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眠れない夜が明けた。 時間はまだ大分余裕がある。だけど、何も手につかない。時計とにらめっこ。そしてため息。 出掛ける前にシャワーを浴びた。念入りに体を磨いていく。普段はあまり触れたくない場所。 そこも力を入れて開き、指を入れこすった。軽い痛みが走る。――よぎる不安を飲み込んだ。 もう――決めたこと。 鏡を見ながら歯を磨く。ゆっくり、やわらかく、丁寧に。 下着も洋服も小物も、全部一番のお気に入りを身につけた。 香水を振り、美希ちゃんからもらったアロマの瓶を首にかけた。 心細げに映る自分に笑顔を返す。軽くガッツポーズを取る。約束の時間だ。 「お邪魔します」 レミおばさんは外出していて夕方まで戻らないらしい。 自分の家のように馴染んだ美希ちゃんの家。見慣れた幼馴染の部屋が、まるで知らない場所の ように感じられた。 「いらっしゃい」 美希ちゃんがハーブティーを入れてくれた。気持ちを落ち着ける効能があるらしい。 喉を通る温かさと爽やかな香りが、少しだけ緊張をほぐしてくれた。 わたしは美希ちゃんと向かい合って見つめた。そして正直に話す。全く体験がないこと。 自分でしたことすら――全然ないってこと。 昨日はとっても――怖かったんだってこと。 今日は――覚悟を決めてきたってこと。 震える声で話し終える。 美希ちゃんが立ち上がってわたしの隣に座る。そして頬っぺたをくっつけてこするようにした。 くすぐったくなって笑い声がこぼれる。 「そう、笑ってなきゃね。辛いことするわけじゃないのよ。大丈夫、教えてあげる」 くっついた頬っぺを軸に回転させるようにして唇を重ねる。自然すぎる動作に心の準備の暇も ない。 (ううん――心の準備はもう全部済ませてきたもの) 目を閉じて受け入れる。 触れるかどうかのやわらかいキス。触れては離しまた押し当てて、徐々に力強く重ねあう。 美希ちゃんの指が、硬く握ったわたしの手を包み広げる。交差させて強く握る。 恋人握りと呼ばれる繋ぎ方だ。 緊張が途切れ、わたしの口が少し開いた。狙い済ませたように美希ちゃんの舌が挿入される。 慌てて口を閉じそうになって、また開いた。噛んで舌を傷つけては大変だ。 そのままわたしの口の中を動き回る。怖いほどの気持ちよさに腰が引ける。しかし、後ろはベ ッドだった。 その動きが舌の裏をなぞった時、強烈な快感が走ってうめき声を上げてしまった。 今度はわたしの舌が吸われる。軽く歯を立てられてまた全身が震えた。 「はぁ、はぁ。――美希ちゃん、つらい」 「大丈夫よ、ブッキー。アタシを信じて」 口癖を使われては仕方が無い。観念してベッドに上がる。仰向けになり、両手を祈るように組 んだ。そして目を閉じて次に備える。 美希ちゃんの細く長い舌が、唇からアゴ、喉を滑って耳に上がってきた。耳たぶをくすぐるよ うに刺激した後、そっと耳の中に差し込まれた。 「ひゃあぅ!」 訳のわからない悲鳴をあげて跳ねる体を、美希ちゃんは上手に押さえ込む。美希ちゃんにしが みつくようにして、くすぐったさに懸命に耐えた。 まだ唇と耳だけ。なのに心臓はパンク寸前。全身が汗をかいて疲れきっていた。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 わたしの呼吸の乱れを見かねたのか、愛撫の手を止める。浮かんだ涙も拭ってくれた。 ごめん――頑張るね。美希ちゃん。 深呼吸して、グッと歯を食いしばる。 (大丈夫、耐えてみせる。今から起こることの――全てに) 美希ちゃんが再び動き始めた。私を抱きしめる。唇を重ねてから、今度は迷わず下に降りていく。 洋服を脱がせながら舌を肩から胸の方に滑らせていく。美希ちゃんはもう、上下の下着だけだ。 双丘を迂回して、わき腹を舐められる。あまりにくすぐったくて逃げ回る。 「あはは、やだ、やだやだ、くくっ、やだやだ美希ちゃん、嫌だ、くくっ」 わたしの転げまわるのを利用して上着の全てを完全に外してしまった。――凄い。 プチン ブラジャーも外された。ポロンと零れ落ちる二つの膨らみ。 「いやっ」 とっさに両手で隠そうとする。その手を掴まれて広げられる。 美希ちゃんの真剣な眼差しが突き刺さる。 うん、わかってる。ごめんなさい。 美希ちゃんの唇が円を描くように、螺旋状に胸の中心に進んでいく。中央の先端に届き咥える。 「あっ――つぅ――んんん」 首を振って全身をねじって快楽から逃れようとする。唇は離れてくれない。軽く咥えながら、 突起の側面を縦になぞるように舌が動く。付け根を一周してまた縦に舐めあげる。 もう片方の先端も、軽く摘んで弾いて、指の腹で撫で上げる。 動きはそれだけ。それがとても、長い、長い時間続けられた。 くねるわたしの体と暴れる四肢で、綺麗に整えられたシーツもくちゃくちゃだ。 息が苦しい。気が変になりそう。行き場の無い快楽の波が、出口を求めて全身を駆け巡る。 (つらい……苦しい……お願い――早く終わって……) 体が火照る。胸はパンパンに張り詰め、その先は痛いくらいに脹れあがっていた。 涙が止まらない。お腹の下は……もうシーツすら濡らすほどだった。 「切ない……切ないよ、美希ちゃん。助け……て、変になっちゃう」 一瞬、愛撫の手が止まった。その再開を恐れて、わたしは美希ちゃんの体に胸をギュッと押し つけた。 荒い呼吸を懸命に整える。 「驚いた。本当に敏感なのね、ブッキーって。個人差があるとは聞いていたけど……」 なぜか美希ちゃんが嬉しそうな顔をしていた。何も楽しいことなんてないのに――。 ちょっと恨めしそうな目で睨む。 「きゃあ!」 再び愛撫が再開される。今度は胸から下に。お腹のすぐ横の敏感な部分を舌でくすぐられる。 「くぅぅぅ」 もう、力なんて入らない。そう思っていたのに、凄い力でシーツを掴み引き寄せてしまう。 おヘソに潜るように美希ちゃんの舌が動く。全身を硬直させてくすぐったさに耐えた。 「あっ――やっ――いやっ――美希ちゃん、そこ嫌っ!」 お腹から更に下がり、太ももの付け根に到達する。秘部のすぐ下、股の部分。 大事なところをわざと避けるように、左右の付け根を舌で責める。 やがて太ももに下がり、また付け根に上がる。 生えかけたばかりの茂みをかき分けながら、舌が円を描いて――迫る。 くすぐったくて、恥ずかしくて、気持ちよくて。そして――もどかしくて……。 もどかしい? して……欲しいと思ってるんだ。 大事な部分を、さわって欲しいと期待してるんだ。私が……。 自分で見たことも無い、触れたことも無い部分を、弄って欲しいと思ってるんだ……。 綺麗だった自分は……もう……いない。 ここに居るのは、秘部を晒して濡らして悶えている――嫌らしい娘。 悲しくなって、涙が溢れてくる。嗚咽を押し殺して、枕を顔に押し付けて泣き顔を隠した。 ついに美希ちゃんの舌がわたしの秘部を捉えた。 なぞるように割れ目を往復した後、指で広げて中まで進入してくる。 核を捉えて舐めあげる。吸い込んで咥える。口の中に含んで舌で転がす。 秘部から脳に目がけて、稲妻に打たれたような快感が走る。体は喜びに震え、心は嫌悪感で塗り つぶされる。 恥かしくて……悲しくて……気持ちよくて……そして――苦しかった。確かな苦痛も伴っていた。 「ううっ――ぐぐっ――むぅ――」 だけど、もう、抵抗する気力も何も残っていない。ただ、ただ、枕を噛んで喘ぎ声を押し殺す。 天国のような快楽? 地獄のような苦悶? どちらなのかすらわからない。 何分経ったのかもわからない。意識が遠くなったり、呼び戻されたり。その繰り返し。 快楽という名の荒れた海に、投げ出された遭難者のように、波が静まるのを気の遠くなる想い で待ち続けた。 ビクン――ビクン――ビクン 突然、体が痙攣する。意のままにならず勝手に動き出す。それなのに、体には力が全然入らな い。 枕を噛む力も尽きて、すすり泣く声だけが響いた。 「ブッキー、泣いているの? 辛かったの? ごめんなさい。丁寧に、慎重にしたつもりだったの」 「違うの、違うの、違うの……」 美希ちゃんの体に抱きついて、すがりついて泣いた。落ち着いてから、ぽつぽつと話し始めた。 わたしは本当は性行為が嫌いだったってこと。その原因。それでも受け入れた理由。 美希ちゃんは何も言わず、ただずっと髪を優しく撫でて最後まで聞いてくれた。 「そう――だったの。言ってくれればよかったのに。ってわけにもいかないわよね。 優しくて、我慢強くて、主張だけは弱いブッキーだものね」 「わたし、汚れ……」 言いかけたわたしの口を、美希ちゃんが唇でふさいだ。 「ブッキーは何も汚れていないわ。アタシたちは女の子同士よ。 それに……体の反応には素直になればいいの。快楽に溺れなければそれでいいの」 プチン――シュル――パサッ 美希ちゃんが全ての下着を外した。スレンダーな、完璧な体のラインが露になる。 肌の色。張りと艶。脂肪と筋肉の見事なバランス。 女の子らしい滑らかな曲線をギリギリに維持しながらも、極限まで絞り込まれた肉体。 息を呑んで見つめた。惹き付けられた。釘付けになった。 「ブッキー、自分の目で見て感じて――。その手でアタシに触れて、愛して――。 そして、汚れているかどうかを確かめて見て」 そこから先はよく覚えていない。ただ夢中で、美希ちゃんの愛撫を思い出しながら、あるいは 指示されながら、繊細な芸術品のような肢体に手を滑らせた。口付けし、舌を這わせた。 ――美しかった。 体つきも、胸も、その先も、首も、お腹も、大切なところも、何もかも。 息使いも艶があり、なめらかで。喘ぎ声までもが、清らかな歌声に聞こえた。 性に対して抱いていたイメージが上書きされる。汚いものという先入観が払拭される。 後悔の涙が、感動の涙に代わる。 わたしは汚れていない。これは汚いことなんかじゃない。 美希ちゃんに愛されたこと。そして愛してあげたこと。それを誇りに思う。 最後に、今度こそわたしの意思で、自分からキスをした。長い、長いキスをした。 (これでほんとうに、みきちゃんのおよめさんになれるかな?) 「なれるよね、きっと。わたし、信じてる」 「え、何か言った? ブッキー」 「ううん、なんでもない。ありがとう美希ちゃん」 「美希た~ん、ブッキー、遅いよ~」 「どうしたの? 美希、ブッキー。なんだか嬉しそうね」 いつもの公園。カオルちゃんのドーナツ屋さん。そしていつものクローバー。 何も変わらない、大切な仲間。大事にしたい風景。長く続いて欲しい時間。 そんな中でも変わっていくものもある。深まっていく絆もある。 ラブとせつなが一本のジュースを二人で飲んでいる。ドーナツを交互に食べ比べている。 でも、もう寂しさは感じない。わたしたちにも繋がった想いがあるから。 「秋ってもの悲しいって思ってたけど、違うね。実りの秋、そして食欲の秋。 わたし、お腹すいちゃった」 わたしは明るくはしゃいでドーナツを頬張った。喉につまらせそうになり、美希ちゃんが自分 のお茶を飲ませてくれた。 「あんまり調子にのって食べると、太るわよ? ブッキー」 「ひどい! わたしは太ってないもの。ちゃんと計算してるもの」 知ってるわよ、アタシが一番ね。そう言って悪戯っぽく笑った。ラブとせつなもキョトンとし ながらも、つられて笑顔になった。 わたしは真っ赤になって俯いた。 今から訪れる、これまでと少しだけ違った毎日。 愛している。愛してくれる人がいる。 手を取りあって、生きて行きたいと思える人がいる。 新たなる誓いを胸に共に歩いていこう。そして、一緒に幸せをつかめるって。 ――わたし、信じてる。
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「それでね、せつなったらおかしいんだ」 にこやかな笑顔を見せるラブ。 そうかしら。あたしはそんなの、普通だと思うけれど。 「聞いて。せつなったらひどいんだよ」 怒った、というよりは、拗ねた顔をするラブ。 そうね。せつなったらホントにひどいわ。 「どうしよう。せつなに嫌われちゃう」 泣きそうな顔で俯くラブ。 そう、嫌われちゃったのね。あたしなら、ずっとあなたの側にいてあげるのに。 口を開けば、せつなのこと。 楽しそうに。悲しそうに。怒ったように。泣いているかのように。 色んな表情を見せながら、ラブはせつなのことを話す。 ホント、うんざりしちゃう。 なんて言ったら、どういう顔をするのかしら。 驚く? 怒る? それとも――――泣いてくれる? 冗談よ。言うわけないわ。 だって。あたし。 ラブのことが、好きだから。 Thesis of A Cruel Angel この気持ちに気付いたのがいつか。 それはもう、わかってる。 中学に入った頃だ。 幼馴染のあたし達。ラブとブッキー、三人いつも一緒だった。 一緒に学校に行って。一緒に遊んで。 ホント、ずっと一緒だったなぁ。 けれど、あたし達の道は違えた。 原因は間違いなく、あたし。 あたしには夢があった。小さな頃からの夢。 モデルになりたい。モデルになって、世界中の人に希望を与えたい。そんな、 子供じみた夢。ま、本当に子供だったんだから、しょうがない。 中学校に上がる時、今の学校を選んだのは、芸能活動に理解があったから。 公立の学校に行ったら、束縛されることも多いだろう。一日でも早くモデルと して活躍したかったあたしには、それが耐えられなかった。 「えー。美希タン、一緒の学校に通わないの?」 「ええ。あたし、中学に上がったら、もっともっとモデルとして頑張りたいの」 ごねるラブに、あたしは毅然として言った。 その頃のあたしは、色んなオーディションを受けていて、その中のいくつかには 通っていた。まだそれは、雑誌の端っこの方に載るぐらいだったけれど、でも、 確かな前進だった。 その歩みを、止めたくはなかった。もっと多くの活躍の場を手に入れたいと思った。 だからあたしは、ラブ達と別の道を歩むことを決めた。 最初は少し拗ねていたラブも、やがてあたしの決意が固いのを知ると、応援 してくれるようになった。寂しそうにしていたブッキーも、何か思うところが あったのか、ラブともあたしとも違う学校に進学することを決めた。 そうしてあたし達は、別々の学校に通うことになり、いつも一緒、ではなくなった。 といっても、引っ越すわけでもなければ、喧嘩をしたわけでもない。 会いたくなったら、いつでも会える。こんなに近くに住んでるんだから。 だから、笑顔でお互いを見送ろう。そう、思っていた。 小学校の卒業式では、さすがに少し、泣いちゃったけれどね。 そして、待ちに待った中学生活。 想像以上に、楽しいものだった。クラスメイトにも恵まれたと思うし、モデル の仕事もいい感じ。 順風満帆、あたし、完璧!! ――――って、そう思ってたんだけど。 いつからか。 物足りなくなっていた。 不満があるわけじゃない。新しい友達は楽しいし、仕事場で会う人達は、厳しい けれど優しくもあった。これを不満に思ったら、バチが当たるだろう。 じゃあどうして。 ある日の放課後。一人で教室に残って、考えてみた。 どうしてあたし、物足りなく思ってるんだろう、って。 夢をかなえることに、確かな手応えを感じている。少しずつだけど、理想の 自分、完璧な自分に近付いていっているという認識もある。 なら、どうして。 思ってた時に、携帯が鳴った。見ればそれは、ラブからのメール。 『美希タン!! もう学校、終わったのかな? 終わったんなら、カオルちゃんの ドーナツカフェにGo!! ブッキーと二人で待ってるよ~ん』 顔文字と絵文字がたっぷり入った、ラブらしい、可愛いメール。 それを読んだ時、何故か胸がジーンと熱くなった。塞ぎこんでた気持ちが、 一気に晴れやかなものになった。 すぐに鞄を持って、外へ駆け出したわ。早く会いたい一心で。 その時、気付いたの。 あたしが、何を物足りなく思ってるのかってこと。 それはね。 あたしの見ている風景の中に、ラブ、あなたがいないことが寂しかったのよ。 学校は楽しい。でも、ラブがいたらきっと、もっと楽しい。 仕事は辛いことだってある。でも、ラブがいたらきっと、負けずに頑張れる。 ラブの待つドーナツカフェに向かいながら、あたしはようやく自分の気持ちに 気付いたの。 あたし、ラブのことが好きだったんだ。 その時、初めてあたし、後悔したわ。ラブと違う学校にしたことを。 同じ学校に通ってたら、もっと側にいられたのに。ずっと長く、一緒にいられ たのに、って。 それでも、状況に負けてはいられなかった。 今まで以上に、ラブ達と一緒の放課後を過ごそうって決めた。 気心の知れた幼馴染とよく遊ぶのは、不思議なことじゃないもの、ね。 やがて時は過ぎ行き。 あたしの気持ちは、徐々に徐々に、大きくなっていった。 会えない時間が、胸を痛めるようになった。 ダメね。あたし。全然、完璧じゃない。自分から、決めた道の癖に。 そんなあたしだったから、プリキュアになったこと、一緒にダンスをするよう になったことは、すごく嬉しいことだった。 だって、たくさん会える理由が出来たってことだから。 モデルとプリキュア、そしてダンス。三つをいっぺんにこなすのは大変だったし、 諦めなきゃいけないこともあったけれど、でも。 ラブが、いてくれたから。 そんなあたしの前に現れた、少女。 東せつな。 デート、って言葉をラブが口にした時、内心、ドキッとした。 この想いを自覚した時からずっと、覚悟はしていたつもり。 ラブ自身は気付いてないみたいだけど、彼女は男の子からの人気が高かった。 元気で、明るくて、可愛くて。 ラブだっていつか、誰かに恋をする。あたしの知らない誰かに。告白することや、 告白されることだって、きっと、ある。 とうとう、そんな日が来たのね。 覚悟を決めていた筈だったけれど、いざとなると、やっぱり。 だから、ラブの相手がせつなだってわかって、ほっとした。なんだ、女の子 だったんだ、って。 けれど。 ほっとしたのは、間違いだった。 それからのラブは、新しい友達のせつなにぞっこんだった。 もちろん、あたし達との時間も大切にしてくれた。プリキュアも、ダンスも、 友達も。ラブは何かもを手に入れようとするから。ひたむきなのよね、何事にも。 欲張りって言うことも出来るけど。 けれど、それにしたって。 ラブの、せつなへの興味は、日に日に増していった。あたし達の知らないところ でも、会ってたみたいだし。 あたしはといえば、彼女のことを、不気味に感じていた。ラブに変なことを 吹き込んだり、ラブを惑わせようとしたり。 ラブを傷付けようとしてるなら、許さない。 そう思っていたこともあった。 そして。 あたしの勘は、正しかった。 「ピーチ!! 彼女は敵よ!! せつなは、ラビリンスだったのよ!!」 東せつなは。 ラビリンスの人間。イースだった。 いつも元気な彼女だからこそ、塞ぎこむラブの姿は、見ていられなかった。 何よりも、思い知らされる。彼女の心の中で、せつながどれだけ大きい存在 だったかということを。 こんなに沈み込んでしまう程、ラブは、せつなを大事に思っていたなんて。 悲しみは、怒りに変わる。 せつな。せつな。どうしてラブを、あたしの大好きな人を、こんなに傷付けて しまったの。 「せつななんて子は、いなかったのよ」 心を鬼にして言った言葉。ラブを奮い立たせようとしたのは、間違いない。 けれど、ほんの少しだけ、黒い気持ちがあったことは否定出来ない。 せつななんて子はいなかった。だから気付いて。もっと側に、あなたのことを 大事に想う人がいるってことに。 ピーチと、イースが、思いの丈を拳に乗せてぶつかるのを見て、あたしは。 羨ましく、思った。イースのことを。 あんな風にあたしも、受け止めてもらえたら、と。 そして、思った。 せつなは、ホントは真っ直ぐな心の持ち主なんだ、って。 イースという姿は、鎧。自分を守る為に、作り上げられた存在。 あたしは、その表面しか見ていなかった。 ラブに見えていたものが、あたしには。 キュアパッションとして生まれ変わり、ラブの家に住むようになったせつな。 あたし達とも、少しずつ、仲良くなっていった。 最初は二人きりだと、気まずくて、ぎこちない時もあったけど、今は平気。 二人でお出かけだってする。 時々、頓珍漢なことを言ったりするのはご愛嬌だけど、可愛らしくて頼りになる、 大切な仲間。 でもね。せつな。 やっぱり、あたしにとってあなたは、ライバルなの。 恋の敵と書いて、ライバルよ。 だってあなたは、ラブの心を奪っていってしまったから。 あなたといる時のラブは、すごく輝いている。 あなたの話をする時のラブは、すごく楽しそう。 そのどれも、あたしには向けられたことのないもの。 ――――せつなみたいに可愛くて、いい子になら、負けたって仕方ない。 それに、二人はお似合いだし。せつなになら、ラブを託せる―――― ――――なんてこと、絶対に思えない。 たとえ本当に、二人がお似合いだったとしても。世界中の人が、祝福したとしても。 あたしはそれを、認めたくない。 どす黒い感情が、心の奥底に溜まっていく。 ドロドロと薄汚れて、粘っこくて。あたしの心を侵していく。 だって、仕方ないじゃない。 あたしはラブが好き。 ラブの全部が好き。 それは恋。 そして恋は、エゴイスティックなもの。 自分だけのものにしたい。 あたしだけを見てて欲しい。 側にいて。誰かに心奪われないで。 影が囁く。 手段を選んでる場合? 奪ってしまえばいいじゃない? 簡単よ。あなたはラブの一番の親友。とても信頼されている。 少しずつ、少しずつ。 毒を流し込んでいけばいい。ラブとせつなの間に。 そうして壊していけばいい。ラブとせつなの仲を。 恋をしているから。 恋する女の子は、強いから。なんだって、出来るから。 だから今日も、あたしは、ラブと話をする。 「それでね、せつなったらおかしいんだ」 にこやかな笑顔を見せるラブ。 「ホントに? フフ、おかしいの」 あたしは、ラブと一緒になって笑う。 「聞いて。せつなったらひどいんだよ」 怒った、というよりは、拗ねた顔をするラブ。 「まぁまぁ。せつなだって、本気で言ってるわけじゃないんでしょ」 あたしは、とりなすように言いながら、せつなを庇う。 「どうしよう。せつなに嫌われちゃう」 泣きそうな顔で俯くラブ。 「大丈夫よ。せつながラブを嫌うことなんて絶対に無いから」 あたしは、力強くそう言って、ラブを励ます。 心と、裏腹に。 あたしはラブとせつなを応援する。 そう。 恋をしているから。恋する女の子は、強いから。 自分の心の弱さにだって、負けたりなんてしない。 だって。 あたしが好きなのは、笑顔のラブだから。 自分の言葉で、ラブが悲しむ姿は見たくない。 笑っていて欲しいの。ラブ。 それに。 とても困ったことだけど。 せつなが悲しむ姿も、見たくない。勿論、ブッキーの悲しむ姿も。 恋という程の気持ちではないけれど、あたしはせつなのことも、好きになって しまったんだ。 恋敵と書いてライバル。そして親友とも言う。 友達の信頼を裏切るなんて、全然、完璧じゃない。 そして、結局。 あたしはラブを笑わせる。笑顔が見たくて。 「――――そうかな? 嫌われたりしてないかな?」 上目がちにあたしを見るラブの不安そうな表情に、あたしは大きく頷く。 「絶対に、大丈夫よ。それにね、悪いのが自分だってわかってるなら、ちゃんと 謝ればいいじゃない。せつななら、受け入れてくれるわ」 「――――うん!! そうだね!! ありがと、美希タン!! アタシ、早速、謝ってくる!!」 そう言うやいなや、立ち上がって駆け出すラブ。その心の先には、東せつな、 ただ一人の姿だけがあって。 あたしの気持ちに、気付くことなく。あたしを置いて。 彼女は、走っていく。 その背中に、あたしは翼を見たような気がした。 天使の翼。 うん。 彼女は、天使。 無邪気で、残酷な。 手の届かない、存在。
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1.ラブ 今日は日曜日。しかも特別な日曜日。 ラブはオーブンの前で待機中。 「3・2・1。出来たー!」 チン!という音がするやいなや、ラブは蓋を開け、中から熱々のものを取り出す。 火傷しないように気をつけながら、粗熱をとるために網の上に載せてゆく。 まだ熱々のそれらから漂う香ばしい匂い。焼き加減も申し分ない。 んー美味しそう。これならきっと、幸せゲットできそう!心の中でそう呟いてラブはにんまりした。 「焼けたの?ラブ」 洗濯を終えたあゆみが近づいてくる。 「うん!見て見て上出来!」 「ホントね~。これなら売ってるのにもヒケを取らないわ。誰にあげるの?」 「な・い・しょ!」 「ま!勿体つけないで教えなさい。お母さん誰にも言わないから」 思わず言いそうになるのをグッと堪え、ラブは話をそらす。 「そんなことより、お母さん買い物は?お父さんにあげるの買いに行くんじゃなかったの?」 「あ!いっけない。行って来なきゃ。そういえばせっちゃんは?」 「買い物に行ってるよ。お母さんと同じ目的じゃないのかな」 「そう。お父さんきっと喜ぶわね。夕飯はお父さんにリクエストされたメニューでいいでしょ?」 「うん。何作るの?中華?」 「そうよ。お父さん中華大好きだから。じゃあ行って来ます」 「行ってらっしゃい!気をつけてね!」 玄関であゆみを見送ると、ラブはキッチンへと戻る。 お次はラッピングの準備。冷ましてる間にメッセージカードも書いて……と。ああ忙しい。だけどそれが、たまらなく楽しくもあって。 贈る相手の喜ぶ顔を想像しながら幸せな気持ちになり、ラブは黙々と作業を続けた。 2.せつな クローバータウンの様々なお店が建ち並ぶ商店街。買い物を終えたせつなは、リンクルンを取り出し、一番始めに登録された番号に電話をかける。 「あらせつな、どうしたの?」 「美希、今話してて大丈夫?」 「ええ。ブッキーとは夕方デートだから。で、どうしたの?」 「ちょっと教えてほしくて……バレンタインのこと」 せつなは、金曜日と土曜日の出来事を美希に話した。 金曜日、由美たちから「ちょっと早いけど、バレンタインデーが日曜日だから」と言われ、友チョコを渡されたこと。バレンタインデーを知らなかったこと。 土曜日、お母さんからバレンタインデーについて聞いたこと。本来は、大好きな男の人にチョコレートをプレゼントして愛を告白する日だけど、最近は女の子同士でチョコをプレゼントし合うのが流行っていること。 せつなの話を一通り聞くと、美希は聞き返す。 「それで?せつなはアタシに何を聞きたいワケ?」 「あの……わたし、ラブにチョコレートを渡したいなあって思うんだけど……ヘンかしら」 「どうして?アタシだってブッキーに渡すわよ」 「だから……その……先輩として聞きたいのよ」 「ああわかった。ラブに告白したいのね?」 せつなの頬はみるみるうちに朱色に染まる。 「まあ、そうなんだけど……」 「あんたたち見てると焦れったくて。 出会ってもうすぐ一年になるのに、おまけにひとつ屋根の下に暮らしてていまだに何もないだなんて奥手もいいとこ。 早くくっつけばいいのにってブッキーも言ってたわよ?」 「みっ、美希みたいに手が早くないだけよ!」 「言うわねせつなも……まあいっか。それで?どんな風に告白したいの?」 「それがわからないから貴女に相談してるのに……」 「そりゃそうか。うーん……そうね。ラブは単純だから、せつなの正直な気持ちをありのまま伝えるのが一番いいんじゃない?回りくどいのはやめた方がいいかも」 「正直な気持ちを……ありのままに……。うん!ありがとう美希!」 せつなは通話を切り、走り出す。桃園家へと。ラブのもとへと。 3.美希と祈里 「ちょっ、せつな!?」 せつなからの電話は、すでに切れていた。 ったく、せつなもラブとたいして変わらないわね。お互い走り出したら止まらない性格、お似合いよ。あーあ、アタシも早くブッキーに会いたいなあ……。 祈里の代わりにクッションを抱きしめ、ベッドに横たわる美希。 そこへ、ダダダダッと階段を駆け上がる音。 ばたーん!!勢い余って開くドア。 「ハア……ハア……美希、ちゃん……お待たせ……」 弾む息が整うのも待てずに言葉を紡ぐ少女は、後ろ手にドアを閉めるとドアの近くに紙バッグを置いた。 美希へと近づいてくる彼女は、フリルのレースが可憐な黄色いワンピースを身につけている。 「ブッキー!病院はもういいの?」 驚いた美希が身体を起こす。 「うん……急患のコの容態が落ち着いたから。それに……早く会いたくて」 言い終わると同時にベッドにいる美希にダイブする祈里を、受け止めきれずに倒れ込む美希。そのまま二人は横たわったまま、見つめ合う。 「もうブッキーったら……けど、アタシも会いたかった……」 「嬉しい、美希ちゃん……」 「――――そのワンピース」 「うん。昨日届いたの。すごく気に入ったよ!ありがとう、美希ちゃん」 バレンタインのプレゼントにと、美希が知り合いのスタイリストに頼んで買ったものだった。 「予想通り完璧に似合うわね!」 祈里を力いっぱい抱きしめる美希と、そんな美希を力を込めて抱きしめ返す祈里。 「あ、大事なこと忘れてた」 そう言って祈里が起き上がり、ドアのそばに置いた紙バッグを取り、美希に差し出した。 「気に入ってもらえたら嬉しいんだけど……わたしからのプレゼント」 中からはふたつの包み。ひとつはチョコレート。もうひとつは――――蒼い猫のブローチ。 「ラピスラズリよ。幸せを呼びこむって謂われがある宝石なんですって」 「嬉しい……スッゴク嬉しい!ありがとうブッキー」 「わたしこそ……」 自らがかもしだす甘い空気に包まれて、距離を縮めていくふたり。お互いの瞳の中に映り込んだ自分が見えて、少し照れながらキスをかわした。 それは、チョコレートよりも甘い甘い、甘いキス。 4.ラブとせつな 「ラブーーーッ」 ただいまも言わずに家に飛び込み、ラブを捜すせつな。 ラブはキッチンにいた。プレゼントの準備はすっかり整っている。 「あ、おかえりせつな。お母さんに会わなかった?」 「え?ううん、会ってないけど……」 「じゃあ置き手紙して行こう」 ラブは小さな紙にあゆみへのメッセージを書く。 『お母さんへ。ちょっとせつなと出掛けてくるね。夕方には帰ります。中華作るの手伝うよ!』 「よしっと。じゃあ行こうか」 「え?どこに行くの?」 「バレンタインプレゼントを渡しに!」 告白のタイミングを完全に失ったせつなは、仕方なくラブについていくことにした。 渡すのは、ラブ特製、てのひらサイズのチョコタルト。 まずラブの部屋にいたタルトに。シフォンにも。 「いつもありがとねタルト!はいこれバレンタインだよ。ラブさん特製、タルトとおんなじ名前のチョコタルトっていうお菓子だよ」 「わいとおんなじ名前のお菓子かあ。ピーチはん、おおきに!めっちゃ美味しいでえ!」 「キュアキュアー!」 由美、ミユキさん、カオルちゃんにも渡しに行くと聞き、せつなはアカルンを取り出す。早く終わらせて、ラブに話がしたかった。 皆はとても喜んでくれた。 「ラブ、あとは?」 「美希たんとブッキーだよ」 「美希とブッキーなら、夕方デートだって言ってたわ」 「じゃあレミさんに渡しておこう」 ふたりが美容院に入ると、レミが迎えてくれる。 「あら、いらっしゃい。美希と祈里ちゃんなら上よ」 「あ、いいんです。これ、後でブッキーが帰る時にでも渡しておいて下さい」 上がるようにすすめてくれるレミに、ラブはふたつのチョコタルトを手渡し、店を後にした。 「きっと今頃いちゃついてるよ」 「そうね。ねぇラブ、まだあとひとつ残ってるけど……お父さんの?」 「まあね……さ、帰ろうか」 「その前に……今度はわたしに付き合ってくれない?」 せつなはアカルンを起動し、自分とラブを天使像の前に移動させた。 「せつな?」 さっきから無言のままのせつなに、ラブが声をかけるが、反応はない。 「…………」 何か言おうとするが、せつなは声が出なかった。駄目だ。いざとなったら頭が真っ白になって、言葉が全然出てこない。 何も言えなくなってしまったせつなに、助け舟を出すようにラブが切り出した。 「――――ホントはね、夕御飯を食べたあとに、部屋で渡そうと思ってたんだけど」 最後に残ったチョコタルトを、そっとせつなに差し 出す。 「これ、お父さんのじゃ……?」 「お父さんのは家に置いてあるよ。これはせつなのために焼いたの。見て」 タルトを受け取ったせつなが透明なセロファン越しに見たものは、焦げ茶色のチョコタルトに白いサインチョコで書かれた『せつな大好き』の文字。 「やだラブったら……わたしが先に言うつもりだったのに……」 笑いながら言うせつなの瞳に涙が盛り上げり、頬を伝う。 「せつな、あたしまだ何も言ってないからね。先に言っていいんだよ?」 ラブがくれた勇気を胸に、今ようやくせつなは想いを伝える。もう隠せないくらいに溢れ出した、ありったけの想いを。 「わたし……初めて会った時、恋をしたの。ラブ……貴女に。 あれから随分いろんなことがあったわね。だけど、この気持ちだけは少しも変わらなかった。ううん、どんどん大きく、強くなっていく。 ラブ……貴女が好きです。世界中の誰よりも。これからも、ずっと一緒にいたい」 「――――はい」 「それって……」 「オッケーってこと!!」 ラブはせつなに駆け寄り、抱きしめる。 「ちょっとラブ!タルトが崩れちゃうわ!」 「わはー!ごめんごめん、あんまり嬉しくってさ、つい」 ラブがいったん離れると、せつなはタルトをベンチに置き、改めてラブのそばに行く。 「これからも……よろしくお願いします」 「こちらこそ。家族でもない、友達でもない、せつなはあたしにとって特別な――――大切な恋人だからね」 抱きしめ合う。今まで何度したのかわからない。だけど、恋人同士になってから初めての、抱擁。 早鐘のような自分の心臓の音を感じながら、互いを見つめ合う。 やがて、せつなはラブの、ラブはせつなの唇へと視線が移り……。ほんのり色づきまるで濡れているような唇は、少しだけ開いて互いをいざなう。 すいこまれそう……せつながそう想った瞬間。 ラブの唇が触れた。 確かにその時、世界は動きを止めた。 ぎこちなくて、粗っぽくて、どうしようもなく子供っぽいくちづけ。 これからも幾度となくキスをするだろう。もっと大人っぽいキスもするだろう。 だけど、この初めてのキスをふたりは忘れない。それは、特別な日の、特別な人との、初めての特別なキスだから。 避2-3は後日談ですが18禁につき閲覧注意
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風邪ね、とお母さんに言われた。今日は学校、お休みしなさい、とも。 大丈夫、と強がろうと思ったけれど、お母さんの厳しい目付きを見て、素直に頷いた。 普段は優しいお母さん。でも、怒らせると怖いことは知っている。 「せつな、大丈夫?」 「平気よ。気にしないで、学校に行って?」 遅刻ギリギリに出るまで、ラブは私の側にいてくれた。おかげで髪を梳けなかったのだろう。お気に入りの髪型 じゃなく、下ろしたまんまで走って出ていった。 ごめんね、ラブ。 「大丈夫かい? 今日はゆっくり寝てるんだよ」 「わかったわ、お父さん」 出かける間際に、お父さんも部屋に来てくれた。ゆっくりと頭を撫でてくれる。 なんとなく、ほっとする。大きな、お父さんの手。優しくて、あったかい。 ありがとう、お父さん。 「んー、やっぱり私、今日はお休みしようかしら」 「心配しないで、お母さん。ちゃんと横になってるから」 パートの仕事を休もうとするお母さんに、私は何度も平気と言った。お薬を飲んで、だいぶ楽になったから、と。 ちょっとだけ、嘘。でも、心配をかけたくはなかった。 結局、何度も何度も、何かあったら連絡するのよ、と言って、お母さんは出て行った。 行ってらっしゃい、お母さん。それから、嘘付いてごめんなさい。 お母さんが出かけていってから、大人しくベッドに入っていた私。熱で少し朦朧とする頭。 やがて本当に薬が効いてきたんだろう。 気が付いたら私は眠っていた。 弱気の虫 夢を見ていた。 ラビリンスにいた頃の夢。 灰色の街。どんよりと暗い空。鈍く輝く太陽。 その中を、足並みをそろえて歩く人々。 ただ前だけを見ている。その視線は、けれど、誰も見ていない。 立ち止まった私。でも、誰も私のことなど気にしていない。 それが当たり前だと、思っていた。 人は一人で生きていくもの。友情や愛情なんて言葉は、それが出来ない弱さを隠す為の嘘っぱちだと思っていた。 まどろみから、ゆっくりと目が覚めていく。チク、タクと時を刻む部屋の時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。 短針が指し示すのは、十三時。長針は、十五分のちょっと前。 「目、覚めたんか?」 「キュアー?」 心配そうな声に、顔を向けると、そこにはタルトとシフォンの姿があった。二人とも、その表情を曇らせていて。 「平気よ、これぐらい」 笑って言ってみるが、自分でもわかるぐらいに弱々しい。私のその様子に、タルト達は余計に心配そうな顔になる。 ほぅ、と息を付きながら、布団の中から手を出して頬に当てる。やっぱり、まだ熱い。汗をかくほど体は熱いのに、 背筋はゾクゾクと寒いまま。そして全身が、気だるい感じ。 「なんかして欲しいことあるか、パッションはん」 タルトの言葉に首を横に振ってから、私はベッドから起き上がる。やっぱり体は重いし、ちょっとだけフラフラする けれど、立てない程じゃない。 「なんや、どないしたんや? 無理せんときやー、何か欲しいもんがあったら、わいが取りに行ったるさかい」 いつも以上に多弁になって、私を寝させようとするタルトに、私は小さく、 「おトイレよ」 「あ・・・・・・えろうすんません」 おトイレの後、私はタルト達と一緒に一階に降りる。寝ていたせいで、まだお昼ご飯を食べてなかったから。 本当は食欲はなかったけれど、食べないとお薬を飲めない。だから、ちょっとでもいいから食べなさい、と お母さんに言われていた。 鍋の中のおかゆをあっためて、お皿によそう。 「梅干を入れるとええで」 タルトの言葉に、冷蔵庫の中から梅干を探して、その身をほぐしておかゆに混ぜる。見ているだけで酸っぱくなる 口の中。どして? 「ちぃっと食欲、出るやろ?」 「うん、ホントね」 タルトの言う通り、思っていたよりはすっとお腹に入っていった。心なしか、少し元気になった気がする。 そういえば、お母さんが、冷蔵庫の中にリンゴをすったのが入ってる、って言ってたっけ。 探してみると、ラップがされたお皿があった。それを開けて、食べ始める。ヒンヤリほど良く冷たくて、気持ちがいい。 なんだか熱も下がってきたみたい。 「シフォンも食べる?」 「タベゥー」 小皿によそって、シフォンにもお裾分け。タルトにも、ちょっとだけ。 だいぶ良くなってきたけれど、お薬を飲んで、またお布団に潜り込む。タルトとシフォンは、寝るのを邪魔しないようにと 気を使ってくれて、今は一人きり。 ほっぺに触ってみる。だいぶ、熱くなくなってきた。けど、油断は禁物。私は目を閉じる。 けれど、なかなか寝付けない。 目を開けて、天井を見る。そっと、耳をすませてみても、何の音も聞こえない。時計が時を刻む音以外は、何も。 ぼんやりとそうしているうちに、ふと、気付く。 そういえば、こんな風に病気で寝込むなんて、初めてのことだったっけ、と。 ラビリンスにいた頃に、私は風邪などひいたことがなかった。何しろ、寿命ですら管理される世界。体調だって全部、 管理されていた。病気で寝込む、なんてことはありえなかった。 だから、というわけではないだろうけれど。 不意に、寂しくなった。 ラブがいない。お母さんがいない。お父さんもいない。 タルト達はいる。けれど今はお昼寝でもしているのだろう。呼べば来てくれるだろうけれど、そこまでは。 一人。部屋に、一人。 あれ? 私、こんなに寂しがりやだったかしら。 横になって寝ているだけなのに、どんどんと弱気になってくる。 寂しくなってくる。 イースだった頃。 私は、いつも一人だった。 ウエスターやサウラーと一緒に暮らしていたけれど、それはただ一緒に暮らしていたというだけだった。 干渉されたくなかったし、干渉するつもりも無かった。 一つ屋根の下に暮らしていても、家族なんて言葉とは程遠い。食事だって別々だし、他の二人が何をしてるか なんて、まったく興味がなかった。まったく顔を合わせずにいたことだって、しょっちゅうだった。 時々、ウエスターが思い出したように構ってくることがあったけれど、ウザい、と一言で切り捨てていた気がする。 そんな私が、今は、一人の部屋に、寂しさを覚えている。 不安を覚えている。 もしかしてラブ達は帰ってこないんじゃないか。私はずっと一人、ここにいなきゃいけないんじゃないか。 なんて、そんな馬鹿げた想像をして、勝手に怖がっている。 今までそんなこと、考えたことも無かったのに。なんでだろう、弱気の虫が騒いでる。 私。弱くなったのかしら。 そんなことを考えているうちに、またまどろんでいたらしい。 今度は夢を見なかった。 目を覚ますと、額に置かれた冷たいタオル。ひんやり気持ち良い。 「あ、起こしちゃった?」 小さな声に、私が目を動かすと、申し訳なさそうな顔のラブがいた。 「ラブ・・・・・・帰ってきてたの?」 「うん。割と前にね」 ニッコリと笑う彼女の服の裾を掴む。ギュッ、と掴む。 私のその行為に、少し驚いた顔をした後、ラブは小さく笑いながら言った。 「寂しかった?」 「――――!! ・・・・・・うん」 見抜かれて。 私は戸惑いながらも、小さく頷いた。そんな私の頭を、ラブはゆっくりと撫でてくれて。 「大丈夫だよ」 その笑顔は、優しくて、あったかくて。ちょっと、ラブのお母さんの笑顔に似てる。 キュンとせつなくなる胸。やだ。涙が出そう。たったこれだけのことなのに。 熱が出ると、涙もろくなるのかしら。 「アタシもね、風邪を引いた時、一人で家にいることがあってさ」 ベッドの端に顎を置いて、私と同じ高さの視線で、ラブはゆっくりと言う。 「すっごく、寂しかったんだ。病気なんだけど、なんだか寝付けなくて。けど起き上がれる元気はなくて、みたいな」 ちょうど、さっきの私と同じかしら。 「お父さんもお母さんも、このまま帰ってこなかったらどうしよう・・・・・・って、考えたりしてさ。自分が世界で一人ぼっちな 気がしちゃったりとか」 やっぱり、私と同じみたい。 「意外ね。ラブってそういうこと、考えなさそうなのに」 「うーん、やっぱり病気にかかると、弱気になっちゃうのかも」 苦笑するラブ。普段の元気いっぱいなラブしか見ていないから、そんな彼女の姿が思い浮かばない。 「だから、せつなももしかして寂しいと思ってるかなって、急いで帰って来たんだよ」 ニッコリと、また優しい微笑み。それにね、とラブは続ける。 「多分、今頃――――」 言いながら、彼女は枕元の私の携帯を開いて、覗く。そしてうん、と頷いて、私に渡してくる。 寝る時にサイレントモードにしていたから気付かなかったけれど、いっぱいメールが入っていた。友達や、お父さん、 お母さんから。その中には美希や祈里の名前もあった。 開けてみると、どれも私のことを心配する内容。 「学校でね、せつなが病気で休みだって話したら、皆、すっごくせつなのこと心配してたよ」 頬を涙がつたって、こぼれ落ちる。 やだ。やっぱり私、涙もろくなってる。 胸がジーンとして。一通一通、見るたびにジンワリ涙が溢れてくる。 ああ、そっか。 私、弱くなったんじゃないんだ。 ラブやお父さん、お母さん、友達がいることに慣れちゃってたんだ。 だから、皆がいないことが寂しくなったんだ。 ラビリンスでは、風邪をひくことが無いかもしれないけれど、私を想ってくれる人もいなかった。だって、ずっと一人だから。 けど、この街では、この世界では。 こんなにも皆が、優しい。当たり前過ぎて、忘れてしまいそうになっていたけれど。 だとすれば。 この寂しさも、弱気の虫も、幸せの一つ、と言えるかもしれない。 だって、私に思い出させてくれるから。 貴方はこんなにも愛されているのよ、ということを。 友情や愛情は、弱さを隠す為の嘘っぱちなんかじゃない。 それは時に人を寂しくさせてしまうけれど、でも。 想うこと、想われることは、力になるから。一人で生きていては、絶対に出せない力を。 「ね、せつな。早く元気になろうね」 「ええ――――精一杯、頑張るわ」 治ったら私、皆に言うわ。 一人で生きていたら、絶対に言わない言葉を。 ありがとう、って。
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図書館に本を返しに行った帰り、せつなちゃんにばったり会った。 わたしを訪ねて来るところだったんですって。 でも、ラブちゃんと一緒じゃないなんて珍しい。 「ブッキーって読者家よね。」 図書館帰りだと言うと、そうせつなちゃんが微笑む。 本当はほとんど読まずに返しちゃったんだけど。 三冊借りたけど、全然読む気になれなかった。 退屈しのぎに借りたつもりだったのに、暇潰しする気にさえなれない。 相変わらず、美希ちゃんからはメールも電話もなくって。 美希ちゃんやラブちゃん、せつなちゃんと一緒なら時間潰しなんて しようとも思わないのに。 一日が物凄く長く感じて、それなのに何もする気になれない。 自分から連絡すればいい、って言うのは分かってる。 でも、わたしからメールしてもし返事が来なかったら。 電話しても繋がらなかったら。 最初に無視したのはわたしなのにね。 「一人なんて珍しいね。どうしたの?」 「うん…。ブッキーと少し話したくて。」 この間のダンスレッスンの時の事、よね。 やっぱり、気にしてたんだ。うん、気にしない方がおかしいよね。 あんなにジトっとした目で見られたら。 きっと、せつなちゃんは自分を責める。知っててやってたよね、わたし。 せつなちゃんを困らせたって何にもならないのに。 ラブちゃん、呆れただろうな。それに、美希ちゃんも。 「あのね、ブッキー。今から私が聞く事、たぶん答え辛いと思うの。」 「…え?」 「でもね、私も聞きづらいのよ。だから、聞いたからには ちゃんと答えるって約束してくれる?」 何それ?何だか怖いんだけど……。 でも、こんな真剣な顔のせつなちゃん。嫌…とは、言えない雰囲気で……。 「お願い。」 「わ、分かった。」 「本当ね?」 ちょっと、本当に怖いかも。 何聞かれるんだろう……。 せつなちゃんは「いい?」と問い掛けるように見つめてくる。 やっぱり嫌、……とは、言っちゃ駄目、よね……。 「ねぇ、ブッキー。私が羨ましい?」 思わず、足が止まった。 「私に、嫉妬してる?」 足が震える。 「せ、せつなちゃんっ。そ、そう言うこと、面と向かって言うのって どうかと思うのっ!」 手足の指先は冷たいのに顔が熱い。 恥ずかしさに体が震える。カアッと一気に瞼が熱くなって、泣き出しくなった。。 「あぁ、ごめんなさい。私、空気読めないから。」 それも自分で言う事じゃないと思うの。 どうして、こんな。せつなちゃんは人を馬鹿にしたり、見下したり する子じゃないと思ってたのに。 それとも、本当に悪気なく聞いてるの? それにしたって…… 「ね、約束よ。答えて?私、分からないわ。 ブッキーが羨ましがるような物、持った覚えないんだもの。」 「…………せつなちゃんは…すごく、綺麗……。」 「それだけ?」 「……頭が良くて、運動神経も良くって…ダンスだって……。それに……」 「それに?」 「……ラブちゃんと……」 唇を噛み締めた。言葉が続かない。すごく、惨めな気分。 なんで、せつなちゃん。なんでこんな事言わせるの? 「…なんだ。それだけなんだ。」 「…!」 「そんなもの、ブッキーはもう全部持ってるじゃない。」 思わず、顔を上げてせつなちゃんを見る。 わたしを馬鹿にしてなんか、ない? すごく、優しい顔。そして、少し悲しそうな顔。 ねぇ、ブッキー。私、確かに数学得意よ。教科書見たとき驚いたもの。 この年で、まだこんな初歩的な問題やってるのかって。 運動神経もね、体育の時間とかびっくりよ。 みんななんであんなにダラダラ走るのかしら? 体も固いし、全然真剣じゃないの。あれで上達するものなんてないわよ。 みんな私の事、すごいって誉めてくれた。何でも出来るって。 でも、何で私が出来るかわかる? 「それしか、やってこなかったから。他の事、何一つやってないからよ。」 ブッキー。私、学校に行き始めた時、毎日ヒヤヒヤしっぱなしだったわ。 何か変な事言ってないか。おかしな行動してないかって。 前にね、クラスでお喋りしてて私が「桃太郎」を知らなくて すごく微妙な空気になった事があったの。 ラブがフォローしてくれたけど、こちらの人は、それこそ五歳の子から お年寄りまで知らない人なんていないのよね。 調べて驚いたわ。たくさんあるのね、「おとぎ話」って。 ねぇ、ブッキーはいくつ「おとぎ話」を知ってる?きっと数えきれないわよね。 いくつ歌を歌える?トリニティとかの流行りの曲じゃないわよ。 そう、例えば「犬のお巡りさん」とか……。これもきっと数えきれないわね。 子供の頃、何して遊んだ?かくれんぼ、おにごっこ…、ブッキーは 外で遊ぶよりおままごととかが好きだったのかしら。 きっとブッキーはお母さん役だったんでしょう? 「私はそう言うもの、何も持ってないの。」 それは『知識』なんかじゃないわよね。 みんな、息をするように体と心に蓄えてきた事。 初めて「犬のお巡りさん」を歌ったのがいつだか覚えてる? たぶん、覚えてる人の方が少ないんじゃないかと思うの。 いつの間にか、覚えてた。 他の事もそう。いつ誰に教わったか。そんな事、考えもしない。 知ってて当たり前。出来て当たり前なんだもの。 その「当たり前」がどれだけの場所を占めてるのかしら。 きっと途方も無く広い場所よ。果てなんて見えないくらいに。 私はね、その「当たり前」の部分がすっぽり抜けてる。 だからその場所に、数式や戦闘訓練の体の記憶を詰め込んでる。 それでも、一杯にはならないわ。あまりにも広すぎるから。 今、必死で埋めてるけどきっと追い着かないわ。 知りたい事、やりたい事はどんどん増えるのに、覚えても覚えても、 更にその先に広がってるんだもの。 「ブッキー、お願いだから本気で羨ましいなんて思わないで。 あなたは欲しいもの、もう全部持ってるはずでしょう?」 「せつなちゃん……。」 せつなちゃんに、わたしを責める様子は微塵もない。 ただ、少し困ったように。そして、ほんの少しだけ、怒ったように、 見つめている。 下を向いたまま、顔を上げられない。恥ずかしくて、情けなくて。 わたしは、きっと言ってはいけない事を言ってしまった。 「せつなちゃんが羨ましい」「せつなちゃんは何でも出来る」 みんなが羨ましがるもの、きっとせつなちゃんには自慢でも何でもない。 せつなちゃんがどれだけ努力してるか。 どれだけ頑張って、笑えるようになったのか。 ずっと、側で見てきたはずだったのに。 「ブッキーは美希が好きなのよね。」 コクリ、と何の躊躇いもなく頭が上下した。 もう誤魔化す事も、言い訳もしちゃいけない。 せつなちゃんに、これ以上失礼な態度はとっちゃ駄目だ。 せめて、正直に。ちゃんと、答えなきゃ……。 「美希もよね。」 独り言のように、せつなちゃんは呟く。 「それなのに、私とラブが羨ましいの、どして?」 「……だって。」 告白なんて、されてない。 気持ちだって、はっきり口に出した事もない。 「だったら、ブッキーから言えばいいのに。」 「へ?」 せつなちゃんは不思議そうに、首を傾げる。 顎に指を添え、軽く目を見開いて。 わたしがあんなポーズしたら、きっとすごくブリッコっぽく見えそう。 やっぱりせつなちゃんくらい可愛くないと……って、また僻みっぽいわね。 駄目だわ……わたし。 「だから、美希が言わないならブッキーが言えばいいのに。」 え?そりゃ……。でも! 頭の中がぐるぐるする。 考え事もなかった。わたしから告白?って言うか、 せつなちゃんの中では美希ちゃんが断るって選択肢はないのね。 「ブッキーは美希から言って欲しいの?どして?」 「だって、それは……」 恥ずかしいし、やっぱり好きな人に告白されたいって言うのは 女の子の夢だし。 「恥ずかしいの?美希から言われる方が嬉しい?」 頷く私にせつなちゃんは言葉を重ねる。 「ブッキー、美希だって女の子よ?」 ブッキーが恥ずかしいように、美希だって恥ずかしいんじゃない? ブッキーが美希から告白されたら嬉しいように、美希も ブッキーから告白されたら嬉しいんじゃないかしら。 好きな人が嬉しくなると、自分も嬉しくならない? 大好きな人を喜ばせる事が出来るって、とても幸せだと思うの。 今の気持ちを擬音語にすると、ポカーンだろうか。 それとも、ガーン!!…? わたしはその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。 人間、ドン底だと思ってる内は甘い。 その先はさらに深い穴が空いてるんだ。 もう、情けない、とか恥ずかしいのレベルではない。 真剣に、一度死んだ方がいいのかも。 この短い時間に何度目だろう、自分の馬鹿さ加減に暴れたくなるのは。 「ブッキー?」 せつなちゃんが向かい合わせにしゃがんできた。 ごめんなさい。ワケわからないわよね。 「せつなちゃん、わたしって救いようがないわ……」 今まで美希ちゃんが与えてくれたもの。 どれだけわたしを嬉しくさせてくれたか。 何度、幸せを感じさせてくれたか。 わたし、その幸せを一度でも美希ちゃんに伝えた事があったかしら。 美希ちゃんの為に、幸せを運んだ事があったかしら。 美希ちゃん、それでも笑ってくれてた。 それは、今せつなちゃんが言った事。 好きな人が喜ぶと、自分も幸せだから。 自惚れてる?でも、きっとそうなの。 だって、わたし美希ちゃんが好きなんだもの。 美希ちゃんの喜ぶ顔、思い浮かべるだけで胸がいっぱいになる。 美希ちゃんも、そうだったんだ。 言わなければいけない事。やらなければいけない事。 後から後から雪崩みたいに押し寄せてくる。 自分の馬鹿さ加減に打ちひしがれてる場合じゃないのよ。 謝らなきゃ。お礼言わなきゃ。ちゃんと、言葉で伝えなきゃ。 せつなちゃんに、ラブちゃんに、そして何より美希ちゃんに。 何からしていいのか分からない。 せつなちゃんが心配そうに覗き込んでる。 「あのね、せつなちゃん。言いたい事がいっぱいいっぱいありすぎて、 何から言えば良いか分からないんだけど………」 思い切って、顔を上げた。ふぅ、と息をつく。 泣いちゃ駄目。笑うんだ。 「ごめんなさい。わたし、せつなちゃんに嫉妬してました。」 「……うん。」 「イヤな態度、取りました。せつなちゃんが気にするって分かってたのに。」 「…うん」 「せつなちゃんなら自分のせいでって、わたしや美希ちゃんがおかしいの、 自分が原因じゃないかって、悩むの分かってたのに。」 ぎゅっ、とせつなちゃんの手を握った。 「大好きよ。せつなちゃん。」 「ブッキー……。」 「美希ちゃんや、ラブちゃんに負けないくらい、大好き。」 「うん。私もよ。」 「これからも、友達でいて下さい。」 「はい。」 ものすごくありきたり。そして、全然謝り足りない。 たぶん、わたしは自分が思ってる以上に、色んな失敗してる。 でもラブちゃんも美希ちゃんも、今までずっと許してくれてたんだ。 『あーあ、ブッキーはしょうがないなぁ』って。 せつなちゃん、背中を押しに来てくれたんだ。 ラブちゃんは、きっとわたしには何も言わないつもりだったんだろうから。 そうだよね、わたし達3人は昔からそうだったもん。 ラブちゃんは、いつもわたしをそっとしておいてくれる。 ちゃんと、自分で考えて答えを出せるように。 でも、せつなちゃんは違うのよね。焦れったかったろうな。 何もせずに、いられなかったのよね。 うん、でも今回はせつなちゃんが正解だと思うの。 わたし、せつなちゃんじゃなければ素直になれなかった。 もし、忠告してくれたのがラブちゃんなら、言葉にしなくても分かった 気になっちゃってたと思う。 それで、結局…今まで通り居心地のいい所に納まろうとしてたろうな。 「私への告白は終わり?」 ニッコリと、それはそれは綺麗に微笑むせつなちゃん。 やっぱり、この容姿は羨ましいかも。 「うん、……まだまだ言い足りないけど。今日はこの辺で。」 「また、続きがあるならいつでも。」 「よろしくお願いします。」 しゃがんで手を握り合ったまま、ペコリと頭を下げる。 「そろそろ、帰ろうか。」 わたしたちは手を握り合ったまま立ち上がる。 放してしまうのが何だか名残惜しい。 そのまま手を繋いで歩いても、きっとせつなちゃんは嫌がったりしない。 でも、やめておこう。 だって、わたしたちが手を繋ぐ人は他にいるもんね。 並んで歩くせつなちゃんの横顔、美希ちゃんに負けないくらい完璧。 こればっかりは持って生まれたものよねぇ。 じっと見つめてたら、目が合ってしまった。 「何?」 「んー、美人だなぁって思って。」 ふぅ、とせつなちゃんは苦笑い。 「なあに?まだ羨ましいの?」 「せつなちゃんには分からないよ。」 ぷっと膨れてみる。でも、何でだろ? 羨ましさに変わりはないのに、ちっとも心がカサカサしない。 「なるほど、こう言うところね……。」 「??何が?」 「ラブが言ってたの。ブッキーは結構我が儘なところがあるって。」 ええ…?ラブちゃんちょっとヒドイ。でもまぁ、うん、仕方ないかな……。 「ワガママ…かなぁ…?」 「うん。だってブッキー、10人いたら10人とも可愛いって思われたいんだ?」 いや、そこまでは…。ああ、でも10人中5人…6人くらいには そう思われたい……かな? 「私は……、ラブ一人が可愛いって思ってくれたら、それで充分だけどな。」 だって、百人に誉められたって肝心の好きな人に可愛いって 言って貰えないなら意味なんてないじゃない。 ちょっと俯いてポソポソと呟く。 そのせつなちゃんの顔は耳まで赤くて、何だかわたしの 顔まで熱くなってきた。 「ノロケてるねぇ~。」 「もうっ!そうじゃなくて!」 照れ隠しにわざとからかい気味に言ってみた。 せつなちゃんの顔が近づいてくる。 美希だって、ブッキーは世界一可愛いと思ってるわよ? 息の掛かる距離で囁かれたその言葉は、 蕩けるように甘く耳と胸に響いて。 ちょっと、美希ちゃんに申し訳なくなるくらい心臓が跳ね上がってしまった。 じゃあ、私こっちだから。 半ば固まってるわたしにせつなちゃんは手を振って離れて行く。 「そうだ、ブッキー。今日の事は美希には内緒ね?」 ??なんで?何も知られて困るようなやり取りはしてないと思うんだけど……。 「美希より先にブッキーに『大好き』なんて言われたのバレたら大変よ! 私、美希に恨まれちゃうわ。」 だからナイショよ? せつなちゃんは唇に人差し指を当てて、パチンとウインク。 いつの間にか、そんなお茶目な仕草も様になってきてるのね。 わたし達はほんのり染まった頬のまま、悪戯っ子のような笑みを浮かべ合う。 せつなちゃんはわたしが角を曲がるまで、ずっと見送ってくれていた。 胸の中がクスクスとくすぐったくて暖かい。 ねぇ、せつなちゃん。 せつなちゃんは、ずっと埋まらない大きな隙間があるって言ったよね。 でも、その隙間を埋めてるのは難しい数式や、 訓練の厳しい記憶だけじゃないと思うの。 暖かくて、優しくて、そしてほんのちょっぴり痛いの。 それがせつなちゃんの幸せの感触なのね。 ちゃんと貰ったよ。 今度はわたしが渡す番。 避-722へ
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クローバーの四人はダンスレッスンの後、シャワーを浴びて着替え中。 ミユキが手配してくれたスタジオはシャワーは二つしかない。 まずせつなと祈里。今はラブと美希が使っている。 そして、ロッカールームでの事。 「ねえ。せつなちゃん、ちょっといい?」 むにゅっ!! 「へ?ちょっ!!ーー何っ?!」 むにゅっ!むにゅっ!むにゅっ! 祈里がせつなの胸をブラの上から無遠慮なまでに揉みしだく。 今にもブラの中まで手を突っ込みそうな勢いだ。 「ちょっ、ちょっと!ブッキー!!」 「やっぱり!」 「何がっ!?」 「感触がね!全然違うのっ!」 「…………は?」 祈里は両手でせつなの胸を鷲掴みにしながら、キリッとばかりに顔を上げる。 「前から思ってたのね。せつなちゃんのおっぱいってさ、 こう、おっきいんだけどプルンとした感じって言うの? なんかね、わたしとは違うなぁって! どこがどうって上手く言えないんだけどさ……」 軽く興奮気味にまくし立てる祈里。 要するに、触って見たかった…と言う事らしい。 「……そ、そんなに違う?」 胸なんて、大きさ以外そんなに違いなんてあるものなの? 「違うんだって!ほら、わたしの触って見て!」 「…う、うん。じゃあ…。」 何でこんな事に?と思わないでもなかったが、取り敢えず 祈里のパステルイエローのブラに包まれた膨らみに手を伸ばす。 (でも、ホント大きいわよね。私も結構ある方みたいだけど、これはすごいわ……) ふにっ! 「あっ!」 「ね?」 「……うん。すごく、柔らかい…。」 「そーなの。せつなちゃんのおっぱいはさ、 柔らかいけどみっちり詰まってるって言うか…。 弾力があるんだよね。」 「ブッキーは…、何かふわふわしてる。」 「つきたてのお餅みたいだよ。せつなちゃんのおっぱい。 モチモチしててあったかい……。」 「これ、何だろう……?あっ!」 せつなはこの間ラブと食べたシフォンケーキを思い出した。 ふんわり柔らかいのにコシのある感触がそっくりだ。 「はぁ~。なるほど。わたしはスポンジ系。せつなちゃんはお餅系って訳ね。」 「ね、美希は?わざわざ私の触りに来るって事は、 美希もブッキーみたいな感じ?」 「そーなの。だいぶちっちゃいけど。ラブちゃんは?」 「ラブも私と同じ系統かしら。でも最近あんまり触ると痛がるのよ。 芯があるって言うか、この頃急に大きくなってきたのよね。」 「カップいくつ?美希ちゃんはAだけど。」 「Aってほとんどペッタンコじゃないの?」 「それがそーでもないの。アレはアレでなかなか……」 「ちょっと………ブッキー……」 「…………せつな……」 シャワーから帰って来たラブと美希が目にしたのは、 半裸でお互いの胸をまさぐり合う自分達の恋人の姿。 この子達は一体何を……。 思考停止しかけている二人のを見て、きょとんとするせつなと祈里。 そしてせつなは急に目をキラキラと輝かせて美希に迫って来た。 その顔に浮かんでいるのは純真な好奇心。 しかし、美希にはそんな事は理解出来るはずもなく…。 「美希!ちょっといい?」 言うが早いか、せつなは美希のTシャツを捲り上げ、その小ぶりな乳房を 手のひらで包み込む。 「!!ちょーーーっ!ちょっ!ちょっ!何なのよ?!」 「……ブッキー、ブラの上からじゃ分からないわ…。」 「あー…。美希ちゃん、ちっちゃいから……。 あっ、ラブちゃん、いい?」 祈里は地蔵の様に固まっているラブの胸元に、遠慮なく手を突っ込む。 「ふぇっ!?ーーー何何何何?」 「ホント!せつなちゃん系?ぷりぷりしてる!」 「ちょっと、ブッキー!イタイイタイ!!」 ゴツン!!!と鈍い音がして、せつなと祈里は頭を抱えてうずくまった。 ゲンコツを落とされたのだ。 「………つまり、胸の触り心地について研究し合っていた、と?」 「…ハイ。」 「その通りです。」 「まあまあ、美希たん。何も変なコトしてたワケじゃないんだし……」 「じゅーーっぶん、変でしょっ?!」 せつなと祈里は美希の前に正座させられ、ラブは美希の剣幕にヒッ!と 首を竦める。 (しかも、何?ブラの上からじゃ分からないって!) 「あー、でもさ美希たん。あたしもちょーっと興味あるかな~?なんて?」 「はあ?」 「イヤ、美希たんは気にならない? ねぇ、そんなに違った?」 ラブがせつな、祈里に話を振るとコクコクコク!と二人が頷く。 「何よ、触りたいワケ?ブッキーの。」 「ホラ、美希たんもせつな触っていいからさ!」 「ちょっと、ラブ!何勝手に……」 「「黙んなさい!」」 ラブと美希は目配せして、せーの!とばかりに目の前の二人に手を伸ばす。 「わはっ!何コレ?」 「あんっ!ラブちゃん、くすぐったい!」 「ちょっと美希!ブラの中まで触んないで!!」 「せつながブラの上からじゃ分からないって言ったんじゃない!」 「それは大きさのせいでしょっ?!」 そして、引きつった声が少女達の狂乱を遮った。 「………あなた達……何やってるの……?」 ほとんど下着だけの姿で息も荒く胸を触り合う四人の後輩を前に、 立ち尽くすしかないミユキ。 そんなミユキを見て、四人の小悪魔は申し合わせた訳でもないのに 同時にニヤリと口角を上げる。 「ミユキさぁん。ちょっといいですかあ?」 語尾にハートを付けたラブが代表でミユキに魔の手を伸ばす。
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フレッシェン(ふれっしぇん) 登場作品 + 目次 デスティニー(PS2) 関連リンク関連種デスティニー(PS2) ネタ デスティニー(PS2) 作中説明 Lv 46 HP 4600 攻撃 400 防御 470 術攻 0 術防 500 命中 回避 集中 種族 機械 経験値 820 ガルド 0 弱点 水 耐性 斬 状態異常耐性 レンズ ラフ:2クリア:1ブルー:1タフ:1 落とすアイテム ドラゴンフルーツ(16%)オールディバイド(5%) 盗めるアイテム - 出現場所 ミックハイル (※基準はNormal 落とす(盗める)アイテムの数値は落とす(盗める)確率) 行動内容 / 総評 ミックハイルに出現するロボット型のモンスター。スウィープやクルージョンの強化版。 ▲ 関連リンク 関連種 デスティニー(PS2) スウィープ クルージョン クインタス ▲ ネタ ▲
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カーテンの隙間からこぼれ落ちる柔らかな朝の光が、この世でいちばん大切なひとを優しく照らす。 まだ薄暗い部屋のベッドに横たわり、すやすやと眠るそのひとの名は、東せつな。 そんなせつなを、同じベッドの中でやや上気した面持ちで見下ろしているのは、この桃園家で彼女と同居している少女・桃園ラブだ。 昨夜は慌ただしい大晦日だった。日中はこまねずみのようにくるくるとよく働いた。残っていた大掃除を片付け、お節を仕込んだ。夜は年越しそばを食べ、短時間で入浴すると着物に着替えて神社に向かった。 零時ちょうどに神社に集合したのは、美希・祈里・ラブの幼なじみ3人にせつなを加えたいつもの仲良しメンバー。 楽しい初詣を終えたラブたちが美希たちと別れ、自宅に戻ったのは、すでに3時を回っていた頃だった。 急いで着物を脱ぐと、簡単にたたみ和室の隅に置いておく。母親はすでに眠りについているが、翌朝片付けてくれる手筈になっていた。 パジャマに着替えると、ラブはせつなを自分のベッドに誘った。 ここ何日間かは多忙でせつなを抱きしめることすら久しぶりだったために、もっとも愛しい存在を腕にしたラブの身体は、当然激しい渇望を覚えて疼いた。しかし昼間の疲労も入眠の手助けとなり、せつなを抱きしめながらも何とか眠りに落ちていくことが出来た。 今朝、両親は8時に家を出る。かねてから、元旦は初詣と親戚まわりで朝早くから夜遅くまで不在になる予定となっていた。 夜中に初詣を済ませた娘たちを起こさずに出掛けるからと前夜に言われていたラブは、息を潜めて階下の物音を聞く。 ガチャリと玄関が閉められ鍵をかけられる音を聞きながら、出掛けていく両親に心の中で手を合わせ、今年もいっぱい親孝行するからね、と感謝をした。 せつなはまだ目を覚まさない。両親が出掛けた後も目覚めることなく、深い眠りの中にいた。昨日、人一倍頑張り精一杯働いていた彼女。疲労も相当だろう。 疲れているのはラブも同じだが、せつなとは違い、ラブには今朝とても大事な目的があったのだ。せつなよりも早く目を覚まさなければならない、大切な目的が。 カーテンの隙間から洩れる光が、少しずつ明るさを増す。初日の出を一緒に見ることは叶わなかったが、これから先、いくらでもチャンスがあるだろう。 それに――と、朝の陽光を浴びて眠るせつなを見つめてラブは思う。せつなの無防備な寝姿は初日の出の何倍もの価値がある。ラブは心の底からそう思った。だって、こんなせつなの姿は、自分以外の誰にも見られないし、見せたくない。稀有な宝石にも等しいものだったから。 今朝せつなが身につけているのは、白い小さめのドット柄が入った真っ赤なフリースのパジャマだ。襟や裾は白いパイピングで縁取られ、大きな黒のボタンで前閉じになる愛らしいデザイン。 どことなくキュアパッションを思わせる可愛らしい見た目に加えて、暖かさに於いても他のパジャマを遥かに凌ぐため、この冬のせつなのお気に入りとなっている。 そのパジャマの黒ボタンに、ラブがおもむろに手をかけた。目覚めてすぐにラブが暖房を効かせた室内はすっかり温もり、布団をよけてもまったく寒さは感じない。 上からひとつずつ、そっとボタンを外していきながら、少しずつ呼吸が速くなるのが自分でもわかる。下まですべてのボタンを外し終える頃には鼓動が早鐘を打ち、頬は薄紅く染まり、荒い吐息をついている有様だった。 久しぶりに見る恋人の恥ずかしい姿に大いなる期待を抱きつつ、ラブは自由になった布地を左右にゆっくりとはだけていく。途端、眩しい白の双丘がぷるんと揺れながらまろび出る。 眠る時、せつなはブラジャーを着けない。昨夜も彼女を抱きしめながらその隠しようのない膨らみを布越しに感じ、むしゃぶり付きたくなる衝動を幾度も抑えつけたことを思い出した。 まだ、その時じゃない。今はせつなをゆっくり寝かせてあげる時だから。朝になるまで耐えるんだ。自らに巣喰う獣にそう言い聞かせ、必死に朝まで先延ばしにした。 そして、今。ラブの中にいる獣に、獲物を捕獲するその瞬間が今ようやく訪れようとしているのだ。 こぼれるように姿をあらわしたその豊かな膨らみの先端を、ツンと上向いたピンク色の突起が艶やかに飾っている。 仰向けになっているのに形良く保たれたせつなのバストは、ラブの視線を釘付けにしていた。 横流れすることなく形良く尖り、適度な高さにそびえ立っている。その景色の素晴らしさに見惚れながら、ラブは自らの喉に貯まる唾を思わずゴクリと飲み込んだ。 室内が温められているとはいえフリースの布地によって適度な体温を保っていた乳房は、微妙な温度差を感受するとその先端をゆっくりと勃ち上げはじめていた。 目の前で誘うようにぷっくりと尖る先端を見せつけられた格好のラブに、もはや我慢など出来るはずもない。夜中から散々我慢していて、限界はとうに超えているのだ。 まるで初めて触れるかのように、おずおずと両の手掌をその豊かなまろみに伸ばす。最初は遠慮がちに触れていたが、徐々に大胆にこね回してゆく。 お餅をこねるように手の平全体で優しく揉みしだきながら、時に親指と人差し指で尖る先端を掠め、クリクリと摘み上げる。 幾度も摘まれ、先程までとは比べようもないほどに硬くしこったそれを見つめ、意を決するように欲望のままにくちびるでかぷっと喰んだ。熱い唾液をたっぷり塗しながら啣え、甘噛みしつつ口腔内でころころと舌で転がしてじっくりと味わう。 幸か不幸か、ひとつしかないラブの口に対し、せつなの乳房はふたつあり、口で可愛がってやれないもう片方の乳房はラブの手で愛撫を続ける。だが、もちろん片方だけしゃぶるのでは飽き足らず、結局ラブのくちびるは左右どちらの突起も啣えることとなり、満足するまで延々と舐めまわし、しゃぶり尽くした。 一方、微動だにしなかったせつなの身体には徐々に異変があらわれていた。ラブに愛され始めたことで、わずかずつではあったが覚醒の兆しが訪れていたのだ。 「あぁっ……ん……ふぅっ……」 深い眠りに居ながらにして強い快楽を与えられ続けたせつなは、いまや無意識下で甘い嬌声を漏らし始めるまでになっていた。 彼女のそんな変化に、ラブは気を良くする。せつな、待っててね。起きた時には今よりもっと気持ち良くしてあげるから。そう心に誓ってにっこりと微笑んだ。 さっきよりも一層淫らな動きで一心不乱に舐め続けるラブの舌は、不思議だがかすかに甘い乳のような味わいを覚えていた。 「おいひい……せつなのおっぱい……」 乳首を啣えながらしゃべるラブの吐息が、快楽に濡れて敏感な乳首を直撃し、せつなの愉悦をぐいぐいと押し上げる。 乳房への絶え間無い愛撫によってもたらされた快感は、乳首を渦の真中として徐々に拡がり伝染していく。それはせつなの脚の付け根にある中心にもびんびんと届き、そこは痛いほど収縮し、腰はなまめかしい動きでラブの愛撫に合わせ揺らめき出していた。 その腰の揺らめきに気づくと、ラブはせつなのパジャマのズボンに指先をかけ一気に下着ごとずり下げた。 その瞬間、せつなの股間と下着との間にひと筋の銀の橋が架かる。それは陽の光を浴びながらきらきらと輝きを放ち、つーっとシーツに落ちて消えた。 妖しく光り濡れそぼったその割れ目すら、ラブには神々しく見えていた。そのくせ、自分のものだと言わんばかりに無遠慮に人差し指を差し入れて、くいくいっと前後に突きはじめる。 その綺麗な花びらはもうすっかり濡れていて、いともたやすく開いて侵入者を迎え入れる。ぬめった粘液を絡めつかせ、やわやわと動めきながら奥にある花芯へといざなってゆく。 花園の奥には花芯が秘そやかに震え、そばには熱い潤いをたたえている蜜壷がこじ開けられるのを今か今かと待っていた。 ラブは恋人の大腿を両側に優しく開いて、濡れて光る秘所をあらわにして自身の眼前にすっかり暴いてしまうと、右手の親指で花芯を揺らして愛でながら人差し指で蜜壷に分け入り、さも愛しそうに少し乱暴に踏み荒らした。彼女の膣内はとても熱くて、ラブの指をたやすく飲み込み、絡みつきながらきゅうきゅうと締めつける。 指を引き出そうとすると、離すまいとするように内壁がぬちゅっと淫らな音を立てしがみついてくる。 その動きを幾度も繰り返して内部を拡げながら慣らしていき、ついには中指を加えて2本に増やし、だんだんその速度を上げていく。 少しだけ曲げられたラブの指先は、上手い具合にせつなのいい所を擦り上げてゆく。そうして2本の指がぐちゅぐちゅと淫らに出入りし、その都度ラブの親指がいたぶるように花芯を掠め通る。蜜壷に指を抽挿し続けながらも、意地悪なラブの親指は可愛らしい花芽にも甘い刺激を加えることを決して忘れないのだった。 ぷっくりと赤く大きく腫れ上がり真珠のように硬く勃ち上がったせつなの花芯は、ほんのわずかな愉悦にも敏感になっていて、矢継ぎ早に加えられる甘やかな攻撃に今にも果ててしまいそうだった。 どんどん激しくなる指の動きによって蜜が白く泡立ち、今にも湯気が立ちそうにも見える。せつなの秘所からはうっとりするほどの雌の匂いが立ちのぼり、ラブの鼻腔をくすぐる。ぬちゅぬちゅと粘度の強い水音が引っ切りなしに鳴り続け、ふたりきりの室内に響きわたる。 穏やかな眠りの海の中で揺ら揺らとたゆたっていたせつなを、突然、嵐のようなうねりが襲った。その意識は激しい波に流されながら、性急な何かによってぐんぐんと海上へと押し上げられていくようだった。 「んんっ……はっ、はあっ……、い、や、いやあ! ああっ! あああああああああ!!!」 せつなの意識は、夢から現実へと無理矢理に覚醒させられたと同時に性感の頂点に達し、激しいスパークに包まれたまま、白い闇に飛ばされ、放り出された。 半時ほど後にようやく意識を取り戻したせつなを待っていたのは、とどまることなく溢れ出して陰部の後ろにまでぬらりと流れこぼれ落ちようとするせつなの蜜を、恥部にかぶりつきながら掬い上げるように舐め取るラブの、それはそれは淫らに微笑う濡れた笑顔だった。 「やッ!! ラブ!? どしてっ、あんっ! ひあぁっ」 絶頂の中で意識を手放したはずが、再び強い快楽の中で意識を取り戻し、その間にもせつなの身体は絶え間無い小刻みな絶頂を繰り返していた。 「おはよう、せつな。やっと目が覚めたんだね」 「おはよう、って、ひあぁっ! ラブ、んんっ、これ、は一体何なの? あぁん!」 「これはね、秘めはじめだよ」 秘めはじめ。せつなも知識として知ってはいた。愛し合うふたりが、その年に初めて行う愛の行為。だが、そんなことが自分の身に、しかも新年早々眠ったままで行われ、絶頂に身悶えながら目覚めさせられるとは夢にも思わなかった。 耐えられない恥ずかしさとともに、ラブの舌に嬉々としてしゃぶりつかれた花芯から拡がりゆく例えようのない愉悦に包まれ、せつなはまたしても深く達してしまう。 終わりなく続くラブの舌技に翻弄され、せつなは再び意識を手放した。 真っ赤な顔をして気を失ったせつなの秘所からようやくくちびるを離すと、ラブは口腔内に残ったせつなの蜜を余すことなく飲み下した後で、せつなのくちびるに近づいて愛しげにくちづけた。 先程までせつなの花芯を愛でていた舌を、今度はせつなのそれに絡みつかせ、ねぶる。ねぶりながら切れ切れに紡がれた言の葉。 「せつなぁ……愛してるよ……永遠に離さないから……」 気を失ったままのせつなに届くはずはないのだが、その言葉が放たれた直後にあでやかに微笑んだせつなを、ラブは確かにその瞳に刻みつけたのだった。 了
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「ごちそうさま。今日も美味しかった!」 山吹家の夕ご飯。 豪勢なご馳走が、次々と平らげられていく。主に巨漢のお父さんによってだけど……。 本当に美味しかった。一口食べただけで、自然と笑みがこぼれおちる。 綺麗で、優しくて、そして、とってもお料理が上手。 わたしは、そんなお母さんが大好き。 三人ぽっちの家族だけど、この料理の腕前のおかげか、食卓はいつも賑やかだった。 何度かダイエットに挑戦してことごとく失敗したお父さんも、お母さんの料理が一番の大敵だと笑っていた。 好きこそものの上手なれ。 楽しそうに調理するお母さんを見て育ったわたしは、それ以外のお手伝いで助ける方法を選んだ。 おかげで裁縫の腕なんかは、見る見る上達していった。 でも、たまには―――― 食後のお祈りを済ませて、後片付けを手伝おうとする。 そんなわたしの申し出を、お母さんは優しく断った。 「色々としなきゃいけないことあるんでしょ。ここはまかせなさい」 「うん。ありがとう、おかあさん」 もう一言言えば、きっとわかってくれる。 でも、その先を口にするのがなんとなく躊躇われて素直に従った。 パタパタと階段を駆け上がって自室に戻る。 大好きなお母さん。唯一欠点があるとすれば――――過保護、なのかな? 最近は、後片付けどころか、その他の家事もみんな一人でやってしまう。頼りにされていないのが、少し寂しいと思った。 わたしの夢を応援してくれているから。それがわかるから、口にはできなかった。 気を取り直して机に向かった。 朝早く起きて犬のお散歩。勉強の予習。 学校から帰ったら、みんなと一緒にダンスのレッスン。 帰ったら動物病院のお手伝い。机の上では学べない、実践的な知識を身に付けるために。 お風呂に入ってご飯を食べたら、後は勉強の復習。残った時間は、医学書やその他の色んな本を読んで知識を深める。 少し前からは想像もできないくらい忙しいスケジュールだけど、とても充実していた。 毎日が楽しくて、自分が活動的に変わっていくのが感じられた。 宿題と復習は終わり。後は日記を書いてから眠くなるまで読書。そんな時だった。 くるっぽー、くるっぽー、くるっぽー リンクルンの着信音。メールじゃなくて電話だった。 以前は犬の鳴き声にしていたのだけど―――― 動物病院のお手伝いが増えてからは、鳩やふくろうなんかの声に切り替えた。 まぎれちゃって、気が付かないことが多かったから……。 えっ? そもそも動物の声にしなきゃいいって? 好きなんだから仕方ないの……。 美希ちゃんかな? ラブちゃんかな? 表示されていた名前は、東 せつな。 せつなちゃんからかけてきてくれることは久しぶりだった。嬉しくなって、急いで通話ボタンを押した。 「こんばんは。うん、大丈夫、まだ起きてたよ。明日? うん空いてる、楽しみにしてるね!」 おやすみなさい、そう言って電話を切った。珍しく興奮気味なせつなちゃんの様子に、わたしの気持ちも自然と弾む。 明日は建国記念日で学校はお休み。ラブとクッキーを焼くんだけど、良かったら一緒にやろうって。 でも、クッキーなんて……。 学校の家庭科の時間を思い出す。 香ばしいを通り越して、焦げ臭い香り。クマにしか見えない真っ黒なパンダさん……。 なんとかなるよね! 読みかけた本を置いて、さっそく作業に取り掛かる。 みんなで作るなら、持っている型だけじゃ寂しいと思ったから。 薄いアルミの板をハサミで切って形を整えていく。次々に新しいデザインの枠が形作られていった。 「ふ~ん、美希ちゃんはラブちゃんから連絡もらったのね」 「そうよ。今日はなんだか楽しそうじゃない? ブッキー」 「だって、せつなちゃんから電話してくれるなんて珍しいし」 「そうなの?」 「えっ?」 「あ、ううん、なんでもない。楽しい一日にしましょう!」 先に美希ちゃんの家に寄ってから、並んでラブちゃんの家に向かって歩き出した。 バラバラに押しかけるのは、返って気を使わせると思ったから。 「いらっしゃい! 美希、ブッキー」 「「おじゃましま~す」」 ノックしたら、すぐにせつなちゃんが扉を開けて出迎えてくれた。 扉の前で待ってたんじゃないかと思うくらいのタイミングだった。 せつなちゃんの凛々しい顔立ちがほころぶ。笑顔でやわらかくほどける。 その嬉しそうな表情は、訪れたわたしたちとって何よりの歓迎だった。 「美希たん、ブッキー、せつな~。材料の準備済んだよ!」 「楽しみね、せつなちゃん」 「ええ、精一杯がんばるわ」 「せつなは頑張りすぎよ。クッキーなんて気楽に焼けばいいの」 「そういう美希が、一番ムキになったりするのよね」 「失礼ね! アタシはお菓子作りくらい簡単に」 「この前、タマネギで泣いてたクセに」 「そう言えば、タマネギをアタシに回したのはせつなだったような」 「美希は澄ました顔より、泣き顔の方が可愛いわよ」 「やっぱり……わざとだったのね!」 「はいはい、喧嘩はそのくらいにして始めようよ」 ふざけあってる美希ちゃんとせつなちゃんが、ちょっとだけうらやましかった。 始めはギスギスしていた二人だけど、似たもの同士なのか気が合うらしく、よくじゃれ合っている。 普段なら混じることができるのに、苦手意識で気後れしてしまう。 調理が始まった。 泡立て器を握ったラブちゃんの手が、ボウルの中で軽やかに舞う。 トロッと溶けた黄色いバターが、鮮やかな手付きで混ぜられてクリーム状になっていく。 普段はとても器用とは思えないのに、どうしてお料理となるとこんなに人が変わるのだろうと思う。 「ブッキー、卵を割って溶いてくれる?」 「うん、わかった」 ボウルの角で卵を割る。割れた卵の中身は、ボウルの外に落ちた……。 「ごめんなさい、手が滑っちゃって。次はちゃんとやるね」 今度は慎重に、ボウルの中の面に叩きつける。ガシャって音と共に、砕けた殻が中身に混ざる……。 「ブッキー、大丈夫?」 「う、うん、すぐに取れるから」 なんとなく察しているラブちゃんと美希ちゃん。二人にバレてるのはわかってる。今さら恥ずかしいとも思わない。 でも、せつなちゃんは知らないみたいだった。カッコ悪いところを見られたくなくて、必死で誤魔化した。 動揺を悟られたくなくて、急いでラブちゃんの泡立てたバターの中に流し込む。 「あぁ! 一気に入れちゃダメ~!」 「えっ? ええっ?」 止めようとするラブちゃんの手と、自分の手がぶつかり合う。 バランスを崩して両方のボウルごとひっくり返してしまった。 「ごめんなさい……」 「平気だよ! 材料多目に用意してるし、始めからやり直そう」 卵とバターでベッチャベチャ。暗澹たる気持ちでお掃除に取りかかった。 せつなちゃんが手伝いながら問いかけてきた。 「もしかして、ブッキーってお料理苦手なの?」 「そうなの……。黙っててごめんなさい」 「気にしなくていいわ。一つくらい苦手なものがあったほうが付き合いやすいもの」 「そこで、どうしてせつなはアタシを見ながら言うのよ……」 「別に? あっ、美希のお鼻に薄力粉が――――」 「えっ? やだっ!」 「今、付いたわよ」 「クッ、はめたわね。この~~!」 せつなちゃんが美希ちゃんをからかいだす。また二人の漫才が始まった。今度はラブちゃんも止めなかった。 気落ちしてるわたしを笑わせようと、みんなで気を使っているんだろう。 でも、そうやってせつなちゃんとふざけている美希ちゃんの姿すらうらやましく思えて、笑う気にはならなかった。 (料理、ちゃんと教わっておけばよかった。引っ込み思案も、やっぱり直ってないのかも……) ラブちゃんが主導で再びクッキー作りを再開する。今度はわたしは手を出そうとしなかった。 せっかくの楽しい時間を自分の失敗で台無しにするわけにはいかない。わたしは成形で役に立とうと決めた。 「ブッキー、一緒にやりましょう」 「えっ? でも、邪魔になるといけないし……」 「大丈夫、肩に力が入りすぎてるだけよ」 せつなちゃんがわたしの手の上から自分の手を被せる。 時々耳にかかる吐息がくすぐったくて、自然に力が抜けていく。 溶いた卵を、三回に分けてゆっくりと混ぜていく。 チョコチップ、アーモンド、バニラエッセンスを混ぜていく。 美希ちゃんがふるいにかけた薄力粉とベーキングパウダーを少しづつ混ぜていく。 ヘラでボウルの底から掬いあげるようにして、しっかりと馴染ませた。 全ての作業は、わたしの手で行われた。 抱きつくようにして、せつなちゃんが上からわたしの両手を握って力加減をコントロールしてくれた。 苦手意識で体が硬直しているだけ。 一度感覚を身体に覚え込ませれば、わたしは必ず上達するからって。 からかうのではなく、呆れるのでもなく、真剣な表情で付き合ってくれたせつなちゃんに感謝した。 小さなことで気落ちしていた自分が恥ずかしくなる。 以前は引っ込み思案で、自分から行動することができなかった。 足りないのは自信。自分を信じること。 苦手なお料理で、そんな自分の欠点がまた出てきてしまっていた。 そんな中、せつなちゃんはわたしを信じてくれた。だから、精一杯がんばろうって思った。 後は型に入れて形を整えて、焼き上げるだけ。 わたしの本領が発揮できるパートだ。 「わっは~、かわいい! これブッキーが作ったの?」 「凄い、単純な形なのに、ちゃんと何の動物か全部わかるわ」 「さすがブッキーね。こういうの作らせたら完璧ね!」 「このまま焼いてもいいけど、どうせならちゃんと絵も描いたほうが可愛いと思うの」 型はあくまで縁取り、動物の輪郭に過ぎない。 千切った生地を棒状に丸めて立体的に仕上げていく。そして、チョコペンを使って絵も入れた。 今度は、わたしがせつなちゃんに教える番。 少ない線で動物を描くには、特徴を極端に強調すること。 飲み込みの早いせつなちゃんは、見事なデザインで作り上げていった。 「ラブちゃんが作ってるのはクマ?」 「犬のつもりなんだけど……」 「美希が作ってるのはブタね!」 「失礼ね! 鳥よ」 「あっ、横から見るのね。羽が鼻に見えちゃった」 みんなでお腹を抱えて笑った。 作ってる本人たちも、最初は怒っていたけど、ついには可笑しくなって―――― 上手なものは誇らしくて。 そうでないものは可笑しくて。 やっぱり、どれも楽しかった。 そして、どれも最高に美味しかった。 お腹も、そして何より、心も。 満たされた気持ちで帰路に着いた。 家の中に入ると、ちょうどお母さんが夕飯の支度を始めようとしていたところだった。 「おかえりなさい、祈里。今日は楽しかったみたいね」 「えっ? まだ何も話してないのに」 「嬉しそうな顔を見たらわかるわよ」 「あのね! おかあさん」 「どうしたの? 急に真剣な顔して?」 「わたしも、おかあさんみたいにお料理が上手になりたい!」 思い切って口にする。お母さんの気持ちはわかってる。 どんなに忙しい時も、お父さんの食事も、わたしの食事も手を抜くことなく作ってきた。 それがお母さんの誇りであることもわかっていた。 でも、わたしもお母さんのような女性になりたいと思ったから―――― 「嬉しいわ。じゃあ、今晩から一緒に作りましょうか?」 「うん!」 お母さんは、少し驚いた表情の後、ニッコリと笑ってそう言った。 その夜から、山吹家の食卓には不恰好な料理がいくつか並ぶようになった。 以前にもまして――――弾む会話と共に。
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この世界の人間を見て、最初に驚いたもの――それは、笑顔だった。 お母さんの顔を見上げる、小さな子供の笑顔。 その笑顔にやさしく答える、お母さんの笑顔。 友達同士の賑やかな笑い声や、静かに微笑み合う老夫婦。 ラビリンスでも、人々は感情の表現が皆無だったわけじゃない。 でも、あんな花が咲いたような明るい表情を見たのは、初めてだった。 人はこんな美しい表情ができるのかと、 そこかしこで溢れる笑顔を眺めながら、密かに思った。 やがて驚きが治まると、今度は苛立ちを感じ始めた。 その美しい表情が私に向けられることなど、あろうはずがなかったから。 そして、その笑顔の花を奪い、壊すのが、他ならぬ私の任務だったから。 もっとも、あの頃の私には、どうして笑顔を見ると虫唾が走るのか、 その理由なんて、まるで分らなかったけれど。 ラブに出会って、笑顔を向けられる嬉しさとあたたかさを知った。 プリキュアになって、笑顔を守ることができる喜びを知った。 おじさまやおばさまの笑顔。美希やブッキーの笑顔。タルトやシフォンの笑顔。 たくさんの笑顔に囲まれて、自分も笑顔になれるのだということを知った。 ぬくもりというものを覚えた心に、湧きあがったひとつの想い。 私も、誰かを笑顔にしたい。 ラブのように。おばさまやおじさまのように。美希やブッキーのように。 そのためには、どうすればいいのだろう。 笑顔が表情の花ならば、その種は、一体どこにあるんだろう。 天井の一部が欠け落ちた、クローバーフェスティバルのイベント会場。 袖と呼ばれる舞台の陰で、波のように押し寄せるたくさんの笑い声を聞きながら 私はそのことばかりを考え続けていた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode5:笑顔の種 「はぁ~~~~!!」 ピーチの気合いのこもった声と共に、ナケワメーケを包み込む光が輝きを増していく。 「シュワ、シュワ~・・・」 断末魔の・・・というより、何だかホッとしたような声が聞こえて、緑色のダイヤが煙のように消失する。あとには四つ葉写真館の、古いけれど店主自慢のカメラが、ぽつんと道端に残された。 サウラーが、忌々しげに何事か呟いて姿を消す。それを見届けてから、四人の少女は変身を解いた。 「みんな、ありがとう。」 ラブは、仲間たちに向き直って、少し照れ臭そうに笑った。 「みんながあたしのこと、帰って来るって信じてくれたから、帰って来られた。ホントにありがとう!」 「何言ってるのよ。あったり前でしょう?」 腕組みした美希が、にっこりと笑ってそう言い放つ。 「うん。わたし、信じてた。せつなちゃんも、そうだよね?」 穏やかに微笑みかける祈里に、ええ、と頷いて、 「ラブなら絶対、帰って来てくれるって思ってたわ。」 まっすぐにラブの目を見つめて、せつなは嬉しそうに言った。 ラブの笑顔が大きくなる。 カメラのナケワメーケの攻撃で、ラブは思い出の世界に送られた。 おじいちゃんと過ごした幼い頃の、穏やかで、無邪気で、何の心配もなかった幸せな日々――そんな甘美な夢の中から帰って来られたのは、おじいちゃんが、自分のやるべきことを思い出させてくれたから。そして、自分の帰りを信じて戦う、三人の仲間の姿を見たからだ。これはおそらく、シフォンが見せてくれたのだろう。 「そうだね。もし、あたしじゃなくて他の誰かが思い出の世界に行っても、あたしもきっと信じてたと思うもの。」 それを聞いて、祈里が震える溜息を、わずかに漏らす。さっきはすんでのところでラブに助けられたが、三人とも危ないところだったのだ。 「どんな思い出の中に閉じ込められたのかなって考えたら、少し怖いけど。」 「そう?アタシはちょっと、見てみたかったな。」 強気な美希の言葉に、思わず顔を上げる祈里。パチリと片目をつむってみせるおどけた顔が、よみがえった恐怖を薄れさせてくれた。 「もう、美希ちゃんたら。さっきは一緒に怖がってたくせに。」 笑い合う二人を、せつなが笑顔で見守る。その顔に一瞬だけ暗い影が浮かんだのを、ラブだけは見逃さなかった。 ☆ 「えーっと、ひき肉と卵、タマネギに牛乳、と。パン粉は、まだあったし。あ!お母さんに、また付け合わせを決められたら大変だ。ええと・・・付け合わせ、ブロッコリーでいいよね?せつな。」 ラブが慣れた手つきで、スーパーのカゴに食材を放り込む。せつなはその後を付いて行きながら、視線を上げて、どこかのレジを担当しているはずのあゆみの姿を探した。 「ええ、いいわよ。・・・あ、ラブ。いちばん右のレジに、おばさまがいるわ。」 「そうそう、お母さんはいつもここなんだよ。」 「あ・・・なんだ、場所が決まってるのね。」 少しだけ悔しそうなせつなの顔を見て、ラブはやけに嬉しそうに、ンフフ~と笑った。 四つ葉写真館にカメラを届けに行ってから、美希と祈里と別れての帰り道。二人は夕食の買い物にやって来ていた。 今日はあゆみが遅番なので、ラブが夕食当番だ。昨日、それを聞いたせつなが、自分にも料理を教えてほしいと、ラブに頼んだのだった。 「ラブの作る料理も、おばさまやおじさまが作る料理も、凄く美味しいから・・・。もしも、私の料理を誰かが食べてくれて、美味しいって笑顔になってくれたら、こんな嬉しいことないって思って・・・。」 うつむき加減で、でも笑みを浮かべながらそう口にするせつなに、ラブは「わっはー!」と歓声を上げて抱きついた。 「もっちろん、バッチリ教えちゃうよぉ。じゃあ、まずはやっぱり、ラブちゃん特製・激うまハンバーグ!明日の晩ご飯は、決まりだねっ!」 「ラブ・・・。確かこの前の夕食当番のときも、ハンバーグじゃなかった?」 「いーのいーの、美味しいんだから。じゃあ、一緒にせつなのエプロンも買いに行っちゃおう!あ、あたしのエプロンも、お揃いで新しいの買っちゃおうかな~。」 これが、昨日の晩の話だ。 「おか~あさん。」 「あら。」 聞き慣れた声に、レジに立つあゆみが顔を上げる。目の前には、どうやらいつも以上に張り切っているらしいラブと、自分を見つめて嬉しそうに微笑むせつな。二人とも同じように、瞳がキラキラと輝いている。 (何だかだんだん、本当の姉妹みたいになってきたわね。) フッと相好を崩したあゆみに、ラブが怪訝そうな顔をした。 「ん?お母さん、何ニヤニヤしてるの?」 「え?そんなことないわよ。」 あゆみは慌てて、ピッ、ピッ、と食材をひとつひとつレジに通し始める。 「今日は、二人で晩ご飯作ってくれるんだったわね。ありがとう。それにしても・・・またハンバーグなの?ラブ。」 「だってぇ、せつなと初めて作る料理なんだよ?だったらやっぱり、ハンバーグでなくちゃあ。」 「はいはい、しょうがないわねぇ。じゃあ、付け合わせは・・・」 「はい、これ!今日はブロッコリーね。何なら、ホウレンソウでもいいんだけどぉ?」 「ぐ・・・わ、わかったわよ。」 「クスッ、フフフ・・・」 ラブとあゆみの掛け合いに、せつなは堪らず、口に手を当ててクスクスと笑い出す。が、次に聞こえてきたあゆみの言葉で、笑い声はどこかに引っ込んでしまった。 「コホン。今日は特別よ。せっちゃんが初めて晩ご飯を作ってくれる日に免じて、許します。せっちゃんには、私がおいし~いニンジン料理、教えてあげるからね。」 「え~、ニンジン料理なんか・・・って、お母さん!『せっちゃん』って、せつなのことだよねっ?」 ラブがレジの上に身を乗り出す。 「ええ。」 あゆみが少し頬を染めて、ニコリと微笑む。そして、ラブの隣りでポカンとしているせつなの顔を、やさしく覗き込んだ。 「・・・そう、呼んでもいいかしら。」 見る見る真っ赤になった顔を隠すように、せつながコクンと頷く。 ピッ。 カゴに残ったブロッコリーをレジに通すと、あゆみは目の前の黒髪を、愛おしげに、そっと撫でた。 ☆ スーパーからの帰り道。今朝の続きで、ラブはクローバータウンストリートのお店を、一軒ずつ、せつなに紹介しながら歩いていく。が、今朝のように足を止めてお店に立ち寄ることはしなかった。 食材を持っての帰り道だから、ということは勿論ある。でもそれ以上に、せつなが何だか、心ここにあらずといった様子に見えたからだ。 沈んだり、考え込んだりしているわけではない。今のせつなは、何だかふわふわしていて、まるで地に足がついていないように、ラブの目には映った。 「ねえ、せつな。」 ラブはとうとう立ち止まると、街路樹の緑をニコニコと眺めているせつなの顔を覗き込んだ。 「ん?なぁに?ラブ。」 そう言ってラブに向き直ったせつなの顔は、今にも笑い出しそうな、それでいて泣き出しそうな顔に見える。 「どうしたの?何だか様子がヘンだよ?さっきからずっと黙りこくって、あたしの話も耳に入ってないみたいじゃない。」 「あ、ごめんなさい。」 せつなは少し申し訳なさそうな顔をして、自分の足先に視線を向けた。 「ねえ、ラブ。」 そのままラブの顔を見ずに、せつなは言葉を繋ぐ。 「さっき、ブッキーと美希が、思い出の世界の話をしていたときにね。私、自分には帰って来られなくなるような楽しい思い出なんて無いって、そう思ってたの。」 さっきの、せつなの顔に一瞬だけど確かに浮かんだ影を思い出して、ラブは心配そうな顔になる。 「でもね。」 せつなはそう言って立ち止まると、ラブの顔を見て、少し照れ臭そうな表情を見せた。 「思い出とは呼ばないんだろうけど、もしも、今この瞬間に・・・この時間の中に閉じ込められたら、私、きっと帰れないんじゃないかって思う。」 「せつな。」 うるんだ瞳をせつなに見られまいと、ラブは顔をそむけて、手に持った買い物袋をヨイショとゆすり上げる。 せつなの幼い頃の話を、ラブは詳しくは聞いたことがない。でも、一緒に住んでいれば、そしてずっと一緒にいれば、少しずつ分かってくることもある。 せつなの戻りたい時間――今までの人生の中で一番幸せな時間が、まさに今この時だという彼女の告白は、ラブにはしみじみと嬉しくて、そして胸が締め付けられるように、哀しかった。 「やだなぁ。今で良いんなら、別に閉じこもる必要なんてないじゃん。」 おどけたようにそう言うと、ラブは足元にあった電柱の影を、ぴょんと跳び越える。 「やっぱり・・・ヘン?」 少し不安そうな顔をするせつなに、ラブはシフォンの真似をして、ぶぅっと頬を膨らませてみせた。 「ヘンだよぉ。だってせつな、これからの方が、もっともっと楽しくなるんだよ?こんなところで立ち止まってちゃ、つまんないよ。」 ラブのふくれっ面がせつなに迫って、パッとその右手を掴む。同時にいつもの笑顔に戻ったラブは、キラリとその瞳を光らせると、いきなり駆け出した。 「だからさ。まずは美味しいハンバーグ作って、みんなで楽しく晩ご飯食べよっ!」 「わかったわ。」 ラブに手を引っ張られながら商店街を走るせつなの顔は、何だか幼い子供のようにあどけなくて、とても嬉しそうだった。 ☆ その日の桃園家の夕食は、ラブとせつなが作ったハンバーグとサラダ、会社から早めに帰って来た圭太郎が作った肉じゃが、それにあゆみが買ってきたデザートのアイスクリームという、実に豪華で賑やかなものとなった。 ぱくりとハンバーグを頬張るあゆみと圭太郎の顔を、せつなは心配そうに見守る。 「うん!とっても美味しいわよ。」 「ん~、幸せだなぁ。」 パッと笑顔になった二人に、せつなもホッとしたように、心から嬉しそうな顔を見せる。 「やったね、せつな!」 ラブがせつなを肘でつついて、二人はアハハ・・・と声を上げて笑った。 「このキャベツも、せっちゃんが切ったのかい?上手だなぁ。ハンバーグもサラダも美味しいし、きっとすぐにラブに負けない料理上手になるぞ。」 圭太郎にも『せっちゃん』と呼ばれて、せつなは微笑みながら頬を染める。きっと両親の間では、せつなのことは少し前から『せっちゃん』と呼んでいたんだろう。ラブはそのことに胸を熱くしながら、 「お父さんってば。料理は勝ち負けじゃないでしょう?」 と、口を尖らせてみせた。 「ハハハ・・・。そうだな。じゃあ、ラブと同じような料理上手、って言っておくか。」 上機嫌な圭太郎を横目で見ながら、あゆみは楽しそうにサラダを口に運ぶ。と、何か言いたげな表情のせつなと、目が合った。 「ん?せっちゃん、どうかした?」 あゆみの言葉に背中を押されたように、せつなが少しはにかみながら、口を開く。 「あの・・・。今日、ラブが・・・おじいさんの夢を見たって、話してくれて。」 「せつな!」 ラブが、口に入れたばかりのハンバーグのカケラを、ゴクリと飲み込む。もっとも、慌てたのはラブだけで、あゆみも圭太郎も、へぇ~、と言った様子でラブを見つめた。 「ねっ、どんな夢見たの?ラブ。」 「べ、別に、大した夢じゃないよ。あたしはまだちっちゃくて、表で遊んでたら、おじいちゃんが探しに来てくれて。それから・・・おじいちゃんがお仕事するところを見たり、駄菓子屋さんで水飴買ってもらったり・・・えっと、そんな感じ。」 「お義父さんは、ラブのことをそれは可愛がっていたからなぁ。」 圭太郎が懐かしそうに呟いて、ビールをこくっと一口飲む。その言葉を聞いて、ラブの顔からやっと焦りの色が消えた。上がり気味だった肩が、すっと下がる。 「あたしも、まだ小さかったから、おじいちゃんのことあんまり覚えてなくて。だから、夢・・・のお陰で色々思い出せて、今日は嬉しかったんだ。」 「そう。いい夢が見られて良かったわね。」 そう言ってから、あゆみはちょっと不思議そうに、ラブに尋ねた。 「今日は、って言ったけど・・・。ラブ、あなたその夢、一体いつ見たの?今日、どこかで昼寝でもした?」 「へっ?あ、い、いやぁ。今日って、け、今朝の話だよ。だから正確には、昨日の夜か、アハハ・・・。朝ご飯のとき、話そうと思って忘れてたんだ。で、その後せつなに話したんだよね。ねっ、せつな。」 「ええ、そうね。」 また慌てているラブの様子に、せつなが笑いを堪えて相槌を打つ。その顔を見て、不思議そうだったあゆみの顔が、ちょっと緩んだ。 「ずいぶん嬉しそうね、せっちゃん。」 「え?ええ。おじいさんの話って初めて聞いたから、どんな人だったのかなぁと思って。」 それを聞いて、あゆみは遠いところを見ているような、少し寂しげで、でもとても穏やかな顔つきになった。 「仕事に対しては頑固なくらい妥協しない人だったけど、家族や町の人には、とてもやさしい人だったの。畳屋なんて、子供にはまるで縁のない店なのに、『畳屋のおじいちゃん』って、近所の子供たちにも人気があったわ。」 「へぇ・・・。素敵な人だったんですね。」 せつなにそう言われて、あゆみは心から嬉しそうな笑顔を見せる。 おじいちゃんの思い出話。ラブの幼い頃の話。あゆみの学生時代の話・・・。 あゆみと圭太郎を中心に、あんなことがあった、こんなことがあったと、食卓に、楽しい昔話の花が咲いた。 やがて食事が終わり、デザートのアイスクリームを食べているとき、せつながふいに圭太郎に尋ねた。 「あの・・・おじさまは、タタミ屋さんじゃないんですよね?あの、お仕事って・・・。」 「ああ、僕の仕事かい?」 圭太郎の目が、キラリと輝く。 「僕はね、カツラメーカーの社員なんだよ。軽くて、通気性があって、水にも強くて・・・付けた人や動物を幸せにするカツラを、日々追求しているんだ!」 あちゃ~、という表情のラブにはお構いなしに、圭太郎は身を乗り出し、アイスが溶けそうな勢いで語り出す。 「・・・カツラ?」 「おっ、せっちゃんは見たことがないか。よぉし、今持ってくるから、ちょっと待ってるんだぞ。」 「お、お父さん!別に持って来なくてもいいよぉ。」 勇んでリビングを出ていく圭太郎を、ラブが慌てて追いかける。残されたあゆみとせつなは、顔を見合わせてクスリと笑うと、食べ終わった食器を重ねて、二人で台所に運んだ。 「あの、おばさま。」 せつなが食器を流しに置いて、あゆみに話しかける。 「ラブの名前って、おじいさんが付けてくれたんですってね。将来、愛情を込めて、何かを成し遂げる子になって欲しいって。」 「あらあら。ラブったら、そんなことまで夢に見たの?」 スポンジでくるくると食器に洗剤を付けながら、あゆみは呆れたような声を出した。 「そうだったわねえ。ラブが生まれたとき、名前はお義父さんに付けてもらうんだって、あの人が頑固に言い張ってね。」 あゆみはそう言いながら、リビングの入り口をちらりと見やる。まだ二人で揉めているのか、圭太郎もラブも、まだ戻ってきてはいなかった。 「それでお父さん、ずいぶん考えたみたいよ。最初に『ラブ』って聞いたときは、ちょっとびっくりしちゃったけど、今思えば・・・案外、お父さんらしいかもね。」 「凄く大きくて、たくさんの想いが込められた名前なのね。とっても素敵。」 最後は小声になってそう呟くせつなの横顔をじっと見つめてから、あゆみは静かに言った。 「ねえ、せっちゃん。ラブがせっちゃんのこと、『せつな』って呼ぶときの顔、私、とても好きなの。どうしてかわかる?」 「え?」 怪訝そうに小首をかしげるせつなに、あゆみはゆっくりと言葉を繋ぐ。 「そのときのラブの顔がね。いつもとっても嬉しそうで、やさしい顔をしてるから。せっちゃんがラブを呼ぶときも、おんなじ顔してるけど。」 少し上気していたせつなの顔が、今度ははっきりと、朱に染まった。 「名前ってね。付けられるときにも、その人へのいろんな夢や想いが込められるけど、本当はその人と一緒に、育っていくものだと思うのよ。」 「名前が・・・育っていく?」 「そう。」 せつなは食器を拭く手を止めて、真剣な顔であゆみを見つめた。あゆみも微笑みながら、せつなを見つめ返す。 「家族や友達から親しみを込めて呼ばれたり、今日せっちゃんがお父さんのこと訊いたみたいに、誰かにどんな人?って訊かれたり。それから、精一杯がんばったことが感謝されて、名前を覚えてもらったりしながら、ね。 せっちゃんとラブが、いろんなことを経験して大人になっていくのと一緒に、二人の名前も周りの人たちの間で、あったかかったり、やさしかったり、頼りがいがあったり、いろーんなイメージを持つ名前に育っていくんだって、私は思うわ。」 せつなの目が、薄い涙の膜の向こうで小さく揺らいだ。昼間のときのようにコクンと頷くと、せつなはそのまま洗いかごの方へ向き直る。布巾をぎゅっと握って、一心に食器を拭く彼女を、あゆみはラブによく似たまなざしで、じっと見つめた。 水道の水の流れる音が、自分の心臓の音に重なって聞こえるような気がする。せつなは湯飲みの縁を布巾でくるりと撫でながら、さっきハンバーグを食べて笑顔になってくれた、あゆみと圭太郎の顔を思い出していた。 美味しい料理を作って、みんなに笑顔になってもらいたい。そう思って、ラブに料理を教えて欲しいと頼んだ。 ラブが大好きだったおじいさん――だからきっと、あゆみも圭太郎も大好きだったはずのおじいさんの話をしたら、きっとみんなが笑顔になってくれるんじゃないかと思った。 その結果は、思った通りだったような、そうではなかったような・・・正確には、思った以上のことが起こったと、せつなは密かに驚いていたのだ。 ハンバーグを食べたあゆみと圭太郎の笑顔を見たとき、嬉しくて嬉しくて、自分が自然に笑顔になっているのに気付いた。そして、そんな自分の顔を見て、ラブもとびっきりの笑顔を見せてくれた。 おじいさんの話だって、みんなとても懐かしそうに、嬉しそうに話していたけれど、普段は聞けない昔の話を色々聞けて、嬉しかったのは自分の方だった。 笑顔の種は、実は誰もが持っていて、花を咲かせるための水が、美味しい料理だったり、楽しいお話だったりするのかもしれないと、さっきまでは思っていた。でも、どうやらそれだけでは無さそうだ。 笑顔は別の笑顔を生んで、その笑顔がまた笑顔を生む。季節になれば花が次々と咲いていくように、笑顔は笑顔の隣りから、どんどん広がって行く。 もしかしたら、その輪の中に入れれば・・・その輪の中に入って、自分自身が笑顔になれれば、私も誰かを笑顔に出来るのかもしれない。そうしたら、ラブのように想いを込めて付けられたわけではないこの名前も、ラブのようなあったかい名前に、いつかは育っていけるのかもしれない。 せつなはそんなことを思いながら、隣で食器を洗っているあゆみの顔を見上げて、もう一度ニッコリと笑った。 リビングに戻ってきたラブは、台所であゆみと楽しそうに話しているせつなを見て、静かに微笑んだ。 (よかったね、せつな。せっちゃん、って呼ばれて、すんごく嬉しかったんだよね。) あのときのせつなの顔に、一瞬だけ浮かんだ暗い影。今この瞬間に閉じ込められたら、帰れないんじゃないかと言った、せつなの顔。そして・・・。 ――苦い思い出になってしまった。 そう言って去っていったサウラーの後ろ姿を、ラブは思い出していた。 プリキュアを全員眠らせて、思い出の世界に閉じ込めてしまえば、いくらでも不幸が集められる。サウラーは、そう言ったらしい。でも、サウラーがせつなの子供時代を・・・閉じ込められるような思い出なんか無かったという子供時代を、知らないとは思えない。それに。 ――なぜだ!なぜ思い出の世界から、帰って来た!? ナケワメーケの攻撃を間一髪で防いだときの、サウラーの叫び。あのときの叫びに、自分の作戦が失敗したことへの苛立ちだけではない、何か寂しさのようなものが混じっているのを、ラブは感じていた。 (もしかしたら・・・。) サウラーの作戦には、本当は別の目的があったんじゃないのか。せつな以外のプリキュア三人を眠らせて、一人になったせつなを取り戻すという、そんな隠された目的が。 もちろん、そんなやり方は間違っている。でも、もしかしたら今日の作戦は、せつなのことをまだ仲間だと――かけがえのない仲間だと思っているからこそ、サウラーが知恵を絞った作戦だったのかもしれない。考えれば考えるほど、ラブはそんな気がしてならなかった。 「ほ~ら、持って来たぞぉ。ラブがうるさいから厳選に厳選を重ねたけど・・・三つくらいなら、いいよな?」 両手にカツラのサンプルを抱えた圭太郎が、満面の笑みでリビングに入ってくる。そのいかにも嬉しそうな、誇らしげな顔を見ているうちに、ラブの胸にも、静かな闘志が湧き上がってきた。 (そうだよ!あたしとせつなと、お父さんとお母さんと、美希たんとブッキーと・・・みーんな、ちゃあんと繋がったんだもの。いつかきっと、あの人たちとも、みんなで幸せゲットできるはず!) 「お父さぁん。そんなに持って来て、まさかせつなに、カツラのモデルやれって言うんじゃないでしょうね?」 ラブは圭太郎にそう言って、台所から出てきたせつなに、ニコッと笑いかける。 「え~っ!これでも、厳選したんだぞぉ。」 悲鳴を上げる圭太郎を、笑いを含んだ目で睨んでから、ラブはサンプルが汚れないように、急いでテーブルの上を拭き始めた。 ~終~ 新2-048へ