約 1,001,254 件
https://w.atwiki.jp/anchorlegendscenario/pages/310.html
ひとこと 最近は補足として内容を追加し、GMのシステム面をほんわかとサポートできていたら良いなと思っています。 作成シナリオ一覧 回 シナリオ シナリオ 65 【シノビガミ】おいでよ幻獣ランド byえめる 64 【DX3rd】廃工場の怪物 byえめる 62 【サタスペ】ウルトラ警備隊24時 byえめる 61 【COC】コトリバコ byえめる 60 【サタスペ】彼らの名はシーランド byえめる 56 【BBT】織姫と彦星 byえめる 54 【COC】女王の卵 byえめる 53 【シノビガミ】スパッツだから恥ずかしくないもん byえめる 51 【シノビガミ】絶対領域それは見えそうで見えないチラリズムの完成形 byえめる E2 【DX3rd】パチモン大行進 byえめる 48 【COC】俺たち伝説ナイン byえめる 47 【COC】ハウス オブ ザ デッド byえめる 46 【COC】リミットブレイク byえめる 45 【ARA2E】決戦ブラックスミスコンテスト byえめる 44 【ARA2E】スイスぺ 川谷真探険隊 byえめる 43 【ARA2E】ハムレットの悲劇 byえめる 42 【ARA2E】妖精村の聖なる夜 byえめる 39 【ARA2E】バートルの小さな幻想 byえめる 38 【DX3rd】俺が、俺たちが! byえめる 36 【ARA2E】クインテッセンスを求めて byえめる 35 【CoC】サイレントヒル byえめる 34 【COC】謎の集団ポンキッキーズ byえめる 33 【DX3rd】誰が為にシンバルが鳴る byえめる 32 【ARA2E】伝説の宝剣? byえめる 【COC】冒涜的な伝承者 byえめる 31 【COC】希望と絶望 byえめる 30 【DX3rd】女神VS女神 byえめる 29 【DX3rd】久遠の落日 byえめる 27 【サタスペ】昨日までの君にさようなら byえめる 26 【DX3rd】今日は風が騒がしいな byえめる 25 【キルビジ】黄金の魂を持つ男 byえめる 24 【DX3rd】さらば相棒 byえめる 23 【DX3rd】紫色の世界 byえめる 21 【サタスペ】二人の孫娘 byえめる 20 【指定なし】百人一首 byえめる 19 【COC比叡山炎上】もっともっとたべたい byえめる 18 【サタスペ】幸運VS幸運 byえめる 17 【サタスペ】無修正の国技SUMOU byえめる 15 【サタスペ】フルコンボだドン byえめる 13 【CoC】死者の町 byえめる 12 【CoC】猿夢 byえめる 11 【サタスペ】グッドナイト大阪 byエメル 10 【CoC】元旦の卵 byえめる 9 【サタスペ】居祖乃家の呼び声 byえめる
https://w.atwiki.jp/maid_kikaku/pages/1109.html
(投稿者 Cet) 「リゥチン」 「はいお嬢さま、いかがなさいました?」 少女が少年に話しかける。 黄色人の少年はエントリヒ語で書かれた子供用おもちゃのパンフレットを手に、絨毯の上に座り込んでいた。広い部屋で、子供専用の応接間といった風情だ。 「あのね、ラシェルのことなんだけど」 黒檀のように黒い髪をおさげにした少女は言った。名はアリサ、アリサ・ケーニヒ。 「はい」 「あの子ね、君に会いたい喋りたいってきかないの、いいでしょ?」 「全然拒否する理由がありません」 少年はにこっと笑った、ちょっと少女はときめいたが頭をぶんぶん振る。 「おーけ、じゃあまた今度ね、あと君のお母さんまた体調崩してたみたいだけど」 「はい、また医務室に行っておきます。多分大丈夫とは思いますけど」 「うん、じゃね」 はい、少年が答えると部屋はまた静かになった。 再び少年は絨毯に座り込んでパンフレットを熟読し始める、その隣には積み木が散らばっている。 「こ、こんにちは」 次の日も同じようにして過ごしていた少年の目の前に現れたのは、琥珀色の髪をしたアリサより小柄でゴシック(白地なし)な少女。先日アリサの語っていた。 「お嬢さま、こんにちは。お出しできるものは何一つありませんが」 「いいいです」 少年は首を傾げる。い、いいです。だろうと結論付けて、隣に座ってはどうかと勧めた。あたふたと少女はぎこちなく座り込む、スカートが空気を吸い込んで膨らんだ。 「積み木だけですが、お嬢さまのお父さまが買ってくださった最高級品だそうですので、どうぞ触れてみて下さい」 「あ、うん」 そうして少女は邪気のない瞳で積み木へと手を伸ばす。 不意に少女の髪の匂いが少年の鼻をかすめた。その柔らかな香に、少年は何となく少女を大切にしてあげたい、というような気持ちになった。少女が少年のことを視界の端に放って積み木に熱中し始めたのは幾らか不満でもあった。だけど少女がちらちら遣る視線には気付かない。 「お嬢さま、お上手です」 「あ、ありがと。ヤンシャオもする?」 少年は再び首を傾げる。何だか自分の名前じゃない何かが聞こえたような気がしたので。 「あの、もう一度僕の名前、呼んでくれます?」 「え」 少女は顔を赤らめる、何だか少しずれている。 「や、ヤンシャオ」 何ですそれ。少年は思っても口に出さなかった。 という訳でその日から少年の名前はヤンシャオになった。アリサも笑いながらヤンシャオと呼んだ、少年の母も、まあそうだったかしらヤンシャオ、とベッドの上から呟くので、少年は早い内から諦観を習得する羽目になった。 というのも少年の傍にラシェルが付きっ切りでいるようになり、また間違った名で自分を呼び続けるからで、それを遠目から観察していた他の給仕やらが確信犯的に言い合ったり素のまま勘違いしたりなどで広まってしまったのだった。 少年は溜息を吐くようになった。どうしたものかな、と隣で新しく買って貰ったおままごとセットで遊んでいる少女を見るにつけ何やらやるせない気持ちになる。だからその年頃の男の子に比べて幾らか大人びた、何か面倒なことを熟考するような表情をするようになる。それでいて少女の視線にはほとんど気付かなかった。 「お嬢さま、お上手ですね」 そう言う度、少女はえへへ、と微笑んで、顔を赤らめ、幾分か緊張した様子で再び手慰みを始めるのである。 そんなある日のことだ、ヤンシャオもどう? とラシェルがおままごとを勧めてきたのがそもそもの始まりだった。 「はあ、一体どうすればいいのでしょうか」 「えーとね、私がお母さんで、貴方がお父さん」 「とすると子供がいたりするんでしょうか」 少女は固まった。顔を真っ赤にして。 「い、いるんじゃないかなッ」 えらく大声で叫ぶのだった。応接間の扉が薄く開いていて、そこからくすくすと笑い声が漏れることもあったが、少年はさして気にしなかった。 「シャオって呼ぶ」 「いいですよ、じゃあ私はお嬢さまって呼びますから」 「な、何で」 戸惑ったように言うラシェルに、柳青(以下ヤンシャオ)は暫し熟考して。 「お嬢さまは、お嬢さまですから」 「うう」 何となく不満そうにするラシェルの気持ちを、ヤンシャオは察することができなかった。往々にして女性の気持ちを察することのできない男子は死して当然である。他の給仕達の談である。 その内、少女が本物の包丁を取り出してくるようになると、ヤンシャオは一層良い父親になることを決意する。曰く。 「良い夫の鉄則、その一。お嫁さんと子供が世界一大事。その二。いつでも優しい。補足、お嫁さんの作った料理をいつも誉めてくれたりする。その三。仕事熱心で職場関係が良好」云々。 少女の言いつけ通りにすること数十回、少年の演技というものも段々と板についてくるようになる。例えばこんな具合に。 「ただいま、お嬢さま。今日の晩御飯は一体何かな?」 「お帰りなさいシャオ、今日の晩御飯は」 晩御飯は、と少女は口ごもった。それもそのはず、少女には料理のレパートリーというものが一切存在していないのだ。それを見咎めると少年は愛想良く笑って。 「ん、じゃあ先にお風呂にしようか。子供達はもう寝てる?」 「あ、ハイ。すやすやと、まるで天使のようでしたよ」 「なるほど天使か、違いない。でもお嬢さまだって十分に女神さまだよ」 すると少女は顔を真っ赤にして、涙を流すのであった。 しかし少年も変なところで煮え切らないのであった。お嬢さまはないだろう。給仕たちの談である。 ある日のことである。少年は包丁で刺された。 何のことはない演技の一環である。おままごとでは時々突飛も無い行動を演じなければいけないらしい。少年の小さな体から溢れる血はひどく鮮やかで、また少年の肌の色はさっと青白くなった。 その傍で少女は泣いていた。うわーん、ヤンシャオが死んじゃうーっ。冗談みたいな響きが頭の中で反響する。お母さま助けて。 どたばたと隠れていた給仕たちが走り出す。 給仕達の間では当然のように情報統制が敷かれた。 その内ヤンシャオの母親は亡くなってしまうことになるが、別に息子が虐げられるようなことに起因するのではない、単に病弱だったのだ。情報統制は徹底されていた。 しかしそれによって彼が母親の庇護から抜け出てしまった。アリサが嫁入りしたのもまずかった。ラシェルの父親は十分にそれを憂慮しており、愛される辛さを男として分かっていた。要するに半分くらい分かっていなかった。 少年は故郷に返されることとなった。でもやっぱり死に掛けたりした。 結局放逐されたのは、世暦1935年の三月上旬のことであった。 「た、だ、い、まっ」 薄暗い屋内に明るい声が響き渡る、その家にいた数少ない人間(別の階にいた者を含む)はいっせいに玄関の方を見やる。リゥチンが帰ってきた、叫び声がこだますることで、その住宅に住まっていた有象無象は事実を知るところとなった。 「ただいま、マーおばさんは?」 少年の言葉に、少なくとも少年より大人びて見える少女は口ごもって。 「今は、李さんのところに用事で出てる。リゥ呼ぼうか?」 「ああ、もう来てる」 住居の奥からもう一人少年が現れる。 「ただいまリゥ」 「ああお帰り、何かえらく元気になったな、いいことでもあったか?」 「うんっ」 少年は輝く笑顔で答えた、そうかそうか、弟である柳留(リゥリゥ)は応える。 どうしてなのか、とは聞かなかった。母のことを話題に出すのも余り意味のないことだし、それに言いたければ自分で言うだろう、リゥリゥはそう思った。 少年はその後も休みなく奉公に出向かなければいけない事情に置かれていたが、しかしそうはしなかった。何かと体調の不備を訴えるようになったのだ。 それも徐々に許容されていった。それ以前からリゥリゥが奉公に出ていたことで経済状況は幾らか安定していたし、ヤンシャオの精神状態が明らかに違っていたからだ。 ある日彼は長方形の格子窓がある灯りの無い部屋にいた、足の長く背もたれのない四脚椅子の上で何やらひもを括っていた。 独り言を言う。 「まあ僕にとって正直この世に何の未練も無いわけで、そしたら僕がここに留まっている理由もなければついでに言えば留まっていることはむしろ害悪にしかならない訳だから、ああじゃあ僕にとって現実の世界に居ることは全く意味のないことですぐさま旅立つことが唯一絶対に必要なんだ、そうだよねラシェル」 少年はそう言い終ると、後はひたすらに穏やかな目をして、丁寧に首を輪に通した。 再見!
https://w.atwiki.jp/kingofbraves/pages/232.html
緒川空は、すでに教室にいた。 特に理由はない。ただ、窓から空を眺めていたかっただけだ。 昨日、水をばら撒いた鉛色の塊は払われ、代わりに透き通るような水色の海が広がっている。 彼の友人、成川涼治も隣にいる。 暇をもてあましている。時折飽きもせず空を眺める友人を見ては、物好きだねぇ、などとからかってもみる。 友人に付き合って早めに来ているものの、彼としては暇だった。 幸せそうな友人の姿を見るのはいいが、こんな時には話相手にならない。 代わりにため息ばかりついていた。 それでも、教室に入ってから30分もすると人が集まり始めた。 涼治はその一団のほうに流れていく。まだ決まったグループも出来ていない。 陽気で行動的な涼治は、あっという間に打ち解ける。 その友人であるはずの空は、相変わらず窓際の自分の席から遠くを眺めているだけだ。 涼治が談笑し始めてから20分もすると、教室が埋まった。 授業開始の4,5分前である。空の隣には同じ名前の少女もいた。 昨日の約束どおり、自分の席を涼治に譲り、自分は立ったまま青い空を眺めている。 とはいえ、「上谷」の空はやはり自分と同名の男子も気になるのか、たまに声をかける。 しかし返事は決まっていた。 「どうかしたか」 話がしたい、というと視線を窓に戻している。 クラス中の男子から嫉妬の視線を浴びているのにもかかわらず、だ。 そんな時、彼らの耳にありえない音が入ってきた。 バイクのエンジン音。続いて、バイクが停止する音。 気がつくと、彼らの教室の前に、1台のバイクが停めてあり、そのライダーが教室の中を見ている。 乗ってきたバイクは、トライアル用を一回り大きくしたようなバイクだった。 全体的にシャープなラインで、やはり競技用といった方がしっくりくる部分がある。 日本製ではない。スペイン製である。GASGAS社のパンペーラ250と呼ばれるバイクだ。 とはいえ、バイクに関してはおいておこう。 教室中は騒然となっていた。好奇の視線は集中している。 そのライダーがヘルメットをとった。一部の女子は歓声をあげる。 その歓声に負けない声をライダーははりあげた。 「緒川空は誰だ!」 誰もが硬直する。 そして、誰よりも早く、名前を呼ばれた本人が我に返った。 ある意味流石である。 「なぜ、俺の名前を知っている」 彼はとりあえずの疑問を呈した。 「知っているからに決まっているだろう!」 ふんぞり返って言い放つライダー。答えになってない。 「だからなぜだと・・・」 「それはだな・・・妹から聞いたからだ!」 再び別の意味で騒然となった。 女子からは誰のお兄さんかしらだの、友達になって紹介してもらおうだの。 男子のほうは、妹が美少女だったら仲介してもらおうと。まぁ、同じである。 当の空は、ある種嫌な予感がしつつ、自らの考えを口にした。 「まさか、上谷空の兄なのか?」 口に出した後も外れてくれ、と居もしない神に祈っていた。祈ったのは初めてかもしれない。 だが、やはり打ち砕かれた。 やたらと必死な表情で、その通りだ、と返されたのだ。 頭が痛くなる。なぜ最近こんなことばっかりなのだろう、と。実際問題わずか2日で起きた出来事だが。 こっちに来い、話がある、と呼ばれた。 だが、こんな中で緒川空はある疑問を頭の片隅に浮かべるのを忘れなかった。 なぜ、教職員などに追い出さないのか。それ以前に4階にあるこの教室にどうやってバイクできたのか。 理不尽な気がする。しかし、とりあえずは呼び出した男の方へ向かった。 「して、用は」 「ぶすっとしていると思ったら、中々、直球じゃないか。面白い、率直に言うぞ」 「率直に言うならさっさと言って欲しい」 野次馬は興味津々である。一言も聞き漏らすまい、と全身を耳にしている。 さきほどまで、ガヤガヤしていたのにも関わらず、である。 「よぉし、俺の妹に手を出すな」 「?意味が分からないんだが」 一方、男子集団は益々聞き逃せぬと殺気だっている。 妹の方は目を真ん丸くして口をパクパクさせている。 「つまりはだ・・・その、なんだ。俺の妹がな、お前に一目ぼれしてしまったらしくてな。だが、よく分からん男にくれてやる気は毛頭ない!」 最早、男子連中がいっせいに空に飛び掛りそうな雰囲気である。 だが、それは緒川空の一言でストップした。 「一目ぼれとはどういう意味だ」 一瞬、世界が硬直したように見えたのは気のせいではあるまい。 今までどういう生活をしてきたのか。 成川涼治を除く、全ての人間の時間が静止した。 やがて時間を取り戻した上谷空の兄は、こう呟いた。 「これならしばらく安心だ」と。 だが、その呟きが終わるか終わらないかのうちに、妹に頭を叩かれた。 「何を言ってるの!それに、一目ぼれしたわけじゃないよ!名前が同じだから気になっただけ!」 それを聞くや否や、彼の兄の顔は輝き、「そうか!それなら安心だ」などとのたまっていた。 そして、教室中の人間に「驚かせて悪かったな」というとバイクにまたがり颯爽とその場を去っていった。 その日の授業は最早、誰の記憶にも残っていない。 それよりも、最大の疑問の回答が示されたことが重要だった。 ただし、放課後である。 なぜ、彼はあんなことをして教職員に追い出されなかったのか、と。 曰く、2年前に卒業した生徒で、それまでにも色々ヤンチャをやっていたため、最早突っ込む気もないのだ、と。 今更バイクで教室に姿を現しても、咎める気にもならないらしい。 凄まじい人間の存在に、彼らは自分が実はコメディ映画に出演しているんじゃないかと疑う羽目になった。 また、上谷空はその放課後に、人に取り囲まれていた。 やれ、緒川君がどうして気になっているだの、お兄さんを今度紹介してだの、緒川はきっとやめておいたほうがいいだの。 彼女も一々、「名前が同じで席が隣だとさすがに気になっちゃうよ」「彼女がいるけどそれでもいい?」「そこまで怖い人じゃないと思うよ」 と返していった。 彼女は内心、この騒ぎの原因の一つである隣の席の男子が出てくることを期待していたが、きっと屋上で空を眺めていてそんなことは絶対ありえない、 と諦めていた。 しかし、そのありえないことが起こった。まさしく、緒川空その人が教室に入ってきたのである。 「涼治、何があったんだ!」といいながら。理解した。彼の友人、成川が彼になにかしらでここに来るようにいったんだろう、と。 上谷空は思わず、涼治の手を取ってありがとう、といっていた。 涼治はこれに上機嫌で、笑顔で「お互い様、お互い様」といっていた。 そこに飛び込んできた緒川空が詰め寄る。はめられたことに気がついて、不機嫌を隠そうともせずに「何が『大変なことがあったからすぐ来てくれ』だ!」と詰った。 激しい口調で問われても、この手のことにはなれているのか、「まぁまぁ、クラスメートが困ってるんだから一大事だろ?」と返した。 そういわれると、怒りは収まったようだが、今度は怪訝な顔で「誰が困っているんだ」と聞いた。 「空ちゃんだよ、空ちゃん」と、涼治は明確に答えた。 そこで初めて自分と同じ名前の少女の存在に気がついたらしく、「何で困っているんだ?」と問いかけた。 今は取り囲んでいたクラスメイトも遠巻きにして3人を見ている。はっきり言って、このまま帰れると嬉しい。 「んっと、ありがとう、その、助かったから」 「何?」 「それじゃ、私帰るから!」 後は教室から飛び出る。さすがの緒川空もあっけに取られるばかりだった。 と、彼の携帯の呼び出し音が鳴る。姉からだった。 「分かった。すぐ学校を出る」 涼治とともに校舎を出た。
https://w.atwiki.jp/mobamasshare/pages/451.html
166 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 58 06.37 ID TCLX5nBXo [3/10] 美しい、薄い桃のかかった髪をたなびかせて少女が空を駆ける。 まとわりつこうとする真っ黒な呪いの泥へ銀の閃光を走らせ散らすと、中心の赤い核を蹴りぬいた。 琴歌「きりがありませんね……卑怯ですよ! もうっ!」 正義に目覚め、義憤に燃えている――というわけでもないが。彼女には戦う理由がある。 少なくとも、目の前で起きている理不尽が。起きようとしている不条理が許せない。 彼女は世間知らずのお嬢様だった。蝶よ花よと育てられ、動かない両足を周りの人の助けによって乗り越えられてきただけの、お嬢様だった。 そんな彼女は、ある日さらわれて自由に動く銀の脚と、戦うための技術を教えられる。 未知の知識、未知の世界。怖いと思う気持ちと同時に持っていたのは、それに対する探究心。 浚われてしまった悲しみも、どうすればいいのかわからない不安も。 初めて知った感覚へ高まる鼓動にはかなわなかった。大丈夫だと、思えていたから。 その中で、友人もできた。同じ悩みを持って、相談して、悪さをするだなんて! まるでお話の中の『悪い子』みたいだなんてことを思い、それすら楽しく思えていた。 無事に脱走してから、はぐれてしまったのは困ったけれど。きっとみんなは大丈夫だと彼女は信じている。 それは、彼女が能天気だから勝手に思っていることなのかもしれない。――それでも。 彼女、西園寺琴歌は世間知らずのお嬢様だ。 それでも、人のために戦うことを。人のことを思う心を。知らないわけではないのだ。 167 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 58 33.91 ID TCLX5nBXo [4/10] 琴歌「えぇいっ!」 琴歌の銀の脚が宙を蹴り、追いすがる黒い獣を引きはがした。 そのまま半回転し、今度は天を蹴ると一気に突き刺すように急降下をして地面へと叩きつける。 どうやら核も砕けたようで、そのまま獣は動かなくなって溶けていった。 この場で、動けないでいる少女たちへ呪いが降りかからないようにと。 怪物たちを銀の脚でもって琴歌が調伏していく。 琴歌「でもっ……少し…………」 際限なく押し寄せる黒波に、琴歌は額に流れる汗をぬぐった。 OZ≪ドロシー≫は自己修復機能があり、彼女自身の超高速移動を可能にはしている。 圧倒的な速さでもってカースとカースの間を潜り抜け、蹴り、叩く。 その速度は不定形の泥のカースならば追いすがることすら不可能だ 強力な脚力でもって蹴り飛ばせば、一撃の元で葬ることだってできる。 彼女にとって、10や20の並のカースならば相手にならないだろう。 ならば50なら。100なら。1000なら――無限に湧き出るかのように押し寄せる呪いが、琴歌を襲おうとする。 このままでは、キリがない。そう判断した琴歌は自らの脚を一撫でして逡巡する。 琴歌「ドロシー……使うべき、なんでしょうか……私は……」 168 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 59 09.30 ID TCLX5nBXo [5/10] 彼女の銀の脚、OZ。金属生命体である『それ』には、隠された力がある。 ――隠された、というのは正確ではないかもしれない。ただ、とても。 琴歌「使いたく……ないのですけれど……」 とてもとても怖い力。彼女の探求心も、友人のお気楽さも、豪胆さも。 全員がなんとなく、嫌だ。そう思ってしまった、その力。 琴歌「……まだ、大丈夫。いけます、ね?」 誰に聞かせるわけでもなくそう呟いて、琴歌はまた銀の閃光へと姿を変える。 黒い津波に穴が開き、ふたつみっつと切り裂かれた。 降りかかる呪いの泥が落ちるよりも速く。次の獣を蹴り、打ち倒す。 カースたちには決して追いつかれないようにと滑るように地面を移動して―― ――その足が、固まってしまう。 169 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02 59 43.28 ID TCLX5nBXo [6/10] 琴歌「―――ッ!?」 核を砕き損ねたカースの泥が、別のカースと反応して強烈に足を締め上げていた。 すぐさま逆の脚で蹴り脱出を図るが、ほんの一瞬止まった隙を逃さずに、津波は彼女を飲み込まんと迫る。 その光景に彼女は思わず目を瞑ってしまい、身体に走るであろう衝撃に身構えた。 ――だが。その衝撃は想像よりもずっとあたたかく。 まるで、誰かに抱かれているかのような錯覚をおこしてしまうほど優しかった。 琴歌「……?」 恐る恐る目を開けてみれば、目の前にあるのは怪物の泥ではなく人の顔。 とてもセンスがいいとは言えないような仮面を付けた、スーツ姿の男だった。 店長「間一髪か……大丈夫か、君?」 琴歌「え、あ、はい……ありがとうございます……っ、後ろ!」 男の背後から泥が迫る。とっさに蹴りあげようと思うも、この体勢ではできない。 しかし、焦る琴歌が男を逃がそうとするよりも早く。光の矢が泥を貫いた。 170 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 00 36.95 ID TCLX5nBXo [7/10] 琴歌「まぁ……!」 光が飛んできた方向へと目をやれば、そこに立っているのは美しく可愛らしい衣装に身を包んだ2人の女性。 琴歌が感心する中、1人は剣を宙から生み出してあたりのカースを次々に切り捨てていく。 美優「シビルマスクさん、危ないですよ! もうっ」 もう1人は琴歌の方へと駆け足で寄り、男へと注意を促す。 シビルマスクと呼ばれた男のほうは余裕ありげに笑うとこう返した。 店長「2人の合体技ならあれぐらいは倒せるし、普通の人には影響はないのはわかってたさ。だけどもしもがあったら危ないだろ?」 美優「そうですけど……無理はしないでくださいね」 店長「わかってる。でも、頑張ってる子供たちもいるんだ……大人が意地をみせなくてどうする」 シビルマスクが懐から何かを取り出す。 雷の走る、聖獣の角。友の証でもあるそれは、主張するかのように小さな火花を光らせた。 美優「……そうですね。あなたは?」 琴歌「え? 私は……」 急に話を振られて、琴歌が慌てたように立ち上がる。 171 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 01 31.52 ID TCLX5nBXo [8/10] 琴歌「あ……」 琴歌は、自分の脚にまた力が戻ってくるのを感じた。 ドロシーを解放しないでも、このまま自分自身の力で守れるのだと。 不思議と、先ほどまで襲ってきていた疲労感もない。 店長「大丈夫か? 無理はしないほうがいい」 琴歌「……いえ! 私、いま! とても……とっても、元気になりました!」 銀の脚の輝きが増す。彼女の顔には再び笑顔が戻る。 店長「う、うん?」 琴歌「ありがとうございます、みなさん! 私、西園寺琴歌と申します!」 底抜けに明るい声で琴歌が自己紹介をし始める。 思わず近くにいた2人はめんくらってしまったようだ。 店長「これはこれはご丁寧に……」 美優「店長っ!」 172 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03 02 00.14 ID TCLX5nBXo [9/10] カインドの咎めるセリフに、シビルマスクがはっとした様子で恰好をつけなおす。 店長「っと……あぁ。琴歌ちゃんか……俺はシビルマスク。2人は……カインドと、グレイスだ。よろしく」 琴歌「はいっ! よろしくお願いします! 私の特技は――」 タン、と足音だけを残して琴歌が消え、グレイスが相手をしていた巨大なカースを砕く。 あまりの威力にグレイスも驚き、その顔をみて琴歌はまた笑った。 琴歌「ダンス、です♪」 レナ「……ヒュー♪ いいわね、いけてる。オールナイトは平気かしら?」 琴歌「さぁ、わかりません。私、夜更かしはいけないことだと聞いていたので!」 心底嬉しそうに琴歌が目を輝かせる。 興味津々といった様子で、共に戦う人がいる嬉しさで。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/49282.html
登録日:2021/09/12 Sun 16 24 12 更新日:2024/08/30 Fri 19 49 05NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 どんぐり インプラント キツネ キルミーベイベー クルミ ゴミ ゴミ捨て場 バグ ババーン リアニメイト リス 保存 土 地雷 埋める 埋め立て 埋立地 埋葬 墓地 桜の木の下には死体が埋まっている 灰 生き埋め 砂 砂むし 貯食 雪 埋める(う-める・うず-める)とは、 穴や隙間を塞ぐ ものを土などの中に置き、表面全体を覆う ことである。 なぜ埋めるのか 地面や壁に穴や隙間が開いていて、危険だったり見栄えがよくなかったりする状態を解消するために塞ぐ、つまり「埋める」ことがされる。 ちなみにロマサガ2でタームの襲撃をしのぐときの選択肢は「塞ぐ」であり、「埋める」ではない。 ただし「塞ぐ」を実行すると地面の穴がなくなるので、土を持ってきて穴を埋める作業もしていると思われる。 ものを露出しないように置く営為やその目的については以下に述べる。 食品などを保存する リスやキツネなどの動物は、食べ物を土に埋めて保存し、あとで食べること(貯食)が知られている。 寒い地方では、雪が積もると野菜などを雪に埋めて保存できる。 いずれも、食べ物が散逸したり腐敗したりするのを防ぐためである。 食品でないものを埋める例としては、タイムカプセルや火鉢の炭(*1)などがある。 植物を育てる 果実や種子を土の中に埋めて発芽を促す。 ただ実際のところ、農業や園芸の文脈では「埋める」という表現を使うことはあまりない。 「埋める」という表現を使っている例としては、ポケモンシリーズできのみをふかふかの土に安置したときのメッセージなどがある。 また、上述したリスなどの貯食行動で埋められた果実や種子はすべてが消費されるわけではなく、食べ残しからの発芽が森林の更新に重要な役割を果たしているらしい。 死者を葬る 死んだ人の葬儀のやり方はいろいろあるが、遺体は土葬ならそのまま、火葬なら焼いて残された骨を地面に埋めることになる。 これに由来する慣用句として、英語で「死んでいる」という意味の"be six feet under"がある(*2)。 ごみを処分する 日本では自治体におけるごみの最終処分として埋め立てを行っている。 詳細はゴミ捨て場の項目を参照。 田舎だと、生ごみや草木を燃やした灰をそのまんま地面に埋めてしまうこともあるとかないとか。 ものを隠す 人目につかないようにものを地面の下などに埋めて隠す。 創作作品では埋まっているもの、それも誰かが埋めて隠したものといえば宝物が定番であり、多くのゲームで有用なアイテムを発掘できるイベントや技能などがある。 現実では死体遺棄や産業廃棄物の不法投棄や未撤去の地雷のような夢のない話が多い。徳川埋蔵金の捜索も最近やらなくなったし 「桜の木の下には死体が埋まっている」という都市伝説も、樹木葬ではなくこっちの意味合いであろう。 封じる 遮蔽されている状態を作り出すこと自体が目的であるパターン。 創作作品では強大な存在の封印が地下深くに埋められていることがよくある。 そしてお約束で封印が解かれ主人公は撃破や再封印に奔走する 現実では、遺跡の調査を行った後で保全のために埋め戻す例がある。 部品の組み込みや移植 機械の内部に部品を組み込むことや、医療用の人工物(*3)を体内に移植することを「埋め込む」と表現することがある。 いずれも組み込まれたり移植されたりしたものが外部に露出していないことを含意する表現である。 ここから派生して、コンピュータープログラムにすぐには露見しない不具合を作り込むことを「バグを埋め込む」と言ったりする。 制裁や報復 「見たら本当に絶対感動するよ!もし感動しなかったら木の下に埋めて貰っても構わないよ」 創作作品のギャグシーンでは、くだらない言動を取ったキャラクターが埋められることがある。 上記のセリフは漫画『キルミーベイベー』にて折部やすながソーニャに向かって言ったものであり、感動させることはできたようなのだが結局やすなは埋められた。 ネット上では展開を端折って即堕ち2コマ風に加工されたコラ画像が出回っている。\ババーン/ 現実の場合はたいてい「生き埋めにして殺す」という意味合いである。 主な使い手は白起や項羽など。 遊びやレクリエーション 海水浴場でよくやる遊びとして、砂浜に寝そべった人に砂をかけて埋めるものがある。 埋められる人と砂をかける人の最低2人がいないと成立しないのでぼっちには荷が重い また、鹿児島県の指宿には砂に埋まってあたたまる砂むし温泉がある。 こっちはスタッフの人が砂をかけてくれるはずなのでぼっちでも安心 比喩表現など 当てはめる、割り当てる 情報やデータがない場所に記入や入力をすること、担当者がいない作業に人員を割り振ることなどの比喩表現として使われる。 「空欄を埋める」「認識のギャップを埋める」「欠員を埋める」などの言い回しがある。 某掲示板でスレッドのレス上限まで書き込みを行う「スレを埋める」もここからの派生であろう。 うずもれる、もたれかかる 大きくて柔らかいものなどに身体を預ける行為の比喩表現として使われる。 「埋める」よりは「埋まる」のほうがよく使われる。 「ソファーに埋まる」「クッションに埋まる」など。 すぐ利用できない場所に移動させる TCGで使われることがある言い回し。 場に出ているカードを山札に戻してシャッフルさせる、山札の上から何枚目かに置くなどの効果により再使用できるまで時間がかかる状態にする。 シールドなど、各作品特有の領域に移動させる場合もこう呼ばれる場合がある。 いずれにせよプレイヤーが移動されたカードにすぐアクセスできないようにすることがキモなので、手札へのバウンスや山札の一番上へのバウンスは当てはまらない。 なおTCGにおいて「墓地」と称されるような領域は公開領域であり、墓地からカードを場に出す手段も各種取り揃えられているため現実の墓地よりもずっと開放的である。 MtGの《生き埋め/Buried Alive》や《納墓/Entomb》など墓地にカードを送り込む専用のカードも存在するが、カードの字面とは裏腹に「埋まっている」イメージは薄い。 追記・修正は、埋まってからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] デュエマのマナに埋めるがないやん! -- 名無しさん (2021-09-12 17 01 56) デュエマだと盾送り(自分のを仕込む、相手のを送る)の方のイメージ。 -- 名無しさん (2021-09-12 17 33 25) アニオタwikiなのに普通の辞典みたいな項目に出くわしてびっくりしたわ(笑) -- 名無しさん (2021-09-12 17 49 53) アニヲタWikiのことだから、名字が「埋」・名前が「める」のアニメキャラかな?と思った -- 名無しさん (2021-09-12 18 51 32) びっくりおじさんが現れた!どうする? -- 名無しさん (2021-09-12 18 58 45) ネットスラング的な「埋める」(終了したスレを最後まで使い切る)も入れてほしいな -- 名無しさん (2021-09-12 19 01 23) バグで地形の中に入っていく事例は「埋まる」派と「沈む」派がいる気がする -- 名無しさん (2021-09-12 19 11 37) オレ様は誰かをびっくりさせることが大好きな…、びっくりおじさんじゃーっ!! 「びっくりおじさんが現れた! どうする!?」 -- びっくりおじさん (2021-09-12 19 38 43) 桃鉄とかでもテクニックの一つとしてある手札を埋めるなんかもあるね -- 名無しさん (2021-09-12 19 46 10) Q.なぜ埋めるのか A.また穴を掘るため(拷問) -- 名無しさん (2021-09-12 20 35 28) 定期的に人が埋まるWWEとかいう狂気の団体 -- 名無しさん (2021-09-12 22 09 10) シールドは送るで埋めるのはマナ、まあ地域によっては「盾に埋める」という方言もあるが -- DMP (2021-09-12 23 46 15) 穴掘って埋まってますぅ~ -- 名無しさん (2021-09-12 23 50 23) 入部しない奴はダートに埋めるぞ -- チームスピカ (2021-09-13 00 28 57) ゲームの図鑑埋めとか追加したらいいんじゃないかな -- 名無しさん (2021-09-13 02 03 17) もし感動しなかったら木の下に埋めて貰っても構わないよ -- \ババーン/ (2021-09-13 13 53 54) ↑連レスだけどもう記事に書いてあるんかいwww -- 名無しさん (2021-09-13 13 54 35) 白起「捕虜は色々と面倒なのでとりあえず埋めればヨシ‼︎」 -- 名無しさん (2021-09-23 17 46 03) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/796.html
絶望を抱えた少女が一人。 絶望の象徴だった少女が一つ。 少女は自覚していた、自分がいかに罪深く、そして、闇であるか。 だが何処かで違和感も覚えていた。 自分がなぜ【光使い】と称されるようになったのか。 誰かの希望であったのかもしれない、誰かの絶望であったのかもしれない。 それならば、と思っていた。 絶望よりも希望を選んだのは、それがきっと正しいものだと思ったからだ。 誰かが希望を待っているのなら、この身を差し出そう。 そう思っていた。 そう思っていたかった。 「なんか、意外やな」 「何が?」 「自分が、こんなにも長生きやったんやなって」 「バカなこと言ってないの。これからじゃない」 「うん…」 「なぁ、ガキさん」 「なに?」 「ガキさんは、このセカイが好き?」 「…なんで?」 「あーしがしとる事って、このセカイを守るってことが大前提やんか」 「まぁ、そうだね」 「でも中には、こんなセカイなんかキライやって言う人もおる。 このセカイが綺麗か汚いかは、その人の価値観で決まるものやからね。 だから、あーしの相手は時には組織以外の人らとも戦う羽目になっとる」 「つまり?」 「つまり、あーしらがこのセカイを守るって事は、そういう人らが現れる 可能性、確率を高めとるんやないかって、な」 「でも、私達みたいなのが居ないとこれまでよりもそういう人達が増える可能性だってあるよ。 それに、愛ちゃんはこのセカイを守りたくてリゾナンターを結成したんだよね?」 「やと、思う」 「なに今のあいまいな答え。違うの?」 「あーしは、今までこのセカイの未来を目指して来てたと思っとった。 でも、それは皆に会えて、皆とおるセカイが幸せやったから、未来もきっと幸せ なんやろうって、思い込もうとしとったんやないかな」 愛は手のひらを擦り合わせ、開いた両手をまじまじと見つめる。 其処に、何を見つけていたのだろう。 「時々思ってしまうんよ。 もし、もしな、これからの未来が自分が思ってた未来と違ったものやったら、どうしようって」 一瞬の空白。 それを、その言葉の意味を、彼女は解っているのだろうか。 「――― 未来が怖いんやない。やり直しが効かんから、進むことに臆病になるんや。 でも出来ないからこそ、あーしらは未来を目指すことにしたんやもんな。 あの景色を守るためにも。だから、あーしはこのセカイが、皆が好きやと思いたい」 酷く優しくて穏やかな声。 明日、失ってしまうかもしれないけれど、歩いていこう。 だって、ここに居るのは事実だから。 遠くの街が光り輝く。 クルクルと舞い踊る平穏の象徴。 光が塗り潰した世界。光が塗り替えた世界。 それは、何も無い世界。 里沙は答えなかった。答えられなかった。 誰もが望み、誰もが到達するまでに至らない領域への願いなど。 それは里沙が、最も強く想い続けていた事だということなど。 投稿日:2013/06/06(木) 12 30 25.86 0 ―― ―― ― 人間と異能者の間には、深くて広い溝がある。 その溝に橋を架ける事はできるかもしれないが、あまりにも脆い。 異能者にとってこの世界は、生きるためだけに生きることのできる世界ではない。 目的が無ければ生きてはいけない、という訳でもないが、重要な部分でもある。 生かすも殺すも、自分で考えなければいけない。 考えなければ、生きていけなかった。 異能者はどこかで人間を嫌わなければいけない、という節がある。 好きでも、自分とは違うからと線を引く。 同じ人間のはずなのに。 そんな二つの存在に共通するものがあるとすれば、覚悟。 命を失くす覚悟。 一時の勢いで生まれただけの覚悟であっても、それがどんなに 難しいものかを理解することが出来る。 異能に対峙する人間はある意味で恐ろしい。 特に子供の異能者。 命を危機に晒され続ける人生を歩んできたわけでもない。 ごくごく普通の生活を送ってきたであろう少女達。 普通に学校に行って、部活などをして、それなりの学校生活を 謳歌していた彼女達の日常の歯車を狂わせるきっかけ。 人間界での葛藤もあっただろうが、その中で異能者という存在を知り 出逢い、そして触れあってきた事による、理解。 信じてきたことも何度かあったが、それと同じくらいの裏切りもある。 その裏切りを絆として抱いている者はあまりにも救えない。 「正直、あたしのところに来るなんて思ってなかったです」 「それほど私も、なりふり構ってられなくなっちゃったって事よ」 「あたしは自分で決めたんです、それは後悔してないですよ」 「うん、分かってる。咎める理由もないよ、だからあんたを行かせた」 久住小春がリゾナンターを離反したのは、高橋愛が 失踪してから約半年後のこと。 光井愛佳と行動を共にしていたが、i914と遭遇した事によって 全てを理解した上で、自ら離れることを決意した。 その後は安倍なつみに拾われるように【ダークネス】の組織へ。 リゾナンターのメンバーとの間には溝が生まれてしまったが 久住本人は、何も言わなかったし、何もしなかった。 皮肉を言う者もいたが、久住は気にも留めず、それから半年が経過する。 「あんたはまだあっちでの生活だって出来る。 リゾナンターが何でできたのかが分かってる今、小春は もうこの世界に居なくてもいい、だけど狙われてるのは変わらないからね」 「…何が言いたいんですか?」 i914によってダークネスを打ち倒され、組織が壊滅してからは 安倍や飯田と共に別の場所へと隠れ住んでいた。 芸能界での「月島きらり」も失踪中という扱いでメディアにも 報道され続けている上に、両親からも警察への捜索届が提出されている。 だが今i914の問題が片づかなければ、彼女は日陰者としての 日常を送り続けるしかない。 「あんたはいろいろと手間がかかったけど、あたし達以外を 巻き込もうとしたことは一度も無かった。 だから皆、内心では分かってるのよ。事実を知った今、小春の行動はむしろ正しい」 「…まさか、安倍さんに?」 「あの人はただ、見守ってくれるだけ。小春も選べるのよ。 だけど私にはこれ以上のことは言えない。 それはあんたの為にならない。あんたの思うことじゃない。 だから選んで、小春、私に、協力してくれるか、どうか」 久住小春はもうリゾナンターではない。 ただ、光井愛佳には離反するときに一度だけ、声をかけた。 その表情は久住を責めるわけでもなく、安心したようでもない。 ただ、見ていた、自分を。久住小春を見ていた。 新垣里沙は裏切り者だった。 リゾナンターという道具を使って人を蒐集し エネルギーの媒体として利用されていた事実。 自分のためというのは偽善だった。 ただ"共鳴"のチカラによって高め、強化された異能だけが必要だった。 【ダークネス】の目的。シナリオ。 全てにおいて許さない。許さないのに。 「あたしは協力しない。だけど、このままじゃ自由になれない。 だから小春は、小春のために動く。 光でも闇でも、あたしはあたしのままで居続けてやるんだ」 イメージなど関係無い。認識なんてものは自分の目で十分。 見守るなんて真っ平ごめんだ。 信じるも信じないも、全て自分で決めて来たように。 「…分かった。でも、私達がこれからやる事と、場所だけ教えておくわ。 きっとあの子も追いかけてくるだろうから」 「新垣さん」 久住に名前を呼ばれて、新垣は思わず顔を見る。血のような燐光。 「あたしは、きっと殺せますよ。あの人を、殺せる」 「分かってる。分かってるよ、小春。私もきっと、そうするだろうから」 「うそつきですね」 「そうだね、私はずっと欺き続けて来た。 けど、やっぱり私も、私のために動いていたい、これは嘘じゃないよ。 もう隠す必要も、ないしね」 携帯電話が鳴る。表示をみて、新垣の表情がいっそう険しくなった。 それは絆が覚悟へ、変わる瞬間。 投稿日:2013/06/08(土) 10 14 08.79 0 back 『異能力 -Soul to return home-』 next 『異能力 -Battlefield at the back of the chest-』
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1048.html
「断ったわよ」 時は放課後、場所は文芸部室。 ハルヒは前置きもなく俺にこう告げた。 今部室には俺とハルヒしかいない。 ハルヒ曰く、 「有希は今日用事があって来れないって。みくるちゃんも。古泉君はバイトらしいわ」 俺が部室に入ってきて早々聞いてもないのに教えてくれた。 長門のフォローか。どんな魔法で俺のその場凌ぎの嘘に気付いたかは知らんが感謝するぜ。今度何か奢ってやる。 さて話を戻す。 俺は定位置のパイプ椅子で団長様の先程の一言を拝聴した。 一応耳には入り脳にも届いて意味も理解したが、念のため聞きなおす。 「それは『告白』をか?」 「そうよ」 俺は「そうか」とだけ答え、大きく息を吐いてパイプ椅子に身を沈めた。天井を仰ぐ。 さっきの男の雰囲気や言葉で、なんとなく答えは見えていたが、やはりハルヒ自身から答えを聞くまで落ち着かなかった。 今の一言を聞いてようやく落ち着いた。落ち着いたら力が抜けた。脱力ってヤツだ。今日は本当に疲れたぜ。 ハルヒは団長椅子からぴょんと飛び跳ねて俺の方に近づいてきた。 にんまり微笑んで、 「なーにそんなにホッとしてるのよ? あんたもしかして、あたしが断らないんじゃないかって心配してたの?」 からかうようなハルヒの声。 さすが団長様。ふざけておっしゃってるつもりでしょうが、かなり的を射ててるんですよ、それ。 俺は無言のまま、ハルヒを人差し指で招く。今朝の逆だ。 「? 何よ?」 ハルヒが俺の方に頭を近づけるため体を屈めた瞬間、 俺はハルヒの右腕を取って自分の方に引き寄せた。 ハルヒがバランスを崩してよろめく──それを空いた手で受けとめて、さらにハルヒの体をくるりと回転させた。 すとんとハルヒは俺の膝に着地した。まるで子供を抱っこしているような格好だ。 「えええええええっ!?」 ハルヒが俺を見上げ狼狽している。 俺はあたふたするハルヒに構わず抱き寄せた。黒髪に顔を埋める。甘い香り。 俺は自分の心情を包み隠さず吐露した。 「そうだ、不安だったさ──だから俺は今めちゃくちゃ安堵している」 ハルヒが息を呑んだのがわかった。 俺はそれ以上語らず、ハルヒの艶やかな髪に顔を埋めながら、両腕でハルヒの存在を確める。 ハルヒは最初全身を強張らせていたが、次第に力を抜いて俺の胸に体を預けた。 心がどんどん落ち着いていく。 ここ一日の不安や絶望の残り滓すらきれいに溶けて消えていった。 何分経ったろう。ハルヒがおもむろに口を開いた。 「──そんなに不安だった?」 それは今まで聞いたことのないほど優しさに満ちた声音だった。 「ああ」と俺は呟く。 「バカね」 ハルヒの口調は柔らかいまま。まるで小さい子供に言い聞かせるような。 「ホントバカ。言ったでしょ?あたしはあたしだって。あんただって言ってたじゃない、『人の意見なんかに左右されない不可侵の団長様』って」 だから断ったのか。 何だ、俺はもう昨日の内に知らず阻止していたわけか。とり越し苦労とはこのことだな。泣けてくるね。 「そうだな」 俺は溜息一つしてそう呟いた。ハルヒはこつんと拳で軽く俺の胸を叩く。 「だから安心しなさい。あたしはあんたの側にずっといるから──」 俺はその言葉に縋りつくかのようにハルヒを一層強く抱きしめた。ハルヒの肩がぴくんと跳ねる。 吐息とともに俺は囁いた。 「そうしてくれ、頼む」 それが俺の答えだ。 この答えがいつか様々な感情に成長したり発展したりするのだろう。 今はこれ以上の答えは出せないが、いつか遠くない未来に必ず出すから。 それまで、 『そばにいてくれ』 「……キョン、くるしい」 ハルヒが俺の腕の中で身動ぎした。どうやら強く抱き締めすぎたらしい。 「あ、ああ、すまん」 腕を緩め、ずっと埋めていたハルヒの髪から顔を上げた。 ハルヒは少し身を引いて俺を見上げる。 ハルヒ? 「お前なに泣いているんだ?」 ハルヒの長い睫毛に小さな雫。そんなに苦しかったのか? 「ち、違うわよ。ちょっとびっくりしちゃっただけよ!?」 ハルヒは慌てて手で目を隠す。手の隙間からほんのり赤くなった頬が見えた。 ―─ハルヒ、それ反則。 俺は本能的にハルヒの手を退けて瞼に軽く口付けた。 涙で唇が少し潤う。 ハルヒはぱちくりと大きな目を見開きしばらく固まっていた。 かと思うと、耳まで真っ赤になりながらわなわなと口を歪め、とうとうそれを大きく開いた。 「キョン!!」 わぁ、びっくりした。こんな間近でそんな大音声聞かせんでくれ。 「もう!! いきなり! 恥ずかしいこと! するな!」 スタッカートを効かせてハルヒが喚く。 「すまん、あまりにも可愛かったもんでな」 「──!! そういうこともさらっと言うなー!!」 と言ってハルヒは俺の胸に顔を伏せてしまった。 ああ確かに恥ずかしいこといったな俺。言った端から顔が熱い。 ハルヒは顔を伏せて俺のブレザーを掴みながら「う ー」とか「むー」とか唸っている。 ぽんぽんと頭を撫でてやると、今度は「アホキョン」「キョンのくせに」「キョンのバカ」とぶつぶつと呟き続けた。 やれやれ。 一通り俺に対して文句を並べたところですっきりしたのか、突然ハルヒがガバッと顔を上げた。うぉ、近ぇ。 にんまりとしたアヒル口。 うわー、なんか企んだな、コイツ。 と思ったらネクタイをがしっと掴まれ勢いよく引っ張られた。俺の頭は連動してハルヒの目前に引き寄せられる。 ハルヒの顔が近づいた。 ──もしやこれは。 俺は反射的に目を閉じる。 しかし、一度夢で味わった柔らかく甘いものは予想とは違う場所に押し当てられた。 俺の閉じた瞼に、だ。 「お返しよ」 目を開くとへへーんと満足気な顔をしたハルヒ。やはりやられたままではいたくなかったらしい。 目には目を、と言うわけですかね?意味が違うが。 いや瞼でも充分恥ずかしいですけどね。現にされた瞬間から鼓動が速まったからな。 ハルヒはケラケラと上機嫌に笑いながら、 「なぁに? キスされると思った?エッチぃわねキョンは」 「悪かったな」 どうやら俺は至極残念そうな顔をしていたらしい。 男とはそういう悲しい生き物なんだよ。それにおあずけくらうと、さらに欲しくなるもんだ。 「だーめ」 ハルヒは胸の前で両腕をバツの形にし、 「なんの覚悟もなしに一時の感情に任せてしたら死刑よ、死刑。わかった?」 これには頷くしかない。 ただこの言葉はしっかり覚えておこう。覚悟ができたそのときのために。 ハルヒは俺が頷くのを届けると、立ち上がった。 「さあ、もう帰りましょ」 ハルヒは鞄を取りに団長席に向かう。 と、何かを思い出したように足を止め振り返った。俺の鼻先にビシッと指を突きつけ、 「言っておくけど今日は特別だからね!ホントはあんなことしたら即死刑よ!」 『あんなこと』とはどこまでを指しているんでしょうかね? まあ肝に銘じておきますよ、団長様。 日も傾いた夕暮れ時。 昨日と同じくハルヒと二人で坂道を下る。 昨日とは打って変わってハルヒは機嫌が良いし、俺の気分も晴々としているがな。今夜はぐっすり眠れそうだ。 ハルヒなんぞたまに鼻歌を歌っている。今日の授業で歌った曲だそうだ。しかしモルダウってそんなに明るい曲だったか? ところでだな。 「お前あいつに『本当の気持ちを教えてくれ』とか聞かれてたが、あれは何だったんだ?」 ぴたと足と鼻歌を止め、ハルヒは俺をじとっと咎めるような目で振り返る。 「やっぱり聞いてたのね?」 「聞こえてきたんだ」 俺は弁明らしきものをしたが、ハルヒは疑わしげな顔つきで「ふーん、どうだか」と呟く。やはりバレバレだったか。 ハルヒは少し黙ったまま何か考え込んだ後、悪戯っぽい目をして俺を見上げた。 「知りたいの? キョン」 「ああ」 教えてくれるなら教えてほしい。ちょっと──いやかなり気になるからな。 ハルヒはふふんと鼻を鳴らしたかと思うと、 「教えてあげない!」 と告げ、突然跳ねるように駆け出した。二、三歩進んだところで止まりくるりと踵を返す。 満面の笑顔。まるで季節はずれのヒマワリみたいだ。 俺はハルヒのその笑顔に、あの男に対する問いかけの『答え』を見つけた。 ──終わり
https://w.atwiki.jp/tosyoshitsu/pages/259.html
遠く、祭囃子が聞こえた。 とっぷりと夜が打ち寄せている。渡航してきた船の灯りがぼんやりと視界の中で漂っているぐらいで、一面に、響く潮騒と、暗闇が、まるで、波に乗せて小さなこの島に夜を運んで来ているかのような錯覚を誘う。赤星は、星月夜の微かな光だけを頼りに桟橋近くを小走りに、あちこち海岸沿いの軒先をのぞき回っていた。 あった。 ひょいと段差を飛び越えて確認する。それから人気がないだけの桟橋の上でへたくそな介抱を続けている奈津子を促して、英吏を近くの海の家のベンチに寝そべらせる。海の家、というのも便宜的な呼び方で、港に近いから、観光客が見込めるのでそういう風に運営しているというだけで、今日は祭りだから、軒先だけ残して店主も屋台を開きにいったのか、それとも祭りぐらいは客になりにいったのか、ともあれ、無人のそこを、赤星は拝借することにした。 真白く気高い毛並みをした、狐型雷電のクイーンが、じっと主人の傍らに付き従い、しかし己は運ぶのも、介抱するのも、今は手出しをしないでいる。動かないのは、見慣れない相手が近くにいて、少しでも不審な動きを見せれば喉笛を食い破るつもりだからだろう。そのつぶらな瞳は動物兵器としての無感動な光を湛えている。 「……」 一所懸命に奈津子は、隣にいる赤星のことも無視して英吏の体の見当違いなところをさすったり、手で頭を持って呼吸しやすいように支えたりしていた。素人目に見ても、へたくそにもほどがある介抱の仕方だった。 が、常人の数百倍の筋力を持たされ、天使とも呼ばれる第六世代よりもさえさらに異なる構造をその身に潜めた存在が、相手を壊さないよう、自分の身になって考えた挙句、選んだのがそういう稚拙な方法の数々だとして、誰がそれを咎めることが出来たろうか。 奈津子の、やや細長い印象を受ける顔が、一所懸命に英吏を見つめて介抱を続けていた。 赤星は黙って二人を見守っていた。 船灯りの方角からは、いくらかの話し声が聞こえてきている。おそらく一緒に来た仲間達がうまいことやってくれているだろう。信頼して、じっと英吏の目が覚めるのを待つことにした。 祭囃子の調子は変わらずだった。まだ、まだ、終わりそうにない。 あたりから立てる物音は、奈津子の起こす、肌擦れ、衣擦れだけ。 絶えることのない、しかし一定というには心地よい揺らぎを孕んだ波音が、その小さな物音をそっとさらっていく。 見上げた風は、やわらかかった。 /*/ 意識が覚醒すると同時に、瞬間的に英吏は跳ね起きた。 時間の経過は。負傷の有無は。空間把握、音や空気の匂いの変化からして先ほどまでいた場所と明らかに離れた場所にいる。薄暗がりだ、だが身体感覚に異常はない、体内時計にも狂いはない。戦闘に支障はない。携行していた武器は。ある。斎藤とクイーンはいるな。あの得体の知れない連中は。 主の機敏な反応に、クイーンも唸りを上げて戦闘準備態勢を取り戻す。 「気付かれましたか?」 その機敏さとは対照的なゆるやかさで、隣にあった誰かの気配が、少し、遠のいた。警戒をさせないような間合いの取り方とは裏腹に、振り返る英吏の前で相手の姿がかき消える。 「英吏さん」 「分かっている。攻撃準備を」 英吏はひとたびトリガーを引き絞ればフルオートで鉛玉を叩き込む機関拳銃を構え、奈津子は何も持ってはいないが、とりあえず緊張した面持ちでいつもよりひどく真面目に口元を引き結んでその隣に立った。一番機動力のあるクイーンは、二人の斜め後ろで警戒をしている。 鋭いまなざしで戦闘隊形を取る二人と一匹をよそに、相手は再び英吏の隣に現れた。声同様、外見も記憶と一致、先ほどの赤星という浴衣姿の男だ。 「とにかくここでの戦闘行動は慎んでもらえませんか?」 声は、変わらず、そっと、こいねがうような声だった。瞳は、そっと、こいねがうような、まなざしだった。穏やかな悲しみに満ちている。 赤星は、同じ内容をもう一度繰り返した。 「悲しむ人達がいます。戦闘は回避してもらえませんか?」 「嫌だといったら?」 間髪のない返答に、彼は少し間を取った。言葉を選ぶ様子は伺えたが、そこに意図は見られなかった。どうすれば自分の言葉が相手に伝わるか、それだけを考えている、そういう人間の顔だった。 「直接止める手立てはこちらにはありません。最初に火足さんが言ったはずです。私たちは武装してもいない。」 「……」 沈黙するのは、今度は英吏の方だった。自分の姿が一度消えたことなど、どうでもいいかのように一顧だにしない相手の態度に、もう一言だけ、待つ。 「ただ貴方達に会いたかった。それだけです。」 英吏は笑った。 相手の素性も、ここがどこかもよくはわからんが、動機に嘘はなかろう。心に嘘がなければ許してやるのが、芝村というものだろう。相手の、赤星の言葉を聞き、それを思い出したから、英吏は笑った。この男に免じて、今日のところは他のものも等しく許そう。あの、亜細亜とかいう怪しい子供のことも。 「まあいい。お前達のいった方法、試してみるか。」 戯言ばかりで結局あれこれとわからんことは残ったが、一つ、思い出せただけで充分だ。それに、これが成功すればさほど脅威に考える必要もなくなるわけだしな…。 「ここにはいたくない」 英吏は消えた。クイーンをつれて。 「あ、ちょ、まってくだ! ここにいたくない!」 それを見て、慌てて奈津子も後に続く。 後に残るのは、静かな潮騒だけになった。 「すいません、英吏さん…ありがとう。」 赤星はうつむいた。何かを祈るような、姿だった。 「こんな事になるつもりではなかったのです。いつかもっと良い形でお会いしましょう。英吏さん、奈津子さん、クイーン。」 /*/ 遠く、祭囃子が聞こえた。 今はもう、誰も顧みる事のない潮騒に、欠けた月が傾きながら昇っていく。じんわりと汗を誘う暑気が、小笠原の夜を賑わわした。 風が、雲を押し流す――― /*/ ~小笠原の夜~ 了 /*/ 暗闇に薄い黄金の光が帯を描いてのびていく。なだらかで、それは大きく上下していたが、光には二つの核があった。 まなざしが、飛ぶように運ばれている。そのまなざしは吸い込むようにあたりの環境情報を取り込み分析、瞬く間にも、脳内に叩き込まれた地形データとの相違点、それがここまで取得してきたデータと比較して許容される範囲内で収まっているかどうかを判断している。 黄金色にも似た明るい茶色の瞳。 「…異常、なし。戻るぞ、斎藤」 「は、はい!」 それは芝村の裏切り者と後に呼ばれることになる芝村英吏と、斎藤奈津子、そして彼ら山岳騎兵の友、動物兵器・雷電、クイーンオブハートの一行であった。 激動の戦乱を潜り抜け、ようやく警戒レベルを引き下げることが出来るようになった、広島の近隣山中を僅か二人と一匹での斥候に出ていること自体が、状況の好転具合を物語っている。 逞しく太い英吏の胴回りに、腕を回す形でしがみついていた奈津子は、斥候とは名ばかり、常人の数百倍の筋力を有する軍の秘密兵器である。彼女が本気を出せば、今、乗っているクイーンよりも早く「飛ぶ」ことすら可能だ。 濃密に繁る緑と、大地と木々の深い焦げ茶色が、野を駆け巡っていた彼らの目には、溶けたようにも、また、止まったようにも見えている。原初の人類とは遠く能力をかけ離れてデザインされた存在の、すさまじさであった。 クイーンが速度を緩めた。 英吏も違和感を覚える。前にも感じたことがある。これは…… 「!」 夜の広島に、いくばくかの光。 遠い呼び声。そこにある、少女の思いを、果たして誰が最初に気付いただろう。 気がつけば、そこは海の香りがする世界――― 「英吏さん……?」 「またここか」 用心深くクイーンの背から降りながら、英吏は奈津子の手を握った。尻尾までしびれる勢いの奈津子。 「にゃ、にゃぁ!」 「……離れるなよ。夏祭りだろうから」 「は、はいっ!」 彼らはまだ、これから来る出会いと再会を知る由もなかった――――……… /*/ -The undersigned:Joker as a Clown:城 華一郎
https://w.atwiki.jp/vip_sw/pages/297.html
声が聞こえた方角へと泣き顔を向ければ一歩、また一歩と砂利を踏みしめる足音が懐かしい気配を伴って近づいてくる。 ――まさか……いや、そんなはずはない 胸中に生じた希望を押し潰さんと膨れ上がる理性。 ――だってアイツは……致命傷を負って、ジグラットの崩壊に巻き込まれて…… 愛していると自分に告げて、息絶えたはず。だとしたら今自分の耳朶を掠めた声はなんだ? 誰のものだ? 矢継ぎ早に脳裏を飛び交う憶測。それら全てを整理する暇を与えないかのように、陽性を孕んだ声と足音の主は着々と距離を詰める。 そして、 「よぉ。何時間ぶりだ?」 暗がりから迫る来訪者が月明かりの下に、その姿を曝け出した。 淡く儚げな月光に照らし出されたのは、もう二度と目にすることが叶わないと思っていた快活な笑顔。自らの頭上に広がる夜天と同色の髪と瞳。 弾痕が刻まれた上に赤黒く変色した血液がこびり付き、衣服として使い物にならない域にまで変貌を遂げた上着とシャツ。 一張羅を台無しにされたことへの憤りからか、顔を顰める満身創痍の男が頭に手を添えた。 その腕、指の動き。余りにも見慣れた仕草にラルは息を呑んだ。 ラル「おれ……なのか?」 俺「あぁ。俺だけど?」 出血によって青白みが掛かる痩せこけた頬が笑みで歪む。 けれども、その微笑みは明らかに生者のみが持つことを許された温もりを帯びていた。 口許に生じる皺と、それに伴って生み落とされる小さな影。肉体を持たぬ亡霊ならば決して作り出すことの出来ない変化だ。 ラル「本当に……本当に俺、なのか?」 俺「当たり前だろう。こうして生きてるし……足だってちゃんとついてるだろう?」 質問の意図が掴めなかったのか、怪訝そうな表情を作った俺がブーツの踵を砂利の上に軽くぶつけてみせる。 それはかつて彼がペテルブルグ基地に配属となった日、自分とロスマンの前で行ったものと同じ挙措。 扶桑皇国陸軍の公式記録では戦死者として処理されていることに疑問を抱き、訝しげな眼差しを注ぐ自分と彼女に生きた人間であると証明するために見せた動作だった。 ラル「あ……あぁ……あぁぁあ……!!」 ブーツの底部が立てる音は自身の口から漏れ出す震えた声によって掻き消されていた。 疑問が確信に変わると同時に、つい今しがたとは比べ物にならないほどに視界が歪む。 しかし、込み上げて来る涙の量とは裏腹に胸の奥を満たしたのは歓喜の熱。 切なさと寂しさによって凍てついた心が温かく、そして優しく溶け崩れる感覚が胸裏に拡散していく。 俺「ラル?」 ラル「あぁ……おれ。おれぇ……おれぇぇぇぇぇぇ!!!!」 自分の名が呼ばれた瞬間、ラルは俺に向かって駆け出していた。 一気に距離を詰めるなり目を白黒させる男の首に両の腕を回して抱きしめる。 ラル「おれぇ! お、おれっ! えぐっ……っく……おれぇぇぇ!!! この温もり、この逞しさ。間違いない。 二度と離さない、離すものか。未来永劫、この男は私だけのものだ。 俺「ら、ラル!?」 頭上から降り注ぐのは狼狽した声色。 突然の抱擁に理解が追いついていないのか、抱きとめることも引き離すことも儘ならないのを良いことに拘束する力を更に強めた。 ラル「本当に、俺なんだな!? 幽霊じゃなくて……本当に、おれ……なんだな!?」 俺「…………あぁ、俺だよ。ちゃんと生きてる。ごめんな……心配かけさせて」 嗚咽に遮られながらも懸命に言葉を紡ぎ終えると頭頂部と背中に温もりを帯びた手が回される。 あたかも子供をあやすような優しげな手つきに胸の奥底に溜め込まれていた諸々の感情が一斉に暴発を引き起こした。 ラル「本当だ! この馬鹿!! みんながっ……私がっ! どれ、だけ! 心配したと思っている!!」 幼子のように涙に濡れた顔を胸元に摺り寄せ、片方の手で煤と血で汚れたシャツを握り、空いたもう片方の手で咎めるかの如く胸板を叩く。 俺「……ごめんよ」 シャツを濡らす涙の生温かさ、胸板を叩く拳の感覚。 胸中に突き刺さる悲痛な泣き声に胸元を通して全身へと伝わる震え。 それら全てを一手に受け止め、俺は嗚咽が交じる少女の非難を一言一句聞き逃すことなく、無言で耳を傾ける。 ラル「それだけじゃない! 自分だけ言いたいことを言って……私の返事も聞かずに……えぐっ…………ひっく……か、勝手にいなくなってぇ!!」 俺「……いや、それは……その、だな」 ラル「死んだかと思ったんだぞ……!!」 俺「……あぁ」 ラル「もう、会えないかと思ったんだぞ……!!」 俺「ごめん……」 謝罪と共に自身の頭を撫でる大きな手の平。 その心地よさに、このまま、いつまでも身を預けていたい安寧を断腸の思いで振り払い、一歩後ろへ。 今しかない、この機を逃すな。胸裏で囁くもう一人の己に従い、ラルは意を決する。 そうとも、つい先ほどまで自分はこの機会を欲していたではないか。身を任せるのは何も想いを伝えたあとでも遅くはない。 呼吸を整え、細指で目尻に浮かんだ涙を拭い、 ラル「本当にすまないと思っているなら……私からの返事も聞いて、くれるな?」 無言で頷く俺の表情を捉え、生唾を飲み込んだ。 あえて胸の高鳴りに逆らわず、奥底の情熱を更に燃え上がらせるかの如く深呼吸を繰り返す。 唇まで奪っておいて何をいまさら緊張しているのか。頬に込み上げて来る熱の存在を感じながらも脳裏を掠めていく言葉を受け流し、 「好きだ。おまえのことが……好きなんだ。仲間としてじゃなく、異性として。」 思いの丈を口にした瞬間、頬を覆う熱が一瞬で灼熱へと変化した。 彼を意識し始めたのは随分と前のこと。それも彼がブリタニアの第501統合戦闘航空団へ派遣されるよりも。 サウナで偶然鉢合わせとなり、ガランドから送られた書類に記載されていない彼個人としての来歴を聞かされた時から。 けれども異性として気になり始めたのは風邪をこじらせ、病床に伏したあの日からだろう。 傷痕が残るこの身体を綺麗だと言ってくれた。傷を気にするのは人として当然だとも言ってくれた。 赤の他人から見れば淡白な切欠と言われるかもしれない。それでも彼の言葉で自分は救われたのだ。唯一のわだかまりを包み込み、受け止めて、前を向いて歩くことが出来たのだ。 ラル「正直に言うとな。初めはこの気持ちが何なのか……分からなかったんだ」 それ以来何故、俺のことばかりを目で追いかけてしまっているのか。何故、彼が他の娘たちと仲良く談笑する場面に出くわす度に胸が痛んだのか。 自分の感情に気付くことが出来ず、ただ胸に悩みを抱えた日々が続くなか、クルピンスキーに発破を掛けられる形で俺への想いが恋心なのだと自覚した。 ラル「あぁ……好き、なんだ。私もお前が好きなんだ!! だからっ! もうどこにも行くな! 私を……一人にしないでくれ!!」 誰にも渡したくない。私だけの俺でいて欲しい。 そして……いつまでも、自分の傍にいて欲しい。 口にするたび、強まっていく恋慕はいつしか煮詰まった独占欲へと変化していき少女の身体を再び抱擁へと突き動かす。 一世一代の告白劇が幕を閉じ暫しの間、続く沈黙。そして、返事の代わりに伸ばされた両腕が彼女の身体を包み込んだ。 俺「本当に……両想い、だったのか」 夜陰に溶ける、あっけに取られたかのような声音が頭上から零れ落ちてきた。 気の抜けた声色に混ざるのは純粋な驚愕の念。 ラル「……いまさら、気付いたのか? 唇まで奪ったんだぞ?」 信じられないとでも言いたげな口調にラルの柳眉が吊り上る。 唇まで奪った。作戦が終われば話したいことがあるとも伝えた。にも拘わらず俺は自分の好意に対して半信半疑だったのである。 これまで明確に好きだと伝えなかった自分にも非はあるが、いくらなんでも鈍感すぎはしないか。やや冷めた眼差しを注ぐと咳払いをした俺が目つきを変える。 俺「だけど……良いのか? 俺が何してきたか知らないお前でもないだろう」 過去、そして裏で行う汚れ仕事を俺は包み隠さず彼女に告白した。 人から見れば自分が歩んできた道はさぞ許されざるものだろう。他者を殺めることで他者を守る矛盾に満ちた道を走る己が誰かの傍にいても良いのかと考えた時期もあった。 だがそれは積み重ねてきた行為に耐え切れないだとか、罪の意識といった感情からくる考えではない。 ただ自分が傍にいることで愛した者の経歴に泥を塗ってしまうのではないかという思いから生じたものであり、駆け抜けてきた道への後悔は微塵も無い。 ラル「……たしかにお前のやって来たことは、後ろ指を指されることかもしれないな」 無論、ラルとて殺人そのものを肯定するつもりはない。 けれども彼が裏で動いていたことで救われた命があったことも揺らぎようのない事実。 手段はどうあれ、自分たちウィッチの為に影で尽力してきた彼を突き放す考えをどうしても抱けなかった。 ラル「それでも。好きなんだよ……好きになったんだよ……」 それともこれが惚れた弱みというものだろうか。 鍛え上げられた体躯に頬を摺り寄せ、胸の奥底を焦がす感情に見当をつける。 俺「良いんだな?」 ラル「あぁ。お前が誰であれ、何であれ。私は一生お前と添い遂げるよ」 俺に、そして自分自身に対しても誓いの言葉を口にする。 迷わない、迷うものか。 彼を愛することで背負うものが増えたとしても、この愛を命尽き果てる瞬間まで貫き通す。 俺「後悔しないな?」 ラル「くどいぞ」 青の双眸に宿る硬質な決意の光。 鮮烈な輝きを放つ眼光を前に俺はこれ以上の言及を避けた。その光から彼女が如何に自分を愛しているのかを察することができたから。 次第に胸中を満たす幸福感に目頭が熱くなるのを感じながら口許を緩めた。 俺「…………ありがとう。俺も……おまえのこと、愛してるよ」 腰を屈め、愛しい女の両頬に手を添える。 彼女との口付けはこれで二度目になるが面と向かって、それも想いを通じ合わせ、恋人同士となってからは初めてだ。 それまで時計の如く正確なリズムを刻んでいた心臓の鼓動が一転して、激しいものへと変わっていく。 意図を察したのか小さく頷き、身を委ねるように瞼を閉じた少女の唇に自分のそれを近づける。 吐き出す息が互いの顔を撫でるほどに縮まる距離とは裏腹に俺は自身の唇がラルのそれに触れ合うまでの時間がやけに長く感じた。 まるで時間の流れが鈍くなったかのような感覚に気が狂いそうになる。 俺「っ!?」 そんな俺の考えを見透かしたかのように顔を近づけ始めるラル。彼女もまた同じ感情を抱いていたのだろう。白い頬に差し込む桃色は自分から唇を近づけることに対する羞恥心の表れのようにも見て取れる。 少しずつ、着実に近づく二人の唇。 時の流れが鈍くなった世界のなかで、ついに引き裂かれていた心は重なり合った。 俺「どう……だ?」 ラル「好きな男に唇を捧げることが出来るのはこんなにも、幸せな気持ちに……なれるんだな……」 ゆっくりと唇を離せば、目の前には大粒の涙を零す愛しい女性の笑顔があった。 白く端整な頬を濡らす透明の雫に手を伸ばし、指先で丁寧に拭う俺もまた言葉では言い表せないほどの充足感に全身を満たされる感覚を覚えていた。 大切な人と結ばれるというのは、こんなにも幸せなことだったとは。 ラル「おれ……」 俺「うん?」 ラル「その。も、もっと……良いか?」 気恥ずかしそうに身を捩る愛しい女性。 自ら口付けをねだることに恥じらいを感じているのか瞼は切なげに伏せられており、日頃見せない、しおらしい表情が一層胸を高鳴らせる。 軍人としてでも、魔女としてでもない。一人の少女へと姿を変えた思い人の赤らんだ容貌に、俺は再び唇を近づけた。 晴れて想いを通じ合わせ、恋人同士となったラルと俺の二人は何か喋るわけでもなく、ただ黙々と臨時宿舎である教会へと歩を進めていた。未練がないといえば嘘になる。 引き裂かれていた分、味わった悲しみの分だけ二人だけの逢瀬を楽しみたかったが、現在の状況からそんな悠長なことを言っていられる暇はない。 後ろ髪を引かれる思いを味わいつつ、ひたすらに宿舎への帰路を辿る最中、ラルの脳裏にとある疑問が浮かび上がった。 ラル「なぁ。お前はどうやってあの後生き延びたんだ?」 直接姿を目にしていなくとも、俺が瀕死の重傷を負ったということは先の通信や彼が羽織る血まみれのシャツに刻まれた弾痕から見ても容易に察しがつく。 崩壊するジグラットのなか、彼はどうやって生き延びたのだろうか。 彼の話によれば崩れ落ちたジグラットの破片が、その下水道へと通じる穴を作り出し、俺は最後の力を振り絞って穴へと身を投げたらしい。たしかにこの廃棄都市の真下には都市全域を走るほどの大規模な下水道が存在している。 崩壊するジグラットの内部にいるよりかは、下水道に逃げ込んだ方がまだ生存率は高い。 ラル「だとしたら……どうやって傷を癒した?」 隣を歩く俺へと視線を向ければ弾痕は右肺と脇腹、それに左膝にまで刻まれている。 決して自分の前まで身体を引きずっていけるような軽い負傷ではない。 俺「それなんだけど……どこかで俺の仲間を見かけなかったか?」 ラル「仲間?」 俺「あぁ。扶桑人で……何ていうか、こう。小さい子なんだけど」 問いかけにラルは俺と再会する前に出会った少女の存在を思い出した。 扶桑人、女の子、小さい背。間違いなくあの少女である。 俺「そうか……あいつ行っちまったか」 声をかけた途端に姿を消したことを告げると俺は少し名残惜しそうな表情を浮かべた。 ラル「一瞬で姿が消えたんだが……あれはどういう仕掛けなんだ?」 俺「あいつの固有魔法は確か……護符で囲った空間を自在に改変する能力だったかな。手に持っていたり、地面に貼ってたりしただろう? 大方どこかに通じる“道”でも作ったんだろうよ」 言ってしまえば、限定的ではあるものの世界に干渉し作り変える能力。 護符で囲い込んだ空間をこの世の理から弾き飛ばす異能。それは既に魔女として、いや人としての領域を遥に逸脱した術理であった。他にも囲んだ空間に巨大な稲妻の柱を創り上げることで標的を撃滅するなどと、俺の話を聞く限りだと少女の固有魔法は応用性に富んでいるらしい。 俺「ラルの前から一瞬で姿を消したのも、俺の傷を治したのも固有魔法の副産物に過ぎないよ」 ラル「そうだったのか。感謝しないとな」 俺「あぁ。間違いなくあいつのおかげで俺は生きて……その」 ラル「?」 俺「好きな人と……こうして歩いていられるんだからな」 ラル「っ! そ、そうか……」 頬を赤らめ、俯くラル。 このまま歩けば宿舎に着き、二人だけの蜜時が終わってしまう。立場上それは仕方のないことだが、せめてもう少し彼女の温もりを、優しさを感じていたい。 そんなことを考えていると、自然と手が彼女のそれを握っていた。 ラル「お、おれ!?」 俺「いや、ほら。もう俺たちは……恋人、なんだろう? だったら手くらい繋いでも良いんじゃないか? ラル「それは……そうだな」 歯切れの悪い俺の言葉にラルはぎこちない動作で頷いた。 繋いだ手を通して伝わってくるのは体温や感触だけではない。彼の自分を想う愛情が伝播してきているような感覚を覚え、握る力が強まっていく。 ただ手を繋いでいるだけなのに、どうしてこんなにも気が安らぐのだろうか。 俺「あとさ。いい忘れてたことがあった」 ラル「どうした?」 俺「これからもよろしくな。グンドュラ」 ――とくん 愛しい男に名を呼ばれた瞬間、ラルは自身の胸が温かなものに包まれた感覚を覚えた。 どうして、この男はこんなにも自分を優しく包み込んでくれるのか。 ラル「あぁ。私の方こそ……よろしく頼むよ」 不意に、耳に届く足音にサーシャはそれまで床に落としていた視線を宿舎の出入り口に向けた。 見渡せば他の隊員たちも気が付いたのか一様に固唾を飲んで来訪者を待ち受ける。 砂利を踏みしめる足音は二つ。池に小石を投じたかのように教会内に緊張が走った。 期待と不安を瞳に同居させる彼女たちの眼差しの先に、独りで教会を出たラルが姿を見せる。 赤らんだ双眸と灯りによって見え隠れする涙の痕の二つから彼女が人知れず涙を流していたことを垣間見たサーシャは次の瞬間、言葉を失った。 ラル「ほら。いい加減出て来たらどうだ」 言いながらラルが入り口の影に腕を伸ばし、その細い腕に何かを掴んだかのような震えが走った。 そして力を込めて影に隠れる人物をブレイブウィッチーズの前に引きずり出した。 定子「あ……」 と、呟いたのは定子だった。黒い瞳に浮かび上がる透明な雫。 片手で口許を覆い、隣でぼろぼろと大粒の涙を零すジョゼを抱き寄せる。 管野「この。ばかやろう……!!」 泣き声だけは決してあげない。 この男の前で情けない姿も弱さも見せないと胸に決め込んでいた管野が頬を引き攣らせ、唇を吊り上げた。 ニパ「遅いよ! どこ、行ってたんだよぉ! ばかぁぁぁ!!!」 泣き笑いのような表情を作る管野の隣でニパがしゃくり声をあげる。 白く決め細やかな頬は緊迫感から解放されたことでだらし無く緩んでいるが、今この場でそれを咎める者はいなかった。 クルピンスキー「やっぱり生きてたね。ほら先生、僕の言った通り……って泣いているのかい?」 子供をあやすかのように頭に置かれたクルピンスキーの手を振り払うロスマン。 露骨に涙を零す定子たちほどではないにしても彼女の双眸は明らかに潤んだ光沢を帯びていた。 かといってクルピンスキーほど落ち着いてはいない。 サーシャ「おかえりなさい!!」 目尻を拭うサーシャがやんわりと微笑んだ。 雨粒を受けてなおも咲き誇る花のような微笑に現れた男の頬も自然と綻んでいった。 ラル「ほら。こんなに心配かけたんだ。何か言うことがあるんじゃないか?」 肘で小突かれた男は何と切り出せば良いか分からず、暫くの間口ごもり、 俺「……なんだ。その……心配かけて悪かった」 「そんで、ただいま」 いつも通りの笑みを浮かべた。 続く Wikiの容量オーバーを受けてしまったため、前後編に分割 次回でラル√最終話。 最終話のはずなんだけど本編でイチャイチャしてない気がするのは不味いと感じる今日この頃
https://w.atwiki.jp/datui/pages/28.html
反転しろよお前ら……え、してる? 「何だよそれ……」 山中――E-6エリアの茂みの中で、少年は呆然と呟いた。 何も知らなければボーイッシュな服装の美少女とも思えてしまうほどに整った顔立ちと、線の細い体つき。 彼の名は菊地誠。 弱小アイドル事務所765プロに所属する男性アイドルである。 個性的なアイドルが集う765プロにおいて、彼は一際異色を放つアイドルだった。 白く透き通るような肌。 二次性徴を忘れてしまったかのように女性的な美声。 そう、彼は服装さえ変えれば美少女アイドルとして明日にでも売り出せてしまいそうなスペックの持ち主なのだ。 ――名前が紛らわしい? ほっとけ。 ――反転前と外見的には変わってない? それは合ってる。 ――むしろ完全にそのまんまじゃね? ちょっと屋上行こうぜ…… ……ともあれ誠は茂みに隠れて一人頭を抱えていた。 無理もないだろう。 レッスン帰りに突然意識が遠のいたかと思ったら、こんな殺し合いの場に引っ張り込まれてしまったのだから。 一応、彼も思春期真っ盛りの青少年である。 眼前で繰り広げられた女同士のあれやこれやに反応しなかったわけではない。 しかし、そんなものは直後の惨劇で一気に吹き飛んでしまっていた。 「殺し合いなんて、僕……」 どこぞで盛大に勘違いしている同僚とは違い、彼は自分の置かれている状況を正しく把握しているようだった。 ちなみに、彼は同僚が同じ場所にいたことまでは気付いていない。 夢中だったからね。 「……やらないといけないのかな」 しばらく迷い続け、誠はデイパックから一振りの剣を抜き取った。 紫がかった暗黒色で刀身に不思議な文字が刻まれた、ファンタジー成分の結晶のような武器だ。 分類としては両手で扱う西洋剣。 空手で鍛えた誠でも剣としてまともに扱うのは到底不可能なサイズである。 1メートル前後はある鋼鉄の塊を振り回すようなものだ。 それでも、この強度なら鈍器として使っても充分強力だろう。 誠は切っ先を地面に引きずりながら、道行く人影に近付いていった。 無防備にも独りきりで山道を歩く少女―― あれでは襲ってくださいと言っているようなものだ。 誠はごくりと唾を飲み込んだ。 やるしかない。 しかたがないんだ。 プロデューサーのところに帰るためには―― 「わあああああああっ!」 背を向けて歩く少女に向かって走り出し、剣を振り被る。 決死の気迫を込めた一撃は、驚くほどあっさりと回避された。 そして素早く回転する少女の身体。 誠の意識は、世界を狙えるレベルの後ろ回し蹴りによって見事に刈り取られてしまった。 ○ ○ ○ 目を覚ますと、なんとなく見知った天井がそこにあった。 「あれ、僕……」 朦朧とする意識の中、誠は上体を起こす。 額から濡れたタオルが落ちた。 天井から吊り下げられた蛍光灯。 やたらと大きなガラス窓。 窓際に並んだ手洗い場。 ベッド代わりになっている、二~三畳分はありそうな天板の木の机。 部屋の隅に押し込められた雑多な物品。 どうやらここは学校、それも美術室のようだ。 現役高校生の誠にとって見覚えがある場所のはずである。 「……」 段々記憶が蘇ってくる。 確か、森の中で少女に襲い掛かって、そこで返り討ちに……。 「気が付きましたか」 振り向くと、そこには金髪碧眼の美少女が立っていた。 芸能界で女性アイドルなど見慣れている誠でも目を奪われるほどの美しさだ。 芸術的な彫像のようであり、研ぎ澄まされた剣のような怜悧さも兼ね備えている。 背丈はそう高くなく、誠と大差ないくらいだろう。 少女は誠が落とした濡れタオルを拾うと、手洗い場に持っていって洗い始めた。 「私を攻撃したことを咎めるつもりはありません。何せ、あのようなことがあった直後ですから」 少女は後片付けを終えるなり、椅子を引いて誠の傍に腰を下ろした。 誠も釣られて机から降り、少女と向かい合う形で椅子に座る。 「まずは互いの呼称を教えあいませんか。 あくまで会話を円滑に進めるためですので、本当の名でなくても構いません。 協力するにせよ反目するにせよ、呼び名が分からないのでは不便だ」 少女はひたすら生真面目に事を進めていく。 その牽引力に呑まれて、誠は言われるがままに自分の名前を口にした。 「僕は、誠……菊地誠です」 「……僕、ですか。いいでしょう。私のことはセイバーと呼んでください」 ○ ○ ○ 賢明なる――というか、メタ知識を持ってる読者の皆様はもうお気付きだろう。 『彼ら』二人の『美少年』は、互いのことを『美少女』であると誤解しているのである。 セイバーの真名はアーサー・ペンドラゴン。 伝説に名高きアーサー王その人である。 かつて幼き頃の彼は女王となるべき人間を選定する剣カリバーンを引き抜き、老化と成長から解き放たれた。 そうして不老となった彼はとある魔女の助力を得て性別を偽り、戦場に散るまでの十年間、女王として君臨したのである。 ちなみに彼の部下たる円卓の騎士は、 気高き戦姫アルトリア女王燃え派 女装ショタっ子アーサーたん萌え派 に分かれており、これが後に国家を二つに分ける騒乱の火種となったとかならなかったとか。 エリートのくせに性癖的にはダメ人間って昔からいたんだね。 なお、本人は部下がそんな目で自分を見ていたことには 一 切 気付いていない。 正体ばれてるだろとか禁句。 ○ ○ ○ 「では、マコト――」 セイバーは暗がりから一振りの剣を取り出した。 誠はびくりと身体を震わせ、身を守るように手をかざす。 襲い掛かった引け目からかセイバーに仕返しされると思ってしまったのだ。 だが、セイバーはそんなことなど毛頭考えていないようだった。 「貴女が持っていたこの剣と、私のバッグに入っていたこの武装を交換してはもらえないか?」 交渉を持ちかけるセイバーの顔は、どこか懐かしそうで、どこか哀しそうだった。 その表情に負けて、誠はこくこくと頷いた。 元より自分では扱いきれない代物である。 何と交換して貰っても損はないだろう。 誠に掌大の金属塊を渡し、セイバーは微笑んだ。 「ありがとう、無理を言ってしまった」 セイバーは誠が両腕でも四苦八苦した剣を片手で軽々と振るって、傍らの机に立てかけた。 改めて、セイバーから受け取った六角形の金属板に目をやる。 本当に綺麗な銀色の六角形だ。 表面には何やらアルファベットらしき文字が刻印されている。 「エックス、エル、アイ、ブイ……何て読むのかな」 「それを握って"武装錬金"と叫べば武器に変形するようです」 小さな紙片を見ながら解説するセイバー。 親切なことに取扱説明書付きらしい。 誠は呼吸を整えた。 イメージは特撮ヒーローの変身シーン。 大丈夫、その手の仕事は経験がある。 「いくよ、武装錬金!」 六角形の金属板が瞬時に分解され、瞬く間に新たな形状を構成する。 板状の鋭いブレード。 複雑な関節のロボットアーム。 そして、布が破ける音。 「……へ?」 誠の叫びと共に、武装錬金『バルキリースカート』がその姿を現した。 ただし、ズボンの太股辺りを引き裂いて。 「どうやら素肌に直接装着される仕組みのようですね」 「それを先に言ってよー!」 誠の穿いていたジーンズはものの見事に引き裂かれ、股下数センチの半ズボンと化していたという。 男の生脚なんて誰が得をするんだ、誰が。 ここにいるぞ!とか思った奴、後で屋上な。 【一日目深夜/D-6 鎌石小中学校 美術室】 【セイバー@Fate/stay night】 [状態]:健康 [装備]:アロンダイト@Fate/Zero [所持品]:支給品一式、不明支給品0~2 [思考]: 1.誰がこんな酷いことを…… ※外見は通常のセイバーと大差ありません。 ※鎧は魔力で生み出すため任意で脱着可能です(現在は未装備) ※菊地誠のことを女性だと思っています。 【菊地誠@THE IDOLM@STER】 [状態]:健康、半ズボン [装備]:バルキリースカート@武装錬金 [所持品]:支給品一式、不明支給品0~2 [思考]: 1.なんで僕がこんなことに…… ※外見は通常の菊地真と大差ありません。 ※セイバーのことを女性だと思っています。 男女反転12話へ 男女反転14話へ