約 454,637 件
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1064.html
琥珀色の黄金水に白い泡。 つまりはビールなのだが、ビールの入ったグラスを高らかに掲げるとやたらと陽気な声。 「乾杯!!」 言うや否や一気に呷る。 続いて二杯目のビールを溢れんばかりにグラスに注ぎながら我らが兄貴、ヴァイスはご機嫌であった。 どれくらいご機嫌なわけかというと、「歌でも歌い出したい気分だ、んんっふ~ん♪」 まぁこんな感じ。 ウサギもかくもやという瞳をジトッと半目にしながらシンはご機嫌な兄貴を冷たく見つめていた。 「いや~たまには男だけで飲むってのもいいやねぇ~」 「あのヴァイスさん…」 意を決したのか、そろりと声をかけるが、ヴァイスは何処吹く風といった感じだ。 「おう、シン遠慮せずぐいぐい行けよ。奢りだ」 「いや、だからヴァイスさん……」 尚も言い募ろうというシンを他所に、ヴァイスはおつまみを物色しつつ早くも二杯目を空ける。 「お、何だよチータラが無いじゃんよ~カマンベールチーズしか無いって」 「オッサン!!」 おつまみのチョイスに文句を言い始めたヴァイスにシンがキレた。 「オッサンじゃな~い!!何だよシン。飲め飲め!!」 「飲めじゃねぇよ……俺未成年だっつーの」 「細かい奴だな~」 「細かくない!!百歩譲って俺は良いとしてもエリオまで呼ぶとはどういう了見だよ」 視線をヴァイスが移してみれば、手元のグラスを困ったように見つめる赤毛の少年の姿がある。 「ビールは苦手か?ワインにするか?」 「だからそういう問題じゃねぇ!!」 「何だよ……」 「飲み会をするのは勝手だけどさ、何で俺とエリオが入ってるんだよ」 飲み会のメンバーを見ればシンの疑問も最もであった。 エリオとシン、そして普段は中々接する機会の無い無限書庫の司書、ユーノの姿があった。 ユーノはただただ苦笑してグラスをちびりちびりと舐めるようにしている。 「飲むんなら普通に同僚とかで良いだろ?」 憮然としたシンに対して、ヴァイスはチッチッチと人差し指を振る。 その指をへし折ってやろうかこの野郎、そうシンが静かなる殺気を高めると、三杯目を空けたヴァイスがにやりといやらしい笑みを浮かべる。 そしてエリオをビシリと指差す。 指されたエリオはキョトンとしている。 「素直系ショタっ子!」 「は?」 何を言っているのかわからないという顔のシンを他所に、ヴァイスは次いでユーノを指差す。 「中性的美形!!」 「は?」 そして、最後にシンを指差す。 「ツンデレ美少年!!!」 「は?」 ヴァイスは立ち上がると、酒瓶を手に堂々とした様子で叫ぶ。 「どうせ飲むなら、お兄さん綺麗どころと飲みたい!!」 「死ね!!」 間髪いれずに叫ぶシン。 叫ばれたのはある意味とても真理であった。 しかし、悲しいかな、シンには理解出来なかった。 「見ろ!!この隙の無いメンツ!!合コンしたってここまでのクォリティーは期待出来まい」 「アンタの頭の中は隙だらけだな……」 ヴァイスの手には名酒『美少年』。 その酒瓶で頭をかち割ってやろうかとシンは思った。 きっとからんと良い音を立てるであろう。 ユーノは苦笑しつつワインを口にしている。 同じ男かと、シンは自分を棚に挙げながら内心呟く。 エリオは観念したようにぺろぺろと子犬の如く酒に手を出す。 頭痛を覚えながらヴァイスをもう一度見つめると、兄貴は元気にサムズアップ。 「何ご満悦って顔してるんですか……」 「バッカ、オメェ汗臭い野郎共と飲まず、かといって後腐れのある女でもなく、それでいて目の保養になってるんだ。もうサムズアップしかねぇだろ」 「散々人を合コンに誘ってるのって誰でしたっけ…?」 「色々後が面倒なんだよ!!具体的に言えばブッキングしてだなぁ…」 「もう良いです」 「事の最中に『来ちゃった♪』なんつーてもう…」 「もう良いっつてんだろうがよ!!」 「『来ちゃった♪』ならまだ良いけどよ、『来ないの♪』とか言われた日にゃあ、お前…」 「最低だ……性病移されて真実の愛とかお寒い事を言いながら肉欲に溺れつつ不治の病とかそれ何てケータイ小説?みたいな感じで死んでしまえ」 「ワンブレスで言い切った!!ツンデレだなぁ少年~~で、シンちゃんはいつ頃お兄さんにデレてくれるのかにゃ?」 「未来永劫ありません……つかデレって何ですか!」 「まぁまぁ、シン君」 シャム猫の如くツンケンしているシンと、それを楽しそうに受け止めるヴァイスの二人に待ったを掛けたのは第三者のように傍観していたユーノであった。 「ユーノ先生……」 「折角男だけでこうして騒ぐ機会をヴァイスが設けてくれたんだから、お言葉に甘えようよ」 「先生まで……」 「さっすがユーノ。わかってる♪伊達にスキンケアは怠ってないなぁ」 「オッサンは黙ってろ!!」 「酷い!!シンちゃん酷い!!パパそんな子に育てた覚えは無いぞ!!」 「既に出来てるのかよ!!酔っ払い!!!」 苦笑するユーノの前で、シンとヴァイスのじゃれ合いが再開された。 ◇ 「う~~……もう無理ですぅ~」 シンはゆっくりとした動きで赤い髪を撫でる。 チクチクとした手触りが自分の髪質とは異なり、それが面白くて撫でる手を休めない。 シンに撫でられているのは早々に酔いつぶれたエリオ。 顔を赤くし、自身の膝枕で潰れてしまっているエリオを眺めながら、シンは疲れた視線を向こう側で転がっているモノに向けた。 「ごぁぁ~~んごぉ~~」 空いた酒瓶を抱えながら、高鼾をかいて眠っているヴァイスを見ると、シンは深々と溜息を吐く。 ユーノはそれを見てクスクスと笑う。 憮然としたシンの視線を受けても、尚、楽しげにユーノは微笑む。 「ヴァイスさん……飲むだけ飲んで潰れちゃったよ……ったく……」 「はははは……でも少しは気が晴れたんじゃない?」 「え?」 思いも寄らぬ言葉に、シンはギョッとさせる。 ユーノは微笑みを絶やさずに、何杯目かになるワインを空ける。 その目元は微かに赤い。 「何か物思いに君は耽る事が多いみたいだね。今も」 「そんな事……」 「シン君。ここにはなのはもフェイトも、誰もいないよ?」 不意に向けられた真っ直ぐな視線に、シンは言葉に一瞬詰まる。 幾ばくかの逡巡の後、観念したようにシンは視線を膝の上のエリオに向けながらぽつりと零す。 「正直……こうやって楽しく騒いでると……不安になる事があるんです……」 「不安?」 「俺はここにいても良いんでしょうか?」 その声に、縋るような色が押し止められている事に、ユーノはシンという少年の強さを感じた。 けれども、見え隠れする程に弱っている、それもまた事実だと思いながら、シンの言葉の続きを待つ。 「俺は他所の世界から来た異邦人で………そんな俺がここに居続けて、皆と仲良くなって……」 「場違いだって……思うのかい?」 こくりとシンは頷く。 紅の瞳が寂しげに揺らめく。 喉を潤すように、ユーノは残り僅かなワインを流し込む。 「君は……昔のフェイトみたいな目をしてるね」 「……隊長ですか……?」 「うん。ここに居ても本当にいいのか、常に自問自答しているみたいな……そういう目をするね」 「でも……俺は隊長と違います……」 「さっき言ってた異邦人っていう話かい?」 「…………俺は他所の世界から来た……ホントの余所者だ……それが皆と深く関わっても……」 「なのははね」 「え?」 「なのはは魔法なんて関わりの無い子だったんだ……僕がミッドチルダからやって来るまでは。 僕もなのはにとっては異邦人だよ。フェイトにとっては自分の世界を壊してくれたなのはは異邦人以外の何者でもない。 みんなそれぞれがそれぞれにとっては異邦人なんだ」 「それは……それは屁理屈ですよ……」 「いいんじゃないかな、屁理屈で」 「いいって……そんな……」 「誰も幸せにしないような理屈なんていらないと思うよ。少なくとも、君は幸せじゃないみたいだ」 「幸せ……わかりません……」 「じゃあ、聞くけど、なのは達……スバルやティアナが悲しい顔をしているのを見てシン君は幸せなのかな?」 その言葉に弾かれたようにシンは顔を上げると、勢い良く首を振る。 正直なその反応に、ユーノは笑みを浮かべる。 真っ直ぐな紅の瞳は一見苛烈なようで、その実優しい。 それが伝わってきただけで、ユーノはシンを好ましいと思った。 「じゃあ、やっぱり誰も幸せにしてくれない理屈だ。僕が見た限り、君が落ち込んでて幸せになるような人は六課にはいない」 「そう……なんでしょうか…?」 「そんなんです」 きっぱりと言い放たれた言葉に、シンは呆気に取られる。 ユーノはワインを空いたグラスに注ぐと、一口、ゆっくりと含む。 「じゃあ、屁理屈でも皆が幸せになれる方が良いよ。皆が皆異邦人なんだ。君だけじゃない。君は一人じゃない。それに………」 「う~ん……むにゃ……シンさん…ハメ技は酷いですよ~~」 シンの膝に頭を乗せたエリオが寝言を呟く。 エリオの寝言は、シンとユーノの間に生まれた沈黙にするりと入り込んだ。 ぷっ、とユーノが噴き出す。 戯れに、赤いエリオの髪を撫でると、ユーノはエリオに向けていた視線をシンに移す。 「少なくとも、この場に居る三人は君に居て欲しいって思ってるよ」 その言葉に、シンはただただ無言でゆるりと膝の上のエリオの横顔に視線を移した。 穏やかなその寝顔に、自然と笑みが零れる。 「ありがとう……ございます……」 ◇ ユーノは毛布を持ってくると、兄弟犬のように身を寄せ合って眠っているシンとエリオに優しくかけてやる。 その穏やかな寝顔に、つられて笑みが零れる。 「もう狸寝入りは良いよ、ヴァイス」 そうっと、シン達を起してしまわぬように囁かれた声に反応して、むくりと起き上がる人影。 ヴァイスは、苦笑を零すと、プルタブを開けていない缶ビールを手繰り寄せると、勢い良く流し込む。 「バレバレか?」 「大丈夫、シンは気付いてないよ」 二人が穏やかに寝入ってしまっているのを確認すると、ヴァイスはユーノの隣りに腰掛ける。 ヴァイスは黙ってユーノのグラスにビールを注ぐ。 「やっぱりユーノ先生に任せて良かったぜ」 「普段からおちょくるのを止めればいいのに……そうすればこんな役人任せにしなくても良かったんじゃないの?」 ヴァイスは首を振ると、普段は中々触れないシンの猫の毛のような髪を撫でる。 その感触が気持ち良く、何度も撫でるヴァイスの瞳は穏やかで柔らかい。 其処には、バカなことを言ってシンに冷たい目で見られていた姿は無い。 「いんや、やっぱりユーノが適任だったぜ」 「面倒見が良いんだね」 「そんな事は無いけどよ、まぁただこのツンデレボーヤが随分と思いつめてたみたいだからな」 「僕にはアレだけ六課の子達に好かれていて自分がここに居ていいのか不安に思えるこの子が少し不思議だけどね」 「コイツはまぁ、ガキのクセに随分と無くしちまったモノがあるみたいだからな。誰かがハッキリ居ても良いって言ってやらなきゃ信じられないんだろ……」 「………そっか……それは好きとは少し違うから……そうなのかもね………」 シンの鴉の濡れ羽色の髪を指先に絡めながらヴァイスはビールをあおる。 「しかしまぁ………ティアナ達もまだまだだねぇ」 「何がさ?」 「惚れた男の不安一つ摘み取ってやれねぇようじゃあ、まだまだ女の経験値足らねぇな」 「ふふふふ、仕方ないよ。彼女達も彼女達で大変なんだよ」 「ま、まだまだお嬢ちゃん達には可愛い弟達はやれないな」 「そうだね」 二人は顔を見合わせると小さく笑う。 シンは普段の険が取れた穏やかな子供のような寝顔をしていた。 ツンつん×デレでれ 13話へ進む 一覧へ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/213.html
6課襲撃時にユーノがいたら eAse5psi ユーノTUEEEEEEEEEE設定だから苦手な人は下にスクロールしてくれ ―――舞い上がる火の粉、崩れ落ちる瓦礫、倒れる二人の騎士、その上空には不気味に 飛び回るガジェットの群と破壊された隊舎を見下ろす二人の戦闘機人。 正義の象徴でたる隊舎はかつての姿を失い、天を染める炎を立ち上らせていた。 彼女達の任務は、地上本部警備のためにエースを失った機動6課の制圧 …そして聖王の器の奪取 抗う【力】を持つ者は倒れ、この6課を太陽の様な笑顔で包んだ少女も奪われようとしていた。 守りたい、守りたい、守りたい、守りたい、 傷付き、意識を失った隊員達は最後までそう祈っていたはず。 その願いを打ち砕いた戦闘機動が口を開く。 「オットー、ルーお嬢様からの通信は? いくら何でも遅すぎる」 タイムリミットは近い。エース達が帰還したら帰還は難しくなる 「ルーお嬢様からの通信は無いよ。…ガリューも付いてる。大丈夫」 絶望に染まるはずだった。守りたかった。全てを奪われるはずだった。 ――そんな願いがとある男に届いた 「ルーお嬢様ってこの娘の事かい?」 不意にこの場にそぐわない透き通った声が響く。 「説得しようとしたんだけど攻撃してきたらちょっと眠ってもらったんだ」 燃え上がる隊舎から現れたのは、細身の男だった。 美しい蜂蜜色の長髪、透き通った翠の瞳、中性的な顔には妙な迫力が漂っている。 「っ隊員か!?」 ディードとオットーは同時に戦闘態勢に入る。 情報ではここにいる戦闘員は先程の騎士二名だけだったはず! 「僕? 6課の人間じゃないよ。僕は無限書庫司書長のユーノ・スクライア」 「何故その司書長がここに?」 オットーは考える。この男からはルーテシアを気絶させる程の強さが感じられない。 「私用でね、娘に会いに。そしたら6課がこんな有り様で。 意識を失う前にザフィーラからヴィヴィオと負傷した隊員達を頼むと言われたから、皆を転移させてたんだ」 ユーノは一瞬の間を空け、睨みつけるように言った。 「…それよりさ見てるんだろ? スカリエッティ」 ―ブン 音と共にオットーとディードの間にモニターが出現した。 「おやおや、珍しい人がいたものだね。無限書庫司書長ユーノ・スクライア殿?」 そのモニターに映っていたのは、この事件の中心にいるジェイル・スカリエッティ本人だった。 そんな男に怯む事無くユーノは告げる。 「顔を合わせるのは初めてだね、Dr,スカリエッティ。 僕はこれでも怒っているんだ。何故こんな事をしたのか説明して欲しい」 「説明!?そんなモノが必要かね?計画の邪魔になる敵を潰し、必要になるモノを返してもらっただけだよ」 「…そうか。こんな小さな女の子を使って、もっと小さな女の子を奪う……」 「それが人のやることかぁぁ!!」 ユーノは怒鳴りつけた。普段の柔和な彼からは想像もできない怒気を纏っている。 「フフフ…そう恐い顔をしないでほしいなぁ。 君とはもう少し話をしてみたかったんだが時間もあまり無い。今日は失礼させてもらうよ」 そこで彼は思い出したかの様に言う。 「あぁそうだ。ディード、オットー、帰還するんだ。」 「この男とルーお嬢様はよろしいのですか? 」 「あぁ。ルーテシアは必ずこちらに戻ってくるし、今の君達では彼には勝てないよ」 ―ブン モニターが消えた瞬間、戦闘機人のふたりはユーノに背を向ける。 「ルーお嬢様はいずれ返して頂きます」 告げるなり彼女達の周りから光が噴出し、次の瞬間には消えていた。 「…彼女達が戦闘機人か…、それに掃除も残ってるなぁ」 ユーノは上空のガジェットの群に目を向け溜め息をつく。 「疲れるんだけど、そうも言ってられないよね」 言うなり、ユーノは目を閉じ集中する。 思い浮かべるのは鎖。それも魔力で練った鎖では無く、鋼の鎖。 AMF、ガジェット達は魔法の力を強制的にキャンセルする力場を発生させている。 でも彼はそれを破る術を知っている。 「フルメタルバインド!」 唱えると同時にガジェットを挟む形で翠の魔法陣が顕現する。 「貫け!」 その魔法陣から現れたのは鋼鉄の鎖だった。 その鎖がガジェットの機体ん貫いていく。空を埋め尽す程のガジェットは翠に包まれた瞬間に全てが爆散した。 「転移魔法を無理矢理使った後のコレは厳しいな…」 苦しそうに呟きながら空に目を向ける。 するとそこには白い竜に乗った、見慣れた姿があった。 「…エリオとキャロ、来てくれたんだ。」 安心すると体が重くなる。 魔力量の少ないユーノにとって転移魔法と複数の束縛魔法は厳しすぎるものだった。 自分の頼り無さに苦笑いを浮かべながら彼はあっさりと意識を手放した。 長くなってしまったorz 中二病な強さなユーノ君を書きたくてやった。反省はしている。 この後の病院でお見舞い合戦が行われたのは間違い無いよ 14スレ SS オットー ディード ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3560.html
「高町なのは」 エース・オブ・エースの異名と共に、ミッドチルダにおいてその名を知らぬ者は多分いないであろう。 しかし、そんな彼女の存在がとんでもない脅威を招き寄せてしまうのである! その日、ミッドチルダの人々は特に何の変哲も無い日常を送っていたが、異変はそこから遠く離れた 時空管理局の本局内無限書庫の中から起こった。 「いきなり出て来るなり僕をこんなにして…お前は一体何者だ! 何が目的なんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ…………。』 無限書庫中の一角、無限書庫司書長ユーノ=スクライアは何者かにロープで縛られていた。 そしてユーノの目の前に立って不気味に笑っているのは、ただの人間では無かった。 頭部はまるでセミを思わせ、腕はまるでザリガニの様なハサミ状になっていたのである。 これはもはや誰がどう見てもあきらかに「人間」では無い。 『何も取って喰おうなんて野蛮な事はしない。私はバルタン星人。』 「バルタン星人!?」 ユーノの問いに対して、彼はそう答えた。「バルタン星人」 この世に存在する「人類」がホモ・サピエンス型のみでは無い事は知られている事だが その非ホモ・サピエンス型人類の中の一つに「星人」と呼ばれる分類が存在し、 さらにその数多の星人の中の一つの人種が彼、宇宙忍者の異名を持つバルタン星人なのである。 「うわ…星人なんて初めて見たよ…。管理局にも様々な世界から人が集まって来るわりには 大人の事情でホモ・サピエンス型人類な局員しかいないからな~。って感心してる場合じゃない! バルタン星人とやら! 僕を一体どうするつもりなんだ!?」 『だから先程言ったでは無いか。何も取って喰おうなんて野蛮な事はしないと。 だだ私はある目的の為に君の姿と声を借りたいのだ。』 「ある目的!? それは一体何なんだ!?」 『フォッフォッフォッフォッ! 心配する必要は無い。』 「答えになって無いよ!」 丁寧に説明してくれるわりには肝心な事は教えてくれなかったバルタン星人は次の瞬間自分の腕を軽く振るう。 するとどうであろうか。バルタン星人がユーノと同じ姿へと変身したのである。 「どうかな? 上手く化けられたかな?」 「うわ! 声まで一緒…気持ち悪い…。」 バルタン星人の変身したユーノは本物のユーノが見ても驚く程姿も声も寸分違ってはいなかった。 ミッド式魔法にも変身魔法は存在するが、それを踏まえてもバルタン星人の変身は異常な物があった。 ミッドチルダにおいて変身魔法で特定の誰かに成りすます事は犯罪とされる。無論それを防ぐ為の 魔法等も確立されているのだが、バルタンの変身はミッド式魔法による変身魔法とは全く異なる物であり、 ミッドチルダにおける対変身魔法では察知する事すら出来ない。バルタン星人が変身する様を眼前で見た ユーノただ一人を除いては……… 「ぼ…僕に化けて一体何をするつもりなんだ!?」 「大丈夫だよ。何も君に成りすまして悪さをして、全ての罪を君に着せるなんて事はしないから。」 「嘘付け! どう考えてもそれやるに決まってるじゃないか!」 ユーノは必死にもがくが、ロープで縛られている為に身動きが取れない。 そしてユーノに変身したバルタン星人は悠々と無限書庫から去って行った。 ユーノに変身したバルタン星人。彼の狙いは果たして一体何なのであろうか? それから一時した後、ヴィヴィオは無限書庫へ行く為に本局行きの定期船へ向かっていた。 そんな中、彼女はとある光景をふと目にした。 「あ!」 ヴィヴィオが見た物とは、なのはがユーノと並んで歩いていた光景であった。 とは言え、それはヴィヴィオがいる場所から距離が離れていての事であったし、 二人が一緒に歩くという光景は別に不自然な物では無く、何よりヴィヴィオは 無限書庫に行く為に本局行きの定期船に乗らねばならない。 だからヴィヴィオは特に構う事は無くその場を去るのであった。 そうしてヴィヴィオが無限書庫に辿り着いて間も無くの事だった。 「あれ~~~~~~~~~!?」 その様なヴィヴィオの間の抜けた声が無限書庫中に響き渡った。何故ならば………… 「ユーノくんそんな所でどうして縛りプレイしてるの!?」 「違う! 縛りプレイじゃなくて本当に縛られてるんだよ!」 そこにはロープで縛られ身動きが取れなくなったユーノの姿があったのだから、ヴィヴィオにとって驚きである。 つい先程ユーノがなのはと共に歩いていた所を目の当たりにしていただけに、ヴィヴィオはどういう事なのか さっぱり意味が分からなかった。 「ユーノくんどうしてこんな所にいるの? なのはママとお出かけしてたんじゃなかったの!?」 「違う! それは僕じゃない! 僕に化けた偽者の仕業なんだよ!」 「ええ~~~~~~~~~~!?」 「とにかく僕の偽物がなのはと一緒にいたって事はなのはが危ない! 一体アイツの狙いは何なんだ!?」 ユーノに真実を知らされ、ヴィヴィオは真剣に驚いた。これはもはや悠長な事はしていられない。 ユーノとヴィヴィオは共に無限書庫を飛び出し、なのはと偽ユーノを探す為にミッド地上へ向かうのであった。 一方、バルタンの変身した偽ユーノは何食わぬ顔でなのはと共に街を歩いていた。 無論、誰もそのユーノがバルタンの変身した偽物であるとは気付いていない。 前述の通り、ミッド式の変身魔法とは根本から異なるバルタン忍法による変身は ミッド及び管理世界内で使用される対変身魔法対策では察知する事すら出来ないのである。 「ねえユーノ君、私に大切な話があるって何かな?」 「うん。それはね…。」 姿のみならず声さえも完全にユーノに成りすますバルタンにはなのはも気付かず、 しかし突然大切な話があるからとこんな所に呼び出したその行動に違和感を感じながら 問い掛けていたのであったが、その時だった。 「そこまでだ!」 「え!? ユーノ君がもう一人…?」 そこへ現れたのは本物のユーノ。しかしそれを見たなのはは二人のユーノに双方を見渡し困惑する。 「ソイツから離れるんだ! ソイツは僕の偽物だ!」 「え!? え!? 偽物…!? でも変身魔法の反応は感じられないよ?」 流石のなのはも双方の判別が出来ず、双方をそれぞれに見渡し続けてはあたふたしていたが、 そこへ遅れてヴィヴィオも到着していた。 「こっちのユーノくんが本物だと思うよ。だってこっちのユーノくんは無限書庫でロープで縛られてたんだよ。 きっとなのはママと一緒に入る偽物のユーノくんに縛られたんだよ。その偽物のユーノくんはユーノくんに 成りすまして悪い事するに決まってるよ~。」 「ヴィヴィオまで…。と言う事は………。」 ヴィヴィオにもそう言われ、なのはは恐る恐る自分と一緒にいる方のユーノに目を向けてみるが、 その直後だった。なのはと一緒にいる方のユーノが笑い始めたのである。 『ハッハッハッハッハッハッハッ! こんなに早く脱出して来るとは思わなかった! もう少しきつく縛っておくべきだったかな!?』 「え!?」 その時の声はユーノのそれでは無かった。そしてなのはと一緒にいる方のユーノの姿が 三人の目の前で変わって行き、バルタン星人としての正体を現したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「キャァァァァ!! 何これぇぇ!!」 『おっと逃がさんよ。』 自分がユーノと思っていた人間が突然セミ顔でザリガニ腕な星人の姿になってしまい、なのはも 思わず悲鳴を上げていたが、バルタン星人はなのはを逃がさず両腕のハサミでガッチリと捕らえていた。 「なのはを離せ! 一体なのはをどうするつもりなんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッ! 高町なのははこれよりバルタン星人の物になるのだ!』 「何だって!?」 『見よ!』 バルタン星人が片腕を上空へ向ける。するとどうであろうか。クラナガン上空に漂っていた巨大な雲の中から 葉巻型の巨大な戦艦が現れたのである。 『バルタンの星から来たUFOの母船だ。あの中に高町なのはを吸い込ませてバルタン星に連れて帰る。』 「それで一体どうするつもりなんだ!?」 『我々優秀なバルタン星人の動物園に入れるのだ。下等動物として動物園にな! フォッフォッフォッフォッ!』 何と言う恐ろしい計画であろうか。バルタン星人の目的はなのはを捕らえて自星の動物園に入れる事だったのである。 ユーノに変身したのも、ユーノに成りすませば一切警戒されずになのはに近付く事が出来ると見ての事なのだろう。 そしてなのはとバルタン星人に対し、バルタンの葉巻型戦艦からビームが放射される。 ビームと言ってもそれに殺傷力は無く、俗にトラクタービームと呼ばれる物なのか 二人はバルタンの葉巻型戦艦へ向けて吸い込まれて行く。 「なのはー!」 「ユーノくーん!」 このままではなのははバルタン星へ連れ去られて動物園に入れられてしまう。 なのはは必死でもがくが、バルタン星人の力は強く離さない。 『無駄な抵抗はよせ! 往生際が悪いぞ!』 バルタンはなのはを抑えようとするが、なのはは抵抗を止めない。なにしろバルタン星に 連れて行かれたらなのはは動物園に入れられてしまうのだから、なのはも必死である。 人として最大限の努力をしなければならない。そしてバルタンの腕が緩んだ一瞬の隙を突いて脱出。 レイジングハートで魔法少女に変身した。マッハ5のスピードで空を飛び、強力な魔力であらゆる敵を 粉砕する不死身の女となったのだ。それ行け! 我等がヒロイン! って第一作目ウルトラマン第一話を見てなきゃ 全然意味が理解出来ないフレーズだなこれは。 バルタン星人及びバルタン葉巻型戦艦のトラクタービームから脱出したなのはは空を切ってその場から離れて行く。 しかしバルタン星人も空を飛んでなのはの後を追い駆ける。 「近付かないで! 気持ち悪い!」 なのははバルタン星人目掛けてシューターを連発して行くが、バルタン星人もそれを掻い潜って行く。 一方、バルタン星人の襲来によって時空管理局ミッド地上本部は大騒ぎであった。 特にバルタンの葉巻型戦艦は依然クラナガン上空を我が物顔で浮遊(もち無許可で)しており、 管理局もこの対処に追われていたが、本局ならともかく貧乏な地上本部にまともな戦艦の類があるワケが無く もうこの状況どうすりゃええんだよ~って事になっていたが、なんとか彼方此方探し回った挙句 既に廃艦が決まっていたにも関わらず、廃艦解体作業もタダじゃねーんだぞと言わんばかりに予算の都合で 依然そのままの状態で残っていたアースラに急遽武装や燃料を積み込んで出撃すると言う事態になっていた。 なのはのシューターを巧みに掻い潜るバルタン星人になのはは徐々に追い詰められつつあった。 バルタン星人は空を飛べるのみならず、バルタンの同属の中にはかつてM78星人のスペシウム使いの一族とも 互角以上の空中戦を演じた者がいる程その速度も凄まじい。流石のなのはも苦戦は必至と言わざる得なかったが… 「なのはー! 助けに来たよー!」 「フェイトちゃん!」 そこへ何処からかなのはのピンチを小耳に挟んだのか、フェイトが飛んで来た。 そしてバルディッシュのザンバーモードでバルタン星人へ飛びかかったのである。 「なのはに手を出す奴は私が許さないぃぃぃ!!」 次の瞬間バルディッシュザンバーの一閃がバルタン星人の身体を真っ二つに両断した……が……… 何と言う事だろう。そのバルタンの真っ二つになったそれぞれが二人のバルタン星人に変化したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 「ええ!?」 二人のバルタン星人の不気味な笑い声がハモり、フェイトも思わず困惑してしまうが、 二人のバルタン星人の両腕のハサミがフェイトに対して開かれ、そこから破壊光弾 通称バルタンファイヤーが撃ち込まれ、その直撃を受けたフェイトは何処へ吹っ飛ばされてしまった。 「あ~れ~!」 「フェイトちゃ~ん!」 恐ろしい。何と恐ろしいバルタン星人であろうか。宇宙忍者の異名は伊達では無いと言う事なのか。 一方その頃地上ではユーノとヴィヴィオの二人に加え、この騒ぎを聞き付けて殺到して来た大勢の モブ局員に対してバルタン葉巻型戦艦の猛爆撃が行われていたりする。なのは本人は動物園に 入れる事が目的である為に生け捕りにするのだろうが、他の者達はお構いなしと言う事であろうか。 無論管理世界における質量兵器禁止もバルタンには関係の無い事なので、バルタン葉巻型戦艦の 破壊光弾が次々にクラナガンの地表へ撃ち込まれもう阿鼻叫喚。 そこへやっと遅れて来たアースラが到着。バルタン葉巻型戦艦へ向けて魔力砲を果敢に発射し、 クラナガン上空を舞台に壮絶な空中戦が始まっていた。 その頃、なのははシューター攻撃を止め、二人から一人に戻ったバルタン星人に対して レイジングハートの先端を向けていた。 「全力全開! ディバイィィンバスタァァァァ!!」 なのはの代名詞と言われるディバインバスター。これならば例え直撃は無くとも射線にいるだけで それ相応のダメージを与える事が出来る…が…次の瞬間である。ディバインバスターがバルタン星人を 飲み込むと思われたその時、バルタン星人の胸部が開き、そこから現れた鏡上の物体が そのディバインバスターを180度反射させてしまったのである。 「え!? キャァァァァァァ!!」 自分のディバインバスターが180度跳ね返って来てなのはも思わず悲鳴を上げずにいられなかった。 そう。これもバルタン星人の持つ能力の一つであるスペルゲン反射鏡。胸部に仕込まれた強力なミラーで 全ての光学兵器を弾き返してしまうのである。人類にとって放射線や紫外線が有害である様に、 スペシウムなる物質を有害としているバルタン星人が、スペシウムの力を持つM78星雲の戦士に対抗する為に 自身を進化させたのが始まりであり、その威力はM78星雲の戦士の放つ光線のみならず、あらゆる光学兵器に 対して有効である。無論ディバインバスターも光を発している以上光学兵器には変わり無い為、 スペルゲン反射鏡の前には反射されてしまうのも仕方の無い事だった。 「え!? そ…そんな!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 ディバインバスターが180度そのまま反射される。なのはにとってそれは衝撃的な事だった。 しかしバルタン星人はそんな事等構うはずも無くなのはへ向けて迫って来るのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「悔しいけど空中戦では不利なのかもしれない…。」 なのはは確かに優れた空戦魔導師であるが、元々陸上生物たる人が魔力によって不自然に飛行している形に過ぎない。 だがそれに対しバルタン星人は種として当たり前に持っている力として飛行可能な星人である。 それを考えれば空中戦に関してなのはと言えどもバルタン星人に劣っていると言わざるを得ず、 なのはは陸に降りて地上戦に切り替えるのだった。 「あの両腕の大きなハサミで殴られたら一溜まりも無いけど…代わりに重くて格闘戦時の動きも鈍くなるはず…。」 陸に降りたなのはは後を追って陸に降りたバルタン星人に対しあえて格闘戦を挑んだ。 バルタン星人の両腕の大きなハサミは格闘戦時に強力なハンマーとして機能し得る反面 その分重量もあって素早くかつ器用に振り回す事は出来ないであろうと考えたのである。 故にバルタン星人のハサミ攻撃を回避しつつレイジングハートでバルタン星人を一突きにする作戦であった。 「やぁぁぁ!!」 レイジングハートを構え、なのはは正面からバルタン星人目掛け突っ込んだ。 そしてレイジングハートの鋭い先端部分がバルタン星人の胴体部へ突き立てられる……と思われたその時、 バルタン星人がフッとその場から掻き消えたでは無いか! 「え!? 消えた!?」 突如として姿を消したバルタン星人に戸惑うなのはであったが、さらにその直後 何と背後にバルタン星人が現れて右腕のハサミで突き飛ばされてしまった。 バリアジャケットの保護があれど、これは痛い。 「え!? 何時の間に後に!? ならば今度こそ!」 バルタンに殴られて痛いのを我慢して素早く体勢を立て直したなのはは再びバルタンへ突きかかる…が、 やはりバルタンはなのはの眼前からフッと掻き消え、今度は側面からハサミで突き飛ばされてしまった。 これも例によって痛い。 「えぇ!? そんな! 何でぇ!?」 なのははその後も何度も何度もバルタンへ突っ込むが、その都度バルタンは掻き消え、 さらにその直後になのはの意識しない方向から反撃を受けると言う事を繰り返す羽目になっていた。 そう。これこそバルタン星人が宇宙忍者と呼ばれる所以の一つ。物や人を遠くへ転送する魔法は ミッドチルダにも存在するが、それも詠唱等の準備が必要となる。しかし、バルタン星人は 特に意識する事無く呼吸をする様に楽々と瞬間移動を可能としているのだ。その威力は M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士さえ翻弄してしまえる程。しかもこれもやはり バルタン星人が種族として当たり前に持っている力なのだから恐ろしい事この上無い。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「あーもー! ズルイズルイ!」 人間の基準からは余りにもトリッキー過ぎるバルタン星人の行動になのはも悔しさを感じずを得なかった。 M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士ならば透視能力でバルタン星人の動きも捉える事は可能であろうが、 残念ながらなのはにそんな力は無い。しかしなのはにはまだ最後の武器が残っていた。 「えぇい突撃!」 再びバルタン星人へ突撃するなのは。無論その手はバルタン星人に瞬間移動回避をされるのがオチである。 しかし……………… 「と見せかけてバインドォォ!!」 なのははバルタン星人へ突っ込むと見せかけてバインドをし掛けた。なのはが馬鹿の一つ覚えの様に バルタン星人へ突撃を繰り返していたのは全てこの為であった。なのはが突撃を繰り返せば、バルタン星人も 条件反射的に同じ行動を取る様になる。そこでなのはが全く違う行動を取ればバルタン星人も、 最低一瞬は隙が出来るはず。そこを狙いなのははバルタン星人へバインドをし掛けたのである。 両腕両脚のみならず、胸部スペルゲン反射鏡を仕込んだ部分をバインドで抑えられ動けなくなった バルタン星人に対し、なのはは距離を取った。 「これならば…これならばどう!? 今度の今度こそ正真正銘の私の全力全開! スターライト! ブレイカァァァァァァァァァァァ!!」 出た。なのはが周囲の魔力を集め放つスターライトブレイカー。ディバインバスターと並ぶ 彼女の代名詞とさえ言われる強力な魔力砲である。ディバインバスターをも凌ぐ太さと出力の 極太魔力砲がバルタンへ向け、射線上のあらゆる物を巻き込みながら突き進んで行く。 そしてバルタン星人はバインドから逃れる事もスペルゲン反射鏡で弾き返す事も出来ず、 ついにその魔力光に飲み込まれてしまった。 「ふぅ………幾ら相手が星人だからと言っても…やっぱり命を奪うのは忍びないかな…。」 スターライトブレイカーの魔力爆発が晴れ、そこに残された真っ黒焦げの焼死体となった バルタン星人に対しなのははそう呟いていたが…その時だった。何とその焼死体と思われた バルタン星人の中からまるで虫が脱皮をする様に無傷のバルタン星人が出て来たのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「えぇ!? そ…そんな……。」 バルタン星人はここまでの力を持つと言うのか? 自分の持つ全ての能力が通じないバルタン星人の 脅威的な力になのはも絶望せざる得なかった。バルタン星人がなのはを下等動物として動物園に 入れよう等考えるのも、これだけの差を見せ付けられればそれも仕方の無い事なのかもしれないと 彼女でも考えてしまう。そしてバルタン星人は絶望しその場に立ち尽くすなのはへ歩み寄って行く。 しかし、絶望的なのはそれだけでは無かった。クラナガン上空でバルタン葉巻型戦艦と撃ち合っていた アースラもまた背後に回りこまれた上で滅多打ちにされ、煙を噴き上げて失速ていたのだった。 「推進部、動力部ともにもうどうにもなりません!」 「総員退艦! あ~も~! あれもこれもまともな艦をよこしてくれない本局が悪いんだ!」 幾らアースラが廃艦が決まった旧式艦であるとは言えこの絶望感は異常。恐るべきはバルタンの科学力。 とは言え、アースラにはリンディ・クロノ・エイミィ等、アースラと言えばこいつ等的なお馴染みのメンバーはおらず、 クルーも艦長も急遽揃えられたモブの集まりであったのだから、むしろここまで戦えた事を褒めるべきか。 アースラも工場で廃艦解体されるよりかは戦いの中で轟沈した方が本望であろう。 「あ…アースラが…。」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 アースラが炎を吹き上げ沈んで行く中、バルタン星人の不気味な笑い声が響き渡る。 そして絶望の余りその場から動けぬなのはに対しバルタン星人は一歩一歩近寄って行くのである。 『バルタン星の動物園が待ってるぞ~。』 「あ…ああ……。」 なのははこのままバルタン星の動物園に下等動物として入れられてしまうのだろうか? が、その時だった。突然バルタン星人に背後から飛んで来たと思われるチェーンバインドが巻き付いたのだ。 「あのチェーンバインドの色はユー………あっ!」 チェーンバインドの色から考えるに、ユーノの物であるとなのはは悟っていたのだが、その後が違っていた。 確かにチェーンバインドそのものはユーノの物だ。しかし何と言う事であろうか。ユーノのそのチェーンバインドを ヴィヴィオやら先程バルタン星人に吹っ飛ばされたはずのフェイトやらその他モブ局員やらが大勢集まって 掴んで引張っていたのである。 「そ~れ! そ~れ!」 とか何か声を上げながら皆で一斉にバルタン星人を引張り、なのはから引き離して行く。 しかし、ただ闇雲に引張って行くだけでは無かった。 「それ! 今だぁ!」 「それぇぇぇぇぇ!!」 皆で息を合わせ、一斉にバルタン星人を引き飛ばした。バルタン星人が引き飛ばされた先にはバルタン葉巻型戦艦。 そしてバルタン星人は勢い良くバルタン葉巻型戦艦に衝突し、忽ち空中で大爆発を起こし四散してしまった。 「あ……………。」 あれだけのチート振りを誇ったはずのバルタン星人の余りにもあっけない最後になのはも 開いた口が塞がらなかったのだが、それをフォローするかの様にユーノが言った。 「だって考えても見てよ。バルタン星人を倒せるのはバルタン星人の作った兵器しか無いんじゃない?」 「な…なるほど~~~~~~~~!!」 確かに言われて見ればその通りである。様々なチート的超能力を種として持っているバルタン星人を 倒せるのは、そのバルタン星人がチート的科学力で作ったチート的兵器しか無い。 こうしてなのはをバルタン星の動物園に入れると言うバルタン星人の野望は潰えた。 しかし、バルタン星人は数多ある星人の中でも特に限りなきチャレンジ魂を持っている種族である。 もしかしたら何かの拍子に付けてヴィヴィオ・リオ・コロナ等の子供達を喧嘩させ、 その子供同士の喧嘩から家庭間の喧嘩に発展させ、そこからさらに喧嘩の規模を連鎖的に 発展させる事で全人類を巻き込む大戦争にまで発展させて行く~なんて気の長い 計画を進める様なバルタン星人も…現れるのかもしれない。 END
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/161.html
書庫の王はゲームも得意? 作者: ID GCo3Ilas 「チェック。これで気が済んだかい、クロノ?」 ミッドチルダで今、爆発的な人気を持つボードゲームを挟んで、ユーノは クロノに勝利を宣言する。 「くっ、フェレットもどきの分際で……」 「あのね。こっちは忙しい仕事の合間を縫ってわざわざ相手 してあげてるんだから、そんな事言わないでよ」 「だってオマエ、納得いかないんだから仕方ないだろう。俺が持ってきたゲーム なのに、まだ一度も勝ててないんだぞ」 「そんなの知らないよ。クロノが弱いだけじゃない?」 「……言ってくれるじゃないか。ならこっちは助っ人を呼ばせて貰おう」 そして呼ばれたるは夜天の王と烈火の将、参謀たる湖の騎士。 「さぁ、この三人と俺を相手にどこまで持つか楽しみだ!」 一人張り切る提督と、苦笑を交し合う他四人の間で始まったゲーム。 管理局が部隊運用のシミュレーターとして採用しようか検討中と噂されるほど リアルなソレの結果はと言えば。 「ぐっ、……見事だ、スクライア」開始十分、烈火の将堕つ。 「あかん。もうなんもできん……でもこれが機動六課なら」言い訳しつつ、 二十分で夜天の王は消えた。 「あぁぁ……駄目か。このお化けフェレットもどきが!」良く分からない悪態 を吐きつつ、青年提督三十分を超える事なく沈んだ。 「……降参ね。このまま続けても一時間二十三分後、私が負けるわ」三時間の 激闘の果て、湖の騎士は読めてしまった自らの敗北を認めた。 「そんな事より、あんた達仕事大丈夫なのかい?」 ……激戦に熱中していた四人に、アルフの声が届くと同時、予定していた仕事 を思い出し、一斉に騒ぎ出した。 「おい、ユーノ! オマエも速く仕事に戻れ!」 「いいんだよ、ユーノは最初から仕事も平行して進めてくれてたんだから」 アルフの言葉に、ユーノと戦った四人が恐ろしいモノを見る目でユーノを見つめた。 15スレ SS ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/175.html
スバルのおまじない 作者:◆pxoVQARIYU 氏 本局の休憩スペースでのお話。 「せんせー!どうしたんですか、こんなところで」 「・・・やぁ、スバル。 いや、ちょっとね。 仕事で大ポカやらかしちゃって……ちょっとした気分転換かな」 「ほぇ~・・・せんせーでもそういう事があるんですか?」 「そりゃあ僕だって人間だ。神様みたいな人間を超越してる存在じゃないよ」 「でも、せんせーは充分普通の人間超えちゃってますよ? 私達が束になってもあそこから必要なのをすぐに見つけてくるなんて出来ません」 「あれは経験に依るものが大きいんだ。 本局から下りてくる資料請求って、似たり寄ったりの要求が結構多いし。 まぁクロノの場合は毎回毎回変則かつ大量に要求してくるから、 あんまり経験は役に立たないんだけどね」 そのまま仕事の愚痴や経験談を語り始めるが、やがて失敗したことを思い出して再び鬱になるユーノ。 「せんせー。ここであれこれ考えてても仕方ないですし元気出しましょうよ! あ、そうだ!せんせーに活が入るようにおまじないをしてあげますね」 「おまじない?」 「すみませんが、ちょっと目を瞑ってもらえませんか?」 「こう?」 「はい、ではいきますよ」 何が始まるのかと目を閉じながら考えてたユーノだったが、突然身体の浮遊感と頭部への衝撃を感じた。 直後に背中への痛みを感じたユーノは、自分が休憩スペースの壁際まで吹っ飛ばされた事を認識。 そして吹っ飛ばした張本人はいわゆるデコピンの姿勢のまま呆然としていたが、 やがて正気に戻ると慌ててユーノのもとに駆け寄った。 「だ、大丈夫ですかせんせー!?」 「・・・一体何が?」 「あ、あの・・・せんせーに活が入るように、ギン姉直伝のデコピンを・・・ かるーくしたつもりなんですけど」 「き、君たち姉妹の軽くは普通の人間の鉄拳だよ!」 本来吹っ飛ばされる役は恭ちゃんだけど気にしない 16スレ SS スバル スバル・ナカジマ ユーノ ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/665.html
S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE Awaken 「みんな……」 『Mr.ユーノ、ヴィヴィオが目を覚ましました』 「良かった……」 ヴィヴィオが意識を取り戻した事にユーノとバルディッシュは安堵した 「あれ……こなたお姉さんやリインは……それに……」 「ああ、みんなは……」 「そっか……」 見たところヴィヴィオはこなた達の死を理解している様だった。何故理解していたのか気にならないではないがそれについてはひとまず触れなくても良いだろう。 その時、 『キュルゥゥゥゥ……』 車庫に出来た穴の前にフリードリヒが立っていた。 「あれは!?」 『Ms.キャロが使役しているフリードリヒです、しかし何故ここに……』 予期せぬ来客者に動揺するユーノ。しかし一方、 「あぁぁぁぁ……」 ヴィヴィオが何かに脅えた様な表情をしている。それに呼応するかの様にフリードはヴィヴィオの方へと向かっていく。 『何故彼女の方に……?』 「まさか、ヴィヴィオが浴びた血の匂いに惹かれたんじゃ……そうだ、バルディッシュ、周辺の様子を探って」 警戒を強めるユーノとバルディッシュに構わう事無くフリードはヴィヴィオの前に立つ。その眼は何処か鋭かった。 「ううっ……」 ヴィヴィオにはフリードが何故やって来たのかわかっていた。ヴィヴィオ自身に染み着いている血肉の匂いはキャロ・ル・ルシエのもの―― 慣れ親しんだ匂いに惹かれてやって来たという事だ。そこまで強い嗅覚があるのか? そんな事は大きな問題ではない、主人を想う強い意志がフリードをここへと導いたという事だ。 わかっている、彼女の死体を完膚無きまでに破壊しその尊厳まで壊したのは自分だ、フリード側から見れば恨んでも何ら不思議はない。 わかっている、自分が許されざる罪を起こした事は――だが、 自分を送り届けてくれたこなた達の為にも―― ヴィヴィオはフリードを抱き留め―― 『キュルゥゥ……』 その瞳に涙を溜めながら―― 「ごめんね……」 『キュル……』 零れ落ちた涙を受け、フリードはヴィヴィオへの警戒を解いた。ヴィヴィオを謝罪を受け入れたのだろうか―― 犯した罪は決して許されない――だが重要な事はそこから逃げる事ではない。その罪と向き合いこれからどうするかである。 死や思考停止は只の逃避だ。犯した罪の重さを深く受け止め、そこから何かを学び取り前へと進む事が重要なのだ。 それは、生きている者にしか出来ない事だ―― Dismantle 『マスター……』 ヴィヴィオから大まかな話を聞いたバルディッシュは亡き主人であるフェイトの事を考えていた。 ヴィヴィオの証言にあったフェイトはヴィヴィオの事を知らない9歳ぐらいではあったがそれでもヴィヴィオを助けようとした。バルディッシュは機械らしくはなかったものの不思議と嬉しく感じていた。 「昔のフェイトがヴィヴィオを助ける為にキャロを殺し、こなた達を殺しフェイトにも致命傷を負わせキャロの死体をヴィヴィオが破壊したか――」 どうやら、ヴィヴィオはアニメイト襲撃の際にこなたとリインが殺されたと思っている様だ。事実は違うわけだが状況が大きく変わる訳ではないため、特別修正することもなく話を進める。 ちなみになのはが今も生きている事を聞いてヴィヴィオは驚いていたもののまだママに会えると思い少し嬉しそうな表情を見せていた。少しというのは、暴走し皆殺しにしようとした事を悔やんでいるからだろう。 (頼むよなのは……これ以上ヴィヴィオを悲しませないでくれ……) そう願うユーノであった。 『ゆりかごを利用出来ればまだ……』 何とかなのは達と再合流した後はゆりかごへ向かうべきだと進言するバルディッシュであったが、ユーノは何かを考えている様だった。 『Mr.ユーノ?』 「バルディッシュ……周囲に人の反応は?」 『全く反応ありません』 「どうする……僕の仮説が正しければ……だけどもしこれ自体が罠だったら……失敗は許されない……」 ある瞬間から感じていた違和感等からユーノの脳裏にある仮説が浮かんでいた。それはこの状況を打開する可能性のある重要な仮説である。 しかしそれはあくまでも状況証拠でしかなく、一歩間違えれば全滅の可能性をも秘めた危険な仮説だ。 「だけど何れはやらなきゃいけない事なんだ……でも……」 「ユーノ……?」 『キュルル……?』 『お願いですからヴィヴィオ達を心配させる事しないでください』 「なのは達が戻るのを待つか……だけど、こんなリスクが高い事なのは達だってさせるわけないしなぁ……」 3者が気にするにも構わずユーノは思考を広げる。 『勝手に自己完結しないでください。Mr.ユーノはそうやって全部自分で背負い込む悪い所があるんですからね』 そう言い放つバルディッシュに対し、 「わかったよ、バルディッシュ……これからする事は成功するか解らない賭けだ……だから細かい質問は後で聞くから僕の指示に従ってくれる?」 『Yes.』 そしてユーノは駅の詰め所から幾つかの工具を持ち出し再び車庫に戻り、 「じゃあヴィヴィオ、フリードを貸してくれるかい?」 「うん……」 と、フリードを受け取ったユーノは―― バルディッシュと幾つかの工具でフリードの首輪を解体し始めた。バルディッシュは何か言いたそうだったが口を出さず、ユーノは黙々と慎重に素早く解体を行う。そして、 「出来た……だけど……そんな事って……」 フリードの首を拘束していた首輪が外れた。続いて、 「ヴィヴィオ、来て貰える?」 「え……うん」 その後間髪入れずにヴィヴィオの首輪の解体を始めた。今度は先程よりもハイペースで進みやはり首輪が外される。 「やっぱりそうか……でもこれって……もしかしたら……バルディッシュ、ヴィヴィオに僕の首輪を斬らせて」 「え?」 『正気ですか?』 「最悪僕が死ぬだけで済むよ。時間がない、すぐにでも始めて」 『ですが……』 と、構わずユーノはフェレット状態に変身する。ヴィヴィオの背では自分の首まで手が届かないと考えての配慮である。なお、急いでいたため、しゃがめば良いという発想には至らなかった。 「急いで!」 「う……うん、お願い、バルディッシュ……」 『Yes,ヴィヴィオ……』 そして、ヴィヴィオとバルディッシュの理解が追いつかないままユーノの首輪にバルディッシュの刃が入り、首を傷付けない様にして首輪の切断に成功した。そしてユーノは切断された首輪を引っ張りそれを外し元の人間状態に戻った。 かくしてユーノ、ヴィヴィオ、フリードは忌まわしき首輪の呪縛より解放されたのだった。 「はぁ……はぁ……よかった……僕の予想が当たった……」 と、ユーノは再びバルディッシュを受け取る 『予想とはどういう事ですか?』 「ああ、結論だけ先に言うよ。首輪が解除……正確には起爆装置が解除されていたんだ」 ユーノが気付いた事実。それは首輪の起爆装置がOFFになっていた事である。 『確かに前に調べた時と比べ何かが違うと思いましたが……ですが何故それに気づいたのですか?』 「フリードのお陰だよ」 ユニゾンデバイスやフリードの様に自律行動可能な支給品にも首輪が装着されている。同時にそれらには参加者とは違うある制限も課せられていた。 それは参加者の首輪から一定距離以上離れれば行動不能になるという制限だ。余談だがこの事を知ったのはアジトでリインと首輪解体を行った時である。実は首輪解体の際に首輪に関して色々話していたのだ。 ここまで書けば何故ユーノが首輪に異変が起こっている可能性に気付けたのかわかるだろう。 フリードは単身でいきなりユーノとヴィヴィオの前に現れたからだ。フリードにもリイン達同様の制限が掛けられていると考えるならばそれは起こりえない事だ。 所有権が移らない限りは50メートル以内に他の参加者がいる筈だ。だが、ユーノがバルディッシュにサーチさせた限り周囲に人の反応は全く無い。 つまり、制限の範囲を超えてフリードは普通に動いていたという事だ。勿論、制限がユニゾンデバイスと同様とは限らないが参加者ではない支給品を自由自在にさせる事など有り得ない。 故にユーノは首輪に異変が起こった可能性を考えた。同時に上手く行けば解除出来る可能性だ。ある違和感を踏まえれば可能性は低いものではない。 だが、それはあくまでも可能性レベル、それ自体がプレシアの仕掛た巧妙な罠であるかも知れない。 本当ならばもう少し慎重に行くべきだったかも知れない。だが、首輪の解除は何時かは行わなければならない事、決して避けては通れない。 更に違和感から導き出される推測が確かならば急がなければならない。クリアしなければならない問題は首輪だけでは無いのだから。 なによりこんなリスクの高い事をなのは達の前で話しても彼女達が躊躇するのは明白。ならばいっそここで勝負するべきだろう。 Lならばきっと同じように自分の命を懸けてでも勝負に出るだろう、 ブレンヒルトならば毒突きならばもユーノの賭けに乗るかもしれない、 この地で散った2人の為にもユーノはここで勝負に出たのだ。 かくしてユーノは勝負に勝った。 調べた所フリードの首輪の起爆装置はOFFになっていた。爆発しないとわかれば解体は容易、迅速に行う事ができた。 その後、なのはに託されている手前少し躊躇したものの敢えてユーノは予測が当たっている事を信じヴィヴィオの首輪の解体に乗り出した。 その結果、予想通りヴィヴィオの首輪の起爆装置もOFFになっていた。やはりそこからの解体は容易だ。 そして他に解体出来る人がいないため後回しになっていた自分の首輪に関しては単純に首輪を切断するという手法で済ませた。真面目な話起爆装置がOFFになっているならばそれでも問題ないはずだ。実際、その推測通り解体は成功した。 『……理由はよくわかりました。ですが、もう少し詳しい説明してください』 「僕自身絶対大丈夫っていう確証が無かったから……ともかくこれで問題の1つはクリアしたね」 だが、身体の調子を見る限り首輪を付けていた時と比べて目に見える程の変化は感じない。予め調べていた時からわかっていた事だが制限は首輪主導ではなくフィールド主導なのだろう。 勿論、ある程度制限が解除されている可能性は否定出来ないが過度な期待はしない方が良いだろう。 『Ms.なのはが聞いたら怒りますよ、ヴィヴィオを危険な目に遭わせて……死んだらどうするんですか?』 「いや、それはわかってはいるんだけど……でも首輪解除の時で絶対について回る問題でもあったし……」 『それにしても何故首輪の起爆装置がOFFに?』 「これは僕の想像だけど……プレシアはこのデスゲームの表舞台から去った可能性があるよ。 断定出来るわけじゃないし変に皆に希望を持たせたくなかったら言わなかったけど……放送が10分遅れていたんだよね」 何人かの参加者が気付いているのと同様にユーノもまた先の放送が定時より10分遅れていた事に気付いていた。 プレシアに何かあった可能性もあったがそれならそれで3回目の放送同様オットーに代理を頼むなり、放送の際に適当に遅れた理由を言えば済む話だ。だが、実際は10分遅れたにもかかわらず普通に放送をしていた。 何も起こっていないかの様に―― さもこれは不自然なまでにプレシアが健在である事をアピールするかのように感じたのだ。 『スカリエッティの戦闘機人の中に変身能力を持った者がいます。先の放送のプレシアは実は彼女だったという可能性は否定出来ません』 「あ、そういう事出来る人いるんだ。それなら仮説が正しい可能性が高まったよ」 『JS事件のやり口を考えてもスカリエッティ達がプレシアを出し抜く可能性が高いです』 JS事件の事は知らなかったが、バルディッシュからの証言でユーノは更に仮説を進めていく。 それは放送前にスカリエッティ達がプレシアを裏切り彼女を退場させ、このデスゲームを乗っ取ったという事だ。 完遂させる事を一番に望んでいたプレシアが退場したならばデスゲームの監視は緩くなるのは当然の事だ、首輪解除の隙も出来やすくなる。 『しかしそれだけでは首輪の起爆装置がOFFになる理由の説明にはなりません』 「そう、そこなんだ。激しい戦いが繰り広げられる以上、何かの拍子でOFFになる可能性は0ではないとはいえ限りなく低い……だとしたらやっぱりこれは主催側でOFFにしたとしか思えないんだ。 正直、そんな事するメリットがわからないんだけど……」 『いえ、相手がスカリエッティなら有り得ない話では無いですよ。あの人はJS事件もある種のゲームの様に楽しんでいましたからね』 「嫌な犯罪者だね……それはともかく、OFFにしたって事はOFFにしても問題ない事を意味するね。OFFにしても大丈夫という算段があるって事かな?」 首輪を解除した所で今いるフィールドから脱出して主催陣のいる場所に辿り着かなければ意味はない。故に脱出への障害は十分に残っている事になるのだ。 Limit 『何にせよ、首輪が解除出来るならば後はMs.なのは達と再合流して脱出に向けて動くだけですね。絶望的だった状況に光が――』 「むしろ逆、首輪解除しても問題ないって事は首輪解除だけでは何の進展もないって事だよ。大体、スカリエッティがそんな都合良く脱出させると本気で考えているの?」 『それはないですね。ゲームを仕掛けているとしてもスカリエッティ側がある程度有利な様に設定して――そういうことですか?』 「そう、首輪の問題がクリアされた時点で僕達の目的はフィールドからの脱出に変わる。だったらスカリエッティ側の目的は僕達の脱出を阻止しつつロワに使われた技術を確保したまま離脱するという事になるね」 『――タイムリミット』 「その通りだよ。プレシアを退場させた時点でスカリエッティの目的の前提条件はクリア。後は早々に離脱するだけ、長居をする必要なんて何処にもない。」 纏めるとこういう事だ。ユーノは放送の遅れからプレシアが退場しスカリエッティ達が主催になったと推測した。 だが、プレシアにとってはアリシア・テスタロッサ復活という目的があるデスゲームであってもスカリエッティ達にとって同じではない。 少なくてもスカリエッティ達が律儀にデスゲームを執り行う理由は少ない。 むしろ、早々に切り上げ離脱する可能性の方が高いだろう。当然離脱された時点でデスゲームは瓦解、残された参加者の生死は考えるまでもない。 故に、主催が変わった事により、タイムリミットの設定が変更されたという事になるのだ。 「それがどれくらいかはわからない。とはいえ脱出だけならばそんなに手間はかからないだろうからそう時間は残っていないと思うよ。 待って――もしスカリエッティが意図的に放送遅れや首輪の爆弾を解除したのなら……次の放送前後がタイムリミットになると思う」 首輪の爆弾解除や放送の遅れは異変のヒントとなる。確かにそれだけでは確定的なものではない。 だが、時間の経過と共にそれを切欠として異変に気付く者は多くなる。ユーノが気付いた事実を他の参加者が気付かない道理は無い。 情報交換等を考えるならば恐らく6時間もあれば大半の参加者に伝わるだろう。 が、スカリエッティ側からみればこちらが幾らその情報を得たとしても踏み込まれる前に脱出すれば問題はない。つまりこちら側がその情報を得るまでの時間も計算に入っているという事だ。 故に、タイムリミットは前述の通り、異常の起こった放送から6時間後、次の放送が行われる予定だった6時前後がタイムリミットと考えて良い。 「それに……プレシアが退場したとはいえ、このまま黙っているとも思えないんだ……」 プレシアが退場したとしても、前に推測した通り、その対策が施されている可能性は否定出来ない。それこそスカリエッティ達も自分達も全滅させる様な凶悪な罠を仕掛けている可能性がある。 どちらにしても自分達にはもう時間がないという事だけは確かだ。 『後数時間……あまりにも少なすぎます……』 タイムリミットを踏まえるならば最早ゆりかごに向かう時間もない。 「残念だけど現状ではこのまま駅で待つ事しかできないよ」 ユーノ達は車庫を出て仲間達の到着を待つ。状況は最悪と言って良い。それでも―― (大丈夫だよ、なのはなら――出会った頃と変わらず、強い不屈の心を持った彼女なら――僕の知る彼女よりもずっと成長した彼女なら――) この場にいるなのはは自分の知る彼女よりも4歳年上の大人の女性だった。少し大人になった彼女と彼女から見て少し幼い自分が顔を会わせるのに気恥ずかしさを感じないと言えば嘘になる。 それでも、別れ際に見た彼女の顔を思い出す度に心の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。 (なのは――君が守りたがっていたヴィヴィオは何としてでも僕が守るよ――だから―― 負けないで――) 【2日目 黎明】 【現在地 E-7 駅・車庫の前】 【ユーノ・スクライア@L change the world after story】 【状態】全身に擦り傷、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意、はやてに対する怒り 【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2(内1つ食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類 【思考】 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。 1.駅でなのは達の到着を待つ。 2.ヴィヴィオを守る。 3.ジュエルシード、レリックの探索。 4.仲間達の首輪を解除し、脱出方法を模索する。 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。 【備考】 ※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。 ※プレシアが退場した可能性に気付きました。同時にこのデスゲームのタイムリミットが2日目6時前後だと考えています。 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】リンカーコア消失、疲労(中)、肉体内部にダメージ(中)、血塗れ 【装備】フェルの衣装、フリードリヒ(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】なし 【思考】 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。 1.なのはママ達の到着を待つ。 【備考】 ※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。 ※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。 ※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。 ※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。 【全体備考】 ※2個のクレイモア地雷が爆発し車庫の扉が破壊されました。 Back S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて 時系列順で読む Next 戻らないD/スバル・ナカジマ 投下順で読む Next 抱えしP/makemagic ユーノ・スクライア Next Revolution ヴィヴィオ Next Revolution
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/634.html
◆LuuKRM2PEg 氏が手がけた作品 話数 タイトル 登場人物 179 こなたとリインと男の娘 ユーノ・スクライア、泉こなた 182 闇よりの使者 アンジール・ヒューレー、キング 184 罪罪(状態票) 天道総司、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ユーノ・スクライア、高町なのは(StS)、八神はやて(StS)、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ、泉こなた、柊かがみ 187 解ける謎!!(前編)解ける謎!!(後編) 天道総司、キング、金居、アンジール・ヒューレー 195 Revolution 天道総司、ユーノ・スクライア、高町なのは(StS)、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ 登場させたキャラ 3回 天道総司、ユーノ・スクライア 2回 泉こなた、アンジール・ヒューレー、キング、高町なのは(StS)、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ 1回 ヴァッシュ・ザ・スタンピード、八神はやて(StS)、柊かがみ、金居 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/5681.html
地下。 小町はベジータとの交戦をしていた。 小町が戦っているうちに、彼女の指示で負傷したなのは組は都庁方面へ退避させられた。 というより繰り広げられる戦いは光と光がぶつかり合うような激しすぎる攻防であり、全員手傷を負っている上に首輪も外れていないなのは組では足でまといになると思い、小町が逃がしたのである。 ベジータはそれだけの強敵であり、誰かを守りながら戦う余裕など無いのである。 「クソッ! 攻撃が届かない気持ちの悪い能力を使いやがって! 大人しく俺とクラウザーさんのためにSATUGAIされやがれ!」 小町は先の戦いでセルベリアに使ったように距離を操る程度の能力を使って、ベジータの拳や蹴り、エネルギー弾を自分やなのは組に届かないようにしたのだ。 いくらスピードを出して攻めても、距離を操る彼女の前で止まるか逸れてしまう。 いくら強力な技でも当たれなければどうということはないのである。 だが…… (クソッ! やっぱりここでも火力不足が目立ってやがる! あたいの銭や斬撃が当たっても全く効いてねえ!) 小町側にしてみれば、ベジータの異常に高い防御力の方が驚異であった。 セルベリアのヴァルキュリアとしての防御力も異常だったが、ベジータの場合はそれを遥かに上回っており、弾幕も斬撃もダメージゼロである。 これでは当たっても意味がない。 セルベリアの方は首輪の制限によりヴァルキュリアの力を使えば使うほど急速に疲弊していったが、ベジータの場合は首輪が外れているので戦闘による疲労はほとんどない。 (しかもこいつ、防御力だけじゃなくて、パワーとスピードもセルベリア……いや、レストすら上回ってる! 一瞬でも隙を見せたらこっちが殺されちまう!) 都庁の戦力の要であるレストは確かに理不尽級の強者だが、ちょっと本気を出せば惑星など簡単に消せるスーパーサイヤ人には流石に届かない。 更にこれ以上強くなれないレストと違い、サイヤ人は戦いがある限り際限なく成長し続けるのだ。 これまでロワを通じて幾多もの戦いを生き延びた小町にはベジータの実力が今まで戦ってきた参加者の全部を上回っていることを肌で理解していた。 それでもこれまでのベジータは金髪恐怖症が足枷となって実力を発揮できなかった。 が、クラウザーさんの歌によって狂ったことにより恐怖症を克服。 枷から解放されて実力を100%発揮できるようになってしまった。 もはやダオスやレスト、悪魔将軍すら彼の中では怖くないのだ。 そんな相手を前にして小町が臆すことなく戦えたのは幻想郷において場合によっては死人も出る弾幕ごっこで動体視力と回避能力を鍛えられていることと、影薄組や同盟軍などの仲間の存在と、いくつもの死線を突破していったために胆力がついたおかげだろう。 もし序盤のように殺し合いでサボることだけしか考えていなかったら、ベジータを前に足がすくんで戦うことはおろか逃げることもできずに塵にされていただろうと小町は考える。 そして弾幕の飛ばしあいと刀の斬撃と拳による打撃の渦の中。 一瞬でも集中力と能力を切らせば一気に攻め入られ、殺されるかもしれないギリギリの戦いの中で小町は、ベジータを倒せるか追い払えるだけの実力を持つ仲間の救援を待った。 ……しかし救援は間に合わず、代わりにピシッと音を立てて不運がやってきた。 「神鎗が!?」 これまでロワで小町の相棒として戦ってきた斬魄刀が、ベジータの鉄壁の防御力の前に耐久性に限界が来てしまい、その刀身に大きなヒビが入ったのである。 更にセルベリア戦の倍は能力を使っている小町の疲労も重なり、一瞬の動揺が付け入られる隙を与えてしまった。 その機を見逃さなかったベジータが、ニヤリと笑い、能力を張り損ねた小町に対して鉄拳を放つ。 「ッ!?」 ベジータの攻撃に対して、小町は咄嗟にディパックから小舟を出して盾代わりに防御する。 舟は大破したが小町への攻撃の直撃だけは防がせた。 「うわああああああ!!」 しかし余波までは防げず、キイーーーンというジェットのような音を立てて、彼女を大きく後ろに吹っ飛ばしたのである。 なのは組は小町の指示通りに都庁への退避をしていた。 しかし全員負傷がひどく、どうしても速度が出ないのである。 なのはに関してはベジータの攻撃による負傷で頭にダメージを受けたのか、ユーノの手の中でずっと意識混濁状態だった。 「ユー…ノ君……どこ?」 「なのは、しっかりするんだ! 僕はここにいる!」 「チッ、まずいな。この様子だと頭を打ったみてえだな」 「なのはが死んでしまったら、僕は…ボクハ……!」 「落ち着けユーノ! なのはは死に直結する怪我は負ってねえよ!」 医学生であるレオリオによりなのはの容態を知るが、それでもユーノは落ち着かずに焦燥していた。 これまでユーノをリーダーとして見てきたなのは組一行に取っては、こんなに困惑したユーノを見たのは初めてだった。 今のユーノは恋人を殺されかけていつもの冷静さを失っているのだ。 とにかくユーノは小町がベジータを引き付けている内になのはを都庁同盟軍の仲間に治療させるために都庁を目指す。 (レオリオは医大生だが短い時間で仲間を治療するスキルは持っていない) だが彼らの希望は潰えるが如く、後方から凄い勢いで吹き飛ばされてくる小町の姿があった。 「小町さん!?」 「危ねえ!」 あの勢いでそのまま壁面に激突すれば小町の肉体は粉々になってしまう。 直感で気づいた桑原が彼女を受け止めるべく飛び出し、彼女の体をキャッチする。 「うおおおおおッ!?」 「がはッ!!」 「桑原!!」 しかし勢いそのものはほとんど殺せず、小町を受け止めた桑原の体が小町ごと壁面に激突する。 桑原が緩衝材となったおかげで小町は粉々の肉塊になって死ぬ惨事は防がれたが、体中から血を流して気を失い、彼女のメインウェポンであった斬魄刀は折れてバラバラになってしまった。 彼女のクッションになった桑原はそのタフネスさ故に死ぬことはなかったが、こちらも小町同様に体中から血を流して気を失ってしまった。 頼れる仲間が一辺に二人も戦えなくなったこと……特にベジータのパワーに唯一対抗できていた小町が戦闘不能に陥ったことに残されたユーノ、ハス太、レオリオ、エリカは戦慄する。 そしてスーパーサイヤ人という名の絶望が彼らに追いついた。 「手こずらせやがって、俺様の手で直々にSATUGAIしてくれるわ!」 「そんな……」 「畜生、こんなところで!」 「まだ諦めてはなりません! 何か打つ手があるハズ……」 敵の攻撃をほぼ確実に外させる能力を持つ小町と、敵の防御力を無視する霊剣を持つ桑原は気絶した。 エリカは手元にポケモンがおらず、護身術程度ではサイヤ人には敵うまい。 ハス太とレオリオの実力でもベジータに敵わないのは先に立証済み。 せめてハス太が限定解除状態になればワンチャンスあったかもしれないが、首輪が外れていない現状ではそれもできない。 そんななのは組をまとめて花火にするべく、ベジータは気を練り始めた。 必殺技のファイナルフラッシュで一気にトドメを指すつもりなのだ。 それを感じ取ったなのは組は内心では生存を諦め自分たちの最期を確信した…… 気絶している者たちと、ユーノを除いて。 ただ一人、ユーノだけがベジータに平然と向かっていく。 「ユーノさん?」 「ユーノ?」 「ユーノ……さん?」 気を失っていたなのはをゆっくりと地面に下ろし、レオリオたちの呼びかけにも応じずにベジータに向かっていくユーノ。 その心の中では、様々な感情が渦巻いていた。 ――ドクン 一つはなのはを失うかもしれないという恐怖 ――ドクンドクンドクン 一つはなのはに怪我をさせてしまった自分の無力さへの怒り 一つはなのはを確実に守るための力への渇望 ――ドクンドクンドクンドクンドクンドクン 一つはなのはを傷つけた怨敵への殺意 一つはなのはを悲しめたあらゆる者への憎悪 仲間たちにこれまで見せたことのない瘴気のような禍々しい魔力を噴出するユーノ。 そんなユーノに気絶から覚めかけていたなのはが彼の背中を見てうわ言のように呟く。 「ユーノ君……?」 ――ド ク ン ッ 最後に感じた思いはなのはへの愛。 ユーノの中で様々な思いがかき混ぜられた時、ユーノは混沌への扉を開いてしまった。 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!」 「なんだ!? こいつの気が膨れ上がって……」 ユーノはまるで野獣のように叫んだ。 周辺をビリビリと揺らす咆哮に、レオリオもハス太も、精神力の強いエリカでさえ思わず立ちすくんでしまい、ベジータをも驚かせた。 そして咆哮と同時に彼の体に変化が現れる。 瘴気じみた魔力を吹き出しながら金色の毛皮を全身を覆い、加えて胴が細長くなり長い尻尾が生えてきた。 シルエットだけは彼がよく変身するフェレットの姿に似ている。 しかし、全体的なサイズは大柄な桑原やレオリオの何倍もあり、牙も爪も一目で危険とわかるくらい鋭く、目は赤い複眼の恐ろしい姿だった。 ユーノは一瞬でフェレットによく似た怪物になってしまった…… テラカオス化進行による変身である。 突然、怪物に変身にこの場にいた誰もが混乱している。 「フリーザのような変身能力か! さっきの40倍か50倍は気が大きくなってやがる! だがスーパーサイヤ人にしてサイヤ人の王子である俺の足元にも及ばねえがな!」 ベジータはユーノが変身と同時に力を大幅に増したことに一時は驚くも、力の差は未だにベジータが大幅に上回っており、勝てると見込んで再びなのは組にファイナルフラッシュを放とうとしていた。 ユーノの実力の元の50倍程度では圧倒的戦闘力を誇るベジータを殺すのはまだまだ足りないのだ。 「俺のレ○プを喰らいやがれ! ファイナルフラァーーーーーッシュッ!!!」 巨大な閃光が地下の壁面や床を削りながらなのは組に襲いかかる。 このロワで上位の実力者だった神樹をも倒した一撃が、なのは組と小町に襲いかかる! しかし、その一撃に対しユーノはなのはたちの前に躍り出て、巨大な防御結界を張った。 ユーノは防御面に関してはスペシャリストだ。 だがそんな彼の結界による防壁もいとも容易く破られたことは先ほど証明されている。 その50倍硬い結界を張ってもやはり破られるだろう…… ただしそれは、単純に防御力を上げただけの場合である。 結界とファイナルフラッシュが衝突した瞬間、目のくらむような眩い閃光がなのは組を襲う。 されど閃光はなのは組や小町を蒸発させることはなく、結界から先へ進むことはないまま霧散した。 「ダニィ!?」 驚くベジータだが、これで終わりではなかった。 今度は怪物化したユーノの口に光が集まり出した。 テラカオス化進行によって得たユーノの能力……それは! (こいつ…空気中に漂っている俺の放ったファイナルフラッシュの気の残滓を吸ってやがる! それだけじゃなく、倍近くも奴の気の力が強まっているだと!?) ――結界で弾いた攻撃のエネルギーを吸収し、それを倍以上にして敵に返す。 敵の攻撃が強ければ強いほど強力になるカウンター魔法……それが、テラカオスに近づいたユーノの固有能力であった! 「グラアアアアアアアアッ!!!」 攻撃を凌いだユーノ君が反撃に出る。 口からシュートバレットによく似た光弾がベジータに向けて吐き出されようとしていた。 「あれを喰らうのは流石にまずい!避けねば……ハッ!?」 さしものスーパーサイヤ人ベジータも自分の必殺技の倍以上ある攻撃は避けねばまずいと判断する。 ところが、彼が攻撃を避けようとした瞬間、ユーノによってチェーンバインドで手足を縛られ、身動きを取れなくしていた。 このチェーンバインドも50倍以上の強度があり、常人はおろかチート級の参加者では脱出不能であるが。理不尽級に位置するベジータなら2~3秒あれば破壊して脱出できるだろう。 ……もっとも、2~3秒あれば今のユーノには十分であったが。 そしてとうとう吐き出された光弾。 ベジータの放ったファイナルフラッシュの倍以上の閃光であり、もうなのは組の面子は目を開いていられなかった。 その光弾の威力も速度も、なのはのスターライトブレイカーが花火に見えるレベルであろう。 ベジータは光弾が直撃する前にバインドを力技で破壊して脱出を試みるも、バインドの破壊と同時に閃光に包まれた。 「サイヤ人の……王子であるこの俺が……」 閃光が収まった後にはベジータの姿はなく、ユーノの攻撃でできた瓦礫と燃えかす、地下の空洞があるのみであった。 なのは組は、ユーノの手によってベジータに勝利し生存を掴んだのである。 「やりましたね、ユーノさん!」 「こいつめ、こんな隠し玉あるんなら最初から使えよ」 敵を倒したユーノをハス太とレオリオは賞賛し、彼に近づきながら褒め讃えた。 ハス太とレオリオはユーノが強力な変身能力を持っていてそれを今まで奥の手として隠し持っていたとばかり思い込んでいた。 そうでなくとも最凶の敵であったベジータを倒したことで緊張の糸が切れたのかもしてない。 「なのはさん、桑原さん、小町さん! しっかり!」 「う……うん……エリカ……さん」 エリカは気を失っている三人の介抱に向かう。 ユーノも気になるが今は倒れている味方を優先しての判断であった。 ちょうどその時に意識が混濁状態であったなのはも正気に戻りつつあった。 なのはが目覚めるのがあと10秒早かったら、この後に起こる惨劇は防げただろう。 もしくは『参加者を怪物に変える謎の瘴気』の情報を知る小町が気を失ってなかったら、エリカが三人ではなくユーノの方にもっと疑いの目を向けていたら。 情報は知らずとも鋭い勘を持つ桑原が倒れていなければ未来は変わっただろう。 だが運命は残酷だった。 なのはは覚醒した瞬間と同時に目を見開いた。 重傷を負った仲間たち。 跡形もなく消えた強敵。 巨大フェレット型の怪物と化したユーノ。 その光景全部が、千年タクウがなのはに見せた未来そのまんまであったのだ! 「ダメ!ユーノくんから離れてーーーッ!!」 なのははユーノの傍にいる二人組に声を絞り出すように警告を発した。 それは暗黒の未来を変えるための、彼女の最後の足掻きであった。 「え?」 ……しかし、全ては遅かった。 なのはの言葉に何事かと思った二人はなのはに振り返るが、それこそが致命的な隙になってしまった。 よそ見をした瞬間に、テラカオス化進行によって敵と味方の区別がつかなくなったユーノは、二人のうち一人に牙を向き、首根っこにガブリと噛み付いた。 そして一瞬のうちに鋭い牙によって体と頭を切断させた。 ここまでで0.1秒にも満たない時間であった。 体が外れてしまった頭が地面に落ちてコロコロと私の足元まで転がってきた。 ……その首の持ち主は―― 「いやあああああああああああああああああああああ!!!ハス太くーーーーーん!!」 「ハス太……!?」 「ハス太さん!」 ハス太の首に映る表情には、一瞬で味方に殺されたがために何が起きたのか理解していない呆気に取られた表情をしていた。 邪神級の力を持つ少年のあまりに呆気ない最期と、ユーノの突然の暴走にレオリオとエリカは怒りと悲しみを覚えるよりもただただ驚愕していた。 一方、この未来を知っていて皆に話さなかったなのはの表情は、とうとう惨劇の未来を変えられなかったことにより絶望に歪んでいる。 そして怪物ユーノの視線がギロリとなのはに向いた。 「グウウ……」 「ひッ!?」 おどろおどろしい怪物の複眼に、相手が恋人であるユーノであることも忘れてなのはは腰を抜かしてしまう。 そして怪物はハス太の首のない骸をその辺に放り投げ、なのはに向けて一直線に駆けた。 「ゆ、ユーノ! やめろ! ぐあ」 「ユーノさん! うッ」 ユーノの次の狙いがなのはだと気づいたレオリオとエリカが止めに入ろうとするも、傷ついた二人では止めることも叶わず、ユーノの突進によって突き飛ばされて床に転がった。 そうしてユーノはなのはの下にたどり着いてしまった。 「あ、あああ……」 「ナノハ……」 恋人の変貌に怯えるなのはを前にしたユーノはなのはに向けて牙を向けて食い殺す。 「マモル……」 「え……? わ!」 などということはなく、口でなのは首の襟をくわえ込んだと思いきや、そのまま他の獲物に目もくれずに駆け出し、ベジータが神樹及び都庁を破壊する際に開けた穴の壁面を爪を使ってスイスイとよじ登って地上へと出て行った。 残されたのは静寂とレオリオとエリカと、まだ気絶から醒めない桑原と小町、ユーノに連れていかれる際になのはが置いていったディパックにハス太の惨死体だけだった。 「畜生! いったい全体、何が起きてんだよ」 状況の読めないレオリオが吠える。 そして冷静さを取り戻そうとしていたエリカがようやく、主催がばら撒いたと思われる瘴気のことを思い出し、口にする。 「まさかユーノさんも瘴気に当てられて……!」 「瘴気!? 神樹の言ってた奴か! それとユーノが怪物になるのと関係あるのか!」 「ごめんなさい、私が仲間に気を配りきれなかったばっかりに……!」 自分たちよりも情報を知っているエリカを問いただそうとするレオリオの視線と、情報を持っていながら兆候を目撃していなかったからとはいえ仲間が瘴気に感染発症する可能性を考慮していなかった自分にエリカは強い自責の念を覚える。 だが立ち止まってばかりもいられなかった。 こんな時こそめげるのではなく、動き続けなければいけないのだ。 「今は都庁に戻りましょう」 「ユーノを追わなくて良いのか!? 今のあいつじゃなのはの身の安全も危険だぞ!」 「わかっています。私だってそうしたいです。 ですが、私たち全員がボロボロであり気絶した桑原さん小町さんを抱えてじゃ追いかけるのも止めるのもまず不可能……ここは治療も兼ねて都庁に戻るしか――」 「いいや、おまえらはもう生きて都庁に帰れねえぜ?」 「「!?」」 突如、聞き覚えのある声が聞こえたと思った瞬間……レオリオの上半身が背後から飛んできたエネルギー弾によって消し飛び、下半身だけを残してこの世を去った。 「なッ――」 「レオリオさん!」 「下半身だけあれば良いってな、まずは一匹SATUGAIしたぜ」 レオリオの命が消し飛んだあと、嘆きたい気持ちも抑えてレオリオを殺した下手人を視界に捉えると、そこはあらゆる意味でいてはならない男がいた。 「ベジータ!! あなたは死んだハズじゃ……」 「一度の戦闘で惑星破壊規模の戦闘を行うサイヤ人を舐めるな。 今までに都市が一瞬で蒸発するような攻撃くらい何度も食らっている。 本気の必殺技だったら東京など軽く消し飛ぶが、そんなことをすれば狂信者の本拠であるビックサイトも吹っ飛んじまうからな。 そうならないように今まで威力をかなり落として撃っていたんだよ。 あのガキには驚かせられたが、俺を殺すには手加減しまくったファイナルフラッシュの倍と+α程度の威力じゃ足りなかったな」 「そんな……」 ベジータは死んでいなかったのだ。 跡形もなく消し飛んだように見えて、実は少々遠くへ飛ばされただけ。 多少の手傷と出血は負わされたものの、スーパーサイヤ人を殺すには程遠い。 「どうやらあのガキは俺が見ていない間にどこかへ行ったようだな。 能力的に俺を殺せそうな奴はいなくなってちょうどいい。 次の一撃でおまえと都庁ごと吹き飛ばしてやる」 「くッ……」 ベジータの腕に再び、気の力が宿る。 今度はエリカごと都庁ごと消し飛ばすつもりなのだ。 都庁にはまだ無傷の戦力にダオスやフォレスト・セルも残っているが、バーダックよりも遥かに格上なスーパーサイヤ人を倒せる保証はない。 さらに地下にいるベジータの攻撃を察知できているかまでは不明であり、フォレスト・セル辺りは生き残れても魔物と対主催の希望である世界樹や他のメンバーはアタルやレオリオのように消滅させられる危険がある。 対してエリカは手持ちポケモンを失い、ベジータの攻撃を阻止できるだけの戦力は持っていない。 今度こそ最悪の状況、万事休す。 エリカも今度の今度こそ終わりを確信する。 「『距離を操る程度の……能力』&死価『プライス・オブ・ライフ』!!」 エリカが諦めかけたその時、一人の女傑は目覚め、立ち上がり。 ベジータに向けて不意打ちによる能力の付加によって回避絶対不可能の無数の銭弾幕を放つ。 「うおおおおお!?」 今までは届かなかった弾幕は全てベジータがユーノによって付けられた傷口に吸い込まれていき、食い込ませる。 いかなスーパーサイヤ人でも体の内部までは鍛えられないという判断だろうか? 硬すぎる肌と筋肉を避けた体内攻撃により、小町による攻撃で初めてベジータにダメージが入り込む。 「こいつ傷口に攻撃を! だがこの程度でスーパーサイヤ人が死ぬと思うな!!」 確かにダメージは入ったが、ダメージそのものは微々たるもの。 殺すには威力が足りなすぎる。 「いいや、アンタはここで死ぬんだよ。死神の剣でね」 「!?」 しかし相対する小町は冷徹な視線をベジータに向けていた。 実力差は蟻と象並の差があり、自分にボロボロにされた相手のものでありながら、恐れを抱かずに相手を殺そうとする視線。 ベジータはその視線に、金髪キャラに睨まれる以上の恐怖を一瞬でも感じ、ゾクリと脊椎を震わせた。 「――死(ころ)せ 『神鎗』」 そして死神によって刑が執行された。 次の瞬間、ベジータの全身に耐え難い激痛が走り、口や鼻や目などのという穴という穴から血を噴き出した。 「がはあああああああ!!」 「ベジータが!?」 ユーノの攻撃ですら倒せなかったベジータが、悶え苦しんでいた。 その彼の苦しみ方はポケモンバトルで、特に状態異常を得意とする植物系ポケモンを扱うエリカには見覚えがあった。 「これは毒! それもかなりの猛毒!」 「そうさね。神鎗には奥の手として内部に死に至る強力な毒が仕組まれている。 刀の一部を相手の体に植え込み、解合すれば発動するって仕組みさ」 「き、貴様、さっきの銭の中に刀の一部を……!」 「ああ、銭はただのカモフラージュ。傷口を通してアンタの体内に神鎗の破片を入れさせてもらったよ」 ユーノが開けた傷口。小町はそれを利用してベジータの体内に銭弾幕に混ぜた砕けた神鎗の破片を侵入させた。 これまではベジータの高すぎる防御力によって体内に侵入させる前に阻まれるが、ユーノが手傷を負わせたことで、破片の体内侵入が可能になったのだ。 「直接攻撃が効かないなら毒ならどうだと思って咄嗟にやったことで、毒が効かない相手ならあたいらは詰んでいたが…… どうやらサイヤ人は高い戦闘力と引き換えに毒への耐性がないみたいだね」 「お、おのれぇ~、ごふッ!」 かつて戦った仲でもあるレストには状態異常に無敵の耐性を持つ故に神鎗の猛毒を使っても効果はなかっただろう。 同様に強敵のセルベリアは抗菌作用を持つラグナイトに守られているので効果は薄かろう。 しかし毒や病気に耐性を持っていないサイヤ人のベジータにはまさにクリティカルヒットだったのである。 小町の必中を可能にさせる能力、神鎗の猛毒、ユーノがつけた傷、その三つの内のどれか一つでも欠けてたらこうはならなかった。 「クッソたれ~! 死ぬ前におまえらだけでも道連れにしてやる!」 毒による死を確信したベジータは、最後の抵抗として小町とエリカだけでも殺そうとする。 毒のせいで気が上手く練れないのでギャリック砲以上の強力な技は使えない。 そのため、無数のエネルギー弾を放つ弾幕攻撃、通称グミ撃ちで二人を殺そうとする。 しかし小町はエリカを抱えた後、冷静にベジータの弾幕を躱していく。 「こちとら幻想郷の弾幕ごっこで鍛えてんだい! 満身創痍のアンタの弾幕じゃ、止まって見えるんだよ!」 「クソッ! 大人しくくたばりやが「くたばるのはテメーの方だ! ベジータァーーーッ!!」 さらにベジータは毒と攻撃を躱される苛立ちにより気の察知能力が弱まり、それによって気絶から醒めた桑原の側面からの奇襲を許してしまう。 「ぐああああああ!!」 なんでも両断できる桑原の次元刀によってベジータの両腕と両足が切断された。 今まではベジータに掠らせることもできなかったが、今度は当てられる状況下だったために次元刀が効果を発揮し、スーパーサイヤ人の高い防御力を無視して切り裂いたのである。 「ハス太、レオリオ、すまねえ……だが一矢報いたぜ……う」 桑原が目覚めた時にハス太とレオリオの死体が目に飛び込んだために二人がベジータに殺されたと思い(ハス太は違うが)怒りのままに桑原はベジータに斬りかかった。 その直後に疲労とダメージにより再び気を失って地面に倒れ伏すが、彼の一閃によってベジータは戦う手段も逃げる手段も失ってしまった。 「がふッ……俺の…何が間違っていたんだ……教えて、くれ……」 とうとうベジータにも死の瞬間がきた。 なぜ愛する妻が死なねばいけないのか、なぜ自分より格下の相手に負けて虫けらのように毒にもがき苦しんで死なねばいけないのか、なぜクラウザーさんの歌を聞く願いは届かないのか疑問を投げかける。 だが答えは返ってこない。 毒をも癒すフェイスフラッシュの持ち主で、疑問を答えてくれる冷静で的確な判断力を持った仲間はつい先ほど自分が裏切って殺してしまったのだから。 せめて金髪にビビらず、人に流されず、妻の死にもめげず、クラウザーさんの歌に逃げない強い心を持っていたら運命は変わったかもしれないが、もはや後の祭りである。 「ブル…マ……」 最期に愛する妻の名を言い残し、サイヤ人の王子にしてZ戦士、誇り高き超人血盟軍の一員……弱き心のせいでその誇りも絆も全て捨ててしまった狂信者は逝った。 【ベジータ@ドラゴンボール 死亡】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「勝てたか……だけど」 小町たちはスーパーサイヤ人に勝利した。 だが小町が周囲を見るととても喜べる状況ではないのがわかる。 エリカと桑原は重傷、ハス太とレオリオは死亡、ユーノは怪物と化しなのはをさらってどこかへ消えた。 自分もアタルによって回復した分が帳消しになるほどの手傷と消耗を負ったのだ。 ここにいない日之影やアルルーナも負傷し、神樹は再び死地に立たされている。 狂信者軍団と貴虎・マーラによる襲撃でただでも大打撃を受けたのに、ベジータ一人のせいでさらに打撃を被ることになってしまった。 仲間を誰ひとりとして失わないつもりで戦っているが、現実はこの有様である。 「すまないね、神鎗。今までありがとな……」 これまで小町のメインウェポンだった神鎗もベジータに折られたばかりに柄しか残っておらず、斬魄刀を直す技術のない小町では修復もできなかった。 ある意味相棒であるとも言えた神鎗の喪失に小町は憂いの感情を覚える。 そんな彼女たちにカマキリに似たFOEが現れた。 地震でダンジョンの構造が変わってなかなか地上の世界樹に戻れずダンジョンを彷徨っていたアイスシザーズである。 仲間の出現に小町は喜ぶが、どうやら仲間は彼一匹しかいないようであり、状況を読めてなさそうな雰囲気からしてあかりたちがよこした救援ではなさそうだ。 『死神! 大丈夫か!』 「アイスシザーズか!」 『騒ぎを聞いて駆けつけてみれば、この惨状は一体……そこにいる和服の女ととうもろこしみたいな頭をした男は誰だ?』 「大丈夫、この二人は仲間だ。 地下にずっといたアンタは知らないだろうがレストとダオスもエリカのことは知っている」 『そうか……』 「それよりアイスシザーズ、すぐにでも地上の世界樹に戻ってエリカと桑原の治療を行いたいんだ。その大きな背中を貸しておくれ」 『人間は好きではないが、同盟の者ならいちおう信用しよう。 死神、敵がまたこないとも限らない。早く人間たちを背中に乗せるんだ』 とにかく重傷を負ったエリカと桑原を安全地帯である世界樹に運ぶ必要があった。 エリカの話によると自分が気絶している内に怪物化したユーノと拐われたなのはの行方も気がかりだが、アイスシザーズ込みでもユーノを止められる気がしないのでそちらは断念する。それよりもとにかくダオスや他の仲間にこの事を報告すべきだろう。 小町はアイスシザーズの背中に気絶した桑原を背負わせ、そのあとに続いてエリカも乗った。 それだけでなく…… 「小町さん、それは……」 「仲間をこんなところに置いていくのは寂しいだろ?」 頭と首が別れたハス太と下半身しかないレオリオの亡骸を小町は抱えていた。 死んだ彼らも弔ってやるつもりなのだ。 「アイスシザーズ、死んでる奴は背中に乗せちゃダメか? ダメならあたいが連れて行くが」 『……死者を弔いたい気持ちは俺にもわかる。良いだろう、乗せていけ』 「いいってさ、エリカ」 「本当にありがとうございます、小町さん、アイスシザーズさん……」 小町とアイスシザーズの厚意にエリカの目は涙で潤んだ。 そして二人の亡骸と、ついでになのはが置いていったディパックを回収すると、小町たちは地上の世界樹に向けて出発した。 そこには両手足をもがれたベジータの死体だけがポツンと残った。 【二日目・12時00分/東京・都庁近辺】 【小野塚小町@東方Project】 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除 【装備】斬魄刀『神鎗』@BLEACH(破損して柄のみ) 【道具】基本支給品一式 【思考】基本:もう仲間を誰も失わない為にカオスロワを終わらせる 0:ひとまず桑原とエリカを連れて都庁へ 1:殺し合い打破のためにも都庁には協力する 2:もう二度と仲間を置いて行こうとしない 3:幽香及びバーダックの名が放送で呼ばれたことに疑問 4:変なの(セルベリア)に因縁つけられちまったね 5:超人達からの情報を鵜呑みにはしないが、一応ダオス達に伝える 6:世界に二度目の大災害が起こるだって? 7:神鎗に変わる強力な武器が欲しい ※飛竜たちと情報交換して、主催達が九州ロボにいることを知りました。 ※ダオスとの情報交換で、カオスロワちゃんねるの信憑性に疑問を持っています(フェイ・イェンにもたらされた情報より、少なくとも都庁の悪評は天魔王軍による仕業だと理解しました) 【エリカ@ポケットモンスター】 【状態】右腕潰傷、ダメージ(大)、深い悲しみ、歪みし豊穣の神樹及びアルルーナのトレーナー 【装備】なし 【道具】基本支給品一式、モンスターボール×2(神樹とアルルーナ) 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:ユーノさんが怪物化したなんて…… 1:世界樹に集まっている人にも世界滅亡の未来を伝える 2:ポケモンと一緒に生き残る 3:珍しい植物タイプはゲットしておく 4:世界樹の軍勢を手助けする 5:死なないで神樹……! 6:ハス太くん、レオリオさん、モジャンボ、キノガッサ……ごめんなさい 【桑原和真@幽遊白書】 【状態】気絶中、ダメージ(大)、疲労(大)、深い悲しみ 【装備】なし 【道具】支給品一式、大量の食糧 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:(気絶中) 1:ハス太、レオリオ、すまねえ…… ※ユーノの変貌を把握していません 【アイスシザース@新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女】 【状態】ダメージ(小)、疲労(小) 【装備】無し 【道具】ちりとり、支給品一式、タイムふろしき@ドラえもん、ガソリンの入った一斗缶、医療道具一式、ノートパソコン、ハス太とレオリオの死体 【思考】 基本:都庁を住処にしたモンスター達と協力して生き残る 0:小町たちを守るべく護衛しながら都庁へ撤退 1:雷竜様(雷鳴と共に現る者)の意思を引き継ぎ、都庁の世界樹は死んでも守る 2:魔物を奴隷にする人間は嫌いだが、同盟の人間なら一応は信頼する 3:デスマンティス達の裏切りに未だにショックを受けてるが、戦いに私情は挟まないようにする 4:雷竜様だけでなく多くの仲間までやられるとは…… ※貴虎の持ち物であったノートパソコンにはヘルヘイムの情報が載っています 【ハス太@這いよれ!ニャル子さん 死亡】 【レオリオ・パラディナイト@HUNTER×HUNTER 死亡】 【日之影空洞@めだかボックス】 【状態】ダメージ(大)、首輪解除、神樹に挟まれて身動き取れず 【装備】己の拳 【道具】支給品一式 【思考】基本:主催者を倒す 0:こまっちゃんとエリカは無事か? 1:仲間を守る 2:混沌の騎士が遺した謎を解く 3:大災害による世界の滅亡を阻止する 4:↑の全部やらなくちゃあならないのが先代生徒会長の辛いとこだな。 5:大災害と怪物作り(テラカオス)……何か因果を感じるんだが 【東横桃子@咲-Saki-】 【状態】気絶、首輪解除、深い悲しみと怒り、混乱 【装備】猟銃@現実、斬鉄剣@ルパン三世、野球のユニフォーム 【道具】支給品一式、スマホ、謎の物質考察メモ、筆記用具 【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる 0:気絶中 1:加治木先輩を殺した拳王連合は絶対に許さない 2:時間があればスマホを使ってネットで情報を探る 3:DMCファンだけど信者の暴動にはドン引き 4:世界が滅びるなんてそんな…… 5:超人はもう殺す 【黒子テツヤ@黒子のバスケ】 【状態】健康、首輪解除、冷静 【装備】ウィンチェスターM1912 【道具】死出の羽衣@幽々白書 【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる 0:都庁から応援を呼ぶ 1:友人たちと生き残るためにも、都庁に協力する 2:空気中に漂う物質への対処法を考える(世界樹が有力?) 3:狂信者には絶対に負けません 4:世界の滅亡ですか……流石に驚きました 【赤座あかり@ゆるゆり】 【状態】健康、首輪解除、深い悲しみ 【装備】エンシェントソード@Minecraft 【道具】マムルの肉@風来のシレン 【思考】基本:仲間と一緒にカオスロワを終わらせて主人公らしく大活躍! 0:都庁から応援を呼ぶ 1:混沌の騎士、亡くなった友人達の分も頑張る 2:まどかと同じく、人間と魔物の共存に賛成 3:オオナズチ以外の都庁のモンスターの背中に乗りたい 4:みんなの力で世界の滅亡を阻止する! 【歪みし豊穣の神樹@世界樹の迷宮4】 【状態】ひんし、幹が半分に折れている、エリカのポケモン 【装備】なし 【道具】支給品一式 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0 (意識混濁) 【アルルーナ@新・世界樹の迷宮】 【状態】ダメージ(中)、深い悲しみ、エリカのポケモン、神樹に挟まれて身動き取れず 【装備】なし 【道具】支給品一式、不明品 【思考】基本:雷竜達の遺志を継ぎ、世界樹を守る 0 お姉さまはご無事なの!? 1 お姉さまと世界の滅亡を阻止する 2 拳王連合及びその協力者は皆殺し、絶対皆殺し ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ショッピングセンター、渋谷109。 かつて二人のテラカオス候補者もとい食人鬼の男女が一時滞在していた施設である。 そこには今、テラカオス候補者の男と、彼の怪物化を防げなかった一人の女がいた。 ユーノ・スクライアと高町なのはである。 「ぐ、ぐ、グアアアアアアアア!!!」 「ユーノくん!?」 なのはを拐いつつ地下から渋谷109内まで逃げ込んだユーノだったが、そこで大きな雄叫びをあげたかと思いきや、見る見るうちに小さくなり、怪物フェレットの姿から元の人間の姿に戻った。 丸裸にハス太を殺した時に浴びたのであろう返り血で体は汚れていた。 表情もまた、自身の体の変貌や暴走していたとはいえ仲間を自分の手で殺めてしまったことに、未だに信じられない表情をしていた。 そんな彼になのはは涙を流しながら抱きついた。 とにもかくにもユーノに謝らなくてはいけない……そんな罪の意識がなのはを支配していた。 「なの、は……僕はいったい……僕の体はどうなってしまったんだ!?」 「ユーノくん、ごめんなさい……みらい、変えられなかった……」 混沌の力に翻弄されていたとはいえ、怪物となり仲間を殺めてしまったユーノ。 一つの未来は信じず、そしてもう一つの未来は恐れたばかりに最悪の未来に進んでしまったなのは。 二人は意図せず罪人になってしまった…… 【二日目・12時00分/東京・渋谷109】 【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】 【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、19歳の身体、混乱、深い悲しみ 【装備】レイジングハート@魔法少女リリカルなのは、千年タウク@遊戯王 【道具】なし 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:ごめんなさいユーノくん…… 1:死んでしまったヴィヴィオたちのためにもこの殺し合いを終わらせる 2:ユーノ君がいれば何も怖くない……と思っているけど…… ※千年タウクの効果によって、高町ヴィヴィオの存在と日本に世界を襲った大災害が起こる未来を知っています ※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました。 ※未来の自分が使っていた技の一部が使用可能です ※レオリオの死をまだ把握してません 【ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのは】 【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、全裸(血まみれ)、19歳の身体、混乱、テラカオス化進行度(大) 【装備】なし 【道具】基本支給品一式 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:僕の体に一体何が!? 1:なのはを絶対に護るためにも、もっと力が欲しい 2:大災害の情報を集める 3:野田総理の死の原因を探りたい 4:なのはを悲しませた主催者たちは絶対に許さない 5:僕の手でハス太を殺したというのかよ……! ※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました ※PSP版の技が使えます ※怪物化(テラカオス化進行)に気づきました ※首相官邸にて、いくらか主催陣営の情報を手に入れた可能性があります ※後ろの初めてを奪われる未来が存在するようです ※テラカオス化進行によって巨大フェレットに変身する能力を得ました あらゆる攻撃を防いでエネルギーを吸収し、威力を数倍にして返す魔力の塊を発射できます ただし現状では変身すると暴走状態に陥り、敵味方に関係なく襲い掛かります ※レオリオの死をまだ把握してません
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/117.html
背中が冷たい 作者:ID gTSuEweG 初めて人間の姿を見た時は、すごく女の子みたいに線が細い子だと思った。 だけど、先日に書庫でのトラブルの際に抱きついた感触はまるでちがったの。 見た目では分からなかったゴツゴツとした男の人の筋肉の感触や、色気とは違う匂いにドキドキしてた。 まるで弱々しかった小鹿が立派な大地を翔る鹿のように。 ―――でも、翠色の瞳とか女の子みたいに綺麗なハニーブロンドはでも何処かフェレットのようにくりくりした愛嬌さが残っている。 男の子みたいな女の子から大人の匂いがする綺麗な男の子に変わるユーノ君の姿を思いかべるだけで、指が更に私の奥の奥にへと忍び込んでいく。 はしたない私は―――うん、人前でなければ多分、押し倒したままキスしていただろう。 すずかちゃんやスバルみたいに人前で抱きつくような勇気も無いから、こうやって彼を喜ばせる目的に買ったメイド服を着たまま自分を慰める事しかできないの。 「駄目だよ、もっと本当のユーノ君じゃなきゃ駄目なの、だめなの……」 慰めの言葉と指が複雑に快楽を導き出し……遂には突き止める所まで上り詰めてしまった。 「はぁ……ハァ…ユーノ君、ほしいの、背中が冷たいの……温かくしてほしいの……」 苦しげに胸の痛みを漏らしす。だけど…… 「えっ、な、なのは……」 返答のない独白に答える声。 慌てて部屋の入り口を振り返れば、呆然と私の姿を見つめているユーノ君がいたの…… 12スレ SS なのは ユノなの ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/211.html
司書長の年の瀬 h5FM9d3M 新年。新しい年。新たな門出。昨年が良い年であったことに感謝し、 新たな年もそうあるようにと願い、また努力しようとする者もいるだろう。 はたまた逆に、これを機にあまり良くなかった昨年を仕切り直そうという者もいるだろう。 前年のことをどう受け止め、またそこからどう動こうとするか。それは人それぞれである。 しかし。その新年を迎えるにあたって、やらなくてはいけないこと、というものが存在する。 即ち。 「司書長。年賀状の追加、百枚です」 「あーもう! 年の瀬なんてだいっきらいだー!!!」 ――次の年に向けての準備、である。 「ふふふふふ…なーんでみんな、こう駆け込み依頼をしてくるのかなあ、ヴィブラ……」 「今年の仕事は今年の内に、と彼らも考えているからでしょう。 ならば何故ここまで複数の依頼を同時にしてくるのか、と言われますと、 私としてはあちらの都合としか言えませんが」 幽鬼のような顔をしたユーノの呟きに、 ヴィブラと呼ばれた女性は手に持っていた書類の束の一枚に目を向ける。 そこには様々な内容に渡る資料探索の依頼が、 『数日中を期限とする』という但し書きと共にびっしりと羅列されていた。 言うまでもないことではあるが、 彼女の手にある書類、その全てがこの一枚同様依頼内容で満載になった代物だ。 「やってくる依頼も予想通りちまちましたモノばっかりだし…… どうせあれなんだよ、『今すぐやらなくてもいいし大したことじゃないから後回し後回し~』 って放っておいたのを慌てて持ってきたんだよ。書類の山の下の方から引っ張り出してきたんだよ。 ……そのまま気付かず大掃除のゴミと一緒に捨てられてれば良かったのに。出来れば担当者ごと」 「司書長、お怒りなのはわかりますが、不穏当な発言はお止め下さい。 副司書長など本当に依頼を持ってきた相手をゴミ箱に叩き込もうとしていらっしゃったのですから。 司書長がそんなことを仰っていたと聞けば、今度こそやりかねません。しかも嬉々として」 「あー、うん。今回ばっかりは彼女の意見にちょっと賛成かなぁ、僕としては」 「司書長……」 いつになく思考が殺伐になっているユーノに、彼女も溜息。 しかしこのような思考は何もユーノに限ったことではなかった。 何せ無限書庫の全員、本日で連続勤務の(最低)徹夜三日目に突入していたからである。 そも管理局の部署の中でも、年末における無限書庫の忙しさは管理局でも随一を誇るものだった。 何しろ前衛は戦技教導隊から後衛は管理課、 上は最高評議会から下は管理局と連結している士官学校に至るまで。 その全ての一年でやり残した業務における資料の依頼がどっと押し寄せるのである。 おかげで師走の後半はほぼ休み無し、司書長たるユーノやその秘書たるヴィブラは無論、 主だった面々は無限書庫に寝泊りというのだから、その恐ろしさがわかるだろう。 とは言え、例年はここまで酷いわけではない。 成程確かにこの時期はユーノを含め少なくない人数がここで生活する羽目に陥るが、 かと言って現状のように徹夜で仕事という異常事態にはならない。 幾らなんでも毎度毎度そんな事態が起こるわけが無いのだ。 ならば何故、今年はそんなことになっているかというと。 「そういえばJS事件の資料はどうなってる?」 「はい。問題ありません。滞りなく発掘は続いています」 「そう……もう死ねばいいのに。あのバカリエッティ」 「ですからそのような発言はお止め下さい。 彼の男が最大の要因であることについては否定しませんが」 そういうことである。 今年発生した、ジェイル・スカリエッティを主犯とする一連の事件。 それは管理局全体に大きな打撃を与え、 直接その被害を被らなかった部署でさえ、何らかの影響を受けることとなった。 無論その爪痕は大きく、 最高評議会の面々や地上本部のトップが事件に関わっていたことやその死亡などもあり、 事後処理は困難を極めた。 何しろ管理局始まって以来の大事件。 挙げたとおり管理局のあらゆる部署が影響を被り、事後処理に皆が走った。 そりゃあもう、事件解決の中心的存在だった機動六課に至っては修羅場というのもおこがましいほどの状況で、スターズ隊長高町なのは一等陸尉は「ゆりかごとガチンコ勝負やらされる方がまだマシなの……」 との遺言を残し書類の山に散っていった程である(死んでません)。 他の部署も六課程では無いが動き回り、無限書庫も事件に関係する資料を発掘するためフル機動。 かくしてこの規模の事件の後始末としては信じられない、 僅か数ヶ月にて主だった事後処理を終えるという快挙を成し遂げたわけだが…… その代償として、緊急性の低い、言ってしまえば『小さな』事件は後回しにされ、 書類の山に埋もれきってしまったわけだ。 そして年の瀬の今、無限書庫は溜まりに溜まっていたツケを、 それも全ての署からのものを全力で被っているのである。 「司書一同が奮起した甲斐もあり、何とか依頼された分量の六割が終わりました。 ここからは交代で仮眠を取らせても問題ないでしょう」 「というか、これ以上無茶するときっと死人が出るよ」 今度はユーノの溜息。この場合、寧ろ「仮眠を取らせないと拙い」というべきだろう。 何せ中には一週間近くちゃんと眠っていない司書までいるのだから。 ヴィブラから渡された一覧をさっと眺める。 依然スケジュールは厳しいが、彼女の言うとおりここからはある程度休みながら仕事をこなせそうだった。 油断は出来ないものの、取り敢えずの危機は脱したと見てもいいだろう。 ならば、とユーノは口を開く。 「ええと、うち自身の年末準備の方は?」 「そちらの方は大方終了しています。 現状はある程度予想は出来ていたので出来る作業は予めやっておきましたし、 残る作業も最悪来年に回して構わない部分ですから、万が一の際も問題ありません」 「そっか…じゃあ、残るは」 「ええ。司書長自身の年末作業です」 そう言って、ヴィブラは再び、どすん、と大量の年賀状を置いた。 机に複数の山を作るほどのその量に、さすがのユーノも辟易する。 「……こんなに?」 「いえ。まだありますが、これ以上は机の上に置けないだろうと判断いたしましたので別所に」 「…………」 無言のまま、ユーノはペンを握る。何しろ年賀状を出す期限は今日中である。 期限に対するこなさねばならない量という点で言えば、 はっきり言って現在残っている他のどの業務よりも多い。 「もっと早く終わらせることとか出来なかったの?」 「言ってしまえばこれは私用だからね。 無限書庫の業務に目途がつくまでそっちを優先させるべきだと思ったんだよ。 うん、でも少しはやっとくべきだったかなって思ってる」 「クリスマスパーティーはこなくても良かったのに。だったら少しは」 「みんなにも薦められたし、それくらいは出たかったんだ。 それにお陰でリフレッシュ出来たからあの後の仕事もはかどって――ってえ!?」 先程まで会話をしていた声とは違う声が聞こえていることにようやく気付き、 ユーノは年賀状に向けていた視線を上へとあげる。 果たしてそこにいたのは。 「……フェイト? なんでここに」 「本局にちょっと用事があってね。 それでこの際だから六課を代表して年末のご挨拶に、 って来てみたんだけど……こんなに凄いことになってたんだ」 「はい、執務官。非常事態と見て相違ないでしょう」 「あ、あはははは」 拙いところを見られた、と苦笑するユーノ。 数日前、六課で行われたクリスマスのパーティーに出席した時は「大丈夫」と言ってしまっただけに、 余計にばつが悪い。 まあ確かにあの時言ったのは「書庫の仕事なら」大丈夫と言ったので強ち間違っているわけではないが。 フェイトはユーノの机を見る。 そこには大量に置かれた白紙の葉書とその反対側に置かれた名前と住所が書かれた書類。 「それで…今やってるのは年賀状?」 「あ、うん。今日中に出さないと駄目なんだよね、確か」 「メールじゃ駄目なの? 私やなのははほとんど全部メールで新年のお祝いしてるんだけど」 基本的に機械化が進んでいるミッドチルダ。新年の挨拶も普通はそういったもので占められている。 しかし。 「僕の知り合いってアナログ派が多くてね…メールの扱い方知らない人が多いんだよ。 それにスクライアのみんなとかはメールを出しても届かないし」 「ああそっか、ユーノと付き合いがある人って」 ユーノの台詞にフェイトも納得する。 ユーノは局での無限書庫司書長の他に、考古学者としての面も持っている。 いや、むしろそちらが本業と言っていいだろう。 よって無論というかそちらの面で付き合いのある人間も多く、 恐らくフェイトの仲間内で管理局外の知り合いがもっとも多い人物である。 そして偏見かもしれないが、 考古学者の、特に重鎮とされる人物達はそういったコンピュータなどの方面には疎いと思われ。 「だからまあ、こうやって一つ一つ書いていくしかないんだよ」 言いながら一枚を書き上げる。半ば単純作業であったが、それゆえに疲労困憊の彼の体では辛いものがあった。 「……終わるの? 今日中に」 「はは、ちょっと無理っぽい」 顔を引きつらせながら呟くユーノ。書き上げるペースと残る仕事量。 それを考慮すると理想的なペースでもギリギリ、といったところか。 「いっそ当日転送魔法で届けちゃおうかな」 と若干法律違反なことをぶつぶつと呟くユーノを見ながらフェイトはしばらくなにやら考えていたが、 やおら頷くとぱん、と手を鳴らした。 「あのねユーノ、実はいいものがあるんだけど――」 約一時間後 「……こ、これは?」 「さっき言ったでしょ? いいもの。これで早く書き上げられると思うよ」 机の上に置かれたのは、何の変哲もないコンピュータである。 普通に画面が映され、キーボードが備え付けられている。いわゆるノート型と言われるものだ。 繰り返すがこのコンピュータは本当に何の変哲もないものである。 専門店でなくてもその辺りの店にいけば手に入る、ありふれた機種だ。 ただし、地球においては。 ――そう。これは地球の個人用コンピュータ。いわゆるパソコンであった。 「ね、『年賀くん』……?」 立ち上げられたソフトの名前を呟くユーノに頷くフェイト。 「そう。 ミッドと違って地球じゃまだ電信に紙媒体を使ってる割合が多いからこういうソフトが市販されてるんだよ。 中学に通ってた頃はクラスメイトとか先生に毎年年賀状を送ってたから私も使ってたんだ。 プリンタもセットで持ってきたからそのまま印刷も出来るよ。 今じゃ地球に送る分ってアリサやすずかくらいに宛てるくらいしかなくて 全部手書きにしちゃったから使ってないんだけどね」 「フェ、フェイト……」 「一応手書き風のフォントもあるし、実際にタッチペンで書ける機能もついてるから、 こういうソフトが無いミッドチルダの人とか相手ならそうそう気付かれないと思う。 最初住所録とかを入力するのはちょっと手間だけど、 それでも多分一枚一枚書いていくよりはずっと楽だろうし、なんだったら手伝って……」 「フェイトぉぉぉっ!!」 がばぁっ! 「え!? えぇぇっ!?」 いきなり抱きついてきたユーノに頭は真っ白、顔は真っ赤になるフェイト。 突然のことに彼女の思考は停止する。 「フェイト、本当に、本当に」 「ちょ、ちょっと待ってユーノ! そんないきなりだなんて、心の準備が……あ、でもそんなプレイも嫌いじゃな」 「ありがとうっ!!」 「――ふぇ?」 何が何だかわからないままきょとんとするフェイトに、少し体を離したユーノが言う。 「こんないいものがあったなんて! 今日君と会えて本当に良かったよ! 心からそう思う!」 「あ、うん、それはどうも……」 「ばんざーい!」と諸手を挙げて歓迎するユーノになんだか拍子抜け、といった顔で答えるユーノ。 そんな二人を見て、コーヒーを差し入れにきたヴィブラは 『この方は……相変わらずというか何というか』 そう、心の中で呟くのだった。 それからさらに一時間後 「ええと…じゃあこうでいいのかな?」 「そう。あとはここをクリックするだけでいいから」 パソコンを前に試行錯誤を繰り返すユーノと、その操作を教えるフェイトの姿があった。 当初ユーノは「これは自分のやるべきことだし、他人に手伝わせるわけにもいかないから」 すぐにフェイトを帰し、一人でやるつもりだったのだが、実際にパソコンをつけようとして気付いたのである。 ――自分は、パソコンの使い方など知らないことを。 無論、ミッドチルダのコンピュータの扱いは一通り、少なくとも仕事に差し支えない程度には知っている。 しかし地球のパソコンのそれとなると別だ。 確かにユーノはかつて長期海鳴に滞在していたし、今でも時折旧友に会いに行ったりしている。 だから地球の作法はおおよそ知っているし、特に不便だと思ったことは無い。 しかし、である。それとこれとは話が違ってくる。 なにせ『長期滞在していたとき』は大抵フェレットだったし、 『時折行くとき』は大概友人に会って話をしたり遊んだりするくらい。 パソコンは勿論、あちらの電化製品で使ったのはせいぜいゲーム機くらいだろう。 よって。 『――ひとりでも大丈夫って、ユーノ、そのソフトの使い方、知ってる?』 『……あ゛』 というやり取りの後、フェイトによる初めてのパソコン講座が始まったのである。 こういったことが好きななのはと違い、フェイトもさほどパソコンを扱い慣れているわけでもないが、 そこはそれ、曲がりなりにも六年間海鳴で暮らしていただけのことはあり、一通りの扱いは出来ていた。 「簡単でしょ? 基本的な操作はミッドチルダのとそう変わりないし」 「うん。大体理解できたよ」 言いながらユーノはキーボードを叩く。その手つきはかなり慣れたものになっていた。 「それにしても不思議だよね。パソコンといい、ミッドと地球ってところどころ似てるの。 手法とかは若干違うけれど。管理局の記録を見る限り、互いに文化的な干渉があったとは思えないのに」 「う~ん、そういうのはたまにあるよ。場所も時代も全然違う遺跡から発掘された技術がかなり似ていたりね。 勿論どちらかがどちらかに影響されたって痕跡は無しで。 理由は諸説挙げられているけど…僕としては『文化は多々あるが、技術は物理法則が同じ以上、 ある程度同じ形に帰結する』って意見に一票かな」 「なるほど……さすが考古学者」 「それほどでも。とよしっ。これで住所録は完成、っと」 ユーノはそう言うと、一度大きく深呼吸し、軽く目を閉じる。 フェイトの説明によれば、あとは裏側のデザインを決め、印刷するだけという。 これなら何とか終わりそうだと安堵の息をついたところで、ふと疑問が浮かんだ。 「そういえばフェイト。これを取りに行くの、結構早かったよね? 転移魔法を使ったにしても、他世界へ行く許可を取るのって結構時間がかかるはずだから、 海鳴からここを往復にはちょっと早過ぎる気がするんだけど」 「ああ、往復したのは六課とここだよ。このパソコン、六課に置いてあったから」 「……なんで六課に」 「昨日はやてが使ってたんだ。お偉いさんに書くのに。 ほら、今年はJS事件の関係でいろいろな方面に迷惑かけたでしょ? その人達に年賀状を書こうとしたら、とんでもない枚数になっちゃって。 それで幾らなんでも手間がかかりすぎるからってことで地球から持ってきたんだよ。 というか、はやてや毎年これを使ってたみたいだけど。クロノも一昨日、家でやってたみたいだし」 「へえ……成程」 『――道理で毎年気楽に構えていたわけだ』 自分とそんなに変わらないくらい年賀状を書かねばならないはずなのに 道理でそんなに辛そうではなかったはずだと納得するユーノ。 こんな簡単なものがあればそりゃあ大した苦労はしないわけである。 一度住所録を入力すれば次回からはその必要が無いと聞けばなおさら。 「フェイト、今度海鳴に行く時があったら、言って。 僕も行くから」 「へ? な、なんで」 「僕もこれ、買おうと思って。 でも地球のコンピュータのどれがいいかなんて全然わからないからさ」 「え? 別にいいけど…こういうのはなのはの方が詳しいと思うよ? 私だって最初に操作を教えてもらったの、なのはからだったから」 「いいよ。フェイトと一緒に選びたいって思ったからさ」 「う、うん!」 何故か(ユーノ視点)顔を上気させるフェイトに軽く微笑み、ユーノは作業を再開する。 様々な素材の中から色々組み合わせ、またフェイトが教えてくれた通り、ペンタブレットで文字を書き、 昨年の礼と本年もよろしくお願いしますとの意を表していく。 『それにしても……』 本当にこのソフトは便利だ、とユーノは思う。 地球は魔法文化こそゼロに等しいが、文化自体はミッドチルダに決して劣るものではないし、 このような純粋な科学技術についてはミッド基準で考えても目の見張るものがある。 特に今使っている機能など、ミッドチルダでは必要が薄いと断ぜられ、 恐らくこれからも研究されることはほとんどないだろう。 『でもまあ、そのお陰で今僕は恩恵を被っているわけなんだけどね』 しかし同時に、こんないいものがあったというのに今まで自分に言わなかった二人に対し、 彼の中で少々怒りがこみあげてくる。 これはただ睡眠不足で気が立っているからというわけではないだろう。 「全く……あれ?」 ピッ、という音と共に先程まで開いていたウィンドウが閉じ、操作が出来なくなる。 再び触ってみるも、ソフトがどこにあるか見つからない。 「フェイト、なんだか操作間違っちゃったみたいなんだけど」 「え? ええと、これは…あれ、違う?」 交代したフェイトが触ってみるも、芳しい反応が得られない。 最初は冷静に構えていたフェイトも次第に焦ってくるようになり、手当たり次第にクリックしていく。 「ええと、ここでもないし、これでもないし……ここ?」 カチリ。 クリックと共に開くファイル。果たしてそこにあったのは―― 「ちょ――!?」 「――――!?」 ディスプレイいっぱいに映される画面。そこに映されるのは男女のあられもない姿。 ……どうやら間違って隠しファイルを開いてしまったようである。 「こ、これは……」 「違うよこれ私のじゃないよはやてから借りたんだよだからこんなの知らないよそうだよこんなのしらないからけしちゃったらいいんだそうだきれいにけして――!」 「って司書長室でザンバー振り上げようとしちゃダメ――!!」 途中から半ば棒読みで叫びながら一瞬にしてバリアジャケットを纏い、 目の前のパソコンに向かってバルディッシュを振り下ろそうとするフェイトを必死に止めるユーノ。 彼と彼女の格闘(そのままの意味で)は、この後半時間にも及ぶのだった。 「ふう…何とか、終わった」 「ごめんごめんごめんっ!!」 平謝りになるフェイトに、「いいよ」とユーノは告げる。 あのあと何とかフェイトを正気に戻した後、残る気力で年賀状を書き上げた。 お陰で体力も気力も、ついでに魔力もすっからかんだ。 「ほんとにごめんなさい…」 「大丈夫だって。 お陰で今日はそれなりに寝られそうだからさ」 当初は徹夜予定でそれでも間に合うかどうかの状態だったが、 年賀状が予定を大幅に超えて早く終わったため、何とか数時間は寝られるだろう。 これはフェイトのお陰だといえる。使った魔力や体力は…まあ駄賃ということで。 「その、年賀状、出しておくよ代わりに!?」 「いや、まだちょっと書かないといけない分があるから、あとで出すことにするよ」 「そ、そっか……」 「う、うん」 そこで言葉が止まった。言うべき言葉がなく、またあっても中々口に出せないのだ。 元々静と動で言えば静、口数の少ない方の二人だ。何か理由がなければ話をすることも少ない。 だから二人で会った時はこういうことはしょっちゅうである。 なのはや、特にはやてが得意な、いわゆる「とりとめのない話」が二人は下手なのである。 「そ、それじゃあ…」 「そうだね、そろそろ…」 お互いにしまりの悪い言葉を述べる二人。 けれど、最後。 「ね、ねえユーノ!」 「う、うん」 「――年賀状、楽しみにしてるから」 「――うん」 そういって、二人は別れるのだった。 ――明けて次の年、元旦。 「ふう…一年の最初の日からお仕事とか。 幾ら機動六課が今年限定っちゅうても働きすぎやないか? 正直」 「まあまあ。明日は休めるんだから。はい、はやてちゃんに年賀状」 「ああ、ありが…すごっ!? 何この山!?」 「出す人が多いってことは出してくれる人も多いってことでしょ。それにしても凄い量」 「うわ…この人には出してへん…うう、年始から年賀状書きかいな……年賀状と言えばフェイトちゃん。 なんか年末のとき、私が年賀状に使ってたパソコンとプリンタを貸して欲しいって言ってきたけど、 あれ一体何につこてたん?」 「ああ……あれはちょっと、ね」 「?」 「あ、ユーノくんからの年賀状だ。ええと…あれ? もしかしてこれって」 「お、私のところにも。……あり? これってあれやね? 年賀ソフトの」 「うん。多分。……む? もしかしてフェイトちゃん。さっき言ってたはやてちゃんのPCの貸出先って」 「え? あ、いや、それは……」 「お。フェイトちゃんところにも来とるでー。 ユーノくんからの年賀状――む!?」 「ふぇ? は、はやて、どうしたの?」 「ちょいちょいなのはちゃん。これ」 「――!」 「え? なんか変なこと書いてある? ええと… なんだ、特に変わったこと書いてないじゃない。どうして二人とも変な反応して…あれ?」 「フェイトちゃん、どういうことかな…?」 「な、なにが?」 「よーく見てみ。フェイトちゃんのだけ、手書きやんか」 「え? あ、あれ、ホントだ……」 「貸し出された私のパソコン、年賀ソフト使ってるユーノくんの年賀状、 フェイトちゃんだけに送られた手書きの年賀状……」 「そしてあの日のフェイトちゃんの数時間の不在、 帰ってきた時のフェイトちゃんのいい笑顔……どういうことか教えてもらうの」 「え? そんな、私はただユーノに年賀状ソフトの使い方を教えてただけで… 私の年賀状が手書きなのだってきっと、たまたま私が来る前に私に送る分を書いてたと思うし……」 「取り敢えず、聞かせてもらおか。 秘匿してた私の隠しファイルが公開状態になってたことも含めて」 「お話、聞かせてもらうの」 「あ、ちょ、二人ともバリアジャケットいきなりまとうとかデバイスかざすとかやめ…… きゃー!!!」 とりとめもなくおわる 70スレ SS オリキャラ フェイト・テスタロッサ・ハラオウン ユノフェ ユーノ・スクライア