約 840,486 件
https://w.atwiki.jp/sentai-kaijin/pages/1748.html
【モチーフ名】 クジラ 【読み方】 くじら 【漢字表記】 鯨 【英語表記】 whale(ホエール) 【主な怪人】 ズ・グジル・ギ(クウガ)水のエル(アギト)ホエールイマジン(電王)ドン・ドルネロ(タイムレンジャー) など 【詳細】 海に生息する世界最大の哺乳類の一種。 最大のシロナガスクジラは全長30メートルにもなり、全てが肉食性とされ、プランクトンから小魚などを食べている。 かつては食用として利用されていたが、現代ではその習慣を持つ地域が限られ、捕鯨するかどうかで社会問題となっている。 これには単なる「動物愛護」という名目だけでなく、人類に等しい程の高度な知能を持つ生物としての見解も理由とされている。 クジラをモチーフにした怪人は非常に少なく、その理由は人型のスーツに巨大なクジラのデザインを取り込む事が難しい為と思われる。 劇中にスーツの存在する怪人の共通点は大きなヒレを持ち、頭部がクジラの頭部を模している。 『仮面ライダー剣』のホエールアンデッドのラウズカードは金槌のような巨大な頭部をしたクジラが描かれ、「ドロップキック」の効果を持つ。 しかし、海の生態系の上位に占める動物でもある為、幹部クラスの怪人として登場した個体も存在する。
https://w.atwiki.jp/codeofjoker/pages/1461.html
Ver. 1.3EX2 カードNo. 1-3-212 種類 ユニット レアリティ UC 名称 片翼のエルフィード 属性 黄 種族 悪魔/天使 CP 4 BP 7000/8000/9000 アビリティ ■失われた翼の対価このユニットがフィールドに出た時、あなたの手札にあるトリガーカードを1枚ランダムで捨てる。そうした場合、このユニットに【スピードムーブ】を与える。 このユニットが戦闘した時、戦闘終了時までお互いのプレイヤーは全ての効果を発動できない。 このユニットがプレイヤーアタックに成功した時、このユニット以外のあなたのユニットを1体選ぶ。それを破壊する。そうした場合、対戦相手は自分の手札を1枚選んで捨て、あなたはカードを1枚引く。 イラスト:セツ フレーバーテキスト 天界でも指折りの名士。彼が失った物は大きかったが、それを自身の戒めとし、もはや戦いで彼に付け入る隙はない。 ユニットボイス タイミング ノーマル フォイル ■失われた翼の対価 宴の始まりだ! 散り際は美しく アタック 切り裂く! 微笑を! +エラッタ 2015年06月03日付修整リスト(Ver.1.3EX2_02) BP6000/7000/8000 BP7000/8000/9000 2019年3月28日付修整(Ver.2.3EX2_09) 種族【天使】が追加 【スピードムーブ】付与の効果が追加 PA成功時の効果が追加
https://w.atwiki.jp/sp12ex-hard/pages/71.html
GENRE TITLE ARTIST bpm notes エクハ難度 HARD SYMPHONIC 煉獄のエルフェリア 猫叉Master+ 183 2000 8 曲・譜面情報 既存難易度投票 IIDX ID書き込みは必須です。 ID書き込みがない場合、反映しないことがあります。 ご了承ください。 既存難易度投票はツリーのどこでも構いません。コメントの先頭に、詐称(+1.1とカウント),強(+0.6とカウント),やや強(+0.3とカウント),中(±0とカウント),やや弱(-0.3とカウント),弱(-0.6とカウント),逆詐称(-1.1とカウント)を明記した上、半角スペース1つの後、理由を記載してください。(理由は必須ではありませんが、なるべく入力してください。) コメントミスの際は、その下へコメント欄に「コメントミスです。」とご記載ください。 難易度変更が決定した際、管理者がそのツリーに難易度変更したことを記載します。 その際、新たな難易度変更提案は親コメントへお願いします。 管理者の難易度変更コメントより後ろの同じツリー内の投票は無視されます。 ご了承ください。 詳しいことは、投票時のルールをご覧ください。 中 - 名無しさん 2017-03-20 01 06 17 IIDX ID 攻略情報・コメント ID書き込みは任意です。 IIDX ID コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4230.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ トリステイン魔法学院、学院長室は、中央本塔の最上階にある。 学院長であるオスマンは、がっしりとした造りの執務机に腰掛け、白くはなっているが美髭と呼んで差し支えない見事な長髭をさすりながら、 『朝っぱらからそのハゲ頭に似合わぬ真面目くさった顔をしやがってからにわしの朝はミス・ロングビルの魅惑の三角地帯を拝まんと始まらんのじゃあ』 という内心を押し殺して自らの使い魔であるハツカネズミをそっと秘書机の下に送り込みつつ、目の前の一人の教師に相対していた。 「して、こんな朝早くから何用じゃ、ミスタ」 「昨日の、春の使い魔召喚の儀に関してなのですが」 机を挟んでオスマンの前に立っているのは、コルベールだった。 「一人、人間……いや、亜人の青年を召喚した者がおります」 「ふむ。確かに珍しい事ではあるが……それだけでこんな朝っぱらから押しかけてきたわけではあるまい?」 「これを」 コルベールは、手に持っていたスケッチブックと古ぼけた本を机に広げ、それぞれ栞を挟んであるページを開いた。 「これは……!」 オスマン老人の顔が引き締められる。 「青年の左手の甲にこのルーンが現れました。また、召喚された折、私ですら気圧されるほどの迫力を放ち、次いで学園までの道を召喚者を抱えたまま30秒ほどで走り抜け、その途中『フライ』で飛行する生徒達の高さまでジャンプで跳び上がる、といった行為を見せています」 「……なんじゃそれは。神の左手にしても無茶苦茶じゃな」 同じルーンを示した、スケッチと、古本―――『始祖ブリミルの使い魔たち』を見るその目が、鋭い光を湛える。 それは奇しくも、耕一達の世界に存在する『ルーン文字』と全く同じ形をしていた。アルファベットに直せば、それは―――gundalfr、と読める。 「神の左手ガンダールヴ。あらゆる武器を使いこなし、魔法を唱える始祖を護る神の盾」 本に書かれた説明書きを、無感情に朗読するオスマン。 「召喚者の名は」 「ミス・ヴァリエール。ルイズ・フランソワ―ズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」 名を聞いて、暫し目を瞑る。 「……公爵の娘か」 「実際に相対した者としましては、伝説の再来、と素直に喜ぶ事は出来かねますな。あの迫力を持ってなお、それを『子供のしつけ』と言っていました。本気の殺気を向けられたら対処する自信がありません」 「伝説なんぞ、会わずとも存在するだけで厄介じゃわい」 自身が三百年生きたとも言われる十分伝説級の人物である事を棚に上げて、オスマンは机の上に置いてあったキセルを口に含む。 ぽこぽこ、と水が気泡を湛える音が、暫しの間部屋に響いた。 「いかが致しますか。王室に連絡を?」 「ばかもん。結論を急ぐでないわ。よしんばその青年が本当にガンダールヴであったとしても、王室なんぞに報告する必要はないがの」 「な、なぜですか?」 「さっき言ったじゃろう。伝説なんちゅーもんは、存在するだけで厄介なんじゃよ」 「はあ……」 意図を測りかねてコルベールが気のない返事をした、その時。 ずがーん。 と、学園中に炸裂音が響き渡った。2年生の教室塔から発せられたその音と振動は、本塔の学院長室にも届き、それを揺らした。 「何事じゃ?」 「……おそらく、ミス・ヴァリエールです」 「なんじゃと?」 「彼女は、その……魔法があまり上手ではなく、魔法を使おうとすると爆発してしまうのです」 「ふぅむ。爆発とな?」 「はい。火、水、土、風、そしてコモンマジックに至るまで、使おうとすると全て爆発してしまうらしいのです。『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』は成功したのをこの目で見届けたのですが」 「……魔法の失敗が爆発とは、果て面妖じゃな。身の丈に合わぬ呪文を使おうとすれば精神力が足らずに気を失うかそもそも認識すらされずに何も起こらず、詠唱が不完全であればそれこそ何も起こらぬはずじゃが」 「言われてみれば、そうですね」 「ま、そういう奴もおるかもしれんの。それで、その魔法を使えぬ落ちこぼれの使い魔が、始祖の従えた伝説の使い魔であると、そういうわけじゃな?」 「そういう事になりますか……」 「さて、不可思議じゃな」 オスマンは再びキセルを口に含み、ぽう、と煙を吐き出した。 「とりあえず判断は保留としよう。事実は伏せ、ミスタは出来る限り彼らの観察を行い、気が付いた事は報告するように」 「わかりました」 「うむ」 コルベールが一礼して去っていくと、ビリビリと振動していた建物が、ようやく静けさを取り戻した。 「興味深いお話でしたわね」 秘書席でずっと我関せずと書き物をしていた女性が、穏やかに切り出した。 「うむ。わかっておるとは思うが、他言無用じゃぞ、ミス・ロングビル」 「はい。可愛い生徒をアカデミーに解剖されでもしたら、たまりませんものね」 ロングビルと呼ばれたその女性は、簡素に結わえてあるその草色の髪を揺らし、ころころと笑う。 「カッカッカ。しかねんの」 「ところでオールド・オスマン」 「なんじゃね、ミス・ロングビル」 「このネズミは、このまま窓から投げ捨ててしまってよろしいですね?」 ロングビルはそう言って、机の下から、簡素なバネ仕掛けのネズミ捕りの中で、チーズのかけらを咥えてバタバタともがいているハツカネズミを取り出した。 「おお、おお! モートソグニル、可愛い我が使い魔や、しくじったか! 可哀想に!」 「オラァ!」 「あーれーっ! モートソグニルやーっ! ゆーきゃんふらーいっ!」 学院長室は、今日も平和であった。 その日のルイズのクラスの授業は、空いている教室に移動して行う事となった。 ルイズは罰として教室の後片付けを命じられたが、授業中の事故として、それ以上のお咎めはなしとなった。 『土』属性のメイジであれば小一時間と掛からず終わる上に修繕までしてみせるであろうその作業も、メイジなら誰でも使える共通魔法とも言うべきコモンマジックの『浮遊』や『念力』すら使えないルイズが行うのでは、ほぼ手作業である。 一日作業は見ておくべき教室の惨状だったが、彼女の使い魔たる耕一は、エルクゥたる膂力を遺憾なく発揮した。 「……あんたの力って、改めてとんでもないわね」 「お褒めに与り光栄で」 教室の端まで吹き飛んでいた教卓を片手でひょいっと持ち上げて運んできた耕一に、ルイズは呆れたように呟いた。 単純に重い物を運ぶ、というだけなら、トン単位にでもならない限り、エルクゥの身体能力にとっては児戯に等しい。 人を狩る鬼の力を土木作業なんかに使うのはどうかとも思うが、そんな悩みはこの一年でとっくに割り切っていた。あるものなら使って人の役に立てばいいだろう、と。 今では、押しも押されぬアルバイト先でのエースだ。いや、しばらくバイトには出れないであろうから、だった、と言うのが正しいか。 「……はぁ」 力仕事は耕一に任せ、机などについた爆発のススを拭いていたルイズの手は、止まりがちであった。 「……あんまり気にするなって。先生も言ってただろ? 失敗は成功の母ってね」 「……ずっと失敗しかない私はどうなるのよ」 押し殺したように呟く様子に、だいぶ重症だなあ、と頭を掻く耕一。 「『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』には成功したから、今度こそ出来るかもって思ってたのに……」 「魔法成功確率ゼロ……あのあだ名は、そういう意味だったんだな」 「……そうよ」 「ま、その二つは確実に成功してるんだ。当事者である俺が言うんだから間違いない。他の魔法もだんだん出来るようになるさ」 キッ、とルイズが目を剥いて耕一を睨みつけた。 「簡単に言わないでよっ! 魔法の事を何にも知らないくせにっ!」 「……そう言われると、その通りだから何も言えないけどね。でもま、ゼロじゃないのは確実だと、このルーンが出てきた時の俺の痛みに免じて認めてやってくれよ。結構痛かったんだぞ、あれ」 「ふんっ……」 鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまったルイズに、落ち着くのを待つしかないか、と耕一は肩をすくめ、無言で作業に戻った。 ルイズはしばらく俯いたままだったが、やがて顔を上げ、 「……まぁ」 「ん?」 「……かばってくれたのは……ありがと」 蚊の鳴くような声でそれだけ言うと、雑巾を洗ってくると言って教室から走り去っていってしまった。 「はは。なんだか、野良猫が少しだけ撫でさせてくれたような感じだな。―――っし! 頑張りますかっ」 苦笑しつつも和んでやる気の出た耕一の奮戦により、なんとか昼休みの前には片付けを終わらせる事が出来たのであった。 「やれやれ、なんとか昼メシには間に合ったか」 「…………」 先生への報告を終え、食堂へ向かう最中、ルイズは口を開かなかった。 まだ機嫌が悪いんだろうか、と耕一もそれ以上は喋りかけないが、その実は……。 ―――ヴァリエール公爵家の三女ともあろう私が、ちょっとぐらいかばってもらえたからってこんな正体不明のヤツにお礼なんて、お礼なんてっ……! ……ただ恥ずかしがっているだけであった。 「それじゃ、また厨房で食ってくるな」 「…………」 無反応のルイズに苦笑しながら、耕一は食堂の裏手に回る。そこには、ちょうどゴミを捨てに出ていたシエスタがいた。 「あ、コーイチさん。お昼ですか?」 「うん、またご馳走になりにきたよ」 「はい、わかりました。どうぞ」 勝手知ったる3回目。端のテーブルに腰かけ、出てきた賄い料理をいただく。 「どうもマルトーさん、ごちそうさま。今日も美味しかったです」 「おう。いつでも来いよ!」 膨れた腹を一撫でして、ちょうど通りがかったマルトーに一礼して退出。 まだ2日目だが、人間関係は悪くない。一から人と触れ合うなんて、母さんが死んで大学に入ったばかりの頃以来だな、と、耕一は少し懐かしくなった。 「さて、昼からも授業に出なきゃいけないのかね。出来ればコルベールさんか校長先生と話したいんだけどな……」 食堂の入り口でルイズを待つ間、これからの方策を練る思索の時間があった。 「……もし、ルイズの言う通り、そんな方法はないとか言われたらどうしよ」 ぞっとしない想像だが、しておかなくてはならなかった。 諦めるという道はない。この身は、常に楓と共にあると誓ったのだ。何を置いても戻らなければならない。 ……とはいえ、いざ何かを置いていかなくてはならなくなった時、基本的にお人好しの耕一がそれに背を向けられるか、というと、耕一自身もあまり自信はなかったが。 これまでも、最優先で教師に話を聞くべきなのに、ルイズに付き合ったりしているし。 「あてもなく旅に出るのは最終手段として……」 なんとか、大人連中の協力を取り付けたいところだ。 しかし、例え善意溢れる人達だったとしても、異邦人で立場も弱い自分のあてもない頼みを熱心に探してくれるわけもない。 本気で探してもらうには、相応の代価を払わなくてはならないだろう。そして、一介の大学生でしかなかった耕一が持てる代価は、ただ一つ。 「……交渉の材料が、この力しかないってのがなぁ」 右手を見つめて、一人ごちる。 現在の事態を先に進めるには、何にせよエルクゥの力を振るうしかない。 割り切ってはいるし、それが都合のいい借り物でもなく、耕一自身の意志によって得た力だと言う事も理解しているし、実際アルバイトの肉体労働でも大活躍させているのだが、やはりこう、釈然としないものは残るのだった。 「祖父さんなら、もう少しスマートにやったんだろうか」 一代で鶴来屋を立ち上げた祖父、柏木耕平。 自分が生まれた頃には既に故人となっていたから話だけしか知らないが、彼も鬼を制御した雄のエルクゥの一人らしい。 おそらくその興業史には、召喚されたばかりの頃耕一がやったような、鬼氣によって人を威圧する、みたいな行動も織り交ぜていたんだろう、と推測していた。 まっすぐ脅しに使っては、『社会での影響力を持つ』というその目的に添わなくなってしまうから、あくまでもさりげなく、交渉を有利にする程度、だろうが。 「……ま、何とかするしかないよな」 何とか出来なければ楓ちゃんに会えなくなるかもしれないのだ。うまくやるしかなかった。 「…………」 思索が一段楽して、耕一の横を幾人もの生徒たちが通り過ぎていっても、ルイズは現れなかった。 「……ルイズちゃん、遅いな」 昨夜も朝も、こんなに時間は掛からなかったと思うんだけど。 昼食はメニューが違ってとりわけ時間が掛かる……とは、厨房を見る限り思えなかった。 入り口を覗き込んで、中の様子を窺ってみる。 「うーん、あのピンクの髪かな」 2年生の食卓である真ん中のテーブルには、それらしき桃色の髪が見える。 隣には背の高い、赤い髪の女性がいる。確か、キュルケと言ったか。彼女と何がしかを話しているらしかった。 「友達と話してるのか。うーん、どうしようかな」 まだ時間があるようだったら、一言断って、先生に話をしに行ってみようか。 「……そうだな、そうするか」 拙速は巧遅に如かず。まぁルイズに従っている時点で既に拙遅なのかもしれないが、大人の協力を取り付けるための処世術と言う事にしておく。 耕一は食堂に入り、ルイズに近寄っていく。 その途中。 「なあギーシュ! お前、今は誰と付きあっているんだよ!」 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「付きあう、か。僕にそのような特定の女性がいてはいけないのだ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね」 そんな会話が聞こえてきて、耕一は身体中が痒くなる感覚に襲われた。 プレイボーイをキザに気取ったナルシストなんて、現代日本じゃ芸能界でもまずお目にかかれない人格だ。さすがファンタジー世界。 輝くような金髪のクセっ毛、確かに整った目鼻立ち、ドレープが親の仇のごとく付いた飾りシャツに、手に持った薔薇―――と、そのシャツと薔薇には見覚えがあった。 さっきの授業で、ルイズをからかっていた一人だ。隣には、反論したらあわあわと泡を食っていた小太りの男子もいる。そう、確かにあの時も、彼はギーシュと呼ばれていた。 ああいう人種に関わるとロクな事がない、と現代で培った人を見る眼で察知し、そそくさとルイズの所に向かおうとする耕一だったが、運命は彼を見放さなかった。 耕一が視線を外そうとした時、ぽとり、と、ギーシュ少年の懐から、小さな小瓶が落ちるのを見つけてしまった。 本人も友人も、小瓶に気付かずお喋りに興じている。やれやれ、と肩をすくめながら、ころころと転がってきたそれを拾い上げた。 「はい、これ、落としたよ」 ギーシュに向かって差し出す。 しかし、ギーシュはそれをさっと視線で一瞥しただけで、すぐに視線を外してしまった。顔は向けてすらいない。 「どうしたんだ? 君のじゃないのか?」 「……ああ、そうだ。それは僕のじゃない」 どこか潜めた声で、視線をキョロキョロさせながら、ギーシュは言う。 その様子に、耕一は察知した。これを持っている事が、視線の先にいる誰かに知られたらまずいんだな、と。 「うーん、そうなのか。確かに君の懐から落ちたのを見たんだけどな」 本気で困らせるつもりもないが、クラスメートの女の子にあんな態度を取るような男には少し意趣返ししてもバチは当たらないよな、などと自分を正当化しつつ言って、それを目線の高さまで掲げ、光に透かしてみる。 背の高い耕一の目線の高さは、おそらく食堂中の全員に見える事だろう。中には紫色の液体が入っていて、ゆらゆらと揺れていた。 ギーシュは、それを下げろそれを! と必死に目で訴えかけてくるが、丁重に気付かないフリをした。 「それじゃあ、これは先生にでも届けておくよ。呼び止めてごめんな」 「あ、ちょ、ちょっと待ちたま」 ギーシュが慌てた様子で言う前に、バン! と甲高い音が食堂に響いた。 それは、豪奢な巻き髪の少女が、立ち上がりつつ両手でテーブルを思いっきりぶっ叩いた音だった。 そのまま無言で、つかつかと耕一達のところに歩いてくる少女の周囲には、青白いオーラのようなものが幻視出来たであろう。 「ふーん。そう。これ、あなたのものじゃないんだ?」 「ああ、モンモランシー。今日も美しいね。君の宝石のような髪が、陽に照らされて輝いているよ」 耕一の手から小瓶をひったくり、ギーシュの目の前に突きつける少女。その鬼気迫る声(となりに本物の鬼がいるのだから、まさに文字通りだ)に、隣の太っちょ男子などは震え上がっている。 ギーシュは芝居がかった仕草で少女を誉めそやすが、それを見た100人中100人は、それを言い逃れと断ずるであろう。事実、その額には冷や汗が一筋伝っていた。 「紫の香水をあげた意味、あなたならわかっているんでしょう? ギーシュ」 「ああ、そんな顔をしないでおくれ、我が宝石たる『香水』のモンモランシー。そんな怒りの表情で、薔薇のようなその顔を曇らせないでおくれよ」 「それを、自分のものじゃない、というのね? そう……あなたの気持ち、よーーーっくわかった、わっ!」 「ご、誤解だモンモランぴぎぃっ!?」 モンモランシー、と呼ばれた巻き髪の少女は、ギーシュの並べ立てるおべっかを丸無視して自らの言葉を紡ぐと、テーブルにあったワインの瓶を引っ掴み、バットのようにギーシュの側頭を一撃の元にしばき倒した。 ゴキーンという鈍い音と、ガシャーンという甲高い音が同時に響き渡り、ギーシュはひっくり返って昏倒し、ガラスの破片とワインの海に沈んだ。 「さようなら。残念だわ」 そして、足音を響かせ、肩をいからせて、モンモランシーは食堂を出ていってしまった。 呆然とする耕一とギーシュの友人達。 ギーシュ本人は、頭からワインの染み込んだ絨毯に突っ伏していてピクピクと数回引きつるような痙攣を起こした後、むくりと立ち上がり、 「……やれやれ。キレイな薔薇にはトゲがあるものだね」 そう大仰に頭を振って、ワインに濡れて真っ赤になった頭を、どこからか取り出したハンカチで拭き出した。 ……あのルイズといいこのギーシュといい、なんで吉本新喜劇みたいなオチをつけたがるんだ、と耕一は思わずズッコケたくなった。なんだ、この世界の貴族は、何かチョンボをやらかしたらオチをつけて周囲をズッコケさせなきゃいけない決まりでもあるのか。 だが、騒動はそれでは終わらなかった。 別のテーブルに座っていた、茶色のマントを羽織った少女が、弱々しくギーシュ達に近寄ってきて、 「ギーシュさま……」 その栗色の髪をふるふると震わせ、涙を流し始めてしまう。 「やはり、ミス・モンモランシと……」 「誤解だよケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、あの清浄なる森の中での君の笑顔だけなんぷべらっ!?」 ばちーん! といい音がした。 先程モンモランシーに対していたのと変わらぬ調子で美辞を並べるギーシュの頬を、ケティと呼ばれた少女は思いっきり振りかぶった平手でしばき倒した。 ぐちゃっ、と、濡れた音を立てて、再びワインの海に沈むギーシュ。 「その香水があなたの懐から落ちるところ、私も見ておりました! さようなら!」 涙を止めないまま、ケティは走り去っていった。 「だ、大丈夫かギーシュ?」 太っちょ男子が、崩れ落ちているギーシュを足の先で突っつきながら心配した声を上げる。 ギーシュは、まるで幽鬼のように、ゆらり、と立ち上がると、大仰に頭を振り、肩をすくませた。 「……どうやらあのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだね」 この期に及んでプレイボーイを気取るつもりらしい。 愛憎の修羅場を特等席で見させられてお腹いっぱいの耕一は、ため息と共に肩を落とし、ルイズの元に向かおうと踵を返した。 「待ちたまえ」 「……何か用かい?」 呼び止められて、仕方なく振り向く。 ギーシュは、モンモランシーに殴り飛ばされるまで座っていた椅子に優雅に座って回転し、すちゃっ! と器用に足を組んで、薔薇を構え、 「君が軽率に、香水の壜など拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたではないか。どうしてくれるんだね」 びしぃっ! と、耕一に薔薇の先を突きつけた。 「…………意味がよくわからないんだが」 本気で意味がわからず、眉をひそめてそう聞き返すしかなかった。 ギーシュは、これだから学のない平民は、とやはり大仰な仕草で頭を抱えるフリをした。 「まったく、僕が知らないフリをした時に事情を察し、話を合わせて壜を目に付かないところにしまうぐらいの機微を持ってから学院に奉公したまえ。レディたちの涙は、君の不甲斐なさのせいだぞ」 ものすごい言い草だった。周囲の友人連中も、ぽかんとしている。 ―――ああ、つまり、八つ当たりなのか。 耕一は、ギーシュの顔が(頬に出来た大きな紅葉は別として)赤くなっているのに気付いて、そう思った。 「……いや、どう考えても二股をかけてたお前のせいだろうが」 「な、なに?」 子供の八つ当たりぐらいは受け止めてやるが、さすがに二股男の八つ当たりを受ける気にはなれなかった。 「たまたまバレただけで、俺が香水を拾ったのはただのきっかけだろう。もっと言うなら、二股とは言え恋人に貰ったプレゼントを、気付かずに落とすようなところに仕舞っておいた上に、誠実に対処せず誤魔化して切り抜けようとするような奴のせいだな」 「な、な、き、貴様っ! 貴族を侮辱するかっ!?」 「阿呆。侮辱してるのはお前だ。お前。貴族扱いされたいなら貴族らしい事をしてからにしろ。それとも、ここでいう貴族ってのは、二股がバレたら必死に誤魔化そうとして女の子を泣かすような奴の事を言うのか?」 耕一が言い捨てると、ギーシュの顔が真っ赤になった。食堂内が騒ぎに気付いて騒然となってくる。 反論が浮かばないのか、耕一を睨み付けていたギーシュが、何かに気付いたように口を開く。 「……君、どこかで見た事があると思ったら、思い出したぞ。さっきの授業にいた、ゼロのルイズの使い魔だな」 「ま、そういう事になってるね」 「ふん。学院への奉公人ですらない平民に、貴族への礼儀を説いても無駄だったか」 「二股がバレたら必死に誤魔化そうとして女の子を泣かした後に他人に八つ当たりするような子供に対する礼儀ってのがあったら、是非教えてくれ。俺には、張り倒して躾るぐらいしか浮かばないんだ」 ギーシュの顔が、剣呑に歪んだ。 「……よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」 ギーシュは、右手を覆っていた白い手袋を外すと、持っていた薔薇と共に耕一に投げつけて、大きく宣言した。 「決闘だ!」 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4044.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ その日は、確かに普通の日だったはずだ。 千鶴さんが料理をしたわけでも、庭に生えていたキノコで料理をしたわけでも、庭に生えていたタケノコで料理をしたわけでもない。 北陸は有数の温泉地、隆山。 柏木耕一にとって、東京での大学生活の傍ら、長期休暇の折には、従妹の美人4姉妹が住むこの地に滞在するのがもはや恒例となっていた。 事件から、一年。 エルクゥの力の制御は、一応うまくやれていると思う。絶対の保障など誰にも出来ないが、少なくとも、あの時あれほど苦しめられた鬼の慟哭が、今は全く感じられないのは確かだ。 前世の因縁が果たされて満足しているのか。 楽観はしないが、耕一自身のノンビリ気味な性格からか、特に気にしているわけでもなかった。出来るもんは出来る、という事で。 彼にとっては、そんな些末事より、恋人でもある4姉妹のうちの三女、柏木楓との逢瀬の時間の方が、はるかに重要なのだった。 「この屋敷で二人っきりには、なかなかなれないからなあ」 「……そうですね」 二人以外の従妹たちは皆用事で出かけてしまい、誰もいない静かな屋敷。昼下がりの日当たり最高の縁側で、楓ちゃんの膝枕を楽しむ……これ以上の幸せは、なかなか無い。 まあ、直接肌を重ねるのも、もちろん最高の幸福ではあるのだが、それはそれ……などと、愚にもつかない思考で脳を満たす。 至福だった。 それが壊れる事なんて、考えもしなかった。 ……まぁ、以前の経験もあるし、取り戻せる可能性がある限り、そんな事で絶望してやるほど、鬼を飼う精神は弱くもなかったが。 "それ"が突然現れたのは、夕刻。 友達と遊びに行っていたという初音ちゃんの、ただいまー、という声に、体を起こした時だった。 「な、なんだこれっ!?」 「耕一さんっ!?」 目の前に、淡緑色に光る水の板、とでも表現すればいいのか、不可解なモノがあった。 タタミ1畳ほどの、人がすっぽり入る大きさの楕円形が、宙空に浮かんでいる。 体を起こした拍子にそれに触れた耕一の肘から先が、するりとそれに飲み込まれた。 「ぐっ……! ぬ、抜けないっ!? エルクゥの力でもっ!?」 縁側の床板が踏み折れるほどの"力"を込めても、"それ"から腕が抜ける気配はまったくない。 逆に、信じられないほどの引力でもって、"それ"は耕一を引き込もうとすらしてきた。 鬼と表現されるエルクゥの膂力をもってしても、耐えるのが精一杯。そんなデタラメな引力だった。 「か、楓ちゃん、離れるんだ。このままだと二人とも引き込まれる!」 「嫌です」 まだ引き込まれていない耕一の半身を掴み、離そうとしない。 苦も楽も、共に。 そう誓った恋人の想いは嬉しいし、立場が逆でも同じ事をしただろうが、耕一は歯噛みするしかなかった。 想像の埒外の事態に、耕一の頭はすーっと冷えていく。 事態を把握し、原因を探り、解決法を見出す。 人の強さ。鬼すら飼いならしうる人の理性でもって、頭脳を回転させ始める。 ―――吸い込まれた左腕の感覚はある。ものすごい力で引っぱられているから動かす事は難しいが、少なくともなくなってはいないし、怪我などもなさそうだ。 ―――この銀板の向こうは、どうやらどこか別の場所に繋がっているらしい。縁側のガラス戸に映った自分の横姿は、板を境に、もののみごとに体半分がなくなっていたからだ。 ―――つまり、この板は、どこか別の場所に通じたワームホール、という事だろうか? 「く……!」 普段なら、現実感のない妄想、と斬り捨てられるようなその結論に、疑義を差し挟む余裕はなくなっていた。 まあ、あれだ。柏木家の蔵の中とか竹林とかに比べれば、このぐらいの非現実、なんてことないだけ、とも言う。 「くっそ、なんて馬鹿力だ……っ!」 引っぱられる力はますます強さを増し、力を思考に回せなくなってくる。 ―――単純な力、というより、まるで空間そのものに引っかかって、引きずられているみたいだ……! 大学はバリバリの文系、理系の素養なんて無いに等しい耕一のそれは、物理学というより小説の修辞に近い感想だったが、確かに正鵠を射ていた。 それは、異界の扉。次元の境。空間を捻じ曲げ、時間を抉じ開け、時空を繋げるモノ。 「ぐ、う」 限界が近い、と感覚で悟った耕一は、思考を別の方向に変える。 ……つまりは、今必死に俺を助けようとしてくれている、この愛しい恋人をどうするか、という事。 このままなら、まずこれの中に引っ張り込まれる。 共に行くか。それとも、男の意地で彼女だけでも助けるか。 「耕一さん、耕一さん……!」 心が揺れる。彼女と一緒なら、どんな事でも大丈夫、と。 だが、とも心が揺れる。耕一も彼女も、お互いのためだけのものではない。 千鶴さんに、梓に、騒ぎを聞きつけたのか慌てた様子でこちらに走ってくる初音ちゃん。 彼女たちを放って行方不明になるというのも、またぞっとしない想像だった。 それは明確な理屈があったわけではなく、言うならば、『なんとなく』としか説明できないような決断だった。 「楓ちゃん。よく、聞いてくれ」 「耕一さんっ……!」 「どうやら、この板の向こうは、どこか別のところらしい。ほら、ガラス」 自分の姿が映っているガラス戸を顎で指すと、楓はわかっているとでもいう風に、首を左右に振るだけだった。 「このまま二人でこれに飲み込まれれば、千鶴さんや梓や初音ちゃんに、すごく心配をかけると思う」 「…………」 「二人で引っぱっても無理なんだ。このままじゃジリ貧だし、俺はちょっと向こうに行ってくるよ。楓ちゃんには、みんなに説明を頼みたい」 そうだ京都に行こう。とでも言うような軽い調子に、楓はぶんぶんと頭を振った。 「でもっ、でも、こんなの、帰ってこれるかどうかなんて……っ!」 「たぶん大丈夫……こっちの、吸い込まれてる方の腕、消えてるとかじゃなくて、ちゃんとある。一応、どこかに繋がってるみたいなんだ」 「耕一、さんっ……!」 涙を浮かべて、すがりつく楓。 「……俺だって、楓ちゃんと離れたくはないよ。でも、頼まれてくれないか」 「……また、待てと言うんですか」 「うう、事故だからなぁ……そんな可愛悲しい顔をされても困っちゃうんだが」 余裕のありそうな会話だが、二人には汗すら噴き出ていた。 「楓ちゃんを信じてるから、頼めるんだ。どこにいても心は共にあると誓ったから」 「…………」 「な?」 梓あたりに聞かれたら小一時間は笑い転げられそうなセリフを吐きながら引きつった笑顔を浮かべると、腕を掴んでいた楓の力がするりと緩んだ。 俯いたその顔は前髪で隠れ、表情を窺い知る事は出来なかった。 「うん。じゃあ、行ってくるな。すぐ帰ってくるよ」 「……はい。行ってらっしゃい」 視界が銀色に染まる最後の瞬間に耕一が見たのは―――彼も初めて見る、楓の泣き笑いの表情だった。 「あんた、誰?」 銀の視界を抜けた先にあったのは、不機嫌そうに眉を寄せた少女の顔であった。 ローティーンぐらいだろうか。自らの恋人を思わせる、体型や顔立ちにまだ幼さを残した少女だ。 違うといえば、楓ちゃんは言うなれば日本人形だが、この少女はフランス人形のようだ、という事。 桃色がかったブロンドの長い髪に、透き通るような白い肌。首から下を覆うような黒いマントに、ブラウスにブリーツスカート。 だがしかし、彼女の口から発せられたのは、まごうことなき日本語の『あんた誰?』だった。『Who are you?』でも、『Hoe heet u?』でもなく、『Annta dare?』。 「……柏木耕一、だけど」 「カシワギコーイチ? 変な名前ね。どこの平民よ」 少女の相手もそこそこに、耕一は、さっと周囲の様子を窺う。 「……どこだここ」 地平線まで続く大草原に、はるか彼方に霞む洋風の塔、なんて日本では絶対にお目にかかれない光景に、思わず呆気に取られてしまった。 そして、耕一と少女の周りを囲むように、同じような服装をした少年少女がたくさんと……まったく違った雰囲気の、中年の男が一人。 「っ!」 頭皮が見えているハゲ頭に小振りなメガネ、大きな木製の杖らしきものを持っている、などという怪しげな、しかし表面上はのんびりした風体のその男に……耕一は、嗅いだ事のある匂いを察する。 ……親父の死亡事件を調べていた刑事。長瀬と言ったか、あの飄々とした中年刑事と同種。 獲物に気取られぬよう、鷹がトンビの振りをして爪を隠している匂いだ。 「ルイズったら、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするのぉ?」 周囲を囲んだ少女の一人、目の前の子と違ってずいぶんと発育のいい、よく日に焼けた肌の少女が揶揄るようにそう言うと、どっと笑い声が溢れた。 「さすがは『ゼロ』のルイズ!」 「使い魔が平民とは! 『ゼロ』にはお似合いだな!」 それは、あまり気分の良くなる笑い声ではなかった。 何が起こるか予想もつかず、気だけを張りつめていた耕一にとって……その嘲笑の群れは、少々気分を害しすぎるものだった。 「―――黙れ。女の子を馬鹿にするのが男のする事か」 少しだけ、"力"を解放して呟くと、ひっ、と空気を飲む音と共に、ピタリとその嘲笑がやんだ。その言葉に反して、男女関係なく。 それは、目の前の少女も例外ではなかった。唯一違う反応を見せたのは、蒼い髪をした、これまた発育のよくない小さな少女だけ。 ピンク少女への揶揄へ参加していなかった少女の反応は、耕一の呟きを見て、その体躯より大きな杖を握り締め、キッと表情を引き締める、というものだった。 その傍らにいる大きな竜すら、少女にすがりつくような動きを見せている。 ざっ。と、靴が砂を噛む音とともに、中年男が、怯んだ少年たちを庇うように神速の一歩を踏み出した。 「……失礼。あなたに危害を加えるつもりはありません。矛をお収めください、ミスタ」 「別に俺は何もされてないですけどね。子供同士のイジメは、度が過ぎる前に止めてやるのが大人の役目じゃないんですか」 「諌言、耳が痛いですな。教育者としてはまだまだ未熟な身、心に留めおきましょう」 丁寧な物腰の中、両者から漏れ出る迫力に、周囲の生徒は、目を見開いて見つめていた。 「教育者って……あんた、先生なのか? という事は、この子たちはあんたの生徒?」 「左様です。申し遅れました、私、トリステイン魔法学院にて教鞭を取らせていただいております、ジャン・コルベールと申します」 「―――どこだって?」 自己紹介も忘れて、聞いた単語に唖然とする耕一。 中年男は、その様子に警戒を少しだけ解きながら、もう一度口を開いた。 「トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールと申します」 「……ま、まほうがくいん? まほう? 魔法だって!?」 「……魔法が、どうかしたのですか?」 まるで当然のように答える、自らをコルベールと名乗った中年男。 その名前は日本人ではありえないカタカナで、しかし彼の口から出るのは日本語でしかありえなかった。 「い、いや、冗談……ではないですよね?」 「杖に誓って。人が呼び出されるというのは前代未聞ではありますが、あなたは、彼女の唱えた『サモン・サーヴァント』によって、ここに召喚されてきたのだと思われます」 コルベールの答えは耕一の質問の意図を読み違えたものであったが、その質問の意味を察する事の出来る人間は、この世界には指を折るほどもいなかったであろう。 魔法に、召喚。 耕一は、どこのファンタジーRPGなのか、と頭を抱えたくなった。 まあ、もしかしなくても、耕一の存在そのものが、剣と魔法の世界以上のファンタジーだ。彼に頭を抱える資格があるかどうかは議論の残るところだが。 「その、『サモン・サーヴァント』ってのは、なんなんです?」 「あ、あなた、そんな事も知らないの? どこの田舎から来たのよ」 「ミス・ヴァリエール」 ぴしゃり、とコルベールが咎めると、牙をむきかけた少女は憮然として、一歩下がった。 「『サモン・サーヴァント』とは、魔法使いのパートナーとなる使い魔を呼び出す魔法です」 「使い魔? それって、フクロウとか黒猫とかの、あの使い魔?」 「はい。おそらく、イメージされている通りの物かと」 「という事は、そういう役割を、俺にしろ、というわけですか?」 「……そうなります。ここ、トリステイン魔法学院では、2年次への進級に際して使い魔の召喚が許され、呼び出された者を生涯のパートナーとするのです」 「……生涯のパートナーなら間に合ってるんですけどね。人権って言葉、知ってます?」 さすがの耕一も、怒りを通り越して呆れていた。勝手に呼び出しておいて、横暴もいいところだ。 「事こうなってしまった以上、耳の痛い話ですが……先程も言った通り、人間や亜人のような理性ある者が召喚される、などという事は、今までにない前代未聞な事なのですよ。それに……」 「それに?」 「おそらく、ゲルマニアかそれに類する国の方とお見受けしますが……ここ、トリステインの法では、平民にそういった"権利"というものは、無いのです」 「……あー」 そういえば、ここは中世だったか、と、妙な納得をしてしまった。 耕一は法学を習った事はないが、いわゆる『基本的人権』のような概念が出来たのは、かなり最近の事である、ぐらいは知っていた。 武士が農民を斬捨御免、より前の時代なら、推して知るべし、と言ったところだろう。封建社会での民衆とは、支配階級の所有物でしかないのである。 「ミスタ・コルベール、召喚をやり直させてください」 「ミス・ヴァリエール?」 「平民に説明するなんて、時間の無駄です。次はちゃんとした使い魔を呼び出します。お願いです!」 「……それは認められない」 女の子の提案に、コルベールは首を左右に振った。 「どうしてですか!?」 「決まりだから、だよ。初めての召喚により現れた使い魔を見て行使者の属性を判断し、それぞれの専門課程へと進むんだ。 その使い魔を、気に入らないから、という理由でいくらでもやり直しをしてしまえば、メイジとしての資質を見るという目的が台無しになってしまう。これは神聖な儀式なんだ」 「でも、でも……っ、人間の、それも平民を使い魔にするなんて、聞いたことがありません……っ!」 少女の目尻に涙が浮かぶ。 それを見て、周囲は再び笑いに包まれた。 「わはは。それって、平民風情が『ゼロ』の資質ってことかー?」 「ミスタ・コルベールも、なかなかのジョークセンスをしてらっしゃる!」 囃し立てられて、少女の涙は見る間に膨らんでいく。 ……なるほど。要するに彼女は、落ちこぼれ扱いされてるんだな。 エルクゥの血を受けたヒト。最強のエルクゥの転生たるこの身を、あんな無理矢理に召喚した事を以って落ちこぼれとは。魔法使いと言うのは、さっきの鬼氣に何も感じないものなのか、と、耕一は大人気なくもちょっと憤慨した。 「ミスタ・コルベール!」 「春の使い魔召喚の儀式は、他のどのルールにも優先される。儀式を知る者なら、呼び出したものが他人の飼い動物であろうと、呼び出されたものの飼い主は名誉と思いこそすれ、文句を言う者はない。そういう儀式だ。 勉強熱心なミス・ヴァリエールなら、知っているでしょう?」 「うう……」 ……人間扱いされてないなあ、と、耕一はちょっと疎外感を感じていた。 いっそエルクゥ全開モードになって脅してみるか、とも思ったが、 さっき程度の鬼氣で怯むようなこの場の生徒ならともかく、コルベールクラスの相手が多数出てきて、例えばメラ○ーマとかみたいな、いわゆるああいった魔法を撃ち込まれたらさすがに困るので、自重しておいた。 「……わかりました」 少女が、決心したように顔を上げ、耕一の顔を睨みつけるように見据えた。 「ちょっとしゃがみなさい」 「なんで、って聞いてもいいかい?」 「いいから!」 「……はぁ。わかったよ。これでいいかい?」 少女の剣幕に、しょうがなく腰を下ろす。 「ふん。あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通なら一生ないんだからね」 やれやれ、何をされるのやら。 「"我が名はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール"」 「っ!」 濃密な"力"をまとった言霊が、目の前の少女から吐き出されていく。 「"五つの力を司るペンタゴン。かの者に祝福を与え、我が使い魔となせ"」 その力に、内なるエルクゥが危機を訴える。 それに判断を下す間もなく、少女の手が耕一の頬に添えられ、その顔がすっと近付いてきて――― 「ちょっ! 待っ……むぐっ!?」 その唇が、重ねられた。 「……終わりました」 「お、終わったって、一体いきなり何を……ぐうっ!?」 触れ合った感触に、どこか恋人を思い出して固まってしまっていた耕一が我に帰った瞬間、痛みが襲った。 ―――あの鬼の爪で切り裂かれた時のような、熱と痛み。 「ぐ……!」 それはすぐに収まった。 「ふむ。『サモン・サーヴァント』は失敗を繰り返したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんと成功したようだね」 「……『コントラクト・サーヴァント』? それも、使い魔関連の魔法って奴ですか?」 「ええ。使い魔契約の魔法です」 「契約、ね。やれやれ……奴隷の焼き印じゃないんだから、わざわざこんな事までしなくてもねぇ」 「はは、耳が痛い」 そう呟いて、左手をかざす。 その甲には、謎の文字列が浮かび上がっていた。筆で書いたわけではもちろんない。 ……向こうでは、ピンク少女―――確か、ルイズ、フランソワ……なんたらと言ってたかー――と、他の少年少女の言い争いがまた勃発していた。 「ほう、珍しいルーンですね。何かの文字のように見えなくもない……」 さっと、コルベールがその紋様をスケッチに描きとめている。 ……良識があって腕が立つように見えても、平民をモノ扱いする価値観はそう変わらないか。やれやれ。 目の前の中年男はただの研究バカなだけであって、貴族相手でも同じような事をするだろう、というような事は、まだ耕一にはわかるはずもない。 「さあ。では皆さん、教室へと戻りますよ―――『フライ』」 コルベールが杖を一振りすると、ふわりとその体が宙に浮かび上がった。 続けて、周囲の少年少女たちも次々と杖を振り、離陸していく。一人だけ、竜の使い魔を召喚した女生徒だけは、その背に乗って飛びあがった。 彼らは、遠くに見えるあの塔を目指すらしい。 「はー……」 ―――魔法の世界と聞いていたとはいえ、実際に目にすると言葉も出ないな。 「ルイズ! お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、『フライ』どころか『レビテーション』さえまともにできないもんな!」 「本当に平民がお似合いよね。あははっ」 果たして帰れるんだろうか俺。というか楓ちゃんマジごめん俺汚されちゃった……などと不安と後悔に懊悩していると、ルイズはふるふると震えて、俯いてしまった。 ……ま、あれだ。女の子のそんな表情を放っておくなんて、男としてあるまじき態度だろう。そして、そうさせるようなイジメ、も、だ。 「……さっきから聞いてると、君は何だか馬鹿にされてるみたいだな」 「……うるさいわね」 「悔しいか?」 「ほっといてよ」 「見返してやろうぜ」 「うるさいって言ってっ……! って、えっ?」 イタズラが成功した悪ガキのような耕一の表情に、悔しさに押し潰されそうだった少女の顔が、呆、と呆けた。 「メイジの資質は使い魔を見て決定される……だったか。ルイズちゃんだったよな。君が"何"を喚び出したのか……あいつらに教えてやろう」 思いやりのない子供には、躾が必要だからな。などと、自らの大人気なさを放り投げて自己正当化の言葉を並べつつ。 「あんた、何言って……って、わぁっ!?」 そのまま、耕一はルイズを抱きかかえる。いわゆるひとつの、お姫さまだっこ、という奴だ。 「は、離しなさい無礼者っ! 平民が貴族にこんな事っ……!」 「舌を噛むよ。しばらく口を閉じてた方がいい」 「意味わかんないわよっ! いいから降ろし」 足に力を込め……解き放つ。 「ぃあひゃあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁああぁあぁああああぁぁあぁぁぁああ!!!!!!!!!」 絶叫マシーンもかくやという悲鳴が、大草原に響き渡った。 何事かとそちらを見た巡航中の生徒は、思わず『フライ』の魔法の集中力が切れ、墜落するところだった。 凄まじい土煙を巻き上げながら、何かが爆走してくる。 その人間の形をしたなにがしかの腕の中には、見慣れた桃色のブロンドヘアーが見える。つまりあれは、先ほどの平民使い魔、という事だろうか? しかし、その疾駆する速度は尋常ではない。普通に走るのとは比べ物にならない速度が出るはずの『フライ』の魔法を使用している彼らに、あっという間に追いついてしまい、そして。 「いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁああああああ!!!!」 ぴょーん、と、軽く飛び上がるような動作で、空を飛ぶ自分たちの高さまでジャンプを敢行したのだ! 「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」 そして、飛行する一団のド真ん中を突っ切っていくと、ドップラー効果を残しつつそのまま放物線上に落下。何事も無かったかのように着地し、あっという間に土煙は遠ざかっていってしまう。 ぽかーん。 置いていかれた少年少女たち+中年男の表情は、そう表現されるのが最も適切であった。 「ぷっ。くくく……! やるじゃない、ルイズ。そうでなくちゃね」 「…………」 例外は二名。 心底楽しくて仕方ない、といった様子でころころと笑う褐色肌の女生徒と、それとまったく対照的に、無言のまま土煙の消えていく方向を見つめ続ける蒼髪の女生徒。 彼女の望むような波乱の種と、彼女の興味を引くような力。 今日は、それがハルケギニアに召喚された日だった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/sentairowa/pages/61.html
ある者は誰かの為の贖罪を。 ある者は不老不死の悲願を。 そしてある者は己の正義を。 互いの信念、願いを賭けて争うライダー、怪人、そして何の力も持たない人間達――― ―――その結末は、遥かに遠い霧の中。 ―――不幸にして幸運なる参加者達をここに記す。 【555】5/5 ○乾巧/○草加雅人/○園田真理/○影山冴子/○北崎 【カブト】5/5 ○天道総司/○加賀美新/○日下部ひより/○矢車想/○神代剣 【ブレイド】5/5 ○剣崎一真/○橘朔也/○上城睦月/○キング/○伊坂 【龍騎】5/5 ○城戸真司/○秋山蓮/○北岡秀一/○浅倉威/○佐野満 【アギト】5/5 ○津上翔一/○氷川誠/○小沢澄子/○木野薫/○水のエル 【RX】5/5 ○南光太郎/○霞のジョー/○シャドームーン/○グランザイラス/○ジャーク将軍 【響鬼】5/5 ○日高仁志/○佐伯栄/○財津原蔵王丸/○安達明日夢/○天美あきら 【ZO J】5/5 ○麻生勝/○瀬川耕司/○望月博士/○ガライ/○ドラス 【ストロンガー】5/5 ○城茂/○岬ユリ子/○立花藤兵衛/○ジェネラルシャドウ/○マシーン大元帥 【V3】5/5 ○風見志郎/○結城丈二/○珠純子/○ドクトルG/○ヨロイ元帥 【ジョーカー】 ○相川始/○リュウガ 52/52 【主催者】 ○神崎士郎/○スマートレディ
https://w.atwiki.jp/heisei-rider/pages/184.html
ネタバレ参加者名簿の見方 ○=生存 ●=死亡 ●のついたキャラの名前をクリックすると、そのキャラが死亡した話にジャンプします。 参加者 2/5【仮面ライダークウガ】 ●五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/●ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ 0/5【仮面ライダーアギト】 ●津上翔一/●葦原涼/●木野薫/●北條透/●小沢澄子 1/6【仮面ライダー龍騎】 ○城戸真司/●秋山蓮/●北岡秀一/●浅倉威/●東條悟/●霧島美穂 1/7【仮面ライダー555】 ●乾巧/●草加雅人/○三原修二/●木場勇治/●園田真理/●海堂直也/●村上峡児 1/6【仮面ライダー剣】 ●剣崎一真/●橘朔也/○相川始/●桐生豪/●金居/●志村純一 0/4【仮面ライダー響鬼】 ●日高仁志/●天美あきら/●桐矢京介/●財津原蔵王丸 1/6【仮面ライダーカブト】 ●天道総司/●加賀美新/●矢車想/○擬態天道/●間宮麗奈/●乃木怜治 0/5【仮面ライダー電王】 ●野上良太郎/●モモタロス/●リュウタロス/●牙王/●ネガタロス 1/4【仮面ライダーキバ】 ●紅渡/○名護啓介/●紅音也/●キング 2/5【仮面ライダーディケイド】 ○門矢士/●光夏海/○小野寺ユウスケ/●海東大樹/●アポロガイスト 2/7【仮面ライダーW】 ○左翔太郎/○フィリップ/●照井竜/●鳴海亜樹子/●園咲冴子/●園咲霧彦/●井坂深紅郎 11/60 主催者 大ショッカー@仮面ライダーディケイド 首領 ○オーヴァーロード・テオス@仮面ライダーアギト 首領代行 ○ラ・バルバ・デ@仮面ライダークウガ 幹部 ○神崎士郎@仮面ライダー龍騎 ○花形@仮面ライダー555 ●キング@仮面ライダー剣 ○カブキ@仮面ライダー響鬼 ○三島正人@仮面ライダーカブト ○死郎@仮面ライダー電王 ○ビショップ@仮面ライダーキバ ○死神博士@仮面ライダーディケイド ○ネオンウルスランド@仮面ライダーW 主催陣営 ●水のエル@仮面ライダーアギト ●地のエル@仮面ライダーアギト ●風のエル@仮面ライダーアギト ●アークオルフェノク@仮面ライダー555 ●乃木怜治(角なし)@仮面ライダーカブト ●ネオ生命体@仮面ライダーディケイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4568.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ その身の丈は3メイルほどか。オーク鬼より一回り大きく、トロール鬼やオグル鬼よりは二周りほど小さい。 でっぷりと腹の出た鬼どもと違い、鍛え上げられた逆三角形を連想させるスラリとしたフォルム。その姿は狼が二足歩行に立ち上がったようであり、亜人というよりも獣人といった方がふさわしい。 確かに見たことがない種族だったが、大きさからいって、5メイルのトロール鬼兵士が振るう棍棒の一撃に耐えられるはずがない。 耐えられるはずがないのだ。なのに。 ―――ばしゅっ、と血風が舞い、上半身の右半分が丸々吹き飛んだトロール鬼兵士が、地響きを上げて崩れ落ちる。 なのに、なぜ。 ―――別のトロール鬼兵士が振り下ろした棍棒が、軽々とその掌に受け止められる。左手に握られている剣が一閃、トロール鬼の首を綺麗に斬り飛ばした。 なぜ、この『鬼』は事も無げに、それらを屠りながら前進してくるのだ。 そう、オークやトロールなど、『鬼』という言葉を使うにはあまりにも惰弱に過ぎる。そう、思わせられる。 目の前のこれこそ、まさに『鬼』。その表す意味に、最もふさわしい存在だ。 ―――ゴォゥッ、と風を巻き、背後にいた指揮官のメイジから『フレイム・ボール』の魔法が『鬼』に向かって放たれる。 普通の人間がまともに受ければ、炭の塊になる火の玉。 その光景も、何度も見た。 ―――『鬼』が左手の剣を振るう。火の玉と剣とがぶつかり合い……『フレイム・ボール』は、跡形もなく消え失せてしまうのだ。まるで、その刀身が炎を吸い込んでいるかのように。 「ひぎゃあああああああああああああっ!!!」 どんっ。軽い地響きがして、黒き『鬼』の姿が掻き消える。直後、響き渡る断末魔。 ものすごい速度でジャンプし、手前の槍ぶすまを飛び越え、先ほど『フレイム・ボール』を放った指揮官のメイジが叩き潰されたのだ。……文字通りの意味で。 「ば、化け物おおおっ!」 「なんだっ、なんなんだあああーっ!!?」 腕を振るい、脚を振るい、剣を振るい、その度に血飛沫が舞う。平民も、貴族も、亜人も……その前では、全て獲物に過ぎなかった。 自分は、手に持っていた愛銃を構える気も起こらなかった。これまで数多の戦場でメイジを十は撃ち抜いた自慢の相棒だったが……そんなもの、あれに効くはずもない。 「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 」 意識を黒く塗り潰すような咆哮。 自分はその甘美な誘いに抗う気も起きず……幸運な事に、そのまま気を失う事ができたのだった。 § 勝ち気に逸っていた『レコン・キスタ』軍は、急転直下、死地へと投げ出された。 突如現れた、謎の『鬼』が想像を絶する力で暴れまわり、前線の将兵をことごとく薙ぎ倒している、と。 命からがら後退に成功した兵、高地ややぐらからの物見、また風のメイジによる遠見の魔法、それら全てが伝えてくる出来事は、その荒唐無稽な報告が事実である事を示していた。 最前線を担っていた二個大隊のうち、果敢にも(あるいは所詮一匹だと侮って)それに立ち向かっていった者は、平民貴族亜人正規傭兵を問わず、ことごとく死んだ。 勝ち戦にある者は、死にたくないものだ。 死んではせっかくの勝利の美酒を味わう事が出来ない。略奪する宝、戦功への恩賞、武勇に与えられる名誉……それらが惜しくて、命を惜しむ。 利益を惜しみ、命を惜しむ者が、誰構わず死と恐怖を振りまく正体不明の化け物に立ち向かっていくわけがあろうか。 二個中隊、およそ数百の歩兵や指揮官のメイジがその爪にかかり、腕に押し潰され、脚に踏み潰され、剣に首を飛ばされたところで―――勝利を確信し、その先の略奪に思いを馳せてすらいた正面隊の士気は完全に崩壊した。 兵達は犬死にを恐れて散り散りに逃げ出すか、恐怖に気を失うか、やぶれかぶれにニューカッスル城に突撃し、城壁の守りに散らされていった。 そしてその化け物は、今も目に付く者全てに襲い掛かり、殺戮を繰り広げている―――。 § 殺す。 ―――爪を振るう。槍を構えていた兵士が六枚に下ろされて絶命した。 殺す。 ―――腕を振るう。折れた槍を捨てて脇差を振りかぶった兵士の上半身が、空き缶のようにひしゃげた。 殺す。 ―――跳び上がる。着地点にいた銃兵が、足の裏の下敷きになって落としたトマトのように潰れた。 殺す。 ―――剣を振るう。飛んできた魔法がその刀身に吸収され、ついでに近くにいた兵士数人が、山刀に刈られる背の高い草よろしく、それぞれ適当なところを斬り飛ばされてもんどりうった。 殺す。 殺す。殺す。殺す。 儚く消える間際に、命の炎が一際燃え上がる。だが、そんなものはどうでもよかった。エルクゥの悦びなど欠片も感じない。 あるのは、ただ炎。それは蝋燭の消えゆく炎ではなく、そのまま本人を包み込んでその身を荼毘に伏す業火。 「かははっ、なんてぇ心の震えだ! いいねぇいいねぇ、主人の仇討ちに震えるハート! 燃え尽きてヒート! ガンダールヴ最後の大仕事だぜえ!!」 漆黒の肌の中に、眩しいほど煌々と光を放つ左手のルーン。そこに握られた剣が景気よく声を出し、目前に差し迫った『ジャベリン』の魔法による巨大な氷の矢を、瞬時に蒸発させた。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」 呼応するようにエルクゥが咆哮を上げる。 だんっ、と血染めのその場から、『ジャベリン』が放たれた方向へとまっすぐに跳躍し―――その風のトライアングル・メイジは、刹那の後に絶命した。 § 軍隊、というのは、人間社会での集落同士が戦う為の組織である。 それが戦う事を想定しているのは、同じ数、同じ種類の人間だ。どれほどの腕があろうと、それが『人間』という枠に収まる以上、一人の達人では十人の雑兵に勝てない。 数の力。そういう理屈だ。 しかし。人ではない、たった一体の超越者と戦うには、軍隊は向かない。千を集め、万を集めても、その『数』という力を発揮出来ないまま無駄に命を散らすだけだ。 ドラゴンの暴君を討つのは、軍隊ではなく、英雄なのだ。 まだドラゴンなら、巨大なドラゴンならば、千の兵士によって一斉に銃を撃つことにも意味があるかもしれない。その巨体には、千の銃弾を集める事が出来るのだから。(逆に言えば、ドラゴンの炎の息も、百や千の兵を一斉に焼く事だろう) しかし、3メートルしかない少し大きな人型程度には、百人の兵士を殺到させたところで百人が同時に斬りかかれるはずもない。千人でも万人でも、せいぜいそれを相手に発揮される『数』の力は十人分。 その十人分を蹴散らすぐらい、超越者にとっては呼吸をするにも等しい。呼吸の回数が百回だろうと千回だろうと、それは等しく『時間の問題』でしかないのだ。 さらに『数』を増やそうとその外から弓や銃、魔法を撃てば、その近くにいる味方に当たるかもしれない。百人が一斉に囲めるような距離があっても、その人型は跳躍一つで銃の射程など飛び越えてくる。 業を煮やし、使い捨ての傭兵など知った事かと広範囲に及ぶ魔法をぶっ放した貴族などは、化け物の持つ剣に魔法を無効化された挙句、周囲の傭兵達によって逆襲を受け、それを守る兵との同士討ちが始まっている。その隊は、もはや軍としての用を成さないだろう。 前線のそんな混乱ぶりを間近で見ていた後方の隊では、機を見るに敏な傭兵や、戦の経験のない徴募兵が、次々と逃亡を始めていた。 堅城を落とす為に集められた五万の軍。それは、たった一匹のエルクゥに、全くの無力であった。 「……なんという」 ニューカッスル城の天守からは、『レコン・キスタ』軍五万の呆れ返りたくなるように巨大な陣容が一望できた。横っ腹への奇襲など微塵も警戒していない、岬の突端に位置する城の城壁にただひたすら殺到する為だけの、縦に長く伸びた突錐陣。 そして、今まさにその只中で殺戮の神楽を踊り続ける、使い魔の姿。 それを眺めるウェールズには、それを戦いと呼ぶのは憚られた。殺戮か、虐殺か……それとも、狩猟か。見るものを圧倒させる五万の陣は、瞬く間に見るも無残な血の海へと変貌していく。 「今なら、我らごと逃げ延びる事も可能かもしれませんな」 「……かもしれないな」 傍らの侍従の呟きに、ウェールズは重く頷いた。 城壁に張り付いてくるはずだった無数の兵がことごとく血に沈んでいく。もはや前線に展開していた部隊は壊滅状態だった。恐慌状態のままその横を走り抜けて城壁に取り付く兵士も散見されるが、見張りの兵だけで追い散らせる程度だ。 「まあ、逃げ延びる先がない我らには、ここを守るしかないのだがね。我らの名誉ある敗北は、彼に譲ってしまったのだから」 「いや、そうとは限りませんぞ」 「……パリー?」 かつて『鉄壁』の二つ名を欲しいままにした初老の侍従。その衰えぬ鋭い視線が、眼下に広がる五万の軍容の、そのさらに向こうを睨みつけている。そんな気がした。 「殿下、およそ全ての戦いと呼べるものには、一つの鉄則がございましてな」 「ほう。その心は?」 「『攻撃は最大の防御』と言うものです」 § 「もう一度報告を繰り返せッ!」 「は、はっ! 本日一〇一七、ニューカッスル攻略部隊が敵の襲撃を受け、先陣を担っていたハイランダーズ連隊は全滅。連隊長サザーランド侯以下、第一大隊長ランカスター伯、第二大隊長アーガイル伯、全てご殉死なされました」 全滅した隊のは言うに及ばず、後方の隊の傭兵や徴募兵までも逃亡を始めており、被害は今なお増大中、というその報告は、怒鳴り返した幕僚長には全く理解の出来ないものだった。 「敵の戦力は!? あやつら、玉砕覚悟で打って出たか!?」 「は。そ、それが……」 「何だ! わからんのか!?」 「て、敵は、一騎の亜人であるとの事です!」 搾り出すように叫んだ若き伝令の仕官の言葉に、簡素な野陣テントにしつらえられた軍議の場がざわついた。 「貴様、冗談を聞いているのでは―――!」 「詳しく説明しなさい。騎士ノーマン」 「ク、クロムウェル閣下……」 激昂しかかった幕僚長を遮ったのは、中心に座っていた司教服の男であった。いかつい勲章ときらびやかなマントばかりのその中心には、この場にそれ以上ないほど不似合いな、緑色の法衣姿がある。 『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルが、顔の前で手を組み合わせ、テーブルに肘を付いていた。 その傍らには、真っ黒いローブに身を包み、フードで顔を隠したその秘書が侍っている。わずかに垣間見える口元や体つきから見るに、中肉中背の、青年と少年の境目にある男性、という風情だが、クロムウェル以外の誰も、その顔を見た者はなかった。 「ヘイバーン統幕僚長。怒りは我らの鉄の結束を崩す。冷静に報告に耳を傾けたまえ。疑問があれば、理でもって問いたまえ。彼は年若くして竜に認められた、誠実で誇りある騎士だ。余が保障する。偽報であるかどうかは、彼の責にはない」 「は、はっ」 「さあ、詳細を、我らが同志ノーマン」 にっこり、と笑いかけた司教に、伝令仕官は平伏して答えた。 「手に持った剣で魔法を弾き、風のメイジ以上の俊敏さを持ち、トロール鬼以上の力を振るう見た事もない『鬼』と報告が上がっております。突如としてニューカッスル城門前に現れ、襲い掛かってきたと」 「それが数千の我が軍を殺し尽くしたと? 信じられぬ話だが、間違いはないのだね?」 「はっ。全ての物見が、同じ事実を報告致しました。自分も伝令に飛び立つ際に報告どおりの姿を見ましたが……その勢いは全く衰えず、我が軍を、蹂躙しておりました」 場が静まり返る。その場にいるのは全て軍部の高官だったが、皆、『信じられない』といった表情を浮かべている。 目を閉じて黙り込むクロムウェルの耳元に、傍らの黒いローブの人物が口を寄せた。 丈の長い漆黒のローブが重力に引かれ、二人の顔を隠す。 その裏で、威厳と不気味さを保っていた二人の相好が―――盛大に崩れた。 「どどどどどどーしようサイトくん! そんな化け物の事、知ってたかい!?」 「お、俺だって知りませんよ! ジョゼフの野郎もそんな奴がいるなんて一言も……!」 「さ、サイトくんのマジックアイテムで何とかできないのかい!?」 「一匹でメイジ込みの数千人ブチ殺すような化け物倒せるアイテムなんて貰ってませんて!」 「どーしよ!?」 「どーしろと!?」 「バス降りて歩いてたら」 「後ろからイキナリ!?」 「ところでサイトくん、『ばす』ってなんなのかね?」 「えっと、俺の世界での乗り合い馬車っていうか……って現実逃避してる場合じゃないですってクロさん!」 「だ、だって、どうしろっていうんだい?」 「と、とりあえずあの騎士さんを下がらせて、ここの人達にアイディアを出してもらいましょう。もう間が持ちません」 「う、うん。わかった。―――落ち着きたまえ、同志諸君。指揮官が取り乱しては、兵が不安がりますぞ」 二人が体勢を戻し、ごほん、とクロムウェルが咳払いすると、騒然となっていた軍議の場はさあっと静かになった。 「忠実なる我等が騎士ノーマン、貴重な報告ご苦労であった。貴君のもたらした情報は、必ずや我が同志達を勝利へと導くであろう。下がってゆっくりと休み、次の任務に備えたまえ」 「はっ!」 クロムウェルが何度も頷き、笑顔を浮かべると、伝令の竜騎士は深く頭を下げて退室していった。 「さて、諸君、親愛なる我が『レコン・キスタ』の同志諸君。今の報告を真実だとして、どのような対処をするべきだと思うかね?」 その言葉に、軍議は再び紛糾を始めた。 どのような化け物でも五万の軍勢には勝てまい。いや被害を無闇に広げるだけだ一度全軍を下がらせて正体を見極め選りすぐりの竜騎士で討伐すべきだ。いやいやそれでは王党派に時間を与える事になる宣戦布告破りが他国にばれようものなら我等の正当性が問われ―――。 「……なんとかなりそうっすかね」 「……その化け物って、何者なんだろうね」 「さあ……敵の秘密兵器かなんかでしょうか?」 「報告します!」 「「っ!」」 息を切らせた伝令兵が陣幕に飛び込んできたのは、議論の熱が高まり、ひそひそ話をする総司令官と秘書の顔に落ち着きが戻ってきた時だった。 「何事だ!」 「お、王立空軍の旗を掲げた艦が、この陣に向かい最大戦速にて突撃してまいります!」 その報告に、高官達は先ほどまでの舌の熱も忘れ、文字通り跳び上がって驚いた。 § 「弾薬は全て下に向けて撃ち尽くせよ! 敵の艦など相手にするな! イーグル号、及びその乗員はこれよりその全てを以って『レコン・キスタ』本陣への弾丸となる!」 『鉄壁』の号令に、おぉぉー! と艦中から鬨の声が上がる。 「『鉄壁』の名にふさわしくない荒っぽさだね、パリー!」 「言ったでありましょう、『攻撃は最大の防御』ですとな! それとも殿下には、座して死を待つ趣味がおありでしたかな!」 「まさか!」 機動力を重視した設計の、その最大戦速にて五万の兵を飛び越えていくイーグル号の甲板で、主人と侍従は抑えきれぬ笑みを漏らしていた。 「狙うは総司令官、オリヴァー・クロムウェルの首級のみ! おのおのがた、気張りなされよ!」 どんっ! と腹に響くような重音とともに、敵艦の砲撃が船体を掠めていき、イーグル号が大きく揺れた。 甲板にて杖を構え、楽しくて仕方ないという風に顔を歪めるメイジ達に、取り乱す気配は全くない。 「総員、突撃ぃっ!!!」 怒号と共に、二百余名のメイジ達はマントを翻し、こぞって甲板から飛び降り始める。 その眼下には、開けた地に張られた野陣がある。『レコン・キスタ』軍、ニューカッスル攻略拠点の陣であった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/heisei-rider/pages/97.html
最終登場時刻 ※154話「加速せよ、魂のトルネード(3)」まで →マップはこちら参照 一日目/日中 場所 キャラクター A-4 ダム付近 財津原蔵王丸 A-8 森林 園田真理 D-8 園咲邸の庭 加賀美新 G-1 廃工場の一室 モモタロス G-7 沿海施設 木場勇治 一日目/午後 場所 キャラクター B-8 森林 北岡秀一 C-6 草原 井坂深紅郎 E-4 病院/一階診察室 ネガタロス E-4 病院/廊下 剣崎一真 E-4 住宅街 光夏海 F-5 市街地 園咲霧彦 F-7 市街地 木野薫 一日目/夕方 場所 キャラクター C-6 平原 キング(キバ) D-1 病院前 桐生豪 D-5 東京タワー大展望台1階 霧島美穂 E-2 住宅街 照井竜、ズ・ゴオマ・グ F-5 道路 海堂直也 G-5 平原 東條悟、北條透 一日目/夜 場所 キャラクター B-5 ビル アポロガイスト C-6 平原 天美あきら、園咲冴子 E-7 道路 草加雅人 一日目/夜中 場所 キャラクター E-1 市街地 ゴ・ガドル・バ E-2 廃墟 紅音也 E-7 荒野 天道総司 一日目/真夜中 場所 キャラクター E-2 焦土 小沢澄子、桐矢京介、牙王 E-4 病院跡地 五代雄介、金居、秋山蓮、日高仁志、海東大樹 F-6 工場地帯 乃木怜治、矢車想、鳴海亜樹子 二日目/深夜 場所 キャラクター E-2 焦土 浅倉威 E-5 病院跡地 乾巧、志村純一 二日目/黎明 E-5 病院跡地 野上良太郎 二日目/早朝 D-1 病院 津上翔一 E-5 焦土 橘朔也 G-1 平原 乃木怜治(角あり) 二日目/朝 F-4 道路 葦原涼 G-3 橋 リュウタロス 二日目/午前 F-4 道路 ン・ダグバ・ゼバ G-3 橋 間宮麗奈、アークオルフェノク、村上峡児 二日目/昼 C-1 平原 キング@仮面ライダー剣 D-1 病院前 紅渡、ネオ生命体 二日目/夕方 D-1 病院前 水のエル、風のエル、地のエル 二日目/夜 D-1 病院前 一条薫、城戸真司、三原修二、相川始、擬態天道、名護啓介、門矢士、小野寺ユウスケ、左翔太郎、フィリップ ※赤色は死亡キャラ、青色はマーダー、オレンジ色は特殊スタンスまたはスタンス不明、それ以外は対主催です。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4338.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ ルイズは、夢を見ていた。 今日の舞台は、数年前まで住んでいた生家、ラ・ヴァリエール家の本宅。 「はあ、はあ……」 十ほども幼い姿の自分が、当時の自分の背格好からは迷路のようにしか見えなかった庭木の植え込みの間を、息を切らせて走っていた。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? まだお話は終わっていませんよ! ルイズ!」 後ろから、厳しい母の声が響き渡る。 ルイズはぎゅっと目を瞑り、必死に足を動かした。彼女の安息の場所に向かって。 そこは、広すぎる公爵家の屋敷の中で、住人達に忘れ去られた場所。 訪れる者は世話をする庭師だけになった、舟遊びをする為の大きな池。 池のほとりに繋がれた小舟の中が、優秀な姉達と違って魔法の出来ない自分が父や母に睨まれる事のない、幼いルイズの数少ない安心できる場所だった。 「うう、ぐすっ……」 持ち込んである毛布にくるまると、ぎいぎいと小舟がきしむ音と、ちゃぷちゃぷと揺れる水音が、聞こえる音の全てになる。 水と土が織り成すその調べを聞いていると、次第に悲しみに暮れていた気持ちが慰められていくのだった。 「はあ……」 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。 この光景は、過去のものだった。この後、婚約者である憧れの子爵様が慰めに来てくれたはずだ。 しかし、これは夢。過去を回想しているわけではなく、霞に見ているただの夢だった。 「あれ……?」 水と土の演奏が、どこか遠くに聞こえる。代わりに響いているのは―――轟と燃え盛る炎と、全てを切り裂く風からなる鋭い旋律。 「え―――?」 毛布から顔を出し、舟の縁から周囲を見たルイズは、絶句するしかなかった。 そこは綺麗に剪定された実家の池ではなく、どこかの河原。砂利と泥水の流れる河原に浮かぶ舟の中だった。 「ど、どこ、ここ……?」 きょろきょろと周囲を見渡すと、瞬間、そこは舟の上ですらなくなった。 「おお、おお、エディフェル! しっかりしろエディフェル……!」 『えっ?』 自分の口から、野太い男の声が漏れ出る。 その視線の先には、見た事もないような服を身にまとい、河原に横たわり、炎に照らされ、太い腕に抱かれた女性の姿があった。 まるで、自分が抱きかかえているような視点だったが……私の腕はこんなに太くないわよ、とルイズは妙に冷静な事を考えた。 抱きかかえている女性の胸に大穴が空いていて、その白磁のような肌にべっとりと血糊が張り付いているのも、どこか朧に目に映る。 『な、何よこれ……!』 口を動かそうとしても、言葉にならない。胸を焼くような焦燥だけがそこに渦巻いていた。 「……わかっていたのです。こうなるであろう事は……」 ごぼ、とその女性の口から赤い飛沫が弾ける。 「貴方を助け、貴方と共にある事は、一族への裏切り……皇女である私には、それが最大限の報復でもって贖われる事を……」 「もういい、喋るな。すぐに治療を」 静かに、女性は首を横に振った。 「助かりません。それに……私が助かってしまったら、今度はリズエルが……」 「構わぬ。お前以外の誰がどうなろうと構わぬ。そう言ってわしを鬼としたのはお主であろうが……!!」 「ふふ、そうでしたね……」 血を吐きながら、女性は穏やかな……酷く穏やかな表情を浮かべる。 その儚い笑顔に、ルイズはどこか、優しい下の姉の面影を見出していた。 「ああ、愛しています、次郎衛門。願わくば、姉を……エルクゥを恨まないで」 『えっ?』 聞き覚えのある単語に、夢心地だったルイズの意識が急に鮮明となる。 「愛している。愛しているエディフェル。だから死ぬな。わしを鬼とした主が死ぬな。その貸し、一生を捧げなくば返せぬものと知れ……っ!」 『あ、あ、う……!』 激情。 溶けた鉄にも似た、真っ赤な色をした激烈な感情が、容赦なくルイズの意識に流しこまれる。 それは、耕一の『シグナル』を受け取る時と同じ感覚で―――そして、同じでは到底ありえなかった。 耕一のシグナルが後ろからそっと肩を叩かれる程度の驚きであるとすれば、これは"ファイヤーボール"の直撃。骨まで灰になるような、溶鉄の温度だ。 「ふふっ……相変わらず厳しい方。ご心配召さらず。この身、既に全て貴方に捧げております故に……」 「ならば、ならばっ……!」 女性の手がふらふらと伸び、自分の頬を撫でた。その指が、微かな水気に濡れる。 それでも、身体中を焼き尽くすような溶鉄の激情は、少したりとも衰えない。 「エルクゥの御魂は、ヨークによって滅する事叶いません。幾星霜かの時の後に、また」 「……違えたら、許さぬ。お前はわしのものだ。必ずまた、来世で」 「はい。次の世でも、必ず貴方の元に」 そうして、二人の顔が、紅に濡れた唇が近付き――― § 「はっ!?」 ルイズは、がばっ、と布団を跳ね上げて目を覚ました。 「はーっ……はーっ……」 どくん、どくん、と心臓ががなり立てている。 「な、なに、今の、夢……」 夢、であったのだろう。実家にいたはずなのにいきなり見も知らない場所にいたり、何者かもわからないような男女の死別に居合わせたりと。 「エル、クゥ……」 でも。 いつもなら、浮かび上がる意識の底に置いていかれてしまう夢の内容を、今はありありと思い出す事が出来た。 炎。風。血。微笑み。そして、溶けるような―――想い。 「ううっ」 思い出して、ぶるりと背筋が震えた。 「なんだったのかしら……エルクゥ、って言ってたし、コーイチに関係ある事なの?」 「さあなあ。俺にゃわかりよーもねえなあ」 「ひっ!?」 夜明けの暗がりの中、独り言に反応する声が上がって、ルイズは文字通り飛び上がった。 「なんでえなんでえ。そんなお化けでも見たような顔で驚くなってんだ」 「あ、あんたね……」 カタカタ、と金具が鳴る音がする。それは、まだ寝息を立てている使い魔の横に立てかけられている、喋る剣の声だった。 「もう、寝る時は鞘に入れときなさいって言ったのに……」 「そんな寂しい事言うなよ娘っ子。こちとら作られてから数千年、久々に気のいい使い手に出会って充実した時を過ごせてるんだからよ」 カタカタカタ、と大きく飾りを鳴らして笑うデルフリンガーに、ルイズはそれに負けない大きなため息をつき……続けて、大あくびをかました。 「うう、まだこんな時間じゃないの……はぁ」 まだ薄暗がりの外を見て、布団を被りなおす。 「なんだ、また寝るのか。たまには早起きもいいもんだぞ」 「それ以上喋ったら鞘に押し込むわよ」 「むぎゅ」 そう言ったら押し黙ったので、ふんと鼻を鳴らして目を閉じた。 けれど、あの溶鉄のような激情を思い出して心臓は落ち着きを見せず、眠ってしまったらあの続きを見てしまうような気がして……ルイズは寝直す事の出来ないまま、段々と日が昇っていくのを眺める羽目になったのだった。 § 「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」 黒ずくめの怪しい先生の授業もハゲ頭に乗っかった金髪ロールのカツラも、睡眠の足りない胡乱な頭で見聞きしていたルイズは、その一言にはっと目を覚ました。 「姫殿下が……」 脳裏に、懐かしい記憶が蘇る。 それは、ちょうど朝夢に見たような、幼き日々。魔法を使えないと言う事が、まだ母の説教で済んでいた頃。 「……ふぅ」 しかし、ルイズは首を振って、開きかけた記憶の扉を閉めた。 「覚えていらっしゃるはずがないものね」 物心はついていた頃だから、聞けば思い出すかもしれないが、それだけだろう。 しかも、今の自分は『ゼロ』のルイズ。何かの折に小耳に挟まれていたら、失望されているかもしれない。そんな者と幼少のみぎりに遊んでいたのか、と。 そう考えると、知らず、ぶるりとルイズの背が震えた。 「……もう慣れたと思ったんだけどな」 最近は、そんな事気にもしない奴等がずっとそばにいるものだから、忘れかけていたのかもしれない。『ゼロ』という二つ名に込められた意味を。 「―――生徒諸君は正装し、門に整列すること。諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかり杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」 皆が引き締まった顔でコルベールの激を聞いているのを、ルイズはどこか張りのない表情で見つめていた。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーッ!」 そして昼を過ぎ。 門に整列した生徒達の前、猛々しい声と共に、老人に手を取られた女性が、一角獣ユニコーンが綱を引く絢爛な馬車から姿を現した。 その横には、幻獣グリフォンに跨り、大きな羽帽子で顔を隠した護衛らしき衛士の姿。 そのどちらにも覚えのある面影を見つけ、ルイズは周囲の生徒と同じ杖を掲げた格好のまま、じっとそれを見つめている。 不安と憧れが半々に混じった視線が、ゆらゆらと二人の間をさまよっていた。 「……キュルケさんとタバサちゃんは杖を掲げなくていいのか?」 「あたしはゲルマニアの者だもの。興味がなきゃ義理もないわ。お姫様って言っても、あたしの方が美人だしね。ま、あの衛士隊の殿方は素敵そうだけれど」 「…………」 「はは……」 その横に控えている耕一が、同じくその横でつまらなそうにしている二人に聞くと、キュルケはいつものペースを崩さないまま、タバサなどは木陰に座って本を広げる事で、それぞれらしい返事をした。 § 「……なるほど。誰も気付かぬうちにと、そういうわけですか」 「その通りですじゃ、枢機卿殿。ディテクト・マジックにも反応はなく、今のところどう盗んだのかすら不明ですわい」 「さて、伝統あるトリステイン魔法学院の威信が問われますな。盗まれたのが宝物ではなく生徒であったとしたら、いかがするおつもりでしたか」 「……さて、返す言葉もないですな」 夕刻。学院長室では、昼間にアンリエッタ姫をエスコートしていた老人、このトリステインの政務を仕切る実質上の宰相であるマザリーニ枢機卿が、飄々としてはいるが、どこか弱った表情を隠せないオスマンの報告を聞いていた。 一週間前に起こった、『土くれ』のフーケによる盗難事件の報告である。その横では、アンリエッタ姫が苦い顔で二人の話を聞いていた。 「枢機卿。過ぎた事を責めても」 「然りです殿下。ですが、これからの話に入る為には必要な事でもあるのです。オールド・オスマン。これから警備体制に関しては、こちらからも口を出させていただきますぞ。このトリステイン魔法学院には、他国からの留学生も多く預かっておりますでな」 それが誘拐される事も有り得る。言外にそう言っていた。 もしそうなった場合、その相手国との関係がどうなるかは、語るまでもない。 「……仕方ありますまいな」 口だけじゃなく手も足も出す気じゃろうに、という内心を隠しながら、オスマンは弱った様子で重く頷くしかなかった。 学院の自治は重要ではあるが、生徒の安全には代えられないのだ。そして、目の前の老人には、その担う重責―――まだ齢四十だが、その重き荷が、彼をそこまでに枯れさせてしまったほど―――に相応の、それが出来るだけの力があった。 「さて、まずは―――?」 具体的な話を詰めようと開いたマザリーニの口はしかし―――びりびり、という大地の震えに閉じられた。 「地震ですかな。珍しい」 アンリエッタを庇うようにマントを広げ、マザリーニが周囲を見渡す。 「ああ、枢機卿殿、これは違いますぞ。お気になさらず」 「オールド・オスマン?」 妙に落ち着き払ったオスマンの態度に、マザリーニが怪訝な表情を浮かべた。 再び、大きく震えた。 「とある生徒の魔法の練習ですじゃ。最近張り切っておるようでしてな。毎夜の事なのです」 「……魔法の練習? これがかね?」 「珍しい事ですが、その者は魔法を失敗すると爆発してしまうのです。この通り」 オスマンが杖を一振りすると、横の姿見が、一人の少女の姿を映し出した。 それを見た瞬間、アンリエッタの目と口が驚きに見開く。 「……ふむ」 段々と夜が深くなっていく宵闇の中、桃色の長いブロンドを汗に濡らし、杖を振り続ける少女。その傍らでは、蒼い髪の小柄な少女が、その使い魔であろう大きな風竜に、爆発からの盾にするように背を預け、本を広げている。 桃髪の少女が必死の表情で杖を振ると、近くにあった握り拳ほどの石が盛大な爆発を起こし、濛々と煙を吐き出した。 「本来は爆発音もするのですが、ちと近所迷惑だと生徒からの苦情がありましてな。とはいえ生徒の自助努力を止めるというのも心苦しいです故、彼女の友人や教師が交代で、サイレントの魔法をかけておるのです」 振動と映像は、一致している。 しばらくの間、杖を振っては爆発して建物が響くのを見つめた後、マザリーニは大きくため息をついた。 「……話を進める雰囲気ではなくなりましたな。追って書状にてご連絡致しましょう」 「あいわかり申した」 マザリーニは部屋を出て行こうと踵を返す。 アンリエッタは同じくその少女が映る鏡を見つめていたが、その表情はマザリーニとは真逆の、どこか懐かしく嬉しいようなものを含んでいた。 「……ルイズ・フランソワーズ」 「殿下、参りますぞ」 彼女の唇から紡がれた小さな言葉は、扉を開けてアンリエッタを待つマザリーニの耳には届かなかったようだった。 § 「よう娘っ子、今日も絶好調だったみてぇだな」 「黙りなさい溶かすわよ」 ルイズは不機嫌そうに剣を蹴飛ばすと、湯上りで赤みの差した肌をごろんとベッドに横たえた。 「ちょっ、蹴るなってあぁん♪」 「へ、へへ、変な声を出すなぁぁぁっ!」 「ぐへ! 娘っ子それはさすがに痛えってちょっ! 相棒タンマ! ストップ! ストップ・ザ・スローイン!」 「すまんデルフ。さすがに俺もキモかった」 「ひでえよ相棒……ちょっとしたお茶目じゃねえかよ」 デルフリンガーの声はどう聞いても中年のおっさん声であるので、冗談でも『あぁん♪』などという可愛らしい文字列は似合わなかった。 思わずルイズがカカトで踏みつけ、耕一が窓から投げ捨てようとしてしまったのも無理ない事であったろう。 「やれやれ、ひでえ目にあったぜ」 「自業自得よ。まったく……」 ルイズはベッドに入り直すと、早々に布団を被る。魔法の練習が疲れるのか、最近はとても健康的な時間に就寝してはいるが、それにしても早かった。まだ月が昇ってそれほども経っていない。 「もう寝るのか?」 「……今日はちょっと張り切っちゃったのよ。おやすみ、コーイチ」 「ああ、おやすみ」 ルイズが背中を向け、さてさすがに俺も寝るには早すぎるけどどうしよう、と耕一が暇を潰す先を考え始めた時。 コン、コン と長めのストロークでドアがノックされた。 「はーい、どなたで―――」 コココン 耕一が応対の為に立ち上がろうとすると、再び短く三回。 「えっ!?」 「る、ルイズちゃん、どうした?」 何か閃くものがあったのか、ノックを聞いて飛び起きるルイズ。 数秒ほどそのドアの方を見つめると、眉を寄せながらブラウスを身に付け、おそるおそるといった感じでドアを開けた。 「……あ、あなたは」 そこにいたのは、長く黒いマントで体を隠し、黒いフードをすっぽりと被った人物だった。 見るからに怪しげだったが、ルイズの表情は、どこかそういう"怪しんでいる"というのとは違う驚きだった。 黒マントはそっと唇に指を当てると素早く部屋の中に潜りこみ、フードを取り去る。その素顔に、ルイズの目が今度こそ見開いた。 「……ルイズ・フランソワ―ズ」 「ひ、姫殿下……!」 「ああ! 覚えていてくれたのね。ルイズ、懐かしいルイズ!」 黒フードの少女―――アンリエッタ・ド・トリステインは、感極まった声でルイズに抱きつき、心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ