約 1,037 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/779.html
夢と魔法の王国・後編 ≪その2≫ 上質な絨毯が敷かれた廊下の上を、三人と一匹は歩いていた。 それは初めに彼女らが案内された廊下とは異なり、窓が一つもない。 代わりに両脇には一定の間隔でずらりと同じ扉が並び、いずれも古びてはいるがそれらは至って普通のものだ。 ――そのドアというドアが時折ガタガタと震えたり、ノブが回されたり、うめき声が聞こえてくる事を除けば。 そしてもう一つ、決定的な違いがこの廊下にはある。 それは……彼女らの進む先が全く見えない事。 「エンドレスウェイホール、って聞いたことない?」 宙にふわりと浮いた燭台と共に先頭を歩く少年が、不意にそう口を開く。 エンドレスウェイホール……直訳するならば『果てしなく続く廊下』、または『無限廊下』。 まさしく今彼らが歩いている廊下そのものを指す言葉。 しかし、この場所では非常に有名な廊下でもあった。 「ええと……この屋敷、アトラクションの見せ場の一つ、でしたっけ」 「うん、正解」 記憶を辿り、思い出した答えに少年は嬉しそうに頷く。 先程の大笑いの件から徐々にあの芝居がかった仕草が消え、逆に本来の子供らしさがだいぶ明らかになっていた。 どうやらそれがこの少年の素であるらしい。 『ワタクシ存じ上げないのですが、それほどこの場所は有名なのですの?』 「そうさ、すごく人気があるスポットなんだよ! ここを通る人間達は皆、間抜け面でこっちを眺めてるんだ」 ザクロの問いに少年は少し拗ねた調子で答えるが、その様子を思い出したのか、またくすくすと笑い声をあげる。 「たまにこっちを睨みつけてるヤツもいるけど、大抵僕を見つけると顔が真っ青になるんだ! 大の大人が、隣のヤツにしがみ付いてるなんて信じられる?」 試しにその様子を想像してみると、確かに脅かす側としては非常に面白い光景なのだろう。 しかし彼女もまた先程まで脅かされる側の立場にいた身としては、少々複雑な気分でもあったのだが。 「って事は……あなたはやっぱり、その」 ここで驚かす側というならば……答えは一つしかない。 「うん、僕はゴースト……幽霊だよ」 天気の話でもするかのように、軽い調子で少年は答えた。 「気が付いたらここにいたんだ。何でかはわからないけど、ずっとね。最初は僕の方が怖かったけど、でもだんだん人を驚かせるのが楽しくなってきたんだ」 だから周りのゴーストたちからいろいろ教わったのだと、少年は言う。 驚かせるコツ、格好、タイミング――どういった事をすれば人が驚き悲鳴をあげるのかといったテクニックを吸収し、いつしか少年はこの館に数多いるゴーストたちの中でも指折りの知名度を誇るようになった。 『アナタ……やっぱり≪夢の国≫とは別の都市伝説ですわね』 不意に黒犬から掛けられた言葉に、少年はびくりと肩を震わせて立ち止まった。 『ワタクシがこの館に着いた頃……門に押し寄せる人形もどきどもを、誰かが追い返していましたわ。姿は見えませんでしたけど、どうやら何かをぶつけているのだけはわかりましたわ。 少々おかしいとも思いましたけど、その時はそれどころじゃなかったのでワタクシあまり気に致しませんでしたの。でも今こうして改めて考えてみと、やっぱり納得いきませんわ』 少年の頭上に浮かぶ燭台を見つめ、ザクロは丁寧に一つ一つ当時の状況を説明していく。 『あの時お二方を追いかけていたのは≪夢の国≫の人形もどき、それと黒い異形たち……どちらも≪パレード≫と呼ばれて学校町にたびたび現われていた連中ですわ。 そしてこの≪夢の国≫の中にあるお屋敷も当然≪夢の国≫のもの、ならばこの中にいる者たちもやはりあの人形もどきたちと同じ行動に走るはずですわ』 しかし、この館は彼女らを迎え入れ、あの着ぐるみたちを追い払おうとした。 それの意味するところは――。 『つまり、お二方を助けに現われたアナタ……≪夢の国≫に属さないアナタだけが、≪夢の国≫の意に反した行動が取れるはずですの。 そしてワタクシが思うに、このお屋敷の狂った部分を取り除いて本来の姿を取り戻させたのも、アナタじゃありませんこと?』 少年は初めこそ困惑の――どちらかというと畏れ、か――表情でザクロを見つめていたが、やがてそれは純粋な驚きのものへと変わっていた。 「すごいや、やっぱりあの時バレてたんだね。木の陰で、しかも半分ぐらい消えてたのに」 『ワタクシの目と鼻はごまかせませんことよ』 ふふん、と自慢げに黒犬は胸を張る。 「でも一つだけあなたの考えは間違ってる。ここの皆を解放したのは僕じゃないよ」 むしろ取り込まれる寸前だったという話に、今度はこちらが驚く番だった。 「初めは来る人間にただ悲鳴をあげさせれば、驚いた顔を見れれば皆それで満足してたんだ。けどいつからか、それががらっと変わっちゃった」 いつからか、館の中には壮絶な悲鳴が響き渡るようになった。 それは臓器を抜かれる子供たちの苦しみの声、そしてそれを追うように狂ったような甲高い笑い声が館のあちこちから聞こえてくる。 そんな中少年は必死に耳をふさぎ、あの廊下でうずくまっていたのだという。 「これは悪夢だ、早く覚めろ」と、来る日も来る日も願い続けた。 あの優しくて茶目っ気のある主人が、怖いけれども面白いものを見せてくれるあの水晶玉の女性が、そして少年を可愛がってくれる何人ものゴーストたちが戻ってくるのを彼は待ち続けた。 「でもね、待っても待っても何も変わらなかった。そうしたらだんだん子供たちの悲鳴を聞いても、いやな血の臭いをかいでも、何も感じなくなっちゃったんだ」 これが普通、これがこの屋敷の本来あるべき姿なのだと、少年の心もいつしか周りに染まり始めていた。 もしこのままこの惨劇が続けば、少年はこの館をさ迷うゴーストの一人に成り果てていたに違いなかった。 「それが、突然あの首の無い騎士がやって来たんだ」 「ホロウさんが?」 思わぬところで飛び出したパートナーの存在に、思わず口をついた彼女の言葉に少年は目を輝かせた。 「ホロウ? あの騎士はホロウっていうの?」 「あ、はい。正しくはスリーピー・ホロウっていいます」 そう教えてやると、少年は「かっこいい!」と歓声をあげる。 「でも最初はすごく怖かったんだよ、何も言わないし。でも、皆がその騎士……スリーピー・ホロウに一斉に襲い掛かったんだ」 ゴーストたちやゾンビたちが、皆侵入者に対して束になって襲い掛かったのだという。 「でも、あっという間に皆やっつけちゃったんだ!」 そう語る口調はだんだんと熱を帯び、その様子はおとぎ話やテレビのヒーローに憧れる子供となんら変わりない。 「僕、いつの間にか見とれてたんだ。でも気づいたらすぐ目の前にスリーピー・ホロウがいてね」 そびえ立つ巨大な影に、少年は自らもまたあのゴーストたちのように切られるのだと、人形を抱きしめて目をつむった。 しかしいつまでたっても剣の感触も、衝撃もやってこない。 代わりに感じたのは、頭に載せられた大きな手。 「ぽんぽんって撫でてくれたんだ。それがなんだか、すごく懐かしくって」 それは少年の忘れかけていた記憶をも呼び覚ました。 誰かの膝の上でこうして撫でられた記憶、撫でる手はなくても、代わりに心地よい声が聞かせてくれた誰かの歌の記憶、そしてたくさんの存在が少年の周りに居てくれた記憶――。 気が付けば、周りには心配そうに少年を伺うゴーストとゾンビたちとで埋め尽くされていた。 「うー? じゃあみんな戻ったの?」 「うん、どうしてだかはわからないけれど、スリーピー・ホロウにやっつけられたゴーストやゾンビたちは元に戻ってたんだ」 初めは周りのゴーストたちとの再会を喜んでいたのだが、気が付けばあの騎士はいつの間にか姿を消していた。 そしてそれからだんだんと館に満ちていた淀んだ空気が薄れていき――ついには自ら現われた館の主人に会う事が出来たのだという。 「じゃ、じゃあここが元に戻ったのは……」 『あの騎士様のおかげ、なんですの?』 思わぬ真相に驚く彼女らに、少年は得意げに頷いてみせた。 「あとは大体合ってるよ。だから皆は恩人の契約者である君らを招きいれようとしたんだし、僕はあいつらを追い払おうとしてたんだ」 『なるほど……爪が甘かったですわね』 悔しげな様子の黒犬に、少年はにやりと笑みを浮かべる。 「ホロウさん、だから呼んでも来なかったんですね……この館を開放するために……」 一方の彼女といえば、先程の自分勝手な怒りを思い出し、何とも情けない気分に陥っていた。 もしあの時こちらを放って彼女の元に来ていれば、今頃逃げ込む場所もなく状況はもっと酷い事になっていたかもしれない。 「じゃあ落ち込むより早く会いに行っといでよ。僕が会った時すごく心配そうにしてたみたいだし」 そう言って少年が示したのは一つの扉。 初めは皆その意味がわからずそれぞれ首を傾けていたものの、やがて一人があっと声をあげた。 「うー、扉! 扉あけるー!」 「え?」 その言葉に女性陣がさらに困惑した表情を浮かべるが、待ちきれずに「うー!」と少年がドアノブに飛びついた。 「ちょっ、勝手に触ったら――」 危ない、と言いかけった言葉は扉の向こうを見た瞬間どこかへと消えうせた。 『まあ、これは……!』 その光景に、ザクロが歓声をあげる。 彼女らの目の前に広がっていたのは大きなシャンデリアが吊るされた広い一室が広がっていた。 中央には様々な料理が並べられた長いテーブルが置かれ、何人ものゴーストたちが席についている。 その後ろでは男性のゴーストの奏でるオルガンに合わせて、何組ものゴーストたちがドレスの裾をを翻してステップを踏む。 皆楽しげに談笑して笑いあい、端から見ればそれは何とも賑やかな食卓であった。 そんな中、上座に座る男性とその隣に座る首の無い鎧姿を、彼女はようやく見つけ出した。 <To be...?> 前ページ次ページ連載 - 騎士と姫君
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4078.html
前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/557.html
翌朝、いや、翌昼。 粗末とも言えないが、決して豪華とは言えないシンプルなベッドの上でユーリは目を覚ます。 昨晩は結局明け方まで作業が終わらなかったがためのこの時間。 隣にももう一つ、全く同じ型のベッドが少し離して据えられていた。 「リシュ……ウは起きてるのかな」 隣を見てもベッドの主はそこにはおらず、恐らくは自分より早く起きて既に下に降りたものと思われる。 ここは建物の二階、ユーリとリシュウの寝室用の部屋である。隣にも部屋があって、そこはバネッサの寝室であった。 床はひんやりとしたコンクリートで出来ていて、裸足で歩くのには厳しいものがある。ここが建物の中とは言っても、ベッドの上以外は靴を履いての行動が基本だ。 壁はかろうじて剥き出しではなく壁紙が張られてはいるが、部屋の角の上の方は剥がれかけていて、テープによる補強が数回に渡って行われた形跡がある。 枕元の時計を確認すると辛うじて午前だった、ユーリは半身を起こして大きく伸びをすると、ベッドの横に揃えられた靴を履いてその場を後にする。 手摺りに手を滑らせながらヒビの入った階段を下りる、いつか崩れるんじゃないかと少し不安になりながら下を向くと、階段の終わりに立っていたリシュウがこちらを見上げておや、と手を挙げた。 「ユーリ、今起こしに行こうと思っていた所です」 「ん、おはよう」 昼食が出来上がっていると告げられたが、その前に顔を洗ってこようと一度リシュウと別れることにする。 寝起きで渇いた喉も潤しておきたい、ユーリはそのまま何故か建物の外へと向かう。 外に出た瞬間、コンクリートに反射して四方八方から突き刺さる太陽光の眩しさに顔をしかめる事になった。目頭を押さえつつ、昨晩ガレージに向かったように外周に沿って歩いていく。 ちなみにこの建物に水道は通っていない(というか圏外は大体がそうである)、どうすれば良いのかというとであるが…… 建物の壁に隣接するようにして見えてきたのは、鉄製の大きな水タンク。錆びない加工が施されている模様で、下部分には単純に位置エネルギーを利用して水を出す仕組みの蛇口が取り付けられていた。 ユーリはしゃがんでおもむろにその蛇口を捻ると、勢いよく水が流れ出した。 「あ、冷たっ……くぅ!」 寝ぼけていたのだろうか、流す量を見誤ったらしい、ズボンの裾を濡らしてしまい少し悔しい気持ちになる。 この水は、街の外れにある共同井戸から汲み上げてきた物だ。 言うまでもないことだが、この街(だった場所)に住んでいるのは何も自分達だけではない。比較的圏外の中でも条件がいいこの場所は、神子が生活するのに適していた。 ユーリ達と同じく、ジャンク屋を営むものも少なくない。 両手に水を溜めては自分の顔に持って行って洗うということを数回繰り返した後、ユーリは立ち上がる――――すると。 「……ユーリ、そこにいるのかい?」 目の前の外壁を通してバネッサのくぐもった声が聞こえてきた。水音か足音で気付いたのだろう。 この水タンクは壁を通して建物の内側にも繋がっていて、向こうでも水を得ることが出来る構造になっていた。ユーリが敢えて外側の蛇口を利用したのは、バネッサが今は料理のために使用しているだろうということを見越しての事である。 料理……料理だよな、うん。そういうことにしておこう。 「ああ、いるけど」 「なら早く来な、せっかく用意した飯が冷めない内にね」 それを聞いてユーリは少し驚いたような表情になる、なるほど、昼間から火を使うとは珍しい。 公共ガスというのも圏外には存在しないので、市場で安く買うことの出来る燃料炭や油を利用しての釜戸などでの原始的な料理が主体となる。 これが意外にも慣れてしまえば不便とは思えない、ユーリに言わせてみればむしろ、ガスが信用できなかった。 匂いも無ければ目にも見えない、それなのに火花ひとつで爆発する。マナでさえ目に見えるいうのに(神子であるリシュウによれば、匂いらしきものもあるという)。 自分の故郷ではガス爆発は珍しい出来事ではなかった、そのせいかは知らないが、近頃は事故防止のためガスに意図的に匂いを付けるようになったとか。 徒然なるままに頭を巡らせていると、突然背後の至近距離に人の気配を感じて思わず、 「っ!?」 弾かれたように距離を取りながら振り向いてしまう。あ、またやってしまった。 「よお、ユーリじゃないか……て、おいおい。そんなビビらんでも」 「な、なんだ……ハデスさんか」 長年今の暮らしを続けているうちに、結構な警戒心というものが自分の中には育ってしまっているらしい。しかし本来それは、圏内で発揮すべき能力だ。 圏内では野良のオートマタだけが、自分達を疎んでいるとは限らない。 目の前の人物はいかにも海の漢やってます的な上腕二等筋の盛り上がりが素晴らしい、筋骨隆々の上半身を持ち合わせていて、角刈りの頭に太い眉、キラリと輝く白い歯が印象的な、ハデス・ベックマンだった。 ちなみに上半身は裸である、よほど身体に自信が有るのだろう、自分にはちょっと真似出来そうにない。 そんな彼は、両手に二つの大きなバケツをぶら下げていて、 「あ、今水汲みの帰りですか?」 その中にはなみなみと綺麗な水が汲まれて水面を揺らしている。うーむ、自分も一度にこれだけ運べたら楽だろうに…… 「おお、そうだ。今日は仕事がないんでな、機械人形と一緒に買い出しよ」 ハデスはこの隣の区画で三人ほどの神子で協力し、なんでも屋を開いている男だ。 解体、力仕事、用心棒にとなんでもござれ。なんだかんだでオートマタの力は非力な人間にとって頼りになるので、街に住む普通の人間達からも依頼が日々舞い込んでくるのである。 ユーリ達と違うのは、野良の退治などを請け負っていない所か、ハデス達の契約しているオートマタは作業用に調整されていて、武器は装備していない。 今ではすっかり顔なじみである、他のジャンク屋達とのように、仕事の内容が似ていると互いの利益を気にして思わず緊張感が漂ってしまうものだが、彼には何故かそれがなかった。 バネッサに急かされた手前、あまり時間を潰すわけにもいかない、世間話もほどほどにしてユーリは建物の中へと急ぐのだった。 再び薄暗い、建物の中。 一階の奥の部屋は適度な広さと窓が多さがちょうど、普通の家で言う居間として使うのにピッタリで、三人は普段そこで食事を取ることにしていた。 テーブルに並べられた昼食の内容を目にして、ユーリは驚きを隠し切れずにいる。 「こ、これは、まさか……」 茶碗に盛られたホカホカの白米、そしてその横に置かれた小皿の上に乗っているのは、歪んだ白き球体。 加えての、醤油瓶。 向かい側の席に座ったリシュウを見ると、彼も険しい顔付きでご飯と小皿の上の物体とで視線を何度も行き来させている。 これは紛れも無い、巷で大流行しているという、伝説の……! 「TKGじゃないか!」 「TKGのようですね」 解説しよう、TKGとは卵掛けご飯の略称である! 「ふふふ……あたしだってやる時はやるんだよ」 上座に座ったバネッサが両手を合わせていただきますをしながら、不適な笑みを浮かべる。 色々、その台詞に突っ込みたい所はあった。 ここでカミングアウトしておくと、バネッサは料理が壊滅的に下手なのである。今回彼女がした事いえば恐らく、米を洗って水を加えて火に掛けたくらいだろうし、それだって二回に一回はお粥か煎餅になる始末。今回は運が良かったといえる。 それならば何故リシュウやユーリが代わって食事を作らないのかという話になるが、それはただ単に二人が面倒臭がりで飯も食えれば良いという考えの持ち主で、バネッサ自身食事作りは楽しい事の部類に入るからというのはこの際置いておいて。 驚くべきはそこではない。 この建物には電気が通っていないので、当然の如く冷蔵庫も存在しなかった。なのに、そう…… 保存の利かない卵がある事が驚きなのだ、動物性タンパク質の摂取源といえば、塩で締めた干し肉を水で戻したものや、外気に触れないようにパウチングされたハムを温めたものといったのが大半で、『素』の食材にありつけるのは非常に珍しいこと。 「大丈夫ですか? ユーリ、卵を割るのは滅多にない経験なので慎重にやらないと」 「わ、分かってる」 ユーリは緊張に震える手で卵を掴むと、茶碗の縁に何度かぶつけて殻にヒビを入れていく、普段は食事をただの栄養摂取の手段としてしか意識しない二人だったが、 TKGの味の良し悪しは作る人の腕に依らない=久し振りに美味しい飯にありつけるということで、気分が高揚するのも無理はなかった。 「……よし、成功だ」 白米の中心に予め作っておいた窪みに黄身を軟着陸させることに成功する、リシュウも同様成功したようで、二人は顔を見合わせると、思わずニヤけてしまう。 後は、こう……茶碗から零れないように上手く掻き混ぜて、と。 「~♪」 ――――圏内に出発するのはこの後すぐ、食事後はリシュウがオルトロスをマナに分解して腕輪に宿している間に、自分は昨晩の内にまとめておいた装備を取りに部屋に戻らねばならない。 バネッサが緑色の宝玉の嵌まった金色の腕輪をテーブルの上に出してリシュウに手渡している。メンテナンスは終了したという事だろう。 卵を割ることに成功した今、恐れる事は何もない。ユーリは鼻歌が洩れている事にも気付かず、安心して考え事をしながら醤油の瓶を手にとって、最後の仕上げを行おうとするのだが…… 「……!!」 その、緊張の糸の緩みが運命の分かれ目だった。 料理として完璧かと思われたTKGにも、落とし穴はあったのである。 「あ、ああ……!」 慌てて角度を調整したがどうにもならない、醤油瓶の、口から。 ドバー!と濃口醤油が垂れ流しになってしまったのである。卵の黄身にまみれて黄金色に輝いていたご飯の美しさが瞬時にして失われ、同時に味も損なわれてしまった。 「…………」 プルプルと小刻みに震えるユーリの身体、俯き気味の表情は長めの前髪に阻まれてうかがえない。 「どうしました、ユーリ。って、うわ、TKGが真っ茶色じゃないですか」 言うなれば本日二回目の失敗である、先刻のズボン濡らし事件にしろ…… ユーリは自分で認めようとはしないが、手先はかなり不器用な方なのだった。 「残すんじゃないよ」 熱いお茶を啜りながらのバネッサが一言、語気が普通でこそあれ、逆らったら何が起こるか分かったものではない。 ユーリはぐっと感情を堪えると、リシュウに哀れみの視線を向けられながら、黙々と食事を済ませていくのであった――――
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/863.html
三つの鍵は姫君らの手に (9) 封印 1 というわけで、かなり書き直したんだけど、 ノインさんの弟が生まれた後のほうが良かったな、と思った。 後で再調整しておこうw レオニダス公爵たるミノール=マルクスと、レオニダス候爵プリムスと仲が悪いと、思っていた。 家は二つに分かれているけれど、血筋の上ではそれほど遠いものではない。ミノール=マルクスの伯母、つまりマヨール=マルクスの姉が公爵家から侯爵家へと嫁入りしているくらいで、ノイナもそれを知っていた。 でも公爵と侯爵の仲が悪いと、何かしら訳があって思ったわけではない。けれど血筋のそれほど遠くない家なのに、互いの行き合いはこのところ絶えていた。もちろん互いに礼は欠かず、新年の挨拶にも、葬儀にも侯爵夫妻は嫡男を連れて欠かさず現れていた。だからノイナも顔を知っていた。 侯爵は先までの厳しい語り口を忘れたような、優しげな笑みと共に、ノイナを馬車へと載せた。馬車は公家のものよりも新しいものだった。走り始めると乗り心地も良いのがわかった。そのくせゆらゆらしない。なんというか、軽い感じがノイナにも良くわかった。 馬車は軽やかに駆け、その帰り道の中で侯爵はほとんど口を開かなかった。 話すべきことはすでに終えてしまったというように。実際、そうだったんだろうとノイナも思う。ゼノビアの部屋から呼ばれたノイナは、別の部屋へと通された。内密の話をするような部屋なのは、ノイナにもわかった。そこでしばらくの間、待たされた。きっとゼノビアや古人のマルクスの話を聞いていたのだと思った。 そしてやってきた侯爵は、ノイナを待たせた旨ごく軽く詫びて、組椅子の上座へと座る。それから彼は言った。 「父上様のことは、わたしも大変残念に思っている」と。 そして彼は続けた。昔はこれでも、すこしは彼と話をしたことがあった、と。彼は生まれながらの公子であったし、わたしは侯爵家の婿候補の一人に過ぎなかった、がわたしにとって良い友人だった、と。膝の上で指を組み合わせて、まるで昔を懐かしむように。 「知りません」 ノイナは答えた。もちろん意趣返しの気持ちも少なからずあった。ノイナは父のことも、父の友人のこともほとんど知らなかった。そのノイナより、父の事を良く知っているという人は、命ながらえてここにある。 「そうか」 侯爵は答える。 「だがわたしには、わたしの思うところの父上様へ果たすべきことがありまた、レオニダス一族の末席を占めること許されたものとして、一族に果たさねばならぬこともある」 淡々とした口ぶりで侯爵は続けた。君が何を求めて当家に来たのか、わたしは聞かない。君が話したとしても、わたしは耳に入れない。君は公家へと帰ってもらわねばならない。わたしが送ってゆこう、と。 耐えられなかった。その口ぶりにも、何もかもに。けれどその何もかもの源であるはずのこの侯爵は、ノイナが何を言おうと聞かぬとさえ言う。 やはりそうだとノイナは思う。候家のものは、何もわかっていない。公爵家の者がいくら死んでも気にも留めていない。悔しくて、噛み締める奥歯から声が漏れる。 「・・・・・・古人がいるのに」 はじめて侯爵は面を変えて見せた。かすかに眉を寄せてノイナを見返す。 「そんな言い方をしてほしくはない」 侯爵のすこし息をつく音が聞こえた。 「マルクスも、いつか一族の役を果たす時が来る。必ずだ」 ノイナは侯爵を見据える。 「なら、今・・・・・・」 「だが、今では無い」 「なぜ!」 声を上げたノイナに向けても、侯爵の静かな語り口は変わらない。彼は続ける。 「皇帝軍参画を許される十八に満たぬものを、候家より公爵へとお預けし、公候一つとなって、忠誠を示すとあれば、わたしも躊躇なくそしよう」 「ならそうしてくれればいいじゃない!」 「子供の彼をいくさに出すほど追い詰められているのなら、まず我らが領地も守りもすべてを捨てて、皇帝陛下の軍勢に参与する。それが我ら一族が、皇帝陛下に捧げるべき忠誠だ。そうではない何かのためになら、それは二心に基づくものだ。忠誠でも忠義でもない」 考えなさい、と侯爵は言う。 「理の無い公候合一を見た時、心無いものはそれを何と見ると思うか、ノイナ」 ノイナは言葉に詰まった。 「・・・・・・そんな、理屈」 大人はずるい。一つのことに一つの答えを示さず、一つの問いに二つも、三つも、さかしまの問いかけを突きつける。 その手の中に力を握って、それで打つことだってためらい無くして見せるくせに、小さな願い一つすら叶えることには使わない。侯爵は言う。 「学びなさい、ノイナ。君の父上が成すべきであった役を、これからは君が成さねばならぬ」 侯爵は静かに言い終えた。ノイナは応じなかった。応える言葉をつむぎだせずにいた。やがて侯爵は、そろそろ行かねばならぬと示し、立ち上がり、さらにノイナにも立ち上がるようにと言ったのだ。 「ノイナ、君が心を決めるまで、待つこともできないのだ。だが、君に心を決めろとは言わない。公爵殿下もそうであるし、わたしもだ。ゆえに命じる。立ちなさいノイナ。君は公家へ帰らねばならない」 応えぬノイナに、侯爵はさらに続ける。 「立てぬなら、助けをつけるだけだよ」 そこまで気持ちが萎えてしまったわけではない。何より、弱ったように見られたくなかった。組椅子から立ち上がった時、思わず揺れたとしても。侯爵はそれに手を貸すことも無かった。 そして今、馬車は進みゆく。 見慣れた帝都の街影が窓の外を流れてゆく。帝都の北ではいくさが続いている。ヤン・アドルファス・グスタファス北方辺境候は、もう七年もの間戦い続けている。いくさはそれだけに留まらない。帝國の色々なところでいくさは起きているのだという。 いつ終わるのかなど、ノイナには思いもつかない。いくさはずっと続いていて、今も続いていて、これからも続いてゆく。そんな風に思っていた。 やがて馬車は帝都郊外の公爵帝都屋敷へ到る。 先触れも無く、レオニダス侯爵家の紋章をつけた馬車がやってきたことに、番のものはひどく驚いていたらしい。 ノイナと、侯爵が馬車を降りた時、さらに驚き、あわてて中のものを呼びに行ったくらいだ。そこから先は、駆け上がるように次々と上のものへと話が通っていった。 分家とはいえその筆頭にしてレオニダスの名を許されている候家当主を迎えるにふさわしいのは、公爵代理を任せるに足るものだけだ。今、それが叶うものはことごとく北のいくさへと行った。 「レオニダス候爵プリムス閣下」 けれど声は女の人のものだった。もちろんノイナはその声を知っていた。 「ユーリア姉・・・・・・」 化粧こそよそ行きほどにはしていないものの、多分、急いで身づくろいをしてきたのだろう。よそ行きではないもののそれなりの格好で、ユーリアは淑女の礼を行っていた。顔を上げても、彼女はノイナへ瞳をむけることすらしない。 「当主に代わってご案内いたします。どうぞこちらへ」 「ありがとう、ユーリア」 侯爵は応じ、それからノイナを伴って歩いた。いつもは気づかなかったけれど、公爵帝都屋敷は広くてそして重々しい。飾り方も控えめだ。壁も柱もそうであるし、廊下もそうだ。先を歩くユーリアは迷うことなく奥所にある控えの間の一つへと招いた。控えの間もまた、ほかと変わらない。 侯爵は己の家のように組椅子の一つへと着く。ノイナは己の住むこと許されている屋敷だけれど、行き場も見つけられず部屋へと入ったところで立っていた。部屋へと案内したユーリアは、ノイナを見もせずに退いてしまっていた。ユーリアは怒っているはずだ。ユーリアが部屋にて慎め、そして反省をもって祖父へ詫びに行くようにと命じたのだから。 叱られても構わない。けれど、正しいと思ったことをやり遂げることもできず、それを阻んだ人に連れられて、戻されてきてしまったのは、言い様の無い、そして居場所の無いような辛さだった。 ノイナは失敗してしまったのだ。鍵の指輪は取り上げられてしまうだろう。そうしたら、二度と機神を復活させることができない。 「・・・・・・」 もう何もかもがこのままだ。いつ終わるかもわからない、長い長いいくさの終わるまで。ヴァロ兄もフィネス兄も、屋敷に残されたほかの小さな子供達が大人になっても。そして、生まれたばかりのノイナのおとうとが大人になっても。 失うということは、こういうことなのだろうか。壁に阻まれて、何もできなくなって、扉を開く鍵すら失って、このまま、じりじわじわとすべてが失われてゆくまで、見ていなければならないのだろうか。 「そこに立っていることはない、ノイナ」 侯爵は言う。 「そちらの入り口からは公爵殿下がいらっしゃるはずだ」 お爺様はノイナを厳しく叱るだろう。何のために叱られるのか、もう判らなくなっていた。お爺様は何を守っているのかも。 入り口の扉の向こうに人の気配がする。足音が近づいてくる。ノイナがあわてて入り口から退いたとき、扉を叩く音がする。 「お待たせいたしました侯爵閣下、レオニダス侯爵マルクス殿下、ただいまおいでになられました」 ユーリアの声だ。ノイナはさらに退いた。部屋の中では組椅子から侯爵が立ち上がる。扉が開き、その扉を開いたユーリアが入り口の脇へと立つ。続いてケイロニウス・レオニダス侯爵マルクスその人が、ゆっくりと部屋へ踏み込む。祖父はノイナに一瞥向けただけだった。すぐに部屋の中へと目をやり、向き直る。 「足労かけたようだ。侯爵」 「いいえ、ミノール。お気遣いなく。ノイナはお届けいたしまた」 うむ、と祖父はうなずき、ユーリアへと振り返る。 「連れて行きなさい。わたしは侯爵と話がある」 「はい、父様」 一礼して応えて、ユーリアははじめてノイナへと目を向ける。 「こちらへ来なさい、ノイナ」 踏み出すことに戸惑った。これは終わりの道なんだ。 終わってしまう。 「・・・・・・嫌だよ、お爺様・・・・・・」 「連れてゆけ」 祖父は背を向けて冷たく言う。 「お爺様!」 「来なさい、ノイナ!」 ユーリアに腕をつかまれ、引きずられそうになる。 「いやだ、放して!」 「これ以上騒ぎを起こしてどうしようというの!」 「騒ぎで何がいけないの!」 ノイナは腕を振り払う。 「このまま、黙って、終わってしまうのなんて嫌だ!」 ユーリアが腕を振り上げる。その手がノイナの頬を打った。
https://w.atwiki.jp/nihonjindakedo/pages/34.html
546 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 17 50 23.22 ID ??? 先輩・後輩は廃止するべき(歴史的考察) 江戸時代には先輩・後輩という概念がなかった。当然農民の間でそんな先輩・後輩なんて言っていなかった。 旧日本軍の中で先輩・後輩という概念が生まれた。 明治時代のはじめは、まだサラリーマンよりも農民のほうが多かったし、数少ないサラリーマンのなかでも先輩・後輩なんて言っていなかった。 企業の中でも言うようになったのは、国家総動員法などのあたりで軍部が企業に押し付けてから。 旧日本軍が滅んでもこんな制度が化石のように残っている。 21世紀にもなってこんな制度は時代遅れ。 549 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 17 56 48.60 ID ??? 先輩・後輩は廃止するべき(諸外国の事情) 欧米には先輩・後輩という概念そのものがない。 欧米にも先輩・後輩はあるよと大嘘をつくやつがいるから、あらかじめ反論しておくと、日本アニメの英語版の字幕だとsenpaiとなっている。 このように対応する表現はないことは明らか。 概念があるというからには対応する表現がなければならない。 senpai kohaiという表記からして欧米にはないといえる。 これも貼っておく http //en.wikipedia.org/wiki/Senpai_and_k%C5%8Dhai 日本以外であるのは韓国(ソンベ・フベという)ぐらいのもの。(さすが日本=東朝鮮) 韓国でも先輩・後輩と言っているのは日本の悪しき影響だろうね。 韓国は儒教思想と兵役のせいで日本以上に酷いことになっているらしい。 そもそも儒教思想と軍事思想が結合したものが旧日本軍的、体育会系的イデオロギーだからね。 中国では辞書には一応載っているもののほとんど使わないんだとか。 551 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 18 02 38.41 ID ??? http //www.keiointernational.com/exchange/guide/guide4.html http //jsacademy.blog59.fc2.com/blog-entry-121.html http //ameblo.jp/becomebilingual/entry-10395010289.html http //detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1223639902 http //www.kikimimi.net/english/english_main5.html http //www.chinasaloon.net/cult-man.htm http //www.tottori-rc.gr.jp/?p=491 550 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 18 00 18.93 ID ??? 先輩・後輩は廃止するべき(アカデミックな意見) いやそれ以前の基層文化、つまり海民の年齢階層制度がより深いルーツだよ。 それが儒教に再編成・体系化・明文化され、時代とともにバリエーションを変えながら今日に至っている。 欧米では、十数歳、数十歳の世代的な歳の差ならともかく、 たった1、2歳とか3歳違うだけで絶対的上下関係が生じはしない。 他のアジア諸国では階級・階層・身分差は激しくとも、 わずかの歳の差が身分差別になるのは日本と朝鮮くらいじゃないかな。 553 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 18 08 36.63 ID ??? 先輩・後輩は廃止するべき(仕事の能力との関係) 仕事の能力が年数に正比例するって保障はない。 例えば英語の教師にTOEICなりTOEFLなりを受けさせれば明らかに勤続年数に比例しない。 なんで日本でジョブ・ホッピングが行われないのかって考えると、先輩後輩があるからなんだよな。 優秀だからって良い条件で他社に移ろうとすると、先輩後輩の壁にぶつかるっていう。 終身雇用や年功序列じゃないのに、先輩後輩を維持しようとすると制度的に邪魔にしかならないんだよな。 555 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 18 32 28.04 ID ??? 先輩・後輩は制度ではなく、文化であるという意見に対する反論 例えば音楽なら聴かない自由があるし、料理なら食べない自由がある。 しかし先輩後輩制度には、いやおうなしに強制的に組み込まれるわけだから制度だと呼ばれても仕方ない。 836 :名無しさんの主張:2012/05/21(月) 12 53 04.02 ID ??? 日本人の場合、女性であってもサル山システムを作ろうとする。 日本人女性=メス猿である。 お局さまというのも先輩後輩の女性版である。 本来誰が使ってもいいはずの、公共の設備である公園において「公園デビュー」などと言って、ママ友の間でサル山システムを構築する。 837 :名無しさんの主張:2012/05/21(月) 12 55 18.68 ID ??? 歴史的な事情や諸外国の事情まできちんと知った上で心の底から納得して、先輩後輩って言っている人がどれだけいるのか。 なんとなくどこの国にもあって、大昔からあったものだと思い込まされているんだよな。 小学校までは先輩後輩なんて言っていなかったのに、中学に入るとみんな先輩後輩って言っているから、そういうものだと思い込まされている。 就職してからも定年までずーっとそれが続く。 838 :名無しさんの主張:2012/05/21(月) 12 57 14.22 ID ??? やはり貴方は威張り散らしすぎです。バイバイ先輩後輩さるさん。 上野動物園=日本の学校・会社は? 670 :名無しさんの主張:2009/07/15(水) 21 02 01 ID 2p2dZXsb 結局のところ、先輩後輩というのは、ただの差別である 今の日本では、後輩は先輩に敬語を使わねばならず、その他常に先輩に気を使わねばならない しかし先輩は、後輩に対しいくら乱暴な言動をしたり、後輩に雑用をさせて召使いのように 扱っても許される その他、上座下座といったまるでかつてのアメリカの黒人差別を彷彿させるような座席差別もある ただ組織に属したのが先か、後かというだけでこれだけの区別を付けられるのは 明らかにおかしいし、差別としか言いようがない 619 名無しさんの主張 2012/05/11(金) 19 54 06.02 ID tOVSrC9x [2/2回発言] なんで新卒主義があるかというと先輩後輩があるからなんだよね。 いくら日本企業が合理主義でないといっても、全く意味もなく新卒主義にしているわけではなく、先輩後輩があるからなわけ。 622 名無しさんの主張 2012/05/11(金) 20 03 07.01 ID ??? 少なくとも外国人を雇用している企業や海外に進出している企業だけでも廃止するべきなんだと思う。 外国人を雇用している企業も新卒の外国人しか雇わなかったりして、そういうところは本当に笑える。 インド人の社員に先輩社員という名札を付けさせていたりして「マジで馬鹿じゃないの?」と思った。 49 :名無しさんの主張:2012/04/27(金) 00 25 44.72 ID ??? 人間の尊厳は平等だという信念がないし、 逆に人間の尊厳は上から下まで縦一列に 序列化するべきだと思ってるキチガイが日本人だよ そういう社会だから上下関係を意識するのが大変 257 :名無しさんの主張:2012/05/08(火) 15 14 25.19 ID ??? サル山社会日本 会社のなかが経営者を頂点としたサル山 経営者も経団連のなかでサル山 日本国全体が天皇を頂点としたデカいサル山 843 :名無しさんの主張:2012/05/27(日) 20 18 17.74 ID ??? 野生の猿はサル山を作らないらしいね。 サル山システムは生物としての本能というよりも、ある程度人工的な環境で発生するということか。 854 :名無しさんの主張:2012/05/27(日) 20 33 36.25 ID ??? 野生のサルはあまりにも環境が酷すぎると、酷い環境に適応せずに逃げるからね。 日本人は逃げられない島国という「天然動物園」の檻の中で生きてきた。 欧米人や華僑のように、悪から逃げたり、いざとなったら亡命すればいいという 態度に悪に挑んだりせず、逆に悪の存在を嘘をついてまで否定したり美化したりして、 誤魔化して受け入れるという歴史を辿ってきた。 動物園のサル山のサルより確信犯的なだけ悪質だし罪は重い。 92:名無しさんの主張[sage] 2012/02/21(火) 11 34 59.26 ID ??(1) 容姿の特徴もサルに似てるしな 705 名無しさんの主張 2012/02/28(火) 17 25 34.77 ID ??? それはサルの本能な 欧米人は進化論を大変嫌っていることからもわかるように 理性的な人間と野蛮なサルは基本からして全く違うものだと認識している 日本人は進化論を一切の抵抗なく国民全員が瞬時に受け入れたことからもわかるように 人間とサルの基本は同じである、違いがあろうはずがない、違いがあってはならないと認識している 80 名無しさんの主張 2010/01/11(月) 11 45 24 ID hBPncFoN [1/1回発言] GHQか? ニホンザルの研究と観察からこの国に民族性を○○してというが 不思議だな、お猿さんと全く同じ社会システムに驚いたそうだ。 81 名無しさんの主張 2010/01/11(月) 11 48 33 ID ??? 猿山の猿と似ている面はあろうな。 精神年齢12歳だそうだから、 12歳のガキ大将とその子分達・・といった序列がそのまま 社会の構造として組み込まれているのだろう。 82 名無しさんの主張 2010/01/11(月) 14 20 37 ID c9RH2sKl [4/7回発言] その猿山の精神年齢12歳が成人式という行動をするから興味深いよな。 まともな人類は理解してるんだが、ある一定の年齢に達したら自動的に 権利を与えられるってシステムの意味が日本猿は理解できないらしい。 だから派手なイベントをして脳に刺激を与えるんだけど覚えたことは酒とタバコだけ。 この猿山で責任と権利が空虚であること隠蔽(証明?)するかのように外見だけは着飾る。 435 名無しさんの主張 2010/04/14(水) 14 20 02 ID ??? ゴキブリまではいかないが、猿だね「ニホンザル」。 やつらも上下関係きびしいらしいじゃん。 105 名無しさんの主張 2012/01/14(土) 01 37 19.52 ID ??? 日本人というよりもアジア人が猿に近い。 アジアは基本的に猿山社会で、それを文化にしたのが極東地域なんだろう。 『アカゲザル』というニホンザルに似た種類のサルがいて、 学名『macaca Rhesus(マカック・リーサス)』という。 Rh因子(アカゲザル因子)陰性型(Rhマイナス)の非サル人間の割合が、 バスク人>バスク以外の白人>黒人>ネイティブアメリカン>アジア人 となっている。 参考 http //en.wikipedia.org/wiki/Rh_blood_group_system
https://w.atwiki.jp/bakiss/pages/885.html
千鶴は数分前の激高がまるで嘘だったかのようにニッコリと笑い、席を立ってリーゼントの男へ近づく。 そして、彼の左腕に己の腕を絡め、身体を摺り寄せ、だいぶ上の高さにある顎髭を愛おしげに撫でさすった。 「テディベア、待たせてゴメンね? 退屈だったでしょ?」 「なァに、いいって事よォ……」 現状を完全に無視した、愛情溢れる濃密なコミュニケーションに佐山達は呆気に取られている。 尚も愛の言葉を囁き合う二人だが、後ろに従っていた少年(と呼んでも良い程の幼い顔立ちだが、 身長は千鶴より遥かに高く、体格も一人前の大人並みである)が不意に男の右腕にしがみついた。 そのままグイグイと男の腕を自分の方へ引っ張り、反対側にいる千鶴を前にも増して激しく睨みつける。 嫉妬に狂う眼光と憎悪に歪んだ表情。緑色の瞳に込められた怨念は相手を呪殺出来そうなくらいだ。 「おいおい、デイジー。何回言ったらわかるんだ。千鶴とは仲良くしろゥ……」 男の支持を得て、千鶴は勝ち誇った顔で少年に舌を出すと、ようやく佐山達五人に向き直った。 「知ってる人もいると思うけど紹介するわ。こちらはセオドア・チャールズ・ダーマー。 たぶん『テッド・“ジェイブリード”・ダーマー』っていうニックネームの方が有名よね? ホームステイ先のアメリカで知り合った、私のお友達なの」 「“ジェイブリード”でいいぜ。ヨロシクなァ……」 各国を代表すると言っても良い五人の吸血鬼に対して、傲岸不遜な挨拶を送るジェイブリード。 “見下す”という表現が最適の角度で一人一人を吟味する彼の視線は、不自然に下を向いたある人物のところで ピタリと止まった。 薄い唇が吊り上がり、ほとんど肉のついていない頬に皺が寄る。面白そうな玩具を見つけた子供の笑顔だ。 「いよォう、前田! 相変わらず元気そうじゃねえか!」 声を掛けられた瞬間、前田はイスから飛び上がらんばかりにビクッと身体を震わせた。 そこからたっぷりと時間をかけておずおずと顔を上げる。 「い、い、生きていたのか……」 「ああ、おかげさんでな。そりゃそうと七年前のシチリアじゃ随分と世話になったなァ……」 その言葉を聞くや否や、前田の震えはさらに激しくなり、またもや顔は伏せられた。 恐怖の反応を楽しんでいるのか、ジェイブリードはニヤニヤと笑いながら、大股な歩調でゆっくりと 彼に近づく。 「オメエが俺を売ってくれたおかげで、俺ァあの化物神父とカレー女に危なく殺られるとこ だったんだぜェ……? 見ろよ、コレ」 ライダースジャケットの前がはだけられ、痩せ細った裸の上半身が露わになった。 そこにはおびただしい数のタトゥが素肌を埋め尽くすように施されていた。 ただし、絵ではない。すべて文字、しかもある程度の長さを持つ“文章”である。 眼に付きやすい部分だけでも―― 『THE FLY LAID THEIR EGGS IN MOTHER MARY(蠅は聖母マリアに卵を産みつけた)』 『JESUS CAN T SMELL OWN SHIT ON HIS KNEES(キリストは自分が垂れた糞の臭いにも気づかない)』 『GOD SENT ME TO PISS THE WORLD OFF(神は世界にションベンをひっかける為に俺を遣わせた)』 『KILL YOUR PARENTS! KILL YOUR GOD! KILL YOURSELF!(両親を殺せ! 神を殺せ! 自分を殺せ!)』 ――等の不快な冒涜的文句が隅から隅まで所狭しと彫られていた。 これは“見るタトゥ”ではなく“読むタトゥ”なのだろう。 しかし、よく見ると右脇腹辺りの文字が大きく消えてしまっている。そこに刻まれた火傷と切創が 混じり合った醜い傷痕のせいだ。 吸血鬼は頭と心臓さえ無事ならば、たとえ手足が吹き飛ぼうが臓腑が抉り取られようが再構築が可能である。 そんな不死身に近い化物の身体に消えない傷痕を残す事が出来ると言えば、聖水や十字架等の聖具、 もしくは祝福儀礼を施した武器による攻撃しかない。 “密告されたが為に殺されかけた”との言葉は真実と見ていい。 「そ、そ、そんな…… 俺は、売ったなんて……」 見ていて気の毒になる程の狼狽振りを示す前田。 その態度が嗜虐心をそそるのか、ジェイブリードの口撃は勢いを増す一方だった。 「ヴァチカン相手に点数稼ぎは大変だったろォ。密告(チクリ)ひとつでどんだけ特典があるんだか 知らねえけどよォ。まあ、昔から人間にも吸血鬼にも尻尾フリフリで成り上がったオメエだしなァ……」 “寅吉会若頭”の“極道としても吸血鬼としても恥ずべき行い”を“親分や他国の要人”の前で暴き、 おちょくる。 彼の立場や性格を充分に理解した責め方である。 「他にもサービスしてきたんだろ? 生臭大好きな出っ腹ホモ司祭の萎びたチ○ポでもしゃぶったか? オメエはジジイ相手のおフェラ豚ならお手の物だろうからよォ…… ヘェヘヘヘヘヘヘヘ!」 佐山の方をチラリと見遣りながら、ジェイブリードは耳障りな甲高い笑い声を響かせた。 前田は俯いたままで己の膝を掴む五指に強く力を込める。 面子を潰された怒りが恐怖を駆逐していく。極道の矜持と吸血鬼の闘争心が徐々に甦りつつある。 「調子こいてんじゃねえぞ……」 震える唇からボソリと呟かれた言葉は届いていない。 「あァん? 何か言ったか?」 ジェイブリードは大袈裟なアクションで耳に手を当てる。多分に挑発的な態度だ。 すると前田は椅子を蹴倒して立ち上がり、テーブルに拳を叩きつけて大見得を切った。 「合いの子がァ!! テメエなんざ売女の喰屍鬼(グール)がひり出した半端モンじゃねえか! 吸血鬼ヅラしていい気になってんじゃ――」 怒声が半ばで途切れた。 「ワルイコちゃんなお口はこれかァ……?」 気づけば血を滴らせた前田の下顎部分が、何故かジェイブリードの手に鎮座していた。 それは誰の眼でも捉え切れない一瞬の早業。 罵倒の半ば、数歩離れた距離から、動き続ける下顎を素手で力任せにもぎ取ったのだ。 前田は取り残された舌をユラユラと喉の辺りに垂れ下がらせ、驚愕の面持ちで己の下顎を見つめている。 やがて、異形の肉塊は持ち主の下へ戻る事無く、床に放り捨てられた。 間を置かずエンジニアブーツの踵がそれをグシャリと踏み潰す。 「ああッ……! あああ! あああああッ!」 己の身体の一部との無慈悲な別離に声にならぬ声が上がったが、それも束の間―― 凄まじい連射音が轟き、数百の銃弾が雨あられと前田を貫いた。 見るとジェイブリードの後方で、ヒスパニック系の男がギターケースを胸元の高さまで持ち上げていた。 ボロ雑巾と化した前田の方へと向けられたネック部分の先端には、直径3cm程の小さな穴が開いている。 硝煙が立ち昇っているところを見ると、銃弾はそこから発射されたに違いない。 しかも、前田はピクリとも身動きをしておらず、その身体は間も無く灰燼に帰してしまった。 使われたのは“銀弾”だ。 「グゥ~~~ッジョォブ……」 ジェイブリードはヒスパニックに親指を立てると、フラフラと酔っ払いにも似た足取りで今度は 上座の佐山に歩み寄っていく。 途中には、少しも隙を見せず身構える黄元甲ら三人。 「大人しくしてろォ……」 真紅の眼を光らせて三人を牽制し、遂には椅子に座る佐山の真後ろへと辿り着いた。 何をするかと思えば、側近を殺された老人の両肩へ労わるように手を置き、肩揉みのように リズミカルに動かす。 「ワ、ワシに手ェ出してみィ。タダじゃ済まへ――」 佐山の言葉は皆まで聞かず、ジェイブリードは左手で彼の顎を引っ掴み、無理矢理天井を仰がせた。 そして、右手に握られているのは、刃渡り30cm以上はある鋭利なボウイナイフ。 「あァ、わかってるぜェ。とても面白い事になるなァ……」 ナイフが佐山の喉元にスルリと実にスムーズに刺し込まれた。 「があああああ!!」 悲鳴はすぐにガラガラといううがいに近い音に変わり、口ではなく喉の傷から洩れ出る。 血飛沫が肉を切り裂き骨を断つ生々しい音と共に周囲に撒き散らされ、テーブルクロスや絨毯を 赤く汚していく。 ごく僅かな時を経て、ドンと荒々しい音を立てながら、苦悶の形相が貼りついた“佐山だったもの”が テーブルの上に置かれた。 もう動く事の無い濁った瞳が三人の吸血鬼を恨めしげに見つめている。 一仕事を終えた爽快な顔のジェイブリードは千鶴の方へと向き直った。 興奮冷めやらずと言ったところか、千鶴は上気した頬に手を当て、舌舐めずりを繰り返していた。 唾液によって怪しく光る唇と同様に、潤いを増している部分が他にもあるのかもしれない。 恍惚の彼女へジェイブリードが眼を覚まさせるように促す。 「よォ、千鶴。そろそろお偉方と“お話”の時間じゃねえのか?」 「そうね、邪魔者も消えたし。 ……あ、そうそう――」 “たった今、気づいた”とばかりに嫌味たっぷりの視線をチェ・ドンシクへ向ける。 「――あなたは帰っていいわ、チェ会長。特に用事も無いしね。ご苦労様」 チェ・ドンシクは猜疑と警戒を露わにしながら席を立ったが、出口へ辿り着く頃には少なからず 安堵と喜悦の表情が顔に滲み出ていた。 気が違っているのではないかと疑いたくなる日本の女吸血鬼(ドラキュリーナ)と、どう見てもイカレている 悪名高いアメリカの吸血鬼。 そんな連中から解放されたのだ。加えて、寅吉会の会長と若頭の死によって思いもよらない利権が 転がってくる可能性もある。 顔が綻ぶのも無理は無い。 だが、ジェイブリードは部屋から出て行くチェ・ドンシクを執拗に横目で睨み続けていた。まるで彼の内心を 見透かすように。 「ミゲル」 「あいよ、ボス。オイラにおまかせだってぇの」 ミゲルと呼ばれたヒスパニックは人懐っこい笑顔を浮かべ、ウィンクで答える。 黒いギターケースとその持ち主の口ずさむ『MALAGUENA SALEROSA』。 闇の世界とは程遠いラティーノ・ヒートは命令に忠実足るべく、コリアンヴァンパイアの後を追った。 その様子を見ていた千鶴は頬を膨らませる。 「んもう、テディったら用心深いんだから」 拗ねた口調で訴えるも、ジェイブリードがチュッと唇をすぼめてキスを飛ばした途端、顔には微笑みが戻る。 千鶴はその微笑みのまま上機嫌の弾んだ声で、残された黄元甲とパコージンに申し渡した。 「さてと…… それじゃ“本題”に入っちゃってもいいかしら?」
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1390.html
これはこれ、の領域をはるかに超越して、もはやキャラと国とのプレゼンである。 実際、そのように見ていただく方が良いかと思われる。 これはこれ、を越えた酷い話ではあるが、誠に申し訳ない。 カロン 「!」 いななきを上げて馬が竿立つ。蹄で激しく宙を掻くかと思えば、それらを地に打ちつけるようにして、後ろ足を振り上げる。蹄が宙を蹴る。激しく跳ね、その背に乗るものを振り落とそうとする。 「!」 そのたびに、人垣より声があがる。荒馬を遠巻きに囲む人の群れは、その馬にも劣らぬ昂ぶりとともに、荒馬と、それを乗りこなそうとする乗り手に見入っている。激しい動きに、けれど背の乗り手も譲らない。跳ねる背で巧みに手綱を捌き、馬の気ままは許さない。 馬の赤毛も、乗り手の金髪も、ともに汗にまみれ、日差しにかがやく。地を蹴る蹄が、砂埃を舞い上げる。その勢いも、次第に、小さく、跳ねる高さも低く変わってゆく。 激しい吐息は、馬と、乗り手とその双方から漏れる。やがて、馬は跳ねるのを止め、動きを止めた。激しくかぶりを振り、たてがみも揺れる。乗り手は、その首筋をたたいてやる。馬は、抗わなかった。 「!」 人垣から更なる歓声が上がるけれど、馬はもはや暴れる力も無いらしい。落ち着かなげに前足を踏みかえるばかりだ。 「王様!」 人垣から、声を上げて一人の姿が駆け出してくる。外套の裾をひらめかせ、頭巾が落ちるのも、面布がとれるのも、まったく構わぬげに、頭の両脇にそれぞれ結った髪を見せて、馬と乗り手へとへ駆けてゆく。 「待て!イル・エア!」 追うようにもう一人の外套姿が駆ける。こちらは、頭巾がずれぬようにと、手袋の手で押さえている。その姿が、馬と乗り手とのころに駆けつけるころには、先に駆けたもの、イル・エアが跳ねるように、乗り手の足に抱きつくところだった。イル・エアは乗り手を見上げる。 「王様すごい!この馬、ずっと誰も乗せなかったのに!あたしの事もだよ!」 「王様相手だから、こいつも遠慮したのさ、イル・エア」 彼は馬上から手を伸ばし、イル・エアの外れたままの頭巾を引き上げ、掛け直してやる。それから、彼は馬の背よりひらりと地へ降り立つ。そのころになって、二人目の頭巾姿と、さらに人垣の者らとが、王を囲むように駆け寄ってくる。イル・エアは王を放すまい、とその腕を抱き寄せて放さなかったのだけれど。口ぐちの賞賛に、王は片手を軽く上げつつ答える。 「アル・ラアル、約束通りにこの馬は余のものだ」 呼びかけられたそのアル・ラアル、小柄だが部族で最も有力な氏族長は、大きくうなずいて応える。人垣は大きく声を上げる。サーンの民は、潔く男っぷりの良いことを称える、剽悍な騎馬民族だ。 「だが、アル・ラアル。お前のもっともよい馬を、乗っただけでものにするというのは気が引ける。これを、氏族のために使ってやれ」 言って王は、懐の隠しより、皮袋の財布を投げ渡す。片手で受け止めたアル・ラアルはその重さにいささか驚いたようであったけれど、ふたたび大きくうなずき返す。 「カロン陛下よりのおごりだ!クランプ!羊をもう一匹屠れ!酒も持ってこい!」 おお!と人垣はさらに沸き、皮袋の財布を高く掲げたアル・ラアルたちは、その羊の元へと向かってゆく。人垣からは、王を称える声がひっきりなしに続くのだが、皆の気持ちは、羊と酒とに向かっている。その素朴さも、このサーンの民らしい。 王は、カロン王は、構わず彼らに背を向け、歩きはじめる。まずイル・エアが、つづいて後ろから、二人目の頭巾姿が追う。 「陛下、こちらを」 差し出す拭い布を、王は、うん、とうなずいて手にとろうとしたとき、イル・エアがそれをひったくるように取る。 「もう、グラーブは、ほんとに気が利かないんだから。あたしが拭いてあげる、王様」 「駄目だ!イル・エア!余計な事をするな!」 「なによう!」 「サーンどもは・・・・・・」 「イル・グラーブ、その辺にしておけ」 王は、言葉を続けさせぬようさえぎった。イル・グラーブとて馬鹿ではない。サーンの民に関わる罵倒など、本来は決して口にしない。だが、サーンのこの双性者、イル・エアの奔放な振る舞いには我慢できぬのだ。それは王にも判っている。 「イル・エア。イル・グラーブの言うことは、余の国の定めによる。イル・グラーブの言うとおりにせよ」 でも、と抗いかけるイル・エアの声を、王は軽く手を上げて制する。イル・エアの手より拭い布を取った二人目の頭巾姿、イル・グラーブはそれを再び王の手へと渡すのだった。王は、自らの首筋をそれで拭いながら、二つの姿を従えて、ざわめき止まぬ中を歩く。 今は祭り、春の祭り。 アル・フレイアナス王国にまだわずかだけ残る放牧民が、冬を越え、春を迎えて、産まれる初仔を大地母神に捧げる祭りだ。彼ら放牧民は、サーンという。サーンの民は、もとはといえば、山脈を越えた西、ハ・サール王国であるところに由来があるという。民の伝承では、王位争いに敗れ、郎党もろとも逃れなければならなくなったというが、今のサーンの民の中に、その王位を争ったものの血筋は残っているかどうか、定かではない。 アル・フレイアレス王国では、サーンは穏やかならざる民であった。剽悍で、馬を操ることに長け、馬羊とともに流浪して暮らす。飢えればそれらを売り、売れなければそれらに乗って村を襲った。天界神と大地母神を深く信仰しているものの、かならずしも神殿の教えと一ではない。実際、イル・エアのように、神殿へ捧げられず、神殿の教えに馴染めぬ双性者もいる。ハ・サールとて、これほど奔放ではあるまい。流浪の民の捨て鉢さと、野にあって頼れるものは己らのみという厳しさが、この奔放さを逆に残していたのだろう。それは、サーンの中に踏み入れ、受け入れられてしまえば、揺るぎない忠義と、友誼へも変わるのだ。 そして、そのサーンの忠義によって、アル・フレイアナス王国は、簒奪を逃れ、このカロン・アル・フレイアナス王の代を迎えることができた。父王シオン・アル・フレイアナスの死とその後の王国の混乱は、王国を覆しかねないものだった。まだ若かったカロンが、王として復権できたのは、父王の代になって初めて宮廷付となったサーンの騎兵隊長の献身あってのことだ。妹姫、そしてすでにあった双性者の護りとともに、サーンの中に逃れ、そして、サーンとともに敵を討ち破った。 純朴なサーンの民は、これを王への貸しなどとはひとつも考えていない。彼らにとっては、伝説にしか知らぬ彼らの出自に起きたことが、今一度起きようとしており、それを矜持と友誼にかけて打ち払っただけなのだ。 今も、カロン・アル・フレイアナス王がサーンの民を訪れれば、サーンの民は諸手を上げて迎え入れ、サーンの長たちの、さらに上座に王を座らせ、双性者を侍らせるのだ。いや、イル・エアのばあいは、侍らせるというより、困り果てて王の助けを求めたのだが。 イル・エアはそんな部族の長らの思いも知らぬ下だ。ただ王の苦言だけは気にしているのか、肩を落とし、王を窺うようについてくる。サーンは、神殿の教えを、必ずしも重く扱わない。しかし時と運命の神、大地母神、天界神、冥界神、いずれをも信仰しており、信仰の禁忌には触れようとしない。信仰のしかたは、例えば塚を築き、これに生贄をーもちろん家畜をだがー捧げる事であったり、天界神と大地母神を特に篤く信仰し、冥界神は添え物のようにしかせぬ、という遊牧らしいやりかただ。神殿の考えとはかなり違っている。 アル・フレイアナス王国神殿本社にあっても、サーンの民の信仰を放置しえぬとは考えている。だがサーンの民は、慰撫には応じるが、教化は拒み、強めれば反発して、蜂起もする。アル・フレイアナス王国への馴化が目に見えるようになったのも、この数代からだ。教えを改めさせるのは、簡単なことではない。また教化問題は、アル・フレイアナス王にとっても、座視しえぬ、難しいものだった。アル・ファロス六王家の一角である、アル・フレイアナス王家は、アル・ファロス大社、というより公儀アル・ファロス王に対して、信仰問題について負うものがある。 ここでカロン・アル・フレイアナス王は、サーンの祭りに介入することとした。神殿の譲れない所で、かつ神殿の目につくことについては、カロン王の名によって儀式を正しく行わせる。たとえばカロン・アル・フレイアナス王の名によって、冥界神への供物を、神殿の定めるやり方で行なう。 しかし神殿が真に望んでいる、双性者の神殿献上と収容は、思うようには進んでいない。子を奪う、として、サーンの民はそれを大変嫌っているのだ。嫌うのはサーンの民のみでなく、神殿信徒の多くもそうであるのだが、教義の行き渡った臣民らと、サーンのような流浪の民とでは、受け止め方が違う。 王がサーンの信仰をけっして軽んじず、神殿との橋渡しになっていることを、サーンの長らは十分に知っている。王が友誼をもってサーンに相対すならば、サーンもまた王に対する義を果たさねばならぬ。そう考える、素朴な民でもある。ゆえにサーンからなる騎兵は、王にとって使えるものであった。 もっとも、サーンごとき小さな民、壮丁ことごとくを出しても、騎兵にして五千。騎兵としては、十分に大きな数だが、もって王国を左右できるほどでもない。サーンの双性者も同じだ。王国全体の双性者の数から考えれば、サーンから出でる双性者の数など、たかが知れている。赤子の数すら、毎年千に満たぬのだ。百人に一人、一千人に一人とも言われる。双性者の数もほんの数人。それを奪ったと考えぬように、王が引き取ればよいことではある。そうして、出来るだけ早いうちに、王の何よって引き取る。引き取りの時には、王が遅らせた、神殿神官が考えるよりも、美しく刺繍させた外套を纏わせる。 それでも、イル・エアのようなものが出てします。家族と長くともにあり、長じてから初めて双性と知られ、もてあまされるように王へと供されるのだ。イル・エアは祖父の手によって隠されるように育てられていた。古い気質のものは、街育ちの神官など信じぬのだ。 イル・エアは祖父の死とともに双性であることが知られた。氏族の長は、大変に困惑し、また王に対して大変に恐縮して見せもした。そして、先のアル・ラアルとともに王の前に罷り出て、イル・エアの去就について力添えを求めてきたのだ。 もって、イル・エアは王が預かることとした。今から神殿に入れても、心がもたぬであろう。街のゲットーに入れることも、サーンの民の子としては耐え難いに違いない。ならば王がものとなるしかない。双性者の一人や二人、飼えぬものは王ではない。神聖騎士という名目も、無いではないし、神聖騎士団には騎士団付の神官も在る。 カロン王は、王のために供される天幕へと入る。天幕と、それを支える柱と綱、それに王のために織られた絨毯を敷き詰めただけの、東屋のようなところだ。その上座に、遊牧の民のように腰を下ろす。斜め後ろにはイル・グラーブが、そして王のすぐ横には、イル・エアが座ろうとする。 「・・・・・・」 そのイル・エアへ、イル・グラーブが何事か言う。イル・エアは不承不承という様子で、イル・グラーブの隣に座る。侍る、ということの意味が並人と双性者とでは違う、ということが、イル・エアにはどうしてもわからぬのだ。外套頭巾も、面布も、イル・エアには面倒でしかない。ただ、イル・エアには神聖騎士になりうる気性と、天性と言っていい魔術の才があった。祖父に伴われ、馬で羊を追って得た、独特の武眼もあった。神聖騎士として使えるのであれば、イル・エアは長くサーンの民に知られることにもなろう。悪くはなかろう、誰にとっても。 祭りは続く。 王の天幕に、アル・ラアルが戻ってくる。彼はさほど背が高くはないが、がっちりした体躯を持ち、相撲を取らせれば彼に伍するものは少ない。馬も上手く、銃も上手い。その彼が身につけているのは、アル・フレイアナス近衛の制服であり、その上にサーンならではの騎乗短外套を羽織っている。さらにその背後には、アル・ラアルより背の高い女が付き従っている。金の髪を結い上げて、さらに背が高く見える。アル・ラアルの妻、カーリア・エル・ラアルだ。かつては王城付女官だった。アル・ラアルの父が、サーンのものとして初めて近衛として務めた時、息子として従った彼が、見染めたのだ。 「さすがは陛下にございます」 天幕に入り、アル・ラアルは一つ下手の席を占める。細君はその背後だ。カロン王は世辞は聞かぬぞ、と笑い返す。アル・ラアルは、王とそれぞれの氏族長との橋渡しの役も担っている。王への挨拶のためにやってくる氏族長らを、王へと紹介するのだ。氏族長らは王へと平伏し、忠義を新たにする。王はそれを受け、褒美を下す。サーンの氏族の長らは、シリヤスクスの絹よりも銃のほうを尊んできた。それは力なのだ。サーンの女たちは、きらびやかな飾り細工を好む。男は強く、女は美しく、そうあれることは強さと豊かさだ。 サーンに渡される褒美が豊かになるのは、王国が豊かさを増しているからだ。王国の富がいかにやってきているか、サーンの者らは知らない。彼らは純朴な平原の民なのだ。 王国は、海よりの富を受けつつある。 アル・フレイアナス王国は、アル・ファロス王国領邦の中でも、決して格は低くはない。アル・ファロス六王家と称えられる王家の一つではあった。しかし今は、六王家の中でも、決して豊かとは言えぬようになった。今、アル・ファロス領邦に豊かさをもたらしているのは、海からの河の道筋だ。アル・フレイアナス王領は、その筋よりいささか外れている。王領はアル・ファロス領邦の中でも西側にあり、南カフカス山脈を遠く望む。隣国らとの諍いも絶えない。 それでも六王国の一角らしい豊かさをもっていたのは、絹の道が王土を南北に走っているからだ。遥か北西の森の王国、いまでは帝國東方辺境と呼ばれるところから、アル・カルナイへの陸路を経て、次いで河を使ってやってくる、絹のための道だ。今、その河と陸路との交易路は、かつてほどの盛んさを持たない。帝國が内戦を終えて五年、わずか五年の間に、帝國との交易は一変した。 今、最も盛んなのはアル・ファロスの中央を通る河の交易路だ。ここを通じ、すぐ北のアル・レクサを抜けて、ペネロポセス内海を通り、帝國南方辺境へと至る道だ。この交易路がは年を追うごとに太ってゆき、旧の路、アル・フレイアナスを通る道は細ってゆく。アル・カルナイを通る道は陸路であるからだ。船に比べて、金も時もかかる。また、アル・カルナイと、アル・レクサの軋轢もぬぐいがたくある。これより先も、旧の路は細り行くだろう。 またアル・フレイアナス王土がここにある限り、新たな路の交易には、関わることができぬ。流れる富を、指をくわえて見ているしかない。再び富に手を伸ばすには、新たな路に加わらねばならない。それは、アル・ファロスの他の領邦を犯すものではならない。アル・フレイアナスの路は、海にあった。アル・ファロス領邦の南にある多島海だ。 しかし、王国とカロン王とのみでは行えなかった。海には、船が無ければ出でることすらできない。船には港が無ければ、憩う事も出来ない。多島海は、すでに多くの国の思惑の入り乱れる海だ。そこに単身乗り出し、すべての国の思惑にまで翻弄されては意味が無い。しかし、アル・フレイアナスに手を差し伸べる思惑もあった。 ゼニアと、ゼニアへとつながりをもつエル・コルキス。一方は中原、関税同盟の雄、もう一方は南方諸国の中で唯一の森族の国。二つの国は、いずれも、北の大国「帝國」と角逐している。「帝國」はこの十五年、果てしも無い内戦に明け暮れていた。諸国は、帝國の没落を確信し、四分五裂を待つばかりかと思われた。しかし、帝國は割れなかった。首魁たるレイヒルフトは、己の擁立したリランディア帝を傀儡に帝國を掌握し、そして再建の道を邁進し始めた。アル・ファロス領邦に訪れる富は、アル・ファロス領邦の求める物のみならず、アル・レクサ王国を通り、帝國にまでもたらされるものより成っている。内戦が終わり、帝國はその富をもって、南の多島海、さらにその向こうの獣人大陸、あるいは西方をめぐってやってくる財物を受け入れるようになっていたのだ。 同時にそれは、西方中原と帝國との角逐の始まりだった。内戦の終わりと相前後して、帝國は西方衛星国を勘定し、さらに北方での国境勘定を続けている。いずれ北方の大国ゴーラ、あるいは中原北方の連合王国とも戦いも始めるだろう。 外に広がらんとする野心あふれる帝國は、いずれ、南へ、ペネロポセス海を越えてやってくるだろう。備えなければならない。備えるには、金が要る。つまりそういうことだ。 ペネロポセス海の南岸のエル・コルキスは、すでに帝國と戦っているも同然という。中原に帝國の手がのばされることについては、ゼニアなどの関税同盟が神経を尖らせている。そのゼニアが、アル・フレイアナス王国の手を取った。 ゼニアは、多くの富を持ってはいるが、国としては大きくはない。多くの船と船員を制することで船の主として、海の道をほしいままにしている。とはいえ、船には港が要り、港の護りはゼニアの軍勢に寄らざるを得ない。しかし帝國と言う大国と戦うならば、それら護りに軍勢を置き続けることはできない。 アル・フレイアナス王国は、二つの面でそれを代替しているのだ。ひとつは、ゼニアの傭兵として。もう一つは、開拓団として。そう、開拓団。ゼニアは小さな国だ。すぐれた者を輩出しているが、人の数だけは、どうしても満たせない。 大きな港ならば、港を守るための砦や、城壁を作り、修繕する。あるいは、ゼニアがそこで行う農園での仕事、あるいは農園そのものを広げるために森を切り開く役目。 アル・フレイアナス王国から、人を売り飛ばしている、だけではない。ゼニアの領域を守り、また育てている。ゼニアの力のみでは行えないことを行わせ、またゼニアは多島海に貼りつけざるを得なかった兵を引き上げ、中原に備えることができるようになった。加えて、アル・フレイアナス王国の船が、ゼニアの商船に交じってそれらゼニアの港を使うようになっている。アル・フレイアナスのわずかな船では、多島海で大したことはできない。しかしゼニアがアル・ファロス領邦へ向ける船の一部を肩代わりするとなると話は違ってくる。またアル・フレイアナス王の手形をもって入港する船から、他の領邦の役人が税を取ることも無い。 その策を、カロン王に示したのは、エル・コルキスよりの使者だった。エル・コルキスもまた、帝國と角逐している。ペネポネソス海でじかに相対しているだけに、エル・コルキスはすでに帝國と戦っているも同然だという。わずかでも味方が欲しいのだろうか。その後、エル・コルキスからのつなぎは無い。半森族の女王が、いかなるはかりごとを巡らせているのか、わからない。 しかしアル・フレイアナス王国には確かに、海からの富が寄せるようになった。そういった流れを知る者は、この祭りの中には居らぬだろう。王の天幕に訪れ、平伏して忠誠を誓い、目録だけでなく銃や剣や飾り物を与えられ、喜び退くサーンの氏族長たちは。 カロン王は、左の背後のイル・エアへと目をやった。頭巾をかぶり、面布の紗の向こうで、彼女は船を漕いでいるようだ。隣のイル・グラーブはそのイル・エアをつつき起こそうとそわそわしている。 イル・グラーブは、神殿で躾けられた神聖騎士だ。もとからきちんきちんと物事を片付けることが好きである気質なのだろう。ややもすると堅苦しすぎるところはある。しかし負けず嫌いの、良い気質の騎士でもある。炎の術にも長けている。イル・エアに教えられたなら、二人して大きな力となるだろう。 その二人もまた海からの富のことは知らぬのだ。双性者は、常人を越えた気力、体力を持つ。また常人よりも長く若く生きる。人の法と、律とに取りこめねば、いつしか帝國のレイヒルフトのような者を生み出すかもしれぬ。むしろ、そういったものに拮抗させる方が良いかもしれぬ。 拮抗のために何かを生み出し、その末に、乗っ取られることもあろうがな。それは、帝國東方辺境に彗星のように現れ、魔族大公の一角を打ち破って見せたレイヒルフトが、いつしか帝國をのっとったようなことかもしれない。 カロン王はそんなことを思っていた。 イル・エア=クェス・エア クェスの初期名称から イル・グラーブ=グラーブ・ガス←ギュネイの初期名称なのだが、ギュネイそのままや、ギュネイ女体化程度にぴんと来なかったので、グラーブ→グラーフと言う事で一つ。要するにキャラのついていないうるさがたタイプの女だ。 ギュネイについては、王宮付きの監査武官として在る。 サーンの民 これは完全な身勝手設定。しかし、亡国の王がハ・サールに単身亡命するのはちょっと考えづらかったので、こうしてみた。 要するに、ジンバ・ラル、ランバ・ラルを部族に展開したもの。 その人口は部族全体でも10万には届いていないだろう。動員率5%なら騎兵5千。 出生率は0.2~0.4%程度。したがって年間500人程度しか生まれず、古人も数人、ということになる。 アル・フレイアナス王国は、仮に、南カフカス山脈よりと考えてみた。ここはかつては、シリヤスクスの絹の道の終着点近くであったはずだけれど、帝國南方辺境への直通が盛んになるにつれて、交通量が低下したのではと考えてみた。 カロンは、あくまでカシューなのだが、カシューはぶっちゃけ内心の無い、TRPG用ガジェットなので、大量にシャアから転用することとした。王に高い権威が要るらしい南方で、完全な傭兵王を実現するのは難しいと考えた。六王国は機神の主でもあるし、機神を失えば回復がむつかしい。 そこでシャアのように、父王の死によって簒奪されそうになるシーケンスを利用することとした。シャアと違うのはラル父子=サーンの助けによって、カウンタークーデターを行い、王位を取り戻したこと。 傭兵王にはなれなかったが、南方王的な権威とは違う背景を持たせて代替することとした。 カロンとゼニアとの関係性は、既述のように考えている。ゼニアにとっての問題は、王冠盟邦との多島海覇権争いから、対帝國に移りつつあると考えている。この時、王冠盟邦に多島海覇権を奪われることなく、大陸での対帝國戦に共和国親衛隊、あるいは熟練の傭兵を当てることができるようにする策として、アル・ファロスからの勢力を引き込んだと、いうもの。 アル・ファロスの貿易相手はゼニアだけでなく、王冠盟邦もあるはずで、アル・ファロス主流派は双方を天秤にかけているだろう。ゼニアはアル・フレイアナスに権益を与えることで、非主流派に排他的な影響力を発揮しようとも考えている、としてみた。 エル・コルキスにとっては、ゼニアのフリーハンドが大きくなり、かつアル・ファロス内に反帝國に同調する勢力を作り出す、という目的をもって、カロン王に近づいている。しかも、エル・コルキスとしては一円も出さずに。 このあたり、まったくのところプレゼンに過ぎないので、本当にこれはこれで、で。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1052.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (8)空賊船 ルイズ達が空の人になり数時間がたった。 既に夜は明け、太陽は眩しいばかりの光を放っている。 「アルビオンが見えたぞー!」 鐘楼の上の見張りの言葉通り、船の行く手には巨大な陸地。 「浮遊大陸………」 ウルザの知識の中でも、伝承や御伽噺としか聞いたことが無いようなものが、その前に広がっていた。 「そう、浮遊大陸アルビオン。ああやって空中を浮遊して、主に大洋の上をさ迷っているわ」 流石に驚きを隠せないウルザに、ルイズが説明する。 一瞬呆けていたウルザであったが、ルイズの説明を受けた後はぶつぶつと独り言を呟きながら何処かへ行ってしまった。 アルビオン、浮遊大陸、月、始祖ブリミル、虚無、白と黒のマナ。 少しづつだが、確実に全体像を捉えるピースは揃ってきている。 一人、考えを纏める為に船室に戻ったウルザであるが、船の異変を察知する。 停戦するらしい動きを見せる船。 思いのほか長い時間を過ごしてしまい、その間にアルビオンに到着したのだと考えて甲板に戻る。 だが甲板では船員達が慌しく動き回っており、常ならぬ事態が起きていることが分かった。 忙しく動き回る船員達の間に、桃色の髪を見つけて呼び止める。 「ミス・ルイズ。一体何が起こった?」 「空賊よ」 ルイズ達が乗る船に横付けされた空賊船から、屈強な男達が乗り込む。 手には曲刀や斧、その数およそ数十人。 見つめるウルザとワルド、共に無言である。 ただ一人、ルイズだけがおびえた様にウルザの背中に隠れるように移動する。 「船の名前と積荷は?」 「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」 空賊の頭目らしい男と船長の会話。 既に船は完全に空賊に制圧され、船員達は震えながら二人の会話、自分達の命運を決定するであろうそれを聞いている。 「硫黄か…」 頭目はにやりと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分の頭に被せる。 「船ごと全部買った、料金はてめえらの命だ」 「船長」 空賊達が船の中を調べまわっている時、ウルザが声をかける。 同時にウルザを振り返る空賊の頭目とマリー・ガラント号の船長。 ウルザが視線を空賊の方に向いているのが分かると、船長は恨めしそうに未だ頭目の頭にある帽子を見やった。 「我々はトリステイン王家からの使いだ、アルビオン王党派に接触する為に派遣されている。どうか我々だけでも解放してもらえないだろうか」 後ろに控えるルイズ、それにワルドが目を見開く。 「ちょっ!ちょっと!何言ってるのよ!?頭でもおかしくなったの!?」 「いや、ミス・ヴァリエール。私は正常だ。任務は何があっても達成されなくてはならない」 頭目が胡散臭げにルイズ、ワルド、それにウルザを交互に見やる。 「おやおや、お貴族様まで積んでたとはなぁ。 おい、てめぇら!こいつらも運びな、身代金がたんまりと貰えるだろうぜ」 空賊に拘束されたルイズ達は船倉に監禁されていた。 「何であんなこと言っちゃったのよ!?」 そこでの話題の中心は、もっぱら先ほどのウルザの発言についてである。 「この任務は隠密なのよ!?誰にも知られちゃいけないの!」 食って掛かるルイズ、無言のウルザ、何か思うところがあるのか、ワルドも沈黙を通している。 「そそそ、それを、よりにもよって空賊なんて下賤の輩に!」 そんな賑やかな一行に、野太い声がかけられる。 「おい、お前ら。頭がお呼びだ」 三人がその空賊に案内されて連れてこられ先は、小奇麗ながらも品のよい立派な部屋だった。 豪華なディナーテーブルが置かれており、上座には先ほどの派手な格好の空賊が腰掛けている。 周囲には多数の空賊達が武器を手に控えている。 ここまで連れてきた空賊の男が後ろからルイズをつつく。 「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」 しかし、ルイズは頭を睨みつけるだけで応えようとはしない。 「くくくっ、気の強い女は好きだぜ、子供でもな。それじゃあ名前を名乗りな」 ルイズの中で一瞬の葛藤、このままシラを切りとおすべきか、ウルザの言ってしまったことを認めるべきか。 もう一度、目の前の男を見た。 貴族として、こんな男に対して嘘をつくことが、許せないことであるように感じた。 「大使としての扱いを要求するわ。そうじゃなかったら、一言だってあんた達なんかと口をきくもんですか」 見つめるルイズの目を真っ向から見据えながら頭が言う。 「王党派にようとか言ってたな。あんな明日にも消えちまうような連中に、何のようがあるってんだ?」 「あんたに言うことなんて何も無いわ」 頭は、心底楽しそうな声えルイズに告げる。 「貴族派につく気はないか?あいつらはメイジを欲しがってる。たんまり礼金も弾んでくれるぜ」 「死んでも、イヤ」 侵略者に対して、懸命に抗う姿、そんな少女を見ながら頭が目を細めて問いかける。 「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」 「答えは同じ、ノーよ」 突然に笑い始める頭目、それも小さく笑うというものではない、爆笑の類だ。 つられて周囲に控えた空賊達も大笑いを始める。 「なな、何で笑うのよ!?」 「はっはっはっは!トリステインの貴族は、本当に気ばかりが強くていけないな。 何処かの国の恥知らずどもに比べれば何百倍もマシだがね」 そう言いながら頭が立ち上がる、それと同時に空賊達の笑い声が一斉に止む。 「失礼した。貴族に名乗らせるなら、まずこちらが名乗りをあげなくてはね」 頭目が頭の黒髪―カツラ―を剥ぎ取る、続いて眼帯、付け髭も。 そうして現れたのは凛々しい金髪の青年であった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…いや、通りのよい名前で名乗ろう。 アルビオン王国皇太子、ウェールズ・チューダーだ」 貴族の嗜みも忘れて口をあんぐりと開けるルイズ、興味深そうに見つめるワルド。 ただ一人、ウルザのみが無反応。 「その顔は、どうして皇太子が空賊なんてやっているんだって顔だね。 いや、金持ちの反乱軍には次々と補給物資が送り込まれる。それを絶つのが目的でね。 流石に堂々と王軍の旗を掲げたのでは、あっという間に袋叩きにされてしまう。 そこで、これさ」 そういいながら、先ほどまでつけていたカツラを掲げ、イタズラっぽくウインクした。 「そこの眼鏡のメイジの方には最初からお見通しだったみたいだけどね」 「ええ!?どういうことよミスタ・ウルザ!」 「それは僕も聞きたいところだな、なぜばれたのかな?」 ルイズとウェールズ、二人に問いかけられて、ウルザも重い口を開いた。 「まず、最初の一点は、統率が取れすぎていること。 船を制圧した際の空賊の手際が良すぎたのと、注意深く見れば歩き方が訓練された兵士のそれと分かったのだよ。 兵士が賊を身をやつすとすれば、敗残兵達が賊と化すことが考えられるが、それにしては統率が取れすぎていた。 次に、君達の武器だ。 斧に曲刀、君達は良かれと思って持っていたのだろうが、敗残兵は普通、本来自分達が支給されていた武器を持っているはずだ。 訓練された兵士の動きをする空賊達が揃えたように『空賊姿』なのは不自然なのだ。 第三に、君達が船の乗員を誰も殺さなかったことも判断材料だった。 これらから、君達が正規の軍隊であると推理した。 そして、先ごろ聞いた戦況を考慮すると、どちらの正規軍かは予測がつく」 「ははは、全くとんだ名探偵がいたものだね、いや、全く。 次があるなら是非とも参考にさせてもらうよ」 「流石に皇太子殿下本人がお乗りとは思いませんでしたがな」 縄を解かれて立ち上がったルイズ達に、深々と礼をとるウェールズ皇太子。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをお聞かせ願おうか」 ルイズは未だ、ショックで上手く口がきけないらしく、代わってワルドが優雅に頭を下げた。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな…君は?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵に御座います」 それからワルドはルイズたちをウェールズに紹介する。 「そして、こちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかりましたラ・ヴァリエール嬢と、その使い魔のメイジ殿で御座います」 「ほう!使い魔にメイジとは珍しい!して、その密書とやらは?」 ルイズが慌てて、懐からアンリエッタの手紙を取り出し、恭しくウェールズに近づいた。 しかし、その歩が途中で止まる。 「ん?どうしたのかな?」 「あ、あの……失礼ですが、その、本当に皇太子さま、ですか?」 流石にこれにはウェールズ、その周辺の兵士達も笑いを堪えずにはいられなかった。 再び爆笑の渦、一人顔を焼け石のように真っ赤にするルイズ。 「いやいや、無理も無い。でも僕はウェールズさ、正真正銘の皇太子。何なら証拠をお見せしよう」 ウェールズがルイズの指に光る水のルビーを見つめていった。 自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手をとり、水のルビーに近づけた。 するとどうであろうか、二つの宝石が共鳴しあい、周囲に虹色の光を振りまいた。 「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビー。君が嵌めているアンリエッタの水のルビーとは共鳴作用があるんだ。 水と風は、虹を作る、王家に、」 王子がそう言いかけたその時、何かが弾けたような大きな音が部屋に響き渡った。 敵襲を警戒し、瞬時に臨戦態勢に切り替わる訓練された兵士達。 ルイズを抱くようにして伏せさせるウェールズ皇太子。 ワルドも素早く部屋に立てかけてあった武器に飛びつく。 しかし、待てども襲撃は無く、同じ音が続けてあがることも無かった。 全員が緊張を保ちながら音の原因を探ろうとしたとき、蹲ったままの者が一人いる。 ウルザである。 ウルザは手で両目を押さえながら何かを堪えるように歯を食いしばっていた。 空賊を見つけたときに大急ぎで逃げ出しても遅い 彼らは既に君達を見つけていたのだから 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/mahouka/pages/20.html
十師族(じゅっしぞく)は、日本で最強の魔法師の家系。二十八家から4年に一度開催される「十師族選定会議」で選ばれた10の家系が『十師族』を名乗る。十師族とそれ以外の魔法師の間には、乗り越えがたい実力の差があるとされている(*1)。 概要 十師族体制 師族会議師族会議の通達 オンラインの師族会議 責任 選定会議 メンバー2089年~2097年2月4日 2097年2月4日以降~ その他 登場巻数 コメント 概要 九島烈が確立した序列(*2)。 魔法師の『人として生きる権利』を守る為の組織であり(*3)(*4)(*5)、また魔法師が国家権力によって使い捨てにされないための仕組みとして、日本という国家に口答えする為の組織として作られたという一面もある(*6)。互いに牽制しあうことで魔法師の暴走を予防するという意味合いも持つ(*7)。 表向きは民間人(*8)。表の権力は放棄しているものの政治の裏側では司法当局を凌駕する権勢(*9)、超法規的な特権を持っている(*10)。 十師族体制 十師族はいわば私的な枠組みであるが、日本国内の魔法師は現代魔法師も古式魔法師も十師族をリーダーとする魔法師のコミュニティに所属し、十師族体制と呼ばれる自治に従っている(*11)(*12)(*13) 但し、十師族は日本魔法界のリーダーであって支配者という訳ではない(*14)が、十師族に属する者達や十師族の地位を得る事を望む人間の中には、「十師族が日本魔法界の支配者である」と意識している者が少なからずいる。 魔法師の利害を代弁する組織としては日本魔法協会が存在するが、協会は公式の組織として政府の意向を無視することができない。核戦争の防止という絶対に譲れない目的の為には、政府に大きく譲歩することもやむを得ないという雰囲気がある。 それに対し十師族は、時に政治家や財界人に便宜を図り、時には自ら泥をかぶって権力者に貸しを作る代わりに魔法師の利益を追求し不利益を阻止している。十師族の活動には権力者との裏取引を常として、非合法活動も厭わないとこがある。しかしながら、人は一度非合法活動を必要悪と認めてしまうと、それを口実にして歯止めを失いがちである。その結果、やり過ぎて裁かれるか、自滅してしまう。それを避けるべく、十師族は相互監視の不文律を自分たちに課している(*15)。 師族会議 師族会議(しぞくかいぎ)は、十師族各家の当主のみで行われる会議。各家対等で上下関係はない(*16)。日本魔法界におけるサミットと位置づけられている(*17)。 九島烈は2095年の三年前の当時、師族会議議長の席にあった(*18)と発言しているが、円卓テーブルで行われるため、上座や議長席などは存在しない。最年長が進行役を務める不文律ができ上がっているに留まる(*19)。 発言内容は対外秘がルールで(*20)、傍聴も許されない(*21)という話だが、九島家などは会議の模様を様々な手段で外部に漏らしておりルールは守られていない(*22)。 十師族各家が魔法による実戦を行った場合は、規模に拘わらず師族会議に報告する義務がある。これは魔法の私的濫用を牽制するために定められた措置だが、忠実に守られているとは言えず、魔法戦闘は隠蔽されることの方が多い(*23)。 師族会議の通達 師族会議の通達は、二十八家と百家の各当主に対して通達される文書(*24)。師族会議用の暗号解読には手間が掛かるので、短くない時間一人になる必要がある(*25) 本来ならば数字付きの直系でもない限り高校生が目に出来る文書ではないが、実際はマル秘指定されていない限り難しい事ではない(*26)。 オンラインの師族会議 オンラインの師族会議は、十師族が自分の家から通信回線を繋ぐやり方と、最寄りの魔法協会(京都本部、関東、東北、四国、九州の各支部)に出向いてやるやり方がある(*27)。 責任 日本魔法協会の職員に対する責任(*28)、日本魔法協会に対する責任(*29)がある模様。 選定会議 十師族を決める会議は、十師族選定会議(じゅっしぞくせんていかいぎ)と呼ばれ、4年に一度開催される。 十師族の選定基準は、二十八家の内その時点で最も強力な家。ただし強さの基準は魔法力だけでなく、国家に貢献する能力も問われる(*30)。相応しくない家に投票しても昔のように数字を剥奪されることはない。見る目が無いという汚名がついて回る(*31)。 2097年2月に行われた十師族選定会議は、箱根の高級なホテルの貸し会議室で行われた(*32)。 メンバー 十師族のメンバーは、二十八家から4年に一度の「十師族選定会議」で選ばれる。 欠員が生じた場合は、次の十師族選定会議まで師族会議が選んだ補充メンバーがその務めを果たすことになっている(*33)。 2089年~2097年2月4日 一条家、二木家、三矢家、四葉家、五輪家、六塚家、七草家、八代家、九島家、十文字家 (※2093年の十師族選定会議では、前回と同じ十家を十師族に選出した)(*34) 2097年2月4日以降~ 一条家、二木家、三矢家、四葉家、五輪家、六塚家、七草家、七宝家、八代家、十文字家 その他 十三使徒の動向に関する諜報活動は大きく力を割いている分野(*35)。 この国の魔法師は、国家に裏付けられた「公式」の権力を手にすることを、十師族により禁じられている。その代わりに政府や軍や警察や財界といった、様々な意味で権力を持つ者に魔法のスキルを提供することで自らの存続する基盤を得ている(*36)。 「十師族は表立って高位高官にならない」という原則が確立されている(*37)。一方では、判明しているだけでも五頭家、八朔家、十山家の当主の子が軍務に就いており(*38)、どの地位までは許されるのか、原則が家族のどこまで適用されるのかは、今のところ作中では明らかにされていない。 十師族当主が表立って行動する場合には統合軍令部の同意を得る必要がある、という政府との非公式の取り決めが存在する(*39)。 魔法協会の本部・支部には十師族専用の秘密回線が通っていて、国防会議の極秘情報ですら入手可能となっている。(*40) 十師族当主の氏名は、日本の魔法師にとっては一般知識(*41)。 北海道と小笠原方面、沖縄方面は国防軍所属の魔法師の縄張り意識が強く、十師族も簡単には手を出せない状況である(*42)。 登場巻数 2巻、3巻、4巻、5巻、7巻、9巻、11巻、12巻、13巻、16巻、17巻、18巻、19巻、SS、20巻、21巻 コメント 十三使徒の動向に関する諜報活動は大きく力を割いている分野としながら、中国の新十三使徒の動きは掴めず、一条はベゾブラゾフから戦略級魔法を貰い、劇場版ではリーナから国内に戦略級魔法を貰い…本当役に立たない設定だな。最近、脚色のつもりで適当に余計な文言足してように見えてきた。 - 2018-03-09 09 36 18 しかたないだろ。ちゃんと機能してたらピンチに陥りようがなくなって、達也の活躍の場が減るんだよ。ヒーローものでやられ役の重要性を考慮すれば、彼らはこれでいいの。すべては達也が活躍する為の舞台装置なんだからさ。 - 2018-03-09 12 45 27 大きく力を割いているのに動向が全く掴めない無能集団ですってことだなw - 2018-03-09 13 30 10 というか見れば魔法式の構成がわかる達也が普通におかしいんだが。 (2021-01-04 18 19 20) 続編でも十支族はダブルセブン状態なんかなー。 (2021-01-04 18 12 04) こういうSF、ファンタジー作品でありがちな国や地域を実質支配してる集団にしては善人気質よな。大体の作品だと悪巧みしかしてない (2021-04-03 01 00 49) 一般的に寄生虫は寄生先を大事にするものだよ。 (2021-05-30 10 16 33) >名字もそれぞれ「一」~「十」まできっちり10通り揃える徹底ぶりが光る。 なんかこの書き方おかしくね?これだと十師族は一から十までわざと揃えてるように読めるけど、実際はたまたま重複してないだけだし (2021-07-21 18 27 39) メイジアンカンパニーで季節は春過ぎだけど冬には十師族選定会議がある。そこで四葉は脱退するかも。 (2021-07-21 19 18 26) そもそも四葉さんは国家権力より上のスポンサーいる時点で四葉としては十師族である意味がないというか (2021-07-22 12 27 22) 七草(もしくは一条)が再び何か四葉にやらかしたら脱退の可能性は出てくるかもね (2021-07-22 22 33 05) 七草家はもう没落目前で叔母上は三矢家をロックオンしていつ滅ぼされるかわからんし四葉家が離脱より他の家の大幅入れ替えがあるかも (2021-07-26 20 13 21) 九島閣下亡き今十師族に四葉を止められる存在が皆無 (2021-07-24 18 44 42) 十師族が戦国大名で、それ以外の師補十ハ家が守護大名に見えるなー。もういっそのこと、四葉家に天下統一して貰った方が良くない。そうなったら、信長のような恐怖政治になりそうだけど… (2021-09-28 15 27 35) 戦国大名と守護大名の違い分かってる?あと、ノッブ「は」激甘やぞ。超ブラックだけど。 (2021-09-29 00 26 13) わざわざ数字落ちにさせて改名させるってことはこの世界での日本に数字付き以外の数字を持つ魔法師っていないって感じなのかな (2022-06-11 04 31 36) もう一度、数字付きと数字落ちについて書いてあるところを読みなおしてみよう。そんなこと何処にも書いてないから。 (2022-06-11 18 12 40) 最新のメイジアンカンパニー8巻の最後で、師族会議編の時と同じように2/4開始なら師族会議まであと4ヶ月切ったな。4年前でも大概やばかったけど、そこからさらにやばくなったから、どうなったか気になるな (2024-07-20 07 04 22) 師族会議の未来とも言える若手会議に四葉を省いたのは確実にマズい。カンパニー立ち上げでほぼ決裂したようなもの。 (2024-07-20 20 54 14) 結果的に決裂してその後そのままなら多分このままならエリオットミラーも9巻か10巻で倒されるだろうし殺されるなら、他国の使徒であっても四葉には敵わないって認識も共有されそうだから、完全に独立存在として認識されるようになるんじゃないかな? (2024-07-21 14 21 32) 日本語おかしくなってたごめんなさい (2024-07-21 14 21 55) 十師族 家系 用語
https://w.atwiki.jp/prdj/pages/2459.html
グラシュティグ Glaistig 奇妙な原初の美の雰囲気がこの女性を包んでおり、人のものならぬ肌の調子と獣じみた脚によってそれが際立っている。 グラシュティグ 脅威度21/神話ランク10 Glaistig CR 21/MR 10 経験点409,600 CN/中型サイズのフェイ(神話、地) イニシアチブ +26; 感覚 振動感知120フィート、夜目;〈知覚〉+37 オーラ 泥酔の有頂天(30フィート、意志 DC32) 防御 AC 40、接触32、立ちすくみ28(+8外皮、+10反発、+12【敏】) hp 422(25d6+335);再生30(風;風殺しを参照) 頑健 +18、反応 +26、意志 +23;第二のセーヴ DR 15/冷たい鉄およびエピック; 完全耐性 幻惑、[精神作用]効果、朦朧、よろめき; 抵抗 [音波]30、[酸]30、[電気]30、[火]30、[冷気]30; SR 32; 弱点 風殺し 攻撃 移動速度 60フィート、穴掘り60フィート、登攀 60フィート; 地潜り 近接 アース・ウィップ=+26/+21/+16(10d6+20/19~20殴打、刺突、または斬撃、加えて“呪術”)またはリーフ・ウィップ=+26/+21/+16(20d6+30/19~20斬撃、加えて“呪術”) 遠隔 アース・ブラスト=+36(10d6+30/19~20殴打、刺突、または斬撃、加えて“呪術”)またはリーフ・ブラスト=+36(20d6+40/19~20斬撃、加えて“呪術”) 接敵面 5フィート; 間合い 5フィート(アース・ウィップまたはリーフ・ウィップは10フィート) 特殊攻撃 注入(ボウリング・インフュージョン、デッドリー・アース、エンタングリング・インフュージョン、エクステンデッド・レンジ、フラグメンテーション、グラップリング・インフュージョン、インペール、キネティック・ウィップ、モービル・ブラスト、プッシング・インフュージョン、スネーク、ウォール)、テラキネシス、フェイのウィッチ、神話パワー(10回/日、+1d12) 擬似呪文能力 (術者レベル25;精神集中+35) 常時:パス・ウィズアウト・トレイス、フリーダム・オヴ・ムーヴメント 回数無制限:クリエイト・ウォーター、トランスポート・ヴァイア・プランツ、ノウ・ディレクション、ピュアリファイ・フード・アンド・ドリンク 3回/日:クラッシング・ロックス(DC29)、呪文高速化コンフュージョン(DC23)、サモン・ネイチャーズ・アライIX、フレッシュ・トゥ・ストーン(DC26)、ムーヴ・アース 一般データ 【筋】28、【敏】35、【耐】30、【知】27、【判】28、【魅】31 基本攻撃 +12; CMB +21; CMD 69 特技 《イニシアチブ強化》、《擬似呪文能力高速化:コンフュージョン》、《技能熟練:真意看破》、《技能熟練:はったり》、《近距離射撃》、《クリティカル強化:キネティック・ブラスト》、《精密射撃》、《精密射撃強化》、《戦闘発動》、《武器熟練:キネティック・ブラスト》、《武器の妙技》、《防御的戦闘訓練》、《迎え討ち》 技能 〈威圧〉+28、〈隠密〉+40、〈軽業〉+40、〈芸能:舞踏〉+38、〈交渉〉+38、〈真意看破〉+43、〈脱出術〉+40、〈知覚〉+37、〈知識:自然〉+37、〈知識:地域〉+37、〈知識:地理〉+21、〈手先の早業〉+40、〈登攀〉+17、〈はったり〉+44、〈変装〉+28、〈魔法装置使用〉+38 言語 エルフ語、共通語、地界語、森語 その他の特殊能力 信仰の対象、森林の優美さ 生態 出現環境 温暖/森林または沼地 編成 単体 宝物 ×2 特殊能力 風殺し/Airbane グラシュティグの森林の優美さと再生はこのクリーチャーが空中にいるとき抑止される。グラシュティグが着地している間、純粋な風の元素の攻撃(キネティシストの風の単純爆発やエア・エレメンタルの叩きつけ攻撃など)のみがグラシュティグの再生を抑止できる。 注入/Infusions グラシュティグは特殊攻撃欄に列挙されているキネティシストの本質注入と形態注入の使用権を得、燃焼を受け入れる必要なくテラキネシスの能力によって与えられた爆発に適用することができる。これは基本燃焼コストにのみ適用される;グラシュティグはプッシング・インフュージョンといった注入を伴う更なる効果を得るために追加の燃焼を受け入れなければならない。 泥酔の有頂天(超常)/Reveler's Rapture グラシュティグは30フィートの有効距離に至福の大酒飲みのオーラを発する。オーラの範囲内に入ったクリーチャーは、野生的の一面が表出し、イレジスティブル・ダンスと等しい効果を受ける。意志セーヴに成功したクリーチャーは24時間そのグラシュティグのオーラに完全耐性を持つ状態となるが、セーヴに成功したとしても依然として1ラウンドの間踊る。グラシュティグの泥酔の有頂天の効果下のクリーチャーは最初より後の各々のターンの終了時に、この効果を終了させこのオーラに完全耐性を持つようになる為の新しいセーヴを試みることができる。グラシュティグは自身のオーラの効果から望む目標を除外することができる。 森林の優美さ(超常)/Sylvan Grace グラシュティグは【魅力】ボーナスに等しい反発ボーナスをACに得、近接でないアース・ブラストとリーフ・ブラストの攻撃ロールとダメージ・ロールに【魅力】ボーナスに等しいボーナスを得る。 テラキネシス(擬呪、超常)/Terrakinesis グラシュティグは20レベル・キネティシストであるかのように様々な地の元力の使用権を持つが、地と植物の物質の混合物の様相を呈する。地と植物に関連した存在として、アース・ブラストを行うことができ、燃焼コストなしで、リーフ・ブラストと呼ぶ特殊な地の元素の合成爆発を行うこともできる。グラシュティグのリーフ・ブラストは斬撃ダメージを与える物理的な合成爆発である。グラシュティグは一般的な注入だけでなく、リーフ・ブラストにデッドリー・アース、エンタングリング・インフュージョン、インペール、プッシング・インフュージョンの注入を適用することができる。グラシュティグはその他の特殊能力欄にある注入と汎用元力の能力を得るが、20レベル・キネティシストとしての他の能力も得ない。 フェイのウィッチ(超常)/Witch of the Fey グラシュティグは荒廃、変装、幸運、不運の呪術と、苦悩、応報の上級呪術、自然災害の大いなる呪術を20レベル・ウィッチとして使用することができる:特技を得る目的でこの能力は呪術のクラス特徴としてみなされる。この能力のセーヴDCは【魅力】に基づいている。近接攻撃が成功すると、グラシュティグは追加の効果として、苦悩、不運、応報の呪術のいずれかを目標に与えることができる。アース・ブラストあるいはリーフ・ブラストを使用するとき、ブラストによってダメージを与える全てのクリーチャーに影響を及ぼすためにこれらの呪術の1つを選択することができる。 保護者としても災害としても迎えられるグラシュティグは地と結びつきその力を帯びた古代のフェイである。悪ではないがグラシュティグは予測できず短気である――簡単に興奮して怒り、軽蔑の対象に大きな危害を与える為の強力な魔法を所有している。 グラシュティグは緑がかった肌とファウヌスやサテュロスのものに類似した山羊の下腿を持つ奇妙な人間の女性に似ている。グラシュティグは流行のローブあるいはガウン、通常は夏や秋の頃の色をしたまま凍った葉から製織されたもの、で獣のような下半身を多い、シンプルではあるがエレガントな宝石で身を飾る。彼らの忘れられないような目は瞳孔を示さず、彼らが踏むあらゆるステップは終わりなき舞踏の中の1つの動きのように見える。彼らは気まぐれかもしれないが、時に深く熟考し行動する、特に大きな怒りが心頭に発する際には。 グラシュティグは現存する中では最古かつ最強のフェイに属する。伝説によると彼らはかつては過酷な世界で農民の素朴な生活をしている初期の人間を守るために努めた地の非実体の霊であり、その保護と近接を通してこれらの霊は現在保持している形状へと合体したのだという。その起源がどうであれ、多くのグラシュティグは地方の農村、森林、沼、そしてそこに住む人々を保護している。彼らの保護はしばしば控えめである;彼らは枝葉の迷彩から自身の力と保護を発現し、荒野自体が侵入者に対して行動しているように見せかけることを好む。しかし大いに必要になった時や、非常に怒った時、グラシュティグは公然と危険に立ち向かう。グラシュティグによって保護されている場所の住人は、しばしば指定された上座に食べ物、飲み物、宝石、工芸品を残すか、グラシュティグが陰から聴けるよう集まって歌を歌ったり話を語ったりする。そのようなコミュニティは森林に住む緑の乙女の物語や、原始のままの荒野の物語を伝え、彼らの移り気な保護者に関するいくつかの教訓的な話を語る。このような話には2つの目的がある:地元のグラシュティグの恵みを保つ為と、しばしば死を意味する事になるこの緑の乙女の怒りを誘発する何らかの行為から若者と愚者を保護することである。そのような慎重な畏敬の念のお返しとして、この年長のフェイの保護下にいる者は時に自分たちの為に不可思議にも動いた畝間や大地、干ばつの間に新鮮な水で満たされた飼葉桶や樽、あるいは彼方へ駆り立てられた殺戮する怪物さえ見つける。しかしそのような調和はしばしば希薄であり、グラシュティグの為に貢ぎ物を残す者たちは、彼女を賞賛するのと同様宥める為の行為も沢山する。水をもたらし土を耕すグラシュティグは同様に、田舎全体を荒廃させたり地震を起こしたりすることができる。グラシュティグの存在感だけで他の者に制御できぬ踊りの発作や発狂した気まぐれな行動を煽ることができ、グラシュティグを怒らせる者は本当に強力な敵を得る。 戦闘では、グラシュティグは容易かつ優雅に動き、典型的にはオーラの効果下にある者を衰弱させる呪術の目標としてから、撤退して援護させる為のアース・エレメンタルを招来し、敵を葉と泥で爆撃する。地とそこの植物と木々とのグラシュティグの体の生きている絆はグラシュティグを空中で脆弱化させ、彼女は地上に留まることができる限り留まる。しかし、怒りの頂点であってもグラシュティグはまだ時々理屈が通じることがある。グラシュティグは典型的に会談のために立ち止まり、貴重な好ましい魔法の十分価値のあるアイテム、典型的には木製や石製のアイテムと引き換えに戦闘を中止するよう揺れ動かされる。グラシュティグ自身は真実を曲げるかあからさまにごまかすことについての良心の呵責はないが、他の者がグラシュティグに嘘をつくとき極度の侮辱ととり、嘘を嗅ぎ分けるのが非常に上手い。グラシュティグが誰かが嘘をついたと推測すると、たとえその事実に反するものがお世辞のために話されたものであったとしても、グラシュティグはその人と再び話すことはないほど怒りに満ちる。 グラシュティグが登場する最も一般的な教訓的な話の一部には、時にグラシュティグが幼い子供を原野の故郷の奥深くまで誘い込み拐し、何らかの形でフェイのペテン師と入れ替えるものがある。実際にはこれらのフェイは子供の無邪気さ、正直さ、遊び心を楽しみ、通常は短時間会話か踊りをする為だけに留めてから家に無傷で送り届ける。