約 4,043 件
https://w.atwiki.jp/loli-syota-rowa/pages/396.html
Firing line/火蓋 ◆CFbj666Xrw 「おいジーニアス、大丈夫か!?」 慌ててボードに乗ったレベッカが滑るように飛んでくる。 「プレセア、まって」 その逆方向からはアルルゥが飛び出した。 遭遇し、顔を見合わせ、見つめ合う。 「大丈夫だよベッキー、プレセアだ! ボクの仲間だよ!」 「アルルゥ、ジーニアスは仲間です。怖がらないでください」 「へえ、そうなのか」「ん、わかった」 短い自己紹介は終わる。 信頼できる仲間というものは、それを信じられる限りとても貴い。 仲間の仲間であっても、ある程度は信用しても良いと思わせてくれた。 続けてプレセアは遠くからこちらに近づいてくる集団を指して言う。 今さっき、ジーニアスに二重の捕縛魔法を放ってきた集団である。 「では、あの人達は?」 「あいつらは……敵だけど、悪いのは一人なんだ。他のみんなは、きっと騙されてるだけだよ」 「そうですか。では話し合いでなんとかなるかもしれません」 プレセアの言葉は頼もしくすらあった。 * * * 「仲間が居たの……!?」 氷の束縛を破壊した少女を見てイリヤが息を呑む。 更に獣耳の少女と、イリヤ達の場所からは木陰になって見えないがまだ誰かが居るらしい。 木陰に居る方はおそらく最初にジーニアス達を襲った時に見かけた金髪の少女だろう。 問題は新手の少女二人だ。 彼らに仲間が居たというのは、まずい。 「でももしかしたら、今度こそ話し合えるかもしれないよ」 「そ、そうね……」 さくらはそう言うが、イリヤにとってそれは一番危険な事なのだ。 (最悪のケースは、真実が露呈してこの場に居る全員を敵に回す事――!) さくらと梨々、明石薫にベルと名乗った少女、更にジーニアスに金髪の少女にその仲間二人! しかもその八名の内、最低でも五名は常人を外れた戦闘能力を持つ事が確定している。 こんなに多人数の相手が敵に回るだけではなく、全員に自分を危険人物だと認識されて逃したら、 その後に情報が広がる事を考慮すれば、出会う人間の相当な割合が即刻敵に回る事になる。 それは最後まで生き残れる可能性が絶望的なまでに低くなる事を意味する。 だが戦えば袋叩きにされて確実に死ぬ。 (私がやらなければいけない事は対立を維持する、それしか無いわ。 しくじったかな、少々巻き込んだ人数が多すぎる……) 慄然となるイリヤに更なる悪い情報が追加される。 「ん? あれ、あれ?」 リインは怪訝な声を上げて目を凝らした。 「どうしたの、リインちゃん」 「えっとですね、さっきリインの魔法を破壊したあの女の子のハンマー、なんだか見覚えが有る気がするのです」 プレセアの振るうハンマー。 その正体はそれを振るうプレセア自身ですら知らない事だ。 「リインのマイスターはやての騎士ヴィータさんのデバイスで…… えーっと、つまり同僚のグラーフアイゼンっていうデバイスに似ているんです。 ただハンマーフォルムだと普通のハンマーにも似たような物が有りますから、 他人の空似ならぬ他杖の空似かもしれませんけど」 「それじゃ呼び掛けてみたら……」 「グラーフアイゼンさんは凄く無口ですけど、必要なら応えてくれると思います」 (な……!) イリヤは表情を隠す猶予すらなく青ざめた。 (まずい、まずい、まずい、まずい……!!) あのハンマーに知能が有って信用できる仲介役になるというなら、全ての矛盾が露呈する。 (どうすればいい? リインを破壊……ダメ、敵だと露呈するだけじゃない。 グラーフアイゼンというあのハンマーを破壊……でもその為には戦闘にならないと。 だけどこの状況から戦いに押し込む建前が無い。 逃げる……ダメ、この人数から危険人物という噂を流されたら風説から逃げきれない。 いっそ不意打ちで数を減らして……それも生き残れる確率は無いに等しい。 どうすればいいの? どうすれば……) 完全に八方を塞がれ、イリヤは慌てふためく事しかできない。 リインはグラーフアイゼンに呼び掛けようと息を吸い込むアクションをして…… * * * 「プレセア、何か良い方法でも有るの?」 「はい。アルルゥの召喚獣で威嚇しましょう」 「ん……アルルゥの出番?」 獣耳の少女アルルゥは首を傾げて問い返す。 「出番です。召喚獣を盾にすれば、威嚇になって攻撃を躊躇うと考えられます。 出来るだけ威圧効果の高い召喚獣を選んでください」 「ん……それじゃ、ンアヴィワ」 アルルゥは綺麗な翠色の石をかざし、唱えた。 瞬時に空間が捩れ、翼を持った赤銅色の獣が出現する。 ワイヴァーンだ。 「ンアヴィワ、にらんでて」 「………………」 ワイヴァーンは応えない。 何も応えずに大きくその鎌首をもたげて…… 「………………プレセアおねーちゃん、ごめん」 悪い事をしてしょげ返るような声色で、アルルゥが言った。 「……どうかしたのですか?」 不吉な予感を感じて聞き返すプレセアに、案の定危険な答えが返ってきた。 「ンアヴィワ、とまってくれない」 「…………え?」 ワイヴァーンは、その顎から向かい来る集団に向けて猛り狂う劫火を吐き出した。 * * * 少女の呼びかけに応え、中空から一匹の竜が姿を表す。 「な、なにあれ……」 「ワイヴァーン!?」 ベルフラウが悲鳴のような声を上げた。 「みんな、逃げて! 攻撃が来るわ!」 「なにい!?」 薫の驚愕の声。 そして次の瞬間、劫火が炸裂した。 * * * 「制御できない……それはどういう事ですか?」 「アルルゥ、よくわかんないけど……ンアヴィワ、こうげきしかしてくれないみたい」 「……そうですか」 「……ごめん」 アルルゥはぺこりと謝る。 直前に彼女達が攻撃を回避するのが見えたが、彼女達が生きていたのを喜ぶ事はできない。 今はもうもうと上がる煙が向こうとこちらを仕切っているが、これが晴れた時は戦いが来るだろう。 「でもあいつら、ほんとに交渉なんて出来たのか? 怒りっぽい奴とかさ」 「怒りっぽい奴、ですか? ……そういえば、見覚えのある女の子が居ましたね」 それは言うまでもなく明石薫の事だ。 「知ってるのか?」 レベッカの問い掛けにプレセアは頷き、答えた。 「はい。彼女も危険人物です」 「そうなの? 確かに凄く暴れてて危険といえば危険そうだったけど……」 二度目に出会った時は、思い返せば話し合えそうにも感じた。 もしかしたら単なるすれ違いだったのではないかと思える程度に。 「怒った時が危険です。彼女はただの八つ当たりで二人を殺害しています」 「な……それほんと!?」 「本当です」 それはプレセアがまだ思いきりハサミの影響を受けていた時の事だ。 森の中で他の危険人物達(そう、アルルゥも居た)と二人の少年を包囲していた。 その時に突如現れ、二人を跡形もなく消し飛ばしたのだ。 ――――と、プレセアには見えていた。 真実は違う。 確かにもしかしたら明石薫本人も似たような事をしでかす可能性は十分にあったが、 その時に起きた事はベルカナ(現偽薫)の作り出した幻影による二人の救出だったのだ。 そこに本物の明石薫は関わっていない。 アルルゥは二人が生きている事と、その時の薫が何か妙だった事を知っていた。だけど。 「………………」 言わないでおく事にした。 アルルゥにもあの時の薫が何だったのかよくわかっていないという理由も有ったが…… 何より叱られるのがイヤだった。このまま行けばあまり叱られないで済みそうだし。 「まさかあいつら、殺人鬼の同盟じゃねーだろーな!?」 「他の3人までそうとは限りません」 驚くベッキーをプレセアがたしなめる。 「でも危険な事には変わりないよ。 ベッキーは隠れてて……イリヤに優先的に狙われてるのはボクみたいだから。 勝ったら、呼びに行くよ」 「バカ言うなよ、ジーニアス。……勝ったって、呼びに来れるとは限らないだろ」」 「…………」 言葉に詰まる二人に、プレセアがフォローを入れる。 「では城に行って増援を呼んでください。レミリアという人がそこに居ます」 「レミリア? なんだよそいつ。なんで一緒に来てないんだ?」 「判りません。人を使おうとする、少し偉そうな人です。 でも悪い人では無いと……思います。 その人に会って『たくさんの人が居る。妹さんを見た人も居るかもしれない』と言えば、出てきてくれると思います。 もし出てくれなければ、そこで待っていてください。苦戦したらそこに逃げ込みます」 プレセアの言葉にベッキーは更に困惑する。 こんな島で妹を捜す者がどうして城に篭もりっきりなのだろう? だが仲間を呼べるかもしれないというならそれは重要だった。 「おねがいします」 「……ん、判った。じゃあ行ってくる。良いか、死ぬなよ!」 「うん、ベッキーも気を付けて!」 レベッカは魔導ボードを走らせて飛び去った。 ジーニアスはそれを見送ってから、プレセアに礼を言う。 「ありがとう、プレセア」 「……もしもレミリアが来てくれれば頼もしいのは事実です。 それから本気で危なくなれば城まで後退する事も考えないといけません」 「うん、わかってる。それじゃプレセアと……アルルゥ、だっけ。アルルゥも、よろしくね」 「ん」 アルルゥはこくりと頷き、サモナイト石を構えた。 それに並びジーニアスも、ポケットからモンスターボールを放り投げてウツドンを呼び出す。 「ウツドン、命令したらそれに従って」 ウツドンは答えず葉を揺らすだけ。だが、こちらは忠実だ。 「ジーニアス、チャージを」 「うん、判ってる」 プレセアはハンマーを持つ腕に規格外の力を篭める。――マイトチャージ。 ジーニアスはいつでも放てるように魔法を詠唱する。――スペルチャージ。 「危険人物というのはあの宙に浮かんでいた少女と、それからどれです?」 「白い女の子だよ。あいつは……ボクの仲間を殺した。あいつだけは許せない」 「……判りました。アルルゥ、良いですか?」 「うん。だいじょうぶ」 着々と戦いの準備を整える。 相手には騙されてる人が混ざっているのかもしれない。 それでももう戦いは避けられない。殺さないようにするしかない。 それに間違いなく、絶対に許せない敵が居る。だからそれと戦う事に迷いは要らない。 相手は数で勝っているのだ。甘さは敗北と死に繋がるだろう。 だから、ジーニアスとプレセアは戦う事には迷わないでいられた。 アルルゥに至っては……たとえ騙されているとしても、敵には一切容赦するつもりがなかった。 そして煙は晴れて――戦いの火蓋が上がる。 * * * グラーフアイゼンは唯一、彼らの側で迷い、悩んでいた。 迷いと悩みの理由の一つは、敵勢の中に居たリインフォースIIの姿。 (何故あれがここに居るのだ? ……あの子は完成していなかったはずだ) ミッドチルダ式とベルカ式の要素が混ざった、しかも現存する唯一となるはずのユニゾンデバイス。 それは八神はやてにとってもそう簡単に作り出せるものではなかった。 試作品ですら実験段階を出ず、意志もまだ持っていない。はずだった。 その完成予想図の姿が、何故かこの場所に存在していた。 他にも悩み事は有る。 プレセアにあの時の明石薫が幻影だった事を教えるべきか? 白い少女の持つS2Uの機能について助言すべきか? だが問題は……今それをすれば、プレセアの集中力を欠きかねない事だった。 状況はあまりに危険だ。 下手な助言をすればその動揺がプレセアの死に繋がりかねない。 この争いはプレセアの本意では無い。グラーフアイゼンは彼女を死なせたくないと思っていた。 どうすればいいかの答えは出ず、寡黙なデバイスは悩み続ける。 * * * 「くそ、やる気十分って事かよ!」 明石薫が毒づいた。 彼女が咄嗟にサイコキノで全員を持ち上げ後退させた事で、怪我をした者は誰も居ない。 だが戦いが避けられない事は明白だった。 「ベルちゃん、ワイヴァーンとか言っていたけどあいつのこと、知ってるの?」 「ええ、あれは召喚獣ですわ。攻撃用召喚術により召喚された召喚獣です」 「攻撃用って……もしかして、攻撃にしか使えなかったりするの?」 さくらの問いにベルフラウが答え、すぐさま梨々がその答えに疑問を呈す。 「その通りです」 「それじゃ誤発って事も有るんじゃ……あの子、様子が変だったよ」 「有り得ませんわね。メイトルパならサモナイト石の使い方くらい知っているはずですわ。 変な世界からのはぐれ召喚獣からじゃあるまいし。相手は本気ですわ」 ベルフラウの言葉はよく判らなかったが、とにかく機能を判って使ったと言うらしかった。 だが梨々にはそれすらも疑わしい。 梨々はベルフラウが、あの危険な少年レックスの仲間、タバサではないかと疑っているのだから。 梨々にはもう、イリヤもベルフラウも対立を深めようとしているようにしか見えない。 明石薫すら信じる事が出来ないでいた。 (どうすればいいの……?) 一つだけ判っている事が有るとすれば……戦いになってしまう事は、もう避けられない。 どうすれば戦いを収められるのか惑いながらも、ただ死にたくないと思った。 イリヤは思いがけない幸運に茫然としていた。 これほど望む方向に転がるとは思いもしなかったのだ。 だが状況は依然、悪い。 (まずはジーニアスを殺して、グラーフアイゼンも壊して……目標が多すぎるわ。 相手を皆殺しにして疑われないのが最善だけど、そんな事できるわけが無い) ある程度までの成果で満足する事。 そして出来るだけ多くの成果をもぎ取る事。 ベストは上手く立ち回り美味しい結果だけを頂く事だが、そんなに都合良く行くはずがない。 数の上で有利といっても安心できるような相手ではないのだ。 (第一放送まで……ここが勝負所ね) 覚悟と決意を胸に、イリヤはS2Uを強く握り締めた。 明石薫はあまり考えていなかった。 相手が敵という認識が揺らいでいなかったのだ。 だからむかつく奴らに一撃を見舞う、それだけで良いと思っていた。 (けど、ちょっと疲れたな。……ま、大したこと無いけど) ……明石薫は、気づいていない。 自ら力の限界の一つが近づいている事に。 使いすぎた力の過負荷が脳の機能を疲弊させ……暴走の危険が迫っている事に。 明石薫は気づいていない。 ベルフラウはどう立ち回ればいいか考えていた。 彼女にとって重要な事は、『出来れば召喚術師を仲間にして』みか先生の所に戻る事だ。 さくら達を助ける理由は別にない。どちらが正しいのかすら怪しい状況なのだから。 ここまで危険な事態になれば即逃げても良いくらいだ。 だが下手に逃げれば逆に身を危険に晒しかねない。 生き残るにはどう立ち回ればいいか、ベルフラウは考えていた。 さくらは感じていた。 事態が悪い方へと転がっている事に。 その事に焦りを覚えてはいたが、さくらに選べる選択肢はあまり無い。 せいぜい…… 「……リインちゃん。殺さないように、戦いを止めよう」 「は、はいです」 それだけだ。 「…………絶対……ぜったい、大丈夫だよ……」 魔法の言葉すら、この場面では頼りなく感じられた。 それでも、その言葉を信じ続けた。 そして煙は晴れて――戦いの火蓋が上がる。 * * * 城の一室にて……レミリアは優雅に紅茶を嗜んでいた。 葉がイマイチの一品だが、それでも少しは楽しめた。 「さて、あの娘はちゃんと再会できたかな? 私が定めてやった、運命通りに」 そして偉そうに呟いた。 ――レミリアは確かに運命を操る程度の能力を持っている。 それは人の出会いなどにも影響する力であり、本来ならプレセアとジーニアスを再会させる事は容易い。 ただ、元々レミリアは全ての運命を操れるわけではない。 この島に来てからは尚更だ、操れるものなど一部に過ぎない。 レミリアは、運命を操ろうとしても手応えが無く、操れているのかいないのかすら判らなかった。 しかしそれでも「運命を操ったからそうなったのだ」と言えばそれを反証する事は出来ない。 悪魔の証明というやつである。 よってレミリアはプレセアをジーニアスと再会できるように運命を操ったと宣言する。 もし出会っていなければこの宣言はそのまま独り言で誰にも言わない。 成功したら私のおかげ、失敗したらおまえの運が悪かった。 実に狡い。 「しかし……なんだおまえは?」 「…………ふえ?」 振り返ったそこには……肉ダルマが居た。 福富しんべヱである。 「えっとね、気づいたらこの島に流れついてたの。」 「ふん、そうか。で、おまえ」 「な、なに?」 レミリアは威圧的に問うた。 「フラン、という娘を見ていないか? ちょっと私みたいなやつだ」 「フラン…………あれ?」 「見たのか?」 肉ダルマ扱いの福富しんべヱはしばらくうーんうーんと唸って。 「…………えっとね、レイジングハートと遊ぶのとか、喋る杖があなたの魔法を使ってくださいとか、 そんな事を言ってたような気がするの。でも、ぜんぜん思い出せない」 「思い出しなさい」 「む、むりだよう」 どう爆発するか判らない、危険かも知れず、危険でないかもしれず。 こちらはまだ、そんな状況だった。 * * * その頃、野上葵は彼女が明石薫と思いこんでいる少女と共に湖畔に居た。 間違っても城の窓から見られたりしないように森の中をここまで南下してきたのだ。 途中で物騒な破壊痕が無数に有ったため、出来るだけ迅速にここまで突っ切ってきた。 目指す場所はこの先の橋を渡った先の、廃墟にある病院である。 薫に出来る限りちゃんとした治療をしてやりたいと思った為だ。 あと自分の左足に、義足だとかそういう物が見つかるかもしれないと期待していた。 ……失った足の事は極力考えたくもなかったが。 「さあ、後は橋を一気に渡ってしまえば誰にも見つからんで病院まで直行や」 これからやる事を再確認して、それを実行しようと思った時……ふと、湖を見た。 * * * 「――見つけたの」 雛苺は、笑った。 その手の内に有るのは紅く輝く翠星石のローザミスティカ。 そして湖底に眠る、翠星石の死体だ。 輝きながら水面に浮いているローザミスティカを見つけるのはそう難しい事ではなかった。 だけど翠星石を見つけるのは予想以上に時間が掛かってしまった。 すぐ下に有ると思っていたのに、水に流されて場所がずれていたのである。 「ふふ、これで翠星石と一緒なの」 別に翠星石の死体は特別意味が有る物ではない。 翠星石のローザミスティカだけでも翠星石と一緒と思うことも出来た。 死体を捜したのはそれがすぐに見つかるだろうと思ったからのついでに過ぎない。 いつ取り込んでも良いローザミスティカをまだ手に持っているのもそれだけの事だ。 雛苺は翠星石のローザミスティカを自らの内へと取り込んだ。 それから翠星石の体を持っていこうと引っ張って。 「……あれ」 その一部が湖底に引っかかっている事に気が付いた。 ――だから首だけを持っていく事にした。 「みんな仲良し、なの」 雛苺はぎゅっと二人を抱き締める。 恐怖に歪んだ真紅の顔も、安らかに微笑む翠星石の顔も、雛苺にとっては等しく愛しい存在だ。 それがもう死んでいて、頭だけである事など大した事ではない。 ただ二人を抱えていくのは少し大変だと思った。だから。 「真紅、翠星石、ごめんなさいなの。ちょっとだけ悪戯するの。髪で遊ぶのは楽しいの☆」 楽しげに笑って、ちょっとした悪戯をした。 「さあジャコ、真紅と翠星石ともこれで仲良しなの。 さっきの所に戻って契約する相手を捜すの。みんなみんな仲良しになるの」 力を漲らせた雛苺の言葉に応え、ジャコは雛苺と共に水面へと上昇する。 水面は見る見るうちに近くなり、そして―― 湖畔から湖を眺めていた野上葵は、見た。 湖から飛び出した人形達の姿を。 それは奇怪なカボチャのお化けの姿をしていた。 その背中にはあまりに壊れた笑みを浮かべる少女人形が乗っていた。 そしてその首には……髪が絡まっていた。 ――恐怖に歪んだ少女人形の首と、安らかに微笑む少女人形の首が、各々の髪の毛で吊り下げられていた。 【F-4西端/森(川の近く)/1日目/夕方】 【運命の再会?と大切な妹】 【プレセア・コンバティール@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:体力消耗(小)、軽度の貧血、右肩に重度の裂傷(処置済+核鉄で、なんとか戦闘可能なまでに回復)。 ツインテール右側喪失。思いきりハサミにトラウマ的恐怖。 マイトチャージ状態(一時的に攻撃力などが上がる力溜め。何度も使えるが極短時間のみ) [装備]:グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA’s、エクスフィア@テイルズオブシンフォニア [道具]:カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA’s、支給品一式(生乾き、食料-1) [服装]:冒険時の戦闘衣装(ピンク色のワンピース、生乾き) [思考]:ジーニアスとアルルゥを殺させはしません。 第一行動方針:戦って状況を打開する。明石薫とイリヤには容赦無し。 第二行動方針:放送前には城に帰還して、レミリアと合流。 基本行動方針:ジーニアスとアルルゥが生きている間はゲームに乗らない。レミリアの捜し人を捜す。 ※プレセアはアリシアの死を知った以降から参戦。 ※グラーフアイゼンはこの状況を警戒しています。 【ジーニアス・セイジ@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:かなり疲労。中程度の魔力消費。何か呪文を唱えスペルチャージ済。 [服装]:普段着、足は快速シューズ。 [装備]:ネギの杖@魔法先生ネギま!、モンスターボール(ウツドン)@ポケットモンスター、快速シューズ、 [道具]:ナマコ型寝袋、支給品一式、木村先生の水着@あずまんが大王、 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り(快速シューズ))@ドラえもん [思考]:イリヤだけは許さない。 第一行動方針:戦って状況を打開する。明石薫とイリヤには容赦無し。 第二行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、倒す。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する。 基本行動方針:主催者の打倒 参加時期:ヘイムダール壊滅後。ちなみにあえてクラトスルート。 [備考]: ジーニアスは、薫がゲイボルグを投げた人物なのでは、と疑っています。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:軽い疲労、頭にたんこぶ。 [装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:基本支給品(食料-1)、クロウカード二枚(バブル「泡」、ダッシュ「駆」) [服装]:民族衣装風の着物(普段着) [思考]:やっちゃえばいい 第一行動方針:戦って状況を打開する。誰に対しても容赦無し。 第二行動方針:イエローや丈を捜したい。放送前には城に戻る。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 【F-4西端/森(川の近く)/1日目/夕方】 【一時的多勢】 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】 [状態] 魔力消費(中)、疲労(中)、全身に切り傷(応急手当済み、命に別状はない) [装備] S2U@魔法少女リリカルなのは、凛のペンダント@Fate/stay night [道具] 支給品一式 [思考・状況] 第一行動方針:状況を打開したい。ジーニアスは最優先標的。 第二行動方針:できるだけ悪評を流せる者を少なくしてこの状況を抜けたい。 第三行動方針:とにかく生き残りたい。 基本行動方針:優勝して、自分の寿命を延ばす。 ※セイバールートの半年後から参戦。 ※イリヤのついた嘘の内容 翠星石を殺したのはジーニアス レンを殺したのは正体不明の魔術師 はやてには会っていない ※桜と梨々の知り合いの情報を聞いている。 【梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル】 [状態]:右腕骨折及び電撃のダメージが僅かに有り(処置済) 。 イリヤとベルフラウに確信的疑念。若干精神不安定。 [装備]:白タキシード(パラシュート消費)&シルクハット@吉永さん家のガーゴイル [道具]:支給品一式 [服装]:白タキシード&シルクハット [思考]:イリヤとベルフラウをどうにかしたいけど戦いが始まって……っ 第一行動方針:生き残りたい。さくらだけは信じている。 第二行動方針:双葉かリィンちゃんの友達(はやて優先?)及び小狼を探す。 第三行動方針:殺し合いに乗ってない人と協力する。 ※永沢、レックス、イリヤ、ベルフラウを危険人物と認識。薫の事も少し疑っている。 桜の知り合いの情報を聞いている。 【木之本桜@カードキャプターさくら】 [状態]:血塗れ、左腕に矢傷(処置済)、魔力消費(小) [装備]:パワフルグラブ@ゼルダの伝説 リインフォースII(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA's [道具]:基本支給品 [服装]:梨々の普段着 [思考]:敵対している相手を殺さずに、捕縛などで無力化する。 第一行動方針:誰も殺さずにこの状況を収めたい。 第二行動方針:リインのエリアサーチを定期的に使いながら移動し、友達を探す。 第三行動方針:他にも協力してくれそうな人を探す。 基本行動方針:襲われたら撃退する(不殺?) ※永沢、レックス、ジーニアスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている。 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:かなり疲労。本人は気づいていないが暴走寸前。右足打撲。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [服装]:いつもの制服 [思考]:あいつらぶっとばす!! 第一行動方針:極悪人(と吹き込まれた)ジーニアスはゆるさねえ! 第ニ行動方針:葵や紫穂を探す。二人に危害を加える奴は容赦しない。 第三行動方針:あの女(ベルカナ)に会えたら、仕返しをする。 最終行動方針:ジェダをぶっ飛ばして三人で帰る。 [備考]:薫は、ベッキー&ジーニアスの2人が、城から飛び出した影の正体かと疑っています。 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態]:体力消耗、精神的疲労(まだ完全ではない)、墜落によって軽い打撲。 [服装]:『ザ・チルドレン』の制服姿(野上葵の物) [装備]:クロウカード『水』『火』『地』『風』 [道具]:支給品一式、湿ったままの普段着 [思考・状況]:死なないように立ち回り、出来ればリインかアルルゥの協力を得たい。 第一行動方針:とにかく生き残る。 第二行動方針:召喚術師と交渉し仲間になってもらいたい。リインと八神はやてに期待。 出来ればメイトルパの少女(アルルゥ)とも交渉したいが、敵対意志有りと認識。 第三行動方針:みかの安否が心配。早く戻って合流したいが危険には巻き込みたくない。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して脱出・対主催の策を練る。 基本行動方針:先生のもとに帰りたい。 [備考]: ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。 (実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました)。 余計な危険を少しでも避けるため、ベルとだけ名乗っています。 【F-3/城内の食堂/1日目/夕方】 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:魔力消費(中) [装備]:飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心、シルバースキンAT(ブラボーサイズ)@武装錬金 [道具]:支給品一式(食料-1)、思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート「甘」) [服装]:シルバースキンAT(シルバースキンの下は全裸、服は洗って干している) [思考]:フランの事、もっと思い出しなさい。 第一行動方針:しんべヱからフランの事を聞き出す。 第二行動方針:お茶を飲みながら放送と夜の訪れ、及びプレセアとアルルゥを待つ。 第三行動方針:フランを知っている瞬間移動娘、及びフランをプレセア達に探させる。 第四行動方針:服が乾き、なおかつ時間があり、更に気が乗っていたら爆薬で加速の実験をする。 基本行動方針:フランを捜す。ジェダは気にくわない。少しは慎重に、しかし大胆に。 【福富しんべヱ@落第忍者乱太郎】 [状態]:体のあちこちに軽い傷。体力消費(大)。びしょぬれ。凶暴化終了。 [装備]:なし [道具]:ヒラリマント(チョンマゲに纏わりつくように引っかかっている) [思考]:そ、そんな事を言われても…… [備考]:凶暴化は一旦治った後、何かのきっかけでフラッシュバックのように再発した例も報告されています。 [備考]:体力消費が激しいため、いつ気絶してもおかしくない状態です。 【F-4/森/1日目/夕方】 【レベッカ宮本@ぱにぽに】 [状態]:背中に裂傷(応急処置済)、疲労中程度 [服装]:普段通りの服と白衣姿 [装備]:木刀@銀魂、魔導ボード@魔法陣グルグル! [道具]:支給品二式、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス [思考]:急いで城に行ってレミリアを捜す。 第一行動方針:レミリアを捜し、ジーニアス達への救援を頼む。 第ニ行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、ぶっ飛ばす。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する 基本行動方針:主催者の打倒。 参加時期:小学校事件が終わった後 【E-5/湖畔の茂み/1日目/夕方】 【野上葵@絶対可憐チルドレン】 [状態]:左足損失、超能力の連続使用による微疲労、精神的疲労、強い決意 [装備]:無し [道具]:支給品一式、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心 ベルカナのランドセル(基本支給品、黙陣の戦弓@サモンナイト3、返響器@ヴァンパイアセイヴァー) [思考]:??????(飛び立つ雛苺を目撃) 第一行動方針:廃墟の病院に薫を避難させたい。 第ニ行動方針:薫を守りながら紫穂を探す。 第三行動方針:レミリアかフランドールに出くわしたら、逃げる 第四行動方針:逃げた変質者(ベルカナとイエロー)は必ずぎったんぎったんにしたる 基本行動方針:三人揃って皆本のところに帰りたい [備考]:ベルカナが変身した明石薫を本物だと思い込んでいます。 イエローをサイコキノ、ベルカナも何らかのエスパーと認識しました。 なお二人が城戸丈を猟奇的に殺害し、薫に暴行をしたと思っています。 テレポートに掛かっている制限は長距離転移不可(連続転移は可)、 「意識のある参加者(&身に着けている所持品)は当事者の同意無しでは転移不可」です 他者転移禁止の制限には気づいていません。 【偽明石薫(ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT)】 [状態]:気絶、明石薫に変身中。左腕に深い切り傷、全身に打撲と裂傷(応急手当済み)、 あばら骨数本骨折(他も骨折している可能性あり)、出血による体力消耗 [装備]:全裸(シーツを何重にも羽織っている)、 [道具]:なし [思考]:………… 第一行動方針:明石薫のふりをして、この場を切り抜ける 第二行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない) 第三行動方針:仲間集め(イエローと丈の友人の捜索。ただし簡単には信用はしない) 基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア 参戦時期:原作7巻終了後 [備考]:制限に加え魔法発動体が無い為、攻撃魔法の威力は激減しています。 変身魔法を解除した場合、本来の状態(骨折数箇所、裂傷多数、他)に戻ります。 【E-6/湖面/一日目/夕方】 【雛苺@ローゼンメイデン】 [状態]:真紅と翠星石のローザミスティカ継承。精神崩壊。見るものの不安を掻き立てる壊れた笑顔。 [服装]:普段通りのベビードール風の衣装。トレードマークの頭の大きなリボンが一部破けている。 [装備]:マジカントバット@MOTHER2、 生首付きジャック・オー・ランタン@からくりサーカス(繰り手もなしに動ける状態) ※:ジャコの首には真紅と翠星石の生首が髪の毛で括り着けてあります。 [道具]:基本支給品一式、ぼうし@ちびまる子ちゃん ツーカー錠x5@ドラえもん 光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、ジュジュのコンパス [思考]:さっきの場所に戻って誰かに契約してもらうの 第一行動方針:誰かに媒介(ミーディアム)の契約を結ばせ、『力』の供給源にする。 第二行動方針:「新ルールのアリスゲーム」(=殺し合いのゲーム)に乗って、優勝を目指す。 基本行動方針:優勝して、「永遠に孤独とは無縁な世界」を作り、真紅を含めた「みんな」と暮らす。 [備考]: 雛苺は真紅と翠星石のローザミスティカを獲得したため、それぞれの能力を使用できます。 自分の支給品をマトモに確認していません。 『ジャック・オー・ランタン』は、真紅の持っていた「人形に命を吹き込む力」によって一時的に動ける状態です。 ただし雛苺の『力』を借りて動いているので、この状態は維持するだけでも雛苺の『力』を消耗します。 翠星石のローザミスティカでドールとしての力も回復しましたが、最大MPごと増えるような回復と思われます。 ≪167 少し遅い(前編) 時系列順に読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 投下順に読む 141 真実は煙に紛れて(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 プレセアの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ジーニアスの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください アルルゥの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 イリヤの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 梨々の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 桜の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 明石薫の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ベルフラウの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください レミリアの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪135 隠密少女Ⅱ しんべヱの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ベッキーの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください 野上葵の登場SSを読む 147 Friend ship/親友≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください ベルカナの登場SSを読む 147 Friend ship/親友≫ ≪140 Frozen war/冷戦 雛苺の登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫
https://w.atwiki.jp/loli-syota-rowa/pages/313.html
エスパー・フィーバー ◆uOOKVmx.oM 遠くのオデン屋で一人の少女が愚痴を零している。まるで飲んだくれの親父ようだ。 その近くでは少年が鼻歌交じりに鍋をかき混ぜたり、何人かで談笑していたりもしている。 ボーっと立っていると、後から来た少女や少年が横をすり抜けて談笑の輪に加わって行った。 何だか楽しそうだ。何かから開放されたような安堵感、小学校の休み時間のような感覚。 そういえばさっきから紫穂と葵の姿が見えない。二人とも何処に行ってしまったのだろうか。 いつだって一緒だった二人。自分の一部と言ってもいい程、何の遠慮もなく付き合える仲間。 大声で叫ぶが応答は無く、薫は自分一人だけ取り残されたような恐怖さえ感じた。 泣きたくなる恐怖心を深呼吸して振り払い、冷静に周囲を見回すとどうだろう。 目に映るもの何もかもが歪んでいた。コーヒーに垂らしたミルクのように空間が歪んでいる。 それに気がついた瞬間、足元の感触が消えた。奇妙な浮遊感と共に湧き上がる不安感。 プールで溺れたかのように手足をバタつかせるが、何故か超能力が使えず、声も出ない。 そして助けを求めて遠くで談笑している少年達の方へ視線を送り、愕然とする。 首の無い少年少女、薬品で爛れた少女、包丁が刺さっている少年、四肢がバラバラの少年。 楽しげに談笑していたそれらが、一斉に薫の方を向いた。 「うわぁぁぁぁ―――――!!!」 跳ね起きた明石薫を待っていたのは、光の存在を許さない完全な闇だった。 だた暗いだけなのだが周囲の静けと相まって不気味さを醸し出し、薫を混乱へと導く。 眠っている間に見た夢の内容など覚えてはいない。だが漠然とした不安だけは残されていた。 無差別に開放した念動力が周囲の木々を砕き吹き飛ばすが、闇に遮られてそれを確認できない。 破壊の手応えを感じながらも不安に狩られた薫は、我武者羅に闇の中から飛び出した。 「うおっ、まぶしっ!!」 思わず腕で視界を遮る。闇に慣れていた薫の目に、眩しい陽光は強烈だった。 彼女が吸血鬼なら間違いなく灰になって消滅していたことだろう。 周囲の木々を薙ぎ倒したおかげで、森の中だというのに直接日光が降り注いでいたのだ。 薫は眩しさに顔を顰めながら、ゆっくりと明るさに慣れるように目を細く開こうとする。 その時、上空からの響く音を聞いた。例えるなら高速で飛行する時の風きり音。 反射的に顔を上げた薫の瞳に、眩しい太陽を横切る影が映った。 (誰かがいる? 葵?! いやさっきの女か?!) それは突き穿つ死翔の槍。礼拝堂を崩壊させても勢いは衰えず、遥か彼方へ向けて飛翔する。 何処から来たのか、何処へ行くのか、それは分からない。何故なら―― 「目が、目がぁ――!!」 直射日光を目の当たりにした薫は、目を押さえてのたうち回っていた。 ○ ○ ○ 「あんたら、薫と紫穂を知っとんの? 二人に何しよったん?」 ベルカナの首筋には鋭利なガラス片が突きつけられ、圧し掛かった戸棚が動きを封じていた。 いたるところに突き刺さった破片は血を滲ませ、確実に命を削っていくのが感じられる。 分かる範囲であばら骨を何本か、それと四肢も骨折している可能性が高い。 身動きが出来ないので正確ではないが、手足の感覚が失われていないことは幸いだった。 目前の少女のように四肢を欠損してはいないが、問題は首がいつまで繋がっているか。 負傷と束縛に加えてここは閉鎖空間、都合良く助っ人が来ること期待できない。 (絶体絶命とは、こういう状況のことですわね) 他人事のようにベルカナは状況分析をしていた。身体に走る痛みが頭を鮮明にする。 今必要なのは泣くことでも怒ることでもなく、僅かな情報から活路を搾り出すこと。 身動きが取れないのだから、他に出来ることが無いと行えばそれまでだったが。 迂闊に口を滑らすと痛い目を見る、今それを身体で思い出させてもらったばかりだ。 素直に情報を吐けば助かるなどとは、新米の盗賊でも考えはしない。 情報の重要性と有用性は、上司である盗賊ギルドの女幹部に散々思い知らされていたから。 先ほどの言動からして、目前の少女は森で出会った赤毛の少女の仲間というのはほぼ確実。 思えばあの少女もフォース・エクスプロージョンやフライト、テレキネシスを自在に操っていた。 その同類と考えれば、目前の少女がテレポートやアポートを自在に操れても不思議はない。 (厄介な奴らに目を付けられてしまいましたわね。まったく運が悪いですわ) だが悲観的な情報だけではない。仲間の情報を欲しがるということはロケーションや マインド・スピーチといった探知系や念話系の魔法は使えないということだ。 悪魔の中には、魔法のような力を特殊能力として好き放題に使いこなせるタイプも存在する。 彼女らが系統立った魔法を習得しているのではなく、独自の特殊能力だとすれば納得もいく。 「なに黙っとんのや、薫と紫穂をどうしたって聞いとんよ?!」 いつもなら一瞬で数時間ほど議論したような検証を行うのだが、待ってはくれないらしい。 たった数秒、返答を遅らせただけで少女が声を荒立てて、ガラス片を首筋に軽く当てる。 薄っすらと血の糸が引かれた。冷静で落ち着いて態度に見えるが、案外そうでもないらしい。 この子も自分と同じように精一杯の虚勢を張っているのだと、そう思うと少し笑みが零れた。 「ベルカナさん!!」 「――!?」 悲鳴に似たイエローの声に、驚いた少女が視線を向け、ガラス片が首筋から僅かに離れた。 あの子はまだ無事のようですわね。ホッとすると同時に、最悪でも彼女だけは逃がさなければ、 そんな思いが再度込み上げる。それを嘲笑うかのように戸棚は重く圧し掛かっていた。 戸棚の下敷きになった少女は自分の質問に答えないばかりか、薄っすらと笑みを浮かべていた。 突き付けたガラス片をものともせず、葵を嘲笑っているようにすら見える。 薫や紫穂に何かしたのか、それを思い出して笑っているのか。 葵の脳裏に青髪の少年の死体が浮かび、それが血に塗れた二人の姿に摩り替わった。 恨めしそうにこちらを見つめる頭部だけになった薫と紫穂の姿に。 血液を沸騰させそうなくらいの怒りが込み上げて、ガラス片を持つ手に力が入る。 そうだ、サクッと首筋を掻き切ってしまえばいい。 こんな女、苦痛と苦しみの中で懺悔させればいい。 だが葵の手は動かない。後一歩と言うところで動かせない。 無意識に直接人を殺めることに対する禁忌を感じているからか。 そうではない。求めているのは希望、二人が無事だという希望と確証。 それを得たいがために、彼女は命を奪う数ミリ前で留まっていたのだ。 「ベルカナさん!!」 「――!?」 背後からの叫び声に葵は驚き振り向く。この部屋にもう一人いるとは計算外だ。 ベルカナが葵に出会った時の衝撃と困惑を今度は葵自身が受けることとなった。 声の主は小さな、といっても葵と同じくらいの少女。この女の仲間か。 汚れたシーツに包まっていたので気がつかなかったのか。 「ベルカナさんに何を!」 激しい敵意を放つ少女を確認して葵の顔色が変わった。 見れば手には何も持っておらず素手。恐れることは何もないはず。 だが葵の注意を引いたのは彼女自身ではない。彼女の周りにあるもの。 小石や砕けた戸棚の破片、割れたガラス片、それら諸々がカタカタと震えている。 室内だと言うのに風が巻き上がるような感覚は、薫が念動力を制御し切れない時の感覚に似ていた。 「サイコキノやて?!」 サイコキノ(念動力者)は能力がシンプルな分、高い超度を持つ者も多く存在する。 目の前の少女の超度が実戦レベルであったなら、今の葵が正面から勝てる可能性は薄い。 最強超度を誇る明石薫は例外としても、その能力は非常に戦闘向けとされており、 特に逃げ場のない空間では無類の強さを発揮する。正面から相手するのはバカか薫のやることだ。 「邪魔や、引っ込んどれや!」 超度不明な少女を他の部屋へテレポートさせようとするが、何故か効果が無かった。 間違いなく上方数m、上階の部屋へと送ったはずなのに少女の身には何も起こらない。 何度テレポートさせようとしても、少女は転移する様子もなく葵を睨み付けていた。 そればかりか少女は葵に向かって駆け出そうとする。 「く、来るな!」 少女にテレポートが通じない、それは葵に蕾見管理官の言葉を思い出させた。 『テレポートはね、近い念波で干渉しちゃえば発動しないのよ』 この少女は、そんな高度な技術を持ったエスパーなのだろうか。 咄嗟に近くにあった物、ベルカナに落としたのと同じ戸棚を少女の頭上へとテレポートさせた。 焦ったためか、思ったより少女が小柄だったのか、頭上数十cmに戸棚が現れる。 「上ですわ、イエローさん!」 「?! ダイレク、お願い!」 葵はテレポートが完全に封じられていないことに一抹の安心を得た後、驚愕した。 転移させた戸棚が、空中で方向転換して壁に激突したからだ。 ベルカナの声に反応したイエローの巻き起こした突風が、ほんの一瞬だけ戸棚の落下を防ぐ。 それと同時に巨大な――葵よりもイエローよりも巨大な大剣が意思を持った獣の如く飛び上がり、 回転する斬撃で落下物を壁へ叩き付けたのだ。 斬撃の余波で天井や石壁に幾多の傷が付けられ、戸棚は床に落ちて砕けた。 一仕事終えた大剣はイエローの周囲をフワフワと漂っている。間違いない、サイコキノだ。 「お、大人しくせんか! こいつがどうなっても知らへんで!!」 「この……!」 葵はベルカナに再度ガラス片を突きつけた。期待通りイエローと大剣の動きが止まる。 こんな低脳犯罪者のような台詞など、口にしたくなかったが仕方がない。 まだまだ優位だと自分に言い聞かせ、葵は湧き上がる恐怖心を押さえ込み、イエローを睨み返す。 ゲームに乗るような連中でも仲間は大切なのかと、しかし薫と紫穂はもっと大切なのだと。 お互いに相手の存在を否定しあう。その僅かな膠着を崩したのは階下から響く爆音だった。 「な、なんや!?」 「なに、この音!?」 遠くのような近くのような、それでいて城を揺るがすほどの爆発音。 何が起こったのか。周囲に気を配っても、礼拝堂で起こった大爆発を彼女達が知るすべはない。 両者に走った僅かな動揺、お互いが僅かな隙を狙い、そして警戒して二人は再び睨みあった。 「ひぃっ!?」 葵が短い悲鳴を上げた。 いつの間にか片腕の自由を取り戻していたベルカナが葵の腕を横から掴んだのだ。 爆音の主でも目の前のサイコキノでもない、無力化したはずの少女に腕を捕まれただけ。 たったそれだけのことだが、ホラー映画の途中で悪戯された子供のように虚を突かれたことと 爆音が連想させたフランドールへの恐怖心が重なり、葵は反射的に手を引っこめるかのように ベルカナからテレポートで数m離れてしまった。 「今だ、行ってダイレク!」 葵自身が失敗したと認識するより早く、睨み合いの呪縛から逃れた大剣が彼女に迫る。 斬撃を避けるため、今度は緊急テレポートで鉄扉の前まで移動するが、大剣は葵のいた場所の 手前で大きく曲がるとベルカナに乗っている戸棚へと突き刺さった。 そのままフォークリフトのように持ち上げると、大剣は戸棚を葵に向かって投げ付ける。 (あの子、直接戸棚を動かしたり、殴りには来ぃへん? もしかして大きな物は動かせないん?) 砕けながら飛来する戸棚を危なげなくテレポートで回避しつつ、そんなことを考える。 危惧したよりも超度が低いか、自分と同じように能力を制限されているのかは分からない。 他に分かることは室内にある武器として扱えそうな物が底をついたこと、巨大な剣を自在に操る サイコキノには迂闊に接近できないことくらいだ。 ベルカナに駆け寄るイエロー、そして空中の大剣が番犬のように葵を威嚇していた。 「……セコい真似しくさってからに!」 葵はギリギリと鳴らしながら親の仇のようにイエローを睨み付けた。 飛び回る大剣の余波で部屋の物品は砕かれ、床は台風が通った後のように散らかり放題だ。 それが意味するところは、武器になりそうな物を奪われたというだけではない。 床一面に散らばった破片は、サイコキノにとって絶好の凶器に早変わりするのだ。 室内で四方八方から襲われれば、今の自分で逃げ切れるものではない。 そしてもう一人の少女。サイコキノではなく、あっさりと押し潰された方だ。 弱いのは当然だが、あの状況で腕を掴んできた。それは、ただの悪足掻きだとは思う。 だがもしサイコキノと組んでいるエスパーだったら。そう一度意識すると疑心暗鬼になってしまう。 戦闘向きでなければテレパスか、でなければサイコメトリーか。 寄り添って立つイエローとベルカナの姿が、薫と紫穂の姿とダブった。 怒りに任せて飛び掛かかり、寄り添う二人を八つ裂きにすらしたくなる。 だが薫と紫穂を助けるまで無茶は出来ない、してはいけないと自己を押さえつけた。 「覚えとれよ! あんたら必ずギッタンギッタンにしたるわ!」 ドラマに出てくる関西風ヤクザのような捨て台詞を残して、葵は室外へとテレポートした。 「え、退いてくれた……良かった……」 静まり返った部屋の中で、サイコキノと誤認されたイエローが安堵の息を漏らしていた。 ○ ○ ○ 葵は城内を次々とテレポートを繰り返してゆく。寝室、私室、書斎、書庫その他もろもろ。 二人組のエスパーとはいえ片方は重症、部屋に出口は一つしか無く、遠くにはいけない。 城内にいるスカーレット(姉)に見つかれば、弄り殺されることだろう。 薫と紫穂のことを聞き出せなかったのは辛いが、仕方がない。 どうせ本当の事を言うとも限らないのだから、最初から躊躇せず殺せばよかったのだ。 あんな二人組にどうこうされる薫と紫穂ではないだろう。今はそう信じるしかない。 (でも、あいつら見逃してええんか?) 少年の惨殺死体が脳裏に浮かぶ。今は、まだ、薫と紫穂に何もしていないのかも知れない。 だが、これから、何かするかも知れない。あの少年のように惨殺するかもしれない (とーぜん、見逃したらアカンよなぁ) 葵は手当たり次第に目に付いた部屋に入ると中の家具を廊下へとテレポートさせていた。 既にベルカナ達のいた部屋の前には、ベッドを二つばかりテレポートさせ逃げ道を奪っている。 5分ほどで次々と近くの部屋から家具が、先程の部屋前へと積み上げられていった。 葵の悩んでいたのではない。 薫と紫穂の情報を聞き出さずに、あの少女達を殺すことを自分に納得させていたのだ。 (逃げ場はないで。防げるもんなら防いでみい) 山と詰まれた家具と、開いた形跡のない鉄扉。 その二つを前にした葵は深呼吸して心を落ち着かせて、静かに呟いた。 「死にさらせ」 質量という名の兵器を矢継ぎ早に部屋内へテレポートさせた。 たった三十センチの高さから落とすだけでも、重量だけで徐行する車並の破壊力を持つ。 無数の部屋から掻き集められたそれらが一つの部屋へ放り込まれるまで、一分も掛からなかった。 普段ならこの程度の連続テレポートなど造作もないのだが、今はやけに疲れる。 葵は乱れた息を整え、静かになった部屋の中へとテレポートした。 確認したかった。二人は死んだだろうか、もし生きていても重症は逃れないだろう。 もし生きていたなら、もう一度だけ薫と紫穂のことを聞いてみよう。 漠然とそんな事を考えていた。もしかして防がれたかも、そんな不安も心の隅にあった。 「ゴホッ、ゴホッ、やったんか?」 部屋の中は埃が舞い上がって凄い事になっていた。 もう少し待ってから入ればよかった、そんな事を考えつつ周囲に気を配る。 万が一、サイコキノが生きていても対処できるように細心の注意を払って死体を探す。 (凄い埃やなぁ、ん?) 宙を舞う埃は眩しい日光の中に、プランクトンのような幕を作っていた。 だがどこか変だ。小さな窓には鉄格子が嵌っていたはず、その影がないのだ。 壁際までテレポートすると鉄格子を外された小窓を見上げた。 (逃げられた? あんな所から?) 暫し愕然とするが、すぐに気を取り直す。絶対に逃がしはしない。 自分の黒星はチルドレンの黒星、薫と紫穂がいないからと言って負けるわけにはいかない。 そう心に誓った時、足に妙な感触を覚えた。まるでケーキを潰したような柔らかい感触。 恐る恐る視線を向けると、ドロリとした奇妙な形に拉げた物体が目に入る。 家具に潰された人間の頭が、浜辺で割られるスイカのように砕け、潰れ、飛び散っていた。 その内容物の上に葵は立っていたのだ。右か左かも分からない眼球が虚空を見つめていた。 「――――!!」 込み上げる嘔吐感を両手で押さえて無理やりに飲み込む。 覚悟はしていたが、覚悟だけでどうにか出来るものでもない。 己の意思に反して残された片膝がガクガクと笑い、身体をその場に投げ出す。 改めて潰れた頭部を見れば、頭部に青い毛髪が残っていた。これはさっきの少年の生首か。 直接殺したのが自分ではないと少し安心する反面、恨めしい表情の生首がクチャっと 潰れる様を想像して葵は身悶えた。 (こ、この子はもう、ええよ……え?) 少年の頭から視線を逸らそうとした先に、まだ人の姿をしている少女を見つけた。 壁際にいくつか積み重なった家具の隙間に助けられているようにも見える。 逃げようとして間に合わなかったサイコキノか、もう一人の方か、両方か。 (あれだけやってまだ生きとるんか? 悪運の強いやっちゃな。でもウチの勝ちや。 薫と紫穂を傷つけるような奴は、ウチが全部排除したる) ○ ○ ○ 「え、退いてくれた……良かった……」 静まり返った部屋の中で、サイコキノと誤認されたイエローが溜め息を漏らした。 助かったと思うと同時に、相手の子を傷つけないで済んだという安堵も含んでいるのだろう。 「あ、ベルカナさん、大丈夫ですか?!」 「ええ大丈夫。ありがとうイエローさん、助かりましたわ」 「だ、だって血がこんなに……」 「出血しているので大袈裟に見えますけれど、幸い軽傷ですわよ。冒険者にはよくある事です」 体中から血を流し、全然大丈夫そうには見えないベルカナが平然と言い放った。 それでも心配するイエローを「大丈夫」の一言で黙らせる。精一杯の虚勢。 本当は立っているだけでも辛い、だがここでイエローに弱気を見せるわけには行かない。 「あの子、一体――」 「シー!」 ――ゴトッ、ゴトッ 喋りかけたイエローの口をベルカナが塞いだ。 鉄扉の向こうで何かが動くような、何か置かれたような音だった。 (出口を塞がれましたか。となると次は―――) 冒険者もモンスターや討伐相手を洞窟や室内に閉じ込める事がある。 その後に取る代表的な方法は二つ。増援や準備万端にしての再侵攻、もしくは焼き討ちだ。 この状況で見逃してくれると考えるのは楽観的過ぎるだろう。 もしも自分が彼女のように無制限にテレポートを使えるのなら、即席で効果的な戦法は一つだ。 それに相手がテレポートを使うのでは、ここで普通に逃げても直ぐ追いつかれてしまうだろう。 「急いで逃げないといけませんわね。イエローさん、小窓の鉄格子を斬れますか?」 「うん、多分。ダイレク、お願い」 ふわりと舞い上がった魔剣が、まるで鉄格子がチョコレートであるかのように軽く切断した。 明かり取りの小窓は小さいが子供なら、小柄なイエローなら何とか通れるだろう。 それを確認したベルカナは荷物から首輪と一枚のコインを取り出し、イエローの手に握らせた。 「あなたはそこからお逃げなさい。私は多分すぐ戻ってくるあの子を引き止めてみます」 「え? やだ、そんなのやだ! 一人で逃げるなんて、ベルカナさんまでいなくなったら僕――」 「あらあら、何を勘違いしているのかしら。それは後であなたを探すための目印ですわよ」 「でも――」 納得のいかないイエローの口に、ベルカナは人差し指を当てて言葉を封じた。 イエローの耳元で時間がないこと、自分に勝算があること、二人一緒だと危険なことを 適当に含ませ、とびきりの笑顔を見せて、彼女に一人で逃げることを承諾させた。 純真なイエローを言いくるめるなど、闇市で値切るよりも容易いことだった。 「うふふ。私のいない間、悪い子に騙されちゃ駄目よ。あなたは素直すぎですからね。 ダイレク、イエローのことをお願いね」 飄々と騙している本人が警告をする。自分が一緒にいる間は騙されてもいいのだ。 少女を頼まれた魔剣はクルクルと戸惑ったように回転していた。 「はい……でも本当に大丈夫ですか……本当にまた――」 「大丈夫、魔法使いのお姉さんを信用なさい。じゃあ、また後で」 「……また、後で」 意を決めたイエローが小窓から城外へ飛び出す。下が水とはいえ城の四階、十分危険な高さ。 だがシルフェのフードが風を巻き上げ、彼女の身体を押し上げると足元にダイレクが滑り込む。 魔剣に乗った彼女は、まるで風の波でサーフィンでもするかのように空を駆けて行った。 (さて、私も悪足掻きをしますか) ベルカナは少し躊躇した後、拾ったガラス片を胸元から下へ滑らせ、一気に衣服を切り裂く。 まだ男に見せた事のない白い肌、揺れるほどない小振りな胸は流れ出る血と傷に汚されている。 幸いにして幾多の裂傷は致命的ではない。だが服と共に傷口から追い出されたガラス片達は 更なる流血の花を置き土産としていった。治療せずにいれば長くは持たない。 このまま時間が立てば鮮血で編んだドレスで着飾ることになるだろう。 傷の重さを知りつつも、ベルカナは下着をも切り裂いて一糸纏わぬ姿を晒した。 お調子者の貧弱盗賊が覗いていないかと少し背筋が寒くなったが、服を脱いだからだろう。 どうせ自分の裸を晒すわけではないから全裸でもいいか、そう考えていたのだが、 やはり気恥ずかしさを感じ、汚れが少ないシーツを身に纏う。 服を切り裂いた行為に特に意味はない。ただ脱ぐ時間が惜しかっただけだ。 脱ぎ掛けで死ぬなんて、全裸で死ぬよりも恥ずかしい。 切り裂いた衣服は、見つからないように砕けた戸棚の影へと放り込んだ。 装備品もまとめてランドセルに放り込み、丈のランドセルと一緒に投げ出す。 (後は気力と――運次第ですわね) ふとイエローに幸運を呼ぶコインを渡したことを思い出す。 後で居場所を探すロケーション用だったが、彼女が自分の幸運を持ってくのなら悪くない。 イエローに吹き込んだように勝算はある。多くて一割か二割。上手くいけば一石三鳥な作戦。 問題は生存率が五割以下と予想できる上に、生き延びても後は運任せ、他人任せなことだ。 それでも高確率で足止めになることを考慮すれば、悪くはない作戦だと思う。 他の方法も考えたが、正面から迎え討てる相手ならイエローを先に逃がしたりはしない。 (上手くいったら御喝采) ベルカナは自分の腕にガラス片を突き立てた。鋭い痛みが頭に響く。 多少回復したとはいえ残りの精神力は少ない、というかハッキリ言って足りない。 魔法を使った後に気絶しては元も子もないのだが、そもそも魔法が発動するかも怪しい。 だからといって諦めるわけにはいかない。足りなければ搾り出す。無理矢理にでも。 ベルカナは残された経験点を精神力へ注ぎ込むかのように、痛みで意識を支えて詠唱した。 ――シェイプ・チェンジ それは術者を全く別の存在に変身させる魔法。ベルカナの小柄な身体が、手足が縮んでゆく。 長い栗色の髪は赤みを帯びて短く、発展途上と言い張る小振りな胸もまな板へと萎む。 一瞬で女性を感じさせていたベルカナの肢体は、二次性徴期前の少女のものへと変貌した。 (長くは……意識が……持たない……か) 少女の綺麗な腕にガラス片を突き立て、ベルカナは辛うじて己を現実へ縛り付ける。 先程の魔法でベルカナの精神力は限界を迎えていた。 一瞬でも気を抜けば、死神に根こそぎ意識を刈り取られ、そのまま目覚めない事だろう。 姿を変えてからどれだけ経過したか。数秒か、数分か? 霞む意識では分からない。 何も無い空間から戸棚が、本棚が、ベッドが現れては床に叩き付けられてゆく。 思ったよりも早く、もしくは遅くあの少女が準備万端で殺しに来たのだ。 (やはり……そう……来ました……か) 歯を食い縛って虚空を睨みつけるも視界は霞み、身体は糸の切れた人形のようにへたり込む。 姿勢を支える余力も無く、別の世界へ旅立つ意識を未練がましく引き止めるので精一杯。 あの程度の怪我など『ベルカナの身体』ならば苦しみはしても大事は無い。 誤算だったは『変身した少女の身体』にとっては大怪我だったということ。 手足と共に傷口も縮んだので出血は多少抑えられているものの、貧血を起こすには十分だった。 『き、君はまだこっちに来ちゃいけない! 頑張ってくれ!』 幻聴か、城戸丈の声が聞こえたような気がした。 そんなことは言われなくても分かってる。だからあなたは安心して眠りなさい。 目の前の床に転がっている城戸丈の首に向かって、そう視線で答える。 空元気でも声を出せる余裕は残っていない。 頭上から襲い来る凶器に残された全ての気力を叩き付け、そしてベルカナは意識を失った。 ○ ○ ○ 「何があったん!? しっかりせい! ウチや、葵や!」 葵は折り重なった家具の隙間にいた少女へ必死に呼びかけていた。 彼女の頭には、先程までの物騒な考えなど微塵も残っていない。 家具の山から少女を助け出し、力一杯に抱きしめていた。 なぜなら、その少女は人を殺してでも守ろうとした大切な仲間だから。 見間違えるはずは無い。明石薫だ。親よりも長く付き合っている仲間。 彼女が何故ここにいるかなど、深くは考える余裕は無かった。 抑えていた色々な感情が、最も大切な仲間と再会できたことで爆発していたのだ。 「起きろや薫! あいつらにナニされたん!? 返事せぇよ!」 必死に薫へ呼びかけるが、意識の戻る気配は一向に無い。 薫はシーツ1枚の他は何も身に着けておらず、拷問でも受けたのか全身が傷付いていた。 腹部や手足の一部は腫上がり、左腕には抉ったような深い傷が残されている。 鋭い物で刻まれたような無数の裂傷は身体のいたるところに見られたが、幸い葵の知識でも 応急処置の可能な程度のものだった。楽観は出来ないが命に別条は無いだろう。 それなのに薫の意識は戻らなかった。 平らな胸にそっと手を当てるとトクン、トクンと温かい生命の鼓動を感じられる。 生きている、その穏やかなリズムは葵の心を落ち着けていく。 そうだ。薫や紫穂が死ぬわけない。大丈夫、すぐに紫穂も見つかる。 なぜなら薫は見つかったのだから。そして自分と薫の二人が探すのだから、すぐに見つかる。 「相変わらず、アンタはねぼすけやなぁ。ええわ、ウチが守ったるからゆっくり寝とき」 腕に抱いた薫の頬を軽く指先でつつく。普段は騒々しいが寝顔は天使のように可愛らしい。 葵は薫の体を優しく拭う。バベルの制服を着ていたはずなのに、シーツの下は何故か全裸だった。 あの二人にどんな酷い事をされたのだろう。もう少し遅かったら、そう考えただけでも恐ろしい。 偶然ここに気が付かなかったら、今頃は青髪の少年のようにされていたのだろう。 あの少女がバベルの制服を知っていたのは、薫を脱がして酷い事をしたからだ。 猟奇殺人のイメージから、あの二人に性的な暴行を受ける最悪の事態を思い浮かべて―― しまいそうだったが、葵の乏しい性知識では薫が二人にセクハラしている姿しか浮かばなかった。 とにかくあの二入が薫に酷い事をしたに違いない。 「起きたら一緒に紫穂を探そうな。ウチらなら直ぐ見つかるに決まっとる。 そんで三人揃って、あの女達をぎったんぎったんに仕返ししたろうな」 自分の腕に抱いている薫が、殺意を向ける相手ベルカナ本人だとは想像もしていなかった。 ○ ○ ○ その頃『本物』の明石薫はというと―― 「あっちゃー、こっちに飛んでったと思ったんだけどな。」 飛翔するゲイボルグを人影と勘違いした薫は、槍の飛んでいった方向、南へ向かっていた。 湖上でキョロキョロと周囲を見回すが、湖の周辺に人影は見当たらない。 視力が完全に回復する前に無理して追いかけたため、あっさりとゲイボルグを見失っていたのだ。 湖の中に、ダムに飲み込まれた廃村のような街を見つけた薫は、ジーッと湖底を見つめる。 少し顔を水に突っ込んで探して見てみたが、すぐに飽きた。 「水の中に人がいるわけないよなー。向こう岸に降りたのかな……ん、なんだありゃ」 波も少ない湖上を静かに漂う赤い宝石に薫は首を傾げた。なんで宝石が浮いているんだろ? それは見る者を安心させるような柔らかな光を発して、薫の視線を静かに受け止めていた。 【E-6/湖上(飛行中)/1日目/昼】 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:ぐっすり眠って疲労は回復。右足打撲。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [思考]:何だろ、これ? さっきの影は何処に行っちゃったんだろ? 第一行動方針:葵や紫穂を探す。二人に危害を加える奴は容赦しない 第ニ行動方針:とりあえず、あの女(ベルカナ)に仕返しをする 最終行動方針:ジェダをぶっ飛ばして三人で帰る [備考]: 湖上のローザミスティカ(翠星石)を発見しました 上空を南に飛んでゆくゲイボルグを人影と誤認した上、見失っています。 (横に投げて太陽光が城内に入ったのでゲイボルグを南方向きに投げたと判断しました)。 【F-3/城外(空)/1日目/昼】 【イエロー・デ・トキワグローブ@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]:擦り傷多少、破ったシーツを身体に巻きつけた、深い悲しみ [装備]:シルフェのフード@ベルセルク、魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー おみやげのコイン@MOTHER2 [道具]:スケッチブック、基本支給品、首輪@城戸丈、 [思考]:ベルカナさん……大丈夫ですよね? 絶対また会えますよね? 第一行動方針:城から離れる 第二行動方針:レッド達と合流し、このゲームを破る方法を考える 第三行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ 第四行動方針:丈の首輪を調べる。または調べる事の出来る人間を探す。 基本行動方針:ゲームには絶対乗らない 参戦時期:2章終了時点(四天王との最終決戦後。まだレッドに自分の正体を明かしていない) [備考]:魔剣ダイレクのソードエレメンタル系は魔力を必要とするため使用不可 魔剣ダイレクとシルフェのフードを併用して飛行中(風で跳んで、ダイレクで滑空を繰り返し) イエローの進行方向は次の書き手さん任せです 【F-3/城の一室/1日目/昼】 【野上葵@絶対可憐チルドレン】 [状態]:左足損失、超能力の連続使用による疲労、安堵感 [装備]:無し [道具]:支給品一式、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心 ベルカナのランドセル(基本支給品、黙陣の戦弓@サモンナイト3、返響器@ヴァンパイアセイヴァー) [思考]:良かった。薫が無事でホンマに良かった。 第一行動方針:薫はウチが守ったる 第ニ行動方針:薫と一緒に志穂を探す 第三行動方針:レミリアかフランドールに出くわしたら、逃げる 第四行動方針:逃げた変質者(ベルカナとイエロー)は必ずぎったんぎったんにしたる 基本行動方針:三人揃って皆本のところに帰りたい [備考]:ベルカナが変身した明石薫を本物だと思い込んでいます。 イエローをサイコキノ、ベルカナも何らかのエスパーと認識しました。 なお二人が城戸丈を猟奇的に殺害し、薫に暴行をしたと思っています。 テレポートについて 葵のテレポートは有効活用すると「装備取り上げ」や「石の中にいる」が強力過ぎと判断し 「意識のある参加者(&身に着けている所持品)は当事者の同意無しでは転移不可」として描写しています。 修正 【偽明石薫(ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT)】 [状態]:気絶、明石薫に変身中。左腕に深い切り傷、全身に打撲と裂傷(応急手当済み?)、 あばら骨数本骨折(他も骨折している可能性あり)、出血による体力消耗 [装備]:全裸(シーツを羽織っている)、 [道具]:なし [思考]:気絶中(ベタだけど記憶喪失のふりでもしようかしら) 第一行動方針:明石薫のふりをして、この場を切り抜ける 第二行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない) 第三行動方針:仲間集め(イエローと丈の友人の捜索。ただし簡単には信用はしない) 基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア 参戦時期:原作7巻終了後 [備考]:制限に加え魔法発動体が無い為、攻撃魔法の威力は激減しています。 変身魔法を解除した場合、本来の状態(骨折数箇所、裂傷多数、他)に戻ります。 鉄扉に魔法が掛かっている為、ベルカナ以外は解呪か扉を破壊するかしないと開きません。 「シェイプ・チェンジ」について 明石薫に変身しています。持続時間は永続(本人の任意で解除)で精神以外は完全に薫です。 超能力もコピーされていますが、経験不足なので消耗は激しい上、使い分けは出来ません。 ≪096 セイギとギセイ/DOMINO 時系列順に読む 099 霧中逃避行 ~Panic Hopper~≫ ≪096 セイギとギセイ/DOMINO 投下順に読む 098 隠密少女≫ ≪082 世の中捨てたものじゃないから 明石薫の登場SSを読む 109 出会いはいつも最悪で≫ ≪084 籠の中の鳥達 イエローの登場SSを読む 118 迷走≫ 野上葵の登場SSを読む 108 使用上の注意をよく読んでください≫ ベルカナの登場SSを読む
https://w.atwiki.jp/loli-syota-rowa/pages/405.html
Fighting orchestra/戦奏(3) ◆JZARTt62K2 「この、叫び声は……!?」 薫との戦闘の最中、プレセアは何者かの悲鳴を聞いた。 魂から絞り出したかのような叫び声は長く尾を引いた後、力尽きたように薄れていく。 誰かが、戦いに敗北したのだろう。 (一体、誰が……!) プレセアは焦った。もしかしたら、今の悲鳴が仲間のものかもしれないからだ。 なにせ、ジーニアス達は2対4の戦いを強いられている。苦戦しないわけがない。 (これは、かなり厳しいですね……) 決していいとは言えない戦況に、プレセアは危機感を募らせた。 そもそも、こんな泥仕合になるはずではなかったのだ。 本来ならプレセアがすぐに薫を倒し、ジーニアス達に合流する予定だった。 だが、甘かった。 プレセアは、薫の実力を完全に読み違えていた。 「余所見してる暇はねーぞぉっ!」 薫が念動力のハンマーを作り、滅多矢鱈に振り回してくる。 プレセアは攻撃を避け、時には防ぎ、そして反撃した。 鉄の戦槌が薫を打ち据えようと唸りを上げる。 しかし、攻撃は届かない。鉄槌が敵に触れる直前で、ガチン、と音を立てて見えない壁にぶつかってしまう。 薫の張るバリアに当たったのだ。 念動力の壁は破れないほど強固なものではなかったが、どうしても威力と速度は殺がれる。 グラーフアイゼンがバリアを打ち破っている間に、薫は後ろに逃げてしまった。 結果として、全くダメージを与えられない。こんなことが何度も繰り返されていた。 (予想外に厄介な相手ですね) 明石薫のスペックは圧倒的だった。 攻撃では威力が高い衝撃波を連発し、防御においてはいつでも展開可能なバリアがある。 更に空も飛べ、障害物を持ち上げることまでしてくる。 強い。プレセアは、素直にそう思った。 それでも、ここでこれ以上時間を取られるわけにはいかない。 さっきの悲鳴がジーニアス達のものだったら、もはや一刻の猶予もないのだから。 (後先考えている余裕はありません) プレセアは、グラーフアイゼンを両腕でしっかりと握り締める。 今までは怪我をしている右肩に気を使っていたが、そんなことを気にしていられる状況ではない。 武器を持ち直したプレセアが前を見ると、無数の石ころが宙に浮いていた。 薫による物体操作である。 念動力によって浮いた石々が、羽虫のように空中で蠢いている。 警戒を強めるプレセアは、ふと、石の軍隊を挟んで苦しそうな顔の薫を見た。 「ハァッ……ゼェッ……」 好き勝手に暴れていた薫も、流石に体力が尽きてきたようだ。 それはつまり、薫も賭けに出たということ。 「……これで、決着しそうですね」 「ああ……。あたしの勝ちでなぁっ!」 薫の敵意を全身で受け止めながら、プレセアはハンマーを持つ腕に規格外の力を篭めた。 EXスキルのひとつ、――マイトチャージ。 プレセアが力を込めている間にも、撃ち出されるのを待つだけの石群は次々と増えてゆく。 幾多もの石の弾丸がプレセアに狙いをつけ、女王の命令を待ち焦がれた。 石を従えた女王と、鉄を携えた戦士が対峙する。長かった戦いにも、遂に終焉が迫る。 始まりの合図は、薫の号令。 「行けぇ石どもっ! サイキック・ショットガン!」 薫の命令によって無数の石が銃弾となり、プレセアに向けて突撃する。 津波のように打ち寄せる、数多の石弾。 「――はあぁっ!」 プレセアは、その銃弾の雨に突っ込んだ。 石礫がプレセアの腕を、腹を、脚を、貫き撃ち抜き食い破る。 それでもプレセアは止まらない。 グラーフアイゼンで頭だけを防御し、顔面から飛び込むような形で石の雨を突き抜けた。 プレセアがとったのは力づくの作戦。本当に何の芸もないただの突進。 石の槍衾を突破したとき、プレセアの身体はボロボロになっていた。 肉は削れ、血は噴出し、無事な場所などひとつもない。 だが、生きている。 「マジ……かよ!?」 プレセアが顔を上げると、驚きの表情を形作っている薫の顔が間近にあった。 『肉を切らせて骨を断つ』を地でいく無茶苦茶な攻撃は、確かに成功したのだ。 「……終わりです」 プレセアは呟くと、グラーフアイゼンを振り被った。 「ちぃっ」 振り被られた鉄槌を見た薫が慌てて見えない壁を張る。 それに構わず、プレセアはグラーフアイゼンを振り下ろした。――地面へと。 「は?」 呆けた声を出す薫の足元で、土が抉れて飛び散った。 空振り。 薫の代わりに地面を穿ってしまったプレセアは――しかし、鉄槌を振り上げなかった。 グラーフアイゼンは地面に突き刺さったままである。 これは“空振りではあっても失敗ではないのだから”。 「――塵と化しなさい!」 瞬間、地面が爆ぜた。 グラーフアイゼンが突き刺さった場所を中点として大爆発が巻き起こる。 「奥義、烈破焔焦撃!」 爆炎は地面を焼き、空気を焙り、そして明石薫を吹き飛ばした。 念動力のバリアも、真下からの爆発に対しては無力である。 吹っ飛ばされた薫は空高く放り投げられると、茂みの奥へと堕ちてゆく。 悲鳴すら上げることなく、バベルの誇るレベル7の超能力者、ザ・チルドレンはプレセアの視界から消え失せた。 「敵、殲滅完了――」 後に残ったのは傷を負った少女と、焼け焦げた巨大なクレーターのみ。 長く続いた二人の戦いは、ここに終結した。 しかし、全ての戦いが終わったわけではない。 「早く、行かないと……」 プレセアは、勝利の余韻に浸ることもなく駆け出した。 ジーニアス達の下に向かい、援護するためだ。 けれども、体調は万全とは程遠い。 石礫を喰らった手足は傷だらけで、右肩の傷は殆ど開いてしまっている。 出血もひどく、焼け付くような痛みが身体全体を軋ませる。 プレセアは顔をしかめながらも、脚を動かすことを止めない。 激痛を抱えながら、うつろな魂は走り去った。 ――そして、静寂が訪れる。 プレセアが去った後、森は急激に静かになった。 二人の戦いによって、獣や鳥や虫といった森の生物が完全にいなくなってしまったためだ。 もはや、この周辺の森に生きているものは一つもない――。 否。 まだ、息をしているものがあった。 「うー…………」 明石薫は、生きていた。 身体中に火傷を負っており服もボロボロだったが、かろうじて呼吸をしている。 無意識のうちに作り出した力場が爆炎のダメージを和らげ、落下の衝撃を最小限に抑えたのである。 プレセアが生死確認を行わなかったことも大きかった。九死に一生を得るとはまさにこのことだ。 茂みに埋まっている薫は、苦しげに顔を歪めている。――ふと、その茂みに異変が生じた。 呻き声を上げる薫の周りで、一人でに石ころが持ち上がったのだ。 念動力による物体操作。 しかし、薫は意識など取り戻していない。 「あ゛ー…………」 薫が再び呻き声を上げ、それに呼応するように石ころが旋回した。 異変はそれだけではない。薫が何か動作をするたびに、周囲の物が空を飛ぶ。 石に葉、土に枝。遂には倒木までもが飛行し出す。 あらゆるものがグチャグチャに飛び回る中、薫がむくりと起き上がった。 しかし、白目で頭をカクカク動かしている姿は、普段の薫からは想像もつかない。 当然だ。薫は今、自分の意志で動いていないのだから。 薫の脳は、とうの昔に限界を迎えていたのである。 「の゛ー…………」 石や木を引き連れたまま、薫がよちよちと歩き始めた。 一歩を踏み出すたびに周りの倒木が持ち上がり、薫を中心として狂ったように飛び回る。 無心の女王が物言わぬ兵隊達を引き連れ、本能のままに行軍してゆく。 ――オーバーヒート。 脳がまだ完成しきっていない子供が強力な超能力を行使し続けることにより、能力が暴走する現象。 その際、能力者は意識を失ってしまい、行動は予測不可能となる。 なお、暴走時の能力は威力がケタ違いに上がっているため、注意が必要である―― ※ ※ ※ ※ ジーニアスの目の前で、黒焦げになった何かがゴミのように転がった。 数秒前までイキモノだったそれは、もはやただの黒い塊にしか見えない。 イリヤの放った火炎弾が、ジーニアス達を守っていたウツドンを焼き殺したのだ。 「あ、あああぁぁ」 陽炎の中、ジーニアスは思わず膝を突きそうになる。 今まで共に戦ってくれたウツドンが死んだことが悲しく、悔しい。 だがそれ以上に、現状のあまりのどうしようもなさに目眩がしてくる。 すぐ前には、敵に押さえ込まれていて動けないアルルゥ。 ウツドンを焼き殺した炎の先には、無傷で立ちはだかる3人の魔術師。 どう考えてもジーニアス一人では攻略不可能な壁だ。 どれだけ強力な晶術を使っても、悪足掻きにしかならないだろう。 (――って、ダメだ! ここでボクが諦めたら、全てが終わる!) ジーニアスは諦めかけた自分に活を入れ、折れかけた心を修正する。 どれだけ絶望的な状況に陥っても希望を捨てることだけはできない。 精神を奮い立たせたジーニアスは、汗でベタベタになった手の中のカードを見た。 それは、アルルゥが落とした『駆』のカード。アルルゥを抱えた時に抜け目なく回収していたのだ。 (……やるしか、ない) カードを見つめたジーニアスは、心の中で呟く。 意は決した。後はただ、進むのみ。 ジーニアスはカードに魔力を込めた。敵の魔術師やアルルゥを見て使い方はわかっている。 青髪の魔術師は、カードに全神経を集中させた。裂帛の気合とともに。 (ドワーフの誓い第16番、『成せばなる』!) ジーニアスの身体を風が包み込み、『駆』のカードが発動する。 『駆』は、短距離勝負で無敵のスピードを誇る獣。使用者に最速の足を与えるカードである。 クロウカードの力によって俊足を得たジーニアスは、力強く地を蹴り飛ばす。 ――そして敵に背中を見せ、一目散に逃げ出した。 「ッ! 仲間を見捨てるの!?」 背後から、驚いたようなさくらの叫び声が追って来る。 アルルゥを完全に見捨てたのだ。当然の反応だろう。 それに対して、ジーニアスは吐き捨てるように応えた。 「ボクはまだ死ねないんだよ!」 その答えを聞いた少女達は、 「このッ……そこまで外道だとは思いませんでしたわ!」 ベルフラウは怒り、 「ウソ、本当に、逃げちゃうの……?」 梨々は戸惑い、 「ひどいよ!」『一緒に戦ってきた仲間じゃなかったんですか!?』 さくらとリインは悲しみ、 「やっと本性を表したわね! ほら、私の言った通りじゃない!」 イリヤは歓声を上げ、 「…………」 アルルゥは無言を通した。 それら一切合切を無視して、ジーニアスは背後の森に飛び込んだ。 と、すぐに倒木に足を取られ、無様に転倒してしまう。 「あはははははっ!」 『Chain Bind』 姿勢を崩したジーニアスを見て、嘲笑と共にイリヤが拘束魔法を放つ。 二本の魔力の鎖がジーニアスに襲い掛かる。 「……『駆』!」 が、ジーニアスは前転して姿勢を正し、再び『駆』を使用した。 転んだにも関わらず、流れるような動きで加速したジーニアスを捉え損ね、魔力の鎖が地面を貫く。 鎖を回避して走り出したジーニアスは、またも途中で腕を木にぶつけた。 バランスを崩し速度を落としたジーニアスが、ふらふらと森の中へと消えてゆく。 「ッこの! 逃がさないわよ!」 確実に狩れると思った獲物に攻撃を避けられたイリヤはムキになった。 S2Uを中段に構え、逃げる獲物を追い詰めるべく追跡を開始する。 「イリヤちゃん、一人で行っちゃダメ!」 「全く、さっきのことをもう忘れたのかしら!? しかたないですわね……梨々、その子は任せましたわ! あと、亜人のあなた! あんな下衆に見捨てられたからって気にする必要はありませんわよ!」 「う、うん。わかった!」 「…………」 ジーニアスを追って飛び出したイリヤの後に、さくらとベルフラウが続く。 梨々はアルルゥを押さえる役目があるため、一人でお留守番だ。 茂みが掻き分けられ、3人の人間が森へと消える。 4人が入っていった森からは、すぐに魔法による轟音が聞こえてきた。 戦争は、どちらかが全滅するまで終わらない。それが摂理だとでも言うように、子供達は戦い続ける。 だが、その戦闘から一時的に離脱できた幸運な者もいる。取り残された梨々とアルルゥだ。 「さくらちゃん、気をつけてね……。多分、警戒すべき人はあの男の子だけじゃないはずだから……」 イリヤとベルフラウを危険だと疑う梨々はさくらを心配し、 「うー……」 梨々に押さえつけられているアルルゥは、ジーニアスが消えた森をずっと睨みつけていた。 ※ ※ ※ ※ 「こ……のっ!」 『Accel Shooter』 殺意を孕んだイリヤの魔法が放たれる。何発もの光弾が獲物を食らおうと空を駆けた。 しかし、アクセルシューターが狙った場所に辿り着いたときには、獲物は既に消えていた。 弱弱しい背中を見せながら逃げるジーニアスは攻撃が当たる瞬間だけ『駆』を使用し、危なげながらもイリヤの魔法を避け続けている。 その度にイリヤは悔しそうに唇を噛み締め、S2Uを強く握り込む。 ジーニアスはふらつきながらも要所要所で『駆』を使い、なかなか狩られてくれない。 あと、少しなのだ。だが、その『あと少し』が、遠い。 イリヤは再びS2Uを構え、逃げるジーニアスを追おうとした。 直後、背後から『仲間』の声がかけられる。 「イリヤ、待ちなさい! 一人で先行してはいけないとあれほど言ったでしょう!」 追いついてきたベルフラウである。 その言葉に対して、イリヤも負けじと言い返す。 「だって、あと少しで捕まえられるのよ? もたもたして逃がしたら、また人殺しをするに違いないわ!」 「こちらの消費も考えなさい! あなただって、魔力が残り少ないのではなくて?」 「……ッ!」 ベルフラウの言葉に、イリヤは反論できなかった。 魔力が残り少ないのは確かだ。 魔術回路“そのもの”であるイリヤでも、度重なる戦いによってかなりの魔力を消費していた。 凶戦士の英霊すら軽く使役できるほどの魔力量を持つイリヤにも限界はある。 疲労もひどく、気を抜くと倒れてしまいそうだ。 だが、それでも。 (あと一人……あと一人殺せば回復できる) あと一人なのだ。ジーニアスさえ殺せれば、『ご褒美』で体力を回復できる。 アルルゥを殺してもご褒美は貰えるが、さくら達にバレないよう殺すのは骨が折れる。 『仲間』もまだまだ利用できそうであり、ここで切り捨てるのは得策とは思えなかった。 ならば、衰弱しているジーニアスを狩るのが一番効率的である。 皮算用を始めたイリヤの前で、ジーニアスがまた転倒した。 10メートルほど先の地面で、今にも死にそうな魔術師がふらふらと起き上がる。 それを見たイリヤの心に、焦りと後悔の感情が浮かび上がった。 こうして話している間に追いかけていれば、トドメが刺せたのではないだろうか? あれだけ弱った敵なら、流石に自分一人でも倒せるのではないか? イリヤは、決めた。 「もういい! 私一人でやるもん!」 「イリヤッ!」 ベルフラウの叫びを無視し、イリヤはジーニアスに向けて突進する。 それを見たジーニアスはすぐさま『駆』を使い、森の奥へと飛び込んだ。 それを追ったイリヤも森に消え、2人の姿はすぐにベルフラウの視界から消えた。 「このっ……もう知りませんわ!」 イリヤに拒絶されたベルフラウは頬を膨らますとそっぽを向く。 その後ろから、足音が近付いてきた。 少し遅れてしまっていたさくらが、ようやく追いついたのだ。 「はあっ、はあっ、ベルちゃん、イリヤちゃんは!?」 「勝手に先に行きましたわ。あんな子、どうにでもなればいいんです」 怒りを顕にしたベルフラウが冷たい言葉を吐く。 元々イリヤにいい感情を持っていなかったこともあって、ベルフラウは本当にイリヤのことなどどうでもいいと思っていた。 さくらは、そんなベルフラウを悲しそうに見た後、リインに尋ねる。 「リインちゃん。エリアサーチ、まだ使える?」 『は、はいです。使えますけど、でも、さくらちゃんの魔力が……』 「さくら、なぜそこまでしますの!? イリヤは私達の言葉を無視して行動しているんですのよ!」 あくまでイリヤを助けることに拘るさくらを見て、ベルフラウが昂ぶった。 さくらだって魔力を消費している。魔法の並列使用を行ったため、むしろ3人の中で最も消費しているかもしれない。 イリヤは、ここの島で始めて出会った、数時間しか一緒に過ごしていない相手だ。 勝手に突っ走って敵を捕まえようと――いや、むしろ殺そうとしている危険な少女。 普通に考えれば、さくらが身を削って助ける必要などないはず。 それでもさくらは言った。 「でも、見捨てることなんてできないよ。仲間なんだもん」 ベルフラウは声を詰まらせた。 さくらは、本当にイリヤのことを思いやっていた。 いや、イリヤだけではないだろう。さくらは、合って間もないはずの梨々も、ベルフラウも、敵でさえも思いやっている。 それが、木之本さくらという少女。 周りの誰かが傷ついたり、悲しんだりするのが見たくなくて。 その為に頑張って、苦しんで、傷ついて。 それでも、笑い続ける人間。まるで、あの先生のような―― ベルフラウは、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。 そして叫ぶ。とても不機嫌そうに。 「ああもう! 何で私の周りには死ぬほど馬鹿なお人好しばかり集まるのかしら! ……わかりましたわ。行けばいいんでしょう、行けば!」 「ベ、ベルちゃん?」 「魔力切れの魔術師一人行かせるわけにはいかないわ」 「それは……」 「それに、今のあなた一人では碌に援護も出来ないのではなくて?」 「……うん。ありがとう、ベルちゃん」 「……それは偽名なの」 「ほえ!?」 「ベルフラウ。私の名前は、ベルフラウ=マルティーニですわ」 「あ、う、えっと……。ありがとう、ベルフラウちゃん」 「うん。わかればよろしい」 急な名前変更宣言に慌てるさくらを見て、ベルフラウは笑った。 それは、この島に着てから始めて浮かべた、無敵の笑顔。 その笑顔を見たさくらは、戸惑いながらもおずおずと笑みを返す。 「止めよう。あの男の子を、イリヤちゃんを、戦いを。大丈夫……私達なら、絶対大丈夫だよ」 「ええ。こんな馬鹿らしい戦いは、さっさと終わりにしてしまいましょう」 『はい、リインも頑張るです!』 頷き合った三人は、イリヤを追って駆け出した。 その途中で、ふとベルフラウは考える。 ――それにしてもあのジーニアスって少年、動きが何か変でしたわね。 まるで、攻撃範囲ギリギリに陣取って敵をおびき出す『誘い込み』をしているような―― ※ ※ ※ ※ 「よかった……。ちゃんと、付いて来てる」 ジーニアスは、泥で汚れた口元を拭いながら呟く。 後ろを盗み見ると、遠く離れた木々の隙間にイリヤがいるのがわかった。 それを確認したジーニアスは“わざと”木の根に蹴躓き、できるだけ無様に見えるように転んだ。 ジーニアスの転倒を見たイリヤは速度を上げ、トドメを刺そうと一気に接近する。 地面に這い蹲っていたジーニアスはすぐに起き上がり、再び『駆』を使って逃げ出した。 不恰好に。ただ、不恰好に。 (これで、十分アルルゥから引き離せたかな) イリヤさえ傍にいなければアルルゥが殺されることはない――。それが、ジーニアスの考えだった。 イリヤは自分達に問答無用で襲い掛かり、翠星石を殺した殺人鬼だ。 機会があれば何の躊躇もなくアルルゥを殺すだろう。 だが、他の少女達はどうだろうか? イリヤに騙されている、他の少女達はどうだろうか? イリヤが自分を殺そうとしたときにイリヤを非難した、魔術師の女の子はアルルゥを殺すだろうか? ウツドンが殺されたときに思わず目を伏せていた、コレットに似た女の子はどうだろうか? 敵であるはずのアルルゥに励ましの言葉を送った、高飛車な女の子は? 多分、大丈夫だろう。 あれだけ優しい少女達なら、間違ってもアルルゥを殺したりはしないはずだ。 (それに、裏切りに対してあれだけ怒る人に、悪い人はいないはずだしね) ゼロスの裏切りに怒り、悲しみ、悔やみ抜いたロイドのように。 ならば、残る問題はイリヤだけ。 イリヤさえ自分が引き付ければ、アルルゥの安全は保障される。 (それなら、僕のプライドなんて安いもんだ。喜んで悪役になってやる!) つまり、ジーニアスは“わざと”無様に逃げるフリをし、イリヤを引き付けていたのだ。 ただ、アルルゥからイリヤを引き離すためだけに。 現在、事はジーニアスの思惑通りに進んでいる。 このままいけば――いずれ自分は追い詰められるだろう。 残る魔力は少なく、イリヤの気を引くための演技で身体は傷だらけだ。 (ごめん、プレセア。アルルゥのことは任せた。それとごめん、ベッキー。約束、守れそうにないや。でも、それでも――) ジーニアスは、小さく吼える。 「翠星石の仇だけは、絶対取るから……!」 牙を隠した獲物と狩人の追走劇も既に終盤。 ジーニアスが『駆』を使い、イリヤが追撃をかけるというループが終わろうとしている。 ちょうどその時、どこか遠くで爆発音が響いた。 ※ ※ ※ ※ 城の前にある森は、見るも憚られる惨状を呈していた。 多くの木が薙ぎ倒され、あちこちで火が上がり、爆発まで起こっている。 その上空に、浮かぶ影が一つ。 「あら、なかなか楽しそうなことをしているわね」 永遠に赤い幼き月。幻想郷のヴラド・ツェペシュ。紅い悪魔。 レミリア・スカーレットは、その黒翼を大きく揺らす。 レミリアは戦場と化した森を見下ろすと、小さな唇の端を吊り上げた。 「さて、どこから蹴散らそうかしら?」 悪魔が乱入し、舞台はますます混迷を極め始めた。 運命の針が狂い出す。 想いは全て空回り。 デウス・エクス・マキナなど顕れない。 カーテンフォールには未だ遠く。 少年少女は踊り続ける。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【追う魔術師と追われる魔術師】 【ジーニアス・セイジ@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、全身に擦り傷 [服装]:普段着、足は快速シューズ。 [装備]:ネギの杖@魔法先生ネギま!、快速シューズ、クロウカード『駆』 [道具]:ナマコ型寝袋、支給品一式、木村先生の水着@あずまんが大王、モンスターボール(空)@ポケットモンスター 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り(快速シューズ))@ドラえもん [思考]:負けてたまるかぁっ! 第一行動方針:アルルゥがいる場所から十分イリヤを引き離したら、相討ち覚悟でイリヤに特攻する。 第二行動方針:プレセアなら薫を倒せると信頼しているが、やっぱり心配。できればアルルゥのことを任せたい。 第三行動方針:もし生き残れたら、後で改めて湖底都市を探索する。 基本行動方針:主催者の打倒 参加時期:ヘイムダール壊滅後。ちなみにあえてクラトスルート。 [備考]: ジーニアスは、薫がゲイボルグを投げた人物なのでは、と疑っています。 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】 [状態] 魔力消費(大)、疲労(大)、全身に切り傷(応急手当済み、命に別状はない) [装備] S2U@魔法少女リリカルなのは、凛のペンダント@Fate/stay night [道具] 支給品一式 [思考] ひとりで殺れるもん! 第一行動方針:ジーニアスを殺す。できればさくら達に殺害現場は見せたくない。 第二行動方針:できるだけ悪評を流せる者を少なくしてこの状況を抜けたい。 第三行動方針:とにかく生き残りたい。 基本行動方針:優勝して、自分の寿命を延ばす。 ※セイバールートの半年後から参戦。 ※イリヤのついた嘘の内容 翠星石を殺したのはジーニアス レンを殺したのは正体不明の魔術師 はやてには会っていない ※桜と梨々の知り合いの情報を聞いている。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【イリヤの援護に向かう二人】 【木之本桜@カードキャプターさくら】 [状態]:血塗れ、左腕に矢傷(処置済)、魔力消費(大) 、疲労(大) [装備]:パワフルグラブ@ゼルダの伝説、クロウカード『水』『風』 リインフォースII(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA's [道具]:基本支給品 [服装]:梨々の普段着 [思考]:大丈夫。きっと、止められる! 第一行動方針:誰も殺さずにこの状況を収めたい。当面の目標はイリヤの援護とジーニアスの捕獲。 第二行動方針:リインのエリアサーチを定期的に使いながら移動し、友達を探す。 第三行動方針:他にも協力してくれそうな人を探す。 基本行動方針:襲われたら撃退する(不殺?) [リインフォースIIの思考] リイン、がんばるです! ※永沢、レックス、ジーニアスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている。 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、精神的疲労(まだ完全ではない)、墜落による軽い打撲傷 [服装]:『ザ・チルドレン』の制服姿(野上葵の物) [装備]:クロウカード『火』『地』 [道具]:支給品一式、湿ったままの普段着 [思考]:あの少年……まさか! 第一行動方針:ジーニアスを捕獲する。イリヤは気に入らないが、さくらが行くようなので一緒にイリヤを援護する。 第二行動方針:召喚術師と交渉し仲間になってもらいたい。リインと八神はやてに期待。 出来ればメイトルパの少女(アルルゥ)とも交渉したい。 ジーニアスに裏切られたところを見たため、アルルゥにはやや同情的。 第三行動方針:みかの安否が心配。早く戻って合流したいが危険には巻き込みたくない。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して脱出・対主催の策を練る。 基本行動方針:先生のもとに帰りたい。 [備考]: ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。 (実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました)。 余計な危険を少しでも避けるため、ベルとだけ名乗っています……が、勢いでさくらに名乗ってしまいました。ダメダメです。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【捕らえる怪盗と捕らわれた獣使い】 【梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル】 [状態]:右腕骨折及び電撃のダメージが僅かに有り(処置済) 。 イリヤとベルフラウに確信的疑念。若干精神不安定。 [装備]:白タキシード(パラシュート消費)&シルクハット@吉永さん家のガーゴイル :タマヒポ(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:支給品一式 [服装]:白タキシード&シルクハット [思考]:この子に話を聞けば何かわかるかも……。でも、また嘘を吐かれたらっ! 第一行動方針:生き残りたい。さくらだけは信じている。 第二行動方針:ベルフラウは間違いないと言っていたが、アルルゥが本当に危険人物か確かめたい(ベルフラウが嘘を吐いていると思っている。 第三行動方針:双葉かリィンちゃんの友達(はやて優先?)及び小狼を探す。 第四行動方針:殺し合いに乗ってない人と協力する。 ※永沢、レックス、イリヤ、ベルフラウを危険人物と認識。薫の事も少し疑っている。 ※ランクB~Aの召喚術のため、梨々はワイヴァーンを使えません。タマヒポは使えます。 ※桜の知り合いの情報を聞いている。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、背中に大きな裂傷、頭にたんこぶ、梨々に捕獲されている [装備]:なし [道具]:基本支給品(食料-1)、クロウカード『泡』 [服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている) [思考]:う~(ジタバタ) 第一行動方針:なんとかサモナイト石を取り戻して脱出したい。見捨てられたため、ジーニアスに対して強い敵意と不信感。 第二行動方針:イエローや丈を捜したい。放送前には城に戻る。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【仲間の救援に向かう戦士】 【プレセア・コンパティール@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:体力消耗(大)、中度の貧血、右肩に重度の裂傷(処置済+核鉄で、なんとか戦闘可能なまでに回復していたが、再び傷が開きかけている) ツインテール右側喪失、思いきりハサミにトラウマ的恐怖、全身に無数の裂傷 [装備]:グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA’s、エクスフィア@テイルズオブシンフォニア [道具]:カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA’s、支給品一式(生乾き、食料-1) [服装]:冒険時の戦闘衣装(ピンク色のワンピース、生乾き) [思考]:二人とも、どうか無事で……! 第一行動方針:ジーニアスとアルルゥを援護する。イリヤには容赦無し。 第二行動方針:放送前には城に帰還して、レミリアと合流。 基本行動方針:ジーニアスとアルルゥが生きている間はゲームに乗らない。レミリアの捜し人を捜す。 [グラーフアイゼンの思考]:話しかける隙がない……。 ※プレセアはアリシアの死を知った以降から参戦。 ※グラーフアイゼンはこの状況を警戒しています。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【チルドレン暴走中】 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:暴走状態。全身打撲及び火傷。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [服装]:バベルの制服(焼け焦げてボロボロ) [思考]:の゛ー………… 基本行動方針:無差別攻撃。 [備考]:脳がオーバーヒートを起こしたため、暴走状態に陥りました。 周囲の物を手当たり次第に念動力でぶん回し、突発的に大爆発や地割れなどを引き起こします。 一定時間経つとぶっ倒れて元に戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません。 【E-4~F-4のどこか/空中/1日目/夕方】 【悪魔襲来】 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:魔力消費(中) [装備]:飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心、シルバースキンAT(ブラボーサイズ)@武装錬金 [道具]:支給品一式(食料-1)、思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート「甘」) [服装]:シルバースキンAT(シルバースキンの下は全裸、服は洗って干している) [思考]:ちょっとだけ、私の時間を使ってあげるわ。 第一行動方針:とりあえずプレセア・アルルゥと合流。 または、そこらへんのやつを捕まえてフラン・レイジングハートなる人物・喋る杖の事を聞き出す。 第二行動方針:フランを知っている瞬間移動娘、及びフランをプレセア達に探させる。 第三行動方針:服が乾き、なおかつ時間があり、更に気が乗っていたら爆薬で加速の実験をする。 基本行動方針:フランを捜す。ジェダは気にくわない。少しは慎重に、しかし大胆に。 ※フランドールに関する情報、 『紙の束』『赤い宝石』『レイジングハートと遊ぶ』『喋る杖』『貴女自身の魔法、スペルカードを使ってください』『仮面の女』 を手に入れました。 【F-4/橋/1日目/夕方】 【戦場に向かう二人】 【レベッカ宮本@ぱにぽに】 [状態]:背中に裂傷(応急処置済)、疲労(中) [服装]:普段通りの服と白衣姿 [装備]:木刀@銀魂、魔導ボード@魔法陣グルグル、救急箱(プレセアの治療に使われたもの) [道具]:支給品二式、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス [思考]:ジーニアス、死ぬなよー! 第一行動方針:ジーニアス達の援護に向かう。 第ニ行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、ぶっ飛ばす。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する 基本行動方針:主催者の打倒。 参加時期:小学校事件が終わった後 【福富しんべヱ@落第忍者乱太郎】 [状態]:体のあちこちに軽い傷、疲労(大)、びしょぬれ。 [装備]:なし [道具]:ヒラリマント(チョンマゲに纏わりつくように引っかかっている) [思考]:ま、まってよう! [備考]:凶暴化は一旦治った後、何かのきっかけでフラッシュバックのように再発した例も報告されています。 体力消費が激しいため、いつ気絶してもおかしくない状態です。 【ウツドン 死亡】 ≪140 Firing line/火蓋 時系列順に読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪142 原点 投下順に読む 144 三宮紫穂の憂鬱(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ジーニアスの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 プレセアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 アルルゥの登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 イリヤの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 梨々の登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 桜の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 明石薫の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベルフラウの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 レミリアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 しんべヱの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベッキーの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫
https://w.atwiki.jp/touhourowa/pages/336.html
Spell card rule/命名決闘法 ◆TDCMnlpzcc 「それでは、こちらから行きますよ!!」 東風谷早苗は叫び、右手を高く上げた。小野塚小町は少し離れたところから、早苗の手を見つめる。 「奇跡「白昼の客星」」 宣言と同時に、その手から青色の弾とレーザーが放たれた。対する小町は足に力を入れた。 夜の人里、その屋根の上で二つの人影が踊っている。 普段なら自由に空を飛びまわり、速さと華麗さを競う弾幕ごっこだが、制限のかかった現状、二人は滅多に飛ぶことはなく、ほとんど平面での弾幕ごっこを余儀なくされていた。 それでも、弾幕ごっこをするには十分だ。民家、寺小屋、木、使える物は何でも使い、弾幕を張り、避ける。 大小二つの弾とレーザーを屋根から屋根へと飛び移り、小町はかわした。 顔のすぐ横を抜けたレーザーが、通りの軒にぶつかり、軽い音を立てて消滅する。 見た目は派手だが、威力は普段より控えめ、この殺し合いの空間で、幾度も見た弾幕とは比べ物にならないくらい平和な攻撃。 でも、それが本来の日常だったはずだ。今でこそ違和感を覚える平和な争いも、もともとはいつものやり取り。 たった一日で変わってしまった周囲の常識に驚きながら、小町は腕に力を集中させた。 「さて、反撃をしないとね」 死神の手元で弾が作られ、勢いよく放たれる。 こちらも、いつもとおなじ、人間に当たってもケガをしない程度に抑えた緩い弾幕だ。 相手への配慮と同時に、妖力の減りも抑えてくれる、一石二鳥な弾幕。青と白の奔流の中、目標に当たったかは分からない。確かめる暇もない。 次の弾とレーザーが小町を貫こうと、舌を伸ばす。 また、小町は高く飛び、別の屋根へと飛び移る。カリカリと音を立て、弾をかすめた服の裾が、はじけ飛ぶ。 応戦して、再び攻撃を仕掛ける。弾きだした攻撃は、また、弾幕の海へと潜っていく。 「どっちも派手だなあ」 少し離れた通りの中央、どちらの動向もよく見えるその場所で、フランドール・スカーレットが二人の荷物を守りつつ、見守っていた。 どちらが勝っているかはよく分からない。流れ弾を手で弾きながら、フランドールは目を細めて、戦いの行方を探る。 小町が屈んだ瞬間、その上を弾幕が通過した。一瞬できた余裕を使い、遠くにいる吸血鬼を見て、目を細める。 たとえば、だ。もしもあの吸血鬼が裏切り、銃を向けてきたらどうなる。 彼女の手元にはここにいる二人を殺しても余るだけの武器がある。弾幕ごっこに興じる二人など、格好の的だろう。 もし、自分なら、撃つ。躊躇はするかもしれないけれど、撃つ。 ついさっき、早苗たちに牙を向こうとしていた自分が、本当にこんなことをしていていいのかと、ふと疑問が頭に浮かぶ。 こんなことをしている間にも、時間は過ぎていく。八雲紫についていくのか、いかないのか、選択するとすれば今しかない。 弾幕をよけるふりをしてフランドールに近づき、銃を奪えば、後は丸腰の二人を撃つだけだ。 「開海「海が割れる日」」 早苗が新たなスペルカードを宣言し、先ほどとは別のパターンで、弾幕が押し寄せる。 包むように現れたレーザーを紙一重でよけながら、小町は遠くをうかがう。 視線の先には、眼を見開き、こちらを睨みつける早苗の姿があった。 見たくない。そんな恨みがましい顔など見たくない。 自分は、幻想郷のためという理由をつけて、たくさんの妖怪を屠ってきたのに、まるで今そのおこがましさ、非道さに気付いたかのように体が震える。 あたいを責めるな。あたいは正しいと思って、全体のために頑張ってきた。 八雲紫と出会い、その周りの面子と触れ合ったせいか? 映姫様と出会い、その死を見てしまったためか? 生じた迷い。それにメスを入れるように、早苗は小町を睨み続ける。 空虚な怒りが、切り開かれた心の隙間から小町に流れ込む。 腕をかすめるように赤い弾が連なって通り過ぎた。小町は慌てて後ろへ飛びのく。 続けて襲ってくる弾幕をうまく切り返すのは難しい。気付けば小町はレーザーの海に押し付けられていた。生ぬるい熱が背中に伝わる。 「まずい、みたいだねぇ」 ボムを使うしかないか?眉をしかめて、懐に手を入れる。 突如、ピタリと弾とレーザーの嵐が止んだ。タイムオーバーか?いや、それには早い。 気付かないうちに、地道な攻撃が効いていたらしい。 元通りの暗さを取り戻した民家の屋根で、早苗が手持ち無沙汰に空を見上げていた。挑発するかのように、その力の抜けた手が揺れる。 「なら、次はあたいの番だね」 気分を高揚させるため、わざと大声で叫ぶ。 小町は手元のカードを見て、うなずいた。 「死歌「八重霧の渡し」」 宣言とともに、手元から金銀の弾幕が生成される。 今日は銭の持ち合わせがないため、不完全なものとなっているが、今の自分はそのくらいの方がいい。 こちらに寄ろうとする早苗をレーザーでけん制しつつ、弾幕で薙ぎ払う。 避けにくいだろうに、早苗は地面、屋根と飛び移り、的確にかわしてゆく。センスのある子だと、小町は素直に感心した。 反撃のショットに顔をゆがませつつ、弾幕の威力を調整する。 「小町さん」 弾のカーテンの向こう、思っていたよりも近い位置から早苗の声が響いた。 小町は無視して、弾幕に集中する。 「どうしてあなたが皆を、諏訪子様を殺したのかは聞きません」 「・・・!?」 声と同時に、カーテンを突き破って、早苗が小町の前に姿を見せた。 手を伸ばせば届きそうな距離に現れた早苗に、驚き、弾幕が乱れる。慌ててレーザーで迎撃すると、その姿は再び掻き消える。 「でも、あなたがこれからどうすべきなのかは、問わせてもらいます」 タイムオーバーだ。 「古雨「黄泉中有の旅の雨」」 次のスペルカードを宣言して、目を細める。開いた隙間から、遠くで飛び跳ねる早苗の姿が見えた。 撃ちだされた弾幕が、早苗の足元を打ち据え、瓦を打ち壊す。 苛立ちで、威力の調整がおろそかになっていたことに気付き、小町は急いで、雑念を払う。 「小町さん!!聞いてください!!」 いや、違う。無視しているのは雑念ではなく、早苗の訴える声だ。 ひたすらに、早苗の叫ぶ声が聞きたくなかった。聞いてはいけないと思った。 不快な、情に訴えてこれからの計画を滅茶苦茶にするような言葉が飛び出すと思ったから。 「あなたはいまさら引き返すのが嫌で、もう後戻りなんてできないと思って、同じ道を進みたがっているだけです。 無責任です。責任を取りたくないから、今の道を選んでいるのです!!」 もうわかっていたはずなのだ。もう手遅れだった。八雲紫は集団を作り、脱出へと手を進めている。 それ以前に、古明地さとりも集団を束ね、仲間を助けようと動いていた。 賢者を助けると嘯きつつ、その賢者の意に沿わぬことをしてきたのは誰だったか。はじめから、誰にも歓迎されなかったのだ。 たった一人だけの生き残りを目指して、行動したところで、賢者はその行為を無駄だと判断しただろう。小野塚小町の殺人の先に、未来なんてなかった。 そして、この終盤でこのような集団ができる、その時点で、自身の計画すら崩れ始めているのにも目を背けていた。 「じゃあ、どうすればいい。あたいはこれからどうすればいい!!」 本当は、小野塚小町にはもう打つ手がないのかもしれない。 あきらめるのはいやだ。あきらめたくない。その思いの結果、導き出した打開策が、優秀で重要な一人を生き残らせるという考え。 それを打ち砕かれたら、次にどう動けばいいのか分からなくなる。 本当に怖いのは、自分が何をすればいいのか分からなくなること。 ただの死神として、川渡しをしていた時は感じなかった恐怖。 「小町さん」 気付けば、小町のスペルカードは破られていた。カラカラと崩れる瓦が、小さな音色を奏でている。 「私たちと一緒に、行動しましょう」 なぜか、泣きそうな顔をして、早苗がこちらを見つめていた。 だが、よく見ればその表情は悲しみではなく辛い何かを押さえる、苦しみの表情だった。 ああ、早苗は、自分のことをまだ許していない。そして、その感情を押さえて、説得しようとしている。小町には簡単に分かった。 このような魂は、今までに何度も見てきている。何か不幸にあって亡くなった三途の川の乗客は、たいていこういう顔をしている。 何を怨めばいいのか分からず、困惑しているのだ。 一瞬生まれた“逃げ”の感情で、思わず後ろに一歩下がる。だが、その先には、あるはずの足場がなかった。 「え?」 スッ、空ぶった右足が宙に浮く。足場を失った体が宙に投げ出される。 ドサッ 「・・・・ッ!?」 大した高さで無かったのが幸いして、足で着地することに成功した。 だが、改めて立ち上がろうとして、小町は足の痛みに気付いた。無理な着地で、どこか痛めたらしい。 「大丈夫?」 戦いが終わったことに気付いたフランドールが駆け寄って、不安そうな目で見つめる。 忌々しげに首を振り、小町はもう一度足に力を込めた。 「・・・・・・ッ!!」 今度は、先ほど以上の痛みが、右足を襲い、バランスを崩して再びしりもちをつく。 気が付くと、目の前に早苗が立っていた。どこか複雑に感情が混じった視線が、無遠慮に突き刺さる。 もう、逃げられない。 「小町さん」 早苗は、静かに言った。 「私たちと一緒に、戦ってくれませんか?」 小町は何も言わず、押し黙っていた。まず、答えるべき言葉が思い浮かばなかった。 自分のこれから進む道を、選択することすら、したくなかった。 結局、正しい道を選ぶことができないことだけは理解できていたからだ。 しばらく沈黙した後、小町は顔を上げた。心配そうに見つめる吸血鬼と、こちらの発言を待ち、表情を硬くする巫女もどき。 辛気臭くていけない。自分が作った空気であることを無視して、苛立つ。 いつまでもこちらの返事を待つつもりらしい早苗にため息をつき、小町は口を開いた。 「早苗。あたいが保護しようとしている面子の中で生き残っているのは、博麗の巫女と八雲紫の二人だけだ。 もし、この二人が結託するようなら、あたいは喜んで力を貸すよ」 まあ、そんなことはないだろうけれど。吐き捨てるようにつぶやき、小町は続けた。 「もし、最後に二人のうちどちらかが生き残ったのなら、残った方に従う。 幻想郷のキーパーソンに従うあたいの方針は変わらない」 それから、と気まずそうに顔を背けて続けた。これはある意味“逃げ”の答え。選択を後回しにしたに過ぎない。 たとえそれがよくない判断であったにしろ、ここまで行動してきた小町には、急に方向転換することができなかった。 だから、判断を保留にするということは、小町にできる最大限の譲歩だった。 「今回の弾幕戦は引き分け。ただお前さんの頑張りに免じて、次に霊夢と会うまでは、皆に手を出さないことを保証する。 神に準ずる死神の言葉だ。嘘偽りはしない。もっとも、結局何もかもを後回しにしたあたいをお前さんは笑うかもしれないがね」 「そんなことはありません。ダメだったらあきらめるつもりの説得でしたし」 小町に早苗は笑いかけ、腰から機械を抜き出して見せた。 制限解除装置、確かにこれなら小町を圧倒することもできただろう。 準備のいいことだ、と頭の中で拍手する。 銃器や強力な武器にばかりに頭を回し、その“武器”のことを失念していた。 「なるほど、少し甘く見ていたようだな」 顔をしかめて、小町がため息をついた。 「霊夢さんと会うまでの安全を約束してもらっただけでも十分です。でも、ゆっくり考えてどうするのか決めてください。 きっと、小町さんと私は……仲間になれると思うからです」 「甘いねえ。もう少し非情にならないと、妖怪たちの間でやっていけないよ」 「小町さんを許したわけじゃありませんよ。だから、もし小町さんが敵になり、何かの機会で死ぬことがあっても、私は笑顔で見送れます」 凄味をきかせて睨む早苗に、小町は思わず噴き出した。 「あんたにそんな顔は似合わない。あたいは足をやっちゃったみたいだからさ。仲間の間だけでも優しくしてほしいな」 手を当てると骨は折れていないらしいことがわかる。 ただ、足首が燃えるように熱い。しばらくは歩くこともできなそうだ。 「わかった。じゃあ、魔理沙の所に運ぶから、安静にしていてね」 吸血鬼の馬鹿力のおかげか、フランドールは幾つも銃火器と一緒に小町を担ぎ上げると、本拠地に向けて歩き始めた。 はあ、変な約束しちゃったなあ。後悔後先立たず。 約束は守るつもりだが、下手な約束はすればするほど不利になる。 巫女もどきに押されて、口を開けてしまったのが運のつき。 「私に手伝えることはありますか?」 「疲れているでしょ?早苗はゆっくり着いてきて」 よく見れば後ろをついてくる早苗の息は荒れ、足にも力が入っていない。 さっきの弾幕ごっこは人間にとって少しきつすぎる運動だったのかもしれない。 ま、あたいを説得しようなんて本当に物好きな人間だねえ。 自分よりも小さな吸血鬼の背中で、小町はくすくすと笑った。 【D-4 人里 二日目・黎明】 【フランドール・スカーレット】 [状態]右掌の裂傷(治癒)、右肩に銃創(治療済み)、スターサファイアの能力取得 [装備]てゐの首飾り、機動隊の盾、白楼剣、銀のナイフ(3)、破片手榴弾(2) [道具]支給品一式 レミリアの日傘、大きな木の実 、紫の考察を記した紙 ブローニング・ハイパワーマガジン(1個) [思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。 1.スターと魔理沙と共にありたい。 2.反逆する事を決意。レミリアのことを止めようと思う。 3.スキマ妖怪の考察はあっているのかな? 【東風谷早苗】 [状態]:銃弾による打撲 それなりの疲労(ふらつく程度) [装備]:防弾チョッキ、ブローニング改(13/13)、64式小銃改(16/20)、短槍、博麗霊夢の衣服、包丁 [道具]:基本支給品×2、制限解除装置、 魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ) 諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙、紫の考察を記した紙 64式小銃弾(20*10) [思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる 1.負けません 2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる 3.紫さんの考察が気になります 【小野塚小町】 [状態]右髪留め破損、右頭部、手、肩裂傷、左手銃創(治療済み)、右足捻挫 それなりの疲労 [装備]トンプソンM1A1改(23/50) [道具]支給品一式、M1A1用ドラムマガジン×3、 銃器カスタムセット [基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度 [思考・状況] 1.紫と霊夢、生き残った方を助け、幻想郷のために尽くす 2.霊夢と再会し、話し合うまでは早苗たちに手を出さない 3.最後の手段として、主催者の褒美も利用する 180 赤より紅い夢、紅より儚い永遠 時系列順 179 眩しく光る四つの太陽(前編) 180 赤より紅い夢、紅より儚い永遠 投下順 182 流星雨のU.N.オーエン 175 A History of Violence(後編) 東風谷早苗 183 ……and they lived happily ever after.(序章) 175 A History of Violence(後編) フランドール・スカーレット 182 流星雨のU.N.オーエン 175 A History of Violence(後編) 小野塚小町 183 ……and they lived happily ever after.(序章)
https://w.atwiki.jp/giurasu/pages/1498.html
物議をかもしたMH4Gの看板モンスターである飛竜種にして11体目の遷悠種。 解禁はZ2.3アプデ翌週の2018/4/25。 生息地は砂漠と彩の滝。 千刃竜の異名を持ち「刃鱗」と呼ばれる鋭利な鱗を纏う。 自由に空を飛び発達した両脚でキックを繰り出したり刃鱗を飛ばしたりして地上に襲い掛かる。 遷悠にあたっての主な変更点として、 一部の攻撃時に翼が赤く染まりその際にゴゴモアのようなカウンターギミックが搭載されている。 また、裂傷やられは近い効果を持つ出血やられになっており、 HR5の個体があることに伴って止血玉がHR帯でも買えるようになる。 防具はそのままレギオスシリーズ。 自動発動スキルは「見切り+5」となっており、剛撃、一閃を全部位に備え、更にガンナー防具は新スキル「空隙」のSPを備えている。 属性耐性は雷-10<氷-5<0<水<龍<火、とゴアやシャガルの防具のような極端な耐性になっていないため、 遷悠装備のコンセプトである"辿異装備を作るまでの繋ぎ"はもちろんのこと、見切りが出しにくい辿異装備(非不退装備)でも非常に有用となる。 閃転やシジルで会心100%にすることは容易なため、秘伝書効果の会心UPを切って耐性を上げることなどもできる。 武器は既存のもの+穿龍棍であり、無属性。 攻撃力がイビルジョーのものと比較すると若干低いが会心率がいずれも50%、近接武器は匠無しで斬れ味が全て埋まり空ゲージ100を持つ。 遷悠武器では空ゲージが最も長い。 ちなみにCSのセルレギオス武器には巧流スキルに類似するような特殊効果が存在していたが、MHFではオミットされている。 攻略 刃鱗と機動力を生かした多彩な攻撃を持つ。 プレビューサイトでは翼を赤く染めて空中から突進したり、 大量の地面に刺さった刃鱗が爆発したりといった攻撃が紹介されている。 破壊可能部位は頭、翼爪、脚、尻尾(切断)。 翼爪と脚は左右両方破壊しないと成立しないので要注意。 見た目ではわかりやすくなっているので壊れていないほうを狙おう。 脚は打点の高い武器だと狙いにくいので、脚を狙うならば片手剣や双剣等打点の低い武器が良い。 翼爪は破壊すると少し軟化するがHR、G級ともにそれでも硬い。 防具の強化でG級個体の頭と尻尾の部位破壊素材が要求されがちなのできっちり破壊したい。 弱点属性は雷、次いで氷が通り水と龍が僅かに、火が一部位にだけ通る。 このため複属性では風や皇鳴が有効。 Z以降(正確にはGR100~に改定された後に開発されたアマツマガツチ以降)の遷悠種同様、スリップダメージや打ち上げコンボといった強力な攻撃を持たない。 G級では発覚や怒り移行の際に超咆哮を用いるが、万一喰らってもすぐに危険な状況にはならない。 出血やられについてはCSとは違い刃鱗ではなくキックに付与されており、辿異種ティガレックスやヒュジキキに比べ圧倒的に出血やられになりにくい。 この辺りも、辿異種戦の前段階であることを強く意識しているのだろう(勿論止血玉は持っていくべし)。 耐久力はHR、G級ともにやや高めになってはいるが、当該ランクの適正装備であれば十分勝機はある(逆に言うとククボやエントラでは苦戦必至だが)。 同時期から配信されている決意シリーズの武器は、弱点である雷と麻痺の双属性、さらに辿異強化で耳栓強化を持つため非常に相性がいい。 HR5~ フィールドは砂漠でガレオスがいる。 初期位置はエリア2かつBCスタートなのですぐに接敵可能。 暑さ+出血のスリップダメージは馬鹿にならないのでしっかり対策しよう。 弱点は斬が脚>腹、尻尾、打が頭、腹>脚、弾が頭、脚>腹。 また、毒も有効。 体力はアマツマガツチとほぼ同レベル、つまりHRでは最高クラスのタフネスであるが、 厄介な攻撃が殆どないこともあって面倒というほどでもない。 レア素材は反逆鱗。 本体と尻尾の剥ぎ取り、頭の部位破壊報酬、捕獲報酬、落とし物のほか、 G級でもクエスト基本報酬、捕獲報酬、落とし物で出る。 このうち一番確率が高いのはG級の捕獲報酬だが、狩衛戦の交換でも手に入る。 GR100~ フィールドは彩の滝。 初期位置はエリア4、BC→3→4と走ろう。 ガブラスやランポス、ヤオザミなどが居るが、 ガブラスについてはセルレギオスの刃鱗や超咆哮ですぐに無力化される。 砂漠に比べ狭いので位置取りに気をつけたい。 斬が脚>>頭、尻尾、打が頭>腹、脚、弾が脚>頭、腹。 耐久は★2辿異種より少し低い程度で、 毒はHRと比べてダメージ半減、耐性2倍となっているがなおも毒怪奇は有効。 属性は若干効きづらくなっているが吟味して損はない程度の水準はある。 レア素材は鏡玉で、HRでの反逆鱗同様に本体と尻尾の剥ぎ取り、頭の部位破壊報酬、捕獲報酬、落とし物で出る。 遷悠骨が出るが、新規の改G級武器はない。 モーション バックジャンプ刃鱗飛ばし 後に飛びながら放射状に刃鱗を飛ばす。 そのまま滞空し、ゆっくり前方に進んだ場合はすぐ着地、 そうでない場合は滞空からの攻撃に移る。 滞空 ドス古龍達のように滞空したまま刃鱗飛ばし、拘束など複数回攻撃を繰り出し最後にキックで着地する。 怯ませて撃墜すると落し物を落とす。 キック 当たると出血やられとなる。 素早く繰り出すもの、飛び上がってから単発のものと数回繰り出してくるものがある。 使用後は隙ができることがある。 その場刃鱗飛ばし ナルガの棘飛ばしのような飛び道具となっている。 尻尾振り 2回振る。切断前は後方に刃鱗が飛んでくる。 拘束→連続ひっかき 滞空から回り込むように突進、当たると拘束されてしまう。 HRクエの支給品にランダムボールがあるので予想していた人も多いだろう。 刃鱗爆破 地面に刃鱗を突き立てた後、着地と同時に周囲を爆発させる大技。 爆発前の刃鱗に当たると怯みダメージが発生するが、ここで焦ってコロリンしてしまうと爆発に見事に引っかかる。 爆発のタイミングはセルレギオスが着地した瞬間。 きりもみ突進 特定の攻撃のあと、翼を赤く染めながらきりもみ突進をしてくる。 その時がカウンターのチャンスであり、ゴゴモア同様攻撃を当てるだけで成立。 セルレギオスが着地に失敗し、少しの時間ダウンする。 連続で刃鱗を飛ばす攻撃の後すぐさまきりもみ突進してくるため、狙ってカウンターを行うのは少々難しい。 カウンターによるダメージは要検証だが、ダウン時間が短いので回避斬りなどで成功したらラッキー、くらいに考えた方がよさそうだ。 失敗してきりもみ突進に当たると出血やられになるので注意。 刃鱗飛ばし→きりもみ突進(G級) 片方の翼から刃鱗を飛ばした後突撃。 使用頻度は低め。 連続刃鱗飛ばし→きりもみ突進(G級) 左右の翼から刃鱗を飛ばした後突撃してくる。 刃鱗飛ばしから間髪入れず突撃してくるので刃鱗をガードor回避するとカウンターを狙うのは難しい。 回転刃鱗飛ばし→きりもみ突進(G級) その場で1回転するとともに刃鱗を飛ばし、その後ターゲットに対してきりもみ突進してくる。 密着してるともれなく吹き飛ばされるので注意。 こちらは突進まで一拍おくのでカウンターを狙い易い。
https://w.atwiki.jp/revenator/pages/181.html
「あぁ?俺のやることに文句あっか?俺はあの幽霊龍に命取られたダチ公と親の仇を取りに行きてえだけだ!」 「イラつくことばかりだけどぉ、それでもうやるしかねえ。旧支配者だぁ?んなの全部ぶっ潰してやるまでだぜ」 「春花市」に住む九条学園高等部1年、情報学科のヤンキー。白く荒立った髪が特徴。バットを良く持っている。両親を怪事件で亡くしており、父方の祖父祖母の世話になっている。スーパーのバイトをして学費を稼いでいる。 性格は荒く暴走族の集団にタイマンで勝てるほどの力を持つが流石に幽霊はだめだったよう。本当は不器用だが優しい一面を持つ。大人が大嫌いであり、特に自信の面子のために他者を傷つけ切り捨てる奴は問答無用で叩きのめす。 しかし一方で自身を理解してくれた者には忠誠心がとても強いようでハーネイトに対しても時に反論することはあれどそれは彼の体を気遣ってのことであり割と素直に従うほどである。煮え切らない態度に時折いらだつが、それは彼がハーネイトに期待を多く抱いているが故のことである。 幼い時から見えないものが見えており、須佐野という友人に奇妙なドラゴン型の幽霊がとりついたのを見てお払いに行けというが友人はゆうことを聞かなく3日後に事故に巻き込まれた。しかも事故の現場を見ており、なぜ早く助けに行けなかったのかと後悔していた。そして彼は霊という恐怖におびえていた。 それから人形使いの話を聞き、何者かが気になり仲間と共に調べていた矢先ハーネイト達と出会い、自分は今の自分を壊して、乗り越えて、強くなりたいという闘志の炎が再びよみがえる。彼はそうしてハーネイトたちの弟子となったのであった。親を殺され、友を奪われたのは力がなかったせいだ。それを乗り越えるため彼は再び巌鉄たちと共に立ち上がる。 小学生の弟と妹がおり、学費を稼ぐためにバイトをしているがハーネイトの元で探偵見習となったおかげで大量の給与をもらえるようになり何かと世話になっているが、正直彼に言わせると恩人でもあるハーネイトは嫌々戦っているのを無理やり我慢しているだけで見てられない、いつか先公ことハーネイトが戦わずに済むように強くなりてえ、そういった思いが実が一番彼を突き動かしていた。 それは、彼が初めて心底信じられる大人がハーネイトと伯爵だったからである。親を龍に殺された件も含め霊の話を信じてもらえたこと、全ての話を真剣に、決して茶化すこと無く聞いてくれた上で自身のやるべきことを導いてくれたことは彼を大きく成長させ、現霊使いとしても強力な存在になるきっかけであった。 また女体化したハーネイトにかなりドキドキしているようでもある。元々恋愛よりも喧嘩好きであったがどうも変わってきているようで素のハーネイトに対して態度が変わる時がある。 好きな物はバイク、モトクロス、機械の整備でコンピュータにも強い一面がある。これは先輩である巌鉄の影響もあるという。嫌いな物ははっきりしないこと全般とトマトなど赤系の食品。血にトラウマがあるがそれを克服しようと戦いに挑む。 セリフ + ... セリフ1 ったくよ、俺は準備できてるぜ。待たせんじゃねえぞあぁ? セリフ2 ケッ、何で面倒なことに巻き込まれなきゃなんねえんだ セリフ3 全部、俺の力で薙ぎ倒す。邪魔する奴は容赦しねえぞ! セリフ4 ククク、おもしれえなおい!強ええ相手程俺も燃えてくるぜ! セリフ5 まとめて粉みじんに砕いてやらぁ!かかって来やがれ怪物風情が セリフ6 セリフ7 セリフ8 セリフ9 セリフ10 人形使い、ハーネイト。あいつは確かに頼りねえしやべえなと思うがよ、それでも超えねえといけねえ目標だ。それに、あいつに泣き顔も憎しみの表情も似合わねえ、俺が代わりに全部……引き受けてやれるくらいに セリフ11 ったく、とんでもねえ存在がこうもいると感覚がマヒって来やがるぜ セリフ12 好きなこと 嫌いなこと 目標 龍について イベント レベルアップ スキル解放 現霊:素戔皇(スサオウ)/威叉薙(イサナギ) 黒い特攻服姿に赤いバイザーを顔につけた、鬼のようにも見える人型の具現霊。その手には七支刀に酷似した釘バットのような武器が握られている。 真現霊:威叉薙(イサナギ)は白と金の装飾が目立つ番長のようないでたちの現霊。武装も変わり天之瓊旗(あめのぬはた)という旗槍になる。三種の神器も身に着け攻防一体の姿となる。 ちなみにフラッグランスピアの開発に彩音と間城と共に携わっており、旗が変化する武器もこれの影響。 クラス適正 アタッカー シューター シールダー サーチャー アサシン サポーター 見た目と内面の差異に悩まされ、それを気にせず付き合ってくれる友達を救えなかった過去、思い出が強く現霊に反映されている。友達の分まで俺は強くなりたいという決意が無意識の力である幻霊を現霊にかえ、友達の名字から取ったスサオウになる。もう誰も失わせない、奪わせないと決意を固め、現霊を纏い決衣(けつい)として身に宿し彼は主力となる存在になっていく。 セリフ + ... セリフ1 いいぜ、俺はいつでも準備はできてる。あいつらをぶっ倒すためならどこにでも行くぜ セリフ2 俺は、大人たちを信用できねえ。保身に走り、苦しんでいる俺たちを見やしねえ。だがハーネイト、あいつは別だ セリフ3 俺らを率いる大将が、そんな調子じゃ俺たちも不安なんだよ、ああ? セリフ4 いいだろう、やってやるぜ セリフ5 セリフ6 セリフ7 セリフ8 セリフ9 セリフ10 セリフ11 セリフ12 好きなこと 嫌いなこと 目標 龍について イベント レベルアップ スキル解放 Aミッション 主にアタッカークラスとして、汚染されたマスを一気にまとめて消し飛ばしたり、中ボス、エリアボスに対して高い打撃力で攻める典型的なクラス役割を担う。 通常戦闘 単体、全体共に物理技が多く、ステータスと相まって他キャラとは違う次元の火力を見せるが、状態異常などを与える技は少ししかなく、味方への支援スキルはない。自己強化しながら殴り続ける、それが彼の戦い方だ。 ステータス Aミッション:目前マス3×2マス選択 通常攻撃:単体物理属性攻撃×2HIT Lv HP CP 力 霊 速 体 心 運 15 230 200 21 5 8 17 6 14 具現霊戦技一覧 名称 消費CP(%) 習得LV 効果 技説明 一剣破 1 - 単体に物理属性大ダメージ+恐慌 弐天縫 3 - 敵単体に2ヒットする物理+火炎属性大ダメージ 三刃鬼 5 17 全体に1体当たり3HITする物理属性大ダメージ 四壊刃 7 22「 単体に4HITする疾風+物理属性大ダメージ+眩暈・混乱・裂傷 五崩落 12 27 全体に物理属性最大級ダメージ 六衡颪 14 31 全体に疾風+暗黒属性特大ダメージ+複数バステ 七天刃 17 37 全体に一体当たり7HITする物理中ダメージ+猛毒+防御半減 八龍撃 24 45 単体に8HITする物理属性最大級ダメージ+沈黙+DOT10%(3) 九斬衝 27 50 複数体に合計9HITする物理+疾風+暗黒最大級ダメージ 十禍誓 21 50 自身のHPを10%支払い、5ターンの間攻撃・命中・会心・会心ダメージを1.5倍にする 千刃怒濤 無数の剣を召喚し撃ち込む 万閃乃一刃 無数の剣戟を放ち、それを最後に1つにまとめ横薙ぎで切り裂く 天壊乃億腕 無数の殴打を浴びせ、最後に必殺のストレート 阿僧祇ノ神刃 武霊堕威崇斬 零環虚閃斬
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/963.html
63話 焼け付く想いは憂い募らせる 放送を聞いた後も、赤髪のグラマーな女性、稲垣葉月と、 黒狼レックスは相変わらず熱い交わりを続けていた。 最初の6時間で14人の死者が出たという事実には二人も多少は動揺したが、 それだけで、禁止エリアを互いに記録した後は、今までの激しい行為の余波で すっかり空いた腹を満たすために朝食を取り、そして。 「うっ! ハヅキ……!」 「ああっ……! ん……はぁ、はぁ、はぁ、凄い……あれだけ出したのに、 まだこんなに出るんだ……」 「狼は一杯出すんだよ……知らなかった?」 「撮影で狼によく似た狼犬とかシェパードとかとならやった事あるけど、 こんなには出てなかったよ」 「撮影? ああ、ハヅキは女優さんだったんだっけ」 「女優って言っても、AVの、だけどね……あはは」 淫らな行為をしながら、他愛もない会話を交わす女と黒狼。 そして黒狼・レックスが葉月の身体に抱き付き、互いに体温を感じ合う。 「……好きだよハヅキ……愛してる……」 「私もよ、レックス……」 交わりを重ねていく内、二人の間にはいつの間にか恋愛感情が芽生えていた。 お互い――レックスは深層意識内での事だが――この殺し合いという状況下、 いつ襲われるかいつ殺されるか分からない状況下で、傍に居てくれる存在に餓えていた。 孤独に死んでいくのが嫌だったのだ。 だが今は、お互いの温もりを肌で感じ合える。 自分はもう孤独ではないのだという安心感が、いつしか別の特別な感情へと変わっていった。 もはや、葉月はレックスにとって、レックスは葉月にとって、なくてはならない存在になっていた。 行為の後始末を済ませ、衣服を着た葉月は、 レックスと共にリビングに移動し、これからの事について話し合う。 「そろそろ別の場所に移動しない?」 葉月がレックスに身を潜める場所の変更を提案する。 「ん~……別にいいけど、何でまた?」 「だってほら……この家の中、すごい、アレの臭いが、けっこう汚れちゃったし」 「ああ……確かに」 幾度も幾度も交愛を重ね、体液を床と言わず壁と言わず天井と言わず撒き散らした結果、 家の中に濃密な臭いが充満するようになってしまっていた。 レックスは気にはしていなかったようだが、葉月はその臭いを嗅ぎ続けている内、 段々と気分が悪くなり、どこか別の場所に生きたいという思いが強くなっていた。 そんな葉月の気持ちを察したのか、提案を呑んだレックスはテーブルの上に地図を広げる。 「俺達が今いるのって……」 「多分、エリアG-6だと思う」 「北に役場とかあるけど……地図に載っている施設だから人の出入り激しそうだし……。 学校とかもあるんだ。どうする?」 「うーん……ここは思い切って、役場に行ってみようか。 公共施設でプレイするのも悪くなさそうだし、それに……」 葉月は自分のデイパックから、木製銃床の突撃銃――AK-47を取り出す。 「いざという時はこれで戦うつもりだよ」 「でも、扱えるの葉月?」 「……説明書見て使い方は大体分かった、けど、拳銃も触った事ないんだよね、 実を言うと。ましてやこんなアサルトライフルなんて持った事ないし……でも、 これ、子供でも戦闘を可能にしたっていうぐらい扱い簡単らしいから、何とかなると、思うよぉ」 「語尾wwwwどこのじいさんwwwwwま、まあ、俺も一応戦えるよ。 このダマスカスソードと、爪と牙があるからね」 「でも、レックス剣扱えるの? 四足歩行なのに、基本」 「口に咥えればなんとかなるよ」 「そう……それじゃ、役場に行こう」 「分かった」 葉月とレックスはそれぞれ荷物を纏め、玄関へと向かった。 思えば外に出るのは何時間ぶりであろうか。 窓から差し込む日の光はすっかり強くなっていた。 同時刻、銀髪の学生服姿の少女、銀鏖院水晶は、エリアG-7東端付近の道路を、 とある場所に向かって歩いていた。 右手には小型の短機関銃・イングラムM10が握られている。 ある民家でシャワーを浴び、食事を取った後、行動を始めた。 向かう先は、エリアF-6にある島役場。 既に二人の参加者をその手に掛けた彼女は、次なる獲物を求め、 人が集まり易そうな場所へ向かい歩き続ける。 「あの黒狼に犯されたのは……この辺りだったっけ」 見覚えのある風景に、水晶は一旦足を止めた。 そしてとある裏路地に目を向ける。 そこは数時間前に、水晶が突然現れた黒い巨躯の雄の狼に、純潔を奪われた場所だった。 その時の思い出したくもない情景が、嫌でも水晶の脳裏に再生される。 口に獣のいきり立った――を、無理やり押し込まれしゃぶらされた。 ――の先端から溢れ出た、あの濃厚かつ生臭い、白く濁った汁の味は忘れられない。 トラウマ物の記憶が無意識の内に呼び起されるのと同時進行で、 水晶の中の黒狼に対する憎悪も強くなっていく。 「絶対、会ったら殺してやる。あの薄汚い―――をぐちゃぐちゃに踏み潰してやる!」 その瞳に底知れぬ憎しみの炎を宿らせながら、水晶は役場に向けて再び歩み始めた。 【一日目朝方/G-6市街地】 【稲垣葉月@俺オリロワリピーター組】 [状態]:肛門及び直腸裂傷(血は止まり治癒が始まっている)、 レックスに対する特殊な感情 [装備]:AK-47(30/30) [持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、AK-47のリロードマガジン(30×10) [思考]: 0:死にたくない。レックスと一緒にいる。 1:役場に向かう。 2:襲われたらどうする……? ※服を着ました。 ※レックスに対し特殊な感情が芽生え始めているようです。 【レックス@オリキャラ】 [状態]:健康、及び特殊な感情 [装備]:なし [持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、ダマスカスソード [思考]: 0:とりあえず死にたくはない。 1:ハヅキを死なせない。役場に向かう。 2:放送を待つ。 3:最悪の場合(ハヅキが死亡した場合も含む)、自害する。 ※稲垣葉月に対し特殊な感情が芽生え始めているようです。 【一日目朝方/G-7市街地】 【銀鏖院水晶@自作キャラでバトルロワイアル】 [状態]:健康、黒狼(レックス)に対する憎悪、F-6島役場へ移動中 [装備]:イングラムM10(30/30) [持物]:基本支給品一式(食糧一食分消費)、S W M19(6/6)、.357マグナム弾(21)、 イングラムM10のリロードマガジン(30×7)、マチェット、モルヒネアンプル(3)、 水と食糧(二人分) [思考]: 0:殺し合いに乗る。優勝を目指す。 1:島役場へ向かう。 2:みんな殺す。とにかく殺す。クラスメイトでも容赦しない。 3:あの黒狼(レックス)は今度会ったら絶対に殺す。 ※本編開始前からの参戦です。 ※須牙襲禅には気付いていません。 Is it hope or despair? 時系列順 曉血殺傷 Is it hope or despair? 投下順 曉血殺傷 夜明けは悪夢の終わりではない 稲垣葉月 WOLF S RAIN 夜明けは悪夢の終わりではない レックス WOLF S RAIN 奇妙なすれ違い 銀鏖院水晶 WOLF S RAIN
https://w.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/501.html
Top 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 異形世界・「異形純情浪漫譚 ハイカラみっくす!」 人と魔≒棒と傘 「やめるっつーなら、今のうちなんだが」 青年はそう言うと面倒そうに一度頭を掻き、棒を構えて見せた。 まぐれとはいえ、エリカ様を一撃で叩き伏せたところを見るにただの棒ではないようだが、 それは「邪の目」とて同じこと。いかに優秀な武器を有していても、所詮使い手が人間で あってはたかが知れている。 もちろんそんな威嚇に屈するはずも無く、露をたたえた芝生の上を静かに一歩、また一歩 と踏み寄るエリカ様。互いの間合いに入るか入らないかのところで一度足を止め、ぽつり と何か一言交わす。それをきっかけにいよいよ戦いが始まるのかと思いきや、エリカ様は 突然踵を返し、私の元へと戻ってらした。 「ふ、服着てくれって!」 言いながらそそくさと着物を抱え、慌てて袖を通し始めるエリカ様。どうやら先程の一撃 で自分が裸であることを忘れていたらしい。 私はそれと分かるように微妙な表情を作って、裸では戦えないのかと詰問してみたのだが 「むりむり」の一点張りで一向に譲る気配がない。 まあどちらにせよ青年を倒せるなら良しと着替えを手伝うも、どうも身体が強ばっている せいで上手くいかない。結局ところどころ裾をはみ出したまま一応それらしく形を成すと、 エリカ様はようやく邪の目を構え、ふたたび青年の方へと戻って行かれた。 その乱れた着こなしと私の切った髪の毛は妙に似合っているように思える。 「――お待たせしましたっ」 紅潮したエリカ様が間合いを踏み抜く。それと同時に青年が棒を抜いた。 ぶん、と風を切る音。高い金属音と白い火花が闇に散る。 打ち合された武器と武器。拮抗する力の軋みを境に、二人の顔が近寄った。 「速いわね、言うだけあるじゃない」 「そっちこそ、やっぱそのへんの奴らとは訳がちげえ……なっ!」 言葉と同時に蹴りを返す青年。しかしエリカ様もそれを見越していたのか、後ろへと跳ね 退く。武器を握り直し、構える二人。 単純な腕力だけならば恐らくは青年の方が上であろう。妖魔といえどエリカ様は馬鹿力を 有するような、そういった類の妖魔ではない。 それでも今一度の打合にて互角なところを見ると、武器においてはやはりこちらが有利か。 雨を凌ぐが如く「力を散らす」邪の目、単純な打撃だけならほぼ全てを無効にできるはず。 青年もそれに気づいてか、怪訝な視線を邪の目に向けた。 「おかしいな、本気で打ったが手応えがねえ」 「この傘は女の子用にできてるのよ」 言いながら笑顔で邪の目の先を軽く振る。と、青年はその動作を見逃さず膠着を破った。 人とは思えぬ速度で距離を詰め、気付いたときには二度目の火花が散る。 続けざま、雄叫びと共に雨のような攻撃を加えてくる青年とは対象的に、華麗にそれらを いなすエリカ様。 こと世事に疎いとはいえ、戦いに関しての身のこなしはさすが蛇の目家当主というところ。 暗いシノダ森を明滅させながら何度も何度も金属音を響かせ、やがて幾十度目にして一際 強い火花が青年の顔を照らした。 攻防の合間をぬって打ち入れていた裂傷により滲む血と汗。しかし未だ不敵な笑みは消え ていない。そのような猪まがいの攻撃を続けていて本気で勝てると思っているのだろうか。 「大分お疲れのようだけど、そろそろ諦めて私を抱いたら?」 青年は応えず唾を吐き、ただ大きく肩を上下させていたが、不意に動きを止めると覚悟を 決めたのか武器を上段に構えた。エリカ様はそれを見てから私に視線をよこし「言っても 聞かないみたい」と言いたげに肩をすくめる。 黙ってエリカ様を抱きさえすれば良いものを、なまじ力があるものだから抵抗するとは 愚か、いや哀れとしか言い様がない。 さすればその死後にでも、エリカ様の身体の中で快楽とともに果てるが良い―― 「でやああああ!」 猛々しい叫びとともに繰り出される渾身のひと振り。当然エリカ様は合わせるように邪の 目を斜めに構え、受ける。 ――と、聞きなれた金属音の中に信じられない音を拾った。 びきん、という鈍い軋み。その音が何なのか私が答えを出すよりも早く、エリカ様本人が 気づいたのだろう、攻撃を受けきらずにそのまま横へと流し、焦燥した顔を上げる。 「そんな……邪の目にヒビを入れるなんて」 「生憎こっちの武器は男の子用なんでね」 青年がにやと口元を曲げる。構え直されたその棒は不思議な青白い光を帯びていた。 こっからが本番だぜ――青年の言葉通り、再び始まった戦いは見た目先ほどと同じような ものではあるのだが、明らかにエリカ様が押されている。 嵐のような猛攻を受け、しかし受けきれずに下がる。守り一辺倒で攻撃を入れる隙もない のか、時折散る火花の中に浮かぶエリカ様の表情からも、既に余裕は消え失せていた。 「どうした、色ボケ姉ちゃん」 迫合の中、余裕を見せ始めた青年が足払いを放つ。 ほんの小技ではあったが、力で押されていたためかエリカ様は見事にそれ受けて転倒して しまった。間をおかず突き下ろされる棒をなんとか避けるも、青白い光がエリカ様の腰を 僅かに掠め、地面を穿つ。 これはどうしたことなのか、青年の持つ棒が光を帯びてから全く形勢は逆転している。 かつて幾匹もの妖魔が人の理を超えた武器によって討たれた例は少なくないが、私の豊富 な学識の中にもあのような棒の資料はなく、ただ目の前で繰り広げられる信じがたい戦局 に胸の鼓動だけが早まっていく。 接近戦は不利。エリカ様も思い至ったのだろうか、黒い翼を広げて上空へと飛び立った。 「あっ!」 しかし、地面ごと貫かれていた袴が下に残ってしまったことはエリカ様にとって予想外で あったらしく、白い足を月光にさらしながら前裾を抑えている。 なんとも情けない主の姿に溜息混じりの苦笑いを作ると、ここで初めて青年と目が合った。 そんな彼もまた同じように苦笑いを浮かべていた。 今この場では敵とはいえ、同じ感情を共有してしまうと中々憎めないものである。 「お前、あいつの使い魔だろ? こりゃあどうしたらいいんだ」 その問いかけに対し、言葉を話すことの出来ない私はなんとか身振り手振りで「そのへん に放っておいてください」といったことを伝えると、青年も頷きながら意図を汲みとって くれたらしく、汚いものでもつまむようにして袴を棒から外し、ぽいと投げ捨てた。 「ちょっと、投げることないじゃない!」 程なくして降りてきたエリカ様に対し、青年は棒を下段に構えると、そのまま地面へ突き 刺す。 「あんたじゃ俺には勝てねえ。悪いがおとなしく去ってくれ」 「あら、まだ分から――」 続きを言いかけたところで、一陣の強い風がエリカ様の衣を吹き上げる。 ひらひらと逃げようとする着物を必死に抑えながらも、淡い桃色の下着だけはエリカ様を 守る唯一の味方であるように見えた。 私と青年は再び顔を見合わせ、苦笑いを通り越した和み笑いをたたえあうより他はない。 「手加減はするが、殺しちまったらすまん」 振り返りざま、青年の口元がそう動いたように見えた。 上へ
https://w.atwiki.jp/whiteout/pages/19.html
りゅーやとあまらがたたかうの 登録タグ【戦闘 流血表現】 戦う前に傾向と対策を模索するのは、戦闘を生業とする人間にとっては基本と言えるだろう。 リュウヤもその例に漏れず、アマラ対策に何か良い手は無いかと考えていた。 もっとも。 今まさに自分を叩き潰そうとひょうたんを振り回しているアマラを目の前に、早々良いアイディアが 出るはずも無かった。 「まじで?! もうやるの?! ちょっとたんましない?!」 構えを取ったのはいいが、踏ん切りのつかないリュウヤ。 「だがことわる!!」 そんなリュウヤの意見をばっさりと一言で切り捨てるアマラ。 彼の扱いは大体いつもこんな感じだ。 (くそ! このままじゃ○される! なんとかしないと!) じりじりと詰め寄ってくるアマラ。 間合いが広い槍に対して、アマラのひょうたんは間合いが比較的狭い。 突き出すことで最大の威力を発揮する槍だが、ハンマーは振り下ろしての打撃が攻撃の中心だ。 と、なれば、何とか間合いを開けながら戦うのが基本になってくる。 改めてみると、アマラの構えはあまり世間一般で見るものではなかった。 腕の盾で上半身を守り、片手でハンマーを振るう。 アマラの怪力から察するに、余程気合を入れないと槍は盾に弾かれるだろう。 かと言って下手に踏み込むとハンマーでぺしゃんこにされる。 (意外ときちんとした構えなのか。なんて面倒くさい!) 上半身への攻撃がだめと成れば、やはり下半身狙いしかないだろう。 脚を突いて動きを止めて、首元に槍を突き付けて勝負あり。 (これだっ!) アマラのだがことわる宣言から約五秒。 なんとか作戦を立てたリュウヤは、それに合わせた構えを取った。 腰を軽く落とし、槍の切っ先を地面に向け、石突きを高く上に掲げる。 成るだけ右手と左手の柄を握る位置を広く取り、突き出すときの長さを稼ぐ。 上から下へ素早く突き下ろせるこの構えは、攻撃を目的としたものだけではない。 足元を狙うから踏み込むと危ないぞ。 そういう警告の意味もあるのだ。 攻め続けられればそれだけ怪我をする恐れが増す。 それなら、にらみ合いに成った方が幾分かまし。 そう考えたのだ。 基本的に槍を突き下げると地面に刺さって抜けなくなってえらいことになるのだが、 まあその辺は魔獣戦士の腕力で何とかなるだろう。 むしろいつアマラが突っ込んでくるかとひやひやしている方が心臓に悪い。 リュウヤの意図に気が付いたのか、じりじりと詰め寄ってきていたアマラの脚が止まる。 生きてるって素晴らしいな。 一瞬去った危機に、思わず生命の神秘を感じるリュウヤ。 もっとも、長いこと浸っているわけには行かない。 なにせ危機が去ったのは一瞬なのだ。 未だに命が危険な状態には変わりない。 もうこうなったらいっそのこと攻めに出てやる。 槍はリーチが長い分、一方的に攻撃することも可能なのだ。 「こなくそー!」 完全にやられ役っぽい掛け声。 リュウヤは石突き近くを握っていた腕だけを動かし、アマラの脚を狙って槍を突き出す。 基本的に回避を考えないのがアマラの戦闘スタイルだが、流石に脚を串刺しにされるのは不味い。 後ろに飛びのいても、リーチが長い槍が相手ではすぐに次の攻撃が来る。 それよりは、懐に飛び込んだほうがはるかに戦いやすい。 そう考え、アマラは横に飛び退き槍を回避した。 このまま一気に距離をつめようと足元を踏み固めるアマラ。 だが、その行動はリュウヤの予想通りだった。 槍を横に滑らせ、柄をアマラの脚に当てる。 イクラ力を込めたところで、この状態からではアマラの脚を払うほどの力は込められない。 狙いはこの後だ。 咄嗟に足を払うように動かされた槍に、アマラは足元を固めてそれを受け止める。 自分を転ばせるほど力は込められないと踏んで、得物を抑えつつ攻撃をするつもりなのだ。 しかし、リュウヤの狙いはそうではない。 「そいやー!」 気合の声なのか何なのかいまいち分からない掛け声と同時に、リュウヤは思い切り槍を引く。 アマラの脚に当たっていた槍がその上をすべり、槍頭がアマラの脚に迫る。 刃を当てて引けば、物は切れる。 突きが強力なだけに忘れがちだが、槍の先についているのはようはナイフのようなもの。 こういう使い方でも、十分にその威力は発揮できるのだ。 アマラのふくらはぎが裂け、血が迸る。 それでも、リュウヤの中に歓喜は訪れない。 (なんつー硬い筋肉だよ! ほとんど切れねぇ!) 本来ならば骨まで食い込むほど切り裂けるはずだったが、相手があまりにも常識外過ぎたのだ。 予想外のことがもう一つあった。 リュウヤが槍を引く動きを見せたことで、アマラがその意図に気が付いていたことだ。 脚が動かなくなれば、攻撃を当てるのは難しくなる。 とは言え、既に柄が体に密着している今の状態では攻撃を回避するのは至難。 なら、動けなくなる前に一撃入れておこう。 自分の足が切り裂かれると分かりながら、アマラは回避行動をとらず突っ込んでいったのだ。 吹き出す血をまるで気にしないかのように、むしろそれが合図だったかのように。 アマラは渾身の力を込めてひょうたんを振り下ろす。 槍を引ききった直後だったリュウヤは、すぐに回避行動に移ることが出来ない。 脚に刃を押し付ける為に横方向に力を込めていたのが災いした。 勢いで横に流れた槍頭と崩れた体勢のせいで、防御することも出来ない。 「まじでかっ?!」 思わず叫ぶリュウヤ。 「ぶっつぶすぜぇー!」 楽しげに絶叫するアマラ。 振り下ろされたひょうたんは、リュウヤの肩に直撃。 ゴキリ、と言う嫌な音が自分の体の中で響くのを、リュウヤは聞いた。 叩き込まれたひょうたんは、その重量を遺憾なく破壊力として発揮する。 重心の不安定だったリュウヤの身体は、そのまま仰向けに地面に叩き付けられた。 土煙が上がり、骨が軋みをあげる。 それでも、リュウヤの意識はまだとんではいない。 槍からリュウヤの手が離れた。 離れてしまった、のではない。 離したのだ。 槍使いであるリュウヤが得物を手放す。 これはつまり、もう一つの武器を使うと言うことだ。 すぐにひょうたんを引き上げ、後ろに飛び退くアマラ。 その腹部ぎりぎりの位置を、獣の前足のような異形のものが掠めていく。 魔獣化したリュウヤの腕だ。 一蹴りで飛ぶ距離では、すぐに起き上がってくるだろうリュウヤの攻撃に対応できない。 そのままもう一歩飛ぼうとするアマラの脚に、激痛が走った。 切り裂かれたふくらはぎに負担がかかり、血がほとばしる。 顔をしかめながらも、それでもアマラは込める力を緩めず後ろに飛ぶ。 背中の力だけ跳ね起き、リュウヤは素早く当たりに視線を走らせる。 恐らく最初のビーストクラッシュは、でたらめに振るったのだろう。 しかし、あの距離でなら、相手の大まかな位置さえ分かっていればいくらでも当てられる。 リュウヤ的には苦しくてもがき苦しむ延長線上で放った技だったのだが、それでも脅威は脅威だ。 「おもったよりもやるなぁー!」 ふくらはぎの傷をちらりと見て、楽しそうに笑うアマラ。 そんなアマラを、(なにこのひとこわい)と思いながら眺めるリュウヤ。 ずきずきと痛む胸をさすり、骨とかが折れていないことを確認する。 自分は上半身を派手に打ちつけたが、骨は逝っていない。 対してアマラは、ふくらはぎに裂傷がある。 (其処を上手く突けば、殺されないですむ!) あくまでも目標は低いリュウヤだった。
https://w.atwiki.jp/aaarowa/pages/504.html
第118話 鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(後編) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (クソッ、視界がぼやける。腕にも力が入らない。結局俺はこのまま誰一人守り抜く事すら出来ずに死んじまうのか…。 クレス悪い…。あれだけ大口叩いて別れたってのに、アーチェの仇を討つ事も、この娘を守る事も出来なかった…) 思い返せばここ最近の記憶は後悔ばかりだ。 村を守れなかった事。再会したクレス達の足手纏いにしかなれていない事。 ここに来てから起きた分校での出来事。アーチェの死。 そしてこの女の子の事。 (せめてアシュトンだけは止めないと…。俺がこの娘に持ってきちまった災いだからな…。 くそっ、俺に力があれば…。何でもいい。俺に力をくれ。この娘を守れるだけの力をっ!) そう俺は願った。神様なんていないって思っている。それでも祈らずにはいられなかった。 心の底からこの女の子を守りたいとそう思った。その思いを遂げる為強く、強く願った。 そして、その願いが何かを起こした。 先程この女の子のデイパックから転がり落ちていた水晶玉が、俺の足元で赤く眩い光を放っている。 (これは…? あの娘の荷物から出てきた…。一体なんだろう?) 俺はそれに思わず手を伸ばした。触れた途端体に何かが流れ込んで来る。 その瞬間。今まで俺の頭の中にあった微かにしかない、 雲の様に掴み所の無い断片的なイメージが、一つ、また一つと、まるで実体を持つかの様に収束していった。 そう、これは特訓の中で浮かんでいた断片的なイメージ。これを習得できればきっとクレス達の助けになれる。 そう感じ、いつも掴もうとしては霞のように消えていってしまっていたその感覚が、今俺の中に確かに一つの形を成して存在していた。 触れていた水晶玉は光を失い、透明な水晶玉に戻っている。 今の現象が俺に何か影響を及ぼしたのかわからない。 わかる事は唯一つ。俺にはまだこの娘を守れる可能性が残されているという事。 矢を構える。 この技に必要なのは送った闘気が拡散しない様に矢に定着させる事。 そして、それを幾重にも重ね合わせ、ただ一点のみを貫く為に研ぎ澄ます。 そう、どんなに強固な鱗に覆われた龍でさえ、その一撃の下に屠る。 そんな意味を込めたこの技の名前は、 「『屠龍』! ぶちぬけぇええええ!!」 解き放たれた赤き必倒の一撃。 俺の想いの全てを乗せた一筋の光がアシュトンに襲い掛かった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「フギャー!(やばいぞアシュトン! 避けろ!)」 (出来ない。体が重くて思うように動かせない。『トライエース』の反動? 違う、もう呼吸は整えられてるし、さっきまでこんなに体が重いなんて事は無かった) ふと、前を見ると女の子と目が合った。その手に持っている杖が輝きを放っている。 (あの娘の紋章術? 重力操作の?) 「ギャース!(チッ、世話の焼ける宿主だ!)」 「フギャー!(全力で行く、踏ん張れよ!)」 ギョロとウルルンが同時に巨大なブレスを真っ直ぐ向かってくる赤い闘気を纏った矢に浴びせる。 それでもチェスターの放った矢は一向に止まる気配を見せない。二人の吐く炎と氷の渦を受けながらも真っ直ぐに迫ってきている。 体は未だにあの女の子の紋章術で動かせない。だから、せめて二人の応援をしようと彼らを見上げた時、僕は自分の目を疑った。 何故かはわからないけど二人の体が透けてきているのだ。 「二人共もう止めるんだ! このままだと君達が魔力を使い果たして消滅してしまうよ!」 こんな事今まで無かったけど、どう考えても今魔力を使い果たそうとしている事が原因なのは明白だ。 「ギャッ(何寝言を言っている)」 「ギャフッ(お前が死んだらどの道俺達も死ぬんだ。無駄口叩いてないで手伝え)」 「駄目だ、あの娘の紋章術の所為で体が動かないし剣も持ち上げられない」 尚も迫り来る赤い闘気を帯びた矢に懸命にブレスを放ち続ける二人。 それでも勢いを少し落とすのが精一杯。確実に僕らの命を奪おうとそれは迫って来ていた。 「ギャギャ(ウルルン)」 「ギャーフ(そうだな…)」 「どうしたのさ? 二人共?」 僕はいつもと違う雰囲気の声を発する二人に急に嫌な感覚を覚えた。 「ギャッギャギャフン(今まで楽しかったぞ。アシュトン)」 「ちょっと!? ウルルン? 何言ってるの?」 「ギャース(このままでは3人纏めてあの世行きだからな。お前だけでも生きろ、アシュトン)」 「ギョロ!? 何勝手な事を言ってるのさ?」 「ギャフフギャフー(なんだかんだ言って俺たちはお前の事が気に入ってるんだ)」 「ギャッギャー(だから、お前にはもっと生きていて欲しい)」 二人が信じられない事を言っている。僕を生かす為に死のうとしている。 止めなくちゃ、そんな事受け入れられるはずが無い。 「待ってよ! また僕を困らせる様な事を言って! お願いだからたまには言う事を聞いてよっ!」 「ギャー(いいか? これを凌ぎきれたら一旦退け。北西の方角から二人。まだ遠いが近づいてきている)」 「ギャッフ(ボーマンが味方を連れて来たとは考えにくい。『トライエース』を撃った疲労状態でこれ以上の戦闘は危険だ)」 もう二人の姿は目を凝らさなければ視認出来ない程に薄くなっている。 「ギョロ! ウルルン! 話を聞けよっ! 僕達はこれからもずっと3人でっ!」 つい語気が荒くなってしまったけど、二人が思い直してくれるならそんな事構わない。 「ギャフー(生きろよ)」 「ギャース(生きろよ)」 そう言い残し二人は更に吐き出すブレスを巨大にさせた。 僕らに迫る矢は漸く止まり、そして纏わせた闘気を拡散させるように巨大な爆発を起こした。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「これで決まって無ければ…」 もう駄目だ、立っているだけで精一杯だ。血と一緒に残された気力も流れ落ちてるみたいだ。 爆煙の先に人影が蹲っているのが見える。 突如として吹いた夜風が煙を晴らしてくれた。 ぼんやりとした視界で捕らえたアシュトンのシルエットに違和感を覚える。 (何かが違う…。いや、それよりも倒せたのか?) しかし、どうやら俺の願いはさっき叶えて貰った分で受付が終了したらしい。 フラリと立ち上がるその姿が見えた。でもおかしい。さっきより小さく見える。 完全に晴れた視界のおかげで漸くその違和感の正体に気付いた。 背中の龍がいないのだ。 「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」 突然叫び声を上げたアシュトンが続けて、ものすごい形相で俺を睨んできた。 「殺してやる! 次に会った時は必ず殺してやるっ! 二人が受けた苦痛を何倍にして味合わせてから殺してやるからなっ!!」 怨念の様なものを込めながら呟くアシュトンを中心に霧が発生したかと思うと、ややあってから霧が晴れた。 その時にはあいつはこの場から姿を消していた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (なんとか追っ払えたみたいだな…) チェスターが張り詰めていた緊張を解いた瞬間、急に膝がガクリと崩れ落ちた。 前のめりに倒れる彼を受け止めたのは硬い地面の感触ではなく、 何か別のやわらかい、擬音で例えるならフニャンといった感触だった。 「だっ、大丈夫ですか?」 意識を失いかけていたチェスターはその呼びかけで瞼を再び開けた。 その彼の目に飛び込んできたのは (特盛りっ!) 何が特盛りなのかは敢えて説明するまでも無い。 「ごっ、ごめん! 大丈夫、大丈…」 慌てて飛び退いたものだからまたしてもグラリときてしまう。 再び倒れようとするチェスターを受け止めようとしたソフィアだったが、 散らばった瓦礫に躓いてしまい、チェスターを支えきる事は出来ず二人仲良く転倒してしまった。 「ホントッ、ごめん。もう大丈夫だから゛!」 意図せずソフィアを押し倒すような形になってしまったチェスター。 そんな彼の眼前に広がった光景は童顔巨乳美少女のあられもない姿。 激しい戦闘の末所々破けてしまっているストッキング。 チラリと白い下着が見える様に捲くれ上がったミニスカート。 そして、先ほど彼を受け止めた豊かな胸。 その周囲の布地はアシュトンの『ハリケーンスラッシュ』やら何やらを受けて白い肌や下着が見え隠れしている。 更に、チェスターは健全な17歳男子である。目を逸らそうとしてもどうしてもチラチラとそれらに目が行ってしまう。 そう、彼は将来的には仲間内から『スケベだいまおう』というありがたい称号を賜る身。 そんな彼の男としての悲しい性がそうさせるのであった。 (イカン鼻血が…) そして、彼は昏倒した。 ただでさえ脇腹に穴が開いて血が足りない状況だというのに、余計なところからも出血してしまったのだから無理も無い。 チェスター・バークライト享年17歳出血多量にて死亡 【チェスター・バークライト死亡】 ○●○●○●○●○●○●○●○● (ここは…?) 俺はやけに眩しい所に寝転がっていた。 起き上がると鼻からツツーっと鼻血が垂れて来るのを感じ取ったので素早く袖で拭った。 (おかしい、さっきまで夜だったのに…。しかもさっきの女の子がいない) 「チェスターさん」 背後から聞き覚えのある声に呼びかけられた。俺は立ち上がって声の主の方に向き直った。 「お久しぶりです。お元気にしてましたか?」 そう言って礼儀正しい一礼と共に優しい笑顔を俺に向けたのは 「ミント? ミントじゃないか!?」 「はい」 そう、目の前にいるのはサラリと流れるような長い金髪と、聖母の様な微笑みを併せ持つ女の子。 どこからどう見てもあのミントだ。 そして、その横には栗色の髪をした小さな女の子が立っている。 その女の子は俺と目が合うと小さな会釈をしてきた。 俺はその会釈の返答として軽く微笑み返した後に、俺の中に湧き出た疑問をミントにぶつけた。 「どうして死んだミントが俺の前に? 待てよ? もしかして、俺死んじまったのか?」 錯乱する俺の質問に首を左右に振るミント。 「いいえ、チェスターさんはまだ生きていますよ。ただ、近くを通りかかるって話を伺ったものですから。一言挨拶を、と思いまして。 それと、どうしてもあなたに会いたいという人を連れてきました」 そう言ってミントは俺の視界から外れるように横に移動した。 ミントの背後に隠れていた人物が俺の目の前に現れた。 見間違うはずも無い。アイツの姿がそこにはあった。 ピンク色の髪をポニーテールに纏め、その髪と同じ色をした瞳でいつも挑みかかるように睨んできたアイツだ。 「アーチェ!」 アーチェに歩み寄る。話したい事がいっぱいあった。沖木島では再会して直ぐクロードに殺されちまったから。 だけど急に現れるものだから何を話せばいいかわからなくなっちまった。 よく見るとアーチェは俯いて小刻みに震えている。 そうかそうか。俺と会えてお前も嬉しいのか。こういうところはやっぱりかわいいなと思ってしまう。 「アーチェ…」 ズドム! 呼びかけながら一歩踏み出した俺の顔面にアーチェの鉄拳が炸裂した。 2HIT! 3HIT! 「何よ! 何よ! ちょっとあの娘がかわいいからってデレデレしてっ!」 4HIT! 5HIT! 6HIT! 「そんなに大きいのがいいのか!? 大きいのがいいのかぁー!!」 7HIT 8HIT! 9HIT! 「このスケベだいまおう! チェスターなんかーっ!」 訳もわからず連打を浴びた俺はグロッキー状態。頭の周りをヒヨコ達がくるくると回っている。 「巨乳の角に頭をぶつけて死んじゃえー!!」 10HIT! アーチェのアッパーカットが俺の顎にクリーンヒット。俺はマットの上に沈んだ。 「しばらくこっち来んな! 行こっ! すずちゃん! ミント!」 アーチェはそう叫び踵を返すと、ミントの傍らにいた少女を伴って光の中へと消えていった。 「あっ! 待って下さいアーチェさん。それではチェスターさんごきげんよう。クレスさんとクラースさんにも宜しくお伝え下さい」 (えっ!? ちょっとミント! この扱いは酷くないっすか?) そうして俺は、この眩しい真っ白な世界の中で暗闇へと落ちていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ってか、待てアーチェ! 巨乳に角なんてないぞ!!」 アーチェに向けて手を伸ばした俺の手は擬音にしてフニュンといった感触のモノを掴んだ。 【チェスター・バークライト生存確認】 次第に覚醒していく意識。今俺の右手に掴んでいるモノの正体を知覚するのに2秒程かかった。 どうやら俺はさっき助けた女の子に膝枕されている状態な様だ。 そして、伸ばした手は彼女の豊かな胸を下から持ち上げている様な格好になっていた。 「キャアッ!」「うわぁ、ごめん!」 慌ててその場から飛び退く俺。しまった。また急に動いちまったら。 「って、あれ? 傷が塞がっている」 「あの…、うなされていた様ですけど大丈夫ですか?」 胸を抱きかかえ、ちょっと涙目になりつつ上目遣いで俺に尋ねてきた。 (何だこれは? 反則だろ…) 「いや! もう! ホント大丈夫だから。それよりも君が傷を治してくれたのか?」 「はい。これを使って」 そう言って彼女はなにやら複雑な構造をした金属の塊を俺に見せてきた。 「もうエネルギーが切れちゃったから使えないけど、まだ痛みますか?」 傷はもう痛まない。服を捲くって確認してみたが綺麗に傷が塞がっている。 (どういった原理か判らないけど、きっとミントの法術を貯めこんでおける道具かなんかなんだろう。っとそれよりも) 「なぁ、君に聞きたい事があるんだ」 突然まじめな顔になった俺にこの娘も表情を強張らせる。 「君言ったよね。金髪の女の子を殺したって。アシュトンから君を守ったけど、事と次第によっては君を…」 殺す。そう続けようとしたが、どうしてもその続きは声に出せなかった。 命がけで守った娘だからだろうか。それとも、ずっとそばにいる長髪の男を守りながら戦っていた姿を見た所為だろうか。 不思議とこの娘が理由も無くあんな惨い殺し方をする訳が無いという確信があった。 少女は目を伏せポツポツと言葉を紡いでいく。 「多分あなたが言っている女の子は私達との戦いで負った傷が原因で亡くなったんだと思います。 でも、そうするしかなかったんです。でなければ私達は皆あの子に殺されていた…」 「ちょっと待ってくれ! あの女の子に? だって君達はそこの男の人と、 もう一人の金髪の男の人も含めて3人もいるじゃないか! それがあの子一人に?」 「そうだ! クリフさん! あの人はとても強いからきっと大丈夫だとは思うけれど、やっぱり心配。助けに行かなくちゃ」 そう言ってこの女の子は横たわる男を背負おうとして 「キャッ!」 つぶれた。 「おいおい、大丈夫か? 君の体格でそいつをおぶってくなんて無理だ。 それよりもさっきの続きを聞かせてくれ。納得できたら俺も手を貸すから」 男の下敷きになったこの娘を引っ張り出して、服についたホコリを払ってやった。 別にセクハラ目的とかそんなんじゃないんだからな。勘違いすんなよ。 「すみません。ありがとうございます。それでは続きですけれど…」 こうして彼女は自分達と金髪の少女との間に何があったのかを俺に話してくれた。 【D-5/深夜】 【ソフィア・エスティード】[MP残量:10%] [状態:疲労中] [装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2] [道具:ドラゴンオーブ、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式] [行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める] [思考1:レナス@ルーファスを守る] [思考2:クリフと合流する] [思考3:フェイトを探す] [思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:自分の知り合いを探す] [思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい] [思考7:レザードを警戒] [思考8:チェスターを信頼] [備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています] [備考2:ヒールユニット@SO3を消費しました] 【チェスター・バークライト】[MP残量:50%] [状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)] [装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP、矢×15本、パラライチェック@SO2] [道具:チサトのメモ、アーチェのホウキ、レーザーウェポン@SO3、荷物一式] [行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)] [思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する] [思考2:このままソフィアについて行く] [備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません] [備考2:クレスに対して感じていた劣等感や無力感などはソフィアを守り抜けた事で無くなりました] [備考3:スーパーボールを消費しました] [備考4:レーザーウェポンを回収しました] 【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:40%] [状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中] [装備:連弓ダブルクロス、矢×27本] [道具:なし] [行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する] [思考1:???] [思考2:ルシオの保護] [思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)] [思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:協力してくれる人物を探す] [思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す] [備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます] [備考2:ルーファスの意識はほとんどありません] [備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします] [現在位置:D-5東部] ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「一体何が起きたっていうんだ?」 E-4を北東方向に突っ切ろうとしていたクロードが、目的地の確認をしようと探知機にスイッチを入れた時だった。 そこに表示されていたのは六つ集まっていた反応の内二つが北西に移動していた。 そしてそれを追う様にして少し離れた位置にあった光点も移動している。 他の三つの光点は位置を変えていない事から何かあった事は明確であった。 それを確認したのが一時間位前の出来事。 そしてD-5に足を踏み入れたので、再確認の為に探知機を起動したクロードは目的地に更なる変化が訪れている事に気が付いた。 「近くに誰かいる?」 目的地としていた三つの反応があった場所には現在二つしか反応が無かった。 そして、おそらくさっきまでその地点にいたと思われる反応が自分の直ぐ近くにあるのだ。 (何があったのかを聞かなくちゃ) 探知機の反応を頼りに周辺を探すクロード。 「この辺りの筈なんだけれど…。うわっ!」 夜の暗闇の所為で足元にあった何かに躓いてしまった。 やけに重たい感触だったのだが、今のは一体なんだろうと振り向いたクロードは驚いた。 「ちょっ!? 君大丈夫? って、アシュトンじゃないか!? しっかりしろアシュトン!」 アシュトンを助け起こし、肩を揺さぶる。 「うっ、クロード?」 目を開けたアシュトンと目が合った。何故倒れていたのか? とか、平瀬村に向かったんじゃないのか? 等の疑問が浮かんだが、 まず最初にクロードはアシュトンの体の変化について尋ねた。 「アシュトン。ギョロとウルルンはどうした?」 二人の名を呼ばれたアシュトンその身を強張らせる。 「…。あいつらが…」 今までクロードが見たことも無い暗い怒りを秘めた表情のアシュトンが先程の戦いで起きた出来事を語り始めた。 「…」 アシュトンの語った内容を聞き終えたクロードは言葉を失った。 「僕行かなくちゃ…」 フラリと立ち上がったアシュトンを慌ててクロードが止める。 「行かなくちゃってどこに? そんな体でどうするつもりなんだよ?」 「決まってるじゃないか、二人の敵討ちだよ。僕はあいつらが許せないんだよ。僕から大切な友達を奪っていったあいつらが。 あの時は二人が逃げろって言ったから逃げてきたけどさ、このままだとあいつらがどこかに行ってしまうからね。 少し休んで疲れも取れたから大丈夫だよ」 「アシュトン、君がどれだけ悲しいのかはよくわかるよ。でもね、敵討ちなんかしてもあの二人は生き返らないんだよ」 (そう、ここで死んでしまった皆も…) 「そんな事はわかってるよ! でもあの二人の為に何かして上げられる事がこれ位しかないんだ! だから僕は行くよ。クロードが止めたって無駄だからね」 それを聞いたクロードは少し悲しげな顔をした。 (あの温厚なアシュトンがこんなにも憎しみに囚われてしまうなんて…。 それにねアシュトン。ギョロとウルルンが命がけで守ろうとした君に対して望む事は、敵討ちとかそんな事じゃなくて、 二人はなにがあろうと君に生き抜いて欲しいって思っているんじゃないのかな?) そう口に出そうとしたがクロードはやめておいた。 今の彼にはきっと何を言っても心に届かない。そう判断したのだ。 だから変わりに 「わかった。僕も行くよ。敵討ちを認めることは出来ないけど、そんな危険な連中を野放しにするなんて出来ない」 アシュトンに対して同行を求めた。 こんなにも危うい状態の友人を放っておくなんて事は彼には出来なかったし、 近くにいればアシュトンの無茶を止める事が出来るかもしれないと思ったからだ。 「そう…。じゃあついて来て、こっちだよ」 アシュトンは剣を掴んで虚ろな眼をしながら北の方向へと歩みだした。 クロードも荷物を纏めてアシュトンの後について行く。 これが良くない兆候だとはわかってはいたものの、今のクロードにはどうする事も出来なかった。 【D-5/黎明】 【クロード・C・ケニー】[MP残量:100%] [状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)] [装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード] [道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)] [行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す] [思考1:アシュトンと共に行動] [思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する] [思考3:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい] [思考4:ブレア、ロキとも鎌石村で合流] [備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません] [備考2:アシュトンの説明によりソフィアとチェスターは殺し合いに乗っていると思っています] 【アシュトン・アンカース】[MP残量:60%(最大130%)] [状態:疲労中、激しい怒り、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲・ギョロ、ウルルン消滅] [装備:アヴクール、ルナタブレット、マジックミスト] [道具:無稼働銃、物質透化ユニット、首輪×3、荷物一式×2] [行動方針:第4回放送頃に鎌石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる] [思考1:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ] [思考2:プリシスのためになると思う事を最優先で行う] [思考3:ボーマンを利用して首輪を集める] [思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい] [備考1:ギョロとウルルンを殺された怒りが原因で一時的に思考1しか考えられなくなっています] [思考2:イグニートソード@SO3は破損しました] [現在位置:D-5南西部] 第118話← 戻る →|―| 前へ キャラ追跡表 次へ 第118話 チェスター ― 第118話 ソフィア ― 第118話 レナス@ルーファス ― 第118話 クロード ― 第118話 アシュトン ―