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姉貴に頼まれて裏町へ向かってから1時間ちょっと。 クリスマスはどこも人が多くて嫌気がさしたが、なんとかそろそろ到着だ。 そんな事を思ったタイミングで車内アナウンスが目的地に着いた事を告げる。 ホームから見下ろす裏町の風景は雑多で、どこか滑稽にも見えた。 光が有れば影が出来るってな月並みな台詞がある。 そういう表と裏な概念ってのは至る所にある物で、俺が向かう場所もそう。 人種、信条、貧富、国籍…経緯を含めて普通の場所では生きられない存在は多い。 この国は法治国家で、法律の元国民の権利は保障されている。 けどそれは、法を守らない、法に対象とされない種類の存在には関係の無い話。 世知辛い話だが、それが事実だ。 駅から裏町をさらに歩く事20分ほど。 借りるのに保証人も要らないような、ある種そのテの人間の為の安アパート。 今回の目的地の前で、嘆息し…呼び鈴を鳴らす。 何度目かの呼び出しにたいしてようやく部屋主の眠そうな声がドア越しに聞こえる。 「なんやのんー?勧誘の類はお断りやでー」 この喋り方って事は今は人間サイズか。 「オレだ、夏彦だ」 「へ?夏はん?」 慌ててドアを開けるその姿。俺の知り合いである所の神姫。しかも全裸。オイ。 「とりあえず服は着て寝ろ」 突っ込むオレに抱きついてブラスター…ラストが答える。 「ええやん、どうせすぐ脱ぐんやしー」 キャァァァ…胸当たってるー!? 「いや、俺は客じゃねーから!つか、体調悪いんじゃないんかいっ!?」 ラストを引き剥がして持ってきた大きなトランクを見せる。 「何?ボスわざわざ夏はんに連絡したん?」 驚いたように尋ねる。そりゃ、姉貴の人となりを理解してればそんな親切に励むとも 思えんよな。 「いや、今日クリスマスだろ。人手が足りな過ぎてな、不本意ながら手伝いを」 「ああ、それでその場に居たから頼まれたっちゅうワケ?」 「概ねその通りだ。ほら、入れ…検査すっから」 「いや、要らんよ。ロボットが病気になる訳ないやん」 面倒そうに手を振って拒否するラスト。 「お前のそっちの身体は殆ど人間と同じだろ。裏に流れた模造品とは言え」 「病気になっても不思議じゃなくね?」 正規品を使ってる知り合いの神姫達を思い出す。アレは本当にトンデモというかマジな話 人間と変わらないからなぁ。裏に流れたこの身体見た時もデッドコピーながらトンデモ 加減はまだまだ常識の外で驚いたモンだった。 そして、俺の問いにしばらく考え込んだラストが部屋に戻りながら返す。 「夏はんの言う通り模造品やからな。生体機能は大幅に省略されとるし。無いと思うで」 「それならそれで不調の原因調べにゃならんだろ。このままってワケに行くか」 部屋にお邪魔しながら、そう返事を返した。 先ずはラストにタンクトップとショートパンツを着せてソファに座らせる。 しかし全裸て。羞恥心が無いのか、かわれてるのか判断に困るトコだ。 首の接続部にケーブルを接続し、持ってきたノートパソコンから診断プログラムを走らせ。 「…たしかに概ねはOKだが。ちょっとパーツの劣化早くないか」 「そんなんウチのせいちゃうて。お客はんがムリするからやろ」 …彼女は自活している。人権も無ければ保証も無いこの世界で。 必要なのは力と金。マンガみたいな台詞だが事実それ以外の物は役に立たない。 そんな世界でなお、戸籍も人権も無い彼女の仕事は限られる。 否応も無く世間的に言えば「良くない仕事」に携わる事も多い。娼婦もその一つ。 無論、マスターを持って普通の神姫として生きる道も当然ある。 どっちかというとその方が全てにおいて平和な事だと思う。 しかし、マスターと神姫という概念を持って生まれなかった彼女にとってはどうしても その生き方はしっくりこないらしい。 そう生まれなかった事が、自分の天命で幸運なのだと誇らしげに言う姿を覚えている。 彼女が正しいか正しくないかはオレには解らない。 ただ、その生きる姿勢を眩しく感じる事もあるし、そこにはオレの正義と近しい物を 感じなくも無い。だから、オレは偶にここを訪れる。 ラストを含んだ神姫達のメンテナンスの為に。 ほんの少しの手助けをする為。そして… 社会と言う世界に出てしまった武装神姫が、決して幸運であるとは限らない事。 俺が普段見ている情景が、武装神姫の全てだと思い込んでしまわないように。 それを忘れないように。 「しかし毎度の事ながら、お人好しやねぇ」 呆れたように呟きつつ、オレのチェックを受けるラスト。 「しょーがねーだろ、お前らマトモなメンテ受けられないんだから」 ラストを含めここいらの神姫はほぼ例外なく正規のマスターが居ない。 なんとかその問題をクリアしたとしても「そういう商売」用の違法パーツのカタマリ みたいな彼女達に通常の神姫関連サービスを受けるのは不可能に近い。 「せやかて、こないに金掛かる違法パーツわざわざかき集めてロハでメンテに来る やなんて、だいぶヌルいと思うで」 トランクの中身を見下ろしつつラストが呟く。 「その分はアレで稼いでる。伊達や酔狂以外の役にも立つのさ、正義の味方稼業も」 モニターからあやしい箇所にアタリを付けつつ、生返事を返す。 「正義の味方か…相変わらず胡散臭いなあ」 冗談交じりに呟き、こちらを覗くラスト。 しかしその目は笑う事無く、こちらを見つめている。 「その正義の味方はんがウチらによくしてくれるんわ…ウチらが可哀想やから?」 何度目かの同じ質問。多分、彼女の中にはずっとその疑問が残っているのだろう。 こういう生き方を少なくとも自分で選んだ彼女にとって、同情は侮辱と同義なのだ。 そして、オレも何度目かの答えを返す。思う通りに気負い無く。 「あのな、具合悪いと聞かされりゃ、心配の一つもするのが人情だろ。お前は俺の… まぁ、身内だしな」 「そりゃまぁ、この状況を見て可哀想と思うなってのがムリってのもあるさ。お前は怒る だろうけども」 一つ息を吐いて、ラストを見る。憮然としてるが怒っては居ない。 「だがな、それ以上にオレは神姫萌えなんだよ。そりゃー、世界中の神姫を救うなんざ タダの玩具屋のオレにゃムリだ。だが、目に入る範囲の神姫が不幸なのは我慢ならん。 本音を言えば全員なんとか普通の生活させたいトコだがそんなモン大きなお世話だし 完璧に独善でしかねぇ。だからお前らが生きたいように生きる手助けをして自己満足に 浸ってんのさ」 言い切る。何度同じ遣り取りをしたろうか。変わらん内容にお互い苦笑混じりだ。 「…正義何ざな、それこそ物考える物それぞれだ。オレの正義もハタからみりゃただの 偽善で私刑を行う気狂いかも知れん。それでいいだろ、他人の為にやってるわけじゃ ねぇし。俺はコイツに誇り持ってるからな」 そこまで言って言葉を切り、チェック結果を説明する。 「一つはパーツ劣化による伝達系の不具合。後は2つのボディの規格違いからくるデータ キャッシュの不整合が原因の負荷だな」 モニタを見ながら真顔で呟く俺。 ラストもソレを見て嘆息をついた。 「別にそこまで悪く言わんでもええやん?感謝はしてるし。ウチ一人アホみたいや」 「少しでもカッコつけたら怒るだろがい。タダの自己満足と思われてるほうがラク」 顔をラストへ向けてジト目で呟く。 「もう充分カッコつけとるやん。サッブい台詞やでいつ聞いても」 笑い、オレの肩を叩いて彼女が伸びをする。 「ま、ええわ。何回聞いてもゼンゼン解らへんけど…助かってるし?」 「ま、無償の愛ってヤツよ。ほら、愛は地球を救うってヤツ」 「アレが一番信用ならんわ」「同感だ。遺憾ながら」 そんな遣り取りの後、どちらからともなく笑いあった。 結局終わったのはもう日も暮れてからだった。時刻としては6時過ぎなんだが、冬は 日が暮れるの早ぇなぁ。 まぁ、夜に間に合ってよかった。仕事もあるだろし。 ぐったりしてソファに凭れ掛かるオレの前にお茶を置いて、ラストが隣に座る。 「お疲れさん。確かにゼンゼン調子ええわ」「おう。ま、大したこと無くて良かったよ」 僅かに笑い、そこで無言になる。 うーむ…苦手だ、こういう状況は。よく考えたら二人きりなワケで。 これがジェニーなら意識せずに自然体なんだが…やっぱ気ぃ使うよなぁ。 「そーいや、お前は仕事大丈夫か?時間とか」 なんとか会話を試みるオレだったが相手はやぶ睨みでこう告げる。 「何?早う帰りたいん?」 「いや、そーじゃないけど。客来たら気まずいだろ。俺は間男か」 「あははは…ないない。ウチは部屋に客は入れへんよ」 笑って否定する。が、その目はどこか気だるげに天井を見上げて。 「…メンドくさい客もおるから。あんま絡まれてもかなわんしな」 「色々あんだな…」 呟き、お茶に口をつける。薄いけど不味くは無い。 「けっこう無茶するしなぁ。ま、ビョーキにもならんし妊娠もせぇへんし…男にとっちゃ ウチらみたいなんはやっぱり色々便利なんちゃう?捌け口としては」 膝を抱えぼんやりと呟く。その声に何の感情も無い事が逆にツラかった。 「あんまり面白い話じゃねぇな…お茶請けにもならん」 オレが呟く声も、思ったより低かった。 「…なんで夏はんが怒るかなぁ?」 こちらを見て囁くラストと目が合った。僅かに笑ったその表情は何と言うか色っぽい。 「なんか色々ムカツくわ。こう、神姫にだって心がだな?」 熱弁を振るいに掛かる俺の唇に指を当てて黙らせ、ラストが顔を近づける。 「はいはい。その主張はちょっとガキ臭いで?ウチらは自分の為に働いてるんやし」 「商品になるっちゅうのは…ウチらからすれば良い事でもあるんよ」 ラストが圧し掛かってくる。体制を崩し、ソファに寝転ぶカタチになる俺。 「まー、そういうオトナな話は夏はんキライやもんなぁ?」 「つーか、何気に何で上に乗ってますか?そーいう目的で来てないと毎回言っとろうが」 この雰囲気はマズい。本能的に察知しつつも何故か動けない。 「おい、病み上がり?聞いてるか?」 「はいはい。ねぇ夏はん?ウチが他の男に抱かれるんわ…イヤ?」 蠱惑的な笑みを浮かべ、ラストが俺の瞳を覗き込む。 「いや、そーいう意味で言ったんじゃねぇよ…」 「解ってるて。少しでも妬いてくれたら嬉しいなー、思ただけやん」 何故か声が掠れる。対して余裕たっぷりに俺の頬を撫でるラスト。 ぐぅ。こっちの経験値じゃハナから勝負にならん。 「とりあえず降参するからどけ。身が持たん。ジェニーさんに怒られるし」 「イヤや♪何、ジェニーちゃんと良い仲にでもなってん?」 「いや、医者と患者に間違いがあったらアレなのと同じ理屈じゃね?」 唐突に、ラストが俺の唇を塞いだ。ええと?ちょ?何? 俺の疑問をヨソに、ラストの熱っぽいキスに身体は反応していく。いや、ヤバイって。 「おい、シャレにならんだろうが!?」 なんとかお互いの間に隙間を作り、声を上げる。 「シャレで押し倒したりはせんて。ただ…」 ラストの瞳がしっかりと俺を捉えた。その瞳の中に俺が写ってるのまで見える気がする。 無論、夕闇の部屋の中でそんなワケはないのだが。 「偶には…抱かれたいと思うた男に抱かれるくらい、あってもええやん?」 「それとも…ウチみたいな商売女じゃ、抱く気にもならん?魅力無い?」 ええい、反則だ。単純に男として女のコイツを見れば、魅力的だと思う。 聖人君子でもない普通の男としちゃ、抗えない面もある。だが、それ以上に… こういう時のコイツの眼は、ほっとけないのだ。何でかは、あまり考えたくない。 「…いいのかよ。お前に限ってヤケでもねぇだろうけど」 「確かめたいんよ、ウチはまだ女なのか。商売だけで身体重ねとったら感覚狂ってまうし。 だから偶には商売抜きで、いい思いさせて?」 俺の胸の中に収まり、上目遣いで微笑む。…天然か?それともこれがスキルという物か? とりあえず篭絡される俺には何も言えない。正直可愛い。 「…悲しいけど俺も男だ。ええい畜生」 「そ。健康な男なんやから据え膳は食っとき。ジェニーちゃんには黙っとくし」 「いや、俺も言ってねぇよ。カンが良いんすよジェニーさん」 「毎度知ってて止めない辺りがらしくない気もするけど…ま、確かにジェニーさんのが 正論だしなぁ」 「色々あるんよ、ジェニーちゃんにも。偶には優しくしたり」 「ま、ウチにそんな事言う資格無いか…知っててやめへんのやから、実際イヤな女やで」 二言目は聞き取れなかった。 ラストと目があった時、表情の陰りみたいなのが気になったが…質問しようとした口は 再びラストの唇で遮られた。 「ちゅうか、初めてでもあるまいし…夏はんカタいんとちゃう?」 「なんつーか、イヤなんだよ。その…流れでする、みたいなのは」 見詰め合ったまま問答する。ていうか会話しつつも脱がされてるんですけど。 「ヘンなトコだけ真面目やんなぁ。根はエロいんやから正直に生きたらええのに」 「イチイチ語弊があるな」 納得いかない顔の俺をなだめつつ、腰を浮かすように促される。 っていつのまにか全部脱がされてるじゃないか。恐るべし。 「いや俺だけ裸ってどうなんだ」 「ほほう、ウチの裸がみたいと?」 ニヤケつつ聞いてくるラスト。コイツは。 「そーは言ってません」 「なんや、見たないのん?それとも着たまま派?」 「いや、マジ見たいです。つーかお前の中で俺はどんなだ」 真面目に聞いてくる顔に真顔で返す。なんかスゴく駄目な人と認識されてないか俺。 「聞いたらヘコむで?」「じゃ、いい」 大人らしい対応をする俺。うむ、玉虫色。 「ほら…夏はん、見て?」 そう言ってラストがタンクトップをたくし上げる。 適度な大きさで張りのある胸が眩しい。その先が立ち上がってるのを見て思わず口に くわえてしまった。 「んー?夏はんもしかしてマザコン?」 胸に吸い付かれたまま俺の頭を撫でて聞いてくる。 「ちげーよ。目の前に美味しそうな物があったから思わず食った。そんだけだ」 我ながら言い切るのもどうか。 「あはは…そか。ほんならウチも、美味しそうなモン食べようかな?」 ラストの指が俺のに触れる。うわ。意識してなかったけどスゴイ元気になってる。 「…我ながら異様に元気だな。最近ジェニーさんの監視厳しかったからなー」 秘蔵のコレクションがエラい勢いで犠牲になったのを思い出す。尊い犠牲だった。 「じゃ、存分に満足してってもらお…夏はん、横になって」 促されるままソファの袖に寄りかかり、半身を寝かせる。 「うわぁ…確かに近くで見たら元気やね。熱ぅ…」 「いや、あんまり見んなハズいから」 「何照れてるのん?ん…ちゅ」 ラストがフェラチオを始める。舐めると言うよりは溶かすように、俺のに舌で唾液を 塗りつけていくその姿はなんだかひどく厭らしく見えた。 それに反応してか俺のも微妙に暴れる。 「ん…こら、しにくいやん。暴れんといて」 右手でしっかりと握り、丁寧に続ける。 他に音の出る物の無い密室に、やたらその音だけが卑猥に大きく響いた。 「なんか無闇にエロいな」 「男はんを興奮させるのも仕事やし?ま、今は仕事ちゃうねんけど…どうせなら激しい 方がええし。いっぱい感じてな…?」 「されっぱなしってのも何だかな」 ラストの腕を取り、引き寄せる。 「ん?何?」 「キスしたい」 囁くと、僅かに笑ってラストが囁き返した。 「さっきまで自分の咥えとったクチやで?」 「関係ねぇよ」 強引に唇を奪う。ラストの口内が俺を受け入れ、お互いを遣り取りする度に熱が上がる。 お互いの身体を弄り、ラストが俺のを、俺がラストの胸を、尻を捏ね回すまま…お互いが 混じるような錯覚を覚えて、ソファから転げ落ちた。 「ぐぁ」「痛たた…」 マヌケな声を上げつつお互いを見詰め、同時に呟いた。 『ベッド行こか』 彼女の部屋の簡素なベッドがギシギシ音を立てる。 何故か脳裏を過ぎるギシアンという単語。いや、こういう時ぐらいネタから離れろ俺。 ベッドに横たわる俺の上にラストが跨った。…良い眺めとか言ったら怒られるかなぁ。 「ほな…入れるで?」 「いや、確認すんな」 「演出、演出…さっきからビクビクしてるし?」 俺のに添えられたラストの手が、入り口目掛けてしっかりと導いていく。 「ん…」 熱い、粘膜の感触。ホントに人間そっくりの身体だと思う。 一気に鼓動が早まる俺を焦らすように、ゆっくりと彼女が俺を受け入れていく。 …無意識に、快感を求めて俺が腰を動かしてしまった。 一気にラストを突き上げ、奥まで侵入する。 「んっ!…コラ、急にビックリするやん…?」 眉根を寄せて、俺の上に倒れ掛かるラスト。自然目と目が近づく。 「悪い…無意識に動いた」 「ええけど…も、平気やから動いてええよ…それともウチが動く?」 「両方で」「激しなぁ」 冗談交じりの会話の後、お互いが身体を動かし、快感を貪り始める。 俺が突き上げるたびにラストも小さな円を描くように腰を動かし、お互いが内側の接触点 に刺激を与えていく。 ソロプレイの時の想像上の快感を大きく超える、熱と柔らかさと、興奮。 情けないが、すぐにも上り詰めそうな中、がむしゃらに腰を動かす。 「ん…激しいっ…なぁ。色々言うたワリにはえらい積極的やん…」 ラストが俺にしがみ付き、ぶつけるように腰を揺り動かす。 「…今は、あんまり考えたくない。お前が欲しい」 「うあ…クルなぁ、その台詞。ええよ、全部上げるから、好きに使こうて?ほんで… 夏はんを頂戴?いっぱいいっぱい…ウチに…」 耳元で囁く彼女の声に、背筋をゾクゾクと何かが駆け上がる。 「悪い…もう、もたねぇ」 「…しゃあないなぁ。ええよ、このまま頂戴…何回でもナカに、夏はんを…」 「ラスト!…くっ…」 彼女の細い身体を折れるほどキツく抱き締め、欲望を吐き出す。 互いの身体がビクビクと痙攣し、内側で弾ける熱を感じる事に集中して。 そのまま力を失って、俺達はベッドに倒れこんだ。 「はぁ…はぁっ…夏はん、生きてる?」 五分くらい経ったろうか。俺の上のラストが声を掛ける。 「腹上死するほどトシじゃねぇよ…」 彼女の髪を撫で、答えて。 「…今度はウチが下やで?」 「…やっぱりまだ続けるんかい」 「当たり前や。ケムリも出んようにしたる…」 微笑み俺を覗き込んで、ラストが口付ける。彼女の内側から零れる精を処理する暇も 無く、俺達は二回目の行為を始めた。 …10時て。結局4時間近くもしてたんか俺。 シャワーを浴びて服を着た俺は時計を見ながら一人物思いに耽っていた。 …姉貴とジェニーさんのツッコミはどう回避すべきか。 「どしたん、難しそうな顔して」 同じくシャワーを浴びたラストが頭を拭きながら寄って来る。 「夢中になり過ぎたと思ってな。どう誤魔化そう」 「ああ…ええわ、ウチもついてくさかい、任せて」 そう言った瞬間、インターホンが鳴った。 「あら?迎えの方が先に来てもうたかな?」 ラストがドアを開けたその先には…たっちゃん!? 「夏彦、落ち着いて聞いてくれ。ジェニーが攫われた」 『はぁっ!?』 俺とラストの声が被り、数分後俺達はたっちゃんの車に飛び乗ったのだった。 クリスマスイブからクリスマスへ。俺の一日はまだ終わりそうに無い。 NEXT メニューへ
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299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 07 48 38.49 ID Pwwb03Fv0 朝、正確にはもうすでに昼を3時間ほど超えており、日は完全に昇りきった後 休日だからといって寝すぎたようだ ふあぁぁ、と伸びをしてみる 体に違和感。胸が苦しい。そういえば、部屋も広くなった気がする まだ完全に開いていない目をこすり眼鏡をかける あり? 自分の胸が膨らんでいることを確認。もちろん寝間着の上から あれれ? 自分って意外と冷静。下の確認…っと……、象さんはどこへ行ったのかしら? そういえば後ろ髪が伸びてる。小学校の時無理矢理姫の役をやらされたとき以来だね、髪が肩にかかるのなんて 現状は把握できていないが周囲を見渡す。横には人。しかも男性。 いつの間にか女になって、知らぬうちに見知らぬ男性と一夜を明かすことになるとは……いやはや世の中って不思議 そうだ、この男のかお。写真に撮ってやれ 携帯電話を持ち出し、いつでも撮る準備は万端 ……?見知らぬ男性の顔は良く見たことがあります ……!そうだこの顔、自分でした ……?じゃあ私は一体誰なんだろう? 302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 09 17 19.41 ID Pwwb03Fv0 僕は目を覚ました。とりあえず枕元の眼鏡を探す ……眼鏡が無い とりあえず目覚まし時計を手に取り時間を見る ……午後4時 いやーこりゃ参った。どうも寝すぎたみたいだ 眼鏡がないと不安でしかたない。とりあえず眼鏡眼鏡と手探りで探す よくギャグじゃないの?といわれるが、実際に置いておいたはずの場所に無いとアタフタするから困る ?「おはようございます」 ああ、おはよ。よこから声、え?誰ですか貴方? 僕「あの~、すいません。僕の眼鏡知りません?」 ないと不安で仕方ないんだからこんなこと聞いちゃっても仕方ないでしょ。とりあえず眼鏡だけでもいただけないと ?「眼鏡ってこれですか?」 良く分からないがどうもかけていた眼鏡を外したようだ 眼鏡を受け取ってみればうむ確かに僕のだ、かけてみれば視界が一気に広がる そこで疑問 僕「貴女誰ですか?」 女僕「貴方なはずなんですけどね」 ふむ良くわからない、 僕「とりあえず、食事でも食べますか」 女僕「あ~、じゃ僕作ってきますね」 細かいことは後で考えるとしよう、今は彼女の作ってくる食事が楽しみだしね 306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 09 52 28.48 ID Pwwb03Fv0 女の子は迷うこと無くキッチンに向かっていく が、途中で足を引っかけ転んでしまう 女僕「いた~、すいません~眼鏡借してもらえませんかぁ?」 僕「あー、どうぞ」 彼女曰く僕=彼女なわけだが眼鏡は一つしか無い。これは困った 確か昔使ってた眼鏡があったはずだ 眼鏡が無い状態で、部屋の中を色々と探してみる が、途中で足を引っかけ僕も転ぶ 女僕「ご飯できました~」 僕「あっ、今行きますー」 僕は涙をこらえながら食事に向かった、泣くなよ僕 食事の味はいつもの僕の料理とほとんど変わらなかった 女僕「眼鏡ないと大変ですよね、たしか古いのありましたよね?」 僕「あー、さっきそれ探してたんですけど眼鏡無いと分かんなくて……」 女僕「あー、そうですよね~、それじゃあ僕が探してきますので……」 僕「あー、すいません」 結局彼女が僕の眼鏡を探してくるまでに1時間かかった。 現在時刻午後7時 308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 10 14 07.25 ID Pwwb03Fv0 僕「さてようやっと眼鏡が二人分用意されたわけですが、一体これはどういうことでしょうか?」 女僕「僕が朝……ん?昼か、昼起きたら女になっていて、横に僕……あー君がいて、今に至るというわけですな」 僕「よくわからないけど、朝起きたら女になっていたと、その上君は僕であると、そういうことですな」 女僕「そういうことですな」 彼女は僕で、僕は彼女らしい。よくわからないけど それとなんでこんなに他人行儀なんだろ?同一人物なのにね それにしても、自分とは思えない可愛さです。正直反則的? そりゃあ僕だって男ですからね、魅力ある人間には恋だってしますさ ただどんなに可愛かろうが相手が自分となるとどうなんだか…… 女僕「どうしました?」 僕「あー、貴女僕なんでしょ?大体想像してください、難しいようだったら鏡を見ることをお進めしますけど」 女僕「んー……ちょっと失礼します」 さすが自分とはいえ律儀だね。多分僕も自分で見に行ったと思うが 女僕「……何となく分かりました」 僕「そ?」 女僕「自分の体とはいえ……、なんだか不思議な気分ですね…… ところで、なんでこんなにお互い敬語なんでしょ?」 やっぱり考えることは同じ、か……自分だしね 僕と彼女は何秒か向き合って一緒に笑い出した 目の前で笑う彼女はやっぱり可愛いと思う、中身が自分であることを思うと非常に複雑な気分だけど…… 312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 11 39 24.31 ID Pwwb03Fv0 さて、起きた時間が遅いということもあり、今更何もすることが無い 女僕「とりあえず、お風呂にでも入りますか」 思わず吹き出す 僕「ちょ、一体何を考えてるの!?」 女僕「えっ?……あ、ああああそ、そうだね」 現状を考えみたらしい、急に慌てだす 彼女からしてみれば、相手は自分だから問題は無いのだろうが、こっちから見れば知らない異性 そりゃあ問題があるだろ 女僕「あ……、でも別に一緒に入るわけじゃないから問題は無いよね」 僕の頭に問題があるようだ 僕「あーそりゃそうか」 とりあえずごまかす。多分ごまかせてないけど 女僕「でも、服無いよね……これ結構胸元がきついんだよね」 僕「……あー、コホン、一応僕は男なので……」 女僕「あれ、でも一応僕も男というか……」 待遇の違いは考え方に多少の誤差を出すようだ 僕「とりあえず、お風呂洗ってくるから着れそうな服探しておいてね」 相手は自分とはいえ、女の子なんだよね…… 僕「そんな格好じゃ過ごしづらいでしょ?明日服買いに行こうか?」 女僕「あー、女物の服を着ろと?でも結構恥ずかしいよそれ……」 僕「他人だからどうとでも言えるんだなそれが、(それにどんな服でも似合うと思うんだね、可愛いし)」 女僕「?最後何か言った?」 僕「いや、なんでもない。お風呂洗ってくるから服探しといてね」 危ない妄想に惑わされないうちにとっととお風呂場へと向かっていった まったく相手は自分だというのに…… 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 12 36 59.62 ID Pwwb03Fv0 一気にお風呂を洗い、あつい湯船にドボンと入る 一日中寝てたせいか汗が気持ち悪かったのも一気に解消される 僕「ふいー、やっぱりお風呂はいいねぇ」 なんてジジ臭いことでも言ってから湯船から出る 体を拭いて寝室までダッシュ! まぁ当然そこには女僕がいるわけで 僕「きゃー」 女僕「そこは逆じゃない?」 僕「でも君からすれば見慣れた体なわけだから……」 女僕「そうだね、でも自分とはいえ結構体してるかな?なんて……」 僕「と、とっととお風呂入っちゃって!!!」 女僕を無理矢理お風呂場へと押していく 僕「服は選んだ?」 扉越しに聞く 女僕「切れそうなのベッドの上に置いといた~」 僕「じゃあそれおいておくから、着てから来てね」 女僕「僕なのに……もしかして照れてる?」 僕「いいから!とにかく着てから来ること!」 女僕「はいは~い」 まったく同じ人格なはずなのにこっちはまだなれていない それなのにむこうは結構今の状況に慣れたようだ はぁ、まったく男なのに情けないね 火照った体と立ちかけた息子を冷まして冷蔵庫を開ける 飲み物はカルピスのみ。うん頭がどうかしちゃいそう ズボンの中が微妙にふくらみかけてしまった 318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 12 52 42.68 ID Pwwb03Fv0 さて、女の子の体になって初めてお風呂に入るわけですが、 我ながら見とれちゃうような体 実際に見たことは無かったけど、へぇこんな風になってるんだ 興味津々。だって中身は男の子だもん まぁそのはずなんだけど、本当にそうなのかどうか微妙になってるんだよね なんだかさっきのやり取り、自分が前にいるはずなのに可愛いなぁと思ったり そもそも、今の体に興奮しないもん。性的な意味で それに髪の毛が長いからシャンプー、使う量が増え……、と 女僕「ね~、シャンプー切れてるんだけど詰め替えようのとって~」 まったく、なくなったらすぐにかえるべきだね いや昨日の時点でなくなってたから僕シャンプー使ってない? でもなんか汗とか色々気持ち悪い、これも微妙な心境の変化だね 僕「シャンプーここ置いとくよ」 女僕「あー、今くれる?」 僕「え、あ…う……え…あー、うん」 微妙に扉が開いて手だけ出てくる。相手は自分なのになに照れてるんだか 微妙に相手の手に触れながらシャンプーを受け取る、もちろん詰め替え用 女僕「ありがと」 僕「え?あ…うん、どういたしまして」 今一瞬ぼーとしてたな?我ながら女の子に耐性が無いもんだ 普段みたいにお喋りすればいいじゃない だっ…と駆けていく足音が聞こえる 自分のくせに妙に可愛いじゃないか。考えたくはないけどこれってもしかしたら禁断の恋!? 冗談はさておきお風呂からでるとしよう 律儀にも着替えはたたまれておいてあった、下着はそりゃあトランクスだよねぇ 320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 13 17 44.61 ID Pwwb03Fv0 お風呂に入ってしまえば後は寝るしか無いわけだが 興奮して寝れる気がしない。さっき手が微妙に触れ合っただけでなんか、もう…ね それに僕、今日はまだ起きて5時間経ってないし カルピスだけは二人分用意してみた、氷入りの冷たいやつ お風呂上がりには最適。 女僕「やー、美味しそうだね」 僕「あ、うん。飲む?」 女僕「私のために入れてくれたんでしょ?喜んでいただきま~す」 僕「なんか雰囲気変わった?」 女僕「せっかくこんなに可愛い女の子になったんだから、言葉遣いくらいなんとかしようかな~と思って」 僕「へーそう」 女僕「だ・か・ら、ちょ~と誘惑してみたりして」 目の前にいるの、自分だよね? なんだかものすごいシチュエーション。ちょっと期待しちゃっていいですか? 女僕「たとえばさぁ、ここでもし私が『今日一晩、貴方の好きにしていいよ』なんて言ったらどうする?」 僕「ソファーで寝ます」 ああ、自分の臆病者。しかもそこだけ何で冷静なんだ 女僕「あははは、結構冷静だね僕も。冗談に決まってるでしょ。ま、明日することは明日決めればいいさ。とりあえず寝よ」 僕「あ…あははは……」 どうも振られっぱなしです 一緒に寝るのは自分自分自分自分自分自分自分自分……はぁ明日までもつかな?この理性…… 333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 16 03 08.28 ID Pwwb03Fv0 さて、一睡もできずに朝が来てしまったわけですが…… 目の前には可愛い女の子が眠っています。それは僕な訳ですが…… 僕「あー、コホン。起きてくださーい」 とりあえず肩らへんを持って揺すってみる 女僕「あ…あぅ~」 とても可愛らしい反応、といいたいが 朝に弱い自分とほとんど変わらない反応なので、改めて彼女が自分であると思い知らされる いや、それも含めて演技だという可能性は捨てきれなくは…… 女僕「あ~僕~、おはよ~」 僕「おはよう」 そういえば、今日も昨日に引き続き休みなわけですが何かしたいことでもあるのかしら? 女僕「そだね~、とりあえず女友ちゃんに電話して自分用の洋服買いたい~」 僕「ちょっとまって?なぜに服がいるの?」 女僕「だって、僕だって女の子だよ~?ちょっとはお洒落してみたいじゃないの」 僕「あー、何%本気?」 女僕「100%。もし一生このままなら僕のお嫁さんになる~」 だめだ、一晩たってこの子の脳はいかれたらしい、いや自分の脳だから僕も同じ状況だとこうなるのか? 女僕「だからこのまま女の子として暮らすのもありかなぁ~?と思いまして、その練習中と……」 僕「本当に僕なの?君」 女僕「そ~だよ?なんなら証拠に……僕の特殊性癖でもばらしちゃおうかなぁ~?」 僕「あ……、うぇ…」 女僕「僕は~、けもn……」 僕「OK、信じよう。ところで費用は?」 女僕「期待してるわよ。ダ・ー・リ・ン?」 彼女が本当に自分なのかはっきりしなくなってきた。むしろここまで差が開くと別人な気がする ……それのほうが個人的にはいいかなぁと思う。自分と付き合いたいなんて考える方がどうかしてるもんね…… 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 17 17 58.95 ID Pwwb03Fv0 僕「あーもしもし。女友?あーそうちょっと買い物に……違う違う、んーなんていうの? あーあれだ、親戚の子が荷物持たないで家出してきた。 しかたないから、そいつの服を買ってやって欲しいんだが……ああもちろん費用は僕が出すって…… ちょ、女友の分は出さな……あーはい、よろこんで出させていただきます。」 女僕「まったく、我ながら僕も大変だね。ま、結構今月余裕あるから大丈夫だよね!」 ええ、貴女達のせいで今月一気にピンチです 女僕「いやー、女の子ってどうしてあんなに服を買いたがるかよくわかんなかったけど、いざなってみるとよくわかるわ」 僕はまったく理解できませんけど…… 女僕「ねぇ聞いてる?おいー僕ー……きちんと聞かないとキスするぞ?」 僕「……へ?」 女友「へぇあんた達そんな関係だったの~」 僕「へ?へ?」 女友「あー、あんた鍵開けっ放しだったから勝手に入ってきたよ」 昨日から外に出てないからずっと鍵は開けっ放しか……ものすごく危ないなぁ 女友「はー、この子?従姉妹って。いやー可愛いじゃないの」 女僕「ありがとうございます」 ものすごいスマイル、あれの中身が自分だと思うと気持ち悪い気もするけど、それでも可愛い 女友「ただ服装は最悪だね」 女僕「何も持ってきてなかったから僕君の服借りてるんです……」 女友「あーそう、こいつファッションセンスないもんね」 女僕「そんなわけで、きょうは貴女に私の買い物を手伝ってもらおうと思って……」 女友「別に貴女が選んでも良いと思うけど?」 女僕「私、田舎の方に住んでて、ちょっとこっちのこと分かんなくて……」 女友「そっか、じゃあ私がきっちりコーディネートしてあげるから!」 僕のことそっちのけで女の世界が形成されてます。女僕、一体どこまでシナリオを考えたんだろ…… 今日一日の出費を考えると一人溜息が漏れる……はぁ…… 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 18 04 27.39 ID Pwwb03Fv0 まさかこんな風に買い物をするとは思わなかった 男一人に女が二人。端から見てみればどんだけ両手に花だよという感じだけど 今、ものすごい疎外感 女僕「わーこれ可愛いw」 女友「だからこれにあうと思わない?」 女僕「そういえば下着も買わなきゃ……」 女友「あーじゃあこのお店がお勧めw」 なんというか「12人の福沢諭吉がたった3時間で全滅!?恐ろしいやはり女は悪魔……」って感じ そのうえ、昼食代も僕が全額負担。まだ買い足りないのか、あんた達は…… 女僕「このジャンボパフェください」 女友「私、このチーズケーキで」 女友はともかく、女僕、あまいもの苦手じゃなかったの?僕は苦手なんですけど 女僕「甘いものがこんなに欲しくなるとは、いやはや驚き」 女友「おごりだからよけい美味しいよね」 女僕・女友「ねー」 この二人、すっかり意気投合。僕おもいっきり蚊帳の外 女友「さて、お腹もふくれたことだし、今日購入分を使って、あんたを着飾りますか」 女僕「どこでやるの?」 女友「そりゃ……家にきてもらうか…うんそうしよ。家来て」 僕「あの僕はどうすればいいんですか?」 女友「そうね、一緒についてきてこの子のへんしんぶりに驚きなさい」 まったくこのテンションにはついていける気がしない。でも家にはついていく。そりゃ僕だって男の子だもん 362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 18 20 07.54 ID Pwwb03Fv0 初めて来る女友の家 結構広い、広いから着替える部屋がある。僕は別の部屋。やっぱり一人 そりゃ一人になりたい時もある、でもこれはいじめだよ 女僕「これちょっとはで過ぎない?」 女友「そう?これくらいでいいんじゃない?」 女僕「うっわ、派手な下着」 女友「彼、誘うんだったら勝負勝負!」 女僕「彼って、僕とそんな関係じゃ……」 女友「あら~?私誰だーなんて言ったかしら?」 女僕「むぅー」 女友「あぁやっぱ可愛いわ~。食べちゃいたい」 女僕「うひゃぁ…ちょ…一体どこ…さわ…っ……んっ」 女友「ありゃ、敏感。それならここはどうだ」 微妙に漏れている音がまた少年心を揺さぶってくるというか 生殺し、僕蛇じゃないけど生殺し 女友「そういえば彼の部屋、この部屋の音が微妙に聞こえるのよね。今までの全部筒抜けなわけですがどう?」 女僕「ふぇ?…あ…え……?これも全部?」 女友「そ、これも全部」 理性が切れそうだったけど、今では正気です。むしろ青ざめてる気がする はやく子の地獄が終わりますように………終わりますように……終わりますように… 364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 19 00 07.37 ID Pwwb03Fv0 女友「じゃーん、どうだ生まれ変わった真の姿は!」 めそめそ隅で固まっているうちに扉がバシンと音をあげる 僕「どうって言われても、本人は?」 女友「こっちなのだ、早く来るのだ」 女友の後ろから現れる女の子。まぁ滅茶苦茶好みなわけだが中身は自分なので複雑、いまだに複雑 女僕「あー……どう?似合う…かな?」 かな?と聞かれても何と答えていいやら。それにしても随分とおしとやか 女友「ははは、私が女にしてあげたからね!」 まじですか?口が開いて言葉が出ない。端から見れば間抜け面?ウソに決まってんだろとのツッコミ 女友「おーおー、あんたら中学生じゃないんだからお互い照れてないで話したらどうよ」 そうしたいのはやまやまですがそうできないもろもろの事情がありまして…… 女僕「え…っと、私…綺麗?」 いったいどこの口裂け女?いやはい可愛いです。 僕「ただ、ちょっと少女趣味すぎないですか?」 敬語になってしまうのはどうしてだろう。相手は自分のはずなんだけど心臓がドキドキいっている フワフワとしたレースがよりその可愛さを引き立てる 女友「おい、お前ぇそれじゃあこれでどうだ!」 急に女友が女僕の頭に何かをのせた あれなに?ねこみみ…いぬみみ? あーだめだ、ちょっとピンポイントすぎる。そういや子の二人僕の趣味知ってたんだっけ 一気に薄れていく意識、ちょっと顔が火照りすぎてる……。駆け寄ってくる必死な顔した犬耳な女の子がみえ…た… 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 19 37 56.18 ID Pwwb03Fv0 僕は目を覚ました。まず枕元の眼鏡を探す ……きちんとあった とりあえず目覚まし時計を手に取り時間を見る ……午後4時 いやーこりゃ参った。なんかデジャビュ 前の時とは違う不安感。今までがまるでウソだったみたいに… よくよく考えてみればできすぎた話だ。いまさらアタフタする必要も無い 「おはよう…ございます」 自分で誰もいない部屋でそうつぶやく 「あーやっぱり今までの夢だったんですか?」 あまりにリアルで、急に目が覚めていく不安。そんな不安を拭うみたいに口からこぼれる 「誰かいませんか?」 何を考えているのかよくわからない 少し考えてみれば分かること、あんな夢みたいなことある分けない それでも言う 「あれは夢だったんですか?」 「僕の勘違い…なんでしょう…か…」 まったくわからない… 「とりあえず、何か食べよう……」 そういって僕は台所へと向かっていった… 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 20 01 10.41 ID Pwwb03Fv0 下を向いて歩いていたら何かにつまずいた 「いた…」 実際はそれほど痛くなかった。それでも涙が止まらない 涙を流すきっかけには十分だった たった一日、一緒にいただけ そのうえ、あの女の子の中身は自分だった それでもだんだんと変わっていくあの子に心奪われたのも確かだった もう少し、ほんのちょっとでいいから自分の本心を打ち明けたかった たとえ夢だったとしても… 「なんで?…なんで?…なんで?……」 「おーい、男の子が泣いちゃ駄目だぞ~」 ? 後ろからの不意打ち そういえば鍵開けっ放しなんだっけか…… 「うー…そこまで無視されると傷ついちゃうな~私。」 372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/08/16(水) 20 13 28.33 ID Pwwb03Fv0 僕は泣きながら、おもいっきり抱きついた。なりふり構わず思いっきり泣いた 僕「もう……もうどこにも行かないで……」 はいはい分かったからもう泣かないで…と優しくあやしてくれた手は暖かくって、とても優しかった カレンダーを見ると確かに一日が経過していた 要するに僕は学校を一日さぼってしまったことになる……その上、約24時間も寝ていたことになる なんでも、あの後何をやっても起きる気配がなく、どうしようもないから頑張って運んできたらしい で、僕が目を覚ましたとき何か変なことをしているなと思いちょっと離れて見てていたとか しかも見ていたのは女僕、女友含めて全部で5人 「あれ、告白だったの?」 「あの子、可愛いなぁ。まったくすみにおけないねぇ君は」 「きゃー、はずかしーw」 と、いろいろな意見もいただいた ただ皆からからかわれることより、帰ってきてくれたことの方が嬉しかった その後どうなったか。いまでも僕は彼女と同じ部屋で生活している 昔なんて関係ない。本当に大切なのは今だから fin
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鶴留家を出て数分、十字路につく 当然ながら男女共学の宿木高校なわけだがやはり男女2人が一緒に学校に行くとなると話題にもなる…はずなんだが。 いかんせん、俺にも綾にも問題があるのである 俺の場合・・・どうにも女性が苦手なのだ 少し触れるだけで壊れてしまいそうに見えるのだ おかげさまでほとんど女子とは喋らない 良く言えば女の子に優しい、悪く言えばただのヘタれ。そんなところか 綾の場合、キャラを作っているわけでもなく、まさに天然というべきなのだ 持ち前の元気と明るさ、その可愛さで男女ともども癒し系として人気なこの"鶴留 綾" しかしながらそのあまりにも度が過ぎる天然発言は校内でもヤド高7不思議といわれている かつてさまざまな男子に告白されること十数回、「付き合ってください」といわれると「どこへ?」とすべてそう聞き返したそうだ 当然どうしようもなくなった男子はみな綾の前から逃げ去るのである こんな2人が一緒に学校に来ているところで誰も交際しているとは思いもしないわけだ それでも、最初のほうはそういう噂もたったけれども。 「で、だ」 「どうしました?」 「瑞季ちゃん、入学したんだよな?ウチに」 "新藤 瑞季"(しんどう みずき)ちゃん、1コ下の女の子 顔と胸のふくらみが無かったら男の子と間違えそうな子だ ボーイッシュ・・・というより男勝り・・・かな 「はいっ楽しみです…瑞季ちゃん、しばらくぶりですから」 何があったか俺もよく知らないが綾は瑞季ちゃんに慕われている 決して姉御肌でもないし…むしろ瑞季ちゃんのほうが姉御肌なんだがな(たはは 「お・・・来た来た」 「おーっす、御陵、綾ちゃん」 勘違いしてはいけない、こんな奴が瑞季ちゃんなわけがない。 このノリの軽い男は"石渡 椋"(いしわたり りょう)、俺の悪友にして宿敵。 黙っていれば2枚目なんだがこのノリのせいだ、周りからは3枚目と認知されている 「えらくご機嫌だな」 「ま、瑞季が入ったからなー、これで毎日スイートライフだ」 「これでうっかり女の子にちょっかいかけれなくなっちゃいましたね」 「いやいや、綾ちゃんの心配には及ばないっ俺の浮気性は瑞季も知ってるから何ら問題ないさ」 この色男、なんとまぁ堂々と。 もう勘のいい方はお気づきだろう、この男、瑞季ちゃんと交際しているのである 瑞季ちゃん曰く、"なんだかんだでかっこいい"そうだ。理解できん。 「まぁ・・・アイアンクローを食らわんように・・・な」 「・・・それを言うか」 新藤流暗黒必殺拳奥義"鉄の爪"―アイアン・クロー― 新藤 瑞季108つの必殺技の1つであるこの技はかつてこの技で椋の頭蓋骨を破壊しかけたのである もっとも、あれは椋が悪いのだが。 「瑞季ちゃん、入学式だからもう学校なんですよね?」 「うん、そうだけど?」 「そっかぁ、会うのが久々だから楽しみにしてたんですけど・・・」 「まぁこれからいつでも会えるから、早く学校行こうぜっ」 「・・・ほんと元気だな、お前」 なんだかんだで椋も嬉しいのだろう なんか悔しい。 ―――――――――――― 教室に入ってしばらく 綾が駆け寄ってくる 「御陵君御陵君」 「ん?」 「今日は図書委員のお仕事があるので、先に帰ってもらってもいいですか?」 「ああ、いちいち俺に言わなくてもいいし…まぁ今日は俺も図書室に本を探しに行くからな、多分帰りは一緒だ」 「それなら、綾のおうちでお昼ご飯食べていってくださいよっ」 「いや…それは…」 やっぱり美紀さんの娘だと少し思ってしまう 妙に押しが強いのだ うーん…美紀さんほどじゃない分楽か。 「なーに教室でイチャついてんだ」 横からヌルりと椋が現れる 「御陵君がお昼ご飯食べに来てくれないんですよぉ…椋君からも御陵君に言ってあげてくださいっ」 綾がすがるように椋に頼む 「しゃーねぇなぁ…考えてみるんだ、御陵」 また始まった。 こいつが「考えてみるんだ」と言い出したら妙に的を得た話をするときである 「今日は入学式とホームルームで昼前に学校が終わる」 「ああ、そうだな」 「ということは、お前が本を探すという名目で図書室に向かった場合確実に昼を過ぎるわけだ」 普通はそんなに本を探すのに時間はかからないだろ…という野暮な突っ込みはしてはいけない こいつは俺の真意に気付いている 天然ということに定評のある綾だがそこに加えてドジっ娘でもある 以前、彼女が図書委員の仕事をしたとき終了までに5時間かかったという図書委員会の中でも伝説として語り継がれることがあったのだ 「で、何が言いたいんだ、お前は」 「家が近いとはいえそれでも綾ちゃんの家のほうが近い、ましてやお前が家に帰って自分で昼飯を作る場合、確実に14時はすぎる」 「・・・で?」 「餓死したくなかったら綾ちゃんの家で食べていけ。と」 「あのな・・・だいたいそんな短い時間で餓死するわけ・・・」 反撃しようとした刹那、タイミング悪く担任が教室に入ってくる あわてて席に戻る綾 椋は俺の耳元でスッと話をしてくる 「相変わらず素直じゃねぇなぁ、お前は」 「綾が危なかっかしくてほっとけないだけだ、早く座れよ、ほら」 椋を無理やり席に座らせ担任の短い話を聞く さーて…どうすっかな、昼飯 美紀さんに連絡される前に無理やり帰るか まぁともかく綾の仕事の進み具合しだいだ どうなることやら ―次回のLeaf。 結局、綾の家で昼飯を食うことになった俺 晩飯も食うことになってるから3食すべて鶴留家で食べることになってしまった 親戚の家に居る妹からの電話、そして止まらない美紀さんの攻撃 板ばさみの中、俺、御陵が出した答えとは!? 第二話 妹とカレーと板ばさみ? に、アイアンクローッ ロリロリの素人娘とヤルお仕事☆-(ゝω・ )ノ http //sns.44m4.net/ -- 美奈子 (2012-08-20 17 56 42) 名前 コメント
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いくつもの世界が継ぎ接ぎにされて生まれたこの世界でも、早朝の澄み切った大気の爽やかさは変わらなかったが、空調の恩恵が隅々まで行きとどいた軍艦の中では、四季の移ろいや昼夜の意味は薄いものだったろう。 ましてやお互いを見つめ合いながら、時が止まった様に硬直している二人ならば尚更の事だ。 心の中でその領土をじくじくと腐蝕してくるような恐怖、やがていつかは必ず訪れる未来への不安が見せた悪夢に苛まれ、けれど、手のひらで包みこめてしまうほどのちっぽけなぬくもりに救われた女。 自分の心を知らず、相手の心を知らず、けれど彼女の笑みが見たくて、彼女と会いたくて、彼女の悲しみを背負ってあげたくて、もっともっと、彼女の事が知りたくて。そう思って、夜に訪れる安らぎの眠りも忘れてその彼女の部屋を訪れた少年。 互いを想い、焦がれ、求め、労わる二人は、その想いを裏切る様にぎこちなく挨拶を交わし、笑みを向け合っていた。 まるで人間になり損ねたピノキオが浮かべるような、笑顔になっていない笑顔で。 形だけの笑顔、心を込めずに浮かべた笑顔、切り取った仮面の様なソレ。 喜び、泣き、怒り、悲しみ、笑う。その全ては生きとし生ける者のみに許された特権だ。 なのに、生きているはずの二人が浮かべたそれは、命を持たぬ人形が、そう作られたから浮かべているような笑みだった。 浮かばせる事が出来ても何の喜びも胸に湧かない笑顔。 向けられても心の中の虚しさや無常の思いばかりが募る笑顔。 ならそれは、笑顔などと呼ぶべきものではないだろう。 果たして自分が上手く笑えたのかどうか、セツコには自信がなかったが、シンの声とぎくしゃくとした笑顔に心が不安を覚えた。 今はもうずいぶんと慣れ親しんでしまった不安とはまるで種類の違うそれは、思いのほかセツコの心を揺さぶった。 それを表に出さぬよう、笑顔を浮かべようという意思をより強く保つ。きしきしと、頬の筋肉が鉛に変わったように軋む音が聞こえた気がした。 こんなにも笑おうと思っているのに、笑顔は上手く形になっていない。誰かを安心させる為に浮かべる笑顔は、こんなにも難しいものだったろうか? それとも、もう自分が笑うという事を忘れてしまっているのか、できなくなってしまっているのか? それでもと精一杯に浮かべる無理に繕った笑顔が、余計にシンの心を掻き乱し、不安にさせて悲しませている。 そして悲しむシンの乾ききったように何処かひび割れた声は、セツコの心にも悲しみを伝播させた。 互いの事を想い合ってなお、二人の心は決定的にすれ違っていた。あるいは、想い合うからこそ。もし後者であるならばあまりにも救いの無い二人の心であった。 (シン君なにかあったのかしら? いつもはもっと、明るく笑うのに) 何時の頃からだったか、ふと視線が吸い寄せられ、いつの間にかシンを探すようになってから、セツコは何度もシンの笑顔を見つめていた。 ヨウランやヴィーノ、カミーユやレイといった同年代の友人達や勝平やアポロ、レントンら年下の仲間達と話している時に浮かべる屈託の無い、戦士でもなく軍人でもなく、シン・アスカという少年が浮かべる笑顔。 祖国を焼かれた悲しみや怒りを糧に力を得た戦士の顔ではない。シン・アスカという人間の、本当の素顔が覗く年相応に幼く、子供の無垢さと無邪気さ、大人の苦味と落ち着きが曖昧に混ざり合った笑顔。 理屈に凝り固まらず、喜びを素直に表し、それを惜しげもなく大輪の花のように咲かせたシンの明るい笑顔。 それを見つけた時に、自分もまた笑顔になっていた事を、今のセツコは理解していた。 だから自分の目の前で浮かべられているシンの笑顔が、どうしようもなく歪なものに感じられる。シンのこんな笑顔を見ても、自分は嬉しくない、いつもはもっと、どんなに嫌な事があってもそれを忘れて心が暖かくなれる笑み。 それが、セツコにとっての、シン・アスカの笑み。それなのに、今この少年が浮かべるにはあまりにぎこちなく、固く、どこか物悲しい。 いつも目で追っていた笑顔とは、似ても似つかない。浮かべるのが同じ人間でも、いつもそれを見ていたセツコには、シンが別人にでもなってしまったかのような錯覚を与えていた。 今までセツコが見つめていたシン・アスカが見せる事はなかった一面。 普段、アムロやクワトロらに危惧されている純粋すぎるが故の不安定さや脆さとはどこか違う、シンの弱々しい所。 新たなシンの一面を知り得た事に心のどこかが疼くのを、セツコは自嘲と自己嫌悪に苛まれながら押し殺した。 知りたい。見たい。聞きたい。理解したい。シン君の誰にも見せていない弱い所も、誰にも負けない強い所も、シン君も知らないシン君自身の事を。 今、それが一つ叶った事に気づき、喜びさえ覚えた自分をセツコは呪った。暗く昏く黒く、心に爪を深く立てられたように胸の奥が痛い。滴るのは赤い鮮血ではなく後悔と嫌悪と言う名の黒い感情だ。 (っ、私は……) シンが、自分自身の気持ちを偽ろうとするセツコの笑顔を見た為に、思った通りに笑う事も声をかける事も出来なかった事をセツコは知らない。 セツコが自分自身に嫌悪し、抑えきれぬ感情のうねりに困惑し、表情を曇らせる事で自分が悲しむ事が、余計にセツコを苦しませている事をシンは知らない。 どこまでも愛しいのにそれを伝えられず苦しいのか、相手の苦しみを自分のものと感じるほどに愛しいのか。 愛が苦しみをもたらすのか苦しみこそが愛そのものなのか。その答えを、二人が知る筈もない。 ましてや、シンは自分がセツコに抱く感情さえ理解していない。そんな二人が擦れ違わない筈がない。 どんなに思って、慈しんでも、労わっても、それが伝わらなければ、理解してもらえなければ、それは思っていないのと同じ。“ないもの”になってしまう。 互いの名前を呼び、挨拶を交わし、しかし次に何を口にすべきか口をつぐむ二人の間に、途方もなく重く、さめざめとした沈黙が落ちた。 鉛を含んだ様に肩にのしかかる重量さえ感じられるように周囲の空気が沈澱し、暗く淀んでいるような気さえする雰囲気に堪りかね、シンが口を開いた。 こんな時にも、口から出てきた言葉が当たり障りのないものであった事を、シンは幸いと考えるべきか不幸と考えるべきか分からなかった。 「あの、食堂」 「え?」 「一緒に行きませんか? その、セツコさんさえよければ、なんですけど」 「……ええ。一緒に、行こうかな」 言葉尻に行くほど気弱になってゆくシンの声に、セツコは、今度は少しだけ心のこもった苦笑しているような微笑しているような、少し崩れた笑みを口元に浮かべて頷いた。 少なくとも、シンに誘われた事を嫌がる雰囲気が毛筋ほどもない事が、シンの肩の荷をほんの少しだけ軽くした。 二人で肩を並べて廊下の中を歩く。天井に灯された電燈が無機質な床に落とす二人の影は、付かず離れず、変わらぬ距離で歩き続けていた。 少し手を伸ばせたお互いの手を握れる距離。 手を伸ばさなければ絶対に触れ合えない距離。 ほんの些細なきっかけで埋められるのに、それを躊躇ってしまう距離。 互いのぬくもりを感じるには遠く、存在を感じるには十分な距離。 それが今のシンとセツコの距離。 戦友で、仲間で、顔見知りで、でも、友達でも家族でも恋人でもない二人の距離。 何かあれば変わるのに、変わる事も変える事も怖くて、変わりたいと心のどこかで願いながらも変われずにいる距離。 近いけれど隣と言うのには遠く、遠いけれど離れていると言うのには近く、これ以上離れるのも、これ以上近くに寄るのも何かを壊してしまいそうで怖い。 そんな二人の心が作った二人の距離。 二人がお互いの存在を感じられて、お互いが隣にいない事の寂しさを誤魔化せる距離。自分の心を偽れる距離。 それが、今の二人の距離。 途中、ぽつりぽつりと会話を交わすが、それも泥が幾重にも積み重なって濁った水底の様な雰囲気を払拭する役には立たなかった。 時折お互いの横顔を盗み見る互いの視線に気付いて、目が合い、気まずげに眼を反らし合って前へと向き直る事を繰り返す。何度も、何度も。 こんな筈じゃなかったんだけどな――シンは、セツコと挨拶を交わすまで自分でも理解できない高揚に弾んでいた自分の様子を思い返し、現実との違いに一人、溜息を呑みこむ。 本当はもっと馬鹿な話でもこの間の戦闘の事でも、なんでもいいからセツコさんと話をして、セツコさんに少しでも多く笑ってもらって欲しくって、その笑顔が見たいって思っていた。 それなのに――やや俯き加減でせっかくの美人の顔を陰に隠しているようなセツコの様子が、シンの心を暗く重くした。 おれってどうしてこんな時に気の利いた事でも話でもなんでもいいから、なにか言う事が出来ないんだろう? 頭の中で先程から同じ事ばかりをぐるぐると、車輪を回すハツカネズミの様にくり返し考えていた。 考えても答えを出す事が出来ず、出口を閉ざされてしまった迷宮に入り込んでしまったようにずっと、同じことばかりを考える。 セツコさんとちゃんと話がしたい。セツコさんの顔をちゃんと見たい。セツコさんの声をちゃんと聞きたい。セツコさんの事をもっと知りたい。 どうすればそれができる? どうすればその願いを叶えられる? というかそれ以前にこのどうしようもなく重たい雰囲気を払拭できる? まずはそれからじゃないか。 そうやって終わらぬ思考の底なし沼に首までどっぷりと浸かり、食堂までの道のりは半分を過ぎていた。 このまま、碌に話をする事も出来ずに終わるのか。 思いがけず零れたのは大きな溜め息。シン・アスカにはどこまでも似合わないものだった。口から零れ落ちても足元に薄靄のように纏わりついて離れず、その日一日を暗い気持ちのまま過ごす事になってしまいそうな溜息であった。 自分でも吐いた事に気付いていないシンの溜息を聞き、セツコはまるで自分が責められているように、伏せていた白い美貌に被虐の翳を差し込ませた。 やっぱりこんな自分がシン君と一緒にいてはいけないのだと、そう呟く自分の声を聞いたのは果たして何度目か。部屋を出た時にシンの姿を見つけ、自分に会いに来てくれたのかと、密かに期待に熱く脈打った心臓はすでに冷え切っていた。 彼の事だ。自分に会いに来たというよりは昨日の事を気にして、謝りに来ただけだろう。そうでなくて、どうしてシン君が自分の所になど来るものか。 アカデミー時代からの友人でルームメイトでもあるレイや、自分と違って快活で明るくて、なにかとシンの事を気に掛けているルナマリアがいる。カミーユをはじめとしたこの世界で出会った新しい親友達だっている。 自分などよりも、シンが朝の食事に誘うのに相応しい人々がこんなにもいるではないか。それを忘れて、何を浮かれていたのだろう、自分は。 それが分かっていたから、昨日の事は気にしていないと告げる為に笑みを浮かべようとしたのではなかったか。その裏で、シンが来てくれた事に喜びを感じていた? なんて愚かしい。 自分にとって彼が特別でも、彼――シン・アスカにとって自分が特別などとどうして思ったのか。ただ、彼の律義さと不器用な優しさや生真面目な所が、自分の部屋へ足を運ばせただけなのだ。 だから、変に期待を持つのはよそう。そんな夢の様な事が現実に在るものか。どんなにそうなればいいと願っても、心の中で狂おしいほどに思っても、それは現実になってはならず、またなり得る筈もない夢幻だ。 うん、そうだ、だから、今はシン君と普通に話をしよう。ただの戦友として。せめて、それ位は許して欲しいと、セツコは誰かに願った。神でも悪魔でもない誰かに。 本当の想いをずぅっと心の奥の方にしまいこんで出した声は、うまく出たと思う。 「シン君は昨日の事を気にして私の部屋に来てくれたの?」 「えっ?」 意地悪げに三日月を形作るセツコの唇。少しだけからかうように浮かべた笑みは、言葉の中にほんの少しだけセツコの想いが溶けて、シンを狼狽させた。 ――昨日、私を抱きしめてくれたのは、私がZEUTHの仲間だから? それとももっと違う、シン君の『特別』だから?――本当は、そう聞きたかった。 歩みこそ止めなかったが、シンはこれまでなんとなく二人で避けていた昨日の出来事を、直球と言えばこれ以上ないほど直球で突いてきたセツコに対し、完全に不意を突かれて口を軽く開いて固まる。 すぐに自分の第一声が『えっ』の短すぎる返答である事に気づき、もっとましな返答が出来ないのかと、自分で自分を殴りたくなった。 これまで今日の天気の話から始まりなにかのマニュアル本にでも書いてあるような会話ばかりをぶつ切りにして続けてきただけに、二人ともどことなく恥ずかしく感じられて、避けていた話題を振られるのはシンにとっては返答に困る内容だった。 確かにセツコの言うとおり、昨日、知らぬ事とはいえ酒を呑み、アルコールに惑わされていたとはいえあろうことかセツコを強く抱きしめて、そのまま眠りこけていた事実を謝りに来たのは本当の事だ。 それが一番の目的だったはずなのに、セツコに聞かれるまでそのことを失念していたのは本末転倒と言う他ない。 思いがけず忘れていた作戦目標を思い出して、シンは、結局まだセツコさんに謝るという目的を果たしていない自分に気付く。 だって、仕方ないじゃないか。セツコさんがあんな顔をするから。喉まで出かかった答えをかろうじて吐き出す寸前で飲み込んだ。 何を偉そうに言おうとしているのだ、自分は。確かにセツコさんは何かと自分一人で抱え込んで、こっちから無理やり聞き出すか、肩の荷を強引に奪いでもしない限り誰かに悩みや迷いを見せない人だ。 だからって、そうする資格が自分に在るのか? 心と体に苦痛と恐怖を刻みつけられ、誰だって膝を折って泣きながら残りの生涯を過ごす事を選ぶような悲しみや絶望を与えられても、そこから立ち上がり、前へ進もうとする意志の強さを手に入れた彼女に、無理にでも問いただす資格が? 唇を噛み切ってしまいそうなほどの強さで歯を噛み締めている事に気づき、シンは自分の胸中に渦巻くどす黒い大渦の様な感情のうねりに気付く。 まただ。 セツコさんの事を考えると、コレが自分の心を満たしてしっちゃかめっちゃかに掻き乱す。感情と言う名の材料を煮詰めたスープを、でたらめにかき混ぜて、その正体が何なのか分からなくさせてしまう。 ただ、その大本となっている感情が、決して気分の良いものではない事だけはシンにも分かった。 そんな感情がそもそもどうして生まれるのか? しかもセツコさんと一緒にいる時に限っての話と来ている。 改めて考えてみるに、自分はセツコさんの事をどう思っているのだろうか? …………嫌いではない。好きか嫌いかの感情に分別するのなら間違いなく好きの方に分類されるだろう。まあ、このZEUTHにいる仲間達は皆そうなのだが。 では、その好きはどの程度の好きに分類されるのだろう? 友人としての好きか? 単なる顔見知りとしての好意か? 背を任せられる戦友としての好感情か? それとも、一人の男として、セツコを想うが故の『好き』なのか? 『好き』? 誰が……誰を? 自分が、彼女を。シン・アスカがセツコ・オハラを……『好き』? そこまで考えて、首から頭のてっぺんまで血が行き渡るのと同時に熱くなるのを、シンは意識した。今の自分は耳の先まで真っ赤に染まっている事だろう。 いや、だって、いや、そんな、おれが、セツコさんの事を好き? そう考えるとますます頬が熱くなり、セツコの方を見る事が出来なくなってしまった。 まさか、やっぱり? 自分がセツコを意識しているのではないか? そんな疑惑が一度頭をもたげると、シンの心の中で際限なく広がりはじめ、思わず胸を押さえたくなるほど動悸が激しくなってゆく。 ――うわ、と、止まれよ。なんだってこんなに胸が苦しくなるんだよ!? 息をするのも苦しくなるくらい胸の奥の方が、何かを詰められたように張り詰めて苦しい。やにわに熱を帯びて全身を巡る血流が、ようやく自覚し始めた感情を乗せてシンの体を赤熱させる。 ほとんど初めてと言っていい感情をもてあましたシンは、不意にすぐ横にいるセツコを見た。セツコへの好意を自覚すると、曖昧な距離にいるはずのセツコの事をもっと強く意識してしまう。 自分でも分かるくらい顔が赤くなった自分を、セツコさんはおかしく思ってはいないか? それを確かめようという意識も少しくらいはあったろう。 「?」 自分の視線に気づき、セツコがこちらを振り向く。何も言わずセツコの顔を見つめる自分の視線に不思議そうな顔を浮かべるセツコ。 「シン君?」 愛らしく小首を傾げ、セツコがあどけない童女のような仕草で自分の名前を呼んだ。二十歳を目前に控え、少女の青さからゆっくりと女の艶を身に付けつつある年齢なのに、セツコには不思議と幼い仕草が似合う。 名前を呼ばれ、その翡翠の瞳で見つめられて、シンは息を止めた。 やばい。やばいやばいやばいやばい。コレはヤバイ。これは反則だ。セツコさんは、もうなんというかいけない人だ。 あれだ。ああ、もうなんというかアレなのだ。この人の傍にいると胸が苦しくなってしまう。この人の傍から離れたく無くなってしまう。そう思わせるいけない人だ。 きょとんとしている翡翠を象眼したように美しい瞳も、小さく結ばれた淡い桜の花びらの様な唇も、頬に掛かる茶の色を帯びた黒髪も、シンの耳を打った心地よい声色も、ほんのわずかに空気に混じり、肢体から薫る匂いも、すべてがシンの心と脳髄を狂わせる。 セツコの全てがシンを惑わせ、魅了し、翻弄し、惹きつけ、自覚した想いがより一層加速する。 貼りついた様に動かない唇を、シンは必死の思いで動かした。それまでの陰鬱な気持ちの全てを吹き飛ばした恋心の自覚が、今度はまた別の意味でシンの心を縛っていた。 「な、なんでもないです」 「そう?」 言い繕うシンの言葉を信用したのか、セツコはまた前に向き直る。その横顔も、揺れる黒髪も、シンはどこか呆け顔で見つめた。 気付いてしまった。もう後戻りはできない。そんな風に思えた。 ――おれはセツコさんの事が好きなんだ。 唐突な恋心の自覚。それが自分とセツコさんの関係にどんな変化をもたらすのか、シンは不安と期待とが複雑に絡まり合った思いを胸に抱いた。 前へ戻る
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8月末日。夏休みも、もう終わりと言う頃。カレンダーを捲ると赤い丸印が。 そう、明日は学校が始まる日だった。 関係ないと、今までなら唾を吐き捨て登校義務と言うのを無視していただろう。だが、今年は違った。 学校へ行こう、と思った。気まぐれ、と言うのもあるのであろうが、僕には変えられない理由が存在した。 いつもの様に、パソコンの電源を入れ、とあるチャットへと誰かが来ないか待機していた。そこに、彼女が居た。 彼女と僕はすぐに仲良くなった。僕はいつしか彼女との会話を生き甲斐に感じる程に。彼女が僕のことを暇潰しの道具と考えてたとしても、ネットの仲だとしても、僕は彼女に惹かれて、友達。僕の妄想だとしてもそう思ってた。いつしか個別チャットで話す程の距離になっていた。 『大町中』彼女はそこに通っているそうだ。そう、僕と同じ学校だ。 後は、言わなくても分かるだろう。彼女に会うため、明日学校へと。 机には手付かずの宿題が放り出されていた。 当日、僕に目線が集まった。当然だ。僕は普段、学校に来ていないから物珍しいのであろう。 授業、部活、どちらも軽く流していた。彼女の事、僕にはそれしか頭に無かった。 待ち合わせの校門。彼女が僕の日常を変えてくれた。 「…おい、久しぶりだなぁ」 頭上から聞こえる、耳障りな雑音。 彼等が来た。僕をいじめるグループ。 十文字 初 を筆頭とした、学校一の不良で有名な、『チーム、バース』 だ。 彼女に会う、勿論そんな事僕にはうまくいくわけないのであった。
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214 :キモオタと彼女:2010/02/26(金) 23 36 38 ID RUPI98Ug オゥフ、やっと家に帰ってこれたでござる。 このボロいアパート(2LDK)が拙者の家でござる。 ガチャ、パタン。 オッフゥ、疲れたでござるなぁ。 朝比奈さんは、周りの方々に対しては優しい方でござるが、拙者だけにはとても辛くあたるので、酷いでござる。 しかし、拙者の見た目や性格はどうも人を苛立たせる性格でござる。 グフゥ。 しかし、昔の事を思い出すと今までイジメられぱなっしの人生でござるなぁ。 ウッフゥ。 中学、高校のイジメは耐えきったでござるが、大学では、拙者の存在は周りからは無かったことにされたのが辛かったでござる。 拙者の家庭は、決して裕福ではなかったので、両親の為にも頑張りたかったでござるが・・・ 無理でござった。 大学を中退してから、すぐに仕事を必死で探し、今の職場に就いたでござる。 拙者は、もう両親には迷惑をかけるのは申し訳ないので、実家ではなく、1人暮らしでござる。 ちなみに拙者は父上似でござる。 母上は、拙者から見てもすごい美人でござる。 何故、契りを交わせたのかが謎でござるなぁ。 ドゥフ。 母上にどうゆう成り行きで、父上と結婚したのかを聞いてみたでござる。 母上が仰るには、 「お父さんはね~。 すごく優しくてね~、一緒にいてすごい落ち着くんだよ~。」 ・・・いや、そういうことではなく、結婚までの過程を聞きたかったのでござるが・・・。 しかし,その後は、父上の事だけで軽く三時間も話されたでござる。 父上に聞くと、苦々しい顔をして 「あぁ・・・、うん、色々あるんだよ。 大人はな・・・。」 言葉を濁されてしまったでござる。 人の人生は色々あるでござるなぁ。 ウッフゥ。 まぁ、拙者がいない今、二人ともゆっくり過ごして欲しいでござる。 オゥフ、拙者としたことがおセンチな気分になってしまったでござる。 ドゥフフフ。 明日は、会社が休みですし、秋葉に行くでござる。 グゥフフ。 215 :キモオタと彼女:2010/02/26(金) 23 46 06 ID RUPI98Ug うーん、明日は会社が休みだしなぁ。 彼が外出してくれるとすごい嬉しいんだけどなぁ。 私の休日の過ごし方は、外出する彼を後ろからつけたり、ずっと彼が家にいる時は、彼がコンビニなど行くときは、彼の家の前で待ち伏せし、一目見れたらその日は満足など・・・。 この2年間、彼と一切まともに喋っていない・・・。 会話をするとしたら、事務的な会話ばかりだ。 もっと、色んな事を喋りたいのに・・・。 彼と顔を合わせると考えている事と口にしている事が全然違ったりする。 「おい!」 (ずっと、好きでした。付き合って下さい!!) 「は、はい、何でしょうか?」 「この書類、ミスが多いぞ。」 (彼女じゃなくてもいいです。貴方専用の犬にして欲しいです。) 「ぁ、も、申し訳ありません。 すぐに直します。」 「・・・全く、同じミスを何度もするのは、止めてくれ。」 (そうだよ。 私とすぐに付き合うべきだよ。) 「グフゥ、は、早く直します。」 「さっさと、お願いね。」 (あああ、彼との会話が終わってしまう。 貴重な会話が・・・) いつも、こんな感じだからなぁ。 彼の前に立つと、自分の言いたい事も言えなくなってしまう。 素直になれない自分が嫌になっちゃうなぁ。 ・・・よし、明日こそは、彼の家に一日中張り付いて、彼がお出かけするのを待っちゃお。 明日こそは、彼と・・・。 仲良くなりたいなぁ。
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三学期も始まって程なくしての出来事だった。 雪降る真夜中、ポートアイランドの埠頭で傷だらけの男女が激しく拳を交えている。 「元原能勢電パーンチ!」 「……ワンパターン」 「ぐぉう!」 男のパンチはいなされ、カウンターをもらって膝をつく。 「勝負あり…。丈児、今日こそ聞かせてもらう。貴方は何者?貴方は…」 「まっだまだぁ!」 「ッ!」 女が間合いに踏み込んだその時、ボロボロの男が牙を剥く。 「川西ぃ…能勢口ぃ!かー!らー!のぉー!折り返してェ!元原阪急宝塚線急行梅田行きィ!」 出鱈目に繰り出されたラッシュのいくつかが女の急所を捉え、アクション映画の決闘シーンよろしく二人は同時に倒れる。 天仰ぐ二人の視界に映るのは雪の舞う星空。 「……どーよ、いい加減諦めやがれっての」 「嫌」 「即答かよ」 「丈児こそ大人しく諦めるべき」 「上から目線がムカつくなぁ……!」 二人とも肩で息をしながら意地を張り合っている。 そもそもの始まりは半年前のゲート祭。 鱗人連合大破壊事件の被害者と思われていた二人が、互いに敵意を露にし常に命を狙うというとんでもない関係に発展した。 そして盆も新学期も学園祭もハロウィーンもクリスマスも年末年始も、顔さえ合わせば喧嘩が勃発していた。 あまりの被害の多さに新聞部の発行する学園誌には今週の喧嘩予報が掲載され、二人の勝敗を賭けにする生徒まで現れ、挙げ句の果てには賭博研究会と放送委員会が結託して裏興行的なものが行われるようにすらなっていた。 だがそんなことなど露知らず。 二人はただ己の求める事のために喧嘩を繰り広げる。 男の名は元原丈児。 異世界に消えた父の消息を知るために。 女の名は柚鬼。 ミズハミシマに害なす呪い刀の捜索と、両親の仇を撃つために。 相変わらずちらつく雪の中、二人は微動だにせず言い争いのようなものを続けていた。 ふと元原の目の端に揺らめく光が写った。 遠く遠く、雪煙る空に真っ直ぐに走る光の柱、ゲートだ。 異世界と地球を繋ぐ希望の門、未知の体現、奇跡の架け橋、人はそう呼ぶ。 だが少年にとっては自分が周囲とは違うことを嫌でも自覚させる……世界と少年を区切る壁のようなものでしかない。 傷だらけの手を翳してみても届く事はなく、火照った肌に当たる雪が溶けていくだけ。 「黙った。負けを認めた?」 「なワケねーだろーが!ったく、感傷に浸ってただけだよ」 「……」 「お、黙ったってことは今度はお前の方が白旗か?ええ?」 「違う。難しい表現なんて、丈児っぽくないから驚いてる」 「ンだごるぁ、しばくぞ」 「負けない」 「動けねぇくせに」 「そっちこそ」 伸ばしていた手を下ろすと元原の手が柚鬼の指先に当たった。 思いの外、距離は近かったらしく、それっきり二人は押し黙る。 「なあ、柚。ゲートの向こうってどんなとこなんだ?」 「……行ったこと、あるって聞いた」 「それな。目的地にゃ行けなかったんだよ。 ゲートを無理やりくぐって着いてみりゃ大延で、ミズハに近づこうにもまるで示し会わせたように邪魔されて、あっちこっちたらい回しにされてるうちに時間切れ。 その次はお上直々に近づくなってどやされた」 「……そう」 「一目でいいから見てみたいんだ。オヤジ達が夢を見た国を。そんでもって出来るもんならオヤジの本当の事を知りたい」 「広いよ?ミズハミシマ」 「行ってみりゃなんとかなんだろ」 「適当。だから失敗する」 「悪いかよ。んでどんなところなんだ?お前の知ってる範囲でいいからよ」 「……私が生まれたのは辺境の隠れ里。 山の中で、私達をよく思わない人たちがいるからって滅多に外には出して貰えなかった。 でも何度か、父様や母様の目を盗んで海辺まで遊びに行った。 空も海も蒼くてどこが境界線かわからなかった……」 柚鬼の手が何かを掴むように翳される。 「とても綺麗で……」 僅かに言い淀む柚鬼。 彼女の瞳は何を観ているのだろう。 空も海も波も雲も渾然一体となった美しい故郷か。 そこで共に生きた家族や友達か。 それとも…… 「綺麗、ねえ」 「丈児も見たい?」 「んあ、当たり前だろ。なんせ……」 「あの人が夢見た国、だから?」 「おうよ」 応えて丈児も空に手を翳す。 「うん。……でも」 「でも?」 柚鬼の顔に浮かぶ苦渋の色。 あの人。もし私が彼と出会わなければ、という後悔のようなもの。 少女は滓のような気持ちを飲み込み、 「何でもない…今度は私の番」 「?何の番だよ?」 「聞かせて、丈児のお父さんの事」 「はあ!?何でそーな……ッ!?」 突然のことに身体の起こした少年は、全身を走る痛みに身悶えする。 何せいつも以上に大立ち回りをしたのだ。 いくら鍛えられているからといって例外ではない。 崩れかける彼を咄嗟に支えたのは柚鬼の肩だった。 だが彼女もダメージは深く、期せずして二人は寄りそうような形となった。 「私は話した。だから次は丈児が答える番」 「……っ」 僅かな躊躇いののち、少年の口から言葉が漏れる。 「オヤジか。オヤジな……。真面目で……一直線な人だよ。芝居と殺陣が好きで。 面倒見がよくて、すぐに酔っぱらうくせに酒が好きで。 芝居の事になるとだいぶ暑苦しくて厳しかったなぁ。色んなことやらされたもんだ。 たまに大下さんとか白波にーちゃんとか秋山のアニキとかが押し掛けてきて、相手させられんの。 皆でわいわいやってるうちに酒が入って、んでオフクロにどやされて……あの頃から母親代わりだったけどまさか本当にオフクロって呼ぶようになるなんて想像も出来なかった。 ってこりゃ関係ないか。 とにかくまあ、そんな人だ。 んで、いつも口癖みたいに言ってたよ。一つ事に命を懸けろ、一つ事に死ねる男になれって」 「私も言われた。一つの生は一つ死であり…」 「…一つの死のために一つに生きよってな。なあ、薄々感じちゃいたけどよ」 「?」 「俺たちって同門なんだよな」 「たぶん」 「ってことはだ。家族みたいなもんだよな」 「…よくわからないけど、それもたぶん」 「…そーかー!ははははっ!」 「いきなりすぎる」 突然堰を切ったように笑いだした元原に柚鬼は戸惑う。 「だってよぉ…!笑わずにいられねーんだよ。 くそむかつくゲートの向こうに消えちまったオヤジ! おれのことを付け狙うおまえ!そいつが同じこと教えられて、ここにいるんだぜ! 人に嫌われた俺に…!オヤジが生きてるかもって…! ……あー!もうなんだよ!なんで、こんなに、目が……!」 「丈児……?」 「もう、何が、なんだかよおぅ……!」 ボロボロと涙が溢れ、少年の顔が崩れていく。 普段のつっぱらかっている彼とは違う、年相応の弱さに少女は衝動的に手を伸ばしていた。 支え会うように座っていたのである。 体勢は崩れ、必然的に彼は彼女に抱き止められる形になる。 「たまには、いい」 置くように発せられたその言葉に の身体がこわばる。 いつも が口にしていた言葉だ。 「私も、大好きだった。海を見に行ったのがばれて、父様に怒られたあの日も、あの人はこうしてくれた」 少年の見上げる視線の先、彼女の目には涙が浮かんでいた。 僅かな静寂の後、埠頭にはどちらともない泣き声が響いていたという。 それから月が変わり、あわただしく世間が流れていく。 学生たちは目の前に迫ったイベントにそわそわしだし、季節は春へと向かっていく。 だが。 「こなくそぉー!」 「ほんとに、ワンパターン…」 ヤケクソラッシュの男と、こともなげにそれを捌く女。 最後の一撃を避けられて三階の窓を派手につき破り、場外自爆の決着に野次馬たちは色めき立つ。 「どもー!報道部のミュースでェーす!早速勝者の柚鬼サンにインタビューしたいと思いマース! さてさてこれで四連勝なワケですが、今の心境を一言お願いしまーす!」 「…特にない」 「いつもの通りのクールなお答えありがとーございましたー!それではスタジオにお返ししマースよー!」 喧騒をよそに柚鬼は割れた窓から飛び降り、教師の車に突っ込んで一命をとりとめた丈児の前に歩を進める。 それに感づいた丈児もむくりと立ち上がる。 「…次は負けねえ」 「次も勝つ」 僅かばかりの睨みあい、そして二人で小さく笑みを溢して、別々の方向へ去っていく。 そんなやりとりを目撃した者は未だ居ない。 すれ違いというよりもちぐはぐな二人の通じ合ってる度は小学生レベルじゃないか!? -- (名無しさん) 2016-02-07 15 33 07 名前 コメント すべてのコメントを見る
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Side K 家に着いたけど、まずはびしょ濡れのあ〜ちゃんをなんとかしなきゃ。 外で絞ってきたといっても、乾いてるわけじゃないし。 「今バスタオル持ってくるから、ちょっと待っててね?」 「ぅん。」 体冷えてるだろうから、お風呂も沸かしておこっと。 バスタオルを持ってあ〜ちゃんが待つ玄関まで戻る。 「…ごめんね?ゆかちゃんの服まで濡らしちゃって…。」 「ん?あぁ、こんくらい平気だよ?それよりあ〜ちゃんの方がびしょびしょなんだから、ちゃんと拭かないと〜、風邪引くよ?」 「…ぅん。」 一枚は足元に置いて。 もう一枚をあ〜ちゃんに被せて拭いていく。 わしゃわしゃと、あ〜ちゃんの髪の毛を拭いていると。 「ねぇ、ゆかちゃん…。」 「ん?」 一旦手を止めて、あ〜ちゃんの言葉を聞く。 「何で、あんなに似てるのかなぁ…。」 さっきからずっと弱々しいあ〜ちゃんの声。 …。 似てるって…あの人とのっちのことだよね? 「なんかあの二人、従兄弟なんだって。のっちが言ってた。」 なんだか言い難くて、またあ〜ちゃんの髪を拭きながらそう答えた。 「そう、なんだ…そっかそっか。」 納得したように、微かに笑うあ〜ちゃんの顔がタオルの隙間から見えた。 そこから、しばらくの沈黙。 今、何を思ってるの? 私はあ〜ちゃんの手や服を軽く拭き終わると 「はい、タオルの上に上がって良いよ?」 私のその声に、ずっと玄関に立ちっぱなしだったあ〜ちゃんは、靴を脱いで中へ入る。 あ〜ちゃんの足元も拭いてあげると、ちょうどお風呂のお湯が溜まった合図。 「あ〜ちゃん、お風呂で温まると良いよ。」 「ぅん。」 私は家に帰って来た時みたいに、あ〜ちゃんの手を引いてお風呂場に向かう。 ドアを開けてはいると 「じゃあ、ゆっくり温まってね?」 そう言って、出て行こうとしたけど、繋いでいた手は離されなくて振り返ると。 「ゆかちゃんも、一緒が良ぃ…。」 これは、だいぶ弱ってるね。 だからそのお願いに迷うことなく、分かったって答えた。 濡れた服を脱いでいくあ〜ちゃんの胸元には、一組のリングが仲良く揺れていた。 あの人が、付き合えたのが嬉しくてあ〜ちゃんに贈った唯一のプレゼント…。 きっと、手放すなんて出来ないよね。 Side A ちゃぽん…。 膝を抱えてお湯に浸かるあたしの後ろから、ゆかちゃんがあたしを抱えるようにして入ってる。 二人で入ると、ゆかちゃんはいつもこうしてくれる。 あたしが退院して、ゆかちゃんと暮らすようになった頃は、良く一緒に入ってくれたよね。 新学期が始まって、彼とのことを知っている友達と話す時、嫌でも話題にのぼってくるから心が砕けそうになってた。 でも、やっぱり心配させちゃいけないと必死に笑顔をつくって。 それから、失う事への恐れで、あたしは自然と友達との距離をつくり始めた。 そんな自分が嫌だなと思ったり、情けないなって、気持ちが沈んでる時は決まってゆかちゃんがお風呂一緒に入ろう?って言ってくれた。 『言いたいことがあったら何でも聞くよ?』 『一人で悩まないで。』 『二人の時は無理しないで。』 ゆかちゃんの言葉は、他の誰よりあたしを支えてくれてた。 あたしが弱くなっても良い場所。それは今も変らない。 「二人で入るの久しぶりだね?」 耳元でゆかちゃんの声が響く。それがなんだか落ち着く。 「そうだね。」 「…今日のアレはキツかったね。」 「…ん。」 「…やっぱり、のっちが側に居るの嫌?」 「嫌じゃない…と思う。ただ、知るのが恐いの。」 知れば、きっと彼女との距離は近づくから。そしたら、失うものが増える。 だから恐い。 「そっかぁ。」 なぜか少し嬉しそうなゆかちゃんの声。 「あのね?」 「ん?」 「あたし、ゆかちゃんが来る前に、彼女に『ごめんなさい』って断ったの。でも『知ってるよ。』って言われて…。」 図書館でバイトしていて、彼と従兄弟なら。 「どこまで、知ってたの、かな…?」 いくら従兄弟で似てるっていっても…。 あたしに本を取ってくれたのは? あたしに名前を聞いたとき、『あやちゃん』て言ったのは? あたしの頭を撫でたのは? あたしに告白したあの言葉は? 次から次へと浮かんでくる疑問。 …彼から聞いていたの? 違う。そんなはずない。 彼はそういうことをベラベラ話すような人じゃない。 分かってる…分かってるけど。 一人深みに嵌りそうになると。 「あ〜ちゃん。」 膝を抱えるあたしの腕に重ねられていたゆかちゃんの腕が、あたしの首へ回される。 それで、思考が元に戻る。 「あたしもそこまでは分からないけど。多分…」 少しだけ間があいて。 「のっちはのっちだよ?」 ふふwて笑いながら続けるゆかちゃん。 「のっちって人間関係とかで計算できない子だからw」 その言葉に、少し気持ちが軽くなったような気がした。 でも、計算できないのも一緒なんだw少し笑いがでた。 「あ、あ〜ちゃん笑ったw」 「ぇへwだって一緒なんだもん。」 それでも、彼女は彼女なんだって。 —つづく—
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わらうあなたに ずっとわたしの あなたには ほほえみかける あこがれだった かのじょがいて かのじょの かのじょの かのじょは よこがお よこがお だいじなともだちで ずっとすきだと だれがみたって このままじゃ いえなかったのは かんぺきなほど こわれそうで きづいていたから おにあいのふたり むねが くるしくて ねむれない かなわない よるのながでんわ こいとしっていた かのじょには すきなひとのこと だけどゆめだけは あなたがいて はなしたね みたかった わたしがいなくても いいよね ずっとでんわも みつめてるだけで してないのは よかったの そばにいて かのじょには だれのものでも みつめるのは いえないから ないなら わたしには あなたには あなたには かのじょがいて かのじょがいて いつかわらえるひまで かのじょは かのじょは だいじなともだちで だいじなともだちで かのじょには ゆずれない あなたがいて きもちがある わたしには くちに だせなくても ひとりためいきの さんでい このむねに
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少し喉が乾いた。きっかけはその程度のことだった。食堂に行って水でも飲もう。食堂を選んだのは、喉を潤そうと思い立った場所から一番近かったからだ。 月の女神の名を冠した戦艦の中は、慣れ親しんだ我が家の様に把握している。ほどなく食堂につき、がらんとした食堂内でぽつんとテーブルの上に置かれている瓶に気づいた。クルーの誰かが忘れていったものだろうか。 ラベルは貼られていない。グラスに一杯注がれていて、びっしりと滴る水滴が喉を通った時の心地良さを保証していた。ひょっとしたら、休息の時に誰かが購入したミネラルウォーターかなにかなのだろうか。 照りつける太陽の下、良く冷えた水を呑んだ時の心地良さを思い出し、ごくりと喉を鳴らす。 ――ちょっとだけなら、構わないかな? ささやかな罪悪感は、潤いを求める自分の声の前に呆気なく敗北した。 十代の少年のものにしてはやや細めの手が、良く冷えたグラスを掴み、唇へと運んだ。それが、別の艦のクルーがこっそりと持ち込んだアルコールであると知るのは、思い切りよく喉を鳴らしてからだった。 「ぐへぇ!?」 とりあえず咽た。 ザフトの最新鋭艦ミネルバの廊下を、一人の女性が歩いていた。半舷休息となった際に、普段は乗っている船の艦長からちょっとした頼まれ事をしたからだ。 身に着けているのは黒を主体にした軍服らしい固い印象を受ける上衣。下は女性の歩みにつられて揺れるスカート。 一歩歩むたびに丈の短い黒の布地からは眩いまでの肌が覗き、女性が望まなくてもオス共の視線を引き付けるには十分すぎる魅力が、薄い煙の様にふりまかれている。 当の本人にそのような意図はあるまいが、うっすらと春の陽光の下で咲き、ほのかにぬくもりを帯びた風に散る桜の花びらの様な唇。 背に掛かるほどまで延びた茶の色が濃い黒髪は、淡風に揺れる極上の絹糸のようにさらさら、さらさらと女性の歩みに従順に従い揺れ、天使の輪を浮かべる光沢はその髪を梳く指に、吸いつくような手触りを与える事を約束している。 女性特有の柔らかな曲線を描く輪郭の中に、翡翠のもっとも純粋な一塊を象眼した様な瞳と、まるで恥じらうように控えめながら、美しいと称されるバランスを高い水準で体現した鼻梁のライン。 街を歩けば声を掛けてくる男にも、また嫉妬と羨望の視線を手がつかめそうな濃度で向けてくる女にも事欠かぬ美女であった。 その美貌を独占するために、春の陽光と夏の陽炎、秋の三日月と冬の雪とが争っても仕方が無いと見える。 美貌とは華やかなものだ。抜きん出た美というものは人の目を集め、それはやがて不幸を呼び、あるいは幸福を呼ぶ。 鼻が三センチ短かったら歴史が変わっていたというクレオパトラの末路や、断頭台の露と消えたマリー・アントワネットの最後の様に、時に“美”はその持ち主に運命という絶望と同意の不幸の影を落とす。 この女性の場合は、少なくとも幸福ではあるまい。野端に咲く一輪の花が恥じらう様な貌に時折揺れる仄暗い影は、決して光に包まれた幸福な人生の持ち主が纏う筈もない陰鬱さを孕んでいるではないか。 今は凛々しく引き締められた唇や、美眉は、苦しみに、悲しみに、怒りに、憎しみに、恐怖に、絶望に歪む時こそ最も美しく形を成すのではないだろうか。 痛みに苛まれ、涙を流し許しを懇願する女性の姿は、長く俗世と断絶した聖者の死滅した快楽中枢さえ刺激して淫蕩な誘惑となってもおかしくあるまい。 万人の精神の奥底に秘められた甘美なまでに危険で、あまりに魅力的な背徳の感情を揺さ振る影が、まるで伴侶の様に親しげに、女性の肩に見えない手を回しているのかもしれなかった。 足を止めた女性が、軍服に締め付けられて尚、砂糖菓子みたいに甘くふわふわと柔らかそうな曲線を描く胸の中から、小さくため息をついた。少し歩き疲れたらしい。 少し先に見えた自販機と長椅子のある休憩所で一休みしようと、小さく頷いてま歩き出す。 纏う雰囲気の故に、歩みを再開させた肉感的な肉体はどこか白霧の向こうの国の人の様に儚い印象を受ける。 軍服越しに描かれる曲線も悩ましい蜂腰と、その先にあるスカートの中で悩ましげに揺れる尻肉も、眩さが目に沁み入るほどに輝くすらりと伸びた足も、いざ手に触れようとしても空を掴んでしまうような、どこか遠い雰囲気を纏っていた。 ふと、自販機の前まで歩いていた足が止められた。電燈に落とされる女性の影もまた止まる。廊下の向こうからこちらへ歩いてくる顔見知りに気付いたからだ。 女性より二、三センチほど低い背丈に、ややサイズの合っていない、丈の長い軍服を着こんだ少年だ。 斬り裂かれた清純な乙女の肌にぽつりと浮いた血の珠の様に、澄み切った朱色の瞳は実年齢よりやや幼げで、少し聞かん坊めいた意地の強さがうかがえる。 ちっとも直そうとしない所為で、逆にトレードマークみたいになった跳ねっ毛の多い黒髪は、碌に手入れもされていないだろうに枝毛一つなく少年の白い肌にはらりとかかっている。 ときおりふらふらと揺れる足取りに、女性は少しだけ不思議そうな顔をして、どこか調子が悪いのかしら? と心中で首を捻ったが、こちらに気づいた少年の声に疑惑はかき消された。 「セツコさんじゃないですか? どうしてミネルバに?」 「ちょっとブライト艦長に頼まれ事をされたの。シン君は? 部屋に戻る所?」 「ええ、まあそんな所です。なんだか体が熱くって。ああ、そうだなんか飲みます? それ位ならおれが奢りますよ」 「そんな」 と、はにかむ様に笑って曖昧に遠慮するセツコを無視して、シンは自販機に指を伸ばしてドリンクを二本購入した。ごく普通のミネラルウォーターとアイスティーだった。 「どっちにします?」 「じゃあ、紅茶の方」 「はい」 「ありがとう」 「別にお礼言われるようなことじゃないですよ」 差し出されたアイスティーのボトルを受け取り、仕方ないなあ、と少しだけお姉さんぶるような雰囲気で礼を告げるセツコに、シンはこちらも微苦笑するようにして答えた。それからどちらから言うわけでもなく椅子に腰かけた。 セツコの隣に座ったシンの位置が、少しだけ近い様にセツコには思えた。といっても、隣に座るような経験が多いわけではない。ただ、なんとなくそう思っただけだ。それに不愉快さは唯の一片たりともなかった。 「シン君、いつもシミュレーターに付き合ってくれたり、戦闘で援護してくれてありがとう。シン君のおかげでずいぶん助けられてる」 「いいですよ、それ位。ZEUTHの仲間でしょ? それにフリーダムを撃墜する時の訓練でも手伝ってもらったし。それより無茶してないですか? ちゃんと休まないと帰って体に悪いですよ。この前だってシミュレーターの中で寝てたでしょう」 「知っていたの? 分かってはいるんだけれど、今の私じゃ、まだまだ力不足だから」 そう言うセツコに、シンは歯痒そうな顔を浮かべるが、どこか自嘲するように手に持ったアイスティーを見つめて顔を伏せるセツコは、シンの表情に気付いてはいなかった。 粛々と自分の運命を受け入れる生贄の祭壇に載せられた乙女の様子に、シンは決して良い感情を抱いてはいないようだった。 「セツコさんは、他の誰も真似できないってくらい一生懸命、頑張ってます、努力してます! おれだってフリーダムを落とす為の訓練をしてた時はかなり思い詰めてたけど、セツコさんはいつもそれが当たり前になっているじゃないですか! そんなの、いつまでも続くわけないじゃないですか、心よりも先に体が壊れちゃいますよ! もっと自分の事も大切にしてください」 「うん、ごめんね」 「謝るよりも実践してください。そしたらおれもこんな事言わないですから」 「いつもより厳しいね、シン君」 「セツコさんが意地っ張りだからです」 でも、もう私の体は――それから続く言葉を、セツコは心の中で押し殺した。この目の前の少年の気遣いは、言葉で飾らぬからこそより深くセツコの心に沁み入ってくる。 何の他意もなく純粋にセツコの事を案じるシンの言葉は、自暴自棄の影が差していたセツコの心に、寒風吹きすさぶ荒野の中で春のぬくもりを帯びた風に頬を撫でられたような、そんな暖かさを感じさせてくれた。 勢いよくキャップを開け、ごくごくと喉を鳴らしてミネラルウォーターを飲むシンの傍らで、セツコは言葉には出さぬ感謝の念を抱いていた。 ボトルから口を放したシンが、セツコの方を振り向き、真摯な顔で話しかけてきた。心なしか二人の顔の距離が近い。 「セツコさん、お願いだから自分の事を大切にしてください。セツコさんが傷ついたら皆が悲しみます。カミーユやルナや、勝平やガロードにロラン、レントンやエウレカだって。ZEUTHの皆がです。 みんな、セツコさんの事が大切なんだ。自分がそんな風に思われてるって、自覚あります? 悲しみを広げないために戦うって言うんなら、自分の事も大切にしてください」 「……ありがとう。でも、私が私自身の手で決着を着けなければいけない事もあるの。みんなが、私の事を心配してくれるのは本当に嬉しい。でも、それを分かっていても、私は私の為に、あの男との決着を着けなければいけないと思う。 私がグローリー・スターの一員で、その事が誇りである限り。私が味わった悲しみを他の誰かに広げない為に」 シンの赤い瞳に映ったセツコは、これだけは譲れないと、かつての気弱な影はどこにも見られない、凛とした――しかしどこか痛切な光を宿し、翡翠の瞳でシンの心と向き合っていた。 シンは、自分の言いたい事をセツコが理解してなお戦うという言葉に怒りを覚え、そしてすぐに別の感情が胸を占めた。同情……ではあるまい。分かってもらえぬ苛立ちや怒りの後に来た感情が何か、この時のシンには分からなかった。 重たいものが床に落ちて跳ねる音と、セツコの視界が唐突に揺れるのは同時だった。床に落ちたのはシンが手に持っていたミネラルウォーターのボトル。セツコの視界が揺れたのは、シンに体を強く強く抱きしめられていたから。 シン君が目の前から消えた。痛いくらいに力を込められた腕が、私の体を抱きしめている。右の視界の隅に黒髪と右の肩が映っている。右の耳に熱い吐息が、嗚咽を漏らすように吹きつけてくる。 とくん、とくん、と押し潰された乳房越しに心臓の鼓動が体の中を通って聞こえてくる。 これは誰の腕? これは誰の髪? これは誰の吐息? これは誰の心臓の音? ――シン君のだ。シン君の腕。シン君の髪。シン君の吐息。シン君の心臓の音。こんなに近くで、唐突に。どうして? 突然の事に困惑するセツコは、幼子に語りかける慈母の様に優しく、しかしどこか困惑の色を浮かべてシンの名を呼んだ。そこに男の性に対する嫌悪や畏怖の感情は混じってはいなかった。それは相手がシンだからだろうか? 「シン君?」 「……セツコさんが、どうしても戦いをやめないって言うんなら。おれがずっと隣で戦います。セツコさんを守ります。もう、誰もおれの目の前で失いたくない」 「……シン君」 セツコは思い出していた。チラムの首都を業火の中に飲み込んだあの忌わしきMSに乗っていた少女の事。ステラ・ルーシェ、ラテン語で星という意味を持つ名前の少女を、シンがどれだけ気に掛け、そしてその死を嘆いていたかを。 今も、ステラを手に掛けたフリーダムを斃した時の、シンの虚ろな笑い声はセツコの耳の奥にこびりついて離れない。 心のどこかを真っ暗な穴の中に落としてしまった人間だけが挙げる事の出来る、空っぽで、冷たくて、悲しくて、聞いている誰もが涙に暮れてしまうような、シンの笑い声を。 あの時のシンの笑い声は、この世にそれ以上はないというほどの悲しみと無力な自分への怒りと混ざり合った、シンの魂の挙げる悲鳴だ。 それがあまりにも痛々しくて、少しでもそれを癒してあげられない自分の無力に、セツコもまた悲しみに胸を痛めた。 だから、セツコの口から零れたのは、せめてもの、気休めというのも愚かな、優しい優しい嘘。 「大丈夫だよ。シン君の目の前から消えたりしないから。私は大丈夫。私にはZEUTHの皆も、シン君も居てくれる。私は一人じゃない。だから、大丈夫。ね?」 「……おれ、守らなくっちゃって、父さんも母さんもマユもステラも、おれが居たのに守れなかったから、だから、今度は、今度こそはって」 「うん」 意味を成さない言葉の羅列になり始めたシンの言葉を、セツコは聞き続けた。抱きしめられた時から、動かさずにいた腕をシンの背に回し、少しだけ躊躇するように手をひっこめてから、腕の中の赤子をあやす母親の様にシンの体を優しく抱きよせる。 シンの腕に込められた力が少しだけ緩められた。自分を慈しんでくれる母の腕の中にいるのだと悟った、子供の様に。 「おれ、守りたいです。ZEUTHの皆も、ミネルバの皆も」 「うん。シン君ならできるよ。シン君がすごく頑張っているって事、本当に、みんなの事を守りたいんだって思っているって事、私は知っているから。約束する。私は、シン君の目の前から消えたりしない」 「はい。……おれもセツコさんが頑張っているって事、知っています。セツコさんがホントに、本当に頑張っているって。だから、おれ、セツコさんの事守りたいです。セツコさんの努力を馬鹿にするやつも、傷つけようとするやつも、悲しませようとするやつからも。 セツコさんの近くでセツコさんの事を見てきたから、セツコさんの傍でセツコさんと戦ってきたから、セツコさんの隣にいたいから。おれは、セツコさんと、もっと、ずっと、一緒に……」 「……うん。ありがとう、シン君」 君は私の事を守りたいって言ってくれるけど、もう私の心を守ってくれているんだよ? 私を守りたいって言ってくれる君の言葉が、私の事を認めてくれる君の言葉が、私の居場所を教えてくれる君の言葉が、どんなに私の心を救ってくれているのか、きっと君は知らないよね。 だから、きっと君との約束を破ってしまう私を、君は許してくれないよね。 「……シン君?」 「……」 「眠っているの? そういえば、なんだかお酒臭い。こら、未成年はお酒を飲んじゃ駄目なのよ。……ふふ、でもシン君の寝顔、可愛いな」 セツコの肩に涙に濡れた顔を押しつけるようにして眠ってしまったシンの寝顔を、なんとか盗み見て、泣き疲れて眠るその姿に、セツコは穏やかな笑みを浮かべる。 シンの閉ざされた瞼から流れる涙を、喜びと悲しみの入り混じった瞳で見つめていた。 「シン君、私の為に泣いてくれるの? もしそうなら、もう私の為には泣かないで。私じゃなくて、もっと、シン君と一緒に未来を歩いていける人の為に、涙は取っておいて。私じゃあ、シン君の隣で一緒に未来を歩いてはいけないから」 浮かばせられる事ができたのなら、生涯の誇りにできるような、そんなセツコの笑顔。だが、そこには、決して未来を生きようとする人間が浮かべてはならない、破滅の足音を聞いた者のみが浮かべる滅びの美しさが、不吉な影のように浮かんでいた。 シンがセツコの肩を枕代わりにしてから一時間ほどして、シンは目を覚ました。 自分の背に腕を回したまま、安堵しきった無防備な顔で、規則正しい寝息を吐いていたシンが、不意にん、と声を零すと軽く頭を揺すって顔を起こした。 中途半端な睡眠で寝ぼけ眼のシンが、すぐ目の前に、それこそおでこがくっつくくらいの距離にあるセツコの顔に気づき、きょとんとした顔を浮かべる。状況の把握に、脳の処理速度が追い付いていないのだろう。 (シン君ってこんな顔もするんだ。可愛いって言ったら怒るかな?) 突然の緊急事態に硬直するシンに対し、抱きしめ合ったままの姿勢を一時間ほど維持していたセツコは、余裕さえ浮かべて目の前の、息のかかる所にあるシンに向けて微笑んだ。 「おはよう、シン君。目は醒めた?」 「…………え、う、あ。……セツコさん?」 「うん」 朗らかとさえいえる、どこかあどけない子供の様なセツコの返事を聞き、シンの首から耳の先までが瞬時に赤くなった。状況を理解し、人間瞬間湯沸かし器となったのだろう。 反射的にか、シンの腕に力が込められ、頭はのけぞりつつも、シンはセツコの体を思いきり抱き寄せた。互いの体の間で、軍服を大きく盛り上げるセツコの双乳が付きたての餅のように潰れる。 「ん、シン君。ちょっと痛いかな」 「え? ……うああああ、ごごごご、ごめんなさい!!!」 自分が何をしたのか悟ったシンは、まるで漫画の様にセツコの体を手放し、自分の体に回されていたセツコの腕を無意識の内に解いて、椅子から勢いよく飛び退る。 すっかり素面に戻っているようで、少し年上の美女に対して自分が何をしでかしたのかを悟って、顔いっぱいにごめんなさいごめんさない、と赤く書き散らしている。 セツコは、そんなシンの様子が面白くて、控え目ながらも鈴を転がすような小さな笑い声を零す。 「ふふ、気にしないで。私は気にしてないから。あ、レイ君の口癖が移ったのかな」 「あ、や、その、とととととにかく、ごめんなさい!!」 その場で九十度近く腰を曲げて、床に激突しそうな勢いで腰を曲げ、シンはセツコに背を向けて脱兎のごとく駆けだした。 まあ、シンがセツコを抱き枕にして眠っている間は、誰も通りがからなかったから、ラッキースケベだの何だのとシンがからかわれる事は無いだろう。 「そんなに慌てなくてもいいのに」 その背に向けて明るい笑みを零しながら、セツコは手の中に残るシンのぬくもりを感じていた。シンが頭を預けていた自分の右肩に触れる。濡れている。シンの流した涙の為だろう。 「あったかい。シン君は、体だけじゃなくて、涙も、心もあったかいね」 自分の右肩に手を当て残る腕で自分の体を抱きしめた。つい先ほどまでそこにあったぬくもりを忘れぬように、確かめる様に、そっと、しかし強く。そうしなければ、自分を支える事が出来ないとでも言うように。 「あったかいね。……あったかいよ」 セツコは笑みを浮かべながら、何時止まるとも知れぬ涙を流し続けた。 次へ進む