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翌朝、ルイズは部屋のベッドの中で目を覚ました。 ちゃんと眠れなかったのか頭が痛くて、視点が定まらない。 そして昨日の宴の事を思い出して憂鬱な気持ちになった。 今日、この城から死ぬ人達が出るのだ。 何故彼らは戦に出るのか、何故自ら死んでいくのか、そんな事を夜中ずっと考えて自分に問うが当然答えは出なかった。 コンコン、とノックの音が聞こえる。 ルイズがふやけた声で入室を許可するとワルドが入ってきた。 「おはよう、ルイズ」 旅を始めてから聞くようになった爽やかな声でワルドは言った。 ルイズも小さな声で返す。 「おはよう・・・・、ワルド」 ワルドがルイズに近づいて行く。 「元気が無いね、大丈夫かい?」 「大丈夫よ。昨日からの疲れがまだ抜けてないみたいだから。それに、昨日は色々考えながら寝たから」 ワルドはにこりと笑い、ルイズの両肩を叩いた。 「ちょうどいい。朗報があるんだ」 「朗報?なによそれ」 「僕と君は今日、ここで結婚式をするんだ」 ワルドの言葉を聞いて、ルイズの頭の中は驚きを越えて真っ白になった。 第11話 ガンダールヴ・炎 キュルケ、タバサ、ギーシュを乗せた風流はアルビオン大陸の真下を飛行していた。 「やれやれ、アルビオンに着いたのはいいけど、目的地がわからないようじゃね」 キュルケが呆れたように言うと、後ろにいるギーシュを横目で見た。 「うう・・・・・、しょうがないじゃないか。ニューカッスルがある場所なんてわからないし・・・・・」 ギーシュがツンツンと人差し指同士をつつきながら女々しい声で呟いた。 「で、でも僕は姫様のご期待に答えたいんだ!その気持ちさえあれば・・・・」 続くと思われたギーシュの言葉が止まった。 「ねえ、ギーシュどうしたの?」 キュルケが怪訝そうな顔のギーシュに尋ねる。 「今銀色のトンガリが見えたような・・・・・・」 「何を言っているのよアンタ。ねえタバサ、あなた今何か見えた?」 タバサがポツリと呟いた。 「前方注意」 えっ、とキュルケとギーシュが声を出すと、突然上方の大陸から大きな土の塊が落ちてきた。 「うわあああああああ!」 ギーシュが前に手を掲げながら悲鳴をあげるが、風竜はなめらかに旋回することによって難なく回避した。 「・・・・ああ、驚いた。何でいきなりあんなのが」 ギーシュが胸をほっと撫で下ろしながら雲の中へ落ちていく塊を見下ろした。 「ねえ、タバサ。またあんなのが落ちてきたらたまらないわ。どこか避難しましょ」 キュルケの提案にタバサがコクりと頷く。 「では、ここは僕の出番だね」 胸をはってギーシュは一晩中ずっと抱きついていた茶色い物体にぽんぽんと優しく。 「ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!僕達の為に避難用の穴を掘ってくれ!」 巨大モグラはモグモグモグと鳴き声をあげた。 何故このギーシュの使い魔、巨大モグラのヴェルダンデが風竜の上に。 実はこのモグラ、宝石が大好きな故に、水のルビーを追い掛けてトリステイン学院から遠く離れたラ・ロシェールまで来ていたのであった。 感動したギーシュは、このまま同行させようと提案して半ば強制的にここまで連れてきたのであった。 「言っただろ?モグラにも役に立つ所があるって!」 「はいはい、じゃあモグラさん、宜しくね」 風竜が上昇して大陸の真下に近づくと、モグラはキュルケとギーシュは支えられながら、穴を掘り始めた。 モグラが穴を掘り始めてすこし時間が経つ。 そろそろ頃合いかとキュルケとギーシュは穴に入っていった。 タバサも「ここで待ってて」と風竜に耳打ちしてから穴に入っていった。 残されたのは、一匹の風竜。 風竜はつまらなさそうに 「あ~あ、お姉さま達、シルフィ残してどっか行っちゃった!お喋り出来ないのってストレスが凄く溜まるのね!きゅいきゅい!」 何も脈絡も無く人語を発した。 「待っている間は暇なのね!暫くどうしようかしら、そうだわ!歌を唄おうのね! る~るる~」 風竜はと気分上々に歌い始めると、ぐるぐると穴の回りを気持ち良く飛んでいた。 「ろんりぃうぇ~いな~のね~、ん、何あれ?・・・・ん~銀色のトンガリ?あ!ひっこんじゃった!」 太陽が天に昇ってしばらく経つというのに城の地下室は夜の様に薄暗い。 そこで誰にも気付かれること無く、両手両手を朽ちる事無き鎖で縛られたロムだけが居た。 壁に張り付けられたその姿は、死刑執行を待つ囚人のそれと似ていた。 そして、今、重い瞼を開いた。 (なんだ・・・・これは、・・・・ぬう!!) 電撃を直に受けた背中は黒く焦げていた。 激痛が全身を走り、声を荒げたが、不思議な事に悲鳴は響く事は無かった。 (何故、音が聞こえない・・・・・・。ひょっとして魔法か?それにしても、何故俺は縛り付けられている!?) 力を振り絞り鎖を思いっきり引きちぎろうとするが『固定化』がかかった鎖では無駄な行為であった。 手が使えなければ剣狼を使う事も出来ない、デルフリンガーは目の前で生き物の様に震えていた。 ロムは焦りを感じていた。 (あの男の狙いはルイズだ・・・。ルイズが危ない・・・・!なのに俺は・・・・俺は・・・・!) 使い魔でありながら主のピンチに駆けつける事ができない。 そんな自分に怒りを覚え、ギリギリと歯軋りする。 ただ、ただ、焦りが増すばかりであった。 始祖ブリミルの像の置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。 周りに他の人間は居ない。皆、戦争の準備で忙しいのだ。ウェールズもすぐに式を終わらせ戦の準備に駆けつけるつもりであった。 ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた。 明るい紫のマントは王族の象徴、かぶった帽子にはアルビオン王家の象徴である七色の羽がついている。 扉が開き、ルイズとワルドが現れた。ルイズは呆然と立っていたがワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄った。 ルイズは戸惑っていたが、自暴自棄の気持ちが心を支配していたので深く考えず、ここまで来た。 ロムは参加しないのか聞いたが、水入らずで結婚して欲しいとの事で、疎開する人々と共にイーグル号に乗り込んだと、ワルドは答えた。 正直、ショックだった。信じられなかった。 あの、やたらと世話好きな使い魔が帰ってしまった? 自分を守ると宣言した使い魔が自分を置いて帰ってしまった? どこからともなくやって来る切ない気持ちが支配する。 同時にそれは激しくルイズを落ち込ませていた。 ワルドはアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せる。そしてルイズの黒いマントを外し、アルビオン王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。 着飾ってもルイズの無反応。ワルドは肯定の意思表示と受け取った。 始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの前でワルドはルイズと並び、一礼した。 「では、式を始める」 ルイズの耳に届く。心もとない、虚無感しか起こらない響きであった。 ロムはまとわりついた鎖を解き放とうと、力一杯鎖を引っ張ったが効果は表れなかった。 はぁはぁと息切れを起こし、激痛と共に合わさることで疲れが溜まるばかりであった。 だが、一刻も早く、主のいる場へ向かわなければいけない。主を守るために、戦わなければいけない。 響かない叫びが部屋を震わせる、ような気がした。 ・・・・確かに震えた感じがし。 ・・・・・・・・壁が震えている? ・・・・・・・・・・・・この部屋は・・・・・・・・本当に震えている! 体が揺れ、壁や床とぶつかり合って振動を感じる。本当にこの部屋は震えている! 外で攻撃が始まった?違う、外からではない。これは下から震えている。・・・・・・・・下から何か来るのか? 震えは更に強くなり、振動が体の芯を震わせる。 一体が起こっているのか? そして砂ぼこりをあげて、突然床が崩れ始めた。何かが突然床の下から飛び出してきた。 砂ぼこりが収まると、そこには白銀の、螺旋状の、突起物がそこにあった。 「・・・・今、少し震えたな」 「震えましたな」 新郎の詔を読み上げたウェールズと誓いを立てたワルドは顔を見合わせてた。 「嫌な予感がしますな。早く結婚式を済ませましょう」 「う、うむ。では新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・・・・・・・・」 ウェールズが詔を読み上げている。 ルイズは結婚式の中でずっと考えていた。キリキリと痛む小さな胸を押さえて。 ワルドの事は嫌いじゃない、おそらく、好いてもいるのだろう。 でも、どうしてこんなにも切なくなるのだろう。思い出すと、これは初めてじゃない、前にも確かにあった。 確か・・・・、そう、『桟橋』の時、ロムを待っていた時だ。 あの時あんな気持ちになったのはただロムが心配だったからだとおもっていたからだ。でもなんで今になってまた、こんな気持ちになったのだろう。ロムに・・・・、そばにいて欲しかったから? そんな事を考えたらルイズは顔を赤らめた。悲しみに耐えきれず、昨晩彼の胸に飛び込んだ理由に気が付いたからだ。 「新婦?」 ウェールズに声をかけられルイズは慌てて顔を上げた。式は自分の知らない内に続いていたのだ。 「緊張しているのかい?仕方がない。初めてのときは、ことがなんであれ、緊張するものだからね」 ウェールズはにっこり笑って式を続けた。 「では繰り返そう。汝らは始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と・・・・・・」 ルイズは気付いた。これは確かめる価値はあるはずだ。そう心に刻み、深呼吸して顔を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗く。 ルイズは哀しげな表情を浮かべて、言った。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「ごめんなさい、ワルド、私、あなたとは結婚できない」 その場の空気が固まる。ウェールズは、少し考えて首を傾げた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人方には大変失礼を致しますが、わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドの顔に赤みがさし、ウェールズは困ったようにまた首を傾げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式を続けるわけにはいかぬ」 「・・・・緊張しているんだ。そうだろルイズ。僕との結婚を・・・・」 ワルドの声は震えていた。そしてルイズの肩を掴みつり上がった目で怒鳴った。 「世界だルイズ!世界を手に入れるには君が必要なんだ!」 豹変したワルドにルイズは怯えながら首を振った。 「・・・・私、世界なんて要らないもの」 「ルイズ!君には『力』がある!世界を手に入れる『鍵』を持っている!!君には能力が眠ってあるんだ!いや、既に目覚めかけている!!!」 ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入ってとりなおそうとした。 「子爵、君はフラれたのだ、いさぎよく・・・・」 「黙っていろ!」 ワルドが強くルイズの手を握る。ルイズは苦痛に顔を歪めながらも言った。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、さっきから私をちっとも愛していないじゃない。あなたが愛しているのは『力』だの『鍵』だの在りもしない魔法の才能じゃない。 酷いわ。そんな理由で結婚するだなんて!こんな侮辱はないわ!」 ルイズが暴れると、ウェールズは二人の間に手を伸ばし、引き離そうとする。しかし今度はワルドに突き飛ばされた。ウェールズが怒りの表情を浮かべる。 「うぬ、なんたる無礼!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 ワルドはそこでやっとルイズから手を離した。 そして、笑いながら後ろに下がると、天を仰いだ。 「・・・・やれやれ、こうなってはしかたない。目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ルイズが首を傾げると、ワルドは不気味に微笑んだ。 「この旅における目的は四つあった。その三つを達成できただけでも、よしとしなければ」 「達成?三つ?どういうこと?」 ルイズは不安をおののきながら尋ねた。目の前のワルドは右手を掲げて人差し指を立ててみせた。 「まずは君だルイズ。君を手に入れることだ。しかし、もうできないようだ」 「当たり前じゃないの!」 次に中指を立てた。 「二つ目は、ルイズ、君が持っているアンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。嫌な予感が膨れ上がっていく。 「ワルド、あなた・・・・」 「そして三つ目」 『アンリエッタの手紙』で全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文を唱えた。 しかし、ワルドが閃光の様に杖を抜くと、身を翻し、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫いた。 「き、貴様・・・・。『レコン・キスタ』・・・・・・・・」 ウェールズの口からどっと鮮血が溢れる。ルイズは悲鳴をあげた。ワルドはウェールズの胸を光る杖で抉りながら呟いた。 「三つ目、貴様の命だウェールズ」 ウェールズが大きな音を立てて崩れ落ちた。 「貴族派!ワルドあなた!アルビオンの貴族派だったのね!」 ルイズは震えながら怒鳴った。そう、ワルドはアルビオンの貴族派組織『レコン・キスタ』の一員だったのだ。 「トリステインの貴族であるあなたがどうして!?」 「『レコン・キスタ』はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。ハルケギニアは我々の手で一つになり、『聖地』を取り戻すのだ。」 「だからって!なんで沢山の人を巻き込むような事をしたの!」 「革命に犠牲は付き物だ」 「昔のあなたはそんな風じゃなかったわ!何があなたを変えたの!」 ワルドは冷たい笑みを浮かべ答えた。 「月日と奇妙なめぐりあわせだ。それが君の知る僕を変えたのだろう」 ルイズは杖を取りだし握ると、ワルド目掛けて振ろうとした。 しかしワルドに難なく弾き飛ばされ、床に転がる。 「言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしか無いだろう。なぁ、ルイズ」 ルイズは蒼白な顔になって後じ去った。 「助けて・・・・・・・」 立って逃げようと思っても腰が抜けて立てなかった。 「だから共に世界を手に入れようと言ったのだ!そうすればこうして苦しむ必要も無かっただろうに!」 ワルドが叫ぶと風の魔法が飛ぶ。ルイズは紙切れの様に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。 「僕のルイズ。こう呼ぶのもこれで最後だ。あの世に行く前に教えてあげるよ」 床に転がりうめきをあげるルイズ、しかしワルドは続けて言った。 「四つ目の目的、それは君の使い魔。いや、正確に言うと彼の持つ『鍵』だ」 「・・・・鍵?・・・・ろむ?ろむ・・・・・・・・助けて・・・・・・・・」 呪文の様にルイズは使い魔の名前を繰り返した。 「さあ、お喋りはこれで最後だよ。さようなら」 楽しそうにワルドは呪文を唱えた。 「待てぃ!!!」 「!、何!?」 ワルドは突然響き渡った声に驚く。ルイズは涙で濡れた顔ををあげ、当たりをキョロキョロと見回した。 「・・・・・・・・・・・・ロム?」 「なんだと!?奴は確かに・・・・・・・・」 礼拝堂の壁が轟音と共に崩れさり、銀色に輝く突起物がルイズとワルドの間に飛び出してきた。 動力音はグオングオンと礼拝堂に鳴り響き、崩れた壁の向こう側から人影が見えてきた。 「神を信じて生きている人々を欺き、真実を虚偽に塗り替える悪魔よ! たとえ神が現れずとも、いつか必ず心ある者が、神に代わって悪を裁く・・・・! 人、それを『天誅』という!」 「く・・・・、何者だ!」 ワルドは人影向けてライトニング・クラウドを放った。 人影は鳥の様に飛び上がると、ルイズの前に立ち声高く答えた・・・・。 「貴様に名乗る名前は無い!」
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (39)病魔の進行 朝。あの舞踏会の夜から一週間ほども経過したある日の朝。 変わらぬ朝の変わらぬ目覚め。彼女はいつも通りに自慢の髪の毛の手入れを済ませ、食堂へ向かうべく支度を整えていた。 年の頃は十代の中頃、流れるようなブロンドと、絹のようなきめ細かい肌、顔に残ったそばかすは彼女が少女と淑女の境目にいることを示している。 彼女の名前はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。ちなみに名前と名字がほぼ同じなのは、彼女の家の伝統で、長女はそう名乗ると決められているからである。 季節は本格的に秋へと近づきつつある。 あれほど厳しかった日差しも、今ではやや斜めに差すようになってきている。騒がしかった虫達の合唱も、今では聞き苦しいほどではない。 モンモランシーにはつい先日までの緩やかな時間、学院でお茶をしながら他の沢山の生徒達とともに過ごしていたあの日々が、まるで遠いように感じられて仕方がない。 本来なら、そろそろ学院の夏期休業も終わりに差し掛かって、慌ただしく準備が始まる頃合いである。 しかし、彼女が今寝起きしているのは本来居るはずだった寮の自室ではなく、客人としてアカデミーから与えられている一室である。 あの日、襲撃した機械竜と降り注いだ巨石の雨によって、トリステイン魔法学院は見るも無惨な姿に壊滅した。 人づてに聞いた話だと、跡には瓦礫の山だけが未だ手つかずで残されており、きちんと形の残っている建物は何一つ無いということである。 当然、学院再開の目処は立っていない。 彼女はその事件の際に、ある少女に連れられて学院を脱出して難を逃れ、その後の紆余曲折を経て、今、この部屋に身を置いている。 紆余曲折と一言に片付けるには、あまりに様々な体験をしたのだが、それは彼女が今ここに滞在している、いや、滞在させられていることに深く関わっている。 彼女を始め、あの事件の中核にいた人間は、一人を除いて、皆その身を王都トリスタニアに置いている。 特に、学院関係者達は全員がアカデミーに集められているという状況だ。 様々な理由を提示されたが、要するに自分は知りすぎてしまったということなのだろうと、彼女はそんなふうに理解していた。 一方、トリステインでは今、未曾有の規模の徴兵と貴族の動員が進められている。 近く、浮遊大陸攻撃のためにゲルマニア領への大々的な侵攻作戦がかけられるらしい。 女王陛下がその旨の宣言を正式に発布を行って、男達は貴族から平民に至るまで、気勢をあげて続々と兵士としてトリスタニアへと集ってきている。 彼らが口々に叫ぶところは、『誓約の女王アンリエッタ』。 それが彼らの命を背負っている者の二つ名である。 モンモランシーは部屋に一つだけある窓へと近づいて、厚いカーテンを開けた。 二階に位置するモンモランシーの部屋の窓。そこからは、アカデミーの空き地に集められた士官候補である若きメイジ達の訓練風景が見えた。 「……ふん、何が誓約の女王よ」 モンモランシーは、世間では女王が始祖と契約したとされている事件の、本当の真相を知っている。 その正当な功労者が、誰であったかも知っている。 それでも、彼女はそのことで声を上げたりはしない。 女王という重責、責任、それらついて想像もつかない苦労があるであることは彼女も理解しているし、それに今の状況を女王が望んだわけでないというのも何となく分かっている。 それでも、呟かずにはいられない。 「あんなの、嘘っぱちじゃない」 心からあふれてこぼれた言葉の意味。 別に女王の行いに不満がある訳ではない、ただ純粋に悔しいのだ。 ルイズが目覚めたその日、モンモランシーはアンリエッタが人々から『誓約の女王』と呼ばれていることと、その経緯をかいつまんでルイズに教えた。 そのとき、涙を流して彼女はこう言ったのだ。 『うれしい。私なんかが姫殿下のお役に立てるなんて……こんなうれしいことは、他にないわ』 、と。 そうして、自分のことのようにそのことを喜んでいたルイズを思い出して、モンモランシーは薔薇色のその美しい下唇を噛んだ。 「だったらなんで……あの子を助けてやらないのよ……っ」 そう言ってモンモランシーは、テーブルに置かれている一冊の本を見た。 「ルイズ、どうしたのかしら」 舞踏会の翌朝、前日の分かれ際のルイズの様子が気になったモンモランシーは、とりあえず朝食の場で本人から詳しい事情を聞き出す腹づもりでいた。 「おはよう、モンモランシ」そんな風に声をかけてきた幼なじみ、グラモン家の三男坊ギーシュと食堂に向かった彼女だったが、問題のルイズはその場に一向に姿を見せなかった。 きちんと待ち合わせはしている。ルイズはどちらかというと時間に正確な方である。遅刻をするのは珍しい。 心配してそわそわした様子でルイズの部屋を訪ねると言い出したモンモランシーに、「どうせお腹でも壊したに違いないさ。昨日も変なものを食べたみたいだったしね」とギーシュは軽く言って、その言葉を受け流した。 その幼なじみの物言いに呆れたモンモランシーが、ギーシュをその場に残して一人ルイズの部屋へと向かおうとしたそのとき、食堂の入り口に件のルイズがその姿を見せた。 腰を浮かしていたモンモランシーが待つ席へと、ルイズはゆっくりとした足取りで近づいてくる。 その顔色は、心なしか青い。 そして、テーブルから三歩ほど離れた場所で足を止めると、ルイズは小さく、区切りながら言った。 「ごめん、食事は当分、一人で部屋で取ることにするわ」 その何かが張り詰めたような彼女の様子に、モンモランシーは不審を抱いた。 「ちょ、ちょっと何よ、藪から棒に。別に一人で食べたいっていうならそれで良いけど、理由くらい言いなさいよね」 ルイズはそのモンモランシーの言葉に目をつむり顔を伏せて、絞り出した声で応じた。 囁くように一言。 「……ごめん」 彼女はそうとだけ言うと、モンモランシー達に身を翻してしまった。 「ちょっとっ!?」 とっさにルイズを捕まえようとしたモンモランシーの手が、虚空を掴む。 モンモランシーの引き留める声にも耳を傾けず、ルイズは混み始めた食堂の人混みに紛れてしまった。 「っ!」 直感的に、追いかけなくてはいけないと感じたモンモランシーが席を立って、見えなくなったその背を追いかけようとする。 しかし、そんな彼女の勢いを、横からぬっと突き出された杖が遮った。 「やめたまえ」 いつの間にかそこには、男が立っていた。 その白い髪の毛は燃え立つ炎のイメージ、眼下の奥に潜むその目は色眼鏡によって窺い知れない。年月を刻まれた皺はまるで元からそうであったかのようにぴったりと彼自身の堅牢さと組み合わさって隙がない。 あの日、ルイズに呼ばれ『この世界』へと現れた男。姓は分からない、只名前だけがある男、彼の名はウルザ。 「邪魔しないで頂戴。あたしが何をしようと勝手でしょ。どこのメイジだか使い魔だか知らないけど、あたしの行く手を阻む権利はあなたにないでしょう」 キッと睨んでそう声をかけるモンモランシーに、ウルザは抑揚のない平坦な声で言った。 「……彼女を追いかけたとして、それで君は彼女になんと声をかけるのかね?」 「そ、……」 「彼女は君に何も語ろうとはしないだろう。それは君達を守るため、何の力もないただの学生である君達を巻き込まないために」 「だったら! 無理矢理でも聞き出してやるんだからっ!」 その言葉に、ウルザは出来の悪い生徒を前にした教師のようにゆっくりと首を振った。 彼のその所作にモンモランシーの血がますます上る。 しかし、次の言葉が氷の刃となって、モンモランシーを突き刺した。 「それで、君は彼女に何ができるのかね? 何の力も持たない小娘である君が、虚無の運命を背負った彼女に、どんな手助けができるのだね?」 息が止まる、決定的な宣告。 自分とルイズの間にある溝は深く、広い。 ルイズを捕まえ、彼女から事情を聞き出したとして、それで一体何ができるというのだろう。 伝説でも天才でもない自分に、何ができるというのだろう。 答えは、何も、できない。 ……自分は、無力。 何のことはない、そんな自覚。 現実を突きつけられ、己の無力を目の当たりにしたモンモランシーに、ウルザは更に畳み掛けるように言った。 「彼女は恐ろしく強大なものと、この世界の全てをかけて立ち向かわねばならないさだめにある。そして、彼女の隣に君達の並び立つ場所はない。彼女の苦しみは大きく耐え難い。だが、君達にはそこに立ち入るための資格がない」 唇を噛みしめる。 それは、あえて考えないようにしてきたこと。 『ゼロのルイズ』は『虚無のルイズ』で、自分たちとは比べものにならない尊い存在だという、歴然たる事実。 しかし、それでもモンモランシーは、ルイズの側に駆け出していきたかった。 理性では彼女は既に遠い世界の人だと分かっている。 けれどルイズは命の恩人で、何より彼女は臆病な自分に勇気をくれた、 大切な、友達なのだ。 一瞬だったのかそれとも数分だったのか。 気づいたときには、すぐ側からその声が聞こえた。 「もしも」 その言葉に、心を打ち据えられたモンモランシーはのろのろと、見上げる形でいつの間にかすぐ側まで近づいていた長身の老人の顔を見た。 「それでも君が、彼女の力になりたいと、分不相応の願いを持つというのなら」 ウルザは杖を持たぬ左手をぬっと差し出した。 「この本が助けとなるだろう」 そう言って、ウルザがどこからか差し出した本を目にしたモンモランシーは、突然ぐらりと世界が傾ぐのを感じた。 視線が本へと吸い込まれた。そして、それを見ているだけで彼女の平衡感覚が不確かになっていく。 まるで自分と自分以外の境界が薄れるような、不可思議。 ウルザの手にあるのは皮の装丁をした、鍵の封印が施された、やや大きい一冊の本。 表面には綺麗な字で何事かが書き込まれている。 モンモランシーは、まるで現実感が希薄となったような夢遊の心地で、それを両手で受け取った。 そして渡したウルザは身を屈めて、モンモランシーの手に本を握らせながら、 「きっと彼女も喜ぶだろう」 耳元でそっと優しく囁いたのだった。 『ドミニア異邦』 簡素なそれが、そのとき手渡されたその本のタイトルであった。 その中身は、ウルザが書いた魔法理論研究の解説書であるらしかった。 『らしかった』と言うのは、未だモンモランシーにも、まだその本の大部分を理解するには至っていないからである。 そこに書かれている内容は大きく分けて三つ、『ドミナリア』のウィザードと呼ばれる人々が使う魔法の概要論、『ドミナリア』の魔法と『ハルケギニア』の魔法の比較論、『ハルケギニア』向けにアレンジされた『ドミナリア』魔法の実例。 そのうち彼女が読み終えたのは最初の項目、『ドミナリア』魔法の概要論だけである。 ウルザが生まれたというその世界『ドミナリア』。そこにはモンモランシー達が知る魔法とは似て非なる魔法があり、そしてその土地では魔法を使うもの達をウィザードと呼ぶらしかった。 ウィザード達は、土地からマナと呼ばれる力を引き出して、それを己で精練して、魔法という形に加工して世界に変化をもたらすのだという。 そこに記された土地からマナを引き出すという感覚は、モンモランシーには今ひとつ分からない概念だった。 『ハルケギニア』のメイジは、普通、魔法を使う際には、精神力という自分の力を消費して行使する。 一方ウィザードは、自分の力は使わずに引き出したマナを使って魔法を行使する。 そもそも、根本、力の組成からして違うのである。そんな異界の魔法、異界の知識を一朝一夕、すぐに理解するというのは、一介のメイジであるモンモランシーには少々荷が重いと言えた。 強いて言えば、ウィザードのそれは、周囲の精霊から力を借りるという、先住魔法に近いのかもしれない。 モンモランシーに分かるのはその程度である。 「でも……もしも、ここに書いてある異界の魔法が、本当に使えたら……私だって」 ――ルイズの力になれるかもしれない、とは続けられなかった。 力を手に入れて、特別な存在になって、でもそれだけですぐに人を助けられるようにると思うほど、モンモランシーは思い上がってはいなかった。 確かに、平等な立場にはなれるかもしれない。 しかしそれだけである。 真に、ルイズの抱えた問題に関わろうとするなら、まだ何かが足りない。 モンモランシーにはそう思えて仕方がなかった。 「………あ、」 ふと再び窓へと目線を戻したモンモランシーは、開いた門からこちらへと歩いてくる、マントを着けた数人の人影を確認した。 それを見たモンモランシーの体が雷が落ちたように硬直する。 そして続いて慌てて窓から離れ、本を乱暴にベットに放り投げると扉を勢いよく開いて外へと飛び出した。 そう、彼女が目にした数人の中心にいた、その女性こそは、 『爆発/Explosion』 呪文に応え、爆発が巻き起こる。 ここはアカデミーの一室。地下に用意された攻撃魔法の実験を行うための一面に真っ白な部屋。 その一面にある、何重にも固定化や硬質化が掛けられた壁が、無残にも木っ端微塵に破壊されて、周囲に石の破片をまき散らしていた。 『空想/illusion』 一瞬の後、砕け散った壁が瞬時に元の形に再形成される。 いや、元の形に戻ったように見えた。 『解除/Dispel』 幻影の効果が強制的に解除され、まやかしの壁が消え去って、そこに真実の姿がさらけ出された。 「はぁ……はぁ……」 一連の呪文を唱え終わったルイズは、はずむ息を鎮めるように右手を胸にやる、そして左手が滝のように落ちる汗を払おうと額に伸びた。 ルイズの手には、彼女のサイズに合わせた手甲がはめられており、それがほんのりと薄く光を放っていた。 「その三種の魔法の扱いに関しては、ほぼマスターしたと言って良いだろう」 少し離れた場所で腕組みをして様子を見ていたウルザが、そうルイズに声をかけた。 「……まだいけるわ。どんどん、次の魔法を……」 口では強がっているが、その実情、疲労困憊という様子でそう口にしたルイズを見ながら、ウルザは腕組みを解いて自分の髭を撫でた。 「その籠手の力は、あくまで君の力を補強するものにしか過ぎない」 彼女が今、手につけている籠手は、ウルザが製作したアーティファクトの一つである。 魔力の集中を助け、本来であれば霧散しやすい魔力を余すことなく活用することで、マナの効率を倍加させるというものである。 「過剰な魔力の使用はやはり君の肉体を破壊する。無理は結果に繋がらない。続きはミス・ルイズの体力と精神力が回復してからにしよう」 ウルザのその言葉に、ルイズは何かを言いたげに含みのある表情を浮かべたが、結局はそれを飲み込んでこくりと頷いた。 正直なところ、ルイズは既に『始祖の祈祷書』に記された虚無のスペルについて、その全てを読むことができていた。 しかし、実際にそれを行使することに関しては、ルイズの病の症状を進行させることに繋がるとして、ウルザから厳しく戒められているのである。 加えて、ウルザは普段魔法を使う際には、必ずその籠手を着用することを義務づけていた。 籠手はルイズの体に掛かる負担を最小限に抑え、症状の進行を遅らせることができるとのことである。 兎も角、訓練の時間は終わった。 ルイズはその場に立ち尽くして、足早にその場を立ち去っていくウルザの足音を聞きながら、胸元に下げられた懐中時計の針を見た。 時刻は昼をいくらか過ぎた頃合い。 彼女は思った以上に時間が経過しているのに驚きを覚えつつ、自身もその場を立ち去るべく始祖の祈祷書や風・水のルビーといった貴重品をまとめ始めた。 この後には、彼女にとってとても大切な予定が入っているのである。適うことなら身を清めてから出向きたかった。 それから小一時間ほど。 ルイズは扉の前で、未だ薫る石けんの匂いを吸い込んだ。 そうしてその前で深呼吸一つ。緊張の末にヘマをしないように、入った後の行動を頭で再現しながら、心を落ち着ける。 じっくり三呼吸ほども間を取ってから、ルイズは扉を三度ノックした。 「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。参りました」 「どうぞ、お入りなさい」 中から涼やかな声が響いた。 「はい」 扉が開かれて、視界が広がった。 正面の理事席に座っていたのは、彼女が心から敬愛する女王陛下であった。 奥に座するアンリエッタは、春の日差しのような穏やかな笑みでルイズを見ている。 彼女の服装はお忍びと言うことを意識したのか、普段よりは幾分か簡素で、華やかさが抑えられたものであったが、それでも事務一辺倒の部屋を華やかな空間に変えてしまうには十分であった。 しかし、そのアンリエッタの姿以上にルイズを驚かせたのは、その前に立ってルイズに背を向けていた、二人の大男を従えた一人の女性の存在である。 例え背中であっても分かる、特徴的な燃えた立つような赤毛、首筋から覗く褐色。 その姿は、見間違えようがない。 「ツェルプストー!?」 そう、そこにいたのは夏期休暇の前に別れ、ゲルマニアへと帰郷したはずの級友であった。 「な、なんであんた、こんなところにいるのよっ!? ゲルマニアに戻ったんじゃなかったの!? それに……その髪、ずいぶんさっぱりしちゃってどうしたのよ!?」 驚きの声をあげるルイズに、キュルケがくるりと振り返った。 にやりと笑ってルイズの方を向いたキュルケの髪は、最後に会ったときに比べて明らかに短い、かつては背中まであったその髪は、今は肩のところで綺麗に切りそろえられていた。 キュルケは以前と変わらぬ動作で後ろ髪を払う動作をすると、笑いを含ませてルイズに言った。 「相変わらずせっかちねぇ。そんなにいっぺんに質問しないで頂戴。それにあんた、今は女王陛下の御前よ? 頭下げなくて良いの?」 「あっ!」 にやにやと笑うキュルケの指摘に、ルイズは今最も重要なことを思い出して、大慌てでその場にひれ伏した。 「ひひひひひ、姫殿下、じゃなかった女王陛下っ! も、申し訳ございませんっ!」 なんということだろうか! いくら驚いたからといって、女王陛下を蔑ろにして良いわけがない! 顔を真っ赤にしてバネ仕掛けの人形のように頭を何度も下げるルイズを見て、アンリエッタはくすくすと笑った。 「良いのですよ、ルイズ。あなたは私のお友達ではありませんか、気を楽にして頂戴」 「はっ、ははっ! きょ、恐縮です」 カチコチに固まってしまったルイズに、アンリエッタは更に続けて言った。 「それにね。あなたに来てもらったのは他でもありません。彼女との再会を喜んでもらおうと思ったからなのです」 ハァ? 流石にこの言葉には、ルイズも間抜けな返事を思わず返してしまったのだった。 第二、第三段階は色彩感覚、温度感覚の変調 ――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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イーグル号が浮遊大陸アルビオンに到着したころ、ワルドが口を開いた。 「ルイズ、結婚式なんだがね、ここで挙げないか?」 その申し出をさも嬉しそうにルイズは答える。 「それは素晴らしいですわワルド様。今なら何年後でも予約できますわ」 「ああ、そうだね…」 (もうあきらめたらいいのに…) その様子をウェールズは本当に愉快そうに見ていた。 明日には死ぬ運命にある人間がここまですがすがしく笑えるものだろうか? もしかして本当は戦争なんて起きていないんじゃないか?とすら思える。 「ウェールズ王子さま」 「なにかな?ミス・みかん」 「どうして笑ってられるの?」 みかんにしてみればそれは気になって当たり前だった。 しかし、今聞くことではなかっただろう。 ルイズや船員、心なしかオルトロスさえ落ち込んでいるように見えた。 そんな中でも王子が笑みを絶やすことはなかった。 「ミス・みかん。明日死ぬからこそ、今は楽しく過ごしたいのだよ」 その発言に老メイジが追い打ちをかける 「おお、王家に仕えること60年、これほど勇ましいお言葉を聞いたのはいつぶりのことでしょう!!」 とたん、湧き上がる歓声、いいしれぬ恐怖を感じるルイズとみかんを気にするでもなく船は港に着いた。 ウェールズはルイズたちを少し待たせてから手紙を持ってきた。 「大事に保管していたからね、持ってくるのも少しばかり時間がかかってしまった。すまない」 何度も読み返さねばこうはならないことが誰の目にも明らかだった。 「ウェールズ王子…」 「アンリエッタの密書、確かに受け取ったよ、大使の皆。心から感謝する」 今この場で笑みを浮かべているのは王国軍のみだろう。旅支度を済ませたふうの女子供は一様にうつむいていて表情が分からない。 「あの、ウェールズ王子、手紙にはなんと書いてあったのですか?」 「密書の内容を知ろうとするのは大使失格ではないかな?」 当たり前のようにそう返すウェールズを見たルイズは言葉に詰まった。 「ですが、王子…」 なおも食いさがろうとするルイズの肩をワルドがつかんで制止する。 ルイズはためらったものの、みかんが後を継いでしまう。 「ウェールズ王子、にげちゃおうよ、たたかうひつようなんてないよ!!」 一瞬だけ、その場が静かになる。 しかしそれは本当に一瞬だけだった。 すぐに兵士たちは用意されていた酒や料理を囲んでまた騒ぎを始める。 「ミス・みかん、そういう問題ではないのだよ」 「じゃあどういうもんだいなの?!」 困ったように笑うウェールズの代わりにワルドが答えた。 「みかんちゃん。もしウェールズ王子が亡命したとなると、僕たちの国も戦争になってしまうんだ。政治というのはそういうものなのさ」 二人が絶句しているうちにウェールズはばか騒ぎの中に紛れてしまう。 ワルドもそれに続いた。 後には名誉の死なるものが理解できない二人の少女のみが残された。 星空の下、戦場を知った少女達は肩を寄せ合い泣いていた。 みかんとルイズは話し合いたかった。 しかし話し合えなかった。 もう自分たちではどうにもできないことが分かっているからだ。 どうしようもないのは分かる。 諦める諦めないではなく、次に進まなければならないとも。 それでも涙は止まらなかった。 相手の体温が温かく感じられた。 澄んだ空気はなんだか肌寒かった。 涙がかれるころにはきつく抱きしめあっていた。 そうでもしないとダメになりそうだからだ。 「ルイズお姉ちゃん」 「なに?」 「お部屋、戻ろう?」 「そうね、それがいいわ」 手をつないで部屋に帰る二人の後を、オルトロスがしっかりとついていきたまにその手を嘗める。 まうで慰めるかのように。 二人が夢に落ちるまでオルトロスは二人の側で起きていた。 ルイズは、本来慰めに来るべきワルドが来ないのは彼なりの配慮だと解釈いしていた。 それが、翌日の悲しみをいっそう強めることになるなど微塵も考えなかった。 よほど泣き疲れたのか、ルイズが目を覚ましたのは太陽が真上を過ぎたころであった。 窓の外を見たルイズは焦った。 確か戦争は今日始まってしまうはずだ。 皇子の説得も何もかもがこれでは遅すぎる。 いや、自分の命の安全さえ危うい。 なんにしても一秒でも早く誰かに会わなければ。 そう思い隣のみかんをたたき起そうとするが、なぜかみかんがいない。 みかんがいなければ当たり前といえば当たり前なのだが、オルトロスもいないではないか。 敵地で朝目覚めてみれば周りにいるはずの仲間がおらず独りぼっちになっていた。 さながらB級ホラーのような恐怖におぼつかない足を叱咤し、なんとかベッドの外に出る。 ようやく心臓が落ち着いてきたところで昨日のあの場所からかすかに音が聞こえることに気づく。 とりあえず誰かがいる。 その事実に安心したルイズは少しの迷いもなく音のする方へと向かった。 そこに待ち受ける惨劇も知らずに。 その光景を見た瞬間、ルイズは心底あきれた。 なんとあの兵士たち全員が眠りこけているではないか!! 豪勢な食事に囲まれて頭から酒をかぶり泥のように眠っている。 今日が命日だの何だのと散々騒いでいたのに昼過ぎまで眠っているとは一体どういうつもりなのだろうか? いろいろとつっこんでやりたくはあったが、まずはみかんと合流したい。 そしてできれば王子を説得して一緒にトリステインに帰るのだ。 姫様を悲しませたくはない。 そう思いルイズは近くの兵士の脇腹を、ある程度の、しかし決して弱くはない強さで小突き言い放った。 「ねぇ、ちょっと起きなさいよ。みかん見なかったかしら?」 しかしその兵士は微動だにしない。 まだ寝むっているのだろうか? 今度容赦のない平手打ちを叩き込む。 軽快な音が響き渡るが、そのものはおろかその場の誰一人として目を覚ましはしない。 悪夢にうなされだしたかのようにしだいに不安になってゆくルイズ。 じっとりと汗ばんだ手でその兵士をゆすり起こそうとして初めて、ようやく、その決定的かつ絶望的な異変に気づいたのだ。 「体温が、無い…!!」 へたり込み、ただ虚空を見つめる。 数秒、窓の外を見つめた後思い出したかのように全員を見回す。 やはり起きない。 どうあっても起きてはくれないだろう。 誰も息をしていないのだから。 これはきっと毒殺だ。 自分も王族の親戚であり、優秀すぎる母と父に囲まれて育ったのだ。 それぐらい分かる。 では誰が? 先ほどの物音の犯人が? みかんはどうした? 再度きづいたようにあたりを見回し、壁にもたれ目を見ひらくウウェールズと目が合う。 身近な死をようやく理解した頭は限界を超え、ただ嘔吐を繰り返した。 みかんはどこ?オルトロスは?死んじゃったの?何で私は生きているの? 説明のつかない現状に恐怖と焦りを感じながらルイズは震える足でなんとか前に進んでいた。 目的地などない。 もはやまともな思考回路なんてものはない。 そんな彼女がみかんを庇うように立つオルトロスと対峙するワルドが出会ってしまったことは少なくとも幸運ではないように思えた。 みかんが、驚きと苦しみの目でこちらを見る。 オルトロスはただワルドを、そしてワルドは銃をみかんに突き付けながら、ルイズを見やり苦笑した。 「やぁ、ルイズ。僕のルイズ。やっぱり魔法の混ざった薬は無効化されてしまったんだね」 茫然と立ち尽くすルイズにそう言い放つワルドの表情は、やはり苦笑であった。 「ワルド…、何をしているの?」 しかしワルドは答えなかった。 一瞬も油断しまいとオルトロスに注意を払っている。 しかし銃口を向けているのはみかんだ。 これだけの距離があればオルトロスに飛びかかられる前にみかんを撃ててしまうだろう。 見ればみかんは結界をはっているではないか。 なぜ二人が戦っているのか? 決闘? 昨日の続き? いや、仕切り直し? …一体何をしているの?この二人は!! 「あなたたち!!こんな時に何してるのよ!!敵が攻めてきたのよ?!王子様が死んじゃったのよ?!」 「そうだね、ルイズ。僕が殺したんだ」 え? 何を、言って… 「僕が食事に毒を混ぜたのさ」 ワルド? 「いや、一人の例外もなく騒いでいたからね。簡単だったよ」 なんで? 「ミス・みかんはともかく使い魔は始末しておきたかったのだがね。睡眠薬のにおいで飛び起きってしまたんだよ。殺そうにも足が速くってね。ミス・みかんは是非とも仲間に入れたかったので彼女を背に乗せて逃げる使い魔ごと殺すわけにもいかずおいかけっこになってしまったんだ」 だからなんで? 「そうこうしているうちにミス・みかんが起きてしまってね。困ったものだよ。ルイズ、君まで起きてしまうとは」 どうして? 「彼女の力は素晴らしいじゃないか!!なんとも不思議な力だ!!僕が世界を手に入れるためにはぜひとも欲しい力だ!!」 その言葉に、ようやく、いまさらに彼女は理解した。 「ワルド、あんた、レコン・キスタ…!!」 「その通りだよ、ルイズ。僕にはミス・みかんの、そしてそれ以上にルイズ!!君の力が、才能が必要なんだ!!」」 信じられなかったし、信じたくはなかった。 しかし、あの死体も、目の前のワルドも現実だ。 つい、その場にへたり込んでしまった。 涙が頬を伝うが、ワルドの演説は終わらない。 「君には絶対に才能があるんだよルイズ!!僕は、君にはあの虚無の才能があると思ってるんだよ。大丈夫、虚無の魔法を使う手段はもう調べてあるんだ。君をゼロだなんて二度と呼ばせない!!僕と一緒に来るんだ!!」 私に虚無の才能が? 「そうだとも!!君さえ協力してくれれば必ずや聖地を奪還してみせる!!」 そんなことのために? 「これはとても重要なことなんだよルイズ。僕たちは真理を知る術と義務がある」 「そんなの要らないわ!!」 ルイズの杖がワルドをとらえるが、ワルドは表情を崩さない。 「無駄だよ僕のルイズ。ここじゃ魔法は使えないし使えるようになったなら僕は誰よりも早く魔法を唱えられる」 言葉に詰まるルイズを楽しそうに眺めるワルドの言葉にみかんは震えながらも、しかしはっきりとした敵意をもって答えた。 「おじさん…」 「なんだい?ミス・みかん」 「わたし、きめた」 その言葉にワルドは嬉しそうな表情を浮かべる 「仲間になってくれるんだね?!」 「ちがうよ?」 矢継ぎ早な返答にワルドはつまる。 そして優しい声で話しかけた。 「どうして仲間になってくれないんだい?それと、決めたって何をだい?」 ルイズもまた、みかんの言葉を待つ。 「おじさんをゆるさないことをきめたの」 静寂、そして失笑。 笑い声の主が語りかける。 「いったい何を許さないんだい?」 耳に響く笑い声にルイズはうつむいてしまう。 今この場を支配しているのはワルドだ。 平時の彼女であればたとえどんな状況であっても抵抗したかもしれないがこんな状況では立ち向かう気にはなれなかった。 みかんは、その笑い声を打ち消すかのように先ほどよりも強い口調でしゃべる。 「わたしのけっかいは、まほうを『ぜんぶ』消すわけじゃないんだよ?」 言葉の意味がわからない、そんな風に構えるワルドの杖を灼熱が包み込んだ。
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「こ、これがわたしの使い魔……?」 幾度かの爆発を経て、ルイズの目の前に姿を現したのはまっ白い体と赤いとさかを持つ鳥であった。 いや、それはグリフォンとか風竜とか、すごいのが欲しいなとは期待したけど、むしろ、そのへんの農家の納屋ででも飼われていそうな、そんな鳥。 それがコケコッコーと鳴いたとき、ルイズは脱力したようにつぶやいた。 「ニワトリ」 それは、ルイズの望んだ、神聖で気高いというシンボルからは程遠いというか、ちょっとな代物。 「ニワトリね」 「ニワトリだな」 「ゼロのルイズはニワトリを召喚したか」 周りの生徒の反応も一様に等しく、あざけりもないが感嘆もない。まあ生徒の中にはカエルを召喚したりしたのもいるので、ニワトリなら可もなく不可もなくといったところだろうか。 自失していると、コッパゲの教師が「はやくコントラクト・サーヴァントを」とせかして来るので、反射的に「はい」と答えた。 ルイズも、期待はずれにはがっかりしたけど、とりあえずはサモン・サーヴァント成功ということでコントラクト・サーヴァントにも一応は成功した。 「でも、あなたがこれからはわたしの相棒になるのよね」 その夜、用意していた使い魔用のわら束の上でちょこんと座るニワトリの前で、ルイズは気を取り直した。 期待とは大きく違ってたけど、成功は成功だ。これで、自分はゼロではないということが証明できただけでも大成功と思わなくては。 そう思うと、なんの変哲もないニワトリも妙にいとおしく思えてくる。 「あなたの名前は……コッコちゃんね。よし、コッコちゃんに決めた!」 それから、ルイズは相変わらずほかの魔法は爆発しか起こせないけど、小さな希望を得て毎日をがんばった。 早朝キュルケにからかわれても、食堂でパンくずをもらってきて、喜んでついばんでいるコッコちゃんを見ると怒りも収まった。 たとえ授業で何の成果も出せなくても、コッコちゃんの生んでくれる一日一個のタマゴが彼女のはげましになった。 ちなみに、その後なぜかルイズの頭に一ヶ月一万スゥ生活という言葉が頭に浮かんでくるようになり、妙に海で泳ぎたくなることがあったが本編と関係ないので割愛する。 でも、そんなある日のことだった。 その日、コッコが一羽で学院の中庭を散歩していたら、その前を数人の生徒が通りがかった。 「おい、ありゃゼロのルイズの使い魔じゃないか?」 それは、学院でも指折りの不良学生のド・ロレーヌとその悪友たちであった。 彼らはコッコを見つけると、そのとき偶然機嫌が悪かったのも手伝って、邪悪な笑みをかわしあった。 そうして周りを見渡し、目撃者がいないことを確かめると、いきなりコッコを足で蹴り上げたのである。 「オラァ!」 突然蹴り飛ばされて、コッコは「コケーッ」と鳴いて転がりまわった。 彼らは悲鳴をあげるコッコを見て嘲り笑い、さらに走りよって蹴りまわし始める。 「ちょうどむしゃくしゃしてたところだ。ゼロのルイズの使い魔ならちょうどいいや、うさばらしに使わせてもらうぜ」 理不尽で残酷な理由で、ド・ロレーヌたちは無抵抗な一匹のニワトリをいたぶり続けた。 逃げようとするコッコにむかって、はしゃぎながらボールのように小さな体を蹴りまわし、しまいには杖を取り出して魔法をぶつけるまでやってのけた。 そうしているうちに、コッコの白い翼は泥で汚れ、体からは血がにじむ無残な様相へと変わっていった。 しかし、ド・ロレーヌたちはそんな残忍な行為を、自らの身であがなわされる時がくるとは夢にも思っていなかった。 突然、傷だらけのコッコが空に向かって「コケーッ!!」と一声鳴いた瞬間、周囲が急に暗くなった。 「ん? なんだ」 ド・ロレーヌたちは、突然夜になったような暗さに、思わず上を見上げた。 そして、彼らは自らの目を疑うことになる。そこで太陽をさえぎっていたのは雲などではなかった。無数の、そうとてつもなく無数のある”もの”。 それこそは…… 「「「「「コケーッ!!!!」」」」」 手を覆い尽くすようなニワトリの群れが、ド・ロレーヌたちに向かって降下してくる。 「うわぁーっ!!」 ド・ロレーヌたちはありとあらゆる方向から襲い掛かってきたニワトリに、つつかれ、ひっかかれて絶叫をあげた。 ニワトリたちは、コッコの恨みを晴らそうとするかのように情け容赦なく彼らを攻撃してくる。 しかも、ド・ロレーヌたちがニワトリを追い払おうと魔法をぶつけても。 「き、効かない!?」 なんと、そのニワトリたちはどんな魔法をぶつけられても、まるで鉄でできているかのように『ガキン』という音を立てるだけでまるで受け付けなかった。 なすすべもなく、ド・ロレーヌとその悪友たちが、ぼろ雑巾のようになって発見されたのは翌日になってからのことである。 その数百年後、トリステインには奇妙な伝説が語り継がれるようになった。 いわく、アルビオンを陥落させ、トリステインに迫るレコン・キスタ軍がついに首都トリスタニアに迫ったときのこと。どこからともなくやってきたニワトリの集団がレコン・キスタ軍を壊滅させた。 いわく、ガリア軍がロマリアに侵攻したとき、ガリア軍の巨大なゴーレムを大量のニワトリが担ぎ上げて谷に落とした。 いわく、聖戦が発動される直前になって、エルフの首都アディールで大量のニワトリが発生して大混乱になり、大損害を受けたエルフ軍ととりあえず話し合いが持たれるようになったこと。など…… そのため、現在ではニワトリは伝説の不死鳥フェニックスの化身と呼ばれ、トリステインの農家で大切に飼われている。 そして、その影にラ・ヴァリエール公の三女がいつもいたことも…… ”そのもの、つねに優しく、つねに穏やかな我らの友 日々の糧を我らに与え、太陽とともにいつもある けれども、決してそのものを怒らせてはいけない 卑劣なる暴力には、神の鳥の鉄槌がくだるであろう” ゼルダの伝説シリーズより、ニワトリを召喚
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (9)罪の自覚 暫く前、それはほんの暫く前の物語。 ナインタイタンズ。 ウルザ、テイザー、ダリア、フレイアリーズ、クリスティナ、ウィンドグレイス卿、ガフ提督、ボウ・リヴァー、テヴェシュ・ザットからなる九人のプレインズウォーカーの連合軍。 彼らの目的こそは、暗黒次元ファイレクシア、その九つのスフィアに精神爆弾を設置し破壊することである。 そうなればファイレクシアの次元は壊滅し、ドミナリアを侵略しようとするヨーグモスの野望は阻止される。 勇敢で偉大なるプレインズウォーカー達、しかし、彼らの中にも裏切り者がいたのだ。 邪悪なる黒きドラゴンの王テヴェシュ・ザットが彼らを裏切り、クリスティナとダリアを殺害した。 その裏切りを察知したウルザは、速やかなる反応でテヴェシュ・ザットを粛清する。 「ウルザ!あなたはザットが裏切ることを知っていた!なぜだ!?なぜ放置した!」 あまりに冷静に受け止めるウルザへ、仲間達の追及。 「ザットが我々を裏切るのを知ってたか?」 ウルザはさも面白そうに聞いた。 「それを当てにしていたのだよ」 そう、ウルザの目的はザットを粛清し、その魂を精神爆弾の燃料にすることにあった。 その為にクリスティナとダリアを犠牲にしたのだ。 「自分を正当化するな、ウルザ。お前は男が女を愛しているように、ファイレクシアを愛している。 この世界のラインを、機械達を、完成された設計を愛している。 お前はこの世界を破壊したくないと、自分の物としたいと思っている!」 テイザー、ウルザの仕掛けた罠により命を落とした、最も古き力あるプレインズウォーカーの語る真実。 ファイレクシア、第八階層。 そこでウルザを待っていたのは、ヨーグモスの誘惑であった。 アーティファクト使いとして、理想の世界ファイレクシア。 心の何処かで、それを求めていなかったといえば嘘となる。 いや、真実、ウルザはこの邪悪な誘惑に屈してしまう。 そしてヨーグモスのテスト。 ヨーグモスにつれて来られたそこで、ウルザは奇妙なものを発見する。 皮を剥がれ石にはりつけにされ、暗黒卿によって永遠の拷問を与え続けられている何者か。 「………ミシュラ?」 そこにあったのは実の弟、ミシュラの姿であった。 今はウルザの瞳に納まっている二つのパワーストーン。 それを互いに奪い合い争い、最後はファイレクシアに唆され、兄弟戦争を引き起こしたミシュラ。 彼の憎しみの原点である弟の哀れな姿であった。 『兄さん、助けてくれ………お願いだ、助けてくれよ兄さん』 夢か現か、哀れにも苦痛に呻き、助けを求めるミシュラ。 「………」 ウルザは己自身の罪を自覚した。 止まれない、止まることなど出来ないのだ。 『兄さん、お願いだ、お願いだよ…』 助けを求めるミシュラを無視し、進み始めるウルザ。 アルゴスの地を吹き飛ばし、弟ミシュラを殺した。 自らを匿った聖なるセラの次元を崩壊に導いた。 トレイリアの時間移動実験では多数の若者の命を奪った 親友であったバリンさえ、最後には利用し、死なせてしまった。 人造生命体メタスランの創造、キャパシェンの血統実験。 既に己の手は罪で血塗られている。 数々の罪、それらの声がウルザを苛む、けれどその歩み止めさせはしない。 後悔はない。 けれど本当に?後悔はしていない?もしもやり直せるとしても? 「宝箱でね」 ここはニューカッスルの城、その城内にあるウェールズの居室である。 空賊の黒船に偽装された『イーグル』号はニューカッスルの秘密の港に入港し、無事城へと辿り着くことができた。 そして今、ルイズはウェールズに連れられて彼の私室へと招かれているのであった。 ウェールズが取り出した小箱、彼はそれを開き、中から一通の手紙を取り出す。 まるで壊れ物であるように、丁寧に、そして愛おしそうに口付けたあと、開いてゆっくりと読む。 何度も読まれたのであろう、ボロボロになった手紙。 それを大切に閉じて、封筒に入れると、ルイズに手渡した。 「これが、姫から頂いた手紙だ。この通り、確かに返却したよ」 「ありがとうございます」 ルイズは深々と頭を下げると、アンリエッタの心であるその手紙を受け取った。 「明日の正午、この城に向けて反乱軍の大攻勢が行われる。我が軍は三百、対する敵軍は五万。 我々は全滅する。しかし、王家の誇りにかけて、勇敢に戦って死ぬつもりだ。 それに先立ち明朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出港する。 君はそれに乗って、トリステインにお帰りなさい」 ルイズは受け取った手紙をじっと見つめていたが、決心したように口を開いた。 「殿下…。失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたきことがございます」 ウェールズの居室へ通されたのはルイズだけである。 ならばお付きであるところのウルザ・ワルドが何をしているかと言えば、居室の扉の前で衛兵のように左右に棒立ちしているのであった。 不動、まるで石のごとく揺らがない二人。 熟達の兵士であっても、平時にこの緊張感は無いだろう。 そんな中、ふいにワルドが口を開いた。 「私は明日、ルイズとここで結婚式を挙げるつもりだ」 「そうかね」 お互い前方を見据えたままの会話。 「この城は、明日墜ちる。その前に脱出するつもりだが、船には一人で乗ってもらいたい、ウルザ殿」 「分かった、ミス・ルイズがそのように言うなら私は一足先に船で出発しよう」 「ルイズは、僕が幸せにする。使い魔殿、あなたは、不要だ」 その後、部屋からウェールズと、何かを必死に堪えているルイズが出てきたことでこの話題は打ち切りとなった。 夜、城では華やかなパーティーが催された。 王党派の貴族達はきらびやかに着飾り、テーブルにはこの日のためにとって置かれた、さまざまなご馳走が並べられている。 全ては明日、終わりを迎える日のために。 貴族達は笑い、歌い、酒を飲み、明日のことなどどうということは無いかのように陽気を振りまく。 死を前に、明るく振舞うその姿はただ悲しさだけをルイズに突きつける。 愛する者を残して死ぬ人の気持ちが分からない、分かりたくない。 帰りたい、トリステインに帰りたい。 この国は嫌い、イヤな人達と、お馬鹿さんが一杯。 誰も彼もが自分のことしか考えていない、残された人のことなんて考えていない。 心の何処かでは分かってる、でも分かりたくない。 誰かに泣きつきたい、泣きついて、全てをぶちまけてしまいたい。 誰に?ウルザに?ワルドに? 違うと思った。 どちらにも、泣きついてはいけないと思った。 泣き付いたら、きっと立ち上がれなくなるから。 その日、ルイズは一人、部屋で眠りについた。 彼は狂人だが、機械ではない。そこに不幸がある。 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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登場人物 ■ プッチ、イービル、アンジュ、アルエ ■ ココロ、ルイ よしこ、はな もえ、すみれ リサ、さっちん スゥ、ミーコ マキ、レイナ たまえ、たまゑ ルイ CV ストリート オモテサパーク とおりな なし ライブ ライブ前 そうだね ライブ開始 いいことだよ 10DANCEごと はぁぁー! 20,40,60,80RHYTHM たぁー! 100,120,140RHYTHM どうだっ! Miss そんなぁ ライブ勝利 いいかんじだよ きせかえ 回数 ヘアスタイル トップス ボトムス いつでも くせっけショート しましまラガー くろのひざパン
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前ページ次ページヘルミーナとルイズ 思い出すのは水のせせらぎ、草の臭い、頬を撫でる風の冷たさ、彼女の笑顔。 そのすべてが遠く、遠い。 何もかもが懐かしい。 彼女と過ごした時間が、今の彼を突き動かすすべて。 ルイズは、泣いてくれるかな? サイトは力を振り絞ってデルフリンガーを振るう。 一振り二振り、三度振ったところでたたらを踏んだ。 サイトはこんなにもデルフリンガーが重いということを初めて知った。 あいつ、あれで泣き虫だからな。 段々足に力が入らなくなってきた。 槍で突かれた左腕の傷口からは血が溢れている。そこから命が漏れていくような感覚に怖気が走る。 それでも止まらない、止まったらもう二度と動けない。 それに寂しがり屋だし。 着地ざま、剣を力任せ横なぎに払った。 手に伝わる肉と骨を断った、確かな手応え。 周囲に味方なんて誰もいない、適当でも振り回せば誰かに当たる。 いっぱい悲しんで、いっぱい泣いてくれるかな? 大群の前にたった一人で現れた少年剣士は既に満身創痍。 けれど、彼は今この場にいる誰よりも必死に生き足掻いていた。 すべては彼女のために。 結局あんな別れになったけど、俺、お前のこと、好きだったんだぜ。 包囲していた兵士たちが一斉に槍を突き出した。 再び跳躍、敵のいない方へと渾身の力を込めた一飛び。 直後、サイトの耳に届く空を裂く無数の音。 生意気で、我が儘で、短気。でも、そんなところも好きだったよ。 見上げれば空を黒く染める矢の嵐。 サイトは足が地面についた瞬間、足腰すべてのバネを使ってその場から飛び退いた。 そのはずみで、体の中からぶちぶちと何かがちぎれる音がした。 ごめんな。 かわしきれなかった矢が右の腿と背中に刺さった。 転がりながら足の矢だけ引き抜く、背中の矢は転がった際に半ばから折れていた。 既にサイトの体は血で汚れていない場所など一カ所もない。 本当にごめんな。 真っ赤に染まった少年剣士。 生きているのが不思議なほどの傷を負ってなお、剣を握り、離さない。 なぜそのような姿になってまで戦うのか、この場にいる誰もが理解できないでいた。 お前一人残してごめんな。 衝撃。 爆音と吹き上がる炎、かつてテレビの向こう側で見た爆撃のようなそれがサイトを襲う。 ある意味それは正しい。サイトの周囲に向かって、無差別に火玉の魔法が何十とうち込まれているのだ。 お前は泣き虫だから、きっと泣くと思う。 吹き飛ばされる。 投げ出されて、仰向けに倒れるサイト。 それでも起き上がろうともがくが、一度止まってしまった体は、糸が切れた人形のように動かなかった。 でも、いっぱい泣いて、いっぱい悲しんだら…… 何もかもなげうって、少しでも長く生きるためにサイトは懸命に戦った。 一分一秒一瞬でも長く、ルイズのことを考えるために。そうすることだけが、自分の気持ちを証明する唯一の方法だと信じて。 だが、それも終わる。 俺のこと、忘れてくれ。 涙が止まらない、止められない。 もう体は動かない。 握りしめていたはずのデルフリンガーは、既になかった。 全部忘れて……幸せになってくれ。 遠巻きに包囲した兵士たちが、一斉に弓をつがえ、大砲を向け、杖を構えた。 標的は、たった一人のちっぽけな少年。 「ルイズ、ごめんな」 流星のように降り注ぐ死を眺めながら呟いたそれが、サイトの最後の言葉となった。 ルイズはネグリジェ姿のまま、ベットに腰掛けている。 神聖アルビオン共和国の降伏から既に三週間が経過し、トリステインにも平和な日々が戻り始めていた。 出征していた男子生徒たちも皆学院へと帰還し、授業も平常通りのものへ戻った。 窓の外からは光が差し込み時刻は昼過ぎを知らせていた。 寮で生活していた女性生徒たちの殆どは、今は授業を受けるために本塔へと出払っている。 そんな中部屋に残ったルイズの姿は、痛々しいという他なかった。 目は落ちくぼみ、唇は乾いている。 痩せてはいたが、健康的でしなやかであった体は、今や憔悴しやつれ果てている。 視線は虚空を泳ぎ定まっていない。手には以前にサイトへプレゼントしたセーターと、赤い布きれ。 確かに男子生徒たちは戻ってきた。 戦場で生き残り、ギーシュのように勲章を貰ったものもいる。 けれど、その中にサイトの姿はなかった。 代わりに彼女の手元に戻ってきたのは、どす黒く血に染まったパーカーの切れ端とデルフリンガー。 そして、サイトが死んだということを示す紙切れ一枚。 「ルイズ! ちびルイズ! 返事をなさい!」 「ルイズ! お願いだからご飯だけはちゃんと食べて!」 扉の向こう側から響く、二人の姉の声も今のルイズには届かない。 あの日、あのときから、彼女たちの言葉は届かなくなった。 「どういうこと!? 何であんただけなのよ!? サイトは……サイトは一体どうしたのよ!?」 「落ち着けよ、娘っ子……」 「そうよ、落ち着きなさい。あなたが大声をあげても彼は帰ってこないわ」 ルイズの部屋の中、かつてサイトが寝起きしていた藁の上にはデルフリンガーが置かれている。 そしてルイズの横には二人の姉の片割れ、エレオノールの姿があった。 「サイトは……サイトは生きているんでしょう!? 答えて! 答えてよ!?」 目に涙を浮かべ、手には血染めの切れ端を握りしめたルイズが叫ぶ。 最初に届けられたのは手紙だった。 その中にはヴァリエール家が使い魔の三女、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔が死んだことと、その死を悼む内容が記されており、血染めのパーカーが同封されていたのであった。 この際半狂乱に取り乱したルイズに対して、学院は実家への連絡という手段をとった。 そうして呼び寄せられたのがエレオノールとカトレアの二人の姉であった。 最初はルイズを叱咤してルイズを立ち直らせようとしたエレオノールであったが、サイトを呼びながら泣き叫ぶルイズに折れ、最終的には公爵家の力を使って、サイトの消息についての調査を行った。 そうした調査の末、戦場で収集された武器の中に、一振りのインテリジェンスソードがあり、それが盛んに「ルイズ」「サイト」と叫んでいると分かったのである。 エレオノールは直ぐさまその武具を取り寄せる手続きを行って、その甲斐あってデルフリンガーは再びルイズの部屋への帰還を果たしたのであった。 「サイトは……サイトは無事なの?」 縋るような目つきのルイズ。 「相棒は……」 デルフリンガーは言い辛いことを伝えるときの人間のように一度言葉を区切り、やがて決心したように続けた。 「相棒は、死んだよ」 「嘘よっ!」 間髪入れずに叫んだルイズの言葉。まるでその言葉が予め分かっていたような速やかな反応。 「本当だ。相棒は、もうこの世に生きちゃいない。相棒は、最後の最後で俺を手放しちまったのさ……あの中を、ガンダールヴ無しで生き残るは不可能だ」 「それでも……、それでも!」 ゆっくり、崩れるようにして床へ腰を下ろすルイズに、デルフリンガーもエレオノールも、かける言葉が見つからなかった。 デルフリンガーだけが、最後の希望だったのだ。 「生きてるって言って……お願い……」 すすり泣くルイズに、デルフリンガーは「すまねぇ」と小さく返すしかできなかった。 希望が砕かれたとき、人は惑う。そうしたときに、一人で立ち直れるものは強いものだけだ。 だから、長女として、人生の先輩として、エレオノールはルイズに手を貸そうとした。 彼女なりのやり方でルイズの立ち直りを手助けしようとした。 「いつまでそうしているつもり、泣き虫ルイズ!」 「……」 「お父様が止めるのを聞かずに、戦地になんて行くから、使い魔を死なせる羽目になったのよ」 「……」 姉として、妹を心配していた。 だから、結局のところ、エレオノールが次に発した言葉は、彼女の優しさからであったのだが。 「毅然となさい! あんな使い魔が死んだくらいで……」 その一言で、ルイズの中にある、何かが砕けた。 「使い魔くらい……」 どうってこと、と続けようとしたところで、エレオノールが凍りつく。 泣きはらした目で顔を見上げたルイズのそこからは一切の表情が抜け落ちていた。ただその目が、まるでガラス玉のように無機質で、エレオノールはこれまでの人生で一度も妹のそんな姿は見たことがなかった。 その唇が、小さく震えた。 妹が何かを言おうとしていることを気取ったエレオノールは、焦点の定まらないルイズの瞳を真っ直ぐに見返し挑発した。 「はん、何か言いたいみたいね、言ってごらんなさいよ」 再び、ルイズの口が小さく動いた。 「何を言っているのか、全然聞こえないわ。ほら、ちゃんと口に出してごらんなさい」 「おい止めろ姉っ子! そいつは逆効果だ!」 ルイズの異変に気づいたデルフリンガーが大声で静止するが、何もかもが遅過ぎた。 「黙れ」 「……え?」 無表情な顔をした妹が紡いだ言葉の意味が理解できずに、エレオノールは漏らすようにして聞き返した。 一方、ルイズは自分が見上げているものがなんだか分からなかった。 ひび割れたモノクロのステンドグラスのような形をした何か、それが先ほどから耳障りな雑音をまき散らしている。 その音を聞いているだけでひどく頭が痛くなる。 まるで頭の内側から大きなハンマーで、力一杯ガンガンと殴られているようだ。 だから言ってやったのだ、思ったままを。感じたことをそのままに。 「うるさい うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 その日以来、姉たちの言葉はルイズに届かなくなった。 そして姉以外の者たちの言葉も届かない。 今や、彼女たちはルイズにとって『理解できない何か』になってしまったのだ。 彼女たちが、ルイズの心が分からなかったように、ルイズにも彼女たちが分からなくなってしまっていた。 時折部屋の外で発せられる、『何か』が発する雑音。 ルイズはそれが響く度に手編みのセーターと血染めの切れ端を強く握りしめる。 母の庇護を求める赤子のように、それだけが彼女を守ってくれると信じて。 「サイト、助けてサイト。怖いよ、怖いのがくるよ……」 大切な想いを抱きしめたまま、ルイズはベットに倒れこむ。そして子供のように丸くなって泣いた。 部屋の外、エレオノールとカトレアの二人は揃ってため息をついた。 「ごめんなさい、エレオノール姉さま。私が至らないばっかりに……」 そう言って両手で顔を覆って泣き出すカトレアを、エレオノールは抱きしめ慰めた。 「いいのよ、あなたのせいじゃないわ。あなたはあのとき体調を崩していたんだもの、仕方がないわ」 泣きじゃくる妹っ子のカトレアをあやすエレオノールの顔色も曇っている。 「おい姉っ子、あんまし自分を責めるんじゃねぇぞ。お前さんはお前さんなりに精一杯やったんだろ」 壁際に立てかけられたデルフリンガーの言葉にも、エレオノールの顔は晴れない。 「いいえ、何もかも、私の責任だわ」 「……反省と自分を責めることは似て非なるもんなんだぜ」 分かってはいても、返す言葉もない。 しばらくするとカトレアも泣き止み、表面上は平素通りの様子に戻った。 「ちょっとは食べてるみたいだけど、こんな状態じゃ放っておくわけにはいかないわね」 足下にあるトレイには干からびたパンと、冷たくなったスープがのせられている。 そのパンには小さくちぎった跡が残されていたが、とても健康を保つのに必要な量とは言えそうになかった。 「この扉を破ってでも屋敷に連れ帰るしかないわね。屋敷なら目も行き届くし、何より……この部屋に残すのは良くないわ」 使い魔の少年との思い出がある、という言葉を飲み込んだエレオノールは、いつにもまして辛そうな表情をしていた。 「……可哀想だけど、私もそれが正しいと思うわ」 ルイズの心が壊れてしまった翌日、カトレアもまた彼女の狂乱ぶりを目の当たりにした。 ルイズを可愛がっていた分だけ、彼女の受けた心の衝撃は言葉にできないほどであった。 だが、それと同様かそれ以上に、カトレアはエレオノールのことも心配していた。 ルイズの心を決壊させた原因が自分であると、人一番責任感の強いエレオノールは自分を責め続けているに違いない。 カトレアは愛する妹、そして姉までが苦しんでいるのに、何もすることができないという自分の無力さを強く呪った。 「それで?それはいつやるつもりなんだい?」 カトレアの苦悩を余所にデルフリンガーがエレオノールに問いかけた。 あるいは、エレオノールの注意を自分に向けるためだったかもしれない。 「早い方がいいわね。明日か、明後日にでも」 「……エレオノール姉さま、ルイズは……あの子は、お屋敷に帰ったらどうなるんですか?」 痛いところを突かれたという表情を一瞬見せたが、すぐに眼鏡を直すふりをして手で顔を隠してしまうエレオノール。 それだけで、カトレアには今後ルイズがどういった状態に置かれるかが分かってしまった。 「屋敷で軟禁、でしょうね。外を歩けるようになるのは、だいぶ先のことになると思うわ」 冷たい口ぶりでそう答えるエレオノール。 けれどカトレアには分かっている、その真なる暖かさを。 だからいっそうの切なさを感じるのだ。それが追いつめられたルイズの心に届かなかったという、お互いのすれ違いに。 深夜。 気がつくと、ルイズは階段を上っていた。 素足で堅い石段を踏んでいるはずなのに、どういうわけか足下はふわふわとして、まるで雲の上を歩いているようだった。 心地よい浮遊感に身を任せ、どんどんと階段を上っていく。 理由は分からないけれど、一番てっぺんまで辿り着けば、そこにサイトがいる気がした。 「サイト……待っててね、すぐに、すぐに会いに行くから……」 頭がぼうっとする、まるで霞がかかったように上手く考えが纏まらない。 本来結びつくはずの事実と意味が組み合わさらない、そうしているうちにどちらも泡が弾けるようにして溶けて消えてしまう。 自分が何をしているのか、どうなってしまうのかが考えられない。 でもいい、もうどうだっていい、なんだか疲れてしまった。 ただ、楽になりたかった。 階段は唐突に終わりを告げた。 屋上、冬の空気が鼻孔から入って肺を満たした。 普段なら頭がすっきりするようなそれを受けても、熱に浮かされたようなルイズの足取りは止まらない。 そうして、ルイズは終着へと辿り着いた。 屋上の円周を囲む石塀、そこが行き止まり、そこから先に道はない。 でも、その先にサイトがいるような気がした。 ルイズは胸ほどの高さがある石塀をよじ登り、その上に立って地面を見下ろした。 闇が支配する時間、黒に塗りつぶされた世界、どこまでも続いていそうな、そんな光景が目の前に広がっていた。 サイトのそばに行くための一歩。ルイズがそれを踏み出そうとしたとき、雲間から双月の片割れが顔を出し、眼下の一部を淡く照らし出した。 それは、ルイズとサイトが出会った、あの春の召喚の儀式が執り行われた一角であった。 無表情なルイズの目から、一筋の滴がこぼれ落ちる。 すべてはあの場所から始まった。 馬鹿で、スケベで、浮気者で、お調子者で、ちっとも乙女心が分かっていないサイト。 でも、勇敢で、優しくて、いつも守ってくれた、そして何より、私を好きって言ってくれたサイト。 「我が名は」 自然と、口をついで言葉が出た。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 それは始まりの呪文。 「五つの力を司るペンタゴン」 あの素晴らしい日々の、幕開けを告げた呪文。 「我が運命に従いし」 だからもう一度唱えよう。 「使い魔を召喚せよ」 何もかもを、やり直すために。 光。 背後から自分を放たれる光に気づき、ゆっくりと首をそちらに向けるルイズ。 そこには白く光る鏡のような形をしたゲートが出現していた。 ルイズはゲートが現れた方を、身じろぎせずに、ただ無感動に見つめていた。 そうだ、サイトはゲートの向こうになんていない、いるのは…… 自然と体が正面を向いた。 早く会いたい、サイトに会いたい。 そう思い、再び歩を進ませようとしたところで、声をかけられた。 「あら飛び降り? いきなり目の前で人に死なれるってのいうのも、ちょっと新鮮ね」 聞き覚えのない、女性の声。聞こえた方向、先ほどまでゲートがあったそちらに顔を向けた。 そこには先ほどまであった銀色に輝くゲートはなく、代わりに一人の女性が立っていた。 年の頃は二十歳前後。 腰まで届くロングの髪は薄く紫がかった銀髪、月光に照らされた整った顔立ち、そして何より特徴的な左右色違いの瞳、それらが組み合わさって彼女と その周囲に幻想的な美しさを作り出していた。 けれど可愛らしいかと言われれば否、全体的に紺で纏められている服装は、どちらかといえば妖艶な雰囲気を醸し出している。 妖精というよりは、淫魔サキュバスといった方がこの場合は正しいだろう。 ゲートが閉じて、現れた女。 つまりは彼女が、サイトの『代わり』ということだ。 ルイズが平静の状態であったならば、彼女が現れた意味を悟り、また泣き叫んでいたことだろう。 けれど、今の彼女にそれすらも理解することができない。 ぼうっとした眼差しで女を見つめるルイズ。 対する女もルイズの感情の宿らぬ瞳を見返して、二人はお互いの目を覗き込むこととなった。 ルイズは女の、女はルイズの瞳を覗き込む。 目を見る、ということはその人間の奥底までを見ることに似ている。 人と自分が違うが故に、本来であれば目を見ただけで何かが分かるなどというのはおとぎ話のまやかしだ。 けれど、それが鏡を見るように、同じ瞳に同じ心を持っていたなら? 二人はお互いの内に潜む、深淵を深く覗き合った。 そして直感的に、お互いがよく似たものであると理解する。 それは、同じ何かを持つもの同士のシンパシーだったかもしれない。 「……私の名はヘルミーナ。あなたの名前は?」 女の涼やかな声が聞こえる。 雑音しか聞こえなかったルイズの耳に、久方ぶりの人間の声が届いた。 「ルイズ……ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」 「そう、ルイズっていうの……何をしてるかは、見た通りなんでしょうね」 口元を隠してくすくすと声を漏らす。 「それで、あなたはどこへ行きたいの?」 「サイトの……サイトのところへ行くの」 不思議だった。 ヘルミーナに問われたままを、唇が勝手に動いて答えていた。 彼女の言葉は砂漠のような乾いたルイズの心に、水滴を落とす如くすっと染みこんでくる。 「そう……あなたも大切な人を喪ったのね」 ヘルミーナの口から漏れた『失った』という言葉がルイズの心を締め付けた。 誰の言葉よりも、重くルイズの心に突き刺さった。 すっと、ヘルミーナが石塀の上に立つルイズへと手を伸ばした。 「だったら、取り戻せばいいじゃない」 「……え?」 ヘルミーナの言っていることがルイズには分からなかった。 だが、『何か』が発する雑音のような不快さは全く感じない。むしろ心地よい不可解さ。 それは人を誘惑する悪魔の声のようだった。 「あなたの手から零れたものを、自分の力で再びその手につかむのよ。私にはその手助けができる」 差し出された手と、ヘルミーナの端正な顔を交互に見つめる。 「そうしてあなたは再び大切なものを取り戻して、心の底からまた笑うの」 冷たく、美しく、微笑むヘルミーナの顔が、月の加減で泣いているようにも見えた。 おずおずと手を伸ばすルイズ、そしてその小さな手をヘルミーナが力強くつかんだ。 泣いた、声を出して泣いた。 恥も外聞もなく、わんわんと泣いた。 ヘルミーナの胸の中、しがみついて、縋り付く。 楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと、大切な宝石箱をぶちまけるようにして、心の奥から気泡のように沸き上がってくるそれらを全部ヘルミーナにぶつけた。 ヘルミーナは脆い彼女の背中を抱きしめ、その桃色の髪を優しく撫でていた。 こうしてルイズの幸せな少女時代は、一つの別れと一つ出会いをもって、その終わりを告げた。 前ページ次ページヘルミーナとルイズ
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (4)聖なる教示 ハルケギニア大陸、トリステインの南に位置するガリア王国王都リュティス。 その王城、ヴェルサルテイル宮殿はグラン・トロワ。 そこには人形を手に狼狽し、泣き崩れている宮殿の主、ガリア国王ジョゼフ一世の姿があった。 「ああ、ミューズ!おれのミューズ!なぜだ!?なぜこんなことに!?」 感覚共有がなされている伝説の使い魔ミョズニトニルン、シェフィールドとの共有が途切れて早十日。 そして先ほど、再度アルビオンに派遣された間諜からの報告で森の中でシェフィールドの遺体が発見されたとの報がもたらされたのである。 「狂ってしまった!何もかもぶち壊しだ!ミューズ!何てことだ!」 側近の者達や、愛人すらも下がらせて大声で泣き喚く。 それは正しく世間で愚王と噂されるままの姿であった。 しかし、シェフィールドを使い、裏でアルビオン王国内部の貴族派を操っていた切れ者こそが、この男の真の姿である。 暫く、一時間ほど喚き、暴れ、もう一度喚き、そして最後に蹲って泣いていたジョゼフの震えがピタリと止まる。 続いて部屋中に響き渡ったのは大音量の笑い声であった。 「はははははははははははははっ!あはははははははははっ! 狂ったぞ!おれのチェスボードが!?見ているかミューズ!遂に狂ったのだぞ!? すべての駒が盤上からひっくり返された!だが、こんなに嬉しいことは無い!」 狂気/狂喜するジョゼフ、その手がシェフィールドの死亡報告と同時に提出された書類を掴む。 「そうだ!次の対局の相手はお前だ!ジャン・ジャック・ド・ワルド!」 そこには、シェフィールドを殺害の犯人であり、現アルビオン新政府を実質的に手中に収めている男が、現在ガリア国内に潜伏しているとの内容が記載されているのであった。 「あなたは、何者?」 あの日と同じ月が天にある。 闇は全てを等しく隠して染める、双月は冷たくも優しい光で照らす。 すべての絶望の中にあって、決して裏切らない希望の様に。 「虚無のメイジ、それがあなた」 背中の男に語りかけるルイズ、まるで戯曲の場面であるように。 答える男は振り返らない、それが彼と彼女の距離であることを示すために。 「それは君だ、虚無の担い手ルイズ」 「やっぱり、何もかも知っていたのね」 「そういう君は、どうして気付いたのかね?」 「姫さまから、王家に伝わる『始祖の祈祷書』というものを貸して頂いたの。 そうしたら、虚無の呪文のルーンが浮かび上がってきてね。 その時にあの時の魔法が虚無の魔法だって分かっちゃったのよ」 一歩、前に出る。 躊躇わない、戸惑わない、立ち止まらない。 ゆっくりと、歩む、ウルザの隣へと。 そうして空を見上げると、大きな月が瞳に映った。 月がこんなにも大きなものだと、ルイズは始めて知った。 「元々、違和感は感じていたわ。 あの魔法もそうだし、あなたを呼び出したこともね。 それらが全部、自分が『伝説』なんだって分かった時に全部繋がった感じよ」 前代未聞のメイジの召喚。 記憶が混乱していると言いながら、様々な技術をミスタ・コルベールに提供しているウルザ。 一切成功しなかった系統魔法、初めて使った魔法は正体不明。 そしてニューカッスルの城での光景。 疑問の欠片は幾つもあった。 「察しの良いことだ、話すのはもう少し後になると思っていたのだがね」 「こんなことで褒めてもらってもね。 自分のことは分かったわ。 次はあなたの番、もう一度聞くわ」 そこで区切り、ルイズは息を吸い込む。 これから放つのは万感を込めた言葉。 自分達の新たなる関係への、始まりの問いかけ。 「あなたは、何者?」 永く果て無き時を生きた。 悠久の者は時に、短い時を駆ける者の成長の早さを見誤る。 長く生きた故、時を見つめ続けた故に。 ならば認めなければならない、自分と彼女、その新たな関係を。 「ミス・ルイズ、あれの名前を知っているかね」 横に立つルイズに語りかけるウルザ、その先には見事な満月の片割れ。 「月?月は月じゃない」 ハルケギニア、その何万リーグもの空に浮かぶ天体、双子の月の一方。 あれは虚無月。 私の世界、ドミナリアにもまた存在する、二つの月の一つ」 「私の、世界…?」 「その通りだ、ミス・ルイズ。 私はこの世界の人間ではない別の世界、ドミナリアという世界から君に呼ばれたのだ」 真実の告白、想像を遙かに上回る言葉に、ルイズの目が見開かれる。 冷静に、常識的に考えても、納得できる話ではない。 「信じられないわ、別の世界があるなんて、…どうしてそんなことを言うのよ」 「私は真実を話している。それを信じるかどうかを決めるのは君だ」 一瞬の沈黙、梟の鳴き声だけが響き渡る。 「…ああもう、いいわ、別の世界がある、あなたはそこから来た。 全部信じてあげようじゃないの! そこから来たあなたが虚無の使い手、そこの人間は皆が皆伝説ってこと!?」 「ミス・ルイズ、それは発想が逆だ。 ハルケギニアで虚無と呼ばれるものは、他の世界においては伝説ではない、この世界においてのみ伝説なのだ」 「……意味が分からないわ」 「こちらの世界で虚無と呼ばれる魔法、その発展を妨げた要因がこの世界に存在する。 他の世界に潤沢に存在する虚無を利用する為の魔力、それがこの世界には極端に薄いのだ。 ハルケギニアにおいて、虚無の魔法を操るのは薪無しに火を灯すに等しい。 そのような力、伝説として彼方に追いやられても仕方は無い」 すべての魔法を生み出す力、マナ。 その中でも白と黒のマナ、それがハルケギニアにおいては希薄な状態で安定しているのだった。 「…他の世界には普通にあるものがこの世界にはない。 だから虚無は使われなくて伝説になってるって言うのね。 でもそれじゃあおかしいじゃない。 私が虚無の魔法を使える理由がつかなくなるわ」 そう、確かにルイズは自分が使った呪文が『虚無』であることを、心で、体で、確かに実感している。 ウルザは口を開きかけたが、一瞬何かを考え、その後に言葉を紡いだ。 「始祖ブリミル。この世界で六千年前に降臨したとされている何者か。この世界に虚無を持ち込んだ者。 その血を色濃く残す者は潜在的に虚無を操る力を有している。 ブリミルの子孫によって建国されてたというトリステイン王国、その公爵家筋にあたる君には才能があった。 私はそう考えている」 突然にウルザの口から出た始祖ブリミルの名、ルイズはその神の如き神聖な名を耳にしながらも、冒涜的とも言える想像が鎌首を擡げることを止められなかった。 「それじゃ…その言い方じゃ、まるで始祖ブリミルがっ」 「あ、思い出した」 突然に割り込まれる第三者の声。 二人しかいないはずのこの場に現れた闖入者、今の会話を聞かれたのかもしれないという背徳感から、ルイズは慌てて周囲を見渡す。 当の声の主はすぐに見つけることが出来た、それは壁に立てかけられた二本の剣、その片方、古ぼけたインテリジェンスソード、それこそがこの場の三人目であった。 「思い出した、思い出したぜ相棒。 おめーさん、ガンダールヴっつーか、何か別の奴に似てると思ってたんだよ。 今の話で思い出したぜ、相棒、おめぇさん、ブリミルに似てるんだよ」 カタカタと震わせながら喋る剣デルフリンガー。 「待って、待ってよ。 ミスタ・ウルザがブリミルに似てるってどういうことよ、虚無の使い手だからってこと? いい加減なこと言わないでよポンコツ!」 デルフリンガーを両手で持ち上げて、詰め寄るルイズ。 「ポンコツたーひでぇなあ。 なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが虚無の使い手だってのはあの城の一件で気付いてたんだぜ。 相棒が何も言わねぇから黙ってたけどよ。 でも別に嬢ちゃんの雰囲気がブリミルに似てるって訳じゃねぇのよ。 相棒はなあ、虚無とかそういうの抜きにして似てんだよ、初代虚無の使い手に」 「そんな、それじゃ、本当に………」 「ミス・ルイズ、君の考えていることは私の推測でもある。 この世界に六千年前降臨した始祖ブリミル。 私はブリミルが別の世界、ドミナリアの人間だったのではないかと考えている」 白と黒を混ぜたらどうなると思う? 全てが無かったことになるんだ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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前ページ次ページヘルミーナとルイズ あのときから数えて、三度目の冬が訪れていた。 ルイズとヘルミーナはろくに人の手も入っていない、岩がごろごろと転がっている山道を登っていた。 日はまだ高い。この調子なら目的を果たすのに多少手間取ったとしても、今晩はテントの中で落ち着いて休むことができるだろう。 今更堅い床では眠れないなどというやわな神経は、両者とも持ち合わせていなかった。 「それでルイズ、道は大丈夫なんでしょうね。こんな物騒なところは用事が済んだらさっさとおいとましたいところなんだけど」 そう言ったのはヘルミーナ。 彼女は今年で二十三になるそうだが、現れたときの姿とあまり変わっていない。相変わらずの美しさと妖しさで周囲を惹きつけてやまない。 「そう願いたいわね。私だってこんなところまで来たのは初めてだもの、確証なんて持てやしないわ」 そう答えたのは手に地図を持って、ヘルミーナに先行していた桃色の髪の女性。 ――ルイズだった。 あれからだいぶ背も伸びた。ヘルミーナと出会った頃は彼女の方が十サントほど高かったのだが、今ではほぼ同じ身長になっている。 やせっぽちだった体型も、女性的な丸みを帯びたものへと変わっていた。 胸だけは水準以下であるが、ほっそりとした体つきとのバランスが美しく、それは十分に男を惑わせ得るものとなっていた。 だが、何よりの変化は、その目であろう。 もとよりつり目がちだった目は一段とその鋭さを増し、かなりキツイ雰囲気を放っている。 見たものを震え上がらせるような冷酷な目は、以前のルイズにはないものだった。 二人とも旅装を纏っているが、それが野暮ったい印象は与えない。 一般的に動き回るに向いていないメイジや僧侶用のローブを大胆に改造した着こなしは、それだけでセンスの良を感じさせる。 色はヘルミーナは紫を基調として、ルイズは黒。それぞれ二人のイメージと相まって、彼女たちの魅力を最大限に引き出していた。 「巣立ちを迎えていない火竜の幼体、本当に見つかるのかしら」 「こんな眉唾な情報を見つけてきたのはあなたじゃない。でも、もしも本当なら幼体の『竜の舌』、とても貴重だわ」 この二人、一般的なメイジとは違う、少々特殊な存在であった。 曰く、この世界でたった二人の『錬金術師』。 錬金術の練金は土魔法『練金』を意味するものではない。 素材を調合し、全く違う効果を持つ様々な薬やアイテムを作り出す研究者の総称、それが錬金術師である。 それがヘルミーナが召喚された翌日に、ルイズに語って聞かせたことだった。 そして今、彼女たちは旅の空の下にいる。 二人が出会った翌日、ヘルミーナは自分が錬金術師であること、材料の収集中に魔物に襲われ、その先にあったゲートに飛び込んで難を逃れたこと、そして自分は親代わりであった先生を捜して旅をしていたことをルイズに話した。 一方、ルイズはここがハルケギニアという世界であること、ヘルミーナは異世界から来たかもしれないということ、この世界に錬金術というものがないことを伝えた。 この頃になるとルイズも本来の冷静さを取り戻し、お互いに必要な情報の交換が行うことができた。 特に、お互いの関心事については念入りに話し合った。 ルイズにとっては、錬金術のその技。人工生命や死者蘇生、聞いたこともないような途方もない錬金術の奥義の数々。 ヘルミーナにとっては、異世界の存在とそれに付随する様々な未知なる事柄、そしてルイズが喪ったという少年の話。 そうしてお互いの関心事が分かったとき、ルイズはヘルミーナに申し入れたのだ。 『自分に錬金術を教えて欲しい』と。 ルイズのこの申し出をヘルミーナはしばし検討し、結果として承諾した。 そこにどの様な思惑があったのか、神ならざるルイズには分からなかったが、確かなことは自分が一筋の光明をつかんだという事実であった。 ヘルミーナは自分が元の世界へ戻るまでの間、ルイズに錬金術を教える、その代わりに自分が戻るための手助けをして欲しいと言った。 ルイズは一も二もなくこれを快諾し、この世界で最初の『錬金術師の弟子』となった。 そしてその日の夜、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは学院から失踪した。 あれから三年、ルイズは一度もトリステイン魔法学院を訪れていない。当然ヴァリエール公爵家にも。 今、ここにいるのはただのルイズ。 貴族の名誉も、家族も、友人も、何もかもを捨て去った、ただのルイズであった。 「毎度思うんだけど、空飛ぶ箒ってこういったところでも使えれば便利じゃないかしら」 「仕方がないわ、あれはそういうものだもの。大ざっぱな移動はできてもこういうところを飛ぶのは向いていないわ」 ルイズの軽口にヘルミーナが相づちをうつ。 深い意味はない、毎度の愚痴と切り返しの応酬だ。 ルイズとヘルミーナは弟子と師匠、召喚者と被召喚者という関係にありながらお互い対等の立場をとっていた。 お互いが教師であり生徒、そんな二人は主人と使い魔の証である使い魔の契約、すなわちコントラクト・サーヴァントも済ませていなかった。 ルイズにとって使い魔とは生涯あの少年ただ一人であったし、ヘルミーナ自身も使い魔という立場を望まなかったからだ。 空飛ぶ箒の調合材料である風石の品質、その調合に使われる中和剤の元となるラグドリアン湖の水についてお互いに意見する。 いつも通りの大して実りもない雑談をしばし続けたあと、二人は目的地周辺に到着した。 「情報によればこの辺のはずね。ルイズ、準備は良い?」 「氷属性のブリッツスタッフでしょ。分かってるわ」 ルイズが背負った革袋から強烈な冷気を放つ杖を取り出すと、ヘルミーナも同様にそれを取り出して手に持った。 「標的はあくまで幼体だけ。もしも成体に見つかったら一目散に逃げる。良いわね」 「幼体を見つけたら二人でブリッツスタッフを使ってブレスを使われる前に倒す。手順は覚えてる、大丈夫よ」 彼女たち二人の目的は竜の舌、それも幼竜のそれだ。 竜の舌は錬金術の素材としても大変貴重なものであるが、その中でも幼竜のものとなるとその価値は跳ね上がる。 幼い竜は常にその周囲を成竜たちに囲まれて生活している。 単独で行動する成竜を相手にするよりも、幼竜を相手にする方がよほど骨が折れるのだ。 なぜそのような明らかに危険過ぎる幼竜を、女二人で探しているのか? それは今ルイズが手にしている一枚の紙切れに原因があった。 多数の火竜が生息する火竜山脈、彼女たちはそこへ鉱石の採集が目的でやってきた。 準備を整えるために立ち寄った麓の町に一泊したときのこと、彼女たちは酒場で気になる言葉を耳にした。 それは「火竜山脈の一角で、親とはぐれた幼竜を見かけた」というものであった。 普段ならそんな与太話、酔っぱらいの戯言と聞き流すところだったが、それが火竜山脈近郊で幼竜となると話は別だ。 ヘルミーナとルイズはそれを喋っていた傭兵風の男に近づいて、酒を奢り、しなだれかかり、女の武器を使って詳しい話を聞き出した。 商隊の護衛だという男は、昨日まで火竜山脈の一部を通る護衛の仕事についていたらしい。 多数の火竜が生息する火竜山脈は、ハルケギニアでもトップクラスに危険な一帯であることは間違いないが、山脈のどこへ行っても竜と遭遇するというわけでもない。 竜たちの生活圏の外ならば、その危険度は大幅にダウンする。 無論、群からはぐれた竜が出現する可能性も完全には否定できない、 そういうわけで、彼は竜のテリトリーの外を横断する商隊の護衛任務を引き受けていたらしい。 危険は大きいがその分報酬も大きい、運悪くドラゴンに遭遇しなければしばらく遊んで暮らせる。 そんなことを心の支えにしながら、怯えつつもきちんと護衛の仕事を果たしていた彼は、もうすぐ山脈が終わろうかというところでそれと遭遇したらしい。 まだ翼で飛ぶこともできないよう、幼い竜の子供。 幼竜の周囲に親竜たちがいる。 子育てに神経質になっている成竜たちは非常に好戦的である。 危険きわまりない幼竜と遭遇してしまった彼は、正直なところ死を覚悟した。 けれど、不思議なことに幼竜の周辺には他の竜の姿はなく、商隊が竜を刺激しないように息を殺して歩を進める間も、結局何も現れなかった。 そうして、商隊と男は無事に街へと到着したというのが話の顛末であった。 しきりにルイズのお尻を触ろうとする男をあしらいながら聞き出したのは、なかなかに貴重な情報であった。 最後に男に地図を見せて場所を確認してから、彼女たちは酒場をあとにした。 そして今ルイズが手にしている紙切れこそ、男が幼竜と遭遇したという場所が記された地図であった。 「まだこの辺に居てくれると嬉しいわね」 「ハルケギニアの竜の生態は分からないけれど、目撃されてからまだ三日。この周辺に居ると考えるのが妥当でしょうね」 その『周辺』とやらがどの程度の範囲なのか分からないから困るのだとルイズは嘆息した。 冬とはいえ、火竜山脈は暑い。 山頂付近の蒸し風呂じみた暑さではないにしろ、二人が今いる場所も十分に暖かかった。 加えて、街から山の入り口までは空飛ぶ箒で飛んできたものの、そこからは徒歩。 火竜の幼体がその場所を離れてしまう可能性を考えて、二人は割と強行軍でここまで上ってきている。 ヘルミーナもルイズも、弱音は吐かないものの、美しい顔を流れる汗は正直であった。 「……少し探して駄目なら、一度休憩にしない?」 「……賛成ね。ドラゴンも、もっとじめじめして空気が淀んでる地下に住めばいいのに」 そろそろ付き合いも長くなってきたこの師匠の変な趣味には口出しせず、ルイズはあたりを見渡して休憩ができそうな場所を探した。 ルイズの視界の端を、ちらりと動く何かの影が横切った。 「! ヘルミーナ! あそこ!」 胸元を手で扇いでいるヘルミーナを余所にルイズが指さしたその先、小高く積み上げられた岩の上、そこには赤い獣の姿があった。 大きさは牛ほどもあるだろうか。赤い鱗に覆われ、背中には折りたたまれた翼がある。 間違いない。ハルケギニア原産の火竜種の幼体であった。 ルイズが気づくと同時、幼竜もルイズたちを確認したのか、威嚇の唸りをあげた。 発見したのはルイズ、だが先に反応したのはヘルミーナ。 「ブリッツスタッフ!」 ヘルミーナが手にした杖の先端を幼竜へと向けると、そこから一直線に強烈な冷気が迸った。 同時、幼竜の喉の奥がオレンジに輝き、恐怖と共に語られる火竜の象徴、ファイアブレスが放たれた。 幼くともドラゴンはドラゴン、そのブレスはヘルミーナのブリッツスタッフの冷気を相殺せしめる程の威力があった。 しかも、その余波は二人の肌を軽い熱波をもって炙っていった。 相殺どころか、押し負けている。 熱気と冷気がぶつかり合い、その余波で発生した水蒸気、それによってルイズたちの周囲はまるで霧にでも包まれたかのようになっていた。 「ヘルミーナ! 杖!」 そう言ってルイズは手持ちのブリッツスタッフをヘルミーナに放り投げた。 ブリッツスタッフはその性質上、使えば使うほどに充填された魔力を消費していくマジックアイテムである。 つまり、追撃には初撃以上の攻撃力は望めない。 その最初の一撃がブレスを押し返せないと分かった以上、彼女たちが考えていたブリッツスタッフを使って、遠くから力任せに押し切るという作戦は使えなくなったのである。 真っ白の視界の中、ドラゴンがいた方向へと一直線に駆けるルイズ。 懐から小さな杖とピルケースを取り出し、器用に片手でケースの中身を口に運ぶ。 口に含んだ錠剤を奥歯で噛み砕き嚥下して、次に呪文を唱え始める。 薬の助けを借り、意識と肉体とを切り離す。意識は呪文に集中し、体はただ最初に決めた通りに前へ向かって走るだけ。 そうして彼女は走りながら、見事呪文を完成させた。 霧が薄れ、再び視界が戻ったとき、幼い竜の目にはナイフを片手に持った女が自分へ向かって走ってきているのが映っていた。 このとき、幼い竜は飢えていた。数日前に親竜とはぐれて以来、常に空腹だった。 しばらく前に餌になりそうなものを見かけたが、それは数が多く体が大きく、諦めざる得なかった。 今回見つけた餌はそのときのものと同じ形をしていたが、先のやつよりも小さく、何より柔らかくて美味そうだった。 目の前の餌を食べる。捕食者の頭は、その原始的な欲求を満たすことでいっぱいになっていた。 幼竜の顎が開く。今ぞ高熱のブレスが吐き出されるという段となっても、駆けるルイズに怯みは感じられない。 だが、ドラゴンにしても躊躇いはない。 真っ直ぐに岩場を上ってくるルイズに向かって、灼熱のファイアブレスが浴びせかけられた。 これで終わり、一巻の終わり。 人の身でドラゴンのブレスの直撃を受けて、無事で済む道理などありはしない。 だが、次の瞬間獲物を確認しようとのそりと動いた幼竜を襲ったのは、腕に走る焼け付きような鋭い痛みだった。 「ギッ!」 突然襲った未知の感覚。それは不快で、ひどく幼竜を苛立たせるものだった。 「ギャギャッ!」 体中を使って痛みと怒りを露わにする。 そうしてじたばたと手足を振り回す幼竜から、素早く飛び退いた影一つ。 五体満足で、火傷一つ負っていないルイズの姿。 その手には赤い血を滴らせた、一振りのナイフ。 しくじった。 折角のイリュージョンの魔法が成功したというのに、肝心のナイフは幼竜の腕に傷を負わせることしかできなかった。 正面に投影した幻を囮に使い、自身は側面から奇襲を仕掛ける。そして首尾良く接近したならば必殺の一撃でもって絶命させる。 これがルイズの計画であったのだが、詰めが甘かったとしか言いようがない。 幼竜は未だ健在であるし、そのどう猛さは手負いになったことで、ますます手がつられなくなってしまった。 本来ならこれは一時退却して体勢を立て直すのが定石。だが、それを決行するにはルイズはブレスの射程範囲内部に、深く入り込み過ぎてしまっていた。 引けば丸焼き良くて生焼け、ならば攻めるか? これもまた上手い方法とは考えにくい。 今のルイズの位置は引くには近過ぎるが、攻めるには遠過ぎる。 ならばどちらがマシか? 頭がその回答を導き出す前に、ルイズの体は前へと飛び出した。 弾丸のような俊敏さをもって飛び出したルイズを見て、竜は大きく口を開けた。 喉の奥では既に赤い焔が灯されている、あとはその塊を怒りに任せて吐き出すだけ。 あるいは、幼竜が冷静であったならば、また違った行動に出ていたかもしれない。 自分に躊躇いなく近寄ってくることや、これだけ火を吐いても未だ食事にありつけないでいることで、危険を察知して逃げ出していたかもしれない。 だからそれはある意味では不幸中の幸い、ルイズの功績だったかもしれない。 とにかく、竜は怒っていた。 怒っていたのである。 幼竜の口から、炎の吐息が放たれた。 正面から飛び込んでいったルイズの目の前が、美しいオレンジの光で埋め尽くされる。 それはとても綺麗で、あの夜に、石塀の上から見下ろした闇によく似ていた。 ルイズの耳元で、誰かが囁いた。 ただのルイズになって以来、何度も耳にした甘い誘惑。 (これでサイトのところに行けるのよ) サイト、その名前を思い浮かべただけでルイズの心がキリキリと痛みを感じた。 自分を残してどこかへ行ってしまったあの少年、誰かが書いた悪魔のシナリオの向こう側に消えてしまった大好きだった彼。 そのサイトに逢える、また逢える。 それを思うだけでルイズの体は力を失ってへたり込みそうになってしまう。 「ブリッツスタッフ!」 彼女を幻想から連れ戻したのは相棒の鋭い叫び声だった。 目前に迫った赤い瀑布に、白色の寒波が叩きつけられる。 瞬く間に周囲はもうもうと水蒸気が立ちこめ、視界を奪った。 いつの間にか幼竜とルイズの延長上へとその位置を移動させていたヘルミーナが、ブリッツスタッフに込められた冷気の魔力を解放し、ルイズの背中越しにそれを放ったのだった。 甘美なる誘惑に屈しかけた精神が、強引に現実へと引き戻される。 意識が飛びかけていたそのときも、ルイズの両足はきちんと目標地点へ向けて動いてくれていた。 ルイズが気がついたとき、そこは既に竜の眼前。手を伸ばせば触れられる距離だった。 驚いた幼竜が再びその口を開けてブレスを吐きかけようとする。 だが、四度目のブレスが放たれるより早く、ルイズの手中にある白銀がきらめき、鱗ごとその喉元を真横に切り裂いていた。 ファイアドラゴンの幼子が横たわっている。 その喉元からは赤い血が噴水のように勢いよく噴き出して、周囲を赤く染めていた。 「お見事な手並みだわ」 返り血を浴びるルイズの背後から手を叩く音がする。 ルイズが振り返るとヘルミーナが小さく拍手しながら岩山を上ってきているところだった。 「うつろふ腕輪はあなたに渡しておいて正解だったわね」 非力なルイズが、幼いとはいえ竜の鱗の防御を貫けた要因、ルイズの右手にはめられた腕輪を見ながらヘルミーナが言った。 うつろふ腕輪、人間の力を引き出すことができる腕輪。 しかもルイズが手につているそれはヘルミーナの特別製。武器を使った直接攻撃でなら、ドラゴンの鱗も切り裂けるかもしれないと、以前彼女が笑って話していたものだったのだが、本当に切り裂けたのは驚きであった。 「さて、仕上げね」 幼竜相手とはいえ、竜殺しを成し遂げたという感慨もなく、無表情のままのルイズが倒れた獲物に向き直った。 喉と口から血を溢れさせる幼竜、その口からはヒューヒューと風が抜けるような音が漏れている。 そのどう猛さとはアンバランスなつぶらな瞳が涙に濡れて、鮮血にまみれたルイズを見上げていた。 ルイズはそんな竜の姿を見ても眉一つ動かさずにその場に片膝をつく。 ついた左の膝を竜の下顎に、そして右足の裏を上あごへと当てて、足に力を込めてその口をこじ開けた。 そして、血の海になった口内に目的のものを見つけるとルイズはそれを素早くつかみ、根本からナイフを使って刈り取った。 直後激しく痙攣する幼竜から、ルイズは転がるようにして距離を離すと、ゆっくりと立ち上がった。 その左手には。血まみれの竜の舌。 「終わったわ」 「そう、それじゃ時間も早いし戻りましょうか」 二人は特にそれ以上この件に関して話をすることもなく、先ほど上ってきた山道を下山し始めたのだった。 そのあとには、哀れな竜の骸が一つ。 前ページ次ページヘルミーナとルイズ
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場所は変わって、トリステイン魔法学院の学院長室では決闘の一部始終遠見の鏡で見ていたオールド・オスマン学院長とコルベール先生がいました。 「伝説の【ガンダールヴ】か・・・」 オールド・オスマンは目を瞑り深いため息をつくと徐にコルベールに尋ね直しました。 「ミス・ヴァリエールの使い魔のルーンと伝説の記録に間違いは無いのじゃな?」 「はい、オールド・オスマン学院長。私もこの決闘を見るまでは半信半疑でしたが・・・」 額に光る汗を拭きながらコルベールは続けます。 「あらゆる武器を使いこなし、無敵の鎧を身に着け・・・巨人にもなったと言われております・・・。これは早急に王室に連絡した方がよろしいかと思われますが」 「いや、それには及ばんじゃろう」 コルベールの言葉にこう答えたオールド・オスマンは水パイプを手に取ると口へ運びながらこう続けました。 「王室貴族の阿呆どもにこの事を知らせればどうなるか・・・わかるじゃろ?」 コルベールは「あっ!」と気がつき再び汗を拭い始めました。 「どうせ研究と称して王室に連れ去り戦争でもおっぱじめるに決まっておるわい。そうなれば未来あるうちの生徒も悲劇に見舞われるじゃろうて」 苦々しく語るオールド・オスマンにコルベールも同意しました。 「まぁ、王室貴族連中なぞ煙に巻くのは慣れておるわい。それに・・・」 遠見の鏡を見ながらオールド・オスマンは呟きました。 「心優しき使い魔にはワシもちと興味あるしのう」 その日の夜、ルイズはベッドの中で今日の事を思い出していました。 失敗魔法で落ち込んでいた所を慰められた事 おとーさんの比類なき強さ 決闘相手だったギーシュさえ傷つけなかった優しさ ギーシュが傷つけた二人と私へギーシュに謝罪させた思いやり 手を繋いだ時のぬくもり・・・ ルイズは部屋に帰った後、おとーさんに明日の虚無の曜日に街へ出て武器を買い物する事を提案しました。 今日の出来事でルイズとしては何かおとーさんに買ってあげたかったのです。しかし、おとーさんは武器は要らないと断ったのでした。 たしかにあれだけ強いおとーさんですから必要ないかとルイズは考えしょげていました。 そんなルイズを見ておとーさんは少し考えると明日自分のうちに招待したいと言ってきました。突然の申し出に戸惑いましたがルイズは行くことにしました。 「使い魔の家に行ったメイジなんて私が初めてだろうなぁ~」 すでにおとーさんが家に帰った部屋でポツリとそう呟くと、ルイズは何故だが可笑しくなってきて一人でクスクス笑い始めました。 その時、扉をノックする音が聞こえました。扉を開けるとそこにはキュルケとタバサが立っていました。 「ななな、なにしに来たのよ」 「別に~、ちょっとあなたの使い魔に興味があったから来たのよ」 「私も興味ある」 あからさまに嫌そうにしているルイズをよそにキュルケとタバサはズカズカと部屋に入ってきます。 「ちょ、ちょっと勝手に入らないでよ」 「いいじゃない。使い魔は・・・おとーさんだっけ?どこよ?」 部屋をキョロキョロさがすキュルケとタバサに諦めたルイズはため息をつくと正直に言いました。 「おとーさんなら帰ったわよ」 きょとんとするキュルケとタバサ、その直後キュルケは吹き出しました。 「アハッ!あんた使い魔に逃げられたの?」 ムッとするルイズはキュルケの言葉を否定しました。 「ちち、違うわよ!!毎日家に帰ってるの!明日の朝にはまた来るのよ!!」 ルイズの言葉に「へっ?」と間抜けな顔をして答える二人でしたがすぐに興味津々な顔をして根掘り葉掘りきいてきました。 結果、部屋についているもう一つのドアについて詳しく説明する事になりました。 説明の後、どういうわけかキュルケは中を覗くと言い出しました。 タバサはプライベートを理由に、ルイズはいつしかの夢の事が頭によぎり止めようとしましたがキュルケは聞かずにドアに手をかけました。 「ちょっとだけ。ちょっとだけだから」 キュルケがドアを少し開けて中を覗いていました。すると、ドアの向こうで誰かがくしゃみをするのが聞こえました。 その後、ルイズとタバサは気絶したキュルケを部屋まで運ぶのでした・・・