約 24,299 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1217.html
Report.14 長門有希の憂鬱 その3 ~涼宮ハルヒの追想~ 活動後の部室。ハルヒは独り佇んでいた。他の団員達は先に帰した。夕日に照らされ、オレンジ色に染まった部室。あの日と同じ風景。思い出す、あの日の出来事。 本棚に歩み寄る。ここは本来文芸部室。だから、本棚の蔵書数は北高の全部室中随一だろう。蔵書には、SFのハードカバーが目立つ。その多数の厚い本を読む人物は、今はこの部室にいない。 あの日起こった、不幸な心のすれ違い。ハルヒは忘れられない。自分が突き飛ばしたせいで、負傷して血を流す彼女の姿を。そして、その彼女を置き去りにして、逃げるようにその場を立ち去った自分の行動を。 彼女はいつも通りの無表情だった。自分はどんな顔をしていたのだろうか。 ハルヒは、自らの行動を悔いていた。そして、だからこそ、彼女に合わせる顔がないと思っていた。だから、翌日彼女が事情により学校に来ていないと聞いて、少し安堵した。時間が稼げたから。 しかしそれは間違いだった。時間が経つほど、考える時間が増えるほど、自らの行動が重くのしかかる。ますます彼女に会いにくくなる。考えれば考えるほど、会い辛い。 最近、部室での会話で、彼女について触れられることが多くなっていた。いくらハルヒが話題を変えても、いつの間にか話題は彼女のことに移っていた。特に、昨日の朝比奈みくるの発言は、決定的だった。 「はい、涼宮さん、お茶です。はい、長門さん……っと、長門さんはおらへんかった……うっかり用意してしもた~」 【はい、涼宮さん、お茶です。はい、長門さん……っと、長門さんはいないんだった……うっかり用意しちゃった~】 お茶を出し終えると、みくるはぽつりとハルヒに言った。 「あたし、みんなにお茶を淹れてるから分かるんですけど、一人おらへんだけで、すごく違和感ありますね……」 【あたし、みんなにお茶を淹れてるから分かるんですけど、一人いないだけで、すごく違和感ありますね……】 ハルヒは、自分の眉がつり上がるのを自覚した。 「なぁに、みくるちゃん? 何が言いたいん?」 【なぁに、みくるちゃん? 何が言いたいの?】 「ひっ!? い、いえ、ただ、寂しいなーって……」 それきり、ハルヒは黙りこくったので、みくるも自分の席に着いて、編み物を始めた。 窓辺の指定席は、今は無人。パイプ椅子は、畳んで立て掛けられている。いるべき人がいない風景。それはとても違和感がある風景だった。 ハルヒは知らない。ハルヒの力のせいで彼女が消滅したことを。彼女を取り戻すために、彼らが様々な工作を行っていることを。 彼らの工作は、じわじわとハルヒに効き始めていた。 「わたし達の工作は、どうやら効果を示しているようですね。」 喜緑江美里が口を開いた。 空間封鎖された生徒会室。ここは今、『長門有希消失緊急対策本部』となっている。 「僕らは部室での会話で、それとなく、しかし確実に、長門さんの話題に触れ続けとります。」 【僕らは部室での会話で、それとなく、しかし確実に、長門さんの話題に触れ続けています。】 古泉一樹が言った。彼は部室の会話で、長門有希の話題に誘導する役を務めている。 「俺は、どうも長門についてはハルヒにマークされてるみたいやから、あからさまにはできひんけど、みんなの話題には参加するようにしとぉ。あとは、そうやな……」 【俺は、どうも長門についてはハルヒにマークされてるみたいだから、あからさまにはできないけど、みんなの話題には参加するようにしてる。あとは、そうだな……】 「あんさんは、無意識に長門さんを視線で探してますから、それで十分でっせ。」 【あなたは、無意識に長門さんを視線で探していますから、それで十分ですよ。】 「……俺は、そんなつもりはないんやけどな。」 【……俺は、そんなつもりはないんだがな。】 キョンは一樹を睨む。 「おっと、これはこれは。その反応だけで十分ですわな、状況証拠は。」 【おっと、これはこれは。その反応だけで十分ですね、状況証拠は。】 一樹はいつもの如才ないスマイルで応じた。 「あたしは、昨日ちょっと積極的に頑張ってみました!」 「朝比奈さん、あれはGood Jobでしたよ。」 みくるの行動を賞賛するキョン。 「ええ、まったく。昨日のあなたの言動は、相当効いたようです。MVPは間違いなくあなたですね。」 江美里も同意する。 「昨日のあなたの言動がきっかけになって、今、涼宮さんは『寂しい』という状態になっています。」 それがどんな感情なのか、わたしは実感できないんですけどね、と江美里は付け加える。 「もう一押し……ってわけね。」 朝倉涼子は思案顔で呟く。 「今日早めに活動を切り上げた涼宮さんは、今は部室で独り、物思いに耽っています。」 江美里は、涼子に向かって言った。 「さて。お膳立ては整いました。あとは長門さんの代理……あなたの仕事ですね。」 「そう……やね。そろそろ……行けるかな?」 【そう……よね。そろそろ……行けるかな?】 「『機は熟した』と思いますわ。『鉄は熱いうちに打て』っちゅう言葉もありまっせ。」 【『機は熟した』と思いますね。『鉄は熱いうちに打て』という言葉もありますよ。】 一樹も賛同する。 「うん、そうやね。ほな、ちょっと行ってくるわ。」 【うん、そうよね。じゃあ、ちょっと行ってくるわ。】 涼子は、部室へと向かった。 部室の本棚の本を手に取るハルヒ。そのまま窓辺に行くと、立て掛けてあるパイプ椅子を広げて座った。あの日から学校に来なくなってしまった彼女のように、無言で窓辺に座るハルヒ。そうすることで、彼女を追想するように。 思い出す、彼女と過ごした日々。 最初は、まるで部室の付属物のように存在感のない娘だった。 それが、共に過ごすうち、だんだん彼女を見る目が変わっていく。彼女は万能だった。何でもそつなくこなせた。 決定的だったのは、一年生時の文化祭。 メンバーの病気や怪我で出演ができなくなった、先輩女子のバンド。見かねたハルヒは、彼女を誘って急遽メンバー入りし、舞台に立った。そこで彼女は、驚くべきギターの腕前を披露した。ハルヒの歌声とともに、彼女の情熱的なギタープレイは、その場にいた誰もを魅了した。それは、他ならぬ、共に舞台に立ったハルヒ達も同様に。 体育祭では、ハルヒに負けず劣らずの素晴らしい身体能力を見せつけた。特にアンカーを務めたクラス対抗リレーでは、最下位でバトンを受け取ると、表情を変えずに見る見る走者を追い抜き、ハルヒがアンカーを務める1年5組に次ぐ、二位にまで持ち込んだ。無表情ながら鉢巻きをたなびかせて疾走し、見る見る順位を上げていく小柄な体操服姿に、彼女の隠れファンが急増した。 バレンタインデーの時は、料理の腕前も見事だった。徹夜で賑やかにチョコレートケーキを作る、ハルヒとみくる。彼女はそんな二人を静かに、そしてこれ以上ないほど的確にサポートした。何と彼女は、温度計もなしに、チョコレートのテンパリング(温度調節)をやってのけた。さらには、まかない料理も作ってくれた。チョコレートケーキ製作中は、匂いが移ったり味が分からなくなったりしないよう、薄味の惣菜と、ほかほかご飯に吸い物。プレゼントを山に埋めて帰ってきたら、胃腸に負担を掛けずに冷えた身体を温める、手作り出汁の香り高いうどん。 阪中家での『陽猫病』事件では、その博識ぶりで、見事に事件を解決した。いつも大量に本を読んでいるが、それが実際に役に立つのだから大したものだとハルヒは思った。彼女は阪中家の恩人として盛大な歓待を受け、ハルヒはそれを我がことのように喜んだ。 共に過ごした一年の間に、ハルヒは彼女を『SOS団随一の万能選手』と捉えるようになっていた。 そんな二人の関係に転機が訪れる。先日の、ハルヒの捕り物劇に端を発する、一連の騒動。 ハルヒは精神的に追い詰められていた。そんなハルヒを救ったのが、彼女だった。彼女は、ハルヒの行動の意図を理解し、危険を冒してハルヒに会いに来てくれた。苦しさに押し潰されそうだったハルヒの慟哭を受け止め、優しくそばに寄り添ってくれた。 一緒に帰るために『男装』を提案するなど、意外な一面も見せてくれた。彼女の部屋に招待し、泊まって行くことを勧めるなど、積極的な面も持っていた。そしてその夜、二人は結ばれた。性別の垣根を越えて、肉体的にも精神的にも、二人は繋がった。 次の日には、彼女を通じて彼女の友人に問題を解決してもらった。彼女の人脈には驚かされた。その日はそのままデートにも行った。朝の目覚めの時と同様、彼女の素顔、生の言動に心を揺さぶられた。 彼女と朝倉涼子のそっくりさんに遭遇したこともあった。 その時は彼女も一緒にいた。彼女のそっくりさんは、彼女とは性格が全く違っていた。声も違っていた。しかし、実は彼女もそっくりさんも、お互いの声を真似ることができた。彼女がそっくりさんの声を、いつもの無表情で真似したときは、正直、絶句した。あまりにもシュールでユニークだったから。 彼女との思い出は、どれも大切な、掛け替えのないもの。記憶の中の彼女は、大半が無口で無表情だったが、それでも輝いていた。 そして、つい先日の、あの出来事。 彼女に、自分の恥ずかしい物を目撃されてしまった事件。ハルヒは激しく動揺し、とんでもないことをしでかした。しかし、そのことで実感したこともあった。ハルヒは彼女を…… ハルヒは、知らず、涙を流していた。自分の中で、こんなにも彼女の存在が大きくなっていたのか。 「会いたい……会いたいよぅ……何で、あんなことになってしもたん……有希……早(はよ)……会いたい……謝りたい……何で、謝らしてもくれへんの……? 何で、何で……」 【会いたい……会いたいよぅ……何で、あんなことになってしまったの……有希……早く……会いたい……謝りたい……何で、謝らしてもくれなにの……? 何で、何で……】 言葉にならない思い。言語化できなかった分は、涙と嗚咽になって溢れ出す。 「ゆ、ゆき、有希……有希ぃ――――! うわあああぁぁぁ……!!」 以前にも声を上げて泣いたことがある。その時は彼女が、優しくハルヒの頭を抱いて、ハルヒの慟哭を受け止めてくれた。 でも今は――誰もいない。 「悩み事?」 その時、声が掛けられた。 「うっ、ぐすっ……朝倉?」 涙を拭いながら、部室の入り口を見るハルヒ。 「何よ、人が泣いてんのが、そんなにおかしい? 悪趣味やな。用がないんやったら放(ほ)っといてくれる?」 【何よ、人が泣いてんのが、そんなにおかしい? 悪趣味ね。用がないんだったら放(ほ)っといてくれる?】 涼子は、部室に入ると、扉を閉めた。 「ご挨拶やなあ。わたしは、女の子が泣いてるのが放(ほ)っとかれへんかっただけ。」 【ご挨拶だなあ。わたしは、女の子が泣いてるのが放(ほ)っとけなかっただけ。】 ゆっくりとハルヒに近付く涼子。 「何? 慰めの言葉やったら、要らへんで。」 【何? 慰めの言葉だったら、要らないわ。】 涼子を睨み付けるハルヒ。しかし涙に濡れたその目は真っ赤に充血しているので、迫力に欠ける。 「慰め違(ちゃ)うけど、何て言うのかな……うん、独り言!」 【慰めじゃないけど、何て言うのかな……うん、独り言!】 涼子は微笑を湛えたままで言う。 「そこまで涼宮さんに思われる長門さんも幸せやね。」 【そこまで涼宮さんに思われる長門さんも幸せよね。】 「…………」 「……大丈夫。あなたが願えば、きっとすぐに会える。」 「……根拠は?」 「な~んにも。」 ハルヒは大きく溜め息をついた。 「何よ、それ……」 「言(ゆ)うたやん? 独り言って。」 【言ったじゃない? 独り言って。】 涼子は、指を組みながら言った。 「でも、わたしは、『信じる』ことって、結構重要やと思うな。成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思わへん? 逆に、悪い方にばっかり考えが行く時って、何やっても上手くいかへん時もあるし。悪い方に考えて気持ちが沈んで、結局上手くいかへんのと、良い方に考えて気持ちが盛り上がって、結局上手くいくのとやったら、わたしやったら、上手くいく方を選ぶな。」 【でも、わたしは、『信じる』ことって、結構重要だと思うな。成功のイメージを信じて行動すれば、上手くいく時があると思わない? 逆に、悪い方にばっかり考えが行く時って、何やっても上手くいかない時もあるし。悪い方に考えて気持ちが沈んで、結局上手くいかないのと、良い方に考えて気持ちが盛り上がって、結局上手くいくのとだったら、わたしだったら、上手くいく方を選ぶな。】 「『信じる』……」 「長門さんとまた会えることを信じればええん違(ちゃ)うかな。きっと長門さんも、涼宮さんに会いたがってると思うわ。」 【長門さんとまた会えることを信じれば良いんじゃないかな。きっと長門さんも、涼宮さんに会いたがってると思うわ。】 涼子は言葉巧みにハルヒを誘導していく。涼子は優秀だった。 「結局、朝倉は、どうするつもりなんやろな?」 【結局、朝倉は、どうするつもりなんだろうな?】 キョンが口を開いた。緊急対策本部では会議が続いていた。 「人間の『感情』というものは、わたしにはよく分からないので、何とも言えませんが。」 江美里は答えた。 「その、朝倉さんって、喜緑さんや長門さんと同じ、その……『端末』、なんですよね。」 みくるは言った。 「ということは、こんな言い方は失礼やと思うんですけど……みんな、人間の『感情』はよう分からへんのですよね?」 【ということは、こんな言い方は失礼だと思うんですけど……みんな、人間の『感情』はよく分からないんですよね?】 「その質問の答えは、」 江美里が答える。みくるが息を呑む。 「禁則事項です。」 盛大に椅子からずり落ちるみくる。 「というのは冗談ですが、基本的にそう考えていただいて差し支えありません。」 (TFEI端末って、実は意外と冗談好きなんか……!?) 《TFEI端末って、実は意外と冗談好きなのか……!?》 と、キョンは思った。 「ただし、例外もあります。例えば長門さんについては、キョンくんはよくご存知ですよね?」 「え? あ、ああ……長門は、顔には出さへんけど表情に表れへんだけで、無感情なんやなくて実はかなり感情豊かです。長く一緒におったら、だんだん分かるようになってきました。」 【え? あ、ああ……長門は、顔には出さないけど表情に表れないだけで、無感情なんじゃなくて実はかなり感情豊かです。長く一緒にいたら、だんだん分かるようになってきました。】 そうですね、と江美里は続ける。 「そして長門さんは、様々な体験をして、暴走したこともありました。そう、あの冬の世界改変事件です。と言っても、お二人さんには、実感はないでしょうけれど。」 江美里はSOS団員達を見回して続ける。 「暴走の原因は、現在も検証中なのではっきりとしたことは言えませんが、長門さんに、人間で言うところの『感情』に相当するものが発生したのが一因ではないか、というのが大勢の見解です。」 「ははあ。すると、あれでっか。長門さんは、感情が生まれ、育っていったものの、本質的には理解でけへんもんやから、だんだんとその感情を『持て余した』っちゅうわけでっか。」 【ははあ。すると、こういうことですか。長門さんは、感情が生まれ、育っていったものの、本質的には理解でないものだから、だんだんとその感情を『持て余した』、と。】 一樹がしたり顔で解説する。 「『感情』がどのようなもので、それがどのように作用したかについては見解が分かれていますが、とにかく、『感情』のようなものが関係しているのではないか、という点では概ね一致しています。」 江美里は、これは私見ですが、と前置きして続けた。 「同様に、朝倉涼子が独断専行し、キョンくんを殺害しようとした件も、やはり『感情』が何か関係しているのではないかと、わたしは考えています。」 「そういえば、朝倉はあの時、何も変化せぇへん観察対象に飽き飽きしてるって言(ゆ)うてたな……」 【そういえば、朝倉はあの時、何も変化しない観察対象に飽き飽きしてるって言ってたな……】 キョンは、当時を思い出しながら言った。朝倉涼子本人の謝罪を受けたことで、多少は『彼』の精神的外傷も緩和されたものと思われる。少なくとも、冷静に当時を振り返ることができるくらいには回復していた。 「本来わたし達は、『飽きる』ということはありません。そのようには作られていないのです。飽きてしまうようでは、観測ができませんからね。でも、朝倉涼子は、観測に飽きた。そして、独断であのような凶行に及んだ。暴走としか言いようがありません。『未熟な感情の暴走』。これが、二人が起こした事件を定義する言葉ではないかと考えています。」 「えっと、それじゃ……今の朝倉さんは、未熟ながらも感情を持っている、ってことですか?」 みくるが問う。 「それが本当に『感情』かどうかは分かりませんが、少なくともわたしよりは、朝倉涼子の方がよく人間の感情を理解して、より適した行動を取れると思います。」 「でも、それじゃ、その、また感情に流されて……」 恐る恐るみくるは問うた。江美里が答える。 「朝倉涼子は、人間で言えば二度死にました。そして二度生き返りました。『感情』を持つ『生命体』が、『臨死』又は『転生』を経験した。それが思考や行動に大きな影響を与えるだろうことは、想像に難くありません。これまでの彼女の言動から推察するに、もう以前のように暴走する可能性はないと言えるでしょう。」 「随分、朝倉を信用してるんですね。」 キョンの問い掛けに、江美里はやや思案するような表情で答えた。 「信用……ですか。」 江美里は窓があると思しき辺りに視線を巡らせながら言った。 「我々端末同士の関係は、人間のそれとは少し違いますが、そうですね。人間の関係に例えて言うなら、確かに『信用』という言葉が近いかもしれません。」 江美里はキョンに視線を戻して続けた。 「キョンくん。あなたは、長門さんを『信用』していますか?」 「もちろんです。全幅の信頼を寄せてると断言できます。はっきり言って、俺は自分よりも長門の方を信用してるかもしれません。」 キョンは即答した。 「それなら、今の朝倉さんも信用してもらえませんか? もちろん、そう簡単には考え方を変えられるものではないということは、情報としては知っています。でも……」 江美里は、ふっ、と表情を緩ませて言った。 「何と言っても、今の朝倉さんは、その長門さんのバックアップ、代理なんです。彼女が長門さんの代わりを務められるのは、単に能力が同程度だからというだけではなくて、あなた達と関係が深くて、かつ、あなた達の行動を同程度には理解しているからなんですよ。今の彼女は……長門さんそのものだと思ってもらって差し支えありません。もちろん、元々の性格付けの設定が違うので、例えば無言で本を読んでいる朝倉さん、という姿を見ることはないでしょうが、『涼宮ハルヒとその周囲の観測及び保全』という任務に関しては、長門さんと全く同じ行動原理に制御されています。」 「せやから、彼女を信用せぇ、っちゅうことを言いたいわけでっか。」 【だから、彼女を信用しろ、と仰りたいわけですか。】 一樹が口を挟む。 「信用しろ、とはおこがましくて、とても言えません。わたしに言えるのは……」 ここで江美里は立ち上がった。 「どうか、彼女を、朝倉涼子を信じてやってください。お願いします。」 こう言って江美里は、深く頭を下げた。 「えっ、わっ、わっ、そ、そんな、頭を上げてください! あ、あたしが変なこと言(ゆ)うてしもたから……」 【えっ、わっ、わっ、そ、そんな、頭を上げてください! あ、あたしが変なこと言っちゃったから……】 みくるが慌てて立ち上がり、江美里に声を掛ける。 「……朝倉は、長門が元に戻れば自分が用無しになるって分かってて、それでも長門のために動くって言いました。」 キョンは江美里をしっかりと見つめていた。 「俺らを守るって言(ゆ)うた長門の言葉を信じるように、俺は朝倉の言葉も信じようと思います。」 【俺らを守るって言った長門の言葉を信じるように、俺は朝倉の言葉も信じようと思います。】 「……ありがとうございます。」 江美里は、柔らかい表情で謝辞を述べた。 彼らが様々な工作を行う一方で、彼らの意思とは関係ない部分でも世界は動いていた。長門有希が消失したことで、涼宮ハルヒの周辺を取り巻く勢力の版図が変化していた。 その中の一つ、情報統合思念体の内部でも、大きな変動が起きていた。かつてキョンを殺害しようとした急進派からは、更に先鋭化した『過激派』が派生していた。 過激派とは、観測対象である涼宮ハルヒ自身に直接刺激を与え、その反応を観測しようとする集団。早い話が、涼宮ハルヒに危害を加えようとする一派のこと。急進派は、その勢力を大きく減じていた。 攻撃か、静観か。派閥内の者には、二者択一が迫られた。朝倉涼子は、長門有希のバックアップを務める事で、自動的に主流派に取り込まれることとなった。 かつての同志が敵となり、かつての仇敵が友軍となる。情報統合思念体の内部は、今や群雄割拠の相を呈していた。 そんな過激派の一部が、長門有希不在を好機と見て、涼宮ハルヒへの攻撃を企図していた。 情報統合思念体内部の意思は不統一。彼らの行動を止める者は誰もいなかった。 彼らの手が涼宮ハルヒ達に近付いていた。 『その時』が迫っていた。 ←Report.13|目次|Report.15→
https://w.atwiki.jp/tfei/pages/53.html
今日の授業は、そのほとんどが期末テストの返却にあてられた。相変わらず数学と物理の点数が今一歩、といったところで、その他はおおかた及第点。クラスメート達はそれぞれの得点によって笑ったり落胆したりしていた。わたしはあそこまで大きなアクションを取らないし、たぶん表情だってさほど変わることはないのだろう。それはいわゆるポーカーフェイスなのだろうか?いや、表情を動かしたくたって、わたしの顔はきっとその意思に反して動かないと思う。 昼食は相変わらずパンを持ち込んだ。口の小さな、というより食べるのがあまり早くないわたしには丁度いい。ひとつふたつ食べるだけで昼食としては充分だから重宝している。 「なーがとさん」 昼休み、いつものように読書にふけっていたわたしのところに朝倉さんがやってきた。わたしはとっさに返事をしようと思ったのだが、いかんせん急なことなので声が出ない。結果的に、無言のまま視線だけを向ける羽目になってしまった。そんな自分が情けなくて、忌々しい。 「今後の日曜日なんだけどね、友達と一緒に、パーティやろうと思ってるのよ」 朝倉さんはそう言って、次にわたしの耳元で、まるで政府の機密情報でも持ってきたかのように小声で囁いた。 「だから、長門さんも一緒に来ない?」 「わたしが?」 「そう。誰だって1人だけでクリスマスイブを過ごしたいわけじゃないでしょう?まあ1日早いんだけどね」 「……」 「もう、そんな躊躇わないでよ。無理なら無理で構わないけれど……そうだ、ひとつだけ長門さんに言っておいてあげる」 「……なに?」 「自分が来ても盛り上がらないと思ってるなら、場を盛り上げることに関しては心配しなくてもいいわよ」 「……どうして?」 「手芸部の友達が出し物を計画してるらしいのよ。あ、会場はうちのクラスの剣持[けんもち]さんの家だから、私たちのマンションからもけっこう近いと思うわ。でね、えーっと、そう、その剣持さんが晩ご飯を振る舞ってくれるって言ってくれてるの。何よりも、みんな長門さんが来たら喜ぶわよ!」 「みんな、わたしのことは知らないと思う」目立つ生徒でもないし、とまでは言わなかった。 「何言ってるのよ。6組の長門有希と言えばかなり有名よ、いやもちろん悪名なんかじゃなくてね……博学なる才媛にして北高イチの読書家、さらには学年トップクラスの長距離ランナーで尚かつバイリンガル、しかも色白な冬美人として、5組で知らない生徒なんていないわ」 「いつの間にそんなことに」しかも微妙に身に覚えのないことまで。 「いや、わたしが長門さんを宣伝してるのよ――もちろん女子陣にだけに、だけどね」 「……」 わたしの知らないところでいったい何をしてくれているのだろう、この人は。わたしは反論もできないし止めることもできない。もちろん賛成もできない。 「でもね、その宣伝だけじゃ長門さんの魅力は半分も伝わらないと思うの」 「……どうして」 「だって、本物の長門さんはこんなにかわいいんですもの。ケバくしなくたって、ちょっときれいにしただけで男子たちがほっとかないわよ」 「そんなこと、」 「どうかしら?やってみればわかるんじゃない?実はここだけの話、もう『長門さんオシャレ化計画』は動き出してるのよ」 「それは、いったい」ネーミングセンスについてはもう知らない。 「名は体を表す、っていうのはまさにコレね。文字通りの長門さん改造プロジェクトよ」 改造とは何だ、改造とは。わたしは昔少しだけテレビで見た某バッタ仮面と黒タイツの戦闘員を思い浮かべてぞくりとした。 「戦闘員のほうは生身の人間でもある程度太刀打ちできるそうよ。あと『ショッカー』って戦闘員のことじゃなくて悪の組織の名前なんですってね……閑話休題、そう、長門さん改造プロジェクトだけど」 その呼び方はやめてほしい。『長門さんオシャレ化計画』のほうがまだマシだ。実態は変わらないけれど、建て前としてはそっちのほうがいい。 「じゃあ、その『長門さんオシャレ化計画』だけど、ビフォーアフター的な演出がしたいのよ。だから、普段の長門さんの写真が欲しいわけ。まあ剣持さんの家に来た時に撮ってもいいんだけど、せっかくだから今撮るわ!」 「え、そんな、急に」 「カメラなら準備してあるわよー。本当に便利な世の中になったわねぇ」 朝倉さんはわたしのスキをついて写真を撮ってしまった。無駄に速い。 「大丈夫、パソコンのフルスクリーンで見られるサイズで撮ったわ。本当に、技術の進化はすごいわよねぇ……」 技術云々と言うより前に、朝倉さんの抜かりのなさのほうに問題があるというものだ、良くも悪くも。それでいったいこの写真はどうするつもりだろうか。気にはなったが、何となく問わないほうがいいような気がして、わたしは口をつぐんだ。いくら朝倉さんでも、必要以上に流布するようなことはしないだろう。 「自分に自信がないみたいだけど、長門さんは素材がいいからきっと自分でも驚くわよ」 「そんなことがある、のかな」 「あるわ!映画でもあるじゃない、『スーパーサイズ・ミー』っていうのが……違う!それじゃないわね。『7月24日通りのクリスマス』よ!長門さんは聞いたことない?」 「ない」どちらもない。前者はタイトルが気になる。 「ちょっと変わった癖のある地味なOLが、突然意中の男性と再会して、一気に恋愛に発展する話。こないだレンタル屋で借りたのよ。あまりにベタベタだから逆に安心して観られたわ。長門さんも観てみない?」 「……観てみる」 「なら今日あたりうちに来る?長門さんの食費だって浮くし、食事は2人の方が楽しいしね」 「わかった」 わたしと2人で楽しいの、と問うことはやめにした。今日は朝倉さんの好意に甘えさせてもらうことにしよう。この季節だから、ひょっとしたらまたおでんかな……シチューなんかも得意そうに見える。おそらくその予想は外れてはいないはずで、要するに朝倉さんはオールラウンダーなのだが、それでも十八番の料理というものはあるだろう。 「じゃ、長門さん、そういうわけだから今日は一緒に帰りましょ。6限目終わったら迎えに来るわね。それじゃっ!」 朝倉さんは文字通り風のように去ってしまった。時計を教室の時計に目をやると、なるほど今は予鈴3分前。5限目が移動教室なら、そろそろ準備を始めてもいい頃合いだ。わたしは次の授業、現代文のテキストとノートを鞄から取り出した。いけない、テストの問題用紙を忘れた。今からでも朝倉さんのところに借りに行こう。 結果的に言えば朝倉さんはまだ5組にいてくれて、そのおかげでわたしは忘れ物を帳消しにすることができた。いつもいつも朝倉さんには世話をかけっぱなしだ。どうやって恩返しをしようか?何かわたしがしてあげられることがあればいいのに、と思うや否や、校内に鳴り響くウェストミンスターの鐘が5限目の始まりを告げた。 「ねぇ、長門さん」 夕方、嫌になるほど延々と続いているというのに、ちっとも生徒たちを加速させてくれることもない坂道を下りながら、朝倉さんはわたしに言った。夕日がまぶしい。しかし、それが地平線の下にもぐってしまうまでにかかる時間は、ずいぶんと短くなってしまった。 「昼間は調子に乗って聞き忘れてたけど……長門さんは、できることなら自分を変えたいと思う?いや、その言い方だと語弊があるわね……そう、ある日突然、魔法使いが長門さんの前に現れて、ちょうどシンデレラのように長門さんを華やかにしてくれるとしたら、長門さんはその魔法使いに頼ると思う?」 「……わからない」 わたしは曖昧な口調で答えた。突然尋ねられたからわからない、というのもあるけれど、むしろいくら時間をかけて考えたところで、わからないものはわからないと思う。 「どちらかと言えば?」 「選ぶの?」 「そうよ」 「……変わりたい、かもしれない」 「何ですって?」 「……変わりたい」 「もう1回」 「変わりたい」 「大きな声で!」 「変わりたい!」 わたしは叫んだ。もちろん普段なら絶対に叫んだりすることはないのだが、朝倉さんの前なら、不思議と叫んでもいいような気がしたからだ。 「合格。そこまで言えるなら文句なしね。長門さんはわたし達が責任を持って綺麗にしてあげる。来週を楽しみに待っていること。約束よ?」 「うん」 わたし達は途中スーパーに寄り、夕食の買い出しをした。わたしも土日は料理するようにしているからこのスーパーにはよく来るけれど、朝倉さんは何を買うか迷うこともなく、次から次へと食材を買い物カゴに入れていく。買うものが完全に決まってしまっているのだろうか。わたしなど、何を買うべきか2時間も3時間もかけて迷ってしまうこともあるというのに。 「長門さん、こないだあげたカイロってもう使い切った?」 「まだ、3つある」 「そう。どうしよう……とりあえず買っておこうかしらね」そう言って朝倉さんは3パックほどカイロを手に取り、カゴに放り込んだ。 「ありがとう」 「いいのいいの。何だかんだ言って、長門さんもきっちりお金払ってくれてるし。気にすることないわ」 「でも」 「何回も言ってるじゃない。わたしは好きでやってるんだから、長門さんが負い目を感じる必要はないのよ」 「……ごめん」 すぐ謝る癖も治しなさい、と言われた。本当に申し訳ない。 マンションのエレベーターの中で朝倉さんは言う。 「長門さんは一旦自分の部屋に帰ってて。夕食の準備をしておくから……そうね、6時半くらいかな。うーん、やっぱり7時にして、7時。それまで勉強なり読書なり、昼寝しててもいいわよ。長門さんの部屋に電話かけて起こしてあげる」 「……起きておく」 「そう。うっかり寝てしまわないようにね。あとパジャマとお風呂用品持ってきて」 「うん」わたしは小さく首肯した。以前、うっかり寝てしまって朝倉さんとの約束をすっぽかしてしまったことがある。 「じゃあ、また後でね。くれぐれも来るのを忘れないように」 「……分かってる」 わたしの反論が聞こえたか聞こえなかったかは定かでないけれど、朝倉さんはエレベーターを降りた。手を振る朝倉さんの笑顔を、ドアは両側から塞いでいった。 そのままエレベーターはあっという間に7階へと駆け上がってゆく。否、引き上げられるのだろうか?確かそうだったと思う。また図書館で調べておこう。エレベーターの駆動系統についての本を探すよりは、百科辞典があれは問題ないだろう。 特にやるべきこともないので本を読んで時間を消化することにした。木星まで向かうロケットの乗組員たちの話。わたしは木星まで行きたいとは思わないけれど、その木製までの旅に欠ける並々ならぬ情熱は見て取れる。 1作目がもう40年近く前の発表なのだ。年ごとに進む宇宙科学の発展に対してもよく耐えていると思える。確かに今となっては調査結果と合わないこともあるが……、ならば人類が月に到達するよりも前に、ここまで壮大なSF構想が作り出せる作家など他にいるだろうか。わたしは、ノー、と答えたい。 ソビエト連邦の英雄的宇宙飛行士の名を冠したロケットは、遺棄された(という表現を敢えて使わない人々もいたが)ロケットとドッキングし、木星への近接飛行[フライバイ]をおこなっていた。しかし、きっと着陸はできないだろう。言わずもがな木星はガスの塊なのだ。もし、このロケットが木星に“着陸”したら……わたしはこの小説を読むのをやめにしてしまうかもしれない。この小説に限ってそんなチープなミスはありえない、という不思議で不安定な信頼感と同時に、わたしの頭の中には唐突にそんなギャンブルが思い浮かんだのである。 サイエンス・フィクションはあくまで現代の――この場合なら“1964年の”科学技術の上に積み上げられているものであるべきであり、そこから離れてはならないとわたしは考えていた。それだと完全なファンタジーだ。どれだけリアルでも、どうしてもほんのわずかに興醒めしてしまう。 あくまで現代の延長線上にあるものだから、SFには独特のリアリティが常につきまとう、否、つきまとっている必要があるのだ。 わたしが宇宙に惹かれて、もう何年になるだろうか。もうかなりの作家、かなりの冊数を読んだと思うのだが、いつまで経っても読み切れる気はしない。 アイザック・アシモフ、ロバート・ハインライン、フィリップ・K・ディック、スティーブン・バクスター、ダン・シモンズ。そしてわたしが誰よりも心酔しているのがこの、アーサー・C・クラークだった。 わたしは栞を挟み、文庫本を閉じる。机の上にその本を放り出し、準備を整えて部屋を出た。カーディガンは置いていこう。どうせ2フロアの移動だけだ。しかもエレベーターで。いや、たまには階段を使おう、寒さは身にこたえるけれど。 Next Back to Novel
https://w.atwiki.jp/nendoroido/pages/87.html
No.123 長門有希 消失Ver.(海賊版) 参考画像
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3276.html
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋・・・とまあ色々な「秋」がある訳だが、所詮それらは勝手に付けられたものに過ぎず、俺にとっては全くと言っていいほど当てはまらなかった。俺にとって今年の「秋」は―――年中そうなのではあるが―――「疲労の秋」だった。 そんな秋も無事に終わり、赤道直下に憧れはじめた冬。「疲労の冬」を覚悟していた俺にとっては想定外の出来事が起きたんだ。 ・・・ ・・ ・ 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 騒々しい声が部室に響き渡る。おい、長門ほど・・・とまでは言わんがもう少し静かに出来んのか?毎日聞かされる俺の身にもなってくれ。耳が痛い。で、何がどうしたって? 「あたしのプリンが無くなってんのよ!こんなことするのキョンしかいないでしょうが?」 やれやれ。俺はお前のプリンなぞ食べたことはないしこれからもそんな予定は無いね。食ったら何を言われるか・・・ 「だからアンタ以外に誰が食べるっていうのよ!?大体アンタは」 「あなた」 突然ハルヒの声が遮られる。おお、長門。庇ってくれるのはありがたいんだが何も出ないぜ?しかもハルヒは証拠もなしに引き下がるようなやつじゃないんだ。 長門はくるりとハルヒの方に向き直り告げる。 「あなたは昼休みにプリンを食べた。12時47分16秒のこと」 ハルヒはぽかんと口を開け間抜け面をしていたが、あぁ!と一言言うと・・・ってやっぱりお前だったのか。俺を疑うのも大概にしてほしいね。 「そう言われてみればそうだったわね。有希、ありがと」 長門は2ミリほど頷き、 「いい。それよりも彼に謝罪したほうがいい」 「いいのよ。キョンは下っ端だし私は団長よ?」 おいおい。それはいくらなんでも酷いんじゃないか?お前が団長かどうかはどうでもいいが、俺が下っ端ってのは・・・ 「団員その1」とかなんとかじゃなかったのか? 長門は少し―――ほんの少しだがむっとした顔で言う。 「彼のことを下っ端呼ばわりするのはやめてほしい。」 鳩が豆鉄砲を食らったようってのはまさにこんなことなんだろうな。ハルヒはもちろん俺や古泉、朝比奈さんまでそんな感じだった。 「何よ?あたしがキョンの事をどう呼ぼうが勝手でしょ?あいつはあたしより下なの!!」 ―――長門さん?どうされたんですか?なにか決意に満ちたような眼で顔を上げた長門の口から出た言葉はまさに驚愕の一言に尽きるものだった。 「そのような団なら私はやめる。この部屋から出てって。」 そういえばここは文芸部室だったな・・・ってSOS団をやめる!?お前の任務はハルヒの監視じゃなかったのか!? ハルヒのほうも売り言葉に買い言葉なのだろう。 「もういいわ!出てけばいいんでしょ!?あ、パソコンとかはあげるわ。もう・・・使わないだろうしね!!」 と言って出て行くハルヒに俺たちは何も言えなかった。 しばらくして、案の定古泉の携帯がなる。 「・・・閉鎖空間です。では」 とこちらを恨めしそうに一瞥すると肩を落とし出て行った。 おいおい古泉。今回は俺のせいじゃないだろ?あいつの自業自得さ。これでむやみに突っかかってこなくなればいいんだがな。・・・おや、朝比奈さん。どこへ行かれるのですか? 「ちょっと涼宮さんの様子を見てきますね」 古泉とは比べ物にならないくらい癒し効果が出ているであろう声でそう告げると、軽やかに部室から出て行った。 2人きりになり、急に広くなった部屋にどこか閑寂さを感じる。と、ここで1つの疑問が湧いてくる。何故長門はハルヒにあそこまで怒っていたのか、だ。宇宙人にも虫の居所とやらがあるんだろうか。 「なあ長門。どうしてあんなに怒ってたんだ?」 わずかに顔をあげた長門から発せられた言葉は俺が予想だにしないものだった。 「あなたは涼宮ハルヒの事を名前で呼ぶ。私の事は名字で呼ぶ。何故?」 予想外の質問に意表を突かれ、少し思考が停止してしまったがすぐに再起動させる。そういえば何故だろうな。付き合いの長さは大差ないはずだが。 「すまん。分からん」 正直にそう告げるしかなかった俺をどうぞ罵ってくれ。俺だってもう少し気の聞いた事を言いたかったんだが・・・ 「では私の事も名前で呼んでほしい。」 少し首を傾げ、「ダメ?」とでも言いたそうな目で見られたら・・・断れるわけがない。いや、断る理由なんてないのだが。 「わかった・・・有希」 満足そうに頷き読書に戻った長t・・・有希の顔は少し綻んでいる気がした。 翌日、体を温めるには十分すぎる通学路をせっせと登る。 何だってこんな所に学校を建てたのか。こんな場所を指定したやつは真性のサディストに違いないね。 一通り悪態を吐き終え、ふと顔を上げると――――いた。遠目からでも不機嫌さが見て取れる我らが団長、涼宮ハルヒが。 この分じゃ古泉は一晩中バイトだったな。ま、触らぬ神に崇りなし。わざわざ舌禍に巻き込まれに行くほど俺はマゾヒストじゃないんでね。 一定の距離を保ちつつ歩いていると、正に「軽い」という一語に尽きる男に肩を叩かれる。 「よっキョン。・・・っと、あれ涼宮じゃねえか。あーあ、また嫁と喧嘩でもしたのか?」 にやにやしながら話しかけてくる谷口にまともに返答をする気になれないので適当にあしらっておくことにする。 そうこうしているうちに学校に着き、授業が始まった。 結論から言おう。俺は今日の授業には全く集中できなかった。言わずもがな、後ろの席のやつの所為である。詳しくは俺の背中を見てもらえば一目瞭然なのだが、如何せん、そういう訳にもいかんので簡単に説明させてもらおう。 毎時間、無言で、後ろから、シャーペンで、攻撃されていた。 言葉にすると立った20字程度で大したことないのだが、実際絶え間なくこれをやられた俺の背中はとうに悲鳴をあげ、一瞬でも気を緩めようものなら俺の口からも出ていただろう。 授業が終わると多少はスッキリしたのか、「じゃあね」の一言を残すと、今日の団活はどうするんだという俺の問い掛けにも応じず帰っていった。 習慣と言うのは恐ろしいもので、気付けば今日も文芸部室に向かっていた。扉をノックし返事を待つが、反応がない。そこで部室には有希しかいないであろう状況を理解する。 カチャリと小気味よい音を立て扉を開く。ここで、もう文芸部室はSOS団のものではないという事を思い出し、尋ねる。 「入ってもいいか・・・有希?」 「いい」 歯切れのいい返事が来たのを聞き中へと入る。 ・・・寒い。普段ならストーブが点いているはずなのだが・・・? 有希は平気だろうかと思ったが、夏でも汗一滴かかなかった姿を思い出し合点する。 だが俺は自他共に認める普通の人間なんでな。ストーブ点けさせてもらうぜ。 部室に来たのはいいのだが、する事がない。今ならいけ好かない超能力者のボードゲームの誘いにも飛びつくだろう。 ・・・やはりこの状況はなんとかせねばなるまい。 「なあ、SOS団に復帰しないか?」 「断る」 間髪入れずに返ってくる拒否の言葉。 どうしちまったんだ、有希? 「あなたはあれでいいの?」 いいって・・・何がだ? 「涼宮ハルヒ」 ハルヒが何で出てくるんだ?確かに昨日は些か頭に来たが、いつもの事だ。 有希の真意がわからない。とりあえずいいとでも答えておくか。 その旨を伝えると、有希は少し考え込んだ後言う。 「それならば1つ条件がある」 条件?なんだ。出来る限りのことはするつもりだぜ? 「涼宮ハルヒがあなたに謝罪する事」 ・・・以外に根に持つタイプなのか?だが残念な事に、それは俺の意思ではどうにもならない。 あいつに直接言ってくれるか?明日ここに連れてくるからさ。 「了解した」 と言い本を閉じると有希は帰っていった。 定刻より少し早めに帰った有希。1人取り残された俺はしばらくぼーっとしていたが、あまりに暇なので帰る事にした。 あくる日の業後、俺は恐る恐る後ろを向き話しかける。 「なあハル―――」 「うるさい」 相変わらずご機嫌斜めなようだ。だが今日は引き下がるわけには行かないんでな。 「一緒に文芸部室に来てほしい。有希がSOS団復帰について話したい事があるそうだ」 「有希?あんたいつから名前で呼ぶ事になってんのよ」 ・・・こいつと会話のキャッチボールは成立したためしがないな。 「今はそんな事どうでもいいだろ。な、頼むよ」 「はぁ・・・ わかったわよ。行けばいいんでしょ」 案外素直に承諾してくれたハルヒ。よし。じゃあ行くか。 道中ハルヒは押し黙り、一言も会話を交わさなかった。部室前に着き、扉を叩く。「入って」と珍しくレスポンスがあり、俺とハルヒは中へ入る。 椅子に腰掛け有希を見る。 「彼に謝って」 開口一番、単刀直入にそう言った有希。ハルヒは少し面食らったようで返答に詰まっていた。 「そうしたら私はSOS団に戻る」 もうこちらからは話す事はないといった感じでハードカバーに目を戻す。 少し面食らったようでハルヒは 「・・・ちょっと顔洗ってくるわ」 と言って立ちあがった。 構わないが戻ってこいよ?お前がいないと話が進まん。 「わかってるわよ」とやけに素直に返事をし出て行った。 ふう。同じ沈黙でも有希となら心地よい。一息つくと急に眠気と疲れがどっと襲ってくる。ここ2、3日いろいろあって授業中寝てないからな。ふと顔を上げると有希がこちらを見ている。 「どうしたの?」 いや、最近寝不足でな。疲れてるんだ。 そう告げると、とことこと歩いてきた。と、次の瞬間俺の額に何かが当たる。お察しの通り有希の額だ。 当惑している俺を尻目に有希が言う。 「熱はない」 バタンという音とともに扉が勢いよく開く。もちろんさっき出て行ったあのお方だ。 「このエロキョン!有希に何してんのよ!」 という叫び声と同時に蹴りが来る。 痛ってーなハルヒ!何しやがんだ! 「アンタこそ何してんのよ!どうせ無理矢理させてたんでしょ!」 有希に何かを無理強い出来るやつがいたら見てみたいね。 見ればハルヒは有希に「あんな男は有希にあわない」だのなんだの如何に俺が駄目な男であるか懇々と説明していた。 「いい」 有希がハルヒの言葉を遮る。「でも・・・」と反論しかけるハルヒを信じられない発言がとめた。 「私は彼の事が好き。だからいい。」 ぽかんと口を開けて有希を見つめるハルヒ・・・と俺。 あー・・・今何て言った?俺の耳がおかしくなけりゃ・・・いや、聞き違いに決まってる。 だがほんのり頬を朱に染めた有希を見るとあながち聞き間違いともいえないわけで。 我に返ったハルヒの「正気なの!?」という問い掛けに首肯する有希を見て、俺の聴力もまだまだ捨てたもんじゃないなと思う。 そうか・・・有希は俺の事が好きなのか・・・・・有希が――――俺を!?告白されちゃったのか?どうする?どうする俺?などと脳内会議を開くも 「――い。アタシだってキョンの事がすきなのに!!」 というハルヒの馬鹿でかい声であえなく閉会。 あー・・・何だって?ほんの数分前に思った台詞を繰り返す。 お前が負けず嫌いなのは知ってるが何もこんな事まで張り合う必要はないんじゃないか? 「あなたは黙ってて」 「アンタは黙ってなさい」 ピシャリとはねつけられた俺はその後熱心に話し込む2人を見、入り込む余地はないと確信し部室を後にした。 つづく・・・かな
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1175.html
ガチャ ハルヒ「あれ、有希だけ?まあいいや、今日の活動は休みにするから。あんたといてもつまらないから私は先に帰るね!」 バタン ガチャ みくる「うわ、こいつだけかよ……根暗がうつるといけないから帰ろーっと」 バタン ガチャ 古泉「おや、長門さんだけですか。キョンたんのいない部室などに用はありません。帰らせてもらいます」 バタン 長門「初めてですよ……この私をここまでコケにしたおバカさん達は…… …ゆ……ゆるさん……絶対に許さんぞ虫けらども!!じわじわとなぶり殺しにしてくr」 ガチャ キョン「あれ、長門だけか」 長門「……」コクン キョン「そっか。今日の活動は休みらしいぞ。せっかくだから一緒に帰るか?」 長門「……」コクン ――次の日 ガチャ ハルヒ「あれ今日も有希だけ?まあいいや、私帰るから。それにしても有希って本読んでばっかだから、本当に置物みt」 長門「涼宮ハルヒを私の部屋に転送、拘束する」 ハルヒ「ちょっなによこれ!?いやあぁーー!!」 パシュン ガチャ みくる「うわっまたこいつd」 長門「朝比奈みくるを私の部屋に転送、拘束する」 みくる「うお!?んだよこれ!うわあぁ!」 パシュン 古泉「おy」 長門「古泉一樹をw(ry」 パシュン 長門「フフッ……これで全部……」 キョン「よ、また長門だけか」 長門「……」コクン キョン「今日もハルヒは帰っちまったみたいだからな。俺らも帰ろうか」 長門「……」コクン ――長門帰宅後 ハルヒ「ちょっと!!何で私が十字架に磔になってんのよ!!」 長門「わざわざ説明ありがとう」 みくる「何で私が天井から首輪で吊されてるんですかぁ!?しかもこれ、爪先立ちしてないと首がしまっちゃいますぅ!」 長門「わからない人は、ひ〇らしのなく頃にをプレイするように。」 古泉「なんで僕が亀甲縛りに……ハァハァ」 長門「なんとなく」 ……… …… … 長門「さて、なんでこんなことになってるかわかる?」 みくる「何なんですか!?ここ、どこですか!?なんd」 バキッ!! 長門「質問に質問で答えるな。あと、今さら猫をかぶるな」 みくる「あうぅ……」 ハルヒ「……」 古泉「……(ハァハァ)」 長門「わからないの?」 ハルヒ「……」 古泉「……(ア、ソロソロデソウ)」 長門「……最近のあなた達の私に対する対応」 パシーン!! ハルヒ「痛っ!!」 長門「目に余るものがある」 パシーン!! 古泉「うぁっ!!(モウゲンカイ!)」ドピュ 長門「涼宮ハルヒ、言うに事欠いて私が置物ですって!?」 パシーン!! ハルヒ「うぐっ!!……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 長門「朝比奈みくる、あなたは私をなんだと思ってるの?」 バキッ!! みくる「きゃっ!足払いしないでぇ……首が…カハッ」 長門「私が何回あなたの危機を救ったことがあると思う?なんなら今から情報連結解除してもいいのよ?」 ドカッ!! みくる「ケハッ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 長門「……今から、特別の計らいであなた達を家に帰す。」 ハルヒ「!!」 みくる「!!」 古泉「!?(エ、ボクニハナニモナインデスカ!?)」 長門「今後私に対して粗相があった場合……次はない」 ハルヒ「……ごめんなさい……」 みくる「……もうしません」 古泉「……(ホウチプレイデスカネ?)」 長門「……肝に銘じておけ」 パシュン パシュン パシュン ――次の日 ガチャ ハルヒ「あ、長門様だけでしたか。本日も活動を休止しようと愚考する所存でありまして……」 長門「そう」 ハルヒ「それでは失礼します」 バタン みくる「あ、長門さんだけですか。私、僭越ながら先に帰宅させていただきます」 長門「そう」 みくる「失礼させていただきます」 バタン ガチャ 古泉「おy」 長門「そう」 バタン ――廊下 ハルヒ「あー何で私があんなドS娘のいいなりに……ムカつくわ」 みくる「いい加減にしろって感じですよね」 古泉「……(イヤ、アアイウノモワルクナイデスネ)」 ハルヒ「ちょっと調子に乗りすぎよね」 みくる「今度みんなでシメちゃいますかぁ?あはははh」 ガチャ 長門「あなた達の会話は筒抜け」 ハ・み「げぇ!長門!」 長門「当該対象三名を私の部屋に転送、拘束する」 ハルヒ「いやあぁーー!!」 みくる「きゃーー!!」 古泉「うわっ!(wktk!)」 パシュン パシュン パシュン ガチャ キョン「よ」 長門「……」 キョン「みんなはどうした?」 長門「先に帰った」 キョン「そっか。じゃあ俺らも帰ろうか」 長門「……」コクン キョン「……?何か機嫌良さそうだな。いいことでもあったか?」 長門「そう(フフッ……今日も楽しみだわ……)」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1208.html
ガチャ ハルヒ「あれ、有希だけ?まあいいや、今日の活動は休みにするから。あんたといてもつまらないから私は先に帰るね!」 バタン ガチャ みくる「うわ、こいつだけかよ……根暗がうつるといけないから帰ろーっと」 バタン ガチャ 古泉「おや、長門さんだけですか。キョンたんのいない部室などに用はありません。帰らせてもらいます」 バタン 長門「初めてですよ……この私をここまでコケにしたおバカさん達は…… …ゆ……ゆるさん……絶対に許さんぞ虫けらども!!じわじわとなぶり殺しにしてくr」 ガチャ キョン「あれ、長門だけか」 長門「……」コクン キョン「そっか。今日の活動は休みらしいぞ。せっかくだから一緒に帰るか?」 長門「……」コクン ――次の日 ガチャ ハルヒ「あれ今日も有希だけ?まあいいや、私帰るから。それにしても有希って本読んでばっかだから、本当に置物みt」 長門「涼宮ハルヒを私の部屋に転送、拘束する」 ハルヒ「ちょっなによこれ!?いやあぁーー!!」 パシュン ガチャ みくる「うわっまたこいつd」 長門「朝比奈みくるを私の部屋に転送、拘束する」 みくる「うお!?んだよこれ!うわあぁ!」 パシュン 古泉「おy」 長門「古泉一樹をw(ry」 パシュン 長門「フフッ……これで全部……」 キョン「よ、また長門だけか」 長門「……」コクン キョン「今日もハルヒは帰っちまったみたいだからな。俺らも帰ろうか」 長門「……」コクン ――長門帰宅後 ハルヒ「ちょっと!!何で私が十字架に磔になってんのよ!!」 長門「わざわざ説明ありがとう」 みくる「何で私が天井から首輪で吊されてるんですかぁ!?しかもこれ、爪先立ちしてないと首がしまっちゃいますぅ!」 長門「わからない人は、ひ〇らしのなく頃にをプレイするように。」 古泉「なんで僕が亀甲縛りに……ハァハァ」 長門「なんとなく」 ……… …… … 長門「さて、なんでこんなことになってるかわかる?」 みくる「何なんですか!?ここ、どこですか!?なんd」 バキッ!! 長門「質問に質問で答えるな。あと、今さら猫をかぶるな」 みくる「あうぅ……」 ハルヒ「……」 古泉「……(ハァハァ)」 長門「わからないの?」 ハルヒ「……」 古泉「……(ア、ソロソロデソウ)」 長門「……最近のあなた達の私に対する対応」 パシーン!! ハルヒ「痛っ!!」 長門「目に余るものがある」 パシーン!! 古泉「うぁっ!!(モウゲンカイ!)」ドピュ 長門「涼宮ハルヒ、言うに事欠いて私が置物ですって!?」 パシーン!! ハルヒ「うぐっ!!……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 長門「朝比奈みくる、あなたは私をなんだと思ってるの?」 バキッ!! みくる「きゃっ!足払いしないでぇ……首が…カハッ」 長門「私が何回あなたの危機を救ったことがあると思う?なんなら今から情報連結解除してもいいのよ?」 ドカッ!! みくる「ケハッ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 長門「……今から、特別の計らいであなた達を家に帰す。」 ハルヒ「!!」 みくる「!!」 古泉「!?(エ、ボクニハナニモナインデスカ!?)」 長門「今後私に対して粗相があった場合……次はない」 ハルヒ「……ごめんなさい……」 みくる「……もうしません」 古泉「……(ホウチプレイデスカネ?)」 長門「……肝に銘じておけ」 パシュン パシュン パシュン ――次の日 ガチャ ハルヒ「あ、長門様だけでしたか。本日も活動を休止しようと愚考する所存でありまして……」 長門「そう」 ハルヒ「それでは失礼します」 バタン みくる「あ、長門さんだけですか。私、僭越ながら先に帰宅させていただきます」 長門「そう」 みくる「失礼させていただきます」 バタン ガチャ 古泉「おy」 長門「そう」 バタン ――廊下 ハルヒ「あー何で私があんなドS娘のいいなりに……ムカつくわ」 みくる「いい加減にしろって感じですよね」 古泉「……(イヤ、アアイウノモワルクナイデスネ)」 ハルヒ「ちょっと調子に乗りすぎよね」 みくる「今度みんなでシメちゃいますかぁ?あはははh」 ガチャ 長門「あなた達の会話は筒抜け」 ハ・み「げぇ!長門!」 長門「当該対象三名を私の部屋に転送、拘束する」 ハルヒ「いやあぁーー!!」 みくる「きゃーー!!」 古泉「うわっ!(wktk!)」 パシュン パシュン パシュン ガチャ キョン「よ」 長門「……」 キョン「みんなはどうした?」 長門「先に帰った」 キョン「そっか。じゃあ俺らも帰ろうか」 長門「……」コクン キョン「……?何か機嫌良さそうだな。いいことでもあったか?」 長門「そう(フフッ……今日も楽しみだわ……)」 おわり
https://w.atwiki.jp/tradingfigure/pages/122.html
長門 有希 (アイドルVer.) 製品情報 全高 13.1cm 全幅 8.1cm パーツ構成 本体 台座 1 補助パーツ 2 製品概要 補助パーツがなくても安定して立てられる。 登場作品 涼宮ハルヒの憂鬱
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1195.html
「長門、湯加減はどうだ?」 「いい」 「そうか」 湯加減といえば風呂である。しかし風呂といえば長門なんてこたない。 別に今俺はやましいつもりで長門を風呂に入れているわけではない。 妹が長門といっしょに風呂に入りたいだなんていきなりわめき散らすのが悪い。 それでは恒例、つまるところの回想シーンへ……… 何者かに閉じ込められて長門が倒れた事件や努力賞が似合う古泉の 推理ゲームやその他の道楽が終わり新年を新たに向かえ、今のところ大きな 懸案事項がひとつだけ残っているという状態で新学期は始まった。 ハルヒはというと、これまた何やら訳の分からん個人活動に専念しているらしい。 そろそろ生徒会のお役所御免になる事態が起きそうだ。起きなければいいのだが… いつもの効果音で今日の活動も終了。至っていつも通りである。大変喜ばしい。 ただひとつ、帰り際の長門のセリフでこの時点から今日いつもと違う日となった。 長門が、本という間接的手段を用いずに 「あなたの家の猫の様子を確認したい。できればこれからあなたの家に行きたい」 なんて言い出すんだからな。まあ夏休み末のイベントのときSOS団のメンツはうちの おふくろの知るところとなったし、妹は元から知っている。問題ないだろうさ。 俺は重大な誤算をしていた。いや元から算段など無しで長門を家に連れてきてしまった。 うちのおふくろが長門の食いっぷりに見惚れていたことをすっかり忘れていた。 とまあつまり、あれだ。三毛猫にだけしか用事はなかった長門だが、結局のところ 俺の家でさんざん妹に遊ばされ夕飯にまで付き合わされ…今に至る。 「キョンく~ん、覗いちゃダメにょろよ?」 お前はいつから鶴屋さん2号になったんだ。人の口調を真似るのはよしなさい。 「てへっ」 反省の色全く無しの返事が返ってくる。長門は終始無言。まさか沈んでるわけないよな。 とりあえず長門は着替えなんてもって着ている筈もなく、まああの身体なら 余計なもので服が汚れるだのなんてのはないだろうけれどもそれだと外見的にまずい。 とにかく昔履いていた半ズボンやTシャツで綺麗なものを探さなければ。 そうこうしている内に妹はタオル1枚でゆでタコになって戻ってきた。風引くからさっさと パジャマを着ろ。長門はまだ湯船のようだ。パンツは無いけど仕方ない我慢してもらおう。 「これを置いておくから着てみてくれ。サイズが合わなかったら取り替える」 「大丈夫」 頼むからTシャツに合わせて体つきを変えるなんて奇妙なことは止めてくれよ。 うちの家族には冗談はあまり通用しないたちなんだ。 長門が風呂から上がってきた。お前妙に顔赤くないか? 「入浴による熱の発散が上手く機能していない。必要時間以上湯に使っていたせいだと 考えられる」 あーそれは、俺のせいか。すまん。 「別に…いい」 かすかに火照った長門の顔を拝見しつつ、このまま変な事態にならないようにするためにも 俺は理性をフル動員で着替えをもった長門を連れて家に帰ろうとする。 「待ってぇー!!!!」 あ、見つかった。 帰ろうとする長門の腰にしがみつき、こら半ズボンが脱げる長門は今ノーパンだぞ馬鹿! 長門も長門で少しは抵抗してくれ。等身大着せ替え人形に変わり果ててもらっちゃ困る。 すったもんだでそのまま妹の部屋に連れられていく長門。こうなったら俺はもう寝るしかない。 さっさと寝ちまって明日主にハルヒ達3人に見つからないように登校するしか俺が 生き延びる選択肢は残っていない。やれやれ、もう神様なんて信じてやらねえ。 「ぬぉわっ!?」 ななにゃにゃがと!? 「私は、長門」 いやもうそんなことは三年前だか一年前くらいにとっくに知っていることで俺が言いたいのは そういうことじゃなくて、なんでTシャツ短パンでついでにノーパンのお前が俺にボディープレスを しつつ頬にキスなんてとんでもなくありがたいと言うかありえないことをしてくれているんだ。 「あなたの妹が私にあなたを起こす様指示した」 妹の指示なんて無視してのんびしてくれていても良かっただろうに。 「嫌?」 耳元でそんなおねだりみたいなセリフを言わないでくれ俺がおかしくなっちまいそうだ。 大体どこでそんな高等技術を習得してきたんだ、長門よ。しかも頬が赤らんで… 「昨日の入浴からの余熱が排熱されない。由々しき事態」 そんなこと言われてもお前の火照った顔のせいで思考回路がフリーズ中だ。 「緊急処置を取る」 どうやってさ。なんでもいいから早くしてくれ…。 「了解した。唾液に異常のある熱のデータを添付。あなたに送る」 なんだか分からんが唾液って言わなかったか? 「言った。すこし我慢して」 目をつぶった長門の顔が鮮明にクローズアップってうわ… 長門の熱された唇が俺の唇に当たり長門の唾液が俺の口に1滴だけ滴り落ちた。 その瞬間、瞬く間に沸騰するような感覚の後俺の体温は急上昇、熱っ…。 暫くのぼせていた俺だったが、気づいた頃にはいつも通りの制服姿で俺の枕元で座っている 長門が俺のおでこに手を当てていた。ひんやりしていてなかなか気持ちがいい。 「あなたの母親と妹にはあなたが突発的な熱を出したと伝える」 そうしてくれ。それにしてもこんな熱を持った状態でお前は一晩も耐えたのか。すごいな。 「原因は不明。なんらかの問題によって私の体温調節機構に不順が生じた」 そうか。しかしこのまま暫くこうしていて欲しいなんて甘えたことを口にするつもりは無い。 「そろそろ学校へ行かないといけないんじゃないのか?このままだとまずいことに成る気がする」 「分かった。私は放課後まで通常通り授業に参加していたことにする」 うんそれじゃぁまた…なぁ?授業に参加していたことにするって長門お前。 「SOS団の活動には確実に出席する。それまでは私に看病させて欲しい」 お前熱じゃあるんじゃないか?なんてボケをかましたら失望されるだろう。俺は、 「分かった。任せる」 それだけ言って目を閉じた。 扉の入り口で黄色い声と白色の声が話し合っている。 俺が熱を出して学校を休みその看病を長門がするということを伝えているのだろう。 暫くしてまた額に冷ややかで柔らかい感触が降り立った。 「熱がいつ下がるかはあなたの体力によって変わる。今日中に治ると断言出来ない」 無言で頷いておく。しばらくして緩やかな眠気に誘われ俺は睡眠をとることにした。 長門が妹となにやら話をしている。訂正、妹が一方的に喋っている。 そういえば長門の顔、特に普段とかわりない気が… 「キョンくんはねー」 「かぜで寝こんだことが無いからかんびょーされたことが無いんだよー」 「分かった」 「それとねー」 「明日は有希ちゃんがキョンくんを起こしてあげてー」 そんなことをいいつつ妹は長門の方にボディプレスの要領で飛び込んだ。 「キョンくんなかなか起きないからこうするといいんだよー」 何勝手なことを抜かしやがる。長門に起こされるなら普通に起きれるさ。 「分かった」 さっきから分かったしか言ってないじゃないか…こんな感じで今朝のことは吹き込まれたのだろうか 「それでねー有希ちゃん」 「何?」 「有希ちゃんは… 起きなさああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁい!!!!!!!!!!! ビクンと身体が反応しそのまま目の前のハルヒ?に頭突きした後ベッドの角に後頭部を打ちつけ 悶える俺。足のほうでうめき声がする。 「やれやれですね」 古泉の声。 「あ、あの、あの…ふ、二人とも大丈夫ですかぁ?」 朝比奈さんの声。 「大ぃっ丈夫じゃないわよバカキョン!!!!」 耳に響く耳に響くこのアホが…。 「全くだらしないわね。熱なんかで学校はおろかSOS団までも休むなんて」 お前の思考回路の学校とSOS団の順位を正せ。 「おやおや、ここまで涼宮さんと張り合えるならすぐに元気になりますね」 解説ならもうちっと医者っぽいセリフを頼みたいところだね 「残念ながら私には医療の知識も経験も無いのでそんな勝手なことは出来ませんね」 夏の合宿での演技はどこへ行った。 「私が出来るのはせいぜい演技までですよ」 うるさい黙れ近づくな耳元で息を吹きかけるな そんなこんなで団員達は帰っていった。ハルヒの奴が 「仕方がないわ。私は団長だから団員の看」 「すまんが今日は一人で養生させてくれ」 古泉が携帯を手に取り頭を掻きお先に失礼しますと言って帰っていった。 すまんが古泉、今回は許してくれ。あとで裏庭のコーヒーでも奢るから。 「もういいわ、そんなに言うなら一人でなんとかしなさいよ!これで明日学校に来ないなんて言うんじゃ 絶対に許さないからね!それと、今週末は喫茶店でキョンの奢りだから。良いわね!さあ帰りましょ! 有希!みくるちゃん!」 長門は無表情で、朝比奈さんは肩を震わせながら 「お大事にしてくださいね」 なんてマザーテレサのような一言を残して去っていった そして夜も更けてきた。そろそろ寝るのに丁度いい頃合だが俺は待たなければいけない。 誰かって?決まってるだろ。 コンコンと俺の部屋のドアをいちいちノックして来るような人さ。 「どうぞ」 ドアが開く 「すべての責任はわたしにある」 それ前にもどっかで聞いたな。古泉よろしくの私立病院だったか。 「私は私の不明な行動パターンの選択に抗えなかった」 正夢ってのはときどきあるらしい。 「私には問題は無かった。あなたを一時的な高熱状態にしたのは私の独断専行」 それくらいなら俺は文句は言わんよ。一度やってみたかったんだろう?看病ってヤツを。 「あなたから高熱の元とされる情報を取り除かないといけない」 分かったが、それは具体的にどういうことをするんだ。 「情報を送ったときと全く逆のことをすればいい」 まさか今度は俺が長門に? 「そう」 その後のことは察して欲しい。とにかく熱は収まった。 そして裏道から二人で登校する俺と長門。別々に登校しようという俺の提案は長門に よって脆くも崩れ去った。だが悪い気はしないね。丁度肩の辺りに頭を添えて俺の 左腕を右手でロックしているこいつとなら。SOS団に通じるメンツに見られてなきゃいいがな。 それでまあ、結局見つかるのがSOS団の方程式らしい。 この後俺はハルヒによって無理難題を押し付けられる羽目と成るのはまた別の話である。 そして最後に、妹を近いうちに賞賛してやらねばならんね。 Fine
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1153.html
~ある日の放課後~ 今日は団長自らコスプレ衣装を買いに行ってしまったため部活はない 一人いつものように部室で読書を終えてから帰ろうとする長門の前に 女子A「やぁ長門さん♪」 長門にとってはよく知る顔が三つならんでいた 女子B「ちょっとプレゼントがあるんだけどぉ」 女子C「長門さんってすごい臭いからね~はい石鹸、食べて」 長門「・・・」 彼女たちはどうやら極端に表情に乏しいこのインターフェイスが気に入らないようだった (実を言うとそのインターフェイスの整った顔に不満があるらしいが) ちょくちょくこういう陰湿なイジメをしてくる たまにハルヒが助けてくれるのだが今日は期待できないだろう 長門「・・・」 女子A「オラなんとか言えよ」 女子B「いただきます、でしょ♪」 何故わたしは朝倉涼子のようにできないのだろう わざわざ敵を作ってまで 異様な存在にしてまで何故わたしの対話能力のレベルは低く設定されているのだろう だが長門にとってそんなイジメはさしたる苦痛でもなかった 彼女たちを満足させるため渡された石鹸を口に近付ける とそのとき 教師「おいおまえらっ!何をしてるっ!」 女子A「チッ・・・なんでもありませーん」 女子C「長門さんと話してるだけでーす」 いきなり現れた体格の良い教師に威圧され散っていく女子ABC 彼はたしか長門のクラスの副担任 教師「おい、大丈夫か長門?」 長門「・・・はい」 教師「・・・あいつらに虐められてるのか?」 長門「・・・」 教師「・・・先生がいつでも相談にのってやるからな?」 ふと何かを思いついた表情をつくる教師 教師「そうだ、あいつらが待ち伏せてるかもしれないな、車で家まで送ってやろう」 長門「・・・いえ」 教師[「遠慮するな、なんだか雨も降ってきそうだしな」 長門「・・・」 下駄箱まで付いてきながらしつこく言い寄る教師 空模様をみるかぎり雨が降る様子なんて無い 長門「・・・いいです」 教師「いいって、長門のマンションけっこう遠いだろ?」 強引に、まるで連れ込まれるかのように助手席に座らされる長門 長門「・・・」 ~車内~ 教師「なあ、他の女子とうまくいってないのか?」 長門「・・・」 教師「何か困ったことがあったらいつでも先生に相談してもいいんだぞ?」 長門「・・・」 教師「ほら、俺も教師として生徒には信頼してほしいんだよ」 長門「・・・」 教師「俺もけっこうたくさんの生徒をみてきたが有希のことは少し心配なんだよ、なあ?」 長門「・・・」 運転中だというのに気を遣うような仕草で長門の肩に手を置く教師 だが端から見ればとても気を遣ってるようには見えない 教師「おまえの担任の○○先生なんてそーいうゴタゴタに無関心だし・・・」 長門「・・・」 一方的に話し続ける教師 しかしその異常さに本人はまるで気が付いていない どんどん語調が早くなっていく 目に焦燥の色がうかぶ 長門「(この人・・・様子がおかしい・・・それに)」 もうマンションについてもいい頃だというのに 一向に雨が降りそうもない車の外に広がるのは見なれない風景 教師が乾いた笑いとともに言う 教師「ハハハ・・・いやすまん、大事な書類を学校に届けなくてはいけないんだ」 長門「・・・」 教師「いったん俺の家に寄るぞ?ハハハ・・・悪いなァ」 普通なら長門を送ってからでいいだろう 普通なら事前にそう言うだろう 普通なら・・・ 長門「(・・・彼は異常)」 長門の思考に判断がくだる、教師に見えないように携帯電話を取り出す 最近、「彼」が連絡を取るためにと長門に持たせたものだ 以前二人で選びに行った記憶が脳裏に浮かぶ 「どうせ金は自由にできるんだろ?最新機種でもいいんじゃないか?」 「・・・そう」 「おお・・・最近のはすごいんだな・・・でもキャッチホンっつーのは使わないよな」 「・・・」 「どーする?どれがいい?」 「・・・あなたの好きにして」 「・・・(いや長門さん?その台詞はまずいんじゃあ)」 記憶を閉じる 情報統合思念体にとっては驚くほど「アナログ」なその端末を操作する 電話帳を開くまでもなく・・・完璧に記憶している「彼」の番号を押す 一度だけ呼び出し音を鳴らし、切る 非通知にはしていなかったはずだ 車が着いたのは男の一人暮らしにしてはやや大きめの家だった 教師「ほんとーにすまん。ちょっと探し物してくるからさ」 長門「・・・」 教師「・・・中で少し待っててくれ」 長門「だが断る!」 教師「!?」 長門「なんでもありません・・・遠慮します」 一瞬ふざけた台詞がでたのは俺が空気嫁てないと感じたからだろうか 日曜日の朝、一人真面目に文章を打ち込んでいる俺は滑稽だろうか ちなみに自宅にジョジョは全巻持っている、一番好きなのは4部 最近ではリンゴォ戦を読むたびテンションを上げている あそこで真に格好いいのはむしろジャイロの方だよな 閑話休題 教師「ん?どうしてだ?大丈夫だ、変なことはしないぞ」 長門「・・・」 笑いながら早口で言う、しかし、目は決して笑っていない 長門「・・・あなたは信用するに足らない、帰る」 教師「・・・なあ、有希をいつも助けてくれる、涼宮ハルヒ」 長門「・・・」 教師「 い つ で も 退 学 に で き る ん だ ぞ ? 」 長門「・・・!」 長門の目が一瞬驚愕と、わずかな恐怖に見開かれる 教師「どうする?守ってくれる人間がいなくなるなぁ?」 教師はどうやら勘違いをしているようだ 自分のいじめはどうでもいい、別に殺されたってバックアップがいる だが涼宮ハルヒの退学?それだけは絶対に阻止しなければならない 教師「注意してもバニーガールの格好で校内をうろついていたな・・・」 長門「・・・」 教師「学校側が認めていないのにゲリラのように部活を作っている」 長門「・・・」 教師「映画の撮影だとかで屋上で花火で遊んでいたり」 長門「・・・」 教師「それに噂じゃあパソコン研究部のパソコンを恐喝し、奪ったらしいじゃあないか?」 長門「・・・」 教師「いままでは成績の良さでうやむやになっていたが、これらはすべて校則違反だ」 長門「・・・」 教師「俺が問題にすれば、退学だ」 目の前の男は世界の危機だと解っているのだろうか? 涼宮ハルヒの退学、SOS団の解散。 それが何を生むか解っているのだろうか? いや解っているはずがない 長門「・・・愚か」 瞬時に長門の口が校則で動く 目標の情報連結の解除の準備をする だが・・・ 教師「なあ有希、もういいだろ。中に入れ」 長門「・・・」 強引に腕を取られ、部屋のなかへ連れ込まれる長門 情報連結の解除は・・・しない ただ・・・電話を待つ ~室内~ 長門は乱暴にベッドに押し倒される 汗臭くて汚い、男のベッド 華奢なその体に教師がのしかかってくる 教師「ハァハァ・・・いい子だからな?抵抗するなよ・・・」 長門「・・・」 血走った目で長門を睨む 興奮してか涎が長門の頬に垂れる 教師「有希は本当に大人しいなぁ・・・どこまで無表情でいられるかなぁ・・・」 大柄な体を密着させながらスカートの中に手を滑り込ませ、尻を弄る 長門「・・・ッ」 その嫌悪感に僅かにヒューマノイドの顔が歪む 反応に気を良くした男がその手にさらなる力をかけたとき 無機質な携帯のバイブレーションが鳴り響く スカートにしまったその端末の光る画面には「着信中」の文字が浮かんでいる 無視して行為に及ぼうとする教師、だが 教師「(親が心配して電話してきたのかもしれない)」 教師「(放置するのは・・・怪しまれるか)」 仕方がなく 教師「出ろ、なんとか誤魔化せ。ただし妙なことを言ったら・・・殺す」 本気で殺しそうな切羽詰まった目、しかし長門はその言葉を半分も聞いていなかった 素早い動作で携帯を取り出すと、通話ボタンを押す 相手が喋るより速く、喋る 長門「許可を」 沈黙。 教師も、電話をかけてきた相手も状況が飲み込めない様子。 長門「情報操作能力使用の許可を」 かまわず長門が続ける 明らかに「妙なこと」を喋っているが、教師が予測したような助けを呼ぶ声には聞こえない 電話の向こうで誰かが話している 慌てているような、心配しているような、でも真剣な声 長門「いや、涼宮ハルヒとは直接関係ない」 教師「おい・・・誰なんだ?親じゃないのか?」 長門「・・・わたしの問題」 長門が話す 長門「教師に性行為を迫られている」 一瞬場が凍り付き 教師が携帯を奪おうと手を伸ばす それより速く、携帯から声が響く 教師にもハッキリ聞こえる 『やっちまえ!!!!』 長門「・・・そう」 教師「おまえっ・・・ふざけるなっ!」 激昂し携帯を奪おうと長門に掴み掛かる教師、大柄な体が震えている 教師「誰だ、誰に言った!そいつもお前もブッ殺して・・・!?」 そこで長門の異変に気づく さっきまで思う存分引きずり回していたその矮躯が 体重なんて自分の半分ほどしかなさそうな小柄な少女が まるで鉄の塊にでもなったかのように動かない 長門「ブッ殺す・・・?」 違った 幾ら力をかけても自分の体が動かなかった 金縛り、なんて陳腐な表現しか出来ない現象が教師を襲う 長門「ブッ殺すと判断した・・・そのときスデに」 行動は終わっていた 朝倉涼子のようなインターフェイスではない、 何の抵抗も出来ないその有機体の塊は一瞬でその場から消え失せていた 長門「・・・終了した」 今だ通話中の携帯に話しかける ~通話中~ 『そうか・・・そいつはどうした?』 長門「刑務所、性犯罪で逮捕、懲役六年」 『そっか、別に俺はいなかったことにしてもよかったと思うんだが?』 長門「生きてきた痕跡、関わった人間すべてを操作するのは多少面倒」 『そうか、トーチとは反対だな』 長門「・・・トーチ?」 『・・・妄言だ、忘れてくれ』 長門「・・・そう」 『でもわざわざ俺の許可を待つこともないだろ?』 長門「・・・」 『状況は解らないが・・・結構、ピンチだったんだろ?』 長門「・・・涼宮ハルヒに関すること以外での情報操作能力は自重するよう」 『・・・』 長門「・・・あなたの頼みだったから」 長門「・・・何?」 『今度からは・・・ハルヒと同じくらい自分を大切にしてくれないか?』 長門「・・・何故?」 『・・・頼む』 長門「・・・そう」 弱々しく聞こえた「彼」の言葉が、何故だかひどく嬉しくさせた 何故だろう? 『じゃあ話は変わるが』 長門「・・・何?」 『あ~長門のクラスにABCって女子がいるだろ?』 長門「・・・」 『是非「転校」させてやってくれ』 声の主はもう笑っている 長門「・・・記憶の消去、記憶の植え付け。両方やらなくちゃあいけないのが」 『・・・』 長門「・・・SOS団、団員のつらいところ」 『・・・なあ長門』 長門「何?」 『・・・最近へんな本でも読んだか?』 長門「・・・別に」 宇宙人が、その場で一人 声色は完全に普段の調子から変えず だが、たしかに微笑みながら言った。 お わ り 。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1289.html
それはなんでもないいつもの会話から始まった。ここはSOS団の部室で、谷口も国木田も休んだ俺は1人で教室で弁当を食べることが恥ずかしくて逃げてきたんだ。 そしたら長門が本を読んでいて、弁当を食べ終わった俺は無意識に話しかけていた。 「長門、その本は面白いのか?」 「ユニーク。」 まさにいつもの会話だと思う。ここまでは。 なにせ前にも同じような会話をした記憶があるしな。しかし何も考えていない今日の俺は一味違う。 「たまには違ったジャンルの本でも読んでみたらどうだ?」 「……?」 長門は数ミリ首を傾げて、何を言ってるのか分からない、というような表情を俺に仕向けてきた。 俺は少し考えて言った。 「恋愛物の小説でも読んでみたらどうだ? 人間の『恋愛をする』って感情がわかるかもしれないぞ?」 「そう。」 「それに恋愛小説ってのは曖昧な感情を意外と的確な表現で表してくるからな。情報の伝達に齟齬が発生しにくくなるぞ。」 「そう。」 言葉だけだと流されているように感じるが、長門は俺から目を離さない。意外と興味があるようだ。 さて、俺の手元には昨日買ったばかりの新刊の恋愛小説がある。今話題の小説で、なかなかのヒット作だ。少し読んだが、なかなかの面白さだった。今日明日中には読み終わるだろう。 もちろん、昨日恋愛小説を読んだから、長門にも恋愛小説というものを進めたのである。 ならば俺は読みかけのこの本を貸すべきなのか。読み終わってから貸せば良いのか。いっそのことあげて、新しいのをもう一度買おうか。 「長門は今読み終わってない本をどのくらい持ってるんだ?」 今長門が読んでいる分厚い本を軽く持ち上げた。 「それだけか?」 「そう。」 そうか。見ると、いつのまにか閉じられた分厚い本の終盤にしおりがあった。もう読み終わりそうなのか。 「じゃあ、それ終わったらこの本を読んでみてくれ。長門に合うかはわからないが、中々の面白さだったぞ?」 「そう。」 長門は俺にしか分からない程度に嬉しそうな表情をした。長門の嬉しそうな顔を久しぶりに見た俺も少し嬉しくなって、 「じゃあその本はやるから。俺はもう行くぞ。じゃあまたな。」 と言って退室しようとした。 「ありがとう。」 そう長門が言ったのを俺は聞き逃さなかった。俺は長門が感情を表現する方法を身に付けてくれればいいな、なんて思っていた。 教室に戻った俺は谷口と国木田がいないとハルヒしか話す相手がいないことに友達の少なさを実感してふて寝した。 起きるといつも通り放課後。部室に向かい、長門が薄い文庫本を読んでる以外には何ら変わりのない活動をし、帰宅した。 そして学校の帰りに俺は本屋で同じのをもう一冊買って、家に帰って読んだ。 その恋愛小説の内容はこんな感じだった。 中学生の男女の恋の話。ある女が仲の良い男と良く一緒にいるので、クラスで「付き合ってるんだろ」とか「お前ら夫婦なんだろ」とかよくバカにされていた。 実際当事者は男女とも恋愛感情はなかった。子供の頃から一緒に遊んできただけにお互いを異性として見たことがなかったからだ。 クラスのみんながバカにしなくなったころ、女と男はやや会話が減ってお互いに違う異性と話すようになってきた。 そしてお互いに、いつも一緒にいる人がいない違和感に悩まされるようになっていく。 そして、女が、男が異性と話しているのを見て、何でそこで話しているのが自分じゃないのだろうと嫉妬し、いつにも増して男と一緒にいるようになる。 その頃には女はその嫉妬が恋であることを自覚している。しかし純情な感情がそれを表にだせない。 人に相談できない女は1人で考え、押したり引いたり色々な手段を使う。 鈍感な男を振り向かせるためにずっと一緒にいる女の不器用なアプローチで男を振り向かせるまでの物語である。 最後に男が、『そんな不器用なお前の事を好きになったんだ』と言って終わるハッピーエンドのラブストーリーだ。 物語自体は普遍的なのだが、この作品は状況や感情の描写が非常におもしろい。ユニークかつ的確な表現をしている。 そういった作品の雰囲気がヒットしている理由だろう。 読み終わって満足した俺はすぐに寝てしまった。 翌日学校へ行くと、谷口と国木田がいた。 「なんだ? キョンは俺たちがいなくて寂しかったのか?そうか、お前も可愛いところあるじゃねーか。」 「何を言っての谷口。キョンには涼宮さんがいるから寂しくなんてないはずだよ。」 こいつら……。無視して席に着こう。 「よう、ハルヒ。」 「ふん!」 何を不機嫌なんだコイツは。 「聞いたわよ! あんた有希にプレゼントあげたそうじゃない。」 プレゼント? そんなのあげたか? それに何故、お前が不機嫌になるんだ? 「有希、昨日嬉しそうに本を読んでたじゃない。帰りに聞いてみたらあんたにもらったって言ってたわよ。」 「ああ、小説な。あいつにはもう少し感情豊かな人間になってほしかったんだ。お前にもやるよ。」 そういって俺は昨日読み終わったばかりの小説をハルヒにあげた。 「なんであんた同じの持ってるの?」 「いや、その場のノリであげちまったから後で読みたくなってな。帰りに同じの買って帰ったんだ。」 「バッカじゃないの?」 「いいから読んでみろって。 ハルヒもそんな恋愛してみたらどうなんだ?」 「うっさい! バカ!」 そういって俺から本をひったくる姿には不機嫌さは幾分か減少していた。 どうやらハルヒは授業中にずっと本を読んでいたらしく、珍しく平穏な一日だったと思う。 授業が全て終わり、さて部室に行くか、を鞄を持ったらハルヒはまだ本を読んでいた。 「ハルヒ、行かないのか?」 「もう少しで終わるから先行ってて!」 なるほど確かにあと少しだ。それに、なんだかんだでハルヒも気に入ってくれたみたいだ。長門はどうなんだろう。あいつの事だから読み終わってないことはないだろうが、気に入ってくれたかは微妙だと我ながら思う。 考えながら歩くといつもより早く部室に着いた気がした。ノックをして、エンジェルボイスを聞いて中に入り、お茶をもらう。 いつも通りな気もするが、何か違う。 朝比奈さんが、長門の席で小説を読んでいて、長門が俺の隣に座っている。古泉はいない。 「キョンくん、この小説わたしも借りていいですか?」 朝比奈さんがメイド服のまま違和感なく小説を読んでいて、ふとこちらを見上げて言った。 「それは長門にあげたんで、長門に聞いてください。」 「じゃあ長門さんはかしてくれるって言ってたので借りますね~」 朝比奈さんは本を呼んでいても似合うんだななんて考えていると珍しく古泉とハルヒが一緒に来た。 「ではこの本はお借りいたします。ありがとうございます、涼宮さん」 なぜ古泉までその本を! まあハルヒであることはわかっていたのだが。こんなにも凄まじい勢いでSOS団に小説が浸透していくとは、さすが文芸部室を根城にするだけはある。もちろん関係はないが。 古泉は朝比奈さんが同じ本を読んでいる事に気付き、談笑している。 ハルヒは俺と、俺の隣に座っている長門を見て不機嫌そうな表情を見せ、 「ああ、有希も読んだのよね」 なんて言って俺を長門で挟むように反対側に座ってきた。 申し合わせたように長門も軽く不機嫌そうな表情をみせる。 「おやおや、では僕と朝比奈さんは家に帰って団長オススメの本を読むのでこれで失礼します。」 「じゃあキョンくん、がんばってください」 古泉と朝比奈さんは笑顔で逃げるように去っていった。 「じゃあ3人じゃあ何もできないから解散するか。」 俺の発言に対して長門がすぐさま 「帰るのは私1人。あなたがたはまだいるといい。」 と言い放った。ハルヒが一瞬うれしそうにしたあと、 「いいえ、あたしが帰るわ! ゆっくりしてってちょうだい」 なんて言うもんで、俺はそんなに嫌われてるのか、とショックを受けつつ3人で帰る事を提案した。 そうして三人は無言の気まずい雰囲気のまま帰路に着いた。あんなに俺といることを拒絶してた2人は何故か俺に近かった。距離が。 夜になり、寝ようと思った頃に古泉から電話がきた。 「もしもし」 「何の用だ?」 「いえ、お伺いしたいことがございまして。」 「俺は眠いんだ、急ぎじゃなければ明日にしろ。」 「おや、そうですか。今日の涼宮さんと長門さんの様子についてですが、たいして急ぐわけではないので…」 「説明しろ。今すぐだ。」 俺は起き上がり、真面目に聞く体勢を整えた。今日のハルヒと長門がいつもと違って見えたのは俺だけじゃなかったのか。 「率直に聞きます。今日はお二方ともあなたに対しての態度が変動的じゃあありませんでしたか?」 「そうだ。俺を拒絶したかと思えば帰りによりそってきたり、よくわからん。」 「なるほど。僕が思うに彼女たちは小説の女性のようにあなたにアプローチをしかけてきているのですよ。」 「意味を理解しかねる。」 「僕と朝比奈さんが帰る直前にあなたと長門さんと涼宮さんがならんで座ったときに、お二方が不機嫌になったのはご存知で?」 「確証はないがそう感じはした。」 「そこで、あの小説の女性のように嫉妬による恋をお二方は確信したのですよ。それで小説の女性のようなアプローチをしかけたと。」 「なるほど、経緯はわかったが、理解しがたい話だな。」 「信じる信じないはあなたの自由です。」 古泉によると、本を読んですぐピンときたらしい。そして朝比奈さんに連絡を取ったところ、同じような感想をもらったと。 朝比奈さんに夜中に電話をかけるなんて、あの可愛らしいエンジェルフェイスに肌荒れができてたら古泉のせいだ。夜更かしは美容によくないからな。 翌日のハルヒは学校に着いてからSOS団のアジトへ行くまで俺から離れようとしなかった。不機嫌でも上機嫌でもなく、ただたんたんと俺の近くに。 昼も今日に限って弁当だったハルヒは俺を連れてここ、文芸部室で一緒に食べた。もちろんデフォルトで文芸部室にいる長門もいて、一緒に。 放課後である今までずっと俺にくっついているハルヒはなるほど、確かにあの小説の女性のようであった。性格は違うがアプローチの仕方がにていたのだ。 長門に至っては放課後になってからというもの殆ど会話のないまま俺から離れようとしない。 朝比奈さんと古泉が笑っている。なんだろう美女2人に囲まれているのにこの敗北感は。 「美女が2人もあなたに小説のように恋をするなんて、あなたが羨ましいですよ。」 俺は朝比奈さんと2人で話しているお前のほうが羨ましい。というかそんな事この場で言うな! ハルヒと長門にも聞こえてるぞ! 「SOS団で小説のような恋と昼ドラのような修羅場が見れる予感がするわ!」 ハルヒは物騒なことを言うな! 「そう。」 肯定するな! 「ほえぇ~」 朝比奈さん、それはどんな感情なんでしょう? 「ところで、あなたに恋心を気付いてもらうために小説の女性のような振る舞いを見せているお二方ですが、もう本人も気付いていると思いますのでどっちをとるか選ばせてみてはどうでしょう?」 古泉は俺を殺す気だ。ならばやられる前に殺してしまおう。 「ほえぇ~」 このままじゃあ危険な流れだ。 「俺は良く恋愛感情なんてものは理解できないから選べと言われても選べないぞ。それでも選べなんて横暴なことをいうやつは俺は好きにはなれないだろうな。」 「……。」 「うぐっ」 長門とハルヒが言いあぐんだ。これで俺にうかつに手を出せまい。実際俺に選ぶことなんてできない。恋愛感情ってものがよくわかってないからな。 「有希、ちょっといい?」 「いい。」 長門を連れてハルヒは部室から出てった。俺はチャンスとばかりに古泉に文句言ってやった。 「それは申し訳ありませんでした。それでもいずれあなたは選ばなければならないのですよ?」 「うるさい。そのときになったら選ぶ。」 「ですからそのときを作ってあげたじゃないですか。このままではあなたは近い将来に選ばなければならないときに同じ事をしてしまいますよ?」 「今の俺には恋愛感情なんてもんはよくわかってないんだ。恋愛なんて俺の好きにさせてくれ!」 「そうですか、ではそうしましょう。」 帰りはハルヒが古泉を誘って二人で帰った。捨てゼリフの様に明日の探索は中止、と言ってきた。 俺は長門に誘われて長門と二人で帰った。俺は明日が土曜日なのを今知った。それほどてんぱっていたのだろう。 朝比奈さんは少し寂しそうに1人で帰った。後姿はさらに寂しそうだった。 そして夜に携帯がなる。 「待ってたぞ、古泉。」 「おや、待っていてくれるとは光栄です。」 「今日の帰りの現象はなんだ?」 「おそらく、ですが僕の予想では涼宮さんと長門さんは『押し』と『引き』を決めているようです。」 「よくわからん。俺にわかるように話せ。」 「涼宮さんは、僕といることによってあなたに寂しさを覚えさせようと考えた。これは涼宮さんらしい、あなたが涼宮さんの事が好きという自信がないとできない行動ですね。」 「多少は理解した。長門は?」 「ですから『押す』という言葉の通りにあなたと出来る限り近くに居て…、いえ、というよりは長門さんは涼宮さんに『押し』と『引き』を提案されたときにあなたと一緒に居たかったから『押し』を選んだのでしょう。」 「よくわからんがわかったことにしておく。ところで俺は明日長門に誘われたんだがお前はハルヒといるってことか?」 「ご名答です。涼宮さんには『嫉妬させるようにうれしそうに伝えといて』と言われたのですが、その通りにするとあなたは暴走するか、嫉妬しないで僕たちを祝福してしますと考えたのでこのような伝え方をしました。」 「わかったよ。そういえばお前は俺とハルヒをくっつけたいんだったな。」 「その通りです。ですから暴走も祝福もしないでほしかったので説明したまでです。」 「まあムダに俺のためとか言われるよりもよっぽど信用はできるがな。」 「ありがとうございます。」 そうして夜は更けていく。 昨日早く寝たせいか、長門と約束した時間が早かったのか今日は早く目が覚めた。妹が起こしに来たときにはすでに外出できる準備が整っていた。 「キョンくんでかけるの? 連れてって~!」 そうだな、俺はお出かけだ。ふと妹も連れて行ったら長門も無茶しないんじゃないかとも考えた。が、長門だ。何をするかはわからん。 俺は妹が可愛いから心を鬼にして置いていくんだ、と心の中で言い、妹を無視して長門の家に向かった。 昨日長門に言われた通りに何も持たず自転車で向かう。見慣れた景色がやけに色あせて見える。 ハルヒと長門が全面戦争したらこのあたりは焼け野原になるんだろうな、何て妄想しながら周囲の景色を脳裏に焼き付ける。 あの2人の兵器が争わないためにはどうしたらいいんだろう。俺はどうしたいんだろう。俺はきっと現状維持したいんだな。 俺が望む現状維持に持っていくためにはどうしたらいいのか考えながら自転車をこぐとすぐに長門のマンションに着いた。 考えてる時間というのは、楽しい時間と同じくらいの速さで過ぎていく。 脳内会議での結論がでないまま長門の部屋にたどり着いてしまった。 「俺だ。」 「…。」 ガチャ。 「よう、待ったか?」 「いい。」 その後無言で通された俺はリビングのコタツに入った。 「あなたは早起きしたから今日は睡眠不足のはず。私の膝の上で寝るといい。」 長門よ、もしかしてそのために今日早い時間に指定したのか? 「俺は昨日早く寝たからそんなに眠くないんだ、すまんな。」 ふう、長門は頭がいいからどんなトラップをかけてくるかわからない。 ただ、俺がトラップにかかりハルヒに知られると修羅場になることは間違いなさそうだ。 「なら私が寝る。膝を貸して。」 ちょっと待て! と言いたいが、それくらいならイイだろうと思って貸してやる事にする。 「わかった。ゆっくり休んでくれ。」 長門が寝ている間にいろいろとゆっくり考えよう。 これからどうしようか。長門が起きたら図書館に連れて行くか。とりあえずそれで今日は何とかなるはずだ。 明日以降ハルヒにはどう接しよう。ハルヒにはいつも通りでいいか。何も気にしないでハルヒが小説の事を忘れるまで待とう。 ハルヒと長門がぶつからないために朝比奈さんを選んだらどうなるだろう。いや、共同戦線を張られたら人類が滅亡する恐れもある。 長門はもしかしたらこの状況を楽しんでるだけじゃあないのか? そんな事を考えていると長門にしては珍しく寝息を立て始めた。長門が寝ている所を見るのは初めてかもしれない。 考え事をしている時間は恐ろしいほど早くながれ、時間に余裕がある今は楽観的な事しか考え付かないものだ。 俺が考えていた今後の事はきっと実際は役には立たないだろう。 それにしても、寝ている長門も可愛いな。頭を撫でてやろう。起こさないようにな。 俺は長門を起こさないように最新の注意を払いながら頭を撫でた。 どれくらいの時間がたったのだろう。俺の脚は感覚が無くなるくらい限界を迎えていた。 長門を起こすのは忍びないので、俺は起こさないように慎重に近くの座布団の上に長門の頭を乗せた。 「ふぅ。」 ため息をついてから足を伸ばし、横になった。長門はスヤスヤ寝てるんだろうな、と思っていると俺も眠くなってきた。あれだけ寝たのにな。 寝ても長門の家だし、長門にはあまり迷惑をかけないだろう。それに長門自身寝てたし、俺ももう寝よう。おやすみ… 「おきなさい!!!」 誰だよ、眠いな。もう少し寝かせてくれ。 「起 き ろ !! バ カ キ ョ ン !!!」 え!?? ハルヒ?? また夢か? あれ、起き上がれない。仕方ないので目だけ開けて様子を伺う事にする。 そこには何故か俺に添い寝した長門、その上には怒り心頭に顔が真っ赤の鬼、ハルヒ。そういや奥の方で困った顔でにやけてる古泉がいたな。 「長門、起きろ。朝だぞ。」 「朝じゃないわよ! 夕方よ!!あんたたち昼間から何してたのよ!」 「もう夕方か。何してたんだっけな。長門、夕方だ。起きろ。」 長門はコタツの中でモゾモゾ動き、眠そうに言った。 「朝してたように、頭を撫でてくれたら起きる。」 しょうがないな。少しずつ頭が覚醒してきたのを感じ、長門の頭を撫でてやる。 「あんた達朝から何やってたのよ!」 「ちょっと待ってくれハルヒ。今起きたばかりなんだ。少し落ち着く時間をくれ。頭が覚醒してない。」 長門の頭を撫でながら古泉にお茶をいれてくれ、と頼んでお茶の到着を待った。 「ところでハルヒ、何でここにいるんだ?」 「有希と昨日、この時間に報告会をする約束したのよ!」 じゃあ何で古泉がいるんだ?とは聞かないし聞けない。 「そう。」 長門よ、起きたなら起き上がってくれ。もう手がしびれた。 「そう。」 お茶を入れた古泉がテーブルに並べると、ハルヒはコタツを挟んで俺の正面に座り、俺の右に古泉が着席した。 長門は今度は再び俺の膝の上に頭を乗せている。俺は無意識に頭を撫でている。 「朝比奈さんはどうしたんだ?」 古泉によると、声をかけてすらいないらしい。1人寂しくお留守番か。最近の朝比奈さんは影が薄いな。 「で、俺は何に答えればいいんだ?」 「だから、朝から、何していたのか、よ!」 そんなにどなんないでくれ、と言った後俺は今日の出来事を事細かに説明した。 長門は相変わらず膝の上に居て、しかも一言も発していない。 「あっそう。有希と2人でイチャイチャくっついてたんだ。」 「じゃあ一応聞いておくが、お前は古泉と2人で何をしてたんだ?」 古泉はそんな俺の言葉に満足したのか、安堵したようなニヤケ面をし始めた。 ハルヒは待ってましたとばかりに『フンっ』と鼻を鳴らし、 「あんたには関係ないでしょ? 気になるなら教えてあげてもいいけど?」 と言った。正直想定の範囲内なのであまり気にならなかったが古泉の嘆願するような顔に負けた。 「じゃあ気になるから言ってくれ」 そういうとハルヒは今日の出来事と思われる事を1人でずっと説明してた。古泉は苦笑い。 俺は長門の頭を撫でてハルヒの発言を右から左に流してた。頭を撫でるたびに見せる長門の表情が可愛い。 ハルヒの話が終わる頃には俺は長門の頬を軽く引っ張ったり撫でて遊んでいた。長門は嫌そうな顔をせず、というかほぼ無表情なのにどこと無く嬉しそうな顔でいた。 そして完全にハルヒが話を終えたときにようやく俺は口を開いた。 「そうか、そんな事があったのか。」 正直、まったく聞いてなかった。長門が可愛くて見とれていた。 「ちょっとキョン! 何で嫉妬とかしないの?」 「俺は普段どおりのSOS団が好きなんだ。みんながバカやって、仲良くやって、楽しくやっていきたいんだ。ハルヒと古泉が仲良くなってなんで嫉妬するんだ?」 ハルヒの怒りのボルテージが上がるのがわかる。 「ついでに言えば、俺は今は恋人を作る気はまったくない。恋人を作ってSOS団の楽しいひと時を壊したくないからな。 今回の騒動で朝比奈さんは今日は一人ぼっちで寂しい思いをしてるかも知れない。俺はSOS団のみんなで仲良く遊びたいんだ。」 「あなたの口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたよ。前に涼宮さんに、SOS団なんか辞めて普通に恋人作れと言った人の発言とは思えません。」 古泉よ、お前はあくまでハルヒの味方なのか。 「ハルヒだって恋愛は一種の精神病と言ってたしな。人の考えは変わるのもだ。変な言い方かも知れないが、俺の恋人はSOS団だ。そして団員全員だ。」 そういって長門に起きるように促し、俺がいかにSOS団にいることが楽しく思っているかを熱弁した。 ハルヒは納得したようなさせられたような表情をして、古泉はニヤケたまま、長門は俺によりかかって幸せそうにしていた。 「わかったわ! 今回はおとなしく引き下がるわ! 明日からはたっぷりこき使ってあげるから覚悟しなさい!!」 ハルヒは笑顔でそういい、その代わりにSOS団に飽きたら付き合いなさいと言って来た。そこを俺は無視して 「じゃあ明日からは今まで通りに戻ってくれよ」と。 でも長門はハルヒの言葉に反応してとんでもないことを言った。 「あなたが彼と付き合うことを確約するのなら私は今夜彼を帰さない。」 やめてくれ、争いは。俺は確約はしない旨を必死で長門に説得し、また不機嫌に戻っているハルヒにSOS団将来的にはお前が恋人かもな、とごまかすとすぐに笑顔になってくれた。 ハルヒは結局満足して古泉を連れて帰っていった。 俺は長門の家に一泊した。長門は寝るまで膝に頭を乗せて本を読んでいた。起きたらまた抱きついていた。変なことは決してしていない。 ハルヒにはあんなことを言ったけど、膝枕してるときの長門の表情見たら長門以外考えられないんだろうな、なんて考えてた。 そうして考える時間に余裕ができた俺はハルヒが小説の事を忘れていることを祈り、俺に対して恋愛感情以外のものを抱いて欲しいと思いながらとりあえず長門といる今を満喫している。