約 4,929,368 件
https://w.atwiki.jp/gousyuu-imouto/
合計: - 今日: - 昨日: - 開設 2009 04 04 こんにちは、当Wiki管理人の豪襲です。 当Wikiは意味不明な我が妹Aがあまりに迷言や珍言を吐くために、なんとかして形に残しておこうと計画され作られたWikiです。 誤解のないよう書かせていただきますが、「妹Aを中傷することが当Wikiの本意」ということではありませんので、ご理解のほうをお願いいたします。 ちなみに「俺の妹がこんなに可愛いわけがない(伏見つかさ著)」とは一切関係ありません。すみません。 以下の条件に当てはまる方は気分を害す恐れがあります。 速やかにブラウザの戻るを押してください。 正義感が人一倍強く、このような趣旨に嫌悪感をお持ちの方 二次だろうが三次だろうが妹が好きで好きで仕方ない方 素人の書く稚拙で寒い文が嫌いな方 他、思いつき次第追加しますが、以上のような方にはお勧めできません。 ご了承ください。 なお、当Wiki内の画像やテキストその他一切のものは無断転載禁止となっております。 お手数をかけますがこちらまでお願いします。
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1870.html
215 名前:【SS】:2014/03/15(土) 00 26 42.65 ID zOv3MA0L0 俺の妹がこんなにエロゲーなわけがない~逆襲の秋美~ホワイトデー編 あの卒業式の日から2週間ほどが過ぎた。『約束』によって恋人期間を終了した俺と桐乃だったが、 その後の『人生相談』で、とりあえず恋人期間を延長することになった。 いきさつはまた別の機会に語る事にする。なにしろ今は――― ピンポーン 桐乃「誰か来たみたい」 京介「そうみたいだな」 桐乃「みたいだなじゃなくて早く出てよ」 京介「え~、桐乃と離れるのやだよ」 ピンポーンピンポーンピンポーン 桐乃「ば、バカな事言ってないで早く出ろっての!」 京介「へいへい」 俺は桐乃の部屋を出て階段を下りる。 くそっ、今日は親父もお袋もいないから、桐乃と二人きりで『お布団デート』を満喫していたというのに…………。 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン! 京介「はいはい」 誰だ?こんな朝っぱらから……。鳴らし方からして宅急便の類いではなさそうだが……。 俺はドアをそっと開ける。 そこには――― ―――白クマがいた。 バタン!ガチャリ ドアを勢いよく閉じ、即刻カギを掛ける。 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピンポーン!! 高橋名人ばりの連打と共にドアの向こうから、う~~~~が~~~~~~~~っ!という声が聞こえる。 間違いなく変質者である。よし!あやせに通報だ。 携帯を取りに戻ろうとしたところで更に叫び声が聞こえてきた。 秋美「人を呼び付けておいてこの仕打ちはなんだこらぁ!!!!」 京介「誰も呼んでねーよ」 秋美「呼ばれたんだよ!キミの!妹に!」 京介「桐乃~、白クマが来てるぞ。呼んだのか?」 騒がしいのが気になったのか、桐乃が玄関まで下りてきた。 桐乃「シロクマ?呼んでないケド?」 秋美「白クマじゃねーよ!フェレット!ホワイトフェレット!!」 わからん……。どう見ても白クマだろ、あれ。いつものくまさんが真っ白になっただけじゃねーの? ……まあどっちでもいいか。それより近所迷惑になりそうだから、そろそろ入れてやるか。 ガチャ 京介「入っていいぞ」 秋美「お…おじゃましまーす」 桐乃「なんだ、櫻井さんじゃん。いらっしゃーい」 秋美「よ、きりりん氏。」 桐乃「てゆーか櫻井さん、今日はシロクマなんだ」 秋美「だ~か~ら!ホワイトフェレットだっつーの!!そこ重要だから!」 桐乃「ふーん。で、なんでホワイトフェレットなワケ?」 秋美「よくぞ聞いてくれました!今日はホワイトデーなので、ので!本日限定特別仕様、ホワイトフェレット秋美ちゃんですっ♪」 相変わらず残念なヤツだ。つか、こんな格好で俺ん家来るのやめてくんねーかなぁ……。 とりあえず玄関じゃあれなので櫻井をリビングに通す。 秋美「とゆーわけで高坂、あたしにホワイトデーのお返しちょーだい(はあと)」 京介「なにが『とゆーわけで』だ。俺、バレンタインにおまえから何も貰ってねえじゃねーか」 秋美「バレンタインは寝込んでたの!キミの妹のせいで!」 そういやこいつ、桐乃の手作りチョコレートの特訓に付き合わされてたんだっけ。 あんなに食わされてよく生きて帰ってこれたな……と、感心するが―― 京介「それがなんでおまえにホワイトデーのお返しするって話になるんだ?」 秋美「どうせキミ、妹からラブラブ愛情たっぷりのチョコレート貰ったんでしょ!」 桐乃「ちょ!ななななに言ってんの櫻井さん!?」 秋美「まっずーい試作品を食わされ続け……意識が……遠のく中、チョコを作りながら 『京介喜んでくれるかな~』とか!『京介美味しいって言っ――」 桐乃「わーわーわーわーっ!!」 慌てて櫻井の口を押さえる桐乃。 ヤバい……嬉しくて泣きそうだ。櫻井がいなければ今すぐに桐乃をぎゅっと優しく抱きしめるのに……。 秋美「…………うぐっ!……このブラコンが!とにかく!キミが貰ったバレンタインチョコはつまり!あたしときりりん氏の合作なのだっ! だからあたしには高坂からお返しを貰う権利がある!」 京介「……ものは言いようだな。確かに桐乃のチョコはめちゃくちゃ美味かった!おまえの功績を少なからず認めよう。 だが……さっきも言ったけど、今日おまえには何も用意してないから、また後日あらためてって事でいいか?」 秋美「フッ。そんなことだろうと思ってキミにとびっきりのスペシャルなプランを用意してきましたー」 京介「ほう……」 櫻井の妄想プランは時々ぶっ飛んじゃいるが、男子高校生のツボは押さえていて実は密かに期待していた。 ……あ、俺もう高校生じゃねーや。 桐乃「櫻井さんの妄想って京介ばっかり得するようになってるよね。いつもあたしが損してる気がするんだケド……」 秋美「そこは心配いりません。なんたってホワイトデー限定プランですから!彼女さんに満足いただけること請け合いですよ!」 桐乃「でもなぁ……」 桐乃、なぜ顔が赤い……?それに櫻井、おまえの為のプランじゃないのか?桐乃を勧誘してどうする。 秋美「このプラン、他にも検討中の方がいまして、今お見送りされますと他の彼女さんに決まってしまう可能性もございますが……」 あほか……。なんだこの流れ……。それに、そんな不動産販売の決まり文句をパクっただけの勧誘に桐乃が食いつくわけ―― 桐乃「じゃあ聞く」 食いついただと?!…………まあいい。ツッコミたいのは山々だが、櫻井のプランが気になるし桐乃も乗り気のようなのでスルーすることにしよう。 秋美「それではいきますよー。じゃーん!その名も『朝から晩までお姫様デート』!」 京介・桐乃「ほう…………」 秋美「キミたちは『お姫様デート』と聞いてなにを連想するかな?」 京介・桐乃「……………………姫初め?」 秋美「ちげーよっ!!このエロゲ脳兄妹がっ!!お姫様つったらあれしかないでしょ!」 桐乃「もったいぶらないで早く言ってよ」 秋美「おっけ。ちなみに今回は秋美ちゃん視点になってるよん。では…………」 想像してみてください――― 俺は頭の中に桐乃をイメージしながら櫻井の妄想に耳を傾ける。 朝。まどろみの中、あたしは包み込まれるような温かさに目を覚まします。 ふと横を見ると彼の顔がくっつきそうなくらい近くにあります。どうやら腕枕をされていたようです。 あたしはその心地良さに彼の胸に顔をうずめて匂いを嗅ぎます。とてもいい匂いです。 すると彼も目を覚まし、あたしの頭をそっとナデナデしてくれました。 あたしは幸せいっぱいな気持ちになり、彼にぎゅっと抱きつきます。 京介「……………………」 桐乃「……な、なんか具体的だけど『お布団デート』と変わんなくない?それにお姫様は?」 秋美「焦るでないきりりん氏。まだまだこれからですぞ!」 桐乃「……わかった。続けて」 秋美「ほいほいー」 このままずっと彼に密着していたいところですが、寝起きの顔を見られ続けるのと、 お口のエチケットが気になるので、洗面所に行くと告げ部屋を出ようとします。すると彼が 『俺にまかせろ』 と、あたしを抱きかかえました。いわゆるお姫様だっこです。 桐乃「お姫様だっこキタぁ!!」 秋美「そうです!これが『お姫様デート』の所以、全ての女子の夢!憧れ!お姫様だっこです!」 桐乃「櫻井さん、続き続き!」 秋美「ういういー」 『今日はホワイトデーだから俺が連れて行ってやるよ。あと、してほしいことがあったら何でも言ってくれ』 お姫様だっこされたあたしは彼に 『絶対離さないでよね』 と言うと彼は 『ああ、絶対離さない』 と。あたしは彼にそっと抱きつき身を委ねます。 そして部屋を出て階段を下りていきます。一段一段ゆっくりと慎重に。 その度にあたしは彼の首に巻き付けている腕の力をぎゅっと強めます。 無事階段を下り終わり、洗面所までたどり着きました。 名残惜しいけれど、だっこから降ろしてもらい、洗顔をします。 そして歯磨きをしようとしたところで彼が 『それ……俺にやらせてくれないか?』 『え……?歯磨き?京介が?あたしに?』 『ああ』 桐乃「……こ、これはまさかあの伝説の――」 秋美「ふっふっふ。そうこれがあの伝説の『阿良々木兄妹の歯磨きプレイ』!!」 桐乃「うひょーーーー!!火憐ちゃんktkr!!!!すっごーい!櫻井さん天っ才!!!!」 秋美「とーぜんっ!ホワイトデーだけに歯をホワイトにするプランだぁーーーっ!!」 桐乃「早く次!次!!」 秋美「あいあいー」 『…………いいよ』 『じゃあおまえの歯ブラシ貸してくれ』 『えっと……あたしのじゃなくて……京介の、使っていいから』 『俺の?』 『べ、別に間接キスしたいとかそんなんじゃなくて!磨いてもらうからにはちゃんとして欲しいからさ、 いつも使い慣れてる歯ブラシで磨いた方が磨きやすいかなってゆーか…………』 『わかった。そういう事なら俺のを使わせてもらうぜ。でも本当に俺のでいいのか?』 『し、しかたないっしょ!今日は特別だかんね!』 京介「オタクってすげえな。俺には元ネタがサッパリわからねえが、『歯磨きプレイ』……超してえええぇぇぇえええーーーーーー!!!!」 秋美「ついに堕ちたな高坂ぁ!!さっそくあたしん家で『お姫様デート』しようよ!」 京介「しない」 秋美「なんでだよー!!超したいって言ったじゃんか!!」 桐乃「あ、櫻井さん!ちょっと待ってて!」 桐乃は櫻井の言葉をさえぎり、急いで階段を上がっていく。部屋に戻ったようだったがすぐに下りてきた。 桐乃「櫻井さん、これっ!」 きれいにラッピングされた小さな箱を櫻井に渡す桐乃。 櫻井「これは……?」 桐乃「バレンタインのチョコ作り手伝ってもらったお礼。ちゃんとおいしく出来たやつ食べてもらってないからさ」 櫻井「今日呼ばれたのって……これのため?」 桐乃「そ。……櫻井さん、チョコ作り手伝ってくれてありがとね」 櫻井「きりりん氏……」 桐乃「とゆーわけで、櫻井さん今日はおつかれさま。帰っていいよ」 京介「おう。櫻井またな」 櫻井「ちょ!ちょっと待ったぁ!!まさか君たち、あたしを追い返して『お姫様デート』するつもりじゃ……」 桐乃「しないよ?」 京介「しないぞ?」 秋美「う……う……うそだあああぁぁぁあああ!!!!高坂のばかーーーー!!!!こんちくしょおおおぉぉぉおおおーーーー!!!!」 ダダダダダダダダダダダダダダダダ バタン!! 断末魔の叫びと共に家を飛び出していく櫻井。 あんな格好の女の子が家から叫びながら出てったらまたご近所さんの噂になっちまうだろうが! そんな心配をしていた俺をよそに桐乃が、 桐乃「あんたさ、さっき歯磨きプレイの元ネタわかんないとか言ってたじゃん?」 京介「ん?ああ」 桐乃「しかたない。今からその元ネタのブルーレイ見せてあげるから、あたしの部屋いくよ」 京介「お、おう」 歯磨きプレイ……か。さっき櫻井の妄想は途中で中断されたから続きが気になるところではあるな。 そう思い、桐乃の部屋へ向かおうとリビングから出ようとしたが、言いだしっぺの桐乃がなぜか動こうとしない。 すると――― 桐乃「ん」 京介「ん?」 桐乃「だから!ん!」 京介「……どうした?」 桐乃「もう!なんでわっかんないかなぁ!」 京介「…………あっ」 俺は桐乃のそばまで戻り、ひょいと『お姫様だっこ』をしてやった。 桐乃「絶対離さないでよね」 京介「ああ。絶対離さない」 それから桐乃の部屋で、阿良々木くんと火憐ちゃんの歯磨きプレイを視聴した後、 俺と桐乃は少しだけ仲良くなったのであった。 ちなみに今日俺が桐乃のために用意したホワイトデーのお返しは、風呂上りの桐乃に開けてもらおうと風呂場の前で待っていたのだが、 予定より少し早く帰ってきた親父とお袋に先に開けられてしまい、その後すぐに家族会議が開かれた。 ~終~ ----------
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/10614.html
登録日:2011/08/25(木) 05 02 52 更新日:2024/06/21 Fri 05 38 09NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 ただの鬼 マザコン 中村優一 井上キャラ 井上敏樹 京介変身体 仮面ライダー 仮面ライダージオウに登場したレジェンド項目 仮面ライダー響鬼 卑怯者→努力家 平成ライダー 弟子 強鬼←中の人が付けた名前 桐矢京介 桜井侑斗ではない←ゼロノスでもない 疑似ライダー 転校生 音撃戦士 響鬼 鬼 ※推奨BGM:輝 うまく行けば、相当面白い事になるよ。 今日はみんなに、編入生紹介するな。 ヒビキさん、今あきらから電話があって、至急応援に来て欲しいって。 君ってつまらない人間だよな。よくそう言われない? 三十之巻 鍛える予感 乞うご期待!! △メニュー 項目変更 -アニヲタWiki- 俺は優れた人間です。 ……彼よりずっとね。 『仮面ライダー響鬼』の登場人物。 演:中村優一 概要 『響鬼』後半に行われたテコ入れから登場したキャラ。 勉強面で非常に優れており、また芸術方面や将棋など頭脳でも優秀な成績を残している優等生。帰国子女でありフランス語もペラペラである。 しかしその反面、運動神経や体力に劣り、運動関係全般が苦手で泳げもしない。本人はそれを必死に隠しており、体育などは仮病で休んでいる(口では残念がり、自分が相当な実力者だと振る舞う)。 母親は外国で仕事をしているため大きな家に一人暮らししており、母親とはテレビ電話で会話している。 父親は消防士であり、彼が幼い頃に火災で取り残された子供を救助するために炎の中に飛び込み死亡した。そのため父親に対し尊敬の念を持っており、偉大な父親を超えることを目標としている。 母親は「ママ」と呼び、怖い時に外国にいる母親に助けを求めるなど、かなりマザコン気味。 成績優秀であるためかなり自信過剰な性格で、自身の実力を過大評価しており、他人に対しては見下した言動ばかりとる(作中の発言の9割が嫌味といっても過言ではない)。 自身の優秀性をアピールしたいらしく、何かにつけて勝負を仕掛けたがる癖がある。勝負の内容は牛乳の早飲み等、いろいろあるが、だいたいの場合いきなり勝負を仕掛け、相手が戸惑っているうちに自分だけ条件を達成して勝利宣言する。 また、運動オンチを隠したりするなど後ろめたいことがあるせいで被害妄想的な面があり、仮病で体育を休んだりしたときは他人の視線を気にして「なんだよその目は」と突っかかる。 自分の価値観が絶対だとしており、他人の事情や心境を知りもせずに上辺や偏見だけで批判や過小評価したりする。そして、それと比べる形で自分のことを持ち上げる。 またプライドを優先するあまり、苦手な事からは逃げる癖がある。しかし、本人は逃げているとは認めない。 明日夢のクラスに転校してきて、転校する前日に明日夢と勝負した(例によって一方的な)ためか、明日夢とよく一緒にいるようになる。 が、彼は明日夢を『つまらない人間』と見下しており、頻繁に嫌味を言い、知り合い以上友達未満な関係になっている。 明日夢と一緒にいるとき鬼の戦いを目撃し、響鬼の炎を纏った姿に父親の姿を重ね、父親を超えるためヒビキに弟子入りして鬼になる決意をする。 当初はヒビキに弟子入りを断られ続け、他の鬼に弟子入りを頼んだこともあったが、あきらの頼みもあり明日夢と共にヒビキの弟子になる。 弟子入りしたばかりの頃は修行の意図を理解できず反発したり、ヒビキがいずれ弟子を一人に絞るつもりだと聞いて明日夢より上だとアピールしようと、持久走でタクシーを使用するという卑怯な手を使ったり(すぐにバレてトイレ掃除の刑にされた)、自分が過去に獲得したトロフィーなどを持参して優秀さを示そうとしたりした。 また、復讐に囚われたことを悔いてイブキの弟子を止めたあきらを見下す発言をしたり、鬼の修行に専念するためと言って無断で学校を退学しようとした事もあった(後にヒビキに諭されて復学している)。 もちろんヒビキはそんな彼の行為を評価する訳もなく、結局一度は修行を放棄して逃げ出した。 その後、自分を馬鹿にした同級生に復讐するために陰陽環を盗み出す。だがその同級生達がカシャに狙われている事を知ると、反省したのか普通に人助けをし、それをきっかけに弟子に復帰。苦手な体力トレーニングもこなすようになる。 また、当初は見下し、邪魔者扱いしていた明日夢に対してライバル意識も芽生えており、明日夢が鬼以外の人助けの道を見いだして弟子をやめたときには激怒し、重病に苦しむ少女の願いを叶えるためにパネルシアターを行う明日夢に 「俺はな、お前とちゃんと勝負して勝ちたかったんだ!それなのに…裏切りやがって!」と激しく突っかかり、パネルを床に叩きつけて明日夢と取っ組み合いになった程。 その後一年はケンカ別れしたままだったが、持田ひとみが魔化魍にさらわれた際に協力し、明日夢が鬼以外の道でも努力を続けていることを認めて和解。親友的な関係となる。 また、修行を始めて一年で鬼になっており、師匠であるヒビキの最短記録を塗り替えている。 【京介変身体】 最終回にて京介が変身した音撃戦士。名前はない。ゼロノスでもない。 ヒーローショーで登場した際は「強鬼」と名乗っていた。 登場と同時に過去の回のショーで判明した敵の弱点を突いて有効打を与えるが、 突出し過ぎたために人質に取られ響鬼のピンチを招いてしまい、師への態度をトドロキ/仮面ライダー轟鬼に叱られたり、鋭鬼から 「 強気 も過ぎれば 狂気 の沙汰」と叱られる一方で 膨大なオリジナル設定を観客に説明するため猛士に伝わる敵の資料を読み込んできたという勉強家属性が強調され 鋭鬼からは「まさに博覧 強記 」と言われた。 基本的な姿は師である響鬼と似ているが、顔の模様が異なり角も四本ある(響鬼は二本)。 色は白と紫。白は父親の職業である消防士イメージで、紫は高貴をイメージしたデザインらしい。 練習用装備をしているが、ジオウに登場した際には正式な鬼となっていたことからか響鬼と同様の音撃鼓を用いていた。 ちなみに『仮面ライダーディケイド』の「響鬼の世界」に登場したアスムが当初変身していた姿もこの姿だった。 『S.I.C.HERO SAGA vol.2』に新規収録された立体化企画では、京介の独り立ちした鬼の姿はこうであろう、という少し大人びた感じの変身体の作例が作られた(小説には未登場)。 他作品への客演 仮面ライダージオウ 第33話の「響鬼編」に登場。 ソウゴ達の前に登場するなり、自らを「響鬼」と自称する。 だがトドロキ曰く、実際の所は響鬼を襲名できなかった「ただの鬼」止まりであった事が判明。 平成仮面ライダー20作品記念公式サイトでの解説によると、一人前の鬼としては認められていた模様。 アナザー響鬼の変身者である鼓屋ツトムとは何らかの関わりがあるらしく、彼を守るために鬼に変身しソウゴたちの前に立ち塞がる。 襲名に失敗したにもかかわらず「響鬼」を名乗った上、弟子入りを志願してきたツトムを不承不承ながら弟子として受け入れていた。 この事でトドロキなど現役の鬼たちとは折り合いが悪くなっており、加えて本物の響鬼ではないことを知ったツトムは京介のもとを去ってしまった。 この件は京介にとっても大きなトラウマとなっていたが、クジゴジ堂でソウゴから小学校卒業当時のツトムの思いを聞かされ、ツトムにとっては確かに京介こそが「響鬼」であったことを知り、今度こそ彼をアナザーライダーの力から解放すべく弟子のもとに走る。 そこで、弟子を得たことで自身もまた一人前の鬼となれたことを告げ、必ず彼を救い出すと決意する。 その時、ポケットの中に光が瞬く。 そこにあったものを手に取った京介は、思わず師に呼びかけていた。 ヒビキさん……? 俺を、響鬼として認めてくれるってことですか……!? ……ありがとうございますッ! 京介のもとに出現したのは、響鬼の力を宿したライドウォッチ。 それを起動した京介は、ついに次代の鬼として仮面ライダー響鬼に変身、ジオウトリニティと共に音撃の技を以てアナザー響鬼を打ち破った。 戦いののち、正気に戻ったツトムを再び弟子として受け入れた京介は、響鬼ライドウォッチを約束通りソウゴに託す。 俺は俺の道を行く。必ずヒビキさんのような鬼になる。だからお前も魔王とやらになって見せろ。 ちなみに数話後に登場する彼とはただのそっくりさんである 追記・修正は次代の鬼となってからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ※愚痴や中傷、文句や批判といったコメントはIP規制やコメント欄撤去の原因となりますので絶対に止めましょう。 ▷ コメント欄 [部分編集] 依頼によりコメント欄のリセットと警告の追加をしました -- 名無しさん (2018-01-14 20 01 20) 尻叩きの小暮さんのところに預けられたらどうなっていただろうか -- 名無しさん (2018-01-18 18 57 44) 来週の仮面ライダージオウに登場します。 -- 名無しさん (2019-04-21 09 31 41) 響鬼編は大人の事情もあるからどうかなーって思ったが、まさかこの人が響鬼になるとはなあ…。 -- 名無しさん (2019-04-21 09 43 12) 中村さんゼロノス/侑斗として出るもんだと思ってたから、まさか桐矢の方で登場するとは思わなかったわw -- 名無しさん (2019-04-21 12 00 28) ↑1、3まあ電王は劇場版で消化してるからなあ -- 名無しさん (2019-04-22 11 15 14) あらすじ的にヒビキさんの後を引き継いで、次代の響鬼になったらしいね 京介変身体は云わばグローイング響鬼ってとこか しかしあの京介が一人前になって、何かトラブってるらしいけど弟子までいるなんて、感慨深いなぁ -- 名無しさん (2019-04-22 13 36 04) そして黒ウォズのテンションまで上がりまくらせるなんて‥‥‥‥ -- 名無しさん (2019-04-22 13 38 08) ↑ あれはソウゴが誕生日だからじゃ・・・ 怪我したら明日夢の治療を受けてたらいいな -- 名無しさん (2019-04-22 13 54 15) 立派な師匠になった後でも自信過剰な雰囲気の(あくまで雰囲気だけ)決め台詞はちょっと見てみたいかも。「俺は優秀だからな!」みたいな感じの -- 名無しさん (2019-04-22 14 34 28) ↑パッと見、傲岸不遜だけど根はいいヤツで落ち着いてそうだな、2019年の京介 -- 名無しさん (2019-04-22 14 38 49) 警告無視のコメントとそれに関わるコメントを削除しました -- 名無しさん (2019-04-23 18 37 45) …まあジオウ参加おめでとう。多分結構立派な鬼になってるのかな?楽しみだ。 -- 名無しさん (2019-04-24 17 54 45) 一週間ルールを無視して速攻で内容を追加したり、自然に貶す人が現れたりしているようですから、やっぱり一旦編集もコメントもできないようにしたほうが良いでしょうか? -- 名無しさん (2019-04-28 13 19 35) あーやっぱ響鬼を継承できてたんじゃないのね なんつーか京介らしくて安心 夢を追いかけるものとしてソウゴにふさわしいレジェンドだ -- 名無しさん (2019-04-28 20 30 39) クウガアーマー出たからか変身態がどうしてもグローイングフォームに見えてしまう -- 名無しさん (2019-04-28 20 47 12) ↑P関係で意識してるかもね 予告的に京介が響鬼に覚醒する可能性出てきたし -- 名無しさん (2019-04-28 21 09 48) ジオウのやつ消されてる! -- 名無しさん (2019-04-28 23 03 33) ↑放送からまだ一週間経過してないので今はまだ待ちましょう -- 名無しさん (2019-04-28 23 05 34) 斬鬼さんの後を継いだ轟鬼ともども登場したのはある意味納得の配役と言えるかも。威吹鬼さんはリュウソウ族のマスターになってたけど -- 名無しさん (2019-04-29 05 25 25) 強鬼はなかったことになるのかと危惧してたらそんなことはなくて一安心 -- 名無しさん (2019-05-01 12 31 27) ジオウでは正式に強鬼の名を得てほしい -- 名無しさん (2019-05-03 11 45 58) 名前がつくのもいいけど、まだ発展途上って訳で変身体のままでいいのかもって気もする。 -- 名無しさん (2019-05-03 18 17 11) 響鬼を襲名出来なかった理由=イニシャルが「ひ」じゃないから(嘘) -- 名無しさん (2019-05-04 02 00 58) ツトムを大切にする良い師匠になったな。能力も高くなった -- 名無しさん (2019-05-06 20 33 14) RIDERTIME強鬼やらへんかなー 本当の意味で鬼(仮面ライダー)になる的な ヒビキさんから「胸張りな。お前はもう一人前だよ」って認められてみたいな 響鬼の称号に関してはトドロキパターンで辞退して、ヒビキさんから「きりやきょうすけだから、強鬼かなー。響鬼もきょうきって呼べるし」みたいに贈られるとか -- 名無しさん (2019-05-06 21 41 37) 次回のジオウは絶対に京介のそっくりさんネタが出そうです -- 0803 (2019-06-02 11 41 32) 昔と比べると成長してるよね、他人のために命かけてるんだから -- 名無しさん (2019-06-02 17 08 22) 誰だそれ -- 名無しさん (2019-06-09 22 22 45) 色々言われているけど、明日夢のジュブナイルとか、思春期の子供と大人の関係性ってテーマとして見ると凄く大事なキャラだと思うんだよなあ。明日夢における青春の特権は悩むことだったけど、彼における青春の特権は誤ることだったんだろうと。そして一人の大人として、ヒビキさんはそれぞれにアプローチしてたんだろうと。テコ入れで生まれたキャラだとしても、響鬼の根幹に関わるキャラな気がする。 -- 名無しさん (2020-03-16 01 01 22) カメンライド キョウスケヘンシンタイで疑似ライダー扱い。まぁ一人前なのは平成二期だから仕方ないかも。 -- 名無しさん (2022-07-08 07 31 00) 登場した意味や役割は分かるんだが、もうちょっと可愛げが欲しかったな、というのが正直なところ -- 名無しさん (2023-05-17 23 36 03) 本編では明日夢がもらった武器を盗んだりしたのになぜか褒められたりとかお咎め受けるシーンがほぼなかったからジオウでゲイツに「偉そうに!」って言われたり響鬼だって嘘ついたのを責められてた時はちょっとだけスッキリした -- 名無しさん (2024-04-05 09 20 12) 明日夢はなまじ周りがいい人揃いだっただけに終始彼らの顔色窺ってばっかで主人公らしい主体性が致命的に欠落してたし、対立するキャラを配置したのは理にかなってたと思う。問題はそれが良くも悪くも絵に描いたような「敏樹の男」だったことだけど() -- 名無しさん (2024-05-27 17 13 46) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/455.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1299681223/120 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 06 10 58.03 ID IA1iLmcz 黒猫の家に遊びに来ていた京介がCMで美味そうに丼ものを食べるシーンを見て 「久しぶりに丼もいいな」と、呟いたら。そばにいた黒猫が赤くなって怒り出した なぜ怒られてるのか分からない京介をニヤニヤしながら見てた中猫が 「私は別に構わないよ~」などと言い出したため黒猫さんマジ赤猫状態 171 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 21 59 59.78 ID lARSv8TF [3/4] 桐乃vsリア。 二人の競争を、ハラハラしながら俺は見守っていた。 スタートの加速は圧倒的にリアの方が勝っている。 しかし、徐々にスピードを上げる桐乃はその差を少しずつ縮めていた。 桐乃を応援するために、俺は叫んだ。 「俺はシスコンじゃねぇ、ロリコンだー!!!!」 言おうと思っていたセリフを間違えた。 結果、桐乃は途中から失速し、グンと急加速したリアの圧勝に終わった。 「お兄ちゃん、超好き!」 *** 怒って速攻で帰ってしまった桐乃をよそに、リアは上機嫌だった。 「やっぱりお兄ちゃん効果ってすごいんだね」 ワケ分からん。 「リア決めた!絶対にお兄ちゃんを私のモノにする!」 「ちょ、お前」 「いひひー」 いきなり服を脱ぎ始めるリア。 俺はロリコンじゃねーぞ……… この後何があったのかは、各人の想像におまかせする。 おわり 294 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/15(火) 14 50 43.38 ID lj4ZkKtO [2/2] 「こ、これは、先輩のパンツ。――ゴクリッ」 この日。 千葉の堕天聖こと黒猫は、友人の高坂桐乃の兄であり現在の恋人でもある高坂京介の部屋で、彼のパンツを握り締めて挙動不審に悶えていた。 家主がコンビニへ買い出しに向かった隙に、彼のエロ本の趣味でも調べてやろうと思ってベットの下を覗き込んだのだが。 「……今後の参考にしようと思ったエロ本は見付からず、代わりに先輩のパンツを掘り出してしまうのは予想外だったわ」 しかも、このしわくちゃ具合から察するに、手の中にある彼のパンツは十中八九『使用済み、未洗濯』のモノである。 「先輩のご両親は夕方まで確実に帰って来ない。妹は撮影の仕事で今日は家に居ない。それに、先輩がコンビニから帰ってくる迄には、最短でも後10分程は掛かる筈よ」 つまり今、彼女の邪魔をする危険性のある人物は誰一人として居らず、先輩のパンツを好き勝手出来る時間はいくらでもある。 「……ハッ! 私はなんという事を考えているのよ!! 駄目。いくら先輩が優しいからといっても、こんな私を見たら確実にドン引きするわ」 しかし。そんな言葉とは裏腹に、黒猫の右手は京介のパンツを握り締めたまま一向に離す気配がない。 「く……ッ!! こんな時に右腕が……ッ! 駄目よ、鎮まって!!」 邪気眼全開モード。空いている左手で、パンツを握りつつぷるぷると震えている右腕を抑え必死な表情で何か(この場合は、思春期特有のリビドー)を耐えている黒猫。 「あぁ……っ! そんな、左手までも先輩のパンツから迸る魔力に侵されてしまったというの!?」 それにしてもこの黒猫、ノリノリである。 「先輩、先輩……はぁはぁ」 訂正。この黒猫、末期的なヘンタイである。 「もうダメよ! 溢れ出る欲望を制御できないわ!!」 さよなら、理性。ようこそぱんつ。 鼻息も荒く、恋人のパンツに顔を埋める黒猫。 「はぁはぁ……。兄さんの未洗濯パンツ……クンカクンカ」 恍惚とした表情を浮かべながら、一心不乱に匂いを嗅ぎ続ける黒猫。 いつの間にか、呼称が先輩から兄さんに変わっている所に理性の喪失を窺うことができる。 ――完全無欠のヘンタイさんだった。 「兄さんの下半身を包んでいたパンツが、現在進行形で私の顔を包み込んで……だめっ! 駄目よ兄さん。そんなにしたら、匂いだけで妊娠してしまうわ……ッ!! それとも、兄さんはパンツの匂いで人を妊娠させる趣味でもあるのかしら? はぁはぁ、兄さん、にいさぁん……」 「ちくしょう。どのタイミングで部屋に入ればいいんだ……」 そんな黒猫の奇行を前に、自室の前で思案にくれる哀れな恋人が一人。 「あ、ポケットにパンツ仕舞った」 ――俺の黒猫がこんなに変態なわけがない!! 653 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/03/21(月) 20 35 44.42 ID oLcR04kS [1/2] SS投下、エロくなくてゴメンネ その日あたしは部活を休んで早めに家に帰ってきていた。 別に具合が悪いわけじゃない、機嫌が悪いだけだ。 それというのもアイツ――あたしの兄貴が鈍すぎるから。 普通ならここまで女の子から合図送ってたら気付かない方がおかしいよね!? なんとなく今までの努力も無駄な気がしてきててクサクサする―― 意味も無く眺めていたテレビもあたしを慰めてはくれない。当たり前だ。 だって求めているものはただ一人だけなのだから――― 「ただいまー」 玄関から声がする――アイツの声だ。 ふん、こんなに思ってるのに気付いてくれない奴なんか無視してやる! 寝たふりを決め込んでただ時間が過ぎるのを待つ―― アイツはいつものようにリビングに麦茶を飲みに入ってきた。 「うわ!?なんだいたのかよ」 何を驚いてるんだろう?あたしを見るのがそんなに嫌なの? 「・・・寝てんのか?」 プッ、騙されてやんの!いい気味だ。笑いをこらえながら寝たフリを続ける―― ・・・・・・・・・・ おかしい、何も気配がしない。アイツはどこへ行ったんだろう? そう思っていたら誰かの手があたしの髪に触れた―― 何?何?何が起こってるの?囁くような声が聞こえてきた。 「・・・人の気もしらねーで・・・」 どういう意味?それを言いたいのはこっちなのに―― 優しく頬をなでる手は暖かく、次第に何かが顔に近付いてくる気配を感じた。 ふっ・・・と優しくあたしの唇に何かが触れる―― それがアイツの唇だとわかるまでどれくらい時間がかかったんだろう? ううん、触れていた時間はきっと凄く短い。あたしが長く感じただけだ。 「やっぱり俺じゃ起きないよな」 何か自嘲するような声だ。どういう意味なの? 静かに立ち去っていく足音がとても悲しく響く―― 『待って!!!』 そう言いたいのに声が出ない――ガチャリと扉の音が冷たく響いた。 心臓の鼓動が凄くうるさい、おかげで考えがまとまらない―― 何故だか涙が次々と溢れてくる。 どう表現すればいいのかも分からない感情が次々と溢れてくる。 「―――もう、何がなんだかわかんないよ。バカ兄貴・・・・・」 851 名前:『つんつん娘』 ◆ACPRLbMxAk [sage] 投稿日:2011/03/25(金) 20 59 06.34 ID i4fs5a8B 兄貴に会ってもなーんも言わん。 何かをしてもらってもなーんも言わん。 だから兄貴と仲が悪い。 つんつん娘はひとりで山に行った。 『 お は よ う 』 「ひええええええええ」 それはそれは恐ろしい赤鬼じゃった。 「おはよう‥‥‥挨拶できんなら喰ってしまうぞ」 慌てて娘も、 「おはよう‥‥‥」 『おっ。うへへええ』 『こんにちは』 「こんにちは」 『エロゲはどうじゃ?』 「ありがとう!」 娘が挨拶する度に、にこにこ鬼でいっぱいになった。 それからというもの、娘は挨拶するようになって‥‥‥ 「あ、兄貴、おはよう。昨日は‥‥‥ありがと、ね」 兄貴といっぱい喋るようになったそうな。 誰だ? ツンデレ娘は? おしまい
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4082.html
一 夢みたこと 朝日が差し込んでいる。その眩しさで真紅は目を覚ました。随分と眠っていたような気がするけれど、よく思い出せなかった。 頭が酷くぼうっとしている。そもそもなぜ自分は座りながら眠っていたのか。 真紅の席と向かい側には大きな空の食器。何かが乗っていた様子も無い。 真紅は見た事も無い場所だった。 「なんなのここは…?」 狐につままれたような気持ちで真紅は席から降りた。椅子は足がつかないほど大きく、飛び降りるような形になる。服の揺れる衣擦れの音が大きい。 真紅は自分の服を確かめた。 人形展の時にも着ていった紅いドレスだ。いつの間に着替えたのか。 自分の指が関節ごとに丸く膨らんでいた。まるで球体関節人形のように。いや、球体関節人形そのものだ。 真紅は人形になっていた。 椅子も食器も大きいのではなくて、自分が縮んでいたのだ。 慌てて真紅は鏡を探した。ちょうど部屋の隅に薔薇の彫刻に縁取られた姿見があった。 駆け寄り、自分の姿を写しだす。考え通りそこには気品にあふれる紅い人形が一体立っていた。 その姿はまさに。 「…ローゼンメイデン…」 震えた声で呟く。自分の頬に触れる。そのまま自分を抱きしめる。 この異常な事態に真紅はなんの疑問も持たなかった。 「やっと、やっと…ここまで」 ただただ真紅の胸は感動で打ち震えていた。無意識に流れ出た喜びの涙が真紅の頬をつたう。 そうだ、これこそが正しい。やっと収まるべき場所に収まったという気すらする。 いままでの人としての生活のほうが間違いだったのだ。この姿こそが正しい。 真紅の赤熱した頭脳は次の考えを紡ぎだす。 自分が人形ならば、この場所はなんなのか。そんなもの、決まっている。 (お父様の家だわ) その考えは天啓のように真紅の脳裏に閃いた。 「お父様!お父様!どこにいらっしゃるのですか!」 真紅の声に答えるように微かにコーヒーとふんわりとしたパンの焼ける香りがし始めた。 ここがお父様の家ならば、食器を用意したのはお父様だろう。 待っているべきかしら。真紅は一瞬そう考えたが、けれど近くにお父様が居るとわかっただけで、もう真紅は走るような勢いで歩き出していた。 早くお父様に会いたかった。話を聞いてほしかった。この姿を見てもらって抱き上げてもらいたかった。 香りに誘導されて真紅は扉を開けた。ドアノブは真紅にも手の届く場所にも着いていた。やはりこの家はローゼンメイデンのためにある。 けれど扉の開いた先は、まだお父様のいる部屋ではなかった。 通路のような場所。小さな丸い天窓が3つはまっていて、柔らかい朝日はここにもある。 右手側に真紅の背より高い棚が作られていて、たくさんお人形が陳列されている。みんな腰を下ろし壁に背を預け、朝日を浴びて眠っていた。 一番手前に白い人形。それから桃、蒼、翠、黄、黒そこで人形は途切れて、扉があった。 ちらりと桃の人形の笑顔を見る。けれど他の人形に興味はなかった。真紅は小走りに次の扉に向かい、ドアノブを捻る。 がちゃり。 扉は開かない。扉には鍵がかかっていた。何度も扉をあけようとする。開かない。 「なんで…!」 真紅は呻いた。心の中の喜びと期待がそのまま焦りと失意に塗り替えられて行く。 真紅は絶叫した。 「お父様、どうか開けて下さい。貴方の娘の真紅です、会いに来たんです!お父様!」 ドアを叩く。分厚い一枚板でできたドアはびくともしない。 真紅はさらに激しくドアを叩き続けた。 「お父様!私はここにいます!気づいて!」 ドアの向こうから返事は無い。 「お願いです、お父様、おとうさま…」 だんだんとドアを叩く力が弱まっていく。力なく腕が垂れる。 「どうか…」 もう言葉にもならなかった。涙がぼろぼろと足の間に落ちていく。 「当たり前じゃなぁい」 右を振り向くと、眠っていたはずの黒い人形が笑っていた。 チェシャ猫のような三日月の笑み。嘲る笑いで真紅を見下ろしている。 「お父様が貴女みたいなブサイクを愛するわけないじゃない。お父様が愛しているのは私、一番最初に作られたこの私よ」 真紅は一目でこの黒い人形が自分の天敵である事に気がついた。 それにさっきの姿を見られていたのだとしたら最悪だ。 「順番なんてたいした問題じゃないでしょ」 「そうかしらぁ?」 黒い人形は音も無く羽ばたき、真紅の上空をゆらゆらと漂い始めた。 「私達って随分似てないわよねぇ。つまり一つ前の作品を発展させる形で作られた訳じゃないのよ。おわかり?」 黒い人形はにやにや笑っている。真紅は黒い人形をにらみながら慎重に答える。 「それが?」 「つまりお父様は私たちを同時期に構想されていたのよ。なら、制作順番はお父様が少しでも早く世に生み出したかった順と言えるでしょ」 「くだらない妄想よ。根拠がないわ」 もっと他に言い返した方がよかったが、うまく頭が回らない。 「じゃあ、なんで貴女のためにお父様は扉を開けて下さらないの」 「…」 真紅は答えられなかった。 「かわいそうな五番目ちゃん。貴方は誰にも愛されてない」 黒い人形は歌うように言って、手を広げた。空に浮かび、朝日を受けて優雅に手を広げる黒い人形は、美しかった。真紅でも認めざるを得ないほどに。こんなに憎らしいのに。 「そしてお父様に最も愛されるのはこの私。お父様に最も近しいのは私。お父様の棺に蓋をするのもこの私なの」 黒い人形は優しく真紅の頭に手を置いた。そして女王の高圧さで告げる。 「さ、五番目ちゃん貴女の席はあそこよ」 蒼の人形と桃の人形の間を指差す。 真紅は黒い人形の手を払いのけた。 真紅の胸の内に溜まった黒い油のような感情に火がついた。激怒だった。 「うるさいのよ!こんな連中と私は違う!」 叫んでから、真紅ははっと息をのんだ。 「あらあら、お姉ちゃん悲しいわぁ」 黒い人形は蔑んだ目で、こちらを見ていた。 「…ただの事実なのだわ」 「結局のところ、貴女にとって姉妹は邪魔物にすぎないのよ」 「違う!」 「私の人形を壊したくせに」 「壊したくて壊したんじゃないわ、私だって貴女の人形展が成功するように力を貸していたのだわ」 「嘘。貴女にとって、私の人形展は自分の名前を高めるための踏み台に過ぎなかった。だから私の人形を壊したんでしょう?だって貴女以外に輝く物があっては困るものね」 なじる声は降り注ぎ続ける。 「人形展が私にとってどんな価値があったか、貴女は気づいていたはずよ。けれど、貴女はそんなこと気にもしなかった。いいえ、気づいて、そして見下していたんでしょう。私の気持ち、私の行為全てを」 「私は貴女が人形師として成功すればいいと思っていたわ」 「それが見下しているというのよ!貴女に与えられる必要なんて私には無かった」 みしみしと音を立てて、水銀燈の翼が広がり続けていた。 「答えなさい真紅。貴女は私の造った金糸雀に何を見たのか」 「貴女が自分の優位を確信していたのなら、あの時ああも取り乱す必要は無かったでしょう」 「…」 「答えられないのなら、言ってあげる。貴女はあの時アリスを見ていたのよ。もはやアリスに近づくはずも無いと思っていた私から、ああいう物が飛び出して来たから、貴女はあんなに取り乱し、私を否定せずにはいられなかった。違う?」 真紅は黙り続けた。水銀燈の唇はつぃっ、と悪意ある形に吊り上がる。 「まぁ、どうでもいいわ。お返しよ。受け取りなさい」 真紅は自分の右腕に黒い羽根がまとわりついている事に気がついた。そして気がついた時にはもう遅い。真紅の右腕に激痛が走り、そのまま右腕はちぎれ飛び、ぼたりと床に落ちた。 震える左手で、右腕の袖を掴んだ。真紅は膝をつく。全身が瘧のように小刻みに震えていた。 上から黒い人形の笑い声が降ってくる。 「これではっきりしたわ。壊れたお人形がお父様のお気に入りな訳ないでしょう」 そして黒い人形は笑い続けていた。体をのけぞらせるほどの大笑いだった。 「あはは、なんて不格好なの真紅ぅ!」 二 夢の顛末 有栖川病院の飾り気の無いベッドの上で真紅は跳ね起きた。 「あぁあっ…」 右腕が、もはや無い腕が痛くて痛くてたまらなかった。 また血が流れ出したのかと思った。出血を止めようとする左腕が空中を掴む。 「いっ…た」 呻く。脂汗が止めどなく流れた。 痛みに朦朧となりながら真紅は思う。 (ああそうか。無くした腕はあの人形を砕いた腕だった) 人形展の金糸雀人形。どこか遠くを見るような眼差しをしていた。あの目は遠くにいるお父様を見ようとしているように思えたっけ。そこが気に入らなかった。 真紅自身何を考えているのかよくわかっていない。ただの痛みからの現実逃避だった。 どれだけそうしていただろうか。やがて痛みの波は小さくなってきた。 真紅は荒い息を吐いた。 思い出されるのは、夢に見た黒い人形の吊り上がった笑み。 「水銀燈…」 左腕にさらに力が入る。 その瞬間、控えめなノックの音が響いた。 「誰?」 「真紅、入ってもいいかしら?カナかしら」 おずおずとした金糸雀の声。 最悪のタイミングだったと言っていい。 けれども。 「ちょっと待って頂戴」 鉄の自制心で、真紅はいつもの平然とした声を出した。 手早くハンカチで汗を拭き、髪を整えた。 痛みが引いて来たとはいえ、酷く体が熱っぽいのを我慢して平気な顔を取り繕う。 「いいわよ」 「こんにちわ、真紅」 声音の通り、おずおずとした調子で金糸雀が入って来た。右手に不死屋の紙箱、左手にヴァイオリンケースを持っている。 真紅はただ無関心な一瞥をくれた。 「貴女が来るとは意外ね」 「そうかしら」 「何しにきたの?」 金糸雀は不意にぶたれたような、少し驚いた顔をした。 「その…体の調子はどうかしら?」 「おかげさまで調子がいいわ」 「…あぅ」 気まずい沈黙。 (ど、どうしたらいいのかしら…) 金糸雀は人に邪険にされるのは、これが初めてだった。少なくとも自覚している限りでは。 自分が嫌がられているのはわかるが、目の前の真紅はなんだかいつもと様子が違うし、ジュンとお見舞いに行ったときよりも調子が悪そうなので、さっさと帰る事もしたくない。 「えっと、その…」 金糸雀の心配そうな表情に真紅は内心苛ついた。 (この前、ジュンと一緒に来て、義理は果たしたと思うけれど) 金糸雀にわからないようにそっとため息をつく。別に相手を気遣っての事ではなく、金糸雀に感情を乱されていると思われるのが嫌なだけだ。 真紅の視線がさらに冷たく重くなった気がして、金糸雀は内心慌てた。 そこで気がつくのは手に持った不死屋のケーキの紙箱の重みである。 今日買ってきた紅茶と苺のロールケーキはかなり場を和ませてくれる気がする。紅茶のスポンジに包まれた生クリームの中で苺が半分に分かれていて、まるでリスザルの目みたいにくりっとしているのだ。 いきなりこんなに気まずくなるとは思っていなかったが、そういう和み効果を期待して金糸雀が一生懸命選んだ一品だった。 (ととと、とりあえず不死屋のケーキで場を繋ぐかしら!?) 「と、とりあ」 「金糸雀」 「へ?」 不死屋の紅茶のロールケーキを取り出そうとし始めた金糸雀はきょとんとした。 「貴女が心配するような事は何もないわ」 改めて、真紅はそう切り出した。 「貴女は私が打ちのめされて、酷く落ち込んでいると思ったんでしょうけれど、そんなことはないわ」 真紅は襟の第一ボタンを止めてみせた。 「ほらこのとおり。腕が一本なくなったくらい私にはどうってことないのだわ。少なくとも貴女が責任を感じるような事じゃなかったのよ、あの事は」 真紅の右腕が飛んだ時、目の前にいたのは金糸雀だった。 「そうかもだけど…」 金糸雀は申し訳なさそうにしている。 (勘違いされたらたまらないわね) 素っ気ない態度を気丈な態度だと勘違いされてしまうと。金糸雀が頻繁にお見舞いに来るようになりそうだ。それは正直うんざりするので、ごめん被りたかった。だから駄目押しをしておく。 「だからわたしは貴女の哀れみなんていらないのよ」 金糸雀は病室に立っているが、あごを引き、上目遣い気味に言った。 「カナは哀れんだりなんてしてないかしら」 「筋合いのない心配は哀れみと同じだわ」 「カナと真紅は姉妹かしら」 真紅は今度こそ大きくため息をついた。話が面倒くさい方向に転がりだしているし、腕の痛みもぶり返し気味だ。ちくり、じわりと痛みが増していく。腕の切断面に一本づつ針を刺していくような痛み。 ほうっておいてほしかった。『貴女の顔なんて見たくもないからさっさと出て行って頂戴!』と叫べたらどれだけいいだろう。 けれど、そんな人前で取り乱すなどという振る舞いは真紅の美意識が許さない。 あくまで落ち着いて金糸雀を追い出しにかかる。刃物のような冷たい表情が真紅の顔に浮かび始めていた。 「姉妹ね…私たちにとって、姉妹という関係はどれほどの物なの?」 「…」 金糸雀は言葉に詰まった。真紅の予想通り、金糸雀はそのことについて深く考えた事はなかったようだった。 水銀燈が他の姉妹は全員敵だと吹き込んでいるかと思っていたが、その様子もなさそうだ。 「私はそもそも貴女に興味がなかったわよ。貴女が桜田さんの家に押し掛けてこなければ関わりあう事もなかったでしょうし」 「でもその前に夏にみんなと知り合うって決めたのは真紅かしら。真紅は欠席だってできたでしょ」 「あの時は少しは意味があるかもと思っていたわ。けれど貴女達と知り合ったこの数ヶ月間はなんの収穫もなかったわね。貴女達はローゼンの娘としての自覚があまりにも足りないのだもの」 既に真紅は常人なら涙を流してもおかしくない痛みを感じていたが、それに加えて今までの針で刺される痛みではなく、突然斧を肩口に叩き込まれるような発作的な痛みが真紅の腕の中で跳ねた。 さすがの真紅も一瞬視線を右腕の付け根に視線を走らせた。当然異常はない。 そして真紅は他の事に気がついた。 さっき止めて見せた服のボタンが外れている。半端に穴に通す事しかできなかったため、簡単に外れたらしい。一瞬痛みを忘れるほどの感情が真紅の胸の内に吹き荒れた。 それは自分への激怒であり悲鳴であり、なにより失望だった。 「ローゼンの娘としての自覚ってなんのことかしら?」 金糸雀が不思議そうに問うてくる。 激痛は止まない。むしろ斧を二度、三度と傷口に繰り返し叩き付けられているかのようだ。そして失望も消えない。でもここで返事がなければ不自然だ。 「アリスを目指すということよ」 「アリスを目指す?」 金糸雀はその答えがあまりに意外で、理解できなかった。 返事がなくても真紅は続ける。真紅の言葉はすでにうわ言のようになっており、それ自体が異常な熱に浮かされていた。 「そうよ。私は違う。愚かな貴女、目をそらす翠星石、卑屈な蒼星石、甘ったれた赤ちゃんの雛苺そのどれとも違う」 真紅はきつく自分の右腕の付け根、もうそこから先はない付け根を左手できつく掴んだ。 「真摯にアリスを目指しているのは私だけだったわ」 「おねえちゃんがいるかしら」 むしろ水銀燈を一番酷く嘲うために、真紅がこういう話し方をしたことに金糸雀は気がつかない。 そして真紅は会話を誘導したために、金糸雀の意図に真紅は気がつかない。 金糸雀が水銀燈の名前を出したのは、真紅に自分は独りだと思って欲しくなかったからだ。 二人はお互いの意図や、いつもと違う態度をとる理由を全く分かっていなかった。それでも会話は続く。 真紅は鼻で笑った。 「ははっ。水銀燈が一番おかしいのよ。壊れているわ」 「壊れ…?」 「そう。ジャンクよ」 真紅の胸にある感情は自分に向けられたものだ。けれど、それを噴出させる方向まで自分に照準を会わせる必要はない。目の前には金糸雀がいる。こいつが一番大事にしてるものが何かはわかってる。 現実逃避であることは薄々分かっていた。でもどうでもよかった。 どうせ現実に大事な物は戻ってこない。なくなった腕。完全な自分。お父様との唯一の絆。 「教えてあげるわ、水銀燈が」 ガゴン! 金糸雀が床にヴァイオリンケースを叩き付ける鈍い音が響いた。微かに内部の弦が振動する音がその後に続く。 「いらない。取り消して」 金糸雀は迷いのない口調で言った。その視線は鋭い。 「おねえちゃんだけじゃない。みんなに言った酷い事全部取り消すかしら!」 「答えはノーよ」 しばらく二人はにらみ合った。が、真紅には限界がある。 「っ…あ」 ついに目覚めた時と同じくらいに膨れ上がった腕の痛みに真紅はおもわず背中を丸め、かがみ込んだ。 金糸雀は自分の怒りを忘れて、真紅に駆け寄った。 金糸雀がにやにやと笑っているような気がする。目線を上に戻せない。 「痛いの!?真紅、真紅!」 金糸雀の手が真紅の背中に触れた。 真紅は背中の手を払いのけようとしたが、それは激しい痛みのせいで加減がきかなかった。 左腕に鈍い感触がして、それから不意に感触がなくなる。振り上げた左腕は勢い良く金糸雀のあごを打っていた。 金糸雀はたたらを踏むように2、3歩後ろに下がった。それから膝が床に落ちる。その姿勢は足を崩した正座のようだったが、すぐに上半身が足を抱え込むようにして前のめりに倒れた。 ごん。頭をそのまま床に打ち付けた音がする。 嫌な予感がする。さすがの真紅の声も震え始めていた。 「金糸雀、腕が当ったみたいね?悪かったわ」 「…」 金糸雀は何も答えない。妙な姿勢もそのままだ。 心臓が激しく打っているのに、真紅は体が冷えるのを感じた。腕の痛みさえも壁を隔てた遠い事のように感じられる。 にじみ出た汗が冷えて気持ち悪い。 「早く起きて頂戴」 言い終わる前に真紅はベッドを滑り降りた。金糸雀の背中を揺らす。 真紅のされるがままに金糸雀は揺れた。自分では指一本も動かさない。 (死んでる) そんな発想が頭に浮かんだ。理性は否定する。人が腕があたったくらいで死ぬ訳がない。そんなわけはない。血だって出てない。 うつぶせの金糸雀をひっくり返せば、すぐに確認できる事だった。 けれど人形展の事が、今の状況に重なる。 あの時も腕に少しの感触を感じただけだった。けれどあの人形は終わってしまった。 生気すら感じた物が全ての意味を失ってしまう、理不尽な終わり。人形の壊れた顔に現れた空洞。まるで操り人形の糸が全て切れてしまったような、突然の終わり。 今、金糸雀がうつぶせたその顔はどうなっているのか。おそらくなんの外傷もない。けれど顔があったところで、もう魂は抜け出てしまっているのではないか。 初めて真紅の頬を痛みのためでない汗が伝った。 恐い。 「なんなの…一体これはなんなの…?」 腕をなくして入院して、目の前で金糸雀が死んでいる。 自分のなす術無くなにもかもが崩れて行く。まるで自分の座っている床すら砂になって落ちて行くようだ。 暗い。 寒い。 生まれて初めて、真紅は気絶した。 ※ さてどうしよう。 メグは真紅の病室に一人立ちながら考える。 病室のお隣さんに挨拶しようと思ったら、先客に金糸雀がいて、しばらく覗いていたらこの有様だった。 いきなり医者を呼ぶのはやめておこう。 この状況をみれば治療だけではすまない。 原因が追及されて、お互いの保護者に連絡がいけばもうアウトだ。 ただでさえ両家の関係はこじれているのだから、もう入院中にお見舞いに行く事も出来ないだろう。 それどころか警察がしゃしゃり出てきて、真紅の腕が失われた事件との関連を追求するかも知れない。 「せぇの…っと」 なんとか真紅を抱え上げる。 片腕になってしまった事を差し引いても、真紅はメグでも持ち上げられるほど軽かった。 とはいえ真紅をベッドに戻すと、メグの両腕は震えていたし、酷くむせたが。 (ちゃんと食べてるのかしら、この娘) ぜぇはぁと息をつきながら、メグは自分の事を棚に上げて考えた。 実は昨日めぐはのりと出会って、少し話をしていた。 その時『真紅ちゃん』のことを口にするのりの顔には見覚えがあった。 一昔前に自分のお見舞いに来た自分の父親の顔だ。 頑に心を閉ざす相手にどう接していいのか分からない、途方に暮れた顔。 (こういうのを同病相哀れむって言うのかしら) 真紅をなんとかしてあげたいと、めぐは思う。 真紅のような子供はほうっておけば自分で築き上げた城壁の中から出てこれなくなるだろう。 自分は水銀燈との出会いによって、そうならずにすんだ。 金糸雀と真紅の関係がそれと同じになってくれればそれが一番良いのだが、それは正直無理だろう。 「どうしたものかしらねー」 次に、侍が切腹してから前のめりに倒れたみたいになっている金糸雀をひっくり返す。 「ぷ」 メグは思わず吹き出した。 倒れた時にケーキの箱を下敷きにしたようで、クリームが髭のように口の周りについていた。 まるで季節外れのサンタクロースだ。 「カナちゃんらしいわ」 ハンカチを取り出しながら、メグはそんなことを呟く。 ぐにぐにと口周りを触られる感触で金糸雀は目が覚めた。 「うー…?」 口の中で消えるごく小さな声を発しながら、金糸雀がうっすらと目を開けると目の前には真紅の顔があった。 金糸雀は脳しんとうの影響で少し記憶を失い、残った記憶も混濁していたため、なぜ真紅に触れられているのかさっぱりわからなかった。 けれど真紅はとても真剣な表情で自分の顔を触っているので、金糸雀はしばらく真紅のさせたいようにさせてあげることにする。 真紅の手つきは盲人が人の顔を確かめるような柔らかさで、金糸雀には心地いい。 (まるで卵になったみたいかしらー) 本当のところビスクドールを触るかのような慎重さで触っていたのだが、金糸雀が知るはずもない。 下まつ毛をくすぐる真紅の指がくすぐったい。 「…よかった」 と、真紅は安心して息をついた。金糸雀は真紅が今にも泣き出しそうな表情をしている事に気がつく。 「だいじょーぶ、かしら」 何が問題なのかも把握しなていないのに生来の能天気さで金糸雀はそう言った。 そのままひょいと手を伸ばして、真紅の目尻に光る涙を拭う。 真紅を元気づけるために金糸雀はにこにこと笑ってみせた。 真紅は二度、目を瞬かせた。金糸雀が起きていることに気がついていなかったため、驚いているらしい。真紅があっけにとられている間も、金糸雀は田舎のひまわりの様なのどかさで笑いかけ続ける。 しばらくの間。 真紅はむにっといきなり頬を引っ張った。 「ふぎっ!?」 それも一瞬で済まさず延々と引っ張り続ける。横にいるメグは全く助けない。というか、金糸雀の頬が人一倍伸びるのをひっそりとおもしろがっていた。 結局、金糸雀が真紅の指を振り払えたのは5秒ほど立った頃で、すっかり金糸雀の方が涙目になっていた。 「なな、なんでこういうことするのかしら!」 怒る金糸雀に対して、真紅はもう一度毒を吐く。 「貴女が面白い顔してるからよ」 「なー!?」 これから口喧嘩が始まりそうな雰囲気になったが、真紅は急にツンと冷たい表情になって言い捨てる。 「これに懲りたら二度と来ないで頂戴」 そして、真紅は言うべき事は言ったとばかりに、金糸雀に背を向けてベッドの中に潜り込んだ。 それからしばらくは怒りの収まらない金糸雀が色々言うが、もはや真紅は無視し続ける。 「あ、貴女みたいなわがままな人は初めて見たかしら!ぶっちゃけカナがとっといたヤクルトを1パック全部飲むおねえちゃんの2.18倍くらいわがままかしらー!?」 「あーカナちゃん家庭の事情をぶっちゃけるのもそのくらいにして、ね?」 錯乱気味の金糸雀にメグは遅まきの仲裁に入った。 「な、なんなのかしら、真紅ったらなんなのかしら!」 涙目で顔を真っ赤にして怒る金糸雀にメグは悲しそうに言ってみせた。 「真紅ちゃんも怪我で大変なのよ」 「う…」 さっきのやり取りを見ていて、メグは少し希望を感じていた。 気絶から回復した真紅は真っ先に金糸雀がどうなったのかを気にしていた。 真紅は冷酷な性格ではないのだ。 (水銀燈を見てればこの家系に色々あるのはわかってたけれど…真紅ちゃんはなんていうか、複雑な娘ね) シュンとして、すでに怒りが去りかけている金糸雀のほうが姉妹の例外なのだろう。 「…今日は来ない方が良かったのかしら」 「うーん、少なくとも今日はもうおしまいね。真紅ちゃん寝ちゃったし」 「かしら…」 「なに。また明日出直せばいいのよ。何があったのかも本人から聞けば良いんだし」 しばらく金糸雀は悩んでいたが、結局の所そうするしかないとわかったらしい。 「そうするかしらー」 金糸雀は千鳥足気味に真紅の部屋から出て行った。 金糸雀が部屋から出てから、ふう。とメグは息をつく。 とにかく真紅を一人にしないで済みそうだとメグは胸を撫で下ろす。 「また明日も来るって。金糸雀を追い払うのに失敗したわね真紅ちゃん」 あいかわらず真紅はこちらに背を向けたままだ。けれど、一瞬怒ったように背中を震わせた。 金糸雀をロビーまで見送ってから、メグは呟く。 「さて、ここからが難しいのよね」 独り言が多いのは、入院生活が長いメグの癖だ。 まずは水銀燈へ電話だ。 三 入院の日々/見舞い客達 その日は一睡も出来なかった。 そのせいで目が赤い。だから、今日は誰にも会いたくないと思った。 真紅はベッドの上で三角座りをしながら、ドアに背を向け続けている。 ノックの音は無視する。ドア越しに声をかけられても「帰って」とだけ返す。 ジュンはそれで引っこんだ。 次に先生が来た。ただただ無視するとドアの前でジュンが先生に謝っていた。 まだジュンはドアの前にいたらしい。ジュンの必死で取り繕う声音は案外のりに似ていた。 のりが来るには時間がある。次に来たのは金糸雀だった。 ジュンと挨拶をかわす高い声、ココンカンココン、変にリズミカルなノックの音。無視する。 「真紅ー寝てるのかし」 「帰って」 ジュンがとりなして謝るような声。金糸雀の物凄くわざとらしいため息。 「はぁー、しかたないかしら。じゃあ帰るわ…と見せかけてえいっ」 「あっ」 ジュンの慌てた声。ガチャリというドアノブを握る音。ノブを回す音はしない。 ここまで無理にドアを開けようと人間はいない。なので、ドアノブに塗り付けた接着剤を握ったのは金糸雀だった。 「本当にひっかかるとはね…」 真紅としては誰にも入ってほしくないという意思表示だったのだけれど。 「ドアの下に接着剤はがしが落ちてるわ。負けを認めて帰るなら使っても良いわよ」 まるで勝負みたいな風に言ったのは、金糸雀と七月に勝負をした事があったからだ。 金糸雀は勝負に関しては潔いので、これですんなり引き下がるだろう。 しばらくドアががちゃがちゃと音を立てる。けれど、やっぱり手がはがれなかったらしい。諦めたような沈黙。 「これがホントの門前払い。って上手くもないかしらー!」 走り去る軽い足音。あきれかえったジュンの声。 「おまえなぁ…涙目だったぞ金糸雀」 不謹慎だけれど、ほんの少し笑えてしまった。 のりは水銀燈と一緒に現れた。 「水銀燈さん」 「こんにちわ、ジュン君」 ジュンがまず真紅の態度を二人に説明していた。 ジュンが水銀燈と話をしているだけでも、胸がざわついた。自分の弱みを水銀燈に見せるなんてありえない。 「真紅ちゃん、あのぅ…」 のりの困り声。 「今は誰にも会いたくないの。のり、わかって頂戴」 ジュンが一時期のりに向けていたのと同じような態度だとは真紅は気がつかない。 そして割り込むような、落ち着いたノックの音。 「真紅、開けてもらえないかしら?」 水銀燈の言葉にも真紅は冷静な声で返事をしようとした。けれど失敗した。 「入ってこないで!」 この日真紅は初めて声を荒げた。声を荒げるつもりなんて無かったのに自分でも驚くほど大声が出た。 金糸雀の時にはいくらでも取り繕う余裕があった真紅が、最初から余裕の無い敵意ばかりの言葉を向けていた。 少しの沈黙。 ジュンとのりが面食らったような顔をしているのは簡単に想像できた。けれど、水銀燈はどんな顔をしているのか。 静かな水銀燈の声がした。その感情は真紅には読み取れなかった。 「そう…しかたないわね。扉越しで悪いけれど、あの日の事は謝るわ。ごめんなさいね」 それでも真紅は無言でい続ける。何が何でも、水銀燈とだけは話さないつもりだった。 扉の前では水銀燈はのりとジュンにも謝り、のりとジュンが何度も水銀燈に謝っていた。 水銀燈がいなくなってから、真紅は枕を思い切り殴りつけた。何に怒っているのかなんて自分でも分からない。 ただ苛立ちと怒りと屈辱感で真紅の胸は一杯だった。荒々しく涙を拭う。 結局ジュンは面会時間が終わるまで、ドアの前にいた。 ※ 腕を無くしてしまったにしても、真紅は全くいつも通りに見えた。 昨日は面会拒否状態だったと翠星石がジュンに聞いていたのに、顔色も良さそうだ。 「廊下で君の同級生達に会ったよ」 「ふうん、そう」 「また、気のない返事ですねぇ」 「まぁね」 翠星石のあきれた声。真紅と苦笑いを向け合う。 真紅の冷たい言い方に蒼星石は『おやおや』とでも言いたげに眉を上げた。 まぁでも、真紅の反応も仕方ないかなと蒼星石は思う。 さっき話した同級生達は、真紅の事を『お姫様』というあだ名で呼んでいた。おそらく真紅の知らないところで。 陰口ではないのだろうけれど、面白がっているような調子。 翠星石と真紅の話が盛り上がり始めるのを横目に蒼星石はお見舞いの品を取り出し始めた。 真紅の部屋を出た後、翠星石はほんの少し俯き加減で、早足に歩いた。押し殺していた怒りが込み上げて来たのだろう。この情の濃さが翠星石の良さだと蒼星石は思っている。蒼星石にそこまでの熱さは無い。 「おかしいですよ真紅も、あの同級生達も」 「そうだね。でも、僕たちもあの同級生達と同じだよ」 「翠星石が真紅を面白がってたっていうんですか!?」 「そうじゃなくって、ただのお見舞いしか出来なかったところ」 小さく、あぁ。と翠星石は呟く。 「そうですね」 結局翠星石も蒼星石も普通の見舞いしかできなかった。 真紅の心は開かなかった。翠星石のはげましは上滑りし、そのうち会話は他愛のない方向に逸れて行った。 「結局さ、真紅が僕たちに傷ついた姿を見せたくはないみたいだから」 表面上は翠星石の気持ちに同調してる風を装いながら、蒼星石は言った。 「私たちにはどうしようもない、ですか。でも…」 翠星石は簡単には割り切れないようだった。 「うん」 翠星石の気持ちに同調するように蒼星石は深く頷いた。 (翠星石と真紅って、本当は気が合うんだろうな) なんてったって、好きな人が同じ人になるくらいだ。 翠星石と真紅の間には桜田ジュンという対立点がある。 もしも翠星石がジュンに恋する前に真紅と合っていれば仲良くなっていたのだろうが、現実はそうはならなかった。 今となっては、翠星石は真紅への思い入れを深めるべきじゃない。 翠星石が真紅を気遣ってジュンを遠慮してしまう可能性の枝は断ち切るべきだ。 表面化していないだけで、二人は恋敵なのだから。 「僕たちは真紅の誇りを尊重するべきなんだよ」 言いながら、蒼星石はとある映像を思い出した。 祖父一葉のツテを使って、真紅が主演する予定だった映画『未来のイヴ』の資料を見せてもらったことがある。まだその映像はイメージショットでしかなかったが、すでに真紅は恐ろしいほど美しかった。 翠星石がアリスに最もふさわしいと考える蒼星石ですら、美しいと認めざるを得ないほどに。 だから。 この墜落は幸運だ。 真紅は傷ついたときほど一人になりたがる。それは誇り高さなのだろうけれど、そればかりでは気遣う方もやがて疲れて諦める。 (このまま、真紅が失意のうちに頑なになってくれれば、ジュン君が翠星石の物になる可能性は上がるよね…) 「そっとしてあげるのが一番だよ。僕たちが騒ぎ立てることが真紅にとっても一番辛いんじゃないかな」 「そう、ですよね」 悲しそうな翠星石に蒼星石は手を出す。翠星石と指を絡めて手を握る。 しばらく、無言のまま歩いた。 真紅よりも翠星石の幸せが優先する。 これでいいはずだ。 なによりもジュン君の心を射止めることが翠星石の幸せのはずだ。 翠星石がぽつりと言う。 「蒼星石と翠星石だけはいつだって一緒ですよ」 蒼星石もそれに続く。 「うん。翠星石と僕はいつまでも一緒だよ」 お父様が亡くなった時に二人で泣きながら交わした約束を二人はもう一度繰り返した。 病院の駐車場から送迎の車が発進するころ、蒼星石の視界に緑色の髪の毛が入り込んだ。 あの髪の色をしているのはこの街では金糸雀一人しかいない。用件はやっぱり真紅だろう。 (金糸雀は僕を軽蔑するかな?) ふと、心にそんな言葉が湧いた。言い訳気味に付け加える。 (僕が真紅を傷つける訳じゃない) ※ なにも、金糸雀は毎日門前払いを食らっている訳ではない。 真紅はこの入院生活の中でも平然と落ち着いている姿を見せたいのだから、誰でも丁重に扱うのは当然と言えば当然だけれども。 たいていの日ではちゃんと部屋まで通してあげたし、淹れた紅茶も飲んであげた。 世間話だって少しはするし、チェスで負かしてやる時もあるし、くんくん探偵の凄さを教えて上げないでも無い。 それでも眠れない夜を過ごした後は、目が赤いから誰にも顔を見せたくないだけだ。 ただ、部屋に入れてもらえないときの方が、金糸雀がはりきっているのは気のせいではないと思う。 扉越しに金糸雀が声をかけてくる。 「急に部屋に入れてくれないとか…あなたって本当に気まぐれな猫みたいかしら」 もちろん金糸雀は真紅が扉を開けない理由など知らない。 ついでに自分が真紅を猫扱いするという地雷を踏んだ事にも気づいていない。 最初の接着剤をドアノブにつけた時に勝ち負けを持ち出した事から、単純に真紅がちょっとした勝負を仕掛けて来たのだと思っているようだった。 「三度目の挑戦、受けてもらうかしら真紅。『序曲』!」 今回はヴァイオリンの音色で真紅に自分から扉を開けさせる作戦らしい。 一曲目の時の拍手は二つ。ジュンと、よく金糸雀にくっついてくる小さな薔薇水晶。 「ほら、真紅も見に来てみろよ、指の動きとか凄いぞ。参考になる」 ジュンが本当に感心したような声を上げていた。 「なんの参考よ」 そのせいでついつい言い返してしまった。 「野ばらのプレリュード!」 確かに金糸雀の弾くヴァイオリンの音色はすばらしかった。その証拠に、一曲ごとに拍手の数と音が多くなって行く。 自由に歩ける患者がだんだんと集まりだしているらしい。中には小児科の患者だろう子供の声も聞こえる。 「お客さんも集まり始めていよいよ盛り上がって来たかしらー。次、うなだれ兵士のマーチ!」 三曲目が終わる頃には、金糸雀はすっかり上機嫌だった。聴衆の評判がいいと、素直にテンションが上がるらしい。 「くんくん探偵歴代OPEDメドレー!さぁ真紅さくさく出てこないと聞き逃しちゃうかしらー!」 「そこでなにをしているの!」 厳しい中年女性の声。確か佐原とかいう看護師だ。 病院の廊下で人だかりを作れば、何事かと駆けつけた病院関係者にしょっぴかれるのは当然だろうに。 こんこん。 ドアをノックする控えめな音。 「誰?」 聞き取るのも難しい、たどたどしい声。 「か、カナお姉さまの…ヴァイオリン…気に入りません…か?」 「演奏会を開けるくらい上手いわよ」 「…じゃあ…出てきても…」 「ヴァイオリンの音なんて扉越しでもはっきり聞こえるわ」 微かに『あ…』と呟く声が聞こえた気がした。 最後にジュンがぼやいた。 「そりゃそうだよな」 「ほんと…お間抜けね」 その日初めて真紅は笑った。 「ジュン、金糸雀に伝えて頂戴」 ※ ジュンが見つけた時金糸雀は病院内の喫茶店でめぐと薔薇水晶と一緒にいた。 「あ、ジュンかしら」 自分に気がついて笑顔で挨拶してくる金糸雀の目が少し赤いので、ジュンはよけい申し訳ない気持ちになった。 「真紅から伝言なんだけど…」 「貴女なんかが一生かかっても私に勝てる訳無いでしょこのばかばかばかばか。わかったらさっさとあきらめなさいな」 「かしらー!」 喜怒哀楽のあらゆる表現が「かしら」で表現できるのはある意味うらやましいな、とジュンは思った。 激怒する金糸雀は駆け出して行った。行き先は当然真紅の部屋だろう。 あわあわした顔で薔薇水晶がその後ろを追いかけて行く。 「真紅ちゃんって本気でカナちゃんに来てほしくないの?」 「そうですけど」 「だとしたら結構子供っぽいのね」 どう考えても今の言葉は逆効果でしょう。とメグの顔が言っている。 ジュンとしては 「ええまぁ…」 と言葉を濁すしかなかった。 ※ 塞ぎ込み立ち尽くすものにとって、日々はあっというまに過ぎてゆく。 誰に対しても丁寧で気丈に振るまい、そして心を開かない真紅の対応は当然のように見舞客を減らした。 それでも金糸雀は毎日放課後に顔を出し、菓子を持参しては食べながらしゃべった。部屋に入れてもらえない日も無謀な作戦で玉砕を繰り返した。 そしてジュンはその倍、静かに真紅の傍にいた。 毎日来る見舞客は二人だけになった。 ※ 今日は珍しく金糸雀が来なかった。 そしてジュンから微かに漂う程度、翠星石の花のような香りがした。今までもジュンがスコーンを持ってくる事はあったし、別に翠星石がジュンを好きな事くらい知ってるから別にどうという事も無い。 金糸雀には金糸雀のジュンにはジュンの生活があるのだから、当然の事だし、というかなぜ自分がわざわざこんな事を考えないといけないのか。 真紅は病院内の喫茶店の中にいた。喫茶店といっても、簡素で小さいものだけれど。香りの薄い紅茶を一息で飲み干し、ため息をついた。 あまり自分の病室に戻りたくなかった。 最近、あの病室に一人で座っていると、小さい頃に部屋で一人きりだった事を思い出してしまいがちだった。 お父様は生まれたときから家にいなかったが、母親はある日蒸発してしまった。 自分一人がらんとした部屋に居た時の感触が真紅には今だに忘れられない。 もう自分の周りに誰もいないが、それでも母親の「一人で家を出ては行けない」という言いつけを守って、真紅はずっと家にいた。 槐が真紅の元を訪ねて来たのは、母親が蒸発してから数日後。そろそろ食料も尽きかけていたので、槐が来なければそのまま死んでいた可能性が高かった。 お父様の事を知ったのも、閉め切った家を開いた槐に連れ出されてからだ。 そこで垣間見たお父様の栄光は、親の愛情一つ持たない真紅にとって唯一の心の支えだった。だから真紅はアリスを目指して来たのだ。 ローゼンを偲ぶ会に出席した事が桜田の家に貰われるきっかけになった事や、当時の真紅を知る槐さえ、真紅が入院してから一度も見舞いに来ない。それが自分の暗い考えを裏付けているように真紅には感じられていた。 アリスにでもならない限り、自分の周りには誰もいてくれないのだ。 あの独りで居た家が怖くて逃げ出したくて、必死であがいてアリスを目指し、結局あの一人の部屋に戻って来たのではないか。 鬱々とした考えに泣きそうになってしまったが、誇り高い真紅はもちろん、人前で涙を流す事を自分に許さなかった。 ちょうど背後を歩いてくる気配があったので、店員に向かって言う。 「紅茶を」 「ずいぶん不機嫌そうね」 近づいて来ていたのは店員ではなくて、メグだった。 そのまま許可も取らずに真紅の向かいに座る。 「ちょっと」 真紅が抗議の声を上げた時、メグは手を挙げた。 「店員さん紅茶二つ、あとフィナンシェも一つ」 しかめ面でメグを軽くにらむ真紅に対して、メグは平然と 「まぁまぁ、おごるわよ」 と言った。 メグはじっくりと話したそうだったが、真紅にそんな気はない。 「金糸雀の事なら、からかってれば面白いだけよ」 「なんのこと?」 「貴女が金糸雀を気にかけてる事くらいわかるわよ。おそらく水銀燈の頼みでしょうけど」 メグは困ったような表情をしたが、真紅の性急さにつきあう事にしたようだった。 「あの娘に哀れみとか悪意は無かったでしょう」 「たしかにそうだわ」 「怪我人にだろうと怒れるのはあの娘くらいのものよ」 メグはそういうと少し笑った。 紅茶とフィナンシェが届き、真紅はフィナンシェを一口食べる。 「カナちゃんにローゼンの記憶は無いわよ」 「まぁ、あの調子じゃ記憶に残っていないでしょう」 「ひどい言い様ね」 メグは意外そうな顔をした。 「べつに今の事を評したんじゃないわ」 メグも知らないだろう、ローゼンを偲ぶ会に出席した時のこと。 あの時、一日中堂々としていた水銀燈の表情が崩れたのは一度だけ。 会も終わって、出口に向かっている時、金糸雀が不思議そうに言った言葉。 「おとうさまはいつかえってくるの?」 水銀燈の顔が歪むのを見たのはあの時だけだ。 知らない子に見つめられている事に気がついた水銀燈は、すぐに表情を繕い直したけれど。 真紅は紅茶の水面だけを見ていた。 「貴女は仲直りさせたいようだけれど、それは無駄よ。私たちが仲良くすることなんて誰も望んでないもの」 「そんなことはないでしょ。現にカナちゃんだって貴女と仲良くしたいでしょうに」 「じゃあ、なんでお父様は私たちを一つ屋根の下に住まわせなかったの?」 真紅の声は異常なまでに押し殺されていて本当に真紅の声なのか、メグは一瞬耳を疑った。 誰も、ではなく本当のところはお父様。 「私たちは知り合えば知り合うほど戦いは避けられないでしょう。あの一番のん気な金糸雀だって私と相対するときは勝負を持ち出さずにはいられないのだから。今の関係だから、あの程度の遊びで済んでいるのだわ」 真紅がメグを見た。 「関係が深くなればなるほど、思いが強くなればなるほど、私たちの戦いは深さを増して、やがては大事なものを傷つけるのよ。そうじゃなかった時なんて無いもの」 その上目遣いの視線は年上のメグをたじろがせるほど鬼気迫っていた。 メグは自分の肌が火であぶられるような錯覚を感じた。反射的に身が竦む。メグは紅茶のカップに指をかけていたので、皿とぶつかって耳障りな音を立てた。 「…だから貴女と話なんてしたくなかったのよ」 真紅は席を立ったが、吐き捨てたその言葉は投げやりで力が無かった。 「何かあるとは思ってたけど…」 独り言を言って、喉が渇いている事に気がついた。メグはひどく汗をかいていた。 色々と金糸雀が真紅のところに来るように最初の暴力沙汰をごまかしたり、ひそかに金糸雀を応援して来たのは失敗だったかもしれない。 あの目つきの裏にある異様な怒りと絶望。それは元々、真紅が持っていたものだ。学生時代の水銀燈が垣間見せた物によく似ている。ただ、その後の投げやりな様子を考えると、メグは暗澹たる気分になった。 水銀燈の人形作りにあたるものが、アリスを目指すという事だったのだろう。負の感情を転化はけ口を失い、真紅が本格的に心のバランスを崩し始めているように思える。 他人の出る幕ではなかったのかもしれない。そう思えて、メグはため息をついた。 水銀燈は金糸雀が脳しんとうを起こす事になった日に、これ以上見舞いには行かせない様にしたがっており、それを押しとどめたのがメグだ。 金糸雀に見舞いを禁止しないかわりに、メグはこれ以上金糸雀が真紅に何かされないか注意することになっていた。 金糸雀はメグと偶然良く会うと思っているが、そうではない。水銀燈の心配を少しでも減らすために、メグが部屋から出てくるようにしていた。 もっともメグは真紅がそういう事をするとは思えなかった—金糸雀の意識が戻ったときの表情を見れば子供でもわかる—ので、部屋の中までついて行く事はしなかったが。 影に病院と外の人間の間のつじつまを合わせ、日向に金糸雀を励まし真紅を煽る。 金糸雀が真紅のお見舞いに行くことを一番強く後押ししていたのはメグだった。 「…あの塞ぎようをなんとかしたかったけれどね」 もう真紅の入院生活も一月近くなる。退院の日が近づいて来ていた。 四 薔薇乙女の戦い 今朝、園芸用品を運ぶために使ったスポーツバッグは重たいので地面に置き、壁に背もたれるようにして蒼星石は立っていた。 蒼星石は学園の玄関で翠星石を待っていた。普段はジュンが病院に向かってから、翠星石が園芸部に戻ってくるのだが、今日は園芸部自体が珍しく活動日ではなかったので、蒼星石がここで暇をつぶしている。 ジュンに会っているので、最近の翠星石は部活動の時間が少し短い。ただ園芸部はもとより部長の恋路を応援しているから、特に問題はなかった。強いて言うなら翠星石が蒼星石以外の誰にも自分の気持ちがバレていないと思っている事ぐらいか。 今日の翠星石はいつもより遅かった。それ自体はジュンと一緒にいる時間が長いという事なのだから蒼星石には喜ばしい。 やはり真紅の精神は荒れているようで、ジュンの表情も張りつめがちになっていたから、翠星石の手作りお菓子とちょっとした会話はジュンにとってもいい息抜きになっているようだった。 休日に一緒に出かけた事もある。さすがに二人っきりとはいかず、蒼星石も呼ばれたけれど。 当日にちゃっかりジュンの横をキープする翠星石の背中を見て、蒼星石は少し笑ったものだった。 別に何をしたわけでもないけれどほんの少し、覚悟を決めた甲斐があったと思う。 なにもかも順調だった。 コッコッコッ。なんだか気忙し気な、堅い靴音。 蒼星石の前に現れたのは音楽の教師だった。金糸雀にヴァイオリンの指導をしようとしては逃げられているらしい。 彼女が苛ついているのは一目見ただけで分かった。 「科学部の部長を見なかった?」 不機嫌さを押し殺せていない声。 わざわざ名前を呼ばないあたりに彼女の不機嫌さが伺える。元々この音楽教師は神経質で生徒を管理したがる傾向が強い。正直、金糸雀との相性は悪そうだ。 「金糸雀の事なら見ませんでしたけど?」 「ああ、そう」 蒼星石が答えると、そのまま音楽教師は踵を返して校内に戻って行った。 その様子をみながら失礼な人だな。と思う。おかげで少し感じていた優等生的良心の呵責が和らいだ。 スポーツバッグを3分の1ほど開く。 「もう出て来てもいいよ」 「…た、助かったかしら」 ぴょこん、と金糸雀の顔が飛び出して来た。スポーツバッグの気密性が高いせいで金糸雀の顔は真っ赤だ。 玄関で翠星石を待っていたら、いきなり金糸雀が駆け込んで来たのがほんの5分前。 「けれど、バッグに隠れるっていう発想がよく出てくるね」 呆れ半分、感心半分といった調子で蒼星石は言った。 「昔はよくこうやって運ばれたもんかしら」 よくわからない過去にも興味は惹かれたが、蒼星石は質問せずに携帯を取り出す。 「ちょっとそのままでいてね」 キャリーバッグから犬が顔を出しているみたいで少し可愛い。ちなみに蒼星石は犬が好きだ。 蒼星石は金糸雀を携帯で撮った。 「ふう…さて、と」 携帯をしまって、蒼星石はスポーツバッグを全開にして金糸雀に手を貸した。 制服の上から愛用の鋏を触る。人の心も鋏一つで断ち切れればいいのに。 バッグから出て、背伸びしている金糸雀に蒼星石はなにげなく聞く。 「今日も真紅のところへ行くの?」 「うん」 「ほぼ毎日通っているんだよね。僕は金糸雀がこんなに長くお見舞いを続けるなんて思ってなかったよ」 「やー、それほどでもないかしらぁ」 金糸雀は照れたように手を振る。 「凄いよ。なかなか出来る事じゃないし」 合わせて蒼星石も微笑んで、それから表情を少し曇らせる。 「ただ少し心配なんだけれど、その…真紅はそれを喜んでいるのかな?」 「あー、正直一回たりとも嬉しそうには見えないかしら」 金糸雀の表情も情けなさそうな物に変わる。 「そっか…僕たちが言う事じゃないかも知れないけれど、真紅はそっとしておいてほしいのかもね」 「蒼星石にも言われるし、やっぱりそれが一番いいのかしら」 「他の人にも似たような事を言われたんだ?」 「おねえちゃんとか、ばらしーちゃんに槐さん、巴に雛苺、翠星石にも」 金糸雀の目が少し潤んで来たように見える。 「真紅と共通の知人ほぼ全員だね」 「みっちゃんには言われてないもん」 「ごめん、気に障ったなら謝るよ」 むくれる金糸雀を気弱そうに宥める。 (あの子は君の理解者でいたいだろうからね。そりゃあ、反対なんてしないさ) 話が逸れてしまうような、棘のある事は言わないように。 蒼星石は本当のところ、こういうすっきりしないやり方は嫌いだ。でも、今手持ちの武器は言葉しか無い事を理解していた。だから蒼星石はためらわない。 「でも、草笛さんは今の真紅の落ち込みようは知らないから」 細い蜘蛛の糸をひっかけるように、慎重に。 「カナだって、蒼星石の考えが真紅に一番優しいことは知ってるかしら」 「それじゃあ、なにが納得できないんだい?」 「うーん」 考えている時でも金糸雀は賑やかにうなっていた。 チェスで追いつめられた時と同じような悩み方だ。いつもの勝ちパターンが見えて蒼星石は少しほっとした。 金糸雀が考え込んだところで予想外の手を打ってくる事はほとんどない。やがて自分に理が無い事を悟って、こちらの考えを認めるだろう。 (蒼星石の考えが真紅に一番優しい、か) 蒼星石はやはり、金糸雀は甘いと思う。チェスの時から薄々気がついていたが、金糸雀は人の悪意にひどく鈍い。 ある程度合理的に考える頭があるのに異常なまでにチェスに弱いのはそれが理由だ。 あらゆる人の金糸雀への制止が真紅への優しさから出ていると考えているあたり、その癖はチェスだけの物ではなさそうだった。 蒼星石にとって、それぞれが金糸雀を止める理由はだいたい見当がつく。 例えば、水銀燈が金糸雀を真紅の元に行かせたくないのは、自分と真紅の関係が第一容疑者と被害者だからだ。 そうじゃなきゃ、彼女の事だ。ジュン君の引きこもりを治した時みたいに、自分が前に出て来ていないとおかしい。 水銀燈に真紅への優しさなんて一片も無い。人形展の顛末を見ていた蒼星石にはそう断言できる。正直に言えば警察と同じく、真紅の右腕を切断して隠したのは屋敷を熟知した水銀燈以外にあり得ないとすら思っている。 水銀燈はただ、逆恨みした真紅に金糸雀が傷つけられないか心配しているだけで、それを大っぴらにしないのは警察へのポーズと金糸雀に余計な心配をかけたくないからだ。 「あ、そっか」 特に感情がこもっていない平坦な声に、蒼星石は注意を戻した。その声と同じ静かな表情が蒼星石に人形展の人形を思い出させる。 ただあの時と違い、目の前の金糸雀の静かな表情が妙に苦しそうに見える。 蒼星石がこの時思い出せなかったことは、あの人形に対して人はそれぞれ思い思いの物語を見ていた事。 自分は今、鬼のような表情を無理矢理隠していると信じている蒼星石は、苦しそうな表情をしていたのが金糸雀ではなく、自分だったことに最後まで気がつかなかった。 金糸雀はすぐにいつもの元気そうな表情で続ける。 「仲良くなれるのが一番いいけれど、きっとカナは、なにより真紅を知りたいからかしら」 「それは君の我が侭だよ」 蒼星石はたしなめるような調子に切り替える。 「それは、そうかしら…」 「わかっているならなんで、真紅の負担になるような事をするんだい?」 「だって、今ほうっておいたら、真紅と話せなくなるわ」 放っておけば真紅が自分の殻にこもりがちになるだろう事を、金糸雀はなんとなく気がついていたらしい。 金糸雀はいたずらを叱られている子供のように上目遣いで蒼星石を見ていた。 「前にジュンと一緒に真紅の病室に行った事があるんだけれど」 「ジュン君と?」 「その時に二人は喧嘩したわ。でも…その二人を見てカナも姉妹なのに、ジュンの方が真紅とずっと家族だなって思ったの」 「ご家族に任せようと思わないのかい」 「カナだって姉妹かしら」 「…ぁあ」 このまま、金糸雀の行動は我が侭であり、真紅の事を考えるべきだと諭せば、金糸雀の行動をやめさせる事が出来た。 「…その気持ちはわかるよ」 けれど蒼星石はそうする事をやめた。 蒼星石も姉妹だからだ。 その後は他愛も無いチェスの話をしていたような気がする。 「姉妹だから、か」 蒼星石にとって、その言葉が一番胸に突き刺さる。 断ち落とせないばかりか、金糸雀の成功を応援したい気持ちになってしまった。気づかされた事は分かりやすい。 「僕は嘘もなれ合いも好きじゃない。真紅だって傷つけたいわけじゃない」 でも、戦う事をやめていいのか?蒼星石の懊悩は止まらない。そもそも真紅もまた、好戦的だ。 あのまま真紅が咲き誇れば他の姉妹はすべて圧倒されていたのではないのか。 やめるべきなのか、どうか。迷いが生じて蒼星石は今『断ち落とす』ことは保留することにした。 けれど、ジュンの心に二本も薔薇は咲かないだろう。 金糸雀が真紅の閉ざされた心をどうする事も出来ないだろうけれど…。 考えがどうにも支離滅裂で、ただただ気が滅入るので、蒼星石は今考える事をやめることにした。 黄金の鋏を取り出して、そっと撫でる。いつも持ち歩いている愛用の鋏。 それは生まれた時にお父様から贈られた、大切な鋏だ。鞄に入ったドレスと同じ、ただ二つのお父様からの贈り物。 鋏を顔の前に持ち出して、蒼星石は頭を垂れた。鋏が額に当たり、祈っているかのような姿勢になる。 つらい時や苦しい時、蒼星石はいつもこうやって痛みをしのいできた。 静謐な時間が過ぎる。 ふわりと、香水の香りがした。 今日の朝、翠星石がつけていった香水の香りだ。 「おまたせですぅ」 「おかえり、今日はどうだった?」 翠星石はその一言に顔を赤くする。 翠星石がやってくる頃には、蒼星石はいつもの調子を取り戻していた。 それから続くジュンに関するあれこれを蒼星石は微笑みながら聞く。 翠星石とジュンが仲良くなりだした事を蒼星石は好ましく思う。 そしてなによりも恋に胸弾ませる翠星石は美しい。誰よりも。どの薔薇よりも。 満開に咲く翠星石を誰よりも身近に見られる事が蒼星石には嬉しかった。 だからこれが相思相愛になり、咲き誇る二人の愛はさぞかし美しいに違いない。 それを身近に見るために蒼星石はこの恋路を全力で応援して行きたかった。 その嬉しさに嘘偽りの無い事もまた、蒼星石には嬉しかった。 ※ 「メグさん、こんちわかしら」 「あら、今日は特に元気ね」 メグと金糸雀はいつものように病室の前で会った。 金糸雀の頬が赤いのは今日がよく晴れているからという訳ではなさそうだった。 「チェスで、蒼星石がすっごく良い手を教えてくれてたから遂に真紅に勝てそうかしら」 「それは凄いわね。ぜひ勝って欲しいわ」 メグは真紅のためにも、その色々な勝負とやらで一度は金糸雀に勝って欲しかった。 どうみても、真紅にとって金糸雀は他愛も無い相手扱いされているように見えるので、真紅の中で金糸雀の存在感を増して欲しいのだ。そうやって、真紅が自由の身になってからも、この調子で関わり合うくらいの関係になって欲しい 後ろから、鈴の転がるような綺麗な声が割り込む。 「聞き間違い?私に勝つですって」 後ろに真紅が居た。左腕で肩にかかったツインテールを払う仕草が様になっていた。 「上等よ」 「上等かしらー!」 景気よく金糸雀が言い返す。 (頑張ってね) メグは真紅の部屋に入って行く金糸雀の背中に心で声援を送った。 姉妹に勝つ事が真紅の矜持であるから、それがさらに傷つけられた時に真紅がどうなるのか、メグは気がつかなかった。 金糸雀からの又聞きだけで、真紅の打ち筋を把握できる蒼星石のチェスの実力は相当に高いようだった。 「チェックかしら」 金糸雀のワクワクした気持ちを押さえ込めていない声。それは、王と女王を同時に狙う一手。 「っ…やってくれるじゃない」 真紅の打ち筋は蒼星石のように定石を理解した打ち方ではなく、その地頭の良さに頼った打ち方をしている。 だから、まるで蜘蛛の巣の罠のように見えづらいその殺し手に気がつかなかった。 真紅の戦法は常に女王を軸に据えた攻めの姿勢。主要の敵駒のほとんどを女王で刈り取って来た。 だから、突然女王を倒された意味は大きい。真紅は善戦したが、それが限界だった。 「チェックメイト」 「…逃げられないわ…」 「やったーかしらー!」 金糸雀は快哉を上げた。 「私の負けね」 真紅はただ事実を呟いた。悔しいが平静を保っているのではなく、その声に力は無かった。 「そ、そんなにへこむ事も無いかしら。ほら、これでやっとカナの1勝8敗だし」 もちろん、真紅は金糸雀の言葉等気にしていない。 「私はこんなにも弱かったかしら?」 ほんの少し不思議な気持ちになって、真紅は手の中で女王を弄んだ。 「いやほら、女王を倒したあの手筋も蒼星石のまねっこかしら。この手もさっき蒼星石が教えてくれただけだし」 いずれ、こうなるような気がしていた。もはや自分は完璧とはほど遠い何かなのだし。 目の前の負けにすら奮い立つ物を感じない。割れた器のように、ちぎれた腕の先から気力が全て漏れだしているかのようだった。 ほんの少し前には全てに手が届く様な気がしていたのに、今は心に奇妙な脱力感しか湧いてこない。 腕を失った喪失感は日常の中でこんな感情へと進化していた。唯一自分を支えていた、普段通りに振る舞うというささやかな見栄と現実逃避も折れてしまえば、胸の内にある空虚を直視するしか無い。目の前に広がる事実を、真紅は褪めた気持ちで眺めていた。 ここにあるのはただの残骸だった。 もはやアリスにはたどり着けず、奮い立つ心さえ失って、もはやなにもない。なにもかも手に入れるつもりで結局自分はここに戻って来た。 狭い何も無い部屋。母はおらず。父もいない。ここに居るのは何者でもない。 狭い狭い鞄の中、しまわれて誰も気がついてくれない。 「は」 真紅の震える腕が持ち上がり、神経質にこめかみの辺りを掴もうとして、何かにぶつかった。 いつのまにか、金糸雀が真紅の頬を触っていた。真紅の腕は金糸雀の手にぶつかったのだ。 そうして我に返らなければ、真紅はそのまま自分の髪の毛を掻きむしっていただろう。 女王が床に落ちた。 「金糸雀…?」 真紅は悪夢から目が覚めてから、始めて目の前の人間に気がついたように金糸雀の名前を呼んだ。 金糸雀の眼から一筋、涙がこぼれた。 「なんで、貴女が泣くのよ…」 呆れた真紅から、少し枯れた声が出た。 「貴女はもう私に勝ったんだから満足でしょう、さっさと帰りなさいよ」 「いやかしら」 「ほっといてよ」 「泣いてる真紅をほうってなんか行かないかしら」 真紅が泣き止むまで、金糸雀はずっとそこにいた。 西日が射して真っ白な部屋は茜色に染まりきっている。気怠いのはこの時間のせいだと思いたいけれど、そうはいかない。「もう本当に来ないで頂戴」 鼻声で真紅は言った。金糸雀はリンゴを剥いていた。 泣き止んで、真紅はベッドの上に三角座りをしていた。体は金糸雀の方に向けているが、膝に顔を埋めて、赤い目は金糸雀から逸らしている。 「結局、私と貴女の間にあるのは戦いだけよ。私たちは知り合えば知り合うほど戦いは避けられないのよ」 「そうかしら」 「たとえ笑い合う関係になっても、きっと私は心の底で貴女に勝ちたい、負けたくないと思うわ」 金糸雀は不思議そうな顔をした。 「別にそれでいいと思うけれど…?」 「それでいい?」 なにか、金糸雀と自分の間に大きなズレがあることに真紅は気がついた。そう言えば、これまで取り繕う事に夢中で金糸雀の考え、というより、金糸雀自体を全く気にした事がなかった。 「戦う事がカナと真紅を繋ぐ絆なら、戦えばいいかしら」 「今までもこれからも私たちの間にはそれしか無いのよ。それでなにかが生まれるとでも?」 「生まれないかもだけど。それがカナと真紅の絆なら、それでいいかしら」 「どういうこと?」 金糸雀は首を捻った。自分自身はっきりと考えた事は無かったらしい。 「だって、カナと真紅って張り合ってばっかりでしょ?」 「そうね」 ここまでは同じ考えみたいだけど。と真紅は考える 「そしてカナと真紅は家族じゃないかしら」 「きっとカナと真紅は今日から会うのをやめても、お互いにあんまり困らないわ。カナにはおねえちゃんがいて、真紅にはジュンがいるでしょ?」 「そうでしょうね…私たちは友達でもなく、家族でもないもの」 「でもカナは真紅を無視したりなんてできない。家族じゃなくても、姉妹だもの。離ればなれでも意識し合えるなら、きっといい事かしら」 しばらくの間。 「私はきっと凄く嫌なやつなのだわ。だって姉妹の誰よりも成功したいし、誰が失敗しても嬉しいのよ」 「真紅は姉妹の失敗を願うほどねじけてないかしら。だってとても誇り高いもの」 「…」 「どうしたの?」 「なんでもない。そう…金糸雀は勝っても負けても戦い続ければいいと思っているのね」 「あ、そんな感じかしら」 「私は完璧に勝ち続けなければならないと思う」 「よくわからないけれど、疲れないかしら」 「疲れたわよ。ちょっとこっちに来て頂戴」 真紅に手招かれて、金糸雀もベッドの上、真紅の隣に座った。真紅の上半身は傾いで倒れ、そのまま金糸雀の膝の上に収まる。 驚いている金糸雀を、真紅は上目遣いで見た。 「ねぇ、貴女は水銀燈の事をなんて呼んでいるの」 「おねえちゃんかしら」 「ふぅん…」 真紅は心底どうでも良さそうに返事をして。 「たまには私もおねえちゃんに甘えてみてあげるわ」 などと、気のなさそうな振りをして言う。金糸雀は真紅の横顔が真っ赤な事に気がついて、クスクス笑った。 「真紅がお姉さんなのに、これじゃあべこべかしら」 少し意外そうに、真紅の流し目が金糸雀を見た。 「そう、そんなことも知らないのね」 真紅は意味ありげに呟いてみせた。 「私は貴女の妹よ。貴女より年下だもの」 「えぇ!!でも真紅は学年が上かしら?」 「飛び級よ」 「へ?」 「アリスだったらそれぐらいできなきゃダメでしょ」 少しむくれた顔で、真紅は言う。アリスという名前を気軽に出せるような心境の変化に気がついてるのかどうか。金糸雀はしばらくぽかんとしていたが、やがて言った。 「どうりで体もちっちゃいわけかしら」 「貴女よりは高いけどね」 「う」 金糸雀の顔がおもしろかったので、今度は真紅がくすくすと笑った。 頭に金糸雀の温もりを感じながら、真紅は自分の左手を見た。 「そう、本当は貴女に色々と話したい事があったのだわ」 「なにかしら?」 「人形を壊してしまった事とか、ジュンとノリの事とか…」 「全部聞くかしら」 飾り気の無い、金糸雀の返事が降ってきて、ぽつぽつと真紅は話始めた。くんくん探偵の事、人形を壊してしまった事への謝罪、桜田の家の事、自分の事。 ただ話し、聞いてもらう。ずっと姉妹としたくて、やがては諦めてしまった事を真紅はしていた。 ぼうっと眺めるその手のひらに姉の輪郭が思い出された。夕日に照らされた部屋の中で、真紅の手は橙色をしている。 そうやって真紅は自分が人形でない事を知った。 ※ 家に戻ってからくると、もう夕日が落ちる頃だった。着替え等を入れた紙袋を扉の前に一度置いて、ジュンが部屋をノックすると「入っていいかしら」と金糸雀の控えめな声がした。 部屋に入ると金糸雀がベッドの上に座っていて、唇の前で人差し指を立てている。そしてその膝枕で真紅が眠っていた。 「聞いたかしらジュンジュン」 金糸雀は妙に楽しそうだった。とりあえずハイテンションな人物が苦手なジュンはそれだけでちょっとたじろいだ。 「な、なにをさ」 「真紅はカナ達より年下なのね。ということは、ジュンはお兄さんのような気持ちで真紅に接していたのかしら?」 ジュンは頭をかいた。 「こいつはいつも下僕だって言うけどね」 「いいお兄さんかしら」 「そっちこそ、上手くいったみたいじゃないか」 恥ずかしかったので、ジュンは話題を変えた。 「うん、はじめて真紅と話せたかも」 「どんな話?」 「姉妹のないしょ話」 にんまりと笑う金糸雀にあわせて、ジュンはちぇっ、と呟いてみせた。 「こいつ、案外子供っぽいだろ?頭いいくせに意地っ張りで偏屈で、変なところマイペースだし」 ジュンと金糸雀は二人して苦笑した。二人の真紅に注ぐ眼差しはあくまで優しい。 「意固地なところがあるけれど、可愛い妹かしら」 五 食卓 あの病院内喫茶店にのりと見知らぬ中年男性が座っているのが見えた。 「あんな所にいたのね」 そう呟くと、真紅は一人で喫茶店内に入った。すぐにメグは真紅を見つけて、軽く手を振る。 「真紅ちゃんが私を捜すなんて珍しいわね」 「挨拶しようともったら、部屋にいないんですもの。探したわよ」 「ああ、今日が退院日?」 「そうよ」 中年男性はメグと向かい側の席を譲ってくれた。なにか頼もうとするのを、おかまいなくと断る。 向かい合って座るメグはなんだか血色が良かった。 「なんだか、前よりすっきりした顔をしているわね」 「たいした事じゃないけれど」 真紅は左手を伸ばして、その指先を見た。 「ただ、腕を無くして、もう何もかも終わりになった。そんな風に考えていたけれど、そんな事なかったわ」 「心の整理がついたのね」 「こう思えるのは、貴女のおかげでもあると思うの。ありがとう」 「たいしたことはしてないわ」 「でも不思議なのよ。貴女はなんで私と金糸雀の仲を取り持つような事をしたの?」 メグは指をくみ、照れ笑いした。 「たいした理由じゃないわ。ただ、肉親がいがみ合うのは悲しいことでしょ。私も昔パパと仲が悪かったから、そういう娘が放っておけなかっただけよ」 「そちらの方がお父さん?」 「ええそうよ」 真紅に自己紹介する、メグの隣に座った中年男性は不器用そうだが誠実そうだった。 「昔水銀燈君に助けてもらってね、なんとか仲直りできたんですよ」 「そう。水銀燈にもいい所があるのね」 真紅のそっけない物言いにメグの父親は鼻白んだ。メグは苦笑する。 「やっぱりきついわねぇ。まぁ、貴女に水銀燈を疑うなとは言えないけれど」 とはいえメグは一点の曇りも無く、彼女自身は水銀燈の事を疑っていなさそうだった。 「今も疑ってもいるし、嫌いよ。きっとアイツは私の天敵だもの。でも…」 「でも?」 「でも最初に悪い事をしたのは、こっちだって分かってるわ」 「へぇ…ちょっと大人になったわね」 「昔からいろんな人に大人っぽいって言われて来たけれど」 「そりゃまた。随分見る目の無い人達に囲まれて来たのね」 「ははっ、確かにそうかもしれないわ」 ざっくりとしたメグの物言いは以前の真紅ならカチンと来ていたかも知れないが、特に不快に感じなかった。 (そういえば、ジュンとのりは私を大人っぽいと言った事がないわね) ふと、真紅はそんな事を思った。 特に振り返る事もせず、真紅は喫茶店を出た。 「そんな所にいたのかよ」 「あらあらジュン君、真紅ちゃんにも積もる話があるのよぅ」 ジュンの責めるような口調。のりのたしなめるような口調。つまりはいつもの口調だ。 ジュンは真紅の荷物を全て持ってくれているようで、両肩にそれぞれ大きな鞄を掛けていた。空調の効いた病院の中で、うっすらと汗をかいている。 「あら、ごめんなさい。探してくれたの」 「別に、早く帰りたいだけさ」 喫茶店は病院入り口に近く、すぐに三人は病院を出た。のりが病院の扉前に立つ警備員にも会釈をしたりしつつ、待たせてあったタクシーに乗り込む。 「それでね、真紅ちゃん今日のお夕飯なんだけど、退院祝いになにか美味しい物を食べに行こうかと思うんだけれど…」「適当にピザとかでいいじゃん」 「ジュン君そんな事言っちゃ、めっめっよう」 相変わらずジュンは姉にたいして素直じゃなく、軽口を叩いているようだった。 「私はどちらかといえば、家で食べたいわね」 「そう?」 「ええ、のりの手料理が食べたいわ」 真紅が照れくさそうに言うと、のりの顔がぱぁっ、と明るくなった。 「よぉーし、お姉ちゃんはりきっちゃうわよぅ!」 はりきったのりの料理はちょっと凄かった。 花丸ハンバーグは当然の事として、ハート形オムライス、パンプキンスープ、大根や海藻などの三種類のサラダ。パイはくんくんの顔をかたどってあった。他にも様々な 料理が食卓狭しと並べられている。 「本当はケーキも焼きたかったんだけど、時間がなかったから不死屋で買っちゃったわ」 てへへと笑うのりに、もちろんジュンは引き気味だ。 「ねえちゃんて、時々超パワフルだよな…」 「さぁさ、みんな食べましょ。せっかくのご飯が冷めちゃうわ」 三人とも席につくと、それぞれの席に既に注がれたグラスがあった。ジュンがのりに聞く。 「これって乾杯用?」 全員未成年であり、のりが飲酒を許すはずも無いので、グラスにはジュースと紅茶が注がれている。 「うん、せっかくだから」 のりがグラスを持ち、二人もそれに従う。 「真紅ちゃん退院おめでとう!」 「あのね」 乾杯しようとのりがグラスを掲げた瞬間、真紅の堅い声が割りこんだ。珍しく声が小さい。 「一つ聞きたい事があるんだけれど…」 食卓を囲んでいる今だからこそ、聞いておきたいこと。 「私は…」 実は今まで一度も自分から確かめた事の無いこと。本当は昔から確かめてみたく て仕方なかったのに、怖くて聞けなかったこと。 「私はあなた達の家族かしら?」 一瞬の沈黙。ごく短い間に緊張のあまり真紅の心臓の鼓動が一つ跳ね上がった。 「もちろん。これからもずっと、真紅ちゃんは私の可愛い妹よぅ」 何を今更と言わんばかりに、のりは平然と答えた。 「そう…良かった」 控えめな呟き。けれど真紅の目から涙がこぼれた。金糸雀の時とはまた違う、胸 が暖かい物で溢れたからこそ出る涙だった。 のりは真紅に近づくと、そっと真紅を抱きしめた。照れ屋のジュンはその場から動 かなかったが、しかし涙ぐんでいた。 六 目覚めてしたこと 暗いアトリエの作業台に橙色の明かりがぽつんと一つ。これもローゼンがまだ生きて いた時から引き継がれたランプの光だ。 蛍光灯に慣れた目からすると遥かに薄暗い部屋の中で、水銀燈は紙粘土をいじっていた。 天窓から降り注ぐ月光と、火の光だけを頼りに自分の中のイメージを形にして行く。 デッサンを描くよりもさらに前、ローゼン流の構想の練り方だった。 微かに聞こえる音と言えば金糸雀の弾くヴァイオリンの音くらいの物だ。 真紅が午前中には退院する事をうっかり忘れて、もぬけの殻になった病室訪ねたらしく晩御飯時 でも残念そうにしていたが、ヴァイオリンの音は秋の月光に惹かれてか冴え冴えとしていた。 そんな静かなアトリエの中で、不意に携帯の着信音が鳴った。 小さく舌打ちして、水銀燈は携帯を見た。発信は桜田の家からだった。おそらくのりだろうと水銀燈 は見当をつけた。左手を拭き、携帯を取る。右手は紙粘土をいじったままだ。 「もしもし、水銀燈?」 真紅だった。 「あら、久しぶりね」 右手が無意識のうちに紙粘土に爪を立てていた。 真紅と水銀燈の仲は悪い。少なくとも水銀燈は今年の夏に槐の家で初めて会った時から真紅が気に入らなかった。 あの時の槐の執心ぶり。何年かけてもつかめるかどうかわからないインスピレーションを掴んだ熱狂が顔に浮かんでいた。 まだその時は気に入らないだけだったが、あの人形展の一夜を経て、水銀燈ははっきりと真紅を意識していた。 何歳か年下であろうとコイツは私の天敵だと。基本的に食うか食われるかの関係でしかありえないと。 「少し話たいことがあるだけだから」 「話ですって?」 「…人形を壊してしまって悪かったわ。その前にも酷いことを言ってしまったし」 「…え?」 「聞こえなかった?人形を壊してしまってごめんなさい」 「…」 あまりに予想外の事に水銀燈は黙りこんだ。 「…じゃあ…確かに謝ったわよ」 「……どういう風のふきまわし…?」 「言葉の通りよ。また逢いましょう水銀燈…」 通話が終わる。 なぜか、右手は力なく垂れ下がった。 終わり
https://w.atwiki.jp/msbr/pages/78.html
大好きな人を想って ◆XUXOJJW/Zg 「うぇ……うぇぇ……あぁ……あぁあぁあああ!!」 暗い暗い夜の街の中で、一人の少女が肩を抱きながら、泣いていた。 執事服を完璧に着こなし、一見男の子に見えそうな少女は目を虚ろにさせながら。 耐えようとしても、耐え切れない身体中からわいて来るどうしようもない嫌悪感に、身体をただ振るさせて。 「どうして……ボクは……ボクは……ジロー……ぅ」 ただ、恋して、大好きになった人の名前を少女――――近衛スバルは呼んでいた。 どうしてこんな事になったのだろうと自問しても、答えなんて帰ってくる訳が無い。 訳も解からないまま、混乱していく中で、頭に響き続けるのは怨嗟の叫び声。 まるで見せしめのように死んでいった牧師達の苦痛に耐え切れないような絶叫がずっとリフレインしている。 耳の奥まで残り続けているあの声が、スバルには耐えられなくて、吐き気すらわいて来ていた。 地獄と、あの女の人は言っていた。 スバルはどんなものだろうと想像しようとして、出来る訳が無かった。 だって、こんな事は今まで経験した事が無いし、身に覚えが無い。 「嫌だ……嫌だ……帰りたい」 そうだ、帰りたい。 自分が過ごしていたあの日常に。 決まりで、男の子として高校に通っていた日々。 執事として勤めながら、その中で出会った少年。 スバルの秘密を知っていて、それでも仲良くしてくれていた少年。 困った時、助けて欲しい時に助けてくれた少年の顔が浮かんでくる。 とてもとても、頼りになって……本当に大好きでたまらない少年だった。 今は、ただ逢いたくて逢いたくて、とても恋しくて。 「ジローぅ……ジローぅ」 近衛スバルは、大好きな人の名前をずっと呼んでいた。 ただ、怖くて、怖くて。 どうしようもない哀しみと恐怖に身を振るわせ続けていて。 「…………バル、スバル! スバル!」 スバルの隣から呼びかけてくる声にも、反応する事が出来ない。 黒髪の美少女といってもいい、少女がスバルの名前を呼び続けているのに。 スバルは怖くてで、ずっと立ち竦んだままで。 「スバル! スバル!…………しっかりしなさい!」 どうしようもないまま、恐怖に心が支配されて。 ガタガタと身体から崩れ落ちそうになる、その時。 「しっかりしなさい!――――私の執事でしょう! スバル!」 その一言で、スバルはハッとした。 振り向くと自分の仕えるべきお嬢様が憮然と立っていた。 護るべき主人で、そしてなによりも大切な親友が。 「涼月の家の執事なのだから冷静になってもらわないと困るわ。ね? スバル」 親友――涼月奏が困った風にウィンクしていた。 そして、スバルはその言葉に落ち着き、思い出して行く。 あの女の人は主従で殺しあえと。 そして、自分の主人は奏だ。 ずっと前から約束していたのだ、彼女と。 彼女の傍にいて護ると。 そうだ、今、自分は一人じゃない。 一人では恐怖に震えるしかないけど、今は二人だ。 二人なら、奏となら、怖くない、頑張れる。 だから、スバルは 「申し訳ないです……お嬢様」 佇まいをただし、奏に言葉をかける。 もう、怖さで身を震わせることなど、なかった。 今は護るべき人の為に。 「いいえ、そこはありがとうよ?」 奏は謝罪の言葉に困った風に笑い。 お茶目に、スバルの言葉を正す。 スバルも、困った風に笑い。 「それは、失礼しました……カナちゃんありがとう」 大好きな親友の名前を呼んだ。 そして、その親友は今度は満面の笑みを浮かべて 「よろしい」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「それでは、お嬢様……とりあえずは人が集まりそうな所に行くという事でよろしいですね?」 「ええ……危険はあるけど、私達二人じゃ正直な話、なす術もなく殺されるだけよ」 スバルが落ち着いた後、二人は現状確認をしていた。 どうやら、知り合いは他に呼ばれて無いらしい。 その事にほっとしながら、とりあえず誰かを探そうという事になった。 殺し合いに乗る……というのは、スバルの性格を考えて奏は言わなかったし、何より無理だろう。 自分達は弱い少女でしかないだろう。 あの会場で、死んだ牧師のような実力者が参加者で居る事は容易に考えられる。 スバルも鍛えてるとはいえ、叶うレベルではないだろう。 だから、奏は、とりあえず、誰か同じ志を持つ人に助けてもらうと考えた。 それに、スバルも同調し、とりあえずの方針が定まった。 スバルの腰には支給された拳銃がささっているが、役に立つかは非常に疑わしかった。 自分達が住んでいた日本では拳銃を使うなんて事は無かったのだから。 まあ、無いよりはましかとスバルが持つことになったのだ。 「じゃあ、行きましょうか……そして、帰りましょう……待ってるでしょうしね」 「待ってる?」 「ジロー君よ、きっと寂しさに怯えてに違いないわ」 そして、二人はもとの場所に帰ることを誓う。 彼女達が好きな少年の元に。 「ええ、そうですね……帰りたいな……」 スバルが、そう呟いて。 二人は夜の街を歩き出したのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ボクは帰りたいなと呟いて。 それはきっと叶わないと思っていた。 だって、ボクは執事だから。 カナちゃんの事が大好きだから。 考えた見たことで、結局絶望しかない。 あんなデモストレーションみたいに、人が派手に死んで。 ボク達二人が揃って、生還できるなんて、思える訳が無い。 だから、ボクは考え、そして思い出した。 主従を入れ替えられる事を。 ボクが死ねば、カナちゃんは新たな従者をつけられる。 ボクより強い人が。あの牧師の様な人が。 ボクは執事で、カナちゃんには生きて帰って欲しい。 だから、ボクは決めた。 カナちゃんを護ってくれる従者を見つける。 それが、ボクがやるべき事。 カナちゃんは帰らなきゃならない。 だって、カナちゃんはジローの事が好きだから。 ボクの為に身を引こうとしたけど、そんな事させない。 僕の代わりにジローと幸せになってほしい。 だから、ボクは死んでも構わない。 だって、だって。 カナちゃんに幸せになってほしいから。 【B-6/街/1日目-深夜】 【従:近衛スバル@まよチキ!】 [主従]:涼月奏 [状態]:健康 [装備]:トンプソン・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×10、通常弾×10、背負い袋(基本支給品)不明支給品x3 [方針/目的] 基本方針:お嬢様を帰還させる 1:とりあえず人を探す。 2:奏に腕の立つ従者をつける。自分の命は捨てる覚悟 ※登場時期は七巻以降からです ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ そう、スバル。 貴方はジロー君の下に帰らなきゃならない。 だって、貴方は堪らないほど彼の事が好きだから。 そして、私は貴方の事が大好きだから。 考えた見たことで、結局絶望しかなかった。 一見しただけでも力を持つ牧師がいて、そんな強い人が派手に死んで。 私達二人が揃って、生還できるなんて、思える訳が無い。 だから、私は考え、そして思い出した。 主従を入れ替えられる事を。 私が死ねば、スバルは新たな主人をつけられる。 私より強い人が。あの牧師の様な人が。 私は彼女の親友で、スバルにはどうしても生きて帰って欲しい。 だから、私は決めた。 スバルを護ってくれる従者を見つける。 それが、私がやるべき事。 スバルは帰らなきゃならない。 だって、カナちゃんはスバルーの事が好きだから。 親友がやっとつかめそうな親友なのだから。 私の代わりにジロー君と幸せになってほしい。 だから、私は死んでも構わない。 その為に私の想いを誤魔化して、そして捨ててみせる。 だって、だって。 スバルには幸せになってほしいから。 【B-6/街/1日目-深夜】 【主:涼月奏@まよチキ!】 [主従]:近衛スバル [状態]:健康 [装備]:無し [方針/目的] 基本方針:スバルを生還させて見せる 1:とりあえず人を探す。 2:スバルに腕の立つ主人をつける。自分の命は捨てる覚悟 ※登場時期は、6巻以降からです。 前:運命の星夜 投下順に読む 次:そして1人しかいなくなった 前:運命の星夜 時系列順に読む 次:そして1人しかいなくなった 涼月奏 次:ある女の受難 近衛スバル ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/yuiritsu/pages/23.html
SS4 唯「りっちゃんのおでこってかわいいよねぇ」 律「か…かわっ!?なんだよ、藪から棒に…ってか唯、目がこええ」 唯「いやぁね、そのぴかぴかのおでこを見てたらどうしても触りたくなっちゃってね?どうか触らせていただけないかとですね」 律「そ、その手付きをやめろ!」 唯「まぁまぁ、減るもんじゃなし…ていっ!」ピトッ 律「ぬわー!やめろー!さーわーるーなー!」 唯「ぐふふ、ねーちゃんいいでこしてまんなぁ、つるっつるのすっべすべやで!」 律「だ、だからやめ…うぅ…」 唯「ねぇ…りっちゃん」 律「あ…?」 唯「おでこにちゅーしてもいい?」 律「んなっ…な、なに言って…」 唯「いいよね」 律「ちょ、唯、マジでやめ…」 唯「ちゅー♪」 律「……っ」 やわらかい唯の唇が額に触れたとたん、なにやら胸の奥がむずむずくすぐったくなる。 そしてお互いの体が密着していることにも気がついて…思わず、唯のブレザーの裾を掴んでいた。 律「おい唯…何考えてんだよ」 唯「ん?ただりっちゃんのおでこ、すべすべで気持ちいいから」 律「そ…そんな理由でこういうことすんなよ。…ばか」 唯「…りっちゃん」 律「!?」 唯にぎゅっと抱きつかれて、私の頭はぐらぐらと揺れるような感覚に襲われる。 普段は目立たないけどこうして密着すると確かな弾力を感じる胸。ストッキング越しに熱い熱を感じる太もも。首筋に当たる吐息… 普段は無邪気な唯にこんなにもドキドキするなんて、どうしちまったんだ私… 唯「ねぇりっちゃん…ちゅー、もっとちゃんとしよ?」 律「は!?ちゃんとって…!」 唯「ちゃんと…口で」 律「ばば、ばか、そんなのだめに決まってんだろ!」 唯「なんでだめなの?」 律「なんでって…そういうことは友達同士でするもんじゃないだろ!」 唯「私はりっちゃんのこと好きだよ?りっちゃんは私のこと好きじゃないの?」 律「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて…」 唯「私、ホントのホントにりっちゃんのこと好きだよ。本気でキスしたいって思うもん」 律「唯…」 唯「…だから…して?」 …キスって、好きな人同士でするもんだよな。 …唯は、私のことが好き。そんで、私は唯のこと… 律「好き…」 そして私たちはキスをした。友達同士、そして好きな人同士で。
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/704.html
378 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/18(水) 02 07 29.86 ID jCOjyO1l0 [1/9] レスSS320-322『7巻終わり~8巻序盤:桐乃視点』 「兄貴の義務を果たしてんだよ」 あたしの頭の中に、何度も何度も、あいつの声がこだまする。 あいつは、あたしに彼氏が出来た事を嫌がってくれた。 あたしが彼氏を作る事を、本心から嫌がってくれた……… 前に言ってくれた、あたしが居ないと寂しいって。 あたしを兄貴が必要としてくれてる………その事はとっても嬉しい。 でもそれは、『あたし』の事が必要だからじゃない。 あいつはあたしの兄貴だから……… 兄貴なら、そうするのが当たり前だから……… あたしが、兄貴の『妹』だから……… 御鏡さんが帰った後、あたしは黒いのに電話をかけた。 「この前は………打ち上げのときはごめん」 「ええ、あんなふざけた事はこれっきりにして欲しいわね。 沙織から聞いたわ。偽彼氏ですって?」 いちいちムカツク喋り方だ。 だけど、今回の件に限っては、あたしが何かを言う資格はない。 「うん。もう、そうする必要もないから」 「そう?それで、その彼氏を連れてきてどうしたのかしら?」 「あのね、あたしが偽の彼氏を連れてたら――― あいつね、『おまえには桐乃はやらん』なんて言っちゃってんの!」 そう。兄貴はそう言ってくれた……… 「そ、そうなの?い、妹の彼氏にそこまで言ったのね」 「マジキモイっ!ほんっとシスコンだよねー、あいつ」 「でも、そもそも何故、偽彼氏なんて連れてきたのかしら?」 「………………………………」 痛い質問だった。 でも、事の真相は、いくらこいつでも教えるわけにはいかない。 「あたしさ、あいつと仲が悪かったってのは教えた事あるでしょ?」 「私の目にはずっと仲が良さそうに見えるわね」 「ちゃんと聞いてよ」 「わかったわ」 「アンタの目にはそう見えたかもしれないけど、アンタに出会う直前までさ、 あたし達、喋ることも殆ど無かったんだよね」 あの頃を思い出し、あたしの胸は締め付けられる。 あんな気持ち、もう二度と味わいたくはない。 「意外だわ」 「本当は、今でも、普段は……… あんた達が遊びに来てない日は、兄貴と全然喋る機会もないしね」 「そう………」 「だからね、兄貴ともっとお話したかった、 兄貴にもっとあたしの事見ていて欲しかった……… それが、あたしがバカな事をしてしまった理由」 「………分かったわ」 とりあえず、納得はしてくれたようだ。 「それじゃあ、二つ、質問があるわ」 「何よ?」 「まず一つ目は、先日の偽デートの件。 本当に美咲さんは付いてきていたのかしら?」 「………………………………」 この質問は、あまりにも予想外だった。 こいつの鋭さを少しなめてかかっていた。 「そう、居なかったのね」 「………………………………」 「まあ、いいわ。お兄さんと一緒に居たかっただけだと一応納得しておくわ」 「ふんっ!」 だって、どうしようもないじゃん。 今さら、嘘をついたって……… 「それじゃあ、二つ目の質問」 突然、こいつの口調が変わる。 さっきまでの問い詰めるような口調ではなく、 何かもっと必死な感じに……… 「今度は何よ」 「もし、あなたのお兄さんの事がとても好きな女の子が居て、 その娘があなたのお兄さんに告白したら、あなたはどうするつもり?」 「はっ、バカじゃん?あいつの事好きになるような女、地味子しか居ないって」 そう、そのはず。でも、何、この嫌な感触。 あいつの事を好きな女が居るってだけで、こんなに気分が悪いの? ………ううん、違う、さっきのこいつの口調、明らかに誰か特定の人物を指している。 「答えて。あなたはどうするつもりなの?」 「………………………」 まさか………でも、よく考えれば、それしか考えられない。 こいつが兄貴に好意くらいのものを持ってるとは思ってたけど……… こんなに必死に食い下がるくらい、あいつのこと好きだったなんて……… 「あんた………あいつのこと………………………好きなの?」 「ええ、そうよ」 目の前が真っ暗になった。 あたしは、またあいつを失うのだろうか? せっかくあいつと仲良くなろうと思ったのに。 ………あいつの事………好きになってしまったのに……… 「私は、先輩の事が大好きよ。 私の代わりに怒りをぶつけてくれて、私が拒絶しても私にまとわりついてきて、 こんなダメな私の事にも、必死に取り組んでくれる先輩の事が」 黒猫の言葉からは、あいつの事を本気で好きだと言う感情が次々に溢れてくる。 あたしがあいつの事を好きなのに負けないくらい……………………… こいつ、本当はとっても臆病なのに、優しいのに……………………… あたしは、あいつをとられたくない………でもっ、でもっ! 「いいよ」 「えっ?」 「いいって言ってんのよ。あんたあいつの事好きなんでしょ?とっても」 「ええ、そうよ」 「それなら、あたしはあんたの事応援する」 「あなた、自分が何を言ってるのか分かってるのかしら?」 分かってる。分かってるよ。 あたしの感情は、あたしの理性を必死で否定してる。でも……… そう。兄貴だったら、こう、答えるはずだもの……… 「分かってる。あたしはあいつの妹だから。あいつが喜んでいる姿を見たい。ただそれだけ」 「本当に、良いのね?」 「くどい。あんたはあたしの友達で、あいつはあたしの兄貴で……… 二人が幸せそうにしているのが一番じゃん」 「そう、分かったわ。近いうちに、私は先輩に告白するわね」 「………わかった。それじゃ、またね」 「ええ、それじゃあね」 電話を終え、あたしはふと自嘲気味に思う。 結局、バカな事ばかり繰り返した嘘つきの女の子には罰が与えられ、 正直ものの女の子には、それに見合った報酬が与えられるわけだ。 それに―――あたしは、あいつの『妹』だ――― そう思うと、高ぶった感情が一気に引いていくのがわかる。 あたしは、高坂桐乃ではなく、高坂京介の『妹』なんだ。 そう、思う事に、した……… 翌日、あたしは打ち上げパーティーのやり直しを前に、 リビングで雑誌を読みながらくつろいでいた。 部屋で読んでいるのでは………そう、兄貴に出会えないから……… ―――玄関から音が聞こえる。兄貴の帰ってきた音だ。 「ただいま」 「………ん」 そっけなく答える。 もう、あたしは『妹』なんだ。こいつの恋愛なんて、関係がないんだ……… でも、どうしても気になってしまう。 あたしは『妹』だから、こいつの恋愛になんて口は出せない。 ううん、違う。『妹』として、『妹』としてなら、口をだしても良いはず……… 「ねぇ」 「………な、なんだ?」 「どこ行ってたわけ?」 「学校、ちょっと用事があってさ」 「ふーん」 そっか、あいつに、呼び出されたの、かな? あたしは努めて表情を隠し、こいつに内心を読まれないようにする。 「―――あのさ」 「うん?」 「なんか、変わったこと、あった?」 「別になんにも」 「ふーん」 あいつ、まだ告白してないんだ? 近いうちに告白するって言ったのに? あたしの中の『桐乃』の部分が安堵している。 でも、『妹』なら、そんなことはない。 いい加減、あたしの中の感情に決着をつけないといけない。 『京介』が、『桐乃』を見てくれるかもしれないなんていう みっともなく、心にこびり付いた感情を……… 「よし、と」 あたしはソファに座りなおし、『兄貴』に声をかける。 「ねぇ」 「な、なんすか?」 「こっち来て」 兄貴は怪訝な顔をして近づいてくる………そうだ! あたしの考えが正しいのか、兄貴に答えさせてみよう。 そうすれば、兄貴の正直な気持ちも分かるはずだし……… あたしも本当に、納得できるはずだ……… あたしは兄貴に正座をさせ、昨日のことについて問い詰めることにした。 「あんたさ………あたしが連れてきた人が、 本当の彼氏だったら………どうしてたわけ?」 「それは………もちろん、同じようにしてたよ。 だって俺は、ネタばらしえおされるまでずっと、 あいつのことを本当の彼氏だと思ってたんだからさ」 うそ………それなら、あたし………で、でもっ! あたしは自分の揺れ動く感情を振り払うように、あいつに軽口を叩く。 「『男と付き合うのはやめてくれー』 『桐乃と付き合いたいなら、俺よりも桐乃を大切にすると認めさせてみろー』 って言ったってこと?」 「そ、そうだよ」 それならば、あたしは期待しても良いのだろうか? 『京介』が『桐乃』を見てくれる可能性を……… それを確かめたくて、あたしはもう一歩踏み込んだ質問をする。 「ふーん、じゃあ………そのあとは?もしも偽者の彼氏だっていうネタばらしがなくて、 御鏡さんがあたしのこと本当に好きで、ちゃんとあんたと向き合って、 説得してきたら………どうしてた?」 考えるだけでも心が切ない。 あたしの答えは正しかったの? あんたにとって、『桐乃』と『妹』はどっちが大事なの………? あたしは………………………どうしたら良いの………………………? 「それは………………………さーな、わかんねーよ」 「ちゃんと答えてよ」 ちゃんと、心から、答えてよぉ……… 「おまえに本当の彼氏ができたら―――」 「できたら?」 「たぶん………」 「たぶん?」 「………………泣く」 「………何それ?」 あまりにも予想外の答えだった。 あたしの中では、認めるか認めないかの二択しかなかったのに……… 「………二、三発殴って、ちゃんと話して、それで………大丈夫そうなヤツだったら……… おまえもそいつのこと好きなんだったら………もう、泣くしかないだろ。 イヤだけど、すげえイヤだけど………止めらんねーしさ」 「ふーん、そっか」 そうだ、こいつの語ってくれた、こいつの気持ち……… 今のあたしの気持ち、そのままなんだ……………………… あたしは、こいつがとられるのがイヤだ。 イヤでイヤでしょうがない……………………… でも、『妹』であるあたしは止められない。 こいつのこと、本当に好きな娘がいるんだから……… あたしは沈みきった気分を冗談で吹き飛ばすために、こう続けた。 ううん?『妹』なら、嬉しいハズじゃん。 必ず訪れる別れを、こんなにも悲しんでくれるんだから! 「あんたどんだけシスコンなわけぇ?キモすぎ!」 「なんとでも言え!」 「はいはい」 あたしは、『兄貴』に望まれる理想の『妹』として喋り続ける。 「でさー、あんたさー『妹を大切にする』んでしょ?」 「ぐあっ!」 『妹』は、兄貴の幸せを応援する。 決して兄貴の邪魔なんかしない。 それは、『妹』にとって『我慢ではありえない』 「あたしを大切にするってさー、具体的になにしてくれんの?」 「なにって………」 「もしかして考えてなかったわけ?あんな威勢良く言ったくせに?」 「………………………」 そう、これも、全部兄貴のため。 兄貴が、兄貴の事を想ってくれている、可愛くて健気な女の子と結ばれるため……… こいつが困ったとき言うセリフなんて、簡単に予想ができる。 「じゃあ………この前の侘びも兼ねて、なんでも頼みを聞いてやるよ。一つだけ」 「マジで?なんでもいいの?」 「俺にできることならな」 「じゃあねー、んーと」 考えるまでもない。言うべき事は決まってる。 ………そう。考える必要なんて………ないじゃない! 「もしも近いうちに、『あんたが大切にしてる女の子』から告白されたら、 ちゃんと………真剣に考えてあげて」 それなのに、どうして『あんたが大切にしてる女の子』なんて言ったの? どうして………『黒猫』って言えないの………? 「その子………ほんとにあんたのこと、好きだからさ」 どうして………あたしはあんたのこと、好きなの………? End. -------------
https://w.atwiki.jp/kuroneko_2ch/pages/121.html
「話が、あるんだ」 とある日、私は京介に、近所の人気の無い小さな公園へと連れ出された。 そして、そこで突然切り出された言葉。 京介の切羽詰った様子から、その『話』が、どれだけ深刻であるかが否応無く伝わってくる。 「……何かしら」 「…………俺なりに、ずっと考えてきたんだ。自分の気持ちを。『目先の答え』じゃない、『最後の答え』を」 耳に入ってきたその言葉で、一瞬のうちに私の動悸は跳ね上がった。 ――『何のことに対する答えなのか』 そんなものは、考えるまでもなかったから。 ……金縛りにあったように身体が硬直し、厭な汗が全身に噴出してくる。 思考が混濁し、視界が闇に閉ざされるかのような感覚を、下唇を噛んで必死に耐える。 ――『これは、聞いてはいけない』 いつかのように、私の無意識が、私に警鐘を鳴らしていた。 「ま、待って。……お願いだから、それ以上は言わないで頂戴」 足りない酸素を振り絞って、擦れた声で懇願する。 「……頼むから、聞いてくれ。そうしなきゃ、俺たちはこれ以上前に進めない」 「……っ……聞かないと言っているでしょう……っ」 耳を塞ぎたい。この場から逃げ出したい。 しかし、私の意に反し、この現世の虚弱な体躯は一向に動いてはくれない。 駄目、どうにかして、止めさせないと―― 「……っく……、どうしても話すというなら、私はこの場で死ぬわよ……っ?」 追い詰められた私は、いつかと同じ台詞を口にする。 我ながら、酷い脅し文句だとは思うけれど――実際に死にそうなくらいの負担が、今の私の心と身体に襲い掛かっている。 京介が言おうとしている『答え』を聞くことは、この体にとっては“死の宣告”と同じ。 だからこれは、脅しであっても“嘘ではない”のだ。 だが、一方の京介は、以前のように身じろぎはしなかった。 『そうくるだろうと思っていた』とでも言うように、その佇まいは落ち着き払っている。 そして、既に用意していたであろう覚悟を私に突きつけた。 「――お前が死ぬなら、俺も死ぬ」 「っ!?」 その口調も、表情も、怖いくらい完全に本気だった。 「……なっ、何を言っているの……」 「お前が死んだら俺も死ぬ! そんで来世まで追いかけて、そこでまたお前を捕まえて話をする! そこでも死ぬっていうならそのまた来世だ! 何処までだって追いかけてやるってんだよっ! お前が何をしようが、俺はもう絶対逃げないからな!!」 一気に熱を帯びたその言葉。 来世という逃げ場すら、私から奪い去ってしまう。 ……こうなってしまった京介は、もう誰にも止められない。けれど―― 「……む、無茶を言わないで頂戴。それに……万が一あなたが死んだりしたら、桐乃はどうなるのよ」 「分からん。――いや、分かる、か。あいつと俺は同じだから。……あいつも死ぬさ。若しくは、“死んだも同然の状態になる”。全ては、お前次第だ」 駄目ね、これは。 ――これはもう、逃げられない。 「…………酷い脅迫もあったものだわ。自分の命ばかりか、妹の命まで人質に取るなんて」 「お互い様だろ」 「……ふん、まあいいわ。……聞くだけは聞いてあげるから、言って御覧なさい」 ……そう、ただ聞くだけ。聞くだけよ。 残念だけれど、京介の決断には意味などない。 『どちらを選んだとしても、既に私の答えは決まっている』のだから。 服の裾をぎゅっと掴み、京介の答えを待つ。 その時間は、刹那だったか、悠久だったか。よく分からない。 そうして、京介が口に出した『答え』は―― 「黒猫。俺と――――結婚してくれ」 「──────!?!?」 ――完全に、予想外の不意打ち。 いえ、勿論『どちらを選ぶか』という点については予想はしてしていたわよ? でも、何かいろいろすっ飛ばした表現が、今の台詞には含まれていた気がするわ……っ? 「あ、ああ、あなたという人は……っ」 その動揺は、ゆっくりと憤怒の感情に変わっていく。 何をするにも、順序というものがあるでしょう。 だから私は、私の『理想の世界』の為に“儀式”を積み重ねてきたのだから。 今の京介の言葉は、京介にそのつもりが無くても、私の今までの行為を否定するもののように思えてしまったのだ。 「斜め上にも程があるわっ、最早狂気の沙汰としか思えないわね……っ。ふん、真面目に聞いた私が莫迦だった……わ……」 言葉尻が途切れる。 何故なら、私の“氷の視線《コキュートス》”で睨み付けた京介の表情が、私の罵倒にも一片も曇らず、真剣そのもの……だったから。 「…………本気、なの? 京介」 「ああ、本気だ」 それは、揺るがぬ意思。 ……いいでしょう。どの道、言葉の意味なんてどうでもいいこと。 もっと大切なことは、他にあるのだから。 京介がその気なら、こちらもそれを確認させて貰うだけのことよ。 「……そう。……それで? “桐乃はどうするの”?」 「どうもしない。今まで通りだ」 返された言葉に、私は心底落胆した。 失望と、呆れと、苛立ちと、怒りとが入り混じって私の心を闇へと堕としていく。 「――話にならないわね。さっきのことは聞かなかったことにしてあげるから、金輪際あんな妄言を吐かないで頂戴」 踵を返し、その場を立ち去ろうとする私に、背後から投げ掛けられる声。 「待てよ。まだ話は終わってない」 「聞く価値もないわ」 「ああ、そうかもしれねえ。これから俺が言うことは、酷く自分勝手で、矛盾だらけの、俺自身の『理想の世界』の話だ」 『理想の世界』……その言葉に、私は踏み出した歩みを止めて、肩越しに京介を一瞥する。 「……お前の目指す『それ』とは違うのかもしれねえ。お前を……もしかしたら傷付けることになるかもしれない。 お前にとっては本当に無価値なものかもしれない。それでも……ずっと考えて出した、俺自身の『答え』なんだ」 ……こんな、酷く切迫した様子の京介を、私は見たことがなかった。 いつも迷ってばかりで、へたれで、愚図で……その癖に妙に優しい人。 そんな優しい京介が、私を傷付けるかもしれないと言う。先程の言葉とは裏腹で、既に矛盾している。 あの言葉は、『私を選んだ』という意味ではない……ということなのだろうか。 私は京介に向き直り、その顔を正面に見据え、両手をスカートの前に組んで立つ。 私の“聞く意思”を感じ取ったのか、先輩はゆっくりとその決意の内を紡ぎだした。 「あれからずっと、考えてた。俺にとって『一番大切な気持ち』っていうのが何なのか。 “お前”を大切に想う気持ちなのか、妹を……いや“桐乃”を大切に想う気持ちなのか」 もう、京介の中には歪んだ硝子は無く――こうして桐乃への感情も素直に受け止められるようになっていた。 「でも、いくら考えても分からなかった。情けないけどな……俺にはどうやっても比べられなかった。 その気持ちはとてもよく似ているようで、でも全然違うものなんだよ。お前と桐乃が、違うように」 私と桐乃は、何もかもが正反対のようでいて、内面は実のところよく似ている……と、思うときがある。 桐乃は私の、私は桐乃の考えていることが、何となく分かってしまうから。 でも、京介はそんな私たちのことを、どちらかにどちらかを重ねることなく、ちゃんと一人一人の存在として見てくれている。 それが少し……嬉しかった。 「お前は桐乃じゃないし、桐乃もお前じゃない。当たり前のことだけどな。 俺の気持ちも同じだ。お前を想う気持ちも、桐乃を想う気持ちも、全然別のものだ。どっちも欠かせない、代わりにもならないものなんだ。 ――――だったら、そんなの比べられるわけねえだろうが! 大小も優劣もない、どっちも俺には大切で、大事で、必要なものなんだよ! へたれと言われようが、優柔不断と言われようが、俺にどっちかを選ぶなんてことは出来るわけねえんだよッ! くそぉぉ────!!」 京介の絶叫に、私は言葉を挟むことはおろか、瞬き一つさえ奪い去られてしまう。 「――それからまた考えたさ。じゃあどうすりゃいいのか。このまま『目先の答え』をずるずる引き摺って生きていくしかないのか? ずっと悩んで、考えて……でも、あるとき気付いた。――答えは、ずっと前にお前らが教えてくれてた、って事に」 ……私と、桐乃が……? 「どっちを選んでも後悔するなら、どっちも諦められないなら、足掻いて、欲張って、全力で『どっちも手に入れる』しかねえだろうが! お前を大切に想う俺の気持ち、桐乃を大切に想う俺の気持ち、どっちも俺の大切な気持ちだ! 俺はどっちも大事にする。絶対だ! 誰が何と言おうが関係ねえ、俺の気持ちだ、俺が俺の気持ちを守って何が悪い!!」 京介のその心の叫びは、雷霆となって私を打ち貫いた。 正直、本当に心臓が止まるかと思ったくらい――。 それからどれだけの時間がかかっただろう。 私がようやく言葉を発することが出来るようになったのは。 「……よ、よ……よくもそんな恥ずかしい絶叫が出来るわね。……熱くなると暴走するのはあなたたち兄妹、本当にそっくりだわ」 「うぐっ……す、すまん」 京介も少し落ち着いたのか、いつものちょっとへたれた返事をする。 「とりあえず……京介の気持ちは分かったわ。……でも、それなら何故最初の発言になるのよ。私を選んだ、というわけではないのでしょう」 私も冷静さを取り戻し、先程の言葉に対する当然の疑問を投げ掛けた。 「桐乃は俺の妹だ」 「………………はい?」 その返答は、何の脈絡も無い言葉のように聞こえた。 時々、京介に私の言語が通じていないのかと思うときがあるけれど……、まだまだ同じ世界観を共有できていない、ということかしらね。 でも、それに続く言葉は、そんな生易しい幻想を一瞬で打ち消してしまう。 「じゃあ、お前は俺の何だ? もう恋人でもない、後輩でもない……ただの友達か?」 「……っ……、……それは……」 答えられなかった。 後輩だった私がいて、恋人だった私がいて……、それなら今の私は、何なのだろう。 ただの友達……いいえ、違うわね……『大切な』友達……? それも違う気がする。 今まで考えたこともなかった……いえ、“努めて考えないようにしていた”ことだった。 でも、そんなことは―― 「分かってるよ、肩書きなんて大した意味は無いってことは。 でもな、さっきも言ったけど、俺はお前も、桐乃も、どっちも大切なんだよ。ずっと一緒に居たいんだ。 それこそ、永遠に、来世までも」 京介はまた“来世”という言葉を口にする。それはきっと、京介にとって最上級の決意を表す形容詞なのだろう。 ……ふん、一体、誰の影響かしらね。 「でも俺は不器用で、情けなくて、意気地なしで……またある日、お前が突然居なくなったりするような気がして。 そんなこと、もう絶対にないって分かってるつもりなのにな」 ずきっ、と、私の心の古傷が痛む。 確かに、もう二度とあんな真似はしないと誓ったけれど……過去に付いた深い傷は易々と消せるものではない。 私だけではなく、京介も、そしてきっと桐乃も……未だに心の奥にその傷を煩っているのだ。 「俺は“証”が欲しいんだよ。お前と繋がっているって思える、確かな“絆”が欲しいんだよ。 そしてそれは、俺と桐乃の血縁の絆と同等の、何より強くて決して切れない絆じゃなきゃ駄目なんだ――」 京介のいう“絆”は、きっと“呪い”。 「だから、黒猫。……いや、瑠璃。……俺と、桐乃と――――『家族』に、なってくれ」 そしてこれが、京介の“願い”。 京介の、『理想の世界』へ至る為の“儀式”。 “私と一緒になる”ではなく、“京介と桐乃と『家族』になる”という真意。 それが、あの言葉に秘められた、京介の導き出した『最後の答え』だったのだ。 「…………京介の『答え』の意味は、分かったわ。……ありがとう。とても……嬉しい」 真っ直ぐに私を見詰め、返事を待つ京介に、私は精一杯優しくそう言った。 本当に嬉しかった。こんな私を『家族に迎える』と言ってくれる人がいることが。 そしてそれが、私の最愛の人であることが。 でも、それでも、私は―― 「でも……返事は出来ないわ。私には出来ない……。桐乃が、それを望んでいないかもしれないから……」 確かに、これは“私を選んだ”という結果ではなく、寧ろ今以上に“私と桐乃を同等にする”という真意がある。 でも、真意がどうあれ、京介に『伴侶』が出来るという事実に、桐乃は納得できるだろうか。 『恋人』とはその立場も、意味合いも、比べ物に―― 「――あたしが何だって?」 不意にその場に響く第三者の声。 聞きなれたその声に振り返ると、そこに居たのは。 「き、桐乃……っ」 腕組みをした桐乃が私たち二人を見据えていた。 その表情は……訝しげなわけではなく、怒っているという感じでもなく……よく、分からない。 「……お前……俺たちの話、聞いてたのか……?」 「あんた声でかすぎだっての。んで?」 この反応、京介のほうでも桐乃がここに居ることは想定外、ということかしら。 そして、当然のように話の続きを私に急かす桐乃の様子からして、今の話は全部聞いていた……と思ってよさそうね。 こうなれば最早、私は現れた“裁決者《ジャッジメント》”に対して、覚悟を決めるしかなかった。 「……聞いていたなら話は分かっているでしょう。……あなたは、どう思っているの……?」 投げ掛けたその問いに下される審判は、糾弾か、拒絶か。 何を言われても、甘受するしかないわね―― 「てかさ、黒猫あんた、今のプロポーズ酷いと思わないの?」 「……は?」 「『俺はどっちも好きだ、でも妹とは結婚出来ないからお前と結婚する!』って言われてんだよ? 人間として最低だよね?」 全く予想外の判決だった。……本当にこの兄妹は、時として私の想像の斜め上を行くわね。 とりあえず、ええと……これは私というより、京介が責められている……のかしら? というか、物凄く曲解されているように思うのだけれど……。 「んなっ……そういう意味じゃねえ! お前ホントに俺の話聞いてたのか!?」 「怒鳴んないでよ、うっさいなァ。似たようなモンじゃん? っていうかアンタには聞いてないから、ちょっと黙ってて。 ――それで、あんたはそんなんでいいの? “一生付いて回る問題”だよ? どう考えたって、“『普通の幸せ』なんて未来は無い”と思うケド?」 その妙なアクセントの台詞と、私の双眸を捉えて離さない桐乃の真摯な瞳から、私は一瞬でその言葉の真意を理解した。 ――これは、“桐乃自身が探している『最後の答え』”を求めた問い掛けだ。 “兄”と“妹”――この絆の意味と、“京介”と“桐乃”の未来。 “絆”が“枷”になることも、この世界にはあるのだ。 今の私たちは、お互いを鏡に映して見ているようなもの――少なくとも桐乃は、そう見ている。私には、その確信があった。 それならば、私は全身全霊を賭けて答えなければならない。 それで、例え私の『理想の世界』が崩壊するとしても。 私の答えは、桐乃の答えと同等の意味を成すのだから。 “私”が“私”を否定することは出来ても、“私”が“桐乃”を否定することだけは、絶対に出来ないから。 「…………私は、京介のことが好きよ。ずっと前から、ずっと今まで。――それは……桐乃が、京介を好きな気持ちと、変わらないくらい」 「……うん」 「……でも、その気持ちと同じくらい、私はあなたが……桐乃が、好きよ。だから…………私は……っ」 そこで、言葉が詰まる。全身が震え、呼吸は荒く、息も絶え絶えだ。 京介の姿を一瞥し、そしてすぐに桐乃に向き直ると、……私は大きく深呼吸をして――『最後の答え』を言った。 「……私は、これからもずっと、あなたたちと一緒に居たい。一生、永遠に、来世までも。 その為になら……“『普通の幸せ』なんて要らないわ、……私は……『私たちの幸せ』が欲しいの”。 だから……だから、私は…………京介と、桐乃と…………『家族』に、なりたいわ」 「うん……うん、……ちゃんと『自分の』返事、できるじゃん。よく、頑張った」 今までに聞いたこともないような穏やかな声でそう言って、桐乃は私を胸元に抱き寄せる。 そして、慈しむように私の頭をそっと撫でた。 その優しい手のひらと、暖かい体温に、堰を切ったように私の瞳から涙が溢れてくる。 「…………うっ……ぐすっ……っぅ……」 「あんたが泣くなんて……ぐすっ……、初めて見たよ。……ばかじゃん、ここは喜ぶとこだって……ほらっ、ちゃんと元気出せっ……」 私を一層ぎゅっと抱きしめる桐乃。顔を埋めている私からは見えないその表情は、一体どのようなものなのだろうか。 桐乃はそうして、私が泣き止むまで、ずっと優しく頭を撫で続けてくれていた。 ☆ 「――それで、結局『お前は』どうなんだよ、桐乃」 どれだけの時間が過ぎただろう。 私たち二人の様子が一段落したと見て、京介が再び話題を戻す。 ……本当に、雄というのは野暮で粗雑な生き物ね。全く……今のやり取りでどうして伝わらないのかしら。 「はぁ? 何言ってんの?」 それを聞いた桐乃も、心底呆れたような口調で返す。 そして、一瞬視線をこちらに投げた後――真っ赤に剥れて顔を逸らし、不貞腐れるような仕草で言い放った。 「アンタがこれ以上もたもたしてたら――――あたしが瑠璃と結婚してたっつーのッ!!」 ――やや尖らせた口から繰り出されたのは、本日二人目からのプロポーズ。 それは、本当に先を越されて悔しがる子供みたいで。 一人目のそれよりも男気に溢れたその言葉に、私は軽く眩暈を覚え、倒れそうになる。 本当に……この“熾天使”は、どれだけ眩く、私を魅了すれば気が済むのだろう。 ……クッ、この私としたことが、不覚にも…………惚れ直してしまったわ……。 ☆ 「大体さ、あんた、何であたしに先に相談しなかったの?」 帰り道、桐乃が京介に至極尤もな質問を投げ掛けた。 まあ、当然そう思うわよね。桐乃の承諾が先にあれば、京介自身もあれほど悩むことは無かったでしょうに。 「あたしが怒るとでも思ってたの? あたしが『たまたま』あそこに来なかったらどうする気だったの? バカなの? もう死んでいいよ?」 「うるせえなぁ」 矢継ぎ早に畳み掛ける桐乃を一蹴する京介。 桐乃の言う『たまたま』が少し気になるけれど、まあそこは今は言及しないでおいてあげましょう。 暫くして、京介は私と桐乃をそれぞれ一目した後、虚空を仰いで少し感慨に耽るように言った。 「……この事だけは、俺一人で考えて答えを出さないと意味がねえと思ったんだよ。 お陰で毎日毎日ずっと自問自答の繰り返し……まるで『俺が俺自身に人生相談』してる気分だったぜ――」 ☆ ――そして、幾つかの年月が過ぎ。 「おまたせ」 「おう、サンキュ」 「ひゃっほー! やっときたぁ」 既視感にも似た光景が、朝食を載せたトレイを持つ私を出迎える。 「ってか、やっときたぁ、じゃねーよ。今日の朝食は確か桐乃の当番だろ。なんで瑠璃が作ってんだよ」 「今日の夜は瑠璃が実家に行く用事があって遅くなるって言うから、あたしが当番代わったげたの」 「なん……だと……? ……ってことは今日の晩飯もカレーかよ……」 「うっさいなァ。ウチだってお母さん、カレーばっかだったじゃん。イヤなら別に食べなくてもいいケド?」 「そうよ。一応人間が食べられる物質が出来るようになっただけでも奇跡なのだから、神に感謝して食べなさい」 「出来るのはカレーだけ、だけどな」 「ぐぬぬ」 ――『家族』になった私たちのやり取りも、相変わらずのこんな感じ。 変わったようで、何も変わらないようで。でも、一つだけ確かなのは、これからも私たちはずっと変わらないということ。 それが――何とも言えず心地よい。 これは、私の望んだ『理想の世界』なのかしら。それとも、京介の望んだ『理想の世界』なのかしら。 ――いいえ、たぶん違うわね。 『理想の世界』なんていうのは、作り出すものでは無く。 自分と、自分の大切な人たちが、“自分たちを幸せだと感じたとき”、気付けばそこに在るような。 きっと、誰にでも当たり前に存在する世界なのだ。 -END-(家族の絆《エターナル・リンク》)
https://w.atwiki.jp/utauuuta/pages/1415.html
きのうのこと【登録タグ き きの(嘆きのP) 曲 重音テト】 作詞:きの(嘆きのP) 作曲:きの(嘆きのP) 編曲:きの(嘆きのP) 唄:重音テト 曲紹介 あなたの日々は、どんな色? 2011年のテトの日に投稿された、ゆったりとしたテト曲。 2023年4月、synthv版発売を祝したカバー版も投稿されている。 歌詞 それは涙です。日記に描いた水たまり 「これは雨なんです。」もう、泣き虫じゃないよ 少し滲んだページ でもね、明日はきっと笑って 重ねてく真っ白な日々に 昨日の夢を描いても ぎこちない笑顔と涙で溢れてく。 なんでかな…。 キミが好きだった花の栞を挟んだまま 少し眠るように色褪せてく昨日 いつか、忘れていくの? ボクの栞はあの日、止まって 欠けていく真っ白な日々に 昨日を描けなくなって どこかに落としてしまった 大切はまだあの日のまま? 真っ白な日々に 褪せていく昨日にどうか色を。 いつかの雨を。 重ねてく真っ白な日々に 昨日の夢を描いてさ あの時みたいに優しく笑えたら いいのにね。 戻れないのなら キミイロの未来を描くから ほんの少し今も寂しいけど 平気だよ。 ずっと、ボクが繋いでいく キミと、きのうのこと。 (ピアプロより転載) コメント 名前 コメント