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「全くあんた、最低ね」 モンモランシーはルイズの頼みに顔をしかめた。それでもルイズは必死で頭を下げる。 「お願い!もうすぐサイトが帰ってきちゃうから!」 はあ、と溜息をついてモンモランシーは棚に並んだ香水瓶を何本か手にとってテーブルに並べ始める。モンモランシーは目を輝かせたルイズに指を立てて言い聞かせた。 「言っとくけど、臭いってのは普通消せないものなの。香水は嫌な臭いを誤魔化すために良い香りを撒くわけ。でも強い臭いに香水を使ったりしたらますますひどいことになるわ」 う、とルイズはうめき声を上げる。モンモランシーは煤で汚れたルイズの顔をハンカチで拭って訊いた。 「で、部屋にぶちまけた失敗料理って何なの」 「最近サイトのこと働かせ過ぎたなとか、牛乳女に出来て私に出来ないはずないなとか思って、ちょっと特製ビーフシチューを作ろうって思ったの!」 モンモランシーが眉をひそめてさらに中身を問い詰めると、ルイズは急に小声になってレシピを説明し始めた。 「ビーフシチューをアレンジしようと思ったのよ。牛のヒレ肉を赤ワインでことことゆっくり煮てちゃんとあく取りしてミルクを加えて」 「それで?」 「コリアンダーとミントとシナモンと紅茶とニンニクとブルーチーズと東方から来たっていうマツタケとを加えて煮てたらゴキブリが出て、それで慌てて魔法で退治しようと」 モンモランシーは調合を考えるメモ用紙を握りしめて言った。 「で、味も香りのバランスも考えないで手当たり次第ぶち込んだシチューもどきを部屋中にぶちまけたと」 「手当たり次第なんかじゃないわよ!」 怒るルイズにモンモランシーは冷静に返す。 「何なら今すぐ厨房のコック長の……マルトーだっけ?訊いてみる?」 う、と再びルイズは黙り込む。モンモランシーははあ、と溜息をついて手元の紙に何やら書いて計算を始めた。 「とにかくそんな変な部屋に普通に香水撒いたって全然駄目ね。トイレの消臭剤と水魔法と……どうせサイトだし。あれで誤魔化すか」 ぶつぶつとモンモランシーは呟いて何やら書きあげると、今度は部屋の小鍋に幾つかの香水瓶の中身を入れる。何やら木屑のようなものや花びらも入れてかき回し、ルイズの聞いたことのない水魔法の呪文を唱える。 小鍋の中身が青く発光し、うっすらと飴色の液体が鍋いっぱいに出来上がる。 「さ、撒きに行くわよ。これ持って」 手渡された円筒形の筒には、キュルケの流麗な文字で「ぴかぴか消臭クン3号 ばい・ダーリン作」と書いてある。コルベールの発明品を誕生日にプレゼントされたと言っていたが、これのことだろうか。 蓋を開けて鍋の中身をこぽこぽと入れ、最後にいきなりルイズの髪の毛を何本か引き抜いた。 「何すんの!」 「最後の仕上げよ」 淡々とした調子でモンモランシーはルイズの髪の毛を消臭クンに放り込むとしゃかしゃかと振り、消臭クンを担いでルイズの部屋に向かった。 モンモランシーが室内に消臭クンで臭い消し薬を噴霧するたび、どぶのような臭いが薄まっていく。汚れの強い場所は水魔法の影響なのか、ほんのりと桃色に輝いて消えていく。何故か時折モンモランシーがメモを取っているが、さすがに頼んだ手前、ルイズもそのメモが何なのか訊く余裕はない。 くんくん、とルイズは部屋の真ん中に立って鼻をひくつかせる。たしかに変な臭いはしなくなった。かすかに薔薇の香りが漂っているようだが、消せない分を誤魔化しているのだろう。モンモランシーはルイズから材料費と手間賃を受け取ると、そそくさと部屋から出て行った。 「ただいまー」 部屋のドアを開けたサイトは鼻をひくひくさせる。ルイズは冷や汗をかきながらサイトの発言を待った。 「薔薇?」 「そそそそうなの。モンモランシーが新しい香水をくれてそれで」 ふうん、とサイトは言い、なんか安っぽいな、と呟く。ルイズはどうせ試作だしまだまだみたいねなどと出まかせを言う。 「でも何か、何だろ。ちょっと汗くさい?」 サイトはベッドに腰かけ、再び鼻をひくつかせると何故か顔を赤らめる。 「どどどどしたの?疲れた?」 「なんかこの部屋さ、その」 「ああああんたほんと、くんくんくんくんして犬みたいじゃない!」 「だってさあ」 言ってサイトはくんくんと鼻をひくつかせて次第にルイズへと近寄ってくる。くんくん、とサイトの顔がルイズの首筋に寄ってくる。 「ルイズの、匂い」 サイトの手がいきなりルイズの体に回った。え、と反発する間もなくルイズはそのまま押し倒される。サイトはさらにルイズの首筋に鼻を寄せてくんくん、と匂いを嗅ぐ。 「わりい。何だか、我慢できねえ」 「あああああんた!」 だがサイトの手はいやらしい場所に伸びるわけでもなく、単にぎゅっと抱きついてきた。何となくルイズはサイトの頭をそっと撫でてしまう。 「あー、何だか安心する」 「そ、そう?」 ルイズもぎゅっとしてやる。くんくん、というサイトの鼻息は本当に犬みたいで、でもそれが妙に愛おしく思えてしまって、ルイズはサイトの額にキスしてしまった。 ちゅっ、ちゅっ、と音を立ててキスをするとサイトの体から力が抜けていく。腕の中で安心しきったサイトの頬を、ルイズはゆっくりと撫でてついばんでみる。 サイトは、私のもの。 呟いて顔中にキスしてしまう。そうっと頭を撫でてやって。ベッドに転がしてやって布団を二人で被る。 「サイト……」 小さく寝息を立て始めたサイトをじっくりと眺めて、まだ夜にならないのにルイズはしっかりとサイトを抱きしめたまま眠りについてしまった。 「男はかなりの割合で好きな女の匂いフェチ、っと」 モンモランシーは使い魔の報告を聞い取りメモ帳に記入すると、メモ帳を開いて呟く。 「今夜はギーシュ、暇だったわね」 そして飴色の液体に自分の金髪を放り込むと、にんまりと笑みを浮かべた。 <投下時から一部修正(by かくてる, 2007-12-02T23 15+09 00) >
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KI/S44-076 KI/S44-076SP カード名:“インモラル”日染 カテゴリ:キャラ 色:青 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1000 ソウル:1 特徴:《キズナ》?・《インモラル》? 【永】 他のあなたの前列の中央の枠の《キズナ》?のキャラに、パワーを+1500。 【自】 このカードが手札から舞台に置かれた時、あなたは自分の山札の上から1枚を公開する。そのカードが《キズナ》?のキャラなら手札に加え、あなたは自分の手札を1枚選び、控え室に置く。(そうでないなら元に戻す) RR 俺が欲しいのは純粋に痛み、なんだけど レアリティ:RR SP ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 “それ系のアレ”日染 3/2 10000/2/1 青 早出し
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消えゆく命の中、「彼」は思考した。反芻した。 きっとそれは年頃の子供が抱く「目上の人間に対する劣等感」みたいなモノで、一時的なモノだったのかも知れない。 自分はゼウスによって作り出され、捨て石となるために生まれた。 アレスを滅ぼすための先触れ。 つまり、自らには「死」の運命が確定する。 彼は捨て石である故に、感情は持っていなかった。自らを起動しようとする人間を全て抹殺し、日々を過ごしていた。 自分に流れ込む人間達の意志は、無意味な記号でしかなかった。彼を道具としか認識しない彼らの感情など、雑音に等しかった。 だが、ある日それが変わった。 ある時、とても軍人とは思えない少年少女が、彼に乗り込んできた。今まで触れたことのない少年少女の若い感性は、彼を刺激した。それはもともとゼウスの一部であった彼を、覚醒させるのに十分であった。 不安、喜び、憤り、悲しみ。 ある時彼らは、彼に語りかけてきた。彼を「モノ」としてでなく、「彼」として認識した人間は、彼らが初めてであった。 彼は少年少女に、親しみを覚えた。そして、交流を図ろうとした。だが、皮肉にも彼が少年少女と深く繋がるごとに、彼らの体は蝕まれた。 彼は悲しんだ。 -----カナ。マサヒト。 彼は、この矛盾に激怒した。 そして、自らに死の運命を与えたゼウスに、激怒した。 そして、この運命を生み出す元凶となったアレスに、激怒した。 それらは無垢な彼を怒りに染めるのに十分なパワーを持ち、そしてその怒りは単純なゼウスへの憎悪に変じた。 やがて、彼は少年少女を道具のように扱うようになった。深く自らの根を下ろし、自分の手足とした。 ゼウスへの復讐だけが、彼を突き動かすようになった。 思えば、あの時あの戦いを静観していれば、何も起こらずにすんだのかもしれない。スサノヲはジュピターに破壊され、彼は役目を終えて解体される。それだけのことですんだのかもしれない。 だが、ゼウスへの憎悪が勝った。 ジュピターの頭部を握りつぶした時、復習を満たした満足感と共に、虚ろなものと、もう戻れない、という自責の念が流れ込んできた。 コドモの劣等感は異常な程肥大化し、ついには他人を巻き込んだ。ここで戻ることは出来ない。そして彼は、もう一人の憎悪の根源、アレスにその剣を向けた。世界の新生を謳って。 負けることは許されない。 例えそれで何も得るものが、なかったとしても。 彼は剣を抜いた。 思えばあの時から、アレスの剣に自らの命が絶たれることを、望んでいたのかもしれない。 走馬灯のように逆再生された記憶が途切れる。 景色が白く霞んでいく。 俺は、あんなことがしたかったんじゃない コピーという烙印を押されるのが嫌だっただけ 劣化複製として死にたくなかっただけ アレスの代用品と ゼウスの代用品と いわれたくなかっただけ。 不意に景色が黒く暗転した。それと同時に、目の前で剣を掲げるアレスの姿もまた、消えた。周囲のいっさいは消失し、彼は無に放り出された。 どこが手で、どこが足なのか、わからない。わずかに生きる視覚を総動員し、状況を、把握しようとする。だが、わからない。何もかもが、わからない。 -----ここが、地獄なのか? -----ちがうよ。 声。その声は、厳格な老人の声にも、妖艶な女性の声にも、無垢な子供の声にも、しわがれた老婆の声にも聞こえた。 -----君は必要とされている。まだ、誰かに その言葉が終わるか終わらないかのうちに、銀色の視界が開け、彼の意識は失われた。 何十回目かのサモン・サーヴァントは、成功した。沸き上がる魔力の奔流。風は周囲の物体を吹き飛ばすばかりの勢いで荒れ狂った。そして、数秒のうちに止んだ。 ルイズは儀式は成功した、と確信する。間違いはない(ハズだ)。この手からほとばしり、杖に至り、その先端から大気へと放出される魔力を、感じ取れた(気がする)。 今の自分なら、きっと神とて一撃で打ち倒せるだろう。そうおもえるほどの高揚感が、今の彼女を満たしていた。 「……来た、私の使い魔が」 煙が晴れる。ゴーレムか。飛竜か。それとも亜人か。ルイズの期待は高まる。 煙の向こうに見える使い魔の姿を、ルイズは想像した。そしてそれを従える自らの姿も。 サイッコーの使い魔とサイッコーのアタシが、今に学園のトップになってやる。 そして、煙が晴れる。 煙の向こうに見えたのは、石像だった。 しかも、頭だけの。 「………」 ルイズも、周囲の人間も、言葉を失う。それがただの頭なら、即刻周囲の生徒はルイズを笑い飛ばしたことだろう。だが、それはただの頭ではなかった。 大きい。 それの全高は、軽く2メートルを超えている。小さなルイズからしてみれば、さらに巨大に見えたことだろう。 「…なにこれ」 アーティファクトの類だろうか。ルイズはゆっくりとそれに近づいていく。周囲は押し黙ったままだ。頭は動かない。 ルイズは近づく。頭は動かない。ルイズはさらに近づく。頭は動かない。ルイズはそれに、手を触れようとした------- 「危ない!」 誰が叫んだのか。途端に、石像の目が光った。ルイズは突然の事態の急変に、腰を抜かして座り込んでしまった。赤い輝きが、石像の目からほとばしる。 一部の生徒は既に逃げの体勢に入っている。場の空気は緊張から危険へと変じた。 「え、え、えぇぇぇええ!?」 だがルイズは動けない。目の前の石像の動向を、見守ることしか出来ないのだ。石像は動かないが、目の光は止まず、真昼よりも明るくその場を真紅に染めた。 だが、それだけだった。光は次第に収束し、灯った時と同様、また静かに消えていく。ルイズも、周囲も安堵した。 「……ほっ」 ルイズが息をついた瞬間。事態は再び急変する。石像から触手が伸びた。黄緑色に輝く触手。触手は石像の上で、絡まるように暴れた。 「下がりなさい!」 儀式の監督に当たっていたコルベールが、生徒達の前に踊りでて、自らの杖を構える。これは使い魔と呼ぶに相応しくない、単なる魔物だと判断したのか。既に詠唱を始めている。 だが、触手の主はこれに気付いたのか、頭上で暴れていた触手は突如規則的な動きに変じ、コルベールの杖を叩き落とした。 さらに触手は向きを変えて伸びる。先ほどまで無秩序に暴れていた触手が、一方向へと、加速する。ルイズはその触手の行く先を見やった。 観衆のほうに向かっている。その方向に集まっていた生徒達の一部は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。触手はこれを個別に追った。生徒の悲鳴が響き渡る。 その追われる生徒の一人があしをもつれさせ、派手に転んだ。 「モンモランシー!」 その少女は、立てロールの髪を何本もさげ、いかにも「貴族」と言ったカンジの少女だった。そのモンモランシーに触手が迫る。 一方のモンモランシーは恐怖に顔を引きつらせ、杖を構えることすらままならない。触手は速度を緩めることなくモンモランシーに到達した。 「いっ、いや、ひやぁあああああっ!!?」 昼間の学園に響き渡るモンモランシーの悲鳴。触手はモンモランシーに吸い込まれるようにして内側へと侵入し、消えた。 同時に他の触手が消失し、モンモランシーは弓なりにビクビクと痙攣して震えている。依然顔は恐怖で固まったままだ。 前代未聞の事態に、コルベールもうかつに手を出せずに固まっている。足腰の調子が戻ったルイズは立ち上がると、石像を仰ぎ見る。 「あんたが…あんたがやったの!?」 その声とほぼ同時に、病気の発作のように震えるモンモランシーの動きが止まり、モンモランシーはがくりとたおれこんだが、緩慢な動作ですぐに立ち上がった。 だが、その顔はうつむき、無表情で固まっている。 「な、直ったのか?」 生徒の一部が彼女に語りかけるが、彼女は反応を返さない。うつむいたまま、固まっている。見かねたコルベールが彼女に近づき、肩を揺すった。 「大丈夫ですか?」 何度か肩を揺すられるモンモランシー。だが、顔はうつむいたままで反応は全くない。コルベールは再び揺すった。 「返事を返しなさい」 『…うるさい』 モンモランシーは、声を発した。 だが、それはそこにいる人間が知っているモンモランシーの声ではなかった。どす黒い、邪気に満ちた声。 まるで、ファンタジーに登場する魔王のような。モンモランシーはコルベールの腕を振り払うと、コルベールが反応するより早く、掌底をコルベールに叩き込んだ。 コルベールは凄まじい勢いで吹き飛び、3メートル程空中を舞った。心配した生徒がコルベールに駆け寄る。 この時、ほとんどの生徒の視線は、当然ながらそのモンモランシー…否、「モンモランシーかどうか疑わしい何か」に向けられている。 驚愕で動けない、というのもあるが、やはりそうさせるのは、恐いもの見たさなのだろうか。モンモランシーは、次にルイズを指差した。 「…わたし?」 『俺を呼んだのは、お前か』 「そ、そうよ。わたしがあんたを呼んだのよ。あんたはわたしの使い魔なんだから、わたしの言うことを聞きなさい」 ルイズは精一杯の威厳を混めて言い放った。だが、それはこの場では逆効果だった。 『ふざけるな…』 トーンの低い声でモンモランシーは言った。怒気がこもっている。怒気を通り越して、殺気の域にまで来ているかもしれない。 困惑するルイズを尻目に、モンモランシーは右手をスッ、と天にかざした。途端、モンモランシーの腕から先ほどモンモランシーを襲った触手のようなものが数本のび、モンモランシーの掌の上で収束した。 形態を失い、一個の個体に変じた触手は、一本の剣となり、モンモランシーの手の中に収まる。鈍い輝きを放つ剣は、殺意の証。 『死人をおいそれと起こすな』 どんっ。 モンモランシーが踏み込んだ。まるで彼女とは思えない。達人の域にまで達したその動作はルイズに身構える暇を与えない。 わずか4歩で、モンモランシーはルイズのまさに目の前まで肉薄し、それと同時に剣を振りかぶり、それと同時に空いた腕でルイズを殴りつけていた。 顔面にまともに入ったパンチに、ルイズはふらりとよろけて後退し、豹変したモンモランシーを見据えようと顔を上げる。 目の前にあったのは、剣の刀身だった。鈍い輝きが、目の前に、ある。 だが、それ以上にはならなかった。剣はルイズの目の前でまさに「停止」していた。モンモランシーもまた、石像のようになり、動きを止めている。 ルイズもまた、極度の緊張感と何が起こったかわからない不安と、死の恐怖が先ほどまで目の前にあった故の緊迫感により、動けない。 そのまま数秒が経過した。 『…クソ…この少女の魔力量では、やはりライトニングソードは…無理か』 次 回 予 告 呼び出されたものが何かもわからぬままに、 混乱は増大する。 ゼロの少女が呼んだものは、 神か、悪魔か。 次回「前世」 機械をまとった神々の戦いが、始まる。
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「ふんふんふーん♪」 食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、ゼロのルイズはご機嫌だった。 今日のデザートは彼女の好きなクックベリーパイなのだ! なにやら食堂の一角が騒がしくなっている気もするが、彼女にとって今は誰にも 邪魔されたくない至高の時間なのである。 使い魔がそっちの方に行ったような気もしたが、当然無視した。 「まったく、あの馬鹿ったら…」 食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、香水のモンモランシーは先日の事を思い出して 不機嫌になっていた。 「ギーシュ、ポケットから壜が落ちたぞ」 「おお!その香水はモンモランシーのものじゃないか!」 「つまりギーシュ、お前はモンモランシーと付き合っている。そうだな?」 「ち、違う!彼女の名誉の為に…ケ、ケティこれはその… ヒィ!も、モンモランシー!?違う、違うんだ!」 「ヘイ!ケティ、マスク狩りの時間だ!」 「OKモンモランシー!」 「クロス!」「ボンバー!」 「ウギャー!キン○マ―ン!」 「すまないギーシュ!僕が壜を拾わなければ…」 「いいんだ…それより、誰か僕の顔を見て笑っていやしないか?」 「誰にも…誰にも笑わせはしない…」 「ありがとう…マルコメミソ」 「マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!?」 つまりは、付き合ってる男に二股かけられたのである。 気位の高い彼女には、とてもとても許容しがたい出来事であった。 気位が高くなくても許容できない話だと思うが。 それでも謝られると許したくなってくるのが、余計に腹が立ってくるというかなんというか。 「どうぞ」 そんなことを考えていると、メイドがデザートを机に持ってくる。 当然貴族である彼女が『ありがとう』等と、平民に一々礼を言うわけも無く、 配った彼女を見ようともしないでクックベリーパイを口に運ぶ。 「…ちょっと、そこの貴方」 「え、私ですか?」 ケーキを配ったメイドが、貴族に呼び止められた事に当惑して立ち止まる。 「これ…どういう事?」 シエスタはこれ以上ないというぐらい脅えていた。 目の前の貴族、学生といえど魔法を操り、平民である自分にとって絶対的な存在が 自分に怒りをぶつけているのである。 「申し訳ございません!どうか、どうかお許しください!」 体の震えが止まらない。 「お許しください、ですって? 貴族である私の口に、平民である貴方の髪の毛を入れておいてお許しください?」 「お願いします、どうかお許しを!」 涙が溢れてくる。 平民の自分が貴族に粗相をして唯ですむはずが無い。 周りを見ても、他のメイドは見てみぬフリをし、貴族は何事かと一度は見るものの、 平民が貴族から罰を受けているとわかれば、あとは特に関心をしめさない。 助けなど望むべくも無いのだ。 シエスタにとって不幸だったのは、モンモランシーの機嫌が悪かった事だ。 そうでなければ怒りこそすれ、基本的に野蛮な事を嫌う彼女が『お仕置き』を する事もなかっただろう。 「覚悟はいいかしら?」 魔法の杖を取り出し、残酷に告げる。 「どうか…」 脅えるメイドに、嗜虐心をそそられたモンモランシーが杖を振ると、 メイドの頭上から水が降り注いだ。 「あら、似合ってるじゃない?」 ずぶ濡れになった姿を見て、にっこりと微笑むモンモランシーの姿に、 シエスタは更なる恐怖を覚える。この程度で済むはずが無いのだ。 「あぁ……ぁ……」 「さあ、次は…」 魔法を繰り出そうと杖を振り上げた瞬間、誰かがその腕を掴んだ。 「やめないか!」 育郎が食堂での騒ぎに気付き、駆け寄って見た物は、杖を振り上げる女生徒の前で、 先日世話になったシエスタがずぶ濡れになって震える姿だった。 「な、何よ貴方!?平民が気安く貴族にさわらないでよ!」 女性が抗議の声をあげるが、無視して育郎が尋ねる。 「君は何をやっているんだ!?」 「ハァ?この子の持ってきたデザートにね、髪の毛が入ってたのよ。 粗相をしたメイドにお仕置きして何が悪いのよ?」 「な!?そんな事で…」 「さっさと離しなさいよ!」 モンモランシーが、呆然とする育郎の腕を振り払おうとするが、 掴まれた腕はまったく動かない。 「彼女に謝るんだ」 静かに、だが強い意志を持って育郎の口から出た言葉を、モンモランシーは 鼻で笑って拒否する。 「謝る?何で貴族の私が平民に謝らなきゃいけないの? それに悪いのはこの子の方じゃない」 「君が怒るのもわからないわけじゃない…でもこれはやりすぎだ!」 「な、なによ…」 なんだなんだと、周りの生徒が2人のやり取りに気付く。 「おい、平民が何やってるんだ!」 「あれは…ゼロのルイズの使い魔じゃないか?」 「主人が主人なら使い魔も使い魔だな…」 周りの生徒が騒ぎ出した事により、少し弱気になったモンモランシーが勢いを取り戻す。 「さあ、早く手をはなしなさい!」 しかし育郎は手をはなそうとはせず、モンモランシーを見据える。 「彼女に謝るんだ…」 な…なんなのこいつ!? 生徒達に囲まれても、まったく物怖じせずに自分を見る育郎に、モンモランシーは 恐怖とまではいかないが、言いようのない不安を感じていた。その時、 「君!今すぐその汚い手を、僕の愛するモンモランシーからはなすんだ! さもなくば、このギーシュ・ド・グラモンが相手になってやろう!」 ギーシュは先日の事を謝る為に、愛するモンモランシーを探していた。 ポケットには今月の小遣いの大半をはたいて買った指輪が入っている。 「これを精一杯の愛の言葉と共に渡せば、彼女もきっと許してくれるに違いないさ」 彼は女の子が好きで、特にかわいい女の子が好きで、さらに女好きの家系という 環境で育ち、あとちょっと頭が弱かったりするため、つい二股なんてしてしまったが、 それでもなんのかんの言って、モンモランシーが一番好きなのである。 「モンモランシーならまだ食堂にいたわよ」 彼女の友人の言葉に従って食堂に行って見れば、なんとモンモランシーが平民、 ゼロのルイズが呼び出した使い魔に凄まれているではないか! 当然の如く、彼は愛するモンモランシーを助ける、というよりは相手が平民なので、 どちらかというと彼女にいい格好を見せる為に、前に出たのであった。 「ああ、ギーシュ!」 そんな思惑も見事に的中したようで、不安になっていた彼女が元気を取り戻す。 「聞こえなかったのか?手をはなすんだ…」 彼なりの凄みを効かせて育郎に薔薇の形をした杖を向ける。 「ほ、ほら早くはなしなさいよ。痛いじゃないのよ!」 「あ、すまない」 やっと手をはなした育郎を見て、モンモランシーは先程の不安を思い出し、怒りに震えた。 この平民にどんな罰を与えてやろうか? 平民が貴族に向かって生意気な目を向けてきたのだ… そうだ!ギーシュのゴーレムを使って痛めつけてやろう! 「まったく、貴方にも躾が必要なようね、ギーシュ!」 「ああ、任せてくれたまえ、モンモランシー…」 「とにかく、シエスタさんに謝るんだ」 「そう、このメイドにあやまって」 「ふっ、何がなんだかよくわかんないけど…すまないね、君」 「は、はぁ…」 「………って違うわよ!ギーシュ、貴方も何言うとおりにしてるの!?」 「え、でも君が謝れって?」 「貴族の僕たちが、何故平民なんかに頭を下げなきゃいけないんだ?」 事の経緯を聞いたギーシュがやれやれと首を振る。 「そうよ!大体平民の貴方が私に気安く触れるなんて…」 「そうだ、僕の愛しいモンモランシーになんてことをするんだ? だいたい、そのメイドが悪いんだろう?」 「…だからと言って、ここまでする事は無いだろう」 育郎が呆然とするシエスタを快方する。 うーん、なんだか変なことになってきたぞ? ギーシュの予定では、今頃は格好よく現れた自分がこの平民を叩きのめし、 モンモランシーからお礼のキスでも貰っているはずなのである。 それがこの平民と来たら訳のわからない事を言って、予定とは違う方向に 話が向かっている。 そういえば何で僕がメイドに頭を下げてるんだ?思い出したら腹が立ってきた。 モンモランシーも機嫌が悪くなってるし…よし、ここで一つ良いとこを見せよう! 「モンモランシー…彼の言うとおり謝ってあげてもいいんじゃないか?」 「な、何を言ってるのよギーシュ!」 先日の一撃で頭のどこかが壊れてしまったのかと、驚きながらギーシュを見る。 「ただし、僕に勝ったらだ………『決闘』だよ!!」 オオーッ!と周りから歓声が上がる。 「『決闘』?」 「そうだよ、正々堂々戦い、負けたほうが勝った方のいう事を聞く。どうだい?」 「そんな!?」 おどろく育郎を、脅えているととったギーシュは、調子に乗ってさらに続けた 「貴族から『決闘』を申し込まれたんだ、まさか断るは言わないよな? いや、所詮『ゼロのルイズ』の使い魔…主人同様出来損ないなら、 臆病風に吹かれてもしかたあるまい…」 その言葉に周りの生徒達から笑いが起こる。 「…わかった、受けよう」 「そんな!?育郎さん駄目です!」 育郎が女生徒を止めた時、シエスタの目には彼がおとぎ話の勇者の如く映った。 物語のなかから出てきた英雄が自分を救いにきてくれたのかと。 しかし、時が立つにつれ怖くなってきた。育郎はただの平民なのだ、 それが貴族と『決闘』だなんて…自分のせいで育郎が殺されてしまうかも知れない、 そう思うと先程より強い恐怖が襲ってくる。 「イクローさん、相手はメイジなんですよ!?殺されちゃいます!」 「殺される…だって!?」 驚いた育郎の顔を見ると胸の中が罪悪感でいっぱいになる。 もっとも、育郎が驚いたのは、生命の危険を感じたからではないのだが。 「僕はヴェストリの広場で待っている…逃げるなよ?」 ギーシュがそう言ってモンモランシーと一緒に去っていく。 「私が…私が悪いんです…だからイクローさんがこんな事を…」 ついには泣き出してしまうシエスタ。 「いいんだ…大丈夫だから」 「何が大丈夫なのよ!」 いつの間にか現れたルイズが育郎を怒鳴りつける。 「あんたどういうつもりなのよ、貴族と『決闘』だなんて!? ちょっと馬鹿力だからって調子に乗らないでよ…ほら、一緒に謝ってあげるから」 「それは出来ない…」 「なんでよ!?いい、メイジに平民は絶対に勝てないの! 心配しなくても、誰もあんたを臆病者なんて言わないわよ…」 「…違う」 「な、何が違うのよ…」 育郎にとって臆病者と呼ばれることなど、どうという事は無かった。 シエスタの事もあったが、逃げればルイズも馬鹿にされてしまう、 それが彼に『決闘』を受ける決心をさせたのだ。 「シエスタさん、彼の言っていた広場はどこですか?」 「駄目!?駄目です!」 涙を流しながら必死で止めようとするシエスタをなだめながら、 育郎は近くにいた生徒に広場の場所を聞く。 「何やってるのよ!?やめなさいって言ってるでしょ、ご主人様の命令なのよ!?」 「…それはできない」 「………もう知らない!ギーシュの馬鹿にボコボコにされればいいのよ!!」 走り去るルイズの後姿を見送り、シエスタを他のメイドに任せてから、 育郎は広場に向かった。 果たして、僕はあの力を使わずにすむのか? そう考えながら… 「何か俺忘れられてねーか?いらない子認定されてね!?」 そのころデルフリンガーは言いようの無い不安を感じ、思考がネガティブになっていた。
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303 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/11/27(月) 21 31 38 ID Fbj3A6iz アメリカンジョーク風ゼロの使い魔 ある朝、いつものように大好きな使い魔のサイトをつれて 授業を受けに行こうと部屋を出たルイズは、少し離れたところにある モンモランシーの部屋からギーシュとモンモランシーが出てくるのを目撃した。 見ると、ギーシュはなんとモンモランシーにお出かけのキスをしているではないか。 羨ましくなったルイズは傍らのサイトに真っ赤な顔を悟らせないよう言う。 「ね、ねぇ、ギーシュは出かける前にモンモランシーにチチチ、チュ−してるわよ・・・ あああ、あなたはなんで同じことしないの?」 「は?だって俺、出掛けにキスするほどモンモンと親しくないし」 その日一日、悲鳴が途切れることはなかった・・・・・・ 終わり
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前ページ次ページIDOLA have the immortal servant 日増しに凶暴化していく原住生物。暴走する坑道の作業用機械。それを責任者であるオスト博士に向かって詰め寄れば、彼はにこやかに笑う。 「計画は順調だ」 そんなわけがない。この移住計画はおかしい。いや、この頃になるとルイズも分かっていた。この星「が」おかしいのだと。 夢の中で自分は陸軍副司令官という立場にあった。上層部に不信を募らせる部下を宥める日々。話に取り合おうとしない上役と本星の連中。 無力な自分を蔑みながらも、日々は過ぎていく。 そして、あの忌まわしい日がやってきた。忘れない。それを忘れられるはずがない。 蠢くようにそれは姿形を変えていた。見慣れた生き物のように見える時もあれば、想像の中ですらも思いつくことがないような、不可思議な姿にもなる。 瞬間瞬間ごとに死と生誕を繰り返しているような、その、姿。 それを、ひどく禍々しい、とルイズは感じた。 しかもそいつは、自分達を確かに値踏みするように見ている。……いや、見られているのは自分だ。 もっと―――優秀な命を。 それが、天空に向かって光の柱を打ち上げた。 光の柱は破壊を伴った豪雨となって辺り一面へ降り注ぐ。ルイズが指揮を執ってここまで生きのこって来た残存兵力は、今の一瞬で半壊した。 苦悶の呻き。断末魔。それをあげる事すら叶わず、身動きしなくなった者。 ルイズは運良くそれを避ける事ができた。当たればただでは済まなかっただろう。 恐慌状態で必死にリューカーを使うものもいるが、この場と拠点をつなぐそのテクニックは発動しない。 ……『アレ』がそれを妨げているから。誰一人生かして帰さない。そう言っている。 ルイズは白く透き通る大剣を構えて走る。 受け身でいてはやられる。一刻一秒でも早く、奴を殺す。殺さなければ死よりも恐ろしい、おぞましい結果が待ち受けている気がした。『アレ』は、この世にいてはならないものだ。 笑っていた。喜んでいた。ルイズがそれでも向かってくる事が自分の愉悦だと言わんばかりに。 ―――だから―――素体とするには少々老いているが、お前は特別だ。 虹色に輝く刃がその化物の胸の辺りから生まれる。とんでもない間合いから、常軌を逸した速度で振るわれたそれが、ルイズの体を薙いでいった。 「~~~っ!!」 「――ズ……ルイズ!」 「っ!?」 ルイズはベッドの上で目を開いた。傍らにはフロウウェンの心配そうな表情があった。 寝汗をかいていた。ひどく呼吸が乱れている。 「あ……え……?」 「うなされていたな。大丈夫か?」 「わ、わたし……?」 上体を起こしてみれば、『アレ』はどこにもいなかった。あの不気味な、生き物なのか何なのか、よく分からない奴らもいない。勿論、斬られた傷などどこにもない。 夢を、見ていたらしい。 「夢で……よかったぁ……」 と、ルイズは胸を撫で下ろす。 主の様子に、フロウウェンは小さく笑った。 「まだ少し早い。もう暫くは寝ていても大丈夫だろう。オレはこれから少し鍛錬をしてくる」 言われてルイズは窓の外を見た。鳥の鳴き声が聞こえてくる。まだ空が白み始めたばかり、という所だろう。 「こんなに早くから?」 とルイズは言うが、大体毎朝フロウウェンはこのくらいの時間には起きているのである。 「その後は洗濯があるしな」 昼間はルイズに付き添って授業に出ているし、放課後はルイズへの座学がある。自分の為の鍛錬に使える時間は限られているのであった。 「では行ってくる」 言うと、フロウウェンは部屋を出て行った。 ルイズは再び横になるが、しばらく逡巡した後、ベッドから這い出した。 「おはようございます」 水場に現れたシエスタは、にこやかな笑顔を浮かべて、いつもそうするように挨拶をしてくる。 「ああ。おはよう。シエスタ」 シエスタはフロウウェンから少し離れた所に、ちょこんと腰掛けたルイズの姿を認めた。 「おはようございます。ミス・ヴァリエール」 「おはよう」 少しばつが悪そうにルイズは答えた。 ルイズは、こんなに朝早くから平民の持ち場に貴族がいるのは変じゃないだろうかと、気を揉んでいた。 結局寝床を抜け出してフロウウェンに付いて回って、彼の朝の鍛錬を見物し、手持ち無沙汰だったのでその後の掃除洗濯まで、何をするでもなく見続けているのである。 理由は明確だ。二度寝すると悪夢の続きを見てしまいそうで嫌だったからである。最も、ルイズ本人は絶対に怖いからなんて認めないだろうが。 「おう。おはよう。嬢ちゃん」 デルフリンガーの挨拶に、シエスタが目をぱちくりと瞬かせた。 普段ならばフロウウェンは洗濯をしている時間帯なのだが、この日は少し鍛錬を前倒しして既に洗濯を終えている。 デルフリンガーも普段なら鞘に入れて持ち歩くところなのだが、今日は抜き身だった。 「け、剣が喋った?」 「インテリジェンスソードよ」 シエスタの興味がデルフリンガーに移ったことをこれ幸いと、ルイズが答えた。 「インテリジェンス……ああ。喋る剣ですね。わたし、見るの初めてです」 「ああ。デルフリンガーってんだ。よろしくな」 「シエスタです。よろしくお願いしますね。デルフリンガーさん」 特異な相手だったが、意外に親しみやすいと思ったのかシエスタは屈託のない笑みを向けた。 「剣など持ち込んですまんな。水場でないと手入れができん」 苦笑を浮かべると、フロウウェンはアイテムパックからいくつかの品物を取り出す。 白い砂の盛られた包み、ワインのコルク、砥石。それから油の入った小瓶とボロ布だ。 「何? その粉?」 ルイズが怪訝そうな顔を浮かべる。その疑問にはデルフリンガーが答えた。 「磨き砂だろ。こいつを、そこにあるコルクみたいな弾力のある物につけて擦ると金属の錆が落とせるんだが……」 「へえ」 ルイズの知識は多岐に渡るが、平民の知恵は流石に知らなかったらしい。 何時の間にこんなもの集めたのだろう、とルイズは首を傾げた。 ギーシュとフーケの件以来、学院関係者に顔が知れたのだが、特にマルトー、シュヴルーズ、コルベールは、フロウウェンに対して好意的であった。だから少し訊ねればどれも入手が容易であった。 磨き砂はハルキゲニアにあるのかどうか不安だったが、杞憂であった。土のエキスパートであるシュヴルーズは簡単に『錬金』で作り出してみせた。 聞けば、ハルキゲニアでも磨き砂は平民の道具として一般的に流布しているものらしい。フロウウェンの文明でも歴史的には、化学合成した薬剤などが作られる以前には洗剤や研磨剤として広く使われていたのだから、そう特別なものでもないのだろう。 「錬金で錆落としを頼むと言うのも味気ない。手に負える範囲なら自分の物は自分で手入れしたい性質でな」 「ヒースクリフさんって、剣が使えるんですか」 「まあな」 マルトーは最初の印象から徒手空拳が得意と思っているようだが、フロウウェンの専門はあくまで大剣である。 あれで妙な持ち上げ方をしなければマルトーとも膝を交えて付き合えるのだが、とフロウウェンは苦笑した。 磨き砂をデルフリンガーに塗し、コルクを水で濡らして刀身を丁寧に擦っていく。それを見届けたシエスタは自分の仕事に戻っていった。 刀身を磨く小気味の良い音に、衣類を洗う水の音とシエスタの鼻歌とが重なる。 空は雲ひとつない快晴。今朝方見た悪い夢など忘れてしまうほど平和で長閑な時間だった。ルイズは口元に手をやって、小さく欠伸をした。 「んー……その、なんだ」 ややあって、デルフリンガーは何故か申し訳なさそうな声で小さく唸った。 「どうした?」 「悪い。相棒。多分、それじゃ俺の錆は落ちない……と思うんだよな」 「そうなのか?」 前もってデルフリンガーに言わなかったのは、事前に知らせずに砥いでやった方が喜ぶと思ったからだ。 「メンテナンスにはメイジの力を借りないと駄目だということだろうか」 考えてみればフロウウェンの常識にはない剣ではある。フロウウェンの文明にも千年前に鍛えられて尚実用に耐える、 『四刀』と呼ばれる名刀の実在があるが、六千年というのは流石に聞いたことが無い。 デルフリンガーの自己申告を真実とするならばの話だが、そんな歴史を持つ剣が、この程度の劣化で済んでいるというのがそもそも異常なのだ。 手入れの仕方も特別でなければいけないのかもしれない。 「メイジでも多分無理だよ。大体俺、自分で自分を錆びさせたんだった。元に戻す方法忘れてるけどな」 「自分で? 何故わざわざ?」 「あー。錆びてりゃほっとかれるしよ。いちいちつまらん連中に使われるのも飽き飽きしてたからな」 そう言ってから、慌てたような声で続ける。 「あ、いや。相棒はそうでもないけどさ。それに、砥ごうとしてくれたことには感謝もしてるぜ。悪いな」 デルフリンガーの言葉にフロウウェンは小さく笑った。 楽観的なデルフリンガーらしくない物言いではあった。どうも相手の善意を徒労に終わらせてしまったという後ろめたさが弱気にさせているようだ。 武器であるデルフリンガーが、そんなことに罪悪感を感じるというのも妙な話ではあるが、そんな性格をしているからこそ、フロウウェンはデルフリンガーを買ってきて正解だった、と思う。 布でデルフリンガーの刀身についた水分を拭う。それから油の入った瓶を取り出した。刃物に塗って錆を防止する為の物だ。 「まあ、過程は省略してこれぐらいはしておくか」 「むう」 本当は油を塗布する必要もないのだが、されるがままにデルフリンガーは任せた。 傍らではルイズがうつらうつらと船を漕ぎ始めている。 それを眺めてシエスタはまた小さく笑うのだった。 「おはようヴァリエール、タバサ」 「おはようツェルプストー」 「おはよう」 食堂に入ったところで、ルイズ、キュルケ、タバサの三人が顔を合わせた。自然、この三人が揃うと行き着く話題は…… 「あれはどこまで育った?」 というものになる。 あれとはフーケ捜索の恩賞として手に入れた『浮遊の虫』こと、マグの事である。 共通の話題があることも手伝ってか、ルイズはキュルケとタバサの両名と、以前より言葉を交わすことが多くなった。 「私は一回目の変身はしたけどね。しばらくエサ上げてるけどそれっきりよ」 と、キュルケ。 薬品を食べて成長する。また成長に応じて形を変える。その食生活の傾向に応じて主の能力を補強する。 それがマグの能力だった。マグの持つフォトンを主とシンクロさせて主の能力強化を行う、との事だ。 精神力の補強というのがメイジにとっては垂涎ものだ。はっきり言えばハルケギニアの常識を超えていた。 極端な話をすると、充分にマグを育てれば、メイジとしてのランクを超えた魔法を行使することができるかも知れない、ということだ。 マグの成長には限界があるらしいが、どこまで補強されるのか想像はつかない。ともかく、未知数だけに夢は広がる。 ルイズはランク以前の問題だが、グランツの威力が向上するのは間違いないらしい。と言っても現状、戦闘はルイズにとって重要視される項目ではないのだが。 他にも、ある程度の自律的な行動を行うらしい。怪我をした時や意識を失った時、強敵と相対した時などに主をサポートすることがある……という。 「わたしも一回目よ」 「ふうん。あなたのマグはピンクなのに、私のは赤じゃなくて黄色で、タバサのマグは緑なのよね。何故かしら」 ルイズ達がマグを肩に留めた途端、その体色が変化したのである。 キュルケとしては自分の赤毛は気に入っているので、マグも赤色に変化して欲しかったのだ。 「持ち主の名前が関係してるらしいわ」 フロウウェンの言う所によると、本来はマグが自動的にセクションIDというものを割り出して体色を変化させるらしい。セクションIDが無い者でも、マグが所有者の名前を理解すれば色が変わる、とのことだ。 セクションIDというのは自分の所属がどこであるか示す身分証明書のようなものだと説明してくれた。 ともかく、所有者の名前のスペルや文字数などが関係するとだけルイズは理解した。 「へえ。タバサのマグはどうなったの?」 「二回目」 「本当? 後でどんなのか見せてね」 頷くタバサ。マグは何も食べさせなくても飢えることは無いが、満腹になることもない。少し時間を置けばいくらでも食事させることができた。 読書の傍らでマグに給餌をしていたので、成長が早かったのである。また、精神力補強最優先で育てていないことも成長速度が二人と違う要因の一つだろう。 タバサは自分の戦闘の補助用としてはっきりと将来像を定めているのだ。回避用の体術を補佐させるために筋力の補強もある程度行うべきだし、魔法の狙いを正確にする為に手先の器用さも必要としている。 「でもねえ。どうも水の秘薬が高くていけないわね」 キュルケはうんざりしたような顔になって愚痴を零す。水の秘薬は元々高価なものなのだが、品薄で冗談のような金額になっていた。 色々な薬品を食べさせてみたのだが、どうも水の秘薬そのものか、或いは水の秘薬を元に調合した薬を与えて育てるのが、マグに精神力補強をさせる為には一番いいらしい。 ―――というのはデルフリンガー談だ。 デルフリンガーとマグは、ある程度の意思疎通が可能ということが判明したのである。持った者の技量を察知したりと、中々隠し技の多い剣だ。 「ああ……水の秘薬ね……今ある在庫で完売だって」 「え? 水の秘薬が何ですって?」 その言葉に反応したのは艶やかな金髪をくるくると巻き毛にした、青い瞳の美少女だった。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。『香水』の二つ名を持つ、トリステイン魔法学院の生徒で『水』のメイジである。 「ラグドリアン湖の水の精霊と連絡がつかなくなって、水の秘薬が品薄っていう話よ。水位も上がってて近くの村に水害が出て大変だとか」 モンモランシーにルイズが答えると、彼女は表情を曇らせた。 「それ、本当? 誰かが水の精霊を怒らせたんじゃないの?」 「ああ、確かモンモランシーの家は水の精霊との交渉役なんだっけ?」 ルイズは博識である。学術的知識から歴史、地理などその知識は多岐に渡る。親戚筋であるトリステイン王家に関わることでもあるので、モンモランシ家の盟約を知っていたらしい。 「い、今は他の貴族がやっているけどね。そ、そうなのよ。だから、その、少し気になる……かな?」 慌てて答えるモンモランシー。ラグドリアン湖の水の精霊が気になる、というのは半分は建前だった。 水の精霊のことが気に掛からないわけではないのだが、今のモンモランシーにとっては、その水の精霊によって齎される秘薬が手に入らないというのが、非常に困る事態なのである。それも、ごく個人的な事情から。 「水害……」 タバサは、じっとルイズの横顔を見詰めていた。 ラグドリアン湖の近くに、タバサの実家はある。もしかすると被害にあっているのは自分の実家かもしれないではないか。 タバサの心にじわりと不安が広がっていた。 フロウウェンはいつもの放課後の座学を終えると、イメージトレーニングをしているルイズの邪魔にならないよう部屋を出て、図書室へと向かっていた。 今ルイズが行っているのはフォトン操作能力向上の為のトレーニングだ。 これが順調に進んでフォトンを緩急自在に扱えるようになるなら、新しいテクニックを習得するだけでなく、四大系統の魔法も暴走させなくて済むかもしれない。そういう目算だった。 とはいえルイズのフォトンへの巨大な干渉能力はフロウウェンの目から見ても常識外れで、一朝一夕というわけにも行かなさそうだ。結果として徒労に終わる可能性もある。 それを聞かせても尚、ひたむきに努力するルイズは、実に模範的な学徒の姿と言えよう。 タバサに体術を教える約束もしていたが、今日になって数日延期してもらうと言ってきた。急に実家に戻る用事が出来たのだとか。キュルケもその付き添いという事で馬車に乗って学院を出て行った。 そう言った訳でフロウウェンは手が空いていた。 フロウウェンは、暇になった時は図書室へ向かうことにしていた。 例によって貴族しか使えないというので、オールド・オスマンに言って、使用許可を貰っている。 フロウウェンはルイズの使い魔であるから、主人の必要な本を探してくるにはそちらの方が便利だろうという名目で許可が下りた。逐一理由が必要な辺り、貴族とは面倒なものだ。 「あ」 フロウウェンが調べ物をしていると、入ってきたフーケ―――今は秘書に戻ったのでミス・ロングビルだが―――が、その姿を認めて小さく声を上げた。 「奇遇だな」 「ええ、そうね」 フーケは挨拶もそこそこに、目当ての書籍を探しに行く。オスマンに調べ物を頼まれているのだ。 フロウウェンも読んでいた本を棚に戻すと、新しい本を物色していた。 何とはなしにフーケはフロウウェンの姿を追っていた。自分を出し抜いてくれた男が、メイジ用に作られた図書館で右往左往する様子が見たかっただけなのだが、残念な事に、書棚の下の方に彼の目当ての物はあったらしい。 その手に持っている書物は、童話だった。さっきまで座っていた椅子には分厚い字引が置かれている。どうにも取り合わせとしてはアンバランスだった。 「イーヴァルディーの勇者? 何よそれ。あの子に読んで聞かせたりでもするの?」 イーヴァルディーの勇者は平民に人気の作品だ。別に童話というわけでもないのだが、幾つもモチーフにした作品があり、子供向けという形で編纂されているものもある。 かくいうフーケも、子供に読んで聞かせた経験があったりする。フロウウェンの手にしているのは、自分が読んで聞かせたものと同一だった。 「いや、これはオレが読む。入門用としては分かりやすかろう」 「字が読めないの?」 フロウウェンが異界から来た事を知らないフーケには意外だった。 「オレは外国人でな」 フロウウェンは簡素に答えた。 フーケは得心がいった。道理で見慣れない格好をしているわけだ。『浮遊の蟲』の知識もその辺に由来するものなのだろう。 「授業の際に黒板に書かれた文字を解析してはいるのだがな。如何せんあれは専門用語が多くて閉口している」 「そんな面倒な事をしなくても、あんたのご主人様に聞けばいいじゃないか」 「そうも行かない理由があってな」 彼は曖昧に笑った。 「私が教えてやろうか?」 フーケは言う。フロウウェンに恩を売っておいて損はないという打算の上での申し出だった。 「止めておいた方がいい。後で人の恨みを買うことになるかも知れんぞ」 「は?」 その言葉の意味がフーケにはさっぱり解らなかった。どうして文字を教える事が他人の恨みを買うことになるのか。 「ごく個人的な理由で学んでいるのでな。その責任の所在を誰かに押し付けるわけにもいくまい」 そう言って笑う。その目は静かに、深い青色を湛えていた。 さて、その頃―――図書室の本棚の上層部では。 「えっと。これはあっちで、この本はあそこ」 一人の女生徒が図書室から借りた本を返却する為に本棚を回っていた。モンモランシーである。 モンモランシーの趣味はポーション作りである。 魔法屋から買い付けたレシピだけでは、ポーションを調合に行き詰った過程があったので、図書室から文献を借りていた。 街へ向かい、品薄になっていた水の秘薬を有り金の殆どを払って買い付け、図書室を駆け回り、先程までポーションを調合していたのだ。駆けずり回った甲斐あって、無事に完成した。 昼間、ルイズ達から聞いた、水の秘薬の話が、モンモランシーに行動を起こさせた決定打となった。 レシピは手に入れていたが秘薬は非常に高価だし、何より非合法な品なので実際に調合するには踏ん切りがつかずにいたのだ。 勿論最初は使う気など無かった。コレクションのようなものとしか思っていなかった……はずなのだが、完成に至り、少々気が変わってきている。 ギーシュの二股が発覚してから、彼とは恋人としての付き合いを止めたつもりでいたのだが、毎日のように自分の部屋に謝りに来る。 二股をかけていた一年生のケティとかいう子とは別れたとのことだ。許してやってもいいかな、などと、モンモランシーは漠然と思い始めていた。 ただ……また同じ事が起きないとは限らない。 ギーシュはその場の勢いで後先考えずに突っ走る部分がある。そして自惚れやすい。約束がどうこうというより「女の子の前で格好つけるためには」何もかも奇麗さっぱり忘れて、雰囲気に流されていくのである。 これではいくら口約束を取り付けたところで意味が無い。 惚れ薬をワインに混ぜてギーシュに飲ませればいいのでは? そうすれば彼の浮気癖など関係ない。そんな考えがふと頭をよぎったのは、惚れ薬のレシピを眺めていた時だった。 そして、その完成品は手元にある。小瓶に詰めた液体を掌の中で弄ぶ。 普通なら持ち歩くようなものでもないが、ご禁制の品であるという後ろ暗さと、自分に一途なギーシュという青写真で舞い上がった乙女心が、モンモランシーの判断力を平常時とは異なるものにさせていたのである。 実物が手元にあると、空想や妄想も具体性が増してくる。使ってみたいと思うのが人情なのだ。これをこっそりとワインに注ぎ込む。それをギーシュが飲み干す。そんな場面を何度もシミュレートする。 あの浮気者のギーシュが、自分にかしずく様を想像するのは如何にも小気味よいものがあった。 それで完成と同時に、自分の使い魔のロビンをギーシュの所へ使いに出した。 後で自分の部屋に、ワインを持参して来るように、と。 しかし、モンモランシーの楽しい空想の時間はそこで終わりを告げた。 「あ!」 ぽろり、と小瓶が手から滑り落ちて落下した。咄嗟のことに『レビテーション』をかける暇すらない。 ところで、メイジ用のこの図書館は高さ三十メイルほどの巨大な書棚が立ち並んでいる。 『レビテーション』が使えるメイジにはこの方が便利なのであったが、この場合はそれが災いした。小壜は当然、階下まで落下していく。 頭上から 「あ!」 という女生徒の声。 「ん?」 フロウウェンは上を見上げた。何かが落ちてくる。フーケの頭上に。 「え?」 フロウウェンにつられて、フーケもまた上を見上げた。 フロウウェンの動体視力と反射神経ならば、落ちてくる小壜を空中で掴み取るぐらい容易いことであった。 不幸なのは、その時偶々小壜が逆さを向いていたということだ。偶々フーケが口を開けて上を向いていたということだ。 掴んだ拍子に、小壜の蓋が緩む。中から零れた液体が、フーケの口元に注ぐ。 「っ!? けほっ、けほっ!」 突然降って来た謎の液体を思わず飲んでしまい、フーケが咽る。 「な……大丈夫か?」 「んんっ。へ、平気だけど、何が落ちてき……」 そして顔を上げて……フロウウェンを見た。 その瞬間、フーケの頬が朱に染まった。 自分を出し抜いた男だ。一目置いてはいた。だけどこんな……こんな、目が離せなくなるほどに魅力を感じるなんて。 その気持ちにフーケは困惑した。次いで襲ってきたのは深い後悔だった。 自分は彼に何をした? ゴーレムで潰そうとしたんじゃないか。 「わ、わたし……」 フーケの瞳が潤む。つうっと涙が零れていった。目の前のあまりの展開に、フロウウェンはついていけない。 「私、悪い女だったわ!」 フーケはそのままフロウウェンの胸元に飛び込んで、さめざめと涙を流した。 頭上から階下を覗き込んでいたモンモランシーは、蒼白な顔で頭を抱えていた。 「ルイズ!」 珍しく慌てた声のフロウウェンが部屋に飛び込んでくる。何事かと扉に目を向けて、ルイズはあんぐりと口を開けた。 フーケをその腕に抱きかかえていた。抱えられたフーケはフロウウェンの首に右腕を回し、左手で彼の頬をさすっている。 キュルケも真っ青の色気の振り撒き様だ。何だかフロウウェンを見詰める目が怪しい。 「な、なななななっなっな」 抱きついてくるフーケを図書館からここまで迅速に運んでくるにはこの形が一番早かったのだ。それでも数人の生徒には見られたかもしれない。 何しろフーケと来たら、もう二度と盗みなんてしない。ゴーレムをけしかけて悪かった。などなど、とてもではないが他人に聞かせるわけにはいかない言葉まで口走りそうになるのだ。その都度口を手で押さえて事無きを得たが。 原因を特定するしない以前の問題として、すぐに人目につかない所へ移動させなければまずい。人目につかない所と言って、二人きりになるのも更にまずい気がしたので、ルイズの部屋へ駆け込んだのである。 「なななな、何してるのよーっ!?」 案の定ルイズは激昂した。 「違う! それは違う!」 「何が違うの!?」 さすがに狼狽した様子でフロウウェンは図書館であった顛末を話し始めた。 ルイズに事情を説明している事にすら嫉妬するのか、フーケがフロウウェンに纏わりつく。 「あら……ヒースは私よりこんな胸の無い小娘の方がいいっていうの?」 「胸の無い……」 ルイズは分厚い本を手に取ると、それでフーケの頭を強打した。それで彼女は静かになった。 それからフロウウェンを睨んで言う。 「そんな話! ししし、信じろっていうの!?」 下手な言い訳をすれば、自分までその本で殴ってきそうな剣幕であった。 「理由もなく、こんな状態になる方がそもそもおかしい!」 フロウウェンはフーケの身体をベッドに横たえると、咳払いしてから言った。 「証拠もある。この小壜だ」 机に置かれたのはどこか見覚えのある小壜だった。まだ何か得体の知れない液体が、小壜の中に残っている。 「これって……モンモランシーが使っている香水の壜じゃない」 「確かに、これは食堂で拾ったものと同じ壜だな」 「そう……諸悪の根源はあの渦巻きね……」 ゆらり、とオーラを放ちながらルイズは立ち上がった。 前ページ次ページIDOLA have the immortal servant
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ルイーズ(13) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 ジェルシー女子修道院長。 関連: アンヌドモンモランシー (アンヌ・ド・モンモランシー、父) マドレーヌドサヴォワ (マドレーヌ・ド・サヴォワ、母)
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前ページ次ページブラスレイター コンシート トリステイン魔法学院。 トリステイン王国に有る由緒ある学院である此処には、国中から貴族の子息が集い、そして他国からの留学生も迎え、魔法を学ばせている。 全寮制であるこの学院では、貴族達の生活を支える為に、メイドやコックなどの使用人、衛兵等、多くの平民達が働き生活している。 この日の昼過ぎ、夕食の準備に取り掛かっている厨房はいつもより騒がしかった。 「くそっ、今日もあの忌々しい貴族ども料理を作らにゃあかんと思うと腹が立ってくる! そうだろお前ら!」 怒鳴り声で周囲の料理人達を怒鳴りつける、四十過ぎの太った体にたいそう立派にあつらえたコック服を着た平民の男の名はマルトーと言う。 平民であるが、魔法学院のコック長である彼の収入は身分の低い貴族が及びもつかない位に羽振りがいい。 トリステインの平民が貴族に対して抱くのは嫌悪か恐怖、もしくはその両方だ。 マルトーは魔法学院のコック長という地位にいながら、羽振りの良い平民の例に漏れず貴族と魔法を毛嫌いしていた。 いや、むしろ貴族に対して敬意や好意を抱く平民という話自体、トリステインではあまり聞かれない。 「くそっ、貴族、貴族って威張り腐りやがって!」 だが、その日のマルトーの機嫌の悪さはあまりに異常だった。 そもそも、厨房の使用人たちを始め学院内の平民仲間には慕われているマルトーは、確かに大きなミスなどをしたらそれなりに怒りはするが、いつもは、こうも八つ当たり同然に捲し立てたり怒鳴り散らしたりなどしないからだ。 周囲のコックや使用人達は、追い立てられるように作業しながらも、そんなマルトーの姿に違和感を覚える。 「おいおい、マルトーの親方、今日はなんであんなに荒れているんだ?」 「知るかよ。朝からずっとあの調子だ」 確かにマルトーは貴族嫌いではある。 しかし、それ以上に料理人としての自分に対するプライドが高く、彼の仕事であり誇りである料理中にはそれに集中する事を考え、貴族への文句を口にした事はこれまで一度も無かったからだ。 それではそんな彼がここまで不機嫌になる出来事があったであろうか? 少なくとも厨房に用も無く貴族がやってくる事などまずは無い。 魔法学院の子息達にとっては平民のいる場所であって自分達の足を運ぶ所などでは無いという意識は在ったし、マルトーの仕事は学院が彼の今の立場と扱いをするにふさわしい完璧なものであり、これまで料理にケチをつけられた事も無い。 他にもマルトーが学院側と話をする際でも、マルトーの方から出向くのが常でこちらに学院管理側の貴族が来る事は無い。 よって、誰もこの場所で貴族の姿を見た記憶は全く無く、マルトーが貴族に対して何かあったかどうかを知る事が無いのだ。 しかも、一体何がそんなに腹立たしいのかとマルトーに問うても、彼が毎日口に出すありふれた不満が並べられるだけで、具体的な事態が見えないのだ。 「畜生が、一体俺がどれだけ苦心しながら料理を作っているのかっ! 貴族どもは全く理解しちゃいねぇ!」 顔を興奮で赤くしながら、包丁で鶏肉を切るというより既に叩き潰す有様のマルトーの姿に、使用人達は顔を見合わせる。 もしかしたら、学院長のオスマンなら何か事情を知っているかもしれないと思いつく者もいたが、流石に平民が貴族にこの程度の事ででお伺いを立てるなど非常識であるとされ、結局は本人が語らない以上は彼らには何も判りようが無いのだ。 だが、流石にこれでは埒が明かないと料理人の一人がマルトーに近づく。 「親方、少し落ちついて下さい」 「クソ貴族がっ! 俺の仕事場に入るんじゃねェッッ!!」 が、その近づいてきた料理人を、マルトーは半ば魘されるようにその太い腕で力いっぱい振り払った。 「――お、親方っ!?」 突然の暴力に尻餅をついてあっけに取られる料理人の目の前で、マルトーは包丁を持った手を振り上げていた。 「親方っ! 一体何やっているんですか!」 「お、親方を、マルトーさんを取り抑えるんだっ!」 突然に暴力を振るい出したマルトーを周囲の使用人達が取り押さえる。 4、5人が取り囲み折り重なるよう抑える事で、すぐさま興奮するマルトーの動きは抑えられたかのように思われた。 「な!?」 突如、未だに尻餅をついたままの料理人が驚きの声を上げる。 「クソッ! 放せぇっっ! クソッ! 貴族どもがぁ! 俺の前から――」 料理人の目には、先程から振り上げられたマルトーの手が、手にある包丁の持手にめり込むさまが―― いや、マルトーの手の皮がまるで溶けるようにして包丁に纏わり、そのうち包丁と手が一体化するように癒着―― いや、これは実質的に一体化、つまり融合している―― いや、そればかりか、仲間の料理人に遮られマルトーの姿はその腕の部分しか見えないが、その腕が何か禍々しいモノに形を変えていた。 『――消えろぉおおおっ!!』 くぐもったマルトーの咆哮と共に、取り押さえていた料理人達が振り飛ばされた。 「ひ、ひぃーーーーーっ!!」 尻餅をついたままの料理人は、仲間が振りほどかれる事によって姿を晒すマルトーが、いや“マルトーだったモノ”が視界に入るなり悲鳴を上げた。 その料理人は自分の頭上に振り下ろされる、包丁の様な手を視界に映し、最期の瞬間まで悲鳴を上げ続けた。 男が召喚されてから3日経っていた。 2日の間謹慎していたルイズとコルベールには特に異常は見当たらず、男は相変わらず牢で大人しくしていた。 それからコルベールは馬で、王宮への報告に出向き、続けてその足で王立魔法研究所へと協力申請に向かった。 研究所から派遣されたのはエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールという、金髪長身の気の強そうな女だ。 名前から判るように、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの姉である。 本来ならば、伝染病の事前調査確認の為などに、公爵家のゆかりでもある彼女ほどの立場の者が出てくる事は無い。 だが、学院の特使として派遣されたコルベールの説明で、それが『前例の無い使い魔として召喚された人間』であり、なおかつ『自分の妹が数日前に召喚した』と聞かされれば話は違う。 密書なり使えばいいものを、わざわざ教師であるコルベールがエレオノールの元に足を運んだのは、それらの他者には説明すら出来そうに無い特殊な事情に付け足し、伝染病の事実の隠蔽、伝染病の特定の不可、そして可能な限りの秘密裏にして確実な処理等を考慮してである。 エレオノールは公爵家の長女にして結構な美人であるにも関わらず、次々と相手から婚約破棄される程に、異常な傲慢な女であるとの話ではある。 が、彼女の妹にしてルイズの姉にあたる、カトレアの先天病を治療する為にアカデミーの優秀な研究員となったという話もあり、コルベールとオスマンは、エレオノールないしヴァリエール家の家族への情に頼ったのである。 その目論見どおり、エレオノールは口には出さないものの、妹の為ならばとすぐさま協力を承諾し、大急ぎで秘薬等の必要な用具を持参しながらも、いつもは従者を必ずつき従える彼女がそれを忘れるほどの体で駆けつけた。 だが、そんな彼女ではあるが、いや、そんな彼女であるからこそだろう。 地下牢の格子の向うに立ち、真直ぐにエレオノールとコルベールを見る男に対し、殺意にも似たどころか殺意そのものを向けるのは。 激しい気性ではあるものの優秀な水メイジ、つまりは身体の組成を司るメイジであるエレオノールであったが、 研究所から貴重な秘薬やマジックアイテムを持ち出し、それらを駆使してジョセフの伝染病の正体を見極めようとしたが、結局は『未知の感染症』である事だけが判っただけであった。 己の妹への病の治療どころか、解明も未だに満足のいかない彼女だけに、謎の伝染病など不愉快極まりない。 それだけでなく、出来の悪い末の妹なれどそれでも大切な妹の“初めて成功した魔法”によって召喚されたのが、このような自分達に一利どころか害にしかならない平民の男というのも彼女を更にいらだたせる要因であった。 「平民、名前は?」 お手上げになってから、目の前の平民の名前も知らない事に気付いたエレオノールは、初めて彼に言葉を向ける。 その態度は、手のつけられない家畜に対して見当違いな文句を垂れるのと大差が無いものだったが、男は全く気にするそぶりも見せずに名乗った。 「ジョセフ・ジョブスン」 逆に、男が名乗るなり二人の貴族が驚愕の表情を浮かべる。 「な……」 「……ジ、『ジョゼフ』ですって……あ、貴方、学が無い平民とはいえ、隣国の王の名を名乗るなんて……ななな、なんて不遜!」 コルベールはあまりの突拍子の無さに言葉が出ず、エレオノールも最初は絶句するものの、怒りのあまりに呂律も回らない程でありながらも叫びを上げる。 理由は簡単だ。 このトリステインにおいて、いくら他国のものとはいえ、彼らの信仰する始祖ブリミルに連なる王家の者の名を騙るなど、あまりに恐れ多くて貴族であろうと平民であろうと常識的にありえないからだ。 「いや、『ジョ“ゼ”フ』じゃなく『ジョ“セ”フ』だ」 目の前の二人の激昂の理由を、なんとなくではあるが理解出来たのだろう、“ジョセフ”を名乗る男は訂正を促す。 その彼は、エレオノール達の態度が過剰に映っているせいで少々困惑の表情を顔に浮かべていた。 「平民の癖に口答えなどっ!」 だが、その言葉も、エレオノールの怒りを更に煽るだけであり、激昂に任せるようにエレオノールは杖を引き抜きジョセフに向ける。 確かにエレオノールの気性は荒いが、彼女意外の大概の貴族でも恐らく同じような反応であっただろう。それだけ貴族と平民の立場の差はトリステインでは絶対的と言えた。 「このような始祖ブリミルをも恐れぬ無礼者、即刻処分します!」 「いけません、ミス・ヴァリエール! まだ彼の出身地の特定が出来ていません!」 呪文を唱え始めたエレオノールを、我に返ったコルベールが抑えようとする。 どうやらコルベールは大概の貴族の例からは漏れた存在のようではあった。 だが、エレオノールの呪文はすぐさま完成しており、コルベールの妨害はジョセフの首を刈らんとする水の刃の狙いを逸らす形になった。 刃はジョセフのすぐ横を凪いで、壁に切り裂いたような跡をつける。 だが、ジョセフは魔法という暴力を目で確認しながらも、全く表情を変えずに淡々と彼女達に言葉を紡いだ。 「以前も話したが、俺はこの国の出身では無い。……信じる信じないはそちらに任せるしか無いが」 彼が言いたいのは、疫病がある村は少なくともトリステインには無いという事であり、そうある以上は彼らも直接手が下せないという事だ。 勿論エレオノール達からしてみれば近辺諸国に対して伝染病の警告を促す必要が無いわけでは無いが、彼の話を信じるならばその近辺諸国ですらないらしい。 それならば“東方”の出身なのかもしれないと想像するも、そうなると今度はトリステインないしハルケギニア諸国にとって未到達の地である。 それこそ手の出しようがなくなり、これ以上の追求も無駄でしか無い。 「それでは決まりね」 伝染病の研究は死体にしてからでも構うまいと言わんばかりに、エレオノールはジョセフに杖を向ける。 対するジョセフは杖を向けられる意味が理解出来ていないかのように、全く表情を変えない。 いや、先程魔法を放って見せたので意味が判らない筈は無い。 「まるで、死人ね」 あくまで表情を崩さないジョセフに対し、不可解さから来る不快な感覚を隠そうともせずにエレオノールは吐き捨てる。 事前に聞いた話では己の身元をでたらめに語る事で自分の延命を図っていたとの事だが、実際はまるで自分の命に興味が無いかのように淡々としている。 「まぁいいわ」 だが、エレオノールにとって目の前のジョセフの態度は不可解なだけのものであり、さして興味を惹くものでは無かった。 そして、いざジョセフに必殺の魔法を放とうとしたその時だ。 「――! ―く―だッ!!」 地下牢に届くまでの騒ぎ。しかも、何やら慌しいなどという生易しいものではなく、悲鳴や絶叫、そして魔法が入り混じる、まるで戦場の様な騒がしさだ。 「何事!?」 コルベールとエレオノールが外の騒ぎに気を逸らしたせいで、ジョセフの表情が険しくなっている事には気付かない。 「ミス・ヴァリエール! まずは外に出て状況を!」 「わかりましたわ! ミスタ・コルベール!」 この緊急の事態で、二人は目の前の平民の事など綺麗さっぱり思考から捨て、外へと駆け出した。 彼らの足音が遠のいて聞こえなくなるのを確認するなり、ジョセフは目前の鉄格子を掴む。 格子を掴むジョセフの手が手袋ごと、格子に癒着するようにして侵食を始める。 そのままジョセフに侵食された格子は、格子として用を足さないひしゃけた鉄棒となって彼の足元に転がった。 「どうした? 何があった?」 「な、なんだよこれ……」 「ひ、ひでぇ……」 厨房からの絶叫を聞きつけ、逃げ惑うメイドや使用人達を押し分けるようにして、厨房の出入り口に駆けつけた衛兵達が見たのは、五体が分断されたり潰されたりして原形を留めない使用人達の惨殺死体であった。 「急いで学院長に通達だ!」 厨房に続く廊下の中ほどにいる衛兵の一人が先頭から聞こえる悲鳴にも似た呻きを聞くなり、廊下の先で遅れて駆けつけた衛兵の一人に指示を飛ばす。 「な、なんだあれは!」 入り口前から厨房を確認していた他の衛兵が、飛び散る鮮血で彩られた厨房の中心に立つ人影に気付き驚愕の声を上げる。 そこには、身長が2メイルを超える巨躯に返り血を浴びた異形の人型が立っており、返り血で紅く染まりきった太い腕が振るわれると、声を上げた衛兵の頭をトマトの様に潰した。 「ひ、ヒィッイ!?」 先頭の衛兵が、目にも留まらぬ速さを以って屠られる光景を目の前にして悲鳴を上げる。 その声に呼ばれるようにして、厨房の入り口から大柄な体躯を覗かせた異形が、悲鳴の主を踏み潰すと共に、その顔を衛兵達に向ける。 額の左右から伸びる角、不気味な揺らめきで蒼く光る双眼、頬まで広がる牙だらけの口、そして全身を覆う硬質にして禍々しい甲羅の如き皮膚。 その姿はまさに―― 「あ、あ、悪魔だ……」 衛兵達の悲鳴と怒号と犠牲を合図として、トリステイン魔法学院は戦場と化した。 衛兵の持つ剣や槍は、悪魔の皮膚をまるで傷つけることは出来ず、悪魔が腕を振るうだけで、その単純ながらも恐ろしいまでの怪力で人間の衛兵は成す術無く一方的に嬲殺しになる。 狭い通路の中だけに、衛兵は前から順番に倒されていく。それが悪魔がこの場から離れない少ない時間を作り出す。 「くそっ、だから平民の衛兵などあてに出来んのだ!」 厨房の衛兵達が次々と一方的に殺されていく中、その少々の時間で、真っ先に厨房への通路まで駆けつけた魔法使い<メイジ>の教師が悪態をつきながら杖を振るう。 杖から真空の刃が生まれ、その刃が衛兵達の死体で埋まった通路の中に立ち、手に掴んだ衛兵の首の骨を握り折る瞬間だった大柄な人型を切り刻まんと襲い掛かる。 『グゥウゥ!?』 狭い通路の中、巨体のせいもあり、避ける場所が無い悪魔を直撃する風の刃、兵士の使う剣や槍などよりずっと鋭く疾い魔法の刃は鉄の鎧さえも切り裂く程である。 だが、その刃は悪魔の厚い甲羅の様な皮膚を軽く裂いた程度で消滅する。 「な、き、効かないだと?」 驚愕するメイジの目前で、更にその皮膚が再生を始める。 『き……き、き……』 あまりにもおぞましく恐ろしい悪魔の姿に恐れ後ずさるメイジの姿を見た悪魔は、手に持った首の骨の折れた死体を無造作に投げ捨てるなり、その体躯に合わぬ程の疾さで通路を駆ける。 『貴族がぁあああああっ!!』 叫びながら迫り来る悪魔の姿に半狂乱になりながらも、咄嗟に次の魔法を打ち込もうとメイジは杖を向けるようと腕を持ち上げると同時に、鋭利な刃物でその腕を切り飛ばされ、それを把握する前にメイジは巨大な腕で壁に叩き潰された。 「一体何なんだよあれは!」 広場に躍り出た悪魔の姿を見た小太りの生徒、マリコルヌ・ド・グランドプレは泣きそうな顔で隣の同級生に叫ぶ。 「知るかよかぜっびき!」 声をかけられた生徒も負けじと悲鳴交じりに怒鳴り返す。しかもわざわざ二つ名を言い換えてだ。 しかし、それに文句で返せないほどにマリコルヌは動転していた。 最初は何の騒ぎか判らずに野次馬根性でやってきた、彼らを含む数名の生徒であったが、 彼らの目の前で繰り広げられるのは、学院の教師メイジや生き残った衛兵達と、2メイル以上の体躯の異形の悪魔の『殺し合い』であった。 火メイジと水メイジが『ファイヤーボール』や『アイス・ニードル』の魔法を投げつけて、風メイジが『エア・ハンマー』で牽制する。 土で障壁を創る事でその悪魔を自分達に近づけまいとする土メイジ達。 だが、悪魔はその巨躯に似合わずに“疾い”。 人間の持てる運動能力では絶対に追いつけない身のこなしで地を蹴り、四方から遅い来る魔法を次々と回避していくばかりか、隙を見ては一人、また一人と犠牲者を増やしていく。主に魔法も使えなず飛び道具すら無い衛兵達が目をつけられ絶命していく。 それでも駆けつけたメイジ達の数が数だけに、いくつかの魔法が悪魔の体に命中するも、炎は皮膚を焼くに至らず、氷は貫く前に砕け、真空の刃も、雷も、その悪魔の体をほとんど傷つけるに至らない。 「くそっ! ならこれで――グゲッ……」 業を煮やしたマリコルヌの隣の生徒が、広範囲の魔法を使おうと長い詠唱を始めたが、その途中で蛙が潰れるような声で遮ってしまった。 「お、おい!?」 その奇妙な声に引かれるように振り向いたマリコルヌは目を恐怖で大きく見開く。 その生徒が立っていた所には、細身の異形が彼の頭を足で踏み潰し、こちらに顔の無い頭を向けて立っていたのだ。 「うわぁああっ!? よ、よくもおぉぉおお!」 頭を潰され絶命した学友を見てしまったマリコルヌは、腰を抜かして地面に転がるように座り込むものの、恐怖と怒りとが織り交ぜた絶叫と共に無我夢中で、目前にまで迫った異形の頭に向けて杖を振るった。 瞬間、杖に纏わる風の渦が、鋭い槍となって、そののっぺらとして顔の無い頭に突き刺さる。 高収束度の『エア・ニードル』によって、外に向けて飛び散る血飛沫と共に顔無しの頭は微塵に砕け、残った胴体が地に倒れる前に“崩れた”。 目の前で灰と化し粉々に砕け散る悪魔の末路に、目を見開きしばし呆然とする。 そして、先程の高威力の魔法により疲労を覚え、少しだけ気が静まる事によってマリコルヌはやっと自分の目の前の事態を実感する。 「や……やった……のか?」 そう呟き、自分の中で敵の消滅を認めた彼の精神は緩みきり、全身の力が抜けるようにしてマリコルヌは気を失った。 「一体なんなんだこいつは!」 魔法の連発により、疲労の色が濃くなっていくメイジ達。 「くそ、『眠りの鐘』はまだかっ!」 誰かが悪態をついたその時。 「お待たせしました!」 本塔から『フライ』の魔法でやってきた教師が悪魔の近くまで駆け寄る。 彼の手には学院長から携帯の許可を貰い持参した、秘宝『眠りの鐘』。 名の通り、その音を聞いた者を眠りへと誘う強力な魔法の小さな鐘である。 その小さな鐘を手に持ち、悪魔に向かって振るった。 透き通るような小さな音ではあったが、その音は確かに悪魔の耳に届く。 が、 「眠りの鐘が効かない!?」 だが、その音は届いた“だけ”であり、つまり学園の秘宝である『眠りの鐘』は悪魔の注意を教師に引き付けるだけの結果のみを生んだのであった。 悪魔に目をつけられたそのまま首根っこを折られ、死に至った。 「ミスタっ!」 眠りの鐘が効かない事によって、悪魔への攻撃をそのまま続けるしかなくなったメイジ達が先程より激しい抵抗を見せる中、傍から様子を見ていた生徒のモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、彼が死んだ事には気付いてはおらず、いや気付こうともしないで、治癒魔法をかけようと彼に駆け寄る。 モンモランシーが事切れた教師の前まで近づいた瞬間、死んだ筈の教師の体が痙攣を起こす。 その不自然なまでの体の動作に驚いたモンモランシーが思わず足を止める目の前でそれは起こった。 直後、死体である筈の教師の体が、ゆっくりと手で体を支えながら立ち上がろうとする。 だが、地をつけた教師の手が痙攣と共に何やら硬質の皮膚に変化していく様を皮切りに、彼の体がみるみるうちに変態を始め、遂には耳元に沿った双角を持つ、面無しの悪魔の姿へと成った。 「え、ええっ!?」 そのあまりのおぞましい光景に、モンモランシーは無意識に後ずさるが、恐怖のあまりに震えた足がもつれて尻餅をついてしまった。 その音に気付いた異形が、尻餅をついたまま這いずるように後ずさるモンモランシーに、のっぺらとした顔面、いや、その額上あたりで青く光るガラス玉の様な双眼を向けた。 「こ、来ないでっ!」 強がりでやっと出たのは相手を拒否する言葉だけだった。だが、それは合図にしかならず、異形はモンモランシーに襲い掛かる。 目を瞑るモンモランシーめがけ、異形の手が彼女の頭を握りつぶさんと迫るのを、青銅の腕が遮った。 「ワルキューレッ!」 異形とモンモランシーの間に立つ青銅の戦乙女。 それは、この学院の生徒であり元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンの魔法によって生まれたゴーレムであった。 「逃げるんだモンモランシー!」 ギーシュが叫ぶが、腰を抜かしたモンモランシーは這いずるようにしか下がる事しか出来ない。 「ギーシューッ!」 涙目でギーシュに助けを求めるモンモランシーの姿にいてもたってもいられずに、ギーシュは駆け出す。 「な!? 僕のワルキューレが!」 モンモランシーに駆け寄るギーシュの目前で、ワルキューレの腕が異形に握りつぶされるのを見て、ギーシュは思わず足を止める。 「くそっ!」 薔薇の形をした杖を振るい、新たなワルキューレを生み出す。 モンモランシーの盾となっていたワルキューレが振り払われようとする寸前、新しく生み出されたワルキューレの持った槍が悪魔の脇腹を刺す。 そこで悪魔の注意は槍を持ったワルキューレに完全に逸れた。 「いけっ、ワルキューレ!」 後先は考えずに目の前の化け物を倒す為にワルキューレを自分の精神力の限界まで作り出すギーシュ。 6体の槍を持ったワルキューレはその異形を取り囲み、容赦なく全身を貫く。 体液を流して動きを止めた異形は、青銅の乙女像の囲いの中、灰となって崩れ落ちた。 「大丈夫かい? モンモランシー」 片腕が無くなった事で戦闘をこなせなくなったワルキューレと自分の肩を使ってモンモランシーの両肩を支えるギーシュ。 「ぎ、ギーシュ……先生が、先生が……」 「――!」 涙を流しながらギーシュに訴えるモンモランシーを宥めようと何か言おうとして言葉を止める。 『逃げるんじゃねぇぞ!』 先程までメイジ達と交戦していた筈の巨躯の悪魔が目前に現れたからだ。 「逃げるんだ! ミスタ・グラモン!」 遠くから、誰かが悲痛な叫びを上げる。 だが、その声が届いているのか届いていないのか、悪魔の禍々しい姿に恐怖したギーシュは足を絶えず震わせ、とても逃げられる状態ではなくなっていた。 事実、がくがく音が聞こえそうなまでに震え、ともすれば後は崩れそうな程であった。 が、貴族としての意地が、そして何よりも肩に担ぐ少女を救おうとする勇気がギーシュを支え、戦う意思を引き出す。 「ワルキューレ! この敵を切り刻めっ!」 すぐさまワルキューレは悪魔の周囲を取り囲み、先程と同じように悪魔を槍で突き刺す。 しかし、現実は残酷なまでに淡々としている。 先程の異形の皮膚は通った青銅の槍ではあったが、巨躯の悪魔にはまるで歯が立たずに折れてしまったのだ。 そればかりか、悪魔の腕の一振りで正面側の4体がひしゃけながら吹き飛び、ギーシュに歩み寄る巨躯を止めようと組み付いた2体のワルキューレも子供を振り回すように解いた後、同じようにバラバラにされてしまった。 『貴族、貴族って威張り腐りやがって……』 蒼い目を向ける悪魔のぐぐもった声に、ギーシュは気圧される。 だが、振り上げられる悪魔の腕を見るなり、咄嗟にモンモランシーの肩を支えていたワルキューレを盾として前に立ちはだからせる。 咄嗟に片腕を失ったワルキューレが前に出る事により、その振り下ろされる凶器の如き腕から、モンモランシーとギーシュを護る盾となって砕けた。 だが、それがギーシュに出来る最後の抵抗であり、今や悪魔とギーシュ達を隔てる物は何も無い。 「……くそっ! ワルキュー……レ!」 それでも、どうにかして戦おうと、ワルキューレを再度練成しようとするギーシュだったが、力なく杖が振るわれるだけで、何も起こらず、そのまま限界を迎えたギーシュは気を失った。 それでも、モンモランシーを護るという意思がそうさせたのだろう。 自らの体をモンモランシーの盾にするように、彼女の上に仰向けに覆いかぶさった。 『少し運動した程度でおねんねとは、なんともざまぁないなァ!』 そんなギーシュの姿を見て悪魔は嘲笑う。 「ギーシュ、逃げろ!」 迫る悪魔の先にいるギーシュに向かって、誰かが叫ぶ。 だが、文字通り精神力を使い果たし、気を失ったギーシュの耳には届かない。 その代わり―― 「――えっ……」 その誰かの叫びによって意識を呼び戻されたモンモランシーの目に映ったのは、自分を庇うようにして倒れ込んでいるギーシュの背中。 そして、その向う…… 振り下ろされようとした悪魔の、大包丁と同化した右腕に絡みつく、蒼く光る蛇。 「……ま、また、別の悪魔だ!」 誰かの呻きが引き金となって、モンモランシーはさらに向うに立つ影に気付いた。 『エア・ハンマー』に対してさえほとんど怯む事の無かった悪魔の巨躯が、右腕ごと蛇によって宙に引上げられた。 「な……」 そこには、蒼い蛇を鞭の如く操る蒼い悪魔が立っていたのだ。 前ページ次ページブラスレイター コンシート
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第四話 ギーシュ君の運命 前編 あーた~らしーいあーさが来たッきぼーのあーさーだ。 はいよっこらしょっと。 僕はベットから立ち上がり鏡を手のとる。今日もいい男だ。僕ほど薔薇が似合う男もそうそう いない。否ッ!僕以外にはいないィィ~~♪ なぜか上機嫌なギーシュ君。鼻歌交じりに支度を済ませ朝食に向かう。 「おはよう僕のモンモランシー。今日も君は一段と美しいねぇ…食堂までご一緒してもいいかい?」 「…………フン」 あれ?怒ってる?なんで怒ってるんだい。生理? 「何を怒ってるんだいモンモランシー。君の美しい顔が台無しじゃあないか」 「…アナタ。昨日何したか覚えてないの?」 「昨日?昨日は確か…何もなかったと思うよモンモランシー」 「フ~ン…それじゃアナタが私とケティに二股かけてたことがバレている事も忘れてるわけねえぇ…」 そ、そんなに怖い声で言わないでおくれモンモランシー。ってなんでバレタァ!?昨日は 確か酔っ払って。ルイズに暴力をふるって……ルイズに暴力?馬鹿な。僕は紳士さ。女性に暴力なんてとんでもない。 「アンタ。昨日のヘビに噛まれたことまで忘れたんじゃないでしょうね。」 ヘビ…ヘビだって!? ヘビというキーワードで頭の中の記憶が鮮明にフラッシュバックしていく。 僕は昨日の朝に酔っ払った勢いでルイズに暴行し、そのルイズの使い魔の平民に皿を投げつけられて かつ決闘を挑み挑む前にアソコにヘビを喰らってあえなく敗北しました♪ヤッベ冷汗出てきた。 ああ、そうかッ!その時の香水のせいで二股ばれたんだっけ。あっはっは。やだなぼくったら~。 「思い出したようねぇ。じゃあ今からアナタがすることを言いなさい。ちなみに間違ったら殺すわよ。」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! DIO様も真っ青なこの迫力ッ!黄金のオーラがギュインギュインいってるッ! なんていうことだ。モンモランシーは殺すといったら殺す。スゴ味があるッ!ヤ、ヤバイ 「モ、モンモランシー。あ。あの… ル、ルイズにちゃんと謝ります…」 モンモランシーの目が今赤く光ったッ!気のせいじゃないよねっ!? 「それだけぇ?なんか物凄く大事なもの忘れてないかしらぁ。」 だがグラモン家に伝わる戦い方(正確にはギーシュにだけ)をモンモランシーは知らない。それは『土下座』! 「ゆるしてくださいあぁーいッモンモランシー様ーーーーーーーッ!改心しますひれ伏します 靴もなめます悪いことしましたァ!殴っても蹴ってもいいですゥ!でも!命だけが助けて くださいイイイイイィいいいい!!モンモランシー様~~~~~~」 やれやれ。土下座しながらここまで言われるとさすがに罪悪感沸くわよ。まったく。 「ギーシュ。顔を上げて。」 「は、はひぃ!」 涙まで流しているギーシュを抱き寄せて 「ギーシュ。あなたは昨日貴族としてやってはいけないことをしたわ。最低の行為よ。 でもね、アナタが昨日あの平民にやられて死に掛けた時ホントに心配したんだから。もう二度とあんなこと はしないで。それに浮気ももうしないこと。浮気分かった時悲しかったんだから。」 「モンモランシー……」 昨日ルイズを君も散々責めていなかったかい? この言葉は口に出さずしまっておこう。今言ったらまたキレるだろう。 「ありがとう。浮気なんてもうしないよ。モンモランシー…」 「ギーシュ……」 食堂前の通路で二人だけの世界を作っている。しかしこのカップル。ノリノリである。 ルイズは上機嫌だった。 昨日の事件もあって影でボソボソ言われてるもの表だって ルイズのことを馬鹿にするものはいない。もちろん昨日の朝食のギーシュ事件の せいである。その時からジョルノの事をタダの平民だと思う者はいなくなった。 ルイズが呼んだのは先住魔法を使う蛇使い。悪魔。魔人。いろいろな憶測がた飛び交い ジョルノは影でそんな風に呼ばれていた。ルイズを馬鹿にするとあの男が毒蛇を呼んでくる。 ジョルノ自身はルイズが馬鹿にされたぐらいではなんとも思ったりなどはしないのだが。 とまあこんな感じのうわさのせいで平民?が貴族用食堂で食事しているのを咎める者はいなかった。 「ダーリンッ。アーンしてぇ~」 「一人で食べれます。邪魔ですよ」 「つれないわねぇ。そんな所がまたソソるわぁ。」 「ちょっとキュルケ!嫌がってるでしょ!やめなさい」 ルイズとキュルケがギャアギャア言ってる所に昨日の酔っ払い。あのギーシュという少年がやってきた。何のつもりだ? 「ルイズ。後で話したいことがあるんだ。その、授業前にちょっといいかな。」 「……何のつもりよ。私正直に言えばあなたの顔も見たくないんだけど。」 「怒る気持ちはもっともだ。でも、僕は君に謝りたい。」 コイツは昨日こんな性格だったか?やはりルイズに暴行したのは泥酔したせいらしい。別人だな。 「……わかったわ。後でね。」 「ありがとう…ルイズ。」 それだけ言うとギーシュは食堂を出て行った。しぶしぶ承諾したようだ。この場で殴ってやればいいのに。 「ルイズ。この場で謝罪させればよかったのでは?」 「アイツにもメンツがあるわ。それに反省しているみたいだしいいわよ。」 あそこまでやっておいてもはやメンツなんてないと思うけどな。 まあいい。もうちょっと食事を楽しもう。 「あら?ダーリンワインが飲みたいの?お酌してあげるぅ。」 「どうも。でも次からは結構です」 「キュルケ!いい加減にしなさいよッ」 食事を済ませたルイズはギーシュのいる廊下に来ていた。 「で、話って何?昨日のことならアンタがジョルノに土下座して謝った事聞いたわよ。」 「それでも、それでも直接僕は君に謝りたいんだ…僕は女性に。暴力を振るってしまった…」 その様子を廊下の端っこから二人を覗く影が三人。ジョルノとキュルケとモンモランシーだ。 「なんだかんだでダーリンも心配なんじゃないのぉ」 「それはアナタもですよキュルケ。ところでそこのロールケーキはギーシュの彼女ですか?」 「ロールケーキじゃないッ!!モンモランシーだ!オンモランシーでもモンモラシーでもないッ!」 そんなことまで聞いちゃいない。おや。ギーシュが土下座を始めたみたいだ。 「ルイズ!僕は最低なことをしてしまったんだッ!だから僕を……僕を!」 「僕を………踏んで来ださい…」 「「「「え?」」」」 to be continued
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前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ その日の午後の授業は使い魔とのコミュニケーションのために休講となっている。 学園の庭では二年生達は使い魔と思い思いに過ごしている。 その中でギーシュは自分の使い魔のジャイアントモールのヴェルダンデがいかに素晴らしいかをテーブルの向かいに座っているモンモランシーに熱く、そして暑苦しく語っていた。 知的な瞳だとか、官能的なさわり心地といったギーシュにしか解らないようなモグラの魅力を聞かされたモンモランシーはうんざりしていたが、 「君の使い魔もキュートなところが君にそっくりだよ」 などと言われると悪い気は全くしなかった。 「相変わらずお上手ね」 と、全部わかっているように言うのもギーシュの次のお世辞を引き出すためだ。 「僕は君の瞳には嘘はつけないよ」 定番の麗句を聞いたモンモランシーは気になることを思い出す。 本当だろうか、と思って問いただすことにした。 「でも、最近一年生ともつきあってるって噂を聞いたんだけど」 ぎく。 あからさまにギーシュの体と声が硬くなる。 「バカなことを、君への思いに裏表なんて……」 モンモランシーの脳細胞がその言葉の裏にあるものを察知し目がつり上がる直前、ギーシュとモンモランシーの間にある机が轟音を立て、破片と土煙を周囲にぶちまけた。 ついでにモンモランシーの頭からは自分がなにを察知したかが吹っ飛んでしまった。 ギーシュとモンモランシーの間にあった机だったものは周囲の生徒と使い魔の注目を集めることとなった。 土煙が立ちこめる中、皆が無責任にそこでなにが起こったか想像を始める。 隕石が落ちたのか? いや、地下から怪物出現か? いやいや、ギーシュに怒ったモンモランシーが香水で破壊したのか? どんな香水かは不明だが。 だが煙が晴れるとその場にいた全員が納得することとなった。 「いったーい」 そこにはルイズがいたからだ。 ルイズと言えば爆発。爆発と言えばルイズ。 なので、ここで爆発が起こったのは何ら不思議ではないと言うわけだ。 ユーノを肩に乗せながらテーブルの残骸を杖に腰をさすって立ち上がったルイズは、近くの見知ったメイドであるところのシエスタを見つけた。 「そこのあなた」 「は、はい」 「湿布持ってきて。腰、打っちゃたのよ。いたた」 あわてて走っていくシエスタを見送ったルイズはやっとテーブルだった残骸を手放し、自分の足で立ち上がった。 そこでやっとその場にいる全員がルイズを注目しているのに気づく。 周りを見回したルイズは手を組んで少し考え、一言言った。 「ちょっと失敗しちゃった」 周りの生徒達は一斉に叫んだ。 「どういう失敗だ!!」 ほとんどのものはそれですませたが、ギーシュはそれでは収まらない。 驚いてそばに来ているモンモランシーの肩を抱いて、かっこいいと思っている角度でルイズに顔を向ける。 「だいたい、そこで君はなにをしていたんだね」 「ちょっと魔法の練習をしていたのよ」 モンモランシーが不安げに自分の方を見ている……と思い込んだギーシュはルイズに次の言葉をぶつける。 「君が魔法の練習を?よしたまえ。爆発を起こすだけじゃないか。見たまえ。モンモランシーもおびえている」 今のセリフはかっこいい……と思ったギーシュが後を続けようとしたができなかった。 ルイズをはさんだ向かい側にバスケットを持ったケティがいたからだ。 「ギーシュ様……その方……一体……せっかく」 「こ、これは……いや、その」 あわてるギーシュにモンモランシーが追い打ちをかける。 「ギーシュ……さっきの噂、やっぱり」 モンモランシーは頭から吹っ飛んだはずのことを思い出していた。 「ギーシュ様酷い……そんな方がおられたなんて……私だけって言ったのに」 それを聞いたモンモランシーはギーシュを睨みつけた。逃げたくなるような目つきで。 「あなた、さっき、私に同じようなこと言ってたわね」 「そんな、この方にも?嘘ですよね?ギーシュ様」 ルイズのことなど、すでにもうどうでもよくなった二人がギーシュをさらに追い詰める。 「落ち着いてくれたまえ。二人とも。これにはわけが……」 あるはずがない。 「うそつきっ」「うそつきっ」 二人は同時にギーシュの頬に手のひらを見舞った。 モンモランシーは右に。 ケティは左に。 ギーシュの両頬に微妙に形の違う赤い手形が2つできた。 「ふんっ」「ふんっ」 呆然とするギーシュを置いて、二人は近づきたくない雰囲気を纏いどこかに行ってしまう。 「ま、待ってくれたまえっ」 ようやく気づいたギーシュは青い石を中心に置いた薔薇を着けた杖を振り回しながら二人を追いかけていった。 状況において行かれたルイズは走っていくギーシュを見ていた。 次第に視線が一点に集まっていく。 ギーシュの振り回している杖の先についた薔薇。 その中心にある青い石に。 「あーーーーーっ」「あーーーーーっ」 ユーノは思わず声を出す。 あわててルイズがユーノの口を押さえて周りの生徒を見る。 どうやら誰も気づいていないようだ。 (ルイズ、今の) 気づかれないように今度は念話を使う。 (わかってるわ。あれって、ジュエルシードよね) (うん、間違いない) ルイズは走り出す。 「ちょっと、ギーシュ!待ちなさいよ!!」 ルイズもいなくなってしまった。 そこにいる生徒達は状況が読めていなかった。 そして、その中にはキュルケもいた。 「なによ、あの四人」 とりあえず状況を整理するが何が何だかよくわからない。 悩むキュルケに話しかける者がいた。 「あの、ミス・ヴァリエールがどこに行かれたか、ご存じありませんか?」 キュルケは名前は知らないがシエスタだ。 「あー、あの娘ならさっきあっちに走っていったわよ」 「ありがとうございます」 シエスタは一礼してルイズを追っていった。 「ふーん」 キュルケは考える。 恋のもつれでどこかに行ったモンモランシーとケティ。 それを追って行ったギーシュ。 さらに、そのギーシュを追って行ったルイズ。 さらにさらに、ルイズを追いかけていったメイド。 なにが起こっているのかさっぱり解らなかったが1つ解ることがあった。 「なにか面白そうじゃない」 キュルケは一言つぶやいて口の両端をあげると、メイドを追っていった。 他の生徒達も考える。 そしてキュルケと同じように笑うと、キュルケを追って走って行った。 「ギーシュ!ちょっと待ちなさい!」 ギーシュは自分を呼び止めるルイズの声を無視した。 「待ちなさいよ!」 待っていられるはずがない。 角をいくつか曲がっているうちにケティを見失ってしまった。 今、ギーシュが追いかけているのはモンモランシーだ。 走って追いかけてヴェストリの広場まで来てしまった。 「待ってって言ってるでしょ!聞こえないの?」 ヴェストリの広場は昼間でも人が少なく、今は誰もない。 おかげでルイズの声がよく響く。 「いいかげん止まりなさいよ!ギーシュ・ド・グラモン !!!」 あまりにうるさいのでとうとう振り向くことにした。 「ええい、いったい何のようなんだね。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 立ち止まったギーシュにルイズが走って追いつく。 「貴族たるもの、マントを振り乱して大声を出すものじゃない。それに僕は今忙しいんだ。後にしてくれたまえ」 だがルイズはそんなことは聞かない。 「あなたの杖の先についているそれ!」 呼吸を落ち着かせてすかさず話し始める。 「この薔薇かい?」 「ちがうわ。その薔薇の中に入れている青い石。それ返して!」 「この石を?」 「そうよ!早く返して」 「ふむ」 公爵家の娘の持ち物にしてはみすぼらしい気もするが、そんなものをここまで追いかけてくると言うことはルイズの持ち物なのかも知れない。 それに、どうせ拾ったものだ。 気に入ってはいるが無理に自分のものにするほどの物でもない。 「いいだろう。ただし……」 授業では爆発に見舞われた。 さっきはルイズにモンモランシーとの会話をぶちこわされた。 少しくらい意地の悪いことをしてもいいだろう。 そう考えたギーシュは杖を振る。 「僕のワルキューレと話し合ってからにするといい」 一枚の花びらと青い石が宙を舞った。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ