本当に大人しいなぁ・・・どこまで無表情でいられるかなぁ・・・」 大柄な体を密着させながらスカートの中に手を滑り込ませ、尻を弄る 長門「・・・ッ」 その嫌悪感に僅かにヒューマノイドの顔が歪む 反応に気を良くした男がその手にさらなる力をかけたとき 無機質な携帯のバイブレーションが鳴り響く スカートにしまったその端末の光る画面には「着信中」の文字が浮かんでいる 無視して行為に及ぼうとする教師、だが 教師「(親が心配して電話してきたのかもしれない)」 教師「(放置するのは・・・怪しまれるか)」 仕方がなく 教師「出ろ、なんとか誤魔化せ。ただし妙なことを言ったら・・・殺す」 本気で殺しそうな切羽詰まった目、しかし長門はその言葉を半分も聞いていなかった 素早い動作で携帯を取り出すと、通話ボタンを押す 相手が喋るより速く、喋る 長門「許可を」 沈黙。 教師も、電話をかけてきた相手も状況が飲み込めない様子。 長門「情報操作能力使用の許可を」 かまわず長門が続ける 明らかに「妙なこと」を喋っているが、教師が予測したような助けを呼ぶ声には聞こえない 電話の向こうで誰かが話している 慌てているような、心配しているような、でも真剣な声 長門「いや、涼宮ハルヒとは直接関係ない」 教師「おい・・・誰なんだ?親じゃないのか?」 長門「・・・わたしの問題」 長門が話す 長門「教師に性行為を迫られている」 一瞬場が凍り付き 教師が携帯を奪おうと手を伸ばす それより速く、携帯から声が響く 教師にもハッキリ聞こえる 『やっちまえ!!!!』 長門「・・・そう」 教師「おまえっ・・・ふざけるなっ!」 激昂し携帯を奪おうと長門に掴み掛かる教師、大柄な体が震えている 教師「誰だ、誰に言った!そいつもお前もブッ殺して・・・!?」 そこで長門の異変に気づく さっきまで思う存分引きずり回していたその矮躯が 体重なんて自分の半分ほどしかなさそうな小柄な少女が まるで鉄の塊にでもなったかのように動かない 長門「ブッ殺す・・・?」 違った 幾ら力をかけても自分の体が動かなかった 金縛り、なんて陳腐な表現しか出来ない現象が教師を襲う 長門「ブッ殺すと判断した・・・そのときスデに」 行動は終わっていた 朝倉涼子のようなインターフェイスではない、 何の抵抗も出来ないその有機体の塊は一瞬でその場から消え失せていた 長門「・・・終了した」 今だ通話中の携帯に話しかける ~通話中~ 『そうか・・・そいつはどうした?』 長門「刑務所、性犯罪で逮捕、懲役六年」 『そっか、別に俺はいなかったことにしてもよかったと思うんだが?』 長門「生きてきた痕跡、関わった人間すべてを操作するのは多少面倒」 『そうか、トーチとは反対だな』 長門「・・・トーチ?」 『・・・妄言だ、忘れてくれ』 長門「・・・そう」 『でもわざわざ俺の許可を待つこともないだろ?』 長門「・・・」 『状況は解らないが・・・結構、ピンチだったんだろ?』 長門「・・・涼宮ハルヒに関すること以外での情報操作能力は自重するよう」 『・・・』 長門「・・・あなたの頼みだったから」 長門「・・・何?」 『今度からは・・・ハルヒと同じくらい自分を大切にしてくれないか?』 長門「・・・何故?」 『・・・頼む』 長門「・・・そう」 弱々しく聞こえた「彼」の言葉が、何故だかひどく嬉しくさせた 何故だろう? 『じゃあ話は変わるが』 長門「・・・何?」 『あ~長門のクラスにABCって女子がいるだろ?』 長門「・・・」 『是非「転校」させてやってくれ』 声の主はもう笑っている 長門「・・・記憶の消去、記憶の植え付け。両方やらなくちゃあいけないのが」 『・・・』 長門「・・・SOS団、団員のつらいところ」 『・・・なあ長門』 長門「何?」 『・・・最近へんな本でも読んだか?』 長門「・・・別に」 宇宙人が、その場で一人 声色は完全に普段の調子から変えず だが、たしかに微笑みながら言った。 お わ り 。
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/78.html
日本男児の象徴 「は、はあ。お手柔らかにお願いします」 「なかなかいいお尻してるじゃないかね、キョンくん」 鶴屋さんに俺の青っ白い尻をぺしっと叩かれるとなぜか気も心も尻も引き締まった。 「ハルにゃんに長門っち、こっち来てみなよ。どうだい、めがっさ引き締まってると思わないっかなぁ」 「あらっ、意外といいケツしてるわねキョン」ぺしっ。 「……美尻」ぺしっ。 お、お前ら人の尻で遊ぶんじゃない! ぶるすこ 『新郎新婦に盛大な拍手を!』 「ハルヒが壊れたファービーみたいで怖いんだが、とりあえず一時停止にさせてくれないか」 「……分かった」 『新郎新婦にファーブルスコ……ファーブルスコ……ファー』 俺の顔が、というより全員が真っ青になった。 「あの、長門?ハルヒ大丈夫なのか、どっかに修理に出したほうがいいんじゃ」 「……問題ない。単なる欲求不満」 『なでなでしてぇー』 古泉、怖がってないでなでてやれ。 谷川流の憂鬱II 「谷川さん、こんなところでなにしてんですか」 「長門有希の晴れ姿を一目見ようと、世界の境界線を越えてやってきたんだよ」 「困りますよ。みんなに見つかったらなんて説明するんですか」 「ちょっとくらいいじゃないか。産みの親なんだもの」 「分かりましたから、目立たないでくださいね。スピーチとかいいですから」 「僕の……僕の有希がとうとう他人のモノに。ううっ」 なに泣いてんですかあんた、あっちの世界に帰っちゃってください。 みくるの憂鬱 「わたしの出番って今回これだけなんですかぁ?」 「ごめんねみくるちゃん。それだけなの。だってあんたが出てくると男キャラが血迷ってしまうんだもの」 「……彼を惑わすのは、やめて」 「わたしは惑わしてなんかいませんよう。キョンくんが飢えてるだけですぅ」 「朝比奈さん、俺が飢えてるだなんて、ひどい言われようじゃないですか」 「あらっキョンくんいたのね」 「それに俺はもう他人の旦那ですから。手出し厳禁です」 「谷川さん、わたしの旦那様はまだぁ?」 「あ……ごめん、考えてなかったよ」 「ひどいわひどいわ」 「じゃあ僕で手を打たない?」 「旦那様にするには谷川さんは歳が離れすぎてるわ」 「失敬だな。じゃあ聞くけど、みくるちゃんは自分の本当の歳を知ってるのかな」 「ええっと……禁則事項です。うふっ」 はいはい。歳が分かるまでロマンスはお預けね。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/34.html
みくる「(二人きりになっちゃった…気まずいなぁ)」 長門「…」 みくる「…あ、あの、長門さん!お茶、どうぞ」 ガラガラガラッ 女子A「あっれー?今日は長門さん一人じゃないの?」 女子B「みくる先輩じゃないっすかぁ」 みくる「あ、あなたたちは?」 女子C「友達で~す」 女子A「長門さん、いつも一人だから私たちが仲良くしてあげてるんですよぉ」 みくる「そう…なの?本当?」 長門「……そう」 全員(・∀・)ニヤニヤ 女子A「みくる先輩っ♪そういうわけですから教室戻ったらどうですか?」 みくる「そ、そう…?じ、じゃあ、ごめんね」 ガラガラッ 女子C「みくる先輩って噂どおり超可愛いねぇ」 女子A「本当!長門さんとは大違いw」 女子B「…あれ?先輩にお茶汲ませてんのぉ?」 女子C「いいご身分ねぇ」 女子A「あ~あ、早く飲んだら?冷めちゃうよ、ほらっ」 ドバッ 女子A「あ~っ!ごめん!こぼしちゃったぁw」 女子B「何やってんの~wwwww」 女子C「長門さん、かわいそうwww」 長門「…」 女子A「ごめんね?拭いてあげるから」 長門「…」 女子B「ちょっと!その雑巾、汚いよぉwww」 女子C「くさ~いwwww」 全員「キャハハハハハハハハハ」 登校した長門の机の周りには自分の本が破られた状態で散乱していた。 長門「・・・本が、、、」 上靴を履いていない長門がそう小さく呟いた。 落書きなら拭けばいいけど本はどうすれば・・・。 何よりこれはあの人が作ってくれたカードで借りた本なのに・・・。。。 パタパタ 満面の笑みの女子生徒が長門に近づいてくる。 女子A「あらら~?本が凄いことになってるね。大丈夫~?」 長門「・・・」 女子A「あ、でもね!心配しないで!私が犯人を見つけてあげるから♪みなさ~ん長門さんの本が破られてしまいました~!犯人を知っている人はいませんか~!いたら~返事してください♪」 といきなり隣のクラスまで聞こえるような大きな声で叫びだした。 クラスメイト「クスクス。クスクス」 長門「あ、、、や、やめてくださぃ・・・。も、もう大丈夫だから、、や、やめて、、、」 しかしその声は虚しく女子生徒の叫び声にかき消されるのであった。 長門「パーソナルネーム女子Aを敵性と判定 情報連結解除を要請する」 長門「拒否された」 女子A 死因 屋上から転落死、二十秒後屋上に涼宮ハルヒが来る 涼宮ハルヒ 死因 女子Aの死体を見ようとして屋上から転落死 長門(これでよしっ…くくく…やっとこのノートの使い方も分かってきた。) 長門(私 に 逆 ら う 者 は 死 あ る の み ) そして女子トイレからは長門の笑い声が一分間絶えることなく聞こえた キョン「おいおまえら!長門をいじめてんじゃねーぞ!」 女子A「なにあんた?彼氏?」 女子B「さすが長門さんね~、あんな地味なのと付き合ってるんだ~」 長門「・・・。」 長門のクラスの男子達に囲まれるキョン 男子A「長門の彼氏だって?じゃあこいつもいじめてやろうぜ」 男子B「いじめっつーか、ふくろだけどな」 ガンッ、バンッ、ズゴッ キョン「うわっ!つっ!!」 トv Z -‐z__ノ!_ . ,. ニ.V _,-─ ,==、、く` ,. /ァ ┴ ゞ !,.-`ニヽ、トl、 . , rュ. . {_ ヾ 、_カ-‐ ¨ ̄フヽ` | ,.、 、 ,ェr `iァ ^´ 〃 lヽ ミ ∧! .´ ゞ - ス. ゛=、、、、 _/ノf ~ r_;. Y /_, ゝァナ=ニ、 メノ ` ;. _ \,!ィ TV =ー-、_メ r、 ゙ ,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ ._´ ;. ゞLレ \ `ー’,ィァト. ,. ~ ,. , ュ. `ヽニj/l |/ _ .. ,、 l !レ ,. `’ `´ ~ 女子A「ほい!的がいいのか結構当たるね~」 女子B「ちょっと私の消しゴムちぎり過ぎ~。でも私も投げちゃお(笑)」 長門「・・・」 女子B「んじゃ頭の上に乗ったら100点。それ以外は10点でどっちがいい点取るか勝負しようか~。」 女子A面白そう~。じゃあ私から、えい!」 女子B「お、いきなり100点か。私も負けてられないな~。」 女子C「やめろッ女子Bッ!メガネだッ!涼宮のリボンがメガネのはまっているぞッ!消しゴムはまずいッ!」 女子A「ヤッヤメイッ!ストップだッ!消しゴムを投げつけるなァーッ!!しまったッ!!」 女子B「ピンッ」 一同「ああッ!!」 長門「グッグジュアーッ・・・」 女子A「うっうろたえるんじゃないッ!いじめっこはうろためないッ!!」 キョン「長門、なんだって俺はこんなことをさせられなきゃならんのだ?」 長門「・・・あなたは犬。語尾にワンをつけて」 キョン「どうしてこんなことをしてるんだワン」 そう、俺は今首輪をつけられ、四つん這いのまま町を長門と散歩するハメになっていた もちろん俺は全裸、長門はガーターベルトだ 長門「・・・あなたを従順なしもべにする。調教」 キョン「調教って・・・」 長門「・・・ワン」 キョン「調教ってワン・・・」 長門「・・・そう」 そういうと黙々と歩いていく長門、おいそっちは公園だぞ 長門「・・・そこで排尿して」 キョン「なっ!なんですと!?」 長門「・・・ワン」 キョン「・・・なっ!なんだってワン!?」 長門「・・・早く」 キョン「・・・」 しかたなく俺は公園の木にむかって小便をすることに 冷たい夜風があたって以外に気持ちいい 長門「・・・今気持ちいいと思った?」 キョン「・・・うっ・・・ワン」 長門「・・・変態。犬以下」 さて、マーキングをさせられた俺は徐々に繁華街の方に歩かされていた おいおい、こっちは夜でも人がいるんだぞ キョン「おっおい・・・・こっちはダメだろワン」 長門「・・・あなたの変態っぷりを世間に示す」 完全に目が据わってる長門、ひぃぃ俺はどうなってしまうんだワン 案の定、繁華街には人がいて、奇異な物を見る目でこちらを見てくる・・・あたりまえだよな 長門「・・・このあたり」 そういうと長門は立ち止まり、俺を見下ろした 長門「・・・お手」 キョン「・・・わっワン」 長門「・・・おかわり」 キョン「ワン」 長門「・・・ちんちん」 え~っとちんちんってどうすんだ?俺のちんちんを見せれば良いのか? く~ギャラリーの視線が痛い気持ちいいでどうにかなっちまうぜ キョン「ワン!」 そういいながら俺は2足歩行になり、長門に自分のイチモツを向けた。しかも勃ってる 長門「・・・低脳。ホント犬以下」 はて?ちんちんはどういうものだったのだろうか? しかし、この状況で勃起している俺は、本当に変態かもしれんな 長門は俺のしつけを一通り楽しんだのか、いよいよ自分も俺に尻をむけ四つん這いになりだした。穴空きの下着から長門の性器が丸見えになっている 長門「・・・舐める」 キョン「ワン」 長門「・・・んっ・・・あっ」 しっかりと感じてるじゃねえかエセ調教師め。やっぱ攻められるのもいいけど、たまには攻めないとな 長門「・・・交尾」 新しい命令だ。しかしそう言われた後も俺はしばらく動かなかった 長門「・・・・・・早く・・・」 ふふっ、突かれたくて腰を動かしてる長門も可愛いもんだ。今満足させてやるよ 長門「・・・んあっ!!!んんっ!!」 まるで本当の犬の交尾のように、俺は四つん這いの長門の後ろから覆い被さった 長門「はあんっ!!んっ、あんっ!!」 いい声で鳴きやがる、そろそろ止めさしてやるか キョン「長門、中に出すぞ」 長門「・・・!!・・・ダメ・・・あっ!!」 問答無用、中だししてやった。犬に犯されるのもいいもんだろ? 長門「・・・悪い子」 道に倒れこみながら俺の顔を見上げてくる。まだまだSっぷりが甘いな長門・・・。 …何で今日は長門以外来ないんだ? キョン「…暇だな。」 長門「そう。」 キョン「…。(頬をつんつん)」 長門「…。(ぺら)」 つんつん 長門「…。」 つんつん…あ、こっち向いた。 長門「…。(微妙に困った表情)」 女子C「クスクス、また長門さん一人で本読んでるわ~」 女子D「あんな青春で面白いのかしら~、クスクス」 女子E「シッ!長門さんにきこえちゃう、クス」 女子F「クスクス、ほらなんかこっち見てるわよ~」 長門「・・・」 ―――すると空から迷彩服を着た男が現れた 長井「笑い声がむかつくんだよ!!」 長門「……やるじゃない」 キョン「長門って性欲あるのか?」 長門「…ビンビン」 キョン「そうか」 ―自宅― 午後9 00 長門「入って…」 キョン「こんな時間に用って何ですか?」 長門「性欲処理を手伝って…」 ガチャ ガラガラ(窓から) 古泉「性欲処理と聞いて飛んできました。 キョン君、溜っているのなら私が相手をしますよ^^」 キョン「断じて違う!そう言ったのは長門だ!」 古泉「そうですか…残念です、帰りますね。」 長門(3pしたかったな……) ―文芸室― キョン「長門……」 長門 「…なに…?」 キョン「眼鏡しないほうが可愛いと思うぞ」 長門 「………」 次の日 キョン「あっ長門、眼鏡は?」 長門 「…コンタクトにした……」 キョン「眼鏡のほうが似合ってるぞ」 長門 「………」 女子C「クスクス、また長門さん一人で本読んでるわ~」 女子D「あんな青春で面白いのかしら~、クスクス」 女子E「シッ!長門さんにきこえちゃう、クス」 女子F「クスクス、ほらなんかこっち見てるわよ~」 長門「(゚д゚)」 登校した長門の机の周りには自分の本が破られた状態で散乱していた。 長門「・・・本が、、、」 上靴を履いていない長門がそう小さく呟いた。 落書きなら拭けばいいけど本はどうすれば・・・。 何よりこれはあの人が作ってくれたカードで借りた本なのに・・・。。。 パタパタ 満面の笑みの女子生徒が長門に近づいてくる。 女子A「あらら~?本が凄いことになってるね。大丈夫~?」 長門「・・・」 女子A「あ、でもね!心配しないで!私が犯人を見つけてあげるから♪みなさ~ん長門さんの本が破られてしまいました~!犯人を知っている人はいませんか~!いたら~返事してください♪」 といきなり隣のクラスまで聞こえるような大きな声で叫びだした。 クラスメイト「クスクス。クスクス」 長門「あ、、、や、やめてくださぃ・・・。も、もう大丈夫だから、、や、やめて、、、」 その時颯爽と一人の美男子が女子Aを殴り飛ばした。 クラスメイトA「あ、あいつはこの学校一悪で有名な○○!!」 クラスメイトB「そのくせ正義感は人一倍強いって噂の○○!」 クラスメイトC「噂じゃヤクザも一目置いている超絶美男子の○○さんがなぜここに!?」 女子一「かっこいい……///」 俺「大丈夫か長門?俺が来たからにはもう安心だ!俺がお前を守るぜ!」 長門「キメェwwwwwwwwwwwwwwww」 現実から逃げたい。心の孤独を埋めたい。 その一心で彼女は、夜の街で声を掛けられた見知らぬ男性とラブホテルに。 男「はぁ・・・駄目だお前。何も声も出さないし反応が無くて面白くもなんともない。」 長門「・・・」 男「そうそれ!その何にも喋らないのもキモいし。悪いが俺は帰らせてもらうぜ!」 少しだけ性に汚された長門がシーツ1枚を羽織りたたずんでいる 性的快感はあったただでも声を出すのが恥ずかしかった・・・。 誰かに自分を晒すのが怖かった・・・。 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは朝倉のような社交性に長けたタイプが無数に存在する。 なぜ私だけがこのようなタイプに。 長門はひたすらに情報統合思念体を恨んだ。ひたすらに。ひたすら。 長門「もう今に耐えられない・・・。死にたい・・・。」 浴室に入った彼女の手には銀色に輝くものがきらめいていた。 白く細いその腕に鮮血がしたたる・・・ 女子A「この根暗っ!キモイんだよっ!」 長門「………」 ガシガシッ 女子B「死ねよカスっ!!!」 長門「………」 バキバキッ 女子C「なにスカしてんだよ」 長門「………」 ゲシゲシッ 長門「……ふぁ…よく寝た」 ABC「寝てたのかよ!!!」 女子A「長門さんって親居ないんだよねwwwww」 女子B「こんな根暗な子供だったら私だって捨てるよwww」 長門「……そう」 女子A「そう。じゃないよバーカ!!小学校で日本語習わなかったの?www」 女子B「ほんっと何が楽しくて生きてるの?さっさと死ねば良いのに」 長門「イジメなどという行為を楽しんでいる貴女たちの方が馬鹿。人を見下す事でしか快感を得られない無駄に二酸化炭素を排出する愚かな人間。貴女達の方が死んでしまった方がいい。今後の未来のためにも、地球のためにも」 女子A「はぁ?何言ってんのこいつwwwww」 女子B「あんまり関わるとうつるから逃げようよwwwww」 長門「……手遅れ」 女子AB「「なっ…何なのよこれ!!」」 世界が灰色に染まっていた 長門「……死んで」 女子A「なんでアンタそんなにキモイの?」 女子B「言葉喋れんのかよ」 女子C「おいっ!なんとか言えよ」 ドンッ 女子B「ヒィ!」 女子C「首が!!」 長門(首)「あ…ヤッパリ木工用じゃ駄目…」 ABC「ヒィィィ!」 渡辺「あれれ~?長門さんの頭が落ちてるよぉ~」 ムンズ 長門「……ありがとう」 渡辺「もう落としちゃ駄目だよぉ~」 長門「次はボンドはやめてパテで埋めてみよう」 キョン「長門、なぞなぞだ」 長門「・・・何?」 キョン「男の真中にあって、ぶらーんとぶら下がってるものなーんだ?」 長門「・・・」 キョン「ヒントはだな。人によって大きさが違ったりするものだ」 長門「・・・そう」 キョン「時と場合によっても変わったりするな」 長門「・・・」 キョン「さあ、な~んだ?」 長門「・・・・・・」 キョン「どうした長門?分かるだろ?答えてくれ」 長門「・・・ぺ・・・n・・s・・・」 キョン「聞えないぞ??もっと大きな声で言ってくれ」 長門「・・・せ・・・ぃ・k・・」 キョン「さっきと言い方代えたか??ほらもっとしっかり」 長門「・・・t・nちん・・・」 キョン「何恥ずかしがってんだ長門?答えはネクタイだよネクタイ!なに考えてたんだ??」 長門「・・・・・・・・・・」 キョン「へ~長門でもそういうこと考えるんだな~(笑)」 長門「情報結合の解除を(ry」 長門「・・・(ガチャ)」←家のドアを開ける キョン「おかえりんこ!」←何故かいる。そして爽やか 長門「・・・?」 キョン「おかえりんこ!」 長門「・・・(コクッ)」 キョン「違う違う~おかえりんこ!」 長門「・・・ただいま」 キョン「違うぞ長門!おかえりんこ!」 長門「ただいまん・・・」 キョン「ん!?なに!?聞えてないぞ!?」 長門「・・・ただいまん・・・k・・・」 キョン「ほら!勇気を出せ長門!ただい!?ただいなんだ!?」 長門「・・・ただいま・・・ん・・ko・・・」 キョン「何言ってんだ長門wwwただいマントだろエロいやつめww」 長門「情報結合の(ry」 長門「どーはどーなつのふぁー!れーはレモンのミ!♪」 女子A「ねぇねぇ?アイツ最近拍車をかけてキモくなーぃ?」 女子K「最近イジメサボッてたからねー今日なんかしよっか?」 長門「・ボソボソ・・」 女子K「?・・・・・」 長門「ファーはふぁいとのふぁー♪」 女子K「・・・やっぱ・・・・やめよか?」 いじめっこA「おらっ!!さっさと金渡さないとこの女子生徒の命はないぜ!」 先生「いい加減にしろ!!」 警官「お…落ち着いて…」 ………カキカキ… ??「いじめっこAっと…」 いじめっこA「ぐ…!?うがぁぁぁぁぁぁぁ!」 警官・先生「!?」 いじめっこA 不良 剛健 心臓麻痺により死亡 ペラ…カキカキ… リポーター「あなたのお子さんが幼い女の子を殺したのですよむ!?」 親「申し訳ございません…」 いじめっこB「なんだよ餓鬼の命くらいうぐっ!?」 警官「!?っ…どうした!」 いじめっこB「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!???」 いじめっこB 幼姦 大好 心臓麻痺により死亡 リポーター「被害者は全ていじめっ子かまたはイジメを黙ってみていた生徒達が心臓麻痺で死んでおり世界各国で…」 ハルヒ「キョン、有希、みくるちゃん、クイズよ」 キョン(´-`).。oO(まったく唐突に・・・) ハルヒ「男がさして、女が入るものってな~~んだ??」 キョン(´-`).。oO(なっ!なに言ってんだこいつ!?) 長門「・・・・・」 みくる「う~~ん」 キョン(´-`).。oO(男がさして女を入れる・・・いや入るものっていったら、まん(ry) みくる「もしかして食べものですか??」 キョン(´-`).。oO(あ、朝比奈さん、いやたしかに食べ物ではないことは・・・・) ハルヒ「食べ物じゃないわ ニヤニヤ」 キョン(´-`).。oO(そんな質問を朝比奈さんにいわせようと・・・!?そうかわかった!!) みくる「あ!!私わかりました」 キョン「俺もわかったぞ まったくくだらん問題を」 小泉「僭越ながら私も答えに行き着きました」 キョン(´-`).。oO(小泉・・・いたのか) ハルヒ「有希はどう?」 キョン(´-`).。oO(朝比奈さんでもわかったんだからこいつ(長門)もわかってるだろ) 長門「ち●ぽ」 キョン「え?」 長門「ちん●」 一同「・・・・・・・・・」 みくる「●んぽって何ですか?」 キョン(´-`).。oO(答えは”傘”だ長門) キョン「長門よ、本ばっか読んであきないか?」 長門「・・・あきない」 キョン「たまにはお前とゆっくり話したいんだが」 長門「・・・」 キョン「なぁ、いいだろ?」 長門「・・・私もあなたと」 キョン「なんちゃって嘘ぴょ~ん」 そして12月18日、世界は再構築された tanigutiが現れた! キョン「行け!ハルヒ!!」 ハルヒ「いくわよ~!!」 <ハルヒのドロップキック!tanigutiに57のダメージ> キョン「行ってこいみくる!!」 みくる「ははっははははいです~!!」 <みくるのみくるビーム!tanisigeに120のダメージ> キョン「行け長門!!」 長門「・・・」 キョン「・・・おい」 長門「・・・」 キョン「あ~っ!いつになったらお前はいう事きくのかね~?こないだのジムリーダー古泉に負けたのもおまえのせいだって分かってるのか?」 長門「・・・」 キョン「そのうえ胸もなければ愛想もない。おまけに眼鏡」 長門「・・・」 キョン「次からお前センター送りな・・・なっ!?」 おや・・・長門の様子が A進化(長門有希:眼鏡なし) B進化(消失長門) Cキャンセル おめでとう!長門は消失長門に進化した! キョン「おおっ!行け消失長門!!」 消失長門「・・・はい」 <消失長門の入部届け渡し!tanigutiは動揺している> 長門「・・・えい」 <消失長門のさよならの微笑み!tanigutiは眩暈を覚えた> 長門「・・・ごめんなさい」 <消失長門の恥ずかしい小説!tanigutiは恥ずかしくなった。tanigutiを倒した> キョン「やるじゃないか、消失長門!」 消失長門「・・・ありがとう(///)」 こうしてキョン一行は古泉リベンジに向かうのだった。 女子A「長門の体操服破っちゃおう」 女子B「いいねいいね」 女子C「泣いちゃうんじゃない?」 ジョキジョキ 長門「………」 C「どうしたの~?うわ!ひっど~い」 B「これじゃ長門さん体育できないじゃん」 A「でも長門さん。今日は体育のテストだから休めないよ~」 長門「…………」 C「泣きそうだったね」 A「長門どうすると思う?」 ザワザワ A「きた?」 C「下着だったりね」 B「うっわ~、それはヒクn…」 男子「うわ?!スク水じゃん」「やべ!俺ツボだわ」「うわぁ、肌白いなぁ」「俺長門のファンになるわ」 ABC「………」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1257.html
みんなが羨ましい。 一人一人違った個性を持っている。 わたしには何もない。本当は……個性が欲しかった。 朝倉涼子みたいになりたかった。喜緑江美里みたいになりたかった。 どうしてわたしだけ、人間的じゃないの? だから彼の心を惹きつけられない。 どうしてわたしは……。 わたしが部室に入る。いつもの通り一番……だと思ったが違った。 机に伏せて寝息を立てている涼宮ハルヒがいた。 彼女は進化の可能性であり、わたしの居場所《SOS団》の団長であり、……憧れでもある。 彼女の行動力はすごい。わたしには出来ないこともすぐに決断する。羨ましい。 そして……。 一歩、二歩と近付いて、涼宮ハルヒの髪を撫でた。 わたしの髪と違う、サラサラの髪。羨ましい。 二度、三度と彼女の綺麗で滑らかな髪を撫でているとゆっくりと体を起こした。 しまった、眠りから醒めたようだ。 「ん……有希、おはよう。……頭撫でてたのって有希なの?」 静かに頷く。それしか出来ないから。 「ふふん、あたしの髪が羨ましい? 長さかしら、それとも髪質?」 わたしは考えた。羨ましがるだけじゃダメ。 自分を変える努力をしなくちゃ。 ……あなたの綺麗な髪が羨ましい。わたしもそんな髪になりたい。 「有希……。いいわ、今日はあたしの家に泊まりなさい! 髪をサラサラにしたげる!」 一応、普段通りの部活を終え、涼宮ハルヒと共に準備もせずに彼女の家に向かった。 彼女の家で一緒にお風呂に入り、髪を洗ってもらっている。 「有希の髪も充分綺麗だと思うけどね」 そんなことはない。現にあなたは時間をかけて洗ってくれている。 「それは有希がさらにかわいくなるようによ。もっと自信持ちなさい」 髪を洗い終え、わたしは彼女から髪の手入れの知識を学んでから眠りについた。 次の日、また部室に来たのは二番目だった。 「長門さん、こんにちは」 朝比奈みくるが先に来ていた。 彼女も羨ましい。スタイルも顔も抜群で、それに雰囲気が柔らかい。 「あ、長門さん。髪が綺麗になりましたねぇ」 彼女の雰囲気の柔らかさは喋り方にあるのだろうか? 最低限の言葉しか発さないから、わたしは堅く、暗いイメージしか無いのだろうか? 返事に意識して言葉を付け加えてみるように実践した。 そう。……かな? 「え……? ぜ、全然そうですよ! とっても綺麗です、それに話し方も……こう……と、取り付きやすくなってますよ!」 ……ありがとう。 「そ、そうだ! お茶淹れますね」 この喋り方は少しでも人間味を帯びて聞こえるらしい。少しだけ意識して使ってみよう。 ……彼によく想われるように。 その時、ノックの音が聞こえてきた。彼だろうか、古泉一樹だろうか。 「は~い、どうぞ」 朝比奈みくるの返事と共に入って来たのは古泉一樹だった。 彼にもまた、わたしが羨ましがる部分がある。 それは……笑顔。 「あの二人は何かを買い出しに行くそうで、今日はお休みらしいですよ」 そう言ってわたしと朝比奈みくるに交互に向ける笑顔。こんな笑顔を作ることが出来れば、彼も喜んでくれるだろうか? 本をいつもより高く上げて、その陰で笑顔を作ってみる。 こうだろうか? それともこう? しかし、確認出来ない所でいくらやっても仕方がないので、帰ってから練習することに決めた。 本を閉じて、荷物を持って歩き出す。……あ、ちゃんと取り付きやすくなるように意識しないと。 朝比奈みくる、古泉一樹……また明日。 返事を待たずに外へ出た。これで少しでも雰囲気が柔らかくなるだろうか? とりあえず、家で笑顔を練習して、明日彼と話をしよう。 少しでも変わった自分を見てもらうために。……喜んでもらうために。 次の日の昼休み、部室に来てもらうように頼んだ。 最低限の食事を取り、本を読みながら彼を待つ。 少しだけソワソワして、髪を触ってしまう。これも人間が抱く感情だろうか? 「長門、待たせたな」 彼がドアを開けて入ってきた。首を横に振ってわたしは答える。 大丈夫。全然待ってない。……から。 様々な本や、朝比奈みくるから話し方を真似た。 「長門……雰囲気変わったか? なんか……あれ?」 どうやら変えようとしたことは成功したらしい。彼は少しだけ喜んでいる……と思う。 少し、イメージを変えてみた。……どう? 数秒の間、彼は黙っていたが、すぐに返事がきた。 「あぁ、いいと思うぞ。……髪も綺麗になったな。ハルヒにしてもらったんだって?」 彼は頭を撫でてくれた。わたしが望んでいた願いが一つ叶った。 気持ちよさについつい目を瞑ってしまうと、撫でていた手が離れたのがわかった。 やめないで。……お願い。 わたしの言葉に驚いていたが、すぐに再開してくれた。 ……とてもうれしい。 ここで、わたしはお礼と共に昨日練習した笑顔を見せることに決めた。 古泉一樹の笑顔の作り方を思いだしつつ、彼を見上げた。 ……ありがとう。 今作った笑顔を見せると、彼は一つ溜息をついて、わたしの顔を両手で挟んだ。 「長門。俺の前で無理して演じなくていいんだ」 何故? こっちの方があなたは喜んでくれる。 「なんて言うかだな……お前はお前だからな。というか……」 彼は気持ちを上手く言語化出来ていなかったが、しばらくすると思い出したように喋りだした。 「外見を気にして、少しおしゃれをするのはいいんだ。ただな、中身や話し方は変わらない方がいい」 どうして? 「お前がお前でいるのは、いつもの喋り方や態度があるからだ。取繕った言葉や、作り笑顔なんか見ても俺はうれしくない」 彼はわたしの頬を挟んだまま、真面目な表情で目を見て伝えてきた。 ……わたしは間違っていた? 「違う。お前が努力するのはうれしいんだ。だけどな、俺が見たいのは心から笑うお前の顔だ」 ……そう。 わたしは柔らかい表情を作るのをやめて、気を抜いた。こんなことをしても彼は喜んでくれないから。 努力した後が残ったのは、前より少しだけ綺麗になった髪だけだ。 「ありがとな、長門」 彼はまたわたしの髪を撫でていた。何が『ありがとう』なのかはわからない。 それでも、彼がそう言うのならそれでいい。 わたしは彼の胸に頭を預けて、そのまま撫でてもらっていた。 彼と別れ、午後の授業を受けて放課後。 今日は一番最初に入った部室でみんなを待った。 ノックの音、遅れて彼が入ってきた。 笑顔で迎えようと思ったが、心から笑えそうにないからいつものように視線を合わせない。 「まだ長門だけか?」 縦に首を振って肯定の動作。 彼は『そうか』と言って自分の席についた。 次いで朝比奈みくる、古泉一樹と入ってきた。 あと一人で全員が揃う。みんながそれぞれ好きなことをして最後を一人を待ついつもの日常。 わたしはやっぱり本を読むのが落ち着く。 「みんな! 朗報よっ!」 涼宮ハルヒが満面の笑みで入って来た。それと同時に彼の表情も緩んだ。 ……理解した。今の涼宮ハルヒの表情が、彼の求める心からの笑顔なのだ。 あの笑顔をいつも保っている彼女が羨ましい。 ……だけど今は何もしない。ゆっくり、彼と、みんなと心から笑えるようにする。 そう思いながらも、彼を惹きつける涼宮ハルヒの表情をわたしは羨望のまなざしで見つめた。 ……負けない。 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2171.html
Extra.6 長門有希の対訳 ~Report.01 対訳版~ 現地語表記による報告は、当該観測対象の行動の把握に一定の成果を挙げた。 しかし、情報伝達に想定以上の齟齬が認められたので、会話部分を従前通り表記した報告を行う。 Report.01の内容をそのままに、会話部分を従前通りの表記とした。 【追記】 本報告後、試行として現地語表記と一般表記を併記した形での報告を求められたため、本報告を元にReport.01を改稿した。その結果が良好だったため、すべての報告について、同様の形で改稿している。 「アルー晴レータ日ーノコト~♪ んんーんんーんんーんんん~♪」 涼宮ハルヒが歌を口ずさみながら部室に入ってきた。普段の学生鞄とは別に、大きな鞄を肩に掛けている。 「んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いわね♪」 笑顔、『彼』の表現を借りると『100Wの笑顔』で朝比奈みくるにそう声を掛けながら、団長席に着く。 「おい、ハルヒ。今日はまた、やけに御機嫌だな?」 『彼』、通称『キョン』は、眉を寄せながらそう問いかけた。過去の情報を検索すれば、涼宮ハルヒがこのような表情をしている時は、彼女の発言を受けて必ず『彼』が東奔西走せざるを得ない状況が発生する。『彼』はそれを理解しているので、こんな表情をしている。この表情を『諦めた顔』と言うそうだ。 「んっふっふ~。今日はね、みくるちゃんのために、良い物を用意してきたのよ。」 余談になるが、涼宮ハルヒ達の観測を続ける内に、少しずつだが、表情等を観察して過去の情報と照合すると、その人間の思考内容が予測できることが分かってきた。 その考察結果から今の涼宮ハルヒの思考を予測すると、『待ってました!』又は『よくぞ聞いてくれた!』である。 「最近、ず~っと同じメイド服だったでしょ? そろそろ新しいコスに行ってみようかと思ったの。とは言っても、今回は小物だけなんだけどね。じゃじゃ~ん!」 そう言って涼宮ハルヒは、学生鞄の中からそれを取り出した。ある哺乳類の耳を模したヘアバンド。 「ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳というわけですか。」 古泉一樹がいつもの微笑をたたえて言う。 「ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よく見なさい? まぁ、耳だけじゃ素人には分かんないか。用意したのは耳だけじゃないわ、尻尾もセットよ!」 涼宮ハルヒは更に別の物を取り出した。とてもふさふさした哺乳類の尻尾。 「猫耳だったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いでしょ? そんなの、普通で面白くないじゃない。まぁ、みくるちゃんなら猫耳付けても似合うでしょうけど、せっかくだから違う耳を用意したわ。」 「それは……アレか? うどんとかでおなじみの……」 『彼』が問う。 「そ。おっきな耳に、スマートでクールなフォルム。魅惑のふさふさ尻尾、狐セット~♪」 そう言うや否や、涼宮ハルヒは朝比奈みくるの狐耳と尻尾の装着に取り掛かる。 「あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らないでぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んじゃダメぇ~うわ!? ちょ、何(なん)て所触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……」 朝比奈みくるの嬌声をBGMに、程なく狐耳メイド(しっぽ付き)ができあがる。 「できた♪ 思った通りめちゃ似合ってるわ♪」 「これはこれは……さすがは涼宮さんですね。妙にそそられるものがありますよ。」 表情を変えずに古泉一樹は言う。わたしはまだ、古泉一樹の思考内容は全く予測できない。 「さぁ、写真撮りまくるわよ! キョン! 古泉くん! あんた達は助手! さっさと照明とかセットしなさい!」 涼宮ハルヒは手際よく、大きな鞄から撮影機材を取り出していく。 「って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物どこから調達してきたんだ!?」 『彼』が目をむいて突っ込む。 「ああ、コレ? 気にしたら負けよ♪」 「……好きにしろよ、もう。」 やれやれ、と『彼』は肩をすくめた。 わたしの記憶領域になぜか、涼宮ハルヒと『彼』が二人で『ありがと~ございました~!!』とお辞儀し、『以上、「涼宮ハルヒと愉快な仲間たち」のお二人でした~!!』という声を背に、舞台裏に下がって行く映像が展開された。このエラーの原因は不明。 撮影中の様子は、特筆する事項はない。涼宮ハルヒの心理状態は高原状態だったと書けば足りる。一頻り撮影を終えると、 「うーん、狐耳のメイドさんも、なかなか良いものね。今度は尻尾がよく見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方が良いかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してなかったことがすごく悔やまれるわ。」 朝比奈みくるに頬ずりしながら、涼宮ハルヒは言った。 「なかなか萌えの世界ってのは奥深いわ。」 (……まさか、新たな属性に目覚めたんじゃないのか!?) 『彼』はそう言っているかのような顔で涼宮ハルヒを見つめていた。 「そうね。みくるちゃんだけじゃなくて、他の団員にも耳を付けてみたいわね。」 と言って、辺りを見渡す。 「有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何が良いかな?」 「……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいぜ……」 『彼』がボソリと呟く。 「ん? 何か言った?」 「!? な、何も言ってないぞ!!」 『彼』はよく、独白をうっかり声に出して言ってしまう。今回もそうだろう。 「みくるちゃんは狐も良いけど、やっぱり兎ね! それで、古泉くんは……何となく狸!」 最後に涼宮ハルヒは『彼』を見てこう言った。 「あんたは迷いようがないわ。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまんないくらいだわ。」 「何(なん)だ、言ってみろ。」 「あんたは犬に決まってるじゃない。」 「理由は?」 「何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いて行く、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものだわ! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬ね!」 「何でそうなる!!」 『彼』の渾身のツッコミが涼宮ハルヒにヒットする。見事な形。『彼』のツッコミの腕は、これからも進化し続けるだろう。 「ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れちゃだめね、首輪!」 「何(なん)だと!?」 「首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりね!」 「はっはっは、なかなか言いえて妙ですね。さすがは涼宮さんです。」 「こら、古泉……あんまり調子乗ってると、殴るぞ?」 「おっと、冗談ですよ。はっはっは。」 古泉一樹は普段通りの微笑で言う。 「フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうだ! せっかくだから犬らしい名前で呼びましょ! ポチ、ポチ~」 「えーい、やかましい!」 『彼』は憮然とした顔で言う。 「う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来ないわね? タマ……は猫だし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そうよ! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンよ!」 ひくぴきぴき、と『彼』の顔が引きつった。 「ジョン、ジョン~。うん、何ていうか、あるべき所に収まったっていう感じね。ん? 何(なん)だろ、苗字まで思い浮かんだわ? ジョン・スミス? 何だろ、この感覚……何ていうか、既定事項? みたいな……」 「……それはお前の気のせいだ……」 『彼』は震える声でやっと、搾り出すように言った。 「キョンくん? 顔色悪いけど、どうしたの?」 「……何゛でも゛あ゛り゛ま゛ぜん゛、朝゛比゛奈゛ざん゛」 どう見ても何かあります。本当にありがとうございました。そんな一文が、わたしの記憶領域に展開された。 しかし、この後彼らは思わぬ角度から大混乱に陥ることになる。 『彼』が反応したのは、『ジョン・スミス』という単語。 これは今から四年前の時点へ、『彼』が時間移動して涼宮ハルヒと出会った時に名乗った名前。『彼』曰く、涼宮ハルヒに自分の能力を自覚させる『禁断の言葉』。もし涼宮ハルヒが自らの能力を自覚したら、どのような事態になるかは情報統合思念体でも予測が困難。その単語を涼宮ハルヒ自ら口にした。『彼』が驚愕するのも無理はない。 情報操作をすべきか、あるいは言語による操作、彼ら流に言うと『フォロー』をすべきか考え始めた時、異変が起きた。 わたしの記憶領域に、ある映像が展開される。 一戸建ての家、玄関の脇、犬耳を生やした『彼』が尻尾を振りながら『お座り』している。『彼』の前には小さな深皿、『彼』の後ろには小さな犬小屋。深皿と犬小屋には、それぞれ『ぢょんのえさ』『ぢょんのいえ』と書かれている。わたしは哺乳類の大腿骨の形を模したガムを手に持ち、『彼』に言う。 『ジョン、お手。』 『わん!』 『お回り。』 『わん、わん!』 『チンチン。』 『わおん!』 『……いい子、いい子。』 『くぅん。』 わたしの中に得体の知れない『何か』が湧き上がる。発生した理由は不明。最近わたしは、この『何か』を人間で言うところの『感情』ではないかと考えている。 今回の『何か』を人間の感情に近似して、合致するものはないか検索する。今回の『何か』は……『萌え』? そのような『妄想』に囚われること数秒。エラー。平常状態に復帰する。 気が付くと、わたし以外のSOS団全員の視線がわたしに集中していた。古泉一樹でさえ、驚愕の表情を浮かべている。もしわたしに表情を浮かべる機能があったなら、今の『妄想』のせいで、口に出すのも憚られるような『すごい顔』をしていたことだろう。でも、わたしにはその機能はないため、そんな心配はない。では、なぜ視線が? 「……な、な、な……」 朝比奈みくるが震えながら、わたしを指差している。涙目で。なぜ? 「……なに。」 と、わたしは問う。 『長門さん!』 「長門ー!」 「有希ー!」 わたし以外の四人の声が重なる。 『鼻血、鼻血――――!!』 その日から『ジョン・スミス』は、わたしにとっても禁じられた言葉(ワード)となった。 【本報告:Report.01 長門有希の流血】
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/482.html
俺は高校を卒業後朝比奈さんと結婚を果たした。 俺は古泉ら機関のコネを使い、独自の事業を起こし全てが順風満帆だった。 そんな中さらなるうれしいニュースがまいこんだ。 「キョンくん。私妊娠したみたいです」 朝比奈さん、いやいまではみくると言った方がいいか。 みくるは突然俺に告げた 「本当か!?やったなー!ついに子供ができるのか!!」 「ふふっ、名前考えといてね」 「とびっきりの名前を考えとくさ!!」 この時までは全てが最高だったんだ… やがて赤ちゃんが生まれた。 元気でみくるに似て可愛い女の子だった。 「名前…考えてくれた?」「ああ」 ずいぶん悩んでつけた名前だ 「春に日と書いてかすが」 みくるはきっと喜んでくれるだろう。 そう思っていたが… 急にみくるの表情が曇った 「何その名前?」 「は?」 「あなたまだ涼宮さんの影を追ってたのね……バカ!!!そんな名前つけたくない!!変えてよ!」 「だけどもう役所に出しちまったよ…」 「ウワァァーン!!」 みくるは泣き出してしまった。 それからだ、俺達の仲がぎくしゃくし始めたのは… あれから四年がたつ。 みくるとの仲は崩壊寸前だった。唯一俺に安らぎを与えてくれたのは、仕事と娘の春日だけだった。 しかし、俺は会社をこかしてしまった。 多額の借金を抱えこんだ俺にみくるは冷たく言いはらった。 「あなたとはもう終わりね。離婚しましょ」 それまで落ち込んでいた俺はそんな言葉にカッとして我を忘れてしまった。 気がつくと床には冷たくなったみくるが倒れていた。 「やっちまった…」 俺はついに人を殺してしまった。 幸い誰にも気がつかれていない様だった。 俺は死体を山に埋め事件の隠蔽を図った。 隠蔽は完璧だった。 唯一心配だったのは娘の春日だ。 あいつが母親がいないことに気がつき周りの人達に言いだしたらおしまいだ。 俺は娘の春日を殺そうと…できなかった。 可愛い娘は殺せなかった。 あれから四ヵ月がたった。 しかし春日は俺には何も言ってこない。 …おかしい 意を決して俺は聞いてみることにした。 「春日、父さんに何か聞きたいことはないのか?」 しばらくして春日は答えた 「んー別にないけど…」 「どうしていつもお母さんをおぶってるの?」 「…終わり」 すげぇ… 「すごいわ有希!どこでこんな怪談見つけてきたのよ!!」 「ふぇ~恐かったですぅ」 「…元ネタは秘密」 「ふ~ん。まぁいいわ!じゃあ次!キョン!!」 まあ俺達は怪談大会をしていたわけだ。 驚かしてすまなかったな。 さて次は俺の番だ、長門の次なんて不利すぎるぜ… 「やれやれ」 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3080.html
困った。 わたしにしては珍しく、そう思う。 時刻は午後五時、場所はわたしの部屋。 ここにいるのはわたしと古泉一樹。 稀な組み合わせ。 しかし彼は、 「うわー、広いー」 ――七歳児。 「何もなくて、寂しくないですか?」 彼は子供の様に無邪気に――実際にオツムも体も七歳児だけれど――言う。 「カチンと来て」思わず呟く。 「……余計なお世話」 困った。 もう一度思って、溜め息をもらす。 この状況下に置かれてから加速度的にエラーが増加している。 このままではいつ暴走するか分からない。 そうなる前に解決策を探さないといけない。けれど、 「ここ開けてもいい?」 和室の扉を指差して首を傾けて、尋ねる。 その「愛くるしい」様子に何とも言えないもの(これもエラー)を覚えた。 認めざるをえない。わたしはこの状況を『楽しんで』いる。 「有希ねえ」 と、何かに突き動かされるように言った。 「?」 古泉一樹(七歳児)が不思議そうにわたしの目を見つめる。 「『有希ねえ』と、そう呼んで」 作り物の体の奥からわき起こる『激情』に身を委ね言い切る。 「貴方はわたしより年下」 古泉一樹はやはり幼少時代から理知的だったのだろうか、 高校時代の雰囲気を見い出せる顔に理解の笑みを浮かべ、 「有希ねえ、ここ開けていい?」 ……もしかしたらわたしにはこういう属性があるのかもしれない、心拍数が増加する。 種類を問わずに本をあさって生まれた性癖だろうか。それとも思念体の趣味だろうか。 自分が変態か、親が変態か、ある意味において究極の二択。 しかし、出来れば後者であって欲しい。……「人」として。 そんな苦悩の海を泳ぐわたしに彼は、 「大丈夫? 顔が赤いよ」 顔と顔の距離、わずか十センチ。吐息のかかる距離。 「のーぷりょぶれむ」 噛んだ。盛大に噛んだ。慣れない事はするものではない。 格好つけて滑る事程格好がつかない物はない。 「大丈夫」 仕方なく言い直した。「恥ずかしさ」で体温が上昇する。 いけない。ビー・クール。ビー・クール、ユッキー。 うん。何かの制汗剤のようなフレーズ。 クールユッキー新発売。 ……落ち着こう。 その為にこの状況の原因を振り返るのは悪くないとわたしは信じる。 それは遡ること一時間五十分前。 ……… …… … わたしが本を読んでいると、機関の森を名乗る女性から電話がかかって来た。 けれど、適当に相槌と沈黙を挟んでやりすごす事にした。 普段からそんな感じ、慣れている 『突然のお電話すいません』 「……いい」 ハラリとページを捲る。 『実は古泉が行方不明なのですが』 ……なんだ、そんな事か。 古泉一樹が何時、何処で、誰に、『ナニ』をして、捕まろうがわたしには関係ない。 それより今は良いとこ。邪魔しないで。 なんと、主人公が意を決してポニテ萌えをヒロインに伝達しているクライマックスのシーン。 『知りませんか』と彼女は尋ねる。 「知らない」と答えつつページをめくる。 「……」 しかし、直後の挿絵のキスシーンにエラーを検出する。きっと何処かの二人に似ているからだろう。 わたしは思わず本を壁に投げた。 すると、本は壁を貫通し、穴を穿つ。いけない、慌てて壁を再構成する。 ……ついでに自白すれば、この本はいつもこのシーンで諦めてしまう。 きっと最後は無口な文芸部員の宇宙人と主人公が結ばれるはずだが、 この心掻き乱す挿絵のせいで確認がとれていない。損をした心持だ。 毎回毎回、壁に投げては穴を開けている。 今月はもう十回目だ。ちなみに最高記録は一日に五回。 あの「暴走」した冬の日だ。あの日はどうにも収まらなくて、結局世界を改変してしまった。 どうすれば良いのか。無口読書キャラとして読めない本があっては女が廃る。 わりと深刻に悩んでいたわたしは、森園生の抑えた「聞いてないですね」との問いに、 「そう」と条件反射的に答えてしまい、下唇を噛んだ。 この森園生、中々の策士である。喜緑江美里には劣るが。 『……』 「……」 ああ、宅配便でも来ないだろうか。この沈黙はわたしには重い。……普段は何ともないけど。 と、図ったようにインターフォンがなる。誰だか分からないけど、ぐっじょぶ。 「お客さん」 『はい?』 「しばらく待ってて」 『あ、ちょ――』 わたしはゆっくりゆっくり歩を進める。そして、 「……」 『長門、俺だ』 「はいって」 彼だった。声が裏返ってないといいけど。 心情的にはエクスクラメーション・マークを六個程付けたかったが、キャラ的に慎んだ。 「お客さんが来た。切る」 『……そうですか』 声に「もう頼んねーよ」な雰囲気が漂っていたので、遠慮なく切った。 バイバイ。森っち。 「お邪魔します」 「……?」 子供の声だ。不審に思いつつ玄関に向かった。そこでは彼が困ったように笑っていた。 「よう、長門」 その横に小学校一年生くらいの見覚えのある男の子がいる。 「実はこいつ、古泉だ」 全世界が停止したかに思われた。 少なくともわたしはコンマ一秒の間それに反応が出来なかった。 「いや、それ普通やーん」 「何か言ったか」 彼の問いに緩慢に首を横に振った。 ……まさか口に出ているとは。セルフ・ノリ・ツッコミは危険だ。 「……」 とりあえず誤魔化す為に彼の目をじっと覗いた。 それから古泉一樹らしい少年を見た。 「ああ、そうだったな……つまり」 それだけで通じるんだから素晴らしい。 でも出来れば最初に込めた「だいすき」な視線にも気付いて欲しかった。 「今日、話があるってんで古泉に呼び出されたんだが――」 本当は会話を省略するべきではないと思うけど、彼の言葉はわたしだけの物。 「――ってな訳だ」 それに話の要旨は「突然古泉一樹が縮んだ、どうしよう」だけ。 「そう」と、とりあえず言った。 言いつつ、頭の中ではこうなった原因を熟慮している。いや、考えるまでもない。 原因はアポトキ――げふんげふん。涼宮ハルヒに違いない。 「だよな……」 彼は物憂げに息を吐く。 「おそらく」 「何が不満なんだ、あいつは」 分からない。 ……どうせなら彼を小さくすれば良かったのに。 きっと一目見ただけで失神できるほどに可愛いだろう。 わたしなら即お持ち帰りする。 そして抱き枕の様に腕の中に収めて一晩を明かしたい。 「……おい、長門大丈夫か? 顔が赤いぞ」 「だいじょうぶ」 グイっと親指を立てて健康体アピール。でも、思うに……これは逆効果。 「ちょっとすまん」 案の定、戸惑った彼の手が額に触れる。あったかい。 「熱はないみたいだが……」 彼は顎に手を当て考え込む。 「今日はいったん古泉を連れて帰るよ。 機関の関係者に連絡がつけばそれが一番なんだがな」 そう言って立ち去ろうとする彼。対して古泉一樹(七歳児)はわたしの袖を掴み、 「僕かえりたくない」 ワガママを言わないで。 本当はわたしだって彼の袖を掴んで「今夜は……かえさない」としたい所を、ぐっと堪えているのに。 これだから子どもは……。 「おい、ワガママ言うんじゃない」と諭されると、 「僕、ださいからお兄ちゃん嫌い」 ……うわ。 「は、ははは……長門、すまん、帰るわ」 余程衝撃だったのか、わたしの返事も聞かず、古泉一樹を残し、出て行く彼。 玄関の戸が寂しい音をたててしまる。 取り合えず隣の残酷なまでに無邪気な少年に言っておいた。 「その生意気な口聞けなくすんぞ」と。 当然、今のはスペースジョーク。ほんとは…… 「古泉一樹」 「何?」 「その小生意気な口を聞けなくする」 「え、怖……あ、ちょ――」 … …… ……… そんな訳である。 大人に対する口のきき方を教えてからは、 わたしの知っている古泉一樹の口調に微量近付いたようだ。 「有希ねえ」 でも、破壊力抜群……。鼻血が。 「お腹が空いた」 その主張に、 「……カレーは好き?」 この少年、ほんの数瞬考えてから、「好きです」と答えた。 ふふん。まだ、甘いな。 真のカレー好きは訊かれるより先にカレー好きをアピールしなければいけない。 早弁はカレーパン。 弁当は当然カレー。 香水の替わりにカレー粉を体に吹き付け、 髪をカレー色に染め、 懐にガラムマサラを常備っ。 これぞ真のカレーラー……語呂が悪い。 では、カレラー? 外人みたいだ。でもカラーだと意味が違う。 よし、カレーフリーク略してカレフリ。……捕まりそう。取りあえず、 「夕飯はカレーにする」 「えー、でも今日は暑いで――」 わたしは彼の頭を撫でつつ目を覗き込んで言った。 「カレーは好き?」 「はい」 「夕飯はカレー、文句は」 「ないです」 よし、平和的に解決した。 これは喜緑江美里に教わったやり方。 しかし、彼女は笑んでるだけで話が進む。 残念ながらわたしはまだその域に達していない。 あ、でも、部費の調整会議の時は上手くいった。 「笑い」ながらじっと目を見る。それだけがポイント。 話が逸れた。 夕飯の準備をしよう。わたしは冷蔵庫からキャベツを一つ取り出した。 「僕キャベ――」 わたしは古泉一樹の頭を撫でつつ以下略。 キャベツを刻み終えると、今度はレトルトパックを取り出した。 「それ手ぬ――」 わたし以下略。 「出来上がり」 いつかの食卓がそこにはあった。 ふと考えればこの手料理(わたしは断固そう主張する)をもう三人に振る舞った事になる。 となると残った一人――涼宮ハルヒもこれを食べる日が来るのだろうか? ……。 ハバネロを買っておこう。 『いただきます』 わたしたちは手を合わせ同時に言った。 古泉一樹(七歳児)はそこら中に撒き散らかしながらカレーを頬張っている。 後で掃除をするよう「交渉」しよう。 「自主的」に古泉一樹が皿洗いをしてくれるので大助かりだ。 将来はきっと良い旦那さんになるだろう。 「疲れた」 乱暴に座布団に座る古泉一樹。 「有希ねえ人使い荒すぎます」 そんな事はない。わたしの知り合いにもっとすごい人がいる。 ところで、疲れた? 古泉一樹は首を深く前後させる。しょうがない、労ってあげよう。 「来て。……違う、そう」 身振り手振りでようやく意図した体制になる。いわゆる膝枕。 耳が赤くなってる彼の頭を撫でながら、いつかどこかで聞いた「子守唄」をくちずさむ。 すぐに小さな寝息をたて始めた。 その幸福の音につられるように、いつしかわたしも夢の世界へ誘われ……。 … …… ……… 「あの、長門さん」 ふと、腹部の辺りから聞き知った声がする。 「戻った」 「ええ、戻りました。それで……」 困ったような声が要求することをわたしは即座に実行した。 「どうも」 「いい」 体を起こした古泉一樹と向き合う。 ……さっきまでの自然な笑い顔の方が良いと思う。 「まあ、色々無理してますから」 「そう」 「それにしても幼児退向とは、涼宮さんも中々凄いことを考えましたね」 「原因は不明」 わたしが言うと、更に不自然な笑みを浮かべた。 「心当たりはありますよ」 ちょっと迷ってから、言う。 「聞かせて」 「実は先日涼宮さんから愚痴を聞かされたんです『彼』がノラリクラリとしてるのは、 僕みたいな『頼りになる』人が身近にいるからじゃないかとね」 なるほど。原因は理解した、でも。 「なぜ戻った」 「さあ、こればかりは神のみぞ知る、ですね。あるいは彼が男を見せたのかもしれませんが」 「そう」 それにしても残念だ。さっきまでの古泉一樹はだいぶ可愛げがあったのに。 「それで有希ね――」 言い間違えて彼は赤面した。わたしは手元にあった文庫本で口を覆った。 きっと今は口元が「にやりと」している。 「それで構わない」 くぐもった声が言う。 「いや、長門さんがそうでも僕のほうに問題が……」 「なら返事しない」 わたしはきっぱりと言った。 「へ? ……いや、あの長門さん」 無視。 「長門さーん、長門有希さん、長門ちゃん、長門っち、戦艦、ゆきっこ、ちょうもん、ゆきりん、ゆきゆき……」 余計な語句が混じっているから、わたしは彼を二、三発文庫ではたいた。 ……ともかく、わたしは気付いたのだ。 どうやらわたしは「そういう」趣味なのではなく、単に年上扱いされたかっただけなのだと。 朝倉涼子然り、喜緑江美里然り、涼宮ハルヒ然り……。 わたしの周りにはわたしより年上の様な人物ばかりいる。だから、少しは姉貴風を吹かしてみたい。 結局、古泉一樹が折れるまでにもう三十分要した。 「有希ねえ、……これでいいんですよね?」 「そう」 わたしは満足げにうなずいた。 終わってくれ。