約 1,001,254 件
https://w.atwiki.jp/kingofbraves/pages/232.html
緒川空は、すでに教室にいた。 特に理由はない。ただ、窓から空を眺めていたかっただけだ。 昨日、水をばら撒いた鉛色の塊は払われ、代わりに透き通るような水色の海が広がっている。 彼の友人、成川涼治も隣にいる。 暇をもてあましている。時折飽きもせず空を眺める友人を見ては、物好きだねぇ、などとからかってもみる。 友人に付き合って早めに来ているものの、彼としては暇だった。 幸せそうな友人の姿を見るのはいいが、こんな時には話相手にならない。 代わりにため息ばかりついていた。 それでも、教室に入ってから30分もすると人が集まり始めた。 涼治はその一団のほうに流れていく。まだ決まったグループも出来ていない。 陽気で行動的な涼治は、あっという間に打ち解ける。 その友人であるはずの空は、相変わらず窓際の自分の席から遠くを眺めているだけだ。 涼治が談笑し始めてから20分もすると、教室が埋まった。 授業開始の4,5分前である。空の隣には同じ名前の少女もいた。 昨日の約束どおり、自分の席を涼治に譲り、自分は立ったまま青い空を眺めている。 とはいえ、「上谷」の空はやはり自分と同名の男子も気になるのか、たまに声をかける。 しかし返事は決まっていた。 「どうかしたか」 話がしたい、というと視線を窓に戻している。 クラス中の男子から嫉妬の視線を浴びているのにもかかわらず、だ。 そんな時、彼らの耳にありえない音が入ってきた。 バイクのエンジン音。続いて、バイクが停止する音。 気がつくと、彼らの教室の前に、1台のバイクが停めてあり、そのライダーが教室の中を見ている。 乗ってきたバイクは、トライアル用を一回り大きくしたようなバイクだった。 全体的にシャープなラインで、やはり競技用といった方がしっくりくる部分がある。 日本製ではない。スペイン製である。GASGAS社のパンペーラ250と呼ばれるバイクだ。 とはいえ、バイクに関してはおいておこう。 教室中は騒然となっていた。好奇の視線は集中している。 そのライダーがヘルメットをとった。一部の女子は歓声をあげる。 その歓声に負けない声をライダーははりあげた。 「緒川空は誰だ!」 誰もが硬直する。 そして、誰よりも早く、名前を呼ばれた本人が我に返った。 ある意味流石である。 「なぜ、俺の名前を知っている」 彼はとりあえずの疑問を呈した。 「知っているからに決まっているだろう!」 ふんぞり返って言い放つライダー。答えになってない。 「だからなぜだと・・・」 「それはだな・・・妹から聞いたからだ!」 再び別の意味で騒然となった。 女子からは誰のお兄さんかしらだの、友達になって紹介してもらおうだの。 男子のほうは、妹が美少女だったら仲介してもらおうと。まぁ、同じである。 当の空は、ある種嫌な予感がしつつ、自らの考えを口にした。 「まさか、上谷空の兄なのか?」 口に出した後も外れてくれ、と居もしない神に祈っていた。祈ったのは初めてかもしれない。 だが、やはり打ち砕かれた。 やたらと必死な表情で、その通りだ、と返されたのだ。 頭が痛くなる。なぜ最近こんなことばっかりなのだろう、と。実際問題わずか2日で起きた出来事だが。 こっちに来い、話がある、と呼ばれた。 だが、こんな中で緒川空はある疑問を頭の片隅に浮かべるのを忘れなかった。 なぜ、教職員などに追い出さないのか。それ以前に4階にあるこの教室にどうやってバイクできたのか。 理不尽な気がする。しかし、とりあえずは呼び出した男の方へ向かった。 「して、用は」 「ぶすっとしていると思ったら、中々、直球じゃないか。面白い、率直に言うぞ」 「率直に言うならさっさと言って欲しい」 野次馬は興味津々である。一言も聞き漏らすまい、と全身を耳にしている。 さきほどまで、ガヤガヤしていたのにも関わらず、である。 「よぉし、俺の妹に手を出すな」 「?意味が分からないんだが」 一方、男子集団は益々聞き逃せぬと殺気だっている。 妹の方は目を真ん丸くして口をパクパクさせている。 「つまりはだ・・・その、なんだ。俺の妹がな、お前に一目ぼれしてしまったらしくてな。だが、よく分からん男にくれてやる気は毛頭ない!」 最早、男子連中がいっせいに空に飛び掛りそうな雰囲気である。 だが、それは緒川空の一言でストップした。 「一目ぼれとはどういう意味だ」 一瞬、世界が硬直したように見えたのは気のせいではあるまい。 今までどういう生活をしてきたのか。 成川涼治を除く、全ての人間の時間が静止した。 やがて時間を取り戻した上谷空の兄は、こう呟いた。 「これならしばらく安心だ」と。 だが、その呟きが終わるか終わらないかのうちに、妹に頭を叩かれた。 「何を言ってるの!それに、一目ぼれしたわけじゃないよ!名前が同じだから気になっただけ!」 それを聞くや否や、彼の兄の顔は輝き、「そうか!それなら安心だ」などとのたまっていた。 そして、教室中の人間に「驚かせて悪かったな」というとバイクにまたがり颯爽とその場を去っていった。 その日の授業は最早、誰の記憶にも残っていない。 それよりも、最大の疑問の回答が示されたことが重要だった。 ただし、放課後である。 なぜ、彼はあんなことをして教職員に追い出されなかったのか、と。 曰く、2年前に卒業した生徒で、それまでにも色々ヤンチャをやっていたため、最早突っ込む気もないのだ、と。 今更バイクで教室に姿を現しても、咎める気にもならないらしい。 凄まじい人間の存在に、彼らは自分が実はコメディ映画に出演しているんじゃないかと疑う羽目になった。 また、上谷空はその放課後に、人に取り囲まれていた。 やれ、緒川君がどうして気になっているだの、お兄さんを今度紹介してだの、緒川はきっとやめておいたほうがいいだの。 彼女も一々、「名前が同じで席が隣だとさすがに気になっちゃうよ」「彼女がいるけどそれでもいい?」「そこまで怖い人じゃないと思うよ」 と返していった。 彼女は内心、この騒ぎの原因の一つである隣の席の男子が出てくることを期待していたが、きっと屋上で空を眺めていてそんなことは絶対ありえない、 と諦めていた。 しかし、そのありえないことが起こった。まさしく、緒川空その人が教室に入ってきたのである。 「涼治、何があったんだ!」といいながら。理解した。彼の友人、成川が彼になにかしらでここに来るようにいったんだろう、と。 上谷空は思わず、涼治の手を取ってありがとう、といっていた。 涼治はこれに上機嫌で、笑顔で「お互い様、お互い様」といっていた。 そこに飛び込んできた緒川空が詰め寄る。はめられたことに気がついて、不機嫌を隠そうともせずに「何が『大変なことがあったからすぐ来てくれ』だ!」と詰った。 激しい口調で問われても、この手のことにはなれているのか、「まぁまぁ、クラスメートが困ってるんだから一大事だろ?」と返した。 そういわれると、怒りは収まったようだが、今度は怪訝な顔で「誰が困っているんだ」と聞いた。 「空ちゃんだよ、空ちゃん」と、涼治は明確に答えた。 そこで初めて自分と同じ名前の少女の存在に気がついたらしく、「何で困っているんだ?」と問いかけた。 今は取り囲んでいたクラスメイトも遠巻きにして3人を見ている。はっきり言って、このまま帰れると嬉しい。 「んっと、ありがとう、その、助かったから」 「何?」 「それじゃ、私帰るから!」 後は教室から飛び出る。さすがの緒川空もあっけに取られるばかりだった。 と、彼の携帯の呼び出し音が鳴る。姉からだった。 「分かった。すぐ学校を出る」 涼治とともに校舎を出た。
https://w.atwiki.jp/mobamasshare/pages/451.html
166 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 58 06.37 ID TCLX5nBXo [3/10] 美しい、薄い桃のかかった髪をたなびかせて少女が空を駆ける。 まとわりつこうとする真っ黒な呪いの泥へ銀の閃光を走らせ散らすと、中心の赤い核を蹴りぬいた。 琴歌「きりがありませんね……卑怯ですよ! もうっ!」 正義に目覚め、義憤に燃えている――というわけでもないが。彼女には戦う理由がある。 少なくとも、目の前で起きている理不尽が。起きようとしている不条理が許せない。 彼女は世間知らずのお嬢様だった。蝶よ花よと育てられ、動かない両足を周りの人の助けによって乗り越えられてきただけの、お嬢様だった。 そんな彼女は、ある日さらわれて自由に動く銀の脚と、戦うための技術を教えられる。 未知の知識、未知の世界。怖いと思う気持ちと同時に持っていたのは、それに対する探究心。 浚われてしまった悲しみも、どうすればいいのかわからない不安も。 初めて知った感覚へ高まる鼓動にはかなわなかった。大丈夫だと、思えていたから。 その中で、友人もできた。同じ悩みを持って、相談して、悪さをするだなんて! まるでお話の中の『悪い子』みたいだなんてことを思い、それすら楽しく思えていた。 無事に脱走してから、はぐれてしまったのは困ったけれど。きっとみんなは大丈夫だと彼女は信じている。 それは、彼女が能天気だから勝手に思っていることなのかもしれない。――それでも。 彼女、西園寺琴歌は世間知らずのお嬢様だ。 それでも、人のために戦うことを。人のことを思う心を。知らないわけではないのだ。 167 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 58 33.91 ID TCLX5nBXo [4/10] 琴歌「えぇいっ!」 琴歌の銀の脚が宙を蹴り、追いすがる黒い獣を引きはがした。 そのまま半回転し、今度は天を蹴ると一気に突き刺すように急降下をして地面へと叩きつける。 どうやら核も砕けたようで、そのまま獣は動かなくなって溶けていった。 この場で、動けないでいる少女たちへ呪いが降りかからないようにと。 怪物たちを銀の脚でもって琴歌が調伏していく。 琴歌「でもっ……少し…………」 際限なく押し寄せる黒波に、琴歌は額に流れる汗をぬぐった。 OZ≪ドロシー≫は自己修復機能があり、彼女自身の超高速移動を可能にはしている。 圧倒的な速さでもってカースとカースの間を潜り抜け、蹴り、叩く。 その速度は不定形の泥のカースならば追いすがることすら不可能だ 強力な脚力でもって蹴り飛ばせば、一撃の元で葬ることだってできる。 彼女にとって、10や20の並のカースならば相手にならないだろう。 ならば50なら。100なら。1000なら――無限に湧き出るかのように押し寄せる呪いが、琴歌を襲おうとする。 このままでは、キリがない。そう判断した琴歌は自らの脚を一撫でして逡巡する。 琴歌「ドロシー……使うべき、なんでしょうか……私は……」 168 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 59 09.30 ID TCLX5nBXo [5/10] 彼女の銀の脚、OZ。金属生命体である『それ』には、隠された力がある。 ――隠された、というのは正確ではないかもしれない。ただ、とても。 琴歌「使いたく……ないのですけれど……」 とてもとても怖い力。彼女の探求心も、友人のお気楽さも、豪胆さも。 全員がなんとなく、嫌だ。そう思ってしまった、その力。 琴歌「……まだ、大丈夫。いけます、ね?」 誰に聞かせるわけでもなくそう呟いて、琴歌はまた銀の閃光へと姿を変える。 黒い津波に穴が開き、ふたつみっつと切り裂かれた。 降りかかる呪いの泥が落ちるよりも速く。次の獣を蹴り、打ち倒す。 カースたちには決して追いつかれないようにと滑るように地面を移動して―― ――その足が、固まってしまう。 169 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 59 43.28 ID TCLX5nBXo [6/10] 琴歌「―――ッ!?」 核を砕き損ねたカースの泥が、別のカースと反応して強烈に足を締め上げていた。 すぐさま逆の脚で蹴り脱出を図るが、ほんの一瞬止まった隙を逃さずに、津波は彼女を飲み込まんと迫る。 その光景に彼女は思わず目を瞑ってしまい、身体に走るであろう衝撃に身構えた。 ――だが。その衝撃は想像よりもずっとあたたかく。 まるで、誰かに抱かれているかのような錯覚をおこしてしまうほど優しかった。 琴歌「……?」 恐る恐る目を開けてみれば、目の前にあるのは怪物の泥ではなく人の顔。 とてもセンスがいいとは言えないような仮面を付けた、スーツ姿の男だった。 店長「間一髪か……大丈夫か、君?」 琴歌「え、あ、はい……ありがとうございます……っ、後ろ!」 男の背後から泥が迫る。とっさに蹴りあげようと思うも、この体勢ではできない。 しかし、焦る琴歌が男を逃がそうとするよりも早く。光の矢が泥を貫いた。 170 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 00 36.95 ID TCLX5nBXo [7/10] 琴歌「まぁ……!」 光が飛んできた方向へと目をやれば、そこに立っているのは美しく可愛らしい衣装に身を包んだ2人の女性。 琴歌が感心する中、1人は剣を宙から生み出してあたりのカースを次々に切り捨てていく。 美優「シビルマスクさん、危ないですよ! もうっ」 もう1人は琴歌の方へと駆け足で寄り、男へと注意を促す。 シビルマスクと呼ばれた男のほうは余裕ありげに笑うとこう返した。 店長「2人の合体技ならあれぐらいは倒せるし、普通の人には影響はないのはわかってたさ。だけどもしもがあったら危ないだろ?」 美優「そうですけど……無理はしないでくださいね」 店長「わかってる。でも、頑張ってる子供たちもいるんだ……大人が意地をみせなくてどうする」 シビルマスクが懐から何かを取り出す。 雷の走る、聖獣の角。友の証でもあるそれは、主張するかのように小さな火花を光らせた。 美優「……そうですね。あなたは?」 琴歌「え? 私は……」 急に話を振られて、琴歌が慌てたように立ち上がる。 171 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 01 31.52 ID TCLX5nBXo [8/10] 琴歌「あ……」 琴歌は、自分の脚にまた力が戻ってくるのを感じた。 ドロシーを解放しないでも、このまま自分自身の力で守れるのだと。 不思議と、先ほどまで襲ってきていた疲労感もない。 店長「大丈夫か? 無理はしないほうがいい」 琴歌「……いえ! 私、いま! とても……とっても、元気になりました!」 銀の脚の輝きが増す。彼女の顔には再び笑顔が戻る。 店長「う、うん?」 琴歌「ありがとうございます、みなさん! 私、西園寺琴歌と申します!」 底抜けに明るい声で琴歌が自己紹介をし始める。 思わず近くにいた2人はめんくらってしまったようだ。 店長「これはこれはご丁寧に……」 美優「店長っ!」 172 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 02 00.14 ID TCLX5nBXo [9/10] カインドの咎めるセリフに、シビルマスクがはっとした様子で恰好をつけなおす。 店長「っと……あぁ。琴歌ちゃんか……俺はシビルマスク。2人は……カインドと、グレイスだ。よろしく」 琴歌「はいっ! よろしくお願いします! 私の特技は――」 タン、と足音だけを残して琴歌が消え、グレイスが相手をしていた巨大なカースを砕く。 あまりの威力にグレイスも驚き、その顔をみて琴歌はまた笑った。 琴歌「ダンス、です♪」 レナ「……ヒュー♪ いいわね、いけてる。オールナイトは平気かしら?」 琴歌「さぁ、わかりません。私、夜更かしはいけないことだと聞いていたので!」 心底嬉しそうに琴歌が目を輝かせる。 興味津々といった様子で、共に戦う人がいる嬉しさで。
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/229.html
夜の公園にて投下終了後... 394 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 22 05 02 ID DNs8B8R/ 終了です。 らっきー☆ちゃんねる最初の方聞いてないので違う所はあると思いますが、どうかご容赦下さい。 401 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 27 55 ID IRKAWj58 つまらん 次 402 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 31 15 ID ld8rYY/G 折角"まらん"を差し入れてもらっても使い道がありませぬ 403 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 33 23 ID J4E8d74/ ≫402 これはww新発想w マラン 404 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 37 45 ID l/satZp2 ≫402 吹いたwww 405 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 38 43 ID wyBJJzBw ≫402はもっと評価されていい 406 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 40 17 ID AS0dYubg なんというかわし… ≫402は間違いなくクレーマー担当 407 :名無しさん@ピンキー:2007/06/03(日) 23 45 46 ID TAtvwQSy ≫402ってみゆきさんじゃね? 408 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 00 00 07 ID KASnJhC1 かがみ「そういえば、『マラン』って映画があったわよね」 こなた「かがみん、それを言うなら『ラマン』だよ……」 かがみ「ちょ、ちょっと間違っただけじゃない!ってか、なんであんたがそんなもん知ってんのよ」 つかさ「あ、それ知ってる!この間テレビで見たんだけど、ラマンのレーサーさんって大変だよね、24時間も走るなんて……」 かがみ「つかさ……それはルマンでしょ」 みゆき「(こほん。)……『ラマン』と言うのは、英仏合作のロマンス映画ですね。マルグリット・デュラスの自伝的小説をジャン=ジャック・アノー監督が見事に映像化されて……(以下延々と)」 409 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 00 12 19 ID xlSxCU+I ≫402 さすがというか・・・ かわし方を心得ていらっしゃる・・・! 410 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 00 20 32 ID dWH9uZpr ≫402 後の「まらん記念日」である。 ……ごめん(自爆 412 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 00 41 44 ID YnYJRAeO ≫402 が`・щ・´ノ つ<<<<(;Θ щ Θ) 社会人時代のスキルをこんなところで活かさないで下さいよ、師匠 413 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 00 55 02 ID hpX/RvuC ≫412 黒井先生乙 414 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 04 39 45 ID aT1p7OxL 何まらんからなら使えるんだ? 415 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 04 43 39 ID dN6kgWe9 止まらんこの流れ 417 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 04 53 33 ID czJ+1J1u つまらんこの流れ 418 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 04 55 02 ID 88j1lopX たまらんのう 423 :みwiki:2007/06/04(月) 09 33 53 ID a+TmdsuV え?「まらん記念日」についてですか? (こっぺ♪こっぺ♪こっぺ♪こっぺ♪ らららこっぺぱん♪らららこっぺぱん♪) そもそも「まらん」とは、フランスの作曲家、指揮者、バス・ヴィオール奏者の マラン・マレー(Marin Marais, 1656年5月 - 1728年8月15日)の事だと思われます。 あ、ググると先頭に来ますので万一興味を持たれた場合、続きはそちらでどうぞ( ´∀`) 昨日≫401さんが、あきらさんx白石さん作品に感動し、思わずこのマラン氏を作者に プレゼントしたのですが、”差し出した手”を表すAAの「つ」が、まるでひらがなの「つ」に 見えてしまい、一見≫401氏を貶しているかのように見えてしまったそうです。 それを、咎めることなくさりげなくフォローした≫402さんの行為にスレの皆さんが感動し、 ≫410氏の提唱によって日本記念日協会が「まらん記念日」と非公式に定めたのが 始まりと言われています。 ちなみにこんなフラッシュもあるみたいですよ( ´∀`) ttp //www.geocities.co.jp/Playtown/5583/swf/maran.html また、「まらん」ではなく「まろん」のミスタイプだ、という説もあります。 ただ時期的に栗の可能性は少ないのでは?という意見が多く、現在では マラン・マレーをプレゼントした、という説が定着しています。 424 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 11 22 10 ID VQNvELX/ こなた「『この返し いいねと君が言ったから 6月3日はまらん記念日』……なんてね」 かがみ「吉本ばなな?……てか、あんたらしくないわね、その台詞」 こなた「小説家を父に持つ文芸一家をナメてもらっちゃ困るなぁ、かがみん」 かがみ「文芸一家ねぇ……大体あんた、どうせその歌しか知らないんでしょ?」 こなた「くぉはぁっ!さすが私の嫁、察しがいいねぇ!」 かがみ「!!よ、嫁っ(///)……って、なんで私があんたの嫁なのよっ!!」 こなた「照れるな照れるな」 かがみ「あーもう……っ! !!」 みさお「あーあー、もうgdgdじゃん。こーゆー時ツッこむ役がいなくなるのがあのメンツの欠点だよなー」 425 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 11 26 35 ID frTi7uMM ≫423 なんという民明書房 いや、今日から高良書房と呼ぶか 426 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 11 41 31 ID TJOosPTN ≫424 俵万智だったとおもうがな、サラダ記念日 427 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 12 12 47 ID a+TmdsuV こなた「かがみんー、吉本ばななじゃなくて俵万智だよ。 426さんが言ってた。調べたらそうだった」 かがみ「えっ!?そ、そうだっけ(///;;)……って、あんたも否定しなかったじゃない!」 こなた「私『サラダ記念日』なんて一言も言ってないし・・・ ̄ω ̄・」 かがみ「わ、悪かったわよ。私だってたまには勘違いくらいするわよ(///;;)」 みゆき「ちなみに現在は”吉本ばなな”ではなく”よしもとばなな”と改名されていますよ」 かがみ「そ、そうよね。改名したのよこなた」 こなた「ほぅ」 みゆき「また”俵万智”さんは高校時代、通学に田原町駅を利用していた故のペンネームと 思われがちですが、こちらは本名だそうですよ」 かがみ「へー・・」 こなた「ほー」 428 :427:2007/06/04(月) 12 13 40 ID a+TmdsuV かがみもサラダ記念日に関しては何も言ってなかった・・・orz 429 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 12 42 00 ID VQNvELX/ ≫427 フォロー㌧クス、素で勘違いしてたorz この雰囲気好きだなぁ 430 :427:2007/06/04(月) 12 54 13 ID a+TmdsuV ≫429 実はおいらも「サラダ記念日=吉本ばなな」だと思ってました。 なんでだろ・・・ 437 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 18 54 06 ID 4EziKq3x まらん! なんて斬新なんだ… まらん 目から鱗が落ち続けて止まらない。 438 :名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 19 51 59 ID jtIsHugT まらんktkrwww流石兄弟を思い出したぜ
https://w.atwiki.jp/kwbthrms/pages/312.html
株式市場のおいて、穴を埋める、つまり下げた分を戻すという意味。「埋める」は上記の意味のほかにも、さまざまなところで表現されます。まず、信用取引などで、「買い」または「売り」から入った建玉を、転売(売り手じまう)・買い戻しによって決済することでもあります。この場合は、「カラ売りを買い埋める」というように使われます。また、増資の権利落ちや配当落ちの際に、理論的な落ち分と実際の下落幅を比べて、後者が前者よりも小さい時、「落ち分を埋めた」とも言い表されます。さらに、チャートを用いたテクニカル面でも一気の上げ、または下げに対してできた「窓」をその後、埋めていくような値動きのさまを「窓を埋める」とも言います。 http //www.daiwa.jp/ja/glossary/jpn/00060.html
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/1380.html
泉家の台所。 こなたはコップの三分の二ほどの高さまで水をいれ、そこにやかんから少量のお湯を 注いでぬるま湯を作った。洗面器に水を注ぎ、そちらにも適量のお湯を入れてぬるま湯を こしらえた。 洗面所からタオルを二本とってきて、その片方をぬるま湯で濡らす。静かな台所に チャプチャプと水音が響いた。 コップを右手、乾燥タオルと濡れタオルを左手に持ってゆたかの部屋のドアの前に立ち、 両手が塞がっていることに気付いた。多少行儀が悪いが、見咎める者はいないので、その まま――ドアは前もって半開きにしてあった――足でドアを開けて中に入った。 「ゆーちゃん」 ベッドに横たわるゆたかは、三秒ほど間を空けてこなたの方を向いた。 頬は赤らんでいて、普段よりも幼く見える。目は虚ろで、こなたのことが見えているか どうかも怪しい。口は半開きになっていて、荒い呼吸を繰り返している。 ゆたかは風邪をひいて高熱に苦しんでいる。その姿は、あまりにも無力で、あまりにも 無防備で、あまりに可憐だった。きっと、頭はぼんやりしていて何も考えられないだろう。 何があってもこなたを頼るしかない。その様相に、こなたは『萌え』を感じた。 なんとか覚醒しようとしたゆたかの口が『い』の形に動くのが、こなたには見えた。 「お姉ちゃん……」 「喋らなくていいよ。楽にしてて」 布団を剥いでゆたかのパジャマを触ると、じんわりと湿り気を感じた。この熱なら相当 の汗をかいているはずだった。正しい処置をすれば快方に向かうという証明でもある。 「気持ち悪いでしょ。体拭くよ」 ゆたかは軽く肯いてきただけで、それ以上何もしてこない。本当に辛いんだなと思って てきぱきとパジャマを脱がせた。ブラは着けていなかったようで、平らな胸が露になる。 普段から着けていないのか、風邪でそれどころではないのか、訊ねてみたかったがやめて おいた。 「せっかくだから下着も換えちゃうよ」 ゆたかはまた、ただ肯くだけだった。 「ゆーちゃん、ちょっと危険だよ」 何が危険なのかゆたかが理解できないだろうとわかったうえで、そんなことを言って みた。予告どおり下着も脱がせて、ゆたかは一糸纏わぬ姿になった。もちろんゆたかは 一切抵抗しない。 「可愛いよね……」 出るところは出ておらず、くびれるところはくびれておらず、ちょっと下に視線を向け ると、触り心地のよさそうな割れ目があった。こなたに劣らない幼児体型。 その姿を見ていると、こなたは胸がざわつくのを感じた。もっと『何か』をしてみたい という衝動。――危険なのは、こなただった。 「でも、ダメだよね」 病人をいつまでも裸にしておくわけにはいかない。こなたはぬるま湯で濡らした方の タオルでゆたかの身体を拭いた。平らな胸のちょっとだけ膨らんだところや、きれいな スリットの近くを拭くときに湧き上がる衝動に、気付かぬふりをする。 全身を拭いたあと、乾いたタオルでもう一度拭いて、タンスの中から換えのパジャマと 下着を取り出してゆたかに着せた。 あとは薬を飲んで水分補給してもらって、じっくり寝ていればいい。 「ゆーちゃん、おくすりだよ」 「うん……」 しかしゆたかは答えるだけで、何もしない。 「ねえ……」 病気のときは言い知れぬ心細さに襲われて、甘え気味になってしまうもの。ゆたかは すがるような上目遣いでこなたを見やった。 「おくすり、飲ませて欲しいの?」 子供に諭すような口調で、こなたは尋ねる。 「うん、お願い……」 子供のように、ゆたかは懇願する。 「しょうがないなぁ」 内心では喝采をあげながら、仕方なくといった風に錠剤を取り出す。こなたはその錠剤 を自分の舌に乗せて、コップのぬるま湯を少量口に含んだ。 左手をゆたかの頬に、右手を顎に添えて、自分の方を向けさせる。ゆたかと唇を重ね 合わせると、舌でゆたかの唇を開いた。 「ん……」 ぬるま湯をゆたかの口内に流し込む。舌に乗せておいた錠剤をなるべく口の奥に送って やろうと――それは単なる言い訳でしかない――舌をねじ込む。ゆたかの舌に自分の舌を 絡ませると、高熱のせいかとても熱く感じた。何度もねぶって、ゆたかの舌を味わう。 どさくさで錠剤はどこかへ行ってしまったので――これも単なる言い訳でしかない―― 口内のどこかにあるはずのそれを探そうと、ゆたかの口の中に舌を這い回した。上下左右、 ありとあらゆる部分を舌で探り、その度に舌の感覚――味覚がゆたかの味を脳に告げる。 「はぁぅ……」 「いつのまにか飲んでたんだネ」 こなたは一旦口を離して、次の錠剤を取り出した。今度は溶けやすいタイプの錠剤で、 舌に乗せるとすぐに苦味を感じた。 今度は水を口に含まず、そのまま口付けた。再び舌をねじ込んで、ゆたかの中に渡す。 水の代わりに、こなたは唾液をゆたかの中に注ぎ込んだ。ゆたかはそうすればもっと唾液 が出てくるとでもいうように、舌を絞るように唇ではむ。 ゆたかの唇は、とてもいい感触だった。このまま味わい尽くしてしまいたいほどに。 けど、そうはいかない。そうしてはいけない理由がある。 「ちゃんと水も飲まないとね」 風邪には水分補給が重要。ましてやさっきまで寝汗をかいていたのだ。あくまで看病を しなければならない。 少し多めにぬるま湯を口に入れて、みたび口付けをかわした。 「んっ……」 こぼさないように、がっちりと頭を掴んで慎重に注ぎ込む。できれば離したくないと 思いながら。繰り返し繰り返し、まるで愛情を注ぎ込むように―― それから数時間。一眠りしたゆたかはだいぶ症状が軽くなってきた。 「ありがとう、お姉ちゃん」 「なんのなんの。姉としての当然の勤めですよ」 ゆたかにも余裕ができたようなので、こなたはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。 「ゆーちゃんの可愛いとこ見れたしネ」 「あ、あの、あれは……」 熱は引いてきたのに、また赤くなってあたふたする。ぼーっとしていたからといって、 都合よく忘れたりはできないようである。 「あの、私、いつもあんなふうになるわけじゃ……」 「時々はなるんだよね。つまり初めてじゃないと」 「はうっ!」 失言に気付いたときにはもう遅い。こなたは会心の笑みを浮かべる。 「ゆい姉さんにもやってもらってたわけだ」 「み……みんなには内緒にしてねっ!」 うまく誤魔化したようだが、これも失言であることをこなたは見抜いていた。 「内緒にするヨ。特にみなみちゃんには」 「な、なんでみなみちゃんが!?」 慌てふためくゆたかが可愛くて、更に意地悪したくなってしまう。 「本当はみなみちゃんに看病してほしかったんだよね。私を見たとき『みなみちゃん』 って言いかけてたよ」 だから、軽々しくゆたかに手をだしてはいけない。少なくとも不意打ちのような真似で みなみからゆたかを奪ってはならない。――もっとも、それはこなたの妄想が正しければ の話であるが。ゆたかとみなみが本当に『そういう』関係なのか、こなたに確証はない。 「そんなの覚えてないよっ!」 「つまり無意識ではみなみちゃんを求めてるわけだ。そのくせ私まで誘惑しちゃうなんて、 ゆーちゃんは魔性の女だねぇ」 「誘惑って……ええっ!? 私、そんな」 今度、おくすりの時間が来た時はゆたかをもっと味わってしまおうか、それとも潔く みなみに機会を譲ろうか、半分は冗談で、半分は真剣に考えてみるのだった。 -おわり- コメントフォーム 名前 コメント 全く・・ゆーちゃんは萌えの塊だな -- ウルトラマンジョーニアス (2008-03-20 02 56 01) ゆーちゃんは最強の萌え兵器です☆ -- 名無しさん (2007-12-24 23 15 00)
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1255.html
第257話 動き始める切り札 1485年(1945年)11月11日 午前8時 ヒーレリ領ヴィアセロスコ 「畜生が……いつ見ても腹が立つぜ!!」 防衛線の塹壕内で、腹立たしげに放たれた声が響く。 ヴェセンドネ・クトインル大尉は、その声を咎める事無く、自らも上空に伸びる多数の飛行機雲を見つめていた。 「この陣地にとびっきり高い高度まで打ち上げられる高射砲があれば、ありったけの弾をお見舞いしてやるのによ!」 「おいおい、ウィリンチヤ。無い物ねだりしてもどうしようもないぞ?」 「んなこた分かってるよ。でもよ、こんな光景を見たら無い物ねだりの1つや2つでもしたくなるぜ……俺とお前も、生まれはランフックだ。 気持ちは分からんでも無いだろう?」 「言われずとも……だがな、ここで恨み節を叩くよりも、頼り無い部下達をどう鼓舞して行くかどうか……それを考えた方がいいと、俺は思うぞ。」 クトインル大尉は、後ろからぼそぼそと聞こえる会話に聞き耳を立てていたが、彼はこれ以上、部下達に無駄話をさせる積りはなかった。 「キシリヌィ中尉の言う通りだ。」 不意に口を開いたクトインル大尉は、くるりと後ろに振り返った。 彼の後ろには、休憩がてらに水を飲んでいたヴルコ・ヴェパンズナ中尉とウィクリン・キリリヌィ中尉が居た。 どちらも、20代半ばの青年士官だ。 「そろそろ、小休止が終わる。あと5分で隊に戻らなければ、部下に上官が遅刻した!と言われてしまうぞ?」 「ですね……それじゃあ、部下に示しがつかねぇや。」 「それでは、自分達は陣地に戻ります。おい、今日の課業が終わったら、久しぶりに一杯やらんか?」 「おう、考えとくよ。」 ヴェパンズナ中尉とキシリヌィ中尉は、互いに軽い口調で言い合ってから休憩所から離れて行った。 クトインル大尉は2人の部下が立ち去るのを見た後、再び上空に顔を向ける。 「……絶対防衛線の上空を、悠々と飛び去って行く敵機……か。もはや慣れたもんだが、“絶対防衛線”という名のついた陣地から見る光景としては、 これほど滑稽な物は無いだろうな。」 クトインル大尉は自嘲気味に呟く。 彼が目にしているのは、5000グレル以上の高度を、白煙を引きながら通過して行く、スーパーフォートレスの大群である。 数からして100機は下らない米重爆撃機の編隊は、爽やかな冬の青空に恨みがあるかのように、濃い飛行機雲で真っ白に覆わんとしている。 クトインル大尉がこの陣地に来て早3ヶ月……幾度も見慣れた光景だ。 「天候が崩れる前、ランフックとオシラヌク、クゼリニティの3都市に、マスタングに護衛されたスーパーフォートレスが表れ、爆撃予告の紙を 大量に落として行ったと聞く。あの爆撃機編隊は北東方向に向けて飛んでいる……連中の狙いは、ランフックか、あるいは、まだ無傷のクゼリニティの いずれか、か。」 (恐らく、工業地帯が廃墟と化したランフックではなく、クゼリニティに向かっているのかも知れんな) クトインル大尉は、最後の部分は心中でぼやきながら、ぐっと奥歯を噛みしめる。 彼は、第367歩兵師団第382歩兵連隊第2大隊の1中隊長として、部下の率いる4個小隊、計120名と共にこの陣地に配置されている。 この陣地に配属されるまでは、レスタン戦線や南大陸戦線といった、地獄の戦場を渡り歩いてきた。 名実共にに歴戦の士官であるクトインルの指揮中隊は、小隊指揮官や分隊指揮官全てが対米戦を経験して来た者ばかりであり、部隊の錬度も高く、 大隊の中では最も期待される中隊として注目を集めている。 クトインルは、自分と同様に、過去の戦闘で苦闘を味わった部下達を指揮できる事を素直に喜んだが、この防衛線に配置されてからは、気の滅入る事しか 起こらなかった。 そして、その気の滅入る出来事は、今もなお続いている。 その1つが、上空にたなびく無数の飛行機雲である。 連合軍の中でも最大勢力を誇るアメリカ軍は、レスタン領に航空基地を構えたあと、自慢の爆撃機を帝国本土中部にまで差し向けるようになった。 米軍の戦略爆撃機は、晴れ間が続く時は、3日に1度……場合によっては2日に1度の割合で西部絶対防衛線上空を飛び越し、帝国本土に戦略爆撃を浴びせ続けていた。 その中でも最大規模の爆撃は、8月30日のランフック大空襲である。 この時、防衛線上空は長時間に渡って、重爆撃機の爆音が鳴り続け、守備隊の将兵達は今までに経験した事の無い大編隊の通過に何かしらの不安を感じていた。 『ランフックに敵の大空襲、工場施設群壊滅せり。民間人の損害甚大なり』 という悲鳴じみた報告が伝えられたのは、それから間もなくの事であった。 このランフック大空襲で、シホールアンル側は死傷者26万人、罹災者数83万人という凄まじい損害を出しており、クトインルの中隊でも、ランフック出身の 将兵の中には、妻や家族、知人を失った者が居る。 その後も、ランフックには米軍の戦略爆撃機が2度飛来しているが、いずれもが昼間爆撃であり、かつ、事前に通告された事もあり、死傷者数は2度合わせて 500人足らずで済んだ物の、この2度の空襲で、最初の大空襲で辛うじて生きていた工場は全て潰されており、ランフックは、工場都市としての価値を完全に失った。 アメリカ軍は、9月以降も帝国中部地方への戦略爆撃を続け、これまでにガルビラスト、ジャンシヴル、ポエストリブ、クァーラルド、ギルガメルと、 中部地方から、ヒーレリ国境沿いにある主要工場都市、魔法石、金鉱山、軍事施設やワイバーン養成施設等の重要施設のある地域は、片っ端からB-29の 爆撃を食らっている。 特に10月に入ってからは、米戦略航空軍の活動はより活発化し、10月19日のポエストリブ市空襲では、現地側の手違いで避難指示が遅れてしまった結果、 ランフック市と同様の無差別爆撃が行われてしまった。 ポエストリブ市は、人口50万を誇る主要都市であったが、10月19日に来襲した290機のB-29は、都市近郊にある魔法石、金鉱山と精製工場を 狙って高高度絨毯爆撃を敢行した。 結果は悲惨な物であった。 B-29が投下した爆弾の大半は、爆撃直前になって避難命令を発せられ、住民の大半が逃げ惑う市街地北に落下し、甚大な損害をもたらした。 この無差別爆撃で、シホールアンル側は死傷者48920名、罹災者18万人を出し、金鉱山と魔法石鉱山は壊滅。 市街地の半分が全焼、並びに全半壊した。 この空襲の後、クトインルの所属している第2大隊の別の第4中隊長が、精神に変調を来して後送された。 この事件は、大隊のみならず、師団の将兵を大いに驚かせたが、クトインルが後に同僚の大隊幕僚から聞いた話では、第4中隊長はポエストリブの空襲で 夫と家族を亡くしていたと言う。 クトインルが見た限りでは、第4中隊長はどこか繊細さを感じさせる事はあれど、大抵は部下にも同僚にも、明るく接しており、同時に、クトインルと 共に数々の激戦を戦い抜いた歴戦の野戦指揮官でもあった。 だが、誰から見ても羨ましがられる存在であった第4中隊長は、敵の戦略爆撃によって精神を壊されてしまったのである。 (……丈夫そうに見えたあいつが、まさか、あんな事になるとは………) クトインルは、朗らかな笑顔を浮かべながら、気軽に話しかけてきた元同僚の顔を思い出しながら、戦略爆撃の無情さを痛感していた。 「絶対防衛線……か。そもそも、絶対という言葉は、何事が起ころうとも、必ず、その通りに成せる、と言う意味である筈なんだがなぁ……」 彼は、次第に消えつつある飛行機雲の束を見つめ続ける。 「これじゃ、“絶対”という名は取っ払った方が良いな。」 クトインルは自嘲気味に言いながら、持っていたカップを空いた箱の上に置いた。 中隊指揮所に入った彼は、備え付けの椅子に座り、机の上に置いてあった書類に目を通して行く。 どこか抜けた表情で紙を見つめるクトインルに、中隊本部付の魔道士が、片手に紙を携えて歩み寄って来た。 「中隊長。大隊長より通信です。あと……そろそろ時間ですね。」 中隊本部付魔道士であるシヴェリィ・メヒロンヘ少尉が時計を見ながら話しかける。 透き通る様な白い肌に、肩まで伸ばした紫色の髪はなかなかに綺麗であり、中隊内では何かと人気の女魔道士である。 今年で19歳になる彼女は、出征前は首都にある家のパン屋で手伝いをしていたという。 16歳で陸軍魔道士学校に入り、18歳で卒業した彼女は、昨年のジャスオ領攻防戦で初陣を飾り、今年1月のレスタン攻防戦と、先のヒーレリ攻防戦にも 参加している。 任官以来、ずっと最前線に居た彼女は、今では実戦を経験した猛者として、中隊内では欠くべからず存在となっていた。 メヒロンヘ少尉が顔を向けた先に、クトインルも視線を送る。 時刻は午後8時10分を指している。 今日の様な晴れた日だと、この時間帯は必ずと言って良いほど、“定期便”が陣地上空に飛来していた。 「だな。対空部隊の連中は、そろそろ準備を済ませている頃か。」 クトインルがそう答えた時、唐突に空襲警報のサイレンが鳴り響いた。 クトインルは、メヒロンヘ少尉と顔を見合わせ、内心でやっぱりな、と呟いた。 「ようし!いつも通り、空襲に備えるぞ!魔道士、各小隊に伝達!定期便来たる、備えよ!」 「了解!各小隊に伝達いたします!」 メヒロンヘ少尉は命令を受け取ると、すぐに自分の席に戻り、各小隊に魔法通信を発し始めた。 それから2分後、メヒロンヘ少尉から“定期便”に関する情報が伝えられた。 「中隊長!前進観測班から通信が入りました!敵、戦爆連合編隊150機、第57軍団戦区に向かう!」 「こっちに来たか……」 クトインルは顔をしかめる。 彼の所属する第367歩兵師団は、第65軍所属の第57軍団指揮下にある。 第65軍は、第57軍団と第58軍団の計5個師団で編成されており、第57軍団は防衛線のやや北側に近い位置に配置されている。 連合軍は、防衛線に配置されている第65軍や、第42軍、第5石甲軍に対して、連日空襲を加えており、多い時には1日1000機もの敵編隊が、 数派に渡って襲って来る事もある。 シホールアンル側は、防衛線の塹壕陣地を強化したり、後方から対空部隊を増強する等して対応に当たっている。 今の所、連日の敵の猛爆にもかかわらず、被害は想定内で収まっている。 ここ数日は、悪天候で敵の爆撃が無かった事もあり、防衛線の各隊は補充を済ませて、万全の態勢で配置に付いていた。 空襲警報発令から15分後……前線に敵の戦爆連合編隊が現れた。 「来ました……敵機です!」 指揮所に設けられている、流動石で作られた防御陣地内で、覗き穴から上空を見張っていた兵士が声を上ずらせながら伝える。 その時、迎撃に飛び上がった40騎のワイバーンが前線を飛び去って行くのが見えた。 大きな翼を上下に動かしながら、猛速で飛び去って行くワイバーンの姿は実に頼もしい限りだが、前線の兵士達はそれに感動する事も無く、 ただひたすら、敵機が来るのを待ち構えていた。 「……始まったか。」 別の覗き穴から空を見つめていたクトインルがそう呟く。 迎撃に向かったワイバーンが、護衛の敵戦闘機と交戦を開始した。 上空から聞こえる音は、来襲しつつある敵機の物ばかりだ。 その音に、機銃の発射音とワイバーンが放つ光弾の発射音が混じり始めた。 ワイバーン群は、戦闘機の迎撃を突破して、後続の双発機群に襲い掛かろうとしているが、上手い具合に展開した敵戦闘機に阻まれ、 なかなか双発機群に近付けない。 不意に、敵機が火を吹いて墜落し始めた。 それまで、互いに1機も落ちぬまま激闘を続けていたが、この日はシホールアンル側が、最初の撃墜スコアを挙げたようだ。 続いて、2機目の敵機が機体から濃い白煙を引き始める。 ワイバーンの光弾を食らったのだろう。 敵戦闘機のシルエットは、翼が折れ曲がった胴体の長い物ばかりだ。 形からして、米海軍、または、米海兵隊所属のF4Uコルセアであろう。 「あるいは……」 クトインルは、米軍以外にもコルセアを有している国がある事を思い出す。 「……いや、連中が使っているからとはいえ、腕がアメリカ軍よりも劣る訳ではない。むしろ、アメリカ人以上にしつこい分、性質が悪いな。」 彼は舌打ち交じりに呟いた。 「敵編隊の一部がワイバーンの迎撃を振り切りました!我が大隊の陣地に向かって来ます!!」 見張りの兵が金切り声で報告を伝える。 先週の爆撃で元居た見張り員が戦死したため、新たに補充で送られて来た兵士だ。 中隊の陣地に設置されている対空砲と魔道銃が一斉に射撃を開始した。 迎撃を突破した敵機は20機前後。全てが単発機であり、その翼は全て折れ曲がって行った。 (クソ!“いつもの方法”で来るか!) クトインルは忌々しげにそう思いながら、対空部隊が1機でも多くの敵機を撃ち落とす事を願った。 陣地に向かいつつある敵機は、全てコルセアである。 敵は、制空戦用と地上攻撃用のコルセアを用意していたようだ。 (コルセアに限らず、単発機が先に向かって来たとなると……対空部隊が先にやられるな) クトインルは、今まで自分が経験してきた敵の攻撃パターンを思い出しながら、接近するコルセアを見つめ続ける。 コルセアの周囲に複数の光弾が注がれ、機体の横や上に高射砲弾が炸裂する。 しかし、低空を猛速で飛行するコルセアは、何ら有効弾を浴びる事も無く、あっという間に陣地へ迫って来た。 コルセアが機首の大馬力エンジンを鳴らしながら中隊の指揮壕の真上を通り過ぎようとする。 その時、コルセアが両翼から機銃を発し、次いでにロケット弾を撃ち放つのが見えた。 クトインルは、コルセアの胴体に描かれていた国籍マークを見るなり、眉をひそめた。 後方で爆裂音が響いた。 「ああっ!対空銃座が吹き飛びやがったぞ!」 不意に、誰かが悲鳴じみた声をあげた。 コルセアの攻撃で、連装式魔道銃を撃ち放っていた魔道銃座が、操作要員諸共爆砕されたのだ。 連装魔道銃座を操作するには、射手1名と魔法石を交換する給弾兵1名、予備の射手と観測主の計4名、または6名程が必要になる。 コルセアの攻撃は、その操作要員達全てを戦死させた事であろう。 (例え、あの攻撃で戦死しなくても、生存者は瀕死の重傷を負って、死よりも辛い試練を味わう事になる。そうなるよりは、一息に殺された方が楽だろうな) クトインルは銃座の将兵達の苦闘に心を痛めると同時に、銃座の配備なにらなくて良かったと言う矛盾した……人間としてはある意味、当然とも言える 思いを感じていた。 侵入したコルセアは、真っ先に銃座や対空砲を潰していた。 コルセアに積んでいた5インチロケット弾は、高速で銃座や砲座に突き刺さり、操作していた兵を微塵に吹き飛ばし、あるいは破片で切り刻んだ。 ある砲座がロケット弾攻撃を受け、高射砲と兵が諸共ミンチにされた直後、積まれていた砲弾に誘爆して大きな爆炎が噴き上がった。 轟音と共に黒煙が噴き上がり、それが見る者の恐怖を煽り立てた。 別の銃座はコルセアの放った12.7ミリ機銃弾をしこたま食らってしまう。 必死の形相で魔道銃を撃っていた兵士が、高速弾の直撃で体の頭部や四肢を吹き飛ばされ、逃げようとしていた兵が腹や胸に大穴を開けられ、傷口から鮮血を 噴き出しながら倒れ込む。 銃座は12.7ミリ弾の集中射撃を受けてたちどころに穴だらけになり、一瞬にして使い物にならなくなった。 苦戦する対空部隊だったが、攻撃を受ける側も一方的にやられている訳では無く、魔道銃の反撃で1機のコルセアが撃墜され、猛速で地面に突っ込む。 その直後、機体がばらばらに吹き飛び、頑丈なエンジンブロックや、現芸を留めていた胴体後部や尾翼等が勢い良く転がり回り、燃料タンクから 漏れ出たガソリンが引火して、火焔が広がった。 この他にも、3機のコルセアが機体に命中弾を受け、白煙を引きながらよろよろと引き上げて行った。 だが、残ったコルセアは執拗に魔道銃座や砲座に機銃掃射とロケット弾攻撃を加える。 コルセアの中には、ロケット弾の他に爆弾を積んだ機もあり、それらの機体は塹壕陣地や、固い要塞陣地めがけて爆弾を投下した。 爆弾が地面に落下して爆裂する度に、強い振動がクトインルの居る指揮所を揺さぶる。 1発の爆弾は指揮所より30メートルほど手前に落下し、爆発の直後に大量の土砂が、壕の天蓋に降り注いだ。 コルセアの攻撃は10分程で終わったが、その直後に、別の敵が防御陣地に迫りつつあった。 「正面より新たな敵!突っ込んで来ます!!」 見張りに言われるまでも無く、クトインルは爆風を受けても無事に残っていた観測穴からその敵を見据えた。 「コルセアの次はインベーダーか。本当、いつも通りだな!」 クトインルは憎らしげに言い放った。 防御陣地めがけて、40機前後のインベーダーが向かいつつあった。 高度は500グレル(1000メートル)程だが、敵編隊は高度を落としつつある。 敵編隊は10機前後の編隊を3つ形成しており、そのうちの1つが、クトインルの居る中隊を目指していた。 「来るぞ!衝撃に備えろ!!」 クトインルはそう叫んだ後、両耳を塞いでから地面にうずくまった。 彼に習うようにして、指揮所の将兵全員が同様の恰好を取る。 暖降下して来たインベーダーが、高度250グレルで爆弾を投下した。 この時、A-26の胴体に積まれていた爆弾は250ポンド爆弾が4発であった。 1機あたり4発……12機計48発の爆弾が中隊の塹壕陣地めがけてばら撒かれ、そう間を置かぬ内に着弾した。 指揮所内に次々と爆弾が炸裂する轟音と震動が響き渡り、体にびりびりと伝わって行く。 特に爆発音は凄まじく、両手で塞いでいる筈の耳の鼓膜が破れたかと思わんばかりだ。 出入り口に爆弾の爆発で噴き上げられた土砂が音立てて降り注ぎ、指揮所内には濃い土煙が充満した。 轟音が鳴りを潜め、耳元の金切り音が収まった後、クトインルは閉じていた目を開き、いつの間にか止めていた呼吸を再開させる。 その瞬間、指揮所内に充満していた土煙と、鼻をつく火薬の匂いを感じ、思わずむせてしまった。 「だ、大丈夫ですか?」 真向かいに居る人影が声を掛けて来る。その声の人物も、あまりの息苦しさに激しく咳込む。 「あ、ああ。俺は大丈夫だ。それよりも、早くこの空気をなんとかしないと。」 クトインルは、机に置かれていた紙を2、3枚手に取り、室内に充満する土煙を外に向けて仰ぎ出す。 内部に居た兵達も同じように、持っていたハンカチや、素手で土煙を外に追い出して行く。 程無くして、指揮所内から土煙を追い出すと、クトインルは指揮下の小隊に被害状況を確かめさせた。 「中隊長……さっきのコルセア見ましたか?」 不意に、先程の見張り員がクトインルに話しかけてきた。 「ああ。見たぞ。あれがどうかしたか?」 「あのコルセア……ミスリアルの国籍マークを付けていましたよ!ミスリアルの長耳共も飛空挺を操っているらしいと聞いた事はありましたが…… まさか、本当に使っていたとは。」 「そう言えば、貴様はこの戦線に来たばかりで、あまり知らなかったな。」 クトインルは、この兵士が北から来た補充兵である事を思い出しながら説明していく。 「連合軍の中で中核を成すアメリカ人共は、陸戦兵器だけではなく、空戦兵器までもを、同盟国に供与している。今の“ミスリアル軍コルセア戦闘隊” がその証拠さ。そのお陰で、森の住人達は晴れて、大空をも支配下に収める事が出来た、と言う訳だ。」 兵士があっけに取られた表情で、クトインルの顔をまじまじと見つめた。 それに、クトインルは心中で落胆しつつも説明を続ける。 「俺も、最初は貴様と同じような思いだったが、今では、エルフの連中がアメリカ製の戦闘機を使って暴れ回る事には何も感じなくなったよ。」 「アメリカ製の軍用機を使いまくっているのは、ミスリアル軍だけじゃない。カレアント軍なんかも大量に運用しているよ。」 こっそりと話を聞いていたメヒロンヘ少尉も話に加わって来た。 「あんたがここに来る1週間前にあった空襲は、カレアント軍主体の航空部隊だったな。」 「連中、最近はエアラコブラだけじゃなく、サンダーボルト(P-47)やミッチェル(B-25)まで投入して来てる。カレアントの連中は、 アメリカさん相手によっぽど、良い商売をしているようだな。」 「一昔前まではウチらと同じ、ワイバーン中心の編成だったのに、今ではすっかりアメリカ軍機ばかりです。連中の変わり身の早さは、我々も 見習いたいぐらいですね。あ、というか、そうさせるアメリカの物量を見習う、と言った方が良いかもしれないですね。」 「あ……アメリカって……」 2人の上官の発する言葉の前に、補充の見張り員は思考が追い付かなくなり、頭から湯気を立て始めた。 「おっと、魔法通信が………中隊長、各小隊から被害報告が入りました。」 「ほう、早いな。」 クトインルは、報告が早い事にやや感心しつつ、メヒロンヘ少尉に報告を伝えるように促した。 「まず、第1小隊ですが、死者、負傷者共に無し。第2小隊、負傷者2名、いずれも軽傷で後送の必要無し。第3小隊、負傷者5名、うち、2名重傷、 後送の要あり。第4小隊、戦死者1、負傷者6、うち、3名重傷、後送の要あり、以上です。」 「第4小隊の被害がやや大きいのが気になるが……中隊の戦力はさほど低下していないな。大体に付いていた対空中隊の損害はどうなっている?」 「報告はまだ上がっては居ませんが……インベーダーの編隊が接近する頃には、全くと言って良いほど応戦がありませんでした。恐らくは……」 「全滅……か。」 クトインルはにべもなく答えた。 それを見た補充兵は驚いてしまった。 「ちゅ、中隊長殿……味方が全滅したのに、何も感じないのですか?」 「何も感じないだと。」 クトインルは補充兵に顔を向ける。彼としては軽い口調で言ったつもりだったが、補充兵は何故か縮み上がってしまっていた。 「い、いえ!失礼しました!!」 「?……何を急に畏まっとるんだ。」 「中隊長、中隊長……何気に怖い顔をしていますよ。」 メヒロンヘからそう指摘された彼は、いつの間にか、その新兵を睨みつけている事に(彼は別にそのつもりはなかった)気が付いた。 「いやぁ、すまんね。別に貴様を怒った訳では無いんだが。」 クトインルは笑顔を作り、新兵にそう言った。 「先程の貴様の問いに対する答えだが……別に、何も感じとらん訳ではないぞ。内心では辛いと思っている。だがな……俺達は余りにも多くの死を見過ぎて、 こんな事には慣れてしまったんだ。貴様が、俺を冷酷呼ばわりした事は仕方ない事だ。」 「い、いえ。自分は決して、そのような事は!」 「いや、構わんよ。むしろ……戦争と言う物は、冷酷に……感情を冷たくし、そして、あまり深く考えん方が良い。特に、俺達の様な最前線に立つ人間はな。 そうしなければ敵を撃ち殺す事は出来ないよ。」 「は、はぁ……」 「だから、これだけは覚えておいてくれ。俺は別に、味方の死を痛くないとは思っていない。むしろ、痛いと表現できなくなった、とな。」 「まっ、あんたもいずれは同じ様になるわよ。新兵さん?」 メヒロンヘが上目遣いになりながら新兵にそう語りかけた。 その直後、再び空襲警報のサイレンが響き渡った。 「おっと、早速第2波が来たぞ。」 「え、ええ!?もう別の敵が来たんですか!?」 新兵は、空襲の間の短さに仰天していた。 「……新米。ここは最前線だ。連合軍の連中が第2波、第3波と空襲部隊を送り出すのはいつもの事さ。」 「こんな事でいちいち驚いてちゃ、身が持たないよぉ?」 クトインルとメヒロンヘは、共にしたり顔で言い放った。 第2波は、米軍のB-24爆撃機とP-47戦闘機、計280機の戦爆連合編隊であり、これらは第58軍団の陣地を爆撃し、同地を守っていた 第255歩兵師団に少なからぬ打撃を与えていた。 1485年(1945年)11月13日 午後8時 レンベルリカ連邦共和国ジヴェスコルク 「それで、俺は高度300まで降下してから爆弾を落とした訳さ。その後、引き起こしをかけて機体を安定させたけど……やっぱ、スカイレイダーは ヘルダイバーよりも上等な飛行機だな。」 ジヴェスコルク軍港の外にあるバーで、友人と共にビールを飲んでいたカズヒロ・シマブクロ少尉(今年5月に昇進)は、愛機の素直な性能を自慢気に話す。 「俺も、ベアキャットに乗ってからはお前と同じように感じたよ。ヘルキャットも操縦し易い飛行機だったけど、ベアキャットはそれ以上さ。なにしろ、 垂直面の格闘性能だけじゃなく、水平面の旋回性能も段違いだ。」 「空手の試合で、いつも相手を翻弄させているお前にはぴったりじゃないか?ベアキャットは。」 「だな。いつか、グラマン社の技術者にドーナツでも送ってやろうかね。」 ケンショウ・ミヤザト少尉(今年5月に昇進)も微笑を浮かべながら、軽い冗談を言い放った。 「姉さん。ビールもう一杯。」 カズヒロは、空になったグラス指で小突きつつ、カウンターのスタッフに注文を取った。 「はいよ!」 髪をポニーテール状に結った女性スタッフは、張りの良い一声を発しながらビールの入ったグラスを置いた。 「ありがとう。そういえば、ベネイシアの姉さんは最近、よくここで働いてるけど、本業はどうした?」 ベネイシアと呼ばれたカウンターの女性スタッフは、カズヒロの問いに苦笑しながら答えた。 「いやぁ、ここ最近は害獣があまり出なくなってね。ハンター業だけじゃ収入が少ないから、こうしてしがないアルバイトをしてるの。毎度毎度、 下手な接客でゴメンね。」 「いやいや、そんな事無いさぁ。美人さんの注いでくれるビールは何杯飲んでも美味いよ。」 カズヒロのキザな言葉に、ベネイシアは満面の笑みを浮かべる。 「あら。流石はアメリカ海軍のパイロットさん。紳士ですねぇ。」 「姉さん。こいつの心は真っ黒だから、あまり信用しない方が良いよ。」 そこにケンショウがおどけた口ぶりで注意を促した。 「おぃ!いらん事言うな!」 カズヒロが鋭いツッコミを入れるが、ケンショウは気に留める事も無く、澄まし顔のままビールを飲んだ。 「失礼だが、隣に座ってもいいか?」 不意に、カズヒロは後ろから声を掛けられた。 「いいよいいよ。好きに座ったらいいさ。」 カズヒロは投げやりな口調で答えながら、後ろを振り返った。 そこには、大尉の階級章を付けた男と、中尉の階級章を付けた黒人士官が居た。 ウィングマークを付けている事から、カズヒロと同じく、母艦航空隊のパイロットだろう。 「し、失礼しました!!」 カズヒロは慌てて立ち上がり、2人の上官に敬礼する。 ケンショウも、何事かとばかりにゆっくり振り向いた後、ハッとなって席を立った。 「ハハハ。別に畏まらなくてもいいぜ。まっ、楽にしな。」 大尉はカズヒロのぞんざいな対応を何ら咎める事無く、2人に席に座るように促した。 カズヒロは、2人の上官が席に座るのを確認してから、自らも腰を下ろした。 「ヘイ!ビールを2つ頼む!」 「わかりましたぁ。ちょっと待ってて下さいね。」 カウンターのベネイシアが朗らかに答えてから、グラスにビールを注ぐ。 「はい。どうぞ~。」 程無くして、ビールが運ばれて来た。 それを受け取った大尉と中尉は、一口含む前にカズヒロ達に顔を向けた。 「どうだ?ここは同じ、母艦航空隊の仲間として一緒に乾杯しないか?」 「は……はい!それでは……」 カズヒロとケンショウは、おずおずとしながらも、片手にグラスを持った。 「乾杯!」 大尉が音頭を取り、4人はグラスを合わせた。 ビールを少しばかり飲んだ優男風(変装すれば女に見えそうだ)の大尉がカズヒロとケンショウに向けて口を開いた。 「ここで会ったのも縁だ。互いに自己紹介と行こうじゃないか。」 「はい。それでは、自分から……」 カズヒロはグラスを置き、自己紹介を始めた。 「自分はカズヒロ・シマブクロ少尉と申します。所属は空母イントレピッドのVB-12であります。」 「ケンショウ・ミヤザト少尉と申します。所属は同じく、イントレピッド。VF-12であります。」 「イントレピッドか。と言う事は、君達はTG38.3の所属になるのか。」 「はい。」 中尉の言葉に、カズヒロが答える。 TG38.3は、エセックス級空母3隻を主力に構成された空母機動部隊であり、イントレピッドは、その3隻のうちの1隻である。 「俺はリンゲ・レイノルズ大尉だ。空母エンタープライズの戦闘機隊中隊長をやっている。で、こいつはおれの相棒、フォレスト・ガラハー少尉だ。 俺の指揮下で戦闘機小隊を率いている。」 「エンタープライズ……あのビッグEのパイロットでありますか!?」 カズヒロは、驚きの余り声をあげてしまった。 「おう、そのビッグEのパイロットだぜ。大いに驚きな!」 ガラハーが威張りながら言って来るが、リンゲが彼の肩を叩いて注意する。 「コラ!大仰に威張ってんじゃねえ!」 「いや、冗談ですよ、冗談。」 ガラハーはわざとらしく答えてから、ビールを口に含んだ。 「うちの中尉さんが威張り散らして申し訳ないね。さて……この第3艦隊に配属されているとなると、お2人さんも実戦を経験して来たようだが…… いつから空母に乗っている?」 「43年の6月からです。初陣は9月のマルヒナス運河攻撃です。」 ケンショウが答える。 「それ以降は、地上支援に従事していましたが、昨年のレビリンイクル沖海戦と、今年1月のレーミア沖海戦には参加しています。」 「レビリンイクルとレーミアの海戦に参加しているとは……歴戦のパイロットだな。」 ケンショウの言葉に、リンゲはやはりかと思った。 最初、2人を見たリンゲは、その落ち着いた物腰や顔つきからして、それなりの経験を積んだベテランであると確信していた。 43年から空母に乗り、特に犠牲の多かったレビリンイクル沖海戦やレーミア沖海戦といった大海空戦を戦い抜いた腕は素直に評価出来ると、 リンゲとガラハーは思っていた。 「シマブクロ少尉は艦爆乗りとして、ミヤザト少尉は戦闘機乗りとして2年近く戦い抜いてきた事になりますね。」 「その間……2人も色々と体験してきただろう。楽しい事も、辛い事も……」 リンゲの発する言葉に、2人は一様に頷く。 「大尉のおっしゃる通りです。自分なんかは、戦友の相次ぐ戦死に、一時は心が折れかけましたが……周りの人達が支えてくれたお陰で、何とか前線に 踏みとどまる事が出来ました。」 カズヒロがしみじみとした表情でリンゲに言う。 「みんなも似たような事は経験している。どんなに腕が良くても、天才と呼ばれようとも、それは避けては通れん道だ。」 リンゲも感傷に耽りながら、ビールを飲んで行く。 「……そう言えば、気になった事があるんですが。」 ケンショウはここぞとばかりに話題を変えた。 「自分達はずっと、ここで訓練を行っておりますが……我々はいつ、どこに向けて出撃するんでしょうか?」 リンゲは、内心ではまたかと思いつつも、おどけた表情で肩を竦めた。 「さあね。俺もわからんよ。」 「やはり、ですか………」 カズヒロは、不満顔でビールを飲む。 「太平洋戦線の第5艦隊は、近々シェルフィクル攻撃を行うらしいと言われています。それなのに、第3艦隊が後方で訓練ばっかり、というのは おかしいと思いませんか?」 ケンショウも、第3艦隊司令部のやり方を快く思っていないのか、苛立ちを含んだ口調で言い放つ。 「そもそも、自分達は充分に経験を積み、新型機の慣熟も既に終わっています。確かに、訓練は必要だとは思いますが……このまま待機が続くのも考え物ですよ。」 「そうです!太平洋戦線では、1隻でも多くの正規空母が必要だと言うのに……」 リンゲは、血気に逸る2人の少尉を見つめながら、クスリと笑った。 「……な、何かまずい事でも言ってしまいましたか?」 「ん?ああ、別にそうじゃないぞ、シマブクロ少尉。」 リンゲの反応に戸惑うカズヒロに対して、リンゲは片手を振りながら否定した。 「実を言うとね、うちの部下達も君と似たような事を何度も言うんだよ。出撃はまだですか?次はどこを攻撃するんですか?とね。俺も、出撃がいつで、 艦隊がどこに行くかは全く分からんから、余計な事を考えずに目の前の事に集中しろ!と、どやしつけるんだがね。」 「しかし、そろそろ上もハッキリしてくれんと困りますね。抑え役になるこっちの事も考えて欲しい物です。」 ガラハーが苦笑しながらリンゲに言って来る。 「その通りだな。まっ、いずれはここから動く時が来る。それだけは、ほぼ確実だろう。」 リンゲは、自分に言い聞かせるようにそう断言した。 「え~。それだと、ちょっと困るわねぇ。」 ふと、会話を聞いていたベネイシアが、やや困り顔で言って来た。 「うん?どうしてだい?」 「だって……せっかくの金ヅルが居なくなってしまうんですもの。」 「おいおいおい、そのストレート過ぎる表現はどうかと思うぞ?」 リンゲが、やや体を引かせながらベネイシアに言う。 「ああ、ごめんなさいね。つい、本音が。」 「本音かよ。」 カズヒロとケンショウが苦笑しながら突っ込んだ。 「あと……夜のお相手が減ってしまうのも、問題かなぁ。」 ベネイシアはそう言いながら、自らのボディラインを見せ付けるかのような扇情的なポーズを取る。 「おあいにく様、合衆国海軍は、夫さんのいるレディーはあまり好まないんでね。夜のお供は、いつもお付き合いしている彼で我慢してやってくれ。 でないと、本命さんの彼が泣いちまうぜ?」 リンゲの何気無い一言に、ベネイシアは顔を膨らませた。 「何よ!ケチ!!」 その一言に、4人は失笑を浮かべた。 平穏な一日はあっという間に過ぎ去り、4人はほろ酔い気分で母艦に戻って行った。 第3艦隊を覆い始めていたゆるい空気は、翌日、一変する事になるが、この時は、誰もが明日の予定を難無くこなす事ばかりに思いを馳せていた。 11月14日 午前9時 ジヴェスコルク沖北西20マイル地点 この日の早朝に出港した第38任務部隊第3任務群は、一路、進出予定点であるオレンジ点まで、18ノットの速力で航行を続けていた。 TG38.3旗艦である空母イントレピッドの艦橋では、群司令であるクリフトン・スプレイグ少将が司令官席に座ったまま、通信参謀から今しがた 入ったばかりの通信文を受け取り、それに目を通していた。 「………確かに、艦隊司令部から送られて来たのだな?」 「はい。」 通信参謀は即答しながら頷いた。 「宜しい。では、命令通りに動くとしよう。」 スプレイグ少将は、心中で遂に来たかと呟きつつ、口から命令を発した。 「各艦に伝達。針路変更!艦隊各艦は、針路360度に変針せよ!」 「針路変更、新針路360度。アイアイサー。」 命令は即座に全艦に伝わった。 TG38.3を構成する全艦は、統制の取れた動きで一斉に針路を変えて行く。 輪形陣の中央に位置するエセックス、イントレピッド、ボクサーが左に大きく転舵し、それに習うかのように、外周を固める巡洋戦艦アラスカ、 コンステレーション以下の護衛艦が艦の向きを変えて行く。 程無くして、針路の変更を終えた、大小35隻の艦艇は、18ノットの速度を保ったまま北へ向かって行った。 「宛 第38任務部隊第3任務群指揮官 発 第3艦隊司令部 TG38.3は、全艦をもってダッチハーバーへ急行せよ。尚、TG38.1, TG38.2は、明後日以内に出港する見込みなり」
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/776.html
前へ あれは、他の中学校に行って試合をしたときのこと。 そこの中学は、とても荒れているということで知られている中学校だったんだ。 案の定、僕の相対した相手の選手はいかにもって感じの荒っぽい選手で、プレーもラフプレーの連続だった。 1年生で試合に出た僕を相手に、上級生のこの相手は審判の目を盗んでひたすら削ってくる。 そんな相手選手の挑発に、僕はイライラをつのらせていた。 削られて、そのたび削り返して、そのことだけに気を取られて、試合の流れが見えなくなっていた。 そんな僕は前半終了と同時に交代させられた。 そして、監督の先生にはかなり怒られた。 チームプレーに集中出来ないような奴は、当然交代させる。そんな、気持ちが弱い奴は使わないと。 反省してろ、と言われて後半の間ずっとグラウンドの外周を走っているように言われた。 相手に気持ちで負けないようにしたんだけどな。 なのに、気持ちが弱い奴は使わないって言われてしまった。難しいな・・・ そんなことを考えながらずっと走っていたら、その相手の選手に出会ってしまったんだ。 さっきの試合で僕とマッチアップした選手。 今ここにいるということは、こいつも途中交代させられたんだな。 見るからにガラの悪そうなその生徒。 うわー、露骨にガン飛ばしてきてるし。勘弁してくれ。 何だっていうんだよ、まだ挑発してくる気なのか。しつこいな。 こいつも途中交代とかさせられて収まりがつかなかったのかもしれないが、僕に絡んでくるのはそれは筋違いじゃないのか。 でもどうやら、間違いなく僕にからんでこようとしているらしい。そんな態度が見え見えだ。 そして、聞きたくないような言葉が僕の耳に入ってきた。 「おい坊主、ちょっと相手してくれよ」 どうやら本格的に僕にからんできたようだ。ケンカを売ってこようとしているんだろうな、やっぱり。 面と向かってそんな事言われて、露骨に無視するわけにもいかず立ち止まってしまった。 どうやってこの場をやり過ごすのがいいのか考え込んでしまう。 でも、ここはハッキリさせておいたほうがいいのかな・・・ だって、考えてみれば逆だろ? 僕がこいつに立腹してもおかしくない状況じゃないか。お前のせいで僕のデビュー戦は台無しになったのだ。 「なに睨んできてんだよ? 1年坊が。やろうってのか?かかってこいよ」 そうやって僕が挑発を受けているところに、たまたまこの学校の生徒が通りがかった。 それは、2人連れの女子生徒だった。 彼女たちは僕らの間に流れている不穏な空気を感じ取ったのか、それまでしていたお喋りをやめて立ち止まってしまった。 そして僕らのことをじっと見たかと思うと、片方の女子が目の前の男子に声を掛けてきた。 「何やってるんだよ」 咎めるような低い声。 「お前には関係ないだろ、村上」 そう言われた彼女の表情がみるみるうちに険しくなる。 その険しい顔をいったん和らげて、隣にいるもう一人の女子に向かって彼女が言った。 「みや、ちょっと先に行っててくれる?」 「うん、わかっためぐ」 みやと呼ばれた女生徒は、この空気にも全く動じていない様子で鼻歌混じりに歩いて行ってしまった。 この緊張感漂う現場に友達を一人残すことに何の不安も感じないんだろうか、この“みや”さんとやらは。 振り返りもせずに行ってしまった彼女を見て、冷たい人なのかな、なんて思った。見た目からしてそんな感じの人っぽいし。 そんな、僕には関係ないことを考えつつ、目の前のこの女子生徒に改めて注目した。 村上、と呼ばれていたこの女子生徒。 うっわー・・・ 見るからに怖そうな女子だな。 しかも、いかにも悪そうなこの男子を見ても全く怯んだ様子も無いその態度。相当ケンカ慣れしてるんだろうな。 さすが荒れてる中学校だ。生徒からして怖すぎる。 僕と対峙していた男子の様子を見ると、どうやらこの彼女は一目置かれている存在のようだ。 面倒な人間に見つかった、というような感じでこの男子は村上さんとやらを見ている。 「他の学校のカタギの生徒に絡んだりするなよ。みっともない」 彼女にそう言い放たれた男子は、言い返すことができず固まってしまっている。 そして露骨に舌打ちをして、一回僕を睨みつけた。 「ツイてるな、お前」 ・・・何なんだよ、このおっかない空気は。 こんなやりとりはヤクザ映画の中でしか見たことがないような光景だ。 ここ、中学校、だよね。 本当に荒れてるんだな、この学校は。 男子が踵を返して行ってしまうと、僕の前にはこの怖そうな女子だけが残った。 気が強そうな人だなあ。普通の女の子とは、もう目付きからして違うもん。 こんな目力を持つ女の子を見るのは、小学校のときに一緒だったあの人以来だ。 戦争映画で見たことのある鬼軍曹のようなその雰囲気。 とても恐ろしくて、僕もさっさとここから立ち去りたい思いで一杯だった。 でも、どうやら僕は彼女に助けられたみたいなのだ。 だから、彼女に声をかけた。思わずか細い声になってしまったけど。 「あの、あ、ありがとうございました」 ギロリと睥睨される。 こ、怖い。マジで。 「あんたもさー、やりかえしなよ、男ならさー」 この人は見た目通りの直情的な人なんだろう。 僕のためにそこまで言ってくれてるんだろう。それは分かります。 しかし、男には我慢しなきゃならない時もあるんです。 だって、そんなことしたら部活動が僕個人どころか学校ごと出場停止処分になってしまいますから。 でも、さっきは試合直後のまだ興奮状態で、僕も頭に血が上りかけていたから。 彼女が仲裁に入ってくれなければどうなるか分からないところだった。 あなたが来てくれて助かりました。本当にありがとうございます。 「ま、いろいろ事情があるんだろうけど」 黙り込んだ僕の心中を察してくれたのだろうか、そう言った彼女の口角が軽く上がった。 「じゃあね」 去っていく後ろ姿のカッコいいこと。 そんなに背も高くないのに、その後ろ姿は力強くとても堂々としていた。 僕の窮地をを助けてくれた彼女のその強さが印象的だった。 もともと僕は強い女の子に心を引かれる傾向がある。 だから、思いがけず出会ったこの彼女に、僕はすっかり引き付けられたわけで。 でも、その後当然ながら彼女には再び会うこともなかった。 あのとき僕が抱いた感情がどのようなものだったのか、もう今ではそれも思い出せない。 彼女が何て呼ばれていたのか、その名前もすっかり忘れてしまった。 もう何年も前のある日の出来事。 そんな思い出に浸っていた。 語り終わって遠い目をしている僕に、つばさ君が言った。 「なげーよ!バーカ!!」 うんざりとした顔のつばさ君が更に畳み掛けてくる。 「大体その話し、最初の試合のところ以外の描写は全く必要無いだろ!関係ない話しを延々としやがって!!」 細かいやつだな。誰のために僕が今の話しをしてあげたと思ってるんだ。 でも確かに、伝えようとしたサッカーの話しからは逸脱してしまっていた。若干ちょっと反省する。 そんな、今はもう僕のことを完全に小馬鹿にした表情で見ているつばさ君。 憎たらしい顔だ。本当に。 でも、減らず口を閉じたとき、そのお顔はやっぱりとてもかわいらしい顔になるのだ。 分かっていても、その愛くるしい顔には騙されてしまう。 持って生まれたものとはいえ、凄い武器になるじゃないか、それは。 果たして本人がそれを自覚しているのかは知らないけど、 こいつ、とんでもない男なのかも。 そんな思いを僕が抱いているところ、不意に女性の声が耳に入ってきた。 僕の耳に入ってきたその彼女の言葉。 「空翼お坊ちゃま、お一人でこんなところに来ているんですか」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/2563.html
突然だが、俺は按摩屋を営んでいる。本意不本意に関わらずだ。 つまりは――そういう事である。察して欲しい。 幻想郷とかいう訳の分からん世界に飛ばされた時はどうなるかと思ったが……。まぁ、俺のような障碍者が手に職を持っていられるだけ幸せなのだと思っておこう。 勿論、外の世界では按摩以外の仕事をしていた。俄仕込みの素人芸に客なぞ着くのか、と当初は不安を抱いていたものだが、幸いにして客は多かった。常連になぞなってくれる輩まで出る始末だ。繁盛大いに結構。 何? その割には随分と不満げじゃないか、だって? いやいやいや! これでも感謝してるんだ。最初に言ったろう? 手に職を持ち糊口を凌げるだけでも幸運だって。 そりゃぁ不満が無いと言ったら嘘になる。 ……金を貰ってる立場でこういうのも何だが、俺の持つ不満ってのは客に由来するんだよ。 別に口うるさい爺様だとか、お喋りな婆さんだとかじゃぁない。皆若い女性さ。……見た目だけはな。 そう。俺の客の大半は、人外の化物なんだよ。 チリンチリン――。 来客の有無が解るよう取り付けた、扉の鈴が軽やかな音を鳴らした。 「いらっしゃい」 俺は愛想の良い笑みを浮かべ先んじて声を掛ける。会話を交える事によって、相手が何者か判断する為だ。 しかし今回の来客は、声を聞かずとも誰だかの判断はついた。 咽る程に濃い花の薫りを纏った――風見幽香だ。 「こんにちは。今日もよろしくね」 今の幽香を、彼女を知る者が見たら「あの幽香が!」と驚く事だろう。 人妖問わずに畏れられている彼女が、裏表の全く無い、花綻ぶ笑みを浮かべているのだから。 満面の笑みというヤツだろう。まぁ普段からして風見幽香は笑顔な事が多いが。それはもっぱら威嚇だったら威圧だったりする訳で、決して今のように好意を表すものではなかった。 そんな笑顔であっても彼にとってはさしたる意味は持たない。何せ盲人であるからして。 兎にも角にも。風見幽香は常連の一人であった。 彼女は男の指示も待たず、手慣れた様子で靴を脱ぎ、部屋の中央の敷き布団に俯せる。 彼もそれが分かっているので咎める様な野暮はせず、幽香の横に膝立ちとなった。 「今日も腰の方を?」 「えぇ。土いじりをしているとどうしてもね、中腰の姿勢が多くなっちゃって」 念のための短い会話を交わし、早速○○は幽香の腰に手を添える。 「ん、あっ……」 柔肌に男の指がめり込む。まずは腰全体を優しく揉み解し、その際に見つけた、肉の凝り固まった箇所へぐいと力を入れる。 「痛いですか?」 「あっ、はぁ~。ん、もっと強くてもいいぐらいだわ……」 幽香の要望に答え、更に力を込める。女の、折れそうな程に細い腰に深く指がめり込んでゆく。 ……聞くところによると、風見幽香とは大変凶暴な妖怪だという。そして、大層な美女でもあると。 尤も、そのどちらも○○の興味を惹く事象では無かった。彼女が客として来ている限り己は客として接するだけだし、如何なる美醜も自分にとっては、関係ないのだから。その凶刃が自分へと向いた時はその限りではないが。 そんな無関心さが幽香にとって――いんや彼女に限った事ではないが――心地良かった。 言い換えれば、○○は幻想郷の少女らが持つ背景では決して差別をしない。畏れるでも媚びるでもなくただ淡々と接するのだった。それも突き放す様にではなく、優しく。 ――それが顧客と主人という関係であっても、少女らにとって此れほど嬉しい事は無かった。 「んんんっ……! あっあっ、そう、そこよ……! もっと、もっと揉んで頂戴っ……!」 「……分かりました」 ――参った。 ○○は額に汗を浮かべながらそんな事を思った。 按摩とは意外と体力仕事である。その疲労が面に現れたのだろうか? 確かに、それもあるだろうが。彼の顔面を這う、脂汗はそれだけでは無かった。 ○○にとって美醜は物事の物差し足り得ない。ならば彼は、常人に比べ人一倍に臭気というものに敏感であった。 花妖たる幽香の体臭は、按摩を続ける毎に益々強くなる一方であった。 幽香もまた、ふぅふぅと息を荒げ汗を発していたのだ。好いた男の指が己の身体を這う、興奮に依ってである。 目眩を起こしそうな程に濃い臭気に当てられ、○○は己の思考が霞がかってゆくのを感じた。 これではいかんとばかりに頭を振るも、追い打ちを掛けるかの様に、コレだ。 「あっあっ! いいわっ! ○○、気持ちイイっ!」 最早嬌声と呼んでも差し支えない、幽香の喘ぎ声。 嗅覚と聴覚。○○が頼りにしている五感の内二つの、その大部分が風見幽香という女で占められてゆく。 (……そろそろかしら?) ○○の頭が振り子を描き始めたのを見計らい幽香はのそりと、気怠げに身体を起こす。 「ねぇ、○○?」 幽香は鼻先ばぶつかりそうな程に顔を近付け、男の名を愛おしげに呼ぶ。 そんな状態であるにも関わらず、聞こえているのかいないのか、男はただ虚ろな瞳を返すだけだった。 それを確認して幽香は、凶暴と称される笑みを浮かべた。 「あぁっ、○○! だらしのない人! ダメじゃないの○○! こんな簡単に隙をみせちゃあっ。相手が私じゃなきゃ大変な事になってたわよ!」 そう、声高に叫び女は男の唇へ貪りつく。 譫言の様に男の名前を繰り返し、互いの舌を絡ませ粘液を交換する様は男女の情事に他ならなかった。 そうして一頻り男の味を堪能した女は身体を離す。 満足したのだろうか? いや、満足どころか幽香の胸に灯った情欲は益々盛んに燃え上がっていた。 幽香はぬらぬらとナニかに煌めく下着を脱ぎ捨て、己の女を○○の前に曝け出す。 「来て、○○……っ!」 そして男は妖花に誘われ、パクリと食われるのであった。 「――っ。○○っ!」 己が名前を呼ばれ男は覚醒した。 「もうっ。ぼーっとしてないでちゃんと揉んで頂戴な。ちゃんと支払った分はきちんと揉んで貰いますからねっ」 「あ、あぁ。すまない」 幽香の指摘に応えるものの、その返事は何処か上の空である事は否めない。 ○○は今一度頭を振り、頭の靄を飛ばす。 不思議な事に幽香の臭気――正しく色香とも呼ぶべきもの――は、すっかりと鳴りを潜めていた。 男は按摩を再開する。 「ふぁ~……。気持ちいいわぁ……」 男の指の動きに合わせ、ゴロゴロと喉を鳴らす幽香。 ……何もおかしいところは無い。何も。 そうしてちゃっかり、男が呆けていた分は上乗せされた時間を按摩させられた。 「今日も良かったわ。ありがとう」 帰り際、幽香が労をねぎらってきた。 他人への関心が薄い○○でも、悪い気はしない。 そうして幽香は帰路へつき、その背中に常套句を投げかける。「またのお越しをお待ちしております」と。 それで今日の仕事は終わる筈だった。 「そうそう。アナタ目が見えないから仕方ないのかもしれないけど、部屋に飾り気が無さ過ぎよ」 しかし幽香は珍しくもそんな事を口にしてきた。 予想外の話しに○○が答えあぐねていると、幽香は気にせず続ける。 「だから――ほら。こんなものを持ってきたのだけど」 その言葉と共にふわりと、○○の鼻腔を微かに甘い薫りがくすぐった。 幽香は男の返事も聞かず、取り出したる一輪の花を玄関に飾った。 「これで少しは見れるようになったわね」 ○○には一体何の花なのか皆目検討も付かないが、飾られたる花の名はイカリソウ。 「その花、私だと思って大事に育てなさいよ」 口を挟む間もなく、次々と勝手を云う幽香に対し文句の一つでも言ってやろうとするも、それよりも早く幽香が口を開く。 「それじゃぁね○○。また来るわ」 云うやいなや、彼女はさっさと踵を返してしまった。 ○○の不満は吐き所が失われてしまい、結局腑に落とし込む他無かった。 部屋へ戻った○○の、鼻先をくすぐる薫りにふと、気づいた事があった。 この薫りは、幽香から漂っていた香りと同じものだと。
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/2103.html
声が聞こえた方角へと泣き顔を向ければ一歩、また一歩と砂利を踏みしめる足音が懐かしい気配を伴って近づいてくる。 ――まさか……いや、そんなはずはない 胸中に生じた希望を押し潰さんと膨れ上がる理性。 ――だってアイツは……致命傷を負って、ジグラットの崩壊に巻き込まれて…… 愛していると自分に告げて、息絶えたはず。だとしたら今自分の耳朶を掠めた声はなんだ? 誰のものだ? 矢継ぎ早に脳裏を飛び交う憶測。それら全てを整理する暇を与えないかのように、陽性を孕んだ声と足音の主は着々と距離を詰める。 そして、 「よぉ。何時間ぶりだ?」 暗がりから迫る来訪者が月明かりの下に、その姿を曝け出した。 淡く儚げな月光に照らし出されたのは、もう二度と目にすることが叶わないと思っていた快活な笑顔。自らの頭上に広がる夜天と同色の髪と瞳。 弾痕が刻まれた上に赤黒く変色した血液がこびり付き、衣服として使い物にならない域にまで変貌を遂げた上着とシャツ。 一張羅を台無しにされたことへの憤りからか、顔を顰める満身創痍の男が頭に手を添えた。 その腕、指の動き。余りにも見慣れた仕草にラルは息を呑んだ。 ラル「おれ……なのか?」 俺「あぁ。俺だけど?」 出血によって青白みが掛かる痩せこけた頬が笑みで歪む。 けれども、その微笑みは明らかに生者のみが持つことを許された温もりを帯びていた。 口許に生じる皺と、それに伴って生み落とされる小さな影。肉体を持たぬ亡霊ならば決して作り出すことの出来ない変化だ。 ラル「本当に……本当に俺、なのか?」 俺「当たり前だろう。こうして生きてるし……足だってちゃんとついてるだろう?」 質問の意図が掴めなかったのか、怪訝そうな表情を作った俺がブーツの踵を砂利の上に軽くぶつけてみせる。 それはかつて彼がペテルブルグ基地に配属となった日、自分とロスマンの前で行ったものと同じ挙措。 扶桑皇国陸軍の公式記録では戦死者として処理されていることに疑問を抱き、訝しげな眼差しを注ぐ自分と彼女に生きた人間であると証明するために見せた動作だった。 ラル「あ……あぁ……あぁぁあ……!!」 ブーツの底部が立てる音は自身の口から漏れ出す震えた声によって掻き消されていた。 疑問が確信に変わると同時に、つい今しがたとは比べ物にならないほどに視界が歪む。 しかし、込み上げて来る涙の量とは裏腹に胸の奥を満たしたのは歓喜の熱。 切なさと寂しさによって凍てついた心が温かく、そして優しく溶け崩れる感覚が胸裏に拡散していく。 俺「ラル?」 ラル「あぁ……おれ。おれぇ……おれぇぇぇぇぇぇ!!!!」 自分の名が呼ばれた瞬間、ラルは俺に向かって駆け出していた。 一気に距離を詰めるなり目を白黒させる男の首に両の腕を回して抱きしめる。 ラル「おれぇ! お、おれっ! えぐっ……っく……おれぇぇぇ!!! この温もり、この逞しさ。間違いない。 二度と離さない、離すものか。未来永劫、この男は私だけのものだ。 俺「ら、ラル!?」 頭上から降り注ぐのは狼狽した声色。 突然の抱擁に理解が追いついていないのか、抱きとめることも引き離すことも儘ならないのを良いことに拘束する力を更に強めた。 ラル「本当に、俺なんだな!? 幽霊じゃなくて……本当に、おれ……なんだな!?」 俺「…………あぁ、俺だよ。ちゃんと生きてる。ごめんな……心配かけさせて」 嗚咽に遮られながらも懸命に言葉を紡ぎ終えると頭頂部と背中に温もりを帯びた手が回される。 あたかも子供をあやすような優しげな手つきに胸の奥底に溜め込まれていた諸々の感情が一斉に暴発を引き起こした。 ラル「本当だ! この馬鹿!! みんながっ……私がっ! どれ、だけ! 心配したと思っている!!」 幼子のように涙に濡れた顔を胸元に摺り寄せ、片方の手で煤と血で汚れたシャツを握り、空いたもう片方の手で咎めるかの如く胸板を叩く。 俺「……ごめんよ」 シャツを濡らす涙の生温かさ、胸板を叩く拳の感覚。 胸中に突き刺さる悲痛な泣き声に胸元を通して全身へと伝わる震え。 それら全てを一手に受け止め、俺は嗚咽が交じる少女の非難を一言一句聞き逃すことなく、無言で耳を傾ける。 ラル「それだけじゃない! 自分だけ言いたいことを言って……私の返事も聞かずに……えぐっ…………ひっく……か、勝手にいなくなってぇ!!」 俺「……いや、それは……その、だな」 ラル「死んだかと思ったんだぞ……!!」 俺「……あぁ」 ラル「もう、会えないかと思ったんだぞ……!!」 俺「ごめん……」 謝罪と共に自身の頭を撫でる大きな手の平。 その心地よさに、このまま、いつまでも身を預けていたい安寧を断腸の思いで振り払い、一歩後ろへ。 今しかない、この機を逃すな。胸裏で囁くもう一人の己に従い、ラルは意を決する。 そうとも、つい先ほどまで自分はこの機会を欲していたではないか。身を任せるのは何も想いを伝えたあとでも遅くはない。 呼吸を整え、細指で目尻に浮かんだ涙を拭い、 ラル「本当にすまないと思っているなら……私からの返事も聞いて、くれるな?」 無言で頷く俺の表情を捉え、生唾を飲み込んだ。 あえて胸の高鳴りに逆らわず、奥底の情熱を更に燃え上がらせるかの如く深呼吸を繰り返す。 唇まで奪っておいて何をいまさら緊張しているのか。頬に込み上げて来る熱の存在を感じながらも脳裏を掠めていく言葉を受け流し、 「好きだ。おまえのことが……好きなんだ。仲間としてじゃなく、異性として。」 思いの丈を口にした瞬間、頬を覆う熱が一瞬で灼熱へと変化した。 彼を意識し始めたのは随分と前のこと。それも彼がブリタニアの第501統合戦闘航空団へ派遣されるよりも。 サウナで偶然鉢合わせとなり、ガランドから送られた書類に記載されていない彼個人としての来歴を聞かされた時から。 けれども異性として気になり始めたのは風邪をこじらせ、病床に伏したあの日からだろう。 傷痕が残るこの身体を綺麗だと言ってくれた。傷を気にするのは人として当然だとも言ってくれた。 赤の他人から見れば淡白な切欠と言われるかもしれない。それでも彼の言葉で自分は救われたのだ。唯一のわだかまりを包み込み、受け止めて、前を向いて歩くことが出来たのだ。 ラル「正直に言うとな。初めはこの気持ちが何なのか……分からなかったんだ」 それ以来何故、俺のことばかりを目で追いかけてしまっているのか。何故、彼が他の娘たちと仲良く談笑する場面に出くわす度に胸が痛んだのか。 自分の感情に気付くことが出来ず、ただ胸に悩みを抱えた日々が続くなか、クルピンスキーに発破を掛けられる形で俺への想いが恋心なのだと自覚した。 ラル「あぁ……好き、なんだ。私もお前が好きなんだ!! だからっ! もうどこにも行くな! 私を……一人にしないでくれ!!」 誰にも渡したくない。私だけの俺でいて欲しい。 そして……いつまでも、自分の傍にいて欲しい。 口にするたび、強まっていく恋慕はいつしか煮詰まった独占欲へと変化していき少女の身体を再び抱擁へと突き動かす。 一世一代の告白劇が幕を閉じ暫しの間、続く沈黙。そして、返事の代わりに伸ばされた両腕が彼女の身体を包み込んだ。 俺「本当に……両想い、だったのか」 夜陰に溶ける、あっけに取られたかのような声音が頭上から零れ落ちてきた。 気の抜けた声色に混ざるのは純粋な驚愕の念。 ラル「……いまさら、気付いたのか? 唇まで奪ったんだぞ?」 信じられないとでも言いたげな口調にラルの柳眉が吊り上る。 唇まで奪った。作戦が終われば話したいことがあるとも伝えた。にも拘わらず俺は自分の好意に対して半信半疑だったのである。 これまで明確に好きだと伝えなかった自分にも非はあるが、いくらなんでも鈍感すぎはしないか。やや冷めた眼差しを注ぐと咳払いをした俺が目つきを変える。 俺「だけど……良いのか? 俺が何してきたか知らないお前でもないだろう」 過去、そして裏で行う汚れ仕事を俺は包み隠さず彼女に告白した。 人から見れば自分が歩んできた道はさぞ許されざるものだろう。他者を殺めることで他者を守る矛盾に満ちた道を走る己が誰かの傍にいても良いのかと考えた時期もあった。 だがそれは積み重ねてきた行為に耐え切れないだとか、罪の意識といった感情からくる考えではない。 ただ自分が傍にいることで愛した者の経歴に泥を塗ってしまうのではないかという思いから生じたものであり、駆け抜けてきた道への後悔は微塵も無い。 ラル「……たしかにお前のやって来たことは、後ろ指を指されることかもしれないな」 無論、ラルとて殺人そのものを肯定するつもりはない。 けれども彼が裏で動いていたことで救われた命があったことも揺らぎようのない事実。 手段はどうあれ、自分たちウィッチの為に影で尽力してきた彼を突き放す考えをどうしても抱けなかった。 ラル「それでも。好きなんだよ……好きになったんだよ……」 それともこれが惚れた弱みというものだろうか。 鍛え上げられた体躯に頬を摺り寄せ、胸の奥底を焦がす感情に見当をつける。 俺「良いんだな?」 ラル「あぁ。お前が誰であれ、何であれ。私は一生お前と添い遂げるよ」 俺に、そして自分自身に対しても誓いの言葉を口にする。 迷わない、迷うものか。 彼を愛することで背負うものが増えたとしても、この愛を命尽き果てる瞬間まで貫き通す。 俺「後悔しないな?」 ラル「くどいぞ」 青の双眸に宿る硬質な決意の光。 鮮烈な輝きを放つ眼光を前に俺はこれ以上の言及を避けた。その光から彼女が如何に自分を愛しているのかを察することができたから。 次第に胸中を満たす幸福感に目頭が熱くなるのを感じながら口許を緩めた。 俺「…………ありがとう。俺も……おまえのこと、愛してるよ」 腰を屈め、愛しい女の両頬に手を添える。 彼女との口付けはこれで二度目になるが面と向かって、それも想いを通じ合わせ、恋人同士となってからは初めてだ。 それまで時計の如く正確なリズムを刻んでいた心臓の鼓動が一転して、激しいものへと変わっていく。 意図を察したのか小さく頷き、身を委ねるように瞼を閉じた少女の唇に自分のそれを近づける。 吐き出す息が互いの顔を撫でるほどに縮まる距離とは裏腹に俺は自身の唇がラルのそれに触れ合うまでの時間がやけに長く感じた。 まるで時間の流れが鈍くなったかのような感覚に気が狂いそうになる。 俺「っ!?」 そんな俺の考えを見透かしたかのように顔を近づけ始めるラル。彼女もまた同じ感情を抱いていたのだろう。白い頬に差し込む桃色は自分から唇を近づけることに対する羞恥心の表れのようにも見て取れる。 少しずつ、着実に近づく二人の唇。 時の流れが鈍くなった世界のなかで、ついに引き裂かれていた心は重なり合った。 俺「どう……だ?」 ラル「好きな男に唇を捧げることが出来るのはこんなにも、幸せな気持ちに……なれるんだな……」 ゆっくりと唇を離せば、目の前には大粒の涙を零す愛しい女性の笑顔があった。 白く端整な頬を濡らす透明の雫に手を伸ばし、指先で丁寧に拭う俺もまた言葉では言い表せないほどの充足感に全身を満たされる感覚を覚えていた。 大切な人と結ばれるというのは、こんなにも幸せなことだったとは。 ラル「おれ……」 俺「うん?」 ラル「その。も、もっと……良いか?」 気恥ずかしそうに身を捩る愛しい女性。 自ら口付けをねだることに恥じらいを感じているのか瞼は切なげに伏せられており、日頃見せない、しおらしい表情が一層胸を高鳴らせる。 軍人としてでも、魔女としてでもない。一人の少女へと姿を変えた思い人の赤らんだ容貌に、俺は再び唇を近づけた。 晴れて想いを通じ合わせ、恋人同士となったラルと俺の二人は何か喋るわけでもなく、ただ黙々と臨時宿舎である教会へと歩を進めていた。未練がないといえば嘘になる。 引き裂かれていた分、味わった悲しみの分だけ二人だけの逢瀬を楽しみたかったが、現在の状況からそんな悠長なことを言っていられる暇はない。 後ろ髪を引かれる思いを味わいつつ、ひたすらに宿舎への帰路を辿る最中、ラルの脳裏にとある疑問が浮かび上がった。 ラル「なぁ。お前はどうやってあの後生き延びたんだ?」 直接姿を目にしていなくとも、俺が瀕死の重傷を負ったということは先の通信や彼が羽織る血まみれのシャツに刻まれた弾痕から見ても容易に察しがつく。 崩壊するジグラットのなか、彼はどうやって生き延びたのだろうか。 彼の話によれば崩れ落ちたジグラットの破片が、その下水道へと通じる穴を作り出し、俺は最後の力を振り絞って穴へと身を投げたらしい。たしかにこの廃棄都市の真下には都市全域を走るほどの大規模な下水道が存在している。 崩壊するジグラットの内部にいるよりかは、下水道に逃げ込んだ方がまだ生存率は高い。 ラル「だとしたら……どうやって傷を癒した?」 隣を歩く俺へと視線を向ければ弾痕は右肺と脇腹、それに左膝にまで刻まれている。 決して自分の前まで身体を引きずっていけるような軽い負傷ではない。 俺「それなんだけど……どこかで俺の仲間を見かけなかったか?」 ラル「仲間?」 俺「あぁ。扶桑人で……何ていうか、こう。小さい子なんだけど」 問いかけにラルは俺と再会する前に出会った少女の存在を思い出した。 扶桑人、女の子、小さい背。間違いなくあの少女である。 俺「そうか……あいつ行っちまったか」 声をかけた途端に姿を消したことを告げると俺は少し名残惜しそうな表情を浮かべた。 ラル「一瞬で姿が消えたんだが……あれはどういう仕掛けなんだ?」 俺「あいつの固有魔法は確か……護符で囲った空間を自在に改変する能力だったかな。手に持っていたり、地面に貼ってたりしただろう? 大方どこかに通じる“道”でも作ったんだろうよ」 言ってしまえば、限定的ではあるものの世界に干渉し作り変える能力。 護符で囲い込んだ空間をこの世の理から弾き飛ばす異能。それは既に魔女として、いや人としての領域を遥に逸脱した術理であった。他にも囲んだ空間に巨大な稲妻の柱を創り上げることで標的を撃滅するなどと、俺の話を聞く限りだと少女の固有魔法は応用性に富んでいるらしい。 俺「ラルの前から一瞬で姿を消したのも、俺の傷を治したのも固有魔法の副産物に過ぎないよ」 ラル「そうだったのか。感謝しないとな」 俺「あぁ。間違いなくあいつのおかげで俺は生きて……その」 ラル「?」 俺「好きな人と……こうして歩いていられるんだからな」 ラル「っ! そ、そうか……」 頬を赤らめ、俯くラル。 このまま歩けば宿舎に着き、二人だけの蜜時が終わってしまう。立場上それは仕方のないことだが、せめてもう少し彼女の温もりを、優しさを感じていたい。 そんなことを考えていると、自然と手が彼女のそれを握っていた。 ラル「お、おれ!?」 俺「いや、ほら。もう俺たちは……恋人、なんだろう? だったら手くらい繋いでも良いんじゃないか? ラル「それは……そうだな」 歯切れの悪い俺の言葉にラルはぎこちない動作で頷いた。 繋いだ手を通して伝わってくるのは体温や感触だけではない。彼の自分を想う愛情が伝播してきているような感覚を覚え、握る力が強まっていく。 ただ手を繋いでいるだけなのに、どうしてこんなにも気が安らぐのだろうか。 俺「あとさ。いい忘れてたことがあった」 ラル「どうした?」 俺「これからもよろしくな。グンドュラ」 ――とくん 愛しい男に名を呼ばれた瞬間、ラルは自身の胸が温かなものに包まれた感覚を覚えた。 どうして、この男はこんなにも自分を優しく包み込んでくれるのか。 ラル「あぁ。私の方こそ……よろしく頼むよ」 不意に、耳に届く足音にサーシャはそれまで床に落としていた視線を宿舎の出入り口に向けた。 見渡せば他の隊員たちも気が付いたのか一様に固唾を飲んで来訪者を待ち受ける。 砂利を踏みしめる足音は二つ。池に小石を投じたかのように教会内に緊張が走った。 期待と不安を瞳に同居させる彼女たちの眼差しの先に、独りで教会を出たラルが姿を見せる。 赤らんだ双眸と灯りによって見え隠れする涙の痕の二つから彼女が人知れず涙を流していたことを垣間見たサーシャは次の瞬間、言葉を失った。 ラル「ほら。いい加減出て来たらどうだ」 言いながらラルが入り口の影に腕を伸ばし、その細い腕に何かを掴んだかのような震えが走った。 そして力を込めて影に隠れる人物をブレイブウィッチーズの前に引きずり出した。 定子「あ……」 と、呟いたのは定子だった。黒い瞳に浮かび上がる透明な雫。 片手で口許を覆い、隣でぼろぼろと大粒の涙を零すジョゼを抱き寄せる。 管野「この。ばかやろう……!!」 泣き声だけは決してあげない。 この男の前で情けない姿も弱さも見せないと胸に決め込んでいた管野が頬を引き攣らせ、唇を吊り上げた。 ニパ「遅いよ! どこ、行ってたんだよぉ! ばかぁぁぁ!!!」 泣き笑いのような表情を作る管野の隣でニパがしゃくり声をあげる。 白く決め細やかな頬は緊迫感から解放されたことでだらし無く緩んでいるが、今この場でそれを咎める者はいなかった。 クルピンスキー「やっぱり生きてたね。ほら先生、僕の言った通り……って泣いているのかい?」 子供をあやすかのように頭に置かれたクルピンスキーの手を振り払うロスマン。 露骨に涙を零す定子たちほどではないにしても彼女の双眸は明らかに潤んだ光沢を帯びていた。 かといってクルピンスキーほど落ち着いてはいない。 サーシャ「おかえりなさい!!」 目尻を拭うサーシャがやんわりと微笑んだ。 雨粒を受けてなおも咲き誇る花のような微笑に現れた男の頬も自然と綻んでいった。 ラル「ほら。こんなに心配かけたんだ。何か言うことがあるんじゃないか?」 肘で小突かれた男は何と切り出せば良いか分からず、暫くの間口ごもり、 俺「……なんだ。その……心配かけて悪かった」 「そんで、ただいま」 いつも通りの笑みを浮かべた。 続く Wikiの容量オーバーを受けてしまったため、前後編に分割 次回でラル√最終話。 最終話のはずなんだけど本編でイチャイチャしてない気がするのは不味いと感じる今日この頃
https://w.atwiki.jp/steffi_0922/pages/484.html
久々に見に来ました^^ -- (しゃあ) 2009-03-20 19 34 21