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ウサギのナミダ ACT 1-23 □ 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 「なぜだ? 今俺たちがバトルしたって……ろくなことにはならないぞ」 「だって、こんなチャンスは滅多にないじゃないですか……秋葉原のチャンピオンと戦うなんて」 そういうおまえは、なんで今にも泣き出しそうな顔してるんだ? なんでそんなに必死そうなんだよ。 「お願いします、マスター……お願いします……」 何度も俺に頭を下げて頼み込むティア。 ティアが相手とのバトルを望むなんて、滅多にないことだ。 だからこそ、理由が分からない。 なんでそんなに雪華と戦いたがる? 東東京地区代表という肩書きが、ティアにとってそんなに魅力的だとは思えないのだが。 「……走れるのか?」 「はい」 結局、折れるのは俺の方だった。 肩をすくめ、ため息をつく。 ティアがそういうのならば仕方がない。 まだもめている、三人の客分の一人に、俺は声をかけた。 「……クイーン」 「なんでしょう」 「俺たちは……知っての通り、ティアの出自のことで、世間からも白眼視されているような状況だ。 ……そんな俺たちとでも、戦えるのか?」 そう。俺たちと戦うだけでも、彼らに迷惑がかかる可能性がある。 それを考えれば、すでに全国大会の代表を決めている神姫と、気安くバトルをすることなどできない。 取材されて、俺たちと対戦したことを白日の下にさらすなどもってのほかだ。 俺はそう思っていた。 だが。 「彼女の出自とバトルに、何の関係があるというのです?」 雪華は即答した。 彼女は噂や風聞で神姫を評価していない。ただ、バトルあるのみ。その姿勢こそが雪華の強さなのか。 「……わかった。対戦を受けよう」 俺の言葉に、ギャラリーがざわめく。 高村と三枝さんも、驚いたように俺を見た。 「ただし、条件がある。 そっちの事情があるにせよ、やはりマスコミの取材は受け入れられない。そこで……」 俺はこんな条件を提示した。 まず、この対戦について、一切記事にしないこと。俺とティアに対するインタビューはもちろん拒否だ。 ただ、何もなしでは三枝さんが困るだろうから、バトルの記録は許可。 また、高村たちへのインタビューなどは俺に拒否する権利がないので、記事にしない限り好きにしてもらえればいい。 妥協案ではあるが、三枝さんとクイーンの両方に面目が立つだろう。 それから、バトルのフィールドは俺が指定する。もちろん廃墟ステージだ。 「この条件が飲めるなら、対戦してもいい」 「わかりました。すべてあなたの指定通りに」 雪華の即答に、三枝さんと高村が泡を食った。 「ちょっと、雪華、相談もなし!?」 「何か不都合でも? 完全拒否よりも十分な譲歩案だと思いますが」 「でも、記事にできないっていうのは……」 「彼らはそれが困ると言っているのです。 それに、記事にするだけなら、先ほどの『エトランゼ』とのバトルで十分でしょう」 むむむ、と唸って、三枝さんは渋々承諾した。 一方の高村は、その様子を見て、先ほどの落ち着いた笑みを取り戻している。 すると、今度はギャラリーの方から声が上がった。 「おい、黒兎! クイーンとのバトルにステージの指定をするなんて、失礼だと思わないのかっ!? しかも、廃墟ステージなんて、黒兎得意のステージじゃないか! 卑怯だろ! そうまでして勝ちたいのかよっ!?」 声は、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターのものだった。 最近、奴は何かと俺に突っかかってくる。何が気に入らないというのだろう。 ギャラリーも大半が、ワイバーンのマスターの意見に賛同して、俺にブーイングを送ってくる。 だが、何も分かっていないのは連中の方だ。 クイーンとそのマスターの意図を理解していれば、そんなことは言わない。 「……廃墟ステージの指定に、何か依存は?」 「ありませんよ? というか、僕たちの方から廃墟ステージでのバトルを提案するつもりでしたから」 笑顔の高村の言葉に、俺は頷く。ワイバーンのマスターは顔を引きつらせた。 高村たちは、ティアが廃墟や都市ステージでないとパフォーマンスを発揮できないことを知っている。 唯一無二の戦い方をする神姫とのバトルこそが望みなのだ。 そのパフォーマンスを遺憾なく発揮できるステージでなければ、彼らにとっても意味はない。 俺のステージ指定に反対するはずがないのだ。 高村の一言に、ギャラリーたちは口を噤まざるを得なかった。 俺の後ろでくすくすと笑っているのは、ミスティだろうか。 「これでいいでしょう。『ハイスピードバニー』のバトル、しかと見せてもらいます」 芝居がかった口調で、クイーンの雪華は俺とティアに言った。 「わたしも、負けません……!」 静かに言ったティアの言葉に、俺は驚きを隠せない。 かつて、これほどに闘志を燃やしているティアを見たことがない。 ティアの心境にどういう変化が起こっているのか。 ティアの台詞に、雪華は不敵な笑みを浮かべていた。 俺と高村は、バトルロンドの筐体を挟んで着席した。 ギャラリーから歓声が上がる。 そのほとんどが、クイーンへの声援だ。 やれやれ。これじゃあ、どちらがホームでどちらがアウェーかわからない。 今日の俺たちは完璧に悪役だった。 ならば、それでもかまわない。とことん悪役を演じてやろうじゃないか。 俺はバトルロンドの筐体に武装をセットアップしていく。 ティアをモニターするモバイルPCも開いた。 指示用のワイヤレスヘッドセットを耳に装着する。 久しぶりだった。この緊張感、久しく忘れていた。 準備をする俺の後ろに、ギャラリーが立った。 久住さんと大城、それから四人の女の子たち。 「いいのか? 俺の後ろで」 俺が言うと、みんながみんな頷いていた。 「言ったろ。俺たちはお前の味方だ」 「わたしはあなたの側につくって宣言しちゃったし」 久住さんに至っては、肩をすくめながらそんなことを言うので、俺はびっくりしてしまった。 四人のライトアーマーのオーナーたちは、久住さんの味方らしい。 味方がいてくれるのはありがたいことだ。 久住さんが、不意に険しい表情になって、俺に囁いた。 「気をつけて……クイーンは並の武装神姫じゃないわ」 「……そりゃあ、仮にも全国大会選手なんだから……」 俺の言葉に、久住さんが首を振った。 「もうなんて言ったらいいのか……次元が違うの」 俺は怪訝な顔をしたと思う。 久住さんの言葉は要領を得ていない。 彼女にしては歯切れの悪い答えだった。 ミスティが続ける。 「そうね……わたしたちの得意の距離に踏み込んで、真っ向勝負で、逃げなくて、こっちはあらゆる手を尽くして……それであしらわれた、って言ったら分かる?」 「……は?」 にわかには信じがたい。 身内びいきを差し引いても、ミスティは全国大会レベルの選手と互角に戦えるだけの実力がある。 アーンヴァルの飛行能力で、徹底的にミスティの弱点を突いたならともかく、ガチンコ勝負であしらうなどとは、想像もつかない。 だが、久住さんとミスティはまったく真剣な顔をしていたし、大城も虎実も頷いている。女の子たちも真面目な顔で、冗談にしてくれそうな雰囲気ではなかった。 俺も、海藤の家で、雪華のバトルは見た。 あのときの手並みも鮮やかだった。 しかし、あのバトルはアーンヴァル同士の空中戦だったから、参考にならない。 俺は戦慄する。 もしかして、とんでもない化け物を相手にするのではないのか? 「ごめんなさい。参考になるようなこと、言えなくて……」 「気にすることないよ。とんでもない相手だってことがわかっただけでも十分さ」 悔しそうな顔をした久住さんに、俺は笑いかけた。 すると、久住さんはちょっと驚いた。 「……なにか、あった?」 「なんで?」 「先週みたいに思い詰めてなくて、なんだか……ふっきれたみたい」 「ああ」 彼女はまだ知らないのかもしれない。今日の朝の報道を。 久住さんがきっかけを作ってくれたおかげで、今俺はこうして笑えている。 「だとしたら、久住さんのおかげだ」 俺が言うと、久住さんは驚いた顔をしたあと、視線をそらしてうつむいた。 ……何か悪いことを言っただろうか。 彼女の肩で、ミスティがほくそ笑んでいるのが見えた。 俺は不可解な思いに捕らわれながらも、筐体の向こうを見た。 高村が準備をすませ、こちらを見ている。 「相談は終わりましたか?」 俺はティアを見た。 「ティア、いけるか?」 「はい。大丈夫です」 ティアの返事はいつもよりもしっかりとしていて、緊張していた。 このティアの心境が、バトルにどんな影響を及ぼすだろうか? それが少し心配ではあったが。 俺は高村に告げる。 「準備OKだ。……始めよう」 「それでは」 双方のアクセスポッドが閉じて、筐体と神姫がリンクする。 スタートボタンを押す。 ファンファーレと共にディスプレイにフィールドが表示され、対戦者の名前が重なる。 『雪華 VS ティア』 バトルスタートだ。 ■ 廃墟を吹き抜ける砂塵。 いつものフィールド。得意のフィールド。 わたしはメインストリートを巡航速度で走る。 久しぶりのバトルロンドは懐かしい感じがする。 再びここに戻ってこられるとは思ってもいなかった。 今日の相手はとびきりの対戦者。 このバトルは、わたしにとっては大きな、そして唯一のチャンスだった。 だから、マスターに無理を言ってまで、対戦を受けてもらった。 わたしは、今日の対戦者に感謝しなくてはならない。 わたしを助けてくれたこと。そのときはバッテリーが切れていたので、覚えてないけれど……。 そして、わたしと対戦してくれること。 風が巻いた。 わたしの頭上を、高速で何かが駆け抜けていく。 攻撃を警戒していたけれど、ただ追い越していった。 そして、上空で優美にターンすると、わたしと向かい合う位置で、空中で静止した。 わたしは、武装した相手の姿を見て、声を失う。 美しい。 そして、圧倒的な存在感。 基本の武装はアーンヴァル・トランシェ2だけれど、細かいところが異なっている。 羽は鳥を思わせる形状の機械の羽。 捧げ持つ武器は、長大な黄金の錫杖。 気流に舞い上がる銀髪が大きく広がっている。 まるで光の粒子をまとっているかのよう。 その姿は、まさに天使。 いまならわかる。 彼女がなぜ『アーンヴァル・クイーン』と呼ばれるのか。 その堂々たる姿は、まさしく天使の女王と呼ぶにふさわしかった。 それに比べればわたしなんて、地を飛び跳ねる小さな兎に過ぎない。 「待ちこがれていました。貴女との対戦を」 白き鷹のごとき神姫は、子兎のようなわたしにそう言った。 「……なぜですか。なぜ、わたしと、なんですか」 「貴女の独自の装備と技を、身を持って感じたいからです」 それだけ? たったそれだけのために、わざわざ遠くまでやってきて、わたしと戦いたいというの? 全国大会も制覇しようという武装神姫が? わたしにはわからない。 雪華さんにとっては、それほどの価値があるようだけど、わたしはそうは思わない。 わたしなんかと戦って得るものがあるなどとは到底思えなかった。 けれど、このバトルは、わたしにとってはチャンスだった。 そう思って、自分を奮い立たせる。 わたしは小さな兎なのだとしても。 戦ってみせる。……そして勝つ。 「ならば……真剣勝負です、雪華さん!」 「望むところです、ティア!」 雪華さんとわたしの、戦いの輪舞がはじまった。 次へ> トップページに戻る
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戻る 先頭ページへ ネリネ。 私の可愛い神姫。 私の初めての神姫。 ネリネ。 まさに天使の様なその笑顔は、私にとってかけがえのない宝物だった。 貴女がくれたものを、私は生涯忘れはしない。 ネリネ。 でも、貴女は居なくなってしまった。 私が悪かったの? 興味本位で、神姫バトルを貴女にやらせたのが。 違う。 悪いのは、あいつらだ。 神姫には心がある。 神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする。 それなのに、神姫をただのバトルの道具にしか見なかったあいつら。 私は、絶対許さない。 ネリネ。 私は今日、貴女の仇を取る。 轟―――。 朽ち果てた戦場に、真紅の影が躍った。 それは、血染めの鎧を身に纏う、白髪赤眼の悪魔。 「そんなんじゃぁボクは殺せないよぉ!」 真っ赤な瞳を狂気に揺らし、どす黒い軌跡と共にロケットハンマーを振り下す。 カーネリアンと同じく赤黒いそれは、打突部後部の推進装置を作動させ、その破壊力を数段上へと昇華させる。 直撃すれば神姫であればひとたまりも無い。まさに一撃必殺。 「……五月蠅い」 戦場の体裁を保っていない戦場を奔るのは白い影。 それは、雪の様に白い鎧で武装する、白髪青眼の悪魔。 ロケットハンマーの一撃を軽いステップで回避し、空かさずカーネリアンとの距離を詰め、チーグルで握ったアンクルブレードを大上段から降り下す。 音さえ遅れる白い斬撃は、しかしカーネリアンの赤い片のチーグルに阻まれた。 アンクルブレードはチーグルに傷を付けこそ、それ以上は無い。カーネリアンのチーグルの耐久性は異常だと言えた。 「カーネリアンのチーグルとサバーカは装甲板厚くしてある。並大抵の刃は文字通り刃が立たないぞ……カーネリアン、ギロチンを使え」 壊れたバトルマシンを眺めながら、恵太郎が口を開いた。 カーネリアンはそれに応じ、手に持ったギロチンブーメランでアリスを狙う。 「……フルストゥ・クレイン」 恵太郎の問いかけられた一方―――カーネリアンは応えた。しかし、もう一方の君島ましろは応えずにアリスへと指示を出した。 背部に備え付けられた白刃を抜き放ったアリスは即座にギロチンブーメランへと打ち当てた。 全く同じ相貌の、しかし色と得物だけが違う悪魔が、対峙した。 膠着状態、しかし確実にアリスは押し負けている。 アリスのサバーカとチーグルはカーネリアンのそれが装甲板を厚くしているようにアクチュエータを強化してある。 その結果、重装甲でありながらもマオチャオ型と同格の機動性を有している。 しかしそれは機動性に限ったことであり、馬力は変わっていないのだ。 一方、恵太郎は口にしてはいないがカーネリアンのそれは馬力をも強化されている。 デフォルトの1.2倍程度の強化だが、それは同タイプのアリス相手の場合、地味ながら大きな差となっている。 「アリス、掴み合いでは、勝ち目が無い」 君島は即座にそれを判断し、命令を下した。 短絡的な命令だが、アリスはそれを完璧に理解した。 即ち、高機動での撹乱、である。 がきん、と鋼の地面が鳴いた。 固い地面を鋭く捉えたアリスの脚が初動以外全く音も立てず、カーネリアンから距離を放した。 ロケットハンマーで攻撃を加えようとしていたカーネリアンの身体が、揺れた。 再び、がきん、という床が鳴った。 瞬きする間もなくカーネリアンとの距離を詰めたのだ。 カーネリアンの目前で急制動、前傾姿勢のまま右足を大きく踏み込ませ、両のチーグルで握るアンクルブレードを交差させる。 そしてそれを左右に薙ぐ。 音すら遅れてくる斬撃は、確かにカーネリアンの両のチーグルを捉えた。 だがやはり、アリスの白刃は赤いチーグルに浅傷を残す事は出来たが、両断する事は願わなかった。 刹那、空気を叩き潰す様に空間を軋ませながら、赤い左のチーグルが突き出された。 巨大な指を揃え、掌を反らし手首付近を打点とし、対象の顎を狙う突き技。 掌底と呼ばれる突き技の一種だ。 この技は一般に拳での打撃よりも威力が高いと言われている。 そして、今それを成しているのは神姫の武装の中でも近接戦闘に特化したチーグルなのだ。 その質量、その馬力。そして使い手の技量。 それらが揃った掌底をただの掌底と侮る事無かれ。 それは、それだけで必殺の威力を孕む。 「んもぉ、連れないなぁ」 しかし当たらなければ、意味は無い。 掌底の一撃を数度のバックステップで避けたアリスはフルストゥ・クレインを投擲した。 応じる様に、カーネリアンは両の手に持つギロチンブーメランを接続、同様に投擲する。 風を裂く白刃。大気を潰す斬首刀。 刃の衝突を待たず、アリスは再び地を蹴った。 軌道を左右に大きく揺らしながら跳ねる。カーネリアンを撹乱する考えだ。 最中、チーグルで握るアンクルブレードを横に寝かせて突きの構えを取る。 向かって右に跳び、その着地点をカーネリアンの至近に着地。 その瞬間、サバーカの膝を折り衝撃を吸収させ即座に攻撃態勢へと移り、必要最低限の動きでアンクルブレードをカーネリアンの頭部目掛けて刺し出した。 「んふふぅ」 突き出されたチーグルを、しかしカーネリアンは無造作に左のチーグルで掴み、アンクルブレードを止めた。 そして、右のチーグルで握るロケットハンマー。それの柄をアリス目掛けてさながら槍のように突き出した。 回避しようにもチーグルは未だ掴まれたままだ。 それを振り解き、回避に映るには時間が足りない。 だから、アリスは強引に身体を捻り、即座にフルストゥ・グフロートゥを抜き、カーネリアンの首目掛けて突き出した。 「……ぅぐ」 アリスの脇腹をロケットハンマーの柄が微かに抉った。 それが本来の用途で無い事と、十分な予動が出来なかった事もありダメージは大したものではない。 しかし、カーネリアンはフルストゥ・グフロートゥを完全に捌き切れなかった。 首は胴と繋がっている。しかし、刃が左目の付近を掠め斬っていた。 それは、カーネリアンにとって、恵太郎にとって予想外だった。 恵太郎は、アリスがこの攻撃を一旦防ぎ、隙を見て脱出し間合いを離し仕切り直す。 そうとばかり考えていた。 しかし、実際は違った。 半ば、捨て身に近い今し方の攻撃は、アリスの、そして君島の心情を暗に物語っていた。 「これはびっくり」 アリスの眼に映るのは、純粋な憎悪。 姉を殺したカーネリアンへの無垢で純粋な殺意なのだ。 掠っただけにしても、目に程近い場所を刃が通過するのは思いの他、隙が出来る。 その隙はカーネリアンの拘束の緩みを生み、アリスはその隙にチーグルを強引に振り払った。 返すチーグルで一旦アンクルブレードを離し、カーネリアンが投擲し、返ってきたギロチンブーメランを掴み裏拳の要領で叩き付ける。 完全に虚を突かれたカーネリアンは、咄嗟の反応が出来なかった。 右のチーグルはロケットハンマーの突きの反動で防御には回せない。 残る、ついさっきまでアリスを掴んでいた左のチーグルで無理やりギロチンブーメランを受け止める。 刹那、ギロチンブーメランから手を放したアリスは、アンクルブレードを再び執ると距離を放した。 「やるぅ」 カーネリアンの左のチーグルの掌部分は完全に破壊された。 ギロチンブーメランの刃はチーグルの先端に深く食い込んでいる。 それを抜こうとしたカーネリアンだが、素体の腕では抜き切れなかった。 仕方なくギロチンブーメランの連結を解除。片方を手に取るとアリスへと向き直った。 アリスは先刻投擲したフルストゥ・クレインを左手に、フルストゥ・グフロートゥを右手に、アンクルブレードを両のチーグルで執り、静かに構えている。 損傷はカーネリアンの方が上だ。 主武装であるチーグルの片手が使用不能とあっては、絶大なロケットハンマーもその威力の全てを出し切れない。 それでも、カーネリアンはそれを手放さない。 赤黒い金属の塊である、それを。 かつて、数多の姉妹を屠ったそれを。 カーネリアンはロケットハンマーの柄の中程を握る様に持ち直し、構えた。 それが、カーネリアンなりのけじめなのだ。 「ぼくさぁまどろこっしいの嫌いなんだよねぇ」 カーネリアンの赤い瞳が、アリスの青い瞳を捉えた。 まるで本物の人形の様な無表情。 しかし、それは違うのだ。 白く、負の熱が燃えているのだ。 それは感情を殺し、心を殺し、全てを殺して、ようやく成り立っているのだ。 復讐の為。それだけの為だけに生きるアリスにとっては。 「だからさぁ、次の一撃で終わりにしようよ」 カーネリアンはギロチンブーメランを捨て、ゆっくりと右のチーグルを上段に構えた。 無造作に、武骨に、しかし全ての力をそれに込めて。 カーネリアンは立ち構えた。 「どうだ? 君島」 怪しむ君島に、恵太郎が声をかけた。 思考は、一瞬だった。 「……いい、でしょう」 アリスはその言葉に反応し、左のチーグルで握るアンクルブレードを捨てた。 右のチーグルを大きく引き、顔に沿うようにアンクルブレードを構える。 脚は開き、腰は落とす。突きの構えだ。 一瞬の静寂。 音だけが、世界から消え去った様な幻覚。 しかし、それは一瞬だ。 次の瞬間には、アリスが地を蹴っていた。 どこまでも真っすぐに、どこまでも純粋に、どこまでも只管に。 アリスは翔けた。 全身全霊の力を込めて。 全身全霊の憎悪を込めて。 全身全霊の、全てを込めて。 アリスは、白刃を突き出した。 カーネリアンもまた、全身全霊で応じた。 鉄槌を振り下す機械の腕。 背中で吠える推進剤。 それを力へと変換する為に回す腰。 脚は地を抉るように踏ん張る。 全てが、完璧に重なった、 恐らくは、カーネリアンにとって最高唯一の一振り。 立ちはだかる者全てを、一切合切を打倒し、破壊し、終焉さし得るモノ。 それに相応しい、最後の一撃。 白刃と鉄槌が、終に衝突した。 鉄槌の中心を捉えた白刃は、一瞬にして全身に罅が這入った。 しかし、アリスは力を緩めない。むしろ増していく。 全てを、カーネリアンへの復讐の為に捧げた日々を、今この白刃一本に込めているのだ。 だがカーネリアンも負けはしない。 片腕ながら、打突部後部の推進装置を起動させ、白刃もろともアリスを砕こうと力を込める。 カーネリアンもまた、この日の為に全てを捧げてきたのだ。 まるで、走馬灯の様にカーネリアンの脳裏をそれが過った。 刹那、ロケットハンマーに亀裂が奔った。 それは、瞬く間に全体に広がり、そして砕けた。 白刃は破片を搔き分け、潜り、蹴散らしながら止まらない。 それは、赤いチーグルを砕き。 カーネリアンの右腕をも砕き。 そして、右胸に達した時、ようやく止まった。 「神姫の力は……心の力ってねぇ」 動力部に近い部位に損傷を受けたカーネリアンは、砕けた二つの右腕と共に崩れ落ちた。 傷はCSCの付近まで達していた。 「……終わり、です」 君島が、静かに告げた。 それは試合が終わった事を告げる言葉ではない。 それは、カーネリアンの終わりを告げる言葉なのだ。 「分ってるよぉ……」 上体だけ起こしたカーネリアンは、弱弱しく自らの胸部装甲を唯一無事な左手で掴み、引き千切った。 神姫の心臓たるCSCが、顔を見せた。 「ふふ、腕が残ってて良かったよぉ」 胸部装甲を投げ捨てながら、カーネリアンは言った。 「……覚悟は」 まるで、死刑執行人だ。 カーネリアンはアリスを見上げながらそう感じた。 「そうだねぇ……」 暫く、逡巡する素振りを見せたカーネリアンは、顔を上げ言った。 「ましろちゃん。これが済んだらアリスを可愛がって上げてね」 全く、予想外な言葉。 その言葉に、君島は一瞬呆気に取られ、次の瞬間激しい怒気を発した。 「一体、どの口が、そんな事を……!」 その怒気は、アリスへと伝達した。 「……」 全くの無表情。 その無表情のまま、アリスはボロボロのアンクルブレードを素の右腕に持ち替えた。 そして、地面に座り込んでいるカーネリアンに合わせるよう、膝を折った。 「さぁ、やるならここだよ。ボクが生き返らないように、確実にね?」 自身の赤い三つのCSCを指さしながら、カーネリアンは言った。 「……これで、終わり」 アリスが、アンクルブレードを軽く引いた。 そして、鋭く突き出した。 「マスター。私は幸せでした」 あっさりと、それはカーネリアンのCSCを貫いた。 「ああ……ナル、俺もだよ」 カーネリアンの身体が、まさに糸を切った人形のように、倒れた。 先頭ページへ 進む
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「トリッキーな攻撃で相手を翻弄させるルーナで」 「あら、アタシを選んでくれるのね。嬉しいかぎりだわ」 右肩で、しなやか身体を動かしながら喜ぶルーナ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! ルーナを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってルーナの観戦をする。 「ルーナ、頑張れよ!」 「勝ったらご褒美くださいね、ダーリン!」 「油断しないでしっかりね。頑張るのよ、ルーナ!」 「負けるじゃないよ!一番最初の闘いなんだからな!!」 「ルーナさんー!頑張ってください!!」 「まかせなさい」 ルーナは少し淫靡な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとルーナに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しルーナは…あれ、ニコニコと笑いながら戦闘態勢にもはいっていないでその場で静止し続けている。 おいおい、これじゃあどう見たってルーナの方が不利だ。 出遅れもして更に武器すら構えていない。 いったいどうゆう事だ? 何か秘策でもあるのだというのか? 「はああああぁぁぁぁーーーー!!!!」 敵のストラーフがDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルで攻撃しようとした。 そこでルーナがクスッと笑い、背中に隠していたクライモアを取り出した。 ガギン! チーグルとクライモアがぶつかって鈍い音が聞こえる。 ルーナの奴、何時の間にあんな武器を隠し持っていたんだ? まぁ確かに装備させておいたけど…。 「残念でしたね~。そんな安直な攻撃では、あたしに届きませんよ」 ニッコリ笑うルーナ。 余裕綽々みたいだ。 あの自信はいったい何処から湧き出てくるんだろう。 「チッ!」 一度、ルーナから離れる敵のストラーフ。 ルーナの奴はクスクスと笑いながら追撃しない。 何故なんだろう、絶好の攻撃のチャンスだったのに。 「次はちゃんと攻撃してくださいね」 「クッ!バカにしてー!!このーーーー!!!!」 シュラム・RvGNDランチャーを準備しルーナに狙いを定める。 その間のルーナは…。 「あら、物騒な武器ですわね」 笑みを浮べながらビルの背にして移動する。 ちょっと、オカシイだろ! 普通、回避行動をしたり接近したりビルの背後に隠れたりするだろうー! なのに何故逃げづらい場所に行くのかな~。 訳解らん。 「クラエー!」 「当たればの話ですけど」 ドンー! シュラム・RvGNDランチャーから発射された弾がルーナを襲う。 でもルーナは避けようとする素振すらしない。 このままじゃヤバイ! 「避けろー!」 ドカーン! 俺が叫んだ直後、ルーナの背後にあったビルが爆発する。 煙がモクモクと噴出しルーナが何処にいるか解らない。 もしかしてシュラム・RvGNDランチャーの弾に命中し吹き飛び、ビルに当たったんじゃ…。 「あらあら。駄目でしたね~」 「えっ!?」 突如ルーナの声が聞こえた。 でも姿が見えない。 煙の中にいるのか? あっ! ルーナの奴、いつの間にか敵のストラーフの背後に居て右腕を回し、短剣のグリーフエングレイバーをストラーフの首に突きつけている! 何時の間にあんな所に居たんだ? まるで忍者みたいだ。 敵のストラーフは急所を突きつけられているので身動きが取れない。 寧ろ動いたらルーナに攻撃されると思っているのかもしれない。 「もう一度チャンスをあげます。次の攻撃で、あたしに命中しなかったら…貴女は負けます。いいですか?」 そう言ってルーナはストラーフから離れる。 また絶好のチャンスだったのに攻撃もせずに…だ。 完璧に相手の事をおちょくっているな、あれは。 お~お~ぉ、敵のストラーフは顔を真っ赤にして怒っているよ。 こえ~コエ~。 にしてもルーナの奴はなんであんなにも闘い慣れているんだ? 今日が初めてのバトルだというのに…。 「さぁ…遠慮なく攻撃してくださいね♪」 ニッコリと笑い、どっから見ても無防備に見えるポーズをする。 敵に対して火に油を注ぐような行為だ。 挑発、と言えば簡単だろう。 「このー!」 敵のストラーフはカンカンに怒りながらモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを乱射した。 『フゥ…』と溜息をつき、顔を左右に動かすルーナ。 呆れてるようにも見える…だがすぐに真面目な顔つきになり。 「…!」 ん!? 消えた!? ルーナが敵のストラーフに向かって突っ込もうとする動作が視認出来たがその瞬間、オバケのように消えてしまった。 勿論、乱射されたモデルPHCハンドガン・ヴズルイフの弾はルーナに当たっていない。 そりゃそうだ。 なんたって標的がいないのだから。 「どこ!?どこに言ったの!」 「…ここよ」 声がした方に顔を向けるストラーフ。 向いた方向…ストラーフの真上だった! しかも空中で逆立ちしていた、逆立ちというよりもただ単に上下逆に飛んでるようなものだ。 「残念でした♪機会があったらまた会いましょう」 ルーナが言い終わると何故か敵のストラーフは地上に転落していき、ゲーム終了した。 筺体に付いてるコンソールを見るとストラーフのLPは無くなっていた。 ルーナが右手に持っている武器を見ると短剣のグリーフエングレイバーを持っていた、逆手持ちで。 目には見えない早業でストラーフをグリーフエングレイバーで切り刻んだのか? まさかな…いや、やっぱりそのまさかもしれない。 後で少し探ってみるか。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「ダーリン、勝ちましたよ。ご褒美くださいね♪」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶルーナ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、ルーナを筐体から出さないといけないなぁ。 俺は筐体の神姫の出入り口の中に手を突っ込みルーナを待つ。 数秒後、ルーナは優雅な足取りで俺の右手の手の平に乗った。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきルーナを見る。 「お前…何であんなに余裕で勝てたんだ?今日が初めてのバトルだろ?」 「そうですよ」 屈託のない笑顔で答えるルーナ。 最初は何か隠してるようにも思えたが…気のせいかぁ。 「それより早く~。ご褒美頂戴♪」 「あ、そうだったな。っと言ってもなー。ルーナはどんなご褒美がいいんだ?」 「そうですね~…あたしのオデコにキスしてください」 「ナッ!?キスだと!?!?」 「駄目ですか~?」 どうしよー。 キスかぁー…。 う~ん、ここでもしルーナにキスしなかったら…。 ☆ 「オデコにキスはちょっと…」 「そうですか。じゃあ、あたしからしますねー。濃厚なキスを…ね♪」 「や、やめろ!こんな人が沢山いるところで!!」 「もう遅いです~!ブチュー~」 「ギャーーーー!!!!」 ★ …ここはキスすべきだろう。 嫌な予感しすぎて背筋がゾッとするからなぁ。 「解ったよ。キ、キスしてやるから目を閉じろ」 「わーい。さぁっ!目を閉じましたから早く!!」 あぁ~、本当にキスをするハメになっちまったぜ。 ここは我慢だ、俺。 羞恥心を無くせ! ルーナをオデコに俺の唇を近づけさせる。 神姫だからオデコの広さ凄く狭い。 下唇が触れるぐらいが丁度いいかもしれない。 …チュッ 「…ンァ」 よし! 狙い通りに下唇をルーナのオデコにキスした。 キスした瞬間を見た他の神姫達が。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~ルーナの奴~。よし!!次の試合はボクが出る!!!」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらルーナに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま唇を離すとルーナが不満そうな顔しながら。 「あれで終わりですか?キスした瞬間、舌で舐め回してもよかったですのに」 「俺はそんな事しね~よ。つか、舐め回してって…」 「ダーリンの意気地なし。でも一応、キスしてくれたから許してあげます。気持ちよかったですし」 「許すもなにもないだろ。だぁー疲れた」 本当に疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、ルーナが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それにキスした時のルーナは可愛いかったし。 またキスしたくなるような表情だった。 ここでまた再びルーナのオデコにキスをすると乗っている三人に何されるか解らないのでキスはお預け。 ルーナを両手から右肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からルーナの二つ名が出来た。 名は『刹那を操る者』…。
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剣と剣がぶつかり合う音が、廃墟に響き渡る。 片刃の長剣、エアロヴァジュラでと長槍の破邪顕正をはじきあげ、HMT型イーダ・ストラダーレ――個体名ヒルデガルドは距離をとった。 対する侍型紅緒――個体名藤代は地面を蹴り、こちらに一気に距離を詰め、長槍を突き出してくる。体勢を立て直す暇を与えないつもりのようだ。 『エアロチャクラムで受け流せ』 「はいですわ!」 マスターからの指示を受け、ヒルデガルドは左側のエアロチャクラムを瞬時に操作する。 パンチを打つように突き出したエアロチャクラムの表面装甲を破邪顕正が薄く削りながら流れていった。 ――西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 「そこっ!」 藤代の体勢が流れたところで、エアロヴァジュラを一閃。しかし、右肩の鎧部分を斬り飛ばすだけに終わる。――藤代がとっさに槍の石突をつかってこちらをヒルデガルドを殴りつけたからだ。 「うっ!」 「危ない危ない。だが、勝負はこれからだ!」 藤代は再び距離を詰めてくる。武装は破邪顕正から為虎添翼と怨鉄骨髄へと変わっていた。手数を重視し、こちらを押しこむ腹のようだ。 「そらそらそら!」 「くううっ!」 ヒルデガルドはエアロヴァジュラを一度放棄。エアロチャクラムを両手で操り藤代の連撃を捌いていくが、鋭い刃を持つ二振りの小太刀は容赦なく装甲を削り取っていく。 ――神姫、そしてそれは、全高15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 「どうしたどうした! 懐に入り込まれては手も足も出ないか!?」 「……っ、うるさいですわ! えいっ!」 轟、という音を従えてヒルデガルドはエアロチャクラムを振りぬく。しかし、藤代は半身になってそれを受け流すと、為虎添翼を下から振りぬいた。 懐深くに入りこまれたせいか、ヒルデガルドは咄嗟に体をそらしたが、為虎添翼の剣先がヒルデガルドの頭部に装着されていたルナピエナガレットを叩き割る。 「あっ……」 そのまま体勢を崩し、倒れるヒルデガルド。藤代は勝利を確信した。 「これで終わりだっ――首級、頂戴!」 仰向けに倒れたヒルデガルドに、藤代は逆手に握った怨鉄骨髄を振り下ろした。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ――。 第一部 ヴァイザード・リリィ 渾身の力で振り下ろされた怨鉄骨髄は横方向の衝撃に弾かれ、廃墟の壁に突き立った。 ヒルデガルドがエアロチャクラムを倒れた状態から振りまわし、怨鉄骨髄を叩いたのだ。そのままその勢いを利用してヒルデガルドは体勢を整える。 「っ……。必殺のタイミングと思ったのだがな」 悔しそうに、しかし嬉しそうに笑う藤代。 「まあいい。まだまだ楽しめるのは私にとって嬉しいことだ……。久々の強敵だ。こう早く終わっては困る」 「……くふふっ」 ヒルデガルドも笑う。 「なるほど、貴女も楽しいか。そうだろう! 我らは武装神姫。戦うために生まれた存在だ!」 「……くふふっ。もちろん楽しいですわ」 ゆっくりとヒルデガルドは立ち上がる。そして、まだ顔に引っかかっていたルナピエナガレットを素手で掴み―― 「ですが、ワタクシは戦うことが好きなのではありませんの――」 ――握砕した。粉々になったバイザーは0と1に分解され、データの海に消えていく。 露わになった紫水晶色の目が恍惚の表情に眇められる。 「――勝つことが好き。勝つことが楽しいのですわ」 「……愚かな。結果のみ求める者に碌な者はおらんぞ?」 「かまいませんわ。――もっとも、『彼女』は戦うこと自体あまり得意ではありませんが、ワタクシは違いますわ。全力でお相手いたしますわ、お武家様」 瞬間、地を蹴る。二体の神姫の距離があっという間に零になる。 「!!」 あまりのスピードに藤代は対処が遅れた。 ハイマニューバトライク型であるイーダ型は機動力には確かに定評があるが、ここまでの瞬発力は藤代にとっては前代未聞だった。 藤代はとっさに為虎添翼を眼前に立てる。 刃がかみ合う硬質音。エアロヴァジュラと為虎添翼がぶつかり合った音だ。 「……ここまでの瞬発力を出せるとは。ようやく本気になったということか?」 「本気? ……そうですわね。勝つためにワタクシはおりますの。ゆえにワタクシは常に本気ですわ」 ――エアロチャクラムがノーモーションで振られる。身を引くことが敵わず、藤代は宙を舞った。 「がっ!?」 バーチャルの空を高く舞い上がり、背中から地面に叩きつけられる。 「ぐ……くそっ」 起き上がろうとする藤代。しかしそれは直後に上から飛びかかってきたヒルデガルドに押さえられた。 「ぐっ!」 エアロチャクラムで両手首を掴まれ、地面に押さえつけられる。ヒルデガルドはエアロヴァジュラを逆手に握り、藤代の喉に突きつけていた。 「……どうした? 獲物の前で舌なめずりとは。さっさと首を切るといい」 「……くふ、くふふっ。負けが決まっても、強気な御方……。ますます気に入りましたわ」 ヒルデガルドはそう言うとエアロヴァジュラを藤代の首筋のすぐ横に突きたてたそして―― 「!?」 「いつまでそんな強気でいられるか――試させていただきますわ?」 「――っ! むぐっ!?」 ――藤代の唇を、自身のそれで塞いだ。 たっぷり十秒近く口づけを交わした後、ヒルデガルドは顔を離す。 藤代はあまりの出来事に声が出ない。 「な!? な、何――」 「貴女はワタクシの獲物――。ならば、ワタクシがどう料理しようと、ワタクシの勝手でしょう? 御安心なさいな、美味しく食べて差し上げますわ」 ヒルデガルドの右袖飾りが展開し、中の機構をむき出しにする。その起動を確認した後、ヒルデガルドは右手で藤代の身体をまさぐりはじめた。 「きっ貴様っ! 自分が何をっやっているのかっ……くぅっ、わかっているのか!?」 「勿論ですわ。さあ、早く貴女の声をお聞かせくださいな――」 「や、やめ――ひぅっ!? ふぁっ! やぁっ!?」 突如として始まった羞恥劇に、藤代はエアロチャクラムを振りほどこうともがくが、ヒルデガルドが藤代に触れるたび、藤代から力が抜けていく。 外では彼女たちのマスターが何か騒いでいたが、ヒルデガルドにとってはそれは些末事以下であった。 「くふ、くふふっ。くふふふふっ……」 「い、嫌だっ! 嫌だ! やめろ、やめろっ! やめっ、おねがい、やめてぇっ……」 藤代の願いむなしく、ヒルデガルドの指は彼女の身体の隅々までを舐めつくし、凌辱する。 そして、それが秘部に到達しようとしたときだった。 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender A side. Winner Hildegard. 藤代側のサレンダー。ジャッジの審判が下ると同時に、藤代の身体は0と1へと変換され、バーチャルの空へと還っていく。 それを見送り、ヒルデガルドは先ほどまで藤代を嬲っていた右手を舐めて、呟いた。 「もう、あと少しの所でしたのに――無粋な殿方ですこと」 ◆◇◆ ――「また」やった……。 俺――如月幸人は筐体の前で頭を抱えた。 周囲で観戦していた他の神姫やそのマスター達はこちらをみて苦笑ともとれないような微妙な表情をしている。 その顔は全て「相手も可哀そうに――運が悪かったなあ」と語っていた。 筐体の向こう側では、紅緒型の神姫――確か藤代、といったか――のマスターが泣き崩れる彼女を必死に慰めていた。 「主っ……主ぃっ……。私、汚れてしまいました……。この身を全て主に捧げ、永久の忠誠を誓ったのに……」 「藤代っ!? 藤代! 大丈夫だ! あれは全てバーチャル空間での出来事だ! お前の身体には一片の汚れもない! あとその言い方は俺に激しい誤解が生まれるからやめてね!」 「あのイーダ型に触れられた感触が、今でも……。こんな汚れた身体では、もう主にお仕えすること叶いません。主、貴方を残して先に逝く私をお許しください――」 「藤代――ッ!?」 ……なんだかすごいことになってる。 こちらが指示したことではないと言え――ひっじょーに申し訳なくなってくるが、やっぱり謝るべきだよなあ……。 ――こちら側のインサートポッドが開き、中から相棒――ハイマニューバトライク、イーダ・ストラダーレ型「ヒルデガルド」が姿を見せる。 バーチャル空間で壊されたルナピエナガレットは何事もなかったかのように彼女の顔面を覆っていた。 俺とヒルダとの目が合う――正確にはバイザー越しにだが――。ヒルダは筐体の向こう側の惨状を見やり、俺を見やり、もう一度向こう側の惨状を見て、呟いた。 「……マスター。私、また――」 「――そう。『また』、やった」 それを聞くや否や、ヒルダは脱兎のごとく駈け出した。 全長五メートルほどの筐体の上を全力疾走して向こう側にたどり着くと、その勢いそのまま―― 「――申し訳ありませんでしたわっ!」 ――スライディング土下座をした。 一瞬の事に、藤代も、彼女もマスターもぽかんとしている。 「私、貴女にとんでもないことを……。本っ当に申し訳ありませんでしたわ!」 「え、あの、いや……」 藤代はマスターの後ろに隠れておびえている。一方のマスターはバーチャル空間でのヒルダと、今目の前で土下座をしているイーダ・ストラダーレのギャップに追いつけず、目を白黒させていた。 そしてその流れでこちらを見られても、俺も困るのだが。 「あー、えっと、どうもうちのヒルダがご迷惑をおかけしました……」 俺も頭を下げる。神姫の不出来はマスターのそれだ。 それに言っちゃああれだが――ヒルダの巻き起こす騒動に頭を下げるのも、ここ一カ月で慣れた。悲しいことだが。 「あの、いや、その……どういうこと?」 藤代のマスターは周囲のギャラリーに説明を求めた。観客たちは苦笑して互いに顔を見合わせるだけである。 「まあ、挑んだ相手が悪かったよな」 「正直、こうなる予感はしてたもんね」 「ヴァイザードの仮面をはがすなってのは、なんつーか、もうここの常識だよな」 口々に言い合うギャラリーの言葉を聞き、藤代のマスターの頭にさらに疑問符が浮かぶ。 極めつけは、ヒルダの放った一言だった。 「……責任を取れ、とおっしゃるのであれば、従いますわ。藤代様。私のこと、どうかお好きなように――」 「ひっ――!」 それを聞いた瞬間、藤代はガタガタと震えだした。 先ほどの恐怖がよみがえったのか、それとも先ほどとはまったく違うヒルダの性格のギャップに恐怖を覚えたのか。 藤代はマスターの手から飛び降り、ゲーセンの入口へと逃げだした。 「うわああああああああん!」 「ま、待て! 待つんだ! 藤代――!」 当然、それを追いかけて彼女のマスターもいなくなる。 残ったのは三つ指ついて土下座していたヒルダと、天井を仰いでため息をつく俺。そして、それを見守るギャラリー達だけだった。 「……ヒルダ、戻ってこい」 「……はいですわ」 しょんぼりと肩を落としてすごすごとヒルダは戻ってくる。足元にたどり着いた彼女を拾い上げ、胸ポケットに仕舞うと俺は荷物を手に取った。 「……どうして、私はこうなんでしょうか」 「……俺に聞かれてもなあ……」 「今の私、普通ですわよね? なのに、外れてしまうとどうしてああなってしまうんでしょう」 「…………俺に聞かれてもなあ…………」 そんなすでに二十以上は繰り返した問答を今日も繰り返しながら、近くのファストフード店で待っているであろう連れと合流すべく、俺たちもゲーセンを後にする。 ――俺の神姫は、バイザーを外すと性格が豹変する、世にも珍しい二重人格の神姫だった。 ◆◇◆ 次へ トップへ
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再誕せし、哀しき神の姫(前半) 常連・田中の車に乗る事、およそ数十分。着いたのはM市である。 ロッテ及びクララ用の保全用部品一式を店から担ぎ出して、猪刈に 破壊された神姫の修復を手伝ってもらおうと、ここを訪れたのだ。 無論金は掛かるが、そんな物を惜しんで彼女を死なせはせんッ!! 「電話をした槇野だ!夕方なのにすまんが、頼めるか!!」 「はいっ、おにーさまが待っています!はやくはやくっ!」 「つ、ツガルタイプ?……分かった、案内してくれんか?」 そうして2人と3体の神姫で飛び込んだ先は、あの東杜田技研。 出迎えてくれたのは、レインディア・バスターに跨ったツガル。 話を聞くに、Dr.CTa女史は本業の方がアップアップ気味らしい。 女史の……会社の専門分野はマイクロマシン系。神姫ばっかりを 面倒見ている訳にはいかんしな……我が侭を、心中で詫びよう。 そして通された先にいたのは、一人の若き青年技術者であった。 「電話のあった槇野さん……ですね、待ってましたよ」 「あ、いや……オレは付き添いの田中っす、こっちが」 「此方だっ!私が槇野で、患者はこのストラーフだ!」 「え?!あ、え……ってそれ所じゃないか、この娘?」 懸命な判断だ。それは兎も角“あくまたん”は無惨な姿だった。 四肢は砕け散り腰は胴体からもぎ取られ、首も横にへし曲がって 絶望の表情を浮かべたまま、凝り固まっている……悪夢の様だ。 システムは完全破損する前に止めたが、いずれ崩壊するだろう。 その前にコアレベルから修復せねば、待っているのは“死”だ。 「CSCやコアにも物理的損傷があるかもしれん、頼んだぞ」 「……マイスター。データ破損は、停止前で凡そ36%だよ」 「え!?……わかりました。マーヤ、準備はできてるかい?」 「はい!おにーさま、早くこの娘を助けて差し上げましょう」 必要なパーツ……即ち研究所に今足りてない保全用部品を渡して、 私達は精密加工室の前で待つ事となった。使用中のランプが灯る。 手術の終わりを待つ家族の気持ちとは、こういう物かもしれんな。 「クララ。お前にしか出来ぬ事とはいえ、すまなかったな」 「ボクの力で姉妹の命が救えるなら、いくらでもやるもん」 「有無……ロッテ、恐らく蘇生後はお前の力が必要になる」 「はいですの……マイスター、わたしの責任もありますし」 「責任は兎も角、間違ってはいない。あの娘も分かる筈だ」 “あくまたん”のデータ崩壊を外部から阻止し続けたクララを労い、 これから彼女と真っ直ぐ向き合う事になるロッテを、励ましてやる。 あの一件、今頃何処かで騒動になっているかもしれんが放置確定だ。 今は“あくまたん”……いや、あの神姫の無事を一心に祈り続ける。 そして、田中を一度食事に送り出し……4時間、私達は待っていた。 「槇野さん、終わりました。どうにか一命は取り留めましたよ」 「おお!終わったか!?だが、“AIPTD”はどうなった?」 「……分かりましたか。まあ逢ってみればわかります、マーヤ」 本来なら喜ぶべき報の筈だが、私も彼……Mk-Zもいい顔はせんぞ。 経緯を考えれば、生き返った“彼女”がどうなったか予想は付く。 AIPTDとは“人工知性心的外傷症候群”の略称なのだからな。 案の定、二人の神姫の口論……否。より厳密には嘆きが聞こえる。 「い、いや……人間になんて逢いたくないよぉ……!」 「でも、ずっと此処にはいられません。さ、一度……」 「嫌だ、嫌ぁ!あたし壊される、また殺されちゃう!」 マーヤと呼ばれるツガルタイプに引かれ、“彼女”が現れた。 私が用意した、破壊に強い特殊強化型フレームと琥珀色の瞳。 これらは無事、“彼女”の欠損部を補うのに一役買った様だ。 だが救命救急を最優先した為、躯の塗装は継ぎ接ぎだらけだ。 とは言え機能的には十分であり、後の処理は私が行えばいい。 最大の問題は……そう、この通り。神姫の“心の傷”なのだ。 「……また逢ったな、生き返ってくれて本当に良かった」 「あ!?あ、ああ……あなたはあの時の……やあっ!?」 私の顔を見るなり、“彼女”は逃げようと走る。無理もない。 “彼女”にとって見れば、私はトラウマの種……“人間”だ。 しかも、バトルで負けさせ猪刈の本性をさらけ出した張本人。 万が一武装していれば対人攻撃抑制コードを振り解いてでも、 私を蜂の巣にしただろうな。神姫の“心”はそれ程深い物だ。 「……待って、わたし達は一度お話がしたいんですの!」 「きゃあっ!?あ、貴女は……あの時の、天使型神姫?」 「わたしは“戦乙女”。お姉ちゃんを迎えに来ましたの」 「お姉、ちゃん……あたしが、あなた達の?……えっ?」 ──────ならば“彼女”を抱きしめるのもまた、神姫なの。 次に進む/メインメニューへ戻る
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主人公恵太郎とその相棒のナルのバトルメインな2036年平凡日常物語 著/神姫愛好者 戦う神姫は好きですか 一話 戦う神姫は好きですか 二話 戦う神姫は好きですか 三話 ※HOBBY LIFE,HOBBY SHOPと(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 四話 前半 後半 ※HOBBY LIFE,HOBBY SHOPと(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 五話 戦う神姫は好きですか 六話 ※ねここの飼い方と(一方的に)コラボです 戦う神姫は好きですか 七話 戦う神姫は好きですか 八話 戦う神姫は好きですか 九話 戦う神姫は好きですか 十話 前半 中半 後半 戦う神姫は好きですか 十一話 戦う神姫は好きですか 十二話 戦う神姫は好きですか 十三話 戦う神姫は好きですか 十四話 戦う神姫は好きですか 最終話 前編 後編 スロウ・ライフ 番外編 白の女王 第十三研究室の昼下がり - - -
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概要アビリティ レールアクショントリムルティ 武装一覧通常武装(DLC以外)通常武装 防具付属装備 DLC一覧通常武装 防具付属装備 概要 射程こそ短いが、射撃武器の中では隙・硬直とも短く扱いやすい銃。 牽制、RA潰し、ランチャーやバズーカの硬直短縮と様々な事にも使う事ができる。 ただ、今作では最速で連射してもギリギリコンボにつながっているわけではないため、連射して命中させても途中でガードやターンをはさまれることもある。 対戦においてはたとえ一発目をヒットさせても連射の合間に急上昇されてしまい、実質一発分しか当たらないという欠点を持つ。 また弾速、ホーミング性能など、連射性能と硬直以外の全てにおいてライフルに劣るため、射撃武器のメインとしては力不足。 単発威力が低めなこと、上記の当てても次に繋がらないこと、NPC戦では遮蔽物を駆使した手動リロードや、粒子ブラスターの有用性の高さもあり、 主力ではなくあくまで補助・サブ武器として考えよう。 アビリティ プラスアビリティで装填数が増加する。 手動リロードのタイミングをずらせるので、可能なら意識的に付けておきたいところ。 とはいえあくまで補助、けん制ということを考えると他を犠牲にしてまでつけるほどでもないというのが悩みどころかも。 レールアクション 牽制に一発発射した後、相手の後ろに回りこんで7連射する。 移動中に×ボタンを押すことで再度ロックオンジャミングを仕掛けつつ移動する。この場合は5連射。派生タイミングは2回あるため、これを使い分けることで3種類の軌道を描くことができる。 全弾にブースト削りの効果があり、5発ヒットするとブーストゲージが空になる。 敵NPCが使ってもそれほど強力ではなく、すぐに切り返せるようになるためあまり良いイメージの無いレールアクションだが、相手のライフルやランチャーを見てレールアクションを始動、構えの屈みこみで弾を回避したり、ショットガードできるようになると非常に強力。 牽制による射撃は高確率で命中し、回り込み後の連射は回避困難、一気にダメージとブーストゲージを奪う事ができる。 ただし、ハンドガンの弾速の関係上、しっかりと距離とタイミングを見極めなければ慣性移動などで避けられてしまうことも。 一番の狙い目は相手の真下からの発動。主に近接戦闘を嫌った相手の急上昇による回避直後あたりか。 相手からすれば足元で発動されるRAは見えづらい関係上ジャミングガードを仕込みづらく、 その後の再度ロックも急上昇が仇となり視界に捉えづらいため困難。 さらに×派生まで使うと相手からすれば厄介極まりない代物となる。 また、前述のブースト削りのおかげで、被弾後の相手はダッシュと急上昇による回避も出来なくなるため、うまく命中させることが出来ればさらなる追撃も容易に狙える。 ダブルレールアクションにはブースト削りはないが、前半のハンドガンの連射は同じ場所に留まる時間が短く妨害されにくい。 〆のランチャーの命中はあまり望めないが使いやすいので使用を検討しても良いだろう。 トリムルティ リアパーツのトリムルティを装着する事で装備可能。 ツインハンドガンと言う特殊なハンドガンで、両腕をクロスし、腰に付けた銃より弾を発射する。 弾消費1で両腰から同時に発射されるが、威力は別に倍増したりはしていない。 Hit数が2になっており、当たり判定も横に(極僅かだが)広い。 Hit数の関係上、相手のガードに対するダメージは大きくなっている。 しかしアビリティがグライディングとLp+しかなく、SPDなどの各種基礎ステータスも低い。 SPDや機動力関連アビリティの宝庫であるリアパーツを埋めてしまう欠点がある。 一応ランク7に+CLがあるため、戦えない性能ではない。グライディング+2は人によっては重宝するアビリティだろう。 リロードモーションが通常のハンドガンと異なる(ビットのものの早回しになる)が、隙の大きさは他のハンドガンと変わらない。 また、この装備でRAハンドガン及びRAハンドガン、ランチャーを使うと、各種発射モーションと弾速が高速化する(弾速、連射速度共に1.5倍~2倍速といっていいほど)。 ハンドガン、ランチャーのRAは前半部分の2連射×4が全て連続ヒットになるのは大きな利点。 慣れない相手からしてみればあまりの速さに戸惑うことだろう。 武装一覧 通常武装(DLC以外) 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 FB アルファ・ピストル ノーマル 20 7 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル フォートブラッグ BKピストル ノーマル 45 16 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ゼルノグラード 2 アルヴォPDW11 ノーマル 186 60 0% 7% 5% 230 7 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァルMk.2 EVFガン ノーマル 196 64 10% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル エストリル モデルPHCヴズルイフ ノーマル 244 74 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ストラーフ 3 アルヴォLP4ハンドガン ノーマル 291 85 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァル EVFガン+AS ノーマル 337 111 14% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ハンドガン+1ランチャー+1 立花茂(クリア後ヴァルハラ)[奪] エストリル BKピストル+IR ピーキースピード 349 83 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-1SP+1 ジャンク左藤楓(ヴァルハラ)[奪] ゼルノグラードショップ入荷の可能性がF1予選武器属性タッグのみ OS-35 Aライフル ノーマル 389 105 0% 0% 7% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーク FB アルファ・ピストル+ms ノーマル 392 109 13% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 タッグマッチ狙撃スター5[賞] フォートブラッグ 4 OS-36 Aカービン ノーマル 444 111 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル イーダ EVFガン+LB ノーマル 476 120 18% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル モデルPHCヴズルイフ+SK ノーマル 521 122 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ストラーフ 5 アルヴォPDW11+LB ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 ケンプ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォPDW11+SK ノーマル 596 131 0% 16% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アーンヴァルMk.2 FB アルファ・ピストル+SK ノーマル 597 132 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム フォートブラッグ アルヴォLP4ハンドガン+LB ノーマル 640 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 ういろー(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル OS-35 Aライフル+LB ノーマル 641 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 嶋渓フミカ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーク モデルPHCヴズルイフ+LB ノーマル 649 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] ストラーフ OS-36 Aカービン+LB ノーマル 655 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 偉吹玲人(クリア後ヴァルハラ)[奪] イーダ アルヴォPDW11+GR ピーキー 664 119 0% 20% 20% 230 7 ロック範囲-1SP+1 陰陽熊(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォLP4ハンドガン+GR ピーキースピード 730 118 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-2DEX-1SP+2 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル 6 EVFガン+NS ノーマル 686 136 30% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル ジーラヴズルイフ+TK ノーマル 837 162 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 7 アルヴォPDW11+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 アーンヴァルMk.2専用RA『一刀両断・白EX』に必要 BKピストル+NS ノーマル 952 184 0% 0% 20% 230 12 ランチャー+1 ゼルノグラード アルヴォLP4ハンドガン+VC ノーマル 959 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーンヴァル OS-35 Aライフル+VC ノーマル 962 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーク モデルPHCヴズルイフ+NS ノーマル 974 188 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフ OS-36 Aカービン+NS ノーマル 980 189 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 イーダ ジーラヴズルイフ ノーマル 996 192 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 ジーラヴズルイフ+KT ピーキー 998 167 0% 0% 20% 230 12 防御力-4SP+4 ハンドガン ランチャー杯[賞] ストラーフMk2 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 トリムルティ ツイン 60 0 (12) 0% 0% 0% 230 12 - オフィシャル 2wayリアパーツ 2 トリムルティ+BK ツイン 150 0 (40) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1 2wayリアパーツ 3 - - - - - - - - - - - - 4 トリムルティ+GC ツイン 442 0 (92) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1LP+1 2wayリアパーツ 5 - - - - - - - - - - - - 6 - - - - - - - - - - - - 7 トリムルティ+CL ツイン 950 0 (214) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+2LP+2 2wayリアパーツ DLC一覧 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 パウダースプレイヤー ノーマル 77 27 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ジュビジー ポーレンホーミング ノーマル 90 35 0% 5% 5% 230 7 近距離攻撃+1ドリル+1ランチャー+1 オフィシャル ジルダリア 2 レッドスプライト ノーマル 161 53 8% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ラプティアス フェリスファング ノーマル 163 53 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーティル FB BSM ビームガン ノーマル 200 71 0% 0% 5% 230 12 遠距離攻撃+1ランチャー+1ミサイル+1 オフィシャル フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 3 メルキオール ノーマル 280 85 12% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ D・イーグル ノーマル 303 88 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル パーティオ proto メルテュラーM7 ノーマル 330 94 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ムルメルティア 4 ポーレンホーミング ノーマル 456 132 0% 17% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア FB BSM ビームガン+CR ノーマル 474 131 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 5 D・イーグル+SK ノーマル 603 129 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto パウダースプレイヤー+MT ノーマル 560 129 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒 ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒 メルテュラーM7+MT ノーマル 620 134 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア レッドスプライト+SK ノーマル 621 133 20% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス フェリスファング+LB ノーマル 660 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム アーティル FB BSM ビームガン+MS ノーマル 666 151 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク メルテュラーM7+SK ノーマル 671 134 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア 6 メルテュラーM7+SP ノーマル 764 164 24% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア FB BSM ビームガン+TK ノーマル 837 183 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 7 メルテュラーM7+TK ノーマル 862 184 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア パウダースプレイヤー+TK ノーマル 870 186 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒専用RA『一刀両断・真EX』に必要 メルキオール+SK ノーマル 895 190 28% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ ポーレンホーミング+TK ノーマル 903 215 0% 25% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア レッドスプライト+NS ノーマル 922 193 24% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス D・イーグル+VC ノーマル 955 189 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto フェリスファング+SK ノーマル 980 194 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム アーティル 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 エキドナ ツイン 53 0 (21) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+1DEX-1 オフィシャルショップ ガブリーヌ2wayリアパーツ 2 - - - - - - - - - - - - 3 - - - - - - - - - - - - 4 - - - - - - - - - - - - 5 エキドナ+GC ツイン 578 0 (142) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+2グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライム』に必要2wayリアパーツ 6 - - - - - - - - - - - - 7 エキドナ+SP ツイン 985 0 (245) 28% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+3グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライムEX』に必要2wayリアパーツ
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キズナのキセキ ACT1-4「敗北の記憶 その2」 ◆ その日、菜々子は、C駅にほど近いゲームセンターで噂を聞いた。 C港の倉庫街の一角、使用されていない倉庫を改装し、武装神姫の裏バトルが行われる。 主催は、神姫にハマっている、若手の不良グループだ。 菜々子はその裏バトルに誘われたのだ。 菜々子とミスティが『エトランゼ』として名前を売りながら、公式試合に一切関わらないのは、こうして裏バトルの情報を得るためだった。 裏バトルも、主催者にしてみれば興行だから、名の売れた神姫に出場してもらえれば、話題が取れる。 出場選手も、観客も増える。 だが、公式戦出場神姫で有名になればなるほど、そういう危ない場所には近づかない。 裏バトルには、犯罪が絡んでいる場合が多いのだ。 罪を犯せば、公式戦のランキングは剥奪されてしまう。 だから、公式戦に出ない有名な神姫は、裏バトルのスカウトとしては格好の標的だった。 そう、菜々子のように。 「あんた、強ぇ神姫と戦いたいんだろ? だったら来いよ、他にも強者がたくさん参戦予定だ」 「へえ、どんな神姫が来るの?」 裏バトルの主催の一人だと名乗ったヤンキー風の男に、菜々子は首を傾げてみせる。 男は得意げに、指折り数えて神姫の名前を挙げた。 「そうだな……『フレイム・エッジ』とか、『百目の天使』とか……」 「『狂乱の聖女』は出る?」 「ん? ああ……よく知ってるな。そいつはメインイベンターさ」 ビンゴ。 久々の確定情報だった。 「なんだ? 『狂乱の聖女』とバトルしてぇのか?」 「まあ、ね。噂に聞くところでは、強いって話だし?」 「あいつは別格だよ。強いなんてもんじゃねぇ。 ……でも悪いな。あいつはもう相手が決まってるんだ。 『狂乱の聖女』を目の敵にしてる奴だから、代わってはもらえないだろうしなあ」 『狂乱の聖女』に戦いを挑む者は多い。 裏バトルでのネームバリューとしては、知る人ぞ知る、という程度だ。 しかし、その圧倒的な強さを制して名を挙げようとする者は後を絶たない。 また、個人的な恨みも多数買っている。 どうも、次の対戦相手は後者のようだ。 「だから、とりあえず次は、別の対戦相手を用意するぜ。他にも強えのはたくさんいる」 「ごめんなさい。今は『狂乱の聖女』しか興味ないの」 菜々子はそう言って、にっこり笑った。 とりあえず、次回の裏バトルは観戦しに行くことを約束した。 ヤンキー風の男は、それでも今日のところは引き下がった。 裏バトル会場に『エトランゼ』を連れてきただけでも、彼の評価は上がるだろう。 だが、菜々子は、裏バトルに出場する気はまったくなかった。 ◆ 土曜日の夜は長い。 翌日は日曜日という安心感で、どこの繁華街も夜遅くまで盛り上がる。 表通りはもちろんのこと、裏通りの飲み屋やゲームセンター、路地裏の屋台、さらに裏の賭博場まで。 ここ、C港の倉庫にある裏バトル会場も例外ではなかった。 外は寒々とした倉庫街の一角で、週末の夜など人も車も滅多に通らない。 そんな外の様子とは裏腹に、武装神姫の裏バトル会場になっている倉庫の中は、異様な熱気に包まれていた。 ここの裏バトルは、仕切が若い連中のためか、セキュリティよりも盛り上がり重視、といった感じだった。 集客も多い。客層も、学生風の若者から、マニアっぽい年輩組まで、意外に幅広い。 裏バトルは警察の目をおそれて、秘匿性を高めるため、多くの場合、限られた会員のみ招待される方式を取る。 だが、菜々子がみたところ、ここでは客の出入りもそう厳しくない。会員の友人であれば入れるような有様だ。 使われていない倉庫は、急造のバトルロンド会場になっていた。 ただ、神姫センターなどと違い、バトルロンドの対戦筐体は一組だけ。 正面には大きなスクリーンが設置され、プロジェクターでバトルの様子を映し出している。 そのスクリーンが見えるように、観客席が配置されている。 廃品のソファやテーブルが雑多に並べられただけの粗末なものだが、観客たちは気にしていない。 酒やジャンクフードが運び込まれ、客に振る舞われる。 この飲食代も、主催の収入源だ。 客は次々と行われるバトルをネタに、賭に興じている。 ルールは至ってシンプル。 どちらが勝つか。 プロジェクターには、賭けの始まっている試合の対戦カードが表示されている。 それぞれの試合に賭け率が設定され、客は思い思いにギャンブルに興じている。 バトルが映し出されると、歓声がわっ、と沸く。 人気の高い神姫なら、さらに盛り上がる。 人気の高さは勝率の高さに比例する。それがどんな武装、どんな戦い方をしていようとも、勝負に強い方が好まれる。 裏バトルで「魅せる戦い」など意味がない。 どちらが勝つか。 裏バトルのバトルロンドでは、それだけがルールだ。 武装も改造も無制限のレギュレーションなし。 バトル自体はバーチャルだが、過激なバトル展開になる。 公式戦ではないゲームセンターでの草バトルでも、ジャッジAIが判定を下した時点で試合は終了となる。 しかし、裏バトルはそうではない。 たとえ明らかに勝敗が決まっていても、試合は終わらない。 神姫が完全に機能を停止するところまでやる。 ジャッジAIも改造されていて、そうなるまでやめない。 神姫が負けを認めても、泣き叫んでも、試合は終わらないのだ。 そんなことをすれば、たとえバーチャルバトルでも、神姫のAIに障害を残すこともある。 そんな残虐性も、裏バトルに観客が集まる理由の一つだ。 時には、客の要望で、リアルバトルも行われる。 もちろん、どちらかが破壊されるまで終わらない。 神姫の断末魔の叫びに、ギャラリーは気違いじみた熱狂ぶりを見せる。 公式戦では絶対に見られない残虐ショー。 神姫がかわいそうだ、などと思う者はいない。 出場する神姫マスターからしてそうなのだ。 神姫の気持ちを省みることなどない。 ただ勝つために、無理な改造を神姫に施したり、壊れれば躊躇なく廃棄する。 そんな裏バトルの性質に、菜々子は憎悪すら抱いていた。 ここに集まる者は、みんな人間の屑だ。 神姫の「心」を尊重することのない、下衆の集まりだ。 近寄ることすら汚らわしい。 だが、その裏バトルに君臨するのが、本当の姉のように敬愛した女性なのだ。 菜々子は不安を感じずにはいられない。 あおいお姉さまは、そんな神姫マスターではなかったはずだ。 菜々子に神姫マスターのなんたるかを教えてくれたのは、他ならぬ桐島あおいなのだ。 一体何が彼女を変えてしまったのだろう。 そんなことを考えながら、菜々子は、裏バトル会場の隅で隠れるように、ステージの方を見ていた。 これからメインイベント、今夜もっとも注目の試合が始まろうとしている。 スカウトの男の話によれば、ここで『狂乱の聖女』が出場する、とのことなのだが。 やがて、二人の神姫マスターが、筐体の前に姿を現した。 片方は、坊主頭で目つきの悪いヤンキー風の男。試合前からエキサイトしている様子だ。 その反対側から。 その女性は風のように、ふわり、とやって来た。 淡い色のコートに、ベレー帽。 かすかに浮かぶ微笑は、相手の興奮など気にも留めてもいない様子だ。 間違いない。あの人は…… 「お姉さま……」 菜々子は口の中だけで、呟く。 久々に見る桐島あおいは、記憶の彼女と大きく違わなかった。 前回見たのは半年以上前だ。 そのときも裏バトル会場で、そのときも今日のように隠れて見ていた。 相変わらずの美貌に、菜々子は思わず見とれてしまいそうになる。 だが、首を振り、甘い憧憬を振り払う。 真剣な眼差しで、ステージを見た。 ステージ上では、相手のヤンキーが、マイクに唾を飛ばしながらあおいを罵っていた。 以前、別の裏バトルで、仲間ともども徹底的に叩きのめされたらしい。 それが原因で、仲間たちも武装神姫から離れ、彼一人になったという。 「だが今日は負けねぇ! 仲間の弔い合戦だ! けちょんけちょんにしてやる!」 男の恫喝じみた吠え声を、あおいはさらりと受け流した。 「……いいたいことはバトルで語ってくれる?」 余裕の言葉に、相手は顔を真っ赤にして、さらにヒートアップした。 あんなにオーバーヒート気味の様子では、勝てる試合も勝てないのではないか、と菜々子は思う。 対照的な二人は筐体の前に座り、ほどなくバトルが始まった。 それは、圧倒的としかいいようのない試合だった。 『狂乱の聖女』にかすり傷すら負わせることができず、相手の神姫は完膚なきまでに破壊され、敗北した。 ギャラリーはしばらく沈黙に支配された。 あまりに一方的な破壊劇。 背筋が寒くなるような勝利。 だが、数瞬後には、歓声が溢れた。 賭けに勝った客は喜びに叫び、負けた客はチケットを投げ捨てながら悪態に叫ぶ。 チケットが、まるで花吹雪のように舞い散っている。 ステージ上では、桐島あおいが変わらぬ微笑みを浮かべている。 その微笑が、菜々子には作り物めいて見えた。 喧噪の中、菜々子はそっとその場を離れた。 誰にも気付かれぬように。 菜々子の戦いは、これから始まるのだ。 ◆ 長い土曜の夜も、まだ宵の口である。 裏バトル会場では、まだ対戦が続き、盛り上がっていたが、桐島あおいは一人、外に出た。 アタッシュケースを左手に下げている。 雪が降り始めていた。 あおいはコートの襟を立て、路地をゆっくりと歩き出す。 あたりは冷たい夜闇だが、街灯のおかげで歩くのに難儀するほどではない。 その街灯の下。 人影が一つ、現れた。 あおいはその人影を認め、顔を綻ばせる。 「菜々子……久しぶりね」 「お姉さま……」 突然の再会に、あおいは驚いた様子もない。 あおいの表情とは対照的に、菜々子の顔には緊張がにじんでいる。 「わたしと会う決心、やっとついた?」 「……え?」 「この前は、半年くらい前……だったかしら? 確か、S県の裏バトル会場にいたわね」 「気付いて……いたんですか」 「ええ……もちろん、あなたが今なんて呼ばれているかも聞いているわ。 放浪の神姫『エトランゼ』……強くなったのね、菜々子」 穏やかな彼女の口調に、菜々子は闘志を奪われそうになる。 変わっていない。 三年前、決別する前のお姉さまと。 「それで……わたしに何の用?」 「何の用、って……」 むしろそんなことを言い出すお姉さまの方がおかしいと思う。 わたしがお姉さまに望む事なんて、一つしかない。 「……裏バトルなんてやめて、戻ってきてください。昔のように、みんなでバトルロンドを楽しめば……いいじゃないですか」 「それは、無理ね」 「なぜ」 「わたしにはわたしの目的があるのよ」 「……それは、仲間たちを捨てても……しなくてはならないことですか」 「ええ」 あおいが迷いなく頷いたことが、菜々子には少なからずショックだった。 会って話せば、戻ってきてくれるかも知れない。 心のどこかで、そう思っていた。 だが、そんな淡い希望はあっけなく打ち砕かれた。 「……目的って、なんですか?」 「……あなたに言う必要はないけれど……そう、あなたがわたしに勝てたら……わたしとマグダレーナに勝てたら、教えてあげるわ」 言い終えるのと同時、あおいのアタッシュケースが音を立てて開く。 九〇度開いた位置で止まる。武装神姫収納用のアタッシュケースは、皆そのようにできている。 そのアタッシュケースの中から、立ち上がったもの。 異形の神姫。 マグダレーナ。 この神姫を見るたびに、菜々子は何とも言えない不快感に襲われる。 そのせいなのか、今の菜々子はマグダレーナの詳細な姿をよく覚えていない。記憶の中のマグダレーナはいつもシルエットだ。 菜々子もアタッシュケースを開いた。 その中から、フル装備のミスティが現れた。 「あれが、マグダレーナ……」 裏バトルでの戦いぶりは見ていたが、対峙するのは初めてだ。 桐島あおいの神姫にして、久住菜々子の仇敵。 先代ミスティの、仇。 ミスティが腕を磨いてきたのは、こいつを倒すためだ。 彼女のCSCに、激しい闘争心が宿る。憎悪なのではないか、と電子頭脳が迷うほど燃えさかる。 全身を駆けめぐる電気信号の温度が上がったような気がする。 対するマグダレーナは、黄金色の瞳をくゆらせて、かすかな微笑みとともに、ミスティをにらんでいた。 「くくっ……『狂乱の聖女』と『エトランゼ』の一戦をこんなところでやるなんて……裏バトルのフィクサーが聞いたら、泣くぞ」 初めて聞くマグダレーナの声は、ひどくしわがれていた。 持ち前の気の強さで、ミスティはマグダレーナに言い放つ。 「そんなことこそ、どうでもいいわ。あんたとわたしの一戦はどんなところでやろうと同じことなんだから」 「……その元気が、最後まで続けばいいが、な」 不気味に笑うマグダレーナ ミスティは無言で、異形の神姫を睨みつけた。 「目的なんてどうでもいいんです」 「え?」 「わたしはお姉さまを迎えに来たんです。 その神姫を倒し、あなたに勝ったら……戻ってきてください。 わたしたちの元へ」 「……勝てたら、ね」 その一言が、開戦の合図だった。 二人のマスターは同時に動いた。 「マグダレーナッ!」 あおいの指示で、異形の神姫は中空に飛び出す。 そして、 「ミスティ、リアルモード起動! 入力コード“Icedoll”、タイプ・ビーストッ!!」 「おおおおおおぉぉぉっ!!」 菜々子の叫びと共に、ミスティは獣と化して駆け出す。 トライク・モードの走りではなく、四足獣のそれだ。 今のミスティは、獲物に一直線に襲いかかる野獣そのもの。 猛りながら、マグダレーナを襲う。 あのティアでさえかわしきれなかった、怒濤の攻め。 それがリアルモード・タイプ・ビーストの特徴だった。 背中にマウントされた二丁のアサルト・カービンが火を噴く。 牽制の射撃であるが、はずそうなどとは思っていない。 マグダレーナはひらひらと舞うようにかわした。 あの超重の装備を背負いながら、よくもあんな動きができるものだ。 菜々子は感心する。 だが、マグダレーナはその装備のせいで、速度はそれほどでもない。 今の射撃で、さらに足は遅くなった。 ならば逃さない。 ミスティはひときわ強く地を蹴ると、低い姿勢のまま、マグダレーナに飛びかかった。 アサルト・カービンを乱射しつつ、着地直前に右のエアロチャクラムで薙ぎ、着地と同時、左の副腕で払う。 ミスティのエアロチャクラムは、ノーマルのイーダ型と違い、サブアームとして独立して動かす改造が施されている。 さらに攻める。 左右の副腕を振り回す。 そして、自身が握る剣・エアロ・ヴァジュラを袈裟懸けに振り下ろす。 息つく間もない怒濤の連係攻撃。 しかし。 「そ……んな……」 菜々子はかすれた声しか出すことができなかった。 攻撃のことごとくを、マグダレーナは捌いてみせたのだ。 ありえない。 タイプ・ビーストは、イーダのミスティが独自で身につけた戦闘方法だ。 先代ミスティの戦い方をベースにしたタイプ・デビルであれば、あおいに悟られたかも知れない。 だが、このミスティの攻撃をあおいは知らないはずだった。 なのに、なぜ触れることさえできない!? 「ふはははは……見えているのだよ、わたしには……貴様の、一挙手一投足がな……!」 マグダレーナの嘲笑。 そんなはずはない。 あのハイスピードバニー・ティアでさえ、タイプ・ビーストの攻撃を凌げなかったというのに! 菜々子の驚愕を知らず、ミスティは攻撃の手を緩めない。 「このおおおおおぉぉ!!」 ミスティがさらに踏み込もうとした、その時。 ついに、マグダレーナが動いた。 装着されたバックパックには、サブアームを思わせる、巨大な二つの塊がある。 それが砲身となって持ち上がり、ミスティに狙いを定めた。 それでもミスティは止まらない。 地を蹴り、マグダレーナへと突進していく。 マグダレーナの砲が火を噴いた。 連続的な炸薬音とともに、弾丸が次々と撃ち出されてくる。 その狙いは正確無比。 ミスティの背部にあったアサルト・カービンが吹き飛んだ。 ミスティがエアロチャクラムを交差したとき、身体の中央に攻撃が来た。 装甲が細かな断片となって、千切れてゆく。 それでもなお、ミスティは駆ける。 右の足首が、地を蹴ろうとした瞬間に消し飛んだ。 「うあああっ!」 バランスを崩した体勢を立て直そうと左脚を踏ん張ろうとしたが、できなかった。 太股の付け根、脚部強化パーツ『サバーカ』の装着部分で弾丸が炸裂し、ミスティとサバーカを引き離していた。 ミスティは、サブアームを地に着き、ホイールを回転させる。 トライク・モードへ変形しようとした、その時、 「しつこい奴だ」 かすれた声が聞こえた瞬間、銃口から、一直線に弾が来た。 ミスティの左眼にめがけて。 頭への強烈な衝撃で、ミスティの上半身が跳ね上げられる。 さらに続く攻撃は、イーダ型ならば誰もが自慢にしている巻き毛を、ごっそりと奪い去った。 自律防御プログラムが働き、サブアーム化したエアロ・チャクラムが、ミスティ本体を掻き抱くような姿勢で防御する。 しかし、先の防御で千切れ飛んでいた装甲は、もはや役に立たない。 エアロ・チャクラムの本体に断続的に着弾、粉砕していく。 ついにはサブアームの付け根まで破壊され、ついに両副腕は地に落ちた。 が、その瞬間。 ミスティはのけぞった身体を元に戻すと、陥没し、オイルが滴る左眼で、マグダレーナを一直線に睨みつける。 ま ミスティの残った瞳は、マグダレーナへの敵愾心に燃えていた。 「やめて、ミスティッ!!」 菜々子の声も、ミスティには届かない。 そう、ミスティには止まれぬ理由がある。 破砕した右足首を、折れよとばかりに地に突き立て、片脚だけで、跳ねた。 マグダレーナまでは一足飛びの距離。 「おおおおぉぉっ!!」 吠える。 そして、刀を振り下ろそうとする。 マグダレーナに向けて。 それよりも早く。 マグダレーナが手にした槍が、神速で弧を描き、ミスティの両腕を薙いだ。 ミスティの剣は、マグダレーナに届くことなく、腕と共に宙を舞った。 そして、ミスティが着地するより早く、返した槍で、ミスティの身体を斜めに斬り捨てる。 宙でのけぞったミスティ。 時が止まる。 無音。 ……やがて聞こえてきたのは、ミスティが地に伏す音だった。 ◆ 「……復讐を気取ったところで、所詮はこの程度……マグダラ・システムある限り、我々に敵はない……」 もはや動くことすらできず、地面に転がったままのミスティに、マグダレーナは槍を構えた。 「二度と我が前に立てぬようにしてやる……死ね」 ミスティに狙いを定めたとき、何か大きなものが滑り込んできて、マグダレーナの視界を遮った。 菜々子だった。 彼女は地面にうずくまるようにして、ミスティの身体を覆い隠した。 その身体が震えているのは、寒さのせいだけではないだろう。 しかし、マグダレーナは、そんなミスティのマスターさえも冷ややかに見据えた。 「ふん……神姫と運命を共にするのが所望か……ならば望み通りにしてくれよう」 マグダレーナは、背面にマウントされた銃火器と、手にした槍を構える。 その動作にためらいは微塵も感じられなかった。 マグダレーナの放つ殺気が最大に張りつめたその時、 「そこまででいいでしょう、マグダレーナ」 桐島あおいの声に、マグダレーナは振り向いた。 不満そうな表情が貼り付いている。 「……甘いことだな……。ここで復讐の根を絶たねば、いつまでもまとわりつかれることになりかねん」 「無用な殺生をするべきではないわ。それで警察に目を付けられたりしては、動きにくくなる。目的が達せられるまで、あと少しなのでしょう。立場を不利にしないで」 マグダレーナは菜々子を一瞥する。 今の会話が聞こえているのかいないのか、菜々子はうずくまったまま、身動きすらしない。 これが先ほど果敢にも我々に挑んできた神姫マスターのなれの果てかと思うと、マグダレーナは憐れみすら覚えた。 確かに、こんな哀れな娘と瀕死の神姫を殺したところで、自分たちが不利になる状況を生むだけだ。 マグダレーナは、ゆっくりと構えを解いた。 「ふん……もはや殺すにも足りぬわ……あおいに感謝するがいい……」 かすれた声でそう吐き捨て、マグダレーナはアタッシュケースの中に戻る。 あおいは、菜々子の背を見つめていた。 「わたしの勝ちね、菜々子」 その言葉に、丸められた菜々子の背が、びくり、と震えた。 「もう、わたしたちに挑むのはやめなさい。あなたがどんなに強くなっても、絶対にわたしたちには勝てない。……神姫を失って悲しむ菜々子を、もう見たくないわ」 そう言って、桐島あおいは踵を返した。 まるで何事もなかったかのような足取りで。 足音は遠くなり、やがて消えた。 雪はいまや本降りとなっていた。 しんしんと降り積もる雪の中、菜々子は身動きすらできずにいた。 絶対の自信を持って挑んだ戦いに、あっけなく敗れた。 大事な人は、自分を気にもかけずに、去った。 大切な神姫は大破し、もはや再び動くかどうかもわからない。 菜々子は再び神姫を失おうとしている。 あの、地獄のような苦しみを、つらさを、また味わわなければならないのか。 自らの愚かな選択の代償として。 その罪のすべてを、マスターではなく、神姫が負うというのか。 そんなのはおかしい。 誰か。誰かミスティを助けて……。 無意識のうちに、菜々子は携帯端末を取り出していた。 冷え切った指先を必死で動かし、たどり着いた番号は、彼女がもっとも愛する神姫マスターのものだった。 通話ボタンを押し、端末を耳に押しつける。 やがて聞こえてきた彼の声に、菜々子はどれほど救われただろう。 だが、言うべき言葉が見つからない。 ただ、ただ、その事実だけを言葉にする。 「負け……ちゃった……」 自分の声が、自分の心を鋭くえぐった。 ◆ その心をえぐる痛みで、菜々子は目を覚ました。 あたりは薄暗い。瞳だけ動かして、周囲を確認した。 見慣れた天井、見慣れた壁紙。 ここは、自分の部屋だ。 あれから、わたしは何をして、どうなったのだろう。 それとミスティは……。 はっ、となって、机の上にあるクレイドルを見る。 いない。 いつもならすでに起きていて、笑みを浮かべている小さな神姫の姿は、今日に限ってはいなかった。 胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。 ミスティは、あの後、どうしてしまったのか。 記憶がない。 この部屋にどうやって戻ってきたのかすらも覚えていなかった。 焦りを覚え、菜々子は起きあがろうとする。 「ぐ……」 身体の節々が痛い。 それに、喉がからからだった。 菜々子は無理矢理起きあがり、ベッドから立ち上がった。 本当に自分の脚で立っているのかも疑わしいほど頼りなく、ふらふらする。 同時に激しい空腹を感じた。 いったい、何がどうなってしまったのか。 菜々子は壁に手をついて寄りかかりながら、部屋の外に出た。 そのまま、居間の方へと歩いていく。 「……あら、おはよう。お目覚めね」 居間でお茶を飲みながら、ノート型PCを開いていた祖母が顔を上げて、微笑んだ。 「……頼子さん……ミスティは」 自分の声とは信じられないくらい、がらがらの声。 ふらふらの身体を叱咤して、なんとかちゃぶ台の向かいに座る。 すると、頼子はお茶を淹れて、菜々子に差し出した。 いつも菜々子が使っている湯飲み。 菜々子が起きてきたときのために用意していたのか。 菜々子は一口お茶をすする。 少しぬるめの緑茶が、渇いたのどに気持ちよく染み渡っていく。 「ミスティなら大丈夫。一昨日、お店に修理に出したと、遠野くんから連絡があったわ」 「とおの……くん……?」 「あら、覚えてないの? 土曜日の夜遅く、あなたを家まで連れてきてくれたのよ」 「貴樹くんが……」 まるで覚えていない。 記憶の最後の方、貴樹に電話したことだけ、かすかに覚えていた。 そんな不確かな連絡を受けて、彼は助けに来てくれたのか……。 菜々子の胸にあたたかいものが広がっていく。 ミスティもきっと無事なのだろう。そうでなければ、合理的な彼が、ミスティを店の修理に出すはずがない。 菜々子は少しだけ安堵した。 だが、大きな不安は拭えない。 わたしはこれから、何をすればいいのだろう。 不安げな顔をうつむいて隠した菜々子に、頼子は言った。 「まあ、少し休みなさい。動くのは、気持ちが落ち着いてからでも遅くはないわ」 「うん……」 どうやら祖母には、何もかもお見通しのようだった。 お茶を飲み、息をつく。 とりあえず、休もう。そしてこれからのことを考えよう。 まずは、貴樹くんにお礼を言わなくちゃ……。 つらつらと考えていた菜々子の耳に、ご飯にするわね、と頼子の声がわずかに聞こえた。 だが、菜々子が眠っていたこの三日の間に、とんでもないことが起こっていたことを、今はまだ、知る由もなかった。 次へ> Topに戻る>
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戻る トップへ 事の発端は、ほんの些細な思い付きだった。 何時もと同じ昼休み、いつもと同じ食堂で、いつもの面子で飯食ってた時だった。 「宗太のバカったらさぁ、昨日のバイトの最中、居眠りしちゃったのよぉ」 「あら、そうなの」 「そうなのよぉ。皿洗い中に立ちながら寝ちゃってねぇ」 「それで終わり、という訳では無いのだろう?」 「流石シルフィ、分ってるじゃない。このバカ、洗って無い皿を洗い終わった皿と一緒にしちゃったのよぉ!」 「まさか、そのまま料理載せちゃったの?」 「加奈美ぃ、私がいるんだからそんな事になる訳ないじゃないぃ。勿論このバカ引っぱたいて教えてやったわよぉ」 「そうか、それでパーシの昼食は豪華なのだな」 「そういう事よぉ~」 ……女三人寄れば姦しいとは良く言ったものだ。 前はパーシが加奈美に対して一方的に喋ってるだけだった。 加奈美は聞き上手で、パーシの注意をいい感じに引き付けてくれていて、俺はその隙にゆっくりと飯を食えた。 シルフィは、全く以て良く出来た神姫だ。 礼儀正しいし、真面目だし。アホのパーシに見習って欲しいくらいに。 ただ一つ、問題があるとすればシルフィは話し上手だと言う事だ。 絶妙のタイミングで相槌を打って、会話を発展させる。 そうなると、少し厄介な事になる。ていうかなってる。 「良かったわね、宗太。この程度の損害で済んで」 「そうよぉ、もし私が教えてなかったら給料から差っ引かれたんだからぁ」 「それに加え、不衛生な皿で料理を出したとすれば、店側としても大失態であろう。そうなってれば減給どころでは済まないかもしれないな」 「そういえばそうね。口に入れるものに対しては何時の時代も厳しいものね」 「そう言う事よぉ宗太。ま、今回は私のお陰で事なきを得たけどぉ、次からは気を付けてよねぇ?」 最近は毎日こんな感じだ。 四面楚歌とはこの事だと切実に思う。 「……そんなことより」 「あ、逃げたぁ」 この状況は精神上宜しくない。 適当な会話を振って、矛先を退けなくては落ち着いて飯も食えない。 「加奈美、シルフィはバトルしないのか?」 そう切り出したのは、我ながら賢明な判断だったと思う。 シルフィも、アホのパーシもあくまでも武装神姫、当然バトルも機能のうちだ。 「……主の意向により、未だバトルは」 「そうなのか、勿体ねぇな」 エウクランテは武装神姫の一弾、アーンヴァルの対抗馬的存在だと言う。 遠距離での砲撃戦に特化したアーンヴァルに対し、エウクランテは近距離での接近戦に主眼を置いた設計らしい。 「宗太ぁ、あんたもしかして起動間もないシルフィ苛めてポイント稼ぎする気ぃ?」 「……アホか。エウクランテ自体、あんま戦った事無いから興味あるんだよ」 パーシの言った事を、完全には否定出来ない。 だけど、エウクランテと、加奈美と戦ってみたいの本当だ。 「ま、加奈美が嫌だってんなら仕方ねぇな」 加奈美はああ見えてその実、かなり頑固だ。 一度言いだした事はそう簡単に取り消さない。 そのお陰で、何度も痛い目に遭った。 「シルフィ、バトルしてみたい?」 「……したくない、と言えば嘘になろう」 「じゃあ、やってみましょうか」 ……加奈美は頑固なトコがある反面、凄く気分屋だ。 何とも、面白い人間だ。 「良いのか?」 「ええ、シルフィがやりたいって言って、宗太もやりたいって言ってるもの。後は、パーシが良ければ、ね」 「私は全然構わないわよぉ」 話は、決まった。 「……おーい、まだか~」 時刻は放課後、ここは校舎の一角にあるバトルスペース。 「もうちょっと待って……あら、シルフィはサイフォスの装備も似合うわね」 「むぅ……主よ、そのように見られるのは……その……」 「あら、可愛いんだからもっとはっきり見せて頂戴?」 「あ、主のご命令とあらば……」 俺と加奈美は授業が終わった後、すぐにここに来た。 ポイントに左右されないフリーバトルをする為に、手頃なバーチャルマシンに陣取ったのが一時間前。 「……うん、ジュビジーのも似合うわねぇ」 「主よ……私にはこういう装備は……」 「そんな事無いわ。シルフィは何を来ても似合うわ」 「う……御褒めに与り……光栄だ」 そして、今の今まで加奈美がシルフィを着せ替え人形にして一時間だ。 俺には理解出来ないが、女はこういうのが好きなのだろう。 「シルフィは美人さんだから何着ても似合うわね」 「私は所詮エウクランテ……顔は他の個体と変わらないと思うのだが……」 「ふふ、人も神姫も、全く同じ存在は存在しないのよ?」 「……そうなのか」 「そうよ、そうなのよ。だから、次はツガルも着てみましょう」 スーパー着せ替えタイムはまだまだこれからのようだ。 「よぉ、パーシ」 「んぁ?……なぁーによぉ」 ただ待っているのも飽きたので、既にログインしているパーシに話を振る。 間抜けな声で返事したパーシは、バーチャルの木を背に転寝していたようだ。 「お前もああいうの好きなのか」 「……ねぇ、馬鹿宗太ぁ?」 選択したバトルフィールドは『草原』。 地面は背の低い雑草が茂ってて、所々に木が立っている。 空は綺麗な青空で、バトルよりも行楽に使われる方が多いフィールドだ。 「そういう事言えるなら、こんな詰まらない装備寄越さないでくれるぅ?」 今のパーシの姿は臨戦体制、即ちキャヴァリエアルミュールを装備した重装形態だ。 そしてその傍らには個人メーカー『k・k』製の剣、チェーンエッジが置かれている。 俺がパーシの為に考え、用意した戦闘装備だ。 「あのな、お前の為を思って用意してやったってのに、何だその言い草は」 「私の為ぇ? 自分の為の間違いじゃないのぉ?」 「お前、騎士型だろーが。騎士が鎧着て大剣持って何がおかしいんだよ」 「嫌ぁねぇ~固定概念に縛られた人間ってぇ・・・・・・」 「はん、一般常識すらないアホ神姫に言われたくねーな」 パーシは騎士型だ。騎士は剣を持ち、戦場で斬り合うモノだ。 だったら、今のパーシの装備は妥当なのは目に見えている。 それなのに、こいつと言ったら。 「だから宗太は馬鹿なのよぉ。騎士が剣だけしか使っちゃいけないって、誰が決めたのよぉ?」 「銃使う騎士なんて聞いたことねーけどな」 銃は銃でも、ベックの様なボウガンやアーチェリーものならまだ分る。 だけど、こいつはハイパーエレクトロマグネティックランチャーとかM16A1アサルトライフルみたいな銃火器を好む。 どう考えたって合わない。 「頭が悪いと、視野まで狭くなるのねぇ?」 「コーディネイトも分からないなんて、お前のAIを疑うぜ」 空気が変わるの感じる。 どうやら、お互いに導火線に着火したようだ。 こうなったらもう、止まれない。 「この馬鹿宗太・・・・・・!」 「んだよ阿呆パーシ・・・・・・!」 リアルとバーチャル、二つの世界の垣根を超えて俺とパーシは睨み合った。 一触即発。そんな状況だ。 「・・・・・・うん、やっぱり初めはデフォルトね」 「ああ、私のプリセットデータもこれに特化したモノとなっている。主の判断は正しいだろう」 「ありがとう。それに、デフォルトが一番シルフィに似合っているものね」 「・・・・・・主よ、その話は、もう」 「そう言わないでもっと良く見せて頂戴・・・・・・ねぇ宗太。スクリーンショットってどうすればいいの・・・・・・あら、お話中だったかしら?」 突如としてバーチャル空間に現れたシルフィと、それと会話するリアルの加奈美の乱入により、俺たちの導火線は一気に冷却された。 同時に、色んなものも冷却されたが。 「・・・・・・スクリーンショットなら、モニターのそこ押しゃ撮れんぞ」 「これね・・・・・・シルフィ、撮るわよー」 デフォルトのエウクランテそのままの姿で、加奈美の言う通りに様々なポーズを取るシルフィを見ていると、何だか不思議な気分になる。 「もっとこう・・・・・・腰を落として、そう。手は顔の横で・・・・・・」 「雌豹のポーズなんて、加奈美も好きねぇ・・・・・・」 「・・・・・・まったくだ」 それをぼけーと見ながら、俺たちの意見は珍しく合一した。 「加奈美、そろそろ良いか?」 「ええ、ばっちりよ」 加奈美の気が済んだのは、10GBのメモリーカードをシルフィのスクリーンショットで満載した後だった。 パーシは完璧に居眠りこいてるし、シルフィは既に満身創痍だ。 ただ一人、加奈美だけがやたら上機嫌で立っている。 なんだか無性に疲れた。 「……おい、パーシ。出番だ」 「んぅ……」 目を擦りながらゆったりとした動作で上体を起こすパーシ。 俺も寝れるのなら寝たかった。 「とっとと兜被れ」 「なぁに……やっとなのぉ?」 「ああ、やっとだよ」 大きく伸びを一回。次にあくびを一回。最後に伸びをもう一回。 そこまでやって、ようやくパーシは起き上がった。 そうして、枕代わりにしていた兜を被る。 「申訳ない、パーシ。宗太殿」 「気にしなぁい。どうせ困るのは宗太だけだしねぇ」 「……ま、俺も気にしてねーよ」 こういう事は慣れているからどうってことない。 そんな事よりも、今はシルフィと戦れる事の方が楽しみだった。 「ああ、そういえばバトルするために来たんだったわね」 本当に、加奈美には、ペースを崩されてばかりだ。 呑まれたら負けだ。 「準備良いならそこのボタン押せよ?」 「これね……私は何をすればいいのかしら?」 「基本は私が自由に戦わせて頂く。主は主の好きな時に好きなように命令を下されば」 今更だが、加奈美とシルフィは本当に初心者の中の初心者なのだと言う事を実感する。 パーシから視線を感じるが、無視しておく。 「……まぁ、私も対して強くないからお手柔らかにねぇ」 「こちらこそ、お手柔らかに頼む」 バトル寸前とは思えない呑気さ。 お互い、知り合って間もないけど、それなりに知り合った仲だ。 ついさっきまで一緒に並んで話していた様な状態で、いきなり剣呑な雰囲気になるのは人ではそうそう無理だろう。 だけど、俺は知っている。 『フリーバトル・スタート』 バーチャル空間に文字が踊るその瞬間、二人の気配が一変する。 シルフィは勢いよく羽ばたき、大空へ向かい跳ぶ。 そして、ある程度の高さまで到達すると、左手に持つボレアスの銃口をパーシに向けながら、旋回を始めた。 シルフィらしい、堅実なやり方だ。 「阿呆。何時まで突っ立ってんだよ」 「うるさいわねぇ」 口ではそう言いながらもパーシは無造作に投げ置かれていた大剣、チェーンエッジを握り占める。 「まぁ、やるなら勝ちたいしぃ」 両手で握ったチェーンエッジを大上段に構え、そして振り下ろす。 ぐしゃり、とバーチャルの地面をチェーンエッジが抉った。 長方形の刀身は神姫の全長を悠に超え、刀身の厚さは神姫の胴回りよりも一回り大きい。 円柱状の鍔には四つの細長いオイルタンクが伸び、柄は神姫が握るには長すぎる程に長い。 「最初から全力で行くわよぉ?」 右手で柄を握りしめ、左手で鍔の中にあるグリップを一気に引く。 その瞬間、羽虫が鳴くような音を何百倍にも増幅したような音が響いた。 刃が超高速で回転を始めた音だ。 「あら……」 向かいに座る加奈美が声を漏らした。 無理も無い。俺も初めてこれを作動させた時は本気でビビった。 この剣の名前はチェーンエッジ。 チェーンソーを剣の形に仕立て上げ、接近戦において絶大な破壊力を持たせた俺の秘蔵武器だ。 パーシはそのチェーンエッジを両手で握り、剣道の構えに似た中段で構える。 いつでも、どこからでも、攻撃に対処できる一番の構えだ。 空を飛ぶシルフィに対し、パーシは有効な武装を一つも持っていない。 対するシルフィはボレアスという飛び道具を持っている。 「シルフィ。とりあえず、撃ってみて頂戴」 「了解だ」 噂をすれば何とやら。 空中を旋回していたシルフィが、そのまま旋回しながらボレアスの引き金を引く。 ボレアスは二連式のパルスビーム砲。連射性能はかなりのものだ。 移動しながら撃たれただけあって、かなりの数のビームが広範囲からパーシ目掛けて殺到する。 「パーシ、弾き飛ばせ!」 「うっさいわねぇ」 パーシはチェーンエッジを横に寝かし、身体全体を捻ってまるで野球のバッターの様に引き絞る。 そして、ボレアスから撃たれたパルスビームがパーシに直撃する一瞬前。 チェーンエッジが、思いっきり振り薙がれた。 凄まじい羽音と、空気ごとビームを叩き壊す音が響く。 その後、振り抜いたチェーンエッジが地面に激突してまた音が響く。 「……パーシ、まだ残ってんぞ!」 ボレアスの連射性能とシルフィの技量をバカにしすぎたようだ。 タイミングをずらされて発射されたビームが、今度は全方位から降って来たのだ。 チェーンエッジは固く、威力は絶大だ。だけど、その代わり凄まじく重い。 パーシはチェーンエッジを無理やり構え直し、さっきとは逆の動きでビームを薙ごうとする。 だけど、間に合わない。 無理な動きで振り抜いたチェーンエッジはキレも速度も狙いも甘く、飛来するビームを捉えきれない。 仮に、さっきと同じように出来たとしても今度は全方位からの攻撃だ。どうせ庇えきれないだろう。 「ほんっとにうっさいわねぇ」 パーシの言葉は着弾の衝撃音でかき消された。 数えるのも億劫になる程のビームの雨。 それがパーシに降り注いだのだ。下手をすれば……。 もうもうと立ちこめる噴煙にパーシの姿は完全に隠されている。 そんな状況下ではシルフィも撃つに撃てないのだろう。上空を旋回しながら様子を伺っている。 やられたか? 考えたくは無いが、可能性としては当然考えるべきだ。 「馬鹿宗太ぁ、今私がやられたとか考えてたでしょう?」 と、噴煙の中からパーシの声が響いた。 それは当然シルフィにも聞こえた筈で、シルフィの表情が僅かに歪むのが見て取れた。 「大丈夫なのか?」 チェーンエッジの一薙ぎで噴煙を振り払い、パーシはその姿を再び現した。 全身を覆うキャヴァリエアルミュールには所々焦げた跡やヒビが見えるが、どれも致命傷とまではいかないようだ。 どうやら、ボレアスは連射性能に特化しすぎたせいで、威力はそんなに無さそうだ。 ボレアス自体、小型で取り回し重視なのだろう。 それに加えて、パーシはキャヴァリエアルミュールで武装している。 武装神姫随一の防御力を誇るその鎧は、ボレアスのビーム程度なら防げる事が分かった。 問題はこれからだ。 パーシの武装はチェーンエッジだけ。飛び道具の類は一切ない。 対するシルフィはボレアスに加え、見える範囲ではエウロスも装備している。 その上、シルフィは空を自由に飛べる。 空を飛ぶシルフィに対し、パーシは手も足も出ない状況だ。 そして、ボレアスの存在。 幾ら威力が低くても、相当な数を受ければキャヴァリエアルミュールも耐えきれないだろう。 結局のところ、状況は圧倒的に悪い。 ただじわじわと嬲り殺しにされるのがオチだろう。 嫌なイメージで頭が一杯になってる俺に対し、パーシの奴は再びチェーンエッジを構え直した。 「上段構えで行け」 「はぁーいはい」 今度は上段の構えだ。 これなら、上空からの攻撃に広く対応できる。 「分が悪りぃな」 思わず、呟きが口から洩れた。 加奈美に聞かれただろうか? 気になって盗み見る様に加奈美を伺ってみる。 「……あら、バトル中に余所見?」 そこにいたのは、何時もと変わらない加奈美だった。 戦況に浮かれる事も無く、ただ何時もと同じように加奈美は笑っていた。 それが、何と無く、心地よかった。 次に加奈美はいつもの笑顔でいつもの声音でいつもの調子でこう言った。 「隙あり」 その言葉に、一瞬反応が遅れた。 バーチャル空間の中では、シルフィがパーシの上空を高速で旋回しながらボレアスをこれでもかと連射していた。 さっきの比じゃない。 「ぼ、防御だ!」 「何ぼーっとしてんのよぉ、このバカぁ!」 パーシも俺の命令に注意を向けていたのか、反応が一瞬遅れた。 チェーンエッジを小振りで振り回し、飛来するビームをなんとか防御する。 しかし、タイミングが合わない。 当たり前だが、シルフィもただ出鱈目にボレアスを連射した訳では無さそうだ。 全方位から迫るビームは着実にパーシの死角を突いている。 前方から来るビームを防いだと思えば、背後からのビーム。 それを防ぐために動いた瞬間には左から。 ボレアスの残弾全てを撃ち尽すつもりか。凄まじい数だ。 「パーシ、とにかく耐えろ!」 これはかなりのピンチだ。 だけど、チャンスでもある。 パーシとシルフィの戦力差はボレアスの、飛び道具の有無だ。 もし、これを凌ぎ切れればシルフィは飛び道具を失った事になり、残るはエウロスのみ。 つまりは、接近戦しか出来なくなる。そうすれば俺達の勝ちだ。 シルフィはゼピュロスも装備していた。 ゼピュロスは攻撃を防ぐのでなく、逸らす装備だ。 大抵の攻撃では受け流されてしまう。 だけど、前にゼピュロスを使う神姫と戦った時はゼピュロスごと一刀両断した。 そう考えてる内にも、次々とビームは撃ち込まれている。 パーシから外れ、ビームが地面に直撃し噴煙を巻き上げて視界を奪う。 それは俺もパーシも、シルフィも同じだろう。 それでも、シルフィは撃つのを止めない。 空中を大きく旋回しながら、ボレアスの引き金を引き続けている。 これが加奈美の指示によるものか、それともシルフィ自身の考えによるものかは分らない。 だが、初陣でそれだけ出来るのははっきり言って脅威だ。負けるつもりはないが。 「……主、弾切れだ」 そして、弾幕が止んだ。 さっきまでの出来事が嘘のように、そこに響く音はチェーンエッジの羽音だけだ。 これで、パーシが戦えるのなら、俺の勝ちだ。 そうでなければ、俺の……負けだ。 「パーシ?」 「……死ぬかと思ったわぁ」 姿は見えないが、噴煙の中から確かに声がした。 このむかつく声は間違いない。パーシだ。 俺は内心、ガッツポーズを取った。 「よし、とっとと体勢を立て直せ」 「たくぅ、神姫使いが荒いわねぇ……」 もうもうと立ちこめる噴煙はさっきのよりも何倍も濃く、多い。 これではどうしようもない、暫く待つしかなさそうだ。 モニターを操作してパーシの損傷を目視確認する。 キャヴァリエアルミュールは輪郭を残してはいるが、それが機能するかは怪しかった。 兜は上半分が吹き飛び、目から下半分しか残っていない。 肩当ても吹き飛び、胸の装甲にもヒビが目立つ。 あともう少し、ボレアスの弾幕を浴びていれば危ない所だった。 「宗太ぁ、ちゃんと索敵してるぅ?」 「ああ、言われなくてもやってる……」 パーシに注意が向き過ぎていた。 この間、パーシが身動きとれないからと言ってシルフィもそうであるとは限らないのだ。 再びモニターを操作し、上空を見上げシルフィを探す。 「……いない!?」 しかし、そこにはシルフィの影も形もありはしなかった。 ただ、輝く太陽と白い雲があるだけだ。 「はぁ!? 何やってのよぉ!」 「やかましい! それより警戒してろ!」 パーシに怒鳴り返しながら、俺も周囲を索敵する。 しかし、地上は相変わらず噴煙に塗れているだけだ。 木々も、草原もほとんど見えない。 「……!」 いた。 桃色の髪の毛、青と白の装甲。 間違いない、シルフィだ。 シルフィは噴煙の影をパーシの背後目掛けて低速で、低空で飛んでいた。 気付くのが遅すぎた。 「パーシ、後だ!」 俺の声が出るのと同時、シルフィとパーシが接触した。 シルフィは右手に持つエウロスを大きく突き出して、パーシの喉元を狙う。 パーシは咄嗟に左手で喉元を庇った。 エウロスはパーシの喉元では無く、左腕の真ん中に突き刺さった。 「つぅ……!」 神姫にも痛覚は存在する。 恐らく、パーシは今、人間なら失神するレベルの痛みを感じているだろう。 だけど、パーシはそれを堪えて、右手にもったチェーンエッジをシルフィ目掛けて叩き付けた。 シルフィはパーシと同じように左手でそれを防いだ。 「とったか!?」 破壊力でいえばパーシの方が数段上だ。 防御力の低いエウクランテなら、今の一撃で終わってもおかしくない。 ゼピュロスを使ったところで、チェーンエッジの威力の前には腕を落とされてもおかしくない。 おかしくない、それどころか、それが普通だ。 なのに、シルフィは顔色一つ変えてはいない。 普段は無表情に近いシルフィの顔が、今は違った。 それは一見するといつもと同じ無表情だ。 それは、恐ろしいまでも無表情だ。 それは意識の全てをバトルに向ける、戦士の表情だ。 それは、武装神姫の表情だ。 シルフィは、全くの無表情で、エウロスを更に深く突き刺した。 その度、パーシが小さな呻き声を上げるが、シルフィはそれを気にする事は無い。 それどころかエウロスが持つ微細振動機能をオンにした。 チェーンエッジに良く似た、チェーンエッジより数段か細い羽音が響く。まるで、ノコギリが何かを切断してる音だ。 「力比べならお前の方が上だろっ!」 パーシは無言で、チェーンエッジをシルフィに押し当てる。 それにも関わらず、チェーンエッジの音は変わらない。 耳障りな羽音。 シルフィがパーシの様に腕で防御してるのなら、何かを削るような音がしてもおかしくない。 それはつまり、シルフィにチェーンエッジが当たっていない事を意味している。 気付けば、噴煙が薄く拡散していた。 二人の姿が、白い太陽に照らされた。 草木萌える草原で行われているその光景は、少し奇妙だった。 出来れば、古戦場辺りの方がいい気がする。 最も、一番奇妙なのは、チェーンエッジがシルフィに当たっていない事だ。 まるで、見えない何かが防いでいるかのように……。 「……そういう事かよ!」 シルフィの左腕には、二基のゼピュロスが装着されていた。 ゼピュロスを二基同時に、同じ場所で起動させる事でその効果を増幅している。 先ほどまでは両腕に装着していたゼピュロスを、恐らくは噴煙の中で付け替えたのだろう。 しかも、シルフィはゼピュロスのアームを展開していない。 その効果を一点に集め、防御する為にあえて展開していないのだ。 まずい。 そう思った時だ。 エウロスがパーシの左腕を貫通し、パーシの喉元を突き破った。 直後、モニターに「YOU LOST」の文字が躍った。 「ウソだろ……」 負けた。 超・超初心者の加奈美とシルフィに、負けた。 「……この馬鹿宗太ぁ! アンタのせいで負けちゃったじゃないの!」 パーシはバーチャル用のクレイドルから起き上がると同時にそう怒鳴った。 「うるせぇ! お前のせいでもあるだろーが!」 「宗太が油断しすぎてんのが悪いんでしょぉ!」 「それはこっちのセリフだ!」 「こんな剣じゃなければもう少しはマトモに戦えたわよぉ!」 「言い訳すんな!」 「してないわよぉ!」 俺とパーシが言い争いを始めた向こう側、加奈美とシルフィは俺達とは正反対の状況だった。 「凄いわね~初陣を白星で飾るなんて~」 「そ、そんな事は無い。主の力があってこそだ」 「謙遜しなくていいのよ~戦ったのはシルフィなんだから~」 「……いや……私は……そんな」 「あらあらぁ~照れるシルフィも可愛いわねぇ~」 まさに、天国と地獄。 「そういえば、宗太。そろそろバイトの時間なんじゃないの?」 「……」 嬉しそうな加奈美の声に誘われて時間を確認する。 「……今日はこのヘンで勘弁してやる! 覚えてろよ!」 「ええ、また明日」 嬉しそうで、いつもと変わらない声に送られて俺は走りだした。 パーシは勝手にカバンに入り込んでいる。 「馬鹿宗太ぁ」 「んだよ」 「さっきの捨て台詞、あれはないわぁ」 「……畜生……ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 この時、俺はまだ気付いていなかった。 加奈美があんな事になるなんて、気付いていなかった。 トップへ 進む -
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・・・・・・行かなきゃいけないのかなあ。 夏休み初日、僕は起きてからずっと迷っていた。 昨日は梓に押し切られ、会う約束を取り付けられてしまったが、やはり気が乗らない。人とはあまり関わりたくないし。 その一方で、久しぶりに同年代の子と話せるという楽しみもあったし、学年内でも人気の梓と、「武装神姫」という秘密を共有している嬉しさも、あった。 ・・・・・・どうしようかな。 「あの・・・・・・」 そんな具合で考えていると、ネロに声をかけられた。 「やはり迷惑ですし、断りの連絡を入れましょう」 最初は同意した。けれど、少し考えている内に、なんとなく、違う気がしてきた。 「・・・・・・そうやってまた、今までみたいに、あんなふうに生きていくの?」 あの時見た、ネロの姿を思い出す。 「ええ、慎一や他の方々に、迷惑をかけるわけには・・・・・・」 「そんなの認めない」 彼女の言葉を遮って、僕は言った。 「少なくとも、僕は迷惑だなんて思わない。それよりも、君があんな目に遭っていることの方が、僕には我慢できないよ」 「し、しかし・・・・・・」 いったい何が僕を衝き動かしたのか、とにかく僕はネロを説き伏せ、梓との待ち合わせ場所であるセンターへ向かった。 「あ、おはよー、星野くん」 「う、うん。おはよう」 ・・・・・・しかし、開店直後に待ち合わせというのはいかがなものか。 「紹介するね、この子はミナツキ」 「はじめまして。以後、お見知りおきを」 梓の肩の上で、猫型の神姫がぺこりとお辞儀をした。 「あ・・・・・・、こ、こちらこそ」 「ネロです。どうぞよろしく」 ・・・・・・なんか調子狂うなあ。 とりあえず、出掛ける前にネロから聞いた話をいくつか、した。 彼女のメモリにはブロックがかかっており、人間でいう「記憶喪失」みたいな状態になっているらしい、ということ。 もともとのマスターが行方不明になったのが、半年前――僕はこの半年前という言葉に、奇妙な引っ掛かりを感じていた――ということ。 「ふうん・・・・・・。製造番号とか、登録ナンバーとかで、何かわからないかな?」 「うん、それも考えたんだけど・・・・・・」 身体に刻まれている製造番号は削れてしまっていたし、登録ナンバーも、彼女のアクセスコードがわからないから調べることができなかった。 「うーん・・・・・・」 梓が唸っていると、 「あれ? 梓ちゃん、珍しいね」 と、男性の声がした。 「あ、修也さん」 事情を聞いてくれたその男性――上岡修也さんは、梓の従兄らしい。 「なるほど・・・・・・。そりゃあちょっと、複雑な問題だな」 そう呟いて、修也さんは携帯電話を取り出すと、どこかに電話を掛けた。そして、 「よし、これでとりあえず、不法所持の問題はなんとかなる」 と言った。 その夜。僕のパソコンに、一通の添付ファイル付きメールが届いた。差出人を確認すると、梓からだった。携帯を持っていない(というか持ちたくない)僕は、別れ際に彼女にパソコンのメールアドレスを教えておいたのだ。・・・・・・どちらかというと、教えさせられたと言った方がいいかも知れない。 「あれ・・・・・・?」 しかし読んでみると、文面は修也さんのものだった。 添付ファイルのプログラムを、ネロにインストールしろという内容。 当面、周りの目をごまかすための、偽造データとのことだった。 「ネロ、どうする?」 僕は聞いた。 「・・・・・・インストールします。それで少しでも、慎一達の負担が減るのでしたら」 「そんなこと・・・・・・、考えなくていいよ」 「・・・・・・すみません」 ・・・・・・これは、所詮偽物でしかない。でも、今の僕とネロをつなぐ、たったひとつの綱のように思えた。 幻の物語へ