約 644,390 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8008.html
前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち ~第4話 もう1組の主従~ ハルケギニアの竜の中に、古代から伝説として詠われる種族が存在する。その種族は言語感覚に 優れ、知能は通常の竜はおろか人間さえ上回り、先住魔法の名で知られる精霊の力を操り、強力な 息吹を武器とし、大空を疾風のごとく飛翔する。 その強力な種族を韻竜といい、その中で風と深く関わる眷族は風韻竜と呼ばれた。 「そして、その一員が、このイルククゥなのね! きゅい!」 魔法学院の片隅で、齢約200歳――人間でいえば10歳前後――である竜の少女、イルククゥは、 自らを召喚した桃色がかったブロンドの少女、ルイズにそう名乗る。その召喚者は半ば呆然とした 表情でイルククゥを見上げていると、やがて我に返ったらしく口を動かしはじめた。 「まさか、貴方が韻竜だなんて思わなかったわ……」 信じ難いとばかりにルイズが言う。 「きっとそうだと思ったから、黙ってただの風竜のふりをしてたの! だって、ルイズ様ったら 風竜を呼んだと思っただけで泣いて喜んでるんですもの!」 風韻竜が人間に劣るなどとはこれっぽっちも思っていないが、一応は使い魔となったのだし 相手のことは様付けしておく。 「これで、わたしが風竜どころか風韻竜だなんて判ったら、嬉しがりすぎで死んじゃうかも しれなかったわ! この風韻竜の機転と心遣いに、感謝するがいいのね!」 初めて一族から暮らす巣の外に出てきたことと、初めて人間と会話していることの興奮から、 イルククゥは口も軽く言葉を吐き出していく。普通の竜ならばこんな風にぺらぺらと喋ることなど 不可能だが、韻竜である彼女には雑作もないこと。それにイルククゥは年頃の少女らしくお喋りな 気質なのだ。 「なんだか微妙に偉そうな態度が気になるけど、それにしても驚いたわ」 イルククゥが1人言葉を続ける中で、ルイズは少し落ち着いたらしい声をだす。 「韻竜は、もう絶滅したっていわれているのに」 「きゅい! それは違うのね。わたしたちは、人間の目から離れた場所に巣を作って、そこで 暮らしているの」 ルイズの言葉に、イルククゥは召喚される直前までいた場所を思い出す。 彼女たちの一族は、俗世間から遠く離れた場所で、修道僧のように毎日大いなる意思への祈りを 捧げ続けるという、なんとも退屈な暮らしを続けていた。父曰く、自分たちのような古い一族は あらゆる危険から離れて長生きすることが世界への恩返しなのだというが、巣の外へ出ることも 許されない生活なんて幼いイルククゥには窮屈すぎる。 だからこそ、イルククゥはルイズが開いた召喚のゲートに、迷わず飛び込んだのだ。偉大なる 古代の眷族たる自分を召喚するのだから、さぞや強力な魔法使いなのだろう、その人物から様々な ことを学べば、一族に新たな知識をもたらせるだろう、そんな期待を胸に。 ゲートの主が思ったよりも頼りな気な少女だったということは少々期待外れだったし、偉大なる 風韻竜の自分をただの風竜呼ばわりしたことには多少怒りを覚えたが、自分に抱きつきながら涙を 流す姿を見ては、とても刺激するような真似はできなかった。 それに、ルイズの容姿が人並み外れて整った、可憐な容姿であることも大きい。ウェーブ気味で、 桃色がかったブロンドの綺麗な長い髪。小柄でほっそりした、柔らかそうな体。勝ち気そうな鳶色の 双眸を持つ、あどけなくも高貴さを感じさせる顔立ち。竜の目から見ても、ルイズは美しいと認める ことができた。イルククゥも女の子、可愛いものには弱いのだ。人間の少女が愛らしい猫や犬に頬を 緩めるように、異種族であっても、むしろ異種族だからこそか、可愛いものは可愛いと感じてしまう ものらしい。 一方、ルイズはイルククゥの言葉に1つ頷くと、なにやら顔を笑みで彩りだす。 「私が、風竜どころか風韻竜を召喚するなんて」 小さな呟き、それを皮切りに、自信に満ちた声が放たれていく。 「そうね、そうよね! とうとう努力が実ったんだわ! 私だってヴァリエール公爵家の娘なんです もの、いつか大成するって信じてたわ!」 満面の笑みで、ルイズは自分の召喚の結果に、再度の喜びを露わにした。ほんの少しだけ、また 目に涙を見せながら。 「見てなさいよ、あいつら! なんたって風韻竜を使い魔にしたんだから! これでもうゼロだ なんて呼ばせないわ!」 「ゼロってなに?」 「なんでもないの! もう関係ないんだから! きっと、この調子で私はどんどん才能を開花させて いくわ!」 言いながら、ルイズは腰に手を当てて薄い胸を張った。 それにしても、先程は泣いて喜んだと思ったら、今度はこの自信たっぷりの様子。愛らしい外見の 割に、結構調子に乗り易いタイプなのかもしれない。 もっとも、お調子者なのはイルククゥも同じなので、似た者主従といえるのだが。 それはともかく、自分を召喚したことでこれほど喜んでくれるルイズに、イルククゥは好印象を 抱いた。 「きゅい! そんなに喜ばれると、わたしも嬉しくなってくるわ! きゅいきゅい!」 歌う様な調子で言いながら、イルククゥはあることを思い出した。 「きゅい! でも、ルイズ様! これだけは覚えておいてほしいのね!」 「? どうしたの?」 「あのヘンテコ! あの気持ち悪いのには、近づいちゃダメなのね!」 イルククゥの言葉に、ルイズは首を傾げるばかりだ。そこでイルククゥも記憶をたどり、補足の 言葉を重ねる。 「ほら、あの青い髪のちびっこ! あの子の召喚したのの1匹なのね!」 「青い髪……ああ、あの子、タバサっていったかしら」 「そうなのね、って、ありゃん? ルイズ様あの子のこと知らないの?」 同じ魔法学院のクラスメイトだということなのに、よく知らなそうな様子に疑問符を浮かべる。 「去年は別のクラスだったし、あの子目立つタイプじゃないから」 ルイズは説明しながら、それにツェルプストーとよく一緒にいるし、とよく判らないことを言って 眉をしかめた。 「それで、あの子がどうかしたの?」 聞き返す召喚者に、若干苛立ちながらイルククゥは繰り返す。 「だから! あの子が召喚したヘンテコ! 3体も召喚されてたけど、その中で1番気持ち悪いの!」 「ああ、あの気味の悪い仮面のこと?」 イルククゥはこくこくと頷いた。 「そうそう、そいつ! あれには近づかない方がいいのね、というか絶対近づいちゃダメなのね!」 「う、うん。まあ、あんなのに近寄りたくはないけど」 鼻息荒く迫れば、ルイズがやや(?)怯んだ様子で応える。 「でも、なんでそこまで念を押すのよ?」 不思議そうな顔で尋ねてくるルイズ。それに一瞬イルククゥの方がきょとんとするが、すぐに 人間は精霊の声が聞こえないことを思い出した。 「あのヘンテコ、絶対危険なのね! だって、あいつが出てきた途端、周り中の精霊たちが一斉に 警戒しだしたんだもの!」 「精霊が警戒? そんなことってあるの?」 どうやら韻竜が精霊の声を聞ける種族であることは理解しているらしい。召喚者の博識ぶりに 嬉しくなるが、今はおいておく。 「今まではそんなこと1度もなかったし、お父様もお母様も長老様たちも、誰もそんなことが あるなんて言ってなかったのね。だから、そんな事態を引き起こすあいつは、絶対に危ない奴 なのね!」 語気も強く、力説してみせた。あんな者に、この愛らしい召喚者を会わせるわけにはいかない。 あの時の精霊たちの声、あんな怯えを含んだ声なんて、聞いたことがなかった。第一、あの 仮面の姿自体も気に入らない。繰り返すが、イルククゥは女の子。可愛いものは好きだが、不気味な ものは嫌いなのだ。まずは外見で第一印象が決まることは、どの種族もあまり変わりがない。 「えーっくし!」 「どうしたの、ムジュラの仮面?」 突然奇妙な声を上げるムジュラの仮面に、ナビィが驚いた。 「いや、なにか急にくしゃみが……」 ムジュラの仮面が戸惑った風で言うと、今度は才人が訝しむ。 「鼻も口もないくせに、どこでくしゃみ出すんだ?」 「いや、オレもこれまでこんなことはなかったんだが……」 そして、ムジュラの仮面は体ごと首を傾げ、周りの者たちも合わせる様に首を捻るのだった。 「そう、判ったわ。元々そうするつもりはなかったけど、あの仮面には近づかないようにする」 シルフィードの警戒心が伝わったのか、ルイズは先程よりもはっきりと約束してくれた。それに 安堵の息をつくと、今度はルイズが表情を引き締めて口を開く。 「でも、私の言うことも聞いてちょうだい」 「? なんなのね」 聞き返すと、ルイズは周囲を見回して、人目があるかどうかを確認した。今更という気がするの だが。やや呆れ気味に見ていると、ルイズはイルククゥに近づき顔を下げさせる。 「今日から、人前で言葉を話すのはダメだからね」 そして、声をひそめて耳打ちされた言葉に、激昂する。 「何を言い出すのね、この桃色娘は! 偉大なる風韻竜であるこのわたしに、いつまでもおバカな 風竜なんかのふりをしていろっていうの!」 唾と一緒に抗議の声を飛ばした。今日はルイズが落ち着いてからということで我慢したが、 これから毎日会話してはいけないなど冗談ではない。その怒りのままに、イルククゥは文句の 言葉を放っていく。その声の風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、ルイズは長い髪を抑えつつ 言葉を続けた。 「お願い、聞き分けて! 韻竜種は絶滅していると思われてるし、もし貴方のことが知れたら きっと大変なことになるわ!」 「大変なことって、どんなことなのね」 まだ憮然としながらも、少し声を抑えてイルククゥは聞いてみる。その質問に、ルイズが 溜息混じりで説明を始めた。 「きっと、アカデミー(魔法研究所)が研究のためだっていって、貴方を連れていっちゃうで しょうね。もしそうなったら、きっと連日連夜実験材料にされて、挙句の果てには体を バラバラに……」 ルイズの語る内容に、イルククゥは慄然とする。 「こわい!」 たかだか言葉を喋るか喋らないか程度のことで、そんなことになり得るとは思いもよらなかった。 恐怖の声を上げるイルククゥに、ルイズは頷く。 「そう、恐いことになっちゃうのよ。私もそんなことにならない様させたいけど、アカデミーは 王立機関だからヴァリエール家でも流石にどうにもできないし、それに万一エレオノール姉さまに 知れようものなら……」 そこまで言うと、突然ルイズは身を震わせ始める。 「きゅい?」 それに怪訝としていると、ルイズの口からなにやら言葉が漏れていることに気が付いた。 「ごめんなさい姉さまでもイルククゥはせっかく召喚できた私の使い魔なんですだから 取らないで……」 「きゅ、きゅい……?」 自分の鱗のように顔を青くしながらぶつぶつと呟くその姿に、イルククゥは我知れず 後ずさった。その距離、約3メイル程。先程のエレオノール姉さまなる人物に、よほどなにか あるのだろうか。 「貴族の義務は判っていますですけどおねがいです連れていかないでああごめんなさいほっぺた つねらないで顔ふまないでごめんなさい母さまへの報告だけは堪忍して……」 「あ、あの……、ルイズ様……?」 憑かれたように独り言を続けるその様は正直不気味この上ないが、イルククゥは思い切って 声を掛けてみた。そこで、やっと正気に戻ったらしいルイズが咳払いをする。顔色はまだ 真っ青なままだ。 「と、とにかく、喋ったら大変なことになるから、他の人には喋っているところを見られない ようにしなきゃダメなんだからね!」 びしっと指を突きつけてくるルイズに、イルククゥは勢いよく首を上下させた。先程の尋常で ない、むしろなさすぎるルイズの様子に、すっかり不安が伝染してしまったのである。 そこで、ルイズが何か思いついたような顔をした。 「そうか、それなら名前も変えた方がいいかもしれないわね」 「きゅい? 名前?」 「ええ。イルククゥって可愛い名前だと思うけど、私が思いつくような名前じゃないし、なんで そんな名前にしたかって聞かれたら答えられないもの。もし聞いてきたのが姉さまだったり したら……」 そこまで言って、また何処か遠い所に行ってしまいそうになりかけるルイズに、イルククゥは 慌ててブレーキを掛けさせる。 「そ、そういうことだから、人前ではなにか別の名前で呼んだ方がいいと思うのよ」 言うが早いか、ルイズは唇辺りに指を当て、考え込み始めた。 「風韻竜なんだから、風に関する名前の方がいいわよね、それに女の子だし、可愛い名前に しなきゃ」 眉根を寄せて、可愛らしく唸るルイズ。それを見ていると、自然と胸が温かくなってきた。 使い魔となった自分の身を案じてくれ、自分の名前を一所懸命に考えてくれている。そのことに、 イルククゥはルイズの優しい心根を感じずにはいられなかった。 そして、やがてルイズは結論が出たらしく、両の手を打ち鳴らす。 「うん、決めた! シルフィードっていうのはどう?」 「シルフィード?」 聞き返すと、ルイズは笑顔で頷いた。 「物語に出てくる、風の妖精の名前よ。どうかしら?」 ――シルフィード…… ルイズが考えてくれた名前を反芻していると、心が感激に染まっていくのが判る。 「素敵な名前ね! きゅいきゅい! 可愛くて綺麗な名前! 新しいなーまーえー!」 跳びはねたい様な喜びを歌声で表してみれば、ルイズの方もますます顔をほころばせていった。 「ふふ、気に入ってくれたみたいね」 「ええ、とっても! どうもありがとう、ルイズ様!」 感謝の言葉を告げながら召喚者、否、主人であるルイズに鼻先をすりよせる。 「も、もう、使い魔が勝手にご主人様に顔を近づけるなんて、本当は不敬なんだからね」 口ではそんなことを言っているが、その紅潮した頬と緩んだ口許を見れば、照れ隠しである ことは見え見えだ。そんな主の子どもっぽい愛らしさにイルククゥ、否、シルフィードの中で ルイズへの愛おしさが募っていった。 「でも、あのヘンテコには絶対近づいちゃいけないのね!」 だからこそ、あの奇妙な仮面に対しては、釘をしっかり刺しておく。 そして、実のところその考えは決して的外れのものではなかった。 ハルケギニアに生息する幻獣と、ハイラル、タルミナ等でモンスターと総称される魔物や魔族。 姿形に関しては大差が無くもないのだが、この両者はある一点において大きく異なっている。 それは、幻獣が生態系に則った存在であるのに対し、モンスターはこの世のルールの乱れから 生まれ出るものであるということだ。 世界のルールの乱れ、例えば世の平和が脅かされる時、そこにモンスターの生まれる余地が 生じる。生まれたモンスターたちはその凶暴性のままに世を乱し、それが更にモンスターを 生む。その歪んだ生態故に、モンスターは世界の理法を司る精霊たちとは敵対関係にあった。 普通、幻獣は精霊と戦おうなどとは思わないし、中には韻竜のようにその力を借りるものさえ いる。しかし、モンスターはそうではない。例を挙げるなら、ハイラルではナビィの故郷である 森を守護してきた精霊デクの樹が魔物に呪い殺されたし、それとは別の時代に空の精霊ヴァルーや 水の精霊ジャブー等が魔物に脅かされ、また別の時代にはフィローネ、オルディンといった光の 精霊たちが魔物に力を封じられている。そして、当の奇妙な仮面、ムジュラの仮面自身もまた、 邪気と魔力が健在の頃はタルミナの四方を護っていた守護神たちを呪って魔獣に変えた上、精霊の 眷族である大妖精を――殺したわけではないが――ばらばらに引き裂いていた。 世界に仇なし、時として精霊さえも手にかける魔性の命、それを魔物や魔族と呼ぶのだ。 そんな異世界の存在の生態をシルフィードたちが知る由はないが、それでもシルフィードはあの 仮面に対しては最大限の警戒をしておくよう、心に決めていた。 と、そこでシルフィードのお腹がくぐもった音を鳴らす。 「きゅい、ルイズ様、わたしお腹がすいた、お腹がすいた、お腹がすいた!」 「そうね、そういえば、召喚してからまだご飯あげてなかったっけ」 思い出したようにルイズは言うと、踵を返してシルフィードを招いた。 「じゃあ、いらっしゃい。厨房の場所を教えるから、貴方が来たらご飯をもらえるように 言いつけておくわ」 「きゅい! ごはんごはん!」 喜ぶシルフィードに、ルイズは少し眼を厳しくさせる。 「でも、約束ちゃんと判ってるわね?」 「きゅい! きゅいきゅい!」 喋ってはいけないことを覚えていることを示すように、シルフィードは竜の泣き声で応えた。 その態度に満足したらしいルイズは、シルフィードを厨房に連れていき食事を与えてくれる。 その食事の美味しさに、シルフィードは思わず感涙してしまった。巣では調理という概念が なかったため、貴族用の食事を作るコックたちの料理は新鮮な驚きと喜びに満ち溢れていた。 そして、そんな食事を与えてくれた主のことが、ますます好きになっていく。舌鼓を打ちながら、 イルククゥ改めシルフィードとなった風韻竜の少女は、新たな絆の証である使い魔のルーンを 見つめるのだった。 その左前足の甲に浮かんだルーンが何を意味し、自分を召喚した少女がどういうメイジなのか、 何も知らないままに。 ~続く~ 前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5039.html
前ページ次ページとりすていん大王 とりすていん大王 二回目 「ん・・・ふかふか・・・・くー」 召喚の儀式から一日たった朝、ルイズ(一応この物語の主人公)は低血圧で未だに寝てました 「すごく・・・・ふかふ・・・か?」 ルイズの血が段々と頭にめぐってくると一つの疑問が浮かびます (あれ?私の布団ってここまでふかふかだっけ?) チッ、チッ、チッ、ガバッ!! ルイズが勢いをつけて飛び起きると、枕があるべき場所には 「やぁ、ルイズちゃん良く眠れたようだね」 お父さんが横たわっていました 「え・・・・きゃあああああ!?」 「はははは、昔はよくモンモランシーも私のお腹枕でぐっすり眠っていたものだよ」 なんとかルイズは持ち直し、流石に級友のお父さんには手伝えなどとは言えず、 なんやかんやと着替えや、何やら準備も自分で終わらせ、朝食に食堂に行こうとした時、 廊下で何かにつけてお隣のキュルケとばったり会いました 「あら、ルイズ、あなたの使い・・・・え?確か・・・・あなたは・・・?」 「始めまして、モンモランシーの父です」 「いや、昨日会ってますから・・・・それに帰ったんじゃ?」 キュルケの疑問に朝っぱらから非常に疲れた顔したルイズが答えます 「・・・私の使い魔が見つかる間、使い魔の代わりをしてくれるって・・・」 その言葉を聞いて、キュルケは唖然と口を開けてしました 「・・・・ねぇ、ルイズ・・それっていいの?」 「私がいいと言ったんだよ」 くるくると回転しながらお父さんはキュルケの使い魔のフレイムに近づいていきました 「なかなか立派なサラマンダーだね」 そういってお父さんはフレイムの頭を撫でます 「そうでしょう、なかなかのモノでしょ」 キュルケも使い魔を褒められてまんざらでもありません 「そうだ、ルイズちゃん、君もなでてみないか?今のうちに使い魔になれるのもいいだろう」 「そうね、それはいい案ね」 そうお父さんとキュルケに言われてルイズはフレイムの頭に手をのばし・・・・・・ ガプッ 右手をかじられてしまいました 「痛い・・・・」 フレイムはルイズの手を放すと凄い勢いで物陰に隠れてしまいました 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・ルイズ」 「機嫌悪かったのかしら?」 所変わってここは教室、朝食を終わらせタバサちゃんは一人本を読んでました でも実は別の事を考えています (モンモランシーの髪の毛・・・・) 何かを確かめるべくモンモランシーの所にやってきました 「あら、タバサ何か用かしら」 無言でモンモランシーの左右のロールした髪の毛をくいくいとタバサちゃんはひっぱります 「・・・・取れない」 「取れる訳ないでしょ」 「一体式なの?」 「何が?」 聞くだけ聞くとタバサちゃんは自分の席に戻っていきます モンモランシーも首をかしげるばかり タバサちゃんがノートに何か書き始めたのでこっそり覗いて見る事にしましょう タバサノート モンモランシーのドリルは一体式、取り外し不可 「私の髪の毛はドリルじゃないわよ!!」 スパンとタバサちゃんの頭をモンモランシーのハリセンがヒットしました 頭をさすりながらタバサちゃんは考え込んで言いました 「じゃあ・・・・バーニア?」 「それも違う!!」 本日二度目のハリセンが飛んだ所で、授業が始まったのでした この後シュヴルーズ先生がお父さんに説教されたり、ルイズが魔法を失敗したり、 飛び散る破片をお父さんが跳ね返したり、ルイズが掃除したりと色々あるのですが、 お昼にあんなとんでもない事件が起きるとはまだ誰も想像できなかったのです 続く 前ページ次ページとりすていん大王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6131.html
前ページ次ページ未来の大魔女候補2人 早朝。辺りはまだ薄暗く、太陽は東の山から顔を出し切っていない。 空には霞のような雲がかかり、空気は冷え切っている。 朝靄が立ち込める魔法学院の中庭に、少女の姿があった。 少女の出で立ちは、乗馬用のブーツとキュロットを穿き、丈夫な布地で織られた旅用の外套というものだ。 キュロットは、足捌きがしやすいようピッタリと足に密着しており、更には股ズレを防ぐため膝や股の部分が補強されている。 頭には乗馬用の帽子を被り、左右の手にはそれぞれ旅行カバンと60サント程の馬上鞭を持っている。 誰がどう見ても完璧なまでの旅装であった。 少女は首筋辺りで括ってあるピンクの髪を揺らし、朝露に濡れた芝生を踏みしめてゆく。 表情こそ落ち着いてはいるが、少女の足取りは速く、時間を気にしている様子であった。 少女は人目を気にしているのか、植え込みの裏側に隠れるようにして移動している。 早朝とはいえ、人目が完全にないというわけではない。生徒達はともかく、使用人たちならば起きていても不思議ではないのだ。 なるべく慎重に、それでいて早足に少女は進んでいく。 男子寮の前を通り抜けようとした時、突如として、静謐な朝の空気を押しのける音が耳に届いた。 それに素早く反応すると、少女は身を低くして植え込みの陰に隠れる。 少女は植え込みの隙間から男子寮を見上げると、3階の部屋の窓が開いているのを見つけた。 パジャマ姿でナイトキャップを被った金髪の少年が、ベランダに姿を現す。 少年は手すりに手を掛けて身を乗り出すと、肺腑一杯に朝の空気を取り込み、それを一気に吐き出した。 「このギーシュ・ド・グラモン! たくさんのメイジの中において、 ひときわ大きく輝く大メイジになってみせるぞ!」 そう叫ぶと同時、小鳥たちが一斉に飛び立つ。 少年の雄叫びは、空へ吸い込まれるようあたり一面にこだました。 「うむ。今日も良い1日になりそうだ」 満足げに頷くと、少年は晴れ晴れとした顔で部屋の中へと引っ込んでいった。 後には何も残らない。ただ、静かな朝が続いていくだけだ。 「あいつ…… 毎朝あんなことしてたの?」 級友の意外な行動を目撃したルイズは、植え込みから顔を出すと、男子寮を見上げながら呆気にとられた表情でそう呟いた。 未来の大魔女候補2人 ~Judy Louise~ 第12話‐前編‐ 『ルイズと覆面』 誰にも出会わずに厩舎から馬を連れ出したルイズは、学院の正門前で出発の準備を進めていた。 既に太陽は東の山から姿を表しているが、朝靄はいまだに晴れずにいる。 ルイズは馬の背中に毛布を敷くとその上に革製の鞍を載せ、腹帯で胴に固定する。鞍には金属製の鐙がついており、その高さも調節する。 手慣れたもので、ルイズは淀みのない動きで荷物を鞍へとくくりつけ、出発の準備を完了させた。乗馬はルイズにとって誇れるモノの一つである。 「……ジュディには黙って出てきちゃったけど、書き置きもしたし大丈夫よね?」 ルイズは誰にも言わずに此処まで来ていた。本当ならば、一言かけてからにしたかったのだが、事情が事情なので何も言わずに出てきたのであった。 一応書き置きはしておいたのだが、それでも何か引っかかりを覚え、ルイズは座りが悪く感じる。 ジュディが帰るための手がかりは未だに何も掴めていないのだ。この状況で遠出をするのは、責任を放棄しているように思えてくる。 取り敢えずの手段は講じたのだが、その結果はまだ出ていない。 「ブフゥルルゥン……」 思考の迷宮に入ろうとするルイズに『出発はまだか?』と、言わんばかりに馬が鼻を鳴らす。 考えても栓のないことだと、ルイズは頭を振って迷いを振り払った。今出来る事をやるしかないのだと、そう自分に言い聞かせる。 鼻先を擦りつけてくる馬の顔を撫でてやってから、ルイズは鐙に軽く足を掛け、身軽に鞍に跨った。そして、手綱を取り具合を確かめる。 軽く息を吸い込んでから、ルイズは行く先を見据えた。 街道は霧で霞み、視界は悪い。更には、石畳は朝露に濡れ、滑りやすくなっているようだ。慎重に馬を走らさなければ、転倒は容易だろう。 ルイズはそう考えながら、軽く馬の腹を蹴ると、出発の合図を送る。 「さあ、出発よ!」 「待ちたまえ」 その矢先、後ろからルイズを呼び止める声が飛んできた。 ルイズは咄嗟に手綱を引いて馬を止めると、素早くそちらへと振り向く。 すると、ルイズの双眸は、正門を潜りぬけて此方へと進んでくる人影を捉えた。 「誰っ!?」 緊張の色を帯びた硬い声でルイズは誰何する。 誰にも目撃されないよう、態々出発を早朝にしたのだ。それなのに、見つかってしまっては元も子もない。 どうやって誤魔化そうかと考えながら、ルイズは心が波立つのを感じる。 しかし、いくら眼を凝らしても、朝靄のお陰でその人物の姿は朧げにしか確認できない。 判ることといえば、男性で、ルイズよりも随分と背が高く、黒のマントと鍔広の帽子を被っている事くらいだ。 近づいてくる男は一旦立ち止まると、落ち着いた声で再度呼び掛けてきた。 「そう警戒する事はない。僕は、君に付き添うように言われてきたのだよ」 「……姫殿下から?」 ルイズの脳裏に浮かぶのは、敬愛する王女の姿。彼女ならば、ルイズのために人員を割く位の事は容易いだろう。 きっと自分を心配しての配慮だろうと考えるが、その一方で信用されていないようにも思い、ルイズは気落ちする。 そんなルイズの心中を知ってか知らずか、男はあくまで穏やかな口調を崩さない。 「そうだ。君を守るよう命じられてきた。 ……そちらへ行っても構わないかな?」 男はそう言うと、ルイズの返事も聞かずに、落ち着いた足取りで歩行を再開した。 ルイズは男の声をどこかで聞いた事があるように感じたが、警戒は解かずに固い面持ちで男が近づくのを待つ。 2人を隔てる距離が縮まるにつれ、徐々に男の姿が露になってくる。 「貴方は……?」 男の顔が明確になると、ルイズは息をのんだ。 黒無地のマントに、飾りもそっけもない鍔広の帽子。腰には細身の杖を下げ、無駄のない引き締まった体つきをしている。 丈夫そうなブーツを履いた2本の足で地面を確りと踏みしめ、上体は全く揺らいでいない。 そして、何よりも特徴的なのは、目元を隠す覆面であった。 覆面の男は、人差し指で帽子を軽く持ち上げてみせる。 「僕の名前は…… フランシス。マスク・ド・フランシスだ」 白い歯を光らせ、自信に満ちた声でそう名乗った。 あまりにも突拍子もない光景に、ルイズは目が点になり、頭の中が真っ白になる。 口を金魚のようにパクパクさせてから息を呑みこむと、オウム返しに問い返す。 「ま、ますく・ど・ふらんしす?」 「そうだ。まあ長ければ、略して覆面と呼んでくれたまえ」 「は、はぁ……」 ルイズは馬に跨ったまま、呆然とした顔で男を見下ろす。 男はその不躾な態度に気にした様子もなく、つるりとした顎を撫でてニヒルに笑うと、おもむろに口笛を吹いた。 甲高い口笛が空へと吸い込まれるように響き、そして消えていく。数瞬の静寂の後、翼がはためく音が近づいてきた。見上げると、巨大な影が飛来してくる。 影は男の傍らに降り立った。その正体は、鷲の翼と上半身、そして獅子の下半身をもつ幻獣『グリフォン』だ。 男はグリフォンの首周りを撫でながらルイズに向き直る。 「紹介しよう。これが僕の使い魔さ」 グリフォンは、ルイズに挨拶をするように一声嘶いた。 馬が怯えたように後ずさる。グリフォンは馬よりも大きく、その鋭い爪や嘴は容易に肉を引き裂くことだろう。 優れた飛翔能力と遠くまで見通す視覚。そして、猛禽特有の鉤形に曲がった嘴と鋭い爪を持つグリフォンは、空の生態系の頂上を成す一つであり、力の象徴でもある。 そのような強大な脅威が目の前に現われて、ただの馬が平気でいられるはずもない。馬は必死に距離を取ろうと暴れまわる。 「こっ、こら! 大人しくしなさい!」 暴れる馬を必死で御そうとするルイズであったが、恐怖に駆られた馬は一向に静まらない。 「少し乱暴だが、仕方がないか……」 男は他人事のようにそう言うと、ゆったりとした仕草で腰から下げた杖を手に取った。 杖は細身であるが金属製の丈夫な物で、表面についた細かな傷から相当使いこまれたものだという事が分かる。 それをレイピアのように構えると、暴れる馬に狙いを定めてルーンの詠唱を行う。 瞬く間にルーンは完成され、杖を突き出す動作と同時に魔法を解き放つ。 その瞬間、ピタリと馬の動きが止まった。決して大人しくなったわけではない。何かに拘束され、動きたくても動けないようだ。 「その馬には悪いが、動きを止めさせてもらった」 「風のスペル…… 『拘束』?」 「その通り。なかなかの慧眼だ」 ルイズの呟きに、男は杖を戻しながら感心したように頷く。 『拘束』とは、不可視の風のロープで対象の動きを縛る魔法である。 その魔法を騎乗しているルイズに影響を与えずに、暴れる馬だけに効果を発揮させるのには、優れた技量を要求される。 ならば、いとも簡単にその妙技を成功させたこの男の技量は、如何ほどのものなのか見当もつかない。 「やはり貴方は……」 ルイズの中で1つの人物が浮かび上がる。 その人物とは、彼女が憧れていた青年。彼は若くして子爵の位を相続し、卓越した魔法の才能を備えていた青年。 この10年間、碌に会う機会に恵まれなかったが、それでも婚約者であったし、思い人であった。聞いた話では、魔法衛士隊に入隊したという。 母に叱られ池のほとりで泣いていた幼い自分を、優しく慰めてくれた事をルイズは思い出す。 抑えきれない感情がルイズを突き動かそうとするが、男は首を横に振り、視線を遮るように掌を前に突き出すと、有無を言わさぬ声でそれを制した。 「それは違う。ここにいるのは覆面という男だ」 「けれど、貴方はワ……」 男は語調を強め、それ以上の追及を拒む。 「それ以上は駄目だ。僕は君と出会ったことはないし、君も僕と出会ったことはない」 「しかし……」 「わかってくれないか? 僕がここにいるのは命令だからだ。任務の遂行を第一に考えなければならない」 「…………」 覆面に隠された男の瞳は、悲しげな光を宿していた。それに気がついたルイズは、なにも言えなくなってしまう。 その瞳からは、強い意志と覚悟が読み取れ、そう易々とその態度を翻しはしないだろうという事がルイズにも分かった。それ故に、ルイズは沈黙するしかないのだ。 押し黙るルイズを見て、覆面は優しげな声で言い聞かせる。 「いいね? 姫殿下から承った大切な任務だ。それを忘れないでほしい」 「……わかりました」 ルイズはどうにかして声を絞り出す。彼女は今更ながらに気がついてしまった。いや、再認識したという方が適切か。 2人の間にある距離は、子供と大人の間にあるそれと同じだ。その途方もない隔たりを埋めるのは、容易ではないだろう。 時間だけが問題ではない。彼の横に立つためには、経験、覚悟、その他にも様々な要素がルイズには足りていないのだ。 それに気がついてしまったルイズは、項垂れるしかない。 「ありがとう…… ルイズ」 「……はい」 自分の感情をどうにか抑え込むルイズに、覆面は短い言葉で感謝する。 「では、そろそろ出発しようか。僕は空から警戒をする。速度は君に合わせよう」 覆面はグリフォンに跨ると、馬を拘束していた魔法を解除する。 そして合図を送ると、グリフォンは羽ばたき、宙へと舞い上がった。 羽ばたきで生じた旋風が霧を舞い散らし、ルイズの肌を打つ。冷たい風に打たれて、ルイズは気を引き締めた。 「では出撃だ!」 覆面は、杖を引き抜き掲げると、号令を発した。ルイズはそれに従い、馬に合図を送り走らせる。 その動きに合わせて覆面は、馬の視界に入らぬようグリフォンの位置を調節すると、周囲の警戒を行う。 朝の風を切って街道を駆けていく。 肌で朝の冷たい空気を感じながら、ルイズは目的地であるアルビオンへと思いを馳せる。遥かな白の国には、何が待ち受けているだろうか? そう考えると、ルイズは改めて気を引き締めた。 中編へ続く 前ページ次ページ未来の大魔女候補2人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2098.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 こんな笑い声、聞いた事がなかった。 「あはははははははは」 単調で、けれど深い闇を内包し、聞くだけで心が蝕まれるような。 ルイズは逃げ出したい衝動に駆られながらも、恐る恐るコルベールへと視線を向ける。 右腕の肘から上を失い、そこから多量の血をこぼしながら、悲鳴ひとつ上げぬコルベール。 そんな彼に、言葉は再び、ノコギリを。 「――駄目ッ」 だからルイズは、咄嗟に言葉とコルベールの間に割り込む。 言葉の黒く黒く深く深く暗く暗く淀んだ淀んだ瞳にルイズが映る唇が弧を描く。 「あなたも、私から誠君を奪おうっていうんですか?」 「ち、違う。そうじゃ、ないの」 「大丈夫ですよ。私は寛容ですから、誠君が他の女の子に目を向けても構いません。 でも、誠君は言ってくれたんです。これからは私だけを見てくれるって。 けれど西園寺さんみたいに誠君を傷つけようとするなら、私は」 「あの、あのね、ミスタ・コルベールは悪気があった訳じゃなくて。 別に、あなたと、そ、その、マコト君を引き離そうとなんて……。 で、ですよね!? ミスタ・コルベール!」 半泣きになりながらルイズは叫んだ。 そして、その後ろで、コルベールがか細い声で答える。 「……その通りだ。すまない、思慮に欠ける発言をしてしまった。 コトノハ君……とにかく、ここは人目がある。 ミス・ヴァリエールと一緒に、治療室まで来てくれないか?」 人形のような感情の無い表情で、言葉はコルベールを見つめていた。 嘘か本当か、見極めようとしているのだろうか。 けれど、ルイズは早く今の状況を何とかしたい一心で言う。 「だ、大丈夫。あんたは私の使い魔なんだから、あんたの大事なモノを奪わせたりしない」 「……本当ですか?」 「本当よ。だから、ミスタ・コルベールを運ぶのを手伝って。早く手当てしないと」 「……解りました。それじゃ、行きましょう、誠君」 その後、キュルケがコルベールに、タバサがコルベールの右腕にレビテーションをかけ、 治療室まで運んでくれた。そこでコルベールは治癒の魔法を受ける。 治療を受ける直前にコルベールはキュルケとタバサを寮に帰し、 使用人のメイドに言葉の着替えを用意させると、 血で服を汚しているルイズと言葉に着替えるよう指示する。 ルイズは自分の部屋から着替えを持ってきてもらった。 着替え終えた二人は、コルベールの治療が終わるのを待つ。 その間、ルイズは使い魔の言葉と顔を合わせようとしなかったが、 ふいに言葉はルイズに話しかけてきた。誠の首を持ったままで。 「ここは、魔法の国なんですか?」 「え? え、と、魔法なら私達貴族は使えるわ」 「そうなんですか、素敵ですね」 「ま、まあね」 「ねえ、ルイズさん。私はあなたの使い魔になってしまったんですか?」 「う、うん。いや?」 いやなら、やめてもいいわよ。なんて。 「いいえ。少し嬉しいです」 何で!? ルイズは泣きたくなった。 「ルイズさんは、私と誠君を守ろうとしてくれました。 私達を祝福してくれる人がいるなんて……ほら、誠君も喜んでます」 と、顔を、見せられた。死体の顔を。 もちろん直視などしない。 唇を引きつらせながらルイズは、視線をあっちこっちに泳がせる。 「あ~……そう。どうも」 逃げ出したい逃げ出したい逃げ出したい。ルイズは心の中で連呼した。 そこに、コルベールの大怪我を聞いたオールド・オスマンがやって来る。 オスマンは言葉と、誠を、見て、顔をしかめたが、無言で治療室の奥へ向かった。 そこでは右腕を何とか元通りつなごうと苦心する水のメイジの姿があり、 コルベールは酷い汗をかきながら痛みをこらえていた。 「ミスタ・コルベール。災難じゃったな」 「オールド・オスマン……」 「ちょっと内緒話でもしようかの」 オスマンは杖を取り出すと、素早い口調でサイレントを唱えた。 風系統の魔法で、外界の音を遮断する魔法だ。 オスマンは自分とコルベールの周囲のみ魔法で包み、 治療を続ける水のメイジだけは魔法の外という絶妙なコントロールをやってのける。 「さて、これで誰にも話は聞かれまい」 「ええ」 「まず何から話せばいいのやら……。のう? ミスタ・コルベール。 とりあえず、怪我の具合はどうかね」 「大丈夫。腕は元通りくっつくでしょう」 「本当に『元通り』ならいいがね」 どうやらお見通しらしいとコルベールは苦笑した。 かつてとある部隊に所属し、数多の戦場を焼き払ったコルベールは、 こういった傷がどうなるものかを重々承知していた。 例え腕がくっついても、その腕は握力を失い、言う事を聞かず、杖すら持てなくなる。 腕があるか無いかの違いがあるだけで、実質的には片腕を失ったも同然だ。 「あの胸の大きな少女を、ミス・ヴァリエールの使い魔にしたそうじゃな」 「……使い魔の召喚は神聖な儀式。彼女が召喚したのだから、当然でしょう」 「しかしあの娘はお前さんの腕を」 「あの娘は被害者です、心を病んでいるのだから。罰などは与えないでください」 「首を抱えとる者が相手でもか?」 「私は、心の壊れてしまった人間というものを、何度か目撃しております。 それは水の魔法薬を使ってなどと生易しいものではありません。 人は、真に恐怖し、絶望し、喪失した時、壊れる事で己を守る。 壊れた心を治すには、長い、長い時間と、優しさが必要なのです」 「贖罪のつもりかね」 厳しい口調でオスマンが訊ねると、コルベールはゆっくりとうなずいた。 「……あの娘は、お前さんのせいでああなった訳ではあるまい。 なのに背負い込もうというのかね? いや、背負わせようというのかね? 償う罪など犯しておらぬ、ミス・ヴァリエールにまで」 「傲慢だと言ってくださって構いません」 「ほっ! では言おう、傲慢じゃなミスタ・コルベール!」 温厚で、いつもふざけていて、怠け者で、怒るという行為を知らないような老人。 しかし今、オスマンは怒っていた。 ミス・ヴァリエールに途方も無い重荷を背負わせようとするコルベールに。 「……コトノハといったか。同情しておるのだな、あの娘に」 「ええ」 「聞けば、彼女の持っている首は、恋人のものだとか」 「ええ。恐らく何者かに目の前で恋人を惨殺され、心が壊れたのでしょう」 「しかし首を切断したのはあの娘かもしれぬぞ」 ドクンと、コルベールの心臓が跳ねる。 (さすがはオールド・オスマン、そこまで見抜きましたか。 私しか気づいていないと思っていたのですが……) 彼女の彼氏、誠という男の首の切り口を見れば、どのように切断されたか想像はつく。 鋭利な刃物で刎ねられたのではない。 あの傷口は、そう、ノコギリのようなもので切り裂いた傷だ。 ならば、血濡れのノコギリを持っている言葉こそが、誠という少年を。 「まあ断言はできんのじゃがな。それともうひとつ、その腕を切断したノコギリじゃが」 「……血が付着したままで、特に手入れした様子もない、普通のノコギリに見えました。 ノコギリは何度も刃を押し引きして物を切る……」 「私は『ノコギリで腕を切断された』としか聞いておらん、 まさか木の枝を切り落とすようにノコギリを押し引きされていた訳ではあるまい」 「……彼女の左手に刻まれた見慣れぬ使い魔のルーンが光ったと思った次の瞬間、 すでに私の腕は切り落とされていました。とても、人間業では」 「あのノコギリがマジックアイテム、という訳でもなさそうだしのう」 「そうですね。……うぐっ」 「おっと、長話しすぎたようじゃな」 オスマンはサイレントを解いて会話を打ち切ったが、その瞬間咳き込む声を聞いた。 「何じゃ?」 「ミス・ヴァリエールが咳き込んでいるようです。この臭いじゃ仕方ないでしょう」 サイレントの外にいた水のメイジが言い、オスマンとコルベールは納得する。 言葉の抱いている誠、いつ死んだのかいつ首を切断されたのかは解らないが、 すでに死臭が漂い始めている。嗅ぎ慣れぬ者にとってはつらいだろう。 「オールド・オスマン。あの少年はあの娘の心の拠り所のようです。 無理に引き離してしまっては、どうなるか解りません。……頼めますか?」 「やれやれ。どうなっても知らんぞ」 オスマンはがっくりとうなだれながら、ルイズと言葉の前に移動した。 「あー、コトノハといったか」 「はい」 「私はオールド・オスマン。このトリステイン魔法学院の学院長をしておる者じゃ。 いきなりで不躾ではあるが、その、この臭いを何とかしたいんじゃが」 「臭い……? ああ、ごめんなさい。誠君、お風呂に入れて上げないと」 「まあ、そうじゃな。お風呂に入れて上げなさい。その後『固定化』をかけて上げよう」 「固定化?」 「彼が、これ以上崩れていかぬようにする魔法じゃよ」 彼女が凶行にでないか、オスマンはわずかに身構えながら訊ねた。 が、言葉はすんなりとオスマンの申し出を受けて頭を下げる。 「ありがとうございます。では、誠君をお願いしますね」 「うむ」 どうやら、言葉という少女は誠が死んでいる事を理解しているらしい。 その上で、まだ誠が生きていると信じている。 だから『崩れていかぬように』という話も通じるのだ。 人間の心など元から矛盾を抱えているものだが、 心が壊れてしまった人間は常人以上の矛盾を抱えられるものという事だろうか。 治療室にあった水で誠を綺麗に洗い、水を拭った言葉は、 オスマンから固定化の魔法を誠にかけてもらい、嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔を、コルベールは哀れみ、ルイズは恐怖を覚える。 こんなのと一緒にいたら、自分の精神がどうにかなってしまう。 そう思いながらも、この哀れな少女を救えるのならという優しさもあって、 結局コルベールに頼まれるがまま、少女を使い魔として扱わざるえないルイズ。 「今日から誠君と一緒にお世話になります、ルイズさん」 「え、ええ。あの、嫌なら使い魔なんてやめてもいいから」 「いいえ。邪魔者ばかりの"世界"から解放してくれたルイズさんには感謝してますから。 大丈夫、ルイズさんが私達を守ってくれるように、私もルイズさんを守って上げます。 誠君のように」 狂気は正気を蝕んでいく。果たしてルイズと言葉の行き着く未来は――? 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6032.html
前ページ次ページデモゼロ ゼロのルイズ改め、馬鹿力のルイズ 気まぐれに出かけた街で、サビた剣を購入した インテリジェンス・ソードの癖に錆びているそいつの名前はデルフリンガー 錆びてる癖に態度がでかい なんと言うか、生意気? 本当なら、貴族たるルイズ、こんな剣なんていらない ……けれど 何故だろう、デルフリンガーを持っていると、体が軽く感じるのは ……何故、だろう 剣なんて、持った事もないのに この柄が、やけに手に馴染むのは 「オールド・オスマン!!」 大発見をしてしまったコルベール 大急ぎで、ノックもそこそこに学院長室の扉を開けた そこで、彼が見た光景は 「死ね!氏ねじゃなくて死ね!!糞じじぃーーーーーっ!!」 「っぎゃーーー!?死ぬ!本当に死んでしまう!ロングビル、ギブ、ギブーー!!」 ぎりぎりぎりぎり 割と本気でオールド・オスマンの首を締めにかかっている、憧れの美人秘書、ミス・ロングビルの姿 「………」 ぱたん 何も見なかった事にして、コルベールは扉を閉めた 数回、深呼吸した後……こんこん、改めて、扉をノックする 「コルベールです」 「うむ、入りたまえ」 オスマンの返事を聞いて、学院長室に入るコルベール 先ほどまでの物騒な雰囲気は嘘のように消えていて、オスマンはきちんと学院長の椅子についており、ロングビルも秘書の席についている …先ほどの光景は、幻だったのだ コルベールは、そう自分に言い聞かせた 「どうしたのかね?」 「その、ミス・ヴァリエールの件についてですが…」 ぴくり 反応を示すオスマン ロングビルに席をはずすように告げる ロングビルは、素直に立ち上がり、学院長室を出て行こうとして… 「あぁ、そうです、オールド・オスマン。今度セクハラいたしましたら、王室に報告します」 その言葉を告げた時の表情は、笑顔 しかし、その笑顔は明らかに、「次は容赦しないぞコラ」と言う仏の顔も三度な笑顔であった う、うむ、とオスマンはだらだら冷や汗流しつつ頷く その様子に満足したように微笑んで、ロングビルは学院長室を後にした 「…なんじゃい。ちょっとお尻を撫でたくらいで。モートソグニルが散歩に出かけておるから、覗く事はできんし…」 「自重してください。オールド・オスマン」 若干頭痛を覚えつつ、コルベールは苦笑した …これさえなければ、もっと尊敬できる偉大な方なのだが こほん、と咳払いを一つ 本来の話題に、戻らなくては 「オールド・オスマン。ミス・ヴァリエールの左手に刻まれたルーンなのですが…」 「おぉ、そう言えば、見た事もないような随分と珍しいルーンじゃったの。何かわかったのかの?」 「はい、それが…」 とにかく、調査結果を報告するコルベール ルイズに刻まれたルーンは、始祖たるブリミルの使い魔に刻まれたという…ガンダールヴのルーンかもしれないという、その結果 ううむ、とオスマンは考え込んだ表情となる 「…やれやれ、何もかもが、我々が抱く常識から外れとるの。使い魔は主の体に宿り、そして刻まれたルーンはガンダールヴ、とは…」 「間違い…ないのでしょうか?」 「ルーンはほぼ一致しておる。ミス・ヴァリエールは…ガンダールヴの力を、その身に宿してしまったのじゃな」 正確に言えば、その力を身に付けるべきは、彼女の体の中の使い魔 しかし、その使い魔は、主であるルイズに力を与えている存在 故に、そのルーンの力も、ルイズに現れる 「確か、ガンダールヴは…あらゆる武器を、使いこなすんじゃったか」 「はい。もっとも、ミス・ヴァリエールが武器に相当するものを持っている場面を見ておりませんので、確認できませんが…」 「確か、食堂でグラモンの馬鹿息子を壁にめり込むくらい突き飛ばしたとか聞いておるが、あの時は?」 「武器の類は身につけておりませんでした。純粋に、彼女の力で突き飛ばしたようです」 むむむむむ 考え込む二人 ルイズに宿った使い魔には、主に怪力を与える能力もあると言うのか 不憫だ ルイズがあまりにも不憫で、二人は涙を流しそうになる まだ16歳の、小柄な乙女 その身に宿りしは、常人の2,3倍の食欲と、その身に似合わぬ怪力 …女性として、あまりにも不憫すぎる オスマンとコルベールは、ルイズと言う少女の将来を、少し心配したのだった 「…ヴァリエール、か」 学院長室を後にしたロングビルは、一人、ぽつりと呟いた 貴族なら、誰でも使えるはずの魔法が使えない少女 それでも、貴族としての誇りを決して失わず、むしろ誰よりも貴族らしくあろうとする少女 決して努力を怠る事のない彼女は、貴族嫌いのロングビルにとっても、好感を抱ける相手だった 使い魔召喚の儀式で大怪我を折ってしまい…何故か、少女に相応しくない食欲が身についたと聞いているが 「……まさか、ね」 己の考えを、己自身で否定する …まさか まさか、彼女が、自分の妹と同じような状況になっているはずがあるまい、と 一人、そう結論付けたのだった 街に出かけてから、数日後の事 夜、一人、杖を振るうルイズ ぼん!!と爆発音が響き渡る 「はぁ……」 憂鬱にため息を吐くルイズ 魔法は、相変わらず失敗してばかり やはり、ただの一度も成功しない …ん?一応、使い魔召喚と契約は成功してるから、二回は成功してるのか? しかし、やはりルイズは貴族として、魔法を普通に使いたかった だからこそ、努力する 幸いと言うか、今までより心なしか疲れにくいような気もするし 遠慮なく、魔法の練習を続けていく …どごん!! また、失敗 なんとも見事な爆発である 「はぁ……」 「おいおい、そんなにため息ついてると、幸せが逃げていくぜ?」 カタカタ 傍らに置いていたデルフリンガーが、そう声をあげる 結局、エキュー金貨100枚で購入したこの剣 話し相手にもなるから、とあまり鞘に入れておく事はない 今も、気晴らし用にと、鞘から出しておいておいていたのだ 「ため息もつきたくなるわよ。あぁ、もう。どうして成功しないのかしら…」 「ぶっちゃけ、ヘタな魔法より威力あって強力だと思うけどな、その爆発」 確かに、人に直撃したら大怪我させる事確実な爆発ではあるけれど でも…それは、ルイズが使いたい魔法じゃあ、ない 「…せめて、水の秘薬が作れるようになって…治癒魔法が、使えるようになりたいのに…」 病弱な姉の為に、せめて、それだけはできるようになりたい そう願っていたルイズ 彼女にとって、やはり、魔法が爆発するという現象は悲しいものでしかないのだ だんだん、悲しい方向へと動いていくルイズの思考 ぐぎゅるるるるるるるるる ……… うん、何となくそんな予感はしたのだ 毎度毎度、絶妙なタイミングで鳴る腹だ 「相棒は本当に大食らいだな。そのちっこい体のどこに収まってんだ?普通なら栄養全部胸に行ってんのかってパターンだが、相棒にはその胸がないし…」 「…………」 ぎゅううううううう 力いっぱい、デルフリンガーの柄を握るルイズ 左手のルーンが微かに発光し、ルイズの中を力が駆け巡る 「っちょ、っや!?いーたーいー!?やめっ、そんなに強く握らないでぇ!らめぇええええ!!!!」 デルフリンガーでできる気晴らし、それがこれである 剣の癖に痛みを感じるとはおかしい事だが、あんまり強く握られると痛いらしい 若干悲鳴が気色悪いが、わりと気晴らしになる まぁ、オススメはできないが 「ひでぇよ相棒…俺、壊れちまうよ…」 「そう簡単には壊れないでしょ。ってか、相棒って何よ」 デルフリンガーは、何故かルイズを相棒、などと呼んできている 理由を聞いても「忘れた」「何となく」としか答えが返ってこないため、埒があかない 不思議と嫌な感じはしないので、とりあえずそのまま呼ばせていた ぐぎゅぅぅぅぅぅぅう …うん、まずは夜食よね、夜食 「ミス・ヴァリエール~!」 あ、来た来た! きらり、瞳を輝かせるルイズ ここ数日、毎日の用に夜、魔法の練習をしているルイズだったが、どうにもおなかがすいて仕方がない だから、シエスタに頼んで、夜食を用意してもらっていたのだ 恩人であるルイズのために、シエスタは甲斐甲斐しく、料理を作ってくれていた 豪華でなくてもいいから、とにかくおなか一杯になるものを、お願いしている為、いつもボリューム満点の料理を作ってくれる キラキラ、まるで飼い主がご飯を出してくれるのを待っている猫のような表情を浮かべるルイズ …と、今日は、シエスタの後ろから、誰かもう一人やってくるのが見えた 「ツェルプストー?」 「はぁい。今夜も頑張ってるじゃない。でも、早く寝ないとお肌に悪いわよ?」 どうやら、連日魔法の練習で夜更かし気味のルイズを心配してくれたらしい …近頃、本当にキュルケの優しさが身にしみていた 彼女が、こんなにも世話焼きな性格だとは思ってもみなかった 今まで、キュルケにからかわれ、むきー!とそのからかいに乗ってばかりだったルイズ しかし、使い魔を召喚できた事で、ほんの少し心に余裕ができた事 そして、初めは使い魔召喚に失敗していたと思われていたルイズをキュルケが心配し、からかいよりも気遣いを優先させた為に、二人の仲はかなり改善されていた 先祖代々いがみ合ってきた仲とは、もう見えないかもしれない 「わかってるわよ。でも、もうちょっとだけ」 むぐむぐ シエスタの作ってくれた、ボリューム満点のサンドイッチを食べつつ、キュルケに答えるルイズ うん、今日のサンドイッチも美味しい どっちかと言うと平民向けの料理らしいが、質よりも量を優先しがちになってしまったルイズにはちょうどいい むぐぐん……ごっくん よし、練習再開!! 「シエスタ、悪いけど、お皿片付けておいて。ツェルスプトー、失敗した時に巻き込んで怪我させるのも嫌だし、ちょっと離れていて」 はい、と返事して、シエスタは皿を片付けにかかる キュルケも、ルイズの爆発魔法の威力は知っている 素直に、ルイズから離れた 杖を握り、ルイズは集中する 一句一句、間違える事のない呪文の詠唱 何度も何度も詠唱したのだ、間違えるはずがない 「……ファイヤーボール!!」 ちゅごどごぉん!! 派手な爆発音 いつも通り、魔法は失敗した ……ただ 問題は 「げ」 ぱらぱら…… 壁が、崩れている 適当に壁を狙った放った魔法は、爆発によって見事にその壁を崩していた あ、あれ? 固定化の魔法がかかっているはずなのに、どうして崩れるの? パニック状態になってしまうルイズ キュルケも、離れた所でぽか~ん、と口をあけており…シエスタも、キュルケの隣辺りで、思わず足を止めてその崩れた壁を見つめていた ど、どどどどどどど、どうしよう 怒られる!! 頭の中で、ありとあらゆる言い訳を考え始めたルイズであったが …その思考は、強制的に打ち切られた 「え……?」 「っ逃げろ、相棒!!」 大地を揺るがす、轟音 ルイズたちの目の前に……巨大な、巨大な、次のゴーレムが姿を現した 前ページ次ページデモゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7513.html
前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 彼(女)はカオスの伝導体 彼(女)は世界の特異点 確率世界の彼(女)の中で 虚無〈ゼロ〉と無限は等価となって 眠れる分岐が目を覚ます 確率世界のヴァリエール - Cats awaking the Box! - 第六話 テーブルを挟んで椅子に腰掛けた少女が二人。 両手をくねらせ猫耳を立てて、ルイズが喜色満面に黄色い声を上げる。 「こんな下賎な場所へお越し頂けるなんて、姫殿下! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、 光栄の極みに御座いますわ!!」 「そんな、ルイズ・フランソワーズ。 そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。 それはそうと、、、」 アンリエッタが部屋のすみをちらりと見る。 「もったいないお言葉ですわ! 姫殿下!」 「昔馴染みの懐かしいルイズ、ルイズ・フランソワーズ。 あなたまでそんなよそよそしい態度をとらないで。 で、ええと、、、」 「感激ですわ! 私を覚えてくださっていたなんて!」 「あ、あの、あちらのお二人は、、」 ルイズが部屋のすみの二人を指差し睨みつける。 「せーざっっ!!」 部屋のすみにはキュルケとシュレディンガーが、 頭の上にコブをこさえてぺたりと並んで座っている。 「なーによ。 ちょっとからかっただけじゃない」 先ほどのサカリの付いたメスライオンの様な表情はどこへやら、 キュルケがしれっとした顔で言い放つ。 「安心なさいなルイズ。 あんたみたいなオコチャマは好みじゃ無いし、 殿方もちゃんと好きだから」 「殿方「も」ぉお?!!」 ルイズが聞き返すのへ答えず、ぷい、とそっぽを向く。 「なんでボクまで、、」 涙目で頭のコブをさするシュレディンガーを怒鳴りつける。 「何で、じゃ無いでしょ何でじゃ! 助けなさいよあーいう時は!」 アンリエッタに向き直ると、にっこりと顔を作る。 「アレは隣部屋に生息する淫乱赤毛牛と 馬鹿で生意気な私の飼い猫です。 お気になさいませんよう、姫さま」 さわやかな笑顔で紹介する。 「で? そちらの姫さま、なーんかお悩みみたいだけど?」 「お黙んなさいよウシ女! 姫さまに悩みなんかあるわけ無いでしょう!!」 「い、いえ、実はその、ルイズ」 「、、え?」 アンリエッタが、胸の内の悩みをぽつりぽつりと語りだした。 「そーいうことならお任せ下さい、姫さま! 不肖、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 姫殿下の憂いの種たるその手紙、 無事取り戻してご覧に入れますわ!!」 「な、何を言っているの、ルイズ! 私は宮廷の中では漏らすことすら叶わぬこの悩みを、 ただあなたに聞いてもらいたかっただけなの!! 戦時下のアルビオンへ赴くなど、そんな危険なこと、、 頼めるわけがありませんわ!」 「この身をご心配頂けるなんて、感謝の極みに御座います! でも、ご安心ください、姫さま。 私、こーいうの得意なんです!!」 アンリエッタがポロリと涙をこぼす。 「この私の力になってくれるというの? ルイズ、、」 「もちろんですわ、姫さま!」 ルイズが瞳をうるませつつアンリエッタの手をとる。 「友情を確認しあってるところ悪いんだけど、、、 その話、あたしも聞いてよかったの? あたしー、一応ゲルマニア貴族なんだけど」 「え?」「あ」 手を取り合う二人が固まる。 「ご心配なく姫さま。 後顧の憂いは今すぐこの場で永久に! 取り除きます!!」 ルイズが椅子を振りかぶる。 「ちょ、冗談よ冗談だって! 人の恋路に口出す野暮天なんて ツェルプストーにはいないわよ!」 キュルケが顔を引きつらせ両手をぶんぶんと振った。 アンリエッタが机でしたためた手紙をルイズに手渡す。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。 すぐに件の手紙を返して下さるでしょう。 それから、これは母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてものお守りに、、」 アンリエッタから手紙と指輪を受け取る。 「明日にでも馬車と手形を仕立てさせます」 ルイズがにっこりとお辞儀を返す。 「いいえ、それには及びませんわ、姫さま。 言いましたでしょう? こーいうの、得意なんです。 そうそう、キュルケ。 私がいない間に姫さまに手ぇ出したら頃スわよ!!」 ギロリとキュルケを睨みつける。 「あのねぇ、あたしだってそんな命知らずじゃ無いわよ。 安心して行ってらっしゃいな。 長引いたら明日の授業は代返しといたげるから」 キュルケがため息をつく。 「冗談よ。 さ、行くわよ、シュレディンガー!」 「了解っ!」 自分の使い魔の猫耳頭を抱え込む。 「では。 朝には戻りますわ、姫さま!」 にっこりとそう言うと、ルイズは使い魔と唇を重ね、『跳ん』だ。 ============================== 「きゃ! な、何を、、、え?」 突然の行為にアンリエッタが思わず目を伏せ、目を開けると そこに二人の姿はなかった。 「え?、、、へ?」 「あら、ご存じなかったんですか? 姫さま。 これがあのシュレちゃんのチカラですわ。 今頃二人はもうアルビオンですよ」 「あの使い魔さんの、、チカラ?」 「そう、あの子はどこにでもいてどこにもいない。 だから、どこにだって行けるそうなんです」 「え、、? それはまた、、なんという、、、」 「ま、マジメに考えるだけ無駄ですわ」 その時、コンコンとガラスをノックする音がした。 「ぅわお、いい男」 窓を開け覗き込んだ顔に、キュルケが思わず声を上げる。 「あのー、、姫殿下。 私はどうすれば、、、」 「あら、ごめんなさいワルド。 忘れてたわ。 部屋に戻って待っていて頂戴、朝には戻るわ」 「は、はあ、、、 かしこまりました」 髭を蓄えた男前が窓を閉めて夜に消える。 キュルケがベッドに座るアンリエッタの横に腰をおろす。 「ふう。 夜は長ごう御座いますわ、姫さま。 宜しければ、小さな頃のルイズとの思い出でも、、 お聞かせ願えますか?」 暗い面持ちで隣に座る姫君に、キュルケは優しく微笑んだ。 。。 ゚○゚ 浮遊大陸アルビオン。 宵闇に包まれようとする白の大陸、そのはるか上空。 そこにルイズ達は居た。 「うわー! すごい! ラピュタは本当にあったんだ!」 「ラ、、? アルビオンよアルビオン。 えーと、暗くてよく分っかん無いわね」 降下しながら空中に浮かぶ大陸を目を凝らして見下ろす二人を 突如として閃光が照らし出し、数瞬遅れて爆音が空を震わせる。 「ルイズ、あれ!!」 大陸と空との境界、せり出した岬の突端にそびえる城の一角が 煌々と燃えている。 「うそ?! あれってニューカッスル城じゃない!」 目指す手紙の所有者、アルビオンのウェールズ王子が居ると 思われるニューカッスル城は、今まさに艦砲攻撃を受けていた。 「え?アレって船? 戦艦? ルイズ、戦艦が浮いてる!」 「じょーだんじゃ無いわ、行くわよ!!」 ============================== 二人が口付けて跳んだ先は、およそ城の中とは思えぬ巨大な洞穴の中だった。 直後、轟音が洞窟を揺らし、岩の破片をそこらじゅうに降らせる。 「ちょ、何よここ、ホントにニューカッスル城の中なの?!」 「そうとも、で、君らは誰だ?」 後ろからの突然の声に二人が振り返る。 そこに居たのは篝火に照らされた凛々とした金髪の青年だった。 「こやつら、何者だ!」 「猫耳の亜人? 貴族派の間諜か?!」 杖を掲げた兵士達が二人を取り囲む。 「ち、違います、私達は貴族派なんかじゃありません! トト、トリステインの大使です!」 「ふざけた事を、、取り押さえろ!」 「まあ待て。 トリステインの大使といったな」 金髪の青年が進み出る。 「その大使殿がこんな所に何の用だ?」 「その、、アンリエッタ姫よりウェールズ皇太子殿下へ、 こ、この手紙を!」 手紙を取り出そうとした時、ポケットから指輪がこぼれ 青年の足元へと転げ落ちる。 「あっ、、! 姫様の指輪!」 青年がつま先に触れたその指輪を拾い上げる。 「これは、、! トリステインの『水のルビー』、、」 その時、青年の指にはめられた指輪と拾い上げた指輪の石が共鳴し、 虹色の光を振りまいた。 「水と風は、虹を作る。 王家の間にかかる虹だ。 皆、杖を下げよ。 このお二方はまごう事なきトリステイン大使であられる」 周りの兵士が杖を引き、二人に礼を取る。 青年は居住まいをただし、威風堂々、名乗った。 「ニューカッスルへようこそ、猫耳の大使殿。 私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 手渡した手紙を一読し、件の手紙の返却を快諾したウェールズに付き従い 二人は砲撃の止んだ城内の階段を上っていく。 (ルイズー、その手紙って何が書いてあるんだろ?) シュレディンガーが歩きながらこそこそと耳打ちする。 (しっ!) 前を行くウェールズをちらりと見つつ、猫耳に口を寄せる。 (あんたってニブいわねー。 姫様の口調で気付かなかったの? ラブレターよラブレター。 姫様がゲルマニアにお輿入れしようって時に そんなものが見つかっちゃったら一大事でしょ?) (へー。 でも元カレに「ラブレター返してー」なんて、 可愛い顔してあのお姫様もキツいねー) (なに言ってんの! それだけ王家の責任ってのは重いものなのよ! それに、、それだけじゃないわ。 書いてらっしゃる時にチラッと見えちゃったんだけど、 殿下へトリステインへの亡命を、、) 「さあ着いた、この部屋だ」 扉の前で立ち止まったウェールズの声にかしこまる。 質素な部屋の机の中にしまわれた小箱を取り出す。 「宝物でね」 幾度も読み返されたのだろう、ぼろぼろになった手紙を 最後に一読した後、ルイズに差し出す。 「さ、確かにお返しいたしますよ、大使殿」 うやうやしく頭を下げ、王子より手紙を押し戴く。 「明日の朝、非戦闘員を乗せた最後の便が港を出る。 大使殿はその船に乗って姫の下へお帰りなさい」 「え、、、? 最、、後?」 「そう。 明日の正午に攻城を開始すると、叛徒共が伝えてきた。 城の中に残る兵共々、王家の誇りを存分に示すつもりだ」 「そんな、、、 王軍に、、勝ち目は、無いのですか?」 「此方は三百、彼方は五万。 万に一つも無かろうさ。 私に出来ることは、王家の務めを果たす事だけだ」 ルイズを見つめ、にこやかに微笑む。 ルイズの中で、現実が急に色あせていく。 皇太子は、この人は、明日の戦いの中で死ぬつもりなのだ。 あの手紙には、確かに亡命を勧める一文が添えてあったはずだ。 しかし、それをおくびにも出さず、己が務めに殉じようとしている。 どうして、恋人の切なる願いより、死を選ぶのか。 己が愛する人より大切なものなど、この世にあるのだろうか。 あるのだろう。 そしてそれこそが、貴族の務め、王家の務め、なのだろう。 優しく見つめる皇太子の瞳の中に、確固たる意思が見える。 己が憧れる真の貴族の姿が、そこにはあった。 あふれ出ようとする全ての感情と、言葉と、涙とを飲み込むと、 歯を食いしばって面を上げ、ルイズは精一杯の笑顔を返した。 「御武運を、お祈りいたします。 殿下」 「お心遣い、痛み入る。 大使殿」 † 最後の晩餐会。 絶望的な決戦を明日に控えた城内。 それでも兵達は皆、晴れやかな顔をしていた。 「猫耳の大使殿、このワインをお試しなされ! 上等なものですぞ!」 「いやいや、それよりこの鳥の蜂蜜焼きを! 頬が落ちますぞ!」 かわるがわるルイズをもてなす貴族達に、にこやかに答える。 シュレディンガーは年老いた貴族達が語る武勇伝を 目を輝かせて聞き入っていた。 やがて老王が立ち上がり、二人の大使への謝辞と 兵への労いが述べられると、共に立ち上がっていた貴族達から 「アルビオン万歳!」の大合唱が沸き起こる。 そこに居並ぶ誰も彼もが、曇り無き決意を顕わにしていた。 老王が去り、なお続く晩餐会で。 ルイズはテラスで一人、夜風に煽られていた。 「あ、ここに居たんだー」 声に振り返ると、猫耳の使い魔がそこにいた。 「どしたの? 不機嫌そ」 「どうもしないわよ」 不機嫌さを隠しもせずにそっぽを向く。 「すごいねー。 雲と一緒にふわふわ浮いてるなんて。 この大陸も、船も」 身を乗り出し、眼下を見下ろす。 宙に浮かぶ白の大陸の、切り立った岬の突端に築かれたニューカッスル城。 その端に構えられたテラスの下には、雲しか見えない。 「ここのみんなも意固地にならないでさー、 この雲みたいに亡命でも何でも、 どこにでも行っちゃえば良いのに」 のん気につぶやくシュレディンガーの胸ぐらを掴み、 歯を喰いしばり、ルイズは激しい剣幕で使い魔を睨みつける。 「あんたは、、、! あんたには、判んないわよ!! 彼らは、誇りを捨てた叛徒どもを相手に、 貴族の務めを全うしようしているの!」 「そーかなー?」 眉を上げ涼しい顔で返す。 「国と領地と領民を守ってこその貴族でしょお? 死んで守れるものなんて、ひとっつもないよ?」 「貴族の誇りを守れるわ!」 「だから死ぬの? それがルイズの思う『貴族の務め』?」 「そうよ! 彼らこそ、、彼らこそ、本当の貴族だわ!!」 知らず、絶叫する。 「だったらルイズ。 、、、どうして泣いてるの?」 その言葉で初めて、ルイズは自分の頬を伝うものに気付いた。 唇を震わせ、シュレディンガーを見つめ、胸に顔をうずめる。 小さく震えるルイズの頭をシュレディンガーが優しく抱く。 「シュレ、、、 あの人たちに、今日、はじめて会ったばかりなのに、、 私、、、わたし、、 私、あの人たちを、死なせたくない、、」 シュレディンガーは涙に濡れた頬にそっと手をそえると、 顔を引き上げてその唇にやわらかく口づけた。 ============================== 突風が髪を巻き上げる。 今までいたテラスよりさらに上、中空に張り出した見張り塔の 狭く急な円錐形の屋根の上に二人はいた。 「わわっ?!」 バランスを崩し、あわてて屋根の中央の避雷針を掴む。 「ルイズ、見える?」 隣で同じく避雷針を掴んだシュレディンガーが、 もう片方の手で遥か彼方を指し示す。 いくつもの山々の向こうに、天を照らす光りが見えた。 「あの港町に、さっきこの城を砲撃していた船、貴族派の旗艦 『レキシントン』号をはじめとした戦艦三隻が寄港してる。 王と王子を生け捕りにして「公平な」裁判にかけるのは諦めたみたい。 明日正午に殲滅戦をしかけてくるってさ」 ルイズがつばを飲みこみ、彼方の光を見つめる。 「けれど」 シュレディンガーが向き直る。 「僕ならルイズをあそこへ連れて行ける。 誰にも気付かれず、誰の目にも留まらず」 ゆっくりとルイズの目を見る。 「そして」 猫がうすく笑う。 「ルイズには『破壊の魔法』がある。 モチロン戦艦を沈めるのは難しいだろうけど、 動力炉や機関部を、燃料庫や火薬庫を 壊して回る事は出来る、かもしれない」 「、、、!」 ルイズの瞳に光が戻る。 「そうすれば彼らを助ける事が出来る、かもしれない」 「そうよ、それだわ! 私、皇太子を、、彼らを助ける!!」 ルイズが叫ぶ。 「でも」 緩やかに、その輪郭が夜に滲む。 闇が、さえずる。 「本当に、それで良いの? 本当に? 本当に? 確かに彼らを助ける事は出来るかもしれない。 でも、あとたった三百人が死ぬだけで終わるはずだった この戦争は、もっともっと続くことになるだろうね。 三百どころじゃあない、もっと死ぬよ、もっと死ぬ。 そしてその中には、君自身も居るかもしれない。 僕はカオスの伝導体、 僕は世界の特異点。 確率世界の僕の中で、 虚無〈ゼロ〉と無限は等価となって 眠れる分岐が目を覚ます。 僕は君に約束したよね。 いつでも、なんどでも、どこへだって、 君が望む場所に連れて行ってあげる、って。 でも、僕自身はただの力、ただの君の使い魔だ。 この力を使うのは、君の意思だ。 さあどうする? ご主人様。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 いつしかそこには、いつもと同じ姿をした、 しかし、ルイズの見知らぬ使い魔が居た。 その闇が、目を見開き、口元を歪ませ、問いかける。 その力を、『この世界』に使うのか、と。 確かに、この力を使えばどこにでも行ける。 戦艦の中へも、宝物庫へも、敵国の王の寝室でさえも。 この力を『この世界』へ使うとは、そういうことなのだ。 だが自分に、世界の運命を変える権利などあるのか。 だが自分に、人の命を奪う権利などあるのか。 否、そんな権利など、誰にも無い。 神にも悪魔にも、私にも。 あるのは権利ではない、運命を変える覚悟、命を奪う覚悟、ただそれだけだ。 その覚悟が、、、自分に、あるか。 顔を上げ、息を吐き、目を開く。 「私をなめないで、使い魔!! 私は言ったわ、「彼らを助ける」と! 「助かれば」でも「助けたい」でも無い、 「助ける」と言ったの! それは何も変わらない、変わらないわ! 彼らが死ぬのがこの世界の定めというのなら、 そんな定めは、私が変えてみせる! 変えられた運命が私を殺すと言うのなら、 そんな運命、 変 え て や る ! ! 」 手を離して屋根を蹴り、己が身を夜空に投げた。 もはや心に曇りは無い。 満天の星に包まれ、両手を広げ、遠く足元に浮かぶ ニューカッスル城を、アルビオン大陸を見上げる。 「はははっ! 了解っ! やっぱり君はすごいや、ルイズ!!」 いつの間にかそばに来ていたシュレディンガーが 満面の笑みを浮かべている。 その手を繋ぎ、夜空を滑る。 「そう、それが第一歩だよ、ご主人様。 ではご案内いたしましょう、ミス・ヴァリエール。 目覚めた分岐のその先へ!」 その夜、一人の少女と一匹の使い魔は 自らの運命と契約の口付けを交わした。 ============================== その日の未明ーーー、 アルビオン貴族派の旗艦『レキシントン』号は 正体不明の襲撃者の手により攻撃を受け損傷、 動力源の「風石」の大半と火薬の半分を失逸した。 また、伴船二隻もこの攻撃により係留樹より墜落、大破した。 これによりニューカッスル攻城戦は実行されず、 転機を掴んだ王党派は地下へ潜伏、ゲリラ戦に転ずる。 王党派による「大反攻」が、開始された。 † オ マ ケ ============================== 「ふう、何とか朝には戻れたわね。 あら、キュルケ。 姫さまはお休み?」 「そ、そーなのよ。 た、旅の疲れ、とかかな! アンったら疲れて寝ちゃって。 ねえ?」 「はぁ?! アンだあ~~っ?! 姫さまをなんて呼び方してんのよ!!」 ベッドで毛布をかぶっていたアンリエッタがぴょこりと顔を出す。 「ち、違うのよ、ルイズ! キュルケとは待ってる間に、お話をして仲良くなったの!! ご、ごめんなさいな、ルイズ。 こんな格好で。 ええと、あの、、そう! 長旅の疲れ? で!」 シュレディンガーがこわばった笑顔で、しっとりと湿った布切れを拾い上げる。 「えっと、ルイズー? こんなん見付けちった、あははー、、」 「そ、それ?! 私のショーツッ、、!」 アンリエッタが赤面し手を伸ばした拍子に、毛布で隠していた乳房がこぼれる。 「あ、、、、」 ルイズの猫耳が、ゆっくりと、逆立っていく。 「、、、キュルケ? 、、、姫さま? あなたさまの初恋のお相手の命を救うため、、、 こっちは命がけで、お務めを果たしてきたってのに、、、 ばっ、、! フッ! ザッ! けっ、ん、なぁ~~っっ!!!」 ルイズの怒りが白み始めた空を震わせた、とか。 。。 ゚○゚ 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
https://w.atwiki.jp/gods/pages/83456.html
マヌエルイッセイコムネノスメガス(マヌエル1世コムネノス・メガス) マヌエルイッセイコムネノスの別名。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1054.html
うまく寝付けない夜には、ルイズは使い魔のところにいく。 魔法学院の中庭には、ミスタ・コルベールが建ててくれた工房があり、ルイズの召喚した使い魔は毎日そこで作業をしているのだ。 寝巻きにマントを引っ掛けた格好で、ルイズはそっと階段を降り、中庭に出た。案の定、工房にはこうこうと明かりがついていた。 しゅ……しゅ……と、木に鉋をかける心地の良い音が聞こえてくる。ルイズはその音を聞きたくて、足しげく工房に通うのかもしれない。 ランプにぼんやりと照らし出されながら、ルイズの使い魔は作業をしていた。 入ってきたルイズに気がついて、使い魔が顔を上げた。 「……どうした。眠れねえのか」 「うん……ちょっとね」 「今夜は少し冷えるから、毛布でもかぶってな」 「……うん」 使い魔の差し出す毛布にルイズは包まった。使い魔の邪魔にならないように隅に腰を下ろし、ぼんやりとルイズは工房を見渡した。 大き目の掘っ立て小屋のような工房には、様々な木でできた部品が並べられている。ミスタ・コルベールが手伝って『錬金』で造った部品もたくさんあった。 溶接の作業には、最近すっかりルイズの使い魔と仲良くなったギーシュが担当しているようだった。 (……はじめは、決闘でワルキューレにぼこぼこに殴られていたのにね) くす、とルイズは微笑む。小型のオークのような外見に反して、使い魔はからっきし弱くて、ギーシュのゴーレムにまったく勝てなかった。 顔を二倍ぐらいに腫らした使い魔のために秘薬を探したのも、今となってはいい思い出である。 黒いメガネをかけたキザな使い魔。なるほど、どこかギーシュに似てるかもしれなかった。 (それにしても……) ルイズはあらためて使い魔の造っている『船』を見た。すらりとした船体はハルケギニアのそれとはずいぶん違っている。 火竜のブレスのように真っ赤に塗られているそれは、見れば見るほど奇妙だった。 何より、帆がない船なんてあるだろうか? 使い魔は、宝物庫で見つけた『えんじん』というのを使えば、必ず飛ぶと言うけれど。 ルイズは一息ついてタバコ(巻きタバコというらしい)を鼻からくゆらす使い魔に声をかける。 「ねえ、本当にこんな船が飛ぶの……? 風石も魔法もなしに浮かぶなんて、なんだか信じられないわ……」 「……俺の世界じゃ魔法がねえからな。みんなこうして造るのさ。前に……俺の戦闘艇を造ったのは、おまえさんと同い年の娘だったぜ、ルイズ」 「ふぅん……」 どんな子だろう、とルイズは毛布にあごを埋めた。自分と同い年でこんな船を造った娘がいる。 まだ自分は魔法一つ使えないのに。でも、使い魔の世界では魔法を使える人間はいないらしい。 「その娘もオークなの?」 何気なく聞いてみたのだが、使い魔は大きな口をあけて笑い出してしまった。なにやら見当違いのことを言ったらしい。ルイズの顔が赤くなる。 「はあっはっはっは……! フィ、フィオがオークだと……? はっはっはあ……! こりゃいい、フィオに聞かせてやりたいぜ……!」 「いいわよ……。何も笑わなくてもいいじゃない……」 すねるルイズに、使い魔はにやりと笑ってみせた。 「いいや……俺の世界でも人間は人間さ……魔法が使えない以外は全部こっちと同じだ。俺だけさ、魔法がかかってるのはな。 フィオは美人だ。おまえさんみたいにな、ルイズ」 「嘘ばっかり……」 使い魔が自分はオークではなく人間だというので、タバサに頼んで解除魔法をかけてもらったこともある。結果は変化なしだったが。 「人間の世界に飽きただけさ」と笑う使い魔は、どこまで本気かわからなかった。 今夜の仕事は終わりなのか、使い魔は道具をしまい、工房の窓を閉める。ルイズも毛布をかぶったまま立ち上がった。 使い魔は工房にベッドを作り、普段はそこで寝ているのだ。 工房を出るとき、ルイズは使い魔を振り返った。 「ねえ……その『飛行機』が完成したら、それで、本当に飛んだら……」 「飛ぶさ。飛ばねぇ豚はただの豚だ」 「……私も乗せてくれる? その『飛行機』に」 「もちろんだ」 使い魔はランプに手を伸ばした。火を吹き消そうとして、思いついたようにルイズを見つめた。 「だが……飛行機に乗せる前に、一つだけ約束だ、お嬢さん」 「なに……?」 「夜更かしはするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも悪いしな……。さ、もう寝てくれ」 「もう、また子供扱いして……」 「いいや、大人だからさ」 ルイズはぷっと頬を膨らませた。こういう仕草が子供っぽいのだと自分でも気がついているのだが。 使い魔は黒メガネを外し、ふっとランプを吹き消した。明かりが消える一瞬――使い魔の顔が、人間の顔に見えて、ルイズはごしごしと目をこする。 しかし、もう一度見てみると、そこにいるのは相変わらずの豚の顔なのであった。 「おやすみルイズ。いい夢をみな」 「……おやすみ、ポルコ」 ルイズはばたんと扉を閉めた。 おわり -「紅の豚」のポルコ・ロッソを召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4878.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 先ほどの授業でシャツがボロボロになったルイズは自分の部屋を目指しとぼとぼ歩いていた。 事は数十分前…。 今回行われる「練金」の授業では霊夢が一緒にいなかったので先生にそれを聞かれ少し恥ずかしかった。 最初の時は霊夢もほかの使い魔たちとともに教室の後ろで聞いていたのだが…。 もしかするとおさらいとしてそのとき授業を担当していた教師が言っていた属性のこととかメイジにもクラスはあるとか…そんなのを知りたかっただけなのかも。 それともただ単に飽きただけとか、そんな風に考えていると当然授業が頭に入らず、ルイズは先生に注意された。 「ミス・ヴァリエール。罰としてこの石くれを真鍮に変えてください。」 そういって担当教師のミセス・シュヴルーズが教壇の上にあいてある石くれを指さすと、ほかの生徒たちがいつもの様に机の下に隠れだした。 キュルケが先生に中止を呼びかけるがシュヴルーズ先生は一年生の時のルイズを知らないためかいっこうに彼女の言葉を聞き入れなかった。 ルイズは毎度の事だと我慢し、ため息をはくと教壇へと近づき、置かれている石くれに杖を向けると呪文を唱え始めた。 彼女は今このときだけ僅かばかりの自信を持っていた。あの召喚の儀式の時にはちゃんとやれたのであるから。 出てきた奴がこっちの言うことをあまり聞いてくれなくても一応は成功したからこれから魔法がどんどん使えていくのかな…と浅はかな心で思っていたが。 現実は非情である…誰が言ったのか知らないがまさにその通りであった。 そんなこんなで巨大戦艦の主砲が放つ砲弾も裸足で逃げ出す程の爆発で教室は滅茶苦茶になり、ミセス・シュヴルーズは奇跡的に気を失うだけですんだ。 それと一部の生徒たちも巻き添えを食らって気絶してしまった事により授業は中止となった。 廊下へ出たときにルイズと同じボロボロになりながらも無事だった生徒たちの怨嗟の声を軽くスルーし、今こうして自分の部屋へと向かっているところであった。 ようやくたどり着き、小さくため息をはいてからドアを開けた先にいた人物を見てまたため息をはいた。 「おかえりなさい、その格好を見ると外で見た爆発はアンタの所ね。」 彼女がこの世界に呼び出した異邦人、博麗 霊夢がイスに座っていた。 テーブルの上には食堂で使っているティーセットが置かれており、ポットからは小さな湯気が立っている。 大方給士にでも頼んで借りたのだろう。 ルイズの部屋にもティーセットはあったのが不運にも二日前に壊してしまったのだ。 「えぇそうよ…。」 ルイズは顔に多少疲れを浮かべながらそう言った。 ドアを閉めるとクローゼットを開け中から着替えのブラウスを取り出した。 いつまでもボロボロのブラウスを着ても仕方がない。 先ほどのことで次の授業開始時間は延長されたがいつまでもこんなススだらけの服など着ていられない。 そんな時、ふと目の前に湯気を立ち上らせているティーカップが スッ と横から出てきた。 そのティーカップを持っていたのは霊夢であった。 「え、あたしに…?」 「お茶の一杯くらいは飲んで行きなさい、案外気持ちがやすらぐわよ。」 「ん、…ありがとう。」 ルイズはお礼の言葉を言ってから霊夢の持っているティーカップを受け取るとイスに座り、湯気を立たせている薄緑の液体に慎重に口を付けた。 お茶を飲んだルイズの第一感想は「渋くて素朴だわ。」第二感想は「だけど、これはこれでおいしいわね。」 「でしょ?これはこれでおいしいものよ。」 その答えを聞いて満足したのか霊夢は柔らかい笑顔でそう言うとティーカップを手に取るとゆっくりとお茶を飲んでいく。 午前の柔らかい日差しが窓から入る中、霊夢とルイズは静かにお茶を飲んでいた。 先にお茶を飲み終えたルイズが口を開いた。 「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」 「なに?」 「今更なうえ唐突だけどね、アンタが空を飛ぶのに杖も詠唱も無しに行うなんてどうやってするの?やっぱり先住魔法?」 「本当に今更ね…しかも唐突すぎるわ。まぁいいけど。」 霊夢は少し面倒くさそうな顔をした。 「アレは私の能力よ。空を飛ぶ程度の能力。誰にも縛られない能力でもあるけど。」 誰にも縛られない、ということはやっぱりあの使い魔のルーンもそれで消えてしまったのだろうか。 しかしそれよりもルイズはあの先住魔法と見間違えるような行為が能力だと言うことにまず驚いた。 「の、能力…?魔法で飛んでるんじゃなくて?」 「えぇ、…まぁ魔法使って空を飛んでる奴もいるけどね。」 そう言った彼女の目は一瞬だけ何処か懐かしむような目をしていた。 きっと元いた世界にメイジかなんかの親戚がいたのだろうか。 霊夢は手に持っていたカップをテーブルに置くとイスから立ち上がり、座り心地のいいベッドに腰を下ろした。 一方のルイズは少し落胆したような顔を浮かべた。 「そう…別にそれは魔法とかじゃなくて最初から備わっていたものなのね……。」 つまりは生まれたときからそのような力を持っていたのだ。 ルイズは思った…まるで私と正反対だなぁ。 と。 そんなことを思い、ちいさな憂鬱の波がやってくる。 どこか妙な寂しい雰囲気を醸し出しながらルイズは力なく項垂れた。 「どうしたの?」 それに気づいたのか霊夢はルイズに声をかける。 「…あのね、ちょっと話聞いてくれる。」 「え?…まぁちょっとだけなら。」 そう言ってルイズは語り始めた。 自分がさる公爵家の末女として生まれたのだが物心付いたときからまともな魔法が行えず、常に失敗し続けてきたこと。 父はその事についてあまり触れなかったが母と姉がそれをもの凄く気にしていること。 いつまでたっても魔法は使えず、無駄に失敗したときの爆発が強くなるだけ。 「それがほかの生徒達に『ゼロ』って呼ばれている理由よ。」 一通り語り終えたルイズは一度間をおいて言った。その鳶色の瞳は何処か悲しみを湛えていた。 霊夢はお茶すすりながら黙って話を聞いていたがそんなルイズに気にする風もなくこう言った。 「つまり何?アンタより強い私が羨ましいって事なのね。人に長ったらしい愚痴を聞かせておいて。」 少々呆れた言い方と突き刺すような視線で霊夢はそう言った。 ルイズは霊夢の視線に少々たじろぐが力弱く首を振った。 いつにもまして珍しく今のルイズは少し弱気であった。 そりゃいつもは気の強い女子生徒だが霊夢の方が気の強さは勝っている。 「べ、別にそんなんじゃ…。」 「それにたぶん、そんなのは失敗の内に入らないわよ。」 その言葉にハッとした顔になった。 「え?それって、どういう意味なの?」 「例えどんな形式でも杖から出ているんでしょう?ならそれはアンタたちが言う魔法なんじゃないの。」 少々無理がありそうな解釈である。 「幻想郷にもアンタみたいに馬鹿みたいに威力を持った魔法を使う奴だっていたわよ。それと同じなんじゃない?」 そう言うと残っていたお茶をクイっと飲み干すと続けた。 「それに魔法なんて勝手に新しいのホイホイと作れるような物なんだしこの際それを新しい魔法だと思えばいいのよ。」 言いたいことを言い終えて満足したのだろうか霊夢はカップをテーブルに置くと最後にこう言った。 「それに、アンタはちゃんと召喚に成功したんだから。」 そう言って霊夢はゴロンとルイズのベッドに寝転がった。 一方のルイズは先ほどの言葉に少ない希望を見いだしていた。 同級生達には茶化され、家族に冷たくあしらわれてきた彼女にはとても影響力のある言葉だった。 そして、霊夢の言うとおり、結果はどうアレ形式的にはちゃんと召喚の儀式は成功しているのだ。 授業時の爆発も、きっと未知の魔法に違いない。 (それに…よくよく思い出せば…。) 今まで、ルイズの失敗魔法を至近距離で受けて無事だったものはいなかった。 絶対割れないと言われていた家の壺を爆砕させたり。 家で練習していたときにたまたま母が魔法を喰らってしまい、髪がアフロになってしまったり。 学院では授業の時に実践をしろといわれた時には必ず何かが彼女の魔法で壊れる。 一年生の冬に部屋で『ロック』の呪文をドアに向けて唱え、結果丸一日雪風に震えながら一夜を過ごした。 今まではそれを全て『失敗魔法』と一括りしてきたがどれにも共通点はある。 そう、『いかなる物でも爆発』するということだ。 それを全く未知の新しい魔法と考えればかなり強い魔法ではないのだろうか。しかし… 「どんな呪文を唱えても爆発しか起こらないって…やっぱりそれってどうなのかしら。」 ルイズはそんなことを考えながら空になった自分のカップに新しいお茶を入れた。 「と、いうよりアンタはいつから私のベッドを好き勝手に使ってるのよ?」 「いいじゃない減るもんじゃないんだから。」 場所変わって学院長の部屋。 普段はここの最高責任者のオスマンと秘書が常に待機している部屋だが今日に限って秘書はお暇を頂きこの場におらず。 部屋にはオスマンと教師の二人だけであった。 「ミスタ・コルベール。今日は何の話かね?」 「実は、見ていただきたい物があるのです。」 コルベールと呼ばれた教師はそう言うと手に持っていた細長い包みを机の上に置いた。 そして包みを結んでいる黒い紐をとくと鹿の皮で包まれていた太刀が姿を見せる。 「太刀…じゃのぉ。ミスタ、これは一体?」 コルベールが答える前に突如太刀がブルブルと震えだしたかと思うと… 『おいおい、やっと暑苦しい動物の皮から出してくれたと思ったら何処だよここは!?』 金具部分をカチカチ動かし荒っぽい口調でしゃべった。 それを見たオスマンは目を細め、それがただの剣ではないということを悟った。 「ふぅむ、インテリジェンスソード…か。」 「インテリジェンス」。要は意志を持つ武器のことである。 価値はそれほどでもないが歴史は古く、中には作られてから数千年の時が経つ物も存在する。 「えぇ、ブルドンネ街で購入いたしました。それと、この本の六十ページを…。」 叫び続けているインテリジェンスソードを無視し、コルベールは一冊の古い本を剣の横に置いた。 「ん?『始祖の使い魔達』か。随分とまた古い物を…。」 そう言いオスマンは六十ページまで一気にめくるとそこに描かれていた『ガンダールヴ』の押し絵を見て体が硬直した。 白銀の鎧をまとった騎士が両の手に持っている二つの武器の内一つは太刀であった。 しかしその太刀と今机の上に置かれているインテリジェンスソードと余りにも似ている。 一度交互に目を配らせ見比べてみるがやっぱり似ているのだ。 「もしもこのインテリジェンスソードがガンダールヴが使用していた物ならば…。」 コルベールは喋り続けていたインテリジェンスソードを鞘に戻した。 「あの少女に持たせ、どうなるかを見てみたいと思いまして。」 その言葉にオスマンは顎髭をいじり神妙な面持ちになった。 「だがのぉ、あの娘は聞いてくれるだろうか。個人的には少々我を通しすぎだと思うのだが。」 「でも我が儘という程強くはありません。この程度の願いなら聞いてくれるかと。」 二人の間に少し静寂が訪れるがオスマンが口を開いた。 「しかし彼女がガンダールヴというのを知ってるのは君とわしぐらいじゃ。召喚した本人も承諾を取らねばいかん。 まぁ近日中にでもここへミス・ヴァリエールとあの娘を呼んで話を聞かせよう。あ、あぁ後そのインテリジェンスソードはここに置いていってくれんか?」 それで話し合いが終わり、コルベールは頭を下げインテリジェンスソードを机に置いたまま部屋を出た。 オスマンは引き出しからパイプを取ると口にくわえ一服をした。 時間は進み昼食の時間、食堂前は生徒達によりごった返していた。 一度に大量の生徒達がここへ来るのだからそれはまぁ仕方のないことだが。 そんな人混みの外にルイズはいた。 「これじゃあしばらくは入れそうにないわね…。アイツは先に入って行っちゃったし。」 ルイズはそう言い頭を掻いた。 先ほどまで霊夢もいたが目を離してる隙に一人で勝手に空へと飛び上がり開けっ放しにされていた窓から食堂の中へ入っていった。 主人と共に人生を生きてゆく事を義務づけられた使い魔がとるとは思えない行動である。 しかし実際には彼女の左手にはルーンが無いため、使い魔ではないと思うのだが。 ルイズは軽いため息を吐くと後ろから誰かに肩をたたかれた。 後ろを振り返ると、この前霊夢に叩きのめされたというギーシュが手に花束を持って突っ立ていた。 「なによ。」 突き放すようにルイズは言うと彼は少し躊躇いながらも口を開いた。 「い、いや実は…あの使い魔君に、これを渡してくれないか?」 そういってギーシュはルイズに花束を突きつけた。 赤と白のバラが一緒くたになって入っている。 「どうして私なのよ?アンタの手で直接渡せばいいじゃない。」 こういうのは本当に自分の手で渡した方が良いのである。 「い、いやぁ…もしも君の使い魔が男だったのなら直接僕の手で渡していたけど女の子だと…ね?」 そう言ってギーシュは目だけを右方向に動かした。そこにいたのはほかの女子達と談笑しながら食堂中へと入っていくモンモランシーがいた。 この前彼は浮気がばれてしまい、その後に霊夢と決闘をして負けたらしい。 女の子達の間では当時少し低めであった彼の評価は見も知らずの少女に負けてしまったせいで地に落ちた。 しかしモンモランシーただ一人だけが今も彼とつきあっているのだ。 なんと健気なことだろうか。まぁでも皆はこの二人のことを「バカップル」とか呼んでいるらしい。 特にキュルケあたりが。 「うーん…、でもレイムだと薔薇の花束なんて貰っても喜びそうにないわよ。」 今までの彼女を見てきたルイズはキッパリとそう言った。 それに霊夢はギーシュのことを毛嫌いしていたし初めてあったときにも「女の敵」とか言っていたのをよく覚えている。 しかしそんなギーシュは尚もこちらに花束を突きつけてくる。 「でもねぇ、このままじゃなんというか…レディに優しい僕としては申し訳が立たなくて。頼むよ。」 そう言うとギーシュは一方的にルイズの手に花束を預けるとそのままそさくさと食堂の中へと入っていった。 取り残されたルイズはギーシュ本人の性格を丸写しにしたようなこの薔薇の花束をどうしようかと悩むだけであった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/tansyuu/pages/48.html
スネーク「あのヒゲは・・・・・・。」 大佐 「『永遠の二番手』だな。」 スネーク「おいおい、ルイージだろう?」 大佐 「いわゆる日陰者だ。」 スネーク「そんなに悪く言わなくてもいいじゃないか!!」 大佐 「甘いぞ、スネーク!兄に勝る弟などいない!!」 スネーク「ど、どうしたんだ!?大佐?」 大佐 「らりるれろ! らりるれろ! らりるれろ!」 スネーク「大佐!しっかりしろ!大佐!!大佐ぁぁーーーーーーーーーーっ!」