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マドレーヌドクレルモントネール(マドレーヌ・ド・クレルモン=トネール) フランスのソワソン伯の系譜に登場する人物。 関連: シャルルアンリドクレルモン (シャルル・アンリ・ド・クレルモン、父) マルグリット(30) (母) フランソワアンリドモンモランシーブットヴィル (フランソワ・アンリ・ド・モンモランシー=ブットヴィル、夫) シャルルフレデリック (シャルル・フレデリック、息子) ピエールアンリ (ピエール・アンリ、子) ポールシギスモンド (ポール・シギスモンド、息子) アンジェリククネグンデ (アンジェリク・クネグンデ、娘) クリスチャンルイ (クリスチャン・ルイ、息子)
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「ヴァリエールの名に懸けて必ずお前を八つ裂きにしてやる!!」 いつもの見慣れた自分の部屋、わたしはベッドから身を起こした。 「・・・夢か」 ドン ドン ドン ガチャガチャ 乱暴にノックされ、ドアを開けようとする音が聞こえた。 しかし、鍵をしっかりとかけているのでドアは開かない。 カチリ ガチャ 鍵が勝手に外され、返事も待たずにドアが開けられた。 こんな事をする奴は一人しかいない。 「ちょっとキュルケ『アンロック』は止めてって何時も言ってんでしょーが」 わたしの文句にかまわずにキュルケはズカズカと部屋に入ってきた。 「あのね、朝早くから『八つ裂きにしてやる』なんて聞かされた日には 何事かと思うじゃない」 「あ・・・ご、ごめん。寝言、聞こえちゃってた?」 「寝言ォ?あんた思いっきり叫んでたわよ」 「だから、それは謝るわよ。起こしちゃったみたいね」 わたしは素直に頭を下げた。完全にこちらが悪いのだ。 「いや、それはいいんだけどね」 急にキュルケの態度がしおらしくなった。 「一体『誰を』八つ裂きにするの?」 キュルケが上目遣いに聞いてきた。 「誰って、あなたには関係ないでしょ」 そう、これは、わたしの問題。 「ひょっとして、あの『子爵さま』なの?」 ワルドの事を言っているのだろう。 「・・・違うわ」 キュルケが目をパチクリとさせた。 「ありゃ、違うの?」 「違うわ」 わたしは即答する。 「じゃあ誰よ?」 キュルケがしつこく訊ねてくる。 「それは・・・」 「それは?」 キュルケが続きを促すように復唱する。 「オ・・・」 「オ?」 キュルケが身をググッと前にのめり込ませてきた。 「思い出せない」 キュルケが道化師ばりにズッコケた。 「下着、見えてるわよ」 「おちょくってんの、あんたわー!」 キュルケが怒って出て行った後、身支度を整えながらデルフリンガーに問う。 「ねえ、デルフリンガー」 「なんだ?」 「わたし、寝言を言ってたのよね?」 「みてえだな」 「『誰を』八つ裂きにするか言って無かった?」 「いや、名前は言って無かったな」 「そう」 わたしは、一体『誰を』八つ裂きにしようとしていたのだろう。 そもそも何故そんな事をしようと思ったんだろう・・・思い出せない。 「まあ、何かの拍子で思い出すか・・・」 「なあ、貴族の娘っ子」 「なによ?」 「なんで俺っちを持ってんだ、授業に行くだけだろ?」 「いいじゃない別に、倉庫に入りたいわけ?」 「いや、そういうワケじゃネーけど・・・」 デルフリンガーはプロシュートが持っていた数少ない私物の一つ・・・ わたしはプロシュートが居ないことを常に戒めるためにデルフリンガーを 杖代わりに突いて持ち歩いていた。 教室に入ると、クラスメイトたちが取り囲んだ。 顔を見渡すと、いつものバカにしたような表情ではなく 何か聞きたそうな顔をしてた。 タバサ、キュルケ、ギーシュも同じように取り囲まれていた。 「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んでいったいどこに行っていたの?」 モンモランシーが腕を組んで話しかけてきた。 どうやら、ワルドと出発するところを何人かに見られてたみたいね。 タバサは何事も無かった様にじっと本を読んでいる。マイペースな子ね。 キュルケは化粧を直している。あんた人前で・・・娼婦か? ギーシュは足を組み人差し指を立て上機嫌に笑っていた。 しょうがないわね。 わたしは人壁をかきわけギーシュの頬をひっぱたいた。 「なにをするんだね!」 「軽々しくしゃべらないでよね」 わたしは真剣な顔でギーシュに頼んだ。 「・・・すまない、調子に乗りすぎてしまったようだ」 ギーシュは姿勢を正し黙ってしまった。 しかし、その事が逆に好奇心をツンツンと刺激してしまったみたいだ。 再び、わたしを取り囲みうるさく騒ぎはじめた。 「ルイズ!ルイズ!いったい何があったんだよ!」 「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってた だけよ。ねえギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」 ギーシュは素直に頷いた。べネ!(良し!) キュルケは意味深な微笑を浮かべた。このツェルプトーは・・・。 タバサはじっと本を読んでいた。ホント、マイペースな子ね。 クラスメイトたちはつまらなそうに、負け惜しみを並べながら席へと戻っていく。 「そうよねゼロのルイズだもんね、魔法のできないあの子に何か大きな手柄が 立てられるなんて思えないわ!」 モンモランシーがイヤミったらしく言った。我慢我慢。 「フーケを捕まえたのだって、あなたじゃなく、あの怖い使い魔にまかせっきり だったんじゃないの?」 わたしが言い返さない事をいい事に言いたい放題にいってくれるわね。 「だいたい、何であなたがあの使い魔の剣を持っているのよ?」 「預かっているのよ」 「なんで?」 キュルケといいモンモランシーといい、しつこく食いついてくるわね。 「死んだのよ・・・だから、わたしが持っているの」 どうせ隠しても、いずれバレるのだから言ってやった。 「へえ」 モンモランシーは目を細め口元をつり上らせた。 「ひょっとして殺されたのかしら、あの使い魔、ギーシュを倒したぐらいで調子に 乗ってたんじゃないの?」 イマ ナンテ イッタノ コイツ 「取り消しなさい」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「ひっ」 モンモランシーが悲鳴を上げた。 「プロシュートの侮辱を取り消しなさいって言ってんのよ」 「睨まないで、睨まないでよ」 モンモランシーが首を振りながら後ずさる。 「あんた、わたしをなめてんの!突っ掛かってきておいて今更被害者気取り?」 「ひっ、その『目』で睨まないで」 「謝りなさいって言ってんでしょうが!」 怯えるだけで、ちっとも謝らないモンモランシーに だんだん我慢がならなくなってきた。 キュルケがわたしとモンモランシーの間に割って入ってきた。 「ちょっとルイズ、あんたマジで恐いわよ。その目、まるでダーリンみたいよ」 プロシュート? 「あははははははははははははは」 何言ってるのコイツ。突然に笑い出した、わたしを間の抜けた顔で黙って見る クラスメイトが更に可笑しかった。 「ははははははははは、ふざけないで!!」 わたしはキュルケに一喝した。 「ルッ、ルイズ?」 「キュルケ、あんたの目は節穴なの、わたしの目がプロシュートみたいですって 冗談でも二度と言わないで!!」 「ご、ごめん悪かったわルイズ」 やけに素直に謝るキュルケを置いて、わたしはモンモランシーに向き直した。 「さて、謝ってもらおうかしらモンモランシー」 モンモランシーは涙目になりながら杖を抜いていた。 「なによゼロのルイズのくせに。ちょっと恐い目ができるからって、 いい気にならないで」 魔法で黙らせるつもり?上等じゃない。 「モンモランシー頭上、二メイル」 「へ?」 わたしは素早く杖を抜き呪文を詠唱する。 「ファイアーボール」 狙い通りにモンモランシーの頭上で爆発が起こる。 爆発によりクラスメイトたちは耳を塞ぎしゃがみこんだ。 モンモランシーは腰が抜けたのかヘナヘナと座り込んだ。 「どうするのモンモランシー。あなたが、わたしを溺れさせるのが早いか。 わたしが、あなたを爆発させるのが早いか試してみる?」 モンモランシーが顔を見上げ睨みつけてきた。 「わたしの方が早いわ。わたしは、たった今、唱え終わったんですもの」 モンモランシーが杖を振るうと、わたしの顔が水で覆われた。 「ゴボッ」 なんたる失態、威嚇せずに当てとけば良かったわ。 どうする? デルフリンガーなら、この水を消すことが出来る! 鞘から外し、刃を水に触れさせれば・・・ 「ほほほ、どうしたのゼロのルイズ。まともに喋る事も出来ないみたいね」 モンモランシーが立ち上がり、勝ち誇るように笑う。 「頭を下げなさい。そうすれば『許して』あげるわ」 『許す』ですって?これで頭を下げることが出来なくなったわ。 それは、わたしの『誇り』が許さない。 頭が下げられないのなら剣を持ち上げれば・・・ 重い・・・うまく力が入らない。 「ガボッ」 わたしはデルフリンガーを手放し、水をかき出そうと手を突っ込む。 バシャバシャと水をかき出すが、まったく効果が無かった。 「ほほほ、不様ねゼロのルイズ。さあ、頭を下げなさい」 誰が下げるもんですか・・・息が出来ない・・・ いや、息を『吸う事』ができない。 『吐く事』は出来る・・・そして呪文を唱える事も・・・ 「イン・・・エグズ・・・ベッド・・・ブレイヴ・・ブァイアボール」 わたしは自分に向けて杖を振る。 どぱん 水表面に爆発が起こり、わたしは机に寄り掛かった。 すううううううぅ、空気がこんなにも旨かったなんて知らなかったわ。 「な・な・てま・を」 モンモランシーが目を見開き口をパクパクとさせていた。 なんてまねを? よく聞こえないわ、耳が潰れたかしら・・・ 「さて今度はこちらの番ね『覚悟』はいいかしらモンモランシー?」 モンモランシーは口をパクパクさせている。 ごめんなさい?許して? 「ごめん、聞こえないわ」 『ヤル』と心の中で思ったのならスデに、その行動は完了している! 「ファイアーボール」 モンモランシーの顔面が爆発した。 いや、正確に言うとモンモランシーの目の前で爆発が起こり直撃した。 顔面血まみれになりながらモンモランシーは倒れた。 すぐさまギーシュが駆け寄り、モンモランシーの顔にハンカチを被せ お姫様抱っこをした。 ギーシュが黙って、こちらを見つめている。 「どうするのギーシュ?敵討ちってんなら受けて立つわよ」 もう後には引けない・・・トコトンやってやるわ。 ギーシュの目には敵意が無かった・・・ 黙って首を横に振り、ペコリと頭を下げてから教室から出て行った。 わたしも治癒を受ける為に、おぼつかない足取りで医務室に向かった。 次の日から、わたしに面と向かって『ゼロ』と呼ぶ者はいなくなった。
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前ページ次ページとりすていん大王 時間ですね 始まります 今までありがとうございました とりすていん大王 13回目 「あなたは誰?」 タバサの詰問はいい加減な答えは許さないと暗に言っていました たまらずキュルケがみんなの代わりに答えます 「な・何言っているのよ?この人はモンモ「違う!!」って?」 鋭く、強く、タバサは否定しました そして静かに語り始めました 「思えば、最初っから変だった・・・何故私は初対面の人を見て級友の父と判断したのか」 その言葉に一同の心臓がどくりと鳴ります 「それだけじゃない 何故、彼の魔法は杖無しでも疑われない?」 一同の顔が一斉にお父さんに向きます お父さんはただ黙ってぷかぷかと浮いているだけです 「そしてこれが決定的・・・」 タバサがゆっくりとお父さんを見て次にモンモランシーを見ました びくりとモンモランシーが震えます そしてタバサは静かに最後の証拠をお父さんに突きつけました 「あなたは猫なのになんでモンモランシーは猫耳じゃないの?」 「「「「あ、アホかぁーーーーーー!!」」」」 ルイズの部屋にみんなの渾身のツッコミが木霊しました 「あのねぇ・・・いくらなんでもそれはないでしょ」 ルイズが呆れたように天を仰ぎます 「ねぇ、タバサ、疲れてるなら良く眠れる香水、調合しようか?」 モンモランシーが部屋に戻ろうとした時です、お父さんが笑い出したのです 「ははははは」 その笑いで空気が一変しました ただ笑っているのに何か重厚な雰囲気です 「お、お父さん?どうしたの?」 心配そうにお父さんに近寄るルイズをタバサが止めます 「何するのよ!?」 「待って」 ひとしきり笑い終えるとお父さんはぽんぽんと拍手をしながら前に少し進み出ます そのお父さんの一歩で自分が一歩さがった事にタバサは気がつきました 「よく、気がついたね・・・確かに私はモンモランシーの父ではない」 その言葉にルイズの部屋が凍りついたのでした 「え、ええ!?お父さんはお父さんであって?ええ?」 突然のお父さんの告白にモンモランシーがパニックに陥ってしましました 「モンモランシー、思い出しなさい」 お父さんがぽわっと光る指先をモンモランシーの額にかざすとパニックに陥っていたモンモランシーが落ち着きを取り戻しながら 何事かをうわ言の様に呟きます 「そうよ・・・思い出した、水の精霊が頼んだのよ・・・そう水の精霊とそれとお父さんが一芝居うって来るべき日の為・・・」 ぶつぶつと呟くモンモランシーを心配してギーシュがお父さんに尋ねました 「いったい彼女に何をしたのですか?」 「心配しなくてもいい 彼女は思い出しただけだ」 そうこうしているうちにモンモランシーが正気に戻り、 「思い出したわ、その人の正体 その人は・・・」 モンモランシーの次の言葉を一同が固唾をのんで待ちました そして 「その人の正体は・・・」 ごくりとルイズが喉を鳴らします 「正体は・・・」 ギーシュがモンモランシーの肩を抱き寄せます 「正体は・・・」 タバサの杖を握る手に汗が、キュルケも不安そうに事の行く末を見守ります そしてその時は来ました ついにお父さんの正体をモンモランシーが言う瞬間が 「その人の正体は・・・お父さんよ!!」 「「「おんなじやないかーーい!!」」」 見事なハーモニーのツッコミが入ったのです お父さんはぷかぷかと宙に浮きながらルイズに質問します 「ルイズ、君は使い魔が欲しいのか?」 その問いかけにルイズは戸惑いながらも答えました 「え、ええ、欲しいわ」 「そうか」 お父さんは大きく息を吐くと窓からふわふわと空に向かって飛び始めました 「実は私はルイズ、君の使い魔じゃない」 「「「「いや、それは知ってるけどさぁ・・・」」」」 二つの月の光に照らされてお父さんが神々しく輝いています 「さらに言うと私はこの世界の人間じゃない」 流石にこの告白には誰もが驚きました タバサも少し震えています 「私は、私の場所に帰る 君達は十分学んだはずだ」 お父さんがどんどんと空に昇って行きます それをみんなが見守っています 「ルイズ、君は君の使い魔を探すんだ」 「わ、私の使い魔って!?」 ルイズの質問に空に上昇を続けるお父さんは小首をかしげ、 「そんな事、わたしに聞かれてもなぁ~」 「えええ~」 そしてお父さんは空の彼方へと消えていきました 「で、結局、誰だったの?」 タバサの空しい問いかけがすきま風の吹くルイズの部屋に響くのでした 後日・・・ お父さんがルイズ達の目の前から消え、初めての春が来ました 「・・・いでよ、使い魔!!」 かってルイズ達が使い魔召還の儀式を行った草原で再びルイズは儀式をしていました お父さんがルイズのもとから消え、暫く塞ぎこんでいたルイズでしたが、多くの友人達の励ましで立ち直りました 始祖の祈祷書の使い方を偶然知り、自分の属性、『虚無』にも目覚めました 様々な人と出会い、多くの事件を仲間と解決して一回り大きくなったルイズは今日、完全にお父さんから独り立ちします 多くの仲間がルイズの召還を見守ります 召還時の煙が薄れて魔方陣の中心には 「ガウウウウ・・・・」 ちょっとトリステイン周辺では見られない茶色に黒の斑点が特徴的な山猫が威嚇しています 「怖くないから、おいで」 しゃがみこんでおいでおいでするルイズに警戒しながらも山猫は近づいていきます そしてルイズはそっと山猫を抱き寄せて・・・ 「我の使い魔となせ」 契約のキスをしたのでした トリステイン大王~エピローグに続く~ 前ページ次ページとりすていん大王
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 「マコトを捨てて」 「それはもう死んでる」 「埋葬してやった方が彼のためだ」 「正直言って気持ち悪い」 「というか怖い」 などと言えるはずがない。言ったら言葉はノコギリで襲い掛かってきそう。 そうしたら魔法の使えない自分に勝ち目なんて無い。 だからルイズは我慢するしかなかった。 我慢できた理由は、責任。 自分が言葉を召喚してしまったからとか、コルベールの腕切断とか。 そういうものの責任を、使い魔の主として背負っているから、我慢できている。 つまりルイズ以外の人にとっては到底我慢できる問題ではない、という事。 ――ファイヤーボール等で鞄ごと焼却処分すればよくね? ――オールド・オスマンが固定化かけたらしいから無傷じゃね? ――あのジジイ、余計な事しやがって。油かけて燃やせばいけるんじゃ? ――仮に燃やせても、黒コゲ生首か頭蓋骨を持ち歩くだけじゃね? ――相手は平民なんだからシンプルに命令すればよくね? ――じゃあお前が命令してこい。腕を落とされてもいいならね。 ――風の魔法で鞄を奪って、中身をどっかに埋めちゃおうよ。 ――あ、それいい。そうしようそうしよう。 マコトを捨てて、とは言えなかったけれど、床で寝なさい、は言えた。 言葉は文句ひとつ口にせず、毛布一枚で床に横たわる。 「床は硬いですね。でも大丈夫、誠君は私が抱いていて上げますから痛くありませんよ」 どうやら言葉は自分がどんな扱いを受けようと構わないようだ。 『誠と一緒』という条件さえ満たしていればの話だが。 床で寝なさい、がうまくいったから、誠を鞄に入れっぱなしに、と言ったら断られた。 「部屋にいる時は、誰の視線も気にする事なく、誠君と一緒にいられますから」 私の視線も気にしてよ、とルイズは嘆く。 とはいえ、これで寝起きにいきなり目覚まし生首を目撃しなくてすむ。 安心して眠ったルイズは、完璧に油断していた。 「ルイズさん、朝ですよ。起きてください」 起きた。 目の前に言葉がいた。 縦にふたつ、顔が並んでる。 上は言葉、下は誠。 「……そう来たか」 言葉は誠を抱いたままルイズを起こしたのだ。 ルイズは朝の洗顔のついでに、ほろりと涙をこぼすのだった。 朝食や部屋の掃除など、滞りなくすませた言葉は、 ルイズの授業に同席するため教室に向かっていた。 言葉は授業が楽しみだった。 異世界の魔法学院で、魔法の勉強をするというのもそうだが、 何より誠と同じ教室で勉強できるというのが嬉しかった。 以前はクラスが違ったせいで学校ではあまり一緒にいられず、 お互いのクラスには、言葉と誠を引き離そうとするクラスメイトがいた。 西園寺世界。清浦刹那。澤永泰介。加藤乙女。他にも、他にも、他にも。 でもここにはそんな邪魔者はいない。いないから、安心していられる。 「ウインド・ブレイク」 背後から突然の突風。 風は鞄を狙って吹き飛ばしたため、言葉はその場に転ぶ程度ですんだ。 だが。 「きゃっ……ま、誠君!」 言葉は教室に向かう廊下では他に人がいなかったため、 鞄を開けたまま持ち歩き、中にいる誠とお喋りしていたのだ。 だから、開いたままだった鞄から、誠の、首が。 「うわぁっ!?」 予想外の事態に、風の魔法を使った生徒が驚く。 言葉はその生徒には目もくれず、吹き飛んだ誠の首を拾いに走る。 だが廊下の前方の曲がり角に待機していた別の生徒が、再び風で誠を吹っ飛ばす。 教室とは反対方向に転がって行く誠。 言葉は、理解した。 ココニモ邪魔者ガ、イル。 濁った双眸が鋭さを増し、言葉は放置された鞄を掴みながら角を曲がって走る。 誠の首は宙に浮いて移動していた。 きっとレビテーションという魔法だと言葉は判断し、誠の首を奪おうとするメイジを探す。 敵は複数。背後からの一人、曲がり角の一人、今レビテーションを使っている一人。 計三人。 殺す。 背後からの一人と曲がり角の一人は顔を見ていない。 でも殺す。 レビテーションを使っている一人は進む先にいる。 まず殺す。 言葉は、鞄の中に右手を突っ込んだ。 そして鞄をその場に捨て去る。 右手には、誠の首と一緒に鞄に入っていた、ノコギリ。 左手には、ルイズによって刻まれた使い魔のルーンが、輝いて。 疾風の如く言葉は廊下を駆ける。 その速さに驚愕したレビテーションの使い手は、慌てて次の奴にバトンを渡す。 あらかじめ開けておいた窓から、誠の頭を放り出したのだ。 予定では、これでもう言葉は追いかけてこれないはずだった。 後は広場にある植木の下に掘ってある穴にこいつを放り込んで埋めるだけ。 「あ、来た」 金髪ロールの愛らしいモンモランシーは、窓から放られた鞄をキャッチしようとした。 そこで、あれ? と首を傾げる。 鞄にしては、ちょっと小さい、というか丸い。 クルクルと回転しながら飛んでくるそれに向けて、何となく手を伸ばすモンモランシー。 すると吸い込まれるように鞄(?)はモンモランシーの腕の中におさまった。 何だろうこれ? 見る。 灰色の顔。 「ひっ、ひぃ……ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴が学院に響いた。 今日の授業は何だか妙だった。 授業を休んでる生徒が四人もいる。 その中にモンモランシーも含まれている事もあって、 彼女と友達以上恋人未満な関係の男、青銅のギーシュはちょっと心配していた。 すると。 「ひゃぁあああぁぁぁっ!?」 悲鳴。この声は、モンモランシー? 真っ先に反応したのはルイズだった。 そろそろ来てもいいはずの言葉が来ていない。そして悲鳴。 また何かやらかしてしまったと直感的に悟ったルイズは教室から飛び出して行く。 それを見てギーシュも危機を察知し、窓からレビテーションを使って飛び降りた。 レビテーションも使わず二階の窓から飛び降りてきた言葉を見て、 モンモランシーの顔は蒼白に染まる。 言葉は、じっとモンモランシーを見つめて問いかけてきた。 「誠君はどこですか?」 「え?」 その時ようやく、モンモランシーは自分が何をしたかに気づく。 生首をキャッチしてしまった彼女は驚きのあまり、それを全力で放り投げてしまった。 結果、伊藤誠行方不明。 首を返してごめんなさい、という逃げ道は断たれた。 モンモランシーが首を隠したと完全に勘違いされている。 「誠君はどこですか?」 「あの、その」 「誠君はどこですか?」 「れ、れ、レビテーション!」 逃げよう。モンモランシーが杖を振ると同時に、その身体が宙に浮く。 相手は平民だから、宙に浮かれたらどうにもできないはず。 だが二メイルも浮かんだ頃だろうか、いきなり下腹に何かがぶつかってくる。 「え」 「誠君はどこですか?」 言葉が、腰にしがみついていた。二メイルの高さを己の脚力で跳んで。 そして、モンモランシーの背中を、ノコギリの冷たい感触が叩く。 「イヤァァァッ!!」 恐怖に精神を掻き乱されたモンモランシーはレビテーションを解いてしまい、 地面に向けて背中から落下する。言葉はというとモンモランシーを離して軽やかに着地。 そして、背中を打ち付けられて咳き込んでいるモンモランシーの隣に立ち、 首に、ノコギリを、当てる。 「誠君はどこですか?」 壊れた人形のように同じ事を繰り返す言葉。 眉は不機嫌そうに寄せられていて、虫けらを見下すような冷たい視線を向けられる。 「ひっ、ゆ、許して……」 貴族のプライドなど一瞬で切り捨てられた。 モンモランシーは瞳いっぱいに涙を浮かべる。 「駄目です」 死刑宣告。 直後。 「ワルキューレ!」 モンモランシーを挟んだ対面から青銅のゴーレムが植物のように生え、 右手に持った短槍で言葉のノコギリを弾き飛ばす。 言葉は不快な表情を浮かべて、声のした方を見た。 青銅のギーシュが、薔薇の杖を持って立っている。 「無事かい!? モンモランシー!」 「ギーシュ!? ああ! ギーシュ、来てくれたのね!」 「僕が来たからにはもう大丈夫! 誇り高き美の戦士ワルキューレがその平民を」 言葉はノコギリを腰の横に構えると、そこから水平に一閃した。 耳が痛む甲高い音がして、ワルキューレの胴体が両断される。 言葉の持つ居合いの技術とガンダールヴの力の前では、 例え得物がノコギリだろうと青銅のゴーレムでは話にならなかった。 ギーシュもモンモランシーの仲間と判断した言葉は、矛先をギーシュに変えた。 「誠君はどこですか?」 「マコト? 何だそれは、僕は知らないぞ」 「誠君はどこですか?」 「知らないって言ってるだろ。平民の癖に、貴族に対して無礼じゃないか! 今すぐモンモランシーに謝罪しろ!」 「誠君はどこですか?」 「僕の話を聞いているのか!?」 「誠君はどこですか?」 「だから……」 「誠君はどこですか? 誠君はどこですか? 誠君はどこですか?」 「話を……」 「誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君誠君……」 「わ、ワルキューレェェェッ!!」 言葉の狂気に耐え切れなくなったギーシュは、 薔薇の花弁を大地に舞わせ新たなワルキューレ六体を出現させる。 しかもそれぞれのワルキューレは異なる武装で言葉に対峙していた。 「アイスソード!」 「オートクレール!」 「カムシーン!」 「デルフリンガー!」 「ヴァレリアハート!」 「ガラティーン!」 六体のワルキューレ! 六本の剣! 「それ以上抵抗するなら容赦しないぞ!」 六体は列を成して言葉へと肉薄していった。 対する言葉は正面からワルキューレ達に向かって疾駆する。 一体目とすれ違い様に胴を両断する言葉。 二体目とすれ違い様に首を刎ねる言葉。 三体目とすれ違い様に肩から脇腹まで両断する言葉。 四体目とすれ違い様に剣もろとも腕を切り落とす言葉。 五体目とすれ違い様に下腹部を開腹する言葉。 六体目とすれ違い様に頭から股間まで一刀両断する言葉。 「そ、そんな馬鹿な……」 六体のワルキューレの残骸を背に、恐怖に腰を抜かすギーシュの眼前に、言葉。 「誠君はどこですか?」 「し、知らない」 「……」 青銅のワルキューレを次々に屠ったノコギリが、ギーシュの首へ。 モンモランシーが叫ぶ。 「や、やめて! ギーシュを殺さないで!」 言葉は振り返って、問う。 「誠君はどこ――」 「コトノハー!」 ぜいぜいと息を切らしながら、ルイズが広場に駆け込んできた。 誠の首を抱えて。 「ま……誠君!」 「はぁっ、はぁっ、間に、合った……」 ルイズに駆け寄り、誠を渡されると愛しそうに頬擦りする言葉。 それを見て、助かったと胸を撫で下ろすギーシュとモンモランシー。 だがその二人に、ルイズがうんざりとした表情で言う。 「ちょっと。あんた達コトノハに何したのよ? 私が偶然植木の陰に落ちてたマコトを見つけなかったら殺されてたわよ?」 「ぼ、僕はただモンモランシーの悲鳴が聞こえたから……」 ルイズとギーシュの視線がモンモランシーに向く。 殺されかけたギーシュとしても、なぜこうなったのか知りたいようだった。 まさかここで「あの首を奪って埋めちゃうつもりでした」なんて言えない。 そこでモンモランシーはこう答えた。 「わ、私はただ、授業に出る気になれなくて、散歩してただけよ。 そうしたらいきなり窓から、その、アレが落ちてきて、悲鳴を……」 「じゃああなたは、私から誠君を奪おうとした人達の仲間じゃないんですね?」 誠との頬擦りをやめた言葉が、疑わしげな視線をモンモランシーに向けた。 「ちょっとコトノハ、マコトを奪おうとした人達って何よ?」 「……ルイズさん。今日の授業、誰か欠席してませんでしたか?」 「え? えーと、そういえばモンモランシー以外にも三人くらい……」 「それは誰ですか?」 質問されて、ようやくルイズは事態を把握した。 モンモランシーも関わっているかどうかは解らないが、 欠席した三人は言葉から誠を奪って処分してしまおうと考えたに違いない。 だって自分も処分できるものなら処分したいから。 「……誰だったかしら。あまり気にしてなかったから」 ここで名前を教えたら、多分、その三人は殺される。 どう誤魔化そうかと悩んでいると、言葉は感情の無い声で言う。 「そうですか。解りました、もういいです」 「え? そ、そう?」 呆気なく言葉が引き下がり、安心するやら不気味やら、ルイズの心中穏やかではない。 そして言葉は、ノコギリと誠を持ったままモンモランシーに歩み寄った。 「な、何よ」 「あの人、あなたの彼氏ですか?」 「え……?」 意外な問いにモンモランシーは目を丸くする。 言葉は小声で話しかけているため、ルイズとギーシュには聞こえない。 どう答えたものかと一瞬迷って、助けに来てくれたギーシュを思い出して。 「そうよ。ギーシュは私の恋人。それが、どうかしたの?」 「……いえ。ただ、忠告して上げようと思って」 「忠告?」 言葉の唇が、笑う。 「恋人を、誰かに盗られたりしないよう、注意した方がいいですよ」 「それって、どういう……」 「誠君みたいに、なっちゃいますから」 何とか殺害をまぬがれたモンモランシーだったが、言葉の重く心に響く忠告は、 確かにモンモランシーの根深いところに植えつけられた。 それが発芽するのは、まだ先の話。 そして言葉は、今日の授業を欠席した人が誰かを教師に訊ねに行った。 でも。 すでにこの事件を知っていた、この時限の教師は、それが誰かを教えなかった。 だから言葉は思った。 この教師は生徒をかばっている。もしかしたらこの教師が黒幕かもしれない。 炎蛇のコルベール。やっぱりこの人は……。 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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《人名/ま行》 ロンドン中心部にある国立病院きっての一流脳外科・皮膚科医師。 +出典 『C・STEF』 『アールエス』 『C・STEF』 ファウストの19回にも及ぶ擬似幼年期への退行手術を担当している。ファウストに同情しながら、そのくり返しにいささかうんざりしているらしい。後に記憶補完用の猫型人形、ク・ステフをファウストに譲り渡す。 『ガニュメート・ストレス』ではメゾ、『ストーリー・オヴ・スペシャリスト』の白川英治と同一人物。保有者に長寿を与えるモラン細胞?の元になった人物。その細胞は彼と同じ水色の髪と共に白川姓を名乗る一族に受け継がれている。 『アールエス』 アイテム「モラン先生の細胞」白川一族に伝わるメゾ細胞の一種
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背徳の魔煙インモラル(はいとくのまえんいんもらる) 背徳の魔煙インモラル ユニット-シャドー 使用コスト:黒2無1 移動コスト:黒1無1 パワー:6000 スマッシュ:1 クイック このカードがスクエアに置かれた時、相手はこのカードと同じラインの自分のベーススペースのスクエアにあるベースを1枚選び、持ち主の墓地に置いてよい。 そうした場合、あなたはこのカードを持ち主の墓地に置く。 大人たちに隠れて手に入れた禁断の果実・・・・・・ 後ろめたければ後ろめたいほど、その果実は甘くとろける。 単色では初の3レベル6000パワー。 ベースを使わないデッキ相手なら結構な戦力になる。 黒として貴重なベース破壊要素でもあり、 危険なベースを貼られたらわざと居座らせるのも効果的。 収録セット フォース・センチュリー ベーシックパック?(049/205 アンコモン) イラストレーター sukechan 関連リンク 種族 シャドー 参考外部リンク
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (30)凍える月 諮問会を終えて数時間。一時強く降った雨も、今では気分屋の婦人のようにその機嫌を直している。 まだ草葉に残る水の臭いが鮮烈な日没頃、アカデミーに二台の四頭立ての大型馬車が到着した。 まず目をひくのは選び抜かれた美しい毛並みの駿馬達。しなやかさと気高さを備えたその肉体は、まるで芸術品のようである。勿論、それに引かれる車体も引けを取らない。 一見して堅実な作りだが、そこかしこに控えるようにして拵えられた品の良い細かな装飾は、当代一流の職人の手によるもの。素材製法、全てに置いてフォーマルにフォーマルを重ねた、最高級の二台である。 子供であっても一目で分かる、さぞ名のある貴族の馬車なのだろうと。 そしてもう少し注意力があるものならば、その馬車に刻まれた紋章の意味に気がつき納得するだろう。 即ち、それは王家の馬車であった。 招待客を迎えに来た王宮の馬車に、今、彼女達は二手に分かれて乗り込んでいる。 静かに揺れる馬車に乗っているのはルイズ、ウルザ、タバサ、エレオノール、モットである。 一方、ルイズ達の馬車の後ろをついてきているはずの、もう一台の馬車にはギーシュ、モンモランシー、オスマン、コルベール、フーケが乗っている。 各々、装いは違うものの、それぞれ王宮の舞踏会に相応しい盛装を身に纏っていた。 ルイズは開いたばかりのつぼみを思わせる、ピンクのパーティードレス。その横に座るタバサは、薄い空色を基調とした薄手のドレス。 そして、同席する者の中で一番気合いが入っているのが、ボリュームある装飾がいくつもついた、太陽を思わせる黄色のドレスを身に纏っているエレオノールである。 「ど、どうでしょうか、ミスタ・ウルザ? わたくしのドレス、何か変なところはありませんか?」 胸に手を置いて向かい合って座っているウルザに問いかけるエレオノール。その胸元には花をイメージしたボリューム感あるリボンが、ふんわりと飾られている。(ルイズの見立てでは、それは胸の薄さをカバーするための知恵である) 「十分にあなたの魅力を引き出している。素敵なドレスだ」 そう言って頭を振るウルザも、所々に金の装飾をあしらった豪華なローブを身に纏っている。杖を手にしたその姿は、おとぎ話に出てくる森の老賢者の趣である。 「まあまあ!」 ドレスを褒められたエレオノールの顔が、火が灯ったようにぱっと華やいだ。 「ええ、実にお美しい。正に大輪の花のようですぞ」 と、ウルザの横でそう口にしたのはモット伯爵。彼はいつも通りの派手な色合いの服装を身に纏っていたが、舞台に合わせて更にその豪華さが数段増している。 「あら、そう」 途端に風船が萎むように表情がいつもの無愛想に逆戻り。 そしてその表情のまま、エレオノールはツンツンと自分の隣に座って外を眺めていた妹の腕をつつく。 「?」 ルイズは訝しんで横を向く。 するとそこには、再び満天の笑顔のエレオノール。そしてそのまま彼女はルイズの頭を両手で掴むと頭を低くさせて顔を触れあうほどに近づけて囁いた。 「ねぇ聞いたちびルイズ。ミスタ・ウルザが私のことを素敵ですって、ですってっ!」 笑顔のエレオノール。一方でルイズを頭を挟みこんだ両手からは、ぎちぎちといい感じの音が響いてきている。 「ね、姉さまっ、ちょ、いた、いたいっ!」 「しっ! 馬鹿ルイズっ! 声が大きいわ、ミスタ・ウルザに聞かれたらどうするのっ」 貴族の中の貴族、ヴァリエール公爵家。その長女、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 完璧なまでに完璧、誇らしいほどに才女、少々棘が過ぎるがそれ以外の部分では事実上、無欠の姉上。そんな姉が、時に歯車が狂ったようにおかしくなってしまうことを、ルイズは久方ぶりに思い出した。 「姉さまっ、駄目ですわ、しっかりしてっ! お気を確かにっ!」 「だって、あのお髭、あのお髭がいけないのよ……ルイズ、あなたも大きくなったらその良さが分かるわ」 「姉さまっ! 全然話が噛み合っていませんわ! それに姉さまの場合、大きくって言うにはそろそろお歳が……」 「五月蠅いわねっ! 若いからって偉いつもりっ! このちびルイズ!」 「ず、ずびばぜん、おでぇざばはじゅうななざいでずっ!」 にぎやかな姉妹の触れ合い、その一幕。そんなやり取りをしている二人――主にそのうちの手足をばたつかせている方の一人――を見ながらモット伯爵が小さく、恍惚を含ませて呟いた 「おおぉ、なんと素晴らしい……ミス・ルイズ……まるで女神のようだ……」 などという発言は、虚空へと流され消えていった。 ルイズ達を乗せた馬車が王宮に到着したときには、既に舞踏会が始まって暫くの時間が経過していたようであった。 会場ではこれでもかと着飾った、様々な年齢の紳士淑女の群、群。彼らがそこかしこでにこやかに談笑していた。 そんな喧噪に気圧されたように、二人。 「さ、流石は王宮の舞踏会ね……そこいらの舞踏会とじゃ、比べものにならないわね」 「そ、そうだね。なんだかやっと王宮の舞踏会に呼ばれてしまったってことの実感がわいてきたよ……。そう考えたら急に緊張してきた」 「私なんてさっきからずっと緊張しっぱなしよ……ねぇ、ちょっとギーシュ、私の格好、変なとこ無いかしら?」 そう問いかけたのはブロンド髪をロール、しかも今日は普段よりも念入りにロールさせた学院の秀才、モンモランシ家長女モンモランシーである。 「さ、さぁ、生憎僕にもさっぱりさっ!」 そう強ばった顔で言い切ったのは整った顔立ちの美少年、グラモン家の三男、ギーシュである。 二人とも学院の制服ではなく、この場に相応しい正装で着飾っている。しかしいかんせん、周囲の人間に比べると着慣れていないことが、傍目にも分かってしまう有様だった。 「ちょ、ちょっと大丈夫!? 本音が表返ってるわよっ!?」 気が動転して思ったことを口走っているギーシュの髪の毛をモンモランシーが掴む。 「お、おおっとっ! 僕としたことが! すまないモンモランシー! 勿論今日の君は一段と素敵だよっ!」 周囲の空気に飲まれて立ち往生してしまう学院生二人。それもまた致し方ないことであろう。 本来なら、学院生の身分で王宮の舞踏会に招待されるなどまず無いことなのである。 そもそも、学院で度々開かれる舞踏会などのイベント行事、それらはこういった場に徐々に慣れさせて順応させていくためのものなのである。 それを一足飛びにいきなり本番の、それも最も格式高い舞踏会に招待されてしまったのであるからして、二人の反応は至極当然のものであろう。 「あんた達、そんなところに突っ立ってたら邪魔よ」 そんな声をかけた彼女こそが、この場合は極まって異端なのである。 「ル、ルイズ……き、君は何か随分と平気そうだね……」 「当たり前じゃない。別に初めてって訳じゃあるまいし」 「へ、へぇ、そうなの……」 そうなのである。緊張と戸惑いで右往左往している二人に声をかけたルイズは、この最大級に公式の場にあって、微塵も怖じ気づくこと無く堂々と立っているのである。 当然と言えば当然である。彼女は幼い頃から、こういった場には慣らされているのである。 「さ、流石はヴァリエール家ね……例え三女でもこのくらいの場で緊張したりしないってことね」 「ええ、流石ヴァリエール家でしょ。好き嫌いに関わらずこういうのは慣れてるわよ。さ、こっちよ。さっきも言ったけど、もうすぐダンスが始まるの、あんた達そこにいたら邪魔になるわよ」 モンモランシーの皮肉もさらりと流し、その手を取って会場の一角へ引っ張っていく。ついで、手を引かれるモンモランシーにくっついてギーシュも移動する。 そうしてルイズが連れてきたのは、舞踏会場の端の一角。豪華な食材を使い、手間暇かけて贅を凝らした料理が所狭しと立ち並ぶ大テーブルがある一角であった。 だが、そこは同じ舞踏会場でありながら、先ほどまで二人が立っていた場所とは微妙に空気の違う、何とも言えない場所であった。 その場の空気を表現するのは難しい、が、無理に言葉にするとするなら『いたたまれない』雰囲気が漂っていた。 そこには連れ合いのいない女性、暗く沈んだ男、ギーシュ達と同様に右往左往している少年貴族、黙々と料理を食べる少女という、何とも場の華やかさに似合わない面々がどんよりと淀んでいた。 「な、何か微妙に、こう……アレじゃないかね、ここは」 「良いのよ。あんた達みたいに慣れない人間はね。ヘマやらかすくらいなら、ここでじっとしてれば」 そう、ここは華やかな場にあぶれた者達が集う一種のエアーポケット、壁の花ゾーンなのであった。 「普通ならこういう場所は誰かの付き添って来るのは通例なんだもの。確か二人とも今日は親族は来ていないのよね? だったら一人じゃ居づらいでしょ」 そのルイズの言葉に、ギーシュとモンモランシーの二人は顔を見合わせ、そして二人は合わせてコクコク頷いた。 「よろしい」 そもそも、二人は貴族としてこの場に呼ばれたわけではないのである。 ウェザーライトⅡに乗船していた者として、この場の祝い事、つまり『戦勝祝い』に呼ばれる資格有りとして呼ばれたのである。 しかし、それも本当は女王であるアンリエッタの計らいによるもので、先の戦の勝利を呼び込んだ発光現象がアンリエッタの祈りによって導かれた始祖の加護によるものだという表向きの事情を考えれば、彼らに居場所が無いのも当然のことなのであった。 「さ、私はすることがあるから行くわね」 一通りの注意と説明をしてからその場を離れようとするルイズ、ギーシュはそんな彼女に怪訝そうな顔で声をかけた。 「ん、君は何かあるのかい?」 「ええ、挨拶をしなくちゃいけないのよ」 「挨拶回りか、大変だね」 「そんなんじゃないわ……」 そう言ったルイズは言葉を区切って振り返り、一つため息を吐いてから先を続けた。 「お父様よ」 ヴァリエール公爵家。 伝統と格式あるトリステイン王国にあって、最高位の名誉と権威と伝統とを併せ持つ、名家中の名家である。 その現在の当主であるラ・ヴァリエール公爵、ミシェル・マルセル・ド・コリニー。 舞踏会場となった王宮の大広間、そのテラス。そこでは多数の貴族達が群を成し、彼を取り囲んでいた。それも彼の影響力を考えれば無理からぬこと。 そして、そんな多忙な彼に、一つの声がかけられる。 「ごきげんよう、お父様」 背中からかけられたそんな声を耳にして、ミシェルは威風堂々の佇まいで後ろへ振り返った。 そこには妻譲りの桃色のブロンドをした、小さなレディがスカートを持ち上げて典雅な挨拶をしていた。 その姿を見て、ミシェルは威厳を保ちながら小さく唇をつり上げ綻ばせた。 「ルイズか……元気そうだな」 「はい。お父様もお変わり無いようで」 うむ、と頷いてみせる厳格な父ミシェル。 と、そこで彼に寄り添っていたもう一人の桃色のブロンドの女性――つまりルイズの母、ラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレが夫のそばから離れて周囲へ向けて控えめに手を叩いた。 「さて皆様方、夫は久しぶりに会った娘と話をしたいそうです。申し訳ございませんが、話の続きはこのわたくしがお伺い致します……」 そう言って婦人が取り巻きを引き連れて移動してしまうと、その場には父娘だけが残された。 「怪我はしていないようだな。安心した」 「……やっぱり私が戦場に出ていたこと、父さまはご存じなのですね」 「ああ、学院が襲撃を受けたとの報を受けて、すぐに調査させた」 「でしたら……」 「女王陛下は」 ミシェルが、ルイズの言葉を途中で制した。 「次の戦いでも、お前を前線に組み込むつもりでいらっしゃる」 ルイズが思いがけず息を飲む。その父の声色は。紛れもない強い怒りを含んだものであった。 「父さま、女王陛下には陛下のお考えがあって」 「駄目だ、許さん。私はどんな手段を使っても、お前を戦場に送りだそうとする女王陛下をお止めるつもりだ」 「父さまっ!」 「例えそれが、名誉ある公爵家の忠義の歴史をかなぐり捨てることになろうとも、王家に杖を交えることになろうとも、だ」 確かに父には反対されるとは思っていた。だがしかし、アンリエッタの口添えがあれば、父も納得せざるを得ないと考えてもいた。それがルイズの知る父、古い貴族の体現者、ミシェル・マルセル・ド・コリニーであったからだ。 だがどうだろう、今ルイズの前に立つミシェルは、ルイズの思い描いていたものとは全く違う態度をとっているではないか。 「父さまっ! 女王陛下には、トリステインには私の力が必要なのですっ!」 「ならんっ! 私はお前にどんな力が秘められているかは知らん。だが、どれほどの力を宿そうともお前はヴァリエール家三女、私の娘であることに変わりない!」 その父の、強い言葉に言葉が詰まる。 気づいたのだ。いや、あるいは最初から気づいていたのかも知れない。 この厳しい父がどれほど自分を愛しているのかを、どれほど自分を大切に想っているかを。 今父の瞳に宿っているのは何だ? 怒りか?失望か? 否、違う。それは『恐れ』。 「女王陛下はお前のことを大砲か火矢のように思っていらっしゃるようだが、私は違う。お前を戦場になど絶対にやらん! お前は家に戻るのだ、そして戦争が終わるまでの間、一歩も外に出さんっ! 話はそれだけだっ!」 「まっ……」 父が、去っていこうとする。 ルイズはその背中をとっさに呼び止めようとする。けれど、その言葉の先が続けられない。 父親の言葉で胸に熱いものがこみ上げてきて、その先が続けられない。 「お待ちになって、お父様」 だから、そこで呼び止める声がかけられたのは正しく幸運であった。 「お前も何か話があるのか、エレオノール」 立ち去ろうとした父が、もう一人の娘に呼び止められて足を止めた。 夜のテラス、そこから伸びて煌びやかな舞踏会場へと続いている赤い絨毯の上、その上に立ちふさがるようにエレオノールが立っていた。 「お父様、少しはルイズの言うことも聞いてあげたらどうですか? お父様の言いたいことは全てルイズに伝わっているでしょうが、お父様はルイズの言いたいことを全部受け取ってらっしゃいますか」 「何を言い出すかと思えば……いいか、エレオノール。ルイズはまだ子供だ、まだ自分で物事を見極めて判断するには早すぎる。この子のことは私が一番分かっている。故に私が決断を下すのだ」 「いいえ、お父様」 そう言って、エレオノールは一歩、父との距離を縮める。 「お父様はルイズに対して過保護過ぎますわ。一度正面から向き合って、ルイズの話を聞いてあげてください」 その言葉にミシェルがぎょっとする。 「な、何を言い出すのだエレオノール。ルイズはまだ自分のことが何も分かっていないのだぞ! 一時の感情に流されて取り返しのつかないことになったらどうするというのだ!?」 「無礼を承知で申し上げますわ。それが過保護だと言うのです」 援護はあれ、反対されるとは思っていなかったミシェルがたじろぐ。 「わ、私はただルイズのことを……」 「エレオノールの言う通りですわ。あなたにとってはルイズは小さいままなのかも知れませんが、それにしても甘すぎます」 エレオノールを後押しする言葉が放たれる。その声の主は、この場にいるはずのない四人目、ミシェルの妻カリーヌのものであった。 解散させたのか退散させたのか、エレオノールの横に立ったカリーヌの周りには、先ほどまでいた人だかりは既に無い。 「お、お前まで何を言うんだっ! これが一番いい方法に決まっているじゃ無いか!」 流石にエレオノールとカリーヌ、二人を相手にすると厳格な父親ミシェルも分が悪い。女性二人を相手に、父はその体を一歩二歩と気圧される。 「父さま」 そんな父の背後へ対して、ルイズから静かな言葉がかけられた。 「父さま、ありがとうございます。私のことをそんなに思っていてくれていたこと、とても嬉しく思います」 ぞっとするような凍える月。 それを見てルイズは、かつて二度、こうして舞踏会の夜にただ月を眺めていた彼の背中を思い出す。 エレオノールとカリーヌが父を呼び止めてくれた、少しの時間。その時間で、ルイズは愛する父に口にする言葉と、覚悟を決めていた。 「ル、ルイズ……?」 「でも、私は決めたのです」 振り向いたミシェルが見たものは、月下で微笑む、これまで見たことがないような自信に満ちた娘の姿であった。 「私の生まれてきた意味、魔法も使えず、失敗ばかりだった自分が生きてきた意味、それを見つけたのです」 その瞳には強い覚悟の光が宿っている。 娘のそんな変化を目にして、父は本能的に理解してしまう。今、娘は自分から巣立とうとしているのだと。 「だ、だがっ!」 しかし、それでも引き下がらない。 無様だろうが構わない、決して娘を手放したくないその親心は偽れない。 「私は決めたのです。国のためでも、女王陛下のためでもありません、私は私の誇りの為に、この道を真っ直ぐに進むと、そう心に決めたのです。私自身に誓って」 娘の口から、決定的な一言が紡がれた。 その言葉を聞いてミシェルは、娘が、最愛の小さなルイズが、既に巣立ってしまっていたのだと悟り、今度こそ言葉を失ったのだった。 古代スラン時代に打ち上げられた人工天体、虚月。 ハルケギニアで見上げるそれは、まるで凍りついているようだ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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「全くあんた、最低ね」 モンモランシーはルイズの頼みに顔をしかめた。それでもルイズは必死で頭を下げる。 「お願い!もうすぐサイトが帰ってきちゃうから!」 はあ、と溜息をついてモンモランシーは棚に並んだ香水瓶を何本か手にとってテーブルに並べ始める。モンモランシーは目を輝かせたルイズに指を立てて言い聞かせた。 「言っとくけど、臭いってのは普通消せないものなの。香水は嫌な臭いを誤魔化すために良い香りを撒くわけ。でも強い臭いに香水を使ったりしたらますますひどいことになるわ」 う、とルイズはうめき声を上げる。モンモランシーは煤で汚れたルイズの顔をハンカチで拭って訊いた。 「で、部屋にぶちまけた失敗料理って何なの」 「最近サイトのこと働かせ過ぎたなとか、牛乳女に出来て私に出来ないはずないなとか思って、ちょっと特製ビーフシチューを作ろうって思ったの!」 モンモランシーが眉をひそめてさらに中身を問い詰めると、ルイズは急に小声になってレシピを説明し始めた。 「ビーフシチューをアレンジしようと思ったのよ。牛のヒレ肉を赤ワインでことことゆっくり煮てちゃんとあく取りしてミルクを加えて」 「それで?」 「コリアンダーとミントとシナモンと紅茶とニンニクとブルーチーズと東方から来たっていうマツタケとを加えて煮てたらゴキブリが出て、それで慌てて魔法で退治しようと」 モンモランシーは調合を考えるメモ用紙を握りしめて言った。 「で、味も香りのバランスも考えないで手当たり次第ぶち込んだシチューもどきを部屋中にぶちまけたと」 「手当たり次第なんかじゃないわよ!」 怒るルイズにモンモランシーは冷静に返す。 「何なら今すぐ厨房のコック長の……マルトーだっけ?訊いてみる?」 う、と再びルイズは黙り込む。モンモランシーははあ、と溜息をついて手元の紙に何やら書いて計算を始めた。 「とにかくそんな変な部屋に普通に香水撒いたって全然駄目ね。トイレの消臭剤と水魔法と……どうせサイトだし。あれで誤魔化すか」 ぶつぶつとモンモランシーは呟いて何やら書きあげると、今度は部屋の小鍋に幾つかの香水瓶の中身を入れる。何やら木屑のようなものや花びらも入れてかき回し、ルイズの聞いたことのない水魔法の呪文を唱える。 小鍋の中身が青く発光し、うっすらと飴色の液体が鍋いっぱいに出来上がる。 「さ、撒きに行くわよ。これ持って」 手渡された円筒形の筒には、キュルケの流麗な文字で「ぴかぴか消臭クン3号 ばい・ダーリン作」と書いてある。コルベールの発明品を誕生日にプレゼントされたと言っていたが、これのことだろうか。 蓋を開けて鍋の中身をこぽこぽと入れ、最後にいきなりルイズの髪の毛を何本か引き抜いた。 「何すんの!」 「最後の仕上げよ」 淡々とした調子でモンモランシーはルイズの髪の毛を消臭クンに放り込むとしゃかしゃかと振り、消臭クンを担いでルイズの部屋に向かった。 モンモランシーが室内に消臭クンで臭い消し薬を噴霧するたび、どぶのような臭いが薄まっていく。汚れの強い場所は水魔法の影響なのか、ほんのりと桃色に輝いて消えていく。何故か時折モンモランシーがメモを取っているが、さすがに頼んだ手前、ルイズもそのメモが何なのか訊く余裕はない。 くんくん、とルイズは部屋の真ん中に立って鼻をひくつかせる。たしかに変な臭いはしなくなった。かすかに薔薇の香りが漂っているようだが、消せない分を誤魔化しているのだろう。モンモランシーはルイズから材料費と手間賃を受け取ると、そそくさと部屋から出て行った。 「ただいまー」 部屋のドアを開けたサイトは鼻をひくひくさせる。ルイズは冷や汗をかきながらサイトの発言を待った。 「薔薇?」 「そそそそうなの。モンモランシーが新しい香水をくれてそれで」 ふうん、とサイトは言い、なんか安っぽいな、と呟く。ルイズはどうせ試作だしまだまだみたいねなどと出まかせを言う。 「でも何か、何だろ。ちょっと汗くさい?」 サイトはベッドに腰かけ、再び鼻をひくつかせると何故か顔を赤らめる。 「どどどどしたの?疲れた?」 「なんかこの部屋さ、その」 「ああああんたほんと、くんくんくんくんして犬みたいじゃない!」 「だってさあ」 言ってサイトはくんくんと鼻をひくつかせて次第にルイズへと近寄ってくる。くんくん、とサイトの顔がルイズの首筋に寄ってくる。 「ルイズの、匂い」 サイトの手がいきなりルイズの体に回った。え、と反発する間もなくルイズはそのまま押し倒される。サイトはさらにルイズの首筋に鼻を寄せてくんくん、と匂いを嗅ぐ。 「わりい。何だか、我慢できねえ」 「あああああんた!」 だがサイトの手はいやらしい場所に伸びるわけでもなく、単にぎゅっと抱きついてきた。何となくルイズはサイトの頭をそっと撫でてしまう。 「あー、何だか安心する」 「そ、そう?」 ルイズもぎゅっとしてやる。くんくん、というサイトの鼻息は本当に犬みたいで、でもそれが妙に愛おしく思えてしまって、ルイズはサイトの額にキスしてしまった。 ちゅっ、ちゅっ、と音を立ててキスをするとサイトの体から力が抜けていく。腕の中で安心しきったサイトの頬を、ルイズはゆっくりと撫でてついばんでみる。 サイトは、私のもの。 呟いて顔中にキスしてしまう。そうっと頭を撫でてやって。ベッドに転がしてやって布団を二人で被る。 「サイト……」 小さく寝息を立て始めたサイトをじっくりと眺めて、まだ夜にならないのにルイズはしっかりとサイトを抱きしめたまま眠りについてしまった。 「男はかなりの割合で好きな女の匂いフェチ、っと」 モンモランシーは使い魔の報告を聞い取りメモ帳に記入すると、メモ帳を開いて呟く。 「今夜はギーシュ、暇だったわね」 そして飴色の液体に自分の金髪を放り込むと、にんまりと笑みを浮かべた。 <投下時から一部修正(by かくてる, 2007-12-02T23 15+09 00) >
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前ページ次ページゼロの戦闘妖精 Misson 16「インディアン・サマー・ヴァケーション(前編)」 修羅場は続いていた。 FAF謹製『リファイン・ゼロ』の設計製造図を書き上げ、担当者に配布し、解説及び各種注意事項を説明する。 ロールアウトしたばかりの『ゼロ号機』をフル回転させて、新人パイロットの訓練に当る。 機体の製作と平行して進めていた 各種新兵器関係の製作も進めねばならない。 新規派遣された研究者達への 物理科学講座も継続中。 肉体的にも 精神的にも、限界だった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、トリステイン魔法学院に在籍する学生である。 あまりの多忙さから ここ暫く授業にも出席できず 期末試験も免除されていたが、あくまで本分は学生である。 本人も やっとその事を思い出した或る日 その日は前期授業の最終日だった。 「最後ぐらい 顔を出しといた方がイイかな…」 少しは 気分も変わるかもしれないし、そう思って 久しぶりに教室へと足を運ぶのだった。 トリステイン魔法学院のギトー講師。風のスクエアクラスの実力者ながら、従軍経験は無く 教育一筋に生きてきた真面目な独身教師である。 決して悪い先生ではないのだが、能力の高さはプライドの高さに 真面目さは堅苦しさとなって現れてしまい、生徒から慕われるタイプの先生ではない。 このギトー先生、夏休み前最後の授業に 毎年ちょっとしたイベントを仕掛ける。 長期休暇で生徒が羽目を外し過ぎない様 釘を刺しておこうという思惑もあるのだが、内心 自分の強さをアピールしたがっているのも否定しきれない。 今年 そのイベントの対象となったのは、(不運な事に)ルイズのクラスだった。 「それでは 解答用紙を返却する。各自 受け取りたまえ。」 ギトーが杖を振るうと、教卓の上に積まれていた紙束が風に舞い それぞれの生徒の元へと飛んでいく。 風メイジの教師が、皆こんな事をする訳では無いし、出来る訳でも無い。正直 三十路過ぎにしては、ちょっと派手好きというか エエカッコシイと言うか… 「諸君等の努力の成果は、この試験の結果として見せてもらった。 幸いな事に、私の授業に関する限り 追試を必要とするような成績劣悪者は居なかった。皆 よくやったと褒めておこう。 だからと言って、慢心してはいかん。」 褒めるだけで済まさないのが この先生だった。 「もう間も無く、明後日には『夏休み』だ。諸君等の頭の中は 既にその事で一杯だろう。 久々に親元へ帰り たっぷりと甘えてくるも良し、旅に出て 見聞を広めてくるも良し。好きにしたまえ。 ただし 分をわきまえた上でのことだ!」 語気を強め 拳で教卓を『ドンッ』と叩く。僅かにざわめいていた教室が 静まり返る。 「嘆かわしい事に、毎年 夏休み明けの最初の授業には、怪我をして包帯姿で現れたり ましてや出席する事すら儘ならない生徒が 何人か居る。 理由は決まって、『冒険』とやらで 馬鹿な事をやらかした為だ。 そして私は後悔する。『ああ またか!』と。」 芝居がかってはいるが 本心である。負傷した生徒達を見る度に 彼は心を痛めていた。(ただし、周りからは とてもそうは見えなかったが) 「一年生が学ぶ魔法は 基礎の基礎、二年生からが実用性の高い 応用編だ。 進級から今日まで 短い期間ではあったが、諸君等は真摯に魔法を学び 多くの新しい術を身に付けた。 覚えた魔法は 使ってみたくなるもの。それは仕方あるまい。私も そうだったからな。 それが 日々の暮らしの中でなら、まあ いい。だが 戦闘用の魔法はどうだ。」 ここで 生徒一同を ジロリと睨む。数名の生徒が、ビクッと背筋を伸ばしたり 逆に俯いて視線を外したりする。 「『生兵法は怪我の元』、東方の言葉らしいが、正にその通り! 諸君等が、『自主練習』と称して 決闘まがいのジャレ合いをやっている事など、我々教師は把握済みだ。 大怪我をするようなモノでない限りは 黙認しているだけで、もしもに備えて救護体制も整えているがな。」 ちなみに、ルイズとギーシュの『決闘』については、学院長・コルベール・ロングヒルの三名が知るのみで 他の教員には周知されていない。 「それが 子供のケンカであれ何であれ、勝てば自信となる。次は より強い相手と戦いたくなる。 学院内に目新しい相手が居なくなれば 学院の外で探そうとする。そこに『夏休み』だ。 猟犬を 野に放つようなものだと思わんか? なぁ、『仔犬(パピー)』諸君。」 先程 『決闘』と言う言葉に反応した生徒達が、今度はムッっとした様にギトーを睨み返す。 「ほほぅ。未熟とはいえ 一応の『気概』は持ち合わせているようだな。だが それだけでは何の役にも立たんぞ。 この学院の中では 諸君等は幾重にも亘って守られているが、一歩外へと踏み出せば 野盗が居る 野生幻獣が居る 亜人や魔物も居る。 それらとの戦いは 決して『ごっこ遊び』等ではない。敗北は 時に死へと直結する。 諸君等に『覚悟』は有りや!否や!」 現実を突きつけられ、それを理解してくれれば 良し。だが 少年達の冒険心が、その程度では止まらない事も 教師は熟知していた。 「やれやれ、これだけ言っても判ってもらえんとは! 『女子と小人 養い難し』 これも、東方の言葉だったかな? 女子と言えば、己の分もわきまえず 学院長の戯言を真に受けて、『盗賊探索』なんぞを引き受けた者が居たような。」 さて そろそろ仕上げに掛かるか。ギトーは ある生徒に向けて釣り針を垂らした。 『土くれ』のフーケ探索の任を任された三人が 実質的にこのクラス最強のメンバーといえる。うち 一人は長期欠席中、もう一人は挑発には乗ってこないタイプ。 残る一人に 見せしめにこの場でお灸を据えてやれば 他の悪ガキ共も少しは懲りるだろう。そんな算段だった。 「よろしい。では 特別試験といこう。諸君等の『腕前』を見せてくれたまえ。 何 簡単な事さ。最強の系統たる『風』 そのスクエアメイジである私に勝てたなら 認めてあげよう。『冒険』にふさわしい実力があると。 この私からの『御墨付き』だ。尤も 何の効力も無いわけだが。 さぁ どうするね。 逃げてもかまわんよ。そんな臆病者は、学外に出たとしても何も出来ないだろうからな!ハハハッ…」 怒りに顔を真っ赤にし 拳を震わせながらも、少年達は挑戦の名乗りを上げられなかった。実力が違いすぎるのだ。 高等部二年生の平均的なメイジレベルは、ラインならば まぁ優秀といったところ。スクエア相手に敵うハズもない。 ただし このクラスには例外的に トライアングルの生徒が二人居る。 (…彼女なら!) クラスの期待は、そのうちの一人に集まった。 「ギトー先生、ちょっと宜しいですか?」 期待された人物は 立ち上がり発言の許可を求めた。 「ん 何だね、ツェルプストー君。」 「先程からの仰り様、色々と物申したい事はあるのですけど まずは一点だけ。 『風』が最強だなんて、誰が決めたんですの?」 (ミエミエのお誘いですわね。でも 恋も戦も、自分の意図を相手に悟られたら 駆け引きは『負け』。 そんな事も判らないから 今だに彼女の一人も出来ないんですよ ギトー先生。) そう言って ニッコリと微笑むキュルケだった。 (ほぅ そっちに喰いついたか。まぁ良い。) 「何だ、そんな事か。誰が決めたものでもない、これは一般常識に過ぎないのだよ。 それとも 君がこの場で、『常識』を覆してくれるとでも? クラス代表として この私を打ち破って。」 (此処までは 概ね筋書き通り)と、キュルケの意図には気付かぬギトーだった。 「さて どうでしょうか? 『常識』で言えば 火力とは、すなわち破壊力であって それに優れるのは『火』の系統。これも常識ですわ。 及ばずながら この私が、『常識』を証明しても宜しいのですが、今回の争点は『最強』。 残念ですが このクラス最強は、私ではありません。」 キュルケは一旦話を止める。 最強の系統?そんなものは無意味だ。最強とは 『集団』ではなく『個』に与えられる称号だから。そして彼女は知っていた。最強の名に値する存在を。 「ですから、後は彼女に任せますわ。」 スッと横に移動する。キュルケの陰になっていた生徒 そこには。 「ヴァリエール君、い 居たのか!」 「ええ 居ますよ、このクラスの生徒ですから。それが何か?」 悪役っぽく口元を歪ませた笑いを浮かべ ピンクの髪の魔物がいた。 ギトーは動揺していた。完全に計算違いだった。 魔法実技において ルイズは優秀な生徒ではない。むしろ 爆発させる事しか出来ない劣等生だ。しかし 戦闘に関しては、その爆発が厄介だった。 風のスクエアであるギトーなら、自分に向かって飛来してくるものは大概 風で払い飛ばす事が出来る。岩礫でも 火球でも 氷槍でも。 だが ルイズの爆発は 何かが飛んで来るのではない。対象が いきなり爆発するのだ。これでは防ぎようが無い! 加えて 命中精度の向上も著しく、10メイル先の硬貨程度の的であれば ほぼ百発百中。詠唱も早く 高速連続攻撃も可能とか。 さらにマズいのは… 気分転換の為に久しぶりに参加した授業で ルイズのストレスはレッドゾーンを越えてしまった。 ギトーの「夏休みだからって 無茶をするな!」という主張は 正論である。少し前のルイズなら 概ね同意したかもしれない。 だが、見習いとはいえ国内最強の魔法衛士隊に所属し 実戦も経験している今のルイズからすると ギトーの言い分は『ヌルい!』のだ。 もう間も無く、『戦争』が始まる。大きな戦争が。多くのメイジが動員されるだろう。この学院の男子生徒の半数以上は 卒業後 軍務に付く事が予定されている。 戦争の早期終結は難しい。よってこのクラスからも 戦地に赴く者が出る可能性は高い。 だとしたら 無理でも無茶でも、少しでも多くの経験を積ませるべきだ。 自分より遥かに強い者と相対し どうにもならない時の逃げ方を学ぶべきだ。一目で相手の実力を見抜けるような 『勘』を養うべきだ。 それだけの事が 全治2~3ヶ月程度の怪我と引き換えに学べるなら、安いものではないか。 雪風の影響か それともグリフォン隊のせいなのか、かなり戦闘思考に染まっているルイズは そう思う。 加えて、フーケ探索の事を揶揄されたのがいけなかった。あれは 触れられたくない一件だった。 ルイズにしてみれば 既に解決済みの件、ただ 事情が事情なのでおおっぴらにする事は出来ないだけ。とやかく言われる筋合いは無い! と 言えない分だけストレス値も高い。これがトドメとなって、精神的耐久力のダムは 遂に決壊した!! (雪風。ギトー先生のIFFコードを、FriendからEnemy に変更。) 《R.D.Y.》 なんとかルイズとの戦闘は避けたいギトー。 「ヴァリエール君。残念ながら 君には資格が無い。 ツェルプストー君も言っていたが、この対決は『最強の系統』を決めるものでもある。 未だ系統の判明しない君が相手では、それを決められない。」 「心配は無用です。 なぜなら 先生に相手をしていただくのは、私の使い魔『雪風』ですから。 たかだか生徒の使い魔に勝てない者が、どうして『最強』を名乗る事が出来ましょう。 そうですよね、スクエアのギトー先生?」 「!?!」 ギトーにとっては最悪だった。ヴァリエールも強くなったが、あの使い魔『雪風』は更にその上を行く。 近頃 トリステイン魔法学院で何が起きているのか。学院長からの公式な説明は無いが 講師等の関係者は概ね理解している。 ゲルマニアと共同で 『空を飛ぶ機械』の開発が進められているのだ。そして その中心に、彼女と雪風がいる。 同僚のコルベール程ではないが、ギトーも風メイジとして『空飛ぶ機械』とやらに興味を持った。 アカデミーから学院に派遣されてきた研究者の中に 学生時代の友人を見かけ、話を聞いてみた。 国家レベルの開発計画であり、守秘義務に抵触する事柄もある為 多くは聞けなかったが 気になる事があった。友人は、雪風のことを『フェニックス』と呼ぶのだ。 雪風が かの盗賊の巨大ゴーレムを粉砕したのは記憶に新しい。そして レコンキスタの艦隊が壊滅した『フェニックスの神罰』事件。 これらから導かれる結論、「戦列艦十数隻を沈めたのは 雪風」! 冗談じゃない!! 最強たる『風』のスクエアメイジと言えども、唯一人で戦列艦と戦い これを沈める等という事は不可能だ。出来るのは、既に伝説と化した『烈風』カリンぐらいだろう。 それを 艦隊ごと葬り去るバケモノと、どう戦えと言うんだ!!! 窓のガラスが 揺れた。 コトコトと。ガタガタと。そして 割れんばかりに鳴り響いた。 グォオオォオオオ! と迫る爆音、校舎を揺さぶり 一瞬で駆け抜けていった。 雪風が 低空飛行で建物スレスレをフライパスしたのだった。 「さて 先生、それでは校庭へでも 出て頂けますか? 別に、教室に二十ミリをブチ込んでもイイんですけど、巻き添えを食らったクラスメイトが、血塗れの肉塊になるのは忍びないので… フフッ フフフフ。」 ルイズの言葉に 周囲は静まり返る。そして、 「イ、イヤァー!」 「に、逃げろぉぉぉ!」 「血迷うなヴァリエール!」 「よせ。やめろ、やめて、助けてくれ~!」 一転して パニックと化すのだった。 結局 騒ぎを聞きつけ、「何事ですか!」と教室に飛び込んできたコルベールによって惨劇は回避され、ルイズとギトーはオスマン学院長から説教を食らうハメに。 久しぶりに授業に出ることで 気分転換を図ろうとしたルイズの目論見は完全に裏目に出て、更なるストレスを溜め込むことになった。 同級生達は 明日の終業式を終えれば、『夏休み』だ。 「決めたっ! 私も休む!! 誰が何と言っても休むの!!!」 かくして ルイズの短い夏休みはスタートした。 とはいえ、自分の抱えたモノを いきなり放り出してしまう程に、ルイズは無責任では無い。 丸一日かけて、各研究者への一週間分の課題と職人への作業指示書を作成 緊急連絡用に雪風への無線回線も確保した。 さあ 何をしよう、何処へ行こう。 とりあえず いつものメンバーに声を掛けてみることにしたが… タバサとキュルケは、終業式にも出席せず 早々に学院を離れていた。 ガリアの国元から呼び出しがあり、実家に帰ったそうだ。(キュルケは それに付いて行っただけ。) 「う~ん、コレは追いかける訳にも行かないわね。」 同盟国であるゲルマニアのキュルケの屋敷ならともかく、タバサの所に雪風で押しかけるのは 流石にマズい。 諦めて ギーシュを探したが、こちらも居なかった。なんでも、モンモランシーに引き摺られる様にして ラグドリアン湖へ向かったとか。 ただのデートや恋人旅行にしては 変だ。 「面白そうね!」 行き先は決まった。 すぐにでも出発したかったが、残務処理にもう一日掛かってしまい、結局翌日の夕方過ぎになって やっと雪風は飛び立った。 一時間と掛からずに ラグドリアン湖上空に到達する。 (今夜は湖畔のどこかで一泊して 明日、ギーシュ達を探しましょ。) 雪風の探索能力を以ってしても 所在不明な特定人物を発見するのは容易い事では無い。半日ぐらいは掛かるだろうと踏んでいる。 それよりも キャンプの食事用に積んできた 『FAF標準型サバイバルキット』の非常食セットの味が楽しみなルイズだったが、 《マスター:報告 地上 湖岸部に高熱源発生。パターン解析、攻撃魔法・火球の可能性92パーセント。何らかの戦闘状態と判断。》 「何かしら? 雪風、対空攻撃を警戒しつつ 接近して詳細情報を収集。」 《R.D.Y.》 そうもいかない様だった。 目標に近付くにつれて 観測される情報量も加速度的に増大する。 《対象地点に四名の人員を確認。アンノウン1からアンノウン4と登録》 広域レーダー上の輝点に仮称名が付随。どうやら 二対二での戦闘のようだ。火・風VS土・水のコンビバトル。 一歩間違えば 死人が出かねないガチの闘いだが、火風系が優勢で 土水系は防戦一方の状態だった。 高解像度カメラがアンノウン達の姿を捕らえた。即座に分析、結果は? 《該当データあり》 そして ディスプレイに表示される『名前』。 「?!? あんたたち、何やってるのよぉ!」 「手強いわねっ!」 キュルケは攻めあぐねていた。攻撃の方はヘボかったが 守備に回ると手強い相手だ。 こちらのファイアーボールを防いでいるアースウォール、アレは唯の土壁ではない。内部に金属板を仕込んだ『複層装甲』だった。 表面の土が衝撃を吸収し 分厚い金属板で残りの熱と勢いを遮断する。土が吹き飛んだ部分は すかさず地面からの補給で修復される。 加えて 相棒の水メイジがオーバーヒート気味の装甲板を冷却し、溶融や強度低下を防いでいる。 (フレイムがいれば、『連続火球弾』で何とかなったかもしれないのに!) 悔やんでも 彼女の使い魔はここには居ない。 ガリアまで 無理を言って連れてきて貰ったのだ。流石に フレイムまでシルフィードに乗せて欲しいとは言えなかった。 その風竜に乗って 上空から攻撃していたタバサが、長めの呪文詠唱に入った。 (『ジャベリン』でブチ抜く気ね。じゃあ それまでに出来るだけ削っておかなきゃ!) (な、何でコンナ事に… なったんだぁぁぁ!) ギーシュは 必死に壁の欠損部分を修復しながら考えていた。 モンモランシーに拉致?されて、やって来たのはラグドリアン湖。『精霊の涙』を分けてもらう為の条件として 湖の精霊が出した『妨害者の排除』。 初日の晩に 早速怪しげな相手と出会ったのはイイが、これがメチャクチャ強かった。ワルキューレを展開させる暇も無く 一方的に攻められている。 (だいたい モンモランシーがあんなモノを作らなきゃ、いやいや 違うぞギーシュ・ド・グラモン。お前は あの時の一件で何を学んだ? 何であれ 女性に事の責任を押し付けるなど、紳士たる者のすることではない! 違うかぁ!!) あの一件 香水壜事件とそれによる決闘は、ギーシュに幾つかの変化をもたらした。 女性に対する八方美人的対応は相変わらずだが 恋人と呼ぶのはモンモランシー唯一人。真剣に恋愛に向き合うようになった。 また 雪風にワルキューレが瞬殺されたのが悔しくて 『機関砲に耐えられる装甲』の開発に日々努力していた。 目標は未だ達成されていないが その中間成果である『複層装甲』で 謎の敵からの攻撃を防ぐ事が出来ている。 (この『壁』は貫かせない! 僕の後ろには モンモランシーが、愛するヒトがいる。そして彼女も 魔法で僕を支えてくれている。 そう 今僕は、愛の為 愛する人の為、この身に愛を受けながら 愛の力で戦っている!! だから …負けられないんだぁぁぁ!!!) 必殺の一撃を放とうとする寸前 タバサは気付いた。遥か天空より響く 聞き覚えのある轟音、そして 風を切り裂く落下音。 「待て待て待て待て待てぇ~い、ちょっと待ったぁぁぁ!」 ズドーンという盛大な音を立てて 一本の大剣が湖畔の地面に突き刺さる。戦いを繰り広げる二組の ちょうど中央辺りだった。 皆が呆気に取られて 戦闘が中断される。 「ふぅ 何とか間に合ったぜ。 よう 嬢ちゃん達、それと薔薇のニ~チャンよぉ。何があったか知らねぇが、俺っちに免じて 一旦杖を収めちゃくれねえか?」 「……」 「デッ デルフゥ? なんでこんな所に??」 「デルフだってぇ?!」 「もう いったいなんだっていうのよぉ~」 暗がりの中 出会い頭に戦闘を始めた四人は、ここで初めて相手が誰だったのかを認識した。 「「「ええぇぇぇ~!!!」」」(タバサ:「……」) ルイズが合流するのを待って、お互いの事情を説明しあう事になった。 タバサはガリアの『シュバリエ(騎士)』である。 『名誉職としての騎士』や『金で買える階位』ではなく、実力を認められた者にのみ与えられる国家資格だ。 これによって 国から年俸が出るが、当然のように兵役その他の義務も負う事になる。 今回の命令は 「ラグドリアン湖 異常増水の原因調査とその解決」だった。 ルイズの感想は(う~ん ちょっと意外ね。かの有能なる『無能王』の差配とは思えないわね。)というもの。 現・ガリア王は 「ただ長男だというだけで、王位を継いだ無能者」「日がな一日遊び惚けて、配下ともロクに話もしない うつけ者」 と 一般には『無能王』と呼ばれているが、少しでも『世界』を見る目のある人物からは 間逆の評価をされている。 彼の即位以来 ガリアの鉱工業の発展・貿易黒字額・軍事力の増大は、ハルケギニア随一である。 単一分野が突出するならともかく 多くのジャンルでバランスをとって発展するのは、優れた司令塔の存在無しにはありえない。 ガリア国内の何処を見ても 国王意外にその役目を果たしている者は見受けられなかった。 部下に僅かな指示を与えるだけで 見事な国家運営を成し遂げている人物を、どうして『無能』と言えようか。 (奇人・変人である事は 間違いないようだが…) 今回の案件については、たった一人の歳若き騎士に任せられるようなものではない。 本来なら まず、アカデミーから研究者のチームを派遣して原因を究明し、しかる後 武力が必要ならば騎士団を派遣する、そういったものだ。 にも拘らず 原因については、湖到着の時点でシルフィードが 「きゅい これは『湖の精霊』の仕業なのね!」 と 韻竜の特殊な感覚で看破してしまった。流石 幼生体とはいえ破格の使い魔。しかし、解決方法についてはお手上げ状態。 モノは試しと 攻撃魔法を色々と撃ち込んでみたが、効果があろうハズも無し。 そして翌日 精霊の気配を纏わせた不審な人物が現れたので、仕掛けてみた。ということだった。 ギーシュ達の方は ど~しようも無い程 下らない話だった。 発端は、『モンモランシーの副業』。 あまり 裕福な家柄ではないモンモランシーは、自分の得意とする『香水』の製造・販売で 学費や生活費を稼いでいる。 その香水が ゲルマニアから派遣された研究者や職人達に、「手頃なトリステインみやげ」として評判となり 売り上げを大きく伸ばしていた。 製品のデキも良いが 作っているのが『美少女学生』ともなれば、オジサマ方から可愛がられようと言うもの。 普段 自分の周りにいる『少年(ガキ)』とは違う 『大人の男性』からチヤホヤされれば、彼女としても悪い気はしない。だが その様子を見て、ギーシュは落ち込んだ。 そして、寂しげなギーシュに 一人の女生徒が急接近してきた。あの時の下級生 ケティ・ラ・ロッタ。(モンモランシ先輩と別れたのなら 今度こそ私が!) ギーシュは ケティの心遣いに感謝した。ただ ケティとヨリを戻したりはしなかった。(それでも僕は モンモランシーを愛している!) 内面的には成長したギーシュだったが、残念な事に それはモンモランシーには伝わらなかった。 (そりゃあね、かまってあげなかった私も悪かったわよ。でも でもね、だからってスグに他の女と それもあの時の娘とくっつかなくてもイイじゃないのぉ!) これだけなら、『恋する乙女にありがちな 軽い嫉妬心』と言えない事も無いのだが。 ギーシュの浮気心を封じ込める為、モンモランシーが選んだ方法は、『ホレ薬』だった。 それを飲んだ後 最初に目にした相手にベタ惚れしてしまうという、よくある秘薬ではあるが、実際のところは『強烈な向精神薬』というより『洗脳薬』だ。 当然 製造方法など公開されているハズもない。だが彼女は、薬物製造に関する限り 学院講師も驚くようなモノも作ってしまう位の異才の持ち主だった。 高価な原材料についても、香水の販売が好調で懐具合に余裕があったため 問題とはならず、アブナイ薬はあっけなく完成してしまった! 結果として モンモランシーの企みは失敗に終わった。 ギーシュの為に用意した(薬入り)ワインを、とある人物が誤って飲んでしまい、別の某人物に熱烈ラブアタックを開始してしまったのだ。 あんな気味の悪いものを放置したら、休み明けで学院に戻った皆に トンデモなトラウマを与えてしまう!何より、自分が御禁制の秘薬を作ったことがバレてしまう!! 慌てて『解除薬』の作成を始めたが、材料の内『精霊の涙』だけが どうしても手に入らない。(原因は、タバサが派遣された理由と同じ。) こうなれば、直接 ラグドリアン湖の精霊と交渉するしかない!と ギーシュを引き連れて来て見たが、そこで精霊から出された条件が 「『襲撃者』を排除してみせよ」と言う事だった。 双方の事情が判り、ルイズは言った。 「じゃ、湖の精霊が 水位を上昇させてるのをヤメれば、タバサ達は攻撃しないし、そうすればもう『襲撃者』も現れない訳だから そっちも条件をクリアした事になるわね。 で、なんでそこいらじゅうを水浸しにするなんて バカな事始めたのよ、精霊は?」 「それなんだけど… よく判らないのよ。」言葉を濁す モンモランシー。 元々 精霊との交渉役を勤められる者は、ごく限られている。 モンモランシーにそれが出来たのは、彼女の実家が かつて ラグドリアン湖の精霊との交渉を執り行う役職であったからだ。 ただし 大規模灌漑用水路の建設計画において 交渉に不手際があったものとしてその任を解かれ、役職も剥奪されてしまっている。 よって 親から娘へ伝えられるべき『交渉役』の技能も、不完全な形でしか教えられておらず、精霊を呼び出すことは出来ても 交渉のスキルが低い為、意思の疎通が不十分なのだった。 翌日 再び精霊を呼び出したモンモランシーは、増水を止めれば襲撃も無くなる旨を説明した。他のメンバーも加わり 代わる代わる説くも、一向に通じる様子は無かった。 言葉が通じない訳では無い。ただ、精霊と人間とでは メンタリティが全く違うのだ。 (電子工学のタームで、芸術論を語るようなモンね。) 埒が明かないと思い、ルイズはある決断をする。 (雪風、『トーカ君』の六号機を湖面上空へ。下部のセンサーを水面に接触させた状態で静止させて。) 《R.D.Y.》 「ちょっとルイズ、何をする気?!」驚くモンモランシー。 「まぁ見てなさい。上手くいったら御慰みってね。」 ホバリングする小型ユニットが センサーロッドを湖へ伸ばす。着水、波紋が広がる。 が、単純な同心円の筈のそれが 踊る。さざめき 歪み 捩れ 様々な幾何学模様を描き出す。 人間との『対話』の為に湖の精霊が作り出した 湖面より聳え立つ『水の人影』が 興味を示したようだ 「何ぞ、吾に触れたるは? …未知 何ぞ 之より漏れ出ずる音?声? 何者? 送る?繋がる? フム ならば開かん『回線』とやらを!」 突然 センサーポッドの周囲の水が盛り上がり ポッドを水中に引きずり込んだ。 《マスター:報告 『湖の精霊』とのコンタクト成功。臨時データ回線 及びプロトコル構築完了。通信可能。》 (了解。ご苦労様。) ねぎらいの言葉には 回答は無かった。それが雪風。ルイズも理解している。それでも思いは伝えたかった。 「OK モンモランシー。こっちで聞いてみるわ、増水の理由とか!」 (よもやとは思ったけど ヤレば出来るモノなのね~、精霊と交信って!) 「吾 行うは『失せ物探し』。求むるは 吾の元より盗まれし秘宝。六千周期の昔 託されし魔道具の一つ、『アンドバリの指輪』。」 精霊の対人インターフェイスであるヒトガタの水像が ルイズ達に語っている。同時に 人間には感知できない領域で 精霊と電子知性体の情報交換が行われていた。 一応ルイズは傍受しているが、高密度情報通信の為「ピーピー ガリガリ」としか聞こえなかった。 時折 精霊が「おおっ」「そうか」等と声を上げているので 関係は良好のようだ。 「つまりは たった一個の指輪を探す為に、世界を水没させようって言うの? 何か いろんな意味でスケールが大きすぎる話ねぇ。」 あきれ返るキュルケ。 「…そこまでして取り戻さねばならない『指輪』とは、一体 何?」タバサが言うのも 尤もだ。 「吾にとっては意味無き物。されど、うたかたを生きる汝等には脅威となろう。 そは、死せる者には偽りの命を与え、生ある者の心を操る也。そを持つ者は 偽りの王国の主とならん。 因りて そは吾に託されん。」 『心を操る』の下りで、タバサの肩がピクリと動いた事に 気付いた者は居たのだろうか? 「盗まれたって言うけど、下手人は判ってるの?」と ルイズ。 「然り。既に『雪風』へ伝送済み。」 《マスター:当該データ 再生》 ルイズの脳内に、立体スキャンデータの様な 細密な人物像が描き出される。 後に雪風に確認したところ、湖の精霊に 人間と同様の『視覚』は無いそうだ。大気中の水分を触覚素子として 物質を『見て』いるらしい。 その為 犯人の姿もモノクロ3DCGの如きモノとなる。 ちなみに この方法で見えるのは、自身の周辺だけで、水辺から離れた場所は見ることが出来ない。そのせいで 指輪の現在位置は掴めない、とのこと。 盗人相手なら、ルイズには勝算があった。 「じゃあ この『指輪泥棒』、こっちで捕まえてあげるから、湖の水位 元に戻してくれない? 人間が盗んだものなら、人間同士の方が良く判るってこともあるし。どう?」 精霊は暫く沈黙し 答えた。 「承知。『雪風』とその主よ、汝等に任さん。」 「それで、期限は? いつまでに取り戻せばいいの?」 「時を限るは無用。吾は悠久。汝の生は刹那。命 尽きる迄に戻れば可。」 (気が長いと言うかなんというか。まぁ コッチとしても助かるけど) 「じゃ 契約成立ね。水位の件 頼むわよ。」 「では 吾は去る。『雪風』よ、コレは返すが 吾再訪を待てり。何時也とも歓迎す。」どうやら雪風は 湖の精霊に気に入られたらしい。 水象が沈み行くと同時に 湖に飲み込まれていた『トーカ君六号』が浮上した。水没していたにも関わらず 各部に異常は見られなかった。 「ちょっとルイズ、大丈夫なの?あんな事 安請合いして!?」 無事に『精霊の涙』は入手できたものの、高位の精霊に対し余りに気安く話しかけ かつとんでもない約束をしてしまうルイズが、モンモランシーには信じられなかった。 「心配御無用。こっちには、トリステインで一番 いいえ、ハルケギニア一番の捕り物名人がついてるんだから!」 「あ~、アンタこの件 『盗賊改』のワルド隊長に丸投げする気でしょ!」ジト眼のキュルケ。 「もちろん! だって、素人が手出し出来る様な事じゃないでしょ?」だが、そんな視線は気にしない。 「おいおい、そんな事、胸を張って言うモンじゃなかろうに。」こちらもアキレ顔。 「…でも確かに その方が確実。」意外と 賛同されてたり。 とりあえず 一件落着。しかし この時はまだ誰も、この『指輪盗難事件』が対レコンキスタ戦に与える影響について、予想だにしていなかった。 事が終われば 皆其々の方向へ。 タバサとキュルケは、タバサの実家へ。(学院からガリア離宮のプチ・トロアへ直行したので これから行くそうだ) ギーシュとモンモランシーは、モンモランシ家へ。(「ウチの方が 学院より薬物調合設備は整っているから とのこと) そしてルイズは 学院に戻る。「さて、次は…」 なにやら予定はあるらしい。一体 どこへ行くのやら? 《続く》 前ページ次ページゼロの戦闘妖精
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365 名前:青銅と香水と聖女の日 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/03/04(日) 22 20 51 ID sloCef+W その日の明け方近く、とある人物の部屋の前には、贈り物がいくつか置いてあった。 上りかけの朝日の薄明かりに照らされたその扉の前に、ゆらりと影が立つ。 「ふん…日が上る前からこれか…。全く、何人に唾つけてるのよあの節操なしわぁ…」 影はそう呟くと、贈り物どもを手に持っていたズダ袋に放り込む。 そして、その代わりに、小さな箱を懐から取り出した。 「…ちゃんと、気づきなさいよ…」 そして、箱に軽く口付けすると、それを扉の前にそっと置いたのだった。 ギーシュは目を覚ました瞬間、がばぁっ!とシーツを跳ね上げると、寝巻きを着替えもせずに扉に駆け寄った。 そして、扉の前で深呼吸。 大丈夫だギーシュ。今年は確実じゃないか。 ケティにマリエラにルーシアにファビオラにメリッサに…。あと何人いたっけ? 大丈夫、絶対大丈夫だ!待っていてくれよレディたち! そして、そっと扉を開ける。 するとそこにあったのは。 小さな箱が一つだけ。 「…え?一個だけ?」 それも小さい。 ギーシュはその箱を手に取ってしげしげと眺めてみるが、当然その表面には贈り主の特定できるようなものはない。 恐る恐る箱を開け、中身を確認する。 そこに入っていたのは、青い液体を満たした小瓶。 その瓶の口には、噴霧用の押し袋が付いていた。 つまりこれは香水。 で、今のギーシュに香水をプレゼントする女性といえば、一人しかいない。 のだが。 「ケティ?マリエラ?ルーシア?ファビオラ?メリッサ?それともハルナかっ?」 思い当たる数が多すぎて、逆に特定できないギーシュだった。 モンモランシーは一人で中庭で朝早くからお茶をしていた。 なぜかというと、とある人物が自分の前に現れるのを、公然と見せ付けてやりたかったから。 そうでもしないとあの節操なしは、いつまでたっても自分の、自分だけのものにならないだろう。 すっかり冷えた紅茶を流し込んで、また女子寮の方を見る。 あのバカは、今朝、ものすごい勢いで女子寮に吶喊していった。 たぶん、私を探しに行ってるのよね、とモンモランシーはため息をつく。 こんな、目に付くところにいるのに。 これはギーシュの悪い癖で、一つのことが気になると他のものが目に入らなくなる。物事に没頭しやすいのだ。 だから、あんな芝居ががった台詞を平然と放つのだ。 女子寮の出入り口を観察していたモンモランシーに、不意に悪寒が走る。 「…トイレ行ってこよ…」 朝から飲んだ紅茶は既に十杯を越えていた。 366 名前:青銅と香水と聖女の日 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/03/04(日) 22 22 25 ID sloCef+W モンモランシーが一階にある女子寮の共用トイレから出てくると。 「ああケティ!君だね!君こそがこの香水を僕にぃぃぃぃぃ」 ギーシュがモンモランシーのあげた香水の箱を握り締めて、後輩の女の子の腰に抱きついていた。 そして振りほどかれていた。 乱暴に振りほどかれ、ギーシュは床にみっともなく転がる。 「ひどいですわギーシュさま!私が贈ったのは手作りのケーキでしたのに! そんな、他の女の贈り物を持ってくるなんて!」 言って、立ち上がってきたギーシュの前で、大きく右手を振りかぶると。 「最っっっっっ低!!」 ばっしぃぃぃん、と大きな音を立て、ケティの平手がギーシュを再び床にノックダウンさせた。 「ああ、待っておくれ、ケティぃぃぃぃぃぃぃぃ」 情けない声をあげてケティを制止するギーシュだったが、もはやケティの耳には届いていない。 すたすたと振り向きもせず、女子寮の奥へと消えていった。 そんなギーシュを、モンモランシーは背中から踏み潰した。 「ぐぎゅっ」 潰れた蛙のような声をあげ、ギーシュは再び床に突っ伏した。 モンモランシーはギーシュの背中に乗せた足にぐりぐりとひねりを入れながら、話し始めた。 「ああらせっかくの聖女の日を邪魔してごめんなさいミスタ・グラモン? どうやら残念なことにあなたに贈られたものは彼女のものじゃなかったみたいね? さて、ここでミスタ・グラモンに問題を出します」 背中を踏み潰されてぐりぐりされていたため、呼吸困難に陥っていたギーシュだったが、その言葉とともにモンモランシーが少しだけ足の力を緩めてくれたので、なんとか呼吸が戻ってきた。 「も、モンモランシー。その問題に正解したら何かいいことでもあるのかい?」 「足をどけてあげます」 「も、もし不正解だったら…?」 「息が止まるまでフミグリします」 モンモランシーの声音からは本気しか伝わってこなかった。 息が止まるまでフミグリは正直勘弁願いたいので、ギーシュは絶対正解してやろうと心に決めた。 「よ、よし言ってみたまえ」 「メイジには二つ名があります。あなたは『青銅』のギーシュ。 さて、私の二つ名はなんでしょう?」 あまりにも簡単だ。簡単すぎて、逆に引っ掛け問題なんじゃないか、と疑いたくなる。 367 名前:青銅と香水と聖女の日 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/03/04(日) 22 23 26 ID sloCef+W 「も、もちろん『香水』だよ、モンモランシー」 「正解です。 さてもう一つ問題です」 まだあるのか、とギーシュは反論しようとしたが、そんな間もなくモンモランシーは次の問題を出してきた。 「あなたに贈られたものは香水でしたね? この意味するところを答えなさい」 「それはもちろん」 なんだ簡単じゃないか、とギーシュは心の中で胸をなでおろしていた。 それと同時に、なぜモンモランシーはこんな意味のないことをするのだろう、と思ったのだった。 「も、もちろん…?」 ちょっとだけ、ホントにちょっとだけドキドキしながら、モンモランシーは彼の言葉を促す。 そして後悔した。 「もちろん、僕を愛しているどこかのレディが僕に贈ったものさ! そうだ、誰か心当たりはないかいモンモランシー!?」 「…死ねっ、死んでしまえっ!」 今度こそ、本当に、遠慮なく。 ギーシュの息が止まるまで、モンモランシーは彼をフミグリしたのだった。〜fin 愛は空気のようなもの。普段は気づかないけれど、それがないと、人は死んでしまうもの。 〜聖女の言葉より〜