約 454,636 件
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/34.html
「これがゴンゲイシカズムの遺跡なんだね。えっと――」 「なのはには無理だと思うよ。翻訳」 「ユーノくん酷っどぉい!」 無限書庫司書長、ユーノ・スクライアの趣味は遺跡調査である。ただし昔のように勝手 気ままに一人での調査というのはしていない。いや、できなくなった。 無限書庫はある程度運用が可能になったとはいえ、その中核であるユーノを失うことは 管理局にとっては大きな痛手となる。とはいえ、今も考古学会で活躍するユーノに遺跡の 調査を禁じさせることもできない。そのため、折衷案として遺跡の調査には毎回局員の護 衛をつけることが慣例となっていた。 「ピラミッドみたい~」 「そうだね。魔法文明が発達した世界の遺跡は人工的なのが多いけど、ここの遺跡は人工 物が使われて無いから、地球の遺跡と似てるんだと思うよ」 なのはがユーノの護衛に就くのは、実は初めてのことだった。裏で相当の暗躍があった ことは間違いないが、なのははそんなことに気づいてはいない。おかしいなとは思っても、 六課ではなかった幼馴染のユーノとの仕事ができることに頭がいって、まあそんなことも あるだろうと勝手に納得していた。 ユーノは当然気づいていたが、断る理由もなくそれを受けていた。 「広いね~」 「この手の大回廊は色々な世界にもあるけど、ここのは特に大きいかな」 サーチにもさしたる障害は感知されず、ユーノはすっかり解説役になっていた。なのは もこうした遺跡巡りを経験したことはなく、ユーノの解説にすっかり聞き入っている。 そうこうするうちに最深部に着いたが、祭壇にも目ぼしいものもなく、なのはは若干ガ ッカリしていた。 「うう~、宝石とか黄金とか、少しだけ期待してたのに……」 「トラップもなかったしね。中に何も残ってないことは予想してたけど。うん……?」 祭壇の下に刻まれた文字に気づいたユーノが、食い入るようにその文字を見つめる。 「どうしたの、ユーノ君」 「何か書いてある。えっと、ここ、前に? ああ、この先に、か。なのは、少し休んで て。ちょっと時間かかりそう」 「そうみたいだね。わかった」 さすがに翻訳はなのはにとって専門外。子供のように真剣にその文字を見つめて解読 しようとするユーノを見ながら、壁に背をかけ――その壁をすり抜けた。 「きゃあっ?!」 「なのはっ!!?」 壁の先は角度の急なスロープになっていた。なのはは反射的に飛ぼうとして、それが できないことに気づいた。 「AMF!? 嘘、まったく飛べないなんてっ」 止まろうと手をつくが、取っ掛かりがまったくない。なのはは為す術なく、そのまま 滑り落ちていった。 「くそっ!」 ユーノはなのはがすり抜けた壁面を何度も叩くが、一向にすり抜けられる気配が無い。 無駄だと悟り、壁面に拳を打ちつける。 「なのは……。そうだ、さっきの文章」 この遺跡は、どうも未知の技術が使われているらしい。応援を呼ぼうとも思ったが、 二次遭難の危険がある。それよりも目の前には、なのはが壁をすり抜けた原因を記述し てある可能性が高い文章がある。ならば解読して、少しでも手がかりを見つけるしかな い。 「――この先に進むことができるのは、資格を持つ者のみ。この先にこそ、記すことす ら憚られる、最後の試練が待つ。その資格とは――くそっ、何だよこれっ、ここだけ解 読できない……。殴る、血、暗い……?」 ユーノが解読できないのも無理がなかった。そこに書かれていたのは、日本でいう所 の当て字。文字の意味を解読できても、音読できないものには意味のない言葉。 そこにはこう記されていた。『他を殴ッ血KILL暗乃乙女力』と。 ごめんなさい、思いっきり間抜けてた。 殴ッ血と次の文章の間にコレいれてください。ほんとダメダメだorz 「結局、底まで落ちちゃった……。明かりはあるけど……レイジングハート? やっぱ り駄目か……」 答えは返ってこない。壁をすり抜けてから、起動させようとしても、まったく反応を 返してくれない。それに魔法を使おうとしても使うことができない。 時間にして約一分。スロープの底には衝撃緩和の魔法がかかっていたようで、ダメー ジこそ受けていないが、精神的には辛いものがある。 「……? 上にあった祭壇と同じ……」 落下点から少し先に、上で見たのと同じ祭壇が見えた。ただ違うのは、一本の祭器が 祭られていること。 『おやおや~? これは私好みのお嬢さんですね~』 「念話っ! 誰っ!?」 『私ですよ~。あなたの目線の先の祭器ですよ~』 「杖……インテリジェントデバイス……?」 祭壇に向かう。そこにあったのは羽のついたピンクの杖。 『うふふ、アナタ困ってますね?』 「えっと、あなたは……?」 『私ですか? 私はカレイドステッキと申します』 「カレイドステッキ?」 『はい~。ここに封じ込められてからかれこれ三百年。ようやくマスターとなれる方に お会いできました』 「三百年……」 気の遠くなるような話だった。こんな所に、たった一人で。そんな思いがなのはの心 を満たす。 『さてさて、アナタはここから出たいのでしょう。それならば私と契約してもらえませ んか』 「契約?」 『そうです。ここの遺跡はかなり特殊な部類でして、魔力的なものを霧散させてしまう のです。見たところあなたの力では、それを上回ることはできないでしょう。けれども 脱出方法はございます。そちらの壁板には脱出のための方法が書かれているそうです』 「脱出方法……けどここの文字は……。そうだ、カレイドステッキさんは読めるんです か?」 『いえいえ、私も封印されるときに聞いただけで読むことはできません。しかし問題あ りません。私の能力は持ち主の平行世界の自分にアクセスして、必要な能力をダウンロ ードできるというグレイトなもの。ここの文字を読める自分にアクセスすれば無問題!』 その説明になのはは目を見張った。そんな力は聞いたこともないし、ありえるとも思 えない。 『おや~、信じてませんねぇ……。まあ三百年も脱出できないでいるダメ杖の言うこと ですからそうですよね。信じられませんよね……』 「あの、本当に脱出できるんですか?」 『ええ、その点については保障いたしますとも!』 「えっとそれじゃあ、契約っていうのはどうやってすればいいんですか?」 『簡単です。契約者の血を一滴戴ければそれだけで完了です』 後になのはは述懐する。他に方法も無いし、それで脱出できるなら安いものだと、そ の時はそう思ったのだと。そしてそれは、絶対にしてはいけない間違いだったと。 「えっと、これでいいですか?」 『はいっ、契約完了ですっ! それでは久々にいきますよ~』 その言葉を最後に、なのはの理性は消えたのだった。 「くそっ!」 なのはの消えた壁を叩く。ユーノは解読を既に諦め救援要請を出していた。救援には、 はやてとフェイトを始め、休日中の元六課のメンバーたちが駆けつけてくれることにな った。 そのことが、逆にユーノの心を締め付ける。遺跡でなんらかの事故があった場合、生 存確率は高くない。なのはの変わり果てた姿を彼女達に見せることになるかもしれない。 そう思うたびに、自分の迂闊さを恨む。 「ユーノ、なのははっ!?」 始めに飛び込んできたのはフェイト。おそらく全速力で飛んできたのだろう。既に息 が上がっている。 「ここの壁を通り抜けて」 言うが早いか、フェイトは壁に触れる。しかしその先にあるのはただの石の感触だけ。 「本当に、なのははここを?」 「色々試したけど、まったく歯が立たないんだ。この先に入るには資格があって、その 先に記すのも憚られる試練が待つって……くそっ!」 「ユーノやめて、拳が壊れちゃう。私がやるから」 フェイトがサイズフォームで壁を切りつける。しかし壁を切り裂くどころか、欠片も 傷をつけることができなかった。 「嘘!? っく、もう一度!」 二度三度と繰り返すが、結果は同じ。何一つ傷のつかない壁がそこにある。 「ごめんユーノ、もっと下がって。バルディッシュ、ザンバーフォーム」 『yes,sir』 「雷光一閃……プラズマザンバ――――ブレイカァァァァァアアアアア!!」 カートリッジ六連使用のフェイト切り札の一つ。遺跡そのものが崩壊しかねない大威 力の攻撃は、しかし何一つ傷をつけることができずに無力化された。 「そんな……」 ここに至って、ユーノもフェイトもこの遺跡が並みのものではないことを悟った。 「そんな……」 「――くそっ!」 二人に絶望感が圧し掛かる。一度命を失いかけた友人を、今度は本当に失ってしまう かもしれないという恐怖感。冷静に対処を考えながらも、二人は震えを隠せないでいた。 「あれ? 二人ともどうしたの?」 そんな状態の二人に、なのはの声は驚くほど響いた。 振り向く二人。 『なのっ! ――――は?』 なのはの声は、二人にとって何よりの救いだったが、その姿は二人を石化させしめる に足る姿であった。 片足だけズレた白のニーソックス――――それはいい。 アヒルの意匠を凝らした帽子――――無視できる。 椅子に座るときどうすればいいのかと思わせるような背中のリボン――まだ許容範囲。 ここまでなら、ここまでなら感動の再開シーンとなったかもしれない。 しかし――――明らかにワンサイズ以上小さく、キッツキツになって胸やら何やらを ド派手に強調する白いスクール水着を前に。そしてなのはの放った追撃に、二人が顎を 外したように大口開けて呆けてしまったのを、一体誰が攻められようか。 「ちがうよぉ? 今の私はぁ、本気狩るティーチャー、パ○ステルインク」 大口を開けて脱力するユーノとフェイト。 そこに、救出に来たメンバーが走りこんできた。 「ユーノさん! なのはさ――……」 スバルが声を失った。そして、他のメンバーも声が出せない。 なのはは再び宣言した。 「だからぁ、今の私はぁ、本気狩るティーチャー、パ○ステルインク」 その件に関わった者は、黙して詳細を語らず、カレイドステッキは管理局の倉庫に厳 重に封印されることとなった。 十数年後―― 「あれ、この杖……」 『おやまあ契約者さんの娘さんですか、私は――』 カレイドステッキに終わりは無い。 小ネタへ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/148.html
せんせーと夜食のラーメン 作者:◆pxoVQARIYU 氏 「で、何で僕は外に連れ出されて屋台でラーメン食べてるんだろう・・・」 「それはですね、私が食べてみたかったからです!」 「ははは、なるほど・・・」 「あーっ!せんせー笑ったひどーい」 今は緊急の依頼もないので、無限書庫職員(一般司書)は労務管理の規定により 既に皆帰宅していたが、管理局総務部に特別協定書を提出しているユーノにはそんなの関係なかった。 今日も時刻は夜中を回り、夜食を取ろうと書庫を出たところで最近魔法を教えるようになったスバルに捕まり、 局内のホットミール自販機で済ませるつもりだったのに外に連れ出され、最近出店したらしい屋台にたどり着いた。 「しかしミッドチルダにラーメンの屋台が出来てるとは思わなかったよ。よくこんなの知ってたね」 「はい。なのはさんや八神部隊長が懐かしいって話してたんです。それで私も食べてみたくなったんですよー」 「へぇ。確かに僕もラーメンを食べるは数年ぶりかな」 「せんせーも食べたことあるんですか?」 「うん。まだ地球に居た頃に何度かね」 喋りながら食べているのにも関わらず、スバルのペースはユーノに比べて早い。 食事をハイペースで摂るのは胃に悪い行為ではあるが、ここに来るまでに少し遠出を してきていることもあるため、ユーノもスバルに合わせてペースを上げることにした。 「スバルって確かパートナーの娘がいたよね?彼女とは来なかったの?」 「ティアのことですか?」 「うん」 「私も最初はティアを誘ったんですけど、ティアってば今日お出かけから帰ってくるなり ベッドに倒れこんで『あたし疲れてるからパスー。ユーノ先生と行ってきなさいよ』って言って寝ちゃったんです」 「それで僕がスバルのお相手って訳か」 そういうやりとりを交わしながらもユーノの丼の中身はなくなりつつあり、スバルの丼は空になった。 そういえばティアってばベッドに倒れる前にしきりに腰叩いてたなーという言葉がスバルの口から 漏れたのが聞こえたが、聞かなかったことにしたほうが平和だと判断したユーノは黙っていた。 「あ、そうだせんせー。おかわりしてもいいですか?」 「ん?別に構わないよ。ラーメン気に入った?」 「はいっ!」 「そっかぁ。じゃあ僕ももう少し食べようかな。 すいません、ご主人。麺のおかわりお願いします。」 「あ、おじさーん!私は麺とスープとネギと、後あの白くて柔らかくて 中に渦巻きみたいなのがあるやつ、おかわりおかわりぃ~!」 「・・・最初からもう一杯下さいって言えばいいのに」 「あっ、そうでした」 思わず苦笑いするユーノに、照れ笑いで応えるスバル。 でもまぁたまにはこんな夜食もいいな、と心もお腹も暖かくなったような気がしたユーノであった。 「ねぇスバル」 「はい、なんでしょうかなのはさん」 廊下を歩いていたスバルだったが、後ろから上司であるなのはに 呼び止められたので立ち止まってから声のするほうへ振り返った。 しかし振り返った先のなのはの表情は、いつぞやティアナを撃ち墜とした時のそれだ。 予想外の展開に戦慄したスバルは思わず一歩後ずさる。 「ユーノ君から聞いたんだけど・・・昨日ユーノ君と一緒にご飯食べに行ったんだって? ねぇ・・・スバル・ナカジマ二等陸士、事情を説明して貰おうか?」 「い、今少しお時間とかを頂ければ・・・」 「スバル・・・弁解は罪悪と知ったほうがいいよ?」 なのはが一歩進むと、スバルは一歩下がる。 ここは天下の往来、管理局建物内の廊下なので他に通る人間もいるのだが 危険な空気を察した他の局員はそんな二人に近寄ろうとはしなかった。 「とりあえず訓練室に行こうか?でも話はこれで終わったと思わないでね? 向こうでたっぷりお話させてもらうから」 「えぇぇ~~~~!?」 スバルはなのはに引き摺られ、消えて行ったとか。 15スレ SS スバル スバル・ナカジマ ユノスバ ユーノ ユーノ・スクライア 高町なのは
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/35.html
ある次元世界の遺跡の中、ユーノは壁に体を預けていた かなり苦しそうな顔をしたユーノがふうっ…と溜息を一つ吐く 「少し、油断していたかな…」 そう言ったユーノの右肩には直径2㎜程の針が一本突き刺さっていた。 「はは… 一度解除した後に再設置されるトラップ、少し珍しいタイプだけど 遺跡から出るまでは常に警戒していた何時もの僕なら気付いた筈だった」 ユーノは今、遺跡に仕掛けられたトラップにかかりその命を落とそうとしていた。 「まいったね、帰ったら皆とパーティーをする筈だったのになぁ… それを考えていてトラップにかかるなんて本末転倒じゃないか」 「しかも良くない事にこのトラップは遅効性の毒と即効性の麻痺毒を混ぜた毒を塗った 毒針を射出する物みたいだし… 一人じゃあまず助からない」 「奇跡が起こって誰かが助けてくれるという事もまずありえない」 「僕は元々、神と言えるかは解らないけどそれに近い力を持った"何者か"によって なのは達の物語の始まりを告げる事となのは達がこの魔法の世界で 生き抜いていけるだけの力を手に入れるまでの盾として創られた泥人形… そして"何者か"の望んだ事を終わらせた僕はその"何者か"に捨てられた… "何者か"にとって利用価値のない僕を"何者か"が奇跡を起こしてまで 生かすと言う選択をとる事はまずありえない」 そう言い終わるとユーノは自虐的な笑みを浮べる 「神に見捨てられ、なのは達の助けにもなれず、この想いは彼女には届かない 手に入れた大切な物はこの手から零れ落ちていくばかり、何も残りはしない」 「いいさ、望まれない存在はこのまま消える事にするよ …だけどこの想いだけは誰にも消させないよ?」 そう言い終わると同時にユーノの瞳は永遠に閉じられた それから僅かな時間が経った後、ユーノの亡骸は空気に溶けて行く様に消えて行き その後にはくすんだ翡翠色の宝石が一つ、其処に残された… 152 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23 52 05 ID yRQts5D2 これで終わりです、この駄文を見て下さりありがとうございました。 そして"彼女"と"くすんだ翡翠色の宝石"の答えは貴方の心の中に… 61スレ 小ネタ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/62.html
タイトル お泊まり会のあくる朝-すずか視点 作者:13-445 『…………あ』 『な、な、な、』 『これは…………』 『すごく……フェレットです……』 『可愛い顔してうちのザフィーラのより…………』 (これがユーノ君の……) 私達の目の前に晒されたユーノ君の………その、男の子の象徴 ズボンの中に隠されていたそれはぴくぴくと脈をうっている。 加えて外気に触れて私達の視線に反応して、そのはやてちゃんの手の中で大きくなってるような気がする。 『……そ、それで、どんな、感じ?』 『え?うーん、なんかあったかいな』 『ほ、他には?』 『えー、そうやなぁ、やわくてすべすべしとる。……気になるんやったら触ってみたら?』 『え、いや、それは……』 『……えいっ!』 『あら、なのはちゃん大胆』 『……わ、わたしも』 『すずかまで……』 『う……』 『フェイト……』 『アリサちゃんも怖がってらんとー』 『誰も怖がってないわよ!』 ……って、みんな勝手に触ってるけどいいのかな。何かユーノ君のが顔が苦しそうになってるけど? こうして手でにぎると体温より温かくて、女の子みたいなユーノ君が急に男の子っぽく感じる。 (何かすごいな……お姉ちゃんは恭也さんのコレをいつも体の中に……あうううっ) 脳裏に思い出されるお姉ちゃんと恭也さんが交わっている光景。 その時は二人が何をしてるか理解できなかったけど、あう~想像しただけで全身が熱くなってくる。 お姉ちゃん曰く『好きな人と一緒になれるのは嬉しい』と語った事がある。 ましてや、発情期時では恭也さんの姿を思い浮かべるだけで愛おしくたまらなくなると。 私にはまだ先の話なんだけど、仮に…… 本当にifの話だけど私とユーノ君がそういうことになったら? 会う度に彼が欲しくなって、会えない度にますます彼の事が好きになっていくのかな? 彼の姿を見ただけで幸せになって、ましてや目の前のユーノ君のものと繋がれた幸せになりすぎてパンクしちゃいそう…… ううっ、こんな事考える私ってこんなにエッチな子なのかな? だとしたら、間違いなくユーノ君のせいだよ、責任とって欲しいな……あまりに身勝手すぎるかな。 13スレ SS すずか ユノすず ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/344.html
人生、こうゆうのもありさ。恋人時代編「Act.04 カササギ」 作者:◆pxoVQARIYU 第97管理外世界、地球。 日本国海鳴市。 ボクの想い人であるアリサに会いに行くため、今日もまたこの地に降り立った。 季節は既に夏を迎えていて、外の湿気と熱気が身体から汗を滲ませる。 いっぽう、ボクの隣に寄り添って歩く彼女は暑さを感じていないかの如く汗ひとつかいていない。 別にアリサが暑さに強いというわけじゃない。 ボクが彼女の周りに可動式の簡単な結界を展開して、彼女を暑さから守っているからで。 加えて、その中で弱い氷結系の魔法を駆使して即席の冷房を作っている。 結界の展開だけなら簡単だけど、攻撃系の魔法に才能がないボクに威力がないとは言え 氷結魔法を常時展開するのは正直言って大変疲れるわけでして。 結界を維持することを考えると二人分のスペースを作るのは少々厳しかったので、 こうしてアリサだけ結界内に入れて、ボクは結界の外で暑さに耐えていた。 バリアジャケットを装着すれば別に暑くも何ともならないけど、この暑い最中にくっついて歩いている カップルが汗ひとつかいていないというのも不自然なので、あえて装着しないことにした。 「ユーノ・・・暑くない?」 そう言ってアリサは腕を伸ばし、ハンカチを持った手でボクの額の汗をぬぐう。 「ありがと。大丈夫、これくらい平気だよ。アリサこそ大丈夫? 冷気強くしなくて大丈夫?」 「うん。あたしはユーノのおかげですっごく快適」 「よかった」 「でも、無理しないでね?あたしは別にちょっとくらい暑かったって・・・」 「ボクがアリサに無理言って徒歩にしてもらってるんだし、これくらいさせてよ」 今日は午前中から会える代わりに、泊りがけが出来ない日帰りスケジュールになっている。 部屋でのんびりして疲れた身体を癒すのも悪くないけど、たまには出歩いてデートもしたい。 そういうわけで、今日は隣の市のデパートまでショッピングに行くことにした。 ボクの長期滞在用の夏服や、アリサが欲しがっている新しいサマードレス等が今日のお目当て。 いちおう遠出しての日帰り旅行も考えてみたものの、彼女が疲れ気味のボクに気を使って近所に。 なんか悪いなぁとは思うけど、事実疲れ気味なので厚意に甘えることにした。 「そういえば、アリサってこの前すずかや大学の友達と夏物の服買いに行ったって言ってなかったっけ?」 「うん」 「それじゃあ・・・服の数がすごいことにならない?」 アリサの家は広いから服専用の部屋もあるし、今更服が1着2着増えても問題はないと思うけど。 「・・・っ!」 ぎゅ! 「痛っ」 急なタイミングで脇腹に軽くつねられたような痛みが走る。 ボクは痛みに一瞬顔をしかめると、つねったであろう人物を改めて見た。 アリサは口を尖らせ少し脹れた頬でボクを睨んでいる。 「・・・バカ、鈍感」 拗ねていた。 ボクがなんかマズいことを言ったかな、と思巡していると。 「あたしは・・・ユーノが良いって選んでくれる服が欲しかったんだもん」 アリサのいじらしい言葉に、心の奥底から何かがこみ上げてくる。 やがて辛抱たまらなくなったボクは、道端なのにも関わらずアリサを抱きしめた。 「やっ・・・もうユーノってば」 小さく悲鳴を上げ、身を縮こませるアリサ。 「ごめんアリサ・・・気づいてあげられなくて。どうすれば許してくれる?」 そう言うと、彼女はボクの目をしっかりと見つめる。 「ユーノの手で、あたしに最高のコーディネートをして。ユーノをもっと虜に出来るような」 「うん、わかった。ボクがアリサをもっともっと好きになれるように・・・」 ボクはアリサから離れると、彼女を抱き寄せて唇に軽くキスをした。 唇が離れると、アリサははにかんだ様な照れたような笑顔を見せてくれる。 「行こっか?」 「うん・・・楽しみにしてるね?」 「アリサに似合うのがあるといいなぁ」 ボクは再びアリサの手をとると、駅に向かって歩き出した。 他愛のないおしゃべりをしながら歩くこの時間がとても愛おしい。 ―――陽がだいぶ傾き始めた。 薄暮の空を背に、ボクらは家路についていた。 目的のデパートでアリサに似合うと思った服を数着見つけることが出来た。 特に、今日買った服の中でボクが気に入ったものがある。 とても淡いパステルオレンジのサマードレスで、今アリサが着ているものだ。 試着してもらったときにボクが見とれてしまったのを見て、彼女が着て帰ると言い出したのだ。 しかし、こういう暖色系のカラーはアリサに良く似合っている。 右腕にはボク用の夏服が数着入った紙袋が、左腕にはアリサがご機嫌でボクの腕を取って歩いている。 「楽しかった?」 「うん。ユーノは?」 「ボクは今も楽しいよ?」 「ふふっ♪ じゃああたしもまだまだ楽しまないとね」 アリサはさらに強くボクの腕にしがみつき、肩に頭をくっつける。 「ユーノぉ・・・ぎゅー」 またたびに酔った子猫のように擦り寄ってくる。 アリサがどうしようもなく甘えたいときのポーズだ。 思わず頭を撫でたい衝動に駆られるけど、右手を使うのは歩きながらだとちょっと難しい。 お楽しみはアリサの家に帰り着いてからでいいかな? そんな事を考えながら歩みを進めていると、民家の軒先から飾りがついた葉っぱの群が目に入った。 なんか見覚えがあるような気がする・・・なんだっけ? 「ねえアリサ、あれなに?」 ボクがなにげに彼女に尋ねると、アリサは頭を上げてボクの視線を追う。 やがて意を得たのか、わぁと感嘆の声を漏らす。 「そういえばもうすぐ七夕ね。そういえば学校の初等部の時以来からああいうのってしてないわね」 「七夕かぁ。そういえば、随分前になのはから聴いたことがあるような気がする。どういう行事だっけ」 「んーっとね・・・」 アリサは歩きながら七夕について話してくれた。 もともと七夕というのは『棚機』とも書き、織女星という機織の女性の伝説を起源としたものらしい。 働き者だったその女性は、ある日同じく働き者の牽牛郎(別名夏彦星)という男性に恋をして結婚したものの 夫婦として過ごす時間が楽しくなった二人はすっかり働かなくなり、結婚を許した親の怒りをかって 『天の川』という大きな川で二人を隔ててしまったけど、年に一度だけ橋を架けて会うことを許された。 ここから『織姫』と『彦星』の御伽噺が生まれ、この国ではおよそ3~400年前から女性の手習い事の 上達を願う願掛けの行司として始まったとのことらしい。 説明してくれたアリサも隅から隅まで知ってるわけじゃないらしいから、今度暇なとき調べてみようかな? 「織姫と彦星・・・かぁ」 ふとアリサが遠い目で夜空を見上げる。 その瞳にはどこか悲しみの色を湛えていた。 「・・・どうしたの?」 不安になったボクがアリサにゆっくり問いかけると、 「うん・・・なんだか、織姫と彦星があたし達にダブっちゃって」 言うとアリサはボクから離れ、1mくらい距離を置いてボクに向き直る。 「あたしが織姫」 アリサは自分の胸に両手を添える。 「ユーノが彦星」 右手の手のひら側をボクの前に突き出す。 「そして天の川は次元と世界の壁」 左手も胸から外すと、流れる川をイメージさせるゼスチャーをする。 「あたしとユーノは魔法か高度な科学を持ってしないと、こうして会うことすら叶わない。 ユーノは時間さえあればこちら側に来られる。でもあたしにはそうする術がない」 ぽすっ。 歩み寄ってきたアリサがボクの胸の中に納まる。 「あたしは五分だっていい、毎日でもユーノの声が聞きたい。 でもユーノはなかなか電話に出られない」 本当は仕事しながらでも電話に出られなくはない。 でも仕事してる部下の手前、通信機で堂々とアリサと私用の電話をするわけにもいかない。 これがなのは達だったら、ちょっとした会話程度なら念話で済ませられる。 でも、魔力を持たないアリサにとってそれは越えられない壁となって立ちはだかってしまう。 「あたしはもっとユーノと話したいし、今日は帰って欲しくない。 でも無理だって事くらいわかってるっ・・・」 アリサの腕がボクをぎゅっと抱き寄せる。 「寂しいよぉ・・・えぐっ・・・えぐっ・・・」 ボクの胸の中でアリサの嗚咽がくぐもって聞こえてくる。 そんな彼女を左手で抱き寄せ、右手でその頭を撫で梳いていく。 「ごめんねアリサ・・・今のボクにしてあげられるのはこれくらいしかない」 「ううん・・あたしこそわがまま言って・・・ぐすっ・・」 アリサが泣き止むまで、ボクは彼女の頭を撫で続けていた。 ―――さっきまで薄暮だった海鳴の空は、黄昏に差し掛かっていた。 ◇ 『 7月7日 ユーノがミッドチルダに帰って三日が過ぎた。次はいつ会えるんだろう。 今日は七夕、夜空の織姫と彦星はお互い好きな人と合えたのかな? あたしはこの日にはユーノという彦星には会えなかった。やっぱりさびしいな。 』 ぱたん。 あたしは今日の分の日記を書き終えると、日記帳を閉じた。 明日の講義は午後からだから、少しくらいの夜更かしは平気だと思う。 すずかと電話で話そうかとも思ったけど、すずかは一限から講義だからもう寝てるはず。 この時間だとなのは達も同じだろう、あたしは起きててもすることはない。 とりあえずベッドにもぐっていれば眠くなる。 あたしはそう思い、明かりを消そうと立ち上がったときだった。 コンコン、コンコン。 『アリサお嬢様、まだ起きていらっしゃいますでしょうか?』 ドアの向こうから鮫島の声が聞こえてきた。 「起きてるわよ」 『エイミィ様よりお嬢様へ火急にお渡ししたいものがあるとのことで、お荷物をお預かりしております』 「荷物?」 『はい』 「エイミィさんは?」 『お帰りになられました。 タクシーでわざわざご足労をいただいたので、私の判断で心付けをお渡ししております』 なにかしら?一応本人に確認を取ったほうが良いかも。 「ありがとう鮫島。でもちょっと待ってなさい」 『かしこまりました』 あたしはドアの向こうの鮫島に待つように命じると、携帯のメモリからエイミィさんの番号を探す。 エイミィ・ハラオウン・・・これだ。 『プップップップッ・・・プルルルル・・・・!』 2、3コールほどして電話が繋がった。 『はいもしもーし!どうしたのアリサちゃん』 携帯のスピーカーの向こうから能天気系の声が響いてくる。 声の奥からは車の中のノイズっぽいものが混じっていることから、まだタクシーの中かな。 「すみません。今家の者からエイミィさんからの荷物を預かってるって聞いたんですけど」 『ああ、あれね?ユーノ君からアリサちゃんへ届けて欲しいって預かったのよ』 「ユーノから?!」 思わずあたしの声が喜びで上擦る。 『そーだよー。あ、そういえばユーノ君は早く開けるように言ってたっけ』 「あ、ありがとうございます!」 『えっ?あ、ちょ』 あたしはエイミィさんが全て言い終わる前に電話を切ると、鮫島に入るように命じた。 「こちらでございます」 あたしは鮫島が持ってきた箱を受け取ると、箱の包装の開封に取り掛かった。 鮫島の「失礼しました」という言葉もそこそこに聞き流し、心躍らせて箱を開けた。 なんだろう? 箱の中にはネットの画像で見たことがあるような、10数年前のPHSのような形をした物が入っていた。 ただ、決定的に違うのは液晶もなければ、メールはおろかダイヤル用のボタンすらも見当たらない。 唯一ボタンっぽいものがあるとすれば通話ボタンっぽいものがあるだけ。 何気にこれが入っていた箱に目を向けると、中に一枚のメモが同梱されていたことに気づいた。 あたしはメモを拾い上げ、読んでみた。 『 彦星直通のホットラインを送ります。いつでもかけてください。あなたの彦星からボクの織姫へ 』 「この字、ユーノの字だ・・・」 あたしは急いでPHSのようなものを手に取ると、通話ボタンのようなものを押した。 『・・・ザザッ・・・誰?』 一瞬のノイズの後に、あたしの聞きたかった声がスピーカーの奥から聞こえてくる。 「その声もしかして・・・ユーノ?」 『あ、アリサ!よかった、荷物ちゃんと届いたんだね』 「やっぱりこれ電話だったんだ・・・今、かけて大丈夫だった?」 『一応仕事中だけど、これ念話だから傍から見れば仕事してるようにしか見えないよ』 「念話って・・・あたし魔法なんて使えないのに・・・」 あたしが頭の上にハテナをいくつも浮かべていると、ユーノはそれを見透かしていたかのように笑う。 『これはミッドの地上部隊で採用している、魔力を持たない人間でも念話が出来る通信機なんだ』 「え゛え゛っ!?」 ユーノから詳しい話を聞くと、魔力保有量の少ない人間が多い地上部隊が頭数を必要とする作戦を 行う場合、魔力を持たない局員との連携がどうしても必要になることがあるらしいわ。 そこで、念話のシステムをデバイスの技術でカバー・・・って、後はよくわからなかったけど 要は魔力を電池代わりにすることで携帯電話と同じ要領で念話が出来る、ってことみたいね。 「でも、どうやってこんなものを?」 『資料請求にやってくる地上部隊の顔なじみに、資料請求の優先度を上げる代わりに無理言って頼んだんだ』 地上部隊の知り合い・・・かぁ。 今あたしの脳裏に心当たりのあるシルエットがよぎったけど、考えないことにしよう。 「ねぇユーノ、これの電池ってどれくらい持つの?」 『1日5分程度で1ヶ月くらいかな?長時間持つの見つけてくるの大変だったよ』 「それじゃあユーノ・・・あたしのわがままのためにわざわざ?」 『・・・ボクはアリサに寂しい思いをさせたくないから』 ユーノの想いに、あたしの胸の奥が熱くなった。 「ぐすっ・・・ありがとうユーノ・・・嬉しいよぉ・・・」 『えっ、ちょっ!泣かないでよアリサ』 「うるさぁい!嬉しくて泣いてんだから別にいいじゃないのよ!」 あたしはこのあとたっぷり1時間、ユーノとおしゃべりをして過ごしたあとでベッドに入った。 さっきまであたしの中で蓄積していた寂しさは、すでにどこかに消えていた。 ―――そうだ。 日記、書き足しておこう。 あたしはベッドから出て明かりを点けると、閉じた日記帳をもう一度開いた。 『 7月7日(追加) あたしの彦星様から、とびっきりのプレゼントを貰った。 これであたしからいつでも話が出来る。 今日は、いい夢が見られるといいな。 』 ぱたん。 あたしは今日の分の日記に書き足し、また日記帳を閉じた。 再び明かりを消し、ベッドにもぐりこんだ。 どうか、今日はユーノと一緒に居られる夢が見られますように。 おやすみなさい、ユーノ。 おまけ 『あ、ありがとうございます!』 「えっ?あ、ちょっと!?」 『プツッ! ・・・プーッ、プーッ、プーッ・・・』 「・・・切れちゃった」 あたしは電話を切ると、携帯をバッグの中に仕舞う。 (しっかしユーノ君も大胆なこと考えるねぇ) 家路に向かうタクシーに揺られながら、今日の出来事を反芻していた。 無限書庫に手伝いに言っていたと思ったアルフが急に戻ってきて、 あれをアリサちゃんに渡して欲しいって言ってきたのだ。 話は一応少しだけ彼から聞いていたけど、まさかここまで・・・ね。 ユーノ君からの伝言を言い終わったアルフはさっさととんぼ返りしちゃったし、きっと忙しいんだろうな。 まったく・・・クロノくんも少しは手加減してあげりゃ良いのに。 しっかし、地上部隊の通信機のカスタマイズ品を自分の彼女に渡すなんて、良く思いつくね。 ま、ユーノ君謹製のスクランブルがかかってるしそう簡単にはバレないだろうけど。 「声が聞きたい・・・かぁ」 あたしはそう一人ごちて、今もどこかの次元の海に居るであろう夫の顔を思い浮かべていた。 (よし、決めた。寝る前にちょっとクロノ君に次元間通信でもしてみようかな) 我が家まで、あと何マイル? 早く・・・着かないかな。 51スレ SS アリサ・バニングス エイミィ・リミエッタ ユノアリ ユーノ×アリサ ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/217.html
風邪ひきティアナ2 作者:oFNJRz1k 「……38度7分、あ~あ、なんだかな~」 一人、寮のベッドの上で体温計を眺め、愚痴るティアナ。 せっかくの年の瀬に、それも司書長と同じ時に休みが取れたのに彼をデートに誘う勇気もなく、 その上に熱を出して寝込むとは。 「まあ、考えてみれば誘えなくてよかったのかもしれないな」 この状態ではとても出かけられるものじゃない。 いや、出かけてもなにか大失態を犯していたかも知れない。 ――それじゃあまるでスバルだ。私のキャラじゃないわよね。 「しっかし、スバルの奴、遅いわね」 さっき、意識朦朧とした中『熱で寝込んじゃったからご飯頼む』 と彼女に一方的に念話をとばしたはずなのだが。 「まさか、あいつ、今頃ユーノさんと……」 そういって眉間にしわを寄せ、毛布の縁をかむティアナ。 「僕と、なんだって?」 ティアナが慌てて体を起こし、 声がした方を見ると彼女一人しかいないと思っていた部屋の入り口に紙袋を抱えたユーノの姿があった。 「どどどどうして、し司書長が?」 思いっきり動揺してどもるティアナ。 「だってキミ、僕に念話とばしてきただろう? 『熱で寝込んじゃったからご飯頼む』って」 ――え?! スバルに送るつもりで間違えてユーノさんに送っちゃったの? 『なんてすばらしいミスを犯したの、私は!』と彼女が思ったかどうかは定かではない。 ユーノは顔を真っ赤にしておろおろしているティアナを見て心配になり、 歩み寄りベッドに腰掛けると自分の額を彼女のおでこに当てて熱を測った。 「だいぶ熱があるみたいだね、たぶん風邪だろう。安静にしていた方がいいよ」 彼女の目の前に大写しになる彼の端正な顔にティアナはパニックを起こしてしまった。 『もう、ヤケだわ』とばかりにティアナは一言つぶやいた。 「風邪って人にうつすと直るっていいますけどね、司書長で試してみていいですか?」 「……いいよ。君が望むのならね」 「え?! え?!」 そんなユーノの言葉にまたパニるティアナ。 しかし、彼女は覚悟を決めてゆっくりと瞳を閉じた。 ……いつまでたってもティアナの唇に何の感触も感じられない。 我慢しきれなくなってチラッと目を開いた彼女の前にはさっきより少しだけ遠くなったユーノの笑顔があった。 「な~んてね」 「だ、だましたんですか!!」 「ごめん、ごめん。……キミがなんかとっても可愛かったから調子に乗っちゃった。 第一そういうことは僕なんかじゃなくてほんとに好きな人としなくっちゃね」 「わかりました。それなら罰としてもう少しちゃんと看病していってくださいね」 「ああ、わかったよ。それで許してもらえるならな」 「それと……」 ――今は熱で頭がスバル状態だから私に似合わないことしてもいいよね。 ティアナはユーノの唇に不意打ちのキスをした。 「ティアナ、キミ……」 あっけにとられた表情のユーノに彼女は熱のせいなのか、 それともそれ以外の理由なのかわからない真っ赤な 顔で、だが自分ではこれまでの生涯で最高だと思える微笑みを彼に返した。 「これで許してあげます。……だって、本当に好きな人にならいいんですよね? ユーノさん♪」 その後、それ以上の何かがあったのかどうか? 完治して出勤したティアナがしばらく如何にもハイテンションな春爛漫な態度で浮かれていたのは何故か? それらはティアナとユーノ、二人だけの永遠の謎なのかも知れない。 後日、ヤガミ特別捜査官が急に寒中水泳をして風邪を引き 『ユーノ君、いつでもお見舞いOK、ウエルカムや!』 と騒いでいたところをシャマルに簡単に風邪を直されて思い切り落ち込んでいたのは何故か。 それからある日、 『浮気者ー!!』という女性の声と共に無限書庫の一角が巨大な魔法により破壊されたことや、 しばらくして急に行われたティアナとタカマチ教導官の1対1の模擬戦が何故そんなに壮絶で、 実戦の方が楽なのではないかと思えるようなものだったのかもたぶん謎だ。 「ありのまんま見てたこと話すとさ、気づいたら“白い魔王”とか、“冥王”が降臨してたってとこかな。 何を言ってるのか自分でもよくわからねぇんだけどさぁ、 ありゃ、以前あたしが相手にしてた頃の“白い悪魔”なんてそんなチャチなもんじゃなかったな。 視線で人を殺せるなら完全にティアナは10回は死んでたぜ。 まあ、それでなくってもティアナはあんな攻撃くらってよく死ななかったもんだって感心したけどさ」 その時、模擬戦に立ち会ったヴィータはなのはの鬼気迫る表情を思い出し周囲の者にそうもらしていた。 「私の正義のために魔杖を持ち浮気者には死の制裁を、 高町なのはの名に誓い全ての不義者に鉄槌を、なの!!」 17スレ SS ティアナ・ランスター ユノティア ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/55.html
フェレットモード発情期-すずかの場合 作者:12-634 本文 「はぁ……はぁ、今日もユーノ君、すごく可愛かったよ……どうかしたの?」 「あれ?そうだったかな、でもすずかには言われたくないよ。ギャップが凄いというか意外と欲張りと……いう、か……」 「ううっ、でもユーノ君には言われたくないよ。夢中になってキスしたりするのはどっちなの……あれ?」 今日もまた、二人だけの秘密の遊びの終わりがやってくる。優しさや慈しみもない交じり合いを終えて、未だに荒くお腹の中に一杯に出された彼の種子を愛おしく感じる。 すでに両手の数では足りないほど交じり合ったのに、荒々しい精を吐き出したのと管理局のお仕事も疲れもあってか。今日のユーノ君はすやすやと夢の中。 窓を向こうでは今夜は十六夜という事もあって、夜を照らすお月様は薄い光で情事を終えた私達を照らし出す。 こんなに綺麗なお月様の元で一緒に月光浴というわけには行かないのが少し残念。 でも、こんなに綺麗なお月様を見ていると最初にこの関係に陥ったときの事を思い出してしまう―――― 私が一族の血に目覚めたのが小学生の終わりの頃。 何の前触れも無く突然襲い掛かった血を求める衝動に任せて、お茶会に来ていたユーノ君の血を貪るように吸ってしまった。 その時の事はあまり覚えていなくて……気付けば体の数箇所に血の跡に残して、彼の膝枕の上にいた。 自分の過ちと一族の秘密を彼に明かすと、ユーノ君も苦笑いを浮かべて『僕も似たようなものを持っていると』告白した。 先天的とか変身魔法の副作用だとか魔法の話はよく理解できなかったけど、同じ発情期を持つ人がいた事にはは驚いたけど、同時に家族以外にも自分と同じような人がいた事に安堵を隠せない自分がいた。 その後に二人同時に訪れた時は、想いやら相手の事は考えずにただ、考えもなしにお互いの体を求め合い、今も発情期を見計らってこうやって交じり合う関係が構築され、その事に幸福を憶えている私がいる。 だけど、その感覚はさくら伯母様やお姉ちゃん達のような気持ちとは多分、本当に確証はないけど違う。 お互いの発情期を理由にして交じり合うだけの体だけの関係なのかもしれない。そう思うだけで胸が張り裂けそうに痛みが走る。 ――――私達は問題だけで体だけの関係だけでは駄目なのかな? 発情期でない時でも、お仕事の無い休日とか勉強を見てくれたり、ミッドチルダの文学とか童話などの面白い本を貸してくれたり、夜の一族の文献解読を手伝ってくれたり、一緒に映画をみたり食事をしたりしてくれるけど違うのかな? 嬉しい事だけど、同時に不安を覚える。 ただ、困っている人を、大切な人の友人を見過ごせないだけなのかな? ねぇ、ユーノ君。答えて欲しいよ。ユーノ君の本当の気持ちを。本当のユーノ君は何処にいるのかな? ―――本当に私の大切な人と呼んでもいいのかな? その場所に私が一緒にいるのは駄目な事なのかな……眠る彼は何も答えてはくれない。でも真意を問いただす勇気は私にはなくて…… 12スレ SS すずか ユノすず ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/29.html
514 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 13 59 13 ID qJundaL0 なぜか唐突にネタ電波、某懐古ゲーム風味 『無限書庫』、なぜそんな名前なのかなんて誰も疑問に思わなかった。 安易に無限なんて絶対につけない。 だって、魔法はインフィニティ(∞)じゃないから。 魔法にだってできないことがあるから。 でも、そこは『無限書庫』。 魔法をも超越した空間。 だから、そんなことになるなんて思わなかった―― 「え?」 高町なのはは友人たちとの会話の節々から、ただ一点だけ不自然な箇所をみつけた。 仕事の、プライベートの、様々な話題の中にただひとり入り込まないことを。 「……ところで、ユーノ君と会った?」 「……ユーノ? なのはの彼氏?」 「おー、なのはちゃん私らに隠れてそんな人おったんかいな」 ――違う。 みんな、彼に会ったことも話したこともある。 なのに、彼のことが消しゴムで消されたかのように抜けている。 ――どうして? リンディさんやレティさん、クロノ君に会って、みんなもフェイトちゃんたちと同じだってわかって、 その疑問が張り裂けそうになるくらい大きくなっていく。 「……ゆーの、くん」 「なのはは、まだ僕のこと憶えてくれているんだね」 それは、無限書庫に捕らわれた者にかけられる呪い。 そこに深く浸透した者のみが許される原罪。 名や体といった有限のものをはぎ取られ、すべてを超越した無限の存在に作り直される。 だから、ユーノ君のことをみんな忘れてしまう。 気がつけば公的データその他すべてから名前が消え、書庫の司書たちからも存在を認識されなくなって、 あとは私が忘れれば、ユーノ君は無限書庫の向こう側にいなくなってしまう―― えいえんは、あるよ どこかから、そんな声が私の頭に響き渡る。 「だめっ!」 私は消されそうになるそれを大切に守りながら、精一杯叫ぶ。 「ユーノ君、私は忘れないからっ!」 無限書庫 ~輝く季節へ~ ……ごめん、ウチがみんなの記憶から消えるよ……。 515 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 14 12 42 ID I5AvvAm3 _ 514 いや、あれはユーノが無限をやら永遠を求めているもしくはもう既に過去に求めていた場合に発生するものだからなぁ。 しかも繋がりと思い入れの深い故人がいて初めて成り立つわけで。 端的に言うならば、現実への絶望からくる逃避の極端な変形。 それを現在の絆が共に歩める未来を紡ぐって話だから。 ユーノは前提条件を満たしていない。 無理やり不幸設定属性つけても美しくない。 責任感と知的好奇心に溢れた優しき賢人。 それがユーノきゅん、俺の嫁。 516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 14 29 07 ID Hqd1f6m2 よくユーノきゅんは大人っぽいとか見なされてるけど クロノの安い挑発に乗ったり無印でなのはに単独先行をさせたりと やっぱり公式通りただ真面目∧優しい∧奥手なだけで大人びているとは言い難い 孤児という過酷な状況や知能の高さが必ずしも人格と比例するわけではないし 責任感に偏執してるような描写もむしろ熱血で頑固、悪く言えば向こう見ずで子供っぽい 奥手だけれど優しさに溢れた真面目な賢人。 それがユーノきゅん、俺の嫁。 517 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15 02 24 ID qJundaL0 _ 515 わかった上での改編電波だったんだが、不快に思わせたのならすまない。 口直し以下略 「ふぅ、雨か……」 「雨くらいでジタバタするな。だいたい天候不順くらいで今更どうにかなるか」 「そうはいってもね、この状況は歓迎できないよね」 巡察中に発見した、ひとつの遺跡。 情報を集めようと連絡を取るが、無限書庫にも大した資料がなかった。 本局は調査隊を送り込むと決定したが、出迎えたのはたった一人。 そして、今ふたりだけで木陰に逃げながらこうして善後策を練らなければならないとは考えもしなかった。 「それにしても、ここに来ていいのかフェレットもどき」 「事あるごとにそう言って絡むのは人としてどうなんだい、シスコン提督」 ――ユーノ・スクライア、考古学会における若手のホープ。 確かに彼は適任だとクロノも思う。 彼なら知識も、経験も、局の半端な調査隊とは比べ物にならない。 しかし同時に彼は無限書庫の司書長でもある。 二流どころの警備をつけて、彼の身に何かあっては上へ下への大騒ぎになることは間違いない。 だからこそ、クロノ自身が護衛としてついてきたのだ。 この判断がはたしてよかったのか、クロノには自信が持てなくなっていた。 「……それにしてもだ、書庫の仕事はいいのか?」 「よくないに決まってる。でも何かあったら僕らの信用問題にもなる。なら、自分の手で行うのが一番だよ」 クロノはユーノの言い分ももっともだとは理解する。 未だに無限書庫に色目を向ける輩がいることも事実だ。 彼らを黙らせるには、しっかりとした実績が必要なのもわかる。 「それでも、この状況は想像しなかったな」 「自然現象によるAMF発生、まあこれも遺跡の防衛手段のひとつかもしれないね」 目の前の火に薪をくべながら、ユーノは気楽に言葉を紡いだ。 「こんなことなら、もう少し人員なり割いてくれば良かったな」 「そうかもね。でも」 「でも、なんだ?」 「たまには親友と二人で、こういうのも悪くないかなって」 こういうのは無限書庫ではないからね、とユーノはインスタントコーヒーをクロノに差し出しながら言う。 「……ま、なんだ。通信越しじゃないってのも悪くないか」 ――現状を無視すれば、親友同士の気ままな時間潰しとかわらない、か。 砂糖も何も入っていないはずのそれは、苦く、そして少しだけ甘く感じられた―― 60スレ なのは クロノ 小ネタ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/329.html
ティアナ合格記 RVT4YS9G 「先生…すいません…っうっ…」 「ティアナ…」 小さな手紙を握りしめて泣く少女を、ユーノは柔らかく抱き留めながら 頭を撫でる。 「先生が、時間を…っ、割いて、いっぱい、教えて、くれたのにぃ…っ」 ふえぇん…とまた泣きだすティアナ。 (あんなに勉強したのに、ショックだよなぁ) と思いつつ、わずか三ヶ月の間ではあったが教えた自分にも責任はあると、 ユーノは自責の念に駆られていた。しかし、それを口に出しても意味がないこと は、フェイトの時の経験で痛いほど分かっていた。 書庫の業務を終え、司書長室で一休みしていると、全身にどんよりとした 雰囲気を纏わせたティアナが手紙を携えて訪ねて来たのだ。 理由はすぐに分かった。 彼女に執務官試験に落ちた通知が届いたのである。 去年も落ちているから、2回目。 泣く彼女を抱き留めることしかできない。 しばらくすると、彼女は泣き止んだ。 「すみません。取り乱してしまって…」 うつむいた彼女から少し覗く表情には、いつもの強気そうな様子がなかった。 …何かを捨ててしまったような… フェイトも2度試験に落ちている。2度目のとき、同じような状況で ユーノはうまく慰めることができなくて後で悔やんだのをよく覚えている。 「ティアナ、これからどうするの?」 「…わかりません…」 うつむく声からもまったく活気がない。 フェイトのときから数年が経っている。自分はあの時とは少しは変われたはず。 (もう、悔やんだりしない) 今、目の前の少女にしてやれることは… 「ティアナに、いい物をあげるよ」 「え?」 あまりにも唐突な申し出に彼女は驚いて顔をわずかに上げた。 ハラリ。 かすかな音とともにユーノの長い蜂蜜色の髪が広がった。 「正確には、返すっていったほうがいいかな」 と言って彼はティアナに黒いリボンを手渡した。 「これは…?」 「これはね、ティーダ・ランスターさん…君のお兄さんが遺したものなんだ」 「兄さんの…」 驚愕する彼女を見ながらユーノは懐かしいものを思い出すような表情で言う。 「ティーダさんとは、ちょっとした縁があったんだ。だから、僕は彼のことを少しは知ってる。 すごく、妹想いだったこともね。そんな彼が君の今の姿を見てどう思うだろう」 ユーノはティアナを優しく、かつ力強く見つめる。 彼女はしばらく呆然としていたが、だんだんと表情に活気が戻ってきていた。 「兄さん…」 …忘れていた。自分が執務官を目指す理由。それは… 「ティーダさんは、君を待ってる。空で、君と共に飛ぶ日を」 また、彼女の目から涙が流れた。 (さっきとは違う涙だね。ティアナ) 彼女はリボンを握りしめてしばらく震えていたが、少し落ち着いたのか 絞り出すように言った。 「…ありがとうございます。大切なこと、忘れかけてて…それで」 「いいんだ。…もう、決心はついたんだよね?」 しばらくして彼女はまだ少し赤い顔を上げて頷いたのだった。 力強く。 「じゃあ、良かったらだけど、今度は僕が一から教え直したいんだ。 僕も悔しかったし、ティーダさんのためにも、ね」 ユーノが片目を瞑りながら微笑みかけると、ティアナは泣きながら 満面の笑みを浮かべたくしゃくしゃの表情で言った。 「はい…先生、よろしくお願いします!」 数日後、司書長室で勉学にいそしむ少女の姿があった。 彼女の髪には今までと違う黒いリボンが巻かれている。 「先生、こことここは何でこうなって…」 勝ち気そうな顔をした少女からは矢継ぎ早に鋭い質問が飛んでくる。 その質問の鋭さに苦笑いしながらユーノは安心していた。 (良かった…いつものティアナに戻ってる) なんとなくそうしたい気がして、彼女の頭を撫でると、彼女は顔を何故か 真っ赤にして、何かこそばゆいのをごまかすように叫ぶのであった。 「先生、聞いてます?先生! 合格するまで、絶対逃がしませんからね!!」 21スレ SS ティアナ・ランスター ユノティア ユーノ×ティアナ ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3381.html
そうこうしている内に、田原が戻ってきた。彼の後ろでは、少女が無理やり手を引かれて嫌そうに身じろぎしている。 「待たせたな……」 「えらい早かったですね」 なにせ、あれからまだ十分と経っていない。事が事だけに、数十分は覚悟していた。 「娘さんですか? 八神はやて言います。教授にはお世話になってます」 「ああ、娘の舞だ……さあ、乗りなさい」 舞は特に何の変哲もない、黒髪で大きな瞳の少女。美人の部類に入るだろう。 もっと不良然とした少女を想像をしていただけに、はやてにはとても放火を起こすような娘には見えなかった。 「よろしく、田原……舞ちゃん?」 「柏木! 舞です」 苗字を強調すると、舞は運転席の後ろに乗り込んだ。田原も溜息を吐いて隣に続く。 「それじゃあよろしく頼む。最寄りの駅まででいい」 シグナムはナビで場所を確認すると車を発進させた。ここからなら、車で十分も掛からない。 はやては胸を撫で下ろした。この窮屈な空気が短時間で終わってくれるからだ。 移動中も田原親子は会話もなく、険悪な空気をこれでもかと放っている。 何故苗字が違うのかなどと、とても聞ける雰囲気ではない。 「いつからだ。今日が初めてじゃないだろう」 「だから何度も言ってるでしょ! あたしが気づいたら目の前で燃えてたって! 火なんか絶対に点けてないんだから!!」 「それはわかってる!! いつからだ? 意識なく行動するようになったのは」 はやてからすれば意味がわからない会話だったが、舞が嘘を吐いているようには見えなかった。 当の舞はもっとわからないらしく、一時戸惑っていたが、すぐに目つきは鋭いものに変わる。 「……珍しいですね、あなたがあたしの心配するなんて。……雪でも降りそう」 「以前にも同じことがあったのか?」 「……何か変なものでも食べたんですか?」 敬語は使っていても、そこに敬意は微塵も感じられない。他人同然か、それ以上に警戒しているのがありありと見て取れた。 これでわかった、舞は田原を父親として見ていないのだ。 「話を聞きなさい!!」 「っ……触んないでよ!!」 握り続けていた右腕を揺さぶる田原を、舞は力ずくで振り解く。その時覗いた舞の右手首には、白い包帯が巻かれていた。 「落ち着いて下さい! 舞ちゃんも!」 はやてが仲裁して、どうにか二人は落ち着いたらしい。と言っても、騒いでいたのはほぼ一方的に田原だったが。 互いにそっぽを向いて黙り込む舞と田原。それでも、窓を開けて外を眺める姿勢が同じなのはやはり親子である。 二人を乗せたことを、はやてはほんの少しだけ後悔し始めていた。 数分で終わるはずだった気まずい相乗りは渋滞に巻き込まれて、まだ暫く続きそうだった。 申し訳なくてシグナムの顔も少々見辛かったので、二人と同じく窓を開けて頬杖を突く。すると、 「あれー、舞!?」 「運転手付き? セレブじゃ~ん!」 舞と同じ制服の少女が二人、こちらに向けて手を振っている。一人はポニーテール、もう一人は眼鏡の少女。 舞ははやてが制止する間もなく、渋滞で一時停止していた車から飛び出すと、 車と車の間を縫って少女達に駆け寄った。 「いいの?」「全然平気」などと談笑しながら、共に歩き去っていく。 「いいんですか……?」 はやてが後部座席の田原を振り返ると、田原は渋い顔で一言、 「構わん……」 と言うと、腕を組んでまた黙ってしまう。 一人減っても雰囲気は変わらず、はやてはその後十五分あまりを無言で過ごした。 田原を駅で降ろしたはやては、ようやく肩の荷が下りた気分だった。 緊張が解れてシグナムと雑談に興じていたが、ふと大事な用件を思い出す。 「あ、シグナム。悪いんやけど、翠屋で降ろしてくれるか?」 「はやて、それなら今日は夕食は……」 「うん、多分食べてくると思う。私だけごめんな、ヴィータには言うてあるから」 「私も行きたいのはやまやまですが……」 「シャマルが今日は遅くなるもんな。ヴィータとザフィーラだけにするんも寂しがるやろうし、 シャマルが帰った時、誰もおらへんかったら可哀想やし……」 少々申し訳なく思っていた。二人は働き、ヴィータは家事をこなし、 ザフィーラも獣の姿で家を守ってくれている。そんな中で、はやてだけが旧交を温めに行くのだから。 それからは他愛のない会話が続く。大学、シグナムの仕事、休日に出かける相談――ヴィータの今後についても話した。 大人の二人とは違い、ヴィータは子供の姿である。学校に行く選択肢もあったが、相談した結果止めておいた。 過去に管理局に用意してもらった戸籍では、彼女は来月には十八である。色々と面倒もあるだろうし、 流石にあの容姿で高校生は無理がある。 となれば見た目を年相応に変えるしかないが、彼女ら魔法生命体は何か不測の事態が起こった時、 この世界では対処の仕様がない。この世界ではデバイスの整備がせいぜいなのだ。 基本的に不必要でもあった為、なるべく影響を起こさないよう、魔法の使用は控えるようになっていた。 杞憂かもしれないが、命に直結するとなれば用心に越したことはない。 加えて、学校に行くのをヴィータが渋ったというのもある。最近は遊んでいた老人達と会う回数も少なくなっていた。 魔法の件もあるので、"発育不良の十七歳"で押し通しているらしいが、露骨に怪しまれているらしい。 それに、十年もあれば目に見えて数も減っていく。それが辛くなってきたのだとか。 暇を持て余したヴィータは、率先して家事をこなすようになった。一端の主婦としてはまだまだ修行中ではあるが、 熱心にやってくれている。が、やはり知り合いがなのは達しかいなくなるのは可哀想だ。 何かそのままの姿のヴィータにできる仕事があれば一番いいのだが。拘らず、詮索せず、 幼女が十八歳だと名乗っても怪しまず雇ってくれる、そんな職場が。 しかし、そんなファンタジーな設定を受け入れてくれる職場は、相当怪しい仕事くらいだろう。 (別にきっちりした会社とかじゃなくてもええんやけどなぁ。危険やないならどこでも……) 最大の問題はあの容姿である。あれで十八歳と言って信じてくれる人間は現実にはいないだろう。 それで通るのはフィクションの世界だけだ。 ファンタジー、フィクション――漫画、アニメ、ゲーム、小説等々。 以前すずかの家に遊びに行った際に読んだ本が頭に浮かぶ。 『薔薇のなんとか』いうアニメ原作のサーカス漫画だったと思うが、 その作品では十代前半にしか見えない少年が二十歳と書かれていた。 そういえばベッドの下にあったゲームもそう、確か彼女が中座した時に漁ったものだ。 児童とも呼べる容姿の美少年が裸で絡み合っているパッケージだったが、なんと全員十八歳以上らしい。 意外な抜け道があるものだと思い、そっと元の位置にしまっておいた。 そこではやては唐突に閃いた。意外なところに発見はあるものだ。 それはまさしく意外な抜け道であり、閃いた瞬間はある意味目の覚める思いだった。 (そうや! マンガやアニメ、ゲームなんかにどっぷり嵌った人間が職場におったら或いは――!) 「…………ハッ」 拳を握って数秒、本当の意味で目が覚めたはやては、冷めた目で自嘲した。 馬鹿馬鹿しい。少し冷静に考えればそんな馬鹿げた職場があるはずないのだから。 なのはとフェイトの件、ヴィータの件、自分自身の件――はやての抱える悩みは多い。 それに比べて、田原と舞の確執などは自分が口出しすべきではない。わかっていても、何故か頭から離れなかった。 シグナムに手を振って別れたはやては、翠屋の扉の前で固まっていた。もうなのはもフェイトも来ている頃だろう。 談笑しているだろうか、はたまた気まずい雰囲気が流れているだろうか。 しかし立っていても仕方がない。まずは大きく深呼吸、はやては意を決して扉を開いた。 「こんにちはー……」 そっと覗き込んだつもりが、カランカランとベルが鳴り、カウンターにいた三人が振り向く。なのはとフェイト、そしてもう一人、 金髪を後ろで束ねた眼鏡の青年。はやてには、その青年が誰か一瞬わからなかった。 「……ユーノ君?」 「はやて、久し振りだね!」 ユーノは椅子から飛び上がりそうな勢いではやてに駆け寄り、右手を差し出した。はやても少し戸惑いがちに握手を交わす。 「はやては変わってないね」 「ユーノ君も……ごめん、一瞬誰かわからへんかった」 「ひどいなぁ」と言いつつも、ユーノは破顔している。 昔馴染みの気安い雰囲気がそこにはあった。特に最近はなのはやフェイトとギクシャクしていた為、喜びもひとしおである。 「だってユーノ君、三年前は眼鏡してへんかったし、髪も短かったし」 「うーん、仕事のし過ぎかな。髪はなかなか切りに行く暇がなくて」 「へぇ、大変なんやね」 立ったまま二、三言交わしていると、カウンターの士郎に席に促された。横では桃子が優しげに微笑んでいる。いつもの翠屋の光景。 なのは達はまだぎこちなさを感じさせるが、ユーノとの再会を喜んでいるのは同じらしい。一週間ぶりに笑顔を見せていた。 「李君、コーヒーお願い」 「はい、かしこまりました」 はやてが注文したのは、李舜生〔リ・シェンシュン〕。最近翠屋にアルバイトに入った留学生である。 日本語の発音や文法は、日本に来て間もないのに怖いくらい完璧。 人のいい純朴といった感じの好青年なので、今ではすっかり馴染んでいた。 「ユーノは今何処で働いてるの?」 「今年からは東京だよ。多分暫くはいられるんじゃないかな?」 「ほんと? じゃあ、これからはユーノ君と簡単に会えるね」 「できればそうしたいけど、なかなか時間が取れないかもしれないなぁ。なんせ今日まで休みが取れなかったくらいだし」 「やっぱり仕事が忙しいん? 確かゲート関係の施設としか聞いてへんけど……」 「お待たせしました」 李がはやてにコーヒーを差し出す。はやてが言い終えるのとほぼ同時だった。 それから李は、はやて達――厳密にはユーノの前でニコニコ笑いながら立っている。 「そういえばユーノ君……。ゲートとの関係……何かわかった……?」 次におずおずと話題を切り出したのは、なのはだった。不自然でないタイミングを計っていたのだろうが、 フェイトがピクリと反応したのを、はやては見逃さなかった。 ゲートとの関係――勿論、次元世界との隔絶の原因だろう。まさかこんなところで聞くとは、はやても想定していなかった。 チャンスはここしかないと判断したのか、それとも事情を知らない人間がいなくなるまで待てなかったのか。 ともかく、ユーノの答えは容易に予想できた。 「あー……ごめん、なのは。仕事についてはちょっと話せないんだ。守秘義務って言うか企業秘密って言うか……」 「あ……あはは、そうだよね。ごめんね、私ったら……今の忘れて?」 ユーノが困り顔で答えると、なのはは両手を胸の前でパタパタ振って誤魔化す。明らかに不自然な仕草は、落胆ぶりを隠せてはいない。 考えてみれば当然なのだが、それすら気付けなかった自分が余程恥ずかしかったのか、頬が僅かに赤らんでいた。 だが、これでこの話題は流れる。楽しくお喋りが続けられる。そう、はやては安心しかけた。がしかし、 「なのは、ユーノとは久し振りに会ったのに、いきなりそんなこと言うなんてちょっと酷いと思う。ユーノはなのはのスパイじゃないんだよ?」 フェイトの一言で場の空気が凍りついた。 「フェイトちゃん」 はやてが仲裁に入るが、フェイトは涼しい顔でジュースを啜っている。 「私がユーノ君をスパイだと思ってるって……フェイトちゃん、それどういうこと?」 なのはが立ち上がる。低く落とした声には静かな怒りが感じられ、それが逆に怖い。 ユーノには何が何だかわからなかったが、今にもなのはがデバイスを取り出しそうな雰囲気だけは感じていた。 「そのままの意味だけど」 フェイトが更になのはを煽り、それを見たはやては深く溜息を吐いた。 何故こうなるのだろう。ただでさえ今日は気分が悪いというのに。 付き合いきれなくなったはやては、早々に仲裁を放棄した。 「フェイトちゃ――」 「なのは」と、なのはが爆発する寸前でユーノは彼女の名前を呼んだ。 はやてが言わないなら、もう自分が言うしかないと思った。そもそも二人が険悪になっている理由はわからない。 だが、なのはの管理局と魔導師という立場に対する固執だけは、先の一言でわかった。未だ根強く残っているどころか、むしろ以前より強くなってさえいる。 フェイトの一言でここまで怒っているのも、図星を指されたからだ。 ユーノは予てからなのはに言おうと思っていた。もしも彼女が今も囚われたままなら、今日こそ言おうと考え続けていた。 (これを言ったら確実に嫌われるだろうなぁ……) そう思いながらも、ユーノは言わざるを得なかった。曖昧な言葉では、彼女を納得させるには至らない。どうにかここで踏み止まってもらいたかった。 「なのは、もういいんじゃないかな……」 「……どういうこと?」 「もう、いつまでも"あそこ"に拘らなくってもいいんじゃないかな……って」 "あそこ"とは、言うまでもなくミッドチルダ及び時空管理局である。 なのはの頬がみるみる紅潮する。それもそうだろう、これまでユーノはなのはの理解者を気取ってきた。 そのユーノの口から諦めろと言うのは、彼女にしてみれば裏切りと思うかもしれない。 そして案の定、なのはは感情を露わにした。だが、ユーノも退く訳にはいかなかった。正面からなのはの目を見据えて、視線を受け止める。 「なんで? なんでユーノ君までそんなこと言うの? このままじゃユーノ君の故郷にだって帰れないんだよ!?」 「ゲートに首を突っ込んで、危ない目に会ってほしくないんだ」 これには、現に首を突っ込んで奇妙な体験をしたはやてもこっそり俯いた。やはり、あれは人の手に負える代物ではないのかもしれない。 なのはの望みはユーノも知っている。ユーノなら、なのはが強く頼めば多少の情報漏洩は辞さないかもしれない。 それでも隠すならつまり、欠片でも触れるのが物騒な情報なのだ。 「僕はゲート関連の施設の職員で、ゲートに関する機密情報も握っている。だがそれをここで話せば、君やおじさんおばさん、 フェイトとはやてには何らかの措置が取られる可能性がある」 ユーノは流石に声量を落とし、なのはやフェイトだけに聞こえる声で話す。士郎も桃子も、ユーノからやや離れた所で作業中。 店がさほど広くないとはいえ会話は聞かれないだろう。 だがこの時、ユーノの正面、カウンターの下に屈んでいる李舜生にユーノは気付いていなかった。 ユーノは口に出す一言一言まで気を遣っていた。『ゲート関連の施設職員』だの、『何らかの措置』だの、中途半端にぼかした、 はっきりとしない物言い。ユーノが警戒しているのが、自分達だけではないのは明らか。 盗聴器の類か、それともこの中の誰かが――店内にまだ残っている数名の客を、なのはは見回した。誰も平凡なカップルや学生であり、 とてもユーノをつけているようには見えない。 フェイトはというと、表面上は神妙な顔でユーノの話に耳を傾けていたが、その実、心臓の動悸は激しくなる一方だった。 まさかユーノも、こんなところで重要な機密を話したりはしないだろう。それならなのはには危害は及ばない。しかしユーノは違う。 詳細を話さなくとも、情報を握っていると公言している。それだけでも、情報を欲する人間にはユーノを狙う動機になる。 本当なら匂わせただけでも――職員であると名乗ることすら危うい。情報を狙う輩はユーノを攫ってでも情報を吐かせるだろうし、 どんな残虐な方法も厭わない。リスクとリターン如何によっては、それを躊躇せず、顔色一つ変えずに実行する人種をフェイトは知っていた。 それを誰より知っていているユーノが、何故敢えてそんな馬鹿な行動に出たのか。 決まっている、なのはを納得させる為だ。フェイトはそこにユーノの覚悟を見た。 ユーノとしては、どんな手を使おうとも、自分からは絶対に情報が漏洩しない確信があるからこそ言えたのだが、フェイトには知る由もない。 「なのは、僕は……君をとても強く賢い娘だと思ってる。人助けがしたいなら、きっと何だってできる。 僕の知ってるなのはは勇気の塊みたいな娘だ。なのに、今の君は自分で可能性を閉ざしてるように思う」 伝わってほしい――フェイトは切に願った。リスクを背負ってでも伝えたいというユーノの想いが、どうかなのはに届くように。 なのはは大勢の視線を受けて俯きながらも、振り解くように声を絞り出した。 「そんな……そんなお説教聞きたくない!!」 「なのは……」 再度張り上げたなのはの叫びで店内はざわつき始める。士郎も桃子も、何事かとなのはを窺っている。 「ユーノ君にはわかんないよ!! 絶対にわからない!! "この世界の人"じゃないのに、ユーノ君は一人で自分の道を決めて進んでる。 凄いと思うよ……でも、でも私には"魔法"しかないから……!」 これまで伏せていたキーワードも、なのははあっさりと吐き出してしまった。いつの間にか近くにいた李や 周りの客達は、突然の騒ぎと『魔法』という単語に怪訝な様子で首を傾げている。 フェイトがギリッと歯を噛み鳴らす。自分はなのはが何も知らないことを望みながら、何も知らないことに激怒している。 酷い矛盾だと思うが、それでも許せなかった。 フェイトも間髪入れずに立ち上がり、負けじと大声でなのはに怒りをぶつける。 「なのはのバカ! ユーノがどれだけ大変だったか知ってるくせに! じゃあなのははユーノの気持ちをわかってるの!? ユーノが誰の為に――」 「フェイト!!」 またしてもユーノが言葉を遮った。フェイトには悪いと思ったが、それだけはなのはに知られたくなかった。 ――僕は君の為にゲートの研究機関に入った。その為に色んなものを犠牲にして、何度か危険にも飛び込んできた。 だから信じて待っていてほしい。 そう言えば彼女は思い直すかもしれない。だが、言えるはずがない。 不連続な時空間。ランダム且つ恣意的に捻じ曲げられた物理法則。およそこの世のものとは思えない、切り離されたある種の異世界。 十年間、世界中で選りすぐりの頭脳が研究に研究を重ねてなお正体にまで至らず、その尻尾すら掴めていない。ゲートとはそんな怪物なのだ。 その謎が解明できるのは何年後だ? 世界の壁を取り払う方法が見つかるのは? その時自分となのはは何歳になっている? 何の保証もなく、一生懸けてもわからないかもしれない。 知れれば確実に、なのはに重荷を背負わせる。自らの意思で決断しなければ、これからもなのはは苛まれ続けるだろう。 後悔する度にユーノを理由に納得し、そしてまた後悔、その繰り返しだ。それはユーノにとっても、おそらくなのはにとっても、死と同等の苦しみだと思った。 或いは、それでもなのはが考えを変えなければ――それは即ちユーノ・スクライアとは、 なのはにとってその程度の存在だという証明に他ならない。それが怖くもあった。 矛盾している。嫌われてもいいと覚悟して苦言を呈したつもりでも、そこだけは譲れなかった。 それが男のプライドと言うには、些か陳腐なものだと自覚していても。 「いいんだ……」 諦観の混じった呟きを最後に、ユーノもフェイトも、誰もが続く言葉を失った。 十数秒、沈黙が流れる。残っていた僅かな客は居心地の悪さを感じてか、一人また一人と席を立ち始めた。 「……なのは、お客様のご迷惑だ。出ていきなさい」 沈黙を割って入ったのは士郎。その声は静かではあったが、確かな怒気が含まれていた。桃子を見ると、清算をしながら帰る客一人一人に謝罪している。 なのはは、急に自分が恥ずかしくなった。こんな公衆の面前で大声で喚き散らして、店に迷惑を掛けて。 ユーノの心からの忠告にも素直になれず、むきになって。 「~~~~!」 カァッと耳までが一瞬で朱に染まる。居た堪れなくなったなのはは身を翻して出口へ走り、客の横をすり抜けて扉を開け放つ。 「なのは!」 ユーノとフェイトが同時に立ちあがった。しかし、ベルを大きく鳴らして出ていったなのはを追い掛ける寸前で、 「君達、ちょっと待ってくれないか?」 士郎に呼び止められた。士郎は、空になっていたユーノとフェイトのカップにコーヒーを注ぐ。 「君達が行っても今のあの娘は頑なになるだけだ。あの娘もあの状況でここには居辛いだろう」 「でも……」 厳しくも優しい声音。遠くを見つめる目線。士郎とて、父として心配していない訳ではない。 ユーノ達が僅かに抗議の意味を込めて呟くと、士郎は軽く苦笑して李に振り向いた。 「李君、今日はもう上がっていいよ」 「あ、はい……」 「それと、もしも帰る途中で娘を見つけたら話し相手になってやってほしい。君が良ければ、だけど。 多分、君くらいの距離がちょうどいいんだろう。急がなくていいからね」 「はい」と快く頷いた李は、最後にユーノの方を一瞥すると奥に引っ込んだ。 「さて……何から話そうか」一息吐くと、数秒間士郎は口に手を当てて思案する。カウンターの隣に最後の客を見送った桃子も入る。 「君達がなのはと出会ったのは、なのはが魔法を覚えてからだったね。知らないかもしれないが、昔のあの娘は明るいには明るいんだが、 時にどこか遠い目をする娘だった。今思えば寂しかったんだと思う。でも、ある日からそれは劇的に変わった」 そうして士郎は、魔法と出会う前のなのはを彼なりの視点で語った。 士郎の言う通り、フェイトもはやても、魔法と出会ってからのなのはしか知らない。魔法を教えたユーノも同様、 なのはは明るく活発な娘だとしか思っていなかった。それ故に士郎の話は意外であり、新鮮だった。 「あの娘にとって魔法とは、ただの夢じゃない。自己の確立なんだ。ほんの一年程度なのに、いつの間にか自信の源、 自身の根幹を成すものにまで成長していたんだろうな。"胸を張ってこれだと言えるもの"を見失って、どうすればいいのかわからないんだろう」 「明るく繕った顔で私達には気を使ってるけど……まるで十年ちょっと前に戻ったみたいね……。ここは最近は特に……」 そもそもは私達の責任なのだけど、と桃子は悲しそうにつけ加えた。 「代わるものを見つけられなければ、十年経とうが二十年経とうが変わらない。最近、何か思い出す出来事があったんだろうね」 「それで……おじさん達はどう考えてるんですか?」 「相談してくるまでは様子を見る。昔ならいざ知らず、今のあの娘は十九だからね。こっちでも注意して見ておくよ」 「ユーノ君やフェイトちゃんが、何か話せない秘密があるのはわかるわ。あの娘がそれに関係してるのも。 だから、あなた達にできるやり方で助けてあげてほしいの……お恥ずかしい話だけど」 すると、フェイトとユーノはようやく緊張した表情を綻ばせ、 「はい!」 力強く頷いた。共に力を合わせてなのはを守ろうと、言葉にしなくても互いにそれは伝わった。 そして、そんな二人を尻目に、はやてが席を立つ。 「すいません……お会計お願いします」 会計をしようとしたが、コーヒー一杯だけならお詫び代わりのサービスだと士郎に断られた。 「ごめんな……フェイトちゃん、ユーノ君。私ちょっと体調が悪いんで帰る……」 はやては二人を振り向かなかった。力ない足取りで、静かに扉を開けて去っていく。 その時、はやての胸の大半を占めていたもの――それは疎外感。なのはを想うあまり、ユーノもフェイトもそれに気付かない。 はやてには話せない共有の秘密。はやてを気遣っての行為だと理解していても、一抹の寂しさは拭えなかった。 どんな理由であっても、輪から外されたという点では同じ。 なのはの為に――その一心で通じ合った絆。はやては、そこに加えられないと言われたも同然だった。 見送る二人は、その寂しげな背中の意味を、隠されたはやての心中を察するまでには至らなかった。 外は薄暗く、街灯には既に光が灯っている。翠屋の付近に停まったタクシーから出てきたのは、黒のスーツに赤のネクタイと青のシャツ、 サングラスを掛けた黒髪の男。この街、この時間には似つかわしくない姿の男。 彼は料金を払うと、大きく深呼吸して街の空気を胸に取り込む。この街も、この店も変わっていない。 一人しみじみと、思い出を振り返って感慨に耽った。 ふと横をすり抜けた少女に視線が移る。髪型も昔と同じ、おそらくは見知った少女だろう。俯いた表情は窺えないが、心なしか泣きそうに見えた。 「はやて――」呼び止めようとした瞬間、胸元の携帯電話が震えた。 無視しようかとも思ったが、番号を見てそうもいかないと思い直す。 「はい、クロノです。ご無沙汰しております。今、実家の方に荷物を片付けてきました。お言葉に甘えて一日休みを頂き、明後日、改めてご挨拶に伺います」 「(遠路遥々ご苦労だった、クロノ・ハラオウン。久々の日本はどうだね? 私は時差ボケで難儀しているよ)」 挨拶を終えるなり軽いノリの中年の声。通話の相手はクロノの直属の上司、ディケイドである。クロノも彼に付いて日本に滞在する予定になっていた。 「契約者は風邪を引かなければ、花粉症にもならない。つまりそういうことです」 「(では時差ボケにもならないと? ハハハッ、それは羨ましい限りだよ)」 「どの道、私は慣れていますから」 世間話に応じつつもクロノは軽く流した。するとディケイドもそれを察したのか本題に入る。 「(そうか、そうだったな。ところで、君は他のメンバーとは既に顔見知りだったかね?)」 先に日本を訪れているディケイドに遅れる形で、クロノは数年振りに日本の土を踏んだ。 イギリスでの残務に時間を取られ、今後共に行動する予定のメンバーとも別行動である。 「ジャックとは数年来の付き合いですが、『ジュライ』や『エイプリル』とはまだ……」 「(そうか、彼ら三人は現在東欧に向かっている。いずれ日本に来るのを楽しみにするといい。 長旅で疲れたろう、ゆっくり休みたまえ。これからよろしく頼むよ、『ノーベンバー11』)」 どうせ電話口ではわかるまいと、クロノは顔をしかめた。 その呼び名はあまり好きではなかった。所詮は借り物のコードネーム、その功績の殆どは自分で勝ち得たものではないからだ。 「失礼ながら、今はプライベートです。それに……紛らわしいので私の方はクロノでお願いします」 そう言うとディケイドは気分を害した様子もなく、軽く笑って通話を切った。 クロノは堅物だと皆に思われている。からかったつもりなのだろう。それを知っていながら、自然とこういった返事をしてしまうあたり、 そのイメージはあながち間違ってはいないのかもしれない。 クロノは翠屋に向かいながら、そんな割とどうでもいいことを考える。はやてらしき少女は、もう近くにはいなかった。 太陽が沈み、代わりに顔を出すのは偽りの星。遮る建物のない公園では、見上げると今にも落ちてきそうな星空が広がる。 この空は嫌いなのに、なのはの脚は不思議とここに向いていた。ここは千晶と初めて出会った場所。 ほんの一週間前なのに、随分と昔に思える。それくらい彼女と出会ってからは驚きの連続で、怒涛の二日間だった。 (そういえば李君とちゃんと話したのもここが初めてだったなぁ……。あの時は匿う為とはいえ、突然キスされて思わず殴りそうになったっけ……) しかし、あの後李は何の関係もない千晶の為に力を尽くし、我が身も顧みずに契約者という異能者から千晶を守った。 その点では、自分よりも余程強く正義感がある。純朴な見かけによらない彼の勇気をなのはは高く評価していた。 彼のアパートで無様な泣き顔を見せて以来、李とはあまり話していない。契約者の存在を李も知ってしまっているだろうが、 彼からは何も言わないし、なのはも口にしなかった。 「あ……星が……」また一つ流れた。 何処かで契約者が死んだ。この星の一つ一つが契約者の命。だからこそ、こんなに美しいのだろうか。だからといって好きにはなれない。 真実を知ってしまったからには、もう星を眺めて喜んだり、流れ星に願いを込める気にはなれなかった。 なのはは暫く星を眺めていたが、背後から不意に草を踏む音がした。茂みを掻き分け、誰かが近づいている。 「誰……?」と警戒態勢を取りつつ、なのはは暗闇に問い掛ける。 「なのはさん……ですか? 李です、やっぱりここにいたんですね」 暗闇から姿を現したのは李だった。服装はいつもの様に白いシャツにジーンズ、緑のパーカー。 「李君……? もう、びっくりしたよ」 「すいません、驚かせてしまって……」 李は軽く頭を下げると、何も言わずになのはの隣に立った。街の空気から隔離された夜の公園、その中心に二人はいる。動くものも話すものもなく、 偽りの星だけが煌めいている。それは不安を煽る沈黙ではなく、風を感じながら眠れるくらい落ち着いた、不思議と心安らぐ静寂。 なのはが芝生に腰を下ろすと、李も隣に座った。 「李君……今日はごめんね、みっともないとこ見せちゃった……」 「気にしないでください、僕も早く上がれましたし」 膝を抱えたなのはは李を見ない。正面斜め下、闇の中で揺れる芝に視線は向いていたが、その目は何も見ていなかった。 「私ね、ちっちゃい頃から夢があったんだ……。その頃はまだ可能性の一つとしか考えてなかった。でもゲートが出来た日、それは消えてしまった……」 胸の内にあるあやふやなものを言葉に変換し、紡いでいく。懐かしむように、慈しむように、ゆっくりと。 目を細めたなのはの横顔は、笑顔にも泣き顔にも見えた。 「無くなってから気付いたんだ。私には他に自慢できるものがないってさ。勉強は割と出来たんだけどね、ほんとそれだけで……。 他にも道はたくさんあるってわかってる。でもね、何かが見つかりそうな直前で取り上げられた気がして……」 未だに伸ばした手を引っ込められずにいる。 ユーノはなのはを勇気の塊と評した。 なのはに言わせれば、それは正解であり誤りでもある。間違っていて合っている。 「ユーノ君の言葉の意味、本当はわかってる……」 十年前のどの戦いにおいても、ただの一度だって諦めなかった。戦うことも、想いを伝えることも、誰かを救うことも。それだけは誓って言える。 でも、彼の言いたかったのはそうではない。その対極なのかもしれない。 「私には……諦める勇気が無い……」 十年とは短いようで長かった。少なくとも、がむしゃらに突っ走るだけの少女が、大人の思考で物事を考えるようになる程度には。 「皆は未来を見て進んでる。でも、私だけ大人になりきれてない。ユーノ君達に置いていかれてるみたい」 失ったものは時間が経つにつれ、美化されていく。手に入らないもの程、欲求は強くなる。 それを踏まえても、自分が誇れる魔法を思う存分揮え、誰かを救える魔導師の道はこの上なく輝いて見えた。 「そのせいでお父さん、ユーノ君、フェイトちゃんまで怒らせて……情けないよ」 最後の言葉は、膝の間に埋めた顔からくぐもって発せられた。 なのはは黙って李の顔を窺った。その間も不安で体が強張り、緊張で喉が渇く。 何を言ってほしいのだろう? どんな言葉を期待しているのだろう? 慰めてほしいのか、責めてほしいのか、自分でもわからない。 友人と呼ぶにはまだ微妙であり、明らかに他人ではない。魔法の秘密は共有していないが、契約者の秘密は共有している。 そんな彼なら何か――そんな甘えを抱いていた。 「そうでしょうか? きっと怒ってなんかないと思います」 数秒と待たず、返事は返ってきた。李がよく見せる、優しい微笑みと共に。 「ほんとに……?」 「少しはそうかもしれませんけど、それだけならあんな風に言いませんよ」 「そう……なのかな」 「逆です。みんな貴女を心配しているんです。諦めろって言ってるんじゃない。前と後ろ以外にも、 周りと自分を見て考えてほしいって……そういうことだと思います」 流暢に語られるのは、聞こえのいい言葉を適当に繋ぎ合わせた綺麗事。被った仮面を上滑りしていくのは、中身も根拠もない慰め。 自分で自分に呆れながらも、生憎それに痛む心も持ち合わせていない。 叱るという行為は、本心から相手を想いやっていないとできない。それ故に、李にできるのは甘い励ましだけ。だから李はこう言うのだ。 「大丈夫、誰もなのはさんを置いて行ったりしませんよ。千晶さんも……貴女が優しいから、心配だから関わらせたくなかったと言ってました」 「千晶さんが……」 眉一つ動かさずに吐いた李の嘘の中で、最後の言葉だけは唯一の真実。 それは厳密には千晶でなく、千晶の姿と記憶を借りたドールの言葉。千晶の真意など、今となっては知る術もない。それでもその言葉を選んだのは、 そう思いたいからだろうか。あれは自分となのはが救えなかった、日常に帰してやれなかった哀れな人間だと。 「ありがとう……李君……」 李が言い終えると、なのはは心なしか涙ぐんでいた。嬉しいとも悲しいともつかない顔で立ち上がり、李から目を逸らす。 「私……そろそろ帰るね。お父さんとお母さんと……ユーノ君に謝ってくる。それと……フェイトちゃん……にも」 李は僅かに戸惑っている様子だが、なのは自身、感情の整理はついていなかった。ただ、千晶の名前を聞くと涙が零れそうになった。 それを隠そうと、なのはは李に背を向ける。 まだフェイトに謝る決心はつかないが、ここでこうしていても始まらない。励ましてくれた李に応えるなら、まずは酷いことを口走ってしまったユーノと、 営業妨害をした両親に謝ることから始めよう、と。 魔法という単語を、李も翠屋で聞いていたはず。なのははぼかして話したつもりだったが、内心では問い詰められるのではないかと恐れていた。 聞かれなかったのか、敢えて聞かなかったのか、どちらにせよ嬉しかった。父に言われたのかもしれないが、こうして来てくれて、話を聞いてくれたことが。 「おやすみ、李君」 「おやすみなさい、なのはさん。僕はもうちょっと風に当たって帰ります」 笑顔で手を振って別れる李となのは。去り際になのはが振り向くと、李も手を振った。 家路を歩きながら、なのはは胸の痞えが和らいだのを感じていた。それもこれも李のおかげであった。 李との距離がまた少し縮まった。そう感じると同時に、なのはは改めて、李とは根っからのお人よしであり信頼できる人物だと思った。 もっとも、本人の前では照れ臭くて言えなかったが。 なのはが去った後、李は近くの木に背中を預ける。 ここに来た時からずっと、話している間も絶えず視線を背中に感じていた。敵意や殺意の類ではなく、気配は木の上から、となれば心当たりは一つしかない。 邪魔者のなのはが早々に立ち去ってくれたのは僥倖と言うべきか。 「相変わらず女を口説くのは上手いんだな。よくあんなにスラスラと言葉が出てくるもんだ」 「猫〔マオ〕か……」 頭上から低い中年男の声。枝の上に目線だけを移すと、李を見下ろしていたのは一匹の黒猫。 コードネーム、猫――動物への憑依を能力とし、チームの情報の集約や伝達を担当する。当然彼も契約者である。 「仕事だぜ、黒〔ヘイ〕。マイヤー&ヒルトン社の社員が二人、新宿のホテルに入った。 連中の狙いの人物は、どうやらあの娘の友達と関係があるみたいだな」 一瞬で李の顔から薄っぺらな笑みが消える。目が据わり、瞳からは光沢が失せる。 そこにいるのはもう、朴訥で気の優しい留学生、李舜生ではなかった。 黒の死神、メシエ・コードBK201、様々な通り名で呼ばれる彼本来の顔。 高町なのはを一度は下した冷徹な仮面の契約者――コードネーム、黒。 黒は李の仮面を脱ぎ捨て、新たに仕事用の仮面を心に被せた。 戻る 目次へ 次へ