約 24,300 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4538.html
『長門有希の三日間』 一日目 世の中はゴールデンウィークだ、6連休だ、8連休だとか言って浮かれているようだが、俺たち高校生には関係ない。暦通りに学校に行って、暦通りに休みになるだけだ。大学生にでもなれば、休みと休みの間も教授が休講にしてくれるのかもしれないが、残念ながら北高にはそんな気の利く教師はいない。 一応愚痴ってみたが、今日からはやっと連休だ。ところがだ、朝から北口駅前の喫茶店で爪楊枝のくじ引きを引いているのはなぜだろう。 「ほら、さっさと引きなさい」 そう、不思議探索だ。明日からハルヒは家族と出かけるので、今日中に不思議を見つけ出さないといけないらしい。ということでSOS団の5人が集まっているというわけだ。 「印なしだな」 先に引いた朝比奈さんと古泉は印ありで、3番目の俺が印なしだった。ということは、残り2本は印ありとなしが1本ずつだから、俺は、ハルヒか長門のどちらかとペアになるってことだ。 妙にテンションの高い今日のハルヒとペアになるのは避けた方がよさそうだ、という想いが勝負の神様に通じたのか、俺の次に引いた長門は印なしだった。 喫茶店を出て探索に出発しようとしていると、おもいっきりアヒル口になったハルヒが、 「有希と二人だからって図書館でサボってるんじゃないわよ」 とか言ってるが、軽く聞き流していつもの図書館へ直行するつもりだ。長門だってそれで問題ないはずだ。 「そうだろ、長門?」 「そう。でもその前に少し話がある。聞いて欲しい」 「何か問題なのか?」 「私自身の問題」 そういうと長門はすたすたと先に行ってしまった。 図書館の中で話し込むことはできないので、近くの公園のベンチに座っている。長門自身の問題ということなので、俺は長門から話を切り出すまで待つことにした。 雲ひとつない五月晴れ、今日は晴れの特異日だったっけ? などと考えながら空を見上げていると、長門が話し始めた。 「以前、情報統合思念体により、エラー処理のための各種処理機能が用意されつつあることを説明した」 「そんなことあったかなぁ?」 「新学期直前の不思議探索の時」 おぉ、あの時か。あの後、妙なことを口走る長門に、少しは自重しろ、と説教したことを思い出した。 「昨日、新たなエラー処理機能が用意された」 長門はいつもよりゆっくりと話し始めた。 「私のようなインターフェース端末にとって、この世界で暮らして行くうちに発生する大量のエラーをどのように処理して行くかが問題となっている。朝倉涼子やこの前の私のように、エラーを処理しきれずに異常動作を起こす事態も発生した」 そうだ、その度に俺はひどい目に遭っている。 「そこで、情報統合思念体は積極的にエラー処理に取り組むこととし、わたし用に調整した新しい処理機能が用意され、昨日19時より3日間の予定でテストを開始した」 「ほう、それでその機能はどんなものなんだ?」 「今までは、発生したエラーは隔離、凍結するしかなかった。新しい機能はエラーを解析、処理した上で内部に取り込み、それによりさらにエラー処理能力を上げようとするもの」 やっぱりよくわからん。 「……具体的には、お前はどうなるんだ?」 「端的に言うなら、人間における感情というものを持つことになる」 ベンチから立ち上がった長門は、青空を見上げている。 「新機能のテストのために、故意に大量のエラーを発生させる必要が生じた。私一人では何もできない」 振り返った長門は、ベンチに座っている俺を見つめて、 「もしよかったら、私と3日間つきあって欲しい」 と言って、ぴょこんとお辞儀をした。 「お願いします」 あの長門が「要望する」ではなくて「お願いします」と言ってお辞儀したのを見て、俺はやっと事態が把握できた。情報統合思念体は、なにやら新しい機能を用意して長門を普通の高校生にしようとしているらしい。ということは、ここをうまく乗り切れば、長門はより人間らしくなれると言うことだ。 当然俺は長門に協力する、協力しないでどうする。何でもつきあってやる。 「わかった。わかったから、頭を上げろ」 スッと頭を上げてあらためて俺を見つめた長門は、ぎこちなく微笑んだ。表情作成の機能は、まだ不十分な様子だな。 「ちょうど連休だし、特に用はないし、付き合うよ。なんでも言ってくれ」 俺は立ち上がって長門の隣に立った。 「とりあえずこのことは、俺以外の連中には話さない方がよさそうだ」 「同意する」 「まぁ今日一日、他の連中と一緒の間だけは、今まで通りの無表情にしておくことだ。笑い方の練習は家に帰ってからやってくれ」 「了解した」 「話し方もだ」 「努力しま……する……します」 落ち着け、長門。 その後は、予定通り図書館へ行った。俺が少しばかり睡眠不足を補っている間に、長門は明日出かけるところを探すために、情報誌コーナーに行っていたようだ。目が覚めると、「明日はここに行きたい」と言って、水族館と観覧車のある海辺のスポットの記事を見せてくれた。 「じゃあ、10時に北口駅前でいいか」 長門は誰が見てもはっきりわかるぐらいの大きさで頷いた。 午後の探索は、俺と長門と朝比奈さん組とハルヒと古泉組に分かれた。朝のアヒル口を越えてペリカン口になったハルヒが何かぶつぶつ言っているのを横目に、 「これ以上涼宮さんの機嫌を損ねないように努力しますよ……」 と古泉がハリのないニヤけ顔で言っていたので、 「なんか知らんが、よろしく頼む」 とだけ言っておいた。 「どこに行きましょうか」 と朝比奈さん。あなた方お二人と一緒ならどこでもいいですよ、などと両手に花の気分を満喫していると、長門が答えた。 「買い物に行きたい」 「えっ?」 「服を買いたいので、お店を教えて欲しい」 「え、えぇ、この近くのお店でよければ……」 「いい」 朝比奈さんは、急に長門がこんなことを言い出したので、不思議そうな表情をしているが、俺には理由がわかっている。明日着る服が欲しいわけだ。 「長門さんに似合う服なら、あっちの店かなぁ」 朝比奈さんはあごに手を当てて、うーん、と考えている様子だ。俺はちょっと気になって長門にそっと尋ねてみた。 「お金大丈夫なのか?」 「大丈夫。情報統合思念体より支給されている。本当はカード払いの方が情報操作は容易だが、私の容姿でカードを使うのは怪しまれるから」 では、その現金はどこから、という疑念が消えたわけではないが、これ以上は何も言わないでおこう。 「3つほど隣の駅なんですが、電車で移動してもいいですか?」 「集合時間に間に合わすには、駆け足の買い物になるけど、長門、いいか?」 「いい」 「じゃあ行きましょうか」 俺たちが降り立った駅の周りには小洒落た店が多く、連休ともあってどこもにぎわっている。朝比奈さんの案内で何軒かブティックや雑貨屋をまわったが、どこも長門に似合いそうな服を置いている店ばかりだ。朝比奈さんはちょくちょく買い物に来ているのだろう、結構この辺りには詳しいようだ。 最初のうちは朝比奈さんの言いなりだった長門も、二、三軒目になると、自分から気に入った服を見つけてきては、鏡の前で悩むようになってきた。今も二着ほど持って試着室に入っている。 「どう?」 試着室から出てきた長門は、俺と朝比奈さんに向かって尋ねてきた。 「さっきの方がかわいかったみたい」 「俺は、こっちの方がいいな」 「では、これにする」 と言うとあっという間に試着室に引っ込んだ。 「あれ、いま長門さん、笑っていたような……」 「き、気のせいではないですか、あの長門ですよ」 「うーん、そうかなぁ、おかしいなぁ」 どうやら、一瞬長門がニコっとしたところが目に入ったらしい。朝比奈さんは何か腑に落ちない様子で首を傾げていたが、やがて無理やり見なかったことにしたようだ。 「それにしても、長門さん、たくさん買いましたね」 「結局、4着ぐらい買ったみたいですね」 これで長門の部屋の、あの殺風景なクローゼットの中にも少しは花が咲くってもんだ。 それにしても情報統合思念体は金持ちらしい。今度長門からよろしく伝えておいてもらおう。 帰りの電車に乗るときには、長門は5つの袋をぶら下げることになっていた。まぁ、そのうちの3つは俺が持っているわけだが。ふと気がつくと朝比奈さんも1つ袋をぶら下げているし。いつの間に買ったんだろう? ひとまず北口駅のロッカーに買ったものを入れておき、俺たちは集合場所へと急いだ。ハルヒと古泉がすでに待っていた。 「キョン、なにか不思議は見つかった?」 「特になにもなかったな」 「ふん、仕方ないわね。じゃ、今日は解散。体に気をつけて連休明けに会いましょう!」 ハルヒが威勢よく高らかに宣言して、今日はお開きとなった。ご機嫌に去っていくハルヒの後姿を、その機嫌取りで苦労したらしい古泉が疲れた表情で見送っている。 「僕も帰ります。素直に神人と戦っていた方が楽だったかもしれません……」 「お疲れ、古泉」 「では、失礼します」 そういうと古泉も重い足取りで帰っていった。 残った俺たちが駅のロッカーから荷物を出していると、朝比奈さんがそっと俺に話しかけてきた。 「今日の不思議探索の中では、長門さんの行動が一番不思議でした……」 「ははは、初めて不思議が見つかったんじゃないですか?」 「ふふ、そうですね」 朝比奈さんは軽く会釈して、 「じゃあ、私も帰ります。お疲れ様でした」 「「お疲れさま」」 タイミングよくハモってしまった俺と長門は思わず顔を見合わせてお互いに肩をすくめてしまった。 その後俺は、今度は買い物袋を4つぶら下げながら、長門をマンションの下まで送って行った。 「じゃあ、また明日な」 「また明日……」 もと来た道を帰りながら途中で振り返ると、長門はまだ手を振っていた。 二日目 今日もいい天気だ。日頃の行いがいいからだな。ご機嫌に自転車を飛ばして、北口駅前に到着した俺は、少し離れたところにある駐輪場にマイチャリを置いて、駅前広場へと急いだ。広場の時計がちょうど10時を指した時に待ち合わせ場所の長門の姿を見つけて、俺は小走りで近づいた。 「すまんすまん」 俺に気づいた長門は、おもむろに左手を腰に当て、右手で俺を指差して、 「遅い! 罰金!!」 と言い放った。 「…………。長門ぉ、お前までそれを言うか……」 「一度、言ってみたかった」 長門は少し微笑みながら、立ち尽くす俺の隣にやってきた。 「夕べは笑顔の練習をした。どう?」 「昨日より、かなりましになったな」 「ありがとう。でも、言葉遣いはまだ練習が不十分。従来の話し方が混じってしまうかもしれないけど許して欲しい」 「いいよ、気にするな。いきなり朝比奈さんのように話されたら、かえって戸惑うし」 「了解」 今日の長門は、七部袖のカラーボーダーのチュニックにスリムなジーンズという、昨日試着室から出てきた時の格好だ。俺が選択しただけあってよく似合っている。 「じゃ、行くか」 「うん」 長門は俺の左手に巻きついてきた。違和感ありありだな。気分はいいけど。 少しばかり電車を乗り継いで、長門が行きたいと言っていたウォータフロントの水族館に到着した。カップルや家族連れでいっぱいの広場を抜けて、入場券を買う列に並んでいると、 「ここは私が払う」 と長門が言い出した。 「私が行きたいと言ったから。そのかわりお昼はあなたの奢り」 まぁ、いいか、そういう割り勘も。少なくとも統合思念体は俺より金持ちだし。 この水族館は、長いエスカレータを上って、建物の中をぐるぐる回りながら降りてくる構造だ。中央にはでっかい水槽があって、外側にはテーマごとの展示や水槽が並んでいる。順路にしたがって降りて行くうちに、さっきまで水面に顔を出していたイルカが水中をすごい勢いで泳いでいるところが見られたりして、なかなか楽しい。 ふと隣を見ると、長門は、水槽の中で静止しているイルカと見つめ合っている。そのイルカが泳ぎ去ったので、俺は長門に尋ねてみた。 「あのイルカ、何か言ってたのか?」 「『ここでの暮らしに不満はないが、できれば広い海でもっと自由に泳ぎたい』と言っている」 「本当か?」 「私にはそう感じる」 長門は青くきらめく水槽をじっと見つめたまま答えた。 やがて一面に大水槽が広がる場所にやってきた。 「わぁ……」 水槽に駆け寄る小さい後姿の向こうから大きな海の中の景色が飛び込んできた。 ゆったり泳ぐ大きなジンベエザメと羽ばたく鳥のようなマンタ、高速に泳ぎ回るマグロやカンパチ、底の方には食べるとおいしそうな魚の姿もちらほらと目に付く。そんな水槽に張り付いて眺めている長門の隣に立って、あらためて全景を眺めてみた。飲み込まれそうだ。 「すごく癒される。海の中はまるで宇宙のよう、だから好き」 「そうだな」 暫くの間、俺と長門は無言のまま大水槽を見上げていた。 水族館を出るともう1時に近かった。いい具合に腹も減ってきた。 「何食いたい?」 「カレー」 「おいおい、またか?」 「うそ。何でもいい。あなたの奢りだし」 「じゃ、ファーストフードにするか」 「いじわる」 長門はちょっとすねたような顔をして笑っている。大丈夫、普通に奢ってやる、だからお前も普通に注文してくれよ。 どこにしようかと、水族館横のショッピングモールにあるレストラン街を少しばかり行ったり来たりして、結局、入った店は中華だった。ちょうどランチメニューがあったので俺の財布には優しかったことは公然の秘密だな。 昼飯の後は、モール内のお店を眺めてまわったり、ゲーセンでエアホッケーやって、長門にボッコボコに負けてしまったりしながら時間を過ごした。何かあるたびに長門はすごく楽しそうに笑うのだが、その笑顔の輝きがどんどん増していくようだった。 夕方近くになって、再びショッピングモールを散策しながら、俺は長門に話しかけた。 「何か欲しいものはないか? 記念にひとつプレゼント買おうか」 少し考え込む仕草をする長門。 「九つの指輪と七つの指輪と三つの指輪を統べる一つの指輪が欲しい」 む、そう来たか。 「……すまん、俺は『中つ国』も『滅びの山』もどこにあるかわからん」 と返して、横を歩く長門を見ると、クスッと笑いながら答えた。 「それは残念」 長門のことだから、本気になれば俺をファンタジーな異世界に送り込むぐらいのことはするかも知れないなどと考えながら、雑貨屋やらTシャツ屋などが並んだ通りを抜け、無事にアクセサリー屋の前にたどり着いた。 長門は、店の中に並べられたケースの中の沢山の指輪を一瞥すると、その中から一番シンプルそうなシルバーのやつを取り出した。 「これがいい」 「それが『一つの指輪』なのか?」 「私にとってはまさしく『一つの指輪』。でも大丈夫、熱しても文字が浮かび上がることはないし、はめても姿が消えることもない」 「ははは、それはよかった」 幸い値段的にも許容範囲だったので、俺はレジで支払いを済ませると、長門の右手を取って薬指にはめてやった。合わせもしなかったのにサイズもぴったりだ。 「ありがとう、うれしい」 そう言った長門は、右手の甲と手のひらを交互にひっくり返しながら、薬指の指輪を大切そうに見つめていた。 「最後はあれ」 長門は夕陽に浮ぶ大観覧車を指差した。 さすがにこの時間になると、列に並んでいるのはカップルばかりだ。そんな周囲に影響を受けたのか、観覧車に乗ると長門は俺の隣に座ってぴったりと寄り添ってきた。 「あんまりくっつくなよ」 「…………」 余計に俺の腕に巻きつく力が強くなった気がする。 俺たち2人を乗せたゴンドラがゆっくりと上っていく間も、長門はずっと俺の腕に巻きついたまま、何も言わずに景色を見ていた。頂上から見た、空と海を真っ赤に染めた夕焼けと、長門の横顔は最高だった。 「……長門」 「しばらく……」 「ん?」 「しばらくこのままでいたい」 俺にもたれかかりながら、小声で例の高速呪文を短くつぶやいた長門は、 「ひとつだけ、わがままさせてもらった」 と、ほんの少し口元を緩めながら話すと、そっと目を閉じた。 なんだろうといぶかしく思ったが、すぐにわかった。 ゴンドラが一回りして一番下まで戻ってきたが、乗り降りを担当する係員は何もしなかったので、俺たちが乗ったゴンドラは、そのまま二周目に突入した。 「……もう一周だけ」 「ま、いいか」 二周目は夜景だった。もちろんそれも最高だった。 三日目 今日の午前中はやることがある、と長門が言っていたので、お昼過ぎに北口駅前で待ち合わせることになっている。昨日の事があるので、ちょっと早めに集合場所に着いた俺は長門の到着を待った。 連休三日目の昼過ぎの駅前広場は、割と閑散としており、客待ちのタクシーも暇そうだ。 しばらくすると長門がやってきた。薄いグリーンをベースとしたロングのTシャツにベージュのキュロット、ライトグレーのパーカーを上着として羽織っている。昨日買った指輪が右手の薬指でわずかに自己主張しているようだ。 制服姿しか見たことのない連中にはすごく新鮮に映るはずだ。谷口もランクを1つ上げるのではないか、と考えたところで、俺の目の前にやってきた。 「少し遅れた。お昼は私が奢る」 「いーよ、昨日みたいに割り勘で」 「ありがとう」 「似合ってるな。一昨日買ったやつだな」 「そう……あなたの見立てがいいから」 「素材がいいんだよ」 長門は首をかしげて少し微笑んだ。すっかり笑顔も板についてきたな。ううむ、谷口よ、表情豊かな長門を見たら、2ランク以上アップすること間違いなしだ。 まずは、駅前の店で腹ごしらえした。 「今日はどこに行きたい?」 「少し買い物がしたい。この前は忙しかったし」 「そうだな、あの時はちょっと慌しかったよな」 朝比奈さんの案内で、怒涛の様にお店を回って、あっという間に5つの買い物袋をぶら下げることになった一昨日のことを思い出した。 「じゃ、行くか」 さっきの話通り、割り勘で払いを済ませて、2日前の道順を今日は長門と2人でたどることになった。 長門はあらかじめ行きたい店が決まっていたようで、賑わう通りの人ごみの間を軽い足取りですり抜けていく。 「おいおい、今日はゆっくり行くんじゃなかったのか」 「あ、ごめんなさい。つい……」 うれしそうに微笑んだ長門は、少し歩みを緩め、俺が隣に並ぶと手を繋いできた。ひんやりした小さな手を握り返しながら、小柄な有機アンドロイドの横顔を眺めていた。 「どうしたの?」 「いや、なんでもない」 「……?」 谷口ランクでAA以上に昇格したはずの長門は、周りのカップルの女性たちの多くよりも確実に輝いている。そんな長門と一緒に歩いていると、なんとなく周囲の視線を集めているような気がして、うれしいような、恥ずかしいような変な感じだ。 「ところで、今日は何を買いにきたんだ?」 「観葉植物」 「えっ?」 「リビングに置いてみようかな、って」 俺は、あのコタツ机オンリーのリビングルームを思い出した。 「確かにグリーンを置くのはいいことだが、その前にテレビとか、そうだな、お前なら本棚とかの方が先に必要じゃないの?」 「テレビはいらない。本棚は別の部屋にあるから」 別の部屋? そうか俺がまだ入ったことの無い部屋があったな。 すぐに長門が欲しがっていた観葉植物のある花屋に到着した。店に入ると、長門は躊躇することなく自分の肩ぐらいの背丈のある先端に細い葉っぱが広がっているやつを指差していた。 「欲しいのは、これ」 「ふーん、なんて言うんだ?」 「ポニーテール」 「なに?」 「ポニーテール。好き?」 いや、確かにポニーテールは好きですよ、萌えますよ。だが、観葉植物は守備範囲外だ。それにしてもこんな名前のやつがあったなんて、長門は俺の好みを知っててわざと言っているのだろうか。俺はふと、髪を伸ばしてポニーテールにまとめた長門の姿を思い浮かべて、心の中でニヤけてしまった。 それにしてもでっかい鉢に入っているのだが、どうやって持って帰るつもりだ? 「あとで送ってもらうことにする。それとも持ってくれる?」 「送ってもらえるならそうしてくれ」 長門はレジで伝票に送り先の住所を書いていた。そっと覗き込むと、コンピュータで打ち出したような活字的な文字が並んでいた。 買い物はこの観葉植物だけだった。一息つくために入った駅近くの喫茶店で、俺はコーヒーを飲みながら問いかけた。 「これからどうする?」 「いつもの図書館に行きたい」 テーブルの上のミルクティーのカップを覗き込みながら長門は答えた。 「もっと他のところでもいいぜ。図書館はこの前も行ったところだし」 「ううん、図書館でいい」 「そうか、ならいいんだが」 ということだったので、俺たちは北口に戻るといつもの図書館に向かった。 図書館に入ると、長門はどこからから分厚い本を探し出してきて、ソファーの椅子に座って読み始めた。俺は気安く読める文庫本を引っ張り出してきて、長門の隣に座った。 「ほんとにここでよかったのか?」 「この図書館は私にとって大切な場所だから……」 そう言う長門は少し遠くを見つめているようだった。 結局、閉館時間の午後6時前まで図書館にいた。その間は特に会話をするでもなく、ただ単に二人並んで読書に励んでいたわけだが、長門がときどき哀しそうな表情をしていたのが少し気になった。 図書館を出た俺たちは、暮れなずむ街の中を特にこれといった目的もなく歩いていた。少し疲れたのか、長門も俺も口数が少なくなってしまった。長門はもともと口数が少ないなんてものじゃなかったのだが、昨日と今日で、過去半年分ぐらいは話したかも知れない。 しばらくすると、長門は俺の方に振り向いた。 「そろそろ帰るから、近くまで送って欲しい」 「え、帰るのか」 「うん……」 もっと一緒にいたかった気がするのだが、さすがに三日間遊びすぎた。 午後7時近くになるとすっかり暗くなってしまった。俺たちは長門のマンション近くのおなじみの公園にさしかかった。葉桜になった桜の木の下を歩いていると、長門が立ち止まった。 「今回のテストはこのあと19時で終了する」 「そ、そうか」 「これから情報統合思念体によって、今回のテスト実施により得られたさまざまな情報に対する解析と検討が開始される。その結果、より高度化されたエラー処理機能が用意されるかも知れないが、それまではテスト開始前の状態が維持される」 ん、それはどういうことだ? 「つまり、今回のテスト終了に伴い、私の中の新型エラー処理機能は削除される。あわせてこの三日間に発生したエラー、およびその処理結果、関連する記憶も削除される」 「まて、三日間のエラー……記憶も消えるのか?」 俺の頭の中で、一昨日からの長門と一緒だった日々が蘇ってきた。最初はぎこちなかった長門だったが、今日になるとすごく自然で心の底からの笑顔を、戸惑いながらも感情あふれた表情を見せてくれたことを……。 「そう。元に戻った状態のまま今回のテスト期間中に発生したエラーと記憶を持ち続けると再び暴走するかも知れない、と統合思念体は危惧している」 「この三日間のことが消えてしまってもいいのか?」 暫くうつむいたままだった長門は、静かに話し始めた。 「私は……いや。あなたと一緒に過ごした三日間のことは忘れたくない。わずかの間だったけれど、一緒に見たこと、一緒に話したこと、一緒に感じたこと。私にとってはすべて大切なもの、失いたくないもの……」 顔を上げた長門の真剣なまなざしに俺は答えた。 「何とか方法はないのか?」 「……統合思念体によってエラー処理機能と記憶が削除される直前に、記憶だけをコピーして取り出すことができる。ただしそれは統合思念体には認められない行為。一種の反抗」 「構うもんか、やっちまえ。今までどれほどお前の親玉に貢献してきたんだ。今回だって体よく実験台にされているだけじゃないか!」 俺は長門の両肩をつかんで声を荒げた。 テストだ、実験だ? 成功してるじゃないか。今の長門は十分エラーとやらをコントロールしている。なぜ想い出まで奪った上で元に戻す必要がある? このままの長門で何が問題だ、くそっ! 視線を落とした長門は右手の薬指にはめている指輪をじっと見つめていた。 「…………三日間の出来事と想い出を、あなたにもらったこの指輪に封じ込める。そして私の代わりに保管しておいて欲しい」 「なぜだ?」 「私が持っていると、何かのはずみで暴走のきっかけになるかも知れないから」 そういうと長門はじっと俺の目を見つめた。 「いつか、エラーを克服することができるまで、持っていて欲しい」 俺は長門の華奢な体を包み込むように抱きしめたくなる衝動をなんとか抑えることができた。 「わかった。大切に預かっておく」 「時間が来た」 長門は俺の前から一歩下がると、右手からはずした指輪を両手で優しく包み込みながら、この三日間、いっぱい見せてくれた中でも一番の笑顔で俺を見上げた。 「三日間楽しかった、ありがとう」 何も言うことができない俺がじっと見つめる中、長門は目を閉じると高速呪文を唱え始めた。と、同時に白い頬を一筋の光が滑り落ちていく。 やがて長門は、両手の中から取り出した指輪を俺に渡すと、以前と同じ無表情に戻って、 「すべて終了した」 と一言だけ言うと、さっと振り返って歩き始めた。俺は、去りつつある小さい背中に声をかけた。 「もし、この指輪が必要な時がきたら、いつでも言ってくれ」 一瞬立ち止まった長門は、そのまま振り返ることなく歩き出した。その姿が公園の街灯の向こうに消えて行くまで、俺は手の中の『一つの指輪』を握り締めたまま見送った。 Fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4237.html
『長門有希の三日間』 一日目 世の中はゴールデンウィークだ、6連休だ、8連休だとか言って浮かれているようだが、俺たち高校生には関係ない。暦通りに学校に行って、暦通りに休みになるだけだ。大学生にでもなれば、休みと休みの間も教授が休講にしてくれるのかもしれないが、残念ながら北高にはそんな気の利く教師はいない。 一応愚痴ってみたが、今日からはやっと連休だ。ところがだ、朝から北口駅前の喫茶店で爪楊枝のくじ引きを引いているのはなぜだろう。 「ほら、さっさと引きなさい」 そう、不思議探索だ。明日からハルヒは家族と出かけるので、今日中に不思議を見つけ出さないといけないらしい。ということでSOS団の5人が集まっているというわけだ。 「印なしだな」 先に引いた朝比奈さんと古泉は印ありで、3番目の俺が印なしだった。ということは、残り2本は印ありとなしが1本ずつだから、俺は、ハルヒか長門のどちらかとペアになるってことだ。 妙にテンションの高い今日のハルヒとペアになるのは避けた方がよさそうだ、という想いが勝負の神様に通じたのか、俺の次に引いた長門は印なしだった。 喫茶店を出て探索に出発しようとしていると、おもいっきりアヒル口になったハルヒが、 「有希と二人だからって図書館でサボってるんじゃないわよ」 とか言ってるが、軽く聞き流していつもの図書館へ直行するつもりだ。長門だってそれで問題ないはずだ。 「そうだろ、長門?」 「そう。でもその前に少し話がある。聞いて欲しい」 「何か問題なのか?」 「私自身の問題」 そういうと長門はすたすたと先に行ってしまった。 図書館の中で話し込むことはできないので、近くの公園のベンチに座っている。長門自身の問題ということなので、俺は長門から話を切り出すまで待つことにした。 雲ひとつない五月晴れ、今日は晴れの特異日だったっけ? などと考えながら空を見上げていると、長門が話し始めた。 「以前、情報統合思念体により、エラー処理のための各種処理機能が用意されつつあることを説明した」 「そんなことあったかなぁ?」 「新学期直前の不思議探索の時」 おぉ、あの時か。あの後、妙なことを口走る長門に、少しは自重しろ、と説教したことを思い出した。 「昨日、新たなエラー処理機能が用意された」 長門はいつもよりゆっくりと話し始めた。 「私のようなインターフェース端末にとって、この世界で暮らして行くうちに発生する大量のエラーをどのように処理して行くかが問題となっている。朝倉涼子やこの前の私のように、エラーを処理しきれずに異常動作を起こす事態も発生した」 そうだ、その度に俺はひどい目に遭っている。 「そこで、情報統合思念体は積極的にエラー処理に取り組むこととし、わたし用に調整した新しい処理機能が用意され、昨日19時より3日間の予定でテストを開始した」 「ほう、それでその機能はどんなものなんだ?」 「今までは、発生したエラーは隔離、凍結するしかなかった。新しい機能はエラーを解析、処理した上で内部に取り込み、それによりさらにエラー処理能力を上げようとするもの」 やっぱりよくわからん。 「……具体的には、お前はどうなるんだ?」 「端的に言うなら、人間における感情というものを持つことになる」 ベンチから立ち上がった長門は、青空を見上げている。 「新機能のテストのために、故意に大量のエラーを発生させる必要が生じた。私一人では何もできない」 振り返った長門は、ベンチに座っている俺を見つめて、 「もしよかったら、私と3日間つきあって欲しい」 と言って、ぴょこんとお辞儀をした。 「お願いします」 あの長門が「要望する」ではなくて「お願いします」と言ってお辞儀したのを見て、俺はやっと事態が把握できた。情報統合思念体は、なにやら新しい機能を用意して長門を普通の高校生にしようとしているらしい。ということは、ここをうまく乗り切れば、長門はより人間らしくなれると言うことだ。 当然俺は長門に協力する、協力しないでどうする。何でもつきあってやる。 「わかった。わかったから、頭を上げろ」 スッと頭を上げてあらためて俺を見つめた長門は、ぎこちなく微笑んだ。表情作成の機能は、まだ不十分な様子だな。 「ちょうど連休だし、特に用はないし、付き合うよ。なんでも言ってくれ」 俺は立ち上がって長門の隣に立った。 「とりあえずこのことは、俺以外の連中には話さない方がよさそうだ」 「同意する」 「まぁ今日一日、他の連中と一緒の間だけは、今まで通りの無表情にしておくことだ。笑い方の練習は家に帰ってからやってくれ」 「了解した」 「話し方もだ」 「努力しま……する……します」 落ち着け、長門。 その後は、予定通り図書館へ行った。俺が少しばかり睡眠不足を補っている間に、長門は明日出かけるところを探すために、情報誌コーナーに行っていたようだ。目が覚めると、「明日はここに行きたい」と言って、水族館と観覧車のある海辺のスポットの記事を見せてくれた。 「じゃあ、10時に北口駅前でいいか」 長門は誰が見てもはっきりわかるぐらいの大きさで頷いた。 午後の探索は、俺と長門と朝比奈さん組とハルヒと古泉組に分かれた。朝のアヒル口を越えてペリカン口になったハルヒが何かぶつぶつ言っているのを横目に、 「これ以上涼宮さんの機嫌を損ねないように努力しますよ……」 と古泉がハリのないニヤけ顔で言っていたので、 「なんか知らんが、よろしく頼む」 とだけ言っておいた。 「どこに行きましょうか」 と朝比奈さん。あなた方お二人と一緒ならどこでもいいですよ、などと両手に花の気分を満喫していると、長門が答えた。 「買い物に行きたい」 「えっ?」 「服を買いたいので、お店を教えて欲しい」 「え、えぇ、この近くのお店でよければ……」 「いい」 朝比奈さんは、急に長門がこんなことを言い出したので、不思議そうな表情をしているが、俺には理由がわかっている。明日着る服が欲しいわけだ。 「長門さんに似合う服なら、あっちの店かなぁ」 朝比奈さんはあごに手を当てて、うーん、と考えている様子だ。俺はちょっと気になって長門にそっと尋ねてみた。 「お金大丈夫なのか?」 「大丈夫。情報統合思念体より支給されている。本当はカード払いの方が情報操作は容易だが、私の容姿でカードを使うのは怪しまれるから」 では、その現金はどこから、という疑念が消えたわけではないが、これ以上は何も言わないでおこう。 「3つほど隣の駅なんですが、電車で移動してもいいですか?」 「集合時間に間に合わすには、駆け足の買い物になるけど、長門、いいか?」 「いい」 「じゃあ行きましょうか」 俺たちが降り立った駅の周りには小洒落た店が多く、連休ともあってどこもにぎわっている。朝比奈さんの案内で何軒かブティックや雑貨屋をまわったが、どこも長門に似合いそうな服を置いている店ばかりだ。朝比奈さんはちょくちょく買い物に来ているのだろう、結構この辺りには詳しいようだ。 最初のうちは朝比奈さんの言いなりだった長門も、二、三軒目になると、自分から気に入った服を見つけてきては、鏡の前で悩むようになってきた。今も二着ほど持って試着室に入っている。 「どう?」 試着室から出てきた長門は、俺と朝比奈さんに向かって尋ねてきた。 「さっきの方がかわいかったみたい」 「俺は、こっちの方がいいな」 「では、これにする」 と言うとあっという間に試着室に引っ込んだ。 「あれ、いま長門さん、笑っていたような……」 「き、気のせいではないですか、あの長門ですよ」 「うーん、そうかなぁ、おかしいなぁ」 どうやら、一瞬長門がニコっとしたところが目に入ったらしい。朝比奈さんは何か腑に落ちない様子で首を傾げていたが、やがて無理やり見なかったことにしたようだ。 「それにしても、長門さん、たくさん買いましたね」 「結局、4着ぐらい買ったみたいですね」 これで長門の部屋の、あの殺風景なクローゼットの中にも少しは花が咲くってもんだ。 それにしても情報統合思念体は金持ちらしい。今度長門からよろしく伝えておいてもらおう。 帰りの電車に乗るときには、長門は5つの袋をぶら下げることになっていた。まぁ、そのうちの3つは俺が持っているわけだが。ふと気がつくと朝比奈さんも1つ袋をぶら下げているし。いつの間に買ったんだろう? ひとまず北口駅のロッカーに買ったものを入れておき、俺たちは集合場所へと急いだ。ハルヒと古泉がすでに待っていた。 「キョン、なにか不思議は見つかった?」 「特になにもなかったな」 「ふん、仕方ないわね。じゃ、今日は解散。体に気をつけて連休明けに会いましょう!」 ハルヒが威勢よく高らかに宣言して、今日はお開きとなった。ご機嫌に去っていくハルヒの後姿を、その機嫌取りで苦労したらしい古泉が疲れた表情で見送っている。 「僕も帰ります。素直に神人と戦っていた方が楽だったかもしれません……」 「お疲れ、古泉」 「では、失礼します」 そういうと古泉も重い足取りで帰っていった。 残った俺たちが駅のロッカーから荷物を出していると、朝比奈さんがそっと俺に話しかけてきた。 「今日の不思議探索の中では、長門さんの行動が一番不思議でした……」 「ははは、初めて不思議が見つかったんじゃないですか?」 「ふふ、そうですね」 朝比奈さんは軽く会釈して、 「じゃあ、私も帰ります。お疲れ様でした」 「「お疲れさま」」 タイミングよくハモってしまった俺と長門は思わず顔を見合わせてお互いに肩をすくめてしまった。 その後俺は、今度は買い物袋を4つぶら下げながら、長門をマンションの下まで送って行った。 「じゃあ、また明日な」 「また明日……」 もと来た道を帰りながら途中で振り返ると、長門はまだ手を振っていた。 二日目 今日もいい天気だ。日頃の行いがいいからだな。ご機嫌に自転車を飛ばして、北口駅前に到着した俺は、少し離れたところにある駐輪場にマイチャリを置いて、駅前広場へと急いだ。広場の時計がちょうど10時を指した時に待ち合わせ場所の長門の姿を見つけて、俺は小走りで近づいた。 「すまんすまん」 俺に気づいた長門は、おもむろに左手を腰に当て、右手で俺を指差して、 「遅い! 罰金!!」 と言い放った。 「…………。長門ぉ、お前までそれを言うか……」 「一度、言ってみたかった」 長門は少し微笑みながら、立ち尽くす俺の隣にやってきた。 「夕べは笑顔の練習をした。どう?」 「昨日より、かなりましになったな」 「ありがとう。でも、言葉遣いはまだ練習が不十分。従来の話し方が混じってしまうかもしれないけど許して欲しい」 「いいよ、気にするな。いきなり朝比奈さんのように話されたら、かえって戸惑うし」 「了解」 今日の長門は、七部袖のカラーボーダーのチュニックにスリムなジーンズという、昨日試着室から出てきた時の格好だ。俺が選択しただけあってよく似合っている。 「じゃ、行くか」 「うん」 長門は俺の左手に巻きついてきた。違和感ありありだな。気分はいいけど。 少しばかり電車を乗り継いで、長門が行きたいと言っていたウォータフロントの水族館に到着した。カップルや家族連れでいっぱいの広場を抜けて、入場券を買う列に並んでいると、 「ここは私が払う」 と長門が言い出した。 「私が行きたいと言ったから。そのかわりお昼はあなたの奢り」 まぁ、いいか、そういう割り勘も。少なくとも統合思念体は俺より金持ちだし。 この水族館は、長いエスカレータを上って、建物の中をぐるぐる回りながら降りてくる構造だ。中央にはでっかい水槽があって、外側にはテーマごとの展示や水槽が並んでいる。順路にしたがって降りて行くうちに、さっきまで水面に顔を出していたイルカが水中をすごい勢いで泳いでいるところが見られたりして、なかなか楽しい。 ふと隣を見ると、長門は、水槽の中で静止しているイルカと見つめ合っている。そのイルカが泳ぎ去ったので、俺は長門に尋ねてみた。 「あのイルカ、何か言ってたのか?」 「『ここでの暮らしに不満はないが、できれば広い海でもっと自由に泳ぎたい』と言っている」 「本当か?」 「私にはそう感じる」 長門は青くきらめく水槽をじっと見つめたまま答えた。 やがて一面に大水槽が広がる場所にやってきた。 「わぁ……」 水槽に駆け寄る小さい後姿の向こうから大きな海の中の景色が飛び込んできた。 ゆったり泳ぐ大きなジンベエザメと羽ばたく鳥のようなマンタ、高速に泳ぎ回るマグロやカンパチ、底の方には食べるとおいしそうな魚の姿もちらほらと目に付く。そんな水槽に張り付いて眺めている長門の隣に立って、あらためて全景を眺めてみた。飲み込まれそうだ。 「すごく癒される。海の中はまるで宇宙のよう、だから好き」 「そうだな」 暫くの間、俺と長門は無言のまま大水槽を見上げていた。 水族館を出るともう1時に近かった。いい具合に腹も減ってきた。 「何食いたい?」 「カレー」 「おいおい、またか?」 「うそ。何でもいい。あなたの奢りだし」 「じゃ、ファーストフードにするか」 「いじわる」 長門はちょっとすねたような顔をして笑っている。大丈夫、普通に奢ってやる、だからお前も普通に注文してくれよ。 どこにしようかと、水族館横のショッピングモールにあるレストラン街を少しばかり行ったり来たりして、結局、入った店は中華だった。ちょうどランチメニューがあったので俺の財布には優しかったことは公然の秘密だな。 昼飯の後は、モール内のお店を眺めてまわったり、ゲーセンでエアホッケーやって、長門にボッコボコに負けてしまったりしながら時間を過ごした。何かあるたびに長門はすごく楽しそうに笑うのだが、その笑顔の輝きがどんどん増していくようだった。 夕方近くになって、再びショッピングモールを散策しながら、俺は長門に話しかけた。 「何か欲しいものはないか? 記念にひとつプレゼント買おうか」 少し考え込む仕草をする長門。 「九つの指輪と七つの指輪と三つの指輪を統べる一つの指輪が欲しい」 む、そう来たか。 「……すまん、俺は『中つ国』も『滅びの山』もどこにあるかわからん」 と返して、横を歩く長門を見ると、クスッと笑いながら答えた。 「それは残念」 長門のことだから、本気になれば俺をファンタジーな異世界に送り込むぐらいのことはするかも知れないなどと考えながら、雑貨屋やらTシャツ屋などが並んだ通りを抜け、無事にアクセサリー屋の前にたどり着いた。 長門は、店の中に並べられたケースの中の沢山の指輪を一瞥すると、その中から一番シンプルそうなシルバーのやつを取り出した。 「これがいい」 「それが『一つの指輪』なのか?」 「私にとってはまさしく『一つの指輪』。でも大丈夫、熱しても文字が浮かび上がることはないし、はめても姿が消えることもない」 「ははは、それはよかった」 幸い値段的にも許容範囲だったので、俺はレジで支払いを済ませると、長門の右手を取って薬指にはめてやった。合わせもしなかったのにサイズもぴったりだ。 「ありがとう、うれしい」 そう言った長門は、右手の甲と手のひらを交互にひっくり返しながら、薬指の指輪を大切そうに見つめていた。 「最後はあれ」 長門は夕陽に浮ぶ大観覧車を指差した。 さすがにこの時間になると、列に並んでいるのはカップルばかりだ。そんな周囲に影響を受けたのか、観覧車に乗ると長門は俺の隣に座ってぴったりと寄り添ってきた。 「あんまりくっつくなよ」 「…………」 余計に俺の腕に巻きつく力が強くなった気がする。 俺たち2人を乗せたゴンドラがゆっくりと上っていく間も、長門はずっと俺の腕に巻きついたまま、何も言わずに景色を見ていた。頂上から見た、空と海を真っ赤に染めた夕焼けと、長門の横顔は最高だった。 「……長門」 「しばらく……」 「ん?」 「しばらくこのままでいたい」 俺にもたれかかりながら、小声で例の高速呪文を短くつぶやいた長門は、 「ひとつだけ、わがままさせてもらった」 と、ほんの少し口元を緩めながら話すと、そっと目を閉じた。 なんだろうといぶかしく思ったが、すぐにわかった。 ゴンドラが一回りして一番下まで戻ってきたが、乗り降りを担当する係員は何もしなかったので、俺たちが乗ったゴンドラは、そのまま二周目に突入した。 「……もう一周だけ」 「ま、いいか」 二周目は夜景だった。もちろんそれも最高だった。 三日目 今日の午前中はやることがある、と長門が言っていたので、お昼過ぎに北口駅前で待ち合わせることになっている。昨日の事があるので、ちょっと早めに集合場所に着いた俺は長門の到着を待った。 連休三日目の昼過ぎの駅前広場は、割と閑散としており、客待ちのタクシーも暇そうだ。 しばらくすると長門がやってきた。薄いグリーンをベースとしたロングのTシャツにベージュのキュロット、ライトグレーのパーカーを上着として羽織っている。昨日買った指輪が右手の薬指でわずかに自己主張しているようだ。 制服姿しか見たことのない連中にはすごく新鮮に映るはずだ。谷口もランクを1つ上げるのではないか、と考えたところで、俺の目の前にやってきた。 「少し遅れた。お昼は私が奢る」 「いーよ、昨日みたいに割り勘で」 「ありがとう」 「似合ってるな。一昨日買ったやつだな」 「そう……あなたの見立てがいいから」 「素材がいいんだよ」 長門は首をかしげて少し微笑んだ。すっかり笑顔も板についてきたな。ううむ、谷口よ、表情豊かな長門を見たら、2ランク以上アップすること間違いなしだ。 まずは、駅前の店で腹ごしらえした。 「今日はどこに行きたい?」 「少し買い物がしたい。この前は忙しかったし」 「そうだな、あの時はちょっと慌しかったよな」 朝比奈さんの案内で、怒涛の様にお店を回って、あっという間に5つの買い物袋をぶら下げることになった一昨日のことを思い出した。 「じゃ、行くか」 さっきの話通り、割り勘で払いを済ませて、2日前の道順を今日は長門と2人でたどることになった。 長門はあらかじめ行きたい店が決まっていたようで、賑わう通りの人ごみの間を軽い足取りですり抜けていく。 「おいおい、今日はゆっくり行くんじゃなかったのか」 「あ、ごめんなさい。つい……」 うれしそうに微笑んだ長門は、少し歩みを緩め、俺が隣に並ぶと手を繋いできた。ひんやりした小さな手を握り返しながら、小柄な有機アンドロイドの横顔を眺めていた。 「どうしたの?」 「いや、なんでもない」 「……?」 谷口ランクでAA以上に昇格したはずの長門は、周りのカップルの女性たちの多くよりも確実に輝いている。そんな長門と一緒に歩いていると、なんとなく周囲の視線を集めているような気がして、うれしいような、恥ずかしいような変な感じだ。 「ところで、今日は何を買いにきたんだ?」 「観葉植物」 「えっ?」 「リビングに置いてみようかな、って」 俺は、あのコタツ机オンリーのリビングルームを思い出した。 「確かにグリーンを置くのはいいことだが、その前にテレビとか、そうだな、お前なら本棚とかの方が先に必要じゃないの?」 「テレビはいらない。本棚は別の部屋にあるから」 別の部屋? そうか俺がまだ入ったことの無い部屋があったな。 すぐに長門が欲しがっていた観葉植物のある花屋に到着した。店に入ると、長門は躊躇することなく自分の肩ぐらいの背丈のある先端に細い葉っぱが広がっているやつを指差していた。 「欲しいのは、これ」 「ふーん、なんて言うんだ?」 「ポニーテール」 「なに?」 「ポニーテール。好き?」 いや、確かにポニーテールは好きですよ、萌えますよ。だが、観葉植物は守備範囲外だ。それにしてもこんな名前のやつがあったなんて、長門は俺の好みを知っててわざと言っているのだろうか。俺はふと、髪を伸ばしてポニーテールにまとめた長門の姿を思い浮かべて、心の中でニヤけてしまった。 それにしてもでっかい鉢に入っているのだが、どうやって持って帰るつもりだ? 「あとで送ってもらうことにする。それとも持ってくれる?」 「送ってもらえるならそうしてくれ」 長門はレジで伝票に送り先の住所を書いていた。そっと覗き込むと、コンピュータで打ち出したような活字的な文字が並んでいた。 買い物はこの観葉植物だけだった。一息つくために入った駅近くの喫茶店で、俺はコーヒーを飲みながら問いかけた。 「これからどうする?」 「いつもの図書館に行きたい」 テーブルの上のミルクティーのカップを覗き込みながら長門は答えた。 「もっと他のところでもいいぜ。図書館はこの前も行ったところだし」 「ううん、図書館でいい」 「そうか、ならいいんだが」 ということだったので、俺たちは北口に戻るといつもの図書館に向かった。 図書館に入ると、長門はどこからから分厚い本を探し出してきて、ソファーの椅子に座って読み始めた。俺は気安く読める文庫本を引っ張り出してきて、長門の隣に座った。 「ほんとにここでよかったのか?」 「この図書館は私にとって大切な場所だから……」 そう言う長門は少し遠くを見つめているようだった。 結局、閉館時間の午後6時前まで図書館にいた。その間は特に会話をするでもなく、ただ単に二人並んで読書に励んでいたわけだが、長門がときどき哀しそうな表情をしていたのが少し気になった。 図書館を出た俺たちは、暮れなずむ街の中を特にこれといった目的もなく歩いていた。少し疲れたのか、長門も俺も口数が少なくなってしまった。長門はもともと口数が少ないなんてものじゃなかったのだが、昨日と今日で、過去半年分ぐらいは話したかも知れない。 しばらくすると、長門は俺の方に振り向いた。 「そろそろ帰るから、近くまで送って欲しい」 「え、帰るのか」 「うん……」 もっと一緒にいたかった気がするのだが、さすがに三日間遊びすぎた。 午後7時近くになるとすっかり暗くなってしまった。俺たちは長門のマンション近くのおなじみの公園にさしかかった。葉桜になった桜の木の下を歩いていると、長門が立ち止まった。 「今回のテストはこのあと19時で終了する」 「そ、そうか」 「これから情報統合思念体によって、今回のテスト実施により得られたさまざまな情報に対する解析と検討が開始される。その結果、より高度化されたエラー処理機能が用意されるかも知れないが、それまではテスト開始前の状態が維持される」 ん、それはどういうことだ? 「つまり、今回のテスト終了に伴い、私の中の新型エラー処理機能は削除される。あわせてこの三日間に発生したエラー、およびその処理結果、関連する記憶も削除される」 「まて、三日間のエラー……記憶も消えるのか?」 俺の頭の中で、一昨日からの長門と一緒だった日々が蘇ってきた。最初はぎこちなかった長門だったが、今日になるとすごく自然で心の底からの笑顔を、戸惑いながらも感情あふれた表情を見せてくれたことを……。 「そう。元に戻った状態のまま今回のテスト期間中に発生したエラーと記憶を持ち続けると再び暴走するかも知れない、と統合思念体は危惧している」 「この三日間のことが消えてしまってもいいのか?」 暫くうつむいたままだった長門は、静かに話し始めた。 「私は……いや。あなたと一緒に過ごした三日間のことは忘れたくない。わずかの間だったけれど、一緒に見たこと、一緒に話したこと、一緒に感じたこと。私にとってはすべて大切なもの、失いたくないもの……」 顔を上げた長門の真剣なまなざしに俺は答えた。 「何とか方法はないのか?」 「……統合思念体によってエラー処理機能と記憶が削除される直前に、記憶だけをコピーして取り出すことができる。ただしそれは統合思念体には認められない行為。一種の反抗」 「構うもんか、やっちまえ。今までどれほどお前の親玉に貢献してきたんだ。今回だって体よく実験台にされているだけじゃないか!」 俺は長門の両肩をつかんで声を荒げた。 テストだ、実験だ? 成功してるじゃないか。今の長門は十分エラーとやらをコントロールしている。なぜ想い出まで奪った上で元に戻す必要がある? このままの長門で何が問題だ、くそっ! 視線を落とした長門は右手の薬指にはめている指輪をじっと見つめていた。 「…………三日間の出来事と想い出を、あなたにもらったこの指輪に封じ込める。そして私の代わりに保管しておいて欲しい」 「なぜだ?」 「私が持っていると、何かのはずみで暴走のきっかけになるかも知れないから」 そういうと長門はじっと俺の目を見つめた。 「いつか、エラーを克服することができるまで、持っていて欲しい」 俺は長門の華奢な体を包み込むように抱きしめたくなる衝動をなんとか抑えることができた。 「わかった。大切に預かっておく」 「時間が来た」 長門は俺の前から一歩下がると、右手からはずした指輪を両手で優しく包み込みながら、この三日間、いっぱい見せてくれた中でも一番の笑顔で俺を見上げた。 「三日間楽しかった、ありがとう」 何も言うことができない俺がじっと見つめる中、長門は目を閉じると高速呪文を唱え始めた。と、同時に白い頬を一筋の光が滑り落ちていく。 やがて長門は、両手の中から取り出した指輪を俺に渡すと、以前と同じ無表情に戻って、 「すべて終了した」 と一言だけ言うと、さっと振り返って歩き始めた。俺は、去りつつある小さい背中に声をかけた。 「もし、この指輪が必要な時がきたら、いつでも言ってくれ」 一瞬立ち止まった長門は、そのまま振り返ることなく歩き出した。その姿が公園の街灯の向こうに消えて行くまで、俺は手の中の『一つの指輪』を握り締めたまま見送った。 Fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1121.html
ガーー 自動ドアが開き目に飛び込んできたのは見知った顔だった 店員「あのお客様?」 長門「・・・・」 長門である、長門もセブンイレブ○にくるのか 夕飯でも買いに来たのかな? ハルヒのこと以外で長門と会うのは少ない気がする 店員「えっと、630円になります」 長門「・・・・」 なにやら様子がおかしいのか? 店員が困った顔している、なにかあるのだろうか? キョン「よ、長門」 長門「・・・・ぁ」 店員「ぁ、ぁの~、630円になるのですが・・・・」 630円?だいたい弁当の値段くらいだが、 なぜこの場はフリーズしている 長門は無表情である っと目線をさげると長門の手にはがま口の財布が握られている また懐かしい財布を・・・っと 口が開いて中身がみえるのだが・・・ キョン「5円!?」 店員「へ?」 キョン「い、いえ、なんでもありません」 5円って、長門、今目の前にレジにだしている弁当は630円だぞ あとの625円はどこからおぎなうんだ あぁーなるほど もしやこの状況はこれが原因か? キョン「あのー630円ですよね?」 店員「え?あ、630円になります」 キョン「えっと・・・っと、630円っと・・・丁度でお願いします」 長門 「・・・・」 店員 「あ、はいー、630円丁度お預かりします」 キョン「レシートはいら」 !?、すそを長門にひっぱられているのだが 長門「・・・・」 長門は何も言わず店員が差し出そうしているレシートを見ている もしかしてこれか? キョン「あぁーレシートください」 店員 「レシートでございます」 レシートを受け取りそれを袋にいれた おそらくこれでよかったのだろうか さっきまでひっぱられていたすそはもとにもどっている 店員「ありがとうございましたー」 外は蒸し暑い・・・・ 長門は無表情で俺のあとについてきた 余計なことは・・・してないと思うかな? キョン「まぁーたまにあるよな」 一度もしたことはないがここはあると言っておこう それが俺のクオリティーである キョン「じゃ、俺こっちだから、また学校で」 またすそを引っ張られる感じが・・・って長門がひっぱているのか キョン「どうした長門?」 長門「ぁ・・」 キョン「?」 長門「・・・・」 長門「ぁ・・・ぁりがと・・・」 キョン「ぇ?あぁーぉ、おう」 長門の口からでた言葉に驚いた 長門は俺のほうを見てそう言った しかしその上目づかい反則だぞ長門 なんとも恥ずかしくなってきた キョン「ぁーひとつ聞いていいか?」 まぎらわせに話題を変えてみたが・・・・なにかあったか? キョン「長門はレシートをいつももらっているのか?」 長門「・・・・」 無言に首を横にふる キョン「じゃー今日はどうして?」 長門「・・・・」 無言である、まぁーたいした意味ないだろう っと長門を引き止めてるみたいだな キョン「じゃ俺はいくよ」 長門 「・・・・」 長門は無言でうなずく キョンが見えなくなった跡、長門はつぶやいていた 「想い出」 誰にも聞こえない、小さなつぶやきで 補足 キョンは涼みにセブンイレブ○にはいった 長門が買っていったのは牛丼(スレ参考) 残念ながら古泉はいなかった
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2250.html
Extra.6 長門有希の対訳 ~Report.01 対訳版~ 現地語表記による報告は、当該観測対象の行動の把握に一定の成果を挙げた。 しかし、情報伝達に想定以上の齟齬が認められたので、会話部分を従前通り表記した報告を行う。 Report.01の内容をそのままに、会話部分を従前通りの表記とした。 【追記】 本報告後、試行として現地語表記と一般表記を併記した形での報告を求められたため、本報告を元にReport.01を改稿した。その結果が良好だったため、すべての報告について、同様の形で改稿している。 「アルー晴レータ日ーノコト~♪ んんーんんーんんーんんん~♪」 涼宮ハルヒが歌を口ずさみながら部室に入ってきた。普段の学生鞄とは別に、大きな鞄を肩に掛けている。 「んっん~♪ みくるちゃんっ! 今日も相変わらず可愛いわね♪」 笑顔、『彼』の表現を借りると『100Wの笑顔』で朝比奈みくるにそう声を掛けながら、団長席に着く。 「おい、ハルヒ。今日はまた、やけに御機嫌だな?」 『彼』、通称『キョン』は、眉を寄せながらそう問いかけた。過去の情報を検索すれば、涼宮ハルヒがこのような表情をしている時は、彼女の発言を受けて必ず『彼』が東奔西走せざるを得ない状況が発生する。『彼』はそれを理解しているので、こんな表情をしている。この表情を『諦めた顔』と言うそうだ。 「んっふっふ~。今日はね、みくるちゃんのために、良い物を用意してきたのよ。」 余談になるが、涼宮ハルヒ達の観測を続ける内に、少しずつだが、表情等を観察して過去の情報と照合すると、その人間の思考内容が予測できることが分かってきた。 その考察結果から今の涼宮ハルヒの思考を予測すると、『待ってました!』又は『よくぞ聞いてくれた!』である。 「最近、ず~っと同じメイド服だったでしょ? そろそろ新しいコスに行ってみようかと思ったの。とは言っても、今回は小物だけなんだけどね。じゃじゃ~ん!」 そう言って涼宮ハルヒは、学生鞄の中からそれを取り出した。ある哺乳類の耳を模したヘアバンド。 「ほほう、ある意味伝統と格式の、猫耳というわけですか。」 古泉一樹がいつもの微笑をたたえて言う。 「ちっちっち。まだまだ甘いなぁ、古泉くんは。よく見なさい? まぁ、耳だけじゃ素人には分かんないか。用意したのは耳だけじゃないわ、尻尾もセットよ!」 涼宮ハルヒは更に別の物を取り出した。とてもふさふさした哺乳類の尻尾。 「猫耳だったら、今日び、ガチの一般人でも知ってる人は多いでしょ? そんなの、普通で面白くないじゃない。まぁ、みくるちゃんなら猫耳付けても似合うでしょうけど、せっかくだから違う耳を用意したわ。」 「それは……アレか? うどんとかでおなじみの……」 『彼』が問う。 「そ。おっきな耳に、スマートでクールなフォルム。魅惑のふさふさ尻尾、狐セット~♪」 そう言うや否や、涼宮ハルヒは朝比奈みくるの狐耳と尻尾の装着に取り掛かる。 「あっ、あっ、あっ、そんな、無理やり頭飾り取らないでぇ~、ああ~!? スカートの中に潜り込んじゃダメぇ~うわ!? ちょ、何(なん)て所触ってんのぉ、あへぁ、わっ、わっ……」 朝比奈みくるの嬌声をBGMに、程なく狐耳メイド(しっぽ付き)ができあがる。 「できた♪ 思った通りめちゃ似合ってるわ♪」 「これはこれは……さすがは涼宮さんですね。妙にそそられるものがありますよ。」 表情を変えずに古泉一樹は言う。わたしはまだ、古泉一樹の思考内容は全く予測できない。 「さぁ、写真撮りまくるわよ! キョン! 古泉くん! あんた達は助手! さっさと照明とかセットしなさい!」 涼宮ハルヒは手際よく、大きな鞄から撮影機材を取り出していく。 「って、おい! デジタル一眼レフやら照明機材やら、そんな物どこから調達してきたんだ!?」 『彼』が目をむいて突っ込む。 「ああ、コレ? 気にしたら負けよ♪」 「……好きにしろよ、もう。」 やれやれ、と『彼』は肩をすくめた。 わたしの記憶領域になぜか、涼宮ハルヒと『彼』が二人で『ありがと~ございました~!!』とお辞儀し、『以上、「涼宮ハルヒと愉快な仲間たち」のお二人でした~!!』という声を背に、舞台裏に下がって行く映像が展開された。このエラーの原因は不明。 撮影中の様子は、特筆する事項はない。涼宮ハルヒの心理状態は高原状態だったと書けば足りる。一頻り撮影を終えると、 「うーん、狐耳のメイドさんも、なかなか良いものね。今度は尻尾がよく見えるように、尻尾を通す穴があるスカートを用意した方が良いかな。ああ~、今回は眼鏡を用意してなかったことがすごく悔やまれるわ。」 朝比奈みくるに頬ずりしながら、涼宮ハルヒは言った。 「なかなか萌えの世界ってのは奥深いわ。」 (……まさか、新たな属性に目覚めたんじゃないのか!?) 『彼』はそう言っているかのような顔で涼宮ハルヒを見つめていた。 「そうね。みくるちゃんだけじゃなくて、他の団員にも耳を付けてみたいわね。」 と言って、辺りを見渡す。 「有希には……うーん、やっぱり猫耳か。あたしは……何が良いかな?」 「……女豹(めひょう)とかな……ハルヒらしいぜ……」 『彼』がボソリと呟く。 「ん? 何か言った?」 「!? な、何も言ってないぞ!!」 『彼』はよく、独白をうっかり声に出して言ってしまう。今回もそうだろう。 「みくるちゃんは狐も良いけど、やっぱり兎ね! それで、古泉くんは……何となく狸!」 最後に涼宮ハルヒは『彼』を見てこう言った。 「あんたは迷いようがないわ。あまりにもぴったり過ぎて、逆につまんないくらいだわ。」 「何(なん)だ、言ってみろ。」 「あんたは犬に決まってるじゃない。」 「理由は?」 「何があっても尻尾振ってどこまでも御主人様に付いて行く、忠実な僕! SOS団の雑用係、正にあんたそのものだわ! よし、これからあんたはSOS団団長であるあたしの忠犬ね!」 「何でそうなる!!」 『彼』の渾身のツッコミが涼宮ハルヒにヒットする。見事な形。『彼』のツッコミの腕は、これからも進化し続けるだろう。 「ん~、あんたには耳付けて、尻尾付けて……っと、忘れちゃだめね、首輪!」 「何(なん)だと!?」 「首輪付けて、リード付けて……今度の罰ゲームはそれに決まりね!」 「はっはっは、なかなか言いえて妙ですね。さすがは涼宮さんです。」 「こら、古泉……あんまり調子乗ってると、殴るぞ?」 「おっと、冗談ですよ。はっはっは。」 古泉一樹は普段通りの微笑で言う。 「フリスビー投げて、『そーら、キョン、取っといで!』とか言って遊んだり。あ、そうだ! せっかくだから犬らしい名前で呼びましょ! ポチ、ポチ~」 「えーい、やかましい!」 『彼』は憮然とした顔で言う。 「う~ん、何(なん)か、こう、しっくり来ないわね? タマ……は猫だし……ペス、ペス~? んー、キョン、キョン、……ジョン……!! そうよ! ジョン! あんたにぴったりの名前はジョンよ!」 ひくぴきぴき、と『彼』の顔が引きつった。 「ジョン、ジョン~。うん、何ていうか、あるべき所に収まったっていう感じね。ん? 何(なん)だろ、苗字まで思い浮かんだわ? ジョン・スミス? 何だろ、この感覚……何ていうか、既定事項? みたいな……」 「……それはお前の気のせいだ……」 『彼』は震える声でやっと、搾り出すように言った。 「キョンくん? 顔色悪いけど、どうしたの?」 「……何゛でも゛あ゛り゛ま゛ぜん゛、朝゛比゛奈゛ざん゛」 どう見ても何かあります。本当にありがとうございました。そんな一文が、わたしの記憶領域に展開された。 しかし、この後彼らは思わぬ角度から大混乱に陥ることになる。 『彼』が反応したのは、『ジョン・スミス』という単語。 これは今から四年前の時点へ、『彼』が時間移動して涼宮ハルヒと出会った時に名乗った名前。『彼』曰く、涼宮ハルヒに自分の能力を自覚させる『禁断の言葉』。もし涼宮ハルヒが自らの能力を自覚したら、どのような事態になるかは情報統合思念体でも予測が困難。その単語を涼宮ハルヒ自ら口にした。『彼』が驚愕するのも無理はない。 情報操作をすべきか、あるいは言語による操作、彼ら流に言うと『フォロー』をすべきか考え始めた時、異変が起きた。 わたしの記憶領域に、ある映像が展開される。 一戸建ての家、玄関の脇、犬耳を生やした『彼』が尻尾を振りながら『お座り』している。『彼』の前には小さな深皿、『彼』の後ろには小さな犬小屋。深皿と犬小屋には、それぞれ『ぢょんのえさ』『ぢょんのいえ』と書かれている。わたしは哺乳類の大腿骨の形を模したガムを手に持ち、『彼』に言う。 『ジョン、お手。』 『わん!』 『お回り。』 『わん、わん!』 『チンチン。』 『わおん!』 『……いい子、いい子。』 『くぅん。』 わたしの中に得体の知れない『何か』が湧き上がる。発生した理由は不明。最近わたしは、この『何か』を人間で言うところの『感情』ではないかと考えている。 今回の『何か』を人間の感情に近似して、合致するものはないか検索する。今回の『何か』は……『萌え』? そのような『妄想』に囚われること数秒。エラー。平常状態に復帰する。 気が付くと、わたし以外のSOS団全員の視線がわたしに集中していた。古泉一樹でさえ、驚愕の表情を浮かべている。もしわたしに表情を浮かべる機能があったなら、今の『妄想』のせいで、口に出すのも憚られるような『すごい顔』をしていたことだろう。でも、わたしにはその機能はないため、そんな心配はない。では、なぜ視線が? 「……な、な、な……」 朝比奈みくるが震えながら、わたしを指差している。涙目で。なぜ? 「……なに。」 と、わたしは問う。 『長門さん!』 「長門ー!」 「有希ー!」 わたし以外の四人の声が重なる。 『鼻血、鼻血――――!!』 その日から『ジョン・スミス』は、わたしにとっても禁じられた言葉(ワード)となった。 【本報告:Report.01 長門有希の流血】
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1311.html
恋人の居る男なら、いや、女の人でもそうだと思うが、一度くらい恋人に渡すクリスマスプレゼントを何にするか迷ったという経験があることだろう。 しかも付き合って一年目となれば尚更だ。 加えて言うと俺の彼女さんはちょっと特殊な属性持ちと来ているので、普通の女の子が喜びそうなもので喜んでくれるかどうかという意味では結構疑問があった。 そこで俺は、下策と承知しつつ本人に訊ねてみることにしたんだが、 「特に何も」 という味気ない返答が帰ってきただけだった。 味気なさの裏に何か別の感情が潜んでいたような気がしたんだが、残念ながら長門の表情を読むのに長けてきたこの俺であっても、そのわずかな変化から完璧な正解を見出せるほど鋭い勘の持ち主というわけではなかった。 というかそんなものが有ったら最初から迷ってなんかいないだろうって気もするな。 「いや、何もってことは無いだろう」 「何も」 食い下がる俺、突っぱねる長門。 「いやだから、何かこう、」 「何も」 もう一度食い下がる俺、やっぱり突っぱねる長門。 「そう言わずに……」 「……何も」 ヤバイ、長門の声が少しずつ鋭くなっている。 これはちょっとまずかっただろうか……、うーん、長門がこうなるとこれ以上聞き出すってのは難しいよなあ。ああしかし、クリスマスプレゼントのことで喧嘩になるなんて馬鹿みたいだよな。いや、喧嘩というより長門が一方的に不機嫌になっているだけのような気もするんだけどさ。 ここはもうちょっと上手く気を遣うべきだったか……、長門が、言わなくても分かって欲しい、何て雰囲気をかもし出してくること自体、予想外と言えば予想外だったんだが。……いや、そんな風に決め付けていた俺も悪いんだろうな。 宇宙人とはいえ、長門だって女の子だもんな。 ごめんな、長門。 「長門……」 「今日はもう寝る。あなたも寝るべき。……寝てから改めて考えるべき」 ……えっと、長門さん、あなた今口調はともかく声の響きがすっごく命令調な気がするんですが? とまあ、そんなわけで俺達は寝ることになった。 長門の家であるマンションに俺が泊まるって形なんだが、寝るのは同じ部屋だ。 仲良く並べられた二つの布団。そう、二つの。 今のところ俺達にそれ以上の進展は……、いやまあそのなんだ、人生焦っても仕方ないってことだよな! しかし相手は(それがエラーの原因になったとはいえ)二週間を一万回以上繰り返すなんてことをやってのけた人物だ。時間の感覚のずれってのを本気で考えるとちょっと怖い。 まあ、長門の人生がどんなに長かろうと短かろうと、長門が俺に居てほしいって望む限り、俺は長門の隣に居てやるつもりだけどさ。……俺が生きている限りな。 「なあ、長門。……って、寝ちまったよなあ」 すやすやと聞こえてくる規則正しい寝息を聞きながら、俺は小さくため息を吐いた。 そのため息には幸福と、所謂『やれやれ』みたいな感じが半々、いや、7:3くらいで詰まっていると思ってもらえればよろしいだろう。 なんだかんだ良いつつ俺は幸せなんだよな。こんな可愛い恋人が居るわけだしさ。 「……ん、うん……」 吐息の合間から、寝言めいた言葉が聞こえる。 こういうときの長門は本当に可愛いよなあ。普段の無表情系クールビューティも良いが、無防備な寝顔は別の意味で良い。 思わず頬を突っついてやりたくなるな。 「ん、……き、きゅ……」 寝言か? 一体何を言っているんだろうな? いや、意味のある言葉とは限らないわけだが、 「……ん、給料三か月分」 待て、長門、それは本当に寝言か? 大体給料って言ったって俺はまだ大学生の身の上だからバイトしかしていないし、そもそも給料三か月分ってのはクリスマスプレゼントではなくてだな、 「の、図書カード……」 ……。 ……。 ……いや、もう、なんていうか、ツッコミどころ満載過ぎて突っ込めないってのはきっとこういう時のことを言うんだろうな! 本当、これ以上ないくらいの長門らしい要求だよな……。俺には思いつかなかったけどさ。 しかし給料三か月分なんて単語はどこから出てきたんだろうな。やっぱりあれか、あれなのか? いやいやまさか、俺達はまだ大学なわけだし……、まあ、そんな先のことは良いか。今考えるのはそうういことじゃないんだ。 とりあえずプレゼントは決まったから。その用意だ。 しかしバイト代三か月分……、6桁かよ。 大学生にとっては荷が重い数字だが、仕方ない、ここは頑張って工面してやるか。 可愛い長門のためだもんな。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2938.html
長門有希の憂鬱II外伝 ~おばあちゃんの憂鬱~ 「おばあちゃんどうしたのさ、さっきからため息ばっかり」 「はあ。ねえナガル、キョンさんって、死んだおじいちゃんの若い頃にそっくりだねぇ……」 言われて初めて僕は仏間にあった爺さんの遺影を見た。そういえばどことなく似てなくもない。髪はすっかりなくなっちまってるけど、顔の感じ、眉間のシワの寄り具合、雰囲気も似てる気がする。 爺さんが死んだのは僕が五歳のときだ。三百六十五日フルスロットルなおばあちゃんに比べてもの静かで、けど怒ると怖い存在だった。たまにお小遣いをねだると、子供に金をやるとろくな育ち方をしない、とつっぱねられた。でもケチだったわけではなく、金はやるが働けと言われて庭の草取りやら障子貼りやらを手伝わされた。時給にして二百円くらいだったろうか。当時は金の価値なんか分からない僕だったので、給料という肩書きを持つ現金を持つことに無上の喜びを感じていた。 そんな昔のことを思い出しつつ、もしかしたらキョン君のモデルは潜在的にこの人なのかもしれないと考えた。あるいは爺さんとほかの誰かの人格がミックスのがキョン君だとか。思い当たる人を知己録から探し出そうと頭をひねっていると、襖の向こうからまたため息が聞こえた。おばあちゃんが昔の写真を持ち出してめくっている。爺さんの若かりし姿、戦時中の凛々しい姿だった。ははぁ、乙女のメランコリーだなこれは。いや、元、乙女と言うべきか。 離れには半地下の倉庫があって、先祖代々伝わる骨董品やらゴミやらが納められている。谷川家の代々が詰め込むだけ詰め込んで、誰も片付けようとはしなかったようだ。爺さんも常々、この倉庫をいつか誰かが片付けないとなぁと未来に託す独り言のように呟いてた。 僕は懐中電灯を持って、記憶を頼りに倉庫の中を漁った。確かまだあったはずだが。僕は使われなくなったタンスの上に重なっている桐の箱を取り出した。積層したホコリの山が雪崩れを起こさないようにそっと持ち運んだ。おばあちゃんがいないことを確かめ、庭に持ち出してホコリを払う。桐の箱の正面に菊の紋が入っていた。 「キョン君、ちょっと折り入って頼みがあるんだけど」 「なんでしょう谷川さん。なんなりと」 居候の身分なら主の言うことは聞かないわけにはいくまいて。ヒッヒッヒと含み笑いをせずにはいられなかった。僕は箱を抱えて、キョン君を納戸に連れて行った。 「これ、なんですか」 「まあ見ててよ」 菊の紋の入ったフタをうやうやしく開けると、厳重に和紙に包まれた袋が出てきた。これまた和紙で作られた固い紐を解いて、ようやく中身と対面する。 「軍服ですかこれ……」 「そうだよ」 戦後六十年ずっと倉庫で眠っていた日本の記憶が、今目覚めた。真っ白な絹の海軍士官軍帽と軍衣。桐の箱の効果か、半世紀以上経っているにもかかわらず、金ボタンは当時のままの輝きで生地にはシミひとつない。 「ちょっと、着てみてもらえないかな」 「え、俺がですか」 「頼むよ」 まさか軍服でコスプレをさせられるとは思ってもいなかったようだ。キョン君はぎこちなく上着を着て、ズボンをはいた。僕の見立てどおり、サイズはぴったりだ。 「これ、名前が入ってますけど、本物ですか」 「そう。うちの爺さんが当時着てたやつでね。帽子、脇に抱えてみて」 「こうですか」 「そうそう。ホレボレするね。やっぱ日本男児は軍服だね」 僕はキョン君をひっぱってお披露目に回った。 「キョン、なによそのカッコ。戦争にでも行く気?」 ハルにゃんが笑い転げた。 「そんなに笑うこたないじゃないか」 キョン君が紅潮している。僕はけっこう似合ってると思うんだけどな。 「キョン君、とってもかっこいいですよぅ」 みくるちゃんが両手を合わせて瞳をうるうるさせている。やっぱり女の子には制服のオーラが効くらしい。 「……日本海軍士官第一種軍装。第三艦隊第五水雷戦隊所属。階級、少佐」 やたら詳しいな、有希ちゃんってミリタリオタだったのか。 「おばあちゃん、おばあちゃんいるかい」僕は台所に向かって叫んだ。 「なんだい。こりゃたまげた……」 おばあちゃんは大きくため息を漏らした。 「ま……マモルさん」 その名前を口にして、おばあちゃんはハッと我に返った。 「ご、ごめんよ。キョンさんだったね。めがっさ似てるんでついつい」 「キョン君、ちょっと敬礼してみてよ」 「こう、ですか」 「いやいや、海軍はもっとこう、手が額に近いんだ」 爺さんが言っていた。船は通路が狭いから肘を大きく張ってはいけないんだと。 「ちょっと言ってもらえない?」 「なにをですか?」 「こう、直立不動で。谷川守少佐、出征いたします」 「谷川守少佐、出征いたします!」 キョン君の出征姿は若かりし頃の爺さんを彷彿とさせた。軍刀でもあればよかったのだが、武器の類は戦後GHQに没収されて残ってないらしい。 おばあちゃんが目頭をおさえて涙ぐんでいた。 「ご、ごめんよ。なんだか昔を思い出しちゃったのさ」 僕もキョン君もなぜか照れて、目を合わせたり他所を向いたり、金ボタンをかけなおしたりしていた。 「キョンさん、ちょっとお願いがあるんだけどね」 おばあちゃんが下を向いたまま言った。 「なんでしょう」 「そのへん、一緒に散歩してもらえないかなっ」 まるでデートに誘われた女子学生のような、ほんとは逆なんだろうけど、顔を真っ赤にしているおばあちゃんはかわいかった。好きな人と目も合わせられないってのは、こういうのを言うんだな。 「え、この格好のままですか」 「だめ、かなっ」 「いいですよ、おやすい御用です。なんとなく軍人の気持ちになってきましたから」 キョン君も悟ってきたじゃないか。キミも立派なコスプレイヤーだ。 おばあちゃんは訪問着のキモノに着替え、キョン君と連れ立ってしゃなりしゃなり歩いていった。あの二人、歳が近かったらお似合いだったかもしれない。 二時間くらいして帰ってきた二人は手を繋いでいた。こ、これってまさかフラグじゃないだろうね。僕が見咎めても手を放す様子はなかった。ああ、おばあちゃんと孫って感じだね。海軍将校コスプレした孫だけど。 話を聞いてみると、二人は夙川公園まで行ったらしい。この時期だから桜なんて咲いてるはずもないし、吹きさらしだから寒いだろうとは思うのだけれど。 おばあちゃんがなぜ夙川公園に行きたがったのかは知っている。ずいぶん昔、爺さんは桜の木の下でプロポーズしたんだそうだ。爺さんは広島の海軍兵学校を出たばかりの新米士官で、女子学生の憧れの的だったらしい。おばあちゃんとは幼馴染で、なんとなくまわりもこいつらくっ付くんだろうなという温かい目で見ていたらしい。まあ親同士の付き合いもあったし。 プロポーズのセリフがこれまた古風で、「俺と所帯を持ってくれないか」だったか。おばあちゃんは心臓がフル回転してとても返事が出来る状態ではなく、ただ爺さんの手を握ったらしい。それが精一杯の承諾の合図だった。見合いが主流の当時としては珍しい、大恋愛の末に婚姻したとのことだった。 古き良きおばあちゃんの青春。もうあの頃には戻れないけど、過去の時間は思い出の中にある。僕はおばあちゃんのはしゃぐ様子を見て、せめて今日だけでも乙女の頃にタイムトラベルできてよかったと思った。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5476.html
俺はいつも通り、北高への長い強制ハイキングコースを、そろそろ終わる冬を 感じながら昇降口へ向かっていった。 下駄箱を開けるとそこには一通の手紙が・・・・・・・・ 「昼休み、部室でまってます。 みくる」 と、書かれていた。 これは、部室の妖精、朝比奈さんからの手紙ではないか、と同時に字を見て、 どちらかというと、朝比奈さん(大)の字に似てる事が俺の脳内で決まった。 教室に行くと、機嫌のいい古泉いわくこの世界の神である、涼宮ハルヒが座っていた。 「キョン、あんた何かいいことあった?」 流石はハルヒ、朝比奈さん(大)から手紙を貰った俺を見抜いたな。 しかしそれを言う訳にはいかないので、 「いや、今日楽しみなテレビがあるんだ」 と、ごまかしといた。 それからハルヒは、午前中、空ばっかり見ていた。 昼休みになり、俺は部室に早歩きで部室に向かっていった。 コンコン 「はぁ~い、どうぞ」 と、朝比奈さん(大)にいわれて部室に入った。 「キョン君、またあったね」 と、俺の手を握った。 「キョン君、今回の話は、とても重要なの、よく聞いて。」 と、緊迫した声で言った。 「明後日の昼、12時35分に重要な未来の分岐点があるの、もしそのとき、正しい分岐 点を選ばないと、この世界は、よく無いことに、なります」 今まで、聞いたことない声だった。 「それは、どんな分岐なんですか?」 「それは・・・・、私たち未来人も分かりません・・・」 「何故、分からないですか。未来の人たちなら、分かりそうですが。」 「それは、今、キョン君がいる世界で起こるものではないからです」 「今俺がいる世界で起こらないならどこで起こるんですか?」 「それは、異世界であることでしか、分からないです。」 そのとき、朝比奈さん(大)の体がノイズのようにぶれた。 「ごめんなさい・・・わた・・しが・ちか・ら・にな・れ・るのは・ここ・までみたい・でs」 と、消えてしまった。・・・・・・・・まじかよ・はははははははははは。 「安心するといい、朝比奈みくるの異次元同位体は、未来に帰った。」 安心できる、長門の声が俺の後ろから聞こえる。 「ただ、未来が今、混乱している」 と、残して長門は教室に戻るのか、歩いていった。 放課後、部室に行くと朝比奈さん(小)がいた。 「キョン君、聞いて・・・・・・・・・」 朝比奈さんが、暗い声でいった。 昼休みのことを思い出させる。 「実は・・TPDDの制限が全て解けたんです。 だから、禁則もありません」 それは、それは元気でうれしそうな声だった。 そのとき、後ろから 「お待たせしました。 あれ、涼宮さんはいないのですか?」 「残念ながらいないぜ。 LRが終わってから見てないな。」 「その件ですが、どうやら涼宮さんは家にかえったようですよ」 「Why? なぜ? ハルヒが勝手に帰る?」 「それが、まったくと、いっていいほど分からないのですよ」 「それでは、僕も涼宮さんを、探さないといけないのでここで失礼さしてもらいます。」 と、残していってしまった。 さて、ハルヒも古泉のいないので、帰ろうとした時に長門がいないことにきずいた。 「朝比奈さん長門がいないような気がするのですが・・・・」 「はい・・・実は、今日の昼休みこの世界から違う次元に移動した痕跡があります・・」 「なぜ・・分かるのですか?」 「今の私は、TPDDの痕跡以外にも、違う次元への移動、等が分かる様になったんです」 「いつ、長門は違う次元に移動したんですか・・・。」 「昼休み、12時40分です・・・。 キョン君が長門さんと別れた後すぐです。」 「そういえば、・・・あの時長門を追いかけようとしたら、長門がいなかった・・・分かれた 後、長門はちがう次元にいった。」 「キョン君、今回の事はいつもと何か違う気がするの気をつけて。 私は着替えるから 先に帰ってて。」 気がついたらもう下校時間を過ぎていた。 もう日がすっかり沈んだ空を見上げながら俺は思った。 今日はさまざまななことがあったな・・・・・ 昼休みの朝比奈さん(大)が言ったこと、長門が違う次元へいったこと、ハルヒがまだ 見つかってないこと、沢山あったな・・・・・ そうこうしながら、11時30分そろそろ寝るかな・・・ 分岐点まで後・・36時間4分38秒・・
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/493.html
俺は高校を卒業後朝比奈さんと結婚を果たした。 俺は古泉ら機関のコネを使い、独自の事業を起こし全てが順風満帆だった。 そんな中さらなるうれしいニュースがまいこんだ。 「キョンくん。私妊娠したみたいです」 朝比奈さん、いやいまではみくると言った方がいいか。 みくるは突然俺に告げた 「本当か!?やったなー!ついに子供ができるのか!!」 「ふふっ、名前考えといてね」 「とびっきりの名前を考えとくさ!!」 この時までは全てが最高だったんだ… やがて赤ちゃんが生まれた。 元気でみくるに似て可愛い女の子だった。 「名前…考えてくれた?」「ああ」 ずいぶん悩んでつけた名前だ 「春に日と書いてかすが」 みくるはきっと喜んでくれるだろう。 そう思っていたが… 急にみくるの表情が曇った 「何その名前?」 「は?」 「あなたまだ涼宮さんの影を追ってたのね……バカ!!!そんな名前つけたくない!!変えてよ!」 「だけどもう役所に出しちまったよ…」 「ウワァァーン!!」 みくるは泣き出してしまった。 それからだ、俺達の仲がぎくしゃくし始めたのは… あれから四年がたつ。 みくるとの仲は崩壊寸前だった。唯一俺に安らぎを与えてくれたのは、仕事と娘の春日だけだった。 しかし、俺は会社をこかしてしまった。 多額の借金を抱えこんだ俺にみくるは冷たく言いはらった。 「あなたとはもう終わりね。離婚しましょ」 それまで落ち込んでいた俺はそんな言葉にカッとして我を忘れてしまった。 気がつくと床には冷たくなったみくるが倒れていた。 「やっちまった…」 俺はついに人を殺してしまった。 幸い誰にも気がつかれていない様だった。 俺は死体を山に埋め事件の隠蔽を図った。 隠蔽は完璧だった。 唯一心配だったのは娘の春日だ。 あいつが母親がいないことに気がつき周りの人達に言いだしたらおしまいだ。 俺は娘の春日を殺そうと…できなかった。 可愛い娘は殺せなかった。 あれから四ヵ月がたった。 しかし春日は俺には何も言ってこない。 …おかしい 意を決して俺は聞いてみることにした。 「春日、父さんに何か聞きたいことはないのか?」 しばらくして春日は答えた 「んー別にないけど…」 「どうしていつもお母さんをおぶってるの?」 「…終わり」 すげぇ… 「すごいわ有希!どこでこんな怪談見つけてきたのよ!!」 「ふぇ~恐かったですぅ」 「…元ネタは秘密」 「ふ~ん。まぁいいわ!じゃあ次!キョン!!」 まあ俺達は怪談大会をしていたわけだ。 驚かしてすまなかったな。 さて次は俺の番だ、長門の次なんて不利すぎるぜ… 「やれやれ」 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5727.html
今日は学校が始まる月曜日 あぁ……あの憂鬱な日々がまた始まるのか そう思いながら目を開けるた すると長門が俺の横で寝ていた 「うぉぉわぁぁぁ?」 なんでこんな所にいるんだよ長門?お前にはマンションがあったはず 長門「私にもわからない 情報が足りない 」 情報が足りないってお前…………お前ほどの力があったらわかるはずだろ?それが何故? そう思っていると長門が俺の上にのしかかってきた ずっとこっちをみて俺の目の奥のほうを見ている 「何やっているんだ?長門よ?」 まさか長門がそっちの方であるはずはない 長門「貴方の脳に接続し情報を引き出している 今92%完了した」 この短時間に俺の2テラバイトの情報を引き出したのか さすが長門だ 長門「貴方が今考えた事も私には分かっている」 ああそういうことか つまり俺には何も考えるなと というかもうそろそろ完了したはず 長門「あなたが余計な事を考えているせいで私が貴方の脳に接続する為の状態が悪くなっている」 ああそういう事ですか では俺は何も考えない事にしよう 長門?あの長門さん?目が虚ですが?どうかされましたか? 長門「貴方の頭の中にノイズ(余計なもの)が含まれていて除くのに時間がかかる」 「つまり俺の脳から情報はダウンロードしたわけだ じゃあ俺の上に乗っていないでくれるか?」 しかし長門さんは降りようとしない あの……健全な男子である私が貴方のように可愛い人物に乗っかっていられたらすごい事になりそうですが? 長門「そんな事は起きない 私は貴方を信用している」 おいおい 可愛いは否定しないのか?まぁ長門らしいが…… 信用しているといった時長門の顔が赤くなった様な気がした 長門「情報の整理が終了した 結論は………」 こいつ凄い顔が赤いぞ? エラーですか?まさかのまさか? 長門「私が夜マンションを出て貴方の家に寝に行きそこで眠りについた」 なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! その後長門はマンションに戻って学校に行くと言っていた 俺は長門が夜マンションを出て俺の家に来るなどという事ががあり得る物かと思っていたが学校に着くころにはもう忘れていた なにしろ早朝の事だった上に急に眠くなり寝てしまった―いわゆる二度寝というやつだ 何の異常もなかった―はずだったが 教室に入ると机と椅子が全て槍になっていた 俺は驚きの余り絶句した 朝倉が長門に飛ばして刺したあの槍だ しかしなぜにあの槍が? 朝倉か?しかし朝倉は消えたはず では長門か?しかしあいつは朝倉の様に暴走しないはずだ 俺はそう信用している そう思いたいだけかもしれないが というかこの教室だけか?他の教室もそうなっているかもしれない 俺の予想は当たった 全部の教室の机と椅子は槍になっていた いや教室だけじゃない職員室やSOS団の部室の机や椅子も槍になっている やはり長門か?しかし……そんなはずは…… いや……あり得るかもしれない 俺の家に夜自分のマンションを出て来るような状態の長門ならあり得るかもしれない 異常事態なのか? もしかしたら古泉にきけば分かるかもしれない そう思った時放送がかかった 「全校生徒の皆さん今日は家に帰り自宅待機です」 思えば長門がいない いや長門だけではない 朝比奈さんもハルヒもいない まさかこないだみたいな事があったわけじゃないよな? ちょうどそこに鶴屋さんが通りかかった そうだ聞いてみよう 鶴屋さんがハルヒの事を覚えていればこないだとは違う 「鶴屋さん 今日ハルヒ見てませんか?」 「キョンくんじゃないかにょろ ハルにゃん?そういえば今日は見てないにょろ」 良かった……覚えている つまり長門のエラーではないようだな 鶴屋さんがバッグから「何か」を取り出した そして俺に見せてきた 「家の庭に埋まっていたんだにょろ ハルにゃんに渡しておいてにょろ」 これは?何だろう?外見は……そうだな機械でできた埴輪とでも言おうか 「ところで鶴屋さん……長門はどこにいるかわかりますか?」 「そういえば長門ちゃんも来ていないにょろ―」 朝比奈さんは? 「みてないにょろ SOS団の女子勢が全員いないなんてどうしたのかな?古泉君はいるにょろ 屋上にいたにょろ」 古泉はいるのか! 「ありがとうございました! 鶴屋さん!」 「ちょっと待つにょろ 私の家の庭に埋まっていた物があるからSOS団に渡しておくね」 そして鶴屋さんは何かを思いっきりなげつけてきた それは機械でできた埴輪と言うような形状をしているが大きさは10㎝くらいである それをキャッチした………凄い重いぞ? 俺はそれを鞄にしまうと走り出した 階段を凄い勢いで上り屋上への扉を開けると古泉がいた 「おまえ何故ここに?」 こちらを古泉は見るとちょっと来てくださいと言うかのようにこまねきをした 「このフェンスのむこうが閉鎖空間です」 おい何を言っているんだ? 「はやくしないと行っちゃいますよ?むこうには長門さんがいます」 長門が?じゃあ俺も行かなくては………あいつには聞く事が沢山ある 「では目を閉じてください」 俺は言われた通りに目を閉じた おやおそいなぁ? 「もう目を開けてもいいですよ」 目を開けるとそこはいつぞやの閉鎖空間だった それにしても高さが俺の身長+30㎝くらいしかない しかしとんでもない所に閉鎖空間ができたものだ 「その通りです このままの状態で神人も出てくる事もできずしょうがなくあんなミニチュアなのです」 古泉が指さした方向には30㎝くらいの青い物がいた 「異常事態なんです こんな小規模の閉鎖空間などありえないんです」 「涼宮ハルヒの苛立ちが少ししかない そのため」 苛立ちが少ししかない?どういうことだよ? 「苛立ちがまるでどこかに封印されているかのように苛立ちが放出されていない」 「そこからは私に説明さして」 ちょっとまて私?古泉がおかまになったか?しかも「さして?」 しかし声の主は埴輪だった 鞄の中の埴輪がしゃべりだした事がわかった俺は驚いた しかもその声はどっからどう聞いても朝倉だった その埴輪は光だし朝倉?になった だがとても小さい……15㎝くらいか? 「おどろいた?」 ああ色々な意味でな また「死んで?」とか言われるんじゃないよな まぁこの体の大きさの違いがありすぎる今では無理だろ 「死んで!」 おい………ミニチュアナイフ……いや…針と言った方がいいかな? それを両手で持ち刺してこようとした しかしその願いはかなわなかった 長門につままれ暴れていた そういえば15㎝か………30㎝の神人と戦わせてみるか? それはそれで面白いな 俺の頭にものすごい悪な考えが浮かんだ 「ちょっと長門…朝倉を貸してくれ」 長門は頷くと朝倉を差し出してきた 「何をするつもり?」 朝倉はものすごい顔でこっちを見た まるで恐怖しているかのような顔で…… 「少し俺と長門が味わった苦しみをあじわってもらうだけさ」 俺はなるべく悪魔のような顔で言った 「もしや?そういう事ですか?」 そうだ古泉がいたこいつは昔野球をやっていたんだ 「古泉?ふんもっふと同じやり方でこいつを神人の所まで投げてくけるか?」 俺は古泉に朝倉を差し出した 俺はいつもはしないにこにこスマイルで古泉を見た 古泉は同じにこにこ顔で返してきた そして朝倉を受け取った 「ええいいでしょう ではいきますよ?」 俺と古泉はニヤニヤしていた そして古泉は野球のボールを投げる体制に入った 「ちょっと待って待って待って……ってぇぇぇぇぇぇぇぇ」 朝倉が抵抗したようだが気にはしない 朝倉は神人にむかって一直線に飛んで行った そして神人の頭に朝倉の体が激突した 神人が砂の様になっていき神人がいなくなった 朝倉硬いんだなと思った その瞬間だった………閉鎖空間の急に広がった いくら鈍感な俺でもわかった 「なんですか?この神人の数は………」 俺は古泉が見た方向を見た それは絶望の二文字だった 最初そちらを見ると青い壁かと思った だが青い壁だと思ったのは神人が重なっているせいで壁になっている様に見えるだけだった 「長門さんお願いしていいですか?」 古泉がひきつった声で喋った 「なに?」 長門はこんな状態でも冷静な顔だ いつのまにか朝倉が戻ってきている 「朝倉さんと連携して機関の同士にこの事をつたえてください」 「了解した」 朝倉が少し否定的な顔をしたが先程のようにまた投げられたらいやだと思ったのか納得した 「あなたがこの空間に入れたのは空間の裂け目があったからですね?」 「そう」 「では僕がいなくてもいいですね?」 古泉お前一人で戦うつもりか? 古泉の死亡フラグONか?そんなのはまた閉鎖空間が発生する理由になってしまう 古泉が死ぬなんて事はないでほしい そんな事は思いたくない 「そう」 俺は今の言葉は口には出してはいなかっようだ 「おれはどうすれば?」 俺の方向に飛んできた神人の拳にきずかなかったようだ 長門は俺の方向に飛んできたかと思うと高速呪文詠唱をした バリアがはられたかと思うとそのバリアが壊れた そして俺の前に吹っ飛んできた 「………………」 俺はその時血が降りかかった 朝倉が俺と長門をつかみ普通の空間に飛ばしてくれたおかげで二発目をくらわずに済んだ この時の朝倉には感謝している この後しっかり謝った 「おい長門!起きろよ長門!」 しかしいくら長門をふっても起きない もう駄目なのか?長門は二度と目を覚まさないのか? 「ちょっとどいてください!!」 後ろから聞こえたの朝倉の声に従うと朝倉後ろからとんできて腹に長門にとび蹴りをした そんな事をしたら……… 「何?」 何故だか知らないが長門が目ざめた 長門が目覚めた……良かった その時朝倉がある事を言った 「もう一名のインターフェイスを呼んでおきました」 3人のインターフェイス?そんな異常事態なのか? 「そう」 今度は長門が言った 「閉鎖空間がとても速いスピードで拡大している このままだと宇宙にまで広がる その事が自分達に対する影響を考えたらこうなった」 ガチャ 後ろでドアの開く音がした 俺はそちらを見た 喜緑さんが立っていた そちらを見た朝倉がそっちの方向に歩いていった状況を説明した 「分かりました」 すると長門が何か呟きだした あの高速呪文か……… 数分たつと長門が消えた 「あなたもついてきて」 長門の声が聞こえた すると俺は閉鎖空間にいた 後でわかった話だがこの閉鎖空間はどうやらハルヒの苛立ちとは関係なくできたものらしい ハルヒはこの時どこにいたかと言うと家で風邪になって寝込んでいたそうだ 赤い玉が神人を倒していく その中でこちらに飛んでくる赤い玉がひとつあった 古泉か?ああ古泉だ 死亡フラグは成立しなかったんだな 「いやぁー助かりましたよーこの学校の同士がすぐにきてくれたので死なずに済みましたよ ハハハ もうそろそろこの閉鎖空間は消えますよ」 ピキピキキキピキピキピキキピキキピキピキキキキ 閉鎖空間が豪快に壊れる音がした 空を見ると亀裂が入っている その後の事はおぼえていない 気づいたら家にいた その次の日 ハルヒは学校に来ていた 「ハルヒ昨日はどうしたんだ?」 「風邪よ風邪!」 ほう、こいつが風邪をひくか………面白いな 授業が終りSОS団の部室に行くといつものめんつがそろっていた 朝比奈さんも来ていた ハルヒは俺を見るとアヒル口で 「キョン!なんで私のお見舞いにきてくれなかったの?」 おいおいあの後ハルヒの見舞いに行けるかよ?俺はあの急展開についていけなかったぞ?その上あんな数の神人をみて死にそうな状況だったら精神が持たん 「そもそも何故俺がお前の風邪の見舞いに行かなければならないんだ?」 すると、ハルヒが怒ったような顔をして 「私が団長だからよ!あんた以外皆きてくれたわよ?あ、でもみくるちゃんは来てくれなかったけどまぁいいよ」 「ごめんなさぁい………」 朝比奈さんはとてもすまなさそうに謝った そういえば朝比奈さんは昨日どうしたんだろうか? 「朝比奈さん昨日はどうしたんですか?」 「家族でお出かけしてました……」 この家族というのはきっとハルヒの前だからそう言っているのだろう きっと「禁則事項」をしていたのだろう その禁則事項は俺にはわからんが きっと放送禁止用語ではないだろう まぁその後古泉と俺はオセロをして長門は本を読み朝比奈さんはお茶をくれた ハルヒはパソコンで情報収集をしていた まぁ今日はこれと言うこともなく、平凡に終わった しかし、長門の顔が怒っているように見えたのは気のせいだろうか? まぁ見えただけだろうからな あいつはいつも無表情だからそう思おうとして見ればそう見えるだろう そうして俺は帰路についた 家に帰り宿題をし、寝てしまった ~長門の家~ 憎い。何かが憎い。 憎くてたまらない。 私にそんな情報は設定されていないはず。 しかし憎い。とても憎い。 何故この「憎い」という感情をもってしまうのだろう? そんな設定は…… とにかくご飯を食べる事にしよう。 朝倉涼子に作ってもらえばいい。 バッグの中に入っているはずの朝倉を取り出すためにバッグを開けると小さい朝倉がバッグの中で寝ていた。 「起きて。」 私は小さく声をかけた。 すると朝倉は動きだしバッグの中から出てきた。 「ふぁぁぁぁ。よく寝ました。」 あの後、彼に対する攻撃はこの状態の彼女ではできないと判断され喜緑江美里と話合い私が保護する事になった。 「ご飯を作ればいいんですか?」 「そう、作って。」 「分かりました。でも、この体では無理ですから色々やってもらっていいですか?」 「分かった。」 {キョン視点} その次の日のSOS団部室 ハルヒが何か思いついたという顔でしゃべりだした 「そうだ!今日肝試しをしましょう!」 おいおい何故肝試しという発想が出てくるんだ? 「夏だからよ。古泉君!このアイデアいいと思わない?」 「大変よろしいかと。」 「古泉君もこう言っているから決行よ!」 俺は実は肝試しが嫌いだ 超能力者や宇宙人や未来人は会っているが幽霊には会っていないのでな しかし、超能力者や未来人や宇宙人がいるとなると幽霊がいるという可能性は高くなってしまう 「今日の午後九時に学校の校門集合!それまで自宅待機!もしこなかったら死刑よ!」 死刑と幽霊どっちを選ぼうかな?トホホ……… ~その夜~ 妹か何故ついてくるんだ……俺の本性を暴く為か? 校門に行くと俺以外の全員は揃っていた 「ああ、妹ちゃんも来たの?まぁ、いいわ。そうすれば人数がちゃんと揃うからね。さぁ肝試しを始めるわよ!このクジを引いてそれで無印と赤印に分かれるの!」 そう言うとハルヒはくじの入った箱を差し出した。 なるべくなら長門となりたいな……あいつならきっと何かあっても解決してくれるね。 どうやら長門のくじの印は赤だったらしい。 俺も赤が引けますように…… 俺はくじの先っぽが赤色である事を願いくじを引いた。 ああ、俺はついている。 赤色のくじが引けた。 長門さんよろしく頼みましたぜ。 しかし、長門が少し震えてそうに見えてしまったのはきっと気のせいだ。うん、きっと気のせい。 結果メンバー分けの結果はハルヒ、古泉、妹が無印で長門、朝比奈さん、俺が赤印だ あっちには古泉がいるのでおそらく大丈夫だ。 「部室にある紙を持ってきて!とって来なかったら死刑。じゃあまずは赤印チームからね。いってらっしゃい。」 俺達は渋々と学校の中に入っていった ん?なんだこの感覚は?もしや閉鎖空間? 「違う。どうやら前の夏休みの様な事が起きている。」 前の夏休みってあれか、特異点とやらの奴の事か? 「そう。でも、私が設置した物。来る前に設置しておいた。おかげで怖いというイメージを具現化する。でも家でホラー映画を見てからあのイメージが頭に焼きついたまま離れない。」 長門は凄いビクビクしている。 なのに対象的に朝比奈さんはビクビクしていない。 まるで、「私は平気です。」というかのように 「朝比奈さんは大丈夫何ですか?」 「怖くないです。理由は……禁則事項です。」 あぁ、どうやら未来でははっきりとしているのだろう。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3173.html
長門有希 銀河を超えた戦い プロローグ ~宇宙を漂う宇宙船内部 青年「マスター地球です。」 マスター「そうか。ここにフォースを操る女性がいる」 青年「マスターそれはホントですか?」 マスター「確証はない。R2を先に一体送り込んだ。そろそろデータが送られてくるだろう」 ~その頃文芸部室 ホームルームが終わり、掃除当番と指導のあるハルヒを励ましてから俺は いつも通りに、SOS団アジトの文芸部室へと向かっていた。 コンコン・・・返事がない。朝比奈さんはいないみたいだ。 ガチャ キョン「長門だけか」 長門「・・・・・・見て」 突然のことに俺は驚いた。長門が手のひらを向けただけでリンゴが吸いよせられてきた。 古泉「おや、長門さん超能力ですか?」 お前いつきた。 長門「わたしは超能力者ではない。」 超能力者よりすごいぞと言うか迷ったが、ここは言うことが違う。 キョン「いつからそんな事できるようになったんだ?」 長門「あなたも知ってる通り、プログラムにアクセスすれば大抵のことはできる。」 それは、確かに知っている。長門なら一人で野球もできそうだ。 長門「でも、さっきのはプログラムにアクセスしていない。わたしの力」 なんだか長門が嬉しそうに、自分の手のひらを見ている。 バタン みくる「ふぇ~遅れてすいません。あれ?涼宮さんは?」 キョン「あいつは今日掃除の後個人面接です。5時30までに来なければ今日は解散でいいと」 みくる「そうなんですかぁ、もう25分ですし着替えなくてもいいですよね。」 キョン「いいと思いますよ。」 この人もまじめな人だ。毎日メイド服に着替え、帰る時は制服に着替える。 こんなめんどくさいことを、自分からしてるんだから大したもんである。 長門「・・・・・・見て」 めずらしく、長門が朝比奈さんを呼んだ。うれしそうである。 みくる「なんですかぁ?長門さん」 カエルの着ぐるみの頭の部分がロッカーの上にあるわけだが それが、長門が手を上から下に降るアクションをしただけで落ちたのだ。 みくる「ふぇっ、、、長門さん今何か力を使ったんですか?」 長門「使ってはいない。わたしに芽生えた力。」 みくる「・・・キョンくん」 キョン「俺もびっくりしましたよ。リンゴを吸い寄せましたから」 朝比奈さんは、俺がするだけでも驚いている。 古泉「超能力でもなく、思念体の力でもない。なんでしょうね?」 みくる「う~ん、不思議ですね。他に何かできるんですか?」 長門「朝、枕元に置いてあった。」 長門が俺たちに見せたのは、シルバーの短い筒と、長門にはでかすぎる茶色の布でできたかぶり物だった。 キョン「心当たりないのか?」 長門「・・・ない」 キョン「なにかわかるか?」 長門「・・・わからない。」 古泉が勝手にかぶり物をかぶっていた。背の高い古泉でもフードをすると顔が隠れる。 見た目はカッパのような感じだ。 古泉「とても、大きいですね。長門さんが着たら半分以上引きずりますね」 長門「・・・・サイズを調整する。貸して」 そういうと、長門はそれを着た。古泉の言ったとおり長門には半端なくでかい。 小さい子が親の服を着ているみたいな感じだ。かわいいぞ、長門。 長門「~~~~~~~~」長門が呪文を唱えると少し引きずる程度の大きさになった。 キョン「長門似合ってるな。いいぞ」 長門「そう。」コートのようにフードをかぶっている。 みくる「あのぉ、この筒ボタンが付いてますよぉ」 朝比奈さんは、ずっと筒を見ていた。 キョン「未来に似たような何かありますか?」 みくる「未来のものじゃないみたいです。あえて言えば、もっと古いもの…」 古泉「このようなものが昔に?」 みくる「はい、教科書で見たことがあるんです。」 朝比奈さんは、思い出しながら語るように話しだした。 「はるか昔、遠い銀河系の彼方で、ジェダイと呼ばれる騎士の集団があった。 彼らは、光の剣で戦い、光より早い乗り物で移動する・・・」 みくる「こんな感じのお話なんですが・・・」 キョン「朝比奈さん、それは実話ですか?」 みくる「多少実話も入っているかと…」 どうやら、ただのお話らしいな。それもそうだ、こんな話聞いたことがない。 もし事実なら、現代に少しくらいその陰があってもいいだろうよ。 古泉「このボタンなんでしょうね?」 長門「・・・朝は気付かなかった。押してみる。」 ビィィィン!ジリジリジリ さぁ、状況を説明してみようか。 長門がボタンを押した瞬間、筒から光の棒が伸びカエルの頭が乗っていたロッカーを貫通しているのだ。 キョン「なんだこれは!」 R-2「urukoowat-ed」 ~地球上を旋回中の宇宙船 青年「マスター、データが送られてきました。」 マスター「表示しろ」 青年「はい!」カチッ シュルーン そこには、長門・キョン・みくる・古泉が立体映像で映し出されていた。 会話内容は、先ほどの部室での会話である。 青年「このような少女がフォースを…?」 マスター「それより問題は、生まれつきではないフォースの力だ。」 青年「朝目覚めたら急に、だなんて・・・・」 マスター「彼女との接触を試みる。」 青年「了解しました!」 こうして、宇宙船は地球大気圏へと突入した ~文芸部室 長門「・・・ユニーク」 キョン「それどころじゃない!早くそれを消すんだ。」 古泉「触ってはだめです。貫通ですよ?しかも切り口が溶けている・・・」 長門「・・・しまう。」シュルル なんなんだ、この剣は。朝比奈さんが言った光の剣。もしや…! キョン「朝比奈さん!」 みくる「ふぁい?」 まったく気の抜けた返事をする人だ。だが、かわいらしい。 キョン「朝比奈さんの教科書で昔の事って、今のことじゃないですか?」 目をまん丸くして驚く朝比奈さん。 古泉「確かに、話がつながりますね。僕らは知らず、朝比奈さんが知っている昔の話。つまり今の話なんですよ。きっと」 みくる「どうしよう。ほんとなら私未来のこと話しちゃった。」 大丈夫です。あなたはえらくなって同じミスをまたします。 長門「…大丈夫。はっきりしたことではないから。」 みくる「だと、いいんですがぁ」 ふと、外を見るとすっかり暗くなっていた。 時刻は6時を回ったところ。ハルヒは今日は来なかった。 古泉「今日はもう帰りましょうか。」 みくる「そうですね、暗くなってきましたし」 キョン「長門、それはお前が家に保管しといてくれ。」 長門「わかった」 帰り道。4人で歩いてると、俺たちの前に二人の男が現れた。