約 1,037 件
https://w.atwiki.jp/agama/pages/31.html
{{Otheruseslist|仏教の開祖|仏として神格化された釈迦|釈迦如来|紀元前7-6世紀頃のネパールの部族|釈迦族}} {{参照方法}} {{統合文字|迦}} {{インド系文字}} {{Infobox Buddhist |名前=釈迦 |生没年=紀元前463年? - 紀元前383年? |諡号= |生地=ネパールカピラヴァストゥ |没地= |画像=ファイル PrinceSiddhartha.JPG|214px|釈迦立像 |説明文=釈迦立像 |宗派= |寺院= |師= |弟子=舎利弗・目連|摩訶目犍連・摩訶迦葉 br/ 須菩提・富楼那|富楼那弥多羅尼子 br/ 迦旃延|摩訶迦旃延・阿那律・優波離 br/ 羅睺羅・阿難 |著作= }} {{Buddhism}} 釈迦(釋迦、しゃか、 サンスクリット|梵名:シャーキャ、शाक्य [zaakya]({{IAST|Śākya}})、一説に紀元前463年|前463年 - 紀元前383年|前383年、紀元前560年|前560年 - 紀元前480年|前480年等)は、仏教の開祖である。 本名(俗名)は、パーリ語形ゴータマ・シッダッタ({{IAST|Gotama Siddhattha}})またはサンスクリット語形ガウタマ・シッダールタ(ゴータマ・シッダールタ、ガウタマ・シッダルダとも)(गौतम सिद्धार्थ [{{IAST|Gautama Siddhārtha}}])、漢訳では 瞿曇 悉達多 (くどん しっだった)と伝えられる。 == 呼称 == 「釈迦」は釈迦牟尼(しゃかむに、シャーキャ・ムニ शाक्यमुनि [zaakya-muni]({{IAST|Śākyamuni}}))の略である。釈迦は彼の部族名もしくは国名で、牟尼は聖者・修行者の意味。つまり釈迦牟尼は、「釈迦族の聖者」という意味の尊称である。なお、釈迦族とは、様々な民族に経典を翻訳して伝える際に、注釈を加えてわかり易く説法する世襲制の祭司族または書記族の意味。 称号を加え、釈迦牟尼世尊、釈迦牟尼仏陀、釈迦牟尼仏、釈迦牟尼如来ともいう。ただし、これらはあくまで仏教の視点からの呼称である。僧侶などが釈迦を指す時は、略して釈尊(しゃくそん)または釈迦尊、釈迦仏、釈迦如来と呼ぶことが多い。 称号だけを残し、世尊、仏陀、ブッダ、如来とも略す。ただし、大乗仏教以後の仏教では仏陀・世尊・如来は釈迦牟尼だけではない。特に浄土真宗では単に如来というと阿弥陀如来を指すことも少なくない。 日本では、一般にお釈迦様、仏様(ほとけさま)と呼ばれることが多い。ただし、仏様は死者の意味に使われることも多い。 仏典ではこの他にも多くの異名を持つ。うち代表的な10個(どの10個かは一定しない)を総称して仏「十号」と呼ぶ。 === 呼称表 === 釈迦牟尼世尊 釈迦尊 釈尊(しゃくそん) 釈迦牟尼仏陀 釈迦牟尼仏 釈迦仏 釈迦牟尼如来 釈迦如来(しきゃじらい) 多陀阿伽度(たたあかど) 阿羅訶(応供)(あらか) 三藐三仏陀(正徧智)(さんみゃくさんぶっだ) == 生涯 == 釈迦は紀元前5世紀頃、現在のネパールのルンビニで誕生。父は釈迦族|シャーキャ族の王で、王子として裕福な生活を送っていたが、29歳で出家した。35歳で正覚(覚り)を開き、仏陀(覚者)となったことを成道という。まもなく釈迦のもとへやってきたブラフマンの勧めに応じて、釈迦は自らの覚りを人々に説いて伝道して廻った。南方伝ではヴァイシャーカ月(グレゴリオ暦4月~5月)の満月の日(ヴァイシャーカ月はインドでは2月にあたりインドは太陰太陽暦で満月の日は15日にあたるため、中国伝来の際2月15日 (旧暦)とされた)に80歳で入滅(死去)したとされている。 === 誕生 === 釈迦は現在のネパール国境付近(インド説も)のカピラ城|カピラヴァストゥ(kapila-vastu、迦毘羅衛 パーリ語:カピラヴァッツ)で、国家を形成していた釈迦族の出身である。釈迦の故郷であるこのカピラヴァストゥは今のネパールのタライ(tarai)地方のティロリコート(tilori-kot)あるいはピプラーワー(Piprahwa)付近を中心とする小さな共和制の国で、当時の二大強国マガタとコーサラの間にはさまれた国であった。家柄は王 (rāja) とよばれる名門であった。このカピラヴァスツ国の城主、浄飯王|シュッドーダナを父とし、隣国の同じ釈迦族のコーリヤの執政アヌシャーキャの娘・摩耶夫人|マーヤーを母として生まれ、ガウタマ・シッダールタと名づけられた。 ガウタマ(ゴータマ)は「最上の牛」を意味する言葉で、シッダールタ(シッダッタ)は「目的を達したもの」という意味である。ガウタマは母親がお産のために実家へ里帰りする途中、ルンビニの花園で休んだ時に誕生した。生後一週間で母のマーヤーは亡くなり、その後は母の妹、摩訶波闍波提|マハープラジャパティーによって育てられた。当時は姉妹婚の風習があったことから、マーヤーもマハープラジャパティー(パーリ語:マハパジャパティ)もシュッドーダナの妃だった可能性がある。 釈迦の生まれた年代に最新の研究をもってしても100年もの誤差が生じるのは、インドでは輪廻転生の考えから時間というものがさほど必要なものではないと考えられていたため、年代を記録する習慣がなかったことによる。インドなどの詳細は中国の文献によって知ることができる。 釈迦は、産まれた途端、七歩歩いて右手で天を指し左手で地を指して「天上天下唯我独尊」と話したと伝えられている。釈迦はシュッドーダナらの期待を一身に集め、二つの専用宮殿や贅沢な衣服・世話係・教師などを与えられ、クシャトリヤの教養と体力を身につけた、多感でしかも聡明な立派な青年として育った。16歳で母方の従妹の耶輸陀羅|ヤショーダラーと結婚し、一子、羅ご羅|ラーフラ をもうけた。なお妃の名前は、他にマノーダラー(摩奴陀羅)、ゴーピカー(喬比迦)、ムリガジャー(密里我惹)なども見受けられ、それらの妃との間に善星|スナカッタや優波摩那|ウパヴァーナを生んだという説もある。 === 出家 === 当時のインドでは、ウパニシャッド哲学を基盤としながら、ヴェーダ経典の権威を認めない六師外道と称される六人の思想家達、ジャイナ教の始祖となったニガンダ等が既成のバラモンを否定し、自由な思想を展開していた。また社会的にも十六大国|16の大国、多くの小国が争いを繰り広げ、混乱の度を増すさなかにあった。 釈迦出家の動機は、釈迦族が農耕民族であったため、幼少の頃に田畑の虫をついばむ鳥を見たことなどにより日常的にこの世の無常を感じていたが、決定的となったのは四門出遊の故事とされる。ある時、釈迦がカピラヴァスツ城の東門から出る時老人に会い、南門より出る時病人に会い、西門を出る時死者に会い、生ある故に老も病も死もある(四諦#苦諦(duHkha-aaryasatya)|生老病死:四苦)と無常を感じた。北門から出た時に一人の出家沙門に出会い、世俗の苦や汚れを離れた沙門の清らかな姿を見て、出家の意志を持つようになった。 私生活において一子羅ご羅|ラーフラをもうけたことで、かねてよりの念願の出家の志を29歳、12月8日夜半、王宮を抜け出て果たした。出家してまずバッカバ仙人を訪れ、その苦行を観察するも、その結果、死後に天上に生まれ変わることを最終的な目標としていたので、天上界の幸いも尽きればまた六道に輪廻すると悟った。次にアーラーラ・カーラーマを訪れ、彼が空無辺処(あるいは無所有処)が最高の悟りだと思い込んでいるが、それでは人の煩悩を救う事は出来ないことを悟った。次にウッダカラーマ・プッタを訪れたが、それも非想非非想処を得るだけで、真の悟りを得る道ではないことを覚った。この三人の師は、釈迦が優れたる資質であることを知り後継者としたいと願うも、釈迦自身はすべて悟りを得る道ではないとして辞した。そしてウルヴェーラの林へ入ると、父・シュッドーダナは釈迦の警護も兼ねて五比丘(ごびく)といわれる5人の沙門を同行させた。そして出家して6年(一説には7年)の修行の間、苦行を積んだ。減食、絶食等、座ろうとすれば後ろへ倒れ、立とうとすれば前に倒れるほど厳しい修行を行ったが、心身を極度に消耗するのみで、人生の苦を根本的に解決することはできないと悟って難行苦行を捨てたといわれている。その際、この五比丘たちは釈迦が苦行に耐えられず修行を放棄したと思い、釈迦をおいてムリガダーヴァ(鹿野苑、ろくやおん)へ去った。 === 成道 === そこで釈迦は、全く新たな独自の道を歩むこととする。ネーランジャナー(nairaJjanaa、尼連禅河、にれんぜんが)で沐浴し、村娘スジャータの乳糜(牛乳で作ったかゆ)の布施を受け、気力の回復を図って、ガヤー村のピッパラ (pippala) 樹(後にゴータマ・ブッダの菩提樹|菩提樹と言われる)の下で、49日間の観想に入った。そして、ついに12月8日の未明に大悟する。これを「成道」といい、古来この日に「成道会(じょうどうえ)」を勤修した。ガヤー村は、仏陀の悟った場所という意味の、ブッダガヤと呼ばれるようになった。 釈迦は、この悟りを得た喜びの中で、このまま浸っていようと考えた。一部の経典には「このまま無余涅槃に至ろうと考えた」との記述があることから、3カ月間禅定にあるまま死を迎えようとされたと思われた。ところが梵天と帝釈天によって衆生に説くよう勧められた(梵天勧請)。3度の勧請の末、自らの悟りへの確信を求めるためにも、ともに苦行をしていた5人の仲間に説こうと座を立った。釈迦は彼らの住むベナレス|バーラーナシー (baaraaNsii) まで、自らの悟りの正しさを十二因縁の形で確認しながら歩んだ。 そこで釈迦は鹿野苑へ向かい、初めて五比丘にその方法論四諦八正道を実践的に説いた。これを初転法輪(しょてんぽうりん)と呼ぶ。この5人の比丘は、当初は釈迦が苦行を止めたとして蔑んでいたが、説法を聞くうちコンダンニャがすぐに悟りを得、釈迦は喜んだ。この時初めて、釈迦は如来(tathaagata、タターガタ)という語を使った。すなわち「ありのままに来る者」「真理のままに歩む者」という意味である。それは、現実のありのままの姿(実相)を観じていく事を意味している。 初転法輪を終わって「世に六阿羅漢(漢:応供、梵:arhan)あり。その一人は自分である」と言い、ともに同じ悟りを得た者と言った。次いでバーラーナシーの長者、耶舎|ヤシャスに対して正しい因果の法を次第説法し、彼の家族や友人を教化した。古い戒律に「世に六十一阿羅漢あり、その一人は自分だと宣言された」と伝えられている。 === 教団 === その後、ヤシャスや富楼那|プルナなどを次々と教化したが、初期の釈迦仏教教団において最も特筆すべきは、三迦葉(さんかしょう)といわれる三人の兄弟が仏教に改宗したことである。当時有名だった事火外道(じかげどう)の、ウルヴェーラ・カッサパ (uruvela kassapa)、ナディー・カッサパ (nadi kassapa)、ガヤー・カッサパ (gayaa kassapa) を教化して、千人以上の構成員を持つようになり、一気に仏教は大教団化した。 ついでラージャグリハ(raajagRha、王舎城)に向かって進み、ガヤ山頂で町を見下ろして「一切は燃えている。煩悩の炎によって汝自身も汝らの世界も燃えさかっている」と言い、煩悩の吹き消された状態としての涅槃を求めることを教えた。 王舎城に入って、頻婆娑羅|ビンビサーラ王との約束を果たし教化する。王はこれを喜び竹林精舎を寄進する。ほどなく釈迦のもとに二人のすぐれた弟子が現れる。その一人は十大弟子|シャーリプトラであり、もう一人は十大弟子|マウドゥガリヤーヤナであった。この二人は後に釈迦の高弟とし、前者は知恵第一、後者は神通第一といわれたが、この二人は釈迦の弟子で、最初に教化された五比丘の一人である阿説示|アッサジ比丘によって釈迦の偉大さを知り、弟子250人とともに帰依した。その後、シャーリプトラは叔父の摩訶・倶絺羅(まか・くちら、長爪・梵士=婆羅門とも)を教化した。この頃に摩訶迦葉|マハーカッサパが釈迦の弟子になった。 以上がおおよそ釈迦成道後の2年ないし4年間の状態であったと思われる。この間は大体、ラージャグリハ(王舎城)を中心としての伝道生活が行なわれていた。すなわち、マガダ国の群臣や村長や家長、それ以外にバラモンやジャイナ教の信者とだんだんと帰依した。このようにして教団の構成員は徐々に増加し、ここに教団の秩序を保つため、様様な戒律が設けられるようになった。 === 伝道の範囲 === これより後、最後の一年間まで釈迦がどのように伝道生活を送ったかはじゅうぶんには明らかではない。経典をたどると、故国カピラヴァスツの訪問によって、釈迦族の王子や子弟たちである、羅睺羅|ラーフラ、阿難|アーナンダ、阿那律|アニルッダ、提婆達多|デーヴァダッタ 、またスードラの出身である優波離|ウパーリが先んじて弟子となり、諸王子を差し置いてその上首となるなど、釈迦族から仏弟子となる者が続出した。またコーサラ国を訪ね、ガンジス河を遡って西方地域へも足を延ばした。たとえはクル国 (kuru) のカンマーサダンマ (kammaasadamma) や、ヴァンサ国 (vaMsa) のコーサンビー (kosaambii) などである。成道後14年目の安居はコーサラ国の舎衛城|シュラーヴァスティーの祇園精舎で開かれた。 このように釈迦の教化され伝道された地域をみると、ほとんどガンジス中流地域を包んでいる。アンガ (aGga)、マガダ (magadha)、ヴァッジ (vajji)、マトゥラー (mathura)、コーサラ (kosalaa)、クル (kuru)、パンチャーラー (paJcaalaa)、ヴァンサ (vaMsa) などの諸国に及んでいる。 === 入滅 === 釈迦の伝記の中で最も克明に今日記録として残されているのは、入滅前1年間の事歴である。漢訳の『長阿含経』の中の「遊行経」とそれらの異訳、またパーリ所伝の『大般涅槃経』などの記録である。 涅槃の前年の雨期は舎衛国の祇園精舎で安居が開かれた。釈迦最後の伝道は王舎城の竹林精舎から始められたといわれているから、前年の安居を終わって釈迦はカピラヴァスツに立ち寄り、コーサラ国王波斯匿王|プラセーナジットの訪問をうけ、最後の伝道がラージャクリハから開始されることになったのであろう。 このプラセーナジットの留守中、コーサラ国では王子が兵をあげて王位を奪い、毘瑠璃王|ヴィルーダカとなった。そこでプラセーナジットは、やむなく王女が嫁していたマガダ国のアジャータシャトル(ajaatazatru、阿闍世王)を頼って向かったが、城門に達する直前に亡くなったといわれている。当時、釈迦と同年配であったといわれる。 ヴィルーダカは王位を奪うと、即座にカピラヴァスツの攻略に向かった。この時、釈迦はまだカピラヴァスツに残っていた。釈迦は、故国を急襲する軍を、道筋の樹下に座って三度阻止したが、宿因の止め難きを覚り、四度目にしてついにカピラヴァスツは攻略された。しかし、このヴィルーダカも河で戦勝の宴の最中に洪水(または落雷とも)によって死んだと記録されている。釈迦はカピラヴァスツから南下してマガダ国の王舎城に着き、しばらく留まった。 釈迦は多くの弟子を従え、王舎城から最後の旅に出た。アンバラッティカ (パ:ambalaTThika) へ、ナーランダを通ってパータリガーマ (パ:paaTaligaama) に着いた。ここは後のマガダ国の首都となるパータリプトラ (paataliputra、華子城) であり、現在のパトナである。ここで釈迦は破戒の損失と持戒の利益とを説いた。 釈迦はこのパータリプトラを後にして、増水していたガンジス河を無事渡り、ヴァッジ国のコーリー城に着いた。ここで亡くなった人々の運命について、阿難|アーナンダの質問に答えながら、最後に人々が運命を知る標準となるものとして法鏡の説法をする。釈迦はこの法鏡を説いてから、四諦を説いて「苦悩と苦悩の起源と、苦悩の絶滅と苦悩の絶滅への道との尊い真理を洞察し悟った。そして生存への渇望を根絶し、生存への誘惑をうちほろぼしたから、もはや生存に戻ることはない」と説法した。 次に釈迦は、このコーリー城を出発しナディカガーマを経てヴァイシャーリーに着いた。ここはヴァッジ国の首都であり、アンバーパリーという遊女が所有するマンゴー林に滞在し、戒律や生天の教え、四諦を説いた。やがてここを去ってヴェールバ村に進み、ここで最後の雨期を過ごすことになる。すなわち釈迦はここでアーナンダなどとともに安居に入り、他の弟子たちはそれぞれ縁故を求めて安居に入った。 この時、釈迦は死に瀕するような大病にかかった。しかし、雨期の終わる頃には気力を回復した。この時、アーナンダは釈迦の病の治ったことを喜んだ後、「師が僧伽|比丘僧伽のことについて何かを遺言しないうちは亡くなるはずはないと、心を安らかに持つことができました」と言った。これについて釈迦は、{{quote|「比丘僧伽は私に何を期待するのか。私はすでに内外の区別もなく、ことごとく法を説いた。阿難よ、如来の教法には、あるものを弟子に隠すということはない。教師の握りしめた秘密の奥義(師拳)はない。……自分はすでに八十歳の高齢となり、自分の肉体は、あたかも古い車がガタガタとなってあちこちを草紐で縛り、やっと保たれているようなものである。だから、阿難よ、汝らは、ただみずからを灯明とし、みずからを依処として、他人を依処とせず、法を灯明とし、法を依処として、他を依処とすることなくして、修行せんとするものこそ、わが比丘たちの中において最高処にあるものである」}}と説法したとされる。これが「自帰依自灯明、法帰依法灯明」の教えである。 やがて雨期も終わって、釈迦は、ヴァイシャーリーへ托鉢に出かけ、永年しばしば訪れたウデーナ廟、ゴータマカ廟、サーランダダ廟、サワラ廟などを訪ねた。托鉢から戻ると、アーナンダを促してチャパラの霊場に行った。ここで聖者の教えと神通力について説いた。 托鉢を終わって、釈迦は、これが「如来のヴァイシャーリーの見納めである」と言い、バァンダガーマ (bhandagaama) に移り四諦を説き、さらにハッティ (hatthi)、アンバガーマ (ambagaam)、ジャンブガーマ (jaambugaama)、ボーガガーマ (bhogagaama)を経てパーヴァー (paavaa) に着いた。ここで四大教法を説き、仏説が何であるかを明らかにし、戒定慧の三学を説いた。 釈迦は、ここで鍛冶屋の純陀|チュンダのために法を説き供養を受けたが、激しい腹痛を訴えるようになった。カクッター河で沐浴して、最後の歩みをクシナガラ|クシナーラー (kusinaara) に向け、その近くのヒランニャバッティ河のほとりに行き、マルラ (malla) 族(マッラ国)のサーラの林に横たわり、そこで入滅した。時に紀元前386年2月15日のことであった ref 釈迦の入滅年時については、仏典により色々な説がある。一般には紀元前486年(衆聖点記説)を用い、宇井伯寿の前386年説も仏教における学会で用いられている。 /ref 。これを仏滅(ぶつめつ)という。腹痛の原因はスーカラマッタヴァという料理で、豚肉、あるいは豚が探すトリュフのようなキノコであったという説もあるが定かではない。 仏陀入滅の後、その遺骸はマルラ族の手によって火葬された。当時、釈迦に帰依していた八大国の王たちは、仏陀の遺骨仏舎利を得ようとマルラ族に遺骨の分与を乞うたが、これを拒否された。そのため、遺骨の分配について争いが起きたが、ドーナ(dona、香姓)バラモンの調停を得て舎利は八分され、遅れて来たマウリヤ族の代表は灰を得て灰塔を建てた。ちなみに、その八大国とは、 # クシナーラーのマルラ族 # マガダ国のアジャタシャトゥル王 # ベーシャーリーのリッチャビ族 # カビラヴァストフのシャーキャ族 # アッラカッパのプリ族 # ラーマガーマのコーリャ族 # ヴェータデーバのバラモン # バーヴァーのマルラ族 である ref 1898年にカピラヴァットゥから約13キロメートル隔たったピプラーワーで、イギリスの駐在官ペッペが発見した遺骨の壺は、考古学的な鑑定の結果、現在では真の仏舎利として最も信憑性があるとされている(中村元(1970)および外務省HP参照)。この壺は当時のイギリス領インド政府からタイ王室に譲り渡され、仏舎利の一部は日本では覚王山日泰寺に納められている。参考:[http //www.mofa.go.jp/mofaj/area/thailand/jpth120/knowledge/temple.html 外務省HP:日泰寺] /ref 。 入減後、弟子たちは亡き釈迦を慕い、残された教えと戒律に従って跡を歩もうとし、説かれた法と律とを結集した。これらが幾多の変遷を経て、今日の経典や律典として維持されてきたのである。 == 入滅後の評価 == 釈迦の入滅後、仏教はインドで大いに栄えたが、大乗仏教の教義がヒンドゥー教に取り込まれるとともにその活力を失っていく。ヒンドゥー教は仏教を弾圧の対象とし、釈迦に新たな解釈を与えた。釈迦は、ヴィシュヌのアヴァターラ(化身)として地上に現れたとされた。偉大なるヴェーダ聖典を悪人から遠ざけるために、敢えて偽の宗教である仏教を広め、人々を混乱させるために出現したとされ、誹謗の対象になった。ただし逆に大乗仏教の教義をヒンドゥー教が取り込んだためヒンドゥー教が仏教化したと捉えることもできる。 さらにインドがイスラム教徒に征服されると、仏教はイスラム教からも弾圧を受け衰退の一途をたどる。イスラム征服後のインドではカーストの固定化がさらに進む。このなかでジャイナ教徒は信者をヒンドゥー社会の一つのカーストと位置づけその存続を可能にしたが、仏教はカースト制度を否定したためその社会的基盤が消滅する結果となった。元々インド仏教はその存在を僧伽に依存しており、回教徒によって僧伽が破壊されたことによってその宗教的基盤を失い消滅した。インド北東部の一部で細々と存続する以外にはインドで仏教が認められるようになったのは、インドがイギリス領になった19世紀以降である。因みにカースト制度の外にある不可触賎民の一部は仏教徒の末裔ではないかとの憶測も存在する。 釈迦の聖地のある、ネパールでも釈迦は崇拝の対象でもある。ネパールでは !--??年-- 現在、ヒンドゥー教徒が86%、仏教徒が8%となっている。ネパールでも仏教は少数派でしかないが、ネパールの仏教徒は聖地ルンビニへの巡礼は絶やさず行っている。なお、ルンビニは1997年にユネスコの世界文化遺産に登録された。 仏教は仏滅後100年、上座部と大衆部に分かれる。これを根本分裂という。その後西暦100年頃には20部前後の部派仏教が成立した。これを枝末分裂という(ただし大衆部が大乗仏教の元となったかどうかはさだかではなく、上座部の影響も指摘されている)。そして、部派仏教と大乗仏教とでは、釈迦に対する評価自体も変わっていった。部派仏教では、釈迦は現世における唯一の仏とみなされている。最高の悟りを得た仏弟子は阿羅漢(アラカン 如来十号の一)と呼ばれ、仏である釈迦の教法によって解脱した聖者と位置づけられた。一方、大乗仏教では、釈迦は十方(東南西北とその中間である四隅の八方と上下)三世(過去、未来、現在)の無量の諸仏の一仏で、現在の娑婆(サハー、堪忍世界)の仏である、等と拡張解釈された。また、後の三身説では応身として、仏が現世の人々の前に現れた姿であるとされている。とくに大乗で強調される仏性の思想は、上座部仏教には無かったことが知られている。 マニ教の開祖であるマニは、釈迦を自身に先行する聖者の一人として認めたが、釈迦が自ら著作をなさなかったために後世に正しくその教えが伝わらなかった、としている。 マルコ・ポーロは東方見聞録において釈迦の事を「もし彼がキリスト教徒であれば、イエス・キリストに劣らぬ聖者になったであろう。」 ref 青木富太郎訳による『東方見聞録』には、そのような記述は一切ない。そのかわり、フビライ・ハーンの事を「世界のすべてのキリスト教徒とイスラム教徒の王や皇帝たちでも、彼ほどの力は持っていないだろうし、彼ほどの業績はあげられないだろう。」とする記述がある。また、本書で、釈迦は一切登場しない。加えて、仏教という言葉は一切登場しない。仏教は、偶像崇拝教として登場する。 /ref と記述していれば、キリスト教徒としては最上の評価と言ってよい(ただし、キリスト教の教義にはいささか反するという指摘もある ref イエスは言った、曰く「なぜ私を善いと言うのか。」 – マルコによる福音書「金持ちの男」(10 18)、ルカによる福音書「金持ちの議員」(18 19) イエス、更に曰く「神以外、善いなどない。」 – マタイによる福音書「金持ちの青年」(19 17)、マルコによる福音書「金持ちの男」(10 18)、ルカによる福音書「金持ちの議員」(18 19) /ref )。 == 釈迦の像 == イエスの像が常に痩せている一方、{{要出典範囲|釈迦は中道を説くとあって、中肉の像である}}。悟り以前の苦行時代の釈迦の像は脂肪のほとんどない像である。入滅後400年間、釈迦の像は存在しなかった。彫像のみならず絵画においても釈迦の姿をあえて描かず、法輪やインドボダイジュ|菩提樹のような象徴的事物に置き換えられた。崇拝の対象はもっぱら仏塔であった。{{要出典範囲|釈迦の時代のインドには像を作る習慣が存在せず}}、仏像が作られるようになったのはヘレニズムの影響によるものである。 == 釈迦の生涯を伝える文献 == 修行本起経 〔大正・3・461〕 瑞応本起経 〔大正・3・472〕 - これらは錠光仏の物語から三迦葉が釈尊に帰依するところまでの伝記を記している。 過去現在因果経 〔大正・3・620〕 - 普光如来の物語をはじめとして舎利弗、目連の帰仏までの伝記。 中本起経 〔大正・4・147〕 - 成道から晩年までの後半生について説く。 仏説衆許摩房帝経 〔大正・3・932〕 仏本行集経 〔大正・3・655〕 - これらは仏弟子の因縁などを述べ、仏伝としては成道後の母国の教化まで。 十二遊経 〔大正・4・146〕 - 成道後十二年間の伝記。 普曜経 方広大荘厳経 - これらは大乗の仏伝としての特徴をもっている。 仏所行讃 〔大正・4・1〕(梵:Buddha-carita) 馬鳴著 Lalita vistara Mahavastu 遊行経 『長阿含経』中 仏般泥画経(パ: Mahaparinibbanna sutta ) 大般涅槃経 法賢訳 - 以上3件は、釈尊入滅前後の事情を述べたもの。 『自説経(ウダーナ)』 - パーリ語による仏典。日本語訳:[http //www.tok2.com/home/gengi/sutra/index.html] 注 〔大正〕とは、大正新脩大蔵経のこと。 == 釈迦を題材にした作品 == === 小説 === ヘルマン・ヘッセ 『シッダールタ』 === 漫画 === 手塚治虫 『ブッダ (漫画)|ブッダ』 中村光 (漫画家)|中村光 『聖☆おにいさん』 小泉吉宏 『ブッタとシッタカブッタ』(モチーフにしている) === 映画 === 『亜細亜の光』 (原題 "DIE LEUCHTE ASIENS" 1925年、ドイツ) 『釈迦』 (1961年、大映 (映画)|大映 釈迦役 本郷功次郎) 『リトル・ブッダ』(1993年、アメリカ合衆国|アメリカ 釈迦役 キアヌ・リーブス) === 音楽 === 田中正徳『世尊』(合唱曲) 貴志康一「仏陀 (交響曲)|交響曲『仏陀』」 伊福部昭「交響頌偈『釋迦』」(合唱を伴う管弦楽曲) == 注 == {{reflist}} == 参考文献 == {{refspam}} 中村元 (哲学者)|中村元 『原始仏教 - その思想と生活』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、1970年、ISBN 4-14-001111-4。 中村元 『釈尊の生涯』 平凡社ライブラリー、2003年、ISBN 4-582-76478-9。 『ゴータマ・ブッダ 決定版中村元選集 第11.12巻』 春秋社、1992年 早島鏡正 『ゴータマ・ブッダ』 講談社〈講談社学術文庫〉、1990年、ISBN 4-480-08928-4。 増谷文雄 『この人を見よ ブッダ・ゴータマの生涯、ブッダ・ゴータマの弟子たち』 佼成出版社、2006年、ISBN 4-333-02193-6。 渡辺照宏 『新釈尊伝』 ちくま学芸文庫、2005年、ISBN 4-333-02193-6。 水野弘元 『釈尊の生涯』 春秋社、1985年ほか 水野弘元 『原始仏教入門 釈尊の生涯と思想から』 佼成出版社、2009年、ISBN 4-333-02395-5。 羽矢辰夫 『ゴータマ・ブッダ』 春秋社、1999年 羽矢辰夫 『ゴータマ・ブッダの仏教』 春秋社、2003年 並川孝儀 『ゴータマ・ブッダ考』 大蔵出版、ISBN 4-8043-0563-7。 並川孝儀 『スッタニパータ 仏教最古の世界』<書物誕生>岩波書店、ISBN 4-00-028285-9。 宮元啓一 『ブッダが考えたこと これが最初の仏教だ』 春秋社、ISBN 4-393-13520-2。2004年 宮元啓一 『仏教かく始まりき パーリ仏典「大品」を読む』 春秋社、ISBN 4-393-13537-7。2005年 宮元啓一 『仏教誕生』 ちくま新書、1995年 宮元啓一 『ブッダ 伝統的釈迦像の虚構と真実』 光文社文庫、1998年 == 関連項目 == {{Wikiquote|釈迦}} {{Commons|Gautama_Buddha}} 仏教 チベット仏教サキャ派 灌仏会(花まつり) 成道会 涅槃会 ウェーサーカ祭 仏舎利 八大聖地 仏教美術 釈迦三尊 釈迦堂 仏陀 釈迦十大弟子 そのほかの弟子 - 莎伽陀、薄拘羅、劫賓那 ヒンドゥー教 - ヴィシュヌの十あるアヴァターラのうちの一つ。 釈迦頭 - 果物の一つ。 ヴィパッサナー瞑想
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/5903.html
白 青 黒 赤 緑 アーティファクト 白 天使の従者/Angelic Page 献身的民兵団/Ardent Militia 幸いなる逆転/Blessed Reversal 生命の息吹/Breath of Life 城壁/Castle 雲を追う鷲/Cloudchaser Eagle 弩弓歩兵/Crossbow Infantry 熱心な士官候補生/Eager Cadet 精鋭なる射手/Elite Archers ジェラードの知恵/Gerrard s Wisdom 栄光の頌歌/Glorious Anthem 重バリスタ部隊/Heavy Ballista 儀仗兵/Honor Guard 剛胆な勇士/Intrepid Hero キイェルドーの近衛隊/Kjeldoran Royal Guard 遍歴の騎士/Knight Errant 騎士道/Knighthood 長弓兵/Longbow Archer 練達の癒し手/Master Healer 北の聖騎士/Northern Paladin 平和な心/Pacifism 最下層民/Pariah 浄化/Purify カミソリ足のグリフィン/Razorfoot Griffin 復仇/Reprisal ダメージ反転/Reverse Damage ローリング・ストーンズ/Rolling Stones 聖なる場/Sacred Ground 聖なる蜜/Sacred Nectar サマイトの癒し手/Samite Healer 偽の信心/Sanctimony 歴戦の司令官/Seasoned Marshal セラの代言者/Serra Advocate セラの天使/Serra Angel セラの抱擁/Serra s Embrace 盾の壁/Shield Wall スカイシュラウドの隼/Skyshroud Falcon 南の聖騎士/Southern Paladin 魂の絆/Spirit Link 常備軍/Standing Troops 星明かり/Starlight 堅牢な防衛隊/Staunch Defenders 太陽の網/Sunweb 世界を支える者/Sustainer of the Realm ありがたい老修道士/Venerable Monk 復讐/Vengeance 剣の壁/Wall of Swords 崇拝/Worship 青 大気の精霊/Air Elemental 祖先の記憶/Ancestral Memories 秘儀の研究室/Arcane Laboratory 文書管理人/Archivist 悪意の眼差し/Baleful Stare 水底のビヒモス/Benthic Behemoth ブーメラン/Boomerang 押収/Confiscate 珊瑚マーフォーク/Coral Merfolk 果敢な弟子/Daring Apprentice 偏向/Deflection 凡人の錯覚/Delusions of Mediocrity 釣り合い/Equilibrium 脱出/Evacuation ファイティング・ドレイク/Fighting Drake 束の間の映像/Fleeting Image 魔力の乱れ/Force Spike 大ダコ/Giant Octopus 氷河の壁/Glacial Wall 冬眠/Hibernation 角海亀/Horned Turtle 空中浮遊/Levitation アトランティスの王/Lord of Atlantis マハモティ・ジン/Mahamoti Djinn マナ侵害/Mana Breach 枯渇/Mana Short 大口獣/Mawcor 記憶の欠落/Memory Lapse マーフォークの物あさり/Merfolk Looter 真珠三叉矛の人魚/Merfolk of the Pearl Trident 好機/Opportunity 対立/Opposition 変身/Polymorph 幻影の戦士/Phantom Warrior 放蕩魔術師/Prodigal Sorcerer シー・モンスター/Sea Monster 手練/Sleight of Hand 嵐雲のカラス/Storm Crow テレパシー・スパイ/Telepathic Spies テレパシー/Telepathy 時間の名人/Temporal Adept 泥棒カササギ/Thieving Magpie トレイリアの風/Tolarian Winds 貴重な収集品/Treasure Trove 用心深いドレイク/Vigilant Drake ヴィザードリックス/Vizzerdrix 大気の壁/Wall of Air 驚きの壁/Wall of Wonder 風の踊り手/Wind Dancer 風のドレイク/Wind Drake 黒 深淵の怪物/Abyssal Horror 深淵の死霊/Abyssal Specter 苦悶の記憶/Agonizing Memories 汚れ/Befoul 死別/Bereavement ブラッド・ペット/Blood Pet 沼インプ/Bog Imp 沼の悪霊/Bog Wraith 墓所のネズミ/Crypt Rats ダクムーアの槍騎兵/Dakmor Lancer 闇への追放/Dark Banishing 真に暗き時間/Darkest Hour 悲しみの残りカス/Dregs of Sorrow 蠢く骸骨/Drudge Skeletons 強迫/Duress 東の聖騎士/Eastern Paladin 仕組まれた疫病/Engineered Plague 堕天使/Fallen Angel 畏怖/Fear 悪臭のインプ/Foul Imp 遁走/Fugue 巨大ゴキブリ/Giant Cockroach グレイブディガー/Gravedigger 強欲/Gree 虚ろの犬/Hollow Dogs 彼方からの雄叫び/Howl from Beyond 冥府の契約/Infernal Contract レシュラックの秘儀/Leshrac s Rite 立ちはだかる影/Looming Shade 偏頭痛/Megrim 精神腐敗/Mind Rot 吐き気/Nausea 夢魔/Nightmare 夜襲/Nocturnal Raid 抑圧/Oppression 村八分/Ostracize 迫害/Persecute 疫病甲虫/Plague Beetle 人さらい/Rag Man 死者再生/Raise Dead カミソリネズミ/Razortooth Rats 再処理/Reprocess 黄泉からの帰還者/Revenant スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies 夜の断片/Strands of Night 蛇人間の戦士/Serpent Warrior 魂の饗宴/Soul Feast 骨なしの凶漢/Spineless Thug 夜の断片/Strands of Night 要塞の暗殺者/Stronghold Assassin 上天のしみ/Tainted AEther 邪悪なる力/Unholy Strength 骨の壁/Wall of Bone 西の聖騎士/Western Paladin ヨーグモスの勅令/Yawgmoth s Edict 赤 上天の閃光/AEther Flash バルデュヴィアの蛮族/Balduvian Barbarians 精神異常/Bedlam 猛火/Blaze 血まなこのサイクロプス/Bloodshot Cyclops 沸騰/Boil 真紅のヘルカイト/Crimson Hellkite 無秩序/Disorder 熱情/Fervor 最後の賭け/Final Fortune 炎の精霊/Fire Elemental ギトゥの火喰い人/Ghitu Fire-Eater ゴブリンの戦車/Goblin Chariot ゴブリン穴掘り部隊/Goblin Digging Team ゴブリン精鋭歩兵部隊/Goblin Elite Infantry ゴブリンの庭師/Goblin Gardener ゴブリンの滑空者/Goblin Glider ゴブリンの王/Goblin King ゴブリンの略奪者/Goblin Raider ゴブリンの洞窟探検家/Goblin Spelunkers ゴブリン・ウォー・ドラム/Goblin War Drums 花崗岩の装着/Granite Grip 丘巨人/Hill Giant せっかち/Impatience インフェルノ/Inferno 溶岩の斧/Lava Axe 電撃破/Lightning Blast 稲妻の精霊/Lightning Elemental オーガの監督官/Ogre Taskmaster オーク弩弓隊/Orcish Artillery 略奪/Pillage ピグミー・パイロザウルス/Pygmy Pyrosaur 紅蓮地獄/Pyroclasm 発火/Pyrotechnics 怒り狂うゴブリン/Raging Goblin 無謀なるエンバーの魔道士/Reckless Embermage 速やかな反応/Reflexes 連続突撃/Relentless Assault 剣歯虎/Sabretooth Tiger 突撃の地鳴り/Seismic Assault シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon 大地の飛礫/Spitting Earth 嵐のシャーマン/Storm Shaman 突然の衝撃/Sudden Impact 訓練されたオーグ/Trained Orgg 緑 アナコンダ/Anaconda 年経たシルバーバック/Ancient Silverback ブランチウッドの鎧/Blanchwood Armor 猛き雄カバ/Bull Hippo 梢の蜘蛛/Canopy Spider たい肥/Compost 忍び寄るカビ/Creeping Mold 早摘み/Early Harvest 上座ドルイド/Elder Druid エルフの射手/Elvish Archers エルフのチャンピオン/Elvish Champion エルフの抒情詩人/Elvish Lyrist エルフの笛吹き/Elvish Piper 地元の利/Familiar Ground フェメレフの射手/Femeref Archers フィンドホーンの古老/Fyndhorn Elder 大鹿の一団/Gang of Elk 大蜘蛛/Giant Spider ゴリラの酋長/Gorilla Chieftain 灰色熊/Grizzly Bears ラノワールのエルフ/Llanowar Elves 一匹狼/Lone Wolf 寄せ餌/Lure マロー/Maro 樫の力/Might of Oaks 超巨大化/Monstrous Growth 自然の復活/Nature s Resurgence 自然の反乱/Nature s Revolt ライオンの群れ/Pride of Lions 不屈の自然/Rampant Growth 回収/Reclaim レッドウッド・ツリーフォーク/Redwood Treefolk 再生/Regeneration 二度目の収穫/Rowen 甲鱗のワーム/Scaled Wurm ゴミあさり/Scavenger Folk 天光を求める者/Seeker of Skybreak シャノーディンのドライアド/Shanodin Dryads 針刺ワーム/Spined Wurm 突風/Squall 茨の精霊/Thorn Elemental 思考吸飲/Thoughtleech 訓練されたアーモドン/Trained Armodon ツリーフォークの若木/Treefolk Seedlings 荒々しき自然/Untamed Wilds 新緑の女魔術師/Verduran Enchantress 花盛りの春/Vernal Bloom 繁茂/Wild Growth 翼わな/Wing Snare ウッド・エルフ/Wood Elves ヤヴィマヤの女魔術師/Yavimaya Enchantress アーティファクト アラジンの指輪/Aladdin s Ring 役畜/Beast of Burden 鉄びし/Caltrops 水晶のロッド/Crystal Rod 不明の卵/Dingus Egg 罠の橋/Ensnaring Bridge フェロッズの封印/Feroz s Ban 空飛ぶ絨毯/Flying Carpet 生体融合帽/Grafted Skullcap ぶどう弾カタパルト/Grapeshot Catapult 吠えたける鉱山/Howling Mine 鉄の星/Iron Star 象牙の杯/Ivory Cup ジェイラム秘本/Jalum Tome ジャンドールの鞍袋/Jandor s Saddlebags ジェイムデー秘本/Jayemdae Tome 弱者の石/Meekstone 石臼/Millstone 翼膜のゴーレム/Patagia Golem ファイレクシアの大男/Phyrexian Hulk 落とし穴/Pit Trap 破滅のロッド/Rod of Ruin シッセイの指輪/Sisay s Ring 呪文書/Spellbook 静態の宝珠/Static Orb 骨の玉座/Throne of Bone 槍の壁/Wall of Spears 森の宝球/Wooden Sphere
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/548.html
431 :ひゅうが:2012/01/15(日) 21 21 14 前スレ944から948の続き、続いてしまったネタ 接触3~大日本宇宙帝国(笑)サイド~ ――同 皇紀4248(西暦3588=宇宙暦788)年 銀河系 白鳥座腕 秋津洲星系第3惑星 大日本帝国 帝都「宙京(そらのみやこ)」 「よくぞ集った我が精鋭たちよ!!」 「陛下・・・いえ殿下。はっちゃけすぎです。」 「そうか?まぁそれはともかくとして、またら君に会えて朕も――もとい余も嬉しいぞ?」 この人ってこんな性格だったっけ?と嶋田は溜息をついた。 気が付いたら日本が星間国家になっていた。しかも銀英伝の。 嶋田の感覚からいうと、こんな感じになる。 「はっはっは。嶋田さんも恥ずかしがらずに素直に来て下さればよかったのに。」 「誰のせいだと思っているんだ辻さん!?」 「ええっ!?嶋田さんをそんなに悩ませた覚えはないのですが!?いったいこっちに転生してきてから何があったのですか!?」 「もういいよ――」 嶋田は漫画チックに「るーるー」と涙を流す。 「ほう。なるほど余計なお世話だったのか?余は頼りになる仲間が貴君たちしかいないから藁にもすがる思いで儀式を執り行ったというに――」 「ああ。いえ、まったく何でもありません!むしろ真っ当な青春と仕事の日々を送れたので感謝していますですはい!」 そうか。と、月詠宮裕子内親王殿下は満月のような微笑を浮かべた。 帝国の月面遷都時に設けられた「宙宮御三家」の筆頭である彼女は、嶋田にとって絶対に逆らえない相手である。 なぜなら・・・ 「すまぬ。神となってしずまっていた汝らを呼びだすのは気がひけたのだが。国難近しとの『先読み』にかかっては是非もない――怨んでくれてよいぞ。」 「いえいえ。殿下。嶋田さんも本心から嫌がっているわけではありませんよ。ねぇ?」 メガネ(絶滅していない)をキラリと光らせた辻は、貞子のように長い髪を左手で弄びながら嶋田の方を向いた。 こいつはまったく。と思いながら嶋田は辻や、その周囲でニヤニヤしているかつての面影がある面々や、上座で申し訳なさそうに顔を曇らせている内親王殿下の正体を思い出していた。 そう。これまでの会話でも分かるように、月詠宮殿下はかつての名を昭和天皇陛下という。 今や大帝の列にならぶ御方がこの世界に気がついたのは、あろうことか内府が極秘裏に献上していた某スペースオペラの傑作を読んでいたからであったらしい。 それまでは再び得た生を謳歌していた彼女は、大慌てで対処に乗り出した。 いくら「距離の暴虐」の彼方へと脱出し、せっかく開拓して長年住んでいたかつての領土を「国譲り」の捨て台詞を残して放棄したとはいっても、このままゆけば自由惑星同盟は銀河帝国に征服され、いずれはこの新天地にも連中はやってくるに違いない。 とそこまで考えていた殿下は、どうやら時の日本帝国政府の関心を誘ったらしい。 そこで彼女は、宮内庁書寮部が所管する一群のSF作品を手にすることができた。 いわく「大宰相の予言書」。 かつて大日本帝国を列強筆頭にまで押し上げ、13日戦争以前から地球統合政府成立までを半ばコントロールする強力な国際秩序を構築した「大宰相」嶋田繁太郎の手によるものとも、彼の側近だった精鋭集団が何かを用いて予見した世界の今後を記したとされる古文書である。 そこで殿下は考えた。 「そうだ。嶋田たちを呼ぼう。」と。 残念ながら記述は途中でとぎれていたが、ここまで予見していた伝説の英傑たちならきっと力になってくれるに違いない。 安定という名の停滞を生きる帝国政府の助力のもと、藁にもすがる思いで彼女は古文書をもとに「召喚」を請い願った。 そして、13日戦争以前「魂」と呼べる存在に限りなく肉薄していた「夢幻会」の成果は、完璧に作用したのだ。 「まぁ、時間がたったおかげで我々のイメージも随分と変わっていましたがね。」 と、メガネ貞子もどきの辻が苦笑する。 「まぁしょうがないだろう。広めたのは我々だ。」 こたえた伏見宮はどこのイケメン(笑)だよと言いたくなるようなキリリとしたグレーの髪をしている。 その横で疲れた表情をしているのは、地味なわりには青い瞳になっている南雲だ。「どうしてこうなったのか、と言いたくなりますがね」。という突っ込みは華麗に無視されている。 そしてそのほかの夢幻会の面々も、この場にはせいぞろいしていた。 432 :ひゅうが:2012/01/15(日) 21 21 55 ちなみに会合場所は日本の「伝統料理」と化しているラーメンを食べる「高級料亭」である。 関係ないかもしれないが、古典芸能と化していたアニメやエ○ゲに新風を吹き込むことにこの新たな夢幻会は尽力しており、その影響は今や帝国全土にも及びつつある(単に彼らの本性が出ただけの話かもしれないが)。 閑話休題。 「しかし、こうなってもまたお前と肩をならべられるのは、確かに嬉しいぞ嶋田。」 本当に嬉しそうに微笑しているのは、セットで呼ばれたという山本だった。 どこかでイメージが変わったらしく彼もまた、「彼女」になっていた。 原因は20世紀中に出されたらしいエ○ゲ「○姫無双」らしい。 嶋田は頭痛を覚えた。 「まぁ・・・皆の風体はともかく、再会は嬉しい。」 出来る限り仕事が山積しそうな制度改革が進行しつつある帝国政府や軍には近寄らないようにした嶋田だったが、嶋田の主人公(笑)補正か結局は嶋田はこういう立ち位置に落ち着いていた。 実際もう限界だったのだろう。魔王辻と嶋田の主君や上司たちの魔手から逃げるのは。 この世に再び生まれおちてから数十年、まぁよくもった方か。 「しかし、生まれ変わっても難題ばかりか。――回廊封鎖設備を営々と築いていたのが救いだが・・・。」 嶋田たちを尊敬の目で見つめるこの世界の日本帝国政府や「夢幻会」の面々を思い出しながら一同は頭痛を覚えていた。 長征1万光年ならぬ「大遷都」で1万7000光年を踏破し新たな大地へと至っていた日本帝国は、長きにわたる平和のおかげで経済的・文化的にはまだしも軍事的には停滞している。 危機感を覚えた帝国政府と夢幻会の「会合」主導での大改革が進みつつある(嶋田が軍に入らざるを得なかったのもこれが理由)が、現状では自由惑星同盟との間に存在する「サジタリウス回廊」(同盟名称『エア回廊』)や旧銀河連邦時代の辺境のさらに向こうにある「白鳥座回廊」の要塞砲台群や重防御陣地を使った、いわば近海迎撃型の艦隊決戦しか遂行することはできない。 嶋田をはじめとする改革派の将帥たちは「維新」と呼ばれる無血革命にも近い大改革を断行しつつあるこの世界の帝国で、頭の固い連中を相手にまたしても苦労させられていたのだった。 「こっちに来てまで漸減邀撃作戦と戦う羽目になるとは――」 「まぁ、あの日米戦のように国力が10倍近いなんてことがないのがまだ救いですね。」 「歴代の帝国首相が銀河連邦時代のような圧倒的国力を持つ敵の来襲に備え続けたことは僥倖としかいいようがない。経済発展と開拓、それに人口増加を図るためには漸減作戦も意味はあったのだろう。だがそれだけのために軍備を整備していては・・・。」 嶋田の言葉に全員が頷いた。 現在の大日本帝国の第1種甲種登録国民数は約580億(人工種族も含む)。 生物学的な意味で「人間」といえる未成年者の数が120億人を数えていることを考えると順調ということになるだろう。 だが、それを守るべき軍は銀河帝国や自由惑星同盟に比べ明らかに少数である。 もしも、このまま「原作」の通り自由惑星同盟を下した銀河帝国がサジタリウス腕に進出してくれば・・・いずれ日本帝国は数を回復した新銀河帝国との冷戦状態に突入するか、悪くすれば滅ぼされてしまう。 既に大質量を用いることでの超長距離ワープ航法が確立されつつある現在、それは自殺行為に他ならない。 「だからこその我々ですよ。フェザーンと同盟には役に立ってもらいましょう。我々の盾兼お客様として。その間に我々は独自に同盟領へ遠征しても大丈夫な程度の軍備を整備し、戦争を抑止しながら経済戦争での勝利を目指す。腕が鳴りますね。」 辻がニヤリと笑う。 嶋田は思った。帝国よ、君たちのは怨みはないが君たちの原作がいけないのだよ――今度こそ静かで平和な老後を過ごすために君たちには犠牲になってもらおう。 なに。心配はいらない。我々はお客様に損はさせない・・・と思う。たぶん。そうだといいなぁ。 かくして、大日本帝国は新たなる坂の上の雲を目指し始めた。 「あ。嶋田さん。地球からあなたにファンレターが届いていますよ。」 「辻さん。まさかそんなところにまで手を伸ばしていたんですか!?」 「いえ。これは先方からです。同盟の特使が持参してきましたので。」 「・・・なんだろう。とてもすごくいやな予感がする――」 そして、嶋田が自分が生きた証を見せつけられて頭痛と胃痛に悩まされる日々も、またはじまったのだった。
https://w.atwiki.jp/ripa_ns/pages/20.html
クルナ …… ニ チカヅクナ オマエ ハ ジャアク オマエ ガ …… ヲ クルシメル オマエ ガ …… ヲ オトシメル クルナ チカヅクナ サモナクバ…… 「遅いわね。」 松代に到着し、参号機を待つミサト。 「そうね……何か有ったのかしら……」 その傍らで、リツコは落ち着き払ってノートPCに向かい、コーヒー片手にタイプを続けている。 その片手でフルキーボードをタッチタイプする様は実に年季が入ったものだ。 「ところで、リツコ。この松代で行う起動試験って……パイロットを使うの?」 「当然よ。パイロット無しではエヴァは動かないわ。」 「でも、シンジ様も居ないし、レイやアスカも連れてきていないわよ?」 「……あなた、何にも知らないでここまできたの?参号機に向けて新たにパイロットが選定されたわ。」 「では、4人目?」 「第4位は残念ながらボツ。ほら、シンジ様の学校で病院送りにされた子よ。」 「ああ……諜報部も酷いことしたわね。名前は……なんていったっけな。」 「聞いた話では大怪我をさせたのはシンジ様のファン達らしいわ。左足を切断するほどの複雑骨折。」 「嘘……そんな……」 「シンジ様への信仰心だから咎めるのも心苦しい、というわけで諜報部がしたことにしたんですって。」 (異常だわ……本当に、この連中はシンジ様をどうするつもりなのかしら……) そんなことをミサトは考えていたが、気を取り直してリツコに訪ねる。 「で、リツコ。新しいパイロットって……」 リツコは一枚の資料をミサトに示した。 「参号機と一緒に輸送機でこちらに向かっているはずよ。名前は……」 シンジ邸。 「シンジ様が、差し支えなければ夕食をご一緒に、と申しております。」 マヤが与えられた部屋にメイドの一人が訪れ、礼儀正しく応対する。 「そうですか……何時から?」 「よろしければ7時に食堂へお越し下さい。献立はこちらになりますが、お嫌いな物があれば……」 「いえ……好き嫌いはありません。」 「そうですか。何かご用件がありましたら鈴を鳴らしてください。では、失礼いたします。」 マヤはシンジの世話役の代理としてやってきたのだが、完全にお客様扱いだ。 そして、マヤを迎えての夕食となる。 細長いテーブルの上座には当然シンジが座る。その両サイドにはレイとマヤ。 「……やっぱり、そういう服の方がいいな。マヤさんは。」 「そ、そうですか。ありがとう御座います……」 その日のマヤは、白いブラウスにパンツをはいたシンプルなものである。 女性らしいスタイルが映えるが、肌の露出は実に少ない。 やはりシンジは、本部の乱痴気ぶりに呆れていたのだろう。 (NERV職員を辞めて、本当にここでメイドをしたくなっちゃうな……) 見ていると、料理を運んでくるメイド達に対し、シンジは微笑みさえ浮かべて接している。 さっきのように服装に関して褒められたのも(今までの制服のセンスはともかくとして)初めてのことだ。 何だか、心の中にグラリと揺らぐものを感じて仕方がない。 しかし、その傍らでお相伴程度にお皿を突いている綾波レイは、相変わらずの無表情ぶりだ。 シンジがたまに話しかけるが、軽く頷き返すだけなのだが…… (あ……) その瞬間、マヤは思わず声を上げそうになった。 ある時、レイがナプキンを手に取り、シンジの口元を拭いた。 それに対してシンジは言う。なんだか母親に拭いて貰ったみたいだ、と。 するとレイは微かに赤面して、しどろもどろに席に戻った。 実に微笑ましい光景である。マヤはそんな様を見て、ふっと溜息混じりの苦笑いを浮かべていた。 自室へ戻り、持ち込んだノートPCに向かい一仕事を終えた後、 マヤはシャワーを浴びて柔らかい部屋着に着替え、パタンとベッドに体を投げだす。 言いつければどんな飲み物でも持ってこさせる、という。 しかし初日から遠慮がちなマヤではなかなか言い出しづらい。 あらかじめ部屋に置いてある水を飲んで一息ついた。 なんだか水まで物が違うんだな、などと感じながら。 (でも……コンビニで自分で買ってきたペットボトルの方が気安くていいなぁ……) シンジ様も、慣れないうちはこんな心境だったのだろうか、と考えていた時のこと。 (とんとん……) 誰かがドアをノックする。出てみると、そこに居たのはレイであった。 「レイ、どうしたの……え、あの、ちょっと……」 レイはマヤの手を取り、どこかに引っ張っていこうとする。そして一言。 「碇君、うなされているみたい。」 「え……でも、それが……」 マヤは何か言おうとするが、レイは取り合おうとしない。 ある扉の前に来るとノックもせずにドアをあけ、薄暗い部屋の中をどんどん進んでいく。 (あ、ここは……シンジ様の寝室?) (入って……) (ええ!?) レイはシンジが潜り込んでいる毛布をめくり、指し示した。 ベッド上では、シンジは胎児の格好でうずくまっていた。 (入って……) 半ば押し込むようにして、レイはマヤを強引にシンジのベットへといざなった。 (あ……) そして、レイは毛布をかけ直して扉から閉めて去っていった。 マヤは硬直して動けない。今の状態、シンジを背中から抱きしめるような格好になっている。 緊張のあまり、自分の脈が耳に響き渡たる中、ふと、微かな声を耳にした。 (ママ……) 急速に静まりかえるマヤの心。思わずシンジに身を寄せて、改めて後ろから抱きしめた。 やがて、穏やかな寝息が聞こえてくる。どうやら、より深い眠りへと入ったのだろう。 (もう、いいかな……) そう考えたマヤはベッドを抜け出し、そっと部屋から出て行った。 何故、レイは自分にこの役を与えたのだろう。 実を言うと、病室でレイがシンジを慰めていた一件をミサトから聞いていた。 レイこそがシンジと連れ合う相手で、彼女もそれを望んでいるのだろう、と思っていたが…… (つまり、シンジ様をいたわることさえ出来るなら、どうでもいいのかな?……) でも、何か腑に落ちない感じがする。 部屋へ戻り、何気なくノートPCを開く。 いつもの癖でMAGIに接続し、各部署の状況にざっと目を通した。 が、驚いて目を見開き、モニタを見直す。 「え……使徒!?」 「使徒ですってッ!?」 驚いたミサトはリツコに聞き直す。 「間違いないわ。パターン青……参号機とほぼ同じ座標ね。状況は?」 すると、輸送機に搭乗しているパイロットと思われる声が無線機のスピーカーから聞こえてくる。 『それが……(ガガッ)……機体が言うことを聞かな……(ガガッ)……あああッ』(ブチッ) 松代の司令部が沈黙に沈み込む。 もはや無線機からは、ザーッという音しか聞こえてこない。 「やられた……?」 そう言うミサトにリツコは冷たく答える。 「まだ、輸送機は飛行中だけど……恐らくは、ね。」 「こうなっては、ここに到着させる訳にはいかないわね。輸送機が操られている可能性がある。」 ミサトは苦悶の表情を浮かべていたが、意を決して指示を下す。 「参号機、およびその輸送機を破棄します。戦自の航空隊に連絡、空中にてN2爆雷の……」 その時、沈黙していたかに見えた無線機から、先程とは全く別の声が聞こえてきた。 『それは待ってくれないか。一つだけ試したいことがある。』 どうやらマイクのスイッチが入りっぱなしで、ミサトの声が聞こえていたらしい。 こんな状況だというのに落ち着き払った涼やかな声。 「誰……?」 尋ね返すミサト。だが、無線機はもう答えない。 しばらくして、リツコが言う。 「……レーダーから使徒の反応が消失。もしや……殲滅した?」 「ええ!?」 やがて、輸送機の姿が肉眼でも見え始めた。 使徒の反応が消えたとはいえ油断は出来ない。試験場に緊張が走る。 既に試験場は戦自の戦車隊で一杯である。 上空にも航空隊が飛来して来ている。最悪の場合、試験場ごと使徒を吹き飛ばす算段だ。 現れた輸送機に釣り下げられている参号機……いや、違う。 既に参号機は稼働している。そして体を揺すり、輸送機の翼を操っている様子が見て取れたのだ。 まるでメーヴェを操る某アニメキャラと同じ要領で輸送機を操作し、 凄まじい轟音と共に見事に着地する参号機。 幾分、滑走路を掘り下げる結果になってしまったが。 「使徒の反応無し……でも、輸送機は半壊状態ね。」 ミサトに向かってリツコが言う。未だ緊張状態のミサトは何も答えない。 やがて、参号機はその場にひざまづき、エントリープラグが排出される。 扉が開き、吹き出すLCLと共に現れたのは一人の少年。 「いや、危なかったよ。あと少し放電が必要だったら、もう参号機は動かせなくなっていたところだ。」 そう言って、作業員の助けを借りて地上に降り立つ。 微妙な表情のミサトに対して、ニヒルな笑顔を浮かべて彼は軽やかに挨拶をした。 「渚カヲルです。よろしく。」 これが、フォースチルドレンが使えなくなったため見事に繰り上げ当選となった、 フィフスチルドレンたる渚カヲルの早すぎる登場である。
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1237.html
秩序同盟との終戦を迎え、帝國軍の引き上げの日が近づいたある日。 アルタート側から戦勝を祝したパーティを開くので出席して欲しいと言う要望が届いた。 士官以下兵卒にもと言う要望には、山崎中佐はこれ幸いと喜び出席を決めた。 そして、パーティ当日。 城下町が賑わう様を城のバルコニーから見下ろしながら山崎中佐は感嘆の声を上げた。 「随分と賑やかな物ですな」 「何せ負け戦からの逆転ですから。民も皆喜んでいるのですよ」 戦場で見せた鎧姿から一転してゆったりとした貴族服を身に纏ったカイゼルが同じく城下町を見下ろした。 「こうして又、民達を見る事が出来るとは感謝してもし足りません」 「貴方方の奮戦あってこそですよ。我々はそのお手伝いをしたまでです」 ふふっと笑うとカイゼルはバルコニーから中へと戻った。 「さあ、そろそろ宴の時間です。戻りましょう」 城の中へと戻ると晩餐の準備が整い、多くの将・士官らが席に着いていた。 カイゼルと山崎は上座へと座り、カイゼルの指示をもって料理が運ばれ宴が始まる。 まず初めに運ばれてきたのはアルタート太陽王国の多くの国民に親しまれている「太陽のスープ」と呼ばれる、塩スープをベースにジャガイモ・ニンジン・タマネギやキャベツそして川魚の魚肉を団子状にしたものだ。 スプーンから一口口に含むと暖かみが体に伝わりバルコニーで冷たい風に当たっていたのも加わり、心地よさを山崎は感じていた。 「おお、この肉団子は美味い」 「気にいって頂けて何よりです。丁度、今の時期は産卵を控えて体力をつけるために脂が良く乗っているのですよ」 「なるほど、確かに美味いのぉ」 特注の椅子に座り、ドワーフの将軍であり技師でもあるビリーが噛みしめながら言った。 「私は野菜が嬉しいですね。魚も嫌いではないのですが」 「俺はちょっと物足りないな。やっぱり肉だろ肉!」 エルフの将軍のギルデンはニンジンの甘味に頷きながら、オーガの将軍のホーガンは文句を言いながらもスープを飲み干していた。 次に出されたのはエルフの森でしか取れない特殊な木の実と葉を使ったサラダだ。 それに薄くスライスされたタマネギが上に乗せられ、オリーヴが絞られている。 「我々エルフは、あまり獣肉を摂る習慣が無いので基本的にはこのような野菜や果実が食されています」 ギルデンの説明もそこそこに、ホーガンが口に運び顔を顰める。 「…こんなんばっか食ってるから、そんな細えのか?」 「あなたの種族が逞し過ぎるだけでしょうに…」 ギルデンが顔を歪める横で、我関せずとばかりにビリーはサラダを食べしきりに頷いている。 「穴倉に居るとこんな上等な野菜はお目にかかれんからのう。じゃ、次は儂等じゃな」 ビリーの発言に呼応するように、ドワーフの料理人たちが酒瓶と腸詰肉が運んできた。 「ドワーフ特製の大麦とトウモロコシの蒸留酒と豚肉の腸詰焼きじゃ。これがまた良くあってのう」 パリパリと音を立てながら腸詰を食べると、小さなグラスに注がれた酒を一口で煽った。 肉に香草も入っていたのか程よい辛味が酒を進ませる。 その酒も豚肉に良く合うスッキリとした強さで一杯二杯と進む飲みやすさだ。 「穴倉に住んどると楽しみが酒と賭博位しか無くてな、それに豚は育てやすいから楽じゃ」 グビリと一気に酒を飲むとビリーはチラリと目線をホーガンに向けた。 「次はお前さんらじゃないかの」 「おお、爺さん!その通りさ。おい!持って来い!」 ホーガンの怒鳴り声に近い大声の後、二人のオークが運んできたのは逆さに縛られた巨大な猪だった。 「昼に狩ってきたビッグタスクだ。血抜きと炙りは済んでる」 オーク達が鉈を豪快に使って肉を切り分け皿を並べていく、お世辞にも立派とは呼べない料理だったが肉厚で美味そうだ。 「運が良かった!群れで一番肥えてる奴を狩れたんだ。味は保障する」 そう言うとホーガンは肉にガブリと噛みついた。 各々それに続いて食べ始める。 獣臭さも無く食べやすい味だ。 しかし、ギルデンは細々と切ってそれを口に運んでいる。 「今しがた我々について説明しましたよね…」 「せっかく取れたんだ文句言わずに食えよ」 恨めしそうに見るギルデンにホーガンはどこ吹く風とばかりに受け流す。 「では最後に我々が」 山崎中佐がそう言って大鍋を運ばせた。 「なんだこの匂い?」 「む…」 「ほう、帝國は金持ちじゃな」 「香辛料ですな」 山育ちのホーガン・ギルデンは分からなかったが、王族のカイゼルと商取引にも詳しいビリーはその匂いが香辛料だとすぐに分かった。 それと同時に大鍋一杯の香辛料を使える帝國の財力の凄さも理解したのだ。 それぞれの前にカレーライスが置かれる。 「こんな物で申し訳ありませんがどうぞ」 「こんな物…、間違いなく今までの料理で一番高価では…」 じっと皿に盛られたカレーを見つめるカイゼルの残された片目は滅多に見れない香辛料に何を思うのか。 「従兄弟達の貿易の手伝い以来じゃな。しかし、この白い虫みたいなのは見たことがないのう」 スプーンでつんつんと米を突きながらビリーが疑問を呈す。 「米といって、我々にとって皆さんのパンと同じ主食です」 「虫みたいだ」と言われたがその事については顔にも出さず山崎は米について説明した。 主食であるとの事だ、そうそう悪い物じゃないだろうと判断したか各種族の将軍達が食べそれに続いて将校達も食べ始めた。 「美味い!」 カレーを一口食べたアルタートの将校の一人が声も高らかに叫ぶ。 それを皮切りにざわざわと騒ぎが広まる。 香辛料という通常では王侯位しか手に入る事の無い食事は将校で騎士とは言え、村持ちの郷士や王国からの禄を貰う宮廷騎士では到底手に入れることなど不可能な程高価な代物だ。 山に暮らすエルフやオーガ・オーク・ゴブリンはそもそも香辛料と言う言葉すら聞いたことの無い者もいる。 例外として商人稼業に就く者の多いドワーフだが、取り扱った事があってもそれは『商品』であって、自分の食事に使用するよりも売りさばく事を選ぶ。 この中で香辛料の使われた料理を食べた事のある人物と言えば王族のカイゼル将軍だが、それも御用商人が持ち帰った物を一度食べただけという位だ。 「いやはやヤマザキ殿、素晴らしい料理でした。皆様も素晴らしい民族料理の数々、感謝いたします」 主催のカイゼルは立ち上がりそれぞれの料理への感謝を述べると続けた。 「この宴も始まったばかり、まだまだお楽しみ下さい」 カイゼルの言った通り更に料理が運ばれてくる。 結局このパーティは深夜深くまで続き、山崎中佐以下士官らにも主に胃に深い傷がついた――― 同時刻、城下町では戦勝祝いの料理が市民らにも振る舞われていた。 といっても城で将校らが食べていたような物ではなく、白パンに豚肉入りの鍋だ。 それだけの様に思えるが、市民・農民のほとんどは毎日がキャベツの酢漬けに固い黒パンを家族で1つか2つ、農民は塩スープに屑野菜を入れた物が日々の夕食の内容だ。 「一生に一度で良いから白いパンが食べたい」 そう言って食べられずに死んでいく者が多い現実で、白パンに肉鍋と言うのは市民達にとってこれ以上にない『御馳走』なのだ。 「押さないで!まだまだ量はあるよ!」 「女王陛下からの贈り物の白パンですよ!全員に行き渡ります!」 「鍋は逃げないんだから列に戻って!」 …多少はそれを求めて騒ぎも起きるのは仕方がなかろう。 多くの市民達が配給に来た兵士らに駆け寄る。 今日が過ぎればもう二度と食べるどころか見ることすら出来ないのやもしれないのだから文字通りの命懸けだ。 「はい、人数は!?」 「五人です!」 人の波の中からようやく配給の兵士の所までたどり着いた少年が回りの声にかき消されないように叫んだ。 「ほら!五つだ!次!」 乱暴に袋を渡されると少年はまた人の波をかき分けて大通りへと出た。 キョロキョロと当たりを見渡し、もう一人鍋を貰いに行っていた弟を探す。 「兄ちゃん!貰えたー!」 「こっちも貰えた!家に帰るぞ!」 鍋の列から弟が飛び出し、器を大事そうに抱えて走ってきたのを確認すると兄はもう一度袋を抱き直し中身を検めた。 ―1つ2つ3つ…、ちゃんと5つある。 もう1度抱きしめ直すと家に帰ろうと少年は走り出した。 どんと衝撃が走り、後ろ向きに倒れる。 どうやら誰かにぶつかった様だ。 幸いにも握りなおした為パンが零れ落ちる事がなかったのが救いか。 「坊主、大丈夫か?ちゃんと前向いてから走れよ」 「あ痛てて…」 ぶつかった鼻を押さえながら少年が差し出された手を握る。 「済みません…」 ぶつかった相手は誰だろう、少なくとも怒鳴りつけず手を貸して起こしてくれた人だ良い人なんだろう。 少年がそう思い、顔を上げるとアルタートではあまり見かけない黒髪に平坦な顔をした人物が3人いた。 問題はその人物達が『帝國軍の軍服』を着ている事か。 秩序同盟との戦い以後、しばらく帝國兵は町に仮設大使館が建てられた事もあり頻繁に見かけられた。 勿論、少年も見かけた事がありそれだけにパニックになった。 「も、申し訳ありません!どうかお許しを!」 土下座をせんばかりの勢いで頭を下げると少年は謝罪した。 「いや、怪我もしてないから気にしないで良い」 帝國兵はそれだけ伝えるとサッと立ち去った。 「軍曹、そろそろ城の中庭に戻った方が良いんではないでしょうか?」 「もう少し位市内見て回ったって良いだろう」 「さすがにカレーばっかりは飽きますよねぇ…」 少年が頭を上げた頃には帝國兵は通り過ぎ遠くへと行く途中だった。 「兄ちゃん…」 弟の不安そうな顔を見ると少年は弟の腕を握り、大丈夫と声をかけ家路を急いだ。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/983.html
学院の二期生達を描く以上、群像劇になる。よって幾人かのスケッチを平行して進めてゆくことになるだろう。 そういうわけで、学年代表として上級生や学院側との折衝を担当することになる生徒にスポットを当てると、お話を進めやすかろうという目算の上でダリアという少女を登場させることにした。彼女も色々と複雑な身の上であるが、それは追々語られてゆくことになると思う。 帝都南岸に近いところに敷地がある「学院」は、元からあった修道会の敷地を中心に周囲の貴族や教会の敷地を接収して作られた教育機関である。組織こそ正教会系の聖アルカディウス修道会に所属してはいるものの、当の修道会がカタリナ教皇自身が首座を勤めていることもあって、実質的には教皇庁直属の教育機関であるといってもよい組織であった。 その「学院」の正門より入ってすぐにある馬車だまりに、次々と馬車が入ってくる。その多くが家紋入りの四頭だて馬車であり、貴族の子女を乗せているのが明らかである。「学院」の警備を担当する衛士達が、誘導用の旗を振り笛を吹き鳴らして、次々と馬車を車止めへと誘導してゆく。そして、御者や使用人に手伝わさせて重そうな旅行鞄を下ろし、両手で一生懸命になって持ち上げて建物の中へと消えてゆく。 そうした生徒らの中に、カーキ色の大きな肩掛け袋を下げ、軍用行李を両手で抱えるようにして運んでいる少女がいた。綺麗なまっすぐの赤毛を長く伸ばし、前髪を眉のあたりで切り揃え、耳から前は肩にかからぬ様に揃えている。彫が深く端正な容貌をした美しい少女であり、深紫色の瞳が鮮やかに輝いていた。だが、歯を食いしばって重たそうな荷物を運び込んでいる姿は、お世辞にも美少女とは呼びがたい。皆が手ごろな大きさの旅行鞄一つで学舎に入ってゆく中で、一人軍用行李を重たそうに運んでいれば、いやでも目立つ。 少女がえっちらおっちら女子寮の階段を登りきり、指定された部屋に荷物を運び込んだ時には、すっかり汗をかいてしまっていた。 「ふぅ、疲れたぁ」 この年頃の少女として、どちらかというと低めの声でそう呟いた彼女は、そのまま床に置いた軍用行李の上に腰を下ろし、大きな溜息をついて額の汗をハンケチでぬぐった。部屋には、衣装棚と寝台、そして机と椅子が二組づつ左右の壁側にしつらえてある。片側の机には既に本やその他の小物が並べられており、寝台にはシーツがぴんと張られ、毛布が綺麗に畳まれて置かれていた。 少女は、マットレスが敷かれ、毛布やシーツ、枕が重ねられているだけの寝台の横に軍用行李と肩掛け袋を下ろし、両肩と両腕をほぐしてから、両手を握って開いてこわばった指をゆっくりとほぐしていく。 「親父め、鍵なら旅行鞄にだってついているっての。そりゃこいつは頑丈で山程物が入るけどさ。女の細腕でそうそうこんなの持ち歩けるもんか。まあ、古兵の言うことは素直に聞いとくべきだから持ってきたけど」 あぐぁ、とか、どこからどうみても少女らしくない声を漏らしつつ、ぐりぐりと肩を腕を回しながら愚痴をもらした少女は、窓際に仁王立ちになって両腕を腰に当て、かかかかか、と盛大にやけっぱちな笑い声を上げた。 「いやあ。それでもコネじゃなく実力で「学院」に入学とはね。人間その気になって頑張れば、結構なんとかなるもんだ」 この「学院」の女子寮に入寮するにあたって新入生、まずは舎監の修道女や先輩から細々とした説明を受けることになっている。手元の懐中時計で食堂に集合する時間が近づいてきたことを確認すると、少女は、入学前に送付されてきた冊子に目を通して建物の案内図から大講堂の場所を探し出し、今いる寮の部屋からの経路を確認した。とりあえず荷物は置いておいたままでよいらしい。五分前には席についておくよう躾けられてきたし、初めての場所では予想されるよりも移動に時間がかかることも理解している彼女は、軍用行李の中から取り出した手鏡とブラシで手早く髪を整えてから部屋を出た。 そして、やはりというべきか、当然というべきか、右往左往している女生徒らの中を真っ直ぐ前を見てすたすたと歩いてゆく姿は、とても目立つものであり、次々と少女の後を女の子達がついてゆくことになる。 少女が大講堂に入ってから、彼女に続いて多くの新入生が入り口からあふれるかのように構内に入ってくる。大講堂にはすでに修道士や修道女、一期生の女生徒らが席についており、新入生が入ってくるのを待っていた。彼女らの視線が集まる中、少女はものおじもせずに最前列の中央側の椅子に座り、背筋を伸ばし、両手をひざの上に並べて、真っ直ぐ壇上に視線を向けた。この間、実に一度も先輩達や修道女らに視線を向けていない。なんというか、負けん気をそのまま鋳型で固めたかのような少女であった。 何人もの修道女や先輩らの祝辞と説明があり、最後に「学院」の学長であるエウリュネス導師の講話があってから、新入生は一人一人名前を呼ばれ、先輩に連れられて食堂へと移動することとなった。 「ダリア・コルネリウス・クルティヴァルシア」 「はい」 少女の名前が呼ばれたのは、二期生では最後から三人目であった。残っている一期生が、壇上で二期生の名前を読み上げている学年代表の女生徒と、最前列中央側に並んで座っている、背の高い黒髪で眼鏡の少女と、茶髪を三つ編みにした眼鏡の生徒の三人だけである。ぱっと見たところ、三人とも馬鹿には見えないことから、どうやら自分の立ち居地は決して悪くはなさそうだと当たりをつける。ちなみに残っている二期生の女生徒は、常人離れした美貌の異邦人が二人であった。案外二人とも古人かもしれない。そう想像したダリアは、茶髪で三つ編みの眼鏡の先輩に目礼して食堂へと案内されていった。 「初めまして。私はヒルダレイアといいます。これから一年よろしくお願いしますね」 「こちらこそ初めまして。私は、ダリア・コルネリウス・クルティヴァルシアと申します。こちらこそ色々と御世話をおかけするかと思いますが、よろしくご指導ご鞭撻の程、お願いいたします」 食堂でダリアに与えられた席は、正面に向かって一番右側の机の列の先頭から三番目であり、その先頭の椅子に学年代表のセレニア・シリヤスクス・セレニアが座っていることから、どうやら自分の席次は非常に良いということの確証が得られた。隣の二期生の少女らの自己紹介を聞いている限りでは、自分より上座の二人は、近衛騎士団で騎士見習いをやっている身らしい。すぐ右隣の十歳くらいの少女まで騎士としての訓練を受けていると知って、ダリアは、なんというか呆れるというかアホらしくなるというか、気張っていた自分が情けなくなった。あえていうならば、平和になったんだな、という感じであろうか。 「しっかりとしたご挨拶ですね。さすがは名門のご出身だけの事はあります」 「いえ、それほどでも」 コルネリウス一門はクルティヴァルシア侯爵家の長女であるダリアからすれば、一門名も家門名も持たぬ身で、二期生の中でこれだけ高い席次を得ているヒルダレイアの方が大したものと思える。なにせ、シリヤスクス・セレニウス家の姫とセルウィトス・セルトリウス家の姫の次なのだ。その下にずらりと名門名家が並ぶのを見れば、馬鹿にだってこの席次が家格やコネで決められているわけでは無い事が判るというものである。 「すでにお気づきのことでしょうけれども、この「学院」での評価は、学業の成績と、講師や修道女から観た評価と、学生の間での人望で決まります。一番重要なのは、やはり学業ですね。私はこの通り平民の出身ですが、勉学に励んだ結果こうしてあなたと同室になることになりました。二期生の学年代表は、色々と大変かと思いますが、がんばって下さいね」 「あ? 学年代表?」 「ええ。二期生の学年代表はあなたですよ、ダリアさん」 「……聞いていませんけれど?」 「そうでしょうね。本来ならば、昼食後貴女を学院長のところに連れてゆく予定だから。そこで言い渡される予定だったもの」 唖然としたダリアに向かって、左斜め前に座るセレニアが、視線を向けてきていた。 「あら、私、出すぎた真似をしてしまったかしら?」 「構わなくてよ。所詮は遅いか早いかでしかないもの」 「えー、なんか話がよく見えないんですけど、説明とかいいですか?」 突如くだけた口調になったダリアに、ぎょっとした表情になったヒルダレイアが、視線をセレニアの方に向けた。それを何事も無かったかのように流すと、一期生学年代表は、きっぱりとした口調で言い渡した。 「学院長にお聞きなさい。あと、口調が崩れていてよ」 「いやー、入試の成績は私が一番かー。がんばったからなぁ」 「……その口調が、あなたの素なのね」 「すいません。親父が兵隊なもんで、どうも移ったみたいです。とりあえず気にしないで頂けるとありがたいです」 学院長室で、学院長のエウリュネス導師から正式に二期生学年代表につく事を命じられたダリアは、ことのほか上機嫌で寮の自室へと戻ってきていた。同行していたヒルダレイアは、大口を開けてかかかと笑う後輩に、どう反応してよいのか判らない様子で態度を決めかねているようである。 「お父様は軍人でいらっしゃったの」 「まあ「内戦」が終わったんで、退役しましたけれど。戦傷を負ったんで、随分と前から屋敷で療養してました」 「そう。ご無事なようでなによりだわ」 「おかげさまで、なんとか土地屋敷は無事手元に残りましたし、ありがたいことです」 おかげで学費を心配することもないですし。 どっか、と、軍用行李の上に腰を下ろしたダリアに、ヒルダレイアは、なんとも困ったような表情で肯くしかできないでいた。
https://w.atwiki.jp/tousounokeitou/pages/508.html
『ギンガに旅立て、ミト王子』-2 作者・ユガミ博士 26 バードランド星・領主の館*** その夜、バルバンのアジトとなっている領主の館では酒盛りが行われていた。 その上座の位置にはバルバンの幹部である銃頭サンバッシュと闇商人ビズネラ が酒を飲んでいた。 サンバッシュ「もっと、酒だ。酒を持って来いー!。」 ビズネラ「サンバッシュさん、酒の飲みすぎは体の毒ですよ。」 サンバッシュ「うるせー!、今は飲みてー気分なんだよ。」 そう言って、サンバッシュは部下が持ってきた酒を飲んでいった。 サンバッシュ「(Gショッカーだが何だが知れねぇが、俺達がバルバンが 何で、こんな所にいなきゃいけねぇんだ?。船長の命令だから 仕方がねぇが、ギンガマンに借りを返せねぇとはよ・・・。)」 現在、バルバンはGショッカーのエドン国侵攻のためにこのバードランド星を 占領した。だが、サンバッシュは2度も自分達を地獄へと葬ったギンガマンに 復讐が出来ない事に苛立っていた。 ヤートット「ヤートヤートット。」 サンバッシュ「何!?、侵入者だと。」 ビズネラ「早くここに連れて来なさい。」 ヤートット「ヤートット。」 ヤートットは侵入者を連れてきた。その侵入者は背の低い老人とシルクハット をかぶった背の高い中年の男性の2人組みだった。 背の低い老人「こりゃー、離さんか!。このわしを誰だと思っている、 エドン国家老カミシモノカミ・ゴクロータ・アリフレテルド・ バルジャンじゃぞー!。貴様等ー、エドンの者ではないな。 この星で何をしておるー!。」 ビズネラ「エドン国の家老ですと。」 サンバッシュ「ほう・・・、そいつが本当なら後で利用できそうだな。 こいつらを牢屋にぶちこんどけ。」 バルジャン「何をー!、あっ、離せ。」 ジンナイ「旦那様、落ち着きましょうよ。」 バルジャン「こりゃー、ジンナイ。お前は何故、そういつものんきなんじゃ。」 バルジャンと従者のジンナイは牢屋へと連れて行かれた。 サンバッシュ「全く、やかましい爺さんだったな。おい、この星の女に 酌させろ。」 サンバッシュの命令の後、フードをかぶった女性達が酒盛りをしている ヤートット達を酌するのであった。 27 だが、その女性の1人がかなりの巨体で、顔を見てみるとひどい醜さだった。 おもわずヤートット達も・・・。 ヤートット「ヤート(オエー)。」 吐き気がした。お気づきの方もいるであろう。ここにいる女性はミト王子達 御一行の変装である。王子達がバルバンを引き付けている内に、J9が奴隷 となっているバードランド星の住民を逃がす算段となっている。 ビズネラ「ん・・・。何だか眠気が。」 ヤートットA「ヤ~~ト。」 ヤートットB「zzz。」 酒には睡眠薬が仕込まれており、バルバン達は次々と眠り始めた。そして、 全員眠りについたと確認するとミト王子達はフードを脱いだ。 スケさん「どうやら、全員眠ったようですな。」 ミト王子「うん、後はJ9が住民の皆を開放するだけだね。」 サンバッシュ「何を開放するって?。」 ミト王子御一行「!?」 ミト王子達は驚いた。眠っていたと思っていたサンバッシュが起きていたのである。 サンバッシュ「俺は色んな修羅場を今まで、くぐってきたんだ。眠り薬ぐらい 気づかない程馬鹿じゃあねぇぜ。テメェら、起きやがれー!。」 バン!バン! サンバッシュは銃を天井に向かって撃ち、その銃声で他のバルバン達は 目を覚ました。 サンバッシュ「侵入者だ。この場で処刑だー!。」 カクさん「王子、これは戦うしかありませんな。」 ミト王子「こうなっては仕方が無い。行くぞ、スケさん、カクさん、 シノブさん。」 スケさん&カクさん&シノブ「「「応!。」」」 ミト王子達は剣を取り出して、バルバンとの戦闘が始まった。 ミト王子「とりゃぁぁぁ。」 ヤートットA「ヤト~~~。」 カクさん「どすこ~い。」 ヤートットB「ヤートット。」 シノブ「ハッ!」 ヤートットC「ヤートット。」 ミト王子達の攻撃にヤートット達は次々と倒されていった。 サンバッシュ「喰らえ!。」 サンバッシュの銃弾がミト王子に向かって放たれた。 28 ズキューン だが、別方向からの銃弾がサンバッシュの銃弾の弾道を外した。 その銃弾が放たれた方向を向くと、そこにはJ9の面々が終結していた。 コルシザー「サンバッシュ様、あいつら脱走者を逃がした一味ですぜ。」 サンバッシュ「貴様らは、何者だー!。」 アイザック「宇宙の始末屋、コズモレンジャーJ9だ。」 お町「奴隷となっているバードランド星の住民はもう開放済みよ。」 キッド「後はあんた等の始末だけさ。」 言うやいなや、J9はそれぞれの武器で、コルシザーを攻撃した。 キッド「これは対エイリアン用の銃弾だ。受け取りな。」 お町「そして、これは対エイリアン用の小型爆弾よ。」 ズキューン! ドカーン! コルシザー「ぐわぁぁぁ。」 コルシザーは倒れた。 サンバッシュ「コルシザー!、テメェ等よくも・・・。」 ミト王子「さぁ、おとなしく降参しろ。」 サンバッシュ「クッ・・・『サンバッシュさん』ビズネラか。」 いつのまにか消えていたビズネラからサンバッシュに通信が入った。 ビズネラ『例の物の準備が整いました。いつでも出撃できます。』 サンバッシュ「良し。」 そう言うとサンバッシュは隠し通路へと消えていった。一方、コルシザー の方も再び立ち上がり、懐からボトルを取り出した。 コルシザー「バルバエキス!。」 コルシザーはボトルの蓋を開けて、中に入っているバルバエキスを飲んだ。 バルバエキスはバルバンの魔人達が持つ巨大化ができる液体である。 ただし、服用した者は自らの命を縮めるという副作用があるため、最後の 手段なのである。 コルシザー「効くぜー。」 アイザック「いかん、皆すぐにここを離れるんだ。」 コルシザーは巨大化し、建物は崩れていった。ミト王子達とJ9は アイザックの指示によって何とか事なきを得た。 29 スケさん「王子、あれを。」 ミト王子「ん!?。」 スケさんの指差す方には宇宙戦艦が上空を浮かんでいた。そして、その戦艦 から一体の人型ロボットが現れた。そのロボットの姿は何と、サンバッシュ そっくりの姿だった。 サンバッシュ「どうだ、ビズネラに特別に作らせた俺専用の戦闘ロボット、 その名もサンバッシュロボだ。本当はギンガマン相手に使う つもりだったが、試運転に相手させてやるぜ。」 スケさん「王子。」 ミト王子「うん、クロス・ソード。」 アイザック「ボウィー、ブライサンダーを寄越してくれ。」 ボウィー『OK。ちょっと待ってね。」 ミト王子は腰に下げてある剣を上に向けて、宇宙船POUH号に搭載されて ているエースレッダー、コバルダー、アオイダーを呼び出し、アイザックは ブライサンダーを呼び出し、J9は中へ乗り込んだ。 スケさん「控え、控え、控えおろー。こちらにおわすお方こそ、 トクガー16世、エドワード・ミト王子なるぞ。」 ビズネラ「何ですと!?。」 サンバッシュ「あの小僧が。ウソならもっとましなウソをつくんだなぁ。」 ミト王子「ならば、しかとその目で見よ。行くぞ、スケさん」 スケさん「応。」 ミト王子「カクさん。」 カクさん「応。」 ミト王子「クロス・トライアングル。」 ミト王子達の乗る3機のロボットはそれぞれ変形を開始した。エースレッダーは 頭部・胸部へ、アオイダーは両腕・腹・腰へ、コバルダーは両足となった。 その3機が縦に合体していき、エドン国が誇る最強のロボット、ダイオージャと なった。そして、胸のエドン国王家の証であるエンブレムが光輝いた。 コルシザー「ははー。」 サンバッシュ「馬鹿か、エドン国の住民じゃねぇだろー!。」 コルシザー「あ、つい・・・。スイマセン。」 思わずコルシザーは頭を伏せてしまい、サンバッシュに起こられる。 アイザック「我々も行くぞ。ブライシンクロンマキシムだ。」 アイザックの掛け声に、ブライサンダーはシンクロン原理によって巨大化し、 戦闘機ブライスターにさらに変形して、スーパーロボット・ブライガーと なった。ブライガーはダイオージャの隣へと降り立ち、サンバッシュ達と 睨み合う。この戦いの勝者は如何に。 30 ○ミト王子御一行→J9と協力して、奴隷となったバードランド星の住民を 開放。ダイオージャに乗り込む。 ○コズモレンジャーJ9→ミト王子御一行と協力して、バードランド星の 住民を解放し、ブライガーに乗り込む。 ○バルジャン・ジンナイ→バルバンに捕まる。 ●銃頭サンバッシュ→専用ロボット・サンバッシュロボに乗り込む。 ●闇商人ビズネラ→サンバッシュロボを用意する。 ●コルシザー→J9にやられた後、バルバエキスを飲み、巨大化する。 【今回の新登場】 ○バルジャン(最強ロボダイオージャ) エドン国の家老で王子の世話役を勤める元気なご老人。口うるさいのが玉にキズ。 本名は“カミシモノカミ・ゴクロータ・アリフレテルド・バルジャン”。 ○ジンナイ(最強ロボダイオージャ) バルジャン付きの従者。宇宙船の操縦者。 ●銃頭サンバッシュ(星獣戦隊ギンガマン) サンバッシュ魔人団のリーダー。銃とバイクと愛用する。部下共々、ノリと 思いつきで行動する。調子の良い性格をしている。 ●闇商人ビズネラ(星獣戦隊ギンガマン) 協力な武器を作って売り歩く武器商人。右腕に光線中を仕組んでいて、バルバ エキス入りの弾丸を魔人に撃ち込み、巨大化させる為の巨大化銃なるものを もっている。星獣を鋼星獣に改造した張本人。バットバスとは旧知の仲で 財産が没収された後、彼の作戦参謀となったが終盤に見限られる。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/919.html
翌日、ワルドたち一行は山を登り、船に乗り込んだ。途中、ンドゥールは山 の港、空飛ぶ船、浮遊大陸アルビオンに驚いていたが、まあそういうことな のだろうと一人納得していた。料金はキュルケとタバサ、のおかげで予定以 上の額を払うことになったが問題はなかったようだ。 六人は一室を借り切って、これからのことを話し合った。 「まずアルビオンに着いてからだが、真正面から城へ入ることは不可能だ」 「でしょうね。いくらこっちがトリステインからのものって主張しても追い 返されちゃうわ。もしくはその場で切り捨てられるなんてことも」 「か、勘弁してくれよ」 ギーシュがぶるると身震いした。 「だから、僕たちがするのは――」 「伏せろ!」 ンドゥールがワルドの声を遮って叫んだ。直後、船体を大きな振動が襲った。 「な、なんなの!?」 「どうやら賊のようだ。いまのは砲撃を受けたらしい。こんな空でも出るの だな」 「なに感心してんのよ! ワルド、撃退しましょう!」 ルイズがそう言うが、ワルドは首を横に振った。 「よしておこう。乗り込んできているものたちは倒せても、砲撃をなんども 食らったらこの船がもたない。それに船員や他の乗客の命もある。さすがに 守りきることはできないよ」 その言葉にルイズは渋々とだが納得した。 六人が黙って待っていると、廊下を乱暴に歩く足音が近づいてきて、彼らの 部屋の扉が開かれた。 「おや、貴族さまがこんなにいるじゃねえか。こりゃ身代金がたんまりもら えそうだ」 六人は空賊の船に連行されていった。ワルドやルイズなどメイジは杖を取り 上げられ、ンドゥールは剣と杖を取り上げられた。彼はその身なりと瞳から メイジとは判断されなかったが、念のためというらしい。 船倉にぶちこまれると、見張りに聴こえぬようにルイズは言った。 「さあ、脱出しましょう」 「どうやってだい?」 ワルドが尋ねると、ルイズはンドゥールに言った。 「できるでしょう?」 使い魔に尋ねる。水を操ることができるのだ。水筒は奪われていない。なら ば見張りを倒すことなど造作もない。しかしンドゥールは断った。 「できるが、する必要はない」 「……なんでよ」 ルイズが問う。彼女だけでなくワルド、キュルケやギーシュも疑問を持った 瞳を向けた。タバサは興味なさそうにしている。 ンドゥールは答えず、扉に近寄っていき人を呼んだ。頭に鉢巻をした男がや ってくる。 「なんだよ。うっせえな」 「船長と話がしたい」 「はあ? んなのできるわけねえだろうが。船長はお忙しいんだよ」 「それでは、船長に扮しているアルビオン王国のウェールズ皇太子と話がし たい」 しばしの間、静寂に包まれた。 「なんだってえ!」 「ちょっとそれ本当なの!?」 「あらあ、ルイズったらわたしのダーリンの言葉を疑うの?」 「疑うって、そりゃ嘘とかつく男じゃないけど……て、その前になに人の使 い魔をそんな言葉で呼んでるのよ!」 「あらやだ嫉妬?」 「嫉妬って、そんなわけないでしょ!」 「だったら別にどうだっていいじゃないのよ」 「よくないわよ!」 「静かに!」 ぎゃあぎゃあ騒ぐルイズたちをワルドが一喝する。ようやくそれで静けさが 舞い戻ってきた。 「ンドゥール、それは本当なのかい?」 「本当だ。あちこちで交わされている会話から推測される。ちなみにこの見 張りの男はドレンというらしい」 男はぎょっと腰を抜かした。 その反応からそれが事実だと知れ渡った。 「なら、君」 ワルドは見張りを呼ぶ。 「こちらにおわすラ・ヴァリエール嬢はトリステイン女王陛下じきじきに任 命されたアルビオン王室への大使だ。密書を言付かっている」 ワルドがそういうとルイズは懐に隠していた手紙を出してきた。印にトリス テイン王家の紋章が刻まれている。見るものが見れば一目で本物とわかるも のだ。見張りは、すぐに飛び出していった。 しばらくするとその見張りがまた走ってもどってきた。彼は少し呼吸を整え て、こう言った。 「頭がお呼び、だ」 六人は男に案内されて船倉を出て行った。ギーシュは杖のないンドゥールの 手を取って歩いていく。ルイズは極度の緊張のためか彼のことには頭が回ら なかった。キュルケもだ。 (結構薄情じゃないか?) そう思いながらも彼は文句を言わなかった。 歩いていくと窓から甲板が見えた。そこにはワルドのグリフォン、それとタ バサのシルフィードにキュルケのフレイム、彼のヴェルダンデもいた。ほっ としたところ、視界の隅に土の塊が見えた。 (なんだあれは) そう思ったがすぐにそれを記憶の中から消してしまう。 船長室は豪華なディナーテーブルがあった。その上座に派手な格好をした船 長らしき人物が先に水晶が付いた杖をいじくっていた。なるほど、メイジで はある。だがとても皇太子には見えない。ギーシュはそう思った。 ワルドは両脇に立っている護衛らしき男たちと、船長をじっと見る。鷲のよ うに鋭い目だ。 「……上手い変装ですね。ウェールズ皇太子殿」 「ばれてしまっては下手の部類に入るだろ」 船長はため息をついた。そして眼帯やかつら、ひげをあっさり外した。 ギーシュ、彼だけでなくキュルケにルイズも驚いた。先ほどの野暮ったい男 が金髪の美青年になったのだ。 彼は居住まいを正し、堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 彼はにこりと笑って六人に席を勧めた。 「さて、それでは大使殿に用件を聞きたいところだが、その前に君たちのこ とを教えてはくれまいか?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊、隊長、ワルド子爵」 まずはそうワルドが名乗った。そして次々とルイズたちが名乗っていく。タ バサはキュルケが紹介した。 「そこの盲目の彼は、」 「わ、私の使い魔であられます。名はンドゥールです」 「ほう。船倉に閉じ込められながらも船員の会話を聞き取るとは、すばらし い耳だ。しかし、本当にそうなのか?」 「というと?」 ンドゥールが尋ねる。 「なに。どこかより我々が空賊に身をやつしているという話を聴いたのでは ないかと気になったのだ。王家の関係者でありながら貴族に寝返ったものも いるのでな」 「つまり、俺が間諜ではないかと疑っている。こういうことか?」 「そのとおりだ」 「ち、違います! こいつは本当にただの使い魔です!」 ルイズが慌てて庇うがウェールズに睨まれると言葉が止まってしまった。美 形の好青年であるが、そこは最後の皇太子。誇り高き獣を思わせる雰囲気を 身に纏っている。 「それで、どうなのかね?」 「違うといったところで信じるのか?」 「いや、すまない。それはできない」 鳥肌が立ってしまいそうな威圧感。ギーシュはそれを向けられていないにも かかわらず、身体の震えが止まらなかった。仮に彼が対象であれば無実であ ろうと首を縦に振ってしまうだろう。 ンドゥールは迷っていたが、やがて名案でも思いついたのか人払いを頼んだ。 とはいえそれはルイズたちだけをである。 「それでは出て行ってくれ」 五人はすぐに追い出された。 部屋の外に出てギーシュはまず。ルイズに尋ねた。 「彼は何をする気なんだい?」 「知らないわ」 ルイズは心配なのか落ち着かなく何度も船長室の扉を見る。 中からは怒鳴り声やら何やらが聴こえてくる。そばに見張りの船員がいなけ れば開けてしまっていることだろう。 しばらくし、扉が中から開けられた。ンドゥールだった。 「無実は証明できた」 「そう。よかったわ。でもなにやったのよ」 「個人的秘密だ」 六人は再び席に着く。ウェールズはえらく疲れた様子で深呼吸を繰り返して いる。一体なにをしたんだとギーシュは背筋が寒くなった。 ウェールズが気を取り直したのか、衣服を正してルイズを見た。 「それで、密書とは?」 ルイズが懐から手紙を取り出した。それを持って恭しく近づいていくが途中 で立ち止まりこう尋ねた。 「その前にウェールズさま、影だということはありませんか?」 「ああ違うが、こっちが最初に疑ったからな、証拠をお見せしよう」 彼は自分の薬指に光る宝石を外してルイズの指にある宝石に近づけた。二つ の宝石は共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹。君のそれはトリステインに伝 わる水のルビーだろ。これは風のルビーだ」 「大変失礼をばいたしました」 ルイズは一礼をして手紙を差し出した。 ギーシュはこれで任がほとんど終わったのだなと思った。あとは皇太子より 手紙をかえしてもらい、帰るだけだ。襲撃されたりすることもあったがほと んど何事もなく終わったのだ。思い返せば、何もしなかったなあ。ギーシュ はぼんやりと思った。 「事情は了解した。あの手紙はなにより大事なものだが姫の望みは私の望み。 しかし、今この場にはない。面倒だがニューカッスルの城にまでご足労願い たい」 ギーシュはまだ手柄を立てられるという喜びとまだ終わらないのかという残 念と二つの感情に気づいた。矛盾するそれらはこれから先、彼がどういった 方向に進むかを決める標になる。 ただの貴族か、ただじゃない貴族か。
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/543.html
886 ねえたんファッション9 sage 2008/10/26(日) 23 33 33 ID A3nu4gw2 「たまには畳でお茶にしましょうか」との未来の案で、政人は和室にぽつんと正座していた。 自宅でかしこまって正座する必要はないが、人間は危機に直面すると筋肉が緊張するもの。足を伸ばす気にならなかった。 政人は、家に上がった時点で重大な事を思い出していたのだ。 本日両親は帰りが遅い。夜になるまであの黒髪未来と二人きりである。 (恐ろしい…) 机を挟んで両側に置かれた二つの座布団の、どちらが上座か分からなかった政人だが、とりあえず奥の壁側に座っていた。 すぐ逃げられる襖側の席をあえてキープしなかったのは、これからお茶を運んで来る未来を一応気遣ったのだ。この方がお盆や湯飲みが置きやすいだろう。 未来を待つ間、政人はチラチラ部屋を見渡す。 普段はあまり住人が出入りしない和室なのに、今日は政人を待ち受けるかのようにセッティングされている。それが余計に怖い。 机の端には、硝子の小さな一輪挿しに野の花が飾られ、ナチュラルライフとかロハスとか、インテリア雑誌で見る単語が頭に浮かんだ。 この家で唯一生花をいじりそうな人間は政人の母だが、この一輪挿しは多分、未来が用意したんだろうなーと思う。 (何だ…未来ちゃんに一体何が起きてるんだ…) 887 ねえたんファッション10 sage 2008/10/26(日) 23 34 26 ID A3nu4gw2 やがて、襖の向こうからしずしずと進むほのかな足音が聞こえて来た。 (来た!)政人はビシッと背筋を伸ばす。 人の気配は襖の前でぴたりと止まった。しかしその後、襖が開かれるアクションが起こらない。 怪訝に思って耳をすませると襖の向こうから「どうしよう…」「開けられない…」と困った様に呟く声がする。 ああ、と政人は思い至った。 重いお盆で両手が塞がっているから襖を開けられない、と。 こちらから開けてやろうと政人は立ち上がるが、「あ、置けばいいのか」と納得する未来の独り言と共にガチャガチャとお盆を床に降ろす音が聞こえた。 政人も慌てて腰を降ろす。 ガサガサ。 おそらく身だしなみを今一度整えている布擦れの音がした後、未来から声が掛けられた。 「政人、入るわよ」 まあるく空気を温めるような穏やかな声。「は、はい」と政人は上擦った声で返事をする。 スーッと音を立てずに襖が開かれ、膝を揃えて廊下に座る彼女の姿が露になる。 お、絵になるぞ。旅館の仲居さんみたいだ。 未来は傍らに置いていたお盆を持つと、少々ぎこちない動作で立ち上がった。 そろそろと鴨居を跨ぎ、滑りやすいソックスで畳に軽く踏ん張るように、擦り足で机へ寄って来る。 888 ねえたんファッション11 sage 2008/10/26(日) 23 35 14 ID A3nu4gw2 (う…不慣れだな) そういえば未来がお茶を淹れている所など見た事がない。 毎日ペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいる(どピンクのニットワンピでソファーの上であぐらをかいて)か、 政人の母が出したお茶をいただきまーすと飲んでいる(チュニックとショートパンツの下着みたいな姿で)かだ。 ―これは、無理だろう。 お盆の上の茶器を凝視しプルプル歩く姿はとても危なっかしい。 穿き慣れぬロングスカートがバサバサ足にまとい付く様を見た瞬間、政人は思わず腰を浮かせた。 未来はそれに気付き、強ばった顔のまま微かに唇を動かした。 「大丈夫…」そう囁いて政人を制する。 これは女の戦いだから男は手出し無用よ。――多分、そんな感じ。 男子な政人はおずおずと正座に戻るしかない。 カタタカチャチャ… 震えるお盆の上で器が細かく踊り、緊張の張り巡らされた和室に微かな音が響く。 二人はゴクリと喉を鳴らし、息を止めた。 じわじわと腰を下ろして行く未来。カチャリと、無事お盆は机に接地された。 政人も未来もどっと安堵の息をつく。 「待たせてごめんね」 襖を閉めて仕切り直す未来に、既にクタッと気疲れしてしまった政人は曖昧に頷いた。 889 ねえたんファッション12 sage 2008/10/26(日) 23 35 58 ID A3nu4gw2 「どうしたの、正座なんかして。楽にしたら?」 「や、その…ねえたんあのっ」 「あら、お姉さんだってば。ふふ」 嗚呼。最早未来はねえたんではなくなってしまったのだろうか。 異次元に旅立った姉に一抹の寂しさを覚えつつ、政人はあぐらの形に足を崩した。 お姉さん・未来はしゃなりと正座するとお盆の上から必要な物を机に広げ出す。 空の急須と二つの湯飲み。そして、中に熱湯が入っているらしい鉉の付いた重そうな鉄瓶。可愛い千代紙柄の小さな茶筒。 動く度に彼女の小さな顔に真っ直ぐな髪がサラサラと落ちる。 その様子は、清楚で綺麗な筈。 けれど黒髪好きの政人はその光景に反応できなかった。 (うう~ん…) 非常に残念な事に、未来は壊滅的にこの装いが似合っていなかった。 浅草に観光に来た外人さんがはっぴを羽織っているようなコスプレ感。 顔に出すのは憚られるため、政人は胸の中でウヌヌと首を捻った。 ハーフっぽい華やかな顔立ちに重い髪色が浮いてしまい、切って貼った感が否めない。 こういう髪型の女性アーティストも居るが、淡いメイクと古風な服はその流行り方面から逆走している。 清楚黒髪にもお洒落黒髪にもなれていない…不思議な未来さん。 890 ねえたんファッション13 sage 2008/10/26(日) 23 36 43 ID A3nu4gw2 さらにCカップ弱で極スレンダーなボディは、ゆったりしたブラウスを着ると体の凹凸がすっぽり隠れてしまう。 つまり、胸がペッタンコ。 (嫌ぁあ…!) えもいえぬ喪失感に政人は嘆いた。 普段の未来の美貌は、静寂を切り裂いて走る暴走族のように派手で、ある種威圧的な所が有った。 それが、無理矢理更生させられたように大人しくこぢんまりとしてしまっている。 これは良いのか、悪いのか。 政人はモゴモゴと心配そうに未来を見守った。 しかし、しばらくもしない内、政人の表情は変わっていった。 未来の四本の指が揃えられ、鉄瓶の鉉にゆるりと絡まる。 手は鉄の黒に添えれば懍と眩しく、白玉のようだ。 もう片手の指先が鉉を持つ手の甲に置かれると、重く熱した瓶は静かに吊るし上げられた。 たったそれだけの所作に政人は目を奪われる。 綺麗だ。 あえか、と言うのかもしれない。 夫婦茶碗のような二つの湯呑みにまっさらな湯がトクトクと注がれ、柔らかに茶器の温度を暖める。 木製の茶匙が鶯色の葉を急須の茶漉しに落としてゆく。 手捌きは先程とは一変して危なげない。 ただ、動作の所々に緊張や固さが見られ、練習した動きを必死でなぞっているような初々しさがある。 891 ねえたんファッション14 sage 2008/10/26(日) 23 40 01 ID A3nu4gw2 政人は自室に籠りっきりだった未来を思い出した。 (もしかして…部屋でお茶の練習してた?) くらり。急須から上がる湯気に当てられたのか胸の奥が熱くなる。 何でこんな事をと未来に聞きたいが、聞いたら未来の努力が台無しになってしまう気がする。 未来は今この和室を舞台に、大和撫子のお姉さんを演じているのだ。 この髪も服も全て、たった一人の観客に見てもらうために用意して。 ―これが本当の茶番劇。 いやいやそんな風に言ったら悪いので、ショーだと思う事にしよう。 赤い顔の政人は、頑張る姉を黙って見つめた。 日替わりで指先を飾るネイルチップを脱いだ裸の爪。 ブレスレットもお気に入りの指輪も無いただの手。 クリアマスカラの長い睫毛は雨垂れを受けたような艶を持ち、頬に細く影を落とす。 睫毛に触れたら柔らかそうだなんて妙な考えが唐突に浮かぶ、政人は慌てて未来の手元に目を反らした。 トポトポトポ… しんと静まり帰った部屋の中、透き通る淡い翠がキラキラと湯呑みに注がれた。 最後の一雫まできっちり注ぎ込み、未来はホッと力を抜く。 「…っ!お疲れさま!」 万感の思いでパチパチと拍手する政人にピースで応えかけ、未来はハッと手を引っ込めた。 892 ねえたんファッション15 sage 2008/10/26(日) 23 40 59 ID A3nu4gw2 「大袈裟ね」 そう言うが、ここまで大袈裟にお茶をする人間もそうそう居ない。 徐々に出て来たボロには突っ込まず、政人は勧められた湯呑みに手を伸ばした。 「いただきます」 一口含めばふくよかな香りと甘味が一杯に広がる。苦味やエグさは一切ない。 高級な茶葉? いや、未来が丁寧に出してくれたお茶なら百円均一のティーバックでも絶対美味だ。 少なくとも自分はそう感じると、政人は思う。 「オイシイです」 「本当?」 「うん。すっごい美味しい」 素直に告げると、未来はふわっと満面の笑みになる。 (あ、いつものねえたんの顔) その笑顔につられて浮かんだ疑問を、政人はついそのまま口にした。 「お姉さん、さ」 「うん?」 「明日からのモデルの仕事どうするの」 微かに、未来の笑顔が凍る。 ほんの一呼吸の間を置いた後、未来は目を反らして答えた。 「仕事は続けるわよ」 「でもその頭じゃ…」 「ヘアメイクをすればいいし、ウィッグがあるわ」 ―あれ。 政人は頭の奥が冷えていった。手に持った湯呑みの熱もスウと消えていく。 微かに眉を寄せ、政人は未来の顔をしっかり見た。 「ギャル、辞めるの?」 黒髪の彼女から、完全に笑顔が消えた。 続く
https://w.atwiki.jp/crosstherubicon621/pages/126.html
もう恐るるな、灼熱の太陽を、怒り厳しき冬の嵐を。 ―――ウィリアム・シェイクスピア『シンベリン』 おはよう、こんにちは、さようなら、おやすみなさい。 目覚めは陽光とベッドの匂い、昼はオリーブの緑と枝がしなる様と風があり、夕日は山並みを燃やし、柔らかなベッドと温かい家がある。 ピレネーの山並みと草花の香り、摘みたてのレモンが鼻をくすぐり、鳥と虫は天と地を気楽に生きている。素敵な素敵な、素晴らしき世界。 たとえそれが試験管の中の夢幻であったとしても、その夢幻は他でもない自分のもの。それは他の、誰のものでもないものだ。 懐かしい記憶を思い起こして自分の感情を悪戯に擽りながら、ヴァージニアはバルデスの持ってきた書類に署名した。 「部隊運用管理は変わらずあなたに任せるわ、バルデス。お願いね?」 「多忙は慣れています。実働に関する現場指揮はスキャットバックが上手くやるでしょうから、問題ありません」 「彼のことは信頼してるのね」 「能力はある男です。手元に置いておいて損はありません」 「うんうん、時間が取れたら一人一人と会ってみたいものね」 オフィステーブルの表面をそっと指先で撫でながらヴァージニアが言うと、バルデスは唇をへの字に曲げる。 「今のは、ご冗談と受け取っておきましょう」 「あら、結構本気で言ってみたのだけれど。そう蔑ろにされちゃうと悲しいわね」 「失礼ながら直言をすると―――」 すぅっと深く息を吸いながら、バルデスは上司に対して眉をひそめ、ぐっと顎を引いて目を細めた。 「―――私は、あなたほど強気ではいられない。そのような些事でルシエンテスに付け入る隙を作りたくないのだ」 目の前に立つ男の言葉に、ヴァージニアは微笑む。 笑っている場合ではないというのは、アーキバスに所属していて内部事情に興味がある者なら、誰だって知りえるはずだ。 アーキバス本社と先進開発局の政治対立は、惑星封鎖機構から一部C兵器技術の開示があったことから始まっている。それまでの生体CPU化技術と無人機体技術が向上し、先進開発局とファクトリーの技術的な向上心と好奇心、そして野心をも目覚めさせた。先進開発局はそのコア理論への揺り戻しな姿勢から脱却し、今やルシエンテスに率いられた一勢力として動き始めている。 そうした存在に対処するために、ヴァージニアもバルデスを介して懲罰部隊という手駒を保持しているのだ。ルシエンテスがUNAC部隊を有しているのと同じように。 そんな情勢の真っただ中の、その中心に居るにも拘らず、ヴァージニアは変わらずに微笑んでいる。 「ありがとう、バルデス。私、そういう直言大好きよ」 「直言はしかるべき時になされるべきであり、常用されるべきではない。仕込みの短刀は隠されてこそ意味と衝撃を持つものだ」 「そうかもしれないわね。ああ、虚飾に塗れた上辺を虚しいと思っても大事にする、そんなあなたも大好きよ」 「それも、ご冗談と受け取っておきます」 「あらあら。まったくつれないのね、冗談なんかじゃないのに」 「それこそ、ご冗談でしょう」 肩をすくめ、バルデスは署名された書類を手に取り、そのまま背を向けてオフィスから出て行った。 ヴァージニアは椅子の背もたれにぐっと体重を預けつつ、閉じていく扉に向かって微笑みながら口添える。 「冗談じゃないわ、私のウォルシンガム」 オフィステーブルの上に置かれた時計が鳴る。 次の予定がヴァージニアにはあった。 昼の時間帯、大抵の人間が食事を取りに行く中、今日のヴァージニアは自室に客人を呼んで楽しい時間を過ごす。 ヴァージニアの予想通り、籠一杯の御菓子とワンホールのチーズケーキ、陶磁器のカップとソーサー、それと瓶入りの蜂蜜を見た瞬間のジュスマイヤーの顔は見ものだった。 しばらくその顔を眺めていたい感情がないではなかったが、ヴァージニアはすぐに二つのカップにレモンティーを注いで蜂蜜を垂らし、それを匙でかき混ぜる。茶は温かい方が美味い。 「なんだか来るたびに持て成しが豪華になってない? あとで請求書送ってきても知らん顔して燃やすわよ?」 「実はうちの部隊には便利な妖精さんみたいな人がいてね。その人はペイロード管理と重心調整のプロなんですって」 「……バーンズのこと言ってるんならマジで笑えないわ。あのキャラで有能とかウザ過ぎるでしょ」 ダルそうな顔をしつつジュスマイヤーは用意された席に座り、とりあえず籠の中の御菓子を鷲掴みにしてソーサーの周りに散らした。 キラキラと金色に光る包み、袋越しにもシナモンの香りが漂うスティック状の菓子、色とりどりの焼き菓子が入った小包。 どれもこれもルビコンでは通常見ることすら叶わない代物だ。こうした嗜好品は星外企業由来のものだと相場が決まっている。 武器兵器に続いてこんなものまで持ち込んでくるなんて大したものだ、とジュスマイヤーが小包を開けて水色の焼き菓子―――マカロンを一つ口に入れると、まあ腹立たしいことに美味い。 気味の悪い色付けがされているのに口の中に広がる感触は柔らかく、サクッとしていながらもしっとりとした味わいを感じるものだ。実に腹立たしい。 「面白くて良い人なのよ、彼」 そんなジュスマイヤーの表情の変化を見て取れるヴァージニアは、レモンティーの香りを楽しみながらにこやかに言った。 ジュスマイヤーはマカロンを二つ三つを食べつつ、思った。 三枚目なキャラと見た目をした自称便利な男が本当に便利な男であることが、なぜここまでイラっとするのだろうか。 とりあえず、腹立たしくイラっとしたのでジュスマイヤーは口の中のものを飲み込み、残りをレモンティーで流し込む。 ―――これも美味いのだ。悔しいことに。 「面白くて良い人でも肌身を重ねるくらい親密になれるかは別なの。ヴァージニアには分からないわよね、ヴァージニアなんだもの」 鼻を鳴らしながらそう言ってやっても、ヴァージニアは嫌そうな顔をしない。むしろ、楽しそうに微笑む。 余裕たっぷりと言うか、自信満々だ。懐が深いというレベルではない。底が見えない。優し気で、怒らず威圧せず、いつも静かに笑っている。 「あらあら、手厳しいわ。でもそうね、たしかに私は肉体関係と親密さの繋がりがよく分からないかもしれないわね」 「女王陛下におかれましては、たとえ性的知識と経験が豊富でもそのまんまな気がいたしますわよ。ホント、子どもの御守を押し付けられたベビーシッターの気持ちとか考えてみたら」 「でもベビーシッターは子供の御守をするのがお仕事よね」 「つい数か月前まで銃向けあってたとこの女にそれ頼む感性が分かんないっての」 「冷静に考えれば分かるはずよ。だって、あなたはあの子も私も殺せないでしょ?」 「………あんたら二人ってマジで腹立つわね」 「あとバルデスとヘイレンだとあの子には不足だもの。私も立場で縛りが多いし、何よりあの子は厳密にはウチの会社のものじゃないしね」 そう言いながらヴァージニアはテーブルナイフでチーズケーキを切り分けていき、皿にそれを乗せてジュスマイヤーの前に置いた。 黄色い飾り気のないケーキの一切れにフォークを通して、その欠片を口に運ぶと、しっとりとした感触と味わいがジュスマイヤーの口に残った。 「だからあなたなのよ、ジュスマイヤー。あの子の、イレヴンの調子はどう?」 「狼の檻に恐竜の幼体を置いておいて、その恐竜の調子はどうって聞くのヤバいわよ。相変わらずよ、鼻が利いて勘も良くて、考えてないのにどこが上座か理解してますって感じ」 「調子が良さそうで何よりだわ。―――でもそうね、イレヴンが恐竜なら私はなんなのか、ちょっと興味あるわね」 「あなたはライオンよ。じっと座ってこっちを見てるやつ」 「良いわね、ライオン。勇敢さや権力の象徴よ」 「獅子に見つめられる狼の気持ちにもなってみなさいよ。ったく」 「大丈夫よ。私は狼の毛皮に懸賞金なんて掛けないから」 ふふふ、と上機嫌そうに笑うヴァージニアを努めて無視して、ジュスマイヤーは目の前のケーキと御菓子と茶を楽しむ。 いくら皮肉を言っても食ってかかってもこの女帝は自分の座った玉座から降りないのは、もう分かっている。そこもイレヴンと似ている点だ。出て行け、どっかへ行けと言ったところで、この二人はこちらをじっと見つめて言うに決まっている。私が嫌ならお前が出て行けばいい、だとかなんとか。 とはいえ、ヴァージニアはイレヴンよりも経験と知識がある。見透かされているのは腹立たしいが、ヴァージニアはその上で人間との触れ合いを、人間的な機微を楽しんでいる節がある。それはともすればポアンカレ気味な能天気さにも見えるが、彼女はそうした性善説なものは信じていない。人間讃歌を信じている。ジュスマイヤーにとって非常にムカつくことに、ヴァージニアは人間を愛しているのだ。 じゃれたがるライオンを前にしても美味いものは美味い。甘いものは甘い。食べて飲むのを挟みながらジュスマイヤーはヴァージニアと他愛のない皮肉の応酬を繰り返す。 あんまりにもそれが続くので、食べることに集中したくなったジュスマイヤーは楽しそうな顔のヴァージニアに言った。 「今日のアンタ、なんか饒舌じゃない?」 「そうでしょ? この後、ルシエンテスと打ち合わせがあるの」 「あぁ………」 それを聞いた瞬間だけ、さすがにジュスマイヤーもヴァージニアに同情した。 本当に同情できているのかなど、分かるはずもなかったが。 NEXT 関連項目 V.I ヴァージニア V.VII バルデス V.VI ジュスマイヤー 言及のみ スキャットバック V.VIII バーンズ V.III ヘイレン V.V イレヴン V.II ルシエンテス 投稿者 狛犬えるす