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21: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/10(土) 22 01 23 これからお世話になる部屋を見て、一人考えていると ガチャ ノックもせずに誰?と思い見てみると、やっぱりというか案の定というか、そこにいたのは響だった。 「バスケ部がいつも練習前に使ってる部屋、汚ぇから掃除しといてくんねぇ?」 ……いきなりかよ ていうか、寮にまで部室っぽいものがあるのか。 「それと、」 「?」 ぐいっ 「わっ……!?」 腕を思い切り引かれ、 ぺろ 「ひゃあっ……!?」 こ、この人……く、首筋を! ノックもなしに部屋に入って来たかと思ったら、この人は……! 「こんくらいで感じた?感度高いな、お前は」 なっ…… 「ち、違う!」 「ふうん、いつまでその口叩いてられるかな」 ちゅっ ……ま、またかよ…… 「んうっ……」 何だか前より深い。口を無理やりこじ開けられ、舌を奥へ奥へと差し込んでくる。 何も考えられない 「は……ぁっ」 どさっ 突如前触れなしに口が離れ、ついでに体も離される。 私が響にもたれかかるような体制になっていたため、私は響を押し倒すような形になってしまった。 あわてて私が響の上から逃げようとするも、下から私の腕を掴んでいるのでそうもいかない。 「は、離してよ!」 「嫌。お前から乗って来たんだろ、積極的だな今日は」 「うるさっ……っ!!」 こ、この人、また首筋を…… 「はぁっん……」 や、やだ、私こんな声出して 「もっと声出せよ。我慢すんな」 くちゅ、と今度は耳を軽く噛まれた。 ゾクッ 「――っ!!」 私の体は過剰なほどに反応してしまう。 「そーかお前、ここ弱いんだ?」 (へ、変な弱み握られちゃったし!! 好きな人でもないのに、こんな……。 大体、この男は何?女だったら誰でもいいの?) 24: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 10 46 41 ぺろぺろと、耳ばかりを攻められる。下から押さえつけられ、為すすべがなく私はされるがまま。 「ふっ……やっ」 そのとき、不意に響の舌が耳から離れた。 そう思ったかと思えば、同時に首に強い吸引と、チクっとした痛みを感じた。 「痛っ……」 こ、腰がガクガクになってきた……。 「莉恵」 耳元で、低い声で囁かれる。 何、この声。これだけで力が抜けてしまいそうになる。 「俺、もうそろそろ限界」 ちゅう…… 何度も首や耳辺りを遊ばれ、響の手が不自然に私の腰を撫で始めた。 「やっどこ触って……」 ただ体を撫でまわされるだけで、この感覚。 私だって、別の意味で限界なんですって……! こんなところで、好きでもない人と。 絶対に嫌! 「んっ……!?」 今度は肩にチクリとした痛み。 ま、まさかこの人さっきから……。 そのとき。 「おい、響ー!監督が呼んでっぞー」 誰かの声が廊下で響いているのが聞こえた。 (あ……ありがとう!!誰だか分からないけど!!私すっごい助かった、今!!) 「あ?もうそんな時間かよ……」 そう言いながら私から離れ、時計を見上げる響。 超機嫌悪いんですけど……!?た、助かったから良かったけど。 「莉恵」 「っな何!?」 「あとで鏡の中の自分、よーく観察しとけよ。じゃ」 バタン それだけ言って、響は出て行った。 あの変態め……。 なんで好きでもない人にキスなんてできるんだろう。 だいぶ慣れてそうな感じだった、気がする。もちろん私はそんな経験ないわけで……初めてくらい、自分の好きな人としたい。 鏡台の前に立って、そこに映る自分の姿を見れば、案の定首と肩にはくっきりと残ったキスマーク。 悔しくて恥ずかしくて、目に涙が溜まってくる。 (……泣いちゃ駄目だ!あんなやつに負けたなんて思いたくない) (ほんとに最低男っ……!!大嫌い) 25: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 11 02 23 ――午前7時45分 「んー……ここどこだっけ」 寝起きで働かない朦朧とした頭の中で、私は手探りで携帯を握り時刻を確かめる。 ……これは、まずい。 「遅刻うぅぅうぅうう!?」 バタバタバタ 私は今、学校への道を急ぎ走っている。道、覚えといて良かった。 朝はこれでもかってくらいの早さで着替え、朝食を済ませた。食堂にはもうほとんど人は居なかった。 (私よく初めて泊まった場所で寝過せるな……!順応性がありすぎるわけ!?) それにしても……朝一から走るのはさすがにキツい。間に合うのだろうか。 ……そのとき、すーっと黒い車が私の横に止まった。 (……?あれ、うちの学校の生徒が乗ってる。ていうかこの顔見たことある、誰だっけ) そう思っていたら、車の窓が開き、生徒が顔を出した。 「橋場……?だったよな?」 「あ……えっと……北井くん?」 同じクラスの、野球部の北井遼だ。坊主だから分かりやすかった……ていうのは置いといて。 「乗ってけ!あと10分で遅刻だぞ」 「うう嘘!け、けどそんな迷惑な」 「いいから早く!」 私はその勢いに呑まれて車に乗り込むことにした。 お、お邪魔しまーす…… ブロロロ 車が発進する。 「「……」」 ち、沈黙気まずっ! 「あ、あの!ごめんね、本当にありがとう」 「いーや。あんなぼろぼろの状態で走られてもな。 それに、俺今脚故障中だからついでだったし。ま、もう治るんだけどな」 ぼろぼろ……そうか、全力疾走する私はそんなにも醜かったのか。 私が若干落ち込んでいると、いつの間にか車は校門の横に到着していた。 「あ、ありがとうございました!」 運転してくれていたお母さんらしき人にお礼を言うと、にっこりほほ笑んでくれた。 車から降りて、私は走り出す。 「北井くん、ほんとありがと!」 「いーって、気にすんな!こけんなよー」 そういうと彼はニッと笑った。 ……ドキ (え?) な、何今の。 不覚にもときめいてしまった。 「何ぼーっとしてんですか?せっかく来たのにまじで遅刻すんぞ」 ドキッ (ままままた来た!) 「そ、そーだね!」 私はダッシュでその場を後にした。 不覚にも、あの笑顔にやられたのか(?)心臓が煩い。 26: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 11 10 59 「莉恵おはよー。寮生活どうだった?」 「……」 「莉恵?」 「……」 「橋場莉恵ーーーーー!!」 「ははははははあい!?」 びっびっくりした……沙耶か。 「なによ、『沙耶か』って。気づいてなかったのー?」 「あ、……ごめん」 沙耶が怪訝そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。 はっ私何考えてたんだ…… (あ) 北井くんが今教室に入って来た。私がそちらに目を向けると、たまたま向こうもこっちを向いた。 ドキっ!! (や、やばい!ドキって何、ドキって!?まさか私) そんなことばかり考え、一時間目はあっという間に過ぎてしまった。 そして次の休み時間。 「ねぇ、莉恵。あんたのそのおかしな態度と関係あるのか分かんないけど、それ……」 沙耶の視線の先には私の首元。 ……首? (ああぁぁ!!隠すの忘れてた!!) 朝ばたばたしてたから、昨日響につけられたキスマークを隠すのを忘れていたのだ。 最悪…… そう思いながら響を目で探すけど、机に突っ伏して寝ているらしい。ほんといつも寝てるなあ。 「はいはい、あんたは動揺しすぎね。全部あたしに洗いざらし話しなさい」 「はぁ……」 結局私は沙耶にすべてを話してしまった。 「へーえ……おいしい状況じゃないの」 「お、おいしいって!何面白がってんの」 「で?結局シたの?」 「しししてません!!何もかも!!」 「(何もかもって、なんだそりゃ) あ、あとあんた北井のこと好きなんだね」 「あー、なんか今日の朝……って、ちょっとおお!!」 今、すっごく自然にすごいこと言ったよね? しかも私あっさり認めちゃってたし。いやいや、まだ好きなのかは決まっていないっていうか…… 27: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 11 17 28 「あのね、あんた、すべてにおいて分かりやす過ぎ。もうちょっと嘘くらいつけるようにならないとこの先損するわよ」 ……よく分かりました(泣) 「で?いつ告んの?」 「こここ告!?私、別にまだそんな……」 「いや、でもアドくらい知っててもいいんじゃね? ちょっとーーー、北井ーーー!」 (さささささ沙耶アァァァ!!何してくれちゃってんの!?) そんな私の心の叫びも空しく、北井は私たちのほうに来た。 さ、さっきから沙耶と話してたから、余計に意識しちゃうじゃない。 「何?」 すると、沙耶は私の足を思いっきり踏んだ。痛い、痛いよ!これは、私にどうにかしろということですか。 ……も、もうなんでもいい! 「あ、あの。メアド教えてほしいなー、みたいな……」 ま、また出た。「みたいな」発言。 「お…おう。じゃあ、送るわ」 「あ、ありがと!」 最初は一瞬びっくりしたみたいな顔してたけど、笑って赤外線で送ってくれた。 ……べ、別に好きじゃないから!!← とりあえずお友達から、ってことで…… だけどやっぱり嬉しかった。後で沙耶と二人してめっちゃはしゃいじゃったもん。 幸せいっぱいのときって、後から何が起こるか分からないものだ。 28: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 11 24 53 授業がすべて終わり、放課後。私は体育館の隅で練習の様子を見つつ、携帯の画面とにらめっこしていた。 決してさぼっているわけじゃない。今、ちょうどみんな休憩時間なのだ。 さっそくメールしてみたよ!よろしく♪ なんか馴れ馴れしいなぁ……やめよ。 これからよろしくお願いします。 いや、初対面じゃないし。却下。 アド教えてくれてありがとう!登録よろしくね やっぱり無難にこれが一番だな。よしこれにしよう! 勇気を持って送信ボタンを……押せなかった。 誰かが私の携帯を後ろから取り上げたのだ。 「!?……あ、あんたぁぁ!!」 響がにやにやしながら私の携帯画面を舐めるように見ていた。 よりによってこいつに見られるなんて。 「ふーん」 今度は冷たく笑いながら、私のほうを見た。ちょ、ちょっと怖い……。 「お前あいつの好きなのか」 「ち、違……!好きってわけじゃ」 そう言いながらも、みるみる頬が染まっていくのが自分でも分かる。 「あいつはやめとけ」 「は!?あんたにそんな指図受ける覚えないんですけどー」 「俺、生徒会長とキャプテンな。お前マネージャー」 「……」 は、反論出来ないのが悔しい。私、こいつに結構口答えするようになってるな……。 「お願い!返して!」 「あいつとメールなんかしてたらこっちの仕事に集中出来なくなるだろ」 鬼ーー!(涙) 「れ、練習中は絶対しないから!お願いだって!」 「知らねーぞ」 ぽいっ 「え?」 案外早く携帯を返してくれた。 拍子抜けというか……なんなんだ、一体。 29: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 19 03 04 「じゃー、そろそろ時間だから。お前も仕事しろよ。 くれぐれも後悔すんなよ」 「後悔?え、あ、うん……」 そう言い残して響は行ってしまった。 「マジかよ……」 「ん?なんか言ったか響」 「……駿。なんでお前は俺が行く先々で現れるんだ?」 「だって気になるし」 「盗み聞きかよ……」 「莉恵絡み?おい」 「うっせーよ」 あ、もうこんな時間。 ピーッ 「体育館掃除の時間です!」 皆が掃除をやりに動き、することのないものは先に出ていく。ジャージのまま寮まで戻って、シャワーもそっちで浴びるのだ。 「あ、そだ!メールっ」 携帯を開くと、【新着メール2件】 一つ目は沙耶だ。 なんか進展あったら教えてよ~ もうひとつは…… おう!こっちこそよろしく、遅刻すんなよ 「やっやばあああっ」 へ、返事くれたよ!それだけですごく嬉しい。久しぶりに恋する乙女の心境だ。(笑) 有頂天のまま、私は寮まで戻った。 30: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 19 20 14 ジリリリリリ 「んーう……」 いつものように手探りで携帯を弄ってアラーム音を止める。あの日以来、毎日違う曲をかけることにしていた。(起きられるように) 今日は、バスケ部には珍しくて貴重なオフ。そして、沙耶と遊ぶ約束をしていた。こっちに戻ってきてから、友達と遊ぶようなことは初めてなのでとてもわくわくしていた。 約束の時間になり、私は寮を出る。廊下は静かだった。きっとみんなぐっすり眠っているのだろう。 「莉恵~っ」 駅前で沙耶を待っていると、髪をゆるく巻いて化粧をした沙耶がこっちに向かって歩いてきた。 「おはよ!なんか全然雰囲気違うね」 沙耶は普段ストレートヘアなので、少し巻くだけで全然印象が違った。 「莉恵こそ。髪上げて似合うのは美人なんだよ~」 はは、と笑いあって私たちは歩き始めた。最初の目的地は休日の醍醐味の(なんじゃそりゃ)カラオケ! 受付を済まし、部屋に入る。 「カラオケに来たは良いけど、私あんまり最近の日本の歌分からないんだけど……」 「あ、そっか。じゃああんたは聞いてなさい!」 「聞いてなさいって……」 ♪~ 沙耶は好き勝手に曲を入れ始めた。 私は画面に表示される歌詞をぼーっと見ながら聴いていた。 (本当に大切な人が誰なのか 気付くのが遅かったんだね もうこの気持ちは届かない、それはあたしの隣に立っていた人なのに あと一瞬早ければ変わったのかもしれないのに 気付いた時には、もう手遅れ ……かぁ) いきなり切ないの歌うなー…… 「そういや莉恵、最近メールしてる?」 歌い終えた沙耶がいきなり話題を振って来た。 「へ?あ、うん、してるよ?」 思わず顔がにやけてしまいそうになる。 「うわ、緩んだ顔しちゃって。いやらしい」 「いやらしいって!響じゃないからね、私は」 そう言うと、沙耶はひどく驚いたような顔をした。 「え?どうしたの沙耶」 「あんた、相川くんと名前で呼び合うような仲だったっけ?」 ……あー、そういうことね。 31: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 19 37 14 「そんなんじゃないって。あいつが名前で呼べって言ってきたから。 とは言っても、私本人には呼んだことないんだけどね……」 いつも「あんた」とか、「ちょっと!」で済ませたりしてるし。 カラオケ館を出た後、プリクラを撮った。その間の移動中も、話が尽きることはなかった。 「お茶でもする?休憩がてらに」 「そうしよっか」 私たちはスタバに入り、腰掛けた。二人で無言で冷たいドリンクを飲む。 「……ねぇ、莉恵さ」 「ん?」 「……」 沙耶は少し難しい顔をして黙りこんでいたが、 「北井のこと……好きだよね?」 「な、何を今更。ずっとメールするようになって、やっぱり優しいな、とか思うし……。 あの優しさが響にもあったらいいのになーとか思ったりもするしね(笑)」 「……莉恵、まさかあんた」 「……え?」 と、そのとき。 「あれ、もしかして北井じゃ……!」 「!」 そこに入って来たのは、何というタイミングであろうか私の想い人、北井くんであって。 そして、その隣には…… 「う、嘘……」 なんとも可愛らしい女の子が一人。他校だろうか、見たことのない顔だ。 二人して手つないじゃって、幸せそうな顔して。 (……なあんだ) 「……沙耶。出よっか」 「……うん」 約2年ぶりの短かった恋は、見事に且つこれ以上ないくらいにあっさりと、失恋に終わりました。 32: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 19 47 40 「……」 あのあと、私は沙耶と別れて一人寮へと帰って来た。 な、なんかすごくあっさりと失恋してしまったから、ショックだとか感じている暇がない。 それよりといっちゃあ何だが、別れ際に沙耶が残した一言が私の頭の中に強く残っていた。 ラウンジのソファーに腰掛け、一人思い出して考え込んでいた。 『ねぇ、莉恵』 『んー?』 『今日思ったんだけどあんたね、もしかしたら大事なとこ見落としてるんじゃない?』 『大事なとこ?』 『ウン。……まー、それに気付けないようじゃあんたもまだまだね(笑)』 『ちょ、ちょっと何よそれ!しかもそれだけ言い残して帰るのかよ!』 大事なことって、何だったんだろうなー。 あー、それにしてもやっぱり悲しい。そりゃあそうだよ、失恋したんだから。 ……そのわりに私、開き直ってません? あれか?最初は実感湧かなくて何も思わないけど、ふと気が抜けたら一気に涙が出てくるっていうやつか?(←作者経験あり) だけど、うーん……そういうのでもない気がする。 北井って、優しくてお兄ちゃんみたいだったなー…… (お兄ちゃん……?) 彼は私にとって「お兄ちゃん」みたいな存在だったんだのかな? 分かんないな、あんまりその辺のこと。 ……本当に満ち足りた、家族の愛情なんて。 (……私は、愛してほしかったのかもしれない) 36: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 21 05 12 「おい、莉恵」 「……?」 一人物思いにふけっていると、響が何やら真面目そうな顔でこっちに歩いてきた。 ……どうしたんだろう。 「どうしたの?」 「これ」 ぱさ、と渡されたのは封筒に入っている手紙らしきもの。 私宛……? 「お前の母さんって名乗った女性(ひと)が、莉恵に渡してくれって。あと……『ごめん』ともな」 「!?」 その言葉に突然目の色を変えた私を、響が少し驚いたような顔で見つめる。 それさえ気に入らないほど、心臓が煩く高鳴っている。 (……読みたくない) 嫌な予感がする。 私がずっと恐れていた『その時』が、今にも訪れようとしている。そんな気がしてならない。 「……っ」 唇を強く噛みしめ、震える手で私は封を切った。 「―――っ!!」 そこにあったのは、私が予想していた通りの『答え』で。 やっぱりと思う気持ち、裏切られたと思う気持ちやらなんやらで自然と目頭が熱くなっていくのを感じた。 38: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 21 21 36 『突然こんな手紙を書いてしまって驚かせてしまったと思います。そして、ごめんなさい。 私とお父さん、離婚することにしました。 寮生活から変わることはないし、学費のこともあなたは心配しないでください。 顔を見て話したかったんだけど、私も忙しくてなかなか時間が取れなくて、こんな手紙なんていう形になってしまいました。莉恵は怒るだろうね、こんなことして。 だけど、これが私たちが出した答えなの。 本当に、急な話だったけど、莉恵なら分かってくれるでしょう?』 「……!!!」 ここまで読んで、私は手紙をその場に投げ捨て走り出した。 もう、あんなもの読みたくない。 走らずにはいられなかった。 (……っ) 私は誰もいない夜のがらんとした食堂の扉の前までたどり着いていた。ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。私はその場にへなへなと座り込んだ。 お母さん、お父さん。 あなたたちは私のこと、何にも分かっていないよ。 なんでそんな大事なこと、娘に何の相談もなしに決めちゃうのよ。 ……最低。 『莉恵なら、分かってくれるでしょう?』 「分かりたくもないし分からないよっ……!!うっ…ひっく……」 震える声でそう呟いたら、涙がぽろっとこぼれ出てきた。 一度出たものは止まることを知らず、服に涙の跡が付き始める。 駄目だ、泣いちゃあ。泣いたら自分が弱いことを認めることになってしまう。私は目をごしごしと擦った。 「―――おいっ!!」 突然バタバタという騒がしい足音と、大きな怒鳴り声が静かな廊下に鳴り響き私はびくっと後ろを向いた。 39: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 21 34 29 「あ……」 そっか……私、さっきこの人が手紙を届けてくれたのに、読むなりそれを捨てて走り出してしまったんだ。 (見たのかな……あれ) 響の右手に収まっている手紙を見て、私はぼんやりと思う。 「……お前、大丈夫かよ」 (やっぱり、読んだんだ) ありがとう、こんな私のことを心配してくれて。 だけど、私なら…… 「元々ね、お父さんとお母さん、私が中学生になったときくらいから意見がかち合わなくなったっていうか、雰囲気がおかしくなったっていうか。 とにかくおかしくなっちゃったんだよね、ちょっと。 お父さんは仕事にすごい熱心だったの。カナダにいたとき。お母さんはいつももっと家庭のことを考えてって言って、それでよく喧嘩してたなー……」 震えないように、慎重に慎重に声を出す。 私は懐かしむように、その生活を思い出していた。 ……あまり気持ちの良いものではないのだけれど。 「……」 私、なんで知りあってたった二カ月くらいの人にこんな話してるんだろう。他人にこんなことを言いたいはずがないのに。本音を言わずにはいられなかった。 「だけど、まさかここまでとはね」 本当に離婚するなんて。どっかの小説やドラマの話かと思ってたよ。考えたこともなかった。 「……私は、大丈夫」 「……!」 喉の奥から絞り出すように声を出す。 もっと普通に喋りたいのに、上手く声が出ないよ。 「私は強いから!大丈夫だよ、大丈夫」 そう。カナダに居たときに、よく周りの大人や友達に言われたもんだ。 お父さんが忙しくて大変なのね、中学生なのにしっかりしてるね、えらいね、って……。 「だから……」 「……莉恵」 それまでずっと黙って話(というより、私の独り言かもしれない)を聞いてくれていた響が口を開いた。 「……!」 何、と聞き返すよりも早く、 気が付いたら、私は暖かい腕に包まれていた。 40: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 21 48 23 (……あったかい) 私は素直にそう感じた。 「強いとか、そんなこと言うんじゃねぇ。強がんな、この馬鹿が」 何……!? 「私強がったりなんかしてない!そっちこそ馬鹿じゃないのっ……!?」 突然、響が私を姫抱きにした。 「な、何すんの!」 「黙ってろ。こんなとこで話すわけにいかねぇだろ」 (あ……) 確かにその通りだ。 そのまま響は廊下を歩き続け、ある一つの部屋に入る。 (響の部屋だ……) そこで私は下ろされ、ベッドに座らされた。私は再び口を開く。 「別に私大丈夫だから。平気だよ?」 「……んなシケた面して言ってんじゃねぇ。 お前は弱い、莉恵」 なんて……? 「弱いんだよ、お前は。弱みを見せないで強がってるやつのどこが強いってんだ」 「何を……」 「お前、人との間に壁作ってんだよ。見てたら分かる。 まあ、並河とか駿とか、仲良くなったやつには全然そうじゃないみてぇだが。 自然と、身構えてる。人に対して。 ただ、普通に付き合ってるだけじゃ分かんねーがな」 「……!!」 どうしてこの人は……こんなにも人の心に入り込んでくるんだろう 「弱い。弱いよ、お前は」 その人があまりにも真っすぐで、迷いのない強い瞳で私を見るもんだから。 ……その瞳は、ずっと私の内側まで映していたのだろうか。 「馬鹿は響だよ……」 初めて、この人の前で名前を呼んだ。 同時に、耐えきれなくなったかのように、私の頬に暖かい涙が流れ落ちた。 41: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 22 00 07 「……寂しいこと言ってんじゃねぇよ。もっと頼れ、周りを」 ふいと横を向きながら、響がそう言う。 ああ、私この先この人に隠し事出来る自信ないや。 本当は、 「本当はね」 ぽつりと言葉が勝手にこぼれ落ちた。 「ずっと、ずっと怖かった。 いつか、今日みたいな日が来るんじゃ……ないかって……!」 流れ落ちる涙を、もう止めようとはしなかった。 そんなことしたら、怒るんでしょう? 「怖かった……」 心の奥底に、いつもいつも溜まっていた不安のカタマリ。 だんだんと雰囲気が悪くなっていく両親の姿。 二人の空気に首を突っ込む勇気なんて、弱い私にはなくて、何も言えなかった。 「怖いよ……今だって」 怖い 怖い 一人が 怖い 「一人が、怖い。 怖いよ……だから私は強くなりたかった」 強さがほしかった。 何でも乗り超えられる勇気が欲しかった。 ……一人ぼっちは嫌。 「北井のことだってね、きっと私は恋をしてたんじゃない。愛情を求めてたの」 頼れるお兄ちゃんみたいに私の目には映ってた。 ……本当に安心出来る、家族の空間が羨ましかった。 お父さんやお母さんが、私を一人 置いて 「お願い、……離れないで。行かないで。 一人にしないでよっ……!」 涙が次から次へと溢れ出し、私は訴えるようにぎゅっと響の服の裾を掴んだ。 反応するように、響がさっきのようにぎゅうっと優しく包み込んでくれる。 「……本物の馬鹿だな、お前はよ」 「……え」 上から降って来た声に、私は顔を上げた。 42: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/11(日) 22 18 59 「ああ、お前は馬鹿だよ。一人が怖いだ?どっかのガキか、てめぇは。馬鹿だ。ほんとに馬鹿だ、俺が思ってた以上に馬鹿だな」 なっ……今何度馬鹿って言った、この人。黙っていれば酷い言われようだ。 すると、突然響が私の頬をむにーっと(それはそれは手加減なしに)引っ張った。 「ひ、ひひゃい!……!」 次は、ぱっと手を離され、気が付くと目の前に響の顔のドアップ。 い、忙しい人だなもう! 「お前は、一人じゃない」 「……え」 「よく考えてみろ。先生だって並河だって駿だって、バスケ部の部員達。皆お前のそばにいる人間なんだよ。 贅沢言うんじゃねぇ。そんだけお前のことを想ってくれてる人がいるんだ。充分じゃねぇか」 「……!」 (本当だ……) 私、確かに本物の馬鹿かもしれない。 転入初日に不安だった私を導いてくれた由佳先生、早速話しかけてくれて今では大親友の沙耶。 馬鹿みたいに明るい変態の駿に、こんな私と一緒に活動してくれているバスケ部の部員達。 誰よりも頼りになる、顧問の斎藤先生。 (……それに、この人はたった二カ月の間に、私のことをちゃんと見てくれていた) 「そ、そうだよねっ…… 響が……みんながいるんだよね 私、馬鹿だね……ごめんね」 また涙が溢れる。響の大きな指がそれを拭ってくれた。 「おい、今日はここで寝ろ」 「……え?」 「別に何もやましい事ァしねぇよ。 この部屋で寝とけ、今日は。」 そう言ってくしゃっと頭を撫でられた。 それは、小さいころにお父さんがよくしてくれた、それに似ていた。 「……ありがとう」 私は布団の中に潜り込んで、目を閉じた。不思議とすぐに眠りに引き込まれ、あっというまに寝てしまった。 (……もう、強がったりなんかしないよ。ありがとう、気付かせてくれて) 「すー……」 「……無茶すんな、馬鹿野郎。 あんな顔した奴、一人で寝かせられっかよ……」 45: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/13(火) 22 26 08 翌朝 (うーん……よく寝た……) 私は薄らと目を開けた。否、薄らとしか開けることが出来なかった。昨夜の出来事が滝のように脳裏に蘇ってきた。 昨日は、色々なことがありすぎて疲れたよ。 それにしても、……瞼が重い。絶対腫れちゃったよ、これ……。 今日が日曜日だったのが幸いした。(部活はあるんだけど、学校には100パー行けないよこの顔じゃあ) 「今何時……?」 そう掠れた声で呟き、寝返りを打った瞬間。 「……ええ!?ひひひ響!?」 わ、私、落ち着け!なんで響と一緒のベッドで寝てるんだっけ?昨日、最後、確かにここで話聞いてもらってたけど……えーと……? 「……昨晩のこと忘れるなんて、どんな頭してんだよ」 「うわっ!お、起きてたの?」 「莉恵の声がうるさくて目覚めた」 そう言いながら響は伸びをして、私の方を見た。 ……そのとき、 「ぶっ……」 (!?あ、そっか私顔……!!) 「ひ、酷い!人の顔見るなり吹き出すなんて超失礼なんですけど!?」 「や、悪ぃ。目腫れすぎだろお前…ククッ」 悪ぃとか言いつつ、肩震えてるよ。笑いを必死に堪えてるの丸わかりですから。いいよ、もう……。 「おい。もう平気なのかよ」 「え?あ、うん……。ごめんね、昨日は。ありがとう」 「今日はえらい素直だな」 「だって」 昨日は散々、この人の前で大泣きして本音ぶちまけて。 正直言ってかなりすっきりした。心の蟠りが軽くなったような。 不思議な人だ。つくづくそう思う。 46: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 20 43 58 「……今は、どうしたらいいか分かんないけど。ゆっくり考えてみる」 「あぁ」 響が相槌を打ってくれる。 「本気で人を信じるのって、勇気いるなあ……」 私がそう言うと、響は突然固い顔をして口を閉じた。 ……? 「そうだな……」 そういう響の顔は、なんとも言えない表情をしていて。 寂しそうで、孤独で、冷たかった。 (何か……あったのかな) 「響……?」 気になって、私がその横顔に問いかけてみると。 「……」 ふっと響が笑った。 (え?) それは、いつものあの意地悪そうな笑みではなくて。 諦めたような、そんなものが映っていた。 「そういやお前、最近俺の名前呼ぶようになったじゃねぇか」 「……へ?あ、ああ」 いきなり何を言い出すかと思えば……。 「ようやくか。まぁ、そろそろ惚れる時期だとは思ったがなァ」 「は!?何言ってんのあんた!」 相変わらずこいつはっ……! young leaf 続き2
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113: 名前:サスライ☆06/21(日) 12 16 12 私、天童 宗厳は果たし合いの場所に居た。 格好は帝国の時代の軍服。やはり私は何だかんだで軍服が合うと思う。 その為に造られたのだから。 まさか、シェンフォニーが生き残りとは思わなかった。だからと言ってためらいは無かったが。 シェンフォニーは恐らく来るだろう。こう言う、情の関わるところでは変に義理堅い奴だから。 丈治の情報によれば奴は道筋を辿ると戦時中の輪から海流に乗って流れ着いたの事。記憶はその時に失ったと思われる。身分は不明。 しかし、当時の技は知っているらしい。 十分だ。 身体に身に付いた魂と言うべき技。それに全力でぶつかる。 輪の帝国でも西の国でも良い。 戦争から追い出されて、救えなかった私に奴を倒せるか?確かめたくなった。そう結論付けた。 刀を抜く。帝国の兵隊に一人一本づつ配給される刀。 兵の証と言ってもいい。島送りにされてもこれを取られなかったのは幸いだと思う。 私はどうしたい? シェンフォニーに何を伝えたい? 私の居場所は何処にある? 様々な思いが頭の中を暴れまわり、グシャグシャになったので素振りをして忘れる事にした。 http //y.upup.be/?AgY1BtQafg 114: 名前:サスライ☆06/21(日) 21 38 11 一人で茶をすすってた時俺に迫ってきた矢文。 全く、気配に気付いて頭に迫る矢を掴んでなければ即死だったぞ、シャイな奴め。 で、それに書かれていた地図によると山の随分奥…。 そこは古ぼけた扉が丘に埋め込まれていた。 そして、扉の前では宗厳が素振りをしている。何かを振り払う様な表情で。 俺は左手を上げて、それを振ってみせた。 「お~い、宗厳。来ちゃったよ~ん♪ 待ち合わせ30分前に居るとは君も中々…」 俺に気付いた宗厳は、刀をダランと垂らした。あ~、こりゃ、体重移動を利用した超移動からの薙ぎかな。 垂らした方向から察するに~… ガキン 「おいおい、挨拶位は返そうぜ。せっかちさんめ」 俺の身体の影に隠してあった右手に持つ杖と刀がぶつかる。 そして、杖を引く事で刀を受け流した。 「焦りは禁物♪無防備な姿を晒しちゃう」 目の前には宗厳の後頭部。何時もなら寸止めで「一本♪」とでも言って、コーヒーでも奢らせるんだが、 相手は人形兵だ。 俺はたまに傭兵をするからプログラムを弄くられて未だに兵器にされてるヤツを見たことがある。 だから実力は承知の上だ。 だから、鋼よりも硬い杖を後頭部に向かって、勢いよく振る。寸止めなんて出来ないスピードで。 115: 名前:サスライ☆06/21(日) 22 06 00 シェンフォニーは死合いに剣では無くて杖を選んだ。 これは自信か。使い慣れてるからか、それとも… 私は首を『180°』回した。 目の前には骨の杖。私は背筋力で跳ね上がり、寧ろ杖に向かう。頑丈な額でそれを受けて、弾いた。 衝撃。しかし戦闘に支障無し。 「おっとっと…」 杖を上に弾かれたシェンフォニーは体勢を崩してケンケンで後ろに下がる。 瞬時に身体を回転させ、首を元に戻し、左手をシェンフォニーに向けた。 私の上腕がパカリと開き、中から小型のマシンガンが出て来る。 撃つ。調所無く。 爆竹を破裂させた様な音がして銃弾はシェンフォニーの胴体へ突撃。 しかし、身を捻る事で回避。ならばと腕を逃げる方向にずらす。 「うっ ひゃあ!絶対当たったら痛いっての。殺す気かよ~、あ、その通りだった」 シェンフォニーは兎に角逃げて、そして扉に追い詰められた。 そして、止めの縦断を撃ち込んだ。 しかし、シェンフォニーは身を縮める事で回避。鉄の扉に跳弾する音がした。 つまり、回避がそのまま扉の影に隠れる事に繋がる。 だが、無駄だ。私には熱反応センサーが搭載されている。見れば移動して起きあがってる最中。 好機。そう思った時にシェンフォニー独特の呑気な声が聞こえた。 「水詰まりには気を付けようね~♪」 マシンガンが突然爆発した。 116: 名前:サスライ☆06/21(日) 22 24 43 突然爆発したマシンガン。マシンガンを構えていた左腕が原型を留めない程になっていた。 私が驚いているとシェンフォニーが得意気な顔をして杖で肩を叩いていた。 「さて、タネ明かしといこうか♪」 私は左腕を切り離す作業に徹して動けなかった。こうしないと、故障が他の機関にも出てしまう。 「まあ、なんて事はない。バドミントン、知ってるだろ?」 バドミントン。確か白鳥から剥いだ羽をコルクに突き刺して、中途半端なハンマーで打ち合う競技だったと思う! 「それでは瞬時に片手で羽を打ち返す事が出来てね。そう、どんな体勢でも…」 そして杖を見る。 まさかこいつは… 「銃弾を打ち返して、銃口に突っ込んだ…?」 自分でも馬鹿馬鹿しいと思ってる。状況が状況なら「電波ちゃん」なんてアダ名を付けられ悲惨な学園生活を送るだろう。 だが、私に出来るのはせいぜい通信電波を受信する程度だ。 そんな馬鹿馬鹿しい事にシェンフォニーは意地悪な笑顔を浮かべて、言った。 「大正解♪」 何やら意味の解らないポーズを決めていた。 そして、今まで理解できなかった事が理解できた。 「怪物め…」 「怪物じゃないよシェンフォニーだよ~ん♪」 117: 名前:サスライ☆06/21(日) 23 00 03 私はシェンフォニーに向かって行った。銃弾をも打ち返す怪物に右手一本刀一本で。 「宗厳。今の君の眼は、俺が希に見る奴の眼だ。自分を見失っている眼… 誰と戦っているかも解らず、勝手に相手と自分を照らし合わせて自滅する」 くそ、一太刀。一太刀で良いんだ。頼む、当たってよ! 何でコイツは軽く受け流す事しかしない、もっと攻めてよ、私を… 「私を壊してよ!」 嗚呼、そうか。これを伝えたかったんだ。 自分で死ぬ事も出来ず、決闘なんかを死ぬ理由にして、 シェンフォニーを自分と照らし合わせて、自分を見失った余りに自分とシェンフォニーを勘違いして、殺そうとして。 なんだ、結局は自傷行為だったんじゃないの…。 言葉にしてなんと馬鹿馬鹿しい。見てる奴が居たらきっと私を笑うのだろう。しかし、思い至るまで時間が架かる。 「嗚呼、解った…」 「ん?まだやんの?」 私は刀を突きで構えた。そして身体中のエネルギーを溜める。 力の全てを利用して爆発的な突進を生み出す。そのスピードは銃弾にも匹敵。 しかし、私は確信している。彼はこれを避けて反撃する実力がある。 だから良い。これで壊れよう。私は口を動かした。 「迷惑をかけて、御免なさい。 でも、私は最期まで兵士なんだ。 この刀に誓って」 瞬間、エネルギーが爆発する。 118: 名前:サスライ☆06/21(日) 23 23 45 風を切る。 景色が流れる。 過去が思い出される。 敵を殺せなくて島に流されて、クロガネや社達に会った。 社が居なくなって、丘に入り口が埋め込まれたこの研究所を二人で護ってきた。 そして、滅んで、生きる意味を失った。戦う為の機械なのに、結局何も出来なかった。 恥だらけだ。人生恥だらけだよ。 救えなかった私に戦闘から生き残ったシェンフォニーを倒せるかなんて、只の建前だ! 本当は、本当は、本当は…! 「あああああああ~~~~!!!」 突撃する私に彼は素早く杖を捻る。すると杖から仕込み刀が出て来た。 あんな隠し玉まであったのか。 良いね、バッサリやっちゃってくれ。 私に生きる意味なんて無いんだからさ。 そして、私の視界は暗黒へ落ちていった。何処までも…。 † † † 「…の、筈なのに何で私は生きているのだ?」 左腕が無い状態でシェンフォニーに話し掛ける。彼はやっぱり意地悪に答えた。 「あの時言ったよね♪ 『私は兵士なんだ。この刀に誓って』と」 「む…だから何だと…」 「つまり!刀が無ければ兵士じゃ無いって事だ♪」 白い歯を見せて彼は何かを見せた。嫌な予感がして、的中する。 それは、折られた刀。私の、刀…。 取り敢えず叫ぶしかない。 「イヤアアアア~~~!!」 119: 名前:サスライ☆06/21(日) 23 43 3 突撃する宗厳に向かって俺は仕込み刀を使った。 ただし、宗厳を斬る為では無い。宗厳を過去に縛り付ける刀を斬る為だ。 俺は仕込み刀を宗厳の刀の内側に斜めから入れて、仕込み刀が最高速になったところで相手の力に逆らわずつつ、手首を回し、外側に仕込み刀を持っていく。 千鳥流断刀術・【柳】 師匠に習った技だ。これは、相手の突きが速ければ速い程に威力を増す。 効果は、武器破壊。 宗厳の刀が真っ二つになったと同時に、宗厳の身体は地面に倒れた。 「へ?」 俺は宗厳を診る。すると様々な機関が弱まっている事が理解できる。 ならば取る方法は一つ。 様々な情報網や都市伝説的なもので大体の目星はついていた。 この山には実は研究所が存在する。 そして場所は、ここだ! 宗厳を担いで丘に埋め込まれた鉄の扉を蹴り破った。 中から表れるは埃だらけの通路。Gの名を冠する虫が居てもおかしくない。 と、それは良いとして彼女を助けられる所を探して、『兵器用エネルギー室』というプレートが貼ってある所を見つけたので、駆け込んだ。 お姫様抱っこで! 120: 名前:サスライ☆06/23(火) 22 31 11 また、生き永らえてしまった。しかも、敵に助けられて。 なんたる屈辱だ。 敵であるシェンフォニーは一刀両断された刀を私に見せた。 「てな訳でまぁ、君はもう兵士じゃありませんよ~っと♪」 噛みつきたい。しかし、身体が動かない。エネルギー不足だ、喋るのが精一杯だろう。 「くそっ!ならば壊せ! 兵士として造られた私から兵士を取ったら存在意味が無い!」 私は、無茶苦茶になった。そうとも。 私にもう存在意味は無い。ならば、居場所は無いと同じだ。 するとシェンフォニーは鼻から溜め息を出した。 眉をハにしてやや困る。 しかし、口と眼は笑っていた。知っている。これは暴れる生き物をなだめ、愛でる眼だ。 「宗厳。手紙に国が滅んだとあったが、君は恐らく丈治からそれを聞いたんだろうね そして、情報は正しいんだ」 情報が間違っていたという期待を持たせずに一気に喋る。 聞くに浸る私に言葉が続く。 「じゃあ、何で今の今まで聞くのをためらった? 実は失いたく無かったんだろう? 『今』 を」 『今』。その言葉が妙に強調されて脳内に響く。 そして私は動かない。 エネルギーが切れてなくともきっと、動かない。 121: 名前:サスライ☆06/23(火) 22 55 54 さて、俺は宗厳との決着の後に下山したら腹が減った。 だから24時間営業で有名な【居酒屋;すとろんぐ】で夜食を頼んでた訳だ。 で、気付いたら寝ちゃってさ~♪店長好い人だから毛布なんぞをかけたりしてくれたりね。 と、言う訳で… 「シェンフォニー様~、言いましたよね? 朝までには帰ってきてと言いましたよね?」 「怒っちゃ嫌ですよ~雪さ~ん」 「アハハ。 怒ってませんよ?折檻をしようとしてるだけですよ?」 と、言う訳で逃げてる真っ最中~。いやいやいや、折檻の根幹となる感情は怒りだからね! 口では笑ってるけど眼は殺意でギラギラだったからね! うん。まさかフライパンを構えたメイドに追い掛けられるという漫画や小説みたいな事が起こるなんて…。 あ、小説だった。 そういう訳で俺は山に向かっている。宗厳の家に隠れてやり過ごせば、怒りが収まる可能性も… 「ねーよ」 ああ、もう。雲吉、やってみなきゃ分かんねーだろ! 宗厳の家であるログハウスのドアノブに手をかける。 あの後放置したけど、エネルギーが動ける位に溜まって帰ってきてる頃だ。 そして俺の視界に入ってきたのは着替え中の宗厳の黒い下着姿で… 「キャアアアアアア!!」 声を聞き付けて鬼のような雪がやってくるのはそう、時間がかからなかった。 122: 名前:サスライ☆06/23(火) 23 19 23 私は天童 宗厳だ。 私の自分自身に対する怒りを全て受けきった男、シェンフォニーに昨日言われた事を思い出す。 「充電が終われば動けるから安心してね。 さて、陽も昇りそうだし俺はそろそろ帰るかね。 朝帰りなんぞしたら雪に平手打ち位は喰らいそうだ」 いや、雪ならフライパンでぶん殴る位はするのでは無いだろうか。 因みに重要なのはその続きである。 部屋を出ようとするシェンフォニー。突然歩みが止まる。 緩い顔をして此方を見た。 「宗厳や。お前の居る場所はこの現在だ。 確かに、宗厳の戦闘力を必要とする人間は居ない、 しかし、宗厳のキャラを必要とする人間ならいっぱいいるぜ。 雪とか、丈治とか、クロガネとか、そして… 俺とかな♪」 言い残し、シェンフォニーはポケットに手を入れて部屋を去った。 歯を合わせて思いっきり笑ったままの顔で。 様々な所に温かさを感じる。 それは充電のプラグからも感じられるし、部屋の空気からも感じられるし、私の心臓からも感じられた。 部屋には私一人しか居ないが、孤独とは無縁だった。 そして今。 「さぁてぇ~、どうしてくれましょ~かねぇ~♪ 馬鹿主が」 あの時、私を打ち負かした男はフライパンを持った従者に押さえ付けられて、ジタバタしていた。 何故か、笑いが込み上げてきた。 123: 名前:サスライ☆06/24(水) 00 06 31 私、銀田一 雪は部屋を見渡す。部屋とは天童ちゃんが着替える為にそさくさと奥に行ってしまって、二人しか居ないこの部屋だ。 昨日、私は晶ちゃんの部屋のインテリアを取りに行った。これが重かったが晶ちゃんの部屋に栄えが出て、やり遂げた感がある。 天童ちゃんの部屋も同じだった。必要最低限の物以外は置いていない。 サッパリしているが、詰まらない部屋だ。 と、言う訳で、 「はい、シェンフォニー様。これを持って下さい」 私はコンポをシェンフォニー様にヒョイと渡す。シェンフォニー様は物凄い顔で担いでいた。 「ぐ、おおお…重いってば雪…」 「これ位で音を上げちゃ駄目ですよ♪『お仕置き』なんですから。 ところで天童さん、身体全体を映す鏡は持ってます?」 天童ちゃんは辛そうにしているシェンフォニー様を見た。シェンフォニー様は「ヘルプぷりーず!」と言っている。 それに対して笑みで返して、彼女は言った。 「い いや、無いな♪そう言えば軍服以外は今着ている、昨日買ってもらった服以外は無い。 どうせだし買ってしまおうか」 太陽が青空にある。その下に彼女の笑顔がある。 輝いている。そのまま口を動かす。 「荷物持ちは当然シェンフォニーでな♪」 124: 名前:サスライ☆06/24(水) 00 08 22 第五話 完 125: 名前:サスライ☆06/25(木) 13 42 55 第六話 村雲島。何も無い様に見えるこの島だが、人が住み、 笑い、怒り、泣き、やっぱり笑い、感情に満ちている。 そして感情を生み出すのは周りとの関わり。仕事やら学校やらだ。 「…と、言う訳で学校は学業より周りとの関わりを重視する必要があると思う!」 俺、橘 文哉(タチバナ フミヤ)は威圧感丸出しの先生に言い放つと、向こうは言葉を返す。 「ほう。それが授業中消しゴムで作った彫刻で品評会をしていた言い訳か」 「その通りだ!見よ、この素晴らしい女体像!」 俺は消しゴムで作ったボインボインで水着のねーちゃんを先生に見せた。 そこで喰らいつく男が居る。夏でも毛皮のコートを着て、ゴーグルタイプのサングラスをかけて素顔が解らない男、新木 タオ(アラキ タオ)。 「甘いぞ文哉!時代は水着よりもメイドを必要としている!」 机の上に本格的に作りこまれたメイド像をのせて、格好良く言う。漫画なら「どきゅーん!」なんて効果音が付いてもいい。 「何!?何を根拠に!?」 「こないだ商店街でアイアンクローかますメイドさんを見た!」 「んな筈ねーだろ!」 俺は叫ぶ。流石に無理のあるそのギャグを否定する。 しかし、次の瞬間だ。ノックの音の後に誰かがこの「生徒指導室」に入って来た。 「雑用の銀田一ですが、お茶をいれに来ました~」 126: 名前:サスライ☆06/25(木) 23 42 13 事の始まりはシェンフォニー様のこの一言が始まりだった。 「雪、 ちょっと学校行ってくるわ」 「はぁ?」 多分私は灰色と深緑が混ざった渋い顔でシェンフォニー様を見ていただろう。 彼の行動が意味不明なのはよく在る事だ。が、何故に学校? まさかネタに詰まって学園編!? …と、いう裏事情的なものは置いといて、 教師でもやるのだろうか。いや、まず無いだろう。 では生徒しか考えられない。今から一般常識を知る為に学校に…。 しかし、髭を剃ったとしても無理があるだろう。ならば私がサポートすべき事は只一つ! 「シェンフォニー様!この銀田一 雪。必ずや良い特殊メイカーを探し出して見せます!」 「…え~と、どういう事?雲吉?」 シェンフォニー様は肩に乗っかってる雲吉に取り敢えず聞いてみた。うん、雲吉は便利なキャラだ。 「シェンフォニーが生徒になると考えてるんじゃねーの?」 「あ~、成る程~。そりゃ悪いねぃ。なんせ顔のツヤとか結構… ってオイ!どう考えたって教師だろうがよ! 代理を頼まれたんだよ」 私は己の耳を疑った。生徒になったとしても素敵なアウトローライフを送りそうな彼が教師? せめて見張り位は必要ではないか? だから突発的に言ってしまった。 「じゃ あ私も行きます!」 127: 名前:サスライ☆06/27(土) 11 43 06 始まりは、突然宗厳が出した試験用紙だった。 俺は兎に角やれと言われた物だから頬杖をかきながら問題を解く。 普段から暇潰しに書斎の本を読んでるから割と楽だった。 まだ、代わりの腕パーツが届いていないから彼女は片手。しかし器用に採点して言ってみせた。 「よしシェンフォニー。貴様は今から教師だ」 「え、 あ~、うん。別に良いけど…」 「いや、驚けよ!突然教師なんだぞ!?」 宗厳は顔を真っ赤にして受け流しに対して抗議する。 「… もしかして、今のが精一杯の茶目っ気なのか?」 「……」 明後日の方向を見て何も言わない。うわぁ、図星じゃん。ならば、俺に出来る事と言えば… 「オモシロイヨ~」 「うわあああ! 棒読みなのが痛いよ~!いっそスルーしてよぉお~」 腰に差した棒きれでペチペチ叩いてくる。 やっぱ刀に思い入れがあったんだね。 「ま、まぁともかく!貴様は今日は教師なのだ!」 「ナンデ~」 「私の剣の弟子が高等学校の校長をしていてな、どうにも教師の代用が必要だから、知識人を持ってこいという話だ」 「俺 が知識人なのは嬉しいけど、晶ちゃんもなかなかよ~?」 そこで宗厳は肩を震わせた。 「バ、バババババ…バカァ!アイツなんぞに頼めるかぁ!」 この後、これをネタに散々いじくってみた。 銀田一 雪さんとシェンフォニー様と後、なんかの話 続き6
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307: 名前:みるみる☆04/11(日) 15 11 23 ◆ どろり、溶ける君の声。 ◆ 大きな洗濯機が並ぶ室内は、陽炎になっている外の様子よりもずっとずっと暑い。 『ふんわり乾燥まであと15分です』と機械が知らせてくれた。 「…… どうしてこんな事になっているんでしょう」 2人しかいない室内に、思ったよりも自分の声が響いた。 吐息とも溜息とも取れるものが、目の前にいる、彼の飴色の髪を震わせる。 斜陽に照らされたそれは、きらきらと反射した。 「……どうしてかな」 「とぼけないでください」 このコインランドリーには2つしか椅子がない。 最初はおとなしく1人一つずつ椅子に座って、シーツが洗い上がるのを待っていたのに、「大人のキスを教えてやるよ」とか変なことを彼が口走って、なぜか今に至る。 「もう、最悪です」 「だったら降りればいい」 そう。今私は彼が座っている、その大腿部に座っている(というか座らされている)ので、私がここから降りれば、それだけで事は終わるのだ。 それなのに。 「恥ずかしくて嫌なのに、気持ち良くて逃げられない、でしょ?」 「……言葉で責めるのが好きなんですか?」 にやりと彼が笑う。 汗が気持ち悪い。 べっとり張り付く肌着が気持ち悪い。 不意に、この体勢のまま、横にあるもう一つの椅子に倒れ込む。 クッションも何もない木の椅子なので、割と痛かった。 恨めしげな顔で彼を見ると、「何?」と笑顔で答えられる。 「あなたって本当に、一人称は『僕』なのに、完全に俺様キャラです……」 309: 名前:みるみる☆04/13(火) 00 09 42 「今夜は、お客さんを呼んでいるじゃないですか」 だからこんなに大量のシーツを洗いに来たのに。 全く彼は向こう見ずというか考えなしというか、「こんなこと」をして、シャワーも浴びずにどうやって家まで帰るというのだろう。 「うん、家帰ったら、今日はできないから」 「……若いですねぇ」 「お前もだろ」 彼が少し疲れたような苦笑を漏らす。 吐息が耳朶にかかって、ぞくりと背筋が震えた。 あと10分。 乾燥機から出る熱気も手伝って、この部屋の中は異様な暑さだ。 2人が体を密着させていれば、それだけで脱水症状になってしまいそうなくらいに。 私だけでなく彼も、頬に一筋亜麻色の髪が張り付いて、瞳も熱にうなされているように少し潤んで見える。 このまま溶けてしまいそうだと思った。 310: 名前:みるみる☆04/16(金) 21 53 41 吸い込む空気ですら喉をむっと温めていく。 私の意識でさえも蕩け始めたのか、視界がぼんやりとはっきりせず、夕日に染まる天井をぼんやりと眺めていた。 機械はシーツを乾燥し終えたようで、陽気な電子音が部屋に響いた。 「時間切れですよ」 彼は名残惜しそうにゆっくりと起き上がり、ふわふわになったシーツを引っ張り出し始めた。 私も起き上がって、外の様子を眺める。 すっかり夕暮れ色になってはいるが、そとは建物や道路の発する熱でまだまだ暑そうだ。 「どこ見てるの?」 すかさず彼が尋ねる。 まるでこちらを見ろと言わんばかりに。 この人は私の視界を独り占めするつもりなのだろうか。 「ちょっと思い出していました」 「何を?」 「碧ちゃんのことです」 その言葉を口にした瞬間、なにか胸にふわりと風が吹いたような気がして、自然と笑みがこぼれた。 「なんだか久しぶりに聞く名前だね」と、彼も少し懐かしげに答える。 312: 名前:みるみる☆04/23(金) 00 18 22 311高坂 陽様 お久しぶりです! すみません、凄く「あれ、終わり?」みたいな終わり方で……これが私の今の全てです← 深くできませんでした; でも楽しんで貰えたのなら私も嬉しいですv 本当にいつも丁寧なコメントを頂いて感激しておりました……。 ありがとうございます! これからもちまちま頑張りますw ◆ 彼に渡されたシーツを両手に抱えて、私達は夕暮れの町に出た。 髪が、まだ少し熱を持った風にふわりと揺れる。 そう、あの分厚いコートは着ていない。フードももう被らない。 2人で並んで、表の通りをゆっくり歩く。 碧ちゃんのおかげだなぁ、としみじみ思う。 あの不思議な、緑の髪の少女が居なくなってから、少しずつ私の周りは変わってきている。 琥珀くんは牢には入らなかった。 政府が差別によって起こった事件であって、琥珀くんも被害者だと判決を下した。 よって、無罪放免。 だからこうやって、2人で洗濯なんかしている。 あんな大勢の前で大きな事件が起こったのだから、お偉いさんも無かったことにはしておけなかったのだろう、「colored」への差別を禁止する、とした。 もちろん、そんなものを文章にしても、すぐに効果は現れない。 それでも、少しずつ変わっている。 世界は変わっている。 313: 名前:みるみる☆04/24(土) 17 23 09 「また会いたいよね」 急に隣の琥珀くんに言われたので、心を見透かされたような気がした。 「また思い出してたんでしょ? 碧ちゃんのこと」 何で気付かれたんだろう、と疑問に思いながら、私はこくりと頷く。 会いたい。もう一度だけでもいいから。 思い起こしてみれば、碧ちゃんが「この世界」にいた時間は1週間にも満たない。 毎日色々なことが起こりすぎて、だから長く感じたのかもしれない。 その所為か、私の心には急にぽっかりと穴が開いてしまったようだ。以前ほどの虚無感はないにせよ、開いた穴はなかなか塞がってくれない。 今でも鮮明に思い出す、最後の瞬間。 緑の髪が風に吹き上げられていた。 手を伸ばしたけれど届かない。もっと身を乗り出して、地球に引っ張られるその体を引き留めようとした。 何をしているのか自分でも分からない、ただ何か叫んでいた。 思い切り上半身が柵の外に乗り出した、そのとき。 緑の彼女は何か呟いて、笑った。 そして、その翡翠のような瞳がゆっくりと閉じられた。 全ての時間が止まったような気がした。 感覚という感覚が一切消え失せて、ただ視覚だけは研ぎ澄まされたように、鮮やかな緑を捉えていた。 普段の私なら、これから起こることを恐れて目を覆っていただろうに、そのときは何故か目が離せなかった。 地面に付く直前、彼女は消えた。 314: 名前:みるみる☆04/30(金) 00 37 05 ざわめく下の人たちとは正反対に、時計塔の4人は、固まったように碧ちゃんが落ちたはずの地面を見つめていた。 驚きで声すら出なかったのかもしれない。 或いは、私と同じように、「碧ちゃんならそんなこともあり得る」と心のどこかで納得していたのかもしれない。 ひび割れた鐘の音が、今までの出来事が嘘ではないことを証明していた。 「お別れの挨拶もしてないです」 少し怒ったように言ったつもりが、笑いを含んだ響きになる。 何故だか、悲しい気分にはならない。 あの人なら、明日にでも空からまた降ってきそうな気がするからだろうか。 いつの間にか家の近くまで来ている。 「あ、もう来てるし」 琥珀くんがそう言って、歩調を早める。 家の玄関の前に、琥珀くんと、それから私の友人達が居る。 勿論髪の毛は茶色。 最初は私も気後れしたけれど、みんな私の髪を好奇の目で見たりしない。 ただの、友達。 急に、背後から髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。 「よお」 振り向かずとも声の主は分かる。 かつかつとヒールの音が響いているから。 その後ろにもう1人いることも。 そう、私達の新しい友達の、そのまた新しい友達は、赤かったり青かったりするのだ。 315: 名前:みるみる☆05/08(土) 19 49 45 ◆ 折角シーツまできちんと敷いていたのに、みんなはトランプやワインの瓶が散らかっている床に寝転がって、そのまますうすう寝息を立てている。 私はみんなを起こさないように、できるだけ音を立てずに食器を片付けた。 「もう明日で良いんじゃない?」 後ろで眠たそうな琥珀くんが呼ぶ。 「あと少しで終わりますから。先に寝ていても良いんですよ?」 317: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 18 14 316華奈LOVE♪様 あげありがとうございます! ◆ 後ろに目があるわけではないので、琥珀くんの表情は窺えない。でも、気配だけで明らかに私の言葉に気分を悪くしたのが分かる。 私の手だけがせわしなく動いて、広い空間にかちゃかちゃと音を立てている。 「なんか、さ」 気まずい沈黙をそろりと抜け出したように、琥珀くんが呟いた。 「……どうしたらいいんだろう、母さんのこと」 言葉の途中で話を変えたような響きだったが、とっさに変えた話題にしては重すぎる。 私は止めどなく水の流れる蛇口をひねって止めて、手を濡らす雫を振り落とした。 318: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 49 32 振り返ると、彼は思っていたよりもずっと悲愴な表情で、ソファーに座っていた。 「自分がやったことで責任が取れないなんて、想像も付かなかった。無罪って聞いた時に、ほっとする反面、ああこれでいいのかなって思ったんだ。罪が無いわけない。僕は取り返しの付かないことをした」 「刑務所入りしなくて拍子抜けした、ですか?」 「違う、そんなんじゃ――」 「償えませんよ。あなたはそうやって、一生後悔してれば良いんです」 絶望したように、茶色い瞳が翳った。 これでいい。何かの罰を持って償おうなんて、そんな甘ったれた常識は捨ててしまえばいい。 琥珀くんはなにか言いたげにこちらを向く。 私は黙って、その言葉がこぼれ落ちるのを待つ。 やがて、薄い唇が開かれた。 「……小町って」 「何ですか?」 「ちゃんと、僕のこと好きなのかなって」 私の決して強くはない心に、大きな杭が打たれたような気がした。 そんなことを疑っているの? 甘いだけが恋ではないのに。 嫌いになるわけ、無いのに。 「今日も、ずっと冷たい。いつも、僕からしか――」 「ごちゃごちゃ言わないでください」 いつの間にか、私は彼の頬を両手で捉えていた。 泣きそうだから、酷い表情をしているかもしれない。 そして、乱暴に口づけをする。 「っ痛……」 歯と歯がぶつかり合って、一度琥珀くんが逃げようとする。 その頭を掴んで、引き戻す。 私がまだキスが下手なのは知っている癖に、どうしてそんな我が儘を言うの? 舌も、唇も、傷ついていく。 口いっぱいに、甘くて苦い鉄の味が広がる。 どちらの血かなんて、もう分からない。 いつの間にか流れ落ちた涙を、私より一回り大きい手が拭ってくれたのが分かった。 番外編おしまい 319: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 53 07 番外編までお付き合いいただき、ありがとうございました``* 短編集を短編板でやっていこうと思います。 スレ名は予定通り「こんせんとらぶ」です。 また半分現実みたいな中途半端ファンタジーになる予感……; それでは、本当にありがとうございました!
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78: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22 29 09 パタン 一人部屋に入り、今日の駿の言葉を私は思い返していた。 『あれ以来……響はすっかり生きる気力を失っちまったように見えた。それこそ響のほうが死んじまったみたいに。そりゃあ俺だって同じだったさ。だけどあいつはその場に居たんだ、ダメージはでかかっただろう、誰よりも。 響は荒れた。あんなに好きだったバスケから離れ、飲酒や喫煙を繰り返した。暴力沙汰なんて日常茶飯事だった。シンが居なくなった街で、何人も女を抱いてたって噂もある』 『あいつは、女なんか信じられないって、家族以外の女は一切信用しなくなった。笑うこともほとんどなくなった。本当に変わってしまった』 『それに……』 『それに……何?』 私が聞き返すと、駿は苦渋そうな表情を見せた。駿のあんな顔、見るの初めてだった。 『あいつは、シンが逝ってしまってから、柏木と何かあったんだよ。絶対に。 何しろ、柏木の名前に絶対に触れないようになっていたからな。もちろん、奴の話題には触れたくなかったっていうのはある。けど……おかしかった。遠くで「柏木」っていう単語が聞こえただけで、目つきが鋭くなって、オーラも明らかに変わった。 けど、俺にもそれは未だに分かんねえ。聞かなかったっていうよりも、聞けなかった』 『そして、中3の夏だな。一年経っても、響はあまり変わっていなかった。もう受験なんて絶望だ、そんな状態だったときだ。……あの人が現れた』 『あの人って?』 『俺達の監督だよ。斎藤先生な。 本当にたまたま、響と俺は近所の公園に居た。昔俺達がいつも練習していた公園だ。 確か、響は煙草を吸っていた。だが、そこに落ちてた空気の抜けていたバスケボールを拾って、「懐かしいな」ってあいつはちょっとだけ笑ってた。で、俺達がミニゲーム紛いのことをしていたら、先生が居たんだよ。 先生は、小さい子達にバスケの楽しさを教えようとしていたらしい。そこに俺達が居た。 そこで、俺ら二人は誘われたんだよ。一緒にやらないかって』 『最初は俺も響も、興味がなかった。高校教師なんかが、俺達みたいなやつ相手に本気で言ってんのかって。 とりあえずそのとき、斎藤先生は練習を見に来ないかって誘った。その後初めて、高校が西南高校だって分かった。俺達はかなり驚いた。何しろ、小さい頃からバスケが強いって有名で、夢見てた高校だったからな。 俺達は、練習を見に行った。そこで、俺は、久しぶりに響のあんな生き生きした顔を見た。きっと俺も同じだっただろう。 先生は、俺達二人が来たのを見て、これだけ言った。「条件は、酒と煙草をやめることだ」ってな。 響はすっかりその域から足を洗った。それくらい、西南のバスケ部が魅力的だった。 俺たちは推薦で西南高校に入った』 ……私の知らなかった、彼らの哀しい過去。 79: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22 37 41 最後に駿は、私の目を真っすぐ見つめてこう言った。 『莉恵。響は、お前が来てからちょっとだけ前に戻った気がするわ。 前みたいに笑うことはあんまりないが、表情に変化が出た。何より、女を信用してマネージャーにするなんざ、考えられなかった。 ……もしかしたら、お前になら、響の傷を治してやることが出来るかもしれない』 心の方のな、と悪戯っぽく笑って駿が付け加えた。 『あいつ、女癖悪いだろ?ああ見えて、つらいんだよ響も。シンをあんな目に合わせた柏木のこともあって、まともに女と向き合えねぇんだ。セクハラ紛いのことされたかもしんねぇが、莉恵に対するそれはちょっと違ったのかもな』 そこまで話したときには、もう昼休みが終わる二分前だった。 『じゃあ、とりあえず俺は戻るわ』 ひらひらと手を振って、いかにも軽く駿は戻って行った。 思い出すのもつらかっただろう。なのに、話してくれた。 「響……」 掠れた声で、誰もいない部屋で私はそう彼の名を呼んだ。 * 過去編をさっさと終わらせたくてかなり適当な文章になってしまいました(泣) それにしても中2とは思えない行動達ばかりに目を見張ります←自分で書いといて 次回から、莉恵が動き出すはず!響と濃く絡ませたいなー 80: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/20(火) 22 17 27 ガチャッ 突然、部屋のドアが開いた。驚いて目を向けると、そこに立っていたのは響で、私が反応する間もなくずかずかと無遠慮に入り込んできた。昨晩のことも忘れて、私は目を丸くしてその様子を見ていた。 「……なんだ、今度は逃げないのな」 そんな私を見て、響がそう言った。 今日の昼に駿にあんな話聞いたら、誰でもちょっと見方変わりますって。昨晩のことはもちろん簡単には許せないけど、お人好しな私はすでにそれを水に流そうとしていることに気付いた。ああ、この性格どうにかならないのかな。 「……きのうのアレは「響」 「……何だよ」 「……煙草、苦かったでしょ?」 私がたった一言、そう告げると響が目を見開いた。そりゃあそうだ。彼が喫煙していた時期は、当時だけで今はすっかり足を洗ったのだから。私の言葉の意味はつまり、 「……誰に聞いた。駿か?」 一気に声のトーンが低くなる。 「……」 図星だったので黙っていた。 「それで?可哀そうにーだとか、辛かったでしょうだとか言う気か?こっちの気持ちなんか分かんねえくせに」 は? 「……分かるわけないでしょ!この馬鹿!」 「あ?」 響がぽかんと口を開ける。そりゃあそうだ、いきなりこっちが逆切れしたんだから。 けど、もう止まらない! 「当たり前でしょ?私は響みたいな経験したことないんだから、そういう人の気持ち何て分からない!分かったようなフリされるほうが嫌でしょ」 響がどんどん不機嫌な顔になっていくのが目に見えていたが、どうしても止められない。 「……うっせぇ。 俺があの後、柏木に何したか知ったら、お前も逃げるんだろ」 「……あの後?」 駿すら知らなかった過去の話だ。 「あァ」 自嘲気味に、響が笑った。 「俺は、柏木をめちゃくちゃに犯した」 「……え?」 そういう響の顔はひどく疲れていて、それでいて哀しそうだった。 またこの顔してる……。 最近よく見るこの表情。 (どうやら原因は、) (ここにあるのかな) 81: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 25 49 「俺は、あの事件の後一度だけ柏木に会ってんだよ。一人でな」 忌々しそうに、それでいて何を考えているのか分からない響の表情。 「あれから一カ月弱くらいたってた。柏木は、これ以上あの学校にはいられなくて転校が決まっていた。 夏休みのもう最後だった――……」 * もう夜で、辺りは暗い。道路と、公園内の水銀灯だけが辺りを照らしている。俺が着いたころにはもう奴は先に来ていて待っていたようだ。 「なんだ」 開口一番、これだけ言った。文句を言いながら来てしまう俺もどうかと思うが。 この女は許せない。どうにかしてシンと同じくらい、否それ以上に苦しめてやろうと日々考えていたに違いない。 「……好きにしていいよ」 「は?」 柏木は、来ていた真っ白のワンピースの裾を自らの手でたくし上げた。細く、白い太ももが露わになる。 「ふざけんな。それで帳消しにしようってか?」 「……本当に、何してもいいよ」 柏木が無言で近づいてきて、来ていた羽織りを脱ぎ肩を出す。 情けないことに俺は、このまま何もせずこいつを転校させてやるよりは、好きにさせてもらおうと考えた。 荒々しく奴のワンピースの背についているファスナーを下げる。ビリっと微かに音が聞こえた。そしてそのまま一気に服を脱がせる。 そのまま奴を地面に押し倒し、いきなり下着の上から指を押し付けた。 「んうっ……」 まだ何もしていないのに、湿っている奴のそこに俺は嫌悪感しか感じることが出来なかった。 82: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 36 28 一気に下着もはぎ取ると、風と夜の空気を素で感じたのか柏木が一瞬顔をしかめる。 柏木を生まれたままの格好にさせると、俺は奴の中に一気に指を二本突っ込んだ。 「はぁっ……ん!いきなりすぎっ……」 くちゅくちゅと卑劣な音を立て、奴が俺の下で善がる。 もう何も考えられず、ただただ行為を続けていた。 何の意味もない行為。 しばらくそれを続けたかと思えば、今度は足を思いきり開かせ、その足を俺の肩に乗せた。 「ふっ……はぁ」 とろんと溶けてしまいそうな目で見てくる柏木。慣れているのだろう、こんなこと。あぁ、俺は普段のこいつの目も嫌いだがこの目も嫌いだ。気色悪い。 「んーーっ……!!」 思いっきり秘部に吸いついてやると、次から次から柏木のそこから溢れ出てくるとろんとした液体。舌を何度も激しく抜き差しすると、しばらくして柏木が一際大きな声で鳴き、びくっと身体が跳ね上がった。達してしまったのは分かったが、俺は間髪を入れず自分の物をそこにあてがった。 「あぁっ……あぁぁ!!」 いきなり動き出した俺に、とにかく声を出して喘いでいる。それもつかの間、少しすると自ら腰を動かし始めた。 ……分かってる。俺は、利用されている。 「……ふ、あぁぁっ!!んぅっ」 ぎりぎりのところまで抜き、また最奥まで。 パンパンと肌が当たる音と、ぐちゅぐちゅという厭らしい音が周りを支配していた。 「んっ……あぁぁっもう駄目!!」 柏木が頂点に達し、ぐったりとしたすこし後に俺は奴の中に欲のすべてを出し切った。 さっきまでの激しい行為が嘘のように、辺りはしーんと静まりかえっている。 83: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 47 31 * 「あろうことに、あいつは『相川響に、夜の公園で無理やり犯された』ってことだけを周りの人間に流し、学校を出て行った。もちろん周りの目は変わったし、学校なんて行けたもんじゃねぇ」 「なっ……向こうがやったことじゃないの!?」 「奴の挑発じみたことに乗った俺が悪かったんだよ。 ……むちゃくちゃにしたのは事実だ。 これでも、まだ何か言う気か?逃げるなら今の内だぜ」 私を見て響がそう言う。 あぁ、何て哀しい人なんだろう。 「……響」 「……俺が、あのときにもっとシンを止めてりゃ良かったんだよ。大体なんでその前に柏木の奴のとこにのこのこ行ったりしたんだ。 俺のせいで、シンはっ……」 「響!」 私は思わず大声で響に怒鳴った。 ……彼が泣いているような気がしたからだ。だがその瞳に涙は浮かんでいない。だけどきっと、この人泣いている。心が。 「もういいよ……」 「よくねぇ」 私を睨みつけ、歪んだ表情で響が言う。 「俺がシンを殺したも同然だ。俺は何もしちゃいねぇ。結局あいつも助けられなかった、自分自身も――っ!?」 私何してんだろ。気が付いたら、私は響の身体を引き寄せて彼を抱きしめていた。いつの日か、響が私にしてくれたのと同じように。 あぁ、こんなことするのこれが最初で最後だよ!?だから、ちゃんと聞いてよね。 「……充分響は苦しんだ。悔んだ。 もう、いいじゃん。終わりにしよう」 「……!」 私に抱きしめられたまま、響が体を硬くした。 「私だって……中3の頃、今何かより全然人のこと信じられなかったから、女を信じられないっていう響の気持ち分かる。 だけど……もういいよ」 「……放っておけよ」 あのね、響。 私には、あんたの「放っておけ」が、「助けて」にしか聞こえない。 84: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 56 26 「……そのシンくん?慎太郎くんだって、響にずっと抱えないでほしいってずっと願ってるよ……」 私がぽつりと漏らすと、響が押し黙った。 分かるでしょう?誰もそんなこと望んでいないんだよ。 どこに柏木さんだけが幸せになって、響に幸せになっていはいけない理由がある? 「慎太郎くんは響が大好きだったと思う。もちろん駿だって。 ……私は嫌。響がずっとそんな風に溜め続けるなんて。 響のこと、そりゃあ……変態だし偉そうだし気に入らないと子いっぱいあるけど、信じるよ。私は。 だからさ、私のこと信じてよ。 女の子だってね、響の思ってるような子は意外と少ないから!沙耶だって、クラスの子達もみんな良い子でしょ? だから、もうやめ―――っ!!」 唇を突然塞がれ、言葉が続かなくなった。急なことで、しかも体があまりにも密着していたから抵抗することも出来ずにそれが終わるのを待った。 数秒もすればキスが終わり、響は少し私から離れた。 「……響?」 不安になって私がそう呼び掛けると、ふっと笑っているのが空気で分かった。 「……俺に説教するなんざ、何時の間にそんなに偉くなったんだよ?お前は」 それが、あまりにも元の調子に戻っていたので、安心やら何やらで私の方がぽろっと泣きだしてしまった。 あれ、おかしい。これ、私が泣くとこじゃないよね?響じゃないの? 絶対、私泣き虫になった。響のせいだ。 「……何でお前が泣いてんだよ」 ちょっと可笑しそうに響が言う。 「それはこっちのセリフ……!馬鹿っ!!」 私は響の胸を借りて、気が済むまで思いっきり泣いた。そんな私を、この人はくすくすと笑いながらあやす様に頭を撫でていた。ああ、変なの。 85: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 18 04 59 「ひっくっ……はぁ」 今何時なんだろう、少なくとも深夜0時は過ぎているんだろうな。 ようやく泣きやみ暗闇の中、響の腕の中に居るまんまで私は声を聞いた。 「……人が黙って聞いてれば、変態だのセクハラだの消えろだの好き勝手言ってくれるじゃねーか」 「へ?いやいやそこまで言ってないから!勝手に捏造しないでくれますか」 暗い部屋の中、お互いの声だけが響いている。 「莉恵」 「ん?」 ぐいっと響が顔を近づける。真っ暗だけど、これだけ近いと表情がよく分かる。もう哀しそうな顔はしていなかった。 「……お前に礼を言うなんざ癪だが、まあ世話になったけどああやっぱりめんどくせえ」 「はぁ!?」 (全く、素直じゃないなあ) 「莉恵」 「今度は何?」 「……俺、近いうち柏木んとこ行くわ」 「私も行く」 即座に私がそう返事したので、響がちょっと驚いた顔をした。そりゃそうだ、私は別に何の関係もないもんね。 「だってバスケ部のマネージャーだもん。西南高校の」 「……」 しばらく響は黙ってたけど、そうだな、と言って笑った。その笑顔は、悔しいけど誰よりもかっこよかった。 (いつも、そんな顔してた方が全然いいよ) こんなこと言ったら怒られそうだから、心の中で私はそう呟いた。 86: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 20 51 51 それから約二週間、私達は普通に(以前と同じように)過ごした。朝起きて学校に行き、授業を受け、沙耶や他のクラスメイトと休み時間はいっぱいしゃべって放課後は部活。 部活中も、私は自分の仕事をこなす。 そんなこんなで、夏休みまであと一週間になった。 「それで、莉恵。何時の間に元に戻ってたんだよ?」 「んー……半月前くらいかな?☆」 「何☆マーク付けてんだ!俺がどんなに心配したかしってんですかーぁ」 「ごめんって、駿。感謝してますよー!」 駿はまだ不貞腐れたような顔をしている。そりゃあそうだ、心配だったんだろう、響のことが。小学生のときからの親友だったんだもんね。なんやかんやで報告が遅れてしまった。沙耶には少し前に報告済みである。 「……もう大丈夫だよ、きっと。 そろそろケリつけにいくみたい」 「ケリ?」 「うん」 今日から三者面談で、授業は午前のみとなる。そして今週の水曜日は部活がオフ。私と響はその日に柏木さんの居る北星高校へと乗り込む(?)のだ。 「しかし、莉恵……やっぱりな、お前なら何とかなりそうだとは思ったがよー」 こんなに俺引きずってたのに、その悩みをたった一晩で消しやがった。駿は頭を掻きながらそう言い笑った。 あ、そういえば。 「夏休み入ったら結構すぐに合宿だよね」 「おう。結構長いからなーしかもキツいんだよなぁ……」 「ふぅん……。色んな学校が参加するんでしょ?」 「そうそう。良い経験になるけどな。 お前もしっかり体力つけとけよ」 「はいはーい」 水曜日の件が終わったら、一気に合宿モードに切り替えよう。 もっとも、響が何を柏木さんに言うつもりなのかとかは、何にも聞かされていないのだが。 87: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 00 37 そして二日後、響にとっては大きな転機となるはずの水曜日がやってきた。 「起立ー、礼ー」 がやがやとみんなが教室から出て行く。そんな中、私は少し緊張して時計を見つめていた。 「莉恵!今日でしょ?頑張りなさいよ」 沙耶が声をかけてくれる。……そうだ、私は西南高校マネージャーとして付いていくんだから!!しっかりしなきゃ。 「それにしても、マネージャーだから付いていくっていうその理由、ちょっとおかしくない?プライベートの問題でしょー」 「……あ、やっぱり?」 だって、心配だし見届けたかったし、どうなるか。 なんて、本人の前では口が裂けても言えない。 「じゃあね、莉恵。行ってらっしゃい」 「うん!またメールするね」 私は沙耶と別れたら、響と待ち合わせてしている正門に向かった。同じクラスだから別に良いんだけど、教室から二人して一緒に出ていくのもどうかなあと思ってね。 「響」 「……」 門にもたれかかって音楽を聴いているらしい。声が届かなかったので私は後ろまで近付いてつんつんっと背中を突いた。 「っ!……ああ、お前か」 「ご、ごめんそんなにびっくりするとは思わなかった……。 響もしかして緊張してる?」 「……」 無理もないと思う。生易しい問題ではなかったのだから。思いだして考えるというだけで辛かっただろう。 「行くか」 「……うん!」 一拍置いて、私は返事を返した。さあ、いよいよだ。 88: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 08 30 ピーーーーッ 北星高校の体育館内で、集合の合図の笛が鳴るのが見えた。 雰囲気からして、今から休憩のよう。これを逃す手はない。 響もそう思ったのか、真っすぐ体育館を歩きだした。私もそれに従う。 「……あれ、あなた方は」 一人の北星の部員らしき男の子が私達に目を留めた。練習試合でこの間会ったばかりだし、しかも響は有名だから覚えているのだろう。その部員に私は声をかけた。愛想の悪い響だから、こういうのは私の役目。 「突然お邪魔してすみません、マネージャーさんと少しお話したいんですけど」 「あぁ、凛ちゃん?ちょっと待っててください」 しばらく待っていると、来た。遠目でも分かる。ちょっと苦手なタイプかもしれない。 顔が見えるくらいのところで、向こうは驚いたように足を止めた。しかし、すぐさままた歩を進める。 柏木さんは私達の前を通って体育館の裏の出口から出た。そこで話すという意味だろう。 「……何の用?」 訝しげに彼女が問いかけてきた。 ここからは響の出番だ。私は一歩下がって二人を見つめた。 響は、何を言うつもりなんだろう。 「……お前多分、シンに祟られると思うわ」 (は!?) まさかの祟り発言(笑)に、私は口をぱっくり開けた。 89: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 21 48 「へ……」 柏木さんもわけがわからないのか、呆気にとられたような顔つきだ。うんうん、今だけは私彼女と同感かも。 「いや、シンは優しいからもしかするとそんなことしねえかもな。けど例えば俺や駿が死んだら、お前が死ぬまで呪うと思う」 「……」 「死んでも消えないんだよ。お前のしたことは。 ……俺こそ、あのときは無理やりして悪かったが」 「!」 柏木さんがそのときのことを思い出したのか、小さく反応を見せた。私も響が謝罪の言葉を述べたことがとても意外だった。 「今、マネやってんだろ。良い仲間が出来たんだろ、お前は満足してんのか?」 「……そりゃあ。みんな優しいし元気だし、安心出来るし」 「そーかよ。 せいぜい間違い犯さず生きることだな、これからは。 それが何よりの罪滅ぼしだ」 「……!!」 それを聞いた途端、柏木さんが泣きだしそうな顔をしてこう言った。 「何よ偉そうに。馬鹿みたい……どうして許すの?」 「馬鹿はこいつのが移った」 響は私を指さしながらそう言う(ちょっと!)。 「許しちゃいねー。許すことは一生ないけど二度と同じことはすんなっていう警告だ」 「……」 柏木さんは響の勢いに呑まれ、何も言い返せない様だった。 「おい、行くぞ莉恵」 「え」 もう良いの? そう思い響の顔を見たら、荷が取れたような、晴れた顔をしていた。 (……良かった) 私たちが背を向け、とりあえず帰ろうとしたとき。 「……あんたのほうこそ、真っ直ぐ生きなさいよね。 あたしは祟られないように、向き合っていくから。 お人好し過ぎんのよ、あんた変わったわね。そのうち痛い目合うわよ」 確かに柏木さんがそう言うのが聞こえた。 言葉は素直じゃないけど、きっと今までの彼女とは違っただろう。 今度こそ私たちはそこを離れ、体育館の横を横切って学校から出た。 90: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 31 03 「ん~、甘い!!疲れた時は甘いものに限る!!」 あの後、私は近くにあったファミレスに立ち寄ってデザートタイム。二時前という中途半端な時間帯から、客は少なかった。私がさっきから頬張っているのは、苺パフェ!!そこ、顔に合わないとか言わない。私苺には目がないんだよ。 響はドリンクバーを啜っている。(しかも烏龍茶) 「疲れたって、お前何もしてねーだろ」 「いーえ、いきなり祟るだのなんだの言いだしたときは怪しい宗教にでも入ったのかと」 「殴るぞ」 「すいません」 だけど、本当に良かった。本当になんてもんじゃない、本当に本当に。 あれからあまり深い話はしていないけど、何も話さなくとも相手の心境は分かり切っている。 (だって、表情(かお)が全然違う) きっと自分では気付いていないんだろうな。その表情が、以前と違って柔らかなものになっていることに。 まあ元が元だし響だから、にこにこ笑ってるって感じではなく、棘がちょっとなくなったというか。 柏木さんも言ってたな、「変わった」って。 私は今の響しか知らないから何とも言えないんだけど。 「莉恵」 「?」 「お前俺が思ってた以上に変わってるわ」 「……そうみたいですね」 この間から言われているこの言葉だけど、褒め言葉として受け取ってもいいのかしらね……。 「ありがとう」 「えっ?」 ぽつんと漏らされたその言葉に耳を疑った。 young leaf 続き5
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番外編① 今日は8時には帰るからな。 確かにそう言った。でも今はもう9時。 携帯も繋がらないし、いったいどこで油売ってやがるんだ、あの野郎。 アメリカに住み始めてからもう半年近く経つ。 慎也は高校の教師を勤めていて、俺はというとまだ英語に慣れてないから学ぶために学校に行っている。 就職活動を行ってない。 つまりまことに不本意ながら慎也に養ってもらってるってワケだ。オマケに学費も出してもらって。 捜しにいこうにも、家と家の間が50mも離れているような田舎町だから捜しようがない。 携帯も繋がらないし(二度目)。 だが家でただただボーっと帰ってくるのを待っているのもむず痒く、俺は慎也を捜しに行くことにした。 べ、別にヤツを心配しているわけじゃないからな! ガレージに駐車してある車を動かす。田舎は車がないとやっていけない。 とりあえず、慎也の勤める学校まで行ってみようと思った。 何キロ進んだだろうか。 都会に向かえば向かうほど、辺りは明るく、ビルが多くなっていく。 近くまでくると車を止め、慎也の行方を知らないか関係者の方に聞くため、学校の敷地内に入った。 慣れない英語でまだ職務をこなしている人に聞く。 その人曰く、ついさっき慎也は帰ったらしかった。 俺は元来た道を引き返すことにした。 もしかすると、慎也の車を見つけられるかもしれない。 「あ、慎也」 見つけることには見つけられたんだけど…。 「な!」 俺は女の人と楽しそうに喋る慎也を見てしまった。 二人きりで。 何だろう、この気持ち。 見てはいけないものを見てしまったようで俺の胸の音は高鳴る。 車に戻って一旦家に引き返した。 ふう。家の中に入って深呼吸して気持ちを落ち着かせる。 ……あれはなんだろう。 え…も、もしかして浮気…ってヤツじゃ。 慎也はカッコいいしモテる上に軟派だからそれもかなりの確率でありえる。 俺は段々不安になってきた。 何だよ慎也のやつ! 浮気は絶対しないって言ってたのに!! それとともに怒りも込み上げてくる。 椅子に座ってしばらく思案していると、 「ただいま」 俺の悩みの元凶が帰ってきた。 「ごめんな、8時に帰るって言ったのに」 慎也は俺の姿を見かけると真っ先に謝ってきた。 何がだよ。元からあの女性と会うつもりだったくせに。 内心怒り心頭の俺は慎也に対して何も言わなかった。 「旭、どうかした?」 慎也の手が俺に伸びてくる。それを俺は思いっきり払った。 パシンと渇いた音がする。 「どうかした、だと? 俺の気もしらねーで!! お前なんか、お前なんかなぁ!」 感極まったせいで目頭がカッと熱くなった。 ボタボタと目から涙がこぼれ落ちる。 「あさ…ひ?」 一方の慎也は驚いた表情で俺を見ていた。 「お前なんか…ッ」 嫌いだ、って言ってやりたいのに言葉が出ない。 慎也の胸倉を掴んで必死で涙を堪えようとする。 けど、ダメだった。とめどなく溢れてくる。 俺、慎也に嫌われたのか? 愛想尽かされたのか? 慎也は俺を切り離して、違う人のところに行くのだろうか? 不安ばかりが心の中を過ぎった。 「嫌だ、慎也…ッ。俺は絶対嫌だ!」 相変わらず慎也はきょとんとしている。 「…何のことだ?」 「え?」 俺も思わずつられてきょとんとする。 「そんなに早く帰ってきて欲しかった? ごめんな、この時期はテスト採点で忙しいんだ。 前にお前に言った約束、守れなくてホントごめん」 慎也は俺に向かって頭を下げた。 「じゃ、じゃあ遅くなったのは仕事だって言うのか?」 「そうだよ」 「嘘付け! 女の人と一緒にいるところ見たんだからな!」 俺が怒声でそういうと、慎也は間を置いて笑い始めた。 「ッあははは」 「何がおかしいんだよ?」 ったくこっちは真剣だってのに。 「だってそれ、妬いてるってことじゃん」 「なっ!!」 自分が浮気しといてよくそんなこと言えるな! 「あの人は小さい時に良く遊んだ人で、久しぶりに会ったから挨拶がてらに少し話してただけだよ」 笑いが収まると慎也は俺の方に歩み寄ってきた。 そして俺の身体を優しく抱擁する。 「妬いてくれて嬉しいけど、もうちょっと俺のこと信用しろよ。俺はずっと旭一筋なんだぞ? これからもな」 「………」 その脳髄を突き刺すような慎也の言葉に、酷く紅潮したのは言うまでもなかった。 結婚と来れば浮気!浮気ネタを書いてみたかったーw でも、 浮気と思ってたが実は違う→受けが翻弄 が萌えだと思いましたw てなわけでというわけです(謎 番外編② 「慎也!」 旭は妙に明るい声で掃除している慎也を呼びかけた。 掃除機のスイッチを一旦切り、呼ばれたほうを慎也は振り返る。 「トリックオアトリートっ!」 アメリカに住んでいるというのに全く発音のよくない英語でそう言いつつ旭は右手を突き出した。 慎也はぽかんとしたが、すぐにこの日がハロウィンだと気づいたようだ。 「ハロウィンだろ? コスプ…仮装してから来い」 軽くあしらってから再び掃除機のスイッチを入れて床のほこりを吸い始める。 「仮装とかいいじゃねーか。俺はお菓子くれりゃあそれでいいんだよ」 「いや、どうせやるなら真剣にやれよ。それってアメリカのイベント馬鹿にしてるぞ」 「そっそういうわけじゃねーよ。ただハロウィンにかこつけて慎也の作ったケーキとか食いたいなって…」 「じゃあ俺はハロウィンにかこつけて旭のセーラー服姿が見たいな」 ウイーンと鳴る掃除機を操りながらしらっと言う慎也の言葉に旭はひどく赤面した。 「アホか!! お前なんてランターンに食われてしまえ!」 「ランターンはポケモン。お前が言いたいのはジャックランタンのことか? あとジャックランタンは人を食ったりしないと思うけど」 揚げ足を見事に取られた旭は何もいえないままその場を去った。 テイク2。 (これでいいか。セーラー服なんて冗談じゃねー) なぜかクロゼットの中にあった魔女の衣装。 (い、言っとくけど仮装しろって言われたからしてるんじゃねーぞ。やっぱイベントは楽しまなきゃな。 うん、それだけのことだから。いやマジで。っていうか何で俺こんなに言い訳してるんだっけ?) 黒いローブを服の上からかぶって、魔女帽子をかぶるだけ。簡単にコスプ…いや、仮装ができる。 もう一度旭は深夜の元へ向かった。彼は掃除を終わらせ、ソファに座って読書していた。 ちなみにエロ本ではない。 「…トリックオアトリート」 一度目失敗して二度目にテンションあげて言うのは恥ずかしいのだろうか。 旭の声は先ほどよりも小さくなっていた。発音が悪いのは相変わらずだが。 「いいよ。じゃあここ座って?」 読んでる途中の本を閉じ、隣の空いているスペースをぽんと叩く慎也。 それに従い旭は指示された場所に座った。 旭の心には、あの慎也の舌がとろけそうなケーキの味しか思い浮かんでいない。 わくわくしながら待っていると、そっと慎也に横たわらされた。 「な、何だよ?」 「お菓子くれなきゃいたずらするぞ、なんだろ? お菓子はやらない。だから"いたずら"してみろ」 魔女の黒ローブの中へ慎也は手を滑り込ませる。 「お前それっ、お前がやってんじゃねーかッ!!」 声を張り上げて旭はもぞもぞと抵抗した。 「どっちも同じようなもんだろ。するもされるも」 「は、ッふざけんな…あ、ん…ッ」 テイク3。 「慎也このやろーッ」 お菓子を食べるつもりが食べられてしまった旭はギンと慎也を睨む。 「じゃあ、これでどうだ? スイートオアスイートだ!」 ビッと人差し指を前に突き出して旭は叫ぶ。 「…お前、トリックとトリートの区別つかないんだろ?」 嘲るように慎也は目を細めて旭を見た。 「んなことどーでもいいの! それよりケーキ作ってくれよ。俺仮装までしてバカみたいじゃん」 「そうだな…」 片手をあごに充てて考え込む。 それを見て旭は、今度こそケーキが食べられるのかと期待した。 だが、次の瞬間はなぜかすぐ目前に慎也がいて、唇に何か柔らかいものを感じた。 「ん…?」 旭がそれがキスだと気づいたときにはもう慎也の舌が口内に入り込んでいるわけで。 「…ん、ぅ」 くちゅっと鳴った音で今の状況を完全に把握した旭は慎也を突き飛ばした。 「はぁ、はぁッ、おま…お前…ッ」 「スイートって言ったよな。甘いものって言ったらキスだろ」 唾液のついた下唇をペロリと舐めると慎也は得意そうに笑んだ。 「違うだろおおお!」 旭が叫んだのは言うまでもなかった。 テイク4。 「もう知らん…もう慎也なんか…」 まだ魔女のローブを脱がないまま部屋の隅で頭を抱えている旭。 コスプレしろと言われたりイタズラされたりキスされたりするのは、もちろん旭は嫌がっているわけではない。 むしろ喜んでいるはずだ、…構ってもらえて。 じゃあなぜいじけているのか。答えは簡単、ツンデレだから。 「ごめん、そんな怒るなよ。ちょっとイジメただけだろ?」 旭の背後から寄り添い、片手で抱き寄せつつ頭をくしゃりと撫でる。 「ケーキ作ったからさ。一緒に食べようぜ」 ケーキと言われて途端に旭は元気になった。単純なところも…まあ彼の魅力だろう。 テーブルの上の、慎也が作ったチーズケーキを頬張ったころには旭の機嫌は既に治っていた。 「やっぱうめーな、お前のケーキって」 「そら良かったな。で? お前は俺にお菓子くれんのか?」 にこにこ笑いながら慎也は言った。もちろん旭が菓子など用意していないことを見越してのことだ。 「う、うー…な、い、です…」 チーズケーキを食べる動作を止め、旭はバツの悪そうな顔をした。 「ふーん。じゃあイタズラ、するからな」 ニヤリと慎也が嫌な感じの笑みを浮かべたことは描写しなくともわかるだろう。 その表情は旭を青ざめさせた。 …ハッピーハロウィン。 バレンタインや誕生日は王道イベントなんで、ちょっとマイナー(?)なイベントに。 でもハロウィンもコスプ…ゴホ、ゴホッ仮装や、お菓子くれなきゃイタズラするぞ?という言葉とか…けしからんですね^p^(お前や 日本も欧米のようにハロウィンが浸透すればとおもいますw 番外編③(by蝶々) すごーく好きだった小説キャラをお借りして二次創作(*´ω`*)@事前許可は貰ってますーw 作者であるかずいちゃんに渡せるのに間に合わなかったのが心から残念ですが…と思ってたら奇跡の再会を果たせたので載せますw キャライメージと合ってるか不安…^^; そして受験おつかれ^p^ __________ 風邪って馬鹿は引かないって言うけど……それなら変態はどうなんだろうな。 目が覚めて一番最初にあれ、と思う。 いつもなら先に目覚めるアイツに苦しい程抱き付かれて嫌な目覚めを迎える筈なのに何故か今日は様子が違った。 ベッドから身体を起こし隣の慎也に目を向ければ仰向けの状態で額に腕を乗せて荒い息を繰り返している。 ……まさかと思い額に手を当て確認すると尋常じゃない熱さ。 「お、おい慎也……まさか風邪引いたのかっ!?」 「……おー、旭……おはよ……。ゴメン……今日はおはようのセックスできな……ゴホッゴホッ!」 ……咳をしながら変態発言しないでくれますか。誰が朝っぱらからヤルか。 心配する気が一気に失せて自分に掛かっていたシーツを乱暴に慎也の顔に覆い被せる。 別に熱に浮かされて血迷った事を言ってる訳じゃない。 コイツ――中田慎也は自他共に認める変態で、朝だろうが夜だろうがお構いなしにこうやって常識外れな発言や行動をする問題児だ。 そんな慎也に俺は常に振り回されている。 それならコイツと離れたらいいだろって思うかも知れないだろうが、まあ……腐れ縁と言うか……なんやかんやあって今はケッコ……結……あ゛ー……二人で住んでいる。 あ、でも別姓! 俺にはちゃんと“雪代”って名字があるんだからな、ウン。 「……八度五分。バッカじゃねーの」 ピピ、と小さな電子音を合図にダルそうな慎也の脇から体温計を引き抜いて確認する。 本当なら心配しなくてはいけないのは解っている。 ついつい癖で病人に向かって掛ける台詞ではない事を言ってしまうのはコイツの日頃の行いが悪いんだ。 「何が……ゴホ、原因なんだろな……ゴホ」 いやいやいや。この真冬に薄着してたからに決まってんでしょーが。 元々の体温が高いからって油断し過ぎだバカ。 「今日が休みで良かったな。まあ今日一日寝まくってれば治るだろ」 「おー……」 素直に目を瞑る慎也にこっちが面食らってしまう。 ……本当に辛そうだな。 慎也の邪魔になってはいけないと、俺はそっとベッドを降りると静かに寝室を抜け出した。 ――その数時間後、俺はあるものを手にしてもう一度寝室へと入る。 覗き込む俺の気配に気付いたのか慎也は薄く目を開けて反応を示した。 「……お粥、食べるか?」 「ゴホッ、旭……俺の為にわざわざ作ってくれたのか?」 「違う。あー……あれだ。なんか急に食べたくなっただけだ」 特に良い言い訳も思いつかず慎也に向かってそう答えると、笑いながらありがとうと礼を言われた。 なんか……すっげー居心地悪いしもうさっさと早く食べて薬飲んでもう一回寝て欲しい。 なのに慎也はじっと器を眺めたままなかなか食べ始めようとしなかった。 「食欲無いのか?」 「っていうか旭が食べさせてくれないのか?」 「なっ……!」 質問の答えになってるんだかなってないんだか判らない言葉に思わず身じろぎしてしまう。 「なんで俺がそんな……っ、新婚夫婦みたいな事できるかぁ!」 「新婚だろ?」 …………そうでしたね。 「そ、それでも俺は嫌だっ! 自分で食べろっ」 「ちぇ。旭のツンデレー」 無理矢理慎也にスプーンと器を押し付けると慎也はしぶしぶ起き上がり、自らお粥を掬って食べ始めた。 ていうかデレてねーし。いつデレたかむしろ言って欲しいぐらいだ。 お粥なんてご飯をふやかしただけの料理なのに、それでも美味しいって言われて少しだけ安心した。 食べ切って薬を飲んだのを見届けてから俺はやれやれと食器を片付けようと立ち上がる。 これで俺の仕事はすんだな。後は夜まで寝てれば治るだろ。 「――旭、どこ行くんだ?」 「どこ……って、食器を片付けに……うわっ!」 慎也に腕を掴まれバランスを崩した俺は、そのままベッドへと倒れ込んでしまった。 整った慎也の顔がいきなり至近距離に見えてかぁっと顔が熱くなるのが自分でもわかる。 「俺が寝るまで添い寝しといてー」 「……寝言は寝て言えよ」 そのままぎゅっと強く抱きしめられるとトクトクと聞こえる慎也の心臓の音。 その音を聞いてたら暴れるのも段々面倒くさくなってきて、俺はされるがままの状態でしばらく慎也の胸に顔を埋める。 ……熱い。やっぱり尋常じゃなく熱い。 やっぱさっきより熱ヒドいんじゃねーのコレ? 「……なぁ慎也? 汗もかいてるみたいだし、着替えとかしないと風邪悪化するぞ?」 脱がしてやろうと慎也のパジャマのボタンに手を掛け一つずつ外していく。 「今日はいつになく大胆だな。……旭の所為で勃ってきたんですけど」 「はぁっ!? 違う、これは誘ったんじゃなくて、お前を心配して――」 慌てて起き上がろうとするのを、病人とは思えない力で抑えられそのまま組み敷かれる。 もう大人しく寝とけよー! なんで俺が寝ててお前が今上になってんだよっ! 「心配してくれなくてもまだお前を満足させる程の体力ならある。キスは……伝染るからな。我慢しろ」 俺が心配してんのはそんなとこじゃねーよ! そう叫びたくて口を開いたのに首筋に熱い舌がうねる感覚がして俺の口から洩れたのは情けない程弱々しい喘ぎ声だった。 「っあ、やっ……!」 「知ってるか? 風邪は運動して汗をかくと早く治るんだぞ」 耳元でそう囁かれながら俺は思った。 慎也には勝てない……。 ――そしてやっぱりコイツは変態なんだと。 __________ 人様のキャラで性描写はさすがにマズイかなと思い自重(・∀・) 風邪ネタはうちの愁×直人でも書いたけどキャラ変えるだけで全然違うくなるから楽しかったですw お粗末様でした~w
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130: 名前:HARU☆04/08(金) 22 31 33 入浴を終えた部員達が食堂に足を運び、夕食に手をつけ始める 「うんめーっ!生き返るわ!」 「相沢も手伝ったんでしょ?まじ幸せーっ」 「あんたらくるみのことばっか!私も作ったんだけど!」 二年同士のやりとり 千穂ちゃんが「食うな!」と悪戯気に皿をわざと取り上げたりする まぁ、作ったってゆうか食堂の人の手伝いしか本当にしてないんだけどね 「くるみ、お風呂行ってこよ」 「あ、うんっ」 のりが手招きをする 身体中ひりひりで痛いし汗臭いもんな私 「相沢風呂行くの?一緒に入る?」 「洗ってあげよっか?」 一年はまだしも、二年は口々に声をかける 「奏太くんならいーよ?」 くるみがわざと聞こえるように言うと、一人だけ大きく咳き込む それを見ると楽しげに食堂から退出する 「んだよー、やっぱり北條かよー」 「奏太後でまじシメる」 「大変だね、奏太」 佐々木が笑いを堪えながら奏太の背中を優しくさする 「…本当、何考えてんだあの人……」 はぁーっ、と奏太は頬を染めて長いため息をつく 131: 名前:HARU☆04/08(金) 22 59 07 お風呂からあがると寝間着に着替え、邪魔な髪を後ろでくくる いやー、生き返った 日焼けでお湯がしみて痛かったけど汗のべとべとは取れたしすっきり 「王子様は不機嫌な様子ですよ」 「へ?」 髪をくくりながら歩いているのりがそんな言葉を言う のりの視線の先に目をやると廊下の壁にもたれかかっている仏頂面 「奏太くんっ」 テンションが一気に上がって忠犬のように奏太くんの傍に行く すると頭をぺしっと叩かれた 「馬鹿か!」 「えぇぇっ!?」 「あんなこと友達や先輩の前で言わないで下さい!」 あんなこと…?あぁ、さっきの 叩かれた頭を自分でさする 「だって奏太くんならいいんだもーん」 「…あのねぇ、状況ってもんがあるでしょ」 「本当に奏太くんならいーよっ?」 反応が楽しくてついついからかってしまう 気付くとのりはすたすたと先に帰っていた 私があまりにも奏太くんににこにことして遊んでいると 急に肩を掴まれて呆気なく壁にトスッと押し付けられ、板挟み状態にされる 顔を見上げると真面目な表情 「そんなこと言ってると、……ここで襲いますよ」 胸がどきんと音を鳴らした 襲う、という単語の前の沈黙がいやにリアルで何も言えなくなってしまう 135: 名前:HARU☆04/09(土) 20 41 42 自分で仕掛けておきながら実際真に受けとられると …どきどきして心臓がうるさい 私が黙ったままでいると先に奏太くんが口を開く 「…ほら、こういうこと言うと何も言えないでしょ?」 「…や、やれるもんならやってみなよ!」 少し上から言う奏太くんに張り合ってしまったのか、ついついそんな言葉が出る あ、と慌てて口を押さえて奏太くんを見ると目を丸くして驚いている 変な緊張感が漂う すると曲がり角の遠くの方から数人の声がだんだんこちらに近づいてくる さすがに奏太くんとこんなところに二人だと奏太くんが部員に なんやかんや言われてからかわれてしまうと思い、急いで去ろうとすると 「こっち」 腕を掴まれて一番近い使われていない部屋に入り、扉を閉められる 私達がいることに全く気付かず、真っ暗な部屋の前を声が通り過ぎて行く 「―――………っ」 自然に抱き締められた状態 密着する身体が熱い お風呂上がりのせい…、じゃないよ…ね 139: 名前:HARU☆04/09(土) 22 55 57 熱い 「あ、の…。奏太く」 「デメリットを三つ」 「…へ?」 急にわけのわからないことを言い始める てゆか抱き締められたまま…っ 「合宿に参加するって知ってたら全力で止めてました。 だから初日でわかった"相沢くるみがいることによる俺へのデメリット"」 「あ、…はい」 デメリットって…、ひどー 私は奏太くんのサポートができたらなって思ったのに …まぁ、泊まりとか部活生姿とかに惹かれたけどさ 「まず一つ、暑いだるい焼ける」 「それ私に限りじゃん」 「二つ、外野がうるさい」 「…やきもちだ」 確かに二年はなかなかうるさいけど、ちゃんと適当にあしらってるし 「三つ目」 「あ、はい」 なんだろう?と思っていると、急にぎゅうっと抱き締める力が強くなる 「…俺が我慢できなくなる」 暗闇に目が慣れてきたころ、奏太くんの手が頬に触れ髪と一緒に掬われる 奏太くんの言葉と動作に胸がきゅうっと締め付けられる 何か言葉を発そうとした時には綺麗に唇を塞がれていた 140: 名前:HARU☆04/09(土) 23 12 23 奏太くんの熱を身体全部で感じてしまう 「待…っ、ふぁ…」 いつもそう 奏太くんは見た目じゃ想像できない濃厚なキス 私はついていくだけで精一杯 ズルズルと腰が砕けるように力が抜けていくのに奏太くんはお構い無し 真上から被せるように水音のするキスを続ける 「ひゃ…っ」 奏太くんの手が腰からするりと上へと伸びてくる さ、さすがにまずい! 「まっ、待って!ストップ!」 「…なんで」 「な、なんでって…っ。合宿中だし不謹慎、かな…って……」 あ、熱い… てゆか止めなかったら奏太くん本当に続けそうだったし…っ やっぱりみんな同じ棟にいるし、あくまで部活の合宿中だし… 「こ、声が…っ聞こえちゃうかも、だし…っ」 そう顔を赤らめて私が言うと奏太くんは口に手をあてて、 「……恥ずかしいこと言わんで下さい」 と困ったように言った わ、私何か間違ったこと言った? 焦り困っていると、ちゅっとリップ音を立てて私の唇に触れる 147: 名前:HARU☆04/11(月) 20 33 58 ひゃー!この萌え男子め! 私の頬が赤くなるのを見ると悪戯気に笑う ド、ドSか! 「と、とにかく合宿中は駄目!練習に専念すること!」 「そんなこと言うなら初めから来ないで下さいよ」 うっ、……確かに私、邪魔かも 初日からこれじゃ駄目だよね 「わ、かった。奏太くんに合宿中は話かけない」 「…本当に?」 「ほ、本当…に」 嘘だよー!本当は常にかまっていたいんだよー! …なんて言えるはずもなく 奏太くんの練習の妨げになるなら陰から見つめるだけ、にします 「…マネージャーらしく"部員"のサポートだけをします」 「ふーん…。わかりました」 さらりと返事をして触れていた手をぱっと離す それはそれで、…少し寂しいような気も 「じゃ、また明日もよろしくお願いしますね。"相沢先輩"」 「な…っ」 わざとらしく私をそう呼ぶと一人で部屋から出て行く な、何あの言い方ーっ! 148: 名前:HARU☆04/11(月) 20 45 48 * 次の日からあからさまに奏太くんから避けられ続ける 私が話かけないとかいう以前に奏太くんがわざとらしく逃げていく 「また喧嘩?」 ぶすっとした顔をしている私にのりが声をかける 部員達は部内でチーム練習中 「喧嘩じゃないもーん。私はマネージャーだもーん」 「はぁ?」 ツーンとしてそう言うと奇声を発する 私だって…わかんないんだもん すると部室内の掃除を終えた千穂ちゃんが戻ってきた 「くるみさ、北條くんと別れたの?」 「はぁ!?」 さらっと言う千穂ちゃんに今度は私が奇声をあげる わ、別れた!? 「あ、違うの?なんかここ数日二人共会話もしないで 変な空気漂ってるから破局っていう噂聞いたからさ。 部員が、"俺いけんじゃね?"とかちらほらほざいてるよ」 な、なんだその噂! 別れてないっつーの別れないっつーの! 「……合宿中はマネージャーだもん、私」 「は?」 「意味わかんないでしょ」 私の発言に千穂ちゃんが?マークを浮かべると、のりが同意を求める 私は奏太くんの力になりたかったのに、邪魔したくなかったのに …なんでこうなっちゃうかなぁ 152: 名前:HARU☆04/12(火) 20 30 00 合宿は折り返し地点を過ぎ、残り三日 合宿最終日は他校との練習試合が組まれている為、 日が経つにつれて部員達の士気も徐々に高まっている ……なんてことよりも、 「まだ無視されてんの?」 のりが片付けをしながらそう問いかける 「無視じゃないもん、話さないようにしてるだけだもん。 てゆうか私が"あえて"無視して"あげてる"だけだもん」 はぶてた顔で一つ一つ強調して伝える のりは「はいはい」と適当に返事をする よく考えてみると内緒で私が合宿に参加したのがいけないんだよね… 「でもっ!」 「わっ!うるさい!」 でもだからってあんなふうに言わなくたってさ! あからさまな態度をとらなくったってさ! 私だけが悪いんじゃないもん!そうだ! 「なんか…、くるみと付き合ったら面倒くさそうだよな」 「のり」 のりがぼそっと呟くもんだから、じろっと睨む 「おっと」とわざとらしくのりは口を手で塞ぐ でも奏太くんも面倒くさい…、のかなあ… 153: 名前:HARU☆04/12(火) 20 43 23 その日の練習を無事終え、夕飯も入浴も済ましたので部屋に戻ろうとする 「相沢先輩」 私を呼ぶ声がし、後ろを振り替えると廊下の曲がり角で手招きが見える 誰かわからずにとりあえずとたとたと小走りに行くと部屋着の部員 「あ、えーと…佐々木くん。だよね?」 「当たりです」 ひひっと笑う可愛らしい表情 奏太くんと仲良いから顔はよく覚えていた この子も可愛い顔してるんだよなあ 「なあに?」 「や、初日以来奏太と何かあったのかなーと。 先輩達は別れただの言ってますけど違うんですよね?」 「ち、違うよっ」 またそんな噂…! 二年はそんなことしか考えない暇人か! 「ですよね、よかった」 優しくはにかむ佐々木くん はうっ、きゅん! 年下萌えスマイル頂きました! 「!、わざわざそのために?」 「理由は詳しく知りませんけど、奏太も変に頑固で子供だから。 …あっ、今言ったことは内緒にしてて下さいよ!」 「やばっ」と言いながら自分の口元に人差し指をあてて「しーっ」とする か、可愛い! 奏太くんの友達は奏太くん並にきゅんとさせてくれるなあ うん、ごちそうさまでした 155: 名前:HARU☆04/12(火) 23 16 35 * 「ありがとうございました!」 部長の号令に習い、部員が挨拶をして6日目の練習が終了する 各自で片付けを始める 「くるみ、行くよ」 「うん」 のりに声をかけられて、夕飯の準備の為に食堂に向かおうとすると ―――ガシャーン! 大きな音が響き、部員達が騒々する 焦って私達も振り向くと片付ける為に運んでいたゴールが倒れたようだ 「だ、大丈夫っ?」 慌てて人集りに近寄るけどみんな「大丈夫ー」と気楽そうに笑う やっぱりみんな驚いてはいるけど、幸い大きなケガとかはなさそうだ 「あ」 ほっとした時に佐々木くんの足に目がいく 「佐々木くん、足っ」 「え?…あ」 本人も気付いてなさそうだったけど血が流れていた 切れた、とでもいうように縦に線が入り、真っ赤な血が滴っていた 「佐々木大丈夫か?」 「うわ!えぐっ!」 「痛くないわけ?鈍いなー」 佐々木くんは「うわー」と言いながらも冷静 や!痛いって絶対! 私は佐々木くんの手を握る 「保健室行こう!鍵借りたら入れるし!」 「大丈夫ですって。水道水で流せば」 「駄目だよ!行くよ!」 「え、あ、わっ」 ぐいぐいと引っ張って佐々木くんを連れて行く 「えー…、俺がケガすればよかった」 「俺も」 くるみと佐々木が手を繋ぐ姿を見て羨ましそうに呟く部員 奏太もその姿を不安気に見つめる 不安は佐々木のケガになのか、それとも ―――繋がれた手になのか 160: 名前:HARU☆04/13(水) 15 50 22 夏休みの為、保健室不在なので鍵を借りて扉を開ける さすがにこの傷は応急処置用の救急箱では補えない 「あのっ、本当に大丈夫ですって!痛くないし!」 「はい!座って!」 佐々木の言葉に耳も傾けずに、くるみは椅子の上にどかっと座らせる カタカタと消毒液やガーゼなどを探す 「痛くないってことは麻痺してるかもしんないし。甘く見ちゃ駄目だよ」 少し不慣れながらも手当てをしていく 血を拭き取ると縦に線が入った傷口が思ったよりも深いことに気付く じわ…っ、と真っ赤な血が浮き出てくる くるみは思わず身震いをする 「グロいのって女の子は無理なものなんでしょ?大丈夫ですから」 佐々木がくるみの様子に気付き、気を使ってそう言う 「だ、大丈夫!それにこんな状態でほっとけないもんっ」 ―――…トクン 佐々木の胸がふいに鳴る 一生懸命で頑張っているくるみの姿を見て そして、はっと我に返る 「や!ないない」 「?、佐々木くん?」 首をかしげて下から覗き込むくるみに再びドキッとする ―――…傷口よりこっちの方が重症かもしれない 佐々木は首を横にふるふるっと振り、雑念を掻き消す 162: 名前:HARU☆04/13(水) 16 30 26 佐々木はその後、顧問に連れられて一応病院に行ったが大事には至らなかった それでも明日の練習試合は安静の為に不参加 「あーあ、ついてない」 徐々に痛みが感じてきた足でぎこちなく歩く佐々木 奏太と共に自動販売機の前で飲み物を選ぶ ガコンッと音がし、かがんで炭酸を取り出す 「せめて試合はしたかった」 「いーじゃん。一生サッカーができないとかじゃないんだし」 奏太がそう言うと「まあね」とため息をつく佐々木 同じように奏太も飲み物を買うと部屋へと戻り始める 「…あのさ」 「ん?」 奏太が少し言いづらそうに口を開く 「あの人のこと…、ただの"先輩"だよ、な」 佐々木の胸が一瞬ドキリとした あの人、つまり相沢先輩のことだろうと 奏太の勘がいいのか、やきもちなのかは佐々木にはわからない 「先輩以外なんなの?ははっ、奏太変なの」 「…や。だよね、だよな」 奏太は「変なこと聞いてごめん」と笑いながら謝る それなのに二人の間に違和感が生じた気がするのはお互いの気のせいだろうか …いや、気のせいならいいと互いに感じていた 169: 名前:HARU☆04/14(木) 20 28 43 サッカー部合は宿最終日を迎えた 結果から言うと他校との練習試合は3-1で我が南原サッカー部の勝利 気持ちよく過酷な合宿を終えれそうで私達もサポートしたかいがあった だけど、 「佐々木くんっ」 ベンチに少し俯き気味で座っている佐々木くんに話しかける 足に巻かれた包帯 「残念だったけど、まだ一年なんだし。これからいっぱい試合できるよっ」 「ありがとうございます」 最終日直前のケガによって佐々木くんは試合に不参加 なんだか不慮の事故なのに可哀想で胸が痛い 笑って返してくれるけど本当は悔しいと思う 「奏太と話したんですか?」 「し、知らなーい」 わざとらしくツーンとしてみせる だって私だけじゃなくて奏太くんも悪いし 「仲直りしなくちゃ。駄目ですよ?」 「はーい…」 仕方なさそうに返事をすると「あはは」と笑う佐々木くん 可愛いなあ、くそう 私が慰めようと思ったのに逆に元気もらっちゃった 部員達が片付けを始めたので佐々木くんも手伝おうと腰を上げた するとケガした方の足がバランスを崩してよろっとなったので 「わ、危ないっ」 咄嗟に手を差しだし、私より大きい佐々木くんを支える 萌えます。年下男子 続き22
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47: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 21 03 20 「ばっっかじゃない!誰がっ……!?」 ちゅっ 私が反論し始めると、いきなり腕を掴まれ引き寄せられ、一瞬の間に唇を奪われた。 「~~~っ!?」 突然のことに、頭が働かず唇が離れた時も私はまだ茫然としていた。 「今ちょっとドキドキした?」 「なっ……//」 柄にもなく、赤面してしまう私。 「んじゃ、俺そろそろ出るわ。あ、コレ夏休みの練習の予定表な」 一枚の紙を私に手渡し、響は部屋を出ようとした。 「……わ、私使って遊ばないでよね!!」 「顔赤いから。説得力ねーから」 (腹立つ……!!) わ、私昨晩すっごい感謝したんですけど!何、この恩を仇で返す感じは!!(ちょっと違う) はー、さっき若干シリアスモードだったけど。やっぱりあいつはただの変態大馬鹿野郎だ。 (そりゃあ……ちょっとは、あいつに対する見方変わったけどさ?) 最後だって。 「ほんとにちょっとドキってしたじゃん……」 思いだして、一人また顔を赤くする私。 (駄目駄目!あ、そうだ、予定表……) さっき響に手渡された予定表に目を落とす。 「えー、何何?……合宿?」 そう、夏休み中に五日間ほど。結構長いな……。 それに、その合宿期間の日付のところに、手書きで「午後から練習試合」と書かれていた。 うちの学校だけじゃなく、色んな学校から参加するのだろう。 「えーと、場所は……お、沖縄!?」 な、なんで!?バスケで沖縄行くって初めて聞いたよ……。 けど、これは沖縄初上陸のチャンス? 「なんでもやってやろーじゃないの! あ、けどその前に、もう少しで普通に試合あんだよね、確か」 約二週間後の日曜日だ、それがたしか。 まずはそれに向けて私も気合い入れていこう。 * 私、バスケに関する知識は皆無に等しいのでかなり設定が捏造されてしまっています>< 特に、この莉恵達の通う学校は『バスケ全国1』の設定となっておりますが 実際、物語的にはバスケ<莉恵達の日常になる予定です。というか、なります← シーズン等も、私が好き勝手に考えています……。実際にバスケに詳しい方やクラブに参加している方、本当にすみません。 ご了承下さい。m(_ _)m 48: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 21 21 40 キーンコーンカーンコーン 「莉恵、おはよー!元気出た?」 「おはよう沙耶! え……?えーっと、」 な、何だっけ……何かあったっけ…… (ああー!そうだ、私失恋……。すっかり忘れちゃってたよ、これって女としてどうなんだろう(汗) だけど、あれは恋だったの?それすら今じゃよく分かんない) 「まあ、忘れるってことはあいつは莉恵の運命の人じゃなかったってことだね! よし、莉恵、共に新しい恋を探そう!」 「はあ……」 私のその気乗りしないような反応に、沙耶が顔をしかめた。 あ、ちなみに沙耶には他校に2歳年上の彼氏が居るらしい。私も最近知った。 「何よ、この青春真っ盛りに……やる気ないわね」 「いや、ね?しばらく、部活の仕事に専念しようかと思いまして」 これも強ち嘘ではない。実際部活は忙しい、だけどやりがいがある。マネージャーだけど、部員のために何かしてあげられるのが嬉しいんだ。 まぁ、特に好きな人が出来ないからっていうのもあるけどね。 「あー、そういう時期もあるわね。 じゃあとりあえず、もうすぐ練習試合あるんでしょ? 夏休みには合宿もあるんだっけ。 それに向けて頑張ってねー」 「うん、ありがと!頑張るわ」 バスケ部員と汗水流して、一緒に青春してやろうじゃないの!! そう気合いを自分に入れ、お茶を口に含んで喉を潤す。 「あ、そういや莉恵?」 「ん?」 「莉恵って処女?」 「ぶっ!!」 私は思わずお茶を吹き出してしまった。 「うわ、汚!やめてよ莉恵ー」 私だって!人前でお茶吹き出すなんて、人生で初めてな気がするよ!! 49: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 21 32 33 「いきなり沙耶がそんなこというからっ……」 「お。その反応は、まだなんだねぇ~」 「……//う、うるさいなぁ」 ていうかね、最近は一般的に早すぎると思うよ?私が決して遅いんじゃない。 だって、まだ高二!!それに私、今まで一回だけ付き合ってたのは中2から中3にかけてだし。その時点でやることやってたら、恐ろしいでしょう……。 「そんなんだったら相川くんに奪われちゃってもしらないからね」 「なっ……!なんでそこで響なのよ!」 沙耶の発言に、焦って私は大声をあげてしまった。 (……!や、やば) そう思った時にはもう遅くて。 周りはざわざわと騒ぎ始めた。(や、やめて!) 「莉恵ちゃん……。相川くんと名前で呼び合う仲だったの?」 こ、怖いです!その辺の怒った教師より全然怖いですから!!泣 「いや、これは違っ……ちょっと沙耶、こっち来て!」 私は沙耶を廊下まで引っ張り出した。 「何よ、いきなり。莉恵が大声出したのが悪い」 「何よはこっちのセリフだっての……。 なんでああなるんだか。私の初めてはね!絶対絶対絶っっっ対好きな人(恋人)って決めてるんだから!!」 「……ふーん」 ふーん、て。リアクション薄……もう良いよ。 キーンコーンカーンコーン 「あ、やば、授業始まる。 て、やっば今日数学小テストだ!!」 「まあせいぜい頑張んなさい。あっちの方もね」 「あっちって何!!そういう沙耶はどうなのよ!」 「あたし?最近なら、先々週の夜に泊まりに行った時、急に押し倒さ「ああああああもういいから!!」 さ、沙耶に聞いた私が馬鹿だった! 50: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 21 44 30 ダンダンダン……シュッ ピーッ 「はぁ……」 練習の様子を眺めつつ、私はため息をついた。 何というか、朝の沙耶との会話が頭から離れない。最悪だ。 ピーーーッ 集合の合図がかかり、全員が円陣を組む。そしてそこで毎回斎藤先生の言葉や連絡やらを聞く。 「えー……練習試合の相手だが、前言っていた相手と都合がつかないらしく、北星になった。心しておくように」 「はいっ」 全員が威勢のよい返事をする。こういうところも私は好きだ。 ちら、とキャプテン(響ね)の方を見ると、驚いたことに響の表情は物凄く怒っているように見えた。 どうしちゃったんだろう。 解散した後、体育館のモップ掛けを手伝いながら、私は響にそれとなく聞いてみた。 「あの、響。さっき、なんであんなに」 「あ?」 言葉を遮られ、ジロ、と睨まれた。う……そんなに睨まなくていいじゃない。 「てめぇには関係ねーよ」 「何その言い方!人が心配してあげてんのに」 「お前はせいぜい好きでもない男に初めてを奪われないように心配しておくことだな」 「へ…… き、聞いてたの!?」 「あぁ」 響がニヤニヤしながら私の顔を覗き込んだ。 「最低っ……」 「何なら俺がもらってやろうか?」 「断固拒否!」 今までなら、絶対私からわざわざ心配の言葉をかけるようなことはなかった。 これでも、この前から少~しずつ接し方を変えようと努力してるのに。私だけなのかな。 それにしても、響にバレるなんて……。 「心配すんな、俺ァ上手いから」 「うるさい!!!」 51: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 21 55 14 がちゃがちゃ 「御馳走さまでしたー」 「え、橋場もう食わねえの?」 「少ないんだよ。ほら、おかわりしろよ」 「いやいやいや、みんなの量が尋常じゃないんだと思うけど」 さすがは天下のバスケ部の男子高校生、食べる量は半端なく多い。学校なんかでも、うどん+ラーメン用の容器に入ったどんぶりを食べたりしている。 もちろん私はそんなに食べられないから、いつもみんなより一足先に部屋に帰る。 パタン 「はー、見てる方が気持ち良いくらいにいっぱい食べるな、みんな」 部屋に帰り、携帯を開く。 【メッセージ一件】 (……) いちいち聞かなくても分かる、お母さんからだ。 あの手紙を受け取って以来、私はお母さんに連絡を取っていなかった。 今は会いたくない。自分から連絡を取って、言いたいこと言えばいいのにね……。怖くてそれが出来ない。 なんとなく会わないように、うちの近くは通らないようにしたり。 (しばらくは、このままでいたい) しばらくは、とか今は、とか、逃げてるっていうことは分かってる。 でも、現実から目を背けたくなるときだってあるの。 「……バスケ部って、家族みたい」 そう呟き、私はふっと笑みを零した。 駿はお調子者の弟って感じだな。斎藤先生は頼れるお父さん、響は年上のお兄ちゃん。 それなら私は、みんなのお母さんかな。 想像していると、楽しくなって嫌なことを忘れられる気がした。少し気を良くして、私はお風呂に向かおうと部屋を出た。 52: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 22 05 19 ダンダンダンッ 「いけーっ!駿」 「西南頑張って!」 ザシュッ 駿のシュートが決まった。やった! 時は流れて、今日は例の北星高校との練習試合だ。試合に出ていないメンバーや私は一緒に応援をする。 たった今、駿が2本目のシュートを決めたところ。 すごいよ、バスケの試合って!みんな体がバネのようだ。 うちの学校は、全国で一番になるくらいだから、今回の相手はそう強くないみたい。(ちょっと失礼) ピーーーーーッ!!! 試合終了。西南の圧勝だ。 戻ってきたメンバーに、私はポカリを一人一人に渡す。 「サンキュ」 「いえいえ、お疲れ。おめでとう」 「いや……まだまだだよ」 そう言いながら汗を拭く部員達。この人達は、どれだけ自分たちが点を稼いで勝利しても決して天狗にならないところがすごいと思う。 まだまだ、まだまだと言って上を目指している。普通こういうのあんまりないんじゃないかな。 「おい、さっきの試合の反省すんぞ」 響がチームメンバーに声をかける。 (すごいな……。もう簡単な反省会するんだ) そう思って眺めていると、一人の女の子が私に近づいてきているのが見えた。北星のマネージャーだろう。 「……西南のマネージャーさん?」 「あ、はいそうですけど」 「ねえ、キャプテンの相川響って、どうなの?」 「は?」 な、何この子。いきなり話しかけてきて、この話題? 響はやっぱり顔が広いのだろうか。 そう思っていると、その子が少しくすりと笑った。 「ごめん、急に。実は私響と中学が一緒だったの。それだけ」 「そ、そう?」 「うん、そう」 な、何?この子……。 すると、私は後ろからぐいとジャージの襟首を掴まれた。 「うがっ!な、何すんの!」 「行くぞ。もう出る時間だ」 そう言いながら私を引っ張っていこうとした響が、北星のマネージャーの顔を見たとたん顔を強張らせた。 53: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/14(水) 22 18 43 「……柏木」 「久しぶり、響」 柏木と呼ばれた女の子が、強気な笑みを零した。 よく見ると結構ケバいメイクをしている。 「何の用だ」 「何って、私北星高校のれっきとしたマネージャーなんですけど。 あぁ、それよりそこの西南のマネさん」 (私?) 「この男には気をつけなさいね。一緒にいるとめちゃくちゃにされるかもよ」 「てめぇっ……!!」 響が殺気立ったオーラを出して柏木さんに掴みかかろうとした。 や、やばい!しかも相手は女の子だ。 今言われたことの意味はまた今度考えることにして、私は響を止める。 「ひび、き……!何してんの!ここは相手の高校だよ?もうちょっと冷静になってよ!」 私は必至で響を押さえつけた。 こんなところで、騒ぎでも起こしたら。もとより名高い西南高校、しかもキャプテンの響だ。 響は尚、鋭い目つきで柏木さんを睨みつけていた。 「ほら、行くよ!!失礼しますっ」 私は響を引っ張り出すようにして体育館の外へ歩いた。その間もずっと、響は柏木さんのほうをじっと見ていた。柏木さんは笑みを絶やさない。 (あの子……何者? それに、響も様子がおかしいよ。取り乱し方が普通じゃない) 柏木という女の、あの笑顔が脳裏に張り付いて離れない。 (……なんか怖い。危険だ) 背中にぞくっと何かが走った。それに理由などはなく、本能的に私の中の何かが感じ取ったものだった。 54: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 20 59 31 「……ふぅ」 ぽちゃん 夜。私は一人寮のお風呂に入っていた。 バスケ部と同じ棟のこの大浴場(学校の寮だよ、金持ちすぎる)だが、この時間は私が入ることになっているため誰も入っては来ない。 (何だったんだろ、今日のあれ……) 湯船に浸かりながら、今日の出来事を思い出す。 響とあの柏木さんって子の間に、昔何かがあったことは確かだ。 元カノとか? (違うだろうな) 全然そんな雰囲気じゃなかったし。仮にそうだったとしても、何も無しにあそこまで険悪なムードにはならないだろう。 「はーあ……逆上せるしそろそろ出ようかなあ」 気付いたら随分長い時間浸かっているようだ。そろそろ出ようかな。 ざぶっ 私が湯船から立ち上がった時、 ガラガラガラっ 「……え」 私以外は入ってこないはずの、浴室のドアが開いた。 55: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 21 17 12 そこに立っていたのは響だった。 ……て、何私冷静に状況描写しちゃってんの? 見ての通り、私はバスタオル一枚しか身に纏っていない姿。響こそ、隠すべきところは隠してるけど……じょ、上半身裸だから!何で!? 「何で入ってくんのよぉおぉ!!この時間私専用なんだけど!!忘れたの!?」 必死でバスタオルを押さえながら私が叫ぶと、響は何も気にしていない様子で私の横を素通りし、ぼちゃん、と浴槽に浸かった。 ノ、ノーリアクションって逆にキツイんだけど!? 私が慌てて風呂場から出ようとドアの方に体を向けると、響の手ががしっと私の……腰を引き寄せた。 (!どこ触って……) 「ひゃっ!?」 つる、と床に足を滑らせて後ろに転びそうになったところを、そのまま響に抱きとめられる。 そして私はなぜか今、再び浴槽の中に居る。 「何すんのよ……何でこの時間に居るの」 「あぁ、やっぱこの時間で合ってたんだよな、良かった良かった」 「良くないっ!!……!?」 突然、響が私を引き寄せ自分の膝の上に座らせるような体制になった。 後ろからお腹の辺りにぎゅーっと腕を巻きつかれ、身動きが出来ない状態。 なななな何ですかこの少女漫画に出てくるいちゃいちゃしてるカップルみたいな体制は!← 「ど、どうしたの!?」 「……」 「響……?」 黙って私をぎゅっと抱きしめる響は、何だか何時もと雰囲気が違っていて。 小さな男の子が、お母さんに甘えるようにぎゅっと抱きつくような、それに少し似ていた。 「……どうしたの?」 何時もとあまりにも違うため、状況を忘れてさっきよりも柔らかい口調で、問いかけてみた。 56: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 21 41 07 少し緊張して、響の返事を待つ。 「莉恵」 「なに?」 「……」 「……」 「……」 「あの。何でしょうか」 「……やっぱりいい」 えぇ!?これだけ期待させて待たせといて、それですか。 あんたはみのも●たか!? 「それにしても」 続けて響が不意に口を開いた。 「お前、本っっっ当に変な女だな」 「はあ」 あまりに響がきっぱりと、(しかも結構真面目な声音で)言うから私は反論する気力もなくし、そう返した。 黙っていると、響は好き勝手に話し始める。 「俺の知ってる女と違う。 自分が可愛いが為に嘘を並べ立てて、ちょっと良いと思った奴の前で簡単に股開くような」 「……あの。もしかして、私がそんな女だと思ってたの?失礼なんだけど、それ」 少しむっとして、私が言い返すと響がふっと笑ったのが気配で分かった。 「違いねぇな。 ……だから、余計に欲しくなる」 「……!」 突然、響の手が私の体に張り付いたタオルの上から体を撫で始めた。 すぐ後ろにある響の顔を見るなり、私はぞっとした。 (怖 い) 笑ってる。だけど、これは笑顔じゃない。狂気じみた目だった。 いつもの響じゃない……。 元々目つきが悪い響だけど、そういうレベルの話じゃない。 自分を見失った、野獣のような。 「……ひび、き?」 57: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 21 54 48 今、私の背後で私を見るその人は何時もとは違った。 まるで、別人のように冷たい目をしていて。 (……っ!やだっ) 大きな手が太ももの内側を撫で始める。その手付きは、乱暴で全く感情が感じられなかった。 愛の無い行為。 そう言い表すのが一番相応しいのかもしれない。 「や、やめて……」 震える声でそう頼む私の声も、今の彼には届いていないようだった。 「!やっ!!!」 後ろから、響が私の両足を大きく開かせた。自然とタオルはまくりあがり、湯船の中で下半身が露わになる。 そして、こともあろうに大きな手が私の秘部を二本の指でがっと開かせた。 「っ……」 お湯の熱さを体の内側までが感じ取り、体がおかしくなってしまいそうだ。 (嫌、嫌、嫌――!!) 「響!!」 大声で彼に呼び掛けても、答えてくれない。 絶対におかしい。いくらなんでも、こんなの、無理やり…… そのとき、ある言葉が私の頭を過った。 『この男には気をつけなさいね。 一緒に居ると、 め ち ゃ く ち ゃ に さ れ る か も よ』 「…あ…!!」 響の指が、秘部全体を弄り始める。 その力の強さに、私は顔を顰めた。 駄目、このままじゃ! ――――パシン! 58: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 22 09 04 (あ……) はあはあと、息を切りながら自分の掌を見つめる。 自分でも、何をしたのかが分かるのに多少時間がかかった。 「!……莉恵、」 響の目に、光が戻った気がした。 少なくとも、さっきとは違う……雰囲気が元に戻った。 「…ぁ……」 上手く声が出せなかった。私の体に染みついているのは、「恐怖」という感情だけだった。 響が次に何か言うのが耐えられず、私はバシャっと湯船から勢いよく出て、そのままの勢いでお風呂から飛び出した。 ドンッ (……!痛っ) 焦ってドアに肩を打ちつけてしまうが、構わず外に出る。外に出ずにはいられなかった。 ガラガラガラ、ピシャン! 浴槽のドアを開け、更衣室にへなへなと座り込む。 しばらく茫然としていたが、何分経っただろう、私はようやくふらふらと髪を乾かし、服を着てその場から離れた。 心臓がドキドキ鳴って止まない。 (……嫌) 部屋に逃げるように入り、がちゃっと鍵をかけベッドに倒れこむ。もう深夜だ。 いつも、響は自室に行く際この部屋の前を通るので、足音がする。それさえも聞きたくなかった。 (信じられない……) 冗談で初めてを奪ってやろうかだとか、俺は上手いとかふざけたことを何度も聞かされてきたけれど。本当に彼はそんな非情な人間だったのだろうか。 あのバスケ部を引っ張る、信頼の厚いリーダーの彼が。 私の内面を短い期間に見抜いていた、彼が。 さっき響を引っ叩いた右手の掌を見つめる。 (……信じたくない。違う、違う。あれは何?夢じゃないの?) それから二時間もの後、ようやく私はうとうとしてきた。 部屋の前を通る足音は、ついに聞こえることはなかった。 59: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/15(木) 22 31 43 バコン!! 「……ちっ」 苛立ちから物に当たることしか出来ない。つくづく餓鬼だと自分でも思う。 大きな木にもたれかかり、空を眺める。天気が悪いようで、星はひとつも見当たらない。 (……) 今日再会してしまった女を思い出すと吐き気がする。 体全体が拒絶していた。存在そのものを。 (たかだか女一人に振り回されて、俺は) ぐしゃぐしゃと髪を乱暴に触り、悪態をつく。 ずっと思い出すことをしなかった男の顔が、久しぶりに頭の中に浮かんできた。 (……シン) 「情けねえ……」 すると、次に一人の女の顔が浮かんできた。初めは笑顔だった。しかし、しだいに笑顔ではなく、おびえたような顔で自分を見つめるようになっていく。 そいつが人を信じることを密かに怯えていることを知っている俺は、余計に自分自身に腹を立てていた。裏切られた、という言葉をそのまんま表情に表していた彼女の顔を思い出すのは酷だった。 自分でも、ここまで一人の女に執着するのは意外だったが。 やはり変な女だ。 「……柏木」 忌々しいその名を口に出す。それだけで、体全体が怒りで熱を持った。 「……今度は俺が、お前を殺してやる番か?」 その呟きは、誰の耳に届くこともなく、闇の中に溶け込んで消えた。 * 初めての響視点でした なんというか、シリアスモードになっちゃってます うーん、話を上手く展開するのが難しい。展開が急すぎるような気もする…… そういえば、この話読んでくれてる人いるの?← young leaf 続き3
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91: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 38 48 思わずパフェを食べる手も中断させて、響の顔を凝視してしまった。 「……んな見んな」 そう言う響の耳が若干赤い。あ、柄にもないこと言って照れてるんだ。 「ね、もう一回言って」 「さっきのがこれからの最初で最後だ」 「何それ」 むうっとふくれっ面をしながら頬杖をつくと、響が向かい側から身を乗り出し、私の肩のあたりに腕を伸ばした。 「?」 何か付いてる?とそこに目を向けようとした途端、 ぺろっ 「っっ……!!??//」 口の横だけに熱が籠っているような変な感じ。 どうやら口元に生クリームが付いていたらしく、それをこの人が、口で……。 「なななな何すんの!!」 「子供みたいな食い方してっからだ」 「そういう問題じゃない!!」 「何言ってやがる。昨日の晩はえらい積極的に抱きついてきたくせによ」 ……あ 「あ、あれは……!」 「しかも、なぜか俺の胸で号泣してるし」 (思い出したくない失態だ……) 私が一人赤面していると、響が席を立った。 「も、もう出るの!?」 「遅い」 急いでパフェを掻き込み、今度は鏡で顔にクリームが付いていないかチェックする。そして机の上を見ると、伝票だけが残されていた。響はすでに店内にはなかった。 (……あんの馬鹿) 結局二人分の値段を払った私だった。 92: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 52 17 「ねえ、ドリンクバー代」 「まだ言ってんのか」 夜、寮の夕食の席で私は響に付き纏っていた。これは決してストーカー的な要素ではなく、お金の請求だ。 「払ってよこんくらい!お金あるんでしょ」 「お前こそそんくらい払え」 「もー……」 なんか哀しくなってきた。たかだかドリンクバー代……そう思えてきてしまう自分が虚しい。 「もういいよ……その代り次は奢ってもらうから」 呟いて私は食堂を後にする。するとその足で斎藤先生とばったり出くわした。響にさっき何か言っていたから、学校帰りについでに寄ったのだろう。 「あ、監督」 ……この人が響を変えた人、か。改めてすごい人だって思う。 きっと監督が居なかったら、今でも響変わってなかったんじゃないだろうか。ましてや今日みたいな日、訪れなかったかもしれない。 「橋場、もう合宿の用意出来てるか?」 「あ、いやまだです」 「何かと忙しいから早めにしておけよ。 それと、なんかやってくれたな?」 「え?」 「相川だよ」 「……あ」 この人にはすべてお見通しのようだ。死んだような目をしていた響を生き返らせた張本人。分かっても当然かもしれない。 「何があったかは知らんが、あいつの顔がいやにいきいきしてるなあと思ってな」 ハッハッハ!と笑いながら監督が廊下から出ていく。 (陽気だなー監督) そんなところも、みんなから尊敬されて信頼される要素の一つなんだろう。 ……それに。 (三か月前の私、聞いてますか。 何だかこれから変わっていきそうです、良い意味で。 皮肉なことだけど、今回の出来事があったから私は……) 95: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 21 17 20 ayaさま いつもあげありがとうございます! 頑張ります~(^-^) * 立て続けに話が続くと息がつまりそうな話になってしまうので ここで少し閑話のようなものを入れます。 ちょっとした短い番外編みたいなものですが。 その次から合宿偏に入ります☆ 96: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 21 34 29 HOST 58-188-157-194.eonet.ne.jp ***閑話 「勉強」 *** 「……あー!分かんない、もう」 只今、寮の一室で頭を抱えて唸っている私の目の前には、「数Ⅱ」と書かれた問題集。 やっぱり私は数学が駄目みたいだ。どうしてもテストになると点数が取れない。 しかも、あと半月もすれば6月の初め、前期中間考査なのだ。それまでにここを克服しないと、ヤバイ。 数学の授業は次から次へと進んでいくため、だんだんと前の内容が抜けていく……というわけで。 ああ、何とか頭に叩き込まないと。だけど私の頭がそれを拒否している。 ガチャッ 「……何してんのお前?」 机に突っ伏した状態の私を見て、突然入って来たその人――相川響がぽかんとして言った。私はこの人が、文字通り苦手。 「……別に」 普通に解いてる風を装って、問題集とノートに再び向き合う私。どうやら彼は何か仕事を言いつけに来たようだが、座っている私の後ろからノートを覗き込んできた。 「それは相加相乗の公式使えばいいんだよ」 「え」 「えって、それ前に習っただろ」 慌ててノートを見直すと、確かに見出しに書かれた文字は【相加・相乗関係の大小関係】だった。 だけど、結構前じゃない、これやったの。忘れちゃうってば……。 「何、数学分かんねぇの?」 「う……うるさいなぁ」 むきになって言い返すと、彼はにやっと笑って私の横に座った。そして横から口出ししてくる。 「それは違う。そっちは組立除法なんだよ馬鹿」 「……(怒)」 結局、こんなペースでなんやかんやといいつつかなりの問題数、響に教えてもらうこととなった。(結構真剣に教えてくれた) 悔しい事に、すごく分かりやすかった。理系なんだ、この男は。私は文系、特に数学は苦手分野。 「あー、だからそれは……」 「!」 (か、顔!顔近いんだけど!!) 私が一人パニックに陥っていると、響が「聞いてんのか?」と私の顔を見た。 そして真っ赤になっている私の顔を見て、すべてを悟ったかのようににやりと笑った。 (い……嫌な予感がする) 97: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 21 50 05 HOST 58-188-157-194.eonet.ne.jp 「じゃあ今からこれとこれとこれ、解けよ。確認テストだ」 響が問題集の巻末にある問題をいくつか選んで、私に指した。 (え、そんなことまで) とりあえず私は問題を解こうとシャーペンを構える。すると、響が、 「あ。ちなみに解けないと、」 「っ!?」 「お仕置きな」 ニヤリと笑って響が言った。響の両手は、後ろから私の胸を掴んでいた。 「なっ……と、解けないから!ていうか離してよ!」 バタバタと暴れるも、響が私を押さえつけるため動くことができない。その上、 「解けないのか?じゃあ今すぐにでもお前を犯「解きます解きます!!」 (何これ何これ!!何なのよこの体制は!!泣) 何で後ろから胸掴まれた状態で勉強しなきゃいけないのよ……。 恥ずかしくて今すぐ消えてしまいたいと思う勢いの私は、必死の思いで問題に目をやる。しかしやっぱり集中出来ない。出来るわけがない。 「っ……や」 やわやわと響が手を動かしだした。 「お前意外にここの発育いいのな。Cの上くらいか?」 「やめっ……」 「早く」 せかされるように、何とか一問目と解いた私。それにちらっと響は目を向け、 「残念でした。不正解」 「ひゃあっ!?」 あろうことに、プチっとブラのホックが外れる音がする。胸が締め付けから解放される感覚がして、くすぐったい。 「だだだだだだ駄目ーーー!!」 ……結局それから私は響に抵抗し続け暴れまわったため、それ以上勉強は進まなかった。 漸く響が私から手を引いてくれたときには、私はヘナヘナに疲れていた。 「……」 「何寝てんだよ、馬鹿が」 無防備に眠る奴の寝顔を見てぽつっと呟く。すると、 「……おかーさん」 (マザコンかよ) しかし、その瞳から一筋の涙が光った。 「……」 俺は、黙ってその涙を見つめていた。 ――涙を流す姿に、過去の自分を何となく重ねてしまっている自分には気付かずに。 (こいつ、他人と距離作ってんだな) FIN*** 莉恵の両親の離婚騒動が起こる少し前のお話 98: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 21 55 29 「あ~っっ……着いたー!」 飛行機から降りた私は思いっきり伸びをして大きく息を吸う。 本当に、うちの学校って金持ちだ。 バスケ部に力を入れてくれているのも理由の一つ。 人生初めての沖縄!! 沖縄の空!!海!!空気!! その全てを堪能しようと気合を入れている私。 何でもやってやろうじゃないの!!バスケも響も(?)どーんと来い!!!!! なんて、やる気がありあまっているくらいの私。 初めはそうだった。 「……………………」 「何だ莉恵……すっげー暗いオーラ出てるんスけど」 駿が訝しげに聞いてくる。 「け……」 「け?」 「携帯……」 「……まさかお前」 「落とした、かも……」 「まじかよ……」 「……」 バスケ部強化合宿一日目は、まさかのハプニングで幕を開けた。 99: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 22 08 04 「ちょ、ちょっと見てくる!!」 駿にそう言い残して今来た道をダッシュで戻った。 下を向きつつ小走りしても、それらしきものは見つからない。今更ながら、鞄の外側の小さなポケットに携帯を入れてしまったことを後悔する。ちゃんと中に入れて、チャックをしめておくんだった。 違う学校もいっぱい来てるし、これじゃあ…… (!) ある学校の集団。全員が下げているスポーツバックには【HIDAKA】という文字が入っている。 その中の、長身の男の人が持っている、見覚えのある赤い色とこの間沙耶と買ったばかりのストラップ。 (こんなに早く見つかるなんて!!) 時間もないので、感動に浸るのもそこそこに私はその人の元に駆け寄った。 「す、すみませんっ」」 慌てて駆け寄った私を見て、その人は、 「もしかしてこれ?」 と、携帯を見せてくれた。 「はいっ!!そうなんです」 「さっき向こうに落ちてたから、届けようかと思ってたんだよー」 「あ……ありがとうございます!!本当ごめんなさい」 良かったぁ……拾ってくれたのが優しそうな人で。何て良い人なんで。 その人もははっと笑って私に向き直った。 「どこの学校の子?」 「あ、えーと、西南です」 「! そーか、西南のマネさんか。 ちなみに俺は日高だから。じゃーね」 「……?」 手をひらひらと振ってその人達は行ってしまった。 ひとまず私も自分の学校のみんなのところに戻る。 100: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/23(金) 22 17 38 「しゅ……駿!あった!」 「はー、もう焦らすなよいきなり、良かったな。どこにあった?」 「ごめんなさい……。 他校の親切な人が拾ってくれてた。確か日高って言ってたような」 「日高!?」 私の言葉に反応したのは、西野くん(初登場!西野 結城 一年です)だった。 「知ってるの?」 「全国狙ってる学校なら誰でも知ってますよ。日高はいつもうちとトップの座を争ってるんですから。バスケ部で知らない人はまずいないと思いますよー」 「ちなみにその携帯拾った人、どんな奴だったんだ?」 駿に聞かれ、私はさっきの光景を思い出す。 「えーと、とにかく背が高かった。180以上あるんじゃないかな……で、ちょっと髪は茶色っぽくて、色黒で」 「桐生だな」 間髪を入れず口を挟んだのは響だった。 「桐生?」 「ああ。日高のキャプテンだ。一つ年上の高3だ」 「キャプテン!?」 わ、私宿命のライバルの学校のキャプテンにあんなことしてもらったの!?恥ずかしー……しかも相手は気付いてたし。あーあ。 「あいつには気をつけた方がいい」 「え?」 「自分に気に入らないことあったら審判に殴りかかりそうになった、って聞いたことあります」 「うわっ……すごく優しそうな人だったんだけど」 「それが駄目なんだよ。あと、かなり女好きっていう噂もある。まぁ莉恵なら大丈夫だと思うけど(笑)」 「俺も同感(笑)」 「駿に響まで、語尾笑ってるから!!しかもそれ女の子に言うセリフじゃないし」 「おい、ホテルの中入るぞー」 そんなこんなで、私たちは今回バスケ部が泊まるホテルに到着した。この時期特別にバスケ合宿のために貸出してくれているそうだ。 104: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 20 50 02 ――その頃、日高高校面々 「今度こそ西南ぶっつぶすぞ」 「あぁ。あのキャプテン邪魔なんだよなー。しかもまだ高二だろ?なめられるにもほどがある」 「……それに、マネージャーか」 「ん?徹、何か言ったか」 「……いや」 * 「えーと、橋場の部屋は、三回の306号室な。はい、これ鍵」 「ありがとうございます」 マネージャーは、ホテルの従業員の人達と夕飯の準備を手伝ったりもする。ホテルとは言っても、学校に貸し出せるような環境なので、いかにもホテル!という感じではなく、旅館じゃないけど旅館みたいな雰囲気。そこで他校のマネージャーの子と交流したりも出来るんじゃないだろうか。 私は監督から鍵を受け取って、部屋に向かった。すると、廊下の掲示版に合宿の今後の予定が張られている。 (え、もう明日日高と試合するんだ) 明日の午後13 00~からのところに、西南VS日高の文字が。そういえば前に響たちが話していた気がしないこともない。 勝ってほしいな……。 祈るように私はその紙を見つめていた。 がちゃっ 荷物を持って部屋に入ると、なかなか立派な部屋。 残念ながら窓の外は、ホテルの中庭側だったためあまり視界は広くはないけれど、まあそれはいいや。 机の上に置いてあったら館内案内を見ると、なんと温泉もあるみたいだ。早く入りたいなと思いつつ、荷物を解き始めた。 105: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 02 33 HOST 58-188-56-70.eonet.ne.jp 翌朝、私は6時に起床して身支度をし、30分には食堂に向かった。そこでも朝食を机に運んだりと、お手伝い的なことをする。 ここで働いている、清水美菜というまだ20代半ばの女性が私たちの仕事を指示してくれていた。美菜さんはとってもちゃきちゃきしていて動きが早いし頭も切れる。こんな人がマネージャーだったら、と思っていると彼女はやっぱり高校時代に当時ソフトボール部のマネージャーをしていたらしい。 「はい、じゃあこれあっちに運んでね」 「はーい」 お手伝いと言っても気楽なものだ。寝坊さえしなければ、そこまで大変な仕事はない。朝が早いし、スケジュールは詰まっているから忙しいことに変わりはないのだけれど。 7時には各学校の生徒たちが時間ごとに食堂にやってくる。自分の学校の時間には私たちも席に着き、朝食を摂る。そして食べ終えたらこんどは皿洗い。これがなかなかの量だった。 皿洗いが終わったら、練習開始の8時半までにそれぞれの担当の廊下やロビーの掃除。そして時間になったら自分の学校の、マネージャーとしての仕事が始まる。そんな仕組みだった。 基本的に朝はランニング、筋トレ、といった体を作るものが多い。が、今日は昼から試合が待っているため、一日目ながらかなりハードな内容だった。 お昼、用意されていたお弁当を配り、食べ終え再び体を慣らすとそろそろ一時前だった。全員が円陣を組み、気合いを入れる。 「いいな……日高に勝てば、この先の試合全部もらったと考えても良い」 キャプテンの響が口を開く。 「あそこには負けるわけにはいかねぇ」 「いつも通り頑張りましょう!」 「あぁ、落ち着いてやろうぜ」 「おうっ!!」 全員が気合いを入れた。皆、目がすごく真剣だ。 「じゃあ、行くぞ」 私も試合を観戦すべく、コートの横からみんなの様子を眺めた。 106: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 07 06 審判が両チームに何事か言って、全員が向かい合って並ぶ。 「よろしくお願いします」 全員が互いに握手をする。キャプテン通しの響と、相手チームの桐生徹が一番手前だ。空気がピリピリしていた。 「……仲、悪そうだね」 私のすぐ隣で様子を見ている、まだ一年生で補欠の西野くんに私は話しかけた。 「そうですね……。きっとどこより日高との間が一番悪いんじゃないでしょうか。悪いっていう言い方はあれですが、何て言うか本当にお互いが嫌っているっていう印象ですね」 「うん……」 両サイド、応援しているメンバー全員が固唾を呑んで見守るなか、 ピーーーッ!! ――試合開始。 107: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 21 18 初めにボールを奪ったのは、西南だ。あれは……確か、二年の林原。彼の体の使い方は独特だった。きっと持って生まれたものなのだろう。上手くパスをつないで、ボールが駿、そして響へと届いた。 「入って……!!」 相手チームの妨害を上手く読んで響は敵を避け、思いっきりジャンプしゴールにボールを叩きつけた。 (ダンクシュートだ……!!) ピーッ 「やった!」 まさかの試合直後の先制点。私は思わず西野くんとハイタッチをする。 しかし、相手チームは天下の日高。いくら性格の悪いキャプテンがいようが実力は本物らしい。 「あーっ……」 相手チームにも得点が入り、同点となる。 その後、両チームが点を入れたり防いだりで、そのまま第4Qまで進んだ。 残り時間、あとわずか三十秒。 この短い時間で、何とかっ……。 両チーム共、強さはほぼ互角だろう。西南が、何時も通りのプレーを出来たら。 そのとき、一瞬だった。 ほんの一瞬、隙があった。 「いける!」 私は思わず声に出して叫んでいた。 響が桐生を避けてゴールしようとする。 「っ……」 一瞬、響が顔をしかめたように見えた。しかしそれもつかの間、ボールは綺麗にゴールの中へ。 「入ったーっ!!」 ピーーーッ ゴールの直後、試合終了の合図の笛が鳴る。私はベンチで待機していた7人のメンバーとぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。 「おめでとうございます!!」 全員が挨拶を終え、戻って来た。みんな達成感に溢れた顔つきをしている。私、この顔を見たらああマネージャーで良かったなあって痛感する。 「よしっ!じゃあちょっとこっち集まるぞ」 全員が隅の方へ移動する。短い試合の反省をするのだろう。 108: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 32 07 「んー、そうだ」 私は西南高校の荷物をまとめに、体育館から少し離れた更衣室の横の部屋に向かった。さっきちらっと見たとき、気になったんだよな。 ほんとにみんなぐちゃぐちゃだし…… それを見て思わず笑いながら、私は簡単に荷物をまとめた。そろそろ反省会も終わったことだろうし、私は元の体育館に戻ろうとしたのだが。 「あーっもう何で西南には勝てねぇんだよ!!」 ドンッ 誰かが壁を蹴ったのだろうか、大きな音がこちらにも伝わってくる。 「何度も試合して、弱点掴んできてるはずなのにな」 悔しそうな声だった。向こうには悪いけど、私の胸は誇らしい思いでいっぱいになった。 「あのときやったと思ったのによー」 これは、桐生の声だ。 「何を?」 「最後のゴール決められる直前、向こうの相川の足に一発お見舞いしてやったんだよ。あの野郎そのままゴール決めやがって」 「まじでか?よくばれなかったなー」 ははは、と笑う声が聞こえる。 (は……?何それ!?) あのとき、かすかに響が顔をゆがめたような気はしたけれど、まさかそんなことをしていたなんて。完璧なファウルだ。 すると、がちゃっと部屋の扉が開いて奴らが入って来た。荷物を取りにきたのだろう、彼らはそこにしゃがみこんでいた私に目を向けた。 (うわ、最悪) 「あれ、西南のマネじゃん」 「何睨んでんだよ」 思わずきっと桐生を睨んだ私に、彼は馬鹿にしたように笑った。(なんか、誰かさんと重なるわ) 「あんた、そんな卑怯な真似してたの!?」 向こうが年上だとか何も気にせず、私はそう言ってやった。 「んだよ、聞いてたのか。西南が勝ったんだ、別に文句ねーだろ」 (大ありなんですけど!!しかもそれ以前の問題じゃない) 「あんた達よくそんな真似して堂々とスポーツ出来っ……!?痛っ」 桐生に胸倉を乱暴に掴まれ、私は引っ張られるように奴の身体に倒れ込んだ。そしてそのまま両手を固定され、部屋の真ん中に置いてある長椅子に押し倒される。 (い、嫌!!) 頭の中でそう思うも、恐怖のせいで咄嗟に声が出せなかった。 109: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 43 45 「っ離して……」 必死の思いで私が漸くその言葉を吐きだすと、奴はさらに見下したような視線を私に向けた。 「さっきまであんなに偉そうな口きいてたのに、所詮は女だな」 桐生が冷たい笑みを浮かべて言う。その瞳は、全くといっていいほど笑っていない。 周りの男はにやにやしながら様子を見ている。気持ち悪い。 「……!?」 いきなり、奴の手がジャージをたくし上げてきた。 動こうとしても、別の男に両手を持ち上げられきつく押さえつけられてしまったため、身動きがとれなくなってしまった。 震える私を見つめ、桐生は「初めてか?」と聞きながら、ホックを取らないままブラを胸が丸見えになるまで上に押し上げてきた。 「おー、でけーな結構」 「や……ぁ」 上からじろじろと体を見られてしまう。恥ずかしさで死んでしまいそうだ。顔に熱が籠る。 すると桐生の顔が近付いてきて、ちゅるっと先端部分を舐められ、嫌なのに体がびくっと反応してしまう。声を出したくなくて、必死で唇を噛んだ。 「声なんか堪えられなくなるくらいめちゃめちゃにしてやろうか?」 言いながら、桐生が胸の先端部分を強く捻るように押してきた。 「んうっ……!や、誰かっ……!!」 「他の学校も今試合してるし?西南こそ浮かれてんじゃねーのか。マネージャー一人いなくなったくらい気付いてないんだろうよ」 ここ弱いんだな、と言いながらにやにやして同じところばかり攻めてくる。このままじゃ、本当に無理。だけどこいつの言うとおり、誰もこんなところに私がいるなんて気付かないだろう。 「ふっん……あっ」 「声抑え切れてねーじゃん。泣くほど嫌なのか?その割に感じてるな」 悔しい 「!!」 ゆっくりと、ズボンを下げられる。 110: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/25(日) 21 58 11 結局最後まで脱がされてしまい、足を無理やり広げられてつーっと下着の上から割れ目をなぞられる。 「熱いな。いい加減自分の身体に正直になれよ」 言いながら、何度も繰り返しそこを指で擦られる。だんだんと力が入らなくなってきて、抵抗できない自分が悔しかった。 「んっ……嫌!!やめ……っ」 下着の横から直接指を差し込んでくる。くちゅっという卑劣な音が大きく部屋で鳴り響き、耳を塞ぎたくなった。 「痛っ……!」 指を中に入れられ、初めての圧迫感と痛みに顔をしかめた。 「痛い、抜いて……!!」 「まじで初めてかよ。そのうち気持ち良くなるから我慢しろ」 くちゅくちゅ、としばらくずっと中を掻きまわされ、何も考えられないほど頭が真っ白になってしまい、私がされるがままになっていた。 意識が飛んでしまいそうになったとき、不意に桐生が動きを止めた。ちらっと目だけを向けると、ズボンを下げた奴が一瞬見え、私は必死で抑えつけられている手をのけようと暴れた。 「嫌、嫌、嫌!!離してよっ……」 「今頃あいつ、何してんだろな」 笑いながら奴が私の上に覆いかぶさる。恐怖で声さえもう出なくなった私を舐めるように見てきたこいつが、憎い。 ――と、そのとき 「そのあいつは、今何してんだろうな」 (う、嘘) バン!!! 破れてしまうんじゃないかと思う勢いでドアが開け放たれ、響が息をはあはあと荒くしながら立っていた。一瞬だけ私の方を見た、かと思えばいきなり響は桐生に思いっきり殴りかかっていた。 「てめぇっ……」 響は驚くくらい冷静で、私も日高の男たちも圧巻されてしまったように動けなかった。 「お前らそんなんでバスケやってんのか? 軽い気持ちでやってんなら、やめとけ」 諭すような口調なのに、ぞっとするくらいその表情は冷たくて、背筋に冷たいものが走った。男たちもそれを感じ取ったのか、怯えたような表情を見せた。 桐生達は悔しそうにこっちを睨み、そしてすぐに部屋を出て行った。私達二人を残して。 young leaf 続き6
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36: 名前:血桜☆05/01(土) 15 26 49 早速来た。 「よぉよぉ姉ちゃん達ぃ~?今からここの路地裏でパーティー やるんだけどよぉ?一緒にこねぇ?」 あーあ・・・、はまりました。 まぁ、演技で誤魔化そう。 「いっ、嫌です!」 すると、肩を掴んできた。 本当なら、「キショいんだよ!この変態男!お前は豚でも相手してろ!」 て言いたいけど我慢。 「いいじゃねぇかよぉ?ホラ行こうぜぇ?」 「すっ少しだけなら・・・・?」 よぉ~し、作戦成功♪ 路地裏に連れて行かれた。 二人でガタガタ震える真似 「なっ何のパーティーですか?」 男は、チッチッチッと指を振ると言った。 「そりゃあお楽しみィ!」 コソッと耳打ちしてきた 「幽美?もうやるよ?」 よぉ~し!パーティー内容変更! 麻薬パーティーならぬ、血塗れパーティーに変更♪ 41: 名前:血桜☆10/12(火) 19 04 35 私は、男をとっ捕まえた 「うあっ!何すんだこのアマ!!殺すぞ!」 問答無用で男の背広を引っぺがし、胸ポケットをさぐる 「見~~~っけ♪」 私は、男の目の前に白い粉の入った小袋を掲げた 「やっやめろ!それは!!」 闇は、ニヤリと笑い、 「『それ』ってなぁに?」 と聞き返した 私は、袋を引き千切り、口のなかに粉を放った 「がはっ!けへっ!」 咽た、水……、ま、いっか 男はワナワナしている 男の声を聞きつけたのか、他の仲間がやってきた 粉塗れの私の口を見て、驚いていた 「んなっ!てめ、何して……!」 粉を舌で舐め上げる そして、小刀を取り出す 「あんたら全員捧げ物!悪く思わないでね!」 男に切り掛かろうとした その時だった ダァン!!! 一発の銃声が鳴り響いた 男の仲間が発したものなのか 弾丸は、私の左胸に飛び込んできた 血が飛び散る 男が笑う 44: 名前:血桜☆10/15(金) 19 16 50 一瞬の沈黙 弾けるように散った薔薇の花は、茎と供に地に落ちた 「幽美ィィィィィィ!!!!」 叫び声に消された夜の静寂 闇は、キッと男を睨む 「おぉっと?お前も撃ち殺されたいか?そこを動くな!」 すると、何を思ったのか、闇は小刀を取り出した。 闇は、小刀を胸に垂直に突き刺した 「グァッ……。」 血が垂れた 闇は呪文を唱えはじめる そして ザシュッッ 小刀を、奥底に突き刺した 青く染まる二本の薔薇 それを嘲笑うかのように下を見る男 闇は、嬉しそうに、何かを予知するように 幽美に向かって囁いた 「幽美?貴方に決めた。次の呪魂の魂を継ぐ者…… 私は貴方を離さない。地獄の果てまで貴方に一生を 捧げ……る……。」 ドサァッ 『いい気味よ……、ニンゲン……』 45: 名前:血桜☆10/17(日) 15 22 01 二人の少女は動かなくなった 「フン、これだからガキは困るんだよなぁ、 何ゴッコしてたんだか知らないが、あの世で楽しく遊んでらぁ。」 ザッ 男は、そのまま帰ろうと後ろを振り返ろうとした 「これ、ずっと脳味噌ン中にあると痛いんだよねぇ。 オカエシシトクワ、オロカモノ。」 男の目の前には、この世の者とは思えない声を発する、 撃ち殺したはずの少女だった 少女の手のひらには、男が撃った銃の弾 弾は血塗れだ そして、撃ち込んだはずの場所にはキズ一つ無かった 「なっ……、おまッ!何者だ!!」 ふ、と笑みを零し少女は答える 「私は、霊河鈴、違う、呪魂様に魂を捧げる生贄となりうる ニンゲンを捕らえる死霊…… 幽美と呼びなさい!!!」 ザシュッ 白い刃を持つ鎌を振り上げ、男を一刀両断した 鎌の色は、透き通るように白く、赤い月のように妖しく光る。 「闇、貴方には、これから長らくお世話になるね。 ヨロシク、『闇月火』(ヤミゲッカ)」 幽美は、鎌に向かい呟いた、まるで、闇に向かって呟くかのように 幽美の持つべき鎌の名は、『闇月火』 48: 名前:血桜☆10/27(水) 20 27 31 幽美は、神社に戻る 途中で、何を思ったか立ち止まってしまった 握っていた鎌を、両手で熱く握った ポタッ 「へ……へへ……う……。」 ポタタッ ポタッ 「雨が降ってきた…… うっ……ひっ……。」 雨じゃないくせに、偽りの体のくせに 自分の涙なんて 知らない 知らない 「うっ……うああああぁ!!!!」 うるさい 雨音がうるさい うるさいってば 「大雨……、うっく、ひっく……」 うるさいのに 止められない 「やっ……。」 「『夜美』……。」 闇 闇 闇 夜美 夜美 「いやだ……、寂しいよォ……、闇……。」 夜美はいない 楽しかったあの頃には戻れない 夜美はいない 闇もいない 闇もいない 鎌に語っても、返事が聞こえるわけじゃないのに 聞こえるかもしれないけど また、雨が降るから 語りかけない__ 永久に 闇はいない 闇の代わりに得た重い武器を抱え、 私は、語らずに永久を過ごす 「私が」 私が呪魂様を継ぐんだ 闇と会う為に さよなら 『夜美』 またね 『闇』 58: 名前:血桜☆11/07(日) 18 57 52 夜の道に、妖しく光る赤…… それは、少女の持つ哀しき鎌の輝きか それは、哀しみに暮れた少女の瞳か 悪魔のような紅蓮の瞳を輝かせ、たった今作ったばかりの 骸の山を見下ろす ああ、なんと心地良いのか 人魚の振るう鎌は、昼は、海のように青く、深く輝き、 夜は、血のように赤く、あの空の月のように赤く…… あの少女の瞳のように赤く…… カガヤイテイタンダ キレイダネ ザンコクデ、カナシクテ 少女は呟く 「貴方はキレイだよ、闇。」 血の涙を流し、少女は歩く、自分が上へ行く為に 『鈴』という名を捨て、幽美という名を貰い受け、 「例え人が滅びようと……。」 ヒトリボッチになろうと構わない そばには闇がいるのだから 「例え人が滅びようと……。」 ワタシハ…… 76: 名前:血桜☆11/08(月) 18 12 05 久しぶりに、私と闇の仮の家に帰った 闇の使っていた枕がある。 「いいにおい……。」 胸が熱くなった テレビを付けると、あの学校が映っていた 「行方不明者続々……?」 行方不明者のリストが映った 最後の二名の所に…… 桜井 千桜 桜井 美桜 と載っていた プッと吹いてしまった 人間って オモシロイ 一旦ちょん切る 84: 名前:血桜☆11/09(火) 09 36 49 テレビを消し、風呂に入り血を流し、服も着替えた 髪の毛を束ね、外に出た。 「今日は……。」 呪魂様の命日 久しぶりに神社に行った 神社の裏を通り、がしゃ髑髏が散らばる細い枝道を通る 道には血がべったりと付いており、薄気味悪い 小さなお堂を見つけた その前には、山のように骨が積まれていた 彼岸花を置いて、その場をさった。 「サァ、ヒトヲカラネバ……、キョウハジュゴンサマノメイニチ… マッテテネ、闇」 外に出ると、月が出ていた 闇を失くした日と同じ 夜美を無くした日と同じ 赤い月が、妖しく光っていた 瞳なき瞳は赤く光り、今日も人を狩るぞと狙っている。 今は無き友の鎌とともに リィーーーー………ン 101: 名前:血桜☆11/12(金) 19 07 45 100記念!特別読み切り 番外編【闇の過去】 炎の中に聳える幼き少女は ワ ラ ッ テ イ タ ン ダ 少女はいつも【不吉】と呼ばれた 黒い透き通った髪に金色に輝く瞳 闇に紛れ瞳を輝かせる黒猫を思わせた 黒猫を不吉と呼ぶ者は多い しかも、彼女は赤と黄色のオッドアイ 悪魔にも勝る美しさを周りの者は嫉み、その瞳を嫌った 両親は、少女の赤い瞳を刳り抜いた 少女はもがき、苦しんだ。 まだ五歳の幼い少女に、何の罪があろうか この世の者とは思えぬ声を発して苦しみ、赤い血を流し気絶した。 両親は目玉を売り払い、少女を残して消えた 親戚を転々としていったものの、全ての者から嫌われた 『みぃちゃん、何もしてないのに……』 自分をみぃと呼んだ少女は、ポロポロと涙を零した 少女は、【人魚姫】という絵本を読んだ 『なんで、おひめさまは自分をさしたのかなぁ。』 幼い少女は考えた 答えをみつけた。 じぶんはいらないそんざいだからかなぁ 「なら、みぃちゃんもいらないから、さすんだよね!」 包丁を掴んで呟いた 「みぃちゃんを可愛がってくれる人、お空の上にいるかなぁ?」 少女は、【お空の上】で一匹の人魚を見つけた 火傷が全身に広がっており、少女と同じく片方の目が無かった。 「やけど、いたいの?みぃちゃんも、おめめ痛かった!仲間だね!」 ニッコリと人魚は笑った 人魚の笑みは、とても優しかった 今まで少女に向けられてきた笑顔は、優しいものはなく、気色の悪い 欲に塗れた笑顔だった。 人魚が口を開いた 「私を信じて?」 何のことかは分からない ただ少女は、笑顔で、 「うん!!」 と笑った 炎の中に聳える幼き少女は ワ ラ ッ テ イ タ ン ダ― ザンコクな笑みを浮かべて END 107: 名前:血桜☆12/11(土) 21 07 45 「嫌!助けて!お願いだから!」 「やめろ、やめてくれ!やめろぉぉ!」 鎌を振れば、何時だって首がとれる 鎌を構えれば、何時だって悲鳴が木魂す 鎌があれば― 何時だって、人は死ぬ 「死んで……、呪魂様の為に……。そして、私の夢の為に。」 あぁ、堕ちてゆく 何時からだろう こんなにも笑顔になったのは 人は脆く、崩れ落ち、私は快感の海に溺れる 人一人殺すだけで、【また一つ、闇に近づける】 その想いだけが、私の重く残酷な鎌を操っていた 人は、最後の一人となった時― どんな想いを抱くだろう 私には考えられない 私は、人間だった 最後くらい、人間らしく、二人まとめて殺してあげる 一人より、絶望感が少ないから 優しい―…… でしょ 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ザシュッ 「や……やったぁ。」 皆、皆、皆、皆 ぜーんぶ 「死んだぁぁーーーーーーーーーーッ!!」 次から次へと湧き出てくるこの感情 血の雨が降り注ぐ 地面は何時の間にか赤く染まる 今まで私が殺した人間の血が降って来た 狂い、一人の為に多くの者を殺めた 手は、赤から黒に染まり 血が滲む程に鎌を握り締めた 痛みがジワジワと身体を蝕み、快感へと姿を変える 何もかもが狂い、全てを失くした島に、少女が哂う。 全ては― 私が呪魂様に仕えた事から狂い始めたこの歯車 ドクンッッ 急な衝撃が、少女の哂いを 歯車を止めた この世がフリーズしたかのように、 何の音もしない 何も動かない 少女は倒れた 少女は、血の涙を流した 「何もない……、全部殺しちゃった…… 私、ヒトリボッチ……?」 この世のフリーズが止んだ 思考回路はショートする 歯車は、おかしな方向に回り始めた 少女は、今までの感情に襲われた 痛み 恐怖 嘆き 憤怒 孤独 狂気 哀しみ そして― 闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇― 「ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」 「やだ!やだ!やめろ!黙れ!黙れ!死ね!消えろ!」 「私は何も無い!無い!無い!消えた!全て消えた!」 「や………だ……、きえ……ろ―」 ブチッッ ザー―…… 耳にノイズが聞こえた― 108: 名前:血桜☆12/11(土) 21 17 35 「ねぇ、これで良かったのかな」 「うん、貴方はもう、こんな思いしなくていい」 「夜美、これからはずっと一緒?」 「うん、鈴、離れちゃダメだからね?」 ノイズが止む 少女は、負の感情という鎖から解き放たれた その瞬間― 島から、わずかな吐息が消えた― END 109: 名前:血桜☆12/14(火) 21 00 17 Thanks☆☆**v(o^(ェ)^o)v。o○。o○ネ兄○o。○o。v(o^(ェ)^o)v**☆☆Thanks キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!(. ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━!! 人魚の生贄 ~お次はだぁれ~ やっと……、完結ゥゥゥ!!。*†*。☆ャッ(@^Å^@)タァ-☆。*†*。 この小説が完結したのも、応援してくれた読者の皆様のおかげです! 最後は、哀しいENDにしたつもりですが、最後まで何が何だかよく分からない小説でした……・・・( ̄▽ ̄აა)ゞ・・・ そっ、それはともかく、最後まで読んでくれた読者さん! 感謝の気持ちでいっぱいです!念願だった100レス突破も! 嬉し過ぎて、家ン中洪水中です!(なんか水がしょっぱい) 。・°°・(*1))・°°・。ウワーン!! これにて、終わりましたので…… また新しい小説書こうかなと考えております! では、また縁があったら、どこかでお会いしましょう! (○≧ω≦)ノ彡* ..。o○Bay☆Bay○o。.. *⌒Y⌒Y⌒☆
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ふざけた題名で申し訳ないです…。 一話完結みたいな形式で書いて行きたいと思います☆ おヒマがあれば、ご覧下さい^^ 当たり前なんですがフィクションですm(・・ 同姓同名の方が気分悪くしたら申し訳ないので((汗 昼休み、寝そべっていた東館の屋上から、嫌でも変態が目に入る。 「あいつまた何やってんだああ!」 せっかく飲むヨーグルト飲んでくつろいでたのに、また止めに行かなくてはならない。 ほっといたら犯罪おかしかねないからね。 全力疾走でオレは変態のいる西館へ向った。 「付き合えないならパンツ下さい。それか踏ませてください」 屋上から階段を駆け下りた時、女子がある男の顔を殴っているのが見えた。 …あーあ、間に合わなかったか。 名前も知らないけど、女の子に謝っておこう。ごめんなさい。 周囲の視線はオトコマエの面に鼻血を浮かべた彼に向っていた。 アホ。言わんこっちゃねえ。 「いい加減変態フル稼働させんのやめろよ、慎也」 「旭」 たった今最悪の告白をして女の子に振られたこの変態の名は、中田慎也(なかだしんや)。 本人いわく、なか"だ"と濁るところが重要らしい。 彼を一言で言うと、紛れもなく変態。変態の代名詞。 さっきみたいなことを言うのは日常茶飯事でございます。 だがすっげームカつくことに、自他共に認める超イケメンだ。 栗色のサラッサラの髪の毛を携え、目は淡い青色。 おじいちゃんがアメリカ人の、クォーターらしい。です。 身長180と長身で、程よく筋肉もついてて足は長く、まさにモデル体型。 男である俺もホレボレするくらいだ。…いや、変な意味でなく。 更に超ムカつくことに、(勉強面での)頭脳が明晰。 高校入ってから、5回ほど定期テスト受けたけど、トップ以外の成績になったことねーんじゃねえか? あ、蛇足だけど俺の自己紹介もしておきます。 俺は雪代旭(ゆきしろあさひ)。普通の高校二年生です。 ま、これ以上はいいじゃん。慎也の紹介の後だと、虚しくなるだけだし。 「旭。今日こそお前にフェラがしたい…ッぐはぁ」 バコーン! 俺はわざとさっきの女の子が殴った右頬と同じところを思い切り殴った。 「真昼間からなに放送禁止用語発してんだ! この変態がああ!!」 そのオトコマエな顔ぶっ潰してやろうか! 「旭…、もっと俺をなぶってくれ…」 一旦倒れたが直ぐ起き上がり、俺の手を掴んでこんなこと言い出した。 鼻血出したイケメン面が言う言葉ですか、それ。 …慎也は誰にでも――女子にも男子にも、オバチャンとか犬にも――真顔でこういうことを言う。 パンツください発言はまだマシなほうかも。 で、俺は何でこの変態と友達しているかというと、だ。 慎也の暴走を止めるため。 こんな変態、誰も手につけられないだろ…。 だから俺は変態とかじゃないんですよマジで。 「あー腹減ったー」 慎也のせいで昼飯食えなかったからな。 しかも5限目、つまり現在、体育だぜ? 教室内の授業だったら、パンでも食えたのに。正直きつい。 …ま、先生に注意されるまで運動場の隅に体育座りしてるだけなんだがな。 「旭ー」 そういって俺のところにやって来たのは先生ではなくて慎也だ。 クソ寒い真冬だというのに、一人ジャージ着ずに半袖で短パン。 「来ないで下さい、変態さん」 俺は更に隅に避難する。 コイツは例え授業中であろうと、みんなの見ている前であろうと平気でヒワイなことしてくるからな。 「どうしたんだ? 一緒にやろうぜ、サッカー」 「…腹減って死にそうなんだよ。慎也のせいでな」 「そうなのか? んじゃあ、俺を食べ…」 「いいですサッカーします。てかお前は黙れ」 そして時間帯を考えろ。 今は太陽が顔出してる昼だぞ? あ、いや、やっぱ夜でもそういうことはやめよう、な? 「見ろよ旭ィ、女子は高飛びだな」 突然慎也がネットを隔てた向こう側の、女子の方を見て言った。 「ん、ああ。そうだな」 どうでもいいという感じの返事を適当にする。 昨日の体育の時間も高飛びしていたけど。 なに感傷に浸ってんだろう。 「あ~、いいなぁ。あのバーの向こう側のマットになりてぇ…。何回も踏まれるんだぞ? 女子の身体に」 はい、スルーします。 「何だ旭、あのマットに嫉妬してんのか? 俺がいつでもお前を苛めてやるから心配すんなよ」 「爽やかな笑顔でサラッとキモイこと言うなッ!」 …あ、いつものクセで反応してしまった。スルーしようと思ったのに。 「マット…マットなぁ。あ、そうだ。旭、今度マットプレ…」 全部言い終わる前に俺は慎也の背中を力任せに叩いた。 「ケホッ…、何すんだよ、舌噛むじゃねーか」 さっと俺の方を振り返って肩をぐっと掴む。 「テメエが変なことぬかすからだろこの変態!」 「変態ではない。仮に変態だとしてもそれは変態という名の紳士だ」 どっかのギャグマンガですか。 っていうかすごい近いんだけど。息が当たるくらいなんだけど。 なんで必要以上にくっついて来るんだ、こいつは。 「おい、中田に雪代。いちゃついてないで授業に参加しろ。平常点マイナスするぞ」 遂に先生に注意されてしまった。 慎也の変態度合いを嫌というほど知っている先生は、極めて冷淡に言った。 いや、先生誤解です。一ミリたりともいちゃついてなんか無いですから。 慎也のアホが勝手にくっついてくるだけなんですよ。 「恋人同士みたいだって。良かったな旭」 全然良くねー! 俺まで変態に仕立て上げるな! 俺、雪代旭はただ今大変な目に合ってます。 俺がってわけじゃないんだけど。いや、俺がか。ん? 何かわかんなくなってきた。 とりあえず大変な状況にいることは確かだ。 俺は東館の屋上が大好きだ。今もそこで、昼に食べ損ねたパンを食べていた。 「…あ、あッ。ん、ダメ…ッゃ…」 そしたら誰かが屋上に来て、少しすると(おそらく男)の喘ぎ声が聞こえてきた。 「ぁ…はあ、んあッ、…僕ぅ…も、ダメぇ…」 声を発している人はおそらく、自慰しているのだろう。 タンクと扉がついている四角いフロアが死角となって見えないが。 (どこの誰だか知らないけど、俺のお気に入りの場所で自慰行為するなんて!) …と思うが、諌めにいく訳にもいかないし、 っていうか動いたら気付かれそうだし、どうにも出来なかった。 俺はパンを食べることも出来なくなってしまい、 ひたすらそいつがどこかに行ってしまうのを待つばかりだった。 「ん…んぅ、ふぅ…あ、ぁあ…な…かだ…くんッ、…ん」 …は? 今中田っていったか? もしかして、慎也とイメプレ? あの変態の? ちょっと待て。話がおかしい。 慎也は男だ。そして現在進行形で自慰してるやつもたぶん男だ(僕って言ってるし)。 「中田…く、ん…僕ッ…の弄って…よ、ぁ…ん」 マジかよ。 俺は同性愛とかに偏見はないので、男が男を想ってイメプレしてるのはすぐ納得した。 それに驚いているんじゃない。 慎也のことを好きな人がいる、ということに驚いている。 だってあんな変態ですよ? いくらオトコマエでも引くでしょう普通。 「旭、いるかー?」 一向に慎也好きさんの自慰行為が終わらないうちに、本人が登場してしまった。 「ちょっ、慎也タイミング悪すぎ!」 今まで沈黙を守っていた俺だが、あまりに焦ったためか不意に声が出てしまった。 慎也好きさんはぴたっと喘ぎ声をやめる。 「あれ…? 君はC組の立花くん、だっけ?」 慎也の声が聞こえる。 C組っていったら隣のクラスだ。立花くんは知らないけど。 もう隠れている必要もなくなったので、俺は二人のところへ出て行った。 「…雪代くん、もしかしてずっと見てたの…?」 ズボンが肌蹴ているのを必死で隠し、更に好きな相手が目の前にいるため真っ赤な顔をして立花くんは言った。 っていうか立花くん…本当に男か? 見た目完璧に俺より年下の女子に見える。 髪は短いが、目がくりっとしてて大きい。 まさか、いわゆる"ボクっ子"? いや、ズボンはいてるし。 「ゆ、雪代くぅん…」 「ごめん。別に覗き見しようって思ったわけじゃなくて、そちらが後から来て…」 「…う、ぅ…ごめんなさい…」 立花くんの大きい目が潤みだし、ついに涙がこぼれてしまった。 「あーあ、旭。泣ーかーしーたー」 え、俺!? 俺のせいなの? 俺は悪くねーよ、たぶん。 「それより慎也、立花くんはお前のことが好きなんだってよ」 「え、ホント? じゃあ俺と今すぐセックスしよう!」 お前はそれしか頭に入っとらんのか。と軽く慎也の頭を小突く。 「雪代くん!! バラすなんて酷いよ!!」 立花くんのうるうるした可愛らしい目が更に潤んだ。 「ご、ごめん」 今のは完璧に俺が悪いな。完全に失言だ。 本当ごめんなさい。 「立花くん。いや、葵くん。どんなプレイがしたい? 俺は何でもオッケーだよ」 「プ、レイ…?」 ふむふむ。立花くんの下の名前は葵くんか。 …なんていっている場合ではない。 慎也相手ではどんな変態プレイをさせられるか。 いくら立花くんが慎也を好きでも、彼の餌食にされるのはかわいそ過ぎる。 という俺の心配は拭い去られた。 「あ、あの…あのっ、僕のことは忘れてくださいっ!」 立花くんはそう言って慎也を撥ね退け、服が肌蹴た状態のまま校舎に通じる扉に走って行った。 慎也は立花くんが見えなくなると、スバッっと俺の方に顔を向けた。 気持ち悪いくらいの笑顔だ。 うわー、なんか嫌な予感がする。頼む外れろ俺の予感! 「旭、イメクラって知ってる?」 「はあっ!? な、何言ってんだよッ」 「まあ説明はやりながらするから」 説明されなくとも知ってます。 違う、そんなこと言いたいわけじゃねぇぇー! 俺の願いははかなく玉砕した。っていうかなんですること前提なんだよ! よく見ると慎也は大き目の紙袋を持っている。 そこからチラッと見える衣装の数々。 「立花くんと出来なかったからって、その性欲を俺に向けるな!」 「まぁそう妬くなよ。俺は最初から旭とするつもりだったぜ? 葵くんも交えて三人でするって言うのも燃えるけどな」 妬いてねぇ、こっち迫ってくんな。 そして燃えるな! …いやいっそ燃え尽きて死んでくれ。 俺は慎也の攻めを回避しつつも、狭い屋上では意味を成さなくなってきた。 実際は広いんだけど、(多分)電気モーターとかエアコンの室外機とかが設置されてあって 行動範囲は凄く限られている。 「まあそう逃げるなよ。獲って食おうってわけじゃないだろ?」 思いっきり食おうとしてんじゃないですかー! 健全男子である俺がナース服とかメイド服なんかを着てたまるか。 扉から校舎に逃げようとするけど、どう考えても扉の方に突き進むと捕まってしまう。 …と、慎也は溜め息をついてその場に座り込んだ。 (お? これは諦めたと見ていいのか?) なんて気を許したのが間違いだった。 「旭、ゲットだぜ」 素早く立ち、セリフの最後に黄色いモンスターの泣き声がしそうな言い草で慎也は俺に抱きついた。 「ぎゃーッッ! いやだぁぁぁぁ!! 俺は健全なままで高校生活送るんだぁぁ!」 慎也は見事俺を捕まえ、一瞬たりとも放しやがらなかった。 「ちょ、お前マジで…やめ――ボタンを外すな!」 学ランのボタンを一つずつ外していく慎也が本気で気持ち悪いです。 だが情けないことに慎也を振りほどけない。 あーやべぇ、マジで変態に襲われる! 「じゃあ聞くけど、俺とエッチすんのとコスプレするの、どっちがいい?」 どっち…? いやまそりゃ、男とR指定的なことするんだったら女装してる方がマシって言うか、 あ、マシってだけで俺はぜんっぜんコスプレに興味は無いし、 あれ? どちらを選んだとしても慎也がハァハァいいながら喜ぶだけじゃね? 俺全然利点ないですよね…。 っていうか、その二つを選択肢にするのおかしいだろ。 俺も何本気で考えてんだ? 馬鹿みてぇ。 「どっちも却下に決まってんだろッ!」 と渾身の力を込めて慎也の絡まった腕をこじ開けると、やっと離れた。 「旭…」 …はい? 振り返ると慎也は何とも言えぬ顔をしていた。 何でそんな困った顔されなくちゃなんねーんだ。困ってんのはこっちだろうが。 「何でそんな嫌がるんだ…俺、傷ついちゃったな」 普通嫌がるってそれ。完璧。 「旭は俺のこと嫌いなんだ…何だよ、せっかく似合うと思って買ってきたのにな…」 と言って萌えキャラがつけそうなアイテムを次々出していく。 「な、何そんなシラけてんだよ。俺は悪くねーぞ。 慎也が変なことしようとするからだろ?」 え、何で俺こんな罪悪感感じてる訳? 「旭がどっちもしないっていうなら言うなら全裸で校舎走り回ってやるからなー」 そう言いながら慎也は服を脱ぎだした。 …やばい、コイツなら本気でやりかねない。 「わかったよ、へんな服着てやるからそれだけはやめろ! 但し半径3メートル以内には近づくなよ」 気味が悪いくらいにやにやと慎也は笑っている。 「旭可愛いな。俺の勝ちだ」 さっきの悲しそうな顔は慎也の顔から一瞬で消え去った。 もしかして図られた? そんで、俺って学習能力ない?? どれでも好きな衣装を選んでいいと言われたので、 俺は多分一番ポピュラーだと思われるメイド服を選んだ。 なんだかんだ言って結局慎也の言いなりになる俺って…。 すっごい自己嫌悪に陥る。 「あれ、何だ。男物もあるじゃねえか」 紙袋の底には、セバスチャンとかいう感じの名前の執事が着ていそうな服があった。 しかし俺が着ると確実余りそうなくらい足の丈が長い。 「それは俺が着るの。旭はこっち」 「…ちょ、半径3メートル以内に近づくなって言っただろ」 執事服を取り上げられ、メイド服を押し付けられた俺はお返しに慎也を押しのけてやった。 …なんか。 すんっごく見られてるんですが。 執事服に着替える慎也の目は確実にこっちを向いている。 「着替えてる間くらい見んなよなっ」 「着替えを見るのがいいんでしょうが。俺に気にせず続けろ」 気にせずって言われても慎也の痛い視線は目をそらしてても嫌というほど気になる。 まぁ…。それよりこの服なんなんだ? 止めるところがファスナーとかホックとかじゃなくて、マジックテープだぜ? コスプレの衣装ってこんなもんなんだろうか。 慎也に手伝ってもらわずに済むからまぁいいか。 「おー、似合うじゃん。すっげぇ可愛い」 ごめん、それ全くもってひとかけらも嬉しくない。 何で女装が似合わなくちゃならないんだ。 俺より慎也の方が万人が見ても似合っていると思う。 じっとしてれば格好良すぎて動悸がするぞお前。本当に性癖が邪魔しすぎている。 「…も、もう脱いでいいか?」 「ダメー」 慎也は携帯を取り出して俺の姿を写真に撮り始めた。 「お前! 慎也ァァ、何やってんだッ」 こんな姿後世に絶対ぜーったい伝える訳にはいかない。 俺は携帯を奪うため慎也に飛びついた。 「半径3メートル以内に近づいちゃダメなんじゃなかった?」 「うるさい。今はそんなことどうでもいい」 慎也は持っていた携帯を執事服の中に入れてしまった。 「…あぁ!」 「携帯欲しかったら取ってもいいぞー」 言われなくてもやる。女の子なら躊躇するけど。 慎也のシャツの中に俺は手を突っ込んだ。 「旭って大胆だな」 「…なッ、バカじゃねーの!?」 慎也は俺の手を掴んで、抜き出した。 「あーあ。旭の姿想像して後で自分で処理すればいいと思ってたけど、やっぱ無理だわ」 「え? 何??」 「俺の性欲の強さは知ってんだろ?」 そりゃあ、どれくらいか計り知れないってことは知ってるよ。 「なのに俺の前だけでこんな格好するなんて、大胆すぎるよ?」 ここで俺は突然、自分の着ている服がマジックテープ仕様なのを思い出した。 「その服、マジックテープで留めてるだろ? 誰が着ても脱がせやすいよう、俺が細工した」 やっぱりかぁぁぁぁ!! 「いやだー絶対いやだあ――! 誰か助けてくれー」 「もう放課後だしな。屋上は本来は立ち入り禁止だし、誰も来ないだろ」 やっぱり変態だこいつは。男とこんなことして何が楽しいって言うんだ! 「執事×メイドっていいだろ。主人がいなくなったところを見計らってこっそりヤる、みたいな」 お前の好みは知らねえよー! 「旭サン、ご主人様はただ今外出しておいでです。僕とイイことしませんか?」 役になりきってんじゃねえー!! 「わーッ、服! が!」 マジックテープはいとも簡単に外れ、肌蹴た状態になった。 わざわざコスプレする意味なかったと思う。 「旭サン、僕に身を委ねてください」 「それやめろ! あと触んな、変態っ!」 「何でだ? こっちの方が楽しく出来るだろ?」 全然楽しくない。むしろ身の危険を感じている。 「触んなとか言うクセにあんまり抵抗しないんだな」 慎也はにこっと(嫌な感じの)笑みを浮かべると、俺の肌に舌を這わせた。 「ぅ…わッ」 ざらざらした感触が上半身に広がる。 「旭。もっと可愛い声出せよ」 ちょっと幻滅したって言う感じで慎也は言った。 可愛い声ってなあ、お前何考えてんだよ。 俺はそんな声は絶対出さないと、口をつむいだ。 「…はぁ。言っとくけど俺上手いから。10秒で声出させてやる」 慎也はレースのついた黒いスカートに手を入れた。 (そっちかよー!) …と思ったが下着までは手にかけない。 「期待したか? まだしてやらない」 期待なんかしてねえっつーの。 「……ッ」 「チクビ尖ってるぞ」 「うるさい! お前のせいだろ!!」 もう嫌だ。この地点でもう恥ずかしくて死にそうだ。 俺はこんななのに、慎也は凄く楽しそうに俺の上半身を舐め続ける。 「……ぁッ」 「お、今出ただろ」 「出てない!」 何かもう…頭では嫌だと思っているのに、どうでもよくなってきた。 開き直ったってヤツ。 慎也は尚も愛撫やめないし。っていうか自分が満足するまで絶対やめないと思うし。 尖ったチクビをずっと舐め続けられると、我慢していた口の筋肉がどんどん緩んで行った。 「…ふぁッ、ん……し、んやぁ…ゃめッ」 「やっぱり10秒で落ちたな」 慎也は小バカにしたように俺を笑う。めちゃくちゃムカつくのに何も出来ない。 「慎也…人きたら…どうすんだよ」 「来ても気にするな。俺に犯されることだけ考えてろ」 なんじゃそりゃ。やっぱ思考回路が変態だ。 慎也は俺の心配なんて無視して赤みを帯びた色に変色する突起物を銜える。 「あ…んッ…、」 「お前のここは柔らかいなー。感じてる状態でもふわふわしてるな」 いちいち口にせんで良い。 「よし、終わり」 と、いきなり慎也が愛撫をやめた。 …は? 意味が分からん。 終わり? 何で?? こんなこというと凄く恥ずかしいのだが、慎也が"最後"までやらないのはありえない。 と思う。 「え、どういう?」 「だって旭、したくなかったんだろ本当は?」 まぁ、したくありませんでしたけど。 「もう学ランに着替えていいぞ」 慎也は本当に立ち退いてしまった。 俺はもう自由だし、慎也に変なことされる心配もなくなった。 「な、何だよ! なら最初からしょーもないことすんなよなッ」 「ああ、ごめん」 謝る慎也に俺は更にムカついてきた。 立ち上がると俺は、メイド状態のまま慎也の腕を掴んだ。 「待てよ。最後まで責任持ちやがれ!」 「…ぶはッ」 「は?」 慎也は横を向いてケラケラ笑っている。 「旭なら催促すると思った。…俺がこんな状態でやめると思う?」 いや、思わない。先ほど述べたとおりだ。 しかしいちいちムカつくなコイツは。 「言われなくてもやりますよ、旭サン。でも屋外じゃ寒いだろ?」 そりゃ、気温8度の冬日に薄着で外にいたら寒いに決まっている。 (俺を気遣ったのか?) ちょっと待て俺!! ときめくな! 根底がおかしいんだ。屋外とか屋内とか関係ない。 薄暗い5階の階段の踊り場。 運動部の掛け声ですら聞こえてこない。 「ひ…ッ」 慎也は屋上の扉を閉めるとすぐ、俺の身体に指を絡める。 「ぁ…あッ」 「コレを触って欲しかったんだろ?」 黒いスカートの下に、慎也の指先の感触が感じられた。 「んなワケ…あるか」 「へえ? こんなに固まって勃ってるのに、か?」 と意地悪く言いつつ、パンツの下の性器を扱きやがる。 「…あ、んっ…、ふ…ぅ」 「いい声出ますね、旭サン」 「それ…っやめろ…つってんだろ」 鬼畜執事仕様は、慎也の場合本当に気持ちが悪いです。 って言うのに、慎也はそれにはまってしまったのか、やめようとしない。 「そんな目で睨まないでくださいよ。興奮するでしょう?」 女モノのレースとかがついたパンツを、慎也はずり降ろした。 「…ちょッ」 うわぁ…。 自分で自分の陰茎見てドン引きしてしまった。 「ゃ…なんて格好させんだよ…っ」 ぶっちゃけ言うと、俺は今慎也に両脚を押さえつけられ、 まぁ…M字開脚? みたいな感じになっている。 しかもスカートをめくりあげられ、下が全開だ。 …って言うかなんでこんな解説しなくちゃならないんだろう。 「旭…って、エロいな。ちょっと触っただけでこんな濡らしてさ」 俺は恥ずかしさがマックスになって、顔を手の平で覆い隠した。 「慎也の変態野郎!」 「あははっ、なんじゃそりゃ」 ちっくしょー、顔や成績だけじゃなくてこんなところでも負けるのかよ。 慎也のいいようにされてしまって、情けないことこの上ない。 「でも旭の言うとおりだな。今の旭見て勃起してきた」 今頃気付いたのか。 そんな恥ずかしいセリフをサラッというお前は紛れもなく変態だよ。 「旭サン。僕の…扱いてくれますか?」 果てしなく執事キャラ続けるんだなお前は。 「…自分でやってください」 俺は依然として否定する。 「あなたの指先と口でイきたいんです」 慎也は俺に寄り添い、再び俺の勃起した物を撫で始めた。 「あ…っ、ゃめ…ろ…ん、んぁッ」 そればかりか今度は、もっと奥の穴にまで指先を伸ばす。 「や…、慎…也ぁ…」 そこはくちゅくちゅと、AV上でしか聞いたこと無い音を立てた。 俺は止めるのを促すように慎也の腕を掴む。 「旭ばっか気持ちよくなってちゃ、不公平だろ?」 「ん…お前が…勝手にっ…」 慎也の指先は俺の穴の中に侵入した。 「あっ…あぁん」 自分でも嫌になりそうなくらいの喘ぎ声を発する。 「旭のメイド姿、校門の前の掲示板に貼ってほしい?」 「ふ…ふざけんなッ…んぁ」 「では旭サン、僕にフェラをお願いします」 慎也は更に穴の奥を中指で突く。 「ぁああっ」 しかもその状態のままもう片方の手を陰茎を撫でるのに使い、舌で上半身を這わせてきた。 「ッちょ…、あ、ふ…ぅ…ッん」 快感でどうにかなってしまいそうだ。 早く極限に達したい…が、慎也はそうさせてくれない。 「旭ー? イキたいなら俺の下半身の処理頼む」 調子に乗るのも大概にしろー! と言いたいが、言ったところで今の状態が変わるわけではない。 「また我慢するのか? 旭が俺に勝つと思う?」 は…腹立つ! ぶん殴ってやりたい。 でも…性欲のカタマリとあって、慎也の愛撫はすごく気持ちが良い。 早く落ちたい。 「わか…ったから、」 俺は自負心を捨ててそう言っていた。 認めたものの、やっぱり嫌なものは嫌だ。 男の性器を口にくわえるなんて、夢にも思わなかった。 「お前…すっげーな」 俺の倍…とまではいかないが、気持ち悪いくらい張っている。 「旭…下手くそ」 「はぁ? 嫌なの凌いでやってやってるんだぞ!?」 「…んッ、いいよ…たまにはそういうのも」 どういうことだよ。いちいち癇に障る野郎だ。 慎也の顔は、次第に紅潮していった。 もしや(下手くそなんていいつつも)感じている? 大逆転のチャンスじゃね?? 俺は指でなぞったり、舌でなめたり、色んなことを試みた。 「あ…旭、」 おー。なんか快感。 慎也の気持ち良さそうな顔を見て俺は優越感に浸っていた。 「旭…ワザとだろ…」 そうですよ。 今まで恥じかかせていただいた分、きっちりお返しします。 「じゃ、そのまま俺の…舐めといて」 というと慎也は、自分の長い腕で俺の下に手を出した。 「な、な…っ」 「扱くの、やめるなよ」 慎也は片手で俺の陰茎を愛撫する。 「あ…ぁッ、ん」 「手が止まってますよ旭サン」 とまってるって言われても、自分に意識が集中してしまってどうにもならない。 「や…慎、也…ッでる…」 「出せ…よ」 あーもー限界。 俺は行為している場所が校舎だってことも忘れてしまい、中に溜まった精液を噴射した。 「ふ…ぅ、…あ」 身体全体がピクピクする。 全てがどうでもいい…って感じの状態だ。 慎也の方は俺の精液でべとべとの手で、自分のモノを触っていた。 慎也の陰茎の先端から白濁としたものが飛び出、俺のと混ざり合う。 「俺より…先にイきやがったな」 更に汁がついた手で俺の身体を撫でて、慎也はにやっと笑った。 精液のせいで、慎也が俺の身体に触れるたびねっとりする。 「も…もういいだろ…」 「良くないな。最後まで責任持つ義務があるから」 やばい…アナルセックスフラグ…(汗 俺は自分の言った言葉を深く後悔した。 あんなモン挿れられてみろ、絶対裂けて血が出てくる。 「し、慎也…待て。お…お願いします、それだけは…」 痛いのは嫌だ。 「大丈夫。軟膏なら持ってる」 慎也は自分の制服のポケットから小びんを取り出した。 なんでそんなモン常時持ち歩いてんだーっ! 「安心しろ。いきなり入れたりしないから」 いやいやいや。 そういう問題じゃないんですよ。 そんな俺の心情なんて全く無視し、真也は指を穴の中に入れた。 「…ぁッ」 「動かして欲しい?」 「んなこと言ってな…ッあ…」 強がって言う俺に対して慎也はくすくす笑っていやがる。 ズブ…グヂュ…という効果音が交互に聞こえ、そのたび俺の中の慎也の指の本数が増えていく。 「や…ッだ、め…」 三本が限界ってところだ。 冷やかな慎也の指先の感触が、内部の肉壁にあたる。 「あ…あぁ…っ」 しわくちゃになるくらい俺は制服をきつく握っていた。 「慎…也ぁ…もッ、入ん…ない、って…」 慎也は三本の指を俺の中で開いた。 一気に穴が広がり、中まで冷たい外気があたる。 「ひ…んっ」 「まだ広がるじゃん」 まだってアンタ、それ以上開いたら俺のケツの穴裂けちゃうでしょうがー! 「もう大丈夫かな…?」 軟膏を塗りたくった後に慎也は言った。 マジですか。マジで入れるんですか。 慎也は俺の腰を持ち上げ、下半身を尻にすり寄せた。 「ん…ん、ぁ」 ちょっと…待ってくれない、か…。 「なるべく…痛くない方向で頼む」 「言われなくても分かってる」 どれだけ慎也が上手いって言っても、コレばっかりは物理的に無理です。 針の穴に木の棒が通るわけないもんな。 「ふ…ぁっ、あぁ」 だが、軟膏の助けもあってか俺が懸念しているよりかはすんなり入っていく。 「あっ…もっとゆっくり…」 「…は、これ以上ゆっくりは無理ってくらいまでゆっくりしてるぞ」 うわー、なんだろうこの言いようもない恐怖感は。 これが自分の体内に異物が入ってくる感覚ですか。 女の子はこんなこと体験してるんですか。 「旭…お前のアナル…すげー気持ちいい」 わーもう! 耳元でそういうこと言うなよッ。 「慎也…熱い」 っていうか暑苦しい。性器入れたまま抱きしめるなー! 「残念だな旭。…物理法則、完璧に無視されちゃって」 ホントだよ。 どうなってんだろ俺の身体は。 絶対容積足りないって思ってたのに、順応してすんなり入れやがった。 そんで結局、コスプレと慎也とセックス、両方するハメになってしまった。 何で俺はこんなに流されやすいんだよ…。 「旭、欲求不満になったらいつでもどこでも対処してやるからな」 いやいや、これは俺の欲求不満が原因で起こった末路じゃないだろ。 「あぁ、それと。旭のエロい姿はムービーに撮っておいた」 再び制服に着替える時、慎也はいつの間にか服の外にあった携帯電話を俺の前に突き出した。 「…は? おまっ、やめろ! すぐ消去しやがれ!!!」 慎也の手の内にある携帯を奪い、醜態ムービーを消そうとしたが、 …ロックをかけられていた。 「残念だったな。まぁ、他にばら撒いたりしないから。俺のオカズ用だ」 「そんなことに利用されてたまるかぁ―――!」 はぁ…、誰か慎也を改心させてやってくれないかな…。 続き