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パシテエ パシテアの別名。
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前ページ次ページ使い魔はじめました どこかの国のどこかの広場 そこで水晶玉を持った吟遊詩人の少女が歌っていた 「……この物語の主人公は 魔法使いの家に生まれたのに 魔法の使えない女の子。 何をやっても爆発ばかり。 ついつい周りにも厳しくあたる。 物語の始まりは魔法学校。 使い魔召喚の儀式からよ。 彼女が呪文を唱えた後に 銀の鏡から出てくるのは何かしら? ドラゴンやグリフォンのような幻獣? ワシやフクロウや犬やネコ? それとも遠い国からやってきた ちょっと情けない男の子? それは呪文を唱えなくっちゃ分からない。 さあ、物語を始めましょう。 ラララ、ララ……」 ―使い魔はじめました 第一話― 「ふわぁあ、今日も疲れたぁ……」 自分の横であくびをする飼い猫:チョコの声を聞きながら、 少女:サララは小さなベッドに腰かけ、日記を書いていた 『今日も快晴、商売は順調、ミスリルの原石を盗りにダンジョンへ潜った、 明日の朝一番で、白銀の剣と組み合わせてもらいに行こう……』 そこまで書いた所でサララは筆を止め、ふと、窓の外を見る 外では、大きな満月が煌々と空を照らしていた いや、輝く丸い大きなその光は月ではなかった 「わわ、な、なに?」 異常事態に気がついたチョコが、声を上げる 突如として部屋に飛び込んできた銀の鏡は、 驚いて逃げる間もなかったサララとチョコ、 そして彼女の集めたあらゆるアイテムの詰まった『魔女の大鍋』を 飲み込むと、忽然とその場から姿を消したのである 「(始祖ブリミルよ、我にご加護を!)」 二年生へ進級するために必要な『使い魔』召喚の儀式 その儀式において、少女ルイズは、始祖に祈りながら、ルーンを唱え、杖を振った いつものごとく、起こったのは激しい爆発 「けほけほ、おい、ゼロのルイズ!やっぱり失敗か!!」 同級生達からは怒りの混じったからかいの声が飛ぶが、 しかし、ルイズはその爆煙が晴れるのを、じっと見つめていた 「(確かに、今、『魔法が成功した』ような感覚があったわ!)」 わくわくしながら煙が晴れるのを待つルイズ 「おい!煙の中に何かいるぞ!」 一人がそう叫んだのを皮切りに、同級生達もじっと見つめる 煙が晴れた時、そこに現れたものを見て、全員がぽかんとする 「鍋……?」 「鍋と、子どもと、猫?」 ざわざわと騒ぐギャラリーよりも、ルイズはさらに困惑していた オレンジのリボンがついた大きな緑の帽子を被り、 同じ色のワンピースに白いエプロンをつけた腰まである桃色の髪の少女 身長は帽子含めて145サントくらいだろうか その傍らには茶色と白の毛並みをし、青い瞳を輝かせる猫 一番目立つのは、小柄な少女ならすっぽりと入り込んでしまいそうな巨大な鍋である どうやら、それが自分が召喚してしまったものであるらしかった 「ミスタ・コルベール!」 とりあえず引率の教師に声をかける 「……おめでとう、ミス・ヴァリエール 召喚に成功したようですね」 「あ、ありがとうございます……じゃなくて! あの、私はその一体……どれ、と契約したらいいんでしょうか?」 ルイズとコルベールは、召喚されたものを見やる 周りをきょろきょろと見回す少女と、その傍でおろおろする猫、そして、巨大な鍋 「私としては、猫と契約したいんですが、あれ、どうみても彼女のものですよね……」 困ったように言うルイズに、コルベールは告げた 「そうですね。では、とりあえず、彼女と話してはどうですか?彼女も、戸惑っているようですし」 コルベールの言葉に従い、ルイズはその少女の傍へ歩み寄った 「ぺっぺっ、口に砂が入っちゃった 何だったんだろうね、あの鏡……って、あれ?」 口に入った砂を吐き出していたチョコは周りの違和感に気づく 芝生の生えた広場と、広がる青空、そして遠めに自分達を眺めている子供達 全員が、マントをつけ、杖を持っている 「わわ、何だろ、ここ?ねえ、サララ、わかる?」 サララは、チョコの問いに首を横に振ると辺りを見渡した 一体、何が起こり、ここは何処なのだろうか? 少なくとも、先程まで居た店の屋根裏ではない と、人々の中から、一人の少女が彼女に近づいてきた 「ねえ!その猫、とついでにそっちの鍋、あんたの?」 事情を説明してもらおうとした矢先、少女の口から質問がとんできた とりあえず、こくり、と縦に頷く 「ううー、そ、そんなあ……折角、使い魔を召喚できたと思ったのにぃ……」 少女はがっくりと肩を落とし、恨めしそうな目でサララを見る 「まあまあ、ミス・ヴァリエール。まだ、彼女が残っているではありませんか?」 その後ろからやってきた男性が少女の肩に手を置いた 「ミスタ・コルベール!人間を使い魔にするなんて、聞いたことがありませんよ!」 少女は慌てて振り向くと、男性に抗議をしているようだ 「しかしねえ、君が召喚したものは、彼女の持ち物であるようだし となると、彼女と契約するしかないだろう? これは神聖な『使い魔』召喚の儀式なんだよ、例外は認められない」 「でも……」 口論をしている二人を見ながら、チョコはひそひそとサララに話しかける 「ねえ、サララ、どうやら、彼女の『使い魔』にならなきゃ いけないみたいだよ?どうするの?」 その言葉にサララも困ったように顔をしかめる 「うーん……」 二人、もとい一人と一匹で頭を抱えていると、 覚悟を決めたかのような顔で少女が近づいてきた 「……あのね、私はあんたを召喚しちゃったの。 召喚したものは、使い魔にしなきゃいけない。 そっちの猫と、あとついでに鍋も、あんたのものよね? だから、仕方ないのよ、仕方ないんだから、 あんた、私と契約して使い魔になりなさい!」 その不遜な物言いに、チョコは不満そうだった 「べぇーっだ!誰が使い魔になんかなってやるもんか、ねえ、サララ?」 チョコは、サララが断るだろう、と思って声をかける 考え込むような顔をしていたサララだったが、やがて少女を見上げると、 決心したように、大きく頷いた 「えええー!ちょっと、サララ、本気なの! 使い魔なんて、何やらされるかわかんないよ? 雑用とか洗濯とか掃除とか!ボク手伝わないからね!」 「(みゃあみゃあうるさい猫ね)な、納得してくれてよかったわ」 少女はそう呟くとサララに視線を合わせるようにしゃがみこんだ 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 そういうと、サララの唇に少女は唇を重ねた サララの目は驚きに大きく見開かれる(見えないが) 「……終わりました(女の子で、子供相手だから、ノーカウントよね、うん)」 ぽう、と髪と帽子で隠されたサララの額が一瞬輝く 「っ!!」 瞬間、襲ってきた痛みに眉をしかめるサララ(見えないが) 「わあ!どうしたの?おい、そこのお前!サララに何したんだよ!」 チョコがサララの異変に気がついて、食ってかかる 「何って、使い魔のルーンが刻まれてるだけよ……え? あ、あんた、今、喋らなかった?」 ルイズが驚きながら、チョコを抱き上げる 「喋るよ!……ってあれ、おかしいな? ボクの声はサララにしか聞こえないはずなんだけど」 一人と一匹は互いに驚いている 「どうやら、無事に終わったようですね、ミス・ヴァリエール それとお嬢さん、ルーンが刻まれたか確認させてもらえませんか?」 そう言うと、サララの前髪をあげ、額にルーンが刻まれたことを確認する 「……ちゃんと、ルーンも刻まれたようです 召喚も契約も一度で成功して、よかったですね、ミス・ヴァリエール」 ニコニコと笑うコルベールの目の前に、ずい、とチョコを差し出すルイズ 「あ、あの、ミスタ・コルベール!この猫なんですけど!!」 「ちょっと、何するんだよ、離して、はーなーしーてー!!」 みゃあみゃあと騒ぐチョコに、コルベールは顔をしかめる 「嫌がっているようですから、離してやりなさい」 「あの、この猫、喋ってますよね?」 ルイズは、恐る恐る尋ねてみる ルイズが口にした言葉に、事の顛末を見守っていた同級生達がぽかん、とし、 そして関を切ったようにいっせいに笑い出した 「ははは!ゼロのルイズったら、何を言っているんだ!」 「ただみゃあみゃあ鳴いてるだけじゃないか!」 「とうとう、馬鹿になっちまったのか!!」 大声で一人と一匹を指指しながら、彼らは笑った 「違うわ!本当に喋ってるのよ!!」 「そうだそうだ!君らが聞こえないだけじゃないか!」 やいのやいのと騒ぎ立てる彼らに向かってルイズとチョコは叫ぶ 「……ほらほら、騒がない!君達は先に教室へ戻っていなさい!」 コルベールがそう声をかけると、同級生達は思い思いに呪文を唱え空へ舞い上がる 「へへ、じゃあなゼロのルイズ!」 「お前は歩いて来いよ!」 「フライもレビテーションも使えないもんな!」 からかいながら去っていく彼らを、ルイズは涙目でにらみつける 折角召喚できたと思ったら、平民の子供と、 喋ってるのに喋ってない猫と、巨大な鍋だったのだから泣きたくもなるだろう 「へえ、凄いなあ。こっちの魔法使いは、箒が無くても飛べるんだあ」 だから、腕の中の猫がそう呟いた瞬間、ルイズは驚いた 「こっちの、って、あんた、どこの田舎から来たのよ」 「『だんじょん』の町」 「どこよ!」 「『だんじょん』の町は『だんじょん』の町だよ!」 「そんな名前の町、聞いたこともないわ! 大体、あんたねえ、喋るんだか喋らないんだかはっきりしなさいよ!」 ルイズが、怒り心頭でチョコに叫んだ 「あんた、じゃない!ボクには『チョコ』って名前があるんだよ! ボクの飼い主で、『だんじょん』の町一番のやり手の商売人、 魔女『サララ』がつけてくれた名前が!」 怒りながらそう叫んだチョコの言葉に、ルイズは言葉を失った 「な、何ですって、魔女?今、あんた魔女って言ったの?」 「そうだよ!そこにいるサララは、魔女なんだから! まあ……もっとも、魔法は使えないけどね」 何てことだ、と思いながら、ルイズは自分達を見上げる少女を見た 彼女もまた、自分と同じ魔法使いであるという 「(しかも、魔法の使えない、ってところまで同じなんて……)」 ルイズは、ショックのあまり眩暈がしてきそうだった 前ページ次ページ使い魔はじめました
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「さすがは魔法学院本塔の壁ね・・・・。物理衝撃が弱点?あの禿のオッサン適当な事言って・・・・」 そういって巨大な2つの月の下で舌打ちをしたのは『土くれのフーケ』、今最もトリステインで有名な神出鬼没な怪盗である ちなみに土くれとは盗みの技からつけられたものであり、その一例にまず『錬金』によって扉や壁を土くれに変えて警備を無力化、 そして巨大ゴーレムによる力技で兵士達を蹴散らし白昼堂々とお宝を盗む 最後に犯行現場自分のサインを置いていく、こんな感じである そして今回もこのトリステイン魔法学院に安置されているマジック・アイテムを頂きに来たのであった 「せっかくここまで来たんだから何としてでも持ち帰りたい・・・・、ん?」 人の気配を感じたのかフーケは『レビテーション』を小さく唱え、宙を浮き静かに中庭の植え込みに消えた そして代わりに現れたのはルイズ、キュルケ、風竜に乗ったタバサ、そして二本の剣を抱えたロムであった 少し時間を遡る 「あんた・・・・その剣はなんなの?」 「見ればわかるじゃない、ロムへのプレゼントよ」 「・・・・・・・・」「・・・・・・・・」 ルイズ達が街に買い物に行ったその夜、修羅場の第2ラウンドがルイズの始まろうとしていた 「どういう意味ツェルプトー?」 ルイズが両手を腰に付け天敵キュルケを睨む そしてルイズの問い掛けにキュルケが悠然と答える 「だから、私今日、ロムが欲しがっていた剣を街まで行って買ってきたのよ」 「おあいにく様、使い魔の使う道具くらい主である私が揃えてあげましたから」 二人が虎と竜の如くにらみ合いを始める 一方ロムは (レイナもこんな風に他の女性と喧嘩していたな・・・・、それにしてもこれではまた決闘になってしまう! 早く止めなければ) 「なあ二人ともそろそろ止めにしないか」 「ちょっと!あんたまたこの女に尻尾を振る気!?」 ルイズがロムを睨む 「いや、そうではないが」 「ねぇロム?あなたはゼロが買ったボロい剣よりも 私が買ったこのピカピカで大きくて太い剣の方がいいでしょ?」 キュルケがロムの腕に大きな胸を押し付けながら言う デルフリンガーがカタカタ震えているが今は気にならなかった 「だ~れがゼロですって!それにそいつから離れなさいよツェルプトー!!」 「嫉妬はみっともないわよ?ヴァリエール」 キュルケが勝ち誇った感じで言った 「嫉妬?誰が嫉妬しているのよ!」 「そうじゃない、ロムが欲しがってた剣をあたしが難なく手に入れてプレゼントしたから嫉妬しているのよ!」 「誰がよ!そんな勘違いやめてよね!ゲルマニアで男漁りし過ぎたからトリステインまで留学してきた癖に!!」 その一言でここまでまで優位だったはずのキュルケの顔色が変わった 「言ってくれるわねヴァリエール」 「何よ、本当の事でしょ?」 キュルケの変化に気付いたルイズは冷たい笑みを浮かべながら挑発を続ける そして同時二人は手に杖に手をかけた 「いかん!二人とも止めてくれ!」 ロムは二人を止めようとした所で二人の間につむじ風が巻き起こり杖が吹き飛ぶ 出所はタバサであった 「室内」 タバサが淡々と言った ここでやったら危険だと言いたいのだろう それでもルイズとキュルケはにらみ合いを続けた 「ねぇ、このままでは埒があかないわ、決闘をして勝った方の剣をロムが持つことにしない?」 「いいわよ、負けた後に泣きべそかかない用に努力しなさいよ」 「それはこっちのセリフよ!」 遂に恐れていた事が現実になった事にロムは落胆した 決闘の場所は中庭の本塔前に決まり四人は部屋を後にした ロムも二本の剣を持って部屋を出ようとした時こんな声が聞こえた気がした 「・・・・御愁傷様」 「何故こうなるんだ・・・・」 「これが一番早く決まる」 「君はひょっとして楽しんでいないか?」 ロムの問い掛けにタバサが小さく答える タバサは風竜に乗って飛んでいるがロムはロープで本塔に吊るされていた 「いいことヴァリエール!あのロープを切ってロムを地面に落としたほうが勝ちよ。勝った方の剣をロムが使う。いいわね?」 「いいわよ」 キュルケの問い掛けにルイズは硬い表情で頷いた 「使う魔法は自由、ただし、あたしは後攻、ハンデよ」 「いいわ」 「じゃあどうぞ」 「頼むぞマスター・・・・、また顔の前で爆発なんて事はナシだからな」 ロムが静かに呟くと同時にルイズは短くルーンを唱え始めた そして呪文詠唱を完了させる、そして気合いを入れて杖を振った 「えーーーい!!」 呪文が成功すれば火の玉がでるはず・・・・なのだが杖からは何もでない しかし一瞬遅れてロムの後ろの壁が爆発した 爆風に少し巻き込まれる 「マスター!」 ロムの叫びが響いた、しかしローブが切れた様子がなかった 「あはははは!流石ゼロのルイズ!ロープを切らずに壁を爆発させるなんて器用ね!!」 キュルケが笑うとルイズがとても悔しそうな表情を見せた 「次は私の番ね、それ!」 既に詠唱を終えたらしく付けから突然巨大な火の玉『ファイヤーボール』が出てくる それは高速でロープに向かって行き、切り裂いた ロムは地面に落ちるが見事着地、その瞬間上からパチパチパチと小さく拍手なようなものが聞こえた (まさか彼女これを見たいが為にこんな条件を・・・・) 上を見上げたらその彼女は無表情でロムを見ていた 一方フーケは中庭の植え込みから一部始終を見ていた ルイズの魔法で壁にヒビが入ったことにも気付いていた 一体あの爆発する呪文は何なのだろうと疑問に思ったが取り敢えず今は目の前のチャンスを逃さない為に詠唱を始めた そして長い詠唱を終えて地面に向けて杖を振り薄く笑う 音を立て地面が盛り上がった 「残念ねヴァリエール!」 勝ち誇ったキュルケは大声で笑った。 ルイズは勝負に負けたのが悔しいのか膝をついてしょぼんと肩を落としている 「マスター・・・・」 ロムはそんなルイズの姿を見て複雑な気分になった 「さてダーリン、今すぐに縄を解いてあげるわ」 そう言って嬉しそうにロムに近づくキュルケ、その時であった なんとルイズの後ろから突然巨大なゴーレムが現れた! 「なっ・・・・・・・・」 「な、何あれ、きゃあああああ!」 キュルケが悲鳴をあげる、ルイズは恐怖まだ膝を地に付けており立てないでいた 「マスターー!!」 ロムは力技でロープを内側からちぎり、ルイズを飛び込みながらゴーレムに踏み潰される間一髪の所で救出する そして地面に引きずられる 「マスター大丈夫か!」 「ロ、ロム・・・・」 ルイズは恐怖で震えていた「タバサ!剣をくれ!ルイズを頼む!」 既にキュルケを救出していたタバサはコクッと頷き、ルイズを風竜に掴ませ、キュルケが買ってきた剣をロムに渡す ゴーレムは既に宝物庫の壁を破壊しており、その穴から細長い箱を抱えた黒いローブの人間が出てきた そしてローブの奥の顔の笑みが深くなった 「さあ行くわよ」 「逃がすか!」 ロムは思いっきり剣を黒ローブを纏った人間に投げるがゴーレムに防がれ剣は折れてしまった そしてゴーレムは突然砂ぼこりを起こして崩れ去り、収まったころには既に黒いローブは去っていた 残ったのは茫然とする四人と風竜 そして壁に刻まれていたメッセージ 『巨人の剣』確かに徴収いたしました 土くれのフーケ
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (54)虚空の大穴 全てを呑み込む穴の驚異は、ウルザを吸い込むだけに止まらなかった。 「うわああああああああ!!」 戦場に悲鳴が、こだまする。 ウェザーライト号のブリッジでは、アラートが騒がしくがなり立てていた。 それもそうだろう。今、ウェザーライトの船体は四五度近くの傾きをもって、船首を上にして斜めに傾いでいるのである。 ただ事ではない。 しかし、そのような窮状であるにも関わらず、周囲にウェザーライトを救おうというフネはない。 なぜなら、他のフネも大なり小なり似たような状況であるからだ。 艦隊は上空からの襲いかかる強力な吸引力に、必死に逆らっていた。 浮力を調整し、自重と重力で対抗する。 だが、重量級のフネなどはそれでいいが、船体の軽い船などは徐々にコントロールを失い、上空へと引き込まれて始めている。 フネは元来このような事態に対処できるようには作られてはいないのだ。 唯一幸いだったのは、このような状況の為に、両軍の戦闘行動が一時中断していることだろうか。 謎の力の影響を受けているのは、何も連合艦隊だけではない。アルビオン側のフネも同様である。 その証拠に、ベキベキという音を立てながら、一隻のアルビオン巡洋艦が、甲板を引きはがされて、破片をばらまきながら空中分解した。 両軍とも、現状を維持するだけで手一杯で戦闘どころでは無いのだ。 混乱の原因、それはプレインズウォーカー同士の戦いの余波に他ならない。 奇しくもそれは、象と蟻の例えを現実のものとしたのである。 ワルドが穿った奈落の大穴。 それはプレインズウォーカーであろうとも引き込んで捕らえる、恐るべきものであった。 だが、それだけの力が、周囲に影響を及ぼさないはずがない。 今のワルドにとってはささやかな余波でしかないそれが、戦場にある全てのものを大穴へと向かって引き込もうとしている力の正体だった。 「モンモランシー! ギーシュ!」 そんな混乱の中で、ウェザーライトのルイズは声を上げた。 ブリッジ内が強烈な風になぶられている。 ドラゴンに破壊されたブリッジの亀裂から、猛烈な勢いで空気が吸い出されているのだ。 吸い上げられる空気は濁流となって、周囲に激しい気流を発生させている。 外を見れば、フネ、人、飛竜、様々なものが上空へと巻き上げられているのが見て取れる。 そのような状況で、ギーシュは右手で必死にブリッジの縁に掴まり、自分とモンモランシー、二人分の体重を支えていた。 既にギーシュの体は浮き上がってしまっており、その手を離せば二人は直ぐにでも外へ放り出されてしまうだろう。 「モンモランシー! しっかりっ!」 「ギ、ギーシュ……」 そう、今や二人の命運は、ギーシュ一人の手にかかっているのである。 「ギーシュッ! 馬鹿なことは止めて手を放して! あなただけなら助かるわ!」 「馬鹿言っちゃいけないよモンモランシー! か弱い女性を見捨てて、自分だけがのうのうと生き残るなんて、そんなのはトリステイン貴族のやることじゃない!」 「でも、このままじゃ二人とも!」 「それこそ望むところだよ! 僕は君を守ってみせる、その為にここにいるんだっ!」 ギーシュ・ド・グラモンはこの戦場に、物見遊山で来ているわけではない。 彼は彼なりの決意を抱いて、この戦場に立っているのだ。 モンモランシーが最初、戦場へ出発するウェザーライトに忍び込むという計画を彼に打ち明けたとき、ギーシュは当然ながら猛反対した。 戦場の恐ろしさや死ぬかも知れないというということを、切々と訴えて説得しようとした。 だが、モンモランシーの決意は固く、彼女はその考えを曲げようとはしなかった。 これにはギーシュもほとほと困り果てた。 何が彼女をそこまで駆り立てるのか、モンモランシーは話してくれなかったが、ルイズが関係しているのだろうということは薄々察することができた。 だからといって彼女がこのまま危険に飛び込んでいくのを見過ごすことなどできはしない。けれど彼女は言って聞いてくれるような雰囲気でもない。 いっそ可哀想だが縄で縛ってでも阻止するべきだろうか、そんなふうに悩んでいるギーシュに、彼女はこう言ったのだ。 『それに、いざとなったらあなたが助けてくれるんでしょ? ギーシュ』 明らかに狙って言ったのは確実であろうに、その言葉はギーシュの頭にガーンときた。 モンモランシーが上目遣いに放った言葉に、ギーシュの頭とハートは一辺に打ち抜かれた。 考えてもみてほしい。 愛しい彼女が、危険な場所に行くのだという。 そしてそこでの頼りになるのは自分だけだと言うのだ。 自分だけを頼りにして、彼女は危険に飛び込むのだという。 自分はそれだけ彼女に信頼されているのだ。 迫る悪漢! モンモランシーのピンチ! そこに颯爽と現れる美しいナイト! ギーシュ・ド・グラモン! ぱぱっと華麗に悪漢を打ち倒し、震える彼女を抱き上げる! 『大丈夫かい? モンモランシー、君は僕が守ってあげるよ』 そう格好良くキメると彼女は 『ギーシュ最高! 素敵! 全部あげちゃう! 抱いて!』 と言ってくるのだ。 (悪くない、悪くないぞ、ギーシュ・ド・グラモン!) 正に英雄譚ではないか。 沸騰した頭で、そんなことを思う。 最初からギーシュに選択権は無かった。 結局ギーシュはモンモランシーの企てに力を貸し、今こうして彼女と一緒にいるのだ。 そんな彼が、掴んだモンモランシーの手を放すわけにはいかない。 だが、心の決意とは裏腹に、肉体は徐々に限界を迎えつつある。 先ほどから縁を掴んでいる右手に、感覚が無くなっている。一点で体重を支えていることで、しびれ始めてきているのだ。 まだしばらくは持つが、長々と耐えられる保証はない。 だからといって、掴んだモンモランシーの手を離すなどは論外だ。 「ギーシュ! 早く手を放して! 私は『フライ』で飛ぶから!」 「馬鹿言っちゃいけない……。『フライ』で飛んだって、こんな状況じゃ焼け石に水さ。どのみちすぐに巻き上げられる」 「でも……」 「ぐうぅ……」 苦しそうにギーシュが呻く。 その声で、モンモランシーにもギーシュに余裕が無いのが伝わってきた。 だと言うのに、この馬鹿な幼なじみは自分の手を掴んで離そうとしない。 元はと言えば、自分が無理矢理連れてきたようなものなのに…… そんな彼の姿を見るモンモランシーの目尻から、光るものが流れていった。 「ギーシュ……」 「モンモランシー……」 しかし、そんなやりとりは、二人以上に焦りを含んだ声に遮られた。 「待ってて二人とも! 今すぐ防御のための『膜』をそっちにまで広げるから!」 ルイズである。 ルイズの周囲には、ウルザが施した強力な防御機構が働いている。 今の彼女は、ウルザが望まない限り、外界からの影響を殆ど受けることがない。 例えギーシュ達が吸い出されるほどの吸引力であっても、ルイズの周囲だけはそよ風が吹いた程度にしか感じないのである。 その防御のための不可視の力場を拡大し、ギーシュ達のところまで広げようというのがルイズの考えた、二人の危機を救う方法であった。 だが、その計画には大きな落とし穴がある。 ルイズの計画を実行するためにはウルザの施した術式に手を加え、自らの手で操作しなくてはならない。 それはただの人間であるルイズが、プレインズウォーカーに立ち向かうという意味であった。 人間とプレインズウォーカーとの間に横たわる溝は深く大きい。普通なら永久に埋められない程の差だ。 しかし、ルイズの手にはそれを狭めることを可能とする道具があった。 ルイズはまず右手に嵌めた、水のルビーに集中した。 そうして、自身とルビーとの『接続』を試みる。 生身のままでパワーストーンを操作しようなど、尋常ならざる技であるが、それがパワーストーンへの高すぎる順応性持ち、すでにその毒に犯されている彼女の武器だった。 ルイズはまずイメージした。 自分自身の境界線を朧気にしていくイメージ。そうして指先にある巨大な力と少しずつ自分を重ねていくことを想像する。 すると一秒ほどで、指先にピリッという電流が流れるような感覚が来た。 これで『接続』は完了である。 『接続』は、呆気ないほど簡単に済んだ。 これでルイズのマナの許容量は拡大され、パワーストーンの莫大な魔力を自身の精神力の延長として行使できるようになった訳である。 勿論、パワーストーンの力を行使すること自体はウルザからは堅く禁止されていることがらだったが、今はそんなことには構っていられない。 そうして水のルビーとの契約を済ませると、続いて風のルビーとも同様の接続を済ませる。 一連の準備を終えると、ルイズは自分の席の前に据えられた平面映像が浮かんでいる磨かれた大理石の上に手を乗せた。 そうして粗くなった呼吸を少しの間整えて、そこに自分の魔力を流し込んだ。 ウルザが操作しているのを見たことはあったが、自分で操作するのは初めてである。そもそも『魔力を流し込む』ということ自体、彼女にとって初めての経験だ。 正直、すぐにうまくいくとは思っていなかった。 だが、意外なことにルイズはウェザーライトと繋がってから数秒で、その操作方法を理解が理解できてしまった。 一つ操作を行えば二つを、二つ操作を行えば四つを。 倍の倍で、操作を行えば行うほどどうやってこのフネを操作すればいいかがフィードバックされてくるのだ。 ウェザーライトの操作というのは、要は『自分の腕』と『魔法』との間のような存在だ。 マナ=精神力に命令を乗せて、それを端末から流し込めば思った通りに動かすことができる。 何も難しいことはない。メイジなら誰しもがやっていることだ。 ルイズはそれをルビーのバックアップを受けながらこなしていく。 一分ほどで表層的な操作について一通り試し終えたルイズは、顔を上げてギーシュ達を見た。 ギーシュは何とかまだ破損したブリッジ外壁近くの柵に掴まっていた。 だが、ルイズの霞む視界ではギーシュ達が今どのような状態にあるのかまでは判別できない。 あとどれだけそんな状況で耐えられるだろうか。 一分、二分? それとも三十秒? 兎も角、急がねばならなかった。 ルイズは再び目の前のコンソールに向き直る。 次はもっと高度な操作を行うつもりだった。 ウェザーライトの操作はある意味潜水に似ている。自分自身であるマナ/精神力を、深く沈ませていく、その深さによって捜査できる範囲が変わってくる。 高度な操作になるほど、より深い深度へと精神を潜り込ませるため、多くのマナを消費する。 だが、幸いにも今のルイズはマナ/精神力に関してなら無尽蔵と言っても良い。 余談であるが、ルイズ自身の精神力は、ロマリアで思い出すのもおぞましい『アレ』と対峙した晩以来、枯渇した状態が続いていた。 普通なら精神力は一晩ぐっすりと寝れば回復してしまうものなのだが、どういう訳か虚無の魔法を行使するための精神力はなかなか回復しなかったのである。 原理はよく分からないのだが、虚無に関する魔法を使用するための精神力の充足には特殊な条件が必要らしく、それが何なのか分からない彼女には回復する術が無かったのだ。 だが、パワーストーンの支援さえあれば、魔力は使い放題である。 無論、代償は必要ではあるが……。 正規の手続きを無視して、強引にウェザーライトの操作系統へと深く潜っていく。 途中、二つほどルイズを拒もうとする障害があったが、そんなものは強引に焼き切ってやった。 そうやってどんどんと潜り込んで、ルイズの脳裏に閃く直感。 あと一層で、自分の周囲を固めている防御の力に手が届く。 そう思い、逸る心のままに新たなマナを注ぎ込んだとき、異変は起こった。 「かっ、はっ!?」 頭の中が爆発したような強烈な頭痛、そして焼け付くような右目の痛み。 「――――――っ!?」 ルイズは声にならない悲鳴を上げて、その手で右目を押さえた。 途端に、 世界の半分がブラックアウトした。 (な、に……?) ルイズは脳裏に疑問を浮かべる。 ひどい頭痛は治まっていない。だが、それすらも凌駕して、ルイズは放心した。 突然世界の右半分から光が消滅したのだ。 いいや、そんなことではない。 ルイズにも本当は分かっている。 これは支払うべき代価だ。 驚くようなことではない。 右目が光を失った。 ただ、それだけのことだった。 そう、最初から分かっていてやったことだ。 「何よ……たかだか右目じゃない、何を驚いているのよ、私は。はん、ばっかみたい、ただそれだけじゃないの」 言って、ルイズは震える手をきつく握りしめると、それをそのままそれを、コンソールへと叩き付けた。 「少し、不便になっただけよ……!」 きつく結んだ唇が切れて、そこから血が一筋流れた。 ルイズは直ぐさま作業を再開する。 最後の門を破り、最深部一歩手前の領域のコントロールを掌握する。 それで十分。ルイズの目的を果たすには、それで必要十分なレベルだった。 (……艦内非常用保安機構。これね) ブリッジ内の様子がルイズの頭にイメージとして伝わってくる。 半径一メイル程度の円が自分を取り囲んでいるのが分かる。ルイズはそこに魔力の触覚を伸ばし、力場を発生させている術式に拡大の式を刻み込む。 すると、ルイズの耳にキーンという耳鳴りのような音が聞こえた。 続いて、ごうごうと鳴っていた風音が止み、バタンと何かが落ちる音がする。 ルイズが慌ててそちらを見ると、重なるように床に倒れているギーシュとモンモランシーがいた。 「た、助かった、のか、僕たちは……」 「どうやらそうみたいね……って、きゃあ! ギーシュッ! どこ触ってるのよっ!?」 「おお、モンモランシー。そうは言っても君が上に乗っているのだから僕からはどうしようもないよ……もっふもっふ」 「いやあ! 顔を動かさないでぇ!」 そんな声を聞いて、ルイズは徐々に緊張を解いていった。 思えば一人ウェザーライトに乗り込んで以来、これが初めて気の抜けた瞬間だった。 気を許せる友人、それがどれだけ大切なものか、初めて分かった気がした。 だが、次に聞こえてきた音が、ルイズに再び緊張を強いた。 「……っ!? 何この音っ、警告音が……変わった?」 再び艦内に鳴り響くアラート。 先ほどまでものとは全く別種の耳障りな音。 そして続いて響いた声に、ルイズは驚愕した。 『コアに対する第三深度の不正な侵入を確認しました。緊急時非常マニュアルに基づき、これよりウェザーライトⅡは精霊による自立航行モードに移行します』 無機質な、声。 この船には闖入者であるモンモランシーを除けば、ルイズの他に乗組員はいない。 つまり、今の声はウェザーライトⅡから流れたこととなる。 ルイズはウェザーライトⅡが喋ることなど、このとき初めて知った。 だが、次に発せられた声は、最初の衝撃を遙かに上回るものだった。 『ただちに不正な設定を破棄。艦内非常用保安に関する設定を復元します』 それはとてつもなく、冷徹な声のようにルイズには感じられた。 「待っ……」 ルイズが言い切る前に、弦を弾いたようなピンッという音が響いた。 それを契機に、拡大したはずの防御の力場が消滅した。 防御が消失したことで、ブリッジ内を再び強風が襲った。 猛烈な勢いで、再び空気が吸い出される。 「う、わっ、わ……」 「え、何? ちょっと……」。 抵抗する力も残されていないモンモランシー達の体が浮き上る。 そして、今度こそ何にも掴まることができず、二人の体は、外へ。 ルイズは呆気にとられながら、二人が外へと放り出されていくのを見ているだけしかできなかった。 そんな彼女に去来するのは (何で?) という疑問。 「モンモランシーッ! ギーシュッ!」 ただ、そう叫んで手を伸ばす。 二人は遠い。 腕は虚空にあって、何も掴まない。 その手に意味なんて無い。それで何かが変わるわけでもない。 二人の姿はすでに見えない。 そう彼女は失敗したのだ。 (何で、何でよ?) 悔しさと怒りで、涙がにじむ。 力を手に入れたはずだった。 それはみんなを救える力だったはずだ。 彼女が思う、立派な貴族が持つべき力。 何事にも背を向けず、誰かの為に戦い抜く力。 決して負けず、誰かの笑顔を守る力。 気高く、誇り高い、そんな力。 魔法が使えなかった彼女が夢見た、理想の力。 ルイズはそれを手に入れたはずだった。 けれどその力は、友達を助けることもできないものだった。 命を削ってまで手に入れたものは、理想とはかけ離れた、ちっぽけなものだった。 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールはここに現実を思い知らされた。 自分の望んだものは、神様にでもならなければ手に入らないと、思い知らされた。 「ぅ……ああっ、うわあああああっ!」 頬を冷たいものが伝うのを感じながら、ブリッジに開いた穴に手を伸ばす。 友達が消えてしまったその場所に、手を伸ばす。 後悔と未練が入り交じった感情を持て余して、嗚咽する。 結局何もできなかった。 そうルイズの心が絶望に塗りつぶされそうになったそのとき、彼女の半分しかない視界に、一瞬だけ影が差した。 ただ一瞬の交錯。 もうはっきりとした焦点を結べないルイズの瞳。彼女にはそれがなんだったのか分からない。 けれど彼女はその影に、希望を感じた。 だから彼女は、直感だけでその名を叫んだ。 「タバサ!」 空がどんなものかだって? そりゃあ怖いところだよ。 誰だって落ちれば分かる。 ――ギーシュ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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ホタテエソ 秋の浜 -40m ホタテエソ(幼魚) 秋の浜 -15m
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「「「何か画像」」」 プロフィール キャラ :アステエル 戦闘Lv :65 生活Lv :9 活動時間帯:大体、夜 自己紹介! アステエルです! 一応メインです 一言! IN率不定期の初心者ですがよろしくお願いします!
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (45)口論 アンリエッタはタバサの手からイザベラの手紙を受け取ると、それにさっと目を通し、しばしの間逡巡した。 だがそれも時間にして一瞬のこと。そこからの決断は早かった。 アンリエッタは呼び鈴を鳴らして、すぐさまトリステインから連れてきた側仕えの侍女を呼び出し、彼女にもう一人、別の侍女を連れてくるように言いつけると、ルイズへと向き直った。 そして、彼女はこう口にした。 「ルイズ、服を脱ぎなさい」 その暫く後。 アンリエッタとルイズの二人は、杖の先に魔法の明かりを灯したタバサを先頭にして、プチトロワからグラントロワまで繋がる、秘密の通路の中を歩いていた。 「……段差、気をつけて」 「はい、お気遣いありがとうございます」 タバサは変わらなかったが、アンリエッタとルイズの二人は、先ほどまでと袖を通している服が違う。 アンリエッタは闇をくり抜くような、輝かんばかりの純白のドレス姿である。 そして一方―― 「すみませんね、ルイズあなたにそのような格好をさせてしまって……」 そう言って何度も繰り返し頭を下げるアンリエッタに、 「い、いえ! 陛下、そのようなこと、お気になさらず。どうか、どうかお気になさらず! 私、メイドですからっ! メイドが相応しい女ですからっ!」 などと言って手をバタつかせて恐縮するルイズの出で立ちは、メイドであった。 何故二人がそのような装いに身を包んでいるかと聞かれれば、それはやはり、先刻のやりとりの続きを書かねばならないだろう。 アンリエッタがルイズに服を脱ぐように言ったのは、別にルイズのフラットな裸が見たかったからではない。 その服を、別の者に着せなくてはならなかったからである。 ルイズが服を脱ぎ終わった頃に、先ほどアンリエッタが呼びつけた侍女が、部屋へと戻ってきた。(アンリエッタがどれほど手早くルイズの服を脱がせたかについては、この際割愛させてもらいたい) 一人ではない。そのとき彼女はもう一人、別の侍女を連れてアンリエッタの部屋に戻ってきた。 そして連れてこられたもう一人の少女は、そばかすをとあどけなさを残した、可愛らしいという表現の似合う素朴な娘であった。 身長は女性平均のそれより低く、やせ形で、そして体の緩急が極端に少ない。発育がよいとは言い難い娘であった。 つまり、彼女はルイズそっくりの体型をした娘だった。 ルイズを脱がせる傍らで自分も服を脱いでいたアンリエッタは、そのぬくもりと香りがまだ残るドレスを、最初にやってきた方の侍女へと手渡した。 「よろしくお願いしますね」 それを聞いて、どうやら彼女達に自分達が着ていた服を着せ、替え玉に仕立て上げようという思惑なのだと、ようやくルイズも気がついた。 しかし、突発的な計画というのは、往々にして思った通りには進まぬもの。 代わりの服を着るという段になって、アンリエッタの前に新たな問題が持ち上がった。 「まあどうしましょう! ルイズ、あなたに合う服がないわ!」 そうなのである。クローゼットの中には数着の衣服が用意されていたが、その中でルイズが着られそうなサイズの服は、アンリエッタの見立てでは一着もなかったのである。 当然、少し離れたところにあるルイズに割り振られた部屋まで戻れば、そこには自前の服がある。 「陛下……その、私の部屋まで戻れば、替えの服も……」 下着姿のまま、手で恥ずかしそう体を隠して、そのことを伝えようとしたルイズを、アンリエッタが口早に遮った。 「いいえ、いけません。そんな不用意な真似はさせられません。もしもそのことを見とがめられては、厄介なことになります」 そう言われてはルイズにも言い返す言葉がない。 「うぅん……何かよい方法は……」 小さく呟いて妙案はないかと、アンリエッタが思いを巡らす。 考えながら、彼女は視線を、タバサ、ルイズ、それから二人の侍女へと移動させる。 そしてふと、後から連れてこられた侍女のメイド服に目が止まった。 この部屋にある服は、全てアンリエッタの服である。 ならばルイズが着る服はそれ以外から調達しなくてならない。 先ほど部屋の中にルイズが着られる服は一着もないと思ったアンリエッタだが、そこで彼女ははたと気づいた。 服ならここに、丁度二着あるではないか。 「ルイズ……不躾な質問ですが……あなたはメイド、お嫌いですか?」 結果として、ルイズと小柄なメイドは、その着ているものを交換することとなった。 アンリエッタはルイズにメイドが着ていたエプロンドレスを着るように言うと、同様に二人のメイドにも自分たちが着ていたドレスを着るように言った。 そして自身もクローゼットの中から着替えやすい一着を選ぶと、彼女もそれに素早く着替えた。 そうやって四人の服装が入れ替わると、次はタバサの出番だった。 タバサは目を閉じて集中してルーンを唱えると、メイド達に向かって杖を振った。 すると室内だというのに風が巻き起こって、それが侍女達にまとわりつき、実に不思議なことが起こった。 風が止んだとき、メイド達の顔は、それぞれアンリエッタとルイズのものへと変わっていたのだ。 ――フェイス・チェンジ。 風系統のスクウェア・スペルである。 「う、わ……。まるで鏡を見ているみたい……本当にそっくりだわ」 ルイズが先ほどまでの自分と全く同じ格好をしている娘をじろじろと見ながら、そんな感想を述べた。 アンリエッタもその結果に満足したようで、安心のため息を一つ漏らした。 「ふう……、どうやら無事、上手くいったようですね」 「………」 そのアンリエッタの言葉に、タバサが無言のまま、首を縦に振った。 別段同意を求めた呼びかけでもなかったのだが、その仕草にアンリエッタは満足そうに頷くと、早速次の行動に移ることにした。 「ささ、ゆっくりもしていられません。早速向かいませんと」 『向かう』、その言葉に自分そっくりに化けた娘を見ていたルイズが反応を示した。 「あの……? 陛下? このような身代わりまで用意して、一体どちららに向かわれるのですか……?」 ルイズの言葉に、アンリエッタは小首を傾げて『あらっ?』という反応をし、それから顔を上に上げて、人差し指を唇にあてて、少しの時間悩んだ。 そして、その顔をルイズの耳元へと近づけ、ゆっくりと、それこそ言葉を選ぶようにして声を潜めて言った。 「我々はこれから、この宮殿の主、ガリア王の前へと赴くのです」 「……っ! 陛下っ! それは、むぐっ!」 「しっ、声が大きいですよ、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは慌てて手でルイズの口元を押さえると、振り返って、背後にいる、自分たちと同じ格好をした二人を見た。 彼女達はこちらの会話は聞こえていなかったのか、別段驚いたふうもない。 ルイズが驚いたことからも分かるように、そしてアンリエッタが侍女達に悟られないように配慮したことからも分かるように、これは尋常なことではない。 「良いですか? 我々はこれから、ガリア王の招きに応じる為に、シャルロット殿が通られてきた隠し通路から、極秘の会談のために用意された部屋へと移動しなくてはなりません」 「……ぷはっ! し、しかし陛下っ、ガリアの女王は……その、噂に聞くあの王の、娘で……」 言いづらそうに言葉を濁したルイズが、後ろで表情を変えずに立っているタバサを見た。 ルイズは以前に、彼女の執事であるペルスランから、タバサの境遇について説明を受けている。 その話の中で、タバサの父親の命を奪ったのも、タバサの母親に毒を盛ったのも、今の女王の父親、無能王と呼ばれた先王ジョゼフだと聞かされていた。 そんな彼女がどのような経緯でこのガリアの、それも宮殿にいるのか、女王の妹とは何のことなのか、そういった一切合切が分からなかったが、それでも、彼女の前で敵である先王の名を口にするのは憚られた。 だが、それ以上にルイズがアンリエッタを引き留めようとするのは、会議の最中、晩餐会の最中に見せたイザベラの奇行に原因がある。 会議の最中にいびきをかいて寝る、晩餐会では前菜の前からワインを浴びるように飲む、そして何より、あの猛禽類もかくやという鋭い目つき。 ルイズには彼女が、アンリエッタと同じ一国の女王とは到底思えなかった。 そして、そんな彼女とアンリエッタが話をするということが、何となく嫌だったのだ。 「そんなに心配をしなくても平気ですわ。仮にも一国の元首、一度ことに当たれば民を導く指導者としての顔を見せてくださるでしょう」 「でも、陛下……」 「大丈夫ですよ。わたくし、これでも人を見る目には自信がありますの。それにわたくしには分かります。彼女の普段の素行や言動は、人を欺く仮の姿。油断ならぬ相手ではありますが、彼女は理性的な話し合いのできる相手です。 なにより、今の段階になってわたくしに害をなすことで、彼女が何かを得るということはありませんもの」 そう言いきったアンリエッタに、ルイズも言葉がつまらせた。 「例えそうだとしても……そのような場所に私のような者が出席するというのは」 「それも彼女の意向なのです。こちらの書状にそのように書いてありました」 そう言ってアンリエッタは先ほどタバサから受け取った書簡を広げて見せた。 そこには確かに、ルイズを連れて来て欲しいとの要望が記されていた。 流石にそんなものを見せられてなお拒否したとあっては、敬愛するアンリエッタの面子にも泥を塗ることになる。 何より、もしもガリア王が良からぬことを企てていたときに、自分が側にいたならば何とかできるかも知れない、そんな考えがルイズの脳裏によぎった。 加えてタバサの件もある。 もしも友人が脅されて仕方なく女王に従っているのだとしたら、必ずやその魔手から救い出さなくてはならない。それがルイズの、貴族としての、誇り高い人としてのあり方だった。 それらのことを一通り考えて、結果としてルイズは、深くため息をついてから 「……わかりました」 と、メイド服の肩を落としながら答えたのだった。 そうして場面は、再び暗中を行く三人へと戻る。 確かな足取りで先頭を歩くタバサに連れられて、ルイズとアンリエッタも暗く狭い、ひんやりと冷たい地下通を進んでいく。 途中、いくつか罠らしきものもあったが、どれも長い時の間に風化してしまっているか、既に無効化されているものばかりだった。 三人が抜け穴に潜ってから十分ほども歩いた頃、タバサの足が、ある一点でぴたりと止まった。 「? どうしたの、タバサ?」 訝しんでルイズはタバサの見ている先を覗き込んだ。 そこは、一見して黒塗りの煉瓦が積み上げられただけの、何の変哲もない行き止まりであった。 その声に反応したのでもないのだろうが、杖を掲げたまま、タバサは二人を振り返って言った。 「ついた」 言ってタバサは、煉瓦の一つ、床から少しだけ上にあるそれを、足で押した。 続いてルイズ達がまず耳にしたのは、ガコンという何かが落ちたような音。 そして更に、振動を伴った重い音と共に、ルイズ達の前で行き止まりと思われていた壁がゆっくりとスライドしていき、行き止まりと思われていた壁の先に狭い空間があらわれた。 奥には、さびが浮いて赤茶けた、一枚の鉄扉。 その先こそは、ルイズ達が目指していた目的地に、違いなかった。 ――まぶしい。 光が目を刺すようにして飛び込んだ為だ。 暗所から突然部屋の中に出たため、目が慣れない。 手で明かりを遮りながら、三人は目をしばたかせた。 光の中に、誰かがいる。 そう思ったとき、向こうもこちらに気がついたのか、挨拶の声がかけられた。 「随分と遅かったじゃない。って、ルイズ……、あんた随分とその格好、随分と似合ってるわねぇ」 「おや本当です。可愛らしいレディの登場ということですね。もちろん他のお二人も負けず劣らずお美しい」 「ん、ああ? 本当に来たのか。不用心にも程がある」 「もぐもぐ」 徐々に目が光に慣れていく。 ようやっとものが見られる程度に視力が回復したルイズは、薄目を開けて、声のした方を見た。 そこには、 「ぷぷぷっ……ホント、よく似合ってるわよ」 こちらを見て口元を隠して笑っているキュルケと、 「ふふふ、お嬢さん。そんなに一辺に口に入れては喉がつまりますよ」 柔らかな微笑みを浮かべながら、牛飼いのごとく青髪の美女の口にお菓子を次々に放り込んでいる教皇、 「ふん、丁度ワインを飲みきったところだ。おいシャルロット、新しいのを持ってこい。ばれないようにな」 ぐびぐびとワインを流し込んでいるイザベラ、 「こんな小さいこっぱじゃ、全然食べた気がしないのね!」 もっしゃもっしゃクッキーを頬張る青髪の娘がいた。 それはちょっと、ルイズの想像していたのとは、違いすぎる光景だった。 「な、な、な、な……」 口をわなつかせたルイズが何で、と発するより早く、制するようにアンリエッタがさっと一歩進み出た。 そして、胸を張って口上一声。 「お招きに預かり……」 「あー、はいはい。そのくらいで良いぞ。別に堅苦しい挨拶を上げてもらう為に呼んだんじゃない」 そう遮ったのはイザベラだった。 口上の最中だったアンリエッタが、言葉を止めた。 緊張に体を強ばらせて、つばを飲み込む。 「それではなんのご用向きでしょう、イザベラ殿」 ロマリアの教皇、ゲルマニアの特使、それにトリステインとガリアの女王。 正に各勢力のトップを極秘裏に集めて、ガリアの女王は何をしようというのか、何を持ち出そうというのか。 ルイズの出席まで指定してきたということは、ロマリアはおろかガリアにまで、彼女の秘密が知られていることを意味しているのではないだろうか。 それに、イザベラやタバサよりも年上に見える、あの青髪の女性の存在も気にかかる。 現在ガリア国内で、王族直系を示す青髪を持つのはガリア王イザベラと、先王に謀殺された王弟の娘シャルロットの二人しかいないはずである。ここに来て未確認だった『三人目』が現れたその意味も分からない。 静かに、悟られぬ様に深く息を吸う。 この場で、何かとてつもないことが起こる。そう直感したアンリエッタは唇をきつく一直線に引き締めた。 けれど、次にイザベラの口から飛び出したのは、そうしたアンリエッタの心中を裏切るものだった。 「ああ、違う違う。アンリエッタ殿をこの場に呼び出したのは、単なるお茶のお誘いだ。こいつらがこの場にいるのは勝手に押しかけてきたってだけさ」 そう言うと、 「私はイザベラ殿を食後のお茶に誘おうと思ってのことですよ」 教皇はそう口にして、『作業』を再開し、 「私はこの部屋がタバサの部屋だって聞いたから来たのよ。『姉君』がいたのは驚いたけど、それもこれもただの偶然」 とキュルケが言い、 「もぐもぐもぐ……」 青髪の娘はまたクッキーの処理を始めた。 それぞれの言い分を耳にしても、アンリエッタは不動であった。 あるいは、周りから見て、揺らいでいないよう見えた。 「つまり、この場にこれだけの人間が集まったのには、深い意味はないと。楽しくお茶をするための集まりであると、そうイザベラ殿はおっしゃるのですね」 「そう、その通り。アンリエッタ殿がおっしゃる通り」 アンリエッタの反応を楽しむようにニタニタと笑っているイザベラ。その姿に一瞬彼女は目の前のイザベラが自分に嫌がらせをして楽しんでいるのではないかという考えに捕らわれかけるが、すんでの所でそんなことはないと踏みとどまった。 部屋の中央にある丸テーブルについて、反り返る様に椅子に座っているイザベラの格好は、到底人を招いた人間の格好とは思えないものだった。 今、彼女が来ているのはフォーマルな服装とはいえないどころか、人と会う姿ですらなかった。 ガウン一枚、それが彼女の纏っている全てである。 襟に豪勢に羽毛をあしらった、最高級だと分かる厚手のガウンの下には、白い肌が露出しているのが見てとれる。 そんな格好で人を迎えるなど、アンリエッタの常識では到底考えられない。しかも、この席には教皇聖下までいるというのにである。 だが、だからといって油断はできない。 彼女のその姿はアンリエッタを欺く演技であるかも知れないのだ。 トリステインが入手しているガリアの内部情勢、特にここ最近のイザベラが実権を握ってからの短期間で進められた宮廷内部の改革と人事刷新からは、彼女の並々ならぬ政治手腕が見て取れたからだ。 イザベラは、不安定で分裂しかかっていたガリア宮廷内部を、強引ともいえるやり方でまとめ上げていた。つまり、自分の息のかかった者で権力の中枢を固め、刃向かう者は失脚させるか、追放するか、……あるいは処刑するか。 このことは彼女が敵味方を嗅ぎ分ける嗅覚に特に優れているということを意味しているのだが、それを知らぬアンリエッタからすれば、イザベラの人を見る目とその判断力、決断力は、正に怪物と言って差し支えないものであった。 ならばこそ、アンリエッタにはこの集まりが、何の目論見もなく開かれたものだとは到底思えなかったのだ。 「わかりました」 落ち着き払った声で、アンリエッタの返答。 「陛下っ!」 ルイズの制止を促したが、アンリエッタはそっと目線を向けてこう言った。 「良いではないですか。折角のお招きです。甘えるといたしましょう」 不安そうな目でこちらを見ているルイズを見て、アンリエッタの中の不安がますます強くなった。 自分の行動が、大切な親友の、ひいては愛する民達の未来を左右する。 これほどまでに強烈に王の重責を意識したことは初めてかも知れない。 「大丈夫。きっと大丈夫ですから」 そう、言って聞かせるように、自分を戒めるように、呟いた。 不安は彼女を押しつぶそうとする。 だが、それ以上にそれに負けないという決意と意志は、確かに彼女の中に燃えていた。 ――結果としては、それは全くに空回りであったのだが、彼女がそれを痛感するのは暫く後のことである。 さて、 席について二十分、早くもルイズはこの席に着いたことを後悔し始めていた。 「あらあら、その事件は確か百年も前に裁判で決着がついたことではありませんでしたか?」 「王政府に無断で一公爵が取り決めた事例に、従う義理も謂われも無いね」 数人が囲んで座れる丸テーブル。 ルイズの左にはアンリエッタ、ルイズの左にはイザベラ。 二人の女王に挟まれたその席は、まるで地獄の釜の底のよう。 そもそも、アンリエッタとイザベラ、この二人は決定的に、徹底的に、相性が悪かったのだ。 例えば花の好み。 アンリエッタが「わたくしは白い百合の花が好きですわ」と言えば、 イザベラが「白い百合? 葬式の花かってくらい辛気くさい。それだったら私は黒い薔薇の方が好きだね」と言い。 例えば趣味の話。 イザベラが「狩りというのはなかなか面白い。獲物をどうやって仕留めるかに、センスが出る」と言えば、 アンリエッタが「まあ、女性の身でありながら狩りですか、野蛮極まります。私は歌を歌う方が好きですね」と言い。 例えば自分の理想については、 アンリエッタが「王とは、人を守り正しき道に導く者。民を愛し、民に生かされる者、それを忘れてはいけません」と言えば イザベラが「なんだそれは、奴隷かい? 王とは、人を征しその生き様で道を示す者。民に愛され、民に尽くし捧げられるだけの価値と力を持った存在のことだろう」と言う。 一事が万事、このような調子である。 目の前でそんな言葉が飛び交っているのを耳にして、ルイズは生きた心地がしなかった。 「今はっきりと分かりました! あなたに深い思慮分別なんてありません! 先ほどからの言動は、ただ単にわたくしへの悪意ある嫌がらせに過ぎません!」 「ははん! ようやっと気づいたのかい! 田舎者のトリステインのトロい小娘は最後まで気づかないんじゃないかと冷や冷やしたよっ! 」 「なんて言いぐさでしょう! ガリアこそ、ここ二十年の停滞で立ち後れた国じゃありませんのっ! それにあなたに小娘と言われる謂われはありませんっ!」 「なんだとっ!? ちょっと乳がでかいからって調子に乗るな! 大体、私は一目会ったときから気に入らなかったんだ、そのすました顔が、いかにもこれまで恵まれて育てられてきましたーっていうお姫様然とした態度がっ! その鼻をへし折ってやりたくて仕方なかったのさっ!」 「ええ、不本意ながら同感ですわっ! あなたのような野蛮で下品な方が、わたくしと同じ一国の女王だなんて信じられませんっ! あなたのせいでわたくしまで品位を疑われてはたまりませんわっ!」 「ほぅら本音が出たっ! 結局人間なんてものは一皮剥けば自分が一番可愛いんだよっ!」 「なっ! それとこれとは話が別でしょう!?」 二人の熱はスパイラルを形成し、着実にそのボルテージは高まっていく。 そんな光景を前に、ルイズは何もできないでいた。 一方、予想外の流れにルイズがあわあわしている向かいでは、キュルケが涼しい顔をしてカップにお茶のお代わりを注いでいた。 キュルケを恨めしそうにじっと睨むルイズ。 その視線に気がついたのか、キュルケは肩を小さくすくめてみせた。 それは言外に 『放っておけば良いんじゃない?』 と言っているようだった。 我関せずという姿勢をとっているのは何も彼女だけでは無い。 キュルケの右隣に座っているタバサはさっきからずっと視線を落として手元の本の文字を追っていたし、その更に右の席では教皇が、ずっとあれやこれやの菓子類を、名も知らされていない青髪の美女の口に放り込んでいた。 本当はタバサとも話したいこともあったルイズであったが、いかんせんこうなっては、席を立つことすらも難しい。 そうやってアンリエッタとイザベラが、いつ爆発するか分からない危険な領域に突入した頃。 ――流れを断ち切る音がしたのは、そんなときであった。 ガタッという席を立つ音。 立ち上がっていたのは、教皇であった。 無言で立った白衣の青年に、一瞬彼が二人を止めるのではとルイズは期待を込めた眼差しで見上げたが、次に彼の口から発せられたのは、それとは全く違うことだった。 「それではわたくしはこの辺でお暇させて頂きます」 何を言うかと思えばそんなこと。 ルイズは相手がハルケギニアで最も高貴な存在であることも忘れ、はっきりと落胆の色を表した。 しかして、教皇はそんなルイズに、最後の最後で救いの手を差し伸べた。 「ミス・ヴァリエール。よろしければわたくしと散歩がてら、外でお話をしませんか」 「……え?」 突然の申し出に、ルイズは目を丸くして驚いた。 「お二人とも、よろしいですかな?」 続けて教皇は、流れる水の音のようなよく響く声でそう言った。 その言葉に、それまで激しく口論していた二人がぴたりと口を閉じる。 途端に降りる静寂の帳。 魔法でもかかっていたのかと思うほど、その言葉は見事に空間に真空状態を作り出していた。 「え、ええ……ルイズがそれでいいと言うのなら……」 「別に私が口を挟むことじゃない」 教皇は二人の口から、許可の言葉が出てきたことを確認すると、ルイズに近寄り、極上の笑顔で手を差し伸べた。 「お手をどうぞ。ミス・ヴァリエール」 とんでもない。手を出したのは向こうが先です。 ――アンリエッタ・ド・トリステイン 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (44)壮麗な宮殿 「まあルイズ! 無事に到着できたのですね!」 まず、部屋へと案内されたルイズを歓待したのは、そんな声だった。 「女王陛下につきましてはご機嫌麗しく……」 「ああ、そんなにわたくしに気を回さないで下さい。わたくしたちはお友達ではありませんか」 そう言ってルイズを出迎えたのは、彼女が最も尊敬している人物にして、トリステインの女王、アンリエッタその人であった。 席を立って駆け寄ってくるアンリエッタが身に纏っているは、白地にうっすらとベージュ色が彩りを添える、花開く百合を連想させる上品なドレス。 対してルイズの格好は、髪を後ろでアップに結び、光沢ある生地を使っているものの抑えて控えめな色調の、赤いドレス。 そんな二人が並んで話す姿は、高名な画家が描いた、一枚の絵のようであった。 「いえ、女王陛下、そうはおっしゃっても……」 「あなたの席はこちらですよ。わたくしの席の隣に用意させましたの」 さあさあと、女王の白魚のような指に手引かれて、席へと案内されるルイズ。 そんな彼女を見つめるのは、無数の瞳。 気がついたルイズは、ちらりと視線の主達の方を見た。 そこでは期待する目、疑う目、値踏みする目、ただ観察する目、様々な心中を映した視線が、ただ一点ルイズへと注がれていたのだった。 既に四角く配置された会議場の机の一辺には、アンリエッタを中心としてトリステインの国章を身につけた男達が陣取って座っている。 その数は六人。 学者風の老人、立派な軍杖を腰から下げた将軍らしき男、目をギラギラさせた鷲鼻の男、片目だけでルイズを見ながら顔は下へ落としている白眉禿頭の男、背筋がしゃんと伸びた位の高そうな騎士らしき男。 着席している人間は多種多様。その中にはルイズも何度か目にしているアンリエッタの側近、マザリーニ枢機卿の姿もあった。 また一方、別の一辺。 ルイズ達から見て右辺に位置する席には、トリステイン勢とは対照的に少数の人間が座っている。 それはキュルケとその二人の部下達の三人で構成される、ゲルマニアの代表出席者達である。 彼らはそもそも本来、国の命運を左右するこの会議に出席する権限や地位を持っていない。 しかしそれでも、彼らがその席に座っているのは、他に適切なゲルマニアの関係者がいなかったためである。 何せ、この集まりは呼びかけが行われてから実際に開かれるまで、一週間とかけずに開催された会議である。 例え諸国へ亡命していた貴族がいたとしても、この短時間で彼らの意見をまとめ上げる器量と影響力を持った人物は皆無であったろうし、何より皇帝が行方不明の現在、ゲルマニアの代表者を見つけ出す時間もなかったのだ。 そういったことや会議の混乱を避けるためという名目もあって、ゲルマニア国外におり議会から委任された権限を持つキュルケが、年若いながらこの場に出席しているのである。 ルイズが席に座って暫く、アンリエッタが畏まり固まっているルイズに世間話を一つ二つ振った頃合い。 会議室にある二つの扉の一つが、音もなく開け放たれた。 そしてそこから、先ほどのルイズとアンリエッタの時とはまた違う、別の華やかさが現れた。 目映いばかりの美貌を振りまき、さわやかな微笑みを浮かべて入ってきたのは、教皇聖エイジス三十二世。 そしてその後ろで、彼に付き添うように歩いて来たのは、教皇と同じく白い聖衣を纏った、顔にいくつもの皺を刻んだ歳経た二人の枢機卿だった。 集まった人間達の視線が、今度は教皇達へと向けられる。 しかし教皇はそんなことは気にしないとばかりに、入ってきたときと変わらぬ涼やかさで、ルイズ達の右辺に用意された自分の席へと歩を進めた。 そして、連れ添う枢機卿達が席の前についたのを確認すると、教皇はアンリエッタへと、体の向きを変えた。 これを受けて、アンリエッタを含めたトリステイン家臣団も申し合わせたように席を立った。 一瞬遅れかけたルイズも、慌てて席を立つ。 「お初にお目にかかります女王陛下。即位式の折りには出席適わず、大変申し訳ございませんでした」 「こちらこそお初にお目にかかります、教皇聖下。その節は天運がわたくしに味方しなかったか、わたくしの徳が足りなかった故のこと。そのようなことをおっしゃられてはわたくしが困ってしまいます」 言って二人は、同時に礼をとった。 宗教庁の代表者たる教皇とトリステインの代表者たる女王の、最初の挨拶。 そこから二人は慣例と定型句、謙遜と牽制、それに少々の本音と打算を含ませながら、一言二言、言葉を交わし、同時に着席した。 教皇達ロマリアの一団が席に着いたことで、それまでルイズに話しかけていたアンリエッタも口を閉ざすことになり、緊張を含んだ沈黙が場を包み込んだ。 しかし、それも長くは続かない。 喧噪を引き連れて、新たな出席者達の気配が近づいてきたからだ。 『よーし分かった。つまりアレは、お前の使い魔ってことなんだな? ははん! 主人が主人なら使い魔も使い魔だ! 何のしつけもなっちゃいないっ! この私が直々にしつけ直してやろうかい? えぇ?』 話し声、いや、誰かが誰かに一方的に言葉をぶつけているような、そんな声。 それは、初めは小さく、後の方はその場の全員がはっきりと聞き取れる位の音量で 扉の内側で緊張の圧力が高まる中、声の主が扉の前にたどり着いた。 そして、両開きの扉が勢いよく開け放たれた時、既に起立していた女王と教皇、その配下達の視線の先には、野性的な笑みを浮かべた女性が一人、立っていた。 長い青髪に真蒼のドレス。 その姿はアンリエッタが白百合と表現するなら正に好対照、妹であるタバサに送ったそれと同じ、青い薔薇と形容するのが相応しい姿。 着飾ったドレスは幾重にも、幾重にも花弁のようなレースを重ねた、プリンセスラインのシルエット。 そしてそれを着ているのは、自分自身こそが棘であると、誰にも憚らず主張しているかのような、意志の強そうな、はっきりと言えば酷く悪い目つきの少女。 彼女こそは、この会議の主催者、ガリアの女王イザベラ一世であった。 現れたイザベラに、最初に話しかけたのはアンリエッタだった。 「同じ祖を頂きし、はらからたるガリアの女王イザベラ一世、お初にお目にかかります」 「始祖の加護深き兄弟たるトリステインの、聖約を授かりし女王アンリエッタ、この出会いを感謝いたします」 まずは二人の女王が、互いに一言、優雅に互いに一礼。 それはハルケギニアの歴史を紐解いても珍しい同時代、同世代で誕生した珍しい女王同士のやりとりであった。 ゆっくりと、礼を終えて佇まいを直したアンリエッタの顔は、どこか強ばったような堅さを残した厳しい面持ち。 一方イザベラは何かをおもしろがっているような、そんな不遜さを瞳に宿して、手に持った羽根飾りのついた、これまた青い扇子で口元を隠している。 そうしてたっぷり十秒ほどもお互い見つめ合った後、イザベラは続いて教皇へと向きを直した。 「正しき教えを守る守護者の長にして、我らの家を束ねる教皇聖エイジス三十二世。神が導き会わせたる、この出会いに感謝を」 「護法者にして正しく道を歩む、鮮烈なる青たる女王イザベラ。この出会いが始祖の祝福を受けた輝かしいものであることを、私は確信しております」 一礼。 しかし、今度はうってかわってイザベラがさもつまらなそうに教皇を眺め、教皇の方が笑顔を絶やさずに目の前のイザベラを見ていた。 「……ふん。余計なおべんちゃらや宮廷儀礼はこの辺で切り上げて、さっさと本題に入ろうじゃないか。あたしもそこの女王陛下も、初めての外交行事ってやつで、緊張してるんだ。さっさと初めてさっさと終わらせるよ」 勢いよくどっかと座り込んで、間も置かずにそう切り出す女王イザベラ。 そんな放埒すぎる発言に、参加者達があっけにとられる。 その中にはイザベラと共に入ってきて、まだ腰を落としきっていなかったガリアの大臣二人も含まれていた。 「へ、陛下……」 彼女の暴言に、気の弱そうな小さい顔をした痩せすぎの大臣が窘めたが、イザベラは頬杖をつきながら彼の方を見ると、ぶっきらぼうな口調で続けて言った。 「後はお前達の話し合いだろう。さっさとやれ、しっかりな」 諸国会議、投げやりにそう名付けられたこの会議こそは、ハルケギニアの行く末を決める重要な話し合いの場なのである。 ガリア王国の王都リュテュス、その中心部に座するヴェルサルテイル宮殿のグラントロワで急遽開かれることとなったこの会議には、現在のハルケギニアにおいて大きな力を持つ国家の重鎮達が集められている。 彼らはイザベラの発言を皮切りに、未来を探るべく会議を始めたのだった。 果たして、会議はイザベラが言った通りに進められた。 会議に要したのは時間にして三時間と少し。 その間、別段会議が難航したということも無く、むしろスムーズ過ぎるくらいスムーズに進んだと言えた。 アンリエッタも、イザベラも、教皇も、勿論ルイズも、会議が始まってからは特に積極的に発言するような場面は巡ってこなかった。 会議では各国の代表として出席したそれぞれの国の専門家達によって、お互いに示し合わせ、申し合わせたような筋道に沿った話し合いで、きわめてスムーズに進められた。 彼らは皆、外交の、軍事の、経済のエキスパート達である。 互いに手の内は知れている。たまに意見が対立することがあったとしても、それは腹の探り合いの上でのことであって、実際のところの結論といえば、当事者達にとっては分かりきったことなのである。 この会議に出席した時点で、既に勝負は九割方が決していると言っても良い。 そして、付け加えるなら、この会議の最大の目的であった『アルビオンの打倒』『周辺国による協力体制』については、トリステインが主導の元で条約が結ばれるということが、ほんの十分もしないうちに取り決められてしまっていた。 では、残りの三時間近くの時間が何に費やされたかといえば、それは『戦後の処理』についてである。 特に、戦後アルビオンとゲルマニアの統治をどうするのか、会議の残り時間の焦点は、そこに終始した。 トリステイン・ガリア・教皇庁(ロマリア)は、勝ち取った領土についてどうするかを、ひたすらに話し合った。 勝てるかどうかも分からない戦いが控えているというのに、勝った後のことを話し合うということの馬鹿馬鹿しさに、ルイズは思わず呆れてしまったのだが、これも政治と割り切ることにして、とりあえず神妙に頷いて会議の時間を何事も無く過ごした。 そんな中にあってアンリエッタは終始にこにこと笑っており、イザベラは頬杖を突いた姿勢で船を漕いでいた。 唯一教皇聖エイジス三十二世だけは時折思い出したように発言したが、ほとんどの場面では、彼もやはりただ頷いているだけであった。 そして、切り取られるパイの側であるキュルケ達ゲルマニア勢に至っては、最初の条約締結の段で一言喋ったのみで、そのあとはずっと沈黙している始末。 そんなルイズが想像していた以上に退屈を味わうことになった会議が閉じられたのは、日が傾いて夕の刻に入った頃であった。 しかも、後に待っていたのは一挙一頭足まで注目され続ける晩餐会。 結局その日、ルイズにとって気が休まる時間というのは、随分と後になるまでやってはこなかったのだった。 「ふうぅぅ……」 ルイズは深く、長く、息を吐いた。 三時間にも及ぶ不毛な会議、そしてその後に催された贅の限りが尽くされた晩餐会。 それら窮屈な時間が終わって、ルイズはアンリエッタにと用意された、離宮の賓客室にその身を置いていた。 女王陛下の部屋に入るなど恐れ多いと辞退しようとしたルイズを、アンリエッタが強引に部屋に連れ込んだのである。 部屋に入ってからしばらくの間、虚空を見ながらぼーっとしていたルイズに、鈴の音のような透き通った声がかけられた。 「うふふ。慣れぬお勤めにお疲れのようね、ルイズ」 「あ、いえ、その、……はい。陛下……」 「安心してちょうだい。わたくしも別段得意というわけでは無いのですよ」 言って苦笑するアンリエッタ。 二人は今、ウェザーライトⅡでルイズとキュルケがそうしていたように、テーブルを挟んで椅子に座っていた。 そろそろ夜の闇も濃い、この時間は寝る前の小休止といったところである。 「いえ、やはり女王陛下はお強いです。わたくしにはあのような場はとてもとても……」 そう言ってうつむき加減に首を振ったルイズの顔には、確かに疲労が浮かんでいる。 いくら公爵家の娘として育てられたルイズといえど、これほどまでに緊張感を持続させなくてはならない場に、長く居続けたことはなかったのである。 それは、かわいい愛娘をそんなところには連れて行かないようにしていた、父ミシェルの配慮があったのだが、そのことに彼女が気づくのは随分と後になってからである。 ふと、ルイズはアンリエッタの顔色を窺うようにして顔を上げた。 その目に映った女王は、凛としており。それほど疲れているようには見えなかった。 その視線に気がついたアンリエッタが、にっこりと笑う。 「頼りないかも知れませんが、わたくしだってこれでも女王です。王という仕事には体力が欠かせませんからね」 言って笑うアンリエッタからは、彼女が以前に見せたような弱さや迷い、狂おしいほどの苦しみや悲しみを、読み取ることはできなかった。 むしろ今の彼女からルイズが感じたのは、日の当たる草原を思わせる、穏やかな、陽だまりの匂い。 そんな女王の姿に、ルイズは思わず見惚れてしまった。 「陛下……」 ルイズが思わず言葉を漏らす。 意味のない、ただ漏れたと表現するしかない言葉。 しかしアンリエッタは、その言葉になんらかの意味を見いだしたのか、ルイズの目をまっすぐに見つめて語り始めた。 「ルイズ、わたくしはね……。別にウェールズ様のことを忘れたわけではないのよ。でも、かといって逃げているわけでもない。 自分の弱さや、押しつぶされそうな悲しみを背負って、それでもわたくしは胸を張って生きていこうと、そう思うことにしたのです。 そう思えるようになったのは、あなたのおかげよ、ルイズ。あのとき、あなたがわたくしを叱ってくれたから、わたくしはまた立ち上がることができたのです」 あのとき――それは、自分がアンリエッタの頬を叩いた、あのときのことか。 ルイズはそのときのことを思い返して机の上に置いていた手を、きゅっと強く握りしめた。 けれど、その手を白い手袋を穿いたアンリエッタの手が包み込んだ。 「ルイズ。わたくしはあなたに感謝しています。そして、その感謝を生涯忘れることはないでしょう。 あなたのおかげでわたくしは、悩みながら、苦しみながら、自分の弱さを認めて、全てをありのままに受け止めて、しっかりと立って行こうと、そう思えるようになったのです」 包容力と芯の強さを兼ね備えた、しなやかな決意。 アンリエッタの中にそれを見たルイズの口から、声がこぼれた。 「ひ、姫さま……ご立派に……本当にご立派に……」 思わず、昔の呼び方がついて出た。 そしてルイズの頬から、滴が、一つ、二つ、ぽろりぽろりと玉となって落ちていく。 「まあルイズ、泣かないで。泣いてはなりませんよ。わたくしに強くあれと言ってくれたあなたが、泣き虫ルイズのままだなんて、とてもおかしいことですもの」 アンリエッタが真っ白なハンカチを差し出して頬を拭いてくれる。 しかし、それでもルイズの瞳からは、堰を切ったように涙が止めどなくあふれ出た。 ルイズには嬉しかった。 こんな自分でも、人の役に立てたことが、ただ純粋に嬉しかった。 誰かのためになる、それがこんなにも嬉しいことだとは、ルイズは知らなかった。 「姫さま……姫さまっ……」 泣き止まぬルイズをアンリエッタが優しく介抱して暫く、部屋に小さく、カコン、という音が響き渡った。 「……?」 怪訝に思ったアンリエッタが部屋の中をぐるっと見回すと、ちょうど部屋の真ん中にあった暖炉から、小さな人影が出てくるところだった。 「最近の妖精さんは、暖炉から出てくるのが流行なのですか? ええと、あなたは確か……ルイズのご学友の……」 煉瓦造りの大きな暖炉の中にあった隠し通路、そこからその身を現したのは、青髪短髪に眼鏡をかけて、大きな杖を持った小柄な少女であった。 「!?」 アンリエッタの言葉に驚いたルイズが、慌ててその身を離した。 「た、たた、タバサ……ッ!?、なんであんたがここに!?」 ルイズは涙混じりの上ずった声をあげと、自前のハンカチを取り出して目元を隠す。 タバサはその一部始終を黙って見終えてから、静かに口を開いた。 「……出直す?」 「! そ、そんな必要ったら無いわよ。ま、まったく無いわっ。それより! 今この部屋はトリステイン王国の女王陛下のお部屋なのよ! そんな忍び込むようなことしたら、大変なことになっちゃうわよっ!?」 動揺と混乱のために、必要なステップを一つ二つ蹴飛ばしてルイズが言う。 しかし、タバサはその言葉にも動じるところなく、平然とアンリエッタの前まですたすた歩いてくると、すっと体を沈め、その場に洗練された動作で傅いて見せた。 きょとんとする二人の前で、いや、より正確にはアンリエッタの前で、タバサは両手を差し出すと、そこには何かが置かれていた。 思わず何事かと覗き込む二人。 そして、先に気づいたのはやはりアンリエッタ。 彼女は雪のように白く美しいタバサの手のひらに乗せられていたもの見て、鋭く息を飲んだ。 続いてルイズも思わずあっと声を上げかける。 そこにあったのは一通の書簡。 しかしながら二人が驚いたのは書簡の存在にではなく、その書簡を封印している蝋に押された印を見てのことである。 押されていたのは組み合わされた二本の杖、つまりはガリア王国の王のみが使うことを許された王印だったのである。 即ち、それが指し示すところ、それは―― アンリエッタは横を向き、片手で額を覆って、しばし自分の考えをまとめると、意を決したようにタバサに問いかけた。 「……この押印を許される者はこのハルケギニアにおいてただ一人。それを偽ることはどこの国法に照らし合わせても重罪となります。その上で……念の為に聞きます。この書状は……誰からのものですか?」 声を震わせるアンリエッタの言葉に、タバサはうつむいたままにその名を告げた。 「ガリア王国女王、イザベラ一世より、トリステイン王国女王アンリエッタへ」 「……あなたは一体、誰ですか?」 その言葉に、タバサは顔を上げて答えた。 オルレアン公爵家当主、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。女王の……妹。 ――タバサからアンリエッタへ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (9)無謀なる特攻 「どうしてあのようなことを言ったのかね?ミス・ルイズ」 「あのようなこと?」 「捜索隊に志願する、ということだ」 ここはルイズの部屋。 現在は『禁断の剣』捜索に出発する準備の最中である。 「そんなの決まってるじゃない、私が貴族だからよ」 「貴族だから…それだけかね?」 「学院長先生も仰っていらしたけど、これは魔法学院の問題だから、私達貴族の手でフーケを捕らえなくちゃいけないと思うの。 それに…貴族にナメたマネしたフーケが許せない。貴族としての誇りの問題よ」 「本当に、それだけかね?」 「………昨日、初めて魔法が成功した。だから、その力で誰かに認めてもらいたい。そういう気持ちが無かったといったら嘘になるわ。 でも、そんなことを抜きにしても、私はきっと志願したわ。」 「お待たせしました、ミス・ロングビル」 「それでは出発しましょう。皆さん、よろしいですか?」 「はい」 「いいわよ、出してちょうだい」 こうして、トリステイン魔法学院から、ルイズ、ウルザ、キュルケ、タバサ、そして案内役も兼任するロングビルの五人が『破壊の剣』捜索隊として派遣されたのであった。 暫くの時を馬車で過ごし、一行は、フーケが潜伏していると目される森に到着した。 「この先は森が深く、馬車では進めません。ここからは徒歩となります」 ロングビルが他のメンバー達に馬車を降りるように指示する。 「農民に聞いた廃屋はこの先にあります、皆さんはそちらへ。」 「ミス・ロングビルはどうするんですか?」 「他にも何かあるかもしれません。わたくしは怪しいところが無いか偵察にいきます」 ロングビルが先行し偵察を行い、他のメンバーはフーケが潜伏する廃屋へ向かうこととなった。 「ミス・ロングビル、お一人で大丈夫かしら?」 「気にすることはあるまい、どうやら彼女は魔法の腕前も中々のようだ」 そう応えるウルザの背中には二本の剣が背負われている。 本来は昨日の勝負で勝ったキュルケの剣をウルザが使うということだったのだが、 『片手に一本づつ持つならば構わんのだろう?』 との本人の発言で、結局両方の剣を使うということになったのだった。 (に、二本同時に使えるんだったら最初にそう言いなさいよっ!) 「人の事より自分の心配しなさいよ。フーケが現れたらあんたはどうせ逃げ出して、後ろから見てるだけでしょ? おじさまに戦わせて、自分は高みの見物――そうでしょう?」 「なっ、なっ、何言ってるのよ!誰が逃げ出すもんですか!見てなさい!フーケなんて私の魔法で!」 「あら~~~~~?声が震えてないかしら~?ビビッてんじゃないの?」 「誰がビビッて何か!」 「まあ、しょうがないわよね。ここは昼間だってのに薄暗くて、気味が悪いもの。 あ~ん、おじさま~、キュルケこわ~い」 キュルケが豊満な胸をウルザに押し付ける。 「問題無い、周囲にはゴースト等の魔力の気配は無い ………それより、廃屋というのは、あれではないかね?」 ウルザの指し示した先に、確かにそれはあった。 フーケが潜むとされる、廃屋が。 左手にキュルケの大剣、右手にデルフリンガーを持ったウルザが先行して廃屋の周囲を探っている。 やがて、何も無いというしぐさで後ろの三人に合流を促す。 「あ……あった『禁断の剣』……」 「なーんか、呆気ないわねぇ、でも冒険なんて実際はこんなもんなのかもねぇ」 「……任務完了」 「何も無ければ、それが最上だ」 ズシンッ!! 突然の衝撃、何かに掴まらなければ立っていられない。 柱に掴まりながらルイズが叫ぶ。 「な!何…!小屋全体が揺れてる!?」 「むう!これはっ!皆、床に伏せろ!」 次の瞬間、横殴りの力で天井が吹き飛ばされた。 そして本来天井が見えるはずのそこにあるものを見て、ルイズが驚愕の声をあげる。 「ご、ゴーレム!!??」 幸い、速やかに廃屋を脱出し、全員無事であった一行であったが、その前にそびえるゴーレムには絶句するばかりであった。 「大きい、、、20、いえ、30メイルはあるわ…」 「あれだけ大きいとなると、フーケがトライアングルメイジだって噂も、間違いじゃないかもね」 「……どいて」 タバサはルイズとキュルケの二人の前に出ると、呪文詠唱を開始する。 「…氷の……矢」 ドゥゥンン!! 「あ、アレはウィンディ・アイシクル!」 「やるわね、タバサ!やっぱそう来なくっちゃね! よーし、次はあたしよ!………フレイム・ボール!!」 ドドドドドドゥン!! 「やったわ!命中よっ!」 「いや、まだだ」 周囲から煙が薄れ、現れたのは変わらぬ姿のゴーレムであった。 「う、うそっ!直撃したのにビクともしないなんてっ! こんなものどうやって倒すのよっ!」 「私が何とか時間を稼ぐ、安全な場所まで逃げ給え」 「おじさま……でも、安全な場所って…そうだ!タバサ!?」 キュルケの問いかけにこくんと頷くタバサ。 タバサが杖を掲げると、上空から飛竜の幼体が降りてくる。 これで避難するつもりなのだろう。 「ミス・ルイズ!君も逃げたまえ!」 「…いやよ!私は戦うわ!」 言うが早いか、ルイズは杖を掲げ、ゴーレムに向かって呪文を叫ぶ。 「……デストロイ!!」 ボンッ!! しかし、放たれたのは先日の魔法の手ごたえとは全く違うもの、失敗魔法。 「え!ええええ!?なんでっ!昨日は使えたのに!?」 「ミス・ルイズ!君は下がっていたまえ!」 「いやよ、いや!もう一度よっ!今のはたまたま失敗しただけなんだから!次は成功するわ!」 「今の君では無理だ!」 「無理って何よっ!私はっ!私はちゃんと魔法を使えるようになったんだもん!ここで逃げたら!またゼロのルイズに逆戻りじゃない! それにっ!私は貴族よ!貴族は敵に後ろを見せなわ!」 「ミス・ルイズ!」 ゴーレムが小生意気な虫けらを踏み潰すべく、片足を上げ、そして勢い良く地面を踏みしめた。 ズズゥゥン! 「い、いたぁ………」 間一髪、ウルザがルイズを突き飛ばしたことで、ルイズは何とか直撃を免れた。 「よっ、余計な真似しないでよ使い魔が!あれくらい私にも避けられたわ!」 「ミス・ルイズ。君のプライドは分かった」 「だったらっ……っ、え?」 ルイズをかばったウルザ、その額からは一筋の血が流れていた。 よく見れば、それ以外にも何箇所か血が滲んでいる場所がある。 「ちょ、ちょっとあんたっ!怪我してるじゃない!」 「……君の誇りにかけて引くことが出来ないのはわかった。 しかし、私はこれでも使い魔として召喚された身だ。加えて女性を守るのは男の勤めだ。 君を守るという、私のプライドを立てて、ここは引いてくれないかね?」 「………わ、私、私っ………」 泣き始めるルイズを背に、ウルザが立ち上がる。 左右の手には二振りの剣。 若さとは時に、人を衝動のままに駆り立てるものだ ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは人生最大の試練に立ち向かっていた。 何せこの使い魔召喚を失敗したら進級出来ず退学もありうる。 まさに背水の陣、ルイズにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際と言っても良い。 ルイズは全身全霊を込めて呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 呪文の成立とともに目の前が爆発し、煙が辺りを覆う。 すわ失敗かと落胆するルイズだが、その煙が晴れてくると、そこに何かが要る事に気づき喜色満面となるも、煙が 晴れていくにつれ当惑の表情へと変化していく。 召喚された物体は、彼女が思い描いていた使い魔とはあまりにもかけ離れていたからだ。 するとそこにいた物体、手足の生えたりんごは、その渋い顔にマッチした渋い声で言った。 「俺が神聖で美しく強力な使い魔だ」 召喚主であるルイズはおろか、周りで事態を見守っていたクラスメイト、さらには教師であり今まで数々の召喚儀 式を監督してきたコルベール出さえ、あまりの発言に言葉を失い戸惑う。 と、その使い魔は絶妙の間をおいて言い放った。 「ウソだけど」 ルイズは素早く足を上げると、思いっきり踏みおろした。 果肉と果汁が飛び散り、見るも無残な轢殺死体が出来上がる。 内心の怒りの為かさらに何度か踏みにじり、完全に粉砕すると何事も無かったように再び呪文を唱え始めた。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 見た事も無い服装をした平民の使い魔が召喚されたのは、その後しばらくたってからであった。 完 -「極楽りんご」より