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夕食後、茉麻は次女を部屋に戻してから、長女だけを呼び出した。 リビングテーブルに置かれている煎餅と団子とお茶が、長丁場を臭わせている。 呼ばれた理由を、当の梨沙子も薄々勘付いているようで、ソファに腰掛けたまま凋んでいた。 「本当はパパが帰ってきてから話すつもりでいたんだけど、……」 茉麻は娘の傍へ腰を下ろしながら、答案用紙隠蔽の件は敢えて咎めず、 今後どのような方針で学業を修めてゆくのか、又将来についてどう考えているのか、 といった質問を、5つ6つと並べつつ問題を見つめ直していった。 結果、梨沙子は纏まった考えを有してはいなかったが、成績に関して懸念は抱いていた。 ただ学習塾は希望しておらず、なるべく自分の時間を確保していたいらしく、 解決への道程を遅延させた。が、一先ず土日だけでも家庭教師をつける運びとなり、 矢張り詳しい話は、父親も交えた方が好かろう、と結論付けたのだった。 ←前のページ 次のページ→
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娘の2人ともが、父を出迎へると同時に、土産を強請つた。 無論、熊井にそのやうな代物を用意できてゐたはずもなく、不興を買ふのみだつた。 熊井は、スーツを妻に預けがてら娘達を部屋へ押し戻してやり、リビングのソファへ落ち著いた。 後から茉麻がやつてくる。 「あなたお酒はゐる?」との問ひを、熊井は手で拂ひ除け、俄かに妻を抱き寄せた。 子供部屋を氣にしながら、茉麻は、腰の引けた樣子で夫の腋窩へ身を寄せる。 「急にどうしたの?」 自嘲氣味の笑みを浮かべながら、茉麻が尋ねた。 「別になんでもないよ」と淡泊な口調の熊井は、リモコンからテレビを點けた。 夫婦の間に流れる無言の表面を、テレビの音聲が滑つてゆく。 躊躇ひ沈默ではない。もとより、言葉に被けたコミュニケーションを、 熊井は得意とはしてゐなかつた。飽くまで肉體の距離を誤魔化す虚構に過ぎない。 桃子に奪はれた脣の分を、取り戻さんとする氣持ちで、熊井は妻の肩に腕を卷きつけた。 茉麻は、夫の腕に包まる樣に、その鎖骨へ頭を凭れ掛けてみた。 長細く整つた夫の指を愛でる。慣れ親しんできた夫の體温と體臭とが、茉麻を陶醉させた。 できるものなら、ずつとこのまゝで居たかつた。 衣服を脱いで、皮膚も脱ぎ、茉麻は熊井の血肉と同化してしまひたいのである。 夢想や願望は膨張するばかりだが、氣を拔けば肉體の現實が、限界を教へてくれる。 ぶふぅう、と放屁の音が響く。 無表情だつた熊井が頬で笑つた。 夫の方を向かうとしてゐた茉麻の瞳は己が尻へ。 「シャワー、浴びてくるよ」 腹を抱へながらリビングを出てゆく夫を、空笑ひの茉麻が見送つた。 ←前頁 次頁→
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少しばかり遡る。熊井が帰ってからの、有原と桃子である。 残った2人は、料理を胃へ片づける傍ら密談めいたやりとりを交わしていた。 「本当にいいのかな」と桃子が呟くや、有原は訝しげにその顔を覗いた。 「なんだよ、熊井の写真を見たときは乗り気だったじゃないか」 無機質とも思える眼差しとは裏腹の、躍動的な口調の有原に面食らいつつも、 桃子は、苦し紛れの返答を、白ワインに力を借りながら捻り始めた。 「そりゃ滅多にいないくらい綺麗な男の人だし、してみたいことは確かだけど。……」 しかし有原の方も、不気味な程の流暢さに任せて、追及するを止める気配がない。 「彼は男としての自信を失いかけているんだ。半年以上もしていないんだ。 友人としてそんな彼を見過ごすわけには行かない、だからこそ君に頼んだんだよ? それとも君、今さら良心の呵責でも覚えてるの? らしくない」 「わたしだって悪魔じゃないんだから、抵抗感じるに決まってるじゃない。 他人の家庭を壊してしまうかもしれないんだよ?」 「事態はむしろ逆だよ。桃子。この計画を成功に導くって事は、 かえって家庭崩壊を防ぐチャンスに繋がるんだ。セックスレスは夫婦の絆をも蝕む」 相手の意見を、最後は聞くだけ聞いてから、桃子は、しばらく黙った後、軽く頷いた。 「なかなか手ごわいよ、彼」 溜息混じりの、桃子の一絞りだった。 「じゃあ食事を続けようか」こう述べてから、 有原は赤ワインをグラスへ注いだ。満足げに目を細めながら。 ←前のページ 次のページ→
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昼間を無為に過ごすのも口惜しいので、茉麻は部屋べやの掃除を始めた。 嘗て、掃除を日課と決め込んでいた頃は隔世の感。 スッカリ身体の方も鈍ってしまった。 と言っても、3日に一遍はするのだけれど、黒い家具が白くなってしまうのはあっという間だ。 まずはリビング。ウエスや掃除機等で、隈なく、住み家を綺麗に仕上げてゆく。 サイドボードに立てられている、去年の夏に夫の友人である有原や、中島と、熊井一家で 長野へデイキャンプに行った際、撮影した記念写真を懐かしみながら、付着した塵を拭きとった。 次は寝室である。粘着クリーナーに、夫と自分の陰毛が纏わりついている。 思いがけず、茉麻は、昨晩の出来事を再び脳裡へ呼び戻すのだった。 萎えてしまった夫のそれを、口で懸命に慰めても、却って彼を苦しめてしまう。 自分には彼を悦ばす術がない、彼が情愛を吐き出す寄す処とはなれない、……眼に涙液が滲む。 こうして、夫に愁いでいる茉麻ではあったが、多分に自己の欲求不満をも含有していた。 それは、本来の彼が与えてくれる、烈しく貪るでもなく、淡泊に片付けるでもなく、 ゆっくりと脈打つ様な、やがては死に至るであろう豈弟への渇望だ。 彼の気持ちが高まり、向き合って一体となってかたどられる、命を奪う“あぎと”が、 追憶を通して、茉麻の肝臓を啄ばむ大鷲となった。 心に群がる猛禽どもを追い払うつもりで、ベッドの傍の小棚にある、長女が5歳のとき母に呉れた、 ピカチュウのぬいぐるみの埃を払い、次いで、ぬいぐるみの隣の小さな立て時計を見た。 信楽焼の香炉等、有原からは様々な品を贈られているが、茉麻はこれが一番のお気に入りだった。 子供部屋へ入ると、フト茉麻は、先日中間テストのあった事を思い出した。 梨沙子も舞も、あまり見せたがらないが、仕舞っておく場所は解っているので、勝手に確認する。 「舞はまだましだけど、お姉ちゃんはひどい点数ね。名前も間違えてるわ」 我が子達の答案用紙を眺めながら、母は再教育の必要を感じた。 ←前のページ 次のページ→
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登録日:2011/08/23 Tue 22 30 18 更新日:2024/06/25 Tue 23 41 54NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 ためになる項目 アニメ ゲーム プロット ライトノベル 創作 土台 基礎 漫画 物語 設計図 ※注意※ この項目は例として幾つかの作品のネタバレを含んでいます。 プロットとは、アニメや小説や映画などの物語やはては学術論文の創作において「ストーリーの設計図」となるもののことである。 語源は英語の「plot」。ちなみに陰謀や小区画という意味でもある。 グラフを描く際にグラフ用紙に「点を打つ」ことをプロットというが、 厳密には「○○の後××、その後△△…」という「単純なお話の流れを書いたもの」が「ストーリー(あらすじ)」であるのに対し、 「○○と行動したので××の状態になったので△△と…」と「作中の事物の因果関係を明確化して書いたもの」の形式で物語るのが「プロット」らしい。 類義語:「箱書き」 ・プロットの作り方◇1.テーマを決める ◇2,キャラクターと世界観を作る 3.プロットを作る帰納法 演繹法 ・シナリオの部分的プロット ◆有名な構造の作り方・起承転結/序破急 ・7つの型 ◆応用例引き付けログライン キャラ性 テーマ 現前性・整合性空所チェーホフの銃 ジャンルの問題 ・媒体ごとの違い商業漫画/小説の場合 報道やCMの場合 ・プロットを組むメリット/デメリット ・プロットの作り方 ここではプロットの組み方を例を挙げつつ説明していく。 ◇1.テーマを決める まずプロットを作る前に「テーマ」を決める必要がある。 ではそのテーマとは何か?それは、物語の根底にある絶対条件……大仰に言い換えれば「そのお話で正義とされるもの」「そのお話で絶対に達成されなければいけないこと」である。 ライトノベル『生徒会の一存』を例にすると、テーマは「生徒会室で役員+αが駄弁る」である。 偶に関係ない挿話もあるが、このシリーズは基本的にこのテーマに沿って進行している。 ちなみに上記の文に言う「テーマ」は、厳密には「描きたいもの」のうちビジュアルや人員的な要素の面と言える。 石ノ森作品で言えば秘密戦隊ゴレンジャーや仮面ライダーシリーズはどちらも「変身して戦う」という映像的要素がある。 しかし戦隊シリーズは「最初から正義の集団」であることも普通だが、ライダーは「敵対組織と力の根源は同じ」という要素を抱えている事が多い(昭和の時点でも全てではないが、平成ライダーシリーズに多く見られる要素でもある)。 このため、仮面ライダーの多くはテーマ性として、「悪と同質の力を振るう正義」を据えることにより逆説的に「善悪とは力そのものではなく、使い方によって決まる」ことを描いていると言え、これはキャラクターの年齢や性別等とは関係ない概念的要素である。 つまり作品を構築する基幹要素そのものは複数存在していると言え、場合によっては下記のようになる事もある。 作家「美少女が出したい!でも担当に戦闘モノって言われた・・・せや!だったらセラムンみたいな美少女戦士にすればええんや!」 担当「(アクションをしっかり描いてくれるなら)ええんやで」 この場合、作家のビジュアル的テーマは「美少女」で、担当の求める概念的テーマは「戦闘」と言えるだろう。 その上でどシリアスに殺しあってまどマギみたいな事になるか、コメディタッチで百合モノっぽくなったりするか、といった部分はまた別の話。 年齢設定に関しても、『エヴァンゲリオン』のような「少年少女の主人公もの」には「ビジュアル的にそうなるべくしてなった設定」が用意されている事があったりなかったり。 『魔法陣グルグル』では「ミグミグ族の子供の頃の不安定なハート」が力の源となっており、完全に「ヒロインが特殊な力を使える年齢制限」がある。 しかし『蒼穹のファフナー』では「戦うためのロボットに適応するよう調整され生み出された子供たちだから」なので、主人公らは紛れもない強者だが彼らより年齢が高めのパイロットもいる。 このように、作中で主人公らがメインとして描かれる理由にも差があったりする事もある。 ◇2,キャラクターと世界観を作る こうしてテーマを決めたら、早速プロットを……といきたいところだが、次に「キャラクター」「世界観」を決める必要がある。 これは何故かというと、プロットとは言うなればキャラを動かすための「予定表」のようなもので、 予定を組むにはその対象となる人物と、それを組む前提となる状況が必要だからである。 ただしここで作るキャラや世界観は仮決定でも構わない。とかく必要なのは大前提である「テーマ」に必要な役者と舞台であり、これ以降必要に応じて修正が入るのは当然だからである。 つまり、プロットとは物語に対し脚本とほぼ同義なのである。 ではテーマが決まり、世界観を整え、登場するキャラが一通り揃ったら、ようやく本題のプロット作りである。 3.プロットを作る プロット作りにおいてよく用いられる方法に「帰納法」と「演繹法」が挙げられる。 帰納法 帰納法とは、先に結論を用意し、そこに向かって式を組み立てていく方法。いわば「テーマ優先型」といえる。 例として『ロウきゅーぶ!』を基にしてみよう。 「高校生の指導の下、小学生の女子バスケ部が男子バスケ部に勝利する」という結論に至るため、 「なぜ試合するのか」「どうして主人公はコーチをしているのか」という風に、物語を遡って構築していくのが帰納法である。 この場合、キャラクターは後から必要に応じて組み立てたり組み替えてもよい。 演繹法 もう一つの演繹法とは、前提を基に結論を導き出す方法、いわば「キャラ・世界観優先型」である。 同じく『ロウきゅーぶ!』を解体していく。 「部長のロリコン騒動で休部中の主人公」(前提A)に「小学生女子バスケ部のコーチング」という依頼が来る。 ここで主人公は「一週間という期限つきで承諾」する(結論A)。 次に「一週間という期限」(結論A→前提B)に対し「コーチングが必要な理由を知る」というファクターが加わり、 「試合まで勝てる指導をする」と約束を交わす(結論B)……という風に、 玉突きのように前提から結論が産まれ、その結論が次の前提になるのが演繹法である。 こちらはキャラクターの思想や状況が結論を出すための条件になるため、事前にある程度確定して組み立てる必要がある。 こうしてプロットを組み立て、そこに肉付けして物語を作っていくのである。 ・シナリオの部分的プロット 先の例は物語の開始や主人公の行動の根源など、全体のバックボーンとなる部分の書き方である。 しかし漫画の週刊連載やなろう小説の更新などは「このキャラを活躍させる」とか「このキャラは生かす」といった大雑把な事は決まっていても、 その回その回の詳細が決まってはいない事も普通であり、こうした場合にもプロットは存在しうる。 『うしおととら』の単行本版巻末漫画では、作者がプロットの例として「うしおたちがきけんなば所でわるものをたおす」と書いているネタがある。 これは前述の例で言えば「読者にスリルやアクションの爽快性を与えて楽しませる」という大きな概念的目的に対し組んだプロットと言える。 こうした考え方は映画などでも例える事が出来、エンターテインメントとしての要件を満たすための考え方と言える。 ここに盛り込む肉付けの要素をうまく組み換えれば、別の作品を作ることだって可能なのだ。 例:主人公がきけんなば所(乗っ取られた戦艦=海の上の要塞状態で助けが来にくい)でわるもの(テロリスト)をたおす=「沈黙の戦艦」 ちなみに2作目は「高速で移動していて助けの来ない列車」が舞台。 これが「高空を飛んでいるから〜」となると「エアフォース・ワン」になる。うしとらで言うとふすまの回とか。 またこの舞台設定をしていく上で、「空を飛べるキャラクターが少ない」という世界観などがあると主人公の状況も変わってくる。 実例としては『HELLSING』では、敵の英国襲撃作戦前にアメリカ議会で吸血鬼が暴れて大混乱を引き起こすなど「即時の援軍」を遮断しているところがある。 これは推理漫画における孤島ものにも類似点があり、特に現代においては警察の組織的・科学的捜査や、 法的根拠のある拘束力、複数の人間を監視下に置ける人員数などはどうしても「それがあれば事件が解決してしまう」ところがある。 それ自体はいいことなのだが、警察が機能する=主人公を活躍させるといったプロット上の前提との衝突が発生してしまう。 このため「すぐには警察の増援が来ない」という前提が必要となり、そのために雪崩先生や台風アニキにお出まし願うことになる。 (前述で言うと「民間人の主人公キャラを、警察の介入なく活躍させるには」を考えていく事で話が出来上がる演繹的な手法に当たるだろう。 「現代で」という前提を崩さない場合は自然災害が強いが、「民間人」のキャラだけを守りたいなら警察の科学捜査力が無い時代を選ぶというのも手である) 近年、自然災害で通行が!をマジでやったヒット作としては「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」がある。 ガチの物理的な崖の崩壊とかではないけど(ネタバレは自粛)。 物理で封じたわけではないが、作劇上のテクニックとして亜種が使われた実例とは言える。 事件の重要参考人または少数の犯人候補を合法的に拘束したり、逆に「安全のため」という方便のもと監視を行うのは警察ならば可能である。 が、単なる民間人同士では現行犯逮捕しない限り、ただの名誉棄損を行った人間による違法な軟禁などになってしまう。 よほど強引で後先を考えない人間(か疑われた側が前科持ちなど相当疑われ易い存在)でもなければ「帰ったら訴訟する」という言葉の前に拘束は不可能となる。 だからこそ「こんな場所にいられるか!俺は部屋に帰らせてもらうぞ!」といったセリフと新たな死体が生まれたりするのだ・・・。 TRPGの『ダブルクロス』には 瞬間退場 というエネミーエフェクトがある。 要するにルール上「この敵キャラクターは攻撃に当たらず一瞬で拠点などに帰れる」と定めてあり、必ず生還出来るようになっている。 (ちなみに「レネゲイドと言われるものにより特殊能力を得た超人がいる世界」など、基本的設定はゲーム側が提供している) このエフェクトは『我々に逆らう者の顔を見に来てやt「あ、スキルマシマシの全力攻撃でそいつ殴ります」ひでぶ!?』といったような悲劇を防ぐためのものである。 物語序盤でラスボスが死んでしまったら、ゲームマスター=シナリオ製作者は話を進めることが困難になってしまうからだ。 城から出て5分でボスキャラが死んでしまったら、最後の決戦に誰を出せばいいんだという話である。 これはプレイヤー側も必ずしもわざとやっている訳ではなく、後で出てくる中ボスだとウザいし数減らしておくか位の考えで殴ったら、 クリティカルヒットにより真の力を開放するなど段階的な強化をされていないラスボスがしんでしまいました。という感じである。 それを防ぐ設定上の能力により、射程外から煽り台詞を言った後で瞬間退場する事で「ボスっぽい空気を出しつつ死なない」みたいな行動が出来るようになっている。 GM「ぼ、ボスキャラが死んだーっ!?プロットダイーン!」 となった後のゲームマスターは、誰もがアドリブの効く玄人ではない。初めてGMをやって、プロットが爆発四散し大混乱…そのままゲーム自体がグダグダ…という事もありうる。 というかそういう現象が実在したが故に、ゲームや会社の方針によって「ボス出オチ対策」が練られた結果である。 ただし項目最後のライブ派、すなわちある程度までの矛盾は気にしない(または考えている暇がなかった)というパターンも存在する。 (著名な作品として『北斗の拳』はそのように作られた面がある、と作者がインタビューで語っている) TRPGにおいても(ラスボスが死んだようだな…じゃあ中ボス予定の奴を)「ふはは、奴など所詮小物。本当の黒幕は俺だ!」(ってことにしとこう) みたいな事をやって凌ぐことが出来る人もいる。 ◆有名な構造の作り方 ・起承転結/序破急 プロットを組む時、箇条書きで流れを書くのもよいが、それでは際限なく続いたりどうでもいい部分が増えることがある。 そこで情報を整理しシェイプアップするために、起承転結や序破急といった区切り、緩急を付けることが重要になってくる。 起承転結とは分かり易く言うと「4コマ漫画」構成である。 起で物語が始まり、承で発展し、転で最高潮を迎え、結で収束する。『涼宮ハルヒの憂鬱』をこれで分解すると、 起:涼宮ハルヒという破天荒な少女が主人公のキョンに絡み始める 承:キョンの前にハルヒの望む宇宙人・未来人・超能力者が現れ、彼女の特性が語られる 転:ハルヒは自らの能力で新たな世界を作り、そこにキョンも呼び出される 結:キョンは元の世界を望み、ハルヒと二人で帰還する と、こうなる。これをさらに「起の転」や「承の結」など細かく分け、16区切りにするとかなりすっきりする。スペースも取るし面倒なので16分割についての例は省略。 序破急は主に演劇などの分野で使われる言葉で、転を承と結に分割したと思えば分かり易い。 『新世紀エヴァンゲリオン』を分解してみると、 序:人智を越えた「使徒」に対抗するため、碇シンジがエヴァンゲリオンの操縦者となる 破:使徒を撃破する内に、その裏で蠢く陰謀や真実が少しずつ明かされる 急:遂に発動した人類補完計画。そこでシンジが選ぶ未来は―― もちろんこちらもさらに細かく9段階に分けることでより明確になる。が、やっぱり面倒なので省略。 三幕構成は主にハリウッド映画などで使われる言葉で、初めから1/4までが1幕で物語の前提を描写し、 1/4から3/4までが2幕で本題である事件を展開し、3/4から最後までが3幕で解決編となる。 2幕の中でも1/2時点の前後で流れが変わり、ここから解決までの方向性が定まると同時に危険も増すため、実質起承転結と等価と言えるかもしれない。 ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』を例に挙げると、 1幕:過去にブロディ一家を襲った事件と、真相究明に動くジョー、そして真相であるムートーが出現する 2幕前半:父に家族を守るように言われたフォードはサンフランシスコへ向かう作戦に参加するが、彼が時限装置をセットした核弾頭がムートーによって街に運び込まれてしまう 2幕後半:ゴジラがムートーを殺し、フォードは核弾頭を街から引き離す 3幕:フォードは核爆発前に救出され、避難所で家族と再会する こちらも幕の中をさらに細かく分ける場合もある。 ビート・シート(Blake Snyder) 13フェイズ構造(金子満) ライターズ・ジャーニーの12ステップ(クリストファー・ボグラー) ヒーローズ・ジャーニーの神話類型(ジョゼフ・キャンベル) 昔話の構造31の機能分類(ウラジーミル・プロップ) 第1幕 オープニングイメージ設定テーマの明示触媒選択 (背景)日常事件決意 1.平凡な日常:キャラクターの日常描写2.非日常への誘い:日常から非日常へのきっかけの描写3.非日常の拒絶:非日常に対する葛藤の描写4.師との出会い:葛藤を克服し非日常へ移行する描写5.事件の発端:非日常の本格的な到来の描写 冒険への召命召命の辞退超自然的なるものの援助最初の境界の越境鯨の胎内 1.家族の一人が家を留守にする(不在)2.主人公にあることを禁じる(禁止)3.禁が破られる(侵犯)4.敵が探りをいれる(探りだし)5.敵が犠牲者について知る(漏洩)6.敵は犠牲者またはその持ち物を入手するために、相手をだまそうとする(悪計)7.犠牲者はだまされて、相手に力を貸してしまう(幇助)8.敵が家族のひとりに、害や損失をもたらす(敵対行為)9.不幸または不足が知られ、主人公は頼まれるか、命じられて、派遣される(仲介・連結の契機)10.探索者が反作用に合意もしくはこれに踏み切る(始まった反作用)11.主人公は家を後にする(出発)12.主人公は試練をうけ、魔法の手段または助手を授けられる(寄与者の第一の機能)13.主人公は将来の寄与者の行為に反応(主人公の反応)14.魔法の手段を主人公は手に入れる(調達) 第2幕 Bストーリーお楽しみ中点迫り来る悪い奴ら全てを失って心の暗闇 苦境助け成長・工夫転換試練破滅契機 6.試練、仲間、宿敵との出会い:新しい世界での新しい経験の描写7.ストーリーの深淵の描写:物語の大テーマの描写8.最大のチャレンジ:試練の克服の描写9.勝利:勝利の末、得た結果の描写 試練への道女神との遭遇誘惑者としての女性父親との一体化神格化終局の報酬 15.主人公が探しているもののある場所に、運ばれ、つれて行かれる(二つの王国間の広がりのある転置、道案内)16.主人公とその敵が直接に戦いに入る(戦い)17.主人公が狙われる(照準)18.敵が勝つ(敵の勝利)19.初めの不幸または欠落がとりのぞかれる(不幸または欠落の除去) 第3幕 フィナーレファイナルイメージ 対決排除満足 10.帰路:日常の奪還の描写11.復活:進化と再生の描写12.帰路:エンディングの描写 帰還の拒絶呪的逃走外界からの救出帰路境界の越境二つの世界の導師生きる自由 20.主人公は帰還する(帰還)21.主人公は迫害や追跡をうける(迫害、追跡)22.主人公は追跡者から救われる(救い)23.主人公は、気付かれずに家または他国に到着する(気付かれない到着)24.偽の主人公が、根拠のないみせかけをする(根拠のないみせかけ)25.主人公に難題を課す(難題)26.難題が解かれる(解決)27.主人公が気付かれる(判別)28.偽の主人公や敵、加害者が暴露される(暴露)29.主人公に新たな姿が与えられる(姿の変更)30.敵が罰される(罰)31.主人公は結婚し、即位する(結婚もしくは即位のみ) ・7つの型 ジョディ・アーチャーとマシュー・ジョッカーズの著作『ベストセラーコード』では売れるストーリーに7つのパターンがあるという。 1. ブッカーの喜劇 前半は主人公が困難からスタートし、状況が好転したときに悪いことが起こるが、後半は最終的に幸せになる。 2. ブッカーの悲劇 主人公が悲しい現実に置かれる。その後間違った判断をしてさらに事態が悪化する。主人公は最終的に厳しい現実を受け入れる境地に達する。 3. シンデレラストーリー 序盤で主人公の運命が好転するが、中盤に主人公が全てを失う。最後に主人公は絶望から這い上がり、平和に幕を閉じる。この過程で主人公は成長する。 4. 再生型/逆シンデレラ 序盤で主人公は変化を経験して価値観が揺さぶられる。中盤に新しい学びや経験や自己表現を得て感情が高まる。最後はバッドエンドになる場合が多い。 5. 旅と帰還 前半部分では主人公が全く異なる世界に直面するが、その後魅力を感じる。後半部分では主人公が試練を経験する。最終的に試練を克服して元の世界に戻る。 6. 探求型 主人公が何かを求めて冒険する。序盤、主人公は未知の場所でモンスターと戦い、感情が高まる。中盤、希望が打ち砕かれ、緩やかに感情が高まる。最後になんらかの形で旅が終わる。 7. モンスター退治 前半部分では主人公は悪役や脅威に立ち向かうことを余儀なくされる。後半部分では主人公はそれらを退治し、最終的に幸せに向かう。 ◆応用例 まず自分の書きたいものを書き出してみよう。物語や人物についてテーマソングを決めてもいいし、漫画なら描きたいコマの絵でもいい。思いついた単語を並べたり、人物に会話をさせて書き出してみるのでもいい。 このようにして作品の芯となるアイディアが決まったのであれば、次にそれを面白く脚色する方法を考える。思い付いたシーンを上述の起承転結/序破急や七つの型に当てはめていくだけでも、とりあえずの完成を見る事は十分可能なはずである。 その後、物語としての整合性を持たせ、具体的な描写によってリアリティを出し、受け手に余計な疑問を持たせないようにする。 余計な疑問があると観る際に違和感を覚えたり、より重要な情報に対する疑問を抱かなくなってしまったりして、途中で観るのをやめてしまう恐れがある。かと言って具体的な描写の多くはつまらないものであるので、短く簡潔に行う必要がある。 引き付け より具体性を持たせるためには、「一目で分かる面白さ」が不可欠。 映画のような長編ではあらすじから興味を持ってもらうための「ログライン」が必要だし、SFやミステリーのような本格的な物語の場合は新規性のある「トリック」や「テーマ」が必要である。一次創作の場合、登場人物の魅力的な「キャラ性」も必要である。観察や取材に基づくリアリティのある描写をすることは、ログラインやキャラを作った後にはじめて可能となる。 これらのアイデアには新規性が求められる。特にSFや幻想文学系の作品では安易に設定を真似ると剽窃の謗りを受ける可能性があるため注意を要する。 ログラインやキャラのアイデアについて、さとうあきらは『マンガ脚本概論』の中でヤングの『アイデアのつくり方』を援用し、1. 資料を集める 2. 心の中でこれらの資料を組み合わせ、手を加える 3. 問題を放棄し自分の想像力や感情を刺激するものに心を移す…といったステップを提案し、第二のステップにおいては平凡なアイデアを次々と出していくことを勧めている。さとうはこの時の方法としてオズボーンのチェックリストやマンダラートなどを挙げている。 ログライン 作品を一行で説明した時に面白みが出るようにする。これにより作品全体の目的が定まり、客層や制作予算も予想しやすくなる。この時の要約されたあらすじを「ログライン」と呼ぶ。 ログラインは謂わば物語の面白いと思わせる部分を最初に決める方法であり、映画のプリビズのように最終的な演出などを考慮するものではない。 ログラインは主人公が皮肉な状況に陥るほど強度を増す。例えば弁護士を主人公にしたのであれば、その人物が嘘をつけなくなるという状況が皮肉であるから、そのように設定するのである。 あらすじや長々しいタイトルを用意する機会があるのなら真っ先にログラインが書かれるところだろう。同時に自他の作品のどこが面白いか・何故売れているのかを見極める観賞眼が試される場面でもある。鑑賞眼を鍛えるには、地道に作品を作り続けていくしかない。 キャラ性 詳細はキャラメイキング(創作)を参照。 登場人物には大きく、物語に長く出演する「主人公」「脇役」とその場限りで出演する「チョイ役」「エキストラ」とに分けられる。主人公や脇役は感情移入や好感を促すため、その思想や行動について具体的で意外性のある描写が伴う。チョイ役やエキストラは単に世界観を説明するためだけの役割だから、細かい過去や意外な性格といったものは必要ない。 東浩紀は登場人物(ないし世界観設定や登場人物同士の関係性)がストーリーと切り離され、データベースとして消費される点を指摘した。伊藤剛は、少女漫画と少年漫画の二次創作の違いに着目し、登場人物の外見的な部分(キャラ)と人間らしい部分(キャラクター)とを分けて考えた。 キャラは簡単な属性の組み合わせで表され、すぐに理解できる部分と言えるだろう。登場人物を類型的に捉えることができるので、弁護士ならば弁護士, 警官なら警官としての類型的な行動が既知のものとして受け手の頭に入っているし、ギャップや皮肉を簡潔に伝えることができる。 登場人物の役割 登場人物はまた、物語を解説し、スムーズに進める役割もある。少年漫画では主人公らが三人一組になる場合があるが、これは「ボケ」「ツッコミ」「読者の代理としてリアクションをとる人物」の三者を用意し、物語をテンポよく進めるためである。少女漫画には主人公と同年代の友人が描かれることがあるが、これは主人公との会話を通して読者に状況を端的に伝え、主人公が独り言がちになり話が重くなるのを防ぐためである。 登場人物は言動や周囲の対比からテーマを伝えることもある。主人公は敵と共通点を持ち、時として悪に染まる危うさがあるのである。ある人物は「主人公がこのまま変わらずにいた時に辿るであろう末路」なのだ。プロップやグレマスらは登場人物に「贈与者」や「偽の主人公」といった役割を設けたことで有名である。 キャラの魅力 登場人物が敵との関わりの中でどのような相互作用をするのかに対する期待を持たせるために、登場人物には強さや技術などの持ち味を持たされることがある。特にそれが強さである場合は、咬ませ犬が用意されたり、咬ませ犬の咬ませ犬が用意されたりするようだ。特に主人公がこうしたかませ犬を倒す場合、周囲から最初侮られていればいるほど効果は大きくなる。周囲の反応を写すことによって読者/視聴者にどう思って欲しいのかをアピールすることも効果的だ。 視聴者は現代に生きる存在だから、登場人物への好感度にも現代の倫理観がある程度反映される。セクハラや盗みなどの行為が批判なく描写されることに抵抗を持つ視聴者もいる。このためたとえば古典をテーマにした作品等では、原典での盗みのシーンが映画化に際して削除されることがある。 世界観 「世界観萌え」という言葉があるように、データベースとしての魅力を持つのは登場人物だけではない。 世界観にもキャラと同様、視聴者に簡潔に概要を掴んでもらうための属性(=記号)が存在する。たとえば異世界モノで最初にゴブリンやオークなどの敵と戦うのは、そこが「みんなの知ってる異世界」であるとすぐに分かってもらうためのものとして大変効力があるからである。 テーマ 物語全体を通してのメッセージ(テーマ)を決めておくことで、その作品が何を語りたかったのか・どう語りたかったのかということについて、受け手は考えを巡らせ、再び話題にしたり、鑑賞したりしようとする。テーマは表紙に書くのでなく物語全体を通して具体的な描写を繰り返して提示することで受け手の疑問の余地を無くすことが可能となるため、テーマを盛り込むのは簡単にできることではない。テーマを盛り込む必要を感じない場合は、無理に入れる必要はない。「読者を楽しませること」がテーマであっても構わない。 トリック/ワンダー 受け手は鑑賞しているそれぞれの時点に於いて、その時の常識にそぐわない出来事を劇的に感じる。「布団が吹っ飛んだ」という駄洒落は、本来なら吹っ飛ぶはずのない重いものが吹っ飛ぶというインパクトがあり、次にその理由が発音の類似に由来するものであることが理解されるプロセスを経て笑いに繋がる。つまりまずそこにありそうにないものを置き(*1)、SFならばその理由を解説し、前衛小説ならそのような組み合わせがあっても構わないのではないかと疑いの目を向けさせることによって、受け手に常識の新たな視点を与えるのである。これを異化またはワンダーと呼ぶ。 SFやミステリーは、最初に奇怪な状況を提示し、何が起こっているのか・なぜそうなっているのかという疑問を植え付けた上で、それが論理的に実現可能であるということを示し、読者に驚きを与える。ファンタジーの場合も、科学的には実現不可能であるが作中の技術を使えば可能だったりする。これらの「トリック」や「ワンダー」は作品全体の流れを厳密に決めておかないと整合性を損なってしまうので、登場人物の性格の整合性よりも優先される。 純文学や前衛的な作品では、答えのない、多義的な解釈を許す表現がしばしば用いられる。これは例えば椅子は座るためのものだが、そのような「使い方」の分からない表現を提示することによって、日常生活に新たな視点を持つことを促すものである。これは読者の意識を逸らしすぎてしまう危険性を孕むため、かなり難易度が高い。 異化されたものは繰り返し用いられることですぐに受け手にとって新たな常識となってしまう。アシモフの「われはロボット」を例にとると、「ロボットは人を襲うかもしれない」と考える読者に対して物語の最初で「ロボットは人を襲わない。なぜなら人を生かすようにプログラムされているから」と説得すればそれが異化になるだろう。しかし次の瞬間にそれは読者にとっての常識となり異化は継続しない。これに続けざまに「ロボットが壊れた」という更なる情報を与えることで読者はその理由を探すことになり、最後にその意外な理由を与えられることで読者にはまた新たな異化が与えられるのである。 現前性・整合性 こと創作において、動作には必ず理由がなければならない。「ふと立ち上がる」ということは許されず、「トイレに行くために立ち上がる」というように、あらゆる動作には目的があるのである。また登場人物が周囲に流されるまま、自分の力を使わず常に偶然事件を解決していくようでは共感を得ることはできない。 主人公に対するハードルが高ければ高いほど、それを自らの手で解決した時のカタルシスは大きなものとなる。ストーリーにおいてキャラが重要であるという所以はこのハードルを描くことにあるだろう。蜘蛛が苦手な主人公が蜘蛛のいる場所に赴くというのであれば、主人公にとって蜘蛛がどのような存在であり、どういう風に怖く思えるのかということを、実例を交えて丁寧に説明し、読者の疑問が挟まる余地をなくさなければならない。ここで重要なことは、その描写がどれだけ現実らしいか、ということではなく、どれだけその世界と合っているか、ということに近い。例えば物語世界に魔法が存在するような場合でも、事前にそのように伝えられていれば読者にとってそれが真となる。ご都合主義な展開とは往々にしてこの事前の説明がされていないか、読者に理解されていないことによって生じている。ただし、その作品がどれだけ「現実らしいか」ということ(リアリティライン)に沿わない説明はリアリティのない説明だと思われてしまい、受け手は現実に引き戻されてしまう。ある時点で「現実っぽい」描写をした場合、他の部分で「デフォルメされた」表現を使うとその部分をリアルに感じにくい(例えば、必殺技を放つときに技名を叫ぶ作品に、史実や科学考証に基づく設定が提示された場合とされていない場合とでは、むしろ後者の方がリアルに感じやすい。(*2) 推理小説などにおいて、事件やそのトリックは可能性のある出来事から順に起こるものとして推理される必要がある。例えば密室殺人において犯人が超能力を使えるような場合は可能性がかなり低いと考えられるので、それよりも高い可能性のあるトリックをその場の状況から導き出すのが優先されるだろう。超能力が考慮されるのは密室に秘密の抜け穴があったという可能性を潰してからだし、抜け穴があった可能性が考慮されるのは他のあらゆる可能性を潰してからなのである。探偵や読者は今までにあったヒントだけからまず推理を行うし、作者も読者にとってヒントとなる出来事を意識はされないまでも十分に覚えさせておく必要があるだろう。これを「フェアである」という。 空所 物語の受け手がその先を読みたいと思う推進力となるのは空所の存在である。たとえば「ルパン三世」を例に挙げれば「ルパンは何を/どのように盗むのか」という問いがまず受け手に与えられることになる。受け手はストーリーを追うことでこの謎を解決しようとする。そこで更にお宝が提示されたなら、なぜそれがそこにあるのか, なぜそれほどの価値があるのか…といった謎が次に生起するため、読者は継続して物語を読み進めることができる。 すなわち、最初に何が起こっているか分からない状況を提示したり、どうなるか分からない興味深い世界観を提示したりすることて受け手の注意を引いて、名前を出したり説明を加えたりするのはその後に行う(とくに2010年代以降の作品では娯楽が多様化しているため、視聴者層・読者層の望むものをピンポイントで提示しつつ、こうした引き付けを行うことが望ましいとされる)。 空所/謎には未来に関する「サスペンス」(主人公はどうなるのか)と現在/過去に関する「ミステリー」(何が起こっているのか/なぜ今の状況が発生しているのか)がある。もちろん、サスペンスとミステリーの組み合わさったものも存在する(謎を解かなければ主人公の身に危険が及ぶ場合など)。 サスペンスは強い推意(=意味の伝わりやすい仄めかし)によって成り立つことが多く、ミステリーは弱い仄めかし(=意味の伝わりにくい仄めかし)によって成り立つことが多いようだ。 サスペンス サスペンスは、何らかの問題が提示され、主人公がそれを解決したところで次の問題が発生し…というループで物語を構成する。苦難の末に問題が解決されたときの達成感を「カタルシス」と呼ぶ。大きな問題が発生する場合、それらは必然的である方が良い。 アニメ監督の高畑勲は主人公に危機や異変が起こっていることを読者/視聴者にだけ見せておき、主人公には隠しておく手法がサスペンスの定石であるとした。 ただし、緊張した場面がずっと継続すると読者は疲れてしまう。バトル系の話でもアニメに日常回があり、ラノベの最初や最後に日常に戻るのはそのためである。石ノ森章太郎はシリアスなシーンにギャグを挟むことで劇的な効果を上げることができると主張している。『ゴールデンカムイ』でしばしばギャグや登場人物同士の「わちゃわちゃする」シーン等の後に凄惨なシーンが来るようにしてあるのは有名である。 逆に、読者にだけ登場人物の優位性を示し、他の人物には知らせないでおくことによって、主人公への期待をより高めることができるだろう。 事前に頼りになる味方キャラを描いておいて、その味方キャラを特定の場所に配置し、何か事件を起こす場合にその場所と近いところで起こしたりするのは典型的な方法かもしれない。 この場合、味方キャラと関連性の高い事物が示されたことによって、その味方キャラが問題を解決してくれることを読者・視聴者は期待する。その期待を裏切るべきか裏切らないべきかは、個別の事例を見ていくしかない。 チェーホフの銃 謎は解決のときを待っている。登場人物がいる場所が分からずに話を進めると、読者はその謎に気を取られてしまうし、曖昧な比喩表現による情景の説明は、描写される対象を同定するまでは読者は他の物事に注意を払う余力を持つことができない。謎を抱えたままの読者はストーリーを謎と関連づけて考えてしまうため謎と無関係な出来事を頭に入れることが難しく、そのような情報が与えられ続ければ読者は読むのに疲れ、退屈してしまう。チェーホフの銃と呼ばれる現象である。 ゆえに、特別な意図がない限り、多くの作品では誰が何をしているのか、いつどこなのか、主人公はどういう身分なのか、どういうリアリティラインなのか(その作品がどれだけ「現実らしい」のか)、を最初に提示しておき、主人公の現状と関係の深い物事について読者が謎を抱かないようにする。 異世界モノでゴブリンやドラゴンといった、いわばテンプレ設定が用いられるのは今いる場所が現実世界ではないということを端的に示す目的がある。SFやファンタジーではあまり重要でない設定は最初から全てを説明していたのではテンポを損ねてしまうため、まず名前や周囲の反応等によってそれがどういうものかざっくりと示唆しておき、必要になった段階で初めて詳細な説明を加える。これを「後説」という。 叙述トリック 複数の謎を展開させるときは二つ目以降の謎を読者にそれと気づかれないようにし(もしくはそれほど重要でない出来事だと思わせて)、後からそれが(重要な)謎であることが明かされるような仕組みが必要である。具体的には、たとえば「人間ではない主人公はどんな存在なのか」「主人公の相方はどんな存在なのか」という二つの謎を用意した場合には、まず主人公が人間ではないという事実を隠し人間であるように振る舞わせておいてから、主人公の相方に対する謎を与えて読者に先を読み進めさせ、相方に対する謎が解決してきた段階で主人公の人間である可能性に疑念を持たせるというやり方である。これを叙述トリックと呼ぶ。 叙述トリックは言語学における語用論によって説明できる。まず語り手と聞き手は多くの文脈(=推意前提)を共有している。語り手が何かについて語るとき、聞き手はそのことと関係のある出来事を頭の中に呼び出している。たとえば比喩や皮肉は、具体的なことを言わないのに婉曲的に語り手の暗に意味するところが分かるが、これはこの仕組みによる。だが語り手と聞き手の持つ前提が違う場合には齟齬が起きる。語り手の意図していることが分からないような仄めかしのことを「弱い推意」と呼ぶ。 叙述トリックの最初の段階に於いて、聞き手たる読者/視聴者は語り手と自分とが同じ前提を共有していると思い込んでいる。話を進めていくうちに読者は前提が異なることに気が付き、実は話し手が「弱い推意」を行っていたことに気がつくのである。通常、それが弱い推意であることが明らかでない仄めかしは「伏線」、明らかなものは「布石」と呼ばれることが多いだろう。 物語の初め、まず異化をもたらし謎を提供する布石が出されて読者は物語に引き込まれる。最初の謎が解決した時、あるいはなんとなく察しがついた時や慣れてきた時、隠された第二の謎すなわち伏線の存在が明らかになる場合がある。叙述トリックもそのひとつである。 表現は単にその裏の意図だけでなく、その表現そのものの別の観点における重要度も隠していることがある。たとえばお色気シーンだと思っていたら後でそれが重要な手がかりにつながるシーンだとわかるのはその典型例だし、ギャグ的な発言だと思っていたら重い過去を表す発言だったりといったダブルミーニングもこうした効果の恩恵を受けていると思われる。 サブテキスト 受け手の意識を逸らすことなく情報を与える方法の一つに、台詞や芝居に複数の意味を込めること(サブテキスト)が挙げられる。サブテキストは推意前提を共有している受け手に「明言はしないもののそう取ることもできる」という仄めかし、すなわち「強い推意」を与えることで成立する。 たとえば余裕そうな表情をさせつつ手の動きを見せれば、暗にその人物の抱く不安を描くことができるし、3分間待ってやると言った後に銃弾を詰め直せば人物の周到さを描くことができるだろう。漫画なら髪の毛や目の動きに直前の動作を仄めかすことができる。 けものフレンズ(アニメ)では背景に置かれた人工物から様々な考察がなされた。細かな設定をいちいち説明していたのではテンポが悪くなったり、ともすれば野暮に感じたりするような場合でも、映像表現ならば背景に溶け込ませてしまえる。 新世紀エヴァンゲリオンでは明らかに時間内に聞かせるつもりのない難解な台詞を用いることで、作中世界観の近未来性を演出するとともに「考察するために繰り返し観る視聴者を作る」というまるで詩のような作品である。 また、具体的な情報だけでなく、作品のテーマや主人公の辿る運命の暗示といったメタファー(=文隠喩)をサブテキストで伝えることができる。 装甲騎兵ボトムズ第一話では味方のはずのスコープドッグ達が一斉に主人公の方を向くという半ばホラーめいた演出で、人物同士の関係性や主人公の置かれた立場を暗示している。 少女☆歌劇 レヴュースタァライト(アニメ版)やアイドルマスター シンデレラガールズ(アニメ)のように、メタファーとなる道具を背景に置いたりするのもよくとられる手法である。 文章では、とくに語り手が主人公の身になって語っている場合、言葉の内容に加えて、「なぜ語り手はそれを見たのか」「なぜそのように見えたのか」「なぜそのように語っているのか」といったいったことによっても主人公の心理状態を示すことができる。たとえば、それまで容姿の説明がされなかった人物に対して急にその人物の説明が行われたなら、主人公はその人物を真っ向から見ているということになる。 ライトノベル的な手法 後説とは逆に、説明を次々と加えることで読者の興味を持続させる場合がある。小説のように長い説明が可能な媒体で発達したと思われる。作品内の世界に実在感を出すためにその世界の実例を交え読者のいる世界との共通項を出したり、もしくは科学的に見える(嘘でも構わない)説明を説得力があるように語ったりすることで、共感を生み出す手法である。前者は世界観を広げ、後者は新たな知識を授けそれが意外な場所で使われているということによって異化をもたらすが、同時に、脇道に逸れることで読者の注意を削ぐ恐れもある。 心理学が応用されていると思われる場面 たとえば最初、幽霊が出て、その問題の原因に思い至る直前に別の幽霊が出たとしよう。このとき、視聴者は二つの幽霊を関係のあるものとして見るはずである。このとき、視聴者は主人公が原因に思い至ろうとしたということを一時的に意識から外す可能性がある。人は過去の出来事に変更が加えられるとその間にあった出来事を忘れる習性があるからである。 ジャンルの問題 タイトルやあらすじ等で読者は事前にジャンルを意識している。読者が望んでいるものを提示しなければ顰蹙を買ってしまうだろう。眼鏡ヒロインとの絡みを望んでいたのにヒロインが眼鏡を外すような話を提示されたのでは面白くない。読者に対する裏切りは、この「ジャンル」に無関係な範囲で行わなければならない。 曖昧さは芸術性を生むとされているが、ある程度の確実さがないとそうした劇的な効果を上げることはできない。またシャーロック・ホームズシリーズにおけるワトソンの存在は、単なる解説役以上にホームズの凄さを強調し、言語化する側面もあるだろう。視聴者に強い感情を持ってもらうには誘導が必要なのだ。同様のことはジャンルの問題にも言える。 例えば三島由紀夫は『文章読本』の中で感情はダイレクトに書かなければならないと言っているし、また少女漫画家の松本美智子は『少女マンガの作り方』の中で、恋愛漫画は必ず最後に言葉で気持ちを伝えなければならないとしている。前述した叙述トリックの存在により、「もしかしたら嘘かもしれない」という疑いを読者に抱かせてしまうのを防ぐためである。ジャンルによって読者の求めるものに対してはハッキリとした言葉遣いが求められるのだ。 ・媒体ごとの違い 商業漫画/小説の場合 商業作品ではページ数が決められているため描きたい話が大体何ページで終わるのか掴んでおく必要がある。例えばSFならば必然的に要求されるページ数が多くなるし、絵本のようなファンタジーでは複雑な設定が必要とならないかもしれない。 報道やCMの場合 遠藤大輔は『ドキュメンタリーの語り方 ボトムアップの映像論』において、映像には「直接話法」「間接話法」「言説話法」の三種類が存在するとしている。直接話法はその名の通り、出来事を直接撮影した一次情報である。間接話法はその状況を目にした人の言葉であり、言説話法は、それらを元に作成した再現VTRのようなものである。言うまでもなく直接話法はほぼ疑いのない事実であるが、映像を作る者は自身の提示したい神話系に応じて映像を切り抜くため注意が必要である。 ・プロットを組むメリット/デメリット なぜここまで手間をかけてプロットを組み立てるのか? 一つは、こうすることで物語を矛盾なく進めることができるということ。 気分でつらつらと書いた文章は時に前後で致命的な矛盾を抱えることがあるが、そういうミスを少しでも減らすため。 もう一つは、あらかじめ予定を組むことで時間的にも内容的にも無駄なく創作するため。 逆に問題点としては、キャラクターが突然予定外の行動を取り始める、所謂「一人歩き」の妨げになること。 その回限りのゲストキャラに予想外の人気が集まって活躍させざるを得なくなった、などといった例もよくあることである。 もしそういう場面に向き合ったら、無理やり元の道を歩ませるのではなくキャラクターの歩く先にゴールが来るようプロットを修正するほうが、 キャラクターの魅力や作品の味が出たりとプラスになることが多い。 逆にキャラクターの演出に力を入れ過ぎると『DRAGON BALL』の鳥山明先生みたいに毎週「次回はどうなるんだ?!」という思いと戦いつつ、行き当たりばったりの矛盾だらけの展開を開き直って出さなければならなくなるが 例を挙げると『あしたのジョー』のライバル、力石徹は元々プロボクシングには参加しない予定だった為、主人公のジョーよりかなり大柄に描かれていた。 しかし読者からの人気が予想以上だったため、彼がプロボクサーとなってジョーと戦う展開に変更することになったのだが、前述の通り大柄に描かれていたことで プロボクシングでは避けては通れない「体重差があり過ぎるのでジョーと同じ階級で戦えない」という問題が発生してしまう。 この問題を解決する為に力石を13㎏近く減量させてウェルター級からバンタム級に変えるという常識的に考えてあり得ない方法を取らざるを得なかった。 (ジョーを太らせる手もあったが、太ったジョーと痩せた力石が戦っても絵にならないと判断された) 結果、無理にも程がある減量が原因でガリガリとなった力石はジョーとの試合後に死亡することになる。 (試合中に頭を打ったことが直接的な死因ではあるが、減量によって弱っていたことも要因なのは明らかであり、プロのトレーナーは力石のような減量をしたら間違いなく死ぬと断言している) プロットの甘さが原因で力石は死ぬ形になったが、そのヒロイックな死も彼が人気となる要素となっている。 (ちなみに編集部やテレビ局の人間は「力石を殺さない方がいい」と進言したらしいが、ちばてつや先生は彼の死を押し通したとのこと。飲み屋で力石の件で言い争いになった際に「(力石は)絶対に殺す!」と大きな声を挙げたことで通報されたというエピソードが残っている。) 創作の技巧は十人十色で、ライブ派とかライブ型とか呼ばれる、プロでもプロットを組まない人もいる。(代表例の一人が名探偵浅見光彦シリーズの作者の故内田康夫先生で、しばしばその作品の後書きで、「プロットを作らず創作していて、書いている途中まで自分でも事件の真相が分からない」旨を何度か記している。) 起:項目が建てられた 承:たくさんの人が読んだ 転:誤字や不適切な表現が見つかった 結:追記・修正で事なきをえた △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 文芸部で作品書いてるけど、正直これが無いとキツいな -- 名無しさん (2013-11-11 13 33 33) いくら構想しようがコレが無いならどうしようもない、たまに思い付きで書くこともあるが長編には欠かせない -- 名無しさん (2013-11-11 14 08 51) 自分は立てると周囲の評価ひっくい駄作しか産み出さないからいつしか立てるのやめたな -- 名無しさん (2013-11-11 20 27 42) 何年も練り上げたプロットより5分で考えた話の方が面白かった時の虚しさよ。 -- 名無しさん (2014-05-28 21 24 50) ↑確かに…… -- 名無しさん (2014-06-07 12 08 16) ↑↑何時間も会議やっててロクな企画が出てこない→休憩中とか飲み会の雑談で凄くいいネタが出てきた→それ採用、みたいなもんかw -- 名無しさん (2014-06-07 14 03 23) プロットは終わりを考えて逆算するやり方で書いてる。終わりが見えてないとグダグダになり作者自身も飽きる -- 名無しさん (2014-06-07 14 09 55) ↑ただ人によっては諸刃の剣で、終わりまで頭の中で完結してるから途中で自己完結して飽きる場合もある -- 名無しさん (2014-06-07 14 44 18) ↑あと商業作品の場合、「打ち切られた場合の終わり方」「延長させられた場合どうするか」も考えなくてはならない。 -- 名無しさん (2015-04-30 23 08 54) うまくプロットができたときの気持ちよさは最高だよ -- 名無しさん (2016-06-17 22 39 30) 小説の書き方の指南書はあるのにプロットの書き方の指南書がないのは何故だろう。プロットが上手く書ければ小説を書きやすくなるから指南書欲しいです -- 名無しさん (2016-06-17 23 32 09) ゼロの使い魔はヤマグチノボルさんがこれを残していたから志瑞佑さんが代筆で残り二巻を書けたんだよな。起承転までは出来ていたから結だけ書けばいいのもあるが -- 名無しさん (2017-09-30 11 21 17) ↑2 あるよ、アマゾンでプロットで検索してみ -- 名無しさん (2017-10-03 15 54 26) 慣れてくると登場人物が勝手に歩き出して「プロット?奴は死んだよ」とか言い出すから困る それが面白いんだけども -- 名無しさん (2017-10-26 21 35 53) ↑それができる人カッコいいよな -- 名無しさん (2018-11-14 20 15 28) 「帰納的」「演繹的」って実際にある言い回しなの? 本来の意味からだいぶ外れてると思うんだけど -- 名無しさん (2020-02-26 13 06 53) ↑3 バカめ、 -- 名無しさん (2020-04-29 22 19 45) ↑7 一種の戦術と戦略みたいなものかもね。小説の書き方が戦術で、プロットが戦略。で、基本的に読者が見たり求めているのは前者の方だからそこばかり重要視されてしまう。だから戦略=プロットが立てられておらず読者が注目しそうなシーンばかり考えていると行き当たりばったりになったり、話の収拾がつけられず必要以上に物語が長くなってしまう。 -- 名無しさん (2022-06-19 15 32 40) 若い頃はプロット?何それ?で成功を収める創作家は居るが…加齢により発想などが衰えても、なおこれをやろうとして酷い事になってる事例は現実に結構ある -- 名無しさん (2022-06-22 08 05 09) なんか自分は作品からこういうプロット部分を読み解いて、その構成がいかにうまく出来てるかに魅力を感じる所があるな。ただ、読み手としては若干邪道な楽しみ方な気もするし、連載作品で途中まではいい具合に積み重ねて行ってると感じてたのに、肝心のクライマックスで崩壊してた時のガッカリ感が酷い。商業作品だと崩壊の原因が作者以外の部分にありそうな事例も少なくないけど。 -- 名無しさん (2022-07-05 06 27 31) 漫画家だと松井優征先生あたりが上手い印象 週刊誌っていういつ打ち切りが決まってもおかしくない中で「いつ終わってもいいように」構成してるというか -- 名無しさん (2023-02-15 03 12 01) ↑結果的に見せ場が矢継ぎ早に来て人気作になるという。松井先生は謙遜されているけど、それができる作家は何人いるんだと…。 -- 名無しさん (2024-05-15 11 44 22) 名前 コメント
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地面が見つからない!!そのまま沈んでしまった。 G A M E O V E R
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登録日:2024/04/25 Thu 13 56 04 更新日:2024/06/15 Sat 04 56 10NEW! 所要時間:約 15 分で読めます ▽タグ一覧 ウォッチ 工業製品 時計 機械 腕時計 芸術品 腕時計(英:watch,wristwatch(*1))とは文字通り主に腕に巻き付ける形で装着する携帯式時計の総称。 なお、本項目では時計機能が主機能のもののみを解説する。 タッチスクリーンを備え、各種アプリを実行可能なウェアラブルなデバイスはスマートウォッチの項目を参照のこと。 ▽目次 ◆概要 ◆歴史 ◆種類 ◆主な部品 ◆複雑機構 ◆有名な時計メーカー ◆余談 ◆フィクション作品に登場する腕時計 ◆概要 現代社会において我々人類と時間の概念は切っても切れない関係にある。 今やタイムスケジュールは秒単位で緻密に組まれ、数秒、数分の遅れは玉突き事故のように連鎖的にトラブルを引き起こし、それだけでも社会に大きな混乱をもたらす。 故に意識をしていなくても、我々は日常生活の様々な場所において「時計」を目にしている。 それは掛け時計かもしれない。あるいは置時計、スマホの時間表示機能、テレビに表示される時報、モニュメントのような大時計かもしれない。 時間の概念を「可視化」する時計の登場をもって、初めて我々は「時間」を操る術を手に入れ、それは人類社会の発展に絶大な影響を齎した。 そんな時計を少しでもコンパクトに、そして便利に扱えるように改良することは、発展する社会をさらに便利にしてゆくうえで必然だったといえる。 そうした流れの中で機構の洗練を重ねて作り上げられた、小型化の極みこそが腕時計なのである。 とはいえ登場初期の頃は懐中時計こそがフォーマルで腕時計は社交の場に付けるのは略式とみなされる時代はしばらく続いたが。 ◆歴史 「時計」といってもその定義はだいぶ曖昧で、単純に1日の時間を「日の出」と「日没」で区切りそこに一定間隔のタイムテーブルを当てはめただけの単純な日時計ならば紀元前1500年ごろには発明されていたとされる。 そこから時計は発展を重ね、水時計や香時計などといったものが編み出されてゆく過程で後の機械式時計の基礎となる機械技術が作り出されてゆくのだが、時計といわれて我々がイメージするような機械式時計は今から約900年ほど前のヨーロッパで発明されたもの。 といってもこのころの機械式時計は機構の小型化が困難であったため、置時計や大掛かりな時計塔などといった大型かつきわめて高価なものであり、そこからさらに家庭用時計として洗練されるにはなお数百年の時間を要することとなる。 15世紀頃からガリレオの研究に端を発した革新的な振り子機構の発明により時計は急激に小型化、かつ正確化されてゆくこととなる。そうした流れの中で宝飾品や金細工などを扱っていたギルドがその技術力を生かして部品の小型化に着手。懐中時計が開発されてゆく。(*2)中でもスイスの時計師ブレゲの貢献は目覚ましく、時計の歴史を200年早めたとまで言われ、彼の開発した様々なデザイン、機構は現代の腕時計にも受け継がれているほどである。(*3) とはいえこの懐中時計もまだまだ我々の知る腕時計に比べれば大型であり、何より時刻を確認するためにいちいちポケットから取り出して見る必要があった。19世紀頃に一部の好事家や王侯貴族のような金持ちが「時計のついたごついブレスレット」のようなものを作らせていた記録があり、これが腕時計の端緒と言えなくもないが、やはり実用品と呼ぶには程遠く現代的な腕時計に直接繋がることはなかった。 現代的な実用腕時計が発明されたのは、意外なことにとある男の要望がきっかけだった。 20世紀、フランスはパリ。1903年に人類初の有人動力飛行を成し遂げたライト兄弟に続き、ある男が大空へと挑もうとしていた。 アルベルト・サントス・デュモンというその男は航空機械の発明家であると同時に、自身の発明した飛行船を乗り回す最初期のパイロットでもあった。 航空機械を使っていかに速く飛べるかは当時の至上命題であり、また高空にあって時間を知るすべに乏しいパイロットにとって時間を測るための懐中時計は必須アイテムだった。しかし先述の通り懐中時計は見るためにいちいちポケットから取り出す必要がある道具であり、操縦桿を握っているパイロットには非常に扱いづらいものだったのである。 1904年、デュモンは航空機の操縦中にも視認しやすいよう、腕に巻いて固定できる時計の制作を親友であるルイ・カルティエに依頼する。これに応える形で作られた、四角いケースが特徴の腕時計こそが「サントス・ドゥ・カルティエ」。現代式の腕時計の元祖である。 当時最先端のファッションを着こなす伊達男だったデュモンのこの腕時計は瞬く間に社交界で話題となり、様々な時計メーカーも開発製造に乗り出した。 第一次世界大戦では軍人からも評判を集め、特に砲兵や将校からは戦場で素早く時刻の確認ができる腕時計が非常に重宝され、おりしも戦場で猛威を振るい始めた航空機のパイロットからも愛用されるようになった。(*4) 中でもユグノー戦争でフランスから逃れてきた時計職人を多数擁するスイスの技術力は飛びぬけており、後々世界を席巻する高級時計メーカーの多くを輩出したことでそうした富裕層の太客を抱え、一大時計生産地としての名声を確固たるものとしていた。(*5) そうした中、1960年代に入り、日本の時計メーカーが開発したある時計が腕時計業界に激震を齎すこととなる。 SEIKOが開発した「アストロン」。世界初の実用クォーツ式腕時計である。 それまでの機械式腕時計は、部品の精度や置かれた環境によって針の進みに狂いが生じやすく、それを防ぐために非常に緻密で高精度の細工と、定期的なメンテナンスが求められる代物だった。だからこそそれを実現できる職人は限られ、大量生産もできず、品質の高い腕時計はやはり裕福な資産家の特権といえるものであった。 アストロンはその常識を打ち砕いた。発達した工業技術により開発された集積回路に、クォーツ振動子を利用した調速機を組み合わせることにより、信じられないほど小型で、機械式時計などよりはるかに正確で頑丈で、おまけにゼンマイを巻かずとも電池を変えるだけで半永久的に動き続ける時計が、工場で安価に大量生産できるようになってしまったのだ。(*6) クォーツショックの発生である。 この一撃により、それまでの機械式腕時計はもはや実用品としての価値を失ってしまった。既存の時計産業は壊滅的な打撃を受け、ブランパン、ユニバーサル・ジュネーブ、エニカ、ミネルバ、IWC、ゼニスなど老舗の高級時計ブランドもバタバタと倒産していった。(スイスには1970年代時点で1618社あった時計メーカーが1980年代には632社にまで減少してしまった。) その一方、安価な実用時計の登場により腕時計は広く一般市民にも広まってゆく結果となり、今や誰しもが「自分で時間を管理する」社会となったのだった。 しかしここで時計業界も黙っていたわけではなく、スウォッチを旗印にロンジンやオメガなどといった有名メーカーを束ねたスウォッチグループ、カルティエを中心にブランド宝飾品メーカーなどを集めたリシュモングループ、ルイ・ヴィトンを盟主に据えたLVMHといったコングロマリットを結成。 安価な実用品ではいずれ工業生産能力の劣る国は価格競争に負けて埋没してしまう。そうなってしまえば中国のような人海戦術で大量生産を行える国に対して勝ち目がない。(*7) そのため厳密な品質管理のもと実用品としての価値ではなく、贅を凝らした工芸品としての立場から新たな価値を構築することで巻き返しを図った。 これが功を奏し、一時期は絶滅の瀬戸際にまで立たされていた機械式時計は、現在でもロレックスなどをはじめとした高級なブランド品としての立場を維持し続けることに成功している。 今やスマホでいつでも時間が見られる時代、もう時を司る道具としての役割はほぼ終えてしまった腕時計だが、必要でないからこそ、『必需品でないものに金を掛けられる贅沢』を嚙み締められる、そんな存在になったのだと言えよう。 ◆種類 歴史の項でも触れたが、腕時計はムーブメント(動力機構)によって機械式とクォーツ式の2種類に大別できる。 機械式伝統的な歯車とゼンマイの機構によって動作する。繊細な細工を要する金細工職人の手で洗練され続けてきたその構造はまさに芸術品と言っていいほどの出来栄えであり、品質の高い機械式というだけで付加価値と見なされる。基本的には内蔵されたゼンマイを動力とするわけだが、ここに脱進機と呼ばれる機構を組み込むことによってゼンマイの解けようとする力を周期的な振り子運動に変換して歯車に返す。より具体的にはゼンマイに連結された歯車(*8)の終端に「ガンギ車」と呼ばれる歯車が連結されており、これに「アンクル」と呼ばれる爪の付いた振り子を噛み合わせることで「ヒゲゼンマイ」と呼ばれる部品に動力を伝える。このヒゲゼンマイが力を受けて収縮→力を開放してほどける、を繰り返すことでアンクルを左右に振れさせる。振り子の等時性(*9)により時間あたりの振幅回数は一定になるため、これを利用して歯車全体の回転速度を一定に保ち、時計の針を正確に動かすのだ。とにもかくにも非常に細かい部品を精緻に仕上げる技術力が必要であるため、機械式ムーブメントを自社開発できるメーカーはかなり限られており、有名どころのメーカーもムーブメントは他社製の物を搭載していることがある。欠点としてはやはり高度な工作技術がなければ作ることができない以上大量生産に向かず、高額になりがちな点、非常に精密な機械であるため定期的な分解整備は必須になるなど維持が難しく、操作を誤ったり衝撃が加わったりすると内部機構が破損しかねない繊細さも弱点。クォーツ式に比べると手作業で作る分個体差もあり、精度を確保するのにも限界がある。機械式腕時計は1日10秒以内のズレで済めばいい方で、製品によっては1日30秒程度ズレても仕様の範囲なので初めて持つ人は驚かないように。このため正確な時刻を知るためには毎日時報や電波時計を見て調整する必要がある。それを面倒がって、腕時計はアクセサリーと割り切り時刻の確認にはスマホを使うなんて人も・・・最近は大量生産された工業製品のムーブメントも出回っており、お手頃価格の品も登場している。…のだが、このせいで後述する偽造品も出回るようになってしまってもいる。また、この機械式の中には竜頭(後述)を手で回してゼンマイを巻き取る「手巻き」と、腕時計内に仕込んだウェイトを利用し、腕の動きを利用してこのウェイトを回し、それでゼンマイを巻き取る「自動巻」の2種類が存在する。自動巻きは着用して動けば勝手にゼンマイが巻かれるため、毎日つけていればほとんどゼンマイを意識する必要はなくなる。機械式及び下記のクォーツ式の一部の時計の性能表記に『石数』という表示が見られることがあるが、これは時計の指針や歯車の軸に『受け』として埋め込まれている宝石のルビーの数を表している。このルビーが絶妙な耐圧・耐磨耗性を発揮しており、より長期間に渡って針や歯車の稼働を支え、正確な時刻を刻ませている。ちなみにルビーはコスト的に現在は人工ルビーであるが、発明当時は天然物が用いられていた。また一時期は人工ダイヤモンドを用いて試験していたが、硬すぎて石より軸の方が削れてしまった為、ルビーに統一されている。 クォーツ式ゼンマイと脱進機の代わりに水晶振動子と制御用の基板とICチップ、動力源の電池を搭載した物。水晶の「電圧をかけると周期的な振動を発する」性質を調速機として利用することで機械式ではありえないような頑丈さと精度、量産性を実現した文明の利器。特に精度は機械式を圧倒しており、安価なものでも誤差は1ヶ月で15秒以内くらいに収まる。構造が非常に単純なので機械式のように定期的なオーバーホールはほぼ不要で2、3年に一度程度電池を変えるだけで半永久的に使い続けることができ、ソーラー式のものはその電池交換さえ不要。時刻を針で示すのではなく文字として表示するデジタル時計もこちらに分類される。こちらは物理的に動く部品がほぼないためクォーツ式アナログ時計にも輪をかけて丈夫になりやすく、頑丈さに定評のあるG-SHOCKもデジタルの製品が先に登場している。いわゆる電波時計も基本的にはクォーツ時計として動作しており、定期的に電波を受信して誤差を修正する仕組み。弱点としてはやはり電子機器であるため電池が消耗してくると狂いが大きくなってきてしまう点や、電池が切れたまま放置すると経年劣化による電池からの液漏れで破損する可能性がある事があげられる。また機械式ほど複雑な機構を要さず、歴史が浅いことも相まって高級路線の製品は少なく、持ち主のステータスを誇示するアクセサリーとして着用するのには向かない。 ◆主な部品 ベゼルベゼル(額縁)の名の通り時計の文字盤を防護するための風防ガラスをぐるりと縁取る部品。本来は風防を時計のケース(外装)に固定するための部品なのだが、ここに様々な機構を搭載することで時計の用途に応じた追加機能を実装することができる。 + 様々なベゼル タキメーターベゼルレーシングウォッチなどに搭載される、自身の移動速度を計測する目盛りが付いたベゼル。同時に搭載されているクロノグラフ針(60秒単位のストップウォッチのような機能)を利用し、1kmを走り終えた後に針がベゼルのどこを指しているかを確認することで平均時速を割り出すというもの。 逆回転防止ベゼルこちらはダイバーウォッチに搭載されるベゼル。ベゼル部分には分刻みの目盛りが描かれており、潜水開始時に時計の長針に目盛りの始点を合わせることで自身が何分間潜水しているかを計測できる。飽和潜水など長時間潜水するダイバーにとっては無くてはならない機能であり、逆回転によって目盛り位置がずれると潜水時間を間違えて死に直結するため逆回転防止機能が搭載されている。 GMTベゼル逆回転防止ベゼルと異なり、右にも左にも回転できるベゼル。こちらはベゼル上にも時刻表示があり、ベゼルを回転させることで今いる地点とは時差のある別の国の現地時間を知ることができる。仕事の都合上世界中を飛び回る必要のある航空機パイロット用の腕時計に搭載される。 パルスメーターベゼルタキメーターベゼルのように数値の記載されたベゼル。パルスメーターの名前の通り心拍数を計ることができる機能が付加されており、基本的な使い方もタキメーターベゼルと同様、一定回数の拍動を数えた時点でクロノグラフ針が指している場所の数値が心拍数となる。現代ではもっと正確で手軽な脈拍計が存在するのでほぼ見かけない。 リューズ(竜頭)時計のケース側面に飛び出しているネジ状の部品。クォーツ時計では単に時刻合わせを行うだけのものだが、機械式時計ではゼンマイの巻き上げにも使用する。物によってはカレンダー機能の調節などに使われることも。音の響きから勘違いされがちだが歴とした日本語であり、漢字では「竜頭」と書く。ちなみに英語では「Crown」、ドイツ語では「Krone」と冠を指す語で呼ばれがち。なぜこう呼ばれるようになったのかは結構複雑な経緯があったりする。 + 竜頭の由来 元々「竜頭」は時計の用語ではなく、釣鐘の上部、縄を引っ掛ける部分の事を指した。 …というのもここは単なるわっかではなく「蒲牢(ほろう)」という竜の子の装飾があったから。 時代が下って明治初頭、懐中時計が西洋から輸入されてくるが、この時点で竜頭には時計を巻き上げる機能は無かったため、「本体を鎖で釣る部分」のことを釣鐘同様に竜頭と呼ぶようになった。他言語で冠と呼ばれるのは、円形である時計の上下を区別するパーツでもあったから…という説がある。 更に時代が下って19世紀、竜頭巻き上げ機構の発明により単なる吊り輪から竜頭は時計のパーツになり、腕時計が発明され吊り輪の機能を失っても竜頭と呼ばれ続けることになったのである。 文字盤時刻などを表示するための時計において最も基本的な部分。それだけに時計で最も人目に触れる部位であり、視認性に気を配ったりデザイン性を追求したりなどで様々な工夫が施される個所でもある。例えば文字盤の照り返しを抑えることで昼間でも視認性を高めるように工夫された「ギョーシェ彫」など。(*10) + 様々な追加機能 インダイヤル一般的なダイヤルとは別にインダイヤルと呼ばれる小さい文字盤のようなものを組み込んで追加機能を実装しているケースがある。例えばクロノグラフ機能搭載モデルは一般的な時計における秒針が存在せず、代わりにインダイヤルによって秒を表示するケースがある。それ以外にも12時間計、24時間計、10分計など求められる役割に応じた様々なインダイヤルが存在する。 デイト機構いわゆるカレンダー機構。今日の日付を確認できるようになっているのだが、加えて曜日の表示もできるようになっているものもありこちらは「デイデイト」と呼ばれる。 ケースムーブメント(内部機構)を収めて保護するための外装。チタンや硬質ステンレスなど耐食性に優れた頑丈な素材で作られるケースが多いが、金属アレルギーに配慮した木製ケースなども。一般的な丸型以外にも長方形(レクタンギュラー)、正方形(カレ)、樽型(トノー)など様々な形状があり、中にはフランク・ミュラーのように特定の形状のケースをトレードマークとしているブランドもある。 ◆複雑機構 機械式時計は時代を経るにつれて様々な情報を把握するための便利ツールとしての側面を深めて行き、その過程で使いやすくするための様々な機能が追加されていった。 その中でも実装のために特に高度な技術を要し、搭載するだけでも困難が伴う複雑な機構が存在し、それらを「七大複雑機構」と呼ぶ。 これらの機能は情報化社会の現代においてはもはや不要ではあるものの、その機構の複雑さと精緻さは見ているだけでも楽しい、高級時計の醍醐味ともいえる存在である。 トゥールビヨンその昔懐中時計がまだ実用品だった頃、携帯式の時計には一つの問題があった。置時計と違い、懐中時計は持ち運ぶ関係上常に一定の姿勢下で使われるわけではない。姿勢が変わると脱進機にかかる重力の向きが変わり、針の進むスピードにムラが発生して精度が落ちてしまう。(*11)そこでゼンマイバネごと脱進機全体を回転させてしまうことで負荷のかかり具合を分散させ平均化するという発想が生まれた。これがトゥールビヨン機構である。(*12)腕時計は懐中時計以上に小型に作らねばならず、しかも姿勢差も懐中時計よりはるかに大きいため、搭載するのは困難を極める。ましてやほかの複雑機構も同時に搭載しようなどと考えた暁には… ミニッツリピーター作動させるとムーブメントを取り巻くように内蔵されたゴングが音を鳴らして時刻を教えてくれる機構。明かりが乏しく文字盤が見えない時でも時刻を知るために編み出された。(*13)基本的には高音と低音の2つの音を使い、1時間単位を低音、高音と低音のセットで15分単位、高音で1分単位を表現する。例えば低音が10回、セットが2回、高音が3回鳴ったら午前10時33分であることを表す。腕時計ケースの限られたスペースの中に果てしなく複雑な機構を詰め込む必要があるため、これを搭載するような腕時計は最高級の芸術品と言って差し支えない。 永久カレンダー腕時計の中には日付表示機能を搭載したモデルもある事は先述したとおりだが、腕時計の日付表示は31日分あるため、このままでは30日以下の月は手動でカレンダーを修正しなければならなくなる。永久カレンダーはユリウス暦に完全対応し、なんと日付のズレを自動修正してくれる機能がついている。(*14)親切なことにちゃんと閏年も計算に入れて自動修正してくれるので着けっぱなしにしてもいちいち日付を修正する必要がない。(*15)こちらも小型化して搭載するためには果てしなく高い技術力を要する代物であり、上記2つと合わせて「世界三大複雑機構」とも呼ばれる。 スプリットセコンドクロノグラフクロノグラフとは要するにストップウォッチ機能のことなのだが、スプリットセコンドクロノグラフでは1つの軸に2つの針が搭載されており、ボタンを押すと片方の針が停止してラップタイムを記録することが可能。再度ボタンを押すと先行するもう一つの針に追いつくように針が回転し、再度ラップタイムを計測できるようになる。気付いたかもしれないが、これらの機構はすべて時計を動かすゼンマイから供給される動力のみで制御されている。特にクロノグラフに関してはただでさえ小さい力をさらに細分化して動かしているため、それをさらに2分割して針2本を動かすというのは果てしなく難しい。 レトログラードフランス語で「逆行」を意味する言葉だが、こちらは扇状の目盛りの上を針が行ったり来たりしながら時間や曜日を表示する機能である。目盛りの端まで針が移動すると瞬時に反対側まで針が巻き戻り、再度同じ動作を繰り返すのでこの名前で呼ばれる。巻き戻りが遅いと時間表示にズレが生じてしまうため、実装するのは至難の業。 パワーリザーブインジケータ機械式腕時計のゼンマイの残り動力を表示してくれる機能。要するに電子機器でいうところのバッテリー残量表示機能のようなもの。 ムーンフェイズ月相盤とも。文字通り月の満ち欠けの状態を教えてくれる機能。 ◆有名な時計メーカー パテック・フィリップ1839年にスイスで創業した時計工房を前身とする老舗時計メーカー。現在の社名は共同創業者の一人、アントニ・パテックと同社の中興の祖ともいえる時計職人、ジャン・フィリップに由来する。後述する2メーカーと合わせて世界3大ブランドを成す時計メーカーの一角であり、その中でも筆頭とされる名実ともに世界最高峰の時計メーカーである。懐中時計用の機構だったパーペチュアルカレンダーを世界で初めて腕時計に搭載したのも同社。ミニッツリピーター、トゥールビヨン、永久カレンダーの3大複雑機構を贅沢にも3つすべて搭載してのけた「グランド・コンプリケーション」はパテック・フィリップのマスターピースと言える逸品。特にミニッツリピーターの音色は他のメーカーの製品と比べても明らかに違いが分かるほど美しい。(*16)それ以外にもシンプル過ぎるほど簡素な見た目に技術の粋が詰まった異次元の極薄ムーブメントを搭載する「カラトラバ」、潜水艦の舷窓をイメージした八角形のベゼルが目を引く「ノーチラス」といったモデルが良く知られている。品質管理にも余念がなく、ジュネーヴ・シールは当然としてそれよりもさらに厳しい自社基準の「パテック・フィリップ・シール」を設けてそれに適合した商品のみを販売する徹底ぶり。歴代顧客にもヴィクトリア女王、ウォルト・ディズニー、チャイコフスキー、アインシュタインなど誰もが聞いたことのあるであろう名だたる名士がずらりと並んでいる。それだけにお値段も数百万~数千万円と破格。成金などではない本物のセレブでなければ一生お目にかかることはないだろう。 オーデマ・ピゲ1875年にスイスで設立された高級腕時計メーカーで、3大時計ブランドの一角。社名は創業者のジュール・オーデマとエドワード・オーギュスト・ピゲから。製品にはミニッツリピーターやムーンフェイズといった複雑機構も搭載されており、その品質、技術力の高さはパテックフィリップに引けを取らないほど。世界初の腕時計用ミニッツリピーターは同社の創業者の一人、ジュール・オーデマの発明品。そのためか複雑機構の中でもミニッツリピーターには特に強いこだわりがあり、作品の一つスーパーソヌリは、ローザンヌ工科大学と共同で8年もの歳月をかけて作り上げた逸品となっている。スポーツウォッチ界にパラダイムシフトをもたらしたとされる傑作「ロイヤルオーク」シリーズが有名。 ヴァシュロン・コンスタンタン1755年にスイスのジュネーブでジャン=マルク・ヴァシュロンにより設立された時計工房を前身とする時計メーカー。マルタ十字がトレードマークの3大ブランドの一角で、業界でもブレゲやブランパンに比肩するほどの老舗。現在の名前は三代目のジャック・バルテルミー・ヴァシュロンが同郷の商人フランソワ・コンスタンタンを共同経営者としたことに由来する。上述の2社と同じく高度な技術力で複雑機構を複数搭載した製品を製造しており、オーヴァーシーズ、パトリモニー、フィフティー・シックスなどが代表作。ちなみに3大ブランドはいずれも製品の永久サポートを実施しており、自社の製品ならどれほど昔の、それこそ懐中時計時代のような骨董品でも依頼すれば修理してくれる。(*17)以上3ブランドは時計業界の中でも異次元の雲上ブランドと言われ、中古品ですらも数百万円という高額で売り買いされている。 ブレゲ本項でもたびたび言及される時計師ブレゲが1775年に興した時計工房が前身の時計メーカー。3大ブランドほどではないがそれに次ぐほどの格式と優れた技術力を有した老舗の一流メーカーで、フランスの王侯貴族からも絶大な人気を誇った。マリーアントワネット、ナポレオンなども顧客として名を連ねている。前述の通りブレゲは天才的な時計師で、丸く穴の開いた「ブレゲ針」、当時としては破格の精度を実現して見せた「ブレゲひげゼンマイ」、文字盤の照り返しを抑えて視認性を高める「ギョーシェ彫り」などなど現代の時計にも連なる数々の発明を世に残したほか、1800年代にナポリ王妃の依頼で世界初となる腕時計を作ったという記録も残っている。クラシック、マリーン、タイプXXなどが代表作。 ブランパン名前を検索するとブラン入りのパンが出てくるので紛らわしい1735年創業の老舗時計メーカー。厳密にはクォーツショックの時期に一度倒産しており創業当時の企業体制がそのまま続いているわけではないのだが、一応現存する時計メーカーとしては世界最古である。複雑機構を搭載したヴィルレ、ダイバーズウォッチ仕様のフィフティ・ファゾムスは同社の看板商品。モータースポーツ好きの人々には「名前は知ってるけど何の会社だか知らない」という人が非常に多かった会社でもある(*18) カルティエわずかでもジュエリーやブランドに知識のある人ならば知らぬ人はいない、「王の宝石商」と称えられたフランスの超一流宝飾品ブランド。前述の通り、現代に連なる実用腕時計の発明を担ったのがこの会社である。(*19)時計業界へのカルティエの参入はのちの宝飾時計業界の嚆矢となった。元が時計専門ではなかったため長らくムーブメントは外注品だったが、2010年に自社開発に成功し、念願のマニファクチュール化を達成した。代表作は現代にも残るサントス・ドゥ・カルティエ、自社開発のムーブメントを搭載した第一作のカリブル・ドゥ・カルティエなど。 ロレックス日本でお高い外国製の時計と言われれば多くの人が真っ先に想像するであろう超有名メーカー。もともとはロンドンで1905年に創業した輸入時計商社だったが、イギリスがスイス製の時計に高額な輸入関税をかけたため本社をスイスに移し、その過程で技術者を雇い入れて時計を自社製造するようになった。同社の売りはなんといってもデザイン性と機能性を高い次元で融合させた設計で、高磁場や高水圧、低気圧に晒されるような環境下で使用することを想定したモデルの開発も行っている。その技術の粋が詰まったモデルがダイバーズウォッチシリーズであり、その一つであるディープシーチャレンジはなんと水深10000m、マリアナ海溝の底の水圧にも耐えられるとか。(*20)また同社はロレックス3大発明と称される自動巻き機構(パーペチュアル)(*21)、デイトジャスト機構(*22)、オイスターケース(*23)を発明したことでも知られる。代表作はシードゥエラー、GMTマスター、オイスターパーペチュアルデイトジャストなど。 オメガこちらも日本でお高い外国製の時計と言われれば多くの人が真っ先に想像するであろう超有名メーカーの一つ。現在はスウォッチグループの傘下企業。時計としての精密さでその名を知られたメーカーで、自社開発したムーブメントを搭載した「コンステレーション」はCOSC(*24)の検定に合格し、同社製の時計は1932年のロサンゼルス大会以来オリンピックの公式時計として採用されている。また人類初の月面着陸となったアポロ11号のミッションの際に宇宙飛行士が身に着けていたのも同社の「スピードマスター」で、以来オメガの時計はNASAの公式装備品として採用されているなど数々の華々しい実績を持つ。同社の編み出した「コーアクシャル脱進機」は部品の摩耗を極限まで減らし、一般的な時計の倍以上の期間のメンテナンスフリーを実現する夢のシステムで、オメガの時計にはほぼすべて搭載されている。以外にも(あくまでほかの数十万~数百万円もするような超高級品と比してではあるが)お手頃価格の商品もあるので、気になった方は一生ものの時計として1つ買ってみてはいかがだろうか。代表作はスピードマスターシリーズ、シーマスターシリーズなど。 フランク・ミュラーフランク三浦(*25)1992年という比較的最近に設立された腕時計メーカー。創業者は現在も存命中のフランク・ミュラー。ミュラーは「ブレゲの再来」とまで言われた天才時計師で、ジュネーブの時計工学校3年過程を飛び級して1年で卒業、卒業制作の材料として与えられた時計部品を改造してパーペチュアルカレンダー機構搭載時計を作るなどその技術力はとびぬけていたという。同社の時計はトレードマークのトノー型ケースとユニークなデザインのビザン数字インデックス(*26)を採用したクラシカルで優美なデザインが特徴的で、搭載された複雑機構が織りなすムーブメントの美しさを堪能できるスケルトンケースの製品も製造している。また多数の傘下ブランドを抱えており、中でもミュラーの直弟子が立ち上げたピエール・クンツは「レトログラードの魔術師」と呼ばれる超絶技巧が売り。なんとあのパテック・フィリップにも納品していた実績もある。トノウカーベックス、ロングアイランドなどが同社の定番モデル。 ルイ・ヴィトンLVMHグループのトップであるルイ・ヴィトンも、実は時計メーカーの一角。もともとLVMH傘下にはゼニスがいたので同社製のムーブメントを搭載した腕時計を製造販売していたのだが、2014年にジュネーブに自前の時計工場を設立してムーブメントの自社開発に取り組み始めた。同社はもどもと旅行用品を製造していた会社であるため、トラベルウォッチという観点からルイヴィトン・タンブールなどの製品を製造。ジュネーブシール認証を受けた製品の開発も成功させている。 スウォッチスイスメイドながらクォーツ式をメイン、しかも普段使いし易いポップで安価な時計で有名なメーカー。というのもグループとしてミドルレンジにティソ、アッパーレンジにオメガ、ロンジン、ブランパン等多数ブランドを抱えているので、スウォッチ本体として作る必要が無いというのもある。クォーツショック後のスイスを立て直すべく設立されたという経歴があったりする。社名のスウォッチはスイスの時計ではなく、新しい時計を指す「Second Watch」の略とのこと。以前ベンツと共同でスマートを作って大赤字になったのは黒歴史。 SEIKOご存じ我らが日本の時計のトップブランド。日常生活のあらゆる場面でもはや同社製の時計を目にしない日はないと言っていいほど。1881年に服部金太郎が設立した「服部時計店」を前身とする会社で、1913年の日本初の国産腕時計開発、1969年のクォーツ腕時計発明など日本の時計産業の発展にはその名を欠かすことができない存在である。日本企業らしく堅実かつ高品質な実用品の時計を多く作っており、著名人にもコレクション用の高級時計とは別に普段使い用としてSEIKOの時計を愛用しているという人が少なくない。安価な普及品を大量生産する会社だが、創業当初の高級時計路線を受け継ぐ「グランドセイコーシリーズ」は、同社の発明した「スプリングドライブ機構」(*27)を搭載し、複雑機構も搭載したこだわりの逸品。 CITIZEN国産時計ブランドとしてSEIKOと双璧をなす時計メーカー。1918に実業家の山﨑亀吉が設立した「尚工舎時計研究所」を前身とする。ミヨタを傘下とする同企業製のムーブメントは工業生産品として絶大なシェア率を誇り、かつては世界シェア1位に輝くほどだった。現在でも世界シェアの約3割を占め、安い中国製の腕時計でも中身はミヨタのムーブメント、というケースもある。ちなみに世界初の多局受信型電波腕時計はCITIZENが1993年に発明したもの。(*28)こちらも安価な普及品を大量製造している会社だが、同社製の「カンパノラ」シリーズはクォーツ式ながらミニッツリピーターやムーンフェイズなど複雑機構を再現した製品で、星空をイメージした神秘的なデザインが美しい芸術品。また「アテッサ・エコドライブ」シリーズもお手頃価格ながら高級感あふれるデザインとソーラー式による長期間のメンテナンスフリーを両立した製品となっている。 CASIO時計に詳しくない人はどちらかと言うと電卓を作っている会社のイメージが強い、日本の精密計算機メーカー。1946年設立の樫尾製作所を前身とする。時計メーカーとしてはとにかく壊れないことで有名な「G-SHOCK」で有名で、新発売当時に「アイスホッケーのパックの代わりに使い、キーパーがシュートをキャッチしたところで普通に動いていた」というセンセーションなCMで一大ブームを巻き起こした(*29)。映画「スピード」でキアヌ・リーブスが着用していたことから日本でもブームが広がり、限定モデルはアホみたいなプレミアが付いたことも。ノーマルモデルは20気圧防水を謳っているが、ガチの潜水用として「FROGMAN」や更に劣悪な環境を想定した「MUDMAN」等『Master of G』というスペシャルモデルも存在する。G-Shockの他にも山での使用を想定し、電子コンパスや気圧計を装備した「Pro Trek」シリーズが有名。一応普通の時計もラインナップされているが、エクストリームウォッチといえるこの2種が有名過ぎて影が薄い。またいわゆるチープカシオ系の時計は1500円〜という激安価格ながら実用時計としては十分すぎるほどの機能性・頑丈性を備え、海外の著名人にも愛用者が多い。 ◆余談 コピー品そもそも高級腕時計はそのムーブメントを製造すること自体に非常に高い技術力を要するものであったため、それが一種のコピープロテクトとして働く側面があった。しかし近代における工業技術の発展により、機械式の腕時計でも安価に工業生産品として量産できるようになってきたため、その弊害としてガワだけ真似た偽造品まで出回るようになってしまった。高級時計ブランドはブランドイメージを崩さないよう各社細心の注意を払っており、細かい部分に至るまで決して手を抜かないため、偽物はそういった「細部の雑さ」が見極めのポイントとなってくる。例えば〇リューズやベルト固定用のバネ棒を通す穴、ケースの縁、内部の針などのバリ取りが適切にされているか。(*30)〇塗装がいい加減でないか。(*31)〇シリアル番号と製品型番の法則が一致しているか。(*32)といった特徴を見分けることで、大半の粗悪な偽物は弾けると言っていい。バナー広告で見かける異様に安いロレックスなどは100%偽物なので絶対に手を出さないこと。特に中国広州市に所在するNOOB工場は俗にN級品と呼ばれる恐ろしく精巧な偽造品を製造することで悪名高く、時に熟練鑑定士ですら騙されるほどのスーパーコピーが出回ることもあるという。 素材について精密な機械を搭載する関係上頑丈性を求めてステンレスが使われた物が多いのだが、金属アレルギーの人は錆止めのためのニッケルメッキやステンレスの割金に使われるクロムによって肌荒れなどのアレルギー反応を引き起こすことがある。アレルギー対策にニッケルフリーのチタンケースや金のケースが使われていることもあるが、竹をはじめとして黒檀、ウォルナットといった木材を使ったユニークなデザインの物もある。それぞれの素材ごとに違った風合いを楽しめるので、気に入った素材の時計を探してコレクションしてみるのも一興だろう。 資産前述の通り高級な有名メーカーの製品ともなれば数十万、時に数千万というような高額品になることも多く、腕時計は単なるコレクションや実用品としての枠にとどまらず、高価な芸術品として資産運用の側面も持つ。それだけに様々な犯罪の汚い収益源として利用されてしまうケースも多く、2023年には銀座で闇バイトに応募した未成年4人による強盗事件が発生(*33)し、2024年1月のトケマッチ事件ではオーナーがシェアサービスのために預けていた時計を社員が売り捌いた挙句蒸発する巨額詐欺(*34)に発展。それだけでなく関税逃れのための密輸事件、前述の偽造品による詐欺事件などが発生し大きな被害を生んでいる。 マニファクチュール前述のとおり機械式ムーブメントは製造開発に極めて高度な技術力を要するため、そもそも自前で作れる会社自体が非常に限られている。自社で機械式ムーブメントの開発、製造、組み立てを完結できる体制を「マニファクチュール」と言い、これを実現することが一流ブランドの第一歩となる。そのマニファクチュールでも、ムーブメントの部品まで自社で製造できるメーカーはほんの一握りしかなく、その中でも構成部品全てを自社製造できる技術を持ったメーカーは本当に数少ない。(*35)。今でこそ自社製のムーブメントを搭載しているロレックスやウブロ、オメガなども、かつては外注品のムーブメントを搭載する製品を製造していた。(*36)逆にそうした技術のないメーカー向けに汎用ムーブメントを製造するメーカーもある。(*37)前述のCITIZEN傘下のミヨタ製ムーブメントはその代表例で、一時期はなんとスイス全土で作られるムーブメントの総数を上回る数の製品を1社で供給する化け物じみたシェア率を誇っていた。それ以外にもスウォッチ系列の時計で用いられているETA製ムーブメント、セリタ製、SEIKO製、天津シーガル製などが挙げられる。こうした汎用ムーブメントは製造数の多さから部品の供給が豊富かつ修理も簡単なため非常に安価に供給でき、品質も安定しているというメリットがある。逆にデメリットとしては同じムーブメントを搭載する関係上採用機種はいずれも似たり寄ったりな出来になりがちで、自社で製造できない以上供給メーカーの方針の如何によって納品状況が左右されてしまう点がある。(*38) ◆フィクション作品に登場する腕時計 単純に時間を見るシーンが圧倒的だが、形見の品やプレゼントなど人情エピソードのアイテムとして登場することも。 持ち主の利き手、富者、待ち合わせ中など人間観察の材料としても登場する。 ミステリー作品では強盗殺人(に見える)のに被害者の高級腕時計が盗られてないのは不自然、普段着用している腕時計をなぜか着けていないなど時間と関係ない要素で関わってくることもある。 性別年齢を問わず身に付けられる、華美過ぎない限り身に着けていても全く怪しくない、フォーマルな場ならむしろ身に着けていて当然な装身具なため、何らかのギミックが仕込まれた腕時計は創作のみならず実在さえする。 ましてやフィクションであれば、武器からサポート用品まで実に多種多様。 また、腕時計自体が手首に固定して簡単に外れないことを求められることから、相手の自由を奪って意のままに操ることを目的とした拘束具として用いるといった側面もある。 例えばガンアクション系作品において、どこへ逃げても居場所がわかるよう発信機が内蔵されていたり、タイマーや衝撃、あるいは遠隔操作によって爆発するので従わざるを得ないようにさせるなどが代表例か。 腕時計型麻酔銃(名探偵コナン) 阿笠博士の発明品の一つにして代表。 江戸川コナンが主に毛利小五郎に麻酔針を発射して眠らせ、眠った彼を使い推理ショー行う……という流れは最早日本人なら知らぬ者は居ないだろう。 詳細は項目にて。 007シリーズ MI6の諜報員、007ことジェームズ・ボンドの秘密アイテムといえば多彩な装備が詰め込まれた車「ボンドカー」が有名だが秘密機能付き腕時計もまた定番。 初期はロレックスだったが、セイコーを経て1995年の第17作『ゴールデンアイ』(ピアース・ブロスナン時代)からはオメガで統一されている。 秘密機能は作品にもよるがカッターだったりレーザーだったりと非常に多種多様。 ルパン三世の腕時計 これまた作品によって多彩な腕時計を使用している。 『カリオストロの城』やPART4ではワイヤーが仕込まれた腕時計を着けていたが、他にも作品により様々。 『ヘミングウェイ・ペーパーの謎』ではご都合と言われればそれまでだがガイガーカウンターとしての機能を持った腕時計を着用しており、それがお宝の正体を暴く事に。 賭博破戒録カイジ・1日外出録ハンチョウ 地下労働者は一日外出券を購入した枚数分の日数だけ地上への外出が許されるが、その際腕時計を着用させられ、かつ施錠される。 この腕時計は外出者が逃亡できないよう発信機を内蔵しており、地上にいられる残り時間も表示される。 なお残り時間のカウントダウンは外出者が公園などで目覚めたことを監視役の黒服が確認次第、遠隔操作にて開始する。 時間を止める腕時計 時間を止めてエッチなことをする作品やビデオでも腕時計は良く出てくるが、大体がやたらデカくて「STOP」としか表示されていないため時間を見れない時計になっている。 半径20mだけしか止められないとか3回使うと自分が止まったりなどの欠陥品もあるが、概ね人間の動きを止めてエッチするだけの時計である。 ちなみに最初の方は「特捜戦隊デカレンジャー」の変身アイテムの「正拳変身ブレスロットル」が使われてたことで有名。 スーパー戦隊シリーズ 20世紀戦隊における定番の変身アイテムはブレスレットだったが、これは当時の子供達の憧れのアイテムが腕時計だったことに由来する。 そのため、初期の変身ブレスの玩具の多くは実際にデジタル腕時計としての機能も備えていた。 因みに、『未来戦隊タイムレンジャー』は番組そのもののデザインモチーフに時計が採用され、変身アイテムのクロノチェンジャーもブレス型だが、残念ながら玩具は12個のLEDを円形に配置して時計に見立てているのみで、腕時計機能はない。 妖怪ウォッチ 一時期子ども人気がポケモンを超えていたレベルファイブのメディアミックス作品。 アイテムとしての妖怪ウォッチは名前通り腕時計で、メダルを挿入することでそのメダルに対応した妖怪を呼び出すことが出来る。作中で時計としての要素はかなり薄いが、ゲーム版では妖怪ウォッチの強化を時計屋が担当している。 仮面ライダーW 探偵を題材とした第二期平成ライダーシリーズ第1作。 腕時計型のメモリガジェット スパイダーショック が登場し、前述のルパン三世同様、ワイヤー射出機能を持つ。 クモをモチーフにすることでワイヤー射出に一定の説得力を持たせている。 仮面ライダージオウ 「時計」「時間」を題材とした第二期平成ライダーシリーズ最終作。 主人公の仮面ライダージオウを始めとした多くのライダーやフォームのデザインモチーフがズバリ機械式アナログ腕時計(*39)であり、針や文字盤だけでなくバンドの意匠も各部に盛り込まれている。 ジオウが仮面ライダーゲイツ及びウォズと合体変身して仮面ライダージオウトリニティになる際には、ゲイツ、ウォズ両名が腕時計状に変化してジオウの体側面に装着されるという、なんともシュールな演出が挟まれる。 なお、変身に使うアイテム、ライドウォッチは手持ちの懐中時計型だが、収納するためのライドウォッチホルダーは腕に装着されており、ここにライドウォッチを取り付けることで腕時計に見立てるデザインが秀逸。 ヴェノム・スネーク(METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN) 1981年にSEIKOが発売した実在のデジタル腕時計「デジボーグ」を着用している(*40)(*41)。 ムービー中でチラチラ映るだけでなく「ファントムシガー」でウォーホー……時間を進めるとタイマーとして文字盤が画面に表示される。 後にSEIKOのブランドWIREDとのコラボ企画として新川洋司氏のデザイン監修の下2500本限定で刻印・シリアルナンバー入り・新川氏描き下しイラスト付きボックスとセットで製造・販売された。 デジボーグ自体古く人気の高いモデルな上に希少性が合わさり、中古市場価格は途轍もない事になっている。 ロボットアニメにおいて 一部作品では腕時計型のデバイスによって呼び出し、操縦を行うものが存在する。 ビッグオー、ジャイアントロボなどが該当。 また、メダロットは上記の妖怪ウォッチのようにメダルを用いて機体の転送、指示を行う事ができる。 ファイバードには腕時計自体がロボットに変形するブレスレット型ロボ「リスター」も登場した。 DEATH NOTE 主人公の夜神月は父・総一郎から貰った腕時計を常に身に付けている一方、その習慣を利用して腕時計にデスノートの切れ端を仕込む細工を施している。 普段の月は総一郎と共に大量殺人犯キラを追う捜査員だが、裏ではキラ本人として父からの信頼や情報を利用していることを踏まえると、腕時計は彼の二面性を象徴するアイテムと言える。 Dr.STONE アメリカの時計技師「ジョエル・ギア」が、石器時代にまで後退した世界で即興で腕時計を作り上げた。 彼の発明はその後も主人公たちを幾度も救うこととなる。 探偵学園Q DDS生徒の装備品の一つ。 犯罪者に拉致された際の対策用に蝶の好むフェロモンを放つ追跡マーカーが仕込まれている。GPS機能とかじゃないのは作成者・鬼首独郎の拘りによるもの。 犯罪者との格闘の際に手首を守るという役割もあり、DDS講師の本郷巽は歴戦の証として傷だらけの腕時計を着けている。 B-SHOCK! 大学教授・桂深の開発した腕時計B-SHOCKは2個一組で一定以上離れると爆発する仕掛けがある。 学生からの人気が無い桂深が将来のゼミ生兼助手を確保するためB-SHOCKを無理矢理装着させられた学生・新と初音は1m以上離れられない不便な生活を強いられることになる。 脱出アドベンチャーシリーズ ニンテンドー3DSのダウンロード専用ソフト(現在は購入不可)・脱出アドベンチャーシリーズの主人公・時野若留は、万能腕時計クロノテクトを身に着けている。 これにはドライバーやナイフ、ルーペ等の時計修理用の工具が内蔵されており、フレームを捻る事で工具が出てくる。 追記・修正は時間厳守でお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 麻酔銃になったり友達呼び出したり色々操縦したりできる万能アイテム -- 名無しさん (2024-04-25 14 16 01) デスノートの切れ端を仕舞える改造腕時計もアニメや漫画だと結構印象的 -- 名無しさん (2024-04-25 15 52 20) ミサイルがダースで買える時計もあるんだから深い世界よ -- 名無しさん (2024-04-25 16 00 59) ひょっとして項目の内容に応じて表示される広告が変わったりしてない?狙ったようにシチズンの腕時計のバナー広告が表示されてるんだけど -- 名無しさん (2024-04-25 16 10 29) ビッグオーのロジャーの腕時計(?)は腕時計なんかな… -- 名無しさん (2024-04-25 17 40 35) スパイキッズに超高性能スパイグッズの腕時計で出たね。ただし時間は分からない -- 名無しさん (2024-04-25 17 45 59) 何故かなかなか立たなかった項目 -- 名無しさん (2024-04-25 17 53 48) 時間を司る道具としての役針は終わった、って言うのはまあ現実よね。それでもなお腕時計というジャンルというか、存在そのものは廃れてないんだから逞しい -- 名無しさん (2024-04-25 18 41 54) 遊戯王でのトラウマ -- 名無しさん (2024-04-25 19 16 52) こち亀でGショックにあやかってG-SHOOKというパチモン売ろうとして色々あったけど身に着けていたG-SHOOKは全然無事だったためかえって売れることになったという、偽物が本家を凌駕するというのがあったな -- 名無しさん (2024-04-25 19 29 54) ジオウでは変身ベルトにして「歴史」だけに時計が超重用アイテム。 -- 名無しさん (2024-04-25 20 18 35) 「王様の仕立て屋」の腕時計篇は一読の価値あり -- 名無しさん (2024-04-25 20 28 21) ナポレオンはブレゲ以外の時計は持ち歩かなかったと言われる程のブレゲガチ勢だったとか -- 名無しさん (2024-04-25 21 52 34) 何度かつけっぱなしで入浴してしまった。この鈍感さや危機管理能力の無さを何とかして克服できないものだろうか -- 名無しさん (2024-04-26 01 01 22) カシオといえばビンラディンモデルの異名すらあるF91Wなどの所謂チープカシオも。20年埋まってても動いてたとかいう話もある。 -- 名無しさん (2024-04-26 01 36 12) アニメや映画の定番アイテムだった通信機能付き腕時計を最近見かけなくなったのは、手放しで通話ができるワイヤレスイヤホンっていうフィクション以上に便利なものが普及してしまったから…なんだろうか -- 名無しさん (2024-04-26 02 15 05) イベント業界でバイトしてるけど業務中はケータイ・スマホ禁止だから腕時計必須。いくらスマホがあるからといっても時間みるだけのためにポケットや鞄から取り出す手間さえ惜しい、人前に出る仕事だと客の前でスマホを使っているのは印象が悪い、慌ただしい仕事中にスマホを出したり戻したりしているとうっかり落としかねなくて危ない。腕時計が無いと困る仕事は他にもあるんじゃないかな。 -- 名無しさん (2024-04-26 09 54 34) 少なくとも現場作業では今でも必須アイテムやろうね。自分は腕に巻きつけるものが苦手だから懐中時計使ってるけど、やっぱ取り出す手間を思うと利便性は腕時計のほうが上だと思うし。 -- 名無しさん (2024-04-26 13 55 07) ジオウのソウゴが着けてる時計はスイスのメーカーから出てる通常モデルなんだけど、その理由を知った時は粋だなって思った(https //prtimes.jp/main/html/rd/p/000000055.000022079.html ) -- 名無しさん (2024-04-26 20 01 18) ゴルゴ13も電磁パルス等による狂いを極力避ける為に機械式の腕時計を好んでたな。んでそれをたまたま手に入れた刑事が調べようとしたら狙撃して時計壊してたけど -- 名無しさん (2024-04-26 20 15 26) 竜頭の説明見て外来語に当て字したのかな?って思ったけど、ググったら日本語だったぞ…? -- 名無しさん (2024-04-26 21 49 16) 腕時計そのものではないけど『クロックワーク・プラネット』では登場人物名(三浦(ミュラー)、ブレゲ、オメガ)やイニシャルYシリーズの名前(リューズ、アンクル、テンプ)に腕時計関連の名前が使われてる -- 名無しさん (2024-04-26 23 55 21) フィクションの腕時計ならジャイアントロボは外せないっしょ -- 名無しさん (2024-04-27 00 01 09) パテック・フィリップなんて聞いたことがないぞ。聞いたことがないってことは、庶民には名前さえ縁がないほどのガチでガチでガチな超高級品メーカーってことなんだろうな。 -- 名無しさん (2024-04-27 00 32 47) ムーンフェイズもルイ・ブレゲの発明ですよね? -- 名無しさん (2024-04-27 00 35 00) 愛のある項目で好き。ちなみにランゲ&ゾーネが消滅してしたのはクォーツショックによる倒産ではなく、戦後の東ドイツによる国営化での統合だよね? -- 名無しさん (2024-04-27 07 19 37) フィクションに登場する腕時計、作品名か腕時計の名前か統一した方がよいのでは -- 名無しさん (2024-04-27 07 42 03) 昔64のゴールデンアイで腕時計のレーザー使用して列車から脱出するのが苦手だった。壊すべき金具に当たってるのか解り難くてなぁ -- 名無しさん (2024-04-27 08 52 44) スマートフォンは何でもできるが、時間を見るという一点の性能においては腕時計に絶対に勝てないし、そこが腕時計が生き残っている理由でもある。 -- 名無しさん (2024-04-27 08 56 49) 時計代わりとしてのスマホはボタン押す必要があったり電池の持ちだったりで懐中時計にすら劣るからなぁ -- 名無しさん (2024-04-27 21 57 16) スーパードクターKで柳川先生の腕時計に放射性物質のコバルト60を仕込んで苦しめたという話があったな。身に着けるのが当然なアイテムだけに誰かが罠を仕掛けるとかいう展開もあるな -- 名無しさん (2024-04-27 22 36 18) 確かにパテックフィリップとかの三大メーカーって映画とかテレビ番組とかのメディア露出あんまりない気がするな… -- 名無しさん (2024-04-27 22 50 51) 小さい中身のパーツ数がすごいんだな -- 名無しさん (2024-04-27 22 59 23) 機械式時計はメカメカしてカッコいいからオタクとの親和性が高いと思うから流行ってほしいぜ -- 名無しさん (2024-04-29 09 09 57) ロレックスは裕福な一般人が持ってるベンツやレクサス的ポジション、パテックフィリップは富豪やセレブが持ってるロールスロイスやフェラーリポジションって感じ -- 名無しさん (2024-04-29 10 43 11) 機械式なのでアナログしか扱ってないが、デジタルの腕時計もあるよね? -- 名無しさん (2024-04-29 10 48 00) もちろんね。初版作ったときは書いてなかったけどぜひ追記してもらえると嬉しい -- 名無しさん (2024-04-29 11 21 17) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/15930.html
登場人物とだけ書かれた荒らしコメントを削除 -- (名無しさん) 2018-12-05 17 19 31