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ほぼゼロの手がかり (怪盗L……あの時、死んだはずなんじゃ?) 黄色い探偵服の少女―――【譲崎ネロ】が椅子の上に座り考える。 こんな状況でも……いや、こんな状況だからこそ冷静になろうとする。 ひとまず、デイバックの中に入っていたお菓子の箱が一つだけ入っていた。 彼女の見たことのない銘柄のチョコ菓子であったが、一口だけ口に入れ、頬張る。 (毒は入っていないようだね……うん、美味しい) これから、頭を使うのだから、彼女にとって糖分補給は重要だった。 まずは連れて来られたこの状況―――直前までの記憶がない。 記憶を操作するトイズか何かを使われた可能性がある。 (怪盗Lの持つ『精神操作のトイズ』なら可能かも知れない。 けれど、これだけの人数に同時に精神操作のトイズを掛けるのは流石の怪盗Lでも不可能だろう。 ……あるとしたら、【協力者がいる可能性】だが、それはない) 怪盗は基本徒党は組まない。 特に伝説的大怪盗と呼ばれていた怪盗Lなら自身のプライドが許さないだろう。 (それに本物の怪盗Lだったら、自分の娘―――アルセーヌまでこんなことに巻き込む必要があるのかな?) 次に考えるのは支給されたこの名簿。 自分が知っている名前は…… ・シャーロック・シェリンフォード ・エルキュール・バートン ・コーデリア・グラウカ ・アルセーヌ そして、自身を入れて五人。 (……シャロもエリーもコーデリアもこんな殺し合いには乗らないだろうし。 アルセーヌは怪盗だけど、殺し合いには乗らないだろうしな) 「……さてと、試してみるか」 ネロのトイズは電子機器からの情報取得・制御のトイズ。 所謂、【ダイレクトハック】というものである。 (……ダイレクトハックが効かない……? 首輪だけがトイズを受け付けないのか……) 部屋の中の電子機器は問題なく全て動かすことは出来た。 そして、それと同じようにこの首輪に触り、感触を確かめる。 見た目は普通の金属製の首輪、爆発するということは機械制御式かもしれないと思い試した。 しかし、この首輪にはどういうわけかそのトイズの操作を全く受け付けない。 (と、なると考えられるのは……) 考えられるのは最初の場所にいた怪盗Lが【怪盗Lの名を借りた偽者】の可能性。 だが、これだけじゃまだ証明完了には至らない。 (でも、まだ足りないな、小林が言うところの【そう、これは重要なファクターだ!】って奴が) と、今までの自身の考察を軽くまとめる。 捜査は地道なことからコツコツとが、基本である。 そして、ネロが自身の考えをメモにまとめ上げた時であった。 「……ったく、えげつねェよな…………」 「うわ!?」 気配もなく背後に立っていて、自身のメモ書きを読まれていた。 ネロ自身、集中していたこともあるが、警戒は怠っていなかった。 それでも、突然ゴリラのような男が現れ、声をかけられたのだから、驚くのも仕方ない。 「アンタ、誰?」 「オレの名前はゴレイヌ、プロのハンターをしている」 「プロの……ハンター……?」 このゴリラのような男の名は『ゴレイヌ』。 本人の言う通り、ハンターライセンスを持つ正真正銘のプロハンターだ。 「おっと警戒しなくていい、オレはこんなゲームには乗っていない」 「僕が信用できないって言ったら、どうする気?」 「まあ、何も言わずにずっと見ていたことは詫びよう、すまなかった」 「……………」 見た目毛深いゴリラな割に割と紳士的な態度を取るゴレイヌ。 「見たところによるとお前はあの怪盗Lとかいうやつを知っているようだしな」 「…………つまり、情報のギブアンドテイクってことでいいの?」 「ああ、そうだ。話が早くて助かる」 一先ず、ネロは彼の話を聞くことにした。 情報集めは犯人探しの基本であるのだから。 【E-6・ヨコハマ警察/一日目・深夜】 【譲崎ネロ@探偵オペラ ミルキィホームズ】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、チョコロボ君(一個消費)@HUNTER×HUNTER、考察メモ [思考・行動] 基本方針:首輪の解除及び脱出 1:シャロ、エリー、コーデリアとの合流 2:アルセーヌはひとまず保留 3:(まだ信用しきれないが)ゴレイヌと情報交換をする [備考] ※探偵オペラ ミルキィホームズ2本編終了後からの参戦です。 【ゴレイヌ@HUNTER×HUNTER】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム品1~3 [思考・行動] 基本方針:殺し合いからの脱出 1:ゴン、キルア、ビスケとの合流 2:ヒソカ、クロロ=ルシルフルは警戒する 3:少女(ネロ)と情報交換をする [備考] ※少なくともグリード・アイランド編終了後からの参戦です。 チョコロボ君@HUNTER×HUNTER 一個150ジェニーほどのお菓子。ネロに一ケース分支給された。 時系列順で読む Back 帝王VS反逆者 Next 歪曲少女 投下順で読む Back 帝王VS反逆者 Next 歪曲少女 GAME START 譲崎ネロ [[]] GAME START ゴレイヌ [[]]
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前ページ次ページゼロの賢王 「決闘なんて今すぐ止めなさい。これは命令よ」 ルイズは目の前の使い魔にビシッと言い放つ。 食堂での一件から何故か決闘する流れとなってしまったが、平民であるポロンがメイジである貴族に勝てる筈が無い。 それに体つきこそ多少はがっちりとしているみたいだが、それでもポロンはお世辞にも強そうには見えなかった。 このまま負けると分かってる戦いに使い魔を向かわせるのは、その主としても望ましいことではない。 だが・・・ 「悪ぃなルイズ。その命令だけは聞けねえ」 ポロンはそう言ってヴェストリの広場へ向かおうとするのである。 ルイズは憤慨した。 「何よ!?ご主人様の命令が聞けないの!?それとも」 (それともあんなメイドの何処がいいの!?) 喉まで出掛かったその言葉を言わない様にするのに精一杯であった。 それを言ってしまうと、ポロンを引き止める理由が自分の中で変わってしまう気がしたからだ。 あのシエスタというメイドをポロンが抱き締めたのを見た時は胸の何処かにチクリと針が刺さった様な痛みを感じた。 そのことが頭の中に残っているから、こんなに必死になって決闘を止めようとしているのかも知れない。 「もう一度言うわ。決闘なんて止めて彼に謝りなさい!」 しかし、ポロンはそれでも目を閉じて、ただ首を振るだけだった。 ルイズはポロンの顔を睨み付けることしか出来ない。 ふとポロンは優しく微笑み、先程教室内でしたようにルイズの髪をわしゃわしゃと撫でた。 「キャッ!な、何するのよ!?」 「お前は優しいな」 「・・・お願いだから止めて。今なら謝れば許してくれるわ」 ルイズは何時の間にか涙声になっている自分に気が付いた。 ポロンは笑いながら、再び首を振った。 「何度でも言うが、いくらルイズの頼みでもそいつは出来ねえ」 「どうしてよ!?やっぱりあのメ・・・」 「アイツはルイズを虚仮にしやがった・・・。俺をダシにしてな」 「え?」 ルイズはポロンの言葉に思わず耳を奪われた。 頬がどんどん紅潮していくのが自分でも分かる。 「ポ、ポロンはあのメイドを守ろうとしたんじゃないの?それで・・・」 「勿論、それもある。だがよ・・・」 ポロンの目は途端に厳しいものになった。 「俺はそれ以上に俺自身が許せねえんだ!俺のせいでお前が必死こいて大事に守ってきたものが傷付けられそうになっちまってることが!!」 ルイズは気が付いた。 ポロンは怒っているのだ。 それも普段の様な不平不満による怒りではなく、純粋に大切なものを守る為の怒り。 あの少年はルイズの貴族としてのプライドを貶めようとしていた。 それもポロンという存在を使って。 自分のせいでルイズが悪く言われてしまう。 ポロンにはそれが何よりも許せなかった。 「だからよ・・・俺は証明しなきゃなんねえ。お前が『無能』でも『ゼロ』でも無いってな」 ルイズはこれ以上何も言えなかった。 ポロンは再び優しく微笑むと、そのまま背を向けてヴェストリの広場へと歩き出した。 「諸君、決闘だ!」 まるでオペラ劇の主人公の様に大袈裟な身振り手振りを交えて少年は声を上げた。 少年は酔っていた。 雰囲気に、そして自分に。 広場にはこの騒ぎを聞きつけ、既に多数の生徒たちが集まっていた。 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」 周りから歓声か上がり始めるとギーシュと呼ばれた少年は腕を振ってそれに応える。 ポロンがその場に現れると、すぐに彼の方へと向き直った。 「平民風情が・・・逃げずにここへ来たことは誉めてやろうじゃないか」 「てめえに誉められても嬉しくねえな。寧ろ虫唾が走るぜ」 「相変わらず口だけは達者だな・・・!!」 ポロンの言葉で不機嫌な顔になるが、すぐに気を取り直すと再び大仰な動きで、 「僕の名はギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』!! 」 と名乗り上げた。 観客たちはギーシュに歓声を送る。 「で、決闘のルールは?」 ポロンはその様子を興味無さそうに見つめながら言った。 ギーシュはフンと面白く無さそうに鼻を鳴らす。 「基本的には相手に“参った”と言わせたら勝ちだ。だが、君は平民だからね。普通にやれば君に勝ち目は無い。 それでは面白くないからハンデを付けてあげよう。僕のこの薔薇を取り上げるか地面へ落とすかすれば君の勝ちとしようじゃないか」 そう言うと、ギーシュは一輪の薔薇をポロンへと向けた。 ポロンはペッと唾を吐いた。 「そうか・・・。じゃあ追加ルールだ。敗者は勝者の言うことを何でも聞くってのはどうだ? そうでもしねえと盛り上がんねーだろ?」 「ほう・・・平民にしては気の利く提案だ。悪くない。それで行こう」 「言ったな?てめえも一応は男だし、二言はねえな?」 「くどい!君が勝ったら、僕は何でも君の言うことを聞いてやる!」 (まあ、勝てるわけがないのだけどね) ギーシュは内心ほくそ笑んでいた。 これは決闘ではない。 ただ一方的に平民をいたぶるだけのショーなのだ。 ある程度嬲った後に土下座でもさせて、二度と逆らえないようにしてやる。 ギーシュの目には最早その未来しか見えていなかった。 「最初に言っておくよ」 「何だよ?」 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。・・・よもや文句はあるまいね?」 「決闘だろ?いちいち相手にお伺い立ててんじゃねえよ」 「フン、減らず口が聞けるのもそれまでだ!!」 ギーシュは手に持った薔薇を振った。 「ワルキューレ!」 そう言うと、宙に舞った一枚の花弁がその姿を変えていく。 するとその場に女戦士を模った青銅のゴーレムが現れた。 「これが僕の魔法さ」 ギーシュはニヤリと笑う。 ポロンは何も言わずにじっとその様子を見ていた。 (・・・まるでジパングで見た神仙術みたいだな) ギーシュのワルキューレを見たポロンが抱いた印象はそれだった。 かつて、神の金属オリハルコンを求めて向かったジパングにてポロンは神仙術を目の当たりにした。 それは神社の狛犬をまるで本物の犬の様に動かしたり、巨大な岩をまるで小石の様に投げ飛ばしたりと、 人智を超えた正に神の術であった。 それらを見てきたポロンにとって、ギーシュのワルキューレは特に驚く様なものではなかった。 一方のギーシュも余裕の笑みを絶やさない。 (驚いて声も出ない。といったところかな?ククク) そんな風にポロンを見下していた。 「行け!ワルキューレ!」 ギーシュの号令と同時にワルキューレはポロンへ向かって突進していく。 ポロンは素早く右側へ飛んでそれを交わした。 ワルキューレは一旦停止すると、すぐに向きを変えて再びポロンへと突進する。 ポロンもまたそれを見て取ると、先程と同様に交わしていく。 (思ったより速くねえな。それに動きも単調だ。これなら・・・) 「へー、ルイズの使い魔もなかなかやるじゃない。ねえタバサ?」 その様子を遠くから見ていたキュルケが髪をいじりながら言った。 キュルケの隣には食堂でも一緒だった空色の髪をしたメガネの少女もいる。 タバサと呼ばれた少女は本を読みながらチラチラと決闘の様子を伺っていた。 「彼はただの平民じゃない」 「あら?タバサがそんなこと言うなんて珍しいじゃない?まあ、確かにただの平民なら貴族と決闘なんて起こす気も無いでしょうけどね」 「(こくっ)・・・でも、このままなら彼は負ける」 タバサはそう呟くと、興味なさそうに本のページをめくった。 タバサの言った通り、戦況はギーシュに傾きつつあった。 ワルキューレの単調な攻撃がポロンに当たることは無かったものの、それは確実にポロンの体力を削っていった。 持久戦になれば体力に限りのあるポロンの方が不利である。 (こいつぁ、あまり旗色が良くねえな) ポロンの当初の計画としてはワルキューレの攻撃を交わしつつギーシュの元へ向かい、隙を見て杖を奪うというものだった。 だが、そういった動きが出来る程ポロンの身体能力は高くなく、寧ろギーシュとの距離は遠ざかっていた。 (ヤオなら簡単に実行してアイツから杖を奪っただろうな。いや、ヤオならそもそも素手であの人形を壊せるか) ポロンは心の中でそう愚痴ると、再び目の前まで迫って来るワルキューレを紙一重で避けた。 「ポロン・・・」 ルイズも遠くからこの決闘を見守っていた。 ルイズはただ祈っていた。 自分の使い魔が・・・ポロンが無事に自分の元へ帰って来ることを。 (始祖ブリミルよ・・・ポロンをどうか、どうか守って!!) その時であった。 周りの観客からの歓声が大きくなる。 ルイズは慌てて確認すると、そこには倒れたポロンとそれに遅い掛かろうとするワルキューレの姿があった。 「ポロン!!」 「・・・失礼します」 「誰じゃ?」 オスマンが訊ねると、扉の向こう側から声が聞こえて来た。 「私です。ロングビルです。オールド・オスマン」 「入りなさい」 オスマンの言葉と同時に扉が開かれ、ロングビルの姿が現れた。 ロングビルの姿を見とめるとオスマンは吸っていた水キセルを置いた。 「どうしたんじゃ?」 「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がおられる様です。止めに入った教師も生徒たちに邪魔されて止められない様です」 「フム・・・しょうがないのう。で、誰と誰が決闘なんぞをしとるのかね?」 ロングビルは掛けていたメガネの位置を直す。 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「・・・ああ、あのグラモンとこのバカ息子か。で、相手は誰じゃ?」 「相手はミス・ヴァリエールの使い魔の男だそうです」 オスマンの顔色が変わる。 ロングビルはそれに気付きながらも淡々と報告を続けた。 「・・・教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが?」 「『眠りの鐘』・・・?わざわざ秘法を使う様なことでもない。放っておきなさい」 「分かりました」 ロングビルはオスマンに一礼すると、そのまま去ろうとする。 オスマンはロングビルを呼び止めた。 「ああ、そうだ。ミス・ロングビル。ついでと言っちゃなんじゃが、コルベール君をここへ呼んで来て貰ってもいいかね?」 「ミスタ・コルベールをですか?・・・はい、分かりました」 ロングビルは再び一礼をすると、今度こそ学院長室から出て行った。 オスマンはそれを確認すると杖を取り出して振った。 すると、壁に掛かっている大きな鏡の鏡面が変化し、ヴェストリの広場の様子が映し出される。 オスマンは水キセルを掴むと、それを咥えて鏡の中の映像を見つめた。 (やべえ!!) ポロンはしくじったと歯軋りする。 目の前に迫るワルキューレを避けようとして、足がもつれてそのままこけてしまったのだ。 倒れて無防備となったポロンへワルキューレが容赦なく襲い掛かってくる。 ポロンは自分の右手を見つめた。 (くそ、使えるかどうか分からねえものだから、使うつもりは無かったけどよ・・・。 この状況じゃ四の五の言ってられねえよな!!ぶっつけ本番だこの野郎!!) ポロンは覚悟を決め、素早く構える。 「バギマ!!」 しかし、何も起こらない。 それを見たギーシュが嘲笑う。 「ハーハッハッハ。それは何かのまじないかい?・・・貰ったぞ平民!」 ワルキューレはすぐ目の前まで来ている。 「チッ!ならば・・・」 ポロンは再び構える。 「バギ!!」 すると、ポロンの右手から真空の刃が放たれた。 次の瞬間、ポロンの目前にまで迫っていたワルキューレは真ん中から真っ二つに割れ、そのまま地面へ倒れた。 「な、何だって!?」 驚いたのはギーシュだけでは無かった。 観客席にいた他の生徒たちも色めき立ち、広場は騒然となった。 キュルケも感心した様に手を叩く。 「驚いたわ・・・平民が魔法を使うなんて。まさかあんな隠し玉があったなんてね。・・・あれはウインド・カッターかしら?」 「違う。あれはウインド・カッターじゃない」 タバサが即座に否定する。 「それに・・・」 (それに彼は杖を使用していない) タバサは風の魔法の使い手として、今のポロンの魔法が自分たちの使うそれとは性質が違うものだと感覚的に見抜いていた。 するとタバサは読んでいた本を閉じ、決闘を食い入る様に見つめ始める。 そんな今まで見たこと無い友人の様子にキュルケは面食らっていた。 (この子がこんなに興味津々に・・・?なるほど、彼は確実にただの平民ではないわね) キュルケは自分の胸の中に何か昂ぶるものを感じ始めていた。 ルイズもまた今の様子に面食らった者の1人であった。 「嘘・・・でしょ?」 今までただの平民とばかり思っていたポロンが魔法を使用した。 あまりの衝撃に頭が回らなかった。 (ポロン・・・どうして黙っていたの?私が『ゼロ』だから?) 突如湧き上がる感情にルイズはポロンの顔を見るのが辛くなっていた。 それでも、目を逸らそうとはしない。 (見届けなくっちゃ・・・。主として、この決闘を見届けなくちゃ!!) 「く、クソ!これは何かの間違いだ!」 そう言うと、ギーシュは再び花弁を宙に舞わせて、新たに1体のワルキューレを作り出す。 「行くんだ、ワルキューレ!」 再びワルキューレがポロンへ向かって直進する。 ポロンは今度はその場から動かずに右手を突き出した。 「ベキラマ!」 また何も起こらない。 「ならギラだ!」 ポロンの右手から熱を帯びた閃光が放たれた。 ワルキューレはそれに飲み込まれると、上半身を砕かれてその場へ崩れ落ちる。 「ぐ、ぐぬぬ・・・」 ギーシュは歯軋りする。 ただの平民だと思っていた男が魔法を使ったのだ。 これは明らかな想定外の出来事であった。 「・・・なるほどな、貴族崩れの平民だったというわけか」 貴族の中にはその地位を剥奪され平民にまで落ちぶれた者も少なくない。 彼らは平民でありながら、当然魔法を使うことが出来る。 ポロンもそういった連中と同じなのだろうとギーシュは当たりをつけた。 杖を使っていない様にも見えたが、それも気のせいだろうと決めつける。 「君も魔法を使うならば、遠慮はいらないな!」 そう言うとギーシュは7枚の花弁を宙に舞わせた。 すると、それらは全てワルキューレと化し、7体のワルキューレがポロンの目の前に立ちはだかった。 「このギーシュ・ド・グラモン、全力を以って貴様を潰す!」 「・・・なるほど、数で攻めやがるか」 ポロンは舌打ちする。 (こんなんじゃ、当然ヒャダルコもイオラも使えねえと見た方がいいな。 今の手持ちの呪文じゃ火力が足りなさ過ぎる・・・。1体ずつ破壊していくなんて チンタラしたことやってたら確実に他のにやられるぜ!) 「どうした?魔法が使えるからといっていい気になるなよ平民が!!」 ギーシュが薔薇を振ると、ワルキューレが一斉に襲い掛かってきた。 ポロンは必死に打開策を考える。 その時、この世界へ来る少し前に酒場で知人と交わした会話を思い出した。 「・・・師匠、覚えていますか?俺たちがガキだった時、アリアハンの森の中でゴールドオークに会ったこと」 「ああ、あったなあ、んなこと」 「あの時、師匠は俺とアスリーンを置いて真っ先に逃げたんですよね」 「んだよ、今更その時のこと責めんのか?」 「まさか!・・・あの時の師匠は本当にカッコ良かったなあって話ですよ」 「つまり、今はカッコ良くないってことだな?」 「アハハハ・・・勘弁して下さいよ師匠」 「ったくよお。・・・実は、あの時のこと俺あまりよく覚えてねえんだよなあ」 「本当ですか?何か凄い呪文使ったことも?」 「呪文?」 「そうですよ、こう右手から・・・」 (・・・そうか!!) ポロンは打開策を思いついた。 (ちっ、何時までも若いつもりだったけど俺も相当耄碌してやがったな。 たかだか3年呪文が使えなくなっただけでこんなことを失念してたなんてよ!!) 「おい、てめえ」 ポロンはギーシュに声を掛ける。 「何だい?命乞いかい?」 「・・・避けろよ」 「はあ?」 ギーシュはポロンが何を言っているのか理解出来なかった。 ポロンは目を閉じた。 次の瞬間、ポロンの両手に魔力が集中し始める。 「右手にバギ・・・」 「左手にギラ・・・」 ポロンは目を見開き、両の手を合わせた。 「合体呪文、バギラ!!」 前ページ次ページゼロの賢王
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「ゼロのルイズ」(前編) ◆LXe12sNRSs 「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。 涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。 そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。 ……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。 恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。 その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。 異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。 「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」 「な、なんでアンタがここにいるのよ!」 「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」 「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」 晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。 少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。 そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。 召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。 「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」 「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」 場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。 その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。 「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」 「? 遠くないってなにが?」 「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」 「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」 「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」 「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」 茹蛸みたいに顔を火照らせて、ルイズは少年の耳を力いっぱい引っ張った。 ……何故だろう。この少年の前に立つといつもこうだ。 言いたいことが言えなくて、発言を失敗するたびに胸が締め付けられるように苦しくなる。 病のようで怪我のようで、そのどちらでもなくて。 ルイズは純真な瞳に笑う少年の素顔を映し、正体の掴めぬ感情に胸を焦がすのだった。 「……ったく、こんなガサツで乱暴な性格だから、みんなに『ゼロのルイズ』なんて呼ばれるんだよ。少しはシエスタとかを見習えよな」 「そ、それは昔の話じゃない! っていうかなんでそこでシエスタの名前が出てくるのよ!」 「え? い、いやぁ~なんでだろうなぁ……ハハハ」 冷めた笑いではぐらかす少年の胸ぐらを揺さぶりながら、ルイズはまた怒り出す。さっきから顔を真っ赤にさせっぱなしだった。 ……少しは素直にならないとね。 表の思考ではなく、本能でルイズはそう思った。 このまま意地を張ってばかりでは、いつかきっと後悔してしまう……そんな予感を本能が感じ取っていたから。 「……もう、ゼロのルイズなんかじゃない」 「分かってるよ。ルイズはもう立派な――」 「そうじゃない! そうじゃなくて……その……私には…………才人、がいるから」 「へ? オレ?」 おどけた表情で言葉の意味を探る少年に、ルイズは依然赤面したまま、思いの丈をぶつける。 「……私には、『才人』がいるから! だから……だからもう『ゼロ』じゃない。才人が、才人さえいれば私は……」 意を決した反動で涙まで流す健気な少女に、少年――平賀才人は優しく微笑み、その小さな頭にそっと手を置いた。 ◇ ◇ ◇ 今宵の城は、漆黒ではなく真紅に染め上がることだろう。 爆砕か、炎上か、血染か、それとも――真紅を超越した『虚無』か。 「我が名はルイズ! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 杖である戦鎚を振り、唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!」 サモンサーヴァントだけは自信があった。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 あの召喚の儀式の日が、全ての始まりだった。 「私は心より求め、訴えるわ!」 ルイズと、才人の。 「我が導きに、答えなさい!」 運命の出会い――。 『…………まずは悲しい知らせから――!』 バトルロワイアル会場の中心地に位置するホテルという名の巨城。 その最上階にて、ルイズはグラーフアイゼンを振るい、破壊の力を行使する。 爆音が木霊し、壁が、天井が、床が崩壊。ほぼ同時に始まったギガゾンビの定時放送すら、その轟音で掻き消した。 横に、縦に、斜めに自由自在に振り回し、まるでウサ晴らしをするようにありったけの魔力をぶち撒ける。 これまでの激戦で損傷が進んでいた巨城はすぐにその身を揺るがし、ボロボロと破片を零していく。 『――涼子、前原圭一、竜宮レナ、古手――』 放送は既に、ルイズの耳には入っていなかった。 ギガゾンビの声を掻き消すほどの音も原因の一つだが、ルイズにはもはや、誰が死のうがどこが禁止エリアになろうがどうでも良かったのだ。 ホテルを壊して、目に入った人間は殺して、グリフィスの下へ、才人と一緒に帰る。 それだけ。たったそれだけで、才人は帰ってくる。 誰にも邪魔はさせない。朝倉涼子も問題じゃない。 才人と一緒にいれば、なんだって出来る。 だって才人は、ルイズが召喚した世界でたった一人の平民の使い魔だから。 神聖で、美しく、そして強力なゼロの使い魔だから。 「私はもう――ゼロじゃない!」 懐に忍ばせておいた才人の眼球を取り出し、屋外へと飛翔する。 天高く舞い上がったルイズは手の平に才人を転がし、同じ視点で崩壊していくホテルを見下ろした。 未だ鳴り止まぬ轟音は、依然として破壊が続いている象徴でもある。 スプーンで半分だけ掬ったアイスのように、ホテルは中途半端な半壊状態を迎えたところで鳴動を止めた。 このコンクリートの巨城は、ルイズにとっては砂の城だ。 そう形容するくらいに脆く、崩れやすく、壊しやすい。 才人と再び出会うための、単なる糧に過ぎない。 「見て、才人。お城が崩れていくわ」 地上から舞い上がってくる突風を受けて、ルイズの桃色の髪が揺れた。 生気を宿さない眼球は何も言わず、ただ死んだ瞳に崩壊寸前の巨城を映す。 「召喚魔法は一生で一度きりのもの。使い魔は生涯添い遂げるべきパートナー。私にはもう、才人しかいない」 ルイズが召喚した使い魔は、人間だった。 ルイズが召喚した使い魔は、平民だった。 ルイズが召喚した使い魔は、才人だった。 「もう一度やり直そう、才人。あの召喚の儀式から、私たちの出会いから――」 グリフィスはそれを叶えてくれる。 壊して、殺して、ぶっ壊して、皆殺しにすれば、才人は戻ってくる。 ルイズはグリフィスの虚言に一欠けらの疑念も持たず、ただ単純に――すごい、と思った。 「帰ろう、才人」 ――そこにはいないはずの才人と交わす、二度目のファーストキス。 突き出した唇は空を捉え、ただ唯一といえる彼の象徴は、何も返してはくれなかった。 今は、まだ。 でも、これが終われば、きっと。 グラーフアイゼンを頭上高く振り上げ、彼女の内に眠る潜在魔力を解放させる。 生み出された特大の鉄球の数は、一発。その一発に、ルイズの魔法の特性である『虚無』の力を加える。 「これが、決まれば!」 鉄球を狙い、グラーフアイゼンを当てんと振り被る。 虚無により強化された、本来の使い手であるヴィータのものを越えるシュワルベフリーゲン。 命中すれば半壊状態のところで食い留まったホテルも爆発と共に弾け、辺り一帯は焦土と化すことだろう。 そこに、ルイズ以外の生存者はいない。 「――っぉわれろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 呂律の回らない口ぶりで叫び、ルイズはグラーフアイゼンを振り下ろした。 「やめなさあぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「――ッ!?」 鉄槌が鉄球を穿つ――その直前だった。 ルイズの横合いから飛び込んできた黒い斧が、振り下ろされたグラーフアイゼンを弾き、同時に鉄球を空高く打ち上げた。 ホテルを狙うはずだったシュワルベフリーゲンは空中で花火のように霧散し、黒味がかってきた空を茜色に染める。 バランスを崩したルイズはなんとか体勢を立て直し、謎の乱入者へと矢庭にハンマーを向けた。 その場にいたのは、ルイズと同様に魔法の杖を持った、飛翔する女の子。 白を基調としたロングスカートは、平凡な小学三年生の女子児童が思い描く、典型的な魔法少女の兵装。 胸元で結ばれた大き目のリボンが際立ち、またそのリボンのイメージとは対極に位置する厳格な瞳を、ルイズに向ける。 「なによ……なんなのよアンタ!」 歳相応とはいえない殺気の込めれらた睨みを利かせ、ルイズは少女を牽制する。 だが少女はそれをものともせず、怯むでもたじろぐでもなく真っ向から視線を合わせていった。 純白の清楚なバリアジャケットに、使役するは親友が愛用していたインテリジェントデバイス。 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――その名は、バルディッシュ・アサルト。 そして使い手は、『魔砲少女』、『管理局の白い悪魔』など、呼び名を悪名の如く周囲に認知させ、若輩を意識させないほどの実力を持った一流の魔導師。 「高町なのはとバルディッシュ・アサルト――これ以上の破壊は見過ごせない!」 杖とは形容しがたい戦斧を構え、飛翔する少女は高らかにその名を宣言した。 ――狂った。邪魔が入って、何もかもが狂ってしまった。 直感でなのはを外敵と捉えたルイズは、奥歯を噛み締め、憤怒の思いを逆巻く風に乗せた。 あと少し、あと少しで終わったのに。いつも、いいところでいつもいつもいつも、邪魔が入る。 「どうしてホテルを破壊しようとするの? それに、なんであなたがヴィータちゃんのグラーフアイゼンを……」 「……キュルケにシエスタに、アンリエッタにタバサ……こっちに来てからは朝倉涼子! みんな、みんな才人と私の邪魔をする!」 慟哭を鳴らし、ルイズが雄叫びを上げた。 子供とも女とも思えない、獣性を帯びた咆哮はなのはを唖然とさせ、身を引き締めさせた。 同時に、虚無の力を更に行使する。 グラーフアイゼンにこれでもかというくらい魔力を込め、その形状を変えていった。 ハンマーヘッドの片方に推進剤噴射口が現れ、もう片方にはスパイクが取り付けられる。 通常のハンマーフォルムに比べ、近接戦闘に特化した変形形態ラケーテンフォルム。 『鉄の伯爵』と呼ばしめる戦鎚型アームドデバイス、グラーフアイゼンのもう一つの姿である。 「殺して、壊すだけで終わるの! だから、だから……だから大人しく殺されなさいよぉぉぉぉぉ!!!」 『Raketenhammer』 貴族の優雅さなど欠片も見せず、ルイズは感情のままになのはへと突進した。 ロケット噴射による推進力がルイズの速度を加速させ、回転。遠心力も味方に付け、グルグルと円盤のように回りながら大気を巻き込む。 なのはは咄嗟に防壁を張るが、グラーフアイゼンのラケーテンハンマーは基礎的なプロテクションなどで防げるものではない。 (すごい勢い……! ひょっとしたら、ヴィータちゃん以上――!?) 絶大な威力を防ぐには敵わず、魔力防壁はガラスのように砕け、飛び散った。 破壊力は強大でもそのコントロールはまだ不完全なのか、空中でグルグル回り続けたままのルイズの隙をつき、なのはは距離を取る。 「バルディッシュ、お願い!」 『Haken Form』 なのはの声に答えた機械音声がスイッチとなり、バルディッシュ・アサルトの形状を変えていく。 変形前を斧と言い表すならば、この変形後のハーケンフォームはその名の通り鎌。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルム同様、近接戦闘に特化した直接攻撃タイプの形態である。 「うわぁあぁああああぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁぁ!!」 力任せに突っ込んでくるルイズはグラーフアイゼンを使いこなしているというより、武器として利用しているだけのように思えた。 デバイスと意思疎通を図り、共に戦略を組み立てるなのはとレイジングハートのような関係とは違う。 グラーフアイゼン本来の使い手であるヴィータ以上にムチャクチャな攻撃方法――それを見て、なのはは再度思う。 ヴィータは、いったいどうなってしまったのだろうか。 主である八神はやての死亡と同時に、彼女の守護騎士であるヴィータとシグナムの二人も消滅したものだと思っていた。 しかし先ほどのホテル倒壊と同時期に行われた放送――告げられた死亡者の中には、確かにヴィータの名前があった。 真相が分からない。シグナムはまだこの世界に存在しているのか、ヴィータは誰かに殺されてこの世から消えたのか。 ルイズの持つグラーフアイゼンに訊けば、何かが分かるかもしれない。が、今はまだ。 そもそも、悲しんだり考えたりする暇はないのだ。 (ホテルには、まだみさえさんやガッツさんがいる。これ以上壊させるわけにはいかない……全力で止めてみせる!) なのはは向かってくるルイズと真っ向から対峙し、加速するハンマースパイクをバルディッシュの刃で受け止めた。 圧し掛かってくる力は過去ヴィータと交戦した時と等しく、重い。 でも、挫けたり諦めたりすることはできない。普通の少女みたいな甘えは、なのはには許されない。 守りたいものがある。友達と、仲間の、大切な命。失うわけには、いかない! 「死ね! 死ね! 死になさいよォォォォォ!!」 「……ぜったい、ダメェー!」 何度も何度も打ち込まれる鉄槌を、バルディッシュの一薙ぎで全て振り払った。 どうにかしてルイズからグラーフアイゼンを奪取し、無力化しなくてはならない。 故になのはは不得手な近接格闘戦に挑むが、使い慣れない鎌は振るうだけで疲労が溜まる。 そのため、隙も生じやすい。 「!」 がむしゃらに振り回され続けてきたグラーフアイゼンが不意に軌道を変え、なのはの顎下を狙ってきた。 バルディッシュの間合いを縫うように潜り込まれた一撃は、バリアジャケットに包まれていない頭部を掠めようとしている。 反射的に身を引いてそれを回避するが、そこからさらなる隙が生まれてしまった。 横合いから、真っ直ぐな軌道で振るわれるグラーフアイゼン。 バルディッシュのか細い柄がそれを防ぐが、発生した衝撃はなのはの小柄な身体を容易く吹き飛ばした。 流星のように煌びやかに、暗闇を帯びてきた市街地へとなのはが落下する。 受身として即席の防御魔法を展開するが、それでも落下の勢いを減少させるほどの効果しかなく、音を立ててビルの壁へと衝突した。 「――っいたた……大丈夫、バルディッシュ?」 『Yes, it is safe』 「にゃはは……やっぱり、フェイトちゃんみたいにうまくはいかないね」 コンクリートでできた壁に激突――常人、しかも小学三年生の少女ともあれば、笑って済ませられるものではない。 だがなのはは、普通なら大怪我のところを掠り傷程度で抑え、バルディッシュも目立った損傷はなかった。 戦いは始まったばかり、これからが本番。泣き言を言う暇も、言うつもりも、なのはとバルディッシュにはない。 (接近戦で対応するのは不利……かといって遠距離攻撃を仕掛ければ、あの子はシュワルベフリーゲンで攻撃してくる。 もし流れ弾が一発でもホテルに命中すれば、中にいるみさえさんたちが危ない……なら!) なのは立ち上がり、再び飛翔した。 空中で待ち構えていたルイズは未だ牙を剥き出しにした状態。 戦意を治めず、むしろ高ぶらせて、まずは目の前の邪魔者を排除しようと躍起になっていた。 ホテルからの注意は逸れている――引き離すなら、今がチャンス。 「あとで絶対、お話は聞かせてもらうから。でも今は――」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 再び突進してきたルイズに対し、なのははバルディッシュで受けようとも範囲攻撃で反撃しようともせず――身を翻し、急加速で撤退した。 頭に血が上っているルイズは逃げる敵に意識を奪われ、闘争本能のままになのはを追跡していく。 高速で飛行する魔法少女が二人、戦地をホテルの外周へと移す。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-6・上空/一日目/夜】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:精神完全崩壊/グリフィスへの絶対的な忠誠/全身打撲(応急処置済み)/左手中指の爪剥離 [装備]:グラーフアイゼン(ラケーテンフォーム)(カートリッジ二つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:平賀才人の眼球 [思考・状況] 1.殺す(なのはを) 2.壊す(ホテルを) 3.生き返らせる(才人を) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に軽傷(掠り傷程度)、友を守るという強い決意、やや疲労 [装備]:バルディッシュ・アサルト(ハーケンフォーム)(カートリッジ一つ消費)@魔法少女リリカルなのはA s、バリアジャケット [道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式 [思考・状況] 1:ルイズをホテルから引き離し、無力化する。 2:グラーフアイゼンを奪取し、ヴィータがどうなったかを訊く。 3:シグナムが存在しているかを確認する。 4:フェイトと合流。フェイトにバルディッシュを届けたい。 5:はやてが死んだ状況を知りたい。 6:カズマが心配。 ◇ ◇ ◇ 破壊神が通り過ぎた跡は、それはそれは無残なものだった。 八階建てという、高く堅牢な誇りを掲げていたホテルという名の巨城は面影もなく崩れ落ち、今や元の半分、四階フロアまでを残すのみとなっていた。 五階から上は既に残骸として地に落ち、周囲に散らばっている。 ガッツや野原みさえがホームとしていた三階フロアも、上の階層から雪崩れ落ちてくる天井やら何やらによって、凄惨な有様となっていた。 壁に穴が空いているのも別段珍しくはなく、中からでも日の落ちた世界が一望できる。 崩れゆく鳴動は止まった。だが、これで崩壊が終わったとはとても思えない。 三階フロアの天井は現在進行形でパラパラと崩れ落ち、なおも残骸の数を増していっている。 いつのことだったか――野原みさえは、家族の住まうマイホームがガス爆発により崩壊した時のことを思い出した。 あれは一瞬の内に弾け飛んだ分ジリジリと迫る恐怖は感じ取れなかったが、このホテルの状況は違う。 いつ来るかは分からないが、いつか必ず来るであろう完全倒壊の時。一秒後か、一分後か、一時間後か、考えるほどに怖くなってくる。 関東大震災などがこんな感じだったのだろう。日頃テレビのニュースで見る被災者の方々の気持ちになり、みさえはその身を震わせた。 「ガッツ……それに、ゲインさんやキャスカさんは……?」 身体が満足に機能するのを確認した後は、改めて周囲を見渡した。 確認できるのは、乱雑に散りばめられた瓦礫の山々のみ。ベッドやら電話やら冷蔵庫やら、室内にあったはずのものは全て埋もれ、その姿を隠している。 見当たらないのはホテルの備品ばかりではない。ガッツやベッドで寝ていたはずのゲインもまた、その影をどこかに潜めたままだった。 まさか、彼等も生き埋めになってしまったのだろうか……渦巻く嫌な予感に駆り立てられ、みさえは足場の整わない残骸の上を歩く。 「あっ……痛ッ!?」 そこでようやく、自分の足が負傷しているという事実に気づいた。 瓦礫の破片に足を躓かせ、転倒。原因となった左足は青く膨れ上がり、今頃になって痛みを訴えかけてくる。 どうやら軽い打撲のようだ。これしきの怪我、ホテルの負った被害状況を考えれば随分と程度が低い。 みさえは意識を奮い立たせ、立ち上がろうと力を込める。その背後から、 「フリーズ。動くなです人間」 土埃に塗れた人形が、銃を突きつけてきた。 「あなた……どうして!?」 「まったく、あんな大爆発が起こったっていうのにしぶとい人間ですぅ。まぁ、そのおかげで翠星石も自由になれたわけですけど」 その人形――翠星石は、取り上げたはずの銃を構え、今にもみさえの後頭部を撃ち抜かんと牽制している。 「爆発……? 爆発って……あ」 翠星石の言葉で、みさえはようやく思い出す。 あれはたしか六時丁度、ギガゾンビの声がしたと思った瞬間の出来事だった。 凄まじい怒号と地震のような波に襲われ、すぐに天井が崩壊してきたのだ。 おかげでみさえも翠星石も、放送での死者や禁止エリアの情報を聞き逃してしまった。 しんのすけは無事なのだろうか、蒼星石は無事なのだろうか、考える暇もなく、自分の命を拾うことに精力を注がなくてはならない状況に陥る。 結果として、二人はホテルの倒壊にあっても即死は免れた。その際翠星石は意識を回復させ、同時に強奪された銃も奪還することに成功したのだ。 みさえは微かに振り向き、翠星石のやや後方に目を向ける。 そこに転がっていたのは、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた誰かの四次元デイパック。 おそらく翠星石は、あのデイパックから零れた銃を回収したのだろう。だとすれば、あのデイパックは銃を取り上げていたガッツのものに他ならない。 彼のデイパックがあのような無残な姿を晒しているということは、つまり―― 「ガッツ……ねぇ、ガッツはどうしたのよ!」 「あんなデカ人間しらねーです。ま、大方この瓦礫の下のどこかで野垂れ死んでるんじゃないですか。翠星石には関わりのないことです。それよりも」 翠星石は突きつけた銃口をみさえの旋毛にグリッと押し付け、覇気を込めた声で言う。 「よくも! よくも翠星石をあんな目にあわせてくれやがりましたねぇ! 人間如きにあんな仕打ちを受けるなんて屈辱ですぅ!」 「仕打ちって……あなたがトンチンカンなことを言ってるからお仕置きしただけよ! それの何がいけないわけ!?」 「あーもう! これだから知能の低い人間の相手をするのは嫌なんですぅ! 今の状況が分かっていないですか!? お前は今から翠星石に殺される運命にあるのです!!」 癇癪を起こしたように顔を染め上がらせ、翠星石は力の限り銃の引き金を引いた。 銃声が鳴り、黒く開いた口から殺意の弾丸が飛ぶ――が、それは狙っていたみさえの後頭部を逸れ、天井へと放たれる。 何が起こったか理解できない翠星石は、同時に自分の身体がみさえの手によって乱暴に振り回されていることを知った。 隙を突き、小さな人形の身体を捕縛した――このまま投げ飛ばし、抵抗するつもりか。 翠星石は考えたが、答えはまるで見当違いであり、みさえの行動の真意も一瞬が過ぎる内に知ることとなる。 「――危ない!」 時間差で届いたみさえの危機を知らせる声は、翠星石に事態を把握させた。 振り回された体勢のまま、視覚でも確認する。 翠星石とみさえの後方に、剣を振るう褐色肌の女剣士がいた。 みさえに気を取られている間に、この女は翠星石の背後に忍び寄っていたのか――ようやく自分がとんでもない窮地にあったことを自覚した翠星石は、遅すぎる恐怖に身を震わせる。 あと数秒遅れていたら真っ二つという状況だった。げんこつの恨みは消えないが、この時ばかりはみさえの機転に感謝せざるを得ない。 というか、この女剣士はいったい誰だ。翠星石は一瞬考え、すぐにキャスカという名のミニ人間がいたことを思い出した。 「……スモールライトの効果が切れたのね。それにその剣も……最悪」 「うっ…………ぐぅぅぅ……」 キャスカが握っているのは、翠星石の銃と同じくガッツが預かっていたはずのエクスカリバーだった。 あれが彼女の手に渡っているということは、やはりあのズタズタに引き裂かれたデイパックはガッツのものなのだろう。 だとしたら、なおさら彼の安否が気に掛かる。みさえは未だ姿の見えぬ仲間を捜したい衝動に駆られるが、どうやら眼前の女騎士はそれを見逃してはくれないようだ。 獰猛な獣のように声を漏らし、現状が把握できていないのであろうキャスカは、混乱気味にみさえと翠星石を襲った。 グリフィス以外は敵。これはキャスカが定めたルールのようなものであり、目に付く人間、殺せるチャンスがあれば、深く考えずに襲えという本能からくるものだった。 女と人形のように小さな子供……戦力的に見てもなんら問題ない。左足は骨折により使い物にならなくなっていたが、腕さえ動けば十分に殺せる。 キャスカはエクスカリバーの柄を握る力を強め、片足で跳躍してみさえに飛びかかった。 巻き起こる剣風は、みさえのような平凡な主婦には到底回避し切れぬ代物だったが、キャスカが満身創痍なこともあってこれは難なく回避する。 「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ! おち……落ち着きなさいってば、ねえ!」 攻撃を回避しつつキャスカを宥めようとするみさえだったが、混乱の度合いが強いのか、彼女は剣を収めようとしない。 朝比奈みくるという少女を殺害し、ゲインやセラスに手傷を負わせた凄腕の女剣士――ガッツは保護対象として捉えていたが、やはりセラスの言うとおり彼女は殺し合いに乗ってしまったようだ。 相手が刃物を持っている以上、翠星石のようにげんこつやぐりぐり攻撃で鎮圧することは難しい。大人しく逃げるのが得策かと考えたが、みさえ自身も怪我人の身。 いつ崩壊するとも分からないホテル内を、キャスカの剣をかわしつつ負傷した足で脱出する自信はなかった。 何より、ここにはまだガッツやゲインがいるはずである。彼等の安否を確かめるまでは、安心して避難などできるはずがない。 「くあああああああああああああッッ!!」 「――ッ!?」 気合の咆哮と共に、キャスカはエクスカリバーを大きく振り上げた。 その奇声に一瞬怯んだみさえは瓦礫の足場につんのめり、転びそうになった身体を寸でのところで制御する。 その間、回避行動はままならず、停止したみさえの上空から真っ直ぐな一閃が振り下ろされた。 「――――」 目を瞑り、覚悟を決めた。 これはもう避けようがない。恐れから来る痺れが身体を固めさせるが、死にたくないという強い意識はまだ保っている。 たとえどうしようもない窮地だとしても、みさえは願った。 助けを。ピンチを救ってくれる、ヒーローみたいな誰かを待ち望んだ。 ――その脳裏に荒くれた大男の姿がよぎったのは、否定しない。 「お前はッ!」 (……え?) 突如、キャスカの驚きに満ちた声を耳にし、みさえはそっと瞼を開けた。 気づけば、両断されるはずだった我が身は五体満足のまま存在している。 いったいどうして――答えを求めた視界の先で、キャスカの剣を一心に防いでいる男の姿があった。 「ガ――」 その名を呼ぼうとして、みさえは異変に気づく。 目の前で自身を守る障壁のように君臨している男は、脳裏をよぎった彼ほど大柄な体躯ではない。 晒した上半身に包帯を巻きつけ、荒い息遣いでなんとか立っているその男は――ゲイン・ビジョウだった。 「ゲイン・ビジョウ!」 「よぉキャスカ。一度は撤退したかと思ったが出戻りか? そんな傷まで負って、そこまでして生き残りたいか?」 ――昼に起こった闘争を再びなぞるかのように、ゲイン・ビジョウとキャスカの二人は対峙する。 ゲインはみさえがベッドの傍に立てかけて置いたバットを得物とし、キャスカの剣を防いでいた。 調子が万全ならば両断することも容易かったであろう代物だったが、キャスカ自身もいっぱいいっぱいらしい。 エクスカリバーを握る手はどこか弱々しく、数多の兵士を率いていた頃の力強さは感じられない。 「驚かせてしまってすまない、ご婦人。少し尋ねたいんだが、君はシドウヒカル、もしくはセラス・ヴィクトリアの知り合いか?」 「両方よ! 二人は今外に出てていないけど、あなたの看病をしていたら突然ホテルが崩れ出して、っていうか今も崩れてる真っ最中で……」 「なるほど……なんとなくだが、状況は把握した。ここにキャスカがいる理由は後でゆっくり聞くとして、とりあえず彼女には眠ってもらわないと……な!」 降りかかる刃の切っ先をバットで流し、ゲインはキャスカを沈静化させようと腹部に蹴りを放つ。 だが負傷している身とはいえ、剣を持った傭兵に安易に隙が生まれるはずもなく、ゲインの一撃は空振りで終わった。 「相変わらず鋭いな。女性のものとは思えぬ剣捌きだ。……それだけの力を持ちながら、自分のことしか考えていないってのがマイナスだがな」 見た目にそぐわぬ豪快さもまた、女性のステータスの一部。ゲインはそう捉えていた。 だがその力を自分のため『のみ』に使うとあっては、とても褒められたものではない。 血気盛んなレディは嫌いではないが、少々痛い目を見てもらう必要がありそうだ……ゲインは疼く脇腹を押さえ、キャスカの剣とバットを交わした。 (自分の命に、興味などはない……。私は決めたんだ。グリフィスを優勝させ、鷹の団を再興する) 囁くように発した言葉は、ゲインの耳には届いていなかっただろう。 ゲインは思い違いをしている。キャスカは決して自分が生き残りたいがために戦っているのではなく、ただ一人、敬愛した男の無事を祈り剣を振るっているだけなのだ。 (グリフィス……ジュドー……ピピン……リッケルト……コルカス) 誰にも思いつかないような知略と、カリスマ性溢れる指揮でみんなを率いてくれたグリフィス。 投げナイフを得意とし、何事もそつなくこなす参謀役でもあったジュドー。 巨体を盾にして何度も敵兵の強襲を食い止め、白兵戦の要として活躍していたピピン。 幼いながらも常に皆のことを思い、鷹の団を支えていてくれたリッケルト。 身勝手ではあるが、いざという時には誰よりも果敢に敵に攻めていったコルカス。 何ものにも変えがたい、鷹の団の戦友たち。 (……ガッツ!) 一年前に鷹の団を去り、仲間を、グリフィスを裏切り我が道を進んだ――今はもういないガッツ。 (ガッツも、私も、いらない。グリフィスが、いれば……) ふと、自分でも驚くくらい仲間に対して献身的な思いを抱いていることに気づく。 その正体は、あの一年を無駄にしたくないという意地か、未だ潰えぬグリフィスへの思いか、傍を離れていったガッツへの怒りか――。 (深く……考えるなキャスカ。私はただ、敵を斬る。それ、だけでいい……!) エクスカリバーの握り手に再度、力を込める。 グリフィス以外の敵を消す。ガッツであろうと、誰であろうと。そのためにもまず、この場を生き延びてやるんだ。 「いくぞ……ゲイン・ビジョウ!」 「やれやれだな……」 鷹の団の千人長たる女戦士は、たった一人の男と残してきた仲間のために剣を振るう。 黒いサザンクロスの通り名を持つエクソダス請負人は、その肩書きの誇りに掛けて、脱出を願う者たちでのエクソダスを目指す。 観戦するしか道が残されていなかった主婦は、自分にでき得る最善の行動を模索し、そして速やかに取り掛かる。 他者を恨んでばかりの人形は、いつの間にか姿を消していた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】 【キャスカ@ベルセルク】 [状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night [道具]:なし [思考・状況] 1:目に付く者は殺す 2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。 3:グリフィスと合流する。 4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 1:キャスカを止め、ホテルからエクソダス。 2:市街地で信頼できる仲間を捜す。 3:ゲイナーとの合流。 4:ここからのエクソダス(脱出) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】 [状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲 [装備]:スペツナズナイフ×1 [道具]:なし [思考・状況] 1:ガッツ本人と、戦闘中のゲインの援護になるような物を掘り起こし、キャスカを止める。 2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。 3:セラスら捜索隊と合流。 4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。 5:しんのすけ、無事でいて! 6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する 基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:全身に軽度の打ち身(左肩は若干強い打ち身)、頭が痛い、全身各所に擦り傷 服の一部がジュンの血で汚れている、左肩の服の一部が破れている、人間不信 [装備]:FNブローニングM1910(弾:4/6+1)@ルパン三世 [道具]:無し [思考・状況] 1:あんなバカな人間共は放っておいて、さっさとここから逃げるです! 2:真紅や蒼星石と合流するです。 3:まずは魅音を殺してやるです。 4:水銀燈達が犯人っぽいから水銀燈の仲間は皆殺しです。 5:水銀燈とカレイドルビーを倒す協力者を探すです、協力できない人間は殺すです。 6:庭師の如雨露を探すです。 7:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。 基本:チビ人間の敵討ちをするため、水銀燈を殺してやるです。 [備考]:第三放送は聞き逃しました。 ※ゲインのデイパック: 【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】 みさえのデイパック: 【糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】 バトーのデイパック: 【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】 ロベルタのデイパック: 【支給品一式×6、マッチ一箱、ロウソク2本、9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの】 翠星石のデイパック: 【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】 パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、支給品一式、空のデイパック、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、首輪 がホテル内、もしくはホテル周囲の瓦礫の下に埋もれています。全て破損状況は不明。 ※ガッツの持っていたデイパックが崩落により損傷、中身が全て吐き出され、使い物にならなくなりました。 時系列順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 投下順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 高町なのは 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ キャスカ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ゲイン・ビジョウ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 野原みさえ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 翠星石 207 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 アーカード 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 園崎魅音 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 獅堂光 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on フェイト・T・ハラオウン 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on タチコマ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on ゲイナー・サンガ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 ストレイト・クーガー 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 セラス・ヴィクトリア 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ガッツ 207 「ゼロのルイズ」(後編)
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前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページゼロの写輪眼 イタチは自分の名を言うと共に全身に力をこめた。……弟のことを考えれば今すぐにでも自分の手で命を絶つべきなのかもしれないが、今は状況が見えなさ過ぎる。 自分の身に何が起きたのかを知るまでは、様子を見ることに腹を決めた。 しかし予想に反して、少女は何の反応も見せなかった。むしろ、 「なんで、なんで私が呼び出した使い魔がこんなのなのよ!」 と不満げに愚痴を漏らしている。だがその反応に、イタチは眉を上げた。 (……俺のことを知らない? それに使い魔だと?) 自分で言うのもなんだが、『うちはイタチ』の名は各国に名が知られすぎている。属している組織、『暁』のせいもあるのだろうが、何より自分がしてきたことがあ まりにも罪深すぎる。手配帳も人相書きも出回っているはずだし、この反応はどうもおかしい。しかも使い魔とはどういう意味だろうか? まさか、口寄せの術で呼び 出される者たちのことを言っているのだろうか? 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 「しかも妙な格好をしているし。さすが『ゼロ』のルイズだ!」 イタチがそこまで考えたとき、周囲の人垣から目の前の少女に向かってそんな声がかかってきた。少女、ルイズというらしい、は顔を真っ赤にして 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 と反論した。 「ミスタ・コルベール! もう一回召喚をやり直させてください!」 そして、人垣の中にいるローブを纏い、大きな杖を持っている禿頭の中年男に向かって叫ぶ。しかし男は首を振った。 「だめです。ミス・ヴァリエールも知っているでしょう? 春の使い魔の儀によって現れた『使い魔』で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進みます。一度 呼び出した『使い魔』は変更することができません。なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからです。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかないのです。 ……それより早く、『コントラクト・サーヴァント』を済ませてしまいなさい」 「? ミスタ・コルベール?」 突然変わった口調にルイズという少女は困惑した体だ。しかしコルベールはこの上なく真剣な顔をしており、視線はイタチに向けられたまま動かないでいた。 ルイズはその様子に首をかしげながら、同時に顔を真っ赤にしてイタチを見てくる。そしてあきらめたかのようにため息をついてからイタチに近づき、屈んで 顔と顔を合わせるようにしてきた。 「か、感謝しなさいよ。貴族が平民にこんなことするなんて、普通じゃ有り得ないんだから」 イタチには言っていることの意味が分からない。だがそんなイタチの困惑などお構いなしにルイズが顔を近づけてくる。そして「我が名はルイズ・フランソワ ーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」と言った。 その直後、イタチの姿がルイズの前から消える。 「え?」 そのことに呆然とするルイズだが、それだけでは終わらない。突然ルイズの首に腕が巻きつけられ、体が浮き上がる。そして、クナイが横から押し付けられた。 「!? な、何!? 何なの!!」 あまりのことに混乱するルイズ。しかし、それは周囲にいる人間も同じだった。 「な、なんだ今の!?」 「まったく見えなかったぞ! いつの間に移動したんだ!? いや、それよりもルイズが捕まってるぞ!」 ルイズと同じ様に混乱し、騒ぎ始める。 一方ルイズは自分に何が起こっているのか分からずに手足をじたばたさせていたが、後ろから声がかかってきた。 「さっき何をしようとした」 「! こ、この声、あんたまさか、使い魔!?」 首に腕が巻きつけられていたが、それを無理してまげて後ろを見る。果たして、そこにあったのは彼女が呼び出したイタチの顔であった。 「な、何よ、平民のくせに! こ、こんなことして許されると」 「質問に答えろ。さっき何をしようとした?」 ひ、とルイズは喉を鳴らした。先程までとはまるで違う、凄まじい殺気をイタチが発しているのに気付いたからだ。同様に周囲にいた人間も、水を打ったように 静まり返る。 イタチはルイズが言葉を発して顔を近づけてきたとき、イタチの眼、チャクラを見切る写輪眼は彼女に流れるチャクラ(どこか普通のチャクラとは違う様な感じは したが)から何らかの術をかけようとしていた事を見抜いていた。 そこでイタチは、ルイズが行おうとしていた使い魔の儀というのが口寄せの術のように何かを使役して戦わせるものではないかという考えを持ったのだ。 (ならば、俺がこの状態で蘇っているのも頷ける……) 死者を蘇らせて戦わせる口寄せ、『穢土転生』という術もあるくらいだ。自分が知らないだけで、他にそのような術があったとしてもおかしくない。自分を蘇らせ、 口寄せの術で呼び出されるものたちのように使役し、戦わせようとしているという可能性がイタチの頭をよぎったのである。そしてもし自分を蘇らせる目的が、弟や 木の葉を危機に、さらには世界を戦乱の時代に陥れようとするものであれば、 (子供とはいえ、容赦はしない) 先程までの考えを改め、イタチは必要であればこの場にいる全員を殺す覚悟を決めた。これほどの術を行使する者がいる組織である。それを行使する者が例え相手 がまだ年端も行かない少年少女であろうと、愛するもの、大事なものを守るためには、どんな非道なことであろうとやり遂げてみせる。そうイタチが思ったときだっ た。 写輪眼がチャクラの動きを伝えてくる。どうやら性質変化らしい。そちらの方向に視線を向けると、そこには杖を構えてこちらを睨みつけている先程コルベールと 呼ばれた男がいた。 「ミス・ヴァリエールから手を離しなさい! さもなければこの『炎蛇』のコルベールが相手になりますぞ!」 イタチの殺気にも怯まず、毅然とした様子で叫んでくる。 男は中々の性質変化、どうやら火属性らしい、の使い手のようだが、それでも自分との実力にはかなりの開きがあった。男の方でもそれは自覚しているらしく、手 の震えや首に流れている冷や汗からそうと分かる。無謀と知りつつも、この場にいる人間を身を挺して守るつもりなのだろう。 丁度いいとイタチは考えた。腕の中にいるルイズという少女は自分の放つ殺気に震えながらも睨みつけてきている。だがそれは明らかに強がりでまともな受け答えが できるとは思えない。そしてそれは他の少年少女、イタチの殺気に怯えて呆然と突っ立っている者が殆どだった、にも同じことが言えるだろう。ならば、この男に答 えてもらえばよい。いざとなれば、幻術を使ってでも問いただすが。 イタチはコルベールに向き直り、口を開いた。 「ならば、あなたに質問に答えて頂こう」 「質問……ですと?」 「そうです。この娘を守りたいのでしょう? 質問に答えていただき、俺が得心するような答えであれば、この娘には手出しはしません。ただ、もし得心の行かない ものであれば」 「……あれば?」 「……最悪、この場にいる者の皆殺しは覚悟して頂く」 その脅迫も混ぜた言葉に、ざわりと人垣が揺れた。 「舐めた口、た、叩きやがって……」「平民の、く、くせに、なんてこと……」などというイタチの実力も分かっていない者の戯言も聞こえてきたが、それもイタチ の圧倒的な殺気の前にすぐに消えうせる。 コルベールは口をかみ締め、悔しさを飲み込みながらゆっくりと頷いた。それを見たイタチは、一つ目の質問をする。 「ではまず、何の目的で俺をここに呼び出したのかを答えてもらいます」 「……我々の使い魔召喚の儀のためです。我々メイジの眼となり耳となり、手となり足となる。それが使い魔です。それを呼び出すために、この儀を我々は執り行い ました。」 「成程。……それは詰まり、あなた方の意のままに俺を使い尽くすつもりだったということですか?」 眼を細め、コルベールに問い返す。 びくりと身を震わせ、コルベールは慌てた口調で答えてきた。 「いやいや、そんなつもりはありませんぞ! た、確かに使い魔は主人の僕となり、尽くすものなのですが、しかし使い魔とはメイジのパートーナーでもあるのです。 決してそのような無体な真似などいたしませんし、人であれば尚更だ! そ、それに言いにくいのですが、この儀で人が呼び出されるというケース事態私は見たこと も聞いたこともありません。正直、どうすればいいのかは我々も迷っていまして……」 最後の方は言いよどみ、コルベールの口の中で消えていった。 イタチは考えを巡らせる。どうやらこの男の言葉に嘘は無いようだ。それに話の前半だけを聞いている分には到底承諾できないような内容だが、後半部分から察する にどうやら自分目当てではなく、無作為にその使い魔とやらになるものを呼び出す儀式らしい。周囲を見回してみれば、成程、確かに普段口寄せで呼び出されるよう な者達がいる。悪意あっての召喚ではないようだ。 (どうやら俺にとっても最悪のケースは避けられたらしい。……しかし、確かに死んだはずの俺をこの状態で呼び出すだと……?) 腕の中で震えつつも、こちらを睨んでくるルイズにイタチは眼を向ける。先程の説明では死んだ人間を蘇らせて召喚などということとはまったく関係していない。 一体どういうことなのだろうか? それとも、術を行使したこの少女が特別だったということか……? 疑問に思いつつも状況把握が先だと結論付け、質問を再開した。ルイズはもう放してもいいのかもしれないが、いざというときのためにこのままでいてもらうこ とにする。 「では次に、ここがどこの国の、何と言う場所なのかを答えていただく」 「……この国の名はトリステイン王国。そしてここはその魔法学院です」 そこでイタチは眉をひそめた。『トリステイン』などという国など聞いた事が無い。任務の都合上、国外の国の名も諳んじていた筈なのだが。 (俺の知らない海外にある国か? そう考えれば俺のことを知らないのも何とか納得できるが、魔法……? 学院ということは木の葉の忍者アカデミーのようなも のなのだろうが、忍術ではないのか? だがもし海外だというのなら、何故言葉が通じる?) 初めて聞く国名や通じる言葉を怪訝に思いつつも、イタチは再度質問する。しかしそこから本格的に会話がかみ合わなくなってきた。 「五大国外の国なのか」と聞けば「五大国?」と鸚鵡返しのように尋ねられ、魔法とは忍術の別称、もしくはそれに類するものなのかと聞けば「忍術? 魔法で はないのですか?」と聞き返される。ますます怪訝に思いならばせめて五大国の中でも最も栄華を誇った火の国、そして木の葉隠れは知っているだろうと聞いてみ るも、またしても「火の国? 木の葉隠れ?」と鸚鵡返しのように聞き返された。 ここに至って、明らかにお互いの認識に食い違いがあることにイタチは気付いた。 (いくら国外とはいえ、火の国の名すら知らないのはおかしい。国外とは言え情報ぐらいは伝わっているはずだ。それに忍術を知らないのもそれと合わせて考えて みれば……) コルベールの様子を見ると、彼も明らかに困惑しているようだった。彼からしてみれば自分が話していることの方が彼にとっての常識とかみ合わないのだろう。 イタチはしばしの間考えを巡らせた後、コルベールに声をかけた。 「……どうやら、俺たちは少し腰をすえて話さなければならないようです」 前ページゼロの写輪眼
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もくじを見る 商品情報 概要 追加ポケモン 追加わざ 追加とくせい 関連項目 商品情報 商品情報 タイトル 『ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤)『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』(後編・藍の円盤) 配信開始日 2023年12月14日(木) 公式サイト 後編・藍の円盤 概要 主人公はアカデミーの姉妹校であるブルーベリー学園へ交換留学をしに行く。ブルーベリー学園は海の中にある新しい学校で、特にポケモンバトルの教育に注力している。主人公は授業に参加したり学生たちと交流したりして、アカデミーとは異なる学園生活を体験することになる。 追加ポケモン いずれもパルデア図鑑に掲載されるようになる。 No. 名前 分類 タイプ 特性 タマゴグループ 性別 備考 通常特性 隠れ特性 ♂ ♀ 1018 ブリジュラス ポケモン はがね ドラゴン じきゅうりょく がんじょう すじがねいり 鉱物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1019 カミツオロチ ポケモン くさ ドラゴン かんろなミツ さいせいりょく ねんちゃく 植物 ドラゴン 50% 50% 『後編・藍の円盤』解禁により追加 1020 ウガツホムラ ポケモン ほのお ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1021 タケルライコ ポケモン でんき ドラゴン こだいかっせい - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1022 テツノイワオ ポケモン いわ エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1023 テツノカシラ ポケモン はがね エスパー クォークチャージ - 未発見 50% 50% 【パラドックスポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1024 テラパゴス ポケモン ノーマル テラスチェンジ(ノーマルフォルム時)テラスシェル(テラスタルフォルム時)ゼロフォーミング(ステラフォルム時) - 未発見 50% 50% 【伝説のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 1025 モモワロウ ポケモン どく ゴースト どくくぐつ - 未発見 50% 50% 【幻のポケモン】『後編・藍の円盤』解禁により追加 追加わざ わざ名 タイプ 分類 効果・備考 エレクトロビーム でんき かえんのまもり ほのお きまぐレーザー ドラゴン サイコノイズ エスパー サンダーダイブ でんき じゃどくのくさり どく じんらい でんき タキオンカッター はがね テラクラスター ノーマル ドラゴンエール ドラゴン ハードプレス はがね はやてがえし かくとう パワフルエッジ いわ みわくのボイス フェアリー やけっぱち ほのお 追加とくせい とくせい名 所持ポケモン ゼロフォーミング テラスシェル テラスチェンジ どくくぐつ 関連項目 ゼロの秘宝 コンテンツ 碧の仮面 藍の円盤 番外編
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前ページ/ゼロの使い/次ページ 瓦礫一つ、動くもの一つ無い、ニューカッスル城跡地に三体の鉄像が立ち尽くしていた。 しばらくすると、鉄像が徐々に元の姿に戻っていった。 「驚きましたね。」 「ああ、まさかワルドが自爆するとは・・・」 「そうじゃなくて、あれほどの大爆発の中で生き残った事に驚いたんですよ。」 あの時、マホカンタでは間に合わぬと判断したメディルが鋼鉄変化呪文・アストロンを唱えたお陰だった。 後、0.1秒判断が遅ければマホカンタを使用しているメディルはともかく、他の二人は城の者と運命を共にしたであろう。 「あれは自爆ではない・・・恐らく何者かに爆破させられたのだろう。」 「では、ワルドの他に文と私の命を狙う刺客がいたと?」 「そう考えるのが妥当だろう。傭兵や山賊の一件と言い、奴一人で全てをやったとは思えぬ。」 「とにかく、ここを離れましょう。その刺客が確認に来るかもしれません。」 「さっきも言ったが、僕はここで死ぬ。だから君たちは・・・」 ウェールズは台詞を言い終わることができなかった。 背後から突き出された槍に、心臓を貫かれ、断末魔すらあげる事の出来ぬまま即死したからだ。 「念の為来てみれば・・・道連れにすら出来ぬとは、つくづく役に立たぬ男だ・・・」 槍の主が、得物を死体から引き抜く。そいつは傭兵と山賊を雇ったあの髑髏の騎乗兵だった。 すかさず、メディルが五指爆炎弾を見舞うが、華麗な槍捌きによって、全て弾かれた。 「いきなり、メラゾーマ5発とは随分な挨拶じゃないか。」 「貴様が、もう一人の刺客か。」 「いかにも。呪いのかかった金貨で傭兵と山賊をけしかけたのはこの私だ。」 「よくも、皇太子を・・・!!」 ルイズが失敗魔法を放とうとするのを、メディルが制す。 「止せ。お前の適う相手ではない。」 メディルは無意識のうちに悟った。間違いなくこいつはワルドより格上。 1体1ならともかく、主を守りながら勝てるかどうかは五分五分だった。 「そうそう。私はたださっき吹っ飛んだ役立たずの尻拭いに来ただけなんだ。そしてそれはもう済んだ。 私が君たちと戦う理由は無い。」 「文はどうする?」 「さっき、上層部から連絡があってねぇ。もう文は要らぬと仰りだ。」 「ほう。」 「まあ、私自身が戦う理由は無い・・・だけだがね。」 言われて、メディルはようやく気づいた。いつの間にか周囲が紫色の霧に覆われ、そこから骸の兵士や 中身の無い血まみれの甲冑の群れが這い出してきていることに。 「我が名は死神君主・グレートライドン。冥土の土産に、覚えておいてくれたまえ・・・」 それだけ言い残して、グレートライドンの姿は消えた。 「どうするメディル?」 「この霧、恐らくこの近くで冥界の入り口が開いたのだろう。」 「それって・・・」 「恐らくこの亡者どもは無限に湧いて出るはず。相手にするだけ無駄だ。」 「じゃあ・・・」 「答えは一つ。ルーラ!」 しかし、不思議な力でかき消された。 「やはりそう甘くは無いか。・・・なんてな。」 メディルは手近な魔物にマホカンタをかけた。 「ルイズ、皇太子の死体と私の服の裾を掴め、早く!!」 「わ、わかった。」 言われるがままにするルイズ。 「生憎、着地がうまく行くかどうかは運次第だ。バシルーラ!!」 先程の魔物にかけたバシルーラが、跳ね返ってくる。 その結果、三人はニューカッスル城跡を脱出することに成功したのだが。 「この後はどうするの!!?」 「柔らかい場所か、海上か、その辺飛んでる船の上に落ちることを祈るしかない。ルーラはまだ発動できないんだ。」 「いやあああああああああああ!!!」ルイズの絶叫がアルビオン領空に木霊した。 ルイズ達が一生に一度しかしないであろう、スカイダイビングをしている頃、 アルビオン大陸軍港施設・ロサイスの一室に司祭姿の細い男が玉座に座っていた。 「閣下。」 馬に乗った死神君主が、その男の元へやってきた。 「君か。皇太子はどうした。」 「心臓を一突きに。他2名は取り逃がしましたが・・・」 「冥府の入り口まで開いておきながら・・・か?」 「あのメディルと言う男・・・かなりの切れ者のようで・・・」 「そうか。それにしても、子爵で作った花火は美しかったな。遠くからでも良く見えたよ。」 「皇太子一人吹き飛ばせない、完全な娯楽専用の花火でしたがね。」 「まあ、あれだけ綺麗ならあのお方も満足なさるだろう。それより・・・」 「分かっております。その準備を兼ねて、この世とあの世を繋げたのですから。」 「楽しみだな。トリステインが血と炎に染まる日が。」 「全く持ってその通りで。制圧の暁には閣下はまず何をなさるおつもりで?」 「・・・トリステインにはそれは美しい姫がいるという。ぜひ一度食したいと思っていたのだ。」 「相変わらずですね。百人もの美女を食べておきながら・・・」 ルイズ達は幸運にも、トリステイン国近海に不時着(落下直前、メディルが硬化呪文スクルトを連発し衝撃を和らげた)した。 彼曰く、岩場などの硬い場所ではアストロンを使う予定だったとの事。 事ここに至って、ようやくルーラが使用可能となり、ルイズ達は海水と海藻にまみれたまま、 死体を引っさげて姫に謁見と言う、トリステイン始まって以来の暴挙を成し遂げた。 死体を見せ、事の仔細を説明すると、姫は壊れたかのように号泣し、天もまた、惜しみない涙を流した。 1時間ほど泣いただろうか。ようやく涙の収まったアンリエッタが言った。 「ごめんなさい・・・つい取り乱してしまって・・・手紙奪還の件、有難うございます。 褒美にそなたが望むがままの地位を与えましょう。皇太子の遺体はわが国で手厚く葬ることに・・・」 「とんでもない。私はただ、友人の頼みを聞いたに過ぎません。」 「僭越ながら、姫様に申し上げたい義がございます。」 「何でしょう。」 「姫様はゲルマニアに嫁ぐべきではありません。」 「何故ですか?」 「最愛の男が目の前にいるのに、何故ですか?はないんじゃないか、アンリエッタ。」 ルイズとアンリエッタ、メディル以外は聞き覚えの無い声に、その場にいる者は皆振り向き、目を見開いた。 確かに死んだはずのウェールズ皇太子が立って喋れば誰でもそうしたであろう。 「どどど、どういう事!!?」 「どうもこうも無い。私の魔法で生き返らせたのだ。」 「だって、あれは・・・」 「一部を除き人は無理。確かに私はそう言った。しかし、幸運にもウェールズはその一部だったのだ。」 「一部の人間ってどういう定義で決まるの?」 「黄泉の国から舞い戻るほどの強い意志、または神や精霊などの何らかの助力。 どちらかを持ち合わせた者のみは蘇生が可能だ。」 「でも、いつの間に・・・もっと早く復活させたって・・・」 「愛しの姫の前に来れば、皇太子の死の淵から生還しようとする意志は強くなるだろうし、 敵には皇太子が死んだと思ってもらったほうが好都合だ。 そう判断し、王室へ戻り次第蘇生を行うはずだったのだが、姫が泣き出したお陰で、 タイミングを逃し、30分待っても泣き止む気配が無いので、復活させたが、 皆姫に気を取られていて気が付かなかった。で、今ここに至るわけだ。」 「ミスタ・メディル、その術で、我が王党派の者達の復活を依頼したいのだが・・・」 「残念だがそれは無理だ。あの爆発で全員、跡形も無く消滅してしまったし。時間も経ちすぎた。 灰や消し炭となった者、死後一時間以上経った人間はいかに私とて救えない。前述の助力を持つ者は時間に関係なく死体と意志さえあれば蘇生出来るが、 残念ながら、あの城の者達にそういう物は感じられなかった。 あの城の者達の毛髪でも肉片でもいいから、死体の一部があれば姫が泣き止む前に蘇生出来たかもしれぬのだが・・・」 「そうか・・・やはり叶わぬ願いだったか・・・」 「でも、良かったですね。姫様。」 「ええ・・・でも・・・」 「なりませぬぞ、姫!」 突如口を挟んだのは民から鳥の骨と呼ばれているマザリーニ枢機卿であった。 「一通の手紙でさえ、危うく国を危機に貶める所だったのに、事もあろうに・・・」 「この場の全員が口を閉ざし、皇太子は外部から見えぬ所で・・・ たとえば地下牢や隠し部屋で生活していただく。これならばどうと言うことはあるまい。」 「ききき、貴様。一国の姫に、不倫しろとでも言うつもりか!!?」 「敵から身を隠すためとはいえ、地下牢は勘弁してもらいたいな。」 「不倫しろといった覚えは無いし、さほど長い時間隠れていろという訳でもない。」 「どういう事?」 「間もなく、レコン・キスタが攻め込んでくるだろう。そもそも政略結婚の発端は奴らを倒すため、 同盟を結ぶしかなかったから。逆に言えば、奴らを倒せば晴れて堂々と結婚できると言うわけだ。」 「そんな簡単に倒せるわけが・・・」 「私なら倒せる。否、倒して見せる。」 「枢機卿殿、彼は緻密な策を用い、ワルド子爵を死闘の末、打ち負かしたのです。」 「他にも城一つ吹き飛ばす爆発から守る術を使ったり、凄まじい嵐を吹き飛ばしたり・・・ 正に彼の実力は桁外れです。国一つと戦わせても決して引けをとらぬはずです。」 「マザリーニ。私からも頼みます。私の友人とその使い魔を信じてやってはくれませぬか?」 使い魔、公爵の娘、皇太子、そして主君の眼差しに流石の枢機卿も折れた。 「では即刻、軍議に移るとしましょう。」とウェールズが切り出す。 「そうですな。敵の兵力は?」とマザリーニ。 「少なくとも5万。しかし、トリステイン侵攻の際はさらに多くの兵を率いてくるでしょう。」 「我が国の兵では太刀打ちできぬ。メディル殿に頼るしかないか・・・」 「ルイズ、ミスタ・メディル。ちょっと・・・」 二人は君主に言われるがままに、一冊の書の前に来た。 「これは始祖の祈祷書。指輪を嵌めた特定の者のみ、読めると言われています。メディル、あなたのルーンは始祖ブリミルの使い魔の物。 すなわちルイズ、あなたは始祖の使い魔の後継者を呼び出したと言えるのです。」 「なるほど。そのルイズならその書を読めるかも知れぬと。」 「はい。ミスタ・メディルの力を疑うわけではありませんが、保険は多いに越したことはありません。 あわよくば、この書にはこの戦を左右することが記されているかもしれないのです。」 「わかりました。」 返事と共に、書を手に取り、ゆっくりと読み上げるルイズ。その手には水のルビーが嵌められていた。 現段階で祈祷書から得られた情報はルイズが失われた虚無の使い手であり、彼女の爆発は失敗ではなく 虚無の初歩の術・爆発によるものであったこと。 そしてルイズは初歩の魔法『爆発』を覚えた。 「それはさておき、この度女王陛下のお耳に入れておきたいことが。」 「何ですか?」 「実は―」 「何と、そのような。」 「従わぬようなら国家反逆罪で処刑すればいいでしょう。」 「しかし、それは・・・」 「私も黙ってやるつもりでしたが、姫様の仰った通り、準備は多いに越したことはありません。」 「・・・分かりました。後ほど部隊を派遣します。」 「さて、これでお前と私はこの国の命運を左右する存在となったわけだ。」 「そんな・・・」事の重大さに、流石のルイズも腰が引けているようだ。 「人間とは死ぬ気になれば、誰かの為ならば、我ら魔族にも勝ることがある・・・認めたくは無いがな・・・」 その時ルイズは、使い魔の仮面の中に切なげな表情を見た気がした。 「ごめんなさい・・・」 「・・・謝る事は無い。お前が魔王様を殺したわけではないし、そもそも先に手を出したのは我らだ。 予想外の結果に終わったとは言え、戦と言うものの真理だと割り切っている。」 以前の自分では到底考えられぬ言葉に、彼は少しだけ自分の変化を自覚した。 ―ここへ来てまだ、数日しか経っていないと言うのに、随分といろんな目にあい、丸くなったものだ。我ながら。 前ページ/ゼロの使い/次ページ
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前ページ次ページゼロのエルクゥ まだ日の昇りきらぬ朝もやの中、トリステイン魔法学院の正門には、2つの人影があった。 一つは、学院の制服姿に乗馬用のブーツを履き、長い桃色の髪を朝の冷涼な風に揺らす女生徒。 一つは、かなり長めの長剣を腰に差し、見慣れぬ異国風の服―――Tシャツにジーンズ―――を身に着けた、背の高い男。 その二人、ルイズと耕一は、緊張を隠せない面持ちで、馬に馬具を取り付けていた。 「アルビオンまではどれくらいかかるんだ?」 「そうね……港町のラ・ロシェールまで馬で2日。そこから船で1日ってところね。目的地のニューカッスル城は、アルビオンの港ロサイスから……3日ぐらいかかるのかしら。慣れない道だから、少し余計に見ておいたほうがいいかも」 「一週間か……」 「ニューカッスル城への侵攻が始まってしまったらもう入れないから、急がなきゃいけないわ」 ぶるるるる、と、鞍を背負い、轡を噛んだ馬がいなないた。 「お姫さまの頼んだ応援ってのは来るのかな」 「駄目だったら使いをよこすと言っていらしたから……しばらく待ちましょう」 馬の首元を優しく撫でながら、ルイズはもやの向こうに浮かぶアルビオンを見やるように目を細めた。 ―――ばさぁっ 幾ばくも経たない間に、その背後から、大きく風が舞う音が響き渡った。 振り返ると、ちょうど、鷲の頭と翼に獅子の体躯を持った魔獣、グリフォンが翼を閉じ、地に降り立つところだった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……で、間違いないようだね?」 そのグリフォンに跨っていた男が、乗騎と同じグリフォンの紋様を縫い付けたマントと、その羽らしき飾りを結わえた羽帽子を翻しながら、軽やかに地に降り立った。 「あ、あなたは……わ、ワルドさま!?」 「ああ、覚えていてくれたのか! ルイズ! 僕の小さなルイズ!」 まるで演劇のように大仰な仕草で再会を喜ぶ男。 耕一はそんなトリステイン貴族の悪癖にはもう慣れてしまって、一つため息をついただけだった。 「あなたが、今回の応援の人ですか?」 「君は……ああ、ルイズの使い魔だね。王女陛下から話は伺っている。僕の小さなルイズは、亜人を使い魔にしたのだとね」 男は、マントを内に畳んで帽子を取り、優雅に一礼をしてみせた。 「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。トリステイン魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長を務めさせてもらっている。此度の任務に同行するよう、王女陛下より仰せつかった」 「どうも、コーイチ・カシワギです。ルイズちゃんの使い魔をやらしてもらってます」 「よろしく頼むよ、ミスタ・カシワギ」 「こちらこそ。ワルドさん」 耕一とワルドは、長身の男同士、がっしりとした握手を交わした。 「ワルドさんは、ルイズちゃんと知り合いなんですか?」 「ああ。恥ずかしながら、婚約者でね」 「へ」 ―――さすがに、慣れたはずだった耕一の思考も追いつかなかった。 「ルイズの実家、ヴァリエール公爵家と、僕の実家、ワルド子爵家は、その領地を接しているのさ。まだ僕が若造だった頃に両親が死んでしまって領地を相続する事になった時、彼女のお父上にはとてもお世話になったんだ。その縁でね」 「ワルドさま……」 「はは、久しぶりだね、僕のルイズ!」 ―――まあ、貴族なんだし、あのお姫さまの政略結婚じゃないけど、そういう事もあるんだろうなあ。 ワルドが、恋する乙女モードのルイズをさっと抱き上げたところで、ようやく思考が追いついた。 「相変わらず軽いね君は! まるで羽のようだよ!」 「……お恥ずかしいですわ」 なんというか、抱き合うワルドとルイズのシルエットが、そのまんま自分と楓の姿に重なって、なんとなくばつの悪い気持ちが湧いてきて冷静になってしまった、というのもあった。 つまりは、こういう事だ。 ―――俺、客観的に見るとあんな風なのかなあ。まるでロリコンだよなあ。 § 「……いやはや、亜人、というのは本当みたいだね」 休む事なく空を駆け続けるグリフォンの上から地上を見下ろしたワルドは、ここ十年は出した事のない、感嘆を通り越した呆れという感情を多分に含ませて呟いていた。 そこには、グリフォンの飛ぶ速度に付いていけそうもなかった馬を途中の駅に置き、自らの二本の足でグリフォンに付いてくる耕一の姿があった。 上半身は全くブレずに腕を組んだまま、下半身だけがものすごい高速で動いている。さらには、腰に差したインテリジェンスソードと何かを話してすらいるようだった。 「凄い使い魔を召喚したんだね、ルイズ。僕も鼻が高いよ……おっとソアラ、すまんすまん。君は僕の自慢の使い魔だよ。あんな亜人に負けはしないな。悪かった悪かった」 主人が他人の使い魔を誉めたので機嫌を悪くしたらしいグリフォンを、たてがみを撫でてなだめるワルド。 ルイズはしかし、それにも気を留めず、浮かない顔であった。 「凄い使い魔、か……」 「どうかしたのかい。なに、任務についてなら心配はいらない。僕がついてる」 思わず零した小さな呟きは、ワルドの耳には入らなかったようだった。 「ううん、なんでもない。任務については心配してないわよ。心強い応援が来てくれたから」 「はは。では、期待に応えられるよう奮闘しなければね」 最初とはずいぶんルイズの口調が違うが、婚約者に対して敬語なんてやめてくれ、というワルドの言葉に従った結果だった。 魔法が使えないとは言え、ルイズは公爵家の娘。肩肘ばった言葉ぐらいいくら続けても苦痛ではないが、特に反対する理由もなかった。 「この分なら、今日中にラ・ロシェールに着けそうだね。使い魔君がへばらなければいいが、そんな心配は無用かな?」 「そうね……」 チラリと目を向ける。相変わらず下半身だけで走っている耕一は、まだまだ余裕そうだった。事前に距離は教えておいたその上で馬を降りたのなら、きっと大丈夫という事なのだろう。 常識的な早馬なら二日かかるような道を一日で走破する自らの使い魔。金属のゴーレムをその腕一本で軽々と引き裂くその力。 確かに、それはすごい事だ。そう……『ゼロ』の自分とは大違いの。 「なんで、『ゼロ』の私にコーイチが呼ばれたのかしらね……」 それは、ここ最近、ずっとルイズの頭を悩ませている考えだった。 『実は私には隠れた才能が眠っているのかも』というポジティブな考えは、毎夜の練習の失敗によって、心の隅の隅に追いやられてしまっていた。希望を抱いてしまっただけ、失望も深かった。 スクウェア・メイジのワルドでさえ手放しで耕一を誉めているのを聞いて、またぞろそれが首をもたげてきたのであった。 「ルイズ?」 「なんでもないわ。急ぎましょう」 頭を振って、それを追い出した。今はそんな事を考えている場合ではない。任務に集中しなければ。 ワルドは、まっすぐ前を向いたルイズに、それまでの柔和な目とは違う、鋭く光る―――まさにその乗騎と同じ猛禽のような視線を向けると、無言でグリフォンの速度を上げた。 § 「やれやれ、そろそろみたいだな。疲れたァ」 「……それで済んじまう相棒は、やっぱとんでもねぇよなあ」 朝から一日走り続け、夕闇が世界に落ちる頃。 峡谷の向こうに街らしき建物群が現れ、上空を飛ぶグリフォンが少しずつ降下してきているのを見やりながら、耕一は一言ぼやいた。その足は止まる事なく大地を蹴り続けている。十傑集を彷彿とさせる走りっぷりだった。 「なんだよあのグリフォンとかいうの。人二人乗せてあの速度であの持久力って、無茶苦茶すぎだろう」 「今日の『お前が言うな』スレ一等だねそりゃ。VIPに建てれば祭りになるぜ。ちなみに竜はもっとすごいかんね」 「……ビップって何の事だかわからんけど、竜か。タバサちゃんのシルフィードとか、確かに凄かったからなあ」 デルフリンガーとくだらない雑談を交わしながら走り続けると、道は岩山を登るような山道に差し掛かる。 「……確か、浮遊大陸へ行く為の空飛ぶ船の港が、でかい枯れ木に作られてるんだっけか」 船といえば海を渡るもので、水平線と一体。 まだそんな常識のある耕一には、港と言われて山を登るのは、なんとも変な感じだった。 抜ければラ・ロシェールの街が目と鼻の先の、左右を崖で挟まれた一本道。 そこを走っている最中、耕一には耳慣れない―――しかし、聞き慣れた音が連続して起こった。 ひゅんひゅん、と風を切るそれは、弓から矢が放たれる音。 「なにっ!?」 崖の上から降らすような、狙いもつけない弾幕のそれをかわす事自体は難しくなかったが、驚きに足が止まってしまう。 続けて、ぼおっと前方で炎が燃え上がる音がした。見ると、道を塞ぐように松明が次々と投げ込まれ、炎の壁を形成していた。 「なんだよこれ!?」 耕一が叫ぶ。何者かの集団に襲われているのは確かだった。 まさか、敵勢力とかいうのの妨害か? いや、こんなに早くバレるなんておかしいだろ―――とそこまで考えたところで、矢の第二射が降り注いだ。 考えている時間はなかった。今は降りかかる火の粉を払わなければ。 崖の中腹辺りを飛んでいたグリフォンに目をやると、細身の剣を抜き放ったワルドが、魔法の杖の代わりなのであろうその剣を振るい、風を起こして矢を吹き飛ばしている。 向こうの心配はなさそうだった。ならば自分は―――元を叩く。 「ああああああああああっ!!!」 崖に向かって疾走。跳躍。 がごんっ、という鈍い音をたてて蹴り足の岩を蹴り砕きながら、そのまま逆方向へ跳躍。 その先には、反対側の崖がある。同じように岩壁を足場にして、さらにジャンプ。 それを繰り返し、崖から崖へジグザグに、まるで忍者映画のアクションのように、耕一は跳び昇っていく。 「あいつらかっ!」 崖の上まで跳び上がると、武装した男が十数人、呆然とした表情で耕一を見上げていた。 ぐぐぐ、と腕に力を込め、まっさかさまにそのど真ん中へと落下する。 着地と同時に、その鬼の腕を振るった。持っていた弓で受け止めた数人が折れた弓ごと吹き飛ばされ、ごろごろと転がった後に動かなくなる。 「抜刀! 散開ぃ!」 リーダーらしき重武装の男が指示を出すまでもなく、残った男達は剣や槍を構え、耕一に向ける。 しかし、そこには既に人の姿はなかった。 「遅い」 耕一を包囲しようと動いていた男達を、その端にいる者から順に張り倒していく。崖に落とすとちょっと死にそうな高さだったので、逆方向に。 数秒もすると、その場にいた全員が、気絶か、呻き声を上げながらうずくまるか、といった状態になっていた。 そのまま油断なく周囲に目を配っていると、 「相棒~、俺を使えよぉ~」 腰から、どこか情けない声が響いた。 「す、すまんデルフ。でも、お前を使ったら、峰打ちでもあいつら殺しちゃいそうだったからさ……」 「はぁ。ったく、甘いこったねえ相棒は」 呆れの言葉でありながら、その口調にはどこか弾むような響きが混じっていた。 「……もう終わっていたか。さすがだね、ミスタ」 「ワルドさん。大丈夫ですか?」 「ああ。こちらに怪我はないよ。ありがとう」 そうしていると崖からグリフォンが頭を出し、跨っていたワルドが硬い声を出した。 「こいつらは? 敵の襲撃でしょうか?」 「どうだろうね。ただの野盗であってほしいが……おい、起きろ」 耕一に拳を打ち込まれた腹を押さえて呻いていた男を蹴り上げるように起こすと、ワルドは尋問を始めた。 しばらくすると、男はばたりと倒れて気絶し、ワルドが苦い顔をして戻ってくる。 「……さて、ただの物盗りだ、とは言っているようだがね」 「本当に敵勢力の刺客だったとしたら、バカ正直に言うわけがないですね」 「そういう事だな。確実にメイジであろう密使への襲撃にメイジもいない刺客とは、いささか間抜けではあるが……このタイミングでの襲撃を偶然と捨て置くのは、ちと楽観が過ぎるだろうね」 シミュレーションゲームの聞きかじり知識だったが、まぁ正しいものであったらしい。ワルドは盗賊達を全員気絶させて縄に繋ぐと、緊張した面持ちでグリフォンに跨り直した。 「急ごう。あの賊どもはラ・ロシェールの官憲に任せる。ミスタも疲れただろう。今日は一晩宿を取り、明朝一番の船で出るとしよう」 「わかりました」 男二人が頷きあうのを、ルイズはやるかたなく見やっていた。 § 「船が明後日にしか出ないですって?」 ラ・ロシェールにある貴族用の一番高級な宿、『女神の杵』亭に部屋を取ったルイズ達は、一階部分にある酒場兼食堂で、船を調達しにいったワルドの報告を聞いて声を上げた。 「ああ。明日の夜は、月が重なるスヴェルの月夜。その翌朝が、アルビオンが一番ハルケギニア大陸に近付く日でね。風石を節約するために、どの船も出港をその日にするんだそうだ」 「そんな……急ぎの旅なのに」 「お忍びの任務だからな。無理矢理徴発するのもよろしくない。追加の料金を払ってチャーターする事ぐらいは出来そうだが……どうするね、大使殿?」 ワルドがおどけて言うが、ルイズは表情を崩さず、口をへの字に結んだまま言った。 「そうしましょう。お金なんて気にしてられない。時は一刻を争うわ」 「了解した。ではそのように手配してこよう」 ワルドがひらりと立ち上がり、外に出て行く。 「なあ、グリフォンじゃ行けないのか?」 「私も聞いたんだけど、人を三人乗せて浮遊大陸まで飛ぶのは無理らしいわ。風竜なら行けるらしいけど……」 「そっか」 食後の揚げ菓子を頬張りながらの耕一の問いに、ルイズはワインを傾けながら答える。 お忍びの旅の途中とは思えない充実した食事だったが、貴族なんだからこんなもんなんだろう、と耕一は既に適応を済ませていた。 しばらくして、ワルドが帰ってくる。 「一機チャーターする事が出来たよ。貨物船で客室は貧相だが、客船は他の乗客との都合がつかないからって断られてしまってね。それしか交渉に乗ってくれなかったんだ」 「構わないわ。物見遊山の旅じゃないもの」 「ははは、僕の小さなルイズは頼もしく成長したようだね。では明日に備えて、今日はもう休むとしようか」 ワルドは、懐から鍵を取り出した。 「少しグレードは下がるが、三人部屋を取った。僕はまだ少しやる事があるから、先に休んでいてくれたまえ」 「わかりました」 耕一が頷いて鍵を受け取ると、ルイズも立ち上がった。グリフォンに乗っていただけとは言え、一日飛び詰めは疲れたらしかった。 § 二人が部屋に戻り、酒場に一人だけになると、ワルドはちびり、とワイングラスを傾けた。 「ガンダールヴ……正直、やりあいたくはないな。味方に引き込むのが得策だが……さて」 ルイズに向けていた柔和な目とはうって変わった冷たい目を、虚空に彷徨わせる。 そこにいるのは、トリステイン魔法衛士隊の隊長ではなく―――真実を求めて全てを捨てた、狂える求道者だった。 「思ったよりヴァリエールがなびかぬからな。もう少し弱っているかと思ったが……あの公爵家の者、芯までは曲がらぬか」 物思いを振り切って前を見据えたあの姿勢。日程を急ぐように誘導したらすぐに乗ってきた事。 任務を翻して『レコン・キスタ』側につける事は難しそうだった。 「それとも、あの亜人を呼び出して自らを確立しつつあるか―――あれを打ちのめしてなびかせるのは骨が折れそうだな。……厄介な事よ。三つのうち一つは、諦めなければならぬかもな」 彼自身の目的にとっては一番重要な項目のはずであるのに、グラスを離したワルドの表情は、何も表してはいなかった。 「とりあえず、私達が行くまでニューカッスルへの総攻撃は待っていて貰わねば」 ワルドは暫しの間目を閉じ、何事か物思いに耽ると、グラスを置いて席を立った。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロのエルクゥ ルイズは、夢を見ていた。 今日の舞台は、数年前まで住んでいた生家、ラ・ヴァリエール家の本宅。 「はあ、はあ……」 十ほども幼い姿の自分が、当時の自分の背格好からは迷路のようにしか見えなかった庭木の植え込みの間を、息を切らせて走っていた。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? まだお話は終わっていませんよ! ルイズ!」 後ろから、厳しい母の声が響き渡る。 ルイズはぎゅっと目を瞑り、必死に足を動かした。彼女の安息の場所に向かって。 そこは、広すぎる公爵家の屋敷の中で、住人達に忘れ去られた場所。 訪れる者は世話をする庭師だけになった、舟遊びをする為の大きな池。 池のほとりに繋がれた小舟の中が、優秀な姉達と違って魔法の出来ない自分が父や母に睨まれる事のない、幼いルイズの数少ない安心できる場所だった。 「うう、ぐすっ……」 持ち込んである毛布にくるまると、ぎいぎいと小舟がきしむ音と、ちゃぷちゃぷと揺れる水音が、聞こえる音の全てになる。 水と土が織り成すその調べを聞いていると、次第に悲しみに暮れていた気持ちが慰められていくのだった。 「はあ……」 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。 この光景は、過去のものだった。この後、婚約者である憧れの子爵様が慰めに来てくれたはずだ。 しかし、これは夢。過去を回想しているわけではなく、霞に見ているただの夢だった。 「あれ……?」 水と土の演奏が、どこか遠くに聞こえる。代わりに響いているのは―――轟と燃え盛る炎と、全てを切り裂く風からなる鋭い旋律。 「え―――?」 毛布から顔を出し、舟の縁から周囲を見たルイズは、絶句するしかなかった。 そこは綺麗に剪定された実家の池ではなく、どこかの河原。砂利と泥水の流れる河原に浮かぶ舟の中だった。 「ど、どこ、ここ……?」 きょろきょろと周囲を見渡すと、瞬間、そこは舟の上ですらなくなった。 「おお、おお、エディフェル! しっかりしろエディフェル……!」 『えっ?』 自分の口から、野太い男の声が漏れ出る。 その視線の先には、見た事もないような服を身にまとい、河原に横たわり、炎に照らされ、太い腕に抱かれた女性の姿があった。 まるで、自分が抱きかかえているような視点だったが……私の腕はこんなに太くないわよ、とルイズは妙に冷静な事を考えた。 抱きかかえている女性の胸に大穴が空いていて、その白磁のような肌にべっとりと血糊が張り付いているのも、どこか朧に目に映る。 『な、何よこれ……!』 口を動かそうとしても、言葉にならない。胸を焼くような焦燥だけがそこに渦巻いていた。 「……わかっていたのです。こうなるであろう事は……」 ごぼ、とその女性の口から赤い飛沫が弾ける。 「貴方を助け、貴方と共にある事は、一族への裏切り……皇女である私には、それが最大限の報復でもって贖われる事を……」 「もういい、喋るな。すぐに治療を」 静かに、女性は首を横に振った。 「助かりません。それに……私が助かってしまったら、今度はリズエルが……」 「構わぬ。お前以外の誰がどうなろうと構わぬ。そう言ってわしを鬼としたのはお主であろうが……!!」 「ふふ、そうでしたね……」 血を吐きながら、女性は穏やかな……酷く穏やかな表情を浮かべる。 その儚い笑顔に、ルイズはどこか、優しい下の姉の面影を見出していた。 「ああ、愛しています、次郎衛門。願わくば、姉を……エルクゥを恨まないで」 『えっ?』 聞き覚えのある単語に、夢心地だったルイズの意識が急に鮮明となる。 「愛している。愛しているエディフェル。だから死ぬな。わしを鬼とした主が死ぬな。その貸し、一生を捧げなくば返せぬものと知れ……っ!」 『あ、あ、う……!』 激情。 溶けた鉄にも似た、真っ赤な色をした激烈な感情が、容赦なくルイズの意識に流しこまれる。 それは、耕一の『シグナル』を受け取る時と同じ感覚で―――そして、同じでは到底ありえなかった。 耕一のシグナルが後ろからそっと肩を叩かれる程度の驚きであるとすれば、これは"ファイヤーボール"の直撃。骨まで灰になるような、溶鉄の温度だ。 「ふふっ……相変わらず厳しい方。ご心配召さらず。この身、既に全て貴方に捧げております故に……」 「ならば、ならばっ……!」 女性の手がふらふらと伸び、自分の頬を撫でた。その指が、微かな水気に濡れる。 それでも、身体中を焼き尽くすような溶鉄の激情は、少したりとも衰えない。 「エルクゥの御魂は、ヨークによって滅する事叶いません。幾星霜かの時の後に、また」 「……違えたら、許さぬ。お前はわしのものだ。必ずまた、来世で」 「はい。次の世でも、必ず貴方の元に」 そうして、二人の顔が、紅に濡れた唇が近付き――― § 「はっ!?」 ルイズは、がばっ、と布団を跳ね上げて目を覚ました。 「はーっ……はーっ……」 どくん、どくん、と心臓ががなり立てている。 「な、なに、今の、夢……」 夢、であったのだろう。実家にいたはずなのにいきなり見も知らない場所にいたり、何者かもわからないような男女の死別に居合わせたりと。 「エル、クゥ……」 でも。 いつもなら、浮かび上がる意識の底に置いていかれてしまう夢の内容を、今はありありと思い出す事が出来た。 炎。風。血。微笑み。そして、溶けるような―――想い。 「ううっ」 思い出して、ぶるりと背筋が震えた。 「なんだったのかしら……エルクゥ、って言ってたし、コーイチに関係ある事なの?」 「さあなあ。俺にゃわかりよーもねえなあ」 「ひっ!?」 夜明けの暗がりの中、独り言に反応する声が上がって、ルイズは文字通り飛び上がった。 「なんでえなんでえ。そんなお化けでも見たような顔で驚くなってんだ」 「あ、あんたね……」 カタカタ、と金具が鳴る音がする。それは、まだ寝息を立てている使い魔の横に立てかけられている、喋る剣の声だった。 「もう、寝る時は鞘に入れときなさいって言ったのに……」 「そんな寂しい事言うなよ娘っ子。こちとら作られてから数千年、久々に気のいい使い手に出会って充実した時を過ごせてるんだからよ」 カタカタカタ、と大きく飾りを鳴らして笑うデルフリンガーに、ルイズはそれに負けない大きなため息をつき……続けて、大あくびをかました。 「うう、まだこんな時間じゃないの……はぁ」 まだ薄暗がりの外を見て、布団を被りなおす。 「なんだ、また寝るのか。たまには早起きもいいもんだぞ」 「それ以上喋ったら鞘に押し込むわよ」 「むぎゅ」 そう言ったら押し黙ったので、ふんと鼻を鳴らして目を閉じた。 けれど、あの溶鉄のような激情を思い出して心臓は落ち着きを見せず、眠ってしまったらあの続きを見てしまうような気がして……ルイズは寝直す事の出来ないまま、段々と日が昇っていくのを眺める羽目になったのだった。 § 「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」 黒ずくめの怪しい先生の授業もハゲ頭に乗っかった金髪ロールのカツラも、睡眠の足りない胡乱な頭で見聞きしていたルイズは、その一言にはっと目を覚ました。 「姫殿下が……」 脳裏に、懐かしい記憶が蘇る。 それは、ちょうど朝夢に見たような、幼き日々。魔法を使えないと言う事が、まだ母の説教で済んでいた頃。 「……ふぅ」 しかし、ルイズは首を振って、開きかけた記憶の扉を閉めた。 「覚えていらっしゃるはずがないものね」 物心はついていた頃だから、聞けば思い出すかもしれないが、それだけだろう。 しかも、今の自分は『ゼロ』のルイズ。何かの折に小耳に挟まれていたら、失望されているかもしれない。そんな者と幼少のみぎりに遊んでいたのか、と。 そう考えると、知らず、ぶるりとルイズの背が震えた。 「……もう慣れたと思ったんだけどな」 最近は、そんな事気にもしない奴等がずっとそばにいるものだから、忘れかけていたのかもしれない。『ゼロ』という二つ名に込められた意味を。 「―――生徒諸君は正装し、門に整列すること。諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかり杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」 皆が引き締まった顔でコルベールの激を聞いているのを、ルイズはどこか張りのない表情で見つめていた。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーッ!」 そして昼を過ぎ。 門に整列した生徒達の前、猛々しい声と共に、老人に手を取られた女性が、一角獣ユニコーンが綱を引く絢爛な馬車から姿を現した。 その横には、幻獣グリフォンに跨り、大きな羽帽子で顔を隠した護衛らしき衛士の姿。 そのどちらにも覚えのある面影を見つけ、ルイズは周囲の生徒と同じ杖を掲げた格好のまま、じっとそれを見つめている。 不安と憧れが半々に混じった視線が、ゆらゆらと二人の間をさまよっていた。 「……キュルケさんとタバサちゃんは杖を掲げなくていいのか?」 「あたしはゲルマニアの者だもの。興味がなきゃ義理もないわ。お姫様って言っても、あたしの方が美人だしね。ま、あの衛士隊の殿方は素敵そうだけれど」 「…………」 「はは……」 その横に控えている耕一が、同じくその横でつまらなそうにしている二人に聞くと、キュルケはいつものペースを崩さないまま、タバサなどは木陰に座って本を広げる事で、それぞれらしい返事をした。 § 「……なるほど。誰も気付かぬうちにと、そういうわけですか」 「その通りですじゃ、枢機卿殿。ディテクト・マジックにも反応はなく、今のところどう盗んだのかすら不明ですわい」 「さて、伝統あるトリステイン魔法学院の威信が問われますな。盗まれたのが宝物ではなく生徒であったとしたら、いかがするおつもりでしたか」 「……さて、返す言葉もないですな」 夕刻。学院長室では、昼間にアンリエッタ姫をエスコートしていた老人、このトリステインの政務を仕切る実質上の宰相であるマザリーニ枢機卿が、飄々としてはいるが、どこか弱った表情を隠せないオスマンの報告を聞いていた。 一週間前に起こった、『土くれ』のフーケによる盗難事件の報告である。その横では、アンリエッタ姫が苦い顔で二人の話を聞いていた。 「枢機卿。過ぎた事を責めても」 「然りです殿下。ですが、これからの話に入る為には必要な事でもあるのです。オールド・オスマン。これから警備体制に関しては、こちらからも口を出させていただきますぞ。このトリステイン魔法学院には、他国からの留学生も多く預かっておりますでな」 それが誘拐される事も有り得る。言外にそう言っていた。 もしそうなった場合、その相手国との関係がどうなるかは、語るまでもない。 「……仕方ありますまいな」 口だけじゃなく手も足も出す気じゃろうに、という内心を隠しながら、オスマンは弱った様子で重く頷くしかなかった。 学院の自治は重要ではあるが、生徒の安全には代えられないのだ。そして、目の前の老人には、その担う重責―――まだ齢四十だが、その重き荷が、彼をそこまでに枯れさせてしまったほど―――に相応の、それが出来るだけの力があった。 「さて、まずは―――?」 具体的な話を詰めようと開いたマザリーニの口はしかし―――びりびり、という大地の震えに閉じられた。 「地震ですかな。珍しい」 アンリエッタを庇うようにマントを広げ、マザリーニが周囲を見渡す。 「ああ、枢機卿殿、これは違いますぞ。お気になさらず」 「オールド・オスマン?」 妙に落ち着き払ったオスマンの態度に、マザリーニが怪訝な表情を浮かべた。 再び、大きく震えた。 「とある生徒の魔法の練習ですじゃ。最近張り切っておるようでしてな。毎夜の事なのです」 「……魔法の練習? これがかね?」 「珍しい事ですが、その者は魔法を失敗すると爆発してしまうのです。この通り」 オスマンが杖を一振りすると、横の姿見が、一人の少女の姿を映し出した。 それを見た瞬間、アンリエッタの目と口が驚きに見開く。 「……ふむ」 段々と夜が深くなっていく宵闇の中、桃色の長いブロンドを汗に濡らし、杖を振り続ける少女。その傍らでは、蒼い髪の小柄な少女が、その使い魔であろう大きな風竜に、爆発からの盾にするように背を預け、本を広げている。 桃髪の少女が必死の表情で杖を振ると、近くにあった握り拳ほどの石が盛大な爆発を起こし、濛々と煙を吐き出した。 「本来は爆発音もするのですが、ちと近所迷惑だと生徒からの苦情がありましてな。とはいえ生徒の自助努力を止めるというのも心苦しいです故、彼女の友人や教師が交代で、サイレントの魔法をかけておるのです」 振動と映像は、一致している。 しばらくの間、杖を振っては爆発して建物が響くのを見つめた後、マザリーニは大きくため息をついた。 「……話を進める雰囲気ではなくなりましたな。追って書状にてご連絡致しましょう」 「あいわかり申した」 マザリーニは部屋を出て行こうと踵を返す。 アンリエッタは同じくその少女が映る鏡を見つめていたが、その表情はマザリーニとは真逆の、どこか懐かしく嬉しいようなものを含んでいた。 「……ルイズ・フランソワーズ」 「殿下、参りますぞ」 彼女の唇から紡がれた小さな言葉は、扉を開けてアンリエッタを待つマザリーニの耳には届かなかったようだった。 § 「よう娘っ子、今日も絶好調だったみてぇだな」 「黙りなさい溶かすわよ」 ルイズは不機嫌そうに剣を蹴飛ばすと、湯上りで赤みの差した肌をごろんとベッドに横たえた。 「ちょっ、蹴るなってあぁん♪」 「へ、へへ、変な声を出すなぁぁぁっ!」 「ぐへ! 娘っ子それはさすがに痛えってちょっ! 相棒タンマ! ストップ! ストップ・ザ・スローイン!」 「すまんデルフ。さすがに俺もキモかった」 「ひでえよ相棒……ちょっとしたお茶目じゃねえかよ」 デルフリンガーの声はどう聞いても中年のおっさん声であるので、冗談でも『あぁん♪』などという可愛らしい文字列は似合わなかった。 思わずルイズがカカトで踏みつけ、耕一が窓から投げ捨てようとしてしまったのも無理ない事であったろう。 「やれやれ、ひでえ目にあったぜ」 「自業自得よ。まったく……」 ルイズはベッドに入り直すと、早々に布団を被る。魔法の練習が疲れるのか、最近はとても健康的な時間に就寝してはいるが、それにしても早かった。まだ月が昇ってそれほども経っていない。 「もう寝るのか?」 「……今日はちょっと張り切っちゃったのよ。おやすみ、コーイチ」 「ああ、おやすみ」 ルイズが背中を向け、さてさすがに俺も寝るには早すぎるけどどうしよう、と耕一が暇を潰す先を考え始めた時。 コン、コン と長めのストロークでドアがノックされた。 「はーい、どなたで―――」 コココン 耕一が応対の為に立ち上がろうとすると、再び短く三回。 「えっ!?」 「る、ルイズちゃん、どうした?」 何か閃くものがあったのか、ノックを聞いて飛び起きるルイズ。 数秒ほどそのドアの方を見つめると、眉を寄せながらブラウスを身に付け、おそるおそるといった感じでドアを開けた。 「……あ、あなたは」 そこにいたのは、長く黒いマントで体を隠し、黒いフードをすっぽりと被った人物だった。 見るからに怪しげだったが、ルイズの表情は、どこかそういう"怪しんでいる"というのとは違う驚きだった。 黒マントはそっと唇に指を当てると素早く部屋の中に潜りこみ、フードを取り去る。その素顔に、ルイズの目が今度こそ見開いた。 「……ルイズ・フランソワ―ズ」 「ひ、姫殿下……!」 「ああ! 覚えていてくれたのね。ルイズ、懐かしいルイズ!」 黒フードの少女―――アンリエッタ・ド・トリステインは、感極まった声でルイズに抱きつき、心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ