約 454,636 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3381.html
そうこうしている内に、田原が戻ってきた。彼の後ろでは、少女が無理やり手を引かれて嫌そうに身じろぎしている。 「待たせたな……」 「えらい早かったですね」 なにせ、あれからまだ十分と経っていない。事が事だけに、数十分は覚悟していた。 「娘さんですか? 八神はやて言います。教授にはお世話になってます」 「ああ、娘の舞だ……さあ、乗りなさい」 舞は特に何の変哲もない、黒髪で大きな瞳の少女。美人の部類に入るだろう。 もっと不良然とした少女を想像をしていただけに、はやてにはとても放火を起こすような娘には見えなかった。 「よろしく、田原……舞ちゃん?」 「柏木! 舞です」 苗字を強調すると、舞は運転席の後ろに乗り込んだ。田原も溜息を吐いて隣に続く。 「それじゃあよろしく頼む。最寄りの駅まででいい」 シグナムはナビで場所を確認すると車を発進させた。ここからなら、車で十分も掛からない。 はやては胸を撫で下ろした。この窮屈な空気が短時間で終わってくれるからだ。 移動中も田原親子は会話もなく、険悪な空気をこれでもかと放っている。 何故苗字が違うのかなどと、とても聞ける雰囲気ではない。 「いつからだ。今日が初めてじゃないだろう」 「だから何度も言ってるでしょ! あたしが気づいたら目の前で燃えてたって! 火なんか絶対に点けてないんだから!!」 「それはわかってる!! いつからだ? 意識なく行動するようになったのは」 はやてからすれば意味がわからない会話だったが、舞が嘘を吐いているようには見えなかった。 当の舞はもっとわからないらしく、一時戸惑っていたが、すぐに目つきは鋭いものに変わる。 「……珍しいですね、あなたがあたしの心配するなんて。……雪でも降りそう」 「以前にも同じことがあったのか?」 「……何か変なものでも食べたんですか?」 敬語は使っていても、そこに敬意は微塵も感じられない。他人同然か、それ以上に警戒しているのがありありと見て取れた。 これでわかった、舞は田原を父親として見ていないのだ。 「話を聞きなさい!!」 「っ……触んないでよ!!」 握り続けていた右腕を揺さぶる田原を、舞は力ずくで振り解く。その時覗いた舞の右手首には、白い包帯が巻かれていた。 「落ち着いて下さい! 舞ちゃんも!」 はやてが仲裁して、どうにか二人は落ち着いたらしい。と言っても、騒いでいたのはほぼ一方的に田原だったが。 互いにそっぽを向いて黙り込む舞と田原。それでも、窓を開けて外を眺める姿勢が同じなのはやはり親子である。 二人を乗せたことを、はやてはほんの少しだけ後悔し始めていた。 数分で終わるはずだった気まずい相乗りは渋滞に巻き込まれて、まだ暫く続きそうだった。 申し訳なくてシグナムの顔も少々見辛かったので、二人と同じく窓を開けて頬杖を突く。すると、 「あれー、舞!?」 「運転手付き? セレブじゃ~ん!」 舞と同じ制服の少女が二人、こちらに向けて手を振っている。一人はポニーテール、もう一人は眼鏡の少女。 舞ははやてが制止する間もなく、渋滞で一時停止していた車から飛び出すと、 車と車の間を縫って少女達に駆け寄った。 「いいの?」「全然平気」などと談笑しながら、共に歩き去っていく。 「いいんですか……?」 はやてが後部座席の田原を振り返ると、田原は渋い顔で一言、 「構わん……」 と言うと、腕を組んでまた黙ってしまう。 一人減っても雰囲気は変わらず、はやてはその後十五分あまりを無言で過ごした。 田原を駅で降ろしたはやては、ようやく肩の荷が下りた気分だった。 緊張が解れてシグナムと雑談に興じていたが、ふと大事な用件を思い出す。 「あ、シグナム。悪いんやけど、翠屋で降ろしてくれるか?」 「はやて、それなら今日は夕食は……」 「うん、多分食べてくると思う。私だけごめんな、ヴィータには言うてあるから」 「私も行きたいのはやまやまですが……」 「シャマルが今日は遅くなるもんな。ヴィータとザフィーラだけにするんも寂しがるやろうし、 シャマルが帰った時、誰もおらへんかったら可哀想やし……」 少々申し訳なく思っていた。二人は働き、ヴィータは家事をこなし、 ザフィーラも獣の姿で家を守ってくれている。そんな中で、はやてだけが旧交を温めに行くのだから。 それからは他愛のない会話が続く。大学、シグナムの仕事、休日に出かける相談――ヴィータの今後についても話した。 大人の二人とは違い、ヴィータは子供の姿である。学校に行く選択肢もあったが、相談した結果止めておいた。 過去に管理局に用意してもらった戸籍では、彼女は来月には十八である。色々と面倒もあるだろうし、 流石にあの容姿で高校生は無理がある。 となれば見た目を年相応に変えるしかないが、彼女ら魔法生命体は何か不測の事態が起こった時、 この世界では対処の仕様がない。この世界ではデバイスの整備がせいぜいなのだ。 基本的に不必要でもあった為、なるべく影響を起こさないよう、魔法の使用は控えるようになっていた。 杞憂かもしれないが、命に直結するとなれば用心に越したことはない。 加えて、学校に行くのをヴィータが渋ったというのもある。最近は遊んでいた老人達と会う回数も少なくなっていた。 魔法の件もあるので、"発育不良の十七歳"で押し通しているらしいが、露骨に怪しまれているらしい。 それに、十年もあれば目に見えて数も減っていく。それが辛くなってきたのだとか。 暇を持て余したヴィータは、率先して家事をこなすようになった。一端の主婦としてはまだまだ修行中ではあるが、 熱心にやってくれている。が、やはり知り合いがなのは達しかいなくなるのは可哀想だ。 何かそのままの姿のヴィータにできる仕事があれば一番いいのだが。拘らず、詮索せず、 幼女が十八歳だと名乗っても怪しまず雇ってくれる、そんな職場が。 しかし、そんなファンタジーな設定を受け入れてくれる職場は、相当怪しい仕事くらいだろう。 (別にきっちりした会社とかじゃなくてもええんやけどなぁ。危険やないならどこでも……) 最大の問題はあの容姿である。あれで十八歳と言って信じてくれる人間は現実にはいないだろう。 それで通るのはフィクションの世界だけだ。 ファンタジー、フィクション――漫画、アニメ、ゲーム、小説等々。 以前すずかの家に遊びに行った際に読んだ本が頭に浮かぶ。 『薔薇のなんとか』いうアニメ原作のサーカス漫画だったと思うが、 その作品では十代前半にしか見えない少年が二十歳と書かれていた。 そういえばベッドの下にあったゲームもそう、確か彼女が中座した時に漁ったものだ。 児童とも呼べる容姿の美少年が裸で絡み合っているパッケージだったが、なんと全員十八歳以上らしい。 意外な抜け道があるものだと思い、そっと元の位置にしまっておいた。 そこではやては唐突に閃いた。意外なところに発見はあるものだ。 それはまさしく意外な抜け道であり、閃いた瞬間はある意味目の覚める思いだった。 (そうや! マンガやアニメ、ゲームなんかにどっぷり嵌った人間が職場におったら或いは――!) 「…………ハッ」 拳を握って数秒、本当の意味で目が覚めたはやては、冷めた目で自嘲した。 馬鹿馬鹿しい。少し冷静に考えればそんな馬鹿げた職場があるはずないのだから。 なのはとフェイトの件、ヴィータの件、自分自身の件――はやての抱える悩みは多い。 それに比べて、田原と舞の確執などは自分が口出しすべきではない。わかっていても、何故か頭から離れなかった。 シグナムに手を振って別れたはやては、翠屋の扉の前で固まっていた。もうなのはもフェイトも来ている頃だろう。 談笑しているだろうか、はたまた気まずい雰囲気が流れているだろうか。 しかし立っていても仕方がない。まずは大きく深呼吸、はやては意を決して扉を開いた。 「こんにちはー……」 そっと覗き込んだつもりが、カランカランとベルが鳴り、カウンターにいた三人が振り向く。なのはとフェイト、そしてもう一人、 金髪を後ろで束ねた眼鏡の青年。はやてには、その青年が誰か一瞬わからなかった。 「……ユーノ君?」 「はやて、久し振りだね!」 ユーノは椅子から飛び上がりそうな勢いではやてに駆け寄り、右手を差し出した。はやても少し戸惑いがちに握手を交わす。 「はやては変わってないね」 「ユーノ君も……ごめん、一瞬誰かわからへんかった」 「ひどいなぁ」と言いつつも、ユーノは破顔している。 昔馴染みの気安い雰囲気がそこにはあった。特に最近はなのはやフェイトとギクシャクしていた為、喜びもひとしおである。 「だってユーノ君、三年前は眼鏡してへんかったし、髪も短かったし」 「うーん、仕事のし過ぎかな。髪はなかなか切りに行く暇がなくて」 「へぇ、大変なんやね」 立ったまま二、三言交わしていると、カウンターの士郎に席に促された。横では桃子が優しげに微笑んでいる。いつもの翠屋の光景。 なのは達はまだぎこちなさを感じさせるが、ユーノとの再会を喜んでいるのは同じらしい。一週間ぶりに笑顔を見せていた。 「李君、コーヒーお願い」 「はい、かしこまりました」 はやてが注文したのは、李舜生〔リ・シェンシュン〕。最近翠屋にアルバイトに入った留学生である。 日本語の発音や文法は、日本に来て間もないのに怖いくらい完璧。 人のいい純朴といった感じの好青年なので、今ではすっかり馴染んでいた。 「ユーノは今何処で働いてるの?」 「今年からは東京だよ。多分暫くはいられるんじゃないかな?」 「ほんと? じゃあ、これからはユーノ君と簡単に会えるね」 「できればそうしたいけど、なかなか時間が取れないかもしれないなぁ。なんせ今日まで休みが取れなかったくらいだし」 「やっぱり仕事が忙しいん? 確かゲート関係の施設としか聞いてへんけど……」 「お待たせしました」 李がはやてにコーヒーを差し出す。はやてが言い終えるのとほぼ同時だった。 それから李は、はやて達――厳密にはユーノの前でニコニコ笑いながら立っている。 「そういえばユーノ君……。ゲートとの関係……何かわかった……?」 次におずおずと話題を切り出したのは、なのはだった。不自然でないタイミングを計っていたのだろうが、 フェイトがピクリと反応したのを、はやては見逃さなかった。 ゲートとの関係――勿論、次元世界との隔絶の原因だろう。まさかこんなところで聞くとは、はやても想定していなかった。 チャンスはここしかないと判断したのか、それとも事情を知らない人間がいなくなるまで待てなかったのか。 ともかく、ユーノの答えは容易に予想できた。 「あー……ごめん、なのは。仕事についてはちょっと話せないんだ。守秘義務って言うか企業秘密って言うか……」 「あ……あはは、そうだよね。ごめんね、私ったら……今の忘れて?」 ユーノが困り顔で答えると、なのはは両手を胸の前でパタパタ振って誤魔化す。明らかに不自然な仕草は、落胆ぶりを隠せてはいない。 考えてみれば当然なのだが、それすら気付けなかった自分が余程恥ずかしかったのか、頬が僅かに赤らんでいた。 だが、これでこの話題は流れる。楽しくお喋りが続けられる。そう、はやては安心しかけた。がしかし、 「なのは、ユーノとは久し振りに会ったのに、いきなりそんなこと言うなんてちょっと酷いと思う。ユーノはなのはのスパイじゃないんだよ?」 フェイトの一言で場の空気が凍りついた。 「フェイトちゃん」 はやてが仲裁に入るが、フェイトは涼しい顔でジュースを啜っている。 「私がユーノ君をスパイだと思ってるって……フェイトちゃん、それどういうこと?」 なのはが立ち上がる。低く落とした声には静かな怒りが感じられ、それが逆に怖い。 ユーノには何が何だかわからなかったが、今にもなのはがデバイスを取り出しそうな雰囲気だけは感じていた。 「そのままの意味だけど」 フェイトが更になのはを煽り、それを見たはやては深く溜息を吐いた。 何故こうなるのだろう。ただでさえ今日は気分が悪いというのに。 付き合いきれなくなったはやては、早々に仲裁を放棄した。 「フェイトちゃ――」 「なのは」と、なのはが爆発する寸前でユーノは彼女の名前を呼んだ。 はやてが言わないなら、もう自分が言うしかないと思った。そもそも二人が険悪になっている理由はわからない。 だが、なのはの管理局と魔導師という立場に対する固執だけは、先の一言でわかった。未だ根強く残っているどころか、むしろ以前より強くなってさえいる。 フェイトの一言でここまで怒っているのも、図星を指されたからだ。 ユーノは予てからなのはに言おうと思っていた。もしも彼女が今も囚われたままなら、今日こそ言おうと考え続けていた。 (これを言ったら確実に嫌われるだろうなぁ……) そう思いながらも、ユーノは言わざるを得なかった。曖昧な言葉では、彼女を納得させるには至らない。どうにかここで踏み止まってもらいたかった。 「なのは、もういいんじゃないかな……」 「……どういうこと?」 「もう、いつまでも"あそこ"に拘らなくってもいいんじゃないかな……って」 "あそこ"とは、言うまでもなくミッドチルダ及び時空管理局である。 なのはの頬がみるみる紅潮する。それもそうだろう、これまでユーノはなのはの理解者を気取ってきた。 そのユーノの口から諦めろと言うのは、彼女にしてみれば裏切りと思うかもしれない。 そして案の定、なのはは感情を露わにした。だが、ユーノも退く訳にはいかなかった。正面からなのはの目を見据えて、視線を受け止める。 「なんで? なんでユーノ君までそんなこと言うの? このままじゃユーノ君の故郷にだって帰れないんだよ!?」 「ゲートに首を突っ込んで、危ない目に会ってほしくないんだ」 これには、現に首を突っ込んで奇妙な体験をしたはやてもこっそり俯いた。やはり、あれは人の手に負える代物ではないのかもしれない。 なのはの望みはユーノも知っている。ユーノなら、なのはが強く頼めば多少の情報漏洩は辞さないかもしれない。 それでも隠すならつまり、欠片でも触れるのが物騒な情報なのだ。 「僕はゲート関連の施設の職員で、ゲートに関する機密情報も握っている。だがそれをここで話せば、君やおじさんおばさん、 フェイトとはやてには何らかの措置が取られる可能性がある」 ユーノは流石に声量を落とし、なのはやフェイトだけに聞こえる声で話す。士郎も桃子も、ユーノからやや離れた所で作業中。 店がさほど広くないとはいえ会話は聞かれないだろう。 だがこの時、ユーノの正面、カウンターの下に屈んでいる李舜生にユーノは気付いていなかった。 ユーノは口に出す一言一言まで気を遣っていた。『ゲート関連の施設職員』だの、『何らかの措置』だの、中途半端にぼかした、 はっきりとしない物言い。ユーノが警戒しているのが、自分達だけではないのは明らか。 盗聴器の類か、それともこの中の誰かが――店内にまだ残っている数名の客を、なのはは見回した。誰も平凡なカップルや学生であり、 とてもユーノをつけているようには見えない。 フェイトはというと、表面上は神妙な顔でユーノの話に耳を傾けていたが、その実、心臓の動悸は激しくなる一方だった。 まさかユーノも、こんなところで重要な機密を話したりはしないだろう。それならなのはには危害は及ばない。しかしユーノは違う。 詳細を話さなくとも、情報を握っていると公言している。それだけでも、情報を欲する人間にはユーノを狙う動機になる。 本当なら匂わせただけでも――職員であると名乗ることすら危うい。情報を狙う輩はユーノを攫ってでも情報を吐かせるだろうし、 どんな残虐な方法も厭わない。リスクとリターン如何によっては、それを躊躇せず、顔色一つ変えずに実行する人種をフェイトは知っていた。 それを誰より知っていているユーノが、何故敢えてそんな馬鹿な行動に出たのか。 決まっている、なのはを納得させる為だ。フェイトはそこにユーノの覚悟を見た。 ユーノとしては、どんな手を使おうとも、自分からは絶対に情報が漏洩しない確信があるからこそ言えたのだが、フェイトには知る由もない。 「なのは、僕は……君をとても強く賢い娘だと思ってる。人助けがしたいなら、きっと何だってできる。 僕の知ってるなのはは勇気の塊みたいな娘だ。なのに、今の君は自分で可能性を閉ざしてるように思う」 伝わってほしい――フェイトは切に願った。リスクを背負ってでも伝えたいというユーノの想いが、どうかなのはに届くように。 なのはは大勢の視線を受けて俯きながらも、振り解くように声を絞り出した。 「そんな……そんなお説教聞きたくない!!」 「なのは……」 再度張り上げたなのはの叫びで店内はざわつき始める。士郎も桃子も、何事かとなのはを窺っている。 「ユーノ君にはわかんないよ!! 絶対にわからない!! "この世界の人"じゃないのに、ユーノ君は一人で自分の道を決めて進んでる。 凄いと思うよ……でも、でも私には"魔法"しかないから……!」 これまで伏せていたキーワードも、なのははあっさりと吐き出してしまった。いつの間にか近くにいた李や 周りの客達は、突然の騒ぎと『魔法』という単語に怪訝な様子で首を傾げている。 フェイトがギリッと歯を噛み鳴らす。自分はなのはが何も知らないことを望みながら、何も知らないことに激怒している。 酷い矛盾だと思うが、それでも許せなかった。 フェイトも間髪入れずに立ち上がり、負けじと大声でなのはに怒りをぶつける。 「なのはのバカ! ユーノがどれだけ大変だったか知ってるくせに! じゃあなのははユーノの気持ちをわかってるの!? ユーノが誰の為に――」 「フェイト!!」 またしてもユーノが言葉を遮った。フェイトには悪いと思ったが、それだけはなのはに知られたくなかった。 ――僕は君の為にゲートの研究機関に入った。その為に色んなものを犠牲にして、何度か危険にも飛び込んできた。 だから信じて待っていてほしい。 そう言えば彼女は思い直すかもしれない。だが、言えるはずがない。 不連続な時空間。ランダム且つ恣意的に捻じ曲げられた物理法則。およそこの世のものとは思えない、切り離されたある種の異世界。 十年間、世界中で選りすぐりの頭脳が研究に研究を重ねてなお正体にまで至らず、その尻尾すら掴めていない。ゲートとはそんな怪物なのだ。 その謎が解明できるのは何年後だ? 世界の壁を取り払う方法が見つかるのは? その時自分となのはは何歳になっている? 何の保証もなく、一生懸けてもわからないかもしれない。 知れれば確実に、なのはに重荷を背負わせる。自らの意思で決断しなければ、これからもなのはは苛まれ続けるだろう。 後悔する度にユーノを理由に納得し、そしてまた後悔、その繰り返しだ。それはユーノにとっても、おそらくなのはにとっても、死と同等の苦しみだと思った。 或いは、それでもなのはが考えを変えなければ――それは即ちユーノ・スクライアとは、 なのはにとってその程度の存在だという証明に他ならない。それが怖くもあった。 矛盾している。嫌われてもいいと覚悟して苦言を呈したつもりでも、そこだけは譲れなかった。 それが男のプライドと言うには、些か陳腐なものだと自覚していても。 「いいんだ……」 諦観の混じった呟きを最後に、ユーノもフェイトも、誰もが続く言葉を失った。 十数秒、沈黙が流れる。残っていた僅かな客は居心地の悪さを感じてか、一人また一人と席を立ち始めた。 「……なのは、お客様のご迷惑だ。出ていきなさい」 沈黙を割って入ったのは士郎。その声は静かではあったが、確かな怒気が含まれていた。桃子を見ると、清算をしながら帰る客一人一人に謝罪している。 なのはは、急に自分が恥ずかしくなった。こんな公衆の面前で大声で喚き散らして、店に迷惑を掛けて。 ユーノの心からの忠告にも素直になれず、むきになって。 「~~~~!」 カァッと耳までが一瞬で朱に染まる。居た堪れなくなったなのはは身を翻して出口へ走り、客の横をすり抜けて扉を開け放つ。 「なのは!」 ユーノとフェイトが同時に立ちあがった。しかし、ベルを大きく鳴らして出ていったなのはを追い掛ける寸前で、 「君達、ちょっと待ってくれないか?」 士郎に呼び止められた。士郎は、空になっていたユーノとフェイトのカップにコーヒーを注ぐ。 「君達が行っても今のあの娘は頑なになるだけだ。あの娘もあの状況でここには居辛いだろう」 「でも……」 厳しくも優しい声音。遠くを見つめる目線。士郎とて、父として心配していない訳ではない。 ユーノ達が僅かに抗議の意味を込めて呟くと、士郎は軽く苦笑して李に振り向いた。 「李君、今日はもう上がっていいよ」 「あ、はい……」 「それと、もしも帰る途中で娘を見つけたら話し相手になってやってほしい。君が良ければ、だけど。 多分、君くらいの距離がちょうどいいんだろう。急がなくていいからね」 「はい」と快く頷いた李は、最後にユーノの方を一瞥すると奥に引っ込んだ。 「さて……何から話そうか」一息吐くと、数秒間士郎は口に手を当てて思案する。カウンターの隣に最後の客を見送った桃子も入る。 「君達がなのはと出会ったのは、なのはが魔法を覚えてからだったね。知らないかもしれないが、昔のあの娘は明るいには明るいんだが、 時にどこか遠い目をする娘だった。今思えば寂しかったんだと思う。でも、ある日からそれは劇的に変わった」 そうして士郎は、魔法と出会う前のなのはを彼なりの視点で語った。 士郎の言う通り、フェイトもはやても、魔法と出会ってからのなのはしか知らない。魔法を教えたユーノも同様、 なのはは明るく活発な娘だとしか思っていなかった。それ故に士郎の話は意外であり、新鮮だった。 「あの娘にとって魔法とは、ただの夢じゃない。自己の確立なんだ。ほんの一年程度なのに、いつの間にか自信の源、 自身の根幹を成すものにまで成長していたんだろうな。"胸を張ってこれだと言えるもの"を見失って、どうすればいいのかわからないんだろう」 「明るく繕った顔で私達には気を使ってるけど……まるで十年ちょっと前に戻ったみたいね……。ここは最近は特に……」 そもそもは私達の責任なのだけど、と桃子は悲しそうにつけ加えた。 「代わるものを見つけられなければ、十年経とうが二十年経とうが変わらない。最近、何か思い出す出来事があったんだろうね」 「それで……おじさん達はどう考えてるんですか?」 「相談してくるまでは様子を見る。昔ならいざ知らず、今のあの娘は十九だからね。こっちでも注意して見ておくよ」 「ユーノ君やフェイトちゃんが、何か話せない秘密があるのはわかるわ。あの娘がそれに関係してるのも。 だから、あなた達にできるやり方で助けてあげてほしいの……お恥ずかしい話だけど」 すると、フェイトとユーノはようやく緊張した表情を綻ばせ、 「はい!」 力強く頷いた。共に力を合わせてなのはを守ろうと、言葉にしなくても互いにそれは伝わった。 そして、そんな二人を尻目に、はやてが席を立つ。 「すいません……お会計お願いします」 会計をしようとしたが、コーヒー一杯だけならお詫び代わりのサービスだと士郎に断られた。 「ごめんな……フェイトちゃん、ユーノ君。私ちょっと体調が悪いんで帰る……」 はやては二人を振り向かなかった。力ない足取りで、静かに扉を開けて去っていく。 その時、はやての胸の大半を占めていたもの――それは疎外感。なのはを想うあまり、ユーノもフェイトもそれに気付かない。 はやてには話せない共有の秘密。はやてを気遣っての行為だと理解していても、一抹の寂しさは拭えなかった。 どんな理由であっても、輪から外されたという点では同じ。 なのはの為に――その一心で通じ合った絆。はやては、そこに加えられないと言われたも同然だった。 見送る二人は、その寂しげな背中の意味を、隠されたはやての心中を察するまでには至らなかった。 外は薄暗く、街灯には既に光が灯っている。翠屋の付近に停まったタクシーから出てきたのは、黒のスーツに赤のネクタイと青のシャツ、 サングラスを掛けた黒髪の男。この街、この時間には似つかわしくない姿の男。 彼は料金を払うと、大きく深呼吸して街の空気を胸に取り込む。この街も、この店も変わっていない。 一人しみじみと、思い出を振り返って感慨に耽った。 ふと横をすり抜けた少女に視線が移る。髪型も昔と同じ、おそらくは見知った少女だろう。俯いた表情は窺えないが、心なしか泣きそうに見えた。 「はやて――」呼び止めようとした瞬間、胸元の携帯電話が震えた。 無視しようかとも思ったが、番号を見てそうもいかないと思い直す。 「はい、クロノです。ご無沙汰しております。今、実家の方に荷物を片付けてきました。お言葉に甘えて一日休みを頂き、明後日、改めてご挨拶に伺います」 「(遠路遥々ご苦労だった、クロノ・ハラオウン。久々の日本はどうだね? 私は時差ボケで難儀しているよ)」 挨拶を終えるなり軽いノリの中年の声。通話の相手はクロノの直属の上司、ディケイドである。クロノも彼に付いて日本に滞在する予定になっていた。 「契約者は風邪を引かなければ、花粉症にもならない。つまりそういうことです」 「(では時差ボケにもならないと? ハハハッ、それは羨ましい限りだよ)」 「どの道、私は慣れていますから」 世間話に応じつつもクロノは軽く流した。するとディケイドもそれを察したのか本題に入る。 「(そうか、そうだったな。ところで、君は他のメンバーとは既に顔見知りだったかね?)」 先に日本を訪れているディケイドに遅れる形で、クロノは数年振りに日本の土を踏んだ。 イギリスでの残務に時間を取られ、今後共に行動する予定のメンバーとも別行動である。 「ジャックとは数年来の付き合いですが、『ジュライ』や『エイプリル』とはまだ……」 「(そうか、彼ら三人は現在東欧に向かっている。いずれ日本に来るのを楽しみにするといい。 長旅で疲れたろう、ゆっくり休みたまえ。これからよろしく頼むよ、『ノーベンバー11』)」 どうせ電話口ではわかるまいと、クロノは顔をしかめた。 その呼び名はあまり好きではなかった。所詮は借り物のコードネーム、その功績の殆どは自分で勝ち得たものではないからだ。 「失礼ながら、今はプライベートです。それに……紛らわしいので私の方はクロノでお願いします」 そう言うとディケイドは気分を害した様子もなく、軽く笑って通話を切った。 クロノは堅物だと皆に思われている。からかったつもりなのだろう。それを知っていながら、自然とこういった返事をしてしまうあたり、 そのイメージはあながち間違ってはいないのかもしれない。 クロノは翠屋に向かいながら、そんな割とどうでもいいことを考える。はやてらしき少女は、もう近くにはいなかった。 太陽が沈み、代わりに顔を出すのは偽りの星。遮る建物のない公園では、見上げると今にも落ちてきそうな星空が広がる。 この空は嫌いなのに、なのはの脚は不思議とここに向いていた。ここは千晶と初めて出会った場所。 ほんの一週間前なのに、随分と昔に思える。それくらい彼女と出会ってからは驚きの連続で、怒涛の二日間だった。 (そういえば李君とちゃんと話したのもここが初めてだったなぁ……。あの時は匿う為とはいえ、突然キスされて思わず殴りそうになったっけ……) しかし、あの後李は何の関係もない千晶の為に力を尽くし、我が身も顧みずに契約者という異能者から千晶を守った。 その点では、自分よりも余程強く正義感がある。純朴な見かけによらない彼の勇気をなのはは高く評価していた。 彼のアパートで無様な泣き顔を見せて以来、李とはあまり話していない。契約者の存在を李も知ってしまっているだろうが、 彼からは何も言わないし、なのはも口にしなかった。 「あ……星が……」また一つ流れた。 何処かで契約者が死んだ。この星の一つ一つが契約者の命。だからこそ、こんなに美しいのだろうか。だからといって好きにはなれない。 真実を知ってしまったからには、もう星を眺めて喜んだり、流れ星に願いを込める気にはなれなかった。 なのはは暫く星を眺めていたが、背後から不意に草を踏む音がした。茂みを掻き分け、誰かが近づいている。 「誰……?」と警戒態勢を取りつつ、なのはは暗闇に問い掛ける。 「なのはさん……ですか? 李です、やっぱりここにいたんですね」 暗闇から姿を現したのは李だった。服装はいつもの様に白いシャツにジーンズ、緑のパーカー。 「李君……? もう、びっくりしたよ」 「すいません、驚かせてしまって……」 李は軽く頭を下げると、何も言わずになのはの隣に立った。街の空気から隔離された夜の公園、その中心に二人はいる。動くものも話すものもなく、 偽りの星だけが煌めいている。それは不安を煽る沈黙ではなく、風を感じながら眠れるくらい落ち着いた、不思議と心安らぐ静寂。 なのはが芝生に腰を下ろすと、李も隣に座った。 「李君……今日はごめんね、みっともないとこ見せちゃった……」 「気にしないでください、僕も早く上がれましたし」 膝を抱えたなのはは李を見ない。正面斜め下、闇の中で揺れる芝に視線は向いていたが、その目は何も見ていなかった。 「私ね、ちっちゃい頃から夢があったんだ……。その頃はまだ可能性の一つとしか考えてなかった。でもゲートが出来た日、それは消えてしまった……」 胸の内にあるあやふやなものを言葉に変換し、紡いでいく。懐かしむように、慈しむように、ゆっくりと。 目を細めたなのはの横顔は、笑顔にも泣き顔にも見えた。 「無くなってから気付いたんだ。私には他に自慢できるものがないってさ。勉強は割と出来たんだけどね、ほんとそれだけで……。 他にも道はたくさんあるってわかってる。でもね、何かが見つかりそうな直前で取り上げられた気がして……」 未だに伸ばした手を引っ込められずにいる。 ユーノはなのはを勇気の塊と評した。 なのはに言わせれば、それは正解であり誤りでもある。間違っていて合っている。 「ユーノ君の言葉の意味、本当はわかってる……」 十年前のどの戦いにおいても、ただの一度だって諦めなかった。戦うことも、想いを伝えることも、誰かを救うことも。それだけは誓って言える。 でも、彼の言いたかったのはそうではない。その対極なのかもしれない。 「私には……諦める勇気が無い……」 十年とは短いようで長かった。少なくとも、がむしゃらに突っ走るだけの少女が、大人の思考で物事を考えるようになる程度には。 「皆は未来を見て進んでる。でも、私だけ大人になりきれてない。ユーノ君達に置いていかれてるみたい」 失ったものは時間が経つにつれ、美化されていく。手に入らないもの程、欲求は強くなる。 それを踏まえても、自分が誇れる魔法を思う存分揮え、誰かを救える魔導師の道はこの上なく輝いて見えた。 「そのせいでお父さん、ユーノ君、フェイトちゃんまで怒らせて……情けないよ」 最後の言葉は、膝の間に埋めた顔からくぐもって発せられた。 なのはは黙って李の顔を窺った。その間も不安で体が強張り、緊張で喉が渇く。 何を言ってほしいのだろう? どんな言葉を期待しているのだろう? 慰めてほしいのか、責めてほしいのか、自分でもわからない。 友人と呼ぶにはまだ微妙であり、明らかに他人ではない。魔法の秘密は共有していないが、契約者の秘密は共有している。 そんな彼なら何か――そんな甘えを抱いていた。 「そうでしょうか? きっと怒ってなんかないと思います」 数秒と待たず、返事は返ってきた。李がよく見せる、優しい微笑みと共に。 「ほんとに……?」 「少しはそうかもしれませんけど、それだけならあんな風に言いませんよ」 「そう……なのかな」 「逆です。みんな貴女を心配しているんです。諦めろって言ってるんじゃない。前と後ろ以外にも、 周りと自分を見て考えてほしいって……そういうことだと思います」 流暢に語られるのは、聞こえのいい言葉を適当に繋ぎ合わせた綺麗事。被った仮面を上滑りしていくのは、中身も根拠もない慰め。 自分で自分に呆れながらも、生憎それに痛む心も持ち合わせていない。 叱るという行為は、本心から相手を想いやっていないとできない。それ故に、李にできるのは甘い励ましだけ。だから李はこう言うのだ。 「大丈夫、誰もなのはさんを置いて行ったりしませんよ。千晶さんも……貴女が優しいから、心配だから関わらせたくなかったと言ってました」 「千晶さんが……」 眉一つ動かさずに吐いた李の嘘の中で、最後の言葉だけは唯一の真実。 それは厳密には千晶でなく、千晶の姿と記憶を借りたドールの言葉。千晶の真意など、今となっては知る術もない。それでもその言葉を選んだのは、 そう思いたいからだろうか。あれは自分となのはが救えなかった、日常に帰してやれなかった哀れな人間だと。 「ありがとう……李君……」 李が言い終えると、なのはは心なしか涙ぐんでいた。嬉しいとも悲しいともつかない顔で立ち上がり、李から目を逸らす。 「私……そろそろ帰るね。お父さんとお母さんと……ユーノ君に謝ってくる。それと……フェイトちゃん……にも」 李は僅かに戸惑っている様子だが、なのは自身、感情の整理はついていなかった。ただ、千晶の名前を聞くと涙が零れそうになった。 それを隠そうと、なのはは李に背を向ける。 まだフェイトに謝る決心はつかないが、ここでこうしていても始まらない。励ましてくれた李に応えるなら、まずは酷いことを口走ってしまったユーノと、 営業妨害をした両親に謝ることから始めよう、と。 魔法という単語を、李も翠屋で聞いていたはず。なのははぼかして話したつもりだったが、内心では問い詰められるのではないかと恐れていた。 聞かれなかったのか、敢えて聞かなかったのか、どちらにせよ嬉しかった。父に言われたのかもしれないが、こうして来てくれて、話を聞いてくれたことが。 「おやすみ、李君」 「おやすみなさい、なのはさん。僕はもうちょっと風に当たって帰ります」 笑顔で手を振って別れる李となのは。去り際になのはが振り向くと、李も手を振った。 家路を歩きながら、なのはは胸の痞えが和らいだのを感じていた。それもこれも李のおかげであった。 李との距離がまた少し縮まった。そう感じると同時に、なのはは改めて、李とは根っからのお人よしであり信頼できる人物だと思った。 もっとも、本人の前では照れ臭くて言えなかったが。 なのはが去った後、李は近くの木に背中を預ける。 ここに来た時からずっと、話している間も絶えず視線を背中に感じていた。敵意や殺意の類ではなく、気配は木の上から、となれば心当たりは一つしかない。 邪魔者のなのはが早々に立ち去ってくれたのは僥倖と言うべきか。 「相変わらず女を口説くのは上手いんだな。よくあんなにスラスラと言葉が出てくるもんだ」 「猫〔マオ〕か……」 頭上から低い中年男の声。枝の上に目線だけを移すと、李を見下ろしていたのは一匹の黒猫。 コードネーム、猫――動物への憑依を能力とし、チームの情報の集約や伝達を担当する。当然彼も契約者である。 「仕事だぜ、黒〔ヘイ〕。マイヤー&ヒルトン社の社員が二人、新宿のホテルに入った。 連中の狙いの人物は、どうやらあの娘の友達と関係があるみたいだな」 一瞬で李の顔から薄っぺらな笑みが消える。目が据わり、瞳からは光沢が失せる。 そこにいるのはもう、朴訥で気の優しい留学生、李舜生ではなかった。 黒の死神、メシエ・コードBK201、様々な通り名で呼ばれる彼本来の顔。 高町なのはを一度は下した冷徹な仮面の契約者――コードネーム、黒。 黒は李の仮面を脱ぎ捨て、新たに仕事用の仮面を心に被せた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/505.html
準備中の看板が出ている翠屋。 そこにユーノ君がなのはに会いにやってきた。 ユーノ「こんにちは~。なのはさんいますか?」 いつもなら、調理場に行けば、すぐにお手伝いをしているなのはに会える。 しかし、今回は、足を止めて店内で待つべきだったのだッッ!! 調理場は神聖なる領域であることを日々の行いから忘れていた! その報いがくるッッ!! 中で午後の開店に向けて準備をしていたのは見知らぬ男だった。 ???「そこで何をしている~~~ッ!見タナァ~~~ッ!」 ユーノ「!!」 ドッシュウッ ドズウ! ビイィーーン 翠屋厨房に顔を出したとたん、顔のスグ横に包丁が突きつけられる! ???「オマエッ!のぞき見に入ってきたというわけデスカァーッ! ただじゃあおきませンッ!覚悟してもらいマスッ!」 ただならぬ展開にバリアジャケット装着、即時に結界を展開して構えるユーノ。 男が何か固形物をつかんで……差し出すッ! ???「ここでは!『石ケン』で手を洗いなサイッ!」 ユーノ「えっ!?」 ???「ユルせないッ!断りなく調理場に入ってきたのはユルせないッ!アナタ!ここに入る前ニ手を洗いなサイッ!調理場は清潔でなくてはイケないのデスヨッ!」 その後、用事から戻った高町夫妻となのはが見たのは、店内を拭きなおしているユーノの姿だった。 トニオ「ワタシ、イタリアからやってきたトニオ・トラサルディーと申しまス。自分のお店を出す前に、日本語の勉強をかね、高町さんの所で修行させていただいておりス。 トキドキ槙原さんの「さざなみ寮」に出張お料理サービスもやっておりマス」 続かない 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/36.html
が……キャロタイムは…こないのかな 自分でいったスーパータイムだ 電波促進をかねて、ユーノとキャロの相性の良さを語るとしよう ユノキャロ要素を含む作品は 某家族、エロパロの蟻地獄、地獄司書長(の初期)、←の人が書いた恋愛相談中のキャロ がとっさに浮ぶものだな 某家族SSで親子ネタは認知されている しかしだ。良く考えれば、“師弟ネタ”もいけるんだぞ? こら、そこ! スバルだけの専売特許だと思うなよ! 某家族SSでも初めは師弟から始まっていたし、二人とも高町なのh曰く『優しくて背中があったかくなる』支援魔法系だからな エリオにもシグナムという師がいるんだからいいだろう 二番目は兄妹ネタ かつてこのスレでも有ったはずだが、違和感が皆無なんだなこれが まあ、無茶を繰り返すユーノを泣いて止めるキャロというのがデフォルトだろう もしくは、旅から帰ってくるのを心待ちにしているのもよい コンビ(パートナー)ネタ はいここの電波は重要です。テストに出ますよー! わかりやすく言えば、ラジオの司会役として組む二人を想像して欲しい さらに地獄司書長での二人(黒ユーノと黒キャロ)でも可 他にも 医療所を開く二人、ユーノ孤児院にやってくるキャロ、旅をする二人、ガーディニングにいそしむ二人、 竜の生態調査に向かう二人、ミッドチルダの名ラジオ司会な二人、智の果実(リンゴ)狩りに手を出す二人、 焼き芋を焼く二人、ネコミミキャロとフェレットユーノの子供向け番組! タッグデュエルをする二人(バーストストリーム!!)、他多数 可能性は無限大だ!! 61スレ キャロ ユーノxキャロ 小ネタ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/219.html
宗教怖いという話 作者:7pRmqKKB 流れを読まずに電波投下テロ 晴れ渡る大空の下、地上本部の摩天楼は高らかに顕在していた。 最上階でユーノは、室内に乱舞する画面を背にしてクラナガンの街並みを見下ろしている。 眼鏡の奥で内心を窺わせず黙然と瞳を凝らす彼の横手に、非常回線の通信映像が開かれる。 実直な容貌を強張らせる男性は、ユーノの線の細い横顔に厳然とした視線を突き刺す。 「結局、本局は止められなかった」 クロノは端的にユーノへそう告げた。対するユーノが半ば諦念じみた色の溜め息を薄い唇に滑らせた。 「騎士カリムは」 「会議には出席したが、今は教会本部で事の推移を監視している筈だ」 「聖王教会が一歩引いたとなると、地上本部と本局の決裂は決定的だね」 さして焦燥も無くユーノが言うと、クロノも事態の深刻さに似合わない呆れた目色を浮かべる。 「聖王様の復活で狂信者どもは狂喜乱舞、本局は最高評議会の計画の如何で内部分裂、 地上本部はレジアス派残党が独自路線で武力拡張。内でも外でもやってる事は同じだ。全く……」 クロノはクラウディアの艦長席で頬杖をつく。 ミッドチルダ衛星軌道上への転送中だが、通常は数時間で到着する筈が難航している。 後発部隊としては当然の事だが、 それだけの転送物量がミッドチルダに殺到していると思えば僅かな寒気は禁じえない。 「本局の陸海空教導隊が先行して敵拠点を強硬制圧。その後、次元航行部隊が敵性局員の一斉拘束に出る。 いいのかユーノ、そこにいると辛い連戦が続くぞ」 知った顔で本局の作戦を暴露しつつ、クロノは試すような目で親友を見た。 「まぁ、大丈夫だと思うよ。出来ればクロノと交戦するまでは行きたくないけどね。 クラナガンでは今、特別救助隊が首都航空隊と連携して市民の避難に専念してる。 本局も無駄な被害は出したくないだろうから、もう少し襲撃のタイミングを見計らってくるかな」 「お前にはいつも、面倒な仕事や汚れ役を押し付けてしまっているな」 ユーノが眼鏡の奥の瞳を場違いに和らげた。 「局員待遇の特権。立場に小回りが利くからね。地上本部がなのは達の手で堕ちそうになったら撤退するよ」 「そうしてくれ。彼女だけでも退場させると、後々楽になると思うが。 エースオブエースの撃墜は本局の士気低下にも繋がる」 「そこはそれ、師弟対決がどう運ぶかだね。可能なら僕がスバルの手伝いに行くよ」 「あぁ、あの戦闘機人の……。それはいいが、まさか使い魔が主に反逆するのか?」 「……狂信者一派は?」 「露骨に不機嫌になるな、相変わらずだな。 北部の廃棄都市に多層結界を張って、一体何の儀式を始める気なのやら」 クロノの甚だ冷めた声が、通信映像から室内へと流れる。 「困ったものだね、あの人達には。局内の頭の固い人達もだけど」 「全くだ。本当の敵、真に律するべきものが何かを完全無欠に見失っている。挙句に僕達で内輪争いか」 聖王教会の局内に通じる権威を懸念し、 苦肉の自浄作用として海と陸の仮想戦争という茶番を仕立て上げた上層部には呆れる以外に無い。 教会も教会で、たとえ過激派とはいえ身内である事に違いは無い。 外部の騒ぎに対しては彼等の擁護を選ばざるを得ない。 初めから噛み合う事の無かった歯車が、決定的な齟齬を発露させただけに過ぎないが、 そんな想定さえ覆させられない程に人は愚かだったのだろうか……。 ユーノはクロノの通信映像の奥、高価なソファの上で横たわる少女に目を向ける。 時空管理局の動乱も知らない無垢な寝顔で、ヴィヴィオは規則的な寝息を立てていた。 「ヴィヴィオはお前が守れ。何があってもだぞ! 狂信者一派にも本局にも彼女の身柄を預けるわけには行かない。そうなれば全てが終わりだ」 ユーノは俄かに眼の奥を引き締め、小さく頷く。 彼女が平素から無限書庫に頻繁に顔を見せていた事が、こうして彼女を保護する機会を得る為に僥倖だった。 狂信者が聖王のクローンとして生み出されたヴィヴィオを手にしたとなれば、 どんなおぞましい方法で崇拝するか、ユーノにもクロノにも想像さえ及ばない。 そんな異端一派を鎮圧する事が、管理局の火急の使命の筈が……一体どこで道を踏み外したのか。 教会本部からの顰蹙を恐れ、 クロノの言う通り内輪争いの馬鹿げた茶番で最も重大な火種を放置しているとしか思えない。 「この一次抗争が終わった後は、暫く部族の皆に匿ってもらおうと思っている。 クロノ、出来ればなのはかフェイトにその事を連絡してほしい」 「何とか彼女達と直接顔を合わせられる機会を作って必ず。ユーノ、絶対に生き延びろ」 「任せて」 共に気持ちの通じ合った笑みを交わし、クロノの通信映像は途絶えた。 ユーノは再度ヴィヴィオを眺めて目許を緩め、そして正面眼下のクラナガンへと視線を移した。 握り締めた彼の拳は、再び争いの渦中へ身を投げ出す決意に満ち溢れていた。 これは司書長と×ヴィヴィオなのか×スバルなのか×クロノなのか電波を受信した自分でもわかりません とりあえず宗教って怖いよって話なのかもしれません 18スレ SS クロノ・ハラオウン スバル・ナカジマ ユーノ・スクライア ヴィヴィオ 電波
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/241.html
続々々・クビになった司書長 作者:q/Memg9b ■フェイトの場合■ ハラオウン家(地球・海鳴市)のまるで通夜のような陰鬱な空気に包まれていた。 その鬱な空気の最大の発生源、フェイト・T・ハラオウン執務官は 今にもバルディッシュで手首を掻っ切りそうな雰囲気を醸し出している。 「はやてさんも駄目、フェイトもやっぱり駄目だったわね」 「母さん」 疲れた表情で溜息をつくリンディをクロノが嗜めるが、彼女にも義娘をフォローするだけの余裕が無い。 なにせユーノの手がかりは目下、管理局最凶の冷血コンビが最も有力なのである。 一応、師は同じだし弟弟子・妹弟子に当たるわけだが、彼女が二人を苦手としているのは変わりがない。 「フェイト、気を落とすなよ?」 完全に余裕を無くしている母親に代わり、クロノが義妹を気遣うが、 その言葉が彼女に届いていないのは明らかであった。 今のフェイトは嘗てのPT事件でプレシアから切り捨てられた時のごとき様相である。 ブツブツと何事かを呟いているあたり、当時よりも病みっぷりがパワーアップしているとも言えるが。 「ただいまー。って、あれ? クロノにお義母さん、フェイトちゃんも。珍しい」 そんなときであった、二児とアルフをつれたエイミィ・ハラオウンが帰宅したのは。 現在一番余裕のある(最大の衝撃を通り越し一応の平静状態)クロノが、 十日ぶりに直接顔を合わせた妻に管理局での出来事を説明する。 「ああ、実はユーノが管理k(ry」 「うん、聞いてるよ」 説明の途中で割り込むエイミィに、クロノはそうじゃない! と声を荒げる。 「だから、ユーノがだな!」 「管理局辞めたんでしょ? だから、ユーノ君から聞いてるよ?」 妻の言葉がクロノの脳内に染み渡り、理解するまでに要した時間は実に十秒。 「はぁ!?」 「ど、どーしちゃったの? クロノ?」 いろいろ予想外の状況に、クロノはエイミィの肩を掴んで何か言おうとするが言葉が出てこない。 同じく予想を超える事態にリンディも硬直したまま、孫に、どうしたのー? とつつかれている。 ガタンッ!! 椅子の倒れる音に全員が視線を向かわせると、瘴気を撒き散らしながらふらーんと佇むフェイトがバルディッシュを手に臨戦態勢である。 「ふぇ、フェイト?」 主の奇行に、皆の様子を黙って伺っていたアルフが恐る恐る声をかける。 「あるふ?」 「ひゃ、ひゃいい!?」 地獄の底から聞こえるようなフェイトの声に、アルフは直立不動で返事をする。 「あるふもゆーのがかんりきょくやめたのしってるの?」 「し、知っているであります!」 いつの間にやらフェイトが手にしたバルディッシュはザンバーフォームに、 切っ先はアルフののど元にぴたりと当てられている。 アルフは全身で助けを求めるが、クロノほか触らぬ神に~と言わんばかりに二人を見守るだけである。 「なんでおしえてくれなかったの?」 「……何でフェイトが知らないのさ?」 主であるフェイトが瘴気を纏っている理由を、なんとなく理解したアルフは逆にフェイトに問いかける。 「え!?」 「あたしらは一月ほど前からユーノから直接、管理局を辞めるかもっていう話を聞いてたし、 この間も翠屋で11年間お疲れ様ってことでこっちの知り合い集めてパーティーもやったよ?」 そっちでもやったんじゃないの? とアルフ。 「と言う事は、桃子さん達もご存知ということ?」 「ええ、高町家の皆さんはもちろん、アリサちゃんやすずかちゃんのご家族も知ってます」 なんとなく現状を理解し始めたリンディの問いに、エイミィが返事をする。 そして、 「ようやく話が理解できましたけど、要するにお義母さんにクロノ、 フェイトちゃんはユーノ君が管理局を辞めるってことは聞いていなかったって事ですか?」 「ええ、なのはさんやはやてさんもね……」 その言葉に思わず顔を見合すエイミィとアルフ。 「「なんで?」」 「僕が知るか! あのフェレットもどきに聞け!」 ■はやての場合■ 「ユーノくんが管理局辞めてしまたー!」 翌月に機動6課の再編を待つ八神はやて二等陸佐は、 自宅(ミッドチルダ・クラナガン)のドアを開けると共にそう叫んで玄関に倒れこんだ。 それとほぼ同時にリインハウスより飛び出したリインフォースⅡ空曹長が大変ですぅ大変ですぅ、 とはやての頭上をくるくると飛び回る。 その様子に驚いたのか、シャマルはエプロン姿のまま台所から飛び出してきたが、 はやての声がちゃんと聞こえた残りの3名はのんびりと玄関に参上した。 「あー、信じてませんね? 冗談とかじゃn(ry」 全く慌てた様子の見られない守護騎士達に、まくし立てようとしたリインをシグナムが手で制する。 そして、 「はあ、主はやて、私は存していますが?」 「ああ、あたしだって聞いてるぜ?」 「はやてちゃんは知らなかったんですか?」 「主?」 と、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの順で口を開くと、 家族たる守護騎士達は音速が遅いぜ、マスター? と言わんばかりの表情ではやてを見る。 「え? えっ!? はぁ~~!? なんで知っとるん!? わたし、ユーノくんから何も聞いてへんよ?」 ぽかんと呆けてしまったリインに、 こちらを見つめる守護騎士達を交互に見やりながらはやては悲鳴のような声を上げる。 「はあ、先日、四日ほど前ですがヴィータと模擬戦をやった際に結界を張ってもらったので、 礼にとユノユノを食事に誘った時に聞きましたが?」 「あたしもシグナムと同じ日に聞いた」 「私はユーノ君本人ではありませんが、何人か司書の方と親しくさせていただいてますのでその方から」 「私はアルフから何度か愚痴交じりに……」 対する守護騎士達はあくまでも冷静である。 意外であるがシグナムとユーノは互いにあだ名で呼びあう仲で、 ヴィータも出不精なユーノをしょっちゅうクラナガンに連れ出し遊んでいる。 またシャマルとザフィーラは直接会うこと事態少ないが、 ユーノ身辺の人物、司書やアルフといった面々と親しく、 彼と無限書庫の状況はほぼリアルタイムに近い形で把握していた。 逆に主と末妹の慌てっぷりの方が、騎士達にとって理解しがたい。 「いやいやいや、ありえへんやろ! 何で私に知らせへんの! あと、シグナム! ユノユノってなんや!!」 はやては図らずも声を荒げる。 さきほどから釈然としない違和感がねっとりと付きまとっている。 それがなんだか分からないが、非常に気持ちが悪い。 「当然、ご存知と思いましたので。彼のあだ名です。わたしのことはシグシグと、それが何か?」 「あたしも、はやては知ってるかと思ってたし」 「はやてちゃん、ユーノ君から聞いてなかったんですか?」 「……」 守護騎士達としても、はやてがそれを知らない事の方が驚きであった。 騎士達の言葉を聞きながら、はやては感じていた違和感が形になっていくのを感じる。 はたして、八神はやてとユーノ・スクライアが、 高町なのはとフェイト・T・ハラオウンを介さない状況で仕事以外の会話をしたことがあったであろうか? 確かにデバイス製作に関して協力を得た事はある。 しかし、はやてから見れば友情と思ったソレも、彼が同じ感情を持っていたとは限らない。 いや、そもそも、 「わたし、ここ最近ユーノくんと話した事あった?」 19スレ SS アルフ エイミィ クロノ・ハラオウン ザフィーラ シグナム シャマル フェイト・T・ハラオウン リンディ・ハラオウン ヴィータ 八神はやて 追放系
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/23.html
あの人に想いを届けるために 「あーあ、先生とクリスマスパーティーに出たかったなぁ……。ま、しょうがないけど……。」 そう言うとスバル・ナカジマはぎしり、と椅子を鳴らした。 毎年地球・日本の海鳴市で行われるクリスマスパーティーに、スバルも参加する予定であった。しかし、今年は当日になって 参加をキャンセルする事になった。 何故ならば、部隊の当直を変わってあげたからである。 「あたし、そこまでお人好しじゃなかったと思うんだけど……。」 そう言いながらスバルは、自分のデスクにある写真立てを手にとった。 その写真立てには、数年前に行われたクリスマスパーティーの写真が収められていた。 その顔ぶれは彼女のかつての上司や同僚、そしてその家族や友人達である。 スバルはその中の一人、流れるような金髪と翡翠色の目をした、女性と見紛うような美しい男性にすっと指を滑らせた。 「やっぱり、貴方の影響ですかね……先生……。」 優しく微笑みながらそう呟くと、スバルは先程、自分が当直を変わってあげる事になった経緯を思い出していた。 「ようし、これで引き継ぎは大丈夫っと……。それじゃあ、そろそろ行こうかな?」 スバルはそう言いながら時計を見た。これからの移動時間を考慮すると、丁度良い時間である。 「ふふっ……。皆が揃うクリスマスパーティーなんて、久しぶりだなぁ……。……先生に逢えるのも、久しぶりだし……。」 そう呟くと、スバルは顔を綻ばせた。彼女が先生と呼ぶ人物……無限書庫司書長、ユーノ・スクライア……とは、中々会えないでいた。 彼女が以前機動六課にいた時に知り合い、半ば押しかけ同然に彼の生徒になって以来、その関係は続いていた。彼には魔法の事だけでは なく、様々な事を教わった。もっとも、今はそういった事を教えてもらう事は少なくなり、休日に一緒に出かけたり、食事をする事が多 かったのだが。 しかし元々忙しい二人である。特にここ最近はユーノとスバルの予定が合わず、中々逢えなかった。 メールや電話で連絡を取ってはいたが、それでも少し寂しいと、スバルは思っていたのである。 だが、うきうきしながら帰る準備を整えていたスバルの耳に、ふと会話が聞こえた。 「……あの子は? そう……。悪いけど、頼むわね、あなた。本当にごめんなさい……。分かっていた事とはいえ、あなたにもあの子にも 申し訳なくって……。はい……。ええ、分かったわ。それじゃ……。」 その声の主をスバルは見た。それは先輩の女性隊員であった。数年前に結婚し、女の子を出産した後に再び湾岸警備隊特別救助隊に戻って きたタフな女性であり、女性隊員が少ない湾岸警備隊にあって、スバルが特に信頼を寄せる人であった。 (あれ? でも先輩も今日はこれからオフな筈なのに……。今日は確か、娘さんの誕生日だった筈じゃ……。) 彼女と娘と、娘を抱いた夫の写真を見せられながら教えられた事をスバルは思い出した。嬉しそうに語る彼女は本当に幸せそうで、それを 見たスバルも、幸せな気持ちを抱いたものであった。 だが、今の彼女は沈んだ表情をしていた。それが気になったスバルは、彼女に声を掛けた。 「先輩……どうなさったんですか?」 「あら、スバル……。いえ、ちょっとね。今日の当直の一人が体調を崩したみたいでね、私が当直になったの……。」 「え!? でも先輩、今日は娘さんの誕生日じゃ……!」 「うん……。でも、仕事だから仕方ないわ。私も夫も、こういう事があるって事は納得した上で、結婚して子供も作ったんだし……。」 「でも……それじゃ、娘さんが……。」 「そうね……。でも、きっと分かってくれるわ。いつか、きっと……。」 そういって寂しげに笑う彼女に、スバルの胸は締め付けられた。 それは、彼女や彼女の娘の事を思っただけではない。その寂しげな表情に、見覚えがあったからだ。 かつてのクリスマスパーティーの際に、とある事情でケーキを買いに行ったユーノを迎えに行った時に見た、彼の表情。 親子連れを見つめ、とある行動に出た時のユーノの表情と、今見た彼女の寂しげな表情が重なったのだ。 そう思った瞬間、スバルは彼女に言っていた。 「先輩、今日の当直、私が代わりますよ。」 だがその申し出に、女性隊員は微笑みながら首を振った。 「有難うスバル。だけど、貴女もこれからパーティーなのでしょう? ずっと楽しみにしていたじゃない。」 しかしスバルは笑顔で言った。 「いいんです、皆とはまた機会がありますから。だけど、お子さんの誕生日は今日だけです。しかも、小さい時の誕生日って特別じゃない ですか。そんな日に御両親がいなかったら寂しいじゃないですか。ちゃんとお父さんもお母さんもいるんですから。……行けるのなら、 行くべきですよ。娘さんの、ためにも。」 「……スバル……。」 女性隊員は、スバルの言葉に唇を噛み締めた。彼女は、スバルの生い立ちを聞かされていた。その彼女が発した言葉には、重みがあった。 悩む女性に、スバルはダメ押しとばかりに笑顔で言った。 「あ、先輩、もちろんタダではありませんよ? 最近、美味しいケーキ屋さんを見つけたんです。そのお店のケーキを奢ってもらいますよ。 ……それでどうです?」 そのスバルの言葉に、女性は吹き出すと言った。 「……分かったわ、スバル。それじゃあ当直を代わってもらうわね。ケーキはホールで奢ってあげるから、好きなのを考えておいて頂戴。」 「さっすが先輩、太っ腹! それじゃあ早く行って下さい!」 「ええ。スバル……本当に有難う……。」 そう言ってスバルは彼女を見送った。そして冒頭の場面に戻る訳である。 「今頃、先輩と旦那さんと娘さん、楽しくやってるかな……。それに、先生達も……。」 急に参加出来なくなった事を既に向こうにいたギンガに伝えた時も、残念がられていた。 「スバル、どうして? 貴方、今日はちゃんと休みを取っていたんじゃないの?」 「う……ん。そうなんだけどさ……どうしても、当直をやらなきゃならなくなってさ。あたしも行きたかったんだけど……皆によろしく 言っておいてよ、ギン姉。」 「……分かったわ、しっかりね。だけど、貴女がそんな事をするようになるだなんてね……。ユーノさんの影響かしら?」 「ぅえ!? な、何の事、ギン姉!?」 「何でもないわよー。また仕事が終わったら連絡を頂戴。保存が効きそうな料理はとっておいて、持っていって上げるから。」 「わー! お願いギン姉!!」 (……ギン姉には、大体分かっちゃってるかなぁ……。) 携帯端末を切った後、スバルはふっと溜息をついた。特にばれても問題は無い事だが、少し気になってしまう事ではあった。 「……まぁ、その時はその時か……。」 そう呟くと、スバルはたまっていた書類仕事を片付け始めた。 そして暫く後、湾岸警備隊特別救助隊に緊急コールがかかった。 とある市街地のホテルにて、爆弾テロが発生したのである。テロリストは既に逮捕されたのだが、爆弾を止める事は出来ず、ホテルが 火の海と化してしまったのである。 「こちらナカジマ! ヴォルツ司令! 要救助者を確保しました! 他の方達の救助に向かいます!」 『こちらヴォルツ! ナカジマ、無理はするな! この火の勢いじゃ、二次災害の危険も高い!』 「分かってます、無理はしません! 無理はしませんが、出来る範囲で救助します!」 『馬鹿野郎! お前の場合、それが無理してるってんだよ!! いいか、要救助者を助けるのは大切だが、そのために己を犠牲にするな! 俺のようになるな! 分かったな!!』 「分かりましたよ! これから要救助者の捜索を行うので通信を切ります! それでは!」 『あ、おい、ちょ……!』 通信を切ったスバルは辺りを捜索し始めた。その時、微かに助けを呼ぶ声が彼女の耳に届いた。 スバルがその声を辿ると、若い女性が倒れていた。スバルが駆け寄ると、息も絶え絶えに言った。 「お願い……。子供が上に……子供が逃げ遅れているの……!」 「!? 何ですって!?」 「お願い……私の事はいいから、早くあの子を……! あの子を助けて下さい……! どうか……どうか……!!」 そう言うと、女性は気を失った。丁度他の隊員が到着したため、彼らに女性を任せると、スバルは上階へと向かった。 上階は、既に炎の海であった。黒煙も立ちこめ、あまりにも酷い状況であった。だが、スバルは捜索を開始した。 (あの時のあたしみたいに、救助を待ってるかもしれない……!) 思い出すのは、かつての自分。あの空港火災で死に瀕していた自分を救ってくれたなのはのように、様々な現場で、幾つもの命をスバル は救ってきた。 全ての命を救える訳ではない事は分かっている。だが、それでも全ての命を救おうという気持ちは持っていたいと、スバルは思っていた。 (今度も……絶対に……!!) そう強い気持ちを秘め、スバルは子供の捜索を続けた。その時。 「……っく……れか……たすけ……」 「─────────ッ!?」 スバルの耳に、微かにだが子供の声が聞こえた。その声と生体反応を辿ると、座り込んで泣いている小さな女の子を発見した。 「見つけたっ! 大丈夫!? 怪我はない!?」 自分の前にやってきたスバルに、女の子は一瞬驚いた顔をしたが、安心したのか、泣き出した。 その様子に笑顔を浮かべながらスバルは言った。 「よーしよしよし、もう大丈夫だからね! 怪我は……無いみたいだね。よし! 早く帰ろう! お母さんが待ってるよ!!」 スバルが言った「お母さん」という単語に反応した少女が言った。 「おかあさん!? おかあさん、だいじょうぶ!?」 「うん、大丈夫! だから早く帰ろう!」 そう言って少女を抱えると、スバルは現場から離脱するべく立ち上がった。 だが、現場の状況は、スバルの予想よりも早く悪化していた。通路は炎に包まれ、階段は爆発で崩落していた。 (出口は……無いか! こうなったら外に出て、ウイングロードで脱出を……!) そう思った瞬間、スバルの足場が崩れた。反射的にプロテクションを張ったものの、周囲から猛火と瓦礫が襲ってきた。スバルのプロテク ションとバリアジャケットは耐火仕様ではあるものの、ここまでの業火や大規模な瓦礫に耐えられるかは厳しかった。彼女一人ならばとも かく、少女と一緒だと……。 (でも……助ける! 助けてみせる!!) そう思いながら、スバルは少女を強く抱きしめた。かつて彼女の知人である提督は言った。「世界はこんな筈じゃなかった事ばかりだ。」と。 今日が誕生日で、父母に祝ってもらっている少女もいる。 遠い異国では、今日はクリスマスという祝日であり、家族や恋人達が幸せを謳歌している筈だ。 そんな人達がいる一方で、この少女のように予期せぬ災いに見舞われている子もいる。だが、生きてさえいれば、再び幸せを噛み締める 事が出来る筈だ。そしてそれは、この少女だけではない。 (あたしも……こんな所で終われない……! 生き延びて、皆に……あの人に、また逢うんだ……!) スバルの脳裏には、かつての仲間や家族の事がよぎった。そして、一人の青年の事も。 いつも誰かを護るために、己の身を削り。 誰かに評価される事が無くても、その誰かのために働いて。 どんなに苦しく、辛い状況でも笑顔を絶やす事なくその困難に立ち向かい。 そして必ず何とかしてしまう、翡翠色の魔力光を纏う魔導師の事を。 「……せんせい……ッ!!」 そう呟いたその瞬間、彼女の耳に、ここでは聞こえる筈の無い、けれどとても聞きたかった声が聞こえた。 「スフィアプロテクションッ!!」 そしてスバルのプロテクションを更に覆う形で、新たなプロテクションが形成された。 とても暖かく、とても優しく、そして……とても心を震わせる、翡翠色の魔力光のプロテクションが。 そのプロテクションは、激しい業火も、大きな瓦礫も物ともしなかった。スバルの腕に抱かれた少女も、驚いたようにその様子を見つめて いた。 やがて翡翠色のプロテクションは、風船の用にスバルと少女を完全に包み込むと、ふわふわと浮かび上がった。 そのまま二人は崩落した所から浮かび上がると、一人の青年の前へと運ばれた。 女性と見紛うような美しい容姿。 流れるような金髪は、翠色のリボンで纏められている。 普段はラフな格好だが、今はどこかの部族の民族衣装のようなバリアジャケットを身に纏っていた。 「……先生……?」 「うん。良く頑張ったね、スバル。」 スバルの問いかけに笑顔で頷いたのは、無限書庫司書長ユーノ・スクライアであった。 「せ、先生!? い、一体何でここに!?」 驚くスバルにユーノは言った。 「それは後で説明するよ。今はこの子を何とかしてあげないと……。」 そう言って少女に向き直るとユーノは優しく言った。 「特に怪我は無いね。それじゃ、ちょっと目を閉じていてくれるかな? すぐに安全な所へ送るよ。」 だがその言葉に、少女はユーノの手を握ると言った。 「おねえちゃんとおにいちゃんは……こないの? ここ、あぶないよ? いっしょにいかないの?」 その少女の言葉に、ユーノとスバルはお互いに顔を見合わせると、笑顔で言った。 「うん。お姉ちゃん達は、まだやる事があるから。でも大丈夫! 必ず無事に戻るから!」 「僕達はこう見えても強いんだ。心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫だから。先に戻って、僕達を待っていてよ。ね?」 二人に諭されると、少女はこくり、と頷き目を閉じた。それを見たユーノは、転送魔法を発動させ、少女を救助隊の元へと送った。 「それで先生、どうしてここに?」 スバルの問いに、ユーノは頬を掻いて苦笑しながら答えた。 「うーん、話せば長くなるんだけどね……。君が当直をやらなきゃいけないから来れないってギンガから聞いた時、ティアナも交えて 三人で考えたのさ。これは、誰かの代わりになったんじゃないかって。」 付近の生命反応を探りながらユーノは言った。 (流石にティアとギン姉と先生が揃うと、私の思考は相当トレースされちゃうなぁ……。) 苦笑しながらスバルはユーノの話を聞いていた。その様子を見ながらユーノは言った。 「でね、僕の伝手を辿って、君が先輩隊員を娘さんの誕生日を祝えるように当直を代わってあげたって事が分かってね。」 しかし、そのユーノの言葉を聞いた瞬間、スバルは盛大に吹きだしていた。 「ぶふぉっ!? せ、先生、一体どんな伝手があったんですか!? かなり個人情報が絡んでると思うんですけど!!」 「いやぁ蛇の道は蛇って言ってね。公には出来ない情報の入手法って、結構あるものなのさ。」 さらっとそんな事を言うユーノに、スバルは改めて畏怖と尊敬の念を抱いた。そんな彼女の気持ちなぞ露知らず、ユーノは言った。 「ただその時に、同時にこの火災の事を知ってね。すぐに関係各所に連絡を入れて許可を取って、やってきたんだ……皆でね。」 「え? ……皆……?」 スバルがそう言うと、彼女の前にウィンドウが開き、見覚えのある顔ぶれが映った。 『そうよスバル! 皆で来ちゃったんだから!』 『スバルさん、無事ですか!?』 『心配しましたよ! 無茶をして……!』 「ティア、エリオ、キャロ! 皆、どうして……!?」 『皆、貴女を心配したのよ、スバル。』 『そうだぜスバル。あんま無茶すんなよ?』 「ギン姉! ノーヴェも……!」 そう、この大規模火災の事を知ったユーノ達は関係各所に許可を得て、海鳴からやってきたのである。そしてそれは、パーティーに出席 する面子の殆どであった。ヴォルケンリッターも、ヴィヴィオやその友人達も、スバルの弟分であるトーマやその仲間も来ていたのである。 現場に出たり、後方支援をしたり、それぞれのやり方で救助隊を援護していた。 そしてもちろん、あの面子も来ていた。 『おいフェレットもどき、こちらは要救助者をもう収容し終えたぞ。もう少し資料を作成するようにきびきびと働かないか。』 『ちょっと兄さん! そんな言い方ないでしょ!! ごめんねユーノ、ユーノも頑張ってるのに……。』 『なーに、大丈夫やってフェイトちゃん! クロノ君もユーノ君を心配してる裏返しなんやから!』 『にゃはは、そうだよねー! でもユーノ君、大分救助者は収容したよ! そちらもそろそろ撤退を考えてね!』 「分かった、皆有難うね。……ただしクロノ、君には後で話があるから。」 「皆……わざわざ……。」 そう呟いたスバルの目には涙が浮かんでいた。ユーノはその様子を微笑ましそうに見つめていた。 「みんな君を心配したのさ。その……もちろん、僕もね。」 「先生……。」 「さぁ、要救助者はもういないみたいだ。僕らも撤退するよ!」 「はい、先生!」 そう元気良く返事をすると、スバルはユーノにぎゅっと抱きついた。 「ちょ、ちょっとスバル!? 何してるのさ!?」 スバルが機動六課にいた頃、ユーノは良く彼女に抱きつかれていた。それから数年経ち、彼女も大人になって流石にそういう事が無くな ってきたために、ユーノも油断していたのである。 「だって、先生とはずっと逢えなかったから。だから先生分を補給してるんですよー。」 そう言いながらスバルはユーノに抱きついたまま、その匂いをすんすんと嗅いだ。その行動に、ユーノは更に焦った様子で言った。 「や、やめてよスバル! 君もいい大人なんだから、昔みたいな事をしちゃ駄目だよ!!」 スバルは昔からスタイルが良く、それ故にユーノは抱きつかれた時に色んな意味で困っていた。それが今、成長した彼女に抱きつかれて いるのだから、ユーノは以前とは比べ物にならない位困っていた。 (うわ、スバルは本当に成長してる……ボリュームや柔らかさが昔とは段違い……って、だ、駄目だ駄目だそんな邪な事を考えちゃ!!) 頭をもたげる男の本能的な考えを、ユーノは必死に振り払おうとした。だが、そんなユーノを見て、スバルは悲しそうな顔をしながら 言った。 「先生……。あたしにこんな事をされて、迷惑ですか……?」」 だが、スバルの悲しい表情を見たユーノは、迷う事無く言った。 「いや、迷惑なんかじゃないよ。君の事を迷惑だなんて思った事は、只の一度も無いさ。君の明るさは、いつだって僕を救ってくれたよ。 それは本当さ。誓ってもいいよ。」 そのユーノの言葉に、スバルは笑顔になると、再びユーノを抱きしめて言った。 「有難うございます、先生! やっぱり先生、だ……。」 スバルは「先生、大好きです!」と思わず言いかけた。だが、その時幸か不幸か再び爆発が起こった。 「くっ……! とにかくスバル、撤退しよう! 積もる話は、その後でね!」 「は、はい! 分かりました!」 転送魔法の準備をし始めたユーノに抱きついたまま、スバルはそっと安堵の息を漏らした。 (あ、危なかった……。いくら先生が鈍いって言ったって、面と向かってはっきり『大好き』なんて言ったら……。でも、いつかは……。) ユーノのバリアジャケットの裾を握り締めながら、スバルは一人、決意を新たにした。 ユーノと共に転送魔法で現場から無事に離脱したスバルは、そのままヴォルツ司令へと報告に向かった。 「ヴォルツ司令! スバル・ナカジマ防災支長、只今戻りました!」 「おう、お疲れさん。無事で何よりだ。……だが、今回はちっと無理をし過ぎだ、ナカジマ。要救を助けるのは大切だが、それでお前が 危険な目に遭っちゃあ本末転倒だろうが。次は気をつけろよ。」 「はい、申し訳ありませんでした。それで、司令、今回の犠牲者は……」 スバルは声を落として訊いた。流石にこの規模の火災であれば、死者も相当数出たのではないかと思ったからだ。だが、それを読み取った ヴォルツは、意識して明るく言った。 「それがだな、重症を負った人はいるが、今回死者はいない。皆生きているぜ。お前が救出した母親も意識を取り戻した。娘さんと一緒に 病院へ搬送されたよ。お姉ちゃんとお兄ちゃんによろしく、有難うって言ってたぜ?」 「えっ!? 本当ですか!?」 驚くスバルに頷きを返しながらヴォルツは言った。 「ああ、本当だ。この規模の災害で犠牲者がいないってのは奇跡だな。……いや、お前やナカジマ姉が巻き込まれた空港火災もそうだった か。あの時は管理局の誇る若きエース達が奮闘したんだったっけな。だが今回は、更に成長した彼女達に加え、伝説の機動六課の元隊員 達や元凄腕の執務官だった提督、それにエースやお前の家族達も加わったんだから、そりゃ助かったってもんだぜ。ああ、それと……。」 そう言うと、スバルの様子を見ながらヴォルツは意味深に言った。 「……お前が敬愛する、伝説の司書長様も来てくれたんだよな。いや、彼が皆を連れてきてくれた、と言った方が良いのかな? お前の状況 を把握したり、すぐに転送魔法の許可を取るために関係各所の調整をしたり……。よくもこの短時間でやり遂げたモンだぜ。そのおかげで 迅速な救助が出来て、犠牲者が出るのも防げた。流石はお前の先生だな?」 そのヴォルツの言葉に、スバルは満面の笑みで頷きながら言った。 「はい! やっぱり先生は凄いです! 流石は『私の』先生です!!」 ヴォルツが意図的に持ち上げていた事に気付かず、ユーノを褒められた事に気を良くしたスバルは、我知らず自分の想いを吐露していた。 それに内心で笑みを浮かべながらヴォルツは言った。 「まぁ、とにかく、今夜はお疲れさん。報告書なんかの提出は後日でいい。今夜はもう帰れ。パーティーに出るんだろ?」 だがスバルは苦笑しながら言った。 「いえ、そうしたいのは山々なんですが、今夜は私、当直なんですよ。ですから……。」 「大丈夫よ、スバル。当直は私が引き継ぐわ。貴女は安心してパーティーに行ってらっしゃい。」 「え!? 先輩……!?」 スバルは驚いて振り向いた。そこには、スバルに当直を代わってもらい、娘の誕生日を祝っているはずの女性隊員が立っていた。 「先輩、どうしてここに!? 娘さんの誕生日を祝ってあげてる筈じゃ……!」 「流石にこの規模の災害だもの、私も出動するわ。」 「え、それじゃ、娘さんの誕生日は……。」 「大丈夫。ちゃんとプレゼントを上げて、祝ってあげられたわ。凄くはしゃいじゃって、すぐに寝ちゃったのよ。呼び出しがあったのは その後だったから、変な言い方だけど……丁度良かったわ。」 「そうでしたか……。」 スバルはほっと胸を撫で下ろした。隊員が娘の誕生日を祝う事が出来て、本当に良かったと、心から思った。 その二人の様子を微笑ましげに見ていたヴォルツが、笑顔を浮かべて言った。 「ま、そう言う訳だ。元々休みだったお前にこんな事を言うのはなんだが、これは俺と彼女のからのクリスマスプレゼントだ。有難く 受け取ってくれや。」 「司令……。」 二人の心遣いに、スバルは胸が熱くなった。 「さ、お行きなさい、スバル。皆が待ってるわよ。それに……。」 そこまで言うと、にっこりと笑って彼女は言った。 「……早く行かないと、スクライア司書長を取られちゃうわよ?」 「──────ッ!?」 いきなりそんな事を言われたスバルは、耳まで真っ赤になった。 更に追討ちをかけるように、ヴォルツも言った。 「そうだぜナカジマ! 相手がエースオブエースだろうが、元仲間達だろうが関係ねぇ! 湾岸警備隊特別救助隊魂を見せてやれ!」 「司令まで……もう……!」 羞恥心で肩を振るわせていたスバルであったが、やがて吹っ切れたように顔を上げ、びっと敬礼をすると言った。 「……分かりました! 湾岸警備隊特別救助隊防災士長スバル・ナカジマ、湾岸警備隊特別救助隊魂を胸に、パーティーに行ってきます!!」 「おう! 頑張ってこい!」 「しっかりね。スクライア司書長はきっと難敵だけど、貴女ならきっと射止められるわ。」 二人に激励されたスバルは、転送ポートへと駆け出していった。 「やあスバル、待っていたよ。」 「え? 先生!?」 指揮所を飛び出したスバルを待っていたのはユーノであった。スバルは小走りにユーノの所へ駆け寄ると言った。 「先生、どうしてここに? それに皆は?」 「皆は僕が一足先に転送したよ。僕は、君がこれからパーティーに参加するってヴォルツ司令から聞かされてね。君をすぐに海鳴に送れる よう、待っていたのさ。」 「そうだったんですか……。」 スバルにそう答えながら、ユーノはヴォルツ司令に言われた事を思い返していた。 (それにしても、『ナカジマをよろしくお願いします。』ってヴォルツ司令も大袈裟だなぁ……。ちゃんと海鳴まで送ってあげるのに……。 いや、それだけ彼女が大切なんだろうな。僕もちゃんとエスコートしてあげないと……。) とても聡明なのに、恋愛方面に関しては全くと言っていいほど疎く鈍いユーノは、ヴォルツ司令が言った事の真意を今一つ理解していなかった。 それでも。 (まぁ、僕もスバルと久しぶりに一緒にいられるのは嬉しいかな……。今夜は楽しいクリスマスパーティーになりそうだ……。) スバルの想いは、少しずつユーノに届いているのかもしれなかった。 その証拠に……。 「さ、行きましょうか、先生!」 と、スバルが腕を組んできても。 「ああ、そうだね。それじゃあ行こうか、スバル。」 と、ユーノはそれを自然に受け入れたのだから。 腕を組んで寄り添う二人は、正しく恋人達のようであった。 この後、パーティー会場である月村家に着いてから制服姿だった事に気付いたスバルが涙目になったり、こんな事もあろうかと用意されて いたドレスで見事にドレスアップされたスバルにユーノが見蕩れたり、その事に若干の不満を覚えた女性陣にユーノが怒られたり、ドレス を着て気合が入ったスバルが積極的にアプローチをし、それに対抗して他の女性陣もアプローチを開始したり、それをクロノを始めとした 男性陣にからかわれたり、最終的には皆心からパーティーを楽しんだのだが、それはまた別のお話。 142スレ SS スバル スバル・ナカジマ ユーノxスバル ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1064.html
琥珀色の黄金水に白い泡。 つまりはビールなのだが、ビールの入ったグラスを高らかに掲げるとやたらと陽気な声。 「乾杯!!」 言うや否や一気に呷る。 続いて二杯目のビールを溢れんばかりにグラスに注ぎながら我らが兄貴、ヴァイスはご機嫌であった。 どれくらいご機嫌なわけかというと、「歌でも歌い出したい気分だ、んんっふ~ん♪」 まぁこんな感じ。 ウサギもかくもやという瞳をジトッと半目にしながらシンはご機嫌な兄貴を冷たく見つめていた。 「いや~たまには男だけで飲むってのもいいやねぇ~」 「あのヴァイスさん…」 意を決したのか、そろりと声をかけるが、ヴァイスは何処吹く風といった感じだ。 「おう、シン遠慮せずぐいぐい行けよ。奢りだ」 「いや、だからヴァイスさん……」 尚も言い募ろうというシンを他所に、ヴァイスはおつまみを物色しつつ早くも二杯目を空ける。 「お、何だよチータラが無いじゃんよ~カマンベールチーズしか無いって」 「オッサン!!」 おつまみのチョイスに文句を言い始めたヴァイスにシンがキレた。 「オッサンじゃな~い!!何だよシン。飲め飲め!!」 「飲めじゃねぇよ……俺未成年だっつーの」 「細かい奴だな~」 「細かくない!!百歩譲って俺は良いとしてもエリオまで呼ぶとはどういう了見だよ」 視線をヴァイスが移してみれば、手元のグラスを困ったように見つめる赤毛の少年の姿がある。 「ビールは苦手か?ワインにするか?」 「だからそういう問題じゃねぇ!!」 「何だよ……」 「飲み会をするのは勝手だけどさ、何で俺とエリオが入ってるんだよ」 飲み会のメンバーを見ればシンの疑問も最もであった。 エリオとシン、そして普段は中々接する機会の無い無限書庫の司書、ユーノの姿があった。 ユーノはただただ苦笑してグラスをちびりちびりと舐めるようにしている。 「飲むんなら普通に同僚とかで良いだろ?」 憮然としたシンに対して、ヴァイスはチッチッチと人差し指を振る。 その指をへし折ってやろうかこの野郎、そうシンが静かなる殺気を高めると、三杯目を空けたヴァイスがにやりといやらしい笑みを浮かべる。 そしてエリオをビシリと指差す。 指されたエリオはキョトンとしている。 「素直系ショタっ子!」 「は?」 何を言っているのかわからないという顔のシンを他所に、ヴァイスは次いでユーノを指差す。 「中性的美形!!」 「は?」 そして、最後にシンを指差す。 「ツンデレ美少年!!!」 「は?」 ヴァイスは立ち上がると、酒瓶を手に堂々とした様子で叫ぶ。 「どうせ飲むなら、お兄さん綺麗どころと飲みたい!!」 「死ね!!」 間髪いれずに叫ぶシン。 叫ばれたのはある意味とても真理であった。 しかし、悲しいかな、シンには理解出来なかった。 「見ろ!!この隙の無いメンツ!!合コンしたってここまでのクォリティーは期待出来まい」 「アンタの頭の中は隙だらけだな……」 ヴァイスの手には名酒『美少年』。 その酒瓶で頭をかち割ってやろうかとシンは思った。 きっとからんと良い音を立てるであろう。 ユーノは苦笑しつつワインを口にしている。 同じ男かと、シンは自分を棚に挙げながら内心呟く。 エリオは観念したようにぺろぺろと子犬の如く酒に手を出す。 頭痛を覚えながらヴァイスをもう一度見つめると、兄貴は元気にサムズアップ。 「何ご満悦って顔してるんですか……」 「バッカ、オメェ汗臭い野郎共と飲まず、かといって後腐れのある女でもなく、それでいて目の保養になってるんだ。もうサムズアップしかねぇだろ」 「散々人を合コンに誘ってるのって誰でしたっけ…?」 「色々後が面倒なんだよ!!具体的に言えばブッキングしてだなぁ…」 「もう良いです」 「事の最中に『来ちゃった♪』なんつーてもう…」 「もう良いっつてんだろうがよ!!」 「『来ちゃった♪』ならまだ良いけどよ、『来ないの♪』とか言われた日にゃあ、お前…」 「最低だ……性病移されて真実の愛とかお寒い事を言いながら肉欲に溺れつつ不治の病とかそれ何てケータイ小説?みたいな感じで死んでしまえ」 「ワンブレスで言い切った!!ツンデレだなぁ少年~~で、シンちゃんはいつ頃お兄さんにデレてくれるのかにゃ?」 「未来永劫ありません……つかデレって何ですか!」 「まぁまぁ、シン君」 シャム猫の如くツンケンしているシンと、それを楽しそうに受け止めるヴァイスの二人に待ったを掛けたのは第三者のように傍観していたユーノであった。 「ユーノ先生……」 「折角男だけでこうして騒ぐ機会をヴァイスが設けてくれたんだから、お言葉に甘えようよ」 「先生まで……」 「さっすがユーノ。わかってる♪伊達にスキンケアは怠ってないなぁ」 「オッサンは黙ってろ!!」 「酷い!!シンちゃん酷い!!パパそんな子に育てた覚えは無いぞ!!」 「既に出来てるのかよ!!酔っ払い!!!」 苦笑するユーノの前で、シンとヴァイスのじゃれ合いが再開された。 ◇ 「う~~……もう無理ですぅ~」 シンはゆっくりとした動きで赤い髪を撫でる。 チクチクとした手触りが自分の髪質とは異なり、それが面白くて撫でる手を休めない。 シンに撫でられているのは早々に酔いつぶれたエリオ。 顔を赤くし、自身の膝枕で潰れてしまっているエリオを眺めながら、シンは疲れた視線を向こう側で転がっているモノに向けた。 「ごぁぁ~~んごぉ~~」 空いた酒瓶を抱えながら、高鼾をかいて眠っているヴァイスを見ると、シンは深々と溜息を吐く。 ユーノはそれを見てクスクスと笑う。 憮然としたシンの視線を受けても、尚、楽しげにユーノは微笑む。 「ヴァイスさん……飲むだけ飲んで潰れちゃったよ……ったく……」 「はははは……でも少しは気が晴れたんじゃない?」 「え?」 思いも寄らぬ言葉に、シンはギョッとさせる。 ユーノは微笑みを絶やさずに、何杯目かになるワインを空ける。 その目元は微かに赤い。 「何か物思いに君は耽る事が多いみたいだね。今も」 「そんな事……」 「シン君。ここにはなのはもフェイトも、誰もいないよ?」 不意に向けられた真っ直ぐな視線に、シンは言葉に一瞬詰まる。 幾ばくかの逡巡の後、観念したようにシンは視線を膝の上のエリオに向けながらぽつりと零す。 「正直……こうやって楽しく騒いでると……不安になる事があるんです……」 「不安?」 「俺はここにいても良いんでしょうか?」 その声に、縋るような色が押し止められている事に、ユーノはシンという少年の強さを感じた。 けれども、見え隠れする程に弱っている、それもまた事実だと思いながら、シンの言葉の続きを待つ。 「俺は他所の世界から来た異邦人で………そんな俺がここに居続けて、皆と仲良くなって……」 「場違いだって……思うのかい?」 こくりとシンは頷く。 紅の瞳が寂しげに揺らめく。 喉を潤すように、ユーノは残り僅かなワインを流し込む。 「君は……昔のフェイトみたいな目をしてるね」 「……隊長ですか……?」 「うん。ここに居ても本当にいいのか、常に自問自答しているみたいな……そういう目をするね」 「でも……俺は隊長と違います……」 「さっき言ってた異邦人っていう話かい?」 「…………俺は他所の世界から来た……ホントの余所者だ……それが皆と深く関わっても……」 「なのははね」 「え?」 「なのはは魔法なんて関わりの無い子だったんだ……僕がミッドチルダからやって来るまでは。 僕もなのはにとっては異邦人だよ。フェイトにとっては自分の世界を壊してくれたなのはは異邦人以外の何者でもない。 みんなそれぞれがそれぞれにとっては異邦人なんだ」 「それは……それは屁理屈ですよ……」 「いいんじゃないかな、屁理屈で」 「いいって……そんな……」 「誰も幸せにしないような理屈なんていらないと思うよ。少なくとも、君は幸せじゃないみたいだ」 「幸せ……わかりません……」 「じゃあ、聞くけど、なのは達……スバルやティアナが悲しい顔をしているのを見てシン君は幸せなのかな?」 その言葉に弾かれたようにシンは顔を上げると、勢い良く首を振る。 正直なその反応に、ユーノは笑みを浮かべる。 真っ直ぐな紅の瞳は一見苛烈なようで、その実優しい。 それが伝わってきただけで、ユーノはシンを好ましいと思った。 「じゃあ、やっぱり誰も幸せにしてくれない理屈だ。僕が見た限り、君が落ち込んでて幸せになるような人は六課にはいない」 「そう……なんでしょうか…?」 「そんなんです」 きっぱりと言い放たれた言葉に、シンは呆気に取られる。 ユーノはワインを空いたグラスに注ぐと、一口、ゆっくりと含む。 「じゃあ、屁理屈でも皆が幸せになれる方が良いよ。皆が皆異邦人なんだ。君だけじゃない。君は一人じゃない。それに………」 「う~ん……むにゃ……シンさん…ハメ技は酷いですよ~~」 シンの膝に頭を乗せたエリオが寝言を呟く。 エリオの寝言は、シンとユーノの間に生まれた沈黙にするりと入り込んだ。 ぷっ、とユーノが噴き出す。 戯れに、赤いエリオの髪を撫でると、ユーノはエリオに向けていた視線をシンに移す。 「少なくとも、この場に居る三人は君に居て欲しいって思ってるよ」 その言葉に、シンはただただ無言でゆるりと膝の上のエリオの横顔に視線を移した。 穏やかなその寝顔に、自然と笑みが零れる。 「ありがとう……ございます……」 ◇ ユーノは毛布を持ってくると、兄弟犬のように身を寄せ合って眠っているシンとエリオに優しくかけてやる。 その穏やかな寝顔に、つられて笑みが零れる。 「もう狸寝入りは良いよ、ヴァイス」 そうっと、シン達を起してしまわぬように囁かれた声に反応して、むくりと起き上がる人影。 ヴァイスは、苦笑を零すと、プルタブを開けていない缶ビールを手繰り寄せると、勢い良く流し込む。 「バレバレか?」 「大丈夫、シンは気付いてないよ」 二人が穏やかに寝入ってしまっているのを確認すると、ヴァイスはユーノの隣りに腰掛ける。 ヴァイスは黙ってユーノのグラスにビールを注ぐ。 「やっぱりユーノ先生に任せて良かったぜ」 「普段からおちょくるのを止めればいいのに……そうすればこんな役人任せにしなくても良かったんじゃないの?」 ヴァイスは首を振ると、普段は中々触れないシンの猫の毛のような髪を撫でる。 その感触が気持ち良く、何度も撫でるヴァイスの瞳は穏やかで柔らかい。 其処には、バカなことを言ってシンに冷たい目で見られていた姿は無い。 「いんや、やっぱりユーノが適任だったぜ」 「面倒見が良いんだね」 「そんな事は無いけどよ、まぁただこのツンデレボーヤが随分と思いつめてたみたいだからな」 「僕にはアレだけ六課の子達に好かれていて自分がここに居ていいのか不安に思えるこの子が少し不思議だけどね」 「コイツはまぁ、ガキのクセに随分と無くしちまったモノがあるみたいだからな。誰かがハッキリ居ても良いって言ってやらなきゃ信じられないんだろ……」 「………そっか……それは好きとは少し違うから……そうなのかもね………」 シンの鴉の濡れ羽色の髪を指先に絡めながらヴァイスはビールをあおる。 「しかしまぁ………ティアナ達もまだまだだねぇ」 「何がさ?」 「惚れた男の不安一つ摘み取ってやれねぇようじゃあ、まだまだ女の経験値足らねぇな」 「ふふふふ、仕方ないよ。彼女達も彼女達で大変なんだよ」 「ま、まだまだお嬢ちゃん達には可愛い弟達はやれないな」 「そうだね」 二人は顔を見合わせると小さく笑う。 シンは普段の険が取れた穏やかな子供のような寝顔をしていた。 ツンつん×デレでれ 13話へ進む 一覧へ
https://w.atwiki.jp/damnedfish/pages/193.html
マツダ ユーノスロードスター 型式(エンジン形式) 93~’97 E-NA8C(BP-ZE[RS]) 89~’92 E-NA6CE(B6-ZE[RS])
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3560.html
「高町なのは」 エース・オブ・エースの異名と共に、ミッドチルダにおいてその名を知らぬ者は多分いないであろう。 しかし、そんな彼女の存在がとんでもない脅威を招き寄せてしまうのである! その日、ミッドチルダの人々は特に何の変哲も無い日常を送っていたが、異変はそこから遠く離れた 時空管理局の本局内無限書庫の中から起こった。 「いきなり出て来るなり僕をこんなにして…お前は一体何者だ! 何が目的なんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ…………。』 無限書庫中の一角、無限書庫司書長ユーノ=スクライアは何者かにロープで縛られていた。 そしてユーノの目の前に立って不気味に笑っているのは、ただの人間では無かった。 頭部はまるでセミを思わせ、腕はまるでザリガニの様なハサミ状になっていたのである。 これはもはや誰がどう見てもあきらかに「人間」では無い。 『何も取って喰おうなんて野蛮な事はしない。私はバルタン星人。』 「バルタン星人!?」 ユーノの問いに対して、彼はそう答えた。「バルタン星人」 この世に存在する「人類」がホモ・サピエンス型のみでは無い事は知られている事だが その非ホモ・サピエンス型人類の中の一つに「星人」と呼ばれる分類が存在し、 さらにその数多の星人の中の一つの人種が彼、宇宙忍者の異名を持つバルタン星人なのである。 「うわ…星人なんて初めて見たよ…。管理局にも様々な世界から人が集まって来るわりには 大人の事情でホモ・サピエンス型人類な局員しかいないからな~。って感心してる場合じゃない! バルタン星人とやら! 僕を一体どうするつもりなんだ!?」 『だから先程言ったでは無いか。何も取って喰おうなんて野蛮な事はしないと。 だだ私はある目的の為に君の姿と声を借りたいのだ。』 「ある目的!? それは一体何なんだ!?」 『フォッフォッフォッフォッ! 心配する必要は無い。』 「答えになって無いよ!」 丁寧に説明してくれるわりには肝心な事は教えてくれなかったバルタン星人は次の瞬間自分の腕を軽く振るう。 するとどうであろうか。バルタン星人がユーノと同じ姿へと変身したのである。 「どうかな? 上手く化けられたかな?」 「うわ! 声まで一緒…気持ち悪い…。」 バルタン星人の変身したユーノは本物のユーノが見ても驚く程姿も声も寸分違ってはいなかった。 ミッド式魔法にも変身魔法は存在するが、それを踏まえてもバルタン星人の変身は異常な物があった。 ミッドチルダにおいて変身魔法で特定の誰かに成りすます事は犯罪とされる。無論それを防ぐ為の 魔法等も確立されているのだが、バルタンの変身はミッド式魔法による変身魔法とは全く異なる物であり、 ミッドチルダにおける対変身魔法では察知する事すら出来ない。バルタン星人が変身する様を眼前で見た ユーノただ一人を除いては……… 「ぼ…僕に化けて一体何をするつもりなんだ!?」 「大丈夫だよ。何も君に成りすまして悪さをして、全ての罪を君に着せるなんて事はしないから。」 「嘘付け! どう考えてもそれやるに決まってるじゃないか!」 ユーノは必死にもがくが、ロープで縛られている為に身動きが取れない。 そしてユーノに変身したバルタン星人は悠々と無限書庫から去って行った。 ユーノに変身したバルタン星人。彼の狙いは果たして一体何なのであろうか? それから一時した後、ヴィヴィオは無限書庫へ行く為に本局行きの定期船へ向かっていた。 そんな中、彼女はとある光景をふと目にした。 「あ!」 ヴィヴィオが見た物とは、なのはがユーノと並んで歩いていた光景であった。 とは言え、それはヴィヴィオがいる場所から距離が離れていての事であったし、 二人が一緒に歩くという光景は別に不自然な物では無く、何よりヴィヴィオは 無限書庫に行く為に本局行きの定期船に乗らねばならない。 だからヴィヴィオは特に構う事は無くその場を去るのであった。 そうしてヴィヴィオが無限書庫に辿り着いて間も無くの事だった。 「あれ~~~~~~~~~!?」 その様なヴィヴィオの間の抜けた声が無限書庫中に響き渡った。何故ならば………… 「ユーノくんそんな所でどうして縛りプレイしてるの!?」 「違う! 縛りプレイじゃなくて本当に縛られてるんだよ!」 そこにはロープで縛られ身動きが取れなくなったユーノの姿があったのだから、ヴィヴィオにとって驚きである。 つい先程ユーノがなのはと共に歩いていた所を目の当たりにしていただけに、ヴィヴィオはどういう事なのか さっぱり意味が分からなかった。 「ユーノくんどうしてこんな所にいるの? なのはママとお出かけしてたんじゃなかったの!?」 「違う! それは僕じゃない! 僕に化けた偽者の仕業なんだよ!」 「ええ~~~~~~~~~~!?」 「とにかく僕の偽物がなのはと一緒にいたって事はなのはが危ない! 一体アイツの狙いは何なんだ!?」 ユーノに真実を知らされ、ヴィヴィオは真剣に驚いた。これはもはや悠長な事はしていられない。 ユーノとヴィヴィオは共に無限書庫を飛び出し、なのはと偽ユーノを探す為にミッド地上へ向かうのであった。 一方、バルタンの変身した偽ユーノは何食わぬ顔でなのはと共に街を歩いていた。 無論、誰もそのユーノがバルタンの変身した偽物であるとは気付いていない。 前述の通り、ミッド式の変身魔法とは根本から異なるバルタン忍法による変身は ミッド及び管理世界内で使用される対変身魔法対策では察知する事すら出来ないのである。 「ねえユーノ君、私に大切な話があるって何かな?」 「うん。それはね…。」 姿のみならず声さえも完全にユーノに成りすますバルタンにはなのはも気付かず、 しかし突然大切な話があるからとこんな所に呼び出したその行動に違和感を感じながら 問い掛けていたのであったが、その時だった。 「そこまでだ!」 「え!? ユーノ君がもう一人…?」 そこへ現れたのは本物のユーノ。しかしそれを見たなのはは二人のユーノに双方を見渡し困惑する。 「ソイツから離れるんだ! ソイツは僕の偽物だ!」 「え!? え!? 偽物…!? でも変身魔法の反応は感じられないよ?」 流石のなのはも双方の判別が出来ず、双方をそれぞれに見渡し続けてはあたふたしていたが、 そこへ遅れてヴィヴィオも到着していた。 「こっちのユーノくんが本物だと思うよ。だってこっちのユーノくんは無限書庫でロープで縛られてたんだよ。 きっとなのはママと一緒に入る偽物のユーノくんに縛られたんだよ。その偽物のユーノくんはユーノくんに 成りすまして悪い事するに決まってるよ~。」 「ヴィヴィオまで…。と言う事は………。」 ヴィヴィオにもそう言われ、なのはは恐る恐る自分と一緒にいる方のユーノに目を向けてみるが、 その直後だった。なのはと一緒にいる方のユーノが笑い始めたのである。 『ハッハッハッハッハッハッハッ! こんなに早く脱出して来るとは思わなかった! もう少しきつく縛っておくべきだったかな!?』 「え!?」 その時の声はユーノのそれでは無かった。そしてなのはと一緒にいる方のユーノの姿が 三人の目の前で変わって行き、バルタン星人としての正体を現したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「キャァァァァ!! 何これぇぇ!!」 『おっと逃がさんよ。』 自分がユーノと思っていた人間が突然セミ顔でザリガニ腕な星人の姿になってしまい、なのはも 思わず悲鳴を上げていたが、バルタン星人はなのはを逃がさず両腕のハサミでガッチリと捕らえていた。 「なのはを離せ! 一体なのはをどうするつもりなんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッ! 高町なのははこれよりバルタン星人の物になるのだ!』 「何だって!?」 『見よ!』 バルタン星人が片腕を上空へ向ける。するとどうであろうか。クラナガン上空に漂っていた巨大な雲の中から 葉巻型の巨大な戦艦が現れたのである。 『バルタンの星から来たUFOの母船だ。あの中に高町なのはを吸い込ませてバルタン星に連れて帰る。』 「それで一体どうするつもりなんだ!?」 『我々優秀なバルタン星人の動物園に入れるのだ。下等動物として動物園にな! フォッフォッフォッフォッ!』 何と言う恐ろしい計画であろうか。バルタン星人の目的はなのはを捕らえて自星の動物園に入れる事だったのである。 ユーノに変身したのも、ユーノに成りすませば一切警戒されずになのはに近付く事が出来ると見ての事なのだろう。 そしてなのはとバルタン星人に対し、バルタンの葉巻型戦艦からビームが放射される。 ビームと言ってもそれに殺傷力は無く、俗にトラクタービームと呼ばれる物なのか 二人はバルタンの葉巻型戦艦へ向けて吸い込まれて行く。 「なのはー!」 「ユーノくーん!」 このままではなのははバルタン星へ連れ去られて動物園に入れられてしまう。 なのはは必死でもがくが、バルタン星人の力は強く離さない。 『無駄な抵抗はよせ! 往生際が悪いぞ!』 バルタンはなのはを抑えようとするが、なのはは抵抗を止めない。なにしろバルタン星に 連れて行かれたらなのはは動物園に入れられてしまうのだから、なのはも必死である。 人として最大限の努力をしなければならない。そしてバルタンの腕が緩んだ一瞬の隙を突いて脱出。 レイジングハートで魔法少女に変身した。マッハ5のスピードで空を飛び、強力な魔力であらゆる敵を 粉砕する不死身の女となったのだ。それ行け! 我等がヒロイン! って第一作目ウルトラマン第一話を見てなきゃ 全然意味が理解出来ないフレーズだなこれは。 バルタン星人及びバルタン葉巻型戦艦のトラクタービームから脱出したなのはは空を切ってその場から離れて行く。 しかしバルタン星人も空を飛んでなのはの後を追い駆ける。 「近付かないで! 気持ち悪い!」 なのははバルタン星人目掛けてシューターを連発して行くが、バルタン星人もそれを掻い潜って行く。 一方、バルタン星人の襲来によって時空管理局ミッド地上本部は大騒ぎであった。 特にバルタンの葉巻型戦艦は依然クラナガン上空を我が物顔で浮遊(もち無許可で)しており、 管理局もこの対処に追われていたが、本局ならともかく貧乏な地上本部にまともな戦艦の類があるワケが無く もうこの状況どうすりゃええんだよ~って事になっていたが、なんとか彼方此方探し回った挙句 既に廃艦が決まっていたにも関わらず、廃艦解体作業もタダじゃねーんだぞと言わんばかりに予算の都合で 依然そのままの状態で残っていたアースラに急遽武装や燃料を積み込んで出撃すると言う事態になっていた。 なのはのシューターを巧みに掻い潜るバルタン星人になのはは徐々に追い詰められつつあった。 バルタン星人は空を飛べるのみならず、バルタンの同属の中にはかつてM78星人のスペシウム使いの一族とも 互角以上の空中戦を演じた者がいる程その速度も凄まじい。流石のなのはも苦戦は必至と言わざる得なかったが… 「なのはー! 助けに来たよー!」 「フェイトちゃん!」 そこへ何処からかなのはのピンチを小耳に挟んだのか、フェイトが飛んで来た。 そしてバルディッシュのザンバーモードでバルタン星人へ飛びかかったのである。 「なのはに手を出す奴は私が許さないぃぃぃ!!」 次の瞬間バルディッシュザンバーの一閃がバルタン星人の身体を真っ二つに両断した……が……… 何と言う事だろう。そのバルタンの真っ二つになったそれぞれが二人のバルタン星人に変化したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 「ええ!?」 二人のバルタン星人の不気味な笑い声がハモり、フェイトも思わず困惑してしまうが、 二人のバルタン星人の両腕のハサミがフェイトに対して開かれ、そこから破壊光弾 通称バルタンファイヤーが撃ち込まれ、その直撃を受けたフェイトは何処へ吹っ飛ばされてしまった。 「あ~れ~!」 「フェイトちゃ~ん!」 恐ろしい。何と恐ろしいバルタン星人であろうか。宇宙忍者の異名は伊達では無いと言う事なのか。 一方その頃地上ではユーノとヴィヴィオの二人に加え、この騒ぎを聞き付けて殺到して来た大勢の モブ局員に対してバルタン葉巻型戦艦の猛爆撃が行われていたりする。なのは本人は動物園に 入れる事が目的である為に生け捕りにするのだろうが、他の者達はお構いなしと言う事であろうか。 無論管理世界における質量兵器禁止もバルタンには関係の無い事なので、バルタン葉巻型戦艦の 破壊光弾が次々にクラナガンの地表へ撃ち込まれもう阿鼻叫喚。 そこへやっと遅れて来たアースラが到着。バルタン葉巻型戦艦へ向けて魔力砲を果敢に発射し、 クラナガン上空を舞台に壮絶な空中戦が始まっていた。 その頃、なのははシューター攻撃を止め、二人から一人に戻ったバルタン星人に対して レイジングハートの先端を向けていた。 「全力全開! ディバイィィンバスタァァァァ!!」 なのはの代名詞と言われるディバインバスター。これならば例え直撃は無くとも射線にいるだけで それ相応のダメージを与える事が出来る…が…次の瞬間である。ディバインバスターがバルタン星人を 飲み込むと思われたその時、バルタン星人の胸部が開き、そこから現れた鏡上の物体が そのディバインバスターを180度反射させてしまったのである。 「え!? キャァァァァァァ!!」 自分のディバインバスターが180度跳ね返って来てなのはも思わず悲鳴を上げずにいられなかった。 そう。これもバルタン星人の持つ能力の一つであるスペルゲン反射鏡。胸部に仕込まれた強力なミラーで 全ての光学兵器を弾き返してしまうのである。人類にとって放射線や紫外線が有害である様に、 スペシウムなる物質を有害としているバルタン星人が、スペシウムの力を持つM78星雲の戦士に対抗する為に 自身を進化させたのが始まりであり、その威力はM78星雲の戦士の放つ光線のみならず、あらゆる光学兵器に 対して有効である。無論ディバインバスターも光を発している以上光学兵器には変わり無い為、 スペルゲン反射鏡の前には反射されてしまうのも仕方の無い事だった。 「え!? そ…そんな!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 ディバインバスターが180度そのまま反射される。なのはにとってそれは衝撃的な事だった。 しかしバルタン星人はそんな事等構うはずも無くなのはへ向けて迫って来るのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「悔しいけど空中戦では不利なのかもしれない…。」 なのはは確かに優れた空戦魔導師であるが、元々陸上生物たる人が魔力によって不自然に飛行している形に過ぎない。 だがそれに対しバルタン星人は種として当たり前に持っている力として飛行可能な星人である。 それを考えれば空中戦に関してなのはと言えどもバルタン星人に劣っていると言わざるを得ず、 なのはは陸に降りて地上戦に切り替えるのだった。 「あの両腕の大きなハサミで殴られたら一溜まりも無いけど…代わりに重くて格闘戦時の動きも鈍くなるはず…。」 陸に降りたなのはは後を追って陸に降りたバルタン星人に対しあえて格闘戦を挑んだ。 バルタン星人の両腕の大きなハサミは格闘戦時に強力なハンマーとして機能し得る反面 その分重量もあって素早くかつ器用に振り回す事は出来ないであろうと考えたのである。 故にバルタン星人のハサミ攻撃を回避しつつレイジングハートでバルタン星人を一突きにする作戦であった。 「やぁぁぁ!!」 レイジングハートを構え、なのはは正面からバルタン星人目掛け突っ込んだ。 そしてレイジングハートの鋭い先端部分がバルタン星人の胴体部へ突き立てられる……と思われたその時、 バルタン星人がフッとその場から掻き消えたでは無いか! 「え!? 消えた!?」 突如として姿を消したバルタン星人に戸惑うなのはであったが、さらにその直後 何と背後にバルタン星人が現れて右腕のハサミで突き飛ばされてしまった。 バリアジャケットの保護があれど、これは痛い。 「え!? 何時の間に後に!? ならば今度こそ!」 バルタンに殴られて痛いのを我慢して素早く体勢を立て直したなのはは再びバルタンへ突きかかる…が、 やはりバルタンはなのはの眼前からフッと掻き消え、今度は側面からハサミで突き飛ばされてしまった。 これも例によって痛い。 「えぇ!? そんな! 何でぇ!?」 なのははその後も何度も何度もバルタンへ突っ込むが、その都度バルタンは掻き消え、 さらにその直後になのはの意識しない方向から反撃を受けると言う事を繰り返す羽目になっていた。 そう。これこそバルタン星人が宇宙忍者と呼ばれる所以の一つ。物や人を遠くへ転送する魔法は ミッドチルダにも存在するが、それも詠唱等の準備が必要となる。しかし、バルタン星人は 特に意識する事無く呼吸をする様に楽々と瞬間移動を可能としているのだ。その威力は M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士さえ翻弄してしまえる程。しかもこれもやはり バルタン星人が種族として当たり前に持っている力なのだから恐ろしい事この上無い。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「あーもー! ズルイズルイ!」 人間の基準からは余りにもトリッキー過ぎるバルタン星人の行動になのはも悔しさを感じずを得なかった。 M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士ならば透視能力でバルタン星人の動きも捉える事は可能であろうが、 残念ながらなのはにそんな力は無い。しかしなのはにはまだ最後の武器が残っていた。 「えぇい突撃!」 再びバルタン星人へ突撃するなのは。無論その手はバルタン星人に瞬間移動回避をされるのがオチである。 しかし……………… 「と見せかけてバインドォォ!!」 なのははバルタン星人へ突っ込むと見せかけてバインドをし掛けた。なのはが馬鹿の一つ覚えの様に バルタン星人へ突撃を繰り返していたのは全てこの為であった。なのはが突撃を繰り返せば、バルタン星人も 条件反射的に同じ行動を取る様になる。そこでなのはが全く違う行動を取ればバルタン星人も、 最低一瞬は隙が出来るはず。そこを狙いなのははバルタン星人へバインドをし掛けたのである。 両腕両脚のみならず、胸部スペルゲン反射鏡を仕込んだ部分をバインドで抑えられ動けなくなった バルタン星人に対し、なのはは距離を取った。 「これならば…これならばどう!? 今度の今度こそ正真正銘の私の全力全開! スターライト! ブレイカァァァァァァァァァァァ!!」 出た。なのはが周囲の魔力を集め放つスターライトブレイカー。ディバインバスターと並ぶ 彼女の代名詞とさえ言われる強力な魔力砲である。ディバインバスターをも凌ぐ太さと出力の 極太魔力砲がバルタンへ向け、射線上のあらゆる物を巻き込みながら突き進んで行く。 そしてバルタン星人はバインドから逃れる事もスペルゲン反射鏡で弾き返す事も出来ず、 ついにその魔力光に飲み込まれてしまった。 「ふぅ………幾ら相手が星人だからと言っても…やっぱり命を奪うのは忍びないかな…。」 スターライトブレイカーの魔力爆発が晴れ、そこに残された真っ黒焦げの焼死体となった バルタン星人に対しなのははそう呟いていたが…その時だった。何とその焼死体と思われた バルタン星人の中からまるで虫が脱皮をする様に無傷のバルタン星人が出て来たのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「えぇ!? そ…そんな……。」 バルタン星人はここまでの力を持つと言うのか? 自分の持つ全ての能力が通じないバルタン星人の 脅威的な力になのはも絶望せざる得なかった。バルタン星人がなのはを下等動物として動物園に 入れよう等考えるのも、これだけの差を見せ付けられればそれも仕方の無い事なのかもしれないと 彼女でも考えてしまう。そしてバルタン星人は絶望しその場に立ち尽くすなのはへ歩み寄って行く。 しかし、絶望的なのはそれだけでは無かった。クラナガン上空でバルタン葉巻型戦艦と撃ち合っていた アースラもまた背後に回りこまれた上で滅多打ちにされ、煙を噴き上げて失速ていたのだった。 「推進部、動力部ともにもうどうにもなりません!」 「総員退艦! あ~も~! あれもこれもまともな艦をよこしてくれない本局が悪いんだ!」 幾らアースラが廃艦が決まった旧式艦であるとは言えこの絶望感は異常。恐るべきはバルタンの科学力。 とは言え、アースラにはリンディ・クロノ・エイミィ等、アースラと言えばこいつ等的なお馴染みのメンバーはおらず、 クルーも艦長も急遽揃えられたモブの集まりであったのだから、むしろここまで戦えた事を褒めるべきか。 アースラも工場で廃艦解体されるよりかは戦いの中で轟沈した方が本望であろう。 「あ…アースラが…。」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 アースラが炎を吹き上げ沈んで行く中、バルタン星人の不気味な笑い声が響き渡る。 そして絶望の余りその場から動けぬなのはに対しバルタン星人は一歩一歩近寄って行くのである。 『バルタン星の動物園が待ってるぞ~。』 「あ…ああ……。」 なのははこのままバルタン星の動物園に下等動物として入れられてしまうのだろうか? が、その時だった。突然バルタン星人に背後から飛んで来たと思われるチェーンバインドが巻き付いたのだ。 「あのチェーンバインドの色はユー………あっ!」 チェーンバインドの色から考えるに、ユーノの物であるとなのはは悟っていたのだが、その後が違っていた。 確かにチェーンバインドそのものはユーノの物だ。しかし何と言う事であろうか。ユーノのそのチェーンバインドを ヴィヴィオやら先程バルタン星人に吹っ飛ばされたはずのフェイトやらその他モブ局員やらが大勢集まって 掴んで引張っていたのである。 「そ~れ! そ~れ!」 とか何か声を上げながら皆で一斉にバルタン星人を引張り、なのはから引き離して行く。 しかし、ただ闇雲に引張って行くだけでは無かった。 「それ! 今だぁ!」 「それぇぇぇぇぇ!!」 皆で息を合わせ、一斉にバルタン星人を引き飛ばした。バルタン星人が引き飛ばされた先にはバルタン葉巻型戦艦。 そしてバルタン星人は勢い良くバルタン葉巻型戦艦に衝突し、忽ち空中で大爆発を起こし四散してしまった。 「あ……………。」 あれだけのチート振りを誇ったはずのバルタン星人の余りにもあっけない最後になのはも 開いた口が塞がらなかったのだが、それをフォローするかの様にユーノが言った。 「だって考えても見てよ。バルタン星人を倒せるのはバルタン星人の作った兵器しか無いんじゃない?」 「な…なるほど~~~~~~~~!!」 確かに言われて見ればその通りである。様々なチート的超能力を種として持っているバルタン星人を 倒せるのは、そのバルタン星人がチート的科学力で作ったチート的兵器しか無い。 こうしてなのはをバルタン星の動物園に入れると言うバルタン星人の野望は潰えた。 しかし、バルタン星人は数多ある星人の中でも特に限りなきチャレンジ魂を持っている種族である。 もしかしたら何かの拍子に付けてヴィヴィオ・リオ・コロナ等の子供達を喧嘩させ、 その子供同士の喧嘩から家庭間の喧嘩に発展させ、そこからさらに喧嘩の規模を連鎖的に 発展させる事で全人類を巻き込む大戦争にまで発展させて行く~なんて気の長い 計画を進める様なバルタン星人も…現れるのかもしれない。 END
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/213.html
6課襲撃時にユーノがいたら eAse5psi ユーノTUEEEEEEEEEE設定だから苦手な人は下にスクロールしてくれ ―――舞い上がる火の粉、崩れ落ちる瓦礫、倒れる二人の騎士、その上空には不気味に 飛び回るガジェットの群と破壊された隊舎を見下ろす二人の戦闘機人。 正義の象徴でたる隊舎はかつての姿を失い、天を染める炎を立ち上らせていた。 彼女達の任務は、地上本部警備のためにエースを失った機動6課の制圧 …そして聖王の器の奪取 抗う【力】を持つ者は倒れ、この6課を太陽の様な笑顔で包んだ少女も奪われようとしていた。 守りたい、守りたい、守りたい、守りたい、 傷付き、意識を失った隊員達は最後までそう祈っていたはず。 その願いを打ち砕いた戦闘機動が口を開く。 「オットー、ルーお嬢様からの通信は? いくら何でも遅すぎる」 タイムリミットは近い。エース達が帰還したら帰還は難しくなる 「ルーお嬢様からの通信は無いよ。…ガリューも付いてる。大丈夫」 絶望に染まるはずだった。守りたかった。全てを奪われるはずだった。 ――そんな願いがとある男に届いた 「ルーお嬢様ってこの娘の事かい?」 不意にこの場にそぐわない透き通った声が響く。 「説得しようとしたんだけど攻撃してきたらちょっと眠ってもらったんだ」 燃え上がる隊舎から現れたのは、細身の男だった。 美しい蜂蜜色の長髪、透き通った翠の瞳、中性的な顔には妙な迫力が漂っている。 「っ隊員か!?」 ディードとオットーは同時に戦闘態勢に入る。 情報ではここにいる戦闘員は先程の騎士二名だけだったはず! 「僕? 6課の人間じゃないよ。僕は無限書庫司書長のユーノ・スクライア」 「何故その司書長がここに?」 オットーは考える。この男からはルーテシアを気絶させる程の強さが感じられない。 「私用でね、娘に会いに。そしたら6課がこんな有り様で。 意識を失う前にザフィーラからヴィヴィオと負傷した隊員達を頼むと言われたから、皆を転移させてたんだ」 ユーノは一瞬の間を空け、睨みつけるように言った。 「…それよりさ見てるんだろ? スカリエッティ」 ―ブン 音と共にオットーとディードの間にモニターが出現した。 「おやおや、珍しい人がいたものだね。無限書庫司書長ユーノ・スクライア殿?」 そのモニターに映っていたのは、この事件の中心にいるジェイル・スカリエッティ本人だった。 そんな男に怯む事無くユーノは告げる。 「顔を合わせるのは初めてだね、Dr,スカリエッティ。 僕はこれでも怒っているんだ。何故こんな事をしたのか説明して欲しい」 「説明!?そんなモノが必要かね?計画の邪魔になる敵を潰し、必要になるモノを返してもらっただけだよ」 「…そうか。こんな小さな女の子を使って、もっと小さな女の子を奪う……」 「それが人のやることかぁぁ!!」 ユーノは怒鳴りつけた。普段の柔和な彼からは想像もできない怒気を纏っている。 「フフフ…そう恐い顔をしないでほしいなぁ。 君とはもう少し話をしてみたかったんだが時間もあまり無い。今日は失礼させてもらうよ」 そこで彼は思い出したかの様に言う。 「あぁそうだ。ディード、オットー、帰還するんだ。」 「この男とルーお嬢様はよろしいのですか? 」 「あぁ。ルーテシアは必ずこちらに戻ってくるし、今の君達では彼には勝てないよ」 ―ブン モニターが消えた瞬間、戦闘機人のふたりはユーノに背を向ける。 「ルーお嬢様はいずれ返して頂きます」 告げるなり彼女達の周りから光が噴出し、次の瞬間には消えていた。 「…彼女達が戦闘機人か…、それに掃除も残ってるなぁ」 ユーノは上空のガジェットの群に目を向け溜め息をつく。 「疲れるんだけど、そうも言ってられないよね」 言うなり、ユーノは目を閉じ集中する。 思い浮かべるのは鎖。それも魔力で練った鎖では無く、鋼の鎖。 AMF、ガジェット達は魔法の力を強制的にキャンセルする力場を発生させている。 でも彼はそれを破る術を知っている。 「フルメタルバインド!」 唱えると同時にガジェットを挟む形で翠の魔法陣が顕現する。 「貫け!」 その魔法陣から現れたのは鋼鉄の鎖だった。 その鎖がガジェットの機体ん貫いていく。空を埋め尽す程のガジェットは翠に包まれた瞬間に全てが爆散した。 「転移魔法を無理矢理使った後のコレは厳しいな…」 苦しそうに呟きながら空に目を向ける。 するとそこには白い竜に乗った、見慣れた姿があった。 「…エリオとキャロ、来てくれたんだ。」 安心すると体が重くなる。 魔力量の少ないユーノにとって転移魔法と複数の束縛魔法は厳しすぎるものだった。 自分の頼り無さに苦笑いを浮かべながら彼はあっさりと意識を手放した。 長くなってしまったorz 中二病な強さなユーノ君を書きたくてやった。反省はしている。 この後の病院でお見舞い合戦が行われたのは間違い無いよ 14スレ SS オットー ディード ユーノ・スクライア