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マドレーヌ(6) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 カーンのサント=トリニテ女子修道院長。 関連: アンヌドモンモランシー (アンヌ・ド・モンモランシー、父) マドレーヌドサヴォワ (マドレーヌ・ド・サヴォワ、母)
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前ページ次ページ谷まゼロ 学院のとある一角には、生徒たちの憩いの場があった。 そこには丸いテーブルがいくつも設置されており、 昼食を終えた生徒たちが、そのテーブルで席を囲み、歓談をして楽しむためのものであった。 失意の谷は、その場所のテーブルにぐったりと頭を乗せ、力なく座っていた。 周りから見れば、まるでボロ雑巾が椅子に引っかかっているように見えるほど、覇気が失せていた。 谷の胸中は複雑であった。 認めたくない。どう考えても認めたくない。 だが、地球上にないものをいくつも見てきた。 谷であっても、元の場所に簡単に戻れると考えられるほど楽観的ではない。 それに加えて、こちら側の人間に帰ることができないと言われた日にはもうどうすればいいか分からなかった。 島さんが居ない世界。それは、谷とってどんな地獄よりも過酷なものである。 正直に言って生きていることすら無意味になってしまう。 島さんっ……オレっ!オレどうしたらいいんッスか?島さん……。 っそ、そんな、そんなの耐えれないです、島さん!!!島さんに会えなくなるなんて……。 島さあああああああああぁあああああああぁぁぁぁぁん!!!!! 谷の中で何かが決壊しそうになっていた。 そこに谷のことは勿論のこと、谷が今深刻な状況に陥っていることを知らない男がやってきた。 「まっ、待ってくれモンモランシー!!!誤解なんだ!! ケティとはラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで、やましいことなんてこれっぽちも!! 本当だっ!信じておくれモンモランシー!と、とりあえず話だけでもしようじゃないか!」 金髪の巻き髪で、フリルがついたシャツを来ているいかにも気障っぽい格好をしたメイジの男であった。 その名は男はギーシュといった。 ギーシュは、憤慨の色を露わにして前方を歩いているクルクルロール髪の女性を、 なんとか引きとめようとしているようであった。 谷とは違った意味で深刻な状況だった。 色恋沙汰の修羅場。それが簡潔にギーシュの今現在のありさまを表す答えであった。 ギーシュはケティという下級生と、モンモランシーという同級生に二股をかけていたことが露見したのだった。 それによって、ケティには完全に見放され、モンモランシーからも、別れを告げられていた。 だが、なんとか誤解を……、というよりもモンモランシーとよりを戻そうとギーシュは必死になっていた。 「とりあえず、落ち着こうモンモランシー。君の可愛い顔が勿体ないよ。 さあ、丁度ここに席が空いている。ここに座っておくれ、そして僕がどんなに君のことを愛してるか聞いておくれ!」 歩を止め、ギーシュの言葉をジトリとした目で睨みながら聞いたモンモランシーは言った。 「あら。そこの席、空席じゃないわよ?根性だけじゃなくて目まで腐ったんじゃないかしら?ほら、どうするのギーシュ」 その言葉には凄まじいほどの冷酷さがあふれ出ていた。 ギーシュは女性を怒らせるのがこれほどまでに怖くて、そして厄介なのだと思い知った。 女性は褒めて喜ばすのも怒らせるのも簡単だが、 一度損ねた機嫌をなおすは物凄く難しいとギーシュは知っていた。 そして、彼女が言う通りにギーシュが座るように勧めた席には男が一人座っていた。 あまりにも存在感がなかったので、ギーシュは気づいていなかったのだった。 他に空席はなかった。この男に言ってどいてもらうのが一番であると考えた。 だが、彼女の手前、横暴なマネはできない。それがたとえ平民であっても。 ギーシュは、親しげに谷に話しかけた。 「済まないが、そこに座っている君。本来そこは平民が座ってはいけないのだよ。席を譲ってはくれないか」 谷はギーシュの言葉に応えないどころか、完全に無視した。ピクリとも動かない。 ギーシュは焦った。後ろでは、モンモランシーが腕を組んでこちらを睨んでいる。 早くしなければならなかった。 ギーシュは谷の肩に手をやって、揺さぶりながら大きな声で言った。 「ちょっと困るんだよ君!いいかい、もう一度だけ言……」 「ウルセェ!!!」 話の途中で、集るハエを払うかのように、谷がテーブルの上に拳を振りおろした。 テーブル足が盛大な音をたてて折れ、テーブルに置かれていた花瓶が割れて四散した。 ギーシュは、とっさに瓶の破片や飛び散った水から、モンモランシーを庇った。 自分の体を盾にし、モンモランシー肩に手をやり、抱きかかえるようにして。 自然と、ギーシュの顔がモンモランシーの目の前にあった。 モンモランシーの頬に赤みがさした。 ギーシュは真剣な顔をしていた。 愛しのモンモランシーが危険にさらされたのを怒っている……というのとは少し違っていた。 心の中では、物凄いハイテンションでガッツポーズを3回していた。 来た!!!よし!よし!これは来たぞ!!!こんなに都合のいい展開はおいしすぎる!! こんなシチュエーション、一生に一回あるかないかだぞ!! おいしすぎる!……おいしすぎるよ!!!これってもしかして僕のために誰かが仕組んでくれたのか!? 確かに、ギーシュはモンモランシーが怪我をしなかったことを喜んではいた。 だがそれ以上に、今までの失態が全て清算できるイベントが発生したことに強い喜びを感じていた。 誰もが一度は夢見たことがあるであろう、乙女を窮地から救う自分。今それが、訪れたのだから。 ギーシュは心配そうな顔してモンモランシーに言った。 「大丈夫かい、モンモランシー?どこも怪我はしていないかい?」 「え?……え、ええ。その、あの……お陰様で。あ、ありがと。ギーシュ」 赤く染まった顔でいじらしくそう言うモンモランシーの唇に優しく人差し指で触れ、 ギーシュは、目をつぶって首を横に振った。 「礼は言わないでおくれ、僕は当然のことをしたまでさ。 もちろん、さっきのことの償いになるなんてことは……これっぽっちも考えていないよ。 僕は……君が無事ならそれでいいんだ……愛しのモンモランシー」 「ああ!ギーシュ……!!もうさっきことなんていいのよ……」 イヤッハァーーーーーーーーー!!! ギーシュの心の中は喜びの咆哮で満たされていた。 完全に成功したと確信したギーシュであった。 もう駄目かもしれないと思っていた矢先であるから、喜びもひとしおである。 ギーシュは、ゆっくりと優しくモンモランシーの肩を離し、笑みを一度投げかけた後、立ちあがった。 このあと、ギーシュがモンモランシーとイチャイチャしながら、乳繰り合いながら、この場を去っていれば、 未来は間違いなく幸せなものであっただろう。しかし、悪魔の誘惑に勝てなかった。 ギーシュは欲を出し過ぎたのだった。 ギーシュは向きなおり、今もボロ雑巾のように椅子に座っている谷に詰め寄った。 「さてと……幸いにもモンモランシーは怪我をせずに済んだわけだが……。 君が危険にさらしたのは事実だ……そして平民が貴族に手を上げたことも……。 それが、どういうことかわかるかい?仮面をつけた男」 谷は、顔だけギーシュに向けた。未だに何かをする気力は湧いていなかった。 そんな谷をお構いなしにギーシュはまるで芝居のようにたち振る舞った。 周囲の人間が何事かと、ギーシュに注目した。 「だが!平民の君が貴族に手を上げたことは、僕が遺憾とする大事の前には小事である!」 いいぞ、ぼく。最高に目立ってる。 「僕は愛しのモンモランシーを守ることができた。だが、もしかしたならば守れていなかったかもしれなかった!! そのことは考えるだけでもおぞましい!もしも、彼女の透き通るような柔肌に傷でもついたら! もしそんなことになっていれば、僕は到底耐えることができなかっただろう!つまりはだ!」 薔薇の造花を胸ポケットから抜き放ち、ビシリと谷に向って突きつけた。 「僕は、僕個人として、ギーシュ・ド・グラモンとして君を許すことができないというわけだ!」 手に持った薔薇を天高々に上に向け持ち上げた。 「薔薇である僕は、女性を、いやモンモランシーを耳で楽しませ、心楽します義務がある! だからこそだ!ここに杖を掲げ、その障害である君に一対一の決闘を申し込む!!!」 おおお!!という歓声が沸き、拍手を送る者まで現れていた。 ギーシュコールが辺りに響く。 ぼく、今輝いてる……最高にカッコイイ!!! ああ、モンモランシーの、あのとろけそうな目。あんな目でボクを見てくれるなんて! 父上、母上!ぼくぁ今幸せですっ。産んでくれてありがとう!本当にありがとうございます! 今ギーシュは蝶になります!!! 「ケンカか?」 谷が力なく、そう呟いた。 ギーシュはニヤリと笑った。 本当はこの目の前の仮面の男に感謝したい気持ちであったのだ。 しかし、いまさら決闘をしないわけにもいかない。ここで勝利を挙げ、有終の美を飾るのだと意気込んでいた。 「民草の言葉で言えばその通りだ。ケンカだ。どうだい、受けてくれるかい?」 「わかった。やってやる」 ギーシュは満足そうな顔した。 そして、周囲の人間に宣伝するかのように喋った。 「同意も得た!しでかした行為こそは許されざるものではある。 だがしかし!この男が、勇敢であることは賞賛しなければならない! さあ、諸君。決闘だ!!ヴェストリの広場にて雌雄を決するのだ!」 歓声が一層大きくなった。いつの間にか大量のギャラリーが沸いている。 その一団は、谷を従えてヴェストリの広場に悠然と向うギーシュに続いた。 もはや、後戻りはできない状況になっている。 谷を追ってきたルイズと偶然居合わせたキュルケは、ギーシュと谷のやり取りの一部始終を見ていた。 「あ―――はっはっはっは!!!ちょ、っちょっと、やめてよギーシュ!ぷくくっ!っくはは!オカシすぎて 笑いが止まらないわっ!!!ダメっもーだめ!あっはっは!ぶはっぷッ、さ、酸欠になっちゃう!!」 キュルケが周囲の目を憚らず、スカートの中身を晒しながら地面を転がり、大笑いしていた。 だが、一方のルイズは浮かない顔したままであった。 それを見たキュルケは、未だにこみ上げてくる笑いをこらえて立ち上がり、ルイズの肩に手をまわして言った。 「ち、ちょっとなんでそんな暗い顔してんのよっぷっくくく。あなたも笑いなさいよ! だってギーシュったら、あれだけ気障っぽく派手に観劇演じといて、 これからタニに、なす術もなくボッコンボコンのベッコンベッコンにされちゃうのよ? オカシクってオカシクって仕方ないわ!!あっははは!あなた面白い使い魔呼んだわね!」 ルイズは何も答えない。キュルケも自分との温度差に気がついた。 手をヒラヒラさせ、キュルケはルイズに言った。 「ねえ、もしかしてタニが負けちゃうかもとか思ってるの?その心配ないわよ、 学院の壁を素手でぶち破るのよ?それにあたしのフレイムまであっさり倒したのよ? メイジとはいえ、あのギーシュが勝てるはずがないじゃない。ぷっくくっ、ああ!カワイソーなギーシュ!」 多分、キュルケの言ってることは間違ってない。 普通にやれば、タニが負けることはないことは確か。 ルイズはそう思っていた。 だが、谷のあの今にも消えいってしまいそうな後姿が、頭の中にこびりついて離れない。 ルイズには谷が本当に消えてしまうのでないかいう不安で一杯であった。 だが、決闘を止めることはできない。 止める資格なんてない、とルイズは考えていた。 崖から絶望の淵に突き落としたのは自分なのだからと。 様々な思いが交錯する中、決闘は今行われる。 前ページ次ページ谷まゼロ
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マルグリット(44) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: アンリイッセイドモンモランシー (アンリ1世・ド・モンモランシー、父) アントワネットドラマルク (アントワネット・ド・ラ・マルク、母) アンヌドレヴィ (アンヌ・ド・レヴィ、夫)
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カトリーヌ(25) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: アンヌドモンモランシー (アンヌ・ド・モンモランシー、父) マドレーヌドサヴォワ (マドレーヌ・ド・サヴォワ、母) ジルベールサンセイドレヴィ (ジルベール3世・ド・レヴィ、夫)
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第三十一話 『湖畔ダイバー』 ロンディニウムの城の一角にある鍛錬のための場所。そこに一人の男がいた。剣に酷似した杖を構えている。 ヒュッ、という風を切る音とともに鋭い突きが放たれる。最初は一突き一突き丁寧に、そして今は――― 「シッ!」 目にも留まらぬ高速の剣技となっている。しかし丁寧さが損なわれるわけではなく、より正確に、それでも流れるように、だ。その様はまるで――― 「まるで『閃光』だな子爵」 その声にワルドは手を止めて正面を向く。鍛錬のために裸になった上半身に汗が浮いている。 「これは閣下、お見苦しい恰好で申し訳ございません」 「いや、気にする必要などないよ子爵。君がそうして鍛練を積み力をつけることは、ひいては余の力となるのだからな」 相変わらずの笑いを浮かべるクロムウェルの傍らにはシェフィールドが控えていた。貴族として染みついた思考で、さすがに女性の前で裸は失礼かと思い、地面に置いたタオルを拾って体をさっと拭き服を身につけていく。当然、銀のロケットも。 「しかし、閣下には申し開きのしようもありませぬ。閣下より賜った竜騎士隊、それらを全て失うだけではなく先発隊までも守りきれず失う羽目になってしまったのは、ひとえにこのわたくしの力のなさであります・・・」 膝を突き深々と頭を垂れるワルドにクロムウェルは責めるでもなく言う。 「なに、君の失敗が原因ではないだろう」 頭を垂れているワルドは判断に困っていた。アルビオンの力の象徴でもある『レキシントン』号を筆頭とした強大な艦隊。圧倒的な数的有利。だが結果は大敗。 『勝利はこれ疑いなし』というクロムウェルの言葉通り、自軍でこの結末を予期できた者はだれもいないだろう。現に今アルビオン軍の中には動揺が縦横無尽に駆けめぐっているのだ。 だが、クロムウェルには動揺が一切見られない。本当の大物なのか、ただ単に現状が理解できぬド低脳なのか・・・・・・ その時、首から垂れ下がるロケットがワルドの目に入った。 そうだ。たとえ目の前の男が始祖だろうが神だろうが自分には関係ない。泥船だろうと構わない。途中で沈むのなら沈め。ならば俺は泳いでいくまでだ。 歴代の英雄達は皆こう言っている。『信奉すべきは神でも金でもない。最後にお前を救うのはお前の剛力唯一つ』だと。あくまで貴様は道先案内人だ、『閣下』。不案内だとわかればその瞬間に貴様の役目は終わるのだ。 『ガンダールヴ』を翻弄した事実が、ワルドの体に自信を漲らせている。ロケットの表面をなぞると、その冷たい感触が興奮する自らをなだめているように感じた。 「そう、失敗の原因は他にあるのだよ」 クロムウェルが片手を上げると、傍らのシェフィールドが報告書らしき巻物を要約して読み上げた。 「なにやら空にあらわれた光の球が膨れ上がり、我が艦隊を吹き飛ばしたとか」 「つまり、敵に未知の魔法を使われたのだ。これは計算違いだ。誰の責任でもない。しいてあげるなら・・・・・・、敵の戦力分析を怠った我ら指導部の問題だ。一兵士のきみたちの責任を問うつもりはない。是非とも鍛錬に励んでくれたまえ、子爵」 クロムウェルはワルドに手を差し出した。ワルドはそこに口をつける。 「閣下の慈悲のお心に感謝します」 上辺を取り繕いながらワルドは桃色の髪を思い出していた。思えば、あの飛行機械にはルイズも乗っていた。ならばあの魔法は、あの光は恐らく『虚無』だ。仔細は解らないがまず間違いないだろう。 そして、その使用者がルイズだとすればどうだろうか。ワルドの見込んだとおり、ルイズは素晴らしい才能を秘めていたのだ。 しかし、それではクロムウェルの『虚無』とはあまりにかけ離れすぎている。生命を操ったクロムウェルに対して、ルイズは謎の光だ。どちらも、個人が操るにはいささか強大すぎるとも思えるが・・・・・・ 「あの光に関して、余は一つの可能性を考えておる。恐らくは『虚無』ではないかというな・・・。あまり考えたくない事実だが、あれほどの魔力、スクウェアクラスでさえ持ち合わせているかどうか」 最後の部分は自分への皮肉かとワルドは眉をひそめた。 「もっとも、余とて『虚無』の全てを理解しているとは言い切れぬ。『虚無』には謎が多すぎるのだ」 シェフィールドがあとを引き取る。 「長い、歴史の闇の彼方に包まれておりますゆえ」 「歴史。そう、余は歴史に深い興味を抱いておる。たまに書を紐解くのだ。始祖の盾、と呼ばれた聖者エイジスの伝記の一章に、次のような言葉がある。数少ない『虚無』に冠する記述だ」 クロムウェルは詩を吟ずるような口調で、もったいぶって次の言葉を口にした。 「"始祖は太陽を作り出し、あまねく地を照らした"」 『ガンダールヴ』や『虚無』についてならば、ワルドとて歴史を調べているのだ。よっぽど知っていると言ってやろうかと思ったが、何とか抑えて相づちを打った。 「・・・なるほど、あの光は小型の太陽ともいえなくもない」 「謎が謎のままでは、気分が悪い。目覚めも悪い。そうだな、子爵」 「おっしゃるとおりです」 「トリステイン軍は、アンリエッタが率いていたと言うではないか。ただの世間知らずのママッ子かと思っていたが、どうしてどうして、やるではないか。あの姫君は『始祖の祈祷書』を用い王室に眠る秘密をかぎ当てたのかもしれぬ」 「王家に眠りし秘密とは?」 「アルビオン王家、トリステイン王家、そしてガリア王家・・・・・・、もとは一本の矢だ。そして、それぞれに始祖の秘密は分けられた。そうだな?ミス・シェフィールド」 「閣下のおっしゃるとおりですわ。アルビオン王家の秘宝は『風のルビー』ともう一つ・・・・・・。しかしいずこに消えたのか、風のルビーは見つからず、もう一つは未だ調査が済んでおりません」 ワルドは地味な感じのするその女性を見つめた。深いローブで顔を隠しているために表情が窺えない。働きぶりを見ればクロムウェルの秘書にも見えるが・・・、どうしてなかなか、ただの秘書ではなさそうだった。 強い魔力は感じない。しかし、クロムウェルにここまで重用されるからには何か特殊な能力があるのだろう。 「いまやアンリエッタは『聖女』、ウェールズは『勇者』として崇められ、アンリエッタに至っては女王に即位するとか」 「敵の士気は昂揚し、外の敵に対してはどこまでも強気で攻められるでしょう」 なんとも含みのある言い方だ。ワルドはシェフィールドに注意を向けるようにした。 「真に失礼ながら、今の我が軍にトリステインを再び攻める力はありません。力を蓄えなければなりませんが、かといってその間攻め手を緩めては敵もまた身を休めてしまうでしょう。ですから、今度はトリステインの中から攻めるのです」 「理想的ではありますな。しかしながら、当てはあるので?」 「以前よりトリステインの中枢に位置する人物とコンタクトをとり続けておりますわ。すでに彼者は我らの同士」 「手の早いことだ。それで、そのものに何をさせるつもりだ」 「新型の銃と、流れのヒットマンを紹介して差し上げましたわ。そのヒットマンは世を儚んでおり、命を惜しまない人物でしたので・・・」 それは恐らく凱旋パレードでの暗殺未遂事件のことだろう。ワルドにも情報は入ってきていたが、この女が一枚噛んでいるとは思わなかった。 「しかしながらミス。その者を使った作戦はすでに失敗に終わっていると聞き及んでいるが?」 「それはあくまで敵の目を中に向けさせるためのものですわ、子爵。自分の体の中に病気があると知れば、人は不安になりますでしょう?本命ならばかねてよりトリステインに忍ばせておりますわ。そう、この『白の国』アルビオンを破滅へと導いた悪魔―――」 そこで、シェフィールドの口元が妖しく歪んで見えた。 「『白の粉』がトリステインを覆い尽くすでしょう・・・」 「うむうむ!そう言うわけだ子爵。トリステインは病魔に冒された患者も同然。我々は力を蓄え、その間トリステインには存分に弱って貰おうではないか」 はっはっは、と笑いながらクロムウェルたちは城に消えていった。しかしワルドは鍛錬を再会する気にはなれなかった。先ほどのシェフィールドの妖しげな笑みが脳裏にこびりついて離れないのだ。 あの笑みはただ妖艶なだけではない。あれは裏切り者の笑みだ。そう、自分と同じ。クロムウェル以外に信じ崇拝しているものがある奴の笑みだ。 「クッ・・・面白くなってきたな」 思わず口元が歪んだ。だが奴が誰であろうと、何に仕えていようと関係ない。自分と母の邪魔さえしなければ興味の欠片も沸きはしない。 「しかし、クロムウェルも暢気なものだな、どうも。トリステインは体内に病気を持った患者と言っていたが・・・・・・貴様の腹の中には爆弾が二つはあるというのに・・・」 杖を振るうと旋風が起き、地面に置かれた帽子が巻き上がった。それを掴んで頭に乗せる。 「死が友人だというのならば、この俺が一生遊んで暮らせるようにしてやろう。クロムウェルも、『ガンダールヴ』もな」 「っくしょい!」 「なんだ、風邪かいウェザー?」 「なに!なら私が暖めて・・・」 「いや、大丈夫ですから結構です」 ウェザーはアニエスの申し出をキッパリと断った。そもそも本当に風邪ではないのだ。大方、誰ぞが噂でもしているのだろう。 「だが、四十度の熱出してても見にくる価値があるぜ。この光景はよォ」 今一同が立っている丘から見下ろすラグドリアン湖は青く眩しく、陽光を受けて湖面がガラスの粉を塗したように瞬いているのだ。波打ち際まで下りてみると、水中が透き通って見える。話では、夜中でも月光に照らされて水中が透けて見えるとか。 「ヘンね」 その湖面を見つめながらモンモランシーが小首を傾げた。 「うした?」 「水位が上がってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺は、ずっと向こうだったはずよ」 「ホントか?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーの指差す先に、藁葺きの屋根が見えた。一同はそこで、澄んだ水面の下に黒々と家が沈んでいることに気付いた。モンモランシーは波打ち際に腰を下ろすと、水に指をかざして目を瞑った。 そしてしばらくの後に立ち上がると、困ったような顔をした。 「水の精霊はどうやら怒っているようね」 「それでわかるのか?」 「舐めないでよね。わたしは『水』の使い手、香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊とトリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は何代もつとめてきたわ」 今は色々あって他の貴族が務めているけどね、と付け加えた。 「その水の精霊に会ったことはあるのか?」 「小さい頃に一度だけ。領地の干拓を行うときに水の精霊の協力を仰いだのよ。大きなガラスの容器を用意して、その中にはいってもらって領地まで来てもらったわ。 水の精霊はプライドが高いから、機嫌を損ねたら大変なのよ。実際機嫌を損ねて、実家の干拓は失敗したわ。父上ってば、水の精霊に向かって『歩くな。床が濡れる』なんて言ったもんだから・・・・・・」 「水の精霊ね・・・どんな形なんだ?」 精霊というと、どうしても『あのピノキオ』を思い出してしまうために何だかいい印象が持てないウェザーだった。 「そう言えばわたしも話しに聞いただけで知らないわね」 「ぼくもだ」 「私も」 ルイズたちも気になるようだった。『水』のイメージとして綺麗な感じはするが、どうなのだろうか、と。 「ものすごーく、綺麗だったわ。そう、美しい!スゴイ美しいのッ!百万倍も美しい・・・・・・」 恍惚とするモンモランシー。その時、木陰から老農夫が一人、一行の元へとやってきた。 「もし、旦那様。貴族の旦那様」 「どうしたの?」 モンモランシーが尋ねると、農夫は拝むように手を組んだ。 「旦那様がたは、水の精霊との交渉に参られた方々で?でしたら助かった!はやいとこ、この水を何とかして欲しいもんで」 一行は顔を見合わせた。どうやらこの農夫は湖に沈んでしまった村の住人らしい。 「わたしたちは、ただ、その・・・・・・湖を見に来ただけよ」 まさか水の精霊の涙を取りに来た、ということもできず、モンモランシーは当たり障りのないセリフを口にした。 「さようですか・・・・・・。まったく、領主様も女王様も、今はアルビオンとの戦争にかかりっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。畑を取られたわしらが、どんなに苦しいのか想像もつかんのでしょうな・・・・・・」 はぁ、と農夫は深いため息を漏らした。 「いったいラグドリアン湖になにがあったの?」 「増水が始まったのは、二年ほど前でさ。ゆっくりと水は増え、まずは船着き場が沈み、寺院が沈み、畑が沈み・・・・・・。ごらんなせぇ。今ではわしの屋敷まで沈んじまった。 この辺りの領主様はご領地の経営などより、宮廷でのお付き合いに夢中でわしらの頼みなど聞かずじまい」 よよよ、と農夫は泣き崩れた。 「長年住み慣れた土地が無くなっちまったのもありますが、このままじゃわしら村民は全滅してしまいます・・・・・・」 かすれそうな声で絞り出した農夫に、アニエスが進み出て助け起こした。 「ご老人、私は見ての通り騎士だ。この村の現状を女王陛下にお伝えしてみよう」 アニエスの言葉に老人はハッと目を見開き、再び泣き崩れてしまった。 「ありがとうごぜぇます・・・ありがとうごぜぇます・・・」 その様子を見ていた一行は、感心したように眺めていた。 「ふうん・・・惚れ薬を飲んでいても、困った人は捨て置けないって騎士道精神は忘れないのか?」 「え?う~ん、どうかしら・・・基本は惚れてしまった者を第一優先に行動するハズなんだけど・・・」 ウェザーに話を振られたモンモランシーは考え込むように腕を組んだ。 「鋼の精神力ってやつじゃないかな」 「ギーシュあなたってそういうの好きそうだものね」 ルイズのからかいにギーシュは頭をかいた。 農夫が愚痴を言いたいだけ言って去ったあと、モンモランシーは腰に下げた袋からなにかを取り出した。それは一匹の小さなカエルであった。鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。 カエルはモンモランシーの手のひらの上にちょこんとのっかって、忠実な下僕のようにまっすぐにモンモランシーを見つめた。 「カエルッ!」 カエル嫌いなルイズが悲鳴をあげてウェザーの背に隠れた。しがみつきながら毛を逆立てて威嚇する様はまるで猫である。 「自己主張の激しいカエルだな・・・・・・ド派手で毒々しい。ヤドクガエルか?」 「毒々しいなんて言わないで!わたしの大事な使い魔なんだから!」 どうやらその小さなカエルがモンモランシーの使い魔らしい。モンモランシーは指を立てて使い魔に命令した。 「いいことロビン?あなたたちの古いお友達と、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先をついた。赤い血の玉が膨れ上がる。その血をカエルに一滴垂らした。 それからすぐに、モンモランシーは魔法を唱え、指先の治療をする。ぺろっと舐めると、再びカエルに顔を近づける。 「これで相手はわたしのことがわかるわ。もっとも、覚えていればの話しだけれど。じゃあお願いね、ロビン。水の精霊に盟約の持ち主の一人が話をしに来たと伝えてちょうだい」 ロビンはそれに頷くと、ぴょんと跳ねて水中に消えていった。 「さ、あとは待つだけよ」 「そんなもんなのか。じゃ、さっきの百万倍も美しい水の精霊についての続きを聞かせてくれよ」 「そうねえ・・・まず、水の精霊は人間なんかより遙かに長く生きている存在なのよ。始祖ブリミルが光臨した六千年前よりも昔から、ね。 その体に既存の形は無いわ・・・自在に姿形を変え・・・・・・そう、まるで水ね。そしてその体は陽光を受けてキラキラと七色に・・・・・・」 そこまでモンモランシーが口にした瞬間、離れた水面が光り出した。 「おでましね。百聞は一見に如かず。見た方が早いわ」 岸辺より三十メイルほど離れた湖面の下が眩く光り、まるでそれ自体が意思を持っているかのように水面が蠢いた。それから餅が膨らむようにして、水面が盛り上がり、まるで見えない手にこねられているようにして、盛り上がった水が様々に形を変える。 湖からロビンが這い上がり、跳ねながら主人のもとに帰ってきた。そのロビンの頭を撫でたモンモランシーは、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたらわたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をして頂戴」 すると、ぐもぐもと蠢いていた水の精霊が、モンモランシーそっくりの形をつくり、微笑んだのだ。ただ、そのサイズは一回りほど大きいのだが。 なるほど、確かに美しい。宝石が塊となって動いて見えるのだ。 しばし様々な表情を作り出していた水の精霊だったが、それから無表情になりモンモランシーの問いに答えた。 「覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 「そう、よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」 一部という単語に一同は怪訝な顔をして見せたが、モンモランシーはそれらを無視して前を向いたままだ。そして、しばらくしないで水の精霊がにこりと笑みを見せた。 「やった!OKみたいだ!」 しかし、ギーシュの喜びも虚しく、向こうから出てきたセリフは真逆のものであった。 「断る。単なる者よ」 「そりゃあそうよね。残念でしたー。さ、帰ろ」 あっさりとモンモランシーは背を向けたが、すぐに踵を返して水の精霊に向き直った。 「ってな具合にいけたら楽なんだけど、今回ばかりはそうもいかないのよね。わたしが捕まっちゃうってのもあるけど、それ以上にわたしのせいで他人様に迷惑かけてるかと思うと、寝覚めが悪くてしようがないわ!」 少し語調を強めて言ってみるが水の精霊は無反応だ。腰に手を当てて指まで立てているモンモランシーにまったく反応を示さない。 気まずい沈黙の中、ウェザーが口を開いた。 「盟約とか、一部とかよくわからんが・・・・・・タダで貰おうとするのがいけないんじゃないのか?」 「う~~ん・・・・・・ねえ、水の精霊。あなたがあなたの一部をくれると言うのなら、わたしたちもあなたのために何でもするわ」 すると再び水の精霊は蠢き、ふるふると震えたかと思うとピタリと止まり、 「よかろう」 と言った。 「世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は何でもすると申したな?」 「ああ、言った」 う、と尻込みするモンモランシーに代わってウェザーが答えた。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治してみせよ」 一行は顔を見合わせた。 「退治?」 「さよう。我は今、水を増やすことに精一杯で襲撃者の対処にまで手が回らぬ。よって、その者どもの退治ができれば、望み通り我の一部を進呈しよう」 「ああ、やっぱり厄介事だわ・・・・・・」 「豚箱にはいるのとどっちが厄介かなんてことは・・・・・・」 「言われなくてもわかってるわよッ!もう!こうなったらトコトンやってやるわよ!」 こうして、ウェザーたちは水の精霊を襲う連中の退治をする羽目になったのだった。 襲撃者たちは夜になると、魔法を使い水中に侵入し、遙か湖底の奥深くにいる水の精霊を襲うというのだ。一行は水の精霊が示したガリア側の岸辺の木陰に隠れ、作戦を立てていた。 「水中か・・・・・・」 「たぶん風の使い手ね。空気の球をつくって、その中に入って湖底を歩くんじゃないかしら。水の使い手なら水中でも呼吸が出来るけど、水の精霊相手に水を使うなんてのは自殺行為だわ。だから、風ね。空気を操り、水に触れずにやってくるに違いないわ」 「でも、水の精霊って傷つけられるのかしら?水に手を突っ込んでも水は痛がらないと思うんだけど・・・・・・」 ルイズの疑問はもっともだった。規格の違うものを相手にするときは未知だらけなのだ。 「水の精霊は動きが鈍いし・・・・・・それにメイジならただの水と精霊の見分けはつくわ。水の精霊は魔力を帯びてるからね。近づいて、強力な炎で体を炙る。徐々に蒸発して・・・・・・、気体になったらさすがにもとの液体として繋がることは出来なくなっちゃうわ」 「繋がる・・・?」 「水の精霊は、まるでコケのような存在なのよ。千切れても繋がってても、その意思は一つ。個にして全。全にして個。わたしたちとは全く違う存在なのよ」 「ふーん・・・」 「そして相手が水に触れていなければ、水の精霊の攻撃は相手に届かない」 「偉そうな割りには制限の多い奴なんだな」 「まったく・・・・・・。水の精霊の怖さをちっとも知らないのね。いい?少しでも精神の集中が乱れて、空気の球が破れ、一瞬でも水に触れたら心を奪われるのよ。他の生物の生命と精神を操る事なんて、あの水の精霊には呼吸と大差ないわ。 それと、水の精霊にとっては襲撃者とわたしたちの区別なんてついてないと思うから、水に落ちたらお終いね」 「なかなか肝の据わった奴らみたいだな。それじゃあ水に入られる前に勝負をつけるしかないか。こっちはまあ、そこそこの数だが・・・」 「あ、そのことなんだけど」 モンモランシーが挙手した。 「わたしは戦いの方は無理だから、戦力には数えないでね」 その代わり後方で回復の援護ができるわ、とフォローした。 「となると、モンモランシーを抜いた四人か・・・・・・、アニエスお前戦えるか?」 くっつきそうなくらい近い隣でアニエスはずっとウェザーを見ていたのだが、話を振られて視線が合ってもそらすことはなかった。 「ウェザーが必要だと言うのなら、水の精霊とでさえ戦って見せよう」 「バカ、そいつを守るのが俺達の役目だぞ」 ウェザーは手頃な枝と石を数個手元に集める。それから空を見て、湖を見た。と、ギーシュが少し不安そうに尋ねてきた。 「大丈夫かな、ウェザー。もし敵が大人数だとしたら・・・・・・」 「心配するな。当方に迎撃の用意ありってな」 そう言って枝で地面に円を描いた。どうやら湖のようらしい。 「これから言う作戦はお前の魔法が火蓋を切るんだ。最初でこけたら全部こける・・・・・・いけるな?」 「・・・・・・ああ」 ギーシュは目に力を込めて返した。それに満足そうに頷いて、ウェザーは描いた湖の周りに石を置き始めた。 「まずはギーシュが・・・・・・」 作戦会議も終え、あとは見張りを交代で行いながら夜を待つのみとなった。時刻はまもなく夕方に入る頃だろう。 現在の見張りはアニエス。一緒にいてくれとぐずられたが、作戦のために休養は必要だと言うと、職業柄理屈に納得できてしまったのか名残惜しそうに離れていった。 見張りの順番を上手いこといじり、少しの間とはいえ自由を手に入れたウェザーはしばし近くをぶらついたあと、湖畔の林の木に背を預けて座るルイズを見つけて歩み寄った。 「はあああああ~~~~、ため息出るなあ。こういう湖って・・・・・・。ほっとする・・・美しい・・・こーゆー湖のある湖畔に家を持って日向ぼっこしながら子供時代のこと思い出してノスタルジイにひたりてえなあ~~~」 「・・・・・・ぷっ、なーにジジ臭いこと言ってんのよ」 何やら近寄りがたい雰囲気を出して祈祷書を開いていたルイズだったが、ウェザーのセリフに思わず吹きだしてしまった。木にもたれてウェザーはルイズにリンゴを差し出した。 「そろそろ腹がへる頃だと思ってな、みんなの分も買ってきたんだ」 「へえ、気が利くわね」 ルイズが受け取るのを見ると、ウェザーはもう片方に持った真っ赤なリンゴに豪快にかじりついた。それを見てルイズもマネしてかじりつくが、ルイズの小さな口ではかみ切れずに歯形だけが残ってしまう。 「ガハハハ、へたっぴだなあ。無理せずにチビチビ食えばいいじゃねえか」 「う、うるさいわねえ、言われなくたってそうするわよ!」 頬を赤く染めて浅くかじりつくルイズ。その様子を笑ってみていたウェザーだったが、軽い調子でルイズに尋ねた。 「なんか今日は元気がないが・・・・・・どうかしたのか?」 その言葉に、ルイズは口に運んでいたリンゴを下ろした。手元のそれをしばらく眺めていたが、ゆっくり訥々と話し始めた。 「実はね、『虚無』のことなんだけど・・・・・・がっかりさせたくなくて、姫さまにも言えなかったことなんだけどね・・・・・・」 本当はウェザーとアニエスのことが気になりすぎてだなんて口が裂けても言えないルイズだが、しかしそのもったいぶった言い方にウェザーは先を促す。 「なんだよ。言やいいじゃねーか」 「実は・・・・・・・・・『虚無』の魔法、『エクスプロージョン』があれ以来唱えられなくなっちゃったのよ・・・」 驚愕の事実にウェザーは目を見開いた。 「それはもう『虚無』が使えないってことか・・・・・・?」 「そういうわけじゃないみたい。唱えられないって言うのは、最後までって事なの。練習していたときも、何度唱えようとしても途中で気絶しちゃうのよ。一応爆発はするんだけど」 「気絶?どういうことだ」 「たぶん・・・精神力が足りないんだと思うの」 「精神力ゥ?」 「そ。魔法は精神力を消費して唱えていることは知ってるわよね?」 ウェザーは頷いた。それは初期の授業で聞いていることだった。そして精神力を使い、どれだけの系統を足せるかでクラスが決まるということも。 「で、精神力が最後まで持たずに切れちゃったのに無理して唱えようとすると気絶しちゃうわけ。伝説の『虚無』の系統だもの。強力すぎてわたしの精神力が足りないんだわ」 「でも、この前は唱えられた」 「そこなのよね・・・・・・どうしてかしら・・・・・・」 ドットがスクウェアクラスの呪文を唱えられないように、精神力の絶対量に上限がある以上はルイズも『虚無』の詠唱が不可能なはずなのだ。だが、事実ルイズは一度唱えている。 「精神力は寝れば回復するから、睡眠もちゃんととってるんだけどなぁ・・・・・・」 「そうだな・・・例えば、お前が実はもの凄い精神力の持ち主だったとかはどうだ?今まで魔法が成功することのなかったお前の精神力は、家から出られない犬のフラストレーションのように溜まり膨らみ、しかしそれを全てあの一回で使ってしまった・・・とか」 確かにこれなら一晩寝れば元に戻るはずの精神力の回復の遅さの説明にはなる。他のメイジの精神力がエリー湖くらいだとするならば、ルイズの精神力プールはカスピ海並なのかも知れない。だとすれば、そこに再び水を満たすことはかなりの時間を要するというものだった。 「そうね・・・そうかもしれないわ・・・・・・」 「だとすれば、次最後まで唱えられるのはいつくらいかね・・・・・・」 「一月かかるか・・・・・・一年かかるか・・・・・・」 「十年とかな」 「冗談言わないで!」 「だが、魔法は一応成功してはいるんだろ?その、爆発が」 「そうね。規模は小さいけど、爆発はする。『虚無』は本当に未知のことばかり。呪文詠唱の途中でも効力を発揮する呪文なんて、聞いたことないもの」 さすがは伝説、右も左も解らないとはこのことだろうかとウェザーは湖面を見ながら思った。リンゴをかじる音だけが響いた。 「・・・・・・なんにせよ、今晩にそなえて寝ておくべきだな。お前は後方支援だが、切り札的な位置でもある。少しでも精神力を回復しておけ」 そう言うとルイズの隣に腰を下ろした。 「あんたいいの?アニエスの所にいなくて・・・・・・」 「俺はご主人様の使い魔でありますから、ハイ」 ふざけた調子でそう言ったウェザーは、肩に何かが触れるのを感じてそちらを向いた。ルイズの桃色の髪と、心なしか赤くなっている顔が見える。 「これはあくまで最近その使い魔の仕事もサボりぎみの使い魔に、わたしがわざわざ仕事を作ってあげるだけなんだからね」 「感謝の極みに恐悦至極」 「ちゃ、ちゃんと時間になったら起こしなさいよ!」 「了解」 「へ、変なことしないでよ!」 「しねーよ」 しばらくはもぞもぞと動いていたルイズだったが、そのうちに大人しくなった。ウェザーも作戦でかなり使うであろう力のために仮眠に入った。 二つの月が天の頂点を挟むようにして光っている。一日の内でもっとも闇が深くなる時刻がやってきたのだ。 そんな時刻にこのラグドリアン湖の岸辺に人影が現れた。人数は二人、大と小と区別はしやすいが、漆黒のローブを纏っているために素顔はおろか性別もわからない。 その二人組は水辺に立つと杖を掲げた。呪文を唱える小さな声が歌うように湖に染み渡りだしたのと同時に二人組の足下の土が隆起し、大きな手が二人の足を固定した。それに合わせて背後の木陰から影が飛び出してくる。 槍らしき武器を持ったその影は、三十メイルの距離を凄まじい勢いで五秒とかからずに縮めた。 しかし、二人組の反応はさらにすばやかった。迫りくる数瞬の間に、大影が足下の戒めを炎で焼き払い、それが終わるか終わらないかという絶妙のタイミングで小影が横に飛んだ。同時に風の魔法で大影を柔らかく飛ばし、距離を取ったのだ。 その間わずか三秒。結果突撃してきた影は二人の間を通過してそのまま湖に落ちていく。 「うわあああああッ!」 しかしこの叫びはその影のものではなかった。横に跳んだ二人は突っ込んできた影を見ていたためにお互いが向き合う形になっていたのだが、そこへ別の二つの影が剣を振り上げて背後から襲いかかったのだ。 一瞬。一瞬だけローブの二人組は驚いたようだったが、すぐに対処した。大小の影は自分の背後の敵ではなく、相方の背後の敵に照準を合わせたのだ。振り向く時間が無くなる分、行動は迅速になる。 ローブの二人の顔面を避けて進んだ火球と風は、正確に襲いかかる者達に向かった。その二人は何とか攻撃を避けるが、その間にローブの二人は再び合流して詠唱に入りだした。 先の魔法は状況から脱するための威嚇だったが、今度のは本気だ。片方が詠唱をずらしているのはお互いが隙を作らないための作戦だろう。 だが、二人の集中力は再び途切れることとなってしまった。またも何かが足を掴んでいるのだ。だが、今度は土ではない。別の何かだ。 二人組が足元を見ると、どうやら手らしいのだが、それは湖から伸びている。そして、何かを考える暇もなく、二人組は湖の中に飲まれていった。 水飛沫の上がった湖面の波紋も静まった頃、木陰からルイズとモンモランシーが顔を出した。 「作戦は上手くいったのね」 「うん。一応ね」 それに答えたのはギーシュだった。ローブの二人組を背後から襲ったのはギーシュとアニエスである。 「作戦通りウェザーが水中に引きずり込んだよ」 ウェザーの作戦はこうだった。ギーシュの『ワルキューレ:ブリュンヒルデ』の突貫によって敵を分断し、背後から強襲する。それで決着が付くのならばそれでいいが、もしもの保険にとウェザーが水中に身をひそめていたのだ。 しかし夜でも浅い場所なら透けて見えるラグドリアン湖でなぜ接近に気付かれなかったかというと、『全反射』を利用したのだ。 ウェザーの話では、『オゾン層を操作してこの湖畔に降る光の角度と空気の屈折率を変える。『ヘビー・ウェザー』の応用だ。カップに入れたコインが見る角度によっては消えて見えるの知らないか?『全反射』っていうんだよ。 エネルギーはバカみたいに食うから、範囲も狭くて長持ちしないがな』ということなのだが、この中の誰もが曖昧な顔をしたものだ。コルベールがここにいたのならば食いついてきたのだろうが。 実際に月を映し出すだけで湖の様子は窺えない。だが、それも徐々に薄れ、やがて中の様子が少し見え始めた。 「ウェザーだ!」 ギーシュの指差す場所には、雲の潜水服を纏ったウェザーの姿と、向き合うように構えている大小ローブの姿があった。しかしそれもすぐに見えなくなる。暗くてよくは見えなかったが、全反射を解いたのはどうやらそちらに回す余裕がないからのようだ。 「あの咄嗟で風の呪文を唱えていたのか・・・」 「この策は失敗だな。奴らはかなりの手練れだぞ、二対一はキツイ・・・・・・よし!」 やおら湖に飛び込もうとするアニエスをギーシュが慌てて取り押さえた。 「放せ!私が援護に行くッ!」 「だから、生身で入ったら水の精霊に心を奪われるんだってば!」 つまり、ルイズたちはただ指をくわえて見ているしかないのだ。ギャーギャーと暴れるアニエスたちをよそに、ルイズは自分がどうすべきかを考えていた。 (指をくわえてみているだけなんてイヤ!ここでなにもできなかったら、わたしは・・・わたしは何のためにこの力を持ったのか・・・・・・) ぎりっ、と歯がゆさに拳を握るが、そこで祈祷書を持っていることに気がついた。そして、まるで本が開けと囁いているかのような声が聞こえてきたのだ。誘われるままにページをめくっていくと、『エクスプロージョン』以外のページが読めるようになっているのに気がついた。 だが、そこに書かれた古代ルーン文字を見て力が抜けそうになった。 「・・・・・・ディスペル・マジック?これでどうしろっていうのよ・・・」 「ああ!水面が揺れているッ!」 水中の戦いは熾烈を極めているのかも知れない。考えている暇はない。この魔法が今出たのには何か意味があるのだ。 そう信じてルイズは詠唱を始めた。 水中に潜ったウェザーは舌を巻いていた。引きずり込んだはいいが、まさかあの咄嗟に魔法で水の精霊の干渉を防ぐとは思わなかった。 水面を通ってきた揺らめく月光をバックに、体勢を立て直した二人は潜水服を着たウェザーを見ると、何かを話し、杖を構えた。ウェザーも身構える。 先に動いたのは大きい方だった。一直線に湖底目指して潜り出す。どうやら水の精霊を先に攻撃しようとしているらしい。そうはさせじとウェザーも潜る。 潜水服は取り込んでおいた空気を排出することで加速して進めるが、ウェザーが吸う分の空気の残量もあるので無駄遣いは出来ない。 すぐに追いつくかと思われたが、回り込むウェザーの目の前を水を切って進む風が通りすぎた。視線を向けると、小さい方が杖をウェザーに向けているのだ。先にこちらを片づけないといけないらしい。 「かかってこいってか?」 ウェザーが接近を試みると、それを阻止するように風を飛ばしてくる。それをスタンドで弾きながら進む。あと少しで射程距離だが、何か違和感を感じる。 あれほどの反応を見せていた手練れが、なぜか大人しすぎる。水中だからといえばそれまでだが、その部分が小骨のように引っかかりだしたのだ。 (何かがあるッ!) その瞬間、後から気配を感じ慌てて振り向くと、湖底に向かったと思っていた大きい方がいつの間にか背後に戻ってきていたのだ。恐らくはこれが狙いだったのだろう。すでに向こうの射程距離だったのだろう、杖の先から炎球が放たれた。 ウェザーは咄嗟に潜水服の空気を排出してそれをギリギリでかわす。水中だからだろうか、炎球はすぐに萎んで消えてしまったが、ウェザーは挟まれる形になってしまった。しかも今回は少しでも傷を負えば、水の精霊の餌食になってしまうという条件付きなのだった。 だが、それ以上にウェザーを焦らせているのは空気残量がなくなりつつあることだった。敵もここが正念場と腹をくくったのか強力な魔法を唱え始めた。 (く・・・これしかない!) 二つの杖の先から強烈な風と巨大な炎球が放たれるのと同時に、ウェザーは残りの空気を使い体を上方に持っていく。そして自分がいた場所に向けて風圧の拳を放った。 三つの力はその地点でぶつかり、圧縮し合う。そして逃げ場を求めて力が一気に外に向けて炸裂したのだ。もの凄い力で押し上げられたウェザーとローブの二人は巨大な水柱とともに空中に投げ出された。 最初にルイズの異変に気付いたのはギーシュだった。謳うような声が耳に入り、振り向けばルイズが詩を諳んじているのだ。いや、詩ではない。これは・・・詠唱? 続いて気がついたモンモランシーが声をかけようとしたが、それをギーシュが制した。 「彼女には・・・今のルイズには何も届きはしないよ」 魔法を扱うものであれば一目見ただけでこのルイズの凄まじい集中力に驚くことだろう。 いったい彼女は何をしようとしているのか。かすかな期待が胸の内に生まれ始めたとき、背後で轟音がした。 「何が起きたんだ!」 「上だ!ウェザーたちが出てきたんだ!」 事態を見まもっていたアニエスが空を指差すと、確かにウェザーとローブの二人が見えた。しかもウェザーの雲の潜水服は背中が大きく裂けてしまっている。あれで落ちたのでは間違いなく水の精霊の餌食だ。 そして待ってましたとばかりに水の精霊が水面に現れる。もごもごと蠢くと、次の瞬間には湖が波打ち、何かの形を作り出したらしい。 横からでは見えないが、真上――ウェザーたちから見ると、湖が悪魔の顔のようになり、口を開いて落ちてくるのを待っている、とでも言ったところだろうか。 さらに悪いことに、ここで二対一の差が出た。大きい方が小さい方にレビテーションをかけたのだ。体制を立て直し、ウェザーの方を向かせると、小さい方が杖から魔法を放つ。 スタンドでガードしても下に押されてしまい水の精霊に捕まることは必至。ギーシュたちも魔法での援護をしたいがいささか遠すぎる。 誰もが最悪を想像したとき、眩い光が辺りを包んだ。 「ウェザァァ――――ッ!」 飛びそうな意識の中、敵の杖が自分に向くのをウェザーは人ごとのように感じていた。意識を繋ぐのに必至で体が動かない。 「くっそ・・・」 搾るような声が漏れたが、それだけだった。しかし、魔法をスタンドで防ごうとしたその瞬間に辺りが眩い光に包まれた。 「ウェザァァ――――ッ!」 ルイズの声がする。光に包まれると、不思議と心が落ち着いた。あの時と同じだ。タルブと、同じだ。 光は敵を包み込むと、放った風をかき消し、レビテーションまで無効化させてしまったらしい。真っ逆様に湖に落ちていった。しかしそれはウェザーも同じだった。どうする間もなく着水する。 「プハッ!」 すぐさま顔を出すが、水の精霊の攻撃らしきものは感じない。顔も消えてしまっている。ルイズの放った光に目でも眩んだのかと思っていると、二人組も湖から空気を求めて顔を出してきたのだ。攻撃しようかと腕を振り上げたが―― 「まってウェザー!あたしたちよ!キュルケとタバサ!」 ローブの下から現れたのは学校を休んで出かけていたハズの二人だった。 「お、お前ら何やって・・・・・・」 「それはあとよダーリン!下から水の精霊が来てるわ!」 ウェザーには見えないが、メイジであるキュルケたちには今まさに迫る水の精霊が見えるのだろう。だが、再び風を纏う精神力はなく、岸まで泳ぐには距離がある。 絶体絶命には変わりはなかった。だが二人は慌てず、タバサが指笛を吹く。そして間をおかずに羽ばたきの音が。 「きゅいきゅい!」 どこからやってきたのか、シルフィードが最大速力で湖面を駆け、すれ違いざまに三人は首や翼にしがみついた。手の形を作り出し捕まえに来た水の精霊は、しかし紙一重で取り逃すこととなった。 モンモランシーの『水』の魔法で治療を受けながら、ウェザーたちはキュルケたちの話を聞いていた。焚き火に焼かれる肉の匂いが鼻をくすぐる。 「しかし、お前らがあそこまで出来るとは・・・正直侮ってたぜ」 「まあね。これでも修羅場はくぐってきたつもりよ。あなた達の作戦も分断とか奇襲とかよかったけれど、連携は心の繋がりだからね。その点あたしとタバサは以心伝心、ハート・トゥー・ハートってやつ?」 「でも、なぜ君たちは水の精霊を襲っていたんだい?」 「何であなた達は水の精霊を守っていたの?」 肉をつつきながら尋ねたギーシュに、キュルケがそっくり返してきた。と、その話しそっちのけでアニエスが焼けた肉をウェザーの口に持っていく。 「さあ焼けたぞ!私が捕ってきた肉だ、存分に味わえ!あ~ん」 「いえ、前回十分堪能させていただきましたので結構です!」 「遠慮することはない。貴様のために捕ってきたのだからな。ほら、あ~ん」 アニエスはついにはウェザーを押し倒して実力行使に出始める。ドタバタと暴れる二人を苦笑いしながら見てギーシュがキュルケに答えた。 「あれをなんとかしにね。『水の精霊の涙』が必要なんだけど、そのための条件が君たちを倒すことだったとは」 「『水の精霊の涙』?じゃあやっぱり惚れ薬のせいだったのね」 惚れ薬の単語にモンモランシーが反応してしまい、当然それを見逃すキュルケでもなかった。 「作ったのあなただったのね。大方ギーシュにでも飲ませるつもりだったんでしょうけど、ギーシュの手綱くらい握れなきゃあ自分に自信がないって言ってるようなものよ」 「うっさいわね!そのギーシュが浮気ばっかりするからいけないんじゃない!あの浮気性はもはや重病よ?悪性腫瘍なのよ!」 「もとを辿ればぼくのせいなのかもしれないけど、それにしたって二人とも酷くない?」 ガックリと肩を落とすギーシュだった。そしてキュルケも困ったように隣のタバサを見つめる。彼女はただじっと、焚き火の炎を見ているだけだ。 「参っちゃったわねー。あなたたちと戦うわけにもいかないし、かといってここで退いちゃうとタバサの立つ瀬がないし・・・・・・」 「タバサが?何かあるのか?」 「え?あ、そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。ほら、水の精霊のせいで水かさが増して、おかげでタバサの実家の領地が被害に遭ってるらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」 となれば手ぶらで帰すわけにも行かない。しばし考え込んでから、ウェザーは結論を出した。 「ようは水が引いて土地が戻ればいいんだろ?だったら交渉して決着つけりゃあいい。幸いこっちにゃ『水』の使い手がいるんだからな」 視線が一気に自分に集まったモンモランシーは「え?あ、あたし?」と狼狽えていたが、ウェザーに促されて水際に立ち、水の精霊の呼び出しを開始した。しばらくしないで水の精霊がモンモランシーの姿で現れる。 「・・・・・・・・・・・・お前たちか。不思議な光のせいで襲撃者を逃したようだが、何用だ?」 思い出すのにタイムラグがかなりあった辺り、ウェザーごと飲み込もうとしたのは覚えていないのだろう。さすがは悠久を生きる存在。 「逃がしてはいないわ。もうあなたを襲うものはいなくなったのよ。約束通り体の一部をちょうだい」 モンモランシーがそう言うと、水の精霊は細かく震え、体から水滴を飛ばした。それをギーシュが持っていたビンで慌てて受けとめる。そして、もう用はないとばかりに沈みだした水の精霊をウェザーが呼び止めた。 「もう一つお願いだ。水かさを増やすのをやめることは出来ないのか?もちろんタダとは言わん。理由があるなら聞くし、力になれるならなる」 そのセリフに水の精霊は様々な仕草を見せたが、やがてしゃべり出した。 「お前たちに任せてよいものか我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用してもよいと思う」 回りくどい言い方で切り出すと、水の精霊は唄うように語りだした。要約すると、古より守ってきた秘宝が二年くらい前に人間が盗んだ。水かさを増やすのはそれを探すためであって、見つけるまでは底なしに増えるらしい。 「よーするにだ、その秘宝を取り返せばオールオッケーなんだろ。秘宝の名前はなんだ?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 聞いたことがあるわと言ったのはモンモランシーだ。 「『水』系統伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与え、傀儡の如くに扱えるという・・・・・・」 モンモランシーの説明にギーシュ、キュルケ、タバサ、そしてさすがのアニエスも互いに顔を見合わせた。 「そりゃまたけったいなモンをパクッたもんだな。誰が欲しがるんだか・・・・・・」 「恐らくはクロムウェルね・・・聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝よ。間違いないわ・・・タルブ村での戦闘の時、レコン・キスタはアルビオンで死んだウェールズ皇太子の部下たちの死体を操って襲ってきたわ」 ウェザーとルイズが目を見開いた。短い間では合ったが、同じ城の中で過ごした時もあった仲だ。やるせなさと同時に、吐き気を催すようなやり口に怒りが沸いてきた。 「いいだろう。その『アンドバリ』の指輪は必ず取り返してやる。彼らの魂の安らぎのためにもな」 「わかった。ならば約束通り水を増やすのをやめよう。我はお前たちの寿命が尽きるまで待とう。明日も未来も、我には変わらぬ・・・・・・」 水の中に姿を沈めながらそう言い残した。しかし、いざ消えようとしたところでタバサに呼び止められた。タバサが他人を呼び止める事に全員が驚いていた。 「待って水の精霊。あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、理解ができかねる質問だ。が、おそらくは我の変わらぬ存在に、お前たちは変わらぬ何かを結びつけ祈るのだろう」 タバサは頷き、目を瞑って手を合わせた。いったい誰に何を誓っているのか。キュルケだけがその肩を優しく抱いた。 「それではぼくも」 そう言ってギーシュが胸を張り高らかに宣言した。 「ギーシュ・ド・グラモンはこれから先、如何なる時もモンモランシーを愛し守ることを誓います!」 「ギーシュ・・・・・・ふ、ふん。ちっとも嬉しくなんか無いんだから。あんたの事だから、どうせ三日坊主でしょうからね」 素直でないモンモランシーに一同は苦笑した。その時、アニエスがウェザーの裾を引いた。 「私たちも誓おう」 「・・・できかねるな」 ウェザーの言葉にアニエスは眉をひそめた。もしかしたら泣きそうなのを必至で堪えているのかも知れない。 「なぜだ?やはりこんな筋肉女ではダメなのか?女らしさが足りなかったのか?」 「そうじゃあねーよ。ただ、今のお前じゃ話にならないってことさ。この件に片がついて、それでも誓って欲しいって言うなら考えてやらないでもないがな」 そしてアニエスの頭を優しく撫でた。 「オメーはキレイだよ。そこんところは自信持っていいぜ」 アニエスは俯いてしまったまま動かない。しばらくの沈黙の後にキュルケが切り出した。 「そう言えばダーリン、あたしたち付近で悪事を働いていたスタンド使いを一人捕まえたのよ!」 「何ッ!大丈夫だったのか?」 「ふふーん、あたしとタバサにかかったらちょちょいのちょいよ。ねータバサ」 「それでも全滅間際だった」 「あん!バラしちゃやーよ、せっかくのお手柄なんだから脚色して褒めて貰おうと思ったのに」 タバサが言うからには本当なのだろう。スタンド使い対メイジならば、先制攻撃がとりやすいスタンド使いにアドバンテージがあるものだ。ましてメイジはスタンドに干渉できても視認できない。そのハンデを覆しての勝利となればこれは大殊勲ものだった。 「ふぁあぁあ・・・何か眠くなって来ちゃったよ」 ギーシュのあくびが伝染したのか、急に眠気が全員の瞼にのしかかってきた。 「あたしたちは報告に戻るわ。ダーリンたちはどうするの?」 「せっかく来たんだし、湖畔で野宿も悪くないさ」 翌朝スタンド使いの身柄を引き渡すことにして、キュルケたちはシルフィードに跨り深夜の空に飛び立っていった。 ウェザーたちも持ってきた毛布を纏い、疲れに引きずられるように眠りに落ちていった。対面の木には仲良く頭を預け合って寝ているギーシュとモンモランシーの姿が。ウェザーも木にもたれて寝ようとすると、右にルイズ、左にアニエスが寄りかかってきた。 「ものすっごく寝にくいんだが」 「がまんしなさい」「耐えてくれ」 問答無用で同時にそう言われて、反論する間もなく二人は睡眠に入ってしまった。 「ったく・・・・・・」 ため息を漏らしながらもそれほどイヤな感じがしないのはどうしてだろうか。 空と湖。四つの月が見える湖畔に吹く風は初夏にしては冷えるが、五人の体は温かかった。 「で、本当に治るんだろうな?」 「大丈夫。これで失敗でまた同じ苦労するのはわたしもイヤよ」 翌日、件のスタンド使いを引き取り一行は学園に帰ってきた。スタンド使いは火傷などの重傷を負っており、処置はしたが意識不明のままだった。もっとも、犯した罪の重さから死罪は免れないとのことである。 帰ってきてまずモンモランシーの部屋に駆け込み、突貫作業で調合を済ませて解除薬を完成させたのだ。モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどっかと体を預けて疲れたようにそう言ったのだった。 「よし、これを飲めアニエス」 「うっ・・・!く、臭いぞ、これ」 何を混ぜたらこうなるのかと言うような臭いがるつぼから立ちこめている。アニエスが拒むのも当然と言えるが、ここは無理にでも飲んで貰わなければならない。 「これは・・・そう、特訓だ。毒に対する耐性をつけるために用意した特訓なんだ」 「特訓・・・ウェザーが私のために用意してくれたのか!ならばどんなものであろうと飲み干してみせよう!」 言い放つとウェザーの手からるつぼを奪い取り、一気に飲み干した。さすがに一気はまずくないかと一同が心配そうに見守る。と、そんな中でモンモランシーがウェザーの脇をつついた。 「取り敢えず覚悟しといた方がいいわよ」 「覚悟?」 「だって、惚れ薬の効果でメロメロになってた時間の記憶はまるまる覚えてるわよ。アニエスって人がどういう性格かは知らないけど、自分の意志とは無関係にあれだけのことやってればねえ・・・」 だったらお前の方が危険なんじゃないかと言いかけたところで、ひっく、としゃっくりが一つ聞こえてきた。 「ふぁ?」 間の抜けた声を出したあと、憑き物が取れたように表情がハッキリとしてきた。そしてみるみる顔を紅潮させ、額に血管を浮かばせて引きつった笑みを見せた。 「あー・・・まず殴る?」 一撃くらいは覚悟してやるかと奥歯を食いしばったが、アニエスは引きつった笑みのままそれを辞退した。 「私はこのあともスタンド使いの取り調べがあるんでな。これで失礼する」 指の関節をごきごきと鳴らしながらそう言ってのける。この時ウェザーは心の底からスタンド使いを捕まえたキュルケとタバサに感謝したという。あとは質問が拷問に変わらないことを祈るのみだ。 アニエスは出ていくときにルイズとすれ違った。 「治ってよかったわね」 「ああ、そうだな。君の使い魔を借り受けて君にも迷惑をかけたな。だから―――」 最後の部分はルイズにもよく聞き取れなかったが、アニエスは歩みを止めることなく去っていった。 罪人を運ぶ護送馬車に乗りながらアニエスは空を見ていた。 「キレイ・・・・・・か」 力が物言う職場上、腕を磨くことのみを考えて生きてきた。それが自分の目的のためにもなることは解っていたからだ。だから、面と向かって『キレイ』だなんて言われたことはない。 アニエスが最後に言った言葉は「また迷惑をかける」だった。それがどういう意味を持つのかは言った本人でさえよくわからなかったが、少し興味が湧いてきた。 「なにか良いことでもおありでしたか?」 隣の御者の声に我に返った。顔を触ってみれば、なるほど、確かに笑んでいたようだ。 「そうだな。疲れたけれど、いいことだったよ」 空は夏らしく高く、入道雲が昼寝をするかのように横たわっていた。 後日談として。 誰が流したのか『アニエスがウェザーに惚れている』という噂が王宮に広まり、その後の二人の様子から『アニエスはウェザーに捨てられた』に発展し、アニエスを隊長に据えた新組織の銃士隊の面々から、ウェザーはしばらく刺すような視線を浴び続けたとか。 To Be Continued…
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前ページ次ページゼロの白猫 憤懣やるかたなかったが、一人でなんとか慣れない掃除を終わらせたルイズ。 しかしかなり時間がかかってしまい、現在昼食を食べられるかどうかが危うい時間帯である。 この昼食を逃すことは、今日のルイズにとって非常にまずい。掃除によって疲弊した体は、貧欲に補給を訴えていた。要するに、とてもお腹がすいているのだ。 だが貴族たる者、廊下で走ることはまかりならぬ。つまり彼女に今できることは、長い歩幅でできる限り速く足を前後に動かすことだ。 そんな理由から、ずかずかずかと大股でルイズは大急ぎで歩いていた。 (ほんっとにレンの馬鹿! 主人が困ってるのに放って行くなんてどういうつもりなのよ!) 急ぎの道中で考えるのはしかし昼食の事ではなく、レンの事。猫が掃除を手伝うことはできないことくらい承知しているルイズ。でもそんなの関係ねぇ、と自分だけ先に出て行った使い魔に怒りを滾らせていた。 レンは他の使い魔と違い、人間並みの知性があるはずである。それなのに主人を見捨てていくなどひどいではないか。 心の中で悪態を付きながら、食堂へ到着する。早くご飯にありつこうと食堂に入ろうとしたところで、白い毛玉が入り口付近にいることに気が付いた。レンである。 「レン! 何処行ってたのよあんた! 主人をほっぽって行くなんて使い魔失格よ!」 ルイズは空腹のことも忘れてレンに詰め寄る。レンはルイズの怒鳴り声に動じる様子もなく、ついっと自分の口に咥えた物をルイズに差し出した。 「なによコレ? ……くれるの?」 レンが咥えていた物を手に取ってみる。それは細工が施されたガラスの小壜だった。中には何か液体が入っている。 蓋を開けると、ふわりと香りが漂ってきた。どうやらこれは香水のようだ。そして、香水と言って思い出す人物が一人。 「多分、モンモランシーの作ったものね、これ」 モンモランシー。水のメイジであり、二つ名は『香水』。様々な水の薬品を作ることを得意とし、彼女の作る香水は女学生たちの間で流行っている。 恐らく誰かが落とした物をこの猫は拾ってきたのだろう。主人へのお詫びのつもりだろうか。そう言えば猫は狩ってきた獲物を主人に見せる習性があったっけ、とルイズは思い出した。 「レン。コレは落とし物でしょ? なら元の持ち主に帰さないと」 こん、とレンの小さな額に握った拳を当てる。無論優しく当てるだけ。 「ま、使い魔として主人のために動いたのは認めたげるわ、これからもがんばんなさい」 ひとまず機嫌が直ったルイズ。さすさす、とレンの小さな頭を撫でてやった。猫の耳が彼女の手で折られるたびにピンと立ち上がる。うむ、愛い。 入り口の前で佇むレンに見送られながら食堂へ入るルイズ。食卓に付く前にモンモランシーを探す。彼女の作ったものなら彼女に渡せばいいだろう。彼女から別の誰かに売られたものだとしても、制作者の手に戻るならそう問題はあるまい。 すぐに食事中のモンモランシーを見つける。彼女の金髪縦ロールはよく目立ち、非常に発見しやすかった。 「モンモランシー。これ、あんたのじゃない?」 「え?」 ルイズから差し出された香水壜を見て、モンモランシーの顔色が変わった。乱暴にルイズの手から壜を受け取ると、なにやら険しい顔で壜の底を確認する。 「……間違いないわ、印が付けてある! ルイズ、コレどうしたの!?」 「私の使い魔が拾ってきたのよ。何処かに落ちてたんじゃない?」 「あの馬鹿! 私がせっかく作って上げた物を……!」 ガタンと音を立てて席を立つと、先程のルイズのようにずかずかと食堂内を歩いていく。 「一体何よ、あれ?」 「あ、ひょっとしてあれ、ギーシュにあげた香水壜だったんじゃない?」 モンモランシーと相席していた女生徒がルイズの疑問に答える。 「今、いつになったらギーシュとくっつくのよって聞いてたんだけどね、どうやらモンモランシー、ギーシュにお手製の香水をあげたらしいのよ」 「何、あの二人って恋仲だったの?」 「まあ正式にお付き合いしてるんじゃないらしいけど、モンモランシーがギーシュに気があるのはバレバレだったじゃない。あの二人、幼なじみで付き合いも長いって言うし」 ギーシュ・ド・グラモン。『青銅』のギーシュと呼ばれている。土のドットメイジで、青銅のゴーレムを操ることができる。しかも同時に7体。 ドットメイジでは中々の実力を持つと言えるだろう。 「けど、ギーシュの方がアレだからねえ。モンモランシーとしてはちょっと自分からは言いにくいんじゃない?」 「アレって……ああ、女癖?」 ギーシュはかなりの気障男なのである。制服を胸元まで開いたデザインに改造したり、杖を薔薇の造花にしたり。自分を薔薇のように美しくしたい、ということらしい。 そんな彼はかなりの軟派少年。今も複数の男性クラスメートに、 「ギーシュ、お前は今誰と付き合ってるんだよ!?」 と面白がって聞かれているところである。 ルイズからも確認できた様子にモンモランシーが気づかぬ訳はなく、ずしずしとギーシュに近づいていく。だがしかし、ギーシュはモンモランシーの接近に気づかず、こんな発言をしてしまったのた。 「いやいや君たち、薔薇は全ての女性のために美しく咲くものなのだよ。よって今僕が付き合っている女性はいないよ」 ぴたり。 止まった。先程まで騒いでいた男性陣が。いや、食堂内のざわめきが。 原因は、恐らくギーシュの後ろで止まっているモンモランシーだろう。 モンモランシーが今どんな顔をしているのかは、ルイズの角度からは分からない。だがしかし、彼女は鬼のような形相をしているのではないかと思った。 だってほら、あんなに男たちがガタガタ震えているんだもの―― 「ん? どうしたんだね君たち? そんなに『僕が』『誰とも』『付き合っていない』のが意外かい?」 嗚呼、ギーシュ・ド・グラモン。君が空気を読めない奴だというのはよく分かった。けど、わざわざ地雷原を簀巻きになってゴロゴロ転がるようなマネをしなくてもいいじゃないか。 ぱちゃぱちゃぱちゃ。 「うっ!?」 自身の金髪に降ってきた水に驚き、ギーシュは辺りを見回す。 そしてようやく気付くのだ。自分に香水を頭からかけているモンモランシーに。 「そう、ギーシュ、貴方今、『誰とも付き合っていない』のね?」 「も、モンモランシー……!?」 ぱちゃぱちゃぴちゃ。 「薔薇には私が作ってあげた香水なんて必要ないのよね。むしろ他の花を愛でるにはこの香りは邪魔よね? だからルイズの使い魔にあげちゃったんでしょ?」 「待ってくれ、モンモランシー」 「ええ聞くわ。この香水を貴方にかけ終わるまでね」 ぴちゃり、ぴちょ。 ポケットに入るようなガラスの小壜には少ししか入れる容積が無い。もう既に香水は殆ど流しきられ、ぽたぽたと数滴垂れるのみになった。 「さっきのは言葉の綾なんだ! 僕が愛しているのは君だけだよ!」 「ギーシュさま!」 ぴちょん、ぽたり。 空気を読めない人はギーシュの他にも居たらしい。二人だけの修羅場に入っていったのは、一年生と思しき女性だった。 「ケティ!? す、すまないが今は取り込み中なんだ……」 「ギーシュさま、以前私を馬に乗せていただいた時、『僕の瞳に映るのは君だけだよ』と言って下さったのは、嘘だったのですか!?」 訂正。空気を読めなかったのではなく、彼女も当事者だったらしい。 ざわ、とクラスメート達が騒ぎ出す。おいおいギーシュの奴二股かよ。え、モンモランシーが本命だったんじゃ? いやキツイ性格のモンモランシーから乗り換えたんじゃないのか? と、憶測を述べる貴族が一杯だ。 そして騒ぎの中心たるギーシュの顔はひきつった笑顔を浮かべていた。 ぽた、っ。 そうして、香水の最後の一滴が、壜から零れ落ちた。 「そう、その子が貴方が愛でる花なのね? 一年生の女子に手を出してるっていう噂は本当だったんだ」 「だから違うんだ! 彼女とはただ馬で遠乗りにいっただけで」 「さよなら」 ギーシュに弁解の時間など与えず、きびすを返して食堂から走り去るモンモランシー。その時見えた表情は、鬼の如く怒っていたが、同時に目尻が光っていたようにも見えた。 「待ってくれ、話を聞いてくれモンモランシー!」 「ギーシュさま……」 モンモランシーを追おうとしたギーシュだが、全ての女性を愛でるという自負から、女性に悲しげな声で自分の名を呼ばれては止まらざるを得なかった。 「やはり、モンモランシーさまとお付き合いをされていたのですね?」 「いや、違うんだよ僕と彼女は付き合っている訳じゃ」 「付き合っていなくても『僕が愛しているのは君だけ』と言うのですか!?」 ギーシュの言い訳を遮って叫ぶと同時に、ケティの渾身の平手打ちが入った。ぱあん、と乾いた音が静まり返った食堂中に響き渡る。 「最低です!!」 モンモランシーと同様、ケティも食堂から去っていった。そして、彼女の瞳からははっきりと涙が流れて頬を濡らしていた。 ギーシュはぽたぽた頭から香水を垂らしたまま、真っ赤な紅葉の咲いた自分の左頬を押さえている。 しばらくそのまま固まっていたギーシュだったがやがて立ち直ったのか、誰に向けて言うでもなく一言。 「彼女たちは薔薇の意味を理解していないようだ」 おいおいそりゃあないだろう。 食堂の皆の心が一人を除いて一つになった。とても素晴らしいことの筈なのに、虚しさしか感じないのは何故だろう。 ルイズは気を取り直して食事をすることにする。自分はただ落し物を製作者に返しただけ。悪いことは何もしていない。それより腹の虫が鳴く前にご飯を食べることのほうが今は重要である。 周囲の人間も気まずさを感じながら食事に戻る。できる限りギーシュに触れないような空気が形成されながらも、皆ちらちらとギーシュを伺わずにはおれないようだった。 とにかくいつも通り始祖ブリミルへの感謝を感謝をささげ、いざ昼食にありつこうとしたところで、ふと気づく。 食堂の入り口にまだレンがいたのだ。そして、ギーシュがなにやら険しい瞳でレンのことを睨んでいる。 ギーシュが歯噛みして顔が醜く歪む。怒りに満ちた顔だ。モンモランシーやケティのように大股で食堂の入り口へと向かっていく。ルイズは慌ててギーシュを止めた。 「ちょっとギーシュ! あんた私の使い魔に何する気!?」 「別に何も! ただ僕を侮辱してくれた礼はせねばならないと思ってね!」 ルイズには彼が何を言っているのか理解できない。要するにギーシュが落とした香水壜をレンが拾ってきたことに難癖をつけて八つ当たりをしようとしているだけではないか。 「あんたがモンモランシーから貰った香水を落とすのが悪いんでしょ! レンはただ拾ってきただけじゃない!」 「違う! それだけじゃない! あの猫は今僕のことを嘲笑ったんだ!」 「はあ?」 二人に振られたショックで頭心が壊れたのか、それともモンモランシーの香水が目に入って幻覚でも見たのか、はたまたケティの平手打ちで頭がシェイクされすぎたのか? と疑いたくなる言動である。 確かに昨日夢の中で見たレンなら、今のギーシュを見て冷笑の一つでもこぼすかもしれない。しかし今のレンは猫の姿。猫などの獣が笑うなんて事はない……筈だ。 とにかく、今回の件はギーシュの二股が全ての原因。ルイズやレンが責められる謂れ等全く無い。 「元を正せばあんたが原因でしょ! モンモランシーがせっかくあんたに香水を作ってあげてるのに、あの一年生にまで手を出すってどういうことよ!」 「だから! 彼女とは街へ馬で遠乗りに出かけただけなんだ! それだけなのにどうしてこんな仕打ちを僕が受けなければいけない!?」 「それがモンモランシー達を傷つけたからでしょ!」 「第一何故君は僕じゃなくモンモランシーに香水を渡したんだね!? 壜の底には僕の為の印がついてあったんだから、それくらい察してくれても良いじゃないか!」 「あんたたちの取り決めなんて何で私が知ってなくちゃならないのよ!? いいかげん黙りなさいよ、あんた今すっごくかっこ悪いわよ! ほんと、モンモランシーもケティとか言う娘もあんたを捨てて正解ね!」 「格好悪い!? 僕が!? 言うに事欠いて、このゼロがあ!」 衝動的にギーシュが手を振り上げる。ルイズは反射的に顔をかばって目を閉じた。 ごん、とやたら大きい音が食堂内に響く。それ以降は何も聞こえず、ルイズが予想していたような衝撃もやってこない。 「……?」 ルイズが恐る恐る目を開けてみると、そこにはぐったりと倒れたギーシュがいた。 「は?」 食堂内、本日二度目の時間停止である。はらはらと二人のやり取りを見ていた野次馬も静まり返ってしまっていた。 ルイズは何もしていない。そりゃ口論中はひっぱたいてやりたいとも思っていたが、今は反射的に自分の身を守ろうとしただけだ。彼に触れてさえいない。ましてや魔法を使ったわけも無い。 「ちょ、ちょっとギーシュ?」 ゆさゆさと揺さぶってみるが反応は無い。傍目にはただ眠っているようにしか見えなかった。 暫く時間が経って、ようやく生徒が騒ぎ出す。誰一人として何が起こったのか正確に把握している者は居ないようだった。 「だれか、水のメイジは居る? 一応診てみて」 ルイズの呼びかけに何人かの生徒が寄ってきてギーシュを診断する。 結果、どこにも体の異常は見られない。コブどころか擦り傷一つ確認することはできなかった。 ただ、どうしていきなり倒れたのかが分からない。まるで誰かが『スリープ・クラウド』でも唱えたかのような突然の昏倒だったが、誰もそんなことをした様子は無い。それに『スリープ・クラウド』なら現れるべき眠りの雲も現れなかった。 とにかく医務室へと運ぶことになった。コモン・マジックの『レビテーション』で彼を浮かべて何人かが食堂を出て行く。 「何だったのよ……あのばかギーシュ」 本当についていない。教室の後片付けといい、今の理不尽な八つ当たりといい、今日はブリミル滅だろうか。 そういえばいつの間にかレンの奴どっかいっちゃったな、と思いながら、ようやくルイズはチーズのたっぷりかかったハンバーグをほおばった。 「……はっ!?」 意識が覚醒し、目が開く。呼吸は荒く、全身汗だくだ。熱い。体が熱い。肺には濁った空気が溜まって満足な呼吸もさせてくれない。 「がっは……うああ」 「ギーシュ? 目が覚めた?」 「うわあああああああああああああああああ!?」 隣から聞こえた声に悲鳴を上げるギーシュ。その声は今まで優しく自分を責め立てていた彼女の声だったからだ。 「モモモンモモンモンランシー!?」 「何よ大声出して、人の名前くらいちゃんと言いなさいよ」 ベッドの傍に置かれた椅子に座ったままジト目でモンモランシーは言う。 「わ、悪かった! 僕が悪かった! 謝るからもう踏むのは! せめて靴は勘弁してくれ……!!」 「まだ寝ぼけてるの? それともまだ調子が悪いの?」 呆れたような声で答えるモンモランシーにギーシュは違和感を覚える。これはさっきの彼女ではない、普段のツンケンさが愛おしい元のモンモランシーだ。 その事実に気づいたギーシュは気分を沈めて周りを見回す。見覚えのある部屋だが自分の部屋ではない。確か学院の医務室だ。様子のおかしかったモンモランシーと居た自分の部屋ではない。 「じゃあ、さっきのは夢、だったのか」 「一体どんな夢だったの? いえ、やっぱり言わなくて良いわ」 そういってモンモランシーは何故かギーシュから目を逸らす。その様子にギーシュの背中に冷や汗が流れた。 「あ、あのだねモンモランシー、僕は寝言で何か言っていたかい?」 できる限り笑みを取り繕って問うギーシュ。その質問に何故かモンモランシーの頬が朱に染まる。反対にギーシュは嫌な予感に顔を青くした。流石青銅だ、青くなってもなんとも無いぜ! 「えーっと、何か私の名前とごめんなさいって言葉を何度も……。それ以外にも色々……」 その色々、という部分はごにょごにょと言葉を濁してしまうモンモランシー。もはや冷や汗が止まらないギーシュ。 まずい、この空気は非常にまずい! と、何とか話題を変えるべく思考をめぐらせる。 そして、自分がモンモランシーとケティに振られた後、ルイズを衝動的に叩こうとした後の記憶が無いことに気がついた。 「モンモランシー、僕はどうしてここに居るんだい?」 「分からないの? 私も聞いた話だけど、ルイズを殴ろうとして何故かあなたが倒れたみたいよ。だから医務室に運ばれたの。血圧を上げすぎたせいじゃないかとか言われてるけど」 「そうだったのかい? あの時行き成り目の前が暗くなって、その後は何も覚えてないんだ」 「浮気した上に無関係のルイズまで殴ろうとしたから、始祖ブリミルから天罰でも下ったんじゃない?」 「だから違うんだ! モンモランシー、彼女とは馬に遠乗りに行っただけだって! 僕の心に住んでいるのは君だけなんだ!」 「ギーシュ、あなたもし私とステファンが一緒に食事をしてたらどうする?」 「ステファンに決闘を申し込む!」 「そういうことよ」 即答してからはっとなるギーシュ。自分の行動でモンモランシーが怒り、傷ついていたことがようやくほんの少しだけ理解できた。 だがモンモランシーはもはやギーシュを意に介さずに、冷たい瞳で彼を一瞥しただけで立ち上がる。 「待ってくれモンモランシー! 待って……!」 「その様子ならもう大丈夫よね、それじゃさよなら」 ベッドの上で必死に手を伸ばすも届かない。美しい縦ロールを翻してモンモランシーは医務室から退室してしまった。 「モンモランシー……」 ギーシュは悔やむ。何故自分は出て行く彼女を引き止められなかったのか。 だが、今彼はベッドから出ることはできなかった。自分にかけられているシーツをめくることはできなかったのだ。 だって、そんな事をすれば、夢の影響での、下着が、ズボンが。 「ちくしょう……」 シーツの隙間から、中に充満した栗の花のような青臭い臭いが漂ってくる。せめて、この惨状をモンモランシーが気づかなかったことをブリミルに祈る精童のギーシュであった。 「昼間は災難でしたわね、マスター」 夜、ベッドに入り、気がつくと昨夜の雪原にルイズは居た。眼前では耳の長い人間の姿になったレンが微笑んでいる。 ルイズとレンはテーブルを挟んで向かい合わせに座っている。広大な雪原にぽつんと存在する椅子に座る様は中々シュールだ。 いきなり始まった会話に目を白黒させるルイズ。二回目とはいえ、まだこの変な空間には慣れない。 「何よ、あんたが壜を拾ってきたのも原因のひとつじゃない」 「まあひどい。私はマスターを元気付けようとしてやっただけですのに」 「拾ってきた他人の香水を喜ぶ貴族なんて居ないわよ」 口調こそ悲しんでいるそぶりのレンだが、顔は相変わらず皮肉げに微笑んでいる。本気で言っているわけでは全くないようだ。 ルイズもこんな事を言っているが、本当はレンを責めたりする気持ちは全く無い。だがこの生意気で口元に酷薄な笑みを貼り付けている幼女をみると、何か素直になるのが悔しくなるのだ。 「マスターに危険が及びそうになった時は助けたではありませんか」 「何よソレ? あんたが何時私を助けたっての?」 「あの優男に殴られそうになった時、眠らせたのは私ですのよ?」 「……それ、ホント!?」 明かされる驚愕の真実に、ルイズは思わず机に身を乗り出してレンに詰め寄る。そんなルイズを手で制すると、自身の真紅の瞳を指差した。 「私の目。どうやら眠りの魔眼になっているようなの。魔眼としての格は高くないけど、夢魔の私にはうってつけね。眠らせてしまえば、後は夢の中で好きに料理できるわ」 「まがんって何?」 「え? 知らないの……って、そっか、こっちと向こうじゃ魔術とか超能力の常識が違うのよね。簡単に言うと、見ることで魔術的な効果を発揮する眼のことよ。相手を魅了したりする魔眼が有名ね」 「魅了って……本当なら凄いわね。魅惑の薬は禁制の品に指定されてるのに、見るだけでいいなんて」 「けど、目を合わせないと効果は無いわ。だから大人数の相手には向かないわね」 「でも、詠唱も杖も要らないってことでしょ? それって先住魔法!?」 自分の使い魔のポテンシャルに興奮してルイズの鼻息が荒くなる。ぐぐぐと近寄ってくるルイズをぐぬぬとレンは押し戻していた。顔が近いし。 「何、その先住魔法って?」 「知らないの? って、さっきと逆ね。先住魔法って言うのは、エルフとかが使う、メイジの4系統魔法とは違った魔法のことよ。あんた、見た目エルフみたいだし使えてもおかしくないわよね?」 「聞くだけじゃ私の使う魔術と一緒かは判断できないわね。たぶん違うと思うけど。でも、この魔眼はそっちが私に与えたものでしょ? ならルイズの方が詳しいんじゃないの?」 「へ? 何の話よ?」 「私、魔眼なんて持ってなかったもの。使えるようになったのはこっちに来てから。貴方が私に刻んだルーンが関係してるみたいなんだけど」 「ふーん? そういえば、只の猫が使い魔になると喋れるようになるとかいう例もあったらしいわね」 「……随分ランダムな効果ね、召喚も契約も」 「良いじゃない。私の使い魔になって危険が去って、新しい力まで手に入れられたんだから」 顔をしかめてレンは言うが、なにやらレンが役立ちそうなことに上機嫌になっているルイズにはあまり通じていない。 「ところでレン。あんた夢魔なのよね?」 「何を今更言ってるの? 夢の中でこうして話してるじゃない」 「さっき、『眠らせてしまえば好きに料理できる』って言ってたけど、あんたギーシュの夢に何かした?」 「ああ、その話?」 医務室に運ばれたギーシュは、結局そのまま午後の授業に出てくることは無かった。ついでにモンモランシーもいなかった。どうやらギーシュに付き添っていたらしい。 お別れしながら何故傍に居てやるのかは分からない。恋する乙女心は難解である。 ギーシュの話題を上らせると、レンの笑みが深いものになった。あの、ルイズを『吸い尽くす』と脅してきた時に浮かべたものと同じだ。思わず椅子ごと後ずさルイズ。 「マスターに手を出そうとした罰として、踏んであげただけよ。優しく、ね」 くすくすと実に楽しそうにレンは嗤う。この笑いを見るたび、ああ、こいつ性格悪いなー、とルイズは再確認するのだった。 踏まれたというギーシュは、まあ自業自得だろう。女の子二人を泣かせた上にルイズにまで手を出そうとしたのだ。こんな小さな幼女に踏まれるくらいご愛嬌で済ませられるだろう、とルイズは判断した。 もっとも。ルイズの解釈している『踏む』と、レンの実行した『踏む』が一致しているとは限らないのだが。 「役に立ったでしょう?」 「そうね。使い魔の仕事としてはまあまあの評価を上げてもいいわ」 しっかり主人の身を護った使い魔に対してこの言葉。とことん素直でないルイズである。だが気にする様子も無くレンは主人に微笑を向け、こんなことを言い出した。 「ならご褒美をくださいな、ご主人様」 「ご褒美ぃ? 思ったより厚かましいヤツね、あんた」 「いい労働にはいい報酬が必要なのですわ」 レンの言い分はもっともと言える。ルイズは年の近い姉が飼っている動物をよく褒めてやっていたのを思い出した。指示されたことを聞いたときは特に。 何か喜ぶ物を与えれば、この生意気な使い魔ももっと主人を敬うようになるかもしれない。そんな打算も浮かぶ。 「まあいいわ。最初だけ特別よ? 優しいご主人様に感謝なさい。で、何が欲しいのよ?」 「そうねぇ。ここはやっぱり甘ぁ~~い物が欲しいかしら!」 組んだ両手を頬に持っていって、屈託の無い満面の笑みを浮かべるレン。ぶりっ娘ポーズである。 ルイズは驚いた。その仕草で初めてレンが年相応の幼女に見えたからだ。甘い物を欲しがるレン、それをちょっとだけ可愛いと思ってしまった。だがそんな思いはできるだけ顔に出さずに質問を続ける。 「甘いものって、あんた猫でしょ?」 「猫である前に乙女ですわ。あんな肉ではお腹は膨れても心が潤いませんの」 「贅沢な猫ねえ、あんた」 しかしレンの言い分は理解できるルイズだった。しっかりご飯を食べても甘いものは別腹。これは全ての女性の総意と言っても良いだろう。 甘い物、と聞いてルイズの脳裏に自分の好物が思い浮かんだ。そういえば最近あれを食べていない。この使い魔にやるのはちょっと勿体無い気もするが、この使い魔にあげるという名目で王都まで食べに行くのも悪くない。 そこまで考えてルイズは大声で期待のこもった瞳でこちらを見ているレンに言う。 「レン! クックベリーパイを食べに行くわよ!!」 前ページ次ページゼロの白猫
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スコーピオンモラー Lv ?? EXP PTP Z 行動 アクティブ 攻撃 近距離攻撃 特殊攻撃 特になし 通常ドロップ レアドロップ 装備ドロップ 生息地 ミッション その他
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528 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/06(金) 23 32 45 ID TJdcq1GE 「…どうしよう」 完成した作品を手に、モンモランシーは呆然としていた。 元々自分で使う予定の物だったが、いざ自分で使用してみようとすると、躊躇してしまった。 …いや別に、イヤってわけじゃないんだけど。 問題は、合成に使った、最近評判の薬『オーガの血』。 貴族の間で嗜好品として取引されている秘薬で、ものすごい人気で中々手に入らない。 男性が使えば強力な精力剤として機能し、女性が使えば強力な催淫剤として機能する。 当然モンモランシーにそういった行為の経験は無いので、どの程度の分量の『オーガの血』が適量か、分からなかったのだ。 モンモランシーはビーカーに入ったその粘着質の液体を赤い顔で見つめる。 「…どうしよっか」 これを彼女は、ギーシュとの事の際に使うつもりだった。 だって痛いのヤだし。 既に経験済みの子から聞いた話だと、初めてのアレは物凄く痛いらしい。 その子は婚約者との最初のアレの時、あまりに痛くてのしかかる婚約者を蹴っ飛ばし、気絶させてしまったという。 正直、そんな初体験は勘弁願いたかった。 そういうわけで、モンモランシーはコレを調合したわけなのだが。 どうしても、自分で試す気にはなれなかった。 誰か、こういうの使う相手がいる知り合いに使ってもらって、その使用感を聞くのが、常道なんだけど…。 心当たりをちょっと考えてみる。 すぐ思い当たった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ド・ラ・ヴァリエール。 本人だけが認めない恋人の才人と、コレを使ってもらおう。 そんでもって使用感を聞けばいい。 根は人のいいルイズの事だ、きっと聞いてくれるだろう。 「な、なななななななななな、なんてもん作ってんのよモンモランシー!」 「しっ!声大きいって!」 モンモランシーはルイズの部屋を訪れ、薬を手渡して事情を説明した。 薬を手渡された瞬間は、なにこの薬、とか言って興味を示したルイズだったが。 その使用目的を聞くや、真っ赤になって叫んだのだった。 「こ、こんなもん作って恥ずかしくないワケっ?」 そう言いつつまるで汚いものをつまむように指の先で薬品の入った試験管をつまみ、それでもソレは離さない。 「…だって痛いのイヤじゃない」 赤くなってそう言うモンモランシー。 すでに事情は話してあるので、ルイズは事の次第を了解していた。 ルイズはそんなモンモランシーに応える。 「そんなの、最初だけよ。回数こなせばすぐ良くなるから」 「…ルイズは何回くらいかかったの?良くなるまで」 興味本位からモンモランシーは尋ねる。 その質問にルイズは一瞬で真っ赤になる。 そして薬を取り落としそうになりながら、 「ょ…ょんかぃくらぃ…」 真っ赤になって試験管を両手でいじりながら、俯いてそう応えた。 529 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/06(金) 23 34 34 ID TJdcq1GE 真っ赤になって試験管を両手でいじりながら、俯いてそう応えた。 「…四回もかかるんだ…」 モンモランシーは言って、はぁ、とため息をついた。 その間、痛い思いをしなきゃいけない。 それに、四回でよくなるとは限らないのだ。 ギーシュが下手だったり(一番ありうる)、相性が悪かったり、自分が不感症だったり(ないと思いたいが可能性は否定できない)したら、もっと回数がかかる。 それどころか、ずっと良くならない可能性だってあるのだ。 「それなら、薬使ってでも、最初から…のほうがいいわ…」 モンモランシーの意見も尤もだ。 今でこそ才人とのセックスで快感を得られて、しかも癖になりつつあるルイズだったが、最初の2回目くらいまでは、正直相手が才人でなければ蹴飛ばしていた。 しょうがない。ここは。 「わ、わかったわよ…試してあげるわ」 「本当?」 モンモランシーは素直に喜んだ。 「で、でも、本当はイヤなんだからね?嫌々薬使うんだからね?そこんとこ勘違いしないでよね?」 あくまで自分は薬には屈してない、というスタンスを貫きたいルイズだった。 「わかってるわよ。 じゃ、使用上の注意だけど…」 そう言おうとしたモンモランシーを、ノックの音が遮った。 「誰?」 部屋の主たるルイズがノックの主に誰何の声をあげる。 その声に、ノックの主が応えた。 『あの、モンモランシー先輩、みえてますよね?』 それは、後輩の女生徒の声だった。 面倒見のいいモンモランシーは、結構後輩に慕われている。 特に同性の後輩に受けがよく、よく相談事を持ちかけられるのだ。 モンモランシーはルイズに一言ごめん、ちょっとまっててと伝えると、ドアの向こうの女生徒のところへ向かった。 ドアがぱたんと閉じられ、足音が離れていくのが分かった。 「頼られてるなぁ、モンモランシー」 そんなモンモランシーに、自分が頼られている。 ちょっと嬉しくなるルイズだった。 …頼られている方面がちょっとアレなのが玉に疵だけど…。 そう思って、手元の薬を眺める。 モンモランシーの説明によれば。 これは、痛みを消す薬ではなく、快感を数倍にすることで、痛みを感じる暇をなくさせる薬らしい。 …ちょ、ちょっとすごそうよね、あの痛みを感じなくさせるんだから…。 ルイズは初めてのときを思い出す。 最初に才人に貫かれたときは、痛くて身動き一つ取れなかった。 もしあの時、才人が獣欲に負けて自分の中を削っていたら。 きっと、あの痛みは数倍になって自分を襲っていただろう。 …たしかに、ちょっとした拷問よねアレは…。 そしてルイズは、その試験管を封じていたコルクの栓を抜いてみる。 ちょっと甘い香りがする。 そういえば、こういう薬は事前に飲んでおくのが常道よね、とルイズは考える。 530 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/06(金) 23 35 17 ID TJdcq1GE そしてルイズは試験管に口を付け、傾けた。 すると。 ごぼっ! 「────────────!!」 傾けた試験管から一気に薬が流れ出し、ルイズの喉を満たした。 そしてなんと、ルイズの喉を塞いで、止まったのである。 「────!!────!!」 息ができない。ルイズは必死に喉に詰まった液体を吐き出そうとするが、できない。 そして異変は起こった。 ごぼぼっ! 急激に液体がその体積を増やし、ルイズの口から逆流しだしたのである。 「ごほっ!えほっ!」 逆流したお陰で喉につかえていた液体が抜け、息が通る。 しかし喉にはまだ大量の液体が残っており、息がままならない。 溢れた液体はルイズの細い顎を伝い、制服の白いシャツをべとべとに濡らす。 そこでもまた、信じられない事が進行していた。 液体はまるで意思を持つようにルイズの服の下に入り込み、肌に張り付く。 その液体はまるで溶いた片栗粉のように粘っていた。 ルイズの身体と服の間に入り込んだソレは、じわじわと量を増やしながら、下へ下へと侵攻を開始する。 己をルイズの肌に塗りこみながら、じわじわとゆるやかなカーブを描く腹を伝い、腰に回り込み。 そして。 下半身でひくつく、才人しか知らない小さな穴に辿り着く。 「────!!ごぼっ!」 その間にも、ルイズの口からは液体が溢れ、まるで大量の唾液をこぼしているように見えた。 「ごめんルイ───えっ!?」 戻ってきたモンモランシーは驚愕した。 ルイズの口から粘液が溢れ、彼女の身体を覆いつくそうとしていた。 「ばかっ、コレ飲んじゃったの!?」 その言葉に、ルイズは朦朧としながら首を縦に振る。 「これ、これ……、塗り薬なのにっ!」 モンモランシーは言って、慌てて部屋を飛び出した。 才人を捜すためである。 あの薬は本来、秘所に塗りこんで使う。 そして少量塗り込めば、膣道と秘唇を粘液が満たす仕組みになっていた。 それに使ったのが、自己増殖型のスライムである。 もし、ソレを飲んでしまえば…。 口腔内で爆発的に体積を増し、喉を塞いでしまう。 とにかく今は、才人を見つけて、ルイズの口からあの薬を吸い出してもらわないと、ルイズが窒息してしまう。 自分で吸い出してもよかったが、あの薬を自分が吸ってしまったら、たぶん。 薬にやられたルイズと、問答無用で百合してしまう。 それだけは避けたい、モンモランシーだった。 562 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/08(日) 01 04 30 ID UMWbkaLZ 才人はすぐに見つかった。 才人はヴェストリの広場で呑気に素振りをしていた。 モンモランシーは才人に駆け寄って、才人に主人の危機を伝えた。 「ルイズがヤバいのっ!」 才人の目が点になる。 いきなり出てきてご主人様がヤバいとか言われても。 「ホラバカ面下げてないでっ」 いきなり手を掴まれて全力疾走。 「ちょ、おま、モンモン説明ぐらい」 「そんなの後に決まってんでしょっ!事態は一刻を争うのよ!」 才人には事情がよく飲み込めなかったが、モンモランシーの慌てっぷりから、その『ヤバい』が本物であることは察知できた。 仕方なく才人はモンモランシーに付いて走る。 女子寮の入り口を駆け抜け、階段を駆け上がる。 そして、毎日通る廊下を走りぬけ、ルイズの部屋に駆け込む。 そこには。 半透明の粘液に半身を覆われたルイズがいた。 口から溢れているらしいその粘液のせいで呼吸が出来ないのか、ルイズは青い顔をしていた。 「ルイズっ!」 才人は慌ててルイズに駆け寄り、粘液に汚れるのも厭わず、ぐったりとしたその身体を抱き上げた。。 モンモランシーは冷静にドアを閉め、才人に言った。 「喉に詰まって息が出来ないみたいなの!吸い出して!」 モンモランシーに言われる前に、才人はルイズの口から粘液を吸出し始めていた。 自分の口に含めるだけの粘液を吸い上げると、すぐに脇の床に吐き出し、もう一度ルイズの口を吸い上げる。 …さ、さすがね…。 モンモランシーはちょっとルイズが羨ましくなった。 …ギーシュも、もうちょっと仲良くなったらこのくらいしてくれるのかしら…。 こんな状況で不謹慎だったが、普段から口だけの想い人の事を考えるモンモランシーだった。 「えほっ!げほっ!」 しばらくする才人の吸出しの甲斐もあって、ルイズの喉に詰まった粘液は全て吸いだされた。 ルイズは両手で身体を支え、空気を貪った。 「よ、よかったぁ」 モンモランシーはほっと胸をなでおろすが。 「こらモンモン」 才人がそんなモンモランシーにガンを飛ばす。 「え?何?」 とりあえずここはとぼけて 「お前ルイズに何した」 誤魔化せなかった。 563 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/08(日) 01 05 14 ID UMWbkaLZ 才人の目は完全に据わっていた。 …うわ、サイトってルイズのためならこんな顔もできるんだ…。 ちょっとカッコイイかも、とか思っていたが。 よく考えたら私ヤバい? 「いや、その、違って! 薬を間違ってルイズが飲んじゃって!」 慌てて後退しながら両手を振って言い訳するモンモランシー。 そんな彼女に才人は容赦のない視線を飛ばす。 「ご、ごめんなさぁぁぁい!」 バタン! 耐え切れなくなったモンモランシーは、扉を開けて逃げ出した。 「…ったく、俺のルイズに何してくれてんだよ…」 言って才人は、自分の言った台詞に慌てた。 よく考えたらここにルイズいるじゃん。 よく考える前に普通は気付くものだが。 「いやごめんルイズ!そういう意味じゃっ!」 だったらどういう意味なのか。 慌ててルイズを振り返り、手を振って言い訳する。 その手を。 ルイズの濡れた両手が、きゅっ、と握った。 「え」 才人の目が点になる。 ルイズの頬は赤く朱が注し、その瞳は今にも泣き出しそうなほど潤っていた。 そして、呟く。 「サイト、だぁ…」 ほぅ、と熱い甘いため息を漏らし、ルイズは。 手にした才人の右のひとさし指を、はくん、と甘く噛んだ。 「え、ちょ、ルイズっ?」 状況が飲み込めず慌てる才人だったが、薬の成分に侵されたルイズは、そのまま自分の欲求に忠実に、身体を動かす。 才人のひとさし指に舌を絡ませ、まるでそこに甘い蜜でも塗りこまれているかのように、ちゅうちゅうと吸い上げた。 才人は性感帯をいじられているわけでもないのに、ルイズの行為に快感を覚えた。 「サイトぉ、ほしいよぉ」 ルイズは熱に浮かされたようにそう言いながら、今度は舌で丹念に才人の指の間を舐める。 「うぁっ」 手を舐められているだけなのに、才人は異常な興奮を覚えていた。 その間にも、ルイズはぴちゃぴちゃと才人の手を舐めている。 「サイトの、あじ、だいすきぃ…」 そう呟いて、才人を見上げる。 565 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/08(日) 01 06 26 ID UMWbkaLZ あまりにも淫らに光るその視線と、朱に彩られた可憐な表情に、才人は。 思わずルイズの唇を奪っていた。 ルイズはその行為に応え、才人の首に手を回し、そして舌で彼の唇を割って、口内に侵入する。 才人も負けじときつく抱きしめ、ルイズの口内を犯し返し、互いの唾液を絡ませる。 そして、深いキスをしながら、才人は気付いた。 そうか、モンモンの薬で、ルイズおかしくなってんだ。 …まあ、悪いのモンモンだし?俺のせいじゃないし? ここは一つ楽しみましょうかね? 才人は唇を離すと、ルイズに言った。 「ルイズ、ガマンできないの?」 ルイズはなんの躊躇もなく応えた。 「ガマン、できないよぉ…。して、サイトぉ…」 そしてそのまま、粘液に塗れた自分の身体を遠慮なく才人に擦り付ける。 平坦な胸が服越しに潰れ、ルイズの吐息がさらに甘くなる。 そしてさらに。 ルイズは才人の太股をまたぐと、なんと粘液でべとべとになった秘所を、ショーツごしに擦りつけて来たのだ。 「サイトぉ、おねがい、いっぱいいじって…」 ルイズのギアスが発動して、才人に命令を打ち込んでいた。 「イエス、まいろーど♪」 才人はそのままルイズをお姫様抱っこで抱き上げ、ベッドに運ぶ。 その間も、ルイズは才人の首筋に顔を埋め、彼の肌を吸い続ける。 「ちょ、ルイズ、くすぐったいって」 「やだ。やめない」 ルイズは小さい子供のようにそう言って、才人の肌に新たなキスマークを造り続ける。 すぐにベッドに辿り着き、才人はルイズをベッドに座らせたが、ルイズはまだ才人の首に絡みつき、肌を吸うのを止めなかった。 それどころか。 今度は、才人につけたキスマークの上を、丹念に舌で舐めはじめた。 「うわっ、ちょ、ルイズそれっ」 なんという背徳的な快感。 肌に付けられた痕を、その痕を付けた相手が舐めて労わる。 今まで味わったことのない行為に、才人の中でどんどん快感が膨らんでいく。 「…くっ、このっ!」 才人は必死に力を振り絞ってルイズを引き剥がし、押し倒した。 これは、戦いだ。 男と、女の─────。 「サイトぉ、はやくぅ」 しかしその戦いの幕は、ルイズの全力で甘える視線と声によって一瞬で閉じられた。 負けでいいでーす♪ 才人は乱暴にルイズの足を開く。 その眩しい白い太股の間では。 もうすでに下着の意味を成さぬほどに粘液と雌の液体で透き通ったショーツが、ひくつくルイズを露にさせて待っていた。 51 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/09(月) 02 37 58 ID CyH0Eq0g 才人がズボンのジッパーを降ろそうと手を下半身に持っていた瞬間。 ぎゅむ。 ルイズの脚がするっと伸びて、才人の首をロックした。 すると、才人の顔はべとべとのルイズのショーツの股間に埋め込まれるわけで。 「ふごっ」 「やんっ」 才人が喋ろうとした瞬間、才人の首を捕まえたルイズは、両手で胸を隠すような仕草をして可愛い声を出した。 「サイト、喋っちゃダメぇ」 言いながら、才人の首をさらにきゅっ、と脚で絞める。 そんなんゆうたかてこの状況でどないせえと、と才人が思っていると。 「な・め・て♪」 とんでもないリクエストが飛んできた。 がってんご主人サマ。 才人は顔面に密着しているべとべとのショーツを、舌で遠慮なく舐めまわした。 「ひゃんっ」 今度は手まで加わる。 ルイズは手と足で才人の頭を自分の秘所に押し付けていた。 絞め技ってレベルじゃねーぞ! 正直身動き取れません。 才人は仕方なく、目の前のショーツに染み込んだ液体を舐め取ることに専念する。 「やんっ、サイトぉ、きもちぃぃ…」 ルイズは才人の髪に指を絡め、まるで愛犬を撫でるように優しく撫ぜる。 …おのれルイズ、自分だけ気持ちよくなりおってからに。 感じているルイズは確かに可愛かったが、才人の方のドリルも天を衝かんばかりにいきり立っていた。 よーし、こうなったら。 はむ。 才人はなんと、べとべとのルイズのショーツを口に含んだ。 そしてそのまま、舌を使ってショーツを口の中に巻き込む。 「やっ、ちょっ、サイト何食べてんのよぉ!」 ルイズは不満げに声を漏らすが、才人は止めない。 ぐぃっ! そのまま強引に身体を引き、ルイズのショーツを口に咥えたまま身体ごとルイズの脚の間から脱出する。 すると、ルイズのショーツはするりとルイズの脚から抜けた。 才人はルイズの愛液でべとべとのショーツをしばらく味わうと、ベッドの脇に吐き出した。 それは床の上で、才人の唾液とルイズの愛液で水音を立てた。 52 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/09(月) 02 38 38 ID CyH0Eq0g 「サイトぉ」 放り出されて不満そうにしていたルイズが、才人に語りかける。 「ん?何?」 ルイズが不満を口にする前に、才人はルイズに覆いかぶさってキスをした。 もちろん不満を吐く口を塞ぐためである。 その隙にちゃっかりズボンを脱ぐのも忘れない。 しばらくルイズの唇を味わったあと、唇を離す。 「で、何かなルイズ?」 キスの余韻で少しほけーっとしていたルイズに才人は尋ねた。 ルイズは少し不満そうにしていたが、すぐ笑顔になって、尋ね返してきた。 「私のぱんつ、美味しかった?」 何を聞いてきますかこのへんたいご主人様は。 「ルイズがいっぱい染み込んでて、美味しかったよ」 そう返して、もう一度キス。 そして。 才人は素早くルイズの入り口に己の剛直を沿えると、一気に突き刺した。 「やんっ」 才人が一気に奥まで来る快感に、ルイズの背筋が反り返り、唇が離れる。 おかしい。ヘンだ。 才人は違和感を覚えた。 ルイズのそこは、いつものようにぎゅうぎゅうと才人を締め付けているのだが。 その滑りがいつもとは比べ物にならなかった。 才人の肉棒はあまりにもスムーズにルイズの中を出入りする。 「やぁんっ!いいっ!これぇっ、へんになるよぉっ!」 一気に奥まで貫いたと思えば、次の瞬間には入り口から抜け出そうなほど後退する。 そんな激しい動きをしても、ルイズの中は一切の摩擦を生んでいなかった。 そっか、このねばねばのせいだ…! お互いの身体に絡みつく粘液がローションの役目を果たし、いつもより数倍激しい行為を可能にしていた。 「やっ!だめっ!も、いく、いくぅっ!」 「くっ、ルイズっ…!」 叩きつける腰も、際限なく襲い来る快感も、もう止まらなかった。 あっという間に二人は絶頂に達し。 「ふぁ、ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「出るっ、出るっ……!」 どくっ!どくっ!どくっ! いつもの数倍はあろうかという精液が、ルイズの中に放たれた。 53 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/09(月) 02 39 35 ID CyH0Eq0g 「は。はー。はぁー…」 才人は荒く息をつき、最後の一滴をルイズの中に放ち終わると、腰を引いた。 ちゅぽんっ…。 「…あ…」 才人の抜ける感覚が、飛んでいたルイズの意識を復帰させる。 どろ…。 それと同時に、ルイズの股間から熱い液体が吐き出される。 それはルイズの股間の谷を流れ、後ろでひくつく肉の門を撫ぜた。 熱い流れになぞられ、ルイズの菊門が熱く疼く。 知識で得た、その部分での性交が、ルイズの脳裏をよぎった。 その瞬間。 急に、直腸が、まるでそこが性器であるかのように、疼きだした。 …コッチに入れたら、どうなるんだろ…。 その言葉をキーワードに、ルイズの中の獣が暴れだす。 媚薬に溶かされたルイズの心は、その野獣に従った。 ルイズは才人の目の前でころん、とうつ伏せになった。 そして、両手でその真っ白な臀部を鷲掴みにして、小さな桜色の襞を才人に向けて広げた。 後ろで、才人の喉を鳴らすゴクリという音が聞こえる。 「ねえ、サイト…」 そんな才人を肩越しに振り返り、おねだりをする。 「お尻、あついのぉ…こっちにも、頂戴…」 そして、ルイズは復活した使い魔に再び貫かれた。 54 名前:ねばねば健康法 ◆mQKcT9WQPM [sage] 投稿日:2007/04/09(月) 02 40 56 ID CyH0Eq0g 次の日。 ルイズはモンモランシーの部屋を訪れていた。 昨日の薬の使用感を、モンモランシーに伝えるためである。 「そっか、キモチよかったんだ」 「…う、うん…」 ルイズはもじもじと、指を絡ませていた。 ある事をモンモランシーに伝えたかったのだが、その決心がつかないのだ。 「じゃ、じゃあ、今度は自分用に造らなきゃ」 ちょっと赤くなって、モンモランシーは言った。 これで、初体験で痛い思いをせずに済む。 そう安堵するモンモランシーに、突然ルイズが言った。 「あ、あのっ、またできたら分けてくんないかなっ」 「はい?」 ルイズの言葉に、モンモランシーは思わず聞き返してしまう。 ひょ、ひょっとしてスキモノって思われたっ!? 「あ、あの違くてっっ!私が欲しいんじゃなくてっ、サイトがねっ、どうしてもってっ」 とりあえず才人が欲しがっていることにして誤魔化す。 「キモチよかったからっ、もう一回したいなってっ! いやほんとに私はイヤなんだけど!サイトがどうしてもって!」 真っ赤になって、両手をぶんぶん振りながら、ルイズは言い訳する。 …素直に欲しいって言えばいいのに…。 そんなルイズに、モンモランシーはちょっと意地悪したくなった。 「いいわよ。分けてあげても」 「えっ、本当!?」 ルイズの顔が一瞬で笑顔になる。 …思いっきり喜んでんじゃん…。 そしてモンモランシーは続ける。 「その代わり、一個聞いていい?」 「なーに?」 「お尻でするのってキモチイイの?」 その質問に。 ルイズの顔が一瞬で青ざめ、そして真っ赤になる。 「の、のののののぞいてたでしょモンモランシぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 しかし結局ルイズは才人との行為の詳細をさんざんモンモランシーに聞きだされて。 その恥辱の鬱憤を、才人で晴らしたのだった。 「なんで俺ばっかりいっつも貧乏くじ………ガクッ」 〜fin
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ルイサンセイドラトレモイユ(ルイ3世・ド・ラ・トレモイユ) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 トゥアール子爵(のち公爵)。 関連: フランソワドラトレモイユ (フランソワ・ド・ラ・トレモイユ、父) アンヌドラヴァル (アンヌ・ド・ラヴァル、母) ジャンヌドモンモランシー (ジャンヌ・ド・モンモランシー、妻)
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マルグリット(43) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 カンダル女伯。 関連: アンリドフォワ (アンリ・ド・フォワ、父) マリードモンモランシー (マリー・ド・モンモランシー、母) ジャンルイドノガレドラヴァレット (ジャン=ルイ・ド・ノガレ・ド・ラ・ヴァレット、夫)