約 626,637 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/261.html
125 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 43 10 ID NdS3V1VX 今このときの俺が追い詰められているのだとすれば、それはどれほどのものだと言えるだろうか。 ちょっとだけ、考えてみる。 夏休みの宿題が終わらず、膝ががくがくと貧乏揺すりをするほどか? 違う。あれはただ、時間に追われているというのにいつまで経っても終わらずイライラしているだけだ。 今の俺はぐらぐらしてはいるが、がくがくもイライラもしていない。 では、修学旅行のバスの中で尿意をもよおした時、次の目的地まであと三十分はかかると知らされたときか? これも違う。さすがにあそこまで絶体絶命のピンチの状態にまでは至っていない。 中学の修学旅行で実際にそんな目に遭ったが、今の俺はあの時のように白い便器と四角のタイルを恋しく 思っているわけでもないし、周囲に異常を悟らせないように苦心しているわけでもない。 時間に追われているわけでも、危機的状況に置かれているわけでもない。 それなのに追い詰められていると言えるのか? と問われたら、イエスと答えよう。 なぜなら、今の俺はとても眠いのである。 昨今の秋と冬の混じり合った季節においては、日光の暖かさがとてもありがたく感じられる。 自分から陽の当たる方向へと向かっていって、両腕を目一杯広げて幸せを噛みしめたくなる。 今の俺には陽が射しているわけではない。 しかし、それを浴びているときと同じ恍惚状態に置かれている。 うっとりとしつつ、ぼんやりとしている。とでも言えばわかりやすい。 ずっと前から眠気を覚まそうと、背筋を伸ばしたり目を強くつぶったりしているが、効果無し。 ものの十秒もしないうちに、意識が抜け落ちて倒れそうになる。 睡眠というのは人間の本能的な欲求であり、古代より金をかけずに人を幸福にさせてくれるものだ。 もしかしたら寝ることを趣味にしている人もいるかもしれない。 そんなに素晴らしい、眠りへの誘いを俺がなぜ断り続けているのか。 それはもちろん、眠る以上に大事なことがあるからだ。 眠いのに、大事な用がある。大事な用があるから、眠れない。 だから、いくら眠たくても我慢するしかないのである。 以上を踏まえ、俺がどれほど追い詰められているかを喩えて言うならば、決して赤点をとってはならない 学期末テストにおいて一夜漬けのツケによる睡眠不足で眠りたくて仕方なくなってしまった状態、ということになる。 「お……お待たせ……」 衝動と理性による苛烈な意識の縄張り争いを脳内にて繰り広げていると、控えめな声が耳に入った。 声の主は葉月さん。彼女が風邪をひきでもして声に曇りがあらわれてしまわないか、時々俺は心配になる。 「目、開けてもいいよ……でも恥ずかしいから、その、……あんまりじろじろ見ちゃ、やだよ?」 ずるい。そんな台詞を言って俺の男心をくすぐるのもずるいし、じろじろ見るなというお願いもずるい。 そんなことを言われたら、まだ活動していない俺の目玉に向けて、反骨精神をむき出しにして葉月さんを 見つめ続けろ、という命令を下したくなるじゃないか。 俺は、同化してしまったようにくっついていた上下のまぶたをゆっくりと開いた。 126 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 44 34 ID NdS3V1VX 「! う……、むぅぅ……」 そして、目の前にいる葉月さんの、制服姿とは違う装いを目にして、目がはっきりと覚め、感嘆に呻いた。 葉月さんが身に纏っているのは、二年D組が文化祭の出し物として行う純文学喫茶の女性用衣装である、 振袖と袴、それに草履という組み合わせであった。 淡い紫色の振袖には白いカトレアの花が咲いている。 胸の下の辺りで着付けられた袴。こちらは濃厚な紫色に染まっている。 足下を飾るのは真っ白い足袋と鼻緒のついた草履である。 とどめと言わんばかりに強いインパクトを与えるのは葉月さんの髪型だ。 ポニーテール。髪留めは濃紺のリボン。 しかも葉月さんたら黒のロングをそのまま後ろに流すのではなく、両肩にちょっとだけ乗せている。 そんなさりげないところが小粋で、いやなんともお美しい。 「どう? 似合うかな? ちょっと地味じゃ、ないかな?」 決してそんなことはない。 もし袴姿の葉月さんを目の前にして似合わないなどという暴言を吐く人間がいるなら、そいつの美的センスは 著しく劣化していると言っても大袈裟ではない。 総じて地味な色の組み合わせではあるが、素材のいい葉月さんのような人が着ると、紫の着物が瀟洒なものに見えてくる。 ビバ、着物。 日本の文化、万歳。 「うん、とってもよく似合ってるよ。葉月さん」 言った後で、なんだか陳腐な褒め言葉だな、と思ったが他に言い様が無かったのでどうしようもない。 「そ、そう? えへへ、ありがと」 はにかんだ笑顔を葉月さんが見せた。 いつもより数段魅力が増しているように感じるのは、着物の魔力のせいだろうか。 それとも、二人きりの状態で着物姿を拝ませてもらっているという特殊な状況によるものなのか。 「ところでさ、葉月さん」 「ん? なあに?」 葉月さんが手を後ろに回して前傾姿勢を取り、上目遣いで覗き込んでくる。 抱きしめたい誘惑を問答無用で殴り飛ばし、努めて冷静な気持ちで問う。 「どうして、俺をこんなところに連れ出したの?」 「えっと……それは、そのね」 俺の喉元の辺りに視線を送りながら、葉月さんが答える。 「あなたに、最初に着物姿を見てもらいたかったんだ。クラスの、他の誰よりも先に」 ――しゃっくりが出そうになった。びっくらこいた。 どうして葉月さんは、俺の心の純な部分をピンポイントに責めてくるのだろう。 これが葉月さん流のアプローチなのか。回りくどい部分の一切無い、正攻法。 してやられた。この場が決闘場であったならば、間違いなく俺は絶命している。 127 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 45 45 ID NdS3V1VX 熱くなった心を抑えるため、状況を整理・確認してみる。 まず、俺がいる場所は校舎二階の女子トイレの前である。隣接して、男子トイレが設置してある。 俺をここまで連れ出したのは葉月さんだ。……と、葉月さんが言っていた。 なんと、葉月さんは教室からここまで、眠りこけていた俺の手を引っ張ってきたのである。 教室から連れ出されたときのことを、俺はまったく覚えていない。 だから、目を覚ましたときトイレの前に立っていたから驚いた。 そして、葉月さんがすぐ目の前にいたのにはそれ以上に驚かされた。 俺がなぜ教室で眠っていたのかというと、単純に寝不足だから。 なぜ寝不足かというと、昨日の夜から今朝の五時まで眠っていないからだ。 俺は、学校で一晩過ごしたのである。 今日から明日にかけて催される、文化祭の準備を終わらせるために。 文化祭の準備と言っても、俺のクラスであるD組はとっくに準備を終わらせている。 俺が準備していたのは、自分のクラスの出し物ではなく、弟のクラスの出し物だ。 コスチュームプレイ喫茶。略してコスプレ喫茶。それが弟のクラスの催し物である。 なぜ学年の違う弟のクラスを俺が手伝ったのかというと、その出し物に魅力を感じたからだ。 別にメイドさんや巫女さん、婦警さんや女騎士が好きなわけではない。 多種多様な衣装作りを楽しみたかった。ただそれだけの理由で弟の同胞に力を貸したのだ。 プラモデル作りを趣味にしている俺であるが、作りたいものも、作れるものもプラモデルだけではない。 小学校時代に家庭科の授業で裁縫の技術を身につけて以来、服の修繕などは自力でできるようになった。 それだけでなく、作成可能なもので、必要な材料さえ揃っていれば衣装だって作れる。 弟もそのことを分かっているから、安心して俺に任せたのだろう。そしてその判断は正解だった。 俺が弟のクラスを手伝いに行った時点では、衣装作成の作業は三割、よくて四割といったところまでしか 済んでいなかった。当然だ。裁縫に慣れている人間が片手で数えられる人数しかいなかったのだから。 おまけに段取りも悪かった。女子の中に一人だけ明らかに裁縫に手慣れている人がいたのだが、 彼女にばかり負担が強くかかっていた。 他の生徒は、彼女からの指示を聞いてから動いていたのだ。衣装作成の段取りを掴めていなかったからだろう。 その結果、彼女の作業も遅れてしまい、いつまで経っても作業が進まなかったのだ。 そこで登場したのが俺である。 初めのうちはそれこそ腫れ物扱いだったが、クラスメイト(弟)の兄であると知り、俺のミシン捌きや針捌きを 見ていくうちに考えが変わったらしく、いつのまにか頼ってくるようになった。 その後は簡単だった。俺が難しい作業を請け負い、代わりに手空きになった裁縫上手な女子生徒に クラスメイトへの指示を出してもらった。 力を合わせた甲斐があり、見事に文化祭前日の昨日の夕方、全ての衣装作りを終わらせた。 後輩の男女にお礼を言われる経験をしたのは昨日が初めてだった。 自分の欲求不満を解消することが目的で始めた手伝いだったが、昨日の後輩たちの泣きそうな笑い顔を 見ていると、ああ手伝って良かったな、という感想を抱いた。柄にもなく、心と目頭にジンときた。 まあ、そんなわけで衣装作成は終わったわけである。 が、どうしても俺には我慢できないことがあった。 顎の下にあるほくろから生えた毛が気になるくらいに、どうしても看過できないものがあった。 衣装作成班とは別の班が作った、鎧やブーツなどの金属系の小道具の出来が非常に悪かったのだ。 銀色のスプレーを吹くだけの仕上げなど、俺は認めない。 新品の鎧を着ている歴戦の騎士や、砂にまみれた痕の無いプロテクターを着たヒーローがいるわけがない。 俺は、あいつらを汚さずにはいられなかったのだ。 放課後に家へ帰り愛用のツールをひっつかみ、学校へ引き返して、一人で黙々と作業を進めていくうちに、 次第にハイなテンションになってしまい、気づけば日付が変わっていた。 家に帰るのも面倒になったので、そのまま作業を続行。 宿直の教師に小言を言われ、後になって夜食の差し入れを頂き、途中で何度か記憶を失いつつ、朝を迎えた。 納得のいく出来になった作品を眺めていたら弟がやってきて、強制的に二年D組に連行された。 自分の席に着くなり俺は眠った。そして次に目を覚ましたとき、トイレの前に居て、葉月さんに見つめられていたのである。 128 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 50 37 ID NdS3V1VX 葉月さんの着物姿を視覚で堪能していると、次第に眠くなってきた。 劣情を催すほどに美しいものでも、睡眠欲求をゼロにしてしまうのはさすがに難しいらしい。 葉月さんに教室へ戻る旨を伝え、一路教室へ向かう。 教室内では、着物を纏ったクラスメイトがちらほらと居り、室内を喫茶店として改装すべく動いていた。 クラスメイト――主に男子が、葉月さんの姿を確認して視線を向けてくる。 ……まあ、なんだ。気持ちはわかる。 今日の葉月さんは着物姿だし、それに普段はしていない化粧までしている。 近づいたらいい匂いもする。いや、俺が匂いフェチ、もしくは変態なわけではなくて、香水の匂いがするという意味。 他の女子も普段より綺麗になっているが、葉月さんは頭一つ飛び抜けて煌びやかだ。 しかし、だからといってじろじろ見ていいわけではないのだぞ、男子諸君。 葉月さんに失礼だ。それに、君たちの反応は周りにいる女子達に対する侮辱も同然だぞ。 ほら、我がクラスきってのイケメンである西田君を見ろ。 いつまでも葉月さんをじっと見つめているから、彼の恋人(を自称している)の三越さんがやきもちを妬いて 西田君の足を机の脚で踏みにじっているじゃないか。 西田君が悲鳴をあげてうずくまったところに、無言で後ろからケリまで入れている。 総員、即刻葉月さんを観賞することをやめたまえ。このままではクラス崩壊の危機だ。 それに、だ。他の女子だっていつもよりイイじゃないか。 袴姿というのは人をおしとやかに見せる効果があるらしい。 小うるさい女子グループでさえも、今日ばかりはその姿を拝みたい気分になってくる。 こうやって見回してみると、うちのクラスの女子って結構容姿のレベルが高い――――? 「ん……んん?」 おかしなものを見つけてしまった。教壇の上に立って、クラスメイトに指示を出している女。 誰だろう。女子が身につけている振袖とは違い、普段着のような印象を思わせる地味なものを身につけている。 日常を思わせる、数世代前の女学生のような着物姿である。 ただ、細いフレームの眼鏡をかけたその顔、どこかで見たことがあるような。……誰だろう? 教室の入り口近くで立ち止まっていると、クラスメイトの一人がやってきた。 他人に人畜無害な印象を与えるスキルにおいては俺以上のレベルを誇る、友人の高橋だ。 だがその印象は、話をしているうちに得体の知れない違和感と共に変わっていく。 もちろん、悪い方向にである。 「やあ、戻ったのか。モテ男」 「誰がモテ男だ。俺はいまだかつて彼女を作ったことさえないんだぞ」 ごく短い期間だけ似たような相手はいたが、あれはノーカウントだ。 「ほお……たった今まで葉月嬢とこそこそ逢引していたくせに、よく言えたな」 「ぐっ……」 「自分のいる位置というものをしっかり把握しておくべきだな、君は。自分のためにも、大事な人のためにも」 この男の台詞の中に毒は含まれていない。スーパーで売られている果物以上に毒素が薄い。 悪意がないのだ。からかっているだけなのだ。そして、だからこそ性質が悪い。 心に思い当たるもの――ちょっとした罪悪感とか――を自覚させる台詞を口にする。 しかも言っていることが正論だったり、時には荒唐無稽なものだったりする。 どの場合も同じ表情、平坦な口調で言うから、心が読めない。 本気か冗談か、喜んでいるか怒っているのか、ということさえわからない。 129 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 52 11 ID NdS3V1VX 「聞きたいことがある。あそこにいる眼鏡の――」 「それよりも、だ。こっちの質問に先に答えるんだ。今まで、どこに行っていた?」 「どこと言われても……」 一瞬隠した方がいいと思ったが、やはり正直に答えることにする。 「葉月さんに連れられて」 「ふんふん」 「トイレに」 「あーあー、もういいよ。皆まで言わずとも、わかった。つまり、そういうことか」 「何がわかったってんだ」 高橋は目をつぶりながら右手を自分の頭に当て、左手の掌を俺に向けてくる。 そこで止まれ、と言いたげな動作であった。 「朝から盛んだな、君は」 「……何を誤解しているのかわからんが、盛るようなことは何一つなかったと言えるぞ」 葉月さんの着物姿に心を震わされたが、あれは興奮したのとは違うだろう。 眼鏡をかけた勘違い高橋君は、俺に耳打ちしてきた。 「いいんだよ。僕は君の味方だ。それに僕は、他の皆みたいに葉月さんに執着しているわけじゃない。 だから、君と葉月さんがどこに行こうが、どこに逃避しようが、どこで心中しようが看過しよう」 最後のひとつは看過したら駄目だろう。クラスメイトというより、人として。 「だが、他の皆はどうだろう。君が葉月さんとどこかに行ったとき、葉月さんが君を連れ出したところは 皆が見ているが、そこは問題じゃない。 問題になるのは、葉月さんに連れ去られるほど思われている君の身の安全が、皆の手によって脅かされる かもしれない、というところにある」 脅しか、この野郎。いや……違うな。こいつの言っていることは――。 「脅しじゃなくて、事実と状況を踏まえたうえで僕が君に厚意で行う、警告だよ。 気をつけた方がいい。不幸にも今日は学校内に人があふれる一日だ。……と、明日もか。 とにかく、一人で行動するのは避けた方がいい」 どこぞのサバイバルゲームでは、危険な状況でも一人で立ち向かっているが、やっぱり真似したら駄目か。 俺の場合、あのゲームではあえて行動しやすくするために、敵を消しているのだが。 ――無理か。俺を取り巻く環境では誰が敵かわからないし、敵になりそうな奴が多すぎる。 「そうだ。君の今日の運勢を占ってあげよう」 「要らん」 お前の占いは占術に頼って出したものじゃない。状況を把握したうえで割り出した推測だろう。 「そう言うな。今日の僕は冴えているんだ。機嫌がいいからね」 人差し指の先を額の中心に当て、エセ占い師は答えを紡ぐ。 「――君は今日、危機的な状況に陥る」 「……」 当たるも八卦当たらぬも八卦って、便利な言葉だよな。何を言ったってごまかせる。 言い訳に使える言葉の中では、ランクの最上級に位置するんじゃないか。 「黒い……場所。夕方だな。君は、男……女? に、凶器をつきつけられている」 「夕方、気をつけていればいいんだな?」 「うん、そうだ。けど、けれど……多分君は、自分からその状況に関わっていく。そう、出ているよ」 「はあ……?」 「僕に言えるのはここまでだ。あとは君次第で、状況は変わっていく。君の無事を祈っているよ」 「ああ、そうかい。ありがとさん」 不吉なことを言い残し、高橋は俺の前から立ち去ろうとする――って、おい。 130 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 53 45 ID NdS3V1VX 「ちょっと待て。聞きたいことがあったんだ」 肩を掴み、強制的に動きを止める。 振り向いたときの男は、なんだか意外そうな表情をしていた。 「何だ? 君から俺に話を持ちかけてくるなんて珍しい。事件か? いつぞや口にしていた弟と妹が、 とうとう一線を越えてしまったのか?」 「違う。そっちじゃない」 仮にそうだったとしたら、今頃俺は学校になんて来ていない。 妹と弟を前にして、今からでも間に合うから普通の兄弟に戻ろう、とか言っているはずだ。 その後、妹によってどんな目に合わされるかはわからないけど。 俺の身――いや、命の安全も保証できないけど。 「ほれ、あそこにいる女の人」 教壇の上に立ち、クラスメイトの動きを見守っている女を指す。 「あの人、誰だ?」 極めて単純に、的確に質問したつもりだった。 だが、どうやら俺の問いかけは、珍しいことに高橋の逆鱗の袖に触れてしまったようだ。 高橋の不機嫌は隠されもせず、眉間に皺となってあらわれた。 「君は馬鹿なのか?」 いきなりそれかよ。 「……どうだろうな。馬鹿にならないために日々頭を使っているつもりだけど」 「いいや。君は馬鹿だ。君が馬鹿じゃなければ僕はなんだ? なんだと思う?」 なんだかその質問変だぞ、という言葉は飲み込む。咄嗟に浮かんだ台詞を口にする。 「知らねえ」 「そんなこともわからないのか。やはり君は馬鹿だ」 嘆息。 やっぱり飲み込まずに言っておけばよかった。たぶん聞いてきたこいつもわかっていないに違いない。 高橋はこうやってわけのわからない台詞を吐いて煙に巻くのだ。 シュールなギャグ漫画のネタみたいな喋りをする野郎だ。 でたらめな方向に会話を持っていってなんとか生き残ってやがる。 あえてこっちもペースに合わせてやっていいんだが、高橋はどうやら怒っている様子なので、下手に出る。 「すまん。お前の言う通り俺は馬鹿だ。謝る」 「気にするな。それに……僕はそんな馬鹿が嫌いじゃない」 「そいつは光栄だ。で、すまんのだが」 「ああ、さっきの質問の答えだな。教えてあげよう。 あそこにいるのは我が二年D組の担任にして守護女神――篤子先生だ」 ……とうとう女神にまで昇格したか、篤子女史。 昨日までなんたらエルとかいう天使の一人娘だったように記憶しているが。 ちなみに担任はれっきとした人間だ。全ては高橋の妄想である。 俺としては、担任が天使でも悪魔でも神でも魔界の王でも構うところはない。 美人だったらそれでいい。見ているだけなら目の保養になる。 「そうか、先生だったのか。見違えたよ」 「だろう。今日は眼鏡までかけている。あれは僕が貸したものだ」 流石、普段から「篤子先生には眼鏡が似合う。かけてくれないかな。かけさせたいなあ」とか言っているだけのことはある。 ばっちり担任の細面に似合うフレームを選んでいる。 あの眼鏡、今日のために高橋が特注したんだろうな。こいつならそこまでやりそうだ。 131 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 55 35 ID NdS3V1VX 「お前としては、あれで満足か?」 「……八十七点というところかな。あとは髪の毛を肩の辺りで切りそろえてくれれば完璧だ。 いつもの髪型も決して悪くはないが、僕の好みをジャストミートしていないんだ。 もちろん、どんな髪型であっても僕の気持ちは変わらないが」 「言ってみたらどうだ? 髪の毛を少し短くしたらもっと綺麗になりますよ、とか」 「既に言っている」 あ、言ってるんだ。いや、言っていないはずもないか。 「でも先生は……これぐらいの長さがいいと言っていたから、と断った」 「そうなのか?」 「いったい、誰に言われたんだ。もしかして……心に決めた男が居て、そいつに言われたのでは……」 断言してもいい。それはない。 おおかた、小説に出てくる好きな主人公が「髪の長い女が好きだ」と言っていたから、みたいなオチだろう。 そりゃ、担任のプライベートまで知らないし知りたくもないから、恋人の有無なんてわからない。 だけど、担任の身に纏うあの空気を見ているとわかる。 彼女は、恋人とのラブロマンスより、文字の群れが紡ぐ恋愛模様の方が好きだ。 なぜわかるのかというと、俺が担任と似ているから。 葉月さんと出会ってからは考えが変わってしまったが、昔の俺は恋人と乳繰り合うよりニッパーを繰っている方が ずっと楽しいんだ、それ以外に幸せなんてあり得ない、とまで考えていたのだ。 おそらく、数ヶ月前の俺みたいな奴が成長し進化を遂げたら篤子女史のようになるのだろう。 担任と俺は、趣味に生きる人間という点に於いて同類なのである。 ちなみに、高橋がここまで担任に執心しているのは、話を聞いていればわかるように、恋をしているからだ。 俺には、担任のどこが魅力的なのかが理解できない。 年はずっと離れているし、純文学オタクだし、口の滑りがちょっとばかし良すぎるし――良すぎて滑って転んでいるし。 だが、人が恋をするのは自由だ。相手が異性である限り、俺としては友人の恋を応援してやりたい。 もちろんエールを送るだけ。エールさえ邪魔かな。生暖かい視線を送るだけにしておこう。 ぶつぶつ言いながら立ち尽くしている高橋を置き去りにして、クラスメイトの元へ。 教室の後ろ側はカーテンで仕切られている。そこが店員の控え室になっているようだ。 薄布のカーテンの向こうからは、準備に追われている女子の声が飛んでくる。 そこまで急がなくても、今日学校に来るような人間の年齢層の好みにかすりもしない喫茶店が忙しくなりは しないと思うのだが。やる気を出しているのはいいことだけど。 いくら美麗な衣装を身に纏った女子がいるにしても、古本屋のしけった本の匂いがする店に入ってきてまで 見物しようとする物好きな男もいないだろう。もし居たら、そいつはどうしようもない女好きだ。 ナンパ目的の男が入りそうにないものを選んだという点では、担任の出し物のチョイスを評価してもいい。 しかし、利益をあげそうにない喫茶店であることは否めない。 茶と菓子を出すところ以外、小説のみを扱う図書館みたいなもんじゃないか。 担任はどんな客層をターゲットにしているつもりだ。 もしかして……純文学喫茶を経営するのが担任の夢、なんだろうか。 二日間だけでもいい、夢を叶えたい。そんな想いで、この出し物をやらせたのか。 夢を追う大人ってかっこいい――――なんて思わないぞ。やはり担任の行いは許し難いものだ。 ……今更だな。文化祭当日になって、許すも許さないもない。 132 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 03 58 10 ID NdS3V1VX しかし、喫茶店業務の各担当はどのように割り振られているのだろう。 弟のクラスを手伝い始めた日から、ずっと自分のクラスのミーティングをさぼっていたからさっぱりわからない。 確定しているのは、葉月さんがウェイトレスだということ、担任が窓際の席を占領して本を読みふける迷惑な客の役 だということ、だな。だとすると、高橋も教室に入り浸るだろう。 俺は何を任されているんだろう。壁に貼ってある、担当者の割り振りが書かれたプリントを見る。 ウェイター……はやっぱりないか。臨むところだ。 お茶を沸かす役、菓子を皿に盛る役……でもない。 消耗品の買い出し役……ですらない? おいおい、俺の名前がどこにも書かれていないぞ。 名前と役がずらりと書かれた一覧表を、上から下、下から上へと何度も見る。……が、俺の名前はない。 とうとう皆は一致団結して、俺に対してスルーで対応することにしてしまったのか? いや、それも違う気がする。 高橋と話した時もだったが、クラスメイトから感じる気配に不快なものを覚えない。 では、なぜ俺に何の役も任せていないのだ? やめてくれよ。なんか、こう――家にいるときみたいに、のけ者になった気分になるじゃないか。 「どうかされましたか?」 切なさのあまり、心の中の雪原で粉雪を浴びていたら、担任に声をかけられた。 ポーカーフェイスの篤子先生がパン屋の優しいおばさんに見えてしまった俺は、寂しがり屋なんだろうか。 そろそろカウンセリングでも受けた方がいいのかもしれない。 「先生、黄昏れたい気分になったこと、ありますか……?」 「ええ。ほぼ毎日です。なぜ私は、あれほど美しい小説の登場人物ではないのだろう。 私が着の身着のまま列車に飛び乗り、車窓から遠い故郷を思っても、彼らのように様にはならない。 所詮、私は現実に生きる人間でしかないのだ、と思うと……切なくなりますね」 ……なんか違う。むしろこっちが切ない気分にさせられた。 この三十路が担任だったという経験は、俺の人生にとってなんらかのプラスになるんだろうか。 反面教師にせよ、という天啓が俺の知らぬ間に下っていたとでもいうのか。聞いていないぞ、天の人。 「先生、これ、見てください」 「はい……皆さんの役割分担が書いてありますね。でも、あなたの名前はどこにも書かれていない。 なるほど。それで、沈んでおられるのですね」 「なんで俺の名前が書かれてないんですかね……」 ああ、ため息、また一つ。 「……まじめですね。準備期間中は毎日熱心に相談を持ちかけてこられましたし。 他の皆さんもそうです。出し物が決まったときは不満そうだったのに、今では全員で協力して喫茶店を 成功させようという気概が感じられます」 「当日になってまでごねる奴なんていませんよ。当日になって暇になる男はいますけど」 ちくしょう。なんで俺は担任を相手に弱音なんて吐いているんだ。情けない。 「時間があるのはよいことではないですか。今日と明日は文化祭です。退屈はせずに済むはずですよ」 「一人で回っても面白くないですよ」 「一人もそれほど悪いものではないですよ。自分の時間を、他人に邪魔されずに自分のペースで楽しめます」 「そう、ですかね……」 ええ、と言って担任は頷いた。 俺は一人。これから、一人で生きていくんだ。 目の前にいる独身、三十路、オタクの三拍子そろった担任みたいに。 133 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 04 00 00 ID NdS3V1VX 「先生、俺は――」 口を開こうとしたら、かざされた右手によって言葉を遮られた。 担任は俺の顔を見ていない。今まで目につかなかったところに貼ってあるもう一枚のプリントに目を向けている。 「……なんです、一体?」 「あなたの役は、きちんとあるじゃないですか」 「えっ!」 「ほら、あそこのプリントに、書いてありますよ。大事な仕事です。しっかりやり遂げてくださいね」 返事をせずにもう一枚のプリントの元へ向かう。 皆、疑って悪かった。俺のことをしっかり覚えていてくれたんだな。 どんな仕事だろう。なんでもやるぞ。客引きだって、店の用心棒だって喜んでやってやる。 福沢諭吉の印刷されてある紙幣よりも輝いて見える文書の元へ、俺はたどり着いた。 そして、そこに書かれている四行の文字の羅列を見て――へけっ、と笑った。 頬がひきつっている。初めこそ笑い顔だったが、不意打ちでがっくりさせられて表情をへし曲げられた。 プリントの一行目には、俺の名前が書かれていた。このプリントが俺のために作られたものだと一目でわかった。 だが、それはいい。問題は二行目から。次のように書いてある。 『上の者、文化祭一日目二日目共に、教室にて座して過ごすことを命ずる。 教室から出ることは一切許可しない。この命に背いた場合、”あのこと”を公開する。 なお、クラスメイトは上の者を教室から出さぬよう、全力を尽くすこと。 以上』 つまり、何もせずに座っていろ、と言いたいのか。こんな理不尽な命令なんか聞きたくない。 それに”あのこと”ってなんだよ。わざわざダブルクォーテーションでくくるんじゃねえ。 俺は、何もやましいことなんか――――あるじゃねえか! ちくしょうめ! 両親のことは一言も漏らしたことなんかないけど、こんな文章書かれたら自信がなくなるよ! 誰だ、これ書いた奴! お前なんか仲間じゃない――敵だ! くそったれ――こんなことなら弟のクラスにいればよかった。教室に戻ってくるんじゃなかった……。 右手を黒板に当て、よりかかる。すぐに腕から力が抜けた。体重を壁に預ける。 このまま床に座り込みたい気分だったが、クラスメイト(不特定の一名を除く)の前だから、自重する。 そのまま目を閉じて眠ろうとしていたら、お盆を手にした葉月さんがやってきた。 「大丈夫? プリント、私も見たけど……残念だったね」 「う……ん、い、いや。別に大したことないよ。きっとヘルプ要員として待機してろ、っていう意味だから」 よりによって葉月さんの前で弱音を吐くわけにはいかない。 プリントに書かれた文章を読んだ程度で落胆しているなんて、思われたくないのだ。 「んー……たしかに、そう読めなくもないけど。前向きだね」 「そんなことないって」 ただの虚勢だからね。 「……まさかそんな反応をするなんて。落ち込んだところで声をかけたのに……」 「あれ、俺、落ち込んで見えた?」 「え! あ、ま、まあね。いつもより元気がないのは一目でわかったよ」 バレバレじゃないか。しっかりしろ、俺。 しかし、さっきから葉月さんの挙動がおかしい。一体どうしたというのだろう。 134 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 04 01 26 ID NdS3V1VX 「葉月さん、緊張してる?」 「そりゃそうだよ。バレちゃったらどうしようか、とか……」 「え? バレるって……?」 「ううん! なんでもないよ。あー、ちゃんと接客できるかなー。緊張するなー。 誰か、励ましてくれないかな。誰でも……じゃなくて、誰かに応援してもらいたいなー」 ちらちらと俺の顔を見ながら葉月さんが言う。 そこまで露骨に誘われると躊躇ってしまうな。周囲の男女からの視線もあるからなおやりにくい。 だが――時には気合いを入れて一歩踏み込むことも必要だ。 俺と葉月さんの距離も、強引にでも詰めなければいけないんだから。 「葉月さん」 「は、……はい」 「葉月さんがいれば、売り上げが校内で一番になるのも夢じゃないよ、きっと」 「ほっ、ホント!?」 「俺はそう思う。出し物が出し物だからハンデありまくりだけど」 「それは、その……どういう意味……?」 思っていることを言うのが恥ずかしい。でも、顔を紅くした今の葉月さんを抱きしめるよりは恥ずかしくない。 ちゃっちゃと言ってしまおう。 葉月さんに近寄り、耳打ちする。 「……今日の葉月さん、すっごく可愛いから」 「か、可愛い……ど、どれぐらい……」 「惚れてしまいそうな程に」 「あ! ……あう、あぅ……ありがとうございます! が、がんばります! 見ててください!」 右手に持ったお盆で敬礼し、葉月さんは教室の外へ向かっていった。 クラスメイトの白い目と、火傷しそうな熱視線と、舌打ちの音が遠いもののように感じられる。 『可愛い』。『惚れてしまいそう』。 言うのは簡単なのに――どうして、こんなに心が重くなるんだろう。罪悪感を覚えるんだろう。 眠すぎて頭がいかれてしまったのか? 自分の言葉に、自分の気持ちに自信が持てないなんて。本当に、俺はどうなってしまったんだ。 135 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 04 02 54 ID NdS3V1VX ***** 彼がいる。先輩――お兄さんに作ってもらった衣装に着替え、仮面を被ったヒーローになりきって接客している。 彼は他の皆と違い、今日一日だけしかクラスを手伝わない。 その代わり、今日だけで二日分の働きをする、と彼は言っている。 なんでも、二日目を丸一日自由行動に使いたいらしい。 理由を聞いても、彼は困った笑みを見せるだけだった。何かを隠していることは明白だ。 一体それがなんなのか、アタシにはわからない。少しだけならわかるけど。 自分が許せない。誰よりも愛しい彼のことを、全て把握できない自分なんて、違う。そんなのアタシじゃない。 アタシは彼の世界なんだ――これから、そうなるんだ。 だから、今の彼に関することは全て知らないといけない。だけど、今のアタシは彼のことを知らなすぎる。 アタシの器が彼を受け止めきれるほど大きくないのか、彼の存在規模が大きすぎるのか、アタシが彼のことを 過大評価しているのか。あるいは、それら全てが理由なのかもしれない。 ――いけない。 また、彼と会う前の自分の気持ちを思い出してしまった。 忘れなければいけない。アタシは、自分を卑下していた頃とは違うんだ。 彼はアタシを救ってくれた。彼はアタシに自信をくれた。 『アレ』を人より上手く扱えるなんて、特技でも何でもないのに、彼は褒めてくれた。 目を輝かせながら、すごいすごいすごい、と言ってくれたのだ。 根暗なアタシは、それだけで自信が持てた。彼と会う回数を重ねていくうちに、声が大きくなった。 でも、純粋な気持ちでいられたのは数ヶ月だけ。 その後は、恋しい気持ちと、それからくる独占欲――以上に醜い支配欲で、心の中がドロドロだった。 アタシは、ちょっとだけ彼と会う機会を減らした。 だって、彼が心の中に踏み込んできたら、アリジゴクのように引きずり込んでしまいそうだったから。 その甲斐あって、アタシは彼に危害を加えずに済んだ。 代わりにやってきたのは、息を詰まらせそうなほどの切なさ。 彼の存在は、既にアタシにとってなくてはならないものになっていたのだ。 毎日、彼と一緒に登校したかった。 一日中ずっと、彼の机とアタシの机をくっつけて授業を受けたかった。 昼休み、彼の口にアタシの箸であーんしてあげたかった。 放課後、部活動に励む彼を見続け、一緒に帰りたかった。 そして、アタシの家に来てもらい、甘い台詞を囁きながら抱いてほしかった。 毎日毎日そんな妄想ばかりが浮かぶ。止めようがなかった。 止めてしまったら、現実の彼に想いをぶつけそうだったから。 思いの丈をぶつけてしまおうと思ったことは幾度もあった。でも、実行していない。 彼がアタシを受け止めてくれないだろうことは明白だった。 136 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 04 04 32 ID NdS3V1VX ――あなたが好きな人は、あの人だから。 あなたがどれほど彼女を思っているのか、アタシは知っている。 彼女の姿を確認するためだけに、彼女の教室の前を通り過ぎていること。 体育の時間や部活中、校庭から彼女の教室を見上げていること。 その時に見せるあなたの目が、最初からアタシに向いていてくれればよかったのに。 そうすれば、強引な真似をする必要なんかなかった。 わかってる。悪いのはアタシ。純粋なあなたを自分の色に染めたくて仕方なくなっているアタシ。 あなたは悪くない。悪いところがあるとするなら、誰にでも優しい、八方美人ともとれるその性格ぐらいのもの。 この想いがどこまでいくのか、どんな結末を望んでいるのか、アタシにはまったく見えてこない。 はっきり言えるのは、アタシがあなたを支配したいと強く願っていること。 あと、もう一つ――――目的のために具体的に行動すると決定したこと。その二つ。 明日、あなたはあの人に会うつもりでしょう? だから今日頑張ろうって、決めたんでしょう? あの人には、絶対に会わせない。二人きりでデートするなんて許せない。 本当は、あの人をあなたの前から消したいけど、あなたはきっと悲しむよね。 あなたの悲しみは、アタシに会えないときだけ湧いてくれればいいの。無駄遣いしちゃいけないわ。 先にあなたを手に入れれば、あの人を消さずに済む。あなたも悲しまずに済む。 一石二鳥でしょう? もうすぐ、今日の一般公開の時間は終わる。 それからはアタシの時間。あなたを狩るための時間。 少し骨が折れそうだけど、アタシはしっかりやり遂げる。 覚悟はもう済ませている。一線を越えることに、もはや躊躇はない。 さあ、行こう。アタシと彼だけが存在する世界で生きるために、最初の命令を下そう。 137 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/12/14(金) 04 06 32 ID NdS3V1VX ***** 「ありがとう! また明日も来てくれ!」 マスクをしているせいなのか、いつもよりテンションの高い声で彼が最後の客を見送った。 教室を改装した喫茶店の中にいるのはコスプレしたクラスメイトだけだ。 皆、お互いの衣装を笑いあったり褒めあったりしている。 アタシは彼が誰かに話しかけるより早く、誰かが彼に話しかけるより早く、彼の肩を掴んだ。 振り向いた彼に向かって、労いの言葉をかける。 「お疲れ様」 「あ、お疲れ。いやー、マスクを被ってると疲れるね。動きづらいったらないよ。 スーツアクターの人の苦労がほんのちょっとだけわかった。君の格好もそうじゃない?」 「ん……そうでもないよ。ちゃんとアタシの体型に合わせて作ってあるから」 彼の着ているボディスーツはお兄さんの手作りだけど、アタシの衣装は違う。 今日の目的を達するために、実用性を重視した作りになっている。 喫茶店のウェイトレスとしての実用性ではなく、荒事に対応するためのそれだ。 動きやすく、軽装で――武器を隠し持てるように作っている。 実際、今も身につけている。けれど、ナイフとかメリケンサックみたいにわかりやすいものじゃない。 学校に通う生徒なら、誰でも手にできて、持ち運んでいても不自然じゃないもの。 仮にアタシが警察からボディチェックを受けても、絶対に引っかからない。 ――だけど、上手く使えば命を奪うことだって不可能じゃない。 どうやればいいのか、それもアタシには想像できる。 「いいなあ。僕も兄さんに頼んでおけばよかった」 「時間がなかったんだから仕方がないよ。今日家に帰ってから頼んでみたらどう?」 ――君は今夜から死ぬまで、家族の住む家には帰れないけどね。 「そうしてみようかな。でもなんだか兄さん、最近僕を部屋に入れたがらないんだよね……。どうしたらいいと思う?」 「アタシは一人っ子だからわかんない。でも、きっと大丈夫よ。いい人そうだから」 「そうだね。兄さんは本当、優しいから。僕と妹には……昔から」 彼に物憂げな表情をさせるお兄さんにちょっとだけ妬いてしまう。 お兄さんと妹さん、彼が居なくなったらきっと悲しむだろうな。 ……でも、予定は変更しない。今日こそ、彼の全てを手にするんだから。 「そろそろ帰ろうかな。じゃあ、僕、着替えてくるから」 「あ……ちょっと、待って」 「ん? 何か用?」 「うん。……あのね、今から、ちょっとだけ……」 やっぱり、いざ本番となると緊張する。けど、それを乗り越えないと目的は達成できないんだ。 「ちょっとだけ、この格好で歩かない? ほら、なんだかハロウィンみたいで楽しいじゃない」 練習してきた台詞をそのまま口にする。動揺を表に出すことなく、口にできたはず。 彼はアタシの顔を見ているみたいだ。どんな表情かはわからない。だってマスクを被っているんだもの。 「……ねえ、どう?」 アタシの催促に対し、少しの間を空けて、彼は頷いた。 それがこれからの人生の行く先を決定づける行動だとは知らずに。 続けて彼は、「いいよ、ちょっと歩こうか」と、言った。
https://w.atwiki.jp/feltwerewolf/pages/62.html
恋人陣営:本体系 変化系 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 村人 村人 村人 強制 なし 勝利条件:ゲーム終了時に自身と片思い相手の生存 始まりの夜に生存者から1人を選択します。 選択した相手の片方を自身との片思いの関係にします。 片思いされた人は無自覚で、元々の能力も失われません。 片思いの相手が死亡した場合、終末ヤンデレは覚醒し勝利条件などが変化します。 覚醒後 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 人狼 人狼 人狼 強制 なし 勝利条件:生存者が2人以下になる 片思い相手が死亡した時点で即座に「終末ヤンデレが覚醒しました」と告知されます。 その告知後の占い結果などは上記の通りになります。 毎夜、生存者から1人選択して襲撃します。 この襲撃はヴァンパイアの襲撃と同等です(人狼、妖狐を死亡させることができる)。 カウントが人狼なので、「村村狼ヤ」と残ると人狼の勝利になることや襲撃耐性は持っていないので注意が必要です。 出典:Twitterのツイート
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2372.html
667 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 02 43 ID rcML5ZKE 「うなー」 だらりと自宅のダイニングテーブルの上にジャージ姿の上半身を横たえ、明石朱里はうなった。 「宿題難しー、だるーい、やりたくなーい」 寝癖がついたままの姿(ノーメイク)で、だらしなく朱里はうなる。 彼女の横には数学の問題集とノート。 その様子を、正面に座る緋月三日が苦笑交じりに見ていた。 彼女の服装は、地味目のジーンズにシャツ。 いかにも、家にあったものを適当に組み合わせてきましたと言った風。 長い髪は後ろで無造作に括っている程度。 最近、三日は御神千里の父親であるプロのメイクさんのアドバイスを受けて、髪・肌のお手入れやメイクの腕が上達していた。(ただし、校則違反にならない程度) 平たく言って、かわいさ急上昇中だったのだが、今日はほとんどノーメイク。 両者ともにいささか女子力の低い服装で、朱里にいたってはだらしのないことこの上無かったが、それを指摘する者はこの場にはいない。 現在、この家には共働きである朱里の両親がいない上に、男子の目が無いからこそ見せられる姿だった。 「・・・この辺りは、とっかかりさえ見つかれば、公式を上手く応用していけますよ」 「そのとっかかりがねー」 明石朱里は数学が苦手だ。 日本史のような丸暗記なら圧倒的に強いのだが、数学だけはどうにも苦手だった。 「・・・他の科目ですと、そんな不得手というわけでも無いのですのに」 「他の科目って、授業中に先生の言ってたこと覚えてヤマ張れば結構いけるでしょ?あと暗記」 「・・・あまり、実になるタイプの学習法とは思えませんけど」 「『作者の心情を述べよ』とか分かっても、将来実になるとか思えないけどねー」 国語教師が聞いたら怒り出しそうなことを言う朱里。 ちなみに、三日は現在数学の教師役。 久々に多量に出された数学の宿題を一緒にやろう、と朱里が三日を誘ったのだ。 否、頼んだのだ。 一緒に宿題をやるのではなく、数学の勉強を三日が朱里に教える形になっている。 「みっきーはすごいよねー、ある意味。マジメに勉強してて、頭良くて」 「・・・病院暮らしも長かったですから。・・・勉強くらいしかやること無いんです、そういう時」 その時に身に付けた勉強する習慣づけが、現在の学力に反映されているらしい。 「何でそれが成績に出ないの、みっきー?」 朱里に言わせれば、三日はかなり頭が良い。 教え方も上手だし、勉強の内容をきちんと理解している。 ヘタな学年上位の成績の持ち主よりも、先生役に適任だった。 それにも関らず、テストの順位は中ほどを行ったり来たり。 「・・・テストって緊張するじゃないですか」 「あー、なるほど」 朱里にも経験のあることだった。 無言の教室に、独特のプレッシャー。 テスト中の、あの独特の雰囲気に三日は押され、実力を発揮できないのだろう。 「・・・いつ後ろから刺されるかと思うと」 「それは疑いすぎ」 だらけた姿勢のまま、朱里はツッコミを入れた。 幼馴染の影響か、どちらかと言えばツッコミ気質の朱里だった。 「あー、だるー」 「・・・だったら、一息入れましょうか」 だるすぎてヒロインにあるまじき表情になってきた朱里に、三日が提案した。 「マジ!?」 「・・・勉強なんてモチベーションが低いまま続けても、あまり身につきませんし。・・・休憩も大切です」 「やっほーい!」 三日先生の言葉に諸手を上げる朱里。 そのまま大きく伸びをする。 「そー言えば、正樹たちは今頃どうしてるかしらね」 お茶とお煎餅を用意しながら、朱里は言った。 完全にリラックスモードだった。 「・・・確か、千里くんが葉山くんと2人で今日映画を見に行くと仰っていましたが」 「結婚しちゃえYO!ってくらい仲良いわね。・・・・・・死ねばいいのに」 最後の一言でドス黒いオーラを纏う朱里。 「・・・ええっと、あ、そうだ!・・・折角ですから、聞いてみます、二人の様子?」 「聞いて・・・・・・って声とか拾えるの?ココから?」 元の表情に戻り、聞き返す朱里。 668 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 03 21 ID rcML5ZKE 「・・・はい、この携帯電話の機能を使えば」 朱里の言葉に首肯する三日。 「ケータイかー。アタシ、キライなんだよね、ケータイ」 「・・・私とは、よく長電話をしますのに」 「あれはトクベツ」 お煎餅をバリバリ食べつつ、そんな話をしながら、三日が鞄の中から携帯電話を取り出す。 説明書を参照しつつ、携帯電話を充電器とスピーカー(本来は携帯オーディオプレイヤー用)に繋げる。 そして、待ち受け画面でキー入力。 「・・・9、1、3、と」 その後、通話ボタンを押す。 『Standing by…』 嫌な予感しかしない、くぐもった電子音声が響き、隠し機能(の1つ)、盗聴機能が起動していく。 「ズイブンと変わった機能があるのね」 「・・・このような便利機能(ワザ)が計2000個あります」 「今となってはタイムリーとは言いがたい個数ね」 『…Complete』 そうこうしている内に、三日の電話の盗聴機能が、御神千里の携帯電話と繋がる。 『ところで、はやまん的に、何ていうか・・・・・・、女の子観ってどうなの?』 千里の声がスピーカーから響く。 「キター!」 いきなり葉山の恋愛観に切り込む千里の言葉に朱里は目を輝かせて叫んだ。 叫んだ勢いで三日の顔におせんべいの食べカスが飛ぶが、そんなものは見えていない。 ティッシュで顔を拭く三日の横で、朱里はスピーカーに耳を近づける。 『オンナノコって、みかみん。いきなりどーしたよ』 『んー、何ていうか、俺には、その、三日がいたりいなかったりするワケじゃん?それで、時々はやまん的に妬ましいというかそんなんじゃないかとか、そういう風に感じちゃったり』 『ないないないない。あんな女返品しちゃえよって位ない』 『それじゃあ、他の女子とは?その、そういう関係になりたいとか思ったこと無いの?』 御神千里の言葉に、スピーカーに更に更に耳を近づける朱里。 『しょーじき、今の俺は、ボールが友達、ボールが恋人ってカンジかねぇ』 『サッカー漫画じゃん、ソレ』 と、千里からツッコミを入れられて笑いあう2人。 『ま、今はバスケ位しか考えられねぇわ。正直、リアル女子と付き合ってる自分の姿とかマジ想像つかねぇ』 ちなみに、正樹はスポーツのみならず、漫画からゲームまで趣味は幅広い。 ・・・・・・中にはゲームはゲームでも18禁のモノまであったりするのだが。(朱里がどうしてそんなことを知っているのかはヒミツです) 『んじゃぁ、好きなコとかは居ないわけだ、まだ』 『好きなヤツなら居なくは無いけどな』 『だれー?』 「誰よ!」 千里と唱和する形でスピーカーに向かって叫ぶ朱里。(通話ではないので男子組に声は聞こえません) 『みかみん』 「「ちょっとー!?」」 正樹の一言に、朱里のみならず三日までが叫んだ。 「やっぱり、ホモ?ホモなのね、2人は!!」 「・・・葉山くん、私に対するネガティブキャンペーンが凄まじいと思ったら、そういうことだったのですね?」 室内の黒いオーラが二倍、いや二乗される。 『あとは九重もだし、バスケ部のみんな、クラスの奴らもだな』 『友達として、ってことねー』 スピーカーからもれ出る千里の声は、苦笑だろうか。 その言葉に、女性陣も安堵のため息を漏らす。 「正樹、今のはマジで心臓に悪いわよ」 「・・・正直、今のはかなり・・・・・・」 ようやく黒いオーラから開放される2人。 669 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 03 52 ID rcML5ZKE 『ま、その中でも俺の名前を最初にあげてくれたのはコーエイというかニンテンドーというか』 『そら、一番の親友だからな』 『・・・・・・』 「照れてんじゃねーわよ」 正樹の言葉に無言となった千里に、黒オーラが再発する朱里。 『まぁ、そんなはやまんの攻略難易度を設定するとしたら中の上くらいってところー?』 『アン、何故そーなる?』 『恋愛ベクトルに誘導できないとお友達エンドになりそうだから』 『モーションかけられりゃ、俺も気づくと思うけどなぁ』 「ぜってー嘘だ」 「・・・同感です」 頬をかきながら言ったであろう正樹の言葉にツッコミを入れる女子2人。 『ハハハハハ・・・・・・』 女性陣と内心同意見なのだろう。御神千里は苦笑しているようだった。 『ンじゃあ、そう言うみかみんはどうよ』 『俺ねぇ・・・・・・』 考え始める千里に、今度は三日がワクワクした様子でスピーカーに耳を近づける。 対する朱里は興味なし、という顔をしていた。 『しょーじき俺さ、去年辺りなら、女の子にとってはすっごいチョロかったと思うよー。ギャルゲーなら攻略難易度下の下くらい』 『そうかぁ?』 『寂しがり屋さんだもん、こー見えて』 冗談めかして、千里は言った。 『兎じゃああるまいし』 『寂しくて死ぬトコだったよ?』 『マジで兎かよ!』 正樹がツッコミを入れた。 「・・・私的には、千里くんは大型犬のイメージなんですよね、大人しくて毛がモフモフのグレートピレニーズ辺り」 「デカいってところには同意」 朱里としてはデカくて鈍い河馬やら象辺りを押したい所だが。 ちなみに、三日のイメージは飼い主にじゃれ付く子犬。 正樹はやんちゃな虎の子。 自分は―――何だろう? 蛇辺りが似合いだろうか。 ずるい女だから。 「・・・朱里ちゃん?」 見ると、三日が気遣わしげに朱里の方を見ていた。 「ああ、何でもない何でもない」 笑顔を作り、三日を安心させる朱里。 そうして、改めてスピーカーに耳を傾ける。 『だから、少し優しくされるだけでその娘にまいっちゃったと思う。甘えちゃったと思う』 『そう言うモンかねぇ』 納得しかねる様子の正樹。 恋愛経験が無いとそんなものだろう。 『でも、今は三日がいるから、難易度は無限大かなー』 『緋月ねぇ』 声音だけでも苦々しげな様子が感じられる。 『やっぱ、はやまん的に仲良くやれないかな、三の字と』 『三日だから三の字って・・・・・・。そりゃ、ストーカー被害を目の当たりにすりゃーな』 『過去は水に流してさ。俺は気にしてないのに』 『・・・・・・いや、気にしろよ!ドンっだけ危険にドンカンなんだよ!!』 『んーいや、気にしてないって言うか、なんと言うかその・・・・・・』 ゴニョゴニョと呟く千里。 嚥下する音は、照れ隠しにペットボトル飲料でも飲んでいるのか。 「あによ、はっきりしない男ね」 「・・・千里くん、可愛い」 「うそぉ!?」 千里の声に本気でときめいているらしい三日に本気で引いている朱里。 三日の親友をやって1年以上になるが、未だに彼女の男の好みは分かりかねる部分のある朱里だった。 670 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 04 28 ID rcML5ZKE 『お前、ぶっちゃけ緋月のドコが好きなわけ?』 『ブ!』 苦々しげな正樹の声に、千里が飲料をむせる声が聞こえる。 「汚いわね」 「・・・」 ツッコミを入れる朱里を不満げに見る三日。 先ほど飛んできた煎餅の食べかすをぬぐったハンカチは彼女の手元にある。 『いや、何でそんなこと今更急に聞くわけ?』 『いやー、今まで聞こうと思って聞けなかったからなぁ。今までは隣に緋月がいたし』 『好きとか嫌いとかさ、ストレートに言われても困るって』 攻略難易度なら良いらしい。 『でも、お前ら付き合ってるんだろ、俺的には不本意だがよ』 『そりゃ、向こうから頼まれたしね』 「そんな理由!?」 スピーカーからの声に、思わず叫ぶ朱里。 『それだけでくっつかねーだろ、お前なら特に』 朱里と同じような意見を、正樹も持っていたようだった。 こう言う時、朱里は正樹と精神的な部分で繋がっているような感覚を覚え、嬉しくなる。 『まぁ、マジな願いにはマジに答える主義ではあるけどね。それが相手の意に沿わないとしても』 付き合いたくなかったらそう言っている、ということらしい。 『で、緋月の場合は意に沿ったワケだ。どういうわけか』 『それが納得いかないと?』 『そう言う事だ』 『九重のこととは無関係に?』 『そのネタはもうやったからな』 『しっかし、好きなところねぇ・・・・・・』 そこで言いよどむ千里。 「ホントはっきりしないわね。迷う所、フツー?」 「・・・千里くんかわいいです千里くん。・・・千里くんは私の婿!」 同じリアクションでも真逆の対応を取る2人。 特に、三日は椅子から床の上に寝転び、ゴロゴロと身悶えていた。 『嫌いなところからでも良いぞ。むしろそっちからの方が』 『嫌いなところねぇ。時々、って言うか結構俺に何も言わないで動く所とか?ソレぐらいしか思い浮かばないや』 千里の言葉に、ゴロゴロを止めてかなり本気で考え出す三日。 『フツー気にするところだろ。明らかにイジョーじゃねぇか』 『たかだか、それ位の異常性に目くじら立ててもねぇ』 「あ、異常なのは否定しないのね」 「・・・どこに異常性があるのかが分かりませんけど」 「さぁ?」 朱里と三日は今までの自分達の行動を思い返した。 ・・・・・・何一つ異常な点は見受けられなかった。 悲しいかな、この場に常識人はいないのだ。 『百歩譲ってみかみんに実害が無いとしよう、今現在は。だがよ、この先もそうとは限らねーだろ』 『それが一番心配なわけだ、はやまんとしては』 「・・・私は千里くんに幸福しかもたらした覚えはありませんけど」 「幸せの青い鳥か、アンタは」 「・・・むしろ、私の幸せは千里くんの幸せ。・・・そうでしょう?」 「まったく持ってそのとおりだわ!」 一瞬は不満そうだった朱里だが、三日の言い換えに手を握って同意した。 『親友の隣にバクダンが転がってると思うと、おちおち夜も眠れやしねぇ』 『そこは見解の相違って奴だねー』 口調はおどけたまま、冷たい声音で千里は言った。 「・・・この台詞、白衣とメガネかけて言って欲しいです」 「誰得よ、それ」 「私得です!」 「納得」 671 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 05 05 ID rcML5ZKE 『アイツはただ、恋に必死なだけの女の子だよ。爆弾なんかじゃ、ない』 『とてもそうは思えねぇけどなぁ・・・・・・』 「昔の偉い人は言ったわ。恋愛はバクハツだー!、と」 「・・・名言だとは思いますけど、本当にそれ、昔の偉人が言ったんですか?」 そんな馬鹿トークをしている間にも、スピーカーからは千里の言葉が続いていた。 『どれほど不安や嫉妬や怒りや悲しみに駆られても…・・・!例え心が病もうとも…・・・!恋をすることをやめない。そう言う奴だよ、アイツは!そう言うのって―――」 『ヤバいよ』 言葉に熱が入ってきた千里を、正樹が冷たく留めた。 彼の言葉に、何故か朱里の心もヒヤリとする。 『どんなになっても、ンな風に手前の意思を押し通そうとするエネルギーが、ほんの少し矛先がズレたら、本気でヤバいことになる。そう言う想いって、むしろ―――怖いよ』 その言葉に、朱里は以前正樹が話してくれたことを思い出した。 小学校の頃、バスケットボールの試合でとんでもない選手に当たったらしい。 相手のプレーからは、バスケットにとんでもない情熱を燃やしていることが伝わってきて、そしてそれ以上に試合に負けてはならないという切迫感が伝わってきた。 その選手と相対して、正樹は恐ろしかったという。 バスケットに向ける、その暴力的なまでの力の矛先が一度他へ向かうとどうなるか、それを思うと恐ろしい、と。 『怖い、ね。まぁ、それぐらいの方が相手する甲斐があるって言うか『お前も、怖いよ』 正樹の内心も知らずに暢気に続けた千里の言葉は、やはり遮られる。 『いっくら中等部時代に滅茶苦茶な連中を相手してきたからって、いや相手してきたのにも関わらず、未だにそう言う滅茶な連中を受け入れちまう。それは怖いしヤバいし―――危うい』 『怖くてヤバくて危うい、ね。じゃ、はやまん、そろそろ俺と友達止めとく?俺らのとばっちり受ける前にさ』 『バカ言うな!今更、ハイさようなら、なんてなってたまるかよ。これでもお前のコト結構好きだしよぉ』 軽口とはいえ、好き、という言葉は自分に向けて欲しいと願う朱里だった。 『ウン、俺も同じ』 恐らくは笑みさえ浮かべ、千里は正樹の言葉を受け止める。 それは、朱里にはただヘラヘラしているとしか見えないが、三日にとってはどうなのかは分からない。 『はやまんのことも好きだし、誰かの危うさも、自分の危うさも、みんな好きなものだから。だからみんな自分で背負ってく』 千里はいつもの軽い調子でそう続けたが、 『本気でヤバくなったら、本気で止める。止めてみせる……!』 と、いつになく真剣な声でこう言った。 「・・・・・・」 意外な言葉に、思わず朱里は息を呑んだ。 『だから、そんな心配しないでよー』 『ゼンブ分かってんじゃねぇか。けどよ、俺の考えは変わんねーぜ。緋月みてーな奴はヤバいと思うし、奴がマジでヤバくなったらマジでお前を引き離す』 「・・・引き離す、ですか」 正樹の言葉に苦々しげな顔をする三日。 彼女にとっては敵対宣言をされたようなものだ。 『ン、覚えとく』 と、しかし一方の千里は静かに受け止めた。 その声の後ろからは、喧騒が聞こえる。 どうやら、目的の映画館に辿り着いたらしい。 「御神のヤツ、一応三日ちゃんとの付き合いのこと、マジメに考えてたのね」 「・・・元々、千里くんって結構真面目な方なのですよ」 「そーかしら?バカやってる印象の方が強いけど」 「・・・真面目な部分、あまり表に出さない人ですから」 そう言う物だろうか、と朱里は思った。 「・・・慣れると、少しずつ内心が見えてきてたまらなく可愛いんですけどね」 そう言って微笑を浮かべる三日の顔は、ほのかに朱に染まり、本当に幸せそうで。 「良いわね、みっきーは」 本当に羨ましく思い、朱里は言った。 「殺したいくらいに」 本当に、妬ましく思い、朱里は続けた。 「・・・ごめんなさい、無神経でした」 「良いのよ、みっきーと御神千里をくっ付けるのは、アタシの計画だったし」 朱里としては、三日を利用して、御神千里の関心を正樹以外の方向へ向けさせる手はずだった。 そのまま御神千里を正樹から引き離せなかったのは、むしろ朱里自身の不手際だと自己分析していた。 「いーえ、計画(笑)ね」 策士の才は自分には無いな、と朱里は自嘲した。 672 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 05 37 ID rcML5ZKE 「・・・その計画に、私は助けられました」 「みっきーを利用するための計画よ、ぶっちゃけ。アタシの成果にならなきゃ、手伝った甲斐は無いわ」 甲斐も無いし、意味も無い。 「・・・でも、朱里ちゃんと葉山くんの距離は」 「近づいたわね、トモダチとしては。でもまー、小さかった頃ほどじゃないけど」 結局、緋月三日に協力したことは、自分の恋愛にとってどれ程有益だったのだろうかと朱里は考える。 親しい関係には戻れたが、御神千里の言う『お友達エンド』に近づいただけのような気もする。 『プラマイゼロ、って所か』 朱里の心の冷たい部分がそう分析し、それから嫌な気分になる。 親友を完全に自分の道具として観た発想だった。 『って言っても、利用し合うために結んだ友情だけどね』 心の冷たい部分が、再度事実を突きつける。 そう。 御神千里と正樹の心を射止めるために、朱里と三日は友情を結んだ。 その打算的な事実は厳然と変わらない。 恐らくは、今もなお。 「・・・朱里ちゃん、朱里ちゃん、どうしたんですか?」 気が付くと、三日が朱里の顔を心配そうに覗き込んでいた。 どうやら、思いのほか長く考え事をしていたらしい。 「ああ、ゴメンゴメン。何でも無い」 大げさな動作で手を振り、否定する朱里。 その動作すら、打算的な友情のための空々しい行為に思えてくる。 空々しく、空しい、行為で好意。 「・・・勉強をさせすぎてしまったでしょうか」 「や、そーゆーんじゃ無いんだけど」 いやにマジメに考え込む三日にツッコミを入れる朱里。 基本ボケ同士の三日と御神千里に、基本ツッコミな正樹と朱里。 カップリングとしてはかなりバランスが悪いんじゃないかと思えてきた朱里だった。 と、いけないいけない。 冷たい考えに引っ張られている暇は無い。 学生の本分は学業だし、乙女の本分は恋愛だ。 それ以外のことにかまけている余裕は無い。 「やっぱ、正樹をコッチに引き寄せる策を考えなきゃ駄目よねー」 半ば無理やりにいつものペースに自分を戻し、朱里は言った。 「・・・それなんですけど、朱里ちゃん。・・・とても今更なことをお聞きしてよろしいでしょうか」 大真面目な顔で、三日が問いかけてきた。 「別にいいけど、なに?」 ゴクリ、と嚥下する音を立てたのは、朱里か三日か。 「・・・どうして朱里ちゃんは、葉山くんにストレートに告白してしまわないんです?」 その言葉に、朱里は息を呑んだ。 『ヤンデレの娘さん 朱里の巻part1』へ続く おまけ 後日 「どうしたの、三日。こっちの方見てニヤニヤして」 「・・・いえ、やっぱり千里くんはかわいいなって」 「いや、ゴメン。高校生男子に『かわいい』って形容詞は止して。マジ恥ずかしいから」 「・・・そう言う所が可愛いのですのに」 「ったく、まいったなぁ・・・・・・カンゼンにまいってる、俺」 「・・・何か、おっしゃいました?」 「・・・・・・何でもない」 「・・・やっぱり、可愛いです」
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/1956.html
「おはらっきー! らっきー☆ちゃんねるナビゲーターの小神あきらです♪」 「同じくアシスタントの白石みのるです」 番組開始の挨拶とともに笑顔を振りまくあきらと軽く会釈する白石。 「では早速お便りです」 白石はそのハガキの内容を読み上げる。 「『あきら様はSですか? ドSですか?』ちなみに僕はドSだと思います」 白石が付け加えた余計な一言に反応し、あきらが凶悪な顔つきで灰皿を投げつけた。見事に 白石の頭部に命中し、床に転がってカラカラと余韻の残る音を立てる。 「あきらイジメなんかきらいっ。ファンのみんなとも仲良くできるといいな」 一瞬にしてぶりっ子モードに転じる。潤んだ瞳の上目遣いは、見た目だけなら可愛い。 「で、では次のお便りは……」 灰皿のダメージから立ち直りきれず、少しふらつきながらも番組を進行する。 「『あきら様はツンデレだと思いますが、ヤンデレの素質もあると思います。』ヤンデレという 言葉を知らない人のために説明しておきますと、精神的に病んでいるキャラがデレ状態にある とか病的なほど誰かにデレであるとかいうことを指します。この状態のキャラは得てして過激 な行動に及ぶことが多いようですが、あきら様は――」 「さっきから聞いてれば人のことを散々言ってくれるじゃないの」 ヤンデレの説明の間、刻々とあきらの表情が不機嫌になっていることに気付いていなかった のが白石の運の尽き。気付いていたとしても番組の進行の上で止められるものではなかったが。 とにかく、その表情と声はとっくに黒くなっている。もちろん色彩としてではなく比喩表現 としての黒である。 「いえ、これはヤンデレという言葉を説明してあきら様はどうですかと訊こうと」 対して白石は青くなっていた。こちらは比喩ではなく。 「第一誰がデレよ誰が! あたしがいつあんたにデレたって?」 「は、ハガキに書いてあったんです!」 視聴者は自分に火の粉が降りかからないのである程度踏み込んだ質問もできるし、そういう ハガキを採用するのはディレクターや構成作家なので白石に責任はないのだが、あきらの怒り の矛先になるのは決まって白石である。あきらのツンギレがこの番組の基本的な要素であり、 視聴者にとってこの番組の最も面白いとされる部分であった。 毎週同じパターンのやり取りを繰り返し、しかしファンを飽きさせない二人もそれなりの 人気を博している。 男女のコンビで一つの番組のレギュラーを勤めるとよくあることだが、ファンが彼らなり に想像を巡らせる事柄がある。 つまり、この二人はどんな関係なのかと。 特にらっきー☆ちゃんねるの場合は、白石があきらにマジギレしたうえに暴走し、セット を破壊するという暴挙に出たことがある。先輩に(威圧的に)仲を取り持って貰ったとはいえ いつの間にか元の鞘に収まりその後も普通に番組を続けているという事態が、彼らの妄想に 拍車をかけている。 ある者は、二人の関係は番組そのままだという。 ある者は、二人の仲は険悪だが仕事のために共演を続けているという。 ある者は、二人は恋人関係であり、番組での掛け合いはポーズだという。 ある者は、所詮は芸能人、番組は番組でプライベートでは何ともないという。 ある者は、白石の反逆そのものが番組を盛り上げるための演出であったという。 二人を直接見るスタッフでさえ何もわからず、最後の説を否定する以外には一般のファンと 二人を見る目に違いはなかった。 真実を知るのは、当の二人だけである。 「あんた、わかってんでしょーね」 その日の収録後も、白石はあきらの楽屋に呼び出された。 「座んなさい」 白石が楽屋に入るなり命令され、それに大人しく従って正座した。いくらあきらが小柄とは いえ、床に正座する白石の前に仁王立ちすればあきらが見下ろす形になる。 「あたしがツンデレ? ふざけるのも大概にしなさい」 「いえ、あれは」 あきらの威圧的な物言いと視線に、白石の身が竦んだ。正しく蛇に睨まれた蛙である。二人 の間には絶対に覆せない上下関係があった。 「へえ、あんたはあたしに口答えできるほど偉くなったのね」 「そ、そのようなことは」 番組内では白石にもある程度の弁解をさせていたが、ここではそれすら許していない。 「あたしに逆らうな。いつもいつも言ってるわよね」 「はい……」 今回のことは番組の進行上仕方なかった、という反論を白石はしなかった。反論しても火に 油を注ぐだけだからである。 「毎回毎回、あたしが教育してやってるのにまだわかんないのかしら」 「うっ……」 あきらが爪先で白石の股間を突くと、そこは既に固くなっていた。 「ここは、ちゃんとわかってんのに」 それは毎週行われる『教育』の成果だった。あきらが白石を楽屋に呼び出した時点で、こう なることは二人ともわかっているのだ。 あきらが固くなっている部分を爪先でなぞると白石は小さく身悶える。 「あたしがたてろって言わなくてもたってんのよ。あんたもこのくらい気を利かせなさい」 「これは勝手になって――」 あきらが一睨みしただけで、白石の口は止まってしまった。 「言わないとわかんないのかしら? 脱ぎなさいよ」 「は、はいっ!」 あきらの言い分は、毎回同じことをやってるんだから流れを読め。下僕は命令する前に実行 するのが当然。 白石の言い分は、言われずに分かるわけがない。 もちろん、白石がそれを口にすることはない。 「なにチンタラやってんのよ」 いくら回数を重ねたとはいえ女性の目の前で服を脱ぐのは気恥ずかしさがあり、手の動きも 躊躇いがあるのだが、そのせいでベルトを緩めるのに手間取ってしまった。あきらに急かされ てピッチを上げる。 果たして、彼の反り立ったものが露になった。 「あたしに脱がせてもらおうなんて百年早いのよ」 「そんな期待をしていたわけではないのですが」 あきらがまた睨むと、そのまま白石を突き飛ばした。白石はとっさに足を後退させること ができず、尻餅をついてしまう。 「やることはわかってんでしょ。学習しなさい」 あきらはドスを利かせた声で言い、白石の前に膝をついて座り、頭を下げる。その動作の まま、あきらは白石のモノを口に含んだ。 「んむっ、ちゅっ……んんっ、ん」 「あ、あきら様……」 フェラチオは男性だけが一方的に快感を得る行為であること、必ず男性が女性を見下ろす 体位になることから、一般的には女性から男性への奉仕や従属を表す行為とされる。 その一方で、男性器を他人の口内に晒すのは非常に危険な行為であり、これによって相手 の男性を支配下に置いていると捉えることもできる。 解釈は自由として、そのどちらのつもりでやっているのかは本人しか知らない。 「あっ、あきら様」 あきらの舌が白石の肉棒をねぶり、唇が柔らかく締め付ける。その度に唾液が淫らな音を 立てて二人を興奮させる。 「んちゅぅ……んふぅ……」 白石は全く抵抗していない。白石にとってあきらを振りほどくことは、物理的には容易で ある。しかし、性格が悪いとはいえ掛け値なしの美少女が自分のものを咥えて快感を与えて くれているという誘惑に抗うには、彼は若過ぎた。 「ううっ……んっ……な、なんでそんなに上手いんですか」 暖かく柔らかい刺激に、白石は思わず喘ぎ声をあげてしまった。あきらの舌が白石の一番 好きな部分を的確に攻めてくる。上目遣いで白石の反応を窺いつつ、駆け引きなどなくただ ストレートにそこを攻め続ける。 仮にこれが愛情表現であるとするならば、言葉に置き換えてただ『好き』とだけ言うような、 そんな真っ直ぐさだった。 それはあくまで例え話であって、当のあきらは何も言わず一心不乱に舌で舐り続ける。もし 今すぐ口を利けるならそれは愛の告白なのではないかと思えるほどに。 十四歳の女の子の技巧に屈して、白石に射精感がこみ上げてきた。 「あきら様、なんでこんなこと……」 思わず口をついて出た疑問に、あきらは顔を上げて白石を見やる。自分の質問がもたらした 結果に、白石は複雑な表情をした。 「なんでって決まってるじゃない」 あきらは白石の前に再び仁王立ちになる。 「あんたみたいな三下はあたしに逆らえないの。それを教えてやるためよ」 あきらは自分のスカートをめくり上げて白石に見せる。その下には何も穿いていなかった。 「あたしの番組で白石なんかに楯突かれたとあっちゃ、あたしの沽券に関わるのよ」 あきらは自分の指で秘唇を広げて見せた。その部分は既に液体に濡れて艶を帯びている。 「言いなさい。僕はあきら様のものです。二度と歯向かいませんって」 微笑に善悪があるとすれば、それは間違いなく悪だった。それも、美しさを備えた悪だった。 「…………」 白石は答えられずに口をぱくぱくさせている。 「何度もあたしとヤっておきながら、まだあたしのものになってないつもりだったの? あたしの 初めてを奪っておきながら後はしらんぷりとでも言うのかしらねー」 「それは――」 白石は二の句を継げなかった。 番組本番中に大暴れして以来、二人は絶縁状態だった。その態度は仕事にも表れ、人気は 低下していった。番組関係者が打ち切りを考えるようになった頃、あきらは白石を襲った。 その美貌で誘惑し、衣服を剥ぎ取り、手や口やあらゆる部分で愛撫し、自らを貫かせた。 あきらが何度も繰り返すように、白石は逆らえなかった。あきらが流した涙と破瓜の血を 彼は忘れられなかった。 無理矢理奪ったのはあきらの方だ。だが、いくら理屈ではそうであっても、男としてそれ を主張することなど出来るはずも無い。誘惑に抗えなかったのは事実なのだから。 結局、この出来事が二人の関係を決定付けた。毎回、収録後にはスタッフに見つからない ようにどちらかの楽屋に出入りするようになり、一時期落ち込んでいた人気は回復の兆しを 見せ、安定した人気を誇る番組となった。 「アンタはホントはあたしとヤりたいって思ってんのよ。これがその証拠」 あきらの視線の先には、白石の男の象徴。早くしたいと、懸命に自己主張している。 「ですからこれは自然と」 「そうよ。あんたはあたしに従うのが自然なのよ」 あきらの主張は一貫してそれだった。白石の意思など関係ない。 あきらはそれだけ言って白石の男根に腰を落とし、そのまま挿入させた。座位の形で二人 は繋がり、十センチもない間隔で見詰め合った。 「んっ……あたしが、ツンデレなわけっ……ないじゃない」 「あきら様、なんで、そんな……」 始めはきつく当たっていた白石に、もしあきらが惚れているのだとすれば、あきらはツン デレであるということになる。あくまで理論上はそうなるというだけの話だ。 「ツンデレとか、んぅっ……ヤンデレとか……ふざけるんじゃないわよっ……あんたはあたし のものなのよ。ただそれだけなのよ!」 あきらは頑として譲らない。病的なまでにそれを繰り返し、その結果として男を犯すという 行為にまで及んでいる。もしこれが白石への好意に基づくものであるとするならば、あきらは ヤンデレであるということになる。あくまで理論上はそうなるというだけの話だ。 あきらは何一つ肯定しない。ただ、白石の上で腰を振るだけだ。 「あんたなんかっ……あたしにすぐイかされちゃうだけの男なんだから!」 前後に腰を振って、その度に喘ぎ声をあげる。 「ほら……あっ、あぅっ……き、気持ちいいんでしょ?」 「は、はいっ」 白石は初めて素直に肯定した。あきらの膣内はそれほどまでに良かった。 それだけでなく、あきらも自分の中の感じる部分を白石に刺激されていた。座位という体位 を活かして、体重をのせて深く挿入させていた。 「あぁっ、ふぁっ、あ、あたしで、感じてるんでしょ?」 「あ、あきら様も」 これだけ近づけば、互いが深い吐息をついていること、その原因が快感であることもすぐ に分かってしまう。 「みのる……あっ、あぁん、あたしを抱きしめなさい」 白石が抱きしめる前に、あきらが自ら白石に身体を寄せ、その背中に手を回した。すぐに 白石も従い、二人は抱き合う形になった。 「も、もっと強く、だきしめなさい」 白石との身長差から、あきらは相手の胸に顔を埋めている。なので白石からは見えないが、 その目はとろんとしていて、口はだらしなく半開きになっていた。呼吸が乱れていることだけ は、白石にも感じとることができた。 「あっ、うぅ……絶対に、離さないでっ」 「わっ、わかりました……」 それを告げると同時に、あきらも白石を強く抱きしめる。 「わかったら、あたしの、んっ……中にっ……出しなさい……あんたは、あたしの……もの、 なんだからねっ……」 あんたはあたしのもの。その言葉を繰り返す度に、腰を擦り付けるように前後させ、自分の 中に白石を招き入れる。そうすれば、白石はあきらのものになると言わんばかりに。 「あたしだって、ああぁっ……他のやつには、こんなこと」 自分の身体の深い部分を貫かせる。それは確かに、互いの所有権を主張する行為であった。 「あたしの中でイきなさいっ……あたしの中に出しなさい……っ」 この体勢では、あきらが退かない限り逃れることはできない。しかし、白石には逃れよう という気は既になかった。 「あきら様、もう、いっちゃいそうです!」 「出しなさいっ、あんたのものは……ぁあっ……全部、んっ、あたしのっ」 あきらは更に腰を激しく動かす。その度に、あきら自身も高まっていった。 白石はあきらの中に、あきらは自分の中に白石が入っていることに酔いしれていた。互いの こと以外何も考えられなくなるほどに心が昂ぶり、それは頂点に達しようとしていた。 「あきら様、あきら様っ」 「あぁっ、あたしの、ものっ……ぜったい、はなさない……んっ、ぁっ、ああああぁぁぁ!」 あきらの中が白石のものを急激に締め付け、白石はあきらの中の深くに射精した。 「はぁっ……はぁっ……」 「あきら様……」 同時に絶頂に達した二人は、荒い呼吸のまましばらく抱き合っていた。 白石が後始末を終えて気だるい雰囲気の中、あきらは鞄の中のタバコを探し始めた。一本 取り出して咥え、ライターはどこだったかと再び鞄の中を探る。 「あきら様、何してるんですか」 「何ってタバコに決まってんでしょ。ヤった後にタバコって定番じゃない」 何の悪気もなく、さも当然のようにあきらは言ってのける。 「ダメですよ、匂いは残りますから。タバコ一本でもスキャンダルですよ」 そうなると、白石と番組が出来なくなるわけで……。 「仕方ないわね」 タバコを鞄の奥深くに仕舞った。白石はキョトンとした顔であきらを見つめる。 「あんたに従ったわけじゃないわよ。ただ私がそうしたかっただけ」 今度は事も無げに白石を押し倒し、そのまま抱きついて強制的に添い寝した。 「あ、あきら様!?」 「あたしのイメージはヤった後はタバコを吸うか相手に抱きつくかなのよ。タバコがダメなら こうするしかないじゃないの」 「そんな無茶苦茶な……」 意味不明の理屈に、結局白石は流される。 「あきら様」 「あ?」 「どうしてこんなことしようって思いついたんですか?」 「あー、事務所の先輩から『男なんてヤらせてやればみんな言うことをきく』って言われてね」 「……そこまででいいです」 思わぬスキャンダルのネタを掴みそうになって、話をやめてもらう。 寄り添いながら交わした言葉は、睦言と呼べるような内容ではなかった。 今回も、好きだとか愛してるとか、僕はあなたのものですだとか、決定的な一言はどちらも 発しなかった。ただ片方が強制し、もう片方がそれに流されただけだ。 そしてそれは、その次の週も繰り返される。 「おはらっきー! らっきー☆ちゃんねるナビゲーターの小神あきらです♪」 「アシスタントの白石みのるです」 白石がいつものように会釈する前に。 「白石ぃ? あんたは『下っ端』で十分でしょ」 「え゙……一応、白石という名前がありますので」 「そんなのどーでもいいの。あたしが下っ端って言ったら下っ端。わかった?」 「しかし番組の進行上それでは」 「あたしはこの業界で十年以上もやってんのよ。そのあたしに逆らうとでも?」 「そんな、滅相もございません!」 白石は冷や汗をたらし身体を硬直させ、そのまま動かなくなった。 「今日もみんなのアイドル小神あきらが笑顔をお届け! らっきー☆ちゃんねる始まるよ!」 今日もあきらは淀みなく番組を進行する。 ツンデレだかヤンデレだか、あるいはそのどちらでもない本音を隠し、ある意味ファンの 妄想通りの、ある意味全く的外れな関係を保ちながら。 -終わり- コメントフォーム 名前 コメント これいいw -- 名無しさん (2009-10-23 20 01 21) あきらっていい性格してるなぁって思う -- 名無しさん (2009-02-16 00 45 18) おっきおっきアッー! -- 名無しさん (2008-04-16 01 44 00)
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1004.html
322 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 19 07 ID hZWgCSrL 『痴漢とヤンデレ:エクスタシー』 平凡なサラリーマンとは、おそらく俺のことを言う。そう、この俺、『麻生忠雄(あそう ただお)』。 この現代日本の男の平均値を搾り出してみよう。ほら、君も俺の顔を思い浮かべることができるはずだ。 平平凡凡な顔、身体、運動能力。なにも秀でたところなんてありゃしない。社会の歯車でしかない二十六歳。 それなりの人生を生きて、それなりに死んでいく。そんな未来しか見えてない。 スリリングな生き方に憧れた若き日もあったように思うが、今ではもうそんなこと、忘れてしまった。 ……それにしても、俺は今いつも通りの満員電車に乗って通勤している。が、何かが変だ。 いつも通りではない。 揺れる電車の中、俺は一人の女子高生と密着状態にある。 その子は某名門女子高に遠くから電車で通っている娘らしく、俺は何度か電車内で見かけていたし、密着状態も一度や二度のことではない。 それはそうだろう。どの車両に乗るかは、意識的にせよ無意識的にせよ、だいたいは決まっているものだ。 その女子高生ははっきりといえば地味で、おとなしそうな少女だった。大柄でも小柄でもないのだが、オーラとも言うべき存在感にかけていて、体格よりも小さく見える。 髪は黒で、後ろで大きな三つ編みにしており、今は俺の胸をうっとうしくくすぐってくる。 顔はあまり眺めたことは無い。おそらく俺と同じ、平平凡凡なのだろう。眼鏡をしているという情報しか、俺の頭には残っていない。 制服の着こなしも地味以外の何もいえない。スカートは校則にきっちり準拠しているであろう膝丈。脚はハイソックスで覆い隠されている。 本来なら、俺は密着状態であろうがその少女になんの興味も示すことは無かった。 だが、今日は違った。 少女の背中に密着している俺だが、その首筋を見下ろしたとき、強烈なフェロモンを嗅ぎ取っていた。 そのフェロモンに当てられて、俺の理性に皹が生じたのだ。 ……その首筋、舐めたい。 323 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 19 38 ID hZWgCSrL いや――いけない。 俺は平凡なサラリーマン。そんな痴漢行為を働けば、いちやく変態サラリーマンの仲間入りだ。 せっかく婚約して同棲中の恋人もいるのに、俺は職とともに全てを失ってしまう。 ――そもそも、あいつがいけないんだ。 俺はフィアンセである、『一条美恵子(いちじょう みえこ)』を思い出す。今は俺の部屋にいるだろう。何をしているかは知らない。 「忠雄さん! ……こ、このいかがわしい読み物は一体なんなのですか!? わたくし、忠雄さんがこんなにいやらしい方だとは思いませんでした!」 ある日、俺の秘蔵の人妻本を発見した美恵子が叫んだセリフである。 一ヶ月ほど前から同棲を始めた美恵子は、真っ先に俺の部屋をガサ入れし、上記のものに類似したセリフを連発してあらゆるオナネタを捨ててしまったのだ。 曰く、「忠雄さん、わたくしという婚約者がありながら、なんですの! このいかがわしいサイトの観覧履歴は!」 曰く、「忠雄さん、このティッシュはなんでございますか! ゴミ箱を妊娠させるおつもりですか!」 曰く、「ああいやらしい! わたくし、このようないかがわしいビデオが世に出回っているなどとは、つゆほどにも知りませんでした!」 曰く、「わたくしの目の黒いうちは、不潔な行為を一切ゆるしませんわ!」 美恵子はつまり、俺にオナ禁を強要した。 ならば恋人なのだから、俺の下半身の世話を美恵子がしてくれるのかと思えば、その期待は間違っていた。 「まあ、まさか忠雄さんは婚前交渉をお持ちになろうというの!? この美恵子、そんな軽い女ではございませんわ!」 美恵子は、思うに、古風すぎるにもほどがあるのではないか。 いや、事実現代では珍しいほどの箱入り娘だ。しかし、ネットも大衆雑誌も無しの生活が、ここまでの堅物を生み出すのは予想外だった。 昔――俺が大学生のとき、当時高校生の美恵子の家庭教師をつとめたとき。これがきっかけで俺達は恋人になったのだが、俺はこの時点ではこれも魅力だと思っていた。 実際、美恵子のこういう世間知らずなところは俺は好きだ。 俺は箱入り娘の親に家庭教師を任命される(美恵子の父は、俺の大学の教授だった)程度にはまあ、高学歴というかインテリと言える人間だったので、美恵子とは知的な分野の話が異様に合った。 下品な外国文学の話ではない。日本の古きよき文学について、二人で話し合った。俺達は互いに惹かれあい、今に至る。 思えば、文学の話で結びついた俺達が性的なものの見解に相違があるなど、当たり前だ。 世の中、こういうことで別れてしまう、言うなれば『夢を見ていたカップル』がたくさんいるのだろう。 ……とまあ、こういう理由で俺は一ヶ月オナ禁であるので、性欲は十分すぎるほどに溜まっていた。 もちろん、美恵子のことは愛しているし、美恵子だってたぶん俺を愛している。――愛しすぎているくらいで、俺がテレビの女優をきれいだと褒めただけでそのテレビをスクラップにしたくらいだ。 325 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 20 12 ID hZWgCSrL その後、ストーカーや無言電話の被害でその女優が活動を休止したのは、偶然だろうか。文学的に考えると、美恵子の生霊が……? いや、ばかな。 とにかく、俺は目の前の地味な女子高生に、すさまじいまでに魅力を感じていた。 ごくり。唾を飲み込む。 いや、なにやってんだ俺は。美恵子のためにも、俺は善良なサラリーマンで有りつづけるべきだ。教授からたくされたあの箱入り娘は、俺以外の人間では手におえないだろう。 それに、美恵子は一人では生きていけない。あの性格では一生社会に出られはしない。俺が養ってやらないと、だめだ。 そう、ここで社会的地位を失うわけにはいかない。 と、ここで違和感に気付いた。 ちらちらと、女子高生が『下』を気にしている。 『下』? 俺は下を見る。 おおーっ!!!!??? NO! 俺の股間のビッグマグナムは見事に肥大化していて、少女の背中をつんつんとつついていた。電車が揺れるたびに、マヌケにも当たっている。 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、少女は俺に態度で訴えた。 だ、だめだ……。 謝ろう。ここは謝るしかない。 しかし、無情にも電車の揺れは絶妙なタイミングで強化された。 「――うぁ!?」 倒れそうになる。まずい、何かに捕まらねば! 「んっ……」 ぽよん。……ぽよん? なんということか。おお、神よ。それほどまでに俺をスリリングな世界に導こうとしているのですね。 俺は見事に少女の胸を掴んでしまっていた。なんというか、柔らかすぎて一瞬別世界のものかと思った。っていうか、死んだかと思ってしまった。 その感触は、まさに天使。肉肉しいというか、俺の身体にはない女っぽさがどうしようもなく俺の興奮を促進した。 こういう地味な娘も、エロい身体してるもんなんだなぁ、と、なんだか感無量だ。 っていうかさ……ああ、俺、捕まったな。 今時さ、こういうセクハラ行為はな。すぐに警察行きのフラグが立つわけなんですよ。そうです。俺は人生終わりました。 皆さん、さようなら、さようなら! 326 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 20 43 ID hZWgCSrL ……と思ったが、ずっと少女の胸を掴んだまま放心していたにも関わらず、少女は何もしない。 後ろから顔を覗き込むと、ただ顔を赤らめてうつむいているだけだった。 ――俺の理性は崩壊した。 「――っ……!」 制服の上から、強く胸をもむ。少女は声にならないうめきを上げた。痛いのだろうか。 相変わらず柔らかくてとろけてしまいそうなエロい肉体だ。 股間のマグナムも、腰にすりつける。腰周りの肉も、ほどよくついている。気持ちが良い。 ぴくぴくと振るえる少女がなんだか可愛らしく、平凡なはずだった俺に眠っていた加虐心に火がつく。 制服の中に、下から手を突っ込み、ブラをずらして生乳を触った。 「はぅ……!」 手が冷たかったのだろう、少女はびくんと跳ねた。 周りの目を気にして見る。みな、背を丁度向けてくれている。俺達を見ている人間などいない。好都合すぎる。 俺は差し込んだ右手ですべすべの肌をひとしきり楽しみ、胸をちょいとつまんだ。 さらにうつむく少女。顔はゆでだこのように真っ赤だ。そんな少女にあまりに魅力を感じる。そうか、俺は変態だったのだな。 胸を、外側から円を描くように撫でてゆき、徐々に中心部に向かっていく。手触りからの推測だが、少女の胸には強いはりと弾力があり、なかなかのサイズながらもつんと上を向いている。 おそらく、俺の思ったとおりの場所――この円軌道の終着点こそが、少女のイチゴの生った場所なのだ。 「ひっ!」 しゃくりあげるように少女が小さく叫ぶ。その声は電車と、多すぎる人々の騒音に容易にかき消された。 俺の指が少女のピンクの果実に行き着いたのだ。色は見ていないが、どう見ても処女だし、なんとなくのイメージで、ピンクだとしておく。 乳首を指ではさみこみ、ちょいとひっぱった。 ぴくりと少女が反応した。 それに気をよくした俺は、くりくりと乱暴に弄ってみる。 「はぁ……ぁ……ぅ……」 あまりの羞恥心に、少女は興奮して息を荒くしていた。 乳首に刺激を与えるたびに、少女の口から声がもれ出る。 俺は、「感じてんのか? 淫乱な女だぜ」と言えるほど自分に自信は持っていない。 俺の手が冷たいからとか、屈辱だからとか、人前だからだとか、そういう羞恥心などの新鮮な刺激が少女を興奮させているのだ。 俺のフィンガーテクで少女が感じているなどとは、どうにも思えない。 が、それでも気分はいい。少女の反応は、痴漢もののAVで見たようなものよりよほど初々しくて可愛らしくて、エロい。 空いた左手も使おう。 327 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 21 13 ID hZWgCSrL 俺は大胆にも、少女の長いスカートをめくり上げ、少女のたっぷりとした尻を下着の上からつかんだ。 「んくっ……」 少女は脚を震わせて緊張を示した。拒絶の意か。 ならば、と、俺は胸を思いっきり乱暴につかみ、乳首を高速で擦り上げた。 「――っ!?」 ぴくんと少女の身体がはね、下半身への注意がそれる。その間に、するりと手を滑り込ませ、下着の中に手を差し込んだ。 もちろん、最初から急いで秘所に突撃などはしない。まずはその柔らかい尻の感触を味わうのが礼儀と言うもの。 左手で、丁寧に、ねっとりと、絡みつくように尻の肉をもみしだく。 直接触れる少女の尻はすべすべで、指に張り付くように肉質が見事な感触をかもし出していた。 「ぁぅ……ぅぅ……」 少女はもはや抵抗を示さず、俺にされるがままだ。上では乳首を弄られ、下では尻をもまれ。 おそらく人生でも最大級の屈辱だろう。 さて、肉感は味わいつくしたので、そろそろメインディッシュといきますか。 俺は左手をスライドさせ、股間に差し込んだ。 脚の付け根をすりすりと摩っていく。 「くぅ……ん」 少女の顔を後ろからまた覗き込む。あそこに触れる瞬間の顔が見てみたいからだ。 今の少女は、真っ赤な顔で、目を硬く閉じている。恥ずかしさに顔から火が出る勢いなのだろう。正直萌える。いや、燃える。 では、いただくとします。 「――ん――っ!?」 少女の茂みを探し出し、割れ目に指を当てた瞬間、少女の身体が大きくのけぞって口が開かれた。少女は声を抑えようと必死で、持っていたハンカチを噛んだ。 声にならない叫びが歯と歯の間から零れ落ちる。 ああ、いいよ、きみ。その大きさだと、周囲には聞こえない。 「ひぐ……ぁう……ひっ……!」 ちろちろと、弱い力で、じらすように花弁を弄くりまわす。 まだ本格的な性感帯は攻めない。ゆっくりと、反応をうかがいながらが良い。 ぐちゅぐちゅと、いやらしい音が響く。――実際には響いていない。周囲の騒音にかき消されている。 少女のそこは、既に濡れていた。まさか、俺の乳首攻めで本当に感じてしまったのだろうか。 いや、防衛本能というやつだろう。危険なときこそよく濡れるというらしいし。レイプの時が一番濡れるとも聞いた。 328 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 21 44 ID hZWgCSrL 少女は顔を上に上げて口を大きく開けて激しく息をしている。 肺から空気が押し出される感触があるのだろう。 そろそろいいか。と、俺はさらにその股間をまさぐり、小さな突起をみつけた。 「ん――!!!」 今までで最大の反応。俺がクリトリスをつまんだ瞬間だ。 少女は身体を大きくのけぞらせてびくびくと震えた。 おそらく、達してしまったのだろう。 早いな、つまらん。 俺はお構いなしに、クリトリスをさらに弄くりまわした。 「ひぐぅ……!?」 少女はついにこちらを向いて、抗議の目を向けた。初めて目が合った。 赤く染まった頬には、涙が流れ落ちていた。少女のその姿は、今まで見た誰より――美恵子より、美しいとさえ思った。 「イッたばかりなのに……!」とでも言いたげなその顔を無視しながら、俺は手をさらに加速させた。 「はぅ……あ、あぁ……!!」 少女の声が徐々に大きくなる。おいおい、周りに聞こえるぞ。 だが、誰も俺達を気にせず、吊り革を持ちながらうとうとしている。なんという平和ボケした連中だ。 もう、いいや。捕まってもかまわん。俺のやりたいこと全て、完走してしまおう。 俺は乳首を弄っていた右手を引っこ抜き、スカートの下に動かした。 左手ではクリトリスを弄ったまま、右手では、少女の割れ目を蹂躙し始める。 「ぃ、あぁ……ぅん……くあ……!!」 よほど気持ちよくなってきたのだろう。少女の腰はただの震えではない上下運動を始めていた。 少女はもの欲しそうに腰をくねらせ、その花弁は蜂を誘い、蜜をしたたらせていた。 ぱくぱくと何かを求めて開いたり閉じたりしている少女の秘所に、俺はついに指を……! 『×××駅ー! ×××駅ー!』 なんとっ! 車内アナウンスによって、俺は指を止めた。それは俺の降りる駅だ。 俺ははっと理性を取り戻し、少女から手を離してカバンを拾いあげ、電車から駆け下りた。 車内には少女を残したままだったが、気にしてる場合はない。 顔を覚えられた可能性は有るが、明日から車両を変えればいいだけの話。現行犯でもなければ証拠不十分だ。少女を避ければいいのだ。 とにかく……。 俺は駅のトイレに駆け込み、その個室で抜いた。 ありえない量。丁度アトリエかぐやで描かれるほどのレベルで出てしまった。 今までこれほどに女に欲情したなど、恐らく初めてではなかろうか。美恵子にすらここまで欲情はしたことない。 というか、美恵子はロリだ。 あの少女のように成熟した体はもってはいない。 ……その違いが、俺の脳を締め付ける。もしかしたら、俺は明日も少女に痴漢行為を働いてしまうかもしれない。 自分の中の『悪』が間違いなく俺自身の身体を蝕み始めていた。 329 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 22 21 ID hZWgCSrL 仕事を終えて、家に帰る。どたどたと慌てて美恵子が飛び出してきて、俺に抱きついた。 ああ、美恵子。なにもかもが懐かしい。 「……ん」 「どうした、美恵子」 「忠雄さん、あなた……浮気をしましたね」 「……!?」 俺は答える暇もなく、組み伏せられていた。玄関のタイルが冷たい。 美恵子は俺の腹に馬乗りになり、ヒステリックに叫ぶ。 「どうしてですか! どうして……忠雄さんには、わたくしがいるのに……! そんな雌犬の匂いと、精子の匂いを漂わせ、わたくしに対するあてつけなのですか!?」 「いや、違うんだ美恵子、誤解だ!」 「なにが誤解ですか!」 そうだ、何が誤解なんだよ、俺。全部俺が悪いんだ。美恵子の誤解なんか、なにもない。むしろ正しい。 「忠雄さん……わたくしが間違っていたのですね」 だが、美恵子は急にもうしわけなさそうな顔をして俺に謝り始めた。 「忠雄さんも、一人の男性です。やはり、将来的にではありますが、妻であるわたくしが……その、下のお世話も、しなければならないのですね……」 美恵子は、顔を赤くしながら自分の上着をめくり上げた。 ぺったんこで、ブラすらつけていない胸が剥き出しになった。あの少女と比べると、いささか迫力に欠けるだろう。 しかし、婚約者の今まで見たこともないような部分を見た俺のベストフレンドは、またまた天を目指して背伸びをしていた。 一発だしただけじゃ、一ヶ月の蓄積はなくならなかったと言うのか。 「忠雄さんの……」 ごくりと唾を飲み込み、美恵子は俺のズボンを剥ぎ取った。露出したマグナムを小さな手で掴む。 「ふごっ!!」 驚いて変な声を出してしまった。美恵子が俺のマグナムをぺろりと舐めたのだ。 「ああ、これが忠雄さんの……夢にまで見た、忠雄さんの……」 「お、おい美恵子、まて!!」 「忠雄さん、忠雄さん……!」 俺の声なんてまるで聞いてはいない。美恵子は夢中で俺のモノを舐め上げていた。 まるで大好物のアイスにでもしゃぶりつくように、小さな口で必死にむしゃぶりつく。 330 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 22 51 ID hZWgCSrL 「わたくしも、忠雄さんと同様に我慢していたのですよ……。でも、もう限界でした。忠雄さんが他の女に取られるくらいなら、こんなくだらない主義は捨てることにします!」 ……なんつーか。俺達は空回りしてるんだなぁ。と、つくずく感じた。 そういえば、美恵子は俺のモノを舐めている。ということは……。美恵子の尻はこっちを向いている。 俺は美恵子のスカートを掴んであげ、尻を露出させた。 二十四歳にしてはちいさくて可愛らしい尻と下着。 「た、忠雄さん……!?」 「我慢してたんだろ? なら、俺もご奉仕してやるよ」 下着を一部だけずらし、割れ目だけを露出させ、人差し指で触れた。 「ああ……!」 ぴくんと美恵子の尻が跳ねる。あの少女にしたときとは違って、声を押さえる必要がない。美恵子の、小さな少女のような声が心地よい。 花弁を指で押し広げ、中を確認してみる。 「た、忠雄さん、見すぎですよ! ……そんなところ、汚いでしょう!?」 「いいじゃないか。綺麗だぞ、美恵子」 ピンク色の膣が見える。俺はそこに人差し指を先っぽだけ入れ、ゆっくりかき回した。 「はぅ……ああっ!!」 ぴくぴくと、美恵子は反応する。その間にも俺の股間の怪物を小さな手で擦り上げるのは継続させている。 「お前、相当な淫乱だったんだな」 「ひぃ……い、言わないでぇ……!」 弄れば弄るほどに、美恵子の秘所からは蜜が溢れ出し、俺の顔に滴り落ちていた。 「俺の指を必死でくわえ込んで、可愛いまんこだ。お前にそっくりだぞ」 「わたくしの……一部なのですから……あっ……あたりまえ……です……!」 可愛い幼な妻(二十四歳なのに、外見は十四歳くらいに見える)への愛情を俺は完全に取り戻しつつあった。 あの少女の肉体に欲情した俺自身が、もはや嘘のようだった。 そうだ。 やはり、あの少女には絶対に近づかないでおくべきだ。 俺にはもう、こんなに魅力的な妻がいるじゃないか。 331 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 23 22 ID hZWgCSrL 次の日。 なぜ、こんなことになっているのか。 俺は再び少女と密着していた。 車両は変えたはず。 ……まさか! 少女も俺を避けるために車両を変え、それがたまたま同じになったとでもいうのか? いや、それにしてもできすぎている。 同じ車両でも、ここまで満員電車のなかで密着などできるか? 移動も制限されているのに。 少女がわざとここに来たとしか思えない。 「……あの」 「!?」 びくりと、今度は俺の肩が跳ねてしまった。 少女が話し掛けてきたのだ。 何を言われるのだ。まさか、俺の痴漢行為を携帯ムービーに収めたから、神妙にお縄につけというのか? それとも、俺を脅すのか? 金を出せと。なら、昨日大人しかったのは演技で、この少女はとんだくわせものか? 「あなた、麻生忠雄さんですね?」 「……ご、ごめんなさい」 俺は反射的に謝っていた。なんと、少女は俺の名前を知っていたのだ。馬鹿な! 調べたのか? それとも、毎日同じ電車に乗っているからいつのまにか知られて……。 ごまかすのももう無理だろう。しらばっくれるよりは、素直に謝ることにした。 「あなたは……犯罪者です……。それは、わかります、よね?」 丁寧な口調で少女が問い詰める。あまり怒っているようには見えない。感情の起伏が少ないタイプなのか。 それとも冷静に見えているほうがむしろ本気で怒っているというあれなのか。 「はい……どのような処分も甘んじて受けます」 もう、諦めた。 俺は小心者だ。こんな局面で対抗しようなんて気は起こらない。 「なら……」 少女は俺に何かを突きつけた。――って、ナイフ!? 「静かにしてください。これから私の要求を言いますから」 こくこくと、俺は必死で頷いた。 「まず、私は『近衛 木之枝(このえ このえ)』といいます。名前を復唱してください」 「こ……このえ」 「そうです」 少女は満足そうに微笑んだ。 332 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 24 05 ID hZWgCSrL 「麻生忠雄。名門国立××大学文学部卒業後、御神グループの系列である某大会社に入社。徐々にその能力を認められ、将来有望なエリートサラリーマン。その性格は真面目で、容姿とあわせて癖が無く、平凡そのもの。婚約者が一人存在。 名は、一条美恵子。その父は××大学文学部教授であり、彼の著書はロングセラーを多数たたき出す、かの有名な一条博士。……すばらしい経歴ですね。あなたのような方が、犯罪者などとは、世の中悪くなったものです」 「そ、その通りです……」 なんで、俺の情報がこんなに……! 馬鹿な! 一日やそこらで、俺の顔をチラッと見ただけで? 前々から調べてないとこうはならないんじゃないのか? 俺は、この少女……木之枝に底知れない恐怖を覚えた。腰が抜けて、まともに声も出ない状態に追い込まれる。 木之枝は、俺にさらに身体をすりつけてくる。 ――そして、その手が俺の股間を掴んだ。 「あなたのような犯罪者はほうっては置けません。よってこれからは私が管理させていただきます。わかりましたか?」 頷く。 「これからは毎朝、この時間のこの車両に乗ってください。そして、私のいる場所まで移動してください」 頷く。 「それからは私が監視します。私以外の女性に手をだしてはいけませんから、これからは私だけに痴漢行為を働くこと。これは、あなたのような犯罪者の性欲の捌け口を身を持って勤めるという、私なりの犯罪の抑止です。いかなる感情的行為にも当てはまりません」 頷く。 「これらの要求に逆らえば、分かりますよね? 順調な人生の素晴らしさは、失ってから気付くものなんですよ」 頷くしか、なかった。 「では、最後の要求です。私に昨日の続きをしてください」 もはや、恐怖で逆らうなどという選択肢は消えていた。 ああ……俺の人生、終わったな。 注:くれぐれも、痴漢は犯罪です。
https://w.atwiki.jp/c9_kcfg/pages/25.html
キャラクター 職 レベル 職人レベル 狩り専/対人専/両方 一言 ヤンデレルラ リパ Lv57 - - - ぱーにゃん 紅茶華殿
https://w.atwiki.jp/monaring/pages/146.html
ヤンデレ攻撃隊 2黒 クリーチャー・人間・ミニオン エコー 2黒 側面攻撃、側面攻撃、側面攻撃 ヤンデレ攻撃隊がいずれかの対戦相手に戦闘ダメージを与えるたび、 そのプレイヤーは毒カウンターを1つ得る。 1/1 ヤンデレシリーズのひとつ。どんだけ側面に執着しているのだろうか。 攻撃時には本家の《アルビノ・トロール》やこちらのギコ教授を一方的に殴り倒すことができる。 ただし、根本的に1/1であるため簡単に焼かれてしまう上、側面攻撃が攻撃時にしか誘発しないことから、ブロッカーとしては使えない。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1806.html
601 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 01 04 ID F4oj/qfV [2/14] ***** 白いブラ。それに包まれたおっぱい。 今の俺が藍川のことを思い出したら、それが真っ先に思い浮かんだ。 藍川はインドア派だから、あまり肌が黒くない。かなり白い、いや、恐ろしく白い。 そんな奴が白い下着を着けたら一体どう見えるのか。 言うまでもない。素っ裸だ。マッパだ。生まれたままの姿そのもの。 藍川の双丘に、桜色に染まった一帯がないことに違和感を覚えるほどだった。 藍川の容姿を一言で言い表すなら、清楚。 ドレスを着せてピアノでも弾かせてれば、相当な数の男が騙されることだろう。 そんな清楚な女が素っ裸。 間違いなく、母親から「はしたないわよ、京子! せめて黒にしなさい!」なんて言われるに違いない。 そう。たしかにはしたない。 あの藍川の姿を見て興奮しない男はいない。 衝動に任せ、飛びかかってその肢体を蹂躙しようとするに違いない。 むしろ、そうしなければ男ではない。 その理屈で言うなら、俺は男ではない。 踏み荒らされていない雪原に足を踏み入れさえもしなかった。 一目見て、それきりスルーした。 はっきり言おう。それどころではなかった。 はしたない藍川に構っているほど、あの時の俺に余裕はなかった。 それほど集中していたのだ。何にか、というと―――― 602 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 02 48 ID F4oj/qfV [3/14] 「んがっ」 突然鼻っ柱に痛覚が襲いかかった。電柱に顔面をぶつけたのだ。 ものの見事に。体の正中線と電柱の芯が、狂い無く正面からぶつかった。 鼻に触ってみる。鼻血は出ていない。再び歩き出す。 しかし、真っ直ぐ歩けない。塀に手をついていないと、真横に倒れてしまう。 「これは、ひどい……」 こんな経験をしたことはない。 やってみようと思い付き、実際に行動しても、こんなになるまで意識を保てなかった。 二徹。 二晩通して起き続けて、プラモデルを作っていた。藍川と二人きりで。 なんでこんな馬鹿なことをしたかというと、藍川が言い出したからだ。 毎週恒例のプラモ作りのはずだった。 いつもと違ったのは、ちょうど気分が乗って来た頃に藍川がTシャツを脱ぎ捨てて、マッパじみた下着姿になったことだろう。 Tシャツの正面には「YES!」、背面には「NO!」と書いてあったのを覚えている。 だが、そんなアホなTシャツのことはどうでもよかった。プラモを作る方が大事だった。 だから俺は藍川を放置し、プラモ作りに没頭した。 黙々と作業を続け、夜を明かしたところで、俺はいつものように帰ろうとした。 そこで藍川が、眠気混じりの狂った瞳を向けてこう言った。 『ちょ、ちょっと待ってよ。まだやることが残っているでしょ?』 そのまま帰っても良かったのだが、藍川がやる気になっているなら、俺は帰れない。 逃げたみたいに思われるのは癪だった。 藍川は友人であり、同好の士でもあるけど、ライバルでもある。 あいつが眠気を我慢して作り続けるなら、俺だって逃げない。 結果、俺と藍川はそれから二十四時間に渡ってプラモデルを作っていた。 作り始めた時間から計算すると、三十六時間。 やればできるものだ。これまでの最長記録、二十四時間を大幅に上回った。 我慢大会も俺の勝ち。藍川は本日午前三時になった時点で寝落ちした。 勝敗に何も賭けていなかったことが悔やまれる。 「景品はやっぱ、コレジャナイって言いたくなる、あいつがいいな……」 あのキットにはプレミアがついていて、どこを探しても見つからない。 ネットで探しても、オークションにすら出品されていない。 藍川の奴は、その貴重なキットを組み立てせず、大事にしまっているのだ。 俺はいつかあのキットを組み立てて、魔改造を施してやろうと思っている。 とりあえず関節を増やして、全身フル稼働。見えないところにコックピットを増設して、パイロットを乗せる。 他のキットの部品を拝借して、中身にそれっぽいギミックを仕込む。変形機能までつける。最低でもこれぐらいやる。 いずれは、藍川と決着をつけねばならない。あのキットの所有権を賭けて。 だが、今はとりあえず。 「この眠気と、決着を……」 あのキットがかかっていても、睡魔になら負けてもいい。 今の俺は、一刻も早く布団に入って眠りたい。 604 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 05 36 ID F4oj/qfV [5/14] ***** 「ただいま」 「あ! お帰り、お兄ちゃん!」 朝の五時になって、ようやくお兄ちゃんが帰ってきた。 藍川っていう女の家に行ってから、丸一日帰ってこなかったんだ。 もう、不安で不安で。 藍川の家に飛び込んでやろうと思った。家が分からなかったから、行けなかったんだけど。 でも、帰ってきてくれたってことは、家に居るって事だよね? 一緒に居られなかった分、くっついちゃうから。 お兄ちゃんが靴を脱いで、床に上がったところで左腕にしがみつく。 ぎゅっ、ってする。力一杯、私の体を押しつける。 こうすると、心が温かくなる。でも、同時に悔しくなる。 花火ちゃんみたいにホルスタインだったら、きっとお兄ちゃんも興奮するんだろうな、って。 お母さんはあんなにスタイルが良いのに、どうして私はこんななんだろう。 もちろん無いわけじゃない。でも花火ちゃんに比べたら、無いに等しい。 何度花火ちゃんに鼻で笑われたことか。そのせいで何回言い争ったことか。 兄さんは、いつか絶対に大きくなるって、と励ましてくれる。 いつかって、いったいいつよ。もう待ち続けて三年は経つんだけど。 花火ちゃんが私と同い年の頃には、上の制服の中で、でっかいおっぱいが不必要な自己主張をしてた。 あそこまで、でかくなくていいの。せめてお兄ちゃんが愉しめるぐらいは欲しいの。 そうね、お兄ちゃんのモノが挟めるぐらいかしら。 今の私じゃ、挟んであげようと思っても、お兄ちゃんを空しくさせるだけだろうから。 「お兄ちゃん、ご飯は?」 「それより、早く寝たい」 お兄ちゃん、すっごく眠そうな顔。 先週藍川の家から帰ってきた時でも、ここまでじゃなかった。 もしかして、お兄ちゃん眠ってないの? ってことは、あの女の家では眠る暇すらなかった? 「まさか、お兄ちゃん。あの女と、一緒に寝たんじゃ……」 返事はない。お兄ちゃんは俯いたままだ。 首筋に鼻を近づけて、匂いを嗅いでみる。 ……? お兄ちゃんの芳しい体臭だけ? 女の家に行ったのに、一切女の匂いがしないって、どういうこと? お兄ちゃん、本当に藍川の家に行ったのかしら? 「悪い。部屋に運んでくれ」 「う、うん。わかった」 よくわかんないけど、眠そうにしているお兄ちゃんはこのままにしておけない。 この機会を逃すのは惜しい。いっぱい悪戯したい。 でも、自分でもよく分からないけど――今日のお兄ちゃんはとってもすごいことをしてきたように感じる。 だから、いっぱい休ませてあげたい。 605 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 08 51 ID F4oj/qfV [6/14] お兄ちゃんの部屋には布団が敷きっぱなしになっている。 私が事前に用意していた。お兄ちゃんがいつ帰ってきても良いように。 「着いたよ、お兄ちゃん」 「……おう」 お兄ちゃんを床に座らせる。すると勝手に後ろに倒れてくれた。 数秒のうちに穏やかな寝息が聞こえてきた。胸がゆっくりと上下し始めた。 「おやすみ、お兄ちゃん」 夏とはいえ、風邪を引かないとは限らない。タオルケットをお兄ちゃんの体に被せてあげる。 なんだか、子供みたい。寝顔、いくつになっても、いつ見ても、変わらないね。 子供の頃のまま。私が昔から知っているお兄ちゃんのまま。 もう、何年も昔。 伯母さんにいじめられている私を、お兄ちゃんは身を挺してかばってくれた。 強く抱きしめて、私を励ましてくれた。伯母さんに、私をいじめないでって何度も言っていた。 伯母さんを包丁で刺した時は驚いた。お兄ちゃんが怖くなった。 でも、それは全て私を守るためにしたことなんだって、すぐに気付いた。 お兄ちゃんは、他の人を誰一人傷つけなかったもの。 花火ちゃんが止めに入っても、手は出さなかった。 これからもお兄ちゃんは私を守ってくれる。ずっと、ずっと。 その確信が揺らぎ始めたのは、十歳になった頃。 クラスの女子が泣いてたから理由を聞いてみたら、年上の兄に叩かれた、って言った。 信じられなかった。どんなお兄ちゃんも、私のお兄ちゃんみたいに妹を守るものだと思ってたから。 不安になって皆に聞いたら、兄妹にもいろんな在り方があるんだって気付かされた。 いじめる、叩く、馬鹿にする、悪口を言う、嫌う。他にも、たくさん。 私のお兄ちゃんにはそんな部分はなかったけど、それでも、不安になった。 私が頑張り始めたのは、それから。 お兄ちゃんに嫌われないよう、お兄ちゃんが好きだって言い続けるようになった。 だって、好きだって言い続ければ、好きになってくれるはずだもの。 少なくとも、私のお兄ちゃんは絶対にそう。 その甲斐あって、私はお兄ちゃんと良い関係を保ち続けている。 お兄ちゃんは私に優しくしてくれる。馬鹿なことを言っても、ちゃんと相手してくれる。 さすがに、今みたいな気分になるとは予想外だったけど。 「キスしちゃってもいいよね、お兄ちゃん。ここまで運んだお礼、頂戴」 ちなみに駄目だって言っても、しちゃうから。 油断大敵よ、お兄ちゃん。 薄く開いた唇。ずっと欲しかったお兄ちゃんの唇。 私にとっての聖域。そこにたどりついた私はきっと、これ以上なく清らかな気持ちになれる。 清らかだもん。兄妹のキスなんておかしくないもん。小さい頃からいっぱいしてきたんだから。 「……うーん」 でも、なんかカタルシスが無いっていうか、ムードが足りないっていうか。 やっぱり、今日はほっぺたにしとこう。 お兄ちゃんの右の頬に口づける。 そのまま舌で舐めたり、吸い続けているうちに、お兄ちゃんが身動ぎした。 口惜しさを感じながら、唇を離す。 「じゃあ、おやすみなさい。お兄ちゃん」 606 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 10 33 ID F4oj/qfV [7/14] そう言って、顔を離した時だった。 寝返りを打ったお兄ちゃんが、私の体を抱きしめたのは。 「え……ええ、え?」 混乱する。きっと寝ぼけているだけなんだって、冷静に判断できる。 でも、このシチュエーションって。 たまにお兄ちゃんが寝ているところに忍び込んで、寝顔覗いてる時の妄想、そのままじゃない! エッチな夢を見てるお兄ちゃんが、たまたま隣に居た私を相手にエッチする、っていうやつ。 ってことは、何。 今から私、お兄ちゃんに抱かれちゃうの? ――やば。部屋に行ってシたくなってきた。 この経験があれば、これから一ヶ月、いえ三ヶ月、いいえ半年は困らないわ。 ここまで最高のネタがあったかしら? いいえ、あるわけがない。 心臓の鼓動がうるさいし、吐息が熱いし、むずむずするし。 すぐにここから逃げたい。早く溜まった欲望を解き放ってやりたい。 お願いお兄ちゃん、この手を早く離して。私を自由にしてちょうだい。 ……あれ? でも。 これ、よく考えたら逃げる必要ないんじゃないの? だって、想像通りなら、私ここでお兄ちゃんに初めてを捧げるのよ。 何を拒む必要があるの? 奪い取られなさい。今は性欲に任せる時なのよ! 「で、では。遠慮無く」 小声で呟いてから、お兄ちゃんとの距離を縮める。一緒のタオルケットの中に入る。 わああ――――お兄ちゃんの顔だ……。吸ってる息が全部お兄ちゃんの吐息だ。 将来の仕事を選べるなら、間違いなくお兄ちゃんに添い寝する仕事を選ぶわ。 これって、私向きの仕事よね。絶対に私以外には果たせない仕事だわ。 他の人間には任せられない。もし前任者がいたって、すぐに地位を奪い取ってやるわ。 では、未来へ向けての努力、その一。 お兄ちゃんに私のおっぱいを揉ませる。 大事な事よ。大事な事だわ。大事な事でないわけがない。 お兄ちゃんの手に私の感触をすり込ませる。 そうすれば、私のおっぱい以外じゃ満足できない、でかいものがいいわけじゃないって体が覚える。 悪いわね、花火ちゃん。唯一のあなたのチャームポイントを奪ってしまって。 その余分なものは、お兄ちゃん以外の男に味わわせてあげて。 そうね、兄さんなんかいいんじゃないかしら。 幼なじみだし、お似合いだと思うわよ。 607 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 11 28 ID F4oj/qfV [8/14] お兄ちゃんの左手は私の背中に回っているので、右手を握る。 起こさないようゆっくりと肘を曲げて、手を広げる。 すでに、何かの拍子でお兄ちゃんが動けば、絶対に揉まれてしまう。そんな位置だ。 どきどきしっぱなし。おっぱい揉ませたら、心臓の鼓動を感じて起きちゃうんじゃないか。 ほっぺたにキスするのとは全然違う。 だって、男に揉ませたこと一回もないんだもの。今から初めてを奪われてしまうのね。 ごめんなさい、お祖母ちゃん、お父さん、お母さん。 私は今この時から、淫らな女の子になります。 意を決して、お兄ちゃんの手を胸に押し当てる。 もう、それだけで体の芯までしびれた。シチュエーションが理想通りすぎる。 「ん……は、ぁん……こ、れ。こんなのって……」 体をくねらせ、お兄ちゃんの指を激しく動かし、愛撫させる。 手が届かないと諦めていたものが、手に入ってる。文字通りの意味。 顔も、呼吸も。どこまでも熱くなっていく。 「も、う……これだけで、イっちゃい、そ…………あぁっ……」 お兄ちゃんの顔。唇。朝だから、よーく見える。 ここまでやったなら、後戻りはできない。 「おにい、ちゃん……」 目を閉じて、顔を近づけていく。お兄ちゃんの唇を、これから奪う。 608 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 14 32 ID F4oj/qfV [9/14] 「――――あぁっ!?」 唐突に、強烈な快感が背筋に走った。 背中に暖かな手の感触。Tシャツの上からじゃない。素肌に当たってる。 お兄ちゃんの手が、シャツを避けて、背中をなで始めた。 「あっ、や……やめ、いひぅっ! だめ、だめぇ……そこ、弱くて、触っちゃ、やぁぁ……」 神経を愛撫されているみたいに、脳も、指先も痺れる。 上から下に。腰から首に。お兄ちゃんの指先の感触が絶えず動く。 いつのまにか私はお兄ちゃんの手を離していたみたいだった。 だって、さっきまで服の上にあったはずの右手が、服の中に入り込んでいるんだもの。 「やだ、寝ぼけてるの、お兄ちゃん……」 そうじゃなきゃ、こんな大胆なこと、絶対にしない。してくれない。 お腹を撫でて、脇を撫でて……両手で背筋を刺激するなんて。 「……はっ、ぁ……ぁぁ、んん、んぅ……」 喘がないようにしても、結んだ唇の端から漏れてくる。 お兄ちゃんを起こさないようにしてるのに、お兄ちゃんがそれを許してくれない。 「ひどいよぅ……おにい、ちゃ……んぁ、ぁふ……」 いじめられてる。お兄ちゃんに、性的な悪戯をされてる。 私の体を弄んで、たっぷり感じさせて、いつまでもじらし続ける。 こんなんじゃ、生殺しだよぉ………… 背中を撫でていた手が、ブラのホックを外した。 ここにくるまで、私にとっては永遠に続きそうなほど長かった。 下着の拘束が緩んで、隙間ができる。お兄ちゃんの手は容赦なくそこに入り込んでいく。 両手で、左右から脱がしていく。 呼吸が普段通りにできない。何キロも続けて全力で走った後みたい。途切れ途切れ。 お兄ちゃんの手が、とうとう前の方にやってきた。 ブラはもう完全にずれてる。肩に引っ掛かってるだけ。 お兄ちゃんの手が、私のおっぱい揉んでる。 直接、何にも遮られず、指先が乳房をいじり出す。 喘ぎ声を我慢する余裕は無くなってた。快感に全ての制御を任せ、悶える。 悶えて、欲望を檻から解き放ち、より強い快感を得ようと、全身を熱で満たす。 たまに指先が乳首に当たる。そんな些細なもので、一つ喘いでしまう。 「お兄ちゃん、おにいちゃん、おにい、ちゃん…………お兄ちゃんっ」 好き。好き。大好き。 いくら叫んだって、この気持ちは伝えられない。 どれだけお兄ちゃんを欲しいかは、どんなに強くその体を抱きしめても伝わらない。 お兄ちゃんと一つになれないことがもどかしくて涙が出そう。 もう隠せない。 隠す壁は確かにあったはずなのに、もう爆発して木っ端微塵になって、跡形もない。 セックスして。 純潔はお兄ちゃんのために大事にとってたの。いつか来ると思っていた、その時のために。 今がその時。今以外の機会は、後にも先にも無い。 お兄ちゃんになら奪われても良い。むしろお兄ちゃんじゃなきゃ嫌。 私のわがままを聞いて。 お兄ちゃんのためならなんでもする。 恥ずかしいことでも、ちょっと怖いことでも、なんでも。なんでも、なんでも……なんだってするから! だから、私を選んで。私だけを抱いて! 609 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 17 37 ID F4oj/qfV [10/14] お兄ちゃんの穿いているジーンズを脱がしていく。 ベルト、トップボタン、ジッパー。ジーンズと一緒にパンツも力任せにずらす。 飛び出したのは、勃起しているお兄ちゃんのモノ。弾かれたせいで揺れる、男の人特有の、男性器。 顔を近づけて良く見る。傘の部分が少し濡れている。初めて見たけど、誰もが皆こうなんだろうか。 そこは、お兄ちゃんの匂いが一番強い。 「こんな大きいのが、体に入るっていうの……」 本当に? ひょっとして私の知ってる知識って、嘘だったりしない? だって、見てるだけで……体を串刺しにされるような感覚を覚える。 もちろん例えだけど、目の前にすると、あながち例えだと言い切れないような。 で、でも! お兄ちゃんのなら平気よ! 平気だもん! 怖くなんかないわ! うう。確か、前に読んだ本によると男の人の性器を撫でたり、キスすると気持ちいいんだ、って。 寝てる……よね。お兄ちゃん。 何の夢見てるんだろう。私の夢だったらいいんだけど……他の女との夢だったら? 途端に憎らしくなってきたわ。 私をこれだけ夢中にさせて、感じさせたくせに。自分は気分に合わせて誰にでも興奮する、なんて。 そんなの許さないからね。 お兄ちゃんは私の。私だけの恋人なんだ。浮気なんか許さない。 お兄ちゃんを気持ちよくさせられるのは、私だけなの! そびえ立つ一物を両手で包み込む。びくびく震えてる。体のどの部分よりも熱い。 おもむろに顔を近づけ、濡れている傘に唇を付ける。 濡らしている液体は、ぬるぬるしてて、言い表せない奇妙な味をしてた。 だけど、お兄ちゃんのものだと思えば、抵抗感は無くなってしまう。 陰茎を上下に愛撫しながら、傘を舐めていく。 裏のちょっとくぼんだ部分を、舌先で集中して攻める。 そうすると、お兄ちゃんの体が小さくピクッとする。 反応を楽しみ続けていると、次第に陰茎が膨らみだした。 きっと強く感じてるに違いない。キスを幾度も繰り返して、小さな穴を舌で拡げる。 お兄ちゃんの腰が動いたのはその時。弾みで半ばまで口にくわえ込んでしまった。 「ン、んぐぅっ?!」 間髪入れず、口内にいっぱい熱いものが注がれた。口の中を全部満たすんじゃないか、って思った。 臭いが口から鼻へ流れていく。とっても臭い。 ねばねばしているものが、歯にも舌にも口内にも、絡みついていく。 吐き出してお兄ちゃんの布団を汚したくなくて、私はねばねばしたのを全部飲み下した。 「あれ、精液って、もしかして今の……なの?」 妊娠するためには膣の中に出さないといけない、って知ってるけど、飲んでもいいものなの? 今のところなんともないから、大丈夫よね……きっと。 610 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 24 42 ID F4oj/qfV [11/14] 「……トイレ」 お兄ちゃんの声が聞こえて、びっくりした。 なんとなく自分のしていることが悪いことに思えて、ずらしていた下着とジーンズを元に戻してしまった。 一度もやったことない動きだったのに、恐ろしいほど手際よく手が動いた。 「お、お兄ちゃん? 起きちゃった? ごめんね」 「妹か? なんで、ここに……まあいいか」 あれ、いいんだ、添い寝してても。添い寝っていうか、ほとんど性行為だったけど。 「と、トイレに行ってくるの?」 「悪い、ちょっとだけ……」 タオルケットをどけると、壁を伝いながらふらふらと部屋を出て行った。 扉が閉まる。……行った、わね。よし。 戻ってくるまでに部屋に行って、あれをとってこないと。 ゴム。避妊具だ。 ここまでやったのだから、お兄ちゃんには絶対に本番までやってもらう。そうなったら、ゴムが必要。 お兄ちゃんとの間に子供が欲しくないのか、というと、否。欲しいに決まってる。 だけど、何事も計画的じゃなきゃいけない。 私は冷静に物事を判断できるの。さっきは、妊娠でも子供でも何でも来い、って気分だったけど。 お兄ちゃんの部屋から出ようと、扉を開ける。すると、そこに見知った顔があった。 「……花火ちゃん?」 「よう、ちっさい妹。アニキの部屋で何をやってたんだ?」 「それはこっちが聞きたいわ。なんで人様の家に勝手に上がり込んでるの」 「玄関の鍵、開けっ放しだったぞ。入られたくないんなら鍵をかけておけよ」 花火ちゃんは、いつもみたいに男っぽい喋り方で話しかけてくる。 しかし、全てがいつも通りというわけじゃない。 眉間に青筋が浮かび上がっているし、右手が拳骨の形になっている。 「何怒ってるの、花火ちゃん」 「怒らないとでも怒ってるのかよ。 アニキの布団の中に潜り込むなんて、ずるい手を使いやがって。まさか、手を出したんじゃないだろうな」 あれ、さっきしてたことは見てないの? それなら良かった。バレてたら、何か言うよりも先に、花火ちゃんは手を出しただろう。 「いいえ。まだ何も。添い寝していただけよ。 私は、勝つための手段をとり続けているだけのことよ。それをずるいだなんて、考え方が甘いんじゃないかしら」 「勝つために、か……そういうことなら、私は最後のカードを切らせてもらおうかな」 花火ちゃんが一歩踏み込んできた。後退する。また近づかれた。下がる。 じわじわと距離を詰めながら、花火ちゃんが言う。 「ちっさい妹。許せ。全てはアニキを手に入れるため。アニキの幸せのため。お前は犠牲になれ」 「……なんですって」 「安心しろ、命までは奪わない。二度とアニキの前に姿を現わしたくない、と思わせるだけだ」 そんなことを聞かされて安心するわけがないじゃない! 退路は? 正面突破は無理。 それなら、窓から飛び出すしかない。鍵が掛かっていたら、窓を割って外に出る。 この部屋でお兄ちゃんと続きをできないのが残念だけど、命には替えられない。 612 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 28 18 ID F4oj/qfV [12/14] 「ねみい……」 どのタイミングで飛び出そうか図っている途中、お兄ちゃんが戻ってきた。 寝ながら歩いて居るみたいな有様だった。全然前を見ていない。 花火ちゃんはお兄ちゃんの存在に気付くと、お兄ちゃんに道を譲っていた。 「あ……アニキ。おはよう」 「おはよう。悪いけどまた寝るからな」 お兄ちゃんは誰に話しているかわかっているんだろうか。 あの様子だと分かって居なさそうな気がするわ。 お兄ちゃんは布団の方じゃなくて、私の方に近づいてくる。 何を頼りにして歩いているんだろう。匂い? さっきまでぴったりくっついてエッチなことしてたから、ありえる。 「おう、こんなところに居やがったか」 「お兄ちゃん、布団はあっちで――」 「枕が逃げるな。眠れん」 はい? 疑問の声をあげるより早く、私は押し倒されて、のし掛かられた。 その様子を見ていた花火ちゃんが、叫んでから、私の方に近づいてくる。 私とお兄ちゃんを力尽くで引き離すつもりなのだろう。 だけど、そんなことをしても無駄。 私は笑顔を浮かべて、花火ちゃんを見返した。 見てたでしょ。お兄ちゃんが私を押し倒すところ。 花火ちゃんの出番はないのよ。女の魅力で負けたんだから。 早く帰って、お兄ちゃんに優しくされる妄想をしながら自慰してれば? 花火ちゃんはさらに顔を赤くして、詰め寄ってくる。 でも残念。私の上にはお兄ちゃんがいるから、手を出すことはできやしない。 それでも構わず花火ちゃんは拳を振りかぶり、私の顔だけを狙って拳を放った。 馬鹿ね。どこを狙ってくるかバレバレな攻撃を、避けない敵がいるとでも思ってるの? これはゲームじゃないのよ。たった一人の人間の奪い合いなんだから、負けられないの。 避けるに決まってるじゃない。 首を捻って攻撃を躱す。 風圧を頬で感じた。部屋中の床の畳をひっくり返すんじゃないか、って思うぐらい強力な一撃。 でも。 「当たらなきゃ意味ないのよ、花火ちゃん」 「黙れ! まだまだこれからだ!」 そう言って、花火ちゃんが拳を戻す――ところで、お兄ちゃんが呟いた。 「……あれ、コレジャナイ。これ枕違う」 私の体の上でうつぶせになっていたお兄ちゃんが、体を離した。 花火ちゃんは不意を突かれて止まっていた。その隙をついて、お兄ちゃんは花火ちゃんの腕をとった。 お兄ちゃんが私の視界から居なくなる。次の瞬間には、別の場所に移動していた。 一瞬の間に押し倒した、花火ちゃんの体の上に。 「――あ、アニキ? ……あの、えと」 「ああ、こっちか」 「へ?」 「枕はこっちだ。そこのじゃない」 613 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 29 40 ID F4oj/qfV [13/14] お兄ちゃんが、花火ちゃんの体を、敷き布団代わりにした。 大きなおっぱいを枕にして、うつぶせになって眠っていた。 「な、なにやってんのよ、お兄ちゃん!」 「な、ちょ、何だ。なにやってんだアニキ! ちっさい妹、これはどういうことだ!」 「コレジャナイって、そこのじゃないって、どういうことよ! 私だって枕代わりになるわよ! いつか絶対に花火ちゃん以上大きくなるんだから! そうに違いないわ!」 「あっ……アニキ、私の胸は枕じゃなくって、でも……ちょ、揉むなよアニキ! バカ、胸は……弱いんだってば。やめろ、ってば……こんなのまだ、駄目だって……ふぁっ……」 「さっきはあんなことまでしたくせに! お兄ちゃんの……バカぁぁぁ!」 ――結局、お兄ちゃんは花火ちゃんの胸を枕代わりにしたまま、お昼過ぎまで眠っていた。 よほど疲れていたんだと思う。 でも、理由があるからって、お兄ちゃんが私にやったことは許されるわけじゃない。 私は決意した。今度お兄ちゃんがあんな状態になったら、絶対にモノにすることを。 そして、邪魔者が家に入りこまないよう、戸締まりをしっかりする。 今回、私にとっての収穫は、毎夜のネタに困らなくなったという点に尽きる。 キスはしてないけど、おっぱいは揉まれたし、精液飲んじゃったし。 これはもう、次があったら絶対にお兄ちゃんに処女を奪われてしまう。 その時が来るのが、今から楽しみでしょうがない。 せめてそれまでに、コレジャナイとか言われないぐらい、胸が大きくなってますように。 絶対に、どんな手段を使ってでも、花火ちゃんには負けない。 譲れないのよ、お兄ちゃんの隣の位置だけは。 これから一生をかけて、恩返ししていくんだから!
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/286.html
901 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/04/20(日) 06 21 37 ID WWUQ5a6O 葉月さんと二人きりで歩く通学路。 それは、同じ高校に通う男子生徒垂涎のシチュエーションである。 ここ最近はほぼ毎日葉月さんと登校している俺であるが、飽きたと思ったことは一度もない。 嬉しいに決まっている。可愛い女の子と一緒に肩を並べて歩くなんて、 少し前の俺だったらうさんくさいまじないに頼ってでも叶えたい願いだったのだ。 だがしかし、今日はどうもいい気分になれない。 嬉しくはあるのだが、それ以上に気に掛かることがあってどうしようもないのだ。 ――弟は今、どこにいるんだ? 「でね、昨日お父さんにチョコレートあげたら、いきなり道場に行っちゃったの」 「へえ……」 「なにするつもりかなと思って見に行ったら、明かりもつけずに一人で正座して黙想してたの。 すっごい喜んでたみたいだけど、もらえてそんなに嬉しかったのかな、チョコレート」 「……ああ、たぶんね」 チョコレート。昨日はバレンタインだった。 なんだろう。最近ではバレンタインにチョコをあげた男子を誘拐するのが流行っているのか? 弟がモテているということは知っている。 弟が中学に上がってきたときいきなり大量のラブレターやら熱烈な告白を受けているということも風の噂に聞いた。 弟を誘拐して飼いたがる女子が居てもまあおかしくはないな、と思っている。 だが今まではこんなことは無かった。 せいぜい着衣に乱れのある状態で帰ってくるか、両手に紙袋を持って帰ってくるぐらい。 十四日が過ぎて、翌朝になっても帰ってこないなんて初めてだ。例外だ。 無断で外泊しているだけかもしれないが、弟の性格からしてそれは考えにくい。 そもそも、今生の別れを匂わせるようなメールを送るなんて冗談が過ぎる。 しかも、俺宛に送ったメールとは対照的に、両親には外泊するから心配要らないという内容のメールを送っていた。 周到な。おかげで両親は弟が友人の家に泊まっていると信じて疑わなかった。 弟はこんなことしないはずだ。頭の出来がどうこうじゃなくて、こんな意味不明なことはしない、という意味で。 待てよ、携帯電話を誰かに奪われているなら―――― 902 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/04/20(日) 06 22 37 ID WWUQ5a6O 「ねえ。……ねえってば!」 耳のすぐそばから聞こえてきた声に思考を留められた。 声のした方向、左を向く。葉月さんが俺の肩を掴んで揺さぶっていた。 「どうかしたの?」 「話、ちゃんと聞いてた?」 「あー……うん。もちろん。お父さんの話でしょ。 そりゃ、嬉しいに決まってるよ。男はいくつになってもバレンタインチョコをもらえたら嬉しいものだから」 「ふーん、聞いてはいたんだ。それなのにいまいち反応が良くないのは……」 突然葉月さんが前に回り込んだ。正面から向かい合う形になり、立ち止まる俺。 葉月さんがいたずらを企んでいそうな笑い顔をしてのぞき込んでくる。 「ふふふ。……もしかして、拗ねてる?」 「なんで?」 今の会話のどの部分に不平不満を覚えるというのだろう。 ただ葉月さんが父親にチョコレートを渡した、というだけの話だったはずだ。 俺がいつまでも黙り込んでいると、葉月さんは不思議そうな目で見つめてきた。 「え……と、あれ? ほ、本当にわからない? 何か不公平さを感じたりしない?」 「いや、特には」 「だって私、昨日あなたにあげてないよ? チョコレート」 ――ああ、そういうことか。 父親にあげてどうして自分にはくれないのかと俺が思っている、と。 ふうむ。言われてみれば少し悔しさが沸いてくる。 昨日もらえたのは、弟から押しつけられたチョコレートの箱と何故か入れ替えに鞄に入っていたオレンジ色の箱のみ。 昨晩は弟の帰宅を待っていたせいで開けられなかった。よって、昨日のカカオ摂取量はゼロ。 もし葉月さんからもらえていたのなら食べていたのだろうが、もらえなかったものは仕方がない。 それに、チョコをもらなかっただけで心を乱しているように思われたらかっこ悪い。 ここは平静な振りをするとしよう。 「俺は昨日葉月さんと一緒に帰れたから。それで十分だよ」 「え、ホント!? ――っじゃ、ない。違う違う、そういうことじゃなくって、その……あのね」 「ん?」 「……ううん、なんでもない」 葉月さんは短いため息を吐き出し、再び隣について歩き出した。 903 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/04/20(日) 06 23 48 ID WWUQ5a6O * * * 昼休み。昼食を食べ終わった後で携帯電話を取り出して開き、何度かボタンを操作する。 指を止め画面をじっと見ていると、合体させた机を挟んで向かい側に座る高橋に話しかけられた。 「何をやっているんだ君は。今日はずいぶんと熱い眼差しで携帯電話を見つめているじゃないか」 「ん……そうだったか?」 「うむ。数学の時間に暇だったから君の行動をじっと観察していた。 そうしたら君は授業開始、それから十分後、次に五分後、その後は数分も経たないうちに携帯電話を操作していた。 君がそこまでするなんて滅多にないからね。で、何をしていたんだ?」 「メールの問い合わせ」 「誰からの連絡を心待ちにしているんだ?」 「それはもちろん、誘拐されたお……」 「……誘拐?」 あ――しまった。 変なことを言ってどうする。そもそも誘拐されたかどうかすらはっきりしていないんだぞ。 「すまん口が滑った。今の無し。忘れてくれ」 「誘拐とは穏やかじゃないな」 高橋が神妙な顔をしながら腕を組んだ。失言を忘れてくれそうな気配、一切無し。 気にしないでくれ、頼むから。変に話を大きくされたら困るんだ。 「誰がさらわれた? 君の周りにいる誰かか? もしや――一年女子の間でダントツの人気を誇る弟君ではあるまいな?」 思わず息を呑んだ。 こいつ、どうしてそんなことがわかるんだ? もしかして俺の顔に書いてある、とかか? まずい。ごまかさないと。 「違う違う! そういう物騒な話じゃないんだって!」 「しかし日常的に誘拐という単語を口にするのはその道のプロかアマチュアか、物書きぐらいだろう。 君が物作りに並々ならぬ熱意を持っているのは知っているが、犯罪や小説の執筆に関しては門外漢じゃないか。 正直に白状したまえ。何かあってからでは遅いんだぞ」 「むぐっ……」 何かあったから正直に白状できないのだが、そういう場合はなんと言ったものだろうか。 前言撤回、は高橋には通用しない。 最近サスペンスドラマにはまっている、なんて言ってしまって深く追求されたら答えられない。 こちとらテレビはバラエティしか見ていないのだ。 こんな時は対象の興味を他に向けるのが一番。 よし、いちかばちかだが、高橋の後ろを指さして「あ! 篤子先生がスカートをたくし上げて潤んだ眼差しでこっちを見ている!」でいこう。 こんな手を使うのは初めてだ。高橋の篤子先生への情熱を考えれば、成功率は五分といったところ。 やってみよう。勇気を振り絞って。恥を我慢して。 905 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/04/20(日) 06 28 24 ID WWUQ5a6O 高速で右手の人差し指で高橋の肩の後ろの何もない空間を指して叫ぶ。 「ああ! 篤子先生が――――あ?」 狙いをつけずに指した方向には見知らぬ女子生徒が居た。場所は教室の黒板側の入り口。 女子生徒と視線がぶつかる。そりゃ、いきなり指さされたら不審に思うわな。 なんとなく悪いことをした気分になりながら腕を下ろしていく。 すると、なんということだろう。さっきまで視線を交わしていた女子生徒がこちらに向かって来るではないか。しかも表情が険しい。 もしや葉月さんを慕う、石鹸の香り芳しい多年草的な嗜好を持ち合わせている人たちの一人? またピンチかよ。しかも高橋に問い詰められるよりやばい。 女子に問い詰められたら反撃できない。もし泣かれたらうろたえるしかできない。 そんなことを考えているうちに女子生徒はすぐ目の前にやってきていた。 机の上に手をつき、拳二つ分ほど空けた距離まで顔を近づけてくる。 相変わらず表情は険しいままであったが、近くで見たその顔は俺への嫌悪を宿してはいなかった。 むしろ追い詰められ、俺に救済を求めているようである。 「先輩、正直に答えてください。とっても大事なことなんです」 後輩らしき女子の問い詰めに対して俺は頷きで返事した。ここで首を振るほど俺は愚かではない。 顔つきだけでなく声の調子まで緊迫しているのだ。言うとおりに大事な用件なんだろう。 「先輩の弟さん、今どこに居ますか?」 「え……。弟?」 弟の所在を聞いてくる、ということは。 「君、もしかして弟の?」 「同じクラスです。それと、あと……」 女子生徒はそこで斜め下に視線を逸らした。 なるほど。この子、弟のことが好きなのか。例の弟のファンクラブの一人かも。 「悪いけど、弟がどこにいるのかは俺にもわからないんだ。あいつ、昨日からどこかに出かけているみたいで」 「嘘……じゃあ、本当に居なく……? 手がかりとか、行きそうな場所とか」 首を横に振る。もしわかっているならここでじっとして考え込んでいない。 突然肩を掴まれた。強く掴まれたが痛みは覚えない。 女の子の腕が震えているのは弟が居なくなった恐怖からきたものか? 本当に、たったそれだけでここまで青ざめた顔をするだろうか? 「お願いします、もう少しだけ、深く思い出してください。じゃないと私、私たち……」 「ねえ、どうしたの? 弟が学校を休んでいるだけでそこまで心配しなくても」 「違うんです! 先輩が思い出してくれないと、私まで危ないんです! 消されちゃいます!」 「け、消されるう?」 それは眉毛に引いた線を消されるとかいう意味じゃなくて、存在自体ってこと? 弟が消えたから、今度は自分の番だと? まさか、神隠しでもあるまいし。 女子生徒を安心させるための言葉を選んでいると、複数の視線を感じた。 昼休みの教室内だから人の目はもちろんある。だが、特に強いものが一つある。 左に目を向けると高橋の顔がある。眼鏡の向こうの瞳にあるのは静観の意志。気になるほどのものではない。 とすると一体誰が? 次は右側へ顔を向ける。 すると、いきなり鋭い眼光を放っている人物と視線がぶつかった。 906 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/04/20(日) 06 29 51 ID WWUQ5a6O 葉月さんだ。女友達との話を止めて俺を見つめている。 女友達の輪の中でも際だつ美しさを彼女は持っている。が、今は瞳の中で炎をごうごうと燃やしていそうなご様子。 あれは怒っているのか? 俺に対して? 女の子に対して? 両方? いずれにせよあの状態はまずい。既視感、既知感、嫌な予感。 まるで弟の勉強を見ている最中に睨み付けてくる妹のよう。 葉月さんから目を逸らす。じっと見ていても事態は解決しない。 まずは肩を掴んで俯く後輩をなんとか帰さなければ。 「とにかく落ち着いて。弟ならきっと明日には何事もなかった顔で登校してくるはずだから」 「駄目です。それじゃ遅いんです!」 「どうして?」 「だって明日まで、ううん、きっと今日中に私たち……皆居なくなっちゃいます」 「だから、なんで居なくなるの?」 「あの女は待ちません! きっと腹いせに私たちに言えないような……ことを、してきます。絶対そうです! そうじゃなきゃ、あんな。あんな、血がいっぱい出るようなこと……」 カチカチと音が鳴る。歯と歯が当たる音を立てているのは後輩の女の子。 相当な恐ろしい目に遭ったことに違いない。そしてそれをやったのは同性である女の子。 誰だ? 弟が居なくなったことに動揺し、暴力を振るう人間。そして、そいつは弟の行方を気にしている。 あれ――どうしてそいつは直接俺のところに来ない? 行けない理由がある? 俺と顔を合わせたくない? 俺とは会いたくもない? もしそうだったとしたら、そいつは俺を嫌っている。 女の子で、弟のことが好きで、俺のことが嫌いで、他人に暴力を振るえるやつ。 一人だけ心当たりがある。あいつだ。 後輩の女子に声をかけようとしたら、突然彼女が顔を上げた。 いや、無理矢理上げられたと言った方が正しい。彼女は前髪を引っ張られていたのだ。 「いっ……たい。やめて、もう許し、て……」 「遅い。もう待てない。お前のせいで顔を出すことになっただろう。……どけ」 頭を引っ張られて女の子が倒れる。高橋の方に倒れたおかげで床にはぶつからなかった。 闖入者と対峙する。さっきの予測通りだった。 髪は金色で長く、白い絆創膏で頬を隠していて、瞳に俺への憎悪を漲らせていた。 喉が締め付けられる。俺はそいつが怖かった。 目とか行動とか口調とか、どれかが怖いんじゃなくて、いずれも怖ろしかった。 だけど逃げることもできない。ただ俺は黙るしかできなかった。 ふと、頭の中に疑問が浮かんだ。そしてすぐにそれは解決した。 どうしてこいつが、二度と顔を見せるなと言ったこいつが俺の前に顔を出したのか? 決まってる。そんなの、たった一つの答えを求めているから。 「アニキ。あんたの弟――あいつは今、どこにいる?」 葵紋花火が一番に気にかけるのは、弟のことだから。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/622.html
675 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 49 44 ID Kgb2rgNQ *** 風邪をこじらせてから、朝と夜はお兄ちゃんの世話になっている。 と言っても、寝汗を拭いてもらうだけ。 まだ体温が高いからお風呂には入れないので、汗だけでも拭いてもらっているのだ。 でも、そんなのは建前。 目的はお兄ちゃんの理性を崩すこと。 無防備な姿を見せて、お兄ちゃんの方から襲いかかってもらう。 実行前は、こんな作戦は上手くいくはずがないと思っていた。 だけど、塵も積もれば山となる。 だんだん、私を見るお兄ちゃんの眼が変わってきている。 タチの悪い風邪だったらしく、今晩でもう三日目。 その間ずっと、妹とはいえ女の体を見続けてきたのだから、お兄ちゃんの反応は男として正解だ。 仲の悪い兄妹ならありえないけど、私は努力して『理想の妹』を作り込んできたから別。 明るい性格で、恥じらいを持ち、容姿を磨いて、男に頼る弱さを見せる、普通の女の子。 加えて、お兄ちゃんに近づく女は居ない。姉以外の全ての女は、皆遠ざけてきた。 女が一人だったら、その子を選ぶしかない。 その子が良い子だったらなら、何の問題もないはず。 だ、か、ら。ね、お兄ちゃん? 安心して、私を選んじゃっていいんだよ。 「ちょっとだけ待ってて。今から、下着、替える」 夜に汗を拭いてもらう前は、必ずパジャマと下着を替える。 もし汗の匂いがしたら、お兄ちゃんが幻滅してしまう。 女としても、男の人に触れてもらう時は綺麗な姿の方がいい。 ちなみに、お兄ちゃんを部屋に待たせたまま着替えるのも作戦。 もしかしたら、男の人は女の着替えを覗くのが好きなんじゃないかと思って。 効果はばっちり。後ろでお兄ちゃんがそわそわしてるのが、物音で聞こえてくる。 お願いしてるから、お兄ちゃんは部屋から出て行くこともできない。 ――もうそろそろいいかな。決着つけちゃっても。 677 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 51 35 ID Kgb2rgNQ 「いいよ、こっち向いても。下からお願い、ね?」 どうせパジャマを脱ぐのにあえて着直すのは、じらすため。 この作戦では、私のひとつひとつの行動が明暗をわけてしまう。 一挙一動、全てにおいてお兄ちゃんを興奮させなければならない。 太腿をさらけ出す時は膝までしかパジャマを下ろさない。 ふくらはぎとすねを拭き終わったら、パジャマの下は脱ぎ捨てる。 もうこの時点で――あははっ、可愛いお兄ちゃんったら、顔を真っ赤にして、私の足をじっと見てる。 放っておいても、今夜電気を消した時に襲いかかってくれそうだけど、念には念を押す。 ベッドに寝転んで、パジャマのボタンを、下からひとつずつ外していく。 いつもなら寝転ばず、自分で脱いでいる。 けど、今日はそうしなかった。 そうできない理由があった。 きっと今頃お兄ちゃんの頭を駆け巡っている、ひとつの事実。 私が今、ブラをつけていない――いわゆる、ノーブラだから。 パジャマの隙間から見えるのは私の肌だけ。 下に穿いているのはショーツだけ。 どこだったかな――そうそう、お兄ちゃんが隠し持っていたえっちい本の売女がしてる格好。 どう料理してくれても構いませんよ、っていう感じ。 実際に私がそんな気分になってる。 上からでも下からでも、お好きなところからどうぞ、お兄ちゃん。 身じろぎせず、お兄ちゃんをじっと見続ける。 迷いが見て取れた。 私を、妹として見るか、女として見るか。欲望と理性のぶつかりあい。 ここは黙ったままでいようと思ってたけど――あえて作戦を変更した。 「お兄ちゃん、恥ずかしがらなくてもいいんだよ。 私たち兄妹だから、何も問題ない」 これは賭だ。 お兄ちゃんの心がどこに流れていくかわからない。 もしかしたら冷静になってしまうかもしれない。その逆かもしれない。 私とお兄ちゃんの関係を決める、丁半博打。 「妹の体に触ってもだーれも、咎めたりなんかしないんだよ?」 賭は――――私の勝ち。 お兄ちゃんは私の体に覆い被さり、乱暴に胸を弄りだした。 右手で乳房に触れ、左手でパジャマを脱がせていく。 お兄ちゃんと目を合わせる。そのまま、近づける。 一瞬の躊躇の後で、お兄ちゃんは私の唇を奪った。 舌を入れて、思うままに私の口内を貪る。 お兄ちゃんの手はショーツの上から私の秘所を愛撫する。 背中に手を回し抱きしめると、荒々しい吐息が聞こえた。 その事実に、笑わずにはいられなかった。 あっは。 うふふ。あはははは! ははははは、ははははは! 見た? 馬鹿姉。 もうお兄ちゃんの唇は私のもの。私はお兄ちゃんに唇を奪われた。 あんたがいくらお兄ちゃんにアピールしようと、もう遅いの。 これからお兄ちゃんは私を抱く。私の体に溺れていく。 最高だわ。体が火照って、しょうがない。 お兄ちゃんが愛しくてたまらない。 可愛い可愛いお兄ちゃん。これから一生、私がお世話してあげるからね―――――― 678 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 52 19 ID Kgb2rgNQ *** かつて、俺は伯母の冴子を包丁で刺したことがある。 自らの意志で包丁を手に取り、確固たる目的を持ってそれを振るった。 それが十年ほど前の話。 伯母に包丁を向けようと思ったのは、実はその時が初めてではない。 それよりも何日も、何ヶ月も前からだ。 実行に踏み切ったきっかけ、それは――弟と妹を虐待の日々から救えるのは俺しかいないと気づいたから。 いつか誰かがなんとかしてくれると思っていた。 虐待の現場を見つけた父が救ってくれる。 母が俺たち兄妹を助けてくれる。 伯母がいつか飽きて家に来なくなる。 大人頼みだったけど、それでもいつかは誰かがなんとかしてくれると、信じていた。 でもそんなことは無かった。 だから俺は、自分で解決しようとした。 まだ小さい頃の俺が弟と妹を助けるには、ああする以外に方法がなかった。 伯母にあんなことをしなければよかったなどと後悔しない。 しかし、もしもあの時をやり直せるなら。 俺はそれまで親しかった憎んでもいない相手を――仲の良い幼なじみを傷つけるようなことはしない。 少し考えればわかることだったのだ。 花火が俺を裏切るはずないと、信じてやれば良かった。 そうしていれば、花火の心と顔に、傷が付くことなどなかったのに。 679 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 53 28 ID Kgb2rgNQ 妹がコーラの入ったグラスをストローでかき混ぜる。 カラン、と氷とグラスのぶつかる音がした。 「昨日、伯母さんのところに行ったよ」 ああ、昨日祖母と両親と一緒に来ていたのは、それが目的だったのか。 「……まるで別人だった」 「そりゃ、お前が覚えている伯母とは違うだろうよ。 俺も会ったけど、一目見ても誰だかわからなかったからな」 「私が言ってるのは外見じゃなくて中身。 どんな顔だったかなんて、私は覚えてない。 まだずっと私やお兄ちゃんのことを嫌っているのかと思ったら、全然ハズレで、覚えてさえいなかった。 正直、一発ぐらい仕返しするつもりでいたのに」 「そ、そっか。 ……でもなんでまた、伯母に会おうなんてしたんだ?」 「昔のこと思い出したけど、いまいちはっきりしなかったから。 お兄ちゃんとお兄さん、頭の中でごちゃごちゃしてた。 ……っていうか、認めたくなかったのかも。 今まで、お兄ちゃんがかばってくれてたと思ってたのに、実はそれ、お兄さんだったんだもの」 ……ふーん。 そんなに俺にかばわれてたのが嫌か。 ま、無理もない。 妹にとっては、俺より弟が活躍している、有り体に言えば、格好いい方が嬉しいだろうし。 「お前は、かばってくれていた人間が弟だったから、好きになったのか?」 「きっかけは、そう。 単純って思った? でもね、私にとっては十分なきっかけだった。それなりに大事な、ね。 ……それが勘違いだって知ったときは、ショックだった」 「そうか。まあなんというか…………残念だったな」 「先に行っておくけど、勘違いしてたからって今更お兄さんのこと好きになったりなんて、しないから」 「そいつぁ残念だ。あっはっはっはっは」 わざとらしく笑ってみせる。 別に妹の台詞が期待はずれだったからじゃない。 そもそも、弟みたいに愛されるのなんて御免だ。 妹のことは大事だし、好かれている方が嬉しいが……愛されるのはちょっと、勘弁だ。 むしろ期待通りで嬉しいぐらいだ。 妹がそんなに軽々しく人を好きになるわけではないとわかった。 ――ん、待てよ? 軽い気持ちで弟を好きになっていないということは、本気で弟が好きってことか? やべえ、ちっとも嬉しくない。 これから先、どうしたもんかね。 俺は弟と妹がそういう関係を結ぶの、反対してるからな。 嗚呼、いつか妹と口、もしくは肉体言語でぶつかりあわなくちゃならんのか。 妹、諦めてくれないかな。……諦めてくれないだろうなあ。 680 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 56 03 ID Kgb2rgNQ 「それで、どうしてお兄さんは私の誤解を解こうとしなかったの? 勘違いしてる私を見て、心の中で笑って楽しみたかったの?」 「あいにくだが、そういう趣味はない」 「じゃあ、どうして?」 ふうむ。正直に言って、果たして信じてもらえるものだろうか。 でもさっき正直に答えると約束したし。言わざるを得ない、か。 「実は、お前と同じで今の今まで――入院して伯母に会うまで思い出せなかったんだよ。 情けないことだけど、あれだけのことがあったのに、綺麗さっぱり忘れてた。 だから、つまり……お前や弟が何を言ってるのかすらわからなかった」 妹はじっと俺を見つめている。 …………。 ………………そして、少しも目を逸らさない。 視線で責められている気分だ。 妹なりに俺の目を見て言葉の真偽を見抜こうとしているのかもしれない。 「あの日のこと、全部、綺麗さっぱり?」 「おう」 「……お兄さん、いったいどこまで鈍いの? お兄ちゃんみたいな鈍さなら許せるけど、お兄さんみたいなのは、ただ腹が立つだけだよ。 あの女、葉月を振ったってさっき言ったけど……去年から昨日まで返事できなかっただけなんて、酷すぎる。 ……女が皆、あの女みたいに気長で優しいと思ったら、大間違いよ」 妹の毒舌攻撃。効果は抜群だ。 ええ。俺が馬鹿だったのです。 友達同士というぬるい関係をいつまでも続けたいなんて思っていたから悪いのだ。 自覚しているから、もう責めないでくれ、妹。 認めてやる、俺はお前に弱いのだよ。 通常の二割増しでダメージを受けてしまう。 なんせ、呼べば応えるシスコンだからな! 681 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 56 33 ID Kgb2rgNQ 妹がでかいため息を一発吐き出した。 ため息でここまで俺にダメージを与える女など妹しか居ない。 そして、妹のため息でこれだけのショックを受ける男など俺しか居ない。 「も、いい。そういうことだったらいいよ。 私だって最近思い出したぐらいだから、人のこと言えないし。 ……私、先に帰る」 「え? おい、まだ注文したのが届いてないんだが」 「いいよ。お兄さんはゆっくり食べてて。お勘定も私が済ませておく」 「お前も待ってりゃいいじゃないか」 「私がそんなこと、したいと思う?」 ――思わねえだろうさ。 ああ、ああ。わかってるよ。 ファミレスに来て俺と同じテーブルで向かい合ったままでいるなんて御免なんだろう。 この妹は昔のことがどうであろうと、俺への態度を改める気はないらしい。 悪い方に変わらないだけマシだ、と思ったら負けかもしれん。 ちくしょう。いつから俺は妹の犬に成り下がってしまったんだ。情けない。 「じゃあね、お兄さん。寄り道しないで帰ってよ。 お兄ちゃんが何かあったかも、って心配するから」 「……あいよー」 「あ、そうだ。あと一つ言い忘れてることがあった」 「まだあるのか? 今度はなんだよ……」 早く軽食が届いてくれないだろうか。そろそろ体力ゲージが尽きかけているのだが。 仕方なくウーロン茶を飲んでいると、妹が言った。 「お兄さん、この間はかばってくれてありがとう」 ……………………え、何? 「お、おま、お前何か今、言ったか?」 「さあ? 気のせいじゃないの。それじゃ、今度こそお先」 妹はそう言って、すたすたと歩いていく。 俺は妹が会計を済ませ出て行く姿を見送るしかできなかった。 …………このウーロン茶、なんだか後味が塩に似てやがる。 口直しに今度はメロンソーダをいれようと、俺は席を立った。 683 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 58 59 ID Kgb2rgNQ ファミレスの窓から外の歩道を見ると、遠足でもしているのだろうか、 リュックサックを背負った小学生の集団が歩いているのが見えた。 先頭には元気の良さそうな男の子と女の子。 続いて、数人のグループが追ってくる。 一人だけ背の高い、引率らしき男の人がいる。 彼の周りに子供達が固まり、後ろから遅れたグループがついてくる。 小学生の頃の俺だったら先生より後ろに居て、マイペースで歩くんだろうな。 ああ、そういえば。 あの日も俺は、自分の家に帰りつくまで、あんな風に楽しげにしていたっけな。 花火に誘われて、どこに行ったのか覚えられないほど遊び回って。 帰りには弟と妹へのみやげにお菓子なんか買って。 途中で両親の車が来て、それに乗って家まで帰った。 楽しかった。 我が家のリビングのドアを開ける、その時までは。 685 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 00 41 ID Kgb2rgNQ リビングでは、伯母による虐待が起こっていた。 耳を覆いたくなるほど悲痛な声で泣いている妹と、黙って妹を抱きしめ伯母の暴力からかばう弟。 父も母も立ちつくしたままで、ぼけっと突っ立ったままだった。 どうして、この光景を見てもそうして居られるんだ? かばってくれないのか? 自分の子供が乱暴されてもなんとも思わないのかよ。 両親が何を思っていたのかなんてどうでもいい。 誰も弟と妹を助けてくれないという現実があった。 このまま、俺ら兄妹は伯母に殴られ続けなければならないのか? 心が壊し尽くされるまで、ずっとずっと? ――――嫌だ。 兄妹三人が一人でも欠けるなんて、嫌だ。 弟も妹も俺には必要だ。二人とも大事なんだ。 弟の痛みに喘ぐ声なんて聞きたくない。間違ってる。 こんな目に遭うほどひどいことをしていないのに。 妹は伯母の前ではいつも泣いている。最後に妹が笑ったのはいつだった? 俺は、妹が笑った顔をずっと見ていない。 それからのことは全て覚えている。 立ちつくす両親の間をすり抜けて、全力で伯母に椅子を投げつけた。 床に散らばる割れたグラスの破片を素手でかき集め、伯母の足下へ。 右手に刺さった破片が皮膚を貫いて、じわじわと掌を赤く染める。 キッチンへ飛び込む。手に取ったのはありったけのコップと、まな板の上にあった包丁。 リビングの床を蹴って進む。 伯母が俺を見て糞餓鬼とかなんとか言っていた。 ――うるさいよ。今からその餓鬼にあんたは消されるんだ。 振りかぶり、コップを投げつける。 一個が伯母の鼻にぶつかった。 包丁を構え、大きく踏み込んだ。 その途端、足の裏に激痛が走った。グラスの破片を踏んづけた。 だけど止まらない。止まれない。 倒れていく間に見えた伯母の膝へ、包丁を突き立てた。 固いのは最初だけで、後はずぶずぶと入り込んでいった。面白いぐらいに。 やかましい悲鳴をあげて、伯母が倒れる。足を押さえ、血を流しながら、もがき苦しんでいる。 足りない。この程度では、とてもじゃないが、足りやしない。 この女が俺たちに与えた苦痛と恐怖はずっと消えない。 でも、それももうすぐ終わる。消えて無くなる。 伯母は二度と俺たちの前に姿を現さない。 この場で、俺が終わらせる。 包丁を逆手に持ち、振りかぶる。 伯母を足で仰向けに転がし、包丁の柄を両手で掴み、最上段から振り下ろして―――― 686 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 04 20 ID Kgb2rgNQ 次の日から、伯母は姿を現さなくなった。 俺たち兄妹は伯母の恐怖から解放された。 結果はそういうことになる。 だけど、大きな代償もあった。 代償は、自分でも持っていることに気付けていなかった、とても、とても大切なもの。 妹からの信頼と、仲の良かった幼馴染み。 どちらも、他に代わりなど無い。 今も、代わりになるぐらい大事なものは見つかっていない。 あの時、伯母を刺す直前になって、花火は俺を止めた。 花火の説得は、血の上った頭を鎮めるのに効果的だった。 俺は自分のやっていることがいけないことだと気づき、刃物を下ろした。 ここで終わっているはずだった。花火があと一言言わなければ。 伯母さんに頼まれてアニキを遊びに連れ出した私にも責任はあるんだ――と。 それを聞いて、小さい頃の俺はこう思った。 花火が裏切った。伯母と繋がっていた。今日こうなることも知っていたんだ。 花火も伯母と同じで、俺たちをいじめる人間なんだ。 じゃあ、こいつも同じ目に遭わせてやる。 花火の頬を殴りつけた。 目を丸くしている花火に向けて、今度は包丁を振るった。 一回、二回、三回、四回。でたらめに振り回した。 唐突に花火が悲鳴をあげた。 あまりの声量に顔を顰めた。花火の体を蹴り、離れた位置まで吹き飛ばす。 これで、この場に俺を止める人間は居なくなった。 伯母の居る方に目を向けると、父が必死に声をかけている姿が見えた。 伯母は目を閉じたままで動かない。気絶している。 ――いい気味だ、ざまあみろ、と、小さい頃の俺が呟いた。 すると、小さな声が耳に入り込んできた。 声のする方向、花火を蹴飛ばした方向へと目を向ける。 横たわる花火は頬を押さえていた。 血が両手を染めている。顔中に紅い血糊が付いていた 手から、肘から垂れていく鮮血がフローリングの床を汚していく。 花火の唇が動いた。けど、いまいち聞き取れない。 むしろ泣き声の方が大きかった。 涙を流しているのに、眼の鋭さは少しも衰えていない。 憎悪の籠もった瞳を見ていると、何も言われなくても、花火がなんと言っていたのかがわかった。 そして、答え合わせをするように、花火の唇が動き、声を発した。 ――この人殺し。あんたなんか、大嫌いだ。そう、言っていた。 理解できなかった。 俺は伯母を倒して、弟と妹を守ったのに、どうして俺が人殺しなのか。 それを言われるのは、伯母じゃないか。 なあ? と、同意を求め妹の方を見やる。 妹は弟にかばわれたまま、俺をずっと見ていた。俺が伯母と花火に何をしていたかを。 きっと、俺が現れた時から。 妹の目には恐怖が映っていた。 まるで、伯母を見ているような瞳。 その時になって、ようやく自分で気付くことができた。 俺がやったことは、伯母のやったことと何一つ変わりないのだと。 伯母を刺して、花火を深く傷つけて、妹を怖がらせた。 687 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 06 22 ID Kgb2rgNQ そんなつもりはなかったとしても、それとこれとは別。 平穏を得た代わりに、大事なものを失った。 ただ、家族が仲良く、平和に過ごせればよかった。 俺は誰に対してもそうだ。争いもなく穏やかに過ごすことが好きだった。 その結果がこれ。 障害を排除したら、妹と幼馴染みの信頼を失った。 俺を好きと言ってくれる人に長らく応えず、後になって傷つける。 俺の選択や行動はいつも、なにかしら間違っている。 小さい頃から、何年経っても、いくつになっても。