約 12,191 件
https://w.atwiki.jp/nightmareofmio/pages/156.html
魔女と神様.3 (大きな図体に、長い腕。) 小柄な栞から見るとその攻撃は鈍重で。 (単純な頭に、単純な心。) 聡明な栞から見るとその攻撃は愚直で。 そしてそのよく目立つ喉仏を、銀十字で割ってやればあっさりと終わるのだ。 膝を折り天を仰いで絶命する姿は趣味の悪い贄にも似ていた。 これまではとどめを刺したらそれで終わり。醜い屍など視界にも入れず去ったものだが。 栞は、その醜さをしばし直視するようになった。考える時間だ。今これを見て何を思うか。 どうして自分は"男"を殺し続けているのか。その答えを明文化する為に。 (…まず浮かぶのは、) 彼が襲い来るイメェジ。愉快げな笑顔で得物をこちらへ降りおろす。その姿は何重にもぶれて見える。 (次に浮かぶのは、) 彼に奪われるイメェジ。大切なものが彼の手で粉々にされる。膝をつく自分を貫くのは、憎悪。 栞が男性を見る度にこれらが見え、次の瞬間には彼らに襲いかかる。終えた後イメェジを見たことは忘れ、心に残るのは"敵を倒した"という感情だけ。これだけのことが無意識下で行われていた。 おそらくこれらは思いだしたくない映像なのだろう。脳は巧妙に隠していたようだ。 実際、ここまで自分を探るために何度過呼吸になったか知れない。 (それでも、無知ではいけない。) 馬鹿ではいけないの。 胸を押さえながら、口を押さえながら、吐き気を抑えながら。 栞は自分を探り続けた。傷口を引き裂いてまさぐるように深く深く。 殺すというのは奪うことだ。殺すというのは暴力だ。奪われる前に奪う。それは即ち自分が奪う側になるということ。 理由なく奪う者が栞にとっての"男性"なら。 栞は理由を明文化しなければいけなかった。正当性を証明しなければいけなかった。 他でもない、自分自身に。 "信じるに値するため"に。 (あぁ、そういえば。) 迷いが生まれたなら信じなさい。 たわ言をほざいた男を思い出した。そういえばあの男を見ても私は殺そうとしなかったな。何故だろう。"男"なのに。 緑の髪、緑の耳、モノクル、神父服、赤い、本。 そこで急に耳鳴りがして、肺に激痛が走った。 …ここで崩れて誰かに襲われたら元も子もない。今日のところは中断し、栞は教会へと向かうことにした。 黒くすすけた石畳をとんとんと踏みしめた。これは栞が教会にくる以前に誰かがきて焼いていったらしい。何故だろう、これを見てると妙に不愉快になる。 ドアだけ妙に真新しい。開け放たれたドアを栞はくぐる。そこにはいつものように腹の立つ笑顔の神父が …いない。 「…神父?」 聖堂に反響する問いかけ。 こん。こん、こん。一人分の足音も異様に響く。 …留守か。と結論を出す前に全ての長椅子を見渡した。留守なら仕方ない。いや別に仕方なくはない。さして用事があった訳でもないし。 何のために来たのかと言えば、休養するためだ。栞は適当な長椅子に腰かけた。一瞬の衣ずれ音の後、しんと静かな無人の聖堂。 ぼんやりとしたのはほんのつかの間で、気付くと栞はあたりをきょろきょろ見渡していた。 案外と広い聖堂だったようだ。糞神父にお似合いなしみったれた教会だと思っていたのに。 あ、あそこのステンドグラス汚れてる。あいつ掃除さぼったな。 蝋燭だって消し忘れているし。花に水やりしてないし。床にも綿埃が転がってるし。 きょろきょろしているうちにぽきんと首の関節が鳴った。地味に痛い。 (………。) 次第にふるふると栞の肩が震える。こめかみに青筋がびきびきと浮く。 どうしてこうどこもかしこも気になる。どうしてこうやたらと音がない。 私は休みに来たと言うのに、どうしてあの男のせいで落ちつかない思いをせねばならない! 「解せない!」 ついに栞はがたんと立ちあがった。 過呼吸のせいで肺が痛かったが構うものか。神父はどこだ。蝋燭を消せ。花に水やれ。掃除をしろ! 大股でがつがつと歩いてまわり、十字架もマリア像も平気で踏み込んだ。知ったことじゃない。こいつらはあのいかれ神父に崇められてればいい。 そうだ、ここはそもそも神父のための場所じゃないか。あの弱い神父が神を拠り所にするためだけの場所じゃないか。それをほったらかすとはどういう了見だ。面倒なのが入ってくるかもしれないし、知らない間に壊されてるかもしれないし。 そんなことになっても知らないわよ、糞神父。がらんと無音な聖堂を忌々しく睨み渡す。 貴方の場所に貴方がいないなんて、馬鹿げてるわ。 廊下の隅から隅まで探しても、埃まみれな部屋に片っ端から飛びこんでも。 翠はどこにもいなかった。どすどすと歩いていた足は、いつのまにか急くように走っていた。 外出?考え難い。ストックは足りていたはずだ。ならあえて外に出る必要性はない。不用意に外をうろつくのは危険だし、貴重な来訪者を逃がしてしまう可能性だってある。 狭い庭にも屋根の上にも、人どころか猫の子一匹いない。どこまでも続く無音は次第に栞を蝕んだ。 いないのか。本当にいないのか。外出でないなら何故いないのか。 既に栞が戻ってきてからかなり時間が経っている。嫌でも、ひとつの推測が栞の背筋を撫ぜた。 (…可能性は…微妙。) 聖堂には血痕も焦げ跡もなかった。破壊された様子もない。ただひとつじわりと胸を締めるのは、戻った時ドアが開け放たれていたということだ。 ドアを閉めずにどこかへ行く男では、ない。 閉めることも忘れるような状況で外に出たか。 閉められない状況だった、か。 「………ッ!」 がんッ!栞は屋根を蹴り飛ばし、ひときわ高い屋根へ飛び移った。そこは教会のシンボル、十字架が打ち立てられている屋根だ。 その十字架を手すり代わりにしながら栞は立ち、ぐるりと見渡した。風がローブをばさりと揺らす。高いそこからは遠くまでよく見えた。 「…神よ、貴方は随分と高いところが好きなのね。」 手をかけた十字架を、ぐっと握りしめた。 「だったら、自分に惚れた馬鹿の一人ぐらい見つけてみせなさいよ。」 その時だった。 すすけた石畳を、拙い足取りで踏む翠を見つけたのは。 「…!」 考えるより速く跳んでいた。正確に翠の足元へ着地する。 数瞬遅れて翠が栞を見、大きく目を瞠った。そして普段より数倍忌々しい、えらく弱々しい笑顔を浮かべて見せた。 「栞…さん。」 そこで翠は崩れ落ちた。崩れ落ちると派手な怪我がよく見えた。 身体が地面に落ちるより速く、栞は翆の胸倉を掴んでいた。痙攣のように震える手で。 「…ッこの、糞神父!弱いくせに!一体どこをうろついて…!」 がくがくと揺さぶる栞の腕を、後ろからあわてて押さえる手があった。 「落ちつけ。出血が、多い。揺すると駄目だ…。」 邪魔だと振り払いたくて栞は振りむいた。そこにいたのは想像以上に奇妙な男だった。 透明に少しばかり色をつけたような、ひどく視認しづらい男がそこにいた。
https://w.atwiki.jp/jojo_haruhi/pages/37.html
『汐華初流乃の憂鬱』 第7話 「引力」-前編- 語り部 汐華初流乃 あの二人の日本人… 彼らを探し、当てもなく待ちの中を僕は歩き回っていた。 見つけたところで僕は彼らをどうしようというんだろう…。 ルカに突き出すのか…それとも…? 自分でも何がしたいのかよく分からない。 とにかく僕はあの二人を探し、広場や港の辺りを探し回った。 それから、ケーブルカーの駅辺りを越え、商店が並ぶ大通りにたどり着いた時だ。 ブティックの中に入っていく二人の人物を見かけた。 もみ上げが長い、ちょっと頼りなさそうな少年 綺麗な黒髪と見間違えようのない黄色カチューシャの美少女 …あの二人? こんなところにいたのかッ! まずいぞ、この辺りはルカたちの溜り場が近い。 あんな所をうろうろされたのではいずれ見つかるッ! 僕は通行人を押しのけ、その店に向かって走り出した。 が、ふっと視界がふさがり衝撃が走る。 「うわっ!?」 しまった、あわてすぎて、丁度手前の店から出てきた人にぶつかってしまったらしい。 お互いに地面にしりもちをついてしまった。 「うあ・・すみません」 僕がぶつかってしまったのは‥黒人の神父…? この辺りに教会なんてあったかな? 「いや…君のほうこそ大丈夫だったかい?」 僕の足元に銀製のロザリオが落ちていた。 おそらく彼の物がぶつかった拍子に落ちたんだろう。 …しまった、どさくさにまぎれて頂いておけばよかった そこそこ値打ちが付きそうだし、アレを献上すればルカの機嫌も少しは落ち着いただろうか…。 …ここまで考えて、とりあえず盗みで何とかしようという発想があっさり出てくる自分が嫌になる。 とことんゲスな奴になってる。 僕は申し訳ない気持ちでそのロザリオを拾って彼に差し出した。 「これは大事な物だ、君にあげるわけには行かないな」 ロザリオを受け取った彼に、突然見透かされたようにいわれ、僕はドキリとした。 「…いえ、そんな、それはあなたの物ですし…」 その時の僕は動揺していた…何で分かったんだろうと。 でも、そんなことは大したことじゃない位、この黒人の神父は奇妙な人だったんだ。 動揺する僕に神父は平然と、そして奇妙な言動を続けて言った。 「君は…ふむ、あの時存在だけは感じていた『4人目』か…こんな所にいるとは」 4人目…なんだって? 「君は引力を信じるか?人と人との間には引力があるということを この私に君がぶつかったことに意味があることを?」 「あの、話が見えないんですけど」 「君もわたしに引き寄せられたか…引き寄せられたのは私の方なのかもしれないな」 イタリア語でおk もしかして、神父といってもヤバい宗教の人か。 それも相当危険なタイプと見た。 さっさと切り上げてあの二人を追いかけるほうがいいかな。 「君にロザリオはあげられないが、代わりにそれをあげよう」 いえ、何もいりませんから失礼します。 「もともと君の父上、ディオ・ブランドーからもらったものだ 君が持っているのが良いだろう、私にはもう必要ないものだしね。」 だから別に特に何もいらな… … って…ディオ…ブランドー…!? ディオ・ブランドー 一度も会うことなくエジプトで死んだ僕の父の名前。 なんで、見ず知らずの道端でぶつかった危ない宗教の神父の口からその名前が出て来るんだ! 「何でその名前を知っているっ!?」 僕は神父に詰め寄った。 いや、詰め寄ろうとした。 だけどそれより先に僕は自分の右手の違和感に気がついた。 … … … なんだ? いつの間にか僕は右手に『何か』を握り締めていた。 恐る恐る手を広げ、その『何か』を確かめる。 それはトランプのスペードのような形をしていた。 石で出来ているのだろうか、ナイフのように刃がついている。 気をつけないと手を切りそうだ。 ナイフやカッターじゃないな…なんだろう。 「君が私にどういう印象を持ったかは知らないが、いつか私に会いたいと思ったら この『矢』に気持ちを念じて呼んでみてくれ…何年先だろうと構わない いいね…心に留めておいてくれるだけでいい」 「だから、それは一体どういう---ッ…!?」 …いない。 僕が再び視線を戻した時、黒人の神父の姿はどこにも見えなくなっていた。 「それと…もし君が何かで悩んでいるのならば、君が正しいと思っている事をするんだ…。 そうすればいずれ運命の方から歩いて来るだろう。 君のエネルギーは正しい方向へと使うのだ」 姿の見えない神父の声だけが最後に聞こえた気がした。 矢、父さんの名前、引力。 僕の頭は混乱しきっていた。 考えを整理して冷やしたほうがいいか? そう思ったが、それはかなわなかった。 なぜなら僕の頭は混乱しっぱなしのまま、体が激しい衝撃とともに吹っ飛ばされたんだ。 「だりゃあーーーーーーーッ!!」 「ひでぶぁ!?」 再び地面に僕は倒れこんだ。 さっきのような、うっかり人にぶつかったという感じではない。 渾身の力を込めて吹っ飛ばされたんだ。 直撃を受けた背中が痛い。 「な、何なんだよ、今度は」 地面に体を打った、泣きたくなる位痛い。 そうして僕が痛みに耐えながら振り向くとそこには 「ふふん、や~っと見つけたわよっ」 ゴゴゴゴゴゴゴ 怒りに燃えるカチューシャの女の子が仁王立ちで立っていた。 まずいな…あの二人と再会できたのはいいんだが、少しばかり違う意味でやばい事になりそうだ。 ←to be continued… 後編に続く
https://w.atwiki.jp/jojost/pages/87.html
『汐華初流乃の憂鬱』 第7話 「引力」-前編- 語り部 汐華初流乃 あの二人の日本人… 彼らを探し、当てもなく待ちの中を僕は歩き回っていた。 見つけたところで僕は彼らをどうしようというんだろう…。 ルカに突き出すのか…それとも…? 自分でも何がしたいのかよく分からない。 とにかく僕はあの二人を探し、広場や港の辺りを探し回った。 それから、ケーブルカーの駅辺りを越え、商店が並ぶ大通りにたどり着いた時だ。 ブティックの中に入っていく二人の人物を見かけた。 もみ上げが長い、ちょっと頼りなさそうな少年 綺麗な黒髪と見間違えようのない黄色カチューシャの美少女 …あの二人? こんなところにいたのかッ! まずいぞ、この辺りはルカたちの溜り場が近い。 あんな所をうろうろされたのではいずれ見つかるッ! 僕は通行人を押しのけ、その店に向かって走り出した。 が、ふっと視界がふさがり衝撃が走る。 「うわっ!?」 しまった、あわてすぎて、丁度手前の店から出てきた人にぶつかってしまったらしい。 お互いに地面にしりもちをついてしまった。 「うあ・・すみません」 僕がぶつかってしまったのは‥黒人の神父…? この辺りに教会なんてあったかな? 「いや…君のほうこそ大丈夫だったかい?」 僕の足元に銀製のロザリオが落ちていた。 おそらく彼の物がぶつかった拍子に落ちたんだろう。 …しまった、どさくさにまぎれて頂いておけばよかった そこそこ値打ちが付きそうだし、アレを献上すればルカの機嫌も少しは落ち着いただろうか…。 …ここまで考えて、とりあえず盗みで何とかしようという発想があっさり出てくる自分が嫌になる。 とことんゲスな奴になってる。 僕は申し訳ない気持ちでそのロザリオを拾って彼に差し出した。 「これは大事な物だ、君にあげるわけには行かないな」 ロザリオを受け取った彼に、突然見透かされたようにいわれ、僕はドキリとした。 「…いえ、そんな、それはあなたの物ですし…」 その時の僕は動揺していた…何で分かったんだろうと。 でも、そんなことは大したことじゃない位、この黒人の神父は奇妙な人だったんだ。 動揺する僕に神父は平然と、そして奇妙な言動を続けて言った。 「君は…ふむ、あの時存在だけは感じていた『4人目』か…こんな所にいるとは」 4人目…なんだって? 「君は引力を信じるか?人と人との間には引力があるということを この私に君がぶつかったことに意味があることを?」 「あの、話が見えないんですけど」 「君もわたしに引き寄せられたか…引き寄せられたのは私の方なのかもしれないな」 イタリア語でおk もしかして、神父といってもヤバい宗教の人か。 それも相当危険なタイプと見た。 さっさと切り上げてあの二人を追いかけるほうがいいかな。 「君にロザリオはあげられないが、代わりにそれをあげよう」 いえ、何もいりませんから失礼します。 「もともと君の父上、ディオ・ブランドーからもらったものだ 君が持っているのが良いだろう、私にはもう必要ないものだしね。」 だから別に特に何もいらな… … って…ディオ…ブランドー…!? ディオ・ブランドー 一度も会うことなくエジプトで死んだ僕の父の名前。 なんで、見ず知らずの道端でぶつかった危ない宗教の神父の口からその名前が出て来るんだ! 「何でその名前を知っているっ!?」 僕は神父に詰め寄った。 いや、詰め寄ろうとした。 だけどそれより先に僕は自分の右手の違和感に気がついた。 … … … なんだ? いつの間にか僕は右手に『何か』を握り締めていた。 恐る恐る手を広げ、その『何か』を確かめる。 それはトランプのスペードのような形をしていた。 石で出来ているのだろうか、ナイフのように刃がついている。 気をつけないと手を切りそうだ。 ナイフやカッターじゃないな…なんだろう。 「君が私にどういう印象を持ったかは知らないが、いつか私に会いたいと思ったら この『矢』に気持ちを念じて呼んでみてくれ…何年先だろうと構わない いいね…心に留めておいてくれるだけでいい」 「だから、それは一体どういう---ッ…!?」 …いない。 僕が再び視線を戻した時、黒人の神父の姿はどこにも見えなくなっていた。 「それと…もし君が何かで悩んでいるのならば、君が正しいと思っている事をするんだ…。 そうすればいずれ運命の方から歩いて来るだろう。 君のエネルギーは正しい方向へと使うのだ」 姿の見えない神父の声だけが最後に聞こえた気がした。 矢、父さんの名前、引力。 僕の頭は混乱しきっていた。 考えを整理して冷やしたほうがいいか? そう思ったが、それはかなわなかった。 なぜなら僕の頭は混乱しっぱなしのまま、体が激しい衝撃とともに吹っ飛ばされたんだ。 「だりゃあーーーーーーーッ!!」 「ひでぶぁ!?」 再び地面に僕は倒れこんだ。 さっきのような、うっかり人にぶつかったという感じではない。 渾身の力を込めて吹っ飛ばされたんだ。 直撃を受けた背中が痛い。 「な、何なんだよ、今度は」 地面に体を打った、泣きたくなる位痛い。 そうして僕が痛みに耐えながら振り向くとそこには 「ふふん、や~っと見つけたわよっ」 ゴゴゴゴゴゴゴ 怒りに燃えるカチューシャの女の子が仁王立ちで立っていた。 まずいな…あの二人と再会できたのはいいんだが、少しばかり違う意味でやばい事になりそうだ。 ←to be continued… 後編に続く
https://w.atwiki.jp/rocnove/pages/122.html
「待ッテイタゾ…ロックマン・ミラージュ」 仮面の男が発したその声は、無機質な合成音声の様であった。 男の身長や体格は、ちょうどクロウと同じくらいである。 「…何者だ」 問いかけるクロウの声は、先程とは全く違い、警戒心を隠していなかった。 しかし、対して仮面の男は微動だにせず、クロウを見据えている。 その仮面に開けられた二つの穴からは、緑色の瞳が見えた。 状況が変化したのは次の瞬間だった。 急に男が、身を包むマントの中から右腕を振り上げたのだ。 その手には、銀色の剣が握られていた。 「!!!」 「うわっ!!」 クロウは、とっさに自分の後ろにいたジャックを突き飛ばした。 同時に、自分の腰にある鞘から刀を引き抜き、男の剣を受け止める。 しばらく、辺りに甲高い音が響いた。 その音の影響か、近くの家の屋根から積もった雪がドサリと落ちてきた。 ジャックは急いで起き上がり、クロウと仮面の男から離れた。 「急いで警察を!」 「…やめておけ。逃げられるだけだ」 相手を見据えたまま、クロウは走り出そうとするジャックに言った。 「わ…わかりました…」 彼らのやりとりを無視し、仮面の男は一旦クロウから離れると、また剣を構え直した。 そして、一気に間合いを詰め、クロウの頭に向かって突きを繰り出した。 とっさに頭を横に逸らせたクロウだったが、ヘルメットに剣の切っ先がかすった。 それだけで、剣はヘルメットを易々と切り裂き、バイザーには大きくヒビが入る。 直後、クロウは即座に屈んで足払いをかけた。 だが、仮面の男はそれを真上に跳ぶ事でかわした。 そして空中で剣を構え、一気にクロウに向かい斬り下げた。 「くっ…!」 クロウは、急いで体勢を立て直すと、自分の刀で相手の剣を受け止めた。 仮面の男は、さっきと同じ様に再び後方へと跳んだ。 そして、先程と同じ動きで剣を構え直す。 それを見たクロウもまた、警戒しながらゆっくりと刀を構えた。 構えると同時に、両者は走り出した。 最初に仮面の男が剣を横に薙ぎ払い、クロウは屈んでそれを避ける。 直後に振られたクロウの刀を男は上空に跳んで避け、さっきと同じ様に剣を振り下ろした。 クロウはそれを察知すると、即座に側転で刃を避ける。 しかし避け切れず、クロウの首に巻かれた黒いスカーフの一部が切れて、宙を舞った。 クロウはすぐに体勢を立て直し、剣を振り下ろした直後の男に突きを繰り出した。 その突きは、男をついに捉えた…筈だった。 だが男はそれまでとは比べ物にならない速さでクロウの真横に移動していた。 次の瞬間、上方向への強い蹴りがクロウの刀に当たり、刀は遥か上空に投げ出された。 「何っ!!」 そして仮面の男は、クロウに向かって剣を振り下ろした。 クロウは、とっさにその剣を両手で受け止めた。 「くっ…!!」 両手で剣を受け止めたクロウだったが、相手は更に力を強めてきた。 仮面の男は、このまま押し切ってクロウを斬るつもりだろう。 その時、男はその仮面の奥から、再び声を発した。 「コノ程度カ?」 「…」 声を発した仮面の男を、クロウは無言で睨みつけた。 その時、さっき上空へ投げ出された刀が仮面の男の背後に降って来た。 それは刀身を下にして地面へ垂直に落ち、その刃は雪に積もった地面に突き刺さった。 男は一瞬それに気を取られ、視線を逸らせる。 クロウはそれを見逃さなかった。 次の瞬間、彼は瞬時に腰を屈め、男に足払いを繰り出した。 その攻撃は寸分の狂い無く男の足に当たり、男は体勢を崩す。 その隙に、クロウはその場から跳んで自分の刀を拾い、構えた。 仮面の男は立ち上がり、刀を構えたクロウを見ると、再び剣を構える。 両者はその体勢のまま、しばらく動かなかった。 辺りに、張り詰めた静寂が訪れた。 雪は昨日の様に吹雪になる事も無く、ゆっくりと降っていた。 一粒の雪がクロウの刀に当たり、そしてまた地面に落ちた。 この時間が永遠に続くかと思われた時、唐突に静寂は終わりを告げた。 民家の屋根から積もった雪が、ドサリと地面に落ちたのだ。 それを合図に、両者は走り出し、同時に斬り合った。 再び両者が動きを止めて数秒後、仮面の男は振り向いた。 彼のアーマーの胸から左の脇腹部分にかけて、損傷があった。 斜めに入った切れ目。だがそれは比較的浅く、内部には達していない様だった。 「…」 男は何も言わず、そばにある民家の屋根まで跳んだ。 屋根に着地すると、仮面の男はその姿を消した。 「くっ…」 男が姿を消した途端、クロウは地面に膝をついた。 「だ…大丈夫ですか!?」 クロウの、肩の辺りのアーマーが斬られており、そこから血が流れていた。 クロウは地面に刀を突き立て、それを支えに立ち上がった。 「と…とりあえずここからなら僕の家が近いです! そこで手当てしましょう!!」 「すまないな…」 ジャックはクロウの肩を支えて歩き出そうとした。 だがその時、ジャックは目の前の地面に何か光るものを見つけた。 「ん…?」 そこはちょうど、クロウと仮面の男が戦っていた場所だった。 「これは…」 それは鎖のついた、金色の十字架の形をした装飾品の様だった。 その時、ジャックは背中からゾクッとする様な視線を感じた。 急いで後ろを振り向いたジャックだったが、そこには誰もいなかった。 ふと後方左側の民家の屋根を見ると、大きな鷲がそこにいた。 昨日、クロウを中央広場で見ていた、あの鷲だった。 鷲の眼は、ピタリと二人を見据えていた。 ジャックはその視線に怯えながらも、クロウを抱え、急いでその場を後にした。 「ジャック!!一体何があった!?」 ジャックとクロウは、無事にジャックの家に辿り着いた。 クロウの傷を見て、ケインはジャックを怒鳴りつけた。 「ゴメン親父、手当ての準備してくれ!説明は後でするから!!」 ジャックもケインに負けない勢いで怒鳴った。 「あ、ああ…」 ジャックの勢いで、流石にケインも怒鳴るのを止め、手当ての道具を取りに行った。 「くそ…また世話になってしまったな」 ジャその後、クロウは肩に負った傷の手当てを受けた。 ようやく傷の痛みが治まってきた頃、ジャックがクロウに何かを差し出した。 「あの…クロウさん、これがさっきの場所に落ちていたんですけど…」 それは、先程クロウと仮面の男が戦っていた場所で見つけた装飾品だった。 鎖のついた金色の十字架である。 よく見れば、その十字架の表面には幾何学模様が彫られていた。 「これ…多分この町の教会の物だと思うんですよね…」 「…何故分かる?」 クロウの問いに、ジャックは装飾品を見つめながら答えた。 「これ、この町の教会のマークにそっくりなんですよ…」 その装飾品を受け取り、クロウも見つめた。 数秒して、言った。 「手がかりはこれだけ…行くしかないか」 クロウの呟きに、ジャックは勢いよく言った。 「じゃ、案内させて下さい!」 それに対し、クロウは冷静に言った。 「いや、教会の場所は既に知っている。案内は必要ない」 クロウがそう言うと、ジャックは声を元の調子に戻し、言った。 「でも、あの教会の神父様とは面識があるんです。 僕がいれば色々役立つと思いますよ」 「そうか…なら頼む」 ジャックの申し出を、クロウは了承した。 クロウはジャックと翌日待ち合わせる時間を決め、宿へ帰った。 当然帰り道はクロウも警戒したが、今度は何も起こらなかった。 翌日の朝。 「おはようございます。昨日の傷はまだ痛みますか?」 町の中央広場で、ジャックはそう言ってクロウに頭を下げた。 昨日予定していた合流場所は、この広場だった。 「…いや、それほどでもない。教会は町の東にあったな…」 「ええ。この通りの先です」 と、ジャックは東に向かう通りを指差した。 しかし、クロウは遺跡に行く為に教会の近くを通ったので、既に道筋は知っていた。 「道はもう知ってる。さっさと行こう」 「ええ、分かりました」 二人は東に向かう大通りを歩き出した。 ックが持ってきた椅子に座り、クロウはそう呟いた。 先日行った時は早朝だった為、教会は静寂に包まれていたが、今回は違った。 教会の入り口の前にある庭には、数人の子供達が駆け回り、遊んでいた。 「彼らは教会の子供か?」 「違いますよ。この教会の周辺に住んでいる子供達です。 でも、この教会には僕と同じ歳の女の子が一人住んでいます。ほら、あそこに」 そう言うなり、ジャックは教会の庭の片隅を掃除する少女へ歩み寄っていった。 その少女はジャックと同じ位の年齢で、背もちょうど同じ位だった。 長い金髪を後ろで纏めており、ピンク色のセーターと赤色のスカートを着用していた。 ジャックが少女と話そうとしているのを眺めながら、クロウも歩いて行った。 クロウの耳に、二人の会話が聞こえてきた。 「やぁ、久しぶり」 「あら、ジャックじゃない。何か用?」 「え~と…今日は神父様に用があって来たんだ。神父様、今いる?」 「ええ。いるわよ」 そう言いながら、少女は教会の扉を開けた。 それを見ながら、ジャックは言いにくそうに少女に言った。 「え~と…今日はこの人を神父様に紹介する為に来たんだ」 と、ジャックはクロウの方へと顔を向ける。 少女は、ジャックからクロウに視線を移した。 しかし、クロウのアーマー姿を見た途端、少女の視線は警戒の色を帯び始めた。 「…どちらさま?」 ジャックはその問いに、少々焦りながら答えた。 どうやらジャックは緊張している様だった。 「ええと…この人は一昨日この町に来た、ディグアウターのクロウ・エリュシオンさん」 紹介されたので、クロウは一応挨拶しておくことにした。 「…どうも」 続いて、ジャックはクロウに少女を紹介し始めた。 「クロウさん、彼女はミラ・クラウス。 この教会に住む神父様の娘です」 「…どうも」 そう言いいながらお辞儀をすると、彼女は教会の中へ入って行った。 ジャックはフゥ、と息を吐くと、クロウに言った。 「じゃ、僕達も行きましょう」 二人は教会の中に入っていった。 教会の内部は、外側と同じ様に白い大理石の壁が広がっていた。 クロウたちが入って来た入り口の向かい側には、大きな祭壇があった。 また、入り口から祭壇までの間に、二列に長椅子が置かれている。 祭壇に一番近い左側の長椅子に、一人の男が座っていた。 ミラはその男に駆け寄ると、何事か耳打ちしている。 それを聞き終えた男は、ゆっくりと立ち上がり、振り向いた。 その男は黒いラインの入った白いローブを纏い、髪は銀色で、短く切り揃えられていた。 クロウより頭一つ分くらい高い身長で、30~40歳くらいに見え、温厚で落ち着きのある雰囲気を持っている。 男は、クロウに視線を向け、言った。 「どうも。私はジョエル・クラウスと申します。 この教会に興味があるとか?」 「ああ。2、3質問があるんだが、いいか?」 「ええ。結構です。立ち話も難ですし、座って話しませんか?」 「これに見覚えはあるか?」 クロウは、早速ジャックから渡された金色の十字架の形をした装飾品を取り出した。 神父はそれを受け取り、じっくり見つめて、言った。 「これは…この町の式典などでこの教会が一般の人に無料で配布しているものですね。 これがどうかしましたか?」 「昨夜、俺は一人の男に襲われた。どうやらその男がこれを持っていたらしい。」 クロウの話にも、神父の反応は驚きの声を上げた。 「おや、それは恐ろしい。犯人がすぐに捕まる事を祈らなければなりませんね」 だが、すぐに神父の表情は暗くなった。 「ですが…先程も申し上げた通り、これは一般の方に無料で配布しているものです。 残念ながら、私には犯人の見当はつきかねますね…」 「で、あなたを襲ったと言うのはどんな男でした?」 神父はクロウの話が気になったのか、質問を投げかけた。 神父の様子から、この件とは関係なさそうだと思ったクロウだが、一応話す事にした。 「全身に白いアーマーを着用し、その上から白いマントを羽織っていた。 そして、顔には銀色の仮面を被っていた」 それを聞いて、ほんの一瞬だけ、神父の顔に驚愕の色が浮かんだ。 クロウは前方の祭壇を見ながら話していたが、視界の隅でその神父の表情を見逃さなかった。 しばらくして神父は、静かに言った。 「ふむ…やはり残念ながら、その様な格好の人物に心当たりはありませんね。 大体、そんな派手な格好の男がいたら、嫌でも覚えているでしょう」 「…ま、それはそうだな」 「……」 神父と話すクロウを、ミラは遠くから見つめていた。 この時、クロウとジョエルは祭壇の目の前の長椅子で話していた。 しかし、ジャックとミラは二人に言われ、入り口近くの長椅子に来たのだった。 ジャックは、どう彼女に話せばいいのか判断に迷った。 「え~と…クロウさんは悪い人じゃないよ?」 「…あんな人と、どこで知り合ったの?」 クロウの持つ冷めた雰囲気に、ミラは不信感を募らせている様だった。 「ねぇ、どうしたの?何かイライラしてるみたいだけど…」 ミラは、溜め息をつくと、視線を落とした。 「ねぇ、ジャック。私、何だか最近嫌な予感がするの」 「…どういう事?」 不意にミラの語調が変わったので、ジャックは少し驚いた。 「この前、教会に変な人達が来たみたいなの」 「変な人達?」 「うん。私は寝室にいたから姿は見えなかったけど、父さんと何か言い争ってた」 「…いつ来たの?」 「一週間くらい前。深夜に突然教会にやってきたの。 その人と話した後、父さん、とても暗い顔してた」 ミラの表情が酷く不安そうなので、ジャックは心配になってきた。 「一体何なんだろう…その人達」 気がつくと、クロウとジョエルは両者とも立ち上がっていた。 クロウは、ジャックの方を向くと、言った。 「そろそろ行くぞ。ジャック」 町の中央広場まで来て、クロウは呟いた。 「あの神父…何か隠してるな」 そのクロウに、ジャックは言った。 「それ、多分僕が聞いた話じゃないですかね…?」 「…どういう事だ?」 「ミラが色々話してくれたんです」 ジャックの話に興味を示し、クロウが先を続けるよう促そうとした時だった。 「…!!」 クロウは一瞬殺気の様なものを感じ、東の大通りの方を振り向いた。 「どうしたんですか!?」 クロウの様子にただならぬ事態を察知し、ジャックも辺りを窺う。 時刻は午後1時過ぎで、ここは町の中央広場である。 走り回る子供達や、ベンチで話し込む主婦達が見えるだけだ。 数日前に彼を、そして昨日ジャックを睨んでいたあの鷲もいない。 「いや…何でもない」 「そう、ですか…これからどうします?」 ジャックの問いに、クロウは少し考えた後、言った。 「ジャック。今日はお前には予定などは無いのか?」 「ええ。学校は今、冬休みですし。 親父は今の時間仕事に行っちゃってますし」 ジャックの答えを聞いた後、クロウは言った。 「とりあえず…お前が得たという情報を教えてくれ」 ガチャリと、扉を開ける音がした。 「…忘れ物ですか?」 そう言いながら、神父は振り向いた。 まだ、クロウ達が去ってから5分ほどしか経っていない。 だが、現在この教会には神父しかいなかった。 クロウとジャックが去った直後に、ミラに夕食の食材を買いに行かせたからだ。 扉の前に立っていたのは、クロウとジャックではなかった。 そこには、黒いスーツの男が立っていた。 四角い銀色の縁の眼鏡を掛け、頬の痩せこけた青白い肌の男だった。 年齢は20代後半といった感じで、長い黒髪を後ろで縛っている。 「お客でも来ていましたか?」 口元に笑みを浮かべながら、その男は言った。 「どうも。神父様」 神父は、冷たい視線で男を見据えた。 「前に言った筈ですよ。また来る、とね」 そう言って、男は口元に笑みを浮かべた。 相手を睨みつけながら、神父は言った。 「あなた方とは取引などしない。この私の答えは変わりません。 以前もそう言った筈ですよ」 「こちらとしては、それでは困りますね」 「…あなた方との取引に応じれば、何千、何万もの人々が犠牲になります」 神父の言葉に、男はあからさまな溜め息をついた。 「やれやれ…一等司政官ともあろう方が随分と腑抜けた事を。 人間の命などどうだっていいではありませんか」 「私は既にヘブンの人間ではありません。 …私がヘブンの人間であったとしても、あなた方との取引には応じなかったでしょう」 「おやおや…」 神父の強情な態度に、男はますます笑みを深めた。 「この町の人間が死んでも、あなたはその態度を貫き通せますか?」 そんな男に対し、神父は静かに言った。 「私が…そんな脅しに屈する様な人間に見えますか?」 神父の静かな言葉に、男はもう一度溜め息をついた。 「いいでしょう。私の任務もこれだけではない。 今回は、警告として受け取っておいて下さい」 男は、背を向け、歩き出した。 だが、扉の手前で足を止め、振り返り、言った。 「ですがお忘れなく。私の背後にいるのは…」 その話が終わらないうちに、神父は男の言葉を引き継いだ。 「『古き神々』…でしょう。この前も何度も聞きましたよ。あなたの口から」 「ふっ…分かっているじゃないですか」 そう言うと、男は扉を開け、出て行った。 それを見届けると、神父は力が抜けた様に近くの長椅子に座り込んだ。 「………」 教会の側面にある窓が、わずかに開いていた。 その窓の下で、ミラは口元を押さえて座っていた。 その眼からは一筋の涙が流れていた。 翌日の早朝。 クロウが起きた時、窓の外は激しい吹雪が吹いていた。 「今日は吹雪か」 朝食を終えると、二本の刀の手入れをしながら、クロウは考えた。 「(仮面の男…それに謎の集団か…。例の遺跡にあるリーバードの瞳も気になるな。 だが…ここに来てそれらの正体を掴める様な手がかりは無くなったな)」 室内の照明によって、刀の刀身は鈍い輝きを放っていた。 その輝きを見ながら、クロウは一昨日闘った仮面の男の技を思い出した。 「(あの戦い方…まさか…)」 「おい、いつまで寝てやがる。もう朝だぞ」 「んん……」 自室で、ジャックは目を覚ました。 だが、しばらくするとまた彼の意識は睡魔にさらわれてしまった。 「おい!いいかげんにしやがれ!!」 ケインに毛布を持って行かれ、しぶしぶジャックは目を覚ました。 彼は枕元にある時計を見た。 既に時刻は彼がいつも起きる時間を大分過ぎている。 気がつけば、既にケインは居間へと去った後だった。 居間へ向かったジャックは、テーブルに置いてある冷え切ったトーストを食べ始めた。 「全く。こんな猛吹雪はここ数年じゃ珍しいな」 ケインの声を聞き、ジャックは視線を窓の外へ向けた。 窓の外は、大量の雪が舞っていた。 その時、室内に玄関のドアを叩く音が聞こえた。 「ん?こんな天気の日に客か?」 「あ、俺が出るよ」 そう言うとジャックは食べかけのトーストを皿の上に置き、玄関のドアを開けた。 そこには、傘を差し、マフラーを首に巻いたミラが立っていた。 その顔は、いつに無く真剣だった。 「ジャック。話があるの」 室内にドアのノックの音が響いた。 まだ刀の手入れをしていたクロウは、その音に気づき、時計を見た。 いつの間にか昼近くになっている。 窓の外の吹雪は、一向に収まる気配は無さそうだった。 彼は、ドアに向かって言った。 「…誰だ?」 「エリュシオン様、お電話がかかってきております」 その声は、宿の事務員だった。 「分かった。今行く」
https://w.atwiki.jp/blazer_novel/pages/36.html
「待ッテイタゾ…ロックマン・ミラージュ」 仮面の男が発したその声は、無機質な合成音声だった。 男の身長や体格は、丁度クロウと同じくらいである。 「…何者だ」 問いかけるクロウの声は、先程とは全く違い、警戒心を隠していなかった。 しかし、対して仮面の男は微動だにせず、クロウを見据えている。 その仮面に開けられた二つの穴からは、緑色の瞳が見えた。 状況が変化したのは次の瞬間だった。 急に男が、身を包むマントの中から右腕を振り上げたのだ。 その手には、銀色の剣が握られていた。 「!!!」 「うわっ!!」 クロウは、とっさに自分の後ろにいたジャックを突き飛ばした。 同時に、自分の腰にある鞘から刀を引き抜き、男の剣を受け止める。 しばらく、辺りに甲高い音が響いた。 その音の影響か、近くの家の屋根から積もった雪がドサリと落ちてきた。 ジャックは急いで起き上がり、クロウと仮面の男から離れた。 「急いで警察を…!」 「やめておけ。逃げられるだけだ」 相手を見据えたまま、クロウは走り出そうとするジャックに言った。 「わ…わかりました…」 彼らのやりとりを無視し、仮面の男は一旦クロウから離れると、また剣を構え直した。 そして、一気に間合いを詰め、クロウの頭に向かって突きを繰り出した。 とっさに頭を横に逸らせたクロウだったが、ヘルメットに剣の切っ先がかすった。 それだけで、剣はヘルメットを易々と切り裂き、バイザーには大きくヒビが入る。 直後、クロウは即座に屈んで足払いをかけた。 だが、仮面の男はそれを真上に跳ぶ事でかわした。 そして空中で剣を構え、一気にクロウに向かい斬り下げた。 「くっ…!」 クロウは、急いで体勢を立て直すと、自分の刀で相手の剣を受け止めた。 仮面の男は、さっきと同じ様に再び後方へと跳んだ。 そして、先程と同じ動きで剣を構え直す。 それを見たクロウもまた、警戒しながらゆっくりと刀を構えた。 構えると同時に、両者は走り出した。 最初に仮面の男が剣を横に薙ぎ払い、クロウは屈んでそれを避ける。 直後に振られたクロウの刀を男は上空に跳んで避け、さっきと同じ様に剣を振り下ろした。 クロウはそれを察知すると、即座に側転で刃を避ける。 しかし避け切れず、クロウの首に巻かれた黒いスカーフの一部が切れて、宙を舞った。 クロウはすぐに体勢を立て直し、剣を振り下ろした直後の男に突きを繰り出した。 その突きは、男をついに捉えた…筈だった。 だが男はそれまでとは比べ物にならない速さでクロウの真横に移動していた。 次の瞬間、上方向への強い蹴りがクロウの刀に当たり、刀は遥か上空に投げ出された。 「何っ!?」 そして仮面の男は、クロウに向かって剣を振り下ろした。 クロウは、とっさにその剣を両手で受け止めた。 「くっ…!!」 両手で剣を受け止めたクロウだったが、相手は更に力を強めてきた。 仮面の男は、このまま押し切ってクロウを斬るつもりだろう。 その時、男はその仮面の奥から、再び声を発した。 「コノ程度カ?」 「…」 声を発した仮面の男を、クロウは無言で睨みつける。 その時、さっき上空へ投げ出された刀が仮面の男の背後に降って来た。 それは刀身を下にして地面へ垂直に落ち、その刃は雪に積もった地面に突き刺さった。 男は一瞬それに気を取られ、視線を逸らせる。 クロウはそれを見逃さなかった。 次の瞬間、彼は瞬時に腰を屈め、男に足払いを繰り出した。 その攻撃は寸分の狂い無く男の足に当たり、男は体勢を崩す。 その隙に、クロウはその場から跳んで自分の刀を拾い、構えた。 仮面の男は立ち上がり、刀を構えたクロウを見ると、再び剣を構える。 両者はその体勢のまま、しばらく動かなかった。 辺りに、張り詰めた静寂が訪れた。 雪は昨日の様に吹雪になる事も無く、ゆっくりと降っていた。 一粒の雪がクロウの刀に当たり、そしてまた地面に落ちた。 この時間が永遠に続くかと思われた時、唐突に静寂は終わりを告げた。 民家の屋根から積もった雪が、ドサリと地面に落ちたのだ。 それを合図に、両者は走り出し、同時に斬り合った。 再び両者が動きを止めて数秒後、仮面の男は振り向いた。 彼のアーマーの胸から左の脇腹部分にかけて、損傷があった。 斜めに入った切れ目。だがそれは比較的浅く、内部には達していない様だった。 「…」 男は何も言わず、そばにある民家の屋根まで跳んだ。 屋根に着地すると、仮面の男はその姿を消した。 「くっ…」 男が姿を消した途端、クロウは地面に膝をついた。 「だ…大丈夫ですか!?」 クロウの、肩の辺りのアーマーが斬られており、そこから血が流れていた。 クロウは地面に刀を突き立て、それを支えに立ち上がった。 「と…とりあえずここからなら僕の家が近いです! そこで手当てしましょう!!」 「すまんな…」 ジャックはクロウの肩を支えて歩き出そうとした。 だがその時、ジャックは目の前の地面に何か光るものを見つけた。 「ん…?」 そこはちょうど、クロウと仮面の男が戦っていた場所だった。 「これは…」 それは鎖のついた、金色の十字架の形をした装飾品の様だった。 その時、ジャックは背中からゾクッとする様な視線を感じた。 急いで後ろを振り向いたジャックだったが、そこには誰もいなかった。 ふと後方左側の民家の屋根を見ると、大きな鷲がそこにいた。 昨日、クロウを中央広場で見ていた、あの鷲だった。 鷲の眼は、ピタリと二人を見据えていた。 ジャックはその視線に怯えながらも、クロウを抱え、急いでその場を後にした。 「ジャック!!一体何があった!?」 ジャックとクロウは、無事にジャックの家に辿り着いた。 クロウの傷を見て、ケインはジャックを怒鳴りつけた。 「ゴメン親父、手当ての準備してくれ!説明は後でするから!!」 ジャックもケインに負けない勢いで怒鳴った。 「あ、ああ…」 ジャックの勢いで、流石にケインも怒鳴るのを止め、手当ての道具を取りに行った。 「くそ…また世話になってしまったな」 ジャックが持ってきた椅子に座り、クロウはそう呟いた。 その後、クロウは肩に負った傷の手当てを受けた。 ようやく傷の痛みが治まってきた頃、ジャックがクロウに何かを差し出した。 「あの…クロウさん、これがさっきの場所に落ちていたんですけど…」 それは、先程クロウと仮面の男が戦っていた場所で見つけた装飾品だった。 鎖のついた金色の十字架である。 よく見れば、その十字架の表面には幾何学模様が彫られていた。 「これ…多分この町の教会の物だと思うんですよね…」 「…何故分かる?」 クロウの問いに、ジャックは装飾品を見つめながら答えた。 「これ、この町の教会のマークにそっくりなんですよ…」 その装飾品を受け取り、クロウも見つめた。 数秒して、言った。 「手がかりはこれだけ…行くしかないか」 クロウの呟きに、ジャックは勢いよく言った。 「じゃ、案内させて下さい!」 それに対し、クロウは冷静に言った。 「いや、教会の場所は既に知っている。案内は必要ない」 クロウがそう言うと、ジャックは声を元の調子に戻し、言った。 「でも、あの教会の神父様とは面識があるんです。 僕がいれば色々役立つと思いますよ」 「そうか…なら頼む」 ジャックの申し出を、クロウは了承した。 クロウはジャックと翌日待ち合わせる時間を決め、宿へ帰った。 当然帰り道はクロウも警戒したが、今度は何も起こらなかった。 翌日の朝。 「おはようございます。昨日の傷はまだ痛みますか?」 町の中央広場で、ジャックはそう言ってクロウに頭を下げた。 昨日予定していた合流場所は、この広場だった。 「…いや、それほどでもない。教会は町の東にあったな…」 「ええ。この通りの先です」 と、ジャックは東に向かう通りを指差した。 しかし、クロウは遺跡に行く為に教会の近くを通ったので、既に道筋は知っていた。 「道はもう知ってる。さっさと行こう」 「ええ、分かりました」 二人は東に向かう大通りを歩き出した。 先日行った時は早朝だった為、教会は静寂に包まれていたが、今回は違った。 教会の入り口の前にある庭には、数人の子供達が駆け回り、遊んでいた。 「彼らは教会の子供か?」 「違いますよ。この教会の周辺に住んでいる子供達です。 でも、この教会には僕と同じ歳の女の子が一人住んでいます。ほら、あそこに」 そう言うなり、ジャックは教会の庭の片隅を掃除する少女へ歩み寄っていった。 その少女はジャックと同じ位の年齢で、背もちょうど同じ位だった。 長い金髪を後ろで纏めており、ピンク色のセーターと赤色のスカートを着用していた。 ジャックが少女と話そうとしているのを眺めながら、クロウも歩いて行った。 クロウの耳に、二人の会話が聞こえてきた。 「やぁ、久しぶり」 「あら、ジャックじゃない。何か用?」 「え~と…今日は神父様に用があって来たんだ。神父様、今いる?」 「ええ。いるわよ」 そう言いながら、少女は教会の扉を開けた。 それを見ながら、ジャックは言いにくそうに少女に言った。 「え~と…今日はこの人を神父様に紹介する為に来たんだ」 と、ジャックはクロウの方へと顔を向ける。 少女は、ジャックからクロウに視線を移した。 しかし、クロウのアーマー姿を見た途端、少女の視線は警戒の色を帯び始めた。 「…どちらさま?」 ジャックはその問いに、少々焦りながら答えた。 どうやらジャックは緊張している様だった。 「ええと…この人は一昨日この町に来た、ディグアウターのクロウ・エリュシオンさん」 紹介されたので、クロウは一応挨拶しておくことにした。 「…どうも」 続いて、ジャックはクロウに少女を紹介し始めた。 「クロウさん、彼女はミラ・クラウス。 この教会に住む神父様の娘です」 「…どうも」 そう言いいながらお辞儀をすると、彼女は教会の中へ入って行った。 ジャックはフゥ、と息を吐くと、クロウに言った。 「じゃ、僕達も行きましょう」 二人は教会の中に入っていった。 教会の内部は、外側と同じ様に白い大理石の壁が広がっている。 クロウ達が入って来た入り口の向かい側には、大きな祭壇があった。 また、入り口から祭壇までの間に、二列に長椅子が置かれている。 祭壇に一番近い左側の長椅子に、一人の男が座っていた。 ミラはその男に駆け寄ると、何事か耳打ちしている。 それを聞き終えた男は、ゆっくりと立ち上がり、振り向いた。 その男は青みがかった黒のローブを纏い、髪は銀色で、短く切り揃えられていた。 クロウより頭一つ分くらい高い身長で、30~40歳くらいに見え、温厚で落ち着きのある雰囲気を持っている。 男は、クロウに視線を向け、言った。 「どうも。私はジョエル・クラウスと申します。 この教会に興味があるとか?」 「ああ。2、3質問があるんだが、いいか?」 「ええ。結構です。立ち話もなんですし、座って話しませんか?」 「これに見覚えはあるか?」 クロウは、早速ジャックから渡された金色の十字架の形をした装飾品を取り出した。 神父はそれを受け取り、じっくり見つめて、言った。 「これは…この町の式典などでこの教会が一般の人に無料で配布しているものですね。 これがどうかしましたか?」 「昨夜、俺は一人の男に襲われた。どうやらその男がこれを持っていたらしい。」 クロウの話にも、神父の反応は驚きの声を上げた。 「おや、それは恐ろしい。犯人がすぐに捕まる事を祈らなければなりませんね」 だが、すぐに神父の表情は暗くなった。 「ですが…先程も申し上げた通り、これは一般の方に無料で配布しているものです。 残念ながら、私には犯人の見当はつきかねますね…」 「で、あなたを襲ったと言うのはどんな男でした?」 神父はクロウの話が気になったのか、質問を投げかけた。 神父の様子から、この件とは関係なさそうだと思ったクロウだが、一応話す事にした。 「全身に白いアーマーを着用し、その上から白いマントを羽織っていた。 そして、顔には銀色の仮面を被っていた」 それを聞いて、ほんの一瞬だけ、神父の顔に驚愕の色が浮かんだ。 クロウは前方の祭壇を見ながら話していたが、視界の隅でその神父の表情を見逃さなかった。 しばらくして神父は、静かに言った。 「ふむ…やはり残念ながら、その様な格好の人物に心当たりはありませんね。 大体、そんな派手な格好の男がいたら、嫌でも覚えているでしょう」 「…ま、それはそうだな」 「……」 神父と話すクロウを、ミラは遠くから見つめている。 この時、クロウとジョエルは祭壇の目の前の長椅子で話していた。 しかし、ジャックとミラは二人に言われ、入り口近くの長椅子に来たのだった。 ジャックは、どう彼女に話せばいいのか判断に迷った。 「え~と…クロウさんは悪い人じゃないよ?」 「…あんな人と、どこで知り合ったの?」 クロウの持つ冷めた雰囲気に、ミラは不信感を募らせている様だった。 「ねぇ、どうしたの?何かイライラしてるみたいだけど…」 ミラは、溜め息をつくと、視線を落とした。 「ねぇ、ジャック。私、何だか最近嫌な予感がするの」 「…どういう事?」 不意にミラの語調が変わったので、ジャックは少し驚いた。 「この前、教会に変な人達が来たみたいなの」 「変な人達?」 「うん。私は寝室にいたから姿は見えなかったけど、父さんと何か言い争ってた」 「…いつ来たの?」 「一週間くらい前。深夜に突然教会にやってきたの。 その人と話した後、父さん、とても暗い顔してた」 ミラの表情が酷く不安そうなので、ジャックは心配になってきた。 「一体何なんだろう…その人達」 気がつくと、クロウとジョエルは両者とも立ち上がっていた。 クロウは、ジャックの方を向くと、言った。 「そろそろ行くぞ。ジャック」 町の中央広場まで来て、クロウは呟いた。 「あの神父…何か隠してるな」 そのクロウに、ジャックは言った。 「それ、多分僕が聞いた話じゃないですかね…?」 「…どういう事だ?」 「ミラが色々話してくれたんです」 ジャックの話に興味を示し、クロウが先を続けるよう促そうとした時だった。 「…!!」 クロウは一瞬殺気の様なものを感じ、東の大通りの方を振り向いた。 「どうしたんですか…?」 クロウの様子にただならぬ事態を察知し、ジャックも辺りを窺う。 時刻は午後1時過ぎで、ここは町の中央広場である。 走り回る子供達や、ベンチで話し込む主婦達が見えるだけだ。 数日前に彼を、そして昨日ジャックを睨んでいたあの鷲もいない。 「いや…何でもない」 「そう、ですか…これからどうします?」 ジャックの問いに、クロウは少し考えた後、言った。 「ジャック。今日はお前には予定などは無いのか?」 「ええ。学校は今冬休みですし。 親父は今の時間仕事に行っちゃってますし」 ジャックの答えを聞いた後、クロウは言った。 「とりあえず…お前が得たという情報を教えてくれ」 ガチャリと、扉を開ける音がした。 「…忘れ物ですか?」 そう言いながら、神父は振り向いた。 まだ、クロウ達が去ってから5分ほどしか経っていない。 だが、現在この教会には神父しかいなかった。 クロウとジャックが去った直後に、ミラに夕食の食材を買いに行かせたからだ。 扉の前に立っていたのは、クロウとジャックではなかった。 そこには、黒いスーツの男が立っていた。 四角い銀色の縁の眼鏡を掛け、頬の痩せこけた青白い肌の男だった。 年齢は20代後半といった感じで、長い黒髪を後ろで縛っている。 「お客でも来ていましたか?」 口元に笑みを浮かべながら、その男は言った。 「どうも。神父様」 神父は、冷たい視線で男を見据えた。 「前に言った筈ですよ。また来る、とね」 そう言って、男は口元に笑みを浮かべた。 相手を睨みつけながら、神父は言った。 「あなた方とは取引などしない。この私の答えは変わりません。 以前もそう言った筈ですよ」 「こちらとしては、それでは困りますね」 「…あなた方との取引に応じれば、この町の人々が犠牲になります」 神父の言葉に、男はあからさまな溜め息をついた。 「やれやれ…一等司政官ともあろう方が随分と腑抜けた事を。 人間の命などどうだっていいではありませんか」 「私は既にヘブンの人間ではありません。 …私がヘブンの人間であったとしても、あなた方との取引には応じなかったでしょう」 「おやおや…」 神父の強情な態度に、男はますます笑みを深めた。 「あなたの親しい人間が死んでも、あなたはその態度を貫き通せますか?」 そんな男に対し、神父は静かに言った。 「私が…そんな脅しに屈する様な人間に見えますか?」 神父の静かな言葉に、男はもう一度溜め息をついた。 「いいでしょう。私の任務もこれだけではない。 今回は、警告として受け取っておいて下さい」 男は、背を向け、歩き出した。 だが、扉の手前で足を止め、振り返り、言った。 「ですがお忘れなく。私の背後にいるのは…」 その話が終わらないうちに、神父は男の言葉を引き継いだ。 「『古き神々』…でしょう。この前も何度も聞きましたよ。あなたの口から」 「ふっ…分かっているじゃないですか」 そう言うと、男は扉を開け、出て行った。 それを見届けると、神父は力が抜けた様に近くの長椅子に座り込んだ。 「………」 教会の側面にある窓が、わずかに開いていた。 その窓の下で、ミラは口元を押さえて座っている。 その眼からは一筋の涙が流れていた。 翌日の早朝。 クロウが起きた時、窓の外は激しい吹雪が吹いていた。 「今日は吹雪か」 朝食を終えると、二本の刀の手入れをしながら、クロウは考えた。 「(仮面の男…それに謎の集団か…。例の遺跡にあるリーバードの瞳も気になるな。 だが…ここに来てそれらの正体を掴める様な手がかりは無くなったな)」 室内の照明によって、刀の刀身は鈍い輝きを放っていた。 その輝きを見ながら、クロウは一昨日闘った仮面の男の技を思い出した。 「(あの戦い方…まさか…)」 「おい、いつまで寝てやがる。もう朝だぞ」 「んん……」 自室で、ジャックは目を覚ました。 だが、しばらくするとまた彼の意識は睡魔にさらわれてしまった。 「おい!いいかげんにしやがれ!!」 ケインに毛布を持って行かれ、しぶしぶジャックは目を覚ました。 彼は枕元にある時計を見た。 既に時刻は彼がいつも起きる時間を大分過ぎている。 気がつけば、既にケインは居間へと去った後だった。 居間へ向かったジャックは、テーブルに置いてある冷え切ったトーストを食べ始めた。 「全く。こんな猛吹雪はここ数年じゃ珍しいな」 ケインの声を聞き、ジャックは視線を窓の外へ向けた。 窓の外は、大量の雪が舞っていた。 その時、室内に玄関のドアを叩く音が聞こえた。 「ん?こんな天気の日に客か?」 「あ、俺が出るよ」 そう言うとジャックはトーストを皿の上に置き、廊下に行って玄関のドアを開けた。 そこには、傘を差し、マフラーを首に巻いたミラが立っていた。 その顔は、いつに無く真剣だった。 「ジャック。話があるの」 室内にドアのノックの音が響いた。 まだ刀の手入れをしていたクロウは、その音に気づき、時計を見た。 いつの間にか昼近くになっている。 窓の外の吹雪は、一向に収まる気配は無さそうだった。 彼は、ドアに向かって言った。 「…誰だ?」 「エリュシオン様、お電話がかかってきております」 その声は、宿の事務員だった。 「分かった。今行く」 第3章へ 雪の町に集う者たち・目次
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1243.html
879 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/23(水) 21 21 13 ふっと息を吐いて周囲を見渡せば、目の前には誰より神父らしくない陽気な雰囲気を醸す男と、それに到底釣り合わない閑寂な、到ってシンプルな作りをしたオブジェの羅列。 ふと手元に目を落とせば、知らずと固めた握り拳が密かに震えていた。 やはり、だろう。 ――どうも自分には嘘を嘘として見過ごすだけの度量が備わっていないらしい。 武芸者は自身の一面に改めて直面した後、一種の諦観、そして微かな鬱憤を含め、呟いた。 「なんでやねん……」 「は? あの、聞こえないんスけど……」 「こんな神父がいるかーーッ! 正体を表しやがれ、曲者めっ!」 「ゲッ、バレた!」 背負った薙刀を引き寄せ、慣れた手つきで檜製の柄を回転させる。かくして薙刀術の肝となる刃は使い手である武芸者の脇へと挟まれ、持ち手となる筈の柄の部分が神父の鼻先へと向けられた。 ……何故武芸者は薙刀本来の用途を無視し、文字通り逆の構えを携えたのか? ――理由は簡単だ。これは身分を偽った不届き者に対する仕置きであり、あくまで反省させるのが目的なのであって、何も命に関わる荒事にまで発展させる気はさらさらなかったからだ。何より、これなら遠慮なく相手の頭を叩けるというもの。 ――だがそれ故に。 (……何ッ!?) 神父の頭に命中する筈だった棒を何処から出したのかプラスチック製のモップの柄で受け止められた衝撃は、百戦錬磨の武芸者の心を存分に震わせた。 互いに一歩も譲らぬ鍔迫り合い。筋骨隆々の怪力から織り成されるパワーは、目一杯にしなる檜とプラスチックの自己主張を見れば瞭然であろう。――しなる柔らかさなど微塵もない檜と、ここまで粘り強いものはあり得ないプラスチックが拮抗し合う現実は、それなりの実力を自負していた武芸者の誇りを打ちのめした。 しかし武芸者は知り得なかっただろうが、彼が受けた衝撃は、対峙する神父も同様に考えていたことだった。そう、知るべくもない。彼が槍の位を冠する人ならざる者であり、武芸者以上に己の槍の腕前に誇りを持っていたということに。 そうして激しい体力の奪い合いに飽きたのか、神父――ランサーはモップに絡みつく薙刀を力任せに払い、風船のような軽さを以って後方へと間合いを広げた。教壇の上に着地して開口一番、彼特有の軽さを言葉尻に含めながら、事の弁明を試みた。 「待てって! 話を聞けよ!」 「何を!」 「いいから聞けって! どうやらアンタは俺を盗人か何かと勘違いしているようだが、それは誤解だ。俺はここに居たシスターの縁者でね。やりたくもねえ神父をやっているのは、代理としてなんだよ。似つかわしくないのは百も承知だっての!」 「ああ~ん? 泥棒は皆そう言うんだよ!」 言ってから乱された構えを再度元の形へと戻す。 さて、目の前のこの男、武器ですらないモップで武芸者と張り合った兵だ。未だ勝負は決していないとはいえ、先程の一合限りで最早実力の優劣は大方示されたと言っても過言ではあるまい。 武芸者としても勝てぬ戦にむざむざ挑みにかかる蛮勇など持ち合わせていないし、槍兵にしても不本意な戦であろうが、2人にとってこの戦いで利する箇所は実の所ない。 しかし常に強者を求めてきた両雄だ。格別意味のない戦に意義を見出せるだけの酔狂さを互いに持ち合わせていた。その2人の卓前に、口角から涎が滴るくらいに極上の料理が差し出されたのだ。どうして手を付けられずにいられようか。 (腕8本でも勝てるかは怪しいな……。だが、為ればこそ『究極幻想』を試す絶好の機会か……?) 武芸への飽くなき探究心。数ある戦場を渡り歩いてきた兵の矜持。 神を祭る建造物の中で、語らぬイエス像のみをギャラリーとした、最高に罰当たりな戦いが始まろうとしたその時――――。 「そこまで」 斬り落とされようとしていた火蓋を、空気の読めない、無粋な第三者が華麗にキャッチした。 途端、両者の頭に沸いたのは怒りの感情。 部外者というものは、得てして風当たりが強い。内輪の事情を知らない、というのも大きな理由ではあろうが、それ以上に内輪の中にいる人間に認められていないのが最大の要因ではないか。そもそも輪を作る人間とは、趣味・思想を類する同好の徒を求めた結果出来上がったものであり、言い方を変えれば、ものの在り方を保存するために存在する堅牢な城壁なのである。 純正を保つための輪だというのに、何故に志を異にする不純物を受け入れる道理があろうか。 限りなく純粋だった空間に突如として侵入した異物に対し、両者は明確な敵意を以って、声が発せられた方向目掛け、視線を送った。 Ⅰ:子ギル Ⅱ:大ギル Ⅲ:冬の娘 投票結果 Ⅰ:1 Ⅱ:5 Ⅲ:2
https://w.atwiki.jp/dq_dictionary_2han/pages/5336.html
DQⅨ 【カラコタ橋】教会で冒険を終了させると表示されるメッセージ。 おそらくプレイヤーの多くにインパクトを残したセリフだろう。 酒と引き換えに職務を売ってしまったカラコタ橋教会の神父代理の男が発言する。 こんな男に聖なる職務の代理ができるのか、いつもの「電源をお切りください」はシステムメッセージではなく神父の言葉だったのか、などいろいろと突っ込みたくなる文章である。
https://w.atwiki.jp/niconicomugen/pages/1709.html
あらすじ オレの名前はドラゴン。いや正しくは呼び名か。 今はMUGEN学園高等部に属しているが、実は高等部に入る前の記憶がない。 だから本名が分からない。正直言えば歳も分からん。 ある日目を開いたら唐突に世界と自分がいた。 それからテリーおじさんに拾われて、少しの間国をいくつか巡った。 そして、ここ日本に来た時に、おじさんはオレを知人の神父に預けてまた旅立ってしまった。 そこの神父さんのお陰で、オレはこうして学園に通っている。(第一話より) 解説 記憶喪失の女子高生ドラゴンが身を焦がし心が狂う程の恋を求めて戦いまくる、 微妙~~~に原作準拠なストーリー動画。 腐女子ってるレンや親バカな神父やニコ厨の姉上がいたりするが、何、気にすることはない。 ドラゴンは記憶喪失してるという設定なので、記憶が戻るまでは弱体化しているということで、 power = 999 に固定されているという仕様。 他にもいろいろと調整を加えられている。 これで親父殿も安心だぜ。 登場人物 ドラゴン レン 藤堂香澄 天楼久那妓 青子先生 文ちゃん マトリ君 神父の親父殿 姉上(ニート) 斬真狼牙 カンフーマン 京堂扇奈 チンピラのボス お兄ちゃん スーラ クーラ ククル フリズ お母さん 女の子? 爺さん ポチョ イグニス リーゼロッテ 主 謎の侵入者 コメント 扇奈とスーラはどこへ? -- 名無しさん (2009-01-03 22 59 01) いろいろ気になる展開だな -- 名無しさん (2009-01-06 22 48 16) 意外と深そうなストーリーで面白かった。期待してます。 -- 名無しさん (2009-01-06 23 18 00) ドラゴンが突っ込み役という珍しい動画 -- 名無しさん (2009-01-10 23 25 46) ゲニとドラゴンが仲良しなのはめずらしいなあ。 -- 名無しさん (2009-01-11 01 01 58) 第四話何度もうpし直したのは心霊現象が原因か -- 名無しさん (2009-01-17 01 04 15) なんか伏線貼りまくって投げまくってる感がある -- 名無しさん (2009-01-28 22 36 15) 更新きた -- 名無しさん (2009-05-05 13 48 16) やっと技増えたか -- 名無しさん (2009-06-17 20 39 40) 10年経ったな -- 名無しさん (2019-08-04 08 27 55) 名前 コメント マイリスト 【ニコニコ動画】ドラコ!!
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5451.html
144: 194 :2018/11/08(木) 19 00 40 HOST ai126174016185.26.access-internet.ne.jp 銀河連合日本×神崎島支援ネタ ペニーワイズが194の笑ってはいけないシリーズをオススメする様です。 ジョージ「第三帝国様の新作SSが!」 ジョージ「・・・・・・・」(帰ってトゥ!ヘァ!氏を、調査船でエーテルドレイクの居る宙域に突撃させるか) ???「ハァイ、ジョージィ!」 ジョージ「・・・・・?」 ヌッ ペニーワイズ(以下ペニー)「194が書いてる笑ってはいけないシリーズ読んでる?」 ジョージ「・・・・・」ブンブン ペニー「Oh・・・読んでないのかよ?」 ペニー「ちゃんと本家をリスペクトしている作品なんだぞ?」 ジョージ「でもぶっちゃけ、本家や他所様のネタのパクリやろ。騙されんぞ」 ペニー「パクリやない!リスペクトだ!ただなぞらえているだけじゃなくて、笑い袋ネタと10分間連帯責任カードネタを掛け合わせたり」 ペニー「犬神家ネタをやりながら、唐突にアイス呂ーキックチャレンジネタを入れたり、面白くしようと色々工夫しているんだぞ?」 ジョージ「ふーん、面白そうだね(棒)。帰ってトゥ!ヘァ!氏をコロッサスに乗っけて、単機で敵首都惑星宙域に特攻させてくるわ」 ペニー「待てや!」 ペニー「何と、有り難い事に支援SSも有るんだぞ?」 ジョージ「えっ、本当に有るの?」 ペニー「ああ。しかも本家の第三帝国様や弥次郎氏、635氏といった豪華たる面々だ」 ペニー「文才の無い作者と違って、読み応えの有る内容だ。どうだ?」 ジョージ「・・・・・」 ペニー「Oh・・・、まだ踏ん切りがつかないのか?確かにバラエティネタかつ台本形式で、人を選ぶのは事実だ」 ペニー「けどな。何だかんだ言っても深い歴史の知識とかもいらない敷居の低さもあるし、支援SSを書いていただける程度には面白いぞ?どうだ?」 ジョージ「で、肝心のネタはおもろい?」 ペニー「えっうん」 ペニー「さぁ、本家の第三帝国様やひゅうが様のネタと併せて読んで、お前も支援SSを投稿するんだ」 ※そっと手を伸ばす ペニー「あっ、それとさっきお前笑ったよな?なので」 \デデーン/ ペニー「ジョージ、アウトー!!」 ガシッ ジョージ「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」 神父「ジョージとペニーワイズは死んだ」 神父「ジョージが『罰ゲームや無くてご褒美にしてくれ』と叫んだのに、ペニーワイズが『あっ、ずるいぞ!俺も!』と乗っかった結果」 神父「二人仲良く、エーレルと呂ーちゃんのクロスボンバーを喰らったのだ」 神父「しかし二人は、満足そうな笑顔で」 神父「『わが生涯に一片の悔い無し』と言い残して、天国へと旅立ったのだ・・・・・」 ビル・デンブロウ「・・・・・・・」※霧島のビンタを受けてみる決意した顔。 145: 194 :2018/11/08(木) 19 01 14 HOST ai126174016185.26.access-internet.ne.jp 以上、懲りもせずに再びペニーワイズお勧めネタでした。しかも自身の拙作をプッシュする謎スタイル←殴 あと各作者の皆様、勝手に名前を使って申し訳有りません(ヲイ)。特に第三帝国様、新作SSを勝手に溝に流して申し訳有りません←殴 トゥ!ヘァ!氏は・・・・・、スレのマスコットだからね。仕方ないね←撲殺。あと、何故か兄弟が揃いも揃ってどMになってしまいましたが、気にしてはいけない(コラ) こんな仕様も無いネタSSですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 wiki掲載は、自由です。 154: 194 :2018/11/08(木) 21 43 33 HOST ai126174016185.26.access-internet.ne.jp あ、それと誤字修正を。 誤→新婦 正→神父 wiki掲載時に、修正をお願いします。
https://w.atwiki.jp/wrtb/pages/3002.html
チャーチ・マウス 名前:Sexton Mouse デビュー:『ロビン・フッド』(1973年) 概要 タック神父の協会で働くネズミの男性。マザー・マウスの夫。 協会への寄付金を強奪に来たノッティンガムのシェリフに怒りを見せるが、シェリフに立ち向かったタック神父が反逆罪で逮捕されてしまうと、悲しむ。 登場作品 1970年代 1973年 ロビン・フッド 声 ジョン・フィドラー(1973年) 二又一成(1974年) 牛山茂(1980年代)