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最終更新日時 2011年03月04日 (金) 21時19分35秒 代数的整数論(201-300) 元スレ: http //science4.2ch.net/test/read.cgi/math/1126510231/201-300 ログ元: http //2se.dyndns.org/test/readc.cgi/science4.2ch.net_math_1126510231/201-300 201 :208:2005/10/04(火) 12 59 11 A をネーター環とし、Mを有限生成 A-加群とする。 Ass(M) に属す素イデアル全体の共通集合は、Mに関してべき零 となる元全体からなる( 178)。 Ass(M) に属す素イデアル全体の合併集合は、Mに関して非正則 な元全体からなる( 180)。 特に、A を A-加群とみると、これは有限生成だから、 Ass(A) に属す素イデアル全体の共通集合は、A のべき零元全体と 一致する。つまり、Nil(A) である( 163)。 Ass(A) に属す素イデアル全体の合併集合は、A の非零因子全体と 一致する。 202 :208:2005/10/04(火) 17 50 56 A をネーター環とし、Mを有限生成 A-加群とする。 M の部分加群 N が準素であるためには、M/N に関して非正則な A の元は、M/N に関してべき零であることが必要十分である。 証明 181と 191より明らかだろう。 203 :208:2005/10/04(火) 18 03 34 命題 A を環、I, J を A のイデアル、p を A の素イデアルとし、 IJ ⊂ p とする。 このとき、 I ⊂ p または、J ⊂ p となる。 証明は明らかだろう。 204 :208:2005/10/04(火) 18 18 37 命題 A をネーター環とする。 Ass(A) = {p_1, p_2, ... , p_r} とする。 p を A の任意の素イデアルとすると、 ある i に対して p_i ⊂ p となる。 証明 A の零イデアルの最短準素分解を 0 = q_1 ∩ q_2 ∩ ... ∩ q_r とし、Ass(A/q_i) = {p_i} とする。 (q_1)(q_2)...(q_r) ⊂ q_1 ∩ q_2 ∩ ... ∩ q_r だから、 208 より、q_i ⊂ p となる i がある。 178より、p_i = rad(q_i) である。 よって、 165より、(p_i)^(n) ⊂ q_i となる整数 n がある。 よって、(p_i)^n ⊂ p となる。 再び、 208 より p_i ⊂ p となる。 証明終 205 :208:2005/10/06(木) 11 39 25 ネーター環において極小素イデアルは有限個しかないということは、 204からわかるが、これは、 A がネーター環のとき、Spec(A) の 閉部分集合全体が極小条件を満たすことからもわかる。 これを以下に説明する。 定義 位相空間 X が可約とは、 X = F_1 ∪ F_2 となる、X の閉部分集合 F_1, F_2 で X ≠ F_1, X ≠ F_2 となるものが存在することをいう。 空集合でない位相空間が可約でないとき既約という。 位相空間 X の部分集合 A が既約とは、A に部分空間としての位相を いれたときに、既約なことをいう。 206 :208:2005/10/06(木) 12 05 53 u A → B を環の射とすると、位相空間としての射 u~ Spec(B) → Spec(A) が、u~(p) = u^(-1)(p) で定まる。 u~が写像として定まり、連続であることを確かめるのは 読者にまかす。 u A → A/Nil(A) を標準射とすると、 u~ Spec(A/Nil(A) ) → Spec(A) は、位相空間としての同型射となる。 これを確かめるのも、読者にまかす。 ここで、Nil(A) は A のべき零元の全体である( 163)。 よって、Spec(A) の位相を考えるときは、Nil(A) = 0 と仮定してよい。 Nil(A) = 0 となるとき、A を被約という。 207 :208:2005/10/06(木) 12 33 54 空でない位相空間 X が既約なためには、X の任意の空でない開集合 が稠密であることが必要十分である。これは、2個の空でない開集合の 共通集合が空でないことと同値である。 208 :208:2005/10/06(木) 12 40 21 A を環とする。 Spec(A) の開集合は、D(f) ( 162) の形の開集合の合併集合になる。 よって、Spec(A) が既約なためには、任意の D(f) と D(g) が空で なければ、D(f) ∩ D(g) = D(fg) が空でないことが必要十分である( 207)。 D(f) が空であることと、f がベキ零であることは同値である( 162)。 よって、A が被約なら、D(f) が空でないことは、f ≠ 0 と同値である。 よって、A が被約なら、Spec(A) が既約であることと、A が整域で あることは、同値である。 これから、被約とは限らない A については、Spec(A) が既約であることと、 Nil(A) が素イデアルであることは同値である( 206)。 209 :208:2005/10/07(金) 10 16 08 位相空間 X の空でない部分集合 E が既約なことと、以下の条件が成立つ ことは同値である。 E ⊂ F_1 ∪ F_2 となる X の閉部分集合 F_1, F_2 があるとすると、 E ⊂ F_1 または E ⊂ F_2 となる。 証明は定義( 205)から明らかだろう。 210 :208:2005/10/07(金) 10 48 33 位相空間 X の部分集合 E が既約なことと、その閉包 cl(E) が既約 なことは同値である。 証明 証明は 209から明らかだろう。 211 :208:2005/10/07(金) 10 50 59 演習問題 ハウスドルフ空間が既約なのは、それが1点よりなる場合のみである。 212 :208:2005/10/07(金) 11 12 55 命題 位相空間 X の既約部分集合の集合 {E} が包含関係に関して全順序 集合となっているものとする。この合併集合 ∪E は既約である。 証明は 209から明らかだろう。 213 :208:2005/10/07(金) 11 48 58 定義 位相空間 X の既約部分集合 E が包含関係に関して極大なとき、 つまり、E を真に含む既約部分集合が存在しないとき、 E を X の既約成分という。 既約成分は 210より閉部分集合である。 212とZornの補題より任意の既約部分集合に対して、それを含む 既約成分が存在する。 位相空間の任意の点 p に対して {p} は、既約である。 よって、任意の位相空間はその既約成分の合併集合になる。 214 :208:2005/10/07(金) 19 13 37 定義 位相空間 X の閉部分集合を要素とする空でない任意の集合に包含関係に 関しての極小元が存在するとき、つまり、閉部分集合に関して極小条件 が成立つとき、X をネーター空間と呼ぶ。 これは閉部分集合の降鎖列が途中で停留することと同値である。 さらに、これは開部分集合に関して極大条件が成立つことと同値である。 215 :208:2005/10/11(火) 10 49 44 定義 位相空間 X の任意の開被覆が有限部分開被覆を持つとき、X を 準コンパクト(quasi-compact)という。位相空間がハウスドルフかつ 準コンパクトなときコンパクトという。 216 :208:2005/10/11(火) 10 58 31 ネーター空間は準コンパクトである。 証明 X をネーター空間とし、X の開被覆 {U_i} があるとする。 有限個の U_i の合併となる開部分集合全体を考える。 X はネーターだから、この中に極大なものがある。 これを U とすると、U の極大性から、任意の U_i ⊂ U となる。よって X = U となる。 証明終 217 :208:2005/10/11(火) 11 09 44 位相空間がネーターであるためには、その任意の開部分集合が 準コンパクトであることが必要十分である。 証明は各自にまかす。 218 :208:2005/10/11(火) 11 21 25 ネーター空間の既約成分は有限個である。 証明 X をネーター空間とし、X の空でない閉部分集合で有限個の 既約閉部分集合の合併とならないものがあるとする。 X はネーターだから、このようなもののなかに極小なものがある。 これを F とする。F は既約ではないから、 F = F_1 ∪ F_2 となる 閉部分集合 F_1, F_2 で F と異なるものがある。F の極小性から これらは有限個の既約閉部分集合の合併となる。よって F も 有限個の既約閉部分集合の合併となる。これは矛盾。 よって X の任意の空でない閉部分集合は有限個の既約閉部分集合の 合併となる。とくに X がそうなる。 証明終 (注) このような論法は今までにも暗黙に使った。例えば 182。 この論法をネーター帰納法と呼ぶ。 219 :208:2005/10/11(火) 11 47 45 A を環、E を Spec(A) の部分集合とする。 E に属すすべての素イデアルの共通部分を I(E) と書く。 I を A のイデアルとすると、 I(V(I)) = rad(I) となる( 164)。 I = rad(I) となるイデアルを根基イデアルという。 Spec(A) の閉部分集合の集合と A の根基イデアルの集合は F に I(F) を対応させることにより1対1に対応する。 220 :208:2005/10/11(火) 11 49 36 A を環、E を Spec(A) の部分集合とする。 cl(E) = V(I(E)) となる。ここで、cl(E) は E の閉包をあらわす。 証明 E ⊂ V(I(E)) は明らか。E ⊂ V(J) とする。ここで J は A のイデアル。 I(V(J)) ⊂ I(E) である。I(V(J)) = rad(J) だから( 219)、 rad(J) ⊂ I(E) となる。よって V(I(E)) ⊂ V(rad(J)) = V(J) つまり V(I(E)) は E を含む最小の閉部分集合である。 よって、cl(E) = V(I(E)) となる。 証明終 221 :208:2005/10/11(火) 12 02 42 A をネーター環とすると、Spec(A) はネーター空間である。 証明 219 より Spec(A) の閉部分集合の集合と A の根基イデアルの集合は 1対1に対応する。これより明らか。 222 :208:2005/10/11(火) 12 09 19 A を環とする。Spec(A) の既約部分集合の集合は Spec(A) と1対1に 対応する。 証明 208 より V(I) が既約なためには rad(I) が素イデアルであることが 必要十分である。これより明らか。 223 :208:2005/10/11(火) 12 13 06 環 A の極小素イデアルと Spec(A) の既約成分は1対1に対応する。 証明 既約成分の定義( 213) と 222 より明らか。 224 :208:2005/10/11(火) 12 15 25 命題 ネーター環の極小素イデアルは有限個である。 証明 218 と 223 より。 225 :132人目の素数さん:2005/10/11(火) 12 17 36 おもしろいスレじゃのう。 よっ、この208! 仕事人!!ガンガレ 226 :132人目の素数さん:2005/10/11(火) 12 42 45 Hand book of K-theory , Springer (Eric Friedlander Dan Grayson) kore yondahitoiru?? 227 :208:2005/10/11(火) 12 45 57 Thanks( 225). これを書くのにBourbakiの可換代数を参考にしてることは前に書いた。 私見によれば、現在のところ可換代数の入門書としてはBourbakiの 可換代数がトップだろうな。8、9、10章が数年前に出たことにより 松村を抜いた。8章は次元論。9章は完備局所環の構造定理とその応用。 10章は、ホモロジー代数の応用とCM環。 228 :208:2005/10/11(火) 12 52 39 Bourbakiの可換代数の8章の次元論は、Atiyah-MacDonald とか EGA とか 松村と違って Krull の次元定理 を Hilbert-Samuel の 特性多項式を使わないで直接に証明している。Krullのオリジナル の証明に近い。これは、俺も賛成。他の証明は迂回しすぎ。 229 :132人目の素数さん:2005/10/11(火) 14 42 30 Bourbakiの8、9、10章 French version, or English version? 230 :208:2005/10/11(火) 17 08 19 8、9、10章の英語版はないはず 231 :132人目の素数さん:2005/10/13(木) 09 50 46 ところで、環 A の素イデアルの集合を何故 Spec(A) (Spec というのは Spectrum(スペクトル)の略)と書くか。 これを追求するのは結構面白いと思う。 スペクトルというのは虹の7色に代表されるように光を周波数で 分けたもの。これは、突き詰めると原子内の電子がエネルギー を放出することによって特定の周波数の光を放出する現象 だろう(多分)。 だから、Spec(A) は量子力学からきたものと思う。 聞きかじりによると、Hilbert空間のエルミート作用素の固有値が 原子の出す光の振動数に対応するらしい(間違ってる可能性もある)。 空間が有限次の場合は、 147 の例が示唆的だろう。 V は K[X]-加群となり、Ass(V) は、線形写像 u の固有値の集合 とみなされる。 この場合、Ass(V) = Supp(V) であり( 166) Supp(V) = V(Ann(V)) = Spec(A/Ann(V)) である( 161, 176)。 つまり、Spec(A/Ann(V)) は u の固有値の集合とみなされる。 232 :208:2005/10/13(木) 11 06 51 231 Supp(V) = V(Ann(V)) = Spec(A/Ann(V)) である この A は体 K 上の多項式環 K[X] をあらわす。 Ann(V) は 線形写像 u の固有多項式で生成される。 233 :208:2005/10/13(木) 11 21 49 199 しかし、準素部分加群は既約とは限らない。 この例を Zariski-Samuel から引用しよう。 そのために、次の命題がいる。 命題 A をネーター環、 m をその極大イデアルとする。 整数 n 0 に対して Ass(A/m^n) = {m} である。 証明 Supp(A/m^n) = V(m^n) である( 176)。 一方、V(m^n) = {m} である( 203)。 よって、Ass(A/m^n) = {m} である( 99)。 証明終 234 :208:2005/10/13(木) 11 42 19 準素部分加群が既約とならない例(Zariski-Samuel): K を体、 A = K[X, Y] を K 上の2変数多項式環とする。 A は Hilbert の基底定理よりネーター環である。 m = (X, Y) は A の極大イデアルである(何故か?)。 m^2 = (X^2, XY, Y^2) は A の準素イデアルである( 233)。 m^2 = (m^2 + AX) ∩ (m^2 + AY) となる(演習問題とする)。 m^2 ≠ m^2 + AX, m^2 ≠ m^2 + AY であるから、 m^2 は可約である。 235 :208:2005/10/13(木) 12 37 38 Artin環について述べる前に、可換環論において頻繁に使われる 中山の補題を証明する。私の知る限りこの証明は3種ある。 その全部を紹介しよう。 236 :208:2005/10/13(木) 12 38 51 補題 A を環、M を A-加群とする。 n 0 を整数。 a_(i,j), 0≦i, j≦n を A の元の列。 x_1, x_2, ... , x_n を M の元の列とする。 これ等の間に次の関係式: a_(1,1) x_1 + a_(1,2) x_2 + ... + a_(1,n) x_n = 0 a_(2,1) x_1 + a_(2,2) x_2 + ... + a_(2,n) x_n = 0 . . . a_(n,1) x_1 + a_(n,2) x_2 + ... + a_(n,n) x_n = 0 があるとする。 このとき、det(T)x_i = 0 が各 i で成立つ。 ここで、 T = (a_(i,j)) であり、det(T) は T の行列式。 (注) 行列式は可換環でも普通と同様に定義される。 237 :208:2005/10/13(木) 12 42 13 236の補題の証明 上の関係式を行列記法で書くと、TX^t = 0 となる。 ここで、 X = (x_1, x_2, ... , x_n) X^t は X の転置行列。 T~ を T の余因子行列とする。 線形代数でよく知られているように T~T = det(T)E となる。ここで、E は n-次の単位行列。 よって、T~TX^t = det(T)X^t = 0 となる。 つまり、det(T)x_i = 0 が各 i で成立つ。 証明終 238 :132人目の素数さん:2005/10/13(木) 13 11 57 定義 環 A のすべての極大イデアルの共通集合を A の Jacobson根基といい、 rad(A) と書く。Jacobson根基を省略して J-根基ということもある。 239 :132人目の素数さん:2005/10/13(木) 14 09 07 よく恥ずかしげもなくassなんて書けるな 240 :208:2005/10/13(木) 17 26 14 補題 A を環、x を A の元で x = 1 (mod rad(A)) とする。 このとき、 x は可逆元である。 証明 x ∈ m となる A の極大イデアルがあるとする。 rad(A) ⊂ m だから x = 1 (mod m) である。 当然、x = 0 (mod m) だから 1 = 0 (mod m) となって矛盾。 よって、Ax = A でなければならない。 何故なら、Ax ≠ A とすると Zornの補題より、Ax を含む極大イデアル が存在するから。 証明終 241 :208:2005/10/13(木) 17 27 04 補題 A を環、E, F を A の元を成分とする n-次の正方行列とする。 I を A のイデアルとする。 E = F (mod I) とは、行列の成分毎の mod I での合同を意味する とする。このとき、det(E) = det(F) (mod I) である。 証明 明らか。 242 :208:2005/10/13(木) 17 36 29 中山の補題 A を環、I を A のイデアルで I ⊂ rad(A) とする。 M を有限生成 A-加群とする。 IM = M なら M = 0 である。 証明 M の A-加群としての生成元を x_1, ... , x_n とする。 IM = M より、I の元の列 a_(i,j), 0≦i, j≦n があり、 これ等の間に次の関係式が成立つ: a_(1,1) x_1 + a_(1,2) x_2 + ... + a_(1,n) x_n = x_1 a_(2,1) x_1 + a_(2,2) x_2 + ... + a_(2,n) x_n = x_2 . . . a_(n,1) x_1 + a_(n,2) x_2 + ... + a_(n,n) x_n = x_n つまり、TX^t = X^t となる。 よって、(E - T)X^t = 0 となる。 ここで、T = (a_(i,j))、 X = (x_1, x_2, ... , x_n) X^t は X の転置行列。 E は n-次の単位行列。 よって det(E - T)x_i = 0 が各 i で成立つ( 236)。 よって、det(E - T)M = 0 となる。 一方、E - T = E (mod I) となるから、 det(E - T) = 1 (mod I) となる( 241)。 よって、det(E - T) は可逆元である( 240)。 よって、M = 0 となる。 証明終 243 :208:2005/10/13(木) 17 47 48 中山の補題( 242)の別証1 242の記号を使う。 a_(1,1) x_1 + a_(1,2) x_2 + ... + a_(1,n) x_n = x_1 より、 (a_(1,1) - 1) x_1 + a_(1,2) x_2 + ... + a_(1,n) x_n = 0 a_(1,1) - 1 は可逆( 240)だから、 x_1 ∈ Ax_2 + ... + A x_n となる。 よって、M = Ax_2 + ... + A x_n となる。 これから、n に関する帰納法より、M = 0 となる。 証明終 244 :208:2005/10/13(木) 17 58 50 補題 A を環、M を有限生成 A-加群とする。 N を M の部分加群で N ≠ M とする。 N を含む M の極大部分加群が存在する。 証明 N を含む M の部分加群で M と異なるものから構成される 全順序集合(包含関係による) S があるとする。 S の要素全体の和集合 L は M の部分加群で M と異なる。 何故なら M = L とすると L は M の有限個の生成元を含むから S の要素で M と一致するものがあることになり矛盾。 よって Zorn の補題より N を含む M の極大部分加群が存在する。 証明終 245 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 08 33 28 244 明らかな事を証明するな馬鹿 246 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 08 51 11 244 明らかな事を証明するな馬鹿 omae usero BOKE!!! 247 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 09 07 51 208 O-BOKE!!! !!! 248 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 09 20 45 245-247 寝た子を起こすな。 249 :208:2005/10/14(金) 10 24 13 補題 A を環、I を A のイデアル、M を A-加群とする。 (A/I)(x)M は M/IM と標準的に同型である。 証明 A-加群の完全列 0 → I → A → A/I → 0 より完全列 I(x)M → A(x)M → (A/I)(x)M → 0 が得られる。これより明らか。 証明終 250 :208:2005/10/14(金) 10 29 27 中山の補題( 242)の別証2 M ≠ 0 とする。 244 より、M の極大部分加群 N が存在する。 M/N は 0 以外に真の部分加群を持たない。つまり単純加群である。 よって M/N は1個の元で生成されるから、A の適当なイデアル m に 対して A/m と同型である。N は極大だから m は極大イデアルである。 よって、完全列 M → A/m → 0 が得られる。 よって、完全列 M(x)(A/I) → (A/m)(x)(A/I) → 0 が得られる。 一方、 249より、 M(x)A/I = M/IM (A/m)(x)(A/I) = A/m (I ⊂ m に注意) と見なされる。つまり、完全列 M/IM → A/m → 0 が得られる。 よって、M/IM ≠ 0 証明終 251 :208:2005/10/14(金) 10 38 20 個人的には、 250の証明が中山の補題の本質を突いてると思う。 どの証明もZornの補題を本質的に使っていることに注意。 A がネーター環ならZornの補題はいらないが。 252 :208:2005/10/14(金) 11 23 43 中山の補題と準素イデアル分解の応用として「Krullの共通イデアル定理」 を証明する。 定理(Krull) A をネーター局所環、m をその極大イデアルとすると、 ∩m^n = 0 となる。ここで n はすべての正の整数 n 0 を動く。 証明 I = ∩m^n とおく。 mI = I を示せば、中山の補題より I = 0 となる。 mI ⊂ I は明らかだから I ⊂ mI を示す。 mI = q_1 ∩ ... ∩ q_r とする。ここで、各 q_i は準素イデアル。 ある i に対して、I ⊂ q_i とならないと仮定する。 mI ⊂ q_i だから m の各元は mod q_i で零因子となる。 よって、{m} = Ass(A/q_i) である。 よって、m^n ⊂ q_i となる整数 n 0 がある( 168)。 一方、I = ∩m^n だから I ⊂ m^n である。 よって、I ⊂ q_i となって矛盾。 証明終 253 :208:2005/10/14(金) 12 05 02 定義 A を環、M を A-加群とする。 M ≠ 0 で M ≠ N かつ N ≠ 0 となる部分加群 N が存在しないとき M を単純加群と呼ぶ。 254 :208:2005/10/14(金) 12 06 05 定義 A を環、M を A-加群とする。 M の部分加群の列 M = M_0 ⊃ M_1 ⊃ M_2 ... ⊃ M_n = 0 があり、各 i に対して M_i/M_(i+1) が単純とする。 このとき、列 (M_i) を M の組成列と呼ぶ。 n をこの組成列の長さという。 255 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 14 26 25 アホかお前 256 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 14 27 57 255 たのむからこのスレに文句つけるのやめてくれ。 257 :208:2005/10/14(金) 18 45 16 可換環論においてネーター環が重要なことは当然だし、ネーター環は 色々、好都合な性質を持っている。だから、常にネーター性を 仮定出来れば、すっきりする。ところが、そうは問屋がおろしてくれない。 ネーター環でない重要な環がある。例えば離散付値でない付値環。 それに、不幸なことにネーター整域のその商体における整閉包は必ずしも ネーター環ではない。 258 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 19 34 24 そ れ が な に か ? 259 :132人目の素数さん:2005/10/14(金) 19 44 55 256 260 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 10 11 17 可換環論においてネーター環が重要なことは当然だし、ネーター環は 色々、好都合な性質を持っている。だから、常にネーター性を 仮定出来れば、すっきりする。ところが、そうは問屋がおろしてくれない。 ネーター環でない重要な環がある。例えば離散付値でない付値環。 それに、不幸なことにネーター整域のその商体における整閉包は必ずしも ネーター環ではない。 tatoeba hokaniaru? 261 :感想:2005/10/15(土) 12 28 52 おつかれさま。これからもがんばって。 いや、なんだか大変そうだから。読んで文句をいうだけなら楽でも書くのは大変かと。 以下愚痴:素人というのはつまり、今はどんな状態からどんな状態へとつなぐ為に こんなことをしています、っていうイメージがわかないひとのことかな、って思った。 たどれる(なぞれる)だけでは意味がなくてそれぞれの場面でどこを目指せばいいか そんなレベルで知りたくて見てる私は素人なので、途中の道に目印だけ置かれて 途中で迷子にならないように何とかとりあえずついていくだけだと、ちょっとさびしく。 原語がわかるから言語的イメージを持てるのかもしれないけれど、 図形などの視覚的イメージや同じ~類似の形式的性質を持つモデルがあったらな。 でもわかるひとには長くてくどくなるし、かくのにも面倒だから、無理なんだろうな…。 たとえば?えーと上の局所化って内部相互差の一部の同一視なのかな、とか、 それによって扱うべき差異に注目して、本題以外の情報を視野から外せるかなとか、 ネイター環なら閉集合縮小時=限定条件強化=焦点化に限界があって、 開集合拡大時=存在条件ゆるめ時の限界と表裏で、操作時いろいろ便利だ、とか。 かなり雑で不正確な気がするけど、ここの文だけだとそんなイメージになったよ。 262 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 12 52 02 そんな無茶苦茶な理解しても役に立たんよ 数学は基礎からきちんと勉強しないと身につかない それからネイター環じゃなくてNoether(ネター/ネーター)ね 物理の人とかたまにナーターとか読んでたりするけど 263 :感想:2005/10/15(土) 14 06 13 そうそう、そんな感じで。 何がどう間違ってるか突っ込まない教授って あまり学習者には役に立たないものだから。 単に不正確とかいうのは、まず無意味。 ちゃんと正しい記述に直してくれてありがとう。 ちなみにこのoeは円唇音(≒咽頭開け音でも可、 口腔内前後径延長によって同様の音の変化 =全フォルマントの低音化が起きるから容認発音) のエで、やや長めなので、その通りになります。 他で基礎を全部学ぶならこの場はいらない。 半分の理解(=誤解)の段階が想定対象だから、 軌道修正が中心になるのは当然、でもそれがない 参考書等が多く、このスレッドを頼りに学ぶわけで。 参考文献が入手困難か読みにくい外国語だけ、 または本の記述の細かさのムラのために 初学者が理解困難な場面の解説をしてくれている そんな親切なひとのスレッドなのです。 だけど一人だと負担が重くなりすぎるので、 焦点が外れていたらスレ主は流すしかない。 こういった親切な人が助けてくれないと、 質問者は「???」なままになるわけ。 で、ROMは気が引けるので、声援・応援レスなのです。 264 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 15 46 55 ラのために 初学者が理解困難な場面の解説をしてくれている そんな親切なひとのスレッドなのです。 だけど一人だと負担が重くなりすぎるので、 焦点が外れていたらスレ主は流すしかない。 こういった親切な人が助けてくれないと、 質問者は「???」なままになるわけ。 で、ROMは気が引けるので、声援・応援レスなのです。 91 KB [ 2ちゃんねるが使っている 265 :208:2005/10/15(土) 16 30 38 260 tatoeba hokaniaru? 例えば、Krull環、例えば、ネーター整域のその商体における整閉包とか 266 :208:2005/10/15(土) 16 35 11 初学者? そうね、我慢して証明を追っていく。 そのうち、トンネルを抜けるように見晴らしがパーっと良くなる。 この感覚は言葉でいくら説明してもわからない。 体験するしかない。 267 :208:2005/10/15(土) 16 46 04 まあ、そう突き放すのも何だから、わからないところは質問して くれればいい。 268 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 16 49 10 さて、ここでクリトリスについて考察してみよう。 まず、「リス」を漢字で書くと「栗鼠」、すなわち (リス) = (栗鼠) ここで、 (栗) + (栗鼠) = (栗) (1 + 鼠) 故に、 (クリトリス) = (栗) (1 + 鼠) を得る。 269 :208:2005/10/15(土) 16 55 44 何なんだろうね。釣りに反応するのもなんだけど。 数学がなんかすごくまじめくさった面白くもなんともないもんだと 誤解してんだろうね。数学ってのは場合によるとセックスより気持ち いいもんなんだよ。これは知るひとぞ知る公然の秘密 270 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 17 15 22 問題が解けたときって、100円玉拾ったときと脳波がおなじじぇあねーの? 271 :シュリ:2005/10/15(土) 18 26 57 今、就職活動中で、もし数学に事を何も知らない面接官に「代数学って何?」ってき 聞かれたら、何て説明しますか!?(素朴な疑問でスミマセン・・・。) あとこの掲示板では、代数的整数論の話題以外の分野で質問するのは、マズイですか!? 272 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 18 29 15 おでん屋みたいなものですとネタを入れる 273 :GiantLeaves ◆6fN.Sojv5w :2005/10/15(土) 18 44 30 talk 271 集合に、いくつかの演算の構造を入れた空間を考える学問。(もはや「代数」などとは呼べないかもしれないが。) 274 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 18 53 07 273 それは「数学」の説明では? 275 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 19 10 33 暗号に使える高級数学とでもいっておけば。。。どんな暗号ってって会話が続くかも 営業で代数専攻でっていったら客がぽかーんとするから、そのときどう答えるかを聞いてるんだよ。 代数なんかで商売できる仕事はない 276 :132人目の素数さん:2005/10/15(土) 19 14 27 まあとにかく ・好きでやった ・一生懸命やった ・努力する才能はある という点をアピールするのが目的だから、 説明と言う手段にこだわりすぎないほうがよい。 277 :132人目の素数さん:2005/10/16(日) 15 46 59 ・好きでやった ・一生懸命やった ・努力する才能はある ・本質は馬鹿である ・他人に教える才能も無い ・つぶしが利かない ・人生やめたほうが良い 278 :132人目の素数さん:2005/10/16(日) 16 24 57 もとの話題に戻りましょ。208さん、すみません。 279 :132人目の素数さん:2005/10/16(日) 16 37 52 微分幾何学と数値解析はなにに使えるって聞かれて。。。 リアクターの中のケミカル物質の濃度解析につかえるといったら。。 うちでは使う機会がないといわれた。。。 だったら面接に呼ぶなよな。。。忙しいのに。。。 馬鹿の面接官を出す会社は最初から蹴ったほうがいい 280 :132人目の素数さん:2005/10/16(日) 16 41 26 大手は形式だけ試験受けてくれで。。。即決だった。 判断が速い。格の違いを感じた。 281 :208:2005/10/17(月) 09 48 11 最近(実はほんの2、3日前)、Kummerの理想数に関して以外な発見を した。俺だけが気がついたとは思はないが。 足立の「フェルマーの大定理」という本を1ヶ月ほど前にアマゾンで 買った。この本にはKummerの理想数について書いてあると聞いたから。 ところが読んでみるとあまり詳しく書いてない。 ただ、定義は書いてあった。 K を代数体(実は円分体だが一般の代数体でも同様)、A をその主整環、 p を素数とする。p の素因子とは、p と A の元ωの組 (p, ω) で以下の条件を満たすものである。 1) ω ≠ 0 (mod pA) である。つまり ω ⊂ pA とならない。 2) α、βを A の元で、αβω = 0 (mod pA) なら、 αω = 0 (mod pA) または βω = 0 (mod pA) となる。 このとき、(p, ω) は p の素因子 P を定めるという。 αω = βω (mod pA) のとき α と β は 素因子 P を法として 合同といい、α = β (mod P) と書く。 初めこれを読んだとき、なんじゃこれは? 奇妙な定義だなと思った。 ところが、2、3日前に読み返してみて気がついた。 皆、もうわかるよね? そう 素因子 P とは A/pA の随伴素イデアル、 つまり P ∈ Ass(A/pA) のことだ( 89)。 これは驚きだよね。随伴素イデアルの概念はやっと1950年代の 終わりにBourbakiが定式化したものだ。それを、Kummerが100以上前に 代数体でやっていたとは。 282 :208:2005/10/17(月) 10 24 37 Kummerの定義によると α ∈ A が (p, ω) で定義される素因子 P の n乗で割れるとは αω^n = 0 (mod (p^n)A) となることをいう。 A がDedekind環であることを使うと、これはイデアルとして αA ⊂ P^n と同値であることが分かる。 283 :132人目の素数さん:2005/10/17(月) 10 54 37 偉大なり、kummer 拡大スレをあげるんだ! 284 :208:2005/10/17(月) 12 06 11 補題 A を環、M を A-加群とする。 M が長さ n の組成列( 254)を持てば、M の任意の部分加群 N は、 長さ ≦ n の組成列を持つ。 証明 n に関する帰納法。 M = M_0 ⊃ M_1 ⊃ M_2 ... ⊃ M_n = 0 を組成列とする。 (N + M_1)/ M_1 は N/(M_1 ∩ N) と同型である。 N + M_1 = M_1 つまり N ⊂ M_1 の場合は帰納法の仮定より、 N は長さ ≦ n-1 の組成列を持つ。 N + M_1 ≠ M_1 の場合は、N + M_1 = M であり、N/(M_1 ∩ N) は 単純加群( 253)である。一方、M_1 ∩ N は帰納法の仮定より、 長さ ≦ n-1 の組成列を持つ。よって、N は長さ ≦ n の組成列を持つ。 証明終 (注) 図を書くと証明が良く分かる。 285 :208:2005/10/17(月) 12 22 24 補題 A を環、M を A-加群とする。 M が長さ n の組成列( 254)を持てば、M の任意の部分加群 N に 対して、M/N は長さ ≦ n の組成列を持つ。 証明 n に関する帰納法。 M = M_0 ⊃ M_1 ⊃ M_2 ... ⊃ M_n = 0 を組成列とする。 (N + M_(n-1))/N は M_(n-1)/(N ∩ M_(n-1)) と同型である。 N + M_(n-1) ⊃ M_(n-1) であり、M/M_(n-1) は長さ = n-1 の 組成列を持つ。よって、N + M_(n-1) に帰納法の仮定が使える。 残りの証明は読者に任す。 286 :208:2005/10/17(月) 12 30 31 定理(Jordan-Holder) A を環、M を A-加群とする。 M = M_0 ⊃ M_1 ⊃ M_2 ... ⊃ M_n = 0 を組成列とする。 M の任意の組成列の長さは n であり、その剰余群の列は、 順序を別にして 列 (M_i/M_(i+1)) と同型である。 証明 n に関する帰納法。 M = N_0 ⊃ N_1 ⊃ N_2 ... ⊃ N_m = 0 を別の組成列とする。 M_1 ∩ N_1 は補題( 284)より長さ ≦ n-1 の組成列を持つ。 これと、帰納法の仮定を使えばわかる。 詳しくは読者に任す。 287 :208:2005/10/17(月) 12 32 51 286から自然数の素因数分解の一意性がすぐに出る(演習)。 だから、 286は非常に基本的な定理ということが出来る。 288 :208:2005/10/17(月) 12 37 52 定義 A を環、M を長さ n の組成列を持つ A-加群とする。 286より n は組成列の取り方によらない。 n を leng(M) と書き、M の長さと呼ぶ。 一般に組成列をもつ加群を長さ有限の加群と呼ぶ。 289 :208:2005/10/17(月) 12 41 14 命題 A を環、M を長さ有限の加群、N をその部分加群とする。 このとき、N も M/N も長さ有限であり、 leng(M) = leng(N) + leng(M/N) となる。 証明 284と 285から明らか。 290 :208:2005/10/17(月) 12 45 08 命題 A を環、M をA-加群とする。 M が長さ有限であるためには、部分加群に関して極大条件と 極小条件を同時に満たすことが必要十分である。 証明 286や 289を使えば簡単なので読者にまかす。 291 :208:2005/10/17(月) 12 49 44 281 自画自賛だけど、このスレで随伴素イデアルを扱ったのは正解だね。 なにしろ、Kummerがやってるんだから。 普通は代数的整数論の導入部で随伴素イデアルに関してここまでやらない。 292 :208:2005/10/17(月) 16 00 19 定義 A を環とする。それをA-加群とみたとき極小条件を満たすなら、それを Artin環という。 293 :132人目の素数さん:2005/10/17(月) 16 03 51 286から自然数の素因数分解の一意性がすぐに出る(演習)。 うそつけ 294 :208:2005/10/17(月) 16 06 13 命題 Artin環が整域なら、それは体である。 証明 a ∈ A を 0 でない元とする。 イデアルの列 aA ⊃ (a^2)A ... ⊃ (a^n)A ⊃ ... は途中で停留するから、(a^n)A = (a^(n+1))A となる整数 n 0 が ある。よって、a^n = a^(n+1)x となる x ∈ A がある。 A は整域だから、1 = ax となる。 証明終 295 :208:2005/10/17(月) 16 15 32 293 素直に、わからないから教えてくださいと言えばいいものを。 296 :208:2005/10/17(月) 16 19 35 294の系 Artin環の素イデアルは極大である。 297 :132人目の素数さん:2005/10/17(月) 16 20 38 295 おしえてなんかいらねーよ 298 :132人目の素数さん:2005/10/17(月) 16 21 46 208は教えてクンでもあったのか・・・ 299 :208:2005/10/17(月) 16 28 42 命題 Artin環の素イデアルは有限個である。 証明 p_1, p_2, ... , p_n を相異なる素イデアルとする。 p_1 ≠ (p_1)(p_2) である。 何故なら、p_1 = (p_1)(p_2) なら、p_1 ⊂ p_2 となるが、 p_1 は極大イデアルだから( 296)、p_1 = p_2 となって矛盾。 同様に、(p_1)(p_2) ≠ (p_1)(p_2)(p_3) である。 何故なら、(p_1)(p_2) = (p_1)(p_2)(p_3) なら、p_1 ⊂ p_3 または p_2 ⊂ p_3 となるから。 よって、降鎖列 p_1 ⊃ (p_1)(p_2) ⊃ (p_1)(p_2)(p_3) ... が得られ、隣合うイデアルは異なる。 極小条件から、この列は無限に続かない。 証明終 300 :208:2005/10/17(月) 16 30 46 298 お前はアフォか。 タグ: 208 ネーター帰納法 ネーター空間 既約閉部分集合 素因子 随伴素イデアル TestTest (2011-03-04 21 14 18) コメント
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1 一 i/虚数/八百万虚無 丘の上の和風建築。 斜陽の名家がその名残を残す屋敷。 その縁側で、6人の少女が夕空を見上げていた。 どーん。どーん。どーん。 遠く緩い振動が小さな彼女たちの内臓を揺らす。 ぱーん。ぱーん。ぱーん。 紫がかった空に、とりどりの光が花を描く。 輝きは数秒。弾けて、光って、空に溶けて消える。 沈黙。輝きは闇に霧散しても、しばらく少女たちは息を殺して空を観た。 「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」 「はわわ、はす姉、また息吸うの忘れてたの!?」 「仕方ねえだろ。すっごかったもんな! ハァァ~。爆発すげえ! 爆すげぇ! あれ何だ? 能力か? オレにもできるか?」 「ただの化学反応。火薬を燃焼させているだけ。地上にあるときは地味な粉だよ」 「ほええ、やく姉は詳しいねえ」 「はっ。ヤクはマニアなんだよ。薬中毒。爆変態」 「失礼だな、端数。私は魔人能力すら創り出す脳・人体に干渉しうる薬品に興味があるのであって、薬のもたらす作用に耽溺する中毒者と一緒にして欲しくはない」 「やっちもはっすも、喧嘩はだめだゾ☆ あーんなにキラキラな花火を観たんだから♡」 「あらあらまあまあ。それじゃあ、仲直りにスイカでも切って食べましょうか」 「アイ、爆速でグースについてけ。こいつに包丁持たせるなよ?」 「あはは、わかってるよ。マザ姉、行こう? あ、シー姉は、いつものでいい?」 「……うん。ありがと。タマゴ。一貫だけでいい……」 「うえ。シス、爆マジか? 今朝もマグロ一貫じゃねえか。 もっと爆食しねえと、グースみたいにでっかくなれねえぞ?」 「端数ちゃんー?」 「へいへい。別にいいじゃん。オレもでっかくなりてー!」 「うーん。わたしも、はやくおおきくなりたいな」 「あらあらまあまあ、アイちゃんまで……」 「ええと。大きくなったら、わたしも、魔人(かぞく)になれるかもしれないから」 末妹の言葉に、5人の姉たちは、しばし沈黙した。 顔を見合わせ、その後で五者五様の笑顔を末妹に向ける。 「ンなことなら、爆大丈夫だぜ。アイ」 「あらあらまあまあ。そんなことを気にしていたんですか、アイちゃん」 「だって、最初から、あーしたちは、家族なんだから☆」 「確かに、我々『一(にのまえ)家』の99%は魔人だ。 だがそれは、無能力(にんげん)を排斥することを意味しない」 「……だから、『約束』……」 ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 どーん。どーん。どーん。 指を絡めて笑い合う6人の少女を、再開された花火が見下ろす。 「爆『約束』だ」 「あらあら。それじゃあ、そのためなら」 「あーしら、何でもやるし☆」 「考え得る限りのことならば、何でもやってやるし」 「……何でもやらかしてやる……」 「えへへ、ありがとう。お姉ちゃんたち」 ぱーん。ぱーん。ぱーん。 小さな無数の粉の生み出す爆発が。 数秒で消えるさだめの輝きが。 夜に叛逆する無力な光が。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ 約 ・ 指 ・ 虚 【Tips 一家(ニノマエケ)】 一族中の魔人率が99%を超える戦闘破壊家族。 一家の一族は日本中に存在し、当然のように日本人だけに留まらない。 魔人覚醒時に数字の名を与えられる。 肉親の顔も知らず、ほとんどが義理の家庭で育てられる。 善良な者が多いが、魔人の例に漏れず善悪の概念で語れない者もいる。 判明している一家の家訓はふたつ。 第一条 一人は家族の為に、家族は一人の為に。 第三条 家族と交わした『約束』は必ず守るべし。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ 約 ・ 指 ・ ■ 池袋、某所。 「また例の件か」 凄惨な現場に刑事がぼやく。 これで何度目になるか分からない爆殺事件。 犯人は分かっている。 手口も分かっている。 ただどうやってやったのかが分からない。 これで何人目になるか分からない爆殺犯人。 彼は指を鳴らすことで今回の爆殺事件を起こしたらしい。 まるでたった今魔人に覚醒した魔人能力であるかのように。 今週に入って、既に9件目。 まったく同じ能力。 ――即ち、爆破。 まったく同じ発動条件。 ――即ち、指を鳴らすこと。 まったく違う犯人。 ――即ち、非魔人の池袋来訪者であること以外共通点なし。 あり得ない。 まったくもってあり得ない。 1件目のときには、簡単な事件だと思われていたのだ。 ただの、覚醒直後の魔人の暴走。 であれば、警視庁にとって、日常ではないが珍しくもない案件である。 魔人能力を行使すれば、行使者の周囲に不可視の痕跡が発生する。 警視庁魔人犯罪捜査研究室、通称『魔捜研』はそうしたものを感知するセンサー、能力者を備えている。 犯人をスキャンし、痕跡と能力を登録した上で『首輪』をつけて初犯特例で執行猶予。 そんな、よくある流れで処理できる案件だと思われた。 しかし、精査の結果、『痕跡』はなし。 犯人は、非魔人。そう、結論づけられた。 魔人能力のはずだ。はずなのだ。だがその形跡すら判別できないのだという。 魔人能力に目覚めたと思われる犯人たちもまったくもって人間のままだ。 この事態に、警察は、裏でこの現象を起こしている真犯人がいるのだと判断。 だが、その機序までは、判明していない。 人間を魔人にする魔人? その可能性はある。 魔人とは、人と異なる認識に触れた認識越境者だ。 故に、非魔人が魔人という存在に触れて、文字通り触発されて覚醒することはある。 しかし、そうして目覚めた能力が、同一のものになるなどありえない。 魔人とは、己のみの強固な認識で世界を歪めるものだからだ。 であれば、「他人に魔人能力を貸与する能力」か? だとしたら条件は? 「犯人」の共通点は「池袋にいる」「魔人ではない」ことのみなのに? 池袋中央、およそ270haの空間に、魔人能力を貸与するという特性を付与する? 魔人能力の可能性は無限ではある。 しかし、警察の過去の犯罪歴から鑑みても、この現象は、一人の魔人が行える範疇を越えている。 現場に残された、犯人――指を鳴らして爆発を起こした本人ではなく、この現象そのものの主犯――によるものと思われる、警察を挑発するかのようなメッセージ。 明らかに意図的だ。 この現象を引き起こしているなにがしかがいるのだ。 こんな現象を引き起こせるなにがしかがいるのだ。 明確な意思を持って。 この池袋に爆殺の現象をもたらしている。 なにがしかが。 覚醒したと思われる魔人能力、それらの名前は現在一時的にこう総括されている。 八百万、なにもかもを虚無にばらまく殺人現象…… 『八百万 虚無(パンク・キャノン)』と。 脅迫声明文なし。 要求なし。 まるで、人と魔人との境界を爆破することが目的かのような、犯行だった。 2 一 ヤク数/約数/犠牲羊の夢を見るか ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 そのために私は、自らを健やかにしようとする想い――薬指を捨てた。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ 約 ・ 指 ・ ■ 池袋西口から北に少し歩いた一角。 この区画には、終電を逃した若者を見込んだカラオケ屋がずらりと並んでいる。 その一室に、私たち――『一(にのまえ)家』の姉妹は、集まっていた。 『池袋で発生している爆破事件の続報です。 爆破能力に覚醒した魔人による犯行と目されていた本事件ですが、 警察の捜査の結果、全員が、池袋の外では能力行使が不能であると確認されました。 この結果を受け、警察では池袋において指を弾く行為を厳に避けるよう周知を――』 一人は、『一 端数(にのまえ・はすう)』。 「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」 『はわわ、はす姉、また息吸うの忘れてたの!?』 「しかたねーだろ! 爆上がりだろうが! オレらの家族計画大順調じゃねえか!」 ショートカットに鋭い釣り目。 端切れのパンツを被った親指のない、姉妹の長女。 喘ぐように荒い呼吸を繰り返している。 一人は『一 母偶数(にのまえ・まざあぐうす)』 「昔々あるところに……」 『んもう、マザ姉、現実逃避しないでってば』 「あらあらまあまあ、わたくしってば、ごめんなさいねえ。 ハスウちゃんがこうなったら、何を言っても聞いてもらえないから」 長身で母性的な体躯。自らの魅力を自覚した、最低限の飾り気のワンピース。 人差し指のない、姉妹の次女。 ホルマリン漬けの脳髄を膝にのせ、愛おしげに撫でている。 一人は『一 (^ε^)-☆Chu!!数(にのまえ・きっす)』 「チュッ☆」 『えへへ、キス姉くすぐったいってば。わかってる。喧嘩じゃないよ?』 きらびやかなラインストーンメイクに、アルバローザのレトロギャルスタイル。 中指のない、姉妹の三女。 場違いなほど軽やかな笑顔は、彼女の周囲だけ昼間を思わせる。 一人は『一 数の子(にのまえ・しーすー)』 「寿司うめえ」 『うーん、シー姉、食欲出たのはいいけど食べすぎじゃない?』 「寿司うめえ」 ドンキの安売りでまとめ買いしたフードつきパーカーにダメージドジーンズ。 黙々と寿司を食べている、小指のない、姉妹の五女。 そして――私。 突然襲ってきた吐き気に耐えかねて、薬指のない、姉妹の四女――『一・ヤク数(にのまえ やくすう)』は、用意していたアンプルを静脈に打ち込んだ。 「ウッ!! ぷへえええええ……」 『あれれ、ヤク姉だいじょうぶ? 最近お薬増えてない?』 「問題なおぼぼぼぼ。いつもの発作だぷほええええ」 神経に絡みつくような激痛が、少しずつ薬によって紛れていく。 私はまず、着ている白衣に、涎や嘔吐した胃液が付着していないことを確認した。 発作は抑えられないからこそ、せめて身なりまでは汚さない。 薬物中毒の廃人と自分の間に線を引くための、それが、私の意地だった。 私の狂態に、同席する4人の姉妹は眉ひとつ動かさない。 『無理しちゃだめだよ? ヤク姉はいっつも自分の体のことは後回しなんだから』 私を心配するのはスピーカー越しの、6人目の声だけだ。 そう。最後の一人。 肉体のない、姉妹の末妹――『一 i(にのまえ・あい)』。 次女、母偶数に抱えられた、ホルマリン漬けの脳髄。 その円筒型のケースには電極が刺され、次女、母偶数の手元にある端末に繋がっている。 6人目の声は、その端末から発せられていた。 私たちは、いつかの夏に、縁側から花火を見上げた5人だった。 いや、誤認である。かつて縁側から花火を見上げた6人だった。 私たち5人は、脳髄――iの願いを叶えるために集まっている。 死亡して、その性能を失ったたんぱく質であるはずの、末妹、iのために。 死者は語らない。 それが、人間として死んだ者ならばなおさらだ。 しかし、iは、生きている。 死の瞬間に魔人として覚醒したのではないか、と母偶数は分析した。 魔人能力は、強い認識・想いによって世界の法則を捻じ曲げるものだ。 iの場合はそれが『人間から、一(にのまえ)の家族――魔人になること』だった。 そうして、彼女は、肉体の死の瞬間、『人と魔人の境界を歪める魔人』となった。 今の彼女は、脳髄だけの存在だ。 だが、私たちにとっては変わらぬ愛すべき妹である。 その電極に刺したコンピューターのノイズが確かに彼女の反応を示している。 端末を通して、会話もできる。 そして『人間を魔人にする』という、その能力を発動し続けている。 それで、彼女が、家族が生きていると確信するには十分である。 「お、また始まったぜ。またパンク・キャノン絡みだ!」 長女、端数の言葉を聞いて、全員……厳密に言えば、古いアニソンを歌っている三女の(^ε^)-☆Chu!!数を除いた5人は、ディスプレイのニュース動画に顔を寄せた。 iの能力『八百万 虚無(パンク・キャノン)』が、世間にどう受け止められているかを知るためだ。 『こちら、池袋ハチ公前です。 連続爆破事件および通り魔殺人事件の続発により、平時のような観光客による賑わいはありません。 しかし、この場所でなら、魔人能力を使えるという噂や、通り魔殺人鬼のファンを称する来訪者で、人出だけを見ればこれまでとあまり変わらない状態となっています。特に『パンク・キャノン』については、魔人と人とを平等にする正体不明のカリスマとしてその存在を崇拝する若者たちが『パンク・ピストルズ』と名乗ってデモ活動を行っています。誰かが指を鳴らせば惨劇が起きかねない、そうした状況下で街はピリピリとした――』 『爆破能力付与犯――仮称『パンク・キャノン』は、何を目的としているのでしょうか?』 『営利目的にしてはやり方に整合性がありません。何かの思想的なデモンストレーション、宗教的な主張のようにも思いますね。魔人犯罪や魔人能力の危険性についてはこれまでも問題になっていましたが、今の池袋は『全ての人々が他者を傷つける能力を持つ魔人となったら何が起きるのか?』『人と魔人との間の境界など、そもそも存在しないのではないか』という、本質的な問題の検証フィールドになっていると言っていいでしょう。』 『池袋で『パンク・キャノン』を発動した一般人が次々と死亡しているという状況から、使用者の生命力を代償とした能力貸与なのではないかという説もありますが』 『その説は疑がわしいと考えています。彼ら彼女らの死因はいずれも他殺、凶器に共通点はなし、拷問などの形跡もなしとのことです。おそらく、『パンク・キャノン』の行使とは別物。通り魔殺人事件の犯人に、能力の行使という目立つ行動を取ったことでたまたま目をつけられただけでしょう』 『続いて、池袋で発生している連続殺人事件です。 市内各地で発生しているこれらの事件は手口がばらばらであることから、同一犯ではなく、複数名の犯行である可能性が高いとされています。被害者の氏名を読み上げます。■■市、アンバードさん。■■区、アンバードさん。■■市、駆動真一さん。■■町、アンバードさん。■■市、森竹幽人さん――』 『交通事故の情報です。本日未明、高田馬場から目白にかけてトラックの暴走による交通渋滞が発生しました。目撃者によればトラックの運転席は空席で――』 ニュースが別の話題へと移っていく。 これだけのことをしているのに、世間は移り気だ。 iが命を賭けて、私たちが全てを投げうっても、世界は簡単には変わらない。 「スゥーッハァーッ! クッソまどろっこしいなあ!」 「あらあらまあまあ。でも、ちゃんと伝わる人には伝わっていますわ。 解説者さんもちゃんと『台本通り』、私たちの気持ちをお話してくれましたし」 「うわっ☆ あれ、まーちとしすちの仕込み? すっごーい!」 次女の母偶数は記憶操作能力、五女の数の子は、暗示能力を持つ魔人だ。 ニュースのコメンテーターに接触して、私たちに都合のいい発言をするように暗示をかけて、そのこと自体を忘れさせたのだろう。 『お姉ちゃんたち、ありがとうね。 私たちの活動を見て街に集まってくれてる人もいるって。うれしいね』 六女のiが、魔人と人との境界を曖昧にした場を作る。 次女の母偶数と、五女の数の子が世論を作る。 長女の端数と三女の(^ε^)-☆Chu!!数が、物理的な脅威から姉妹を守る。 それが、私たちのあり方だ。 ならば、私の役目は―― 「ごぼっ……母偶数、数の子。手を出せおげええ。 また、派手にやったんだろう゛あ゛あ゛?」 「あらあらまあまあ、ヤクスウちゃんにはお見通しですね」 「……お願い、ヤクスウ……」 人差し指のない母偶数の手と、小指のない数の子の手を、私は薬指のない手で包む。 魔人能力『犠牲羊の夢を見るか』、発動。 脳を内側から揺らされたような不快感。 眼球の奥が重く締め付けられ、体の軸から末端にかけて痺れが走る。 他者の精神に直接干渉する魔人能力は脳への負荷が大きい。 しかも、これは相当な人数に使ったな? よほどコメンテーターとの接触にてこずったのだろう。 途切れそうになる意識。 ぼやける指先の感触で鞄のアンプルを探し、完全な手癖で静脈に注入する。 痛みと疲労感が緩和され、私はせりあがりかけていた胃液を慌てて飲み下した。 「おえええええ゛。まったく、無理はするなよ」 「ありがとうございます、ヤクスウちゃん」 「……助かる」 私の能力は、『負荷の引き受け』。 疲労や損傷を肩代わりするものだ。 廃人となるような広範囲・高強度の能力も、私が代償を引き受ければ行使できる。 一人では意味がない、だが、信頼できる仲間がいるなら、何より有用な力である。 まあ、限界ギリギリまで引き受けようとすると、鎮痛剤や栄養剤をカクテルしたアンプルの世話になる必要があるのは玉にきずだが。 「……にしても、さっきのニュース。 『パンク・キャノン』の使用者が殺されているの、少し気になる。アタシたち、毎回現場行ってるから、全員から情報集められたら、身バレもワンチャンある……」 「拷問の跡はなさそうって話だし、一撃で殺しちまってるんだから情報収集もないだろ。爆破の犠牲者による復讐か、野良殺人鬼の仕業じゃねえか?」 「しすちは心配性ね☆」 「……ハスウやキッスが能天気なんよ……」 「ま、気にしても仕方ないだろ。んで、次だが……どうする? まだしばらく様子見か?」 「そうですねえ。そろそろ、次の段階に行ってもいいかもしれません」 「……どういうこと?」 『みんなね、武器(おもちゃ)のことは知ったと思うの。 けどまだ、手段(ルール)がわかっていない。だから――』 「ここで、iちゃんに、池袋の街中に演説してもらおうかなあって思うの」 母偶数が指したのは、ディスプレイに映る豊島区の地図。 池袋駅東口に広がるビル街の一角、豊島区役所東池袋分庁舎だった。 「はァ? なんで役所とかいくんだよ。演説なら駅前で、キッスが音をでっかくすれば――」 「……防災行政通信網」 「なるほどー☆ さっすがまーち、頭いい☆」 「おいおいおい、爆置いてけぼりかよ! オレにもわかるように説明しろよー!」 「自治体が設置する、災害が発生時の災害の規模、災害現場の位置や状況を地域住民に伝達するための設備だ。ほら、夕方に童謡の音楽が流れるだろう? あれは、防災行政通信網のテストを兼ねた放送だ」 「ふむふむ。……で?」 「そいつを使えば、池袋中に音声を流せる。(^ε^)-☆Chu!!数の能力で拡声するよりもっと広範囲だ。そして、マスコミの放送局をジャックするより、防災行政通信網放送設備の警備は目に見えて薄い。区役所ってのは、区民が手続きで出入りできる前提の施設だからな。そこで、iの主張をした上で、その場にいる勤め人に指を弾いてもらえば――」 偶然にもまだ誰も気付いていない、「通信設備を介して指を弾く音にも反応して爆発が起きる」というルールを知らしめつつ、今後、「他の殺人鬼」が悪用するかもしれない防災行政通信網の屋外拡声器を一掃することができる。 「スゥーッ! ハァーッ!」 「どうした、端数」 「いや、酸素をいっぱい脳に回せばなんとかなるかなって」 「理解できなかったんだな?」 「うん」 「はあ……要するに」 「いいや! おまえたちとiが考えたんなら、オレはそれを邪魔するヤツを吹っ飛ばすだけだしな! お姉ちゃんに任せとけ!」 姉妹で一番頭が悪く、一番性格のいい、この長女は、満面の笑顔で言い切った。 姉妹で一番背が低く、一番態度の大きいこの長女は、iとは別の意味で私たちの救いだ。 すぐに癇癪を爆発させて、すぐにエネルギーを使い果たして息切れする。 けれど、それはいつも、妹たちのためだった。 そんな彼女を支えたくて、私の能力は目覚めたのだと思う。 だから―― ドアが破壊され、次の瞬間に腹に穴の空いた端数を見て、私は全くためらわなかった。 腹を押さえて『爆弾』で反撃をする長女。 iをかばいつつ口元を押さえる次女。 状況を理解できていない三女。 手鏡で外を確認する五女。 何が襲撃してきたのか、どのような手段で攻撃されたのか、そんなことを思考する前に、体がなすべきことを理解していた。 襲撃。誰が。不意打ち。端数がやられた。致命傷。どうして。 混乱で叫ばなかったのは、鎮静剤で感情が鈍麻していたからかもしれない。 魔人能力――『犠牲羊の夢を見るか』 他者の傷と疲労とを肩代わりする。これはそれだけのシンプルな異能。 自らを、スケープゴートにするその能力は、正しく長女の命を救う。 そして――四女である私、一 ヤク数の命を奪う。 長女は、破壊されたドアから飛び出して、襲撃者を次々に爆殺した。 意識が薄れていく。 薬で痛みを押し殺していても、私が生存し会話できるのは、あと数秒だ。 他の姉妹たちは、端数の切り拓いた血路から逃げようとしている。 (^ε^)-☆Chu!!数が泣きながらこちらに手を伸ばす。 ああもう、化粧が涙でぐしゃぐしゃだ。 おまえは顔がいいんだから、もっと素材を活かすメイクにすればいいのに。 泣き虫のクセに濃い化粧をするから、こういうときに台無しになるんだ。 「iを、頼む」 「……わかった。『約束』☆」 私の表情で、意図を理解してくれたのだろう。賢い娘だ。 「やっち。またね」 「すぐ来たらお説教だからな」 そして、彼女は、私を置いて駆けだした。 一(にのまえ)の一族は名に数を背負う。 私は『約数』。他の数字(かぞく)を『割り切らせる数』である。 私を原因に、割り切れぬ想いで、他の数字が計算誤りを起こすことは許されない。 地面に倒れて、先ほどまで姉妹の日常を過ごしていたカラオケボックスの天井を眺める。 爆破の音が断続的に響いている。 長女、端数の能力は『愛用の品を、注いだ想いに応じた火力の爆弾にする』もの。 末妹、iの能力は『超小型爆弾を起爆させる能力を人間に貸与する』もの。 この爆音は、端数かiが生きている証拠だ。 それにしても、私たちを襲ったのは、誰だったのだろう。 私たちが、『パンク・キャノン』を守っていると知っていたのか。 問答無用だったところから、おそらくはそうだ。 警察? 最近『パンク・キャノン』は賞金がかけられていたからそれ狙い? それとも、殺人中継サイト『NOVA』のランキング関係? いずれにしても、『パンク・キャノン』と私たち一家を繋ぐ情報は少ないはずだ。 疑問は尽きない。 だが、私に残された時間では、それに答えを見出すことは不可能だろう。 ならば、もっと幸せな記憶を思い出すべきだ。 「――自己犠牲と、献身。そこに一片の後悔もない。 薬指は、癒しの証。君は、それを自ら捨てたのか」 意識を失うその直前、私は、そんな、知らない男の呟きを聞いた。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ 約 ・ 指 ・ ■ 生まれてからの出来事が、早回りで脳裏を巡る。 思えば、一 ヤク数の人生は、個性的な姉妹の尻ぬぐいをしてばかりだった。 私は理性的であろうとするのに、姉妹たちはそうではなかった。 思いにまかせて、非合理的なことをして、痛い目を見て。 けれど、きっと私は、どこかそれが羨ましかったのだろう。 だから、彼女たちを止めるのではなく、彼女たちの苦しみを肩代わりすると決めた。 特に、i。 ただの人間だった彼女。 魔人(かぞく)になりたいと願い続けた末妹。 彼女のために、私は――自らを健やかにしようとする想い――薬指を捨てた。 あれ? そういえば。 記憶の中の私が「アンプル」を使うのは、誰かの能力負荷を肩代わりするときだけだったはずだ。 なのに、どうして、iが死んだ――『八百万 虚無』に目覚めたあとの私は、『犠牲羊の夢を見るか』を使っていないはずのタイミングで、発作に襲われて薬を多用するようになったのか? 記憶に断絶がある。 理性的だったはずの一 ヤク数が、まるでジャンキーのようにアンプルを濫用するようになった理由。 それは、いったい、なんだった? 「そうか。君は、自分でもそれを覚えていないのだね」 そうみたいだ。 けれど、そんなことはどうでもいい。 大事なのは、私が姉妹の身の安全を守れたこと。 そして、私が姉妹で交わした『約束』を守れなかったこと。それだけだ。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ ■ ・ 指 ・ ■ 3 一 (^ε^)-☆Chu!!数/奇数/Loving☆you☆baby☆ ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 そのためにあーしは、世界を憎しみ蝕む想い――中指を捨てた。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ ■ ・ 指 ・ ■ 背後で爆破が立て続けに起きる。 端数(はっす)はあーしと同じくらいバカだけど、単純なバトルなら姉妹で一番強い。 襲撃者は多かったが、戦闘モードのはっすなら負けることはないだろう。 けれど、問題はそこじゃない。 「ヤク数(やっち)は……」 『きす姉、やく姉はどうしたの?』 「i(あいち)、やっちは……」 「ヤクスウちゃんは、端数ちゃんのサポートに回ってもらったわ。 あれだけ敵がいると、端数ちゃんでもバテちゃうでしょ?」 『そっか……はす姉とやく姉なら大丈夫だよね?』 「ええ、あたりまえでしょう? わたくしたち姉妹はおしまいまで一緒。 それが『約束』なんだから」 ずきりと、胸が痛む。 隣を走る母偶数(まーち)と数の子(しすち)の顔色も悪い。 どちらも、やっちが死んだことに気づいている。 理解していないのは、あいちだけ……もしかすると、はっすあたりはワンチャンあるか。 思考が気持ちに追いついてこない。 やっちがもういない? 理屈っぽくてお説教魔で、でも困ったときには助けてくれるしっかりものの妹が? 「キッスちゃん、お願い。周りの足音をスキャンして?」 まーちの言葉に、我に返った。 そうだ。ボケてる暇ないし。 あーしは、やっちと『約束』したんだし。 魔人能力『Loving☆you☆baby☆』。 ざっくり音を操る能力だ。 ゆっくり音声みたいなのを流したり、特定のジャンルの音に『聞き耳を立てる』こともできる、姉妹の中では汎用性が高い便利系魔人能力ってことになっている。 カラオケボックスのビルに限定して、足音を知覚する。 背後からは聞こえない。 能力によるあたしの聞き耳は範囲こそ広いけど、対象は人間限定だ。 はっすが戦っている相手は全員が魔人らしい。 あとは爆発を聞きつけて避難する人たち。 その中で…… 「ひとり、近づいてきてる。 プロっぽくない。友だちを探してきた子って感じ?」 「……油断しないで。精神操作されて自爆とか、あるかも……」 「ええ。回避して外に出られそう?」 「うーん、厳しそう。非常階段ははっすの爆発がふさいでる。距離20……15……10」 「わたくしが『お話』するから、シースーちゃん、いざとなったらお願いね」 煙が立ち込める廊下を、腰を屈めて進む。 対象の足音との距離、8……5……3……0。 「ひゃっ!?」 そして、私たちの目の前に駆け込んできたのは……何の変哲もない、普通の娘だった。 ボブカットにキュロットスカート、腕に赤いスカーフのワンポイント。 スポーツブルゾンのマニッシュな女の子だった。 ファッションもあーしたちみたいに尖ってないし、動きは素人丸出し。 警戒感なんてなにもない、この状況に不似合いな子。 けど、この状況で、まったく物怖じせず、その子は私たちを見て、にっこり笑った。 「あなたたちが『パンク・キャノン』ですね! 私は、九十九(つくも)・まみって言います! 人間です! 助けにきましいたたたたた!」 そして一瞬で、しすちに関節を極められて組み伏せられた。 「ギブギブギブ! そうですよねこの状況で信じられないですよね! でも今ここで立ってても奴らが来ますし私がみなさんをどうにかできるほど強くないのは今のでわかったと思うので走りながらお話聞いてもらえたりしませんかねいててててて折れちゃう! 腕折れちゃいます!」 「……どうする? あやしさ120%だけど……」 しすちがまーちを見る。 まーちは小さく頷くと、手を離すようにしすちを促した。 「シースーちゃん。警戒はしてて。 まみちゃん? わたくしたち、時間がないの。 この状況でわたくしたちについてくるってことは、命がけってこと、わかってる?」 「はい!」 「あらあら。……わかりました、それじゃあ……」 「そうですね!」 あーしたち姉妹と乱入少女は顔を見合わせる。 目くばせで、今ここで言い争っている場合でないことを伝えた。 能力を使うまでもなく乱暴な足音が近づいてくる。 後ろからではない。 はっすが敵を片づけて合流しにきたのでもない。また別口の追手だ。 「うらぁ、賞金首ゲッt」 「『パンク・キャノン』っ!」 ぱちん! 謎の少女、まみちゃんがその場に皆をかがませると、指を弾いた。 壁が爆発する。 爆炎に巻き込まれて、ナイフやバットを構えた男たちが吹き飛んだ。 まるで、爆発する場所のおよその位置と火力を理解しているような動きだった。 「――『パンク・キャノン』の発動で爆発するのは、壁や工作物が多い。通路がいきなり爆発することはほとんどない。 これは、『パンクキャノン』の起爆対象が、指を鳴らす側によって決められるのではなく、予め街中にばらまかれた『爆弾』が、音に反応して起動するから……ですよね? あなたたちは、この街で活動する関係上、通路を無差別に起爆対象にするわけにはいかなかった。その傾向さえわかれば、ただの人間の私にも、『パンク・キャノン』をちゃんと、武器にできる。 さあ、まずはここを出ましょう!」 襲撃者から武器を奪うと、まみちゃんは走り出した。 「あなた、名前は?」 「今度は覚える気で聞いてくれるんですね? 九十九・まみ。あなたたちに『武器』をもらった、ただの人間ですよ」 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ ■ ・ 指 ・ ■ カラオケ屋のビルを出ると、そこは惨状だった。 振り続ける雨が、赤く濁って排水溝へと流れていく。 倒れている人間は大きく二つ。 いかにも裏世界然とした出で立ちの人たちと、いわゆる普通の恰好をした若者たち。 普通ファッションの子たちはみんな、体のどこかに赤いスカーフを結んでいた。 そのうちひとりが、まいちゃんに話しかけてきた。 「よかった。無事だったんだね。で、この人たちが……」 「ええ、そう。私はここを離れるけど、みんなは」 「わかってる。ここにいる。『パンク・ピストルズ』がここにいれば、賞金首とかランキング狙いの殺人鬼も、こっちに気を取られてくれるよね。こっちはカシオさんがいるから大丈夫だと思う」 「ごめん。助かる。あと、まだ動ける人は、中にまだ、『パンク・キャノン』の仲間がひとり戦ってるから、加勢してあげて。その人も爆弾使いだから、巻き込みあわないように」 「了解」 赤スカーフの子たちが何人かカラオケビルへと駆けこんでいく。 ビルの上ではまだ爆破音。 はっすといい勝負ができる強敵が刺客の中には紛れ込んでたみたいだ。 ――特に『パンク・キャノン』については、魔人と人とを平等にする正体不明のカリスマとしてその存在を崇拝する若者たちが『パンク・ピストルズ』と名乗ってデモ活動を行っています。 さっきのニュースで、そんなことを言ってたっけ。 だとすると、この子たちは…… 「はい、わたしたちは、あなたたちを支援したい。 それが『パンク・ピストルズ』の目的です」 「それが、どうしてここに? あと、襲撃者の正体は?」 「匿名掲示板に、このビルに『パンク・キャノン』がいるって書き込みがあって。 みなさんのだいたいの風体と一緒に。 それで、私たち、『パンク・ピストルズ』が駆けつけたんです。 たぶん、襲い掛かってきたのは、賞金稼ぎと『NOVA』の殺人鬼ランキング狙い。……もしかしたら、警察の人もいたかもしれないけど、まあ、あなたたちに襲い掛かるなら、おんなじですよね!」 煤混じりの汗を雨と一緒に拭いながら、まみちゃんはまっすぐ笑う。 「しばらくここは『パンク・ピストルズ』が引き受けます。 みなさんは身を隠して。わたしたちの隠れ家がありますから――」 「いいえ。このままじゃじり貧。端数ちゃんを待つ時間もない。 予定どおり、東池袋分庁舎の防災行政通信網を押さえましょう。 人数で押されているなら、こちらも多くを味方につける必要がある。 それに、通信越しの爆破っていう手札を開示するなら、できるだけ大々的な形にした方がいい。襲撃側への抑止力にするなら、インパクトが大事でしょう。 まみちゃん、あなたの力も借りるわね。わたくしたちを助けようとしてくれる気持ちを、池袋のただの人間たちに伝えてほしいの」 「はい! はいっ!!!」 「……マザーグース、本気? こんな何ともわからない子……」 不服そうなしすちに、まーちは耳元で何か囁いた。 それで不承不承納得したようにしすちは頷く。 あーしの『能力』では、魔人が立てる音は聞き耳が立てられない。 魔人=家族 という前提があるからだとかなんとかまーちは分析してた。 だから、まーちがどうやって、あの疑い深いしすちを納得させたのか、あーしにはわからなかった。 いや、そんなことより…… 「ねえ、はっすは?」 「待てないわ。端数ちゃんなら大丈夫。 下手にわたくしたちが近くにいると、あの子は全力が出せない。 キッスちゃん、能力で、行き先だけは端数ちゃんに伝えておいて」 「でも、やっちみたいに――」 『やく姉が、どうしたの?』 あいちの言葉に我に返る。 そうだ。あーしは、やく姉に、みんなを、あいちのことを頼まれたのだ。 「ううん、なんでもない。よし、行こっ☆」 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ ■ ・ 指 ・ ■ 埼京線の線路下通路をくぐり、池袋駅の東側へ抜ける。 パチンコ屋や飲み屋が軒を連ねる細い道(こんな道が役所の分庁舎に繋がってるんだからちょっとビビる。ブクロっぽいっちゃそうだけど)を走りながら、まみちゃんは、『パンク・ピストルズ』のことを教えてくれた。 構成員は、魔人が身内や周囲にいて、無力さに苦しんでいた子が多いこと。 池袋で強引なナンパ(婉曲な表現!)や暴力沙汰にあって、すがるように指を弾いて助かった子なんかもいるのだとか。 みんな、「いざというときの切り札」を平等に与えてくれた『パンク・キャノン』に感謝していて、それが行動原理のボランティア集団なのだという。 15分ほど走ったところで、ビル街の片隅に、分庁舎が見えてきた。 ほんとに飲み屋とか、きれーなお姉さんのお店とかの並びにあるのな。マジか☆ 「それじゃあ、キッスちゃんとまみちゃんはここ、裏口で周りを警戒していて。 わたくしとシースーちゃんは、中の人とお話をして、防災行政通信網を使えるようにお願いしてくるわ。話が通ったら戻ってくるから」 「一緒の方がよくない? やっぱみんなが最強だし☆」 「外の方があなたの索敵範囲は広いでしょ? それに、何かあったときまみちゃんの『パンク・キャノン』で建物が倒壊したら、計画が根っこからひっくり返っちゃうもの」 うー。マジ下がる。 やっちのことを思い出す。 けど、まーちは頭がいいし、言ってることは正しいし、あーしはばかだし、仕方ない。 って頭ではわかってんのに、なんかさーエモ的な部分がアレなんだよね! あーしもおとなだから、文句は言わないけどさ! 「いいわね? じゃあ、安全が確保できたら呼ぶから。 ほんの少しだけ、待っていてちょうだい」 「……キッス、気を付けて。 webの書き込みといい、アタシらピンポイントで狙ってるやつがいる気がする……」 「さんきゅのおけまるのすけ☆」 そして、あいちとまーち、しすちは建物に入っていった。 ま、いきなり殴りかかってくるような相手じゃない限り、うちの姉妹であの二人がなんとかできない対人関係なんて、ほとんどないんだけど。 「仲、いいんですね。みなさんはほんとの姉妹なんですか?」 「だよ☆ まーちはやさしいけど頭よくてね、ちょっとクレバー過ぎてこわいかも? しすちは小動物系。いっつもびくびくしてるけど、警戒心が強くて、あーしらが気付かない危ないことも教えてくれるの。あいちは気配りの子。はっすはバカだけどかっこいいし、……やっちは……」 そこまで口にして、思わず言葉が詰まってしまった。 あー、まずいな。思ったより割り切れてないぞ、目の前にいるのは身内じゃないんだ。もうちょっといいかっこしないと…… 「わたしは、この街で、姉を失いました」 気を張りなおそうとしていたあーしに、やさしい声で、まみちゃんは語りだした。 「魔人の覚醒による能力暴走。それに巻き込まれました。わたしをかばって死にました。 魔人覚醒による初犯は責任能力なしとして執行猶予扱いになるのですよね。 姉を殺した犯人も、結局そうなりました」 淡々と、まみちゃんは続ける。 頬を伝う雫は雨だ。だって、この子の表情は、ただひたすらにやさしい。 自分の感情をさておいて、こっちを気遣っている。 それを見て、思った。 この子は、あいちに似ているのだ。 まったく能力なんてないのに、無力なのに、それでもあーしたちのことばかりを考えて、気遣って、自分が何かしたいからじゃなく、あーしたちを心配させたくないから、魔人になりたいと言い続けてきた、あの子に。 「力がない自分を恨みました。たぶん、犯人のことよりも。 そして、魔人全体を憎みそうになる自分のことが、憎くなりました。 そんなときに、『パンク・キャノン』のことを知って、救われた気がしたんです。 変ですよね? あのとき、この力が使えても、姉は助からなかったかもしれない。 正直、私のトラウマと、この力を使えることは何も繋がらない。 けど、『魔人と人間って、そんなに変わらない』って思えたことが、なんだろう、私にとっては、すごく救いになったんです」 はにかむように、まみちゃんは小首を傾げた。 「わたしの喪失はあなたたちに救われた。 だから、あなたの喪失のために、何かができるなら、そうしたいんです。 あなたたちのやっていることは正しくないかもしれないけど。 その、正しくなさに、光を見た人間がいるんです」 ああ、この子は、賢くて、鋭い子だ。 手がかりはあーしとまーちの会話と表情。 それだけで、あーしが、家族を失ったことに、気付いたのだ。 立ち止まるなと、払った犠牲に見合った何かがあるのだと。 言葉にはとりとめがない。お世辞にも理屈が通ってるとは言えない。 けど、感覚派でばかなあーしには、そんな、綺麗に割り切れない言葉が響いた。 きっと、彼女は『パンク・ピストルズ』の中心的存在なのだろう。 この率直さは、きっと人を惹きつける。あいちと同じキャラだ。 ありがとう、と。答えようとした、そのとき。 「ええ、そのとおり。 あなたたちの行動は、「正しくなさ」は、多くの人の心を動かした。 それは、世界の基盤を変えること。人と魔人、その境界を穿つことだ」 雨音から沁みだすような、気味の悪い男の声が聞こえた。 水で煙る道の向こうから、人好きのしそうな笑顔を張り付けた男が近寄ってくる。 無個性なチノパンにデニム地のジャケット。 視覚情報は、何の変哲もない毒にも薬にもならない凡人。 だけど、聴覚情報が、全力であーしの警戒レベルを引き上げる。 これは、よくないモノだ。 「あ、カシオさん! よかった! 無事だったんですね!」 「ええ、九十九さんもご無事で何よりです」 カシオと呼ばれた男の手首には、赤のスカーフが巻かれている。 彼もまた『パンク・ピストルズ』の一員なのだろう。 まみちゃんは安心したようにカシオに駆け寄ると、ぴょんぴょんとその周りを飛び跳ねた。どうやら、ふたりはずいぶんと親しい間柄であるらしい。 「それより、『パンク・キャノン』の他の二人は?」 「あ、建物の中に……」 間違いない。このカシオっていう男は、敵だ。 あーしたちの人数のことをきちんと把握している。 その上で、「あいちを人間扱いしていない」それで、敵視するには十分。 勘違いだったら後で盛大にごめんすればいい。 魔人能力『Loving☆you☆baby☆』発動 あーしは、全力で轟音を収束させ、カシオの頭に叩きつけた。 直撃すれば一瞬で相手を無力化できる即席の音爆弾。 しかし、ぬるり、と。蛇がぬめるような滑らかさで、そいつは、まみちゃんを盾にした。 崩れ落ちるまみちゃん。 カシオはそのまま、濡れた地面を両手両足で蹴り、犬めいてあーしの足元を駆け抜けた。 速い……けど、これくらいなら対応……あれ? どくり。どくり。どくり。 心臓が想定以上に暴れている。ここまで、全力疾走してきたかのように。 カラオケ屋からここまでは、普通人のまみちゃんがついてこれる程度でしか走っていないはずなのに。 それなのに、全力で無茶な能力を使った後みたいに、あーしの体は、疲れていた。 全く、意識していないうちに、能力を暴走させていた? あーしが? なんで? ざくり。 ぐらりと世界がかたむいていく。脚が踏ん張らない――踏ん張る足がない。 切られた。何か刃物で足首を切断された。 覆いかぶさるように男がのしかかり、ナイフを振り下ろす。 助からない。ここで、あーしの物語はおしまいだ。 残り数秒。そこで、何をするか。 一(にのまえ)の一族は名に数を背負う。 あーしは『奇数』。『割り切ろうとしても、あまりが出る』数字だ。 きれいに割り切ることができたなら、もっとうまくやれたのかもしれない。 けれど、それができないからこそ、あーしなのだ。 魔人能力『Loving☆you☆baby☆』発動 『ありがとう。大好き☆』 目の前の相手を麻痺させる轟音。 中の姉妹たちへの遺言。そして警告。 まーちとしすちは頭がいいから、これで全て伝わるよね。 端 ・ 偶 ・ 奇 ・ ■ ・ 指 ・ ■ たぶん、走馬燈ってやつ。 生まれてからの出来事が、早回りで脳裏を巡る。 振り返ってみれば、あーし、一 (^ε^)-☆Chu!!数は、ずっと、なんとなくで生きていた。 他の姉妹たちはみんな、強い意思があって、一生懸命。 あーしはそうじゃなくって、だから、きっとあーしはそれが羨ましかったのだろう。 だから、あーしはせめて明るくみんなを勇気づけたかった。 特に、あいち。 ただの人間だった彼女。 魔人(かぞく)になりたいと願い続けた末妹。 彼女のために、あーしは世界を憎しみ蝕む想い――中指を捨てた。 それにしても、最後のあれは、なんだったんだろう。 なにもしていないはずなのに、能力を無茶に使ったような疲労が全身に溜まっていた。 思い返せば、おかしかったのは、やっちが死んでしまってからだ。 ショックのせいだと思っていたけど、メンタル関係にしては影響が強すぎる。 だとすれば。あーしは気付かないうちに、ずっと能力を行使していて、やっちが、その負荷を肩代わりしてくれていた? でも、あーしはそんな魔人能力の使い方をした記憶がない。意識してもいない。 「そうか。君は、自分でもそれを覚えていないのだね」 そうみたい。 けれど、そんなことはどうでもいい。 大事なのは、あーしが姉妹に危機を告げられたこと。 そして、私が姉妹で交わした『約束』を守れなかったこと。 ばかな妹でごめんね。 ばかなお姉ちゃんでごめんね。 結局、『約束』守れなくて、ごめんね。 ありがとう。大好き。 チュッ☆ 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ 指 ・ ■ 4 一 数の子/指数/時限縛談 ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 そのためにアタシは、他者に何かを誓う信頼――小指を捨てた。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ 指 ・ ■ 『ありがとう。大好き☆』 豊島区役所東池袋分庁舎2階、生活福祉課執務室。 魔人能力で増幅されたキッスの声が外から響いたのは、アタシの『時限縛談』とマザーグースの『ワンスアポンナタイム』で、分庁舎の全職員を『静かに眠らせた』、そのときだった。 すぐに理解できてしまった。 ヤクスウに続いて、キッスもまた、逝ってしまったのだと。 瞬間、耐えがたかった空腹が少し収まる。 「……マザーグース。どうするの」 能力の連続行使で荒くなった息を整える姉に、アタシは問いかけた。 感情的な部分をさておいても、アタシたちは追い込まれている。 何者かわからない『敵』が、アタシたちの情報をwebに流し、賞金稼ぎや警察を動かして、真綿で首を締めるように攻撃を仕掛けている。 魔人か、人間か。 それすらもわからない。 されていることに、異常さはない 魔人能力による「ルールの捻じ曲げ」が行われている形跡もない。 だからこそ、不気味だ。 魔人が相手ならば、魔人能力から相手の精神性が理解できる。 精神性が理解できれば「何をして、何をしないか」が予測できる。 だが、この攻撃には、その手がかりがない。 主体としての害意が、殺意が感じられない。 ただ、淡々と、画面の向こう側からこちらを観察しているような―― 「それは――」 マザーグースが答えようとした、その瞬間。 倒れていた区役所職員たちが、激しく咳き込み始めた。 見下ろすと、軒並み涎と涙を流しながら痙攣している。 死んではいない。しかしこの症状――催涙ガス。 中高年男性よりも女性に反応が顕著。アルコールで耐性ができるCNガス系か。 ヤクスウから教わって助かったな。 私たちにまだ影響がないのは、ガスの分子量が28.8以上……空気より重いから。 職員を活かして無力化した甘さがいい方向に転がった。 床に突っ伏すこいつらは、炭鉱のカナリアになってくれたってわけ。 名前も姿もわからない『敵』の、次の攻撃だ。 どうする? ヤツはこの階のどこかで、ガスマスクでもつけてアタシらが咳き込みだすのを待っているんだろう。 キッスがいれば、魔人なら音の空白で、人間なら足音や脈拍で見つけられるのに。 そうでなくても、ハスウがいれば、爆発で…… ! ……そうだ。 アタシは、足元で咳き込んでいる中年職員を蹴とばす。 魔人能力――『時限縛談』発動。 「『今すぐに、窓際に駆け寄って、指を鳴らせ』」 びくり、と、糸で吊り下げられた人形のように中年職員は立ち上がると、机を軽やかにパルクールめいて跳び越えると、窓際へ移動した。 これが、アタシの魔人能力。 行動指示と、行動を行う条件を言葉で伝えることで暗示をかけ、相手を操作する。 相手が自発的に取りうる行動でない限り無意識の抵抗がされるから、自殺させたり身内を攻撃させたりといったことはやれないが、マザーグースの『記憶操作』と組み合わせれば、たいていのことはさせられる。 ともあれ、このおじさんが発動させた『パンク・キャノン』で壁が破壊できれば、換気でガスの危険はなくなる。 中年職員はアタシの暗示どおり、窓に向かって指を弾き―― ………… ? なにも起きない? もしかして、このおじさん、魔人だった? 慌てて他の職員にも同様に暗示をかけるけれど、どれだけ職員が指を弾いても『パンク・キャノン』は発動しなかった。 何が起きてる? アイの『八百万虚無(パンク・キャノン)』が不発? 「アイ! どういうこと!?」 返事はなかった。 代わりに、マザーグースの切迫した声が響く。 「シースーちゃん、窓!」 「『女は、今すぐに、窓とドア開けろ!』 『男は、このフロアで、ガスマスクつけてる人間を探せ!』」 換気量は少ないが仕方ない。 口元を押さえ、机の上に立ってフロアを見渡す。 おそらく、『敵』はアタシたちの様子を伺っている。 催涙ガスは手投げ弾か、だとすれば、そう遠くにはいない。 この部屋の中に潜んでいる可能性すらある。 『時限縛談』で操った職員たちを警戒して引き下がってくれれば御の字。 だが、もし仕掛けてきたら…… アタシとマザーグースは社会戦担当であって、直接バトルは苦手だ。 それを看破されて、力押しをされたら分が悪い。 マザーグースはここで能力を見せていないから、それを警戒して拮抗状態を保てれば目があるんだけれど。 しかし―― パァン! 執務室の入口から破裂音が響いた。 銃声? 机の陰に隠れ、音のした方に視線を向ける。 そこには、『暗示』に従い、周囲を警戒する区役所職員があたりを見渡していた。 足元には何か紐のような……ワイヤートラップ! けれど攻撃……じゃない? だとすると……位置の誤認が目的! 囮! その思考の起こりを縫うように。 そいつは、天井から降ってきた。 どうやって!? ガスマスクの襲撃者が、落下しながらナイフを振るう。 肩口に灼熱感。斬られた。 「『止まれ』」 魔人能力『時限縛談』――発動。 しかし、襲撃者は止まらない。 『時限縛談』は「アタシの声が聞こえなければ無効」だ。 こいつは、どういうわけか、アタシの能力をきちんと理解している。 家族以外、ほとんど知らないはずの、この欠点を。 襲撃者のガスマスクは耳まで覆うもの。 意図的にか偶然か、これがアタシの『暗示』を防いだのだろう。 マスクのゴーグル越しに見える瞳には、狂気も熱も感じない。 殺気も偏執もない。 ……こいつが『敵』だと、アタシは確信した。 どうする? 『敵』には、『暗示』は効かない。 アタシにできるのは、『暗示』で、行動を強制することだけ。 ならば―― 「『敵を、掴んで、離すな』」 魔人能力『時限縛談』――発動。 対象は、アタシ自身。 肩口を深く斬りつけられた痛みと無関係に、肉体が動く。 『暗示』によって、アタシの理性では発揮できないような、自分の肉体を自壊させかねない筋力で、アタシの腕が、『敵』の肩口を握りしめた。 「マザーグース! 逃げて! 何を企んでたのかは知らない! けど! あなたとアイとハスウがいれば! 『パンク・キャノン』はやりなおせる!」 ばたばたと、マザーグースの足音が遠ざかる。 骨が軋む。神経が直接抉られるような苦痛が全身に広がっていく。 当然だ。本来出してはいけない出力を、『暗示』によって、体に強いているのだ。 だが、このままこいつを足止めすれば―― バチン 耳障りな音とともに、腕から力が抜ける。 感電……スタンガンか。 たしかに『暗示』は脳の指令のリミッターを解除する。 しかし、感電によって筋肉が起こす当然の反応までは無視できない。 『敵』はアタシの手を振り払うと、首筋目掛けて刃を振るう。 アタシは最後の力を振り絞って体を起こし、頭突きを『敵』に仕掛けた。 しかし、相手の刃が速い。届かない。 あと一瞬、何かがあれば…… ドゴオオオオオ! アタシの願いに応えるように、『敵』の背後で爆発が起きた。 ああもう、最高だよ、ハスウ。 ヒーローってのは、最後に遅れてやってくるんだもんな。 けどもうちょっと早く来てほしかったなあ。 とにかく『敵』の刃の勢いが鈍る。 アタシの額が『敵』の顎を強打し、ガスマスクをずらす。 剥き出しの顎に頬を押し当て、アタシは、人生最後の『時限縛談』を発動した。 「『勝利を確信したとき。アンタは、手を止めて周囲を警戒する』」 これで、少しはマザーグースが生きる時間を伸ばせただろうか。 結局『敵』は、アタシに殺気のかけらすら向けず、作業のようにトドメを刺した。 まったく、面倒くさいおしまいだ。 本当なら、「寿司うめぇ」って、好きなもんだけ食べるような、そんな人生を送りたかったんだけれど。 一(にのまえ)の一族は名に数を背負う。 私は『指数』。他の数字(かぞく)に『乗じるもの』である。 結局、アタシはシャリの上に乗るネタなのだ。 いろいろ思うところはあるけれど、姉妹の「願い」に乗っかって、支えて、これがアタシらしいおしまいではあったのかもしれない。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ 指 ・ ■ これまでの人生を走馬燈のように顧みながら、アタシの中にあったのは、シンプルな疑問だった。 アイ。 ただの人間だった彼女。 魔人(かぞく)になりたいと願い続けた末妹。 彼女のために、アタシは他者に何かを誓う信頼――小指を捨てた。 けれど。 一 i(にのまえ・あい)は、ほんとうに、まだ生きているのか? 魔人能力『八百万 虚無(パンク・キャノン)』は、彼女の能力なのか? アイは人間だった。 アイは病気で死んだ。 そして、死に際して、能力に目覚めた。 能力名は『八百万 虚無(パンク・キャノン)』。 『粒状の小型爆弾を、指を弾くことをトリガーに起爆する』 『だが、アイにはそれを弾く指がない』 『代わりに、魔人ではない人間に、その能力を与えることができる』 そして、脳髄と化したアイの言葉に従って、アタシたち姉妹は池袋中に爆弾を仕掛けた。 そう、思っていた。 しかし。 ヤクスウが死んでから、アタシたちには謎の能力負荷が押し寄せた。 キッスが死んでから、『パンク・キャノン』は発動しなくなった。 そこから類推できること。 もしかして。 アイはもう、本当に死んでいて。 何も言わない、ホルマリン漬けのたんぱく質の塊と、なり果てていて。 それを、アタシたち姉妹が、それぞれの能力を駆使して、「アイがまだ、生きているかのように」思い込んでいたのではないか? ぬいぐるみに自我を見出して家族の一員として扱うように。 たとえば、ヤクスウが死んでから、アタシたちには謎の能力負荷が押し寄せた。 それはつまり、アタシたちは無意識のうちに、大規模な能力行使を続けてきたということ。その反動を、ヤクスウは肩代わりし続けてきたということではないか? そういえば、ヤクスウがジャンキーのように鎮痛剤を濫用するようになったのは、アイが死んで『パンク・キャノン』が発動するようになってからではなかったか? キッスが死んでから、『パンク・キャノン』は発動しなくなった。 キッスの能力『Loving☆you☆baby☆』は、魔人ではない人間の立てた音を広範囲に渡って聞き取ることができる。無理をすれば、街全体くらいをカバーできる。 『パンク・キャノン』は、人間が指を弾いた音に反応して起動する。 つまり、キッスが死んだことで、『パンク・キャノン』という現象は、起動前提となる音感センサーを失って、不発になったのではないのか? そしてこの仮説が正しかったとして。 姉妹の誰もが、自分たちが『パンク・キャノン』というシステムを構成していると自覚せず、アイが生きてることを疑わなかったのは――アタシの『時限縛談』によって、無意識のうちに能力行使をするよう、暗示をかけられ、そのこと自体を『忘れさせられて』いたからではないのか? そう。アタシ自身ですら。 仮にそうだとしても、それでもまだわからないことがいくつもある。 たとえば、爆破手段。 『パンク・キャノン』の音感センサーはキッスが担っていたとして。 爆破部分を担当していたのは、たぶんハスウだろう。 だが、ハスウの能力は『愛着のあるものを、その想いに応じた火力の爆弾に変える』ものだ。 池袋中にばらまけるような、目に見えないものに、愛着を注いで、『パンク・キャノン』のような高火力の爆弾にできるものだろうか? たとえば、動機。 姉妹全員に黙って、全員の能力を利用して、アイが生きているかのように見せかける。 その意味がわからない。 状況からして、そんなことができたのは「彼女」しかいないが、「彼女」は何を目的にしていたのか? 「確かに、これは少し込み入った物語のようだ。 君は、「彼女」を恨まないのかい? 姉妹を騙して、危険に追い込んだ相手を」 んー。まあ、恨めしい気持ちはある。 なんで、素直に助けを求めてくれなかったのかって。 あいつはいつも、自分で抱え込みすぎなんだよね。 けど、あいつは、誰よりも姉妹を愛している。 だから、どんなに怪しくても、きっと、その動機は愛より出でて、愛より正しいよ。 ところでさ、あんた、寿司持ってる? ここ、死ぬ間際の夢みたいなもんなんだろ? だったら、最後にうまいもんくらい食わせてくれよ。 しめさば炙りと、タマゴがいいな。 あ? 数の子じゃないのかって? へへ、ハスウがさ。初めてのバイト代でおごってくれたんだよ。 気い使って、注文するの安いネタにしたげたんだ。いい妹だろ、アタシ。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 5 一 端数/端数/恋情エクスプロージョン ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 そのためにオレは、個人としての夢や目標の象徴――親指を捨てた。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 豊島区役所東池袋分庁舎2階、生活福祉課執務室。 ソイツは、シスの首筋からナイフを引き抜くと、無造作に血を払った。 ずきり。ずきり。ずきり。 脳が痛む。怒りで頭に流れ込む血の脈動がうるさい。 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。 「賞金稼ぎか? 『NOVA』のランキング狙いか? 『パンク・キャノン』の爆破で身内が死んだか? 違うよなあ? そういうヤツは、そんなツラで殺さねえよなあ!」 許せねえ。 ガスマスク越しにでもわかるその目。その表情。 そんな。ただ、蚊が飛んでいたから潰しましたみたいな顔で、人の妹を殺しやがって。 息が荒い。心臓が暴れている。 カラオケ屋からここまで、何人の賞金稼ぎを、警官を吹き飛ばしたかわからない。 体中は傷だらけ。意識は朦朧。 絶好調が100だとしたら、よくて今は40というところ。 それでも、オレは――一・端数(にのまえ・はすう)は、『敵』に背を向けることはできない。 オレは、お姉ちゃんだ。 みんなの、お姉ちゃんなのだ。 『敵』は拳銃を抜くと、一度、二度と発砲した。 デスクの陰で銃撃をやり過ごし、オレは手持ちの鞄の中身を確認する。 そこには、昔から集めてきたキーホルダーコレクションが詰まっていた。 姉妹で旅行に行くたびに、旅先で買い集めた思い出の品だった。 これが、オレの『武器』だ。 射線を避けるように屈んで移動しながら、グレーテルのパンくずのように足元にキーホルダーを置いていく。 喉が焼かれるように痛い。咳が止められない。 毒ガスか? けれど、倒れてる一般人が即死していないところを見ると、致死性ではない。窓が全開になっているのは、シスたちがこれに気付いて換気をしたせいか。 部屋に入ったときに気付かなかったのは、換気しきれなかった空気より重いガスが床に残っていたからだろう。間抜けなマネをしたもんだ。 あるいは、それも含めての『敵』の罠か。 これでは忍び寄るのは不可能だ。 だが、オレの目的は相手に近づくことではない。 すなわち、場の掌握。『武器』の設置こそが、オレの戦い方。 銃弾の牽制を受けながらぐるりと部屋の周りを一周したところで、オレはキーホルダーを放り投げた。 放物線を描いて『敵』目掛けて落ちる、ゆるキャラマスコットキーホルダー。 即座に『敵』が反応し、撃ち落とそうとする。 けど……遅い! 魔人能力『恋情エクスプロージョン』起爆! 爆炎、爆音、爆風。 オレの能力は、愛着のあるものを『爆弾』にする。 火力は、オレの思い入れに比例。 銃で弾かれる前に起爆したせいで相手にダメージはないが、織り込み済み。 敵が防御姿勢を取った隙に距離を詰め、オレは『敵』を全力で蹴り飛ばした。 硬い感触。防がれた。だが、それでいい。蹴りでダメージを与える気はない。 テメェが机から転がり落ちたその先は――オレの作った『地雷原』だ! 『恋情エクスプロージョン』連鎖起爆! 銃弾を避けながら移動しつつ設置した『爆弾』が起動する。 デスクやキャビネットが吹き飛び、埃と爆煙がもうもうとたちこめ―― 窓からの風で吹き散らされた煙の中には、誰もいなかった。 肉体を木っ端みじんにできるような火力ではなかった。 だとすると―― 視線を上にやる。 すると、そこには、火災警報器を掴んで、天井にぶらさがる『敵』がいた。 なんて握力してやがる。 まるで、山に棲む猿だ。 猿野郎は右手でぶらさがったまま、左手をこちらに向けた。その手に握るのは…… 左目が、焼かれた。 高出力レーザーポインター。 たまにスポーツ選手が悪質な観客から向けられて報道されるアレだ。 距離感が狂う。 知ったことか。 『爆弾』を投げつけ、猿野郎を天井から叩き落とす。 すると、『敵』は今度は四つ足で床を疾走しだした。 赤ん坊のハイハイに似ているが、速度はそんなレベルじゃない。狼か、猪か。 まるで山での獣狩りだ。 爆破で地雷原に追い込もうとするが、野生動物のように、『敵』はオレが罠を張った場所を避けて駆けまわる。 こいつは、こっちの能力を把握している。 オレがさっき動いていた場所を避けて移動することで、爆破の危険地帯を避けている。 人間と戦っている気がしない。 殺気がない。執着がない。人でなく獣めいた動き。 そのクセに、人の使う道具を節操なく駆使する。 こちらの手の内を知っているかのような戦術。 決定打が叩きこめない。 ずきり。ずきり。ずきり。 脳が痛む。怒りで頭に流れ込む血の脈動がうるさい。 息が荒い。心臓が暴れている。 体中は傷だらけ。意識は朦朧。 動きからは精彩が欠けている。 このままでは野垂れ死に。 「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」 体を起こし、大きく息を吸う。 キーホルダーの火力では爆発に巻きこめない。 だったら、それよりも、もっと思い入れのあるものを『爆弾』にする。 もう、身を隠す意味もない。 オレは、全身全霊をかけて、お姉ちゃんを張りとおす。 走り出す。 右の目をレーザーが焼く。 走り続ける。 肩を銃弾が穿つ。 あと三歩で辿り着く。 膝を、ディスプレイで砕かれる。 くそ。あと二歩。組みつけない。 ならば、今だ。 オレは、かぶっていた端切れ(パンツ)を外すと、強く握りしめ、『敵』に向けて突き出した。 『恋情エクスプロージョン』起爆。 オレが今持っているものの中で、最も火力が出せる『爆弾』。 アイが死んでから、アイの匂いを忘れないために、身に着け続けてきた遺品。 アイ。 ただの人間だった彼女。 魔人(かぞく)になりたいと願い続けた末妹。 そのためにオレは、個人としての夢や目標の象徴――親指を捨てた。 そして今。腕の一本だってくれてやることも、惜しくない。 皮膚が焼かれ肉が爆ぜ骨が折れて腕が消し飛ぶ。 知ったことか。 オレはお姉ちゃんだ。 だから、妹たちを傷つけたコイツを、倒さないと。 そして、視界が白に染まった。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 爆発を受けて。 それでもなお、『敵』は、立っていた。 区役所職員何人かの体を盾にしたのだろう。 無傷ではない。 左腕から先は消し飛んでいる。 左の耳は削げ、顔の皮膚は一部焼けて抉れている。 だが、それだけ。 体は左右に揺れ、意識は朦朧としているようだが、やがて目が覚めればオレを殺すだろう。 オレの捨て身の攻撃は、『敵』に一矢報いただけだった。 もう、これで打ち止めだ。 オレの手持ちの『爆弾』は使い果たした。 その、はずだったのに。 『端数ちゃん。『パンク・キャノン』を起動して。 今、『記憶操作(ワンスアポンナタイム)』を解除するから』 防犯カメラか何かでこちらの様子を見ていたのか。 次女(グース)のヤツが、そんなことを庁内放送越しに告げてきた。 意味がわからない。 そもそも『パンク・キャノン』は、アイの能力で、起爆には、魔人ではない人間が指を弾くことが必要だ。 たしかに、池袋には無数の超々極小型遠隔操作爆弾 八百万 虚無(パンク・キャノン)を仕込んでいるが、それを起爆することは、オレにはできないはずだ。 その――はずだ――なのに ―― ねえ、端数ちゃん。これ、『爆弾』にできる? ―― 正気か? ……できる。けど、こいつをオレは意識的に起爆できる自信はないぜ。 ―― わたくしがこの『爆弾』についての記憶は消す。 ―― 起爆はシスの『暗示』でプログラミング、無意識下の発動ってことか? ―― ご明察。 覚えのない記憶――違う、押し隠されていた記憶が、蘇る。 これは、グースの記憶操作能力が解除されたときの感覚だ。 一呼吸にも満たない間に、オレは『真相』を思い出していた。 ああ、なるほど。 超々極小型遠隔操作爆弾 八百万 虚無(パンク・キャノン)は、『恋情エクスプロージョン』の産物だ。 そりゃあ、ヤクブツが負担を肩代わりしようと思えば鎮痛剤もバカスカ打つし、アイツが死んだあとはオレの体もポンコツになるわけだ。 街ひとつカバーするくらいの、無数の爆弾を並列維持して、無意識下でキッスの(おそらくそっちも無意識下の)指示に基づいて爆破起動し続けてきたんだから。 だから、グースの指示はまっとうだ。 オレが念じれば、池袋中の超々極小型遠隔操作爆弾 八百万 虚無(パンク・キャノン)を起爆できる。 もう死に体のオレたちにとって、それは最後のデモンストレーション。 生きた証を遺す、最後の悪あがきだ。 目の前のクソ野郎を殺す、最も冴えたやり方でもある。 いつかの記憶。 縁側で、6人の少女が夕空を見上げていた。 どーん。どーん。どーん。 遠く緩い振動が小さな彼女たちの内臓を揺らす。 ぱーん。ぱーん。ぱーん。 紫がかった空に、とりどりの光が花を描く。 輝きは数秒。弾けて、光って、空に溶けて消える。 ああ。すべての『パンク・キャノン』を起動したら。 また、あんな景色が見られるのだろう。 ならば、オレに選択肢はない。 だって、オレは、お姉ちゃんだから。 だから、池袋を巻き添えに全てを爆破―― ――できねえよなあ、やっぱり。 端 ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ アイが死んでから、数日後のこと。 「ねえ、端数ちゃん。これ、『爆弾』にできる?」 グースが見せてきたのは、骨だった。 オレたちの妹、アイの、遺骨。 「正気か? ……できる。けど、こいつをオレは起爆できる自信はないぜ」 オレの『恋情エクスプロージョン』は、愛着のある無生物を爆弾にする。 これならば、最高の火力を持つ『爆弾』にできるだろう。 しかし、それをオレは起爆できない。 だって、それは、妹だったものだ。 妹は、守るものだ。 オレは、お姉ちゃんだから。 「わたくしがこの『爆弾』についての記憶は消す」 「起爆はシスの『暗示』でプログラミング、無意識下の発動ならってことか?」 「ご明察」 それならば、できるだろう。 「それが、必要なのか? アイの復活に」 「ええ。わたくしたちの、アイのために」 こうして、オレたちは、末妹の骨を砕いて粒にした。 共犯の証に、それぞれの指を切り落とし、その骨も混ぜた。 これが、超々極小型遠隔操作爆弾 八百万 虚無(パンク・キャノン)。 一粒一粒が人間一人くらいなら粉々に爆散させる威力を持った爆弾たち。 虚数への愛に狂った少女たちが創り出した、アイを愛するiのカタチ。 小麦粉のようなチープさで。 細かく、キラキラと瞬く、彼女の魂の粒。 それらが、池袋に新たなルールを刻んだ。 ああ、まったく。 無茶なことをしたものだ。 そこまで思い切ったのだから、最後もヤケを起こしてしまえればよかったのに。 けれど。それが、オレらしさだったのだろう。 一(にのまえ)の一族は名に数を背負う。 私は『端数』。他の数字(かぞく)が割り切ろうとしても残る『あまり』の体現だ。 だからこそ、余分な想いを手離せなかった。 「先ほどの戦いで、君は、手札のひとつ、機動力を使わなかった」 そりゃあそうだ。 だって、そんなことをしてみろ。 シスの遺体がめちゃくちゃになってたろ。 だから、オレは、テメェを蹴っ飛ばした後、シスの傍を離れなかった。 「最後だって、『パンク・キャノン』を発動していれば、ぼくを殺せたはずだ」 ……一度はうなずいたし、無意識ではバカスカ爆発させたけどさ。 やっぱ、自覚して、意識しては、無理だったんだよな。 オレ、お姉ちゃんだし。 「ぼくには少し、君がうらやましい」 そうかい。 んじゃあ、今からでも、オレと立場を交換してくれてもいいんだぜ? クソ野郎。 ■ ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 6 一 母偶数/母数・偶数/ワンスアポンナタイム ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 そのためにわたくしは、――人差し指を捨てた。 他の姉妹に指を差されても。 わたくしが、すべての罪を背負うと決めた。 ■ ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 軋む体を引きずって、わたくし、一 母偶数(にのまえ・まざーぐーす)は、防災行政通信網のマイクの前に立つ。 ヤクスウちゃんが、皆の負担を肩代わりしてくれた。 キッスちゃんが、危険を知らせてくれた。 端数ちゃんが、『敵』を足止めしてくれた。 シースーちゃんが、最後の暗示で時間を稼いでくれた。 手にしたホルマリン漬けの脳髄ケースを撫でる。 もう、『パンク・キャノン』に勝利はない。 だから、今は、できることを。 姉妹の稼いでくれた時間で、愛のためにすべきことを。 放送起動。 池袋中、豊島区中に、わたくしの声が響く。 『みなさん。わたくしたちは、『パンク・キャノン』です』 『みなさん。わたくしたちは、『パンク・キャノン』です』 『わたくしたちには、家族がいます』 『魔人の姉と、人間の妹』 『彼女は、家族です。わたくしたちは、彼女を、アイしています』 『わたくしたちを、覚えていてください』 『わたくしたちを、忘れてください』 『わたくしたちを、憎んでください』 『わたくしたちを、笑ってください』 『みなさん。わたくしたちは、『パンク・キャノン』です』 『みなさん。わたくしたちは、『パンク・キャノン』です』 『そして、わたくしたちは――』 全てを言い終えてから、振り返る。 そこには、わたくしの死が立っていた。 ■ ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 一 i(にのまえ・あい)は、死の間際、病床に姉たちを集めた。 「ねえ、お姉ちゃんたち。『約束』、覚えてる?」 ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 いつかの縁側、花火に照らされて、6人の姉妹が交わした、幼い誓い。 『私は、おしまいだけど。お姉ちゃんたちは、違うからね』 『私は、人間、だから』 『だから。私との約束は、守らなくても、かまわないんだから』 一(にのまえ)家、家訓。 第三条 家族と交わした『約束』は必ず守るべし。 それは、『約束』。 一も二もなく第一(にのまえ)に。 守られるべき、誤認の絆。 ニノマエ・アイは、明確にその存在を意識して、最後の言葉を紡いだ。 自分は人間である。魔人(かぞく)ではない。 だから、家訓第三条に基づく『約束』の絶対順守は、不要だと。 自分とともに、「おしまい」にならなくてよいのだと。 ただの人間として、ただの妹として、姉を慮って、ニノマエ・アイは死んだ。 魔人能力に目覚めることなく。 非魔人として。 一(にのまえ)家の1%未満として。 ■ ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ けれど、わたくしたちは、アイを諦められなかった。 蘇生の手は、一(にのまえ)の伝手でも見つからなかった。 力のない、ただの人間の死に対して、世界はひどく冷たかった。 だから、わたしたちは、作戦を立てた。 「――『世界基盤型魔人能力』仮説」 「正気か、母偶数?」 「なーにそれ☆」 「爆わからん」 「……寿司うめえ」 わたしの言葉の意味を即座に理解したのは、ヤクスウだった。 さすがに、姉妹でも一番の勉強家なだけある。 「ニュートン物理学。アインシュタインの相対性理論。コペルニクスの太陽中心説。 これらは、これまで明らかになっていなかった世界の法則を解明した理論だとされている。そして、魔人能力はこうした、一般物理法則を、個人の認識で捻じ曲げる固有法則による世界律の局所的な塗り替えだとされている。ここまでは知っているわね?」 全員が静かに頷く。 それは、一(にのまえ)の人間にとって、あまりにも当然のことだ。 だが、ここから先は違う。 特に秘された理論ではないが、あまりにも荒唐無稽だから真面目に論じられることのなかった、極論だ。 「それを踏まえて、個人の認識による魔人能力で捻じ曲げられる前の一般物理法則もまた、『誰かの認識』で構築されているものではないか? というのが『世界基盤型魔人能力』仮説よ」 「ニュートンやアインシュタイン、コペルニクスが、魔人能力で世界の物理法則を永遠に作り変えたっていうのか? いやいや、さすがにそれは爆無理筋だろうが」 「『相互協力(ジョイント)型』という、魔人能力の形態があるだろう? 魔人能力は本来個人の認識に付随するために個人で完結するケースがほとんどだが、稀に双子や親子、兄弟姉妹で有機的に結合した形の能力が発現することがある。そうした能力は、個人のそれよりもずっと強い効果を発揮する。 『世界基盤型魔人能力』は、その発展形。世界の人々が「それが正しいに違いない」という認識を共通見解としたから、世界が変革された――という仮説だ。 我々が、非魔人と呼んでいる存在は、一般物理法則というすさまじく広域で大規模な能力を維持している、『潜在的魔人』なのだという仮説だ」 「うーん、なんとなく理屈はわかったけど☆ それがアイちゃんとどう関係するの?」 「……『ニノミヤ・アイ』という存在を、世界基盤として、一般物理法則に追加する……?」 わたしは、シースーの言葉をうなずきで肯定した。 世界が、ただの人間であるアイと、魔人であるわたしたちを分かつなら。 わたしたちは、人間と魔人の境界を穿つものとして、ニノマエ・アイを世界に刻む。 「わたしたち五人の能力を使って、架空の現象を創り出す。 そして、それを『ニノマエ・アイ』であると、世界に知らしめる。 現象は派手でセンセーショナルである方がいい。誰も無視できないほどに」 わたしたちは、世界基盤に新たに刻まれる『ニノマエ・アイ』を創り出した。 テーマは、『人間と魔人の境界の破壊』。 一定空間の中で、指を弾いた人間に、周囲を爆破できる異能を付与する。 トリックはこうだ。 ハスウの「愛するものを爆弾にする能力」を、池袋の各所に仕込む。 キッスの「音声操作」で、池袋中の「指を弾いた音」を知覚する。 二人にかかる脳負荷は、ヤクスウが「人身御供」で引き受ける。 爆弾にするものは、すぐに決まった。 アイの遺骨だ。 ハンマーで砕き、粉末にする。 それに、わたしたちは、自分たちの指の骨を混ぜた。 アイと一緒になるために、アイを世界に刻むために、それが一番自然だと思ったのだ。 ハスウは親指を。 わたしは人差し指を。 キッスは中指を。 ヤクスウは薬指を。 シースーは小指を。 それぞれ切って砕いて焼いて、骨を砕いてアイの遺骨粉に混ぜた。 池袋の街中にそれを撒くことは、特にとがめられなかった。 仮に自分たちがやっていることがばれたとしても、2mm以下まで砕いた骨を撒く散骨は、「葬送のための祭祀として、節度をもって行われる限り」刑法190条に基づく死体遺棄罪には当たらない。 また、その行為を条例で禁止している自治体も日本には15しかない。 池袋がそうした条例を施行していないことはすでに調査済みだ。 「……それじゃあ、足りない……違う?」 「そうね。『世界基盤型魔人能力』の成立のためには、「それが正しいに違いない」と思っている人間が、ひとりでも多くなければならない。特に――その起点となる人間は。心底、『ニノマエ・アイ』がただの人間ではなく、今もある『現象』なのだと信じる必要がある」 そのために。 シースーが「暗示」で、ハスウとキッス、ヤクスウに、「上記の能力行使」を無意識化で行うようにプログラム。その後、自身に「三人への能力の維持」をコマンドする。 そして、最後に、わたしが、彼女たちの記憶から、その事実を消して。 『死によって現象へとして生きながらえたニノマエ・アイ』 という、記憶に書き換える。 わたくしは、自分の記憶はいじれない。 だから、わたくしが、わたくしだけがすべてを背負う。 ニノマエ・アイの人間としての死も。 ニノマエ・アイの死後のあり方をねじ負ける罪も。 ニノマエ・アイを言い訳にして、多くを巻き込むその咎も。 ■ ・ 偶 ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ わたくしは、いつの間にか小さな劇場にいた。 過去の記憶と、罪とを、見せられていた。 隣には、ひとりの男。 シースーちゃんを、そして、端数ちゃんを殺した『敵』だった。 「やはり、殺した相手の記憶を共有する魔人能力者。 戦闘中に能力使用の形跡がないわけです」 ニュースで、『パンク・キャノン』の使用者が次々と殺されていると聞いた。 それはおそらく、この男が、わたくしたちの情報を得るために繰り返していたのだろう。 「わたしの予測が正しいならば、今ここにいるわたしは、ニノマエ・マザーグースという命の残響。 だから、わたしがここでなにをしても、何を知っても、現実世界には影響を与えない。 名前くらい教えてくれてもいいのではないですか? 山の獣のような殺人鬼さん」 「オムニボア」 『雑食(オムニボア)』。 なるほど。彼の人となりは知らないが、そのこだわりのなさにはぴったりな気がした。 「それで、わたくしたち姉妹のおしまいを見届けた感想は?」 「愛の物語だったんだろうね。この話は」 「ええ」 「正しくはないが純粋で、愚かだけれど情熱的だ。一見して複雑な現象が、結局シンプルな形に帰結するその関係性は、君たち姉妹の関係性として象徴的だと思う」 「なるほど?」 それからしばらくの間、オムニボアは、わたくしたち姉妹の顛末について、語り続けた。 わたくしたちを殺した殺人鬼としてではなく、わたくしたちの物語の観客として。 それは、ひどく歪んだあり方だった。 まあ、歪みについてはわたくしたちがどうこう言える話ではないのだけれど。 ひとしきり話し終えた彼に、わたくしは向き直り、まっすぐその目を見た。 殺意も偏執もなく人を殺す、人を物語とししてしか解釈しない異常者の瞳を。 「たぶん、この空間であなたを殺しても、何も起きない。 姉妹たちの恨みを晴らすために、わたくしにはもう何もできない。 ――ただし、『オムニボア』。あなたに、伝言を残すことを除いては」 現実のわたくしは、他の姉妹と違い、オムニボアと戦うことすらできなかった。 だから、今が、ニノマエ・マザーグースの戦いだ。 「一(にのまえ)の一族は名に数を背負う。 わたくしはマザーグース。昔となった物語を語るもの わたくしは『母数』にして『偶数』。すべてを割り切り、内包する概念。 もう死が決まったならそれは割り切ります。 アイを世界に刻むことがかなわないないならそれも割り切ります。 なぜなら、それでも『約束』は、ほぼ果たされたから」 ―― わたしたち姉妹は、世界のおしまいまで、ずっと一緒。 いつかの縁側、花火に照らされて、6人の姉妹が交わした、幼い誓い。 一(にのまえ)家、家訓。 第三条 家族と交わした『約束』は必ず守るべし。 この池袋で。 一日のうちで、6人全員が死亡したことで。それは、間違いなく果たされた。 ……そう思わなければ、耐えられなかった。 「だから。端数ちゃんたちが稼いでくれた時間で、わたくしがすべきことは、 オムニボア。あなたを、観客から、『物語』の側に、引きずりこむ方策だった」 オムニボアの表情が、張り付いたような笑顔が、そこで初めて消えた。 「シースーちゃんの能力対策で、ガスマスクで耳を塞いでいたから気付かなかったでしょうけど。防災行政通信網で、わたくしたちを殺したのが『殺した相手から情報を盗む殺人鬼』であると公表しました。その時点では、確信は6割程度だったけれど。 まさか、死んだ後にそれが正しいという答え合わせをさせてもらえるとは思わなかったですよ。 そして『NOVA』には、あなたとわたくしたち姉妹の戦いが中継されている。山の獣のようなその戦い方の奇襲性も、初見でなければずいぶん効果が薄れるでしょうね」 「能力を秘匿した謎の魔人殺人鬼」と、「相手を殺したときにしか発動しない知覚系魔人」では、明確に与しやすさは異なる。 オムニボアの「次の戦い」は、きっと、今回のようにはいかないだろう。 「それが、『割り切った』上での、君の反撃というわけだ」 「八つ当たりとも言いますがね」 左腕と左耳を奪われ、能力と戦術を暴露された殺人鬼は、それでも再び微笑んだ。 「君は、物語の登場人物じゃなくて、物語の作り手だったのか」 それは、彼なりの賛辞だったのか。 けれど、少しも嬉しくなかった。 もしわたくしが、わたくしが望むとおりのストーリーを描けるのなら。 それはもっと、姉妹たちが笑っていられるような日々を紡ぎたかったのだから。 「さあ、いい加減わたしの『劇場』から出ていきなさい。最低の覗き魔さん。 あなたが過去の物語になったら、地獄で読み聞かせをしてあげますよ。 むかし、むかしあるところに、最低の殺人鬼がいました……ってね」 ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 豊島区役所東池袋分庁舎。 裏口から現れた男に、少女が立ちはだかった。 傘もささず、ずぶ濡れのまま、彼女は怒りに震えていた。 「カシオさん。……いや、カシオサルマ」 九十九・まみ。 『パンク・キャノン』を信奉する、人間のひとりだった。 彼女は、分庁舎の中で何が起きたのか、すぐに察したようだった。 「わたしを殺せ。カシオサルマ」 刺すような目で、彼女はオムニボアを睨んだ。 九十九・まみには武器がない。 気絶から覚めた後、『パンク・キャノン』は、使えなくなっていた。 それでも、彼女は、あの姉妹を殺した相手から逃げることができなかった。 「違うよ。九十九さん。君は死にたいんじゃない。 ぼくを、殺したいんだ。間違えちゃいけない」 オムニボアの表情は、『パンク・ピストルズ』の一員として、まみとともに池袋を走り回った青年、カシオサルマと同じものだった。 「……ッ だから!」 「君の物語は、これから面白くなる。だから、まだ、殺さないよ」 向けられたのは、殺気ではない。 ただ、圧倒的な断絶があった。 まみは、動けなかった。 雨の中に、オムニボアが消えた後。 彼女は、濡れたアスファルトにうずくまって泣いた。 ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 「――うん。いい物語だった」 1+m 九十九 まみ/i+m/パンク・ピストルズ 豊島区役所東池袋分庁舎前。 多くの犠牲者を出したその場所で、若者たちが花を捧げていた。 黙とうのあと、他に遺族や参列者がいないのを確認して、彼らは小さく頷いた。 赤いスカーフを腕に巻き、指を弾く。 それはもう、何も爆破することのない、ただの音。 けれど、 もう一度、指を弾く。 赤い喪章をつけた仲間たちと、指を弾く。 それは、抵抗の印。 それは、平等の証。 多くの人間に悲劇をもたらし。 そして、ごく一部の人間を救った、どうしようもないエゴの残滓。 それが、遺された若者たちの胸に、小さな火を灯す、最小の爆弾を起動する。 とん。とん。とん。 踏み鳴らす足音が、若者たちの内臓を揺らす。 ぱちん。ぱちん。ぱちん。 指を弾く。 それはもう、何も爆破することのない、ただの音。 けれど。 彼ら彼女らを突き動かす、発火の音。 彼ら彼女らを走り出させる、叛逆の号砲の音。 それは、空虚だったかもしれない。 虚無だったかもしれない。虚数だったかもしれない。 それでも、その架空の存在に、若者たちは、確かに惹かれたのだ。 池袋、ビル街。 モノトーンの雨空から、無数の雫が降り注ぐ。 軌跡が空を描くのは数秒。落ちて、弾けて、排水溝へ消える。 人と魔人の境界を穿つ、抵抗活動も、まるで何もなかったように消えていく。 指を弾く音は街の喧噪に霧散しても、しばらく少年少女たちは息を殺して空を観た。 ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ ・ ■ 【複素数(ふく-そすう)】 a、bを実数、iを虚数単位とするとき、a+biの形に表される数。 aを実部、bを虚部という。
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データを入力してRに取り込む方法(エクセルのCSV形式で取り込む) エクセルを起動してでデータを入力し、CSV形式で保存しておく。保存場所を確認しておくこと。 Rにデータを読み込むディレクトリの変更 [ファイル][ディレクトリの変更]保存場所を指定して[OK] データの読み込み read.csv("ファイル名") グラフをワードに貼る方法 グラフのウインドウを選ぶ [ファイル]-[クリップボードにコピー]-[メタファイルとして] ワードで、[ファイル]-[貼り付け]
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タッチパネル面にツメがあり、カバー(中央にAcerと書かれた銀色の面)に止め具があることに注意。タッチパネル側を下にして、クレカ等を食い込ませ、タッチパネル側面を押し上げるように力を加えるとツメが外れます。 -- (名無しさん) 2012-03-31 17 05 04
https://w.atwiki.jp/iconia/pages/44.html
BIOS1.14にUPでWiFi認識不可になりました。3Gとの絡みと思われますが元のV1.05に戻して復活しました。Bios Upには注意が必要です。 -- (Staro) 2012-03-25 18 10 51
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追記 WiFi不認識の原因はWiFiチップを抜き差ししたのが原因らしい。認識されている状態でUPした場合はOKでした。 -- (Staro) 2012-03-25 20 00 49
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殻割りしてWiFiとHDD交換したら、画面映らなくなっちゃった。殻割りは自己責任でね。てへぺろ。 -- (名無しさん) 2012-06-04 19 40 13
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Problem 3 「最大の素因数」 † 13195 の素因数は 5, 7, 13, 29 である. 600851475143 の素因数のうち最大のものを求めよ. 解法 1ずつ増やしながらためし割りしていけば素数のときだけ割ることができます。 コードではたとえばpで割れたらdiv述語でpで割れるだけ割ってから次に進みます。 数字Nの素因数はN=p1^a1*p2^a^*,,,*pn^anですが、piで割り切れば、piはnから完全に消えます。 それ以外の素因数は消えません。 なので小さいほうから試しても素数以外で割ることがないということになります。 Prologは導出木と等価ですが、その分杓子定規な記述になります。 実際今回のコードを教科書的に記述してみましたがコードが膨らんでいますね。 Prologでは細部でコードを短くするのではなく、賢い導出木という全体設計でコードを短くするという話です。 複雑なものほどショートコードのし甲斐がある言語のようです。 div(N,P,N) -N mod P 0,!. div(N,P,Result) -N1 is N // P,div(N1,P,Result). calc(1,_,Ans,Ans) -!. calc(N,P,_,Result) - N P*P, !, calc(1,N,N,Result). calc(N,P,_,Result) - N mod P= =0, !, div(N,P,N1), P1 is P+1, calc(N1,P1,P,Result). calc(N,P,Ans,Result) - !, P1 is P+1, calc(N,P1,Ans,Result). main3 - calc(600851475143,2,1,Ans),write(Ans).
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次世代PHS規格であるXGPや次世代携帯電話のLTE、高速無線WiMAXで採用されている。 マルチキャリア変調 1つのキャリアを複数の直行したサブキャリアに分けて変調して多重化して送る。 直行性を崩す原因は 周波数オフセット(frequency offset) タイミングジッタ(timing jitter)
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簡単に並列化できる処理は、行列の計算、文字列の大文字化、データの平均値(最大値、最小値)の計算など。 スレッドを用いた並列化の為に必要なコストは、 コア数分のスレッド生成コスト コア数分のスレッド同期処理 各スレッドの結果のマージ処理 となる。これプラス、 プラス直列化の処理コスト が全体のコストとなる。 入力データを変更しないので、同期処理は他のスレッドが処理を終えるのを待つことのみ。 トークン分解もこのタイプに分類してできると思われる。 .