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version Steam v.4.0.49.0 鴨胸肉 ローストマッシュルーム添え (Duck Breast with Roasted Mushrooms) のレシピ 鴨胸肉のフライ 鴨胸肉を取る[280g]. 以下で味付けする 塩[3g], 黒コショウ[3g], 砂糖[3g]. 鍋に加える ヒマワリオイル[10ml], セージ、フレッシュ[6g], 鴨胸肉. 各面100s焼く. 皿に移す 鴨胸肉[280g]. カット リンゴ[150g][~38g]の4分の1ピースに. ボウルの中に移す. 以下の中に入れる レモン汁[8ml]. 鍋に加える 澄ましバター[10ml], リンゴ. 45s焼く. 加える リンゴ, 鴨胸肉. 熱い 状態で提供する. ローストキノコ ボウルに加える オリーブオイル[40ml], 塩[5g], 黒コショウ[5g], ニンニク、乾燥[5g]. マッシュルームを取る[50g]. 以下の中に入れる 混ぜたもの[16ml]. カット マッシュルーム[10g]のピースに. 天板に移す. 100s焼く. 皿に移す. 熱い 状態で提供する. 攻略 鴨胸肉のリンゴ添えのアップグレードレシピ。 食材 注意点 マッシュルームは自動カッター使用可。やや大きく4分割されるがセーフ。 なぜかオリーブオイルの量は評価に含まれない。マッシュルームに塩、コショウ、ニンニクを直接2g程度かければよい。 採点の詳細
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/905.html
「それでね――――って、聞いてる? 美希ちゃん」 「はいはい、聞いてるわよ。ほら、お砂糖が口にくっついてる」 ふたりきりだからって、油断しないの! って軽くたしなめる。 美希の細い指が祈里のくちびるを撫でるように滑り、それを掬い取った。 「ごめん。ありがとう」 「どういたしまして」 真っ赤になる祈里。それはお行儀の悪さを恥じたからではなくて―――― 以後は慎重にドーナツを千切って口に運んだ。 そんな幼馴染を、美希はやさしく見つめた。 そう、幼馴染。 祈里と美希とラブ。まるで性格の違う三人は、それぞれ足りないものを補う理想の関係だった。 いつでも一緒。特に誰と誰の仲が良いなんてこともなくて。 三人で一緒にいるのが一番楽しかった。 せつなが、現れるまでは―――― 突然現れたその子に、吸い寄せられるかのようにラブは親しくなっていった。 自分たちの絆に勝るものなんてない。そう信じていただけに、二人には少しショックですらあった。 今では四人、それが当たり前になった。美希も祈里も、昔からそうであったようにせつなを受け入れている。 でも、変わったのは人数だけじゃない。 まるで体の一部のように、ラブはせつなを傍らに置いて離そうとしなかった。だから、自然と祈里は美希と過ごす時間が長くなる。 その頃から、祈里は美希のことを特別な存在として意識するようになった。 ドキドキするような、不思議な気持ちが込み上げてくるようになった。 いつも、大切な人が隣にいてくれる幸せ。せつながクローバーに運んできた、それは新しい関係の始まりだった。 「ねえ、美希ちゃん。これからお仕事でしょ。わたしも見に行っていいかな?」 「えっ、その、今日は……やめといたほうがいいかも……」 「迷惑……かな?」 「いや、そうじゃないんだけど……ラブもせつなもいないし、見てるだけじゃ退屈だし」 「なんだ、わたしのことなら平気。じゃあ見学させてもらうね」 「あう……」 読者モデルのお仕事。美希が一番輝く瞬間。 それを目にする喜び。その友達であることの誇らしさ。祈里はわくわくしながらその瞬間を待った。 お茶目な可愛らしさを内に秘めつつも、大人びた雰囲気を兼ね備えた美希は特別な存在だ。 その活躍はジュニア誌に留まらず、リアルファッション誌やメンズファッション誌のゲストにも声がかかるほどだった。 今日は、そんなメンズ誌のゲスト。カップリングの撮影だった。 高校生モデルだろうか、美希より頭一つ高い身長。綺麗という表現が似合うほどの甘いマスク。 そんな男性が美希とお揃いのコーディネートでコンビを組む。 腕を組んだり、見つめ合ったり、抱きつくようなポ-ズまであった。 ゾクリ――――と暗い感情が、見学していた祈里の胸に沸きあがる。 (なに――――これ。なんだか……きもち悪い) ひとことで言うなら不快。ただ、その理由がわからなかった。 きもち悪い? 何が? 相手の子? 違う、相手の男性は見るからに素敵な人。 見惚れるくらい、美希とのツーショットは絵になっていた。 (そうか――――きもち悪いのはわたし自身なんだ……) 嫉妬と呼ぶにはあまりにもくだらない。 相手は男の子。女の子の友達である自分とは何もかもが違う。 比較なんて意味が無い。この場限りの関係であることもわかってる。 (素敵な女の子の美希ちゃんには、やっぱり素敵な男の子こそがお似合い) 頭では理解していたこと。いつかはそんな日が来ることも承知していたはず。 それを目の前に突きつけられた。ただ――――それだけのこと―――― 「ごめん、わたし――――帰る……」 そう一言だけ告げて、祈里は席を立った。美希の顔も見ることができなかった。 返事を聞くのを怖れるように、逃げるように走り去った。 とぼとぼと帰り道を歩む。自己嫌悪に陥る。 きっと美希は気にしただろう。何もあんな態度を取らなくても帰ることはできたのに……。 (大人になんて、ならなければいいのに……) 心にもないことを想う。それは懸命に夢を追いかけてる美希にも、自分にも失礼なこと。 (このまま――――バラバラになっていくのかな) ラブにとって、一番大切な人ができた。その時から、自分にも一番大切な人ができたんだと思った。 いつか、美希にも一番大切な人はできるのだろう。もう、三人で一枚の葉っぱではないのだから。 そして、その相手は自分じゃないかもしれない。そんなの当たり前のこと。 美希が進もうとしてる道は、煌びやかで、華やかで、耀かしい世界。 大勢の人の視線を一身に集めていくのだろう。大勢の人と知り合って、囲まれて過ごしていくのだろう。 むせかえるような人間関係の奔流。そこには無数の出会いがあり、別れもあるのだろう。 引っ込み思案で、この街でひっそり生きていく自分とはかけ離れた存在。 (どうして――――ずっと一緒にいられる、みたいに思ってたんだろう) いつかは――――自分も男の人と……。 想像して、ぞっとする。そんな気持ちにはとてもなれなかった。 女子校に通ってるから。男子に免疫が無いから。それもあるだろう。でも、それだけじゃない。 美希よりもカッコよくて、頼りがいがあって、優しく包んでくれる人。 そんな人はどこにもいない。いるはずがない……。 女の子だから好きになったんじゃない。 初めて好きになった人が、最高の人だっただけ。 たまたま女の子であっただけ。幼馴染として出会っただけだった。 「美希ちゃん……嫌だよ……」 「何が嫌なの? ブッキー」 「きゃああああ!」 「きゃあ、じゃないわよ、全く。こんな場所で女の子が暗い顔してたら、悪い人に狙われるわよ」 「美希ちゃんお仕事は?」 「もうすんだわよ。これでも急いで追いかけてきたんだから」 だから、来ない方がいいって言ったのに。美希はぼやきながら祈里の頭を撫でた。 どこまで、お見通しなんだろう。祈里はそう不思議に思いながらも、なんだか暗い気持ちが薄れていくのを感じていた。 半ば強引に勧められて、美希の部屋に寄っていくことになった。 「お待たせ。ちょっと紅茶にブランデーを入れてみたの。ママには内緒よ」 「ありがとう。いただきます」 あたたかい部屋。あたたかい紅茶。そして薫るブランデー。 何より、美希とふたりっきりの空間。 心も体もぽかぽかと温まっていく。 どうして悩んでいたのか、何が寂しかったのかわからなくなるほどに。 「だからね……」 美希は言い訳を続ける。あのモデルさんとは初対面だってこと。 他にも男性のモデルと一緒に仕事をしたことはある。その後、誘われたこともあったけど、ちゃんと全部断ってるって。 けんめいな語り草に、祈里は可笑しくなってくすくすと笑い出した。 「何がおかしいのよ……」 ちょっとむくれながらも、祈里が笑顔を取り戻したことで美希も安心した様子だった。 「いけない! 今日はママが講習会で遅くなるんだった。アタシ、夕飯の買い物してくるわ。ブッキーはどうする?」 「うん、ちょっとお酒がまわっちゃったみたいなの。少し休んでから帰るね」 「そっか、ごめん、ブランデー入れすぎたかな。アタシのベッド使ってもいいわよ」 「ありがとう、美希ちゃん。行ってらっしゃい」 美希を見送ってから、ポツンと一人部屋に残った。やることがなくて、また紅茶に口をつける。 (あれ……わたし、何をやってるんだろう。飲んだらもっとまわっちゃうのに……) ぼんやりした頭で考える。そして、また紅茶を口にしてからフラフラとベッドに歩み寄った。 (美希ちゃんの……おふとん。美希ちゃんの……良い匂いがする) 体を滑らせるようにして、祈里はベッドにもぐりこんだ。すっぽりと上から掛け布団をかぶる。 羽根布団の柔らかさと温かさ。そして、布団から、シーツから、枕から薫る美希の匂い。 なんだか、祈里は美希に抱きしめられているような気分になった。 (ほんとうに、ここに美希ちゃんがいたらいいのにな……) もぞもぞと動いて、強く枕を抱きしめる。 でも――――枕は抱き返してはくれない。 ギュって……してほしい。そしてギュって……したい。 これって、いけないことなのかな、と思う。 心の中を探っても、昼間の嫉妬のような暗い感情は見つからなかった。 自分が動物を抱きしめたり、さすったりすることと何の違いがあるんだろう。 触れ合うことで感情を伝え合うのは、なにも人と動物の間に限らないのではないだろうか。 「んっ……」 枕の弾力が気持ちいい。 布団の柔らかさが気持ちいい。 でも、気持ちいいのは顔だけだった。後は洋服が邪魔をして、何も感じ取れない。 (じゃあ、脱げばいいよね) ぼんやりした頭でそう決断する。何も間違っていない。何の疑問も起こらなかった。 布団の中で苦労して、一枚づつ脱いではベッドの下に落としていく。 はしたないとは思ったけど、たたむ気力はなかったし、シワになるのも嫌だった。 下着姿になる。肌と布団がこすれあう感覚が心地良い。でも―――― 一番敏感な部分が布地に覆われている。それが、なんだかもったいないような気がした。 プチン。 ホックを外し、上をはだける。後は最後の一枚。 体を丸めるようにして、それも剥ぎ取った。 (気持ち――――いい) 着替えとお風呂以外で、ハダカになるのは初めてだった。 開放感と安心感。恥ずかしくて、でも、不思議に嬉しくて。きっと、自分の布団じゃ味わえない感覚なのだろう。 嬉しくて、くるくると寝返りを打つ。お布団とシーツはそのたびに敏感な部分を刺激する。 そして、動くたびに鼻をくすぐる美希の残り香。 (気持ち――――いい) ジンと、体の奥が熱くなっていく。 ツンと、胸の先が尖っていくのがわかる。 キュっと、大事な場所が持ち上がるような気がする。 なんだか、じっとしていられなくなって、両方の太腿をこすりあわせる。 膝を交互に、曲げたり伸ばしたり。まるで布団の中で歩いているみたいに―――― (こんなことしちゃ――――いけない) いけない? どうして? 自分の体を触るのに、誰の許可が必要なんだろう。 そっと、胸に手を伸ばした。 「うっ……んっ……」 下から上に。中から外に。円を描くように胸をまさぐっていく。 同学年の子よりも、少しだけ大きな胸。ひそかに誇らしい部分をやわらかく揉んでいく。 胸の奥から生まれる、じわっとした快感の波が下腹部に降りていく。 膝をすり合わせる動きが更に加速する。その動きから生まれた快楽は、今度は胸へと昇っていく。 「あっ……くっ……っ……ふぅ……」 体は火照り、呼吸は荒くなっていく。胸だけでこれなら、先っぽなんて……。 恐れに似たものを感じながらも、そっとその頂に指を伸ばす。 ビクッっと体に走る電流のような鋭い感覚。そして、下腹部に感じる締め付けられるような感覚。 「あっ、あっ、あっ」 体を痙攣させながら、それでも刺激を続ける。先が尖りすぎて痛くなってきて、その周囲に愛撫を移す。 突起に指が触れるか触れないかのギリギリの刺激。くるくると指を回すたびにあえぎ声がこぼれる。 そして、下から上に撫で上げるようにまた頂に昇り、指の腹でくすぐってからまた降りていく。 胸から広がる快楽の渦。出口を求めて下腹部に降りて、また昇る。声となって体の外に出ようとする。 それでも耐えきれなくなって、膝を抱えるように体を縮める。 両方の指でキュッときつく先端を摘んだ。それがスイッチとなり、体中に渦巻いていた快楽が一所に集まり脳まで昇りつめる。 「ん……くぅ……ぃ……くぅ――――!」 丸まった体がピンと伸びる。そのままのけぞるようにして弓なりにしなる。 足の指が裏返り、下腹部は収縮を繰り返した。 (胸だけで……いっちゃった……) 荒い息を整えながら考える。 (何を? ここは美希ちゃんの部屋。だったら考えることなんて美希ちゃんのことしかないはず) よくわからない結論を付けて、再び手を伸ばす。 「っ……はっ……んっ……くぅ」 一度達して敏感になった肌。胸の先から、さっき以上の快楽が生まれる。 でも――――今度は下がいい……。 「あぁっ! っ……ぁ……っ……」 割れ目を撫でただけで、頭の先から足の先まで快楽の波が通り抜ける。 切なくなって、やっぱり胸にも手を伸ばす。 繋がっている。上も、下も、足の爪先から髪の毛の一本に至るまで、体は繋がっている。 そんな当たり前のことを、初めて発見したような気持ちになりながら愛撫を続けた。 「っ……はっ……んっ……」 右の指は丹念に両の胸の敏感な部分を往復する。 左の指は割れ目をまさぐり、隠れた芯に到達する。 直接触れないように、包皮の上からこすり上げていく。 「あっ……はっ……あっ――――くぅぅ――――」 いきそうになる感覚を懸命にこらえる。限界まで我慢して、そして―――― その時だった。 「ただいま~早かったでしょ。って――――」 「きっ…………きぃやぁぁぁああああ――――!!」 ベッドの下に散らばっている衣服と下着。 乱れたシーツと半ば跳ね除けられた掛け布団。 そこで震える、一糸纏わぬ姿の祈里。 美希は言葉を失う。頭の中で凄まじい速さで状況の分析が行われる。 祈里の脳が異常を察知して正常に動き出す。 アルコールが押し流され、現在の状況を、自分のやったことを把握する。 (わたし――――どうして――――なんでこんなことを……) 頭が冷えて、そしてゾッとした。 逃げ出したくなったけど、自分はハダカのまま。 服を探して着るのに、どのくらいの時間がかかるのだろうか。 いっそ、今ここで死んでしまいたいとすら思う。 見ないでって、言いたかった。 出ていってって、言いたかった。 でも、ここは美希の部屋。自分にそんな資格はなくて……。 ただ、激しい後悔と恥辱に呑まれて泣くことしかできなかった。 「ブッキー。あなた――――」 硬直から解けて、美希が近寄ってくる。祈里は全身を恐怖で強張らせた。 小さくなれと思う。うんと小さくなって、なくなってしまえばいいと思う。 精一杯体を縮めて運命の瞬間を待つ。 きっと軽蔑された。汚らわしいと思われた。 あたりまえだ。自分だって逆の立場ならきっとそう思う。 どうしてこんなことを。――――自分の部屋でだって数えるほどしかしたことがないのに……。 どんなに後悔しても、今さらなかったことにはならない。 絶望の刻が訪れる。 美希の手が祈里の体にかかり―――― そして――――抱きしめられた。 「大丈夫。大丈夫だから落ちついて」 「えっ……? 美希……ちゃん?」 「アタシのせいよ。お酒効かせ過ぎたわね。落ち込んでるみたいだったから、つい、ね」 「わたし……わたし……」 そこから先は言葉にならなかった。 ずいぶん長い間泣いてから。ぽつぽつと話しはじめた。 美希が好きだってこと。お友達じゃなくて、恋愛対象として。 今日は寂しかったってこと。いつか、自分の側からいなくなっちゃうんじゃないかって。 恥ずかしいから、今まで言えなかったこと。 嫌われるかもしれないから、口にできなかったこと。 でも、もう平気だった。これ以上――――恥ずかしいことなんてないから。 これ以上嫌われるようなことなんて、あるはずもないから。 「ごめんね、美希ちゃん。嫌いになったよね?」 「馬鹿ね……。もっと好きになったに決まってるでしょ」 優しい表情。慈しむような、穏やかな美希の微笑み。 その言葉の真意を知りたくて、口を開こうとして――――塞がれた。 それは初めてのキス。たどたどしいけど、長くて甘いキスだった。 …………………… ……………………………… …………………………………… ………………………………………… ……………………………………………… そこから先は、恥ずかしくて日記にも書けなかった。 でも、書かなくたって一生忘れないと思う。 多分、一度きりの繋がり。深く愛しあった大切な記憶。 全てが終わった後、布団の中で美希がささやいた言葉。それだけ記した。 「アタシは女の子よ。だからブッキーと、永遠の愛を誓うことはできないわ」 「うん、わかってる」 「そしてブッキーにも、そんな風に自分を縛り付けてもらいたくないの」 「うん……」 「でも、ブッキーはアタシの初めての人で。そして、これからもずっと大切な親友だから」 「うん……それでいい。ありがとう、美希ちゃん」 いつもの学校の帰り道。わざわざ遠回りをして、会いに来てくれた美希に祈里が駆け寄った。 「ねえ、美希ちゃん。今日もお仕事でしょ。わたしも見に行っていいかな?」 「えっ、その、今日は……やめといたほうがいいかも……」 「美希ちゃん……。また、やましいことするんだ」 「ちょっと! 人聞きが悪いわね。やましいのはブッキーのほうでしょ」 「ひどい……。それは言わない約束なのに」 「あぁ、ごめん、つい。そうだ! ギャラでドーナツおごるから、ね?」 「三つなら許してあげる」 「二つにしておきなさい、太るわよ?」 少しにらみあって、そして吹きだした。 じゃあ、今日はお砂糖いっぱいまぶしたのにしよう。 また口につけて、そして―――― 幸せな妄想に胸を膨らましながら、美希と共に歩いていく。 将来のことに不安はあるけど、まず、今を一生懸命に生きようと思った。 そうすれば、きっと今より素晴らしい関係が築けると信じて。 大丈夫よね? 美希ちゃん。 ずっと仲良しでいられるって、わたし―――信じてる。
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(私、何か悪かったのかしら………) せつなは練習着のままベッドに腰掛け、ため息を付く。 時計を見て更にため息。ダンスレッスンの後、予定もないのに こんなに早く帰宅するなんて初めてかも知れない。 いつもなら皆とお喋りして、ドーナツ食べて……。 時間なんていくらあっても足りないくらいなのに。 今日の美希と祈里はおかしかった。 まだ付き合いの長いとは言えない自分にもはっきり分かるくらい。 せつな以上に不自然さを感じてるはずのラブは何も言わない。 せつなを促して早々に家路についた。 美希はいつもと変わらない。いつもより上機嫌なくらい。 それこそがおかしかった。 祈里の覇気の無い態度。少ない口数。 何か言いたげに美希を窺っているのが分かるのに、 美希はわざと知らん顔してた。 いや、知らん顔はしてない。祈里にもちゃんと話掛けてた。 でも………。 (ブッキー、何かを待ってたみたいだった。) 美希の受け答えが、明らかに期待と違ったのだろう。 祈里は美希と言葉を交わすごとに睫毛を伏せ、瞳を陰らせていった。 会話自体はごく普通の雑談、だと思う。 美希が祈里を買い物に誘い、祈里は都合が付かない、と断る。 それだけだった、はず。 「ねぇ、ブッキー。この後はどうする?買い物行ける?」 まだ返事聞いてなかったわよね? 美希は屈託のない笑顔で話しかける。 「……あ、……ごめんなさい。今日は……」 祈里は上目遣いに美希を窺いながら、言葉を濁す。 「ああ、都合悪い?最近忙しいのね。」 「…あ……」 祈里の言葉を最後まで聞かず、美希はせつなに話しかける。 祈里がすがるような視線を送っているのに。 「ね、せつな、この間の店!ブッキーに似合いそうなニット、あったじゃない? あれ、見に行こうって言ってたの。すごく可愛かったわよね。」 「え?あ?うん。」 「あれ、せつながブッキーに絶対似合うって言ってたやつ。 まだ残ってるかしら?」 「さぁ、どうかしら……。」 「せつなはこの後どうするの?ブッキーが無理なら予定空いちゃった。 また買い物でも行かない?」 「ダメだよ、美希たん。あたしとせつなは用事あるんだから。」 「なに?アタシも混ぜてよ。一人じゃつまんないじゃない。」 「家族で出掛けるんだよ。遊びに行くんじゃないし。」 なぁんだ。と、美希はつまらなそうに唇を尖らせていた。 勿論、そんな予定なんて無い。 私、ちょっとおろおろしてたと思う。 ああ言う時、どうしていいかわからない。 ただ、ブッキーが私に話しかける美希を曇った目で見ていたのは分かったから。 ラブが助け船を出してくれた。 あのままじゃ、私きっと変な事言ってたと思う。 今までラブ達3人の事、単純に羨ましいと思ってた。 物心付く前からお互いを知ってて、家族ぐるみの付き合いで。 家族も友達もいなかった私には、ただ眩しくて。 でも付き合いの長い友達って、ただ単に仲良しなだけじゃ済まない 何かがあるのかしら。 (難しいものね……) 胸の奥が石を飲み込んだように固くなる。 本当は祈里に嫌われているのだろうか? チラリと頭を掠めただけなのに、涙が滲みそうになる。 祈里は優しい。祈里のお陰でクローバーに溶け込む勇気が持てた。 今でも自分に見せてくれた親しみは本物だったと信じてる。 それでも… 祈里は、自分が美希と親しくするのを歓迎してない。それだけは分かる。 (どして……?) 「あのー……、せつなさん……」 いつになったら、あたしの存在に気付いて貰えるんでしょうか? ベッドの足元に座ったラブが苦笑いで見上げている。 そうだ、ずっとラブここにいたんだっけ。 「ごめん……。」 ま、いいや。ラブはそう言って私の後ろに回り込んだ。 私の肩に顎を乗せ、お腹の前で指を組んで抱き抱えるように密着してくる。 「せつなのせいじゃないよ。」 「私、別に……。」 「でも、原因探してたでしょ?」 「………………。」 あの二人の事はラブが一番よく分かってる。 そのラブが静観してるんだから、自分なんかに出来る事はないんだろう。 それでも、考えだすと止まらない。 ほんの少しでも自分にも原因があったら。 自分のせいでクローバーがおかしくなってしまったら。 目の前が暗くなるほど怖い。 それなら、自分が消えてしまう方がずっと気が楽。 こんな事ラブに言ったら怒られるから絶対に言わないけど。 「ブッキー、おかしかったね……。美希たんも。」 「……うん。」 「ねぇ、せつな。あたしの事、好き?」 こんな時に何でそんな事を聞くんだろう? そう思いながらも、耳が熱くなってきた。 「……好き、よ?」 「じゃあ、美希たんとブッキーは?」 「??好きよ。」 当たり前じゃない。だから今だって悩んでるのに。 「せつなはあたしの恋人だよね?あたしの事、好きだから一緒にいてくれてる。」 「??そう、だけど……」 「じゃあ、何であたし以外の人を好きって言うの?」 「ラブ…。何、言ってるのよ?」 真剣に訳が分からない。からかわれてるんだろうか。 「答えてよ。せつなはあたしの恋人で、あたしが好き。 それなのに、何で美希たんやブッキーを好きって言うの?」 「……だって…。どして?そんな事言うの?あの二人は友達だもの。 ラブとは意味が違うじゃない。」 「そう!それが原因。」 「……?」 「ブッキーがおかしかった原因だよ。それが。」 どう言う意味?私とラブは恋人……で、美希と祈里とは親友。 どちらもとても大切な人。 それに、美希と祈里だってそうなのよね? だって、美希は本当に祈里を大事にしてるもの。 ついからかいたくなるくらい。 私が祈里の事でからかうと、美希はすぐに拗ねた振りをする。 頬を染めて、プイっとそっぽ向いたり。慌てて話を逸らそうとしたり。 いつもおすましでお姉さんぶってる美希が、まるで 小さな子供みたいに可愛いの。 「ブッキーはねぇ、あれでけっっっこうワガママなんだよねぇ。」 まぁ、美希たん絡み限定だけど。 美希たんにとって、いつでも自分が一番でないと嫌なんだ。 恋人とか、友達とか、関係ないの。 「まぁ、自分でもあんまり分かってないんじゃないかな。自分の気持ち。」 「ラブには……分かるの?」 「たぶんね。」 羨ましいんだよ。 ラブはそう言う。「羨ましい」その感情は理解出来る。 昔、イースだった頃にラブに抱いた気持ち。 そんな感情を自分が持つ事自体を認めたくなかった。 屈辱感すら覚え、自分をこんな惨めな気分にさせる存在に 憎しみをたぎらせた。 もし、寿命を切られる事がなかったら「幸せ」を夢見、その最中にいる人間を羨むなど 頑として認めなかっただろう。 すべてが裏返しになった瞬間の事はよく覚えてる。 「羨ましいと思った」そう、口に出しても不思議と恥ずかしくも悔しくもなかった。 目の前が開け、縮こまっていた胸の中がすうっと外に広がって行くような気分。 「清々しい」、そう言った気がする。 でも、分からないのは祈里がなぜ「羨ましい」なんて思うのか。 可愛らしくて、頭も良くて。あんなに大切に想ってくれる美希のような存在が側にいて。 およそ、人の羨む要素をこれでもかと持ってるのは祈里の方だと思うのだけど。 「人の気持ちってさ。不思議だよね。完璧に見えてる人でも本人は 全然満足してなかったり、誰もが欲しがるような物を持ってる人が、 本人はそんな物まったく必要ないと思ってたり……」 たぶんそうなんだ。せつなにもない?そう言う事。 ラブに体を預けるように、力を抜く。 暖かくていい気持ち。飲み込んでいた塊が、少しずつ軟らかくなっていく。 「たださ、これだけは確かだよ。」 「……?」 「ブッキーは、せつなの事、大好きだよ。」 親友だもんね。 そう言ってぎゅっと抱いてる腕に力を込めてくれた。 やっぱり、ラブにはお見通しなんだ。 いつも、私が一番欲しいものをくれる。自分でも、気付かないくらい 無意識に欲しがってるものを。 「……うん」 ちょっと泣きたいような気分だったけど、ラブを見てニッコリ笑ってみた。 きっとラブは私が泣くより、笑顔の方が喜ぶと思ったから。 「やあっと、笑った!」 すべすべの頬を擦り寄せられるのは、くすぐったいけど気持ちがいい。 祈里と話してみたら駄目かしら? ラブはこう言う時、きっと黙って見守るのよね。 きっと大丈夫!って信じて。 (ラブは、そっとしておく事に決めたのよね…?でも……私は……) ちょっとだけ、お節介やいてみようかと思った。 時には、強引にに踏み込む事も必要なんじゃないかと思うから。 ラブが私をラビリンスから取り戻そうとしてくれたみたいに。 はっきり言って私は言葉で伝えるのが苦手だし、下手くそなのは分かってる。 きっと、ブッキーはびっくりして、……ひょっとしたら傷付けてしまうかも。 それでも、精一杯伝えようと頑張ればブッキーなら許してくれるって 思うのは思い上がりかしら? ブッキーに伝えたい。 心は繋がるって。誰かを想う気持ちは、黙っていてもきっと相手に伝わってる。 でも、言葉にすればもっと深く繋がって、もっと強く結び付くんだって。 私は、みんなにそう教えて貰ったから。 避-577へ
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ある日、突如四ツ葉町を襲った恐怖“ラビリンス”。 突然市街に現れる怪物は警察組織の手に負えるものではなく、市民に恐怖を撒き散らした。 それでも恐慌に陥らず、生活を続けられたのは彼女達の活躍があったからだ。 “レジェンドプリキュア” 街を守り、世界を救った四人の少女達。やがてその存在は、驚きの正体は一部の市民から明ら かにされた。 活躍中から追いかけていた雑誌のカメラマンはもちろん、TV局の取材まで大勢の人たちが押 しかけた。 英雄、スターとして賞賛を浴びたのも束の間、その変身能力が失われていると知ると、失望と 羨望の声のほうが大きくなってくる。 「本当は変身できるんじゃないんですか? ちゃんと答えて下さいよ」 「どうして変身できるようになったんですか?」 「そのお力をほかの事にも役立てようとは思わなかったのですか?」 ダンス大会に優勝できたのも、メンバーの一人が厳しい選考に勝ち抜いてモデルに選ばれたの も、そのおかげではないかと囁かれる声もあった。 「無闇に使うには大きすぎる力でした。ラビリンスと戦うために与えられました。そして、タ ルトたちと一緒に異世界に帰したんです」 四ツ葉町の人々は、みんなで彼女たちを庇った。しかし、ラビリンスの恐怖は世界各地を襲っ ており、拘束してプリキュアの力の解明に乗り出すべきとの声まであがった。 それでもなんとか通常の生活が送れたのは、御子柴財閥が各方面に働きかけてくれたこと。 そして、彼女たちを守る、一人の男性が居たことだった。 「はい、そこまで。おじょうちゃんたち嫌がってるでしょ? いい大人のすることじゃないよ」 普段ひょうきんな彼の怒りの眼差しは、百戦錬磨のブン屋まで怯えさせた。 「ありがとう。カオルちゃん。 あたし……こんなことになるなんて思ってもみなかったんだ」 普段元気な少女の顔には、既に久しく笑顔が失われていた。悲しげな表情の中に、心労と憔悴 が見て取れる。 「どうなるかわからなかった。もう戻ってこられないかもしれない。だから、あたしたちが何 をしてきたのか、何をしにいくのか、せめて大切な人たちに伝えておきたかったの。 ありがとう、行ってきますって。それだけなのに」 みんなで幸せになりたい。そう願った少女達の戦いの日々。傷付きながら守り抜いたこの世界 の自由と幸せ。 しかし、優勝も報われずユニットは解散。親友の一人は異世界に旅立ち、他の二人とも会う機 会も減るばかり。 ダンスレッスンの再会の目処も立たず、マスコミに追いかけられ、中傷の記事まで書かれ追い かけられる。 結局彼女は、他人の幸せを守るために自分の幸せを犠牲にしてしまったのかもしれない。 ブッキーからメールが届く。 「ラブちゃん大丈夫? わたしは平気。学校には車で送り迎えしてもらってるし、 ラブちゃんは気をつけてね」 平気なんて嘘だろう。美希からも入る。 「こっちはそれほどでもないわ。知名度上がっていいくらいよ。あなたは気をつけなさいね」 これも嘘。 マスコミに叩かれ、追いかけられ、キャンセルになった仕事もあるとラブは読んだことがあっ た。 プリキュアの掟、それは巨大な力を自分の為に使わないこと。そのための隠匿。秘密の厳守。 同時にそれは、彼女達の平穏な日常を守ってもいた。 ごめん、美希、ブッキー。 せつな、タルト、シフォンは平気だよね? あたしのせいだ、ごめんね。 みんなで幸せゲット、できなかったな。 どこで間違えちゃったのかな。そんなにいけないことだったのかな。 けたたましく鳴るサイレンの音。すぐ近くだ。焦げ付く匂いが鼻をかすめる。 ラブは家を飛び出した。 「助けて! 助けてください。中にはまだ三歳の子供が居るんです」 泣き叫ぶ母親らしき声。消防車は途中で事故を起こして遅れているらしい。 地元の人たちが消火活動を続けるも火の手が強く、また家屋が弱っており、突入は危険で踏み 込めないでいるらしい。 ド ク ン ! ド ク ン ! ド ク ン ! 心臓がおかしな鼓動を刻む。あの中に、まだ子供が居る? 毒々しい赤い炎と大量の煙を吐き 出し、今にも崩れそうなあの中に? ド ク ン ! ド ク ン ! ド ク ン ! 助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ、でも、どうやって? 理性が訴えかける。 ――無理だ。 ――行くな。 ――行けば命は無い。 その子の母親らしき女性がラブの姿を見止めた。 「桃園ラブさんですよね?キュアピーチの。お願いです、助けてください。 あそこには、あの中には、まだ……まだ私の娘が居るんです」 すがり付いて泣き出した。どうしていいかわからなくてただ抱きしめた。 周囲から声が上がる。もし助けられるならなんとかしてやってくれ。 涙交じりの声。普段の非難とは違う懸命な願い。純粋な想い。 「まかせてください」 ラブはそう叫んで、近くにあった水をかぶり駆け出した。 むせて咳き込こんだ。膨大な量の煙に視界がほとんど利かない。熱気が体を焼く、今は痛みは 考えないことに した。 炎の塊を飛び越えるようにして、なんとか階段を昇りきった。 二階のどこに居るのか、場所を聞くのを忘れたのが悔やまれる。 「こほっこほっ、えっえっ」 かすかに泣き声が聞こえた。すぐ目の前の扉の向こう側。取っ手を握ろうとして慌てて離す。 やけどの痛みが走る。 このくらい――体当たりで扉を破って滑り込んだ。焼けて脆くなっていたのが幸いした。 (居たっ!) 二階建てのベッドの下の空間。金属で出来ていたのが幸いしたのだろう。上の段の布団は燃え て黒い灰になっていた。 そっと引っ張り出す。さっきの声が最後の力だったのか、ぐったりして反応が無い。 上着を脱いでその子の体を覆った。顔を胸に当て、熱風に焼かれないようにする。来た道を戻 ろうとして――愕然とした。 そこは既に火の海だった。 どうする、どうしたらいい? 這い蹲るように姿勢を低くしても、煙はすぐ頭の上にあった。 息が出来ない。肺が焼けそうになる。有毒な煙なのか意識が朦朧とする。 (ここまでなのかな) ……苦しい。 ……もう……だめ……。 そのまま目を閉じようとした。 「えっえっ」 かすかに聞こえた。抱きかかえた子の泣き声。 だめだ! まだあきらめちゃいけない。この子はあきらめていない。 炎に包まれて溶けかかった椅子が目に入った。もう、これしかない。 気力を振り絞り、椅子を掴んで窓に投げつけた。窓が破られ、大量の熱風が外に流れ出す。 子供を全身で包むようにして、その中に飛び込んだ。背中に、首に走る痛みに耐えながら、風 に押されるように窓の外へ。 これしか、思いつかなかった。ごめんね。そう心の中で謝って窓の外に飛び出した。 背を下に向けて落下する。下を確認する余裕も無かった。そして、落下の衝撃を感じることも ないまま、空中で意識を失った。 (あれーーあたし、どうしたんだっけ……) 意識が暗闇から抜ける。僅かに目を開こうとしただけで、痛いほどの光が飛び込んでくる。 「ラブっ、気がついたの!? おかあさんよ、わかる?」 おかあさんに手を握られていることに気がついた。握られている手が汗ばんでいる。ずっとそ うしていたんだろう。 うん、もちろんわかるよ、おかあさん。そう言おうとして上手く声が出せないことに気がつい た。 喉に激しい痛みが走る。熱で焼かれたのかもしれない。 「あの子はどうなったの?」 かろうじてそれだけ聞いた。涙ぐんだおかあさんの顔がちょっとだけ微笑みに変わる。 「大丈夫よ、別の部屋で手当て受けてるけど、ラブより退院は早いそうよ。 さっきお母様も挨拶に来られていたわ」 (そっか、よかった) 水を一口飲んだらだいぶ楽に話せるようになった。ひとつひとつ尋ねていく。 あたしはマットの上に落ちたらしい。火傷は不思議なくらい軽かったらしい、でも煙を吸いす ぎて昏睡状態だったとか。 病室を覆い尽くす千羽鶴。箱に詰まれた数千通もの励ましと謝罪の手紙。山と積まれた見舞い の品と花束。 あたしが意識を失うまで変身をしなかったことで、本当に力を失ってることがわかったらしい。 それでも命をかけてあの子を救おうとしたことで、世間の見方が変わったんだそうだ。 (そっか、なら、あたしの罪は許されたのかな) 「ラブっ」 「ラブちゃん」 美希たんとブッキーが同時に入ってきた。 涙でくちゃくちゃになった美希の顔、こんなの見るのいつ以来かな、なんて関係ないことを思 い浮かべる。 その後、思いっきり美希たんに叱られた。自分を大事にしろって。うん、そうだね。でもあた しは知っている。 きっと美希たんはあたしと同じ事をする。 ブッキーもありがとう。わかってる。ずっとあたしの無事と回復信じて祈ってくれてたんだよ ね。だから帰ってこられたよ。 たくさんの想いのつまった手紙を一通づつ読んでいく。疲れて、美希たんやブッキーに変わり に読んでもらう。 涙が溢れてくる。やっぱり、あたしたちがやってきたことは間違いじゃなかったって。 おとうさん、おかあさん、美希たん、ブッキー、心配かけてごめん。 でも、あたし思うんだ。 強いから戦っていたんじゃない。 勝てるから戦っていたんじゃない。 守りたいものがあるから戦っていたんだって。 だから、あたしはやっぱり、変わらず口にする。 ――みんなで幸せゲットだよ。
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(……眠ったのかな?) ラブは胸元に顔を寄せて、規則正しく肩を上下させ始めたせつなを覗き込む。 せつなを起こさないよう、慎重に体を離す。少し体をずらし、寝顔が見えるように。 長い睫毛が影を落としている。熱のせいか、いつもより唇が赤い。 頬や顎の線が痩せた為に少し鋭角になっている。 けど寝息は、すぅ、すぅ、と心地よく聞こえ、少し前の浅い呼吸の寝苦しさは 感じられない。 (少しは安心してもらえたのかな……。) せつなを安心させてあげられなかった。 それは、他ならぬラブ自身が安心してなかったから。 (よく言えたもんだよね……。) さっきの自信満々な自分の態度がおかしくなる。せつなが自分から 離れて行かないか……、それに夜も眠れないほど怯えていたくせに。 せつなに出会って、恋に落ちて……、今までの自分からは考えられないような 自分にいくつも出会った。 誰かを好きになる。それってすごく楽しくて幸せな気持ちになるんだと思ってた。 今までも、人を好きになった事がなかったわけじゃない。 でも、どれも(…いいな。)と思う程度の、好意にほんの少しの甘酸っぱさを 加えた幼く淡い想い。 その人を思うとほんのり胸が熱くなって、ちょっとくすぐったいような。 幸せで温かい気持ち。 だから、恋もその延長上にあるんだと思ってた。 もっと幸せで、もっと熱くて、もっとドキドキするような。 それは半分当たってた。想像してたよりうんと、熱くて、激しくて。 どうにかなってしまうんじゃないかと思うくらい心を揺さぶられ、掻き乱される。 そして、幸せと同じかそれ以上の不安や苦しみ、知らなかった自分の醜さも 嫌と言うほど思い知らされた。 会う度に違った姿を見せたせつな。 初めは古びた洋館の占い師。次に出会った時は、ちょっと不思議な雰囲気を纏った、 でも、とても綺麗な女の子。 そして、いつも高い所から見下ろし、容赦なく痛めつけてきた敵。 ラビリンスのイース。 その二人が同一人物だと分かったとき、世界が砕け散るような衝撃を受けた。 どん底まで落ち込んで、けど、諦められなくて……。 いつせつなを好きになったのか……、今となってはもう思い出せない。 気が付けば、それは当たり前の事実として胸の中に根を這わせていた。 せつなへの想いを認める葛藤の時間すらなく、二転三転する事態に翻弄され、 再び手を繋いだ後は……… もう二度と放さない。どこへも行かせない。 それしか考えれなかった。 (あの頃のあたしってば、すごい行動力だよね……) 取り戻した、と思った矢先のイースの死。 そして、その現実をまだ受け止め切れないまま迎えたパッションの誕生。 その時の震えるような歓喜。 だけど彼女は差し出した手を取ってはくれず、目をそらして立ち去ってしまった。 あたしは焦ってた。 以前の、イースだった頃のせつなはいつだって、フラりと現れては またいつの間にか消えてしまうような女の子だった。。 いつも姿を見せるのは彼女の方から。連絡しようにも、捕まった事はない。 それでも途切れる事なく会っていたから、それほど不自然には感じなかった。 こちらから連絡しなくてもちょくちょく会いに来てくれるんだから、 好意は持ってもらってる。そんなふうに、深くは考えてなかった。 今にして思えば、敵であることを隠してたんだから、余計な情報 は与えないようにしてたんだろう。 いつも巧くはぐらかされていた気がする。 気付かないうちに、心の奥底で不安が燻っていた。 いつか、会えなくなるんじゃないかって………。 今しかない。せつなを丸ごと手に入れる。 せつながプリキュアである事を受け入れ、仲間としてやっていく事を誓ってくれた。 せつなの行き場が無いことを理由に、半ば強引に家族として迎え入れた。 心配だから。力になりたいから。すべてせつなの為に。 でも、本当の理由は…… 今なら、せつなにはあたしかいない。 今なら、あたしだけを見てくれる。 だから…… だから無理矢理、恋人にした。 愛される事を知らなかった彼女に、徹底的に身勝手な愛を叩き込んだ。 心に目隠しをして、あたし以外がその瞳に映らないように。 体を繋ぎ、愛してると囁き、愛されると言うのはこう言う事。 そう、繰り返し……繰り返し…。 せつなが、周りを見渡す余裕が出来た時には、もうすべてあたしのものに なっているように。 身も心もあたしのせつなに。 (………その結果がこれ……) せつなをボロボロにした。 祈里の心を玩び、壊した。 とりとめなく浮かんでは消える思考の欠片。 せつなの寝顔を眺めながら涙が滲んでくる。 後悔、と言うには余りにも苦い思いに胸を掻き毟りたくなる。 自分だけが悪かった、とは思わない。 けど、最初に間違ったのは間違いなく自分だ。 祈里がせつなに送る視線。それは確かな質量と熱を持っていた。 且て、自分がせつなに送っていたのと同じ種類。 だから、思い込んでしまった。祈里も同じだと。 祈里はせつなを欲しがってる。 あたしと同じように、身も心も。 本当にそうだったんだろうか。 祈里がせつなに送る愛おしそうな視線。 ただ、祈里は愛でていたかっただけなのかも知れない。 その姿を。声を。微笑みを。 ふと見付けた、今まで見たことのない花が蕾をつけ、日に日にほころんでゆく。 どんな色をしているのか。どんな香りを放つのか。 息を詰めて見守り、そっと大切に。触れる事すらせず。 誰か一人のものになるなんて、考えもせず。 なのにその花は、いつの間にか無遠慮な手で摘み取られてしまっていた。 誰のものでもない、そう思っていたのに。 摘み取った手は自慢気に見せびらかす。 (ほら、綺麗でしょ?) けど、決して自分以外は触れさせない。 (あなたは見るだけね。) これは、もうあたしのものなんだから………。 あたしが焦って突っ走らなければ、 そうかも知れない。違うかも知れない。後悔がそう思わせてるのかも。 (あぁ……、ダメダメだぁ……。) また思い込みで凝り固まりそうになってる自分に気が付き、溜め息が出る。 前向き、と言えば聞こえは良い。 何でも良い方に考える。ネガティブな事も自分に都合良く解釈する。 今までずっとそうやってきたけど、今回ばかりは無理だ。 どうやったって誰も悪く無い、とはならない。 自分が悪かった。そう思うのは簡単。でもそれじゃ、自分の傷を舐めてるだけ。 せつなは祈里との事、切っ掛けは結局話せなかった。(……庇ってるの?) そう思うと、自分で話さなくていいと言っておきながら胸の奥が ザワザワと波立つ。 そこでも、せつなと祈里の関係はせつなが望んだものではない。 祈里に強要されたんだ、と当たり前のように思っている。 せつなは悪くない。裏切ってなんかない。 祈里を傷付けたのはあたし。祈里だって苦しい。 幾つもの気持ちが攻めぎ合い、浮かんでは消える。 (あたしは、どうしたいんだろう。) 元に戻りたい。でもそれは無理。 見てしまった光景は忘れられない。気付いてしまった自分の汚さからも逃げられない。 せつなの傷は癒えても消えはしない。 祈里はせつなを傷付けた。それは間違いないだろう。絶対に許せない。 そして同時に、せつなと同じくらい祈里を失いたくないと思っている自分に気付く。 せつなは戻ってきてくれた。 傷付いて、ボロボロになって、怯えながらも自分の意思であたしを選んでくれた。 ううん、最初からせつなの心はどこにも行ってなかったのに、 あたしが見失ってたのかも知れない。 せつなは罪人のように震えながらもあたしに手を伸ばしてくれた。 自分で鎖を断ち切り、血を流しながらも自分で自分の場所を決めた。 あたしの側にいてくれるって。 誰より大切で愛おしいせつな。今、腕の中で眠ってくれている。 もう、どこにも行かない。 身勝手で欲張りなあたし。 これさえあれば他に何もいらない。一度手に入れ、失ったと思い込み、 でも再び抱き締める事が出来た。 その途端に、今まで持っていたものも手放すのが惜しくなる。 優しく温かだった親友。 お互いに何も言わなくても通じ合う、幼い頃から培ってきた居心地の良い空気。 (ブッキーは、もう、ブッキーじゃなくなったの……? ……あたしが、そうさせちゃったの……?) いつも思ってた。祈里の笑顔はふんわりと優しくて、まるで甘いお菓子みたい。 その笑顔を瞼の裏に思い描こうとする。 なのに、大好きだった筈の笑顔は像を結んだ途端に滲んでゆき、 その形を成さない。 眠っているせつなに額を寄せる。 一言も、あたしも祈里も責めなかったせつな。 あたしに、せつなくらいの勇気があるだろうか……。 傷付いても、血を流しても、自分でどうするか決める。そんな勇気が。 5-72へ
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「おはよー、せつな!今日も1日よろしくね。」 「おはよう、ラブ。こちらこそよろしく。」 私がラブの家に住み始めてから、もう何十回目の朝を迎えたのだろうか。 朝のあいさつもよそよそしかった最初の頃に比べて、今ではごく普通に交わしている。 今日は中学校の行事である、職場体験学習の1日目だ。 「ラブ、ジャージ姿で登校なんて何か新鮮ね。」 「うん、せつなは何を着てもサマになるねぇ。」 「ありがと・・・って、ちょっとラブ!それって褒めてるの?からかってるの?」 「さあ、どっちかしらね~あはは!」 走って逃げていくラブを追っかけているうちに、学校に着いた。 朝のホームルームが終わり、学年全員が校庭に集まった。 私たちは同じ体験先ごとに数人ずつ連れ立って行った。 幼稚園に行くのは私とラブのほかに、他の2クラスからいずれも女子が2人ずつ。 「この子があたしのクラスに転入してきた、せつなだよ。」 「東せつなです。はじめまして。」 彼女ら4人は、ラブやクラスメイトが羨ましいと言っている。そんなに私って人気者なのかしら? 話をしながら歩くこと十数分、目的地の幼稚園に到着した。「クローバーようちえん」と書かれた看板が見える。 昨日ラブと一緒に見たアルバムの表紙と同じ名前だ。 「ねえ、ラブ。ここがラブが通ってた幼稚園なの?」 「うん、そうだよ。いやー、昔を思いだしてきたよ。」 私たち6人は職員室を訪れた。先生方にあいさつした後、中学のクラスごとに2人ずつに分かれた。 私とラブは年少組の担当だ。3人の中で最も若く見える女の先生が迎えてくれた。 「四つ葉中学から来ました桃園ラブです、よろしくお願いします!」 「同じく東せつなです。どうぞよろしくお願いします。」 「ラブさんに、せつなさんね。私はこの幼稚園の年少組の先生よ。よろしくね。」 「はい、先生。」 私たちは先生に連れられて、年少組の教室へ移動した。 しばらくすると、園児が1人、また1人と教室に入ってくる。 私たち2人に気付いたのか、大きな声であいさつしてきた子もいた。こちらもおはよう、とあいさつを返す。 「はい、全員そろいましたね。みなさん おはよー ございます!」 「せんせー おはよー ございます!」 先生も園児たちも、聞いたことのないイントネーションでゆっくりしゃべってる・・・どして? 「今日はね、みんなのお姉ちゃんたちが幼稚園に来てくれました。」 「ラブお姉ちゃんと、せつなお姉ちゃんです。それじゃ、自己紹介よろしくお願いします。」 「みなさん、おはようございます!桃園ラブです。」 「ラブって、ちょっと変わった名前だけど、あたしはこの名前が大好きだよ!みんなよろしくね。」 「おはようございます。東せつなです。」 「私は幼稚園に来たのは初めてですけど、みなさん仲良くしましょうね。」 「はい、よくできましたー。みんな拍手ー!」 私たちは園児たちから拍手の祝福を受けた。 ただあいさつしただけなのに何だか照れくさいわ・・・。 「さあ、みなさん。今日はお絵かきをします。」 「今回のテーマは『ぼくの・わたしの好きなヒーロー・ヒロイン』です。」 「みなさん、おうちからお手本となる物を持ってきましたか~?」 「は~い!」 園児たちが元気に答える。中にはヒーロー物の人形を高々と掲げる男の子もいた。 「それじゃみなさん、これから画用紙を配りますので、もらった人から描いて下さい。」 「ラブさん、せつなさん。画用紙を配るのお願いね。」 ラブと私は先生から画用紙をもらい、園児たちに1枚ずつ配っていった。 みんな「ありがとう」とお礼を言って受け取ってくれた。 入園して半年足らずでこんなにお行儀がいいなんてスゴイわ・・・。 「ラブさん、せつなさん、画用紙配りご苦労さま。よかったら、あなたたちも一緒に描いていかない?」 先生が私たちにも絵を描くように勧めてきた。 「あ、あたしはエンリョしときま・・・」 「ラブ、せっかくだから描いていきましょ。美術の自主制作だと思えばいいじゃない。」 「う、うん。ホントにせつなは真面目だなー。じゃあ、お願いします。」 先生から画用紙と色鉛筆を受け取り、お互い向き合って椅子に座った。 「せつなー、あたしたちお手本になる物を持ってないよー。一体何を描けばいいの?」 「ラブ、これがあるじゃないの。」 「あ、そっか!リンクルンの画像フォルダね。せつな、あったまイイー!」 「お世辞はいいから早く描く題材を決めて。描ける時間は少ないわ。」 リンクルンを開き、保存されている画像をチェックする。 テーマに一番見合った画像を決め、完成イメージを思い浮かべて色鉛筆を動かす。 ラブもどうやら描く絵を決めたようで、リンクルンと画用紙を交互に眺めながら絵を描き始めた。 「はーい、みなさん。絵は描けましたか~?」 先生の言葉と共に、描いた絵の発表タイムがやってきた。 「じゃあ、みなさんより先にラブお姉ちゃんとせつなお姉ちゃんの絵から見てもらいましょうね。」 「まずは、ラブお姉ちゃんからどうぞ~」 「わは~、自信は無いけど一生懸命描きました。それじゃ、見て下さい!」 ラブは教室の前方にあるホワイトボードの前に立ち、自分の描いた絵を全員に披露した。 少女漫画チックに描かれたその絵には、笑みを浮かべ両手でハートマークを作っている女の子の姿が。 描かれているのは・・・私? 「あら~、ラブお姉ちゃんはせつなお姉ちゃんを描いたのね。よく描けているわ。」 「てへへ、ありがとうございます。この笑顔のせつながあたしのヒロインです!」 (まあ、ラブったら・・・ありがとう、うれしいわ。) 「さあ、次はせつなお姉ちゃんの番よ。」 私は最前列へと移動する。 途中でラブとすれ違う際に軽くハイタッチし、ウィンクでエールをもらった。 「私も絵を描くのはあまり得意ではないのですが・・・みなさん、見て下さい。」 絵が描かれた画用紙を自分の胸の前に掲げる。 しばらくすると、「おおーっ」とか「すごーい」などの声が聞こえてきた。 「せつな、これあたしだよね?ダンスレッスンのシーンか~。」 「せつなさん、あなた上手だわ。今にも絵の中のラブさんが動き出しそうよ。」 「あ、ありがとうございます。ダンスをしているラブが一番輝いているから・・・。」 ラブが私のもとにやってきて、両手を前に出すように促す。 私も描いた絵を教卓に置いて、ラブに向かってそれぞれの手を差し出した。 ラブは右手、次いで左手で私の逆の手を握り、こう話し掛けてきた。 「せつな、あたしを描いてくれてありがとう。本当にありがと・・・。」 私に感謝の言葉を述べるラブ。その目は潤んでいるようだ。 「ううん、私にとってのヒロインはラブしかいないから・・・。」 「せつな・・・!」 「ラブ・・・。」 つないでいた手を離し、ラブが両腕を大きく横へ広げたその時だった。 「せつなさん、ごめんなさい!」 私は先生に突然左腕をつかまれ、脇へと逸らされてしまった。 敵の気配を感じる事が得意な私も、この時ばかりは無警戒だった。 私をつかみ損ねたラブが軽くよろける。 一瞬静まり返る教室。 「ラブおねえちゃん、かっこわるーい!」 「ホントだー、あははは!」 「せんせー、グッジョブ!」 園児たちからいくつもの言葉が発せられた後、教室は笑いの渦に包まれた。 一方、ラブは顔を赤くして呆然と立ち尽くしている。 「ラブ、いつまでそうやってるの?」 「だって、せつなぁ~。」 「ラブさん、ごめんなさいね。子供たちが見ている前で、あれより先は続けてほしくなかったの。」 「先生・・・。」 「あなたは少し恥ずかしい思いをしたでしょうけど、みんなの顔を見てごらんなさい。」 園児たちは先程の爆笑劇からか、皆楽しそうな顔をしている。 「ラブ、あなたいつも言っているでしょ。」 「・・・何、せつな?」 「みんなで幸せゲットだよ!って。まさに今がそうじゃない。」 「そうだね。そう思えば何だかやる気がわいてきたよ!」 「よかった。ラブが元気になって。」 「さあ、絵の発表タイムの続きよ。今度は子供たちの番ね。」 私とラブはそのまま教卓の両脇に用意された椅子に座り、園児たちが絵を見せに来るのに備えた。 子供たちにとってのヒーローやヒロインって誰なんだろう、と楽しみにしながら。 ~つづく~ 4-381へ
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好きな人がいます。 とても優しくて、あたたかい人。 今までずっと、一緒にいてくれた人。 それは、許されない気持ち。 伝えたらきっと、あなたと“友達”じゃいられない。 でも、それでも。 あなたが、好きです。 【 message for you ・ 最終回 】 「美希ちゃんは悪くない…。 悪いのは…本当に悪いのは…私なの…!」 絞り出すような、祈里の声。 美希は涙に濡れた瞳を、親友に向ける。 「ブッキー…?」 「私が…私がいけなかったの。私が、勝手に意識したから…」 「…意識?」 「美希ちゃんは、大切な友達で、幼なじみなのに。それなのに、私が…っ」 そこまで言って、祈里は言葉に詰まる。 その先を口にしたら、どうなるだろう。 きっと美希ちゃんは、私を嫌いになる。 気持ち悪い子だって、遠ざけるようになる。 会えなくなって、話せなくなって。 ダンスだって、プリキュアだって、いっしょにはできない。 それでも、私は。 「私…私が美希ちゃんを、好きになったから…!」 「えっ…!?」 もう、止まらない。 「ずっとずっと、友達だと思ってた。 でも…でも、いつのまにか、美希ちゃんを好きになってた…」 「……!」 「女の子同士だって、分かってる。 気持ち悪いって、分かってる。 でも、それでも、美希ちゃんが…好きで…。 好きで、好きで、好きで…たまら…なくって…。 ごめんなさい…美希ちゃん…本当に、本当に…ごめ…な…さ…」 それ以上は、言葉にならなかった。 静まり返った部屋に、祈里の啜り泣く声だけが響く。 「ごめん…なさ…美希…ちゃん…美希…ちゃ…許して…許してっ…!」 時折漏れるのは、ひたすらに謝罪の言葉。 長年の友情も、絆も、全て砕け散ってしまった。 きっと、二度と、こんな風には会えない。 目も合わせない、言葉も交わせない、触れることもできない。 絶望と恐怖で、涙が後から後から溢れてくる。 だけど。 「…ブッキー」 美希の声は、優しかった。 そして、肩に手が触れる。 「…ごめん…!」 「え…?」 一瞬、何が起きたのか、祈里には分からなかった。 ただ、気がついた時には。 祈里は、美希の両腕に抱きしめられていた。 「美希…ちゃん…?」 「ブッキー…アタシも、アタシも…」 美希の声も、涙で震えていて。 「アタシも…ブッキーが好き…ずっと、ずっと前から、ブッキーが好きだった…。 ブッキーのコト、好きで…ずっと、好きで…!」 祈里を抱きしめる両腕も、小刻みに震えていた。 …のだが。 「え、えええええええっ!?」 祈里は美希の両腕から脱出すると、壁に激突するまでベッドの上を後ずさった。 「…って、何よそのリアクション」 突然のことに、美希も唖然として祈里を見つめる。 「だ、だだだ、だって、美希ちゃんが、私を…って…」 「ええ、言ったわよ」 「み…美希ちゃんが、私のコト、す…すす…好きだ…って…」 「だから、今言ったじゃない」 「だだ、だって、美希ちゃんこの前、好きな人がいるって」 「ええ、言ったわね」 「それなのに、私のコト…」 「だから、アタシの好きな人っていうのは、ブッキーのコト」 「え…う、嘘…」 「あ~~~~っ、もう!」 しびれを切らした美希が、声と共に立ち上がった。 床に置いてあった自らのバッグを取り上げ、中から出したのは…。 「ハイ、証拠物件!」 「あ…それ…」 あの時の、ロケットだった。 昨日夢に見た、美希のロケット。 「中、開けてみて」 「う…うん…あっ!」 写真には、並んで微笑む二人の少女。 見覚えがある、ありすぎる。 だって、私の机の上にも、同じ写真があるから。 「この写真…」 「初めてブッキーが、ダンスレッスンに来た時の記念写真。 あんまり可愛い笑顔だったから、その写真にしたの」 アタシも隣に写ってるしね、と美希。 「じゃあ…あの、美希ちゃん…本当に…」 「…ん。アタシも、ブッキーが好き。 ず~っと悩んでて、迷ってて…ブッキーに、先越されちゃったね」 悪戯っぽく微笑む美希。 だが、その笑顔は、途端に困り顔になった。 「…ってブッキー、泣かないでよ…」 「だ…だって、だって…美希ちゃんが、美希ちゃんが、私なんかのコト…」 「“なんか”じゃないよ」 美希もベッドに上がり、祈里の手を優しく握る。 「え…」 「とっても優しくて、とっても可愛くて、とってもあったかくて。 一緒にいると安心する、陽だまりみたいな女のコ。 そんなブッキーが、アタシは好き。…大好き!」 「み…美希ちゃん…美希ちゃん…っ!」 美希にしがみつき、大声で泣きじゃくる祈里。 「あ~、も~、泣かないでってば…」 「だ…だって…私、美希ちゃんのこと、ずっとずっと…好きだったから…」 「うん」 「美希ちゃんは美人で、大人っぽくて、カッコ良くて、何でも一生懸命で…」 「うん」 「真面目で、まっすぐで…怒ると、少し怖いけど…とっても、とっても優しいの…。 そんな美希ちゃんが、好き…大好き…!」 「…うん」 「美希ちゃん…美希ちゃん…!」 「…うん…アタシも…アタシも、大好き…」 美希は、任せるままにしていた。 祈里の、愛しい人の、背中を優しく撫でながら。 やがて。 「…落ち着いた?」 「うん…」 ようやく泣きやんだ祈里が、顔をあげた。 ずっと泣いていたせいか、目は真っ赤になっている。 「あっ…ごめんなさい。私のせいで、美希ちゃんの服が…」 見ると、美希のブラウスが涙でたっぷりと湿っていた。 「あら。…まぁ、しょうがないか。今回は大目に見るわ」 「でも、せっかくの服が…」 オロオロする祈里の姿に、美希は何かを思い立ったのか、ニヤリと笑った。 「ね、本当に悪いと思ってる?」 「えっ? う、うん。だって、私のせいで…」 「じゃあ…一つだけ、アタシの願い事を何でも聞く…ってのはどう?」 「えぇっ!?」 「悪いと思ったんでしょ?」 ずいっと身を乗り出す美希に、 「う…うん…」 圧倒されたまま、頷いてしまう祈里。 「ふっふっふ~、じゃあ、ねぇ~…」 ニヤニヤと笑いながら、美希の顔が近づいてくる。 …どんなこと、要求されるの!? あわあわと混乱する、祈里の耳元で。 美希は、そっと囁いた。 「…名前で、呼んでもいい?」 肩に手を乗せて。 小さな小さな声で。 でも、とっても嬉しい願い事。 「……うん」 「…アリガト。大好き…祈里」 「美希ちゃ……んっ……」 「ん……」 二人が重なって。 時が止まって。 そして、また動き出して。 「ふぅ……ふ、ふふっ……やっぱり、ちょっと照れるね。祈里…って」 「ふふっ…うん。でも…私、嬉しい」 “ブッキー”じゃなくて、“祈里”。 すごく、すごく、特別な感じがするから。 満面の笑みを浮かべる祈里を、美希が 「あ~っ、やっぱり可愛いっ!」 「きゃっ! み、美希ちゃん!?」 ぎゅ~っと、抱きしめる。 「可愛いし、優しいし、抱き心地も最っ高だし! …よし、アタシ決めたっ!」 「決めた…って、何を?」 「これまで悶々としてた分、祈里に目一杯甘えるっ! 目一杯、祈里とイチャイチャする!」 「み、美希ちゃん!?」 親友の、否、“恋人”の突拍子もない発言に、驚く祈里。 「…ダメ?」 「え、あ、ダ、ダメじゃないけど…」 「じゃ、決まりね。今まで以上に…いっぱい、い~っぱい! 祈里を好きになる。ねっ?」 ニッコリと、今までで一番の笑顔。 そんな美希に、祈里もつられて笑顔を浮かべた。 「…うんっ! 私も美希ちゃんを、もっともっと好きになる!」 「祈里、大好きっ!」 「美希ちゃん…大好き!」 二人はしばらくの間、笑顔で抱きしめあっていた。 そして、しばらくして。 「…あ、そういえば」 美希が何事か、思い出したようだった。 抱擁を解かれて、祈里は困惑する。 「美希ちゃん?」 「あの中身、見てなかったわよね」 「…中身? …あっ!?」 見ると、美希の手には例の手紙が。 「コ・レ。アタシ宛てだし、読んでもいいわよね?」 「ダ、ダメっ!」 慌てて取り返そうとするが、美希は涼しい顔で祈里から逃れる。 「祈里からの手紙で、アタシ宛てで、結果こうなった…ってことは、コレ、ラブレターよね?」 「えっ!? あ…あの、その…」 途端、真っ赤になる祈里。 その純情な反応に、美希はニンマリと笑う。 「祈里からアタシへの、愛が綴られてるってワケよね。 さぁ~て、中身は…っと」 「ダ、ダメだってば!」 飛び付く祈里。 美希は手紙を持った腕を伸ばし、その追及をかわそうとする。 「いいじゃない、減るもんじゃないんだし」 「そういう問題じゃ…もう、美希ちゃ~んっ!」 美希ちゃんを好きな気持ち…私、完璧。 祈里をずっと好きでいるって…アタシ、信じてる。 ~ Fin ~ 3-677ではその後の二人の様子が…
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「それじゃ、行ってきます」 トントン、とつま先で地面を叩いて靴を履き、私は家を出る。背中の向こうから、おばさまのいってらっしゃいの声。 もう一度、私は言う。 行ってきます。 なんだかこそぐったい。でも、私の家は、ここなんだ。 リンクルンの時計を見る。デジタルの数字は、十時三十分を指し示していた。 待ち合わせの場所は、いつもと一緒。クローバータウンストリートの、天使像の前。 待ち合わせの時間は、十二時。まだ一時間半程もある。 今頃、ラブは起きてきた頃かしら。それとも、もうシャワーを浴びてる? でも一番、可能性が高いのは、まだベッド の中ってところかな。昨日も夜更かし、してたみたいだし。 ついつい浮かんでくる笑みを、噛み殺しながら、私はクローバータウンストリートをゆっくりと歩いていったのだった。 待ちぼうけ 最初に私が入ったのは、本屋さん。一番初めに見に行くのは、新刊のコーナー。ざっと眺めてると、ブッキーに 薦められた小説の新刊が出てるのに気付く。『まりぃ様が見てる』という女子校を舞台にした小説で、生徒会長・ 西園寺まりぃと、彼女の周囲の人間達の学生生活を描いたドタバタコメディものだ。 こう書くと、主人公は西園寺という人かと思われるかもしれないけれど、実際の主役はアンドロイドの少女・あ~る ちゃんと、天衣無縫・最強を誇る鳥坂という先輩だったりする。ともかく、一読の価値はあると思う。ブッキーに教え られた時は、本当に面白いのかしら、と疑問に思ったけれど、今ではすっかりとはまってしまっている。 平積みにされた本を一冊取り、今度は雑誌コーナーへ。 前に、美希から教えてもらったファッション誌を手に取る。パラパラとめくっていると、モデルの中に美希の姿が あった。別のモデルさん、かしら。二人で一ページ、大きく載っている。けど、美希のことだから、いつか表紙に 載ったりするんじゃないかしら。そうなったら、私、三冊ぐらいは買っちゃうかも。 その本を持ったまま、最後に、参考書のコーナーに行く。 お目当ては、歴史の参考書。数学や理科なんかは、ラビリンスもこちらの世界も変わらないけれど、歴史は全然違う。 だからだろうか、この教科を、私は苦手としていた。 当然だ。そもそも私は、この世界の歴史に触れる機会なんて無かったのだから。 適当に何冊か選んで、パラパラとめくる。わかりやすく書いてあって、覚えやすそう。 そう思ったけれど、私はその本をまた棚に戻した。 実は、ラブは歴史は得意みたい。だから、他の教科は私が教えてあげることが多いけれど、歴史は私が教わってる。 得意そうに、 「いいくに作ろう、鎌倉幕府、だよ。せつな」 そう言って人差し指を立てる彼女は、とっても可愛らしい。ちょっと勉強に集中出来なくなっちゃうぐらいに。 私は、そうしてラブと過ごす時間が好き。だから――――歴史は、ずっと苦手科目のままでもいいかも。 レジで新刊と雑誌を買って、鞄の中に入れる。時計を見れば、十一時十五分。結構、ゆっくりし過ぎちゃったかしら。 ちょっと早いけれど、そろそろ行こうかしら。思って、私は店を出た。 ゆっくりと歩いてみたけれど、待ち合わせの十二時より三十分も前に着いてしまった。 お昼時前だからだろうか、辺りはとっても混んでいる。色んな人が、色んな理由で待ち合わせをしているんだろう。 友達だったり、家族だったり、恋人だったり。それぞれが、それぞれの理由で、待っている。私も、その中の一人。 実は、私、こうして待っているのは、嫌いじゃない。ううん、好きな方かも。 特に、こんな風にたくさんの人が集まって待っている所が。 だって、皆、待つ相手が来たのを見つけた時に、とっても幸せそうな顔をする。 その人の所に駆け寄っていく姿を見ていると、こっちも嬉しくなっちゃう。 もちろん、待たされ過ぎて怒る人だったり、待つのを諦めて帰ってしまう人もいたりする。そんな人を見ると、ちょっと 寂しくなるし、悲しくなる。 けれど、怒っている人が、相手に謝られて、許してあげたりだとか、帰ろうとした人がちょうど来た相手に呼び止め られたりというのを見ると、凹んだ分、嬉しさも倍増する。 多分、私もきっと、あんな顔をしてる。待ち合わせの相手――――ラブが来たら、きっと。 一緒の家に住んでいるんだから、出かける時も一緒に出ればいい。そう美希とブッキーに不思議がられたことがある。 どうしてわざわざ、待ち合わせなんてするの、と。 私、笑いながら答えたわ。 「だって、その方が楽しいでしょ?」 って。 一応、名目上は、ラブと一緒に行ったらゆっくりしてられない本屋に、先に寄っておきたいから、となっている。でも、 本当は。 こうして待っているのが、楽しいから。 今日、ラブと一緒にやりたいことを、指折り数えてみる。 ボーリングに、カラオケに、プリクラに。 服屋さんを見て、小物屋さんを見て、アクセサリーショップを見て。 毎日一緒にいるのに、やりたいことはいっぱいある。 時間はいくらあっても、足りることが無い。 そんな風にワクワクしていると、十二時を過ぎる。 ラブは、まだ姿を見せない。 最初の五分は、軽くプンプン。もう、ラブったら、また遅れて。 次の五分は、ソワソワする。何かあったのかしら。早く連絡ちょうだいよ。 その次の五分は、怖くなる。 ラブ、何かあったのかしら。事故にでも? もしかして、急病で動けなくなった? そして、その後は、悲しくなる。 ラブ。もしかして、私のこと、嫌いになった? だから、連絡もくれなくて、ただ待たされるだけなの? やっぱり、私が イースだったから? ラブのこと、騙してたから? 一人だから。余計なことまで、考えてしまう。 どんよりと、沈み込んでいく。 この世界と私を繋いでいるのは、ラブ、貴方よ。 貴方に嫌われたら、私―――― とってもとっても悲しくなって、泣きそうになった瞬間。 「お待たせー、せつなっ!!」 ラブが、通りの向こうの方から、全速力で駆けて来る。本当に、計ったかのようにベストなタイミングで、私に駆け寄っ てくる。 それだけで、涙は消えてしまう。ラブに向けて、とびっきりの笑顔になってしまう。 ホント、私って――――現金!! 「ごめん、せつな。ちょっと、寝坊しちゃって」 「ラブ、遅いっ。私、三十分も待ったんだから」 ここに来たのは一時間前だけれど。 まぁ、待ち合わせは十二時からだから、その前は私が物好きにも待ってただけ。ラブに言う必要は無いかな。 「んー、ごめんってば」 「もう、しょうがないわね。カオルちゃんのドーナツ、二個で許してあげるわ」 「ありがとー」 本当に反省しているかどうか、わかったものじゃない。だっていつも、ラブは遅れてくるんですもの。 けど、それも悪くない。 すごく悲しくなった分、今がとっても幸せ。多分、普通に待ち合わせるより、四倍ぐらい嬉しいんじゃないかしら。 「えへへ」 「どうしたのよ、ラブ、急に笑って」 「んー? なんかね。こうして外で待ち合わせるのも、いいもんだよね。何だか、すっごく新鮮な気分!!」 ラブの言葉を聞いて、私は穏やかに微笑む。 うん。そうね。こうして待ち合わせをするのも、たまにはいいものよね。 一緒に暮らしているとはいえ、ううん、一緒に暮らしているからこそ、たまにはこうして、待ち合わせをしてみるのも いい。 もちろん、いつも一緒がいいけれど、ちょっとだけなら、離れるのも悪くない。 ラブと過ごす時間が、どれだけ幸せなことなのかが、わかるから。 「じゃあ、行こう、せつな。今日は、何しよっか?」 そう言って、嬉しそうに笑うラブの顔を、見れるから。
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「せつな、最近、どうしてるのかな?」 ふぅ、と溜息混じりに放たれた親友の言葉に、美希は片眉を上げる。 「ホントに。やっぱり、占いのお仕事とか、忙しいのかしら?」 逆側からは、もう一人の親友が、やはり溜息と共に。 「二人とも、最近、せつなに会ってないの?」 何気ない風を装って尋ねると、ラブと祈里は同時に頷いて。 「電話では、時々、話すんだけどね。なかなか会えなくって」 「わたしも。メールは、ちょくちょく来るんだけど」 「......そう」 アンニュイな二人の表情を眺めながら、美希はテーブルの上のティーカップに視線を落とす。 感じるのは、安堵。彼女達の元に、せつなが現れていないのなら、それでいい。思っていると、携帯が鳴って。 「美希タン、電話、鳴ってるよ?」 「ん? ああ、多分、メールだから」 言いながら、リンクルンを取り出してメールを見る。 『五時に、館で』 書かれていたのは、ただそれだけ。 送り主の名前を登録していないから、メールアドレスが直接表示されている。恐らく、携帯を買った時から変えて いないのだろう、アルファベットと数字がランダムに並んでいた。 それでも、美希にはこれが誰からか、わかっていた。もう何度、見たことだろうか。知らずその文字の羅列を 記憶してしまっていて。 いつものようにメールを消去してから、時計を見る。今は、四時半。これから行けば、間に合うだろう。 「ごめん。ちょっと、用事が出来ちゃった。また今度、ね」 「えー」 立ち上がって言う美希の言葉に、明らかにラブは不満そうな顔を見せた。彼女ほどあからさまではないが、祈里も 同じことを感じているようだ。 「最近、美希タン、付き合い悪くない?」 「そう? ダンスのレッスンは欠かさず出てるじゃない」 「そうだけどー」 ブーブーと唇を尖らせるラブを、まぁまぁ、となだめる祈里。二人が笑う、そんな優しい光景に、美希は思わず 笑ってしまう。 最近の二人は、また仲良くなってきてる。一時期の微妙な距離感が薄れているのは、そこにせつながいない からだろう。 「は!! もしかして!!」 そんなことを考えていると、いきなりガタン、と立ち上がりながらこちらを見てくるラブに、美希はビックリして 目を瞬かせる。 「な、なに?」 「もしかして美希タン――――彼氏が出来たとか!?」 「えぇっ!! そうなのっ!?」 顔を寄せてくる二人の勢いに気圧されながら、美希は両手を顔の前でパタパタと振った。 「ないない、そんなんじゃないわよ」 「ホントにぃ?」 「ホントにぃ?」 息の合った二人の言葉に、思わず彼女は苦笑する。 「ホントに、そんなんじゃないわ――――それじゃ、あたし、行くわね」 まだ物足りなさそうな二人に別れを告げ、颯爽と歩き出す美希の背の向こうから、 「ねぇねぇブッキー、ホントだと思う?」 「うーん、どうだろう。美希ちゃん、モテるからね」 小鳥のさえずりのような明るい親友の声が聞こえてきて。 美希は、クスリ、と笑う。 そう。それでいい。 二人は、そのままでいて。 明るく、優しいままで。 やがて彼女は辿り着く。呼び出された場所に。 占いの館に。 Eas of Evanescence VII 館の中に入ると、美希は、待合室を通り抜けて館の裏へと回る。このところ毎日のように訪れているから、勝手は 知っている。途中、この家の残りの住人であるサウラーとウエスターに顔を合わせないように気を付けながら、 やがて美希は目指す部屋の前に辿り着いた。 一つ、深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開ける。 「来たわよ、せつな」 後ろ手で、音が出ないように気を付けながら扉を閉める。 薄暗い部屋の中、ベッドの上に座る少女が一人。せつな、いや――――イース。 彼女は、俯いたまま、身じろぎ一つしない。カーテンを閉め切っているせいか、その姿はぼんやりとした影にしか 見えない。 そしてイースは、何も言わない。訪れた美希の姿を見ようともしない。自分が呼び出したにも関わらず、だ。 彼女のそんな姿に、美希は眉を顰める。このところ、イースはいつもそんな感じだった。 目の下の隈は、日に日に深く、濃くなってきていた。その目には、ただ焦燥ばかりが溢れていて。 そして何より余裕の無さを感じるのは、抱かれている時だった。何かに追い詰められているかのように、ただ 激しいばかりの愛撫。最初に美希を犯した時のような笑みは、彼女には見られない。ただ狂ったように、責め 立てるばかり。 ふと、美希はテーブルの上に目をやる。そこにあるのは、一枚のカード。閉じた瞳が描かれたそれは、千切られた 部分が三つあるところから、元は四つの瞳があったのだろうと想像される。 そして美希は、それが何かをうっすらと察していた。 最近のイースが、プリキュアに差し向ける敵、ナキサケーベ。それを産み出しているのが、このカードなのだろう。 彼女に余裕が無くなってきたのは、ナキサケーベを呼び出すようになってからだ。 イースとしてプリキュアの前に現れる時も、ここで美希を抱く時も、追い詰められているかのような顔しか見せない。 そして、肉体的にも、疲労しているのだろう。彼女への責めは相変わらず苛烈だが、以前程には長くはなかった。 昨日など、美希よりも先に、彼女が眠ってしまって。 一体、何があったのだろう、彼女に。 ――――なに、考えてるのよ。 美希は心の中で、自分を戒める。どうしてあたしが、せつなの――――イースのことを案じなきゃいけないのよ。 軽く唇を噛んで、美希はイースに近付いていく。 「イース......」 声をかけた瞬間。 強く腕を掴まれる。 え、と思う間もなく、油断していた美希はベッドに引き込まれ、そのまま上にのしかかられる。 「な――――」 声を上げようとした彼女のシャツを掴み、イースは力任せに両に開く。ちぎれ飛ぶボタン、あらわになるブラ。 「ちょっ!? やめなさ――――」 「うるさいっ!!」 今までに無い乱暴な扱いに、さすがに抵抗をしようとする美希だったが、一喝されて、ビクッと体を震わせる。 逆らうことを許さないその雰囲気に、美希は思わず慄いてしまって。 何も言わぬまま、取り付かれたようにイースは彼女の服をはいでいく。そして、隠すものの何も無くなった美希の 体に、彼女はむしゃぶりつく。胸を揉み、乳首に吸い付き、舌を這わせ。 だがその全ては、あまりに唐突で、あまりに激しすぎた。だから、快感など、覚えるはずもなく。 こんなことは、初めてだった。 確かに、最初から激しく扱われたことが無いわけではない。だがそんな時でも、イースは美希の体に快楽を注ぎ 込もうとしていた。しかし今日は、何も感じなかった。ただ、痛みだけ。 「い、た――――」 せつなの手が、美希の秘所に潜り込み、指を激しく動かし始める。が、そんな扱いをされていては濡れている はずもない。そんなことに構わず動く彼女の強引さに、美希は悲鳴を上げる。 それでもイースは、手を止めようとはしない。 「やめ、て」 あまりの苦痛に我慢できず、美希は顔をしかめながら、イースの体と手を振り払おうとする。 だが。 「うるさい――――」 先程とは打って変わって、静かな声。 だがそれは震えていて。強張っていて。 「......イース?」 「うるさいうるさいうるさい」 嫌々と幼児が駄々をこねるように、イースは首を目いっぱい横に振る。振りながら、叫ぶ。 呆気に取られながら、美希は彼女を見つめる。気が付けば、イースが彼女を責める手は止まっていた。 「うるさいうるさいうるさいうるさい――――うるさいっ!!」 何も音がしないにも関わらず、美希の胸に顔を埋めながら叫んでいたイースが、不意に顔を上げる。その顔に、 美希は思わず、息を飲んだ。 泣いているように、見えた。 唇は震え。瞳は揺らぎ。眉の端が落ちていて。 涙こそ、流れていなかったけれど。 彼女は確かに、泣いているように、見えた。 「――――――――」 声をかけようとして、戸惑う。一体、何を言えばいいのだろうか。 彼女は、敵なのだ。 その敵に、どうして手を差し伸べなければ――――助けようとしなければならないのか。 「教えろ、美希!!」 そんな彼女の葛藤に気付かないまま、イースは美希に顔を近づけて、叫ぶように問いかける。 「どうしてあいつは――――ラブは!! あんな風に、私を信じて、疑わない!?」 あ―――― 美希は、目を見開く。大きく、見開く。 その問いかけを聞いた瞬間、美希の心に訪れたのは、まぎれもない―――― 5-660へ
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