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脚本が延期された日 サークルの集まりの場所として利用している部室で、僕は彼女と向かい合っていた。 歴代の部員が厄介払いとばかりに残していった雑多な物は、部屋の隅の段ボールに入れられており厚く埃を被っている。 掃除をあまりしないせいかあるいは物が多すぎるせいか、恐らくは両方が原因なのであろうが、 ともかくも古びた図書館の匂いがする部屋には、いつもは大勢のメンバーが揃っているのだが、 今は丁度僕と彼女しかいなかった。 一応は物がどけられている机の向かいに彼女は座り、僕が作ったシナリオを読んでいる。 普段彼女が他のメンバーと一緒の時には、それ程彼女については印象に残っていなかったのだが、 閉じた部屋の中で二人っきりでいると、急に彼女について意識をしてしまう。 細い体と白い首筋、小さく閉じられた形の良い赤い唇、ページの上を忙しなく動く赤い目、 綺麗な彼女に目を奪われてしまいそうになり、衝動を紛らわせるために彼女に気づかれない様に口の中をこっそり噛む。 暴れそうになる手を押さえるために膝の上で握り拳を作り、膝に押しつけて視線を固定する。 そして息が荒くならないように意識を内面に持って来て心を落ち着かせようとしていると、 シナリオを読み終えた彼女が僕に声を掛けてきたので、不意打ちの様になった僕はつっかえながらも返事をした。 「結構いいんじゃない。」 「そ、そう、良かったよ。」 ともすれば辛口の評価が多くなる彼女にしては、かなり良い印象を持ったようだ。そして彼女はなおも言葉を続ける。 「ただし、一点だけ違うところがあるとすれば、最後のこの部分かな。」 彼女は僕のシナリオを差す。シナリオの最後は途中は吸血鬼に対峙していた主人公が、 その存在を受け入れるという大団円で締めている。 「吸血鬼のような存在が、果たして人間の男性の愛をそのまま受け入れることで満足するかしら? そうね、私がヒロインならきっと彼を逃さないようにするんじゃないかしら。」 「どうしてそう思うのかな?」 「途中で主人公に拒絶されたヒロインなら、きっとまたいつか主人公が自分を捨てるんじゃないかと思って、 心の奥に不安を抱えるでしょうから。 そうしたら、ヒロインは吸血鬼なんだから、その力で主人公を自分から離さないようにしてしまうでしょうね。」 「ふうん。吸血鬼の考えなんて分からないと思うけどね。」 「あら、じゃあ今ここでやってみれば、きっと納得できると思うわ。」 彼女はパイプ椅子を立ち、机の横をゆっくりと歩いて僕の方に歩み寄ってくる。 まるで舞台のヒロインがフィナーレを演じる時そっくりに、片手を僕に差し出しオペラの様に声を上げる。 透き通る声が僕の耳に入り無意識のうちに綺麗だと思ってしまった。 「ああ、○○。貴方は本当に私を受け入れてくれるのかしら?」 シナリオの主人公がする通りに僕は返す。 「勿論だよ。」 すると彼女が僕に抱きついてくる。吸血鬼を演じる彼女は小さく細く、震えて不安で折れそうな様子に僕は役に飲まれて、 つい彼女をそのまま強く抱き留めてしまう。 「本当?」 ソプラノの声が僕の耳を通り越して脳に染み渡る。 「本当だよ。」 キザらしく顎を引き寄せてシナリオにはないキスをする。 嫌ならば振り解くかと思ったが、彼女は目を閉じて僕を受け入れていた。 「ずっと君を離さないから。」 毒を食らわば皿まで、とばかりに普段は言うことがなさそうな甘い言葉を彼女に注ぐ。 吐息を漏らした彼女の目が開き、僕を一層強く抱きながら顔を僕の首筋に埋める。 -愛しているよ-とお返しとばかりに彼女に囁くと、彼女が首にキスをする。 痺れる感覚と共に、顔に赤みが差した彼女の喉が小さくコクリこくりと動いていた。 幾らかの時間が経ち、彼女の顔が僕の首から外れる。恥ずかしくなった僕は彼女の目を見なくてもいいように、 自分の胸に彼女の顔を押し当てて尋ねる。さも全ては演じていたかのように。 「どう、吸血鬼の気持ちは分かった?」 「今回は…、貴方のシナリオを使うわ。」 小さく発せられた声には最初に入っていた自信は消え失せており、代わりに熱っぽい綾が入っていた。 感想 名前 コメント
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795 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 02 49 ID eQJGz00C 「だからね、今度はグラウンドの線引きをしてみようと思うんだー」 「線引きって、何書くんだよ」 「陸上で使うトラックの線」 「ああ、そういえば大分消えてたっけ」 「そうなんだよ。それに、あのカタカタ押す奴楽しいから、一回全部描いてみたかったんだよね」 椚田はショートカットの黒髪を風に揺らせながらそう言い、コロッケパンにかじりついた。 すると、もとからたれ気味な目がさらにへらーと緩んでいく。 その表情が本当に幸せそうで、僕は思わず口に入れかけた自分のコロッケパンを放置し、その様子を眺めることにした。 これだけ安上がりな舌をもつ娘に育ってくれて、彼女の両親はえらく助かっていることだろう。 ちなみに椚田はコロッケパンが好きというより、コロッケが好き、というわけでもなく単純にお惣菜パンが好きなのだ。 焼きそばパンやカレーパンなども好物らしい。 だから、僕はそんな椚田に気を使って、パンを買う日はそういうものしか買わないことにしている。 それというのも椚田は僕と同じものしか昼食として選ばないので、そうしないと彼女が好きなものを食べられないからである。 どうしてそんな不便な規則で自分を縛っているのかは正直わかりきっているのだけれど、それでも好きなものぐらい好きな時に食べろと言いたい。 僕は別に毎日惣菜パンだろうとスナックパンだろうと特にこだわりはないので気にはしないし、本人がいいならそれでいいけど。 「悠一君、そろそろ食べ終えないと予鈴が鳴るよ」 いつの間にやらコロッケパンを全て胃の中へ収めた椚田が、右腕に嵌めた腕時計に目をやってそう言った。 もうそんな時間なのか。素早くパンを口に詰めてゴミを回収しながら、咀嚼も大概にさっさと飲み込む。 「次は、数Ⅰか」 「うん。今日は悠一君の列が当たるんだよね」 「お前もだろ」 僕の真ん前に座っているんだから。 「とりあえず、絶対に答えが合っている答案を、私は書いてきました」 「そうか。じゃあ、後でお互いに答案の確認をしよう」 「うんうん」 嬉しそうに数回頷いた椚田に一度相槌を打ってから、屋上の扉へと向かっていく。 10月下旬のやや冷たい風を全身に浴びつつ、ふと冬になってもここで昼食をとるつもりなのかと考えた。 まあ、防寒対策をしっかりしておけば問題ないだろう。 「明日は雨が降るらしいよ」 「そうか」 意味のない含みのない振りでも何でもない彼女の呟きに頷いて、僕らは屋上を後にした。 796 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 04 38 ID eQJGz00C *** 友人である雲井曰く、椚田は僕のストーカーらしい。 曰くも何も、雲井に言われるまでもなくそれぐらいは気付いている。大方同じ昼食を持参できるのも僕の行動を監視しているからに違いない。 見られて困るような日常生活は送っていないので、監視されていようが盗撮されていようが尾行されていようが構わないのだけど、 傍にいるのなら声をかけてくればいいのにと思う。 学校以外の場所で椚田と会った記憶がないから、一度くらい会ってみたいと思うのだ。好きな相手の私服姿なんて誰でも夢見るものだろう。 「どうしたの? 悠一君」 放課後、たまに立ち寄る図書室で向き合いながら読書に勤しんでいると(僕は少しも集中していなかったけれど)、 じっと見られていたことに気付いたのか、椚田が分厚い新書から顔を上げた。 その表情は疑問一点のみで占められており、こんな彼女が本当に自分を付け回しているのかと思うと妙な感じがした。 人間見た目や雰囲気だけでは分からないものだ。 「椚田って、休日は何してるんだ」 直接私服を見せてくれと言っても良かったのだが、どんな反応がくるのか想像もつかないのでやめることにした。 「休みの日は、勉強してる」 「クラスの女子とどっか行ったりしないのか」 「しないよ。高校生になって、いろいろ忙しくなっちゃったから」 遊ぶ暇がないんだよ。と椚田は何でもないように笑みを浮かべた。 「だって、悠一君とも外で会ったことないでしょ? できれば会いたいし、遊びたいんだけど、時間がないんだ」 「なら、仕方ないな」 「悠一君は私と外で会いたいと思う? 遊びたいって思う?」 「たまにな」 「そっか、そっか……うん、ええと……うん、じゃあ今度の日曜日は学校で遊ぼう!」 「小学生か」 反射的にそう突っ込むと、彼女はだよねーと呟きながら苦笑いを浮かべた。 そういえば、以前に椚田が見たい映画があると話したので、じゃあ見に行こうと言ったそのときも話は有耶無耶になってしまったのだったか。 どうやら、学校外で人と会いたくはないらしい。随分と変わった趣向である。 それでも、僕を付け回す時間はあるしそのためになら外へ出るなんて、変な話だ。 もしかすると、ずっと僕を付け回しているから忙しいのかもしれない。まあ、これはさすがに被害妄想か。 被害妄想……いやいや、僕自身は何も害は加えられていないのだから無害妄想、むしろ理想妄想。 こうだったらいいのにということをさらに妄想している。 好きな相手に追いかけまわされるのなら誰だって嬉しいだろう。 そんな調子でぐだりぐだりと会話をしていると、図書室のカウンターから大げさに本を閉じる音がした。 目を向けてみると、今日の受付当番らしき図書委員女子がこちらをじいっと睨みつけている。 同じ眼鏡でも雲井とはかけ離れたきつい目と、グラス越しに視線を合わせた。 「ごめん川瀬さん」 椚田が申し訳なさそうにそう言うと、 「これでもう8回目の注意ですよ椚田さんに遠野さんここは読書をする場なのであって男女がいちゃつく場所ではないのですお分かりですか?」 一息でこんなことを言い終えた。注意されるたびに思うが、この人は本当に滑舌が良い。 感心すべきところはそこかと言われそうだ。 「でも他には誰もいないんだし、いいんじゃないか」 「私がいるんですよ」 カチャリと音がしそうな程に、眼鏡を押し上げる仕草がさまになっていた。 なんとうか、とても古典的な図書委員。そう形容するのが一番正解に近いと思う。 確か同学年のはずだが、クラスも別であるため、川瀬さんに関する情報の持ち合わせはもうない。下の名前すら僕は知らない。 797 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 09 54 ID eQJGz00C 「そもそも、学校内での男女交際は禁止されているはずです図書室での決まりごとよりもよっぽど重要なことですよ」 「……前から思ってたんだけど、川瀬さんは生徒会長になるべきだよね」 「……それもまた古典的な生徒会長になりそうだけどな」 「……古典的って王道な感じでいいと思うよ私」 「……その前に川瀬さんが当選すれば校則強化は必須だ、誰も投票しないだろ」 「聞こえていますから」 声を細めてはいたものの、三人しかいない空間での秘密話なんてそうそう成立しない。 まあ、僕らに聞こえないようにしようなんて気遣いが全くなかったからだともいえる。 「それに、私は高校生活三年間を全て図書委員の委員会活動に充てようと思っているので、そんなものに立候補する暇はありません」 「自分で灰色学園生活のエンジョイ宣言しちゃったよ……」 今度こそぼそりと呟いた椚田と目を合わせて、そろそろ出るかということを確認し合い席を立とうとした時だった。 ガラガラ――ッと勢いよく引き戸を空ける音が室内に響き、その引き戸が壁へぶつかった衝撃音と共に 「みおちゃんゆうくん、みいいいつけたあああぁぁああ!」 爆音にも近い大声量の、聞き覚えのある声の持ち主が図書室へと入ってきた。 僕と椚田は慣れているため引き戸の音が聞こえると同時に耳を塞いでいたが、慣れていないらしい川瀬さんは目を白黒させてぐらぐらと身体を揺らせていた。 ああ、そういえば図書室へ襲撃に来たのは初めてか。ここまでくればもう兵器の威力だな。 「ふたりともひどいなあ! 今日は剣道の試合があるから見に来てっていったのに! もいくんは負けちゃったけど、あたしとこのちゃんは大活躍だったよ! さすがあたし、さすがこのちゃん! さてさてどうして来なかったのか理由を30字ぴったりで述べてね!」 無茶ぶりだ。 にこにこと笑顔でひたすら叫び続け(喋るという音量ではない)ながらポニーテールを揺らして近づいてくる小柄な先輩に、 とりあえず「すみません」と頭を下げた。 「椚田と話しこんでたもので」 「次の試合は見に行きますから」 ふたりで宥めるようにそう言うと、先輩は少しむうっと頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまった。 798 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 12 39 ID eQJGz00C 「次来なかったら、ホントに怒るからね!」 「わかりました」 空気を読んで、すでに怒ってるじゃないですかとは言わない。 もいくんとは、この人間拡声器という別称をもつ先輩――篠宮(しのみや)先輩と同じ剣道部に所属する僕の友人、雲井のことである。 それにしても、あいつ負けたのか。とりあえず、慰めの言葉を考えておこう。 「というかねっ、みおちゃんに返そうと思ってたものがあるから、ちょっと道場まで来てほしいと思ってね!」 「ああ、村主先生の課題レポートのですね」 「そうそう! あれめちゃくちゃ助かったよっ、むらさんの観点よくおさえられてて! これで評価はA行けそうだよ!」 「あの先生、結構やらしいところみてきますからね、正攻法じゃAなんて無理ですもん」 「そうなんだよそうなんだよ!! あたしのクラスで一番のかしこさんでも、毎回B+評価だもん! えっへっへ~みんなでいい評価とって、むらさんびびらせるんだあ!」 それは逆に不自然に思われそうだが、やっと先輩の機嫌が直ったところなので水はささないでおこう。 先輩に腕を引かれて出て行った椚田の「悠一君もきてね」という言葉に頷き、広げられたままの新書をもとの棚に戻してから椚田と自分の分の鞄を手に取った。 彼女の鞄が妙に重かったのは、きっと教科書をいちいち持って帰っているからだろう。 休日は勉強漬けで置き勉もしないとは、変なところで真面目な奴だ。そう受付カウンターの前を通り過ぎ、引き戸に手をかけたところで、 「遠野さん」 川瀬さんに呼び止められ、とりあえず足を止め振り返った。 「なに」 「前々から思っていたのですが……その、椚田さんは、どうしてあんなことができるんですか?」 怪訝そうに、そしてどこか不安げにそう聞かれて、僕は数回瞬きをした後その問いに答えた。 「あんなことって、教師のレポート観点を知ってるってところか」 「そうです。あなたたちは、ここでもよくテストや授業に関して妙な会話をしていますし……まさか職員室を荒らしているのではないでしょうね」 「さあ。聞くなら椚田に聞いてくれよ」 僕も知らない。教えてほしいぐらいだ。そう言い終えて今度こそ引き戸を開け、僕らは最後にこんな会話をした。 「いきなりですみませんが、あなたたちは本当にお付き合いをしているのですか?」 「いや、純粋な友達関係」 「純粋、ですか……しかし、それなら校則には違反していないのですね。それは良いことです」 799 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 14 16 ID eQJGz00C *** 「くーもーいー、もう疲れたし帰ろー」 「篠宮先輩が、戻ってくるまで帰るなって言ってただろ?」 「いいじゃん、試合おつかれさまーって感じで帰っちゃおうよー」 「お疲れ様の前に片付けな」 ぶつぶつと文句を垂れ流しながらも道場の片付けに励む緋本は俺の言葉へ「はいよ」とため息交じりに頷いた。 俺たち以外の剣道部員は今回の試合で芳しい結果を得られなかったため、篠宮先輩の刑罰宣言により道場裏の草むしりを行っている。 あの人は小柄で始終にこにこと笑っている可愛らしい先輩なのだが、部のことになると非常にスパルタになるのだ。 「みんな凄く頑張ったと思うよ! それは本当にそうなんだけどねっ、あたしも分かってるんだけどねっ、自分への戒めとして草むしり頑張ってね!」 道場内に大声を反響させてから、少し用があると言って先輩本人は素早くどこかへ行ってしまった。 ちなみに俺自身は負けている、にも関わらず道場内の掃除とはこれ如何に……緋本は結果を出したので当然だとして、これはおかしい。 「先輩に好かれてるからじゃないのー? うわあ、あやかりたいねー」 「んなわけあるか」 くるくるとした癖っ気のある茶髪を夕陽に照らし、緋本は皮肉めいた口調でそう言った。 先輩が俺を後輩以上に思っていることなんてあるわけがない。 それにしても、男女混合の部で男子は全敗、数少ない女子部員たちが全勝ってどういうことだ。情けないねえな男共、しっかりしろ。 その男共の中に自分を含めつつ、明日からの部活も頑張ろうと心に決めた。 誰とは言わないが、成果を見せたい相手くらい俺にもいるのだ。 しばらく緋本とは背を向け合ってお互い掃除に集中していると、道場の扉を開ける大きな音がしたので耳を塞いだ。 その数秒後、 「ただいまああぁぁぁああああ!」 という爆声音と共に帰ってきた先輩の方へ振り返ると、そこにいたのは篠宮先輩だけではなかった。 あの椚田ミオリも、いた。先輩の後ろ、入り口あたりで耳を塞いでいる。 どうして、こいつまでいるんだっ……。 800 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 15 33 ID eQJGz00C 「ああっとッ、もいくんとこのちゃんはみおちゃんと初対面!? じゃあ荷物とってくるから、その間に自己紹介でもどうぞ!」 ハイテンションにそう言って、篠宮先輩は奥へと行ってしまった。 緋本はけだるげに目を細めながら、俺は眉をひそめながら椚田と少し間隔をもって向き合う。 「1年C組の椚田ミオリ」 言って右手を軽く上げ、椚田はにこりと笑った。 「俺は、」 「1年E組の雲井君だよね」 「……雲井ー、知り合い?」 椚田から目を離さずに聞いた緋本の声は、いつも通りだるそうだった。 その言葉に首を横に振り「知らん」と返す。俺はまだ椚田本人と接触をとったことはなかった。 悠一を正気に戻すためにはいつか話を聞かなければいけないとは思いつつも、まだできていなかった。 得体のしれない体質をもつわけのわからない女と積極的に関わりたいと思えるほど、俺は物好きではない。 これを機に知り合っておけという何かのお達しだろうか。 「雲井君って、悠一君の友達なんだよね。もうすぐ、悠一君も来るよ」 「もう来てる」 そう言って入り口の影から淡々とした面持ちで出てきたのは、紛れもなく悠一だった。 「雲井負けたんだってな。次頑張れ」 「ありがとよ」 今回も頑張ったことは頑張ったんだけどな。地味に傷を抉る奴だ。 そうするのが当たり前のことのように椚田の横に立った悠一を見て、何なんだろうなあとため息をつきそうになったが、寸でのところでこらえた。 本格的に悠一へ忠告できないのは、椚田が悠一と付き合うつもりがないように見えるからだ。 それによって真意が全く掴めず、行動がとりづらい。 決定的な行動でもとってくれれば、それを理由に説得するなり問い詰めるなりできるんだがなあ……。 いや、ストーカー行為を許容してしまっているあたり、やっぱり説得は難しいのかもしれない。 違和感か……そんなものどうやれば取り戻せるんだろう。 「それで、君が大活躍の『このちゃん』か」 「雲井君のクラスメイトで、緋本此乃子(ひもとこのこ)さんだっけ」 「そーだけど」 クラスが同じというわけでも顔見知りというわけでもないのに名前を言われた緋本だったが、特に動じず頷いていた。 きっと悠一の言った『このちゃん』呼びは篠宮先輩の特権であるため、おおよそ先輩に話を聞いたのだろう。 椚田については今は何も言うまい。偶然知ったのかもしれないし、そうでないという可能性もある。 ちなみに、緋本も抗体のある体質ではないらしく、こうした部分へ違和感を持つことはない。 篠宮先輩もきっとそうなのだろう。なんだかひどく疎外感を感じた。 校内にひとりでも違和感を持っている奴がいれば、それだけで大分安心するんだけどな……。 「ちょっと、雲井」 「なんだよ?」 考え事をしている最中に緋本につつかれ目線をそちらへ向けると、 「椚田さんの自己紹介は聞いたけど、この男子だれ?」 「友達の遠野悠一」 「……遠野か。んー、りょーかい。ふたっともよろしくー」 寝ぼけているような口調で緋本がそう言い終えると同時に、再び道場の奥から軽い足音がドタドタと聞こえ始めたため、 四人一斉に聴覚器官の入口を封じた。 801 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 16 56 ID eQJGz00C 「自己紹介おわったかな!? わおいっ、ゆうくんも来てるねおっけおっけ! じゃあ、これ本当にありがとうねっ、みおちゃん!!」 「どういたしまして」 耳を完全に塞いだところでまだうるさい篠宮先輩から椚田は何やら紙袋を受け取り、笑顔で頷いていた。 ……何なのだろう。 「じゃあっあたしは草むしりに行ってくるから! もいくんこのちゃん道場よろしくね!!」 俺の疑問など露知らず、先輩は駆け抜けるように(実際駆け抜けていたが)にこにこと笑って道場裏へと向かって行った。 戒めとは言っても他人にだけさせるだけではなく、言いだした先輩本人もしっかりとやり遂げるため、試合直後に草むしりと言われても文句を言うやつはいないのだ。 「それじゃ、私は帰るね」 靴を脱ぐこともなく入り口でずっと立っていた椚田は、紙袋をもち直してからこちらへ手を振った。 とりあえず俺は「ああ」とだけ言って、緋本は「んじゃねー」と欠伸交じり。 「校門まで送っていく」 淡白にそう言った悠一に対し、椚田は嬉しそうに微笑んで「やったッ」と返事をしていた。 「雲井はまだ残ってるよな」 「あ? ああ……」 「なら、また戻ってくるから、一緒に帰ろう」 「わかった」 友達とは言え、男に下校の誘いをされるとは……なんてしょっぱいんだ。 何事か話しながら道場を去っていくふたつの背を目で追って、今度こそ俺はため息をつく。 「幸せはーため息つくと、逃げるんだー」 短歌のようなリズムでそう言った緋本へ向き直ると、そいつは珍しく目を完全に開けて、こういった。 「私、あいついやだよ」 *** 「ねー、悠一君」 「なんだよ、椚田」 「今さ、楽しい?」 「どういう意味で」 「学校とか、友達とか」 「まあ、楽しいな」 「そっかあ、よかった」 「それが何だ」 「何でもないよ、悠一君が楽しいならそれでいいんだー」 「そうか、俺もお前が楽しいならそれでいいよ」 「悠一君にそう言ってもらえて感動っ」 「大げさだろ」 「そうかな。大げさでも何でもいいよ、悠一君が楽しいなら」 「これからもっと楽しくなるといいね」 802 :私≠彼女 02 ◆RgBbrFMc2c :2010/09/10(金) 22 20 34 ID eQJGz00C *** 我慢だ我慢我慢我慢、我慢。 ああでも無理かなもう無理かもそろそろもうねえ限界、リミッター越え寸前誰か止めてくれればいいんだけど、誰かいるかな。 さてさてさてさて最初は誰にしよう彼に声をかけてくるあれか笑顔を見せるあれか彼に近いあれかさあさあさあどうしようね。 私はもう十分に我慢したよでも気付いてくれないんだもんならねさくっとぐいっとぼいっとがちゃっとぐにゃっとしようかな。 どんどんなくなっちゃえばいいんだよねえ消えちゃえばいいんだよ消してしまえばいいんだって私ずっと思っててね、あはは。 ええっと私が変だっておかしくなってるって? いやいやそんなことないよだって好きな人には自分だけ見てもらいたいもの。 こう思うのは当たり前でしょ、よし自己正当化完了私はもう限界を超えましたということでそろそろはじめようとおもいます。 てんきよほうではあしたのてんきはあめですよーって。 おもむきがありすぎ、むしろうんざり、だ。 明日は晴れがいいなー、雨って嫌いなんだね。あーあ。
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京太郎「はよーっす」 久「今日はちゃんと起きたみたいね」 京太郎「まあな」 京太郎(昨日は朝帰りだなんて言ったらどうなるかわかったもんじゃないな) 京太郎(よし、野依プロの話題は封印だな) 優希「そういえば、昨日プロを見かけたじぇ」 和「プロ……インハイの期間中だからでしょうか?」 咲「へぇ、私テレビでしか見たことないな。どんな人だったのかな?」 優希「なんかプンスコしてたじぇ」 咲「ぷんすこ?」 まこ「多分野依プロじゃな」 優希「おお、それそれ、それだじぇ」 和「野依プロですか……若い男性と朝御飯を食べていたとニュースになってますね」 咲「恋人なのかな?」 まこ「女子のトッププロは男の影がないことで有名なんじゃがの……」 和「写真もありますけど、ちゃんとは写ってないみたいです」 優希「なんだー、つまらないじぇ」 京太郎「……ふぅ」 久「なにホッとしてるのよ」 京太郎「してないしてない」 久「……」ジー 京太郎「な、なんだよ」 久「嘘ね」 京太郎「そ、そういえば!」 京太郎「和、サインしてくれないか!?」 和「さ、サインですか?」 京太郎「ああ、いきなりで悪いんだけど」 和(そんな、婚姻届にサインだなんて……) 和(いきなりすぎて嬉し……じゃなくて、戸惑っちゃいます) 和(でも、先輩が望むなら……!) 和「はい、構いません、むしろ是非っ」 京太郎「じゃあ早速この色紙に……」ゴソゴソ 和「え、色紙?」 京太郎「知り合いにお前のファンがいてさ、頼まれちゃったんだよ」 和「……」 京太郎「さ、サラサラっと書いちゃってくれ」 和「あ、はい」サラサラ 京太郎「サンキュ。じゃ、俺はこれを届けてくるから」ソソクサ 久「逃げたわね」 まこ「まーたなにかやらかしたんかの」 久「さぁね、とりあえずゴシップ誌にうちの副部長が取り上げられないことを祈りましょうか」 京太郎「お邪魔しまーす」 豊音「あっ、京太郎く――」 エイスリン「キョータロ!」ダキッ 京太郎「おっと、いきなり情熱的だな」 エイスリン「ニホンゴ、イッパイベンキョーシタ!」 京太郎「そいつは助かるな。こっちは英語は相変わらずだからさ」 エイスリン「ムム、フベンキョー」 京太郎「そう言うなって」ポンポン エイスリン「クルシュウナイ、フモンニショス」 京太郎「……なんか変な方に向かってないか?」 胡桃「あ! 早速不純異性交遊!」 塞「久しぶり、今日は一人なんだ」 白望「……ども」 豊音「え、エイスリンさんずるいっ」 エイスリン「トヨネ、ハンブンコ」 豊音「じゃあ、私はこっち側で」ギュッ 京太郎「おい待て、動けないんだけど」 胡桃「離れるのっ」グイッ エイスリン「ノーウェイ!」 豊音「わわっ」 京太郎「あー、話進めていいか?」 京太郎「これ、もらってきたぞ」 豊音「わぁ」キラキラ 塞「なにそれ? 色紙?」 胡桃「とりあえず怪しいものじゃないみたいだけど」 京太郎「俺をなんだと思ってるんだ」 エイスリン「ハラムラ……コノヒト?」サラサラ 京太郎「お、上手いな」 エイスリン「ヒビショウジン」 京太郎「そういや、そのボードはどうしたんだ?」 エイスリン「プレゼント、ミンナカラ!」 京太郎「俺が買ったのは使い切った感じか」 エイスリン「ウン……タカラモノ、イッショウ」 京太郎「嬉しいこと言ってくれるな」ワシャワシャ エイスリン「~~♪」 白望「ダル……お腹空いた」 塞「そういえば朝御飯まだだったね。須賀くんも一緒にどう?」 京太郎「あー、どうすっかなぁ」 京太郎(というか、久ちゃんたちもほったらかしだしなぁ) 京太郎(ほとぼりも冷めただろうし、戻るか?) 京太郎「やっぱ戻るよ。久ちゃんにどやされそうだ」 塞「あはは、かもね。じゃあ竹井さんたちによろしくね」 京太郎「わかったよ。小瀬川、元気でな」 白望「ダルくて死にそう。おんぶして」 京太郎「相変わらずみたいで良かった。じゃあな、エイスリンと姉帯とちっこいのも」 胡桃「ちっこい言うな!」 エイスリン「キョータロ、オゲンキデ」 豊音「……」 エイスリン「トヨネ?」 豊音「え? あ……ごめんなさい、サインが嬉しくてボーッとしちゃった」 豊音「こうやってサインもらうの、夢だったんだよ」 京太郎「……」 豊音「だから、ありがとね」 京太郎「色紙、何枚ある?」 豊音「え?」 京太郎「あと何枚かでいいんだったらもらってきてやるよ。超大物からさ」 京太郎「さて、預かった色紙は5枚……ちょうど知り合いの女子プロと同じか」 京太郎「小鍛冶さんとはやりんと三尋木プロは連絡先知ってるけど、藤田さんと野依さんは知らないんだよな」 京太郎「野依さんはホテルの方に行ってみるとして……藤田さんのほうは久ちゃんに相談してみるか」 京太郎「ま、連絡は朝飯のあとでだな」 久「靖子のサイン?」 京太郎「どうにかなんないか?」 久「連絡とるぐらいだったらできるけど……」 京太郎「やっぱり忙しいかな」 久「その前に、それって姉帯さん絡み?」 京太郎「よくわかったな」 久「あんたがサインほしがる理由なんて、それか転売かのどっちかでしょ」 京太郎「じゃあのどっちで」 久「あんたはなにを言ってるのよ」 京太郎「冗談だよ……大体、はやりんのサインを他の誰かに売るわけないだろ」 久「あー、はいはい、そうだったわね」 久「まあいいわ。靖子のは私がもらっておくから」 京太郎「え、マジで?」 久「ほら、早く渡しなさい」 京太郎「よし、じゃあ頼んだ」 久「じゃ、あとで色々聞かせてもらうから」 京太郎「う……わ、わかったよ」 理沙「ど、どうぞ」 京太郎「お邪魔します」 理沙(昨日の今日で訪ねてくるなんて……もしかして脈アリ!?) 理沙(どうしよどうしよっ!? まだ心の準備が……!) 理沙(こ、ここは落ち着いて深呼吸)スーハー 京太郎「いきなり本題に入らせてもらいますけど」 理沙「はいっ」ドキドキ 京太郎「頼みがあります。野依さんにしかできないことです」 理沙(私にしかできないこと……) 理沙(こ、恋人になってほしいとかっ)カァァ 理沙「そ、それでっ」ズイッ 京太郎「サイン、もらえます?」 理沙「……書いた!」プンスコ! 京太郎「ありがとうございます」 理沙「どういたしまして!」プンスコ! 京太郎「……怒ってます?」 理沙「知らない!」プンスコ! 京太郎「……なんかしたかな、俺?」 京太郎「怒ってない、じゃなくて知らないだもんな」 京太郎「やっぱ怒ってるってことだよな」 京太郎「……まあ、次行くか」 健夜「えっ、サイン!?」 京太郎「お願いします」 健夜「こ、これでいいかな?」グギギ 京太郎「いいと思いますよ」 京太郎(字は思いっきり歪んでるけど) 京太郎(この人、サインしたことないのかな?) はやり「サイン? いいよっ☆」サラサラ 京太郎「こ、こっちにもお願いします!」 はやり「えー? 京太郎くんにはこの前もあげたと思うんだけどなぁ」 京太郎「いくつあっても足りませんから」 はやり「しょうがないなぁ……じゃあ」チュッ はやり「キスマーク付きで☆」 京太郎「……」グッ 咏「サイン? 別にいいよ」 京太郎「じゃ、サラサラーっとお願い」 咏「いいとは言ったけど、タダとは言ってないんだよねぃ」 京太郎「……何が目的だ」 咏「さぁ? 保留ってことで」 京太郎「くっ、はやりんはタダでくれたのにっ」 咏「それはそれ、これはこれ」グリグリ 京太郎「扇子でグリグリすんなよ」 咏「なんかムカつくから仕方ないんじゃね? 知らんけど」 靖子「サイン? 別に構わないが」 久「じゃ、お願いね」 靖子「しかし瑞原プロならともかく、私にとはね」 久「あら、靖子のプレイスタイル、盛り上がるから私は好きだけど」 靖子「君にもサイン、書こうか?」 久「まこの店にでも飾ろうかしらね」 靖子「おいおい」 京太郎「集まりました!」 豊音「こ、これ本物なのかな?」 京太郎「そこは保証する。間違いなく本物」 京太郎(というか、今日中に集まるとは思ってなかった) 京太郎(昼休みだったからかもしれないけど、もしかして案外暇だったのか?) 豊音「きょ、京太郎くぅん」ポロポロ 京太郎「ど、どうした?」 豊音「私の名前、書いてるよぉ」ポロポロ 京太郎「あぁ、そう頼んだからな」 豊音「ちょー嬉しいよぉ」ポロポロ 京太郎「まぁ、とりあえず涙ふけって」 豊音「う、うん」 豊音「ありがとうございますっ」フカブカ 京太郎「別にいいって。友達だし」 豊音「お友達……うん、そうだよね」 豊音「私の初めてのお友達……」ギュッ 京太郎「……今日の抱きつきはソフトだな」 豊音「ダメかな?」 京太郎「いや、悪くない」 京太郎(柔らかい感触とかな) 京太郎(小さい頃、母さんに抱きかかえられてたことを思い出す) 豊音「京太郎くんはさ、誰かと恋人になったらなにしたい?」 京太郎「友達の次は恋人か。欲張りめ」 豊音「そ、そういうことじゃなくてねっ、ちょっと気になったから」 京太郎「恋人なぁ……」 京太郎(ある、めっちゃある) 京太郎(18歳未満お断りなこともしたい) 京太郎(でも、この場に即したことを言えば……) 京太郎「こうやって抱きつかれてるのもいいかもな」 豊音「ほ、本当? 背の高い女の子でも気にしない?」 京太郎「それも個性だろ、きっと」 豊音「そうかな?」 京太郎「そうだよ」 豊音「……うん、そうだね、きっと」ギュッ 豊音「じゃあね、京太郎くん」 京太郎「ああ」 京太郎「……こうして過ごしてる分には影響ないんだよな」 京太郎「ま、しばらく麻雀はできないな」 京太郎「意識しすぎたらダメって……今は無理だろ」 京太郎「ほんと、扱いに困るな、これ」 京太郎「それもこれも、俺の自惚れじゃなきゃだけど」
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5- ぐったりとリリスに凭れかかるラムザ。 「貴様、ラムザに何をしたッ!?」 「暴れたら面倒だから、寝て貰っただけ。―今夜は良い夜ね」 「何!?」 「お酒の匂いでまた来てみれば、お酒の他にオ・ト・コ付き☆」 「ふ、ふざけるなッ!だいたい、逃げられると思うか!」 聖剣技を繰り出す。 リリスはラムザを離し、回避する 「聖剣技が使えるのね~。感心感心」 「ああ。神の加護より繰り出される剣技だ。ラムザは渡さんぞ、妖魔!」 「"は"…って。何?貴女、仕事よりラムザちゃんが大事なの?」 「む…つ、積み荷も渡さんぞ!」 「! は~ん、貴女、彼のこと好きなのね?」 「そ、そんな事は―」 「そう、そうなんですよ!隊長は――」 「アリシアァ!」 「………ゴメンナサイ。何デモナイデス」 「ラムザは隊の長だ。…尊敬はしている」 「それだけ?」 「それだけだ!」 「ふ~ん、そう」 少し思案した後、リリスは予想外の言葉を発した。 「ねぇ、貴女のしぶとさに免じてお酒、置いていってあげる」 「何?」 「お酒も良いけどたまには男も良いな~って☆」 「ふ、ふざけるな!それに貴様を倒す事がそもそもの目的!!積み荷は消えても、貴様をかえすわけにはいかん!」 「あ、そう。馬鹿ね貴女。折角私が見逃して上げるって言ってるのに」 リリスはヤレヤレと肩をすくめた。 「私ね。リリスの中でも結構好き嫌いない方だけど、どうしても我慢できないものがあるの。それが―」 高スピードで跳躍してくるリリス。 「―貴女みたいに自分の気持ちに嘘をついてる人よっ!!」 アグリアスに爪攻撃を仕掛ける それをを左後方に転がり避ける。 起き際に聖剣技を繰り出そうとするが、見当たらない 「鈍~い♪」 右後方から声がし、咄嗟に盾で防御 リリスの回し蹴りをもろに食らい吹っ飛ぶアグリアス。 「ホーリー!」 アリシアが唱えたホーリーがリリスに直撃する 「うふふ♪私には聖魔法なんて効かないわよ?」 「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 夢邪睡符!」 アリシアが力なく倒れる。 「ホーリーが駄目なら、これならどうだ!」 アグリアスの乱命割殺打がリリスに向かって放たれる。 しかしリリスはさっと飛び去り、聖剣技を避ける。 「はい、ハズレ」 「チッ!」 「貴女はだいぶ鍛錬を積んでるわね」 「何だと?」 「剣技を見てれば判るわ。所々鋭く、綺麗な剣線をしてるもの」 「――何が言いたい」 「リリス族って、相手の心が読めるの。心に隙のある人は特にね。だから貴女の攻撃も避けれた」 心が読める?―剣を極めて行くと相手の心が読めるようになると聞くが・・・。 「そんなんじゃないわ。例えば…ふ~ん、貴女、今の隊に居場所がないようね。強い人が入って居場所がなくなったってところかしら?」 ――! 本当に自分の心が読まれている事をしり、動揺を隠せない。 「その人が入るまで自分は腕のたつ剣士だ~、そこら辺の騎士より優れている~って思ってたでしょ?そう言うのをね、慢心って言うのよ!」 リリスの爪がアグリアスに迫る。 「クッ!」 アグリアスは迎撃するように剣を振る。 しかし、驚いた事にリリスの爪はアグリアスではなく、剣をしっかりと掴んでいた。 「貴女より強い人間なんて沢山いるわっ!―自分の慢心に気がつかない限り、貴女の居場所は見つからないし、自分より強い人にも勝てない! どんなに鍛錬を積んだってねッ!!」 言い終わるや、もう片方の爪がに迫る。 アグリアスはそれを寸前のところでかわす。 だが避けた直ぐ後、爪を追うように回し蹴りが迫って来た。 「心が影響を及ぼすのは剣だけじゃないわ。当然動きも鈍る!!」 ――避け切れない! アグリアスは咄嗟に盾で防御をする。 「そんなヘタれた盾じゃ防げないよ!」 リリスの回し蹴りをもろに受け盾が砕ける。 衝撃で吹っ飛んだアグリアスは山の岩肌に叩きつけられた。 「グハッ!」 拙い―!予想よりダメージが大きい。 だんだんと口の中に血の味が広がるのを感じる。 「あはは☆――動きも鈍い、剣も鈍い、そして自分の気持ちにも鈍い!ホントにイライラすわ、貴女を見てると!!」 確かに自分は慢心していたのかもしれない。 以前から雷神シドの噂は聞いてたし、騎士として尊敬している人物である。 騎士団時代はそのオルランドゥをも超えるよう鍛錬を怠らないようにしていた。 だから、聖剣技を自在に駆使し、ラムザと一緒に旅をするようになってからも頼りにされていた。 多種多数のモンスターを倒し、伝説に詠われるルカヴィとも渡り合った。 それがため、「もはや自分はオルランドゥ伯に並んだ。いや、超えたかも知れぬ」と慢心に繋がっていたのだ。 6- アグリアスは重い体に鞭をうちなんとか立ちあがる。 「まだ戦うの?シブトイわね」 戦況は確実に不利。 敵にこちらの攻撃はあたらなく、盾も壊れてしまった。 叩きつけられた影響で、体も重く感じる。 ケアルで何とか出来るだろうが、唱えている間にやられるのがオチだ。 「ねぇ、最後に教えてよ。何のために剣を振るうの?」 剣を振るう理由、戦う理由―― 「名誉を挽回したいから?」 そうじゃない違う。 「アハハ!騎士って人種は本当に哀れね。民を守るとか言いながら、心の中では卑下している。貴女が騎士になったのも地位と名誉が欲しかったからなんでしょ?」 私は―――― 「サヨウナラ、騎士さん」 リリスの爪がアグリアスに伸びる。 その攻撃を剣で弾くアグリアス。 「―確かに私は弱い。慢心し、守るべき君主の側にも居ず、今も貴様にやられそうだ」 突然のアグリアスの言葉に怪訝な顔をするリリス。 だが、止めを刺さんと再び回し蹴りを繰り出す。 「だが、どんなに弱くても、どんなに鈍くても譲れないものがある」 回し蹴りをしゃがんで避けるアグリアス。 「権力や地位など関係ない」 右斬上に剣を振り上げる。 「助けを求められれば助けたい」 (早い―!?) 予想外のスピードに避ける事も出来ず慌てて爪で受け止める。 「大切な人を守りたい」 リリスはいったん距離を取ろうと翼を羽ばたかせる。 「私は、私を必要としてくれる者の為に戦う!それが私の戦う理由だ!!」 アグリアスは逃げようとするリリスの手を掴む。 「死兆の星の七つの影の 経路を断つ! 北斗骨砕打! リリスはアグリアスに掴まれ避ける事ができず、放たれた北斗骨砕打が体を貫いた。 「あ…」 小さく呻き崩れ落ちた。 暫く倒れたリリスの様子を伺うアグリアス。 リリスからは殺気も戦意も感じ取れない。 北斗骨砕打が綺麗に決まったから良いようなものの、決らなかったらやられていたのは私の方だった。 妖魔リリス――、破廉恥で心を読む厄介な敵だった。 だが、おかげで自分の間違いに気づく事ができた。 それに忘れれかけていた戦う理由も。 きっと止めを刺そうとすればいつでも刺せたのだろう。 何のためにリリスがあんな無駄口を叩いたのかは判らない。 そういう性格なのかもしれない。 ――だが、もしかすると自分を諭すために? もしそうだとするなら相当な御節介者だ。 「…!」 突然、眩暈がし思わず片膝を付く。 やはり叩きつけられたダメージがそうとう効いているようだ。 ケアルラを唱え、体力の回復を図る。 癒しの光が体を包み、次第に体も軽くなって行く。 積み荷も完全な状態とは言えないが、なんと守る事も出来た。 ラムザとアリシアも夢邪睡符で寝ているだけだから、問題あるまい。 しかし、依頼とはこんなに大変なものなのだろうか? だとすればいつも儲け話に行っているラヴィアン・アリシアの評価をもっと上げる必要があるな。 ケアルラをかけ終わり、体に力が戻って来たのを確認するアグリアス。 ふと視線を上に戻すと、そこに倒れているはずのリリスの姿がない。 「逃げた――か?」 そう思ったが、倒れていた場所に掌大の石像が落ちている。 それは羽の生えた女性像で先ほどまで倒れていたリリスに似ている。 「あぁ、そうか。リオファネス城で倒したアルケオデーモンも倒したら石になったな」 悪魔種とはきっとそういうものなのだろう。 アグリアスは地面に落ちているリリス像を手に取った。 ――フフフ。私を倒すなんてやるじゃない。これからは自分の気持ちに正直になりなさいよ そんな、リリスの声が聞こえた。 少し驚いたアグリアスだが、直に苦笑する。 「本当に御節介だな、貴様は」 7- ハッー!ヤッ!フッ! ラムザ一行が宿泊する宿の裏手で、アグリアスはいつものように鍛錬に勤しむ。 依頼を受けてから4日目でドーターに戻った。 酒場では異例の速さに報酬にイロを付けてくれ、休暇を楽しんでいたメンバーも称賛の言葉をかけてくれた。 だが、夜間戦闘からの帰還で眠さがピークに達していた為、直ぐに寝てしまった。 そして今日にはドーターを発たなくてはいけない。 だから、朝から鍛錬に勤しんでいるのだ。 そんなアグリアスを心配して、ラムザが声を掛けて来た。 「アグリアスさん、大丈夫ですか?昨日帰ったばかりなのに休まなくて」 「なに、心配するなラムザ。今日は素振りだけにするよ。あと300回程で止める」 (300回のどこが軽いんだろう?) ラムザも鍛錬をするが、300回と言ったら普通の鍛錬と変わらない気がした。 「おぉ、今日も鍛錬をしておるのか。結構結構」 「あ、伯。おはようございます」 「おはようございます、オルランドゥ伯」 「うむ、二人ともおはよう」 一旦、素振りを止めたアグリアスだが、挨拶を終えると直ぐに素振りを始めた。 そんなアグリアスをじっと見るシド。 「―うむ。迷いがない良い剣線だ。迷いが吹っ切れたようだな」 「はい!ですが、まだまだオルランドゥ伯の足元には及びません」 「なに、儂は長い年月を経て今の力を手に入れたのだ。きっと貴殿と同じ頃の儂なら負けておるよ」 「ご謙遜を」 「ときにラムザ。報告書は読ませてもらったよ、妖魔リリスとはなかなかの相手だっただろう」 「いえ、僕なんか直ぐに眠らされちゃって戦ってないんです」 「ならば、君もアグリアスを見習って鍛錬に勤しむがよい。 君はどこか自分の命を軽率に見ている感がある。 己が死んでしまったら、多くの人が悲しむことになる。そうならないようにな」 「はい」 シドの言葉をおもおもしく受け止めるラムザ。 「とこで、リリスを倒したとなれば、リリス像が手に入ってのではないか?」 「あ、はい。あの像ですか。他の財宝と一緒に管理してありますよ?」 「うむ、昔からリリス像は持つ者の力を高めると云われ、歴代の武人が好んで収集したものなのだよ」 「へ~」 「でな、少し儂に貸してくれんか?」 「え?構いませんが――」 「そうかそうか。ではさっそく―――」 上機嫌に去っていくシド。 「ねぇ、アグリアスさん」 「何だ?」 「伯が言っていていたように依頼を終えてから、 特にリリスを倒したあとから以前のように何か吹っ切れたような気がするんですけど、何があったんですか?」 「ん―知りたいか?」 アグリアスは素振りを止め、ラムザに向き合う。 「ラムザもアリシアも眠らされた後も、あのリリスは色々な罵声を私に浴びせて来たんだ。 その中でリリスは私に戦う理由を詰問してきた」 「戦う理由ですか?」 「あぁ。だから言ってやった。私は私を必要としてくれる人のために戦うのだと」 「―なるほど。でも、リリスも何でそんな事を言ったんでしょうね」 「さぁ、私にも判らない。だが、おかげで自分を再認識する事が出来た」 少し間が空いた後、アグリアスが真剣な面持ちで言う。 「ラムザ、これからも――私を必要としてくれるか?」 それはとても深くて、重みのある言葉。 だけど、ラムザはいつもの笑顔で答える。 「もちろんです。僕にはアグリアスさんが必要です」 「ありがとう」 ラムザは出発の準備をすると言い、その場から離れて行った。 それを見送り、アグリアスは鍛錬を再開する。 正直にいえば、自分の気持ちを伝えたかった。 リリスは自分の気持ちに正直にと言っていたが、今はその時ではない。 ラムザはその身にアルマの事、ルカヴィの事、隊のメンバーの事などたくさんの重荷を背負っている。 そこに自分の気持ちを伝えれば、良いにしろ悪いにしろ私はスッキリするだろう。 だが、それはラムザにまた一つ重荷を背負わせる事に他ならない。 ならば、今は言う時ではない。 今は側にいてラムザを支える――― それが最善の方法だろう。 剣線は 黒珊瑚の海から吹きあげる風を切っていく。 その剣の鍛錬に一層の気合が入る。 以前のように己のためではなく―― ―――――その剣で自分の大切な人を守るために。 次の朝――― 「あれ~、フェニックスの尾が減ってる…。おかしいな~?昨日確認した時はもっとあったのにな」 「ラムザ!」 「あ、アグリアスさん。丁度良かった―って、どうしたんです?そんなに怖い顔して」 「見てくれ、これを!」 「あぁん、返してくださいよ!私のお酒ぇ~」 「あ、これって依頼で運んだ―」 「そうだ。幻の酒と言われるバッカスの酒だ!」 「でもあれってリリスに全部飲まれたんじゃ?」 「たしか もう飲んじゃったって」 「ヘッヘー、このアシリアがちゃんと手を打っておいたんですよ♪」 「お前が隠しておいただけだろうが!!」 「良いじゃないですか一本くらい。私達のおかげでイヴァリース中においしいお酒が届くんですから」 「だからと言って積み荷を盗ってしまっては盗賊と同じだろうがッ!!」 「む?なんの騒ぎかね?」 「あぁ、伯、見てください。アリシアが―って風呂あがりですか?」 「うむ。昨日の夜は少し鍛錬に気合が入りすぎての、朝までヤってしまったわい」 「朝まで鍛錬とは…私も頑張らねば」 「イイ汗かいたおかげで若返ったようだ!」 「そうそう、ラムザ。フェニックスの尾が必要だったのでちょっと使わせてもらったぞ」 「あ、伯だったんですか?でも、鍛錬でフェニックスの尾なんて何に使ったんです?」 「レイズでも良いのだが、それだとかなり手間がかかるのでな。体力がギリギリの状態で生き返ってた方が、鍛錬に勤しめるのだよ」 「?」 おしまい
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「石鹸は体のためにあり、涙は心のためにあるのです。」 列伝 基本スペック 基本能力値 コメント 列伝 オステア教区の神官として戦乱で荒廃したオステア復興活動に従事していたが、才を見込まれ、ルートガルト国の従軍神官として仕官を求められた。 同国崩壊後はオステア国のラファエルの下、復興活動に加え難民救出のため死霊の大軍と戦う。 彼女の祈りは、対峙した死霊軍を一瞬で成仏させたという。 基本スペック Ver6.85j 名前 クレア 性別 女性 肩書き 僧侶 種族 人間 クラス モンク 雇用種族 人間 雇用クラス モンク 特殊雇用 初期勢力 S4→ルートガルト国 S5~6→オステア国 S7→ラザム同盟 初期階級 S4~S7→一般 初期レベル S1~2→10 S3→15 S4→18 S5→20 S6→23 S7→25 初期スキル モンク準拠 ディスペルⅡ 習得スキル モンク準拠 リーダースキル ディスペルⅡ 混乱耐性UP 沈黙耐性UP 石化耐性UP 恐慌耐性UP 即死耐性UP 魔吸耐性UP ドレイン耐性UP 訓練効果アップ(3) 必殺スキル 財政力 500 基本能力値 HP 300 MP 100 攻撃 10 防御 10 魔力 90 魔抵抗 90 素早さ 60 技術 60 HP回復 0 MP回復 20 移動力 100 移動型 普通 exp_mul 125 召喚可 1 初期耐性 火 毒 水 麻痺 風 幻覚 強い 土 混乱 強い 光 沈黙 強い 闇 普通 石化 強い 神聖 恐慌 強い 死霊 即死 強い 弓矢 吸血 微弱 城 魔吸 強い 解呪 無敵 ドレイン 強い 一般ユニットより高い能力値は青字で記載。 コメント ディスペルⅡとレクイエムを覚える対アンデットに強いモンク -- 名無しさん (2009-09-23 19 51 42) リーダースキルも軒並み対アンデッド用に傾いており、非常にはっきりした能力の持ち主。 HPアップも持って居るが、どっちにしろモンクは殴られたら死ぬのであまり効果は感じない。 -- 名無しさん (2009-12-21 02 38 30) オステア国でプレイすると彼女と彼女の部隊がリチM軍相手にまさに獅子奮迅の活躍をする こととなる -- 名無しさん (2010-05-01 03 17 18) 部下にディスペル2を付与し、自分もレクイエムを覚えるという対死霊戦特化モンク。 s5,s6,光を継ぐものでは獅子奮迅の活躍を見せる人材の一人。 -- 名無しさん (2011-02-21 11 34 19) 能力的に正体はアルケーか?Jacob's Ladderにより天使の軍勢を呼び出しそう。 -- 名無しさん (2011-04-16 18 08 25) ラクタイナの天敵。 S1でラストニ・パクハイト建国で遊ぼうと思ったら、エルフォードが雇っててかなり酷い目に遭った。 ブラッドサックは相殺され、ネクロマンシーは瞬時に消され…… -- ピヨンめも (2011-04-16 22 49 07) 更新で部下に付与するLSがディスペルⅢになり、さらに解呪魔っぷりに磨きがかかった。 さりげなくディスペルⅢは現在のところ彼女の専用スキルである。(部下に付与できるので厳密に「専用」ではないが) -- 名無しさん (2012-01-16 08 25 43) 対アンデッドの決戦兵器化し始めている -- 名無しさん (2012-03-19 12 29 15) 立ち絵がついた さすがクレアさんじゅうななさいだけあって若い -- 名無しさん (2013-09-27 17 09 58) 生え際が前進している…? -- 名無しさん (2013-09-27 21 58 25) 更新でディスペルⅢとレクイエムを消されてしまった。 彼女にとっては特に大きなアイデンティティであったのにそれを失ってしまって ただただ状態異常にはやたら強いだけのモンクになった。 -- 名無しさん (2015-06-02 18 33 44) またまた列伝に矛盾が発生してしまった どうすんのこれ -- 名無しさん (2015-08-04 01 27 34) オステア国ではエルティアとは純粋に魔力差のためかLv差が大きくなる 財政力500持ちのお姉さま -- 名無しさん (2015-11-04 12 38 20) モンクNo.1の訓練効果と財政力持ち(あと一応モンクNo.2の魔力) 昔の対アンデッド特化という個性は薄くなったが地味に内政系という味付けになっているのかな -- 名無しさん (2017-05-03 21 28 02) 石鹸のセールスをしているおばさんというイメージ -- 名無しさん (2020-10-10 18 55 40) 雇用すると石鹸の話をするが、レノアではなくクレアなので注意 -- 名無しさん (2023-09-11 00 00 26) 名前 コメント
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407 :再見 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/18(日) 00 52 15 ID guWKPB74 川の水が押し寄せる堤防を、僕は歩いていた 1週間前から降り続く雨のせいで河川敷は水没 堤防の下2メートルまで増水していた そんな景色を眺めていると、あの時の事を思い出す 彼女と初めて出会ったあの時を 僕が中学に上がって一月たった頃 その日、僕の住んでいる町は水の中に沈んだ 東西二つある堤防の西側が決壊し川の水が流れ込んだからだ 降り続いた雨、台風、そして堤防の虚弱性 水害など過去に例がなく、まったくの想定外だったからだ 流れ込んでくる水から逃げるため、僕は家族と反対側東の堤防へ非難した 堤防へ駆け上がり気づく、弟がいない、どこかではぐれたようだ 僕は慌てて探し回った、両親は僕と逆方向を探しに行った その時だ、彼女に出会ったのは 手を伸ばせばすくえるぐらいに増水した堤防の淵に彼女は立っていた 魂のない抜け殻のように呆然と水面を見つめ、雨に打たれずぶ濡れになった少女 年は僕と同じぐらい、見覚えがないのは多分別の学校だからか 弟を探すのを一旦止め、僕はそっと彼女に傘を差し出した その時、今まで人形のようだった彼女の目に光が宿り、涙が溢れだす 顔をくしゃくしゃにして涙を流し、彼女は言った 409 :再見 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/18(日) 00 55 16 ID guWKPB74 「お母……さん、が……お…父さん……が……っ」 最悪の場合も考えられる、でもそれは僕も同じだった 「大丈夫、きっと別の場所に非難してるよ、僕も弟とはぐれたんだ」 早く弟を探さなくては、でも彼女をこのままにしては行けない、だから 「よかったら、一緒に探そう、傘貸してあげるから、ね?」 彼女はコクリ、と頷いた それから僕らは互いの家族を探しに歩き始める 他に非難してきた人が大勢いて、はぐれてしまわないようにと手を繋いで 30分もしないうちに彼女の両親は見つかった 弟を見つけないといけないから、と別れようとした時 なかなか手を離してくれなかったのを覚えている 今思えばあの時が人生で初の相合傘か、それも可愛い子と手を繋いで、だ ちなみに弟は僕の両親が見つけた、意外とすぐ近くにいたようだった それからずっと彼女のことが気になっていたが 水が引いてからの後片付けや、学校の再開で多忙を極め記憶の隅に追いやられていった 彼女と再会したのはその半年後だ
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471 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2009/08/12(水) 18 59 25 ID ??? まあ俺もエア彼女とのデートで例会を休んだことがあるけどなHAHAHA 472 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2009/08/12(水) 19 02 42 ID ??? 471 空気嫁 スレ233
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Last update 2007年10月07日 Welcome to our hamlet 著者:知 しかし彼女にとっての真に偉大な時代はまだ訪れてはいなかった。 「――まだ、少し早かったかな?」 彼女は小首を傾げてそう呟いた。 「……な、何が……?」 僕はあまりもの光景に頭が真っ白になってしまい、上手く働かない頭ではそう聞き返すことしかできなかった。 「ん?」 僕の言葉に彼女は又、首を傾げて僕を見つめた。 その瞳は黒から銀色に変わり、髪も漆黒から灰色に変わっている。かなり印象が変わっていてふと見ただけでは彼女とは分からない。 首を傾げる仕草は彼女の容姿とぴったり合っていてとても可愛らしい ……でも…… 僕は辺りを見回した……一面銀世界……と言っても元々この場所がそうだったわけではない。 ここは冬になると確かに雪が沢山降ると聞いている。 でも、今は冬ではない、夏だ。 「――ふぅ、これ以上は……無理……かな?」 彼女がそう言うと同時に初めから雪はそこになかったかのように雪は忽然と消え、髪や瞳の色が元に戻った。 「えっと……何だったかな?」 彼女は一息ついてから僕の目を見つめながらそう聞いてきた。 「……何が少し早かったのかなって」 僕がそう答えると彼女は合点がいったような顔をして 「そっか、君はまだ『異能者』になってそんなにならないんだね」 と僕に向けていた視線を少しそらして言った。 彼女が『異能者』という言葉を言った時すごく辛そうな表情をしていたのは気のせいだろうか。 「じゃあ、私が教えてあげるね――」 彼女がそう言って僕に教えてくれたことを簡単にまとめるとこんな感じだ 『異能者』とは所謂魔法みたいなものを使うことのできる者ことをいう 『異能者』が使える魔法のようなもののことを『能力』と言い、それは『異能者』によって異なる 『能力』の強さは年や月、日によって変化し特に女の子はその変化が激しい ――何で女の子は『能力』の強さの変化が激しいのか聞いたら、暫く彼女はきょとんとすると、顔を真っ赤にして怒った……何で?―― 他にも彼女は教えてくれたんだけど、僕にはちんぷんかんぷんだった。 ふと空を見ると茜色に染まっていた。 「ああ。もう、こんな時間なんだ」 彼女が僕につられるように空を見るとそう呟いた。 「じゃあ、又、明日ここで」 僕は自然に彼女にそう言っていた。何故、そう言ったのかわからない。彼女とは今日出会ったばかりなのに。明日にはこの町を出て行くつもりだったのに。 でも―― 「うん、又、明日ね」 と言った時の彼女の笑顔をみるとそんなことはどうでもよくなった。 僕は彼女と一緒にいると楽しかったから。 だって、僕が彼女がいう『異能者』になってから僕に優しくしてくれたのは彼女だけだったから。 翌日、僕は目が覚めると昨日彼女と出会った場所に行った。特にすることもなかったし、それに…… その場所に着くと彼女がもうきていた。 「早いね」 僕は彼女にそう声をかけた。まだ朝早くだ。まさかきているとは思わなかった。 「うん、だって私、大事なことに気づいてなかったから。」 彼女がどこか気まずそうに言った。 「大事なこと?」 「――君はこの町の近くの子ではないよね?どこか遠くから一人できたんだよね?」 僕は何も言えなかった……その通りだったから。 「やっぱり……最近、この町の近くで『異能者』が生まれたって話を聞いたことがなかったんだよ。それを知ってたのに何ですぐに気づかなかったんだろう」 彼女はそう言うと僕に抱きついてきた…… 彼女の匂い、暖かさ、そして見た目からは想像できない女の子らしい体の柔らかさに思わずどきどきしてしまった。 「よかった……これで君に居場所を作ってあげられる」 彼女は安心したようにそう言うと僕を抱き締めていた手を離し、にっこりと笑った。 「……居場所?」 「うん、私も君と同じだったから……小さな集落だけど『異能者』が暮らしている場所があるから、そこに案内するよ。そこなら君も安心して暮らせるよ」 ……安心して暮らせる…… その言葉はすごく魅力的だった。だって、生まれた場所から追い出されてから安心暮らせることはなかったから。 『異能者』であることがばれてしまうとその町を追い出された。 そういうことを繰り返しているうちに僕は一つの町に住み着くことを諦めた。そして各地を点々と歩いていくことに決めた。 「……本当に?」 僕の声は少し震えていた。 「うん。」 彼女は笑顔で僕に手を差し伸べた。 僕はその手を少しためらってから軽く握った。 「じゃあ、行こ?」 すると彼女は僕の手を強くしっかりと握り締めると、楽しそうに歩き始めた。 彼女に連れられて着いたのは本当に小さな集落だった。 でも、そこの人は僕を暖かく迎え入れてくれた。 そして僕に与えられた家、一人暮らしなのが少し寂しいような気がしたけど…… 家は……いや、この建物(家というには少し変な物だった)は…… 僕が各地を点々と歩いていたときに夜露を凌いでいた小屋と比べると…… この建物はそれほど悪くなかった 前の作品 次の作品 コメント 名前 コメント
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ヴァイスサイド 冴えない彼女の育てかた カードリスト ブースター トライアルデッキ+ プロモーションカード 総評 ブースター 番号 種類 レアリティ 色 カード名 レベル/コスト スペック 特徴 SHS/W56-001 キャラ RR 黄 乙女な本質 英梨々? 1/0 4500/1/1 《ゲーム》 《漫画》 SHS/W56-002 キャラ RR 黄 倫也の愛弟子 出海? 3/2 9500/2/1 《ゲーム》 《漫画》 SHS/W56-003 SHS/W56-004 SHS/W56-005 SHS/W56-006 SHS/W56-007 SHS/W56-008 SHS/W56-009 SHS/W56-010 SHS/W56-011 SHS/W56-012 SHS/W56-013 SHS/W56-014 SHS/W56-015 SHS/W56-016 SHS/W56-017 SHS/W56-018 SHS/W56-019 SHS/W56-020 SHS/W56-021 SHS/W56-022 SHS/W56-023 SHS/W56-024 SHS/W56-025 SHS/W56-026 SHS/W56-027 クライマックス CR 黄 八年ぶりの個別ルート? CX 1・風 SHS/W56-028 SHS/W56-029 SHS/W56-030 SHS/W56-031 SHS/W56-032 キャラ RR 緑 理想の女の子 恵? 3/2 9000/2/1 《ゲーム》 SHS/W56-033 SHS/W56-034 SHS/W56-035 SHS/W56-036 SHS/W56-037 SHS/W56-038 SHS/W56-039 SHS/W56-040 SHS/W56-041 SHS/W56-042 SHS/W56-043 SHS/W56-044 SHS/W56-045 SHS/W56-046 SHS/W56-047 SHS/W56-048 SHS/W56-049 SHS/W56-050 SHS/W56-051 SHS/W56-052 SHS/W56-053 クライマックス CR 緑 冴えない彼女の育てかた? CX 宝 SHS/W56-054 SHS/W56-055 SHS/W56-056 SHS/W56-057 SHS/W56-058 SHS/W56-059 キャラ RR 赤 クリエイターの矜持 詩羽? 3/2 10000/2/1 《ゲーム》 《小説》 SHS/W56-060 SHS/W56-061 SHS/W56-062 SHS/W56-063 SHS/W56-064 SHS/W56-065 SHS/W56-066 SHS/W56-067 SHS/W56-068 SHS/W56-069 SHS/W56-070 SHS/W56-071 SHS/W56-072 SHS/W56-073 SHS/W56-074 SHS/W56-075 SHS/W56-076 SHS/W56-077 SHS/W56-078 SHS/W56-079 SHS/W56-080 SHS/W56-081 SHS/W56-082 SHS/W56-083 SHS/W56-084 SHS/W56-085 SHS/W56-086 SHS/W56-087 SHS/W56-088 SHS/W56-089 SHS/W56-090 SHS/W56-091 SHS/W56-092 SHS/W56-093 SHS/W56-094 SHS/W56-095 SHS/W56-096 SHS/W56-097 SHS/W56-098 SHS/W56-099 SHS/W56-100 トライアルデッキ 番号 種類 レアリティ 色 カード名 レベル/コスト スペック 特徴 封入数 SHS/W56-T01 SHS/W56-T02 SHS/W56-T03 SHS/W56-T04 キャラ TD,RRR 緑 メインヒロイン担当 恵? 1/0 4500/1/0 《ゲーム》 SHS/W56-T05 SHS/W56-T06 SHS/W56-T07 SHS/W56-T08 SHS/W56-T09 キャラ TD,RRR 緑 原画担当 英梨々? 3/2 10000/2/1 《ゲーム》 《漫画》 SHS/W56-T10 クライマックス TD 緑 運命との出逢い? CX 宝 SHS/W56-T11 SHS/W56-T12 SHS/W56-T13 SHS/W56-T14 SHS/W56-T15 SHS/W56-T16 SHS/W56-T17 SHS/W56-T18 キャラ TD,RRR 赤 シナリオ担当 詩羽? 3/2 10000/2/1 《ゲーム》 《小説》 プロモーションカード 番号 種類 レアリティ 色 カード名 レベル/コスト スペック 特徴
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彼女の手はとても小さかった。 僕は、こんな小さな手で何をつかめるのだろうと思った。 それが、僕の彼女に対する第一印象だった。 僕が彼女と始めて出会ったのは、中学二年生の春だった。 新学期独特の空気に湧く桜の花びらの匂いのする教室の中で、彼女の姿は一際目を引くものだった。 確かに彼女の容姿は、彼女を美少女と呼ぶことにおそらく誰も異論を挟まないであろうと思わせるものだった。 けど、僕が目を奪われたのはそのためではない。 何かどこか不思議なものを感じたのだった。 彼女の一挙手がとても完璧で、そしてそれがまるで演劇を見ているみたいに不自然に見えた。 ちょうど、ゴールデンウィークも終わって、クラスメイトたちが学校にだれてき始める頃だ。 その頃に、僕は彼女が普通とは違うということに気が付いた。 その日、僕は前日間抜けにも風邪を引いて学校を休んでいて、数学の授業の範囲がわからなかった。 そのことに気が付いたのは休み時間で、周りの席の知り合いたちはどこかへ遊びに行ったのか、誰もいなかった。 ただ、一人僕の隣の席で本を読んでいた彼女を除いては。 僕はその時少しドキドキしながら声を掛けたことを覚えている。 今まで会話の機会のなかった彼女と初めて会話するのだ。 それがほんの大した事のない、それこそ数秒の会話で終わってしまうようなことでも、僕はちょっぴりうれしかった。 僕は彼女に次の授業の数学が教科書何ページから始まるかを、少し緊張した声で尋ねた。 彼女は手に持った文庫本にしおりを挟んで丁寧に折りたたむと、それを机の上に置いた。 そして、ゆっくりと僕のほうを振り向いた。僕を見つめるその大きな丸い瞳が印象的だった。 僕は思わず彼女の瞳から目を背けてしまうと、その読んでいた文庫本に視線を移した。 その表紙にはエラリークインという文字が見えた。知らない作家だった。海外文学だろうか。 けどそれ以上に、その文庫本の上にどこか緊張した様子で置かれた小さな手に、僕は目が釘付けになっていた。 彼女は僕の質問に丁寧に答えてみせた。 そして――そして僕は彼女の少しかしこまった喋り方に違和感を覚えた。 けど、彼女はそんな僕が疑問をぶつけることを許さないように、柔らかく微笑んでみせた。 僕は、短くお礼の言葉を言うだけで精一杯だった。 たった、それだけだった。彼女は、とても人当たりよく対応してくれた。 けれども、それ以上、そこから先へは僕を踏み込ませてくれなかった。 僕はそれから彼女をよく見るようになっていた。 彼女は学校ではなんでもよく出来た。特に勉強は人一倍出来た。 普段からよく本を読んでいるから語彙が豊富なのか、特に作文、というより文章を書く作業に秀でていたように思う。 そしてスポーツも彼女は得意だった。完璧な人間、端から見ているだけだったらそう見えたかもしれない。 彼女は実際よくもてた。特に彼女のことをよく知らない男子から。 彼女のことをよく知っている男子は、彼女をどこか敬遠していた。 おそらく、みんな無意識のうちに感じていたのだろう。 僕が始めての会話で感じたのと同じような違和感を。 彼女は、男子と話すときだけ、自分のことを僕と言った。 それだけではない。言葉遣いも妙に小難しいものになった。 けど、それは自分の知識を人に自慢するような態度ではなかった。 僕はその姿にパントマイムを重ねていた。 そうして彼女は決して自分を表に出さなかった。 僕が見ていたのは、彼女という鏡が映した僕の姿だったのかもしれないと、今は思う。 そうやって、彼女のパントマイムに当てられた男はみんな彼女を訝しげな顔で見ていた。 いつしか、僕たち男子の間では、彼女は名前ではなく、変な女と呼ばれるようになっていた。 僕は誰かが、彼女を変な女と呼ぶたびに、あの小さな手を思い出していた。 三年生に進級したときも、僕は彼女と同じクラスだった。 もう、その頃には彼女の噂は結構広まっていて、誰も一年前のように彼女を見ても騒ぎ立てることはなかったし、彼女と話して驚くこともなかった。 そして、そういった男子の中でも、特に動じない男がこのクラスにいた。 どんなきっかけだったかはすっかり忘れてしまった。 けれども、僕はその彼と仲良くなった。 彼は、無愛想でちょっぴり皮肉屋ですこしとっつきの悪い印象の男だったけれども、話してみれば結構印象は変わるものだった。 妹がいるおかげだろうか、面倒見はいいし、何だかんだ言って友達想いの男だった。 彼はその妹のせいで、自分の奇矯なあだ名が広まったことを嘆いてはみせていたが、端から見ていると差し当たってどうでもよさそうだった。 そう、彼は細かいことは全く気にしない、よく言えば純朴、悪く言えば鈍感な男だった。 そして、彼は、僕が見る限りでは、初めて彼女と話をして全く動じなかったただ一人の男だ。 彼と彼女が初めて会話したとき、むしろ驚いていたのは彼女のほうだった。 そのときの状況は僕と同じだった。彼が、隣の席の彼女に数学のノート片手に何かを尋ねていた。 彼女の返事を聞いても、彼は全く動じず、軽く右手を挙げて礼をすると何事もなかったかのようにノートを開いて何かを書き込んでいた。 彼女はそんな彼の横顔をしばらく眺めていた。 残念ながら、そのときの彼女の細かい表情までは僕には見えなかったのだけれども。 一つの大きな転機は、彼が予備校に通い始めたことだった。 僕は、彼女が誰にも見せた事のない素顔を見せてしまうことを期待して、わざと彼の席まで言って彼女にも聞こえるような声で、彼と話をした。 今にして思えば、随分と意地の悪いことをしたと思う。 けど、結果的にそれが彼女が変わる小さなきっかけを作った。 僕は彼から、成績が伸び悩んでいるので母親に予備校に行けと言われている、どこかいい予備校はないかと相談を受けた。 そこで僕のずるがしこい頭は一つの妙案を思いついた。 僕が彼に薦めた予備校、そこは駅前にある予備校で、彼女が通っている予備校だった。 僕は掃除当番時とかに彼女と話す機会があるので、彼女の通う予備校を知っていたのだ。 もちろん、その話は彼女に聞こえるように大きな声で言った。 彼女の様子を横目で窺ってみた。 彼女は文庫本を開いていた、視線をどこか遠くに向けたまま。 きっかけを作れば後は簡単に事は進んでいくものだ。 彼が予備校に行った翌日、僕に同じクラスに偶然彼女がいたことを告げた時には、僕は笑いそうになってしまった。 また、彼は彼女からあだ名で呼んでもいいか、と言われたとも話した。 何で、俺のあだ名を知っているんだろう、と彼は訝しがっていたが、それは毎日毎日彼女の席の隣で君のあだ名を言い続けている僕のせいだったのは明白だ。 それから、僕はあまり彼の席へ行って話をすることがなくなった。 別に、彼とケンカしたわけじゃない。 ただ、常に彼の隣には先客がいたからだ。 漫然とした様子で給食を突く彼の机に彼女は半ば身を乗り出して、なにやら楽しげに話をしていた。 時折、彼は彼女の話に相槌を打って、そして、そのたびに彼女は嬉しそうな顔をして、とりとめもない話を彼にするのだった。 そのうち、彼らが自転車二人乗りをしているところを見たという噂が広まった。 彼に事の真相を尋ねると、予備校に行くついでに乗っけてやっているだけだと言った。 彼女も誰かにその事を尋ねられるたびに、否定した。嬉しそうな満面の笑みで。 そして、彼らが付き合っているというのが、クラスの公然の事実になった。 相変わらず彼と彼女は否定していた。 彼はくだらない噂はどうでもいいという態度を崩さなかった。 彼女もまた、彼と同じような態度を取っていた。 けれども、彼女の本心がどう思っていたのかは僕にはわからない。 彼女はまだ彼のパントマイムをしていたのかもしれなかったから。 結局、中学を卒業するまで彼らの関係はそれ以上進展しなかった。 彼が鈍感すぎたのもあるだろうし、彼女が自分をさらけ出す勇気がなかったこともあるだろう。 もう少し時間があれば、何かが変わっていたのかもしれない。 きっかけがあれば、彼らはもう一歩踏み出せたのかもしれない。 卒業式の日、僕は彼と一緒に帰る道の途中で彼女のことを思い出した。 僕は忘れ物と嘘をついて、ついさっき通った道を走った。 思えば、これは僕がほんの好奇心から仕掛けたことだった。 なら、僕には最後を見届ける義務がある。 学校へと向かう一本道をいくら進んでも、彼女とすれ違うことはなかった。 そして、いつの間にか、僕は学校までたどり着いてしまっていた。 彼女は別の道を通って帰ってしまったのだろうか、それとも。 僕は教室へ向かった。 そして、そこに彼女はいた。 僕は彼女に言った。 「これでいいのかい」 「これでいいんだよ」 彼女は柔らかく笑ってそう答えた。 だめだ、僕では彼女のパントマイムを崩せない―― 結局、それっきりだった。 彼女はなぜ誰もいない教室に残っていたんだろう。 彼と顔を合わせるのが辛かったから、彼がいなくなるまでそこで待っていたのだろうか。 ならば、僕は彼をそこに連れて行くべきだった。 いや、絶対に彼を彼女と会わすべきだったのだ。 これで最後の日なら、彼の前なら、彼女も勇気を出せたかもしれない。 僕は最後の最後で仕掛け人として、しくじった。 それから二年後、僕はふと彼女の姿を試験を受けに行った予備校で見かけた。 だから、僕はひさびさに尋ねてみたのだった。 「最近、佐々木さんと会った?」 『パントマイム』